私事ですが、5ヶ月前くらいに生まれて初めて“閃輝暗点”を経験しました。
※閃輝暗点とは
こちらのサイトに詳しい解説が出ています。
頭痛がない場合
症状は一時的なものとして、特に治療は必要ありません。しかし何度も繰り返し起こる、なかなか治らないというときは眼科を受診しましょう。
頭痛を伴う場合
頭痛を伴う場合はもちろん、手足のしびれを感じる場合は脳神経内科・脳神経外科を受診しましょう。閃輝暗点は何らかの前駆症状として発生しています。その原因を突き止め、治療しないことには閃輝暗点の症状も改善しません。根本的な治療から始めましょう。
頭痛等、頭(脳)に関する違和感は何もなかったことと、右目の視力が気になっていたこともあり、今回は眼科に行きました。診断は“閃輝暗点”で、「今後、繰り返すようであれば脳も調べましょう」。ということになりました。
それから約1カ月後、専門学校時代の友人(といっても20歳近く年下)と、数年ぶりに会う機会を作ったのですが、彼は「入江FT」に熟知した鍼灸師で、飲んでいるときに「左脳が少しスティッキーだと思います」。とのことでした。
友人には1ヶ月前の“閃輝暗点”の話など、一切していなかったので、このいきなりの発言に正直驚きました。
「医者に行った方が良い?」と聞いたところ、検査をしても分からないレベルだと思うとのことで、生活習慣の他、入江FTの独特な施術法(週1回、20分程度)を教えてもらいました。時々サボってしまうことはあるのですが、続けるよう努力しています。
※入江FTとは、大村恵昭先生先生が開発されたオーリングテストを応用したものです。オーリングテストはアプライドキネシオロジーをベースにした診断法とされています。
『漢方家であられた故・入江 正先生が漢方(湯液、鍼灸)のために開発した独自の診断法で、軽く指をスライドさせるだけで、他の筋力テストとは異なり、診断に利用する指に殆ど筋力を使わず、非常に微妙かつ精密な診断ができます。』
独特な診断法なので、なかなか信じて頂くのは難しいかもしれません。
さらに気になることは、この頃かこの前後かはよく覚えていないのですが、従来の血圧が収縮期、拡張期とも10mmHg前後高くなっていました。
「この血圧が少し高くなったのは何故だろう?」。遠慮することもなく、思ったことをそのまま“アスクドクターズ”にぶつけてみました。
『加齢による病的とはいえない程度の微細な梗塞があり、脳内の血流を低下させ、それが原因で脳の血流を本来の状態に維持するため、心臓のポンプの働きが増して、血圧をそれぞれ10mmHg程度上げているのではないでしょうか?』
回答は「No」ということでしたが、お一人の医師の方から、“脳血流自動調節機能”というものが脳には備わっているということを教えて頂きました。
この機能は脳自身が本来の血流を確保するために保持しているサーモスタットのような仕組みです。
「いろいろあるなぁ」と思い、少し検索してみると以下の医学雑誌を見つけました。
興味の方が勝って購入しました。
「何故、血圧と塩は関係が深いのか」について発見があったのでお伝えします。
【腎血流における自己調節のメカニズム】
『腎臓も強い自己調節を有している。これは腎血流そのものを維持するというよりも、糸球体濾過量(GFR)を維持するためであろう。GFRを一定に維持することで、生体は体液や電解質のバランスを保っている。
腎臓の自己調節のメカニズムは特殊であり、そのメカニズムは尿細管糸球体フィードバックと呼ばれている。腎臓は傍糸球体装置の遠位尿細管に存在する緻密斑において、塩化ナトリウム(NaCl[塩])の濃度を感知して腎細動脈の血管抵抗を変化させている。血圧が低下すると糸球体の静水圧が低下し、GFRが低下する。』
長い前置きでしたが、今回拝読させて頂いたのは、『脳卒中 専門医が説き明かす 病気の前兆・急性期対処法・予防法』という本です。何はともあれ、基本的なことを知りたいと思い購入しました。
著者:星野晴彦
発行:2017年7月
出版:(株)ヌンク
目次
第1章 脳卒中ってなに?
●脳卒中ってなに?
・「出血」
・「虚血」
●脳卒中のメカニズム
・脳出血のメカニズム
・くも膜下出血のメカニズム
・脳梗塞のメカニズム
第2章 脳卒中―その原因?
●脳卒中の危険因子
・高血圧
・喫煙
・脂質異常症(高脂血症)
・糖尿病
・心房細動
・過度の飲酒
・コントロールできない危険因子について
●脳卒中を起こすその他の病気
●脳卒中と加齢現象
コラム セカンドオピニオン
第3章 脳卒中かな?
●くも膜下出血の症状
●脳梗塞・脳出血の症状
・痛みについて
●実例解説
・突然の激しい頭痛/嘔吐/意識障害
・物が二つに見えて歩くとよたつく
・左側がよく見えない
・右手と右の口角がしびれる
・左手と左足に力が入らない
・急に右手と右足が動かなくなり、意識状態も悪く話せなくなった
・左半身がしびれたと思ったら、だんだん左側が動かなくなった
・言葉が話せない
・突然倒れて、左側がまったく動かせない
コラム 脳卒中を疑ったら救急車
第4章 脳卒中―知ってて安心 治療法あれこれ?
●くも膜下出血の治療
・クリップ術
・血管内手術(コイル塞栓術)
・急性水頭症に対する治療
・血管攣縮に対する治療
●脳出血の治療
・外科療法
・薬物療法
●脳梗塞の治療
・急性期の治療
●慢性期の再発予防
第5章 脳卒を予防するには?
●高血圧のコントロール
●脂質異常のコントロール
●糖尿病のコントロール
●喫煙のコントロール
●心房細動のコントロール
第1章 脳卒中ってなに?
●脳卒中ってなに?
・脳の血管の病気によって急に発病する病気が「脳卒中」である。
・虚血は約75%、出血が約25%である。
・「出血」
-脳の中(脳実質)に出血するのが「脳出血」で約80%。
-くも膜と脳の間に出血するのが「くも膜下出血」で約20%。
・「虚血」
-脳の動脈が詰まってそこから先の脳の一部の組織が死んでしまうのが「脳梗塞」である。
-静脈が詰まるのが「脳静脈血栓症」だが、これは稀な病気である。
-[一過性脳虚血発作(TIA)]:脳の血液は5分間ほど途絶えると組織は死んでしまう。血流が再開すれば症状は一時的で元に戻る。そのような症状が軽いものを一過性脳虚血発作という。発症後の3ヵ月間で約20%の人は脳梗塞を発症、しかもその半分は2日以内に起こると考えられている。従って、一過性脳虚血発作後は速やかに病院に行くべきである。
●脳卒中のメカニズム
・脳出血のメカニズム
-[高血圧性脳出血]:穿通枝と呼ばれる細動脈(1mm未満)が破れることによって発症する。これは高すぎる血圧が血管にダメージを与え続けついに破れる。
-出血部位は「被殻出血」「視床出血」「小脳出血」「橋出血(脳幹出血)」である。
-[アミロイド血管症]:アルツハイマー病の原因とされているアミロイド蛋白が、脳の表面の比較的浅いところにある細い動脈の壁に溜まったもの。
-[動静脈奇形(血管奇形)]:比較的若い人に起こる脳出血では血管の奇形による場合がある。
画像出展:「脳卒中」
・くも膜下出血のメカニズム
-脳は3層の膜で覆われている。外側から硬膜、くも膜、軟膜である。くも膜と軟膜の間にくも膜下腔という隙間がある。ここには髄液が流れており、このくも膜下腔に出血するのがくも膜下出血であるが、外傷による出血の場合はくも膜下出血とは言わない。外傷によらない出血の原因の大部分は動脈瘤からの出血である。
-動脈瘤は動脈にできた袋状のコブのようなもので、比較的太い動脈の分岐部にできることが多く、脳の表面で出血する。極度のストレスや過労、急激な血圧変化、排便時の力みなどが引き金になる。
-突然の殴られたような激しい頭痛は出血時に頭蓋骨の中の圧力が一気に高まるためである。
・脳梗塞のメカニズム
-数ミリ程度の主幹動脈が粥状硬化(アテローム硬化:コレステロール等が血管の壁に堆積する)して厚くなり、血管が細くなったり閉塞したりする。このような脳血栓症を「アテローム血栓性脳梗塞」という。
-1ミリより細い動脈を穿通枝と呼ぶ。急に細い血管になるため血圧の影響を受けやすい。この穿通枝が動脈硬化を起こして詰まった状態を「ラクナ梗塞」という。ラクナ梗塞は小さな梗塞がほとんどなので、すぐに命の危険はないが運動神経を巻き込むと運動麻痺を起こす場合がある。ラクナ梗塞が増えていくと認知障害が現れる場合がある。
-アテローム血栓性脳梗塞もラクナ梗塞も、動脈硬化が原因であり、心臓の問題ではないため「非心原生脳梗塞」とも呼ばれる。
-上流から塊(栓子)が流れてきて血管を詰まらせるのが「脳塞栓症」である。塊は心臓の中か上流の太い血管の壁にできた血液の塊である。
-心臓内で塊ができる原因で1番多いのは心房細動である。左心耳に血液の塊ができ、それがちぎれて血液に乗って脳へ移動し血管を詰まらせて脳塞栓症を引き起こす。その他、急性心筋梗塞直後や心筋梗塞後の心室瘤、弁膜症、先天性心疾患などが原因とされている。これらを「心原性脳塞栓症」という。
画像出展:「脳卒中」
第2章 脳卒中―その原因?
●脳卒中の危険因子
・高血圧
-血圧が高いと血管を傷つける。特にすべての脳卒中の原因になる。
・喫煙
-喫煙も高血圧同様、すべての脳卒中の危険因子だが特にくも膜下出血が多い。これは喫煙により脳動脈瘤が形成されやすいためである。
-喫煙は血管を収縮させる作用がある。また、活性酸素は血管内被や血管壁の平滑筋を傷つけ、動脈瘤につながる。
・脂質異常症(高脂血症)
-脂質異常症は血液ベトベト状態のことで、粘っこい血液が血管の壁に張り付いて血管に悪さをする。
・糖尿病
-非心原性脳梗塞(脳血栓症)の危険因子である。
・心房細動
-心原性脳塞栓症の一番多い原因は心房細動である。
・過度の飲酒
-脳出血とくも膜下出血については飲酒は完全に危険因子であるが、脳梗塞については、ごく少量の飲酒は必ずしも悪くないとされている。
・コントロールできない危険因子について
-日本人であること、加齢、家系、遺伝子については研究中である。脳卒中の中ではくも膜下出血が該当する。これは動脈瘤が家族歴と関係があるからである。
画像出展:「脳卒中」
●脳卒中を起こすその他の病気
・動脈は外膜、中膜、内膜の三層構造になっており、この膜が傷つき血管の壁が避けるのが「動脈解離」である。日本人では椎骨動脈が頭蓋骨に入る部分で多くみられる。症状はどこの膜が損傷されるかによって異なる。
・「もやもや病」は原因不明の難病指定疾患である。内頚動脈が狭くなったり閉塞するとともに、血流を補うために細い動脈が細かい網のように発達する。この様子を血管造影などで観察するとタバコの煙のようにモヤモヤして見えるためにこの名前が付けられた。成人では脳梗塞の原因だけでなく、もやもやした血管が破綻して脳出血も引き起こす。
・「血管炎」は大小の動脈に限らず、静脈、毛細血管でも発症する。原因は解明されていないが、ウィルスや薬品に対する免疫の過剰反応によるものと考えられる。
●脳卒中と加齢現象
・脳卒中の1番の危険因子は加齢による血管の老化である。
第3章 脳卒中かな?
●くも膜下出血の症状
・一番の特徴は突発する激しい頭痛である。また、嘔吐や意識障害を起こすが、脳梗塞や脳出血のように手足の痺れで症状が始まることはない。ただし出血の後遺症として身体に麻痺が出る可能性はある。
・動脈瘤破裂による場合、数日前から膨らんだ動脈瘤によって脳の神経や組織が圧迫されることで、物が二重に見えたり、めまいや吐き気、軽い痙攣などの前兆がみられたりすることもある。少量の出血の場合の突発的な頭痛は、必ずしも激痛とはいえない。
●脳梗塞・脳出血の症状
・脳卒中は障害された部位により症状の発症場所が異なる。
-左脳中央前部:右半身の運動麻痺。
-脳後方部:視野障害
-右利きでは多くは左脳:失語症(前より⇒運動性失調[言葉を発せない]、後ろより⇒感覚性失語[言葉の意味が分からない])
-視床下:脳の視床は感覚の集合点で口角や手の感覚も司っているため、この両方にしびれがある場合は視床が関係している可能性がある。
-血栓溶解療法を受けるためには発症から3時間30分以内に診察を始める必要がある。
・痛みについて
-脳梗塞では通常、頭痛はない。これは、脳自体は痛みを感じず、痛みを感じるのは脳を包む膜や血管が引っ張られたり押されたりすることで感じるからである。
第4章 脳卒中―知ってて安心 治療法あれこれ?
●くも膜下出血の治療
・クリップ術(開頭手術)
-動脈瘤にクリップをかけて動脈瘤の中に血液が流れないようにして破裂を防ぐ。
-呼吸や血圧が安定していて昏睡状態ではない状態に適用可能である。
-直接動脈瘤を処置するので再出血予防には最も確実な方法とされている。
-脳の奥深くの場合は手術が困難である。原則として発症から72時間以内に施術する。
-クリップで対応できない大きさの動脈瘤や場所的に困難な動脈瘤で、大きなものはトラッピング術、小さすぎるものはコーティング術を行う。
・血管内手術(コイル塞栓術)
-開頭手術ができない場合や脳の奥深くのためクリップ術が難しい場合などに適用される。
-動脈瘤のサイズや大きな脳出血を伴っている場合には適用できない。
-足の付け根の動脈からマイクロカテーテルを入れて、脳の動脈瘤まで到達させコイルを瘤の中に詰め込み、瘤に血液が入らないようにする。
-開頭していないため、術中に再出血するとすぐに対処できない。また、瘤の中に血栓があると、押し出されて運ばれる危険もある。
-術野の観察はX線透視下になるので被ばくは避けられない。
・急性水頭症に対する治療
-くも膜下出血により脳脊髄液の流れが妨げられると、急性水頭症の状態になることがある。この場合、余分な脳脊髄液を体外に排出する(髄液ドレナージ)。また、長期的にドレナージが必要な場合は、シャント手術(脳脊髄液を排出するための経路を作る手術)を行う。
・血管攣縮に対する治療
-くも膜下出血では出血後4日目頃から14日目頃にかけて、出血にさらされた血管(動脈)が攣縮という状態になる時期がある。治療には抗血小板薬、血管収縮を抑制する薬、血管を弛緩させる薬を使って血流を保つようにする。場合によってはバルーンによる血管内治療を行う。
-この治療はクリップ術やコイル塞栓術といった再出血の治療後に行う。
●脳出血の治療
・脳出血は出血量が微量な場合はやがて吸収されてしまうので、症状もなく自分でも気づかないうちに治ってしまう。通常、抗血栓薬を服用していない場合は1時間程度で止血される。これらの原因の大部分は高血圧性脳出血である。
・外科療法
-開頭血種除去術:開頭して血の塊を直接取り除き止血する。
-CT定位的血種吸引術:頭蓋骨に小さな孔を開けて血種を細い管で血腫をふいだす方法。手術は出血部分が完全に止血されていなければならない。CT装置を使うので被ばくも避けられない。
-神経内視鏡手術:頭蓋骨に開けた小さな孔から神経内視鏡(ファイバースコープ)を操作して血腫を見つけて吸引する。
-脳室ドレナージ:頭蓋骨に開けた小さな孔から細い管を通して溜まった血腫などを排出するが、平均して1週間くらい留置しておく。これをドレナージという。
・薬物療法
-血圧を下げる薬:降圧目標は患者さんの状態を診ながら医師が検討する。
-むくみを抑える薬:脳浮腫により頭蓋内圧が亢進すると脳ヘルニアのリスクが高まる。この場合、浸透圧性利尿薬が使われる。
-痙攣を抑える薬:脳出血発症後、最初の2週間は「痙攣」がしばしば見られる。抗てんかん薬が使われる。
●脳梗塞の治療
・急性期の治療
-脳梗塞の治療は急速に進歩している。静脈注射のtPAは血栓を溶かす。太い血管閉鎖はカテーテルで除去する。いずれも時間との勝負である。
-静脈tPA血栓溶解療法:発症から4時間30分以内に投与する必要があるが、検査に約1時間かかるため、実際の猶予は3時間30分である。検査が必要なのは詰まった血栓を溶かし、血流を再開する際出血のリスクがあるためであるが、脳梗塞によって組織や血管が痛むため危険は高くなる。
-血管内治療:2015年以降、大腿動脈や上腕動脈の血管内にカテーテルを通して血栓を除去する方法は急速に進歩している。特にこの治療の利点は8時間まで対応可能な点である。
-虚血する箇所は時間制限があるが、それ以外の部位の機能は働いている。そのため、後遺症を最小限にするために、速やかに病院に搬送することが求められる。
●慢性期の再発予防
-高血圧、脂質異常症、糖尿病のコントロールと喫煙、節酒の徹底が重要である。
-抗血栓薬の服用。抗凝固薬で有名なワルファリンはビタミンKを避けなければならない。なお、これらの薬は出血すると止血に時間がかかるので注意しなければならない。
第5章 脳卒を予防するには?
●高血圧のコントロール
-脳卒中予防の観点からは血圧は低い方が良いが、低すぎる血圧は心臓の働き阻害するなど危険である。
-「白衣高血圧」や「仮面高血圧」などが指摘されているが、最近では家庭血圧が重視されている。測定は起床後(起床から1時間以内)と就寝前の1日2回の測定が望ましい。
※【家庭血圧】とは(オムロン様より)
●脂質異常のコントロール
-LDLやHDLなど人間が1日に必要とする総コレステロール量は1,000~1,500mgとされ、その3分の2か肝臓で作られている(内因性)。残りの3分の1は食物から作られる(外因性)。食物からの摂取が少ないと肝臓はどんどんコレステロールを作り、多いと控える。
-LDLとHDLの割合は食べ物や生活習慣に左右される。このLDLとHDLのバランスが崩れると「脂質異常」という状態になる。これは重要なポイントである。
●糖尿病のコントロール
-近年の研究では厳格な食事療法が低血糖発作を起こす原因になることが指摘されており、以前に比べるとやや緩くなっている。
●喫煙のコントロール
-大規模研究において、禁煙は冠動脈疾患、脳卒中、各種のガン、慢性呼吸不全などに有効であることが明らかになっている。
-タバコの煙の中には70種以上の発ガン物質が含まれており、特に有名なものはタール、ニコチン、一酸化炭素、シアン化水素、ダイオキシンなどである。
-タバコは喫煙者だけでなく、受動喫煙の問題も大きい。
●心房細動のコントロール
-心房細動は加齢とともに起こりやすくなるが、高血圧があると頻度は高くなる。
-心房細動の問題は左心耳に血液の塊ができやすく、それがちぎれて血液に乗って脳へ移動し血管を詰まらせて脳塞栓症を引き起こすことである。
感想
現在、食事は塩分の取りすぎに注意しています。また、日課にしているのが速歩(30分)と簡単な下半身の筋力および握力の強化なのですが、速歩を+10分(計40分)、簡易筋トレの回数を少し増やそうと思っています。
ご参考1:“脳梗塞の原因とは?症状や前兆・予防方法から治療の流れまで全て紹介!”
こちらは学研のCocofumpというサイトに掲載されていたもので、下の図もそこから拝借しました。
画像出展:「国立循環器病センター」
『軽いジョギング程度の運動中、足の着地時に頭部(脳)に伝わる適度な物理的衝撃により、脳内の組織液(間質液)が動きます。これにより脳内の血圧調節中枢の細胞に力学的な刺激が加わり、血圧を上げるタンパク質(アンジオテンシン受容体)の発現量が低下し、血圧低下が生じることが、高血圧ラットを用いた実験で分かりました。
さらに、この頭部への物理的衝撃を高血圧者(ヒト)に適用すると、高血圧が改善することを世界で初めて明らかにしました(図)。』
ご参考3:“血圧を下げすぎてはいけない!?脳梗塞の血圧管理”
高い血圧は下げるものと考えられていますが、脳梗塞の場合は慎重な血圧管理が必要です。
脳梗塞急性期に血圧を高めに保つ理由、それは、脳の血流が減少している状態であるため、血圧を下げることで脳のダメージが悪化する可能性があるからです。特に急性期の場合、“脳卒中治療ガイドライン2015”では、以下のように「止むおえない場合に限って、降圧治療を行っても良い」。ということが示されています。
『脳梗塞急性期には収縮期血圧>220mmHgまたは拡張期血圧>120mmHgの高血圧が持続する場合や、大動脈解離・急性心筋梗塞・心不全・腎不全などを合併している場合に限り、慎重な降圧療法を行っても良い』
なお、“急性期”をすぎ、"亜急性期”や“慢性期”については以下のようになっています。
亜急性期
●頚動脈や脳主幹動脈に50%以上の狭窄のない患者さんでは、徐々に降圧(85-90%、収縮期160mmHg程度)を行う。
慢性期
●収縮期140mmHg、拡張期90mmHgを目標に降圧を行う。
ご参考4:自分自身の家庭血圧
3月15日から4月7日までの19日間、朝(食前)、日中(15時前後)、夜(21時前後)の1日3回、血圧を測定してみました。
朝は127.3(収縮期)-75.9(拡張期)とやや高めでしたが。全平均は114.2-68.3と心配するような値ではありませんでした。
やはり、自宅で計画的に血圧測定してみることが必要だと思います。また、計測時は前傾姿勢にならないように注意しました。
画像出展:「正しい測定方法で正確な血圧値(オムロン)」
約1世紀ぶりのパンデミックに遭遇し、「これはいつまで続くのだろうか」という思いから、2020年8月初旬より『worldometer』というサイトを利用してデータを取り始めました。
『Worldometer は、開発者、研究者、ボランティアからなる国際チームによって運営されており、世界の統計を示唆に富む、時代に即した形式で世界中の幅広い視聴者に提供することを目標としています。これは、米国に拠点を置く小規模の独立系デジタル メディア会社によって発行されています。当社は政治、政府、企業とは一切関係がありません。さらに、当社にはいかなる種類の投資家、寄付者、助成金、後援者もいません。当社は完全に独立しており、複数のアド エクスチェンジでリアルタイムに販売される自動プログラマティック広告を通じて自己資金で運営しています。
新型コロナウイルス感染症に関するデータについては、政府の通信チャネルから直接、または信頼できると判断される場合には地元のメディアソースを通じて間接的に、公式報告書からデータを収集します。各データ更新のソースは「最新の更新」(ニュース) セクションに記載されています。タイムリーな更新は、世界中のユーザーの参加と、増え続ける 5,000 を超えるソースのリストからデータを検証するアナリストと研究者のチームの献身的な取り組みのおかげで可能になっています。』
当時のいきさつ等にご関心があれば、ブログ“スペイン風邪と新型コロナ2”をご覧ください。
当初は2021年末まで頑張ろうと思い、ほぼ毎日集計をしていましたが、2021年の年末もパンデミックが落ち着く様子はまったく見えませんでした。集計は2022年を経て、ついに2023年に入りました。「いい加減、きりがないな」と思い、「2023年末で止めよう」と考えていたところ、日本では5月8日にインフルエンザと同じ位置づけの5類に移行し、感染者数は定点観測として続いていますが、『worldmeter』の中では、日本の情報が全くアップデートされなくなったため、このタイミングで終わらせることにしました。
各国のデータの取り扱い、集計方法などは同じであるとは言えず、対象データなどもバラツキがあるため、比較するのはかなり無理があるのですが、そうは言っても、比較したいとの思いから「人口10万人当たりの死亡者数」のデータに絞り、日本以外では東アジアの韓国、台湾、東南アジアのフィリピン、タイ、ベトナム、シンガポール、そしてオセアニアのオーストラリア、ニュージーランドの計9ヵ国を比較することにしました。
なお、データは各国の集計開始時期を合わせるため2020年12月からとし、最後を2023年3月、月別にまとめでデータで集計しました。
最も少なった国はシンガポールの29.34人で、最も多かった国はニュージーランドの80.00人でした。単純に9ヵ国の平均値は60.58人、日本は4番目(下から4番目)に少ない58.52人でした。
地域的には東南アジア、東アジア、オセアニアの順です。特に東南アジアの4か国は2022年2月頃から横ばい傾向になっており、東アジア、オセアニアとは大きく異なっています。理由は分かりませんが注目に値します。
日本ではマスク着用など公衆衛生の意識が強く、ブースター接種は6回目、7回目を数える方もおり、他国に比べ積極的ではあるものの、今一つ、その積極的なワクチン接種が死亡者数の抑制につながっているのか不透明です。(ワクチン接種に関してご興味あれば“免疫学者の告発1”をご覧ください)。
グラフを見ると台湾、ニュージーランドなど多くの国が「ゼロコロナ」で規制をしたものの、「ウィズコロナ」に切り替えざるを得ない事態に遭遇したことが分かります。日本では規制の徹底が難しいこともあり、最初から緩やかな規制でスタートしました。PCR検査が一向に増えないこととや、保健所依存の対応、政府のリーダーシップの欠如等が大きな問題となっていましたが、緩やかな規制は悪くなったのだろうと思います。
2022年2月2日付けで、『デンマーク、コロナ規制を全て撤廃 EUで初』というニュースがアップされました。
『デンマーク国家保健委員会のソレン・ブロストロム委員長も、国内の症例数は非常に多い状況だが、感染と重症化の関係がなくなったとの認識を示し、「感染数が激増すると同時に、集中治療室に入院する患者は実際のところ減っている」「今現在、新型コロナと診断されてICUに入院しているのは、人口600万人のうち30人前後にとどまる」と指摘した。』
また、以下のような記事もありました。
以下は、HOPEプロジェクトに関してです。
『それではいったいどのような背景から、デンマークは規制撤廃に踏み切ったのか。ワクチン接種率の高さ、政府への信頼感、首相会見を頻繁に行うなどの情報開示、検査数の多さなど、すでに多くの分析や情報が日本のメディアでも発信されているが、ここでは引き続きピーターセン教授の発信をもとに、もう少し違った角度から紹介してみたい。
新型コロナウイルスが世界に拡大し始めた2020年3月。カールスバーグ財団から2500万デンマーククローネ(約4.3億円)の支援金を受けて、デンマークではある研究が開始された。不安と恐怖の真っただ中に始まった研究プロジェクトのタイトルはHOPE。「希望:民主主義国家はいかにしてCovid19に対処するか―データ分析をもとにしたアプローチ」と名づけられたこの研究チームのリーダーがピーターセン教授だった。
コペンハーゲン大学、デンマーク工科大学(DTU)などとの共同プロジェクトとして開始されたこのHOPEプロジェクトは、コンピューターサイエンス、行動心理学、政治学を組み合わせて、コロナ禍で民主主義社会がどのように反応し、危機に向き合ったのか、また危機管理は上手くいったのか、などを検証してきたのだという。
具体的には、パンデミックの状況を追跡し、政府および国際機関の決定や、メディアとSNSの影響力、市民の行動やウェルビーイングなどが互いにどのように関連し合っているのかを検証する、前例のない研究プロジェクトなのだそうだ。
さらにこのHOPEプロジェクトは、2020年11月から感染防止のための様々な規制を実施する上でデンマーク政府が参照すべきプロジェクトにも加えられた。そして今日まで、HOPEプロジェクトは政府へさまざまな提案をおこなってきた。』
日本に比べれば小さな国なので、対策の取りやすさには大きな差はあるものの、「デンマーク恐るべし!」と興味をもち、2022年2月4日からデンマークをデータ集計の対象に加えることにしました。以下はその一部ですが、これを見ると平日を対象に非常に詳細なデータ集計が行われています。「これは国レベルの情報管理(IT化)がよほど進んでいるんだろうな」と思いました。
調べてみると、『デンマークのスマートシティ データを活用した人間中心の都市づくり』という本が出版されており、「これだ!!」と納得するとともに思わず買ってしまいました。
ちなみに“世界幸福度ランキング”では、デンマークはフィンランドに続き、第2位となっていました。
ご参考1:”高齢コロナ感染者の退院後死亡率、インフルより高い/BMJ”
180日間にわたり死亡リスクはCOVID-19コホートが高率
重み付けで調整後、COVID-19コホートはインフルエンザコホートと比較して、退院後の全死因死亡リスク(累積発生率)が、30日時点(10.9% vs.3.9%、標準化リスク差:7.0%[95%信頼区間[CI]:6.8~7.2])、90日時点(15.5% vs.7.1%、8.4%[8.2~8.7])、180日時点(19.1% vs.10.5%、8.6%[8.3~8.9])のいずれの評価時点でも高率であった。
上記はコロナ感染であって、ワクチン接種による問題ではないのですが、この記事は荒川 央先生の著書『コロナワクチンが危険な理由』に書かれた以下の文章を思い出します。
『心筋炎、脳梗塞、自己免疫疾患、癌、神経変性病などは加齢によってもリスクが高まる疾患です。こうした疾患がコロナワクチンの作用機序から予測され、実際に後遺症として報告されています。私はコロナワクチンによる隠れた副作用は文字通りの「老化」ではないかと思っています。』
※荒川 央先生のブログ:"コロナワクチンが危険な理由”
※ご参考ブログ:”免疫学者の警告1”
※ワクチン問題:“「ワクチン」による傷害に関する査読済み論文1,000件 Dr. Mark Trozzi”(凄いサイトです)
※ワクチン問題:”みのり先生の診察室”(医師である先生が来院される患者さんの変化を感じておられます)
ご参考2:”若年世代の老化が加速、がんリスク上昇の可能性”
『若い世代での老化が加速しており、それが若年発症型のがんリスクの上昇と関連している可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。1965年以降に生まれた人では、1950年から1954年の間に生まれた人に比べて老化が加速している可能性が17%高く、また、このような老化の加速は、55歳未満の成人における特定のがんリスクの増加と関連していることが示されたという。米ワシントン大学医学部のRuiyi Tian氏らによるこの研究結果は、米国がん学会年次総会(AACR 2024、4月5〜10日、米サンディエゴ)で発表された。』
荒川 央先生の『私はコロナワクチンによる隠れた副作用は文字通りの「老化」ではないかと思っています。』という表現がとても印象的で頭に残っています。今回のニュースはコロナワクチンとの関連性を指摘するものでは全くないのですが、やはり気になります。
NHKのBS放送で“脳”に関する番組が目に留まりました。それは「人体神秘の巨大ネットワーク3 第5集 “脳”すごいぞ!ひらめきと記憶の正体」に関するものでした。
アマゾンで購入履歴を調べたところ以前に購入しており、おそらくその時は「人体神秘の巨大ネットワーク3」の第4集の「万病撃退!“腸”が免疫の鍵だった」に興味があって購入したものの、第5集は読んでいなかったということだと思います。
「これは買う手間が省けた」というところです。Partは以下の4つですが、ブログはPart4の「認知症撲滅作戦」を取り上げることにしました。
Part1 脳に広がる神経細胞のネットワーク
Part2 “ひらめき”の秘密
Part3 海馬に刻まれる記憶
Part4 認知症撲滅作戦
・編集:NHKスペシャル「人体」取材班
・発行:2018年6月
・出版:東京書籍
薬を通さない脳血管の特別な関門
●『長い人生を通して私たちの脳の中に築かれていく記憶のネットワーク。それがむしばまれることで引き起こされる病気が認知症だ。認知症の原因はさまざまだが、最も患者数が多いのがアルツハイマー病で、世界各国の研究者が治療薬の開発にしのぎを削っている。アルツハイマー病は、一説によれば「アミロイドβ」というたんぱく質が脳にたまり、神経細胞を壊すことで起こると考えられている。このアミロイドβを分解する薬を脳に送り込むことでアルツハイマー病の進行を食い止めようと、これまでも多くの薬がつくられてきたが、いつも大きな難題が立ちはだかっていた。薬を投与しても、脳神経細胞にまで届いている形跡が見られないのだ。
これまでその理由に関しては、さまざまな可能性が取り沙汰されてきたが、現在ではその有力な仮説として、脳の血管の特別な仕組みに原因があるのではないかと考えられている。通常、点滴や錠剤などを介して血液中に溶け込んだ薬の物質は、血液の流れに乗ってターゲットとする臓器へと移動し、血管からしみ出して臓器の内部に届けられる。それが可能なのは、血管の壁に薬が通れるだけのすき間が開いているからだ。
一方、脳の血管の壁の細胞は、互いに強く結合しているためほとんどすき間がなく、薬が通り抜けることができない。このような脳の血管の仕組みは「血液脳関門」と呼ばれている。英語ではBlood-Brain Barrier、文字通り脳を血液から守るバリアーだ。
画像出展:「薬が脳に到達するメカニズムの解明に挑戦 日本大学薬学部」
『血液脳関門の実体は無窓性(つなぎ目のない)の筒(チューブ)状に連結された血管内皮細胞から主に構成されている。ヒトの脳毛細血管の細胞内容積は、全脳容積のわずか0.1-0.2%であるが、血管の全長は600Kmもあり、脳内を綱目状に分布している。』
血液脳関門を突破して脳に届きアミロイドβを分解できる薬は、まだ医療の現場に登場していない。
なぜ、脳の血管だけに、物質の侵入を簡単には許さない特別な仕組みがあるのだろうか。それは、私たちの脳の中で、さまざまなメッセージ物質がやり取りされていることと関係がある。
画像出展:「人体神秘の巨大ネットワーク」
茶色い物質がアミロイドβです。
もし脳の中に、血液の中を行き交う他の臓器からのメッセージ物質が際限なく流れ込めば、脳は大混乱に陥り、神経細胞の働きに支障をきたすだろう。つまり、血液脳関門は脳に必要な物質を血液中に排出するという、脳の働きを健全に保つ重要な役割を担ってるのだ。
そのため、メッセージ物質の中でも脳の血管の壁を突破することが許されているのはごく一部、特別な役割をもつ物質に限られている。
例えば、すい臓から分泌される「インスリン」はその1つだ。インスリンはPart3でも紹介したように、「記憶力をアップせよ!」というメッセージを脳に伝え、海馬の歯状回の神経細胞を増やすという役割が指摘されている。さらに、インスリンが不足したり働きが不十分な場合は、認知機能や記憶機能に障害が出ることも分かっている。脳にとって欠かせない物質だからこそ、血液脳関門の通過を許されていると考えられている。
血液脳関門は脳を守るという点では役立つものの、薬を脳に届けようとするうえでは逆に大きな妨げになってしまうという、ある意味「諸刃の剣」となっているのだ。』
脳内に薬を届ける新たな仕組み
●血液脳関門を通り抜ける薬を開発することは、臨床医や製薬企業の研究者にとって大きな関心事となっている。
●この難問の第一人者はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)名誉教授のウィリアム・パードリッジ博士である。博士は15年前にベンチャー企業を設立し、新薬の開発の指揮を執っている。
●血液脳関門を通り抜けることができる数少ないメッセージ物質の中から、博士はインスリンに注目した。
●『パードリッジ博士はまず、血液脳関門を形づくっている脳の毛細血管を分離し、この毛細血管の中にどんな運搬機能があるのかを徹底的に調べた。そして、血管の内側の壁にはインスリンにくっつく小さな突起があることを突き止め、血液脳関門を突破する仕組みを解き明かした。』
●インスリンが血液脳関門を通り抜ける仕組み(CGです)
画像出展:「人体神秘の巨大ネットワーク」
すい臓から分泌されたインスリンは血液の流れに乗って脳の血管に到達する。
脳の血管の壁を通過できるのは、メッセージ物質の中でも、ごく一部の限られた物質である。
画像出展:「人体神秘の巨大ネットワーク」
脳の血管の表面には、インスリンをキャッチするための小さな突起がある。
画像出展:「人体神秘の巨大ネットワーク」
突起がインスリンをキャッチすると、まるで“秘密の扉”が開くように血管の壁は陥没し始める。
画像出展:「人体神秘の巨大ネットワーク」
●パードリッジ博士は、この突起にくっつく物質を作り出し、それに薬を結合させて血液脳関門を通過させる戦略を思いついた。
画像出展:「人体神秘の巨大ネットワーク」
メッセージ物質が血管の壁を越えて、血管の中から脳へと向かう様子を捉えた写真。パードリッジ博士らが1985年に撮影に成功した。
画像出展:「人体神秘の巨大ネットワーク」
カプセルのような薄い膜に包まれたメッセージ物質が、血管の壁を通り抜ける瞬間が映し出されている。
ハーラー病の子どもをすくえ!
