慢性炎症ゼロ3

著者:今井一彰

初版発行:2022年11月

出版:(株)飛鳥社

目次は“慢性炎症ゼロ1”を参照ください。

第6章 「メンタル強化」で炎症ゼロ

炎症ゼロ習慣40…「体のコゲ」を増やすストレスは早めに解消

病気の原因はストレスと言われるが、そこには慢性炎症が関係していると考えられるようになった。特に脳はストレスにより炎症が引き起こされることが明らかになっている。

・ストレスとの関係では自律神経も非常に重要である。ストレスで優位になった交感神経は血糖値を上昇させ、糖化によりAGEを増加させ慢性炎症を起こす。また、過敏性腸症候群や潰瘍性大腸炎もストレスの影響が大きい。

炎症ゼロ習慣41…ストレスの度合いを「見える化」する

・ストレスマネージメントに重要なことは、「自分のストレスを自覚する」ことである。

・ストレスはネガティブなものとは限らず、ポジティブな昇進や結婚など喜ばしい出来事もストレスになる。これらは気づかないうちに溜まるストレスと言える。


炎症ゼロ習慣42…タバコやお酒よりも体に悪い「孤独」

・人とのつながりが少ないことは、タバコやお酒の害を上回る。電話、メール、LINEだけでも孤独感をやわらげることができる。

画像出展:「孤立が病気や死亡を招く!NHK

『人生100年時代。健康長寿の秘けつを特集。3日目のテーマは「孤立」。実は孤立は心臓病や認知症のリスクを高め喫煙や飲酒以上の健康リスクとされる。特にコロナ以降は人との接触が制限される中、孤立状態に陥る人の増加が危惧されている。』

炎症ゼロ習慣43…「病気の写真」を見ない

・人は、「ミラーニューロン」により、他人のネガティブな情報を自分が経験したようなストレスに感じてしまう場合がある。また、「ネガティビティ・バイアス」は人がネガティブな情報に向きやすく、記憶に残りやすいという特徴がある。よって、ネガティブな情報自体にふれる機会を減らすことが重要である。

炎症ゼロ習慣44…「私」と言ってはいけない

・人は常に心の中で自分自身に問いかけている。この心の中の独り言を「セルフトーク」という。この際、「私は、がんばらなくちゃいけない」という一人称ではなく、「(自分の名前)、がんばれ!」という第三者の視点から自分に語りかけるようにすると良い。これは「メタ認知」による効果と考えられている。メタ認知とは他者の視点で客観的に自分を見つめること。冷静な視点で自分の気持ちや状況を把握・分析することにより、感情のコントロールをうまく行うことができる。

画像出展:「メタ認知とは?CARPEDIA

『メタ認知研究の起源の一つは、自分が内面で意識していることを観察し、言語化しようとする「内観」という手法です。そして、直接「メタ認知」という言葉が使われるようになったのが、アメリカの心理学者ジョン・H・フラベルが1970年に提唱した、記憶過程に関するメタ認知であるメタ記憶の研究です。』 

炎症ゼロ習慣45…毎日の「3つのよいこと」で幸福度アップ

・ストレスはその日に解消するのが理想的である。「3グッド・シングス」とは1日の終わりに、その日にあった「よかったこと」を3つ書き出すという方法である。これは記憶に残りやすいネガティブな情報ではなく、ポジティブな情報を意識的に思い出し、前向きな気持ちで1日をリセットし、新たな気持ちで次の日を迎えようとするものである。

炎症ゼロ習慣46…「スマホのストレス」から脳を解放する

・スマホの使い過ぎは「脳疲労」につながる。脳疲労は集中力の低下、物忘れ、感情のコントロールする力の低下などの原因となり、些細なことでイライラしたり、落ち込んだりといったメンタルの問題にも関わる。

炎症ゼロ習慣47…「頭をからっぽ」にして、悩みを回避

ネガティブ思考の人の中には「答えの出ない悩み」に取りつかれてしまっている人が少なくない。過去は変えることができず、未来に何が起こるかは分からないので、本来、考えても意味のないことで、ストレスだけが溜まっていく。

・マインドフルネス(瞑想方法)は現在に心を向けることである。医療現場や企業の研修にも取り入れられている。初心者は、まず「呼吸に集中する」のが良い方法である。

画像出展:「マインドフルネスの意味をわかりやすく解説!初心者向けのやり方やアプリも紹介! コグラボ

『マインドフルネスとは、今、この瞬間に起きている目の前のことに意識を向けるという心の状態です。この状態を作るために役立つ方法は、「マインドフルネス瞑想」と呼ばれます。』

 

 

炎症ゼロ習慣48…「できる1割」だけに注力して、9割は手放す

・ビジネスの世界で注目されているのが「ストア哲学」である。ストア哲学の中で、ストレス・コントロールに役立つ考え方が「自分の力でコントロールできること、できないことを分ける」というものである。自分の力ではどうしようもないことは手放す。何もしない、悩まない。これだけでもストレスは減る。

画像出展:「ストア派の哲学【ざっくり1分】まとめモチラボ

ストア派の哲学では理性(ロゴス)によって感情(パトス)に打ち勝つことを目指します。そして、それによって感情に負けない心(アパテイア=不動心)という究極の境地に到達することが幸福だと考えます。』

 

 

動画(5分26):「ストア派の哲学 - マッシモ・ピリウーチ好奇心を持ち続けよう

とても分かりやすい動画です。ストア哲学に感銘をうけ、『ストア派の哲人たち』という本を買ってしまいました。

炎症ゼロ習慣49…「最悪な状況」を思い浮かべる

・「ストア哲学」の中に、「ネガティブ・ビジュアライゼーション」がある。これは最悪な状況をイメージすることで、気持ちをコントロールする方法である。イメージする悪い状況は実際にはまだ起こっていないので、現実をポジティブに捉え直すという効果がある。その結果、現状に対する過度な不安・不満がなくなり気持ちが安定する。

無意識のうちにネガティブな考えが浮かび、なかなか消えない場合はポジティブではなく「ネガティブ・ビジュアライゼーション」が有効である。

画像出展:「Negative Visualization:精神的に強くなるためのストア派の実践njlifehacks

将来起こりうる悪いシナリオを頭の中で想像(視覚化)して、そうした事態が起きたときに備え、冷静さを保ち、最善の方法で対応できるようにします。』

炎症ゼロ習慣50…「ストレス対処法」のリストを持ち歩く

・ストレスは様々、人も様々なので心のケアには自分なりのストレス対処法を見つけることが重要である。

画像出展:「コーピングリストとは?コグラボ

コーピングリストは、ストレスに対処する方法を書き出してリスト化したものです。このリストを作成しておくと、実際にストレスを感じる場面に遭遇した際に、迷いなく自分に合った方法でストレスに対処できるようになります。』

おわりに 名医よりもクスリよりも、「病気にならない」が重要

『健康になるためのタンクがあるとしましょう。ここに「プラス」を貯めていくと健康なる仕組みです。お酒を飲んだりタバコを吸ったり、甘いものを食べすぎたり……と体にとって「マイナス」なことをすると、炎症が増えてしまいます。炎症になることで、タンクは傷つき、穴が開いてしまうので、せっかく貯めたプラスの水はどんどん漏れてしまいます。これではいつまでたっても、健康のタンクは満タンになりません。水を貯めるには、水の量を増やすことよりも、炎症を消して、タンクの穴をふさぐことが重要なのです。

人の体もこれと同じ。炎症を消し、予防することで、健康の土台をつくることが大切です。そうして免疫力を高めて、「病気ならない体づくり」を実践してほしいのです。』

慢性炎症ゼロ2

著者:今井一彰

初版発行:2022年11月

出版:(株)飛鳥社

目次は“慢性炎症ゼロ1”を参照ください。

第3章 「呼吸」で炎症ゼロ

炎症ゼロ習慣18…万病を招く「口呼吸」をしない

・口呼吸の問題は体の防御機能が期待できないことである。鼻は「空気清浄機」の役割を果たしている。さらに、加温・加湿の機能も備えている。

炎症ゼロ習慣19…「落ちベロ」を正しい位置に戻す

・舌の正しい位置は「舌が上顎にくっついている状態」である。

炎症ゼロ習慣20…「あいうべ体操」で舌を鍛える

・舌の老化は舌の筋肉トレーニングを行うことで筋力をアップさせることができる。

画像出展:「あいうべ体操みらいクリニック

みらいクリニックさまは、著者である今井一彰先生のクリニックでした。あいうべ体操の動画やアプリも紹介されています。

炎症ゼロ習慣21…「鼻うがい」でフィルター効果アップ!

・空気清浄機同様、体内に取り入れる空気をきれいにする役割の鼻も毎日のケアが必要である。

・慢性炎症を防ぐために有効なのが「鼻うがい」である。特に、上咽頭の汚れや有害物質を洗い流すのが狙いである。


動画(3分9秒):「鼻うがいの方法をご紹介報謝会

こちらの動画では、鼻うがいは1日2回までとのことです。

炎症ゼロ習慣22…「お口の体操」で飲み込み機能アップ

・誤嚥は舌や喉の筋力の低下や反射神経が衰えたりして、ものを飲み込む機能が老化するために起こる。

画像出展:「家庭でできる嚥下体操あいーと

ホームページに紹介されている体操は5つあります。

炎症ゼロ習慣23…見えない炎症を防ぐ「正しい歯みがき」

「正しい歯みがき」は口の中にプラーク(歯垢)を残さないこと。歯ブラシを歯や歯肉にしっかり当て、デンタルフロスや歯間ブラシも利用する。歯磨きは毎食後に行うことがベストだが、最低でも1日1回、すみずみまで磨くことを習慣にすることが大切。これは、プラークは食後24~48時間で形成されるからである。

炎症ゼロ習慣24…生活する場所の「空気」に注意

・ダニの死骸やカビなどのハウスダストも、呼吸器の病気やアレルギーなどの原因になるので、部屋をまめに掃除したり、空気清浄機を使ったりして、室内の空気の質を向上するように心がける。

第4章 「運動」で炎症ゼロ

炎症ゼロ習慣25…運動は最高の「抗炎症薬」

運動は様々な病気の予防・改善に役立つ。その理由の一つに、運動の「抗炎症効果」がある。

・がんは慢性炎症と関係しているが、運動によって発症リスク(特に大腸がんや乳がん)が抑えられる。

適度な運動をすると筋肉から若返りホルモンとも言われ、炎症作用を抑える「マイオカイン」という物質が出る。マイオカインは筋肉が出す物質の総称で、300種類以上ある。その一つが「インターロイキン6(IL-6)」である。

・IL-6は炎症を促進する働きがあるが、適度な運動によって筋肉から放出される時は、免疫の過剰な反応を抑え慢性炎症を改善する効果もある。つまり、運動の有り無しによって炎症を促進することもあれば、炎症を抑制することもある。

画像出展:「無理せずできる“若返り”筋トレ 「体と脳を活性」NHK

『筋肉には体を動かしたり支えたりする以外に、ホルモンを分泌する働きがあります。それが「マイオカイン」です。マイオカインは現在30種類以上発見されていますが、そのひとつ「イリシン」は血流に乗って脳に運ばれると、神経細胞を活性化する物質を分泌すると考えられています。

注)特に中高年になったら激しい運動はマイナス(活性酸素が増大/脱水にも注意)です。有酸素運動がお勧めです。

 

炎症ゼロ習慣26…「座りすぎ」が寿命を縮める

・日本人は「世界一、座っている時間が長い」。1日7時間である。

「座りすぎ」は寿命を短くする。30分座ったら3~5分歩いたり、ストレッチをしたりして体を動かすよう心掛けると良い。

・最近では立ったままデスクワークできるスタンディングデスクが流行している。

炎症ゼロ習慣27…「グリーンエクササイズ」で効果倍増!

・グリーンエクササイズとは、自然の多い場所で体を動かすことである。運動はどんなものでも良い。

炎症ゼロ習慣28…短時間で効果絶大の「ゆるHIIT」

・「HIIT」は4分間、20秒の運動と10秒の休憩を8回繰り返す。

・トレーニングの組み合わせによって「有酸素運動」と「筋トレ」両方の効果が得られる。

・高強度のトレーニングを繰り返すことで、効率的にミトコンドリアの量や質を高められる。

・HIITでミトコンドリアが増えて、機能がアップすれば、疲れにくい体、やせやすく太りにくい体になり、活性酸素の発生も抑えられる。

画像出展:「1日たった4分の若返りトレーニング50代から始めたい、「ゆるHIIT

こちらはみらいクリニックの今井一彰先生の寄稿で、動画もアップされています。

炎症ゼロ習慣29…ふつうの散歩より効果の高い「インターバル速歩」

・インターバル速歩は3分間の「速歩き」と3分間の「ゆっくり歩き」を1セットとして、5セット(30分間)続ける。週4日以上を目標にする。

炎症ゼロ習慣30…筋トレの王様「スクワット」を取り入れる

・スクワットは大腿四頭筋を含め、体の筋肉の大半がある下半身の筋肉をまんべんなく鍛えることができる。回数は自分がきついと感じるまでが目安。

第5章 「睡眠」で炎症ゼロ

炎症ゼロ習慣31…「睡眠不足」こそが万病のもと

睡眠不足は有害物質を蓄積させ、様々な不調や病気につながる。

・アルツハイマー型認知症の原因たんぱく質の「アミロイドβ」は睡眠不足になると脳に蓄積して炎症を引き起こす。

・睡眠不足は血糖値を上げ、ストレスを高め太りやすくする。

炎症ゼロ習慣32…「7時間睡眠」が体を強くする

・短時間の睡眠の問題には、「レム睡眠」の不足がある。レム睡眠は日中に得られた情報の整理や記憶への定着を行っている。

炎症ゼロ習慣33…毎日15~20分の「パワーナップ」で脳をリセット

・15分ほどの仮眠のことを「パワーナップ」という。昼寝には脳の疲れをとってその機能を回復させる効果があると考えられている。昼寝は15~20分。15時以内に済ませるようにする。横になると深く寝入ってしまうおそれがあるので、椅子に座りリラックスできる姿勢が良い。

炎症ゼロ習慣34…「香り」が眠りの深さを決める

・嗅覚の情報は他の感覚と異なり大脳皮質を経由せず、直接、大脳辺縁系や視床下部へと伝えられる。そのため、リラックス効果の高い香りのエッセンシャルオイルを使えば、気持ちを穏やかにして眠気を誘ったり、副交感神経を高めて心身をリラックスさせたりすることができる。

炎症ゼロ習慣35…「雑音」が安眠を誘う

・「ホワイトノイズ」とは安眠効果のある雑音で、人間の耳に聞こえるすべての周波数帯域の音が均等に混ざっている雑音のことである。

動画(29分5秒):「眠れない夜に聴く432hzとホワイトノイズの癒しの曲Calm Weves Channel

こちらは「ホワイトノイズ」だけではありませんが、いかにも眠くなりそうな音色です。

炎症ゼロ習慣36…悪夢を見せる犯人は「靴下」?

・靴下を履いたまま布団に入るのは睡眠の質を下げることもある。これは睡眠には深部体温を下げる必要があり、眠くなると手足が温かくなるのは放熱のためである。電気毛布や湯たんぽなども同じ理由で睡眠の妨げになるので寝る前だけにした方が良い。

お勧めはレッグウォーマーである。足元が温かく感じるが放熱を妨げることはない。

炎症ゼロ習慣37…「スマホ」は寝室に置かない

・夜、寝る前にスマホを使うと、体内時計が狂ってしまうためである。

ブルーライトは紫外線についで波長が短く、目の奥の網膜にまで届く強い光である。また、睡眠・覚醒のリズムを整えるメラトニンの分泌量を抑制する。これは、強いブルーライトの光によって「まだ昼間だ」と勘違いしてしまうためである。

・睡眠のリズムのためには、寝る前の2時間はスマホやPCは使わないようにする。

炎症ゼロ習慣38…「マウステープ」で睡眠の質がアップ

・仰向けで口を開けた状態で寝ていると、舌が喉の方に落ち、さらに舌の筋肉の緊張が緩むため気道を圧迫する。これにより、いびきが出たり無呼吸状態となったりするため、睡眠の質は低下する。

・マウステープは皮膚にやさしい医療用テープや専用テープを利用する。

炎症ゼロ習慣39…どうしても眠れないなら「やさしい睡眠薬」

・睡眠の件は、まずは医師に相談するのが良いが、オレキシン受容体拮抗薬(商品名:ベルソムラ、デエビゴ)という新しい薬は副作用や依存症の問題が少ない。

慢性炎症ゼロ1

2017年に“慢性炎症について”というブログをアップしたことがあったため、慢性炎症が大きな問題であることは認識していました。一方、前回のブログは“口腔内細菌との闘い”でしたが、歯周病の恐ろしさを理解したことで、今一度、慢性炎症について勉強したいと思いました。

ストレスをライターの「火」だとすれば、「消火できないボヤ」のような状態が慢性炎症です。従って、不健康の確信犯は慢性炎症といえるかもしれません。そしてその慢性炎症という「消火できないボヤ」の油となっている大きな要因が、「コゲ:AGE(終末糖化産物)」と「サビ:活性酸素」であり、起きている問題は、細胞や血管の劣化です。

著者:今井一彰

初版発行:2022年11月

出版:(株)飛鳥社


はじめに 診察に訪れる患者さんの98%にあった「炎症」

第1章 「慢性炎症」が老化と病気をつくる

●「老化」や「病気」は炎症がつくり出す

●すぐに治る炎症と体をいじめ続ける炎症

●慢性炎症は「静かなる殺人者(サイレントキラー)」

●全身のあちこちに病気をうつす慢性炎症

●コゲ、サビ、肥満は慢性炎症と大の仲良し

●いつまでも若い人には炎症が少ない

第2章 「食べもの」で炎症ゼロ 

●炎症ゼロ習慣1…「腹八分目」は長寿遺伝子をオンにする

●炎症ゼロ習慣2…「1日のうち12時間」は何も食べない

●炎症ゼロ習慣3…食事ひとくちで「30回噛む」

●炎症ゼロ習慣4…「やわらかい食べもの」が肥満のもとになる

●炎症ゼロ習慣5…「ごはんは最後」を心がける

●炎症ゼロ習慣6…間食は「噛むおやつ」で決まり!

●炎症ゼロ習慣7…「小麦粉」が腸を傷つける

●炎症ゼロ習慣8…「牛乳」が健康によいとは限らない

●炎症ゼロ習慣9…腸から元気になる「骨スープ」

●炎症ゼロ習慣10…すぐに「甘い」と感じるものは避ける

●炎症ゼロ習慣11…ビタミンのために「くだもの」を食べすぎない

●炎症ゼロ習慣12…「低CIフード」で血糖値をおだやかに

●炎症ゼロ習慣13…日本型の「地中海食」は注意が必要!

●炎症ゼロ習慣14…炎症の原因をお掃除する「ポリフェノール」

●炎症ゼロ習慣15…健康スパイスの王様「ターメリック」

●炎症ゼロ習慣16…毎日「発酵したもの」を取り入れる

●炎症ゼロ習慣17…「青魚の脂」は健康なアブラ

第3章 「呼吸」で炎症ゼロ

●炎症ゼロ習慣18…万病を招く「口呼吸」をしない

●炎症ゼロ習慣19…「落ちベロ」を正しい位置に戻す

●炎症ゼロ習慣20…「あいうべ体操」で舌を鍛える

●炎症ゼロ習慣21…「鼻うがい」でフィルター効果アップ!

●炎症ゼロ習慣22…「お口の体操」で飲み込み機能アップ

●炎症ゼロ習慣23…見えない炎症を防ぐ「正しい歯みがき」

●炎症ゼロ習慣24…生活する場所の「空気」に注意

第4章 「運動」で炎症ゼロ

●炎症ゼロ習慣25…運動は最高の「抗炎症薬」

●炎症ゼロ習慣26…「座りすぎ」が寿命を縮める

●炎症ゼロ習慣27…「グリーンエクササイズ」で効果倍増!

●炎症ゼロ習慣28…短時間で効果絶大の「ゆるHIIT」

●炎症ゼロ習慣29…ふつうの散歩より効果の高い「インターバル速歩」

●炎症ゼロ習慣30…筋トレの王様「スクワット」を取り入れる

第5章 「睡眠」で炎症ゼロ

●炎症ゼロ習慣31…「睡眠不足」こそが万病のもと

●炎症ゼロ習慣32…「7時間睡眠」が体を強くする

●炎症ゼロ習慣33…毎日15~20分の「パワーナップ」で脳をリセット

●炎症ゼロ習慣34…「香り」が眠りの深さを決める

●炎症ゼロ習慣35…「雑音」が安眠を誘う

●炎症ゼロ習慣36…悪夢を見せる犯人は「靴下」?

●炎症ゼロ習慣37…「スマホ」は寝室に置かない

●炎症ゼロ習慣38…「マウステープ」で睡眠の質がアップ

●炎症ゼロ習慣39…どうしても眠れないなら「やさしい睡眠薬」

第6章 「メンタル強化」で炎症ゼロ

●炎症ゼロ習慣40…「体のコゲ」を増やすストレスは早めに解消

●炎症ゼロ習慣41…ストレスの度合いを「見える化」する

●炎症ゼロ習慣42…タバコやお酒よりも体に悪い「孤独」

●炎症ゼロ習慣43…「病気の写真」を見ない

●炎症ゼロ習慣44…「私」と言ってはいけない

●炎症ゼロ習慣45…毎日の「3つのよいこと」で幸福度アップ

●炎症ゼロ習慣46…「スマホのストレス」から脳を解放する

●炎症ゼロ習慣47…「頭をからっぽ」にして、悩みを回避

●炎症ゼロ習慣48…「できる1割」だけに注力して、9割は手放す

●炎症ゼロ習慣49…「最悪な状況」を思い浮かべる

●炎症ゼロ習慣50…「ストレス対処法」のリストを持ち歩く

おわりに 名医よりもクスリよりも、「病気にならない」が重要

はじめに 診察に訪れる患者さんの98%にあった「炎症」

・来院患者の98%に上咽頭炎がみられる。

画像出展:「慢性上咽頭炎大正製薬製品情報サイト

慢性上咽頭炎の詳しい説明が書かれています。監修されたのは今井先生です。

第1章 「慢性炎症」が老化と病気をつくる

「老化」や「病気」は炎症がつくり出す

・炎症が続くと、細胞や血管が傷ついて劣化していくため、病気を引き起こす。

長期化する炎症は体のどの場所でも起こる可能性がある。そして多くの病気の原因になる。

・長引く炎症は「老化」とも関係している。シミ、シワ、抜け毛、白髪の原因にもなる。

画像出展:「炎症ゼロ習慣」

 

すぐに治る炎症と体をいじめ続ける炎症

・急性炎症の4徴候は「発赤」、「腫脹」、「発熱」、「疼痛」である。これらは危険を知らせる役目もしている。

・急性炎症は体に侵入してきた細菌やウィルスなどの異物を退治して、傷ついた細胞を修復するための作用である。そして、細胞が修復されれば炎症は治まる。

炎症の原因となる物質が除去できないと、いつまでもダラダラと炎症が続く。このような長引く炎症を慢性炎症という。長引けば細胞の修復が追い付かず、体の機能が低下したり失われたりする。

慢性炎症を伴う病気の一つが歯周病である。

風邪が治っても、喫煙、飲酒、大気汚染などにより喉の炎症を繰り返していると、炎症がくすぶり続け慢性上咽頭炎慢性扁桃炎を引き起こす。これは同じ場所に何度も異物による刺激が加わって、何度も炎症を起こすうちに、炎症が慢性化してしまうというメカニズムである。

・コロナ後遺症も慢性炎症が関係していると考えられている。

・アトピー性皮膚炎、アレルギー疾患、関節リウマチ等の「自己免疫疾患」も慢性炎症による病気である。

慢性炎症は「静かなる殺人者(サイレントキラー)」

・慢性炎症は火種がくすぶったままじわじわと広がるように体を蝕む。

・慢性炎症の怖さは、強い症状がないのでそのままにされることが多い。

全身のあちこちに病気をうつす慢性炎症

・慢性炎症の怖さには、炎症が飛び火してさらに別の病気を引き起こすところである。

炎症が起こると「サイトカイン」と言われる炎症物質が作られる。サイトカインは体に異物が侵入してきたことを知らせて、炎症を引き起こす働きがある。問題は長引くと過剰に作られてしまい、更なる炎症を促進する。サイトカインの恐ろしいところは、一カ所に留まらず、炎症でダメージを受けた血管に入り込んで全身の様々な病気の元になることがある。

・歯周病が原因で関節リウマチになる場合がある。また、糖尿病にも注意しなければならない。これはサイトカインがインスリンの働きを抑制するためである。アルツハイマー型認知症も歯周病が関係していると考えられている。これは歯周病菌によって口腔内に増えたサイトカインが脳に運ばれると、アミロイドβが増える可能性が報告されているためである。

歯周病の慢性炎症の飛び火によってリスクが高まる病気には、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、肺炎などがあるが、慢性炎症は、すべての内蔵、器官、体のいたるところで起きている。

コゲ、サビ、肥満は慢性炎症と大の仲良し

慢性炎症の原因は外部からの異物だけではない。体内で作られる物質もある。1つは「体のコゲ」と呼ばれる終末糖化産物(AGE)と「体のサビ」と呼ばれる活性酸素である。

・AGEは糖とたんぱく質が結びついたものである。ホットケーキを焼いたときの茶色の部分。これはホットケーキに含まれる牛乳や卵のたんぱく質と砂糖が結びついたものである。

AGEは老化の原因物質であり、肌のくすみ、シワやたるみはAGEによる。さらにAGEは細胞を傷つけるため、体は防御反応として炎症を起こす。これが日常化すると慢性炎症になる。重要なことは糖質を摂りすぎないこと、血糖値を急激に上げないようにすることである。

・「体のサビ」と言われているのが活性酸素である。活性酸素は呼吸によって取り込まれた酸素によって作られる。細菌やウィルスを退治するなど免疫機能にとってなくてはならない。問題は何らかの原因で活性酸素が過剰に作られると正常な細胞まで攻撃してしまい、その結果、慢性炎症につながる。

体内には増えすぎた活性酸素を取り除く「抗酸化力」が備わっているが、加齢により低下していくので注意が必要である。活性酸素を増やす原因はストレスや紫外線などである。

・肥満が慢性炎症を引き起こす原因は、脂肪細胞が脂肪を蓄える容量には制限があり、それを超えると細胞が破壊されて白血球が活性化される。さらに肥満になると炎症を抑える物質の分泌が減少するためである。

・炎症によって作られるサイトカインなどの炎症物質は、血糖値を下げる働きのインスリンの効きを抑制するので、糖尿病になりやすくなる。さらに、作用が低下したインスリンは分泌を増やす。インスリンには脂肪を合成する酵素を活性化する働きもあるため肥満は進む。

慢性炎症の予防には、原因となるコゲ、サビ、肥満に注意した生活をおくることが重要である。

いつまでも若い人には炎症が少ない

・シミは慢性炎症が表皮の奥にあるメラノサイトを常に刺激するためにできる。慢性炎症は肌の張りや弾力を保つ役割のコラーゲンやエラスチンという線維状のたんぱく質を破壊する。これにより肌はたるみ、シワができる。

・肌の慢性炎症の原因は紫外線、AGE、活性酸素である。

・サルコペニアとは加齢によって筋肉量が減って、身体機能が低下した状態のことであるが、原因の1つが慢性炎症である。慢性炎症によって作られたサイトカイン(炎症性物資)は、筋肉の分解を促進させる作用がある。

・センテナリアン(100歳以上の長寿者)は慢性炎症の程度がわかる「高密度CRP」の値が圧倒的に低い。

健康診断の項目であるCRPは、「ボヤ」のような弱い炎症の慢性炎症の有無を調べることはできない。慢性炎症の評価には高感度CRPが必要になる。

センテナリアンのCRPは「0.03㎎/dl」程度である。これは一般的な基準値(0.3㎎/dl)の10分の1と極めて低い数値である。なお、高感度CRPの検査は保険適用外なので10,000円前後の費用がかかる。

・老化の度合いは個人差が大きいが、これは慢性炎症の度合いともいえる。

画像出展:「高感度CRP(C反応性蛋白)と大腸がん罹患との関係について国立がん研究センター がん対策研究所

・高感度CRP検査:通常のCRP検査の100倍以上の感度がある。

・心筋梗塞のリスクの予測等に利用されている。

・肥満や運動不足の人でも高い値になるといわれる。

 

第2章 「食べもの」で炎症ゼロ 

炎症ゼロ習慣1…「腹八分目」は長寿遺伝子をオンにする

・食べすぎは「サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)」の働きを抑制する。

・新陳代謝は細胞分裂によってなされるが回数には限界がある。この回数を増やして新陳代謝を活発にして老化を抑えるのがサーチュイン遺伝子である。新陳代謝ができなくなった老化細胞は、炎症を促進するサイトカインなどの物質を分泌し、慢性炎症の原因になる。なお、サーチュイン遺伝子には慢性炎症を改善する働きもあると考えられている。

・サーチュイン遺伝子は通常、スイッチはオフになっている。スイッチをオンにするには、①カロリーを摂りすぎない、②空腹を感じる時間を作る 必要がある。それには、一食一食を「腹八分目」やめることが大切であり、合わせてゆっくりよく噛んで食べることが重要である。早食いはやめなければならない。

画像出展:「サーチュイン遺伝子(日経BP:Beyond Health

図に書かれているのはサーチュイン遺伝子の活性化で改善が期待できる老化現象です。

 

炎症ゼロ習慣2…「1日のうち12時間」は何も食べない

・「お腹が空いた」と感じる時間を作ることが大切。「お腹は空いていないけどお昼の時間だから」という理由で、無理に食べる必要はない。1日3食にこだわる必要もない。

・1日のうち、12~16時間食事を摂らない時間を作るとサーチュイン遺伝子が活性化すると言われている。

食事の時間は自分の体に合わせるのがベスト。できるだけ空腹を感じてから食べると良い。ただし、栄養不足は避けなければならず、特に高齢者は注意が必要。たんぱく質やビタミン・ミネラルが不足しないようにする。

炎症ゼロ習慣3…食事ひとくちで「30回噛む」

「よく噛んで食べる」という習慣は、慢性炎症の予防や改善にも有効である。

・噛むという行為は刺激を脳に伝える。脳は反射的に唾液を分泌する。

唾液には体のサビ(活性酸素)を除去する働きがある。これは唾液には抗酸化作用のあるラクトペルオキシダーゼという酵素が含まれているためである。さらに抗ウィルス・抗菌作用をもつ物質も含まれている。

・歯周病菌の増殖を抑制するラクトフェリンとラクトペルオキシダーゼは、多くの病原菌への抗菌作用、抗炎症作用などがあると言われている。

様々な健康効果をもつ唾液だが、20代をピークに分泌量は徐々に減少する。そのため、高齢になったら、意識的に唾液を分泌させるようにすると良い。よく噛むということそのためである。コツはひとくちの量を少なめにすることである。結果的に食事の時間はながくなる。

画像出展:「唾液中の抗菌物質Dental Note

唾液パワーの凄さに驚きます。

炎症ゼロ習慣4…「やわらかい食べもの」が肥満のもとになる

・満腹中枢を刺激する「レプチン」というホルモンは、食事を始めてから約20分後なので、早食いの人は満腹を感じる前に必要以上の量を食べてしまう恐れがある。

炎症ゼロ習慣5…「ごはんは最後」を心がける

・「ベジファースト」は食物繊維が多く糖質は少なめの野菜から食べることにより、糖質の吸収を抑えることを狙っている。一方、最近浸透し始めているのは、「ミートファースト」「プロテインファースト」である。これはたんぱく質から食べると、インクレチンというホルモンが分泌されて胃の働きが緩やかになり、糖質の吸収がゆっくりになる。いずれも血糖値の急激な上昇を抑える効果がある。重要なことは糖質を最後に食べるという習慣である。また、早食いをしてしまっては順番の工夫による効果は相殺されてしまう。

炎症ゼロ習慣6…間食は「噛むおやつ」で決まり!

・リズミカルに噛むことはストレス解消にもなる。

・ナッツ類(アーモンド、クルミ、ピスタチオなど)に含まれる脂肪は「不飽和脂肪酸」といって抗炎症作用がある。塩分無添加の素焼きタイプが望ましい。

炎症ゼロ習慣7…「小麦粉」が腸を傷つける

・小麦粉などに含まれている「グルテン」というたんぱく質をスムーズに消化できない「グルテン不耐性」の人や、過敏に反応してしまう「グルテン過敏症」の人は、グルテンを摂り続けていると腸に慢性炎症を発症する場合がある。

日本人の8割はグルテンに合わない体質と言われている。

画像出展:「グルテンとの上手な付き合い方Metagenics

・グルテンは麦加工食品に含まれ、味ではなく食感(麺のしこしこ、つるつる、コシや歯ごたえ、パンのふわふわなど)を提供します。また、グルテンは麦類が持つ2 種類のたんぱく質が水分に触れた時にペプチド結合して作られます。

炎症ゼロ習慣8…「牛乳」が健康によいとは限らない

牛乳が慢性炎症を引き起こしやすいとされているのは、牛乳に含まれている「カゼイン」というたんぱく質である。カゼインは消化されにくく、小腸に留まる時間が長くなるため、腸に負担がかかり炎症を起こすと考えられている。

・牛乳にはカルシウムが豊富なので、カルシウムを別の食材で摂る必要があるが、大豆製品、小魚、海藻類、緑黄野菜などでカルシウムを摂ることはできる。

炎症ゼロ習慣9…腸から元気になる「骨スープ」

・腸に悪い食べ物やストレスなどが原因で腸管の粘膜が炎症を起こし、腸から炎症を誘発する物質(細菌、ウィルス、たんぱく質など)が漏れ出す状態を「リーキーガット症候群」と呼ぶ。

炎症ゼロ習慣10…すぐに「甘い」と感じるものは避ける

糖質の中でも砂糖は吸収されやすく血糖値をすばやく上昇させるため、慢性炎症の大きな原因になる。

・果糖はブドウ糖を含まないので血糖値を急激に上げることはないが、砂糖以上に中性脂肪や内臓脂肪を増やすとされている。果糖は果物以外では蜂蜜などに多く含まれている。

炎症ゼロ習慣11…ビタミンのために「くだもの」を食べすぎない

・果物の適量は、1日約80kcal分と言われている。リンゴなら1/2個(150g)、バナナなら1本(100g)、ミカンなら2個(200g)が約80kaclである。また、朝食後のデザートがベストである。

炎症ゼロ習慣12…「低GIフード」で血糖値をおだやかに

・GI値とはグリセミック・インデックスの略で、食後血糖値の上昇度を示す指数のこと。

画像出展:「炭水化物は敵ではない?上手に炭水化物を取り入れましょう九州大学病院 総合診療科 疫学研究公式サイト

『「血糖値を上げたくないから主食を摂らない」「ご飯は太るから食べない」という声をよく耳にします。確かにご飯やパンなどの主食に含まれている炭水化物はブドウ糖を多く含み、ブドウ糖は血糖値を上げやすく、溜め込まれると脂肪となるため肥満や動脈硬化の原因となってしまいます。

しかし脳は栄養の大部分をブドウ糖に頼っているため、不足すると脳の働きは悪くなり疲れやストレスが溜まりやすくなります。

そこで今回紹介するものが低GI食品です。』

炎症ゼロ習慣13…日本型の「地中海食」は注意が必要!

・果物には多くの果糖が含まれているが、日本の果物は品質改良により、甘みが強く「糖度」が高いため、特に注意が必要である。特に注意が必要なものは、バナナ、パイナップル、メロン、スイカ、マンゴーなどである。

炎症ゼロ習慣14…炎症の原因をお掃除する「ポリフェノール」

抗酸化物質の代表が「ポリフェノール」である。ポリフェノールはほとんどの植物に存在する物質で、青紫色の色素成分・アントシアニン、緑茶や紅茶の苦味成分・カテキンなどがある。

植物が紫外線や害虫などの外敵やストレスから自分自身を守るために作りだした成分で、強い抗酸化作用がある。

・手軽にポリフェノールを摂れる食品

-納豆、豆乳、豆腐など

-高カカオ(カカオ70%以上)チョコレート

-皮つきのショウガ(ポリフェノールは皮の部分に多く含まれる)

-赤ワイン、コーヒー、緑茶(コーヒーは1日3~4杯、緑茶は湯呑で10杯まで)

炎症ゼロ習慣15…健康スパイスの王様「ターメリック」

・ターメリックの別名はウコンである。カレーの黄色の色素成分の「クルクミン」がポリフェノールの一種であり、活性酸素の除去、抗炎症作用がある。

・ターメリックにはクルクミン以外に、強い抗炎症作用があるターメロールという成分もある。

ターメリックは手軽に手に入る調味料(スパイス)なので、カレー以外の料理にも活用すると良い。炒め物やスープ、揚げ物の衣に加えたりしても良い。ただし、入れすぎると苦味が強くなる。また、ウコン茶で摂るのも手軽である。

炎症ゼロ習慣16…毎日「発酵したもの」を取り入れる

ヨーグルト、キムチなど発酵食品は腸内細菌だけでなく、抗炎症にも優れてる。納豆などの大豆発酵食品はポリアミンという抗炎症作用の物質を含んでいる。これは炎症を引き起こすサイトカインの産生を抑える働きによる。ポリアミンは大腸の中で腸内細菌によっても作られるが、ポリアミンの量は年齢によって減少する。

炎症ゼロ習慣17…「青魚の脂」は健康なアブラ

・青魚の脂の不飽和脂肪酸のオメガ3系脂肪酸のなかで、健康効果が高いのはEPAやDHAである。青魚とはサバ、イワシ、サンマ、マグロなどであるが、これらは生の魚ではなく缶詰を利用することもできる。

口腔内細菌との闘い2

著者:波多野尚樹

発行:2015年2月

出版:(株)小学館

目次は“口腔内細菌との闘い1”を参照ください。

 

 

第二章 健康長寿の決め手は歯を残すこと

17.脳と直結している歯のすごい働き

●歯の中心は歯髄という空間になっており、そこに動脈と静脈、三叉神経という脳への伝達神経が通っている。この血管から新鮮な血液と酸素が供給され、不要なものは外に運び出されている。歯根膜は歯髄からでた三叉神経の他の多くの神経が通っている。三叉神経は第Ⅴ脳神経で、眼神経、上顎神経、下顎神経の3つに分かれていることからこの名が付けられた。運動神経と知覚神経の混合神経で脳神経の中で最も太い。

三叉神経前頭部、顔面、鼻腔と口腔の粘膜や歯を担当し、温度の感覚も脳に伝えている。歯や歯根膜の歯根膜受容体というセンサーでキャッチした情報を脳に伝え、脳はこの情報を元に咀嚼筋、顎関節を動かす。

●口腔内で情報伝達の最前線で働いている歯がなくなり、噛むという行為が制限されると脳への刺激が極端に減ってしまい、脳の活性化にとって大きな問題となる。

22.奥歯がなくなると太るメカニズムとは

●奥歯がなくなるとしっかり噛むことができず、唾液の量も減る。特に6番の第一大臼歯が無いと食物のシグナルが脳に伝わりにくいため、副交感神経へのスイッチがうまく働かず唾液の量はさらに少なくなる。唾液の量が少なくなると心臓から脳への血流も滞りがちになるので脳の機能が活性化されない。また、奥歯がなくなると食べれる物も制限が出て、柔らかいもの中心の食事になるので、食事のスピードが上がり早食いになる。この早食いこそが肥満の原因となる

23.肩こり・腰痛の原因は嚙み合わせだった

●右の奥歯が抜けたままになっている人は、左の肩から背中にかけてこりが出る。このような人に奥歯を入れて全体のかみ合わせを調整すると、長年の肩こりが解消したケースは多い。

●イライラ、不安、頭痛、やる気の低下等の不定愁訴も、歯の嚙み合わせを調整しただけで解消することも少なくない。

●『顎関節は、頭蓋骨に近いところにあって、重い頭を支えており、頭頸部の筋肉と密接に関係しており可動域も広い。さらに全身を動かす際に、バランスをとるために顎関節は重要な役割を担っている。もしこれがずれてしまったら、頭頸部はもとより全身に影響がでることは推察できる。嚙み合わせを調整するといっても、薄い紙一枚あるかどうかというごくわずかな調整だけだ。この紙一枚分が違って、左右のバランスがずれていても、長い間にはどこか一本の歯に負担をかけ、咀嚼筋のアンバランスを引き起こす。それによって首の筋肉が引っ張られて筋肉が緊張する。これが頭痛や背中の張りやこりとなって表れる。肩の筋肉が硬くなるために腰部の筋肉も引っ張られ、腰痛の原因ともなる。歯のわずかなズレが他の関節や筋肉、リンパ系や体液系に影響を与え、多くの症状をもたらす。』

第三章 口腔内細菌との果てなき闘い

24.タバコは口腔内細菌を増やす

●タバコにはニコチンやタール以外に約4000種の様々な化学成分が含まれているとされ、人体への影響は完全には把握できていない。口臭、ニコチン性口内炎、口腔粘膜の白斑、口腔内のガンなども喫煙が関係している。

歯肉にとって大きな問題は毛細血管の収縮により血流が悪くなることである。血液には酸素を運ぶ赤血球の他、免疫細胞が流れる白血球がある。さらに血流低下は唾液の量も減るため口腔内細菌にとっては絶好の環境である。歯周ポケットの進行などもタバコにより速くなる。

25.年を取ると暴れ出す口腔内細菌

●加齢によって顔にしわができるのが、表情筋を使うことが少なくなり、同時に皮膚の再生能力が落ちるためであるが、口腔内では加齢の影響は細胞の新陳代謝の低下に現れ、歯周病に罹りやすくする。子供のように新陳代謝が活発であれば、歯周病菌によって炎症を起こしても新陳代謝により翌日には新しい細胞に入れ替わっている。

●日本では40歳以上では、約40%が発症していると言われている。

26.口腔内細菌に弱い女性の身体

●女性は男性に比べて歯肉炎、歯周炎を起こしやすい。これは、歯周病を起こす嫌気性グラム陰性菌は、女性ホルモンであるエストロゲンを餌に増殖するためである。

歯周病の妊婦さんは早産や低体重児が生まれる可能性が7倍高いという報告もある。

●更年期のホルモンバランスの乱れは自律神経の不調につながり、冷えや血流低下は免疫力の低下を招き、そして口腔内細菌の増殖から歯周病に進む。エストロゲンの減少はドライマウスにも注意が必要である。

27.いびきが口腔内細菌を増やす

●口呼吸は口腔内や喉を乾燥させ、細菌が侵入し粘膜に取りつく原因になる。

29.毎日できる口腔ケアの基本

●以前は、歯磨きは食後すぐが良いと言われていたが、細菌と闘う唾液の効能も見直されており、食後30分程度してから歯を磨く方が口腔内細菌の除去には効果的だとされている。

30.歯磨きの概念を変える

●歯磨きの目的は口腔内細菌を増殖させないためである。歯ブラシはペンを持つように優しく磨く。時間は約10分。歯と歯の間は歯間ブラシも積極的に使う。

●歯磨き粉は少なくて良い。歯磨き粉の中身は大半が糊であり、それに炭酸カルシウムやリン酸カルシウム、塩、アパタイトなどの研磨剤が混ぜてある。さらに界面活性剤、保湿剤、結合剤、発泡剤、香料や色素といったものが添加されている。歯ブラシはブラシ部分が少しでも開いたらすぐに取り換えるべきである。

32.悪化した歯周病の手術とは

歯肉からの出血があるということは、そこに大量の歯周病菌がいるということである。この歯周病菌を患部から取り出すために、柔らかい歯ブラシを用い、血が出なくなるまで歯垢をブラッシングで取り除く。出血自体は問題なく、数日すると出血しなくなる。血が出なくなるということは歯周病菌が減少したことを意味する。

●歯周病の進行度合いを調べる要素

-歯肉の色:暗赤色になって腫れがないかどうか。

-歯周ポケットの深さ:4mm以内が基準。4mm以内はブラッシングで治せる範囲だが、5mm以上になると歯科医や歯科衛生士の補助が必要になる。

●細菌や免疫細胞の死骸と唾液が固まった歯石を除去するが、頑固な歯石は歯科衛生士がハンドスケラーや超音波スケラーという専用の器具で掻き出す必要がある。

●歯周ポケットが5mmを超える場合は外科的治療が必要になる。ルートプレー二ングや外科手術によって歯周ポケットの深さを4mm以内にするための治療を行う。

画像出展:「ルートプレーニング

ルートプレー二ングはセメント質も削り取ってしまうという問題があり、ルートプレー二ングにかわるものとして、デブライドメントというものが出てきています。

 

 

 

●治療によって細菌の除去が完了すれば、歯肉は引き締まり健康を取り戻す。

33.波多野式で驚異のクリーニング効果

●PMTC(Professional Tooth Cleaning)はスウェーデンの歯科医、ペール・アクセルソンが提唱したもので、歯科医や歯科衛生士など訓練を受けた専門家による、プラークやバイオフィルムを徹底的に取り除く予防歯科の方法である。

第四章 医科歯科連携治療の重要性

39.失敗しないインプラント治療とは

●インプラントに適しているかどうかについては、歯の抜けた原因を考えることが重要である。事故による歯の欠損の場合は問題ない。虫歯も1本だけであれば問題ない。検討を要するのは歯周病によって歯を失った場合である。歯周病菌が除去されていない状態ではインプラントはやめた方が良い。遅かれ早かれインプラント歯周炎になって、インプラントが抜けてしまう。

第五章 口腔内細菌と闘い健康長寿を全うする

44.ドーソン咬合理論で歯を守る

●ドーソンの咬合の理論の基本は顎である。

●咬合はドアと同じである。上顎はドア枠、ドアは下顎である。これらは蝶番を軸につながっていて、うまく回転すればドアはどこにもぶつからず閉まる。つまり、咬合で最も重要なことは蝶番の軸と回転である。

●顎関節症の一番の原因は顎の軸の乱れである。乱れを補正するのは筋肉であり、下顎を何とか制御しようと体は反応する。これが日常的に続くと本来は休んでいるはずの筋肉は疲れてしまう。それを放置しておくと、人間は無意識に歯ぎしりや噛み締め、タッピングという異常行動が起きる。そして筋肉の異常は悪化する。

45.矯正は見た目を治すものではない

矯正治療とは歯並びのためではなく、嚙み合わせの理論を口腔内で作るためのものである。口腔内をみて顎を中心とした嚙み合わせを治さないと本当に治療したことにはならない。

●咬合という機能を根本的に治療するということである。

おわりに

●『全身の病気には原因がわからない難病が数多くあるが、近年口腔内細菌がなんらかの関与しているのではないかという報告がなされるようになった。口腔内科学にようやく光が当たってきたということだろうか。

私が26歳のころ、アメリカで最先端の歯周病治療を学んで帰国した先生のセミナーが開催されることになり参加した。6カ月のコースに参加したのは40から50歳代が中心の熱心な歯科医だった。歯周病の治療について話を聞けるものと思っていたが、講師を務めた歯科医が言ったのは、「アメリカでは歯を磨かないと治療してくれない」ということだった。歯を磨いていない患者は診察してくれないという話は衝撃的だった。何しろ当時は、どうやって歯周病になった患者を治し、失った歯の補綴をするかという治療が中心だったからだ。セミナーは「どうやったら患者に歯磨きの大切さを伝えられるか」というディスカッションに終始した。いくら歯周病の治療をしても細菌自体を排除しないと、再発する。歯周病の修復治療をする前に、病気になった原因の口腔内細菌を排除してからでなければ、治療は始まらないということを徹底的に教えられた。

その後開業して始めたのは、患者の教育だ。口の中にいる細菌の怖さを教え、この細菌を排除しなければ口の中は健康になれないことを徹底して話してきた。新患の患者は、必ず私の勉強会を受けなければならないことになっている。患者に口の中に細菌がいること、それを排除しないと虫歯も歯周病も治らないことを洗脳してきた。それと闘うために必要なことは、歯磨きしかない。

ばい菌のある場所を徹底して磨く。歯と歯肉の間に45度の角度でブラシを当てて、徹底的に細菌を落とすこと。食後3回トータルで30分程度かけてじっくり磨く。患者その人に合った歯磨きの仕方を教えてきたのだ。

それでも生活習慣が乱れると、口の中は一目瞭然、舌苔が生えるなど口の中の色が変わる。粘膜の色が悪化してしまう。どんなに口腔内をきれいにしていても、突然炎症を起こすことがあるのだ。口腔内細菌は確かに病気の原因の一つではあるが、そこに共犯者が加わることで一気に暴れだす。糖尿病や喫煙や間食などの生活習慣、唾液の減少などリスクファクターがあることで、口腔内の環境が悪化する。突然炎症を起こした患者に話を聞くと、大きな病気の治療中だったり、あるいは家族の介護で心身ともに疲れてしまっていたりする。口腔内細菌の増殖は、メンタルのリスク、生活習慣のリスク、口腔内のリスクが重なって炎症を起こす。

感想

1回約10分、1日2、3回、丁寧なブラッシングを心掛け、歯ブラシは「極細・柔らかい」タイプの安価なものを2週間程で交換しています。歯磨き粉は普通の物と薬用の物を両方使っています(薬用は朝と就寝前)。

出血、口臭などに改善がみられ、特に画期的だったことは食事中に誤って口腔内を傷つけてしまっても、潰瘍(口内炎)になることはほぼなくなったことです。

家族性高コレステロール血症以外は、特に持病はないものの、クレアチニン値が基準値をわずかですが、超えているのが気になっています。そこで口腔内細菌と腎臓病の関係性を調べてみたところ、以下の2つのサイトを見つけました。

~歯周病と慢性腎臓病(CKD)の関係~ 

『歯周病は、歯と歯肉の境目に細菌がたまり炎症が起きる病気です。P.gingivalis(ジンジバリス)という菌をはじめとした歯周病菌が歯茎の毛細血管から、血管に侵入して全身の血管を障害します。特に内皮細胞と呼ばれる細胞への障害は、動脈硬化を引き起こしたり、腎機能障害に関わる可能性があるといわれています。』

この情報だけでは何とも言えないのですが、今後、クレアチニン値が改善されるようであれば、歯周病と腎臓の関係性を実感できるかもしれません。

ご参考:東洋医学の“腎”と“歯”の関係

画像出展:「黄帝内経素問にみられるヒトの一生と歯牙との関連について(PDF4枚)

 東洋医学では、腎は精を蔵し、髄を生じ、骨を養い、歯は骨の余りで、骨髄はまた歯を養うとされています。

追記:2024年12月15日

 

歯周病の出血について、少しモヤモヤしたとこがあったので、AI (Perplexity Pro)に質問してみました。

口腔内細菌との闘い1

歯磨き中に出血があってもたいして気にしていなかったのですが、歯周病菌が全身に広がり深刻な病気の原因になるということを知り、「これは無視できない!」と思い、この本を見つけました。

予防はシンプルで、正しい歯磨きを1回約10分、1日3回、毎日続けるということです。

著者:波多野尚樹

発行:2015年2月

出版:(株)小学館

波多野先生の医院は、さいたま市浦和区にありました!私の自宅から自転車で10分程度です。

 

 

ブログで取り上げたのは黒字部分です。ほぼ歯周病に関するものです。

目次

はじめに

第一章 口腔内細菌は全身の病気を引き起こす

1.健康長寿は「何を食べるか」ではなく「何が食べられるか」だ

2.歯周病菌は心臓にも到達

3.口腔内細菌と腸内細菌のバランス

4.虫歯の集積地の実態

5.本当に性質の悪い歯周病

6.歯周ポケットは細菌の巣窟だ

7.口とは遠いところで起こる病気

8.糖尿病と歯周病の負のスパイラル

9.扁桃を切除して治る腎臓病がある

10.メタボは歯周病になりやすい

11.口腔内細菌が心臓病のリスクを高める

12.生活習慣病と口腔内細菌

13.唾液は細菌からガードする最初の関門だ

14.唾液は若さを保つ

15.ドライマウスは現代病だ

第二章 健康長寿の決め手は歯を残すこと

16.歯が抜けてしまった人はアルツハイマーになりやすい

17.脳と直結している歯のすごい働

18.生命維持を支える歯の役割

19.抜けた歯は代用がきかない

20.犬歯が抜けると奥歯がなくなる

21.奥歯が抜けると物忘れがひどくなる?

