不整脈と薬4

病気がみえる vol.2 循環器』を元に各不整脈の一覧表を作りましたが、最初に心臓に関する基本的なことをまとめたいと思います。

心臓の位置
心臓の位置

画像出展:『人体の正常構造と機能』

心臓の位置が中央やや左、高さはおおよそ第1肋骨から第6肋骨である。

心臓の横断面:第7胸椎の高さ
心臓の横断面:第7胸椎の高さ

画像出展:『人体の正常構造と機能』

心臓は心膜と心膜腔に囲まれています。

心膜の構造
心膜の構造

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環系』

心臓は横隔膜、胸骨、脊柱に付着し、心臓の過度な移動や拡張を防いでいる。

肺などの周辺臓器に感染がある場合、心膜は感染の拡大を防ぎ、心臓への影響を遅延させる。

※心膜はファシアである。

心膜液の機能
心膜液の機能

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環系』

心膜腔には正常で15~50mLの心膜液が貯留している。

心膜液は臓側心膜と壁側心膜の摩擦を防ぎ、心臓のスムーズな拍動を可能にしている。

・心膜液は臓側心膜で産生され、胸管や右リンパ管に排出される。

心膜の解剖(断面)
心膜の解剖(断面)

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環系』

 

刺激伝導系
刺激伝導系

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環系』

 

動脈系と静脈系
動脈系と静脈系

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環系』

 

まとめ

不整脈を考える上で知っておくべきことは以下の3つです。

●心臓の電気生理

●不整脈が生じるメカニズム

●薬物の作用機序

”心臓の電気生理”は次の3つが重要です。

脱分極

●再分極

●不応期

電気生理学について深い知識なしに不整脈の治療はできない」というのはおこがましい。しかし、「イオンチャネルについてささやかな知識がなくては、不明脈の治療はできない」というのは正しい。』とのことです。

不整脈治療について、村川先生は次のようなお話をされています。

『「抗不整脈薬の薬理学はどうもわかりにくくて、嫌になる」というのはまともな感覚。なかなか頭の中が整理できない。』

『これまで蓄積された情報を十分マスターしたとしても、未知の要因がたくさん残されている。不整脈の専門家でも「確信はないがとりあえず使ってみる」というパターンが多い。』

陰性変力作用や催不整脈作用、あるいは薬物代謝の面で使いにくい薬剤を避けるという「消去法の発想」のほうが正直な道だと思う。

『それなりのクスリはあるが、魔法のクスリはない。』

不整脈の治療には、とりあえず、「イオンチャネル」と「それ以外」と単純に考えてよい。

不整脈についての知識と経験が増すほど、意識的に治療しないという道を選ぶ。

『頑張りすぎると募穴を掘る。』

『「慎重さと果敢さのバランス」も大事。』

☆自律神経系の影響を受けやすい

●特に洞結節、房室結節は自律神経系の影響を受けやすい。

☆心房細動に関すること

●発作性心房細動はしばしば肺静脈の反復性興奮による。

●多くの抗不整脈薬は陰性変力作用を有するので、心エコーによる心機能の評価なしの投薬には限界がある。心房細動を見たら心エコーは必須。

☆心機能と腎機能が低下している高齢者

●陰性変力作用が少なく、腎排泄でないという条件に加え、潜在的な徐脈性不整脈や催不整脈作用に注意する。

☆アミオダロンとICD(植込み型除細動器)

アミオダロンは最もパワフルな抗不整脈薬であり、適応を判断することが難しいため、基本的に不整脈薬専門医によって処方される。

アミオダロンは副作用の点で使い方が面倒だが、重篤な心室不整脈にはほぼこれしか選択肢はない。使うべきときには積極的に使う。ハイリスクなら植込み型除細動器(ICD)が併用される。

不整脈と薬3

不整脈治療薬ファイル 
不整脈治療薬ファイル 

著者:村川裕二

出版:メディカル・サイエンス・インターナショナル

初版発行:2010年9月

目次は”不整脈と薬1”を参照ください。

 

Part4 心房期外収縮

25 変行伝導は大事か?

□期外収縮は心臓のどこからでも生じるので、心房期外収縮(PAC)と接合部期外収縮を厳密に区別できない。そこで、ひとまとめにして上室性期外収縮(SVPC)と呼ぶこともある。

□PACに機能的な脚ブロックが生じるとQRS幅が拡大して、心室期外収縮(PVC)と間違いやすくなる。PACの変更伝導は右脚ブロックが多い。

26 治療するかどうか、誰が決めるか

Key Point

1)心房期外収縮(PAC)の薬物治療の適応は患者が決める。

27 使いたい抗不整脈薬と、使ってもいい抗不整脈薬

Key Point

1)心房期外収縮(PAC)にどの抗不整脈薬が有効なのか、確立されたエビデンスはない。

□心房期外収縮(PAC)の治療に選択しやすい経口薬剤は、

ピルジカイニド(サンリズム)お勧め度4。『「とりあえずコレで」と使われる。』

アプリンジン(アスペノン)お勧め度4。『おとなしい感じがある。』

□使いなれていたり、心エコーなどで心機能を含めた評価が十分に行われていたら使用できるし、効果も期待できるのは、

●ジソピラミド(リスモダン):お勧め度2。『知名度高いので。』

●シベンゾリン(シベノール):お勧め度2。『使用経験があるのなら。』

●ピルメノール(ピメノール):お勧め度2。『PACに試したことはないが、たぶん効く。』

●フレカイニド(タンボコール):お勧め度3。『著効することあるが、ちょっと大物すぎる。』

□使ってもよいが、それほど効果はないのが、

●ベラパミル(ワソラン):お勧め度2。『心房細動と似たようなPAC頻発ならレートコントロールとして使う状況はある。』

□有効であっても使わないのは、

●ソタロール(ソタコール):お勧め度1。『さすがにはばかる。』

●アミオダロン(アンカロン):お勧め度1。『大砲は使えません。』

Part5 心室期外収縮(PVC)

33 心室期外収縮(PVC)が“治療対象でない”とはどういう意味か?

Key Point

1)PVCそのものを治療対象として捉えるのではなく、「PVCの波形から心筋障害や病的再分極異常を察する」と考える。

34 頻発する心室期外収縮(PVC)は心不全を招くか?

心筋障害とは何かというと、多くは加齢に伴う心室筋の変性。もちろん陳旧性心筋梗塞、拡張型心筋症、高血圧性心筋肥大なども背景になる。

39 Case:流出路起源の心室期外収縮(PVC)

2~3日の服用で薬物の効果を評価できる。有効でない薬剤なら1週間を超えて服用させる意味はない。

40 連発の多い心室期外収縮(PVC)

□β遮断薬やベラパミルが適応となる。約半数、あるいはそれ以上の有効性が期待される。

Part6 発作性上室頻拍(PSVT)

42 頻拍の呼び方

□心房粗動、心房頻拍、発作性上室頻拍の定義は曖昧さが残り、同じ不整脈でも人によって呼び方が異なることがある。

43 発作性上室頻拍(PSVT)は2種類と割り切る

Key Point

1)PSVT(発作性上室頻拍)のメカニズムとして、AVRT(房室性回帰性頻拍)とAVNRT(房室結節エントリー性頻拍)の2つを理解する。

Part7 心房粗動

56 通常型と非通常型

□心房粗動は規則正しい鋸歯状の心房波がみられるものをいう。粗動波ともいう。

□心房細動と心房粗動ともに認めれることは稀でなく、区別が難しい場合も多い。心房細粗動という用語もある。

上室性の不整脈としてはありふれたもので、器質的心疾患がなくても発生する。加齢や器質的心疾患により頻度は高くなる。

57 抗不整脈薬で心房粗動を治療できるか?

Key Point

1)心房粗動の薬物治療で最も大事なことは、抗不整脈薬の有用性が低いこと。

慢性期の心房粗動の治療には高周波によるカテーテルアブレーションが有効。

急性期でも慢性期でも、無理に洞調律化を狙わないことが心房粗動の薬物治療の原則。とりあえずレートコントロール[リズムは心房細動のままで、心拍数を薬剤でコントロールする]さえできれば、長期にわたって大丈夫。

58 ダメモトで抗不整脈薬による洞調律化を狙いたいとき

心房粗動に気の利いた薬物治療がないというのは大事な知識。しいて言えば、Ⅲ群薬のニフェカラントが検討に値する。

Part8 心房細動

59 忘れられていた肺静脈

以前は、心房細動(AF)の一部のみが肺静脈起源と思われていたが、器質的心疾患の有無によらず発作性心房細動(PAF)の94%において肺静脈が関与しているという報告もある。

Key Point

1)発作性心房細動はしばしば肺静脈の反復性興奮による。

アブレーションによる肺静脈隔離

□肺静脈は左房開口部から1cm内外に心筋組織を有している。肺静脈と左房との電気的連絡は開口部の全周に及ぶのではなく、数本の線維を経由する。肺静脈の電気的隔離とは、この肺静脈と左房との連絡を断ち切って、肺静脈における反復性興奮が心房へと伝わらないようにすることである。

□カテーテルアブレーションによる肺静脈隔離は、左房と肺静脈をつなぐ筋線維を高周波通電により念入りに遮断する手技として始まった。しかし、複数の肺静脈が頻拍起源となることや、上下の肺静脈の間にも電気的な連絡があることがわかってきた。これらの知見と手技的な簡便さもあって、最近は左房の広範な線状焼灼により遠巻きに肺静脈開口部を隔離する方法を選択する施設が多い。

持続性心房細動と肺静脈との関係は、

□肺静脈以外にも上大静脈や心房のどこかが高頻度の興奮を生じて心房細動を引き起こすことがある。肺静脈とそれ以外の組織の両方にフォーカスが存在することもある。

60 AFはAFを招く(AF begets AF)

□AF begets AFとは、「心房細動の発生それ自体が次の心房細動出現を促進する」という意味。

Key Point

1)心房細動が持続あるいは頻発するとき、速やかに対処しないとこじれやすい。長期に続いた心房細動は左房の拡大や組織学的な変性を招く。こうした変化は同時に心房細動をいっそう治療抵抗性とする。

61 基礎疾患のある発作性心房細動(PAF)

□心房細動(AF)は器質的心疾患のない患者にもしばしば出現するが、原因があれば根本から対処する。以下は関連の強さ。

●弁膜症:『心雑音がなくても弁膜症はある。』

●心不全:『心房細動と心不全、どちらが先か簡単にはわからない。』

●洞不全症候群[心臓のペースメーカーの異常で心拍数が低下する病気]:『ありふれている。』

●甲状腺機能亢進症:『わかっているのに見落とす』

●肥大心筋症:『1/4に心房細動ありとか。』

●高血圧心疾患:『これがクセモノ。底に流れている。』

●肺高血圧:『それほど経験はない。』

●虚血性心疾患/急性心筋梗塞

●心膜炎

多くの抗不整脈薬は陰性変力作用を有するので、心エコーによる心機能の評価なしの投薬には限界がある。心房細動を見たら心エコーは必須。

急性期を過ぎれば、心筋梗塞では、アミオダロンなど一部の抗不整脈薬を除き、抗不整脈薬の予後改善効果は大きな期待ができないばかりか、ときに予後を悪化させる。急性心筋梗塞による入院後にアミオダロンを処方された患者と無投薬の症例では、短期的も長期的には予後の差は認められていない。

62 急性心筋梗塞と心房細動

□心筋梗塞では心不全が先行している心房細動が多い。

65 なぜ抗凝固療法?

□血栓塞栓症の予防は心房細動の治療において大きな位置を占める。血栓は冠動脈のような高圧系では血小板血栓、心房のような低圧系ではフィブリン血栓になる。

□冠動脈内での血栓形成には血管内皮の損傷からvon Willebrand因子の関与する血小板の血管との相互作用を経て、血小板血栓が作られる。

□減速の低下した心房細動の心房では凝固系の活性化が進み、トロンビンの形成からフィブリン形成という一連のカスケードが促進される。

Key Point

1)冠動脈疾患⇒高圧系の血栓(血小板血栓)⇒抗血小板薬

2)心房細動の血栓⇒低圧系の血栓(フィブリン血栓)⇒抗凝固療法(ワーファリン)

左房の中でも左心耳は、一種の憩室として血液のうっ滞がはなはだしい。拡大した左房では、ことに流速の低下や乱流がからんで血栓が形成されやすい。また、左心耳の内側膜は凹凸が多く、袋状の構造もあった血栓形成には都合が良い。

□フィブリン血栓には凝固因子Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹは還元型ビタミンKによって活性化される。ワーファリンはビタミンKの還元型への移行を司る還元酵素を阻害し、フィブリン血栓の形成を抑制する。

新しいトロンビン阻害薬

□トロンビン阻害薬という薬剤(ダビガトラン)はワーファリンに代わる新たな抗凝固療法の薬として期待されている。

※ご参考:”似て非なる抗凝固薬 直接トロンビン阻害剤の特徴

    :”ダビガトラン(直接トロンビン阻害薬)の解説

75 顕性WPW症候群(偽性心室頻拍)の心房細動

□WPW症候群[ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群:心房と心室の間に電気刺激を伝える余分な伝導路(副伝導路)が生まれつきあることで発生する病気]では、若年でも心房細動が出現しやすい。1/3という数値も報告されている。

WPW症候群に合併した心房細動は偽性心室頻拍と呼ばれ、心房の興奮が副伝導路を介して心室に伝わり心室細胞を起こすこともあるため注意が必要。

Part9 wide QRS tachycardia

91 器質的心疾患を背景にしたVT

VT(心室頻拍)の基質となる心疾患は、おおむね陳旧性心筋梗塞である。

陳旧性心筋梗塞(OMI)の心室頻拍は突然死を生じるが、薬物治療には限界があり、ICD(植込み型除細動器)の出番が多い。

□これまでの大規模臨床試験や周囲の専門家からの示唆に基づいたルールは、

Ⅰa群薬とⅠc群薬は予後を悪化させる。ことに心機能障害や虚血性心疾患を有する患者では断定的である。

Ⅰb群薬については知見が乏しい。しかし、陳旧性心筋梗塞の患者に不整脈薬の有無を考慮せずにメキシチールを投与した研究では、心室性期外収縮(PVC)数は減少傾向を示したものの、死亡率は高めになっていた。

慢性期は原則としてアミオダロンで治療する。

β遮断薬やレニン-アンジオテンシン系に作用する薬剤を併用している方が予後が良い。禁忌でなければ使う。

92 経口アミオダロンを陳旧性心筋梗塞や不整脈原性右室心筋症のVT/VFに使う

アミオダロンは基本的に不整脈薬専門医によって処方される。適応を判断することが難しい。

アミオダロンの副作用[吐き気、肺機能障害、甲状腺機能異常、角膜色素沈着、視覚障害など]は、多めに投与すればしばしば出現する。

甲状腺と肺への副作用を考慮して、アミオダロンを使用する前に甲状腺ホルモンと一酸化炭素拡散能(DLco)を測定する。肺の間質性変化はCTで確認する。

アミオダロンは効果が出てくるまで時間がかかる。

□アミオダロンにはβ遮断薬作用があるが、心不全があればカルベジロールの併用が行われる可能性が高い。

抗不整脈薬の効果は確実性が低いため、ICD装着したうえで作動頻度を下げるためにアミオダロンを併用する。

Part11 洞不全症候群

99 徐脈と頻脈のウラに薬あり

徐脈や頻脈は薬剤によって起こることも稀ではない。気管支拡張薬などの交感神経活動を刺激するものは分かりやすいが、閉塞性動脈硬化症や脳梗塞などの治療薬のシロスタゾール(プレタール)でも洞頻脈を生じる。

抗うつ薬による頻脈も多い。

薬剤性徐脈

β遮断薬やベラパミルの投与量、服用のあやまり、患者自身の刺激伝導系の障害や薬物代謝機能の低下による徐脈。

●徐脈を生じるリスクのある薬剤であることを認識せず、徐脈基質を有する患者に投与された場合。

□日常臨床では、β遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ジルチアゼムとベラパミル)、ジギタリスによる徐脈が多い。これらの薬剤を併用したときには、その頻度も高くなる。

不整脈と薬2

不整脈治療薬ファイル 
不整脈治療薬ファイル 

著者:村川裕二

出版:メディカル・サイエンス・インターナショナル

初版発行:2010年9月

目次は”不整脈と薬1”を参照ください。

 

Part3 抗不整脈薬のアウトライン

11 抗不整脈とはつまり何か?

「抗不整脈薬の薬理学はどうもわかりにくくて、嫌になる」というのはまともな感覚。なかなか頭の中が整理できない。

抗不整脈薬とはNa⁺チャネル遮断作用を中心において、これにおまけの性質がプラスされていると考えればよい。

Key Point

1)抗不整脈薬=Na⁺チャネル遮断作用+α

□Na⁺チャネルは心筋伝導をつかさどる。ほとんどの抗不整脈薬が心筋の伝導を抑制する。

□Na⁺チャネル遮断作用以外のプラスアルファの性質には、主なものとして3種類ある。

●K⁺電流遮断作用(APD延長)

●カルシウム拮抗作用

●β遮断作用

□これらの3つの作用は伝導を抑える点ではNa⁺チャネル遮断作用と似ている。K⁺チャネル遮断作用はAPD[活動電位持続時間]長くして、不応期も延長するので、興奮を受け入れられるようになる時間が遅くなる。

□カルシウム拮抗作用はCa²⁺電流に依存した領域での伝導性を低くする。例えば洞結節と心房間、および房室結節。

□β遮断作用は交感神経活動に依存したチャネルをブロックして心筋の伝導性を落とす。房室結節などCa²⁺電流に依存した心筋は、健康な心臓に比べて自律神経への依存性が高い。

□Na⁺チャネル遮断作用以外も伝導を邪魔して頻拍を治療する。

Key Point

1)Na⁺チャネル遮断作用も付随的な作用も、伝導性を修飾して抗不整脈薬効果を発揮する。

不整脈の発生機序
不整脈の発生機序

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』

・正常では洞結節がペースメーカとなり、洞調律(正常な心拍のリズム)を形成する。

不整脈は刺激伝導系から固有心筋への興奮伝導の異常や興奮発生の異常によって発生する。

左図の上段

1.洞結節-指令を出す(社長)

2.刺激伝導系-指令を伝える(中間管理職)

3.心房筋・心室筋-動く(社員)

左図の下段

・刺激生成異常、刺激伝導異常の原因は社長、中間管理職、社員のいずれかの問題と考えられる。

 

 

不整脈治療の概要
不整脈治療の概要

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』

不整脈の治療は不整脈の停止と再発予防に大別される。

・軽症例は経過観察 の場合もある。

・不整脈を引き起こす基礎疾患の治療もあわせて行う。

12 抗不整脈の分類:Vaughan-Williams分類はまだ生きている

□抗不整脈薬の分類としては、Vaughan-Williams(ボーン-ウィリアムス)の分類が基本。

Vaughan-Williams分類
Vaughan-Williams分類

画像出展:『不整脈治療ファイル』

 

これはNa⁺チャネル遮断作用とAPD(活動電位持続時間)への作用の2点に注目した分類である。また、APDの延長はほとんどがK⁺チャネル遮断作用による。

●Na⁺チャネルの遮断……伝導の抑制

●K⁺電流の抑制……APDの延長≒不応期の延長

□APDの延長は心筋の不応期(興奮した後に興奮性が失われる時間、つまり刺激への反応性が低下している期間)の延長をもたらす。

□基本的にNa⁺チャネル遮断薬は、Vaughan-Williams分類ではⅠ群薬に入り、他の電流との兼ね合いからⅠa、Ⅰb、Ⅰcのサブタイプに分かれる。

□多くの新薬が加わったため、1990年より電気生理学的な新知見を盛り込んだ新しい分類、薬剤の性質を詳細に列挙した、Sicilian Gambitの分類が提唱された。

Sicilian Gambit分類
Sicilian Gambit分類

画像出展:『不整脈治療ファイル』

 

Sicilian Gambit分類
Sicilian Gambit分類

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』

 

こちらは『病気がみえる vol.2 循環器』の表ですが、”Vaughan-Williams分類”と”Sicilian Gambit分類”の対比ができてとても親切な表です。これを見て分かったことを整理します。

1.村川先生の教え(不整脈薬は”イオンチャネル””それ以外”に分ける)に従うと、

1aイオンチャンネル遮断薬は3種類ある。Na⁺チャネル(Ⅰx群薬)、Ca²⁺チャネル(Ⅳ群薬)、K⁺チャネル(Ⅲ群薬)である。

1b)いずれの遮断薬も遮断作用には、”高”、”中等”、”低”という違いを有する。

2a)Na⁺チャネル遮断薬は、結合・解離の速さに関しては、”速”・”中等”・”遅”に分けられる。

2b)Na⁺チャネル遮断薬は、”活性化チャネル”を狙ったものと”不活性化チャネル”を狙った物に分けられる。

3a)村川先生の”それ以外”に該当する薬は、”受容体”にはたらきかけるものであり、最も多いのはβ受容体をターゲットするもの(β遮断薬)であるが、β以外には、α受容体、M₂[ムスカリン]受容体、A₁[アドレナリン]受容体がある。

3b)受容体以外には、”ポンプ”(Na⁺、K⁺、ATPase)と”作動薬(刺激作用)”がある。

13 たくさんあるⅠ群薬:どこが

Ⅰ群薬について、以下の3点について少し知っておきたい。

活性化チャネルブロッカーと不活性化チャネルブロッカー

Na⁺チャネルとの結合・解離の速さの差

Na⁺チャネル以外のイオンチャネルへの作用

□Cast study[心筋梗塞発症後の無症候性あるいは軽い症候性の心室期外収縮、非持続性心室頻拍症例において、抗不整脈薬治療によって不整脈を抑制することが、抗不整脈薬治療によって不整脈死を低下させるか否かを検討する]で、心筋梗塞後にⅠ群薬を使うと予後が示された。拡張型心筋症や中等度以上の弁膜症でも、それなりの心筋障害があればⅠ群薬はマイナスになると思われている。

Key Point

1)器質的背景があるときにⅠ群薬を使うと予後を悪化させかねない。積極的に用いられなくなった。

□Ⅰ群薬の使い方で最初に覚えることは、リドカインとメキシレチンは心室の不整脈にのみ有効で、これ以外のⅠ群薬は上室性不整脈と心室不整脈の両方に有効性が期待されるということ。

Ⅰ群薬の使いどき

□Ⅰ群薬を使う状況として多いのは

●一部の症状の強い期外収縮

●発作性心房細動(PAF)で洞調律を狙うとき

●発作性上室頻拍

□Ⅰ群薬は一般的に、期外収縮30%、発作性心房細動15%、発作性上室頻拍20%。

14 チャネルに統合するタイミング:活性化チャネルブロッカーと不活性チャネルブロッカー

□Ⅰ群薬は活性化状態のチャネルと不活性化状態のチャネルへの親和性の差によって、活性化チャネルブロッカーと不活性化チャネルブロッカーに分けられる。

□活性化したチャネルはあっという間に不活性化状態になる。

Na⁺チャネルが開くのは膜電位がちょっと浅く(-90mVから-70mVに)なったときに開口するゲートがあるからだ。このゲートは開いた後(活性化)はパッと閉じることができないので、別な位置にもう一つゲートを準備して、そこで素早く蓋をする(ここが不活性化)。どうしてこうなっているかというと、ごく短時間に大量のNa⁺を取り込みたいが、際限なくNa⁺が細胞内に流れ込まないようにしたいという理由による。開くゲートと蓋をするゲートの分業にすることでメリハリが生まれる。

□Ⅰa群薬は活性化チャネルブロッカーであり、おもに活性化状態のNa⁺チャネルに結合する。

□Na⁺チャネルと結合するタイミングにはどんな意味があるのか。

●心房は心室よりAPDが短い。そのため、心房では不活性化チャネルブロッカー(リドカイン、メキシレチン、アプリジン)がチャネルと結合できる時間は短い。つまり、不活性化チャネルブロッカーはAPDが短い心房には作用しにくい。これに対し、活性化チャネルブロッカーは心房、心室いずれにもNa⁺チャネルを有効にブロックできるので、両方の不整脈に対しても効果を現しやすい。

Key Point

1)不活性化チャネルブロッカーは心房の不整脈に効きにくいが、活性化チャネルブロッカーは心房・心室いずれの不整脈にも有効というのが基本。

15 さっぱり系としつこい系、粘り強さが違う:Na⁺チャネルとの結合・解離

□Na⁺チャネルとの結合と解離の速さも薬剤を分類する要素になるⅠa群薬はⅠb群薬に比べ結合がゆっくりしており、離れるのも遅い。

●「スッポンみたいに噛み付いたら放さない」のか、「とりあえず噛み付いてもすぐに放す」のか……という差。

□Na⁺チャネル遮断後の回復時定数は0.19秒のリドカインと43.0秒のジソプラミドでは約20倍もの差がある。

□結合・解離が遅い薬剤では洞調律[洞結節で発生した興奮が刺激伝導系を介して心臓全体に正しく伝わっている状態]でも興奮伝播は抑制されるのでQRS幅は拡大する。一方、結合・解離が速い薬剤では洞調律下のQRS幅は正常のままである。

Key Point

1)Na⁺チャネルとの結合・解離が遅い薬剤では洞調律でもQRS幅が広がる。

□不活性化チャネルブロッカーは心房には作用しにくい。しかし、リドカインやメキシレチンよりも結合・解離が遅いアプリジン(中間型)は、心房細動の治療薬として使える。不整脈薬の特徴である遮断作用の強さと、結合・解離の速さの組み合わせにより、それぞれの薬剤の作用は微妙に異なる。

16 ここから始まったⅠ群薬の古典派:Ⅰa群薬

□Ⅰa群薬はAPD(活動電位持続時間)を延長するものだが、これは主にⅠa群薬がK⁺チャネルを少し遮断することによる。

K⁺チャネルには、膜電位への依存性、開口を促す物質の差異、あるいは不活性化の時間経過などに基づいて、いろいろなタイプがある。それぞれの薬剤が作用するK⁺チャネルは多彩だが、ターゲットになるのはIkr電流(遅延整流K⁺電流のうち速い成分)である。

抗不整脈薬といえば、かつてはⅠa群しかなかった。まずは、キニジンとプロカインアミドが世に出て、1980年あたりからジソピラミド、シベンゾリン、ピルメノールなどが登場した。(現在、キニジンと経口のプロカインアミドの使命は終わった。キニジンは“キニジン失神”と呼ばれる副作用がある。一方、静注のプロカインアミド[アミサリン]は使いやすく、今後も使われ続ける)

□実際の使用頻度も考慮しながら薬剤を列挙すると次のようになる。

●使える経口薬:ジソピラミド、シベンゾリン、ピルメノール

●使える静注薬:プロカインアミド、ジソピラミド、シベンゾリン

Ⅰa群薬の個性と使い分け

□ジソピラミド(リスモダン)

●代表的なⅠ群薬。本当に使える抗不整脈薬としては最初のもの。300㎎/日の常用量を超えて使うことは勧めない。

●陰性変力作用[心筋の収縮力を下げる作用]と催不整脈作用[薬による不整脈の増悪や新たな不整脈の発生]はちゃんとある。薬理面ではそれなりにハードな薬剤だが、使用経験が長いのでまだ使われている。

●抗コリン作用は強い。尿閉も生じる。

□シベンゾリン(シベノール)

●不整脈専門医は比較的好んで使う。ジソピラミドとどこが違うのか決定的な差はピンとこない。

●陰性変力作用と催不整脈作用もジソピラミドと似ている。

●抗コリン作用はやや弱い。抗コリン作用のメカニズムは、ジソピラミドはムスカリン受容体を刺激するが、シベンゾリンはIKAchを抑制する。

□ピルメノール(ピメノール)

●かなり優れた薬剤だが、使用されることが少ない。今も昔も抗不整脈薬は製薬会社にとっては、あまり儲かるものではない。

□ジソピラミド、シベンゾリン、ピルメノールにはいずれも抗コリン作用がある。ただし、抗コリン作用を発揮するメカニズムは同じではないし、その強さも異なる。

17 Ⅰ群薬のマイルドタイプ:Ⅰb群薬

□Ⅰb群薬はリドカイン(キシロカイン)、メキシレチン(メキシチール)のほかにアプリンジン(アスペノン)も含まれる。いずれも不活性化チャネルブロッカー(おもに不活性化チャネルをブロックするが、活性化状態のチャネルにもいくらか結合する)であるが、結合・解離の時定数が長いアプリンジンだけは例外的に心房筋への効果を有する。

Key Point

1)Ⅰb群薬でもアプリンジンのみは心房の不整脈に有効。

□アプリンジンは使いやすく有用な不整脈薬である。

□Ⅰb群薬はNa⁺チャネル遮断作用に加えて、APDを短縮するという性格をもつ。

□Ⅰb群薬は催不整脈作用によるtorsades de pointes[トルサード・ド・ポアント:心室性頻拍の一種。心臓のポンプ機能を著しく低下させ、アダムスストークス発作や心室粗細動へ移行し突然死を招くことがある予後不良の不整脈である]は起きにくい。

□リドカインとメキシレチンは、有効性や副作用の面で違いを明確にすることは困難で使い分けのが難しい。

18 ホントは使いやすい:Ⅰc群薬

□Ⅰc群薬としてフレカイニド、プロパフェノン、ピルジカイニドはNa⁺チャネルとの結合・解離は緩徐であり、作用も強い。

□すべて活性化チャネルブロッカーであり、心房と心室のいずれの不整脈にも有効。

□Ⅰc群薬はAPDの変化はほとんどない。

□フレカイニドはK⁺チャネルへの影響を有するが、ピルジカイニドは純粋なNa⁺チャネルの遮断薬である。プロパフェノンはβ遮断作用をもつことが特徴。

Ⅰc群薬の個性と使い分け

□ピルジカイニド(サンリズム)

●純粋なNa⁺チャネル遮断薬。シンプルさが売り物。使いやすい。

●普通の量であれば安心して使える薬、ただし、腎不全、心不全でないという条件つき。

●半減期が4時間程度と短いので、1日3回では手薄になる時間帯が出てくる。

●陰性変力作用はあるが比較的マイルドと考えられている。

ほぼ100%腎排泄なので、腎機能低下があれば使わない。

循環器を専門としない医師にとって第1選択にしやすい薬だが、血中濃度が高くなれば心室粗動が生じることがあるので、常用量で使う。

□プロパフェノン(プロノン)

●β遮断作用をもつ。わざわざβ遮断薬を併用するほどではないが、ちょっと房室伝導を抑えたいときなどに意識して選択できる。β遮断作用はあまり強くない。

●欧米ではかなり普及しており、論文も多い。

□フレカイニド(タンボコール)

●有効性が高い。心房細動に使われる。

●半減期が11時間と長い。

19 脇役なのに出番は多い:Ⅱ群薬(β遮断薬[β受容体のみを遮断する薬]

□β遮断薬は第Ⅱ群に属し、対象となるのは交感神経活動が関与する不整脈。

□β遮断薬は不整脈治療において主役ではないがよく頻繁に使われる影の実力者。使用例は次の通り。

●カテコラミンや交感神経依存型の不整脈、例えば運動誘発型VT(心室頻拍)や先天性QT延長症候群のtorsades de pointes抑制を目的とした本格的な使い方。

●器質的な背景が明らかでない洞頻脈[心臓の脈が速い状態]の症状緩和のために使用。

神経調節性失神で洞停止[洞結節が一時的に活動を停止する現象、数分間にわたるような停止になるとめまいや失神をきたすことがある]を予防。 

神経調整性失神
神経調整性失神

画像出展:「日本心臓財団

神経調節性失神はどういう病気ですか

神経調節性失神は、排尿、咳嗽、嚥下、食後などの特定の状況で発症する状況失神、恐怖、疼痛、驚愕など情動ストレスにより惹起される情動失神、および血管迷走神経反射による失神を総称する概念とされています(図)。』 

●房室伝導を抑制して心房細動や心房粗動の心室レートをコントロールする。

□陳旧性心筋梗塞のVT(心室頻拍)や心不全がらみの心室細動の予防にもβ遮断薬は有効である。これは心不全の緩和を介した不整脈の治療になる。

□β遮断薬は心筋細胞のカルシウムハンドリングを改善し、心不全の進行を抑える。これは遅延後脱分極に伴う心室不整脈を抑制することになり、重篤な不整脈を生じにくくする。β遮断薬は生命に関わる不整脈を治療できる。

Ⅱ群薬の個性と使い分け

□使用目的によって投与回数の異なるものを使う。

●頓用あるいは継続治療でも、導入時にはプロプラノロール(インデラル)が使いやすい。早く効いて、早く消える。

●1日2回投与の抗不整脈薬と併用する場合や、覚醒時にきちんと効果を維持したいなら、セロケンのような1日2回投与のものが使いやすい。

●高血圧治療も兼ねてなら、ビソプロロール(メインテート)やアテノロール(テノーミン)が使われる。

□メインテートは脂溶性でじんわり身体にしみこんでくる。血中濃度が低いときでも、それなりの薬効が維持できる。

□器質的背景がないなら、どのβ遮断薬でもよいが、陳旧性心筋梗塞や心不全があれば、メインテートかアーチストを使った方がよい。

20 なんといっても最後はコレ:Ⅲ群薬

□Ⅲ群はK⁺チャネルの抑制によるAPD延長が主な作用である。

個性派ぞろいのⅢ群薬の使い分け

□国内

●経口と静注のアミオダロン(アンカロン)

●経口のソタロール(ソタコール)

●静注の塩酸ニフェカラント(シンビット)

□国産のニフェカラントは重症心室不整脈のコントロールに活躍してきた。

アミオダロンは抗不整脈薬のなかでも、かなり特異な薬剤

●APD延長に働くK⁺チャネルの遮断作用のみならず、Na⁺チャネル、Ca²⁺チャネル、β受容体の遮断作用も備えている。

●アミオダロンはdirty drugと呼ばれている。

●Ⅰ群抗不整脈薬が無効の重篤な心室不整脈に対しても明らかに効果を発揮するし、予後改善効果も確立されている。

●ソタロールは「K⁺チャネル遮断作用+β遮断作用」をもつ。

●Ⅲ群薬は不整脈診療に経験のある医師によって用いられる。

21 兄弟じゃないのに:Ⅳ群薬

□カルシウム拮抗薬のうち心筋の伝導を抑制するベラパミル(ワソラン)とジルチアゼム(ヘルベッサー)などがⅣ群に属する。また、少し特徴の違うタイプとしてべプリジル(ベプリコール)がある。

□べプリジルは抗不整脈薬という性格を前面に押し出しており、Na⁺チャネル遮断作用やK⁺電流への影響もあることから、Ⅰ群薬かⅢ群薬と呼んでもおかしくない。

□Ca²⁺チャネルを経由したカルシウムの細胞内への流入は、心筋の収縮機転のひきがねとなる。また、心臓の構成要素のうち比較的遅い伝導を示す部位(例えば房室接合部の一部)において、Na⁺チャネルに代わって伝導の主体を担う。この性質のため、房室接合部やそれに似た伝導特性をもつ心筋が不整脈の発生と維持に含まれているとき、抗不整脈効果をもたない。

□同じカルシウム拮抗作用をもつ薬剤でも、ジヒドロピリジン系(ニフェジピンなど)は抗不整脈効果をもたない。この違いは、それぞれのカルシウム拮抗薬が作用するチャネル部位、それに応じた臓器(血管か心筋か)選択性とともに、使用依存性の程度による。

Ⅳ群の使い分け

●ベラパミルとジルチアゼムは房室伝導の抑制が主体

●べプリジルはⅠ群薬と似た使い方をする。

22 何も起きないわけがない:副作用

抗不整脈薬に特徴的な副作用は大きく2つに大別される。

心機能に対する副作用

催不整脈作用[薬による不整脈の増悪や新たな不整脈の発生]

抗不整脈薬の多くは陰性変力作用[心筋の収縮力を下げる作用]をもつため、心不全を誘発もしくは増悪させる可能性がある。Na⁺チャネルとCa²⁺チャネルを介するイオンの流入が心収縮の重要な機転であることから、心収縮力の低下傾向は回避し難い副作用である。

Key Point

1)同じ薬に属していても、陰性変力作用の強さは異なる。

副作用は薬剤独自のチャネル選択性や、β遮断作用の有無によるところが大きいが、臨床用量の設定も影響している。

□催不整脈作用とは、新たな不整脈薬の出現を招いたり、既存の不整脈の頻度や重症度を増悪させたりすることに加え、刺激伝導系の抑制による徐拍化も含まれる。

□torsades de pointesのような多形性心室頻拍は致死的となり、Ⅰa群薬とⅢ群薬とⅣ群のべプリジルが原因薬物となる。K⁺チャネル遮断による再分極遅延は後脱分極と呼ばれるあらたな脱分極を招き、これが不整脈源となって、torsades de pointesを出現させる。

□ジソピラミドやシベンゾリンは低血糖という独特な副作用を有する。

Key Point:

1)ジソピラミド、シベンゾリンの低血糖!

□低血糖はK⁺チャネル(ATP感受性K⁺チャネル)の遮断が膵臓のインスリン分泌を促進することによって生じる。

□Ⅰa群薬は中枢神経系への作用(ふらつきや複視)を生じることがあるが、患者自身は気がづかず、ちょっと変だなという程度なことが多い。

□抗コリン作用をもつジソピラミドでは、口渇や男性の排尿障害がたまにみられる。これははじめから予想して投薬する。

23 torsades de pointes が起きたら

※トルサード・ド・ポアント:心室性頻拍の一種。心臓のポンプ機能を著しく低下させ、アダムスストークス発作や心室粗細動へ移行し突然死を招くことがある予後不良の不整脈である。

□APD持続作用を有するⅠa群薬やⅢ群薬を投与中の患者に、著明なQT[心室の興奮の始まりから消退するまでの時間]延長とtorsades de pointesが出現することがある。

□Ⅰa群薬とⅢ群薬による催不整脈作用は用量依存性ではあるが、過量であることは必須条件ではない。むしろ、torsades de pointesに対し特にリスクの高い患者が存在する。以下がそのリスク要因。

高齢

女性

徐拍

器質的心疾患や電解質異常

腎機能や肝機能の低下など、血中濃度[血液中に含まれる薬の量]が上昇しやすい状況

Key Point

1)高齢女性ではQT延長作用のある薬剤の投与は避ける。

□抗不整脈薬でQT延長とtorsades de pointesが認められた場合

●薬剤の中止……QT延長作用のあるすべての薬剤

●電解質異常など増悪因子の改善

●徐脈が背景にあれば、一時的ペーシング[小さな電気パルスを発出して心収縮を生みだすこと]

●リドカイン(50~100㎎)

●マグネゾール(2gを2分で投与)

□『なお、薬剤の血中濃度を測っても解釈が難しい。個人的には利用していない。催不整脈作用は血中濃度により避けられるものではない。きわどい症例に抗不整脈薬を投与しないとか、常用量を超えて使わないなど、危険に近づかないという姿勢を勧める。

24 治療薬を選ぶ発想

抗不整脈薬の薬理作用を懸命に勉強しても、どの抗不整脈薬がベストな選択なのか判断は難しい。抗不整脈薬の薬理作用が明らかとなっていても、心房細動や心室頻拍では「どうして薬が不整脈を止めるのかというメカニズム」はどうも見えてこない。

これまで蓄積された情報を十分マスターしたとしても、未知の要因がたくさん残されている。不整脈の専門家でも「確信はないがとりあえず使ってみる」というパターンが多い。

陰性変力作用や催不整脈作用、あるいは薬物代謝の面で使いにくい薬剤を避けるという「消去法の発想」のほうが正直な道だと思う。

Key Point

1)病態と薬理を深く理解して確実な成功率……これは虚構。

2)使いにくい薬剤を除外して無理のない選択……手が届く。

心機能と腎機能が低下している高齢者で考慮するのは、

陰性変力作用が少なく、腎排泄でないという条件に加え、潜在的な徐脈性不整脈や催不整脈作用に注意。

若年で心機能も肝・腎機能も問題がないのなら、選択の幅は広くなる。最小限必要な知識は、

陰性変力作用の有無……Ⅰb群のアプリンジンとⅠc群のピルジカイニドは陰性変力作用が少ない。

代謝経路……ピルジカイニドが腎排泄。

催不整脈作用の多寡……Ⅰb群のアプリンジンとⅠc群薬にはQT延長に伴う催不整脈作用はない。

注意すべき副作用……ジソピラミドとシベンゾリンの低血糖、アプリンジンの肝障害。

不整脈と薬1

先日、ICD(植込み型除細動器)を装着されている患者さまが来院されました。主訴は左肩の強い肩こりです。心疾患がある場合、左の肩や腕(特に内側、小指側)に関連痛が出る場合もあります。最新のICDは100gもないようですが、ICDの重さが肩周辺のファシア(筋膜)を下方に引っぱり、緊張を高めているということも十分に考えられると思います。いずれにしても右肩に比べ左肩に重い症状が出ることは不思議ではありません。

ICD
ICD

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』

左の写真を見ると左肩(向かって右)に寄ったところにあることがわかります。

また、患者さまは”心室頻拍”という不整脈のため、アミオダロンという強い不整脈の薬を服用されています。以前、“期外収縮”や“心房細動”については勉強したことがあったのですが[ブログ:“不整脈(心房細動)”]、心房細動に関しては、血栓塞栓症に注意する必要はあるものの、この2つの不整脈は一般的には深刻な不整脈ではないとされています。

一方、“心室頻拍は特に注意しなければならない不整脈の一つです。そして、アミオダロンなど不整脈の薬についての知識は、ほぼゼロに等しい状態でした。そこで、今回あらためて不整脈とその薬について勉強することにしました。

購入した本は、村川裕二先生の『不整脈治療薬ファイル 抗不整脈治療のセンスを身につける』という本です。実は、この本は第2版が既に出版されているのですが、節約のため初版(2010年)を買いました。ということで、2020年に発行された最新の第2版ではないのでご注意ください。

なお、内容はとても高度で詳細なものでしたが、村川先生の独特な言い回しのおかげで、敷居が低くなり、何となく親しみを感じられたのは良かったと思います。

ブログは目次黒字部分ですが、「Part2 基礎」、「Part3 抗不整脈薬のアウトライン」が中心です。勉強モードのため大変細かく長くなったため4つに分けました。なお、4つめのブログには『病気がみえる Vol.2 循環器』の内容を元に作った不整脈の一覧表を載せました。

不整脈治療薬ファイル 
不整脈治療薬ファイル 

著者:村川裕二

出版:メディカル・サイエンス・インターナショナル

初版発行:2010年9月

 

不整脈は脈拍の乱れ、それはポンプである心臓の拍動の乱れです。そこで、最初に心臓の拍動、収縮のメカニズムを調べました。

興奮の発生から収縮までの流れ
興奮の発生から収縮までの流れ

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』

心臓の収縮は洞結節と呼ばれる特殊心筋細胞が、自発的に興奮(脱分極)し収縮することがスタートです。その興奮は固有心筋細胞を通じて心臓全体に伝わるのですが、その過程でNa⁺(ナトリウムイオン)Ca²⁺(カルシウムイオン)が深く関わります。また、興奮が鎮まるとき(再分極)には、K⁺(カリウムイオン)が関与します。

不整脈の薬は心臓の拍動を整えることになるので、構造と収縮のメカニズムから考えると、洞結節房室結節の働きと、Na⁺Ca²⁺K⁺に注目することが重要だと思います。

Part1 総論

1 最初から「まとめ」

2 プラスアルファの知識とは何か?