●パードリッジ博士らが「認知症の新薬を開発するための第一歩」と位置づける臨床試験は既に始まっている。2017年10月、ブラジル南部のポルトアレグという街では、ハーラー病の3歳から16歳までの子どもたちが、週に一度、大学病院にやってくる。
●ハーラー病はグリコサミノグリカン(GAG)と呼ばれる物質が細胞の中に溜まることで引き起こされる難病であり、ライソゾーム病の一種である。ライソゾーム病は細胞内の小器官ライソゾームに関連した酵素が欠損しているために、分解されるべき物質が老廃物として体内に蓄積してしまう、先天性の病気の総称である。日本ではハーラー病など31種類のライソゾーム病が難病の指定を受けている。
血液脳関門を突破するプロジェクト
●ポルトアレグで行われている新薬の臨床試験は、アメリカの保健省の指導の下、1年半にわたって続けられてきた。試験に参加していたのは11名、症状が重い8人のうち7人に認知や運動面で症状の改善が見られた。
認知症治療薬の開発への応用
●ブラジルで臨床試験が行われているハーラー病治療薬の開発に成功すれば、世界中の2,000以上の子供たちへの朗報となる。また、ライソゾーム病全体で見れば罹患している子どもはもっと多い。
●アルツハイマー病の進行を食い止める薬の道筋も見えてくるが、パードリッジ博士らは同じ技術を用いてアルツハイマー病の新薬の開発にも取り組んでいる。
●血液脳関門を突破するカギとして注目されているのは、インスリンだけでない。日本では血液中の鉄を脳へ運ぶのに関係するトランスフェリンというたんぱく質に着目し、この物質を利用することでライソゾーム病の薬を脳に送り届けようと開発を進めている。
2 ECT(電気けいれん療法)
・うつ病に対する治療法の中で効果は高く、即効性もあるため抗うつ薬の効果が乏しい難治性のうつ病に対して広く行われている。
・現在は麻酔科医による全身麻酔と呼吸循環管理のもと、痙攣を起こさないようにして行う、修正ECTが行われている。
・即効性があるため、自殺念慮が強い場合には是非試みるべき治療といえる。
・妄想、焦燥、昏迷などの強い重症のうつ状態なども修正ECTを検討すべきである。
・通常は週2、3回で6~12回程度繰り返すのを1クールとする。効果は直後、もしくは2、3回施行後から現れる。麻酔を行うためリスクもあり、自殺念慮、重症、難治性に対して行うものである。
・ECTの作用のメカニズムはよく分かっていない。
・双極性障害ではうつ状態で行うと躁転することがあり、慎重な判断を要する。また、何クールまで問題ないのかといった基準はないのでこの点も注意を要する。
3 反復性経頭蓋磁気刺激療法(γTMS)
・左前頭部にコイルを当てて、磁場を与えることで脳の中に電流を起こさせて刺激する治療法である。
・双極性障害のうつ状態に対しての有効性は明確になっていない。
先進医療.netより
『2019年3月、双極性障害のうつ状態に対する新たな治療法として、「薬物療法に反応しない双極性うつ病への反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)」が先進医療として指定され、臨床研究が始まりました。rTMSの仕組みや長所、先進医療の流れなどについて、国立精神・神経医療研究センター病院 精神科医長の野田隆政先生に伺いました。』
・ 双極性障害の治療には主に薬が使われるが、患者さんによって効く薬や効果が異なる。自分に合った薬が見つからず、長期にわたって苦しむ患者さんも多い。
・ rTMSは、磁気や電気などの刺激によって神経の働きを調節する「ニューロモデュレーション」という治療法の一つ。磁気の刺激により、脳の神経の働きを調節することで、双極性障害のうつ状態の改善が期待される。
・ 双極性障害のうつ状態に対するrTMSは、先進医療Bの制度の下、2019年11月27日現在、全国3施設で実施されている。薬が効かない患者さんに対する新たな選択肢として期待される。
4 ケタミン
・現在臨床試験が行われており、数年以内には利用できるようになる可能性がある。
・これまでの抗うつ薬は治療効果が現れるまで1、2週間、治療期間が数カ月と長い時間がかかるが、この薬は1、2時間で効果が現れ、それが1週間程度持続するという、全く異なった効き方をする治療薬として注目されている。
『金沢大学医薬保健研究域薬学系の出山諭司准教授、金田勝幸教授、大阪公立大学大学院医学研究科脳神経機能形態学の近藤誠教授らの共同研究グループは、ケタミンの即効性抗うつ作用に関わる新しいメカニズムを解明しました。
うつ病の患者数は世界で約2.8億人と言われ、深刻な社会経済的損失をもたらします。しかし、現在うつ病の治療に用いられる抗うつ薬は、効果発現が遅く、3分の1以上の患者は治療抵抗性であることが問題となっています。2000年代の臨床研究により、全身麻酔薬として古くから用いられているケタミンが、麻酔用量よりも低用量で治療抵抗性うつ病患者に対して即効性の抗うつ作用をもたらすことが明らかとなり、大きな注目を集めています。ケタミンには依存性や精神症状(幻覚、妄想など)といった重大な副作用があるため、ケタミン自体の臨床応用には大きな問題が伴います。そこで、不明な点が多いケタミンの作用メカニズムの解明により、有効性が高く、かつ副作用の小さい治療薬の開発につなげることが期待されます。』
5 心理教育
●双極性障害は心の病ではない
・双極性障害の柱は薬物療法と精神療法である。
・精神療法というと精神分析やカウンセリングが思い浮かぶが、双極性障害は心の病ではない。
●身体の病気でも、精神療法は必要
・双極性障害は脳や遺伝子などの疾病であるが、発症はストレスが原因となることが多く、発症後も慢性的なストレスは双極性障害にとって好ましいものでない。
・精神療法は心理教育とよばれている。
●心理教育とは
・病気について勉強していただきながら、患者さんの心に起きるその病気に対する反応も十分に把握し、理解しながら進めていくということである。
・双極性障害の精神療法において、最も重要なことは心理教育である。基本は患者さんと医師一対一での心理教育である。それに加えて、ご家族とともに病気について学んでいただく家族心理療法も大切である。さらに夫婦や集団療法的な取り組みも有効である。
・心理教育ではまず病気の性質を理解し、次に薬の作用と副作用、そして双極性障害の再発の兆候に気づけるようになることが重要である。
●ストレスの対処法
・心理教育にはストレスに対する対処法もある。ストレスは再発のきっかけとなったり、躁やうつを繰り返す不安定な症状を引き起こしたりする。
●認知行動療法
・生活の中で起きる事態を見直して、ストレスを減らしていく方法をまとめたものが認知行動療法であり、双極性障害に対しての有効性が認められている。
・うつになり、嫌な考えばかりが頭に浮かぶような状態を「否定的自動思考」とよぶ。この「否定的自動思考」を抑えることは容易ではないが、出てきた気持ちが「否定的自動思考」であると認識して、別の合理的な考え方に切り替えていくことは、練習によってある程度はできる。
●対人関係療法(IPT)
・外来で行う個人精神療法である。
・特定の理論にはこだわらず、よく効くと言われている常識的な治療をまとめたものである。
・IPTの治療目標は、認知を変えることではなく対人関係のパターンを変えることである。
・IPTの対象は双極Ⅱ型障害のような軽症なものに限る。中等症以上は薬物療法が中心となり精神療法は補助的なものになる。
・対人関係の中では、特に三つのパターンに注目している。①「重要な人物の死」、②「役割をめぐる不一致」、③「役割の変化」である。3番目の役割の変化とは、例えば、昇進や結婚などによってうつ状態を発症することが多いということである。
●対人関係-社会リズム療法(IPSRT)
・双極性障害のために開発されたのが、対人関係-社会リズム療法(IPSRT)である。
・双極性障害では徹夜が躁転のきっかけになる。対人関係-社会リズム療法では、起床時間、入眠時間、出勤などの時間の目標を決めて、毎日、これらの時間を記録につけ生活のリズムを守るようにする。
画像出展:「双極性障害」
●五分診療の中の精神療法
・症状の落ち着いた双極性障害の患者さんの外来診療は、短い方では5分~10分である。この診察を1、2カ月に1回程受けてもらい、その中で薬の副作用の有無を確認し、定期的に採血してリチウムの血中濃度を調べてて適正になるように調整する。
・短い時間の精神療法が意味あるものにするには、早い段階にどれだけしっかりと病気を受け入れ、その対処法の理解を進められるかどうかにかかっている。
第六章 双極性障害とつき合うために
●再発する人としない人の違い
・『このように双極性障害の患者さんには、すっかり薬が効いて、本人も病気をコントロールしようという意識が高く、十年、二十年と一回も再発せず、薬さえ飲んでいればまったく問題なく社会生活を送ることができている方もいらっしゃいます。
一方で、病気のために仕事や家族を失い、思うような人生を送れていない患者さんもいらっしゃいます。そのような両極端な違いは何なのでしょうか。
まずは、病気の初期に、どれだけしっかり予防の対策を立て、実践したかどうかです。
そしてもうひとつの違いは、薬がどの程度効くかです。
残念なことに、きちんと薬を服用しているにもかかわらず薬が十分に効かないという患者さんもいらっしゃいます。ですから、再発を繰り返している人に、簡単に「双極性障害はコントロールできるはずなのに、薬をちゃんと飲んでいないのではないか」などと思わないでいただきたいと思います。
医師はひとつの薬、リチウムだけで効果がなければ、ラモトリギンとかオランザピンなど、さまざまな薬を併用して、何とか予防をはかります。それでも軽いうつや躁が出てしまうこともあるのです。
このような場合には、うつになったら何らかの薬を増やし、軽躁になったら少し抗精神病薬を増やしたりと、その都度対処しながら治療を進めていきます。
リチウムやラモトリギンやバルプロ酸などである程度まで病状が落ち着いている患者さんの場合、それほど激しい躁状態にはいかないことが多く、躁状態になっても何とか患者さん本人も治療しようという気持ちになってくれて、入院するには至らないですむという場合も多くあります。
しかしながら、薬を服用していることによって、症状が軽くすんではいるけれども、現在存在する薬すべて使っても、やはり再発を予防するのが難しいという患者さんがいらっしゃるのも事実です。
今我々にできることは、病気がわかったらごく早いうちから、きっちりと予防対策を進めること、薬が効きにくい人には効かない人なりに、薬の組み合わせや投与量の工夫で症状を最小限に抑え、再発を予防するということです。
現在ある薬は必ずしも完璧ではありません。双極性障害の基本的な薬であるリチウムは、非常に副作用が強く、飲みにくい薬であることは、すでに述べました。手の震えなど、人によっては大変気になるところでしょう。
そのために服用をやめてしまい、また再発してしまう方が少なくありません。現在ある薬の副作用を少なくすること、今の薬が効かない患者さんのための新しい薬を開発すること、そして病気の原因究明、そういった研究は、絶対に必要だと思っています。』
●病気のコントロールには、まず病気を受け入れることが必要
『双極性障害の治療において最も重要なのは躁の治療でもうつの治療でもありません。むしろ症状がおさまった時、再発予防薬がきちんとなされるかどうかが、間違いなくその人の一生を左右します。
最初に述べたように、双極性障害は、以前は非常に軽く見られてきました。医師から見れば、躁になって入院して来ても、うつになって入院して来ても、患者さんはとりあえず、その状態が治って退院していきます。
そして治って退院するときには、最初の症状はもうすっかり治っています。そういったことで医師の個として双極性障害は治る病気だという意識が強かったのです。
これはこれで事実であり、統合失調症のように、陰性症状とよばれる症状が長く続く病気と違い、双極性障害は、一旦治ると何の症状もなくなるのが特徴です。患者さんは治ったと感じて安心するし、ご家族も、また医者ですらほっとしてしまうわけです。
ところがその一旦治った病気が、ほとんど再発します。またそれを繰り返すことによって本来は能力を持っている人が、その能力を発揮する場所を奪われてしまいます。会社を辞めざるを得なくなったり、家族と別れてしまったりします。そういう意味では大変恐ろしい病気でもあるわけです。
昔の医師も、おそらく退院する時には「この病気は再発しますから、ずっと薬を飲んでくださいね」と言っていたと思います。ところが実際は、そのくらいのことでは、多くの患者さんは薬を飲みません。
たとえば病院に行って「皮膚炎の薬です。これを朝夕一週間塗って下さいね」と皮膚科の先生に言われたとします。「はい。そうします」と答えて帰って来ても、症状がなくなってきたら薬を塗るのを忘れてしまうという経験はないでしょうか。
双極性障害の患者さんの場合も同じです。症状が治まったら薬を飲まなくなるということは、誰にでも非常によくあることなのです。
しかしその結果、結局患者さんは再発してしまいます。そしてこれまで繰り返し述べたように、双極性障害は、再発することによって、人生そのものが大きな影響を受けてしまう病気なのです。
病気との取り組みいかんで、病前と変わらない生活が送れる人から、仕事も家族も失ったという人まで、非常に幅広い、さまざまな結果が返ってきます。
より良い結果を得るためには、双極性障害とは大変な病気である、ただし十分にコントロールすれば恐れるに足らない病気でもあるということを知り、前向きに再発予防に取り組むことが何よりも重要なのです。』
感想
「双極性障害」の患者さまにとって、医師による診察と適切かつ慎重な薬物療法や、精神療法との組み合わせが極めて重要であることを学びました。
鍼灸師ができることはお話を伺うこと、そしてうつ病と双極性障害(躁うつ病)は異なる病気で、薬も療法も異なるということをお伝えすることだと思いました。
第三章 社会生活を妨げてしまう双極性障害
1 双極性障害による社会生活の障害
●再発を繰り返すと仕事も家庭も失ってしまう
・双極性障害はいずれ改善され、治ったときにはほとんど何の症状も残さない。
・双極性障害の躁やうつは薬による病気のコントロールや予防をしっかり行わないと、何度も再発を繰り返してしまう。また、このため患者さんの環境や生活レベルは低下していく。
・双極性障害の発症頻度は100人に1人弱といわれており、家族、親戚、友人と範囲を広げれば、すべての人が双極性障害の患者さんに接する機会はあると言っても過言ではない。
2 立場によって受け止め方が違う双極性障害
●家族から見た双極性障害
・重度な双極Ⅰ型障害は統合失調症の精神病状態とは異なり、話の筋がある程度通っているおり病気と思えない部分がある。そのため、家族は非常に腹が立ったり、傷ついたり休みなく言葉を浴びせられ続け憔悴しきってしまうようなこともある。そして、仕事を失うこともある。
・家族にとっても、双極Ⅰ型障害の躁状態はうつ状態とは異なるがとても辛いものである。
●患者さんにとっての双極性障害
・躁状態の患者さんが自分は、病気であるという自覚を持つことが非常に難しい。
・軽躁状態を本来の自分と考え、通常の状態の時期が何かつまらないものに思えてしまう人もいる。
●うつ状態の時
・自分をつまらない人間で、仕事もできず取るに足りない人間だという気持ちが絶え間なく襲ってくる。
・家族が質問してくるのが、うっとうしくて仕方がない。
・子供に対してイライラして叱ってしまい、その後酷い自責の念に駆られますます落ち込んでしまう。
・何とか出社してもまわりの会話についていけず、毎日が苦痛でしかない。
・うつ状態が酷くなると自力で病院に行くことができなくなる。
3 受診する時
●躁状態で受診する時
・双極Ⅰ型障害の躁状態に関しては、治療が軌道にのりさえすれば、有効な薬がたくさんある。このような薬を服用することで1ヵ月から2ヵ月で改善することが多い。
・躁状態(双極Ⅰ型障害)の問題点は治療を起動にのせることである。その理由は躁状態というのは患者さんご自身にとっては、普段より調子が良いと感じており、治療を受け入れることが難しいためである。
<職場>
・受診を無理強いすることは人権侵害のおそれがある。
・「心配なので一度受診してみたらどうか」と示唆する程度が望ましい。
・ご家族に状況を伝え、受診してほしいとお願いする方法も有効である。
・ご家族が対応頂けない場合は、労働契約法第五条に、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働ができるよう、必要な配慮をするものとする」という条項(健康配慮義務)があるので、職場の上司は部下の健康を守るために、病院の受診を要請することも可能である。
・問題行動に対して出勤停止等の処分を行うという選択肢も考えられる。
・双極Ⅱ型障害の軽躁状態の場合、心がけたいのはもし、その人がうつ病と診断されていた場合、気分の高揚は軽躁状態かもしれないので、主治医の先生に相談してみてはどうかと伝えてみても良い。
<家族>
・気分の高揚やおかしな言動に対して、もしかしたら躁状態かもしれないと気づくことが対応の第一歩になる。そして、これは間違いないと感じたら、次は何とか受診するよう説得することである。
・躁状態の患者さんは、色々なことに手を出しているが、思う通りになっていたことが多く、常にイライラしていることが多い。また、そのため不眠の問題を抱えていることも多い。そこで、不眠や疲れを理由に心配だから病院に行こうと説得するのが良い方法である。
・初発で相談できる病院もない場合は、まずは、家族だけで受診してみるという選択もよい。なお、その場合は病床数の多い単科の精神科が望ましい。大きな精神科病院にはケースワーカー(ソーシャルワーカー)がいて、入院の相談にのってくれる。
●うつ状態で受診する時
<職場>
・うつ状態の場合、躁状態とは異なり本人も不調を感じているので受診の勧めに強く反発することはない。
・同僚の異常に気付いた場合は、まず上司に相談するのが良い。部下のメンタルケアは管理職の仕事になっている。
・既に通院されている場合は、確認もなく病院や薬について詮索するべきではない。特に「薬に頼ってはいけない」という言葉は禁句である。
<家族>
・普段と様子が異なり、いつも苦しそうな表情をしている、ため息ばかりついていて楽しそうに見えることがないという状態が二週間以上ほぼ毎日続いているなら受診した方が良い。
・初発のうつ状態では、抗うつ薬を処方されるが、統計では約二、三割は双極性障害である。つまり、誤診されている可能性もあるということである。重要なことは過去に何度かうつ状態になった経験や、抗うつ薬の服用により気分が高ぶった経験がある人は、そのことをはっきりと医師に伝えることが必要である。
<本人>
・『受診した場合、「うつ病です」と診断されたら、それで満足せず、(大)うつ病なのか、うつ病だとしたら、どのようなタイプなのか、よく確認したほうがよいと思います。
そして、薬物療法を勧められた場合には、他のどのような治療の選択肢があり、なぜ、その薬を選択したのかということも、よく尋ねてみるとよいでしょう。納得できるような説明が得られない場合は、他の病院も受診してみたほうがよいかもしれません。』
4 復職
・躁状態、うつ状態が治った時にどのようなタイミングで、どのような形で復職するかはとても切実なことであるが、まさに研究が進められている段階であり正解というものはない。特に躁状態の患者さんは病気であるという認識があまりないので、本人は「もう大丈夫」と言うものである。
・重いうつ状態からの復職の時は、短縮勤務から始め徐々に時間を長くして慣らしていくなど、段階的に進めていくのが良い。
・長く休職した後の復職の場合は、都道府県の障害者職業センターなどの復職支援プログラムを利用するのも良い方法である。
・復職前に心理教育を受け、何が再発の兆候なのかを把握しておくと良い。
5 自殺の予防
・日本では約20,000人以上の方が自殺でなくなっており、その多くはうつ状態により自殺に至ったと考えられている。
・双極性障害では死因の19.4%が自殺であったという研究がある。
・薬物療法の中ではリチウムのみが、統計的に自殺率を低下させることが報告されており、重要な薬といえる。
・自殺の危険を把握するためには、患者さんを自殺に追いやる要因があるか、患者さんの死にたい気持ち(希死念慮)がどれだけ強いかの二つが重要である。
・自殺の危険を高める因子としては、自殺未遂をしたことがある、家族に自殺者いる、最近家族が亡くなった、最近知人や有名人が自殺でなくなった、借金など経済的な問題がある、そして周囲に助けてくれる人がいない等がある。
・自殺する人は自殺のサインを出すものであるが、大事なことは死にたいという気持ちを話してもらい、それをしっかりと受け止めることである。すべての思いを話してもらった後に、初めて「自殺しないと約束してほしい」と伝える。
6 双極Ⅱ型障害
●診断
・双極Ⅱ型障害にはさまざまな患者さんがいるという理解が大切である。
・双極Ⅱ型障害は医師によって診断にバラツキが出やすい。
●治療
・双極Ⅱ型障害は軽躁状態を有するが、現実的に問題となるのはうつ状態である。双極Ⅱ型障害のうつ状態は双極Ⅰ型障害に比べうつ状態の頻度は多く、期間も長い場合が多い。
・双極Ⅱ型障害の軽躁状態は、双極Ⅰ型障害の躁状態に比べると症状は軽く、期間も短いため診断が難しく医師によってもばらつきがでる。
第四章 双極性障害の治療
1 薬物療法
●精神科領域で用いられている薬
・精神科領域で使う薬を「向精神薬」とよばれ、向精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、気分安定薬、精神刺激薬などがある。
・抗精神病薬は統合失調症の幻覚や妄想に有効な薬だが、双極性障害にも有効である。
・抗精神病薬には古いタイプの定型抗精神病薬と新しいタイプの非定型抗精神病薬があるが、双極性障害では非定型抗精神病薬の方がよく使われる。
・抗うつ薬はうつ病の薬である。古いタイプは三環系抗うつ薬などがあり、新しいタイプは選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI)などがある。
・抗不安薬は病的かどうかに関わらず使われる不安を抑制する薬である。代表的なものはベンゾジアゼピン系抗不安薬である。
・気分安定薬は、双極性障害の再発予防に用いられる薬で、リチウムの他、ラモトリギン、バルプロ酸、カルバマゼピンがある。
・精神刺激薬は覚醒作用をもつ薬で、AD/HD(注意欠如・多動症)およびナルコレプシーに使われる薬で、双極性障害では使われない。
●リチウム(商品名 リーマスなど)
・リチウムは双極性障害の治療の基本となる薬である。
・リチウムは天然にも身体の中にも含まれている。
画像出展:「双極性障害」
●リチウムの効果
・リチウムは躁状態およびうつ状態を改善する作用と予防する作用をもつ薬である。特に躁状態、うつ状態の再発を予防する作用が最も重要である。また、自殺予防効果もあるとされている。
・リチウムは代表的な気分安定薬であり、双極性障害の薬物治療の基本となるものである。
●リチウムの副作用
・リチウムはとても有用な薬であるが、精神科の薬の中で最も使い方が難しく、医師の指示通りに服用しなければならい。
・リチウムは血中濃度を測りながら服用することが定められている。一般的には0.4~1.0ミリモーラーの間で使用するが、1.5ミリモーラーを超えてくると。中毒症状が出る可能性がある。
・飲み始めの時には、下痢、食欲不振、喉の渇きと多尿、手の震えなどの副作用が見られる。
・腎臓の機能が低下していたり、脱水になっていたりすると血中濃度が高くなるため特に注意を要する。
・白血球、特に顆粒球が増加するという特徴も知っておくべきである。特に他の理由で内科などを受診する場合は、リチウムを服用していることを必ず伝えるべきである。
・特に女性の患者さんは甲状腺の機能低下という副作用が懸念されるので、時々、甲状腺刺激ホルモンを測定するようにする。
●他の薬との組み合わせにも要注意
・利尿剤、消炎鎮痛剤、高血圧薬などリチウムと相互作用し急激に血中濃度を高める可能性があるため十分に注意しなければならない。
●血中濃度の測定
・リチウムは服用後数時間の間に血中濃度が上がり、その後下がってきて8時間後くらいに安定した濃度になる。測定は最も血中濃度が下がった時に行う。
・血中濃度は最初のうちは受診の度に測定し、維持療法中は2、3ヵ月に1回を目途として行う。
●リチウム以外の気分安定薬(抗てんかん薬)
①ラモトリギン(商品名 ラミクタール)
・再発、再燃抑制の薬。保険適応されている。元々は抗てんかん薬である。
・再発予防効果は特にうつ状態の方が顕著という調査結果だった。これがラモトリギンの特徴である。
・リチウムとラモトリギンの併用は効果が高い。
・副作用には十分注意しなければならない薬であり、特に問題となるのはスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や、皮膚、眼、口唇などの粘膜に障害を起こす中毒性表紙壊死融解症(TEN)である。これらは全身の発疹で始まるので、発疹が出るようであれば服用を中止し、速やかに医師に相談すべきである。
②バルプロ酸(商品名 デパケンなど)
・元々は抗てんかん薬である。躁状態や混合状態に対して有効性がある。
・副作用はリチウム少ないが、食欲や嘔気など消化器系の副作用がみられる。まれな副作用には高アンモニア血症である。服用中に意識障害が生じた場合は、高アンモニア血症を疑う。
③カルバマゼピン(商品名 テグレトールなど)
・元々は抗てんかん薬である。躁状態に有効だが臨床研究は多くない。
・カルバマゼピンで問題となる副作用はスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)と白血球減少症である。
●薬には症状との相性がある
・リチウム:気分が爽快になる。典型的な躁病の人によく効くと考えられている。
・ラモトリギン:うつ状態の予防に有効で、軽躁状態(双極Ⅱ型)にも有効とされている。
・バルプロ酸:不機嫌な躁病の人や混合状態が見られる人に有効だとされている。
・カルバマゼピン:若年で錯乱性躁病が見られる方に有効とされている。
・薬の適合性を調べるような検査や方法は、今のところはないため、経験や試行錯誤で見つけていく必要がある。
・二種類、三種類の気分安定薬を併用する場合も少なくない。
●非定型抗精神薬
①クエチアピン(商品名 ビプレッソ)
・双極性障害のうつ状態に有効な薬はあまりないのが実情であるが、注目が高まっているのは、非定型抗精神病薬である。その中で最も定評があるのは、クエチアピンである。
・クエチアピンはうつ状態だけではなく、予防効果も報告されており、さらに双極性障害の躁状態にも有効であることが臨床試験で認められている。
・日本では2017年に保険適用になった。
・クエチアピンの最も多い副作用は眠気である。
②オランザピン(商品名 ジプレキサ)
・躁状態への効果と予防効果がある。日本では2010年に認可された。また、2012年には双極性障害のうつ状態にも有効であることが分かった。
・体重増加や糖尿病誘発のリスクがあり、血糖値を測り糖尿病に十分な注意を払う必要がある。
③アリピプラゾール(商品名 エビリファイ)
・非定型抗精神病薬にはドーパミンを阻害する作用があるが、アリピプラゾールはある程度しか阻害しないため、パーキンソン症状という副作用を抑制することができる。さらに、ドーパミンが多すぎれば阻害し、少なければドーパミンを刺激する作用があると言われている。
●定型抗精神病薬
①ハロペリドール(商品名 セレネースなど)
・古くからある定型抗精神病薬の中で、最も代表的なものである。
・躁状態に対する効果および幻聴、妄想などの精神病症状に対する効果がある。
・副作用はパーキンソン症状である。また、ジストニア、アカシジアと呼ばれる副作用もある。これらの副作用には抗パーキンソン薬が有効である。
・副作用が多い薬だが、静脈注射、筋肉内注射などによって即効性が期待できるため、しばしば使われている。
②レボメプロマジン(商品名 ヒルナミン、レボトミなど)
・定型抗精神病薬の中でも、最も鎮痛効果が強い薬である。
・パーキンソン症状はあまり見られず、心電図異常、血圧低下など自律神経への副作用がある。
③クロルプロマジン(商品名 コントミンなど)
・最初に開発された抗精神病薬である。
④スルトプリド(商品名 バルネチール)
・躁状態の薬だが、パーキンソン症状が強くやや使いにくい。
⑤ゾテピン(商品名 ロドピン)
・定型抗精神病薬の中では、躁状態に対してよく使われた薬の一つ。鎮痛作用が強く、誇大性や気分高揚などの中核症状によく効くが鎮痛作用には個人差が大きいため用量設定が難しい。
・副作用は痙攣を誘発することがある。
●抗うつ薬と自殺念慮
・抗うつ薬は、24歳以下の方が服用した場合、自殺のリスクを増やす可能性があるので、リスクと効果を考慮して使うかどうか判断する必要がある。
・抗うつ薬で焦燥感が強まる場合、うつ病ではなく双極性障害の可能性がある。
●抗不安薬
・双極性障害には抗不安薬も使われる。ベンゾジアゼピン系と呼ばれ代表的なものには、ジアゼパム(商品名 セルシン)とかロラゼパム(商品名 ワイパックス)といった薬がある。これらの薬は抗不安薬、抗痙攣薬、催眠作用、鎮痛作用、筋弛緩作用といった様々な作用を持つ薬物群である。
●甲状腺ホルモン剤
・急性交代型という年間4回以上の躁やうつを繰り返すような人に有効であると言われている。ただし、量が多すぎると甲状腺機能亢進状態が懸念される。
双極性障害は、躁うつ病と呼ばれていた病です。この双極性障害はうつ病とは似て非なる病気で、その経過も薬も全く異なるということを専門学校で学びました。つまり、もし、うつ病と双極性障害の診断が間違っていたとすれば、いつまでたっても病は治らず、悪化させてしまう可能性もあるということです。
もちろん、私は医師ではないので診断はできません。しかし、双極性障害とうつ病の違いを少しでも理解することは有益であり、勉強して最低限の知識はもつべきと考えます。
このように考える背景には、うつ病の既往やうつ症状ではないかとご心配される患者さまは稀ではないという印象があるためです。その時、頭をよぎるのは「双極性障害の可能性は全くないのか」という懸念です。とはいうものの、今まで手つかずにやってきたのですが、今回、一冊の本を買い求めました。
著者:加藤忠史
発行:2019年6月
出版:ちくま新書
はじめに
第一部 対処と治療
第一章 なぜ躁うつ病は双極性障害となり、双極症に変わるのか
第二章 双極性障害(双極症)とは
1 双極Ⅰ型障害(双極症Ⅰ型)
2 双極Ⅱ型障害(双極症Ⅱ型)
3 さまざまなうつ病
4 小児思春期の双極性障害
第三章 社会生活を妨げてしまう双極性障害
1 双極性障害による社会生活の障害
2 立場によって受け止め方が違う双極性障害
3 受診する時
4 復職
5 自殺の予防
6 双極Ⅱ型障害
第四章 双極性障害の治療
1 薬物療法
2 ECT(電気けいれん療法)
3 反復性経頭蓋磁気刺激療法(γTMS)
4 ケタミン
5 心理教育
第五章 症例
第六章 双極性障害とつき合うために
第二部 Q&A
症状・経過・診断について
治療・社会復帰について
原因について
その他
年輪の会講演会から
年輪の会講演会での質疑応答から
参考文献
おわりに
第一部 対処と治療
第一章 なぜ躁うつ病は双極性障害となり、双極症に変わるのか
●もともとは躁うつ病とよばれていた双極性障害
・双極性障害は「躁うつ病」という病名でよく知られていた病気である。
・躁うつ病は統合失調症と並び、二大精神疾患とよばれてきた。
・躁うつ病という病名は、「うつ病」を含めて使う場合もあったため、混乱を招いていた面もあった。
・「躁うつ病」と「うつ病」は経過も処方する薬も全く異なる。
・躁うつ病のうつ状態とうつ病のうつ状態がきちんと区別されず、同じ治療が行われる場合があった。
・躁うつ病は躁とうつの再発を繰り返す病気だが、その認識が乏しく1回ごとの躁状態やうつ状態が、断片的に躁病、うつ病と診断されてしまい、長期的な展望を持って治療をするということが行われなかった。
・うつ状態にも多くの概念が混在していた。「内因性うつ病」「心因性うつ病」「荷下ろしうつ病」「引っ越しうつ病」「退行期うつ病」「抑うつ神経症」など、数えきれないほど色々な診断名が使われていた。
・病院、担当医によって、病名も異なり治療もバラバラだった。ただ、これは躁うつ病、うつ病に限ったことではなかった。
●混乱を解決するために作られた診断基準
・アメリカ精神医学会は精神疾患一つひとつに対して、操作的診断基準を作った。これは、どのような症状が何日間続いたら何病と診断するという基準を具体的に定めたもので、DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)と呼ばれている。
●もうひとつの診断分類ICD
・ICDは精神疾患の分類や統計の目的で、WHO(世界保健機関)が作ったものであるため、行政ではこの分類を用いることになっている。しかしICDは、病名判断の明確な基準がないため、医師の間で診断がばらつくという問題はなくならない。
●DSMが提案したこと
・躁状態を躁病と診断されないように、躁病エピソードと呼ぶことにした。また、うつ状態に関しては3つに分けた。
①脳梗塞や甲状腺機能障害といった、はっきりとした身体的要因があるうつ状態
②薬剤などの物質による原因がはっきりしているうつ状態
③上記①②以外のうつ状態
・③のような原因不明だが薬物療法が必要なうつ状態を「抑うつエピソード」と呼ぶことにした。この抑うつエピソードだけ起こる病気が、大うつ病性障害と呼ばれている。
・躁病エピソードと抑うつエピソードを伴う病気を双極性障害(この場合正確には双極Ⅰ型障害)と呼ぶ。
●DSM導入以降の日本の状況
・日本でのDSM診断基準の浸透度は心もとない状況である。特に「抑うつエピソード」という考え方は定着したとはいえない状況である。その結果、うつ状態という言葉が、DSMが定めた通り「抑うつエピソード」を指しているのか、抑うつエピソードの基準を満たさない軽いうつ状態も含めるのかが曖昧になっている。
・DSM-5からは、うつ病といえば身体的要因が特定できない、抑うつエピソードを有する大うつ病のことを示すとされた。なお、他の医学的疾患による抑うつ障害は○○性うつ病、○○病のうつ状態と表記される。
第二章 双極性障害(双極症)とは
●双極性障害にはⅠ型とⅡ型がある
・DSMは改訂第4版にあたるDSM-Ⅳから、双極性障害は「双極Ⅰ型障害」と「双極Ⅱ型障害」に分類された。そしてICDでもICD-11から、双極症(双極性障害)は、「双極症Ⅰ型(双極Ⅰ型障害)」と「双極症Ⅱ型(双極Ⅱ型障害)」に分類されることになった。
-双極Ⅰ型障害:入院が必要な重度の躁状態とうつ状態を繰り返すもの。
-双極Ⅱ型障害:明らかに高揚した躁状態ではあるが入院を必要としない「軽躁状態」で、うつ状態を繰り返すもの。Ⅰ型とⅡ型は躁状態の程度で判断される。
●診断基準によって増加した双極性障害
・DSM-5の躁状態の診断基準は、躁状態が7日間毎日続くことになっている。
・軽躁状態の診断基準は軽躁状態が4日間続くことになっている。
●双極性障害は過剰診断?
・躁うつ病と呼ばれていた病気は、現在の双極Ⅰ型障害であり、それに加えて双極Ⅱ型障害が定義されたため、双極性障害の全体数は多くなっている。特にこの傾向は米国で顕著である。
●日本では過小診断と過剰診断が混在
・過小診断とは双極性障害に対する認識や理解不足により、医師はうつ状態に注意や関心が向きやすく、一方、患者も躁状態について話すことが少ないため、正しくは双極性障害にも関わらずうつ病として診断されてしまうことである。それにより不適切は抗うつ薬を処方され、状態は悪化する。
・過剰診断の一つのパターンは、パーソナリティーの問題などを双極性障害と診断してしまう場合である。双極性障害のうつ状態というのは、何かあった時に落ち込むとか、何かあると怒るといった周囲の環境に対する反応ではなく、何も理由がないのに2週間以上毎日気分が落ち込んだままである、という一定の長さを持つエピソードである。躁状態も同様に、何の理由もないのに1週間以上、毎日一日中気分が高揚している状態が続くというエピソードである。
・うつ状態も躁状態も、この数年間に何回あったと数えられるような、長く続くエピソードである。
・近年では特に躁状態も軽躁状態もないのに、光トポグラフィー検査の結果だけによって双極性障害と診断してしまうという過剰診断のケースもみられる。
1 双極Ⅰ型障害(双極症Ⅰ型)
●躁状態
・人生や家庭が破壊されかねない激しい躁状態である。
・躁状態は少なくとも1週間以上続き、その間、一日中ずっと気分が高揚したままの状態が続く。
・非常に高揚した気分、自分がとても偉くなったような気分を感じ、夜も寝ず、声が嗄れるまでしゃべり続けたり、じっとしていることができず、一晩中、一日中動き続けるが、その疲れを自覚できずに身体は消耗していく。
・必要のないものや高級品を買いあさり、借金してしまうこともある。
・気が散って集中できず、思い通りにならないとたとえ上司であっても激しく攻撃してしまい、職を失ってしまうようなこともある。
・酷くなると、幻聴や誇大妄想を伴うこともあり、錯乱状態まで進む場合もある。これを錯乱性躁病と呼ばれている。
●うつ病態(抑うつ状態)
・双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害は、躁的な状態には大きな違いがあるが、うつ状態には大きな違いはない。
・うつ状態とは、抑うつ気分、そして興味・喜びの喪失、この二つの症状が中核症状である。
<抑うつ気分>
・形容しがたい嫌な気分が逃れようもなく、一日中そして何日も続くものである。
・抑うつ気分は、やる気がないとか意欲が出ないという、あるべき意欲がないのではなく、普段あるはずのない筆舌に尽くしがたい、うっとうしい気持ちが襲ってくるというものである。
・『うつ状態の患者さんに、「三カ月くらいで治りますよ」と言うと、治るはずがない、と言うと、治るはずがないとおっしゃるかたもおられますが、中にはその言葉をある種の光明のように思う人もいます。抑うつ気分の時というのは、辛い気分が、まるで永遠に続くかのように感じられる状態なので、三カ月という普通なら長い期間でも、この状態にも出口があるのだと捉えられるのかもしれません。』
<興味・喜びの喪失>
・興味喪失とは、すべてのことに関してまったく興味をもてなくなる症状をいう。
・悲しいことに、自分の家族を愛する気持ちも喪失してしまうことがあり、さらに自分を責めてしまう。
・喜びの喪失とは、何をしても、何も見ても、嬉しい楽しいという感情が全く湧いてこないこと。
●うつ状態の診断
・うつ状態の診断では、まず抑うつ気分と、興味・喜びの喪失という二つの中核症状のうち、少なくともどちらか一方が、一日中、毎日、二週間ずっと存在しているかどうかを確認する。
・中核症状に加え、以下に紹介する4つの身体症状と、5つの精神症状の計9つの症状のうち、5つ以上が、一日中、二週間以上、毎日出てきていることが確認された時に、うつ状態(抑うつエピソード)と診断する。
●うつ状態の妄想
・うつ状態も酷くなると妄想が出てくる場合があるが、多いのは貧困妄想、心気妄想、罪業妄想の三つである。
<貧困妄想>
・根拠もないのに破産した、お金がないなどと信じ込んでしまう妄想である。この妄想のために入院を勧めても「お金がないから……」と断わったり、借金取りが来るなどと恐れてしまったりする。
<心気妄想>
・自分が重い病気に罹ったと信じ込んでしまう妄想である。医師や周囲の人の言葉を信じることができない。
・中には内臓がなくなってしまうという否定妄想に加え、大変な病気のために死ぬこともできず、永遠に生きなければならないという不死妄想が見られる場合を、コタール症候群という。
●躁にもうつにも起こり得る昏迷状態
・うつ状態あるいは躁状態が激しくなると、昏迷状態といって、しゃべることができなくなり身体が硬くなってしまう症状が現れることがある。特に酷い場合は、不自然な姿勢で静止したまま固まってしまうこともあり、このような状態は緊張病状態と呼ばれている。このような緊張病状態が出てくると、多くの医師は統合失調症を疑うが、双極性障害にも出るので注意を要する。
●混合状態
<躁転・うつ転に伴う「混合状態」>
・うつ病態から急激に(数日間で)躁状態に変わることを躁転と呼ぶ。躁転の経過中には、気分はうつなのに行動は活発になるような、うつ状態と躁状態の症状が入り混じって現れる混合状態になる時がある。
・躁状態からうつ状態に変わる場合は、うつ転と呼ばれこの時にも混合状態になることがある。
<通常とは違う躁状態・うつ状態の特徴を表す「混合状態」>
・混合状態では行動が非常に多くなって、しかも自殺念慮(自殺したいという気持ち)が強くなってしまうことがあり、うつ状態よりもさらに自殺の危険が高い状態といわれている。
2 双極Ⅱ型障害(双極症Ⅱ型)
・Ⅱ型はⅠ型の躁状態にくらべ、軽度な軽躁状態とうつ状態を繰り返すものである。
●軽躁状態とは
・躁状態は入院させたいほどの重度な状態に比べ、軽度な躁状態のものである。例えば、気分が高揚し仕事がはかどり、いろいろなアイデアが湧いてきて調子が良いという状態であり、病気と感じられるものではない。
・重要なことは、周りの人から見るといつものその人と全く違うと感じるものである。また、気分が高揚する状態は、一日中、少なくとも4日以上続くのが特徴である。
・軽躁状態では、本人には病気の自覚は全くないため、うつ状態になった時に初めて異変を感じるものである。
●うつ病にしか見えない双極Ⅱ型障害
・双極Ⅱ型障害の軽躁状態を本人が自覚するのは困難なため、双極Ⅱ型障害の患者さんのほとんどは、自分をうつ病だと考えている。家族においてもほぼ同様な認識である。したがって、軽躁状態を見分けることが、うつ病の治療において最大のポイントになる。
●なぜ双極Ⅱ型障害とうつ病を区別しなくてはいけないのか
●再発のリスクが高い双極性障害
・うつ病の頻度は海外では15%、日本では7%位と言われている。
・双極Ⅰ型障害は欧米では約0.8%、双極Ⅱ型障害を含めると2、3%になると言われている。一方、日本では合わせて1%弱と言われており、欧米に比べると少ない。
・重要なことは、うつ病と双極性障害の発症頻度には大きな違いがあるにも関わらず、ある統計ではうつ状態で来院されている患者さんの20~30%が、双極性障害だという点である。この主な要因はうつ病に比べ、双極性障害ではうつ状態の再発が多く、非常に長い経過をたどるという特徴を有しているためである。
・うつ病ではうつ状態の回復が治療目標になるが、双極性障害の場合はうつ状態と躁状態(軽躁状態)を繰り返すことが続くため、再発防止が治療目標となる。
●治療に用いる薬も違う
・双極性障害のうつ状態と、うつ病を区別しなければならないもう一つの理由は、治療薬が異なるということである。
・うつ病のうつ状態には抗うつ薬を処方するが、双極性障害のうつ状態には抗うつ薬は効きにくく、躁転を誘発するおそれがある。
・双極性障害の場合には、再発予防を目的とするリチウム、ラモトリギンなどの気分安定薬や、非定型抗精神薬を使う。
●初めてのうつ状態では、「うつ病」と診断される
・うつ病か双極性障害の診断は病歴、以前躁状態や軽躁状態になったことがあるのかを聞くことである。特に重要なことは自覚的なものだけでなく、行動の変化などの客観的な変化を詳しく聞くことである。
例えば、「今までに一週間くらい、毎日、一日中気分が高揚して、眠らなくても平気で頑張れた時はありましたか?」などの質問をする。
・難しいのは、その患者さんの初めての病相が躁状態、軽躁状態ではなく、うつ状態から始まった場合はであり、このケースでは区別することはできない。
・双極Ⅰ型障害では、最初の病相がうつ状態で発症するのは50%位である。
・双極Ⅱ型障害では、軽躁状態が最初に出ても自分で病気を疑うことはまれであり、うつ状態で受けることになるためうつ病と診断される。治療を進めながら経過をみていくうちに、躁状態や軽躁状態が認められれば、そこでうつ病から双極性障害に診断が変更される。また、患者さんや医師の理解不足が原因で双極性障害がうつ病と診断されてしまうこともある。
・アメリカの研究データでは、双極性障害の啓発が進んできたため、最近の研究では短くなったとはいえ、病名確定に4年かかるといわれている(昔は10年と言われていた)。これでも大変な時間を要するが、現状ではこれが実態である。
3 さまざまなうつ病
●メランコリー型うつ病
・以前は内因性うつ病と呼ばれていたもの。主な症状は、動作がゆっくりになってしまう症状、すべてのことに興味を失ってしまう症状、朝具合が悪く夕方に緩和されるという症状、罪責感などが特徴である。
●非定型うつ病
・最近急激に増えているタイプのうつ病である。
・抑うつ気分がある中で、良いことがあると気分が少しよくなる等、気分が変化しやすいこと、対人関係で過敏になりやすいという特徴がある。また、過眠や過食もみられる。
・このタイプは不安障害やパーソナリティー障害を伴うこともあり、幼少時の不遇な環境や虐待との関係が指摘されている。
●双極スペクトラムうつ病
・これは将来躁状態になって双極性障害と診断される可能性のある予備軍ともいえるものだが、まだ十分な実証が得られていないため、DSM-5には含まれていない。しかし、親や兄弟姉妹などに双極性障害を持つ人がいる場合や、双極性障害に多く見られる特徴(精神病症状があること、発症年齢が若いこと、非定型型うつ病症状を伴うこと、病相の回数が多いこと、抗うつ薬が効きにくいことなど)が多数見られる場合は、双極性障害への進展に注意が必要である。
●季節性うつ病
・DSM-5では「うつ病、季節型」と記載される。これは主に冬に多く、冬の日照時間が少ない高緯度地方に多くみられる。
・一般的なうつ病の特徴は不眠や食欲低下などであるが、この病気は過眠や過食といった症状が特徴である。
・この季節性うつ病は、朝方2時間くらい強い光を浴びる光療法が有効である。
●血管性うつ病
・75歳以上の多くのうつ病の患者さんには、脳梗塞の跡が見つかる。普通の75歳以上でも潜在性脳梗塞は見られるが、その頻度は明らかにうつ病患者さんの方が多い。
・脳梗塞とうつ病の因果関係(どちらが原因かはっきりしていない)などもあり、DSM-5には含まれていない。
4 小児思春期の双極性障害
●小児思春期の双極性障害は存在するのか
・米国(特に北米)では、「小児双極性障害」に関する論文が提出されているが、懐疑的な意見の学者も多い。
前庭性片頭痛は、難治性めまい患者にしばしば見られる疾患といわれています。脳内炎症が疑われ、神経-血管-グリア・ユニットが関係しているらしいということが分かりました。
調べたところ、医学雑誌の『実験医学』のバックナンバー、2013年9月号 Vol.31 No.14で、神経-血管-グリア・ユニットが特集されていました。タイトルは“特集 Neurovascular Unit 神経-血管-グリアのユニットが脳と体を支配する”です。
私の知識では太刀打ちできないことは分かっていましたが、そうは言っても、何か得るものもあるだろうと思い、購入することにしました。
特集企画:荒井 健
発行:2013年9月
出版:羊土社
特集の各寄稿は以下の通りです。
画像出展:「実験医学 2013 vol.31 NO.14」
予想通り、私にはこれらの内容を理解することはできませんでした。唯一、出来そうなのは、神経-血管-グリア・ユニットの要点を書き出すことです。
取り上げた3つの図表は、最初の『概論―Neurovascular Unit:脳内の細胞間クロストークを理解するための概念的枠組み』と、2番目の『Neurovascular Unitという概念でとらえる脳卒中の病態』に掲載されていたものですが、ブログはこの二つの寄稿をミックスした形でまとめています。
はじめに―Neurovascular Unitの誕生
・『2001年に開催された米国NIHのStroke Progress Review Groupでは、当時の脳卒中研究の状況を評価し、今後どのような方向に研究を進めるべきかが議論された。その当時、脳卒中後の神経細胞における興奮毒性・酸化ストレス・アポトーシス経路などの病態メカニズムが解明されつつあったが、脳卒中治療薬としての神経細胞保護薬は存在していなかった。なぜ多くの神経細胞保護薬が臨床試験で効果を示さなかったかに関する議論は数多くなされてきたが、特に重要なポイントは神経細胞という単一の細胞種にのみ着目するのは脳卒中治療として不十分であるという点であった。そのため、脳卒中治療は神経細胞の保護に限定せず、周囲の細胞をも含めた総合的な脳保護治療を考慮すべきであるとして、神経細胞・脳血管内皮細胞・アストロサイト・細胞外マトリクスからなる概念的な構成単位である「Neurovascular Unit」が提唱された。』
画像出展:「実験医学 2013 vol.31 NO.14」
「Neurovascular Unitは脳卒中の病態をより正確に理解することを目的として2001年に提唱された概念である。この概念が提唱された当時、Neurovascular Unitの構成細胞は神経細胞、脳血管内皮細胞、アストロサイトだった。しかし現在では、ミクログリア、ペリサイト、オリゴデンドロサイトもNeurovascular Unitの構成細胞とみなされている。」
・『Neurovascular Unitの概念が強調する点は、異なる細胞同士の相互作用が脳機能の維持に必要であり、脳疾患においては神経細胞を保護するだけでは正常な脳機能を保てないということにある。歴史的にみると、Neurovascular Unitの概念が誕生する前からも、脳神経細胞以外の細胞の状態の悪化が脳疾患の病態と深くかかわることは議論されてきた。例えば、“more than just neurons”というアイデアは、1971年にIssidoresらがパーキンソン病の研究で報告した論文のなかにもみられる。また、血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)におけるアストロサイトと血管内皮細胞の相互作用に代表される“脳内における異なる細胞間相互作用の重要性”は、脳研究の分野において常に大きな研究トピックスであった。そのようななか、Neurovascular Unitという概念が誕生し、脳組織における異なる細胞間相互作用の重要性が改めて脚光を浴びたことで、脳卒中をはじめとする種々の中枢系疾患の病態を解明するための研究が劇的に加速した。』
1.Neurovascular Unitの構成細胞
・Neurovascular Unitの概念が提唱された当時、その構成細胞は神経細胞、血管内皮細胞、アストロサイトと考えられていたが、その対象は広がり、ミクログリア、血管周皮細胞(ペリサイト)、オリゴデンドロサイトなどが加わった。
・近年では、Neurovascular Unitの機能に対して脳実質の外側(脳血管を流れる血液中)の因子が影響を与えることも示されている。
1)脳血管内皮細胞
・脳血管内皮細胞はNeurovascular Unitの中でも特に興味深い細胞である。血管内皮細胞と神経細胞の間の微小環境は、成体脳における血管新生および神経新生の場として大きな注目を集めている。
2)アストロサイト
・アストロサイトと脳血管内皮細胞のクロストークは、Neurovascular Unitの概念が提唱される前から精力的に研究が行われおり、例えば、脳血流の調節とも深く関わっていることが分かっている。
3)オリゴデンドロサイト
・Neurovascular Unitの研究は、今まで、灰白質について論じることが多かったが、白質も脳機能において灰白質同様、とても重要な役割を担っている。
4)ミクログリア
・ミクログリアはNeurovascular Unitを構成する細胞の中で他とは違う特色を有している。
・ミクログリアは脳内における免疫反応を担当し、脳卒中などの障害時に活性化し周りの細胞に悪い影響を与える。しかし、その活性化状態の違いにより、周りの細胞に良い作用を及ぼすこともある。一方で、周囲の環境がミクログリアの活性化状態を左右することも明らかになりつつある。
・ミクログリアのNeurovascular Unitへの影響は未だ不明な点は少なくない。
画像出展:「実験医学 2013 vol.31 NO.14」
補足.Neurovascular Mediatorについて
1.MMP-9:マトリックスメタロプロテアーゼ-9は、細胞外基質のコラーゲンやゼラチンなどを分解する酵素であり、組織の再生・分化などにおいて重要な役割を果たしている。一方で、組織内のMMP-9の過剰生産はがんの転移や動脈硬化の進展にかかわることが明らかになっている。
2.BBB:blood-brain barrier(血液脳関門)
3.VEGF:血管内皮増因子は、血管新生やリンパ管新生、胚形成の脈管形成に関与する糖タンパクのサイトカインである。
4.HMGB1:細胞局在によって異なる役割をもつ多機能性タンパク質である。がん細胞においては、細胞内に局在するHMGB1はゲノムを安定させる抗腫瘍タンパク質として作用し、細胞外に放出されたHMGB1は免疫機能をもつ前腫瘍タンパク質としての働きをもつ。
5)末梢循環細胞
・2001年にNeurovascular Unitの概念が提唱されたとき、影響範囲は脳内に限定されると考えられた。しかし、現在では血液中を流れる末梢循環細胞が脳卒中後の脳機能回復に寄与しうることが明らかになりつつある。
6)末梢神経における神経-血管相互作用
・Neurovascular Unitは日本語では神経血管単位(もしくは神経血管ユニット)と訳される。末梢組織における神経細胞と血管系の相互作用については最新の画像診断装置を用いて研究が進められている。
2.Neurovascular Unitの動的な側面
・Neurovascular Unitの概念が提唱されてから現在まで、一貫して変わらないのは脳卒中に対する効果的な治療方法を探ろうという目的である。そして、考慮すべき点は、Neurovascular Unit内の環境が状況に応じて変化しうるということである。
・Neurovascular Unitの構成細胞は環境に応じて異なった性質を示すことがある。例えば、アストロサイトは障害後には、反応性アストロサイトとなり回復期の神経新生を抑制する。しかし、一方では最近の研究により、反応性アストロサイトは失われた脳機能の回復を促進することもわかってきた。
・オリゴデンドロサイト前駆細胞は、障害により失われたオリゴデンドロサイトを補填するために自らオリゴデンドロサイトへと分化することで脳機能の回復に寄与しているが、その一方で、この前駆細胞は障害後の急性期には、悪性因子を遊離して周囲の環境を悪化させることが報告されている。
・Neurovascular Unit内において、細胞同士の連携は栄養因子やサイトカインなどの液性因子を介して行われることが多い。
・表のNeurovascular Mediatorにも挙げられている、MMP-9、VEGF、HMGB1には興味深い共通の性質がある。その性質とは作用の二相性であり、障害後の急性期に脳障害をひき起こす因子が、回復期には逆に脳組織・脳機能の修復に寄与するというものである。例えば、Neurovascular Unitを構成する細胞外マトリクスを分解する酵素の一種であるMMP-9は、脳卒中急性期ではBBB(血液脳関門)の破綻をひき起こすが、一方で回復期には血管新生および神経新生に関わっている。
・表に挙げたNeurovascular Mediatorを理解することは非常に重要である。なぜならば、急性期に障害性を示す物質を阻害する薬剤を投与したとしても、もし、その薬剤の効果が回復期にまで及んでしまうと、内因性の修復機構を阻害する恐れがあるからである。
3.Neurovascular Unitの成り立ちと構成
・『1990年代の10年間はそれ以前に比して、格段に脳卒中の理解が高まった時期であった。多くの大規模臨床試験が画策され、MRIをはじめとする画像診断が格段に進歩し、脳虚血における血行動態や分子レベルの変化が明らかになってきた。そして、米国で1995年に許可されたrt-PA静注療法は、脳梗塞治療に画期的な進歩をもたらした。しかし、主に発症早期の投与という時間的に限定された条件から対象症例は伸び悩み、脳梗塞治療に閉塞感が漂いはじめた。
これに対して、虚血早期に生じるカルシウムイオンの過度の流入がニューロン細胞死や障害につながるため、そのイオンチャネルを阻害する薬剤を中心に神経保護薬が多く開発された。それらは脳梗塞のモデル動物ではニューロンの虚血障害を軽減したが、脳卒中患者では有益な効果を示すことはできなかった。この神経保護薬の失敗によって、脳虚血の病態の複雑さと虚血の影響はニューロンだけでなく他の細胞にも及ぶことが改めて認識された。そのため、ニューロン単独の挙動にとらわれるのではなく、ニューロン以外の細胞やそれら細胞とニューロンとの関係に焦点が移っていった。つまり、単独の細胞内シグナルのみならず、細胞間シグナリング、細胞と細胞外マトリクス間シグナリングの解明の重要性が高まってきたのである。NVUはそうした背景で出てきた概念である。
NVUという用語は、米国のNational Institutes of Neurological Disorders and Strokeでの会議で2001年にはじめて使用された。この用語は、脳内の細胞間相互作用の様子を概念的に示したものであり、NVUの概念に基づいた研究から得られた知見は、脳卒中の病態解明を一気に進めた。NVUの概念が提唱されてから10年が経過し、今では脳卒中だけでなく他の神経変性疾患の研究にもNVUの概念が用いられるようになってきた。
NVUは大きく分類すると3種類の細胞群と細胞外マトリクスから構成されている。細胞群はニューロン、血管系細胞(血管内皮細胞、周皮細胞[ペリサイト]と血管平滑筋細胞)およびグリア系細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイトとミクログリア)である。これらをつないでいるのが、各種の成長因子、サイトカイン、ケモカインといった液性因子や細胞外小胞である。これらの細胞群は細胞同士の直接的コンタクトのみならず、液性因子を介して細胞間あるいは細胞と細胞外マトリクス間で間接的にシグナルをやり取りしていると考えられ、これらを含めて1つの概念的ユニットを形成している。さらに、脳虚血では末梢血液成分である単核球のような白血球系細胞や血小板なども病巣にかかわってくるため、これらもNVUに含めるという考えもある。より効果的な血流再灌流、神経保護や機能回復をめざすために、これらNVU構成要素の相互関係に着目することが重要である。』
画像出展:「実験医学 2013 vol.31 NO.14」
ニューロン、血管系細胞(血管内皮細胞、周皮細胞と血管平滑筋細胞)、グリア系細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイトとミクログリア)、および細胞外マトリクスから構成される。
補足.情報交換の方法
例えばニューロンの軸索とオリゴデンドロサイトの髄鞘、血管内皮細胞と周皮細胞のように直接細胞同士が接触することで情報交換をしている場合もあるが、細胞間のシグナル伝達を成長因子、サイトカイン、ケモカインや細胞外小胞を介して行っている場合も考えられる。これらを包括してNeurovascular Unitの枠組みとしてとらえる。
感想
とても難しい内容でしたが整理すると、①神経細胞という単一の細胞種にのみ着目するべきではない。②NVU(神経血管単位・神経血管ユニット)はニューロンだけでなく他の細胞にも及ぶ。したがって、「単一の細胞腫でなく、NVUとして考えることが重要である」ということだと思いました。
4 現代人はなぜ眠るのに苦労するのか
●パソコン、携帯、ネオンが与える影響
・2011年の国民健康栄養調査の報告によると、日本の総エネルギーは2003年より徐々に減少し、運動習慣は増加しているが、肥満も糖尿病も増えている。この原因は日本人の睡眠不足と不規則な生活が引き起こした生体リズムの乱れと考えられる。
・産業医科大学の久保達彦博士による、交替制勤務に従事する日本人の健康状態を調査したところ、交替制勤務を始めると血圧はすぐ上がる。糖尿病になるリスクは2倍、がんの罹患率も上がる。乳がんは1.5倍、前立腺がんは3倍である。
●夜型人間は朝型人間になれない?
・一般的に夜型の人は、食欲、便通、睡眠に課題を抱えた人が多い。
・医学的にも早寝早起きで午前中から活動的な人を朝型、宵っ張りで午前中はぼんやりしていて、夜になるほど頭が冴える人を夜型と呼ぶ。
●現代人は不健康?
・マウスの実験では、高脂肪食をいつでも摂取できるようにした環境では、肥満、脂肪肝、メタボリック症候群、血管の炎症などが見られるが、同じカロリーの食事にも関わらず、食事の時間を一定の時間帯に変更すると生体リズムが回復し不健康な症状が消失したということである。
●女性の睡眠時間に異変あり
・日本人の睡眠は1976年から2011年にかけて、若い世代の睡眠時間には大きな変化はなかったが、45歳~85歳の中高年では1時間近く睡眠時間は減っており、性別では女性の方が減少している。
●若返りの泉メラトニン
・メラトニンは生体リズムを守る三要素のひとつであり、松果体から分泌される。また、睡眠を改善し、寝つきをよくするホルモンとして知られている。加齢とともに低下していくことから、「加齢時計」とも呼ばれている。
・メラトニン研究により、脳にある生体時計がメラトニンを作っている松果体を調節することで協同して働き、若返りや健康長寿をもたらしていることが分かっている。
・今では、メラトニンが不足してくると、心筋梗塞や脳梗塞が増えることが明らかにされている。
・メラトニンは全身の血管に働きかけ、血圧を下げ夜の隠れ高血圧を改善する。また、心臓と心臓の血管に作用して、昼間に傷ついた部位を修復し脳梗塞を予防する。
・メラトニンは骨に働きかけ、骨粗鬆症を改善する。
・メラトニンは自律神経を調節し、免疫機能を賦活し発がんを抑える。そして、老化の速度を遅らせる。
・メラトニンの受容体に遺伝子異常があると、メラトニンの不足と同じように生活習慣病が現れることがわかってきた。
・メラトニンは生命の質を高める多彩な作用があり注目されている。
・メラトニンは夜間に光にあたると分泌が抑制される。
-光に当たるのが1~2時間の場合、300ルクス(卓上電気スタンド位の明るさ)でもメラトニンの分泌に影響が出る。
-一晩中電気をつけている場合には10ルクス(ろうそくの灯りは8ルクス)の薄明りでも影響を受ける。
-パソコンやスマートフォンで問題になっているブルーライトは、わずか8ルクスであっても、白色光の1200ルクス並みの悪影響を及ぼす。
●睡眠時無呼吸症
・深い眠りとともに分泌される成長ホルモンは、子どもの成長を促したり、昼間にダメージを受けた皮膚や粘膜を修復したりしている。
・時計遺伝子のビーマルワンは、エネルギー産生の効率を上げるためにいろいろな工夫している。
-胃や腸の細胞や組織に作用して、食べた物を腸から吸収する効率、吸収した食べ物を脂肪に変換する効率、そしてそれを脂肪組織の貯蔵する効率など、いずれも昼間よりも夜にその働きが高まるようにしている。
・顆粒球やリンパ球などの白血球の働きを活発にして、免疫力を高め、隠れている病気を癒し未病を防ぐ。
・睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間いびきとともに無呼吸を繰り返す病気である。メタボリック症候群になったり、高血圧や糖尿病を悪化させる。この病気の深刻度は昼間の眠気の強さで計る。いくら眠ってもすっきり感がないとか、疲れがとれないという場合は無呼吸症候群を疑うべきである。
●不眠によるトラブル
・人間とショウジョウバエの時計遺伝子は、ほとんど同じ遺伝子を使って時を刻んでいる。
・『私たちは、北海道U町の人々を調査してみました。「昨日は、よく眠れましたか?」との質問に、188人のうち21%の住民が、「十分ではなかった」と回答しました。この188人を約5年間追跡調査したところ、よく眠れると答えた人の3倍、病気になりやすいこと、その結果、余命が短くなっていることがわかりました。』
・『不眠は生活習慣病の源です。不眠になると自律神経が高ぶり、血圧が上がります。なかでも夜間高血圧が著しく、心臓病や脳卒中が起こりやすくなります。不眠が重なると、昼間の眠気で活動量が減り、肥満になります。加えて、目覚めのホルモンといわれる副腎皮質ホルモンが増えます。このホルモンはやっかいです。健康なからだから分泌されるインスリンの働きを弱めるので、これが増えると糖尿病になりやすくなります。また骨を溶かす働きがありますので、骨粗鬆症にもなりやすくなってしまい、コレステロール値も上がり、動脈硬化が進みます。』
・1989年、米国一般住民を対象に行われた調査では、不眠が1年間続くとうつ病になるリスクが40倍になるとのことである。
●災害現場、避難所の報告から
・東日本大震災直後の調査によると、被災地の人々の約60%に不眠の症状が現れたが、なかでも仮設住宅で居住することを余儀なくされた人々にそれは著明であった。
5 眠りは変化する
●成長と共に変化する睡眠
・人間の睡眠は、リズムも質も一生のなかで変化している。
●乳児の眠り
・胎児は妊娠28週くらいからレム睡眠を覚え、妊娠36週くらいからノンレム睡眠も経験し始める。
・出生まもない赤ちゃんは覚醒しているのは1、2時間で残りは眠っているが、この眠りのほとんどはレム睡眠である。8ヶ月くらいになると、睡眠時間は13時間くらいで、レム睡眠は眠りの1/3程度になる。
・胎児の生体リズムは24時間ではなく、7日(もしくは3.5日)のリズム性が大きい。24時間リズムが芽生え始めるのは、生後1ヵ月の頃になるが、まだ外の世界とは同調できないため時差ぼけのような状態である。これが生後3ヵ月くらいになると24時間リズムがだいぶ完成してくる。
●幼児の眠り
・1歳から3歳は、体内時計の成長を促し、生体リズムを確立するために最も重要な時期なので、特に規則正しい生活と十分な休息が必要である。
・4歳から6歳は、睡眠習慣を身につけるために大切なときである。5歳頃から生体リズムにあった睡眠パターンが現れてくるため、この時期に早寝早起きを習慣化させておくことは重要である。
・午後早めの昼寝は、夜の睡眠を補うのに有効である。
・脳の老化には性差があり、男性は女性より1.5倍早く老化すると言われている。特に、左脳が早く萎縮していく。女性の老化が遅いのは脳梁とよばれる神経線維の束が大きく、左右の脳の情報交換はスムーズに行われ、右脳と左脳がバランスよく萎縮していくからである。
●学童児の眠り
・5歳から12歳は、睡眠時間が11時間から8.5時間まで短くなり、昼寝もあまりしなくなる。眠りはノンレム睡眠が主体だが、深睡眠と呼ばれる睡眠深度4が長いのが特徴で、この眠りの中で学校で学んだ情報や知識を咀嚼している。
●思春期の青少年の眠り
・12歳から18歳は、思春期であり、また成長期である。睡眠中に性ホルモンが増え性腺は成長する。
・成長ホルモンが多量に分泌されるとともに、眠りたい欲求が高まり、朝なかなか目を覚まさなかったり、週末に異常に長く睡眠したりすることが見られる。
●社会生活をしている人の眠り
・20歳から40歳は、仕事や社会活動が日常の大半を占めるようになるため、不規則な生活になり生体リズムも乱れがちになる。起床時刻を一定にする努力が大切である。
・50歳から60歳は、そろそろ老化が始まる時期であり、眠っても疲れがとれない、途中で目が覚める、などの不眠症状が増えてくる。寝具の工夫も必要である。
●中高年の眠り
・壮年期に5人に1人といわれる不眠は、60歳を超えると3人に1人になる。
・朝起きて光を浴びてから、約15時間後に眠くなるように体内時計はセットされてるため、朝5時に起床すると夜の8時には眠くなってしまう。
・高齢者の睡眠は深い睡眠やレム睡眠が短くなって、睡眠深度1か2が多くなる。要因の一つは光環境の変化である。家にいる時間が増え、光を浴びる機会が少なくなるので、メラトニンの分泌量が減る。
・高齢者独特の睡眠異常にレム睡眠行動障害がある。これはレム睡眠の仕組みが壊れてしまうために、金縛りの状態にならず夢の内容がそのまま行動に反映されてしまう。それにより、大声を出したり、襲いかかったり、蹴とばすなどの異常行動が出現する。
・むずむず脚も、貧血を合併する高齢者によく見られる睡眠異常である。また、似たような運動異常に、睡眠に伴う周期性四肢運動麻痺障害がある。
・睡眠中のこむらがえりも多く見られる。60歳以上では3人に1人。80歳以上では2人に1人に見られる。原因は筋肉のエネルギー不足や酸素不足なので、温めること、マッサージすることは良い。筋疲労、水分不足、過度な飲酒などもきっかけになるので注意が必要である。
・高齢者の不眠対策は、十分な日光と適度な運動が基本であり、心地よい疲れを感じることが大切である。睡眠時間は6時間程度、起床時間など生活のリズムを安定させることも必要である。
●認知症の人の眠り
・認証症患者の80%の人に不眠症が見られ、行動異常やこむらがえり、、むずむず脚も多く見られるようになる。昼間にうとうとしていることが多いため、総睡眠時間はあまり変わらない。昼間の過眠症が認知症の原因ではないかという研究報告もある。
・血管性認知症は大きないびきと、睡眠時無呼吸症候群が多く見られるのが特徴である。
・アルツハイマー病では初期からメラトニンを作る松果体にいろいろな異常が現れてくる。特にパーワン、ビーマルワン、クライなどの時計遺伝子が少なくなり、発病前から生体リズムが乱れ始める。
・メラトニンの分泌量は加齢ともに激減し、70歳を超えると思春期の10%以下に減ってしまう。日本ではラメルテオン(商品名ロゼレム)が市販されている。
6 よりよい休息のススメ
●サマータイムの導入は是か非か
・サマータイムでは適応に約1週間かかるとされている。その間に体調不良や能率低下が指摘だれている。特にその傾向は夜型人間や短時間睡眠の人に見られ、諸外国に比べ短い睡眠時間の日本ではサマータイムは課題が多い。
●長生きする人の睡眠
・高知県土佐町の691人、平均年齢81歳の高齢者を対象とした、2008年から2012年からの調査では、睡眠時間は8時間、起床は5時59分、消灯は21時58分だった。また、52%の人は毎日の運動習慣、49%の人は昼寝の習慣があった。
●脂肪分のとりすぎは要注意
・規則正しい食事は深い眠りを誘う。
・栄養素では糖質とともに、メラトニンを作るトリプトファンを豊富に含むタンパク質とビタミンB6の摂取が有効である。トリプトファンは肉類、魚介類、乳製品、豆乳などに多く含まれている。ビタミンB6は、魚介類、大豆、納豆、のりに多く含まれている。
・不飽和脂肪酸はメラトニンを増やすので、睡眠の改善に効果がある。
・ナッツなどに含まれるポリフェノールは時計遺伝子の仲間のサーチュインを活性化させる働きがある。
・脂肪分の多い食事は、眠気を強めるという特徴がある。また、過剰な脂肪摂取は、時計遺伝子の発現リズムを狂わせ、体内時計の働きを弱める。
●タバコ、昼寝、寝酒は避けるべき?