22.奥歯がなくなると太るメカニズムとは

23.肩こり・腰痛の原因は嚙み合わせだった

第三章 口腔内細菌との果てなき闘い

24.タバコは口腔内細菌を増やす

25.年を取ると暴れ出す口腔内細菌

26.口腔内細菌に弱い女性の身体

27.いびきが口腔内細菌を増やす

28.自分の口の中を見る習慣を

29.毎日できる口腔ケアの基本

30.歯磨きの概念を変える

31.虫歯菌を死滅させる最新治療

32.悪化した歯周病の手術とは

33.波多野式で驚異のクリーニング効果

第四章 医科歯科連携治療の重要性

34.修復歯科の時代は終わった

35.勘に頼らない「見える化」治療の今

36.歯科におけるデジタル化の挑戦

37.3Dプリンターを使ったデンタル最前線

38.スマホを利用したデジタル歯ブラシも

39.失敗しないインプラント治療とは

40.骨を作る四つの条件

41.最も進んだ骨再生治療とは

42.インプラントでも歯周病になる

第五章 口腔内細菌と闘い健康長寿を全うする

43.全身の健康を左右する嚙み合わせ

44.ドーソン咬合理論で歯を守る

45.矯正は見た目を治すものではない

46.歯を白く美しく維持するために

47.口の中をみれば寿命がわかる

おわりに

第一章 口腔内細菌は全身の病気を引き起こす

1.健康長寿は「何を食べるか」ではなく「何が食べられるか」だ

歯の数に対して美味しいと感じられる人の割合は、28本で100%、14~20本で75%、7~13本では30%に激減するという研究結果がある。

●歯が抜けるのは圧倒的に65歳以上である。

●歯を失う主な原因は歯周病である。現在、40歳以上の日本人の約40%が歯周病だといわれる。

歯周病は過労やストレスにより免疫機能が低下することでリスクが高まるので、生活習慣が重要である。

●食べるものが限定されるようになると栄養管理も難しくなり、体力、免疫力など健康の維持が難しくなる。

2.歯周病菌は心臓にも到達

●健康に重要だとされている腸内細菌は500種類以上、その数は500兆から1000兆個と考えられ、約1.5㎏にもなる。もはや、身体の一部となっている。一方、口の中の細菌、口腔内細菌も500種とも700種ともいわれる細菌が常在している。口腔内細菌の存在が確認されたのは1900年代初頭である。

●研究者が口腔内細菌の存在にこだわったのは、原因が分からない肺炎やリウマチを調査と関係していた。

●フィラデルフィアの細菌学者W・D・ミラー博士と、ロンドンの医師W・ハンター博士は、「感染源としてのヒトの口腔」という共同論文を発表した。

1989年、フィンランドのK・マイラ博士が「歯周病と急性心筋梗塞の関係」という研究論文を発表し、ついに口腔内細菌が口の中にとどまらず、全身に影響を与えていることが実証された。

3.口腔内細菌と腸内細菌のバランス

●細菌の増殖スピードは驚くほど速い。30分で1個が2個に分裂、その後累乗で増え、24時間後には281兆個にまで増えコロニーを作る。この細菌の集合体がバイオフィルムである。細菌はネバネバした物質でお互いをつないで増えていく。

●口腔内細菌もバイオフィルムを形成している。歯を磨かずに寝ると翌朝歯の表面がネバネバするのは口腔バイオフィルム(プラーク=歯垢)である。

●『口腔内細菌が付着するとリンパ球などの免疫細胞が、ただちに攻撃を開始する。細菌と接触したリンパ球は血液にのって全身に回る。研究では、口腔内細菌で腸管粘膜を刺激するとリンパ球が集結して攻撃を始め、それらの細菌はもともといた口腔粘膜に戻りそこで抗体を産生することがわかっている。その結果、腸管粘膜にいたにもかかわらず、唾液腺からIgA(免疫グロブリンA)抗体が検出させることもある。

口腔粘膜は常に細菌接触の刺激を受けているので、様々な抗菌因子を活発に作りだし、細菌を排除しようとしている。さらに、炎症を増悪させる炎症性サイトカイン(微量生理活性タンパク質)の産生を抑制して、粘膜の炎症を防ぐ働きも行っている。常に細菌が侵入している口腔粘膜は、軽い炎症が常に起こっている。

口腔内感染症を発症するということは、実は全身の免疫系の能力が低下していることを表している。例えばがんの治療として抗がん剤や放射線治療をすると、様々な口腔内疾患や感染症が起こることが知られている。治療後、口腔粘膜に潰瘍ができたり、口腔内が乾燥したりして、免疫が下がる。その結果、常在菌のカンジダ症や歯周疾患の増悪、口腔ヘルペスなどの感染症を発症する。これは口腔ケアで細菌を減らせば、炎症が治まり症状が緩和される。このように、全身の免疫低下と常在菌の相互の力関係が、口腔によってわかる。さらに口は消化器の始まりであり、健康状態と免疫機能の状況を的確に表している。「口の中をみれば、寿命がわかる」というのはこのことだ。』

4.虫歯の集積地の実態

●十分な唾液が歯の表面を覆っていればミュータンス菌は簡単に歯につくことはできない。唾液はpH7.0という中性で歯にとって最適な状態をつくる。ところが、砂糖が口の中に入ると口中が酸性に傾き、ミュータンス菌は元気になり、砂糖を餌にネバネバのグルカンを分泌し歯の表面に張りつくことができるようになる。

5.本当に性質の悪い歯周病

●『虫歯は、ミュータンス菌によって歯が破壊される感染症だ。一方歯周病は、歯周病菌によって歯肉や骨などが破壊される疾患で、歯の土台が破壊されるので歯自体が抜けてしまう。これもまた怖い感染症である。

ミュータンス菌は口の中をふわふわ漂っているが、歯周病菌は嫌気性グラム陰性菌という細菌の仲間で、空気が嫌いな菌だ。現在歯周病菌は、ポルフィロモナス・ジンジバリス、フゾバクテリウム・ヌクレアタムなど10種類ほどが確認されている。空気が嫌いな菌は口の中のどこにいるのか。歯と歯肉の間の奥の方にじっと潜んでいて、何らかのきっかけでバイオフィルムを形成し増殖を始める。これらのバイオフィルムは口の中のあちこちに発生すると、活動がより活発になる。口の中に歯周病菌のバイオフィルムが形成されると、唾液では流れず、洗口液や抗生物質なども容易に入り込めない。

しかも歯周病菌は菌の細胞そのものに毒があるため、歯周病菌が歯肉に触れただけでも炎症を起こす。蜂に刺されると腫れるが、それと同じような生体反応が起こり、歯肉が腫れる。通常細菌は菌体外に放出する外毒素しか持っていないが、嫌気性グラム陰性菌である歯周病菌は強力な内毒素も細胞膜に持っていて、細胞膜が歯肉に触れるだけで傷つける。

若いときは新陳代謝が激しいので、細胞が傷ついてもすぐに新しい細胞に生まれ変わり一晩すれば修復できる。ところが年を取ると、細胞の新陳代謝が悪くなり、修復が一晩では終わらない。そのうえ、ストレスやタバコ、睡眠不足、過労などが加わると免疫力が低下し、自然治癒力をもってしても歯肉や細胞の修復が間に合わなくなる。だから中高年以降に、歯周病が増えるのだ。

口腔内で歯周病菌が活動を開始すると、歯周病菌と闘うために血液が集まってくる。血液内のリンパ球や白血球といった免疫細胞が細菌と闘い、やっつけようとがんばる。歯肉に炎症が起こる歯肉炎になると、免疫細胞の一つであるマクロファージが体当たりで毒を壊し、白血球が細菌を食い殺し修復をサポートする。必死の防戦に敗れると、今度はTリンパ球やBリンパ球などの免疫細胞が出動してミサイル攻撃を開始する。

このように炎症が起こっている場所では、細菌と免疫システムの激しい闘いが行われているのだ。歯周病になると歯肉が赤黒くなるのは、歯肉で激しい戦闘が行われている証だ。健康な歯肉はピンク色なので、赤黒くなっていたら炎症が起こっているということだから早くメンテナンスに行くことを勧める。

それ以上に細菌の数が増えると、前述したサイトカインという強力な武器となる物質が登場し、炎症を抑えようとする。これによって細菌との戦闘はますます激しくなり、免疫細胞や細菌の死骸が大量にでて、これが膿となり流れ出してくる。歯肉を押すと赤黒い血膿がで、この膿が大量になると口臭がひどくなる。

免疫システムは細菌と激しく闘ってくれるのだが、サイトカインの働きがあまりに強すぎると、今度は細菌だけでなく自分の細胞である歯槽骨も傷つけてしまうこともある。なんと、自分の武器で自分を傷つけてしまうのだ。これこそが、歯周病による骨の破壊の原因だ。細菌をやっつけるために投入されたサイトカインが、顎の骨の破骨細胞を刺激するため、骨芽細胞の活動よりも活発になる。つまり骨が作られるより、骨が壊される方が上回ってしまうということが起こる。歯周病の末期になり、歯の土台である骨が破壊され吸収されてしまうのは、こうした骨芽細胞と破骨細胞のアンバランスによって起こる。もとをたどれば免疫システムのサイトカインの過剰な働きなのだが、これも、骨が細菌に侵されないように、自分から溶け出し体内に吸収されるように働く一種の生体反応でもある。

歯槽骨が溶けて歯肉が下がると、歯根はむき出しになる。下がった歯肉でむき出しになった歯根に、歯周病菌のバイオフィルム(プラーク)がついて、ますます歯槽骨が壊れる。やがて歯槽骨が一層弱くなり歯を支えていることができなくなり、歯がぐらぐらする。骨が終焉を迎えるとともに、歯も抜け落ちることになる。

こうして歯周組織全体がなくなってしまうので、歯周病菌も活躍場所を失う。これ以上細菌に感染されることがなくなるので、最終的には生体の勝利ともいえる。実態は、細菌に負けて骨が退却したもので、残るのは歯の痕跡もない、荒廃した口だ。

6.歯周ポケットは細菌の巣窟だ

●歯周ポケットは何百兆、何千兆個という歯周病菌の巣窟である。

●歯は歯肉、歯槽骨、セメント質、歯根膜という4つの組織でガードされている。

歯肉には無数の毛細血管が張り巡らされ、常に新鮮な血液が流れ免疫細胞の白血球が入り込んで細菌や毒素が体内に侵入するのを防いでいる。血液が流れているので綺麗なピンク色に見える。

●歯周病菌がバイオフィルムを形成し増殖を開始すると、ガードをかいくぐり活動するようになる。歯周病菌が歯肉に接触を起し赤く腫れる。歯周病菌と免疫細胞が闘い、歯周病菌の方が優勢になると炎症によって膿が出て口臭を伴うこともある。これが歯周病の第一段階で歯肉炎という。

●歯周ポケットの上部はプラークで蓋をされたような状態になっており、空気の嫌いな歯周病菌にとっては絶好の居住環境になっている。これらの細菌をやっつけるために大量の白血球やリンパ球が集まり、免疫システムが稼働すると戦闘は激しさを増し、さらに周囲の細胞を壊す。こうして歯周ポケットの深さが深くなっていく。

7.口とは遠いところで起こる病気

口の中には数多くの口腔内細菌が存在し、口内のあちこちで症状を起こしている。これが原因となって身体のあちこちで症状を起こしているということが分かった。

近年、病巣感染として注目されているのが「糖尿病と歯周病」の関係である。歯周病の炎症が糖尿病の血糖コントロールに影響している。歯周病の治療を行うことによって口腔内の炎症が治まり、血中サイトカインが減少する。これにより末端の細胞のブドウ糖を取り込む状況が改善するので、血中のヘモグロビンA1Cの数値が減少する。

9.扁桃を切除して治る腎臓病がある

●口腔内細菌が関与する腎臓病はIgA腎症である。これは腎臓にIgA(免疫グロブリンA)が付着して、腎臓の機能が徐々に低下し最終的に腎不全を起す慢性腎臓病の1つである。

●IgAは口腔内の扁桃や歯肉などの粘膜の表面に存在し、鼻や口から入る細菌やウィルスなどの抗原と結合して、体内への侵入を食い止める働きをしている。

●上咽頭部が菌を胃に流すため常に粘液が分泌しているが、菌が体内に侵入し始めると、免疫機能が活性化しマクロファージや好中球などの免疫細胞が集まり、菌の侵入を阻止しようと働く。それでもだめなら、Tリンパ球やサイトカイン、IgAやIgGがウィルスを排除しようとする。この時、大量に集まったTリンパ球やサイトカイン、IgAやIgGが上咽頭から血管に入り込んで、健康な細胞を傷つけながら進み腎臓に到達し、腎臓にこれらが溜まって腎炎を起す。

10.メタボは歯周病になりやすい

●BMI値が25~29.8(肥満度1)の人で3.4倍、BMI値が30以上(肥満度2)の人では8.6倍にもなる。

●体脂肪率が5%上がるごとに、歯周病に罹るリスクが1.3倍上がる。

●人間の体内には平均して300億から600億個の脂肪細胞があるといわれ、食べすぎや運動不足で余った脂肪が細胞の中に取り込まれる。すると細胞自体が大きく膨れていく。太って脂肪細胞が巨大化しただけで、炎症を起こさせる物質が体内に大量に排出される。メタボの人の血液検査をすると、炎症を示す高感度CRPマーカーの数値が高くなることで炎症が明らかになる。つまり太っていること自体、炎症が起こっているということであり、この炎症が歯周病を悪化させる。

11.口腔内細菌が心臓病のリスクを高める

●歯周病は0.5倍から2.8倍冠動脈性心疾患発症によるリスクが高いことが判明している。

●口腔内細菌は虫歯や歯周病などを起こすもの以外に、日和見菌といって普段は悪さをすることなく共存している菌も数多くいる。

12.生活習慣病と口腔内細菌

●口腔感染症は常在菌による感染症で、発症するかどうかは宿主である人間にかかわっている。当然生活習慣が原因の大きな部分を占めている。さらに、口腔内細菌が発症し暴れることで、生体防御反応が起き担当する免疫細胞が口腔内だけでなく血液にのって体中をめぐり、思わぬところで悪影響を及ぼす。

13.唾液は細菌からガードする最初の関門だ

●唾液には重炭酸ナトリウムが含まれており、この成分は細菌が作り出した酸を中和して、口腔内を中性に戻す働きを担っている。また、唾液にはカルシウムやリン酸、フッ素イオンなど歯の表面のエナメル質をサポートする成分があり、歯の再石灰化を促進している。

●ラクトフェリンは免疫機能を助けるタンパク質で、ストレスなどによる免疫低下防止や抗酸化作用もあるとされ、アンチエイジングの成分として近年注目されている。

●細菌の細胞膜を溶かす働きを持つ、リゾチームという抗菌酵素も含まれている。リゾチームは鼻水や涙にも入っている。この成分のおかげで口腔内細菌の働きは相当弱められている。唾液がなかったら口の中は細菌やカビ、バイオフィルムが繁殖して大変なことになる。

●唾液は耳下腺、顎下腺、舌下腺だけでなく口腔内のあちこちに小さな唾液腺が分散し、必要に応じて唾液が分泌される。

●唾液は副交感神経による「さらりとした唾液」と交感神経による「粘っこい唾液」がある。

14.唾液は若さを保つ

●唾液にはアミラーゼという炭水化物の消化酵素が含まれている。

唾液にはヒト成長ホルモンが含まれてており、若さを保つ源である。このヒト成長ホルモンは新陳代謝の15%を担っている。骨を成長させ筋肉を増強し、皮膚は瑞々しく保っている。

●加齢により唾液は減る。さらに耳下腺から出ていたパロチンという若返りホルモンも減少する。パロチンはリラックスして副交感神経が優位になった時に出る。

15.ドライマウスは現代病だ

ドライマウスは薬の副作用による場合が多い。降圧剤や抗うつ剤、抗ヒスタミン剤など生活習慣病の薬である。また、緊張や強いストレスがかかると唾液は出なくなる。

画像出展:「糸でんわ[PDF6枚]東京都健康長寿医療センター

『歯周病が進行すると歯を失ってしまうばかりでなく、誤嚥性肺炎、糖尿病、動脈硬化など全身の疾患のリスクとなる可能性が指

摘されています。』

 

 

落屑症候群と緑内障2

著者:平松 類

初版発行:2022年6月

出版:ライフサイエンス出版(株)

目次は“落屑症候群と緑内障1”を参照ください。

LESSON3 生活編 ―自分でできることを見つけよう―

Q27 緑内障になったら睡眠時に注意することはありますか?

●睡眠中の眼圧は高くなる。これは立位にくらべ水分が頭の方に流れ込むからである。一般的には2~4mmHg程上がるとされている。

●うつ伏せや目が枕に当たると眼圧は上がるので要注意である。特に気になる場合は保護メガネを使うと良い。

●「睡眠時無呼吸症候群」は酸素の体内循環を悪くするため、緑内障にとっても影響を及ぼす。

LESSON4 診察・検査編 ―自分の緑内障の状態を知ろう―

Q48 緑内障について医師に聞いておくべきことはありますか?

次の2つのことは医師に確認すべきである。

1)緑内障のタイプを確認する(①閉塞隅角緑内障 ②開放隅角緑内障)。これは閉塞隅角緑内障には使えない薬があるからである。一方、開放隅角緑内障の場合はほとんどの薬が使える。

2)現在の視野の状態について確認する(①初期 ②中期 ③後期)。これは多くの医師は「大丈夫です」「悪化しています」のどちからしか答えないケースが多く、いきなり「手術を考えましょう」という展開になることが少なくない。そのため、現在の正しい状態を把握しておくことが大切である。

LESSON5 治療方針編 ―自分の治療方針を知ろう―

Q56 緑内障治療の流れを教えてください。

●緑内障の治療はとてもわかりにくい。治療の大枠は「緑内障診療ガイドライン」という指針に沿って行われている。

こちらは「日本眼科学会」さまのサイトにある資料で、PDF93枚になります。

●一般的な緑内障の治療方針

1)数回の通院によって眼圧の平均値を基準値とする。

2)緑内障のタイプと基準値から目薬を選定し治療を始める。

3)眼圧が期待しているように下がらない場合は目薬の変更や追加を行う。

4)通院していく中で、視野欠損が進行したり目標眼圧をクリアできなくなったりした場合、目薬の変更、追加を行うが、状況によっては手術やレーザー治療を検討する。

Q57 眼圧はどのくらい下げればいいですか?

●目標眼圧は目薬や手術、レーザー治療を決める際の目安となるが設定方法は複数ある。

1)基準の眼圧から30%下げる方法

-これは30%下げると視野欠損の進行を抑制できる可能性が高いというデータに基づいている。

2)視野欠損の進行度ごとに目標眼圧を分ける方法

-初期であれば、18mmHg、中期であれば15mmHg、後期は12mmHgというように設定する。

3)目標眼圧を定めない方法

-できる限り眼圧を下げる。あるいは、視野欠損の進行に従って柔軟に対応する。これは適正眼圧は個人差があり、20mmHgでも緑内障が悪化しない人もいれば、10mmHg以下でも悪化する人もいるためである

Q61 近視がある人の緑内障治療は、近視のない人と違いがありますか?

●基本的には変わらないが注意点がある。眼球の一般的な大きさは直径24mm前後とされている。一方、近視になると眼球の奥行きが広がり、直径30mm前後の大きさになることもある。眼球が大きくなることにより視神経は引き伸ばされ、ダメージを受ける。そのため、近視があると緑内障になりやすいと考えられている。

近視があると、緑内障以外にも白内障、網膜剝離、加齢黄斑変性などの病気のリスクが上がる。

●注意しなければならないのは、レーシック手術やICL(眼内コンタクトレンズ)などの手術によって視力が改善した場合でも、大きくなった眼球はそのまま変わっていないので、視神経へのダメージは変わらず、よって緑内障のリスクという点では術後も同じである。

画像出展:「ひょうたん山 水谷眼科」 

眼軸長が伸びることで眼球が引き延ばされ、網膜や視神経などに負担がかかることになります。

LESSON6 目薬編 ―目薬を知って治療効果を高めよう―

Q62 目薬にはどんな種類がありますか?

●緑内障の目薬の種類は多い。

●目薬が眼圧を下げるメカニズムは、眼球の中を巡る房水の産生・循環・排出に大きく関わっている。目薬は房水の産生を抑制し排出を促すことが基本になる。

●よく使われる薬に房水排出を促進するプロスタノイド受容体関連薬がある。これは効果が高く、1日1回の点眼で済むからである。目の周りが黒ずみやすくなるなどの副作用がある。その他の薬の効果に大きな差はみられないが、目薬の相性があるので患者さんに合った目薬を探していく必要がある。

●病気や治療への理解は緑内障の治療効果を高める。

Q67 緑内障の治療効果を上げる方法はありますか?

●『「病は気から」という言葉を聞いたことはありませんか? 実際に目薬が効いているイメージをもって治療すると効果が高まるという研究があります。これをプラセボ(偽薬)効果といいます。そのほかにも本書を読んでいるあなたのように「薬や病気のことを知って治療を受ける人は治療効果が高い」ことがわかっています。本当でしょうか?そんな話は怪しいと思われるかもしれません。

私はいくつかの薬などの研究で、プラセボを用いたことがあります。プラセボの効果自体は知ってはいましたが、効くはずのない薬が実際に患者さんに効いているのを見てびっくりしたことがあります。実際の研究でも「医師がサプリメントを効果があるといって処方すると、実際の患者に対し治療効果があった」という報告があります。また本物と偽物(塩水)の目薬に番号を振り、医師がランダムに患者に処方した研究では、「本物の目薬で4.1mmHg、塩水では1.73mmHg眼圧が下がった」という結果が出ました。

だからこそ、緑内障を本気でよくしたいあなたが「この薬は効かない」と思ってしまうことは大きな損失です。治療効果を高めるといった意味では、医師選びが重要といえるかもしれません。なぜなら、医師の診察や治療方法に疑問を感じてしまうと、医師が処方した薬についても不安になってしまうからです。その一方で、信頼のおける医師に出会えれば、安心して治療を受けることができます。』

Q69 目薬の副作用にはどんなものがありますか?

緑内障の目薬は副作用が出やすいので注意が必要である。

●市販薬では防腐剤に注意する必要がある。

●特に注意が必要なのは、心臓や肺に作用するβ遮断薬というタイプの目薬である。喘息、心不全、徐脈など心臓に何らかの病気がある人は医師に必ず相談すべきである。

●アイファガンなどの交感神経α2受容体作動薬は血圧を下げたり、眠くなったりする作用がある。

●一般的な副作用は目の充血がある。特にROCK阻害薬のグラナテックは充血が問題になりやすい。

●緑内障の目薬の長期使用はアレルギー反応を引き起こし、かゆみを伴うこともある。

LESSON7 手術編 ―手術・レーザー治療の効果とリスクを知っておこう―

Q72 手術やレーザー治療をするといわれたら聞いておくべきことはありますか?

●緑内障の手術は種類が多く、症状が軽度の場合はレーザー治療を選択する場合もある。これらは日帰りで簡単にできるものから、とても複雑なものまで多岐に渡る。まずは主治医から治療名を聞くことが重要である。

●手術やレーザー治療の選び方や時期は主治医によってかなり違う。特に手術に関しては悪化することもある。

●緑内障手術一覧

1)線維柱帯切除術:トラベクレクトミー、エクスプレス

2)線維柱帯切開術:トラベクロトミー

3)MIGS(低侵襲緑内障手術):トラベクトーム、iStent

4)チューブシャント手術:バルベルト、アーメド

●緑内障レーザー治療一覧

1)開放隅角:SLT、ALT、MLT、毛様体光凝固術

2)閉塞隅角:LI

Q73 手術で緑内障はよくなりますか?

●緑内障手術に共通しているのは眼圧を下げる目的で行うということである。

●眼球の中の房水を流れやすくするために通り道を作っても、約30%の人は自然と通り道が塞がってしまう。

緑内障の手術後に「すっきりと見えるようになった」と感じることはなく、むしろ手術の方法によっては目がゴロゴロしたり、不調を感じたりすることの方が多い。

●中心視野が欠けている人の手術は難しい。手術でわずかなダメージが引き金になって中心視野が欠けてしまうことがある。つまり、手術によって悪化する可能性を理解しておく必要がある。

緑内障手術には「放置すると失明に向かう可能性が高いから致し方なく手術する」という考えが基本にある。だからこそ、しっかりと手術について理解して置かなければならない。

Q74 手術やレーザー治療はどんな場合にすすめられますか?

●多くの場合、医師は手術やレーザー治療について事前に詳しく説明することはないので、急に手術やレーザー治療の話をされたと感じることが多い。そのため、患者さん自らが情報を入手しておくことが望まれる。

●目薬の副作用に比べれば、手術やレーザー治療のリスクは大きい。

●目薬をしていても病状が進んでしまう人が一定数以上いる。また、「もともとの状態が悪い」、「若くて今後の進行をなるべく抑えたい」、「進行が早い」、「眼圧が極端に高い」などの場合は、手術やレーザー治療を検討することが多くなる。

Q75 レーザー治療にはどんな種類がありますか?

●緑内障のレーザー治療は閉塞隅角緑内障と開放隅角緑内障がある。前者のレーザー治療はLI(レーザー虹彩切開術)といわれ、眼球の中の虹彩に房水の通り道をつくり緑内障の発作[症状次第では一晩で失明することもある]が起きるのを防ぐ。治療時間は約10~20分である。

●開放隅角緑内障のレーザー治療は何種類かある。ALT(アルゴンレーザー線維柱帯形成術)、SLT(選択的レーザー線維柱帯形成術)、MLT(マイクパルスレーザー線維柱帯形成術)、毛様体光凝固術(マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術)が代表的である。かつてはALTがよく行われていたが、現在ではSLTが主流である。

●ALT、SLT、MLTは目の線維柱帯という場所にレーザーを当てて房水をよくして眼圧を下げる方法で、海外では「目薬よりSLTの方が良いのではないか」といわれており、日本でも今後はSLTがメインになっていく可能性がある。

●SLTの成功率は60~70%、効果は2~3年持続し、再治療が可能である。治療時間も約5~10分と負担が少ない。 

画像出展:「西春眼科クリニック」 

 

Q76 手術にはどんな種類がありますか?

●問題となる眼圧は房水が多くなることで高くなる。従って、手術の目的は房水の排出量を増やすことによって眼圧を下げることになる。

●緑内障手術はトラベクロミー(線維柱帯切開術)、トラベクレクトミー(線維柱帯切除術)、チューブシャント手術(インプラント手術)の3種類がある。そのメカニズムは洗面台にたとえられる。洗面台の排水口のゴミ受けを交換するような手術がトラベクロトミーである。それでも改善されない場合は排水管を取り替える。これがトラベクレクトミーになる。それでもまだ改善されない場合は、洗面台の排水管を本管(下水管)に直接つなげる。これをチューブシャント手術と呼ぶ。

画像出展:「緑内障の新常識」 

 

緑内障手術で最も効果が高く基本となるのが、トラベクレクトミーである。エクスプレスという最新の手術もほぼ同じである。手術時間は約40~50分程度、術後管理入院が必要になることがある。

●トラベクレクトミーの効果の持続期間は「3年もった例が72%」という報告がある。

●手術後、視力や視野に問題が出る可能性がある。また、定期的な観察が必要であり、基本的にはコンタクトレンズが使えなくなる等の制約が出てくる。

●トラベクロトミーの効果は限定的だが、手術後の制約が少なくリスクもほとんどない。また、比較的手術が簡易なことから軽度の患者さんに行うことが多い。手術時間は約30分程度、日帰りか術後管理入院かは状況による。効果の持続期間は3年が約70%といわれている。注意点は出血である。大量出血の場合は視力低下の恐れもある。

Q77 負担の少ないMIGSってどんな手術ですか?

●MIGS(低侵襲緑内障手術)はトラベクロトミーの一つで、比較的簡易なリスクの低い手術方法である。手術時間は約10分、目へのダメージも少ない。単独で行うのがトラベクトーム、白内障手術といっしょに行うのがiStentである。この手術は白内障手術といっしょに手術を行うことでのみ保険適用になる。一般的に効果はトラベクロトミーよりも低いとされている。

Q78 緑内障手術の最終手段チューブシャント手術はどんな方法ですか?

●チューブシャント手術は約30~60分程度が一般的で、大掛かりな手術のため実施できる施設は限られている。効果はトラベクレクトミーにはやや劣るが感染症のリスクは少ない。チューブシャント手術は従来の手術では対処できなかった重症なケースで用いられる。

Q79 なぜ緑内障なのに白内障手術をすることがあるのですか?

白内障手術自体が眼圧を下げる可能性があるからである。白内障手術は濁った水晶体を人工レンズに交換する手術である。このレンズは水晶体に比べ薄いため、眼球内でレンズが占める容積が小さくなるため、房水の流れがよくなる。

画像出展:「日本人工臓器学会」 

この図を見ると術後、眼内レンズに置き換わるとスペースにゆとりがでるのが分かります。

 

 

LESSON8未来の治療編 ―緑内障治療の未来を知って希望をもって治療を続けよう―

Q83 AIで緑内障治療はどう変わりますか?

●緑内障の治療では大量のデータと目の画像をAIで照合することで緑内障を判定する技術など、特に診断分野で活用されている。

●今後、AIの技術が発展し大量のデータの中から個人毎に最適な目薬を瞬時に選択できるようになる。

●今まで明確でなかった、緑内障と日常生活の関係性が分かるようになる。

感想

緑内障に対する関心が低く、基本的な知識さえなかったため今回の本は大変勉強になりました。

眼圧は非常に重要です。これに関係しているのは房水という目の中の液であり、水晶体、角膜など血管のない組織に栄養を与えるなどの作用と、眼球内の圧力(眼圧)を調整する役割を担っています。眼圧は低すぎると眼球の形を維持できず、高すぎると眼球がパンパンになり視神経を障害し、緑内障発症の原因になります。

ここまでで、緑内障とは眼球内の水流と関係が深く、視神経を障害することが問題であるということが分かりました。一方、眼圧は角膜の厚さやカーブによって個人差があり、レーシック手術によって角膜が薄くなっている人の眼圧は低めに出ることが分かっています。また、眼圧が正常にも関わらず、緑内障を発症している人もいます。つまり、緑内障の根本原因は眼圧ではなく、視神経のダメージを避けるということになります。

そこで、眼圧以外で視神経にダメージを与える原因を調べてみました。 

自律神経と目の関係について こちらは“和田眼科グループ”さまのサイトです。

「眼圧が高い=緑内障」というイメージがあり、「健康診断で眼圧は大丈夫だったから安心」と思いがちですが、日本人の場合、眼圧は正常である「正常眼圧緑内障」が多いのです

ストレスなどによる自律神経の乱れは、視神経への影響も大きいので、血液の循環悪化による視神経への慢性的虚血が起こり、眼圧が正常でも視神経に細胞障害が起こることで、視野が徐々に欠損してしまうと考えられています。したがって、40代以降になれば、定期的に眼科専門医を受診し、眼底写真で視神経の状態をチェックしておくことをおススメします。』 

高眼圧・緑内障」 こちらは“いしかわ眼科”さまのサイトです。

なんと20人に1人が緑内障最新の調査では、日本人の、なんと40歳以上の20人に1人が緑内障であるということがわかっています。また、眼圧が高い人が緑内障になるだけでなく、眼圧は正常であるにもかかわらず緑内障になってしまうこともわかりました。

20人に1人というと驚かれる方も多いでしょう。実際に治療を受けているは1割程度で、残りの9割の人は発見されておらず未治療なのです。緑内障は少々視野が欠けてきても、普段は両目でものを見ているので気づかないのです。たまたま検診で見つかったり、眼科で見つかったりするケースも多く、40歳を超えたら一度は検診を受けてみられるのもよいでしょう。 また、眼圧が高いのに視神経が傷んでいない「高眼圧症」の人もいることが分かりました。正常値より少々高いくらいであれば問題ありませんが、高すぎる場合は緑内障になりやすいことがわかっていますから適切な治療が必要です。

ほとんどが眼圧が正常な緑内障

緑内障の6割以上が、眼圧が正常な正常眼圧緑内障です。眼圧は高くはないのに、目の圧に弱いために視神経が傷んで弱りやすいためと考えられています。その他、視神経が栄養不足になっていたり、視神経の血液の流れが悪いのも原因と言われています。

この場合、眼圧だけ調べても正常眼圧緑内障であるかどうかは分かりません。眼底検査で、視神経が傷んでいることを確認することが必要です。最近では、視神経をOCT(三次元光干渉断層計)が細胞レベルまで解析して緑内障かどうかを診断することが可能となってきております。最終的な診断は、静的量的視野検査などで見える範囲が狭くなっていることを確認することです。

緑内障の予防には睡眠と食事が重要だと思います。前者は特に夜遅くまで、根をつめてPCやスマホを使うのは問題です。また、部屋を暗くして寝ながらテレビを長時間みることは、貴重なビタミンAを浪費し眼圧を高める原因になるため止めるべきです。栄養の中ではタンパク質とビタミンAとCを中心にバランスの良い食事を摂ることが重要だと思います。

サプリメントの中ではルテインは目に集中して届きます。目の老化を防ぐ作用のあるルテインは、黄斑部や水晶体にも含まれていますが、40歳辺りから減ってくるため、特に40歳以上の人にはお勧めサプリメントとのことです。個人的にはサプリメントは何も飲んでいないのですが、右目は落屑症候群であり、左目は網膜剥離の兆候からレーザー治療をした経験があります。このことを考えると私にとってルテインは価値あるサプリメントかもしれません。

白内障手術をした日は朝から夕方まで強い雨が降っていましたが、その雨の後、綺麗な虹が出ました。久々にみたように思います。

 

 

 

術後:ハローグレア現象

術後は定期的に地元の眼科医院で診てもらっており、眼の状態も視力も問題はありませんが、一つ気になるのは“ハローグレア現象”です。これは暗い場所で照明を見ると光の輪のようなものが一瞬見えるといった現象です。最初はよく分からなかったのですが、約20年前のレーシックの手術の時に、似たような話を聞いたことを思い出し、調べたところこれは“ハローグレア現象”であると理解しました。

症状はかなり個人差があるようです。私の場合は幸い軽度なので何かするということは考えていないのですが、調べたところ、「暗い中で細かい字を見ない」、「夜遅くまでPCやスマホを見ない(睡眠をしっかりとる)」というのが日常的な対策になりそうです。また、角膜の炎症などにも注意すべきなので、ドライアイや逆さ睫毛昔から、特に今回手術した右眼に多く、眼科で抜いてもらっていました。逆さ睫毛は角膜を傷つける原因になるようです)にも注意を払うことが大切だと思いました。

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

眼科の先生にご質問したところ、「レーシック手術をしている人はハローグレア現象が出やすい」というお話でした。

約20年前のレーシック手術では、さすがに白内障手術との関係については説明されていませんでしたが、レーシック手術を受け、個人的には大変満足していたので、「しょうがないな」というところです。

 

 

落屑症候群と緑内障1

緑内障には落屑緑内障という緑内障もありますが、今回のお話しはそのようなものではありません。

こちらは“ツカザキ病院”さまのサイトです。

落屑症候群は瞳孔縁や水晶体囊前面などに、白いフケ状の落屑物質が沈着します。

落屑症候群の人が白内障の手術のために入院し、その入院中に緑内障の本を読んでみましたという内容です。興味深いのは約20年前にレ-シック手術をしていました。という点です。もちろん、これは私自身の症例です。

2008年の年間約45万人をピークに、近年では約1/10まで減ったとされるレ-シック手術ですが、検索したところ先頭に出てきたのは、品川近親クリニックさまのサイトでした。場所は有楽町のままです。私の手術もこちらでやって頂きました。

当時、私が勤めていた会社ではレ-シックが流行っていて、経験した人たちの評価は上々でした。私はサッカーをしていたこともあり、高校2年生の頃からコンタクトレンズを使っており、取り扱いの面倒くささに加え、破いてしまったことも数知れずという感じです。約30年で破損したコンタクトレンズは20枚以上であることは間違いないと思います。

眼の手術ということで将来に対する懸念はありましたが、一方、メガネやコンタクトレンズに頼る必要がなければ、特に大地震などの災害時でも困ることはないので、災害対策としても悪くない判断であると考え決断しました。 

手術前には手術の可否を判断するため、検査を行うのですが、角膜の厚さも検査項目になっており、先生から「あなたの角膜は厚いので、もう1回できますよ」と言われたことをよく覚えています。

また、現在の状況は分かりませんが、当時のレ-シック手術は、「完全補正」と「不完全補正」という二択になっており、前者の場合は「一気に老眼が進みますよ」とのことでしたが、「どうせだったらクッキリスッキリ見たいもんだ」と思い、完全補正を選びました。その甲斐あって、その時の術後の視力は小学生の時の1.5を超え、40歳後半にして、2.0となりました。予想通り近くのものはかなり見づらくなりましたが、何とかなる程度だったこともあり、後悔することはありませんでした。術後、特に困ったことはありませんでしたが、多少ドライアイの傾向があったかもしれません。

今回の白内障の手術は右眼であり、落屑症候群「あり」ということです。左眼も白内障の兆候がわずかに出ているという検査結果ですが、裸眼の視力は1.0で不自由は全く感じません。落屑症候群に関しては、あくまで右眼だけだそうです。約20年前のレ-シック手術と、右眼にみられる落屑症候群との因果関係に関しては興味深いところですが、残念ながら分かりません。

そして、白内障の手術を受けるうえで、過去にレ-シック手術をしていることによる問題は特にないようです。考慮すべきは角膜を削っているため、角膜の厚さが患者本人の生まれながらの厚さではなくなっており、視力がどう出るのかが予想しづらいという点です。また、最も重要なことは、眼圧は角膜の厚さやカーブに関係するため、レーシックの手術をうけた人の眼圧は本来の検査結果より低めに出ることです。このため、白内障手術の前に必ず医師にお話ししておく必要があります。[私の角膜はレーシック手術を2回できるような厚さがあるとのことなので眼圧検査への影響は大きくはないと予想されます]

レ-シックの手術は10分程度、白内障の手術は20分程度という印象です。前者はレ-ザ-で角膜を削る際に、髪の毛が燃える時の様な匂いが気になりました。

一方、白内障の手術に関しては、痛いというほどではないのですが、「ウッ、きたな」という場面が2回ありました(落屑症候群の場合、瞳孔の開きが悪いのでそのためかもしれません。ご参考:“宮の前眼科”)

手術は術後2泊の入院ということだったので、時間つぶしのために「自分でできる!人生が変わる 緑内障の新常識」という本を持ち込みました。

これは、「白内障の手術をするのだから、ついでに緑内障も勉強しておくか?」と思ったからです。

今回、勉強して1番良かったなと思ったことは、部屋を暗くし布団に入ってテレビを観ることが、想像していた以上に眼に悪いことが分かったことです。良くないということは知っていたのですが、眼圧の問題とビタミンAを浪費してしまう点から禁忌ということだと認識しました。今後は絶対に止めようと思います。

肝心の白内障手術では、1つ問題が発生しました。それは、手術翌朝の検診で視力は完全に復活していたのですが、眼圧が高くなってしまったことです。全体的に白っぽく見えたのも眼圧の影響によるもののようです。(ご参考:東京逓信病院 眼圧

処方された薬は、眼圧低下のための内服薬がダイアモレックス錠250mgと点眼液がチモプトールXE0.5%です。また、点滴も受けました。これは、稀に眼圧が下がらず定常化してしまうケ-スもあるためです。恐る恐る受けた翌日の眼圧検査は合格、無事退院となりました。退院翌日、地元の眼科医院での検査でも眼圧はレーシック手術による影響を加味しても基準値内に入っているとこのでした。内服薬はすでになくなっており、点眼液も後4日間でOKということになりました。もっとも、1週間後に再度検診を受けることになっています。こちらの先生のお話では術後、一過性に眼圧が上がるのは特別珍しいことではないとのことでした。

以降は、入院中に読んだ緑内障の本に関するものになります。幸い今は緑内障ではありませんが、大変怖い病気と認識しています。

著者:平松 類

初版発行:2022年6月

出版:ライフサイエンス出版(株)

目次

01 緑内障の治療効果を高める本書の使い方

02 年代別緑内障治療方針チャート

03 一般的な緑内障の治療方針

04 緑内障診察・検査フローチャート

  緑内障目薬・内服薬一覧

  緑内障手術一覧

 緑内障レーザー治療一覧

はじめに

LESSON1 病気編 ―まずは緑内障について知ろう―

Q1 緑内障は失明しますか?

Q2 白内障はよく聞きますが、緑内障とは違うのですか?

Q3 緑内障とはどんな病気ですか?

Q4 緑内障は治りませんか?

Q5 未来の緑内障治療や道具にはどんなものがありますか?

Q6 緑内障と診断されましたが、見えているから大丈夫ではないですか?

Q7 自分でできる視野のチェック方法はありますか?

Q8 緑内障になったらどのように進行しますか?

Q9 緑内障にはどんな種類がありますか?

Q10 日本人にもっとも多い正常眼圧緑内障とはどんな病気ですか?

Q11 緑内障は子どもでもなる病気ですか?

COLUMN① エビデンスとは何か?

