『最近では、歯科治療をするさいにも、歯を含めた患者さんの全身的な健康管理が必要とされる時代になってきました。私が歯科治療に針、灸、漢方薬、それに手のツボによって全身の病気を治す高麗手指針法などをとり入れているのもそのためです。』
こちらは、日本歯科東洋医学会さまのサイトです。
『現代歯科医学の診査・診断法とは少し目線を変え、鍼灸・漢方・気功・食養をはじめとする東洋伝統医学療法を日常歯科臨床の一助となり得ると確信している歯科臨床家集団です。』
※腰痛に大変よく効くと評判の手の甲のツボを人さし指で押す刺激
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
腰痛は左右のどちらかの手の甲の骨の間に圧痛が現れる。
人体では腰の部分にあって、腰痛によく効く腎兪、大腸兪、環跳などのツボに相当するツボは、手の甲側の手首近くにある。
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
方法
・圧痛点を人さし指の先で強く押しながら骨にそって振動させる。
・中手骨と中手骨の間を順に手の甲の中央からやや手首の方に向かって人さし指の先で骨にそって皮膚を押しながら振動させていくと、腰に異常がある人はいずれかの中手骨と中手骨の間に、圧痛あるいはしこりがある。そうした反応があるところがツボである。
・圧痛やしこりが強く出ている側の手が治療の対象になる。
・ツボの位置をつかんだら、人さし指の先をツボに当てて、軽く押すようにしながら中手骨にそって振動させる。刺激は少し気持ちよく感じられる程度の強さで、圧痛やしこりがやわらいでいくまで刺激を続ける。目安は10分~15分である。圧痛が残っても15分以上は行わず、翌日、また行うようにする。
※しつこい不眠症でも知らぬまに眠りだす中指の先のツボへのつま楊枝刺激
●不眠の原因の多くは精神的ストレスが神経を高ぶらせ、イライラをつのらせることにある。
●手のツボを刺激することで心身はリラックスし、自律神経の興奮はおさまる。
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
①手の百会と太陽のツボの位置
・不眠症の治療には百会や太陽が有名である。
・手の百会に相当するツボは中指の先端の中央にある。そこをつま楊枝などで押したときに圧痛があるところがツボである。ツボを見つけたらボールペンなどで印をつけておき、そこを頂点として一辺が4ミリほどの正三角形を描くつもりで、あとの2点を指の腹の上部の両脇にとる。その2点辺りをつま楊枝などの先で押してみて圧痛を見つける。そこが太陽のツボである。ツボ刺激を数えているといつのまにか眠ってしまう。
・手のひらは交感神経が多く集まっており、そこを刺激すると過度に緊張した交感神経が抑えられ、副交感神経が優位になり入眠がしやすくなる。
※寝違えや首のこりの反応点は中指の背中にありそこに丸いボールペンの軸をころがせば治る
●中指の背中、爪の生えぎわから第一関節までの部分は、後頚部に相当し風池、風府、天注などのツボがある。
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
①首すじのこるときに用いるとよく効くツボ
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
①角のない丸いものを用いてやる
・首に異常がある人は、飛び上がるほど強い痛みを感じることが多い。痛みがあったらさらに指の側面の爪の生えぎわと第一関節の間に同じようにボールペンの軸をころがしてみて、もっと強い痛みが出ることもある。一番強い痛みの個所が分かったらそこを中心にボールペンの軸を強く押しながら、10~15秒ころがす。
※耳鳴りや難聴は中指の先を指ではさんでひねればしだいによくなる
●耳鳴りは中指の先の部分を刺激する。まずは中指の先端の中央をボールペンのペン先で強めに押す。少し痛いようだったら左右どちらかにペン先をひねる。このような刺激を4、5回くり返す。
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
①ボールペンの先を中指の先端に当て左右にペン先をひねる
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
①中指を痛いほど強くはさんでひねる
・次に、中指の指先と第一関節の間の側面をもう一方の手の人さし指と中指をひねって少し痛いぐらいに中指の側面を1~2分ほど刺激する。中指の先の両側には、耳のまわりにある耳門、翳風、完骨などと同じ効果をもつツボがあり、この方法で中指の側面を刺激すると、これらのツボがいっぺんに刺激できる。
・耳鳴りは難しい病気なので1日3回程、根気強く続けることが重要である。
著者:柳 泰佑
発行:1986年10月
出版:地湧社
この柳先生の本に関しては、「第一章 手指鍼術とは何か」の中から“鍼術との出会い”と“手指鍼術の誕生”、“てのひらとツボ”の3つをご紹介します。これを見ていただくと、柳先生の高麗手指鍼がどのように生まれたのかを知ることができると思います。
鍼術との出会い
『私が鍼術というものに関心を持つようになったのは、まだ幼い少年時代のことである。というのは、私が生まれ育った所は無医村だったのだが、急病人が出ると、私の祖父が出かけて行って太い針を刺してやっていた。すると病人は苦痛を訴えながらも、しばらくすると病気はうそのようにおさまるのである。私はその様子を子ども心にも深い好奇心をもってながめていたものだった。
ところが好運にも1963年から伝統的な体鍼術の研究をする機会に恵まれ、私は喜び勇んで鍼の勉強をはじめることに
なった。そこで東洋医学の基礎と鍼術の基礎を学んだのである。そして私は、学んだことを早速、救急療法として使用するようになり、その後、多くの人たちに、いざという時の救急処置法としてこれを教え伝えてきた。特にキリスト教の牧師、伝道師、そして信者のグループとは縁が深く、当時この人たちの間では私の教えた救急療法が広まっていった。
この体鍼を中心とした鍼術の効果は大変に大きなもので、大人はもとより子どもたちの治療にも大いに効果を発揮した。しかし体鍼の針による刺激は非常に痛いので、その苦痛のために泣き騒ぐ子どもたちの姿を見るにつけ、かわいそうに思うことが多かった。そこで子どもたちに対して、痛みがなく、しかも手軽に、その病気を治療する方法はないものかと研究を重ねてきたが、1968年に至って、中国の明代に著された「鍼灸大成」という書物の後編に、「保嬰神術」(小児按摩経)という項があることを発見し、私はすぐさまその研究を始めた。
この書物によると、子どもたちはたいてい言葉を上手に操れず、したがって痛いところはどこかをはっきり説明することもできない。その上、大人のように脈をみて診断することも難しい。そこで子どもの病気を診る時には、眼の色、顔色、泣き声などの様子から診断を下されなければならないとし、いくつもの例をあげながら具体的な診断の方法が書かれている。こうした診察の後に、手にいくつかのツボを定めて、指先で押したり揉んだり、圧迫したり擦ったりすることによって行う治療の方法が述べられている。
ちなみに、この療法の中心になるのは“三関法”という方法である。そのやり方は、①中指の先端に心点、②掌の中央に労宮点、③手首の脈の現れる所に列缺点の三点を決め、まず①心点を爪先で強く圧し、次に②労宮点を同じように圧し、続いて③手首の列缺点を肘関節の方に向けて押し上げるように擦るのである。これをリズミカルに右手、左手ともにそれぞれ10回ずつぐらい行う。これによって、すべての気運が順調になり、熱のある子には解熱作用を、胸の苦しい子には気を通す作用をする。
画像出展:「てのひらツボ療法」
三関法のための三つのツボ
私はその後、この方法で子どもたちの病気治療に多くの効果をあげるようになり、1971年にはこれを「小児手治療」という冊子にまとめて発行したこともある。(現在絶版)
子どもたちに対する手と指の刺激によるこの療法は、実際に行ってみて非常に優秀なものだということがわかったのだが、次第にこれを子どもたちの病気治療だけでなく、大人の病気治療にも応用できないものだろうかという考えが大きくなってきた。そこで成人にもこの方法を同じように簡単で、苦痛も与えず、副作用もなく、しかも危険がなくて手早く治療できるよい方法はないものかと、考えをめぐらせる日々が続いた。』
手指鍼術の誕生
『1971年の初秋の頃だったろうか。当時は常にもどかしさにかられ、思い悩んでいたものだったが、その日も考え疲れ眠りについた。ところが夜半12時を過ぎた頃に、突然右後頭部の風池と呼ぶあたりに激しい痛みが起こり、私は目を覚ました。後頭部のその痛みはとてもひどく、首を思うように動かすことさえできないほどだった。
私は急いで関連のツボを指圧したり、首の運動をしたりして痛みをとろうとしたが、反応がない。細い針を胆経にそって刺してみたが、それでもひどい痛みはおさまらなかった。それからしばらくの間は夢中になって薬にたよること以外の様々な方法をためしてみたが、痛みは一向におさまらなかった。
どうすればこの痛みをしずめて、ぐっすり眠ることができるだろうかと、痛む後頭部をかかえながら思いをめぐらせているうちに、ふと左手の甲に目が行った。
その時突然、「中指の先端を人間の頭と考えてそこに治療をしてみたらどうだろう……」という発想がひらめいた。それは突飛で、奇抜なアイデアのようだったが、結局、他の方法では全く効果がなかったのだし、わらにもすがるような思いでこの考えに基づいて試してみるしかなかった。
そこで手近にあったボールペンの先を使って、中指の先の頭に該当すると思われるところを圧してみた。はじめは特に反応点と思われるようなところは見出せなかったのだが、頭痛をこらえながらしばらくあちこちとためしていると、爪の生えぎわから右下のところにひどい圧痛点があるのを発見した。
画像出展:「てのひらツボ療法」
右後頭痛に対する反応点
圧痛点がわかったので、早速細い針をもってその圧痛点に刺し入れてみた。針を刺す時の痛みはあまり感じなかったが、不思議なことにその直後から後頭部の痛みが軽くなりはじめ、徐々に首も動かせるようになってきた。そして十数分の後には完全に痛みは消えておさまってしまったのである。
私はこの時はじめて、身体の病気に対する反射点、すなわちツボが、“てのひら”にも現れるという事実に確信を抱いたのである。
その後、私は熱心にこのような、“てのひら”のツボ=反射点を探求し、研究を重ねて、それを“手指鍼術”として体系的にまとめ上げたのである。』
“てのひら”とツボ
『ところで、私が手の甲を見ていてこのようなひらめきを得たのは、全くの偶然というわけではなく、東洋医学の基礎になる体壁反射という考えがその背景にあった。つまり、内臓やある器官に何らかの病変が生じると、そこと有機的な連関がある部位に圧痛点または硬結点などが現れる。例をあげると、胃病があれば胃の周辺に硬くしこった硬結点、押すと痛みを感ずる圧痛点が現れるが、またその反対側の脊椎とかその左右にも硬結点や圧痛点が現れ、腰仙部とか前胸部、顔面や頭部、さらには手足の各部などにも、全身にわたって胃病に関連する反射点が現れる。東洋医学、特に鍼灸学ではこのような反射反応点を一名“天応穴”、いわゆるツボといって、ここに針、灸、指圧などの刺激を与えて内臓や器官などの病気の治療を行っている。西洋医学ではこの反射点を“内臓体壁反射”と呼び、これを主に病気の診断に利用している。(“内臓体壁”については金沢大学教授石川太刀雄著「内臓体壁反射―皮電計による範例図譜」)
このように、内臓の反射点が胴体の各部にわたって現れることは知られていたけれども、“てのひら”、すなわち手と指の部分にまとまって体系的に現れるという事実については、今までどの文献もふれておらず、鍼灸学の古典にすら述べられていなかった。ただ、「内経」という書物に「手掌が熱いと腹部も熱をもち、手掌が冷たいと腹部も冷えている」というわずかな記述が見られるくらいである。
結局私は、自分自身の後頭部の痛みをしずめようとしている最中に、この体壁反射点は胴体各部だけに現れるのではなく、“てのひら”、すなわち手や指にも現れるのではないかとひらめき、後頭痛の反射点が“てのひら”にもあるはずだという仮定のもとに、中指を中心にその反応点を探してみることにしたのであった。私の創案した手指鍼術というのは、言いかえれば今まで誰も気づかなかった“てのひら”に現れる内臓体壁反射、すなわちツボを発見したものとみることができるのである。
その後、私は約5年にわたって、“てのひら”に現れるツボの研究を続け、1975年にはじめて大韓鍼灸士協会報にその成果を発表し、「手指鍼穴位図」を出版した。続いて1976年には「高麗手指鍼と十四気脈論」を出版、これは現在では「高麗手指鍼講座」と改題し、鍼灸師はもとより、医者や民間の人々にも広く読まれて利用されている。』
感想
医師である山元敏勝先生のYNSA(山元式新頭針療法)の対象は”頭”です。フランス人医師のノジエ博士は“耳”を施術の対象としています。また、”足裏”のツボをマッサージしてくれる店は少なくありません。そして、柳先生が開発された「高麗手指鍼」は”手”を対象にしたものです。
これらには、それぞれ理論があり、実践するためは知識と技術が必要です。もちろん、ツボ(圧痛点あるいは硬結などいつもと違う反応点)を指圧したり、マッサージすることは有益ですが、患者さまに施術するのであれば、理論・知識・技術は必須です。
これらの施術を否定するものでは決してありませんが、然るべき準備もせず、中途半端な気持ちでやるべきではないと考えています。
一方、私が学んできたこと、実際に行っていることは標準的な体全体を対象とした鍼灸の施術です。
ここで一つお伝えしたいことがあります。それは体の”経絡”とは線ではなく縦と横、面だということです。
左の図は昭和の重鎮、本間祥白先生の“経絡経穴図鑑”です。
頭から足先まで赤い線が描かれていますが、これは“十二経脈”と正面中央の“任脈”そして背面中央の“督脈”であり、これらは“経絡の一部”ということになります。(個人的には、これらは縦横無尽に存在する”道”の中の”特別な道=高速道路”のようなものと考えいます)
経絡の“経”は縦、“絡”は横を意味していますので“経絡”は面ということです。また、経絡は内臓にも通じているとされています。以上のことから、私は経絡とは、体表にも内臓にも存在している膜(ファシア)に極めて近いものと考えています。
もし、ファシアにご興味があれば以下のブログを参照してください。
「経絡≒ファッシア1」、「経絡≒ファッシア12」、「ファシアの基礎」
ご参考:『日本整形内科学研究会』
※手のひらのツボへの間接灸ですぐれた効果が得られる
●更年期障害の不快症状が手のひらへの間接灸で解消する
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
方法
手の三陰交と手の血海に間接灸をすえる
手の三陰交(小指と親指にツボはある)
・小指:第1関節(指先側)の横ジワ中央から約1ミリ指のつけ根側
・親指:第1関節の横ジワ中央から約1ミリ指のつけ根側
手の血海(小指と親指にツボはある)
・小指:第2関節の横ジワ中央から約1ミリ指のつけ根側
・親指:第1関節の指のつけ根の横ジワ中央から約1ミリ手のひら側
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
①刺激(間接灸)前の顔面の熱画像
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
①刺激(間接灸)前の顔面の熱画像
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
③刺激(間接灸)前の腹部の熱画像
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
④刺激(間接灸)後の熱画像。腹部全体の温度が上昇している。
※50年玉と5円玉を指の間にはさむ硬貨療法で驚くべき効果が得られる
●夜のトイレ通いが指に50円玉と5円玉をはさむと大幅にへる
●女性の敵“冷え症”は硬貨療法で撃退できる
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
方法
どちらか片方の手の薬指と中指の間の、指先の方に50円玉(無色)、つけ根の方に5円玉(有色)をはさみ、5分~10分そのまま維持する。50年玉がなければ1円玉でも良い。また、できるだけ新しい硬貨を選び、実施前に硬貨を石鹸などで洗って汚れを落としておく。
効果の理由
『体の中を流れている生体電流という、ごく弱い電流の乱れが、この二つの硬貨によって整えられるためなのです。』
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
①刺激(コインを指の間にはさむ硬貨療法)前の顔面の熱画像
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
②刺激(コインを指の間にはさむ硬貨療法)後の顔面の熱画像
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
③刺激(コインを指の間にはさむ硬貨療法)前の腹部の熱画像
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
④刺激(コインを指の間にはさむ硬貨療法)後、腹部の温度が上昇している。
生体電流については、谷津三雄先生の『6円手のひら健康法』という本に中に詳しい説明が出ていましたので、ご紹介させて頂きます。
『人間の体は約60兆の細胞からできています。そして、この細胞はまず分子からなり、この分子はさらに原子から構成され、また、この原子はさらに原子核と電子から作られています。
このうち、原子核はプラスの電気、電子はマイナスの電気を帯び、体内でつりあった弱い電気が流れています。これを専門的な言葉で「生体電流」といい、プラスとマイナスの電気が互いに調和がとれて生命現象が営まれているのです。
この「生体電流」こそ、すでに述べた体の中を流れて内臓の働きを支配しているエネルギーの正体の一つなのです。この生体電流が正常に流れている(プラスとマイナスの良好な電気のバランス)と体は健康ですが、なんらかの原因で、このプラスとマイナスの電気のアンバランスが起こると生体電流が乱れ、不健康(肩こり・不眠・下痢・便秘・冷え・腰痛など)が見られるようになります。しかもこの生体電流の乱れた状態を放っておくと、最もアンバランスとなった部位が障害され病気となって現われてきます。』
『この生体電流は、現代医学でも診断や治療にとり入れられています。たとえば、心電図は心臓の生体電流を測定し、心臓の働きを調べるものです。また、脳は生体電流が脳波、筋肉の生体電流が筋電図なのです。このような考え方から見ると、整った電流の電気人間が真の健康体ということができます。』
『この生体電流の乱れは金属を使うことで整えることができます。
金属を構成する原子には、プラスやマイナスの電気を帯びようとする性質があります。プラスやマイナスになりやすい度合いのことを専門的な言葉では「イオン化傾向」と呼んでいます。
そして、このイオン化傾向の強さは金属の種類によって異なり、その強さを順に並べたものをイオン化列といい、このイオン化列の順にイオン化傾向が大きいのです。
一般に使用されている金属ではアルミニウムが最も大きく、次いで亜鉛・鉄・鉛・銅・銀・水銀・金と続きます。
このように異なるイオン化傾向をもつ金属を皮膚の表面におくと、そこに電位差が出て、電流が発生し、乱れた生体電流が整えられ、これを異種金属療法といいます。』
『1円玉はアルミニウムでできています。アルミニウムは硬貨に使われる金属の中で最も強いイオン化傾向を持っています。イオン化傾向の強い金属ほど生体電流の乱れを整える力は強力なのです。
一方、5年玉は亜鉛と銅の合金です。したがって、亜鉛と銅という二つの異なるイオン化傾向をもつ5年玉もまた生体電流の乱れを整える力が強いのです。
そこで1円玉と5年玉の二つ硬貨を使えばアルミニウム、亜鉛、銅と三つの異なるイオン化傾向をもつことになり、より強力にしかも確実に生体電流の乱れを整え、素早く不快症状を解消することができるということになります。』
第2章 手のツボで病気は治る
※手は全身の異常を写す鏡で病気別の反応が現れそこを刺激すれば病気は治る
高麗手指針法の原理は、上記の体のツボに対応する同様な効果を持つツボが手に存在しているというものです。
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
①手のひらのツボと全身のツボの関係
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
②手の甲のツボと全身のツボの関係
・ツボはボールペンやつま楊枝など先がとがった棒や、指圧によって刺激する。
・高麗手指針法の原理では、体の異常は左手に出やすいとされているが、両手のツボを調べて、圧痛を強く感じる側の手を治療の対象にする。
・治療時間は1回15分以内とする。
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
①右の手のひらと内臓の関係
先日、患者さまから東京都練馬区石神井で開業されている、“こまつ鍼灸院”さまのことを教えて頂きました。
1997年~2022年3月現在、腎臓病患者様1.100人到達
※こまつ鍼灸院調べ
当院も定期的に来院頂いているのは、慢性腎臓病などの腎疾患の患者さまが多いのですが、患者さまの数は決して多いとはいえません。そのため、改善される患者さまの傾向をつかめているとはいえないのですが、強いていえば、過去に腎臓に関する既往歴のあった患者さまの方が、改善の可能性が高いように思われます。しかしながら、全体的には「やってみないと分からない」というのが実態です。
今回は患者さまからのお話ということもあり、また、こまつ鍼灸院さまがどのような施術をされているのか知りたいという、私自身の気持ちもあり、小松先生が書かれた本を通じて勉強させて頂くことにしました。
著者:小松隆央
出版:現代書林
発行:2018年9月
小松先生にとっての大きな出来事は、高麗手指鍼の第一人者であった金成萬先生について1年間、この高麗手指鍼をみっちり勉強されたことでした。
高麗手指鍼は1971年、柳泰佑先生によって創始された鍼法であり、以下のように日本人の谷津三雄先生も深く関わっていることを知りました。
『高麗手指鍼の効果については、その作用の一部が科学的にも明らかになっています。例えば手のツボに刺激を与えると、関連部位の血流が良くなって温度が上がることが確認されているのです。
この研究を行ったのは日本の谷津三雄医学博士で、手のツボと臓器の関連を確認するためにサーモグラフィーを使ってお灸の効果を調べたものです。このサーモグラフィーを見れば、手と患部が関連していることがはっきりとわかります。』
調べてみると、柳泰佑先生だけでなく谷津三雄先生も高麗手指鍼の著書をお持ちでした。幸いにも興味深い題名の本を地元の図書館が保有していたため、2冊の本を借りました。
1冊は谷津三雄先生の『即効手のひらツボ秘法 -最新医学が解明した高麗手指針新法の驚くべき効果』であり、もう1冊は柳泰佑先生の『てのひらツボ療法 -高麗手指鍼の原理と応用』です。前者は1990年9月の発行、後者は1986年11月の発行でした。
ブログは谷津先生の著書を先とし、創始者である柳泰佑先生の著書を後に拝読させて頂くことにしました。
著者:谷津三雄
発行:1990年9月
出版:マキノ出版
谷津先生の主な経歴は以下の通りです。
・1949年 日本大学歯科卒業(歯科医師)
・1953年 日本大学医学部卒業(医師)
・1972年 日本大学松戸歯学部教授(麻酔学・歯学史)
・1990年 日本大学松戸歯学部付属歯科病院院長
ブログで取り上げているのは、目次の黒字の項目です。
目次
はじめに
第1章 手のツボの効果が医学的に証明された
※サーモグラフなどの医療検査器で手にあるツボの効果は医学的に証明できる。
※手のひらの三点ツボを指圧するだけでもすぐれた効果が得られる
●高血圧が手のひらへの三点刺激で下がる
●冷え症は手の指を組んで圧迫するだけで解消できる
※手のひらのツボへの間接灸ですぐれた効果が得られる
●更年期障害の不快症状が手のひらへの間接灸で解消する
●生理痛は手のひらに間接灸をすえると消える
●高血圧も手のひらのツボへの間接灸で下がる
※手のひらへの健康器具やクルミを握っていると解消する
●肩こりは健康器具やクルミを握っていると解消する
●ボケ防止にも手のひらのツボ刺激は効果がある
※50年玉と5円玉を指の間にはさむ硬貨療法で驚くべき効果が得られる
●夜のトイレ通いが指に50円玉と5円玉をはさむと大幅にへる
●女性の敵“冷え症”は硬貨療法で撃退できる
※指輪2個の指輪療法には多くの効果が認められた
●親指と小指に指輪をはめると便秘が解消する
●生理痛・生理不順も指輪療法で解消できる
第2章 手のツボで病気は治る
※手は全身の異常を写す鏡で病気別の反応が現れそこを刺激すれば病気は治る
※隠れた病気や体の不調がピタリとわかる手のツボを利用した振り子発見法
※腰痛に大変よく効くと評判の手の甲のツボを人さし指で押す刺激
●手記……立っているのもつらかった腰痛が手の甲を指先で押していたらその場で消えた
※ひざの痛みは小指の第2関節をゴムひもで引っぱりパッと離せばすぐ取れる
●手記……ひざの痛みと肩こり解消の手のツボ刺激をやってみたら確かに効果が現れた
※肩こりならその場でスーッと解消する中指そらしと中指のもみほぐし
●手記……ひどい肩こりが中指をそらしたりもんだりしただけでス―ッと解消した
※しつこい不眠症でも知らぬまに眠りだす中指の先のツボへのつま楊枝刺激
●手記……深夜2時まで眠れず手のツボを刺激したら本当に眠ることができて驚いた
●手記……悩みの不眠症が寝床の中で手のツボ刺激を5~6分くり返したらぐっすり眠れた
※高血圧の人は中指と手のひらの6つのツボを刺激すれば血圧が適度に下がる
●手記……上が220ミリ、下が120ミリの高血圧が手のツボ刺激で下がりそのまま安定している
※寝違えや首のこりの反応点は中指の背中にありそこに丸いボールペンの軸をころがせば治る
●手記……寝違いによる首の痛みが中指の背に色鉛筆をころがしただけで見事に取れた
※クルミを握って手のひらを刺激するとボケが妨げて仕事の能率も上がる
●手記……手のひら刺激はボケの予防に確かに有効で患者さんに教えてあげて喜ばれている
※がんこな便秘ばかりか下痢も治ると評判の手のひらの“下腹部”への刺激
※頭痛の大半は中指の先にある手のツボを爪で押せば治り偏頭痛には特に効く
※あぶら汗が出るほどの腹痛でも手のひらに現れる圧痛点を押せばらくになる
※動悸や息切れは小指を強く噛み手の中指の先をこするだけで止まる
※耳鳴りや難聴は中指の先を指ではさんでひねればしだいによくなる
※更年期障害の不快症状は手のひら中央に必ず現れる圧痛点を押せばらくに消える
※歯痛にすぐ効くツボが手の中指の腹にあり親指の爪でそこを強く押せば止まる
第3章 硬貨・指輪療法の鋭い効果
※冷え症の人は指の間が冷えているが50年玉と5円玉をはさめば冷えは消えてらくになる
※50年玉と5円玉を指にはさむ硬貨療法がとくによく効く病気はどんなもの?