・喫煙は寝つきを悪くし、中途覚醒を増やし、眠っている時間を短くし、睡眠の質を悪化させるため体の疲れが残りやすい。タバコは快眠の大敵である。
・睡眠時無呼吸症候群になるリスクは非喫煙者の2.5倍である。
・午後2時頃に現れる眠気に昼寝することは望ましい行為である。ただし、時間は15~20分。30分以上昼寝すると、起床後から蓄えてきた眠りのホルモン(睡眠物質)を使い果たすので、夜、眠れなくなってしまう。
・不眠症の人は、もともと眠りのホルモンが少ないので、昼寝は厳禁である。
・アルコールは生体リズムを壊し、睡眠の質を悪くする。深い睡眠を減らし、体内時計の働きを弱め、時差ぼけ状態にしてしまう。
●睡眠薬のメリット、デメリット
・『不眠症の原因は多様ですから、基本的に、不眠症=睡眠薬と安易に考えるのは誤りです。生体リズムの乱れが原因の場合は、朝の光を浴びること。夜の睡眠環境を整えること。朝食を抜かないことと規則正しい食習慣。これが改善策です。いびきや睡眠時無呼吸症が原因の場合はシーパック治療などの無呼吸対策が基本ですし、こむらがえり、むずむず脚や金縛り、夜間の胸やけ、動悸、胸の痛みがある場合は正しい生活習慣を心がけるだけでなく、治療することこそが肝要です。』
・現在の薬は副作用が少なく安心して服用できる。睡眠薬を必要以上に怖がらず正しく飲むという勇気も時には必要である。
●子守歌の科学的効果
・子守歌の安眠を誘う効果には、心地よい音の調べがある。三週間、就寝前に45分間、リラックスするクラシック音楽を聞かすという実験では、脈拍が低下し睡眠の質を高める副交感神経が活性化した。また、母親のにおい、温かさ、満腹になっていることも眠りを誘い、質の良い睡眠につながる。
・眠りに落ちる前の赤ちゃんの手足が温かくなっていることは、多くの血液を手足にまわすことで、脳の温度を下げているからである。
・大人でも昼食後、暖房の効いた電車に揺られていると、眠くなってしまうのは、加温によって手足などの末梢の血管が開き、体幹から熱が抜けていき、脳の温度が徐々に下がっていくためである。
●腹時計を味方につける
・生体リズムにとって朝、昼、晩の規則正しい食事のリズムが必須である。なかでも、朝食が重要で、できるだけ決まった時刻にとることが重要である。眠っている間に使い果たしたブドウ糖を補給する意味で、朝に糖質をとることは重要である。
・一般的に朝食が最も力強く体内時計を整える力を持っているのは、空腹の時間がながいためである。空腹の時間が長いほど、体内時計の調整力が強い。
・食事からくる栄養刺激として獲得した時刻情報は、インスリンや副腎皮質ホルモン、あるいは自律神経などを介して全身に伝わり、生体リズムの時計の針が調整される。
・体内時計は効率よくエネルギーを生み出せるように代謝を調節している。ホメオスタシスは生体内や外界の環境因子などの変化にかかわらず生体の状態が一定に保たれる働きのことだが、時計遺伝子の一つであるレヴェルブαが、代謝のホメオスタシスを維持する仕組みの主役であるということがわかってきた。生体リズムを守るという点で、食事の持つ意味は重大である。
画著出展:「眠りと体内時計を科学する」
●寝る時刻、睡眠時間をどう考える?
・必要な睡眠時間には個人差がある。エジソンは4~5時間、アインシュタインは10時間以上とのことである。自分に必要な睡眠時間は就寝と起床の時刻を2週間記録にとり、その平均がその人の必要な睡眠時間である。
●朝が勝負
・朝の起床後にたっぷりと日射しをあびると、その約15時間後にメラトニンができあがるように生合成の準備を始める。夕刻なってできあがったメラトニンは、日が落ち、真っ暗闇になると、いっせいに血液の中に放出される。そして昼間はほとんどないサーカディアンリズムを示す。メラトニンは血流に乗って全身に運ばれ、からだの生理機能を高める。これが脳に働きかけ心地よい眠りを誘う。脳にある体温中枢に働きかけ、脳の温度を下げ、眠りにつきやすい環境を作る。
●それでも眠れないときは
・人にとってどれくらい眠る時間が必要かを決めているのは、脳の松果体時計である。あまり眠れていないと感じても、日中の体調に問題がないなら十分な睡眠をとっているといる。必要な睡眠時間が満たされると、後は浅い眠りがだらだら続くだけなので神経質にならなくてもよい。
・入眠には脳に行く血流を少なくし温度を下げることである。そのために有効な方法は、ぬるめの湯にゆっくり入ることである。15分程度で汗が引き、体温も下がり始めるので、その頃に布団に入ると寝つきが良くなる。
・不眠から「今日も眠れないのでは」という不安が強くなったりイライラしたりするのは、条件不眠と呼ばれる不眠症である。この場合、遅寝早起きが熟睡感を高めてくれる対策になる。
・音楽であれ、香りであれ、あるいは瞑想やヨガのような軽い運動であれ、眠る前にリラックスすることが重要である。
・専門医の指導が必要だが、筋弛緩トレーニングや自律訓練法、バイオフィードバック法などもある。
・就寝4~5時間前からコーヒー・お茶、そして胃にもたれる食事は避ける。特にカフェインは約5時間も持続するので注意する。
・習慣的に床に入る時間の2~4時間前の時間は、1日で最も眠りにくい時間帯である。早く寝ようとして、いつもより早く床についても、なかなか寝つくことができなのはこのためである。そのため、眠くなってから床にはいるのがよい。
・前夜に何時に床につこうと、同じ時刻に起床することが、不眠対策の基本である。毎朝、同じ時刻に起床し、起床後に太陽光を浴びると、体内時計の針がリセットされ、からだのリズムが地球の自転のリズムに一致する。その日の夜には、タイミングのよい時刻に十分な量のメラトニンが分泌され、快適な眠りが得られる。
・目が覚めたらいつまでも床についていないようにするのも、不眠撃退には効果的である。
・昼間の眠気は、健康なからだから発信される睡眠不足のシグナルである、正午から午後2時、15~20分間であれば問題ない。
・昼間の眠気がひどく、週末に平日の3時間以上長く眠ってしまう場合は、要注意である。たっぷり休めているはずだと思っても、深い眠りが得られていないサインの可能性がある。
・昼間の運動は、筋肉や胃腸で作られるメラトニンを増やす。30分程度の散歩や体操など汗ばむくらいの運動がよい。毎日規則正しく行う習慣をつけることが大切である。
・メラトニンは松果体だけでなく、小腸や胃、卵巣、精巣、脊髄、骨、筋肉、皮膚などでも作られる。そしてメラトニンの信号を受ける受容体は心臓、血管、肺、肝臓、腎臓など全身にある。運動すると、松果体以外の部位で、メラトニンが多く作られ、これが快眠につながる。
・血液中のメラトニンの濃度には、1日のリズムとともに1週間のリズムがある。朝に血圧は月曜日に高く、心筋梗塞や脳卒中の発症頻度も月曜に多いことが分かっている。木曜日も多いという報告もあるので、3.5日のリズムもあるようである。
おわりに―休息のプロフェッショナルになろう
・2011年には、睡眠健康推進機構が立ち上がり、健康増進のために睡眠に関する正しい知識を広めるのが目的である。年に2回の睡眠の日も制定された。春は3月18日、秋は9月3日である。各地で睡眠に関する市民講座を開設している。
感想
今回、良かったなと思うことは、“睡眠”について真剣に考えたという点です。
食事・運動・睡眠のうち、一番問題だと思っていたのは睡眠でした。特に時間のプレッシャーがない時でも、集中すると夜中の1時、2時までパソコンに向かってしまうことが多々ありました。通常は7時前後に起床しているのですが、寝るのが遅くなった日で、朝一番に予定が入っていない場合は、8時半ころまで寝ている日も少なくありませんでした。
この本を読んでからは、何とか夜の12時には床につき、寝る時間に関わらず、7時前後には起きるということを意識するようになりました。とにかく、重要なのは朝のようです。また、規則正しい食事もとても重要です。
問題は、この“意識”を長く持てるかどうかというところですが。。
睡眠の問題というと、まず頭に浮かぶのは、睡眠時間や睡眠の質などの「眠れない問題」の睡眠障害です。一方、ナルコレプシーのような過眠症をお持ちの患者さまもおいでです。過眠症にはナルコレプシー以外に、特発性過眠症、反復性過眠症があります。
調べてみると、子どもの発達障害、特にADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉症スペクトラム)に、過眠傾向が多くみられることがわかりました。
画像出展:「子どもの発達障害がよくなる睡眠の教科書」
画像出展:「子どもの発達障害がよくなる睡眠の教科書」
画像出展:「子どもの発達障害がよくなる睡眠の教科書」
また、睡眠の問題はホルモンである“メラトニン”と“体内時計”が最も重要なのではないかと思い、見つけたのが大塚邦明先生の著書である『眠りと体内時計を科学する』という本でした。「これだ!」と思い発注しました。
著者:大塚邦明
発行:2014年4月
出版:春秋社
目次
はじめに
1 眠りと体内時計
●眠りのリズムは90分と12時間
●自律神経は嵐のごとく
●体内時計が眠りを誘う
2 時計遺伝子とは何か―人間は宇宙とシンクロしている
●時計遺伝子とは何か
●生体リズムの発見は「地動説」
●宇宙のリズムをコピーする
●体内時計は25時間周期
●太陰暦は理にかなっている
●太陽活動の影響
●出産明け方に多いわけ
●オーロラは魔女
●人間も磁気を感じている
●時差ぼけの仕組み
●体内時計の老化
3 眠りと夢
●夢見る時間
●レム睡眠との関係
●夢は現実を再現している
●なぜ夢を見るのか
●スピリチュアルな存在との邂逅
4 現代人はなぜ眠るのに苦労するのか
●パソコン、携帯、ネオンが与える影響
●夜型人間は朝型人間になれない?
●現代人は不健康?
●女性の睡眠時間に異変あり
●若返りの泉メラトニン
●睡眠時無呼吸症
●不眠によるトラブル
●災害現場、避難所の報告から
5 眠りは変化する
●成長と共に変化する睡眠
●乳児の眠り
●幼児の眠り
●学童児の眠り
●思春期の青少年の眠り
●社会生活をしている人の眠り
●中高年の眠り
●認知症の人の眠り
6 よりよい休息のススメ
●サマータイムの導入は是か非か
●長生きする人の睡眠
●脂肪分のとりすぎは要注意
●タバコ、昼寝、寝酒は避けるべき?
●睡眠薬のメリット、デメリット
●子守歌の科学的効果
●腹時計を味方につける
●寝る時刻、睡眠時間をどう考える?
●朝が勝負
●それでも眠れないときは
おわりに―休息のプロフェッショナルになろう
はじめに
・日本人の5人に1人は不眠に悩んでいる。
・地球の過酷な環境のため眠りの仕組みを作った。
・1972年に体内時計が発見された。それは自律神経とホルモン調節の中枢である脳の視床下部に存在していた。
・大塚先生は睡眠の研究を「こころ」の研究として始めた。そして、近年はフィールド医学という新しい学問体系に取り組んでいる。
・脳と心臓とこころの関りの探求を極めるには、眠りの謎を解くことが近道だった。
1 眠りと体内時計
●眠りのリズムは90分と12時間
・人間のからだの時計は、朝起きて15時間経つと眠くなるようにセットされている。
・朝の太陽光を浴びることで、その日の眠りの時計のスイッチが入る。
・眠れない時間帯がある。それは朝の目覚めから12~15時間である。
・人間の眠りは90分がワンセットで、これを4、5回繰り返す。
・1回目の眠りの時に最も多くの成長ホルモンが出る。
・副腎皮質ホルモンは、4回か5回めの眠りの時にピークに達する。
・血管の健康を維持するエンドセリンは8時間のリズムが見られる。これは睡眠時間の周期と連携しつつ、血管の緊張のリズムを作りだしている。
・「人は血管とともに老いる」という古来の名言がある。
・最も強い眠気は午前2~3時、また午後2時にも強い眠気度がある。
・眠りの仕組みには生体リズム以外に、睡眠物質の働きもある。睡眠物質の代表は脳脊髄液のなかに増えてくるプロスタグランジンというホルモンである。
・病気になり発熱に伴って眠くなるのは炎症に関連して増えたサイトカインである。
・睡眠物質として明らかになっている物質は20余りあると考えられている。
●自律神経は嵐のごとく
・夜、眠り始めるとともに、副交感神経の活動が高まり、朝、目が覚めるとともに交感神経の活動が高まる。
・眠りの1回のサイクルのなかで、まずノンレム睡眠があらわれ、レム睡眠(急速眼球運動を伴う睡眠)が続く。
・ノンレム睡眠は脳波3~4Hzの遅い波で、麻酔で眠っているときの脳波とそっくりである。
・睡眠後半はレム睡眠が主体になる。なお、1日で最も体温が低くなった頃にレム睡眠が力強く、そして長く現れるようになる。
・『みなさんは眠っているときに、からだがピクッとびくつく経験はありませんか? これはトゥイッチとよばれる現象です。何が起きても目が覚めない状態では、地震が来たり、大火事になったりしたとき、逃げおおせることができません。そこで脳は、トゥイッチを起こす伝令を何度も発信しているのです。「このまま睡眠を続けても、外敵に襲われる心配はないのかな?」と気配りをしている証です。これもレム睡眠の特徴の一つです。』
・レム睡眠は覚醒しているときの脳波に似ている。これは古い脳の大脳辺縁系が目覚めているためである。また、新しい脳の中では視覚などを担う後頭葉が目覚めている。
・レム睡眠は、脳波は覚醒しているときに近いものの、筋肉は弛緩し音もほとんど入ってこない感覚遮断に近い状態である。また、もう一つの大きな特徴は自律神経が不安定になっており、交感神経が興奮したかと思うと、それに反発するように副交感神経の興奮が高まったりする。医師の言葉では、これを「自律神経の嵐」と呼んでいる。発作性の不整脈や夜間狭心症が誘発される危険もあるので、このタイミングは特に注意が必要である。
●体内時計が眠りを誘う
・脳にある体内時計は、主としてレム睡眠に働きかけている。
・レム睡眠の時に見られる、金縛り、トゥイッチ、特徴的な速い眼球の動き、そして自律神経の嵐には、いずれも明瞭なサーカディアンリズムがある。サーカディアンリズム(概日リズム)とは、一日周期のリズミカルな変動を指す医学用語である。
・眠りを誘うホルモンとして有名なメラトニンのリズムも体内時計が作りだしている。
2 時計遺伝子とは何か―人間は宇宙とシンクロしている
●時計遺伝子とは何か
・地球上の生物は、バクテリアから深海魚にいたるまでみな、時計を持っている。生物は地球の自転に精確に似た仕組みを未来を予測する手段として体内に作り出している。
・光合成に頼っている植物は最も多くの時計を持っている。青を感知する時計、緑を感知する時計、赤を感知する時計などを用いて、夜明けが近づくと少しの太陽光を逃すまいと、暗いうちにもかかわらす光合成の準備を開始する。
・生物が急激に多様化した約5億5000万年前のカンブリア紀以前に、すでに体内時計の仕組みを身につけていた。
・体内時計をつかさどるのが時計遺伝子である。
・生体リズムは、6個の時計遺伝子によって作られている。それらは、ピリオド遺伝子(パー1、パー2)、クリプトクロム遺伝子(クライ、クライ2)、クロック遺伝子、ビーマルワン遺伝子。
・時計遺伝子は、脳だけでなく、肝臓・腎臓・心臓・血管など、からだのほとんどの細胞に存在する。脳の時計が親時計で、臓器や皮膚や粘膜にいたる末梢組織に存在する時計を、子時計と呼んでいる。
・子時計は親時計に連動しつつも、独立して個々に時を刻んでいる。まるで親時計と子時計が一体となって、あたかも交響曲を奏でる一団のように見える。
・体内時計は、からだ全体から臓器へ、そして細胞に至るまで、一体となってサーカディアンリズムを構築している。
・時を刻む遺伝子とタンパクを一緒にして、時計分子と呼ぶ。
●生体リズムの発見は「地動説」
・生体リズムが遺伝子レベルで規定されていることは、1971年にショウジョウバエの羽化のリズムを元にした研究で明らかになった。そして1972年には、哺乳動物にも地球や月の自転そっくりのリズムがあることが発見された。なお、人での発見は1997年である。
・体内時計は視床下部の中に左右一対の米粒のような細胞の塊として存在している。そして、6個の遺伝子が互いに作用しあいながら、精確に時を刻んでおり、この場所を破壊するとサーカディアンリズムは消える。
●宇宙のリズムをコピーする
・体内時計で最も有名なのは24時間(サーカディアンリズム)だが、人は90分、12時間、3.5日、7日、30日、1年、1.3年、10.5年、21年などの多くのリズムを多重構造として獲得している。
・定義上、サーカディアンリズムは24時間プラスマイナス4時間のリズムを意味する。20時間より短い周期性はウルトラディアンリズム、28時間より長い周期はインフラディアンリズムと呼ばれている。
●体内時計は25時間周期
・太陽光が届かず、また時刻を知る手段の環境での実験では、1日を約25時間で認識していた(12日で昼夜逆転し24日で元に戻った)。
●太陰暦は理にかなっている
・生体リズムは天体と深い関係がある。
・暦は天文学を基礎として発達してきた。地球の公転周期は365.25日、自転周期は0.9973日である。
●太陽活動の影響
・生体リズムは種を越えて普遍的に共通である。これは生物が30億年をかけて生きのびるために最初に獲得した生理機能が生体リズムであったことを示している。大気やオゾン層の薄い今より過酷な地球環境の中で、太陽からの恵みと害の両方を強烈に受けつつ、様々な自然現象、宇宙現象の振動に応答し、過酷な風土に順応し、進化を繰り返した。その適応の所産として、体内に時計遺伝子を獲得したのである。
●出産が明け方に多いわけ
・人間の出産は夜から朝にかけて多く、昼間に少なくなる。答えは不明だが、恐竜時代に生き残る可能性が一番高かったからなのかもしれない。
●オーロラは魔女
・日中に浴びる光が少ないと、メラトニンが少なくなる。この点からも光を浴びる量と生体リズムには深い関係があることがわかる。
●人間も磁気を感じている
・渡り鳥やウミガメは、地磁気の磁場を頼りに渡りをする。これまで人には磁気を感じる能力はないとされてきたが、2011年に米国マサチューセッツ大学のスティーブン・レパート博士らによって人にも同じ能力があることが確認された。網膜にある時計遺伝子クライで、磁気を感じているのではないかと考えられている。誰もが正しく応答しているが、それを脳に伝えるシステムに問題があると考えられており、いわゆる第六感のようなものである。
●時差ぼけの仕組み
・『さて磁気変化の感知のほかにも、私たちのからだが地球と関わっている点があります。たとえば時差ボケ。生体リズムとは、睡眠・覚醒周期、体温調節、血圧周期、心拍周期、排便周期など、身体の様々なリズムがよせあつまったものです。飛行機で海外に行った場合、これらの働きのうち、睡眠と血圧のリズムは、すぐ現地の生活リズムに順応できます。心拍リズムも、比較的早く順応することができます。しかし、体温や排便のリズムは、順応に1週間から10日間を必要とします。そのため、旅行先の新しい環境下ではリズムがバラバラになってしまい、時差ぼけが起こります。』
・海外での生活リズムに順応する時間には個人差がある。早い人で1週間、遅い人では数ヶ月が必要である。
・時差ぼけの症状は多い順位に、①睡眠障害(67%)、②日中の眠気(17%)、③精神作業能力の低下(14%)、④疲労感(11%)、⑤食欲低下(10%)、ぼんやりする(9%)、頭が重い感じ(6%)、胃腸障害(4%)、目の疲れ(3%)、イライラ(3%)など。
●体内時計の老化
・時差ぼけは年齢とともに症状が強く出る傾向がある。これは体内時計も老化することを示している。
・医学用語では年を取ることを“加齢”、それがもたらすからだの変化を“老化”と呼んでいる。
・4つの特徴
1)生活にメリハリがなくなる
-メラトニンや性ホルモンなどの分泌が低下し、活動と休息、体温の変動、水分補給などの行動リズムが昼夜を通して不明瞭になってくる。
-メラトニンは睡眠と覚醒リズムと連関しつつサーカディアンリズムを調節するだけでなく、自律神経や免疫系にも作用するため、健康を保持する働きもある。さらに、骨粗鬆症改善やがん予防、老化を遅らせるなど様々な作用が注目されている。
2)早寝早起きになる
-サーカディアンリズムの位相が前身することで、体内時計が前に進みため早寝早起きになる。
3)1日が短く感じる
-75歳を過ぎると生体リズムが、約1時間短くなる。ただし、これは個人差が大きい。
4)生体リズムが太陽とうまく同調しなくなる
-体内時計には毎朝、太陽の光を利用して地球の針とのずれを調整する働き(光同調)があるが、この機能が衰える。
・脳の体内時計の老化は脳の機能、構造と関係している。70代に入ると、脳と細胞の時計とを連絡する神経線維の数が減ってくる。そして、80歳を超えると脳時計の中にある時計細胞の数も減ってくる。これがサーカディアンリズムに影響する。
3 眠りと夢
●夢見る時間
・夢を見る時刻にもリズムがある。
・夢を見る頻度は午前2時頃から増えるようになり、最大になるのは朝の8時頃である。これは入眠してメラトニンが出始めてから10時間位後に相当する。おおよそ習慣的な起床時刻にピークが来る。
●レム睡眠との関係
・調査によりレム睡眠中に夢を見ていたとする人は80%、一方、ノンレム睡眠中は20%である。
・レム睡眠のときの夢は睡眠深度が深い(4分類中4)ときに現れる。
・PETという画像検査で調べたところ、レム睡眠の時は喜怒哀楽を調節する大脳辺縁系と視覚野の活動が活発になっていることがわかった。また、海馬も活性化していた。
・体内時計のある視床下部には、オレキシンを産生する部位がある。オレキシンは食欲を増進させるホルモンだが、覚醒に欠かせないホルモンで、働きすぎると不眠症、低下すると過眠症を誘発する。
・オレキシンは2000年になって発見されたが、レム睡眠とノンレム睡眠にも深く関わっている。
●夢は現実を再現している
・夢の素材は体験の記憶なので、特に数日以内の体験が夢の内容にあらわれやすい。
・夢は成功より失敗、幸運より不幸が題材になりやすい。
・夢が健康に良いのか悪いのかは分かっていない。
●なぜ夢を見るのか
・今では神経生理学が発展し、夢で見る奇異な出来事の一部は説明できるようになった。
●スピリチュアルな存在との邂逅
・奇異な夢は脳のいろいろな領域が同時に興奮していて、矛盾する情報が交錯して構成されるからである。
・『死も夢も、どこか人間のうかがい知れない領域に存在しているように思えます。昨今、スピリチュアルという言葉をよく耳にしますが、私は神と魂との対話という意味だと理解しています。超高齢社会を迎える日本で老いと人生の終え方がクローズアップされるなか、これまで日本人には関わりが薄かったスピリチュアルの世界が必要になってくる日が来るに違いありません。』
著者:R・ダグラス・フィールド
監訳者:小西史朗
訳者:小松佳代子
発行:2018年4月
出版:講談社
第10章 グリアと薬物依存症―ニューロンとグリアの依存関係
アルコール依存症―グリアとアルコール
・『精神遅滞のある子供に出会うと、思いやりと悲しみで胸が詰まる。子宮の中で発芽し始めた脳に影響した不運さえ防げていたならば、と思わずにはいられない。悲しい事実だが、精神遅滞を負う子供の大半に襲いかかった元凶を、私たちは知っている。さらに、その壊滅的な攻撃をどうしたら止められるかも知っているというのに、それは続いているのだ。小児に精神遅滞を引き起こす第一の要因は、胎児性アルコール症候群だ。
これまでに判明している事実は、以下のとおりだ。アルコールはニューロンを害する。発達期の脳にアルコールが侵入した場合、脳への効果は最も壊滅的で永続するものになる。胎児脳の発達を害するには、慢性アルコール曝露(つまり、一回の痛飲)が、胎児脳に永続的な損傷を与えかねない。
脳領域各部や脳内の多種多様な種類の細胞はそれぞれ、妊娠中の異なる時期に発達する。一般に、胎児の脳がアルコールに曝露される最悪の時期は妊娠後期であり、この時期に脳は、目覚ましい成長スパートで増大する。ニューロンとグリアは急速に分裂して、脳の大規模な成長を後押しする。この時期、ニューロンは樹状突起も活発に発芽し、春の若木が小枝を伸ばすように、さかんに枝分かれする。軸索は脳内に伸長して、神経結合網を形成し、新芽のように枝先から発芽してきた新たな無数のシナプスを連結しながら、複雑な神経回路を編成する。この期間にアルコール毒に遭遇すると、脳の急速な発育が阻害される―しかも、不可逆的に。胎児性アルコール症候群の子供の85%が、脳が異常に小さい。これを医療用語で「小頭症」という。出生前のアルコール曝露は、二通りの様式で脳の成長スパートを抑制する。第一に、曝露はニューロンの増殖を阻害する。第二に、ニューロンを死滅させ、これはとくに、海馬や小脳において顕著だ。
では、グリアはどうだろう? ニューロンに対するアルコールの影響に関しては、多くのデータがあるのに比べて、グリアについてはほとんど知られていない。しかし、グリアが脳細胞全体のおよそ85%を占めることを考えれば、小頭症はニューロンだけでなく、グリアの消失にも起因すると当然予測できる。そしてこの仮説は、証拠によって裏付けられている。
細胞培養で、ラットあるいはヒト由来のアストロサイトをアルコールで処理すると、アストロサイトの細胞分裂が強く抑制される。アストロサイトの細胞分裂に対するアルコールの遅滞効果は非常に強力なので、体内で生成されることが知られている大半の成長因子の刺激作用を凌駕する。細胞培養に付加して調べられたヒト由来の強力な成長因子はどれひとつとして、アストロサイトの細胞分裂に対するアルコールの抑制効果に打ち勝つができなかった。
アルコールは、グリアを殺しもする。アルコールの影響は、ラットの大脳皮質から採取して培養したアストロサイト、および妊娠中にアルコールに曝露したラットの脳内で観察されている。ある研究では、胎仔のときにアルコールに曝露したラットの大脳皮質で計測された細胞残骸のうち、40%がアストロサイトだったという。
ニューロンやグリアの数が減少した小頭症の脳では思考能力が減退するという単純な影響のほかに、アルコールによる胎児グリアへの攻撃が引き起こす多くの壊滅的な結果を予測するには、神経系発達を指揮するために、グリアが演じている重要な役割を考えてみるだけでいい。次章で考察するが、グリアは栄養因子を供給して、未成熟細胞から適切な種類のニューロンへの転換を促し、発達後もこれらのニューロンを維持している。
グリアはまた、軸索が適切に結合を形成して、きちんと機能する神経回路を形成できるように、途中の経路に分子を敷設していく。シナプス形成も、グリアが助けている。グリアは神経伝達物質を取り込み、生命維持に欠かせない塩や栄養を、ニューロン周囲で至適な濃度に保っている。また、グリアは脳を感染から保護する。発達期の細胞移動も、グリアによって制御されている。したがって、アルコール汚染によるグリアの消失は、発達途中にある脳に多くの悪影響を及ぼすことになる。
グリアとニューロンは、胎児脳を築くために、正しい場所に集合しなくてはならない。胎児性アルコール症候群の子供には、グリアの異常な移動が認められ、それは、実験動物でも同様である。動物実験では、グリア細胞をアルコールにわずかに曝露しただけで、中毒になったグリア細胞に間違った経路をたどる障害が起こりうる。その結果、脳の奇形が生じる。左右の大脳半球間をつなぐ架け橋である脳梁が作られる工程でグリアが担う重要な役割は、次章で詳しく論じることにするが、両半球間にグリアの架け橋がないと、ニューロンは反対側の脳まで軸索を渡すことができない。胎児性アルコール症候群の子供では、両半球をつなぐこの壮大な橋は形成不全のままである。この脳異常は、胎児性アルコール症候群に顕著な特徴のひとつだ。胎児性アルコール症候群は、ニューロンの病気であるのと少なくとも同じ程度に、グリア病でもある。』
・『アルコールには幅広い毒性があり、ニューロンとグリアをさまざまに中毒させ、害する。アルコールの中毒作用は大部分が、肝臓にあるアルコール脱水素酵素によって作られるアルコール分解産物アセトアルデヒドによって引き起こされる。このきわめて重要な酵素が進化したのは、人類の祖先が食物として腐った果物も摂取していたと考えられ、さらに消化過程そのものでも腸内でアルコールがいくらか発生するためだ。しかし、飲酒のように意図的にアルコールを摂取すれば、それを無毒化して中毒を防ぐ酵素のような体内機能では、とても太刀打ちできない。
アルコールそのものも、ニューロンとグリアに死をもたらす直接因子である。アルコールは、脳内で通常は過剰興奮を減弱している受容体(GABA受容体)に作用する。この受容体は、バルビツール酸やバリウムで活性化される抑制性受容体であり、このことはアルコールが鎮静効果を有する一因となっている。ところが、アルコールを常用すると、脳は抑制性回路を駆動するGABA受容体の数を減らして、グルタミン酸で作動する興奮性回路の活性を高めるようになる。この変化が、アルコール依存をもたらす。なぜなら、アルコールが途切れると、不安や気分、痛みを制御している回路が、過剰興奮の状態になるからだ。気分や脳内の「報酬回路」の調節に関与する神経伝達物質のドーパミンやセロトニンに対しても、アルコールは似たような効果を持ち、これもアルコール依存に加担している。この三つの神経伝達物質は、胎児および成体幹細胞からニューロンやグリアへの発達を調節することが知られている。これらのアルコールによる変化は、記憶回路をも損傷する。長期的なアルコールの常用は、抑制を減弱させ、興奮を増大して、脳の興奮を正常レベルに保っているGABAの重要な抑制作用から、ニューロンを解き放つ。脳内の抑制性回路がアルコールで弱められると、脳回路は過剰興奮の方向へ傾き、過剰刺激によってニューロン死が引き起こされるのだ。
アルコールは、NMDA受容体の感受性を低下させることによっても、精神の働きを鈍らせている。というのも、この受容体は、学習と記憶にかかわるシナプスの強度を高めるための、最初の重要な段階で働いているからだ。一方で長期的なアルコールの常用は、この受容体数を増加させる。受容体が増えると、過剰興奮によってニューロンやグリアが死ぬ傾向が強まる。将来オリゴデンドロサイトに分化して、出生後の新生児脳でミエリンを形成する予定の胎児脳細胞も、アルコールは殺傷する。事実、白質の減少は胎児性アルコール症候群の主要な特徴のひとつであり、ミエリン量低下が精神機能の低下を意味することは、現在では広く認知されている。
これらの損傷に加えて、アルコールは脱水、酸化ストレス、ビタミンの欠乏、さらには多くの代謝・損傷応答にも影響する。これらはすべて、奇跡のような胎児脳の発達を害している。グリアは、このアルコールという毒物の主要な犠牲者なのである。』
第12章 老化―グリアは絶えゆく光に抗って奮い立つ
老化する脳
・65歳になると、脳の重さは中年期よりも平均で7~8%軽くなり、計画の立案や実行などの意思決定にとって重要な脳部位である大脳皮質の前頭葉の容積は5~10%ほど縮小する。ただし、この程度の衰えは問題にはならない。
・加齢に伴い個々のニューロンは劣化し始めて死んでいくが、死滅は脳の部位によって大きく異なる。
・皮膚の染みが徐々に増えていくのと同じように、老化したニューロンには凝固したタンパク質が絡み合った黒っぽい沈着物や封入体が形成され始める。
・古い家の屋根裏部屋で増えていくガラクタのように、加齢に伴ってニューロン内部には他の多くのタンパク質が蓄積されていく。このタンパク質のゴミは、筋萎縮性側索硬化症やハンチントン病、パーキンソン病のような神経変性疾患に関連している。
第3部 思考と記憶におけるグリア
第13章 「もうひとつの脳」の心―グリアは意識と無意識を制御する
・『グリアを研究することで、脳の働く仕組みに関する私たちの理解は、どのように改まるだろうか?「もうひとつの脳」の探求は、人間の心の秘密に光を当てることができるだろうか? グリアはニューロンに奉仕するだけでなく、私たちの意識的な心、さらには無意識の心さえも動かす役割を演じられるのだろうか?
グリアについて、私たちはまだほとんど知らない。基本的な事実、たとえば何種類のグリアがあるのか、発達期にどこから派生するのか、各種のグリア細胞の細部がどうなっているのかさえ、判明していない。神経科学の分野に足を踏み入れる学生のほとんどが、ニューロンでない細胞を研究しないのは、動かしがたい事実だ。さらに悪いことに、ニューロンだけが脳内の情報処理にとって重要であるという従前の見方によって、グリア生物学者の研究は、重要性に乏しいと安易に退けられている。その結果、「もうひとつの脳」に関する研究は、「ニューロンの脳」の研究より、100年も後れを取っているのだ。』
グリアは渇きを癒す
・『私たちが水分を摂取する量と頻度は、その時々で大きく異なるにもかかわらず、脳は体内の水分量を厳密な範囲内に調節している。水は生命維持のために食糧よりも重要で、いかなる生物の体内でも、常に適切なレベルに維持されていなければならない。水分が欠乏すると、数時間のうちに身体機能にも精神機能にも支障が出る。脱水が続けば、数日のうちに命を落とすことになり、ほとんどの病気より急速に死に直結する。
私たちの体が脱水に対処するひとつの方策に、抗利尿ホルモン(ADH)の血流中への放出がある。このポリペプチドホルモンは、視床下部ニューロンから分泌され、腎臓に作用して尿の排出量を減らし、体内に蓄えた貴重な水分の減少を食い止める。喉が渇いた動物では、視床下部のシナプスに存在するグリアが驚くべき方法で応答することを、解剖学者らが観察した。』
出産、母性、愛、そしてグリア
・『オキシトシンは、視床下部の特殊化したニューロンで産生され、血液中に放出される。その巨大なニューロンは、その大きさから大細胞ニューロンと呼ばれ、視床下部から下垂体の一部の中へ軸索を伸ばして、そこで毛細血管周囲の間隙にホルモンを放出している。毛細血管はそのオキシトシンを血流中に吸収して、全身に行き渡らせる。オキシトシンは、9個のアミノ酸が連なった短いポリペプチドで、女性の体内で二つの特別な機能を持っている。それは、乳腺からの乳汁分泌を刺激することと、分娩時の子宮収縮を刺激することだ。どちらの機能も、血中のオキシトシンに応答して平滑筋が収縮した結果として生じる。
このホルモンにはもうひとつ、より繊細で興味深い働きがある。それは、母親としての行動や愛情の調節だ。証拠は依然明確さを欠いているものの、オキシトシンが男性の行動へも、これに関連するような効果を発揮する可能性がある。脳脊髄液の中で、オキシトシンはキューピッドの役割を果たしていて、出産直後から、自分の子供との絆を築こうとする力強い母性行動によって、母親と子供を結びつけている。生物的な観点から見れば、この強い愛着心は、親が脆弱なわが子を間違いなく養育し、保護するために不可欠である。ラットの実験で、注射によって脳内のオキシトシンを中和すると、母ラットは自分の仔を拒絶するようになる。その一方、処女ラットにオキシトシンを注射すると、同じケージに入れたどの仔ラットに対しても、母性行動を示し始める。オキシトシンはスプレーでも体内に取り込まれるので、この性質が営利目的で利用されている。異性との結びつきを容易にする目的で、オキシトシンを含むオーデコロンを購入することもできる。
処女ラットでは、オキシトシンを含んだニューロンは密集して存在するが、個々の細胞の間は、重ねた陶器の間に挟む紙のようなアストロサイトの薄いシートで隔てられている。動物が妊娠すると、この脳部位が構造的に変化することを、電子顕微鏡学者たちは何年も前から気づいていた。これは驚くべき事実だった。なぜなら、脳の神秘的な働きが、その配線の構造変化に反映されている様子を観察することができた最初期の事例のひとつだったからだ。カリフォルニア大学リヴァーサイド校のグレン・ハットン博士ら、フランス・ボルドーのディオニシア・テオドシスとドミニク・プラン、さらにアメリカやヨーロッパのいくつかのグループによる数年に及ぶ研究から、分娩中や授乳中の動物では、ニューロンを隔てているアストロサイトが実際に動いて、この脳部位の構造を変えることが現在ではわかっている。妊娠すると、アストロサイトの薄いベールのような膜が退縮して、オキシトシン産生ニューロンとその樹状突起の露出が増える。これに伴って、各ニューロン上で新しいシナプスの形成に利用できる空いた場所の数も増加する。この作用によって、アストロサイトの退縮後、オキシトシンを含んだニューロンのシナプス数は二倍になる。ニューロンを刺激するシナプスの数が増えれば、オキシトシン放出量も増加し、妊娠には出産に向けた準備が整うことになる。
アストロサイトの動きは、別のやり方でも視床下部を配線し直している。アストロサイトはニューロンへのシナプス入力の調節に加え、その軸索先端から血流中へ放出されるオキシトシンの供給も制御している。分娩や授乳の最中には、アストロサイトは神経終末でも退縮して、水門を開くかのような働きで、より多くのオキシトシンが毛細血管へ到達して、血流に入っていけるようにしている。神経終末と毛細血管を隔てているのは、このアストロサイトだけなのだ。
この次に母親の腕に抱かれて授乳されている赤ん坊を見かけたときには、グリアが活躍しているところを思い描いてみよう。あなたの目の前で、グリアはニューロンのシナプス数や血流中へ流れ込むオキシトシン量を制御している。私たちの子孫の誕生やその養育は、このグリアに依存しているのだ。』
画像出展:「もうひとつの脳」
無意識の脳を超えて意識的な脳へ
・『グリアが情報処理にかかわっていることを示す最初で最強の証拠が、喉の渇きや出産、授乳、睡眠、運動制御、性行動など、数々の無意識の脳機能に関連したことは、不思議に思われる。脳内の無意識的な働きは、意識的な精神活動と比べて、はるかに謎めいて研究の困難な現象だからだ。この不思議な関係性は、たんなる偶然の一致だろうか、それとも「もうひとつの脳」のより普遍的な性質を明らかにしているのだろうか? 私自身は、後者であると信じている。グリアには、ニューロンが使用しているような急速な発火によるコミュニケーション手段が備わっていない。グリアは電気ショックではなく、化学物質やカルシウムウェーブの緩やかな拡散を介して交信している。しかし、心の中で無意識のうちにゆっくりと展開する変化は、重要な脳機能でありながら、見過ごされがちだ。おそらく、無意識の心が今なお謎に包まれている理由のひとつは、私たちが「もうひとつの脳」について無知であるためだろう。』
第15章 シナプスを超えた思考
【Tasaki】
・『毎日、高齢の日本人男性がひとり、慎重に杖を突きながら、脚を引きずるようにして、目的地に向かって歩道を歩いていく。その老人は深く考え込んでいて、周囲の様子は目に入っていないようだ。急ぎ足で通り過ぎる人々は、脇目も振らずに目的地を目指すその老人の体力と決然とした意志に感心するのではないかぎり、彼のことは気にも留めない。彼がどこを目指しているのかを想像できる者など、ほとんどいないだろう。
あと二年で100歳を迎えるその優しげな老人は、職場へ向かっているのだ。彼は一日二回、3㎞あまりの道のりを毎日歩き抜いている。彼の妻の信子夫人が60代になるまでは、自宅で一緒に昼食をとるために、彼はこの道のりを二往復していた。昼食後には、二人並んで職場に戻った。知り合って間もない頃、信子夫人は彼と一緒にいたいのなら、彼の助手にならなければならないと悟った。2002年に彼はこう誓った。「妻がもう働けないと言うまで、私は働き続ける。妻が100歳まで働けるのであれば、私も働き続けよう」。ところが、信子夫人が亡くなったあとも、彼が仕事を辞めることはなかった。
震える手で真鍮製の鍵を回しながら、老人が職場のドアを開けると、ガラス製の器具や1960年代の電子機器であふれた科学実験室が現れる。部屋に足を踏み入れると、かつて宇宙開発計画が始まった頃にエンジニアが好んだようなスタイルの彼の衣服や眼鏡は、その場の光景に完璧に溶け込む。街中では、彼は過去の人のように見えたかもしれないが、部屋の照明が灯ったとたんに、あたかも舞台上で急に息を吹き返したかのような過ぎ去った時代の光景に、彼はしっくりと馴染む。彼を取り囲む年代物の電子機器や科学実験装置の大半は、彼が自作したものだ。作製当時、彼の構想とそれに必要な装置は、そのとき手に入る技術をはるかに凌ぐものだった。
田崎一二という彼の名前は、あまり知られていないが、彼の精力的な仕事のもたらした成果を知らない者は誰もいない。私たちの神経系が筋肉を制御するために、神経を通して電気を送ることによって機能していること、そして、感覚器官から脳へインパルスが送られていることは、誰もが知っている。だが、インパルスはどのように軸索を伝導されているのだろうか? この疑問に答えたのが、田崎博士だ。』
・『田崎のその大仕事を、単純な道具と自作の装置を使って手作業で行い、次に測定したデータの意味を解き明かそうと、数式を適用した。軸索における電気の伝わり方をミエリンが変化させていることを、田崎は見出した。電気的インパルスは、誰もが想定していたように、電波として神経線維を駆け抜けているのではなかった。バレエダンサーが舞台の端から端までを二、三度の跳躍で横切るように、ミエリンがインパルスをひとつのランヴィエ絞輪からその次へと、順に飛び移らせていることを、彼は発見した。この発見は、どうしたら有髄軸索が無髄軸索の100倍も速く情報を伝えられるのかを説明していた。この基本的なプロセスが、脳と全身のあらゆる有髄回路の設計と働きを支える基礎を成しており、軸索のミエリン絶縁を攻撃する多発性硬化症やその他の疾患に罹った人々を苦しめている麻痺の原因となっている。
田崎の初期研究の多くは、時代を先取りしていて、彼の比類なき観察の数々は、曖昧な好奇心の域を出なかった。1958年に、彼はネコ脳のグリア細胞に電極を刺入して、グリアはニューロンのように電気的インパルスを発生させないが、特有の性質として、定常的な電位を持つことを発見した最初の人物となった。』
画像出展:「ウキペディア」
第16章 未来へ向けて―新たな脳
・『「もうひとつの脳」の物語の最終章は、まだ白紙である。グリアを理解できたら、心についての私たちの理解はどのように変わるだろうか? 私たちは今や、100年以上も無視されていた別の脳、すなわち科学にとって未知の脳を、グリアが構成していることを知っている。科学において「もうひとつの脳」は、終始一貫して見過ごされ続けてきた。それはいったいなぜなのか?
第一に、その研究に不適切な道具が使われていたことが挙げられる。神経科学者たちの電極では、グリアのコミュニケーションを聞き取れなかったのだ。それでもやはり、グリアの脳はたしかに連絡をとっていた。ただし、ニューロンの脳とは違う仕組みで働き、異なる様式とタイムスケールで交信している。しかし、道具の不備だけでは、神経科学者が今日まで脳の半分を見逃してきた理由を、完全に説明することはできない。
人間は、道具作りにはとりわけ秀でている。科学者がグリアの脳を探る特別な道具が必要だと感じていたら、工夫を凝らして作り出していただろう。そうした道具は、当初どれほど粗削りだったとしても、役に立ったに違いない。なにしろ私たちは、持ち前の創意工夫によって尖らせた石だけで、この地球上であらゆる動物を捕食し、支配しえた生物なのだ。
私たちが失敗したのは、思い込みのせいだ。脳の働く仕組みを知っていると、私たちは思い込んでいた。電気で作動するニューロンに目がくらんだ神経学者らは、この一種類の細胞だけに極度に研究の焦点を絞って、数や多様性の点でニューロンに勝っているもう一方の細胞群すべてを、事実上無視してきた。無意識の先入観が、私たちの認知を曇らせていた。こうして、グリアの脳は見過ごされ続けることになった。』
感想
グリア細胞を勉強しようと思ったのは、以下のニュースがきっかけでした。
『これまでの研究から、神経がダメージを受けると脊髄でミクログリアが活性化して神経障害性疼痛が発症することが知られていました。今回の研究では、そのミクログリア細胞の一部が変化し、徐々にIGF1という物質を作るようになり、それが痛みを和らげていることを明らかにしました。』
”グリア細胞2”の最後の箇所にあった、『ニューロンが損傷したときのシグナルの中に、フラクタルカインという物質がある。この分子はニューロンの表面にあり、傷害を受けると非常事態を知らせる。ミクログリアは、フラクタルカインによる非常事態を感知する特別な受容体を持っており、感知したミクログリアは損傷部位へと急行し、その領域にサイトカインを浴びせかける。この反応は通常、傷が治るのに伴って数週間で消えるが、ときにミクログリアがサイトカインの放出を止めない場合がある。この場合、傷は癒えても痛みを伴う炎症反応は続く。』
「痛みを弱める"IGF1”」に加え、上記の「ときにミクログリアがサイトカインの放出をやめない」ことによって、痛みを伴う炎症反応が続いてしまうという点も、ミクログリアと慢性疼痛の関係を示す重要なポイントだと思いました。
著者:R・ダグラス・フィールド
監訳者:小西史朗
訳者:小松佳代子
発行:2018年4月
出版:講談社
第4章 脳腫瘍―ニューロンはほぼ無関係
・脳腫瘍はすべてが悪質ではないか、一般的には致死性が最も高い癌の部類に属している。
・脳腫瘍は脳内のどこにもでも発生し、腫瘍に伴う初期症状は脳が担っている機能と同じように多種多様である。最も多い初発症状は頭痛と疲労感であるが、腫瘍の発生部位によっては、視力や発話、起立や歩行に関する問題や、人格や心理状態の変化などもある。
・優秀な脳外科医は、症状からそれを司る脳の領域を割り出す方法で、脳内のどこに腫瘍があるのかを把握することはできる。
・癌細胞の特徴は制御不能な細胞分裂の暴走であるが、通常、細胞分裂は非常に複雑に調節されているので、その制御過程に複数の不具合が起こらない限り、細胞分裂の暴走は起きない。
・癌は遺伝的および環境的危険因子が複合的に働いた結果として生じる。
腫瘍の種類
・脳にできる癌のほとんどがグリア細胞から生じる。
・脳の発達期、ニューロンが未成熟な乳幼児以外の、成熟ニューロンに関しては細胞分裂しないので癌化はしない。ただし、髄膜細胞や上衣細胞はグリアと同じく細胞分裂するので腫瘍を生じるが、大多数の脳腫瘍は異常をきたしたグリア細胞である。末梢神経の腫瘍もグリア細胞であるシュワン細胞に由来する場合が多い。
・女性に比べ男性の方が悪性の脳腫瘍に罹りやすいが、脳と髄膜にできる良性腫瘍は女性の方がはるかに多く、約20倍と言われている。
第5章 脳と脊髄の損傷
脊髄に対する細胞応答
・『軸索が切断されると、ニューロンはすぐに死滅し始める。細胞体が損傷個所から離れたところにあって無傷でも、それは変わらない。これは自然死ではなく、いわば細胞の自殺であることがわかっている。ニューロンは、通常支配している標的から切り離されると、細胞体内の遺伝子が活性化して、自己破壊を開始する。自己破壊を引き起こす遺伝子を妨害するように操作した変異遺伝子を持つ動物では、軸索が切断されても、ニューロンは死なない。残された貴重なニューロンが、このような集団自殺をするのはなぜだろう?