LESSON2 食事・栄養編 ―食事・栄養に注意して緑内障の進行を抑えよう―

Q12 緑内障になったら自分でできることはないですか?

Q13 緑内障によい食べものはありますか?

Q14 緑内障の人が控えたほうがいい食べものはありますか?

Q15 緑内障の人がチョコレートを食べてもいいですか?

Q16 緑内障にアルコールとタバコは影響しますか?

Q17 緑内障に水分のとりすぎはよくないですか?

Q18 緑内障の人はコーヒー・お茶を飲んでもいいですか?

Q19 目によいといわれるブルーベリーは緑内障にもよいですか?

Q20 目によいといわれるルテインは緑内障にもよいですか?

Q21 緑内障によいビタミンはありますか?

Q22 緑内障によいサプリメントはありますか?

COLUMN② 緑内障の情報をどうやって入手するか?

LESSON3 生活編 ―自分でできることを見つけよう―

Q23 緑内障になったらダイエットをしたほうがよいですか?

Q24 緑内障には適正な体重はありますか?

Q25 緑内障の人におすすめの入浴法はありますか?

Q26 緑内障になったらどれくらい睡眠を取ればいいですか?

Q27 緑内障になったら睡眠時に注意することはありますか?

Q28 緑内障で精神的な不調になったらどうすればいいですか?

Q29 緑内障になったらメガネとコンタクトレンズのどちらを使えばいいですか?

Q30 緑内障になったらサングラスは使った方がいいですか?

Q31 緑内障になってもスマートフォン・パソコンを使っても大丈夫ですか?

Q32 緑内障で目が疲れたり、痛くなったりするときはどうすればいいですか?

Q33 緑内障には目を温めるとよいと聞きましたが本当ですか?

Q34 緑内障にマッサージはよいですか?

Q35 緑内障によいセルフケアはありますか?

Q36 緑内障で注意が必要な趣味はありますか?

Q37 緑内障で注意が必要な運動はありますか?

Q38 緑内障になったらおすすめの運動はありますか?

Q39 緑内障になっても読書をしていいですか?

Q40 緑内障が進行したらどういう生活になりますか?

Q41 緑内障で目が見えなくなったらどうすればいいのですか?

COLUMN③ 新しい健康情報をどう判断すればいいか?

LESSON4 診察・検査編 ―自分の緑内障の状態を知ろう―

Q42 緑内障検査にはどんな種類がありますか?

Q43 緑内障の疑いがある視神経乳頭陥凹拡大といわれたらどうすればいいですか?

Q44 医師によって緑内障かどうかの意見が分かれるときはどうしたらいいですか?

Q45 緑内障の専門医はどうやって探せばいいですか?

Q46 緑内障になったらどんな眼科がおすすめですか?

Q47 緑内障になったらどのくらいの通院頻度になりますか?

Q48 緑内障について医師に聞いておくべきことはありますか?

Q49 眼圧はどうやって測りますか?

Q50 眼圧の測定方法には種類がありますか?

Q51 OCT検査のデータはどうやって見るのですか?

Q52 視野検査には種類がありますか?

Q53 視野検査の結果はどうやって見るのですか?

Q54 視野検査を受ける際の心構えはありますか?

Q55 セカンドオピニオンは受けてもいいですか?

COLUMN④ 緑内障の体験談の活用方法

LESSON5 治療方針編 ―自分の治療方針を知ろう―

Q56 緑内障治療の流れを教えてください。

Q57 眼圧はどのくらい下げればいいですか?

Q58 眼圧が下がったのに視野欠損が進行する場合はどうすればいいですか?

Q59 緑内障は初期・中期・後期で治療は変わりますか?

Q60 年代で治療方法の違いはありますか?

Q61 近視がある人の緑内障治療は、近視のない人と違いがありますか?

COLUMN⑤ 緑内障を誰にどこまで打ち明ける?

LESSON6 目薬編 ―目薬を知って治療効果を高めよう―

Q62 目薬にはどんな種類がありますか?

Q63 目薬の処方はどうやって決まりますか?

Q64 目薬はどう差せばいいですか?

Q65 目薬を差した後の注意点はありますか?

Q66 2種類以上の目薬を差す場合の順番はありますか?

Q67 緑内障の治療効果を上げる方法はありますか?

Q68 目薬はいつ・どのタイミングで差せばいいですか?

Q69 目薬の副作用にはどんなものがありますか?

Q70 目薬が合わないときはどうすればいいですか?

Q71 目薬を差し忘れたらどうすればいいですか?

COLUMN⑥ 緑内障とお金

LESSON7 手術編 ―手術・レーザー治療の効果とリスクを知っておこう―

Q72 手術やレーザー治療をするといわれたら聞いておくべきことはありますか?

Q73 手術で緑内障はよくなりますか?

Q74 手術やレーザー治療はどんな場合にすすめられますか?

Q75 レーザー治療にはどんな種類がありますか?

Q76 手術にはどんな種類がありますか?

Q77 負担の少ないMIGSってどんな手術ですか?

Q78 緑内障手術の最終手段チューブシャント手術はどんな方法ですか?

Q79 なぜ緑内障なのに白内障手術をすることがあるのですか?

COLUMN⑦ 緑内障治療に私のYouTubeチャンネルの動画コメント欄とライブ配信を活用しよう!

LESSON8未来の治療編 ―緑内障治療の未来を知って希望をもって治療を続けよう

Q80 iPS細胞による緑内障治療はどこまで進んでいますか?

Q81 緑内障の再生医療の未来はどうなりますか?

Q82 緑内障の遺伝子治療の未来はどうなりますか?

Q83 AIで緑内障治療はどう変わりますか?

Q84 将来、緑内障でも生活しやすい状況になりますか?

Q85 将来、緑内障は治りますか?

おわりに

参考文献 

目次

はじめに

・平松先生の3つの出来事のお話しがとても印象的でした。

1.両親が緑内障になり、“他人事”ではなく“自分事”になった。「緑内障を治したい」と強く思うようになった。

2.緑内障にまつわる研究を行った。多くの論文を読み、学んだ知識を実際の患者さんに活用した。

3.緑内障患者さんとのふれあい。今までの説明が医師都合であり、患者さんは正しく理解できていないこと知り、緑内障の患者さんの悩みや苦しみにも配慮ができるようになった。 

こちらは平松 類先生のYouTubeです。大変、充実したサイトです。

LESSON1 病気編 ―まずは緑内障について知ろう―

Q9 緑内障にはどんな種類がありますか?

●もっとも多いのが「開放隅角緑内障」で全体の約78%を占めている。続いて「閉塞隅角緑内障」が約12%、続発緑内障が約10%である。他にわずかだが、「小児緑内障」がある。

●開放隅角緑内障は房水といわれる眼球の中の水の出口である隅角が何らかの原因で塞がったり、狭くなったりすることで起こる。房水の流れが悪くなると眼圧が上がり、視神経がダメージを受ける。 

画像出展:「VIATRIS 緑内障の情報サイト

左側が約78%とされている“開放隅角緑内障”、右側が約12%とされている“閉塞隅角緑内障”です。

●閉塞隅角緑内障で注意すべきは、使用できない薬があることである。それらは風邪薬、内視鏡を用いる際に消化管の動きを抑制する薬、全身麻酔薬、向精神薬、睡眠薬などである。

●続発緑内障には、糖尿病網膜症、血管閉鎖の病気による血管新生緑内障、瞳孔や水晶体に付着部がつく病気による落屑緑内障、ぶどう膜炎を原因とする緑内障、ステロイドの副作用によるステロイド緑内障などがある。

LESSON2 食事・栄養編 ―食事・栄養に注意して緑内障の進行を抑えよう―

Q13 緑内障によい食べものはありますか?

●目に限らず身体を作るにはタンパク質が必要である。同時に栄養バランスも重要である。

●目も毎日代謝している。古い細胞から新しい細胞に変わっている。

Q14 緑内障の人が控えたほうがいい食べものはありますか?

●糖尿病や高血圧症は緑内障にとっても良くない。特に血糖を上げないことが重要である。これは糖が血管にダメージを与えるからである。また、精白小麦粉など精製された食材も血糖を上げやすい傾向があり注意を要する。

Q17 緑内障に水分のとりすぎはよくないですか?

●急激な飲水は眼球の中の房水を増やし眼圧を上げる。5分間で1Lの水を飲む実験では「6~7㎜Hg程度眼圧が上がった」という研究がある。特に女性や目薬を3剤以上併用されている人は急激な飲水は眼圧を上げやすいので注意しなければならない。

Q20 目によいといわれるルテインは緑内障にもよいですか?

●ルテインは抗酸化物質の一種である。アントシアニンと異なり体内に取り入れられたルテインは目に集中して届く。黄斑部や水晶体にも含まれ、目の老化を防ぐ作用もある。目に含まれるルテインは40歳辺りから減ってくるので、特に40歳以上の人にはお勧めできる。

●ルテインを多く含む食材にホウレンソウがあるが、尿管結石のように体内に石ができやすい人はサプリメントが望ましい。

緑内障に対しての効果は未知数だが、抗炎症作用の他、白内障や加齢黄斑変性など目の病気の予防にルテインの摂取はよいことである。  

画像出展:「ひとみの専門店

ルテインは目の重要な部分(水晶体と黄斑部)に含まれている栄養素です。

Q21 緑内障によいビタミンはありますか?

●緑内障にとって特に重要なビタミンはビタミンAビタミンCである。ビタミンAの中のレチノールは目から入る光の反応に関係する非常に大切な成分で、特に暗いところで見る際に重要である。食材ではニンジンやホウレンソウを油で炒めると体内に吸収されやすい。

●ビタミンCは老化を防ぐ抗酸化作用がある。ビタミンCは水溶性なので取り過ぎに注意はいらないが、毎日摂取することが望ましい。食材にはレモン、ブロッコリー、ホウレンソウなどがある。

RNAとコロナワクチン2

著者:アレクサンドラ・アンリオン=コード

訳者:鳥取絹子

発行:2023年12月

出版:詩想社

目次は“RNAとコロナワクチン1”を参照ください。

 

第3章 RNAがもたらす医療の劇的な進歩

RNAは医療診断における強力なツール

・RNAは行動力の塊である。RNAが存在しなければ、DNAは生気のない化石であり、タンパク質も何もつくりださない。

RNAに関する研究は、1910年から2020年のあいだにノーベル賞を16回受賞。うち9回がノーベル生理学・医学賞、7回が化学賞である。

・『急性白血病(血液のガン)を例に挙げよう。ときに子どもを襲う、治療法が確立していない病気だ。2021年、研究者たちはRNAを調べてこの病気を研究した。患者である子どもたちから1500件のRNAを採取して回収、驚いたことに、思ってもいなかった場所で偶然、特定のRNAをみつけたのだ。この異常性は、運よく、治療法がわかっているほかのガンでもみつかり、この発見によって治療法が判明した。これは典型例だが、RNAを研究すると診断につながり、新しい治療の道が開ける証拠である。』

いまや、唾液に含まれるRNAで多くの病気の診断ができる

・唾液があれば、侵襲的な検査は不要である。唾液には様々な微生物に加えRNAも含まれており、それらによって身体のあらゆる部分について、非常に多くの診断が下せる。 

調べたところ、既に一般の検査サービスとして提供している会社がありました。(株)サリバテックという山形県の会社さまです。(会社情報

・唾液は耳下腺、顎下腺、舌下腺によって分泌される。また、腸や肺は微生物の貯蔵庫である。

唾液は薬の効力や毒性を知らせる。

ウィルス感染では免疫応答やウィルスの伝染性まで明らかにできる。

画像出展:「けんせい歯科」 

元になっているのは、日本歯科予防センターさまの【唾液マッサージ】のようです。

RNAがもたらす何世代にもわたる遺伝

RNAはいわばエピジェネティクス(後世遺伝学:環境によって遺伝子が介入する)の「グランド・マスター」である。ヨガや瞑想が健康に直接的な影響を与えるのは、血液や脳の細胞の中にある特別なRNAの一部を変えるからである。 

画像出展:「Pubmed

・『RNAがエピジェネティクスの達人だという例を挙げよう。女の子が生まれるとき、その子は母親由来のX染色体1本と、父親由来のX染色体1本を回収している。そこへ、Xistという名前の1個の長いRNAが、前もってどちらかはわからないのだが、2本のうちの1本のX染色体を覆い隠し、それを不活性化してしまうのだ』

トラウマ的記憶は精神だけでなく、生理学や身体にも関わっており、そこで重要な役割を果たしているのがRNAである。

・第二次世界大戦において、オランダでは食料品の禁輸措置により平常時の4分の1になった。この飢餓事件の研究は1995年に行われた。そしてそれ以降いくつかのグループによって研究が重ねられた。この結果、生理学的な遺伝が存在することが分かった。いわゆる「世代間の遺伝」である。さらに、両親、祖父母だけでなくもっと遠い祖先からの遺伝を受け継ぐことも判明した。こちらは「世代を超えた遺伝」と呼ばれている。

遺伝子の発現を抑制するRNAの働き

身体に必要な量のタンパク質を適切に合成するのはRNAの働きによる。タンパク質が多すぎるとRNAが余分なタンパク質を破壊し、足りなければ新たに作る。このメカニズムは「RNA干渉」と呼ばれており、RNAによる遺伝子の発現を抑制する現象である。この干渉メカニズムは非常に強く、一つの細胞の中で狙いをつけたRNAをすべて消滅させる能力がある。RNAをベースにして開発された薬はすべて、こうしたメカニズムが基本になっている。

RNAを使った革新的な治療薬

多くの病気はあるタンパク質が異常に堆積して、不均衡を生じることが原因である。

・RNAを活用した薬(核酸医薬)が他の薬に比べて特にユニークなのは、真のスナイパーであるという点である。狙いを定めた他のRNAをこれほど正確に修正する能力は革命的であり、特に遺伝疾患の治療には最も有効である。

4章 これだけある新型コロナワクチンの危険性

新型コロナワクチンによって体内でできるスパイクタンパクの危険性

・新型コロナワクチンはスパイクタンパクという名の新型コロナウィルスのタンパク質を作る。問題はこのタンパク質は不活性化されていない。つまり、従来のワクチンに照らし合わせて考えるならば、無害ではないということである。特に問題となるのは、私たちはこの不活性化されていないスパイクタンパクが身体にどんな影響を及ぼすか知らないまま、抗体を作っていることである。さらに、私たちの免疫防御システムが、スパイクタンパクを生成する私たち自身の細胞を攻撃する可能性があることである。このことが、私たちの身体を不安定な状態にする。

・新型コロナワクチンは私たちの身体を部分的な自己破壊にいたらせ、自己免疫疾患を引き起こす可能性を排除できない。

スパイクタンパクは消滅する前に体内を循環する

・スパイクタンパクは消滅する前に体内を循環するため、脳等の一部の組織と結びつく時間がある。

・ヒトの研究ではスパイクタンパクは血管の中で、心血管疾患特有の炎症を引き起こし、さらに血栓をつくることもある。同じくヒトの研究で、スパイクタンパクには白血球の中でウィルスの塩基配列を再活性化させる力があるということである。この種の再活性化は、ガンや多発性硬化症、統合失調症などの神経疾患や多発性関節リウマチ、一型糖尿病などを誘発することが分かっている。 

画像出展:「Pubmed

・炎症などによって体力が衰えたときに、スパイクタンパクは凝固物をつくることがある。これはアミロイド型の蓄積物を作る可能性につながる。

人工のmRNAは体内に入ってどのような動きをするのか

・『自然のmRNAは、遺伝情報が保存されている細胞核から、厳重に管理された最初の境界線を超えて、細胞質(細胞核以外の領域)へ向かう。そこでそのまま細胞内にとどまることもあれば、エクソソーム(細胞外小胞)に包まれて二番目の境界線を超え、体内を循環することもある。これらそれぞれの段階で、自然のmRNAは非常に多くのものに出会い、非常に多様な修正を受ける。

他方、ワクチンに含まれる人工のmRNAは、小さな脂質の膜に包まれている。この膜は脂質ナノ粒子(LNP)で作られている。LNPは脂肪質の座薬のようなもので、おかげでmRNAは簡単に細胞に入り込むことができ、時間を費やしながら体内を循環する。ということは、体内に長くとどまっているということで、当然ながら、mRNAはあらゆるタイプの細胞内でみつかる可能性がある。

・『mRNAワクチンは筋肉に注射される。ファイザー社のデータによると、その後15分以内に血液中に見いだされ、それからmRNAを包んだ脂質の膜は組織中に拡がっていくのだが、いつ分解するかはわからないままだ。

それらは肝臓(代謝を管理する)に打撃を与えるだけでなく、脾臓(免疫を管理する)にも、副腎(ホルモンを生成する)にも、卵巣(おかげで子どもが授かる)、骨髄(血液細胞の生成を管理する)にも到達して傷つける。それどころか、肺、腎臓、膀胱、目、心臓、そして脳にも到達するのである。

要するに、注射後の動きを追跡すると、私たちの身体全体が恒常的な慢性炎症状態と、免疫の疲弊に陥っていくのがわかるのだ。これはマウスで行なわれた研究でも示されていた。その研究では、「前臨床試験で使用された脂質ナノ粒子には強い炎症性がある」と指摘されていた。

つまり、mRNAはラットにもマウスにも、そして人間にも、体内組織に重大な打撃を与えるのである。この研究が発表されたのは2021年2月、ワクチン接種のキャンペーンが真っ盛りの頃だ。この研究結果を受け、ファイザー社は、遅まきながら、それらを明示したものを機密文書として供給、それが日本政府と、欧州医薬品局(EMA)の特定レポートで公表されている。』

新型コロナワクチンが妊婦や授乳中の母親に推奨されない理由

・『アメリカ国立衛生研究所(NIH)は世界的に有名な研究所で、このテーマに関する研究はすべて受理していたのだが、各メディアへの発表を決断したのはうち2件の研究のみだった。おそらく何か不安を抱かせることが明らかになったのだろう……。その2件の研究が明らかにしたのは、mRNAは母乳のなかに入り込んでいるということだ。「一つの研究では、母乳のサンプル40件のうち36件で、もう一つの研究ではサンプル309件のうち5件で、mRNAが検出されるレベルにあった。

これらの結果は複数の出版物に掲載された。たとえば「ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション小児科」2022年9月26日号や、「免疫学のフロンティア」2023年1月11月号などだ。』 

画像出展:「NIH

 

 

本書に紹介されていたURLをタイプしたところこのサイトが現れました。これは英国政府のサイトです。

 

感想

筋肉に注射されたmRNAワクチンは、脂質の膜に包まれあらゆる組織中に拡がっていきます。最大の問題は、それが、いつ分解されるか分からないいうことだと思います。

そして、長く組織に滞留することで、私たちの身体が恒常的な慢性炎症状態と、免疫の疲弊に陥っていく可能性があるということだと思います。その一方でその影響は個人差があるため、判断が難しいのも事実だと思います。

※ご参考6

この3カ月で気になるニュースが3つありました。あくまで可能性の話になりますが、これらの原因に慢性炎症や免疫低下が関係しているのではないか、それはコロナワクチンのブースター接種が関係しているのではないかということが、どうしても気になります。

まず、以下の2つの表はAI(Perplexity)の回答です。上表は「慢性炎症とIgG4関連疾患との関係」、下表は「コロナワクチン接種(特にブースター接種)とIgG4関連疾患との関係」です。

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

 

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

 

こちらは「のばなクリニック」さまの“IgG4関連疾患とは?”というタイトルの動画(2分5秒)です。

 

以下が3つのニュースです。慢性炎症と免疫低下との関連を調べてみました。

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

 

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

 

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

 

※ご参考7

ネットを見ていて、レプリコンワクチンというワクチンのことを知りました。

安全性に関して、NIBIOHN(国立研究開発法人 医療基盤・健康・栄養研究所)の山本センター長のお話では、『mRNAは細胞の中で複製されるが、最初に接種する量がこれまでのmRNAワクチンと比べて少なくワクチンの成分が入る細胞の数も少ない。細胞には寿命があり、細胞が死ぬと複製もできなくなるので、無限に増えることはない。』

とのことだったのですが、気になったので調べたところ、神経細胞や心筋細胞など分裂せず長期間機能を維持する細胞もあるようです(参照:“Dr.Gotoの老化研究所 健康長寿” 最後の方です。「— 生体内で分裂を停止した分裂細胞がどのくらい長生きか、機能がどのくらい保たれるかは分かっていない。—

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

 

※ご参考8

2023-2024年シーズンのインフルエンザ感染者数は、前年2022-2023年の約4.2倍だったとされています。免疫が低下すれば感染リスクが高まるのは明らかですが、“慢性炎症”との関係は何かあるのか調べてみました。

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

結論は、直接的な関連性はないがいくつか間接的な懸念点があるようです。

 

RNAとコロナワクチン1

新型コロナが5類感染症に移行したのは2023年5月8日なので1年半近く経ちました。また、2024年4月17日、東京地裁でのコロナワクチンに関する集団訴訟の一件がニュースや新聞に取り上げられていました。 

一方、先日、ネットで東京都医学総合研究所”さまの記事を見つけました。

タイトルは『IgG4関連疾患の危険因子としてのCOVID-19 mRNAワクチン』です。

画像出展:「東京都医学総合研究所

私事ですか、自分自身の健康において気になっているのは腎臓です。Cr(クレアチニン)値の1.08は基準値を超えています。血液検査は年3、4回、家族性高コレステロール血症のために行っています。今回、掛かりつけの先生にご相談させて頂き、IgG4関連腎臓病の可能性を排除する目的で、IgG4、IgE、血清補体価、そしてシスタチンCの4つを血液検査に加えて頂くことにしました。その結果は以下の通りです。

1.IgG4:75.8 (11-121)⇒正常

2.IgE:22.2(173以下)⇒正常

3.シスタチンC:091(063-0.95)⇒正常(高め)

4.血清補体価:44.0(25.0-48.0)⇒正常(腎臓は低値が問題)

※補体は主に肝臓で産生される急性期相反応物質であり、感染症をはじめとした多くの炎症性疾患で産生が亢進し高値を示します。

 

腎臓疾患が懸念される場合の血清補体価は低値になるとのことです。高値の場合は炎症性の疾患に注意する必要があるようです。シスタチンCは筋肉などに左右されないため、クレアチニンよりも腎臓の状態を正しく把握できるとされています(ただし、ステロイド等の薬剤の影響を受けやすい)。数値は高めでしたが、基準値内だったので一安心というところでした。

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

AI検索のPerplexityに質問した回答です。さらなる研究が必要とされていますが、mRNAワクチンに関する懸念点が上がっています。

 

 

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

日本でのコロナワクチンの接種回数の情報です。私は3回でストップしています。今後、コロナウィルスが強毒化した場合には接種を検討しようと思っていますが、可能であればタンパク質ベースのワクチン(NVX-CoV2373)が望ましいかと思っています。 

上記のことを色々調べていて今回の本を知りました。コロナワクチンに関しては今まで3冊の本を読んでいるのですが、この本の著者が外国の方だったので、どんな内容なのか興味を持ちました。

著者:アレクサンドラ・アンリオン=コード

訳者:鳥取絹子

発行:2023年12月

出版:詩想社

 

まず、著者のプロフィールをご紹介させて頂きます。

アレクサンドラ・アンリオン=コード

●イギリス・フランス両国籍をもつ遺伝学者、元フランス国立衛生医学研究所 主任研究員。1969年生まれ。

パリ・ディドロ大学で遺伝学の博士号を取得し、ハーバード大学医科大学院で神経内科医として働いたのち、2019年までフランス国立衛生医学研究所(INSERM)の主任研究員として数多くの研究チームを率いた。主な研究分野はRNAおよび遺伝性疾患。ミトコンドリアマイクロRNAに関する研究の第一人者として国際的に認められている。

RNA研究の権威として、新型コロナワクチンの本当の安全性、有効性を指摘した本書は、フランス国内で瞬く間に16万部を超えるベストセラーとなり、世界各国で続々と翻訳・出版されている。

ブログは「RNAとは何か」と「コロナワクチンの問題」の2つに注目しました。

目次

第1章 ウィルスよりもワクチンのほうが危険という現実

●かつてないほどの短期間で開発・製品化されたワクチン

●結局、ワクチンはコロナへの感染、重症化を防げない

ワクチン接種の危険性を示す世界各国のデータ

●ワクチン接種によって免疫機能が低下する

●公開が求められているモデルナ・ファイザー社の臨床試験データの中身

●ワクチンがもたらす危険な副作用リスト

●ワクチン接種の推奨をやめはじめた世界各国の動き

第2章 新型コロナワクチンに使われたRNAとは何か

●二つの遺伝物質、DNAとRNAが私たちの身体をつくっている

●DNAとRNAの違い

●多様な形、さまざまな種類があるRNA

●RNAがもつ未知の可能性

第3章 RNAがもたらす医療の劇的な進歩

●RNAは医療診断における強力なツール

●いまや、唾液に含まれるRNAで多くの病気の診断ができる

●RNAがもたらす何世代にもわたる遺伝

●遺伝子の発現を抑制するRNAの働き

●RNAを使った革新的な治療薬

●RNAを調べれば、何を食べてきかもわかる

第4章 これだけある新型コロナワクチンの危険性

●mRNAの研究がなかなか進まなかった理由

●さまざまなタンパク質をつくる天才的な存在

●前立腺ガンの治療ではじまったmRNAワクチンの試練

●失敗し続けている皮膚ガン治療における研究

●肺ガン、エイズの治療でも失敗続きのmRNA研究

●脳腫瘍、狂犬病の治療でもよい結果は出ていない

●研究課程でみえてきた副作用の驚くべき重症度と多様性

●胃腸ガン、ジカ熱に対しても効果が出ていないmRNA研究

●製品化への審査が簡略化されたmRNAワクチン

●20年以上かけても、臨床試験で成功していなかった研究

●これまでのワクチンと、新型コロナワクチンとの決定的な違い

●新型コロナワクチンによって体内でできるスパイクタンパクの危険性

●スパイクタンパクは消滅する前に体内を循環する

●研究者たちの意見を無視して進められた新型コロナワクチンの接種

●新型コロナワクチンの消費期限、品質への疑問

●自然界に存在しないmRNAを体内に入れたらどうなるか

●人工のmRNAは体内に入ってどのような動きをするのか

●新型コロナワクチンが妊婦や授乳中の母親に推奨されない理由

●個人がこれまで受け継いできた遺伝子を変えてしまうワクチン

●私たちのみならず私たちの子孫のゲノムまで修正される

●遺伝子の修正でガンのリスクが高まる

●ファイザー社が公表する副作用リストに、なぜ遺伝性疾患があるのか

第5章 ワクチンの認可

●巨大製薬会社が抱える薬害スキャンダルの実態

●ファイザー社の数々の不祥事から垣間見える倫理観

●臨床試験が終わっていない段階で製品化されたワクチン

●疑問だらけのコロナワクチン認可の経緯

●コロナワクチンを異様な高値で売りまくる巨大製薬企業

●コロナワクチン開発に際し、80億ドル以上の公的資金を得ている

おわりに

第1章 ウィルスよりもワクチンのほうが危険という現実

ワクチン接種の危険性を示す世界各国のデータ

・ファイザー社のワクチン関連資料サイトの情報

-データを閲覧できるのは約75年後、閲覧対象は3カ月間の臨床試験結果のみ。

・WHOの「ヴィジアクセス」によると、コロナワクチン接種開始後の1年間だけで、好ましくない事象は、過去50年間に報告されたインフルエンザ副作用の総数の10倍に達している。現時点で報告されているのは、「1100万件の好ましくない作用と、7万件以上の死亡例」である。

ワクチンがもたらす危険な副作用リスト

月経障害:イスラエルの厚生省ならびにイタリアの医学誌『オープン・メディシン』(2022年2月号)によると、接種回数に関係なく、ワクチンを接種した女性の10~65%がこの症状に関係している。

こちらはNIHのサイトにあった情報です。 

心疾患(心筋炎、心膜炎など):19歳~39歳の若年男性にとってmRNAワクチンを接種した回数と関連性があり、米国と北欧諸国は医学誌『ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション』で、イスラエルでは科学誌『ネイチャー』でデータが公表されている。

こちらはJAMAのサイトにあった情報です。 

神経障害(脳梗塞型の脳血栓、脳静脈血栓症、アルツハイマー型認知症や記憶障害、感覚障害型の末梢神経障害、ベル麻痺、てんかん、ギランバレー症候群型の免疫性神経障害、横断性脊髄炎など):特に神経変性から認知症なる神経障害は、ワクチン接種後に多くなることが報告されている。WHOの「ヴィジアクセス」のサイトには、170万件の神経障害がリスクアップされている。

こちらはWHOのヴィジアクセスのページです。 

第2章 新型コロナワクチンに使われたRNAとは何か

二つの遺伝物質、DNAとRNAが私たちの身体をつくっている

・私たちはDNAとRNA、そしてタンパク質でつくられている。

・DNAとRNAが身体構造を完成させ、生きていくためのプログラミングを行っている。

DNAとRNAの違い

・DNAは安定しているがRNAは不安定で脆弱である。これはRNAが一本鎖という構造であることと、RNAは身体の様々なところに存在し、それぞれの役割や環境によって常に変化するという特質をもっていることも関係している。RNAの中には私たちの一瞬の要求に応じた後、衰退(分解)してしまうものもある。

RNAは調整役として、あらゆるシステムとコミュニケーションを行っている。

・DNAは常に核やミトコンドリアの中に留まっており(核DNA、ミトコンドリアDNA)、細胞の遺伝情報の金庫であり、エネルギーの産生所である。

多様な形、さまざまな種類があるRNA

・RNAは1本の線もあればらせん状や環状になっていることもある。長さも様々である。

ワクチンはmRNA(メッセンジャーRNA)が関係しているが、他にも重要なRNAはたくさんある。以下はその一部である。

-tRNA、rRNA、microRNA、siRNA、shRNA、piwiRNA、eRNA、lncRNA、snRNA、snoRNA、scaRNA、circRNA、vtRNA、yRNA、リボザイム(触媒として働くRNA)などがある。

RNAがもつ未知の可能性

microRNA(マイクロRNA)の役割はまだ完全に知られていないが、非常に重要なRNAである。それはガンやその他の重病では、マイクロRNAの位置が異常であるということが知られているからである。

・マイクロRNAは遺伝子の文字が20程しかない非常に小さなRNAだが、何万という遺伝子の中から調整を要する遺伝子を見つけることができる。そして、細胞の増殖と成長、胚の発達、組織の分化の調整、さらに細胞の死にもからんでいる。

・RNAの多様な形、計り知れない能力、修正力、変化に富んだ役割、いたる所に存在するという事実は分かっているが、まだまだ分かっていないことも多い。

mRNAを利用したワクチンの影響もRNA自体が解明されてないため、未知な部分が多いと言える。

あらゆる調整の中心になっているRNAは多くの病気の診断に関わっている。感染症、遺伝疾患、神経症、ガン等である。

・『2017年、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究スタッフが、未知の遺伝性筋疾患の患者50人のRNAのゲノムを、初めて分析した。実は、それまでDNAによる遺伝子検査を入念に行ったにもかかわらず、変異はいっさいみつからなかった。ところが、初のRNAのゲノム分析のおかげで、これらの患者の3分の1で、それまで検出できなかった変異を特定することができた。これまで解明できなかった謎を解決するRNAの力が、この研究で明らかになったのだ。』

採血はタンパク質を元に行われるが、タンパク質よりRNAをベースにした診断の方が望ましい。これは、DNAの遺伝情報をRNAがコピーし、それを伝えることでタンパク質が作られるからである。つまり、順番はRNAの方がタンパク質より先である。従って、RNAの段階までさかのぼることによって、病気の原因を発見するチャンスが増えると考えられる。

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」 

こちらはタンパク質生成におけるRNAの主な役割です。

脳の治癒力4

著者:ノーマン・ドイジ

訳者:高橋 洋

初版発行:2016年7月

出版:(株)紀伊國屋書店

 損傷を受けた脳は、いかに自己回復するのか

東洋経済オンラインに本書の紹介が出ていました。

目次は“脳の治癒力1”を参照ください。

第4章 光で脳を再配線する

光を用いて休眠中の神経回路を目覚めさせる

小さな世界

・光の性質とは何だろうか。光線療法の治療への適用は、すでに確立されたもの(新生児黄疸、乾癬など)から、最近の流行(季節性情動障害への適用など)に至るまで広範囲にわたる。

光は私たちが気づかぬうちに身体に入ってくる

自然光でも脳の奥深くまで入ってくる。皮膚や頭蓋骨は光にとって絶対的な障壁にならない。太陽光のエネルギーは皮膚を通過して血液に影響を及ぼす。

・『医師は未熟児の救命には長けるようになったが、その代わり新生児黄疸が大きな問題になった。イギリスのエセックス州では、南側に面して日光が降り注ぐ中庭を持つ、第二次世界大戦の元戦時病院で、黄疸を抱えた新生児の治療が行われていた。子犬の飼育が得意な修道女のJ・ウィードがその任にあたっていた。彼女はよく、とりわけ繊細な新生児を保育器から出し、日光が降り注ぐ中庭に乳母車で運んだ。それを見た他のスタッフは不安を感じたのだが、その新生児たちの状態は改善し始めた。ある日彼女は、新生児の一人を裸にして、おずおずと担当医に見せた。日光にさらされた腹部はもはや黄色くなかったのだ。

黄疸にかかった新生児の血液サンプルが自然光のあたる窓際に置き忘れられるというできごとが起こるまで、彼女の言葉をまじめに受け取る者は誰もいなかった。回収された血液サンプルは正常だった。医師たちは何かの間違いであろうと考えたが、R・H・ドップス医師とR・J・クレーマー医師はさらに調査を進め、サンプル中の過剰なビリルビンがいつのまにか分解、つまり代謝され、血中のビリルビン濃度が正常なレベルを示していることを発見した。日光を浴びた新生児の黄疸が治ったのも、このためではないだろうか?

さらなる調査によって、皮膚と血管を通して、血液、およびおそらくは肝臓に達した光の青色の波長が、この驚嘆すべき治療効果を発揮したことが判明する。かくして光を用いた黄疸の治療が主流を占めるようになった。修道女ウォードによる偶然の発見は、私たち人間がそれまで考えられていたほど不透明ではないことを証明したのである。』

・現代の看護術の創始者であるフローレンス・ナイチンゲールは日光には治癒効果があると見抜いていたが、科学的な説明ができなかったため、病院の設計で自然光が重要視されることはなくなっていった。

1984年、アメリカ国立衛生研究所のノーマン・ローゼンタール博士は、太陽光への暴露によってある種の抑うつを治療できることを示した。

・人間は視覚を光と結びつけて考える傾向があるが、人間と光の関係はもっと根源的である。それは植物に限った話ではない。目をもたない単細胞生物は光に反応してエネルギーを供給する分子を外膜上に持つ。

好塩菌はオレンジ光を取り込み、感光性の分子がそれをエネルギーに変換する。感光性分子がオレンジ光を吸収すると、好塩菌はさらなる光のエネルギーを求めて光源に向かって泳いでいく。また、紫外線や緑色光を嫌う。好塩菌への影響が光の波長によって異なるという事実は、光の周波数がエネルギーのみならず、さまざまな種類の情報を伝達することを意味する。

色に対する極端な敏感さは、私たちの身体を構成する個々の細胞やタンパク質の内部にも存在する。

ビタミンCの発見によってノーベル生理学・医学賞を受賞したアルベルト・セント=ジェルジは、身体内で電子がある分子から別の分子に移ると(電荷移動と呼ばれる)、分子が色を変える、言い換えると、放射する光のタイプを変える場合があることを発見した。このように人間と光の遭遇は、皮膚に限られるものではない。

講演と偶然の出会い

・低強度レーザー療法は3000件を超える科学文献にその基礎を置き、200件以上の臨床試験で肯定的な結果が得られている。

こちらはPDF4枚の資料です(2009年12月)。

『結び:レーザー医学は、従来は不可能であった診断や治療を可能にするという点で意義がある。今後、レーザー技術の進歩とその医学への応用により、医学の研究や医療の

分野のみならず。医療経済の分野にも革命が起こる可能

性がある。』

レーザー光とはNPO法人日本臨床医療レーザー協会

 

レーザーはいかに生体組織を癒すのか

レーザー光はATP生産の引き金になる。したがって、軟骨細胞、骨細胞、結合組織(線維芽細胞)などの健康な新細胞の成長や修復を開始し、促進することができる。

レーザーは波長をわずかに変えることで、酸素消費の増大、血液循環の改善、新たな血管の成長の促進、組織への酸素や栄養の供給の増大をもたらすことができる。

・日光のエネルギーを細胞が利用できるエネルギー形態に変換するシトクロムは、レーザーがさまざまな症状を治癒する理由を説明する。

・光子のほとんどは細胞内のミトコンドリアに吸収される。薄い皮膜に覆われたミトコンドリアには、光感受性のシトクロムが詰まっており、日光の光子は皮膜を通過してシトクロムに接触すると吸収され、細胞内にエネルギーを蓄える分子の生成を促す。

・血管外科医のフレッド・カーンはシトクロム分子まで光を通すのに四つの手法を用いる。

『まず、封筒大の柔らかいプラスチック製の帯の上に、いくつかの列に並べられた、180個の発光ダイオード(LED)によって発せられる赤色光を用いる。臨床医は、通常およそ25分間、患者の体表面を赤色光で覆う。赤色光は1~2センチメートルほど身体を貫通する。この方法は、より深い位置にある組織の治癒を準備し、血液循環の改善を支援するために、つねに最初に用いられる。次にカーンは、およそ25分間、赤外線LEDの帯を使う。この光は、さらに5センチメートルくらい深く身体を貫通して、治癒効果を発揮する。LEDの光はレーザーに似た特性を持つが、レーザー光ではない。したがって、じかに見ても害はない。それからカーンは純粋なレーザー光を用いる。その際、まず赤色光レーザーのプローブを、そして赤外線レーザーのプローブを使う。レーザープローブはLEDよりもはるかに強力で、焦点を絞った光線を身体の奥深くまで貫通させることができる。レーザープローブを適用するまでには、表層の組織はすでに、赤色および赤外線LEDから発せられた光子で飽和しており、レーザーは組織の内部に光子のカスケードを形成し、身体内部22センチメートルの深さまで届く。レーザープローブはさまざまな箇所に短時間ずつ適用され、合わせておよそ7分間用いる。LEDとは異なり、レーザープローブの光をじかに見るのは危険なため、患者や医師は、使用中特殊なメガネをかける。光の「一服」のエネルギーは、光源が発する光子の量、および波長、すなわち光の色に依存する。アインシュタインが示したように、光の色は含まれるエネルギー量を表す基準となる。

レーザー光を用いれば、免疫系の必要な箇所に限定して、有益な炎症を引き起こすことができる。疾病により発生した炎症が停滞することで炎症は「慢性化」する。この場合、該当箇所にレーザー光を当て、行き詰まったプロセスの障害を取り除いて通常の消炎プロセスを発動させることにより、炎症、腫れ、痛みを減退させることができる。

心臓病、うつ病、ガン、アルツハイマー病、自己免疫疾患(たとえば関節リウマチ)などの現代病は、一つには身体の免疫系が慢性的な炎症を過剰に引き起こすことで発症する。

慢性炎症は免疫系が必要以上に長く機能し、場合によっては自己の身体組織を外的と見なして攻撃し始める。

慢性炎症の原因は、食物や身体に蓄積された種々の有害化学物質を含め多々ある。慢性炎症を抱えた身体は、痛みやさらなる炎症をもたらす炎症性サイトカインを生む。

・レーザー光は抗炎症性サイトカインを増大させて過剰な炎症に対抗し、炎症を鎮める。

・抗炎症サイトカインは、慢性炎症に寄与する「好中球」細胞を減らし、外敵や損なわれた細胞を除去する働きをもつ「マクロファージ」と呼ばれる免疫系の細胞を増やす。

レーザーは酸素によって組織に引き起こされたストレスを軽減する。身体は常時酸素を消費しており、非常に活動的で他の分子と作用し合うフリーラジカルと呼ばれる分子を生む。フリーラジカルが過剰になると、細胞が損なわれて、変性疾患が引き起こされる場合がある。

レーザーは慢性炎症の細胞や、血液や酸素の供給が低下した細胞など、機能のはたらきが困難になって多くのエネルギーを必要としている細胞に対し、優先的に影響を及ぼすという機能がある。つまり、レーザーはもっとも必要とされる箇所に効果を発揮する。

・治癒には新たな細胞を作り出す必要がある。細胞の再生はDNAの自己複製から始まる。レーザー光は細胞内(およびRNA)の合成を活性化する。

・レーザーは脳に対しいかに影響を及ぼすのか。日光はセロトニンを分泌させる。一方、レーザー光はセロトニンに加え、痛みを和らげるエンドルフィンや損なわれた脳が失われた心的能力を再学習する際に役立つアセチルコリンなどの重要な脳内化学物質の分泌を促す。

・『カーンとスタッフたちは、20年におよぶ治療の実践を通じて、ほぼ100万件に達するレーザー治療の効果を観察し、どのタイプの症状や患者にどのプロトコルがもっとも有効かについての知識を蓄積してきた。カーンは現在でも、クリニックにやって来る患者の95パーセントを自分で診て、経過観察を行っている。患者の皮膚の色、年齢、脂肪や筋肉の量はすべて、吸収される光の量に影響を及ぼす。患者の反応に従って、療法家は光の周波数、波形、エネルギー量(一定の時間、単位面積あたりの組織を通過する光子の数)を調整する。マイケル・ハンブリンが指摘するように、「どんな治療にも、最適な光量がある。それより多くても少なくても、治療効果は得られないであろう。しかしときに、「量が少ないほうが、多い場合より効果がある」ことが見出されている。』

レーザーは脳を癒す

・レーザーを使ったユニークな治療法には、オンタリオ州で製造された低強度鼻腔内レーザーを用いて、鼻の内部(血管が表面にも脳にも近い)に光を通し、ひどい不眠症をただちに治した例がある。

・『私はキムとカーンとともに、脳そのものを対象に治療が始められたわけではないのに脳の機能を回復したという、注目すべき現象を何度も見てきた。いくつか例をあげよう。私が会った高齢の男性アラン・ハンナフォードは、首の重度の骨関節炎のために治療を受けた。彼はまた、数年前に視覚皮質に卒中を起して視野の一部が破壊されたために、目が見えにくくなっていた。もちろん彼の首は治療によってよくなったが、驚いたことに、それと同時に視野も拡大した。というのも、首に向けられたレーザーの光が、脳の後方に位置する視覚皮質付近に当たったからだ。以降も、アランの改善された視力は維持されている。』

※ご参考

1)レーザー療法で痛みを緩和する(高崎健康福祉大学)

2)レーザー治療について(大城クリニック)

3)緑内障レーザー:選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)(東京逓信病院)

第7章 脳をリセットする装置

神経調節を導いて症状を逆転させる

Ⅰ.壁に立てかけた杖

奇妙な装置

・『ウィスコンシン大学の研究室を訪れたロンは、古い建物の内部にある、実験装置をいくつか備えた小さな部屋に入った。建物の入り口のすぐ隣にはトラックの搬出口があり、廊下は改築中だった。ある患者が言うように、「科学の奇跡が起こる場所にはとても見えない」雰囲気だった。ロンは「その装置が効くのかどうかはわからないが、どのみち失うものは何もない」と思っていた。ウィスコンシン大学の研究チームは病歴について質問し、歩行と平衡感覚を検査したあと、ロンを音声調査部門に連れていき、彼の声を調査した。彼の発する声はひどく割れていて理解不可能であり、モニター上では小さなドットとして表示された。基本的な検査が終わると、彼らはうわさに聞いていた装置を取り出した。

その装置はシャツのポケットに入るくらい小さく、紐がついていて、ペンダントのように首にかけている研究者もいた。口に含んで舌に乗せる部分は、平らなチューインガムのように見える。平坦な部分の下側には、144個の電極が装着されている。装置の下側全体に、流動する刺激のパターンを生成するこれらの電極は、できるだけ多くの舌の感覚ニューロンを活性化できるよう調整された周波数によって、三組の電気パルスを発する。電極は、マッチ箱大の電源ボックスに接続されている。電源ボックスは口の外に置かれ、いくつかのスイッチとランプがついている。ユーリ、ミッチ、カートは、この装置をPoNSと呼ぶ。PoNSとは、「ポータブル神経調整刺激器」の略だが(神経可塑的な脳を刺激し、ニューロンの発火の状態を矯正するのでそう呼ばれる)、この装置の主要な治療対象の一つである脳幹の組織、橋(pon)の名称にもちなんでいる。彼らはロンに、できるだけまっすぐ立って、装置を口に含むよう指示した。装置は、穏やかな信号の波によって、痛みを引き起こさずに舌とその感覚受容器を刺激する。刺激はちくちくした感触を与えるが、ときにはかろうじて気づく程度のこともある。その場合、チームメンバーはダイヤルを調整して出力を上げた。しばらく経つと、彼らはロンに目を閉じるように促した。20分のセッションを2回行うと、ロンはハミングで歌えるようになり、4回のセッションを経ると再び歌えるようになった。その週の終わりには、「オールド・マン・リバー」を大声で歌っていた。

もっとも注目すべきことは、ほぼ30年間にわたって症状が着実に悪化していったあとだというのに、驚くべき速さでロンの状態が改善したことだ。現在でも多発性硬化症を患っている事実に変わりはないが、彼の脳の神経回路は、以前よりもはるかに良好に機能している。彼は二週間、月曜日から金曜日まで研究室に滞在し、休憩をあいだにはさみながら装置を口に含んで試した。最初の週には、一日に研究室で4回、家で2回のセッションを実施した。電子機器による音声テストでは、着実な音の流れが示され、大幅な改善が見られた。また、多発性硬化症の他の症状も改善し始めた。最後に研究室をあとにするときには、当初は杖をついてよろめきながらやってきた男が、マディソンチームの前でタップダンスを踊って見せたのである。』

PoNSが米国食品医薬品局 (FDA)によって販売承認されました。という記事です。こちらは“Cambridge Consultant"さまのサイトからです。

 PoNSのメカニズムが動画で確認できます。

こちらは、“NEURO GROUPE"さまのサイトからです。

 

なぜ舌は脳への王道なのか

・『しかしなぜ舌なのか? なぜなら、彼らの発見によれば、舌は脳全体を活性化するための王道だからである。舌は身体の組織のなかでも、もっとも鋭敏な器官の一つだ。』

・『口唇期の乳児は、ものを口に含み、舌で感じることで外界を知ろうとする。舌の表面には、触覚、痛覚、味覚を感じるための48種類の感覚受容器が存在し、先端だけでも14種類ある。これらの感覚受容器は神経線維を介して脳に電気信号を送る。ユーリの分析によれば、舌先には15,000~50,000の神経線維が存在し、それらによって、巨大な情報ハイウェイが形成される。PoNSは舌の前方3分の2を占めるように置かれるが、その位置には、舌の受容器から感覚情報を受け取る二つの神経が走っている。一つは触覚刺激を受け取る舌神経で、もう一つは味覚刺激を受け取る、顔面神経の分枝である。