※生理痛や生理不順は銀色の指輪を小指と親指にはめるだけで解消する
※指輪療法は生理痛や生理不順以外にどんな症状に効くのですか?
※指輪療法に対する疑問に答えます
●指輪で病気を治す治療に使えるのはどんな指輪?その入法法は?
●指輪をはめてやる生理痛の治療で症状のない日でもはめていて大丈夫?
はじめに
『私たち人間は、二本の後ろ足で立つことができたために重い頭脳を支え、前の二本足が今日の手として自由に使え、高度な文明や文化を築きあげたのである。このことは四つ足の動物が二本の後ろ足で立つことができたために人間になれたといっても過言ではない。
現在、この地球上で人間ほど前足、すなわち手を巧妙、精密に使える動物は現われていない。そればかりでなく、人間の身体の中で、すべての内臓を支配し、コントロールするのは脳であり、哲学者カントが「手は外に伸びた脳である」と喝破しているが、手は脳と密接に結びついており、手からのさまざまな刺激によって、さらに頭脳の活発な動きを誘い、頭脳の急速な発達をもたらし、人間になったといわれている。
この脳と手の働きを最初に解明したカナダの脳外科医ペンフィールド博士の研究によると、手や指の占める大脳の運動野の割合は、身体の他のいかなる部位よりもはるかに大きく、したがって、手や脳を動かすことは大脳の広い部分を刺激し、脳全体の働きを活性化することが知られている。
画像は『脳の世界』さまから拝借しました。こちらのサイトには写真だけでなく、詳しい解説が書かれています。
“ロンドン自然史博物館にあったホムンクルスの模型。赤が体性感覚野、青は運動野”
ペンフィールドは脳組織の同じ帯状領域を調べて、大勢の患者から同様の反応を得た。こうして粘り強く収集したすべてのデータをもとに、ペンフィールドが作成したのが身体表面の完全な脳マップである。彼は遊び心でこのマップに中世哲学の用語で“小人”を意味するラテン語の“ホムンクルス”というニックネームを付けた。
たとえば、右手の親指と人差し指をゆっくり四、五秒間動かし続けると、運動野に相当する脳の場所の血液量が30%もアップする。このことは手や指を動かして刺激することにより脳の老化、すなわち、ボケを予防できることを物語っている。よく、「手は第二の脳」といわれているが、大脳の感覚中枢は外部からの刺激を感じる働きがあり、そのレーダーとなっているのが手のひらで、そこには17,000本の神経が通っていて、その神経1本1本が脳にシグナルを送り、それが反射的に身体全体をコントロールして、精神(心)と身体(体)の健康が保たれているわけである。このことは、日曜日のNHKテレビの夜の7時20分からの番組「クイズ100点満点」の途中で、必ず手のひらと指とを使った満点体操の行われることでも、手と脳とが密接な関係にあることを、ブラウン管を通して教えている。
このように手は、足より多くの神経が通っている。そのことは手と足の両方をつねってみるとわかる。たとえ同じ力でつねっても、手のほうがはるかに大きな痛みを感じる。また、同じ指でも足で鉛筆や箸を自由に使えないのは、足は脳との連結が手ほど緊密にないからであり、また、私たちの文字を書いたり、絵を描いたりできるのも手と脳が密接に結びついていることの証拠である。
健康を維持し、長寿を全うするには、いつでも、どこでも、すぐにできる健康法が絶対的条件である。この点、足の裏を刺激するにしても、手ほど簡単にしかも自分自身で容易に行うことができない。ここに“手のひら”のツボ刺激療法の秘法がある。
もし、内臓に何かしらの異常が起こった場合、その情報は脳と手に同じスピードで送られてくる。すなわち、手の内臓と関係の深い所にいろいろの変化が現われてくる。この手の変化をみれば、どの臓器が変調を来しているのかがわかる。これを「高麗手指鍼法」では相応点と名づけ、手のひらにおける診断点とし、また、その相応点を刺激することにより、その全身の異常を治す治療点として使用されるゆえんである。すなわち“手のひらは全身の縮図なり”である。
身体の異常はどんな場合でも早期発見、早期治療の必要なことはいうまでもない。まして内臓は自覚症状も微妙で、なかなか早期発見しにくい部位でもある。しかし、手はその張り巡らした情報網を駆使して、内臓のどんな異常でも知らせてくれる。こうした内臓の変調を直ちに反応する部位は身体広しといえども手をおいてほかにはない。「手は健康の見える窓」といってもよく、まさに手は言葉とともに人間を動物から区別する大きな特徴であるとともに、人間だけが持つ優れた器官なのである。
「旧約聖書」の箴言第三章に「その右の手には長寿があり、左の手には富と誉がある」と書かれているが「これは手には私たちが健康で長生きするための重要なツボが、全身の縮図として集まっていることを意味している。このように身体のある部位―相応部位に対して、“手のひら”に現われるツボ―相応点に刺激を与えると、その手のツボの圧痛が取れるばかりか、身体のツボの圧痛も消失し、体の異常が改善されるという治療システムを研究したのが、韓国の柳泰佑博士の「高麗手指鍼法」の原理である。
私がこの「高麗手指鍼法」を健康雑誌「安心」でご紹介したところ、実に驚いたことには、これらの記事が報道されると一週間はその問い合わせの電話が終日殺到し、その内1人で約1時間も話し続けるなど、その対応に本来の仕事ができず困惑した。
しかし、これらの悩む人々のあまりの熱心さにつれなくすることもできずに悲鳴の連続であった。また、治ったという手記を寄せる人や、私が思いもつかなかったことを質問してくれる人などの多数の手紙が寄せられ、身近な手のツボの刺激に頼る人々の大変に多いことを知った。
私と「高麗手指鍼法」との出会いは、1978年7月にソウル特別市歯科医師協会の地憲澤会長から特別講演の招聘を受け訪韓した折り、地博士を通して柳先生とお目にかかったのが最初である。そのときの柳先生の「高麗手指鍼法」に対する情熱と、その神秘的な効果に魅せられた最初の出会いの一瞬が、つい最近の出来事のように思い出されてくる。それ以来同学の士として、1979年7月にソウルの世宗文化会館で開催された第二回韓日高麗手指鍼学術大会から毎年「高齢手指鍼法」の科学的研究を基礎とした特別講演を行い今日に至っている。
本書は「安心」を読者より寄せられた強い要望に答えての出版であるために「高麗手指鍼法」の原理を基礎に一般向きにわかり易く、しかも私が行った研究の一端を加え、さらに読者から寄せられた二、三の手記を合わせ、「高麗手指針新法」と名づけ発行することにした。人間はだれもが“老い”と“死”から逃れることはできないが、本書を熟読し、“死ぬまで生きる”人間の権利を全うするための保健の向上に努められんことを願うものである。』
第1章 手のツボの効果が医学的に証明された
※サーモグラフなどの医療検査器で手にあるツボの効果は医学的に証明できる。
・温度が絶対零度(マイナス273.16℃)以上であれば、すべての物質は赤外線を放射している。この赤外線の量を検出し、表面温度の分布を画像に表すのがサーモグラフィーである。
・サーモグラフィーにより痛みの個所、薬の効果、自律神経の活動がわかる。
・手のツボを刺激による、体の表面の温度、血圧、心拍数、脳波の変化
※手のひらの三点ツボを指圧するだけでもすぐれた効果が得られる
●高血圧が手のひらへの三点刺激で下がる
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
人物は左から柳泰佑先生(高麗手指鍼法創案者)、洪珪植先生(高麗手指鍼学会理事)、谷津三雄先生(著者)
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
①指圧前の顔の熱画像
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
②指圧後の顔の熱画像
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
③指圧前の腹部の熱画像
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
④指圧後の顔の熱画像
交感神経の緊張が抑制され、副交感神経は優位になり血管が拡張して皮膚温が上がっている。心身はリラックスしてストレスが低下し血圧は下がる。
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
指圧の場所と圧迫方法
・心点(中指の先端中央:爪をたてて圧迫)
・労宮点(手のひら中央:親指を立てて圧迫)
・列欠点(親指のつけ根ふくらみの下:体幹方向へ圧迫しながらこする)
●冷え症は手の指を組んで圧迫するだけで解消できる
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
①刺激前の熱画像
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
②指のつけ根をはさんだ際の熱画像
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
③親指で手のひらを押す際の熱画像
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
④手の甲を指先で刺激した際の熱画像
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
⑤一連の動作終了後の熱画像
画像出展:「即効 手のひらツボ秘法」
方法
①手の指を組んでつけ根をはさみ痛いほど強く左右に圧迫する。
②親指の先で他方の手のひらの中央を強く垂直に圧迫する。
③指の先で他方の手の甲を強く押して刺激する。
動作を数回くり返すと、手だけなく足や腹部の血行もよくなる。
耳針については専門学校時代に30歳程年下の同級生の中に、手先の器用な友人がおり、彼が耳針に興味をもっていました。
「配嶋さん、耳のツボを診てあげますよ」ということで。爪楊枝のような細い棒(ステンレス製?)で、何ヵ所か圧をかけられると、飛び上がるように痛い箇所(ツボ)がありました。多分、腰ではないかと思いますが、少なからず軽くなったように記憶しています。
それ以降、耳針に関心をもったのは、フランス人の医師のノジエ博士が確立された耳針法ぐらいでした。
先日、偶然、耳鳴りを耳針で治療するという記事をみつけ興味を持ちました。
耳鳴りは以前ブログに書いてこともあり(”耳鳴り”)、老化による耳鳴りは治すことは難しく、気にしないこと、長くつきあっていくものという認識を持っていたものの、「できれば、何とかした」という思いも残っていました。また、耳針であればいつでも自分でできるというのも魅力でした。
そこで、耳針がどんなものか「少し調べてみるか」と思い、古い本ですが1冊の本を購入しました。
内容は本のタイトル通り、耳針の実践本であり、理論などはそれ程詳しくは書かれていませんでした。
訳編著:清水蓮
発行:1975年3月
出版:刊々堂出版
目次
はじめに
1 耳針療法について
2 中国伝統医学の基本的な考え方
3 耳介の解剖
4 耳介の神経分布
5 耳穴(ツボ) -耳針刺激点-
6 耳穴(ツボ)の探測
7 耳電探索器の扱い方
8 耳電探索器による総合診断
9 耳針治療の“ツボ”の選び方と組み合わせ方
10 耳針の応用
11 耳針の操作と治療法
12 耳針の治療偏(1)
13 耳針の治療偏(2)
14 耳針麻酔について
15 耳針麻酔の応用例
1 耳針療法について
耳針療法とは何か?
『耳針療法とは耳介の反応点(耳のツボ)を探り出して、それに針を刺すなどの刺激を与え、病気を治そうとする一種の治療法であり、中国の伝統医学の基礎の上に発展したものです。』
中国古代の文献にみる耳部による治療
・「千金翼方」には、耳の後の「陽維」というツボに灸をすえれば、耳鳴りが治療できると期してある。
本画像は「家庭でできるツボ健康療法講座」より拝借しました。
P.ノジエ博士(仏)の耳診と治療について
・1957年ドイツの針灸学雑誌は、フランスのP.ノジエ博士の解剖学的見地からまとめた「耳と人体との関係」の論文を載せている。
・『博士は耳に圧痛点を求めて、その圧痛点に針治療を行うと、その疾患に効果があることを報告し、その圧痛点の部位で、患部を知ることも出来るし、逆に患部によって、圧痛点の起る部位がわかるというのです。』
画像出展:「耳針療法の実際」
本画像は「耳つぼをこえる耳つぼ」フランス式のDr.ノジェさまより拝借しました。
施術中のノジエ博士です。
5 耳穴(ツボ) -耳針刺激点-
・非常にたくさんの病床について耳介を探測すると、特別敏感な反応点をみいだす。これが、耳針の大事な刺激点、耳のツボである。
・近年、各地の中国の医務工作の人々が、臨床に於ける耳の探則の実践を通じ、非常に多くの各種の疾病に一定の関係ある反応点をみいだし、あわせて貴重な診断と治療経験をつみかさね、耳針療法の内容は日ごとに豊富になっていった。
・以下は、上海中医学院編「針灸学」によるものである。
画像出展:「耳針療法の実際」
6 耳穴(ツボ)の探測
圧痛法
・体のどこかに疾患があると、耳の該当区に圧痛点として現れる。圧痛棒(針の柄・爪楊枝・ガラス棒など)をもって、耳介上の圧痛点を探す。
・痛点が現れる所は、その相応する部位のみではなく、病気の臓腑の表裏と関係ある所にも現れる。
・例えば、胃痛には「胃区」の圧痛点の外、表裏の関係にある「脾区」にところの圧痛点をさがす。[表裏の関係とは、表(陽経)の「胃」と裏(陰経)の「脾」のことを表裏の関係という]
・圧痛棒を使って圧痛点を探すときには、軽く、ゆっくり、そして均等に圧をかけるようにする。なお、正常であればそんなに痛みが出るものではないので、軽くとは痛いとは感じない程度とする。
・圧痛点を探すときは、同じ圧であるにも関わらす明らかに痛さを感じる箇所を見つけるのであるが、痛い箇所にあたると、眉をしかめたり、避けようと頭を動かすので分かる。
・圧痛の範囲が広い場合や、いたる所にある場合は最も敏感な点を探し出すようにする。
・圧は患者さんの年齢、性別などによって異なる。児童や痩せた女性は弱く、高齢者や皮膚の厚い人は強めに圧をかける。
続いて、もう少し理論的なこと、例えばノジエ博士の耳針法について知りたいと思い、図書館から借りてきたのが
『欧米耳針法の理論と臨床』という本です。
ざっと目を通すと、耳針法の理論は深いものであることが分かりました。施術に取り入れるなら真剣に勉強しないといけないと思いました。
ただ、自分自身に試すのであれば、気になる箇所を鍉鍼や爪楊枝で圧迫し、顕著な痛点を見つけたら手加減しながら押圧するということはできるので、それがやれる程度は知りたいと考えました。
著者:MING HANG CHO
初版発行:S53年10月
出版:医道の日本社
「第一章 最新耳針医学の背景」の「2.耳針の歴史をたずねて」の中にノジエ博士に関して、興味深いものが出ていました。理論というよりエピソードですが、貴重なものだと思いますのでそちらをご紹介します。
『フランスの首都パリから250マイルぐらい南方のマルセイユ港に向かって下る途中、汽車で4時間ほどの所にリヨンLyonという人工100万ぐらいの古い都市がある。私が今までに8回ほどたずねた町である。8回も行った理由は、もちろんノジエをたずねるのが目的である。
リヨンという町は、ローンとソーンという2つの大きな川がアルプスのほうから流れて来て合流する地点のすぐ北にあり、川は150マイルぐらい南方のマルセイユのほうへ流れて行く。川があり、山があり、谷があり、風光明媚な所である。
リヨンの町は、ローマ人が紀元以前に建てた古い町で、1975年に行ったとき、時間の余裕があったので、発掘途中のコリセウム(競技場)、野外劇場、博物館等を見学に行った。歩くことの好きな私は、ホテルから歩いて数多い美しい橋をたずね、またおいしい食堂をたずね歩いてノジエと一緒に食べたこともある。
ノジエは町の西のほう300mぐらいの高さの谷を越えた中腹にある高級住宅街の一角、医師たちのはいっている5階建ての近代的な建物のなかにオフィスを持っている。オフィスの建物のそばにノジエの2階建ての住居もある。しっとりと春雨にぬれた庭の砂利を踏んで、オフィスから家へマロニエの木の下を氏とともに歩いてお茶によばれたこともある。
ノジエは、昔フランスの絹の生産中心地、今は染料とか化学物質生産中心地であるこのリヨンでエンジニアリングを学んだが、その後さらに医学に進み、外科、そのなかでも整形骨外科(オルソペディック・サージェリー)のほうに関心を持って勉強した医者である。
【1】対耳輪の火傷痕から
1951年ごろのある日、ノジエは1人の女性患者の耳にきれいな2mm幅の四角の火傷痕を発見した。耳の対耳輪の上の焼痕である。初めて見たこの珍しい火傷痕の由来を尋ねたところ、その患者は、「私は何年も坐骨神経痛に悩まされてきました。ある日人から耳を焼くとその痛みが治ると聞いたので、初めは迷ったのですが、あるとき痛みが激しいのにたまりかねて、耳を焼くというお婆さんの門をたたいたのです。ところが、耳を焼いた数分後、もうケロリと数年間の痛みが治ってしまいました」という。
画像出展:「耳針法の理論と臨床」
その後2~3年のあいだに、同じように耳に火傷痕のある患者をノジエは数人見かけた。そのつどていねいにたずねてみると、皆上記の患者と同じような病歴と治療効果をもっていると言う。何回も同じことを聞くと、初めは半信半疑も薄らいでくるのである。それでノジエ自身も、ある坐骨神経痛の患者に実験してみることにした。患者の耳の対耳輪の上を焼くと、やはり不思議にも坐骨神経痛は治るのである。
ノジエは、そのころマルセイユの医者でハリの大家ニボイエからハリを習っていたので、焼く代りに対耳輪上にハリを刺してみることにした。やはり効果があった。
探求心の強いノジエは、耳を焼いたり、耳にハリを刺したりして坐骨神経の痛みを治すだけでは満足できなかった。この耳の治療の背後に、何か重要な秘密があるに違いないと思ったからである。それは何だろう? どういう生理的関係があるのか? どういう解剖学的な関連があるのだろうか? 神経生理学的な関連があるのだろうか? こういう質問をノジエは、患者を診るたびに自分自身に繰り返して尋ねていたという。ノジエは現在68歳ぐらいだから、この美しい見事な禿頭の2.15mに及ぶ長身温厚なおじいさんが50歳を越したばかりのころの話である。
ある日ノジエに、神の助けに会ったように、日ごろの疑問への答えがひらめてきて、耳針法が始まったのである。
ノジエが語るには、その数年前、友人のアマシュウというやはり骨の外科に関心のある医者と一緒に、いろいろと脊椎外科の問題を何カ月か研究し、討議し合ったことがあるという。その数カ月のあいだ、アマシュウは会うたびに口癖のように「坐骨神経痛の問題は坐骨と仙骨との間の関節の問題だ」と繰り返して言っていた。ノジエがある日いつものように患者の焼いた耳を調べていたとき、アマシュウの言葉が頭に浮かんできた。それと同時に「この対耳輪の焼く点は、坐骨・仙骨間の関節点なのだ。だから、焼いたり刺したりするとそこの痛みが治るのである」というアイデアがひらめいてきたというのである。
耳の対耳輪は、我々の脊柱を代表する所にあたるはずという考えが、自然と頭に浮かんできた。坐骨・仙骨間の関節が対耳輪の上方にあるとする。そして対耳輪が我々の脊柱を代表するとすれば、当然対耳輪の下が我々の頸椎にあたらなければならない。すなわち、耳では脊柱が対耳輪によって代表されているが、それがさか立ちの形で代表されている。
画像出展:「耳針法の理論と臨床」
だから対耳珠の方が頭にあたるはずで、我々の耳には我々の身体の各部分を皆代表する部分があって、その分布は、胎児が子宮内でさかさまの位置にいるような恰好で耳に配置されていると思われる。
このようなことが、次々と推理に推理を重ねてノジエの頭に浮かんできたという。1953年夏のことである。
【2】数千年前からの民間療法
耳を焼いて坐骨神経痛を治す治療法は、地中海沿岸で民間療法として数千年間用いられた方法であった。多分、ペルシャ(イラン)かインドかエジプトあたりで発祥して広まったか、あるいは東洋から来たのかも知れない。(ペルシャ方面では、お灸のように皮膚を焼く療法も広く行なわれ、結核患者など、胸とか、背のほうにも焼いたあとが今でも見られるとのことである。)そして過去数百年間いくども医学者たちに着目されて患者の治療に応用され実験されたが、確固とした理論的裏付けをなす人が無く、医学者間の意識上に浮かんでは沈み、浮かんでは沈みを繰り返していたと思われる。
私の友人であり、またノジエが自分のいちばん重要な弟子だというプルディオールは、アフリカの北部アルジュリアが故郷である。プルディオールは「私も坐骨神経痛を耳を焼いて治療するのをアルジェリアでたびたび見たが、あまり注意を払わなかった」と私に告げた。ノジエの天才は、この事実を捉え、逃がすことなく毎日のように探求し、研究を重ね、ついに耳針法の基本となる耳と体部の相関関係、その反射的な相関配置関係を発見したのである。』
『ノジエが、昔から耳を焼いて坐骨神経痛を治療する点が、耳での坐骨と仙骨の継ぎ目にあたる所で、その耳での反射点であり、対耳輪が耳での脊柱骨にあたる所であるという原理を発見したのが、1953年であるが、当時この新発見をニボイエに会って恐る恐る話したところ、ニボイエは膝を打って、このような耳の反射圏の事実は中国の針術には全然知られていない発見である。是非このつぎの地中海地方の針灸大会で発表してくれとのことで、1956年にその会で初めて以上の発見を発表したという。
その後ノジエは、ドイツのミュンヘンの医者バッハマンに会う。バッハマンはドイツのハリの雑誌の主幹をしていた人で、その雑誌が知られるものとなった。』
耳鳴り