この不可解なニューロンの大量死は、切断された軸索が結合していた細胞、たとえば筋線維や皮膚細胞、あるいはもとの神経回路内の次のニューロンなどから、成長を刺激するタンパク質が放出されていることに関係している。胎生期には、このタンパク質は、神経終末から取り込まれて細胞体へと送られることによって安定的に供給され、細胞全体が正常に機能していることを、そのニューロンに知らせている。しかし発達期には、正確な数のニューロンが生成され、結合を必要としている細胞の適正な数に釣り合うよう調整されたうえで、各ニューロンがそれぞれ適切な標的のもとへ、軸索を長く伸ばしていかなくてはならない。道筋を間違えて、正しい接合地点にたどり着けなかったニューロンは、生存に欠かせないこの成長因子タンパク質を取り込めないので、子宮の中で脳が形成されている間に死滅する。このメカニズムは、私たちの神経系を適正に配線し、誤った経路をたどった接続を排除する非常に有効な方法だ。だが、軸索が押しつぶされたり、切断されたりすると、シナプスの適切な接合地点で放出された成長因子タンパク質は、細胞体までたどり着けなくなる。軌道を外れたロケットと同じく、もはや正しい軌道に乗っていないことに気づいたニューロンは、自己破壊のメカニズムを活性化するのだ。
だが、細胞が死に向かいつつあるときでさえ、治癒と修復のプロセスを開始する別のメカニズムが活性化されている。受傷部位にあるニューロンの一部は、切断あるいは粉砕された軸索の末端を塞いで、長い間休眠状態にあった遺伝子群を再活性化する遺伝プログラムを起動させる。この遺伝子は、そのニューロンが最初に軸索を伸ばして全身に配線を巡らせた胎生期に機能したのを最後に、休止していたものだ。この遺伝子は、軸索を発芽させるタンパク質を産生し、発芽した軸索は適切な標的を探し求めて伸長し始める。
損傷したにもかかわらず、こうしたニューロンが自己破壊を起こさないのは何故だろう? その理由のひとつに、アストロサイトとミクログリアがこの再生期に、ニューロンを生存させる神経栄養因子を放出することが挙げられる。神経栄養因子となるタンパク質の一部は、標的細胞から放出されていた成長刺激物質と同一の物質だ。受傷部位で神経栄養因子を放出することによって、アストロサイトは損傷したニューロンの死滅を防ぎ、軸索の発芽を促進する。アストロサイトは同時に、タンパク性の血管新生因子も放出し始めて、損傷した組織の生存に欠かせない栄養と酸素を送り込むための新しい血液の成長を刺激する。
オリゴデンドロサイトは、再び若々しい状態を取り戻し、細胞分裂を開始する。この若返った細胞は、損傷領域に移動してきたオリゴデンドロサイトとともに、細胞性触手を伸ばして、損傷してむき出しになっている軸索に、できるだけ多く絡みつく。その後すぐに、それらの細胞は軸索の周囲にミエリンを何層にも巻きつけて、絶縁を修復する。軸索はこのミエリン再形成によって、受傷後にミエリン鞘が損傷したせいで失われていた電気的インパルスを伝導する能力を取り戻す。オリゴデンドロサイトが軸索のミエリン鞘を修復するにつれて、患者は一部の感覚や運動能が以前より少し回復してきたように感じ始めるが、まだ麻痺は残る。
しかし、生き残った軸索が新しい分枝を発芽して、もとの結合部位を探し始めても、その途中で受傷部位まで来ると、伸長はそこで止まってしまう。その結果、麻痺は一生続くことになる。これがもし、腕や脚の神経を損傷したのならば、軸索は順調に伸び続けて、ついには筋肉上の適正な結合点を見つけ出すだろう。全身の知覚神経線維も、痛覚や触覚、温度、圧覚をはじめとする外界からの感覚を脳へ運ぶ回路と再結合することになる。だが、脊髄や脳が損傷した場合、発芽しながら再結合を目指す軸索の果敢な挑戦は、失敗に終わる。』
グリアの二面性―麻痺の原因とも、治療ともなる
・『中枢神経系に末梢神経を接合するという実験は、麻痺の治療法を模索するうえで、貴重で有望な情報をもたらしたが、この技術は実用的な治療法とはなりえない。中枢神経系はきわめて繊細で微小なうえ、複雑なので、このような荒っぽい継ぎはぎ手法では修復できない。麻痺の治療に向けた最も合理的なアプローチは、軸索再生をシュワン細胞がどう支援しているのか、そしてミクログリアやアストロサイト、オリゴデンドロサイトがそれをどう阻害しているのかを解明することだろう。』
Nogoだけでない
・科学者はニューロンだけに関心を向けていたが、現在では、学習や精神障害、情報処理、意識などに関する新しい洞察がミエリンから得られている。
酸素―虫が食い、さびが付く地上
・酸素は我々の細胞のタンパク質や酵素、DNAをゆっくりと蝕んで弱らせ、ついには崩壊させる―これが、これがいわゆる老衰死である。
・酸素は他の原子から電子を盗み取ることによって害を及ぼし、分子を奪われた細胞はダメージを受ける。この酸化を食い止める化学物質は抗酸化物質と呼ばれる。
・健康食品としても注目されている抗酸化化合物は、体内の酸化による燃焼の炎を、安全なレベルにまで冷却してくれるが、我々の体内には健康食品とは比べ物にならないような抗酸化物質がたくさん存在している。なかでも特に効果的な生体内抗酸化物質のひとつがグルタチオンで、細胞の命を救うこの化合物が最も高い濃度で詰め込まれているのが、グリア、とりわけアストロサイトである。
・アストロサイトから放出される抗酸化物質は、神経変性疾患や癌、老化に対する身体の主要な防衛手段のひとつである。
第6章 感染
プリオン病―ニューロンを超えた探索
・現在では、プリオン病はニューロンの病気であると同時に、グリアの病気であることが明確になっている。もし、グリアの関りが発見されていたら、プリオン病の原因と治療の探求ははるか先まで進んでいたであろう。
・アストロサイトはプリオン病による脳の損傷に対応する一方、ニューロン死の一因にもなっている。
・アストロサイトはプリオンタンパク質を複製して、プリオン病におけるアミロイド斑の形成に一役買っている。
・異常プリオンに感染したアストロサイトは、サイトカインをはじめとする神経毒性のある物質を放出するうえ、ニューロン周辺のグルタミン酸を正常レベルに維持する能力も損なわれる。その結果、ニューロン死が起こる。
・アストロサイトはオリゴデンドロサイトとも相互作用する。オリゴデンドロサイトが侵されると、軸索を絶縁しているミエリン鞘が損傷を受ける。
・プリオン感染に応答したミクログリアは、ニューロンを死滅させる有害分子(サイトカイン、活性酸素、タンパク質分解酵素、補体タンパク質など)を産生する。
・異常型プリオンタンパク質で活性化された、ミクログリアはアストロサイトに損傷応答を引き起こす物質も放出して、アストロサイトの細胞分裂を促進している。したがって、プリオン病における病理的変化の開始には、ミクログリアが重要な役割を担っていると考えられる。
・『ミクログリアはさらに、プリオン病の診断にも活用できるだろう。プリオン感染に応答したミクログリアは、はっきりと識別できる細胞変化を起こすので、適切な診断技術を用いれば、このような形質転換を検出することができる。血球数の変化をモニターすることで、体内の感染症の種類と重症度を医師が判断できるように、ミクログリアの変化を注意深くモニターすれば、脳内の感染症に関する重要な知見が得られるだろうことは、容易に想像できる。』
現代の黒死病(ペスト)―HIVとグリア
・神経系を攻撃するウィルスの種類は多い。よく知られているのは、ポリオとヘルペスの二つで前者は麻痺を引き起こし、後者は口唇や性器周辺部に痛みを伴う水泡を生じる。
・ポリオウィルスは、脊髄の運動ニューロンに選択的に感染し、それを殺して、患者に麻痺を起こす。思考力や判断力は清明なままだが、神経を通した脳からの指令が筋肉に届かず、通信経路が切断されることによって、筋肉はやせ細ってしまう。脚へと伸びる運動ニューロンがポリオウィルスに侵された場合、患者は車椅子生活を余儀なくされる。
・ヘルペスは感覚ニューロンに感染する。ヘルペス感染も根治できず、このウィルスは感覚ニューロンに永久に居座り、患者の生涯を通じて尽きることなくウィルスを産生し、ときおり急に感染症状を引き起こす。単純ヘルペスウィルス2型は、下半身に発症し、単純ヘルペスウィルス1型は、よく知られた痛みを伴う水泡を口唇に生じさせる。
・『HIV患者のウィルスが感染するのは、どういった種類のニューロンなのだろうか? HIVウィルスはどのようにニューロンに侵入するのか? ヘルペスウィルスのように、神経終末から軸索伝いに細胞体に忍び寄るのだろうか、それとも、樹状突起や細胞体の表面だけにあるタンパク質を攻撃するのだろうか?
部検の結果、脳はHIVによる嚢胞でハチの巣状に破壊されていて、あとにはニューロンの荒れ地が残されることが判明した。ところがほどなく、研究者たちはHIVウィルスがニューロンにまったく感染していないことを見出した。HIVが感染するのは、グリアだったのだ。』
第7章 心の健康(メンタルヘルス)―グリア、精神疾患の隠れた相棒
統合失調症とうつ病―新たな理解
・『統合失調症は、正常脳とは物質的に異なっている場合がある。この相違の原因が、発達障害にあるのか、精神の乱れた活動パターンによる損傷にあるのか、あるいは精神のバランスを少しでも回復させるために何年も摂取していた薬物にあるのかは定かでないが、この三つの理由すべてが、統合失調症脳の物質的変化に関与している可能性がきわめて高い。
統合失調症患者の脳では、一部の領域における萎縮と、脳中心部にある髄液で満たされた脳室の拡大がしばしば認められる。消失組織の一部はニューロンだが、大半はグリアだ。この脳組織の減少は、精神疾患の結果なのだろうか、それとも原因なのだろうか?
統合失調症患者の多くの遺伝子異常が存在することを突き止めた最近の発見が、この問題にひとつの答えを提示している。この驚くべき発見は、ヒトゲノム配列の解読を進めるために開発された技術であるDNAチップ解析によって生まれた。この最新の手法を用いれば、一度に何千もの遺伝子を調べることができる。研究者はこれまで、ある病気に関係している可能性のある遺伝子を調べるためには、まずどの遺伝子かを推定してから、その遺伝子を個別に検査しなくてはならなかった。ところが今では、大きな集団の人々から得た何千もの遺伝子を一度に検査し、そのデータをふるいにかけて選別すると、患者間で共通する異常な遺伝子欠損を探し出すことができる。統合失調症とうつ病に関して、この無作為の検索から、思いがけない事実が判明した。
この広範な調査によって発見された遺伝子異常の一部は、理に適ったものだった。というのも、神経伝達物質の機能を制御している遺伝子だったからだ。しかし、探し当てられた異常遺伝子のなかには、まったく予期しなかったものも含まれていた。統合失調症や大うつ病で異常が見つかった遺伝子群のなかでも、大きな比重を占めるカテゴリーのひとつが、オリゴデンドロサイトの発達およびミエリン形成も調節している遺伝子だったのだ。』
・『科学者たちが「もうひとつの脳」の探求を進めるにつれて、正常な脳の働きについての理解が拡大している。それと同時に、精神疾患に罹った脳で起こる機能不全に関するまったく新しい見識が、明確になりつつある。興味深いことに、こうした洞察は新発見ではなく、むしろ驚くべき再発見と言える類のものなのだ。』
グリアを標的とした精神疾患治療薬
・統合失調症患者で異常に発現する遺伝子のひとつは、成長因子であるニューレグリンをコードしている。この成長因子はミエリン形成グリアの発達を調節することは知られており、今では多くの神経科学者が統合失調症とグリアとの関連性について注目している。
・グリアが広範な精神障害における重要性は以前から認知されてきた。パーキンソン病やアルツハイマー病、ALS、ハンチントン病などの神経変性疾患はニューロンの死によって起こる。これらの疾患においてグリアは味方とも敵ともなると、現在では理解されている。
第8章 神経変性疾患
・アストロサイトは、精神疾患の相棒として強力な役割を果たしている。
・アストロサイトは、ニューロンの電力源(カリウムイオン)を調節し、シナプスから神経伝達物質を吸収しては放出し、成長因子を放出してニューロン損傷に応答し、ニューロン新生を促している。そして、こうした機能によって、アルツハイマー病やパーキンソン病、その他の神経変性疾患において、さらには脳損傷からの回復を支援する場合にも、ニューロンの生死を決する大きな影響力を発揮している。
筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルー・ゲーリック病)
・ALSは運動ニューロンだけを狙い撃ちして麻痺を引き起こすが、そのメカニズムは謎である。
・ALSは何の前触れもなく襲ってきて、通常は成人になって突然発症する。
多発性硬化症―グリア戦争に伴う二次的な損害
・多発性硬化症の原因は、脳の通信回路がショートすることにある。感覚器官から発せられたインパルスは脳に届かず、脳からの指令は筋肉へと伸びる神経軸索の絶縁が途切れた場所を通過できなくなっている。
・多発性硬化症の機能不全は広範囲に生じる。脳回路のどの部分が損傷したかによって、現れる症状は千差万別である。
・多発性硬化症が致命的になることはまれであるが、寛解を繰り返すという特徴がある。また、症状は一時的なものから重篤な進行性のものまで幅広い。原因は自分自身の免疫の暴走と考えられている。
・多発性硬化症はニューロンではなく、脳炎症から最終的にミエリンの破壊につながる、そして病気が続けばミエリン生成細胞であるオリゴデンドロサイトが死ぬことになる。
心臓発作と脳卒中―不十分な配管システム
・脳には血流と脳細胞の間で特別に進化した細胞性インターフェースがある。この細胞性インターフェースは神経血管ユニットと呼ばれている。
・脳と血液の間の分子交換はすべて、この神経血管インターフェースを介して行われる。脳細胞に送られる酸素量は、今まさに活動している特定の脳細胞で刻々と変化する需要に釣り合っていなくてはならない。また、脳の働きによって生じる老廃物は、過酷な状況下でどれほど速く蓄積するとしても、迅速に除去しなくてはならない。栄養や薬物、ホルモンは、適宜血液と脳の境界を通過する必要があるが、脳を浸している特別な細胞外液は、清掃な状態に維持され、全身の体液から隔絶されていなくてはならない。
・血液や脳の間の栄養や老廃物、酸素の移動を監視し、調節し、適正化するシステムを考案するには、精緻で複雑なセンサー群を組み込んだプロセッサーや交換器が必要である。これを実現するのが脳の血管壁に存在する細胞と、ニューロンの変動する需要を監視してそれに対応している細胞間における、微細な協力関係の上に成り立っている。後者は「血管周囲アストロサイト」と呼ばれている。
思考とは何か
・ここ二、三年の間に、アストロサイトが近傍のニューロンの神経活動を感知して、脳内の細い血管を拡張あるいは収縮させる分子を放出していることを示す発見が相次いでいる。ニューロン-アストロサイト-血管間のこうしたコミュニケーションが行われている様子を、生きたマウスやラットの脳で実際に見ながら研究することに、科学者たちは成功している。
・ニューロン-グリア相互作用は、医療応用にとっても多くの重要な示唆を含んでいる。脳発作や多くの神経変性疾患に対する脳の応答には、血流の局所的変化が関与しており、このプロセスの重要な調整因子として働いている細胞がアストロサイトであることは科学者の間でよく知られている。
パーキンソン病治療におけるアストロサイト
・神経変性疾患には、必ずグリア応答が伴っている。しかし、グリア細胞をニューロンの使用人と捉える見解が支配的だったせいで、グリアがニューロン死に応答しているのではなく、その根本原因である可能性に多くの科学者は思い至らなかった。
第9章 グリアと痛み―恩恵と災禍
痛みが病気になるとき―慢性疼痛におけるグリア
・ミクログリアとアストロサイトは、傷害後に多くの重要な機能を担っている。
・ミクログリアの神経損傷を感知する仕組みや、損傷、治癒、さらには慢性疼痛発症の過程で、ミクログリアの多種多様な応答を制御しているメカニズムの詳細を明らかにすることができれば、新しい慢性疼痛の薬の開発につながるだろう。
・ニューロンが損傷したときのシグナルの中に、フラクタルカインという物質がある。この分子はニューロンの表面にあり、傷害を受けると非常事態を知らせる。ミクログリアは、フラクタルカインによる非常事態を感知する特別な受容体を持っており、感知したミクログリアは損傷部位へと急行し、その領域にサイトカインを浴びせかける。この反応は通常、傷が治るのに伴って数週間で消えるが、ときにミクログリアがサイトカインの放出を止めない場合がある。この場合、傷は癒えても痛みを伴う炎症反応は続く。
“グリア細胞”と聞いて思い出すのは、「確か、神経細胞(ニューロン)を取り巻いている細胞で、何種類かあったよなー」ということぐらいです。
そのグリア細胞に興味をもった理由は、ネットで見つけた以下のニュースです。
慢性疼痛は鍼灸師として特に重要な課題なので、どういうことなのか? このグリア細胞についても詳しく知りたいと思いました。
今回の『もうひとつの脳』は2018年発行ですが、原書は2009年なので10年以上前ということになります。内容もサイエンス・フィクションに属する本のようなので、その点も少し迷ったのですが、題名(副題:ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」)と価格を重視し、この本で勉強することにしました。
本は新書版なので単行本より少し小さいのですが、図表も少なく500ページを超えるボリュームで、「これは結構、大変だ!」というのが手にした時の感想でした。
著者:R・ダグラス・フィールド
監訳者:小西史朗
訳者:小松佳代子
発行:2018年4月
出版:講談社
こちらは原書です。
発行は2009年12月です。
ブログは3つに分けていますが、完全に自分の趣味と感覚で抜き出しています。また、読み物系なので、特に本書を読んでいない方には捉えどころのない、漠然とした内容になっていると思います。
もくじ
はじめに
謝辞
第1部 もうひとつの脳の発見
第1章 グリアとは何か―梱包材か、優れた接着剤か
第2章 脳の中を覗く―脳を構成する細胞群
第3章 「もうひとつの脳」からの信号伝達―グリアは心をう読んで制御している
第2部 健康と病気におけるグリア
第4章 脳腫瘍―ニューロンはほぼ無関係
第5章 脳と脊髄の損傷
第6章 感染
第7章 心の健康(メンタルヘルス)―グリア、精神疾患の隠れた相棒
第8章 神経変性疾患
第9章 グリアと痛み―恩恵と災禍
第10章 グリアと薬物依存症―ニューロンとグリアの依存関係
第11章 母親と子供
第12章 老化―グリアは絶えゆく光に抗って奮い立つ
第3部 思考と記憶におけるグリア
第13章 「もうひとつの脳」の心―グリアは意識と無意識を制御する
第14章 ニューロンを超えた記憶と脳の力
第15章 シナプスを超えた思考
第16章 未来へ向けて―新たな脳
訳者あとがき
本文注参照資料
さくいん
はじめに
『私たちは現在、脳についての新たな理解の先端に立っている。そしてこの新たな理解は、過去一世紀にわたる従来の脳の概念、とりわけ脳内のニューロンの役割に関する考え方を一変させるものだ。1990年、暗室のコンピューター画面の周囲に群がっていた科学者たちは、情報が奇妙な脳細胞を通過しているところを目撃した。情報はすべて、ニューロンを迂回して、電気的インパルスを使用せずにやり取りされていた。この発見まで、脳内の情報はすべて、ニューロンを介して電気によって伝えられていると想定されていた。実のところ、ニューロンは脳の全細胞のわずか15%でしかない。ところが、残りの脳細胞(グリアと呼ばれる)は電気活動を行うニューロンの間を埋める梱包材にすぎないと、これまで見過ごされてきたのだ。グリアは「維持管理細胞(ハウスキーピング)と言われてきた。家事使用人のような細胞と安易に片付けられて、グリアはその発見から一世紀以上も無視され続けてきたのだった。
この奇妙な脳細胞が互いに交信していると知って、科学者たちは今、大きな衝撃を受けている。この細胞が、神経回路を流れる電気活動を感知できるだけでなく、その活動を制御さえできることが判明し、脳に関する科学者の理解は根底から揺らいでいる。』
第1部 もうひとつの脳の発見
第1章 グリアとは何か―梱包材か、優れた接着剤か
アインシュタインの脳
・天才であるアインシュタイと普通の人の脳を比較して分かったことは、ニューロンの数に差はなかったが、ニューロンではない細胞が脳の四領域(前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉)すべてにおいて、群を抜いて多かった。 このニューロンでない細胞とは、グリア細胞と呼ばれ、梱包材のようなニューロンを支える接合組織のようなものと考えられていた。
深海が明かした新事実
・グリア細胞は、神経軸索のインパルス発火を何らかの方法で感知し、それに反応して細胞体内のカルシウム濃度を上昇させる。
・グリア細胞は長年、脳を取り巻く梱包材にすぎないと見なされてきたが、ニューロン間でやり取りされる情報に関係していた。
第2章 脳の中を覗く―脳を構成する細胞群
脳を解剖する
・グリアは脳の細胞の圧倒的多数を占めている。
・グリアはニューロンと異なり、電気的インパルスを発火することができないため、インパルスを遠くまで送るための軸索や、電気信号を受け取るための茂みのような樹状突起といったニューロンの特徴的形質を持たない。
白質
・脳の余白とされた領域(白質)で、そのメカニズムの中核を成しているのがグリアである。
・『長年なおざりにされてきたこの脳細胞に関する近年の探求が発端になって、大変革に火がついた。そしてそれは、脳がどのような構造を持ち、どのように機能し、精神疾患や病気においてどのような不調をきたしているのか、さらにはそれがどう修復されるのかといったことについての私たちの理解を揺るがしている。脳に対するこの新たな見方を理解するうえでカギになるのが、グリアだ。』
ニューロン―脳の働きに関する取扱説明書
・神経系はワイヤーのような軸索に沿って、最速で時速320㎞ほどのスピードで電気的インパルスを送り出している。これはミエリンと呼ばれる電気的絶縁体で覆われているからである。
・痛覚線維の伝導速度は時速3㎞、歩くスピードと変わらない。誤って机に脚を強打したときの痛みがじわじわくるのも頷ける。
・シナプスにはニューロンを結びつけるだけでなく、情報処理に柔軟性をもたせることができる。そのメカニズムは、インパルスが到達したときに、シナプス前ニューロンの終末部から放出される神経伝達物質の量をわずかに増やしたり、神経伝達物質による信号を受け取るシナプス後ニューロンの受容感受性を調節したりすることで、あるシナプスへの同じ入力が、シナプス後ニューロンで起こす電位変化を大きくしたり、小さくしたりできる。その結果、シナプス結合は強化、あるいは減弱される。
・シナプスには、更にもう一つ重要な働きがある。それは清掃である。シナプス間の神経伝達物質を速やかに片付けて、次のメッセージを送り出せるようにすることである。
・アストロサイト(4つのグリア細胞の中の一つ)は、ニューロンのエネルギー源となる乳酸も必要に応じて供給している。
「もうひとつの脳」の構成細胞
・4つのグリア細胞のうち末梢神経にあるシュワン細胞と脳や脊髄に見られる稀突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)の二つは軸索の周囲にミエリンという絶縁体を形成する。
・脳と脊髄全域にはアストロサイトと小膠細胞(ミクログリア)も存在する。
・ミクログリアは脳を損傷や病気から保護しており、脳や脊髄が損傷から回復するうえで中心的な役割を担う。
・グリアの数はニューロンの6倍にも達するが、その正確な比率は神経系の部位ごとに異なる。
・末梢の神経線維沿いや脳内の白質新経路では、グリアとニューロンの比率は100対1になる。また、ヒトの前頭皮質におけるアストロサイトとニューロンの比率は4対1である。
・脳の外部にある全身の神経には、違う種類のグリアが存在しており、神経線維の全長にわたって、軸索の周りをぎっしりと取り囲んでいるが、これがシュワン細胞である。
シュワン細胞
・シュワン細胞を発見した、テオドール・シュワンは4種類の主要なグリアの一つを発見しただけでなく、細胞という概念そのものを残した。
※Florkin, M. (1975) Theodore Ambrose Hubert Schwann, Dictionary of Scientific Biography, Charles C. Gillispie, ed., vol. 12 Scribner, New York
オリゴデンドロサイト―タコの園
・オリゴデンドロサイトは、脳のほぼ全体に広がっているが、特に白質の神経路に数多く見られる。白質は、背骨を持つ動物の脳の中心部に筋状に走っている。この白質には何千本もの軸索が束になった情報の幹線が集まっていて、脳の遠く離れた場所をつないで情報を運んでいる。
・軸索とオリゴデンドロサイトの間を含めて、脳と末梢神経に存在するあらゆる種類のグリア細胞が、ニューロ-グリア間でコミュニケーションをとっている可能性がある。
アストロサイト―星のような細胞と謎の病
・主要なグリア細胞の中で最初に発見された。
・多種多様な種類と、軸索も樹状突起も持たない形状が特徴である。
・アストロサイトの数は脳の領域によって異なるが、ニューロンの2~10倍も多い。
・ニューロンの隙間を埋めている支持細胞
ミエリンの魔力
・無脊椎動物の神経系と脊椎動物の神経系には、電卓とスーパーコンピューターほどの違いがあるが、ハエの脳にあるニューロンはヒトの脳のニューロンと同じように作動していて、多くの場合、神経伝達物質として使用する化学物質まで同じである。
・ミエリン形成グリアは、軸索の周囲に何層もの膜を巻きつけて、ワイヤーに巻かれた絶縁テープのように各軸索を絶縁する。一方、無脊椎動物は絶縁体を持たないため、漏電で電気信号が失う。
・動物や鳥などの脊椎動脈の機敏で優雅な動きは、ミエリン形成グリアのおかげである。
画像出展:「もうひとつの脳」
ミクログリア
・ミクログリアはオリゴデンドロサイトより早く発見されていたが、血流から脳へ浸潤してきた細胞だと勘違いされてしまった。
・4つのグリアの中で最も小さくダイナミックなミクログリアは脳を警護している。
・ミクログリアは常に枝分かれした突起を持ち、単独で潜んでいるが、ひとたび感染や傷害の危険を感知すると、高い機動性を備えたアメーバ状の細胞に変貌する。樹状突起と軸索が絡み合った隙間をくぐり抜けながら、侵入者をやっつけるために駆けつけたミクログリアは、有害な生命体を攻撃して吞み込んでしまう。
・ミクログリアは常に脳の中をかき分けながら動き回っている。そして、自分の役目を果たすとたくさんの分枝を持つ不活発な細胞に戻り、風景の一部になりすますように周囲に紛れ込んでいる。
不活発なミクログリアは全く人目に付かないので、5年程前にはその存在の有無をめぐって科学者の間では議論が起きていた程である。
・ミクログリアは体内の他の免疫細胞を生み出すのと同じ胚細胞株に起源を持つ。
・ミクログリアは脳に侵入するのではなく、脳とともに成長している。
・ミクログリアは脳の全域に展開して脳を守っている。
・『灰白質では、ミクログリアは茂みのようで、細胞突起をバランスよく四方八方に放射状に伸ばし、その触手を樹状突起やニューロン間のシナプス結合上に広げて、傷害や病気の兆候がないかと常に探っている。一方、白質の線維経路では、あたかも軸索を保護する格子のようにミクログリアの触手は軸索と平行、あるいはそれに対して垂直に並んでいる。
ミクログリアは、細菌やウィルス、細胞の残骸などを探知して襲いかかり、呑み込んでしまうが、化学的な武器を使った攻撃も行う。ミクログリアが放出する化学物質のなかには、興奮性神経伝達物質のグルタミン酸や、サイトカイン、活性酸素、窒素種などのように、高濃度ではニューロンにとってきわめて有害なものもある。防衛を担う軍や兵士はみなそうだが、ミクログリアも救助者であると同時に、潜在的な敵でもある。ミクログリアの働きに付随して生じる損傷は、多くの神経疾患の原因となる。だがその一方で、ミクログリアは、傷ついた神経細胞に神経保護物質を与えるといった慈悲深い使命も果たしている。
茂みのような形態のミクログリアから伸びる多くの分枝の表面には、危険や病気を示す信号を常に見張っているセンサーがずらりと並んでいる。そのセンサーとは、自己と非自己の標識となる免疫学的認識分子に対する受容体であり、それは脳に侵入してきた外来細胞を識別している。さらに、ニューロンにあるようないくつかのセンサーも存在する。こうしたセンサーのおかげで、ミクログリアは侵入してきた細胞や有害な状況を探知するだけでなく、ニューロンが危険な状態に陥らないように警戒を続けることができる。』
・「小さな接着細胞」を意味するミクログリアは、脳内に存在するグリア全体の5~10%を占めているが、これはニューロンとミクログリアがほぼ同数であることを意味している。
画像出展:「もうひとつの脳」
アストロサイト―脳のパワーの源泉
・アストロサイトは、脳と脊髄全域に見られるが、末梢神経系の神経線維には存在しない。
・アストロサイトは、いくつかの方法でニューロンを支援している。物理的基質として構造を支えたり、ニューロンにエネルギーを供給し、その老廃物を輩出したり、脳の損傷に対して瘢痕を形成して対処したりしている。すべての生きた細胞と同じく、アストロサイトも電位を持つが、神経インパルスを発火することはない。
画像出展:「もうひとつの脳」
画像出展:「もうひとつの脳」
第3章 「もうひとつの脳」からの信号伝達―グリアは心を読んで制御している
スパイの正体を暴く―グリアにおとり捜査を仕掛ける
・ニューロンがシナプスでのコミュニケーションに使っているさまざまな神経伝達物質のすべてを含む、神経系におけるシグナル伝達分子の大多数を感知できるセンサー群を、グリアは持っている。
・グリアはさらに、神経回路を電気的情報が流れると急増するイオン流動や、細胞シグナル伝達にかかわる多くの受容体分子にも感受性がある。
第2部 健康と病気におけるグリア
心を治す―神経系の損傷と病気を回復させるグリア
・ミクログリアとアストロサイトは脳に感染する細菌やウィルスの警戒にあたる見張り役を務めている。侵入してきた微生物に闘いを挑み、病原体を探し出して呑み込んだり、活性酸素などの有毒な化学物質を放出したりして脳から病原体を取り除く。
・最近の研究で、ミクログリアには多くの役割があるのが分かった。神経の慢性疼痛への薬物治療が効かないのは、痛みの発生や薬物依存性にミクログリアが果たしている役割を理解できていなかったことがあげられる。
・成熟ニューロンは細胞分裂できないため、一度、傷害や病気で損傷してしまうと再生は困難である。一方、グリアは脳の損傷に応じて細胞分裂を開始し、損傷部位へ移動し傷を治す。また、損傷を受けた神経線維の再伸長を誘導して、ニューロン間やニューロンと筋肉の間の適正なコミュニケーションを回復させる。
・未成熟なグリアは幹細胞のような働きができる。
・成熟したアストロサイトは成人脳では休眠状態にある幹細胞を刺激して、代替のニューロンやグリアへと分化させることができる。
・病気によって失われたニューロンの代替になる可能性を備えた未成熟なグリアは、脳の全域に潜在している。このグリア性“幹細胞”をうまく操作できれば、将来の治療にとって大きな希望となる。
・グリアは救世主として期待される一方、病気の原因にもなる。これはグリアが感染性微生物の標的になることが多いからである。
・パーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)やアルツハイマー型認知症では、グリアは有益な側面と害をなす側面を持つ。
・「神経変性疾患」という名称は、ニューロンだけに焦点を当てていることを窺わせ、生物学的にも薄弱である。一方、グリアは脳機能への関与が明らかになるにつれて、グリアの病気への関わりを示唆する事実は増えている。
3章 コロナワクチンと自己免疫疾患
●コロナワクチンと肝炎(2) T細胞依存性自己攻撃による新しいタイプの肝炎か
・『ファイザーの内部文書によると、筋肉注射された脂質ナノ粒子は全身に運ばれ、最も蓄積する部位の1つが肝臓です。スパイクタンパクは免疫組織化学による解析(スパイクタンパクに対する抗体での解析)では肝臓で確認されませんでした。これは2回目ワクチン接種時から27日後に行われたため、時間が経ち過ぎたせいかもしれません。また、T細胞が認識するのはスパイクタンパクそのものではなく、細胞表面に提示されたスパイクタンパクの断片の抗原決定基(エピトープ[相補的な抗体が特異的に結合する小さな部位])です。それぞれの抗体が認識するのもタンパク内の1つの小さなエピトープであり、T細胞と抗体のエピトープが異なっているために抗体による解析では検出できなかったことも考えられます。むしろスパイクタンパクそのものが検出されなくなった時期でも、スパイクタンパクの一部を目印として持つ細胞に対するT細胞の攻撃が続く可能性があります。
まとめると、スパイクタンパクを認識する細胞障害性T細胞が活性化して肝臓に滞留しており、肝炎の症状はそうしたT細胞の挙動と一致するということです。スパイクタンパクを持つ肝臓の細胞をT細胞が攻撃した結果、肝炎を発症したと推測されます。
コロナワクチンの目的は抗体と細胞性免疫の両者を誘導することです。さらに遺伝子ワクチンの仕組みからすれば、ヘルパーT細胞だけではなく細胞障害性T細胞ができるのは自然なことです。
コロナワクチンの遺伝子ワクチンの作用機序では、スパイクタンパクは細胞内で生産されるためにクラスⅠMHC上にウィルス抗原を提示することになります。つまり、コロナワクチンを取り込んだ細胞はコロナウィルス感染状態を模倣した細胞であり、そのまま細胞障害性T細胞に駆逐され得る運命にもあります。今回紹介した論文は、スパイクタンパクを認識するT細胞が肝臓に集まり、肝炎の原因となっているという報告です。肝臓はコロナワクチンが一番集積しやすい臓器であり、肝臓細胞でスパイクタンパクを生産している可能性は充分考えられます。そうした細胞がT細胞によって攻撃されて肝炎を発症したのではないでしょうか。
タンパクに対する抗体を持っているかどうかを検査することは難しくありません。抗体はタンパク上のエピトープに直接結合するので、タンパクを抗原として用いれば、多様なエピトープに対する抗体をまとめて検査できるからです。T細胞の抗原特異性を検査するにはウィルスの断片とMHCの組み合わせが必要です。タンパクの断片の1つずつを検討しなければならないのですが、さらにMHCの個人差が非常に大きいため、同じT細胞でも人によって抗原に対する反応性も異なります。抗原特異的T細胞を検出することは技術的に簡単ではないのです。
コロナワクチン後遺症として免疫系を攻撃する作用機序には、①自己免疫疾患、②抗体依存性自己攻撃に加えて、③T細胞依存性自己攻撃があることがわかってきました。今回の論文は氷山の一角であり、T細胞依存性自己攻撃は実験によって検出されるよりもはるかに多いでしょう。』
4章 様々なコロナワクチン後遺症
●コロナワクチン接種後の心筋炎および心膜炎および性別による危険度
・心筋は心臓を構成する筋肉であり、心膜は心臓を包む結合組織性の膜である。心筋炎、心膜炎はこれらの炎症性疾患である。
・心臓の癌が極めて珍しいのは心筋の細胞は増殖しないからである。これは、心筋は一度損傷すると回復するのが難しいということを意味している。
・心筋炎は、多くは風邪症状や消化器症状などの前駆症状を伴うが、これらの自覚症状がない場合もある。また、前駆症状の1~2週間後に、胸痛、心不全症状、ショック、不整脈などの症状を呈する。
7章 新型コロナウィルスは人工ウィルスか?
●奇妙なオミクロンはどこから来たのか?
・オミクロンは明らかにアルファやデルタのような初期の亜種から発展したものではない。
・オミクロンはこれまで公開されてきた数百万のSARS-CoV-2のゲノムとは大きく異なる。他の株から分岐したのは2020年の中頃ではないか。
画像出展:「コロナワクチンが危険な理由2」
『それぞれの点はウィルスの塩基配列です。点と点との距離は進化上の距離、つまりお互いの塩基配列の相同性を表します。縦軸は突然変異の数、横軸は時期です。この図からわかるのは、オミクロンは他の変異株よりも突出して変異が多いこと、進化上の距離がかけ離れていること、2021年10月に突然現れて塩基配列上も時間的にも進化上の中間体が見つからないことです。これを見ると、オミクロンの前身が1年半以上もどこに潜んでいたのか? という疑問が湧いてきます。』
・オミクロンの前身が1年半以上もどこに潜んでいたのか? という疑問に対して、Science誌の中で科学者達はいくつかの可能性について述べている。
①COVID-19に慢性的に感染している免疫不全症の患者の中で発生した可能性。
②ウィルス監視や配列決定がほとんど行われていない集団の中で循環し進化した可能性。
③人間以外の生物種で進化し、それが最近になって再び人間に流入した可能性。
④アフリカのワクチン接種率が低いため。
・現時点では、オミクロンの起源と同様にオミクロンの進化の過程は未知のままである。
●フーリン切断部位の謎
・『コロナウィルスの大きな謎の1つに「フーリン切断部位」があります。フーリン切断部位は新型コロナウィルスの感染力に関わるのですが、これはSARS-CoVを含む近縁のコロナウィルスには本来見られないものです。では新型コロナウィルスが進化の過程でどうやってフーリン切断部位を獲得できたのか? このことはコロナ騒動の当初から一部の科学者の間では議論の的になっていました。
フーリン切断部位の配列が、モデルナ社が特許を取得した遺伝子上の配列と一致することを報告する論文が2022年2月に発表されました。
この特許が出願されたのは、コロナ騒動が始まる数年前の2016年です。
そのため新型コロナウィルスが人工ウィルスではないかという議論が現在再燃しています。』
※“伊崎労務管理事務所”様のサイトに「フローリン切断部位」などに関する解説が出ていました。
●変異株を含めて新型コロナウィルスは人工ウィルスではないか?
・『もしもこのウィルスが本当に人工のものならば、そもそも各国におけるコロナウィルスの流行すらも自然なものなのかどうかを考えてしまいます。その場合はもはや性善説に基づく常識的な科学や医学からの判断だけでは対応できないでしょう。
この解析につきましては論文形式としてまとめ、現在プレプリントサーバにアップロードしています。原文をお読みになりたい方はこのURLからアクセスしてください』
Mutation signature of SARS-CoV2 variants raises questions to their natural origins. Hiroshi Arakawa
8章 コロナワクチンの副反応は他者に伝播するか
●コロナワクチンシェディング
・『SNSや私のブログのコメント欄でも、コロナワクチン接種者から他者への副反応の伝播をうかがわせる報告が散見されます。いわゆる「シェディング」です。本来の「ワクチンシェディング」とは、生ウィルス(ウィルスそのもの)を使ったワクチンを打った人間がウィルスに感染してしまうことによってウィルスを周囲に放出するという現象です。そういった意味では、そもそも生ウィルスを用いていない遺伝子ワクチン接種者から他者への副反応の伝播を便宜的に「シェディング」と呼ぶことにします。
シェディングの症状で多く耳にするのは、月経不順や不正出血などの生殖系の異常です。そして、皮膚症状、頭痛、関節痛、下痢など報告される症状はある程度共通しており、具体的なものが多く、一概にその全てが気のせいや勘違いまたは捏造だとは言えなさそうなのです。そしてシェディングの症状を訴えるのは、基本的にワクチン接種者ではなくて非接種者です。したがって、ワクチン接種者が社会の大半を占める現状においては、シェディングを感知し得る人自体が少数派ということになります。
シェディングの現象が確かにありそうだと思える根拠の一つが、しばしば耳にするコロナワクチン接種者の「体臭」が変わるという体験談です。体臭に現れるということは「ワクチン接種者が何らかの揮発性の物質を分泌」しており、それが「他者が嗅覚受容体で感知し得る」物質であることを意味します。実際に嗅覚受容体遺伝子の数は膨大であり、また嗅覚受容体にはゲノムレベルでの差異が数多く存在するため、認識できる匂いにも個人差が存在します。このため全ての人が「接種者特有の匂い」を感知できなかったとしてもおかしくはありません。私を含め、接種者の体臭に変化などを感じた体たお験が特に無いという人も実際多いです。
コロナワクチン後遺症の存在する否定する医療機関が多い現状においては、ワクチンシェディングという現象があると仮定した場合、それを引き起こしている物質の正体は一体何なのか?いくつか考えられる可能性を挙げてみます。
まず第一に考えられるのは、コロナワクチンによって作られるスパイクタンパクです。スパイクタンパクはエクソソーム上で数ヶ月以上血中を循環することが分かっています。また、フーリン切断部位で切断されたスパイクタンパクそのものも血中を循環している可能性があります。汗の原料は血液であり、血中を循環するものは汗として分泌されてもおかしくありません。ただ私が気になるのは、シェディングによる症状はワクチン後遺症と似てはいるが、同一ではないという点です。このため、スパイクタンパクがシェディング現象の本体かどうかは不確かです。
第二に考えらえるのは、コロナワクチンによって接種者の体調が変化し、何らかの揮発性の物質を分泌するようになったという可能性です。人間にもフェロモン様の物質とその受容機構があります。例えば、フェロモンにより、女子寮のルームメイトの月経周期が同調するといった現象は知られています(McClintock, M.K.: Menstrual synchorony and suppression, Nature (1971).)
フェロモンを感知するのも嗅覚受容体ですが、前記のように嗅覚受容体は個人差が大きく、そのためフェロモン様物質などの分泌性物質が原因であった場合、シェディングの個人差が大きくとも不思議ではありません。
第三の可能性はコロナワクチンへの生ウィルスの混入汚染です。もちろんこれはあってはならないことです。
第四の可能性は、その他の全くの未知の仕組みによるものです。例えば放射線や電磁気力は肉眼では見えませんが、直接の接触が無くとも対象に影響を及ぼすことはよく知られています。製薬会社との取り決めにより、現時点ではワクチンの成分の全てが明らかにされていない以上は、本来どのような可能性も頭ごなしに否定すべきではないというのが科学的な態度でしょう。
シェディング現象が事実であれば大問題です。けれども現状では情報がまるで足りず、現象の存在の有無、症状の多様性、作用機序を含めて現時点で断定できることはありません。例えばもし、ある現象を「理論的にありえない」と否定する人がいるとします。しかしその現象は実際に繰り返し観察されており、それぞれ複数の人が独立に経験しているとします。その場合には、現象が存在するのが正しく理論自体が間違っているという可能性を考えなくてはなりません。』
おわりに
●病気とホメオスタシス(生体恒常性)
・『西洋医学では病気の症状が治療の対象になりますが、体が自己修復をしている過程が症状として現れることもあります。症状を取り除く薬が病気や怪我を治しているとは限りません。免疫系やホメオスタシスを損傷するような「薬」を使用した場合、逆に薬が病状を悪化させてしまうこともあり得ます。私達は本来自分自身の持つ自分の身体を治す作用を日常的に使っています。意識せずとも、私達の細胞、組織、臓器は生きるための努力を毎日続けています。壊す作用よりも治す作用の方が強ければ、本来は体は回復する方向に向かうはずなのです。
コロナワクチン後遺症の患者が医者に相手にされず医療機関をたらい回しにされる話もしばしば耳にします。つまり、我々は未知のリスクのあるコロナワクチン接種を勧められながらも、実際に有害事象が起きた際にはそれは認められていないという歪んだ医療体制の中にいるわけです。免疫系、血管系、生殖系、心臓、脳。このどれもが私達の生命線であり、またコロナワクチンの後遺症として特に報告されている対象でもあります。事実としてコロナワクチンは最新の医学の産物です。こう考えると、そもそもワクチンとは、薬とは、医療とは何なのか。立ち止まってもう一度よく考え直す必要があるのではないでしょうか。』
ご参考:“新型コロナワクチンを接種できる人・できない人”
上記は長野県駒ケ根市のホームページに掲載されているものです。そして、この情報は、2021年6月時点のファイザー社製ワクチンに関する資料が元になっています。
この記事に関心をもった理由は、コロナワクチンは高齢者や基礎疾患のある人こそ、重症化リスクを減らすために積極的に接種するという方針だったと思います。しかしながら、ここに書かれている内容はニュアンスが異なり、以下に列挙したものは【基礎疾患のある方はかかりつけ医に相談を】となっています。弱毒化されてきたとされるコロナウィルスの現状を考えると、これはとても重要な情報だと思います。
次のような疾患のある方は、かかりつけ医の了承を得てから接種をしてください。
慢性の呼吸器の病気
慢性の心臓病(高血圧を含む)
慢性の腎臓病
慢性の肝臓病(ただし、脂肪肝や慢性肝炎は除く)
インスリンや飲み薬で治療中の糖尿病またはほかの病気を併発している糖尿病
血液の病気(ただし、鉄欠乏性貧血を除く)
免疫の機能が低下する病気(治療や緩和ケアを受けている悪性腫瘍を含む)
ステロイド、免疫機能を低下する治療を受けている
免疫の異常に伴う神経疾患や神経筋疾患
神経疾患や神経筋疾患が原因で身体の機能が衰えた状態(呼吸障がい等)
染色体異常
重度心身障がい(重度の肢体不自由と重度の知的障がいとが重複した状態)
睡眠時無呼吸症候群
感想
ワクチン後遺症の存在は公にはなっていないように思います。しかし、患者さまと日々接している先生(医師)からは、臨床の異常な現場(例えば、急激に増えた帯状疱疹患者等)に直面しているとのお話を伺っています(私の狭い人脈の中での確かな情報です)。
また、荒川先生のような分子生物学や免疫学をご専門にされた先生が、周囲からの反発等を恐れることなく、その大きな違和感を科学者の視点で語られています。
やはり、今求められるのは、全く新しいメカニズムをもった遺伝子(mRNA等)ワクチンを【調査】することだと思います。
荒川 央先生の著書『コロナワクチンが危険な理由』ですが、続編の『コロナワクチンが危険な理由2 免疫学者の告発』が既に出版されていました。「今度はどんな内容なんだろう?」と思い、さっそく購入しました。
著者:荒川 央
初版発行:2023年1月25日
出版:花伝社
内容は非常に高度で、私の理解は一部であり断片的です。そのため、ブログはあくまで私自身の感覚を頼りに「重要だな、書き残しておきたいな」と思ったものを取り上げています。
目次
はじめに 人はコロナ後の世界の夢を見るか?
1章 コロナワクチンはそもそもワクチンとして機能しているのか?
●ワクチンと有害事象
●数字で見るコロナワクチンの薬害
●世界的な超過死亡の増加
●ワクチン未接種者に汚名を着せることは正当化されない
●SARS-CoV-2自然感染から回復した医療従事者は、ワクチン接種の義務化の対象から除外されるべきである
●コロナワクチンの有効性は接種8ヶ月後にはマイナスに転じる
●小児用のファイザーコロナワクチンの感染および重症化予防効果は低い
●コロナワクチン統計の問題点とインフォームド・コンセント
2章 コロナワクチンの免疫学
●コロナワクチンによる免疫異常
●獲得免疫と自然免疫
●ワクチンと自己免疫疾患
●T細胞の抗原認識:自己非自己の識別と拒絶反応
●ヘルペスウイルスと自己免疫疾患
●コロナウィルスと免疫抑制
3章 コロナワクチンと自己免疫疾患
●コロナワクチンによる血栓性血小板減少症と播種性血管内凝固症候群
●コロナワクチンと眼の障害
●コロナワクチンと肝炎(1)
●コロナワクチンと肝炎(2) T細胞依存性自己攻撃による新しいタイプの肝炎か
●コロナワクチン接種後の皮膚血管炎について
4章 様々なコロナワクチン後遺症
●コロナウィルスワクチンによってロングコビッドのような症状が出ることがある
●コロナワクチンと急性肺塞栓症
●コロナワクチンと男性不妊
●コロナワクチン接種後の心筋炎および心膜炎および性別による危険度
5章 コロナワクチンとプリオン病
●コロナワクチンによるプリオン病と神経変性の可能性について
●スパイクタンパクとプリオンモチーフ
●プリオンとパーキンソン病
●コロナワクチンとクロイツフェルト・ヤコブ病
●コロナワクチンによるスパイクタンパクは心臓と脳で検出された
6章 コロナウィルスと逆転写
●コロナウィルスと逆転写
●ヒト逆転写酵素はコロナウィルスのゲノム組込みを媒介できる
●コロナワクチンは逆転写酵素を活性化するか?
●RNAコロナワクチンは細胞内で逆転写される
7章 新型コロナウィルスは人工ウィルスか?
●奇妙なオミクロンはどこから来たのか?
●フーリン切断部位の謎
●オミクロンは進化の法則に従っていない
●他のコロナ変異株も進化の法則に従っていない
●変異株を含めて新型コロナウィルスは人工ウィルスではないか?
●人口ウィルス由来のコロナワクチン
8章 コロナワクチンの副反応は他者に伝播するか
●コロナワクチンシェディング
●ファイザープロトコルへの疑惑
●シェディングの原因物質は何か?
●シェディングの症状と対策
●コロナワクチンは母乳を介して乳児に移行する
おわりに
●病気とホメオスタシス(生体恒常性)
●思考のススメ:考えるということ
●巨人の肩の上で
●アインシュタインの言葉から
あとがき
1章 コロナワクチンはそもそもワクチンとして機能しているのか?