Part2 基礎

3 心筋の活動電位を復習する

4 ちょっとイオンチャネルをかじる

5 いろいろあるK⁺チャネル

6 洞結節は自分で動く

7 房室結節は箱根の関所

8 房室結節を抑える薬

9 triggered activityとEADとDAD

10 リエントリー:興奮がまわるということ

Part3 抗不整脈薬のアウトライン

11 抗不整脈とはつまり何か?

12 抗不整脈の分類:Vaughan-Williams分類はまだ生きている

13 たくさんあるⅠ群薬:どこが

14 チャネルに統合するタイミング:活性化チャネルブロッカーと不活性チャネルブロッカー

15 さっぱり系としつこい系、粘り強さが違う:Na⁺チャネルとの結合・解離

16 ここから始まったⅠ群薬の古典派:Ⅰa群薬

17 Ⅰ群薬のマイルドタイプ:Ⅰb群薬

18 ホントは使いやすい:Ⅰc群薬

19 脇役なのに出番は多い:Ⅱ群薬(β遮断薬)

20 なんといっても最後はコレ:Ⅲ群薬

21 兄弟じゃないのに:Ⅳ群薬

22 何も起きないわけがない:副作用

23 torsades de pointes が起きたら

24 治療薬を選ぶ発想

Part4 心房期外収縮

25 変行伝導は大事か?

26 治療するかどうか、誰が決めるか

27 使いたい抗不整脈薬と、使ってもいい抗不整脈薬

28 Case1:訴えの多い中年女性

29 Case2:ちょっとした僧帽弁閉鎖不全がある

30 Case3:blocked PAC

31 いろいろなP派:多源性心房期外収縮

32 Case4:顕性WPW症候群でshort runを繰り返す

Part5 心室期外収縮

33 PVCが“治療対象でない”とはどういう意味か?

34 頻発するPVCは心不全を招くか?

35 子供のPVCはなぜ怖いか?

36 CAST studyは爆弾

37 Lownの分類を使うか?

38 どの抗不整脈薬を使うか?

39 Case:流出路起源のPVC

40 連発の多いPVC

41 急性心筋梗塞のリドカイン

Part6 発作性上室頻拍

42 頻拍の呼び方

43 PSVTは2種類と割り切る

44 AVNRTの速伝導路と遅伝導路

45 AVNRTはどう回るのか?

46 long RP’ tachycardiaがわかると何が得か?

47 WPW症候群とAVRT

48 WPW症候群につきものの頻拍

49 WPW症候群-偽性心室頻拍なのにカテーテルアブレーションを拒否されたら

50 すぐ止めたいとき

51 ATP製剤で止める

52 WPW症候群のPSVTをアミサリンで止める

53 WPW症候群のPSVTをリスモダンPやIc群で止める

54 顕性WPW症候群の慢性期

55 顕性WPW症候群以外はワンパターンですむ

Part7 心房粗動

56 通常型と非通常型

57 抗不整脈薬で心房細動を治療できるか?

58 ダメモトで抗不整脈薬による洞調律化を狙いたいとき

Part8 心房細動

59 忘れられていた肺静脈

60 AFはAFを招く(AF begets AF)

61 基礎疾患のある発作性心房細動(PAF)

62 急性心筋梗塞と心房細動

63 AFFIRM study:洞調律化群 vs. レートコントロール群

64 心不全の心房細動

65 なぜ抗凝固療法?

66 CHADS2スコアは使いやすい

67 どの薬剤を使うか?―具体的に

68 静注抗不整脈薬によるAFの停止は意味があるか?

69 レートコントロールは十分か?

70 レニン-アンジオテンシン系抑制薬の役割

71 Case1:持続の短いPAF

72 Case2:はじめての発作

73 Case3:半日近く続いている動悸

74 Case4:1日ほど続いているAFを静注抗不整脈薬で止めたいとき

75 顕性WPW症候群(偽性心室頻拍)の心房細動

76 Case5:経口サンリズムによる停止

77 Case6:弁膜症がある

78 Case7:夜間に好発する

79 Case8:心房粗動も認めるとき

80 Case9:倒れる心房細動

81 Case10:肥大型心筋症に血栓塞栓症を生じた

82 Case11:レートコントロールが難しい

Part9 wide QRS tachycardia

83 外見からは4種類

84 まず特発性VTを考える

85 ベラパミル感受性VTに出会ったとき

86 流出路起源VT(左脚ブロック右軸偏位型VT)

87 たいした根拠はないが、なんとなくVTのような気がするとき

88 「もしかしたら上室性頻拍かもしれない」と思ったとき

89 急性心筋梗塞や拡張型心筋症:ニフェカラントを使う

90 静注アミオダロンを使う

91 器質的心疾患を背景にしたVT

92 経口アミオダロンを陳旧性心筋梗塞や不整脈原性右室心筋症のVT/VFに使う

93 拡張型心筋症を基礎にもつVT

Part10 心室細動

94 総論

95 electrical stormとは?

96 electrical stormへの対策

97 特発性VF

98 心不全の不整脈とレニン-アンジオテンシン系抑制薬

Part11 洞不全症候群

99 徐脈と頻脈のウラに薬あり

100 薬物治療

101 経口薬での対処

Part1 総論

1 最初から「まとめ」

□以下のことを全部しっているのなら、この領域の概要はマスターしている。

1)まず、Vaughan-Williamsの分類を知っている。

2)Sicilian Gambitの分類という表があり、使われている用語がわかる。しかし、情報が多すぎて専門家も暗記はしていない。

3)CAST studyというメガトライアル……器質的心疾患のある心室不整脈をⅠ群薬で抑制しても予後は改善しない、あるいは予後を悪化させかねない。

4)健常心ではⅠc群薬でもリスクは少ないので、上室性の頻脈に有効なら使っても差し支えない。

5)催不整脈作用としてのQT延長症候群……Ⅰc群薬とⅠb群薬にはQT延長はまずない。

6)最もパワフルな抗不整脈薬はアミオダロン……副作用の点で使い方が面倒だが、重篤な心室不整脈にはほぼこれしか選択肢はない。使うべきときには積極的に使う。ハイリスクなら植込み型除細動器(ICD)が併用される。

7)房室結節や副伝導路、あるいはPurkinje線維を回路に含む頻拍では薬物治療の効果は確実。それ以外は、どういう運命が待っているか予想しがたい。どうして抗不整脈薬が効果をもつのかわかっていない頻拍もある。

8)薬物治療でしのぐよりも、カテーテルアブレーションで治療したほうがスッキリする頻拍は多い。発作性上室頻拍(PSVT)や心房粗動は根治率が高い。根治率では劣るが心房細動にもカテーテルアブレーションが行われている。考慮すべき治療選択肢。

□不整脈の薬物治療とは、ひとことで言えば……

Key Point

1)それなりのクスリはあるが、魔法のクスリはない。

2 プラスアルファの知識とは何か?

□知っておくべきこと

1)心臓の電気生理

2)不整脈が生じるメカニズム

3)薬物の作用機序

Key Point

1)不整脈の頻度、予後、関連すること⇒不整脈をとりまく情報。

2)各不整脈がどのくらい治療に反応するのか⇒勝ち目があるのかを知りたい。

□心房細動を静注抗不整脈薬で止めようとしてもなかなかうまくいかない。

□発作性上室頻拍ならベラパミルかATP製剤(アデホス)でほぼ100%停止できる。

不整脈についての知識と経験が増すほど、意識的に治療しないという道を選ぶ。

頑張りすぎると募穴を掘る。

「慎重さと果敢さのバランス」も大事。

Part2 基礎

3 心筋の活動電位を復習する

□活動電位(action potential:AP)とは細胞の外側を基準にして、内側の電位を図示したもの。不整脈の発生や抗不整脈薬の作用を述べるとき、以下の3つの用語なしでは、薬剤が作用するメカニズムの話が始まらない。

脱分極

再分極

不応期

□心筋細胞に限らず、興奮していない細胞の内側は細胞の外側よりも電位が低い。

□興奮していない細胞では、細胞膜を挟んで大きな電位差があるので“分極”している。分極とは、細胞内外にくっきりした電位の差ができていること。

□細胞が興奮するとは、Na⁺やCa²⁺というプラスに荷電したイオン[電子の過剰あるいは欠損により電荷を帯びた原子または原子団]が細胞内に流入すること。細胞内のマイナス成分が打ち消されるので、分極状態が解消される。

□”脱分極”した後しばらくは、電気的な刺激を受けても一呼吸入れないと興奮できない。その一呼吸にかかる時間の長さが“不応期”。

□活動電位の横幅は活動電位持続時間(action potential duration:APD)。この長さは、おおよそ不応期を決め、さらにQT時間[心室の興奮の始まりから消退するまでの時間]に反映される。

Key Point

1)心筋細胞が興奮性を失っている時間⇒不応期⇒APD[活動電位接続時間]やQT時間と関係あり。

□なぜ活動電位の形や薬剤の影響を知りたいかというと

●不整脈のメカニズムについてイメージをもつ⇒病態生理がわかった気分になる。

●活動電位が薬剤によってどう変わるかを知る⇒薬物治療にロジックがあるような気がする。

□厳密には、細胞が脱分極するにはNa⁺チャネルが不活性化状態から抜け出している必要がある。APDが同じでも、Na⁺チャネル遮断薬が投与されていると被刺激性をとり戻すのがワンテンポ遅くなり、不応期は少し長くなる。

□「QT[心室の興奮の始まりから消退するまでの時間]延長をきたす薬剤でなくても不応期は延びる」という知識は、実感としては分かりにくい。活動電位の終末より後ろの不応期はpost-repolarization refractorinessと呼ばれる。いつも存在するわけではない。

不応期の延長
不応期の延長

画像出展:『不整脈治療ファイル』

post-repolarization refractorinessは、相対不応期と呼ばれるものだと思います。

看護roo!”というサイトに解説が出ていました。興奮の発生と伝導|生体機能の統御(1):『不応期には、絶対不応期と相対不応期の2つの相がある。どんなに強い刺激にも応じない時期を絶対不応期とよぶ。再分極の進行中に強い刺激を加えると、活動電位を発生する時期がある。この時期を相対不応期とよぶ。

静止膜と活動電位
静止膜と活動電位

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』

細胞の内と外には電位差がある(膜電位)。興奮していない時を静止電位(左)、興奮時の時間とともに変化する電位を活動電位(右)と呼ぶ。

心筋細胞の活動電位
心筋細胞の活動電位

画像出展:『人体の正常構造と機能』

青・0Na⁺が関与

赤・2Ca²⁺が関与

黄・1/3K⁺が関与

絶対不応期・相対不応期

黒・4静止電位

 

心筋の活動電位とイオンチャネルとの関係
心筋の活動電位とイオンチャネルとの関係

画像出展:『人体の正常構造と機能』

Na⁺チャネル

Ca²⁺チャネル

K⁺チャネル

K⁺チャネルはKv、herg、KvLQT1などが存在する。

心電図に記録される6つの波
心電図に記録される6つの波

画像出展:『人体の正常構造と機能』

PQ時間:P波の始まりからQ波まで。すなわち心房筋の興奮の始まりから心室筋の興奮の始まりまでの時間で、房室伝導時間を表す。正常値は0.12~0.20秒。心拍数が少ない場合、PQ間隔は長くなる。

QRS時間:QRS波の始まりから終わりまで。心室筋の興奮している時間を表す。正常では0.08~0.1秒。

QT時間:心室筋の興奮の始まりのQ波から回復過程のT波の終りまで。心室筋の脱分極から再分極までを表す。

注)”時間”ではなく”間隔”と表記されることもあります。 

 

心臓の解剖と各波の間隔
心臓の解剖と各波の間隔

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』

①洞結節

②心房筋

③房室結節

④ヒス束

⑤左脚・右脚

⑥プルキンエ線維・心室筋

:PQ間隔

:QRS間隔

:QT間隔

4 ちょっとイオンチャネルをかじる

□心筋細胞の活動電位はイオンチャネルによってコントロールされている。イオンチャネルとは心筋細胞膜においてイオンが出入りする経路

イオンチャネル以外の経路でもイオンは移動する

チャネル:電気化学ポテンシャルの面でそっち方向に自然と流れる孔ができる。川の流れにのってイオンを動かし、エネルギーは使わない。“受動的”な移動と表現される。

ポンプ:Na-Kポンプが代表的。ATPなどを使ってイオンを移動させる。川の流れに逆らった“能動的”なイオンの移動。

交換輸送系:Na-K交換輸送系はNa⁺とK⁺を一定の比率で交換するシステム。電荷として差し引き換算でゼロになるわけではない。

脱分極と再分極の主役はイオンチャネル。イオンチャネルで動いたイオンを元に戻すとか、行き過ぎを調整するというたぐいの仕事をポンプや交換輸送系が担当する。これでバランスがとれている。

不整脈の治療には、とりあえず、

イオンチャネル

それ以外

と単純に考えてよい。

□『「電気生理学について深い知識なしに不整脈の治療はできない」というのはおこがましい。しかし、「イオンチャネルについてささやかな知識がなくては、不明脈の治療はできない」というのは正しい。

Key Point

1)Na⁺電流……伝導性

2)K⁺電流……不応期やQT時間

5 いろいろあるK⁺チャネル

□K⁺チャネルはおよそ10種類のサブタイプがある。なぜ、“およそ”でしか数えられないかというと、定義の仕方で数が変わってくるから。

□K⁺電流は細胞膜内外の電位差があるところに達すると活性化(チャネルの活動がactiveモードになる)するものと、特定の物質の濃度が上昇(例えばアセチルコリン)あるいは低下(例えばATP)することによって活性化するものがある。

Key Point

1)K⁺チャネルにはいろいろな種類がある。その活性化のモード(活躍するタイミングやひきがねの種類)はいろいろ。

2)K⁺チャネルは生理的にはすべて外向き(細胞の中から外へ)にK⁺イオンを流し、再分極に貢献。

おもなK⁺電流のうち、話に出てくる頻度が高いのは以下の4つ。

●一過性外向きK⁺電流(Ito:transient outward current)

●遅延整流K⁺電流のうち遅い成分(Iks

●遅延整流K⁺電流のうち速い成分(Ikr

●内向き整流K⁺電流(Ikl:内向きと言っても、生きている人間の体の中ではこれも外向きに流れる)

□これらの分類と名称は古臭くなっているが、臨床の場ではまだ使われている。

K⁺チャネルとQT時間

□心筋障害に伴いK⁺チャネルの数や性質は変化する。また、器質的心疾患に伴ってQT時間は変化する。

Key Point

1)K⁺チャネルの機能低下や薬剤による抑制⇒QT延長

□抗不整脈薬のうち、Ⅲ群作用とはAPD(活動電位持続時間)の延長であり、K⁺チャネルの抑制による。他の機序でQTを延長させる薬剤もあるが、国内では使われていない。[2014年時点]

□薬剤ごとに作用するK⁺チャネルは異なる。

□実際にはIkrの遮断がⅢ群作用の主体であり、それ以外のK⁺チャネルを意識する機会はまずない。

Key Point

1)抗不整脈薬のQT延長はIkr遮断作用と割り切る。

□Iksは交感神経刺激により活性が増す。これには、外向きのK⁺電流増加⇒再分極の促進⇒APD短縮⇒QT時間短縮という流れが予想される。ところが、交感神経刺激はCa²⁺電流も増して、こちらは再分極とは拮抗する。つまり、交感神経活動1つとっても、いろいろな経路を介してAPDを延ばしたり、短縮したりするので、その加算したものがどっちに向かうかは簡単には知りえない。

6 洞結節は自分で動く

□slow response型と呼ばれるのは洞結節や房室結節の細胞であり、周期的に興奮する。これは自動能という機能である。 

自動能(心臓の興奮の始まり)
自動能(心臓の興奮の始まり)

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』

房室結節、プルキンエ線維も自動能を有するが、興奮頻度が最も多い、洞結節がリードしている

□自動能はいろいろなメカニズムによって複合的に維持されているが、そのメカニズムは諸説ある。

Key Point:洞房結節の自動能

1)ある種のCa²⁺電流が関与している。

2)自律神経活動の影響を受けやすい

□洞結節のどの部分がペースメーカーとしてのリーダーシップをとるかは、主に自律神経活動レベルによって異なってくる。洞調律[洞結節で発生した興奮が刺激伝導系を介して心臓全体に正しく伝わっている状態]といっても、P波の形は一定ではない。

□小児によく見られる所見だが、ペースメーカーが洞結節とその近傍(右房)を移動していくことがあり、wandering pacemakerと呼ばれる。いろいろな形のP波が現れる。病気ではなく生理的な現象。

洞結節は自律神経に大きく影響される。心拍数が100/分より少なければ主に副交感神経(迷走神経)でコントロールされる。それより多くなると交感神経やカテコラミンの役割が大きくなり、副交感神経の関与は小さくなる。

7 房室結節は箱根の関所

□房室結節もCa²⁺電流依存型のslow response型細胞によって作られている。

□房室結節の特徴

●伝導速度は遅い……Ca²⁺電流に依存した伝導

●上から来る興奮の頻度が高いと伝導性が低下する……減衰伝導特性

自律神経による影響を受けやすい

□房室結節は伝導性が低い組織である。この伝導性の低さに味がある。心房と心室の収縮に時間差があるのは効率よく血液を輸送するために役立つ。踊りでもスポーツでも、ちょっとした間のおき方が大きな意味をもつ。

□例えば心房細動になったとき、600/分の心房興奮がそのまま心室に落ちてきては心室細動を生じてしまう。

Key Point:房室結節は心房と心室の連絡をコントロールする部位である。

1)心房と心室の興奮の時間差をつくる。

2)極端に心室レートが高くならないようにする安全弁。

□房室結節は箱根の関所。役に立つフィルターとして機能すれば価値は大きいが、加齢や薬物などで伝導性が落ちれば房室ブロックになる。

自律神経の線維が豊富にあるため、自律神経活動によって房室結節の伝導性は大きく変動する。痛み刺激で迷走神経が亢進すると房室ブロックが生じることがある。 

8 房室結節を抑える薬

□房室結節の伝導をよくするにはβ受容体を刺激すればよい。高度の房室ブロックで危険が迫れば、イソプロテレノールを用いる。

Key Point:房室伝導を抑制する薬剤

1)β遮断薬

2)カルシウム拮抗薬(心筋に親和性のあるベラパミルとジルチアゼム)

3)ジギタリス

4)Na⁺チャネル遮断薬(抗不整脈薬)

5)ATP製剤(アデホス)

□房室結節が自律神経の影響を受けやすく、かつCa²⁺電流に依存した伝導をするので、β遮断薬とカルシウム拮抗薬で房室伝導は抑制される。

□ジギタリスによる房室伝導抑制は、部分的には迷走神経活動の亢進によって説明されているが、それ以外の未知の要素もある。

□Na⁺チャネル遮断作用はⅠ群薬の特徴である。これに加えて他群の抗不整脈薬(べプリジルとアミオダロンなど)も、メインではないがNa⁺チャネル遮断作用をもつ。

□ATPが房室伝導を抑制するのは、代謝産物のアデノシンが抑制性G蛋白を経由してCa²⁺電流を抑えるからである。

□房室伝導に作用する薬剤はきちんと知っておく必要がある。その理由は2つ。

●房室ブロックの出現を避けることができる。

●房室結節を回路に含むリエントリー性頻拍の停止と予防、および上室性の頻拍のレートコントロール治療の裏づけとなる。

Key Point

1)房室伝導に作用する薬剤を記憶しておくことは、メカニズムを理解した不整脈治療と房室ブロックの回避に必要。

不整脈の治療では房室伝導のコントロールが重要である。房室結節の制御が不整脈治療の入口であるが、結局これに尽きる。房室結節を押さえていれば日常の不整脈診療はできる。 

9 triggered activityとEADとDAD

□頻拍の発生と維持のメカニズムとして主なものは3種類ある。

●異常自動能

●triggered activity(トリガードアクティビティ)

●リエントリー(興奮旋回)

□triggered activityは日本語では撃発活動というが、英語のまま使われている。focalなリズムの1つであり、周囲からの刺激によって生じる振動性興奮である。

□活動電位の後半部位あるいは終了直後に新たな活動電位(後脱分極 afterdepolarization:AD)と呼ばれるコブが現れるが、その出現するタイミングによって2つある。

●早期後脱分極(ealry afterdepolarization:EAD)

●遅延後脱分極(delayed afterdepolarization:DAD)

早期後脱分極(EAD)

□EADは家族性QT延長症候群や後天性QT延長症候群にみられる頻拍。つまりtorsades de pointesと呼ばれる多形性心室頻拍の原因となっている。

EADとDAD
EADとDAD

画像出展:『不整脈治療ファイル』

 

Key Point

1)QT延長が関与する不整脈は先天性か後天性かを問わず、早期後脱分極(EAD)がひきがねとなる。

遅延後脱分極(DAD)

□DADは細胞内のCa²⁺過負荷が背景となり、筋小胞体からのCa²⁺の振動性放出がその機序となっている。心筋細胞内のCa²⁺の貯蔵と出し入れにたずさわる筋小胞体からCa²⁺が漏れ出ることで脱分極が生じる。

□DADによる不整脈としては、ジギタリス中毒に伴うものが有名。ジギタリスによるNa-Kポンプの阻害が細胞内Naを増加させ、Na-Ca交換機構を細胞内Ca²⁺増加方向に働かせ、Ca²⁺過負荷にしているからである。

□Ca²⁺の負荷が多いことは心筋の収縮力を増すことに必要だが、同時に不整脈のもとになる。Ca²⁺過負荷は心不全においては非特異性に出現する現象。

Key Point

1)ジギタリス中毒や心不全に伴う不整脈の多くはDADをメカニズムとする。

□心不全のときの心室不整脈はCa²⁺過負荷を緩和することが本質的な対処。むやみと抗不整脈薬で攻めても期待できない。

□右室流出路(right ventricular outflow tract:RVOTと略される)起源の心室期外収縮(premature ventricular contraction:PVC)は健常者によく認められるが、そのなかに非持続性心室頻拍(3連以上のPVC)が頻発するケースがある。反復性単形性心室頻拍(repetitive monomorphic ventricular tachycardia)という言葉が使われる。これはtriggered activityによると考えられる。

10 リエントリー:興奮がまわるということ

□発作性上室頻拍や多くの心室頻拍はリエントリーをメカニズムとする。リエントリーとは興奮旋回を意味し、基本的には興奮伝達遅延部位と一方向性ブロックが必要。

□伝達遅延部位の例

●心筋梗塞後の心室頻拍における緩徐伝導路

●WPW症候群のリエントリーにおける房室結節

●房室結節リエントリー性頻拍の遅伝導路

●心房粗動の解剖学的狭窄

□リエントリーが開始して維持されるには、鍵となる経路の伝導速度と不応期に微妙なバランスが必要である。

□例えば、AVNRT(房室結束リエントリー頻拍:房室結節二重伝導路が原因)やAVRT(房室回帰頻拍:房室間の副伝導路が原因)がある年齢になってから出現し、発作頻度や持続が変わるということは、房室結節と副伝導路の加齢による変化が関与している可能性がある。引き金となる期外収縮が年齢に応じて増えるということも関係していると思う。

ポリヴェーガル理論3

ポリヴェーガル理論入門
ポリヴェーガル理論入門

著者:ステファン・W・ポージェス(Stephen・W・Porges)

初版発行:2018年11月

出版:春秋社

目次は”ポリヴェーガル理論1”をご覧ください。

第2章 ポリヴェーガル理論とトラウマの治療

聞き手:ルース・ブチンスキー(認定心理学者、臨床応用行動医学全国組織[NICABM])の会長

トラウマと神経系

トラウマがストレスと関連した障害と捉えるのは適切でない。特に、通常のストレス反応と同様に、交感神経系とHPA軸(視床下部-脳下垂体-副腎)の反応とされていることが一番の問題である。

ポリヴェーガル理論では、「危険」や「生命の危機」に瀕した時には、ストレス反応とは違った二つ目の防衛システムが発動すると考える。そこでは、自律神経系の反応は大きく抑制され、副交感神経系の古い神経経路が使われる。それは、「不動」、「シャットダウン」そして「解離」である。

・「不動化」の反応は小さな哺乳類によく見られる。例えば、ネコに捕まったネズミである。「擬死」とか、「死んだふり」と言われているが、これは意図的に行う反応ではなく、闘争/逃走反応が使えない時に起こる。人間が恐怖体験により失神するときもこれと同じものである。

科学的な論文でも、不動化をもたらす防衛システムは、ストレス理論では説明されていない。ストレス理論はアドレナリンの分泌や交感神経の活性化によって、可動性を伴う防衛反応が起きるとされている。

・我々の神経系は、意識されることなく、常に環境中の危険因子の評価を行い判断している。そして常に優先順位に従って、その場にもっとも適応的な行動を取る。

トラウマ治療で最も大切なことは、「どのようなトラウマ的な出来事が起きたのか」ではなく、その人がその状況で「どのような反応をしたのか」を理解することである。

「ポリヴェーガル理論」と「迷走神経パラドクス」

迷走神経は心臓や内臓を制御しているため、運動機能が注目されているが、多くは感覚神経で80%の線維は内臓から脳へと情報を送っている。残りの20%が運動神経路を形成し、動的に、そして時には劇的に生理学的変化を起こさせる。例えば、迷走神経が緊張した状態では心臓の動きが抑制(心拍数減少)される。そして迷走神経の緊張が緩むと、心臓の拍動は戻る。こうした変化はわずか数秒のうちに起きることもある。

・可動化という機能を持つ交感神経に対して、迷走神経は、落ち着かせたり、成長させたり、回復させたりする機能を持っている。

私は、彼の言葉[迷走神経は急に脈が遅くなる「徐脈」や、突然呼吸が止まる「無呼吸」などの、生命を脅かす現象を引き起こすことがある]を真剣に受け止め、私の研究[新生児の迷走神経に関する研究。赤ちゃんの中には、RSA(呼吸性洞性不整脈:呼吸に伴って心拍数が増加したり減少したりする現象)が見られない赤ちゃんがいる]の中で発見されたことに何か手がかりがないか、振り返りました。私の研究では、RSAが起きているときには、徐脈や無呼吸は起きませんでした。これに気がついたとき、私はこの「迷走神経パラドクス」という概念を理解するヒントを得たのです。RSAがあるときは、迷走神経は保護的な働きをし、徐脈や無呼吸を起こすときは、生命を危険にさらすのです。

数カ月にわたり、私はこの新生児医学の手紙を鞄に入れて持ち歩いていました。私はなんとかこのパラドクスを説明しようとしました。しかし私の知識はあまりにも限られていて、どうすることもできませんでした。そこで、このパラドクスを解決するために、迷走神経の神経解剖学をあたってみることにしました。もしかすると、この二律背反のパターンを引き起こす迷走神経の回路は異なっているのではないか、と考えたのです。

この「迷走神経パラドクス」を引き起こしていた迷走神経の作用機序を明確化したことによって、ポリヴェーガル理論が生まれました。この理論を構築するにあたって解剖学、進化学、そして二つの異なる迷走神経の働きを精査しました。一つの迷走神経系は徐脈や無呼吸を引き起こし、別の迷走神経系がRSAを引き起こすのです。一つの神経系は潜在的に死をもたらします。もう一つの神経系は保護的に働きます。

この二つの迷走神経の回路は、脳幹の違った部分から発していました。比較解剖学を研究した結果、古い神経回路ができ、その後に新しい神経回路ができたことがわかりました。系統発生学に基づいた自律神経のヒエラルキーが、私たちに埋め込まれていることが明らかになったのです。この発見が、ポリヴェーガル理論の基礎になりました。

「不動」、「徐脈」、「無呼吸」は哺乳類が誕生するずっと昔の、太占の脊椎動物において発達した防衛機制だったのです。ペットショップに行って、爬虫類を観察してみてください。そうすれば、この防衛機制を理解することができます。爬虫類を見ていると、じっとしてあまり動きません。爬虫類にとっては、この「不動状態」が基本的な防衛システムなのです。しかし、ハムスターや家ネズミなどの小さな哺乳類を見てください。彼らはまったく違った行動様式をとっています。小さな哺乳類はつねに動きまわっています。彼らは活動的で、社会的に交流をし、仲間とあそびます。そして動いていないときは自分たちの兄弟と身体をくっつけあっています。

ポリヴェーガル理論の構成概念は進化に基礎を置いています。系統発生学的に段階を追って、それぞれ異なる神経回路が発達し、それぞれ異なる適応行動を起こしていたのです。研究を進めるにつれ、脊椎を持つようになった生き物のうちでも、進化上より早期の脊椎動物において発達した「太占の防衛機制」が、我々の神経系にまだ埋め込まれていることを発見しました。この「太占の防衛機制」とは、「不動状態」です。闘争/逃走反応という防衛機制では、「可動化」が主要な要素です。しかし、太占の脊椎動物の防衛機制は、それとは反対のものです。「不動状態」、「擬死」あるいは「死んだふり」は、爬虫類やその他の脊椎動物にとっては適応的な行動でした。しかし哺乳類は、酸素を大量に必要とするため、こうした反応は潜在的に死に至る危険があります。哺乳類も、生命を脅かすようなことが起きたときには「不動状態」に陥ります。そして「不動状態」に陥った後、普通の状態に戻ることは非常に難しいと考えられます。これが多くのトラウマのサバイバーにも起きていることなのです。』

ふたたび自律神経系について

・ポリヴェーガル理論では、自律神経系の機能は進化の階層に則って三つに分けられている。

1.有髄化(絶縁性の髄鞘によってニューロンの軸索が覆われること。これにより神経パルスの伝導が高速化される)されていない無髄の迷走神経経路で、横隔膜より下の内臓の迷走神経制御を行っているもの。(一般的には、”自律神経節後線維”[C線維]と呼ばれています

2.有髄の迷走神経経路で、横隔膜より上の臓器の迷走神経制御を行っているもの。(一般的には、”自律神経節前線維”[B線維]と呼ばれています

3.交感神経系

・進化の過程で、最初に無髄の迷走神経経路が発達した。人間やその他の哺乳類では、安全な場合には、この古いシステムによって恒常性(ホメオスタシス)が保たれている。しかし、これが防衛に使われたときは、不動状態になり、徐脈や無呼吸をもたらす。そして代謝を落とし、シャットダウンを起こし、見た目には崩れ落ちたようになる。シャットダウンのシステムは爬虫類にとっては適応的である。これは爬虫類の小さな脳はわずかな酸素しか必要とせず、数時間生きていることも可能であるからである。

ニューロセプション:意識せずに行う知覚

・ニューロセプションは認知のプロセスではなく、神経的なプロセスで環境中にある「合図」や「きっかけ」を評価し、危険を察知する。

ポリヴェーガル理論では、ニューロセプションはポリヴェーガル理論で定義された自律神経の三つの主要な状態、つまり「安全」「危険」「生命の危機」を察知し、それにふさわしい神経回路にスイッチを入れる。

・社会交流システムがうまく働いていると、防衛反応が抑制され、我々は落ち着き良い気分になる。しかし危険が増すと、二つの防衛システムが優先順位に沿って発動する。いよいよ危険を察知すると、我々の交感神経系が主導権を握る。そして「闘うか/逃げるか」という動きを可能にするために代謝を上げる。そして、それがうまくいかず、安全か確保されないと、無髄の古い迷走神経系を発動させて、シャットダウンする。

PTSDを起こす引き金

ニューロセプションの中でも聴覚刺激は大切で、特に「安全であるかどうか」を判断するには、聴覚刺激が非常に重要な役割を果たしている。

第3章 自己調整と社会交流システム

迷走神経:運動経路と感覚経路の導管

・迷走神経経路は、感覚線維と二つのタイプの運動線維の計三つから成る。運動線維の一つは、有髄化されず横隔膜より下の腸などの臓器と接続されている。もう一つは、有髄化されていて横隔膜より上の心臓などの臓器と接続されている。感覚神経線維は脳幹の中の孤束核と言われる領域に終わり、有髄の迷走神経の運動経路は、主に疑核に起始する。無髄の迷走神経の運動経路は、主に迷走神経背側運動核に起始する。

いかにして音楽が迷走神経による調整を促す「合図」となるか

・音楽療法:歌うためには長く息を吐く。吐いている間は有髄の迷走神経の遠心経路の心臓への働きかけが強まる。これにより生理学的状態が穏やかになり、社会交流システムが活性化する。歌うとは聴くことでもある。これは中耳筋の神経の緊張を増進させる。また、神経による喉頭咽頭筋を調整し、さらに顔面神経と三叉神経を介して、口と顔の筋肉を使う。個人でなくグループであるなら、他者と関わり社会的な活動になる。以上のことから、歌うこと、特にグループで歌うことは、社会交流システムの素晴らしい「神経エクササイズ」になる。

ご参考:“迷走神経活動の測定法”(実験はマウス) クリック頂くと5枚資料のがダウンロードされます。

迷走神経活動の測定法
迷走神経活動の測定法

はじめに  

『自律神経系は交感神経系と副交感神経系から構成される神経系で、それぞれ身体の臓器を二重支配することによって相反的に各臓器機能を調節している。自律神経の作用には自律神経反射に代表される循環調節、消化機能調節、そして代謝調節作用が知られており、これらの作用は自律神経遠心路により心臓、血管、消化管、肝臓、膵臓、脂肪組織等の活動を制御することによって営まれている。自律神経の異常は狭心症、胃・十二指腸潰瘍、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム等に深く関与している。自律神経の全身機能調節は各臓器の状態に依存しており、その情報を伝達する経路として自律神経救心路が重要な働きを担っている。救心路神経線維は副交感神経(迷走神経)束の約75~90%、交感神経束の約50%を占めており、末梢性の自律神経反射に関わる情報だけでなく、中枢性の情報(満足感や嗜好形成などの摂食行動調節)にも関わることが最近の研究で明らかにされている。

ポリヴェーガル理論2

ポリヴェーガル理論入門
ポリヴェーガル理論入門

著者:ステファン・W・ポージェス(Stephen・W・Porges)

初版発行:2018年11月

出版:春秋社

目次は”ポリヴェーガル理論1”をご覧ください。

第1章 「安全である」と感じることの神経生物学

正当な科学的論題としての「感じること」に関する研究

・心理生理学は、心理的な操作に対する生理学的な反応を計測するものである。

心理生理学では、被験者が報告する主観的な状態に頼ることなく、皮膚電位、呼吸、心拍数、血管運動などの生理学的な反応を調べる。そして、客観的かつ数値化可能な方法で、主観的な体験について計測する。

・心の動きを生理学的な反応から理解しようとする試みは、今でも心理生理学および認知神経学の中心的な方法論であり、過去50年にわたりこの基本的な考え方にはほとんど変化はない。

心理生理学研究と心拍変動

・精神的に努力している状態では心拍数が減少し、そうでない時の心拍変動には個人差があることを発見した。そして、この研究成果が先駆けとなり、後に心拍変動の個人差と、認知的能力、環境内の刺激に対する感受性、精神医学的な診断、心理物理的適合性、レジリエンス[しなやかさ、回復力]との関係について、多くの論文が発表されることとなった。

心拍変動を調整する神経的作用機序

・『私は、心拍変動を引き起こす、心拍間隔に影響を与えている神経経路を探求し、心拍数を制御している神経系の仕組みを理解するために、動物実験を行った。』

心拍数を制御する迷走神経の計測方法の開発

・心臓迷走神経緊張のより正確な指標として、呼吸性洞性不整脈(RSA)を定量化する方法を開発した。

・迷走神経は呼吸によって心臓に与える影響を変化させる。

・呼気と吸気では心拍数が一定のリズムで減少したり増加したりする。そして、迷走神経の影響が大きければ大きいほど、その心拍変動は増加する。

・フィードバックループは迷走神経の働きを動的に調整している。肺や心臓だけでなく高次の脳からも脳幹へと信号が送られる。

・フィードバックループの出力媒介変数は振幅と周波数である。振幅は迷走神経の影響を反映しており、周波数は呼吸数を反映している。

・相対的な方法論から、神経生理学的なモデルをもとに迷走神経による神経的制御を計測する方法論へと推移していった。この技術を用いることで、迷走神経による制御の具体的な状態を正確かつ継続的に計測することができるようになった。

仲介変数の探求

・『私の科学的な探求は、行動の個人差を理解するための仲介変数を探す旅であった。この旅を通して「安全である」と感じることも含めた心理的な体験と、行動の神経的基盤となる自律神経の状態の重要性を理解することとなった。

・研究の三つの段階

1.記述的研究(心拍変動が重要な現象であることに気づき、一連の経験主義的な実験)。

2.心拍変動を仲介している神経生理学的な作用機序を説明するための研究。

3.神経生理学的、神経解剖学、進化学をもとにした、脳と身体、あるいは心と身体の科学の基礎となるポリヴェーガル理論の構築。

・『ポリヴェーガル理論は、我々の行動と、他者との関わり方に影響を与える仲介変数としての生理学的状態の重要性を解き明かすものであった。この理論により、危険と脅威が生理学的状態を変化させ、防衛に向かわせることが説明された。そしてもっとも大切な点は、「安全である」とは、単に脅威を取り去ることではないということだ。「安全である」とは、環境中や、他者との間で交わされる健康、愛、信頼を感じることを促進する、独特の「合図」に依存しており、それが防衛回路を積極的に抑制する。

安全と生理学的状態

・ポリヴェーガル理論では、意識の及ばないところで環境のリスクを評価する神経的なプロセスを「ニューロセプション」と呼ぶ。

・ポリヴェーガル理論では、ストレスとなる出来事の物理的な特徴は、あまり影響力を持たず、むしろ我々自身の身体的な反応の方がより重要な役割を果たしていると考える。

・ポリヴェーガル理論では、自律神経の神経的制御が変化したことを、内臓の感受性によって捉えていくモデルを提唱している。

・ポリヴェーガル理論では、社会が安全であると感じられる環境や、信頼できる人間関係を、我々は人々に提供しているのか、という問いに直面することになる。学校、病院、教会などの社会組織が、常に人々を評価し、それによって危険と脅威を感じさせる状況であることを鑑みると、政治紛争、財政危機、戦争などと同じように、こうした社会構造が我々の健康に好ましくない影響を与えていると言わざるを得ない。

ポリヴェーガル理論では、生理学的な状態を、様々な種類の適応的行動を効果的に表現する神経的な土台であると考える。

「安全であること」の役割と、生き残るために必要な「安全である」という合図

・神経系は爬虫類から哺乳類へと進化した過程で変化していった。特に哺乳類では、同種の生物のうち、どれだけ安全で近づいてもよく、また触れてもよいのかを同定する神経系が発達した。

・爬虫類や、その他の「原始的な」脊椎動物では、防衛戦略が非常に発達していた。しかし、進化した哺乳類においては、適応していくために、今度はそのよく発達した防衛戦略のスイッチを切る神経的作用機序が必要になった。

・哺乳類はいくつかの生物学的な必要性に迫られて「安全」を求めるようになっていった。

-哺乳類は出生後、直ちに母親の保護を受ける必要がある。

人間を含む数種類の哺乳類は、生きていくためには「孤立」を避け、長期間社会の中で相互依存を必要とする。防衛反応のスイッチを切って、子育てをしたり、社会的行動をとったりするためには、安心できる安全な環境と、安全な同種の生物を同定する能力が必要になった。

-生殖、授乳、睡眠、消化を含む様々な生物学的、行動学的機能を果たすためには、哺乳類は安全な環境が必要不可欠である。

・哺乳類は社会的行動と感情の制御を必要とするようになった。

ポリヴェーガル理論では、社会的行動と感情の制御を行う神経回路は、神経系が「安全である」と感じているときにのみ発動するとしている。その時、この神経回路は、「健康」、「成長」、「回復」を促進するように働く。