今回、個人的な関心は耳針法による耳鳴りの治療です。以下のイラストも先にご紹介させて頂いた「家庭でできるツボ健康療法講座」さまより拝借したものですが、これを拝見すると、耳鳴りは交感(おそらく交感神経と思います)、上頸神経節点、そして内耳という3つのツボが重要であることが確認できます。
鍉鍼という刺さない鍼があるのですが、それを使って上記の3つのツボ付近を押圧すると、上頸神経節点と内耳の2か所については強くはありませんが圧痛点でないかと思う反応があります。
今後、時々耳ツボを刺激してみるつもりです。
画像出展:「家庭でできるツボ健康療法講座」
ご参考:戦場鍼
Battlefield Acupunctureは、2001年に米国空軍で現役を務めていたRichard Niemtzow博士によって作成されました。
Niemtzow博士は、耳に挿入された針が多くの種類の痛みを迅速かつ非常に効果的に緩和することを発見しました。
以下Youtubeです。8分18秒の英語の映像ですが、所々に刺鍼している様子が映し出されています。
バックナンバーは”完売しました”。頼りのアマゾンは最安値が”¥4,680”ということで、ほぼ断念。
幸い、県内の図書館を横断検索したところ県立図書館に所蔵されているのを発見し、最寄の図書館に電話して、取り寄せてもらうことにしました。
出版:医道の日本社
発行:2018年7月
「妊鍼」治療の最前線
1.中国でも増加する不妊患者への治療 中国中医科学針灸院
画像出展:「医道の日本 2018年7月号」
普通の大きな病院という感じで、日本の鍼灸院とはかけ離れた大きさに驚きました。
●中国では、月経不順や不妊など婦人科疾患の治療手段として広く使われてきた。近年は、鍼灸治療によって卵巣機能や子宮の環境が改善され、妊娠出産までたどり着いた臨床事例が、口コミやSNSで広く伝えられたことをきっかけに、鍼灸治療を希望する患者が急増している。
●来院される患者さんは、多嚢性卵巣総合群、卵巣機能不全、卵巣早衰、子宮内膜症などが多い。
●中医学では、腎の精が人の成長や発育、そして生殖力をつかさどると考えており、不妊を起こす主な原因は、腎精不足だという認識が強い、しかし、腎だけでなく、気血を生成する脾、全身の気の運動を調節できる肝、また衝脈および任脈も重要となる。
こちらは“週末病には経絡ヨガ”さまから拝借しました。
十二経脈と任脈、督脈が示されています。督脈は背中側の中心の線(紺色・破線)で、任脈はお腹側の中心の線(紺色・実線)です。
●緊張とストレスに満ちた日が続くと、不眠や月経不順、月経痛などの症状を引き起こす。その結果、子宮や卵巣の各種の疾患に発展しやすく、深刻な場合は不妊につながる。
●不妊女性は一般女性よりも高い確率で、うつ病などメンタル的病症にかかりやすくなる。
●鍼灸治療は、何よりも患者さんの心理的ケアを大事にしながら行う。患者さんの立場と気持ちを理解し、日常的な会話を通じて信頼関係をつくることが必須となる。
●鍼灸は、月経周期を正常に調節し、排卵を促進させる。不眠など不妊症に伴う症状を緩和できるほか、血液内のホルモンのレベルを調整することにも効果的であるが、一番の魅力は、心身を同時に調和して治療することだと考えている。
●不妊症には関元、子宮穴など腹部へのツボをよく用いる。
画像出展:「経絡マップ」
この図は下腹部に子宮(色つき)を体表投影した図です。中央△は任脈とよばれる経脈で、それぞれツボ(経穴名)が書かれています。“関元”は子宮中央で、下から3番目(曲骨-中極-関元)のツボです。“関元”は小腸のツボ(募穴)でもあり、よく使われます。
画像出展:「新版 経絡経穴概論」
“子宮穴”は奇穴の一つです。奇穴とは、「先人が有効な施術点として発表し、その有効性が経験的に証明され、歴史的にも受け継がれているものである」とされています。
“子宮穴”は、臍下4寸、中極(任脈)の外方3寸(指4本)に取ります。ほぼ卵巣の上です。
専門学校時代の教科書には、主治は婦人科系疾患(月経不順、月経痛、不妊症、子宮下垂、子宮脱)、膀胱炎となっていました。
画像出展:「新版 経絡経穴概論」
細かいですが、“3寸”という寸法です。
●『5、6年前、月経不順で多嚢性卵巣総合群と診断された患者は結婚して2年後にホルモン治療を1年あまり続けたが、子どもに恵まれなかった。母親と一緒に私の所を訪ねて「もうホルモン治療は嫌だ」と、あきらめ顔で泣いている姿が心に残った。30歳未満で妊娠しやすい年齢だが、気持ちが焦るあまりに、妊娠が難しくなっているように思えた。
そこで情緒を安定させ、心理的負荷を軽減させることを目的に、週2回、鍼と漢方薬を組み合わせて、治療を続けた。最初は口を開くたびに涙にくれた彼女が、だんだんと安定してきた。私が初めて彼女の笑顔を目にしたのは、2カ月後で、20数回の鍼治療を行ったあとのことだった。
その後、「妊娠しました!」と笑顔で診察室に現れるまでそんなに長い時間はかからなかった。私を強く抱きしめてくれた彼女は、子どもを授かった喜びだけでなく、確実に人生に対する自信を取り戻した。』
画像出展:「医道の日本 2018年7月号」
はらメディカルクリニックさまのサイトです。“体外受精説明会”などの勉強会も開かれています。
『2008年3月の開院以来、2540名の患者さまにご来院いただき、795名の妊娠が成立』とのことです(約31.2%)。[2020年10月30日時点]
●1993年に東京都内初の「不妊医療専門クリニック」として開院した。現在の1カ月の来院患者延べ人数は1,500人以上になる。
●はらメディカルクリニックでは、常に新しい情報を収集し、効果が見込める治療法に関しては迅速に導入している。
●当院で東洋医学を取り入れたのは、開業してから5年ほど経った頃のこと。当時、鍼灸や漢方で不妊治療の効果があったとする症例を知ったのがきっかけだった。
●『「漢方もそうですが特に鍼灸は、最終的には“エビデンスがない”という話になりますよね。しかし実際に、今まで排卵がなかった人が漢方や鍼灸を受けたあとに排卵するようになった症例がある。それなら何か効果があるんじゃないかと。エビデンスが出てくるのを待っていては、いつになるか分かりません。実際に結果が出ているのであれば、もちろん自分で試してみてからですが、取り入れてみようと思ったんです。現代医学で最善を尽くしたうえで、さらに東洋医学など多角的な方法で妊娠率の向上を図っています」』
●鍼灸の受療は患者さんの意志に任せている。鍼灸を受ける場所も自由だが、併設しているメディカルサロン「2BlueLine」の場合、電子カルテで患者情報を共有することができる。
●クリニックでは患者さんの満足度を高めるために、「看護師10分相談」(無料)などのサポートを用意している。妊娠が難しくなる42歳の患者さんを対象にした「42歳の妊娠教室」なども行っているが、年齢の壁の話の中で、サプリメントや鍼灸などを用いて卵の老化を防いだり、質のよい卵をつくることについて説明している。
●『「医師の指示に従うだけでなく、患者さんも自分たちで何かできることを模索しています。鍼灸や漢方といった補完代替医療なら、自分たちでも積極的に取り組んでいけるところに、喜びを感じるんです。そうやって患者さんの気持ちが前向きになることも妊娠に結びつくのではないかと考えています」
患者自身が前向きになることは、もし結果的に妊娠ができなかったとしても、「自分たちはやれるだけのことはやった」という人生の満足度につながるのだという。必ずしも妊娠がゴールではなく、患者が満足した人生を送ってほしいというのが、原氏の考えだ。』
画像出展:「医道の日本 2018年7月号」
ここに書かれているのは“2BlueLine”さまで行われている「一源三岐鍼」に関するものです。その目的は、着床促進効果ですが、ここでは3つの効果、「骨盤内の血流増加」、「子宮内膜を厚くする」、「黄体機能の維持」が上げられています。
画像出展:「医道の日本 2018年7月号」
明生鍼灸院さまのサイトです。“無料web相談室”があります。また、『不妊症・不育症など婦人科の疾患を主に治療する鍼灸院です! 20年以上の治療の中で1500組を超える妊娠がありました!』とのことです。
はじめに
●不妊の鍼灸に注力し始めて約30年、不妊治療の技術は進歩し、今や1年間に出生した新生児の20人に1人は生殖補助医療(ART)による出生である。一方で、40歳前後における出生率に関してはART数が増えた割に出生率が上がらない現実もある。そのようななか、鍼灸が役に立つことが、明らかになってきている。
不妊症の多くは西洋医学でなければ解決できない。例えば、卵管が器質的に閉塞している場合などである。したがって、鍼灸師がまずすべきことは、現状や問題をよく聴くことである。そして、鍼灸が何に役立つのか、目的意識を明確に持つことが非常に重要である。また、そのためには西洋医学の基礎知識を身につけなければならない。
不妊の何に対して鍼灸は役に立つのか
1.採卵に向けた卵巣の環境を整える
●妊娠の仕組みや不妊治療を理解するためには、排卵など卵巣の機能について知る必要がある。
●毎月排卵される卵子は1個だが、その1個は500~1000個の原子卵胞の中から数カ月かけて選別されている。卵胞は脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)によって刺激され発育するが、そのホルモンは血流によって運ばれている。つまり、卵胞の発育にとって卵巣周囲の血液循環は特に重要である。
●卵巣を栄養しているのは2本の動脈である。一つは腹大動脈から直接分岐する卵巣動脈であり、もう一つは子宮動脈の卵巣枝である。卵巣動脈は、腎臓の位置と同程度の腹大動脈から分岐して卵巣まで下降している。
●卵巣動脈には絡みつくように交感神経が分布している。さらに、上腸間膜動脈神経節から卵巣動脈神経叢となり、卵巣動脈を支配する。
●交感神経が必要以上に活性化すると、卵巣動脈が収縮して、血流が減少すると推測している。内田さえはラットによる研究で、交感神経と卵巣の関係を明らかにしている。
[内田さえ:”ストレス時の交感神経亢進が卵巣の機能と組織に及ぼす影響”。科学研究費助成事業。若手研究(B)、研究課題/領域番号22790238.2010-2011.]
※上記をクリック頂くと、PDF6枚の資料がダウンロードされます。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
卵巣動脈は、腎臓よりやや下の位置で、非常に太い腹大動脈から左右に分岐し、直接、卵巣を栄養します。一方、子宮動脈は腹大動脈→左右総腸骨動脈→左右内腸骨動脈から分岐し、2系統からの血液供給となっています。これらの構造をみると、卵巣、子宮とも多くの血液(酸素・栄養素等)を必要とする臓器であることが分かります。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
細かくて見づらいのですが、左上に“上腸間膜動脈神経節”があります。赤は血管、黄色は神経、神経が交差点のように集まった箇所が神経節です。また、右側の上から4番目に“精巣/卵巣動脈神経叢”とありますが、確かに赤の血管の上を絡みつくように黄色の神経が走行しています。
2.着床に向けた子宮の環境を整える
●子宮は妊娠前に比べ出産時の容積は2500倍にもなる。子宮の筋肉は人体で最も伸縮自在である。
●妊娠には胚の着床が必須だが、着床に大きく関係しているのが子宮内膜である。
●子宮内膜は内側から緻密層、海面層、基底層の3層構造で、緻密層と海面層を併せて機能層と呼ぶ。月経時に剥がれ落ちるのはこの機能層であるが、月経初日からわずか2週間で機能層は約10mm増殖して、着床に備える。そして、閉経まで毎月繰り返される。以上のことから、子宮は非常に多くの血液を必要とする臓器であることがわかる。そのため、子宮周囲の血流やホルモンバランスの影響で機能低下しているのであれば、その環境を改善することで機能回復が期待できる。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
・機能層(緻密層+海綿層)と基底層は別々の動脈で栄養されています。
・月経周期に伴う内膜組織の変化:『内膜組織の変化は、特有の血管構造によって支えられている。子宮動脈の枝である弓状動脈は、子宮筋層の表層を走り、子宮の内腔(左の図では上)に向かって放射状動脈を分岐する。放射状動脈は筋層を貫き、子宮内膜の手前でラセン動脈と基底動脈に分かれる。この2系統の細動脈が内膜を栄養する。
ラセン動脈は、コイルのように強く屈曲しながら内膜表層に向かい、その枝は毛細血管網となって機能層の全層を栄養する。これに対し基底動脈は基底層に分布するため、月経時に機能層が剥奪した後も残存する。さらに、ラセン動脈はホルモンに敏感に反応して変化する。このことが機能層の形態変化に大きな役割を果たす。』
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
こちらは子宮内膜の変化を表した図です。ここで注目したいのは、下段の“子宮内膜腺の変化”です。増殖期において、『エストロゲンはらせん動脈を増生させる』とあり、さらに分泌期において、『排卵が起こるとプロゲステロンはエストロゲンとともにらせん動脈をさらに増生させる』となっています。このことから、子宮内膜の“ふかふかで栄養たっぷりのベッド”は適切なホルモン分泌とらせん動脈の増生が極めて重要であることが分かります。
●子宮周囲の動脈は腹大動脈から総腸骨動脈、内腸骨動脈に分岐して、子宮動脈となる。子宮の自律神経支配は、交感神経は下腹神経、副交感神経は骨盤内臓神経による。このため、子宮に関与する副交感神経への刺激には、第2~第4仙骨(S2~S4)への刺激が重要になる。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
子宮に関与する副交感神経の骨盤内臓神経は右側のS2、S3、S4から出ます。
画像出展:「病気がみえる vol.9 婦人科・乳腺外科」
中央の図は左(前方)がお腹、右(後方)が背中です。子宮は膀胱と直腸の間に挟まれており、とても窮屈な状態です。少しでも血流を維持するためには、筋肉や筋膜を軟らかくしたいところです。
こちらは成果報告書で、研究課題名は“仙骨部表面電気刺激による新しい神経調整的不妊治療法の研究”です。クリック頂くとPDF4枚の資料がダウンロードされます。平成23年5月となっていますので、今から9年前ということです。なお、まとめの部分は次のような内容です。
『本研究によって、仙骨部表面電気刺激が子宮平滑筋の筋張力を低下させ、かつ排卵期の子宮の蠕動運動も減弱させることが判明した。さらに、その子宮の過度な活動性を抑制する作用は子宮の機能を安定化させ、幾度となく体外受精を繰り返しても胚の着床と成長が認められなかった難治性不妊症の患者の治療法としても、補助的に有効であろうことが示された。』
こちらは、不妊症ではありませんが、陰部神経刺鍼に関する資料がありましたのでご紹介させて頂きます。(”排尿障害に対する陰部神経刺鍼法のテクニック” PDF5枚)
木津先生の明生鍼灸院さまでは、“中髎穴刺鍼”を子宮内膜が薄い患者さまや子宮の血流に問題がありそうな患者さまに用い、“陰部神経鍼通電”を卵巣機能の低下が疑われる患者さまに用いられているとのことです。
こちらの図は名古屋市名東区引山にある“弘山はり灸院”さまから拝借しました。こちらの医院では「陰部神経刺鍼」を積極的に活用し、実績を上げられています。
●陰部神経刺鍼の適応症と治療方法
『当院では他の治療院では余り行われていない陰部神経刺鍼で下記の症状(臨床で確認済み)に対応しています。 不妊症・生理痛・生理不順・陰部のかゆみ、痛み・卵巣脳腫・更年期によるホットフラッシュ、イライラ・ 前立腺肥大・頻尿・残尿感・酷い下肢の冷え・慢性腰痛・便秘など。 治療ポイントは症状により使い分けます。一般的には臀部から★を刺激します。しかし、殿筋を貫いた下に 陰部神経があるので5~6センチほど鍼を刺入します。並行して挫骨神経が通っているので、こちらに当たってしまうことがあり、2~3回打ち直すこともあります。 A点B点は医学博士:中谷義雄が発見したツボで、昭和30年代から行われてきました。神経の抹消なので比較的浅い鍼で陰部神経に届き、確実な刺激が可能です。不妊症・ひどい陰部の痛み、かゆみ・生理不順・生理痛の方にはこちらを選択すると良いでしょう。』
画像出展:「経絡マップ」
左は骨盤とL2からL5までの腰椎です。また、赤は子宮を投影したものです。これによると、子宮はL5からS2の高さに位置していることがわかります。中央の△は督脈の経穴(ツボ)で、この図では下から“腰陽関”-“命門”-“懸枢”となっています。中央より少し外側にある●は太陽膀胱経と呼ばれる経脈で、腰椎部はL5の関元兪から“大腸揄”-“気海兪”-“腎兪”-“三焦兪”となり、“腎兪”の外方に“志室”があります。仙骨部は内側に上(S1)から、“上髎”-“次髎”-“中髎”-“下髎”、そのすぐ外側(外方1.5寸)に同じくS1から“小腸兪”-“膀胱兪”-“中膂兪”-“白環兪”となり、合計8つで“八髎穴”と呼ばれています。
骨盤部では卵管に位置する“関元兪”と仙骨上のS2-S4に位置する“次髎”-“中髎”-“下髎”が特に重要になります。
3.不妊患者のストレスに対しての施術
●脳にアタックするストレスは、抑うつを生み出し、そして自律神経の不調によって心身全体に不調は伝搬する。
●不妊患者さまの「妊娠できないかもしれない」という気持ちに、年齢のプレッシャー、夫や親族かの期待、通院に伴う職場ストレス、検査や治療に伴う身体的ストレスなど、非常に多くの重いストレスに晒されている。
画像出展:「医道の日本 2018年7月号」
こちらの写真は、三ツ川レディース鍼灸さまのホームページから拝借しました。また、トップページに『2005~2018年 妊娠報告数768件』と書かれています。
●日本でも鍼灸を含めた東洋医学で不妊症が改善されることが急速に認知されるようになり、当院でも13年ほど前より不妊症を訴えて来院する患者さんが増えた。現在では妊娠された方からのご紹介もあり、7割以上が不妊症で来院されている。
●当初は自然妊娠を望む患者さんが半分近かったが、現在は生殖補助医療と併用し、その成功率を上げるために鍼灸治療で身体を整えたいという患者さんが増え、不妊で来院する患者さんの8割以上が生殖補助医療と併用している。
●体外受精において卵子の質の低下が原因で妊娠に至らない、という相談が多い。生殖補助医療の現場でも卵子の質を高めるためにサプリメントやヨガなどが推奨されている。鍼灸治療や漢方薬も身体を整え、生命力や妊娠力を上げ、卵子の質を良くすると期待されている。
●卵子の質を考えるとき、骨盤内の血流をよくするのと同時に、ストレスの影響を考慮する必要がある。この場合、過度な不安を取り除き、「自分が妊娠できる」という自信を持ってもらうために、その患者に寄り添いながら治療を進めることが重要である。
まとめ
1.最も大事なことは、“ご夫婦(カップル)の意識合わせ”だと思います。ここに「ボタンの掛け違い」があると、根本的なストレスを抱えてたまま不妊治療に臨むことになると思います。
2.施術の基本は、体も心もゆるみ温かくなって、“楽になった”という感触であり、この“感触”の積み重ねが大切です。そして、月経が順調であれば、それは“妊娠の準備ができている”というサインだと思います。
3.施術の狙いは、本治(全身治療)が“自律神経系と内分泌系をととのえる”こと。標治(局所治療)が“骨盤部の血流をよくする”こと。そして、子宮内膜の機能層が“ふかふかのベッド”になることです。
4.鍼灸師は不妊治療に加え、栄養・運動・メンタルケアについての知識が求められます。
5.鍼灸師にとって最も大切なことは、「信じること」であり、「信頼されること」だと思います。
※具体的な施術内容については、【適応疾患】内にある”不妊症”をご覧ください。
はるねクリニック銀座の理事長である中村はるね先生は、不妊治療に携わって36年です。今回、中村先生の本を選んだのは、このキャリアが1番の理由です。図や表が多く、会話形式(Q&A)になっているため、とても読みやすくなっています。
医師・スタッフ女性率100%
高度不妊治療・婦人科クリック
著者:中村はるね、清水真弓
出版:主婦の友インフォス
発行:2017年7月
目次は大項目、中項目の2段階ですが、ブログでご紹介しているのは大項目だけです。
また、図に関しては、『病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科』から拝借しているものも多く、中村先生の『先生!私は妊娠できますか?』の文章と混在することになるため、かえって分かりづらく、しかも非常に長いブログになってしまいました。
目次
第1章 「私って、不妊症なんですか?」
第2章 「体外受精じゃなきゃ、ダメなんでっすか?」
第3章 「夫が原因だった! でも辛いのは私なの?」
第4章 「体質改善したら、卵子は若返りますか?」
第5章 「仕事が楽しいっていけないことですか?」
第1章 「私って、不妊症なんですか?」
年齢とともに妊娠率は下がっていく 日本産科婦人科学会「2014年 生殖補助医療データブック」より
●35歳を過ぎると妊娠率がガクンと下がる。
●妊娠適齢期は25~35歳である。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
卵子はどんどん減っていく
●卵子は胎児20週の時が最大で600万~700万個。その後、どんどん減っていき、思春期には20~30万個までに激減する。
●排卵、月経の有無にかかわらず、1カ月に約1,000個減少する。