本章には大変興味深いがグラフが紹介されているのですが、その真偽を自分なりに確かめたいと思い、過去のニュースや米国のワクチン接種状況などを調べてみました。
また、不妊鍼灸を始めたという経緯もあり、特に注目したグラフはワクチン有事障害報告システム(VAERS)の中にあった流産(Miscarriages)と死産(Stillbirths)に関するものです。
画像出展:「OpenVAERS」
左のグラフはページ中段左側にあります。
タイトルは“Reports of Miscarriage/Stillbirth by Year"です。
コロナの流行は2020年1月から。ワクチン接種はおおむね2021年1月からです。高騰した2021-2022年はワクチン接種時期と重なります。
まず、このVAERSのグラフを否定するようなニュースや記事などがないか調べてみたところ、3件の記事を見つけましたが、重要なことはこれらの記事はいずれも、2021年(特に1と2は2020年12月14日~2021年2月28日の調査分析)のものであるという点でした。
そして、その元になっているのは、以下の“米CDCがCOVID-19 mRNAワクチンの妊婦安全性データを示す”だと思われます。
1.“米CDCがCOVID-19 mRNAワクチンの妊婦安全性データを示す” 2021年6月
The New England Journal of Medicine june 2021
背景
COVID-19メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの妊婦安全性は重要な問題である。Centers for Disease Control and PreventionのShimabukuroらは、同国VAERSシステム登録者35,691名の2020年12月14日~2021年2月28日データを解析した。
結論
妊娠女性は非妊娠女性より注射部位疼痛報告が多く、頭痛・筋肉痛・悪寒・発熱の報告は少なかった。接種妊娠者3,958名中827名が妊娠終了し、妊娠喪失は13.9%、生児出産は86.1%であった。新生児の有害転帰は、早産9.4%、在胎不当過小3.2%等で、新生児死亡は報告はなかった。これらのデータは、COVID-19パンデミック前のデータと同等であった。VAERS報告妊娠関連有害事象は221件 で、最多は自然流産46件であった。
評価
著者らの結論は、「更なる長期追跡が必要だが、今のところ問題はない」というものである。mRNAは妊婦に対する免疫原性も報告されており("Immunogenicity of COVID-19 mRNA Vaccines in Pregnant and Lactating Women"
)、懸念データは今のところ存在しない。
この分析は2020年12月14日~2021年2月28日に行われたもの、ワクチン接種の初期段階です。
2.“Q.「ワクチン接種で流産」の情報、真偽は?【デマに注意】” 2021年7月29日
A.厚生労働省は新型コロナウイルスのワクチンについて「接種を受けた方に流産は増えていません」としていて、SNSなどでデマを含む誤った情報が広がっていることに注意を促しています。
妊婦に対するワクチン接種の影響については、アメリカのCDC=疾病対策センターのグループが、2020年12月から2021年2月までにファイザーかモデルナのワクチン接種を受けた16歳から54歳までの妊婦3万5691人で影響を調べた初期段階の研究結果を論文に発表しています。
それによりますと、流産や死産になった割合や生まれた赤ちゃんが早産や低体重だった割合は、ワクチン接種を受けた妊婦と新型コロナウイルスが感染拡大する以前の出産で報告されていた割合と差がありませんでした。
またワクチンを接種した妊婦で生まれたばかりの赤ちゃんの死亡は報告されていないとしています。
一方で、妊娠している女性が新型コロナウイルスに感染すると、同世代の女性よりも重症化する割合が高いことが報告されていて、日本産科婦人科学会などは2021年6月、ワクチン接種によって母親や赤ちゃんに何らかの重篤な合併症が発生したとする報告はなく、希望する妊婦はワクチンを接種することができるとしたうえで、「ワクチン接種するメリットが、デメリットを上回ると考えられている」などとする声明を出しています。(2021年7月29日時点)
3.“新型ウィルスワクチン、妊娠にまつわる偽情報をファクトチェック” 2021年8月11日
「ワクチンが卵巣内に蓄積されるという研究がある」 ―― 間違い
「ワクチンが流産につながるというデータがある」 ―― 間違い
「ワクチンが胎盤を攻撃する」 ―― 証拠なし
もっと新しい記事はないのか? 検索を続けると、2023年1月2日付けの記事を見つけました。
“米ワクチン「流産・死産登録数急増」はミスリード 因果関係かかわらず誰でも報告可” 2023年1月2日
『VAERSの有害事象登録は、ワクチン接種との因果関係の有無にかかわらず誰でも行うことができる。流産・死産報告の登録数が急増したのは事実だが、これはワクチンを接種した人の全体数が増えていることなどが要因と考えられ、接種が原因で流産・死産が起きたことを証明するものではない。』
要点
1)VAERSの有害事象は誰でも登録できるので信頼性は低い。
2)流産・死産の報告数が急増したのは事実である。
3)ワクチン接種が増えているのは事実である。
4)上記1)2)3)より、死産・流産の原因がワクチン接種にあるとは断言できない。よって評価は“△”である。
一方、2020年12月14日~2021年2月28日という米国CDCによる調査期間が、米国のワクチン接種状況の中でどのような時期になるのか調べてみました。
画像出展:「特設サイト 新型コロナウィルス」
米国は緑線です。2021年1月、2月はワクチン接種の極めて初期の段階であることが確認できます。また、初期段階ということは1回目の接種であり、特に問題となっている3回目以降のブースター接種との関連については不明です。
以上のことから、コロナウィルス、コロナワクチンと流産・死産の関係は、複数回の接種が実施された今こそ、調査されるべきと思います。しかしながら、それが実施されていない、もしくは実施されているが公表されていないという現実はとても不安を感じます。
画像出展:「特設サイト 新型コロナウィルス」
日本(赤線)では4回、5回とブースター接種が行われていますが、世界的には早い国では2022年1月、遅い国でも概ね2022年夏には接種回数は横ばいになってきています。このグラフの中では、日本だけが接種を続けているのが分かります。
日本での感染者が50,000人を超えたのは2022年1月後半、その後、50,000人を切る時期もありましたが、2022年7月、12月には200,000人を超える日もあり、2023年1月中旬まで100,000人を超える日が続いていました。
上記のグラフは オックスフォード大学の“Our World in Date”のデータです。世界と日本とイスラエルを比較しています。イスラエルの人口は日本の約7.42%です。世界の数が多いので、イスラエルはほとんど直線に見えます。
イスラエルに注目した理由は2つです。1つはイスラエルは世界に先駆けてワクチン接種を強力に推し進めていた国だったという点です。そしてもう一つは、2021年8月24日付けの約2年前の記事ですが、『接種率78%「イスラエル」で死亡者増加のなぜ』という記事が気になっていたからです。
グラフを見て気になるのは、世界のワクチン接種は2つの山を越え急激に減っているのに対し、日本は最初の山ほどではないですが、4つの山があり少なくとも急激には減っていないということです。その一方で、感染者数は2022年2月以降世界のTop10に入り、2022年7月後半から2023年2月までTop3に入っていました(ただし、感染者数を発表しない国が増えてきているので単純な比較はできません)。
ワクチン入手状況もあるので、一概に比較するのは適切ではありませんが、世界と比較して日本での接種が最も少なかったと思われるのは、2021年12月23日で、世界39,900,000件に対し、日本は100,147件(約0.25%)でした。
一方、最も多かったと思われるのは、約1年後の2022年12月12日で、世界4,180,000件に対し、日本は820,259件(約19.6%)でした。その差は78.4倍です。
また、以下はコロナワクチンとは無関係の死亡者数(All Non COVID-Vaccine Deaths)を加えたグラフですが、水色の棒グラフは2021年も2022年も安定しています。
これを見ても、コロナワクチンとは関係ない、問題ないと考える方が明らかに不自然です。追跡調査を行いワクチン接種が本当に問題ないのか検証されるべきです。[グラフ:mortality]
2章 コロナワクチンの免疫学
●コロナワクチンによる免疫異常
・コロナワクチンは今までのワクチンとは異なる新しい遺伝子ワクチンであり、遺伝子を体に注入して細胞内に導入し、細胞に抗原となる物質を作らせる。
・コロナワクチンはスパイクタンパクの遺伝子を使っており、まず細胞にスパイクタンパクを作らせ、免疫系はそれを利用してスパイクタンパクに対する抗体を産生する。この抗体はコロナウィルスに出会う前に、まずコロナワクチンを受け取った自分の細胞を攻撃する(抗体依存性自己攻撃)。
画像出展:「コロナワクチンが危険な理由2」
●コロナウィルスと免疫抑制
・コロナワクチン接種者では制御性T細胞が増加しているという研究がある。制御性T細胞は免疫を抑制するT細胞である。もし、免疫系の暴走が起こっていてそれを鎮めるために特定の制御性T細胞だけが増えているとすれば、特に不自然であるとは言えない。
・コロナワクチン接種者ではIgG4抗体が増加しているという研究がある。IgG4抗体は炎症反応を刺激する作用が弱い。もし、抗体依存性自己攻撃を緩和させるための反応に置き換えようとしてるならば、特に不自然であるとは言えない。
・『T細胞や抗体の最大の特徴は抗原特異性であり、そうしたT細胞やIgG4抗体の抗原特異性を解析することで、こうしたものが免疫抑制に働いているのか、あるいは免疫系の異常を元に戻そうとする働きなのかといった生理的な意味がわかってくるでしょう。』
・免疫が健全に働いている場合の特徴は、「増えた後に減る」という現象がある。特にB細胞についてはその作用機序が知られている。つまり、強く活性化された免疫系には揺り戻しが起こるのである。コロナワクチンは接種後短期間で極度に抗体価を上昇させる。このようなコロナワクチンによる強い免疫刺激が免疫担当細胞を枯渇させる可能性がある。さらに、この状態が短期間で終わらないとなれば、そのまま免疫抑制状態が続くことになる。
・注意しなければならないことの一つに、ワクチンに免疫抑制を起こすものが含まれていなかということである。コロナワクチン接種後に帯状疱疹の発症が報告されているのは、免疫抑制が関係している可能性がある。
・免疫とは生命力そのものである。腸内細菌や皮膚常在菌との共生関係も免疫のおかげである。免疫力の低下はこれらの重要な共生関係を乱す恐れがある。
・現場の臨床医からはコロナワクチン接種者の癌増加が指摘されている。毎日出現している癌細胞は免疫系によって排除されており免疫系が正常であれば特に心配はいらないが、ワクチン接種後には、リンパ球の減少が報告されており、異常な自己細胞を除去するNK細胞(リンパ球の一つ)が減少するならば癌の増加は十分に予測できることである。
・『免疫系を自由に制御できれば、感染症や癌、自己免疫疾患などの病気の根本治療にも活用できるでしょう。言い換えれば、免疫系を制御することは非常に難しく、免疫系を自由にコントロールすることは免疫学者の夢でもあるのです。そしてコロナワクチンは免疫系に強く干渉するものであり、ワクチンの副反応で一度破綻した免疫系を制御することは簡単ではないでしょう。』
アンケート期間:2021年8月31日~9月30日
【アンケート】(pdf7枚)
追記2(2024年5月3日):「コロナワクチン接種後死亡 遺族ら「国の広報不十分」と集団提訴」
『私たちは、「ワクチン」接種による遷延する副反応に苦しまれる「ワクチン」接種健康被害者に適切な医療を提供すべく、去る2023年6⽉16⽇、「ワクチン」接種による健康被害者と真摯に向き合ってきた全国有志医師の会を⺟体として、学術団体、⼀般社団法⼈ワクチン問題研究会を設⽴しました。』(“代表理事よりご挨拶”から抜粋)
3章 コロナワクチン=「遺伝子ワクチン」の正体とは何なのか?
●セントラルドグマとmRNA
・コロナウィルスはRNAウィルスである。自身のRNAを複製するためにDNAは必要なく、RNAからRNAを作る。これは分子生物学の基本概念であるセントラルドグマ(遺伝情報は、「DNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質」の順に伝達されるというルール)の例外である。
・コロナワクチンのMIT総説論文
-2021年5月発表。査読済論文
-「病気よりも悪い?COVID-19に対するmRNAワクチンがもたらしうる予期せぬ結果を検証する」
-「RNAの選択と修飾における留意点」
※Worse Than the Disease? Reviewing Some Possible Unintended Consequences of the mRNA Vaccines Against COVID-19, Stephanie Seneff, Greg Nigh, International Journal of Vaccine Theory, Practice, and Research 2021,
・mRNAは生体内ですぐに分解されるため不安定である。
・免疫は外部から侵入した感染体を識別して攻撃するため、RNAを体内に導入しようとしてもすぐに分解される。
・RNAワクチンの登場は、RNAの不安定さを技術的に克服したために可能になった。その技術とはRNAワクチンを脂質ナノ粒子で保護することである。しかしながら、どの位の期間生体内で残るのかは分かっていない。
●mRNAと遺伝暗号(コドン)
・RNAワクチンはmRNAと類似した構造を持つが、RNA分解耐性を上げ、タンパク翻訳効率を上げているため通常のmRNAよりもはるかに大量のスパイクタンパクを生産する。
●なぜワクチンに使われる遺伝子の毒性をなくさなかったのか?
・コロナウィルス、コロナワクチンに共通する毒性はスパイクタンパクによるものだが、その毒性にはいくつか要因がある。主なものはACE2に結合することによって、血管内皮細胞を含むACE2発現細胞を障害することである。他には、スパイクタンパクの棘、フリン切断部位、プリオン様モチーフなどがある。
・『なぜ世界中の健康な人間に打たせる為に作ったワクチンの毒性をなくす努力をしなかったのか。そのデザインは偶然なのか、失敗なのか、無知なのか、やはり疑問が残ります。』
4章 スパイクタンパクの危険性
●どうしてコロナワクチンで血栓が出来るのか
・コロナウィルスは神経症状(頭痛、吐き気、めまい)を起こすが、同様のことがコロナワクチンの副反応としても報告されている。ACE2は前頭葉皮質のさまざまな血管にも発現しており、スパイクタンパクが血液脳関門を超えられることを考えると、コロナワクチンの遺伝子から作られたスパイクタンパクが、脳内皮細胞に炎症を引き起こしている可能性がある。
・『整理すると、コロナウィルスは血栓を起こし、肺や心臓、脳にも障害を起こすにはウィルスは必要ではなくて、スパイクタンパク単独でも同様の障害を起こしてしまうということが分かってきました。ウィルスが犯人だと思っていたら、実はワクチンにも使われるスパイクタンパクが犯人だったということです。』
●スパイクタンパクの毒性―スパイクタンパクはACE2の抑制を介して血管内皮機能を損なう
・『Circulation Research』に掲載されていた論文
・「SARS-CoV-2 スパイクタンパクは、ACE2の抑制を介して内皮機能を損なう」
※SARS-CoV-2 Spike Protein Impairs Endothelial Function via Downregulation of ACE2, Lei et al, Circ Res. 2021,
●スパイクタンパクの全身の血管への毒性
・『コロナウィルスとコロナワクチンのスパイクタンパクは血管に対し同様の毒性を持ちますが、毒性の強さが同じとは限りません。量の問題です。コロナウィルスに感染した際、まずは最初に自然免疫系が対処します。そしてそこで対処しきれなかった場合、つまりコロナウィルスが免疫系に抵抗し増殖し始めた場合には、免疫系の精鋭部隊である獲得免疫が出動し始めます。コロナウィルスが体内で増殖する場合、体に備わっている免疫系が抵抗するため、ADEが起こったりしない限りは、感染してすぐに身体中に爆発的に増えるような事態は起きないのです。
それに対し、コロナワクチンは接種後に細胞内でスパイクタンパク生産を開始し、量はいきなり最大量に達します。そしてシュードウリジン修飾されたmRNAワクチンは分解されにくく、長い間スパイクタンパクを生産し続けます。そしてその場合のスパイクタンパクの生産量はワクチンの方がずっと多いことが想定されるのです。このことが血管への毒性の高さに関係しているのではないでしょうか。』
・ACE2受容体が精巣のライディッヒ細胞に高発現していることから、ワクチンによって内因性に生成されたスパイクタンパクは、男性の精巣にも悪影響を及ぼす可能性がある。
・複数の研究により、コロナウィルスのスパイクタンパクがACE2受容体を介して精巣の細胞にアクセスし、男性の生殖を阻害することが明らかになっている。
・『血管は全身を巡っており、生殖器官にも存在します。ACE2受容体が精巣にも高発現していることから、ワクチンによるスパイクタンパクは精巣にも悪影響を及ぼす可能性があります。また、脂質ナノ粒子は卵巣にも分布することが報告されており、卵巣を障害するかもしれません。このようにスパイクタンパクが卵巣、精巣の血管を障害することで不妊に繋がる可能性も出てきます。』
●スパイクタンパクは血流を循環するか
・ワクチンの副反応である血栓症の原因を作っているのは血流中のスパイクタンパクの可能性が高いが、それぞれの形態の毒性の違いは不明である。また、個人差があるということは、スパイクタンパクが更に長期間にわたって血流を循環する可能性もあるということである。
●コロナワクチンと不妊
・コロナワクチンが妊娠に影響を与える可能性、リスク要因。
①筋肉に注入されたコロナワクチンの脂質ナノ粒子は接種部位に留まらず、全身を巡回し、特に卵巣に蓄積することが報告されている。スパイクタンパクが卵巣で発現すれば、ワクチンに選択されて作られた抗スパイクタンパクは卵巣を標的にして攻撃し始めると考えられる。
②コロナウィルスのスパイクタンパクは細胞表面のACE2を標的にして細胞に感染する。その後、ACE2の発現を低下させるが、これがミトコンドリアの機能不全に繋がり、細胞の損傷、組織の炎症に繋がるのではないかと考えられている。ウィルスがなくてもスパイクタンパク単独でも同様の障害を起こすことができる。
”コロナワクチンで血栓が出来る理由”(荒川先生のブログより)
ACE2を発現している細胞、組織はコロナウィルスのスパイクタンパクの標的になる。ACE2は広範囲な細胞で発現し、卵巣、精巣、子宮内膜、胎盤などの生殖器官でも発現している。つまり、スパイクタンパク自身が卵巣、精巣、子宮内膜、胎盤の炎症や損傷を起こす可能性がある。
③胎盤は細胞融合により形成される。細胞融合に必要なシンシチン(内在性レトロウィルスのenvという遺伝子で作られたタンパク質)スパイクタンパクと同じくフソゲン(fusogen:融合活性を持つ物質)で、スパイクタンパクと構造が類似している。可能性は大きくないが、スパイクタンパクに対する抗体がシンシチンを攻撃すれば、胎盤をきたしそれは流産につながる。
④ACE2は酵素でもあり、ACE2によって産生されるAng-(1-7)ペプチドが卵胞の発育、ステロイド産生、卵子の成熟、排卵などの卵巣の生理機能を調節することが知られている。
以上のことから、スパイクタンパクによるACE2の酵素活性阻害自体が不妊に繋がる可能性は否定できない。
・『コロナワクチンには複数の異なった機構で生殖系を阻害、または攻撃、損害する可能性があるわけです。むしろ効率的に不妊を起こしかねません。現在日本でも12歳以上へと接種年齢の引き下げが始まっていますが、将来妊娠出産を控えている世代にこういったリスクを負わせる必要性は私には感じられません。』
5章 コロナワクチンは免疫不全の原因となる
●ワクチンと抗体依存性感染増強(ADE)
・抗体はウィルスに利用される場合がある。抗体依存性感染増強(ADE)とは、ウィルス粒子と不適切な抗体とが結合することにより、炎症や免疫病変が促進される現象である。
・ADEには少なくとも2種類のメカニズムがある。一つは抗体を介してマクロファージに感染する機構。もう一つの機構は抗体と複合体を作ったウィルスが免疫系を刺激し、炎症を暴走させる仕組み(サイトカインストーム)である。いずれの場合も抗体の存在がウィルスの感染を誘導し、免疫系の症状を暴走させる。
・SARS(重症急性呼吸器症候群)の原因ウィルスもコロナウィルスで、正式名称はSARS-CoV-1である。新型コロナウィルスの正式名称はSARS-CoV-2。コロナウィルス自体はありふれたウィルスで風邪の10~15%の原因を占めている。
・『SARSの流行時にもコロナウィルスに対するワクチンを作ろうとする研究があったのですが、動物実験での結果は散々でした。このため、コロナウィルスワクチンを接種するのは危険ではないかと言われてきました。』
●なぜワクチン接種が自己免疫疾患に繋がり得るのか
・『COVID-19が陽性であっても、その多くは症状がない。無症状のPCR陽性例の数は研究によって大きく異なり、最低で1.6%、最高で56.5%となっている。COVID-19に感受性の低い人は、おそらく非常に強い自然免疫系を持っている。健康な粘膜バリアの好中球とマクロファージは、ウィルスを速やかに排除し、多くの場合、適応システムによる抗体の産生を必要としない。しかしこのワクチンは、自然の粘膜バリアを越えて注射することと、RNAを含むナノ粒子として人工的に構成することで、意図的に粘膜免疫システムを完全に回避している。カーセッティ(2020)の論文で述べられているように、自然免疫反応が強い人は、ほとんどの場合、無症状で感染するか、軽度のCOVID-19疾患を呈するだけである。しかし、そもそも必要のないワクチンに反応して抗体が過剰に産生された結果、前述のように慢性的な自己免疫疾患に陥る可能性がある。』
・『コロナウィルス感染とワクチン接種の双方とも自己免疫疾患の発症に繋がる可能性はありますが、どちらの方がリスクがより高いでしょうか。コロナウィルスに自然感染して無症状または軽症で治癒する場合、対処するのはまず第一に自然免疫です。自然免疫は抗体を用いる獲得免疫とは別系統です。そして獲得免疫は抗原と出会う場によっても対処法を変えます。呼吸器感染症の最前線に当たる獲得免疫は粘膜免疫です。粘膜免疫で主に誘導される抗体はIgAのクラスですが、これは粘膜免疫担当の抗体で、全身を循環するIgGクラスの抗体とは別のクラスです。こういった意味でも、無症状や軽症の場合の自然感染ではワクチン接種と比較すると自己免疫疾患に繋がることは限定的でしょう。
また、コロナウィルスに自然感染した場合には、ウィルスは免疫系の抵抗を受けながら増殖します。無症状のPCR陽性者や軽症者ではスパイクタンパクの曝露量は限られるので、大きく曝露されるのは重症者の場合と考えられます。それに対しコロナワクチンは接種後に細胞内でスパイクタンパク生産を開始しますので、量はいきなり最大量に達します。シュードウリジン修飾されたmRNAワクチンは分解されにくく、長い間スパイクタンパクを生産します。スパイクタンパクへの曝露量はワクチンの方がずっと多いでしょう。つまり、ワクチン接種者はもれなく大量のスパイクタンパクに曝露されます。一方、コロナ感染の場合大量のスパイクタンパクに曝露される確率は、コロナ感染確率×感染してから重症化する確率となり、ワクチン程ではないということです。』
●スパイクタンパクはDNA修復、V(D)J組換えを阻害する
・DNA修復機構が働かないと、変異は固定され癌の原因になる。また、DNA修復機構は免疫系の遺伝子組換えにも必須である。よってスパイクタンパクがDNA修復を阻害するならば、コロナワクチン接種が癌や免疫不全に繋がる懸念が出てくる。
●コロナワクチンと癌
・『コロナワクチンの副反応にリンパ節の腫脹が知られています。リンパ節は局所的な免疫応答の場です。抗体を産生するために一時的にリンパ節が腫れることはよくありますが、リンパ節の腫瘍が疑われる場合もあります。コロナワクチンの別の副反応として、ワクチン接種後の最初の数日間にリンパ球の減少が見られることがあり、免疫の低下に繋がります。この2つの副反応は一見反対に見えますが、個人差もあるでしょうし、タイミングの違いもあるでしょう。また、免疫不全になるにはリンパ球全体の細胞数の減少が必要でもなく、免疫を構成する特定の細胞種がワクチン接種を繰り返すことにより減少しているのかもしれません。
今回のケースではコロナワクチンが直接活性化する細胞に起源をもつ癌細胞がワクチン接種によって急激な増殖を開始したと考えられます。しかし、そうした特殊なケース以外にも、コロナワクチンには癌の進行をもたらす複数の作用機序があります。免疫低下は感染症を招きますし、癌の悪性化に繋がる可能性もあります。スパイクタンパクはBRCA1、53BPIなどの癌抑制遺伝子の働きを抑えることが報告されており、これらのタンパクの機能低下はDNA修復の機能不全に繋がり、癌細胞の発生や悪性化の両方に繋がります。
癌は増殖制御の仕組みを受けつけずに勝手に増殖を行うようになった細胞集団であり、いったん増殖した癌細胞は免疫系で対処することは難しいのです。すでに癌を患っている人はコロナワクチンによる癌の悪性化を警戒する必要があるでしょう。』
感想
友人から、「2度目、3度目の接種では40度近い発熱がありとても辛かったが、実際にコロナに感染したときは37度台だった」との話を聞きました。
これは何故だろう? ワクチンのおかげと言えるのだろうか? しかし、副反応が40度近いというのは明らかに異常なことではないか。と思っていました。
これは、荒川先生が指摘されている、感染では粘膜バリアともいえる自然免疫系が必死に戦うためウィルス側も思ったように動き回れない(曝露できない)のに比べ、ワクチン接種ではノーガードでスパイクタンパクを曝露するため、体への侵襲が大きくその結果、修復作業の第1段階でもある“炎症”が強く、広く出るのだろうと思いました。
やはり、コロナワクチン、未知のmRNAワクチンの隠された脅威が存在するのは間違いないと思います。
コロナ後遺症だけでなく、ワクチン後遺症というものが問題になっていることを耳にしました。調べてみると週刊新潮など多くの週刊誌などが報じていることも分かりました。
下記は天王寺こいでクリニック 小出誠司先生のブログですが、その数は想像以上でした。
一方、「抗原原罪」という耳慣れない言葉が気になり、検索したところ今回の荒川 央先生の『コロナワクチンが危険な理由 免疫学者の警告』という著書を見つけました。
荒川 央先生は分子生物学者であり、また免疫学者です。コロナワクチンはmRNA(メッセンジャーRNA)を利用した全く新しいメカニズムのワクチンであることが、不安の大きな要因の一つとなっていますので、荒川先生の見解は非常に重要ではないかと思い拝読させて頂きました。
なお、ブログは目次より前に、「あとがき」の冒頭と最後の部分をご紹介しています。これは、ここに荒川先生の思い―『自分の命を守りたい人、大切な誰かを守りたい人に、微力ながらも力を貸すことができないかと考えたためです』―が凝縮されていると感じたためです。
著者:荒川 央
初版発行:2022年3月
出版:花伝社
『私[荒川先生]がコロナワクチンに関するブログを立ち上げたのは2021年6月8日。目的は1つ。コロナワクチンの危険性を日本の方々に伝えるためです。内容は生命科学の視点から客観的な事実に焦点を絞るように努めました。
私が主に伝えたかったコロナワクチンの危険性の多くは遺伝子ワクチンの作用機序とスパイクタンパクの持つ毒性から予測されるものです。血栓による血管障害とそれに伴う複数の臓器の障害、自己免疫疾患、癌などです。ブログ内では紹介していますが、今回の書籍化にあたってページの都合で触れられなかったのがプリオンによる神経変性病、シェディング[伝搬]などです。心筋炎、脳梗塞、自己免疫疾患、癌、神経変性病などは加齢によってもリスクが高まる疾患です。こうした疾患がコロナワクチンの作用機序から予測され、実際に後遺症として報告されています。私はコロナワクチンによる隠れた副作用は文字通りの「老化」ではないかと思っています。老化によってより深刻な被害を受けるのは高齢者です。高齢者で老化が加速すればそれはすなわち死にも直結します。けれどもコロナワクチン接種後に高齢者が亡くなっても、因果関係は不明で老衰や寿命として処理される場合がほとんどです。例えば10代の人の内臓年齢が20代になり、30代の人の内臓年齢が40代になっても問題は直ちに目には見えず、若い方は多少老化が進行しても元々の若さや生命力のために自分でも気が付かない場合が多いでしょう。しかし、将来的にどれだけの健康被害を生み、健康寿命をどれほど縮めることになるのかは現時点では分かりません。』
『ブログの執筆は、私にとっては一人で静かに始めた戦争でした。記事を書き続けるうちにたくさんの人と繋がりが生まれ、皆それぞれの立場で戦っているのだと気付きました。コロナ騒動は情報戦でもあります。そして、これは不思議な戦争です。老若男女関係なく、気付いた人が立ち上がり、情報を共有し、手の届く範囲で他者を助けようとしています。日本でも、そして海外でもこの危機に気付いた人が大切な人達を守るために危機を伝えてきました。私のブログもその局地戦の記録でもあります。そのためにも書籍化にあたり日付を残すこととしました。どの時点でどれだけの危険性が判明し、警鐘されていたか、その時点でマスメディアや医療関係者、公的機関、政府の行動はどうだったか。コロナワクチン薬害に対する訴訟もこれから相次ぐと思いますので、そうした情報も後に大事な情報になってくるかと考えます。』
目次
はじめに―分子生物学者、免疫学者として、コロナワクチンについて考えること
本書の要点―コロナワクチンが危険な理由
1章 もう一度、ワクチンの「常識」について考えてみる
●コロナワクチン接種についてのいくつかの誤解
●嘘と統計:数学のトリック
●ワクチン有効率95%は本当か?
●コロナウィルスが存在している根拠を政府や研究機関はもっていない―ウィルスの単離からこの問題を考える
2章 もう一度、感染症対策について考えてみる
●「パンデミック」の謎
●PCR検査について
●無症状のPCR陽性者からの感染は0だった
●コロナウィルスは昔から居た
●スペイン風邪とファウチ博士の論文
3章 コロナワクチン=「遺伝子ワクチン」の正体とは何なのか?
●コロナワクチンはコロナウィルスよりも悪い?
●前例のないワクチン
●遺伝子ワクチンというもの
●遺伝子ワクチンによる自己免疫「抗体依存性自己攻撃」
●セントラルドグマとmRNA
●mRNAと遺伝暗号(コドン)
●mRNAワクチンはすぐに分解されるのか?
●なぜワクチンに使われる遺伝子の毒性をなくさなかったのか?
●ブレーキのないRNAワクチン
4章 スパイクタンパクの危険性
●どうしてコロナワクチンで血栓が出来るのか
●スパイクタンパクの毒性―スパイクタンパクはACE2の抑制を介して血管内皮機能を損なう
●スパイクタンパクの全身の血管への毒性
●スパイクタンパクは血流を循環するか
●ワクチン接種者のスパイクタンパクはエクソソーム上で4ヶ月以上血中を循環する
●コロナワクチンと不妊
5章 コロナワクチンは免疫不全の原因となる
●ワクチンと抗体依存性感染増強(ADE)
●猫とネズミ
●初の病理解剖から分かったこと
●なぜワクチン接種が自己免疫疾患に繋がり得るのか
●コロナワクチンと帯状疱疹
●スパイクタンパクはDNA修復、V(D)J組換えを阻害する
●コロナワクチンと癌
おわりに
●オミクロン変異考察
●コロナワクチンをめぐるイタリアの状況について
●コロナワクチンと治療法―生データが必要だ、今すぐ
あとがき
はじめに―分子生物学者、免疫学者として、コロナワクチンについて考えること
・荒川先生のご専門は、分子生物学(遺伝子の生物学)と免疫学である。
・バイオテクノロジー、ゲノム編集、ウィルス学、細胞生物学などは専門の範囲に入る。
・『端的に言って、私はコロナワクチンは危険なものだと考えています。仕事の関係で接種しないといけないような状況の方もおられるかもしれません。ご家族やご本人で進んで接種した方もおられるかもしれません。でも今後は出来れば接種しない方が良いし、接種するにしても回数が少ない方が良いと思うのです。』
・「遺伝子治療の治験」だとすれば、リスクより利益が上回るので理解できるが、健康な多くの人に試すのは適切ではない。
・コロナワクチンの危険性を伝えるためのブログを荒川先生が立ち上げたのは2021年6月8日。
・『ブログでの発信を開始した頃と、ワクチン接種が相当進んだ現在とは状況は変わってきています。ワクチン接種の副作用や死者の実態が次第に明らかになってきているのに加えて、ブースター接種をこのまま受けていいのかという不安や疑問はより高まっています。とりわけ、子供への接種が行われようとしているとき、これを食い止めるためにも私のブログを書籍化する意味があると花伝社様からお話しをいただきました。将来、大規模の集団訴訟も起こされるものと予想され、こうした訴訟の理論的根拠ともなりたいと願います。
私のブログ及びこの一冊の本は、分子生物学者、免疫学者としての私なりの小さなレジスタンスです。 (2022年2月13日、ミラノ)』
本書の要点―コロナワクチンが危険な理由
1)遺伝子ワクチンである
・コロナウィルスのスパイクタンパク遺伝子をワクチンとして使っている。
・遺伝子ワクチンは研究途上の実験段階で、人間用に大規模な接種が行われるのは初めてである。
・問題は遺伝子ワクチンがこれまでのワクチンと異なり、遺伝子が細胞内でどれだけの期間残るのか予測できないことである。場合によっては染色体DNAに組み込まれ、スパイクタンパクを一生体内で作り続けることになる可能性もある。
2)自己免疫の仕組みを利用している
・『「通常のワクチン」では抗体を作らせる為にウィルスそのものまたは一部分をワクチンとして使います。そういったワクチンはワクチン接種後に体内に抗体ができた場合、それ以降攻撃されるのはウィルスだけで終わります。
「遺伝子ワクチン」はワクチンを接種した人間の細胞内でウィルスの遺伝子を発現させます。ワクチン接種以降は自分の細胞がウィルスの一部を細胞表面に保有することになります。体内の抗体が攻撃するのはウィルスだけではなく自分の細胞もです(抗体依存性自己攻撃、Antibody-dependent auto-attack[ADAA])。』
・遺伝子ワクチンであるコロナワクチンは筋肉に注射されるが、筋肉に留まるとはいえない。
・『ファイザーの内部文書によると、筋肉注射された脂質ナノ粒子は全身に運ばれ、最も蓄積する部位は肝臓、脾臓、卵巣、副腎です。卵巣は妊娠に、脾臓、副腎は免疫に重要です。他にも血管内壁、神経、肺、心臓、脳などに運ばれることも予想されます。そうした場合、免疫が攻撃するのは卵巣、脾臓、副腎、血管、神経、肺、心臓、脳です。それはつまり自己免疫病と同じです。』
3)コロナワクチンは開発国でも治験が済んでおらず、自己責任となる
"米FDAとCDC、mRNA型2価ワクチンの対象年齢を生後6カ月以上に引き下げ"
JETROでは「ビジネス短信」として情報発信されていました。以下は、”米FDA”に関する情報です。接種対象や回数(ブースター接種)は制限付きになっていると思います。
4)コロナウィルスは免疫を利用して感染できるので、ワクチンが効くとは限らない
・コロナウィルスのスパイクタンパクは人間の細胞表面の受容体ACE2(アンジオテンシン変換酵素-2)に結合し体内に侵入する。
・コロナウィルスはマクロファージなどの食細胞に耐性があり、細胞内で増殖したり、サイトカイン放出を促進したり、細胞を不活性化したりして免疫系をハイジャックする。
画像出展:「東京都健康安全研究センター」
サイトには、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡で撮影した写真が8枚出ています。
5)スパイクタンパクに毒性がある
・コロナウィルスは血栓を起こし、肺や心臓、脳にも障害を起こすことがある。
・血栓を起こすにはウィルスは必要ではなく、コロナウィルスのスパイクタンパク単独でも障害を起こす。
・血管は全身の臓器と繋がっているので、あらゆる臓器に被害が及ぶ可能性がある。また、全身をめぐる毛細血管は血栓によって損傷をうけやすい。
・マウスの実験では、スパイクタンパクは脳血液関門を越えることが確認されている。
6)不妊、流産を起こす可能性がある
・脂質ナノ粒子が最も蓄積する場所の1つが卵巣である。卵巣に運ばれたワクチンがスパイクタンパクを発現すると、卵巣が免疫系の攻撃対象になる。
・スパイクタンパクが結合する受容体ACE2は、精子の運動性や卵の成熟に働くホルモンを作るため、スパイクタンパクによりACE2が阻害されると不妊症につながる可能性がある。
7)ワクチン接種者は被害者となるだけでなく加害者となる可能性もある
・ワクチン接種者はスパイクタンパクを体外に分泌し、副作用を他者に起こさせる可能性が指摘されている。
・本当に怖いのは長期的な副作用で、これから長い時間かけて出てくるかもしれない。
1章 もう一度、ワクチンの「常識」について考えてみる
●コロナワクチン接種についてのいくつかの誤解
・誤解:副反応が出るのはワクチンが効いている証拠! 副反応が強いのは若くて元気な証拠!
・解説:『ワクチン接種直後の短期的な副反応である発熱や体調不良は、体の一部がワクチンの副反応(副作用)によって損傷されているのでしょう。そして2度目のワクチン接種後の副反応がより重いのは、最初のワクチン接種で作られた抗体がワクチンを受け取った細胞を攻撃した結果の強い自己免疫応答でしょう。これは良いことでも喜ばしいことでもありません。自己免疫での損傷は一時的な場合もあれば、不可逆的で取り返しのつかない場合もあります。』
●嘘と統計:数学のトリック
・19世紀のイギリスの首相ベンジャミン・ディズレーリの言葉に、『世の中には3種類の嘘がある:嘘、大嘘、そして統計だ』(There are three kinds of lies: lies, damned lies, and statistics)。
・例:ファイザーのRNAワクチンの有効度(Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine, N Engl J Med. 2020 Dec, Fernando P Polack et al.)
-2回のワクチン接種したグループ21,720人のうち新型コロナ感染者は8人。新型コロナ非感染者の割合は(21720-8)÷21720=0.9996=99.96%
-プラセボ(偽薬)を接種したグループ21,720人のうち新型コロナ感染者は162人。新型コロナ非感染者の割合は(21720-162)÷21720=0.9925=99.25%
⇒考え方A
感染者が162人から8人に減った!感染者の減少率は、(162-8)÷162=0.95=95%。つまり、ワクチン有効率は95%! これは素晴らしいワクチンだ!