・「安全」は人間が潜在能力を発揮する上で欠かすことができない。高次の脳は創造性を発揮し、生産的であるためにも必要不可欠である。

・ポリヴェーガル理論では、我々の心理的、物理的、行動学的反応が、我々の生理学的状態に依存しているという事象に重きを置く。

・ポリヴェーガル理論では、身体の諸器官と脳が、自律神経を制御している迷走神経やその他の神経を通して、双方向に情報交換しているということに注目する。

自律神経系の制御は、進化の過程で「安全であること」を互いに発信しあい、協働調整することができる神経系を獲得した。

社会的交流と安全

・臨床において、見たり、聴いたり、起きていることに注目することは、大変有効なやり方である。

・社会的交流を持ち、身体の諸器官からの感覚をフィードバックすることにより、気分や感情の主観的な状態を改善することができる。

社会交流システムとは、顔と頭の横紋筋を制御する神経経路を総称したものである。

・社会交流システムは、身体感覚を投影するとともに、安全で落ち着いていて、愛と信頼を醸成する状態から、防衛反応を起こす脆弱な状態まで、一連の変化を引き起こすための情報の入り口である。

セラピストとクライアントが互いに、「見て」「聴いて」「感じる」ということは、お互いの身体と感情の状態を動的に双方向に情報伝達し、社会的交流が行われていることを意味する。それこそが治療的瞬間である。

・社会的交流が相互に利益をもたらし、互いの生理学的な状態を協働調整するためには、双方ともに、安全であり、信頼できるという社会交流的「合図」を送りあう必要がある。

・双方向で主観的な体験を分かち合うことは、結合鍵を開けるようなものである。突然、鍵を固定していた回転部品が正しい場所に収まり、扉が開くのである。

・進化の過程で、表情や発声、音や味覚を検知する神経系と生理学的状態とが結びついたのは、哺乳類特有の現象である。

身体の状態と表情や発声とが結びついたことにより、同種の生物が発する「合図」を見極める能力が発達した。相手が出している「合図」は「安全である」のか、「危険である」のか、はたまた逃げることも戦うことも不可能で、擬死に陥り不動状態になるべきなのか、判断できるようになった。そして、社会的交流の扉が開いた。

・他社が近づいても安全であるという「合図」を提供するために、顔と頭の筋肉を神経制御することが必要とされる。

・社会的交流システムは、我々の「安全であること」への生物学的な希求と、人とつながり、自分たちの生理学的な協働調整したいと望む、無意識の生物学的な必須要件から生まれた。

社会的交流では、「わかった」という微細な「合図」や、共感、互いの意図が交わされる。こうした「合図」は、微妙な調子、韻律を通して伝えらえる。それは同時に互いの生理学的状態を伝えあう。我々は、自らが落ち着いた生理学的状態であるときにのみ、相手に「安全である」という合図を伝えることができる。

社会的交流システムは、自分の生理学的状態を伝えるだけでなく、相手がストレスを感じているのか、それとも「安全である」と感じているのかを感知する入り口にもなる。「安全」を感知すると、生理学的反応は落ち着く。危険を感知すると、生理学的状態は、防衛反応を活性化するように変化する。

社会交流システム(脳神経:Ⅴ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ、Ⅺ)
社会交流システム(脳神経:Ⅴ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ、Ⅺ)

画像出展:「ポリヴェーガル理論入門」

 『図1で示されているように、社会交流システムには身体運動要素と内臓運動要素が含まれている。身体運動要素には、顔と頭の横紋筋を制御する内臓からの特殊体腔内器官遠心性経路(脳管内の運動核[疑核、顔面神経、三叉神経]から生じており、社会交流システムの身体運動要素を形成している)がある。

内臓運動要素には、心臓と気管を制御している有髄の横隔膜上の迷走神経がある。機能的には、顔と頭の筋肉と心臓のつながりから社会交流システムが生じる。社会交流システムは、誕生直後では、吸う、飲む、呼吸する、声を出すといった行動を調整している。誕生後早期に、この調整がうまく取れない場合、成長後、社会的行動や感情の制御が難しくなることが示唆される。』

結論

・ポリヴェーガル理論では、「安全である」と感じることは生理学的な状態に依存しており、「安全である」という合図は自律神経系を穏やかにする。

・生理学的な状態を落ち着かせると、安全で信頼できる人間関係を結ぶことができ、それそのものが、行動的、生理学的状態を協働調整する機会となる。こうした健全な「調整サイクル」が心と身体の健康を促進する。このモデルでは、自律神経の状態を含む我々の身体の感覚は、我々が他者と関わることにおいて仲介変数の機能を果たしている。

・交感神経が優位となり、戦闘態勢に入っているときは、防衛に焦点が当たっており、「安全である」という合図を出すことも受け取ることもしない。しかし、腹側迷走神経経路によって社会交流システムが発動しているときは、声や表情で、「安全である」という「合図」を出し、それにより、自分自身と他者の防衛反応を抑制する。互いに、社会交流システムを用いて関わり合うことによって、社会的な絆が強化される。

-腹側迷走神経複合体:腹側迷走神経複合体は脳幹に位置し、心臓、気管支、顔と頭の横紋筋を制御している。また、腹側迷走神経複合体は、内臓運動経路を通して心臓と気管支を制御している疑核と、特殊体腔内器官遠心性経路を通して、咀嚼、中耳、顔面、咽頭、喉頭、首の筋肉を制御している三叉神経顔面神経からなる。

・ポリヴェーガル理論では、治療的モデルにおいても、人間としての体験を最善のものとするためには、身体の感覚を尊重することだけでなく、生理学的な状態を含む支援を行うことが大切であると考えている。

・ポリヴェーガル理論では、他者との絆を形成し、互いに協働調整しあうことは、我々人間にとって必要不可欠な生物学的必須要件であると説いている。「安全である」と感じることは、生きていく上でなくてはならない。そして、我々が行動的、生理学的状態を協働調整することができる、信頼に満ちた社会的関わりを持つことによってのみ、我々は「安全」を感じることができる。

ご参考:人体の正常構造と機能』という本にある図・説明を用いて、神経生理学的説明を視覚的に追ってみました。もやもや感がありますがご紹介します。

①脳神経核 

以下は脳幹の図です。左側の図では右半分が知覚核(孤束核など)で、左半分は運動核(三叉神経運動核、顔面神経核、疑核、迷走神経背側核など)となっています。

また、右側の図は脳幹部の断面図です。黄色は“一般内臓運動(GVE)”、ピンク色は“特殊内臓運動(SVE)を担っています。緑色の舌下神経核に隠れて見づらいですが、迷走神経背側核(黄色)は確かに背中側(小脳側)にあるのが確認できます。一方、三叉神経運動核(ピンク色)、顔面神経核(ピンク色)、疑核(ピンク色)は迷走神経背側核から見ると、いずれもお腹側(腹側)に位置しているのが分かります。“腹側迷走神経複合体”とは、この部分を指しているのではないかと思います。

脳神経核
脳神経核

画像出展:「人体の正常構造と機能」

②脳幹の自律神経中枢

下の図は“循環中枢”(左)と“呼吸中枢”(右)を説明している図です。交感神経迷走神経(副交感神経)ですが、脳に近い神経は赤(交感神経)青(迷走神経)とも実線になっています。これは有髄線維の高速な線維です。一方、小さな●(神経核)を経て、破線になっていますがこれは低速の無髄神経になります。有髄線維は“節前線維”とよばれ、神経線維の分類で分けるとB線維になります。無髄線維は“節後線維”とよばれ、同じく神経線維の分類ではC線維になります。(神経線維はB、Cの他にAα、Aβ、Aγ、Aδがありますが、B線維よりさらに高速な線維です)

茶色はいずれも求心性の副交感神経になりますが、この図では三叉神経、舌咽神経、迷走神経の3つが出ています。

脳幹の自律神経中枢
脳幹の自律神経中枢

画像出展:「人体の正常構造と機能」

左端がボケてしまっています。上から、

・心臓抑制中枢

・迷走神経背側核

・疑核

・血管運動中枢

・延髄腹外側野

と書かれています。

③脳神経の線維構成

縦軸は脳神経の種類で、上から“特殊感覚神経”、“体性運動神経”、“鰓弓神経”に分類され、横軸は遠心性(左)と求心性(右)の2つに分かれています。鰓弓神経に注目すると、1番下の副神経(Ⅺ)以外の各神経は遠心性と求心性の双方の機能を有していることが分かります。これを見ると、先にご紹介した“社会交流システム”の中央に書かれている脳神経と比較して頂くと、社会交流システムが関わる脳神経は、鰓弓神経(脳神経のⅤ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ、Ⅺ)を指しているということが分かります。

脳神経の線維構成
脳神経の線維構成

画像出展:「人体の正常構造と機能」

左端がボケてしまっています。上から、

・特殊感覚神経

・体性運動神経

鰓弓神経

と書かれています。

ポリヴェーガル理論1

ポリヴェーガル理論”を知ったのは、ナチュラル心療内科竹林直紀院長の著書である『疲れた心の休ませ方』という本です。特に表紙の下に書かれていた、“「3つの自律神経」を整えてストレスフリーに!”という添え書きに興味を持ちました。

疲れた心の休ませ方
疲れた心の休ませ方

著者:竹林直紀

発行:2021年3月

出版:青春出版社

「はじめに」の中の“コミュニケーションにかかわる自律神経があった!”には、次のような説明がされていました。

『自律神経は大きく3種類に分けられる―。この新しい考え方は、精神生理学者のステファン・ポージェス博士によって提唱されました。

ポージェス博士は、アメリカのイリノイ大学で長年にわたり、自閉症児や社会的コミュニケーションに問題を抱える人々の研究をおこなってきました。そのなかで、自律神経の新しい考え方を発見し、1995年に「ポリヴェーガル理論」と題して論文を発表しました。

ポリヴェーガルとは、「poly(=複数の)」と「vagal(=迷走神経)」を組み合わせた造語で、「多重迷走神経」と翻訳されています。

ポリヴェーガル理論では、3つに分けた自律神経のうちのひとつを「社会的交流」の自律神経(社会神経系)とよびます。人と人とがつながり、関係性を構築していくとき、この「社会的交流」の自律神経が働いてその場に適した対応がとれるといわれています。』 

また、“SCENE1 ストレスに振り回されない「人との距離感」の保ち方”の中では、次のような紹介が出ていました。 

 『ポージェス博士は、著書「ポリヴェーガル理論入門」(花丘ちぐさ訳、春秋社)で、次のような趣旨のことを語っています。

心地よい社会生活や人間関係は、「健康」「成長」「回復」をうながす社会的交流の神経経路を使っておこなわれます。私たち人類の神経系は、「安心・安全」を探求しつづけ、「安心・安全だ」と感じるために、他者の存在を必要としているのです。

これを拝見し、「この、『ポリヴェーガル理論入門』を読んでみないと、よく分からないなぁ」と思い、購入してみました。

ポリヴェーガル理論入門
ポリヴェーガル理論入門

著者:ステファン・W・ポージェス(Stephen・W・Porges)

初版発行:2018年11月

出版:春秋社

“3つの自律神経”という考え方については、その科学的根拠に疑問もあるようです。これについては、後述させて頂きます。

しかしながら、最後の「謝辞」の中で、ポージェス先生がお話されているように、トラウマを抱えた人々に対する理論として、このポリヴェーガル理論は画期的なアプローチのように思います。

また、私のような施術者が患者さまと向き合うときの、「安心・安全」ということの意味や向き合い方など、その大切さを再認識することもできました。

謝辞(冒頭部分のみ)

『「ポリヴェーガル理論」は、1994年10月8日の私の研究所からヒントを得てつくられた(porges,1995)。その日私はアトランタで行われた心理生理学会で、学会長としてあいさつを述べた。そこで語ったモデルとそれに関連する理論が、ポリヴェーガル理論のもととなった。

そのときは、この理論が臨床家の注意を引くとは思っていなかった。私はこのモデルを、この学会で実験可能な仮説として発表したつもりでいた。私が予測していたとおり、このモデルはまず複数の分野において、査読付き論文数千件に引用された。つまり初めは予想通り、科学界で注目されたのである。

しかし、ポリヴェーガル理論がもたらしたもっとも大きな貢献は、この理論が、トラウマを体験した人が抱えていた状態について、神経生理学的な説明を行ったことであった。トラウマを抱えた人々に対し、ポリヴェーガル理論は、生命の危機に及んで、なぜ彼らの身体はかくのごとく反応し、その結果、レジリエンス[しなやかさ]、柔軟性、回復力を失い、「安全である」と感じられる状態に戻れなくなったのかを説明したのである。

先に、触れされて頂いた科学的根拠に関することですが、これはWikipediaに書かれていたものです。検索したところ“Polyvagal theory”に出ていました。(原文のままですみません)

Polyvagal theory

Criticism

Polyvagal theory has not, to date, been shown to explain any phenomena or experimental data above and beyond what is explained more precisely by attachment theory, research on emotional self-regulation, psychological stress models, the Neurovisceral Integration Model[23][24] and neuroimaging studies from the field of social neuroscience. Its appeal may lie in the fact that it provides a very simple (if inaccurate) neural/evolutionary backstory to already well-established psychiatric knowledge.

ブログは、患者さまと向き合う施術者として、「安全・安心」とは何かという視点を中心に置き、ポリヴェーガル理論の神経生理学的説明については、どっぷり浸かるのではなく、少し距離をとって拝読させて頂くこととしました。

その中で、特に印象に残った箇所を取り上げていますが(目次の黒字箇所)、そのほとんどは第1章と第2章からになります。また、長くなったので3つに分けました。

目次

序文

なぜこの本は対話形式で書かれているのか?

なぜ安全を求めるということに焦点を当てているのか?

第1章 「安全である」と感じることの神経生物学

●考えること・感じること:脳と身体について

●正当な科学的論題としての「感じること」に関する研究

●心理生理学研究と心拍変動

●心拍変動を調整する神経的作用機序

●心拍数を制御する迷走神経の計測方法の開発

●生理学的状態の計測と「刺激/反応モデル」の統合

●仲介変数の探求

●安全と生理学的状態

●「安全であること」の役割と、生き残るために必要な「安全である」という合図

●社会的交流と安全

●結論

第2章 ポリヴェーガル理論とトラウマの治療

●トラウマと神経系

●トラウマと神経系

●「ポリヴェーガル理論」と「迷走神経パラドクス」

●ふたたび自律神経系について

●ニューロセプション:意識せずに行う知覚

●PTSDを起こす引き金

●社会交流システムと愛着の役割

●自閉症とトラウマの共通点は何か?

●自閉症の治療

●LPP―リスニング・プロジェクト・プロトコル:理論と治療

●音楽はいかに親密性を促進する:「安全である」という合図

第3章 自己調整と社会交流システム

●心拍変動と自己調整:どう関係しているか?

●「ポリヴェーガル理論」を構成する原理

●安心を感じるためにどのような他者を利用しているのか

●私たちが世界に反応する方法に影響を与える三つのシステム

●迷走神経パラドクス

●迷走神経:運動経路と感覚経路の導管

●トラウマと社会的交流の関係

●いかにして音楽が迷走神経による調整を促す「合図」となるか

●社会交流の信号:迷走神経の自己調節と「合図がわからない状態」

●神経による調整を回復させる

●愛着理論は適応機能とどう関係するか?

●生理学的にもっと安全な病院を作ること

第4章 トラウマが脳、身体および行動に及ぼす影響

●「ポリヴェーガル理論」の原点

●「植物性迷走神経」と「機敏な迷走神経」

●複数の神経経路の群としての迷走神経

●迷走神経と心肺機能

●第六感と内受容感覚

●迷走神経緊張はいかに情動と関係しているか

●ヴェーガル・ブレーキ

●ニューロセプションはどのように機能するか:「脅かされた」と感じるか、「安全である」と感じるか

●ニューロセプション:脅威と安全への反応

●新奇な出来事:哺乳類と爬虫類の反応の違い

●神経エクササイズとしての「あそび」

●迷走神経と解雇

●単一試行学習

第5章 安全の合図、健康および「ポリヴェーガル理論」

●迷走神経と「ポリヴェーガル理論」

●心と身体のつながりがどのように病状に影響を与えるか

●トラウマ、そして信頼への裏切り

●ニューロセプションの働き

●不確実性と生物学的な必要要件としての絆

●「ポリヴェーガル理論」:トラウマと愛着

●なぜ歌うことと聴くことで落ち着くのか

●社会交流システム系を活性化させるエクササイズ

●今後のトラウマ治療

第6章 トラウマ・セラピーの今後 ポリヴェーガル的な視点から

第7章 心理療法に関するソマティックな視点

謝辞

序文

なぜこの本は対話形式で書かれているのか?

・数年にわたり、多くの臨床家から高度に専門的な内容を分かりやすい本にまとめることを求められてきた。

・インタビュー形式にすることにより、臨床応用のための情報に絞り、のびのびと肩ひじを張らない表現で本にまとめることができた。

・本書の巻末には、ポリヴェーガル理論を理解するための基本的な用語や考え方を解説する「用語解説」を付けた。

用語解説:愛着、あそび、安全、安全(治療的状況における)。韻律・プロソディ、ヴェーガル・ブレーキ(迷走神経ブレーキ)、歌う、遠心性神経、横隔膜下迷走神経、横隔膜上迷走神経、オキシトシン、解体、解離、疑核、聴く、擬死/シャットダウン、求心性神経、境界性パーソナリティ障碍、協働調整、系統発生学、系統発生学的に秩序づけられたヒエラルキー、交感神経、恒常性・ホメオスタシス、呼吸性洞性不整脈(RSA)、孤束核、サイバネティクス、自己調整、自閉症、社会交流システム、植物性迷走神経(「背側迷走神経複合体」)、自律神経系(既存の考え方)、自律神経系(「ポリヴェーガル理論」の視点における)、自律神経の状態、自律神経バランス、神経エクササイズ、神経的期待、身体運動、心拍変動、生物学的な必須要件、生物学的非礼、生理学的状態、単一試行学習、中耳筋、中耳の伝達関数、腸神経系、つながり、適応的な行動、闘争/逃走反応、特殊体腔内器官遠心性経路、内受容感覚、内臓運動神経、ニューロセプション、脳神経、背側迷走神経複合体、PTSD(心的外傷後ストレス障碍)、不安、副交感神経、味覚嫌悪、迷走神経、迷走神経の緊張状態、迷走神経の求心性線維、迷走神経パラドクス、ヨガと社会交流システム、抑うつ症、リスニング・プロジェクト・プロトコル(LPP)

なぜ安全を求めるということに焦点を当てているのか?

ポリヴェーガル理論によると、人間やその他の社会交流システムを持っている哺乳類は、顔と心臓が神経的につながっており、表情と声の調子で「安全かどうか」を確認したり投影したりする。この表情と声の調子は、自律神経の状態に伴って変化する。つまり、ポリヴェーガル理論では、私たちは相手がどのように見て、聞いて、声を出すかということで、その人に接近しても安全かどうかを判断すると考える。

社会交流システム
社会交流システム

画像出展:「ポリヴェーガル理論入門」

 『図1で示されているように、社会交流システムには身体運動要素と内臓運動要素が含まれている。身体運動要素には、顔と頭の横紋筋を制御する内臓からの特殊体腔内器官遠心性経路(脳管内の運動核[疑核、顔面神経、三叉神経]から生じており、社会交流システムの身体運動要素を形成している)がある。

内臓運動要素には、心臓と気管を制御している有髄の横隔膜上の迷走神経がある。機能的には、顔と頭の筋肉と心臓のつながりから社会交流システムが生じる。社会交流システムは、誕生直後では、吸う、飲む、呼吸する、声を出すといった行動を調整している。誕生後早期に、この調整がうまく取れない場合、成長後、社会的行動や感情の制御が難しくなることが示唆される。』

ポリヴェーガル理論では、「安全でない」と感じることによって、精神的、肉体的に疾病を引き起こす生理行動学的な特徴が形成される。

我々が「安全である」と感じることの必要性が広く理解されることで、社会的、教育的、臨床的な戦略が、お互いの安全のために、進んで他者を受け入れて、互いに協働調整を図ることを勧める方向に、大きく変わっていくことを望んでいる。

血圧と運動

久しぶりに『月刊 スポーツメディスン』を購入しました。それは特集が「血圧と運動」という興味深いものだったためです。

ブログは早稲田大学スポーツ科学学術院 スポーツ生理学 前田清司先生の“血圧とは何か-なぜ高血圧が問題なのか-”からです。

スポーツメディスン2022年1月号
スポーツメディスン2022年1月号

発行:2022年1月

出版:ブックハウス・エッチディ

1.運動と血圧の関係

●男性約3000名を対象に5年間にわたり、体力(体力の指標は最大酸素摂取量)と血圧の関係を研究した。体力別に分けた5つのグループでは、最も体力の低いグループは、最も高いグループに比べ約1.9倍高血圧症になりやすいことが明らかになった。

●35~60歳の男性を対象にした血圧と歩行時間の研究では、1日の歩行時間が10分以下の人は、20分以上の人に比べ1.4倍高血圧症になりやすいことが明らかになった。

●7年以上にわたってランニング距離と血圧の関係を調べた研究では、ランニング距離が長いほど高血圧の発症リスクが軽減されるという報告がある。

●高血圧症患者に治療の一環として運動療法が用いられており、運動習慣は高血圧を改善する効果がある。

2.動脈硬化と運動の関係

●動脈硬化度は脈波伝播速度などで評価するが、習慣的および一過性の有酸素運動は動脈硬化度を低下させる。

3.柔軟性と血圧の関係

●長座位体前屈を指標とした柔軟性において、高齢者では柔軟性が高いほど血圧が低いという結果が得られた。

●身体の柔軟性を高めるストレッチングは高血圧の予防・改善の効果を持つ可能性がある。

●動脈硬化度について、中高齢者では柔軟性が高いほど動脈硬化度が低いという結果が得られている。

4.推奨される有酸素性運動

高血圧の予防・改善に推奨される運動
高血圧の予防・改善に推奨される運動

画像出展:「スポーツメディスンNo237」

『運動時間や頻度は、できるだけ毎日、30分以上を目標とすることが重要です。たとえば10分の運動でも、合計して30分以上であれば効果的であるということもわかっているので、細切れでも運動することが大事です。

運動強度については、低強度から中等強度では血圧上昇はわずかですが、高強度の運動では血圧上昇が顕著であるため、「ややきつい」と感じる程度の中等強度の運動(心拍数が100~120拍/分、最大酸素摂取量の約50%)がよいと思います。高強度インターバルトレーニングは短時間で効果が得られ、糖尿病患者に対する改善も示されていますが、高血圧患者に対しては血圧上昇に十分な注意が必要です。

高血圧患者では主治医の指導のもとで治療を行っていくことになりますので、この記事などの情報を得て、自分で判断して運動を始めるのではなく、主治医の指導に従うことが大切です。

また、運動習慣のない方が急に運動を始めると、身体に与える負荷が非常に大きいので、まずは生活の中で掃除をしたり買い物をしたり、子どもと遊ぶなど、身体活動を増やすことから始めるとよいでしょう。あとはそれぞれのライフスタイルに合わせて運動を取り入れていくとよいです。 

最初は合計15分の運動をやってみるとか、運動を朝と夕方に分けてやってみるとか、無理をしないことが大切です。』

5.高血圧パラドックス

●高血圧パラドックスとは、薬など治療法は明らかになっているにも関わらず高血圧治療が進まないことである。

感想

先週のブログ「“年齢+90”という考え方」は、松本光正先生の『やっぱり高血圧はほっとくのが一番』で勉強したことを書いているのですが、”今が最良の血圧”というお話をされています。

これは、人は生きていくためにはすべての臓器や組織に酸素や栄養素、生理活性物質などを運ぶ必要がある。若者の血管は軟らかく、力の弱いポンプ(低い血圧)でも血液を全身に送り届けることができるが、太ったり、加齢で血管が硬くなったり、血液がドロドロしていたりすると、力の強いポンプ(高い血圧)を使わないと血液を全身に送り届けることは難しい。そして、これらの調整は生きていくために備わっている能力(自然治癒力)が、ポンプの強弱(血圧)を最適になるように自動的に調整してくれている、というものでした。

このことは安易に薬に頼るのではなく、食事、運動、睡眠などの生活習慣の改善に取り組み、原因を根本的に取り除いていけば、血圧は自然と少しずつ下がっていってくれるということです。

“高血圧パラドックス”の一番の問題点は、体が持つ自然治癒力のメカニズムや加齢という現象を軽視し、さらに生活習慣を見直すことを省略して、安易に薬に頼ってしまっていることが原因ではないかと思いました。

循環器系の構成と血流分布
循環器系の構成と血流分布

画像出展:「人体の正常構造と機能」

この図をみても、重力に逆らって血液を全身に循環させる仕事は簡単ではないと思います。

なお、これは安静時の状態です。下の方に”骨格筋16%”とありますが、骨格筋を激しく使う運動を行うと、この数値は跳ね上がり、相対的に内臓などの血液分泌比率は下がります。

 

 

 

体循環の各部位における血圧
体循環の各部位における血圧

画像出展:「人体の正常構造と機能」

細い血管、硬い血管、ドロドロした血液を送り出すには強いパワー(高血圧)が必要になってきます。

 

ご参考:”降圧剤で脳梗塞に?血圧を下げるなら下半身の運動も忘れないで

こちらは荒牧内科 荒牧竜太郎院長が寄稿された、”Medicallook”さまの記事です。一部、ご紹介させて頂きます。

『高血圧を治すために降圧剤が投与されるのですが、患者や医師の意に反して「脳梗塞」を引き起こすこともあるのです。動脈硬化で先の細くなった血管に血栓が流れ込んでも、血圧が高ければ血栓を押し流してくれます。しかし、降圧剤で血圧が下がっていると、血栓に圧力がかかりません。そのせいで血管に血栓が詰まりやすくなります。すると、脳梗塞も起こりやすくなります。

『血圧を下げる効果のあるプロスタグランジンというホルモンは、上半身の運動より下半身の運動でより多く分泌されます。ウオーキング、ももあげ、スクワットなど下半身の運動を行ってください。

※注意:ベンチプレス・筋トレ・全力疾走など、”瞬間的に力を入れるような運動(無酸素運動)”はかえって血圧を上昇させるので注意してください。

 

“年齢+90”という考え方

当院では血圧と脈拍を施術前後に計測しています。

先日、血圧が高めの患者さまが来院されました。収縮期血圧が160台だったので、「ちょっと高めですね」とお声をかけたところ、「友人の医師も言っているが、50、60歳で120台(収縮期血圧)なんて無理な話。年齢+90でも特に問題ないし、薬もまだ要らないと思っている」とのお話でした。

以前、青木久三先生の『減塩なしで血圧は下がる(ブログは“塩と高血圧”)石川太朗先生の『降圧薬の真実(ブログは“降圧薬”)を拝読しており、私自身も“年齢+90”は問題ないと思っていたので、このお話に特に違和感はなかったのですが、何か新しい情報はないか調べてみることにしました。

上の血圧は「年齢+90」くらいが適切|健康診断の古い基準に従う必要はない

このYAHOOニュースに掲載されていた記事は、満尾正先生によるものです。残念ながら先生の著書の多くは食事療法に関するものだったため、もう少し調べてみると、同様なお考えをもった松本光正先生が血圧に関する数多くの本を出版されていることが分かりました。そして、その中から『やっぱり高血圧はほっとくのが一番』という本を選びました。

やっぱり高血圧はほっとくのが一番
やっぱり高血圧はほっとくのが一番

著者:松本光正

初版発行:2019年5月

出版:講談社

本文に入る直前に次のことが書かれていました。

本書は高血圧と診断された後にもなるべく服薬に頼らないようにするため、まずは食事療法や運動療法による生活習慣の是正を試みている方むけに書かれたものです。何らかの事情で厳格な血圧のコントロールを必要とされている人には適さない内容も含まれています。もし身体にいつもと違う変化があったら、必ずかかりつけ医に相談してください。』

目次は以下の通りですが、ブログで取り上げたのは黒字の箇所です。特に「第5章 君子医者に近寄らず」の最後、“良い医師、悪い医師、普通の医師”は、松本先生が読者に伝えたいことを集約させた文章のように感じました。

第1章 受診の95%は不要

●医者に来る必要がありますか?

●不要な受診をしてしまう4つの原因

●自然治癒力があるから受信しなくても大丈夫

●自然治癒力が持つ3つのはたらき

●あなたの身体はいつでも「今が最良」

●症状は身体が「今が最高」と示すサイン

●急性病は病ではない

●身体に起きていることで無意味なことは一つもない

第2章 やっぱり高血圧はほっとくのが一番

●高血圧は放っておいても大丈夫

●血圧にも2つの「今が最高」がある

●最適な血圧の目安は「年齢+90」

●ライオンの血圧は110、キリンの血圧は280

●高血圧治療に潜んだカラクリ

●本当の血圧は一日の中で最も低いときの血圧

●血圧は低い方が心配

●血圧に関するよくある質問

第3章 クスリはリスク

●降圧剤の弊害

●人間は機械ではない

●原因があって結果があるので、薬を飲んでも解決できない

●あなたの身体は世界にただ一つのオーダーメイド

●薬を飲むリスク

●さまざまな疾患の薬による弊害

●医師がそれでも薬を出す理由

●薬に関するよくある質問

第4章 薬を飲まずに健康を保つ方法

●血圧が高いと言われたら、まず実践したい4つのこと

●心が身体に及ぼすさまざまな影響

●心の健康を保つ4つの方法

●心を鍛え続けてきた私自身の病との向き合い方

第5章 君子医者に近寄らず

●医者にはどんなときに行くべきか

●無医村ほど長生き

●健康な人を患者に変える健康診断

●医師を妄信しない

●良い医師、悪い医師、普通の医師

おわりに

第2章 やっぱり高血圧はほっとくのが一番

最適な血圧の目安は「年齢+90」

あなたの血圧は自然治癒力のおかげで、今のあなたにとって最適な値になるようにつねに自動的にコントロールされています。そうはいっても気になるのが最適とされる血圧値の目安ではないでしょうか。

健康を保つために最適な血圧の目安としては、経験的に年齢+90という数値が使われており、私もこの数値を目安にしてよいと考えています。

一方でこれは古い考え方だと否定する医師も沢山います。しかし、私はこの数値はけっして古いとは思いません。むしろ、立ち上がった中型の哺乳動物である我々人間にとって、この値は非常によくできた数値だと考えます。年齢とともに変化し、上昇する血圧をわかりやすく表しているからです。

この数値を否定する医師は人の血圧が年齢ととともに上昇するということが受け入れられない、あるいはわからない医師なのでしょう。年齢とともに血圧を上げることで命を守っているということが理解できず、年をとっても若者と同じ数値がよいと思い込んでいるのです。高齢者の血圧が若い人の血圧を基準に語られている現状、これこそが問題です。

若い人の血管はしなやかです。動脈硬化も狭窄もありません。だから低いのです。その低い血圧でも地球という惑星に存在する重力に逆らって血液を心臓から脳へと送ることができるからです。

しかし高齢になると血管のしなやかさは失われ、血管に狭窄が起こります。こういう血管の状態では130の血圧では脳まで血液を送ることができません。脳に血液を送らないと死んでしまうので、身体は命を守るために150、160、200と血圧を上げていきます。命を守るために自然治癒力がはたらいているのです。必要だから血圧は上がるのです。

「高血圧治療ガイドライン2014電子版」によると、若年、中年、前期高齢者患者の診察室血圧における降圧目標は140/90とされています。

75歳以上の後期高齢者患者の降圧目標を見てみると、150/90ですが、降圧によって有害な影響が見られないならば、という条件付きではありますが、75歳未満の人たちと同じ140/90が目標とされています。

2019年4月にこのガイドラインが改訂されました。新しいガイドラインでは75歳未満の人の降圧目標は130/80未満へ、75歳以上の人は140/90未満にそれぞれ引き下げられました。従来よりも厳しい血圧コントロールが求められるようになりましたが、こうした基準を一律に高齢者にも当てはめるところに問題があります。これが間違っていることは誰の目にも明らかでしょう。

だから私は何度も繰り返し言います。年齢+90は非常に合理的で科学的な数値です。』 

第3章 クスリはリスク

医師がそれでも薬を出す理由

過剰医療、過剰診療は医師の防衛反応

『風邪を風邪だときちんと診断し「風邪なので薬は出しません。寝て安静にしてください」という一言は、医師にとってとても重く勇気がいる一言です。これが言える医師は素晴らしい人です。たまにですがそういう医師の噂を耳にします。

ではなぜ、薬(化学薬品)は悪い、効果がないと思う医師さえもが薬を処方するのでしょうか。それは、そうしないと患者さんに何かあったときが怖いからです。何かというのは、それが風邪でなくほかの重大な疾患だった場合や、さらにそれが訴訟に発展したときです。

そうならないためには薬を出して、「私はガイドラインに従い、世間の医師の常識通りの診療をし、薬を処方しました」と言えるよう防衛線を張る必要があるのです。だから、薬は効かないし、むしろ毒だときちんと理解している医師でさえ薬を出すし、必要でもない検査をするのです。これらはみんな防衛反応です。医師も自分の身がかわいいのです。その結果、過剰医療、過剰診療がおこなわれているのです。』 

第5章 君子医者に近寄らず

良い医師、悪い医師、普通の医師

普通の医師

『世の中には沢山の医師がいます。悪い医師ばかりではありません。また良い医師ばかりでもありません。ほとんどが普通の医師でしょう。

普通の医師とはどういう医師かというと、世間一般のどの医師もやっていることを何の疑いもなくおこなっている医師でしょう。

風邪の患者さんが来たら風邪薬や抗生物質を処方します。インフルエンザの患者が来たら抗インフルエンザ薬のタミフル(オセルタミビル)を出し、新薬のゾフルーザ(バロキサビルマルボキシル)の発売が開始されるとすぐさま手を出します。予防注射は効くと思っているから患者さんに勧めます。

下痢の患者さんに下痢止め、吐いていれば吐き気止め、血圧が高ければ血圧の薬を出します。コレステロールが高ければコレステロールの薬を、血糖値が高ければ糖尿病だと思ってすぐに薬を出し、少し血糖値が高いだけなのにインスリン注射を平気で勧めます。

認知症の薬は効くと信じています。疑うなどという気はまったく持ち合わせていません。その薬が世界では使われていないなどとは夢にも思いません。だから平気で使います。

普通の医師は、こうして馬に食わせるほどという表現がぴったりなくらい多くの薬を処方します。患者さんに薬を出してあげるのは親切だと信じているのです。

早期発見・早期治療が最善だと思っているから健康診断が好きで、がんであれば手術を勧めるし、躊躇なく抗がん剤も投与します。こういう医師が普通の医師です。

人はいいのです。優しい心を持っています。人格者と慕われている人もいます。でも普通の医師なのです。

けっして不勉強ではありません。医学をよく勉強しています。知識も豊富です。しかし、その知識は普通の知識です。その普通の知識をそのまま何の疑いもなく取り入れているのです。取り入れているだけで深く考えないのです。考えないから、世間一般におこなわれている医療行為を疑うことなく実施しているのです。これでは患者さんはたまりません。

有名大学の医学部を首席で卒業しても普通の医師は普通の医師です。

医師はつねにこれでいいのか、自分の知識は正しいのかを自問自答し、考え続けなくてはなりません。考えないから普通の医師なのです。

この本の初版は2021年5月なので、原稿は3年前位ではないかと想像します。一方、認知症の薬は最近時々話に聞くので、少し調べてみました。

下記は和歌山県立医科大学附属病院 認知症疾患医療センターさまのサイトです。

和歌山県立医科大学附属病院 認知症疾患医療センター
和歌山県立医科大学附属病院 認知症疾患医療センター

認知症のお薬について 「薬はどのくらい効きますか?」

 『残念ながら現在使用されている薬には、根本的に認知症の進行を止める働きはなく、飲んでいても最終的には認知症は進行します。また記憶障害や行動障害を劇的に改善させるほどの効果も期待できません。しかし脳で生き残っている神経細胞を活性化させ、覚えたり考えたりする働きをある程度保つ可能性があります。また、日常生活に活気が出たり、イライラや不安を少なくすることによって生活の質を上げる効果も期待できます。』

こちらは国立研究開発法人日本医療研究開発機構さまのサイトです。(こちらは薬の話ではありません)

日本医療研究開発機構
日本医療研究開発機構

アルツハイマー病に対する光認知症療法の開発に向けて

 凝集Aβに対する光酸素化法の新規AD根本治療戦略としての可能性を示した点で大変意義のある成果です。また光酸素化触媒はアミロイドに共通の立体構造に対して反応し活性化することから、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症などの、AD以外のアミロイド形成・蓄積を原因とする多くの神経変性疾患に対しても有用である可能性が期待されます。

悪い医師

『悪い医師も世の中には沢山います。残念ですがこれは事実です。

“医は仁術”[「医は人命を救う博愛の道である」ことを意味する格言]ではなく、医は算術だと心得ているのです。だから儲かればいいのです。

インフルエンザワクチンが効かないことは知っていますが、儲かるから打ちます。点滴など必要でないことは十分承知していますが、やれば儲かるのですぐに点滴しましょうと言います。

血液検査も1項目か2項目実施すれば十分なのに、10項目でも20項目でも調べます。項目数が多いほど儲かるからです。半年に1回血液検査すればいいものを患者さんが来院するたびに血液をとります。

レントゲン写真など撮らなくていいことを知っているし、放射線は人に危険なことも知っていますが、平気でレントゲンを撮るように指示します。

3カ月か4カ月に1回診察すれば十分なのに、平気で2週間後、1カ月後に来院するように言って再診料を稼ごうとします。

要するに、どれが科学的根拠のある医療なのか知っているのに算術が先にはたらいてしまう医師です。

ところが、このような病医院が患者さんで賑わっているのです。患者さんは、薬を多くもらえれば嬉しいし、検査を沢山してくれれば嬉しいし、レントゲンを撮られて放射線を浴びてもレントゲンを撮って頂きましたと喜んでいるのです。悪い医師を育てているのは患者さんなのです。

何度も申し上げてきましたが、医師の「下げたがり病」が流行っています。これは自分の考えだけが正しいとし、それを患者さんに押しつける医師です。血圧は下げたほうがいい。HbA1cは下げたほうがいい。コレステロールも下げたほうがいいなどの考えを押しつける医師です。

がんの治療には手術をするのが当たり前で、抗がん剤を使用するのも、放射線治療をおこなうのも当たり前ととらえており、それを強要する医師です。

「がんを放置するなどとんでもない。そんな奴は来るな」という医師の言葉に傷つき、泣きながら私の外来に来た患者さんが何人もいます。医師の考えの押し付けにあってがんの手術をしたばかりに、抗がん剤による薬物治療を受けようとしたばかりに、苦しんで苦しんで、しかもあっという間に亡くなった人を沢山診てきました。

そのたびに思います。本当に医師が悪いと……。

血圧も同じです。本当に医師が悪いのです。「下げたがり病」の医師が一番悪いのです。』

良い医師

良い医師は人間が生物の一種だときちんととらえています。

そして良い医師は考えます。その医療行為は人間という生物にとって正しいのだろうか、と。まず真っ先にこのことを考えます。そして、最終的にその治療はその患者さんにとって最適な科学的な治療なのかということをつねに考えます。

このように考えるから風邪薬も血圧の薬もみんないらないと気づき、処方しません。検査も最低限の項目で、最低限の回数でおこなうように努力します。不必要なレントゲン検査もしません。

人間という生物をよく心得ていますから、人間という生物の加齢現象のこともきちんとわかっています。不可逆的な変化を起こしている高齢者に若者と同じような薬は投与しませんし、検査もしません。

このように高齢者には高齢者に合った治療があることを十分にわかっているのが良い医師の条件でしょう。患者さんの気持ちも大切にしますが、患者さんにとって悪いことはきちんと説明して、納得してくれるように努力します。

心と身体の関係を熟知した医療をおこなっています。薬を出す前に心が疾病に関与していないかどうかや、運動、食事といったほかの生活の改善ができないかを優先します。

薬による治療は最後の手段と考え、儲かるからとか、ほかの医師もおこなっているからといったことを基準にしません。

そして、落ち込んでいる患者さんを励まします。顔色が少々青くても「グリーンピースは青いほうがいいよ」と言い、足がむくんでいるなら「大根だってみずみずしくていいよ」と励まします。けっしてマイナスの言葉を患者さんに向けることはありません。プラス思考で明るく朗らかに接します。

患者さんに何かを尋ねられたら、ていねいに説明します。けっして怒鳴ったり、不愉快な顔をしたりしません。もちろん医学知識も豊富です。手術も手技も驚くほど上手です。』

ご参考1加齢による頻尿

最近、夜間頻尿が気になり病院に行こうかなと思っていました。必ずしも加齢が原因とは言い切れないので、一度は血液検査や尿検査をすべきですが、検査の結果、加齢が原因となった場合、どんな薬を飲むことになるのか調べてみました。

すると夜間頻尿の一般的な薬は”抗コリン剤”や”β3作動薬”と呼ばれているもので、アセチルコリンやノルアドレナリンといった神経伝達物質を通じて、自律神経系に働きかけるタイプの薬でした。「夜間頻尿のためにこれはやりすぎなんじゃない?なんか飲みたくないなぁ」というのが第一印象でした。「やっぱり漢方の方がいいのでは」と思い、漢方内科も持たれている個人病院を見つけました。

一方、今回の松本先生の本では、第3章の中の“さまざまな疾患の薬による弊害”の一つに“泌尿器系”について書かれているページがありました。

下記はその中の一部です。

『なぜ夜間の頻尿が加齢現象なのかを説明しましょう。あなたが子供だった頃を思い出していただくといいかもしれません。子供の頃は、夜に疲れてバタンキューと寝たら、12時間でも尿意を感じないまま眠り続けていられましたよね。これは、夜中に尿が作られないように、そのためのホルモンが分泌されていたからなのです。

ところが高齢になると夜間の頻尿を抑えるホルモンが出なくなります。そのため夜に何回もトイレに起きるのです。

繰り返し何度でも申し上げます。加齢による身体の変化は現代の医療ではどうしようもないのです。年をとることには誰も勝てないのです。白髪を若かった頃と同じように黒く戻せないのと同じです。ここのところをしっかり頭に入れてください。』

これを読んで思いました。加齢による夜間頻尿の問題は起きることではなく、起きた後になかなか寝付かれないことではないか。そうだとすれば、自分の場合は問題ないなという結論です。やるとすれば、まずは筋トレなどの運動だろうと思います。

松本先生の「加齢による身体の変化は現代の医療ではどうしようもないのです。年をとることには誰も勝てないのです」というご指摘はとても重要だと思いましたそして、「病か加齢か」、後者だとすれば、薬に頼ることは最後の手段と心得、運動、睡眠、食事を見直すということから考えるべきだと思いました。

Only One Massage

RA系阻害薬は腎保護に効果的な降圧薬ですが、CKD患者さんでは服用による腎機能の悪化を招くおそれがあり注意が必要。

痛みの探偵

今回は須田先生の著書である『痛み探偵の事件簿』から、ハイドロリリース(エコーガイド下ファシアハイドロリリース)の有効性を、リアルな医療現場のお話を通して学ぶことができました。特にファシアにご関心のある鍼灸師の先生には大変興味深い本だと思います。

漢方薬については、お医者さんの中にも理解が広がっていると思いますが、残念ながら、鍼灸に関してはまだまだ「胡散臭いもの」という印象ではないかと思います。その意味では、鍼灸を理解いただくためにも“共通言語”は必要であり、そして“ファシア”は多職種連携を進めるための”共通言語”になりえる極めて重要なキーワードだと思います。

ファシアは内臓を含めた全身に広がる膜の組織なので、筋骨格系(整形外科)だけでなく内臓系(内科)の疾病の改善にも関係すると考えています。

※ファシアについては、ブログ:”経絡≒ファシア1”、”経絡≒ファシア12(まとめ)”および”ファシアの基礎”をご参照ください。 

痛み探偵の事件簿
痛み探偵の事件簿

著者:須田万勢

監修:小林 只

発行:2021年10月

出版:日本医事新報社

『高齢化により地域に溢れる疼痛患者を、内科医や総合診療も、もちろん鍼灸師らも、西洋医学も東洋医学も総動員して、多職種が「誠実に」連携しながら、支えていくことが今の時代には求められています。そのためにも、言葉の定義や使い方に非常に慎重になっています。専門領域、多職種間で扱っている言葉の意味がすれ違っていることこそが、「無用の亀裂」を生んでいる現在、ファシアに関する言葉を共通言語とし、「学術的な納得」を基盤に、安全・簡単・低コストで実行できる治療体系を体現することが「政治的な納得」にもつながると信じています。

目次 (ページ順に変更させて頂いているため、“コラム”がバラバラになっています)

序章「痛み探偵の誕生」

第1回  頸部痛の研究

第2回  膝痛の証明

コラム① エコーガイド下ファシアハイドロリリースの手順

第3回  膝痛の証明パート2

コラム② エコーでの異常なファシアの見分け方

第4回  まだらの腰痛

第5回  第二の瘢痕

第6回  消えた炎症

コラム③ 炎症性疾患の後に、どうして非炎症性の痛みが出るのだろう?