これらの神経は、舌の背後およそ5センチメートルの位置にある脳幹に直接接続する脳神経系の一部を構成している。脳幹は、脳に出入りする主要な神経が集まる場所で、動作、感覚、気分、認知、平衡を司る脳領域と密接に結びついており、脳幹に入った電気信号は、脳のさまざまな部位を同時に活性化することができる。PoNSを使っている最中に被験者の脳の活動を脳スキャンやEEGで記録したマディソンチームの研究は、400~600ミリ秒後に脳波が安定し、脳のあらゆる部位がともに反応して、発火し始めることを示した。脳の障害の多くは、脳のネットワークが同期して発火しないために、もしくは発火が低調なネットワークが存在するために生じる。しかし脳スキャンを用いてさえ、どの神経回路が低調なのかを正確に特定できない場合が多い、神経可塑性のゆえに、人の脳はそれぞれ、ミクロレベルではいくぶん異なった様態で配線されている。したがって、脳スキャンによってある患者の特定の脳領域に損傷が見つかっても、その脳領域で何が生じているかを100パーセントの正確さで予測することはできない。ユーリは次のように言う。「だが、PoNSを使った舌の刺激は脳全体を活性化する。だから、どこに損傷個所があるのかがわからなくても、装置が脳全体を活性化してくれるのだ」。』

Ⅳ.わずかな支援で脳はいかにバランスをとるのか

四種類の可塑的な変化

ユーリは、200人の被験者を対象にする実験と、可塑的な変化の時間経緯に関する知見に基づいて、PoNSによって4種類の可塑的な変化が得られると論じている。

第一のタイプ:声の改善(ロン)や平衡感覚の回復(ジェリ)に見られたようなただちに生じる反応である。装置使用開始後13分くらいで呼吸に変化が見られる。この迅速な変化は「機能的神経可塑性」と呼ばれている。PoNSは過剰に発火し続けるニューロンを抑制することで症状を改善する。

第二のタイプ:「シナプス神経可塑性」と呼ばれる。数日から数週間、PoNSを使いながら訓練を続けることで、ニューロン間に新しく持続的なシナプス結合を生成することができる。最初の数日間でよく見られる変化は、睡眠、発音、平衡感覚、歩き方の改善である。このタイプの可塑的変化は、基盤にあるネットワークの病理に働きかける。

第三のタイプ:シナプスだけでなくニューロン全体の変化が関与しており、「ニューロン神経可塑性」と呼ばれている。このタイプの変化は、神経回路を1ヵ月以上活性化する必要がある。研究ではニューロンは新たなタンパク質と内部組織の生成を開始する。

第四のタイプ:「システム神経可塑性」と呼ばれる。これには1年から数年を要する(推奨は2年)。この段階では、装置は使わない。このタイプの可塑性は、前述の三つの可塑性のすべてが安定化し、新たなネットワークの基盤が確立する。

必要とされる装置の使用期間は、疾病や症状によって変わる。進行性疾患(多発性硬化症やパーキンソン病など)では一生を通じて使用が求められる。これは、進行性疾患は毎日新たなダメージを引き起こすからである。

PoNSはノイズに満ちたネットワークをリセットすることで症状の緩和に役立つが、根本的な炎症の病理と病原性因子を排除できないと、脳は元のノイズに満ちた状態に戻る。そのため、神経配線に関する特定の問題とともに脳細胞の全般的な問題に対処することが必要になる。

PoNSによって改善できる症状とできない症状がある理由は、現在のところ明確になっていない。

・PoNSの価値は従来の薬物療法では効果がなかったさまざまな重い症状を、副作用なく改善することができることである。

新たなフロンティア

・PoNSは、西洋の科学の概念や方法論を導入しつつ、ホリスティックで東洋的なあり方で、すなわち治癒のプロセスの一部としてホメオスタシスに働きかけ、自己制御を促進することで、身体の自助を支援するのである。

※低強度レーザーとPoNSとの比較

『低強度レーザーとPoNSはともに脳にエネルギーを通すが、一般にそれぞれ異なる生物学的レベルで作用する。低強度レーザーに関して言えば、その光が頭蓋を通過する際、進路に位置するすべての個々の細胞がそれを浴びる。光は慢性的な炎症を取り除き、選択的に損傷した組織にエネルギーを付与する。したがってレーザー光はおもに、現在わかっている限りで言えば、一つの脳領域全体の細胞の全般的な健康に働きかける。それに対しPoNSは「一緒に配線され」、関連し合う既存の機能ネットワークに働きかける。したがってそれは、ニューロンの特定のネットワーク機能を改善する。

低強度レーザーとPoNSはそれぞれ異なる脳のレベルで作用するために、両方の恩恵を受けられる患者もいる。問題が炎症に関するものなら(脳損傷、手術後の炎症、脳卒中、髄膜炎、おそらくは多発性硬化症、そしてある種の抑うつ)、脳の細胞環境を正常化するために低強度レーザーを先に試してから、ネットワークを正常化するためにPoNSを使うのが妥当であろう。 

第8章 音の橋

音楽の脳の特別な結びつき

Ⅲ.ボトムアップで脳を再構築する

炎症を起こした脳のニューロンは結合しな

身体の慢性的な炎症は、脳を含むあらゆる組織に影響を及ぼす。

2005年にジョンズホプキンス大学医学部のチームによって行われた研究によれば、自閉症者の脳は炎症を起こしている場合が多い。検死解剖によって皮質と軸索に炎症が見出された。また、炎症は前庭系と強い結びつきを持つ小脳にとりわけ見られた。

・2008年以来5つの研究によって、かなりの数の自閉症の子どもは、子宮にいるあいだに脳細胞を標的とする母親由来の抗体を持つことが示されている。ある研究によれば、自閉症の子どもの母親の23パーセントはそのような抗体を持つ。それに対し、正常な子どもの母親に関して言えば、そのような抗体を持つ人はわずか1パーセントにすぎない。科学者は何が抗体を誘発するのかをまだつきとめていないが、おそらく自閉症の子どもの母親は、自身の免疫系を変えるような感染をしたか、あるいは毒素にさらされたのではないかと考えられている。

・自閉症の子ども自身も血中の抗体レベルが高い。

慢性的な炎症は神経回路の発達を阻害する。自閉症の子どもにおいては、多くの神経ネットワークが「過少結合」され、脳の前面のニューロンと背後のニューロンの結合が不十分であることが画像で示されている。また、他の脳領域は「過剰結合」され、これは自閉症の子どもによく見られる痙攣発作の原因となっている。過少結合と過剰結合が組み合わさると、脳領域間の同期をとることが困難になる。

・まとめると、自閉症は遺伝的な危険因子と、多くの環境的な誘発要因の産物であり、誕生前に子どもに影響を与えることもあれば、誕生後に与えることもある。そして、免疫反応と炎症が顕著に見られる。これらの要因の結びつきは発達中の脳に悪影響を及ぼし、ニューロンの適正な結合とニューロン同士のコミュニケーションを阻害する。

※ご参考

1)うつ病や自閉スペクトラム症では「脳で炎症が起きている」説が、じつに明快だった(講談社)

2)母体の炎症が子供の自閉症につながるメカニズム(AASJ)

※ハーバートの理論

『「栄養不足、毒素、ウィルス、ストレスの結合、そしておそらくは遺伝的脆弱性によって全身に負荷がかかると」、脳の支援システムが圧倒される。炎症は多量の老廃物を生産する。脳は身体の他の部分と同様、常に老廃物と死んだ細胞を除去し、ニューロンを再構築しつつ栄養を供給しなければならない。この作業は、脳グリア細胞によって行われる。グリア細胞に過負荷がかかると腫れを起し、正常にニューロンのサポートを行えなくなる。ニューロンへの血液の供給は減り、ニューロンのミトコンドリアはストレスを受ける。グリア細胞の適切なサポートを受けられなくなったニューロンは、やがて「アイドリング状態」に入り、正常に信号を発することができなくなる。すでに述べたように、ニューロンは損なわれても、あるいは機能不全に陥っても、発火を続けて「ノイズ」を生んだり、過剰に興奮したり、統制を失ったりする。ハーバートの指標によれば、グリア細胞とニューロンのシステムに過負荷がかかると、ニューロンを興奮させる脳の化学物質グルタミン酸が大量に放出される。それによってニューロンが非常に興奮しやすくなって過剰になり、私の用語を用いれば、「ノイズに満ちた脳」に至る可能性がある。』

感想

最も印象的だったのはパーキンソン病を抱えたままほぼ健常者と遜色のない日常生活を送っている人達です。この中にはグローブシステムによって動きが戻った方も含まれています。

Good vibrations Can Parkinson’s symptoms be stopped?"

『「まるで魔法のようでした」と、スタンフォード大学医学部の神経生物学者ビル・ニューサム博士は、手袋を使用する前と使用後のパーキンソン病患者の症状改善を示すビデオを初めて見たときのことを思い出しながら語った。』

 

 

パーキンソン病患者様への施術は決して多くはないのですが、来院された患者さまはすべて65歳以上で、若年性パーキンソン病の方に施術をしたことはありません。年齢的な要因が大きいのかもしれませんが、日本の患者さんに比べ動画に出てくる患者さんのポジティブさに驚きます。アプローチはそれぞれですが、いずれも動けるようになったという達成感があってのこととは思いますが、薬が当たり前の日本とのギャップが非常に大きく、もやもやとした残念な気持ちになります。

脳の治癒力3

著者:ノーマン・ドイジ

訳者:高橋 洋

初版発行:2016年7月

出版:(株)紀伊國屋書店

 損傷を受けた脳は、いかに自己回復するのか

東洋経済オンラインに本書の紹介が出ていました。

目次は“脳の治癒力1”を参照ください。

運動と神経変性疾患

・ヒトのハンチング病の遺伝子を移植した若いマウスによる実験では、走行輪で運動(早歩きに相当)するマウスと走行輪のない実験環境で飼育されたマウスとを比較した結果、運動したマウスは人間の寿命に換算して約10年間、発症を遅らせることができた。この実験は神経変性疾患が「歩行」に影響されることを示した最初の実例と考えられる

ヘビと鳥のあいだを歩く

「生きるために走る会/歩く会」は南アフリカの多くに支部を持つ組織で、この組織の援助のおかげでペッパーは自分の問題を克服することができた。プログラムは減量や血圧、コレステロール、インシュリン依存度の低下、さらに投薬からの脱却を促進する。インストラクターは正しく歩いているかどうかをチェックし、負傷や消耗につながる過剰な熱意を抑える役割を担っている。

-妻のシャーリーが減量と健康増進のためこの組織に入会していた。

-この組織のモットーは「節度」であった。つまり、ケガをしないこと。最初はゆっくり歩き、少しずつ歩く量を増やす。筋肉を休める時間を十分に取るというのが会社の方針だった。

-初心者は週に3回、ケガ防止のためのストレッチを10分間行った後、学校の運動場を歩いて10分間周回する。そして2週間ごとに5分ずつ歩行時間が延ばされる。

-4㎞歩けるようになると、速く歩く試みが許される。

-運動場ではなく路上を歩くことが許される。可能なら2週間経過するごとに1㎞ずつ距離を伸ばせる。歩行距離が8㎞に達したら、今度は時間を短縮する。歩いた後はクールダウンを行う。目標は1セッションに8㎞を歩くことである。

-1ヵ月に一度、メンバーは4㎞歩くのに要する時間を計測する。

・ペッパーの歩く姿勢が前かがみになっていることに気づいたインストラクターが、歩く姿勢の修正を始めた。それは肩を引いて姿勢をまっすぐに保つことを再習得するプロセスだった。この歩き方は平坦でない野原などでは難しかったが、ゆっくりと時間をかけたアプローチを1日置きに行い、休養日を間にとることで、所要時間を大幅に短縮できた。このことがペッパーの転機となった。何年にもわたり悪化していった状況のなかで、何らかの動作に関して少しでも改善が見られたのはこのときが初めてだった。

運動は1日おきに1時間。目標は週に3回、脈拍を1分間に100以上、その状態を1時間保つ。注意すべきは自分自身の性急さであった。

変化は非常にゆっくり起こった。そして、いくつかのパーキンソン病の症状が軽くなったり消えたりしていることに気づいた。その変化は周りの人も気づくものだった。休養日をはさみながら1日おきに運動することで、回復の可能性を感じられるようになった。また、ストレスにも注意した。

・ペッパーにとって重要だったことは、歩行という複雑な様態で自動化された行為をさまざまな部分に分割し、あらゆる筋肉の動き、収縮、体重の移動、手足の位置を細かく分析することだった。

・ペッパーはゆっくり歩くことによって、ほぼすべてのパーキンソン病患者に認められる典型的な問題を発見することができた。左足が体重を支えられるようになるまでに3ヵ月を要した。左足で体重を支えることに意識を集中すれば、もはやコントロールを失って倒れることはなかった。右足の膝は、かかとが着地するまでに伸ばせるようになった。これらを達成するには、極端に焦点が絞られた、ほとんど瞑想的とも言えるほどの集中力を必要とする。あたかも乳児が始めて歩行を学ぶときや、太極拳の入門者がより完全な動きを会得するために、スローモーションのようにゆっくりとした歩行を学ぶときと同じようである。ペッパーは自分の足取り以外にもいくつか発見した。それは歩幅、腕振り、上体の前かがみ、頭の傾きなどだがこれらの変化を完全に内面化するには、1年の実践を必要とした。

ペッパーは一歩一歩に集中していれば、普通に歩けるようになった。今日でも細かい動作の観察をしている。後方になった左足の上げ方、膝の曲げ方、つま先の使い方に気をつけながら、足が十分に体重を支え、右足が地面から離れてまっすぐに伸び、右足のかかとを地面につけ、そのあいだに反対側の腕が振られるよう、そして体全体が前かがみにならないように注意している。

意識的コントロール

・ペッパーと一緒に歩いていると、彼がこれらの動作のすべてを頭の中に入れているというのは信じがたい。しかし、それは確かに可能であるとペッパーは明言する。

ペッパーは同時に二つのことができる。つまり、健常者が無意識に行なっていたいる動作を意識的にコントロールしつつ、会話のための「心的空間」を残すことができる。しかし、彼の興味を惹くことや狼狽させるようなこと、あるいは会話の内容が著しく深まるといったことが起きると、足を引き摺り始める。これによってペッパーがパーキンソン病患者であることに気づくことができる。

ペッパーは歩行がうまくできるようになると、次には震えの意識的コントロールに挑んだ。パーキンソン病に見られる「安静時振戦」は意識的に身体の該当部分を動かしていないときに起こる。また、意識的に何かに手を伸ばそうとする際には「動作時振戦」を引き起こすことがある。メガネを持つと手が震えていたが、メガネの持ち方をあれこれと変えているうちに、強く握っていれば震えを抑えられることに気づいた。このことにより、ペッパーはパーキンソン病患者が失ったものは、あらゆる動作を結び付けて自動化するという、無意識に機能する能力であると理解した。

ペッパーが考案したテクニックは、「通常は無意識に制御されている動作のコントロールを、脳の別の領域を用いる」というものだった。

意識を動員するテクニックの科学的根拠

・意識的歩行が機能する理由は、黒質と大脳基底核の解剖学的構造と機能に基づいて論理的に説明できる。大脳基底核は脳の奥深くに位置するニューロンのかたまりで、脳画像で確認すると、一連の複雑な動作や思考を結合する学習過程で活性化する。また、様々な研究によって大脳基底核は日常生活における複雑な行動の選択を実行に移すための自動化されたプログラムの形成に寄与し、さらにはそれらの複雑な行動の選択と始動を支援することが分かっている。パーキンソン病は黒質を含む大脳基底核がうまく機能しない病気である。従って、大脳基底核に頼ることはできない。これは例えばピアノの練習と同様、心的努力の集中を必要とする。ペッパーの意識的歩行とは、子どもが初めて歩行を学ぶときのように、前頭前野や皮質下の神経回路を活性化させ、意識的注意を払いながら一つ一つの動作を学んでいくというものである。ペッパーの動作の指令は大脳基底核を迂回しているかのようである。

パーキンソン病患者が抱える最大の困難の一つは、新たな動作を開始することである。何かの障害物等により一度立ち止まると、再び歩き出すことが困難な場合がある。これは自動的な行動の流れを開始する役割は黒質が担っているためである。ただし、外部からの刺激があれば簡単に動作を始めることができる。パーキンソン病患者は話かけない限り黙り、動かさなければ動かないように見える。また、彼らは自分から会話を始められないので、相手がまず会話の口火を切らなければならない。

レーザー歩行支援

3分5秒の動画です。床に照らしたレーザーポインターの光を視覚情報として取り込むことで脳を活性化させているとのことです。

・パーキンソン病のあらゆる症候の核心的な問題は受動性であり、それらを治療する主要な手段は活動性である。そして、受動性の本質は、刺激に反応する能力ではなく、自己刺激と動作の開始に対する独特の困難にある。

ペッパーは人の助けを借りずに動作を始められる。これは問題の黒質や大脳基底核の機能を脳の健康な部位に引き継がせて、開始する方法を体得しているからである。しかも、動作の開始だけでなく、十分な歩行によって常に成長因子に刺激を与えることで、動作を維持することもできる。これは脳の神経回路を改善する方法である。

他の患者を援助する

・ペッパーが行っている持続的な心のコントロールは他の患者にもできるのだろうか。ペッパーの歩行は異常な集中力で登っていくロッククライマーのようである。あるいは不慣れな太極拳の関節の動き、呼吸、筋肉の収縮に向ける入門者のようである。

・ペッパーは神経可塑性に関する情報を他のパーキンソン病患者に広げ、地元のパーキンソン病患者支援グループに入り、やがてリーダーになった。

・パーキンソン病の治療における投薬の強調は、受け身になりがちな患者を一層、受動的な方向に向かわせるように思う。患者はより効果の高い新薬を待っている。ペッパーは投薬の有効性を認識しつつも、薬への依存が当たり前のようになっている患者にとって、それは問題だと考えていた。

・73歳の女性、ウィルナ・ジェフリーはペッパーと同じように意識的歩行を実践していた。これは、彼女は一人暮らしで支援をうけるのが困難だったためである。ウィルナはペッパーから三度のセッション受け、パーキンソン病に対する態度が変わり、より建設的に考えるようになった。

歩行の科学的基盤

・強化環境のもとに置かれた動物の神経可塑性的な変化は相次いだ。その始まりは、カナダの心理学者ドナルド・ヘップがラットを檻から出して自宅の居間で飼育し始めた時だった。居間で飼育したラットは檻の中のラットより、問題解決テストが好成績だった。また、脳に多くの神経可塑性的変化が見られ、多量の神経伝達物質が産生され、脳の重量と体積が増大していた。走行輪で1カ月間、早歩きを続けたマウスは、海馬のニューロンは倍になった。

・1982年、MPTPおよび6-OHDAと呼ばれる二つの化学物質が、パーキンソン病に似た疾病を人間に引き起こすことが発見された。MPTPとは黒質のドーパミン作動性ニューロンを破壊する神経毒であり、パーキンソン病と同じダメージをもたらす。MPTPを与えられたマウスは、恒久的にパーキンソン病と同じ状態に陥ることがわかった。現在では、このようなマウスはパーキンソン病の「マウスモデル」として用いられ、新しい薬品や治療方法の効果や安全性をテストする目的で飼育されている。

・6-OHDAに関して言えば、この化学物質をラットの脳に注入すると、同様にドーパミンの喪失と、パーキンソン病に似た症状をきたす。その後の研究で、6-OHDAはパーキンソン病患者にも見出されている。

・今日では多くの人々が、1日中コンピュータの前で座りっぱなしの生活を送っている。座りがちの生活が心臓病だけでなく、ガン、糖尿病、神経変性疾患を導く重要な危険因子であることは、様々な研究によって示されている。万能薬が存在するなら、それは歩行である。

「不使用の学習」

・脳卒中の発症は二つの大きな問題を引き起こす。一つは機能解離と呼ばれている徹底的なショック状態である。この原因はニューロンが死んだあとに特定の細胞から化学物質が流出し、他の細胞にダメージを与え激しい炎症を引き起こし、死んだ細胞の周囲で血流の断絶が生じるからである。これらの現象は卒中が発生した場所のみならず、脳全体に機能不全を引き起こす。さらには、卒中によって損傷した直後、脳は「エネルギー危機」に陥る。これは損傷に対処するために大量のグルコースを消費しなければならないからである(健康な脳であっても脳は膨大なエネルギーを必要とする。脳は身体全体の重量の2%にすぎないが、20%のエネルギーを消費する)。機能解離はおよそ6週間続き、損傷した脳はその間、さらなる危害に対処するためのエネルギーが枯渇することでさらに脆弱になる。

・ドーパミンはパーキンソン病に関連する少なくとも三つの特徴をもつ。第1に動こうとする動機を高める。第2にその動作を促進して迅速に行えるようにする。第3にその動作に関与する神経回路を神経可塑性的に強化し、次回はそれをより楽に行えるようにする。しかし動機がなければ動作は起こり得ない。

・コロンビア大学運動実行研究室のピエトロ・マッツォーニは、これから動こうとするとき、脳はその動作によって得られると期待される報酬の程度と比較して、努力がどの程度必要とされるのかをまず評価する。通常、この「見積」機能を実行するにはドーパミン系が必要になる。ドーパミンレベルが低いときに動くと、その人は報酬による快を感じない。

・パーキンソン病患者が動作を実行する速度は、期待される報酬の程度と動作に必要なエネルギーの比較評価に部分的に基づく。

認知症を遅らせる

・パーキンソン病の症状を退かせハンチントン病の発症を遅らせることができるのであれば、アルツハイマー病にも歩行は有効なのだろうか?マーク・P・マットソン博士(米国立老化研究所の神経科学研究所主任)は、パーキンソン病で異常を引き起こす細胞プロセスの多くが、アルツハイマー病においても別の脳領域で生じることを示した。パーキンソン病では黒質が最初に機能不全をきたす。一方、アルツハイマー病においては、神経変性は(短期記憶を長期記憶に変換する)海馬で始まり、海馬は縮小し始め、短期記憶の能力が失われる。さらに脳は可塑性をニューロン間の結合を形成できなくなり、ニューロンの多くは死滅する。2013年、歩行とアルツハイマー病に関する回答が得られた。歩行は認知症のリスクを60%も低下させるものだった。この研究は、イギリスのカーディフ大学、コクラン・プライマリ・ケア公衆衛生研究所のピーター・エルウッド博士によって行われ、2013年12月に発表された。彼らは30年にわたり、ウェールズのケアフィリに住む45歳から59歳の男性2,235人を追跡し、5つの活動が彼らの健康状態に影響を及ぼすか否か、また、認知能力の低下、認知症、心臓病、ガンの発症、早期の死を引き起こすか否かについて調査を行った。

以下にあげる項目の4つまたは5つを実践した被験者は、認知(心的)能力の低下、認知症(アルツハイマー病を含む)のリスクが60%低下した。

①運動(活発な運動、もしくは1日に少なくとも3.2㎞の歩行、もしくは1日に16㎞の自転車走行)。運動は全般的な認知能力の低下と認知症のリスクを減らすもっとも強力な要因である。

②健康的なダイエット(1日に少なくとも3回から4回、果物と野菜を摂取する)。

③正常な体重(BMI18~25の維持)

④アルコール飲料の摂取を抑える(アルコールはときに神経毒として機能する)。

⑤禁煙(これも毒素回避の一つ)。 

これら5つの活動のすべてが、ニューロンとグリア細胞の一般的な健康を増進する。

第3章 神経可塑的治癒の四段階

いかに、そしてなぜ有効に作用するのか

ノイズに満ちた脳と脳の律動異常

・『毒素、卒中、感染、放射線治療、打撲、神経変性疾患など何が原因であろうと、脳が損傷すると一部のニューロンは死んで、信号を送らなくなる。しかしなかにはダメージを受けても、「黙らない」ニューロンもある。生きた脳組織は、その本性として興奮しやすい。神経回路が「オフ」になっているときでさえ、「オン」になり活性化された状態のときより発火率は低いながらも、ある程度は電気信号を送り続ける。この見方に従えば、脳は心臓にたとえられる。心臓は休息時でも停止せず、安静時の心拍数へと移行する。ところが、心臓の電気系統にダメージを受けると心拍数を調整する能力を失って、種々の異常な信号を送り始める。身体のペースメーカーの速度が異常に遅くなったり、危険なほど速くなったりするのだ。あるいは、不整脈や律動異常などの混乱した不規則な鼓動を生むかもしれない。

脳においては、損なわれたニューロンをシャットダウンしない限り、これらの不規則な信号は結合しているすべてのネットワークに影響を及ぼし、それらの機能を「攪乱」する。現在では、脳の多くの障害において、ニューロンが異常な速度で発火することがわかっている。この問題は、てんかん、アルツハイマー病、パーキンソン病、種々の睡眠障害、脳損傷などを生じるもので、無数の信号が同期しなくなるためにノイズに満ちた脳が形成されてしまう。高齢者や学習障害を持つ子どもの脳にも、あるいはニューロンが明確な信号を発する能力を失うと生じる感覚障害においても、類似の現象が見られる。病んだニューロンが健全なニューロンに不規則な信号を送り、その機能を損なうと、健全なニューロンは休眠状態に陥る可能性がある。

治癒の諸段階

・脳の神経可塑的な能力によりニューロン間の結合を変化させ、その「配線」を変える。以下は4つの段階である。

①神経刺激

脳への介入には何らかのエネルギーを用いて神経を刺激する。光、音、電気、振動、動作、思考(特定のネットワークを興奮させるもの)は神経刺激となる。

-神経刺激は損傷した脳の眠り込んだ神経回路を再生し、治療プロセスの第二フェーズへと導く。

-第二フェーズでは再生されて能力が向上したノイズに満ちた脳が、再び自身を調節、統制して恒常性(ホメオスタシス)を達成できるようにする。

-思考によって脳のネットワークは「オン」と「オフ」になる。思考によって適切な神経回路がオンになれば、それは発火し、そこから血液がその神経回路に流入してエネルギーを補給する(このプロセスは脳スキャンによって観察できる)。

脳に新たな神経回路を構築するペッパーの意識的歩行は、思考を用いる内的な神経刺激の一例である。

-神経刺激は新たな神経回路の構築の準備、および既存の神経回路における「不使用の学習」の克服にも効果がある。

②神経調節

-神経調節は脳が自身の治療に寄与するもう一つの内的な方法である。この働きは神経ネットワークにおける興奮と抑制のバランスを迅速に回復し、ノイズに満ちた脳を鎮める。

-神経調節は敏感や無感覚のバランスをとる。

神経刺激は神経調節を引起こし、一般に脳の自己調節を改善する。

神経調節の機能には皮下質の二つの脳システムに働きかけることで、脳の全体的な覚醒度を再設定する。一つは網様体賦活系(RAS)のリセットで、このシステムは意識レベルと全体的な覚醒レベルの調節に関与する。RASは脳幹に位置し、皮質の最上位の部位に向かって広がる。そしてその他の部位を「増強」し、睡眠・覚醒サイクルを調節する。

-RASのリセットは脳へのエネルギー供給の回復と、それによる治癒を導く際の鍵になる。

-神経調節の機能には皮下質の二つの脳システムに働きかける二つ目の方法は、自律神経系への働きかけである。ヒトは進化の過程で危機対応のため無意識かつ自動的に反応できる神経系、自律神経系を有するようになった。

-闘争/逃走反応を示す交感神経系は非常時の生存のためにあり、エネルギーの放出と代謝活動を活性化させる。その一方で、成長と治癒のプロセスは抑制される。また、交感神経系が優位な状態では治癒や学習は後回しになるため、脳の変化は起こりにくい。

-交感神経系とシーソーのような役割をもつ神経系が副交感神経系である。副交感神経系は休息/消化/回復を担う。落ち着いた状態に保たれ、ゆっくり考えたり反省したりすることができる。

副交感神経系が活性化すると、治癒のために不可欠な成長、エネルギーの保存、睡眠を助長するいくつかの化学反応が引き起こされる。また、細胞内のエネルギー源とミトコンドリアを再充電し活性化させる。

-副交感神経系を活性化することはノイズに満ちた脳を鎮める方法になると考えられる。

③神経リラクゼーション

脳障害をもつ人の中には疲れているにも関わらずよく眠れない人が多いがこれは深刻な問題である。グリア細胞は睡眠中に、老廃物と蓄積された毒素(認知症によって形成されたタンパク質を含む)を、脳脊髄液を通じて放出する特殊な経路を開く。このシステムは睡眠中に10倍活発に働く。つまり睡眠は脳を守るために極めて重要であるといえる。

④神経差異化と学習

-最終フェーズでは神経回路が自己調節の能力を取り戻す。ノイズに満ちた脳は調整され「静かになる」。患者は注意に集中できるようになり、学習の準備が整う。

①②③④の4つのすべてのフェーズが組み合わさることによって最適な量の神経可塑的変化が得られる。

・特に脳に損傷を負った人のほとんどは、これらの段階が必要となるが、本書で取り上げる問題の多くは脳の損傷に起因するわけではなく、患者はそもそも一度も発達したことのない神経回路を構築していかかなければならない。

脳の治癒力2

著者:ノーマン・ドイジ

訳者:高橋 洋

初版発行:2016年7月

出版:(株)紀伊國屋書店

 損傷を受けた脳は、いかに自己回復するのか

東洋経済オンラインに本書の紹介が出ていました。

目次は“脳の治癒力1”を参照ください。

第1章 ある医師の負傷と治癒

マイケル・モスコヴィッツは慢性疼痛を脱学習できることを発見する

神経可塑的な闘争

・自分の痛みは自分で何とかしたいと考えたモスコヴィッツは2007年に、合計15,000ページに及ぶ神経科学の論文を読み漁り、神経可塑的な変化の原理を理解し実践に活かそうと考えた。

・ニューロンの発火を同期させれば脳領域間の神経結合を強化できる。その一方で、「別々に発火するニューロンは既存の結合を切り離す」ゆえに弱めることもできる。

・マイケル・モスコヴィッツ[医学博士、精神科医であったモスコヴィッツは自身に起きた事故により、自らの身体を実験台とした。そして痛みの専門家に転身した]は自分で学んだことを三つの絵にまとめた。一つは急性痛を感じている脳の絵で、そこには16の活動領域が描かれている。二つめは慢性疼痛を感じている脳の絵で、活動領域は急性痛と同じあるが、全体として領域が拡大している。三つめは痛みをまったく感じていない時の脳の絵である。

・慢性疼痛において発火する脳領域を分析すると、これらの領域の多くが、痛みを感じていない時には、思考、感覚、イメージ、記憶、運動、情動、信念などに関する処理を実行していることが分かった。これは言い換えれば、痛みを感じているときは集中や熟考できない理由にもなる。

モスコヴィッツが考えたことは単純で、「痛みを感じはじめたとき、そして痛みが大きくなろうと、それまで行っていた活動(例えば、思考、記憶など)を意識的に続けることで、それらの活動のために対応する脳領域を維持し、痛みの感覚に脳を乗っ取られることがないようにする。というものであった。

・以下の表はモスコヴィッツが作成した痛みの対象脳領域を表すものである。

画像出展:「脳はいかに治癒をもたらすか」

・『モスコヴィッツは、ある脳領域が急性痛を処理する場合、該当領域のおよそ5パーセントのニューロンのみが、痛みの処理に寄与するにすぎないことを知っていた。それに対し慢性疼痛では、発火や配線が常時なされるためにその割合は増大し、15~25パーセントのニューロンが痛みの処理に関与する。これは、およそ10~20パーセントのニューロンが、慢性疼痛の処理のために徴用されたことを意味する。だからそれらを奪い返さねばならない、と彼は考えたのだ。』

・2007年4月、モスコヴィッツはこの理論を実践に移した。

1)視覚活動によって痛みを圧倒することを考えた。(視覚処理は脳の広大な領域が関わっている)

2)視覚情報と痛みの両方を処理する脳領域は、後帯状皮質(空間内の物体の位置を視覚的に想像する手助けをする)と後部頭頂葉(視覚入力を処理する)である。

3)痛みを感じたときに、自分が描いた脳マップ、慢性疼痛の脳の絵を思い浮かべ、その脳マップが神経可塑性によってどの程度拡大したかに注目した。

4)次に、痛みのない脳の絵を浮かべ、その痛みのない状態に近づくように発火領域が小さくなることを想像した。

・最初の3週間はわずかに痛みが減ったように感じる程度だったが、1ヵ月が経ちやり方に慣れてきた。6週間後には肩甲骨付近の痛みはなくなった。4カ月後には首の痛みがとれ1年後には常時ほぼ痛みを感じることはなくなった。

MIRROR

神経可塑性の原理、MIRRORとは、Motivation(動機)、Intention(意図)、Relentlessness(徹底)、Reliability(信頼)、Opportunity(好機)、Restoration(回復)の略である。

・慢性疼痛患者は痛みのために活力をなくし、態度が受動的で依存的である。

モスコヴィッツのアプローチは患者自身が積極的になり、自己の治療に責任を持つことが求められる。簡単に痛みが消えることはないため、強い動機を維持する必要がある。

・意図とは痛みの除去ではない。脳を変えるための心である。痛みの除去を報酬とすると容易に得ることができず挫折する。特に初期の段階で重要なことは、変えようとする心的努力である。このような心的努力こそが新たな神経結合の形成を促し、痛みのネットワークを弱体化する。

・モスコヴィッツは患者にこれら6つの道具(MIRROR)を与えて、脳をまったく正常な状態に戻すという大胆な目標の動機づけを図る。そして少しでも改善を得られると一時的な「安心」ではなく、希望となって新たな技法に目を向ける。こうして悪循環は好循環に変わる。

視覚化はいかに痛みを減退させるのか

・視覚化の繰り返しは、思考を用いてニューロンを刺激する直接的な手段となる。脳画像法を用いれば、活性化された脳の視覚ニューロンに血液が流れ込んでいく兆候を観察できる。

それはプラシーボ効果なのか?

・最新の脳画像研究によれば、疼痛や抑うつを抱える患者にプラシーボ効果が生じた際の脳の変化は、投薬によって改善が得られた場合の変化とほぼ一致する。

・痛みに関してプラシーボ効果は一般的に30%以上とされている。また、プラシーボ効果による治癒は、投薬による治癒より「非現実的」というわけではない。

・ポジトロン断層法(PET)を用いた実験では、プラシーボ治療が主要な脳領域の内因性オピオイドの生産を増大させて痛みを止めること、また、プラシーボ反応が脳の痛覚システムにおけるオピオイド生産領域の配線を強化することを示した。

ただのプラシーボ効果ではない理由

プラシーボ効果は急速な反応を示す一方、長く続かないというのが一般的な認識である。ところがモスコヴィッツのMIRRORアプローチを用いた神経可塑性の治療を受けた患者は、プラシーボ反応とは全く正反対のパターンが見られる。最初の数週間は何も反応は見られず、その後徐々に痛みに変化があらわれ、そして脳が再配線されれば介入の必要性が次第に減少する。

モスコヴィッツの患者における変化のパターンは、自転車乗り、楽器の演奏、言語の習得などで脳が新たな技能を学ぶときに生じるものと一致する。この時間的な経緯は、重要な神経可塑的な変化が起こる際には典型的に見られるもので、変化は数週間(しばしば6~8週間)にわたって生じ、日々の心的実践を必要とする。

・投薬やプラシーボとは異なり、神経の可塑性を利用したテクニックは、ひとたび神経ネットワークが再配線されれば、徐々にその実践頻度を減らしていける。言い換えると、痛みを抑制するという効果は持続する。

・モスコヴィッツが痛みの緩和をした疾患は、神経損傷や炎症に起因する腰部の慢性疼痛、糖尿病性神経障害、ガンに起因する痛み、腹痛、変形性の首の痛み、切断、脳や脊髄の外傷、骨盤底の痛み、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、膀胱痛、関節炎、三叉神経痛、多発性硬化症の痛み、感染後の痛み、神経損傷、神経障害性疼痛、中枢性疼痛、幻肢痛、変形性椎間板疾患、神経根損傷による痛みなどである。

・神経可塑性の課題は対象が痛みの除去に限定されること、成果を感じるまでに2ヵ月ほど、根気よく続ける意志力を要することである。

・モスコヴィッツは2008年、慢性疼痛の治療を専門にする医師、マーラ・ゴールデンに援助を求め、触覚、音、振動をそれぞれ独自の方法で、これらの感覚で脳を満たし、痛みと競合させるアプローチへの理解を深めることができた。

第2章 歩くことでパーキンソン病の症状をつっぱねた男

いかに運動は変性障害をかわし、認知症を遅らせるのに役立つか

・『私の散歩仲間ジョン・ペッパーは、20年ほど前にパーキンソン病による運動障害と診断された。最初の症状は、およそ50年前にすでに現れていた。だが、訓練を受けたよほど鋭い観察者でなければ、それはわからなかったはずだ。ペッパーは、パーキンソン病患者にしては非常にすばやく歩く。パーキンソン病の典型的な症状を抱えているようには見えない。摺り足で歩くこともなければ、動いていようが止まっていようが震えは見られない。特に硬直しているようには見えないし、動きもすぐに開始できるらしい。平衡感覚にもすぐれる。歩くときには腕を大きく振りさえする。パーキンソン病の顕著な特徴である緩慢な動作もまったく見られない。彼は68歳になってから9年間、抗パーキンソン病薬を服用していないが、まったく普通に歩けるのだ。』

ペッパーは、自らが考案した運動プログラムと特殊な集中力によって克服している。

意識する事でパーキンソン病の症状をコントロールする:ジョン・ペッパーさん

2分16秒の動画です。本書の説明通り、パッパーさんの動きからパーキンソン病を患っているようにはとても思えません。

パーキンソン病:アメリカからの最新ニュース! 薬でも外科的手術でもない新しい治療法!

6分24秒の動画です。黒いグローブをしている方がパーキンソン病の患者さんです(1分34秒~3分25秒)。

Scientists Develop Glove That Eliminates Parkinson’s Tremor” 

4分52秒”の動画です。上記の元動画のようです。BEAKTHROUGH PARKINSON'S “VIBRATION”THERAPY」と書かれています。

How to Use Math and Physics to Treat Parkinson's with a Vibrating Glove with Peter Tass” 

9分57秒”の動画です。ピーター・タス先生が説明されています。また、Tass Lab Team」というサイトがありました。

SASUKEにも出場してしまう若年性パーキンソン病患者: ジミー・チョイさん” 

5分45秒”の動画です。4分58秒からはトレーニングの様子やSASUKEに出場した時の映像が出ています。「凄い!」の一言です。

若年性パーキンソン病というお話で、発病は27歳だそうです。

アフリカからの手紙

・『2008年9月、私はジョン・ペッパーから次のような内容のEメールを受け取った。

私は南アフリカで暮らしています。1968年以来パーキンソン病を患っていますが、十分に運動をし、通常は無意識の支配下にある動きを意識的にコントロールする方法を学んできました。私は自分の経験に基づいて一冊の本を書いたことがあります。しかじ医学界は、私の症例を精査することなくこの本の内容を否定してきました。というのも、私はもはやパーキンソン病患者には見えないからです。症状のほとんどはまだ残っていますが、現在の私は抗パーキンソン病薬を服用していません。8キロメートルごとに分けて1週間に合計で24キロメートルを歩いています。ダメージを受けた細胞が、脳内で生産されるグリア細胞由来神経栄養因子の働きによって回復したのではないかと思われます。しかしパーキンソン病の原因が除去されたわけではありません。だから運動しなくなると、もとに戻ってしまいます。

きちんとした運動を定期的に続けるよう説得できれば、パーキンソン病の診断を受けた人々の多くを手助けできるのではないかと、私は思っています。この件について、あなたのご意見をぜひお聞かせください。』

ペッパーは歩行という素朴なアプローチでパーキンソン病に対処して、脳に神経可塑的な変化を引きおこしたと考えられる。

・グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)は、脳の成長因子の一つで、脳の主要な細胞の一つであるグリア細胞によって生成され、肥料のように脳の成長を促す。脳細胞の15%はニューロンで残り85%はグリア細胞である。

・以前は脳の「詰め物」にすぎないと考えられていたグリア細胞だが、現在は、グリア細胞は常に互いに連絡を取り合い、ニューロンとのやり取りをして、電気信号を修正していることが分かっている。つまり、グリア細胞はニューロンに「神経保護」を提供し、脳の配線と再配線を支援している。

グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)は1933年に発見され、ドーパミンを生成するニューロンの発達と維持を促進することで、脳の神経可塑的な変化に寄与することが明らかになっている。

画像出展:「一般社団法人日本生物物理学会」 

ヒトの脳は、1000億個の神経細胞と、その10倍以上の数のグリア細胞から成ります。グリア細胞には、ミクログリア、オリゴデンドロサイト、アストロサイトなどの種類があります。

・『Eメールをやり取りしているうちに、彼はパーキンソン病が完治したと主張したいのではなく、歩行トレーニングを続けている限り、運動に関するパーキンソン病の主要な症状を逆転できると主張したいことがわかった。きわめて有効な変化が得られたため、パーキンソン病の主要な症状の影響を受けずに済み、十全な日常生活を送れるようになったのだ。「他のパーキンソン患者にも役に立つはずの、この情報をひとりで握ったまま死にたくはありません」と書かれていた。

・パーキンソン病の影響は二次的に脳を弱体化させる。可塑的な脳は、つねに未知の領域を探索しなければならず、動き回る移動性の生物のもとで進化した。人間は動けなくなると、視覚や聴覚をあまり使わなくなり、処理する情報量も減って脳への刺激も少なくなるため機能が衰え始める。(ものごとを考え抜く作業は有効だが、神経可塑性を備えたシステムが新たな細胞を生成し、神経を発達させるためには身体の動きが必要である

・パーキンソン病は黒質と呼ばれる脳の部位が、正常な動作に必要な脳の化学物質を生産する能力が次第に失われることによって引き起こされると考えられていた。

・1957年、スウェーデン出身の医師、アルビド・カールソン(後にノーベル生理学・医学章を受章)はドーパミンがニューロン間の信号の交換に用いられる脳内化学物質の一つであることを発見した。その後さらに、人の脳のドーパミンのおよそ80%が大脳基底核と呼ばれる、黒質を含む脳の組織に集中していることを発見した。研究ではドーパミンレベルが70%落ちても影響は見られないが、80%低下すると症状が現れる。

パーキンソン病はドーパミンの喪失が直接の原因と考えられるが、それはこの病気の重要な側面の一つと考えた方が正しい。ドーパミンが失われる理由は何か、脳領域全体の機能に影響するのは何故か、その答えは出ていない。

脳の治癒力1

神経可塑性」と「脳の可塑性」はほぼ同じ意味で使われています。検索したところ数多くのサイトがありましたが、いいなと思った3つのサイトをご紹介させて頂きます。

こちらは“カウンセリングしらいし”さまのサイトで、タイトルは、“「神経可塑性(シナプス可塑性)」【重要】”となっています。要点と概要(全体観)がつかめます。

 

画像出展:「神経可塑性」

『神経の損傷が行われた場合もそれを代償するように脳や神経における可塑的な変化があります。「傷ついた神経回路は修復されない」「神経は新しく新生されない」と信じられていましたが、最新の研究では、神経回路は修復され、新しい神経細胞も生まれることがわかってきました。

こちらは“マインドフルネスプロジェクト”さまのサイトで、タイトルは、“マインドフルネスと脳科学 〜神経可塑性〜”となっています。マインドフルネスとは、「心を“今”に向ける方法」のことだそうです。(NHKより)

こちらは、“STROKE LAB”さまのサイトで、Neuro plasticity 神経可塑性 知識を臨床に応用する”はPDF33枚の資料です。大変詳しく説明されています。ロードに時間がかかるかもしれません。

神経可塑性の話しは、概して現代医学の本流からは少し外れた亜流という印象が強く、代替医療の分野に近いのかもしれません。私が神経可塑性について肯定的なのは二つの理由からです。一つは『限界を超える子どもたち』という本を拝読させて頂き、その中で“アナットバニエルメソッド”という神経可塑性のアプローチを知ったことです。そしてもう一つは、私自身が経験した障害をもつ小児へのマッサージの効果と、“アナットバニエルメソッド”が重なったためです。

衝撃を受けた“アナットバニエルメソッド”ですが、動画を見つけました。

以下が今回勉強させて頂いた本です。

著者:ノーマン・ドイジ

訳者:高橋 洋

初版発行:2016年7月

出版:(株)紀伊國屋書店

 損傷を受けた脳は、いかに自己回復するのか

東洋経済オンラインに本書の紹介が出ていました。

本書は500ページを超えるものですが、ブログは個人的興味から4つ、「パーキンソン病」、「神経可塑的治療」、「レーザー光治療」、「PoNS(ポータブル神経調整刺激器)」を取り上げています。

目次

はじめに

第1章 ある医師の負傷と治癒

マイケル・モスコヴィッツは慢性疼痛を脱学習できることを発見する

●痛みのレッスン―痛みを殺すスイッチ

●痛みに関するもう一つのレッスン―慢性疼痛は可塑性の狂乱である

●神経可塑的な闘争

●最初の患者

●MIRROR

●視覚化はいかに痛みを減退させるのか

●それはプラシーボ効果なのか?