⇒考え方B
ワクチンを接種しなくてもコロナ非感染者は99.25%。ワクチンを打ったところで感染しない確率が0.71% (99.96%-99.25%) 上がるだけか。未知のワクチンなんて打つ必要はないじゃないか。
※減少率95%は100人中95人に効くという意味ではない。99.25%の人はワクチンを打っても打たなくても変わらなかった(感染しなかった)ということである。
・『このように、同じ結果でも見せ方によって印象は大きく変わるのです。もともと感染者も人口比で見ると大したことはありません。ワクチンが必要かどうか、発表されているワクチン有効率だけで判断されませんように。』
第15章 免疫系(防御系)と自律神経の関係 part2
1.アレルギー疾患
①アナフィラキシーショック
強く感作された状態で大量の抗原がもう一度入ってくると、それにより免疫反応が起こること。抗原は蜂の毒や薬物などがある。アナフィラキシーショックの免疫反応はリンパ球と副交感神経刺激が反応の主体である。副交感神経は血圧を下げることがショックの引き金を引く。
③食物アレルギー
食物には抗原性の強いものがたくさんある。大事なことは消化管の防御システムがしっかり働くようになるまで、離乳食を続けるということである。半年以上、なるべく1ヵ月でも2ヵ月でも遅くすることである。
④花粉症、蕁麻疹
蕁麻疹は精神的なストレスが引き金になることが多い。
⑧乳児アトピー
乳児アトピーは離乳食以前に全身が真っ赤に腫れ上がる。主な原因は抗原性の高い3大抗原(卵、牛乳、小麦)、卵は卵白アルブミン、牛乳はカゼイン、小麦はグルテンである。母親がこれらの抗原を含む食品(例えば、ケーキやアイスクリームなど)をたくさん摂ると、身体で処理できないで母乳に入り、乳児が乳児アトピーになるおそれがある。もし、1ヵ月、2ヵ月の赤ちゃんが乳児アレルギーを起こしたら、母親は食生活を見直さなければならない。
画像出展:「免疫学講義」
『アレルゲンにはIgE抗体がつきます。こういうimmune complexに次に関与するものは補体と肥満細胞です。肥満細胞からは、ヒスタミン、セロトニン、アセチルコリン、ロイコトリエンが出ます。補体からはアナフィラトキシンが出ます。補体のアナフィラトキシンも、肥満細胞や好塩基球から出るものも、大きな目で見れば全部副交感神経反射で、血圧下降、分泌促進で鼻水が出たり、下痢したり、発疹、痒みなどの反応がでます。平滑筋の収縮や血管通過性亢進も副交感神経反射です。
副交感神経は夜の世界なので、布団に入って温まったときや真夜中に痒くなります。低気圧がきたりすると蕁麻疹が出ます。副交感神経反射は副交感神経が優位になると出ます。』
●鼻水、くしゃみ、発疹、腫れ、喘鳴発作などは、すべてアレルゲンを洗い流す作用である。対症療法でなかなか患者さんを治せないのは、炎症を止めてしまうと根本治療にならないためである。激しい下痢が起こったら入ってきた異種タンパクを洗い流して外に出して助かるための反応、寄生虫が入って来て下痢したら、寄生虫を排除しようとする治るための反応と考えなければならない。抗ヒスタミン剤や抗ロイコトリエン剤は根本治癒にはつながらない。
●リンパ球は出生後出てきて、1、2ヵ月から一気に増え4歳位でピークになる。その後ゆっくり減って、18-25歳で顆粒球と交差しその後は顆粒球との差が開いていく。アレルギーはリンパ球が多い時期に好発するため、高校生を過ぎた頃からアレルギーは自然に消失していく。
●ステロイド剤を多用していると、ステロイドはコレステロール骨格で組織に沈着するので、沈着したステロイドがまた刺激となって、アトピー性皮膚炎を悪化させる。このような人はリンパ球が減る時期になっても治らないことが多い。
画像出展:「免疫学講義」
2.顆粒球増多と組織破壊の病気
①突発性難聴[内耳](idiopathic sudden sensorineural, sudden deafness)
●激しい夫婦喧嘩をしていて、突然耳が聞こえなくなることもある[突発性難聴:一般的に50歳代を中心に30歳~60歳に多く、特に男女差はない。原因不明とされている]。増加した顆粒球が内耳を破壊することで発症する。常在菌があるところが最も顆粒球を刺激するが、非常に強いストレスに晒されると常在菌の場所に関わらず組織破壊の病気がおこる。[『安保徹の原著論文を読む』には、ストレス→交感神経刺激→顆粒球増多→粘膜破壊の連鎖とされている]
②メニエール病[三半規管](Meniere disease)
●内耳がダメージを受けると突発性難聴、三半規管がダメージを受けるとメニエール病になる。
③歯周病(periodontitis)
●一般的に歯科医はストレプトコッカス・ミュータンスの感染症と言われているが、常在菌が原因で、増えた顆粒球が口の常在菌と反応して炎症を起こす。[補足:ストレプトコッカス・ミュータンスは虫歯の原因菌とされているようです]
④食道炎(esophagitis)
●食道炎のほとんどは胃液が逆流しておこる逆流性食道炎と言われているが、胃を全摘した人でも食道炎になる。食道炎も顆粒球による粘膜破壊である。
⑤びらん性胃炎(erosive gastritis)→胃潰瘍(gastric ulcer)
●マウスの拘束実験では、12時間拘束でびらん性の胃炎を発症し、24時間拘束で胃潰瘍になった。これは顆粒球が粘膜全体に炎症を起こし、症状が進んで胃潰瘍になったということである。
⑦クローン病(Crohn’s disease)
●小腸での組織破壊だが、クローン病の患者さんは末梢血に顆粒球、特に好中球が非常に増えている。
⑧潰瘍性大腸炎(ulcerous colitis)
●潰瘍性大腸炎は大腸がダメージを受ける。
⑩子宮内膜症(endometriosis)
●子宮内膜症はストレスで分泌現象が抑制されて起こる。
⑪不妊症(infertilitas)
[子宮内膜症(endometriosis)、卵管炎(salpingitis)、卵巣嚢腫(ovarian cyst)]
●この3つは不妊症の原因になる。不妊症の共通点は「冷え」である。「冷え」の主な原因は交感神経緊張で血管収縮による血流障害である。
⑭膀胱炎(cystitis)
●一般的に膀胱炎の原因は細菌感染と言われているが、膀胱にある常在菌と増えてきた顆粒球との反応である。
⑮骨髄炎(myelitis)
●顆粒球を作る場所で自壊作用を起こし、骨髄の中に膿ができる。
⑯間質性肺炎(interstitial pneumonia)
●一般的には原因不明とされているが、この病気は血流障害と顆粒球増多である。
画像出展:「医療プレミア」
左のイラストを見ると、様々なところに常在菌は存在していますが、特に多いのは盲腸・大腸と口腔内であることが分かります。
第16章 移植免疫
1.移植(transplantation)と拒絶(rejection)
●拒絶は移植された人の免疫(リンパ球)が移植片を異物と見なしてしまうからである。
2.MHC
●MHCは主要組織適合抗原と言われ、移植のためのタンパク質という印象があるが、本来はT細胞がT細胞レセプター抗原を認識するときの抗原分子である。
4.純系
●遺伝子が全く同じであれば拒絶は起きない。これを同系移植というがヒトでは一卵性双生児同士で行う移植である。自分の皮膚を自分に移植する自家移植でも拒絶は起きない。
●マウス同士の移植は同種移植であるが、遺伝型が異なるため拒絶が起こる。種が異なる移植は異種移植だが、同種移植同様、拒絶反応が起きる。なお、同種移植、異種移植においては、免疫反応だけでなく、凝固系、補体系なども加わって拒絶される。
5.拒絶の速さ
●超急性拒絶は移植翌日に起こるような反応である。異種移植や同種移植でも起こる場合がある。
●一般的な同種移植の拒絶は急性拒絶とされ、T細胞やB細胞がクローン拡大に1週間程かかるので、代替1週間後に拒絶反応が起こる。
●急性拒絶はステロイドや免疫抑制剤を使って抑えることができる。
●慢性拒絶は1ヵ月前後で出てくる反応で、T細胞やB細胞だけでなく、胸腺外分化T細胞や自己抗体を産生するB細胞(B-1)の活性化を伴って起こる。
7.移植のしやすさ―MHCの発現量
●赤血球のMHCはnagativeマイナスなので血液型を合わせれば移植ができる(輸血)。角膜のMHCもほぼマイナスなので移植ができる。
●MHCの発現量が弱いのは肝臓、腸、肺、心臓である。腎臓の発現量はかなり強いため、腎臓移植は肝臓移植に比べ、免疫抑制剤を使う量が多くなる。皮膚はほぼ移植はできない。
9.骨髄移植(bone marrow transplantation)
●再生不良性貧血や慢性・急性白血病で抗ガン剤や放射線治療を受けると、骨髄機能抑制されてしまうため骨髄移植が必要になる。骨髄移植では細胞、骨髄の中にリンパ球があるため、移植片がhostを攻撃する。これをGVH反応といい、これによって起こる病気をGVH病という。
10.GVH病(GVHD:graft-versus-host disease)
●ヒトでは骨髄移植は、抗ガン剤や放射線照射によって骨髄を弱らせガン細胞を除いてから行う。
12.新生児免疫寛容(neonatal tolerance)
●新生児は生まれたときにはリンパ球はない。最初の3日から1週間で新生児顆粒球増多症が起き、その後リンパ球が増えはじめる。そのときに自己抗原を学ぶ。
13.拒絶に関与するほかの白血球
●急性拒絶の場合は、T細胞とB細胞が原因である。
●慢性拒絶の場合は、extrathymicT細胞と自己抗体産生するB-1細胞が原因で、これにマクロファージや顆粒球が加わる。
●急性拒絶は外来抗原向けのシステムが作動して一気に拒絶するが、慢性拒絶では自己応答性のものが反応して色々な細胞を巻き添えにしてゆっくり炎症が起こる。
15.免疫抑制剤(immunosuppressant)
●親と子の移植でも全部は合っていないので免疫抑制剤を使って移植する。特に腎臓移植ではMHCの発現が強いため、免疫抑制剤の作用は強い、一方、腎移植では生着している期間は平均8年と言われている。
17.輸血によって生着率上昇
●移植するdonorの血液をあらかじめrecipientに輸血しておくと生着率が上昇する。これがblocking antibodyである。
第17章 免疫不全症
1.先天性免疫不全症(primary immunodeficiency)
●先天性免疫不全症は生まれて3ヵ月や半年後に気づくことが多い。これは新生児が母親の母乳から抗体をもらい、また、胎生期には胎盤を経由してIgG抗体が入ってくるが、少しずつ減っていくためである。通常は自前の免疫系が対応するが、先天性免疫不全症では対応できない。
②胸腺無形成症(thymic aplasia)
●胸腺がなくてT細胞ができないことを胸腺無形成症という。
③重症複合免疫不全症(scid:severe combined immunodeficiency)
●重症複合免疫不全症はT細胞もB細胞もできない。
2.重症複合免疫不全症(scid:severe combined immunodeficiency)
①X-scid(伴性劣性遺伝) X連鎖重症複合免疫不全症
●重症複合免疫不全症は遺伝子異常が原因である。
第18章 腫瘍免疫学
1.免疫系の二層構造
●『私たちの免疫系は二層構造になっています。生物が上陸する前の消化管中心の免疫系から、生物が上陸した後には、えらから胸腺ができ、造血が前腎から骨髄に移りました。したがって、リンパ球を作る場所は、古い時代の場所と新しい場所の2種類あるのです。
新しい免疫系ができた後、古い免疫系がすべて失われたというわけではありません。細々ながら続いています。胸腺や骨髄のような新しい免疫系はT細胞やB細胞を作りますが、加齢とともに骨髄や胸腺も脂肪化して、その作る勢いは失われていきます。その代わりに、生物が上陸する前の胸腺外分化T細胞や自己抗体産生B細胞の世界が拡大していきます。
二層構造のうち古い免疫系では、胸腺外分化T細胞は自己応答性があり、古いB細胞であるB-1細胞は自己抗体を産生します。よって、基本的に古い免疫系は、自分の身体にできた異常細胞を排除するという仕組みで存在したのです。
しかし、生物には上陸すると外界の異物に曝される機会が多くなり、進化によって出現した胸腺と骨髄を使ったT細胞、B細胞が新しく生まれました。これらの自己応答性のクローンをnegative selectionで取り除くので、クローンの構成が外来抗原向けになっています。ですから、活発な活動により入ってくる外来抗原を処理するためにはプラスになっても、内部監視の力はないのです。
私たちがだんだん年を取ってガンができるような年齢になると、二層構造のうち古い方が次第に活性化していきます。古い免疫系は腫瘍の排除や、あるいは増え続ける正常細胞の分裂の速さの調節もしています。このような二層構造で免疫系は成り立っています。』
画像出展:「免疫学講義」
2.ガン細胞を排除している証拠
●免疫系がガン細胞を排除している証拠
-AIDS:HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染するとCD4が減少し、(CD8も後で減る)リンパ球数が減少して免疫抑制になる。そして、カポジ肉腫が発生する。
-マラリア感染:マラリアに感染すると免疫抑制が起こり、バーキットリンパ腫という形でガンができやすくなる。
-移植:免疫抑制剤を使用するが、ガンの頻度が高くなる。
-先天性免疫不全症:子供のうちに亡くなることも多く、生き残った場合も発ガンする場合が多い。
3.腫瘍抗原
●腫瘍化するとMHCは下がるか、なくなることが多い。特に増殖の速い腫瘍の場合は、MHCを失う傾向が強くなる。このようなMHCがないガン細胞をNK細胞は攻撃する。
5.腫瘍ができるための条件
●腫瘍ができるための必要条件でよく知られているのが、遺伝子の多段階変異である。初めは正常の分裂細胞、次に良性の腫瘍、それから形質が残ったままの腫瘍、そしてMHCを失った悪性腫瘍と段階を経て増殖の勢いを増していく。
●発ガン物質(carcinogen)として有名なタバコだが、喫煙者は減り続けているにも関わらず、肺ガン患者は増え続けている事実を考えると発ガン物質の関与に疑問を持たざるを得ない。
●ストレスの共通点には低体温がある。そして、低体温は血管収縮による血流障害や低酸素状態を引き起こす。このとき、副腎髄質からアドレナリンが出て高血糖になる。これらの条件はガンが育つ最適の条件である。
下の2つの図は「肺がんを学ぶ」から拝借しました。なお、こちらは罹患ではなく、死亡率になります。赤線が肺がんです。
画像出展:「最新たばこ情報」
成人喫煙率(厚生労働省国民健康・栄養調査)
安保先生のご指摘通り、肺がん患者は増え続け、喫煙者は減っているという現実を考えると、喫煙が害であり影響しているのは間違いないと思いますが、別の要因の方が大きいと考えざるを得ないと思います。
6.ストレス反応の意義
●『私たちはストレスがかかったとき、無酸素で瞬発力のあるエネルギーを産生します[解糖系]。危機を乗り越えるためには酸素は要らないので低体温、低酸素です。このとき糖をたくさん使うので高血糖という条件になります。ですから、私たちがつらいめにあったとき低体温になったり血糖が上昇して糖尿病状態になったりするのは、危機を乗り越えるためなのです。
ストレスで起こる低体温、低酸素、高血糖は、短いスパンでは、瞬発力を得て危機を乗り越えられるためプラスに働きますが、長くストレス状態が続くと解糖系の方にシフトしてしまい、適応反応として細胞分裂が始まります。ミトコンドリアの働きには細胞分裂の抑制力もあり、低体温になるとミトコンドリアが働けなくなるので分裂正常細胞の中から適応でガン化した分裂が起こるのです。
ですから、ガンの問題はcarcinogenによる遺伝子の多段階変異というよりも、このような解糖系優位の状態に引きずり込まれて分裂の細胞(ガン細胞)になったということです。多段階変異は低体温に適応するための現象として捉えればよいのです。』
8.ガン患者の免疫状態
●低体温のためリンパ球の働きが低下している。
●交感神経緊張によって、副交感神経支配のリンパ球は減少している。
●NK細胞は交感神経刺激で数は増加するが機能は低下する。特にパーフォリンのようなキラー分子は副交感神経で分泌が促進されるので、交感神経優位な環境では低下する。
9.キラー分子群
●多少ストレスがあってガン細胞ができても、簡単にガンにならないのは、リンパ球のキラー分子群が働いて増殖を防いでいるからである。代表的なキラー分子群にはパーフォリン、Fas ligand、TNFαがある。これらは体温が37℃以上であるというのが条件である[ガン細胞は毎日5000個程できていると言われています]。
12.ガンの免疫療法
●ガンの免疫療法とは、解糖系の働きに偏った内部環境をミトコンドリア系に有利な働きに戻して分裂抑制遺伝子の出番を作るということである。
あとがき
『現代医療は、多くの病気を原因不明として対症療法を行う流れが拡大しています。しかし、多くの病気はストレスを受けて免疫抑制状態になって発症しています。原因は不明ではないのです。ストレスで生じる「低体温、低酸素、高血糖」は短いスパンではエネルギー生成のうちの「解糖系」を刺激して瞬発力を得て危機を乗り越えるための力になっています。しかし、長期間このような状態が続くと、エネルギー生成のうちの「ミトコンドリア系」を抑制してエネルギー不足に陥ります。これがストレスで起こる慢性病の発症のメカニズムです。そして、いずれガンを引き起こす原因につながっていきます。
ストレスをもっとも早く感知するのは私たちの免疫系です。末梢血のリンパ球比率やリンパ球総数は敏感に私たちのストレスに反応しています。この反応には自律神経系と副腎皮質ホルモン系が関与しています。臨床では血液検査を行い、いつでもリンパ球比率を知れる状況にあるのですが、ストレスとリンパ球の減少の相関をほとんど教育の場で学ぶことがないので、血液検査のデータが活用されていないのが現状です。末梢血のリンパ球比率は35-41%が正常値で、ここから減少しても増加しても病気になってしまいます。
顆粒球過剰(リンパ球減少)は組織破壊の病気と結びつきます。逆に、リンパ球過剰はアレルギー疾患や過敏症の病気と結びついていきます。本講義録で学んだ知識があれば、多くの病気の発症メカニズムを知ることができます。対症療法を延々と続ける必要もなくなるのです。
消炎鎮痛剤の害やそのほかの薬剤の副作用なども、この本で学べたと思います。患者に良かれと思って続けている薬剤の投与の中にも多くの危険が潜んでいるのです。特に、自己免疫疾患の治療においては、本書の知識が役立つでしょう。そして、私たち生命体が持つ偉大な自然治癒力を引き出すことのできる新しい医学や医療が進展していくことでしょう。』
感想
白血球(顆粒球とリンパ球)と自律神経、副腎皮質ホルモン系、そしてからだを守る新旧免疫系の二層構造、これらは特に重要だと思います。
一方、健康を考える上で重要とされているものに糖化と酸化があり、例えば、AGE(終末糖化産物)は大量の活性酸素を産み出すと言われています。
何が言いたいかというと、顆粒球が攻撃に使う武器は“活性酸素”であるという点です。からだの中をパトロールし健康を守ってくれている免疫が、一転、暴走してしまうとからだを破壊するモンスターになってしまう恐れがあるということです。そして、その暴走の原因、引き金はまさに“ストレス”だと思います。
私は安保先生がご指摘になられているように、ガンの原因は発ガン物質よりも、ストレスによる免疫の暴走の方が大きいのではないかと思います。
ご参考:運動は免疫能を高めるか? 「メカニズムをさぐる III 好中球」
『ヒトの好中球は白血球の中でも顆粒球に分類され、その大半を占めている(正常値40~70%)。好中球の主な役割は生体防御機能であり、体内に侵入してきた病原微生物を中心とする異物を貪食し自らが発生させた活性酸素によってそれを殺菌する。しかしながら活性酸素は非常に酸化力が強いため異物の排除に有効な反面、正常な組織にも障害を与えることや過酸化脂質の生成を促し動脈硬化をはじめとして種々の疾病の原因にもなるというマイナスの側面ももっている。ここでは運動が好中球機能に及ぼす影響を中心に論を進めていく。』
第12章 膠原病 part2
1.進化した免疫系の抑制
●自己免疫疾患は線維芽細胞や線維芽細胞が作る細胞外マトリックスのコラーゲンで炎症が起こるので、膠原病、結合組織病といわれる。
●関節リウマチ(RA)で炎症が繰り返しおき、徐々に関節が動かなくなっていくが、これはストレスやウィルス感染が原因であることが多い。特に紫外線、寒さ、重力がストレスになる。重力のストレスとは長時間労働や夜更かしすることである。
●関節滑膜について注意しなければならないのは、SLEの血管炎もRAの腫脹も、炎症を起こしてつらいのは治るためのステップでもあるという点である。
●『私たちは火傷をしても腫れて治ります。大怪我をしても腫れて治り、しもやけになっても腫れて治ります。ですから炎症は、自己免疫反応が起こっているのと同時に、治るステップも起こっていると考えなければなりません。あまり対症療法をするとかえって病気は悪化するので注意が必要です。』
●『RAは特に関節に水が溜まって腫れ上がるので、注射器で水を引き抜きます。それをガラスに塗沫してギムザ染色すると95%が顆粒球で、残りの5%くらいのリンパ球は胸腺外分化T細胞とB-1細胞です。T細胞・B細胞が減少しているのです。自己免疫疾患は、免疫異常とか活性化とかいわれますが、本当はすべての自己免疫疾患は免疫抑制状態なのです。自己免疫疾患は進化した免疫系が抑制されて、古い免疫系や貪食系の顆粒球に活性が移ったという病態なのです。』
2.中枢神経系の自己免疫疾患
●多発性硬化症はミエリン鞘にあるMAGが抗原になって脱髄が起こり、神経の伝達が障害されて視力低下や末梢神経麻痺が起こる。
●重症筋無力症はアセチルコリンレセプターに対する自己抗体が原因である。筋肉の緊張は神経末端から出るアセチルコリンで起こるので、アセチルコリンレセプターが抗原になると筋緊張が持続して起こらなくなる。
3.内分泌器腺の自己免疫疾患
●橋本氏病は、甲状腺細胞のミクロゾームに対する自己抗体が出て、甲状腺が機能低下する疾患である。
●バセドウ氏病は、サイロキシン刺激ホルモン(TSH)のレセプターに対して自己抗体ができる。
●アジソン病は副腎に対する自己抗体(自己応答性リンパ球)が原因である。副腎皮質ホルモンの分泌が抑制されるためストレス対応や活力に影響が出て、すごい虚脱感に襲われる。
●Ⅰ型糖尿病(別名:インシュリン依存型糖尿病)は自己応答性リンパ球が問題となる。夜更かしや家庭内トラブルなどのストレスに加え、ウィルス感染も関わっている。ストレスにより副交感神経支配のリンパ球が減るので、これら2つが重なって起こることが多い。
4.消化管・肝の自己免疫疾患
●Iupoid肝炎はヒストン、核、ミクロゾームが自己抗原となる。
●萎縮性胃炎と悪性貧血の原因はVB12結合タンパクに対する自己抗体ができてVB12を吸収できなくなると、赤血球溶血が起きて貧血になる。胃は心因性のストレスが原因である。
●潰瘍性大腸炎はストレスによる大腸粘膜破壊が起こる病気である。クローン病はストレスによる小腸マクロファージの肉芽腫形成で、顆粒球の活性化が問題になる疾患である。自己免疫疾患とはいえないのは、自己抗体が見つからないことも多く、男女差がないのも自己免疫疾患の特徴とは異なる。
6.心臓の自己免疫疾患
●リウマチ熱は、心筋抗原とA型溶血性連鎖球菌の表膜の抗原が交叉しておこる。
7.眼の自己免疫疾患
●交感性眼炎はブドウ膜に対する自己抗体である。
●水晶体過敏性眼球炎は水晶体に対する自己抗体である。
8.皮膚の自己免疫疾患
●皮膚硬化症は皮膚の基底膜に対する自己抗体である。
●ベーチェット病は口の粘膜に対する自己抗体である。
9.Chronic GVH病
●急性GVH(移植片対宿主)病が、進化したT、B細胞で強く起こる。一方、慢性GVH病は、1月、半年、1年と免疫抑制剤でT、B細胞の機能を落としたあとで、徐々にでてくるが、このとき自己抗体が出現する。胸腺外分化T細胞や自己抗体のB-1細胞が関与している。
1.ストレスと生体反応
●『私たちはなぜ病気になるのでしょうか。それは強いストレスを受けるからです。多くの病気はストレスを受けるからです。多くの病気はストレスから始まっています。
それでは、具体的にどういうストレスで病気になっているかを挙げると、まず悩むことです。考えたり悩んだりすることは人間の特徴です。それから、人間は立って歩けるようになったので、やはり重力に逆らうストレスがあります。長時間立ち仕事をしたり夜更かししたりすると、重力の負担がかかって身体を壊します。あとはもともと身近なもの、温度や空気も病気の原因になります。あまりにも空気が少ないと、酸素不足で病気になります。そういうふうに、私たちの暮らしの身近なものの中にストレスはたくさんあるのです。』
●ストレスを受けると交感神経反射が必ずおこるということではなく、副交感神経反射が起こり絶望や脱力感により血圧が下がって失神することもある。
●怒りやすい人は交感神経反射が起きやすく、いつもおとなしく物静かな人は、副交感神経反射が起きやすい傾向がみられる。
●普通のストレスにはほとんどの場合、交感神経で反応する。自律神経だけでなく下垂体-副腎系が働くこともある。下垂体からは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が分泌され、副腎からは糖質コルチコイドが分泌される。さらに白血球の反応(マクロファージの活性化や、サイトカインが出て戦う準備ができるなど)も起こる。
2.急性症状
●交感神経緊張の場合、頻脈・血圧上昇・血糖上昇、体温上昇がみられるが、急性症状が非常に強くなると血管収縮が強くなり、ついには体温が下がっていく。
3.急性症状が出る仕組み
●強いストレスを受けた人は体温が低下し血糖が上昇する。糖尿病は糖質の摂りすぎだけではなく、ストレスによる血糖上昇、特に交感神経のαアドレナリン刺激には強い血糖上昇作用があるため、長時間労働は糖尿病の原因になる。運動や食事制限だけでなく、交感神経緊張で血糖値が上昇するということにも注意する必要がある。
●糖質コルチコイドには体温低下と血糖上昇作用がある。
●ストレスによりマクロファージはサイトカインのTNFαを出す。TNFαはインスリンレセプターをブロックするため、血糖値は上昇する。
4.急性症状はストレスに立ち向かう反応
●野生の動物にとってのストレスは戦ったり、逃げたりすることである。血管が収縮し血流が悪くなるということは、血管が傷ついても出血を最小限に食い止めることができるということである。
●血糖が上昇するのは、解糖系を働かせるためである。解糖系で得たエネルギーは瞬発力と細胞分裂に使われる。なお、ミトコンドリアの内呼吸で得たエネルギーは持続的働きのために使われている。
5.交感神経と顆粒球の運動
●顆粒球は膜上にアドレナリン受容体を持ち。交感神経緊張で数が増加する。
●大量に顆粒球が増えると、歯周病、食道炎、びらん性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、クローン病、潰瘍性大腸炎、急性膵炎、慢性膵炎、痔、突発性難聴、メニエール病、女性の場合は子宮内膜症、卵管炎、卵巣嚢腫などの組織破壊の病気が起こる。これらは交感神経と顆粒球の連動で起こっている。
6.慢性症状
●ストレスが続いたときの慢性症状は、体温低下による代謝障害である。一時的には戦うための準備であるが、体温低下が続くと代謝障害、特にミトコンドリアでのエネルギー産生低下、タンパク合成の低下、疲れやすさなどやつれの症状が出てくる。
●ストレスの慢性状態では皮膚が弱くなり障害を受け、皮膚の病気が出現する。皮膚の病気は原因不明とされることが多いが、本当の原因は低温低下による代謝障害、エネルギー産生低下、タンパク合成の低下である。
7.ストレスの要因
●人間の特徴である考える力は、悩みというストレスの原因になる。また、同じく人間の特徴である二足歩行も重力のストレスを大きく受けることとなった。特に立ち仕事や働きすぎ、夜更かしは病気の原因になりやすい。
●人間に限らない一般的な要因の1番目は温度である。低温は凍傷や冷房病、高温は熱中症である。
●2番目は大気中の酸素である。薄くなると高山病、濃度が高いのは潜水病である。
●3番目は水である。少ないと脱水だが、脱水で病気になる人は多い。水の飲みすぎは体を冷やす。
8.ミトコンドリアへの負担
●ミトコンドリアの多い細胞は、脳、心臓、筋肉である。ミトコンドリアの機能低下は低体温と低酸素によって起こる。
9.ミトコンドリアとステロイドレセプター
●『ミトコンドリアの中にはステロイドホルモンに対するレセプターがあって、糖質コルチコイドが直接入っていってミトコンドリアの機能を抑制する。それにより、ステロイド治療をするとミトコンドリアの機能が抑制されてエネルギーを作ることができなくなり、消炎作用が現れる。長くステロイドを使っていると低体温、寿命短縮が起こる。』
10.ストレスと免疫抑制
●ストレスで胸腺萎縮やリンパ球のアポトーシスが起こり、T細胞とB細胞の分化や成熟抑制も起こる。一方、胸腺外分化細胞とB-1細胞は活性化し、自己抗体産生が出現する。
11.解糖系でエネルギーを作る細胞(ミトコンドリアの少ない細胞)
●ガン細胞は解糖系優位で、ミトコンドリアが少なく低酸素で分裂する。つまり、ガンは低体温になって低酸素に適応した病気と考えられる。
15.生体の治癒反応
●『私たちは風邪をひいても、やけどをしても、怪我をしても発熱します。心筋梗塞を起こした後も発熱し、潰瘍性大腸炎になっても、クローン病になっても、ガンになっても発熱します。結局、発熱は低体温と低酸素からの脱却で、代謝を亢進させて病気から治るための反応なのです。こういうことが分からないと、消炎鎮痛剤、ステロイド、あるいは免疫抑制剤を使って炎症を止めてしまいます。すると病気から逃れられなくなります。このとき、炎症に関与する物質がプロスタグランジン、アセチルコリン、ヒスタミン、セロトニン、ロイコトリエン、ブラジキニンである。』
16.副交感神経優位(楽をして生きる)でも病気
●『多くの人はストレスで糖質コルチコイド、TNFαなどが出て、たいていは交感神経緊張になり、血圧が上がったり血糖が上がったりするのですが、中には副交感神経側に偏る人もいます。副交感神経優位でも能力低下によって病気になります。能力低下には、リンパ球が増える過敏症、アレルギーがあります。ストレスにも過敏になり、ときには敗北します。私たちはスポーツをしたり身体を鍛えますが、能力を高めるにはやはり身体を使ったり頭を使わないといけません。こういう努力をほとんどしない人が副交感神経側に偏って能力低下で病気になります。ですから、無理しても病気、あまり楽をしても病気になるということです。』
画像出展:「免疫学講義」
第14章 免疫系(防御系)と自律神経の関係 part1
1.白血球の自律神経支配
●病気は人間の能力を超えるような過酷な環境に曝されたり、あるいは過酷な生き方をしたりした結果ではないか。
●過酷な生き方と免疫システムをつなぐのが自律神経であり、自律神経によって内部環境も免疫系もうまく動くことができる。しかし、過酷な生き方は自律神経のこうした働きを狂わせてしまう。
●交感神経が活発に働く日中、副交感神経が優位になる夜間、昼夜の交互のリズムがうまくいっている場合は、病気になることはないが、過酷な労働や家の中でゴロゴロした怠惰な生活は自律神経のバランスを乱し、健康を害していく。
●暑さや寒さ、重力も大きなストレスだが、不安やおびえ、恐怖などの深い悩みも大きなストレスとなって交感神経を緊張させる。
2.日内リズム、年内リズム
●顆粒球は朝方で60%程、昼にかけて5%位上昇し夜になると下がる。一方、リンパ球は朝方35%位あったのが、日中少しずつ少なくなって夜に上がるリズムがある。これを白血球の日内リズム、サーカディアンリズムという。
●リンパ球は夏に高く、冬に低くなる。春から夏、リンパ球が増える時期に花粉と出会い、リンパ球が少ない時期に風邪が流行しやすいのは私たちの免疫にも関係している。
4.消炎鎮痛剤
●消炎鎮痛剤(NSAIDs)はプロスタグランジンの産生阻害剤である。プロスタグランジンは血管拡張作用、発熱作用、痛み作用を有する副交感神経刺激物質である。プロスタグランジンを阻害することは交感神経を優位にさせる。
●『私たちは火傷したり怪我したりすると、血管拡張して腫れて、熱が出て、痛みます。これは身体が間違いを起こしているわけではなく、組織修復・代謝亢進のために血流増多しているのです。また代謝亢進させるには熱を上げる必要があるので、発熱します。痛み作用は同じ火傷を繰り返さないように危険を察知させます。痛みがなくなった人はストーブにやたら近づいて低温火傷したりしては大変です。だから痛みというものは悪者扱いばかりはできません。痛みがあるから危険な行為をさけられるのです。プロスタグランジンの産生阻害剤はこの3つの作用を止めて交感神経緊張という形にさせるのです。』
●『激しいスポーツをしている最中は無我夢中なので、交感神経優位で知覚が低下します。ところが、スポーツを終えて休んだり家に帰ってゆっくりすると、疲労した筋肉に血流を送って乳酸のような疲労物質を洗い流します。また多少起こった筋線維断裂を修復するために血流を増やすのです。ですから、とても激しい運動をした後、野良仕事が激しかった後、あるいは散歩が長かったときなど、筋疲労を起こした後や、休んだときに痛みが出るのです。これは大怪我や大火傷と同じように、痛みと腫れは筋疲労からの脱却反応と考えなければなりません。』
●『痛み止めを貼って熱心に冷やすと、このような作用も加わって、胃の障害や組織の障害になり、全身がやられるのでやつれます。ただ長く痛み止めの湿布薬を貼った人たちが急に止めると、それまで抑えられていた血流が一気に回復するので、2、3日はびっくりするくらい腰が痛くなったり膝が腫れたりして大変です。しかし、やはり最終的には痛み止めを脱却しないと腰痛や膝痛などから回復できません。』
5.生物学的二進法
●『私がなぜ、このような自律神経や白血球の自律神経支配を研究したかというと、学生の時にこのような考え方の基本を出していた斉藤章先生(元東北大学医学部講師)がいらしたからです。その理論とは生物学的二進法です。斉藤先生は戦前・戦中のまだ抗生物質がなかった時代に感染症内科をしていた先生でした。グラム陽性球菌に感染したときは、ほとんどが顆粒球になる一方、グラム陰性の桿菌に感染したときは、多少顆粒球が残っても、ほとんどがリンパ球であるという法則を見つけたのです。このように結核菌の感染、サルモネラとかリケッチア、ウィルス、異種タンパクというような刺激で、顆粒球とリンパ球の血液中の分布が変わることを斉藤先生は見つけました。』
●『斉藤先生の発見はこれだけではありません。顆粒球が増えるような状態の患者は頻脈と胃液の分泌低下、つまり交感神経刺激反応が起こり、逆にリンパ球が増えるような状態になった人は徐脈、胃液分泌上昇などが起こり、副交感神経優位状態であることを見つけたのです。ですから私たちは感染症にかかったときや、化膿が強くなったときなど、交感神経優位状態ではすごく脈が速くなって、熱はスパイク状に出ることがほとんどです。
ところが副交感神経優位状態のときは徐脈がきて、けだるくて熱は持続する熱になります。ちょうど風邪を引いたときにずっと高熱が続くような状態です。かつては、この熱を稽留熱や持続熱と、交感神経優位の熱を間歇熱と呼んでいました。このような状態が起こるのを見て、斉藤先生は生物学的二進法といったのです。こうした講義を私は東北大学で受けて、ずっと心に留めていたのです。教授なって自分の研究テーマを好きに決められるようになってから、アイソトープと蛍光抗体を使って、顆粒球にはアドレナリンレセプターがあって交感神経刺激で活性化すること、リンパ球にはアセチルコリンレセプターが発現していて副交感神経優位になると増殖することを研究しました。』
画像出展:「免疫学講義」
発見!
『長く痛み止めの湿布薬を貼った人たちが急に止めると、それまで抑えられていた血流が一気に回復するので、2、3日はびっくりするくらい腰が痛くなったり膝が腫れたりして大変です。』
今まで、70歳代の患者様さまお二人から施術後、痛みが非常に強くなったと教えて頂いたことがありました。特にお一人は何年も毎日湿布(消炎鎮痛剤)を貼っているというお話でした。
当時、この強い痛みの原因は習慣的に貼っている湿布によるものではないかと考え、いろいろ調べたのですが、結局その時はそのような情報に出会うことはできませんでした。
今回、安保先生の『免疫学講義』の14章に上記の記述を見つけ、「やっぱり!!」と思いました。つい、うれしくなってしまったのでアップしました。
第9章 サイトカインの働きと受容体
1.サイトカインの歴史
●T細胞を増殖させる因子をTCGF(IL-2)、B細胞の増殖因子をBCGF(IL-4)と呼ばれる、サイトカインである。サイトカインはホルモンより高分子タンパクである。寿命が短くすぐ壊れてしまう。T細胞の特定のものを増やすのではなく、全体を増やし特異性がない。
●T細胞の増殖因子として見つかったサイトカインは、NK細胞やB細胞を増やしたり、B細胞の分化を助けるなどいくつかの重なる機能を持っている。そして、このような性質をもつ因子をホルモンと対比させてサイトカインと命名した。
●サイトカインはリンパ球やマクロファージが出す。また、脳神経が使っている因子にも共通しているものがあるだけでなく、身体のいたるところで広く使われていることが分かった。
2.サイトカイン
①IL-1
●IL-1はマクロファージが出すリンパ球活性因子であり、炎症性サイトカイン(内因性発熱因子)である。インフルエンザに罹ると38℃、39℃の発熱があるが、これはリンパ球が働きやすい至適温度にするためにIL-1が発熱させているのである。
②IL-2(TCGF)
●T細胞やNK細胞の最大の増殖因子である。
③IL-3
●骨髄の幹細胞の増殖因子で、分化の最初の引き金をひく。T細胞、肥満細胞、マクロファージという各細胞から出て骨髄の分化を立ち上げ、初期分化を促す。
④IL-4、IL-5、IL-6
●これらのインターロイキンはB細胞の分化にかかわる。
⑤IL-7
●骨髄や胸腺のストローマ細胞(支持細胞)である。リンパ球分化を促す。
⑥IL-8
●顆粒球の走化性[微生物や白血球などの細胞が、栄養分や誘引物質のある方向へ移動したり、逆に嫌気物質から遠ざかる性質]を刺激する物質である。ケモカインとも呼ばれるがケモカインの分子量は他のインターロイキンと比べて小さい。
⑦IL-9
●IL-2やIL-4と類似している。T細胞やB細胞を増殖させる。
⑧IL-10
●抑制因子、リンパ球の増殖を弱め、過剰な免疫反応を止める。
⑨IL-12、IL-15、IL-18
●NK細胞やCTLの活性を刺激する。
⑩IFN(interferon:インターフェロン)
●複数の作用を有する。ウィルス増殖阻止因子、MHCの発現を促す、抗原提示能を上昇させる。
⑪TGFβ(transforming growth factor)、(tumor necrosis factor)
●TGFβは機能が多岐にわたり複雑である。免疫抑制の作用がある。
●TNFαはアポトーシスを誘導して、不要になったものやガン細胞を殺している。
⑫Fas ligand
●Fasについてアポトーシスを誘導する。
●NK細胞、extrathymicT細胞、CTLが相手を殺すときに使用される。
第10章 自然免疫
1.外界に接する場所の抵抗性
●自然免疫とは獲得免疫ではないものである。
●丈夫な皮膚(ケラチン)と汗は重要な抵抗力である。腸上皮の細胞は加水分解酵素やタンパク分解酵素を持っており、補体を作る力も持っている。
●皮膚や腸管は常在細菌がおり、常在細菌は病原細菌が入ってきたときに攻撃する。
●胃の壁細胞はpH1の塩酸を出しており、ほとんどの細菌はここで死滅する。
●消化管の絨毛や繊毛は異物を運動により排出する。
2.細胞の抵抗性
●感染が起こると発熱するが、一つは内因性の発熱因子によるものである。IL-1、IL-6、TNFα、プロスタグランジンなどである。一方、細菌自体が熱を上げる場合があるが、その代表がLPSで、外因性の発熱因子である。
3.補体
●抗体が進化する前からの腸上皮の抵抗因子で、複合タンパクからなり細菌などを溶解する。
4.補体の働き
●細菌や異種細胞の溶解である。膜に穴を開けて壊す。
●白血球の貪食能を上げるオプソニン化や、白血球自身を活性化させる働きを持っている。
●免疫複合体(抗原と抗体がくっついたもの)が消えるときに補体は使われる。
6.活性化の経路
●活性化の経路は3つある。古典経路、代替経路、レクチン経路である。
7.古典経路
●抗原抗体反応から始まる経路。古典経路で補体活性化するのは、IgM、IgG1、IgG3に限られている。
画像出展:「東邦大学 抗体と補体」
『古典経路は体内に侵入してきた細菌や細胞の膜抗原に抗体(IgGやIgM)が結合して免疫複合体を形成すると、補体第1成分(C1)がこの抗体と結合して、C1が活性化されます。活性化したC1は補体C4を活性化し、その後、補体(C2~C8)を次々に活性化します。その結果、最終的に膜上に補体第9成分(C9)の複合体を細胞壁(膜)に埋め込み、細菌や細胞に穴をあけます。』
8.代替経路
●抗体を使わない経路。細菌刺激で直接C3という補体を活性化する。
9.レクチン経路
●マメ科の植物タンパク質のレクチンは直接C3を活性化する。
10.補体の産生部位
●腸上皮細胞、肝細胞(腸上皮細胞から進化)で作られる。
●補体の1~9の一部はマクロファージで作られる。
●腸は多細胞生物が進化したもの、マクロファージは単細胞時代の生き残り、身体に危険なものが来たとき、新旧の細胞が共同作業で相手の細胞や細菌を溶解しようとすることが補体の働きである。
11.補体レセプター
●補体のレセプターは、構造の違いで1から4まであり。CR1-CR4といわれている。
●補体レセプターは色々な白血球にあるが、腎臓の糸球体基底膜にもある。免疫複合体(抗原と抗体がくっついたもの)と補体のコンプレックスができ、糸球体基底膜に沈着すると腎障害が起こる。
12.細胞膜上にある補体活性抑制因子
●補体が無秩序に動き出すと、白血球が勝手に活性化したり、腎の基底膜について危険なため、身体には補体を活性化させない補体活性抑制因子も存在している。これは細胞膜上にあり、自己の細胞が溶解されないように守るためのものである。
14.補体遺伝子の欠損
●化膿性感染症を繰り返したり、免疫複合体が血液中で増加するといった独特の異常が出てきたり、白血球の貪食能が低下したりといったことが出てくる。
第11章 膠原病 part1
1.自己の認識について
●『自己免疫疾患は多くの専門家がいうように「原因不明の難病」ではありません。リウマチやSLEなど自己免疫疾患は、数年前まではなぜ起こるか分からなかったのですが、リンパ球の研究などを通じて、自己免疫疾患が起こる理由がはっきり分かりました。』
3.自己免疫疾患の誘因
①MAG
●『それでは、どうしてリウマチやSLE、ベーチェット病、シェーグレン症候群、橋本氏病といった自己免疫疾患になるのでしょう。まず1つには、組織破壊が最初にあって、自己抗原が出てくるからです。その自己抗原とは対応するクローンがnegative selectionをすでに受けたような自己抗原ではなく、めったに身体の中に現れないような自己抗原です。これを隔離抗原といいます。私たちの自己の組織でも、いつもリンパ球の前にさらされている抗原ばかりではありません。普段リンパ球が届かないような場所にいるものもあります。
隔離した抗原とは、例えば、MAG(myelin-associated glycoprotein)です。有髄の神経にはミエリン鞘があります。ミエリン鞘を合成するタンパク質の中に、MAGがあるのですが、これは、普段鞘の中にあって抗原性を出してはいません。ところが神経組織が壊れると、こういうものが隔離された状態から出てくるのです。
こうしてできた自己抗体が引き起こす疾患が、多発性硬化症(multiple sclerosis)で、目が見えなくなったり末梢神経の麻痺が起こるような自己疾患を引き起こします。
こういう病気を引き起こす1番多い原因は、夜更かしです。夜更かししてパソコンを長く見る人は大変ストレスが強く、視神経のMAGに障害が起こったときなどに、壊れるのです。それが自己抗原になってリンパ球が攻撃を始めます。多発性硬化症の患者さんは30歳前後の女性が多いのですが、みんな夜更かししてパソコンの画面を眺めるというような独特のストレスを受けているのです。そして神経の組織が壊れたとき、自己免疫疾患になるのです。』
”隔離抗原”を詳しく知りたいと思い、検索したところ出てきたものです。
『私たちの免疫系は、生後まもなく構築されるわけですが、その過程で各器官が「自己」であることを免疫系にアピールすることで、寛容が誘導され、その器官は「異物」ではなく自らの免疫で攻撃しなくなることはご存知のとおりです。ところが、生体のなかには、バリアによって免疫系から認識されにくい器官があり、隔離抗原(sequestered antigen)と呼ばれています。』
②甲状腺細胞のミクロゾーム
●『私たちの甲状腺は甲状腺ホルモンを作っていますが、それを作りタンパク合成する場所にはミクロゾームを壊されると、甲状腺に対する自己抗体が出てきて、甲状腺が壊されます。これが橋本氏病です。
橋本氏病は甲状腺がやられるので、甲状腺ホルモン(サイロキシン)が低下していきます。甲状腺ホルモンは活力のホルモンなので、元気がなくなり、疲れやすくなってやる気が起こらないという独特の症状を出すのです。それでは、なぜ甲状腺のミクロゾームがやられるかというと、多くは長時間労働が原因です。橋本氏病は女性に多いのですが、橋本氏病になった女性のほとんどは、職場の仕事を家にまで持ち込んで夜更かしを何年も続けるなど、すごく無理をしています。
すると、甲状腺が甲状腺ホルモンを作り続け、疲弊したとき血流障害が起こり細胞が壊れ、普段隔離されていたミクロゾームがリンパ球にさらされて、クローンを刺激するのです。
現在、私の本以外の教科書を読むとみな、自己免疫疾患の原因は不明になっていますが、本当ははっきりしているのです。患者さんに無理しなかったかどうか、すぐ聞き出せます。あまりにも過酷な生き方をすると私たちの組織は壊れて、隔離された抗原が出てくるのです。』
③胃壁細胞
●『私たちの胃壁には、造血と関連する因子を出す胃壁細胞があります。胃壁細胞は心配事が多いと、血流障害や顆粒球の働きによって壊れます。私たちは心配事を抱えると、びらん性の胃炎など胃の調子が悪くなりますが、これは胃の粘膜の血流障害で胃壁が壊れるからです。そういうときに、普段上皮の下に隠れている胃壁細胞がリンパ球にさらされて、抗原になります。これがいわゆる悪性貧血(pernicious anemia)の原因になるのです。』
④核、ヒストン
●『隔離された抗原が出るのは細胞を構成する成分からです。なかでも多いのはやはり核やその成分からです。核にはDNAやDNAを折りたたんでいるヒストンタンパクなどがあります。
SLE(systemic lupus erythematosus:全身性エリテマトーデス[全身性紅斑性狼瘡])とは、抗核抗体を中心とした自己抗体ができて起こる疾患です。抗核抗体は、核が抗原となります。核の中でもDNAで、折りたたまれたらせん形が離れたシングルストランド(single strand)のDNAにも抗体ができることもありますし、からまったダブルストランド(double strand)のDNAが抗原になることもあります。
SLEが1番多いのは、色白の人が紫外線を浴びたときです。なぜ狼(lupus)のような紅斑と呼ばれるかというと、まるで口が広がったように、紫外線が1番当たる所がバタフライ様に紅くなるからです。SLEは白人に多いです。色が黒いとメラニン色素で紫外線をブロックできますが、色が白いと直接紫外線の作用で細胞や核が壊れるのです。そして隔離抗原がリンパ球にさらされます。
SLEは紫外線以外でも、風邪をこじらせると起こります。ウィルスも細胞を壊します。あとはやはり夜更かしが原因です。夜遅くまで起きていることは大変なストレスなので、細胞が壊れます。特に徹夜でアルバイトをすると、細胞が壊れて病気になりやすいのです。』
⑤目の水晶体、ブドウ膜
●『目の組織というのは、普段リンパ球にさらされていません。水晶体には血管が入っていかないからです。ブドウ膜もリンパ球にさらされないような形で抗原を保っています。どういう形で隔離抗原が出てくるかというと、ほとんどが外傷です。ボールがぶつかったりけがをしたりして目が大出血し、組織が損傷を起こすときに抗原がさらされます。やられた目が治っても、片方の目も見えなくなってくるというような炎症を起こすのです。片方の目をやられて両方の目がやられるということで、「交感性眼炎」といいます。』
⑥精子
●『そのほかで普段血流にさらされない場所というのは精子です。精子が壊れて血中に出ると隔離抗原が出ます。1番有名なのはおたふくかぜです。子供のときおたふくかぜにかかると、外分泌腺が腫れるだけで治りますが、大人がかかってこじらせると精巣炎が起こります。すると隔離抗原が精子から出て、無精子症になるのです。それからたまに外傷でも起こります。硬式野球をやっていて球を精巣に当てて何日も腫れ上がるような外傷を受けたとき、隔離抗原が精子から解放されて、残った精子に対して攻撃するので、無精子症になるのです。
このように、普段私たちの免疫系が働けないような自己認識がリンパ球に出合うようなことが起こると、自己免疫疾患になるのです。このときかかわるリンパ球はみな、胸腺外分化T細胞かB-1細胞です。』
画像出展:「免疫学講義」
⑦modified self
●『隔離された抗原で自己免疫疾患が発症すること以外で、もう1つ覚えておかなければならないものがmodified selfです。いわゆる自分の自己抗原が少し変性して抗原性を獲得するという形です。紫外線によってタンパク変性したり、薬物がキャリアタンパクに付着して変性します。いろいろな風邪薬で一気に自己免疫疾患が発症することがあります。
特にスティーブンス・ジョンソン症候群といって、風邪薬を飲んで全身の粘膜が腫れて失明したり、SLE様の症状を出したり、タンパク尿を出したりするという症状を発症します。
例えば私たちのタンパクでもっとも多いアルブミンの場合です。普段アルブミンはnegative selectionで反応するクローンはなくなっていますが、薬物が付いてmodifyされると修飾自己抗原になるのです。
薬物の中でもっとも多いのは風邪薬・消炎鎮痛剤(アスピリン)ですが、ペニシリンなどの抗生物質もタンパク質を変性させます。これはいろいろな血球の膜に付くこともあるので、血球が抗原になる疾患です。血球はもちろんnegative selectionされているのですが、薬物が付くために、血球が自己抗原になることもあります。
血球の中で修飾自己抗体がもっとも多く付着しやすいのが血小板です。そもそも血小板というのは、血管が出血した所に付着するための物質なので、いろいろなものに吸着する力をもっています。そうして発症する病気が、血小板減少性紫斑病です。血小板に対する自己抗体ができて、どんどん血小板が減っていきます。するとちょっとした打撲でも止血できなくなって腫れ上がり、そのあとが紫色になるのです。これは薬を飲んでもなりますが、長時間労働などでもなります。
私は将棋が好きなのでプロの棋士の名前を知っていますが、今から30年くらい前に山田道美九段は、大山名人に負けても負けても何度も挑戦権を獲得してがんばっていました。山田九段は打倒大山のために睡眠時間を削って将棋の勉強をして、1日何十局も過去の棋譜を調べたりして並べて、血小板減少性紫斑病にかかり34歳で死んでしまいました。ですから、あまり無理をするといけません。
自己免疫疾患は原因不明といわれていますが、このような考え方をすると謎が解けます。原因が分かれば原因を取り除けば治ります。原因不明としているため、対症療法の薬を飲んでもっと身体を痛めつけて、治らないということになっているのです。
それから、顆粒球が抗原になるのは顆粒球減少症です。細菌処理に大切な細胞である顆粒球がどんどん減ってしまいます。赤血球が抗原になる溶血性貧血は、薬物が原因であることが多いです。風邪をひいて風邪薬を飲んで、自己免疫性の溶血性貧血になることもあります。このように血球成分のうち血小板が変性して自己抗原になり、顆粒球の膜成分が変性して自己抗原になります。これらは過労か薬物が原因です。』
画像出展:「免疫学講義」
4.自己免疫疾患の分類
●SLEは全身性の自己免疫疾患であり、全身の血管炎である。
●血管内皮細胞はマクロファージが血球に分化して、その分化した血球を流すために自ら管になった。従って、血管内皮細胞はマクロファージと同じように貪食能があり、白血球の炎症とともに血管炎が起こる。
●SLEは核が抗原になるため、対象は全身の細胞になる。線維芽細胞や血管内皮細胞が攻撃されて戦い、炎症を起こす。
●ネフローゼは血管内皮細胞に負担がかかるような生き方をして、血管に隙間ができて、漏れることが原因である。
●関節リウマチ、橋本氏病、、無精子症は臓器特異的自己免疫疾患だが、それぞれ関節、甲状腺、精巣がやられる。
●複合型自己免疫疾患であるGoodpasture syndromeは腎臓と肺の基底膜が障害される。腎臓はエラから進化したため腎臓と肺の細胞はよく似ており、場所は離れているが腎臓と肺で自己免疫疾患になる。
画像出展:「免疫学講義」
5.自己障害のメカニズム
①自己抗体
●自己組織の障害のメカニズム
-B-1細胞が出す自己抗体が攻撃するパターンは、抗DNA抗体・抗ミトコンドリア抗体が直接組織や分子を攻撃して組織を破壊したり、機能をブロックする。
②補体の活性化
●抗原抗体反応ができて、順にFc部分が活性化すると、補体のC1から順に活性化が始まる。
※Fc領域:(fragment crystallizable region:フラグメント結晶化可能領域)は抗体の尾部にあたる領域で、Fc受容体と呼ばれる細胞表面の受容体や補体系のタンパク質と相互作用する。
画像出展:「抗体:ニュートリー(株)」
『抗体の基本構造は、2本の長いH鎖と2本の短いL鎖からなるY字型の構造である.そのなかで抗原の結合部位となるFabと、免疫細胞などと結合するFcに分けられる。抗体の実体は免疫グロブリンという糖タンパク質であり、Fab部位のアミノ酸配列の違いによって5つのクラス(IgM、IgD、IgG、IgE、IgA)がある。各クラスの抗体は、体内の異なった部位で多様な機能を発揮している。一方でFc部位は免疫細胞に発現するFc受容体と結合する。』
③マクロファージの活性化
●白血球の基本はマクロファージである。そして、マクロファージが活性化すると炎症を起こす。まず、炎症性サイトカインで発熱・腫れ・痛みが出てくる。IL-1・IL-6・TNFα・IFNγには、発熱作用・血管拡張作用・痛み作用がある。
●マクロファージが活性化しすぎると自分の血球を飲み込んでしまう(血球貪食症)。
④リンパ球の直接攻撃
●リンパ球(NK、CTL、胸腺外分化T細胞など)は、色々な細胞を直接攻撃して、肉芽腫形成することもある。
⑤免疫複合体(immune complex)
●腎臓の糸球体の基底膜に免疫複合体が沈着するのが糸球体腎炎である。また、RA(関節リウマチ)は腫れ、発熱、痛みがあり動かないでいると免疫複合体が沈着して関節が動かなくなる。このように免疫複合体は様々な病気に関与している。
⑥血管内皮細胞の炎症
●血管内皮細胞の炎症でも主体になるのはマクロファージである。
画像出展:「免疫学講義」
6.SLE
●SLEは20歳代の女性に多く、最初は風邪のような症状が出る。女性に多い理由の一つに過敏であることがあげられる。過敏かどうかはその人のリンパ球の数で決まる。特に妊娠適齢期の女性は1番リンパ球が多いため過敏になりやすい。