第7回  腱のねじれた男

コラム④ 「ファシア=筋膜」という概念を捨てよう!

第8回  這う女

コラム⑤ X線時代とエコー時代

第9回  悪魔の足

コラム⑥ ワクチン筋注後に生じたFPS!?

第10回 犯人は2人

コラム⑦ 治療方法から考える痛みの分類

第11回 白銀指事件

コラム⑧ 上肢の末梢神経に対する神経テンションテスト

第12回 Dr.写六最後の事件(前編)

第13回 Dr.写六最後の事件(後編)  

 論考「経絡、経穴はファシアで説明できるのか?」

 論考「臨床医の仕事とは?」

ブログは目次の黒字部分ですが「本流に従って」とはいえず、重箱の隅をつつくように、気になった箇所を取り上げています。ご容赦ください。

第2回 膝痛の証明

●変形性膝関節症(OA:osteoarthritis)は非炎症性疾患とされ、メカニカルストレスによる軟骨の摩耗が主病態と考えられてきたが、近年、種々のサイトカインの産生や時に滑膜増殖を伴う炎症性疾患だということが分かってきた。そして炎症を伴うものを“osteoarthritis”、炎症を伴わないものは“osteoarthrosis”と呼んで区別している。

★“osteoarthritis”と“osteoarthrosis”について分かったこと

・日本でも変形関節症には“osteoarthritis”と“osteoarthrosis”の2つがあると認識されていますが、実際は区別されていないようです。『病気がみえる vol.11 運動器・整形外科』にも欄外に以下の補足がありました。しかし、本文にはその説明はなく「変形性関節症」が一つあるのみでした。 

「病気がみえる vol.11 運動器・整形外科」より

また、調べてみるとOsteoarthritis or Osteoarthrosis: Commentary on Misuse of Termsという記事がありました。詳しい説明が載っており、Google翻訳の力を借りることで何とか理解できました。ポイントは次のようなものです。

『In short, “osteoarthritis” means inflammation of the joint, while “osteoarthrosis” means degeneration of the joint.』『要するに、「変形性関節症osteoarthritis]」は関節の炎症を意味し、「変形性関節症osteoarthrosis]」は関節の変性を意味します。』

さらに何かないかと検索していると、北海道大学のPRESS RELEASE、世界で初めて! 軟骨細胞が関節の炎症を誘導することを発見を見つけました。これを拝見しても、変形性膝関節症はメカニカルストレスによる軟骨の摩耗(非炎症性疾患/osteoarthrosis)だけでなく、滑膜細胞、さらには軟骨細胞にも関係する炎症性の疾患(osteoarthritis)であり、本来、変形性膝関節症(膝OA)は非炎症性と炎症性の2つに分けることが望ましい、ということだと思います。

右をクリック頂くと、PDF4枚の資料がダウンロードされます。

『自己免疫疾患である関節リウマチ(RA)や炎症性疾患である変形性関節症(OA)病態に大きく関わる関節組織の細胞は滑膜細胞であるとこれまで考えられ、広く研究されてきました。その結果,治療法も進歩してきましたが難治例は未だに存在し,完治が困難な疾患です。

~中略~

本研究では、RA、OAの軟骨細胞において炎症アンプが活性化していることを見出し、さらに炎症アンプ関連遺伝子の一つとして同定されたTMEM147(Transmembrane protein147)が軟骨細胞に発現して、炎症アンプの主要な経路の一つであるNF-κB経路を正に制御していることを初めて明らかにしました。加えて抗TMEM147抗体が、関節炎モデルに対して治療効果を持つ可能性を示すことに成功しました。

このことは、RA、OA治療に対して新たな方向性を示すものであり、治療に難渋するRA、OAの突破口となる可能性があります。』 

関節炎における炎症アンプ
関節炎における炎症アンプ

画像出展:「北海道大学PRESS RELEASE、“世界で初めて! 軟骨内望が関節の炎症を誘導することを発見”」

”アンプ”とは一般的には”増幅器”と訳されます。

縫工筋が膝の痛みの原因になっている可能性がある。

縫工筋は上前腸骨棘(腰部)から起始し、鵞足となって脛骨の前内側面(膝部)に停止する人体で最長の筋線維を持つ筋である。その筋線維の走行の途中でいろいろな構造物と交差する。特に縫工筋の深層に内転筋管(Hunter管)があるが、この管は内側広筋、大内転筋および両筋の間に張る結合組織性の広筋内転筋膜によって囲まれる三角柱上のスペースで大腿動静脈と伏在神経(大腿神経の分枝)が通っている。

大腿前面の筋
大腿前面の筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

縫工筋は上から2番目です。

大腿前面の筋
大腿前面の筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

縫工筋は下から4番目です。

大腿内側面の筋
大腿内側面の筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

縫工筋の下には大腿神経、大腿動静脈が走行しています。

内転筋管
内転筋管

画像出展:「人体の正常構造と機能」

内転筋管(Hunter管)は内側広筋、大内転筋および両筋の間に張る結合組織性の広筋内転筋膜によって囲まれています。

大腿中央部の横断面
大腿中央部の横断面

画像出展:「人体の正常構造と機能」

縫工筋の深層、広筋内転筋膜によって囲まれる三角柱状のスペースに、大腿動静脈と伏在神経(大腿神経の分枝)が通っています。

髀関と箕門
髀関と箕門

画像出展:「経絡マップ」

縫工筋の近くには体幹の近位と筋腹中央に、”髀関[ヒカン]”と”箕門[キモン]”というツボ(経穴)があります。

髀関(胃経):上前腸骨棘と膝蓋骨底外端とを結ぶ線上で大転子の頂点の高さ。股関節と膝をわずかに外転し、大腿前内側に加えられた抵抗に抗したとき、三角形の陥凹が現れる。

箕門(脾経):膝蓋骨底内端と衝門(鼡径溝)を結ぶ線上、衝門から1/3のところ、大腿動脈拍動部。

 

なお、下の図は左がツボと動脈、右がツボと神経です。

 

 


陰包と曲泉
陰包と曲泉

画像出展:「経絡マップ」

縫工筋の膝周辺(鵞足)部位には、”陰包[インポウ]”と”曲泉[キョクセン]”というツボがあります。

陰包(脾経): 大腿部内側、薄筋と縫工筋の間、曲泉の上方、膝蓋骨底の上方4寸の高さ。股関節をやや屈曲・外転・外旋させ、筋を緊張させると縫工筋が明確になる。

曲泉(肝経): 膝内側、半腱・半膜様筋腱内側の陥凹部。膝窩横紋の内側端。

 

 

鵞足を構成する3つの筋の停止構造
鵞足を構成する3つの筋の停止構造

画像出展:「機能解剖学的初診技術 下肢・体幹」

縫工筋は鵞足の中では膝蓋骨に最も近く、筋幅も最も広い筋肉です。

 

縫工筋による膝関節の安定化作用
縫工筋による膝関節の安定化作用

画像出展:「機能解剖学的初診技術 下肢・体幹」

下腿を外旋させる力が働くと、縫工筋などの鵞足を形成する筋群が拮抗するように働き膝を安定させます。

 

縫工筋・大腿筋膜張筋
縫工筋・大腿筋膜張筋

画像出展:「骨格筋の形と触察法」

縫工筋と大腿筋膜張筋は筋膜で連結しています(A)。

また、この写真をみても縫工筋の筋幅が広いことが分かります(C)。

 

縫工筋・大腿筋膜張筋
縫工筋・大腿筋膜張筋

画像出展:「骨格筋の形と触察法」

左下方に縫工筋があります。縫工筋の筋連結は大腿筋膜張筋だけですが、大腿筋膜張筋は縫工筋だけでなく、大殿筋、中殿筋、腸骨筋、外側広筋と筋膜で連結しています。

 

縫工筋と膝痛について分かったこと

①膝関節に付着する鵞足は縫工筋、薄筋、半腱様筋の3筋からなり、下腿の外旋に対して拮抗する働きによって、膝関節を安定させている。

②O脚の人は靴底の外側が薄くなる。これは外側重心を示している。また、股関節は外旋し縫工筋はオーバーユースになりやすく、機能低下が進むと機械的ストレスが強い付着部(鵞足)に炎症を起こしやすい。

③筋連結から考えると縫工筋は大腿筋膜張筋と筋膜でつながっている。さらに大腿筋膜張筋は縫工筋以外に、大殿筋、中殿筋、腸骨筋、外側広筋とも筋膜でつながっている。これを考慮すると、膝近位部だけでなく大腿筋膜張筋近傍の体幹近位部も重要である。また、縫工筋は上前腸骨棘(腰)から脛骨粗面内側(膝)につながる非常に長い筋なので筋中央部も無視できない。

以上3点からツボ(経穴)を考えると、体幹近位の“髀関”、筋中央の“箕門”、そして“曲泉⇔陰包”の膝関節内側部に注目し、触診により硬さを感じる部位に刺鍼するのが第一選択と考えます。

第4回 まだら腰痛

●脊柱起立筋に圧痛があっても、坐位での動作分析で後屈・側屈・回旋のいずれも目立った痛みがみえず、立位の動作のみで痛みが誘発される場合は、原因筋は脊柱起立筋のような腰部の筋肉ではなく大殿筋や中殿筋の関与が疑われる。

気づいたこと

腰部の筋か殿部の筋かどちらが患者さんにとって重要な原因筋かを判断する時に、坐位と立位に分けて動作分析(後屈・側屈・回旋)を行う方法はとても重要だと思います。是非、取り入れたいと思います。

腫脹・圧痛、動作分析(痛みの誘発)
腫脹・圧痛、動作分析(痛みの誘発)

画像出展:「痛み探偵の事件簿」

 

 

 

殿部の筋
殿部の筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

右の図は表層の大殿筋と、大殿筋の下にある中殿筋を取り除いた、この2筋の下層にある筋群です。中殿筋の下方に小殿筋、仙骨と大腿骨をつなぐ領域に、梨状筋、上双子筋、内閉鎖筋、下双子筋、大腿方形筋の5筋(番号付き)があります。

 

 

 

殿部の筋の起始・停止
殿部の筋の起始・停止

画像出展:「人体の正常構造と機能」

大殿筋以外の殿部の筋は全て大腿骨頭に停止しています。

 

 

 

下肢帯筋
下肢帯筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

大殿筋の股関節に対する働きは”伸展”ですが、中殿筋と小殿筋の働きはいずれも”外転・内旋”になっており、大殿筋とは異なります。

 

第7回 腱のねじれた男

●『「3カ月前発症の関節リウマチで、投薬により関節炎は寛解している61歳男性で、右第2指の屈曲時に痛みを伴う可動域制限があり、身体所見やエコーで明らかな炎症・弾撥指は同定できない」。』

この症例に興味をもったのは、加齢とともに手指関節の動きの悪さなどの違和感を訴える患者さまはめずらしくなく、問題の関節周辺や指の動きに関わる上腕の筋肉などに注目した施術を行っていますが、肩、腰、膝などの部位に比べ、施術方針に迷うことがあるためです。 

A1 pulleyの位置と正しい圧痛点
A1 pulleyの位置と正しい圧痛点

画像出展:「痛み探偵の事件簿」

A1 pulleyとは靭帯性腱鞘のことです。

詳しくは以下の図をご覧ください。

 

 

 

手指の関節と腱鞘の名称
手指の関節と腱鞘の名称

こちらの画像は長野県にある湯本整形外科さまのサイトより拝借しました

これを拝見すると、根元がA1でA5まであることが分かります。

気づいたこと

この写真を見て思い出しました。「大切なことは、患者さんの気になっている箇所およびその周辺を丁寧に触診する。さらに必要であれば関節を動かして動的にも観察し、徹底的に触診する」ということです。これは代々木(日本伝統医学センター)の相澤先生から教わっていた基本中の基本ですが、あらためてその重要性を再認識しました。

なお、本書の登場人物である“Dr.写六(詳細な病歴、身体診察に加え、エコーと東洋医学的診察でクールに痛みの原因を特定する、自称「痛みの私立探偵」)”は次のようにお話しています。

今まで「非典型的」な腱鞘炎だの弾撥指だのドケルバン病だのといわれていた患者が、実はファシア異常であることは多く経験するよ。ぜひエコーで動的評価を含めてくまなく調べてほしいものだ。

第9回 悪魔の足

膝痛

●患者さん

・86歳女性

・関節リウマチで5カ月前に生物学的製剤を始めて2ヵ月。炎症のコントロールはできていたが、1ヵ月前から立位時の右膝痛が再燃した。

●症状

・椅子からの立ち上がる動作が最も痛い。

・体を動かした時にズキッとして痛みがある。

・腫脹や熱感はない。

・右関節裂隙に圧痛があるが、疼痛の最強点は裂隙ではなくやや膝蓋骨寄りである。

ワンフィンガーテスト
ワンフィンガーテスト

画像出展:「痛み探偵の事件簿」

 

●問題個所

内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)

-MPFLは1957年の膝関節の論文に“横走支帯靭帯”という記載があり、その後1990年代以降にMPFLの解明が進んだ。MPFLは膝蓋骨の外側制動に関わるとされ、膝屈曲20~90°の範囲で膝蓋骨の外側移動を制御している。

●考えられる原因

O脚のため膝関節軽度屈曲、股関節外旋位の状態で歩行することになり、膝蓋骨を制動するためにMPFLがオーバーユースになる。

●疼痛再発の原因

・関節炎が起きて関節液がたくさん溜まっているときは、膝蓋骨が大腿骨膝蓋溝から浮くので膝蓋骨に無理な力が掛かりにくいのかもしれない。今回の例では関節炎が薬により急激に軽快したことで関節液が減少し、膝蓋骨を支える靭帯、特にMPFLが張力の変化に適応できず、傷みだした可能性がある。

これは膝のいわゆる「水抜き」で良くなる人と、逆に悪化する人がいることに似ているように思う。

●診断治療

MPFLに対するハイドロリリース(エコーガイド下ファシアハイドロリリース)により、MPFLに重積したファシアをバラバラにする。筋膜ほどではないが、靭帯もファシアなのでハイドロリリースが有効である。

・腫脹や熱感はない。

・右関節裂隙に圧痛があるが、疼痛の最強点は裂隙ではなくやや膝蓋骨寄りである。

MPFL:内側膝蓋大腿靭帯
MPFL:内側膝蓋大腿靭帯

画像出展:「ScienceDirect

MPFL内側膝蓋大腿靭帯AMT:大内転筋腱、MQTFL:内側大腿四頭筋腱大腿靭帯、GTT:腓腹筋腱結節、ATT:内転筋腱結節

”Patellar dislocation is a common knee problem, 10 times more frequent in childhood and adolescence. Medial patellofemoral ligament is injured up to 94% of the time, and its reconstruction is effective in terms of stabilization of the patella.” 

”膝蓋骨脱臼は一般的な膝の問題であり、小児期および青年期に10倍頻繁に発生します。MPFL(内側膝蓋大腿靭帯)は最大94%の確率で損傷しており、その再建は膝蓋骨の安定化の観点から効果的です。” 

気づいたこと

・”膝蓋骨脱臼”と”オーバーユース”を比較することには無理があると思いますが、膝蓋骨に対するメカニカルストレスがMPFL(内側膝蓋大腿靭帯)に影響を与えることは確かだと思います。

・「第7回 腱のねじれた男」同様、よく観察すること、そしてよく触ること(触診すること)がとても重要です。

第13回 Dr.写六最後の事件(後編)

ファシアと経絡の共通点

・注射針を刺入した部分の筋肉がピクッと動く現象(局所単収縮[LTR:local twitch response])も、鍼による得気感覚(「ツボ」に当たったときにズーンと感じる響き感)も、局所の刺激に対する過敏性が共通病態として理解されている。

・病的なファシアにはサブスタンスP(痛みを誘発する物質の代表)に反応する自由神経終末が多く分布しており、経穴もまた周囲組織と比べて自由神経終末の密度が高いと報告されている。

Zhag ZJ, et al:Evid Based Complement Alternat Med. 2012; 2012: 429412

上記の論文のタイトルは、“Neural Acupuncture Unit: A New Concept for Interpreting Effects and Mechanisms of Acupuncture”(“神経鍼ユニット:鍼の効果とメカニズムを解釈するための新しい概念”[Google翻訳])です。

【神経鍼ユニット】が論文の中核といえますが、冒頭には次のような説明がされています。

”The collection of the activated neural and neuroactive components distributed in the skin, muscle, and connective tissues surrounding the inserted needle is defined as a neural acupuncture unit (NAU).”(”挿入された針を取り巻く皮膚、筋肉、および結合組織に分布する、活性化された神経および神経活性成分の集合は、神経鍼ユニット(NAU)として定義されます”[Google翻訳])

自由神経終末(左)
自由神経終末(左)

画像出展:「人体の正常構造と機能」

自由神経終末(左端)に関しては次のような説明がされています。

『自由神経終末とは感覚神経線維の末端が特別な装置を持たずに終わっているものをいい、全身の結合組織に存在する。皮膚では、真皮の神経叢から出る多くの枝が、真皮や表皮の細胞間で自由神経終末として終わる。自由神経終末は、人体にダメージを与える熱や機械的・化学的刺激を感受する侵害受容器があり、痛覚に関わる。また、あるものは温度受容器として働く。求心性線維は無髄C線維:0.2~2m/秒または、小さい径の有髄線維Aδ線維:10~30m/秒で、伝導速度は[Aβ線維、Aα線維に比べて」遅い。』

慢性痛の科学5

慢性痛のサイエンス
慢性痛のサイエンス

著者:半場道子

初版発行:2018年1月

出版:医学書院

目次は”慢性痛の科学1”をご覧ください。

なお、ブログで取り上げた項目は一部です。

 

Ⅳ 記憶のメカニズム

2.海馬では日々、ニューロンが新生している

・海馬の中で最も注目されている海馬前部とは、歯状回、CA1野、CA3野、嗅内皮質、海馬支脚などを含む部位である。

・海馬前部が注目されている理由は2つある。

1)新生ニューロンが海馬前部で日々誕生しているということ。脳には幹細胞が存在していて、ニューロンの増殖、分化、成熟が起きている。

2)アルツハイマー病の初期に脳萎縮が始まるのは、海馬前部、海馬傍回、嗅内皮質などである。

海馬の位置と海馬の細胞構築
海馬の位置と海馬の細胞構築

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

 

3.新生ニューロンが記憶機能を担う

・新生ニューロンの生育、成熟には、生理活性物質が必要である。それらはBDNF(脳由来神経栄養因子)、FGF-2(線維芽細胞成長因子-2)、IGF(インスリン様成長因子)、VEGF(血管内皮成長因子)などだが、新生ニューロンはこれらの生理活性物質を浴びて成長し、成熟した既存の神経細胞層を探り当て、結びついて記憶機能を担っていく。特に、BDNF、FGF-2などが十分にない環境では、ニューロンの成長は衰えてしまう。つまり、海馬ニューロンの成長は、骨格筋を動かしてBDNF、FGF-2を分泌させているか否かにかかっている。

・動物を用いた研究では、ニューロンの新生と成長には、自発的な運動の他に、好奇心を満たす刺激や仲間との接触などの環境が効果的であると報告されている。

4.高齢者の脳と記憶力

高齢者の脳でも新生ニューロンは誕生している。生育・成熟できれば記憶機能を担うことができる。ただし、そのためには筋運動が必要である。

・ピッツバーグ大学、Ericksonグループの運動器活動と記憶力との関係の研究の一つは以下の通りである。

-『健常な高齢男女120人を対象に、半数(n=60、平均67.6歳)には週3回の有酸素運動(ウォーキング、最長40分)を残り半数(n=60、平均65.5歳)には、週3回のヨガ、ストレッチ、バランス運動などを1年間継続させ、海馬の体積と、血清中のBDNF量、空間記憶力を測定している。1年後に海馬体積を計測したところ、有酸素運動群では、左、右の海馬体積がそれぞれ2.12%、1.97%増加していることがわかった。

「たった2%か?」と思われたであろうか? 放っておけば、海馬体積は毎年1~2%の割合で減少し、増加することなどあり得ないと思われる年齢層である。体積が増加したことは、加齢に伴う萎縮を2年間分くらい取り戻した勘定になる。

有酸素運動群における海馬体積の変化とBDNF量、空間認知記憶の関係
有酸素運動群における海馬体積の変化とBDNF量、空間認知記憶の関係

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

 

有酸素運動群では、図7-10に示すように、海馬の体積増加に比例して、酸素摂取量、血清中のBDNF量、空間記憶力が、右肩上がりに増加していた。

有酸素運動群の被験者は、初週5分間の歩行からスタートし、1週ごとに5分ずつ歩行を延長して、最長40分間の歩行を最大心拍数(HR)の50~60%で行い、さらに第8週以降は、HR60~75%に近づけるようにと指示されていた。ちなみに運動生理学でHR60%とは、最大酸素摂取量の約50%に相当し、額に汗が滲んでくる程度の運動を指している。さまざまな生理活性物質が、血流に乗って各臓器に輸送されるためには、最低20~30分間の運動持続が必要で、これ以下では、運動による多臓器の統合反応が得られないことがわかっている。

他方、ヨガやストレッチの運動群の効果は、左右の海馬体積はマイナス1.40%、1.43%を示していた。血清中のBDNF量は低下し、空間記憶力も低下していた。

調査開始前には、両群被験者の海馬体積はほぼ同じで、差はなかった。実験結果は、有酸素運動の1年間継続という運動量の差が、海馬の体積増加と記憶力向上をもたらすことを示していた。ヨガ・ストレッチ群でも、週3回の筋運動を1年間続けたが、海馬体積は増加していない。ヨガ・ストレッチは効果がないという意味ではなく、筋運動量負荷が少なすぎて、海馬体積増をもたらさなかったためであろう。

この研究を改めて検証すると、有酸素運動によって体積増加があったのは海馬前部だけであって、海馬後部の体積は増加していなかった。体積を海馬前部だけに絞って比較すると、左は3.38%、右は4.33%も増加していたのである。

海馬歯状回の顆粒細胞層下帯では、新ニューロンが日々誕生している。海馬体積の増加は、ニューロン新生の促進を示唆しており、有酸素運動習慣が記憶力の向上をもたらすことを示している。』

5.認知と筋運動

筋運動が認知機能低下を防ぐことは、多くの研究によって検証され、米国では各地の医療機関による大規模疫学調査が数多く行われている。下記はその一つ、Mayo大学で行われた疫学調査である。

-『調査では、1,324人の男女(70~93歳、平均80歳、認知機能の健常な市民1,126人と、軽度認知障害(MCI、198人)を対象に、筋運動習慣の有無がMCIの発生にどの程度関係するかが調べられた。

各被験者について、人生のmid life期(50~69歳)、late life期(70~93歳)に、どの程度の筋運動習慣があったかを、各自から履歴を聞きとってMCIのodds rateを算定する手法がとられている。その結果、MCIはmid life、late lifeを通じて運動習慣がまったくない生活様式であった人に発生率が高く、mid life期に中程度の運動習慣があった場合は、MCIのodds rateが39%少なく、late life期に運動習慣があった場合は32少ないことが示された。

上記は疫学調査の常として、大雑把な傾向を捉えているに過ぎない。しかし、重要な指摘を含んでいる。認知機能を健常に保てるか、MCI段階に達してしまうのかの分かれ目は、50~60歳代の筋運動習慣にあることを示した点である。また、MCIの発症を防ぐには強度の筋運動は必要なく、運動習慣の有無が大きな影響を持つことも示している。これは示唆に富んだ調査結果といえよう。』

6.海馬萎縮の原因

海馬体積は、働き盛りの健常な成人脳ではほぼ一定であるが、高齢期に入ると毎年1~2%の割合で減少する。

・海馬、嗅内皮質の萎縮が大きい場合は、MCIに移行する危険性が高いと考えられている。

・海馬細胞は微小脳循環の不良や低酸素によっても傷つきやすい。

海馬萎縮を招く要因は、頭部外傷、高血圧、睡眠時無呼吸症候群、PTSD、うつ病などである。また、慢性炎症を基盤とする疾患(糖尿病、肥満、アテローム性動脈硬化症、パーキンソン病など)によっても海馬体積は減少する。

7.記憶には反復と睡眠

・海馬のニューロンシナプスでは、反復刺激されると長期増強(LTP)現象が起きて、シナプス統合が強化され可塑性が増大する。興奮性が増大して信号の伝達効率が高くなり、タンパク質の生成反応に裏付けられて、長期に記憶痕跡が形成される。そして何かのきっかけがあった瞬間、強化シナプスが活性化して想起させる。

・睡眠中には様々な記憶情報が再現され、整理され、重要と思われる情報から優先的に転送されると考えられている。

・脳の代謝老廃物AβやTauは睡眠中に排出されることが分かっているが、睡眠と記憶の関係はまだまだ未解明な部分が多く、今後多くのことが明らかになっていくだろう。

Ⅴ 高齢者とサルコペニア

1.サルコペニア―死のリスク

サルコペニアとは、高齢者の骨格筋量の減少と筋力低下の病態のことである。

サルコペニアは若者の廃用性筋萎縮とは異なり、骨格筋の萎縮が不可逆的に進行する。

サルコペニア発症の原因は、加齢に伴う衰弱、全身の慢性炎症、インスリン抵抗性、内分泌系の機能低下、低栄養などである。

・サルコペニア発症の具体的なきっかけとしては、大腿骨近位部骨折や腰椎圧迫骨折などによるベッドでの安静、腹部がん手術や独居高齢者にみられる低栄養、うつ状態や認知症による引きこもりなどである。

2.サルコペニアの診断

・欧州サルコペニアワーキンググループ(EWGSOP)では、歩行速度、筋量、握力をサルコペニアの診断指標としている。

①65歳以上の高齢者で、寝たきりであり、独りで椅子から立ち上がれない。

②歩行速度が0.8m/秒以下である。

③握力が一定しない。

④二重エネルギーX線吸収法(DXA)で測定した筋量が基準値に達しないこと。

日本人のサルコペニア評価については、全身のDXA測定値から割り出した骨格筋指数や、日常生活の動作(立ち上がり、歩行、昇段)に要する筋力値などの参考値がある。

・米国では筋運動と予防、回復に関する大規模調査が行われている。

-『70~89歳の衰弱した被験者が調査対象になり、400mくらいならどうやら15分以内に歩ける、という歩行能力の限界を基準にして調査が行われた。対象者に対し、週に150分間の歩行やバランス運動を2.6年にわたって実施した結果、自力では動けない自立障害者の発生率が、運動群(818人)では、30.1%で、運動しなかった対照群(817人)より5%低かったと報告されている。

この調査で被験者を選定した基準が、「400mを15分以内で歩けること」であったこと自体、ため息が出る数値であるが、わずか1~2週間の筋運動不足で驚くほど歩行困難に陥るのが高齢者である。この研究では、筋運動実施とその効果を調べるために、多数の医師や研究者が州をまたいで動員されている。しかしリハビリテーションの介入は、筋萎縮がそれほど進行していない初期段階にこそ望ましいと、限界を示す結果となった。筋の衰弱が進行してからの回復は、これほど困難なのである。』

・米ソルトレーク大学では60~75歳の健常な被験者を対象に、ベッド安静による下肢の筋量と筋強度の低下を、若年被験者(18~35歳)と比較する実験を行っている。

-『高齢の被験者群では、5日間のベッド安静継続だけで筋量と筋強度が低下し、リハビリテーション(筋運動強化と栄養付加)を施しても、筋の回復度は小さく、実験前のレベルに復するのに日数を要した。日常生活を送るのに支障ない生活自立者であっても、60~75歳での5日間ベッド安静では、筋タンパク質分解の他に慢性炎症も加わっている。

3.サルコペニアの機序

サルコペニアの機序は、「廃用性筋萎縮の機序」に「テロメアの短縮を伴う老化の機序」が重なって起こると考えられている。

-骨格筋の筋タンパク質生成に関与するのは、筋運動時に発現する共活性因子である。代表的な転写調節因子は、PPAR-γと、その共活性因子PGC1-αである。PGC1-αは骨格筋が収縮すると発現する。そして筋線維遺伝子の転写・翻訳が進行すると、筋線維タンパク質が生成され、筋線維の数が増加し筋量が大となる。

-筋を非動化し、筋紡錘を機能させない状態にすると、脊髄の運動ニューロンの活動が低下し、筋収縮は起きずPGC1-αは発現しない。従って、筋タンパク質の分解量が大となり、筋量や筋力が低下する廃用性筋萎縮が起きる。

テロメアの長さは老化を反映する指標であるが、慢性炎症がある場合も短縮するので、若い人でも短くなることがある。テロメア機能が低下すると、p53(転写活性制御因子:遺伝子の発現調節、細胞周期停止、アポトーシス制御、抗腫瘍活性、DNA修復、血管新生抑制、細胞増殖の制御、ゲノムの安定化、宿主免疫制御など、重要かつ多彩な生理機能を誘導する)が働いて、筋細胞の増殖とDNA複製を停止させる。停止によってDNAが修復されれば細胞周期は回復するが、修復できなければアポトーシスが起きる。

-サルコペニアの機序には、遺伝子多型などの要因、サテライト幹細胞、低栄養も大きく関与しているが、下記の図では複雑になるので省略されている。

サルコペニアの作業仮説
サルコペニアの作業仮説

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

サルコペニアは廃用性筋萎縮の機序aと、老化の機序bが重複して生じる。

a:骨格筋はミトコンドリアを多く含むがゆえに活性酸素種(ROS)の害を受けやすく、PGC1-α発現がないとROS害を抑制できない。傷ついた筋細胞に対し、マクロファージがインフラマソームを形成し、炎症性サイトカインを放出する慢性炎症が拡大する。筋量と筋力が激減し筋収縮エネルギーが低下する。筋萎縮遺伝子によっても、筋タンパク質分解が進行する。

b:aで生じた慢性炎症がテロメアを傷つけ短縮させる。テロメア機能が低下すると、p53が働き、筋細胞にアポトーシスが誘導される。P53が働くときはPGC1-αは発現が抑えられるので、筋細胞は回復できず、老化が加速されていく。 

・以上のように、廃用性筋萎縮の機序と老化の機序の2つにより、サルコペニアに至ると考えられている。慢性炎症が老化を早めることは臨床上も報告され、高齢者では慢性疾患が1つあるだけで、多臓器の老化やサルコペニアが加速される。

・『サルコペニアの治療法には運動療法、抗炎症薬、栄養強化の試みなどがある。幹細胞を用いた筋組織再生の研究も始められているが、臨床応用が軌道に乗るにはかなりの年月が予想されている。高齢者は膝や腰に少し痛みがあるだけで、歩行を極力避ける日常になる。わずかの期間の筋活動の不足で、驚くほどの歩行困難に陥ることを考えると、高齢者向け筋力トレーニングが十分に理解され、栄養面を含めた早期からの予防策が、社会に普及することを願わずにはいられない。』

終章

2.快・不快情動に焦点を当てる―今後の医療の根幹

痛みが難治性疼痛に転化してしまうか、回復して静穏な日常に復するか、最初の分かれ道はごく小さいところにある。

-「この痛みは辛い、しかしきっとよくなる」、「乗り越えられる」と捉えるか、「自分は絶対に助からない」、「手術療法も薬物療法も、もっと悪い結果を生むに違いない」と捉えるかは、一瞬の小さな違いのように思える。しかし、負情動と快情動の回路網のバランスはここで崩れ、それが長期に続けば、やがて脳の機能と構造に変化が起きてくるのである。

プラシーボ鎮痛は「鎮痛効果があるに違いない!」と期待することだが、期待した瞬間、皮質下にある諸神経核が一斉に活動を始める。中脳の腹側被蓋野からはドパミンが、前帯状皮質や辺縁系の神経核からはオピオイドが分泌され、脳幹では下行性疼痛抑制系の神経核が活性化している。これら皮質下の神経核の働きは無意識下で起きている。

たとえわずかであっても、心に期待や希望を抱くとき、中脳辺縁ドパミン系(mesolimbic dopamine system)は刺激され、根源的な生に向けて本能行動が活発化する。情動脳も、生存脳も、活発に動き出す。快情動→意欲→行動→期待のサイクルが循環すると、生命活動や創造意欲は盛んになり、これは次の行動を起こすモチベーションとなり、脳活動はさらに活発になる。希望と期待を抱くだけで、精神と身体の機能は確かに蘇るのである。

・絶望の極致から這い上がる力を与え得るのは、希望だけである。「希望が脳を作る」と言われる。

プラシーボ効果は薬や注射だけでなく、祭祀も、経典の詠唱も、教会の讃美歌や礼拝も、脳回路網を活発に動かす。医師や医療従事者の言葉と表情は、特に大きな影響を与えるようである。自殺未遂を繰り返していた線維筋痛症患者が、“今度の担当医は自慢の息子にそっくり”と、全幅の信頼を寄せて以来、認知行動療法と薬物療法が効を奏して、奇跡的な快復を遂げた例もある。

・プラシーボは偽薬と訳されたため、あまり良いイメージではないが、プラシーボは我々自身の脳の働きといえる。中脳辺縁ドパミン系は渇望や、生きる意欲をかき立てる快の情動系であるが、側坐核を介して、思考や認知機能を担う前頭皮質の回路網と結びつき、「自己優越性の錯覚」も確立させている。

「自分は優秀で強者である」という優越性を“錯覚”することは、精神の健康を保つうえで重要である。この錯覚によって人は自己の未来の可能性を信じ、自尊心を持ち、希望や目標を持って前進する自分を優秀であると自己評価したとき、脳内ではドパミンの分泌量が急増する

ほんのわずかな希望や期待であっても、快情動→意欲→行動→期待のサイクルが循環し出せば、精神と身体の機能は甦ることを忘れないでいただきたい。

3.人は希望によって生きる

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

『パンドラが蓋を取って中を覗くと、瓶の中からおびただしい災禍(肉体的なものでは痛風、リウマチ、疝痛が、精神的なものでは嫉妬、怨恨、復讐など)が飛び出して、遠くまで拡がってしまった。パンドラはあわてて蓋を閉めたが、すべての禍はもう飛散してしまった後であった。しかし瓶の底に1つだけ残っていたものがあった。それは希望であった。

今日まで、私たちがどんな災難に遭って途方にくれたときでも、希望だけは決して私たちを見棄てることはない。そして私たちが希望を失わない限り、いかなる不幸も私たちを零落させ尽くすことはない。』

―“The Age of Fable” (Thomas Bulfinch)―

慢性痛の科学4

慢性痛のサイエンス
慢性痛のサイエンス

著者:半場道子

初版発行:2018年1月

出版:医学書院

目次は”慢性痛の科学1”をご覧ください。

なお、ブログで取り上げた項目は一部です。

 

第7章 神経変性疾患と慢性炎症

Ⅰ パーキンソン病

5.パーキンソン病:発症を源にさかのぼる

・ドイツ神経内科医のKlingelhoefer等は、パーキンソン病の予兆は運動症状が出る10年数年前に、頑固な便秘や嗅覚障害の形で起きていることを指摘し、「パーキンソン病は腸と嗅球から始まる」と2015年に結論している。

・パーキンソン病が腸の動きと密接に関係することは、1960年代から続けられた大規模疫学調査(Honolulu Heart Program)で既に報告されている。Abbott RD, Petrovitch H, White LR, et al: Frequency of bowel movements and the future risk of Parkinson’s disease. Neurology 57: 456-462, 2001

この調査では、疾患のない健康な男性6,790人が対象に選ばれ、各自の健康状態を24年間にわたって追跡記録する方式で記録が行われている。その中でパーキンソン病を発症した96人の被験者について、どんな症状が初期にあったかが調べられた。96人全員に共通した最初期の症状は、頑固な便秘と嗅覚障害であり、睡眠障害とうつ状態がそれに続く症状であること、平均して12年後にパーキンソン病の運動症状が現れていることがわかった。この調査結果は、鋭い指摘をしていたにもかかわらず、便秘はパーキンソン病の1症状に過ぎないと解釈されたため、埋没してしまった。

1997年に、パーキンソン病の病因と考えられる異常構造タンパク質α-シヌクレインについて研究が始まり、研究の進展とともに、腸の働きがいかに脳と深く関係しているかが明らかになって、Klingelhoefer等の調査結果が再評価された。

パーキンソン病の責任病巣は黒質緻密部(SNc)であると長年考えらえてきた。しかし黒質緻密部の変性・脱落より10数年前にさかのぼると、腸には頑固な便秘という形で異変がすでに起きており、α-シヌクレインの凝集は腸神経、嗅球、顎下腺で確認されていた。腸は自律神経を介して脳と連絡している。延髄の迷走神経背側核にはα-シヌクレインの凝集が生じており、この凝集はさらに脳幹に進んで、中脳の黒質に達することが報告されている。

パーキンソン病の腸脳連関仮説
パーキンソン病の腸脳連関仮説

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

①何らかの環境因子が引き金となって、腸内や嗅球にα-シヌクレイン凝集が起きる。

②凝集は自律神経を介して延髄の迷走神経背側核に伝播され、さらに上位脳に伝播される。

③Lewy小体に対する脳内グリアによる慢性炎症が進行し、神経細胞が徐々に変性・脱落する。これに伴って非運動症状、運動症状が起きると考えられている。

 

 

Ⅱ 慢性炎症と疾患

パーキンソン病、アルツハイマー病、変形性関節症(OA)、サルコペニア[加齢や疾患により筋肉量が減少し、全身の筋力低下が起こること]は、慢性炎症によって疾患が引き起こされている。

慢性炎症とは全身にくすぶり続ける低程度の炎症で、発熱も発赤も腫脹もほとんどない。しかし、気づいた時には致死的なダメージに至る反応系である。それゆえ、「万病の源」と呼ばれている。

・パーキンソン病、アルツハイマー病、変形性関節症(OA)、サルコペニア以外、慢性炎症を基盤とする疾患には、2型糖尿病、慢性肺疾患、アテローム性動脈硬化症、大腸がん、前立腺がんなどがあるが、病気を引き起こしているのは、ごくごくありふれた免疫細胞である。

1.免疫細胞とインフラマソーム

慢性炎症を起こす主役は、マクロファージ、グリア、樹状細胞、白血球、血管内皮細胞など、自然免疫系の細胞である。

-パーキンソン病やアルツハイマー病は主に脳内グリアが関与している。

-2型糖尿病、変形性関節症、サルコペニアは主にマクロファージや樹状細胞が関与している。

・自然免系の細胞は、Nod-様受容体(NLR)を有し、DAMPs(傷害関連分子パターン)とPAMPs(病原体関連分子パターン)をパターンで検出している。

自然免疫細胞におけるインフラマソーム(タンパク質複合体)
自然免疫細胞におけるインフラマソーム(タンパク質複合体)

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

PAMPs:細菌、ウィルス、病原体構成成分など

DAMPs:LDL、ATP、尿酸、高血糖、活性酸素、アスベスト、変性タンパク質、シリカなど

インフラマソーム:危険物/異物や病原体を排除するための分子装置

 

 

 