●ただのプラシーボ効果ではない理由

第2章 歩くことでパーキンソン病の症状をつっぱねた男

いかに運動は変性障害をかわし、認知症を遅らせるのに役立つか

●アフリカからの手紙

●運動と神経変性疾患

●ロンドン大空襲下でのディケンズ風少年時代

●病気と診断

●ヘビと鳥のあいだを歩く

●意識的コントロール

●意識を動員するテクニックの科学的根拠

●他の患者を援助する

●論争

●パーキンソン病とパーキンソン症状

●ペッパーの神経科医を訪ねる

●歩かないと……

●歩行の科学的基盤

●「不使用の学習」

●パーキンソニズムの両面的な性質

●認知症を遅らせる

●喜望峰

第3章 神経可塑的治癒の四段階

いかに、そしてなぜ有効に作用するのか

●「不使用の学習」の蔓延

●ノイズに満ちた脳と脳の律動異常

●ニューロン集成体の迅速な形成

●治癒の諸段階

第4章 光で脳を再配線する

光を用いて休眠中の神経回路を目覚めさせる

●小さな世界

●光は私たちが気づかぬうちに身体に入ってくる

●講演と偶然の出会い

●ガブリエルの話

●カーンのクリニックを訪問する

●レーザーの物理学

●レーザーはいかに生体組織を癒すのか

●二度目のミーティング

●レーザーは脳を癒す

●レーザーをその他の脳障害の適用する

第5章 モーシェ・フェルデンクライス 物理学者、黒帯柔道家、そして療法

動作に対する気づきによって重度の脳の障害を癒す

●二個のスーツケースを携えた脱出行

●フェルデンクライス・メソッドのルーツ

●中心原理

●脳の探偵―脳卒中を解明する

●子どもを支援する

●脳の一部を欠いた少女

●言葉を生む

●最後まで制約されない人生

第6章 視覚障害者が見ることを学ぶ

フェルデンクライス・メソッド、仏教徒の治療法、その他の神経可塑的メソッド

●一縷の望み

●最初の試み

●治療にフェルデンクライス・メソッドを加える

●青みがかった黒の視覚化はいかに視覚系をリラックスさせるのか

●視力が戻る―手と目の結びつき

●ウィーンへの移住

第7章 脳をリセットする装置

神経調節を導いて症状を逆転させる

Ⅰ.壁に立てかけた杖

●奇妙な装置

●なぜ舌は脳への王道なのか

●ユーリ、ミッチ、カートに会う

●PONS開発の歴史

●死んだ組織、ノイズに満ちた組織、そして装置についての新たな見解

Ⅱ.三つの事例

●パーキンソン病

●脳卒中

●多発性硬化症

Ⅲ.ひび割れた陶芸家たち

●ジェリ・レイク

●キャシーに会う

●ぶり返し

Ⅳ.わずかな支援で脳はいかにバランスをとるのか

●脳幹の組織を失った女性

●ユーリの理論

●四種類の可塑的な変化

●新たなフロンティア

第8章 音の橋

音楽の脳の特別な結びつき

Ⅰ.識学障害を抱えた少年の運命の逆転

●アンカルカ修道院での偶然の出会い

●若き日のアルフレッド・トマティス

●トマティスの第一法則

●トマティスの第二法則と第三法則

●聴覚ズーム

●口の片側で話す

●耳の刺激によって脳を刺激する

Ⅱ.母の声

●階段の途中で生まれる

Ⅲ.ボトムアップで脳を再構築する

●自閉症、注意欠如、感覚処理障害

●自閉症からの回復

●炎症を起こした脳のニューロンは結合しない

●リスニングセラピーはいかにして自閉症の治療に役立つのか

●学習障害、社会参加、抑うつ

●注意欠如障害と注意欠如・多動性障害

●サウンドセラピーの作用に関する新説

●障害として認められていない障害―感覚処理障害

Ⅳ.修道院の謎を解く

●音楽はいかにして精神や活力を高揚させるのか

●なぜモーツアルトなのか?

補足説明資料1 外傷性脳損傷やその他の脳障害への全般的アプローチ

補足説明資料2 外傷性脳損傷を治療するためのマトリックス・リパターニング

補足説明資料3 ADD、ADHD、てんかん、不安障害、外傷性脳損傷の治療のためのニューロフィードバック

謝辞

訳者あとがき

はじめに

・ニューロプラスティシャン(神経可塑性療法家)は不変の脳という見方を否定する。

・2000年、E.カンデル博士、A.カールソン博士、P.グリーン博士は神経系におけるシグナル伝達機構を解明し、ノーベル医学生理学賞を受賞した。

シグナル伝達機構:外界より与えられた様々な情報(シグナル)に対して、情報処理機構(シグナル伝達機構)を用いて、細胞の増殖や分化、神経細胞のシナプス可塑性(神経に特定の刺激が加えられ続けると、その情報を学習し、その後の働き方が変化すること)など与えられた情報に基づいて適応するしくみ。

・E.カンデルは学習には学習には神経細胞を変える遺伝子の「スイッチオン」にする効果があることを示した。

脳の治癒力は細胞同士が常に電気的に連絡を取り合って、随時新たな神経結合を形成したり作り直したりする複雑さと精巧さによるものである。

脳への介入は光、音、振動、電気、運動などのエネルギーを利用する。これらのエネルギーは感覚器官や身体を経由して脳自体が持つ治癒力を喚起する。感覚器官は脳が受け取ることができる電気シグナルに変換する。

・世界には次に紹介するような様々な事例がある。

『音を聴かせて自閉症を、あるいは後頭部に振動を与えて注意欠如障害を完治する、舌を電気的に刺激する装置を用いて多発性硬化症の症状を逆転させたり脳卒中を治癒したりする、首のうしろに光を当てて脳損傷を治療する、鼻に光を通して安眠を確保する、〔レーザーファイバーを使い〕静脈に光を通して生命を救う、脳の大きな部分を欠いたまま生まれたために認知能力の問題を抱え、ほとんど麻痺状態にすらあった少女を、穏やかでゆっくりとした手の動きで身体をさすることによって治療する、などのケースである。』

休眠中となっている脳の神経回路を刺激する方法の多くは、心的な活動や気づきとエネルギーの利用を結びつけるものである。これらは西洋医学では新奇なものだが、東洋医学では珍しいものではない。

・『私が訪問したほぼすべてのニューロプラスティシャンは、伝統的な中国医学、古代仏教徒の瞑想法や視覚化、武術(太極拳、柔道)、ヨガ、エネルギー療法などの東洋の実践的な健康法から得た洞察を西洋の神経科学と結びつけることで、神経可塑性を治療に適用する方法への理解を深めていた。』

・『西洋医学は、何千年にもわたり無数の人々によって実践されてきた東洋医学とその主張を、長いあいだ無視してきた。心によって脳を変えるという原理は、受け入れるにはあまりにも信じがたく思えたのだ。本書は、神経可塑性の概念が、これまで疎遠であった二つの偉大な医学的伝統を橋渡しするものであることを明らかにする。』

脳は身体に君臨する帝王ではなく、身体も脳に信号を送って脳に影響を及ぼす。つまり脳と身体は双方向のコミュニケーションを行っている。

神経可塑的なアプローチは、心、身体、脳のすべてを動員しながら、患者自身が積極的に治療に関わることを要請する。また、医師は患者の欠陥に焦点を絞るだけでなく、休眠中の健康な脳領域の発見、および回復の支援に役立つ残存能力の発見を目標とする。なお、脳を治療する新たな方法は、個人差が大きくすべての患者に有効であるとは言えない。

脳卒中

私事ですが、5ヶ月前くらいに生まれて初めて“閃輝暗点”を経験しました。

※閃輝暗点とは

こちらのサイトに詳しい解説が出ています。 

 

 

頭痛がない場合

症状は一時的なものとして、特に治療は必要ありません。しかし何度も繰り返し起こる、なかなか治らないというときは眼科を受診しましょう。

頭痛を伴う場合

頭痛を伴う場合はもちろん、手足のしびれを感じる場合は脳神経内科・脳神経外科を受診しましょう。閃輝暗点は何らかの前駆症状として発生しています。その原因を突き止め、治療しないことには閃輝暗点の症状も改善しません。根本的な治療から始めましょう。

頭痛等、頭(脳)に関する違和感は何もなかったことと、右目の視力が気になっていたこともあり、今回は眼科に行きました。診断は“閃輝暗点”で、「今後、繰り返すようであれば脳も調べましょう」。ということになりました。

それから約1カ月後、専門学校時代の友人(といっても20歳近く年下)と、数年ぶりに会う機会を作ったのですが、彼は「入江FT」に熟知した鍼灸師で、飲んでいるときに「左脳が少しスティッキーだと思います」。とのことでした。

友人には1ヶ月前の“閃輝暗点”の話など、一切していなかったので、このいきなりの発言に正直驚きました。

「医者に行った方が良い?」と聞いたところ、検査をしても分からないレベルだと思うとのことで、生活習慣の他、入江FTの独特な施術法(週1回、20分程度)を教えてもらいました。時々サボってしまうことはあるのですが、続けるよう努力しています。

入江FTとは、大村恵昭先生先生が開発されたオーリングテストを応用したものです。オーリングテストはアプライドキネシオロジーをベースにした診断法とされています。 

『漢方家であられた故・入江 正先生が漢方(湯液、鍼灸)のために開発した独自の診断法で、軽く指をスライドさせるだけで、他の筋力テストとは異なり、診断に利用する指に殆ど筋力を使わず、非常に微妙かつ精密な診断ができます。』

独特な診断法なので、なかなか信じて頂くのは難しいかもしれません。

さらに気になることは、この頃かこの前後かはよく覚えていないのですが、従来の血圧が収縮期、拡張期とも10mmHg前後高くなっていました。

「この血圧が少し高くなったのは何故だろう?」。遠慮することもなく、思ったことをそのまま“アスクドクターズ”にぶつけてみました。 

『加齢による病的とはいえない程度の微細な梗塞があり、脳内の血流を低下させ、それが原因で脳の血流を本来の状態に維持するため、心臓のポンプの働きが増して、血圧をそれぞれ10mmHg程度上げているのではないでしょうか?』

回答は「No」ということでしたが、お一人の医師の方から、“脳血流自動調節機能”というものが脳には備わっているということを教えて頂きました。 

この機能は脳自身が本来の血流を確保するために保持しているサーモスタットのような仕組みです。

「いろいろあるなぁ」と思い、少し検索してみると以下の医学雑誌を見つけました。

興味の方が勝って購入しました。

「何故、血圧と塩は関係が深いのか」について発見があったのでお伝えします。

腎血流における自己調節のメカニズム

『腎臓も強い自己調節を有している。これは腎血流そのものを維持するというよりも、糸球体濾過量(GFR)を維持するためであろう。GFRを一定に維持することで、生体は体液や電解質のバランスを保っている。

腎臓の自己調節のメカニズムは特殊であり、そのメカニズムは尿細管糸球体フィードバックと呼ばれている。腎臓は傍糸球体装置の遠位尿細管に存在する緻密斑において、塩化ナトリウム(NaCl[塩])の濃度を感知して腎細動脈の血管抵抗を変化させている。血圧が低下すると糸球体の静水圧が低下し、GFRが低下する。』

長い前置きでしたが、今回拝読させて頂いたのは、『脳卒中 専門医が説き明かす 病気の前兆・急性期対処法・予防法』という本です。何はともあれ、基本的なことを知りたいと思い購入しました。

著者:星野晴彦

発行:2017年7月

出版:(株)ヌンク

目次

第1章 脳卒中ってなに?

●脳卒中ってなに?

・「出血」

・「虚血」

●脳卒中のメカニズム

・脳出血のメカニズム

・くも膜下出血のメカニズム

・脳梗塞のメカニズム

第2章 脳卒中―その原因?

●脳卒中の危険因子

・高血圧

・喫煙

・脂質異常症(高脂血症)

・糖尿病

・心房細動

・過度の飲酒

・コントロールできない危険因子について

●脳卒中を起こすその他の病気

●脳卒中と加齢現象

コラム セカンドオピニオン

第3章 脳卒中かな?

●くも膜下出血の症状

●脳梗塞・脳出血の症状

・痛みについて

●実例解説

・突然の激しい頭痛/嘔吐/意識障害

・物が二つに見えて歩くとよたつく

・左側がよく見えない

・右手と右の口角がしびれる

・左手と左足に力が入らない

・急に右手と右足が動かなくなり、意識状態も悪く話せなくなった

・左半身がしびれたと思ったら、だんだん左側が動かなくなった

・言葉が話せない

・突然倒れて、左側がまったく動かせない

コラム 脳卒中を疑ったら救急車

第4章 脳卒中―知ってて安心 治療法あれこれ?

●くも膜下出血の治療

・クリップ術

・血管内手術(コイル塞栓術)

・急性水頭症に対する治療

・血管攣縮に対する治療

●脳出血の治療

・外科療法

・薬物療法

●脳梗塞の治療

・急性期の治療

●慢性期の再発予防

第5章 脳卒を予防するには?

●高血圧のコントロール

●脂質異常のコントロール

●糖尿病のコントロール

●喫煙のコントロール

●心房細動のコントロール

第1章 脳卒中ってなに?

脳卒中ってなに?

・脳の血管の病気によって急に発病する病気が「脳卒中」である。

虚血は約75%、出血が約25%である。

・「出血」

-脳の中(脳実質)に出血するのが「脳出血」で約80%

-くも膜と脳の間に出血するのが「くも膜下出血」で約20%

・「虚血」

-脳の動脈が詰まってそこから先の脳の一部の組織が死んでしまうのが「脳梗塞」である。

-静脈が詰まるのが「脳静脈血栓症」だが、これは稀な病気である。

-[一過性脳虚血発作(TIA)]:脳の血液は5分間ほど途絶えると組織は死んでしまう。血流が再開すれば症状は一時的で元に戻る。そのような症状が軽いものを一過性脳虚血発作という。発症後の3ヵ月間で約20%の人は脳梗塞を発症、しかもその半分は2日以内に起こると考えられている。従って、一過性脳虚血発作後は速やかに病院に行くべきである。

脳卒中のメカニズム

・脳出血のメカニズム

-[高血圧性脳出血]:穿通枝と呼ばれる細動脈(1mm未満)が破れることによって発症する。これは高すぎる血圧が血管にダメージを与え続けついに破れる。

-出血部位は「被殻出血」「視床出血」「小脳出血」「橋出血(脳幹出血)」である。

-[アミロイド血管症]:アルツハイマー病の原因とされているアミロイド蛋白が、脳の表面の比較的浅いところにある細い動脈の壁に溜まったもの。

-[動静脈奇形(血管奇形)]:比較的若い人に起こる脳出血では血管の奇形による場合がある。 

画像出展:「脳卒中」

・くも膜下出血のメカニズム

-脳は3層の膜で覆われている。外側から硬膜、くも膜、軟膜である。くも膜と軟膜の間にくも膜下腔という隙間がある。ここには髄液が流れており、このくも膜下腔に出血するのがくも膜下出血であるが、外傷による出血の場合はくも膜下出血とは言わない。外傷によらない出血の原因の大部分は動脈瘤からの出血である。

-動脈瘤は動脈にできた袋状のコブのようなもので、比較的太い動脈の分岐部にできることが多く、脳の表面で出血する。極度のストレスや過労、急激な血圧変化、排便時の力みなどが引き金になる。

-突然の殴られたような激しい頭痛は出血時に頭蓋骨の中の圧力が一気に高まるためである。

 ・脳梗塞のメカニズム

-数ミリ程度の主幹動脈が粥状硬化(アテローム硬化:コレステロール等が血管の壁に堆積する)して厚くなり、血管が細くなったり閉塞したりする。このような脳血栓症を「アテローム血栓性脳梗塞」という。

-1ミリより細い動脈を穿通枝と呼ぶ。急に細い血管になるため血圧の影響を受けやすい。この穿通枝が動脈硬化を起こして詰まった状態を「ラクナ梗塞」という。ラクナ梗塞は小さな梗塞がほとんどなので、すぐに命の危険はないが運動神経を巻き込むと運動麻痺を起こす場合がある。ラクナ梗塞が増えていくと認知障害が現れる場合がある。

-アテローム血栓性脳梗塞もラクナ梗塞も、動脈硬化が原因であり、心臓の問題ではないため「非心原生脳梗塞」とも呼ばれる。

-上流から塊(栓子)が流れてきて血管を詰まらせるのが「脳塞栓症」である。塊は心臓の中か上流の太い血管の壁にできた血液の塊である。

心臓内で塊ができる原因で1番多いのは心房細動である。左心耳に血液の塊ができ、それがちぎれて血液に乗って脳へ移動し血管を詰まらせて脳塞栓症を引き起こす。その他、急性心筋梗塞直後や心筋梗塞後の心室瘤、弁膜症、先天性心疾患などが原因とされている。これらを「心原性脳塞栓症」という。 

画像出展:「脳卒中」

第2章 脳卒中―その原因?

脳卒中の危険因子

高血圧

血圧が高いと血管を傷つける。特にすべての脳卒中の原因になる。

喫煙

-喫煙も高血圧同様、すべての脳卒中の危険因子だが特にくも膜下出血が多い。これは喫煙により脳動脈瘤が形成されやすいためである。

-喫煙は血管を収縮させる作用がある。また、活性酸素は血管内被や血管壁の平滑筋を傷つけ、動脈瘤につながる。

脂質異常症(高脂血症)

-脂質異常症は血液ベトベト状態のことで、粘っこい血液が血管の壁に張り付いて血管に悪さをする。

糖尿病

-非心原性脳梗塞(脳血栓症)の危険因子である。

心房細動

-心原性脳塞栓症の一番多い原因は心房細動である。

過度の飲酒

-脳出血とくも膜下出血については飲酒は完全に危険因子であるが、脳梗塞については、ごく少量の飲酒は必ずしも悪くないとされている。

コントロールできない危険因子について

-日本人であること、加齢、家系、遺伝子については研究中である。脳卒中の中ではくも膜下出血が該当する。これは動脈瘤が家族歴と関係があるからである。 

画像出展:「脳卒中」

脳卒中を起こすその他の病気

・動脈は外膜、中膜、内膜の三層構造になっており、この膜が傷つき血管の壁が避けるのが「動脈解離」である。日本人では椎骨動脈が頭蓋骨に入る部分で多くみられる。症状はどこの膜が損傷されるかによって異なる。

・「もやもや病」は原因不明の難病指定疾患である。内頚動脈が狭くなったり閉塞するとともに、血流を補うために細い動脈が細かい網のように発達する。この様子を血管造影などで観察するとタバコの煙のようにモヤモヤして見えるためにこの名前が付けられた。成人では脳梗塞の原因だけでなく、もやもやした血管が破綻して脳出血も引き起こす。

「血管炎」は大小の動脈に限らず、静脈、毛細血管でも発症する。原因は解明されていないが、ウィルスや薬品に対する免疫の過剰反応によるものと考えられる。

脳卒中と加齢現象

脳卒中の1番の危険因子は加齢による血管の老化である。

第3章 脳卒中かな?

くも膜下出血の症状

・一番の特徴は突発する激しい頭痛である。また、嘔吐や意識障害を起こすが、脳梗塞や脳出血のように手足の痺れで症状が始まることはない。ただし出血の後遺症として身体に麻痺が出る可能性はある。

・動脈瘤破裂による場合、数日前から膨らんだ動脈瘤によって脳の神経や組織が圧迫されることで、物が二重に見えたり、めまいや吐き気、軽い痙攣などの前兆がみられたりすることもある。少量の出血の場合の突発的な頭痛は、必ずしも激痛とはいえない。

脳梗塞・脳出血の症状

・脳卒中は障害された部位により症状の発症場所が異なる。

-左脳中央前部:右半身の運動麻痺。

-脳後方部:視野障害

-右利きでは多くは左脳:失語症(前より⇒運動性失調[言葉を発せない]、後ろより⇒感覚性失語[言葉の意味が分からない])

-視床下:脳の視床は感覚の集合点で口角や手の感覚も司っているため、この両方にしびれがある場合は視床が関係している可能性がある。

-血栓溶解療法を受けるためには発症から3時間30分以内に診察を始める必要がある。

・痛みについて

脳梗塞では通常、頭痛はない。これは、脳自体は痛みを感じず、痛みを感じるのは脳を包む膜や血管が引っ張られたり押されたりすることで感じるからである。

第4章 脳卒中―知ってて安心 治療法あれこれ?

くも膜下出血の治療

・クリップ術(開頭手術)

-動脈瘤にクリップをかけて動脈瘤の中に血液が流れないようにして破裂を防ぐ。

-呼吸や血圧が安定していて昏睡状態ではない状態に適用可能である。

-直接動脈瘤を処置するので再出血予防には最も確実な方法とされている。

-脳の奥深くの場合は手術が困難である。原則として発症から72時間以内に施術する。

-クリップで対応できない大きさの動脈瘤や場所的に困難な動脈瘤で、大きなものはトラッピング術、小さすぎるものはコーティング術を行う。

・血管内手術(コイル塞栓術)

-開頭手術ができない場合や脳の奥深くのためクリップ術が難しい場合などに適用される。

-動脈瘤のサイズや大きな脳出血を伴っている場合には適用できない。

-足の付け根の動脈からマイクロカテーテルを入れて、脳の動脈瘤まで到達させコイルを瘤の中に詰め込み、瘤に血液が入らないようにする。

-開頭していないため、術中に再出血するとすぐに対処できない。また、瘤の中に血栓があると、押し出されて運ばれる危険もある。

-術野の観察はX線透視下になるので被ばくは避けられない。

・急性水頭症に対する治療

-くも膜下出血により脳脊髄液の流れが妨げられると、急性水頭症の状態になることがある。この場合、余分な脳脊髄液を体外に排出する(髄液ドレナージ)。また、長期的にドレナージが必要な場合は、シャント手術(脳脊髄液を排出するための経路を作る手術)を行う。

・血管攣縮に対する治療

-くも膜下出血では出血後4日目頃から14日目頃にかけて、出血にさらされた血管(動脈)が攣縮という状態になる時期がある。治療には抗血小板薬、血管収縮を抑制する薬、血管を弛緩させる薬を使って血流を保つようにする。場合によってはバルーンによる血管内治療を行う。

-この治療はクリップ術やコイル塞栓術といった再出血の治療後に行う。

脳出血の治療

・脳出血は出血量が微量な場合はやがて吸収されてしまうので、症状もなく自分でも気づかないうちに治ってしまう。通常、抗血栓薬を服用していない場合は1時間程度で止血される。これらの原因の大部分は高血圧性脳出血である。

・外科療法

-開頭血種除去術:開頭して血の塊を直接取り除き止血する。

-CT定位的血種吸引術:頭蓋骨に小さな孔を開けて血種を細い管で血腫をふいだす方法。手術は出血部分が完全に止血されていなければならない。CT装置を使うので被ばくも避けられない。

-神経内視鏡手術:頭蓋骨に開けた小さな孔から神経内視鏡(ファイバースコープ)を操作して血腫を見つけて吸引する。

-脳室ドレナージ:頭蓋骨に開けた小さな孔から細い管を通して溜まった血腫などを排出するが、平均して1週間くらい留置しておく。これをドレナージという。

・薬物療法

-血圧を下げる薬:降圧目標は患者さんの状態を診ながら医師が検討する。

-むくみを抑える薬:脳浮腫により頭蓋内圧が亢進すると脳ヘルニアのリスクが高まる。この場合、浸透圧性利尿薬が使われる。

-痙攣を抑える薬:脳出血発症後、最初の2週間は「痙攣」がしばしば見られる。抗てんかん薬が使われる。

脳梗塞の治療

・急性期の治療

-脳梗塞の治療は急速に進歩している。静脈注射のtPAは血栓を溶かす。太い血管閉鎖はカテーテルで除去する。いずれも時間との勝負である。

静脈tPA血栓溶解療法:発症から4時間30分以内に投与する必要があるが、検査に約1時間かかるため、実際の猶予は3時間30分である。検査が必要なのは詰まった血栓を溶かし、血流を再開する際出血のリスクがあるためであるが、脳梗塞によって組織や血管が痛むため危険は高くなる。

血管内治療2015年以降、大腿動脈や上腕動脈の血管内にカテーテルを通して血栓を除去する方法は急速に進歩している。特にこの治療の利点は8時間まで対応可能な点である。

-虚血する箇所は時間制限があるが、それ以外の部位の機能は働いている。そのため、後遺症を最小限にするために、速やかに病院に搬送することが求められる。

慢性期の再発予防

高血圧、脂質異常症、糖尿病のコントロールと喫煙、節酒の徹底が重要である。

-抗血栓薬の服用。抗凝固薬で有名なワルファリンはビタミンKを避けなければならない。なお、これらの薬は出血すると止血に時間がかかるので注意しなければならない。

第5章 脳卒を予防するには?

高血圧のコントロール

脳卒中予防の観点からは血圧は低い方が良いが、低すぎる血圧は心臓の働き阻害するなど危険である。

-「白衣高血圧」や「仮面高血圧」などが指摘されているが、最近では家庭血圧が重視されている。測定は起床後(起床から1時間以内)と就寝前の1日2回の測定が望ましい。

※【家庭血圧とは(オムロン様より)

脂質異常のコントロール

-LDLやHDLなど人間が1日に必要とする総コレステロール量は1,000~1,500mgとされ、その3分の2か肝臓で作られている(内因性)。残りの3分の1は食物から作られる(外因性)。食物からの摂取が少ないと肝臓はどんどんコレステロールを作り、多いと控える。

-LDLとHDLの割合は食べ物や生活習慣に左右される。このLDLとHDLのバランスが崩れると「脂質異常」という状態になる。これは重要なポイントである。

糖尿病のコントロール

-近年の研究では厳格な食事療法が低血糖発作を起こす原因になることが指摘されており、以前に比べるとやや緩くなっている。

喫煙のコントロール

-大規模研究において、禁煙は冠動脈疾患、脳卒中、各種のガン、慢性呼吸不全などに有効であることが明らかになっている。

-タバコの煙の中には70種以上の発ガン物質が含まれており、特に有名なものはタール、ニコチン、一酸化炭素、シアン化水素、ダイオキシンなどである。

-タバコは喫煙者だけでなく、受動喫煙の問題も大きい。

心房細動のコントロール

-心房細動は加齢とともに起こりやすくなるが、高血圧があると頻度は高くなる。

-心房細動の問題は左心耳に血液の塊ができやすく、それがちぎれて血液に乗って脳へ移動し血管を詰まらせて脳塞栓症を引き起こすことである。

感想

現在、食事は塩分の取りすぎに注意しています。また、日課にしているのが速歩(30分)と簡単な下半身の筋力および握力の強化なのですが、速歩を+10分(計40分)、簡易筋トレの回数を少し増やそうと思っています。

ご参考1:“脳梗塞の原因とは?症状や前兆・予防方法から治療の流れまで全て紹介!

こちらは学研のCocofumpというサイトに掲載されていたもので、下の図もそこから拝借しました。


画像出展:「国立循環器病センター」

『軽いジョギング程度の運動中、足の着地時に頭部(脳)に伝わる適度な物理的衝撃により、脳内の組織液(間質液)が動きます。これにより脳内の血圧調節中枢の細胞に力学的な刺激が加わり、血圧を上げるタンパク質(アンジオテンシン受容体)の発現量が低下し、血圧低下が生じることが、高血圧ラットを用いた実験で分かりました。

さらに、この頭部への物理的衝撃を高血圧者(ヒト)に適用すると、高血圧が改善することを世界で初めて明らかにしました(図)。』

高い血圧は下げるものと考えられていますが、脳梗塞の場合は慎重な血圧管理が必要です。

脳梗塞急性期に血圧を高めに保つ理由、それは、脳の血流が減少している状態であるため、血圧を下げることで脳のダメージが悪化する可能性があるからです。特に急性期の場合、“脳卒中治療ガイドライン2015”では、以下のように「止むおえない場合に限って、降圧治療を行っても良い」。ということが示されています。

脳梗塞急性期には収縮期血圧>220mmHgまたは拡張期血圧>120mmHgの高血圧が持続する場合や、大動脈解離・急性心筋梗塞・心不全・腎不全などを合併している場合に限り、慎重な降圧療法を行っても良い

なお、“急性期”をすぎ、"亜急性期”や“慢性期”については以下のようになっています。

亜急性期

●頚動脈や脳主幹動脈に50%以上の狭窄のない患者さんでは、徐々に降圧(85-90%、収縮期160mmHg程度)を行う。

慢性期

収縮期140mmHg拡張期90mmHgを目標に降圧を行う。

ご参考4:自分自身の家庭血圧

3月15日から4月7日までの19日間、朝(食前)、日中(15時前後)、夜(21時前後)の1日3回、血圧を測定してみました。

朝は127.3(収縮期)75.9(拡張期)とやや高めでしたが。全平均は114.2-68.3と心配するような値ではありませんでした。

やはり、自宅で計画的に血圧測定してみることが必要だと思います。また、計測時は前傾姿勢にならないように注意しました。

画像出展:「正しい測定方法で正確な血圧値(オムロン)」

コロナ worldometer 

約1世紀ぶりのパンデミックに遭遇し、「これはいつまで続くのだろうか」という思いから、2020年8月初旬より『worldometer』というサイトを利用してデータを取り始めました。

『Worldometer は、開発者、研究者、ボランティアからなる国際チームによって運営されており、世界の統計を示唆に富む、時代に即した形式で世界中の幅広い視聴者に提供することを目標としています。これは、米国に拠点を置く小規模の独立系デジタル メディア会社によって発行されています。当社は政治、政府、企業とは一切関係がありません。さらに、当社にはいかなる種類の投資家、寄付者、助成金、後援者もいません。当社は完全に独立しており、複数のアド エクスチェンジでリアルタイムに販売される自動プログラマティック広告を通じて自己資金で運営しています。

新型コロナウイルス感染症に関するデータについては、政府の通信チャネルから直接、または信頼できると判断される場合には地元のメディアソースを通じて間接的に、公式報告書からデータを収集します。各データ更新のソースは「最新の更新」(ニュース) セクションに記載されています。タイムリーな更新は、世界中のユーザーの参加と、増え続ける 5,000 を超えるソースのリストからデータを検証するアナリストと研究者のチームの献身的な取り組みのおかげで可能になっています。』

当時のいきさつ等にご関心があれば、ブログ“スペイン風邪と新型コロナ2”をご覧ください。

当初は2021年末まで頑張ろうと思い、ほぼ毎日集計をしていましたが、2021年の年末もパンデミックが落ち着く様子はまったく見えませんでした。集計は2022年を経て、ついに2023年に入りました。「いい加減、きりがないな」と思い、「2023年末で止めよう」と考えていたところ、日本では5月8日にインフルエンザと同じ位置づけの5類に移行し、感染者数は定点観測として続いていますが、『worldmeter』の中では、日本の情報が全くアップデートされなくなったため、このタイミングで終わらせることにしました。

各国のデータの取り扱い、集計方法などは同じであるとは言えず、対象データなどもバラツキがあるため、比較するのはかなり無理があるのですが、そうは言っても、比較したいとの思いから「人口10万人当たりの死亡者数」のデータに絞り、日本以外では東アジアの韓国、台湾、東南アジアのフィリピン、タイ、ベトナム、シンガポール、そしてオセアニアのオーストラリア、ニュージーランドの計9ヵ国を比較することにしました。

なお、データは各国の集計開始時期を合わせるため2020年12月からとし、最後を2023年3月、月別にまとめでデータで集計しました。 

最も少なった国はシンガポールの29.34人で、最も多かった国はニュージーランドの80.00人でした。単純に9ヵ国の平均値は60.58人、日本は4番目(下から4番目)に少ない58.52人でした。

地域的には東南アジア、東アジア、オセアニアの順です。特に東南アジアの4か国は2022年2月頃から横ばい傾向になっており、東アジア、オセアニアとは大きく異なっています。理由は分かりませんが注目に値します。

日本ではマスク着用など公衆衛生の意識が強く、ブースター接種は6回目、7回目を数える方もおり、他国に比べ積極的ではあるものの、今一つ、その積極的なワクチン接種が死亡者数の抑制につながっているのか不透明です。(ワクチン接種に関してご興味あれば“免疫学者の告発1”をご覧ください)。

グラフを見ると台湾、ニュージーランドなど多くの国が「ゼロコロナ」で規制をしたものの、「ウィズコロナ」に切り替えざるを得ない事態に遭遇したことが分かります。日本では規制の徹底が難しいこともあり、最初から緩やかな規制でスタートしました。PCR検査が一向に増えないこととや、保健所依存の対応、政府のリーダーシップの欠如等が大きな問題となっていましたが、緩やかな規制は悪くなったのだろうと思います。

2022年2月2日付けで、『デンマーク、コロナ規制を全て撤廃 EUで初』というニュースがアップされました。

『デンマーク国家保健委員会のソレン・ブロストロム委員長も、国内の症例数は非常に多い状況だが、感染と重症化の関係がなくなったとの認識を示し、「感染数が激増すると同時に、集中治療室に入院する患者は実際のところ減っている」「今現在、新型コロナと診断されてICUに入院しているのは、人口600万人のうち30人前後にとどまる」と指摘した。』

以下は、HOPEプロジェクトに関してです。

『それではいったいどのような背景から、デンマークは規制撤廃に踏み切ったのか。ワクチン接種率の高さ、政府への信頼感、首相会見を頻繁に行うなどの情報開示、検査数の多さなど、すでに多くの分析や情報が日本のメディアでも発信されているが、ここでは引き続きピーターセン教授の発信をもとに、もう少し違った角度から紹介してみたい。

新型コロナウイルスが世界に拡大し始めた2020年3月。カールスバーグ財団から2500万デンマーククローネ(約4.3億円)の支援金を受けて、デンマークではある研究が開始された。不安と恐怖の真っただ中に始まった研究プロジェクトのタイトルはHOPE。「希望:民主主義国家はいかにしてCovid19に対処するか―データ分析をもとにしたアプローチ」と名づけられたこの研究チームのリーダーがピーターセン教授だった。

コペンハーゲン大学、デンマーク工科大学(DTU)などとの共同プロジェクトとして開始されたこのHOPEプロジェクトは、コンピューターサイエンス、行動心理学、政治学を組み合わせて、コロナ禍で民主主義社会がどのように反応し、危機に向き合ったのか、また危機管理は上手くいったのか、などを検証してきたのだという。

具体的には、パンデミックの状況を追跡し、政府および国際機関の決定や、メディアとSNSの影響力、市民の行動やウェルビーイングなどが互いにどのように関連し合っているのかを検証する、前例のない研究プロジェクトなのだそうだ。

さらにこのHOPEプロジェクトは、2020年11月から感染防止のための様々な規制を実施する上でデンマーク政府が参照すべきプロジェクトにも加えられた。そして今日まで、HOPEプロジェクトは政府へさまざまな提案をおこなってきた。

日本に比べれば小さな国なので、対策の取りやすさには大きな差はあるものの、「デンマーク恐るべし!」と興味をもち、2022年2月4日からデンマークをデータ集計の対象に加えることにしました。以下はその一部ですが、これを見ると平日を対象に非常に詳細なデータ集計が行われています。「これは国レベルの情報管理(IT化)がよほど進んでいるんだろうな」と思いました。 

調べてみると、『デンマークのスマートシティ データを活用した人間中心の都市づくり』という本が出版されており、「これだ!!」と納得するとともに思わず買ってしまいました。

ちなみに“世界幸福度ランキング”では、デンマークはフィンランドに続き、第2位となっていました。

180日間にわたり死亡リスクはCOVID-19コホートが高率

重み付けで調整後、COVID-19コホートはインフルエンザコホートと比較して、退院後の全死因死亡リスク(累積発生率)が、30日時点10.9% vs.3.9%、標準化リスク差:7.0%[95%信頼区間[CI]:6.8~7.2])、90日時点15.5% vs.7.1%、8.4%[8.2~8.7])、180日時点19.1% vs.10.5%、8.6%[8.3~8.9])のいずれの評価時点でも高率であった。

上記はコロナ感染であって、ワクチン接種による問題ではないのですが、この記事は荒川 央先生の著書『コロナワクチンが危険な理由』に書かれた以下の文章を思い出します。

『心筋炎、脳梗塞、自己免疫疾患、癌、神経変性病などは加齢によってもリスクが高まる疾患です。こうした疾患がコロナワクチンの作用機序から予測され、実際に後遺症として報告されています。私はコロナワクチンによる隠れた副作用は文字通りの「老化」ではないかと思っています。

※荒川 央先生のブログ:"コロナワクチンが危険な理由

※ご参考ブログ:”免疫学者の警告1

※ワクチン問題:“「ワクチン」による傷害に関する査読済み論文1,000件  Dr. Mark Trozzi”(凄いサイトです)

※ワクチン問題:”みのり先生の診察室(医師である先生が来院される患者さんの変化を感じておられます)

若い世代での老化が加速しており、それが若年発症型のがんリスクの上昇と関連している可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。1965年以降に生まれた人では、1950年から1954年の間に生まれた人に比べて老化が加速している可能性が17%高く、また、このような老化の加速は、55歳未満の成人における特定のがんリスクの増加と関連していることが示されたという。米ワシントン大学医学部のRuiyi Tian氏らによるこの研究結果は、米国がん学会年次総会(AACR 2024、4月5〜10日、米サンディエゴ)で発表された。』

荒川 央先生私はコロナワクチンによる隠れた副作用は文字通りの「老化」ではないかと思っています。という表現がとても印象的で頭に残っています。今回のニュースはコロナワクチンとの関連性を指摘するものでは全くないのですが、やはり気になります。

認知症の薬とインスリン

NHKのBS放送で“脳”に関する番組が目に留まりました。それは「人体神秘の巨大ネットワーク3 第5集 “脳”すごいぞ!ひらめきと記憶の正体」に関するものでした。

アマゾンで購入履歴を調べたところ以前に購入しており、おそらくその時は「人体神秘の巨大ネットワーク3」の第4集の「万病撃退!“腸”が免疫の鍵だった」に興味があって購入したものの、第5集は読んでいなかったということだと思います。

「これは買う手間が省けた」というところです。Partは以下の4つですが、ブログはPart4の「認知症撲滅作戦」を取り上げることにしました。

Part1 脳に広がる神経細胞のネットワーク

Part2 “ひらめき”の秘密

Part3 海馬に刻まれる記憶

Part4  認知症撲滅作戦

・編集:NHKスペシャル「人体」取材班

・発行:2018年6月

・出版:東京書籍

薬を通さない脳血管の特別な関門

●『長い人生を通して私たちの脳の中に築かれていく記憶のネットワーク。それがむしばまれることで引き起こされる病気が認知症だ。認知症の原因はさまざまだが、最も患者数が多いのがアルツハイマー病で、世界各国の研究者が治療薬の開発にしのぎを削っている。アルツハイマー病は、一説によれば「アミロイドβ」というたんぱく質が脳にたまり、神経細胞を壊すことで起こると考えられている。このアミロイドβを分解する薬を脳に送り込むことでアルツハイマー病の進行を食い止めようと、これまでも多くの薬がつくられてきたが、いつも大きな難題が立ちはだかっていた。薬を投与しても、脳神経細胞にまで届いている形跡が見られないのだ。

これまでその理由に関しては、さまざまな可能性が取り沙汰されてきたが、現在ではその有力な仮説として、脳の血管の特別な仕組みに原因があるのではないかと考えられている。通常、点滴や錠剤などを介して血液中に溶け込んだ薬の物質は、血液の流れに乗ってターゲットとする臓器へと移動し、血管からしみ出して臓器の内部に届けられる。それが可能なのは、血管の壁に薬が通れるだけのすき間が開いているからだ。

一方、脳の血管の壁の細胞は、互いに強く結合しているためほとんどすき間がなく、薬が通り抜けることができない。このような脳の血管の仕組みは「血液脳関門」と呼ばれている。英語ではBlood-Brain Barrier、文字通り脳を血液から守るバリアーだ。

画像出展:「薬が脳に到達するメカニズムの解明に挑戦 日本大学薬学部

血液脳関門の実体は無窓性(つなぎ目のない)の筒(チューブ)状に連結された血管内皮細胞から主に構成されている。ヒトの脳毛細血管の細胞内容積は、全脳容積のわずか0.1-0.2%であるが、血管の全長は600Kmもあり、脳内を綱目状に分布している。

血液脳関門を突破して脳に届きアミロイドβを分解できる薬は、まだ医療の現場に登場していない。

なぜ、脳の血管だけに、物質の侵入を簡単には許さない特別な仕組みがあるのだろうか。それは、私たちの脳の中で、さまざまなメッセージ物質がやり取りされていることと関係がある。

画像出展:「人体神秘の巨大ネットワーク」

茶色い物質がアミロイドβです。


もし脳の中に、血液の中を行き交う他の臓器からのメッセージ物質が際限なく流れ込めば、脳は大混乱に陥り、神経細胞の働きに支障をきたすだろう。つまり、血液脳関門は脳に必要な物質を血液中に排出するという、脳の働きを健全に保つ重要な役割を担ってるのだ。

そのため、メッセージ物質の中でも脳の血管の壁を突破することが許されているのはごく一部、特別な役割をもつ物質に限られている。

例えば、すい臓から分泌される「インスリン」はその1つだ。インスリンはPart3でも紹介したように、「記憶力をアップせよ!」というメッセージを脳に伝え、海馬の歯状回の神経細胞を増やすという役割が指摘されている。さらに、インスリンが不足したり働きが不十分な場合は、認知機能や記憶機能に障害が出ることも分かっている。脳にとって欠かせない物質だからこそ、血液脳関門の通過を許されていると考えられている。

血液脳関門は脳を守るという点では役立つものの、薬を脳に届けようとするうえでは逆に大きな妨げになってしまうという、ある意味「諸刃の剣」となっているのだ。』

脳内に薬を届ける新たな仕組み

●血液脳関門を通り抜ける薬を開発することは、臨床医や製薬企業の研究者にとって大きな関心事となっている。

●この難問の第一人者はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)名誉教授のウィリアム・パードリッジ博士である。博士は15年前にベンチャー企業を設立し、新薬の開発の指揮を執っている。

●血液脳関門を通り抜けることができる数少ないメッセージ物質の中から、博士はインスリンに注目した。

●『パードリッジ博士はまず、血液脳関門を形づくっている脳の毛細血管を分離し、この毛細血管の中にどんな運搬機能があるのかを徹底的に調べた。そして、血管の内側の壁にはインスリンにくっつく小さな突起があることを突き止め、血液脳関門を突破する仕組みを解き明かした。

●インスリンが血液脳関門を通り抜ける仕組み(CGです)

画像出展:「人体神秘の巨大ネットワーク」

 

すい臓から分泌されたインスリンは血液の流れに乗って脳の血管に到達する。

脳の血管の壁を通過できるのは、メッセージ物質の中でも、ごく一部の限られた物質である。

画像出展:「人体神秘の巨大ネットワーク」

 

脳の血管の表面には、インスリンをキャッチするための小さな突起がある。

画像出展:「人体神秘の巨大ネットワーク」

 

突起がインスリンをキャッチすると、まるで“秘密の扉”が開くように血管の壁は陥没し始める。

画像出展:「人体神秘の巨大ネットワーク」

 

パードリッジ博士は、この突起にくっつく物質を作り出し、それに薬を結合させて血液脳関門を通過させる戦略を思いついた。

画像出展:「人体神秘の巨大ネットワーク」

 

メッセージ物質が血管の壁を越えて、血管の中から脳へと向かう様子を捉えた写真。パードリッジ博士らが1985年に撮影に成功した。

画像出展:「人体神秘の巨大ネットワーク」

 

カプセルのような薄い膜に包まれたメッセージ物質が、血管の壁を通り抜ける瞬間が映し出されている。

ハーラー病の子どもをすくえ!

●パードリッジ博士らが「認知症の新薬を開発するための第一歩」と位置づける臨床試験は既に始まっている。2017年10月、ブラジル南部のポルトアレグという街では、ハーラー病の3歳から16歳までの子どもたちが、週に一度、大学病院にやってくる。

●ハーラー病はグリコサミノグリカン(GAG)と呼ばれる物質が細胞の中に溜まることで引き起こされる難病であり、ライソゾーム病の一種である。ライソゾーム病は細胞内の小器官ライソゾームに関連した酵素が欠損しているために、分解されるべき物質が老廃物として体内に蓄積してしまう、先天性の病気の総称である。日本ではハーラー病など31種類のライソゾーム病が難病の指定を受けている。

血液脳関門を突破するプロジェクト

●ポルトアレグで行われている新薬の臨床試験は、アメリカの保健省の指導の下、1年半にわたって続けられてきた。試験に参加していたのは11名、症状が重い8人のうち7人に認知や運動面で症状の改善が見られた。

認知症治療薬の開発への応用

●ブラジルで臨床試験が行われているハーラー病治療薬の開発に成功すれば、世界中の2,000以上の子供たちへの朗報となる。また、ライソゾーム病全体で見れば罹患している子どもはもっと多い。

アルツハイマー病の進行を食い止める薬の道筋も見えてくるが、パードリッジ博士らは同じ技術を用いてアルツハイマー病の新薬の開発にも取り組んでいる。

●血液脳関門を突破するカギとして注目されているのは、インスリンだけでない。日本では血液中の鉄を脳へ運ぶのに関係するトランスフェリンというたんぱく質に着目し、この物質を利用することでライソゾーム病の薬を脳に送り届けようと開発を進めている。

双極性障害3

著者:加藤忠史

発行:2019年6月

出版:ちくま新書

目次は”双極性障害1”を参照ください。

2 ECT(電気けいれん療法)

うつ病に対する治療法の中で効果は高く、即効性もあるため抗うつ薬の効果が乏しい難治性のうつ病に対して広く行われている。

現在は麻酔科医による全身麻酔と呼吸循環管理のもと、痙攣を起こさないようにして行う、修正ECTが行われている。

・即効性があるため、自殺念慮が強い場合には是非試みるべき治療といえる。

・妄想、焦燥、昏迷などの強い重症のうつ状態なども修正ECTを検討すべきである。

・通常は週2、3回で6~12回程度繰り返すのを1クールとする。効果は直後、もしくは2、3回施行後から現れる。麻酔を行うためリスクもあり、自殺念慮、重症、難治性に対して行うものである。

ECTの作用のメカニズムはよく分かっていない。

双極性障害ではうつ状態で行うと躁転することがあり、慎重な判断を要する。また、何クールまで問題ないのかといった基準はないのでこの点も注意を要する。

3 反復性経頭蓋磁気刺激療法(γTMS)

・左前頭部にコイルを当てて、磁場を与えることで脳の中に電流を起こさせて刺激する治療法である。

・双極性障害のうつ状態に対しての有効性は明確になっていない。

先進医療.netより

『2019年3月、双極性障害のうつ状態に対する新たな治療法として、「薬物療法に反応しない双極性うつ病への反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)」が先進医療として指定され、臨床研究が始まりました。rTMSの仕組みや長所、先進医療の流れなどについて、国立精神・神経医療研究センター病院 精神科医長の野田隆政先生に伺いました。』

・ 双極性障害の治療には主に薬が使われるが、患者さんによって効く薬や効果が異なる。自分に合った薬が見つからず、長期にわたって苦しむ患者さんも多い。

・ rTMSは、磁気や電気などの刺激によって神経の働きを調節する「ニューロモデュレーション」という治療法の一つ。磁気の刺激により、脳の神経の働きを調節することで、双極性障害のうつ状態の改善が期待される。

・ 双極性障害のうつ状態に対するrTMSは、先進医療Bの制度の下、2019年11月27日現在、全国3施設で実施されている。薬が効かない患者さんに対する新たな選択肢として期待される。

4 ケタミン

・現在臨床試験が行われており、数年以内には利用できるようになる可能性がある。

・これまでの抗うつ薬は治療効果が現れるまで1、2週間、治療期間が数カ月と長い時間がかかるが、この薬は1、2時間で効果が現れ、それが1週間程度持続するという、全く異なった効き方をする治療薬として注目されている。

ケタミンの即効性抗うつ作用に関わる新しいメカニズムを解明!