ケースも多く特に注意が必要な刺激が紫外線である。次に多いのがウィルス感染である。これはリンパ球が多いとEBウィルスやパラミクソウィルス、風邪ウィルスなどに感染によって血管炎をおこす。それ以外では夜更かしなどのストレス危険である。以上のように、SLEは過敏な人(リンパ球が多い人)が、紫外線、ウィルス、夜更かしなどのストレスを受けて発症するのである。SLEは全身にある抗原と反応するので、関節が腫れるRAや、唾液が出ないシェーグレン、糸球体腎炎などの自己免疫疾患が全身に出てくることが多いのである。
第2章 免疫学総論 part2
1.免疫で使われる分子群
●抗体はアミノ酸100個の塊(ドメイン構造と呼ばれる)が4個、5個つながった重鎖と、100個くらいのものが2個つながった軽鎖からできている。また、T細胞レセプターも、アミノ酸100個くらいの塊2個が対になっている。
●抗原と抗体とが1対1に対応していることから「鍵と鍵穴の関係」といわれている。
●免疫に関係する分子は、アミノ酸100個くらいのタンパク質である祖先遺伝子が染色体の中で、多様化したり、合体を繰り返して進化してきた。
●抗体はIg(immunoglobulin)となり、その仲間は免疫グロブリン遺伝子スーパーファミリー(immunoglobulin gene superfamily)と呼ばれる。これは接着分子の基本構造から進化した。
●ヘルパーT細胞は、T細胞やB細胞の分化や活性化を助ける。傷害性T細胞は異物細胞を直接攻撃(傷害)するということに由来している。
●多細胞生物である私たちの身体は接着分子によってバラバラになることがない。タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)により接着分子は壊れるが膜は壊れない。
●各細胞はナトリウムを外に出して膜をプラスに荷電してエネルギーを作っている。この荷電により、細胞同士が反発し合う。赤血球が互いに反発し合うのは荷電によるエネルギーのおかげである。
●生活習慣の乱れから血液ドロドロになるのは、ナトリウムを出して膜電位を維持できなくなるためである。
●細胞と細胞は接着分子でくっついているが、そこに異物が入り込むと、フリーの白血球であるリンパ球がそれを攻撃して死滅させる。このように、接着分子と接着分子の間に入った異物を異常細胞と見なし、攻撃して速やかに排除して、再び確かな細胞だけで生き延びようとするのが免疫の始まりといえる。
●免疫は異物を認識するために始まったのではなく、細胞が自分同士を認識する中でその間に入り込んだ異物の違和感からその危険なものを攻撃する。つまり、免疫とは異物への攻撃であるため、ウィルスでもガン細胞でも攻撃し死滅させる。これが免疫の基本的なメカニズムである。
●外来抗原を認識するようになるのは、免疫の進化の後期からのことである。
●免疫の始まりは、一つは異物を食べて処理するマクロファージと顆粒球の流れであり、もう一つは接着分子を利用して侵入してきた異物に対して攻撃するリンパ球の流れである。免疫の原点は異常自己を見つけることから始まっている。
2.リンパ球の進化
●免疫細胞は進化しても、古い細胞がなくなることがない。現在のそれぞれの比率はT細胞(70%)、B細胞(15%)、胸腺外分化T細胞(10%)、NK細胞(5%)である。
●加齢ともに胸腺の退縮と骨髄の脂肪化のため、T細胞、B細胞は減少し、一方、腸管でつくられる胸腺外分化T細胞と肝臓でつくられるNK細胞が増える。
●リンパ球は生物が上陸する前から進化してきた。胸腺外分化T細胞やNK細胞は腸管粘膜でつくられた。胸腺の進化は上陸後であり、新しいT細胞やB細胞は上陸後からであるが、上陸により、植物のホコリや苔の死骸などあらたな異物と遭遇することで進化したと考えられる。なお、現在でも腸管や肝臓などには古いリンパ球であふれている。これらは自己応答性でウィルス感染自己細胞やガン化した自己細胞を異常自己として攻撃するシステムである。
画像出展:「免疫学講義」
4.マクロファージの働き
●いろいろな異物を食べる機能(貪食能)。
●健康でマクロファージの働きが強いと、免疫反応を誘発せずに貪食能によって全部処理をするため、風邪症状も出さない。
●リンパ球や顆粒球が上乗せされて自分が少数派になってからは、指令を出し顆粒球(細菌の侵入)やリンパ球(ウィルスの侵入)を誘導する。
●顆粒球やリンパ球誘導後、組織の修復を行う。マクロファージが破片も食べるので元の正常の組織にもどる。
●マクロファージは栄養が過剰になると栄養処理を行う。栄養処理とは脂肪細胞に引き渡したり、あまりに摂取する栄養が多いときは、動脈壁にはりついたりして、そのまま死滅する泡沫細胞になる。ただし、泡沫細胞の血管壁への沈着は動脈硬化を促進する。一方、飢餓状態ではマクロファージは自分を食べて生き延びようとする。
●マクロファージのあらゆる働きで、生き延びる戦略をとれるのはマクロファージが単細胞生物時代の生き残りだからである。
●過食は処理するマクロファージにも大きな負担となり、炎症と同じように炎症性物質である炎症性サイトカインを出す。ガンの末期や病気の末期に栄養を入れると患者さんが苦しんでしまうのは、過食に伴う炎症性サイトカインが原因である。
●風邪で高熱を出した時に食欲が落ちるのは、これはマクロファージが免疫系に専念するための身体の反応である。栄養処理にばかりマクロファージを使ったら病気の治りは遅くなる。
●『私たち人間は、死ぬとき食べるのを止めて死ぬと安らかに死ねます。昔から聖人といわれた多くの人は、死期を悟ったら数日食を絶って死んでいるのです。しかし今の医療はやたらと点滴したり、中心静脈栄養を入れたり、胃瘻を作ったりして管をつけています。ですから、すごく死の苦しみを味わって死んでいるのです。やはり私たちも病気になって食欲を失ったら、マクロファージが免疫系に専念するための栄養処理からの解放について考えないといけません。』
5.白血球の分布と自律神経
●末梢血では顆粒球が60%、リンパ球が35%、マクロファージが5%である。ただし、この比率には個人差がある。さらに、自律神経系の働きと連動している。顆粒球は膜状にアドレナリンレセプターがあり、交感神経が緊張すると分裂して数を増やす。リンパ球の方はアセチルコリンレセプターがあって、副交感神経が優位になると数が増える。
●交感神経緊張が続き、リンパ球が少なくなると免疫力が下がってくる。すると、常在するウィルスが暴れ出すが、帯状疱疹や単純ヘルペスなどは代表的なものである。
画像出展:「免疫学講義」
画像出展:「免疫学講義」
第3章 免疫担当細胞
1.マクロファージ
●自分と会う主要組織適合抗原(MHC:major histocompatibility complex)を探すには10万人必要とされている。
●樹状細胞はマクロファージが進化した細胞で、貪食能はなく、MHCが強く、Tリンパ球に抗原提示する働きが非常に強いという特徴を有する。細胞膜から樹状突起が出て、リンパ球を抱え込んで抗原提示する能力を増強する。
●虫歯ができて顎下リンパ節が腫れたり、水虫が化膿して鼠径リンパ節が腫れたりするときは、樹状細胞がリンパ球に抗原提示した反応が始まっている。
4.TCR(T cell receptor)の構造
●多くの免疫系は38度、39度の温度が反応のピークであり、病気になったときに熱が出るのは免疫反応を高めて早く病気を治そうとする反応である。しかしながら、体温が41度を超えると細胞内のミトコンドリアが活性酸素を出し、突然死の恐れが出てくる。その場合は速やかに身体を冷やして熱を下げなければならない。
●お風呂の限界は45度である。50度を超えるとタンパク凝固が始まる。
5.B細胞の種類
●B細胞は小さい細胞でほとんどが核である。通常は細胞には細胞質の中にミトコンドリアや粗面小胞体、ゴルジ体、細胞小器官が必要だが、B細胞は核だけで細胞質もほとんどない。
●T細胞もB細胞も、普段はほとんど休止しているため、1960年に入る前は「何も仕事をしていない珍しい細胞である」と考えられていた。いずれも抗原の刺激があると分裂を始める。分裂すると小型から中型、大型のリンパ球に変わる。
●B細胞の場合は、活性化リンパ球になると粗面小胞体でタンパク合成が起こり、抗体を外に分泌する。抗体を産生するようになったB細胞は形質細胞、あるいは抗体産生細胞、活性化B細胞と呼ばれる。
6.抗体の種類
●B細胞が産生する抗体には、IgM、IgG、IgA、IgEと、働きがはっきりしていないIgDという細胞がある。
●一次感染で最初に出てくるのは、IgMである。二次刺激でもIgMが多少でるが、IgGが出てくる。IgGは血清中で量が最大である。
●IgAは消化液や分泌液の中、いわゆる腸や涙、唾液に出てくる。
●IgEはアレルギーとして有名である。アトピー性皮膚炎、気管支喘息、あるいは寄生虫感染で増える。
●血清中、IgGに次いで多いのがIgA、次にIgMである。IgEは健康な人からはほとんど検出されず、アレルギーを持っている場合に検出される。
画像出展:「免疫学講義」
第4章 B細胞の分化と成熟
1.分化、成熟(differentiation, maturation)
●B細胞を作るのは骨髄の幹細胞である。
●ヘルパーT細胞がB細胞を分化させるのに、IL-4、IL-5、IL-6が必要である。ILはインターロイキンの省略で白血球の間を取り持つ高分子タンパクという意味である。ILはいずれも、B細胞の分化・分裂を促す。さらに、IL-4はIgEへ、IL-5はIgAへ、IL-6はIgGへの分化をそれぞれ促す。
①多発性骨髄腫
●多発性骨髄腫の場合は、形質細胞のレベルでガン化した病気である。
②B細胞型の悪性リンパ腫(malignant lymphoma)
●悪性リンパ腫はB細胞のレベルでガン化する。
●リンパ球血症もあるが極めて少ないので、リンパ球、特にB系統の腫瘍化のほとんどは多発性骨髄腫と悪性リンパ腫である。
3.抗体の働き
①抗原の凝集
●B細胞の働きの一つは外来抗原の無害化である。
●自己抗体は身体に生じた異常自己を速やかに排除する機能がある。
●B細胞は、外来抗原向け抗体を作るものと自己抗体を産生するものに区別できる。
②補体とともに膜の溶解
●抗体のFc(fragment C)とC領域(constant region:定常域)に補体が結合し、細菌の膜や他人の赤血球膜、移植片細胞膜を溶解する。補体はC1からC9まであって、C1から順に活性化が始まる。
③ADCC(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)
●ADCC活性によって、CTL(cytotoxic Tcell:傷害性T細胞)と、NK細胞は、リンパ球でガン細胞を死滅させる。
●ADCC状態ができると、CTLからperforinというキラー分子が放出されてガン細胞の膜が傷害され壊される。
●NK細胞の攻撃、CTLの攻撃、この2つに抗体が加わって攻撃するという3つの方法でガン細胞を攻撃する。
●免疫を高めた患者がガンを自然退縮させた人は数百人規模で確認できている。
第5章 T細胞の種類 part1
1.T細胞の抗原レセプター(TCR)
●B細胞は抗体(Ig)を使って抗原認識をするが、T細胞はTCR(T cell receptor)を使うが、TCRは抗体と違って、単独で抗原を認識してはいない。
3.胸腺内分化T細胞と胸腺外分化T細胞
●胸腺内分化T細胞は胸腺で分化して、その後末梢へいく。末梢とはリンパ節、脾臓(白脾髄)、末梢血である。
●胸腺外分化T細胞は、腸管、肝臓、外分泌腺の周り、子宮内膜などにある。
画像出展:「免疫学講義」
第6章 T細胞の種類 part2
3.Tc細胞の働き
●分裂する前のリンパ球は小リンパ球である。トランスフォーメーションを起こしたリンパ球は細胞内小器官であるミトコンドリアやゴルジ体もできて、大リンパ球になる。
画像出展:「免疫学講義」
●大リンパ球は活性化リンパ球ともいわれ、CTL(細胞傷害性T細胞)になる。CTLはperforinキラー分子を作りだす。相手がガン細胞や移植した細胞に対しては膜に穴をあけて死滅させる。
●CTLはFas ligandという分子を作り、Fasという分子に働いて細胞内にアポトーシス(自分で死滅する)シグナルを入れる。
●CTLはガン細胞、ウィルス感染細胞、移植片細胞などの標的を、perforinやFas ligandを使って壊す。
4.Th細胞の働き T-B cell interaction
●ヘルパーT細胞は抗原刺激で小リンパ球が大型リンパ球になって、タンパク質を作る。ここで作られるのが、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10のサイトカインである。
●サイトカインは分子量が多い高分子だが、寿命は短く、血液の中で壊されたり、すぐに希釈されたりする。
5.リンパ球の抗原提示
●抗原提示を行っているのはマクロファージと樹状細胞である。このような抗原提示細胞がないとリンパ球の分裂は起こらない。
7.ガン化
●T細胞は抗原が来たときに反応して、刺激(MHC[主要組織適合抗原]+抗原)がなくなると自然に分裂は収まるが、ある時点で腫瘍化することがある。B細胞は悪性リンパ腫や多発性骨髄腫になることがあるように、T細胞も色々なステージで腫瘍化する。
●T細胞の腫瘍化には急性リンパ性白血病があるが、これはPreT細胞などの早い段階で腫瘍化する。一方、慢性リンパ性白血病はある程度成熟したT、B細胞の腫瘍化である。
●自己免疫疾患は胸腺外分化T細胞の異常な活性化で起こるので、肝臓、外分泌腺で起こる。自己免疫疾患には、ベーチェット病、シェーグレン症候群、SLE、関節リウマチなどだが、唯一胸腺と関係するのは重症筋無力症である。
画像出展:「免疫学講義」
●『不思議ですね。胸腺のリンパ球が増えるのに自己免疫疾患になります。私たちの筋肉は収縮するとき、神経末端から出るアセチルコリンを使って収縮します。それで、まぶたがあけられない、筋肉がなかなか収縮できないというMG(重症筋無力症)が起こるのです。こういう現象を知るには、普通のT細胞の分化だけではなくて、胸腺のmedulla(髄質)に八ッサル小体のような外胚葉の上皮によって育てられる古いリンパ球がある、ということを分からないと謎が解けなかったのです。これは私の研究室で見つけた現象です。』
●老化、ガン、マラリアといった、いろいろな自己抗体ができる世界が原因不明になっている。これは胸腺の分化の失敗ではなく、生物が上陸する前の古い免疫系のほとんどがストレスによって活性化している世界なのである。
●SLEでも、関節リウマチでも重症筋無力症でも、自己免疫疾患の患者さんから話を伺うと、発症前に非常に強いストレスを受けていたことがわかる。特に一番多いストレスは夜更かしである。
第7章 主要組織適合抗原 part1
4.分布
●MHC(主要組織適合抗原)のClassⅠは、全身のほとんどの細胞で発現している。
●MHCが発現していないのは赤血球である。血液型さえ合わせれば輸血できるのはMHCを発現していないためである。発現していないのは、赤血球が脱核してDNA→RNA、RNA→タンパク合成の機能をやめてしまったためである。したがって、幼若で骨髄でまだ核のある未熟な時期にはMHCは発現している。
●赤血球以外でMHCがないのは、胎児胎盤である。また、脳内のニューロンはMHC陰性である。脳はほとんど抗原提示能がないため脳では炎症がとても起こりにくい。ただし、脳神経の間に混じっているグリア細胞はMHC陽性のため、長い目で見れば拒絶されてしまう。
●MHC陽性には差がある。1番強いのは樹状細胞、他はマクロファージ、皮膚である。腎細胞はそれほど高くなく、さらに低いのは肝細胞である。腎移植、肝移植が可能なのはこのためである。
第8章 主要組織適合抗原 part2
3.Polymorphic MHCとmonomorphic MHC
●1990年代後半、個人間で多様化していないMHCが見つかった。それがmonomorphic MHCである。
●ヒトの場合、個人間で多様化のあるMHCがHLA-A、B、C、D、多様化のないMHCがHLA-E、F、Gである。
※HLA:『HLA(Human Leukocyte Antigen=ヒト白血球抗原)は1954年、白血球の血液型として発見され、頭文字をとってこう呼ばれてきました。しかし、発見から半世紀以上を経て、HLAは白血球だけにあるのではなく、ほぼすべての細胞と体液に分布していて、組織適合性抗原(ヒトの免疫に関わる重要な分子)として働いていることが明らかになりました。』
●monomorphic MHCは、非常に特殊な場所に発現している。HLA-Eは腸上皮細胞、HLA-Fは肝細胞、HLA-Gは子宮内膜と胎盤の絨毛細胞である。腸にあるリンパ球も、腸から発生した肝臓に以前からあるリンパ球も、NK細胞や胸腺外分化T細胞などの古いリンパ球である。子宮や胎盤の間にも古いリンパ球がある。
●子宮の胎盤がなぜ拒絶されないかという疑問は、monomorphic MHCの理解によりこの謎の本質に迫れた。
●『子宮内膜の面と胎盤の接点は、HLA-Gをともに発現します。HLA-Gは個人間で多様化していないので、結局、父親からの遺伝子も母親からの遺伝子も同じタンパクを作ってアミノ酸配列が違わないのです。そしてHLA-A、B、C、D、はマイナスです。こういう仕組みがわかってきました。ここではNK細胞と胸腺外分化T細胞が働いています。NK細胞と胸腺外分化T細胞は自己応答性です。これらは膜上にアドレナリン受容体を持っていて、交感神経刺激(ストレスなど)で活性化されます。ですから、母親が忙しく仕事しすぎたり、悲しい出来事があってつらいめにあったり、あるいは、心臓や腎臓に持病があって交感神経がだんだんと刺激されたときなどに、流産が起こるのです。新しい免疫系は働きませんが、古い免疫系の活性化で流産が起こります。古い免疫系は自己応答性なので、子宮内膜と胎盤を攻撃するのです。すると胎盤が母親の子宮の内膜についていられなくなります。早期の流産も、後期の流産もこういうメカニズムで起こっています。』
4.HLAのタイプと疾患感受性
●HLAのタイプはバラバラだが、日本人、ヨーロッパ人というように集団や民族によって、多少特徴はある。
●『自己免疫疾患の原因は、ほとんどがストレスです。ストレスが直接組織を壊すか、あるいはストレスがかかって免疫が下がり、常在ウィルスが暴れて、感染症が起こります。風邪をひいて発症するか、その発症のときに特定のHLAが特定の自己抗体を作りやすくするのでしょう。』
●『特定のHLAはストレス、あるいはウィルスがはびこる組織が壊れるときに、特定のタイプの自己抗体が入りやすいのです。これらの病気が起こると、肺と腎臓と同時に、そのほかの臓器の基底膜にも自己抗体ができます。』
画像出展:「免疫学講義」
5.MHC以外の拒絶タンパク
●MHCのマッチングはヒトでは約10万人対1人のレベルである。
●MHCが100%マッチングさせても拒絶される現象がある。MHC以外のタンパク質で、拒絶の原因として考えられるのは、Mls(minor lymphocyte stimulatory)である。Mlsはレトロウィルスという、エイズやヒト成人T細胞白血病ウィルスなどのタンパク質である。これらが身体に住み着いてそこからできるタンパク質がいろいろな組織に入って、MHCのClassⅡに乗って拒絶タンパク質になっている。
6.その他
●認識する抗原は進化とともに変わる。免疫系の進化はMHCの進化とリンパ球の進化が並行して起こる。進化・上乗せされ、最終的にT細胞、B細胞になった。
●免疫が変遷を重ねて、進化していっても古いリンパ球も古いMHCも残っていて、あるステージがくると働くのである。そのステージとは、基本的には老化現象などと関係している。90歳を超えてくるとT細胞、B細胞はかなり減り、NKや胸腺外分化T細胞、自己抗体を産生するB細胞、血清中では自己抗体が非常に増える。
●進化で獲得した免疫は、若い年代、20代~30代でピークを迎え、その後はまた古い免疫が優勢になる。これが免疫の中で系統発生と個体発生進化が加齢で現れるということである。
安保徹先生の著書は何冊か拝読させて頂いていましたが、今回の『免疫学講義』はB5判で237ぺージという、詳細かつ高度な内容の本でした。
この本を読みたいと思ったのは、『コロナワクチン失敗の本質』という宮沢孝幸先生の著書に書かれていた、「液性免疫(抗体)に偏って考えるのはいかがなものか。免疫は自然免疫、細胞性免疫、液性免疫の総合力で考えるべきではないか」というご指摘が印象に残ったためです[ブログ:“コロナワクチンの疑問”]。
著者:安保徹
出版:三和書籍
初版発行:2010年12月
目次が大変長いということ、またブログ自身も5つに分けているということから、最初に「あとがき」をご紹介させて頂きます。
私が最も重要だと思ったことは、「ストレスと顆粒球、およびストレスとリンパ球の相関関係を理解する」ということでした。
『現代医療は、多くの病気を原因不明として対症療法を行う流れが拡大しています。しかし、多くの病気はストレスを受けて免疫抑制状態になって発症しています。原因は不明ではないのです。ストレスで生じる「低体温、低酸素、高血糖」は短いスパンではエネルギー生成のうちの「解糖系」を刺激して瞬発力を得て危機を乗り越えるための力になっています。しかし、長期間このような状態が続くと、エネルギー生成のうちの「ミトコンドリア系」を抑制してエネルギー不足に陥ります。これがストレスで起こる慢性病の発症のメカニズムです。そして、いずれガンを引き起こす原因につながっていきます。
ストレスをもっとも早く感知するのは私たちの免疫系です。末梢血のリンパ球比率やリンパ球総数は敏感に私たちのストレスに反応しています。この反応には自律神経系と副腎皮質ホルモン系が関与しています。臨床では血液検査を行い、いつでもリンパ球比率を知れる状況にあるのですが、ストレスとリンパ球の減少の相関をほとんど教育の場で学ぶことがないので、血液検査のデータが活用されていないのが現状です。末梢血のリンパ球比率は35-41%が正常値で、ここから減少しても増加しても病気になってしまいます。
顆粒球過剰(リンパ球減少)は組織破壊の病気と結びつきます。逆に、リンパ球過剰はアレルギー疾患や過敏症の病気と結びついていきます。本講義録で学んだ知識があれば、多くの病気の発症メカニズムを知ることができます。対症療法を延々と続ける必要もなくなるのです。
消炎鎮痛剤の害やそのほかの薬剤の副作用なども、この本で学べたと思います。患者に良かれと思って続けている薬剤の投与の中にも多くの危険が潜んでいるのです。特に、自己免疫疾患の治療においては、本書の知識が役立つでしょう。そして、私たち生命体が持つ偉大な自然治癒力を引き出すことのできる新しい医学や医療が進展していくことでしょう。』
ブログは目次の黒字部分について触れています。
目次
まえがき
第1章 免疫学総論 part1
1.免疫学の歴史
2.身体の防御システム
3.白血球の進化
4.リンパ球の性質
5.リンパ球の産生と分布
6.Tリンパ球とBリンパ球
7.主要組織適合抗原
8.免疫が関与する疾患
①感染症:ウィルス感染、一部細菌感染
②アレルギー疾患:アトピー性皮膚炎、花粉症、アナフィラキシー
③移植の拒絶
④自己免疫疾患(膠原病)
⑤加齢現象
⑥妊娠―つわり、流産
⑦ガン免疫
⑧先天性免疫不全症
第2章 免疫学総論 part2
1.免疫で使われる分子群
2.リンパ球の進化
3.胸腺の進化
4.マクロファージの働き
5.白血球の分布と自律神経
第3章 免疫担当細胞
1.マクロファージ
2.リンパ球サブセット
3.T細胞の種類
4.TCR(T cell receptor)の構造
5.B細胞の種類
6.抗体の種類
第4章 B細胞の分化と成熟
1.分化、成熟(differentiation, maturation)
①多発性骨髄腫
②B細胞型の悪性リンパ腫(malignant lymphoma)
2.B細胞の抗原認識受容体(Ig)の遺伝子
3.抗体の働き
①抗原の凝集
②補体とともに膜の溶解
③ADCC(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)
第5章 T細胞の種類 part1
1.T細胞の抗原レセプター(TCR)
2.TCRのシグナルを伝える分子
-CD3 complex
3.胸腺内分化T細胞と胸腺外分化T細胞
4.CD4⁺T細胞の認識
5.CD8⁺T細胞の認識
6.Th0、Th1、Th2細胞
7.T細胞の胸腺内分化
8.胸腺外の分化
第6章 T細胞の種類 part2
1.TCR遺伝子の再構成(rearrangement of TCR genes)
2.クローンの拡大
3.Tc細胞の働き
4.Th細胞の働き T-B cell interaction
5.リンパ球の抗原提示
6.胸腺外分子T細胞が働くとき
7.ガン化
第7章 主要組織適合抗原 part1
1.移植の拒絶抗原
2.抗原提示分子
3.構造
4.分布
5.ヒトとマウスMHC
6.MHCの遺伝子
7.TCRの認識
第8章 主要組織適合抗原 part2
1.リンパ球の抗原認識と分裂
2.抗原とMHCの結合
3.Polymorphic MHCとmonomorphic MHC
4.HLAのタイプと疾患感受性
5.MHC以外の拒絶タンパク
6.その他
第9章 サイトカインの働きと受容体
1.サイトカインの歴史
2.サイトカイン
①IL-1
②IL-2(TCGF)
③IL-3
④IL-4、IL-5、IL-6
⑤IL-7
⑥IL-8
⑦IL-9
⑧IL-10
⑨IL-12、IL-15、IL-18
⑩IFN(interferon:インターフェロン)
⑪TGFβ(transforming growth factor)、TNFα(tumor necrosis factor)
⑫Fas ligand
3.サイトカイン受容体
①γcを共有するサイトカイン受容体
②βcを共有するサイトカイン受容体
③gp130(glyoprotein130)を共有するサイトカイン受容体
4.ケモカイン(chemokine)と接着分子
5.細菌毒素LPS(lipopoly sacharide)
第10章 自然免疫
1.外界に接する場所の抵抗性
2.細胞の抵抗性
3.補体
4.補体の働き
5.補体のタンパク群
6.活性化の経路
7.古典経路
8.代替経路
9.レクチン経路
10.補体の産生部位
11.補体レセプター
12.細胞膜上にある補体活性抑制因子
13.遺伝子
14.補体遺伝子の欠損
第11章 膠原病 part1
1.自己の認識について
2.自己認識のステップ
3.自己免疫疾患の誘因
①MAG
②甲状腺細胞のミクロゾーム
③胃壁細胞
④核、ヒストン
⑤目の水晶体、ブドウ膜
⑥精子
⑦modified self
4.自己免疫疾患の分類
5.自己障害のメカニズム
①自己抗体
②補体の活性化
③マクロファージの活性化
④リンパ球の直接攻撃
⑤免疫複合体(immune complex)
⑥血管内皮細胞の炎症
6.SLE
第12章 膠原病 part2
1.進化した免疫系の抑制
2.中枢神経系の自己免疫疾患
3.内分泌器腺の自己免疫疾患
4.消化管・肝の自己免疫疾患
5.腎の自己免疫疾患
6.心臓の自己免疫疾患
7.眼の自己免疫疾患
8.皮膚の自己免疫疾患
9.Chronic GVH病
10.老化
11.動物モデルと自己免疫疾患
第13章 神経・内分泌・免疫
1.ストレスと生体反応
2.急性症状
3.急性症状が出る仕組み
4.急性症状はストレスに立ち向かう反応
5.交感神経と顆粒球の運動
6.慢性症状
7.ストレスの要因
8.ミトコンドリアへの負担
9.ミトコンドリアとステロイドレセプター
10.ストレスと免疫抑制
11.解糖系でエネルギーを作る細胞(ミトコンドリアの少ない細胞)
12.受精とは何か
13.ヒトの一生
14.調和の時代にストレスを受け続ける
15.生体の治癒反応
16.副交感神経優位(楽をして生きる)でも病気
第14章 免疫系(防御系)と自律神経の関係 part1
1.白血球の自律神経支配
2.日内リズム、年内リズム
3.新生児の顆粒球増多
4.消炎鎮痛剤
5.生物学的二進法
第15章 免疫系(防御系)と自律神経の関係 part2
1.アレルギー疾患
①アナフィラキシーショック
②アトピー性皮膚炎、気管支喘息、通年性鼻アレルギー
③食物アレルギー
④花粉症、蕁麻疹
⑤化学物質過敏症
⑥寄生虫感染
⑦寒冷アレルギー、薬物アレルギー、紫外線アレルギー、金属アレルギー
⑧乳児アトピー
2.顆粒球増多と組織破壊の病気
①突発性難聴[内耳](idiopathic sudden sensorineural, sudden deafness)
②メニエール病[三半規管](Meniere disease)
③歯周病(periodontitis)
④食道炎(esophagitis)
⑤びらん性胃炎(erosive gastritis)→胃潰瘍(gastric ulcer)
⑥十二指腸潰瘍(duodenal ulcer)
⑦クローン病(Crohn’s disease)
⑧潰瘍性大腸炎(ulcerous colitis)
⑨痔疾(hemorrhoid)
⑩子宮内膜症(endometriosis)
⑪不妊症(infertilitas)
[子宮内膜症(endometriosis)、卵管炎(salpingitis)、卵巣嚢腫(ovarian cyst)]
⑫膵炎[急性・慢性](pancreatitis[acute・chronic])
⑬腎炎・腎盂炎(nephritis・pyelitis)
⑭膀胱炎(cystitis)
⑮骨髄炎(myelitis)
⑯間質性肺炎(interstitial pneumonia)
第16章 移植免疫
1.移植(transplantation)と拒絶(rejection)
2.MHC
3.移植
4.純系
5.拒絶の速さ
6.純系と拒絶
7.移植のしやすさ―MHCの発現量
8.HLAタイピング
9.骨髄移植(bone marrow transplantation)
10.GVH病(GVHD:graft-versus-host disease)
11.反応するリンパ球
12.新生児免疫寛容(neonatal tolerance)
13.拒絶に関与するほかの白血球
14.non MHCによる拒絶
15.免疫抑制剤(immunosuppressant)
16.Hybrid resistance
17.輸血によって生着率上昇
第17章 免疫不全症
1.先天性免疫不全症(primary immunodeficiency)
①wide type(野生型)の血液像(FACSを用いたCD3、IL-2Rβ二重染色)
②胸腺無形成症(thymic aplasia)
③重症複合免疫不全症(scid:severe combined immunodeficiency)
2.重症複合免疫不全症(scid:severe combined immunodeficiency)
①X-scid(伴性劣性遺伝) X連鎖重症複合免疫不全症
②常染色体劣性遺伝型-scid
③scidマウス
④RAG-1/RAG-2ノックアウトマウス
3.胸腺無形成症(thymic aplasia)
4.無γグロブリン血症(agammagloblinemia:伴性劣性遺伝)
①Bruton X-kinked agammagloblinemia(XLA:X連鎖(ブルトン型) 無γグロブリン血症)
②IgA欠損症(selective IgA deficiency)
③X連鎖高IgM症候群(hyper IgM syndrome)
④ウイスコット-アルドリッチ症候群(WAS:Wiskott-Aldrich syndrome)
⑤毛細血管拡張性運動失調性(AT:ataxia telangiectasia)
⑥ディ・ジョルジ症候群(Di George症候群)
5.T細胞B細胞以外の異常症
①慢性肉芽腫(CGD:chronic granulomatous disease)
②Chediak-東症候群(CHS)
③beige mice(ベージュマウス)
6.後天的免疫不全症(acquired immunodeficiency)
7.免疫抑制剤(immunosuppressive drug)
8.抗ガン剤(anticancer drug)
9.ステロイドホルモン(SH:steroid hormone)
10.NSAIDs(nonsteroidal anti-inflamatory drugs)
11.常在菌による感染症
12.乳児一過性低ガンマグロブリン血症(transient hypogammaglobulinemia)
第18章 腫瘍免疫学
1.免疫系の二層構造
2.ガン細胞を排除している証拠
3.腫瘍抗原
4.エフェクター(攻撃)リンパ球
5.腫瘍ができるための条件
6.ストレス反応の意義
7.ガン細胞の特徴
8.ガン患者の免疫状態
9.キラー分子群
10.解糖系とミトコンドリア系
11.アポトーシスとその抑制
12.ガンの免疫療法
13.治療(自然退縮)の条件
14.そのほかの免疫療法について
15.結論
あとがき
まえがき
第1章 免疫学総論 part1
1.免疫学の歴史
●免疫の歴史はウィルスや細菌の概念ができる前、予防接種の考え方ができたのは、ペストが治まった後の18世紀後半で、イギリスで天然痘が大流行した時代である。
●1900年に近い時代に、ジェンナーからパスツール、コッホへと免疫の歴史は展開されていった。また、この頃から顕微鏡が使われるようになって、遊走細胞(マクロファージ)が体内に入ってきた細菌を貪食して、無毒化するという観察や考え方が出てきた。
●光学顕微鏡で見える細菌、光学顕微鏡でも見えないウィルスという2つの微生物による感染症があることが分かった。
●抗体に相当するものの存在の発見は、コッホの見つけた抗毒素がきっかけとなった。
2.身体の防御システム
●身体の防御システムとは抗体やマクロファージのことであるが、広くみれば白血球とつながっている。
●身体の特殊化した細胞には異物から守るちからはないので、白血球が防御細胞として身体を守っている。
●単細胞時代のアメーバの性質を残したマクロファージと白血球はつながっている。
3.白血球の進化
●脊椎動物になったあたりから白血球の進化が起こった。マクロファージから進化した顆粒球(顆粒がたくさんあるから顆粒球)である。
●顆粒球は細菌より小さいウィルスのような異物には対応できない。一方、同じくマクロファージから進化したリンパ球によって貪食される。
画像出展:「免疫学講義」
顆粒球もリンパ球もマクロファージから進化した。細菌は顆粒球、細菌より小さなウィルスはリンパ球が貪食する。
4.リンパ球の性質
●免疫記憶は身体に侵入してきた微生物(病原菌)の量や増殖に掛かっている。ワクチンのような微量では強い免疫はつくられない。
●抗体は分子量が10,000Da(ダルトン)以上の大きさであれば認識できる。※Daとは炭素12原子の質量の1/12相当の質量の単位
●分子量が小さい場合、身体のタンパク質に吸着することによって抗原になる場合がある。
●抗体と反応するものを抗原といい、ほとんどタンパク質である。また、ウィルスはDNA、RNAを有するが周りはタンパク質である。
●タンパク質はアミノ酸から作られるが糖と結びつくことも多く、糖タンパク質と呼ばれる。この糖タンパク質に対しても抗体は反応する。
●リンパ球は抗体をつくる一方、リンパ球は分裂するクローンによって拡大する。このリンパ球の分裂にかかる時間が潜伏期間である。
●潜伏期間の次に、抗原と抗体の免疫反応が始まり、発熱が起こる。
●発熱が起こる理由は、ウィルスと戦うための抗体を産生するには、代謝を亢進させる必要があるからである。
●WHOの統計に風邪をひいて治るまでに平均2.5日とされているが、風邪薬を飲むと4日に延びるとされているのは、薬が代謝の活性を落とすからである。
●発熱に関与する因子は、プロスタグランジンやインターロイキン1(IL-1)などがある。
●マクロファージや顆粒球は異物を食べる反応なので、潜伏期間は不要であり、傷口が化膿したり細菌が入ったりしたらすぐに反応が始まる。
5.リンパ球の産生と分布
●抗体を作るリンパ球は、中枢リンパ組織(胸腺と骨髄)で作られ末梢リンパ組織に分布している。
●胸腺はthymusなので、胸腺で作られるリンパ球はTリンパ球と呼ばれている。Tリンパ球、Bリンパ球は末梢血、リンパ節、脾臓に移動して働く。
●血液中のリンパ球は35%であり、60%は顆粒球、5%はマクロファージである。
●巡回していて何か抗原が入ってきたとき、リンパ球は血管から遊走して外に出て働く、あるいは抗体を作る。
●リンパ節は顎下リンパ節、鼠径リンパ節などがあり、T細胞とB細胞が存在している。脾臓では白脾髄にリンパ球、赤脾髄に赤血球が存在している。前者は血液中に入った抗原を処理し、後者は古くなった赤血球を壊す。
●リンパ節のリンパ球は抗原が組織に入ってきた時、リンパ液でとらえリンパ管で抗原を集めて、リンパ節に持ってきて戦う。
6.Tリンパ球とBリンパ球
●T細胞(Tリンパ球、Tcell)は、細胞自ら抗原と反応し、T細胞レセプターで抗原を捕える。このように細胞が自ら反応する仕組みなので細胞性免疫という。
画像出展:「日本がん免疫学会」
『からだを守る免疫細胞はさまざまな方法で異物や病原微生物、ウイルス感染細胞やがん細胞などの異常細胞と戦います。
ここでは、その戦い方の一つである細胞免疫について解説します。細胞性免疫とは、ウイルス感染細胞やがん細胞などの異常細胞を、抗体などを介さずに免疫細胞そのものが直接攻撃するタイプの免疫反応です。細胞性免疫の中心をになう免疫細胞はT細胞ですが、活躍するのはCD4ヘルパーT細胞とCD 8キラーT細胞です。
CD4ヘルパーT細胞は免疫の司令官とも言われ、様々な免疫細胞に、がん細胞やウイルス感染細胞に対する「攻撃始め」の指示を出します。CD4ヘルパーT細胞は主に2つの系統の戦い方を指示します。CD8キラーT細胞を始めナチュラルキラー(NK)細胞やマクロファージと呼ばれる異常細胞の直接攻撃を得意とする細胞を活性化し、細胞性免疫という戦い方を指揮するのが1型CD4ヘルパーT細胞であり、B細胞を刺激して抗体を産生させる液性免疫という戦い方を指揮するのが2型CD4ヘルパーT細胞です。主にこの2つの戦法を上手く組み合わせて効率よく異常細胞を排除することで、私達のからだは病原体の侵入やがんの発生から守られているのです。この免疫の司令官がいかに重要かということは、CD4ヘルパーT細胞が失われる病態で顕著に示されます。例えばHIV(エイズウイルス)はCD4ヘルパーT細胞に感染し、破壊することで全身の免疫不全を引き起こします。その結果、通常は致死的にならないような弱毒微生物のまん延を許し、患者を死に至らしめます。』
7.主要組織適合抗原
●ヒトの身体は同じようなタンパク質でできており、アミノ酸配列も同じである。しかしながら、移植によって拒絶反応が起きる。これは主要組織適合抗原(MHC)という物質によるものであり、この主要組織適合抗原は個人間でアミノ酸配列が異なる。また、主要組織適合抗原はT細胞の認識抗原である。
●抗体はB細胞から分泌されて、直接抗体の立体構造で抗原を認識するが、T細胞の場合は主要組織適合抗原と抗体がくっついた分子をT細胞レセプターがまとめて認識する。
●主要組織適合抗原は移植の拒絶抗原というより、組織細胞に入った抗原を捕まえるためのタンパク質と考えるのが正しい。
●ペストや天然痘が猛威をふるっても生き延びる人が必ずいるのは、リンパ球が認識する能力は個人ごとにアミノ酸配列が異なるため多様性がでるからである。抗原の認識の違いによってT細胞の働きが個人間で全く異なる。ある人は免疫が強く出る、ある人はほどほど、ある人は弱く出る。
●免疫は強いことがプラスになる場合がある一方、強すぎてアレルギーなどに苦しむ原因にもなる。
●主要組織適合抗原の多様化は、特に哺乳動物で進化した。恐竜は5000万年前絶滅したが、主に夜行性の食虫動物として生存していた哺乳類は小さくて弱いが、免疫システムに関しては爬虫類より進化し、多様性が高かった。
●移植に関しては邪魔者といえる、主要組織適合抗原は生き延びるための戦略であった。
8.免疫が関与する疾患
①感染症:ウィルス感染、一部細菌感染
●細菌類は主に顆粒球が攻撃して治癒させる。
●ウィルスと一部の細菌感染では、免疫が働く。
②アレルギー疾患:アトピー性皮膚炎、花粉症、アナフィラキシー
●アナフィラキシーは薬物アレルギーにも見られるが、薬物(通常分子量200~400くらいの小さなものが多い)はアルブミンなどについて全体で抗原となってアナフィラキシーショックを引き起こす。
③移植の拒絶
●移植における拒絶は、主要組織適合抗原が個人間で多様化し、タンパク質が異なるために起こる。
④自己免疫疾患(膠原病)
●膠原病と言われているのは、コラーゲンなどの膠原線維が炎症に関わっているためである。
⑤加齢現象
●加齢減少も免疫と関係している。
●自己免疫疾患を起こす抗体を自己抗体といい、自分の核やDNA、RNA、ミトコンドリアなどに抗体ができるものである。高齢者では健康な人でも自己抗体が病気の人と同じくらいのレベルである。何故、高齢者が自己免疫疾患にならないかというと、高齢者では老化した異常細胞やガン化した異常細胞を排除することに自己抗体がプラスに働いているからである。つまり、ほどよく自己抗体が出た人が、病気にならず長生きするということである。
⑥妊娠―つわり、流産
●父親の遺伝子も受け継ぐ胎児は母親にとって異物になる。流産、つわりは免疫現象が関わっており、リンパ球や自己抗体が自らを攻撃する。しかし、拒絶に至らないのも免疫、古いタイプの免疫システムが関与しているからである。
⑦ガン免疫
●ガンにおいても免疫が働く。免疫抑制剤や免疫抑制作用のあるステロイドを長期間していると、発ガン率が高くなることでも免疫によるガン抑制効果はある。
⑧先天性免疫不全症
●先天性の免疫不全症の子供には、悪性腫瘍を合併することが多い。
第五部 安らぎと結びつきを探求するさまざまな方法
第十三章 マッサージ
●マッサージ効果に関する研究の多くは解釈が難しい。何らかの意味で実験とは言い難い研究をすべてふるい落としたとしても、マッサージが人間の健康に効果があることを示す研究は十分に残る。
●マッサージには多くの種類がある。タクティール・マッサージ(スウェーデンで理論化された、認知症の症状緩和などを目的とするマッサージ)のように、皮膚に触るだけの施術法がある一方で、筋肉をしっかりもみほぐすマッサージや、手でそっと圧して筋肉の緊張をほぐすマッサージがある。これらの療法は、それぞれ異なる感覚神経を活性化するので、もたらされる結果もさまざまである。
●血圧低下、コルチゾール減少、不安軽減、学習効率上昇―こういった効果はどれも、動物実験でオキシトシン注射により得られる効果と似ている。オキシトシンの効果は繰り返し注射すると、強くなり、また長続きする。それと同じことがマッサージを繰り返し受けた場合にも当てはまると思われる。
『スウェーデン発祥のタクティールケアは、1960年未熟児ケアとして看護師らによって始まりました。マッサージではないため、押したり揉んだりはしません。
優しく包み込むように触れるだけです。誰もが簡単に行うことができ、活躍の場は様々。多くの人がストレスを抱えるこの時代に
必要なコミュニケーションツールです。』
[マッサージとスキンシップ]
●正しいマッサージを受けた赤ちゃんや、哺乳量が同じでもマッサージを受けなかった赤ちゃんより、体重が早く増える。また、コルチゾールの血中濃度も低下する。これはストレスが減っている証拠でもある。
※ご参考:ブログ“医療マッサージ研究1”
以前、小児障害児へのマッサージをやっていたときに書いたブログです。今更ですが、「やはり、マッサージによるものだったのだ」と思いました。
●興味深いのは、マッサージの効果が最も顕著だったのは、乱暴な言動で集団をかき乱すタイプの男子だった。
[医療施設でのマッサージ]
●病院では体に痛みのある患者に対し、施術しやすい、特殊なマッサージが試行されている。「タクティール・マッサージ」と呼ばれる。このマッサージは、他のマッサージ療法ほど圧を加えない。主に皮膚へタッチすることで効果を生むのだと考えられる。知名度は高くないが説得力のある、いくつかの研究論文によれば、タクティール・マッサージを受けている高齢者の患者は安眠しやすく、痛みを訴えることが少なく、服薬が少ない。混乱することが少なく、意識がはっきりしていて、社交的であることを示すデータもある。介護者との関係もよくなる。
●興味深いのは、マッサージの効果が最も顕著だったのは、乱暴な言動で集団をかき乱すタイプの男子だった。
[医療施設でのマッサージ]
●病院では体に痛みのある患者に対し、施術しやすい、特殊なマッサージが試行されている。「タクティール・マッサージ」と呼ばれる。このマッサージは、他のマッサージ療法ほど圧を加えない。主に皮膚へタッチすることで効果を生むのだと考えられる。知名度は高くないが説得力のある、いくつかの研究論文によれば、タクティール・マッサージを受けている高齢者の患者は安眠しやすく、痛みを訴えることが少なく、服薬が少ない。混乱することが少なく、意識がはっきりしていて、社交的であることを示すデータもある。介護者との関係もよくなる。
●『いくつかの研究によれば、マッサージを受けている人だけでなく、施術している人の体内でもオキシトシンが放出されているという。マッサージセラピストには、ストレスホルモン値低下や血圧低下など、オキシトシン値が高いことによる典型的な効果が見られる。こういう人たちは全般に、心身が健康だ。それはこの職業の本質にかかわっていることかもしれない。』
[抗ストレス]
マッサージの効果
1.大人がマッサージを受けると血圧、心拍数、ストレスホルモン値が低下する。これらの効果は健康を増進する。
2.子どもがマッサージを受けると、落ち着きが増し、対人的に成熟し、攻撃性が減る。体の不調を訴えることも少なくなる。
3.優しく包みこむようなタッチを受けると、早産児の体重増加のペースが速くなる。
第十四章 食べること―内側からのマッサージ
●ものを食べて満腹になるというのも、体の〈安らぎと結びつき〉システムを活性化させる方法のひとつである。体の内側は食べることによって刺激される。これは体の外側がタッチによって刺激されるのと同じである。
●消化器系と皮膚にはいくつか類似点がある。消化器系、皮膚、神経は細胞系譜をさかのぼると、いずれも外胚葉から作られる。両者は感覚神経からの情報を記録・伝達する方法が似ており、皮膚の内側への延長と言ってもいいくらである。
●消化器系は消化だけでなく、内分泌器官のひとつであり、消化や代謝、体内の細胞内貯蔵庫への栄養分の貯蔵を調節するいくつかのホルモンを分泌している。そして、これらのホルモンは脳に影響を及ぼす。
●消化器系にも多くの交感神経と副交感神経が存在しているが、最大の働きをするのは副交感性の迷走神経である。この神経は90%が感覚性の機能を持ち、体の内外から受けた信号を中枢神経系へ伝える。
[胃袋と脳の間]
●消化機能は自律的なものであるため、腸は意識からの指令がなくても働く。
●消化管ホルモンのコレシストキニン(CCK)は小腸上部から分泌されるが、特に高脂肪の食べ物がこの場所に到達すると特に出やすい。コレシストキニンは迷走神経を活性化し、さらに迷走神経はオキシトシンの放出を促す。従って、食事が高脂肪であればあるほど、食後の満腹感を感じやすく、眠くなりやすい。
第十六章 医薬品による安らぎと結びつき
[不安、抑うつなどの治療薬]
●セロトニン値の低さは、抑うつやある種の不安と関連している。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を不安症状やうつ症状のない人にSSRIを処方すると、より社交的になる可能性があるが、これはセロトニン値が上がるとオキシトシンの放出が起こるためである。
●うつ病患者のオキシトシン値は異常に低いという事実がある。
[オキシトシンを医薬品として使う際の障壁]
●オキシトシンは分娩の誘発や子宮出血の薬として使われている。
●オキシトシンは薬理学的な問題が多くある。一つは、オキシトシンは消化管の中でたちまち分解されてしまうため、経口投与では効果は得られない。明確な効果は注射である。
●オキシトシンは血中でもすぐに分解されてしまう。
●オキシトシンは脳に達することも困難である。これは脳の毛細血管の内壁の細胞が隙間なく並んだ、血液脳関門を形成しているからである。
●『オキシトシンを医薬品として有効活用する方法を開発するには、オキシトシンの分子をもっと扱いやすくしなければならない。そのための科学技術は既に存在するのだが、商業ベースではまだ採算がとれない。オキシトシンの個々の効果(ストレス軽減、疼痛緩和、鎮痛作用、治癒、成長の促進など)をもたらす、オキシトシンに似た薬を開発することも考えられる。オキシトシンのそれぞれの効果は、オキシトシン分子のそれぞれ異なる部位に結びついているらしいからだ。』
[ストレス症状の治療]
●『オキシトシン値は自然な方法でも上げることができるとはいえ、オキシトシンのプラスの効果をもっと利用するためには、オキシトシン分子が直接投与できる形になる日が来るのを待たなければならない。
今、それよりも重要なことは、自分の体内でオキシトシンを放出させるマッサージなどの技術を身につければ、オキシトシン値を十分に上げることができ、飲み薬や注射に頼らなくてもよいぐらいに、オキシトシンの健康増進効果を享受できるのではないかということだ。私たちは体の中にすばらしい癒し物質を持っている。それを利用するさまざまな方法を学びさえすればよいのだ。』
第十七章 体を動かすこととじっとしていること
●『私の考えでは、〈安らぎと結びつき〉システムを活性化する方法はたくさんあり、エクササイズはそのひとつにすぎない。このシステムは、皮膚や乳腺、消化管内壁、筋肉などからの刺激が神経を介して脳に伝わって作動する。どんな方法でこのシステムを作動させるかは、年齢層によって異なる傾向がある。若いうちはオキシトシンを出すのにエクササイズを使うことが多いが、年齢が上がるにつれて鍼やマッサージを選ぶようになる。私たちは絶えず周期環境の情報に合わせて、体内の生理学的状態を調節している。健康的な均衡を得るためには、「動」の刺激も「静」の刺激も必要だ。』
[すわったままのジョギング]
●ヨガの期限は紀元前2500年、インダス文明の頃からのようであるが、ヨガは長寿と健康増進のための技法を発達させてきた。ヨガの動きは、鼠径部や体の前面(腹側)といった身体の部位を刺激し、触覚刺激の受容体を経由して、迷走神経系を活性化する。
●瞑想の生理学的効果については、すでに詳しく研究されている。瞑想によって、酸素消費量の減少、脈拍と呼吸数の減少、筋肉の弛緩が生じる。発汗も減少するので、微電流を流した場合の皮膚の伝導率が下がる。このような効果はすべて、交感神経系の活動が低下したためと考えられる。また、脳波(EEG)を見ると、脳の活動パターンが変化することがわかる。特に顕著な変化はα波の持続時間が長くなることである。
●定期的に瞑想を行うと、高血圧症の人は血圧が下がり、心拍数の正常化が促進される。ストレスホルモン値が下がり、痛みの閾値が上がる。
●瞑想療法によって、アルコールやタバコなどの乱用癖を弱めたり、なくしたりすることができるという指摘もある。
第十八章 私たちの内なるエコロジー
●『現代のストレスに満ちたライフスタイルのせいで、身体的にも精神的にも極度の疲労に陥ったり、健康を害したりする人があまりにも多い。しかも、若い年齢でそうなる人が増えている。どの年齢層においても、病気の多くはつきつめればストレスが原因だ。私たちも私たちの住む社会も、変化を切実に求めている―そして、その変化は思いのほか身近にある。私たちは自分の中に、変化の鍵をもっている。そう、その鍵は、目立ちすぎる〈闘争か逃走か〉システムの陰に隠れていた、もうひとつの生物学的システムの働きを通して、〈安らぎと結びつき〉の状態を呼び起こす潜在的能力の中にある。』
訳者解説
●『〈安らぎと結びつき〉の鍵であるオキシトシンは、ホルモン(血流に乗って体内の器官へ運ばれ、そこで受容体と結合して作用する)としての働きと、神経伝達物質(神経細胞の軸索を通って神経端末へ運ばれ、シナプスを形成している別の神経細胞の表面にある受容体に結合する)としての働きのふたつを持っている。ホルモンとしてのオキシトシンには、分娩時に子宮の平滑筋を収縮させる作用があること、また、赤ちゃんが母親の乳房を吸啜する刺激により分泌されて、乳房から母乳を出す「射乳反社」を起こす働きがあることがよく知られている。神経伝達物質としては、様々な神経細胞に対して多彩な作用を及ぼすことがわかってきており、この多彩な作用がオキシトシンの特徴であるともいえる。その中でも最も興味深いのは、オキシトシンの作用の根幹をなすものが成長であるということだ。オキシトシンは成長の基である生殖に深く関わっており、排卵や射精を促し、分娩・授乳のためには必須の物質でもある。』
感想
『どの年齢層においても、病気の多くはつきつめればストレスが原因だ。』
まさに、この通りだと思います。今回、きっかけとなった不妊鍼灸も、スタート地点は、心身のストレスとどう向き合うかにかかっているように思います。
『私たちのすべての感覚は、まわりがどんな環境か判断することに、絶えず関与している。その環境が脅威や危険をはらんでいると感じたら、〈闘争か逃走か〉反応が引き起こされ、平和で楽しい環境だと感じたら、〈安らぎと結びつき〉反応が引き起こされる。』
後者の〈安らぎと結びつき〉の主役はオキシトシンです。その三大効果は、成長と治癒、社交的能力、抗ストレス効果とされています。
モべリ博士は『オキシトシンの効果は成長と生殖への要求を満たす助けになるものである。』、『私は生殖プロセス全体を、基本的なオキシトシン原理が複雑な形で表現されたものとみなしたい。』と主張されています。
生命誕生に、オキシトシンこそが主役なのではないかという予想は正しかったように思います。 そして、行動すべきは〈安らぎと結びつき〉を重視し、そのための時間を意識的に“つくり出す”ことではないでしょうか。
第八章 授乳―オキシトシンが主役
●オキシトシンは出産授乳ホルモンと呼ばれていた。
●授乳中、オキシトシンは胴体前面の血管を拡張させることで、母親の体表温度を高める。さらに、オキシトシンは育児に必要な世話と保護にも関係している。
[オキシトシンと母乳]
●オキシトシンは乳汁産生を促すホルモンのプロラクチンが下垂体前葉から分泌されるのを促す。乳汁産生はインスリンによっても促される。
●オキシトシンはインスリンの産生を増やす。また、オキシトシンは体の貯蔵所からの栄養の放出を促進するホルモンであるグルカゴンにも影響を与える。
●授乳するためには自分自身の貯えがなければならない。オキシトシンは食欲を増進させ、消化を促進し、体の貯蔵システムの効率を高めることなどによって、体が栄養物を貯えるのを助ける。
[オキシトシンと新生児]
●『今日では、分娩後すぐ、新生児を母親の胸の上に、肌と肌を触れ合わせて置くことが多い。好きなようにさせると、赤ちゃんは、誕生後1、2時間以内に自分で乳房に到達し、母乳を吸いはじめる。乳首を探しているとき、赤ちゃんは手で母親の乳房をマッサージすることになる。このとき母親の体内に、オキシトシンが拍動のようにくりかえし放出される。赤ちゃんがこのオキシトシンの分泌の波をつくりだしているように思われる。というのは、赤ちゃんの手によって乳房に加えられる刺激と、吸うこととが、オキシトシン分泌の波の数と強い(統計学的に有意な)相関係数を示しているからだ。それらの刺激は、乳が体外に噴き出すのを促進するだけでなく、母親の胸部の血管を拡張する。すでに見てきたように、それによって、母親は赤ちゃんにぬくもりを提供する。このときにフェロモン類が放出されて、母子双方に影響を与えている可能性もある。
肌と肌の触れ合いは赤ちゃんの側にも影響を及ぼす。赤ちゃんは落ち着き、母の胸に密着している限りは泣かない。手や足の血流量が増え、リラックスしていることがわかる(リラックスしている状態では、血管が拡張する)。母子の間に微妙な相互作用が交わされていることは、赤ちゃんの足の温度と、母の体温の両方が上がっていることからも明らかだ。母の体温が温かいほど、赤ちゃんの足も温かくなる。
新生児のオキシトシン放出については、まだ研究されていない。しかし、ストレスホルモンのコルチゾールの値が低いことから考えて、脳内のオキシトシンの値はおそらく高くなっているだろう。乳房に吸いつくことで、これらの効果も増強される。触覚以外の感覚(聴覚、嗅覚、視覚、とりわけ、一種の間接的な触れ合いであると考えられるアイコンタクト)も、出産直後の母子の間の精妙な相互作用に重要な役割を果たしている。』