●減少スピードは個人差が大きいが、38歳くらいから減少速度がアップする。
●一生の間に排卵する卵子は400~500個である。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
基礎体温のグラフ
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
良くないパターン
左上:体温がバラバラで相がはっきりしないパターン
左下:高温相が長いパターン
右上:高温相と低温相の二相にならないパターン
右下:高温相が短いパターン
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・排卵期以降の黄体期にプロゲステロンの作用によって体温が上昇します。
・一般的に体温は、運動、摂食、感情の起伏、基礎代謝などが影響しています。
・高温相と低温相の差は約0.3~0.6℃です。
・基礎体温のみから排卵日を特定することはできません。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
上段は“黄体機能不全”の基礎体温のグラフです。プロゲステロンの分泌不足のため、高温相が短くなります(10日以下)。
下段は“無排卵”の基礎体温のグラフです。卵胞が黄体へ変化せず、プロゲステロン分泌の増加が起こらないため、体温の上昇がみられません。
不妊の原因
【女性の場合】
●ホルモンバランスが崩れて排卵がうまく起こらない…20~50%
●卵管が詰まっている…30~40%
●おりものが少ない…10~15%
●子宮に病変・奇形などがある…15~20%
●その他
・受精できない…4%
・精子を攻撃する免疫を持っている…~3%
・着床できない…15~20%
・原因不明…10~20%
・高齢
●子宮内膜症…25~35%
【男性の場合】(40~50%)
●精子がうまく作れない
●精子がうまく運ばれない
●副性器に障害がある(精嚢炎・前立腺炎)
●勃起障害・射精障害
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・頻度は重複した数値です。
・女性不妊の原因は、“視床下部-下垂体-卵巣”、“卵管”、“子宮”の3つに大別されます。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・原因不明の不妊症(機能性不妊症)は、不妊を訴えるカップルの10~20%とみられています。
・考えられる原因は、軽度の子宮内膜症、軽度の卵管癒着、卵子の質の低下、染色体異常、子宮内膜ホルモン感受性低下、精子機能不全などがあります。
ストレスを感じると妊娠できないワケ
●ストレスは脳を攻撃する
ホルモンは脳と卵巣から出ている
●妊娠に関与するホルモンは脳(視床下部)と脳の指令に基づき脳下垂体および卵巣から出る。
●ストレスを感じる脳の感情中枢や食欲中枢は、性腺刺激ホルモンを分泌する視床下部に近いところにあるため、ストレスは排卵に影響を与える。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
排卵障害(20~50%)
●排卵が不規則または無排卵、卵子が育たない等の状態。排卵がなくても月経が起こる場合がある。
[検査]
●ホルモン検査
●超音波検査
●基礎体温表
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・視床下部-下垂体-卵巣系は月経・排卵だけでなく、卵胞発育、黄体形成にも関与しており、妊娠までの全過程に影響を与えます。
・特にエストロゲンは、頸管粘液の状態にも影響します。
卵管因子(30~40%)
●卵管は精子と卵子の出会う場所であり、受精から子宮での着床直前まで、受精卵が育つ場所。卵管は細いので詰まりやすい。
[検査]
●通水検査、子宮卵管造影検査 →この検査で卵管の通りが良くなって妊娠するケースもある。
●クラミジア抗体検査
●CA125(子宮内膜症の腫瘍マーカー)
●腹腔鏡検査
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・原因は、感染、子宮内膜症、手術既往などがあります。感染原因で1番多いのはクラミジアによるものです。
子宮因子(15~20%)
●子宮に筋腫、ポリープなどの病変や、子宮奇形(中隔子宮、双角子宮)が原因。
[検査]
●超音波検査
●子宮鏡検査
●子宮卵管造影検査
●MRI
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・主な原因は、子宮筋腫、子宮奇形、アッシャーマン症候群[子宮内膜が傷つき癒着を起こしてしまうことが原因とされる]。
受精障害(4%)
●先体反応障害(精子側の「卵子に入った」時に出る反応がない。
●卵子の殻が厚い
[検査]
●なし
免疫因子(~3%)
●免疫異常により精子を異物と認識し攻撃してしまう。
[検査]
●抗精子抗体の血液検査
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・抗体により妊娠が妨げられるものです。
・免疫因子には、自己免疫疾患や、胚と母体の免疫学的相互作用なども上がっていますが、不明点が多く明確にはなっていません。
着床障害(15~20%)
●良好胚を移植しても繰り返し不成功となるときに疑う。
[検査]
●子宮内膜検査(組織診、超音波)
●子宮鏡検査
●血液検査
子宮内膜症(25~35%)
●子宮内膜が子宮内腔以外に卵巣の中や骨盤の腹膜などにできてしまい出血を繰り返す疾患。
●子宮内膜症の女性の30~50%が不妊症。
[検査]
●超音波検査
●子宮卵管造影検査
●CA125、CA19-9検査(子宮内膜症の腫瘍マーカー)
●腹腔鏡検査
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・子宮内膜症と不妊は併存が多くみられます。
・子宮内膜症女性の20~40%が不妊症を伴っているとされ、一方、不妊女性の15~20%に子宮内膜症を合併しています。
・原因不明の不妊症女性に腹腔鏡検査を行うと20%程度に子宮内膜症の腹腔内病変が発見されます。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・生殖年齢女性の約10%にみられます。
・子宮内膜症は、子宮内膜症様組織がエストロゲンにより増殖することで発症します。好発年齢はエストロゲン分泌量が多い性成熟期(特に20~30歳代)になります。
・エストロゲンは、子宮内膜症以外に乳癌や子宮筋腫、子宮体癌にも関与します。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・子宮内膜症の二大症状は疼痛と不妊です。
・月経を重ねるごとに強くなる月経痛が子宮内膜症の特徴です。
男性因子(40~50%)
●男性因子の半分以上が原因不明
[検査]
●精液検査
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・顕微鏡により精子の性状や精液の量、濃度をチェックします。
●フーナーテスト(性交後試験)
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・精子が頸管を通過できるかどうかを調べます。テストは精子通過に適している排卵期に行います。
・特殊な機器を使わず検査できます。
フーナーテストの詳しい説明が出ています。なお、こちらのサイトは、妊娠希望や子育て中の方向けの情報を提供されています。
※下記は、不妊検査の全体像です。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・スクリーニング検査[左のBox]を月経周期2周期以内に完了することを目標とし、特定された因子、疑いのある因子に対して二次検査を行うことが推奨されています。
不妊治療
●初診での検査
・超音波検査、子宮頸部細胞診、膣一般培養検査、クラミジア抗原検査、血液検査、月経周期に合わせた各種ホルモン検査など
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
[一般不妊検査]
・STEP1:タイミング法…女性の自然な排卵に合わせて性行為のタイミングを合わせる方法。卵子を育てる薬(クロミッド、hMG注射など)、排卵を促す薬(hCG注射など)を使う場合もある。【保険適用】
・STEP2:人工授精…女性の自然な排卵に合わせて、子宮内に人工的に精子を送り込む方法。薬を使って卵子を育てることが多い。【保険適用外】
[高度生殖医療]
・STEP3a:体外受精…取り出した卵子に精子をふりかけて、受精させる。受精卵は初期胚もしくは、胎盤胞まで育ててから子宮に戻す。
・STEP3b:顕微授精…取り出した卵子に顕微鏡を使って細い針で1匹の精子を穿刺注入し、授精させた受精卵を初期胚もしくは、胚盤胞まで育ててから子宮に戻す。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・通常、不妊治療は簡便な治療から順に進めていきます。
・1つの治療法は3~6周期が目安です。ステップアップのタイミングは、原因、年齢などを考慮して個別に判断されます。
さいたま市大宮区にある病院です。検査などの動画を含め、不妊治療の全体像が良く分かります。
第2章 「体外受精じゃなきゃ、ダメなんでっすか?」
●基礎体温表で分かるのは排卵日だけではなく、ホルモン分泌から体質や生活習慣まで、いろいろな手掛かりが見えてくる。
特定不妊治療費助成制度について[市区町村ごとに違いがあるようです]
●対象者
・法律上の婚姻をしている夫婦で、申請される地域に住民登録があること。
・前年の夫婦合算の所得額が730万円未満であること。
●助成上限回数
・妻の年齢が39歳までに1回目の助成を受けた方……通算6回まで
・妻の年齢が40~42歳までに1回目の助成を受けた方……通算3回まで
※妻の年齢が43歳以上で開始した治療は、助成制度の対象外
ご参考(さいたま市の場合)
アシステッドハッチング法
●良好な胚でも透明帯が厚かったり硬かったりするとうまく孵化できない場合があるので、透明帯の一部を開き、孵化(ハッチング)を補助(アシスト)する。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・凍結胚を使用する例、胚移植反復不成功例(着床障害によるもの)で有効とされています。
スクラッチング
●子宮内膜を意図的に傷つける方法
SEET(シート)法
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
・胎盤胞から分泌された因子が含まれた培養液を移植の2~3日前に子宮内に注入します。これにより子宮内膜が着床しやすくなると考えられています。
体外受精の卵巣刺激
●体外受精・排卵誘発方法
アンタゴニスト法
[メリット]
●投与されるhMG[ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン]の量が減るため、体への負担は軽減される。
●排卵抑制のためにアゴニストを使用することで、ほぼ卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を回避可能。
[デメリット]
●エストロゲンが低下する可能性がある。
●アゴニスト使用のタイミングが難しい
ロング法(アゴニスト法)
[メリット]
●採卵日をある程度自由に設定可能。
●育つ卵の数が多いため、採卵数は期待できる。
●多くとれた場合、移植胚を凍結可能。
[デメリット]
●卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の危険性がある。
●体への負担があるため、2~3周期は卵巣を休ませる。
ショート法(アゴニスト法)
[メリット]
●育つ卵の数が多いため、採卵数は期待できる。
●多くとれた場合、移植胚を凍結可能。
●1周期で採卵可能なため、ロング法に比べ時間を有効に使える。
[デメリット]
●卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の危険性がある。
●体への負担があるため、2~3周期は卵巣を休ませる。
自然周期法-低刺激法
[メリット]
●薬を使わない(自然周期法)、使用しても刺激が弱い(低刺激法)ため、体への負担が少ない。
●毎周期、繰り返すことが可能。
●卵巣機能が低下している人にも対応できる。
[デメリット]
●刺激が弱いため、育つ卵の数が少ない、または育たない。
●自然排卵が起こり、採卵ができないこともある。
世界一体外受精を行うのに、世界一赤ちゃんが生まれないのはなぜ?
・原因は日本での体外受精は刺激が足りないからではないか。ただし、刺激が強いと(卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高まる。
※下記は「卵巣刺激」について説明されたものです。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・卵巣刺激(右のBox)には、クロミフェンや、ゴナドトロピン製剤(hMG製剤、FSH製剤、hCG製剤)を用いる。最近では、クロミフェンとゴナドトロピン製剤を組み合わせた方法や、GnRH製剤を併用する方法も使用されているようです。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
このグラフを見て、大変驚きました。「なんで、こんなに日本の出産率は悪いのだろう!?」と思い、検索したところ、“子宝先生®の婚活” さまというサイトに、詳細に分析された情報がありました。
“日本の1回の採卵あたりの出産率が60ヶ国中最下位は本当か①”、この記事は4回にわたっています。後半部に【関連ページを表示】というエリアがあり、そこに②③④があります。
画像出展:「日本の1回の採卵あたりの出産率が60ヶ国中最下位は本当か①」
こちらは、先にご紹介したものを横並びにし、1回の採卵あたりの出産率を折れ線グラフに変えたものになっています。
画像出展:「日本の1回の採卵あたりの出産率が60ヶ国中最下位は本当か③」
こちらは“国別単・複数胚移植の割合(%)”というタイトルのグラフです。左端の棒グラフが日本です。中央右に日本と同じように“青”が圧倒的に多い国がありますが、これはスウェーデンです。そして、この“青”は“1個”となっていますので、いわゆる単胚移植になります。『生殖補助医療において複数の胚移植による多胎妊娠は母子共に最もリスクです。特に高齢になればなるほど命の危険度が上がります。』との説明がありますので、単胚移植のメリットは安全性が高いこと、デメリットは出産率が低いことだと思います。
ただし、上のグラフで日本とスウェーデン(右から2番目)を比較すると、スウェーデンは日本以上に単胚移植の割合が多いにも関わらず、出産率(最初のグラフの折れ線)は日本の約4倍となっています。
画像出展:「日本の1回の採卵あたりの出産率が60ヶ国中最下位は本当か④」
こちらは“世代別胚移植割”というタイトルのグラフです。左端の棒グラフが日本です。“青”は34歳以下、“オレンジ”は35~39歳、“グレー”は40歳以上 となっています。日本は40歳以上⇒35~39歳⇒34歳以下の順になっており、日本と同じ傾向の国は他にはありません。比較的日本に近い国としては、ギリシャ、イタリア、スペインがあります。参考までにこの3カ国の出産率を見ると、ギリシャ約25%(約4倍)、イタリア約15%(約2.5倍)、スペイン約18%(約3倍)となっています。この3カ国は日本に比べ複数胚移植が多いため、この高い出産率は胚移植の数に関係しています。
また、単数胚が日本以上にも多いにも関わらず、約4倍という高出産率のスウェーデンを見ると、34歳以下⇒35~39歳⇒40歳以上となっており、日本とは真逆です。
35歳前に不妊治療を開始することが望ましいところですが、経済面や子育て環境などの要因が改善されないと簡単ではないと思います。
第3章 「夫が原因だった! でも辛いのは私なの?」
●精子の数はコンディションで変わる。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
・精子の数だけでなく、精子の運動率も、生活習慣、食習慣、環境ホルモン[生体の複雑な機能を調節するために重要な役割を果たしている内分泌系の働きに影響を与え、生体に障害や有害な影響を引き起こす作用を持つ物質]、ストレスなどの影響を受け変化します。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
①造精機能障害…精子を作る機能に問題がある。(男性不妊の原因の80%以上)
・造精機能障害の7割は原因不明
②精路通過障害…精子が外に出ていく通路に問題がある。
③副性器障害…精嚢や前立腺などに炎症が生じる。
④性機能障害…勃起や射精に問題がある(ED、射精障害)。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・男性不妊は、妊娠の希望と1~2年以上の性生活にもかかわらず、妊娠しない状態のうち、男性側に原因があるものを指します。
・男性不妊の原因の中では、造精機能障害が最も多く、全体の80~90%を占めます。
第4章 「体質改善したら、卵子は若返りますか?」
●基礎体温は36度台が望ましいが、1番大事なことは二相に分かれていること。
●糖分や脂肪分の多い食事や、添加物の多いジャンクフードを避ける。
●妊娠に必要な栄養の摂り方のコツは、「低糖質&高たんぱく」である。
●妊娠に必要な栄養素はたんぱく質、ビタミンA・B群・E、鉄・亜鉛・カルシウム、コレステロールなどである。
●良質な卵子、精子を作るためには血糖値の吸収をゆるやかにすることが大事なので、野菜やお菜を先に食べる。
●大豆イソフラボンは、豆腐や納豆、豆乳など食事で摂る分には良いが、過剰摂取は良くない。これは、大豆イソフラボンの摂りすぎは、月経サイクルを乱したり、ホルモン療法にマイナスの影響を及ぼしたりするおそれがあるためである。
●食事のバランスに問題がある場合、赤ちゃんの病気(例えば、神経管閉鎖障害)を予防できる葉酸や、不足しがちやミネラルやビタミン類をサプリメンで補うのは良いが、カプセルやドリンク剤などの中には、加工する段階で添加物を使っているものもあるので、そこは注意が必要である。
●鍼灸や漢方などの東洋医学は、血行改善が期待できるので良いが、産婦人科で診てもらうことは必須である。
●特に女性は“冷え”はよくないので、腹巻でお腹を温かくしたり、足を冷やさないなどの配慮が必要である。
●卵子は休眠状態から、目覚めて排卵するまで約半年かかる→体質改善は半年前から!
●男性はサウナや長風呂、長時間座ったままの仕事などは精巣や前立腺にはあまり良くないので注意が必要。また、過度なカフェイン摂取を避けること。食事で摂れない場合は抗酸化作用のあるビタミンE、Cや亜鉛の摂取は望ましい。射精は造精機能の観点から週2回以上を心がける。
●精子は作られるのに74日かかる→体質改善は2、3ヶ月前から!
●コーヒーは過剰摂取でなければ、神経質にならなくて良いが、タバコは絶対に止めること。タバコや添加物、ストレスは体内の活性酸素を増やし、細胞を傷つけてしまう。
●体質改善によって卵子の老化や劣化を抑える(若返るわけではない)。
●妊娠しやすい体とは、卵子や精子の質が良くて、受精卵が着床しやすい子宮環境になっている体であるということである。
●不妊治療と障害児の関係は、不妊治療による出産が高齢出産になる場合が多いという点も含め、はっきりした結論は出ていない。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
体質改善をしても卵子が若返るわけではありません。
第5章 「仕事が楽しいっていけないことですか?」
●治療の成功率は分母の取り方や、妊娠判定の基準などが病院によってことなっており、また、病院によっては公開していないデータもあるので、単純に比較するのは難しい等、病院別の妊娠率は公表されていない。
●病院側の設備や技術、知識の差、培養士の能力や経験などによって、病院の妊娠率には差が出る。
●年齢とともに、特に35歳、38歳、42歳を契機に妊娠率は著しく低下していくという事実は世界的に見ても変わらない。
●日本の不妊専門の病院の数は人口比では世界トップレベル。
●出産率が先進国の中で最も低い原因の一つに、年齢因子の要因がある。日本の体外受精のピークは39歳程で他国より高い。
●義務教育の中で、避妊だけでなく、妊娠・不妊についても教えるべきである。
●日本の産休期間の14週は、フランスの16週と比べても大差はないが、フランスの場合、その間の給与は100%保証される(日本の「出産手当金」は60~70%で、勤務先の健康保険に加入していることが条件)。さらに、出産費用の他、受診料、検診、出生前診断、不妊治療が公費で賄ってくれる。29歳までのカップル(結婚の有無は問われない)が二人で受診すれば検査費用は全額無料。
●日本では、性のことはタブー扱いされており、政治家を含めて出産は女の問題だと思っている人が多い。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
日本は、「妊娠」についての知識が低く、グラフによると平均値64.3に対し、日本は40にも届いていません。
付記:”置いてきぼりの男性不妊、菅政権で具体化される?”