金沢大学医薬保健研究域薬学系の出山諭司准教授、金田勝幸教授、大阪公立大学大学院医学研究科脳神経機能形態学の近藤誠教授らの共同研究グループは、ケタミンの即効性抗うつ作用に関わる新しいメカニズムを解明しました。

うつ病の患者数は世界で約2.8億人と言われ、深刻な社会経済的損失をもたらします。しかし、現在うつ病の治療に用いられる抗うつ薬は、効果発現が遅く、3分の1以上の患者は治療抵抗性であることが問題となっています。2000年代の臨床研究により、全身麻酔薬として古くから用いられているケタミンが、麻酔用量よりも低用量で治療抵抗性うつ病患者に対して即効性の抗うつ作用をもたらすことが明らかとなり、大きな注目を集めています。ケタミンには依存性や精神症状(幻覚、妄想など)といった重大な副作用があるため、ケタミン自体の臨床応用には大きな問題が伴います。そこで、不明な点が多いケタミンの作用メカニズムの解明により、有効性が高く、かつ副作用の小さい治療薬の開発につなげることが期待されます。

5 心理教育

双極性障害は心の病ではない

双極性障害の柱は薬物療法と精神療法である。

精神療法というと精神分析やカウンセリングが思い浮かぶが、双極性障害は心の病ではない。

身体の病気でも、精神療法は必要

・双極性障害は脳や遺伝子などの疾病であるが、発症はストレスが原因となることが多く、発症後も慢性的なストレスは双極性障害にとって好ましいものでない。

・精神療法は心理教育とよばれている。

心理教育とは

・病気について勉強していただきながら、患者さんの心に起きるその病気に対する反応も十分に把握し、理解しながら進めていくということである。

・双極性障害の精神療法において、最も重要なことは心理教育である。基本は患者さんと医師一対一での心理教育である。それに加えて、ご家族とともに病気について学んでいただく家族心理療法も大切である。さらに夫婦や集団療法的な取り組みも有効である。

心理教育ではまず病気の性質を理解し、次に薬の作用と副作用、そして双極性障害の再発の兆候に気づけるようになることが重要である。

ストレスの対処法

心理教育にはストレスに対する対処法もある。ストレスは再発のきっかけとなったり、躁やうつを繰り返す不安定な症状を引き起こしたりする。

認知行動療法

生活の中で起きる事態を見直して、ストレスを減らしていく方法をまとめたものが認知行動療法であり、双極性障害に対しての有効性が認められている。

・うつになり、嫌な考えばかりが頭に浮かぶような状態を「否定的自動思考」とよぶ。この「否定的自動思考」を抑えることは容易ではないが、出てきた気持ちが「否定的自動思考」であると認識して、別の合理的な考え方に切り替えていくことは、練習によってある程度はできる。

対人関係療法(IPT)

・外来で行う個人精神療法である。

・特定の理論にはこだわらず、よく効くと言われている常識的な治療をまとめたものである。

・IPTの治療目標は、認知を変えることではなく対人関係のパターンを変えることである。

IPTの対象は双極Ⅱ型障害のような軽症なものに限る。中等症以上は薬物療法が中心となり精神療法は補助的なものになる。

・対人関係の中では、特に三つのパターンに注目している。①「重要な人物の死」、②「役割をめぐる不一致」、③「役割の変化」である。3番目の役割の変化とは、例えば、昇進や結婚などによってうつ状態を発症することが多いということである。

対人関係-社会リズム療法(IPSRT)

・双極性障害のために開発されたのが、対人関係-社会リズム療法(IPSRT)である。

・双極性障害では徹夜が躁転のきっかけになる。対人関係-社会リズム療法では、起床時間、入眠時間、出勤などの時間の目標を決めて、毎日、これらの時間を記録につけ生活のリズムを守るようにする。

画像出展:「双極性障害」

五分診療の中の精神療法

・症状の落ち着いた双極性障害の患者さんの外来診療は、短い方では5分~10分である。この診察を1、2カ月に1回程受けてもらい、その中で薬の副作用の有無を確認し、定期的に採血してリチウムの血中濃度を調べてて適正になるように調整する。

・短い時間の精神療法が意味あるものにするには、早い段階にどれだけしっかりと病気を受け入れ、その対処法の理解を進められるかどうかにかかっている。

第六章 双極性障害とつき合うために

再発する人としない人の違い

このように双極性障害の患者さんには、すっかり薬が効いて、本人も病気をコントロールしようという意識が高く、十年、二十年と一回も再発せず、薬さえ飲んでいればまったく問題なく社会生活を送ることができている方もいらっしゃいます。

一方で、病気のために仕事や家族を失い、思うような人生を送れていない患者さんもいらっしゃいます。そのような両極端な違いは何なのでしょうか。

まずは、病気の初期に、どれだけしっかり予防の対策を立て、実践したかどうかです。

そしてもうひとつの違いは、薬がどの程度効くかです。

残念なことに、きちんと薬を服用しているにもかかわらず薬が十分に効かないという患者さんもいらっしゃいます。ですから、再発を繰り返している人に、簡単に「双極性障害はコントロールできるはずなのに、薬をちゃんと飲んでいないのではないか」などと思わないでいただきたいと思います。

医師はひとつの薬、リチウムだけで効果がなければ、ラモトリギンとかオランザピンなど、さまざまな薬を併用して、何とか予防をはかります。それでも軽いうつや躁が出てしまうこともあるのです。

このような場合には、うつになったら何らかの薬を増やし、軽躁になったら少し抗精神病薬を増やしたりと、その都度対処しながら治療を進めていきます。

リチウムやラモトリギンやバルプロ酸などである程度まで病状が落ち着いている患者さんの場合、それほど激しい躁状態にはいかないことが多く、躁状態になっても何とか患者さん本人も治療しようという気持ちになってくれて、入院するには至らないですむという場合も多くあります。

しかしながら、薬を服用していることによって、症状が軽くすんではいるけれども、現在存在する薬すべて使っても、やはり再発を予防するのが難しいという患者さんがいらっしゃるのも事実です。

今我々にできることは、病気がわかったらごく早いうちから、きっちりと予防対策を進めること、薬が効きにくい人には効かない人なりに、薬の組み合わせや投与量の工夫で症状を最小限に抑え、再発を予防するということです。

現在ある薬は必ずしも完璧ではありません。双極性障害の基本的な薬であるリチウムは、非常に副作用が強く、飲みにくい薬であることは、すでに述べました。手の震えなど、人によっては大変気になるところでしょう。

そのために服用をやめてしまい、また再発してしまう方が少なくありません。現在ある薬の副作用を少なくすること、今の薬が効かない患者さんのための新しい薬を開発すること、そして病気の原因究明、そういった研究は、絶対に必要だと思っています。

病気のコントロールには、まず病気を受け入れることが必要

双極性障害の治療において最も重要なのは躁の治療でもうつの治療でもありません。むしろ症状がおさまった時、再発予防薬がきちんとなされるかどうかが、間違いなくその人の一生を左右します。

最初に述べたように、双極性障害は、以前は非常に軽く見られてきました。医師から見れば、躁になって入院して来ても、うつになって入院して来ても、患者さんはとりあえず、その状態が治って退院していきます。

そして治って退院するときには、最初の症状はもうすっかり治っています。そういったことで医師の個として双極性障害は治る病気だという意識が強かったのです。

これはこれで事実であり、統合失調症のように、陰性症状とよばれる症状が長く続く病気と違い、双極性障害は、一旦治ると何の症状もなくなるのが特徴です。患者さんは治ったと感じて安心するし、ご家族も、また医者ですらほっとしてしまうわけです。

ところがその一旦治った病気が、ほとんど再発します。またそれを繰り返すことによって本来は能力を持っている人が、その能力を発揮する場所を奪われてしまいます。会社を辞めざるを得なくなったり、家族と別れてしまったりします。そういう意味では大変恐ろしい病気でもあるわけです。

昔の医師も、おそらく退院する時には「この病気は再発しますから、ずっと薬を飲んでくださいね」と言っていたと思います。ところが実際は、そのくらいのことでは、多くの患者さんは薬を飲みません。

たとえば病院に行って「皮膚炎の薬です。これを朝夕一週間塗って下さいね」と皮膚科の先生に言われたとします。「はい。そうします」と答えて帰って来ても、症状がなくなってきたら薬を塗るのを忘れてしまうという経験はないでしょうか。

双極性障害の患者さんの場合も同じです。症状が治まったら薬を飲まなくなるということは、誰にでも非常によくあることなのです。

しかしその結果、結局患者さんは再発してしまいます。そしてこれまで繰り返し述べたように、双極性障害は、再発することによって、人生そのものが大きな影響を受けてしまう病気なのです。

病気との取り組みいかんで、病前と変わらない生活が送れる人から、仕事も家族も失ったという人まで、非常に幅広い、さまざまな結果が返ってきます。

より良い結果を得るためには、双極性障害とは大変な病気である、ただし十分にコントロールすれば恐れるに足らない病気でもあるということを知り、前向きに再発予防に取り組むことが何よりも重要なのです。

感想

「双極性障害」の患者さまにとって、医師による診察と適切かつ慎重な薬物療法や、精神療法との組み合わせが極めて重要であることを学びました。

鍼灸師ができることはお話を伺うこと、そしてうつ病と双極性障害(躁うつ病)は異なる病気で、薬も療法も異なるということをお伝えすることだと思いました。

双極性障害2

著者:加藤忠史

発行:2019年6月

出版:ちくま新書

目次は”双極性障害1”を参照ください。

第三章 社会生活を妨げてしまう双極性障害

1 双極性障害による社会生活の障害

再発を繰り返すと仕事も家庭も失ってしまう

・双極性障害はいずれ改善され、治ったときにはほとんど何の症状も残さない。

双極性障害の躁やうつは薬による病気のコントロールや予防をしっかり行わないと、何度も再発を繰り返してしまう。また、このため患者さんの環境や生活レベルは低下していく。

双極性障害の発症頻度は100人に1人弱といわれており、家族、親戚、友人と範囲を広げれば、すべての人が双極性障害の患者さんに接する機会はあると言っても過言ではない。

2 立場によって受け止め方が違う双極性障害

家族から見た双極性障害

・重度な双極Ⅰ型障害は統合失調症の精神病状態とは異なり、話の筋がある程度通っているおり病気と思えない部分がある。そのため、家族は非常に腹が立ったり、傷ついたり休みなく言葉を浴びせられ続け憔悴しきってしまうようなこともある。そして、仕事を失うこともある。

・家族にとっても、双極Ⅰ型障害の躁状態はうつ状態とは異なるがとても辛いものである。

患者さんにとっての双極性障害

躁状態の患者さんが自分は、病気であるという自覚を持つことが非常に難しい。

軽躁状態を本来の自分と考え、通常の状態の時期が何かつまらないものに思えてしまう人もいる。

うつ状態の時

・自分をつまらない人間で、仕事もできず取るに足りない人間だという気持ちが絶え間なく襲ってくる。

・家族が質問してくるのが、うっとうしくて仕方がない。

・子供に対してイライラして叱ってしまい、その後酷い自責の念に駆られますます落ち込んでしまう。

・何とか出社してもまわりの会話についていけず、毎日が苦痛でしかない。

うつ状態が酷くなると自力で病院に行くことができなくなる。

3 受診する時

躁状態で受診する時

・双極Ⅰ型障害の躁状態に関しては、治療が軌道にのりさえすれば、有効な薬がたくさんある。このような薬を服用することで1ヵ月から2ヵ月で改善することが多い。

・躁状態(双極Ⅰ型障害)の問題点は治療を起動にのせることである。その理由は躁状態というのは患者さんご自身にとっては、普段より調子が良いと感じており、治療を受け入れることが難しいためである。

<職場>

・受診を無理強いすることは人権侵害のおそれがある。

「心配なので一度受診してみたらどうか」と示唆する程度が望ましい。

・ご家族に状況を伝え、受診してほしいとお願いする方法も有効である。

・ご家族が対応頂けない場合は、労働契約法第五条に、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働ができるよう、必要な配慮をするものとする」という条項(健康配慮義務)があるので、職場の上司は部下の健康を守るために、病院の受診を要請することも可能である。

・問題行動に対して出勤停止等の処分を行うという選択肢も考えられる。

双極Ⅱ型障害の軽躁状態の場合、心がけたいのはもし、その人がうつ病と診断されていた場合、気分の高揚は軽躁状態かもしれないので、主治医の先生に相談してみてはどうかと伝えてみても良い。

<家族>

気分の高揚やおかしな言動に対して、もしかしたら躁状態かもしれないと気づくことが対応の第一歩になる。そして、これは間違いないと感じたら、次は何とか受診するよう説得することである。

・躁状態の患者さんは、色々なことに手を出しているが、思う通りになっていたことが多く、常にイライラしていることが多い。また、そのため不眠の問題を抱えていることも多い。そこで、不眠や疲れを理由に心配だから病院に行こうと説得するのが良い方法である。

初発で相談できる病院もない場合は、まずは、家族だけで受診してみるという選択もよい。なお、その場合は病床数の多い単科の精神科が望ましい。大きな精神科病院にはケースワーカー(ソーシャルワーカー)がいて、入院の相談にのってくれる。

うつ状態で受診する時

<職場>

・うつ状態の場合、躁状態とは異なり本人も不調を感じているので受診の勧めに強く反発することはない。

・同僚の異常に気付いた場合は、まず上司に相談するのが良い。部下のメンタルケアは管理職の仕事になっている。

既に通院されている場合は、確認もなく病院や薬について詮索するべきではない。特に「薬に頼ってはいけない」という言葉は禁句である。

<家族>

・普段と様子が異なり、いつも苦しそうな表情をしている、ため息ばかりついていて楽しそうに見えることがないという状態が二週間以上ほぼ毎日続いているなら受診した方が良い。

初発のうつ状態では、抗うつ薬を処方されるが、統計では約二、三割は双極性障害である。つまり、誤診されている可能性もあるということである。重要なことは過去に何度かうつ状態になった経験や、抗うつ薬の服用により気分が高ぶった経験がある人は、そのことをはっきりと医師に伝えることが必要である。

<本人>

受診した場合、「うつ病です」と診断されたら、それで満足せず、(大)うつ病なのか、うつ病だとしたら、どのようなタイプなのか、よく確認したほうがよいと思います。

そして、薬物療法を勧められた場合には、他のどのような治療の選択肢があり、なぜ、その薬を選択したのかということも、よく尋ねてみるとよいでしょう。納得できるような説明が得られない場合は、他の病院も受診してみたほうがよいかもしれません。

4 復職

・躁状態、うつ状態が治った時にどのようなタイミングで、どのような形で復職するかはとても切実なことであるが、まさに研究が進められている段階であり正解というものはない。特に躁状態の患者さんは病気であるという認識があまりないので、本人は「もう大丈夫」と言うものである。

・重いうつ状態からの復職の時は、短縮勤務から始め徐々に時間を長くして慣らしていくなど、段階的に進めていくのが良い。

・長く休職した後の復職の場合は、都道府県の障害者職業センターなどの復職支援プログラムを利用するのも良い方法である。

・復職前に心理教育を受け、何が再発の兆候なのかを把握しておくと良い。

5 自殺の予防

・日本では約20,000人以上の方が自殺でなくなっており、その多くはうつ状態により自殺に至ったと考えられている。

・双極性障害では死因の19.4%が自殺であったという研究がある。

・薬物療法の中ではリチウムのみが、統計的に自殺率を低下させることが報告されており、重要な薬といえる。

・自殺の危険を把握するためには、患者さんを自殺に追いやる要因があるか、患者さんの死にたい気持ち(希死念慮)がどれだけ強いかの二つが重要である。

・自殺の危険を高める因子としては、自殺未遂をしたことがある、家族に自殺者いる、最近家族が亡くなった、最近知人や有名人が自殺でなくなった、借金など経済的な問題がある、そして周囲に助けてくれる人がいない等がある。

自殺する人は自殺のサインを出すものであるが、大事なことは死にたいという気持ちを話してもらい、それをしっかりと受け止めることである。すべての思いを話してもらった後に、初めて「自殺しないと約束してほしい」と伝える。

6 双極Ⅱ型障害

診断

双極Ⅱ型障害にはさまざまな患者さんがいるという理解が大切である。

・双極Ⅱ型障害は医師によって診断にバラツキが出やすい。

治療

・双極Ⅱ型障害は軽躁状態を有するが、現実的に問題となるのはうつ状態である。双極Ⅱ型障害のうつ状態は双極Ⅰ型障害に比べうつ状態の頻度は多く、期間も長い場合が多い。

・双極Ⅱ型障害の軽躁状態は、双極Ⅰ型障害の躁状態に比べると症状は軽く、期間も短いため診断が難しく医師によってもばらつきがでる。 

第四章 双極性障害の治療

1 薬物療法

精神科領域で用いられている薬

・精神科領域で使う薬を「向精神薬」とよばれ、向精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、気分安定薬、精神刺激薬などがある。

・抗精神病薬は統合失調症の幻覚や妄想に有効な薬だが、双極性障害にも有効である。

・抗精神病薬には古いタイプの定型抗精神病薬と新しいタイプの非定型抗精神病薬があるが、双極性障害では非定型抗精神病薬の方がよく使われる。

・抗うつ薬はうつ病の薬である。古いタイプは三環系抗うつ薬などがあり、新しいタイプは選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI)などがある。

・抗不安薬は病的かどうかに関わらず使われる不安を抑制する薬である。代表的なものはベンゾジアゼピン系抗不安薬である。

・気分安定薬は、双極性障害の再発予防に用いられる薬で、リチウムの他、ラモトリギン、バルプロ酸、カルバマゼピンがある。

・精神刺激薬は覚醒作用をもつ薬で、AD/HD(注意欠如・多動症)およびナルコレプシーに使われる薬で、双極性障害では使われない。

リチウム(商品名 リーマスなど)

・リチウムは双極性障害の治療の基本となる薬である。

・リチウムは天然にも身体の中にも含まれている。

画像出展:「双極性障害」

リチウムの効果

・リチウムは躁状態およびうつ状態を改善する作用と予防する作用をもつ薬である。特に躁状態、うつ状態の再発を予防する作用が最も重要である。また、自殺予防効果もあるとされている。

・リチウムは代表的な気分安定薬であり、双極性障害の薬物治療の基本となるものである。

リチウムの副作用

・リチウムはとても有用な薬であるが、精神科の薬の中で最も使い方が難しく、医師の指示通りに服用しなければならい。

・リチウムは血中濃度を測りながら服用することが定められている。一般的には0.4~1.0ミリモーラーの間で使用するが、1.5ミリモーラーを超えてくると。中毒症状が出る可能性がある。

・飲み始めの時には、下痢、食欲不振、喉の渇きと多尿、手の震えなどの副作用が見られる。

・腎臓の機能が低下していたり、脱水になっていたりすると血中濃度が高くなるため特に注意を要する。

・白血球、特に顆粒球が増加するという特徴も知っておくべきである。特に他の理由で内科などを受診する場合は、リチウムを服用していることを必ず伝えるべきである。

・特に女性の患者さんは甲状腺の機能低下という副作用が懸念されるので、時々、甲状腺刺激ホルモンを測定するようにする。

他の薬との組み合わせにも要注意

・利尿剤、消炎鎮痛剤、高血圧薬などリチウムと相互作用し急激に血中濃度を高める可能性があるため十分に注意しなければならない。

血中濃度の測定

・リチウムは服用後数時間の間に血中濃度が上がり、その後下がってきて8時間後くらいに安定した濃度になる。測定は最も血中濃度が下がった時に行う。

・血中濃度は最初のうちは受診の度に測定し、維持療法中は2、3ヵ月に1回を目途として行う。

リチウム以外の気分安定薬(抗てんかん薬)

①ラモトリギン(商品名 ラミクタール)

・再発、再燃抑制の薬。保険適応されている。元々は抗てんかん薬である。

・再発予防効果は特にうつ状態の方が顕著という調査結果だった。これがラモトリギンの特徴である。

・リチウムとラモトリギンの併用は効果が高い。

・副作用には十分注意しなければならない薬であり、特に問題となるのはスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や、皮膚、眼、口唇などの粘膜に障害を起こす中毒性表紙壊死融解症(TEN)である。これらは全身の発疹で始まるので、発疹が出るようであれば服用を中止し、速やかに医師に相談すべきである。

②バルプロ酸(商品名 デパケンなど)

・元々は抗てんかん薬である。躁状態や混合状態に対して有効性がある。

・副作用はリチウム少ないが、食欲や嘔気など消化器系の副作用がみられる。まれな副作用には高アンモニア血症である。服用中に意識障害が生じた場合は、高アンモニア血症を疑う。

③カルバマゼピン(商品名 テグレトールなど)

・元々は抗てんかん薬である。躁状態に有効だが臨床研究は多くない。

・カルバマゼピンで問題となる副作用はスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)と白血球減少症である。

薬には症状との相性がある

・リチウム:気分が爽快になる。典型的な躁病の人によく効くと考えられている。

・ラモトリギン:うつ状態の予防に有効で、軽躁状態(双極Ⅱ型)にも有効とされている。

・バルプロ酸:不機嫌な躁病の人や混合状態が見られる人に有効だとされている。

・カルバマゼピン:若年で錯乱性躁病が見られる方に有効とされている。

薬の適合性を調べるような検査や方法は、今のところはないため、経験や試行錯誤で見つけていく必要がある。

・二種類、三種類の気分安定薬を併用する場合も少なくない。

非定型抗精神薬

①クエチアピン(商品名 ビプレッソ)

・双極性障害のうつ状態に有効な薬はあまりないのが実情であるが、注目が高まっているのは、非定型抗精神病薬である。その中で最も定評があるのは、クエチアピンである。

・クエチアピンはうつ状態だけではなく、予防効果も報告されており、さらに双極性障害の躁状態にも有効であることが臨床試験で認められている。

・日本では2017年に保険適用になった。

・クエチアピンの最も多い副作用は眠気である。

②オランザピン(商品名 ジプレキサ)

・躁状態への効果と予防効果がある。日本では2010年に認可された。また、2012年には双極性障害のうつ状態にも有効であることが分かった。

・体重増加や糖尿病誘発のリスクがあり、血糖値を測り糖尿病に十分な注意を払う必要がある。

③アリピプラゾール(商品名 エビリファイ)

・非定型抗精神病薬にはドーパミンを阻害する作用があるが、アリピプラゾールはある程度しか阻害しないため、パーキンソン症状という副作用を抑制することができる。さらに、ドーパミンが多すぎれば阻害し、少なければドーパミンを刺激する作用があると言われている。

定型抗精神病薬

①ハロペリドール(商品名 セレネースなど)

・古くからある定型抗精神病薬の中で、最も代表的なものである。

・躁状態に対する効果および幻聴、妄想などの精神病症状に対する効果がある。

・副作用はパーキンソン症状である。また、ジストニア、アカシジアと呼ばれる副作用もある。これらの副作用には抗パーキンソン薬が有効である。

・副作用が多い薬だが、静脈注射、筋肉内注射などによって即効性が期待できるため、しばしば使われている。

②レボメプロマジン(商品名 ヒルナミン、レボトミなど)

・定型抗精神病薬の中でも、最も鎮痛効果が強い薬である。

・パーキンソン症状はあまり見られず、心電図異常、血圧低下など自律神経への副作用がある。

③クロルプロマジン(商品名 コントミンなど)

・最初に開発された抗精神病薬である。

④スルトプリド(商品名 バルネチール)

・躁状態の薬だが、パーキンソン症状が強くやや使いにくい。

⑤ゾテピン(商品名 ロドピン)

・定型抗精神病薬の中では、躁状態に対してよく使われた薬の一つ。鎮痛作用が強く、誇大性や気分高揚などの中核症状によく効くが鎮痛作用には個人差が大きいため用量設定が難しい。

・副作用は痙攣を誘発することがある。

抗うつ薬と自殺念慮

抗うつ薬は、24歳以下の方が服用した場合、自殺のリスクを増やす可能性があるので、リスクと効果を考慮して使うかどうか判断する必要がある。

抗うつ薬で焦燥感が強まる場合、うつ病ではなく双極性障害の可能性がある。

抗不安薬

・双極性障害には抗不安薬も使われる。ベンゾジアゼピン系と呼ばれ代表的なものには、ジアゼパム(商品名 セルシン)とかロラゼパム(商品名 ワイパックス)といった薬がある。これらの薬は抗不安薬、抗痙攣薬、催眠作用、鎮痛作用、筋弛緩作用といった様々な作用を持つ薬物群である。

甲状腺ホルモン剤

・急性交代型という年間4回以上の躁やうつを繰り返すような人に有効であると言われている。ただし、量が多すぎると甲状腺機能亢進状態が懸念される。

双極性障害1

双極性障害は、躁うつ病と呼ばれていた病です。この双極性障害はうつ病とは似て非なる病気で、その経過も薬も全く異なるということを専門学校で学びました。つまり、もし、うつ病と双極性障害の診断が間違っていたとすれば、いつまでたっても病は治らず、悪化させてしまう可能性もあるということです。

もちろん、私は医師ではないので診断はできません。しかし、双極性障害とうつ病の違いを少しでも理解することは有益であり、勉強して最低限の知識はもつべきと考えます。

このように考える背景には、うつ病の既往やうつ症状ではないかとご心配される患者さまは稀ではないという印象があるためです。その時、頭をよぎるのは「双極性障害の可能性は全くないのか」という懸念です。とはいうものの、今まで手つかずにやってきたのですが、今回、一冊の本を買い求めました。

著者:加藤忠史

発行:2019年6月

出版:ちくま新書

はじめに

第一部 対処と治療

第一章 なぜ躁うつ病は双極性障害となり、双極症に変わるのか

第二章 双極性障害(双極症)とは

1 双極Ⅰ型障害(双極症Ⅰ型)

2 双極Ⅱ型障害(双極症Ⅱ型)

3 さまざまなうつ病

4 小児思春期の双極性障害

第三章 社会生活を妨げてしまう双極性障害

1 双極性障害による社会生活の障害

2 立場によって受け止め方が違う双極性障害

3 受診する時

4 復職

5 自殺の予防

6 双極Ⅱ型障害

第四章 双極性障害の治療

1 薬物療法

2 ECT(電気けいれん療法)

3 反復性経頭蓋磁気刺激療法(γTMS)

4 ケタミン

5 心理教育

第五章 症例

第六章 双極性障害とつき合うために

第二部 Q&A

 症状・経過・診断について

 治療・社会復帰について

 原因について

 その他

 年輪の会講演会から

 年輪の会講演会での質疑応答から

 参考文献

 おわりに

第一部 対処と治療

第一章 なぜ躁うつ病は双極性障害となり、双極症に変わるのか

もともとは躁うつ病とよばれていた双極性障害

・双極性障害は「躁うつ病」という病名でよく知られていた病気である。

・躁うつ病は統合失調症と並び、二大精神疾患とよばれてきた。

・躁うつ病という病名は、「うつ病」を含めて使う場合もあったため、混乱を招いていた面もあった。

「躁うつ病」と「うつ病」は経過も処方する薬も全く異なる。

・躁うつ病のうつ状態とうつ病のうつ状態がきちんと区別されず、同じ治療が行われる場合があった。

躁うつ病は躁とうつの再発を繰り返す病気だが、その認識が乏しく1回ごとの躁状態やうつ状態が、断片的に躁病、うつ病と診断されてしまい、長期的な展望を持って治療をするということが行われなかった。

・うつ状態にも多くの概念が混在していた。「内因性うつ病」「心因性うつ病」「荷下ろしうつ病」「引っ越しうつ病」「退行期うつ病」「抑うつ神経症」など、数えきれないほど色々な診断名が使われていた。

・病院、担当医によって、病名も異なり治療もバラバラだった。ただ、これは躁うつ病、うつ病に限ったことではなかった。

混乱を解決するために作られた診断基準

・アメリカ精神医学会は精神疾患一つひとつに対して、操作的診断基準を作った。これは、どのような症状が何日間続いたら何病と診断するという基準を具体的に定めたもので、DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)と呼ばれている。

もうひとつの診断分類ICD

・ICDは精神疾患の分類や統計の目的で、WHO(世界保健機関)が作ったものであるため、行政ではこの分類を用いることになっている。しかしICDは、病名判断の明確な基準がないため、医師の間で診断がばらつくという問題はなくならない。

DSMが提案したこと

・躁状態を躁病と診断されないように、躁病エピソードと呼ぶことにした。また、うつ状態に関しては3つに分けた。

①脳梗塞や甲状腺機能障害といった、はっきりとした身体的要因があるうつ状態

②薬剤などの物質による原因がはっきりしているうつ状態

③上記①②以外のうつ状態

③のような原因不明だが薬物療法が必要なうつ状態を「抑うつエピソード」と呼ぶことにした。この抑うつエピソードだけ起こる病気が、大うつ病性障害と呼ばれている。

躁病エピソードと抑うつエピソードを伴う病気を双極性障害(この場合正確には双極Ⅰ型障害)と呼ぶ。

DSM導入以降の日本の状況

日本でのDSM診断基準の浸透度は心もとない状況である。特に「抑うつエピソード」という考え方は定着したとはいえない状況である。その結果、うつ状態という言葉が、DSMが定めた通り「抑うつエピソード」を指しているのか、抑うつエピソードの基準を満たさない軽いうつ状態も含めるのかが曖昧になっている。

・DSM-5からは、うつ病といえば身体的要因が特定できない、抑うつエピソードを有する大うつ病のことを示すとされた。なお、他の医学的疾患による抑うつ障害は○○性うつ病、○○病のうつ状態と表記される。 

第二章 双極性障害(双極症)とは

双極性障害にはⅠ型とⅡ型がある

・DSMは改訂第4版にあたるDSM-Ⅳから、双極性障害は「双極Ⅰ型障害」と「双極Ⅱ型障害」に分類された。そしてICDでもICD-11から、双極症(双極性障害)は、「双極症Ⅰ型(双極Ⅰ型障害)」と「双極症Ⅱ型(双極Ⅱ型障害)」に分類されることになった。

双極Ⅰ型障害:入院が必要な重度の躁状態とうつ状態を繰り返すもの。

双極Ⅱ型障害:明らかに高揚した躁状態ではあるが入院を必要としない「軽躁状態」で、うつ状態を繰り返すもの。Ⅰ型とⅡ型は躁状態の程度で判断される。

診断基準によって増加した双極性障害

・DSM-5の躁状態の診断基準は、躁状態が7日間毎日続くことになっている。

・軽躁状態の診断基準は軽躁状態が4日間続くことになっている。

双極性障害は過剰診断?

躁うつ病と呼ばれていた病気は、現在の双極Ⅰ型障害であり、それに加えて双極Ⅱ型障害が定義されたため、双極性障害の全体数は多くなっている。特にこの傾向は米国で顕著である。

日本では過小診断と過剰診断が混在

・過小診断とは双極性障害に対する認識や理解不足により、医師はうつ状態に注意や関心が向きやすく、一方、患者も躁状態について話すことが少ないため、正しくは双極性障害にも関わらずうつ病として診断されてしまうことである。それにより不適切は抗うつ薬を処方され、状態は悪化する。

・過剰診断の一つのパターンは、パーソナリティーの問題などを双極性障害と診断してしまう場合である。双極性障害のうつ状態というのは、何かあった時に落ち込むとか、何かあると怒るといった周囲の環境に対する反応ではなく、何も理由がないのに2週間以上毎日気分が落ち込んだままである、という一定の長さを持つエピソードである。躁状態も同様に、何の理由もないのに1週間以上、毎日一日中気分が高揚している状態が続くというエピソードである。

うつ状態も躁状態も、この数年間に何回あったと数えられるような、長く続くエピソードである。

・近年では特に躁状態も軽躁状態もないのに、光トポグラフィー検査の結果だけによって双極性障害と診断してしまうという過剰診断のケースもみられる。

1 双極Ⅰ型障害(双極症Ⅰ型)

躁状態

・人生や家庭が破壊されかねない激しい躁状態である。

躁状態は少なくとも1週間以上続き、その間、一日中ずっと気分が高揚したままの状態が続く。

・非常に高揚した気分、自分がとても偉くなったような気分を感じ、夜も寝ず、声が嗄れるまでしゃべり続けたり、じっとしていることができず、一晩中、一日中動き続けるが、その疲れを自覚できずに身体は消耗していく。

・必要のないものや高級品を買いあさり、借金してしまうこともある。

・気が散って集中できず、思い通りにならないとたとえ上司であっても激しく攻撃してしまい、職を失ってしまうようなこともある。

・酷くなると、幻聴や誇大妄想を伴うこともあり、錯乱状態まで進む場合もある。これを錯乱性躁病と呼ばれている。

うつ病態(抑うつ状態)

双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害は、躁的な状態には大きな違いがあるが、うつ状態には大きな違いはない。

うつ状態とは、抑うつ気分、そして興味・喜びの喪失、この二つの症状が中核症状である。

<抑うつ気分>

・形容しがたい嫌な気分が逃れようもなく、一日中そして何日も続くものである。

抑うつ気分は、やる気がないとか意欲が出ないという、あるべき意欲がないのではなく、普段あるはずのない筆舌に尽くしがたい、うっとうしい気持ちが襲ってくるというものである。

・『うつ状態の患者さんに、「三カ月くらいで治りますよ」と言うと、治るはずがない、と言うと、治るはずがないとおっしゃるかたもおられますが、中にはその言葉をある種の光明のように思う人もいます。抑うつ気分の時というのは、辛い気分が、まるで永遠に続くかのように感じられる状態なので、三カ月という普通なら長い期間でも、この状態にも出口があるのだと捉えられるのかもしれません。』

<興味・喜びの喪失>

興味喪失とは、すべてのことに関してまったく興味をもてなくなる症状をいう。

・悲しいことに、自分の家族を愛する気持ちも喪失してしまうことがあり、さらに自分を責めてしまう。

喜びの喪失とは、何をしても、何も見ても、嬉しい楽しいという感情が全く湧いてこないこと。

うつ状態の診断

うつ状態の診断では、まず抑うつ気分と、興味・喜びの喪失という二つの中核症状のうち、少なくともどちらか一方が、一日中、毎日、二週間ずっと存在しているかどうかを確認する。

・中核症状に加え、以下に紹介する4つの身体症状と、5つの精神症状の計9つの症状のうち、5つ以上が、一日中、二週間以上、毎日出てきていることが確認された時に、うつ状態(抑うつエピソード)と診断する。

うつ状態の妄想

・うつ状態も酷くなると妄想が出てくる場合があるが、多いのは貧困妄想、心気妄想、罪業妄想の三つである。

<貧困妄想>

・根拠もないのに破産した、お金がないなどと信じ込んでしまう妄想である。この妄想のために入院を勧めても「お金がないから……」と断わったり、借金取りが来るなどと恐れてしまったりする。

<心気妄想>

・自分が重い病気に罹ったと信じ込んでしまう妄想である。医師や周囲の人の言葉を信じることができない。

・中には内臓がなくなってしまうという否定妄想に加え、大変な病気のために死ぬこともできず、永遠に生きなければならないという不死妄想が見られる場合を、コタール症候群という。

躁にもうつにも起こり得る昏迷状態

・うつ状態あるいは躁状態が激しくなると、昏迷状態といって、しゃべることができなくなり身体が硬くなってしまう症状が現れることがある。特に酷い場合は、不自然な姿勢で静止したまま固まってしまうこともあり、このような状態は緊張病状態と呼ばれている。このような緊張病状態が出てくると、多くの医師は統合失調症を疑うが、双極性障害にも出るので注意を要する。

混合状態

<躁転・うつ転に伴う「混合状態」>

うつ病態から急激に(数日間で)躁状態に変わることを躁転と呼ぶ。躁転の経過中には、気分はうつなのに行動は活発になるような、うつ状態と躁状態の症状が入り混じって現れる混合状態になる時がある。

躁状態からうつ状態に変わる場合は、うつ転と呼ばれこの時にも混合状態になることがある。

<通常とは違う躁状態・うつ状態の特徴を表す「混合状態」>

混合状態では行動が非常に多くなって、しかも自殺念慮(自殺したいという気持ち)が強くなってしまうことがあり、うつ状態よりもさらに自殺の危険が高い状態といわれている。

2 双極Ⅱ型障害(双極症Ⅱ型)

Ⅱ型はⅠ型の躁状態にくらべ、軽度な軽躁状態とうつ状態を繰り返すものである。

軽躁状態とは

・躁状態は入院させたいほどの重度な状態に比べ、軽度な躁状態のものである。例えば、気分が高揚し仕事がはかどり、いろいろなアイデアが湧いてきて調子が良いという状態であり、病気と感じられるものではない。

重要なことは、周りの人から見るといつものその人と全く違うと感じるものである。また、気分が高揚する状態は、一日中、少なくとも4日以上続くのが特徴である。

・軽躁状態では、本人には病気の自覚は全くないため、うつ状態になった時に初めて異変を感じるものである。

うつ病にしか見えない双極Ⅱ型障害

双極Ⅱ型障害の軽躁状態を本人が自覚するのは困難なため、双極Ⅱ型障害の患者さんのほとんどは、自分をうつ病だと考えている。家族においてもほぼ同様な認識である。したがって、軽躁状態を見分けることが、うつ病の治療において最大のポイントになる。

なぜ双極Ⅱ型障害とうつ病を区別しなくてはいけないのか

再発のリスクが高い双極性障害

・うつ病の頻度は海外では15%、日本では7%位と言われている。

・双極Ⅰ型障害は欧米では約0.8%、双極Ⅱ型障害を含めると2、3%になると言われている。一方、日本では合わせて1%弱と言われており、欧米に比べると少ない。

・重要なことは、うつ病と双極性障害の発症頻度には大きな違いがあるにも関わらず、ある統計ではうつ状態で来院されている患者さんの20~30%が、双極性障害だという点である。この主な要因はうつ病に比べ、双極性障害ではうつ状態の再発が多く、非常に長い経過をたどるという特徴を有しているためである。

・うつ病ではうつ状態の回復が治療目標になるが、双極性障害の場合はうつ状態と躁状態(軽躁状態)を繰り返すことが続くため、再発防止が治療目標となる。

治療に用いる薬も違う

・双極性障害のうつ状態と、うつ病を区別しなければならないもう一つの理由は、治療薬が異なるということである。

うつ病のうつ状態には抗うつ薬を処方するが、双極性障害のうつ状態には抗うつ薬は効きにくく、躁転を誘発するおそれがある。

双極性障害の場合には、再発予防を目的とするリチウム、ラモトリギンなどの気分安定薬や、非定型抗精神薬を使う。

初めてのうつ状態では、「うつ病」と診断される

うつ病か双極性障害の診断は病歴、以前躁状態や軽躁状態になったことがあるのかを聞くことである。特に重要なことは自覚的なものだけでなく、行動の変化などの客観的な変化を詳しく聞くことである。

例えば、「今までに一週間くらい、毎日、一日中気分が高揚して、眠らなくても平気で頑張れた時はありましたか?」などの質問をする。

・難しいのは、その患者さんの初めての病相が躁状態、軽躁状態ではなく、うつ状態から始まった場合はであり、このケースでは区別することはできない。

・双極Ⅰ型障害では、最初の病相がうつ状態で発症するのは50%位である。

双極Ⅱ型障害では、軽躁状態が最初に出ても自分で病気を疑うことはまれであり、うつ状態で受けることになるためうつ病と診断される。治療を進めながら経過をみていくうちに、躁状態や軽躁状態が認められれば、そこでうつ病から双極性障害に診断が変更される。また、患者さんや医師の理解不足が原因で双極性障害がうつ病と診断されてしまうこともある。

アメリカの研究データでは、双極性障害の啓発が進んできたため、最近の研究では短くなったとはいえ、病名確定に4年かかるといわれている(昔は10年と言われていた)。これでも大変な時間を要するが、現状ではこれが実態である。

3 さまざまなうつ病

メランコリー型うつ病

・以前は内因性うつ病と呼ばれていたもの。主な症状は、動作がゆっくりになってしまう症状、すべてのことに興味を失ってしまう症状、朝具合が悪く夕方に緩和されるという症状、罪責感などが特徴である。

非定型うつ病

・最近急激に増えているタイプのうつ病である。

・抑うつ気分がある中で、良いことがあると気分が少しよくなる等、気分が変化しやすいこと、対人関係で過敏になりやすいという特徴がある。また、過眠や過食もみられる。

・このタイプは不安障害やパーソナリティー障害を伴うこともあり、幼少時の不遇な環境や虐待との関係が指摘されている。

双極スペクトラムうつ病

・これは将来躁状態になって双極性障害と診断される可能性のある予備軍ともいえるものだが、まだ十分な実証が得られていないため、DSM-5には含まれていない。しかし、親や兄弟姉妹などに双極性障害を持つ人がいる場合や、双極性障害に多く見られる特徴(精神病症状があること、発症年齢が若いこと、非定型型うつ病症状を伴うこと、病相の回数が多いこと、抗うつ薬が効きにくいことなど)が多数見られる場合は、双極性障害への進展に注意が必要である。

季節性うつ病

・DSM-5では「うつ病、季節型」と記載される。これは主に冬に多く、冬の日照時間が少ない高緯度地方に多くみられる。

・一般的なうつ病の特徴は不眠や食欲低下などであるが、この病気は過眠や過食といった症状が特徴である。

・この季節性うつ病は、朝方2時間くらい強い光を浴びる光療法が有効である。

血管性うつ病

・75歳以上の多くのうつ病の患者さんには、脳梗塞の跡が見つかる。普通の75歳以上でも潜在性脳梗塞は見られるが、その頻度は明らかにうつ病患者さんの方が多い。

・脳梗塞とうつ病の因果関係(どちらが原因かはっきりしていない)などもあり、DSM-5には含まれていない。

4 小児思春期の双極性障害

小児思春期の双極性障害は存在するのか

・米国(特に北米)では、「小児双極性障害」に関する論文が提出されているが、懐疑的な意見の学者も多い。

神経-血管-グリア・ユニット

前庭性片頭痛は、難治性めまい患者にしばしば見られる疾患といわれています。脳内炎症が疑われ、神経-血管-グリア・ユニットが関係しているらしいということが分かりました。

調べたところ、医学雑誌の『実験医学』のバックナンバー、2013年9月号 Vol.31 No.14で、神経-血管-グリア・ユニットが特集されていました。タイトルは“特集 Neurovascular Unit 神経-血管-グリアのユニットが脳と体を支配する”です。

私の知識では太刀打ちできないことは分かっていましたが、そうは言っても、何か得るものもあるだろうと思い、購入することにしました。

特集企画:荒井 健

発行:2013年9月

出版:羊土社

特集の各寄稿は以下の通りです。

画像出展:「実験医学 2013 vol.31 NO.14」

予想通り、私にはこれらの内容を理解することはできませんでした。唯一、出来そうなのは、神経-血管-グリア・ユニットの要点を書き出すことです。

取り上げた3つの図表は、最初の『概論―Neurovascular Unit:脳内の細胞間クロストークを理解するための概念的枠組み』と、2番目の『Neurovascular Unitという概念でとらえる脳卒中の病態』に掲載されていたものですが、ブログはこの二つの寄稿をミックスした形でまとめています。

はじめに―Neurovascular Unitの誕生

・『2001年に開催された米国NIHのStroke Progress Review Groupでは、当時の脳卒中研究の状況を評価し、今後どのような方向に研究を進めるべきかが議論された。その当時、脳卒中後の神経細胞における興奮毒性・酸化ストレス・アポトーシス経路などの病態メカニズムが解明されつつあったが、脳卒中治療薬としての神経細胞保護薬は存在していなかった。なぜ多くの神経細胞保護薬が臨床試験で効果を示さなかったかに関する議論は数多くなされてきたが、特に重要なポイントは神経細胞という単一の細胞種にのみ着目するのは脳卒中治療として不十分であるという点であった。そのため、脳卒中治療は神経細胞の保護に限定せず、周囲の細胞をも含めた総合的な脳保護治療を考慮すべきであるとして、神経細胞・脳血管内皮細胞・アストロサイト・細胞外マトリクスからなる概念的な構成単位である「Neurovascular Unit」が提唱された。』

画像出展:「実験医学 2013 vol.31 NO.14」

Neurovascular Unitは脳卒中の病態をより正確に理解することを目的として2001年に提唱された概念である。この概念が提唱された当時、Neurovascular Unitの構成細胞は神経細胞、脳血管内皮細胞、アストロサイトだった。しかし現在では、ミクログリア、ペリサイト、オリゴデンドロサイトもNeurovascular Unitの構成細胞とみなされている。」

・『Neurovascular Unitの概念が強調する点は、異なる細胞同士の相互作用が脳機能の維持に必要であり、脳疾患においては神経細胞を保護するだけでは正常な脳機能を保てないということにある。歴史的にみると、Neurovascular Unitの概念が誕生する前からも、脳神経細胞以外の細胞の状態の悪化が脳疾患の病態と深くかかわることは議論されてきた。例えば、“more than just neurons”というアイデアは、1971年にIssidoresらがパーキンソン病の研究で報告した論文のなかにもみられる。また、血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)におけるアストロサイトと血管内皮細胞の相互作用に代表される“脳内における異なる細胞間相互作用の重要性”は、脳研究の分野において常に大きな研究トピックスであった。そのようななか、Neurovascular Unitという概念が誕生し、脳組織における異なる細胞間相互作用の重要性が改めて脚光を浴びたことで、脳卒中をはじめとする種々の中枢系疾患の病態を解明するための研究が劇的に加速した。

1.Neurovascular Unitの構成細胞

・Neurovascular Unitの概念が提唱された当時、その構成細胞は神経細胞、血管内皮細胞、アストロサイトと考えられていたが、その対象は広がり、ミクログリア、血管周皮細胞(ペリサイト)、オリゴデンドロサイトなどが加わった。

・近年では、Neurovascular Unitの機能に対して脳実質の外側(脳血管を流れる血液中)の因子が影響を与えることも示されている。

1)脳血管内皮細胞

・脳血管内皮細胞はNeurovascular Unitの中でも特に興味深い細胞である。血管内皮細胞と神経細胞の間の微小環境は、成体脳における血管新生および神経新生の場として大きな注目を集めている。

2)アストロサイト

・アストロサイトと脳血管内皮細胞のクロストークは、Neurovascular Unitの概念が提唱される前から精力的に研究が行われおり、例えば、脳血流の調節とも深く関わっていることが分かっている。

3)オリゴデンドロサイト

・Neurovascular Unitの研究は、今まで、灰白質について論じることが多かったが、白質も脳機能において灰白質同様、とても重要な役割を担っている。

4)ミクログリア

・ミクログリアはNeurovascular Unitを構成する細胞の中で他とは違う特色を有している。

・ミクログリアは脳内における免疫反応を担当し、脳卒中などの障害時に活性化し周りの細胞に悪い影響を与える。しかし、その活性化状態の違いにより、周りの細胞に良い作用を及ぼすこともある。一方で、周囲の環境がミクログリアの活性化状態を左右することも明らかになりつつある。