・『DAMPs(傷害関連分子パターン)には、LDLコレステロール、ATP、飽和脂肪酸、活性酸素、高血糖、尿酸、セラミド、アスベスト、シリカ、小胞体に正しく折り畳まれない異常タンパク質などが該当し、PAMPsには、細菌、ウィルス、病原体の構成成分などが該当する。

免疫細胞はDAMPsやPAMPsを検出すると緊急体勢に入り、図7-4のように、ASCやprocaspase-1を呼び寄せて、インフラマソームというタンパク質複合体を形成する。危険物/異物や病原体を排除するための分子装置である。

まずcaspase-1が活性化して、IL-1βとIL-8の前駆体を、成熟型のIL-1βとIL-8に変化させ、DAMPsやPAMPsに向けて放出する。危険物/異物や病原体がこれによって除去されれば、炎症反応は終了する。

しかし処理しきれない場合は、IL-6、THF-αなどの炎症性サイトカインも追加動員されて、炎症は拡大する。炎症が長期に進行している部位では、免疫細胞が顕著に集積して、組織の破壊、血管の新生、組織のリモデリング(線維化)などが、数か月から数年にわたって潜在的に進行していく。

壊死した細胞から出た、ATPやDNA、RNA、滲出した血漿グロブリン類などが二次的、三次的にDAMPsとなるため、炎症反応はカスケード状[連鎖的]に拡大し、不可逆的に進行する。炎症の矛先は重要な組織や臓器にまで及んでしまい、結果として致死的な病態に達する。

臨床上でも、体内のIL-1β、IL-6、IL-8、TNF-αなどが長期にわたって高レベルであるときは、各種のがん、神経変性疾患などの発症と関連すると報告されている。』Hotamisligil GS, Shargill NS, Spiegelman BM: Adipose expression of tumor necrosis factor-alpha: direct role in obesity-linked insulin resistance. Science 259: 87-91, 1993

2.慢性炎症は万病の源

慢性炎症で注意すべきは、炎症の矛先が自身の細胞代謝にも向けられる点である。

-飽和脂肪酸、LDLコレステロール、ATP、高血糖、尿酸などは代謝産物である。

-異常タンパク質とは、アミロイド-β(Aβ)、α-シヌクレイン陽性のLewy小体などである。

・脳の代謝老廃物は、健常者では睡眠中にかなり排出され、アミロイド-βなどの沈着は少なく保たれ管理されているが、高齢期になると働きが低下する。

・『かつて医療の主体は、感染症との長い闘争であった。しかし美食と飽食の現代では、生活習慣病との格闘に移っている。内臓脂肪はわれわれが体内に溜め込んだ「内なる敵」である。ある日、トロイの木馬さながらに狂暴な反応で、われわれの体に逆襲ののろしを上げてくるのである。

以上、ありふれた免疫細胞による局所的な微小炎症が、最終的に全身に致死的な病態を作り出すことを記述した。

誤解を避けるために、ここで非肥満体の内臓脂肪について言及しておきたい。メタボリック・シンドロームの概念が社会に浸透して以来、脂肪と言えば悪、と受け取られている。しかし、肥満体の内臓脂肪は、慢性炎症など起こしていないのである。非炎症性マクロファージM2が常在していて、抗炎症サイトカインのIL-4、IL-10、NOを生成するアルギナーゼを生成している。炎症を抑制する側で働き、食餌から得たエネルギーを細胞内に蓄積し、飢餓に備えているだけである。

3.慢性炎症の抑制

・インフラマソームと過剰な炎症を抑制する薬物に関して、生命科学、分子生物学、分子薬理学など、多領域にわたる基礎研究が進んでいる。すでに候補はいくつか挙がっているが、完全に抑制する薬物は開発されていない。

薬物の研究を通じ、われわれの体内には炎症を抑制する物質があることが明らかになった。それは、筋運動時に発現する転写調整因子PPAR-γと、その共活性因子PGC1-αである。

Ⅲ 認知機能障害

1.アルツハイマー病

・アルツハイマー病における脳細胞の変性や脱落は、側頭葉内側(嗅内皮質、海馬、海馬傍回などを含む部位)から始まる。患者の行動や心理的な症状を、脳画像上の灰白質密度減少との関係からみると、fMRI画像で側頭葉内側の体積低下が顕著なときは、記憶障害が顕著になり、抑うつ傾向が現れる。

・アルツハイマー病では頭頂葉も後頭葉も萎縮が及ぶ時期に一致して、感情鈍麻や妄想の症状が現れ、思考、判断、意思決定、認知などの高次機能が障害されて、人格が崩壊していく。

・特徴的に現れる症状は、アパシー(感情鈍麻、情動麻痺、動機を持った行動の欠落など)、妄想(パラノイア的な錯覚、被害妄想や誇大妄想、注意欠陥など)、うつ状態の3つである。

2.脳の時限爆弾AβとTau

・アルツハイマー病の病理の特徴は、アミロイドβ(Aβ)と呼ばれるペプチドの沈着と、神経原線維Tauの凝集が脳細胞にみられることである。

健常者では脳組織中の代謝老廃物は、睡眠中に脳脊髄液中に排出され、血流に乗って除去されている。Rochester大学のNedergaard等は、脳には老廃物を排出するグリンパティック・システム(glymphatic system)があり、睡眠中に最も活発に機能することを明らかにした。生きた脳から、2光子顕微鏡を用いて確証を得る作業が続けられ、睡眠中には脳細胞間のスペースが増加し、目覚めているときの2倍も多く代謝老廃物が排出されると報告している。

アルツハイマー病患者では、脳からの排出能が低下しているため、TauやAβなどが脳内に蓄積され脳内に伝播されていく。また血液脳関門の機能が障害されていて、末梢のT細胞やマクロファージが中枢神経内に侵入し炎症反応が拡大する。そのため炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-17など)が脳細胞に過剰に放出されることになる。

認知症やMCI(軽度認知障害)の患者には眠れないという共通の訴えが多いが、この訴えはとても重要である。認知症予防には、日常的に質の良い睡眠が必要である。

3.脳内グリアによる慢性炎症

・慢性炎症の反応系は、自然免疫細胞が有害物や病原体を検知し、発せられたシグナル(シグナルDAMPs、シグナルPAMPs)に基づき、炎症を起こし有害物や病原体を除去処理するシステムである。中枢神経では、ミクログリアとアストロサイトがその機能を担い、ダメージを受けた細胞や異物を除去し、脳内環境を正常に保っている。

中枢神経系を構成する細胞
中枢神経系を構成する細胞

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

 アストロサイト(星状膠細胞):毛細血管壁に小足(終足)を出して神経細胞と血管の間に介在し、血液中の物質が神経組織内に移行するのを選択的に制限している。

ミクログリア(小膠細胞):単核食細胞系に属する小型のグリアである。神経組織が損傷を受けたり炎症が生じると増殖し、移動して貪食を行う。

グリア細胞(神経膠細胞)は支持細胞である:神経膠細胞は神経細胞と神経細胞の間を埋め、それらの保護・栄養・電気的絶縁に働く細胞である。

静穏時のミクログリアは脳内をパトロールして、危険物/異物や病原体の有無を点検しており、アストロサイトは栄養物の運搬や老廃物除去などの役割を担っている。

Aβ(アミロイド-β)やTau(神経原線維)を検出すると、ミクログリアは慢性炎症によってこれらを除去する。そして必要に応じ、炎症性サイトカイン(IL-1、IL-8、IL-17A、TNF-αなど)も追加動員し、ケモカインも呼びよせる。

AβやTuが大量に存在してしまうと、多数のグリアが集結し炎症は拡大し連鎖反応が延々と続くことになる。

・ミクログリアには2種類あって、活性化/肥大化して炎症を促進するM1と、抗炎症作用を有するM2がある。後者は抗炎症サイトカイン(IL-4、IL-10、IL-13、TNF-βなど)を放出して、脳細胞の炎症を防ぐ役割を担っている。しかし慢性炎症が連鎖的に進行する状態では、M2はM1に変身して、炎症を促進する側にまわってしまう。

アルツハイマー病患者の脳を組織学的に調べると、AβたTuの周りに、肥大化したミクログリアやアストロサイトが数多く取り巻いている。過剰な炎症性サイトカインに長期的に囲まれる環境では脳細胞は変性し細胞死する。

・慢性炎症を抑制する薬物について、認知機能改善の有効性が検証されている。現在、疫学調査により検証が行われているのは抗TNF-α抗体、ミノサイクリン、免疫チェックポイント阻害薬PD-1などである。長期投与した場合の安全性の確認も求められている。 Walters A, Phillips E, Zheng R, et al: Evidence for neuroinflammation in Alzheimer’s disease. Prog Neurol Psychiatry 20: 25-31, 2016

・.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やCOX製剤については否定的な報告が多い。

・治療時期については、脳内の炎症を抑制するため、従来よりずっと早い段階で治療を始める必要性が指摘されている。

4.認知症と海馬

・アルツハイマー病における神経核の萎縮は、海馬、海馬傍回、嗅内皮質などを含む部位から始まる。それゆえ、海馬の萎縮が大きいときには認知症に移行する危険性が高いと診断される。

・長寿を全うした高齢者の脳を調べた研究では、AβやTuの凝集はみられたが、アルツハイマー病で亡くなった高齢者と比較して、海馬や大脳皮質の体積は有意に大きかったと報告されている。

5.認知症のリスクファクター

認知症の第一のリスクファクターは加齢である。そして、他に挙げられるリスクファクターには、睡眠障害、うつ病、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、頭部外傷、高血圧、PTSD、肥満、動脈硬化症、パーキンソン病、sedentary lifestyle(体を動かさない不活発な生活)などがある。

・うつ病に罹患すると、若い世代でも脳内の脳由来神経栄養因子(BDNF)が減少し、海馬に萎縮がみられる。BDNFの減少は海馬に深刻な影響を与えるが、高齢者の場合は特に認知症に急速に進行する。高齢者は知人、友人、配偶者などの死に遭遇する機会が多く、うつ病の危険性が高いので、十分な配慮が必要になる。

現在、認知症予防に最も有効なのは、日常的な筋運動である。骨格筋を動かせばPGC1-αが発現し、慢性炎症を抑制する。ニューロンの成長に不可欠なBDNF、FGF-2も筋運動によって分泌が促進される。日常的にこまめに身体を動かし、十分な睡眠をとることがとても重要である。

慢性痛の科学3

慢性痛のサイエンス
慢性痛のサイエンス

著者:半場道子

初版発行:2018年1月

出版:医学書院

目次は”慢性痛の科学1”をご覧ください。

なお、ブログで取り上げた項目は一部です。

 

第3章 侵害受容性の慢性痛

・侵害受容性の慢性痛とは、末梢組織に炎症の源が存在して、感覚神経終末が炎症メディエータによって刺激され、終わりのない痛みが続く場合をいう。

2.変形性膝関節症と慢性炎症

変形性膝関節症における慢性炎症の進行と組織破壊
変形性膝関節症における慢性炎症の進行と組織破壊

画像出展:「慢性痛サイエンス」

力学的ストレスなどにより関節が傷害され、軟骨の微細破片や細胞内分子が関節腔に浮遊すると、滑液中のマクロファージや線維芽細胞がこれらを危険信号(DAMPs)として検出する。するとインフラマソームが活性化し、炎症性サイトカインを放出する。

 

4.痛みを軽減する薬物

非ステロイド性抗炎症薬の年単位の長期投は、消化管潰瘍などの副反応だけでなく、軟骨摩耗を進行させる。特にインドメタシンは軟骨摩耗の副反応が報告されている。 

第4章 神経障害性の慢性痛

・神経障害性の痛みは、末梢および中枢神経系が圧迫や切断を受け損傷して生ずる痛みである。

神経障害性の痛みは、極めて慢性化しやすい。

・腰椎椎間板ヘルニア、帯状疱疹後神経痛などである。

1.神経障害性の痛み

・末梢神経が損傷されると活動電位の高頻度発射が起きる。この連続発射は脊髄後角で増幅され、過剰な興奮性信号が扁桃体、帯状皮質、島皮質、視床、大脳皮質感覚野などへ投射される。なかでも、扁桃体、帯状皮質、島皮質などの古い脳器官への興奮性投射は影響が大きく、時間の経過とともに大脳辺縁系や前頭皮質の回路網を巻き込んで、脳構造と機能に変容を起こしていく。そのため、複合性局所疼痛症候群(CRPS)など、異常な痛みの病像が形成される。

・神経障害性の痛みの多くが、整形外科領域に集中して起きている。これにはC神経線維の特殊性と分布にあると考えられている。C神経線維は神経可塑性が大きく、興奮性が長期に維持される性質があり、ひとたび損傷されると、生じた興奮性は時間と共に増大し、長期増強と呼ばれる現象を惹起する。C神経線維は、Aδ神経線維とは異なって、体の深部組織に多く分布し、脊髄、骨組織、関節骨、靭帯、腱、歯組織などに存在する。そのため、神経障害性の慢性痛は、整形外科領域に起こりやすいと考えられている。

・複合性局所疼痛症候群(CRPS)と脳構造の変容

-CRPSでは血流は発汗の異常、浮腫、皮膚の栄養障害、運動障害など多彩な症状を呈するが、それだけでなく、意思決定機能の低下や気質的・性格的な変化も顕著に表れる。

-CRPSの脳内はfMRIを用いた脳画像法によって明らかになってきた。CRPS患者では右のAIC(島皮質前部)、vmPFC(腹内側前頭皮質)、NAc(側坐核)などに、著しい灰白質密度の減少と、異常な神経分枝がみられる。これらの部位における灰白質密度減少は、痛みに苦しんだ期間が長かった人ほど大きく、痛みの強さが激しかった患者ほど著しく、そして若い年齢層ほど急速に進行することが明らかにされている。

-CRPS患者ではAIC(島皮質前部)の灰白質に著しい萎縮が進行しており、かつ異常な神経分枝もみられる。CRPS患者にみられる血流や発汗の異常、浮腫、皮膚の栄養障害などは、末梢感覚神経や交感神経の損傷の他に、AICの灰白質萎縮と異常な神経分枝に起因したものと考えられる。

-CRPS患者にしばしばみられる意思決定機能の低下は、前頭皮質の灰白質萎縮に起因しており、運動機能の障害は前頭皮質から大脳基底核への神経連絡の減少にそれぞれ起因すると考えられている。

第5章 非器質性の慢性痛―Dysfunctional Pain

・非器質性の慢性痛や機能障害性疼痛(Dysfunctional Pain)は、痛みの源が末梢組織のどこにもないのに全身の多領域に拡がる痛みがある。消炎鎮痛薬や神経ブロックは効かず、随伴症状は睡眠障害、意欲の低下、慢性的疲労感、うつ状態などである。

第6章 慢性痛の治療法

Ⅰ 薬物療法・神経ブロック 

5.抗うつ薬(Antidepressants)

・抗うつ薬には快情動を活性化する作用とともに、下行性疼痛抑制系を活性化する作用があるので、痛みの軽減に用いられる。抗うつ薬は運動療法や認知行動療法と組み合わせて用いられる場合もある。

・作用機序

-神経シナプス間隙においてセロトニントランスポーターと、ノルアドレナリントランスポーターを阻害することによって、脳内のモノアミン[ドパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニン、ヒスタミンなど]を増加させ、下行性疼痛抑制系を賦活する作用を持つ。

Ⅱ 認知行動療法・マインドフルネス

1.認知行動療法(CBT)

・認知行動療法(CBT)は慢性痛患者の負情動、ストレス、心理状態、破局的思考、認知過程に焦点を当てて、「心の持ち方」をポジティブな方向に変える手助けをする治療法である。認知行動療法は薬物療法や運動療法と組み合わせて治療効果を上げており、慢性痛、うつ病、パニック障害、強迫性障害、不眠症、薬物依存症、摂食障害、統合失調症などについて有効性が検証されている。

2.マインドフルネス・ストレス軽減法(MBCT)

・マインドフルネスは、元々は禅寺で行う瞑想に起源を持つ療法である。宗教とは無関係で座禅を組む必要もない。身体の力を抜いて姿勢正しく座り、意識を自身の呼吸や体に集中して観察するだけである。呼吸や自分の身体に意識を集中することによって、「今を生きているありのままの自分」に気づかせ、後悔、不安など過剰な負情動を締め出す狙いである。

Ⅳ 筋運動

1.筋運動による痛みの軽減

・運動を行うと痛みの刺激閾値が上昇する。

・熱刺激と圧刺激に対する痛みの刺激閾値は、ランニング、サイクリングなどの有酸素運動の後では、痛みの刺激閾値は上昇する。この機序には血中濃度から内因性カンナビノイドとオピオイドの関与が検証され、下行性疼痛抑制系の活性化が関与している。

・生物は重力下で骨格筋や骨組織を発達させ、重力に抗して筋量と骨量を維持しているが、長期にわたって臥位姿勢を続け、身体の動きが皆無に近い状態にあると、耳石が検知する重力は微小になる。微小重力下では筋タンパク質の分解量が合成量を上回るようになり、骨格筋肉量と骨量は低下する。

・健康な壮年被験者を60日間にわたって、頭位をわずかに傾けた特殊ベッドで臥位姿勢に保った実験では、抗重力筋(多裂筋、大腰筋、胸棘筋、脊柱起立筋など)は著しく萎縮していたが、体幹屈曲筋(腰方形筋、腹直筋など)の萎縮の程度はさほど大きくはなかった。抗重力筋と体幹屈曲筋の筋力バランスが崩れた状態は、慢性的な背腰部の痛みにつながる。

骨格筋を動かすことは、様々な生理活性物質を分泌させ、遺伝子発現を促して全身の慢性炎症を抑制し、筋萎縮を防ぐ。近年、骨格筋を収縮させることが生命維持のうえで重要であることが明らかになった。

2.筋活動の生理的意義:骨格筋は分泌器官

・骨格筋は分泌器官である。骨格筋を収縮すると多種類のサイトカインやペプチドが産生・分泌される。

骨格筋は分泌器官
骨格筋は分泌器官

画像出展:「慢性痛サイエンス」

筋由来のサイトカインは、脳、骨組織、肝臓、脂肪、筋組織の機能に関わっている。BDNFIGF-1FGH-2は海馬の新生ニューロンを生育させIGF-1FGF-2は骨芽細胞、破骨細胞の分化や機能を促進する。IL-6は膵からのインスリン分泌を増加させ、肝臓、脂肪組織、免疫機能に影響を及ぼしてる。IL-4IL-6IL-7IL-15LIFミオスタチンは筋組織自身に作用し、筋の新生と肥大に関わる。脂肪細胞には慢性炎症を促す炎症性マクロファージM1非炎症性マクロファージM2を描いてある。

 

・筋由来のサイトカインはマイオカインと呼ばれる。また、同様に脂肪細胞からも分泌されるが、こちらはアディポカインと呼ばれる。

マイオカインについては2017年11月に”マイオカイン(IL6)”というブログをアップしています。ご参考まで。

筋細胞から分泌された生理活性物質は、血流やリンパに乗って、脳、骨組織、肝臓、膵臓、脂肪組織などの臓器に運ばれ、そこで臓器の機能と密接に関わる。

骨格筋から分泌される生理活性物質は、弱い筋運動の時と強い筋収縮の時では異なる。これは注意すべきマイオカインの特徴である。

負荷の軽い筋運動を続けると、抗炎症作用を持つIL-10、IL-4などが筋組織から産生されるので全身の慢性炎症が抑制される。またPGC-1α(後述)を発現させ、慢性炎症を防止し記憶力を向上させ老いを減速させる。

負荷の強い筋運動を続けると、炎症性サイトカインが体内に急増し慢性炎症を促進する結果として関節軟骨の摩耗や変形性関節症、疲労骨折などの原因となる。

3.筋活動の生理的意義:PGC1-αの発現

PGC1‐αは骨格筋を動かすと速やかに筋組織中に発現し、エネルギーとATPの不足を補う。また、筋委縮を防止する。日常的にこまめに身体を動かすことはとても重要である。

PGC1‐αはミトコンドリアの数を増加させ機能を向上させる作用や、活性酸素種(ROS)による酸化ストレスを抑制して老化を防ぐ作用、さらに代謝や血管新生を盛んにする作用もある。

PGC1-α発現の生理的意義
PGC1-α発現の生理的意義

画像出展:「慢性痛サイエンス」

 

 

4.PGC1-αによる慢性炎症の抑制

慢性炎症を基盤とする疾患は世界的に増加している。アルツハイマー病、パーキンソン病、変形性関節症、2型糖尿病、各種のガンなどである。慢性炎症を完全に抑制する薬物は開発されていない現在、骨格筋を動かしてPGC1-αを活性化することは、慢性炎症を抑制する最も手短かで確実な方法といえる。

5.PGC1-αの抗酸化・抗老化作用

PGC1-αは活性酸素種(ROS)を強力に抑制するスイッチの役割を担っている。

・活性酸素種(ROS)はミトコンドリアがATPを生成する過程で、漏出した電子の一部が酸素と結合して、非常に反応性の高い活性酸素種(ROS)が生じる。

・活性酸素種は毒性が強く、ミトコンドリアDNAを傷つける。さらに細胞内のDNA、酵素、タンパク質、細胞膜、脂質なども傷つけてしまう。そして、遺伝子の情報に影響を及ぼし細胞の機能も低下させる。

・骨格筋はミトコンドリアを多く含む組織であり、活性酸素種(ROS)の影響を大きく受ける。

・活性酸素種(ROS)の毒性に対し、生体では無毒化する活性酸素消去酵素(SOD)や、活性酸素種の発生を減らす酵素UCPによって防御している。しかし、SODやUCPもPGC1-αが発現しないときには、その働きは半減してしまう。

・PGC1-αを欠損させたマウスは活性酸素種(ROS)の害に極めて脆弱になり、全身に炎症性サイトカインの発生が多くみられる。特に黒質緻密部にあるドパミンニューロンは活性酸素種(ROS)に脆弱で、変性・脱落してしまう。

6.PGC1-αによる筋力増強作用

日常的に有酸素運動を続けている人ほど、PGC1-αは速やかに、かつ多く発現する。高齢者であっても、筋運動の習慣がある人はPGC1-αが多く発現する。

・高齢者では、抗重力筋や姿勢保持筋の筋量や筋力維持が衰えるとサルコペニア[加齢や疾患により筋肉量が減少し、全身の筋力低下が起こること]に至り、介助や支援が必要になる。抗重力筋や姿勢維持筋を増加させたい場合は、ゆっくりした持久運動が適している。

7.健康維持に適した筋運動は?

・日常的に軽く骨格筋を動かす運動とは、通勤時の歩行、駅の階段昇降、自転車での通学通勤、家事労働、買い物、荷物の運搬などである。

額に汗がうっすら浮かぶ程度の、日常的な筋運動が慢性炎症の抑制と筋萎縮の防止に効果が大きい。

・有酸素運動は呼吸器や循環器を刺激する。脂肪は代謝され、ミトコンドリア数も増加する。

・『米国では一般市民を対象に、慢性炎症を基盤とする疾患について大規模疫学調査が行われてきた。全身の慢性炎症レベルを高くし、さまざまな疾患を増加させている元凶を探って行ったところ、筋運動の少ないSedentary lifestyle(身体を動かさない不活発なライフスタイル)が元凶であると結論づけられた。

・『筋運動が少なくなると、ROSの害が増大し慢性炎症が拡大する。大腸がん、乳がん、前立腺がん、子宮がん、膵臓がん、皮膚がんは、日常的に筋運動が少ない人に多く発生すると結論づける研究も存在する。

身体を動かさないライフスタイルと疾患との関係
身体を動かさないライフスタイルと疾患との関係

画像出展:「慢性痛サイエンス」

身体を動かさないと、内臓脂肪を増やし、骨格筋量を減らし、骨代謝を低下させる。この3つは健康を害する三悪です。

 

 

慢性痛の科学2

慢性痛のサイエンス
慢性痛のサイエンス

著者:半場道子

初版発行:2018年1月

出版:医学書院

目次は”慢性痛の科学1”をご覧ください。

なお、ブログで取り上げた項目は一部です。

 

第2章 慢性痛のメカニズム

Ⅰ 痛みを伝える情報伝達系

疼痛投射経路
疼痛投射経路

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

感覚神経終末が侵害刺激を受けると、侵害情報は電気信号に変換され、感覚神経線維上を伝わり、脊髄後角細胞(三叉神経脊髄路核細胞)に伝達される。さらに、脊髄上行路を経て、広範な脳領域に投射される。 

1)感覚神経終末:侵害・非侵害情報を電気信号に変換する

・熱刺激、機械的刺激、化学的刺激などにより体が侵襲を受けると、それらのエネルギーは感覚神経終末によって、電気信号に変換され、上位脳へ伝えられる。

・感覚神経終末には侵害情報を検出する様々な侵害受容体やイオンチャネルが存在している。

神経終末における侵害受容メカニズム
神経終末における侵害受容メカニズム

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

末梢神経が侵襲されると、感覚神経終末は侵害刺激エネルギーを活動電位に変換して脊髄後角へ侵害情報を伝える。傷ついた部位では、点線→で示したように、細胞膜、血漿、血小板、肥満細胞、皮下組織などから、H⁺、K⁺、プロスタグランジン(PG)、ブラジキニン(BK)、セロトニン(5-HT)、ATP、NGFなどが次々に放出される。これら発痛物質や炎症メディエータが多数存在しており(表内に表示)、それぞれのリガンドと応答して活動電位を発する。損傷部位に集まってくるマクロファージや白血球も、炎症性サイトカイン(cytokine)を放出して痛みの増強を加える。感覚神経自身も、末端からサブスタンスPやcalcium gene-related peptide(CGRP)を放出するので、発熱、発赤、発痛、の炎症反応はさらに進行し、神経終末はsensitizeされる。刺激閾値が低下し、ノルアドレナリン(NA)などにも過敏に反応するようになる。 

2)脊髄後角と三叉神経脊髄路核:侵害・非侵害情報を伝達する

痛みの情報を伝える体性感覚神経(一次感覚ニューロン)は、Aδ神経線維C神経線維の2つの神経線維がある。

・Aδ神経線維は比較的低い刺激閾値を有する有髄神経線維で、局在のはっきりした、鋭くて速い痛みを伝える。多くは体表近くの皮膚に分布している。

・C線維は高い刺激閾値を有する無髄神経で、遅くて局在のはっきりしない痛みを伝えている。骨組織、歯髄などの深部組織、皮膚に分布している。

・Aβ神経線維は触感覚や振動情報を伝え、最も低い刺激閾値を有している。皮膚に何かが触れた、風が当たったなど、非侵害性の感覚情報を伝えている。

3)脊髄後角と三叉神経脊髄路核:侵害・非侵害情報を伝達する

・体性感覚神経(一次感覚ニューロン)を伝わった感覚信号は、脊髄後角や三叉神経脊髄路核で、二次感覚ニューロンに伝達される。

脊髄後角における情報の伝達:一次感覚ニューロンから二次感覚神経へ
脊髄後角における情報の伝達:一次感覚ニューロンから二次感覚神経へ

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

脊髄後角の灰白質はⅠ層からⅥ層に分かれている。C神経線維は表層の辺縁細胞と、Aδ神経線維は膠様質細胞とシナプス形成して、侵害情報を伝達する。Aβ神経線維は非侵害情報をⅢ-Ⅵ層の細胞に伝達する。

4)脊髄上行路:新旧2つの投射経路

・侵害情報を伝える二次感覚神経は、脊髄後角細胞を出て対側の脊髄前側索を上行するが、脊髄伝導路は脳幹レベルで、内側系投射経路と外側系投射経路に分けれている。内側系は主として痛みの情動的側面に関与する神経核に情報を伝え、外側系は痛みの感覚的側面に関与する神経核に情報を与えている。

疼痛投射経路
疼痛投射経路

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

内側系旧脊髄視床路(左)、外側系新脊髄視床路(右)になります。

内側系の旧脊髄視床路は、視床の内側・髄板内核群に達する原始的な経路で、「遅い体性感覚投射経路」を形成し、局在性のはっきりしない痛みの情報を伝えている。

・旧脊髄視床路は、脳幹網様体に多くの側枝を出しながら上行して、視床・髄板内核群ニューロンに終わっている。髄板内核群からは扁桃体、前帯状皮質、島皮質などの古い脳に広く侵害情報を投射している。

・旧脊髄視床路以外にも、脊髄腕傍核扁桃体投射、脊髄網様体路、脊髄中脳路などの侵害情報を伝える投射経路がある。

慢性痛に関与するのは、主として辺縁系、大脳基底核、中脳などの古い脳の神経核である。

・新脊髄視床路は外側系と呼ばれる経路で、視床外側の腹側基底核群に達する。精緻で高度な局在性を有する「速い体性感覚投射経路」は、侵害情報を正確に迅速に、視床を経て大脳皮質中心後回の体性感覚野に伝えている。急性痛の部位や痛みの性質など正確に弁別できる。

・内側系、外側系の両投射系は平行して上行するが、いくつかの接点がある。例えば島皮質では、外側系によって運ばれた侵害情報が後部島皮質に入力され、それが中部島皮質を経て前部島皮質に伝達される過程で、内側系の情報(辺縁系などによる情動系要素)が加味され、統合された情報になる。

5)扁桃体:負情動形成の中心

扁桃体は辺縁系の神経核で、不快感、恐怖、不安、怒りなど、負の情動の発現に中心的役割を担っている。

扁桃体には、生きるうえで必要な原始的感覚(嗅覚、触覚、視覚、聴覚、味覚、内臓感覚、侵害情報など)が全て入力される。これの感覚情報に対して、過去の経験や記憶に基づいて、有害=負情動か、有益=快情動かの評価を下して記憶の固定に関わっている。

侵害信号が入力されると、扁桃体中心核はただちに本能行動を起こすように、視床下部、脳幹網様体などの広範の領域に向けて出力を送る。その結果として呼吸・脈拍が速く顔面が蒼白になり、ストレスホルモンが分泌され、フリージングなどの情動表出も瞬時に起きる。

6)海馬支脚、嗅内皮質:不安やストレス信号を発信する

・海馬支脚腹側部は、恐怖、不安、ストレス反応に関与する神経核である。

・扁桃体、青斑核、嗅内皮質からの投射を受けて情動面に関わるほか、前頭皮質からも入力を受け、認知機能にも関与する。

海馬支脚腹側部には、身体的ストレス回路の視床下部-下垂体-副腎皮質系(hypothalamic-pituitary-adrenal axis:HPA軸)反応を終わらせる役割がある。生体がストレスに対処する際、HPA軸が機能する。ストレスが去れば、マイナスのフィードバックがかかって、HPA軸は停止する。海馬支脚はこの停止に関わる。

うつ病患者は、外見上はふさぎ込んで不活発そうにみえるが、脳内ではHPA軸が過剰に活動し続けており、このことによる海馬の萎縮や機能低下が考えられている。

・海馬支脚に隣接する嗅内皮質は、不安関連の痛みを増大させ、不安を覚えたときには、最悪の事態を想定して信号を発する部位である。嗅内皮質は扁桃体と密に相互連絡しており、扁桃体から不快情動を受け取り、かつ不安関連の信号を発信している。

7)帯状皮質:痛覚受容と情動に関与する

帯状皮質は特に痛みと関係が深い。脳画像上で侵害受容応答の賦活がみられる領域は、前帯状皮質である。

扁桃体、海馬、帯状皮質、前頭皮質の位置
扁桃体、海馬、帯状皮質、前頭皮質の位置

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

 

前帯状皮質は扁桃体や前部島皮質と連絡しており、海馬や視床下部からも投射を受けている。また、前頭皮質、中脳水道周囲灰白質、腹側線条体・側坐核との間にも密な線維連絡がある。

膝周囲前帯状皮質は下行性疼痛抑制系と連絡しており、特に重要な機能を有している。また、セロトニン・トランスポーターの分布密度が、大脳皮質中で最も高い部位である。

・セロトニンは縫線核から脳の広範な神経核に送られて、不安情動の処理、睡眠や摂食機能、気分、喜びの感情などの様々な身体/精神活動に関与している。それゆえ、もし前部帯状皮質膝周囲が機能不全に陥ると、セロトニン回収が遅れ、枯渇する。そして、うつ状態や睡眠障害、自律神経の失調など、多機能に影響が起きる。

8)島皮質:自己意識の形成に関与する

・島皮質には、痛覚、味覚、嗅覚、聴覚、視覚、触覚、温度感覚などの体性感覚、胃・腸の内臓感覚や心拍など、生命機能に関わる感覚情報が入力されるが、これらの体性感覚だけでなく、怒り、喜び、恐怖、悲しみ、など情動に関する情報も入力されている。

9)前頭皮質:高次精神活動の中心

・前頭皮質は最も新しく発達した領域で、理性、思考、創造性、行動の企画、意思決定、意欲、道徳観の発達など、高次精神活動の中心となっているが、最近の研究では情動にも関与することが分かっている。

10)視床と大脳皮質体性感覚野:感覚情報の集結と修飾

・外界からの感覚情報は視床に入力され、視床を中継して大脳皮質体性感覚野へ向かう。

・視床には興奮性の中継細胞、抑制性の介在神経細胞、視床内の神経回路などがあって、感覚情報はここで様々に処理され、修飾されて大脳皮質感覚野へ向かう。

・視床は多数の核からなっており、体性感覚に関係する主要な群には、腹側基底核群、後核群、髄板内核群がある。

・大脳皮質体性感覚野は、第一次体性感覚野(SⅠ)が、頭頂葉中心後回にあり、第二次体性感覚野(SⅡ)が、その外側後方の外側溝に沿った頭頂弁蓋の内壁に位置している。

視床と大脳皮質体性感覚野は、痛みの弁別的側面に関与しており、急性痛の情報伝達系として、非常に重要な役割を有している。

急性痛ではfMRIによる全脳スキャンを行うと、視床の各群や体性感覚野に賦活がみられるが、慢性痛ではSⅠに賦活化はほとんど見られず、SⅡ(第二次体性感覚野)に賦活が見られるのみである。

Ⅱ 痛みを抑制する脳内機構 

1.Mesolimbic dopamine systemと疼痛抑制機構

・生体は何千万年という時をかけて、疼痛抑制機構を発達させてきたが、その脳内機構の全体像を明らかにしたのは機能的脳画像法のおかげである。

中脳辺縁ドパミン系は、「報酬回路」、「快の情動系」だけでなく、「痛み」の制御も操り、慢性痛への転化機序に関係している。

・「快」と「痛み」は対極のものと思えるが、脳内回路は同じである。つまり、慢性痛患者の多くは痛みに加え、快感喪失や生きる意欲を失っている可能性がある。これらの症状は中脳辺縁ドパミン系の機能低下に関連して生じる。

・中脳辺縁ドパミン系は、中脳の腹側被蓋野(VTA)のドパミンニューロンから発し、内側前脳束を経て、腹側線条体の側坐核(NAc)、腹側淡蒼球(VP)、嗅結節、扁桃体(Amy)、海馬(HP)、中隔、前帯状皮質(ACC)、前頭皮質(PFC)などへ軸索を伸ばすA10神経がある。

中脳辺縁ドパミン系
中脳辺縁ドパミン系

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

 

A10神経
A10神経

A10神経については”脳科学のブログ(教育への架橋)”さまに、簡潔で分かりやすい説明が出ていました。

 

・中脳辺縁ドパミン系は、厳密には次の2つに分かれる。

-腹側被蓋野(VTA)から、腹側線条体の側坐核(NAc)、腹側淡蒼球(VP)、扁桃体(Amy)、海馬(HP)に向かう系で、“中脳辺縁系投射”である。

-腹内側前頭皮質、眼窩前頭皮質、帯状皮質、頭皮質に向かう系で、“中脳皮質投射”と呼ばれる。

・中脳から発するドパミン投射系には、①腹側被蓋野(VTA)から発するもの、②黒質から発するもの、③後赤核領域から発するもの、の3つがある。①は中脳辺縁系投射(A10神経)で、②は黒質緻密部から背側線条体(被殻、尾状核)に向かう黒質線条体投射(A9神経)である。パーキンソン病は②の神経変性によって起きる。

ドパミンシステムは原始的な系であるが、自律神経系や免疫系の活動とも直結し、根源的な生命活動として、様々な神経核に働きかける。

中脳辺縁ドパミン系は、生体が侵襲されて痛みを感じた時にも機能を発揮し、鎮痛をもたらす。

中脳辺縁ドパミン系と下行性疼痛抑制系
中脳辺縁ドパミン系と下行性疼痛抑制系

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

侵害信号が腹側被蓋野(VTA)に届くと、活動電位の群発射が起こり、VTAの軸索先端からドパミンが側坐核(NAc)に向けて放出される。NAcニューロンが興奮すると、μ-オピオイド受容体を介した神経伝達が多神経核に起きて、下行性疼痛抑制系が活性化する。

 

 

・『Dopamine & opioid systemによる痛みの制御は、進化の過程で、捕食者に襲われて怪我しながらも逃げて命を永らえさせる系として発達したと考えられている。命の危機という非常事態にあっては、上行する侵害性入力は瞬時に遮断されて、鎮痛と救命の方向に働く、脳内では前頭皮質、大脳基底核、辺縁系、中脳、橋、延髄、脊髄の神経細胞が一斉に活性化して、総がかりで命の危機に対応するのである。

このような非常事態のときばかりでなく、日常的な些細な痛みの際にもdopamine & opioid systemは機能している。包丁で指先を切ったとき、転んで膝を打ったときなど、われわれが感受する痛みは、この疼痛抑制機構のおかげでかなり軽減されているのである。

侵害受容時のdopamine & opioid system
侵害受容時のdopamine & opioid system

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

侵害信号が腹側被蓋野(VTA)に届くとVTAからドパミンが放出される。すると側坐核(NAc)のμ-オピオイド受容体が活性化し、この活性化は吻[ブン]側前帯状皮質(rACC)、背外側前頭皮質(dlPFC)、扁桃体(Amy)、中脳水道周囲灰白質(PAG)などのμ-オピオイド受容体に波及する。これが引き金になって下行性疼痛抑制系が活性化する。

・内因性オピオイドは、脳内に20種類ほど存在している。メチオニンエンケファリン、ロイシンエンケファリン、エンドルフィン、ダイノルフィンなどが代表的なものである。これらのオピオイドを含む神経核は、扁桃体、側坐核、腹側淡蒼球、視床下部、中脳水道周囲灰白質、延髄の傍巨大細胞網様核などである。

中脳辺縁ドパミン系の中核は側坐核とみられている。これは急性痛の段階から慢性痛へ転化するか、健常な状態へ回復できるかという重要な鍵を握るのは側坐核のニューロン活動であると考えられているためである。

・側坐核は嗅結節などとともに腹側線条体の一部である。

・側坐核は情動系の前帯状皮質、扁桃体、海馬と密に連絡して快情動の発現に関与し、生きる意欲や自律神経、根源的な生命活動と関係している。しかし他方では、思考、創造、学習などの高次脳機能を担う前頭皮質とも連絡して、希望、期待、自己優越性の確立、楽観性の獲得などに関係している。

・『重要な役割を有する側坐核であるが、生体が苛酷なストレスを過剰に受けると、ニューロン活動が90日以上にわたって停止してしまうのである。NAc[側坐核]にニューロン活動停止が起きると、ドパミンシステムは機能破綻するため、ほんの些細な刺激に対しても、「痛い、痛い」と悲鳴を上げる病的な状態に陥る。同時に、生きる意欲が低下し、根源的な生命活動である睡眠、食欲、自律神経活動も障害される。このような痛みはdysfunctional pain(中枢機能障害性疼痛)と呼ばれている。

2.下行性疼痛抑制系

下行性疼痛抑制系
下行性疼痛抑制系

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

 

・図上部のPAG(中脳水道周囲灰白質)が、rACC(吻側前帯状皮質)やAmy(扁桃体)、Hypo(視床下部)から興奮性入力を受けると、下行性疼痛抑制系が活性化し、痛み信号を脊髄後角レベルで抑制・遮断する、中脳辺縁ドパミン系が活性化すると、rACC、Amy、Hypoが興奮し、その興奮性入力がPAGに加わる。

・PAG(中脳水道周囲灰白質)は軸索を、背外側橋中脳被蓋(DLPT)と、吻側延髄腹内側部(RVM)に伸ばしており、このDLPTとRVMを介して、侵害信号の伝達を抑制している。DLPTからはノルアドレナリン作動性の抑制性投射が、RVMからはセロトニン作動性の抑制性投射が、脊髄後角(DH)に向けられ、侵害信号の伝達をDHレベルで抑制して鎮痛をもたらす。この機構が下行性疼痛抑制系である。

・下行性疼痛抑制系の研究は、1969年にラットの中脳水道周囲灰白質に留置電極を通して電気刺激すると、無麻酔で開腹手術が可能なほど鎮痛が得られることが報告された。これにより多くの研究者が下行性疼痛抑制系に関心をもち、そのメカニズムは次々に明らかになっていった。そして、機能的画像法によってヒトの脳内活動が解析されるようになって、下行性疼痛抑制系と中脳辺縁ドパミン系のつながりが明らかになった。

1)中脳水道周囲灰白質(PAG):下行性疼痛抑制系の起始核

・PAGは中脳水道を取り囲む領域で、本能行動、情動行動、自律神経機能などに深く関わっている。

・内因性オピオイドを多く含む神経核であり、下行性疼痛抑制系の起始核である。

・中脳水道周囲灰白質の神経軸索は、橋の背外側橋中脳被蓋(DLPT)と、延髄の吻側延髄腹内側部(RVM)に伸びており、この背外側橋中脳被蓋(DLPT)と、吻側延髄腹内側部(RVM)を介して、侵害信号の伝達を脊髄後角(DH)で抑制している。

2)背外側橋中脳被蓋(DLPT):ノルアドレナリン系

・背外側橋中脳被蓋(DLPT)には、青斑核(LC)が含まれる。青斑核は第4脳室底部の外側、上部橋被蓋の両側に左右1対あって、ノルアドレナリンを含んでいる。メラニン色素を含む細胞があり、第4脳室表面から青黒く透けて見える。

・青斑核はノルアドレナリン性の下行性疼痛抑制系として機能し、侵害信号を脊髄後角で抑制する。末梢組織に侵害刺激が加わると、青斑核の活動電位発射は急激に高まる。

・青斑核は下行性軸索を脊髄後角へ向かって伸ばしており、ここで放出されたノルアドレナリンが、脊髄後角細胞のアドレナリンα₂受容体と結びついて侵害信号を抑える。

3)吻側延髄腹内側部(RVM):セロトニン系

・吻側延髄腹内側部(RVM)を構成する神経核には、大縫線核、巨大細胞網様核、傍巨大細胞網様核がある。大縫線核はセロトニン系の下行性疼痛抑制系として機能し、侵害信号の伝達を脊髄後角(DH)や三叉神経脊髄路核レベルで抑制し、鎮痛をもたらす。

3.Placebo analgesiaと脳内変化

Placebo analgesiaとは、“プラシーボ鎮痛”のことである。プラシーボ効果とは薬効成分を全く含んでいないのに、薬物と同じような効果をもたらすことである。プラシーボ鎮痛の機序根幹をなすのは、dopamine & opioid systemである。

プラシーボ鎮痛が起きる時は、被験者の脳内でドパミン&μ-オピオイド受容体を介した神経伝達が実際に起きている。PETを用いた実験で、本物の薬剤を摂取した時と同じ変化が脳内に起きることが実証されている。

被験者が「鎮痛効果のある薬」の作用を大きく期待した場合は、期待度が低かった場合に比べ側坐核(NAc)におけるドパミン活性が大となり、μ-オピオイド活性も増加して鎮痛効果が大きくなった。この実験で使われたのは生理食塩水であった。にもかかわらず、被験者脳内にドパミンやμ-オピオイドの代謝変動を起こしたが、脳内に劇的な変化を起こさせた鍵は、期待すること】【希望すること】であった。

プラシーボ鎮痛に関する一連の研究では、ヒトが期待したり予測したりすることが、いかに大きな脳内変化を惹起するかを明確に示した点で画期的であった。また、これらの研究成果は、医師への信頼、医療への期待感がもたらす治癒力の大きさを示唆している。プラシーボ鎮痛が成立するには、医師の言葉や表情、白衣、病院の建物など、期待を抱かせる根拠となる学習や記憶、認知機能が必要である。

慢性痛の科学1

慢性痛というと、明治国際医療大学の伊藤和憲先生のセミナーで学んだことが頭に浮かびます。それは次の通りです。

「急性痛と異なり、警告信号としての意味はない。また、慢性痛の中には既に痛みを起こしていた原因は治ってしまい、痛みだけが残っていることもある。そのため、検査をしても原因が見つからないことも少なくない。」

慢性痛患者のためのセルフケアガイドブック
慢性痛患者のためのセルフケアガイドブック

以下をクリックして頂くと、資料(PDF24枚)がダウンロードされます。

慢性痛患者のためのセルフケアガイドブック

 

今回の本、『慢性痛のサイエンス 脳からみた痛みの機序と治療戦略』を知ったのは偶然です。施術者として慢性痛に精通することは間違いなく重要です。そこで「これはチャンス」と思って購入しました。

特に、中枢神経や生理活性物質の役割慢性炎症のメカニズム認知症やサルコペニアが印象的でした。

慢性痛のサイエンス
慢性痛のサイエンス

著者:半場道子

初版発行:2018年1月

出版:医学書院

 

ブログは5つに分けていますが、取り上げているのは目次の中の黒字の部分です。

目次

第1章 慢性痛とは何か

Ⅰ 慢性痛の定義と分類

1.慢性痛の定義

2.慢性痛の分類

Ⅱ 慢性痛をめぐる問題

1.日本における慢性痛

2.慢性痛の患者数と医療費

3.慢性痛と精神疾患

Ⅲ 慢性痛の評価法

1.痛みの強さの評価法

2.質問票による痛みの評価法

第2章 慢性痛のメカニズム

Ⅰ 痛みを伝える情報伝達系

Ⅱ 痛みを抑制する脳内機構 

1.Mesolimbic dopamine systemと疼痛抑制機構

2.下行性疼痛抑制系

3.Placebo analgesiaと脳内変化  

第3章 侵害受容性の慢性痛

1.変形性膝関節症への新しい視点

2.変形性膝関節症と慢性炎症

3.変形性関節症の痛み

4.痛みを軽減する薬物

5.DMOADsの薬理作用と開発の現状

6.OA患者急増の社会的リスクファクター  

第4章 神経障害性の慢性痛

1.神経障害性の痛み

2.痛みを慢性化させる要因

3.痛みの慢性化を防ぐには  

第5章 非器質性の慢性痛―Dysfunctional Pain

1.慢性腰痛:脳内で何か起きているのか?