こちらはCareNetさまの記事の一部です。下記のロゴをクリック頂くと記事に移動します。
不妊治療がついに保険適用か
『さて今回、菅政権が保険適用を目指すのは、不妊治療の中でも、運動能力の高い精子のみを選択して人工的に子宮に注入する「人工授精」、体外で人工受精させた卵子を子宮に戻す「体外受精」や「顕微授精」。いずれも現在は自由診療で行われ、人工授精は1回数万円、体外受精や顕微授精に至っては1回50万円超もザラ。治療が1回で成功することはまれで、繰り返しこうした治療を行うカップルには重い経済負担がのしかかる。
保険適用は経済的負担を軽減する点が一番大きいものの、同時に保険適用で治療がより日常化することで、不妊治療への理解が深まることへの期待も寄せられているという。
そうしたさまざまな期待がより良い方向に向かうことに私はまったく異論はないが、この種のニュースを見るたびに、やや違和感を覚えることもある。
過去に世界保健機関(WHO)が不妊症の7,273組を対象に行った原因調査では、原因が男性のみにあるケースが24% 女性のみにあるケースが41% 男女ともにあるケースが24% 原因不明が11%と報告されている。単純計算すれば、男性に何らかの原因があるケースは48%となる。この件はよく「不妊の原因は男性にもありながら、なぜか女性のせいにばかりされている」という文脈で使われることが多い。ところが今この不妊治療の保険適用問題の段になると、匿名、実名を問わずメディアに登場して不妊治療の大変さを語るのは女性のみ。原因の半数と言われる男性の視点を目にすることは極めて少ない。』
不妊治療に対する鍼灸の本を探していて今回の本を見つけました。著者の形井先生については、『治療家の手の作り方』という本を拝読していたため、お名前は存じ上げていました。
著者:形井秀一
出版:社会福祉法人桜雲会点字出版部
発行:平成21年12月
目次は、多くは3段階(一部4段階まであり)ですが、ブログでは大項目と中項目までをご紹介しています。なお、取り上げている項目は各論の「冷え症」のみになります。
目次(大項目、中項目まで)
Ⅰ 産婦人科領域の鍼灸の歴史と現状
1.現代日本鍼灸と産婦人科領域の鍼灸
2.日本における産婦人科の歴史
Ⅱ 東洋医学の産婦人科の考え方
1.月経について
2.妊娠月数と妊婦の生活
3.分娩
Ⅲ 各論
1.基礎体温
2.月経不順
3.月経困難症
4.冷え症
5.不妊
6.更年期障害
7.つわり
8.妊娠中の腰痛
9.逆子
10.逆子治療の安全性
Ⅳ 産婦人科領域の鍼灸治療のまとめ
1.はじめに
2.自分の力を信じること
3.連載を振り返って
4.これからのレディース鍼灸の方向性
4.冷え症
●冷え症とは
『冷え症は、「身体の他の部分が冷たく感じないような温度で、身体の特定部位のみが特に冷たく感ずる場合をいう」と定義される。
元々、手足は、身体の熱を逃がす役割を持っているという意味で、身体の冷却器官であるという言い方もある。通常は、手足の温度が額温より高いことはない。手足の温度が高く感じられる場合は、眠い時や、喘息のある人なら喘息発作の前兆であったりする。額と手と足の温度を比べると、額>手>足の順で温かい。
ところで、足の温度が何度以下を冷えとするかの基準は決められていない。一般に、男性は足の温度が20℃に近いくらい冷えていても冷えを訴えず、逆に女性では30℃に近いくらい温かくても冷えを訴えることがある。男性は冷えを感じにくく、女性は冷えに敏感だと言えよう。
総じて、冷えは女性に多い。冷えは、基本的には冷えを感じている人の側の訴えであるが、他者が触れて感じる場合も含まれる。冷えを訴える範囲は、全身、背部、腰から下、大腿部から下、膝から下、ソックスを履く範囲、足の指先と様々である。時には、足先は温かいが下腿部だけ冷える、腰やお尻だけが冷たいという人にもお目にかかる。2ヶ所以上に渡って冷えを訴える場合が多い。
女性の腰部や殿部、大腿部などはもともと脂肪がたくさんつくようになっている。脂肪は放熱や寒さの侵入を防ぐ防御壁で、女性器や泌尿器が冷えて働きが悪くならないように助けてくれていると考えられている。しかし、現代は脂肪が少ない女性、すなわち結果的に冷えが発生しやすい、痩せた女性が魅力的とされる傾向にあるので、冷え症の発生率は社会や時代にも影響を受けているといえよう。
ところで、環境温の変化による一時的な手足の冷えは「冷え」でよいが、それを常時感じたり、強く感じて辛い人の場合には「冷え症(あるいは、冷え性=冷える性質)」と言う。
東北大の産婦人科の斎藤の調査では、下腹痛・腰痛・頭痛などの月経困難症を訴える女性332名中、冷えを訴えた女性は214名(64.5%)であった。月経過多を訴える女性51名でも、そのうち40%(78.4%)に冷え症が存在した。
また、川名は、看護科の女子学生228名(19~30歳)から、常時「強い冷え」のある者30名を選び、生理前の全身の愁訴を聞いたところ、冷え症がない人に比べて、「頭痛・頭重感」、「下腹部が痛い」、「下腹部が重苦しい」、「腹部膨満感」、「腰痛」、「腰がはる・だるい」、「いらいらする」、「怒りっぽい」、「眠くなる」、「疲れやすい」、「思考力が低下する」等が明確に多かったと報告している。
このように、冷え症は、月経困難や月経過多、月経に伴う不定愁訴などの婦人科疾患と関係が深いと言えよう。また、頻尿・残尿感など泌尿器関係の障害とも関連があることも多くの患者が訴えるところである。
冷え症がある人は、手足の末梢の血管が収縮して血液が流れ難くなっている状態があったり、精神的な緊張状態があったりする。つまり、自律神経の機能状態がアンバランスになっていることが多い。
自律神経は、意識に支配されずに、呼吸や消化吸収、排便・排尿、睡眠、血液循環などの働きを調整して、身体の健康を維持しているのだから、その働きがアンバランスである時には、冷えだけでなく様々な症状が同時に発生しやすい。例えば、何となく身体がだるい、元気が出ない、イライラする、集中できない、食欲がない、夜よく眠れない、肩こり・腰痛があるなど、様々である。
この様な一連の愁訴群を不定愁訴症候群と呼んでいる。不定愁訴が多くある人は、身体の抵抗力も弱っているし、元気度も低下しているから、風を引きやすい、疲れがなかなかとれない、月経痛・月経不順などの状態に陥りやすい、ということになる。こういう人は、当然の事ながら、冷えやすい服装をしたり、寒いところに長く居たり、冷たいものを飲んだり食べたりすることが重なると、簡単に健康を害してしまう。単純な冷えではなく、冷え症にもなってしまう。』
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
『冷え症は、月経困難や月経過多、月経に伴う不定愁訴などの婦人科疾患と関係が深いと言えよう。』とのことが書かれていました。
そこで、月経とはどんな機能なのか調べてみました。この図は月経とホルモンの関係がとても分かりやすく説明されており、知識不足だった私にとっては、「目から鱗が落ちる」ような貴重なものでした。
「月経とは子宮内膜からの定期的な出血」ということですが、大事なことは受精のための準備だったんだという点です。そして、その準備の1つが排卵前の増殖期(卵胞期)における、「エストロゲンが受精卵のためのベッドをつくる(子宮内膜を増殖・肥厚させる)」ことであり、もう一つの準備が、排卵後の分泌期(黄体期)における、「プロゲステロンがベッドにふかふかのふとんをしく(子宮内膜の質を変え、着床に適した状態にする)」ということです。
月経困難や月経過多、月経に伴う不定愁訴といった問題は、冷え症との関係だけでなく、受精のための準備(「ベッドを作って、ふかふかのふとんをしく」)にも悪影響を及ぼしている可能性が高いと考えるべきだと思います。また、これらの問題を解決するということは、受精のための良い準備につながり、それが妊娠の確率を高めることになると思います。つまり、不妊症の対策として、「最近、心身の状態が良くなった。月経も順調!」という実感こそが、不妊鍼灸の第一歩、基本ではないかと思います。
●冷え症の鍼灸
『さて、鍼灸治療であるが、局所的治療として、肝経の太衝や侠渓、地五絵などに置鍼をすると患者の自覚的な冷えの改善の効果が得やすい印象がある。自律神経機能が落ちていれば、全身的な鍼灸治療を行って、自律神経のバランスをとる。また、冷えのある下腿を中心に鍼をすることで、足の循環改善を目指すという考え方で良いと思うが、腹部に瘀血や少腹急結などがあれば、それらを治療することも良い。ただし、腹部の瘀血塊は、刺鍼や灸によっても変化しにくい人が多く、ある程度長期の治療を覚悟しなければならない場合が多い。
冬場になって冷えを感じるようになってからよりも、秋口から治療を重ねておくことが効果的であると言えよう。』
前段の“冷え症とは”の後半部に、“川名”という名前が出てきていますが、これは参考文献の『冷え症の鍼灸療法(NO. 2) -若年女性の月経, 骨盤周径, 腹証との関連について』の著者である川名律子先生のことです。
『冷え症の鍼灸療法(NO. 2) -若年女性の月経, 骨盤周径, 腹証との関連について 川名律子-』
上記をクリック頂くと、“J-Stage”の“全日本鍼灸学会雑誌”というサイトに移動するのですが、右上の【PDFをダウンロード】というボタンをクリック頂くとPDF(12枚)の資料がダウンロードされます。また、川名先生は『冷え症の鍼灸療法(NO.1) -特に足のひえについて 川名律子-』という寄稿(10枚)もされています。
一般的に冷えに効くとされる足のツボには、太衝、三陰交、勇泉、八風などがあります。
Kampoful Lifeさまの記事“足が冷たい!足指ツボのマッサージで足の冷えを改善!寝る前の足をポカポカに”に取り上げられているツボは“八風”ですが、具体的なマッサージ方法の他、筋トレや食べ物についても書かれており、とても役に立つ情報だと思います。
付記:不妊鍼灸の実績データ
2000年9月発行なので新しいものではありませんが、『鍼灸臨床の科学』という本の中に不妊症患者20例の実績が掲載されていましたのでご紹介させて頂きます。
なお、20例について特に注目したのは、効果があった症例のほとんどが治療回数11~20回であったという点です。そして、妊娠に至った4例は治療回数13~27回(平均17.8回)、治療期間95~274日(平均193.5日)であり、妊娠するまでには3~8カ月を要したとのことでした。
『不妊症患者20例に鍼灸治療を行い、11回以上治療できた15例中4例が妊娠に至り、転居2例と脱落5例の計7例が中断し、4例が治療を継続している。
妊娠に至った例数は多くないが、不妊の治療のためのホルモン療法などを継続できず、鍼灸治療を行って妊娠した症例もあり、また基礎体温の変化が改善される症例も少なくない。したがって、鍼灸治療は不妊症の患者に試みる一手段として、検討に値すると考えられる。』
先日、知り合いの鍼灸師と話す機会があり、「不妊鍼灸はいいよ!」ということを聞きました。1番のポイントは、何と言っても成果が出ているという点です。もちろん、病気や痛みなどから解放されることも素晴らしい成果ですが、それとは違った、喜びや達成感を共有できるという点が大きな魅力とのことです。また、何をやってもうまくいかず、子宝に恵まれることのなかった夫婦が妊娠に至るというケースも少なくないという話でした。
確かに、自律神経系の乱れや冷えの問題などは、鍼灸の得意とするところです。目的は体質改善になるため数回というわけにはいかないと思いますが、鍼灸が貢献できる分野だと思います。
“不妊鍼灸”で検索してみたところ、予想以上に活況であることが分かりました。また、代々木の研修センター時代のノートを見返してみると、不妊症への鍼灸治療について心がけや施術法など、詳しく教わっていたことも確認できました。
実は、“美容鍼灸”と“不妊鍼灸”は自分には縁がないだろうと思いスルーしていたのですが、今回の一件で、「やってみよう」とのやる気が芽生え、そのための準備(勉強)を開始することにしました。
今回、勉強のために用意した主な本と雑誌は4つ、参考にした本は2つの計6冊です。
1.「カラダを温めれば不妊は治る」
2.「産婦人科領域の鍼灸治療」
3.「先生!私は妊娠できますか?」
4.「医道の日本 2018年7月号 特集 不妊症と鍼灸治療」
参考:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」、「人体の正常構造と機能」
不妊症に関わるものには次のような学会もありました。
また、不妊治療情報センターさまは多くの情報を発信されており、日本生殖医療研究協会さまには大変便利は“用語集”がありました。
この4つの中で、今の自分に最も必要なものは、現代医学が進めている不妊治療の現状や患者さまが直面している実態を知ること。鍼灸がどんな時にどんな貢献ができるのかを知ること、そして発見すること。さらに、栄養、運動、メンタルケアなどの視点からもお話ができるようになること。
以上の3つが課題であると考え、今の自分にとって最も役立つ学会は、日本不妊カウンセリング学会さまであると判断し、入会させて頂きました。
1.広く一般市民を対象に妊娠・出産や不妊に関する適切な情報提供活動を行い、また特に不妊で悩んでいる人々に対して、カップルが最適の不妊治療を選択することができるように不妊カウンセリング・ケアの発展と普及を図る。
2.不妊カウンセリング・ケアに係わるさまざまな実践や研究を行う。
3.認定基準に基づき不妊カウンセラーや体外受精コーディネーターの養成講座の開催や認定を行う。
4.1、2、3を通して、国民の医療・福祉の向上に寄与する。
ブログについては長くなったので4つに分けました。
最初のブログは、不妊鍼灸で有名な徐 大兼先生の著書です。
目次は3段階ですが、ブログでは大項目と中項目までをご紹介しています。取り上げている項目は黒字の部分です。『』で括った文章は引用させて頂いたものです。また、自分の勉強のために何度も割り込みをしており、かなり見づらくしていると思いますがご容赦ください。
目次(大項目、中項目まで)
まえがき
Chapter1 カラダを温めましょう
1.あなたのカラダは冷えていませんか?
2.カラダの「冷え」が不調の原因
3.冷え性体質のあなたに
4.カラダを温めないあなたに
5.食事が不規則なあなたに
6.カラダを冷やす食べものが好きなあなたに
7.睡眠不足のあなたに
8.運動不足のあなたに
9.ストレスがたまっているあなたに
10.心が冷えているあなたに
Chapter2 不妊症に向き合おう
1.不妊症をよく知ろう
2.不妊治療のステップ
3.妊娠のために自分でできること
4.男性の不妊症について
5.アルコール、タバコ、サプリメントなどについて
6.心とカラダを温めるセックス
7.不妊に効く、その他の健康増進法
Chapter3 東洋医学で不妊症を脱しよう
1.東洋医学ってなんだろう?
2.東洋医学は不妊に効く!
Chapter4 鍼灸を不妊治療に活用しよう
1.不妊に効く鍼灸治療
2.良い鍼灸院を選ぶポイント
3.鍼灸を不妊治療で利用した人たち
まえがき
●不妊に悩む女性には共通点がある。それは、カラダに「冷え」をかかえているということである。
●「冷え」を取り除き温かいカラダになることは、不妊から解放される第一歩となる。
Chapter1 カラダを温めましょう
1.あなたのカラダは冷えていませんか?