・ミクログリアのNeurovascular Unitへの影響は未だ不明な点は少なくない。

画像出展:「実験医学 2013 vol.31 NO.14」

 

補足.Neurovascular Mediatorについて

1.MMP-9:マトリックスメタロプロテアーゼ-9は、細胞外基質のコラーゲンやゼラチンなどを分解する酵素であり、組織の再生・分化などにおいて重要な役割を果たしている。一方で、組織内のMMP-9の過剰生産はがんの転移や動脈硬化の進展にかかわることが明らかになっている。

2.BBB:blood-brain barrier(血液脳関門)

3.VEGF:血管内皮増因子は、血管新生やリンパ管新生、胚形成の脈管形成に関与する糖タンパクのサイトカインである。

4.HMGB1:細胞局在によって異なる役割をもつ多機能性タンパク質である。がん細胞においては、細胞内に局在するHMGB1はゲノムを安定させる抗腫瘍タンパク質として作用し、細胞外に放出されたHMGB1は免疫機能をもつ前腫瘍タンパク質としての働きをもつ。

5)末梢循環細胞

・2001年にNeurovascular Unitの概念が提唱されたとき、影響範囲は脳内に限定されると考えられた。しかし、現在では血液中を流れる末梢循環細胞が脳卒中後の脳機能回復に寄与しうることが明らかになりつつある。

6)末梢神経における神経-血管相互作用

Neurovascular Unitは日本語では神経血管単位(もしくは神経血管ユニット)と訳される。末梢組織における神経細胞と血管系の相互作用については最新の画像診断装置を用いて研究が進められている。

2.Neurovascular Unitの動的な側面

・Neurovascular Unitの概念が提唱されてから現在まで、一貫して変わらないのは脳卒中に対する効果的な治療方法を探ろうという目的である。そして、考慮すべき点は、Neurovascular Unit内の環境が状況に応じて変化しうるということである。

Neurovascular Unitの構成細胞は環境に応じて異なった性質を示すことがある。例えば、アストロサイトは障害後には、反応性アストロサイトとなり回復期の神経新生を抑制する。しかし、一方では最近の研究により、反応性アストロサイトは失われた脳機能の回復を促進することもわかってきた。

・オリゴデンドロサイト前駆細胞は、障害により失われたオリゴデンドロサイトを補填するために自らオリゴデンドロサイトへと分化することで脳機能の回復に寄与しているが、その一方で、この前駆細胞は障害後の急性期には、悪性因子を遊離して周囲の環境を悪化させることが報告されている。

・Neurovascular Unit内において、細胞同士の連携は栄養因子やサイトカインなどの液性因子を介して行われることが多い。

・表のNeurovascular Mediatorにも挙げられている、MMP-9、VEGF、HMGB1には興味深い共通の性質がある。その性質とは作用の二相性であり、障害後の急性期に脳障害をひき起こす因子が、回復期には逆に脳組織・脳機能の修復に寄与するというものである。例えば、Neurovascular Unitを構成する細胞外マトリクスを分解する酵素の一種であるMMP-9は、脳卒中急性期ではBBB(血液脳関門)の破綻をひき起こすが、一方で回復期には血管新生および神経新生に関わっている。

表に挙げたNeurovascular Mediatorを理解することは非常に重要である。なぜならば、急性期に障害性を示す物質を阻害する薬剤を投与したとしても、もし、その薬剤の効果が回復期にまで及んでしまうと、内因性の修復機構を阻害する恐れがあるからである。

3.Neurovascular Unitの成り立ちと構成

・『1990年代の10年間はそれ以前に比して、格段に脳卒中の理解が高まった時期であった。多くの大規模臨床試験が画策され、MRIをはじめとする画像診断が格段に進歩し、脳虚血における血行動態や分子レベルの変化が明らかになってきた。そして、米国で1995年に許可されたrt-PA静注療法は、脳梗塞治療に画期的な進歩をもたらした。しかし、主に発症早期の投与という時間的に限定された条件から対象症例は伸び悩み、脳梗塞治療に閉塞感が漂いはじめた。

これに対して、虚血早期に生じるカルシウムイオンの過度の流入がニューロン細胞死や障害につながるため、そのイオンチャネルを阻害する薬剤を中心に神経保護薬が多く開発された。それらは脳梗塞のモデル動物ではニューロンの虚血障害を軽減したが、脳卒中患者では有益な効果を示すことはできなかった。この神経保護薬の失敗によって、脳虚血の病態の複雑さと虚血の影響はニューロンだけでなく他の細胞にも及ぶことが改めて認識された。そのため、ニューロン単独の挙動にとらわれるのではなく、ニューロン以外の細胞やそれら細胞とニューロンとの関係に焦点が移っていった。つまり、単独の細胞内シグナルのみならず、細胞間シグナリング、細胞と細胞外マトリクス間シグナリングの解明の重要性が高まってきたのである。NVUはそうした背景で出てきた概念である。

NVUという用語は、米国のNational Institutes of Neurological Disorders and Strokeでの会議で2001年にはじめて使用された。この用語は、脳内の細胞間相互作用の様子を概念的に示したものであり、NVUの概念に基づいた研究から得られた知見は、脳卒中の病態解明を一気に進めた。NVUの概念が提唱されてから10年が経過し、今では脳卒中だけでなく他の神経変性疾患の研究にもNVUの概念が用いられるようになってきた。

NVUは大きく分類すると3種類の細胞群と細胞外マトリクスから構成されている。細胞群はニューロン、血管系細胞(血管内皮細胞、周皮細胞[ペリサイト]と血管平滑筋細胞)およびグリア系細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイトとミクログリア)である。これらをつないでいるのが、各種の成長因子、サイトカイン、ケモカインといった液性因子や細胞外小胞である。これらの細胞群は細胞同士の直接的コンタクトのみならず、液性因子を介して細胞間あるいは細胞と細胞外マトリクス間で間接的にシグナルをやり取りしていると考えられ、これらを含めて1つの概念的ユニットを形成している。さらに、脳虚血では末梢血液成分である単核球のような白血球系細胞や血小板なども病巣にかかわってくるため、これらもNVUに含めるという考えもある。より効果的な血流再灌流、神経保護や機能回復をめざすために、これらNVU構成要素の相互関係に着目することが重要である。』

画像出展:「実験医学 2013 vol.31 NO.14」

ニューロン、血管系細胞(血管内皮細胞、周皮細胞と血管平滑筋細胞)、グリア系細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイトとミクログリア)、および細胞外マトリクスから構成される。

補足.情報交換の方法

例えばニューロンの軸索とオリゴデンドロサイトの髄鞘、血管内皮細胞と周皮細胞のように直接細胞同士が接触することで情報交換をしている場合もあるが、細胞間のシグナル伝達を成長因子、サイトカイン、ケモカインや細胞外小胞を介して行っている場合も考えられる。これらを包括してNeurovascular Unitの枠組みとしてとらえる。

感想

とても難しい内容でしたが整理すると、神経細胞という単一の細胞種にのみ着目するべきではない。②NVU(神経血管単位・神経血管ユニット)はニューロンだけでなく他の細胞にも及ぶ。したがって、「単一の細胞腫でなく、NVUとして考えることが重要である」ということだと思いました。

体内時計と睡眠2

著者:大塚邦明

発行:2014年4月

出版:春秋社

目次は”体内時計と睡眠1”を参照ください。

4 現代人はなぜ眠るのに苦労するのか

パソコン、携帯、ネオンが与える影響

・2011年の国民健康栄養調査の報告によると、日本の総エネルギーは2003年より徐々に減少し、運動習慣は増加しているが、肥満も糖尿病も増えている。この原因は日本人の睡眠不足と不規則な生活が引き起こした生体リズムの乱れと考えられる。

・産業医科大学の久保達彦博士による、交替制勤務に従事する日本人の健康状態を調査したところ、交替制勤務を始めると血圧はすぐ上がる。糖尿病になるリスクは2倍、がんの罹患率も上がる。乳がんは1.5倍、前立腺がんは3倍である。

夜型人間は朝型人間になれない?

・一般的に夜型の人は、食欲、便通、睡眠に課題を抱えた人が多い。

・医学的にも早寝早起きで午前中から活動的な人を朝型、宵っ張りで午前中はぼんやりしていて、夜になるほど頭が冴える人を夜型と呼ぶ。

現代人は不健康?

・マウスの実験では、高脂肪食をいつでも摂取できるようにした環境では、肥満、脂肪肝、メタボリック症候群、血管の炎症などが見られるが、同じカロリーの食事にも関わらず、食事の時間を一定の時間帯に変更すると生体リズムが回復し不健康な症状が消失したということである。

女性の睡眠時間に異変あり

・日本人の睡眠は1976年から2011年にかけて、若い世代の睡眠時間には大きな変化はなかったが、45歳~85歳の中高年では1時間近く睡眠時間は減っており、性別では女性の方が減少している。

若返りの泉メラトニン

メラトニンは生体リズムを守る三要素のひとつであり、松果体から分泌される。また、睡眠を改善し、寝つきをよくするホルモンとして知られている。加齢とともに低下していくことから、「加齢時計」とも呼ばれている。

・メラトニン研究により、脳にある生体時計がメラトニンを作っている松果体を調節することで協同して働き、若返りや健康長寿をもたらしていることが分かっている。

・今では、メラトニンが不足してくると、心筋梗塞や脳梗塞が増えることが明らかにされている。

メラトニンは全身の血管に働きかけ、血圧を下げ夜の隠れ高血圧を改善する。また、心臓と心臓の血管に作用して、昼間に傷ついた部位を修復し脳梗塞を予防する。

メラトニンは骨に働きかけ、骨粗鬆症を改善する。

メラトニンは自律神経を調節し、免疫機能を賦活し発がんを抑える。そして、老化の速度を遅らせる。

・メラトニンの受容体に遺伝子異常があると、メラトニンの不足と同じように生活習慣病が現れることがわかってきた。

・メラトニンは生命の質を高める多彩な作用があり注目されている。

メラトニンは夜間に光にあたると分泌が抑制される。

-光に当たるのが1~2時間の場合、300ルクス(卓上電気スタンド位の明るさ)でもメラトニンの分泌に影響が出る。

-一晩中電気をつけている場合には10ルクス(ろうそくの灯りは8ルクス)の薄明りでも影響を受ける。

パソコンやスマートフォンで問題になっているブルーライトは、わずか8ルクスであっても、白色光の1200ルクス並みの悪影響を及ぼす。

睡眠時無呼吸症

深い眠りとともに分泌される成長ホルモンは、子どもの成長を促したり、昼間にダメージを受けた皮膚や粘膜を修復したりしている。

・時計遺伝子のビーマルワンは、エネルギー産生の効率を上げるためにいろいろな工夫している。

-胃や腸の細胞や組織に作用して、食べた物を腸から吸収する効率、吸収した食べ物を脂肪に変換する効率、そしてそれを脂肪組織の貯蔵する効率など、いずれも昼間よりも夜にその働きが高まるようにしている。

顆粒球やリンパ球などの白血球の働きを活発にして、免疫力を高め、隠れている病気を癒し未病を防ぐ。

・睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間いびきとともに無呼吸を繰り返す病気である。メタボリック症候群になったり、高血圧や糖尿病を悪化させる。この病気の深刻度は昼間の眠気の強さで計る。いくら眠ってもすっきり感がないとか、疲れがとれないという場合は無呼吸症候群を疑うべきである。

不眠によるトラブル

人間とショウジョウバエの時計遺伝子は、ほとんど同じ遺伝子を使って時を刻んでいる。

・『私たちは、北海道U町の人々を調査してみました。「昨日は、よく眠れましたか?」との質問に、188人のうち21%の住民が、「十分ではなかった」と回答しました。この188人を約5年間追跡調査したところ、よく眠れると答えた人の3倍、病気になりやすいこと、その結果、余命が短くなっていることがわかりました。

・『不眠は生活習慣病の源です。不眠になると自律神経が高ぶり、血圧が上がります。なかでも夜間高血圧が著しく、心臓病脳卒中が起こりやすくなります。不眠が重なると、昼間の眠気で活動量が減り、肥満になります。加えて、目覚めのホルモンといわれる副腎皮質ホルモンが増えます。このホルモンはやっかいです。健康なからだから分泌されるインスリンの働きを弱めるので、これが増えると糖尿病になりやすくなります。また骨を溶かす働きがありますので、骨粗鬆症にもなりやすくなってしまい、コレステロール値も上がり、動脈硬化が進みます。

・1989年、米国一般住民を対象に行われた調査では、不眠が1年間続くとうつ病になるリスクが40倍になるとのことである。

災害現場、避難所の報告から

・東日本大震災直後の調査によると、被災地の人々の約60%に不眠の症状が現れたが、なかでも仮設住宅で居住することを余儀なくされた人々にそれは著明であった。

5 眠りは変化する

成長と共に変化する睡眠

人間の睡眠は、リズムも質も一生のなかで変化している。

乳児の眠り

・胎児は妊娠28週くらいからレム睡眠を覚え、妊娠36週くらいからノンレム睡眠も経験し始める。

・出生まもない赤ちゃんは覚醒しているのは1、2時間で残りは眠っているが、この眠りのほとんどはレム睡眠である。8ヶ月くらいになると、睡眠時間は13時間くらいで、レム睡眠は眠りの1/3程度になる。

・胎児の生体リズムは24時間ではなく、7日(もしくは3.5日)のリズム性が大きい。24時間リズムが芽生え始めるのは、生後1ヵ月の頃になるが、まだ外の世界とは同調できないため時差ぼけのような状態である。これが生後3ヵ月くらいになると24時間リズムがだいぶ完成してくる。

幼児の眠り

・1歳から3歳は、体内時計の成長を促し、生体リズムを確立するために最も重要な時期なので、特に規則正しい生活と十分な休息が必要である。

・4歳から6歳は、睡眠習慣を身につけるために大切なときである。5歳頃から生体リズムにあった睡眠パターンが現れてくるため、この時期に早寝早起きを習慣化させておくことは重要である。

・午後早めの昼寝は、夜の睡眠を補うのに有効である。

・脳の老化には性差があり、男性は女性より1.5倍早く老化すると言われている。特に、左脳が早く萎縮していく。女性の老化が遅いのは脳梁とよばれる神経線維の束が大きく、左右の脳の情報交換はスムーズに行われ、右脳と左脳がバランスよく萎縮していくからである。

学童児の眠り

・5歳から12歳は、睡眠時間が11時間から8.5時間まで短くなり、昼寝もあまりしなくなる。眠りはノンレム睡眠が主体だが、深睡眠と呼ばれる睡眠深度4が長いのが特徴で、この眠りの中で学校で学んだ情報や知識を咀嚼している。

思春期の青少年の眠り

・12歳から18歳は、思春期であり、また成長期である。睡眠中に性ホルモンが増え性腺は成長する。

・成長ホルモンが多量に分泌されるとともに、眠りたい欲求が高まり、朝なかなか目を覚まさなかったり、週末に異常に長く睡眠したりすることが見られる。

社会生活をしている人の眠り

・20歳から40歳は、仕事や社会活動が日常の大半を占めるようになるため、不規則な生活になり生体リズムも乱れがちになる。起床時刻を一定にする努力が大切である。

・50歳から60歳は、そろそろ老化が始まる時期であり、眠っても疲れがとれない、途中で目が覚める、などの不眠症状が増えてくる。寝具の工夫も必要である。

中高年の眠り

壮年期に5人に1人といわれる不眠は、60歳を超えると3人に1人になる。

朝起きて光を浴びてから、約15時間後に眠くなるように体内時計はセットされてるため、朝5時に起床すると夜の8時には眠くなってしまう。

・高齢者の睡眠は深い睡眠やレム睡眠が短くなって、睡眠深度1か2が多くなる。要因の一つは光環境の変化である。家にいる時間が増え、光を浴びる機会が少なくなるので、メラトニンの分泌量が減る。

・高齢者独特の睡眠異常にレム睡眠行動障害がある。これはレム睡眠の仕組みが壊れてしまうために、金縛りの状態にならず夢の内容がそのまま行動に反映されてしまう。それにより、大声を出したり、襲いかかったり、蹴とばすなどの異常行動が出現する。

・むずむず脚も、貧血を合併する高齢者によく見られる睡眠異常である。また、似たような運動異常に、睡眠に伴う周期性四肢運動麻痺障害がある。

睡眠中のこむらがえりも多く見られる。60歳以上では3人に1人。80歳以上では2人に1人に見られる。原因は筋肉のエネルギー不足や酸素不足なので、温めること、マッサージすることは良い。筋疲労、水分不足、過度な飲酒などもきっかけになるので注意が必要である。

高齢者の不眠対策は、十分な日光と適度な運動が基本であり、心地よい疲れを感じることが大切である。睡眠時間は6時間程度、起床時間など生活のリズムを安定させることも必要である。

認知症の人の眠り

・認証症患者の80%の人に不眠症が見られ、行動異常やこむらがえり、、むずむず脚も多く見られるようになる。昼間にうとうとしていることが多いため、総睡眠時間はあまり変わらない。昼間の過眠症が認知症の原因ではないかという研究報告もある。

・血管性認知症は大きないびきと、睡眠時無呼吸症候群が多く見られるのが特徴である。

・アルツハイマー病では初期からメラトニンを作る松果体にいろいろな異常が現れてくる。特にパーワン、ビーマルワン、クライなどの時計遺伝子が少なくなり、発病前から生体リズムが乱れ始める。

メラトニンの分泌量は加齢ともに激減し、70歳を超えると思春期の10%以下に減ってしまう。日本ではラメルテオン(商品名ロゼレム)が市販されている。

6 よりよい休息のススメ

サマータイムの導入は是か非か

・サマータイムでは適応に約1週間かかるとされている。その間に体調不良や能率低下が指摘だれている。特にその傾向は夜型人間や短時間睡眠の人に見られ、諸外国に比べ短い睡眠時間の日本ではサマータイムは課題が多い。

長生きする人の睡眠

・高知県土佐町の691人、平均年齢81歳の高齢者を対象とした、2008年から2012年からの調査では、睡眠時間は8時間、起床は5時59分、消灯は21時58分だった。また、52%の人は毎日の運動習慣、49%の人は昼寝の習慣があった。

脂肪分のとりすぎは要注意

規則正しい食事は深い眠りを誘う。

栄養素では糖質とともに、メラトニンを作るトリプトファンを豊富に含むタンパク質とビタミンB6の摂取が有効である。トリプトファンは肉類、魚介類、乳製品、豆乳などに多く含まれている。ビタミンB6は、魚介類、大豆、納豆、のりに多く含まれている。

不飽和脂肪酸はメラトニンを増やすので、睡眠の改善に効果がある。

・ナッツなどに含まれるポリフェノールは時計遺伝子の仲間のサーチュインを活性化させる働きがある。

・脂肪分の多い食事は、眠気を強めるという特徴がある。また、過剰な脂肪摂取は、時計遺伝子の発現リズムを狂わせ、体内時計の働きを弱める。

タバコ、昼寝、寝酒は避けるべき?

喫煙は寝つきを悪くし、中途覚醒を増やし、眠っている時間を短くし、睡眠の質を悪化させるため体の疲れが残りやすい。タバコは快眠の大敵である。

・睡眠時無呼吸症候群になるリスクは非喫煙者の2.5倍である。

午後2時頃に現れる眠気に昼寝することは望ましい行為である。ただし、時間は15~20分。30分以上昼寝すると、起床後から蓄えてきた眠りのホルモン(睡眠物質)を使い果たすので、夜、眠れなくなってしまう。

不眠症の人は、もともと眠りのホルモンが少ないので、昼寝は厳禁である。

・アルコールは生体リズムを壊し、睡眠の質を悪くする。深い睡眠を減らし、体内時計の働きを弱め、時差ぼけ状態にしてしまう。

睡眠薬のメリット、デメリット

・『不眠症の原因は多様ですから、基本的に、不眠症=睡眠薬と安易に考えるのは誤りです。生体リズムの乱れが原因の場合は、朝の光を浴びること。夜の睡眠環境を整えること。朝食を抜かないことと規則正しい食習慣。これが改善策です。いびきや睡眠時無呼吸症が原因の場合はシーパック治療などの無呼吸対策が基本ですし、こむらがえり、むずむず脚や金縛り、夜間の胸やけ、動悸、胸の痛みがある場合は正しい生活習慣を心がけるだけでなく、治療することこそが肝要です。』

・現在の薬は副作用が少なく安心して服用できる。睡眠薬を必要以上に怖がらず正しく飲むという勇気も時には必要である。

子守歌の科学的効果

・子守歌の安眠を誘う効果には、心地よい音の調べがある。三週間、就寝前に45分間、リラックスするクラシック音楽を聞かすという実験では、脈拍が低下し睡眠の質を高める副交感神経が活性化した。また、母親のにおい、温かさ、満腹になっていることも眠りを誘い、質の良い睡眠につながる。

・眠りに落ちる前の赤ちゃんの手足が温かくなっていることは、多くの血液を手足にまわすことで、脳の温度を下げているからである。

大人でも昼食後、暖房の効いた電車に揺られていると、眠くなってしまうのは、加温によって手足などの末梢の血管が開き、体幹から熱が抜けていき、脳の温度が徐々に下がっていくためである。

腹時計を味方につける

生体リズムにとって朝、昼、晩の規則正しい食事のリズムが必須である。なかでも、朝食が重要で、できるだけ決まった時刻にとることが重要である。眠っている間に使い果たしたブドウ糖を補給する意味で、朝に糖質をとることは重要である。

・一般的に朝食が最も力強く体内時計を整える力を持っているのは、空腹の時間がながいためである。空腹の時間が長いほど、体内時計の調整力が強い。

・食事からくる栄養刺激として獲得した時刻情報は、インスリンや副腎皮質ホルモン、あるいは自律神経などを介して全身に伝わり、生体リズムの時計の針が調整される。

体内時計は効率よくエネルギーを生み出せるように代謝を調節している。ホメオスタシスは生体内や外界の環境因子などの変化にかかわらず生体の状態が一定に保たれる働きのことだが、時計遺伝子の一つであるレヴェルブαが、代謝のホメオスタシスを維持する仕組みの主役であるということがわかってきた。生体リズムを守るという点で、食事の持つ意味は重大である。

著出展:「眠りと体内時計を科学する」

寝る時刻、睡眠時間をどう考える?

・必要な睡眠時間には個人差がある。エジソンは4~5時間、アインシュタインは10時間以上とのことである。自分に必要な睡眠時間は就寝と起床の時刻を2週間記録にとり、その平均がその人の必要な睡眠時間である。

朝が勝負

朝の起床後にたっぷりと日射しをあびると、その約15時間後にメラトニンができあがるように生合成の準備を始める。夕刻なってできあがったメラトニンは、日が落ち、真っ暗闇になると、いっせいに血液の中に放出される。そして昼間はほとんどないサーカディアンリズムを示す。メラトニンは血流に乗って全身に運ばれ、からだの生理機能を高める。これが脳に働きかけ心地よい眠りを誘う。脳にある体温中枢に働きかけ、脳の温度を下げ、眠りにつきやすい環境を作る。

それでも眠れないときは

・人にとってどれくらい眠る時間が必要かを決めているのは、脳の松果体時計である。あまり眠れていないと感じても、日中の体調に問題がないなら十分な睡眠をとっているといる。必要な睡眠時間が満たされると、後は浅い眠りがだらだら続くだけなので神経質にならなくてもよい。

・入眠には脳に行く血流を少なくし温度を下げることである。そのために有効な方法は、ぬるめの湯にゆっくり入ることである。15分程度で汗が引き、体温も下がり始めるので、その頃に布団に入ると寝つきが良くなる。

・不眠から「今日も眠れないのでは」という不安が強くなったりイライラしたりするのは、条件不眠と呼ばれる不眠症である。この場合、遅寝早起きが熟睡感を高めてくれる対策になる。

・音楽であれ、香りであれ、あるいは瞑想やヨガのような軽い運動であれ、眠る前にリラックスすることが重要である。

・専門医の指導が必要だが、筋弛緩トレーニングや自律訓練法、バイオフィードバック法などもある。

・就寝4~5時間前からコーヒー・お茶、そして胃にもたれる食事は避ける。特にカフェインは約5時間も持続するので注意する。

習慣的に床に入る時間の2~4時間前の時間は、1日で最も眠りにくい時間帯である。早く寝ようとして、いつもより早く床についても、なかなか寝つくことができなのはこのためである。そのため、眠くなってから床にはいるのがよい。

前夜に何時に床につこうと、同じ時刻に起床することが、不眠対策の基本である。毎朝、同じ時刻に起床し、起床後に太陽光を浴びると、体内時計の針がリセットされ、からだのリズムが地球の自転のリズムに一致する。その日の夜には、タイミングのよい時刻に十分な量のメラトニンが分泌され、快適な眠りが得られる。

・目が覚めたらいつまでも床についていないようにするのも、不眠撃退には効果的である。

・昼間の眠気は、健康なからだから発信される睡眠不足のシグナルである、正午から午後2時、15~20分間であれば問題ない。

・昼間の眠気がひどく、週末に平日の3時間以上長く眠ってしまう場合は、要注意である。たっぷり休めているはずだと思っても、深い眠りが得られていないサインの可能性がある。

昼間の運動は、筋肉や胃腸で作られるメラトニンを増やす。30分程度の散歩や体操など汗ばむくらいの運動がよい。毎日規則正しく行う習慣をつけることが大切である。

・メラトニンは松果体だけでなく、小腸や胃、卵巣、精巣、脊髄、骨、筋肉、皮膚などでも作られる。そしてメラトニンの信号を受ける受容体は心臓、血管、肺、肝臓、腎臓など全身にある。運動すると、松果体以外の部位で、メラトニンが多く作られ、これが快眠につながる。

・血液中のメラトニンの濃度には、1日のリズムとともに1週間のリズムがある。朝に血圧は月曜日に高く、心筋梗塞や脳卒中の発症頻度も月曜に多いことが分かっている。木曜日も多いという報告もあるので、3.5日のリズムもあるようである。

おわりに―休息のプロフェッショナルになろう

・2011年には、睡眠健康推進機構が立ち上がり、健康増進のために睡眠に関する正しい知識を広めるのが目的である。年に2回の睡眠の日も制定された。春は3月18日、秋は9月3日である。各地で睡眠に関する市民講座を開設している。

感想

今回、良かったなと思うことは、“睡眠”について真剣に考えたという点です。

食事・運動・睡眠のうち、一番問題だと思っていたのは睡眠でした。特に時間のプレッシャーがない時でも、集中すると夜中の1時、2時までパソコンに向かってしまうことが多々ありました。通常は7時前後に起床しているのですが、寝るのが遅くなった日で、朝一番に予定が入っていない場合は、8時半ころまで寝ている日も少なくありませんでした。

この本を読んでからは、何とか夜の12時には床につき、寝る時間に関わらず、7時前後には起きるということを意識するようになりました。とにかく、重要なのは朝のようです。また、規則正しい食事もとても重要です。

問題は、この“意識”を長く持てるかどうかというところですが。。

体内時計と睡眠1

睡眠の問題というと、まず頭に浮かぶのは、睡眠時間や睡眠の質などの「眠れない問題」の睡眠障害です。一方、ナルコレプシーのような過眠症をお持ちの患者さまもおいでです。過眠症にはナルコレプシー以外に、特発性過眠症、反復性過眠症があります。

調べてみると、子どもの発達障害、特にADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉症スペクトラム)に、過眠傾向が多くみられることがわかりました。

画像出展:「子どもの発達障害がよくなる睡眠の教科書」

画像出展:「子どもの発達障害がよくなる睡眠の教科書」

画像出展:「子どもの発達障害がよくなる睡眠の教科書」

また、睡眠の問題はホルモンである“メラトニン”と“体内時計”が最も重要なのではないかと思い、見つけたのが大塚邦明先生の著書である『眠りと体内時計を科学する』という本でした。「これだ!」と思い発注しました。

著者:大塚邦明

発行:2014年4月

出版:春秋社

目次

はじめに

1 眠りと体内時計

●眠りのリズムは90分と12時間

●自律神経は嵐のごとく

●体内時計が眠りを誘う

2 時計遺伝子とは何か―人間は宇宙とシンクロしている

●時計遺伝子とは何か

●生体リズムの発見は「地動説」

●宇宙のリズムをコピーする

●体内時計は25時間周期

●太陰暦は理にかなっている

●太陽活動の影響

●出産明け方に多いわけ

●オーロラは魔女

●人間も磁気を感じている

●時差ぼけの仕組み

●体内時計の老化

3 眠りと夢

●夢見る時間

●レム睡眠との関係

●夢は現実を再現している

●なぜ夢を見るのか

●スピリチュアルな存在との邂逅

4 現代人はなぜ眠るのに苦労するのか

●パソコン、携帯、ネオンが与える影響

●夜型人間は朝型人間になれない?

●現代人は不健康?

●女性の睡眠時間に異変あり

●若返りの泉メラトニン

●睡眠時無呼吸症

●不眠によるトラブル

●災害現場、避難所の報告から

5 眠りは変化する

●成長と共に変化する睡眠

●乳児の眠り

●幼児の眠り

●学童児の眠り

●思春期の青少年の眠り

●社会生活をしている人の眠り

●中高年の眠り

●認知症の人の眠り

6 よりよい休息のススメ

●サマータイムの導入は是か非か

●長生きする人の睡眠

●脂肪分のとりすぎは要注意

●タバコ、昼寝、寝酒は避けるべき?

●睡眠薬のメリット、デメリット

●子守歌の科学的効果

●腹時計を味方につける

●寝る時刻、睡眠時間をどう考える?

●朝が勝負

●それでも眠れないときは

おわりに―休息のプロフェッショナルになろう

はじめに

・日本人の5人に1人は不眠に悩んでいる。

・地球の過酷な環境のため眠りの仕組みを作った。

1972年に体内時計が発見された。それは自律神経とホルモン調節の中枢である脳の視床下部に存在していた。

大塚先生は睡眠の研究を「こころ」の研究として始めた。そして、近年はフィールド医学という新しい学問体系に取り組んでいる。

脳と心臓とこころの関りの探求を極めるには、眠りの謎を解くことが近道だった。

1 眠りと体内時計

眠りのリズムは90分と12時間

・人間のからだの時計は、朝起きて15時間経つと眠くなるようにセットされている。

・朝の太陽光を浴びることで、その日の眠りの時計のスイッチが入る。

眠れない時間帯がある。それは朝の目覚めから12~15時間である。

・人間の眠りは90分がワンセットで、これを4、5回繰り返す。

1回目の眠りの時に最も多くの成長ホルモンが出る。

副腎皮質ホルモンは、4回か5回めの眠りの時にピークに達する。

・血管の健康を維持するエンドセリンは8時間のリズムが見られる。これは睡眠時間の周期と連携しつつ、血管の緊張のリズムを作りだしている。

・「人は血管とともに老いる」という古来の名言がある。

最も強い眠気は午前2~3時、また午後2時にも強い眠気度がある。

眠りの仕組みには生体リズム以外に、睡眠物質の働きもある。睡眠物質の代表は脳脊髄液のなかに増えてくるプロスタグランジンというホルモンである。

・病気になり発熱に伴って眠くなるのは炎症に関連して増えたサイトカインである。

・睡眠物質として明らかになっている物質は20余りあると考えられている。

自律神経は嵐のごとく

・夜、眠り始めるとともに、副交感神経の活動が高まり、朝、目が覚めるとともに交感神経の活動が高まる。

・眠りの1回のサイクルのなかで、まずノンレム睡眠があらわれ、レム睡眠(急速眼球運動を伴う睡眠)が続く。

・ノンレム睡眠は脳波3~4Hzの遅い波で、麻酔で眠っているときの脳波とそっくりである。

・睡眠後半はレム睡眠が主体になる。なお、1日で最も体温が低くなった頃にレム睡眠が力強く、そして長く現れるようになる。

・『みなさんは眠っているときに、からだがピクッとびくつく経験はありませんか? これはトゥイッチとよばれる現象です。何が起きても目が覚めない状態では、地震が来たり、大火事になったりしたとき、逃げおおせることができません。そこで脳は、トゥイッチを起こす伝令を何度も発信しているのです。「このまま睡眠を続けても、外敵に襲われる心配はないのかな?」と気配りをしている証です。これもレム睡眠の特徴の一つです。』

・レム睡眠は覚醒しているときの脳波に似ている。これは古い脳の大脳辺縁系が目覚めているためである。また、新しい脳の中では視覚などを担う後頭葉が目覚めている。

レム睡眠は、脳波は覚醒しているときに近いものの、筋肉は弛緩し音もほとんど入ってこない感覚遮断に近い状態である。また、もう一つの大きな特徴は自律神経が不安定になっており、交感神経が興奮したかと思うと、それに反発するように副交感神経の興奮が高まったりする。医師の言葉では、これを「自律神経の嵐」と呼んでいる。発作性の不整脈や夜間狭心症が誘発される危険もあるので、このタイミングは特に注意が必要である。

体内時計が眠りを誘う

脳にある体内時計は、主としてレム睡眠に働きかけている

・レム睡眠の時に見られる、金縛り、トゥイッチ、特徴的な速い眼球の動き、そして自律神経の嵐には、いずれも明瞭なサーカディアンリズムがある。サーカディアンリズム(概日リズム)とは、一日周期のリズミカルな変動を指す医学用語である。

・眠りを誘うホルモンとして有名なメラトニンのリズムも体内時計が作りだしている。

2 時計遺伝子とは何か―人間は宇宙とシンクロしている

時計遺伝子とは何か

地球上の生物は、バクテリアから深海魚にいたるまでみな、時計を持っている。生物は地球の自転に精確に似た仕組みを未来を予測する手段として体内に作り出している。

・光合成に頼っている植物は最も多くの時計を持っている。青を感知する時計、緑を感知する時計、赤を感知する時計などを用いて、夜明けが近づくと少しの太陽光を逃すまいと、暗いうちにもかかわらす光合成の準備を開始する。

・生物が急激に多様化した約5億5000万年前のカンブリア紀以前に、すでに体内時計の仕組みを身につけていた。

・体内時計をつかさどるのが時計遺伝子である。

生体リズムは、6個の時計遺伝子によって作られている。それらは、ピリオド遺伝子(パー1、パー2)、クリプトクロム遺伝子(クライ、クライ2)、クロック遺伝子、ビーマルワン遺伝子。

時計遺伝子は、脳だけでなく、肝臓・腎臓・心臓・血管など、からだのほとんどの細胞に存在する。脳の時計が親時計で、臓器や皮膚や粘膜にいたる末梢組織に存在する時計を、子時計と呼んでいる。

・子時計は親時計に連動しつつも、独立して個々に時を刻んでいる。まるで親時計と子時計が一体となって、あたかも交響曲を奏でる一団のように見える。

体内時計は、からだ全体から臓器へ、そして細胞に至るまで、一体となってサーカディアンリズムを構築している。

・時を刻む遺伝子とタンパクを一緒にして、時計分子と呼ぶ。

生体リズムの発見は「地動説」

・生体リズムが遺伝子レベルで規定されていることは、1971年にショウジョウバエの羽化のリズムを元にした研究で明らかになった。そして1972年には、哺乳動物にも地球や月の自転そっくりのリズムがあることが発見された。なお、人での発見は1997年である。

体内時計は視床下部の中に左右一対の米粒のような細胞の塊として存在している。そして、6個の遺伝子が互いに作用しあいながら、精確に時を刻んでおり、この場所を破壊するとサーカディアンリズムは消える。

宇宙のリズムをコピーする

体内時計で最も有名なのは24時間(サーカディアンリズム)だが、人は90分、12時間、3.5日、7日、30日、1年、1.3年、10.5年、21年などの多くのリズムを多重構造として獲得している。

定義上、サーカディアンリズムは24時間プラスマイナス4時間のリズムを意味する。20時間より短い周期性はウルトラディアンリズム、28時間より長い周期はインフラディアンリズムと呼ばれている。

体内時計は25時間周期

・太陽光が届かず、また時刻を知る手段の環境での実験では、1日を約25時間で認識していた(12日で昼夜逆転し24日で元に戻った)。

太陰暦は理にかなっている

・生体リズムは天体と深い関係がある。

・暦は天文学を基礎として発達してきた。地球の公転周期は365.25日、自転周期は0.9973日である。

太陽活動の影響

生体リズムは種を越えて普遍的に共通である。これは生物が30億年をかけて生きのびるために最初に獲得した生理機能が生体リズムであったことを示している。大気やオゾン層の薄い今より過酷な地球環境の中で、太陽からの恵みと害の両方を強烈に受けつつ、様々な自然現象、宇宙現象の振動に応答し、過酷な風土に順応し、進化を繰り返した。その適応の所産として、体内に時計遺伝子を獲得したのである。

出産が明け方に多いわけ

・人間の出産は夜から朝にかけて多く、昼間に少なくなる。答えは不明だが、恐竜時代に生き残る可能性が一番高かったからなのかもしれない。

オーロラは魔女

・日中に浴びる光が少ないと、メラトニンが少なくなる。この点からも光を浴びる量と生体リズムには深い関係があることがわかる。

人間も磁気を感じている

・渡り鳥やウミガメは、地磁気の磁場を頼りに渡りをする。これまで人には磁気を感じる能力はないとされてきたが、2011年に米国マサチューセッツ大学のスティーブン・レパート博士らによって人にも同じ能力があることが確認された。網膜にある時計遺伝子クライで、磁気を感じているのではないかと考えられている。誰もが正しく応答しているが、それを脳に伝えるシステムに問題があると考えられており、いわゆる第六感のようなものである。

時差ぼけの仕組み

・『さて磁気変化の感知のほかにも、私たちのからだが地球と関わっている点があります。たとえば時差ボケ。生体リズムとは、睡眠・覚醒周期、体温調節、血圧周期、心拍周期、排便周期など、身体の様々なリズムがよせあつまったものです。飛行機で海外に行った場合、これらの働きのうち、睡眠と血圧のリズムは、すぐ現地の生活リズムに順応できます。心拍リズムも、比較的早く順応することができます。しかし、体温や排便のリズムは、順応に1週間から10日間を必要とします。そのため、旅行先の新しい環境下ではリズムがバラバラになってしまい、時差ぼけが起こります。』

・海外での生活リズムに順応する時間には個人差がある。早い人で1週間、遅い人では数ヶ月が必要である。

・時差ぼけの症状は多い順位に、①睡眠障害(67%)、②日中の眠気(17%)、③精神作業能力の低下(14%)、④疲労感(11%)、⑤食欲低下(10%)、ぼんやりする(9%)、頭が重い感じ(6%)、胃腸障害(4%)、目の疲れ(3%)、イライラ(3%)など。

体内時計の老化

時差ぼけは年齢とともに症状が強く出る傾向がある。これは体内時計も老化することを示している。

・医学用語では年を取ることを“加齢”、それがもたらすからだの変化を“老化”と呼んでいる。

・4つの特徴

1)生活にメリハリがなくなる

-メラトニンや性ホルモンなどの分泌が低下し、活動と休息、体温の変動、水分補給などの行動リズムが昼夜を通して不明瞭になってくる。

-メラトニンは睡眠と覚醒リズムと連関しつつサーカディアンリズムを調節するだけでなく、自律神経や免疫系にも作用するため、健康を保持する働きもある。さらに、骨粗鬆症改善やがん予防、老化を遅らせるなど様々な作用が注目されている。

2)早寝早起きになる

-サーカディアンリズムの位相が前身することで、体内時計が前に進みため早寝早起きになる。

3)1日が短く感じる

-75歳を過ぎると生体リズムが、約1時間短くなる。ただし、これは個人差が大きい。

4)生体リズムが太陽とうまく同調しなくなる

-体内時計には毎朝、太陽の光を利用して地球の針とのずれを調整する働き(光同調)があるが、この機能が衰える。

・脳の体内時計の老化は脳の機能、構造と関係している。70代に入ると、脳と細胞の時計とを連絡する神経線維の数が減ってくる。そして、80歳を超えると脳時計の中にある時計細胞の数も減ってくる。これがサーカディアンリズムに影響する。

3 眠りと夢

夢見る時間

・夢を見る時刻にもリズムがある。

・夢を見る頻度は午前2時頃から増えるようになり、最大になるのは朝の8時頃である。これは入眠してメラトニンが出始めてから10時間位後に相当する。おおよそ習慣的な起床時刻にピークが来る。

レム睡眠との関係

調査によりレム睡眠中に夢を見ていたとする人は80%、一方、ノンレム睡眠中は20%である。

レム睡眠のときの夢は睡眠深度が深い(4分類中4)ときに現れる。

・PETという画像検査で調べたところ、レム睡眠の時は喜怒哀楽を調節する大脳辺縁系と視覚野の活動が活発になっていることがわかった。また、海馬も活性化していた。

・体内時計のある視床下部には、オレキシンを産生する部位がある。オレキシンは食欲を増進させるホルモンだが、覚醒に欠かせないホルモンで、働きすぎると不眠症、低下すると過眠症を誘発する。

・オレキシンは2000年になって発見されたが、レム睡眠とノンレム睡眠にも深く関わっている。

夢は現実を再現している

・夢の素材は体験の記憶なので、特に数日以内の体験が夢の内容にあらわれやすい。

・夢は成功より失敗、幸運より不幸が題材になりやすい。

・夢が健康に良いのか悪いのかは分かっていない。

なぜ夢を見るのか

・今では神経生理学が発展し、夢で見る奇異な出来事の一部は説明できるようになった。

スピリチュアルな存在との邂逅

・奇異な夢は脳のいろいろな領域が同時に興奮していて、矛盾する情報が交錯して構成されるからである。

・『死も夢も、どこか人間のうかがい知れない領域に存在しているように思えます。昨今、スピリチュアルという言葉をよく耳にしますが、私は神と魂との対話という意味だと理解しています。超高齢社会を迎える日本で老いと人生の終え方がクローズアップされるなか、これまで日本人には関わりが薄かったスピリチュアルの世界が必要になってくる日が来るに違いありません。』

グリア細胞3

著者:R・ダグラス・フィールド

監訳者:小西史朗

訳者:小松佳代子

発行:2018年4月

出版:講談社

第10章 グリアと薬物依存症―ニューロンとグリアの依存関係

アルコール依存症―グリアとアルコール

・『精神遅滞のある子供に出会うと、思いやりと悲しみで胸が詰まる。子宮の中で発芽し始めた脳に影響した不運さえ防げていたならば、と思わずにはいられない。悲しい事実だが、精神遅滞を負う子供の大半に襲いかかった元凶を、私たちは知っている。さらに、その壊滅的な攻撃をどうしたら止められるかも知っているというのに、それは続いているのだ。小児に精神遅滞を引き起こす第一の要因は、胎児性アルコール症候群だ。

これまでに判明している事実は、以下のとおりだ。アルコールはニューロンを害する。発達期の脳にアルコールが侵入した場合、脳への効果は最も壊滅的で永続するものになる。胎児脳の発達を害するには、慢性アルコール曝露(つまり、一回の痛飲)が、胎児脳に永続的な損傷を与えかねない。

脳領域各部や脳内の多種多様な種類の細胞はそれぞれ、妊娠中の異なる時期に発達する。一般に、胎児の脳がアルコールに曝露される最悪の時期は妊娠後期であり、この時期に脳は、目覚ましい成長スパートで増大する。ニューロンとグリアは急速に分裂して、脳の大規模な成長を後押しする。この時期、ニューロンは樹状突起も活発に発芽し、春の若木が小枝を伸ばすように、さかんに枝分かれする。軸索は脳内に伸長して、神経結合網を形成し、新芽のように枝先から発芽してきた新たな無数のシナプスを連結しながら、複雑な神経回路を編成する。この期間にアルコール毒に遭遇すると、脳の急速な発育が阻害される―しかも、不可逆的に。胎児性アルコール症候群の子供の85%が、脳が異常に小さい。これを医療用語で「小頭症」という。出生前のアルコール曝露は、二通りの様式で脳の成長スパートを抑制する。第一に、曝露はニューロンの増殖を阻害する。第二に、ニューロンを死滅させ、これはとくに、海馬や小脳において顕著だ。

では、グリアはどうだろう? ニューロンに対するアルコールの影響に関しては、多くのデータがあるのに比べて、グリアについてはほとんど知られていない。しかし、グリアが脳細胞全体のおよそ85%を占めることを考えれば、小頭症はニューロンだけでなく、グリアの消失にも起因すると当然予測できる。そしてこの仮説は、証拠によって裏付けられている。

細胞培養で、ラットあるいはヒト由来のアストロサイトをアルコールで処理すると、アストロサイトの細胞分裂が強く抑制される。アストロサイトの細胞分裂に対するアルコールの遅滞効果は非常に強力なので、体内で生成されることが知られている大半の成長因子の刺激作用を凌駕する。細胞培養に付加して調べられたヒト由来の強力な成長因子はどれひとつとして、アストロサイトの細胞分裂に対するアルコールの抑制効果に打ち勝つができなかった。

アルコールは、グリアを殺しもする。アルコールの影響は、ラットの大脳皮質から採取して培養したアストロサイト、および妊娠中にアルコールに曝露したラットの脳内で観察されている。ある研究では、胎仔のときにアルコールに曝露したラットの大脳皮質で計測された細胞残骸のうち、40%がアストロサイトだったという。

ニューロンやグリアの数が減少した小頭症の脳では思考能力が減退するという単純な影響のほかに、アルコールによる胎児グリアへの攻撃が引き起こす多くの壊滅的な結果を予測するには、神経系発達を指揮するために、グリアが演じている重要な役割を考えてみるだけでいい。次章で考察するが、グリアは栄養因子を供給して、未成熟細胞から適切な種類のニューロンへの転換を促し、発達後もこれらのニューロンを維持している。

グリアはまた、軸索が適切に結合を形成して、きちんと機能する神経回路を形成できるように、途中の経路に分子を敷設していく。シナプス形成も、グリアが助けている。グリアは神経伝達物質を取り込み、生命維持に欠かせない塩や栄養を、ニューロン周囲で至適な濃度に保っている。また、グリアは脳を感染から保護する。発達期の細胞移動も、グリアによって制御されている。したがって、アルコール汚染によるグリアの消失は、発達途中にある脳に多くの悪影響を及ぼすことになる。

グリアとニューロンは、胎児脳を築くために、正しい場所に集合しなくてはならない。胎児性アルコール症候群の子供には、グリアの異常な移動が認められ、それは、実験動物でも同様である。動物実験では、グリア細胞をアルコールにわずかに曝露しただけで、中毒になったグリア細胞に間違った経路をたどる障害が起こりうる。その結果、脳の奇形が生じる。左右の大脳半球間をつなぐ架け橋である脳梁が作られる工程でグリアが担う重要な役割は、次章で詳しく論じることにするが、両半球間にグリアの架け橋がないと、ニューロンは反対側の脳まで軸索を渡すことができない。胎児性アルコール症候群の子供では、両半球をつなぐこの壮大な橋は形成不全のままである。この脳異常は、胎児性アルコール症候群に顕著な特徴のひとつだ。胎児性アルコール症候群は、ニューロンの病気であるのと少なくとも同じ程度に、グリア病でもある。

・『アルコールには幅広い毒性があり、ニューロンとグリアをさまざまに中毒させ、害する。アルコールの中毒作用は大部分が、肝臓にあるアルコール脱水素酵素によって作られるアルコール分解産物アセトアルデヒドによって引き起こされる。このきわめて重要な酵素が進化したのは、人類の祖先が食物として腐った果物も摂取していたと考えられ、さらに消化過程そのものでも腸内でアルコールがいくらか発生するためだ。しかし、飲酒のように意図的にアルコールを摂取すれば、それを無毒化して中毒を防ぐ酵素のような体内機能では、とても太刀打ちできない。

アルコールそのものも、ニューロンとグリアに死をもたらす直接因子である。アルコールは、脳内で通常は過剰興奮を減弱している受容体(GABA受容体)に作用する。この受容体は、バルビツール酸やバリウムで活性化される抑制性受容体であり、このことはアルコールが鎮静効果を有する一因となっている。ところが、アルコールを常用すると、脳は抑制性回路を駆動するGABA受容体の数を減らして、グルタミン酸で作動する興奮性回路の活性を高めるようになる。この変化が、アルコール依存をもたらす。なぜなら、アルコールが途切れると、不安や気分、痛みを制御している回路が、過剰興奮の状態になるからだ。気分や脳内の「報酬回路」の調節に関与する神経伝達物質のドーパミンやセロトニンに対しても、アルコールは似たような効果を持ち、これもアルコール依存に加担している。この三つの神経伝達物質は、胎児および成体幹細胞からニューロンやグリアへの発達を調節することが知られている。これらのアルコールによる変化は、記憶回路をも損傷する。長期的なアルコールの常用は、抑制を減弱させ、興奮を増大して、脳の興奮を正常レベルに保っているGABAの重要な抑制作用から、ニューロンを解き放つ。脳内の抑制性回路がアルコールで弱められると、脳回路は過剰興奮の方向へ傾き、過剰刺激によってニューロン死が引き起こされるのだ。

アルコールは、NMDA受容体の感受性を低下させることによっても、精神の働きを鈍らせている。というのも、この受容体は、学習と記憶にかかわるシナプスの強度を高めるための、最初の重要な段階で働いているからだ。一方で長期的なアルコールの常用は、この受容体数を増加させる。受容体が増えると、過剰興奮によってニューロンやグリアが死ぬ傾向が強まる。将来オリゴデンドロサイトに分化して、出生後の新生児脳でミエリンを形成する予定の胎児脳細胞も、アルコールは殺傷する。事実、白質の減少は胎児性アルコール症候群の主要な特徴のひとつであり、ミエリン量低下が精神機能の低下を意味することは、現在では広く認知されている。

これらの損傷に加えて、アルコールは脱水、酸化ストレス、ビタミンの欠乏、さらには多くの代謝・損傷応答にも影響する。これらはすべて、奇跡のような胎児脳の発達を害している。グリアは、このアルコールという毒物の主要な犠牲者なのである。

第12章 老化―グリアは絶えゆく光に抗って奮い立つ

老化する脳

・65歳になると、脳の重さは中年期よりも平均で7~8%軽くなり、計画の立案や実行などの意思決定にとって重要な脳部位である大脳皮質の前頭葉の容積は5~10%ほど縮小する。ただし、この程度の衰えは問題にはならない。

・加齢に伴い個々のニューロンは劣化し始めて死んでいくが、死滅は脳の部位によって大きく異なる。

・皮膚の染みが徐々に増えていくのと同じように、老化したニューロンには凝固したタンパク質が絡み合った黒っぽい沈着物や封入体が形成され始める。

古い家の屋根裏部屋で増えていくガラクタのように、加齢に伴ってニューロン内部には他の多くのタンパク質が蓄積されていく。このタンパク質のゴミは、筋萎縮性側索硬化症やハンチントン病、パーキンソン病のような神経変性疾患に関連している。

第3部 思考と記憶におけるグリア

第13章 「もうひとつの脳」の心―グリアは意識と無意識を制御する

・『グリアを研究することで、脳の働く仕組みに関する私たちの理解は、どのように改まるだろうか?「もうひとつの脳」の探求は、人間の心の秘密に光を当てることができるだろうか? グリアはニューロンに奉仕するだけでなく、私たちの意識的な心、さらには無意識の心さえも動かす役割を演じられるのだろうか?