[授乳のもたらす安らぎ]
●授乳とともに、血圧は下がり、ストレスホルモンのコルチゾールの血中濃度が減る。このことは、交感神経系と副腎の活動が低下していることを意味する。
●授乳中の動物の脳の活動を計測した結果、子どもに乳をやりながら、眠っている個体が多数あることが分かった。これは、しばしば人間の母親にも当てはまる。
●これらの行動ならびに生理学的状態の変化は、短時間で消失するものではなく、授乳期間全体にわたって続く。
●研究によると授乳中の女性で、行動の変化がもっとも大きかったグループの人たちは、オキシトシンの血中濃度のもっとも高かった人たちだった。一回の授乳中に起こるオキシトシン分泌の波の数が、乳汁の量だけでなく、母親の落ち着きの度合いとも関係している。
[吸うことと情緒的な絆の形成]
●吸うこと自体の効果は、早産児にも見られる。非常に弱くて、チューブで胃に乳を送らなくてはならない赤ちゃんたちも、小さなおしゃぶりをできるだけ吸わせるようにすると落ち着きが増し、体重の増加のペースが速くなる。
●赤ちゃんのおしゃぶりや指しゃぶりをやめさせるのは難しいことが多い。オキシトシンの分泌とそれによる絆の形成は、おそらく吸うという行為によって始まると思われる。身体的接触が外側の寄付を刺激するように、吸うという行為は口の内側を刺激することだからである。
[ほかの人たちと一緒にいること]
●オキシトシンは一般的に言って、授乳する女性の精神状態を二つの面で変える。授乳する女性は、落ち着きを増し、引きこもっていることを楽しむが、同時に、人と人との親しみのこもった触れ合いに対して心を開く。この二つの適応方法は、授乳期間中、非常に価値がある。進化という観点からも見ても重要な意味をもつと考えられる。
第四部 結びつき
第九章 オキシトシンと触覚刺激
●『人間でも動物でも、皮膚は絶え間なく外界から得た情報を神経系に伝えている。皮膚は、人間やほとんどの哺乳動物にとって最大の感覚器官であり、温かさや冷たさ、触感、痛みを感じ取る。それぞれの感覚は受容器で感知され、受容器につながっている感覚神経系がその刺激信号を中枢神経系へ伝える。
感覚器官としての皮膚の見事な働きのおかげで私たちは、自分にとって脅威であるものであれ、好ましいものであれ、周囲の世界からのメッセージを速やかに解釈することができるのだ。ようしゃなく殴られたのか、優しくなでられたのか、容易に区別できる。中枢神経系にどんな情報が送られるかによって、汗をかいたり、鳥肌が立ったりする。』
[触覚刺激の二つの作用]
●皮膚にはさまざまな受容器が存在している。痛みを感知する受容器や、ぬくもりを感知する受容器。軽く触られたのを感知する受容器もある。
●様々な感覚神経に与えた刺激によって、〈闘争か逃走か〉反応または〈安らぎと結びつき〉反応のどちらかが引き起こされる。これは、どちらのシステムも、ほぼ全身にくまなく存在する皮膚の感覚受容器を発端として作動しうるということ、そして、様々な種類の刺激が、生理学的状態にも行動にも、様々な効果を与えることを意味する。
●覚醒しているラットの腹を、ある特定の圧をかけて一定の間隔でなでてやると、痛みを感じにくくなり、びくびくしなくなった。1分間に40回のペースでなでるのを、5分間をわずかに下回る時間続けるのが、最大の効果をあげるとわかった。こうすると、ラットは落ち着き、動きが少なくなるとともに、他の個体に対する興味や関心が強まった。血圧は低下し、数時間下がったままだった。
[鍵となるのはオキシトシン]
●あるドイツ人の酪農家が、乳牛のためのボディブラッシング機を考案し、動物における触覚刺激刺激の劇的な効果を例証した。優しくなでなれているような心地良い感覚により、乳牛たちはリラックスして体調がよくなり、乳量が最大26%増えた。
●鎮痛剤を与えたラットの特定の神経を活性化したり、目覚めているラットの腹をなでたりするなどの方法で、鎮静作用のある種々の反復刺激を与えると、ラットの血中や脳内のオキシトシン値は決まって上昇した。
[触覚刺激と成長]
●快い触覚刺激がなぜ成長と結びつくのかについて考えられることは、下垂体から放出される成長ホルモンが増加するためである。これにもオキシトシンの関与が考えられる。
第十章 オキシトシンとほかの感覚刺激
●ラットによる研究結果の中に、オキシトシンの投与を受けていないラットにも程度の差はあれ、投与を受けたラットと同じような効果、落ち着きが増し、ストレスホルモン値が低下するなどを観察できる。これについては、匂いを通して伝達が行われ、オキシトシン・システムが活性化すると考えられている。
●匂いの中には気づかない匂いもある。これは鋤鼻器という特殊な古い嗅覚器官であり、フェロモン(空中を漂って個体から別の個体へと伝わる物質)を受け取る。フェロモンの効果に関与する神経は、大脳皮質や嗅球には直結しておらず、身体機能や情動の一部をつかさどる脳の比較的古い部分につながっている。そのため、人間は無意識のうちにフェロモンの影響を強く受けている可能性がある。
●私たちのすべての感覚は、まわりがどんな環境か判断することに、絶えず関与している。その環境が脅威や危険をはらんでいると感じたら、〈闘争か逃走か〉反応が引き起こされ、平和で楽しい環境だと感じたら、〈安らぎと結びつき〉反応が引き起こされる。
※フェロモン
フェロモンには何となく胡散臭い印象があったので調べてみました。
以下は東工大さんのニュースなので極めて信頼性の高い情報です。これにより、フェロモンの存在の有無を正しく認識することがでました。「やっぱり、あったんだ!」という感じです。
画像出展:「東工大ニュース」
東工大ニュースには以下の記事もありました。
『115種におよぶ生物種の全ゲノム配列を網羅的に解析して、ほぼ全ての脊椎動物が共有する極めて珍しいタイプのフェロモン受容体遺伝子を発見しました。
一般的に、フェロモンやその受容体は多様性が大きく、異なる種間での共通性は極めて低いことが知られています。しかし、今回新たに発見された遺伝子は、古代魚のポリプテルスからシーラカンス、そしてマウスなどの哺乳類におよぶ広範な脊椎動物で共通であるという驚くべき特徴を備えていました。』
第十一章 オキシトシンと性行動
●愛の効果には、事後に安らぎとくつろぎをもたらす力を含め、たくさんの健康増進効果がひととおり備わっているからである。この安らぎは、性行為につきものの触覚刺激や一体感とともに、オキシトシンの放出を増やす。そしてさらにこのオキシトシンが癒しや消化の促進など、さまざまな抗ストレス効果を生む。
●オキシトシンは人間の性行動に重要な役割を果たしている。ひとつには、濃密な触れ合いやキスの口唇刺激をともなうからであり、また、オルガスムスは大量のオキシトシンを血液中に放出させるからである。これは動物実験に加えヒトの研究の結果からも確認されている。
●オキシトシンは卵巣からの排卵を促し、卵が卵管を通って子宮へと運ばれるのを手伝い、また、精子の産生と移動を助ける。
[オルガスムスと絆]
●性交中は男女とも血中のオキシトシン濃度がぐんぐん上昇し、オルガスムスと同時に最高値に達するという。また、オキシトシンは男女の別を問わず、オルガスムスとかかわりのある筋肉の運動を刺激する。
●実験により、動物にオキシトシンを大量投与すると、眠ってしまうことがわかっている。少量投与の場合は不安が減り、落ち着きが増し、他の個体との接触に興味を示す。
●オキシトシンの効果は、その性的体験がどのような状況のもとにあったかに左右される。その状況が緊張や危険の要素が優位であれば、オキシトシンと拮抗的に働くバソプレシンの影響のためストレス反応が生じる。
●オキシトシンは性的関係による感情的絆を強める。それはカップルが互いにふさわしい相手だと確信できるほどに理解し合う前に、感情的絆だけが先行してしまうという危険をはらんでいると言える。
[セックスと健康]
●短期的に見ると、性的経験はストレスになる要素があるが、長期的には安定した性的関係は、カップルの双方の安心感を強め、不安を減少させる。オキシトシンの大量放出が繰り返されると、〈安らぎと結びつき〉システムにつきものの長期的効果が生まれる。栄養を蓄積し、癒しを速め、生きていくのに必要な力の回復を促進する、といったそれらの効果によって、性的活動は健康にとってプラスの影響を与える。
第十二章 オキシトシンと人間関係
●『好きな人のそばにいるのは、うれしいものだ。あなたが赤ちゃんだろうと大人だろうと変わりはない。好きな人と一緒にいて、触れ合うことができると、安心感がもて、緊張がとけて、気持ちが落ち着く。スキンシップが必要なのは、ママやパパに抱きしめてもらいたがる幼い子どもだけでない。大人もやはり、人間関係において愛されている感じがほしいときには、身体的に触れ合う必要がある。』
●愛情を感じ、安心感を覚えると気分がよいというだけの話ではなく、他の人のそばにいて、身体的な触れ合いをもつことが、私たちの健康に役立つような方法で、体内の生理学的プロセスを活性化させている。
[絆で結ばれた関係]
●多くの動物は互いに識別しあって親密さを深めるが、雄と雌が一生結びつくという意味での一夫一婦婚をする哺乳動物は、ほんのわずかである。すべての哺乳動物にとって大切なのはむしろ、母子間に相互的な強い絆を形成することである。種の存続は、母と子がお互いを識別し、結びつきを維持する能力にかかっている。
●『ヒツジの場合、出生後の一時間が母ヒツジと子ヒツジの絆を形成するのに、決定的な意味をもつ。この大事な時期に親子が引き離されると、絆を形成するのが難しくなり、しばしば、母ヒツジが子ヒツジを拒否する。そういう母ヒツジにオキシトシンを注射すると、その一時間が過ぎていても自分の子どもを受け入れるようになるだけでなく、ほかの雌の子どもも受け入れて、母子としての関係を築く。したがって、オキシトシンは母子間の絆形成に―とりわけ、出生直後の絆形成に、重要な役割を果たすと言えよう。』
[触覚刺激と感情的絆]
●オキシトシンの影響を受けると、他者との接触に積極的になると考えられる。そして、そのことがオキシトシンの分泌に拍車をかける。このようにして、人と人との感情的絆の形成に至るサイクルがつくられる。
[さまざまな人間関係におけるタッチ]
●親密な間柄でのタッチのタイプは、親子間、兄弟間、パートナー同士、友人同士など、どのような間柄かによって変わってくる。タッチや体の触れ合いがオキシトシンを放出させることを考えれば、相互的な快いタッチを交わせるふたりの人の関係は、感情的絆をつくるだけでなく、お互いの健康を増進し、オキシトシンによる抗ストレス効果を与え合っていると考えられる。
●生き延びるためには、他の個体と親密になる能力が、他の個体から身を守る能力と同じくらい重要である。
●ある実験によれば、図書館員に軽く手を触れられた借り手は、触れられなかった借り手よりも返却率が格段に高かったという。ちょっとした接触が、借り手に本を返す気にさせる感情的な結びつきをつくりだしたためである。
[心理的な触れ合い]
●人間同士の関係や出会いにおいて、身体的触れ合いがなくても心理的レベルでのタッチを経験することもある。温かく協力的な感じのすることもあれば、冷淡で厳しいと感じることもある。こちらの話を丁寧に聞いてくれる人に対しては、親しみのこもったタッチをしてもらった場合と同じく、信頼と結びつきの感情を抱きやすい。
[タッチの欠如]
●過度なストレスは交感神経の過活動につながり、健康に害を及ぼす。親しい人との別離は強いストレス効果を伴う。
●別離と病気には関連がある。例えば、配偶者を亡くして間もない人は、病気にかかるリスクが増すという統計がある。
●血圧上昇、心拍数増加、不整脈、血液凝固亢進傾向などのストレス関連症状は、心血管の疾患や脳血管障害を引き起こすおそれがある。
●個人的な結びつきを死別や生別によって失うことのストレスは、突然、タッチを喪失し、それによって、親密さや温もりが生む効果の多くをなくしてしまうことが一つの重要な要素であろう。健康に良い刺激がなくなると、病気になるリスクが高まる。
[他者との良好な関係が健康に与える好影響]
●良好な人間関係が長寿につながることを示す研究結果がいくつかある。特に男性は、心血管疾患の発生率が低かった。
●私たちに好影響を与える人間関係とは、必ずしも親密なものでなくても良い。グループ活動や地域活動に加わるだけでも健康に良い影響がある。
[場所との結びつき]
●年をとってから故郷に戻ってくる人は多い。故郷での暮らしは、他のどこよりも心が休まるのだろう。また、老齢のために長年住んだ故郷を離れなくなければならなくなった人は、それにより身体的にも精神的にも衰えがちであることはよく知られている。
第三部 オキシトシンの効果
第六章 オキシトシン注射の効果
●『オキシトシンは一生を通じて私たちとともにある。あなたが生まれたときに、お母さんの子宮から押し出されるのを手助けしてくれたのはオキシトシンだし、お母さんがあなたに授乳することができたのもオキシトシンのおかげだ。幼いころには、お母さんやお父さんが愛情をこめて触れてくれるのを喜んだだろう―それによって、あなたの体の中にオキシトシンが放出されたから。大人になってもからも、おいしいものを食べたり、マッサージを受けたり、恋人と親密に触れ合ったりしたときに、オキシトシンの効果を体験している。オキシトシンはこれらのすべての状況で―そしてもっともっとたくさんの状況で活躍している。』
●『本書で描かれているオキシトシンの効果の多くは、動物実験によって例証されている。研究者たちは動物の行動の変化だけでなく、さまざまな計測可能な生理学的変化も観察してきた。これらの効果のほとんどは、ヒトでも確認されている。』
[不安が減り、社交性や子育て行動が増強される]
●低い投与量のオキシトシンを注射されたラットは、臆病さが減り、好奇心が増す。安全な巣を離れて、未知の環境を探求する傾向が強くなる。オキシトシンには明らかな不安軽減効果がある。
●同性の一群のラットは、未知の環境を探索する傾向が強くなり、接触を恐れる程度が少なくなる。集団内での攻撃がはっきりと減り、友好的な交流が増える。
●オキシトシンは危険に対する感じ方を鈍らせ、恐れるべきものがあまりないという気持ちにさせて、勇気を涵養する。
●オキシトシンの影響を受ける行動のうち、とりわけインパクトの大きい例は、母子間の相互作用である。メスのラットにエストロゲンを投与し、さらにオキシトシンの注射をすると、出産したことのないメスでさえ母性行動を示す。
●オキシトシンは分娩時と授乳時に分泌が促進される。オキシトシンは子宮の収縮を促し、新生児が押し出されるのを助ける。そして、乳管の周りの筋肉を収縮させ、乳汁が押し出されるのを促進する。
[ソーシャル・メモリー(他社とのかかわりについての記憶)の増強]
●少量のオキシトシンが不安を減らし好奇心を増すが、大量のオキシトシンが注射された雌牛は全く異なる効果を示す。
●オキシトシンの効果は非常に広範囲にわたるが、その一つに痛みの軽減がある。
[学習能力の向上]
●オキシトシンの学習促進効果は鎮痛効果によるものと考えられる。これはストレス低減にも関係しているのではないか。
●オキシトシンは速やかに血液中からなくなるので、長期的効果はオキシトシンの直接的な影響であるとは考えられない。これはオキシトシンが他の神経伝達物質の働きに長期的な影響を与えるためではないか。
[血圧に対する効果]
●オキシトシンは心拍数や血圧を上昇させることもあれば、低下させることもある。ヒトにおいては後者の場合が多いようである。これらの効果は交感神経と副交感神経が直接的に、もしくはより高位の脳からの接続を通して影響されることによって生じる。
●オキシトシンの効果はメスにおいてより顕著に現れる。これはエストロゲンのためである。エストロゲンはメスの個体において、オキシトシンの影響を増強し、効果の持続時間を長くする。卵巣のないメスはオスと同等となる。
[体温の調整]
●オキシトシンのサーモスタットは温度を均一に保つのではなく、温かさを体のある部分から他の重要な部分に移動させるような働きをしていると考えられる。授乳中の母ラットの腹側の血管は、オキシトシンの効果によって拡張しているため、授乳中は子どもを温めてあげることができる。
[消化活動の調節]
●オキシトシンの消化活動に関する働きは興味深いものである。その個体が満腹であるか空腹であるかによって、オキシトシンの果たす役割は異なる。オキシトシンの作用の仕方は、一種の知恵が働いている。
●オキシトシンは長期的には食欲を増進させるが、メスにおいて、特に授乳期間中に顕著にみられる。
●オキシトシンによって消化プロセスの効率が良くなるのは、ひとつには、オキシトシンが胃液の分泌と、ガストリン、コレシストキニン、ソマトスタチン、インスリンなどの消化に関係するホルモンの分泌を促進するからである。なお、コレシストキニン、ソマトスタチン、インスリンは、体内における栄養の蓄積も促進する。
●胃に食べ物がある動物では消化と栄養の蓄積が活発になる。一方、空腹の動物では消化プロセスが抑制される。オキシトシンのこの二つの効果は、いずれもオキシトシンが副交感神経のうちの腸の機能を制御する部分(迷走神経)に影響を与えることによってもたらされる。
[体液量の制御]
●オキシトシンは、パートナーともいえるバソプレシンとともに、主として尿の形で水を排出するか、体液の貯留を促進するか、いずれかの方法で体液量を調節する。ただし、それぞれの働きは体液量の均衡維持に対して、正反対の効果をもたらす。
●オキシトシンは腎臓がナトリウムや水分を尿の形で排泄するのを促進する。一方、体液の保持する機能に関し、ホルモンであるバソプレシンや副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)が増加すると、塩分を摂りたくなる。バソプレシンは尿を作る量を減らし体内の塩分と保持する。
●バソプレシンは血管を収縮させ、血圧をあげる。危険を感じる状況において、負傷によって血液その他の体液が失われる恐れがあるとき、ヒトは体液を保持しなければならない。バソプレシンとCRFはその目的のために作用する。
[成長と傷の治療]
●オキシトシンは傷ついた粘膜を治癒させ、再生させる。炎症を抑える作用もある。
[ほかのホルモンへの影響]
●オキシトシンは視床下部でつくられて、下垂体後葉に運ばれ、そこから、血液中に放出される。
●下垂体前葉からも数種類のホルモンは分泌されるが、視床下部でつくられた特別な制御物質が局所的循環システムを通して、下垂体前葉に運ばれ、そこでそれらのホルモンを血流に放出される。
●下垂体前葉につながる血管の中には、いくつかの神経からオキシトシンが放出される。オキシトシンは下垂体が、プロラクチン、成長ホルモン(GH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)などを分析するのを促進する。これらのホルモンの値が増えると、様々な効果が生まれる。例えば、プロラクチンは授乳期間中のメスの動物や授乳中の女性の乳汁の産生を促し、成長ホルモンは体の成長を促す。
●体にもともと備わっている抑制と均衡のシステムは複雑である。オキシトシンは常に存在し、さまざまな仕方で作用する。オキシトシンを中心とするこの抑制と均衡のシステムはうまく連携がとれていて、オキシトシンの様々な効果は、見事なクモの巣をなす糸のように結びついている。
画像出展:「オキシトシン」
第七章 オキシトシンの木
●オキシトシンの効果は成長と生殖への要求を満たす助けになるものである。
[成長の原理]
●オキシトシンの様々な効果は、一本の大きな木の枝のようなものである。それぞれの枝は、オキシトシンに関係のあるひとつの基本的な原理、すなわち一本の幹から出ている。その基本的な原理(幹)とは成長の促進である。
●オキシトシンは食物を別の物質に変えることによって、成長を促進する。
画像出展:「オキシトシン」
オキシトシンの効果のほとんどの共通の特徴である「成長」が、オキシトシンの木の幹になっている。
[成長のプロセス]
●すべての成長に必要な基本的必要要件のひとつは、栄養を体の中に組み入れることである。オキシトシンは様々な仕方でこの要請に応える。消化効率を高め、栄養の蓄積を増強する消化管ホルモンの分泌を促進したり、下垂体から成長ホルモンが分泌されるのを直接的に促進したりする。
●『生まれたばかりのラットにオキシトシンを注射すると、通常より速く成長し、通常より大きな成獣になる。妊娠中のメスのラットにオキシトシンを注射すると、通常より大きな子を産む。おとなのメスのラットに、オキシトシン注射をすると、注射を受けていない比較対照群よりも体重が重くなる。
おそらくもっと間接的な仕方でも、成長が促進されているのだろう。というのは、オキシトシンを注射すると、傷の治るのが二倍も速くなる場合があるからだ。この治癒効果は、オキシトシンが細胞分裂を促進すること―すなわち、新しい細胞ができるのを加速することによるのかもしれない。オキシトシンは、また、「成長因子」―細胞が大きくなることと分裂することを促進する血液中の物質―の産生量を増やすように思われる。
オキシトシンが成長を促進するのであれば、生殖にかかわっているとしても何の不思議もない。オキシトシンは卵と精子の両方に見られる。オキシトシンは卵巣からの排卵や精巣での精子の産生を促進する。オキシトシン注射は、受胎しやすさを増し、受精後早期の細胞分裂を速め、胚の成長速度を増す。このように、人生のもっとも早い段階から、オキシトシンは私たちの道連れとなり、一生の間、離れない。
生き物が成長するためには、まず、栄養を貯えなくてはならない。細胞分裂の前には、必ず、細胞の大きさが増す。大きさが増すのは、栄養の蓄積によって起こる。まず、栄養を貯えないと、細胞は分裂できない。栄養を貯えられない細胞系は、ほどなく滅びてしまう。妊娠・出産も元のユニット(単位)が大きさを増し、それからふたつに分かれるものだから、巨大なスケールでの細胞分裂とみなすことができるだろう。私は生殖プロセス全体を、基本的なオキシトシン原理が複雑な形で表現されたものとみなしたい。それは、まず成長を促進し、それから、元の存在を分割することによってふたつの存在を生み出し、命を増やすことだからだ。』
[出すこと]
●オキシトシンの木の2本目の枝は、出す能力(“排出”)に関わるものである。[1本目の枝は“成長”]
●オキシトシンの効果で子宮や乳房の筋肉が協調して収縮することによって、子どもが娩出され、乳が排出される。
[社交性、好奇心、つがい]
●オキシトシンの木の3本目の枝は、社交性と好奇心による行動を促す力である。
●社交性と好奇心による行動とは、例えば、あえて他の個体に近づき、その相手と相互作用をもち、個体識別ができるようになり、その相手のそばにいることを選ぶといったことである。
●この枝は母性行動や社交的行動(他社への働きかけ)の形での個体間の相互作用に影響を及ぼす。
●人と人がお互い身近になると、感情的なつながりが両者の間に生まれる。この現象は性的関係、親子関係、友人関係などにもあてはまる。
●絆―つまり感情的な結びつきがある場合には、人のために尽くすことが、より容易になる。一般的に言って、性的関係であろうと、育て、育てられる関係であろうと、友達関係だろうと―いや、職業上の関係であってさえ、人間関係というものは、双方が相手に手を差し伸べ、親しみを抱くことができる場合にこそ、実り多く、長続きするものになる。
●オキシトシンの不安軽減効果も、おそらくはこの枝に属する。不安のレベルが低いことは見知らぬ相手に近づくのに必要な前提である。
[枝同志を結びつける]
●バソプレシンは防御・縄張り・攻撃などに特徴づけられる行動にかかっている。一方、オキシトシンは他者とのかかわりあい、人なつっこさ、好奇心によって特徴づけられる行動を生み出す。
●他者と接触すること自体が、オキシトシンの放出を促し、個体間に絆、あるいは愛着を引き起こす。これらは親と子の関、性的パートナーの間、重要な人間関係においても同様である。この種の行動のすべて、そしてその生理学的要素の一部がオキシトシンによって強化される。
●オキシトシンの二大効果―ひとつは成長と治癒、もうひとつは社交的能力―は、一見、別物のように見えるが、大きな視野で見れば二つの効果には関係があると思われる。子どもの成長には母親の献身的な育児が必要だが、母親は出産のあと、母親は他者との交わりに積極的で、育む気持ちが強まるだけでなく、子どもとの絆を形成しようと努める。
[短期的賦活作用]
●オキシトシンの枝には短期的効果に関わるものもある。オキシトシンを注射すると、一時的に血圧と心拍数が上昇し、ストレスホルモンの分泌が促される。これらの穏やかな賦活効果は成長を促進する効果を補う。例えば、他者との間の相互作用を自分の側から始める時、このような補いが必要になる。
●出産においては陣痛の間、赤ちゃんへの血液供給を十分に行うためには母親の血圧は上昇する必要がある。短期間に見られるストレス反応は、新しい未知な環境に対処する際にも役立つ。このような場でリラックスするのは危険なことである。
[長期的ストレス軽減作用]
●オキシトシンの二大効果(成長と治癒、社交的能力)に続く、大きな枝は、強力で長期期間持続する抗ストレス効果である。オキシトシンには血圧と心拍を下げ、ストレスホルモンの血中濃度を減らし、痛みに対する耐性を増し、学習を促進し、安らぎの感情を強める働きがある。ただし、この効果が現れるのは、普通、しばらく時間が経ってからである。しっかりと覚醒している時間の後でなければ、のんびりとくつろぐのは危険である。
●オキシトシンの長期的な効果は、ストレスとは正反対の生理学的状態をつくりだす。交感神経の活動が抑制され、その結果、血圧もストレスホルモンの血中濃度も低くなる。同時に副交感神経の一部が活性化して、心拍を遅くし、消化と栄養蓄積を促進する。これらの抗ストレス効果には多くの機能があるが、共通点は成長に必要な前提条件を整えることである。成長に関係する活動は―栄養蓄積、傷の治療など、そして生殖そのものも―個体が平静な状態のときに強化されるからである。
●重要なことは長期的な抗ストレス効果は、オキシトシンの直接的な作用によるものでない。それはオキシトシンが速やかに血液中から消えるからである。数日、あるいは数週間も長期的な効果が続くのは、オキシトシンが他の生理学的メカニズムを活性化するからだと思われる。
●オキシトシンの長期的効果を説明するメカニズムについて、研究によって部分的には明らかになっている。
-『神経伝達物質であるノルアドレナリンとアドレナリンは、脳のストレス対処システムの重要な構成要素である。ノルアドレナリンとアドレナリンは神経系の特別な受容体―とりわけ、αアドレノ受容体、βアドレノ受容体と呼ばれる受容体と結合して作用する。オキシトシン注射を繰り返すと、αアドレノ受容体の一タイプであるα2アドレノ受容体と呼ばれる受容体の活性が高まる。ノルアドレナリンがこの受容体と結合すると、それ以外のアドレノ受容体と結合したときの効果とは正反対の抗ストレス効果が生み出される。つまり、オキシトシン注射を繰り返した結果として、あたかも船長がエンジンを逆回転させるように指示したかのように、ノルアドレナリンの影響がおおむね、正反対に切り替わる。』
[ともにそよぐ枝]
●オキシトシンの木は1本の枝が目立って風に揺れることはあるだろうが、多くは数本の枝がそよいでいる。
●オキシトシンの効果を取り扱う研究は動物実験に基づいているが、私たちヒトにおいて安らぎと幸福感を生み出す状況の一部も、オキシトシンの放出と関係があると推測することができる。
●動物における研究はそれらの状況を特定するのに役立ち、そのような状況でのヒトのオキシトシン値が測定されてきた。例えば、授乳しているとき、食べているとき、セックスをしているとき、あるいはもっと広く、他の人と身体的に接触しているとき、オキシトシン値が上昇することがわかっている。
●授乳は多量のオキシトシンを放出させ、オキシトシンの木の数本の枝を揺らす活動である。母乳が排出されるときには、母親も子どものゆったりとくつろいでいる。それにくわえて、母子間の相互作用が強められ、両者ともに、消化と栄養蓄積のプロセスの効果が増す。
[成長と防御の必要性]
●本書で論じている二つの主要なシステム―〈安らぎと結びつき〉システムと〈闘争か逃走か〉システムは―は、個々の細胞のレベルでさえ見られるふたつの基本的な生理学的プロセスが、複雑な形で表れたものだと考えられる。
[修復し、バランスを取り戻す]
●シーソーのストレスの側にだけ、明らかに過重がかかっている状態は、〈安らぎと結びつき〉効果を活性化することで、バランスが取れる。自然は私たちに「どちらか」の問題ではないと、繰り返し教えてくれているかのようだ。
第一部 〈安らぎと結びつき〉システム
第一章 オキシトシン
●1906年、ヘンリー・デールは、脳にある下垂体の中に、出産の経過を加速する物質を発見し、「速い」と「陣痛」という意味のギリシャ語にちなんで、それをオキシトシンと名づけた。また、後に、オキシトシンが射乳を促すことも発見した。
●『私は本書で紹介する研究を始める前に、自分自身、妊娠・出産・授乳に関して行動のしかたや考え方が、がらっと変わるのを経験していた。私はオキシトシンについての科学文献の中に、その変化を説明するものを見つけた。また、私の調べた資料には、オキシトシンがさまざまな面で母子間の相互作用を増し、母子間の絆を形成することを立証する動物実験についての記述が含まれていた。私は考えた。オキシトシンは私たちヒトに対しても、生理学的影響や心理学的影響を与えているのではないだろうか―それらの動物実験が示しているような面でも、まだ知られていないほかの面でも。
大いに興味をそそられて、手にはいる限りのオキシトシンについての文献を読んだ。わかったことは、オキシトシンはホルモンとして、血流に乗って体内を巡り、さまざまな機能に影響を与えるだけでなく、神経伝達物質として脳のさまざまな領域につながる神経ネットワークを通して作用するということだった。このふたつの方法で、オキシトシンは、体のさまざまな重要な働きに影響を与えている。〈闘争か逃走か〉反応を引き起こすのと同じ神経系が、オキシトシンが関与した場合には、正反対の反応を引き起こす。』
●オキシトシンとバソプレシンは2つのアミノ酸が異なるだけであり、非常によく似ている。また、進化論的観点から見ると、オキシトシンとバソプレシンは非常に古くからある物質である。
●オキシトシンは哺乳類のすべての種に、化学的に見てまったく同じ形で存在する。
●ミミズにさえ、オキシトシン様の物質が見られ、その刺激で卵を産む。
●オキシトシンとバソプレシンがこれほど長い間、動物界に存在しているという事実は、このふたつの物質が非常に重要であり、不可欠な役割を担っていることを示している。
●オキシトシンは多くの連鎖反応による効果の発端となるが、その鎖の最後の輪であることはまれである。このことは非常に重要である。
●オキシトシンによって制御されるシステムにはフィードバックの仕組みがあるので、オキシトシン産生細胞は、神経信号を受け取ること、ならびに化学的変化を感知することによって、外部環境と情報を交換できる。これらの細胞には、体の外側の器官、内部の器官、感覚器から情報がもたらされるので、オキシトシンの分泌は容易に促進される。興味深いことに、考えや連想、記憶などによってさえ、オキシトシン・システムが活性化される。
第二章 私たちを取り囲む環境
●生態系とフィードバック・システムについての理解が深まるにつれ、すべての生物個体がそれを取り囲む環境と常に接触し、影響を受けつづけていることがわかってきた。食刺激、姿勢、周囲の温度、飢え、満腹状態など、無数の可変要素が常に与えている情報は意識されることなく、心身の機能に影響を及ぼしている。
●生物学的リズムは環境から独立しているというふうに考えられがちだが、実際は、その多くがもともと、外界との相互作用によって獲得されたものである。女性の月経周期が月の満ち欠けと一致しているのも、すべての人がほぼ同じ長さの一日の生体リズムをもっているのも偶然ではない。かつては月光や日光がそのような機能を直接に制御していたが、進化の過程で、これらのリズムが生物学的システムに組み込まれた。
●生物個体を丸ごととらえるホリスティックな見方が医療や医学研究に導入された結果、心と体が相互依存的に機能しているということは、事実として広く受け入れられている。
●現代西洋文化のストレスの量についての不満は非常にありふれていて、もはや耳にすることもまれなぐらいである。今日、成功へのプレッシャーは非常に大きい。何事もテンポが速く、情報があふれすぎているし、職を得るためには厳しい競争に勝たねばならない。視覚、嗅覚、そしてとりわけ聴覚への刺激の量はすさまじい。私たちの体内ストレスに関連した〈闘争か逃走か〉システムが、過剰に活性化されているのは疑う余地がない。
一方、安らぎ・くつろぎ・親密さを促進する状況は、私たちの社会ではまれになってきている。そういう状況が生ずる頻度が少ないほど、〈安らぎと結びつき〉にかかわる私たちの内なる生物学的システムが活性化される頻度も減る。
画像出展:「オキシトシン」
●触覚は、〈安らぎと結びつき〉システムへの強力な入力源である。何かを一緒にするとき、人と人との相互作用において、触覚、嗅覚その他の感覚が、自然にその役割を果たす。個人の独立性を増し、共同作業を減らす現代の風潮の結果として、このような感覚刺激が減っている。そして、この変化は〈安らぎと結びつき〉システムの活動を減らし、究極的には、私たちの健康をおびやかす。
●〈安らぎと結びつき〉反応は、病気を予防するためだけに必要なのではない。人生を楽しみ、好奇心を燃やし、楽天的で創造的であるためにも必要である。
●穏やかな環境や、温かい人間関係のもとで、集中や学習力が強まることは、実験でも証明されている。ストレスにさらされている子どもは、心が平穏で安心感をもっている子どもよりも学習に苦労する。
第三章 バランスが肝心
●身体的ならびに心理的ストレスにさらされると、私たちが過酷な状況に対処できるように、体は利用できるエネルギーのすべてを動員する。そして、私たちがその状況を改善し、ひと息入れることができるようになるまで、それを続ける。
●『〈闘争か逃走か〉反応と〈安らぎと結びつき〉の状態の両方が、人生にとって欠かせないものだということは、いくら強調しても強調しすぎることはない。ほかの動物とまったく同様に、私たちヒトも難題に対応して、何であれ、そのとき必要な行動をとれるように自分のもっているすべての力を動員する能力が必要だ。そして、その正反対のことも必要だ。体は食べ物を消化し、貯えを補充し、自らを癒やす必要がある。情報を取り入れ、感情表現し、心を開いて好奇心を満たし、ほかの人たちと触れ合う必要もある。大変な出来事があったり、困難が続いたりしたあとに回復できるのは、そういう能力のおかげである。
前述したように、〈闘争か逃走か〉反応と〈安らぎと結びつき〉反応は、シーソーゲームの両端のようにバランスをとりあって機能する。満ち足りた気分で食物を消化しているときに、動揺や怒りやストレスを感じることはまれだ。一心に何かしているときや怒っているとき、急いでいるときには、消化のペースがゆっくりになり、愛想が悪くなる。一方のメカニズムが他方を排除することはないが、一時的に一方が優勢になるのだ。
しかし、現代では、〈闘争か逃走か〉反応は、突然の身体的危険を避けるというよりも、環境から多少とも継続的に過剰な要求をされていて、それに反応するということが主である。今や〈闘争か逃走か〉反応は、体のもつすべての力を一時的に動員するということではなく、ほぼ休みなく続く生理学的状態となってしまった。いわゆる慢性的ストレスが問題なのだ。
本書では、安らぎと結びつきを特徴とするさまざまな場面でのオキシトシンの役割について、これまでの研究で明らかになったことを描きだす。この新しい知識が、どの程度、そしてどのように私たちの役に立つか―たとえば、ストレスのマイナス作用に対して身を守る方法を見つけるのに役立つかどうか―は、これから研究していかなくてはならない課題だ。』
画像出展:「オキシトシン」
第二部 脳と神経系におけるオキシトシンの役割
第五章 オキシトシンの働くしくみ
●ホルモンには2種類ある。
‐ステロイドホルモン:コレステロールに関連した脂質から成る。
‐ペプチドホルモン:いくつかのアミノ酸が結合した小さなタンパク質で、細胞そのものの中に入るのではなく、細胞膜の外側の表面にある受容体を活性化する。
●オキシトシンはペプチドホルモンである。
●オキシトシンは哺乳類のすべての種において同じ構造である。
●オキシトシンは視床下部の室傍核と視索上核で産生され、下垂体に神経線維が走っており、この下垂体から放出される。
●室傍核の細胞グループからは、他にも多くの神経線維が伸び、扇状に広がって脳のさまざまな部分と接続しており、オキシトシンは神経伝達物質としても作用する。
●視索上核と室傍核でオキシトシンを産生する細胞には2つのタイプがある。
‐大きな細胞から産生されたオキシトシンは下垂体に運ばれる。
‐小さな細胞から産生されたオキシトシンは軸索を通って、脳内の受容体に運ばれる。
画像出展:「オキシトシン」
●オキシトシンを産生する細胞には興味深い特徴がある。神経細胞は活性化するとき電流が流れる。オキシトシン産生細胞の集まっているところでは、細胞ごとにバラバラに電流が生じるのではなく、一斉に生じる。授乳時のように、強く刺激されると、これらの細胞の電気活動は協調する。
●オキシトシン産生細胞の間には別の種類の細胞が存在し、一種の絶縁体として働いているが、その絶縁が解除されることで、すべてのオキシトシン産生細胞が力を合わせて働きはじめる。授乳中の女性の血中オキシトシン濃度が劇的に上昇するのは、ひとつにはこのためである。
●オキシトシン産生細胞に起こる協調は、生理学的に独特のものである。
●オキシトシンの効果をより厳密に調べると、非常に興味深いことに細胞の協調であれ、効果の協調であれ個体同士の協調であれ、協調こそ、オキシトシンの存在を示す目印であり、体内の他の多くの物質と区別する特徴である。
●視床下部からの神経を介してオキシトシンの影響を受ける脳領域には、視床下部と脳幹に近い領域が含まれる。視床下部と脳幹は血圧、運動、感情の制御に関係している部位である。この視床下部からの神経は、脳と脊髄の中の自律神経系の活動や痛みの知覚を制御する部位とも接続している。
画像出展:「オキシトシン」
●視床下部からの神経が複雑に枝分かれしているおかげで、私たちの体は、オキシトシンをメッセンジャーとして用い、さまざまな生理的機能・活動を協調させることができる。
●現在発見されているオキシトシン受容体は一つであるが、特定されていない受容体があると考えられている。
●オキシトシンの産生に影響を与えるのは外界からの情報(例えば皮膚を介しての情報)と体内からの情報(例えば子宮や腸についての情報)を運ぶ神経。そして、嗅球や大脳皮質の様々な部位、脳幹のような古く機能的に下位にある部位からの神経もオキシトシンの分泌を増やしたり、減らしたりする。
●オキシトシンの産生細胞の分布や、血中オキシトシンの循環には雌雄両性においてさほど差はないが、状況により雌に対して強い効果をもたらすことが、動物実験で示されている。
●女性ホルモンのエストロゲンが、オキシトシンの産生を増やすことで、オキシトシン・システムを活性することもある。エストロゲンはαタイプとβタイプの2種類の受容体に作用するが、オキシトシンの放出に関係しているのはβタイプの受容体である。
●神経伝達物質の中でオキシトシンを促進させるのは、グルタミン酸、CCK(コレシストキニン)、VIP(血管作用性腸管ペプチド)。抑制するのはGABA(γ‐アミノ酪酸)、エンケファリン、β‐エンドルフィン、ジノルフィンがあ
●モノアミンと総称される化学物質には、セロトニン、ドパミン、ノルアドレナリン等があり、これらは神経伝達物質として働くが、セロトニンやドパミンはオキシトシンの放出を促進する。ノルアドレナリンはストレスホルモンの一つであり、通常は覚醒と攻撃について賦活的効果をもたらし、〈闘争か逃走か〉状態を促進するため、それ自体は脳内のオキシトシン効果の標的でもある。ところがその一方で、セロトニンやドパミン同様、ノルアドレナリンもオキシトシンの放出を促進する。
●オキシトシン自身には他のほとんどのホルモンに見られる、サーモスタットのような自分で自分の産生を止めるフィードバック・システムがない。
●『オキシトシンは、オキシトシン産生細胞のオキシトシン受容体を活性化することによって、一定のレベルまでオキシトシンの産生を促す。そして、新たに活性化された受容体は、細胞を刺激して、さらにオキシトシンをつくらせる。』
オキシトシンといえば、分娩や射乳に関するホルモンである。というのが学校で学んだことです。
2018年に拝読させて頂いた、山口 創先生の著書『人は皮膚から癒される』では、スキンシップケアの重要性とその陰に隠れ、多大な影響を及ぼしているとみられるオキシトシンの存在を知りました。(ブログは“スキンシップケア[C触覚線維]”)
一方、新たに不妊鍼灸をはじめたことで不妊に悩む患者さまとの接点が生まれ、このオキシトシンこそが、生命の誕生を総合的に支配している存在なのではないかと直感し、そして、今回の本を見つけてきました。初版発行は2008年と古いのですが、著名な先生の著書であることとオキシトシンだけに焦点を当てた内容は、200ページを超えるをものだったため全体像から枝葉まで知ることができるのではないかと思い購入しました。
オキシトシンは、血圧と水分調整にかかわるバゾプレシン(ADH)とともに下垂体後葉ホルモンであり、静脈から心臓に還流した後、全身に送られます。つまり、この2つのホルモンは、下垂体前葉ホルモンや視床下部ホルモン(下垂体前葉ホルモン分泌を促進または抑制を担う)とは明らかに異なる特徴を有しています。その意味でも特別の存在といっても良いのではないかと思います。
画像出展:「東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科」
右上部の【下垂体】の中の[後葉]の下に”オキシトシン”が書かれています。上にある”抗利尿ホルモン(ADH)”がバソプレシンになります。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
『下垂体後葉(神経性下垂体)には下下垂体動脈が分布し、後葉内で毛細血管網を形成する。視索上核や室傍核からの神経線維は漏斗茎を通って後葉に至り、毛細血管周囲に終末をつくる。神経終末から放出されたオキシトシンやバソプレシンは後葉の毛細血管内に入り、静脈から心臓へ還流したのち全身に送られる。』
※視床下部から下垂体後葉につながるピンクの管がオキシトシンとバソプレシンのルートです。
著者:シャスティン・ウヴネース・モべリ
訳者:瀬尾智子、谷垣暁美
初版発行:2008年10月
出版:晶文社
こちらは原書の表紙です。
シャスティン・ウヴネース・モべリ博士です。
写真をクリック頂くと、博士のサイトに移動します。
目次
はじめに―ないがしろにされてきた人生の一側面
第一部 〈安らぎと結びつき〉システム
第一章 オキシトシン
第二章 私たちを取り囲む環境
第三章 バランスが肝心
第二部 脳と神経系におけるオキシトシンの役割
第四章 体の制御中枢
第五章 オキシトシンの働くしくみ
第三部 オキシトシンの効果
第六章 オキシトシン注射の効果
第七章 オキシトシンの木
第八章 授乳―オキシトシンが主役
第四部 結びつき
第九章 オキシトシンと触覚刺激
第十章 オキシトシンとほかの感覚刺激
第十一章 オキシトシンと性行動
第十二章 オキシトシンと人間関係
第五部 安らぎと結びつきを探求するさまざまな方法
第十三章 マッサージ
第十四章 食べること―内側からのマッサージ
第十五章 タバコ、アルコール、その他の薬物
第十六章 医薬品による安らぎと結びつき
第十七章 体を動かすこととじっとしていること
第十八章 私たちの内なるエコロジー
本題に入る前に、ひとつご紹介したいサイトがあります。
これは、今回の本の初版が2008年であり、動物実験によるものが多いということから、「現在、オキシトシンに関する最新の研究成果はどうなっているんだろうか?」という疑問がありました。そこで、検索してみるととても興味深い、新しい記事(2022年8月26日)を見つけました。
これにより、オキシトシンが今も注目にあたいする物質であることを確信することができました。
『慶應義塾大学医学部薬理学教室の塗谷睦生准教授、横浜国立大学環境情報学府博士課程前期2年の中村花穂、慶應義塾大学医学部薬理学教室の唐澤啓子(研究当時)、同大学医学部薬理学教室の安井正人教授らの研究グループは、これまで直接見ることができず謎に包まれてきた、脳内のペプチド性ホルモンの一種であるオキシトシンを「見える化」するツールの開発と応用に成功しました。
オキシトシンは、分娩促進や授乳促進、母性行動などに関与し、母親が子を産み育てる上で重要なホルモンとして知られてきました。さらに近年、これらの効果に加え、日常生活の中で人間関係を築いていく社会的行動においても重要な役割を持つことが明らかにされ、ヒトを含む動物の精神を強力に調節する、脳内の神経伝達物質としての役割が注目を集めています。闘争欲や恐怖心を減少させ他人に対する信頼感を増加させる効果や、自閉スペクトラム症の中核症状である社交性を改善する効果から、一般的には「幸せホルモン」や「愛情ホルモン」という名称でも親しまれ、とても注目されています。』
PDF資料(4枚):左をクリックするとダウンロードされます。
ブログは4章と15章以外、目次の中の黒字の個所です。また、長くなったので5つに分けました。
冒頭の「はじめに―ないがしろにされてきた人生の一側面」は10ページにわたって記述されているのですが、その内容に思わず惹きつけられました。全てではありませんが、3つに分け、かなりの部分をご紹介させて頂いています。
はじめに―ないがしろにされてきた人生の一側面
『私たちは日頃、善と悪、光と闇、男と女、太陽と月というふうに、両極端を頭においてものを考えることが多い。どうしてそうなのかはわからないが、二元論的考えに慣れっこになっていて、自分がそういうふうに考えていると意識することもないぐらいだ。とくに、科学の方法論は、そういう考え方によって形づくられてきた。とはいえ、学問分野の中には、両極のうちの片方だけが明確に表現される、あるいは両極の片方だけが私たちの好奇心をそそる、そういう分野もある。
生理学は医学の分野のひとつで、生きている動物がいかに機能するかを明らかにしようとするものだが、その中でも特に多くの力が注がれたのは、心身の激しい活動とストレスの生理学だった。それはたいていの場合、〈闘争か逃走か〉反応を調べることを通して研究された。このよく知られた反応において、私たちヒトやその他の哺乳類は、立ち向かうか、逃げ去るか、いずれにせよ、ストレスとなる状況に対処できるような体勢を整える。私たちは怒りや恐れを、ときにはその両方を感じる。血圧が上昇する。栄養蓄積を含めて、消化器系の働きがほぼ停止する。反応が速くなり、痛みに対しては鈍くなる。体じゅうのエネルギーのすべてが、(現実のものであれ、想像上のものであれ)直面する脅威に対して身を守ることに向けられる。ポパイがホウレンソウを食べて世界一強い男になるように、〈闘争か逃走か〉反応の影響下にあるヒトその他の哺乳類は、短時間、ふだん以上の力を発揮する。私たちの体が自家製の「滋養強壮ドリンク」を、ホルモンと神経伝達物質の形で提供してくれるおかげだ。
私が本書で描き出したいと思っている、これまであまり研究されてこなかった生理学的パターンは、〈闘争か逃走か〉反応の対極にあるものだ。ほかの哺乳類もそうだが、私たちは、危険に直面して臨戦態勢にはいる能力に加えて、人生の良きものを楽しみ、くつろぎ、他者と結びつき、自らを癒す能力をもっている。人生の出来事においてだけではなく、生化学システムにおいても、〈闘争か逃走か〉パターンの対極に位置するものがある。本書があつかうのは、シーソーの反対側の端にあるシステムだ。私たちの体は、安らぎと結びつきを得るためのシステムを備えているのである。
〈安らぎと結びつき〉システムに関わりが深いのは、恐怖ではなく信頼と好奇心であり、怒りではなく好意である。循環器系はペースを落とし、消化器系はフル回転する。心が静かで安らいでいるとき、私たちは防御をとく。感受性が豊かになり、開放的な気分で、自分の周囲の人たちに関心を抱く。私たちの体は「滋養強壮ドリンク」ではなく「癒しのネクター」を提供してくれる。その影響下で、私たちは自分のまわりの世界やそばにいる人々を肯定的なまなざしで見る。私たちは成長し、癒される。〈安らぎと結びつき〉反応もまた、ホルモンならびに神経伝達物質の作用だが、これらの基本的な生理学的作用がどのようにして〈安らぎと結びつき〉反応をもたらすのかについては、まだ十分な確認や研究がなされていない。
このシステムが顧みられないできたという事実から、科学研究の背後にどういう価値観があるのかがよくわかる。〈安らぎと結びつき〉システムの維持にとって、〈闘争か逃走か〉システムと同じくらい重要かつ複雑であるのに、研究される頻度は、〈闘争か逃走か〉システムのほうがはるかに高い。たとえば、自律神経系(神経系のうち不随意的な身体機能を調整する部分)をあつかった論文のうち、休息や成長に関与している副交感神経部分に関するものは10パーセントに過ぎず、残りの90パーセントは、〈闘争か逃走か〉反応において活性化する交感神経部分に関するものだ。ストレスや痛みをテーマとする学術会議はよく催されるが、安らぎ、休憩、幸福をテーマとする学術会議はほとんどない。』
『〈安らぎと結びつき〉システムが働くのは、体が休んでいるときが多い。静かな見かけの下で、ものすごい量の活動が起こっているが、それらの活動は運動や急激な力の発揮には向けられない。〈安らぎと結びつき〉システムは体が自らを癒やし、成長するのを助ける。このシステムは栄養をエネルギーに変え、あとで使うために貯えておく。体も心も安らいでいる。そういう状態のときには、私たちは自分の中の資源や創造性を、よりよく利用できるようになる。ストレスにさらされていないときの方が、学習能力や問題解決能力は高くなる。
〈闘争か逃走か〉システムの対極にある〈安らぎと結びつき〉システムの身体的・心理的働きについて理解を深めることが、このうえなく重要だと私は信じている。個々の状況のもとで個々の人々が最適な反応をするには、この二つのシステムの両方が必要だ。しかし、長期にわたるストレスが、さまざまな心理学的・身体的問題を引き起こすことは、今では広く知られている事実だ。長い目で見て健康であるためには、この二つのシステムのバランスがとれていなくてはならない。』
『私がこの路線を選んだのには、個人的な理由もあった。四人の子の母としての経験から興味深い疑問がわいたのだ。妊娠中、授乳中、そして子どもたちと密接に接触していた時期に私が経験したのは、人生のほかの課題に挑戦するときにいつも感じていたストレスとは正反対の状態だった。私は妊娠や授乳に関係する精神生理学的状態がもたらすものは、挑戦・競争・達成にかかわる精神生理学的状態がもたらすものとはまったく異なることを知った。今から二十年以上も前、私はこの人生経験を科学的に探求しようとする過程で、重要な生物学的マーカーの存在に気づいた―その生物学的マーカーこそ、本書の主題である。
広く世界を見渡すと、心が平らかで安らいでいることを評価し、望ましい在り方だと考える伝統のある地域も多い。中国、ヒンズー、その他の文化は、この状態に到達するのに役立つさまざまな技術を開発してきた。今では西洋でも、より質の高い生活、より大きな幸福への道を求めて、瞑想・ヨガ・太極拳などが熱心に実践されている。
ストレスが増えつづけ、人と人とがばらばらになっていく一方の現代生活の中で、安らぎと、結びつきの必要性がますます切実に感じられるようになった。安らぎと結びつきへの渇望は、あわただしいライフスタイルを問い直し、心の平安と気持ちのいい人間関係に至る道を、意識的に探求するという形で表れる。しかし、この渇望が十分意識されず、きちんと認識されていない場合も多く、人によってさまざまに異なる対応の中には、長い目で見ると不健全なものもある。
たとえば、たっぷり食べ物をとれば―とりわけ脂肪分に富む食べ物をとれば、心が安らぎ、よく眠れるようになる。だが、いつもこのようにして自分をなだめる習慣がつくと、不都合な結果が生じるのは明らかだ。酒も心に安らぎを与え、眠気を誘う。ストレスに満ちた一日のあとで、気持ちをほぐす手段として飲酒する人は多い。だが、これもまた、問題を生じかねない。ストレスや不安や抑うつに悩む人々が、医師に処方された薬を飲む場合も同様だ。直接的な依存性があるとは考えられていない最新の薬であっても、望ましくない副作用があることは大いに考えられる。
エクササイズによって、体重をコントロールする効果だけでなく、心の落ち着きや安らぎが得られると感じる人もある。鍼、指圧、マッサージ、各種のエナジー・トリートメント〔訳注 レイキ(霊気)など、気を用いる療法〕など、代替医療を定期的に受けることが、身体症状を軽くするだけでなく、安らぎを得るのにも役立っていると感じる人もいる。瞑想や祈りなどのスピリチャルな活動を実践することによって、心が静まり、リラックスできると感じる人も多い。
本書をお読みになれば、体と心を通して憩いと幸福へと至るさまざまな方法が、一見、まったく異なっているように見えても、実際には共通点をもっていることがおわかりになるだろう。それらの方法はすべて、私たちの体内の同じシステムを活性化することで目的を果たしているように思われる。そしてその手助けをしているのは、オキシトシンという非凡な生化学物質であるようだ。
本書で展開される分析は、私自身の、そしてほかの人たちの研究によって裏づけられている。この長い年月の間に、〈安らぎと結びつき〉システムの生理学的プロセスに同じような関心をもち、この研究が健康と幸福にとって大きな意味をもつという共通の確信を抱く仲間がふえ、ネットワークが形成された。このネットワークを構成しているのは、研究者仲間や院生だけではない。関心をもつ一般の人もたくさん参加している。それらの人々は私たちと貴重な経験を分かち合い、研究のヒントをたくさん与えてくれた。
オキシトシンの効果についての考えは、動物実験ならびにヒトでの観察と測定に基づいている。私はそれらの知見から、まだ科学的解明が進んでいない事柄について、推測し、仮説を立てる。私がそのようにするのは、科学的研究によってこの分野が十分に探査されているわけではない現状において、「大まかな絵」を浮かびあがらせ、〈安らぎと結びつき〉システムの全体像をつかめるようにするためだ。私はオキシトシンを、私が〈安らぎと結びつき〉システムと呼ぶ広範な生理学的作用と結びつけ、ひとつの主張をうちたてようとしている。私が根拠とする証拠は説得力のあるものだが、状況証拠にすぎない場合もある。私のしていることは、いくつかピースが足りないジクソーパズルを嵌め合わせることに似ている。手持ちのピースを組み合わせて、二、三歩後ろに下がり、より広い視野の中で見ると、〈安らぎと結びつき〉システムの全体像がどんなふうになるか、見当がつく。
この短い著書で、この分野でなされてきたすべての研究の概要を紹介することは不可能だ、だから私は、そうする代わりに、いくらかの科学的な成果を出発点として、私たちが安らぎと結びつきをいかに切実に必要としているか、その状態がいかにして生み出されるか、それが私たちの健康にどのようなよい影響をもたらすかについて、自由に考えをめぐらせた。これらの問題は、今後、科学者がさらに探求していかなくてはならない重要な問題だと私は信じている。』
イラストを拝見すると、モべリ博士の今回の本「オキシトシン」を参考にされてることが分かります。
不妊治療に取り組みながらの流産は、極めて厳しい現実です。
なぜ起きるのか、鍼灸師としてできることは限られますが、少なくとも、何が起きたのか、どうして起きたのかを知ることは、良い施術の第一歩になることは間違いないと思い、特集のタイトルが気になった今回の雑誌を購入しました。
発行:2020年11月
出版:不妊治療情報センター