●カラダの「冷え」が改善する時期と、不妊治療の結果が出て妊娠する時期がだいたい一致するということがわかった。
●生活習慣や食事が「冷え」をつくっていないか注意する。
●規則的なライフスタイルで健康になってこそ、子宝に恵まれるカラダの余裕が生まれる。
●ストレスは「冷え」をつくる。ストレスは心も冷やす。
画像出展:「自律神経失調症を知ろう」 (詳細はブログ“自律神経失調症”を参照ください)
ストレスの第一の標的は脳であり、“脳の疲労”を生み出します。これが続くと“神経症”に進み、さらに体全体(自律神経系)に広がると“自律神経失調症”になります。分泌系は脳(視床下部)から始まることを考えると、ストレスは最初にやってくる最大の脅威です。
●女性の排卵機能は、内分泌系や自律神経系と大きな関係がある。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
卵巣や精巣から分泌されるホルモンは、脳(視床下部)→下垂体→卵巣・精巣とつながっており、分泌促進や分泌抑制などのフィードバック機能によって適正な状態に維持されます。
これを見ても、脳を第一の標的とするストレスは大変な脅威といえます。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
左側の赤線は、活動する神経の交感神経ですが、赤●(神経核)はT1(第1胸椎)~L2(第2腰椎)から出ています。
一方、右側の青線は休息する(内臓は活動)神経の副交感神経ですが、青●(神経核)は脳(中脳・橋・延髄)と骨盤部のS2(第2仙椎)~S4(第4仙椎)から出ています。
これを見ると、脳とともに骨盤部も非常に重要なことが分かります(交感神経に関しては、不妊症を考えるとT9(第9胸椎)~L2(第2腰椎)が特に重要です。ちなみにツボ[背部兪穴]の視点でみると、T9-“肝”、T11-“脾”、L2-“腎”となり、不妊症に関係が深いとされる“臓”がすべて入いっています)。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
この図は骨盤部をお腹側から見たものです。色が3色(赤・青・紫)である理由は以下の通りです。
赤は交感神経、青は副交感神経ですが、神経叢においては交感・副交感神経線維は入り混じって臓器に分布しているため、赤+青→紫になっています。
また、“副交感神経の仙骨部と骨盤神経叢”という見出しに続く説明は以下の通りです。
『仙髄から出る副交感神経を骨盤内臓神経といい、S2~4から数本以上の小枝として起こり、肛門挙筋神経と共通幹を作ることが多い。骨盤内臓神経は、下腹神経および仙骨内臓神経とともに、骨盤神経叢(下下腹神経叢)を構成する。骨盤神経叢は、膀胱の後縁から直腸の側方にかけて広がる扁平な神経叢である。ここから多数の枝が出て、直腸、膀胱、前立腺、子宮、膣などの骨盤に分布する。なかでも骨盤内臓神経は、排尿、排便、勃起などの重要な自律神経反射を担っている。』
画像出展:「はりきゅう理論」
左の“分節性反応”とは直接的な作用です。一方、右の“全身性反応”は次のような説明がされています。
『四肢の体性刺激によって起こる内臓反射は、おもに上脊髄性反射として全身の反応性の反応が現われ、その例として血圧の調整にも関与している。』
また、鍼灸効果と体性内臓反射との関係は以下のようなものです。
『一定の体壁を刺激すると、その興奮は脊髄後根に伝えられ、脊髄と同じ高さの神経支配を受けている内臓に反射作用が現われる。このときに、内臓に現われる現象は、運動性(蠕動、収縮など)、知覚性(過敏、鈍麻)、分泌性(亢進、抑制など)、代謝性ならびに血管運動性(小動脈の拡張、収縮など)である。体表から刺激を加えて、内臓機能の変調を調整しようとする鍼灸効果の機転は、この反射によるものが大部分であるといえる。』
画像出展:「新版 経絡経穴概論」
背中には背部兪穴(肝兪、脾兪、腎兪など)がよく使われますが、奇穴[先人が有効な施術点として発表し、その有効性が経験的に証明され、歴史的にも受け継がれているもの]の中には、“夾脊[華佗夾脊]”という、脊骨の際に取るツボがあります。主治は「胸腹部の慢性疾患」となっています。
なお、”華佗”とは、中国後漢末期の薬学・鍼灸に非凡な才能を持つ伝説的な医師です。華佗という名がついた“華佗夾脊”は、歴代の医師が極めて重要なツボと考えていたということだと思います。
本書の、「2.8 神経リンパ反射の交感性・副交感性作用」には次のような説明がされています。
『チャップマン反射点を活性化すると、自律神経系を通して反射点と連結する内臓に影響を与えることが可能である。反射点の治療を通して交感神経緊張の制御が切り替わり、関係する内臓の血流が良くなり代謝推移が素早く正常化する。』
画像出展:「神経リンパ反射療法」
こちらは、背中側のチャップマン反射の刺激点を表したものです。生殖に関係する刺激点は、右第9、第10胸椎(卵巣・精巣)、右第5腰椎(子宮広間膜・前立腺・子宮・精管)、右仙骨裂孔外方(卵管・精管[主要反射点])となっています。
一方、左側には、左第8~第10胸椎(小腸)、左第11胸椎(副腎)、左第12胸椎(腎臓)などが見られます。
8.運動不足のあなたに
●運動は気や血の流れをよくし、健康で温かく、やわらかいカラダをつくり、カラダを芯から温める最も効果的な方法である。
●子宮内膜の血液は、子宮動脈→弓動脈→放射状動脈→ラセン動脈→毛細血管→静脈腔へといくつも枝分かれしながら、最終的に子宮内膜にたどりつく。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
こちらの図では、子宮内膜の放射線動脈からの先の構造(ラセン動脈→毛細血管→静脈腔)が確認できます。
●歩くことによって仙腸関節に微妙な動きが生じ、お尻の上に位置するこの関節が歩くたびにゆらゆらと動きながら、本来の正しい骨盤の位置に修正されていく。
●内臓はカラダの中にギッシリ詰まっているが、歩くことにより内臓が動き、内臓同士がお互い滑り合いそれぞれの位置や形を変えて適応する。
●内臓はすべて膜(漿膜など)でつながっているが、動かないとこの膜同士の滑りに制限がでてくる。するとお互いの動きが悪くなり、それが内臓の働きに悪い影響を与える。
●歩くことによって、内臓の滑りがよくなり、最適な位置に収まり、動きの制限がなくなって緊張がゆるむ。これは“内臓のコリ”がとれた状態で、これによって内臓の血液循環もよくなり、温かくやわらかい内臓になる。
「ゆらゆらと動きながら、本来の正しい骨盤の位置に修正されていく」というお話から、“操体法”を思い出しました。写真をクリック頂くと、日本操体学会さまのサイトに移動します。健康法としての「操体法」は不妊でお悩みの方にも有用なものではないかと思います。
『「操体」とは、立って動き回る人間にとって基本的な人体の構造と仕組みとしての骨格と筋肉のかかわり(運動系)を、その成り立ちの根本に着目して、誤りなく体をあやつり、動かすことを総称した表現です。単なる運動とか体操とは違い、二足歩行動物としての人間に とって最も自然な身体の動きと、不自然な動きによって起きる体の歪みを見きわめ、歪みのない体を保つことが操体です。』
画像出展:「万病を治せる妙療法」
『私は「人間は動く建物である」と考えています。簡単な三角屋根の家の四隅の柱を四本の足として、棟木を背骨と考え、これに首と尾をつければ動物であり、さらに後足で立ち上がったかたちが人間です。ただの建物であれば動きませんが、この建物は動きまわると考えてください。動くからこそ、からだを操って健康を守ろうという理由も出てくるわけです。建物に構造上のくるいがあっては健康はまっとうされない。そればかりでなく、動き方にも故障があってはならない。構造にも動き方にもちゃんと自然の法則はあるのです。これが人体の基礎構造です。』
画像出展:「万病を治せる妙療法」
”操体療法の基本型”はⅧまであります。
[余計なお世話ですが、パートナーの方の協力で取り組むというのはいかがでしょうか。もちろん、「操体法」がすべてではありませんが]
●筋肉は体の中で最も熱を発生させる。
こちらの画像は、「身体の“熱”の発生源は筋肉(市報のだ10月15日号掲載)」より拝借しました。筋肉といえば、運動、力の発揮ですが、もう一つの重要な働きが身体の熱をつくること、“熱産生”です。生命維持に必要最低限のエネルギーとされる“基礎代謝”は筋肉が増えると上がります。つまり、筋肉を増やすこと(栄養+運動)は、冷え対策の観点からもとても重要といえます。
9.ストレスがたまっているあなたに
●リラックスすると副交感神経が優位になる。副交感神経が優位な時は消化器がよく働き、栄養の吸収もよくなる。妊娠に必要なホルモンの分泌も盛んになる。
●リラックスは全身の筋肉をゆるめ、筋肉で押さえつけられていた毛細血管を拡げる。すると血液循環がよくなり、栄養たっぷりの血液が全身に送られ、体の細胞が元気になる。
“リラックス”はストレスから心身を守る有効な手段です。しかしながら、リラックスするとは簡単そうでなかなか難しいものです。成瀬悟策先生は“動作法”の創始者ですが、この「リラクセーション」という本の中には、“リラックス・イメージ体験”というユニークな方法が出ています。なお、画像をクリック頂くと、”心理学ミュージアム”で紹介された成瀬先生の動画に移動します。また、ご興味あれば、ブログ“緊張とリラックス”を参照ください。
リラックス・イメージ体験
『本当はまだまったくリラックスしていないからだなのに、いきいなり自分のからだをリラックスしているとイメージしようとしても、なかなかそんなことはできないものです。そんな概念とか観念のようなものは、頭のなかで思うことはできても、リラックスする感じを伴うことのない空疎な言葉だけに終わってしまうでしょう。
ところが、しばらくその思いを繰り返したり、いくらか疲れたか飽きたりしてぼんやりしてきたり、課題実現はあきらめて楽な気分になったり、頑張りはやめて何も考えないでいたり、現実を忘れて豊かな雰囲気に包まれていたり、春風駘蕩の夢心地という状況に近づいてくると、自然にからだも緊張からかけ離れたものになってきます。
緊張はしていないにしても、まだリラックスという感じではないという状況がしばらく続くと、緊張と弛緩の中間にあった気分は徐々に変化してくるものです。それをとくに自分のからだの弛緩した感じとしてからだに注意を向けてみると、なんだかそのとおりの感じがしてくるということになるかもしれません。さらに、それにこころを向けていると、この感じがいよいよはっきりしてきて、身も心もリラックスしたような感じになってくるものです。』
10.心が冷えているあなたに
下記に書かれた内容は、日々忙しい夫婦にとって決して簡単なことではないかもしれませんが、不妊と向き合う上で、最も大事な最も基礎になるものだと思います。
『不妊治療を始めたことで、夫婦の絆が深まるカップルもいます。そういうカップルは、不妊治療を「二人で取り組む共同作業」だと考えています。本音で話し合い、励まし合い、いたわりあって乗り切っていくのです。その乗り切りには、カップルそれぞれの個性があるでしょう。
私がすばらしいアイデアだと思ったのは、妊娠判定日には必ずご主人がディナーを予約するというカップルです。
採卵、移植と過ぎて、妊娠しているかどうかが判明する日、結果はどうあれ、「今回もがんばってくれて、ありがとう」という気持ちの表現として、ご主人がセッティングなさるのだそうです。
待ち望んだ妊娠判定が出たら、「おめでとうディナー」として、ジュースで乾杯! 残念な結果に終わったとしたら、「お疲れさまディナー」としてワインで乾杯です。
不妊治療の結果にかかわらず、毎回の区切り区切りでホッと肩の力を抜く機会が必要だと思います。「ありがとう」とパートナーに言われたら、女性も心が温かくなります。がっかりはしても、またがんばろうと思えるでしょう。
お互いに歩み寄り、子どものできない大変な時期を二人で乗り切るために、夫婦のコミュニケーションは常に深くなっていくべきなのです。
逆に、女性が不妊治療を一人ぼっちで戦っている気持ちになると、冷たく硬い心になって、うつっぽくなってしまいます。冷たく硬い心は、カラダを縮こまらせ、筋肉を硬くします。そのことで血行も悪くなり、カラダまで冷えてくるのです。「冷え」が新たな不妊の原因を生むことになり、子どものできない期間を長引かせることにもなります。
男性は、女性をそんな気持ちにさせないように、温かい言葉をかけてあげてください。女性がホットできるような時間をつくってあげてください。照れずに感謝の気持ちを伝えてあげてください。二人の心が冷えないことが、妊娠の鍵なのですから。』
Chapter2 不妊症に向き合おう
1.不妊症をよく知ろう
●器質性不妊…カップルのどちらか、あるいは両方に妊娠に至らない理由があるもの。女性ならば、排卵障害、卵管障害、着床障害などがあり、男性ならば、精子の数や運動効率の問題などがある。
●機能性不妊…身体的異常がないが妊娠しないもの。
5.アルコール、タバコ、サプリメントなどについて
●『妊婦に対するカフェインの有害性は、以前からアメリカでもさまざまな論文が出されています。しかし、それだけでなく、何杯もコーヒーを飲むことによって妊娠する力が低下し、コーヒーを飲まない人と比べると、妊娠率が低下することが報告されているのです。1日数杯飲むだけでも、その違いは出てしまいます。
また、喫煙者で、カフェインも摂取する人の場合は、より妊娠しにくいという調査結果も発表されています。私自身もこれまでの治療の経験から、コーヒーをたくさん飲む人に見られる、ある共通点を感じています。それは、カラダの冷えが強く、妊娠に関連する3つの経絡(肝経、腎経、膀胱経)にも冷えが現れている人が多いということです。』
アルコールやタバコが良くないのは明らかですが、コーヒーなどカフェインの摂りすぎも大きな問題のようです。
カフェインの過剰摂取について
『コーヒーは、適切に摂取すれば、がんを抑えるなど、死亡リスクが減少する効果があるという科学的データも知られていますが、カフェインを過剰に摂取し、中枢神経系が過剰に刺激されると、めまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠が起こります。消化器管の刺激により下痢や吐き気、嘔吐することもあります。』
食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~
以下はカナダ保健省 (HC)の例です。
2010(平成22)年に、カフェイン摂取について注意喚起を行いました。主な内容は以下のとおりです。
・少量のカフェイン摂取はほとんどのカナダ人にとって懸念はないが、過剰摂取は不眠症、頭痛、イライラ感、脱水症、緊張感を引き起こすため、特に子供や妊婦、授乳中の女性は注意すること。
・健康な成人は最大400 mg/日(コーヒーをマグカップ(237 ml入り)で約3杯)までとする。
・カフェインの影響がより大きい妊婦や授乳中、あるいは妊娠を予定している女性は最大300 mg/日(マグカップで約2杯)までとする。
・子供はカフェインに対する感受性が高いため、4歳~6歳の子供は最大45mg/日、7歳~9歳の子供は最大62.5mg/日、10歳~12歳の子供は最大85mg/日(355ml入り缶コーラ1~2本に相当)までとする。
・13歳以上の青少年については、データが不十分なため、確定した勧告は作成しなかったが、一日当たり2.5mg/kg体重以上のカフェインを摂取しないこと。
(ご参考)Health Canada Reminds Canadians to Manage Caffeine Consumption(2010)
Chapter3 東洋医学で不妊症を脱しよう
2.東洋医学は不妊に効く!
●骨盤腔内への血流が悪くなると生殖機能が弱まる。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
子宮は、前方からは膀胱と恥骨、後方からは直腸と仙骨盤に挟まれており、とても窮屈そうです。
こちらは“フィットネスの勧め”さまより拝借しました。図は腰を横から見たもので右が背中側になります。ここに出ている動脈は全部で23本ですが、これを見ると、窮屈そうな骨盤腔内には多くの動脈が走行しており、血液の滞りが懸念されます。
Chapter4 鍼灸を不妊治療に活用しよう
1.不妊に効く鍼灸治療
●卵胞発育促進剤(クロミッド、セロフェン、セキソビット)は子宮内膜を薄くし、精子にとって重要な頸管粘液が減るという副作用があるが、鍼灸治療は、このようなアンバランスな部分を整えることもできる。
2.良い鍼灸院を選ぶポイント
●高度生殖医療の知識、特に血液検査に対する知識など必須である。
私自身が還暦越えのためか、70歳以上の患者さまもめずらしくはありません。
愁訴や様子などにより状態を把握することが基本であり、その意味では患者さまの年齢を特に意識することはないのですが、年齢に関わらず配慮すべきと判断した場合は、着替え、ベッドの昇降、体位変換、体位維持、施術時間や刺激量(鍼数、置鍼時間、雀啄の有無)などに注意するようにしています。
これらの中で、特に気になっていたのは体位に関するものと、刺激量についての対応です。そこで、何か良い本はないだろうかと思って見つけたのが、今回の“中高齢者の鍼灸療法”という本になります。なお、ブログでは“5.鍼治療法”をご紹介しています。
編著:宮本俊和、冲永修二
出版:医道の日本社
発行:2015年4月
執筆者の先生は下記の通りです。
画像出展:「中高齢者の鍼灸療法」
目次
総論
1.中高齢者の医療
2.中高齢者の整形外科的疾患の特徴(ロコモティブシンドローム)
3.中高齢者の健康・体力づくり
4.中高齢者の鍼灸受療状況
5.鍼治療法
6.低周波鍼通電法
7.灸治療法
各論
1.頚椎症性神経根症・脊髄症
2.肩関節周囲炎(五十肩)
3.上腕外側上顆炎
4.腰部脊柱管狭窄症(LSS)
5.変形性股関節症
6.変形性膝関節症
7.頭痛
8.三叉神経痛
9.顔面神経痛
10.関節リウマチ・膠原病
11.気管支喘息
12.糖尿病性神経障害
13.慢性腎臓病(維持透析)
14.高血圧症
15.前立腺炎・膀胱炎
16.更年期障害
コラム 医療従事者からよく聞かれる鍼灸Q&A (84ページ)
5.鍼治療法
鍼治療 筑波大学理療科教員養成施設 濱田淳
『筑波大学理療科教員養成施設では、治療の原理として経絡や経穴の特異的効果よりも、解剖学的、生理学的な知見に基づいて施術を行っている場合が多い。
診察上、客観的所見の得られやすい筋骨格系の施術を得意としており、そのため、主動作筋や支配神経を施術対象とすることが多い。刺激方法としては、施鍼のみ(置鍼法・雀啄法)、あるいは低周波鍼通電を用いている。後者については別項に譲り、ここでは基礎技術とも言える刺激法に関して、中高齢者に特化して述べる。』
中高齢者に鍼をする前に
・人は30歳を過ぎたあたりから心身の機能低下を自覚するようになる。高齢になっていく過程で、女性では更年期障害による問題、男性でも退職による問題、あるいは友人や親族などを亡くしたことによる喪失感や将来への不安など身体的な障害だけでなく、精神的な問題も健康状態に影響を及ぼす傾向が強くなる。
・中高齢者の愁訴は一般的な原因だけで把握することが難しく、さらに加齢による退行性変性が加わるので、愁訴の原因は複雑化し、改善に至るまでに時間がかかることが多い。
・治療にあたっては、一度傷害された組織は元通りに戻ることは少ないこと、若い時とは異なり、症状は同様であっても、状況や病態、回復までの時間は同様ではないことを認識してもらうことが大事である。
・鍼治療は適応と限界を有する治療法であり、施術者まかせという姿勢だけでは回復が進まないケースも見受けられるため、施術者と患者が共同で治していくという態勢を構築する。
鍼施術を進める上での注意点
1)姿勢変化や変形、あるいは治療姿勢の問題
・加齢により、組織の柔軟性の低下や筋力低下、関節可動域の低下、運動機能の劣化などにより、ベッド上での体位変換が難しくなり、落下など思わぬ事故につながることがあるので、運動機能評価を兼ねた見守りや支え、手助けが必要である。
・ベッドからの落下防止あるいは被害を小さくするには、昇降可能なベッドを使用し、体位変換時や立位介助に役立てるのが理想的である。
・管鍼法を使う場合、通常は上から打つところを下から打つなど、患者のとれる姿勢に合わせた刺入技術を工夫することが必要になる。
・五十肩患者の施術時には治療姿勢が重要で、患者に同一姿勢を維持させると、不動作や圧迫により関節や筋に痛みが出てきて苦痛を感じることも多い。
2)多愁訴化
・変形性関節症を例に挙げても、膝だけでなく、他の部位にも症状が現れる場合が多いので、体幹部、股関節、足関節などの観察も重要となる。
・全く異なる疾患が潜在している可能性も考えるべきであり、施術者は多方面から検査・鑑別することが求められる。
・愁訴が多く、施術時間が長くなりがちなので、同一姿勢を長く続けなくても良いように、配慮や工夫が必要である。
3)体格の問題(肥満・痩せ)
①肥満
・代謝の変化や運動量の減少によって、中高齢者は体格に変化をきたすことが多い。
・肥満が様々な疾患を引き起こしたり、症状の増悪を招いたりしているケースも少なくないので、食事や運動など減量に関するアドバイスも必要である。
・女性はもともと皮下脂肪が厚く、筋が薄く加齢とともにこの特徴が強まることが多い。そのため、刺鍼のための骨指標がとれず、想定した部位あるいは組織に刺入できないことがある。
・筋に刺入するためには脂肪層の奥の筋が思っているより薄いため、刺鍼は簡単ではない。不必要な神経刺激を与えたり、気胸を起こしたりする危険性が高まるので、十分な注意が必要である。
②痩せ
・痩せている場合には、骨指標がとりやすく、さらに気胸などを警戒して刺鍼するので問題は少ないが、過敏だったり、刺入痛が起こったりすることが多い。
・筋委縮や痩せなどによって組織圧が低くなると鍼が抜けやすくなる。置鍼時や低周波通電を行う際には注意が必要である。また、刺鍼により出血することもあり、事前に説明しておくと良い。
4)組織の脆弱化などの問題
・加齢によって組織の脆弱化などがあるにもかかわらず、体力低下や筋力低下が気になり、やや強度の高い運動をしてしまったケースにしばしば遭う。組織の一部で起きた炎症が周囲に拡がり広範囲に及ぶ。
・高齢者では、筋萎縮や皮下脂肪減少により極端に痩せていて圧迫に弱かったり(神経の露出、軟部組織の硬化)、骨粗鬆症で骨が弱くなっている場合がある。治療のために無理な姿勢を取らせないようにし、理学検査、運動鍼などを行う際は細心の注意が必要になる。
・骨化、骨棘形成、石灰沈着により、解剖学的イメージと異なっている場合、想定した通りに刺入できないことがある。そのため、刺入痛を起こす可能性も高まる。