グリアについて、私たちはまだほとんど知らない。基本的な事実、たとえば何種類のグリアがあるのか、発達期にどこから派生するのか、各種のグリア細胞の細部がどうなっているのかさえ、判明していない。神経科学の分野に足を踏み入れる学生のほとんどが、ニューロンでない細胞を研究しないのは、動かしがたい事実だ。さらに悪いことに、ニューロンだけが脳内の情報処理にとって重要であるという従前の見方によって、グリア生物学者の研究は、重要性に乏しいと安易に退けられている。その結果、「もうひとつの脳」に関する研究は、「ニューロンの脳」の研究より、100年も後れを取っているのだ。』

グリアは渇きを癒す

・『私たちが水分を摂取する量と頻度は、その時々で大きく異なるにもかかわらず、脳は体内の水分量を厳密な範囲内に調節している。水は生命維持のために食糧よりも重要で、いかなる生物の体内でも、常に適切なレベルに維持されていなければならない。水分が欠乏すると、数時間のうちに身体機能にも精神機能にも支障が出る。脱水が続けば、数日のうちに命を落とすことになり、ほとんどの病気より急速に死に直結する。

私たちの体が脱水に対処するひとつの方策に、抗利尿ホルモン(ADH)の血流中への放出がある。このポリペプチドホルモンは、視床下部ニューロンから分泌され、腎臓に作用して尿の排出量を減らし、体内に蓄えた貴重な水分の減少を食い止める。喉が渇いた動物では、視床下部のシナプスに存在するグリアが驚くべき方法で応答することを、解剖学者らが観察した。』

出産、母性、愛、そしてグリア

・『オキシトシンは、視床下部の特殊化したニューロンで産生され、血液中に放出される。その巨大なニューロンは、その大きさから大細胞ニューロンと呼ばれ、視床下部から下垂体の一部の中へ軸索を伸ばして、そこで毛細血管周囲の間隙にホルモンを放出している。毛細血管はそのオキシトシンを血流中に吸収して、全身に行き渡らせる。オキシトシンは、9個のアミノ酸が連なった短いポリペプチドで、女性の体内で二つの特別な機能を持っている。それは、乳腺からの乳汁分泌を刺激することと、分娩時の子宮収縮を刺激することだ。どちらの機能も、血中のオキシトシンに応答して平滑筋が収縮した結果として生じる。

このホルモンにはもうひとつ、より繊細で興味深い働きがある。それは、母親としての行動や愛情の調節だ。証拠は依然明確さを欠いているものの、オキシトシンが男性の行動へも、これに関連するような効果を発揮する可能性がある。脳脊髄液の中で、オキシトシンはキューピッドの役割を果たしていて、出産直後から、自分の子供との絆を築こうとする力強い母性行動によって、母親と子供を結びつけている。生物的な観点から見れば、この強い愛着心は、親が脆弱なわが子を間違いなく養育し、保護するために不可欠である。ラットの実験で、注射によって脳内のオキシトシンを中和すると、母ラットは自分の仔を拒絶するようになる。その一方、処女ラットにオキシトシンを注射すると、同じケージに入れたどの仔ラットに対しても、母性行動を示し始める。オキシトシンはスプレーでも体内に取り込まれるので、この性質が営利目的で利用されている。異性との結びつきを容易にする目的で、オキシトシンを含むオーデコロンを購入することもできる。

処女ラットでは、オキシトシンを含んだニューロンは密集して存在するが、個々の細胞の間は、重ねた陶器の間に挟む紙のようなアストロサイトの薄いシートで隔てられている。動物が妊娠すると、この脳部位が構造的に変化することを、電子顕微鏡学者たちは何年も前から気づいていた。これは驚くべき事実だった。なぜなら、脳の神秘的な働きが、その配線の構造変化に反映されている様子を観察することができた最初期の事例のひとつだったからだ。カリフォルニア大学リヴァーサイド校のグレン・ハットン博士ら、フランス・ボルドーのディオニシア・テオドシスとドミニク・プラン、さらにアメリカやヨーロッパのいくつかのグループによる数年に及ぶ研究から、分娩中や授乳中の動物では、ニューロンを隔てているアストロサイトが実際に動いて、この脳部位の構造を変えることが現在ではわかっている。妊娠すると、アストロサイトの薄いベールのような膜が退縮して、オキシトシン産生ニューロンとその樹状突起の露出が増える。これに伴って、各ニューロン上で新しいシナプスの形成に利用できる空いた場所の数も増加する。この作用によって、アストロサイトの退縮後、オキシトシンを含んだニューロンのシナプス数は二倍になる。ニューロンを刺激するシナプスの数が増えれば、オキシトシン放出量も増加し、妊娠には出産に向けた準備が整うことになる。

アストロサイトの動きは、別のやり方でも視床下部を配線し直している。アストロサイトはニューロンへのシナプス入力の調節に加え、その軸索先端から血流中へ放出されるオキシトシンの供給も制御している。分娩や授乳の最中には、アストロサイトは神経終末でも退縮して、水門を開くかのような働きで、より多くのオキシトシンが毛細血管へ到達して、血流に入っていけるようにしている。神経終末と毛細血管を隔てているのは、このアストロサイトだけなのだ。

この次に母親の腕に抱かれて授乳されている赤ん坊を見かけたときには、グリアが活躍しているところを思い描いてみよう。あなたの目の前で、グリアはニューロンのシナプス数や血流中へ流れ込むオキシトシン量を制御している。私たちの子孫の誕生やその養育は、このグリアに依存しているのだ。』

画像出展:「もうひとつの脳」

無意識の脳を超えて意識的な脳へ

・『グリアが情報処理にかかわっていることを示す最初で最強の証拠が、喉の渇きや出産、授乳、睡眠、運動制御、性行動など、数々の無意識の脳機能に関連したことは、不思議に思われる。脳内の無意識的な働きは、意識的な精神活動と比べて、はるかに謎めいて研究の困難な現象だからだ。この不思議な関係性は、たんなる偶然の一致だろうか、それとも「もうひとつの脳」のより普遍的な性質を明らかにしているのだろうか? 私自身は、後者であると信じている。グリアには、ニューロンが使用しているような急速な発火によるコミュニケーション手段が備わっていない。グリアは電気ショックではなく、化学物質やカルシウムウェーブの緩やかな拡散を介して交信している。しかし、心の中で無意識のうちにゆっくりと展開する変化は、重要な脳機能でありながら、見過ごされがちだ。おそらく、無意識の心が今なお謎に包まれている理由のひとつは、私たちが「もうひとつの脳」について無知であるためだろう。』

第15章 シナプスを超えた思考

Tasaki

・『毎日、高齢の日本人男性がひとり、慎重に杖を突きながら、脚を引きずるようにして、目的地に向かって歩道を歩いていく。その老人は深く考え込んでいて、周囲の様子は目に入っていないようだ。急ぎ足で通り過ぎる人々は、脇目も振らずに目的地を目指すその老人の体力と決然とした意志に感心するのではないかぎり、彼のことは気にも留めない。彼がどこを目指しているのかを想像できる者など、ほとんどいないだろう。

あと二年で100歳を迎えるその優しげな老人は、職場へ向かっているのだ。彼は一日二回、3㎞あまりの道のりを毎日歩き抜いている。彼の妻の信子夫人が60代になるまでは、自宅で一緒に昼食をとるために、彼はこの道のりを二往復していた。昼食後には、二人並んで職場に戻った。知り合って間もない頃、信子夫人は彼と一緒にいたいのなら、彼の助手にならなければならないと悟った。2002年に彼はこう誓った。「妻がもう働けないと言うまで、私は働き続ける。妻が100歳まで働けるのであれば、私も働き続けよう」。ところが、信子夫人が亡くなったあとも、彼が仕事を辞めることはなかった。

震える手で真鍮製の鍵を回しながら、老人が職場のドアを開けると、ガラス製の器具や1960年代の電子機器であふれた科学実験室が現れる。部屋に足を踏み入れると、かつて宇宙開発計画が始まった頃にエンジニアが好んだようなスタイルの彼の衣服や眼鏡は、その場の光景に完璧に溶け込む。街中では、彼は過去の人のように見えたかもしれないが、部屋の照明が灯ったとたんに、あたかも舞台上で急に息を吹き返したかのような過ぎ去った時代の光景に、彼はしっくりと馴染む。彼を取り囲む年代物の電子機器や科学実験装置の大半は、彼が自作したものだ。作製当時、彼の構想とそれに必要な装置は、そのとき手に入る技術をはるかに凌ぐものだった。

田崎一二という彼の名前は、あまり知られていないが、彼の精力的な仕事のもたらした成果を知らない者は誰もいない。私たちの神経系が筋肉を制御するために、神経を通して電気を送ることによって機能していること、そして、感覚器官から脳へインパルスが送られていることは、誰もが知っている。だが、インパルスはどのように軸索を伝導されているのだろうか? この疑問に答えたのが、田崎博士だ。

・『田崎のその大仕事を、単純な道具と自作の装置を使って手作業で行い、次に測定したデータの意味を解き明かそうと、数式を適用した。軸索における電気の伝わり方をミエリンが変化させていることを、田崎は見出した。電気的インパルスは、誰もが想定していたように、電波として神経線維を駆け抜けているのではなかった。バレエダンサーが舞台の端から端までを二、三度の跳躍で横切るように、ミエリンがインパルスをひとつのランヴィエ絞輪からその次へと、順に飛び移らせていることを、彼は発見した。この発見は、どうしたら有髄軸索が無髄軸索の100倍も速く情報を伝えられるのかを説明していた。この基本的なプロセスが、脳と全身のあらゆる有髄回路の設計と働きを支える基礎を成しており、軸索のミエリン絶縁を攻撃する多発性硬化症やその他の疾患に罹った人々を苦しめている麻痺の原因となっている。

田崎の初期研究の多くは、時代を先取りしていて、彼の比類なき観察の数々は、曖昧な好奇心の域を出なかった。1958年に、彼はネコ脳のグリア細胞に電極を刺入して、グリアはニューロンのように電気的インパルスを発生させないが、特有の性質として、定常的な電位を持つことを発見した最初の人物となった。

画像出展:「ウキペディア

第16章 未来へ向けて―新たな脳

・『「もうひとつの脳」の物語の最終章は、まだ白紙である。グリアを理解できたら、心についての私たちの理解はどのように変わるだろうか? 私たちは今や、100年以上も無視されていた別の脳、すなわち科学にとって未知の脳を、グリアが構成していることを知っている。科学において「もうひとつの脳」は、終始一貫して見過ごされ続けてきた。それはいったいなぜなのか?

第一に、その研究に不適切な道具が使われていたことが挙げられる。神経科学者たちの電極では、グリアのコミュニケーションを聞き取れなかったのだ。それでもやはり、グリアの脳はたしかに連絡をとっていた。ただし、ニューロンの脳とは違う仕組みで働き、異なる様式とタイムスケールで交信している。しかし、道具の不備だけでは、神経科学者が今日まで脳の半分を見逃してきた理由を、完全に説明することはできない。

人間は、道具作りにはとりわけ秀でている。科学者がグリアの脳を探る特別な道具が必要だと感じていたら、工夫を凝らして作り出していただろう。そうした道具は、当初どれほど粗削りだったとしても、役に立ったに違いない。なにしろ私たちは、持ち前の創意工夫によって尖らせた石だけで、この地球上であらゆる動物を捕食し、支配しえた生物なのだ。

私たちが失敗したのは、思い込みのせいだ。脳の働く仕組みを知っていると、私たちは思い込んでいた。電気で作動するニューロンに目がくらんだ神経学者らは、この一種類の細胞だけに極度に研究の焦点を絞って、数や多様性の点でニューロンに勝っているもう一方の細胞群すべてを、事実上無視してきた。無意識の先入観が、私たちの認知を曇らせていた。こうして、グリアの脳は見過ごされ続けることになった。

感想

グリア細胞を勉強しようと思ったのは、以下のニュースがきっかけでした。

『これまでの研究から、神経がダメージを受けると脊髄でミクログリアが活性化して神経障害性疼痛が発症することが知られていました。今回の研究では、そのミクログリア細胞の一部が変化し、徐々にIGF1という物質を作るようになり、それが痛みを和らげていることを明らかにしました。』

 

 

グリア細胞2”の最後の箇所にあった、『ニューロンが損傷したときのシグナルの中に、フラクタルカインという物質がある。この分子はニューロンの表面にあり、傷害を受けると非常事態を知らせる。ミクログリアは、フラクタルカインによる非常事態を感知する特別な受容体を持っており、感知したミクログリアは損傷部位へと急行し、その領域にサイトカインを浴びせかける。この反応は通常、傷が治るのに伴って数週間で消えるが、ときにミクログリアがサイトカインの放出を止めない場合がある。この場合、傷は癒えても痛みを伴う炎症反応は続く。

痛みを弱める"IGF1”」に加え、上記の「ときにミクログリアがサイトカインの放出をやめない」ことによって、痛みを伴う炎症反応が続いてしまうという点も、ミクログリアと慢性疼痛の関係を示す重要なポイントだと思いました。

グリア細胞2

著者:R・ダグラス・フィールド

監訳者:小西史朗

訳者:小松佳代子

発行:2018年4月

出版:講談社

第4章 脳腫瘍―ニューロンはほぼ無関係

・脳腫瘍はすべてが悪質ではないか、一般的には致死性が最も高い癌の部類に属している。

・脳腫瘍は脳内のどこにもでも発生し、腫瘍に伴う初期症状は脳が担っている機能と同じように多種多様である。最も多い初発症状は頭痛と疲労感であるが、腫瘍の発生部位によっては、視力や発話、起立や歩行に関する問題や、人格や心理状態の変化などもある。

・優秀な脳外科医は、症状からそれを司る脳の領域を割り出す方法で、脳内のどこに腫瘍があるのかを把握することはできる。

・癌細胞の特徴は制御不能な細胞分裂の暴走であるが、通常、細胞分裂は非常に複雑に調節されているので、その制御過程に複数の不具合が起こらない限り、細胞分裂の暴走は起きない。

・癌は遺伝的および環境的危険因子が複合的に働いた結果として生じる。

腫瘍の種類

・脳にできる癌のほとんどがグリア細胞から生じる。

・脳の発達期、ニューロンが未成熟な乳幼児以外の、成熟ニューロンに関しては細胞分裂しないので癌化はしない。ただし、髄膜細胞や上衣細胞はグリアと同じく細胞分裂するので腫瘍を生じるが、大多数の脳腫瘍は異常をきたしたグリア細胞である。末梢神経の腫瘍もグリア細胞であるシュワン細胞に由来する場合が多い。

・女性に比べ男性の方が悪性の脳腫瘍に罹りやすいが、脳と髄膜にできる良性腫瘍は女性の方がはるかに多く、約20倍と言われている。

第5章 脳と脊髄の損傷

脊髄に対する細胞応答

・『軸索が切断されると、ニューロンはすぐに死滅し始める。細胞体が損傷個所から離れたところにあって無傷でも、それは変わらない。これは自然死ではなく、いわば細胞の自殺であることがわかっている。ニューロンは、通常支配している標的から切り離されると、細胞体内の遺伝子が活性化して、自己破壊を開始する。自己破壊を引き起こす遺伝子を妨害するように操作した変異遺伝子を持つ動物では、軸索が切断されても、ニューロンは死なない。残された貴重なニューロンが、このような集団自殺をするのはなぜだろう?

この不可解なニューロンの大量死は、切断された軸索が結合していた細胞、たとえば筋線維や皮膚細胞、あるいはもとの神経回路内の次のニューロンなどから、成長を刺激するタンパク質が放出されていることに関係している。胎生期には、このタンパク質は、神経終末から取り込まれて細胞体へと送られることによって安定的に供給され、細胞全体が正常に機能していることを、そのニューロンに知らせている。しかし発達期には、正確な数のニューロンが生成され、結合を必要としている細胞の適正な数に釣り合うよう調整されたうえで、各ニューロンがそれぞれ適切な標的のもとへ、軸索を長く伸ばしていかなくてはならない。道筋を間違えて、正しい接合地点にたどり着けなかったニューロンは、生存に欠かせないこの成長因子タンパク質を取り込めないので、子宮の中で脳が形成されている間に死滅する。このメカニズムは、私たちの神経系を適正に配線し、誤った経路をたどった接続を排除する非常に有効な方法だ。だが、軸索が押しつぶされたり、切断されたりすると、シナプスの適切な接合地点で放出された成長因子タンパク質は、細胞体までたどり着けなくなる。軌道を外れたロケットと同じく、もはや正しい軌道に乗っていないことに気づいたニューロンは、自己破壊のメカニズムを活性化するのだ。

だが、細胞が死に向かいつつあるときでさえ、治癒と修復のプロセスを開始する別のメカニズムが活性化されている。受傷部位にあるニューロンの一部は、切断あるいは粉砕された軸索の末端を塞いで、長い間休眠状態にあった遺伝子群を再活性化する遺伝プログラムを起動させる。この遺伝子は、そのニューロンが最初に軸索を伸ばして全身に配線を巡らせた胎生期に機能したのを最後に、休止していたものだ。この遺伝子は、軸索を発芽させるタンパク質を産生し、発芽した軸索は適切な標的を探し求めて伸長し始める。

損傷したにもかかわらず、こうしたニューロンが自己破壊を起こさないのは何故だろう? その理由のひとつに、アストロサイトとミクログリアがこの再生期に、ニューロンを生存させる神経栄養因子を放出することが挙げられる。神経栄養因子となるタンパク質の一部は、標的細胞から放出されていた成長刺激物質と同一の物質だ。受傷部位で神経栄養因子を放出することによって、アストロサイトは損傷したニューロンの死滅を防ぎ、軸索の発芽を促進する。アストロサイトは同時に、タンパク性の血管新生因子も放出し始めて、損傷した組織の生存に欠かせない栄養と酸素を送り込むための新しい血液の成長を刺激する。

オリゴデンドロサイトは、再び若々しい状態を取り戻し、細胞分裂を開始する。この若返った細胞は、損傷領域に移動してきたオリゴデンドロサイトとともに、細胞性触手を伸ばして、損傷してむき出しになっている軸索に、できるだけ多く絡みつく。その後すぐに、それらの細胞は軸索の周囲にミエリンを何層にも巻きつけて、絶縁を修復する。軸索はこのミエリン再形成によって、受傷後にミエリン鞘が損傷したせいで失われていた電気的インパルスを伝導する能力を取り戻す。オリゴデンドロサイトが軸索のミエリン鞘を修復するにつれて、患者は一部の感覚や運動能が以前より少し回復してきたように感じ始めるが、まだ麻痺は残る。

しかし、生き残った軸索が新しい分枝を発芽して、もとの結合部位を探し始めても、その途中で受傷部位まで来ると、伸長はそこで止まってしまう。その結果、麻痺は一生続くことになる。これがもし、腕や脚の神経を損傷したのならば、軸索は順調に伸び続けて、ついには筋肉上の適正な結合点を見つけ出すだろう。全身の知覚神経線維も、痛覚や触覚、温度、圧覚をはじめとする外界からの感覚を脳へ運ぶ回路と再結合することになる。だが、脊髄や脳が損傷した場合、発芽しながら再結合を目指す軸索の果敢な挑戦は、失敗に終わる。』

グリアの二面性―麻痺の原因とも、治療ともなる

・『中枢神経系に末梢神経を接合するという実験は、麻痺の治療法を模索するうえで、貴重で有望な情報をもたらしたが、この技術は実用的な治療法とはなりえない。中枢神経系はきわめて繊細で微小なうえ、複雑なので、このような荒っぽい継ぎはぎ手法では修復できない。麻痺の治療に向けた最も合理的なアプローチは、軸索再生をシュワン細胞がどう支援しているのか、そしてミクログリアやアストロサイト、オリゴデンドロサイトがそれをどう阻害しているのかを解明することだろう。

Nogoだけでない

・科学者はニューロンだけに関心を向けていたが、現在では、学習や精神障害、情報処理、意識などに関する新しい洞察がミエリンから得られている。

酸素―虫が食い、さびが付く地上

・酸素は我々の細胞のタンパク質や酵素、DNAをゆっくりと蝕んで弱らせ、ついには崩壊させる―これが、これがいわゆる老衰死である。

・酸素は他の原子から電子を盗み取ることによって害を及ぼし、分子を奪われた細胞はダメージを受ける。この酸化を食い止める化学物質は抗酸化物質と呼ばれる。

・健康食品としても注目されている抗酸化化合物は、体内の酸化による燃焼の炎を、安全なレベルにまで冷却してくれるが、我々の体内には健康食品とは比べ物にならないような抗酸化物質がたくさん存在している。なかでも特に効果的な生体内抗酸化物質のひとつがグルタチオンで、細胞の命を救うこの化合物が最も高い濃度で詰め込まれているのが、グリア、とりわけアストロサイトである。

・アストロサイトから放出される抗酸化物質は、神経変性疾患や癌、老化に対する身体の主要な防衛手段のひとつである。

第6章 感染

プリオン病―ニューロンを超えた探索

・現在では、プリオン病はニューロンの病気であると同時に、グリアの病気であることが明確になっている。もし、グリアの関りが発見されていたら、プリオン病の原因と治療の探求ははるか先まで進んでいたであろう。

・アストロサイトはプリオン病による脳の損傷に対応する一方、ニューロン死の一因にもなっている。

・アストロサイトはプリオンタンパク質を複製して、プリオン病におけるアミロイド斑の形成に一役買っている。

・異常プリオンに感染したアストロサイトは、サイトカインをはじめとする神経毒性のある物質を放出するうえ、ニューロン周辺のグルタミン酸を正常レベルに維持する能力も損なわれる。その結果、ニューロン死が起こる。 

・アストロサイトはオリゴデンドロサイトとも相互作用する。オリゴデンドロサイトが侵されると、軸索を絶縁しているミエリン鞘が損傷を受ける。

・プリオン感染に応答したミクログリアは、ニューロンを死滅させる有害分子(サイトカイン、活性酸素、タンパク質分解酵素、補体タンパク質など)を産生する。

・異常型プリオンタンパク質で活性化された、ミクログリアはアストロサイトに損傷応答を引き起こす物質も放出して、アストロサイトの細胞分裂を促進している。したがって、プリオン病における病理的変化の開始には、ミクログリアが重要な役割を担っていると考えられる。

・『ミクログリアはさらに、プリオン病の診断にも活用できるだろう。プリオン感染に応答したミクログリアは、はっきりと識別できる細胞変化を起こすので、適切な診断技術を用いれば、このような形質転換を検出することができる。血球数の変化をモニターすることで、体内の感染症の種類と重症度を医師が判断できるように、ミクログリアの変化を注意深くモニターすれば、脳内の感染症に関する重要な知見が得られるだろうことは、容易に想像できる。』

現代の黒死病(ペスト)―HIVとグリア

・神経系を攻撃するウィルスの種類は多い。よく知られているのは、ポリオとヘルペスの二つで前者は麻痺を引き起こし、後者は口唇や性器周辺部に痛みを伴う水泡を生じる。

・ポリオウィルスは、脊髄の運動ニューロンに選択的に感染し、それを殺して、患者に麻痺を起こす。思考力や判断力は清明なままだが、神経を通した脳からの指令が筋肉に届かず、通信経路が切断されることによって、筋肉はやせ細ってしまう。脚へと伸びる運動ニューロンがポリオウィルスに侵された場合、患者は車椅子生活を余儀なくされる。

・ヘルペスは感覚ニューロンに感染する。ヘルペス感染も根治できず、このウィルスは感覚ニューロンに永久に居座り、患者の生涯を通じて尽きることなくウィルスを産生し、ときおり急に感染症状を引き起こす。単純ヘルペスウィルス2型は、下半身に発症し、単純ヘルペスウィルス1型は、よく知られた痛みを伴う水泡を口唇に生じさせる。

・『HIV患者のウィルスが感染するのは、どういった種類のニューロンなのだろうか? HIVウィルスはどのようにニューロンに侵入するのか? ヘルペスウィルスのように、神経終末から軸索伝いに細胞体に忍び寄るのだろうか、それとも、樹状突起や細胞体の表面だけにあるタンパク質を攻撃するのだろうか?

部検の結果、脳はHIVによる嚢胞でハチの巣状に破壊されていて、あとにはニューロンの荒れ地が残されることが判明した。ところがほどなく、研究者たちはHIVウィルスがニューロンにまったく感染していないことを見出した。HIVが感染するのは、グリアだったのだ。』

第7章 心の健康(メンタルヘルス)―グリア、精神疾患の隠れた相棒

統合失調症とうつ病―新たな理解

・『統合失調症は、正常脳とは物質的に異なっている場合がある。この相違の原因が、発達障害にあるのか、精神の乱れた活動パターンによる損傷にあるのか、あるいは精神のバランスを少しでも回復させるために何年も摂取していた薬物にあるのかは定かでないが、この三つの理由すべてが、統合失調症脳の物質的変化に関与している可能性がきわめて高い。

統合失調症患者の脳では、一部の領域における萎縮と、脳中心部にある髄液で満たされた脳室の拡大がしばしば認められる。消失組織の一部はニューロンだが、大半はグリアだ。この脳組織の減少は、精神疾患の結果なのだろうか、それとも原因なのだろうか?

統合失調症患者の多くの遺伝子異常が存在することを突き止めた最近の発見が、この問題にひとつの答えを提示している。この驚くべき発見は、ヒトゲノム配列の解読を進めるために開発された技術であるDNAチップ解析によって生まれた。この最新の手法を用いれば、一度に何千もの遺伝子を調べることができる。研究者はこれまで、ある病気に関係している可能性のある遺伝子を調べるためには、まずどの遺伝子かを推定してから、その遺伝子を個別に検査しなくてはならなかった。ところが今では、大きな集団の人々から得た何千もの遺伝子を一度に検査し、そのデータをふるいにかけて選別すると、患者間で共通する異常な遺伝子欠損を探し出すことができる。統合失調症とうつ病に関して、この無作為の検索から、思いがけない事実が判明した。

この広範な調査によって発見された遺伝子異常の一部は、理に適ったものだった。というのも、神経伝達物質の機能を制御している遺伝子だったからだ。しかし、探し当てられた異常遺伝子のなかには、まったく予期しなかったものも含まれていた。統合失調症や大うつ病で異常が見つかった遺伝子群のなかでも、大きな比重を占めるカテゴリーのひとつが、オリゴデンドロサイトの発達およびミエリン形成も調節している遺伝子だったのだ。

・『科学者たちが「もうひとつの脳」の探求を進めるにつれて、正常な脳の働きについての理解が拡大している。それと同時に、精神疾患に罹った脳で起こる機能不全に関するまったく新しい見識が、明確になりつつある。興味深いことに、こうした洞察は新発見ではなく、むしろ驚くべき再発見と言える類のものなのだ。』

グリアを標的とした精神疾患治療薬

・統合失調症患者で異常に発現する遺伝子のひとつは、成長因子であるニューレグリンをコードしている。この成長因子はミエリン形成グリアの発達を調節することは知られており、今では多くの神経科学者が統合失調症とグリアとの関連性について注目している。

・グリアが広範な精神障害における重要性は以前から認知されてきた。パーキンソン病やアルツハイマー病、ALS、ハンチントン病などの神経変性疾患はニューロンの死によって起こる。これらの疾患においてグリアは味方とも敵ともなると、現在では理解されている。

第8章 神経変性疾患

・アストロサイトは、精神疾患の相棒として強力な役割を果たしている。

・アストロサイトは、ニューロンの電力源(カリウムイオン)を調節し、シナプスから神経伝達物質を吸収しては放出し、成長因子を放出してニューロン損傷に応答し、ニューロン新生を促している。そして、こうした機能によって、アルツハイマー病やパーキンソン病、その他の神経変性疾患において、さらには脳損傷からの回復を支援する場合にも、ニューロンの生死を決する大きな影響力を発揮している。

筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルー・ゲーリック病)

・ALSは運動ニューロンだけを狙い撃ちして麻痺を引き起こすが、そのメカニズムは謎である。

・ALSは何の前触れもなく襲ってきて、通常は成人になって突然発症する。

多発性硬化症―グリア戦争に伴う二次的な損害

・多発性硬化症の原因は、脳の通信回路がショートすることにある。感覚器官から発せられたインパルスは脳に届かず、脳からの指令は筋肉へと伸びる神経軸索の絶縁が途切れた場所を通過できなくなっている。

・多発性硬化症の機能不全は広範囲に生じる。脳回路のどの部分が損傷したかによって、現れる症状は千差万別である。

・多発性硬化症が致命的になることはまれであるが、寛解を繰り返すという特徴がある。また、症状は一時的なものから重篤な進行性のものまで幅広い。原因は自分自身の免疫の暴走と考えられている。

・多発性硬化症はニューロンではなく、脳炎症から最終的にミエリンの破壊につながる、そして病気が続けばミエリン生成細胞であるオリゴデンドロサイトが死ぬことになる。

心臓発作と脳卒中―不十分な配管システム

・脳には血流と脳細胞の間で特別に進化した細胞性インターフェースがある。この細胞性インターフェースは神経血管ユニットと呼ばれている。

脳と血液の間の分子交換はすべて、この神経血管インターフェースを介して行われる。脳細胞に送られる酸素量は、今まさに活動している特定の脳細胞で刻々と変化する需要に釣り合っていなくてはならない。また、脳の働きによって生じる老廃物は、過酷な状況下でどれほど速く蓄積するとしても、迅速に除去しなくてはならない。栄養や薬物、ホルモンは、適宜血液と脳の境界を通過する必要があるが、脳を浸している特別な細胞外液は、清掃な状態に維持され、全身の体液から隔絶されていなくてはならない。

・血液や脳の間の栄養や老廃物、酸素の移動を監視し、調節し、適正化するシステムを考案するには、精緻で複雑なセンサー群を組み込んだプロセッサーや交換器が必要である。これを実現するのが脳の血管壁に存在する細胞と、ニューロンの変動する需要を監視してそれに対応している細胞間における、微細な協力関係の上に成り立っている。後者は「血管周囲アストロサイト」と呼ばれている。

思考とは何か

・ここ二、三年の間に、アストロサイトが近傍のニューロンの神経活動を感知して、脳内の細い血管を拡張あるいは収縮させる分子を放出していることを示す発見が相次いでいる。ニューロン-アストロサイト-血管間のこうしたコミュニケーションが行われている様子を、生きたマウスやラットの脳で実際に見ながら研究することに、科学者たちは成功している。

ニューロン-グリア相互作用は、医療応用にとっても多くの重要な示唆を含んでいる。脳発作や多くの神経変性疾患に対する脳の応答には、血流の局所的変化が関与しており、このプロセスの重要な調整因子として働いている細胞がアストロサイトであることは科学者の間でよく知られている。

パーキンソン病治療におけるアストロサイト

・神経変性疾患には、必ずグリア応答が伴っている。しかし、グリア細胞をニューロンの使用人と捉える見解が支配的だったせいで、グリアがニューロン死に応答しているのではなく、その根本原因である可能性に多くの科学者は思い至らなかった。

第9章 グリアと痛み―恩恵と災禍

痛みが病気になるとき―慢性疼痛におけるグリア

ミクログリアとアストロサイトは、傷害後に多くの重要な機能を担っている。

ミクログリアの神経損傷を感知する仕組みや、損傷、治癒、さらには慢性疼痛発症の過程で、ミクログリアの多種多様な応答を制御しているメカニズムの詳細を明らかにすることができれば、新しい慢性疼痛の薬の開発につながるだろう。

ニューロンが損傷したときのシグナルの中に、フラクタルカインという物質がある。この分子はニューロンの表面にあり、傷害を受けると非常事態を知らせる。ミクログリアは、フラクタルカインによる非常事態を感知する特別な受容体を持っており、感知したミクログリアは損傷部位へと急行し、その領域にサイトカインを浴びせかける。この反応は通常、傷が治るのに伴って数週間で消えるが、ときにミクログリアがサイトカインの放出を止めない場合がある。この場合、傷は癒えても痛みを伴う炎症反応は続く。

グリア細胞1

“グリア細胞”と聞いて思い出すのは、「確か、神経細胞(ニューロン)を取り巻いている細胞で、何種類かあったよなー」ということぐらいです。

そのグリア細胞に興味をもった理由は、ネットで見つけた以下のニュースです。

慢性疼痛は鍼灸師として特に重要な課題なので、どういうことなのか? このグリア細胞についても詳しく知りたいと思いました。

今回の『もうひとつの脳』は2018年発行ですが、原書は2009年なので10年以上前ということになります。内容もサイエンス・フィクションに属する本のようなので、その点も少し迷ったのですが、題名(副題:ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」)と価格を重視し、この本で勉強することにしました。

本は新書版なので単行本より少し小さいのですが、図表も少なく500ページを超えるボリュームで、「これは結構、大変だ!」というのが手にした時の感想でした。

著者:R・ダグラス・フィールド

監訳者:小西史朗

訳者:小松佳代子

発行:2018年4月

出版:講談社

こちらは原書です。

発行は2009年12月です。

ブログは3つに分けていますが、完全に自分の趣味と感覚で抜き出しています。また、読み物系なので、特に本書を読んでいない方には捉えどころのない、漠然とした内容になっていると思います。

もくじ

はじめに

謝辞

第1部 もうひとつの脳の発見

第1章 グリアとは何か―梱包材か、優れた接着剤か

第2章 脳の中を覗く―脳を構成する細胞群

第3章 「もうひとつの脳」からの信号伝達―グリアは心をう読んで制御している

第2部 健康と病気におけるグリア

第4章 脳腫瘍―ニューロンはほぼ無関係

第5章 脳と脊髄の損傷

第6章 感染

第7章 心の健康(メンタルヘルス)―グリア、精神疾患の隠れた相棒

第8章 神経変性疾患

第9章 グリアと痛み―恩恵と災禍

第10章 グリアと薬物依存症―ニューロンとグリアの依存関係

第11章 母親と子供

第12章 老化―グリアは絶えゆく光に抗って奮い立つ

第3部 思考と記憶におけるグリア

第13章 「もうひとつの脳」の心―グリアは意識と無意識を制御する

第14章 ニューロンを超えた記憶と脳の力

第15章 シナプスを超えた思考

第16章 未来へ向けて―新たな脳

訳者あとがき

本文注参照資料

さくいん

はじめに

『私たちは現在、脳についての新たな理解の先端に立っている。そしてこの新たな理解は、過去一世紀にわたる従来の脳の概念、とりわけ脳内のニューロンの役割に関する考え方を一変させるものだ。1990年、暗室のコンピューター画面の周囲に群がっていた科学者たちは、情報が奇妙な脳細胞を通過しているところを目撃した。情報はすべて、ニューロンを迂回して、電気的インパルスを使用せずにやり取りされていた。この発見まで、脳内の情報はすべて、ニューロンを介して電気によって伝えられていると想定されていた。実のところ、ニューロンは脳の全細胞のわずか15%でしかない。ところが、残りの脳細胞(グリアと呼ばれる)は電気活動を行うニューロンの間を埋める梱包材にすぎないと、これまで見過ごされてきたのだ。グリアは「維持管理細胞(ハウスキーピング)と言われてきた。家事使用人のような細胞と安易に片付けられて、グリアはその発見から一世紀以上も無視され続けてきたのだった。

この奇妙な脳細胞が互いに交信していると知って、科学者たちは今、大きな衝撃を受けている。この細胞が、神経回路を流れる電気活動を感知できるだけでなく、その活動を制御さえできることが判明し、脳に関する科学者の理解は根底から揺らいでいる。

第1部 もうひとつの脳の発見

第1章 グリアとは何か―梱包材か、優れた接着剤か

アインシュタインの脳

天才であるアインシュタイと普通の人の脳を比較して分かったことは、ニューロンの数に差はなかったが、ニューロンではない細胞が脳の四領域(前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉)すべてにおいて、群を抜いて多かった。 このニューロンでない細胞とは、グリア細胞と呼ばれ、梱包材のようなニューロンを支える接合組織のようなものと考えられていた。

深海が明かした新事実

・グリア細胞は、神経軸索のインパルス発火を何らかの方法で感知し、それに反応して細胞体内のカルシウム濃度を上昇させる。

・グリア細胞は長年、脳を取り巻く梱包材にすぎないと見なされてきたが、ニューロン間でやり取りされる情報に関係していた。

第2章 脳の中を覗く―脳を構成する細胞群

脳を解剖する

グリアは脳の細胞の圧倒的多数を占めている。

・グリアはニューロンと異なり、電気的インパルスを発火することができないため、インパルスを遠くまで送るための軸索や、電気信号を受け取るための茂みのような樹状突起といったニューロンの特徴的形質を持たない。

白質

脳の余白とされた領域(白質)で、そのメカニズムの中核を成しているのがグリアである。

・『長年なおざりにされてきたこの脳細胞に関する近年の探求が発端になって、大変革に火がついた。そしてそれは、脳がどのような構造を持ち、どのように機能し、精神疾患や病気においてどのような不調をきたしているのか、さらにはそれがどう修復されるのかといったことについての私たちの理解を揺るがしている。脳に対するこの新たな見方を理解するうえでカギになるのが、グリアだ。』

ニューロン―脳の働きに関する取扱説明書

神経系はワイヤーのような軸索に沿って、最速で時速320㎞ほどのスピードで電気的インパルスを送り出している。これはミエリンと呼ばれる電気的絶縁体で覆われているからである。

痛覚線維の伝導速度は時速3㎞、歩くスピードと変わらない。誤って机に脚を強打したときの痛みがじわじわくるのも頷ける。

・シナプスにはニューロンを結びつけるだけでなく、情報処理に柔軟性をもたせることができる。そのメカニズムは、インパルスが到達したときに、シナプス前ニューロンの終末部から放出される神経伝達物質の量をわずかに増やしたり、神経伝達物質による信号を受け取るシナプス後ニューロンの受容感受性を調節したりすることで、あるシナプスへの同じ入力が、シナプス後ニューロンで起こす電位変化を大きくしたり、小さくしたりできる。その結果、シナプス結合は強化、あるいは減弱される。

・シナプスには、更にもう一つ重要な働きがある。それは清掃である。シナプス間の神経伝達物質を速やかに片付けて、次のメッセージを送り出せるようにすることである。

・アストロサイト(4つのグリア細胞の中の一つ)は、ニューロンのエネルギー源となる乳酸も必要に応じて供給している。

「もうひとつの脳」の構成細胞

・4つのグリア細胞のうち末梢神経にあるシュワン細胞と脳や脊髄に見られる稀突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)の二つは軸索の周囲にミエリンという絶縁体を形成する。

脳と脊髄全域にはアストロサイトと小膠細胞(ミクログリア)も存在する。

ミクログリアは脳を損傷や病気から保護しており、脳や脊髄が損傷から回復するうえで中心的な役割を担う。

グリアの数はニューロンの6倍にも達するが、その正確な比率は神経系の部位ごとに異なる。

・末梢の神経線維沿いや脳内の白質新経路では、グリアとニューロンの比率は100対1になる。また、ヒトの前頭皮質におけるアストロサイトとニューロンの比率は4対1である。

・脳の外部にある全身の神経には、違う種類のグリアが存在しており、神経線維の全長にわたって、軸索の周りをぎっしりと取り囲んでいるが、これがシュワン細胞である。

シュワン細胞

シュワン細胞を発見した、テオドール・シュワンは4種類の主要なグリアの一つを発見しただけでなく、細胞という概念そのものを残した。

※Florkin, M. (1975) Theodore Ambrose Hubert Schwann, Dictionary of Scientific Biography, Charles C. Gillispie, ed., vol. 12 Scribner, New York

オリゴデンドロサイト―タコの園

オリゴデンドロサイトは、脳のほぼ全体に広がっているが、特に白質の神経路に数多く見られる。白質は、背骨を持つ動物の脳の中心部に筋状に走っている。この白質には何千本もの軸索が束になった情報の幹線が集まっていて、脳の遠く離れた場所をつないで情報を運んでいる。

・軸索とオリゴデンドロサイトの間を含めて、脳と末梢神経に存在するあらゆる種類のグリア細胞が、ニューロ-グリア間でコミュニケーションをとっている可能性がある。

アストロサイト―星のような細胞と謎の病

主要なグリア細胞の中で最初に発見された。

・多種多様な種類と、軸索も樹状突起も持たない形状が特徴である。

アストロサイトの数は脳の領域によって異なるが、ニューロンの2~10倍も多い。

・ニューロンの隙間を埋めている支持細胞

ミエリンの魔力

・無脊椎動物の神経系と脊椎動物の神経系には、電卓とスーパーコンピューターほどの違いがあるが、ハエの脳にあるニューロンはヒトの脳のニューロンと同じように作動していて、多くの場合、神経伝達物質として使用する化学物質まで同じである。

・ミエリン形成グリアは、軸索の周囲に何層もの膜を巻きつけて、ワイヤーに巻かれた絶縁テープのように各軸索を絶縁する。一方、無脊椎動物は絶縁体を持たないため、漏電で電気信号が失う。

動物や鳥などの脊椎動脈の機敏で優雅な動きは、ミエリン形成グリアのおかげである。

画像出展:「もうひとつの脳」

ミクログリア

・ミクログリアはオリゴデンドロサイトより早く発見されていたが、血流から脳へ浸潤してきた細胞だと勘違いされてしまった。

4つのグリアの中で最も小さくダイナミックなミクログリアは脳を警護している。

ミクログリアは常に枝分かれした突起を持ち、単独で潜んでいるが、ひとたび感染や傷害の危険を感知すると、高い機動性を備えたアメーバ状の細胞に変貌する。樹状突起と軸索が絡み合った隙間をくぐり抜けながら、侵入者をやっつけるために駆けつけたミクログリアは、有害な生命体を攻撃して吞み込んでしまう。

ミクログリアは常に脳の中をかき分けながら動き回っている。そして、自分の役目を果たすとたくさんの分枝を持つ不活発な細胞に戻り、風景の一部になりすますように周囲に紛れ込んでいる。

不活発なミクログリアは全く人目に付かないので、5年程前にはその存在の有無をめぐって科学者の間では議論が起きていた程である。

・ミクログリアは体内の他の免疫細胞を生み出すのと同じ胚細胞株に起源を持つ。

ミクログリアは脳に侵入するのではなく、脳とともに成長している。

ミクログリアは脳の全域に展開して脳を守っている。