2.腰痛を慢性化させる要因

3.線維筋痛症の痛み

4.線維筋痛症患者の脳で何が起きているのか?

5. Dysfunctional Pain(機能障害性疼痛)

6.負情動と慢性痛

7.痛みの破局的思考

8.Default Mode Networkと慢性痛  

第6章 慢性痛の治療法

Ⅰ 薬物療法・神経ブロック

1.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

2.アセトアミノフェン(Acetaminophen)

3.麻薬性鎮痛薬、合成麻薬、オピオイド

4.抗てんかん薬(抗けいれん薬)

5.抗うつ薬(Antidepressants)

6.神経ブロック

Ⅱ 認知行動療法・マインドフルネス

1.認知行動療法(CBT)

2.マインドフルネス・ストレス軽減法(MBCT)

3.治療で回復する慢性痛患者の脳

Ⅲ 脳刺激法

1.大脳皮質運動野刺激

2.反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)

3.経頭蓋直流刺激(tDCS)

Ⅳ 筋運動

1.筋運動による痛みの軽減

2.筋活動の生理的意義:骨格筋は分泌器官

3.筋活動の生理的意義:PGC1-αの発現

4.PGC1-αによる慢性炎症の抑制

5.PGC1-αの抗酸化・抗老化作用

6.PGC1-αによる筋力増強作用

7.健康維持に適した筋運動は?  

第7章 神経変性疾患と慢性炎症

Ⅰ パーキンソン病

1.パーキンソン病:運動症状と非運動症状

2.パーキンソン病:痛みの脳内機構

3.脳内ドパミンの変動と痛み

4.パーキンソン病:痛みの治療

5.パーキンソン病:発症を源にさかのぼる

Ⅱ 慢性炎症と疾患

1.免疫細胞とインフラマソーム

2.慢性炎症は万病の源

3.慢性炎症の抑制

Ⅲ 認知機能障害

1.アルツハイマー病

2.脳の時限爆弾AβとTau

3.脳内グリアによる慢性炎症

4.認知症と海馬

5.認知症のリスクファクター

Ⅳ 記憶のメカニズム

1.海馬:記憶の中枢

2.海馬では日々、ニューロンが新生している

3.新生ニューロンが記憶機能を担う

4.高齢者の脳と記憶力

5.認知機能と筋運動

6.海馬萎縮の原因

7.記憶には反復と睡眠

Ⅴ 高齢者とサルコペニア

1.サルコペニア―死のリスク

2.サルコペニアの診断

3.サルコペニアの機序

終章

1.慢性痛の謎解きと進化の系譜―古代の海から宇宙ステーションへ

2.快・不快情動に焦点を当てる―今後の医療の根幹

3.人は希望によって生きる

第1章 慢性痛とは何か

Ⅰ 慢性痛の定義と分類

慢性痛は急性痛が長引いたものではなく、主として脳回路網の変容に伴って生じる痛みである。

・慢性痛患者数は推計2,300万人、成人人口の約22.5%。

近年、機能的脳画像法によって慢性痛の脳内機構が明らかになりつつあり、治療法への挑戦が始まった。

1.慢性痛の定義

・一般的には発症から3カ月以上続く痛みと考えられている。

・末梢組織に起こった炎症の源が炎症反応を連鎖させ痛みが長く続くもの。

上位脳に投射された侵害信号によって、中枢神経系の機能に変容が起き、痛覚過敏の状態が長期に続いているもの。

・“非器質性の慢性痛”はメカニズムが不明で、「痛みの謎」と呼ばれてきたが、機能的脳画像法によって慢性痛の脳内機構が明らかになり、それに基づいて、認知行動療法マインドフルネスストレス軽減法薬物療法運動療法脳刺激法など、様々な治療法が開発されている。

2.慢性痛の分類

・慢性痛は発生メカニズムから、①侵害受容性、②神経障害性、③非器質性、の3つに分類される。

慢性痛を発生機序のうえから3つに分類する
慢性痛を発生機序のうえから3つに分類する

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

1)侵害受容性の慢性痛

・末梢組織が外傷などの侵襲を受けると、末梢神経終末が刺激され活動電位を発する。活動電位が脊髄後角、視床を経由し大脳皮質体性感覚野に達すると「痛い」という感覚が生まれる。侵襲を受けた部位からは発痛物質や炎症メディエータが次々に産生され、感覚神経終末はこれらの濃縮スープに繰り返し刺激され、侵害受容性の痛みが生ずる。

2)神経障害性の慢性痛

・神経障害性の痛みは、「体性感覚神経系の病変、あるいは疾患によって生ずる痛み」と定義されている。

・末梢神経および中枢神経が損傷を受けた後で、痛みの増強や長期化が起きた状態を神経障害性の慢性痛という。

・損傷部位の傷口が治癒した後でも、神経組織の形態や上位脳における脳回路網の変容が起きるため、慢性痛が続く。

3)非器質性の慢性痛(心理/社会的要因に影響される慢性痛)

・非器質性の慢性痛は、機能的脳画像法を用いた研究により、脳の疼痛抑制機構の機能不全が原因の痛みであることがわかった。そして、dysfunctional pain(中枢機能障害性疼痛)と呼ばれている。

・心理的、社会的要因の影響を受けやすい。

以前、「心因性」と呼ばれていたものは、現在、使用が避けられている。それは、「心因性」が脳回路網のどこに由来するのか不明であり、脳画像解析に基づいた痛みの機序とも乖離があるためである。

Ⅱ 慢性痛をめぐる問題

1.日本における慢性痛

・慢性痛の部位は、腰痛(55.7%)、四十肩・五十肩・肩こり(27.9%)、頭痛・片頭痛(20.7%)、関節炎(12.9%)、冷え症(12.2%)が上位5つである。「日本における慢性疼痛保有者の実態調査、2010年」より。 

・慢性痛患者の痛み状況と罹患期間

慢性痛患者の痛み状況と罹患期間
慢性痛患者の痛み状況と罹患期間

画像出展:「慢性痛のサイエンス」

この表では5年以上~20年未満の合計が、44.5%とほぼ半数になっています。

メタボリックシンドロームの脅威

メタボリックシンドロームと聞いて思い出すのは、肥満と生活習慣病です。ところが、何がどう悪さしているのかについては、あまりピンときていませんでした。今回のブログで分かったことは、諸悪の根源は”慢性炎症”であるということです。

※ご参考:2017年2月に”慢性炎症について”というブログをアップしています。

神秘の巨大ネットワーク 人体
神秘の巨大ネットワーク 人体

出版:東京書籍

発行:2018年4月

『自然界とは異なる生活環境へと変化した現代社会では、栄養の取り過ぎや運動不足から肥満になる人が増えている。肥満によって生じるメタボリックシンドロームは、命に関わる病気を次々引き起こす可能性がある危険な状態だ。最新研究から、そんなメタボリックシンドロームの「本当の恐ろしさ」が浮かび上がってきた。

 

 

 

1.レプチンがあっても肥満になる?

・脂肪はレプチンというメッセージ物質(「エネルギーは十分たまっているよ!」)により食欲をコントロールし、体重を調整しているにも関わらず肥満になる人は少なくない。それは、肥満の人の体内では異変が起きているためである。

・体脂肪が増えると血液中のレプチンの量は増える。

体脂肪量と血液中のレプチン量の関係
体脂肪量と血液中のレプチン量の関係

画像出展:「NHKスペシャル 神秘の巨大ネットワーク 人体2」

 

 

 

肥満の人の脂肪細胞からもレプチンがたくさん放出されているのは間違いないが、肥満の人ではレプチンが脳に届きづらくなっている。

・脂肪細胞から放出されたレプチンは血液の流れに乗って、脳の一部、食欲などを司る「視床下部」にたどり着く。そこでレプチンは血管の外に出て視床下部の神経細胞にメッセージを伝える。肥満の人が抱える問題は、血液中に大量に漂っている“アブラ”が邪魔をして、レプチンが血管の外に出ていきづらい状態になっていることである。

レプチン受容体の働きが衰えている
レプチン受容体の働きが衰えている

画像出展:「NHKスペシャル 神秘の巨大ネットワーク 人体2」

肥満の人の脳では、レプチンを受け取るレプチン受容体の働きが鈍くなり、大切なメッセージに反応できなくなっていると考えられる。

 

 

 

2.“免疫の暴走”が始まる

・肥満の人の体内では、メッセージ物質によるやりとりに異変が起きている。

・メタボリックシンドロームの人の内臓脂肪は、大量に摂り過ぎて脂肪細胞が吸収できなくなった糖や脂肪の粒が、煙のように漂っている。

膨らみきった脂肪細胞の表面で、脂質の分子が次々と受容体にぶつかっており、それにより脂肪細胞がTNFαを放出する。

TNFαは体内に侵入してきた細菌やウィルスなどを感知して、「敵がいるぞ!」という警告のメッセージ物質を出す。つまり、脂質の分子がぶつかっていた受容体は、本来は細菌を感知するための受容体であり、ぶつかってきた脂質の分子を敵(細菌やウィルス)と勘違いしてTNFαを放出していたということである。

・脂肪細胞から放出されたTNFαは、血液の流れに乗って全身を駆け巡り、免疫細胞と出会う。免疫細胞は敵を見つけると、近づいて細胞内に取り込み、内部にためている有害物質で分解する。

・TNFαの警告メッセージを受け取った免疫細胞は、活性化して「戦闘モード」に変化し、敵の来襲に備えるために分裂して仲間をどんどん増やしていく。

・免疫細胞自身もまたTNFαを放出し、「敵がいるぞ!」という警告メッセージを全身に拡散する。

免疫細胞は細菌などを攻撃して体を守ってくれる味方である。ところが、栄養が過剰な状態となるメタボリックシンドロームでは、“免疫の暴走”が引き起こされる。この“免疫の暴走”こそが、メタボリックシンドロームの本当の恐ろしさである。

免疫細胞が暴走した状態は、“慢性炎症”と呼ばれ、重要な研究課題となっている。

3.動脈硬化は血管の炎症が原因!?

・肥満の人の体内で、誤って活性化された免疫細胞は敵を懸命に探すが見つからず、ついには血管の壁の内部に入り込んで敵を探しに行く。そこで見つけるのは、たくさん溜まったコレステロールである。

・コレステロールは糖や脂質、たんぱく質を材料に作られる物質で、全身の細胞膜の成分になる他、ホルモンやビタミンDの原料になるなど、生命の維持にはなくてはならない重要な物質であるが、増え過ぎた血中コレステロールは血管壁の内部にたまっていく。

・血管壁に入り込んだ免疫細胞は、内部にあふれるコレステロールを排除すべき異物と認識し、次々と食べ始める。そして、食べすぎてパンパンに膨れあがると、ついには破裂し、免疫細胞が外敵を攻撃するための武器(有害物質)が辺り一面に飛び散り、それが血管の壁を傷つけてしまう。

・暴走した免疫細胞は、さらに体中のさまざまな場所で暴発する。その結果、心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病など、命に関わる恐ろしい病気を引き起こす。

心筋梗塞の原因は血管壁に沈着したコレステロールと考えられてきたが、最新の研究から、免疫システムの異常がもたらす「炎症性の疾患」との認識が広がっている。つまり、免疫の暴走による血管の慢性的な炎症が、さまざまな病気に関わっているということである。

肥満のタイプ

・体内の脂肪は、皮膚の下(皮下)と内臓に大別され、肥満のタイプも「皮下脂肪型」と「内臓脂肪型」がある。

内臓脂肪はつきやすく落ちやすい性質があり、日々の運動をするためのエネルギーを貯蔵する。

皮下脂肪はつきにくく落ちにくい性質があり、出産や授乳などのための長期的なエネルギーを貯蔵する。

・男性は女性に比べ、脂肪をためる容量が少なく内臓脂肪がつきやすい。

内臓脂肪の蓄積はメタボリックシンドロームを引き起こし、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病の発症や、動脈硬化性疾患に深く関係している。

肥満のタイプ
肥満のタイプ

画像出展:「NHK

骨からのメッセージ

前回の「脂肪と筋肉からのメッセージ」に続き、今回は「骨からのメッセージ」になります。

神秘の巨大ネットワーク 人体
神秘の巨大ネットワーク 人体

出版:東京書籍

発行:2018年4月

『体を支えるだけの組織だと思われがちな「骨」。

しかし、最新の科学で明らかになったのは、一見無口に思える「骨」が人体のネットワークを通じ、脳や筋肉など全身の臓器にメッセージを送り続けているという事実だ。

そのメッセージが途絶えたとき、まるで命のスイッチを切るかのように、老化現象が加速してしまうという。』

 

 

1.オステオカルシン

記憶力や生殖機能を強化するメッセージ物質。

・通常のマウスとオステオカルシンをつくれないマウスを泳がせるという実験により発見された。

オステオカルシンの有無による島への到達時間(記憶の差による実験)
オステオカルシンの有無による島への到達時間(記憶の差による実験)

画像出展:「NHKスペシャル 神秘のネットワーク 人体」

 

 

骨でつくられたオステオカルシンは血管内に放出され、血液に乗って脳に運ばれる。そして、海馬に到達して受容体と結合し、海馬の神経細胞の中に「記憶をアップせよ!」というメッセージが送り込まれる。

・動物は老化に伴って筋力が低下し運動能力が落ちていくが、これにオステオカルシンは関係している。

・運動には、筋肉が糖分と脂肪酸を分解し吸収する必要があるが、オステオカルシンには糖分や脂肪酸の分解・吸収を促す働きがある。つまり、オステオカルシンは筋肉のエネルギー利用を増進するメッセージを送り、筋力をアップさせていると考えらえる。

通常のマウスの海馬
通常のマウスの海馬

画像出展:「NHKスペシャル 神秘のネットワーク 人体」

 

 

オステオカルシンをつくれないマウスの海馬
オステオカルシンをつくれないマウスの海馬

画像出展:「NHKスペシャル 神秘のネットワーク 人体」

 

 

・マウスの実験で、正常なオスのマウスにオステオカルシンを注射すると、血液中のテストステロン濃度が大きく上昇する。

・オステオカルシンをつくれないオスのマウスと正常なメスのマウスを交配させたところ、妊娠の頻度が低下し、1回の出産で生まれる子どもの数は少なかった。

2.オステオポンチン

・造血幹細胞は赤血球、白血球、血小板などの細胞へ成長していく。その造血幹細胞の老化に関係しているのが、オステオポンチンの減少である。

骨が放出するオステオポンチンのメッセージは「免疫をアップせよ!」である。このメッセージが造血幹細胞に届くと、造血幹細胞は活性化し、免疫細胞への分化が促進される。

血球の分化と働き
血球の分化と働き

画像出展:「NHKスペシャル 神秘のネットワーク 人体」

 

 

オステオポンチン投与による免疫細胞の量の変化
オステオポンチン投与による免疫細胞の量の変化

画像出展:「NHKスペシャル 神秘のネットワーク 人体」

 

 

オステオカルシンは記憶力アップ、筋力アップ、精力アップといった複数の役割をこなしている。さらに、オステオポンチンは免疫力増強作用を有する。これらはいずれも若々しさを維持、あるいは回復する働きを担っている。骨は単に体を支えるだけではなく、メッセージ物質によって全身の若さをコントロールしている。

骨は若さを司る臓器
骨は若さを司る臓器

画像出展:「NHKスペシャル 神秘のネットワーク 人体」

 

 

3.スクレロスチン

・骨が異常に増え続ける難病である「硬結性骨化症」の患者の体内では、遺伝子の異常によってスクレロスチンというメッセージ物質が欠如している。

・スクレロスチンのメッセージは「骨をつくるのをやめよう!」というものである。

・スクレロスチンは骨粗しょう症の新しい治療薬となる可能性がある。これはスクレロスチンの働きを抑制するための、スクレロスチン阻害薬である。

衝撃が骨を強くする

骨への衝撃が骨量を増やす

・骨は衝撃を感知すると骨の量を増やす。以下のグラフは週に6時間以上、ランニングあるいは自転車運動を行っている20~50歳代の男性のうち、骨量が低い傾向にあった人(骨粗しょう症予備群)の割合。自転車運動は、骨への衝撃という意味では座っている場合と変わらない。

骨粗しょう症予備群の割合
骨粗しょう症予備群の割合

画像出展:「NHKスペシャル 神秘のネットワーク 人体」

 

 

骨は“人体の若さの門番”

・全身に数百億個あるとされる骨細胞は互いに結び合い、骨の中にネットワークを張り巡らせている。このネットワークで体にかかった衝撃を敏感に感知する。

衝撃を感知した骨細胞は、「骨をつくるのをやめよう!」というブレーキ役のメッセージ物質の量を減らし、代わりに「骨をつくって!」というアクセル役のメッセージ物質を発して、骨芽細胞の数を増やす。

骨は活動的に動いている限り、骨芽細胞からのメッセージをたくさん放出して、全身の若さを保ってくれる。

・運動後では骨量が増加するとともに、「骨をつくるのをやめよう!」というメッセージをもつスクレロスチンの量が減少する。

運動前と運動後のスクレロスチンの量
運動前と運動後のスクレロスチンの量

画像出展:「NHKスペシャル 神秘のネットワーク 人体」

 

 

脂肪と筋肉からのメッセージ

今回のブログは、『NHKスペシャル 人体 ~神秘の巨大ネットワーク~ 第2巻』からになりますが、他に、“骨からのメッセージ”、“メタボリックシンドロームの脅威”という、計3つのブログをアップします。以下は題材とした本ですが、「はじめに」に書かれていた、脂肪・筋肉・骨に関する説明箇所の一部をご紹介します。

神秘の巨大ネットワーク 人体
神秘の巨大ネットワーク 人体

出版:東京書籍

発行:2018年4月

『まず「脂肪と筋肉」。重要な役割は、「体内のエネルギー量を把握し、それをどう効率的に使うかを決める」こと。メッセージ物質を巧みに使いながら、時には脳を、時には免疫細胞を制御していることが分かってきました。食欲や性欲まで、脂肪細胞が操っているというのですから驚きです。そして、エネルギーを大量に消費する筋肉は、メッセージ物質を使って、「大きくなりすぎないように」と自らを戒めています。なぜか、がんやうつを防ぎ、記憶力をアップさせるメッセージ物質を発している可能性も浮かび上がってきました。

次に「骨」。様々な“若返り物質”を放出して、私たちの体の若々しさを決めていることが明らかになっています。免疫力や記憶力、生殖能力や筋力をアップさせる鍵が骨にあるというのです。』 

脂肪からのメッセージ

1.レプチン

脂肪細胞から放出されたレプチンは血管に入り込み、血液の流れに乗って脳の「視床下部」に到達する。到達したレプチンは血管から浸みだして脳の中に入っていく。脂肪細胞からのメッセージを受け取った脳は、満腹であることを感じ取り、「もう食べなくていい」と判断して、食欲は収まっていく。

・ハムスターによる動物実験により、レプチンが性行動の頻度を増やすことがわかった。この仕組みは食料が十分にあるときにだけ子孫を残すという、母親と生まれてくる子を守るためのものと考えられる。

2.アディポネクチン   

糖尿病やメタボリックシンドロームの発症の有無に大きく関わっていると考えられている。

脂肪細胞から放出されるアディポネクチンは、脂肪の量が多いほど減っていくという特徴をもっている。特に、内臓脂肪が多い人ほどアディポネクチンの量は少ない詳しいメカニズムを解明する研究が続けられている。

3.VEGF(血管内皮増殖因子) 

・血液が体の隅々まで栄養素や酸素を運ぶには血管が必要である。VEGFは栄養や酸素が不足している場所に、「血管をつくって!」というメッセージを発信する。なお、VEGFは脂肪細胞だけでなく、血管内皮細胞からも放出される。

4.TNFα

・TNFαは免疫細胞が細菌やウィルスなどを探知して、周りの免疫細胞に対して「敵がいるぞ!」と警戒を促すメッセージ物質である。

最近の研究で、TNFαは脂肪細胞からも出ていることが発見された。様々な病気と関わってることが分かってきており、近年とても注目されている。

以上4つのメッセージ物質をご紹介しましたが、脂肪細胞からのメッセージ物質は約600種類あると考えられています。

筋肉からのメッセージ

人体には大小含めて約400種類の筋肉が存在している。

1.ミオスタチン

・1997年に初めて発見された、筋肉からのメッセージ物質で、筋肉の成長をコントロールする。

ミオスタチンは周囲の細胞に「成長するな!」というメッセージを伝え、筋肉の過剰な増加を抑えている。「成長するな!」というメッセージは理解に苦しむが、それは筋肉が体の中で最も多くのエネルギーを消費する臓器だからである。自然界では獲物を捕まえたり、捕食者から逃げたりするため、エネルギー不足に陥りやすく、必要以上の筋肉は命取りになる。つまり、ミオスタチンは必要以上に筋肉が増え過ぎるのを抑え、エネルギーの消費を最小限にとどめる働きをしていると考えられている。

2.カテプシンB

・運動したときに筋細胞から放出される。

記憶を司る「海馬」の神経細胞を増やす働きがあると考えられている。

カテプシンBの量の変化と記憶力テストの成績
カテプシンBの量の変化と記憶力テストの成績

画像出展:「NHKスペシャル 人体 神秘の巨大ネットワーク2」

4か月間の定期的な運動によって、血液中のカテプシンBが増えた人ほど、記憶力テストの成績が向上した。

マイオカイン

・2000年代以降、ミオスタチン以外にも筋肉が出すメッセージ物質が次々に発見されており、これらのメッセージ物質を総称して「マイオカイン」と呼んでいる。

・マイオカインの働きを探る研究は急速に加速しており、2016年に報告された研究論文は100本以上に及んでいる。

・マイオカインに「がんの増殖を抑える働きがある」、「うつの症状を改善する効果がある」など、筋肉の概念を覆す新発見が相次いでいる。

マイオカインとがんの増殖
マイオカインとがんの増殖

画像出展:「NHKスペシャル 人体 神秘の巨大ネットワーク2」

マイオカインには、がんの増殖を抑える働きがあります。Pedersen L, et al: Cell Metab. 2016; 23: 554-562

上記をクリック頂くと、10枚(PDF)の資料がロードされます。

マイオカインとうつの症状
マイオカインとうつの症状

画像出展:「NHKスペシャル 人体 神秘の巨大ネットワーク2」

マイオカインには、うつの症状を改善する効果があります。

加齢に伴う筋肉の変化

・筋肉は加齢とともに減少する。体の部位では上肢、体幹よりも下肢の筋肉の減少率が大きい。

・加齢と伴って筋肉の質も変化する。若い世代は遅筋線維と速筋線維のバランスが良いが、加齢により速筋線維の減少が大きい。高齢者に転倒が多いのは筋肉量が減ってふんばりが効かず、しかも速筋線維が減って素早い動きができないことが大きな要因になっている。

筋トレは下肢に重点を置き、毎日ではなく、週2~3回行うのが良い。これは筋トレによって損傷した筋線維の回復に24~72時間かかるためである。なお、筋肉は回復する過程で太く成長する。

加齢に伴う筋肉の質の変化
加齢に伴う筋肉の質の変化

画像出展:「NHKスペシャル 人体 神秘の巨大ネットワーク2」

 

hCGと着床

受精卵は、ふかふかで栄養たっぷりのベッドで育つことができる。

この“ベッド”とは子宮内膜のことです。また、この過程で女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンが重要であることは認識していました。

ところが、下図の【妊娠⇒着床】に出てくる“hCG”も、とても重要であるということを知りました。

月経のサイクル
月経のサイクル

画像出展:「病気がみえる vol.9 婦人科・乳腺外科」

詳しくは、ブログ“不妊鍼灸

2”を参照ください。

hCG”とはヒト絨毛性ゴナドトロピンのことです。”岡山大学さまのサイト(検査部/輸血部インフォメーション)”には、hCGについて次のような説明がされていました。

ヒト絨毛性ゴナドトロピン, HCG (human chorionic gonadotropin) 

●ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin ; hCG)は、α、β、2つの相異なるサブユニットの非共有結合により形成される分子量約38,000の糖蛋白ホルモンである。

●hCGは主に絨毛組織において産生される。

妊娠初期の卵巣黄体を刺激してプロゲステロン産生を高め、妊娠の維持に重要な働きをしている。

●胎児精巣に対する性分化作用や母体甲状腺刺激作用も報告されている。

●絨毛性腫瘍のほか、子宮、卵巣、肺、消化管、膀胱の悪性腫瘍においても異所性発現[本来の場所以外で発現]している例が報告されている。

●臨床的にhCG測定を必要とする場合として、①妊娠の診断と予後の判定、②絨毛性疾患の診断ならびに治療効果判定とそのfollow up、③各種悪性腫瘍に対する腫瘍マーカーとしての応用、などがあげられる。

ブログに残そうと思ったのは、「神秘のネットワーク4 第6集 “生命誕生”見えた!母と子 ミクロの会話」の中に、”まず迎える、着床という妊娠の最難関門”という見出しがあり、そこで主役となっていたhCG私にとっては大発見の新情報だったためです。 

神秘の巨大ネットワーク4
神秘の巨大ネットワーク4

編集:NHKスペシャル「人体」取材班

出版:東京書籍(株)

発行:2018年8月

ブログは目次に続き、hCGについて書かれた箇所を取り上げています。

目次

第6集 “生命誕生”見えた!母と子ミクロの会話

Part1 新たな命が発信する最初のメッセージ

●新たな命が始まる瞬間を追う

●まず迎える、着床という妊娠の最難関門

●子から母への最初のメッセージ

●妊娠検査にも利用されるhCG

Part2 人体をつくる驚異の仕組み

●“ドミノ式全自動プログラム”

●万能細胞が開いた神秘の扉

●最初に生まれる臓器は、心臓

●心臓の次は、肝臓

●さまざまなメッセージが連鎖して作用する

●ぐんぐん成長する赤ちゃん

※万能細胞が切り拓く新しい世界

Part3 胎盤の中で繰り広げられる母と子のやりとり

●10か月で驚きの成長を遂げる赤ちゃん

●母と子をつなぐ命綱

●胎盤の中で繰り広げられる驚異の共同作業

●1つ1つのメッセージを専用装置でやりとり

●そして、誕生

※もう1つの生命誕生物語

Part4 生命誕生の解明が医療の未来を切り拓く

●原因不明の難病に苦しむ女の子

●肝臓移植の代わりになる再生医療

●何になるべきかを知っていた細胞

●生命誕生に学ぶ未来の医療

●“ミクロの会話”がもたらす希望の光

※臓器づくりに欠かせない細胞同士の会話

第7集 “健康長寿” 究極の挑戦

Part1 「がん」が送り出す恐ろしいメッセージ

●日本人の死因第1位のがん

●何度取り除いても発症するがん

●映像が捉えたがん細胞の増殖

●がん細胞が血管を引き寄せる仕組み

●特殊なメッセージ物質、エクソソーム

●それはメッセージの宝箱だった

●宝箱を悪用するがん細胞

●免疫細胞も手なずけるがん細胞

●エクソソームががんの転移のカギを握る

●転移のための環境を整えるがん細胞

●体内のエクソソームは100兆個以上

Part2 「がん」との戦いの最前線

●がん治療の新時代

●13種類のがんの早期診断を目指す

●運動ががん治療につながる

●エクソソームを標的としたがん治療

●光と免疫でがんを攻撃

●牛乳からがんの治療薬も……?

Part3 不可能に挑む! 次世代の心臓再生医療

●いったん傷ついた心臓はもとに戻らない

●心臓の中のメッセージ物質

●エクソソームから心筋細胞を再生

●メッセージ物質を使った治療のメリット

●iPS細胞を使った心臓の再生医療

Part4 神秘の巨大ネットワーク

●人体の解明へさらなる挑戦は続く

●臓器同士をつなぐ情報ネットワーク

●全身の免疫力を司る腸

●骨が若さを生み出す

●幹細胞から骨をつくり「健康寿命」を延ばす

●人体探求の“たすきリレー”は次世代へ

特集:人体ART

Part1 新たな命が発信する最初のメッセージ

まず迎える、着床という妊娠の最難関門

・受精卵は分割し5日ほどで100個程の細胞に増える。自然の受精の場合、この段階は卵管の中を子宮に向かって移動しながら行われる。なお、この時の受精卵は「胚盤胞」と呼ばれる。

・体外受精の場合、受精卵は胚盤胞の状態までシャーレの中で培養された後に子宮の中に戻される。

誕生に向けた最初にして最大の難関がここから始まる。受精卵が生き続けるためには、子宮の壁(子宮内膜)にしっかりと根を張って着床する必要がある。

・この関門を乗り越えるために、母親の体はメッセージ物質が働いて大きな変化を促す。受精卵が着床するためのカギはメッセージ物質である。

子から母への最初のメッセージ

・赤ちゃんからお母さんへの“初めてのメッセージ”は、母親が妊娠に気づくずっと前から受信され始めている。

・『受精後8日目の受精卵の姿は、まだ大きな変化がないように見えた。ところが、2日後、思いがけない現象が起き始める。受精卵のあちらこちらから、ある物質が放出され始め、日を追うごとに、どんどん増えていった。hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)と呼ばれるこの物質こそ、着床のカギを握るメッセージ物質だ。

・hCGの役割は受精卵が母親に「ここにいるよ!」と伝えるためのメッセージである。このhCGは受精後10日目の受精卵から放出される。

・hCGは母親の血液の流れに乗って全身を巡り、卵巣などに働きかける。すると、母親の体は生理を起こさないように変化し、子宮の壁(子宮内膜)をどんどん厚くしていく。これにより受精卵はしっかりと包む込まれ、着床は促進される。

妊娠検査にも利用されるhCG

・母親の血中hCGの量は、妊娠を調べる検査にも用いられている(血液中のhCGは尿にも出ていくため尿でも調べられる)。

受精卵が出す最初のメッセージ物質hCGの働き(CG)】

自然炎症と2型マクロファージ

今回は、審良静男先生と黒崎知博先生の「新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症のまで」という本が題材です。

著者:審良静男、黒崎知博
新しい免疫

著者:審良静男、黒崎知博

発行:2014年12月

出版:講談社

当初の目的は、新型コロナウィルスで先行する2つのワクチン(独BioNTech社と米Pfizer社が共同開発したワクチン、および米Moderna社のワクチン)が、ともにmRNA(メッセンジャーRNA[タンパク質分子の設計図をコピーする働き])ワクチンということで、これがどのようなものか知りたいということと、免疫について勉強したいというものでした。

前者のワクチンに関する記述は多くなかったため、ブログは免疫、「免疫と炎症」が主になります。特に、新発見だった“自然炎症”と“2型マクロファージ”に注目しました。なお、目次でいうと10章になります。

詳しいご説明は最後に再登場するのですが、以下の図が今回の最大の収穫です。 

免疫と炎症
免疫と炎症

画像出展:「新しい免疫入門」

目次

まえがき

プロローグ

・二度なし

・一度目は?

・新しい免疫劇場

1章 自然免疫の初期対応

2章 獲得免疫の始動

3章 B細胞による抗体産生

4章 キラーT細胞による感染細胞の破壊

5章 三つの免疫ストーリー

6章 遺伝子再構成と自己反応細胞の除去

7章 免疫反応の制御

8章 免疫記憶

9章 腸管免疫

10章 自然炎症

11章 がんと自己免疫疾患

あとがき

参考文献

さくいん

10章 自然炎症

免疫学の新しい展開

・TLR[Toll-like receptor:病原体を感知して自然免疫に活性化するセンサー]などのパターン認識受容体は、”病原体”だけではなく“内在性リガンド[体の自己成分、自己細胞が大量に死んだときに出てくる成分などが多い]も認識する。つまり、マクロファージや好中球などの食細胞は、“内在性リガンド[虚血、細胞ストレス、細胞死など]を認識して活性化し、炎症をおこす。このように病原体が関わらない炎症を「自然炎症」という。

・自然炎症の代表的な例は、体の中で大量の細胞がネクローシスを起こして死ぬような場合である。

・自然炎症が何のために起こるのか、まだはっきりと分かっていないが、組織の修復に関わっているという考え方が有力である。マクロファージや好中球が集まり、損傷部が取り除かれる。さらに修復のための専門細胞が集まり、組織の再建にとりかかる。こうして組織は修復される。 

・パターン認識受容体はほぼ全身の細胞に分布しているため、内在性リガンドで自然炎症を起こしうるのは、マクロファージなどの食細胞だけでなく、ほぼ全身の細胞ということになる。

アポトーシスとネクローシス
アポトーシスとネクローシス

画像出展:「新しい免疫入門」

『からだのなかで細胞が死ぬパターンとして二つの様式がある。アポトーシスとネクローシスだ。アポトーシスが誘導されると、細胞膜につつまれたまま内容物が分解され、最後は食細胞が丸ごと食べて処理する。一方、ネクローシスでは、細胞膜が破れて、内容物が分解されずに飛び散る。外傷や火傷、薬物、放射線などが誘因となる。

痛風はマクロファージがおこす自然炎症だった

・痛風は全身の関節(特に足の親指の関節)で急性の炎症が繰り返し起こる病気で激痛を伴う。原因は血液中の尿酸である。尿酸は細胞の老廃物で、増えすぎると結晶となって関節に付着し、これを食細胞が取り込むと炎症が起こるが、この炎症は自然炎症と考えられる。

痛風の原因は“尿酸”だが、尿酸に限らず結晶のような構造をとる物質は、食細胞に取り込まれると活性化し炎症を起こす。 

痛風の発作
痛風の発作

画像出展:「新しい免疫入門」

食細胞が尿酸結晶を細胞内に取り込むと、尿酸結晶の刺激でミトコンドリアが損傷する。すると、SIRT2という酵素のはたらきが低下し、細胞内の輸送路である微小管にアセチル基という分子がつく。その結果、損傷したミトコンドリアが微小管の上に乗り、細胞の中心部の小胞体まで移動する。こうして小胞体のNLRP3と、ミトコンドリアがもつ部品ASCがそろい、さらにカスパーゼという部品もくわわって複合体が組みあがる。この複合体をインフラマソームという。インフラマソームは、インターロイキン1βをマクロファージ内で成熟させて外に放出する。引きつづいて強い炎症がおこり、激痛が走ることになる。

結晶構造をとる物質
結晶構造をとる物質

画像出展:「新しい免疫入門」

『脳ではマクロファージや好中球の代わりにミクログリアという細胞が免疫のはたらきをしており、βアミロイド線維を食べたミクログリアからは同じようにインターロイキン1βが放出される。』

・NLRP3は様々な結晶(または結晶のような物質)の刺激をきっかけにしてインフラマソームを形成することから、この他にも多くの炎症性疾患との関連が強く示唆されている。

体内で結晶化したものは食細胞が消化しきれずに死んでしまい、結晶が体内に残る。それを処理しようと新しい食細胞がまた食べに来て食べきれないという状態が繰り返され炎症が起こる。つまり、消化・分解できない結晶は、自然免疫系を過剰に活性化してしまう。

痛風も動脈硬化も同じメカニズムでにもかかわらず、痛風だけが激痛なのは結晶の量の違いと考えられる。電子顕微鏡で見ると、集積している尿酸結晶に比べ、コレステロール結晶は極めて少ない。

TLR[Toll-like receptor:病原体を感知して自然免疫を活性化するセンサー]による自然炎症

・TLRもNLRP3と同様に、自然炎症に関わっている。

・虚血再灌流障害とは、脳梗塞や心筋梗塞で虚血状態にある組織や臓器に再び血液が流れだしたとき、強い炎症が局所的または全身で起こるものである。これは、虚血によって大量の細胞死が起こり、その中の成分が血管内皮のTLR2、TLR4、TLR9を刺激して炎症を起こすためである。

TLRなどのパターン認識受容体が内在性リガンドを認識して起こす自然炎症が、炎症性疾患に関係している可能性が高まっている。 

TLR[Toll-like receptor:病原体を感知して自然免疫を活性化するセンサー]などが認識する内在性リガンドの例
TLR[Toll-like receptor:病原体を感知して自然免疫を活性化するセンサー]などが認識する内在性リガンドの例

画像出展:「新しい免疫入門」

内在性リガンド”は右端です。これを見ると、TLR3というパターン認識受容体の対象はウィルスであり、その内在性リガンドはメッセンジャーRNA(mRNA )であることが分かります。もしかしたら、これは新型コロナウィルスのメカニズムと何か関係しているのでしょうか??