・関節裂隙の狭小化や骨棘形成によって、刺入点を設定するための骨指標がとらえにくくなっていたり、刺入対象である部位を誤認することもある。慎重に時間をかけて触診するべきである。
5)感覚の低下、神経機能の劣化の問題
・特に高齢者ではすべての感覚が鈍くなっているため、強い刺激でないと反応しなくなる傾向にある。そのために、施術者は知らず知らずのうちに、強刺激になってしまっていることがある。患者の状態(局所や顔色など)を見極め、刺激量を調節する必要がある。
・変性が進んでいる患者では、遠隔部の治療よりは局所にピンポイントで鍼をするほうが効果は高い。
6)ストレスや精神的ケア
・中高齢者は、家庭や職場などでストレスが多く、精神的な問題を抱えて鍼灸院を訪れることも多い。患者の求めているものを見極め、鍼治療で痛みや愁訴を改善しつつ、話を傾聴することなども治療者の役割である。
・不安、うつ、心身症の患者は訴えが多くなりがちで、自分の症状にとらわれていることが多い。また、男女の更年期では、やたら励ますのも問題があり、まずはしっかり話を伺うことが重要である。
7)その他(特に問診の際)
・必ず喫煙歴を確認する。疾患鑑別の意味だけでなく、喫煙者は肺組織の硬化などにより気胸になりやすいと考えられる。
・ペースメーカーや人工関節の有無、使用薬剤(病院で処方されたもの以外)については必ず問診しておく。
・定年退職後は趣味に時間を費やすことが多くなり、職業関連疾患ならぬ「趣味関連疾患」が起こっている場合があるので、問診で確認しておく。
・「血液をサラサラ」にする薬(アスピリンなど)を服用している場合は、刺鍼によって皮下出血を起こしやすいので、問診で確認の上、説明しておく。皮下出血、血腫そのものは1週間ほどで消滅するので、さほど、問題にならないが、患者が驚いてしまい、その後の治療継続に影響が生じる。
・感覚低下や皮下血行が悪いため、やけどをしやすい傾向にあるので、温熱療法、灸施術についても注意が必要である。
・甲状腺機能異常、特に機能低下を呈する疾患は精神機能低下を伴うので、認知症とみなされている場合がある。
中高齢者の鍼治療
・『鍼治療を受ける中高齢者の多くは、変形性膝関節症、五十肩、脊柱管狭窄症などの退行性変性を有している。そのため治療目的は、①疼痛対策、②日常生活動作や生活の質の改善、③疾病の進行抑制が中心となる。一般に退行性変性は修復する可能性が極めて低いため、1)疾病部位の改善と、2)機能面の向上の両面からの治療が必須となる。』
1)疾病部位の改善
・病変部位の改善を目的とした治療では、圧痛部の置鍼術や単刺術が効果を上げることが多い。
・変形性膝関節症では圧痛の強さと症状の強さが相関するとともに、圧痛部の置鍼により症状が改善する場合が多い。
2)機能面の向上
・たとえば膝痛における階段昇降痛や坐位からの立ち上がり動作、しゃがみ込み動作などの機能面の改善を目的とした治療では、膝ばかりではなく、股関節、足関節などの可動性を良くするための治療を併せて行う必要がある。つまり疼痛局所の治療だけでなく、機能面向上の視点からの刺鍼部位を考える。
付記:高齢者の体力づくり
年齢に関係なく、体を鍛えることで筋肉は活性化するとされていますが、本書の中にそれを物語るような運動実施期間と体力年齢/平均実年齢を比較したグラフがありましたのでご紹介します。
画像出展:「中高齢者の鍼灸療法」
『健康・体力づくりのためには、運動が重要であることはよく知られている。そして、効果的な運動のポイントの1つには継続して行うことが挙げられる。図1に示すように、運動を継続すれば、たとえ高齢者であっても運動開始から30カ月後でも、運動効果が認められる。しかしながら、一時的に運動を休止すると、それまでの運動効果は消失している(下のグラフ)。』
画像出展:「中高齢者の鍼灸療法」
棒グラフの高さは体力年齢になりますので、低いほうが良いということになります。
前々回のブログは脳性まひ児のリハビリテーションを手技の視点でまとめたものでしたが、現在、この手技に加え鍼(シール型の円皮鍼を含む)による施術も行っています。また、この中には頭部に刺す頭皮鍼も含まれています。
3歳、4歳といった幼児は頭部に刺鍼する際、じっとしていないという難しさがあります。また、拒否されないために通常では用いない細い鍼(02番[0.12mm]、もしくは03番[0.10mm])を使っているため、刺鍼はさらに難しくなっています。その結果、狙ったポイントから微妙にずれてしまうことがほとんどで、その場合の鍼の効果はどうなのだろうという思いをもっていました。これが、今回このテーマを取り上げた理由です。
なお、拒否が強まると、“泣く”という事態になるのが普通ですが、『脳性麻痺と機能訓練』の著者である松尾先生は“愛護的訓練の重要性”の中で以下のようなお話をされています。私も、”泣く=拒否⇒心・脳‐筋肉への効果はあまり期待できないだろう”という認識です。
『機能訓練は徹底して愛護的に進められるべきである。これは泣くことによって起こる動きは、早い動きの緊張状態であり、訓練の効果を否定するものだからである。随意的かつ抗重力的な動きとは、泣くといった不快な状態では引き起こすことはできない、柔らかいゆっくりした動き(単関節)であり、快適な状態で初めて活性化できるものである。』
頭鍼・頭皮鍼について2017年3月に“YNSA(山元式新頭鍼療法)”というタイトルのブログをアップしていますが、独学のYNSAを施術に使っていたのはその時の患者さまだけです。
また、頭部への刺鍼は、代々木の研修時代に全身調整穴の一つとして教わった懸顱(ケンロ)または懸釐(ケンリ)という経穴(ツボ)を使っています。さらに頭頂付近にある百会(ヒャクエ)や、懸顱(ケンロ)の背側にある卒谷(ソッコク)などもたまに使うことはありますが、頭皮鍼として頭部に集中して刺鍼するような施術は行っておりません。
これも、頭鍼・頭皮鍼の効果を考えてみたいと思った理由です。
図の中央、上から懸顱(ケンロ)と懸釐(ケンリ)の経穴(ツボ)が並んでいます。なお、この図は経穴と動脈の位置関係を表したもので、懸顱と懸釐はいずれも浅側頭動脈の近位にあります。また、図は添付していませんが、顔面神経が近くを走行しており、三叉神経第三枝(下顎神経)の分布域の中にあります。
画像出典:「経穴マップ」
こちらは“YNSA(山元式新頭鍼療法)”でもご紹介した淺野先生の著書です。こちらに頭鍼の効果に関する記述がありますので、まずはそれをご紹介させて頂きます。
『頭鍼によって大脳皮質の血流が活発化する作用原理だが、鍼には留鍼しておくと、毛細血管を広げる作用があることは確認されている。頭皮には、びっしりと毛細血管が張り巡らされて頭髪を栄養している。だから頭鍼や項鍼して頭皮の血流を活発にすると、まばらだった頭髪が生えてくる。頭蓋骨には細かな穴がたくさんあって、頭皮と頭蓋骨内部を連絡している。頭皮の毛細血管が拡張すれば、当然にして繋がっている頭蓋内側の血管も拡張し、血流が活発化するはずだ。血管ならば1カ所が拡張すれば、それと繋がる部分も拡張する。だから「頭皮へ刺鍼すると、頭皮の血管が拡張するために、その頭蓋骨内部の血流も活発化する」と考えたほうが合理的だ。』
このように、ここで指摘されていることは血液に関するものでした。血流の改善は自律神経の改善とともに科学的に明らかにされた鍼の大きな効果です。
こちらは、東京都鍼灸師会のホームページからダウンロードできる『科学も認める はりのチカラ』という冊子です。この中に血流や自律神経に関する効果についての解説があります。
一方、『経穴マップ』という本には「中国の古典説」というものが紹介されています。左下の“頭鍼療法の理論(説)”がその内容です。鍼灸や漢方の専門家でないと理解不能な内容と思いますが、ひとことで言えば、”血気は脳に集まる。故に重要である”ということだと思います。また、右下の“頭鍼療法”には概要や歴史が簡潔に紹介されています。
なお、今回は「中国の古典説」ではなく、現代医学の視点から「血流の改善」という効果に着目して考察を進めます。
最初に頭の外側にある血管、外頚動脈について調べてみました。
執筆:佐々木真理、升森義昭
監修:窪田 惺
出版:メディカ出版
初版発行:2008年10月
画像出典:「脳の神経・血管解剖」
外頚動脈は総頚動脈から内頚動脈とともに分岐し、顎・顔面領域、頭皮、硬膜などを広く栄養します。
顎動脈
・中硬膜動脈:棘孔を通って頭蓋内に入り、硬膜を広く養う。
・下歯槽動脈
・深側頭動脈
・蝶口蓋動脈
・下行口蓋動脈
・眼窩下動脈
・etc
上甲状腺動脈:甲状腺を養う。
舌動脈:舌を養う。
顔面動脈:顔面を養う。
上行咽頭動脈:咽頭を養うほかに、下位脳神経や頚静脈孔・大孔周囲の硬膜を栄養する神経硬膜動脈幹を分岐する。
後頭動脈:後頭部の頭皮を養うほかに、硬膜枝(小脳鎌動脈)分岐する。
後耳介動脈
浅側頭動脈:頭皮を広く栄養する。
側副血行路:外頚動脈の枝の多くは相互に吻合しています。また、内頚動脈や椎骨動脈とも多数の吻合を持っています。これらは内頚動脈や椎骨動脈の閉塞などの際に側副血行路として重要な役割を果たします。
これを見ると、頭蓋骨の外側を流れる血液は頭皮だけでなく、様々な組織を養っていることが理解できます。さらに、内頚動脈や椎骨動脈とも多数の吻合をもっているということですので、脳の内部にも波及しているということになります。淺野先生は著書(“頭皮鍼治療のすべて”)の中で『血管ならば1カ所が拡張すれば、それと繋がる部分も拡張する。』とお話されていますので、その意味でも脳全体の血流に関わっていると考えられます。
続いては、明治国際医療大学さまのホームページからです。内容は一部抜粋です。詳しくはホームページでご確認ください。なお、MRI(磁気共鳴コンピュータ断層撮影装置)では血流動態が把握できます。
『脳神経外科学ユニット樋口敏宏教授は本学附属病院で外来診療も行う脳神経外科医。現代医学のドクターが鍼灸治療の科学的解明という研究をリードするのも明治国際医療大学ならでは。』
【研究報告】“鍼灸が「なぜ効くのか」をMRIによって明らかに”
ここでは、次のようなことが書かれています。
『研究のベースとなるデータ収集の方法は、鍼を身体いずれかの経穴に打ち、その時の脳をMRIで“輪切り状態”で撮影していくというもの。その反応は脳幹に近い二次感覚野(センサリーフィールド)に多くあらわれており、これによって「経穴への刺激とは、実は脳への刺激である」という、鍼治療の基礎領域が科学的に立証されつつあります。また、経穴によっては痛みのコントロールに関連するといわれている視床下部が反応していることも明らかになりました。』
『経穴を鍼刺激した脳(ヒト)の活動/MRIを使った脳機能磁気共鳴画像では、鍼灸が中枢神経に与える効果を安全に測定することができます。』
ご参考:fMRIとは(東北福祉大学さまのサイトより)
『普通のMRIは病院で使われているように、脳の構造を非侵襲的に測る最も優れた方法として知られています。fMRIはMRIのもたらす構造情報の上に、脳の機能活動がどの部位で起きたかを画像化するものです(左図)。在来、脳の神経活動で起きる電気磁気現象をMRIで直接検出するのが大変難しく、脳機能をMRIで測ることは不可能とされてきました。ところが、MRIの信号には小さいながら、脳の生理現象の変化と共に変わる成分があり、それが脳機能活動と関連した信号変化として捉えられることが示されました(小川 他、1990、1992年)。これがfMRIの始まりでBOLD法と名づけられています』
ここで注目すべき点は、脳の血流動態の変化は頭部に限らず、体表への刺鍼でも脳に影響を及ぼすことができるという点です。
下記は明治国際医療大学さまとは無関係の資料ですが、題名は“経穴部位の刺激と脳の反応部位のまとめ”と書かれています。なお、下部に経穴(ツボ)が明記されていますが、これらの中には頭部の経穴は一つも入っていません。
下肢の経穴:KI3、KI7、LR2、LR3、SP6、SP9、GB37、ST36、ST40、ST44、BL62
上肢の経穴:LI2、LI4、PC6、PC7
画像出典:「鍼灸臨床最新科学」
うつ病に関しても、脳の血流が関係しています。
以下は過去ブログ“うつ病治療(TMS)”からの抜粋です。
『うつ病の人では、この前頭前野のDLPFCの活動が落ちていることがわかっています。もし、うつ病特有の意欲や注意力の低下の向上、認知機能の障害を改善したかったら、DLPFCの活動を増大させればよいのです。脳の血流を調べて、その血流量が増大していれば、そうした意欲や認知などの症状が改善していると考えられます。』
画像出展:NHKスペシャル「ここまで来た!うつ病治療」
※画像はブログ“思考の部屋”さまから拝借しました。
著者:永野剛造
出版:三和書籍
初版発行:2014年6月
中国の事例になりますが、“48例の後遺症への効果の検討”についての紹介がされています。また、この症例報告はネット上にもありました。下記をクリックするとサイトに移動します。
ここでお伝えしたかったのは、以下の内容です。
『朱氏頭皮針療法実施における中国と日本の違いですが、中国では早期より積極的に頭皮針治療を行うため、その効果もよく出ています。日本では、朱氏頭皮針での治療をするにしても、病院を退院した慢性期の患者さんばかりです。
それも週1回か2回の通院治療が限度となっています。このような状況のもと、日本において頭皮針治療がいかに効くかということを実証するのは簡単ではありません。朱明清医師の実績にいかに近づけるのかが今後の大きな課題です。
朱氏頭皮針は、「導引、吐納」を行うことを重視していますが、「導引」とは運動、あんま、体育を総称するもので、「吐納」は呼吸で濁気を吐き出し、清気を吸うことです。
朱氏頭皮針は鍼を刺して運動療法を併用することで、理学療法も同時に行うところに特徴があります。したがってより治療効果を上げるには理学療法士との協力体制をつくることが重要です。』
中医師(中国の伝統医学である中医学を実践する医師)が一般的な医療行為の中で鍼治療を行う中国と異なり、一部の例外を除き(日本でも鍼治療を行う医師の方がいます)、鍼灸師が鍼治療を行う日本では、開始時期や頻度の問題は極めて難しいと思います。一方、鍼治療と理学療法を総合的に取り組んでいくということは、この問題に比べれば可能性は大きいと思います。
ブログの冒頭に「(刺鍼点が)微妙にずれる」ことに対する懸念をお伝えしているのですが、著者の永野先生が行っている治療(頭のツボ)を拝見すると、頭部中央前方に“基本となるツボ”があります。これは偶然にも私が行っている「百会⇒前頭葉」の刺鍼エリアに近いものでした。
また、血流の改善という視点に立てば、刺鍼ポイントが狙ったところからずれても、効果は期待できるだろうということが分かりました。
なお、永野先生の永野医院は渋谷区幡ヶ谷にあります。
『「頭皮針」聞きなれない言葉なので簡単に説明しましょう。
一般に体にうつ針を「体針」と言います。一方、局所を使って治療する方法を「微針法」と言い、例えば、耳を使う「耳針法」は有名です。このほかにも、頭、足の裏、手のひら、目の近辺などの局所は全身を反映するといわれます。この頭のツボ刺激する方法を「頭皮針」と言います。ですから、「頭皮針」とは局所を刺激して病気を治す「微針法」の一つといえます。
我々が取り入れている「頭皮針」は閻(エン)先生が開発した脱毛症の針と、朱先生が開発した「中枢神経障害」に対する針で、治療の方法は全く異なりますがどちらも体針を併用いたします。 この二つの「頭皮針治療」は非常に効果が高く、何回かテレビにも取り上げられました。』
この本は多分専門学校時代に購入したものだと思います。ちょっと思っていた内容と違っていたこともあり、放置状態となっていました。
出版:創風社
初版発行:2003年12月
著者:富田満夫
1960年長崎大学医学部卒。整形外科専攻、国公立病院、岡山協立病院を経て、1972年大浦診療所勤務。医学博士、労働衛生コンサルタント
当院の施術は古典と言われる「経絡治療」であり、“本治・標治”という二本立てになっています。簡単にご説明すれば、“本治”とは患者さまの病状に即した基本穴を用い、自然治癒力を高めることを目的とします。一方の“標治”とは患者さまが抱える痛みや凝りなど困っている症状に着目します。
現在行っている標治の基本は、触診で硬結などの普通でない箇所、生きたツボ(ツボは本来、体調不良のときに出るものと考えています)を探し、鍼をすることです。腱や靭帯、関節包など軟部組織全体が対象ですが、刺鍼ポイントは筋腱移行部を含めた筋肉および筋膜が大多数になります。
筋肉に鍼を刺すと細胞レベルの修復作業である、副交感神経が優位になり血行が改善されるという効果が期待されます。これは鍼を刺すという物理刺激による直接的な効果といえます。この効果に着目するならば、特に“筋肉”の働きや特徴を知ることが重要になってきます。これについては解剖学からのアプローチが一般的ですが、“関連痛”を考えるならば筋肉にできたトリガーポイント(重要な硬結)に対する理解も有効です。整理すると、現在行っている標治のキーワードは“筋肉/筋膜/トリガーポイントに対する物理的刺激”ということになります。
今回のテーマである“経筋”もやはり“筋”が主役です。しかしながら、これは東洋医学(経絡治療)に含まれるものです。つまり、経絡治療においても筋肉を特別な存在として眺めているということになります。
標治には”阿是穴”(「あー、そこそこ」というツボ)もありです。効果が期待できるものは積極的に取り入れます。このように経筋を学び、必要に応じ施術に取り入れることは、“標治の引き出しを増やす”という価値があると思います。
なお、ブログは施術頻度の高い腰下肢に絞っており、上肢については触れておりません。
こちらは、古典の重鎮である本間祥白先生による経絡図です。経絡をイメージして頂くために載せました。
最初に、なぜ医師である富田先生が『経筋療法』という本を手掛けられたのかについてご紹介したいと思います。
これは“はじめに”に書かれたものの一部です。
『著者が無床診療所に整形外科医として勤務して、最も困ったことは慢性の運動器の疼痛、すなわち腰痛、肩こり、関節痛の患者が多く、少しも治ってくれないことであった。
そのうちになぜか患者が増え始め、馴れぬ管理業務と過労で持病の腰痛も悪化し、ほとんど燃え尽きる寸前となってしまった。
「このままでは倒れてしまう、なんとか腰痛だけでもなおしたい」と思うにまかせぬ身体を持て余していた。たまたま拾い読みしていた「医道の日本」誌に、仙台の橋本敬三先生が行っている現在の「操体法」「経筋療法」(間中善雄)として紹介していた。
直感的にここに真実を感じて、患者が少ない正月明けに休みをいただいて橋本先生の診療所(温古堂)にお邪魔することになった。
日本操体学会さまのサイトです。
『操体法の世界を支えているのは、治療だけではないもっと広い思想です。』
レトロな感じ、ホンワカした感じのDVDです。裏表紙にしたのは、拡大いただくと橋本先生のプロフィールやDVDの内容が確認できるためです。
著者:橋本敬三
出版:農山漁文化協会
発行:1977年6月
”操体療法の基本型”はⅧまであります。
画像出展:「万病を治せる妙療法」
『私は「人間は動く建物である」と考えています。簡単な三角屋根の家の四隅の柱を四本の足として、棟木を背骨と考え、これに首と尾をつければ動物であり、さらに後足で立ち上がったかたちが人間です。ただの建物であれば動きませんが、この建物は動きまわると考えてください。動くからこそ、からだを操って健康を守ろうという理由も出てくるわけです。建物に構造上のくるいがあっては健康はまっとうされない。そればかりでなく、動き方にも故障があってはならない。構造にも動き方にもちゃんと自然の法則はあるのです。これが人体の基礎構造です。』
画像出展:「万病を治せる妙療法」
当時はまだ患者も少なく、多くは農村の人たちであった。
暇なときは畳みの間の診察室の火鉢を囲んでお茶を飲み、菓子を頬張りながら東洋医学の話に聴き入った。議論するだけの予備知識もなく、先生の飄々とした話ぶりではあるが壮大な内容に圧倒されるだけであった。たまに患者が来るとしばらく一緒に菓子をつまみ、世間話をしておられる。患者とともにゆったりと流れる時間をうらやましく眺めていると、やおら「はじめるか」と立ち上がり患者をベッドに寝かせた。
真冬で着膨れしている東北農民の背中を上から「痛いのはここか?」と押さえただけで、患者は跳ね上がった。とんでもないところにきたものである。
先生は患者の訴えには必ず根拠があり、他動的に患者を動かすと、訴えに一致して脊椎や関節の運動障害を認めることを実例でもって示された。またこの症状を改善するには、疼痛や運動制限のない方向に運動をさせて抵抗を加え脱力させる。すると面白いように症状がとれていくのを目の当たりした。
時には足指に力を入れさせて、身体全体が動くことを示し、末梢からの運動でも全身へ影響があることを、患者の動きで示された。患者の足指1本に力を入れさせ、脱力するだけで遠隔部位の痛みをとる神技のような手技を見せられたのである。
西洋医学の中央集権的(?)な発想しか持たなかった著者は、末梢から中枢へ、左から右へあるいは斜めにと自由な発想の東洋医学にはまだついていけなかった。
先生の著書や論文をいただいて帰り、早速患者に応用したが、中には気持ち良くて術後電車の中で眠ってしまい、終点まで行った人もいた。
そのうちに多忙のため針灸師にこの技術を伝えて行ってもらい、このためいつのまにか日常診療の中ではほとんど用いられなくなってしまった。
しかし橋本先生の妙技の記憶は鮮やかであり、このような安全で効果的な方法についての解明や開発は常に意識の底にあった。
日常診療上は最も多い難治性の中高年女性の腰痛、肩こりの対応に苦慮して、試行錯誤を繰り返した結果、これらの愁訴は一定の法則性を持っていることがわかった。
しかも他覚的にも脊椎、股関節、膝関節の運動制限、下肢とくに母趾の筋力低下など明らかな運動器の症状を有しており、いわゆる「不定愁訴」ではない。
簡単な運動療法や前陰である婦人科的治療がきわめて有効であることがわかり、筋骨格器系と生殖器系との関連を示すこれらの事実をまとめて出版し、軽視されやすい「不定愁訴」に対する理解を求めた。
この本のことで間違いないと思います。中高年女性の腰痛は、確かに治りづらいという印象を持っていたこともあり、“日本の古本屋”で見つけたこの本を思わず買ってしまいました。
このとりくみの中で経絡との関連を想定して、ほとんど記憶にとどめていなかった「霊枢」(経脈・経筋篇)再読して驚いた。そこには著者が調査した症状と基本的に同じ症状が記載されているではないか。まさに「前陰は宗筋のあつまるところ」(素問)である。著者が20年間苦心して調査した結論は、すでに2000年前に古人の知るところであったのである。