炎症を抑える2型マクロファージ

マクロファージは2種類ある。一つは1型と呼ばれ、異物を食べたり炎症を起こしたりするタイプで昔から知られていた。一方、2型は炎症を抑え、組織の修復をする。詳細な働きはまだよく分かっていないが、脂肪組織の状態維持に役立っていると考えられている。

2型マクロファージは、病原体をやっつけるという役割ではなく、体の中の色々な組織と交流して、それらの機能を維持しているとみられている。

・2型マクロファージを欠くマウスでは、脂肪から遊離脂肪酸がどんどん外へ出ていまい、血中のコレステロールや中性脂肪の濃度が上がった。このマウスに脂肪食を食べさせると、ほとんどのマウスに糖尿病の症状が見られた。

・正常マウスと肥満マウスの比較実験では、正常マウスの脂肪組織では2型マクロファージが多数を占めているのに対し、肥満マウスの脂肪組織では1型マクロファージが多数を占めていた。なぜ、肥満マウスで2型の代わりに1型が多数になるかは分かっていない。飽和脂肪酸により1型が誘導され、不飽和脂肪酸では誘導されないという報告はあるが、詳細は不明である。そもそも2型マクロファージがどうやって作られるのか、1型と2型は行ったり来たりできるかなど、基本的なところが全く分かっていない。

・1型マクロファージは様々なサイトカインを放出して、インスリン抵抗性をもたらすため、糖尿病の準備状態を誘導することになる。発赤、発熱、腫脹、疼痛といった炎症の四徴候は見られないが、一種の炎症反応と考えられる。

「免疫と炎症」

・『内在性リガンドが見つかり、自然炎症のしくみが明らかになってくると、免疫学は従来の枠のなかにおさまらなくなってきた。20世紀までは獲得免疫が免疫学の中心であり、21世紀になると獲得免疫にくわえて自然免疫も重要視されるようになった。そして、いま、免疫と炎症が大きな学問分野を形成しようとしている。

免疫と炎症
免疫と炎症

画像出展:「新しい免疫入門」

こちら再登場の図です。

いまや免疫と炎症の関係は図10-5のようにまとめることができる。TLRなどのパターン認識受容体は、病原体も内在性リガンドも認識し、自然炎症もおこせば、獲得免疫も始動させる。そして、自然炎症が行きすぎると炎症性の疾患を引きおこし、獲得免疫に誤動作がおこると、自己免疫疾患を引きおこす。

従来は免疫と炎症の学会はそれぞれ独立して開催されたが、海外でおこなわれている最近の学会やシンポジウムでは、会の名称が「免疫と炎症」になっていることも多くなった。』

付記1:炎症とは

炎症反応は、体内で発生した、あるいは外部から体内に侵入した病原刺激を除去し、傷害を受けた組織を取り除く生体反応
炎症反応は、体内で発生した、あるいは外部から体内に侵入した病原刺激を除去し、傷害を受けた組織を取り除く生体反応

こちらの図は、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 病理学(免疫病理/第一病理さまより拝借しました。

炎症反応は、体内で発生した、あるいは外部から体内に侵入した病原刺激を除去し、傷害を受けた組織を取り除く生体反応です。とくに微生物侵入に対する最初の防御系として働いており、生命維持に必須の生体防御反応です。炎症反応がないと、私達は生きていけません。炎症反応は、効率的・戦略的な戦力配分のもと、様々な炎症メディエーターによりダイナミックに制御されています。』

付記2:「これは2型マクロファージも関与!?」

テロメア・エフェクト
テロメア・エフェクト

テロメアは遺伝情報を保護する役目を担っています。そのテロメアの配列を同定し、テロメアを伸長する酵素・テロメラーゼを発見した業績で、ブラックバーン先生は2009年に、ノーベル生理学・医学賞を受賞されました。この本はそのブラックバーン先生の著書です。本には以下のようなことも書かれています。

運動によって体の分子は損傷を受け、損傷した分子は炎症を引き起こす可能性がある。だが、運動を始めてまもなく、オートファジー[細胞内のタンパク質を分解するための仕組み、自食作用]という現象が起き、細胞はまるでパックマンのように、細胞内の損傷した分子を食べてしまう。これにより、炎症を防ぐことができる。

運動が細胞内部にもたらすメリット
運動が細胞内部にもたらすメリット

「これは何だろう?」というのが疑問だったのですが、これは今回学んだ、“2型マクロファージ”も関わっているのではないかと思います。

付記3:“腎疾患の進展に自然炎症が果たす役割に着目した新規治療の開発”

当院は慢性腎臓病でご来院頂いている患者さまが多いのですが、今回、腎疾患と自然炎症に関する論文を見つけましたのでご紹介させて頂きます。資料はPDF4枚です(クリック)。ここに出てくる内在性リガンド(内因性リガンド)は既出の図10-5の中では”虚血”が特に重要ではなかと思います。それは腎臓が極めて多くの酸素を必要とする臓器であるためです。

『慢性腎臓病(CKD)は本邦において 1,300万人を超え、CKDから透析へ移行する患者数は年間 38,000人前後を推移しており、生活の質および医療経済などといった面で多大な影響を及ぼしている。その克服は大きな課題であり、RAS阻害を主体とする適切な降圧療法や生活指導などに加えて新しい観点からの治療法開発が望まれている。内因性リガンドと病原体センサー間の相互作用による慢性炎症(自然炎症)は生活習慣病やガンなど現代病の発症に重要であることが明らかされつつある中で、腎臓における役割は不明であった。最近我々は自然炎症に重要な役割を果たす toll-like receptor 4(TLR4)が糖尿病性腎症の進展に重要であることを明らかにし、TLR4の強力な内因性リガンドの一つである myeloid-relatedprotein 8(MRP8)がその病態に重要な可能性を報告した。』

『糸球体腎炎は本邦における透析導入原疾患として糖尿病性腎症に続く第 2位を占める疾患である。中でも半月体形成性腎炎は腎予後のみならず生命予後も脅かされる予後不良疾患であり、特に高齢者での発症が多いことで知られている。現在ステロイド、免疫抑制剤が治療の主体となっているが、感染合併による死亡例が後を絶たず、治療を断念せざるを得ないケースも多く認められる。内因性リガンドを治療標的とする新しい治療ストラテジーは新規創薬につながる可能性が期待される。今回急性期の観察で MRP8欠損による腎症軽減効果が確認された。今後長期的モデルあるいは観察により、慢性化に及ぼす影響を検討する必要がある。

降圧薬2

著者:石川太朗
降圧薬の真実

著者:石川太朗

発行:幻冬舎

出版:2016年7月

目次は”降圧薬1”を参照ください。

第3章 有酸素運動、健康体操、ヨガ…… 血圧数値を劇的に改善する「運動法」

一 有酸素運動の血圧改善効果

●有酸素運動は薬以上の効果を示す!

血圧の状態ごとの有酸素運動による血圧低下量
血圧の状態ごとの有酸素運動による血圧低下量

図3-1 血圧状態ごとの有酸素運動による血圧低下量

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・正常血圧の人に比べ、高血圧および高血圧前症の人は有酸素運動による効果は大きい(収縮血圧:マイナス8.3mmHg/拡張期血圧:マイナス5.2mmHg)。[“平均”は“正常血圧”の人も含めた数値です]

●血圧を下げるポイントは運動の「強度」

運動強度と血圧の関係
運動強度と血圧の関係

表3-1 運動強度と血圧の関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・表を見ると、低強度の運動では血圧を下げるのは難しく、中強度または高強度の運動でないと効果は期待できない。

高強度の運動は高血圧の人にとってリスクが高いので行ってはいけない。

1.参考となる論文:1993年発行の「Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology」誌に掲載された“Crossover comparison between the depressor effects of low and high work-rate exercise in mild hypertension

強度別の有酸素運動中の血圧変動
強度別の有酸素運動中の血圧変動

図3-2 強度別の有酸素運動中の血圧変動

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・日本で行われた研究で、高強度の有酸素運動のリスクを示している。

・黒丸が高強度、白丸が中強度の運動である。高強度の有酸素運動を行うと、安静時の収縮血圧(150mmHg弱)が一気に50mmHgも上がってしまい危険である。一方、中強度の場合の上昇は10mmHg程度と上昇は少ない。

高血圧の人は有酸素運動を中強度で行うことが望ましい。中強度の運動とは余剰心拍数の40~60%で行う運動である。

40歳、脈拍70の人の余剰心拍数:114~136

①220-年齢(この数値は最大心拍数の推定値)…220-40=180

②最大心拍数(180)-脈拍(70)=予備心拍数(110)

③運動強度40%の心拍数は、脈拍に予備心拍数の40%を足したもの…70+110×0.4=114

④運動強度60%の心拍数は、脈拍に予備心拍数の60%を足したもの…70+110×0.6=136

表によると、50歳、心拍数(脈拍)70の人の“適切な心拍数”は、110~130である。

有酸素運動と適切な心拍数
有酸素運動と適切な心拍数

表3-2 適切な心拍数(20~65歳)

画像出展:「降圧薬の真実」

 

●週30分の運動は、「日本一の薬」を超える!

・週150分未満の運動と血圧改善効果についての研究

1.参考となる論文:2003年発行の「American Journal of Hypertension」誌に掲載された“How much exercise is required to reduce blood pressure in essential hypertensives: a dose-response study

運動時間と血圧の変化の関係
運動時間と血圧の変化の関係

図3-3 運動時間と血圧の変化の関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・日本人を対象とした研究である。

週30~60分の運動でも、収縮期血圧:マイナス7mmHg/拡張期血圧:マイナス6mmHg程度の効果が期待できる。※左から2番目の棒グラフ

・この論文には運動の仕方にも言及されており、それによると、運動を週1回まとめて行っても、週5回以上に小分けに行っても効果は特に変わらないということである。[ただし、運動強度は中強度(余剰心拍数40~60%)が前提となる]

●ウェイトトレーニングと血圧の関係

・『ウェイトトレーニングが筋力や筋肉量の向上に役立つことは、広く知られています。ダイエットにも有効であり、最近流行となっています。なお、私はボディビルの大会出場のために27㎏の減量に成功しましたが、その際、運動はウェイトトレーニングしか行いませんでした。

また、ウェイトトレーニングが肩こり、腰痛、膝の痛みにも効果的であることも有名だと思います。事実、私のわずか10分ほどの説明で、「明らかに良くなった」、「痛み止めの注射がいらなくなった」、「月1万円もかかっていた病院、薬代が1か月で0円になった」と驚くべき効果をあげた患者さんがたくさんいます。これは私の腕が特別に良いというのではなく(それなりに研究はしてきましたが)、適切なウェイトトレーニングを行えば薬以上の効果が出るという科学的事実がそのまま表れたに過ぎません。

他にも、血糖値の改善、骨密度の改善、様々な疾患に対するリハビリテーションの一環として役立つことも示されています。

このように健康に役立つウェイトトレーニングですが、実は血圧にも効果的なのです!実際、海外の高血圧に関する医学専門誌ではウェイトトレーニングを高血圧の人に役立つエクササイズとして紹介しています。

ウェイトトレーニングによる血圧の変化
ウェイトトレーニングによる血圧の変化

表3-5 ウェイトトレーニングによる血圧の変化

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・このデータから低強度の場合、収縮期血圧:マイナス5.8mmHg/拡張期血圧:マイナス4.7mmHgの効果が期待できる。

・低強度のウェイトトレーニングとは、ギリギリ挙げられる最大重量の30~40%とされているが、危険を冒して最大重量を計測する必要はない。1セット20回以上、余裕をもって反復できる重量であれば、40%を超えることはないので安全にウェイトトレーニングができる。頻度は週2、3回。なお、20回以上できる負荷であっても、決して頑張るようなことがあってはならない。また、トレーニング中は呼吸を止めてはいけない。息を止めると急に血圧が上がり危険である。

三 血圧改善効果のあるその他の運動

●とてもお手軽な握力運動

・健康番組にも紹介された有名な方法である。

1.参考となる論文:2010年発行の「Journal of Hypertension」誌に掲載された“Isometric handgrip exercise and resting blood pressure: a meta-analysis of randomized controlled trials

握力を鍛えるだけの運動であるが、その効果は驚くべきものである。収縮期血圧:マイナス13.4mmHg/拡張期血圧:マイナス7.8mmHg程度の効果が期待できる。

・実験期間は8~10週間であり、効果は3か月以内に出ている。

・方法

①最大筋力の30~40%程度の軽いグリッパー(握力を鍛える器具)を2分間握る。

②1~3分間休む。

③ ①②を4回繰り返す。

④ ①②③を週3回行う。3日連続より、月・水・金のように1日空けた方が効果は出やすい。

1.参考となる論文:2015年発行の医学雑誌「Lancet」誌に掲載された“Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology(PURE) study

握力は健康を測る指標として非常に重要であることが示されている。

・驚くべきことに血圧よりも重要であるとされている。

・『樹上生活を行ってきた私たちのご先祖の中で、握力のない者は木にうまく上ることができず、肉食獣に食べられてしまったことが予想されます。そして現代においても握力のない者は健康を失うリスクが高いことが示されてしまいました。握力の重要性は霊長類にとって不変の法則なのかもしれません。』 

●動かずにできるアイソメトリック運動で血圧が改善する!?

・力を入れて握り続ける握力運動はアイソメトリック運動(等尺性運動)というが、握力に限らずアイソメトリック運動で血圧を下げることができる。

1.参考となる論文:2015年発行の医学雑誌「Mayo Clinic Proceedings」誌に掲載された“Isometric exercise training for blood pressure management: a systematic review and meta-analysis

研究によると、収縮期血圧:マイナス6.77mmHg/拡張期血圧:マイナス3.96mmHgの効果があったとされている。

アイソメトリック運動
アイソメトリック運動

アイソメトリック運動

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

第5章 ケース別に学ぶ「運動」と「食事」の最適な組み合わせ方

四 医師とともに薬を減らすには

●降圧薬の減量、中止に向けて目標値を決める

・これまでの内容から「血圧とリスク」「降圧薬の効果」から、目標となる数値の目安をまとめた。

血圧とリスク・降圧薬の効果からみた目標数値
血圧とリスク・降圧薬の効果からみた目標数値

表5-6 血圧とリスク・降圧薬の効果からみた目標数値

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・『この数値を一つの根拠として、降圧薬の減量、中止を医師に申し出るタイミングを見計らってください。なお、「中止」とは「通常量の降圧薬を1種類やめる」という意味です。』

・『ただし、75歳以上の方は、収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満 で健康リスクが高くなる恐れがあるので、もしこの数値になったなら、即座に薬の減量、中止を申し出てください。今飲んでいる量の降圧薬は、お金の無駄だけではすまない恐れがあるのです。』

●医師にどのように切り出すか?

生活習慣を改め、血圧が十分に下がりました。毎日血圧を測り、家での血圧も安定しています。それでは私たちからどのように薬の減量、中止を医師に切り出せば良いのでしょうか?

ここはやはり正々堂々と、「自分なりに勉強して生活習慣の改善に取り組んできました。以前に比べ、血圧はかなり下がったと思います。薬を一度減らしてみてもらえませんでしょうか? 数値が悪化するならまた戻してくれて構いませんので」と発言しましょう。

このように生活習慣改善に積極的である姿勢をとれば医師も減らしやすくなるはずです。減らしたことにより血圧に問題が出るならば戻しても良いということを話し、医師が薬を減らしやすくするように持ち込むわけです。この表現なら医師と衝突する心配もなく切り出すことができるはずです。

金銭負担が気になることも併せて盛り込んでも良いでしょう。ほとんどの医師は金銭負担を考慮する人格を持っています。金銭負担が減れば助かるのはあなたの財布だけではありません。国全体の財政が助かるのです。

もちろん、ふらつき、めまい、脱力感がある。拡張期血圧70mmHg未満であるなど健康に悪影響を及ぼす恐れがあるならば即座に減量を申し出るべきです!

医師に申し出るのは勇気が必要かもしれません。しかし、ほとんどの医師もわかっています。必要以上に血圧を下げる必要がないことを。薬の効果は実はそれほど大きなものではないことを。そして、最初は高かった血圧がしっかりと改善しているのは薬のおかげではなく、あなたの努力の成果であることを……。きっと良い返事が返ってくると思います。

降圧薬1

著者:石川太朗
降圧薬の真実

著者:石川太朗

発行:幻冬舎

出版:2016年7月

慢性腎不全で高血圧の薬を飲んでいる患者さまの担当医が代わり、高血圧の薬がすべて替わるということがありました。

なお、当院では患者さまの血圧と脈拍を測定していますが(手首で測る血圧計で、ベッドに仰向けになった状態で測るため座位に比べ低めに出ると思います)、この患者さまの血圧は収縮期血圧130前後、拡張期血圧65前後であり、個人的には降圧薬でうまくコントロールされているという印象を持っていました。そのため、何故、薬を替えられたのか不思議に思いました。

下記は処方されていた降圧薬の前と後です。

■前

・ニフェジピン(Ca拮抗薬)

・シルニジピン(Ca拮抗薬)

・アムロジピン(Ca拮抗薬)

・アイミクス(長時間作用型ARB/持続性Ca拮抗薬配合剤) 

 ※アイミクスは、イルベサルタンとアムロジピンの配合剤

・ルプラック(ループ利尿薬)

■後

・アムロジピン(Ca拮抗薬)

・イルアミクス(長時間作用型ARB/持続性Ca拮抗薬配合剤) 

 ※イルアミクスはアイミクスのジェネリック薬剤

・イルベサルタン(長時間作用型ARB)

・トリクロルメチアジド(チアジド系降圧利尿剤)

・フロセミド(ループ利尿薬)

この中で非常に気になったのは、“イルベサルタン”という薬です。

ネットで調べたのは、KEGGというサイトです。このサイトに頼ったのは、①検索上位のサイトであったこと。②母体が信頼できると思ったこと。③非常に詳しく説明されていたこと。 の3点です。 

KEGG: Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes

『KEGG は分子レベルの情報から細胞、個体、エコシステムといった高次生命システムレベルの機能や有用性を理解するためのリソースです。とくにゲノムをはじめとしたハイスループットデータの生物学的意味解釈に広く利用されています。また KEGG MEDICUS では医薬品添付文書など社会的ニーズの高いデータとの統合も行われています。

そして、“イルベサルタン”に書かれていた中で特に気になった部分は次の内容です。

KEGGのページ(左をクリックしてください)

●『両側性腎動脈狭窄のある患者又は片腎で腎動脈狭窄のある患者においては、イルベサルタンによる腎血流量の減少や糸球体ろ過圧の低下により急速に腎機能を悪化させるおそれがあるので、治療上やむを得ないと判断される場合を除き、使用は避けること。

●『高カリウム血症の患者においては、イルベサルタンにより高カリウム血症を増悪させるおそれがあるので、治療上やむを得ないと判断される場合を除き、使用は避けること。また、腎機能障害、コントロール不良の糖尿病等により血清カリウム値が高くなりやすい患者では、高カリウム血症が発現するおそれがあるので、血清カリウム値に注意すること。』

特に注目したのは『片腎で腎動脈狭窄のある患者』という点です。これは、この患者さまは片腎のため、万一、腎動脈狭窄があるとすれば、『治療上やむを得ないと判断される場合を除き、使用は避けること』に該当することになります。

ご参考1:こちらの”倉敷中央病院 心臓病センター 循環器内科”さまのサイトに、腎動脈狭窄の原因と結果などが詳しく紹介されていました。 

腎動脈狭窄症の原因とその結果
腎動脈狭窄症の原因とその結果

腎動脈狭窄症の原因とその結果

『腎動脈の狭窄の頻度は、軽症なものも含めると意外に多く、高齢者をランダムに血管エコーでスクリーニングすると6%前後に狭窄を持つ人がいるといわれています。55歳以上の亡くなった方を解剖した研究では、15%に腎動脈に狭窄があったと報告されています。

腎動脈が細くなる原因として、その90%以上は加齢に伴う動脈硬化です。残りの10%弱は比較的若年者に見られる、動脈硬化によらない腎動脈狭窄症で、細くなった場所の顕微鏡による観察から、線維筋性異形成症と呼ばれています。』

ご参考2イルベサルタンなどのARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)には腎保護作用があるとされています。こちらの”大森病院 腎センター”さまのサイトに、腎保護作用についての説明がされています。イルベサルタンは腎保護作用があるという点から中長期的には腎臓にとっても良い薬のようです。

ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)には腎保護作用
ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)には腎保護作用

『糸球体にかかる圧力のことを「糸球体内圧」と呼びます。降圧薬の中にこの糸球体内圧をさげる薬があります。「アンギオテンシン変換酵素阻害薬:ACE‐I」や「アンギオテンシン受容体拮抗薬:ARB」といわれる薬は全身の血圧を下げる働きとともに糸球体内圧を特別にさげる働きがあります。

糸球体内圧が低下するのでろ過される血液が減ることがあり、腎臓の働きとしては低下してしまうこともあります。しかし中長期的にみて腎臓への負担を減らすことになり、結果として腎臓を長持ちさせることができます。

現在ではデータの蓄積により、腎臓病をもつ高血圧患者さんへの第1選択薬として積極的に使用されるようになりました。』

長い前置きになってしまいましたが、今回、高血圧の薬(降圧薬)について詳しく知りたいと思った経緯は、上記のようなことがあったためです。

そして、購入した本は、薬剤師であり、ご自身が薬に頼らず血圧を下げられた経験をお持ちの石川太朗先生が書かれた『降圧薬の真実』でした。

ブログは、最初に“あとがき”の一部をご紹介しています。これは、石川先生がこの本を書かれた理由を知ることができるためです。次いで目次をすべて書き出していますが、その中の黒字がブログで取り上げた項目です。

あとがき

『高血圧はいわば国民病ともいえる病であり、血圧を下げる方法として、薬、食事、サプリメントに関するたくさんの情報があります。

その一方で、「降圧薬は一生飲み続けなければならないのか」という疑問に対しては具体的な答えを見つけるのが難しいのが実情です。事実、私は大型書店の専門書コーナー、母校の京都大学附属図書館をはじめ、東京大学附属図書館、慶応義塾大学信濃町メディアセンターなどのいろいろなところで資料を探してみましたが、満足のいく答えを示した本を見つけることができませんでした。

私は薬剤師なので、しばしばこの、「降圧薬は一生飲まなければならないのか」という質問を受けてきました。自身の体験から、生活習慣を改善すれば降圧薬を飲まないですむことは理解していましたが、それに対して具体的な説明ができない状態でした。これは薬のスペシャリストとしていかがなものかと思い、調べようとしたのが本書の執筆を始めたきっかけです。』

目次

はじめに

第1章 疑惑だらけの「降圧薬」治療

一 血圧の薬は死ぬまでやめられない?

●氾濫する情報に踊らされる高血圧患者たち

●医師自身も騙されている?

●半分以上の人はやめられる!科学的に証明されている!

●まとめ

二 そもそも「高血圧」とは何か?

●高血圧の分類

●なぜ血圧が高いといけないのか

●自分の「最適数値」を目指そう

●下げれば下げるほど良いのか?

●下げすぎの危険性とは?

●「薬で下げる」は危険?

●降圧薬を飲んでも、脳卒中のリスクは高いままである。

●まとめ

三 製薬企業と降圧薬の知られざる関係

●降圧薬は製薬企業のドル箱市場

●一つの薬が1000億円以上売れる!

●世界一の企業の論文不正事件

●日本一の企業も不誠実

●まとめ

四 降圧薬の効果を知る

●降圧薬によって、数値はどれだけ下がるのか?

●「日本一の薬」の効果とは?

●平均値はわずか「マイナス5.5~マイナス9.1mmHg」!

●まとめ

五 トクホの効果を知る

●トリペプチド 薬以上の効果があるように見えるが……

●トクホの効果は塩1g!?

●トクホで血圧の数値を改善できるのか

●まとめ

第2章 降圧薬に頼らずとも、血圧を下げる方法はないのか

一 薬の減量、中止は可能なのか

●医師はなぜ処方しつづけるのか

●第一段階は「薬の減量」

●「家で血圧を測る」メリットとは

●まとめ

二 生活習慣が変われば血圧は下がる

●『高血圧治療ガイドライン2014』によると……

三 減量のすすめ

●体重90㎏、BMI35の大学1年生

●適正体重を維持すれば、降圧薬はやめられる

●まとめ

第3章 有酸素運動、健康体操、ヨガ…… 血圧数値を劇的に改善する「運動法」

一 有酸素運動の血圧改善効果

●有酸素運動は薬以上の効果を示す!

●血圧を下げるポイントは運動の「強度」

●週30分の運動は、「日本一の薬」を超える!

●血圧が高い人ほど効果的

●温水プールのエクササイズで平均35mmHg以上の改善!?

●まとめ

二 ウェイトトレーニングは高血圧の人にも役立つ

●ウェイトトレーニングと血圧の関係

●実践 初心者向けエクササイズ

●まとめ

三 血圧改善効果のあるその他の運動

●とてもお手軽な握力運動

●動かずにできるアイソメトリック運動で血圧が改善する!?

●健康体操の驚くべき効果!

●気軽にできるヨガ

●マッサージを受けるだけで血圧は下がる!

●まとめ

第4章 正しい「食事法」と「生活習慣」で「適正血圧」の基盤を固める

一 食事でどれだけ血圧が下がるのか?

●減塩効果を正しく理解する

●「お酒はほどほど」 が鉄則

●血圧を下げる成分がある!

●血圧を下げる「DASH」食とは

●カリウムの効果

●マグネシウムの効果

●カルシウムの効果

●食物繊維の効果

●DASH食の真の血圧改善効果!

●魚の油を摂取すると……

●その他の安価で有用な成分

●ビタミンCが効くのは美容面だけではない!

●乳酸菌は血圧も下げる

●トマトの驚くべき効果

●トクホを超える緑茶の力!

●まとめ

二 血圧に悪しき四つの習慣

●「痛み止め」は血圧を上げる

●炭水化物と清涼飲料水は要注意!

●たばこは「百害あって一利なし」

●「漢方薬だから大丈夫」の落とし穴

●まとめ

三 モデルケース

●30代男性

●20代男性

●40代女性

第5章 ケース別に学ぶ「運動」と「食事」の最適な組み合わせ方

一 「時間はあるけどお金はない人」編

●運動/食事

二 「お金はあるけど時間はない人」編

●運動/食事

三 「お金も時間もない人」編

●運動/食事

四 医師とともに薬を減らすには

●降圧薬の減量、中止に向けて目標値を決める

●医師にどのように切り出すか?

あとがき

第1章 疑惑だらけの「降圧薬」治療

一 血圧の薬は死ぬまでやめられない?

●半分以上の人はやめられる!科学的に証明されている!

・降圧薬をやめた後、再び必要になるかどうかを研究した論文が存在する。

1.「高血圧治療ガイド2014」(日本高血圧学会):この治療ガイドによると『軽度高血圧、若年者、塩分摂取制限を行っている人、適正体重の維持ができている人、他に特に合併症のない方などがやめられる可能性が高い』と示されている。

2.2001年発行の「American Journal of Hypertension」誌に掲載された“A systematic review of predictors of maintenance of normotension after withdrawal of antihypertensive drugs”という論文がある。研究内容は次の通りである

・降圧薬服用中であるが、正常血圧で安定している患者を対象にしている。

・医師の判断のもとに服用を中止し、その後、降圧薬が再び必要になるかどうかについて調べている。

降圧薬中止後の生活習慣改善別の成功率
降圧薬中止後の生活習慣改善別の成功率

表1-1 降圧薬中止後の生活習慣改善別の成功率

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・この表は薬の服用中止後に「生活習慣を改善したかどうか」、「薬の再処方が必要だったか」を示している。

・表右端の[成功率]とは、その生活習慣改善の有無における薬が不要になった人の割合を表している。

・このデータによると、体重の減量や減塩などの努力により半分以上の人は降圧薬が不要になった。

・年齢と成功率に関係は見られなかった。

●下げすぎの危険性とは?

血圧が下がりすぎると脳梗塞を起こすリスクが高まる。特に高齢者ではそのリスクが高い。

1.参考となる論文:2011年発行の「Geriatrics & Gerontology International」誌に掲載された“Practitioner’s trial on the efficacy of antihypertensive treatment in elderly patients with hypertension Ⅱ(PATE-hypertension Ⅱ study) in Japan

・日本で行われた試験。

カンデサルタン服用において、正常血圧の人のリスクを1とすると、75歳以上の心血管疾患発症リスクは、収取期血圧120mmHg未満は3.40、160mmHg以上は2.90であった。つまり、高い血圧より、低い血圧の方が危険であるという驚くべき結果であった。

・『この論文は、医療系の大学には必ずといっても良いほど置いている著名な医学雑誌「医学のあゆみ」(医歯薬出版)でも紹介された論文であり、医師たちの多くは下げすぎの危険性を理解しているはずなのです。』

拡張期血圧が低すぎるのは収縮期血圧以上に恐ろしく、心臓発作や脳卒中のリスクになることが多くの論文で指摘されている。

2.参考となる論文:2013年発行の「International Journal of Hypertension」誌に掲載された“Low Diastolic Blood Pressure as a Risk for All-Cause Mortality in VA Patients” 

拡張期血圧と死亡リスクの関係
拡張期血圧と死亡リスクの関係

図1-2 拡張期血圧と死亡リスクの関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・45歳以上の病院患者のデータ(実線が死亡率)

・拡張期血圧が75mmHgから低くなるほど死亡リスクが高くなる。

・『低い拡張期血圧は衰弱や動脈硬化の結果でもあります。病院に行かなくても良いような健康な人には当てはまらないかもしれません。しかし、血圧の薬を使っている人にとっては当てはまる恐れが高いのです。

3.参考となる論文:2015年発行の「Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry」誌に掲載された“Meta-analysis of modifiable risk factors for Alzheimer’s disease” 

アルツハイマー型認知症のリスクファクター
アルツハイマー型認知症のリスクファクター

図1-3 アルツハイマー型認知症のリスクファクター

画像出展:「降圧薬の真実」

 

拡張期血圧が低すぎることは認知症の大きなリスクファクターである。

・この論文は5000人以上と参加者が多く、グレードⅠと研究の質も高い。

拡張期血圧70mmHg未満[左から2番目の棒グラフ]の人の発症リスクは1.87倍で重度の喫煙(1.96倍)についで、第2位となっており、収縮期血圧160mmHg以上[右から2番目の棒グラフ]の発症リスクより顕著に高い。

4.参考となる論文:2012年発行の「Archives of internal medicine」誌に掲載された“Rethinking the association of high blood pressure with mortality in elderly adult:the impact of frailty”

・降圧薬の害について書かれた論文である。

・通常の歩行ができる人は収縮期が低いほど死亡率が低いが、歩行速度が遅い人の場合は血圧と死亡率に関連は見られない。

・歩行困難な人では血圧を下げると死亡率が高くなり、薬を飲んでいる人ではより顕著になる。

●降圧薬を飲んでも、脳卒中のリスクは高いままである。

・この考え方を指示した論文が、日本人を対象とした大規模な研究で明らかになっている。

1.参考となる論文:2009年発行の「Journal of Hypertension」誌に掲載された“Stroke risk and antihypertensive drug treatment in the general population: the Japan arteriosclerosis longitudinal study

・この研究は、11,371人の日本人を対象として東北大学大学院によって行われた。

・追跡期間は9.5年、40~89歳の人を対象として脳卒中のリスクを調べた。

血圧レベルと脳卒中発症リスクの関係
血圧レベルと脳卒中発症リスクの関係

図1-5 血圧レベルと脳卒中発症リスクの関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

このグラフは、薬の使用の有無を考慮に入れていないデータである。

・左端(下部)の【至適血圧】の脳卒中発症リスクを1とした場合のリスクが黒の■になる。

※【至適血圧】:収縮期血圧120未満/拡張期血圧80未満。

※【正常血圧】:収縮期血圧120~129/拡張期血圧80~84。

※【正常高血圧】:収縮期血圧130~139/拡張期血圧85~89。

※【Ⅰ度高血圧】:収縮期血圧140~159/拡張期血圧90~99。

※【Ⅱ度高血圧】:収縮期血圧160~179/拡張期血圧100~109。

※【Ⅲ度高血圧】:収縮期血圧180以上/拡張期血圧110以上。

・この薬の使用を考慮に入れていないグラフでは、血圧を下げるほど脳卒中のリスクは下がる。

降圧薬の使用と血圧レベルと脳卒中リスクの関係
降圧薬の使用と血圧レベルと脳卒中リスクの関係

図1-6 降圧薬の使用と血圧レベルと脳卒中発症リスクの関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

このグラフは、薬の使用の有無で分けたデータである。

・左の図は降圧薬不使用の場合で、血圧が高いほど脳卒中のリスクは高まる。

・右の図は降圧薬使用の場合で、血圧と脳卒中のリスクに相関関係は統計学的にも認められない。特に注目すべきは、薬を服用し、血圧が【至適血圧】になっている場合、脳卒中の発症リスクが4.1倍と激増している点である。

「血圧は低ければ低いほど健康に良い」という主張は、降圧薬を服用している人には当てはまらない。

降圧薬の使用、性別、血圧レベル別の脳卒中リスク
降圧薬の使用、性別、血圧レベル別の脳卒中リスク

表1-5 降圧薬の使用、性別、血圧レベル別の脳卒中リスク

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・この表が具体的な数値で見たリスク比である。

・男女に関係なく、薬を服用していると脳卒中のリスクは高まる。

・特に男性では、薬で【正常血圧】、【正常高血圧】に抑えても、6.69~15.30倍ととんでもなく高い。

・脳卒中の発症リスクだけを考えると、「【Ⅲ度高血圧】でもない限り、降圧薬を使うのは意味がない」という主張までできてしまう。

・このデータは年齢、過体重、喫煙、飲酒、糖尿病、コレステロール値、脂質異常症治療薬使用の有無で調整されているものなので精度は高い。

・合併症がある場合、降圧薬に血圧を下げる以外の効果を期待していることがあるため、減薬や中止は難しい可能性がある。(いずれにしても、降圧薬の減薬や中止は医師の判断が必須である)

四 降圧薬の効果を知る

●「日本一の薬」の効果とは?

最初に、第1章 疑惑だらけの「降圧薬」治療 一つの薬が1000億円以上売れる から、降圧薬の売上ランキングをご紹介します。なお、降圧薬はベスト100の中に、1位の「ディオバン」をはじめ、計11種類の薬がランクインしており、降圧薬がいかに大きな市場となっていることが分かります。

降圧薬の売上ランキング
降圧薬の売上ランキング

表1-8 降圧薬の売上ランキング

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・日本で最もよく使われている降圧薬はカルシウム拮抗薬(CCB)であり、次はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)である。

・CCB(代表的なCCBはアムロジン[成分名:アムロジピン])とARB(代表的なARBはディオバン[成分名:バルサルタン])を比較したデータは次の通り。血圧の状態や個人差による違いはあるが、十分に参考になる。

エックスフォージ配合剤の血圧降下作用
エックスフォージ配合剤の血圧降下作用

表1-10 エックスフォージ配合剤の血圧降下作用

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・CCB[アムロジピン]の方がARB[バルサルタン]より降圧効果は高い。

・バルサルタン単体(⑦⑧)は薬の量を半減させてもほとんど変わらない。収縮期血圧:ー5.1⇒ー4.9、拡張期血圧:ー3.9⇒ー3.6。

●平均値はわずか「マイナス5.5~マイナス9.1mmHg」!

1.参考となる論文:2003年発行の「British Medical Journal」誌に掲載された“Value of low dose combination treatment with blood pressure lowering drugs: analysis of 354 randomised trials” 

・対象となった患者数は、のべ56,000人、これほど大規模で信頼性の高い論文はない。

降圧薬と血圧降下量の関係
降圧薬と血圧降下量の関係

表1-12 降圧薬と血圧降下量の関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・降圧薬を通常量用いるとその種類を問わず、血圧に対する効果は、①収縮期血圧:マイナス9mmHg ②拡張期血圧:マイナス5mmHg 程度である。

薬の量を半分あるいは倍増しても平均すると、①収縮期血圧:1.9mmHg ②拡張期血圧:1mmHg 程度しか変わらない。さらに、半減(通常量の4分の1)させても同様に大きくは変わらない。これは、薬を減らすことが難しくないという理由でもある。

『個人差もありますし、急に中止すると血圧が急に変動する薬もそんざいするので、薬の量の調節を自己判断で行ってはいけません。』

たんぱく質と糖質の制限

今回のブログは北里大学研究所病院腎臓内科・内分泌代謝内科の部長と糖尿病センターのセンター長を兼任されている山田悟先生が”MedicalTribune”に寄稿された“蛋白質制限食は有効かもしれないが命がけ?!/揺れ動くガイドラインの推奨という2019年11月の記事がきっかけです。このメディカルトリビューン社さまの記事を読むには、会員登録が必要なためご紹介できないのですが、2013年に米国糖尿病学会(ADA)が栄養勧告を改訂した折(ADA2013)、いくつか受けた衝撃の1つが、蛋白質制限食の意義を否定したことであった。という内容に目が点になってしまい、調べてブログにアップしたいと考えました。

「メディカルトリビューン社は、医学新聞『Medical Tribune』を1968年に創刊して以来、メディアカンパニーとして国内外の最新医学・医療情報を提供してまいりました。」とのことです。

そこで、山田先生の著書の中から“たんぱく質”のことが書かれている、『カロリー制限の大罪』という本を見つけ、拝読させていただくことにしました。

著者:山田悟

出版:幻冬舎

発行:2017年6月

山田先生はロカボ(ローカーボハイドレート)という“緩やかな糖質制限”による食事法を推奨されています。“ロカボ”に関しては、以下のホームページをご覧ください。

「おいしく楽しく適正糖質」それがロカボです。

糖質は三大栄養素の「炭水化物」に含まれていて、血糖値を上げる原因になっています。適正な糖質摂取を心がけることで血糖上昇を抑えることができます。』

ブログは、最初に「おわりに」の中の冒頭と最後の部分をご紹介しています。これは、先生がロカボを推奨するようになった経緯と、読者に伝えたいとされるメッセージが出ているためです。

続いて、目次を書き出していますが、黒字がブログで取り上げた項目です。

おわりに

『「ヘルス・リテラシー」という言葉があります。リテラシーとは、ものを読み書きする力のことだそうで、ヘルス・リテラシーとなると、巷にあふれる健康情報の中から適切なものを取捨選択して、効果的に利用する個人の能力ということになるそうです。

ここ数年での栄養学の大転換は、実は医療従事者のヘルス・リテラシーに大いなる疑念をつきつけています。

私自身が10年前まで糖尿病の患者さんに強く推奨していたのが、カロリー制限であり、脂質制限でした。しかし、私が指導したカロリー制限で、ご自身の大切な喜寿のお祝いの会を台無しにしてしまった患者さんのお声を聴き、あるいは、私がおすすめした脂質制限食で、まったく高脂血症が改善できずに泣き出した患者さんのお顔を拝見するうちに、私自身、そうしたゴールデンスタンダードの食事法への疑念をいだくようになり、何が本当に適切な食事法なのかを追い求めるようになりました。 

『本書は、健康的な食事法に関心のある一般の方と、当たり前・言い伝えの栄養学ではなく、科学としての栄養学を学びたいと思っている医療従事者の方々が読んでくださることを願いながら執筆してきました。それが今回、一つ一つのデータに参考文献をつけた理由です。

一般の読者の皆様におかれては、ぜひ、「当たり前」に流されることなく、「正しい」と「当たり前」を区別していただきたいと思います。

そして、医療従事者の読者におかれては、私が師から教わった言葉をお伝えしようと思います。

「人間は未来永劫、真実をつかむことはできない。観察された事実をもとに真実を想像することしかできない。円錐を横から見れば三角形、上から見れば円形。それらは、いずれも事実だが、いずれも真実ではない

目次

第1章 カロリー制限の意義を考える

パート1 私自身のカロリー制限

・一日1600kcalを目指して

・カロリー計算を断念

・突然、気持ちが切れる

・カロリー制限は“理想的な餅”?

パート2 アンチエイジングに対するカロリー制限

・正反対の結論を出した2つの研究

・合同研究でも食い違った検証結果

・カロリー制限をして増えた病態とは

パート3 肥満に対するカロリー制限

・日本肥満学会のカロリー制限の基準

・“カロリー制限最良”論には科学的根拠がなかった

・カロリー制限は短期では有効だが……

パート4 糖尿病に対するカロリー制限

・すべての糖尿病患者にカロリー制限を推奨する日本

・日本人を対象にした研究はたった3件

・明らかな矛盾

・多くの日本人糖尿病患者は肥満ではない

・カロリー制限により糖尿病の種々の病態は改善されるか?

パート5 糖尿病治療のカロリー制限設定は妥当か?

・一日約2300kcalが標準と定められた

・「水を飲んでも太る」は本当?

・糖尿病治療のためのカロリー設定値を確認する

パート6 カロリー制限の安全性はどうか?

・カロリー制限の有効性を証明するはずだった研究の結果

・やる気のある被験者が次々脱落

・カロリー制限で減量できなかった少女ザル

・恐ろしい低栄養リスク

第2章 脂質制限の意義を考える

パート1 油を制限したら何に効くのか?

・脂質制限が有効だと思っていた私

・糖質制限に脂質制限を加えたがる人

パート2 高脂血症に対する脂質制限

・油を制限しても高脂血症予防はできなかった

・高悪玉コレステロール血症は食事や運動では改善しない

パート3 肥満症に対する脂質制限

・油を制限したら代謝が低下

・異なるホルモンの影響が想像される

パート4 糖尿病に対する脂質制限

・脂質は血糖上昇と負の相関だった

・食後血糖の上昇を抑える脂質+たんぱく質

パート5 脂質の質をどう考えるか?

・脂質摂取量の上限を撤廃したアメリカ

・脂肪酸の構造と分類

・日本人が動物性脂質を積極的に摂るべき理由

・健康を増進させる一価不飽和脂肪酸&オメガ3多価不飽和脂肪酸

・評価が分かれるオメガ6多価不飽和脂肪酸

・トランス脂肪酸は要注意

・認知症の予防効果が期待される中鎖脂肪酸

・油をたくさん食べるとどうなる?

第3章 三大栄養素比率を考える

パート1 カロリーを把握する難しさ

・正確なカロリー計算は可能か?

・カロリー計算は当てずっぽう

パート2 三大栄養比率はどのようにして決定されるのか?

・「正しい栄養バランス」の違和感

・PFCバランスはこうして決められた

・たんぱく質と油―撤廃された上限

パート3 カロリーや栄養素バランスは考えなくてもよい

・緩やかな糖質制限はカロリー制限にもなる

・現代人の運動量では消費しきれない糖質

第4章 ケトン体の意義を考える

パート1 ケトン体を出させる薬のものすごい効果

・SGLT2阻害薬

・死亡率が32%も減少

・ケトン体が臓器を元気にする?

・ケトン体仮説への反論

パート2 なぜ、ケトン体に負のイメージがあったのか

・ケトン体産生食と減量効果

・ケトン体と悪玉コレステロールの関係

・極端な食事制限が血管内皮機能を低下させる

・ケトアシドーシスと心臓死

・ケトン体と胎児の奇形の問題

パート3 結局ケトン体はいいのか悪いのか

・ケトン体についての結論

・てんかん治療のためのケトン体産生食

・サプリメントとオイル

・ロカボとケトン体

・ケトジェニックダイエットについて

第5章 ロカボの意義を考える

パート1 糖質過多で起こる肥満と糖尿病

・そもそも糖質とは

・なぜ太るのか?

・インスリン分泌能力

・恐ろしい高血糖

・糖尿病に根治療法はない

・老化と糖化

・AGEや酸化ストレスが起こすこと

パート2 ロカボという万能選手

・緩やかな糖質制限

・ロカボを実践するとこうなる

・とにかく「満腹」を目指せ

・脳のために甘いものを、は迷信

・カロリーのことはきっぱり忘れてよし

・ロカボでおなかいっぱいに

パート3 スポーツとロカボ

・アスリートの食事をどう考えるか

・カーボローディングで食後高血糖に

・ファットアダプテーションへの切り替えタイミング

・プロポーションが問われるスポーツと階級制スポーツ

・エネルギー利用可能性

・東京オリンピックに向けて

第6章 ロカボの普及で世界が変わる

パート1 ロカボの取り組み最新情報

・ロカボ先進都市・神戸

・行政も後押し

・東京が動き出した・大丸有の取り組み 三菱地所

・企業がぞくぞくと商品開発

・栄養成分表示の現状

・2015年の大転換

パート2 ロカボが目指す社会

・ロカボで社会はこう変わる

・医療費、社会保障費の大幅削減に

第7章 常識・非常識を考える

パート1 食品編

・果実

・異性化糖

・スムージー

・黒い食べ物

・白くない砂糖

・甘味料

・ビール

パート2 食べ方編

・グルテンフリー

・食べ順

・絶食

パート3 その他の問題編

・腸内フローラ

・たんぱく質の量

・たんぱく質の質

・サプリメント

・薬

・日本人と欧米人

パート4 油編

・基本的な油の働き

・役に立つ油

・基本的にすべての油がOK

・危険な油は

・さまざまな油に対する見解

最終章 栄養学「正しい」と「当たり前」

・科学的検証

・エビデンス

・おわりに

・参考文献

第3章 三大栄養素比率を考える

パート2 三大栄養比率はどのようにして決定されるのか?

・たんぱく質と油―撤廃された上限

2013年、アメリカ糖尿病学会は、「たんぱく質を制限しても、腎機能の保護にはつながらない」、「理想的な三大栄養素比率など存在しない」と断言している。そして、脂質についても、今のアメリカの食事摂取基準は「そもそも油の摂取量は、栄養学的な関心事項ではない」としている。

参考文献の記載をたどると、下記のサイトに行きつきます。なお、日本語訳は山田先生の寄稿、“蛋白質制限食は有効かもしれないが命がけ?!” の中に書かれていた内容を拝借しました。 

■For people with diabetes and diabetic kidney disease (either micro- or macroalbuminuria), reducing the amount of dietary protein below the usual intake is not recommended because it does not alter glycemic measures, cardiovascular risk measures, or the course of glomerular filtration rate (GFR) decline. (A)

腎症のある糖尿病患者が蛋白質摂取を一般人未満に制限することは推奨されない。なぜならば、それは血糖管理、心血管疾患リスク、糸球体濾過量(GFR)低下になんら変化を与えないからである。(A)

アメリカ糖尿病学会では内容を毎年見直しているとのことです。そこで、色々と探していると、またまた新たな記事を見つけました。こちらは2019年のお話です。

第12回 米国糖尿病学会の2019年版診療ガイドライン速報 糖尿病・代謝 能登 洋(聖路加国際病院)” こちらの記事もm3という会員登録が必要なサイトの記事のため、ご紹介することはできないのですが、元々はアメリカ糖尿病学会のものなので、そちらをお伝えします。

『m3.com 〔エムスリー〕 は、29万人以上の医師が登録する日本最大級の医療従事者専用サイトです。』とのことです。

■For people with nondialysis-dependent CKD, dietary protein intake should be approximately 0.8 g/kg body weight per day (the recommended daily allowance). For patients on dialysis, higher levels of dietary protein intake should be considered. B 

透析していないCKDの患者さまの場合、食事によって1日あたり約0.8 g / kg体重(60㎏の人は1日48g)のたんぱく質摂取が推奨されています。一方、透析中の患者さまの場合は、食事によって高レベルのたんぱく質摂取を考慮する必要があります。B [意訳しています]

国内ではたんぱく質摂取はどんな状況なのだろうかと思い、調べてみたところとてもユニークなサイトを発見しました。 

監修をされているのは下記の先生方です。

廣村桂樹、池内秀和(群馬大学医学部附属病院腎臓・リウマチ内科)

齊賀桐子(群馬大学医学部附属病院・栄養管理部)

川島崇(群馬県医師会)

高橋さつき、岡美智代(群馬大学大学院保健学研究科

このページの“スタート”をクリックすると、「6 食事の留意点とコツ」というページがあります。

この中から“慢性腎臓病のステージG3a、G3b、G4、G5 たんぱく質制限についてわかります”をクリック頂くと、2ページ目に、“2.体に合ったたんぱく質摂取量は、どのくらいなの?”が出てきます。ここでご自分のステージと身長を入力すると、“標準体重”と“たんぱく質摂取量”が表示されるのですが、G3aの場合、たんぱく質制限は0.8~1.0g/kg/日となっています。つまり、このサイトではG3aの場合は1日の摂取すべきたんぱく質は体重1kgあたり、0.8~1.0gを推奨しているということです(お伝えしたいことは、細かいのですが、0.8gではなく0.8~1.0gというところです)。

以上のことから、アメリカ糖尿病学会においても、たんぱく質の摂取はとてもデリケートな問題で、今後も、医学の進歩と伴に変わっていくかもしれません。

また、求められていることは、病気の進行度合いと推奨摂取量を考慮しながら、ひとり一人に適したたんぱく質摂取の計画と管理を行うこと。そして、特に注目すべきは、透析中の患者さまの場合は、高レベルのたんぱく質摂取を考える必要があるという点です。

第4章 ケトン体の意義を考える

パート2 なぜ、ケトン体に負のイメージがあったのか

・ケトアシドーシスと心臓死

●インスリンを出せないⅠ型糖尿病の人の中に、まれに肝臓が無制限にケトン体をつくり続けてしまうことがあり、次第に体が酸性化し重篤な意識障害につながる。このような状態をケトアシドーシスという。

●ケトン体産生食には問題を指摘する症例と問題ないとする症例が混在しており、はっきりしたことは分かっていない。

ケトン体産生食の是非について、以前ブログ“ケトン体エンジン”の時にご紹介させて頂いた、宗田哲男先生の『ケトン体が人類を救う』には次のような分かりやすい説明がされていました。 

『火事(アシドーシス)で現場に駆けつけたら、ケトン体がたくさんあった。そこで火事の原因をケトン体に違いないとして「ケトアシドーシス」という名前を付けた。インスリンが不足してブドウ糖をエネルギーにできない火事の現場で、ケトン体は自らがエネルギーとなって、必死に体を助けていた。ケトン体は火事を消そうとしていた消防士だったにもかかわらず、その後もずっと犯人にされてしまった。「糖尿病ケトアシドーシス」とは、本来「インスリン不足高血糖制御不能状態」というべきであって、ケトン体とは何も関係ない。インスリンを投与して高血糖を抑えればケトン体は消えるが、これは消防士が引き上げて、正常任務に戻ったのであり、「ケトン体さんご苦労様でした」というべきところです。』

この『病気がみえるvol3 糖尿病・代謝・内分泌』の図をみると、「よし、糖をつくるぞ!」(図中央)とはりきる肝臓が、筋に働きかけ“糖新生”によりグルコースを、また脂肪組織に働きかけ“β酸化(脂肪酸の代謝経路)”によりケトン体の産生を高めています。

そして、この図で起きていることが何かを見てみると、原因(最上段のボックス)によって引き起こされることは、一つは“インスリン拮抗ホルモンの亢進”(右側)、もう一つは“インスリンの絶対的欠乏”(左側)であり、宗田先生がご指摘されている『「糖尿病ケトアシドーシス」とは、本来「インスリン不足高血糖制御不能状態」というべきであって、ケトン体とは何も関係ない。』

というご指摘と一致していることが分かります。この図を見る限り、ケトン体は悪者ではなく、インスリン不足でブドウ糖をエネルギーにできないという火事の現場に駆けつけた、責任感の強い消防士のように思えます。

第5章 ロカボの意義を考える

パート1 糖質過多で起こる肥満と糖尿病

・そもそも糖質とは

●糖質は多糖類、オリゴ糖類、二糖類、単糖類、糖アルコールという5種類に分類される。

●単糖類はブドウ糖や果糖のように1個だけで存在するもの。

●二糖類は砂糖、ショ糖、麦芽糖など、単糖類が2つ結合したもの。

●多糖類は結合が数百~数万個以上であり、代表格はでんぷんである。

●「糖類」とは単糖類と二糖類の総称であり、いずれも甘さが特徴である。

糖アルコールは自然界にある成分をもとに、人工的に作り出されたもの

●糖アルコールにはトレハロース、パラチノース、キシリトール、エリスリトールなどがある。

糖アルコールの中には血糖値をほとんど上げないものもある。

・なぜ太るのか?

●あらゆる糖質は基本的に体内でブドウ糖に変換される。

●血糖値とは血液中のブドウ糖の濃度のことである。

●食後、血糖値が上がると膵臓からインスリンというホルモンが速やかに分泌され、全身の臓器にブドウ糖を送り込み、エネルギーとして利用できるように働く。通常であれば、これによって血糖値は下がるため問題はない。

●血糖値の正常値は食前で70~110㎎/㎗、食後で70~140㎎/㎗で、通常は食後の血糖値上昇は30㎎/㎗程度である。

40歳を越えるとインスリンの分泌が緩慢になるため、健常者でも跳ね上がるようになる。特に糖質摂取の多い人は異常な数値までに上がったり、乱高下したりするようになる。

●血糖値が180㎎/㎗くらいまで上昇すると、後からインスリンが過剰に分泌されるようになり、食後、一過的に血糖値が大きく下がる人もいる。

血糖値の大きな上下動は、動脈硬化症や認知機能の低下をもたらす。

●食後高血糖は体を傷め(これを「糖毒性」という)、さらにインスリン分泌を遅くする。この結果、高インスリン血症により肥満が進む。

食後高血糖は時間経過とともに悪化し、疲弊したインスリン分泌細胞は、やがてインスリンの分泌が困難になり糖尿病になっていく。

・インスリン分泌能力

●生物にとって糖質は最も効率の良いエネルギー源である。

●運動量が多かった昔の人は、体内に取り込んだ糖質を1日の活動で消費していた。[現代のように糖質が潤沢な食糧事情でもなかったと思います]

●文明が高度に発達し、体を動かす機会が少なった現代人は、体の中で糖質がダブつきやすくなっている。

●2015年、サッポロビールが実施した「食習慣と糖に関する20~60代男女1000人の実態調査」によると、現代の日本人が1日に摂取する糖質量の平均は、男性309g、女性332gとなっている。この摂取量はあまりに多すぎて、ほとんどの人は1日の活動では消費しきれるものではない。そして、エネルギーとして使われず余ったブドウ糖は、インスリンによって脂肪に変換され、体の中に溜め込まれる。

体に余分な脂肪が増えるとインスリンの効きが悪くなり、それをカバーするために、体は更にたくさんのインスリンを分泌する悪循環に陥る。

●膵臓はインスリンを作るのに疲れ、分泌量が減る。そして、血糖値がコントロールできなくなって、慢性的な高血糖である糖尿病を発症する。

・恐ろしい高血糖

●糖尿病の恐ろしい点は三大合併症である。これは高血糖により毛細血管が傷むことにより、腎臓、目、神経の障害を引き起こすものである。

●腎臓が傷むと人口透析に至り、目は網膜症によって失明の恐れがある。神経障害は起立性低血圧や尿失禁、EDを引き起こす。

糖尿病患者の中で様々なガン患者が増えているという事実があるが、インスリン自体がガン細胞を増殖させているのではないかと言われている。なお、この傾向は食後高血糖(糖尿病予備軍)にも当てはまる。

●糖尿病は、動脈硬化のリスクを上げ、心臓病や脳卒中などの脳血管障害と脚の障害を起こしやすくする。

・糖尿病に根治療法はない

●人間の糖尿病の根治治療はまだ見つかっていない。[1994年、マウスに抗CD3抗体という物質を投与することによって、インスリン分泌細胞を再生させ、高血糖を長期的に改善させることに成功した]

現在は、食生活の改善と運動習慣によって食後血糖の上昇に歯止めをかけるしか道はない。

・老化と糖化

●肥満、糖尿病以外にも糖質が関わっている身体の現象があるが、それは老化である。

●わかりやすい老化現象には、皮膚のシミや白髪、体の不調、認知機能の低下などがあるが、いずれも糖質が深く関わっている。

糖質の多い食事により高血糖の状態になると、体の中で糖化反応(グリケーション)が起こる。これは体の中のたんぱく質に余分な糖がくっつき、たんぱく質が劣化してAGEs(糖化最終生成物)を生成する反応である。

・AGEや酸化ストレスが起こすこと

AGEsが蓄積すると肌や髪、骨などに含まれるコラーゲン分断が起こり、全身の老化が進行する。そして、体調不良や糖尿病、高血圧、ガン、動脈硬化など様々な病気を引き起こす。

血糖の激しい上下動によって、酸化ストレスが引き起こされる。酸化ストレスは老化や細胞のガン化に関わる。

●血糖の上下動の大きさと認知症の低さには、相関があるとされている。

第7章 常識・非常識を考える

パート1 食品編

・果実

●糖質の中で特に注意すべきものは果物やハチミツの甘さのもとになっている果糖である。

●果糖は体内に入ると肝臓で20%だけブドウ糖に変換され、残りは果糖のまま血中をめぐる。血糖値とは血中のブドウ糖の量を測ったものなので、果糖は血糖値をあまり上昇させない。そのため糖質制限をしている人も果物は食べても問題ないと考えがちである。

果糖の問題は非常に中性脂肪に変わりやすいため、肥満や脂肪肝につながりやすい糖質であることである。太りやすさの観点では果糖は砂糖やお米よりも危険である。

●果糖は直接的に肝臓のブドウ糖合成を促進する。また、ブドウ糖よりも糖化を起こしやすく、臓器障害や動脈硬化を増やす原因になっているという論文も出ており、果糖にも注意しなければならない。

●果物には食物繊維も多く、ビタミン、ミネラルも豊富な食材なので、量に注意して摂取するようにする。

・甘味料

『糖アルコールや人工甘味料は、ロカボを実践する上では絶対にはずせない食材ですが、安全性を心配して、手に取ることを躊躇する人もいまだ多いようです。しかし、実はそのほとんどが偏見や誤解によるものです。

日本でよく使われているエリスリトールは、果物の発酵食品から抽出されるなどした天然由来の甘味料で、糖アルコールに分類されます。摂取すると小腸で吸収され血中へ移動し、そのまま尿で排泄されるためエネルギーにはならず、血糖値も上がりません。アメリカの食品医薬品局FDA、ヨーロッパの医薬品庁EMAともに、摂取する上限量を設定する必要がない、極めて安全な食品に分類しています。

また、アスパルテーム、スクラロースなどの人工甘味料は、アメリカやヨーロッパの許認可庁によるデータで一日に摂取できる上限が定められているものの、その量は缶ジュースにしておよそ15~25本。通常の食生活ではおよそ摂ることがない数値に上限が設定されていますので、普通に使用するならまったく安全と言ってもいいでしょう。』

パート3 その他の問題編

・腸内フローラ

●人間の腸内には100種類以上、数にして約100兆個にものぼる細菌が棲んでいる。

●小腸の終わりにある回腸から大腸にかけては、腸内細菌が種類ごとにまとまり、腸の壁面にびっしりと生息している。その様子が種ごとに群生するお花畑のようであることから、「腸内フローラ」と呼ばれている。

腸内細菌はこれまで考えられていた以上に頑健で、なかなか変化しないことが分かってきた。

●2015年、イスラエルの研究グループは、食品の血糖値が上がらない食べ方をすることによって、善玉菌が増えるというデータを発表した。

※こちらは”参考文献”に紹介されていた”データ”です。

Personalized Nutrition by Prediction of Glycemic Responses

・たんぱく質の量

高齢者ほど肉や魚をしっかり食べる必要がある。若い人は一食あたり10gほどのたんぱく質で食後の筋肉合成ができるが、高齢者は20gほどの量が必要になってくるからである。これは肉なら100g程度にあたる。

・たんぱく質の質

●たんぱく質を摂る時に注目すべきは、必須アミノ酸の含有量である。

●アミノ酸とはたんぱく質の構成要素で、アミノ酸が少数結合したものをペプチド、多数結合したものをたんぱく質と呼ぶ。

●一部の特殊なものを除き、たんぱく質は20種類のアミノ酸が結合して作られている。

まとめ

摂りすぎ厳禁の糖質。一方、たんぱく質の摂取量は微妙です。透析患者さまの場合は高レベルなたんぱく質摂取を考慮することが求められています。透析に至っていない患者さまについては、医師と相談し推奨の上限値を意識することが、分子整合栄養医学の面からも重要であるように思います。

※分子整合栄養医学についてはブログ“分子整合栄養医学1”を参照ください。

ゴースト血管

手先や足先の痺れを訴える患者さまは、主に中高年の方に時々みられます。硬くなった筋肉が血管や神経を圧迫しているのが原因ではないかと考え、気になる筋肉や絞扼しやすい箇所に刺鍼するのですが、症状の緩和は末端の指先に近くなるほど難しいという実感があります。

そんな中、“ゴースト血管”はテレビの健康番組で知りました。この“ゴースト血管”を詳しく知ることは、手先や足先の痺れに対する鍼治療の参考になるのではないかと考え、“ゴースト血管”の名付け親である高倉伸幸先生が書かれた本を購入しました。 

血管のゴースト化を進める元凶は、糖化(コゲ)」と「酸化(サビ)」のようです。

著者:高倉伸幸
ゴースト血管をつくらない33のメソッド

著者:高倉伸幸

出版:毎日新聞社

発行:2019年2月

ブログは第5章(「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」)および、「ゴースト血管にまつわるアレコレQ&A」には触れていません。取り上げているのは、目次の黒字の部分ですが、特に重要と思ったところをまとめました。

目次

はじめに

あなたのゴースト血管化をチェック!

第1章 人は毛細血管とともに老いる

・生命に大きな影響を与える毛細血管

・血管は縦横無尽に体内を走っている

・それぞれの血管のミッション

・毛細血管の運搬法

・毛細血管はホルモンの情報を伝達する

・毛細血管は免疫にはたらく

・毛細血管は体のバランスを保つ

・毛細血管はなぜゴースト化するのか

・Column@高倉Lab がん治療にも応用される「アンジオクラインシグナル」

第2章 ゴースト血管と病気

・血管がゴースト化すると全身に悪影響が!

・重い便秘はゴースト血管のせい?

・毛細血管の減少が肝硬変の原因に!?

・腎機能の低下はゴースト血管が招く

・ゴースト血管が糖尿病の原因に!?

・ゴースト血管と肺の病気

・アトピー性皮膚炎も血管病!?

・過剰な毛細血管がリウマチを悪化させる

・骨粗しょう症もゴースト血管が原因

・ゴースト血管で失明に?

・認知症の原因はゴースト血管だった!

・血管がゴースト化すると抗がん剤が効かない!?

・Column@高倉Lab がん細胞を増殖させる「がん幹細胞」

第3章 ゴースト血管と老化

・体内の37兆個の細胞に「老化」というイベントが起こる

・「糖化」は体のコゲ

・「酸化」は体のサビ

・毛細血管が少ないと老けて見える!?

・毛細血管と肌の深い関係

・毛細血管の減少が薄毛の原因に!

・更年期は毛細血管のダメージから起きる

・Column@高倉Lab 毛細血管がよみがえる「血管新生」のしくみ

第4章 人は毛細血管とともに若返る

・毛細血管は何歳からでも改善できる

・血流をよくすればゴースト化は防げる

・免疫力を上げると毛細血管を維持できる

・毛細血管も自律神経の影響を受けている

・リンパ管は毛細血管のサポーター

・Column@高倉Lab 脳は記憶で傷を修復する!?

第5章 ゴースト血管をつくらない33のメソッド

血管力を上げる簡単メソッドを生活習慣に

Ⅰ 血液の質をよくする

メソッド1 バランスのよい食事を心がける

Ⅱ 「どう食べるか」も重要

メソッド2 食事は腹八分

メソッド3 一気に食べない

メソッド4 一気に飲むのも危険

メソッド5 少量に分けて栄養摂取

メソッド6 糖質はほどほどに

Ⅲ 血管をしなやかにする

メソッド7 うまみ成分を生かす

メソッド8 お酢を活用する

メソッド9 油は選んで使う

メソッド10 スパイスを上手に使う

メソッド11 カリウムを多く摂る

Ⅳ 自律神経のバランスを保つ

メソッド12 呼吸を整える

メソッド13 片鼻呼吸法で副交感神経を活性化

メソッド14 ゆっくりバスタイム

Ⅴ 血流をアップする

メソッド15 運動を習慣化する

メソッド16 1日1回だけしっかり運動する

メソッド17 「ながら」で運動する

メソッド18 かかと上げを習慣に

メソッド19 かかと上げ・応用編

Ⅵ 下半身を鍛えて血流を上げる

メソッド20 スクワットが効く!

メソッド21 ステーショナリーランジで筋トレ

Ⅶ 血管に刺激を与える

メソッド22 血管マッサージで血管を刺激する

Ⅷ ぐっすり眠って血管を修復する

メソッド23 体内時計をリセットする

メソッド24 メラトニンの原料を摂る

メソッド25 夜は光の刺激に注意する

Ⅸ タイツー(Tie2)を活性化する

メソッド26 シナモンを摂取する

メソッド27 シナモン+ショウガで血管の状態を整える

メソッド28 シナモン+バナナで簡単デザート

メソッド29 料理にもシナモンを

メソッド30 注目の食材・ヒハツを摂る

メソッド31 ヒハツを料理に使う

メソッド32 春の山菜・ウコギを摂る

メソッド33 ルイボスティーを飲む

ゴースト血管にまつわるアレコレQ&A

おわりに

第1章 人は毛細血管とともに老いる

それぞれの血管のミッション

動脈

・動脈の直径は1~30mm、弾力性があり、内膜・中膜・外膜の三層構造である。内側には薄い細胞の層である「血管内皮細胞」が敷き詰められていて、ここからNO(一酸化窒素)が分泌されていると、しなやかな血管を維持することができる。

静脈

・血管外に出たリンパ球(白血球)は主にリンパ管を通って静脈に戻る。

・静脈も動脈と同じ三層構造だが、血管の壁はかなり薄い。

・静脈には部分的に内側がひだ状になった弁があり、これにより血流が逆流することを防いでいる。

筋肉や体の動きによって、静脈内の血液の流れは変わる。 

毛細血管

毛細血管は約0.01mm。全長は数千~数万Km。全身の血管の95~99%が毛細血管

・臓器や筋肉などに合わせた形状をしている。まっすぐに、あるいは放射状や蜘蛛の巣状になって、全身に張り巡らせている。

・毛細血管の壁から通過して組織に入った酸素が拡散される距離は、およそ50μm(髪の毛の20分の1程度)。つまり、100μmに1本の割合で毛細血管がないと酸素は行き渡らない。

毛細血管は血管内皮細胞の一層でできている。 

毛細血管から酸素が運搬される距離
毛細血管から酸素が運搬される距離

画像出展:「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」

「『毛細血管がないと酸素が行き渡らない』となると、どうなるんだっけ?」というとても基本的な疑問が浮かんでしまい検索したところ、高倉先生が解説をされている素晴らしいサイトを見つけました。記事の題名は”【ゴースト血管とは】毛細血管減少の改善・再生に役立つ食事と運動はコレ!”です。ちなみに、私の疑問の回答は”細胞の老化が始まる”というものでした。

毛細血管の運搬法

・毛細血管の内径は約5μm、赤血球の直径は約8μm。このため赤血球が毛細血管を通るとき、毛細血管の内壁と赤血球の表面はこすれ合う。これにより赤血球の酸素や血漿中の栄養が血管内皮細胞の隙間から押し出されて、外側の細胞に届けられる。

毛細血管内の圧力は外側よりも高いため、外側に向かって勢いよく物質が出ていき、外の組織にサーッと吸収されていく(拡散)。 

毛細血管の運搬法
毛細血管の運搬法

画像出展:「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」

上の図は毛細血管と赤血球がこすれ合っている状態。下の図は赤血球の中の酸素や栄養が外に拡散している様子です。

毛細血管は免疫にはたらく

がんや異物、細菌が侵入すると、血管内皮細胞が反応して、リンパ球に対する接着因子を分泌。ローリングしながら移動し血管内皮細胞同士の微かな隙間を見つけて、壁細胞の後ろに隠れる。その後、壁細胞同士の間を通って血管外に出ていく。これは免疫を担って出ていく白血球につられて外に漏れる血液成分を、最小限にするためのしくみである。

毛細血管の免疫の働き
毛細血管の免疫の働き

画像出展:「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」

左の図の3つの●は”細菌や異物”です。

上段の図は、免疫細胞の白血球が接着因子によって血管内皮細胞にくっつき、ローリングしている状態です。

中段は、壁細胞の後ろに隠れた状態です。

そして、下段は、壁細胞同士のわずかな隙間から、他の血液成分の漏れを最小限にしながら、白血球が細菌や異物の攻撃のために出動していく様子です。

毛細血管は体のバランスを保つ

・毛細血管には体温を維持する働きもあるが、その調節は自律神経が行っている

外気温に対応して自律神経は血液量に関わる筋肉をコントロールする。血液の流れ(血流)は血液の温度低下を防ぎ、体温維持に貢献している。

毛細血管はなぜゴースト化するのか

・毛細血管は加齢により、壁細胞の変性と消滅、それに伴う血管内皮細胞の機能の衰えが起こる。また、内皮細胞と壁細胞の接着を促すアンジオポエチン1というたんぱく質の分泌も減る。これらにより、壁細胞の内皮血管細胞からの離脱が起こりやすくなり、毛細血管は劣化していく。

不安定血管に見られる壁細胞の離脱
不安定血管に見られる壁細胞の離脱

画像出展:「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」

高血糖は毛細血管の劣化を加速させる。体内で過剰な糖質とたんぱく質が結びつく変化を「糖化といい、体内に焦げのような物質「AGE(Advanced Glycation End Products=終末糖化産物)」を発生させる。このAGEは老化の要因の一つである。

血糖値が高くなるとAGEが発生し、毛細血管の血管内皮細胞の受容体がAGEを取り込む。すると「活性酸素が大量に発生し、壁細胞にダメージを与える。

・高血圧や脂質異常症によっても血管はダメージを受け、弾力性が失われる。これも毛細血管の老化といえる。

毛細血管のゴースト化は薬効を十分に浸透させることができないため、病気の治癒率を下げる。

・毛細血管の数は加齢で減少する。皮膚では60~70代の人は、20代の約40%も減少するという報告もある。

第2章 ゴースト血管と病気

腎機能の低下はゴースト血管が招く

・腎臓病の中で最も多いといわれる慢性糸球体腎炎は、糸球体の炎症によってたんぱく尿や血尿が続く病気で、むくみやめまい、高血圧などの症状がある。

・原因には糸球体のゴースト化も考えられる。これは高血糖などにより糸球体の血管内皮細胞を取り巻く壁細胞が剥がれて、漏れてはいけないタンパク質などを排出してしまうという病態である。

ゴースト血管が糖尿病の原因に!?

・糖尿病は尿に糖が出ることが問題ではなく、血液中の血糖値が高い状態のまま続くことに問題がある。つまり、糖尿病は血液や血管にかかわる病気である。

ゴースト血管と肺の病気

・肺の毛細血管は、他の臓器と異なり壁細胞がかなり少なく、血管内皮細胞への接着も少ない。もともと少ないところに、壁細胞の減少が起こると、ダメージもかなり大きくなる。

・肺胞を覆っている毛細血管がゴースト化すると、血管内皮細胞に異物が侵入するリスクが高まり、炎症を起こしやすくなる。マクロファージという炎症性細胞の侵入が多いと、少量のウィルスや細菌にも反応し炎症を生じてしまう。

アトピー性皮膚炎も血管病!?

アトピー性皮膚炎では体内に異常な毛細血管が増加していることが明らかになった

・血管新生により誕生した未成熟な毛細血管(血液成分が漏れやすい)により、炎症細胞のマクロファージが活性化する。すると肥満細胞が反応してヒスタミンが放出されやすくなり、知覚細胞が常に刺激されて異常な痒みが起こる。

・ヒスタミンは血管の漏れも誘導するため、炎症状態が継続してしまう。

過剰な毛細血管がリウマチを悪化させる

・関節リウマチの関節の腫れと痛みは、免疫異常によって誤って自分自身の細胞や組織を攻撃し、それによって炎症が起こるためである。

・免疫異常は血管新生による未成熟な毛細血管が関わっていることが判明した。

炎症を止めるために血管新生が起こるが、壁細胞と血管内皮細胞の接着がゆるい未成熟な血管のため、血液成分が漏れる。その状態のまま血管新生は止まらず、さらに毛細血管が増え続け、炎症も続いてしまう。

認知症の原因はゴースト血管だった!

・アルツハイマー病は脳にアミロイドβというたんぱく質が蓄積することが原因とされてきたが、近年解明されたアルツハイマー病のメカニズムは、血液脳関門を形成している毛細血管のゴースト化(血管内皮細胞の機能低下)が、大きな原因であるとされている

・毛細血管の壁細胞が失われることで、血管内皮細胞から血液成分が漏れやすくなる。

かつて悪玉とされたアミロイドβは、脳細胞にとって必要な物質だった。必要とされる分泌がないと血管障害の原因となる。しかし血管がゴースト化すると、アミロイドβの回収・排出が滞り脳内にアミロイドβが過剰に蓄積してしまう。

・アルツハイマー病の引き金は、タウというたんぱく質が異常リン酸化して蓄積し、シナプスに障害を与えることである。シナプスの連動が悪くなり、神経伝達が抑制されて脳機能が低下する。

・タウによる神経への毒性化が始まるのはアミロイドβの蓄積から10年ほどかかるため、アミロイドβの蓄積を病気発症のトリガーとして、この時期に脳の毛細血管を活性化させるような、認知症予防薬の開発も進められている。

血管がゴースト化すると抗がん剤が効かない!?

・がん細胞の増殖のメカニズムを研究する中で、がんとゴースト血管との関係性を発見した。

・細胞は酸素や栄養を使って、細胞内のミトコンドリアがエネルギーを産生するが、がん細胞は酸素が乏しくてもミトコンドリアを介さずに、エネルギーを産生する。

・がんの毛細血管はゴースト血管である。がんの毛細血管には壁細胞は若干あるが、ほとんど血管内皮細胞に接着していない。これは未成熟な血管で伸びることができず団子状になる。このため、酸素や薬剤を運ぶことはできない。

・がん細胞が増殖している組織は低酸素のため、酸素を必要とする放射線治療の効果もあまり期待できない。

がん細胞のゴースト血管(未成熟な毛細血管)を正常な血管に戻せれば、抗がん剤ががん細胞に行き渡ることになる。また、酸素が十分な状態になれば放射線治療も効くようになる。 

第3章 ゴースト血管と老化

「糖化」は体のコゲ

糖化とは食事から摂った余分なブドウ糖が、体内のたんぱく質と結びついて細胞を劣化させることであり、高血糖の血液を運ぶうちに血管の組織はもろくなり、炎症が起こりやすくなる。

糖化はAGE(終末糖化産物)という、「体の焦げ」を作る。毛細血管の壁細胞はAGEによってダメージを受け消滅すると、毛細血管はゴースト化するが、AGEは一度蓄積すると、何十年も分解されずに全身の老化を加速させるので要注意である。

「酸化」は体のサビ

・「酸化」は「糖化」とともに老化を進めるもう一つの原因である。

・活性酸素が体内に過剰に発生すると全身が酸化し、錆びた状態になる。

・活性酸素は体内で生まれ、消えていくもので、細菌やウィルスが体内に侵入すると、活性酸素が反応し破壊してくれる。

もっとも悪性の強い活性酸素のヒドロキシラジカルは、人間の体内の脂質、特にリン脂質に影響を及ぼし、過酸化脂質を発生させる。これが老化やがんなどの病気の原因になると考えられている。

活性酸素の主な発生原因は、大気汚染、強い紫外線、たばこやアルコール、化学薬品や食品添加物、ストレスなどである。

毛細血管、特に壁細胞は活性酸素に非常に弱いので、ダメージを受けやすく、それが毛細血管のゴースト化につながる。

私たちの体内にはSOD(Superoxide Dismutase)という抗酸化酵素が分泌され、過剰な活性酸素を消去してくれるが、加齢とともにSODは減っていく。

更年期は毛細血管のダメージから起きる

・更年期障害の原因は卵巣にエストロゲン分泌の指令を出していた脳の視床下部が、突然分泌ができなくなった状態にパニックになり、以前より数倍の指令を出すために、異常な発汗やめまいが起こるといわれている。

・視床下部は消化機能や自律神経、体温調節などをコントロールする器官のため、それらの調節もできなくなってしまう。 

第4章 人は毛細血管とともに若返る

毛細血管は何歳からでも改善できる

皮膚に傷がつき少し出血したような場合、止血後、好中球やマクロファージなどの炎症細胞が集まり、ダメージを受けた組織を再構築する。その後、線維芽細胞が移動して、場所(細胞外マトリックス)を確保し、血管新生が起こる。この時、必ず毛細血管は伸びているが、傷を治すという緊急事態では毛細血管の伸び方が通常より早い(マウスの実験では、通常の20~40倍だった)。

ケガをしたり、炎症が起こった場合、ダメージを受けた毛細血管が誘導する炎症反応でVEGF(血管内皮成長因子)などの物質を分泌する。それら[VEGFなど]の物質が既存の血管から新しい血管をつくるように促す。

・血管新生は毛細血管の重要な機能の一つだが、がんや過剰な活性酸素などの環境下では、血管内皮細胞と壁細胞が接着していない未成熟な毛細血管ができることもあり、それらは病気の原因につながる。

ゴースト血管は「血管伸長」という機能が残っていれば回復できる。そのためにはゴースト血管に血液を大量に届ける必要があるが、これには質のよい血液がしなやかな血管にスムーズに流れることが重要である。

血流をよくすればゴースト化は防げる

・試験管内の実験では、流れのない状態で血管内皮細胞を培養していると、血管内皮細胞同士の接着がルーズになるが、そこに血液の流れを送りこむと、流れに沿って血管内皮細胞が整列をはじめ、真っすぐできれいな接着が誘導される。これは、血管内皮細胞には血流を認識する受容体があるため、血液が流れると細胞内にシグナルが入り、細胞を接着させる因子を活性化させるからである。

免疫力を上げると毛細血管を維持できる

・免疫にはたらく白血球のうち、外敵と戦うT細胞にはキラーT細胞と、マクロファージや樹状細胞からの情報によってリンパ球に命令を出すヘルパーT細胞がある。このヘルパーT細胞は、血管の中だけでなく血管の周囲にも存在している。さらに、この細胞がないと毛細血管は未成熟になるという論文が2017年に『Nature』に発表された。

毛細血管も自律神経の影響を受けている

・毛細血管とその上流になる細動脈の先にある前毛細血管括約筋が、交感神経が優位になると収縮。これにより、末梢の毛細血管に流れる血液が少なくなり酸素が運ばれなくなる。

・過度な緊張やストレスにより、この状態が続くと毛細血管のゴースト化が加速する。 

交感神経の活動:前毛細血管括約筋
交感神経の活動:前毛細血管括約筋

画像出展:「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」

前に『自律神経は血液量に関わる筋肉をコントロールする』という記述がありましたが、まさにこのことですね。

まとめ

1.血管のゴースト化の主犯は、「糖化」と「酸化」

●糖化はAGE(終末糖化産物)という、「体の焦げ」を作る。毛細血管の壁細胞はAGEによってダメージを受け消滅すると、毛細血管はゴースト化する。

●毛細血管、特に壁細胞は活性酸素に非常に弱いので、ダメージを受けやすく、それが毛細血管のゴースト化につながる。

「糖化」と「酸化」は血管のゴースト化を防ぐためのキーワードです。前者は糖質を摂りすぎないこと、後者は暴飲暴食、喫煙を避けること、良い睡眠や適度な運動などを通じ、強いストレスを溜めこまないことが特に重要です。

2.鍼による手指、足趾に対する局所治療について

今まで、手指や足趾の痺れに対し、患部に直接刺鍼することは避けてきました。これはこれらの部位への刺鍼は痛みをともなうのと、効果に疑問を持っていたためです。

しかし、下記のように、皮膚や毛細血管へのダメージに対する炎症反応は、血管新生や毛細血管の成長促進につながるものなので、施術に組み入れる価値はあると思います。また、血流を高めるという狙いでは、患部の上流の硬くなった筋肉や絞扼ポイントも大切だと思います。

●皮膚に傷がつき少し出血したような場合、好中球やマクロファージなどの炎症細胞が集まり、ダメージを受けた組織を再構築する。その後、血管新生が起こる。この時、必ず毛細血管は伸びているが、傷を治すという緊急事態では、毛細血管の伸び方が通常より早い。

●ケガをしたり、炎症が起こった場合、ダメージを受けた毛細血管が誘導する炎症反応でVEGF(血管内皮成長因子)などの物質を分泌する。それらが既存の血管から新しい血管をつくるように促す。

●ゴースト血管は「血管伸長」という機能が残っていれば回復できる。そのためにはゴースト血管に血液を大量に届ける必要があるが、これには質のよい血液がしなやかな血管にスムーズに流れることが重要である。

●血管内皮細胞には血流を認識する受容体があるため、血液が流れると細胞内にシグナルが入り、細胞を接着させる因子を活性化させる。 

顎関節症

顎関節症は線維筋痛症と同じように以前から気になっていました。それは、不定愁訴を追っていくと顎関節症は一つの可能性として、よく登場してくるためです。また、何となくモヤモヤした印象を持っていたのですが、考えてみると、それは歯科医なのか整形外科医なのかどちらが診る疾患なのかよく分からないというのが理由だったように思います。

検索してみると、顎関節症の書籍は思ったほど多くなく、選んだのは『噛み締めの謎を解く!』という本でした。これはタイトルに付随して、“歯科医が解明した姿勢の歪み・発症のメカニズム”という見出しが気になったためです。

なお、今回は顎関節症の概要や現状を把握すること、鍼灸治療に反映できるものを見つけることが目標です。

ブログは目次の中の黒字の項目をご紹介していますが、「はじめに」は冒頭のみです。内容は要点と感じた個所の要約と、そのまま抜き出した引用(『』で括っています)とが混在しています。 

著者:尾﨑 勇
噛み締めの謎を解く!

著者:尾﨑勇

出版:現代書林

発行:2017年5月

 

はじめに

第1章 歯科最大の謎―噛み締めのメカニズム

第1項 あなたの噛み締め度チェック

第2項 歯科最大の謎―噛み締めのメカニズム

①正しい姿勢とはどのような姿勢? 良い噛み合わせとは?

②姿勢を保つ反射の働き

③口元の異常が肩や腰、膝へと伝わっていく

④“あご”が小さくなると頭の位置がずれる?

⑤押し上げ回転と押し下げ回転

⑥7つの姿勢分類と噛み締め型

⑦身体を正面から見た時の姿勢の歪みについて

第2章 噛み締めが引き起こすさまざまな症状

第1項 噛み締めが引き起こす顎関節症

①顎関節症の実態

②女性が男性の2~3倍、顎関節症になりやすい理由

③なぜ口が開かない? 目安は40ミリ

④開口時に起こる関節音(クリック音)

⑤顎関節症のさまざまな症状

●気がつくと噛み締めている

●顎関節が痛い

●あごにひっかかり感がある

●噛むと歯が痛い

●歯ぎしりをする(ブラキシズム)

●ほとんどの人は左側の「噛み締め」

第2項 噛み締めが引き起こす頭痛

①子供にも広がる噛み締めからの頭痛

②緊張性頭痛(非血管性頭痛)と割り箸対処法

●「緊張性頭痛」の治療方針

③片頭痛(血管性頭痛)と女性の患者数

●“こめかみ”周囲に起こる片頭痛の成因

第3項 噛み締めが全身に引き起こすさまざまな不定愁訴

①眼の症状

●細い眼、眼が乾く、三白眼、左右の眼の大きさの違い

②耳の症状

③口、喉の症状―噛み合わせと気道の圧迫

●舌のもつれ・発音障害

●口の中が乾く・口臭がある。舌がしびれる、舌痛

④鼻の症状

●蓄膿症との関係

⑤首のコリ・首が回らない

●首が回らない症状

⑥指先のちりちり感

⑦左右の肩の高さの違い・左右の骨盤の高さの違い

⑧腕が上がりにくく、肩に痛みが起こる(四十肩・五十肩)

⑨自律神経失調症ほか

⑩睡眠時無呼吸症候群と噛み締め

●睡眠時の無呼吸と噛み締めのメカニズム