経筋を再検討してみると、その症状は文字どおりの筋の痙攣、緊張、弛緩、こわばりなどの筋活動すなわち運動器との関連が大きいことがわかる。
数少ない経筋を利用した治療に関する文献を見ても、経穴または燔鍼[焼き鍼]などによる鍼治療であり、「操体法」のような筋活動を利用して改善を図る治療法は見られない。したがって、運動器疾患として再度整形外科の立場から挑戦することにした。
経筋には難解な陰陽五行説の影響があまりないこと、五臓六腑との関連が少ないことなど、著者のような東洋医学の素養に乏しい医者にとって好都合であったことも事実である。
このことは東洋医学になじみがない医療関係者、いや患者自身にもとりくめる可能性を持っている。
そのうち症状のある部位を通る経筋の末梢の指に、「操体法」の手技を行っても、症状が改善することがわかった。橋本先生の妙技が曲りなりにも再現できたのである。
とりわけ肩こり、頭痛、腰痛、下肢症状など、難治性の全身症状を持った中高年女性の症状が、指一本の治療で瞬時に症状が消失、軽快していく事実に、あらためて古人や先輩への畏敬と感謝の念にあふれるのであった。 ~』
こちらは操体法を紹介する写真です。
画像出展:「経筋療法」
“経絡”の全体像です。よく出てくるのは上段左の“十二経脈”と呼ばれるものですが、経脈には他に“奇経八脈”という8つの脈があります。この中では体幹前面中央(正中)の“任脈”と体幹後面および頭部中央(正中)の“督脈”の2つの脈は“十二経脈”と同様によく使われる一般的な経脈です。
また、経脈とは縦の流れになります。横の流れは経脈の下に書かれている絡脈です。つまり“経絡”とは縦の経脈+横の絡脈によって体全体を網羅します。
図の右半分にあるのが”経筋”ですが、よく見ると“十二経脈”を補完する位置づけになっています(“十二経脈”から破線でつながる)。こちらも“十二経筋”以外に“経別”と“皮部”というものがあります。
画像出展:「経筋療法」
“十二経脈”と“十二経筋”の1番の違いは臓腑へのつながりの有り無しだと思います。有るのが経脈であり、無いのが経筋になります。
思うに古人においても、内臓主導の病と筋骨格系の病(症状)の両面から診ていたと想像します。そして、施術においては経筋という尺度を必要に応じて取り入れていたのではないでしょうか。
以降、6つの足の経筋をご紹介します。最初は経筋の流れです。続いて、経筋内の関節と運動方向です。これにより経筋の走行と働きがイメージできると思います。なお、掲載されている画像は全て「経筋療法」からです。
各関節の運動方向(足関節の底屈/背屈など)については以下のイラストでご確認ください。
イラストは全て「改訂版ボディ・ナビゲーション」からになります。
1.足の太陽経筋
足(第五趾外側爪甲部)⇒下腿後面⇒膝窩⇒大腿後面⇒臀部⇒背中⇒頚⇒頭⇒顔(鼻)
[別行]肩⇒胸⇒首⇒顔(目)
膀胱経筋の関節と運動方向
①足趾関節:伸展(第5趾)
②足関節:底屈・外反
③膝関節:屈曲
④股関節:伸展・内転・外旋
2.足の少陽経筋
足(第四趾爪甲部)⇒下腿外側⇒膝外側⇒大腿外側⇒側腹部⇒腋前方⇒側頚⇒側頭⇒顔(下顎→頬→目)
[別行]膝外側⇒大腿前面外方膝蓋骨
[別行]大腿外側⇒臀部(仙骨)
胆経筋の関節と運動方向
①足趾関節:伸展(第4趾)
②足関節:底屈・外反
③膝関節:屈曲(伸展)
④股関節:伸展・外転・内旋
3.足の陽明経筋
足(第二趾外側爪甲根部)⇒下腿前外側⇒膝蓋骨外縁⇒大腿外側⇒臀部(大転子付近)⇒脇⇒脊柱(内部を通過)
[別行]足背⇒下腿前面(脛骨)⇒膝蓋骨内縁⇒大腿前面(伏兎穴)⇒陰器(前陰[宗筋が集まる所])⇒腹⇒鎖骨上窩⇒首⇒頬⇒鼻⇒目
胃経筋の関節と運動方向
①足趾関節:伸展(第3趾)
②足関節:背屈・内反
③膝関節:伸展
④股関節:屈曲・内転・外旋
4.足の太陰経筋
足(第一趾内側爪甲根部)⇒下腿内側⇒膝内側(脛骨関節顆)大腿内側⇒大腿上部⇒陰器(前陰[宗筋が集まる所])⇒臍⇒腹中⇒胸中
[別行]腹中⇒脊柱
脾経筋の関節と運動方向
①足趾関節:伸展(第1趾)
②足関節:底屈・内反
③膝関節:伸展
④股関節:屈曲・内転・外旋
5.足の少陰経筋
足(第五趾下面)⇒下腿内側(太陰経筋に並行[後方])⇒膝内側⇒大腿内側⇒陰器(前陰[宗筋が集まる所])⇒脊柱⇒後頭骨
腎経筋の関節と運動方向
①足趾関節:屈曲(第5趾)
②足関節:底屈・内反
③膝関節:屈曲
④股関節:伸展(屈曲)・内転・外旋
6.足の厥陰経筋
足(第一趾中央甲根部)⇒下腿内側(太陰経筋に並行[前方])⇒膝内側⇒大腿内側⇒陰器(前陰[宗筋が集まる所])
肝経筋の関節と運動方向
①足趾関節:伸展(第1趾)
②足関節:底屈(背屈)・内反
③膝関節:屈曲
④股関節:屈曲・内転・外旋
末梢における経筋の診断
富田先生は経筋の診断について次のような見解をお持ちです。
『すべての経筋をテストするのは煩雑であるため、著者は以下のように簡略化して行うことも多い。
橋本先生から末梢の関節の重要性について教えられ、指関節(特にMCP関節[中手指節間関節])が伸展・屈曲に際して動診上も所見があることに気づいた。したがって各経筋が起点を持つ指のMCP関節を他動的に屈伸して、その抵抗と自覚症状を検索する。他動運動の方向により動筋パターンまたは拮抗筋パターンを決定する。』
注)写真は“拮抗筋パターン”です。
『背臥位で四肢を伸展・軽度外転位で全身の脱力を指示する。母指側から小指側へ順に指をかえて、他動的に軽く母指または示・中指で負荷をかけてテストを行う。両側同時に同時の負荷をかけ左右差を診る。緊張した経筋の抵抗の左右差を見るのであり、軽い負荷から徐々に増加して行う。前述のように下肢の影響が大きいため下肢から行う。
動筋パターンのテストではこの逆の他動運動でテストを行う。』
下部のコメントの最後に「下肢は腹臥位の方が容易である」と書かれています。これは四肢を診る場合はまとめて診られる“背臥位”、下肢だけなら“腹臥位”が良いという意味だと思います。
画像出展:「経筋療法」
経筋と髄節性神経支配
髄節性神経支配には、皮膚分節(デルマトーム)、筋分節(ミオトーム)、骨分節(スクレロトーム)の3つがあり、それぞれ脊髄の髄節から伸びる末梢神経との関係を示します。一般的には皮膚感覚や筋力(MMT:徒手筋力検査)の状態から神経学的な責任神経根を特定するという目的で利用されます。
本書の中では次のような説明がされています。
『Foerster, Keeganらの髄節性神経支配(皮膚分節)を見ても、ともに経脈、経筋のような体幹と四肢の間に連続性を持たない。
しかしながら四肢の筋・骨格の髄節性神経支配(筋分節・骨分節)によれば、Inmanらが述べているように、体幹から末梢にかけて連続性を認めることができる(図6-4)。
したがって、今後の経絡治療の参考になることを願って検討を行った。』
前面、後面とも左から”皮膚節”、”筋肉節”、”骨格節”になっています。
画像出展:「経筋療法」
『各経絡の経穴と関連する筋を列挙して、それぞれの髄節性神経支配を図示し、共通する髄節を検討した。』(ここでは、下肢の”表6-14-1”のみになります)
『下肢の方が共通する率が高く、膀胱経(S1)/胆経(S1)/胃経(L4)/腎経(S1):100%、 肝経(L4):75%、 脾経(S1):60%であった。』
富田先生の見解は次のようなものです。
『重要な下肢筋(特に陽経)の髄節性神経支配において共通する率が高い事実は、PNF[固有受容性神経筋促通法]における最適パターンと経筋の運動方向の一致率が下肢の経筋において高かったこととあわせて今後解明するべき興味ある課題と考える。』
この表をざっと見ると、L4にもS1にも関係しない筋は、腸腰筋(大腰筋+腸骨筋)のみであることが分かります。これは、L4とS1に対して施術を行うと腰下肢の筋群に幅広く影響を与える可能性があるという意味です。なお、腸腰筋はL2・L3になります。
脊髄は頸髄(C1~C8)、胸髄(T1~T12)、腰髄(L1~L5)、仙髄(S1~S5)の計30の髄節から成っています。
『脊髄とは、延髄から体の下に向かって伸びている細長い円柱状の神経・神経線維の集合で、脳と身体の運動神経や感覚神経などを結ぶ役割を担っています。脊髄から出た神経は、脊椎の孔(椎間孔)から体のさまざまな部位に派生しています。また、脳と脊髄を合わせて中枢神経系といわれています。』
画像出展:「Medical Note」
こちらは腰神経叢および仙骨神経叢の図です。腰神経叢はT12(第12胸椎)~L4(第4腰椎)、仙骨神経叢はL4~S4(第4仙髄)に渡って末梢神経が下肢に向かいます。
最も太い坐骨神経(脛骨神経+総腓骨神経)はL4~S3から末梢神経が出ています。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
今回もこちらの本、付録3の “関連痛または放散痛” からです。
著者:ダニエル・キーオン
出版:医道の日本社
関連痛のメカニズムは明確になっていないものの、「脊髄に入ってきた痛みの信号の発生場所を(例えば皮膚からなのか内臓からなのかということを)脳が正しく把握できない」という説明が一般的です。”痛み”が生命を守るためのメッセージ、警告であるとすれば、旧皮質に新皮質が加わった人間の脳はもっと高性能なのではないかと、少し納得できないところがありました。
下記はその関連痛のメカニズムを分かりやすく説明したものです。
『内臓痛を伝える感覚神経と皮膚の痛覚を支配する感覚神経が同じ高さの脊髄後角に入り、共通の脊髄視床路の神経に接続する。その結果、大脳皮質の体性感覚野が内臓痛を皮膚痛と誤認することを関連痛という。』
画像出展:「看護roo!」
「閃く経絡」では“関連痛または放散痛” と題して、これらの原因は「脳が混乱している」のではなく「ファッシアが伝達している」という新しいメカニズムを紹介しています。これはとても新鮮でたいへん興味深い内容です。ブログではその箇所をご紹介させて頂きます。
『我々を最も困惑させる疑問の1つは「なぜ心臓発作の痛みが、人によって異なる場所に、特に、頚部、顎、腕に放散するのか」である。
なぜ心臓の痛みが腕と頚部で感じられるかに関しては、ファッシアの通路に沿って心臓発作の痛みがいくという説明は、西洋医学の視点とは意見が衝突していることに注意されたい。簡単に言えば、西洋医学の視点は、脳が馬鹿すぎてお尻と肘の区別がつかないとする(この場合は心臓と肘)。しかし、これが全く正しくないことが研究によって示されている。脳はその違いをわかっているのだ。科学者は、臓器に関する脳の意識を説明するために新しい用語―“interception”(内受容感覚)―を作った。「関連痛」という西洋医学的な見方で説明すると、大体このような感じになる。神経はそれぞれ身体の異なる部分を支配するが、それらの神経が脊髄の同じ部分に接続されると、脳は同じ場所から来ている神経だと考える。2つの電気装置を同じ電力メーターに接続するようなもので、どちらが動いているのかわからない。
こちらはネット上にあった『内受容感覚と感情をつなぐ心理・神経メカニズム』(PDF18枚)という論文です。”外受容”と共に”内受容”が出ています。
心臓発作の場合、心臓の痛みは横隔膜を刺激する。そして心膜が痛み信号を記録して、伝達すると考えられる。痛み信号はこれらの部位から脊髄の第3~5の頚椎神経根に行く。これらの神経根が支配する皮膚は頚部、上腕、胸壁、腕であるため、脳はどこからの痛みかわからず、間違った場所や両方の場所を記録してしまう。
「脳が混乱している」という説の代わりに、「ファッシアが伝達している」という理論はどうだろう? 痛みがファッシアを移動するのだとすれば、電気が銅の導線や水に沿って拡がるのと同じように痛みも拡がるのだろう。我々は、ファッシアの間にある液体が電気を伝導することを知っている。神経はファッシアを神経支配し、また、神経はファッシアの中を走行することを選ぶため、両者の関係は強い。「脳が混乱している」と考えるのではなく、痛みが実際にファッシア面に沿って神経ネットワークを介して放散している、とは考えられないだろうか?
痛みが強くなるほど、また電気信号がより強力になるほど、放散は強くなる。これは研究によって示されていることと一致している。痛みのある部位での局所麻酔は関連痛の刺激を消すはずだ。これに関する研究はあまり行われていないが、これが正しいことを示した研究が少なくとも1つはある。
Local application of ketocaine for treatment of referred pain in primary dysmenorrhea.
※Local applicationとは局所適用、ketocaineとは局所麻酔薬、dysmenorrheaとは月経困難症。
関連痛には3つの種類がある。体性痛(または臓器の痛み)、神経根障害の痛み(または神経損傷による痛み)、筋性の関連痛である。
神経根障害の痛みは、神経が損傷した場所から、脳に異常なメッセージを送る。ここで、脳は本当にだまされる。身体の遠位の部位を支配する痛みの神経が、本来であれば痛みが起こるはずのない場所で刺激されるからである。この痛みは、すべり症や他の脊柱の問題でよく起こる。
神経はそれ自体のファッシアに囲まれ、氣が移動するのはこのファッシアに沿う。これと関連痛のファッシア理論は矛盾しない。神経根障害の痛みは特別な種類―傷ついた神経の痛みだからだ。
筋性の筋膜痛は筋肉の間に沿って動く。筋性の筋膜痛では、筋肉が硬くなるとき、筋肉を包む筋膜をもつれされる。身体は網であり、一部が動けば、網全体を再調整しなければならない。
これは「身体のテンセグリティー・システム(張力統合構造)」として知られている。身体を扱う人々(例えば医師)と違い、身体に触れて施術する人々(例えばマッサージ師、理学療法士)のほとんどにとって、これは自明だろう。どの筋肉が硬いかにより、身体の様々な面を再調整する。再調整はある線にそって行われるが、その線は高確率で予測可能である。これらの線は、中医学で鍼灸の経絡(特に陽経)であるとされてきた。
こちらが経絡の中の「陽経(手の三陽経と足の三陽経)」を示したものです。
画像出展:「経絡マップ」
最後に、体性放散痛である。体性は「身体」を意味するが、この場合は「内臓」を指す。
関連痛で最もよく知られた例は心臓である。「脳が混乱している」説の代わりに、これは顔と腕につながる主要動脈の通路に沿って痛みが放散していると見なせる。
食道の関連痛は喉まで上がり、胃まで下がる。これらは胃のファッシア面である。
虫垂の痛みは腹部の中央で始まる。これは虫垂を覆っているファッシアが引っ張られるときにしか起こらない。虫垂は腹部右下の隅にあるにもかかわらず、ファッシアのつながりは腸間膜を介して、へその高さの背部の正中線へと走行する。この場所は虫垂炎が痛み出す場所(10~15%の割合で)として昔からよく知られている。その後、虫垂炎が腹壁のファッシアを刺激すると、痛みはそちらに移っていく。
骨盤痛は多くの場合、腎経・閉鎖管―骨盤から脚への唯一の出口―を通じて内股で関連痛を生じる。
直腸痛は肛門のファッシアで関連痛を生じる。
膀胱痛は尿道ファッシアから陰茎の先端、または睾丸へのファッシアへと移動する。
アイスクリームの頭痛を引き起こすものが何かは誰にもわからないが、ある説によると脳に入る動脈の拡張に起因するという。とても冷たいものを食べると、鼻を通って脳に入る動脈が少し拡張する。そうなると、脳の「硬膜」にあるファッシアが引っ張られ、特徴的なズキズキする頭痛を引き起こす!
同様に、動脈の拡張を引き起こすものは頭痛となる。片頭痛は1つの例である。
膵臓の痛みは、そのつながりを反映して、背部に放散痛が生じる。
尿管の痛みは「中腎」に沿って睾丸まで到達するが、腎臓の痛みはその発生学的な起源に忠実で腰部にとどまる。
肺は放散痛を生じるとは考えられていない。これは、肺の放散痛は、喉頭へ拡がるので、喉頭自体の痛みとして関連付けて考えるためだ。
骨痛はその場所に忠実だが、骨のファッシアを突破すると、筋肉の筋膜面に沿って放散する。
血管の痛みは血管に沿って放散する。大動脈が避けるとき、患者は実際にそれを(大動脈が走行する)背部が引き裂かれるように感じると表現する。
顔の痛みは、顔の発生元である咽頭弓の面に沿って移動する。咽頭弓から顔は発達する。
胆嚢痛と腹腔内出血は「乳び層」から鎖骨下静脈、つまり肩先まで放散する痛みを生じさせる。
実際、痛みの放散のほとんどすべては「混乱した脳」理論の代わりにファッシアで説得力を持って説明できる。関連痛の「ファッシアの氣」理論は痛みの放散を予測できる。「混乱した、愚かな脳」理論に遡って説明する必要はない。
さらに言えば、脳の愚かさを想定する必要はない。脳は痛みを感じている場所を正確に示している。脳が感じる痛みは病理的電氣の形の痛みであり、電氣は移動する。病理的電氣はファッシア面、あるいは鍼灸の経絡を移動する。痛みはファッシア面に沿って移動する異常な電気的活動の形態であるからだ。痛みは移動すると、さらに痛みが生じる原因となる。
ファッシアは、臓器よりも痛みに対してずっと感受性が高い。
頭痛は脳の痛みが原因ではない。脳は痛覚受容器を持っておらず、患者の意識がはっきりしたまま脳を手術することもできる。むしろ、頭痛はファッシアの刺激が原因である。
消化管はほとんどファッシアが引っ張られるときのみ、痛みを伝える。そのため、腹痛の主訴は、腹部がひきつれる感じや膨満感のような漠然としたものとなる。
肝臓と脾臓は、ファッシアが関与しない限り痛みを感じない。
腎腫瘍はファッシアを越えて浸潤するまで、漠然とした疼痛(筋膜が引き伸ばされることが原因)しか生じない。
西洋医学は、心臓の痛みが筋肉でなく、ファッシア(心膜)で感じられることを認めている。
癌の激しい痛みはファッシアが関わるときにのみ始まる。その前の段階ではほぼ間違いなく無痛性である(これは早期に発見する上で問題となる)。
体性(臓器)の痛みを見るときに注目に値するのは、その痛みは現実には存在しないということである。実際、どの臓器も痛覚受容器を持っていない。このため、全く気づかないうちに、癌が進行したり、肝臓が毒されたり、肺気腫にかかることがありえる。
脳が臓器の痛みを混乱しているという考えは無意味である。というのは、これまで誰も肝臓の痛みを感じたことはないからだ。肝臓を包む膜(ファッシア)の痛みしかない。脳腫瘍が痛みを生じるのは硬膜(ファッシア)が引っ張られるときだけである。肺が非常に乾いて、肺胸膜(ファッシア)が滑らなくなる(胸膜炎)ときのみ、肺気腫は痛みを伴う。
痛みの放散痛に関する「ファッシアの氣」理論は、痛みの放散痛をすっきり説明するだけでなく、鍼灸の理論にも完璧に合致する。西洋医学は、このつながりを見落とすという、古今を通じて最大の医学的誤りを犯したのだろうか?
「ファッシアの氣」理論は、ファッシアにある電氣の流れを調整することでこの痛みに作用を与えられると想定する。そして、痛みの緩和は鍼灸における最大の成功である。三千年の医学は、この驚異的な特性の上に構築されてきた。
もし、この理論が受け入れられれば、「ダニエル・キーオンのファッシア・鍼灸・痛み理論」と呼ばれることを願う……。
……冗談冗談! 鍼灸は鍼灸だよね!』
ブログリンク:”筋連結”
ブログを書き終えて数日後、以前アップした ”筋連結” のことを思い出しました。ファッシアが筋膜を超える幅広い存在であるということを前提に考えると、”筋連結” という考え方は、筋性の関連痛を後押しするものではないかと思われます。
非常にうまくいった施術の中に機能性子宮出血があり、ホームページの「適応疾患」⇒「内科・その他」のページに掲載しています(「機能性子宮出血」)。
この中で、なぜ出血が止まったのかという疑問に対し、肝臓がもつ血液凝固の働きが関係しているのではないかという推測をしていたのですが、今回の『閃く経絡』の中にそれを裏付けるような記述がありました。今回のブログはその箇所をお伝えするというものになります。
著者:ダニエル・キーオン
出版:医道の日本社
『女性が月経の問題を抱えると、中医学は肝、特に肝血と呼ばれるものに着目する。肝臓は血液にとって非常に重要である。肝臓は血中に浮遊するタンパク質、脂肪、コレステロール、凝固因子を制御・生成する。これらすべてで共通することは、基本的に血液中の水分で溶けず、脂溶性で浮遊している。これは水と油を強く振ると、一緒に混ざって、クリーミーな混合物(懸濁液)になるのと似ている。
肝臓は血液中の脂肪成分を制御する。例えば、腎臓でほとんどの薬剤を除去しているが、脂溶性の場合、まず肝臓で代謝されなければならない。コレステロールが原因の身体の異常な「脂肪性」沈着物(アテローム性硬化)はスタチンで治療される。スタチンは、肝臓がこの「脂肪」を処理する方法を変える薬剤である。
中医学での肝血とは、血の脂溶性懸濁液成分を意味しており、これは肝によってコントロールされる。残りの血液は水分、イオン、赤血球、白血球で構成される。先述したように、これらすべては腎の管理下にある。
凝固因子は、肝血と月経の関連をとても明瞭に示す。凝固因子は肝臓で産生され、正常な凝固に重要である。凝固因子の障害で重い出血が引き起こされる。しかし、大量出血を呈する女性を検査しても、深刻な異常が見つかることは珍しい。医師が異常な月経を治療するとき、第1選択はいつも、凝固因子ではなく月経周期をコントロールするホルモンである。「ピル」で効かなければ、段階的により強いホルモンを用いていき、挙句の果てに人工閉経を誘発する。巨大ハンマーでナッツを砕くようなものだ。
医師が用いる別のアプローチとして、凝血塊の分野を抑える作用を持つ「トラネキサム酸」と呼ばれる薬剤がある。これはよく効くが、他で血塊を生じさせることがある。いずれにしろ、根底にある病理を本当に理解していない治療であるばかりか、そこから目を背けてしまっている。
医師として仕事をするなかで、痛みを伴う、重い生理を抱えた多くの女性を診てきた。私はいつも鍼灸を推奨している。「三陰交」(SP6)のツボを単純にマッサージするだけでも非常に効果的である。これが作用するプロセスの一部に「ヒスタミン」というホルモンがおそらく関わっている。
クリックすると「三陰交」を確認できます。
肝臓と関係しているホルモンを1つ挙げるなら、それはヒスタミンである。肝臓はヒスタミンを分解する主な臓器である。ヒスタミンは肝疾患で上昇する。抗ヒスタミン薬は肝不全の症状の治療に役立つ。ヒスタミンはイライラさせる。アレルギー、発疹、じんま疹、虫刺されでかゆくなったり、ヒリヒリしたりするのは、すべてヒスタミンのせいである。中医学では、肝は怒りの限界線を適正に抑えて、「感情面」でも制御している。まさに肝は怒りの臓器である。ヒスタミンはイライラを感じさせるだけでなく、病原菌や寄生虫に対して過敏にする。ヒスタミンはあなた自身の身体と外界との境界線を定める。
そうなると、中医学を学ぶ者にとって、機能性子宮出血の女性でヒスタミン・レベルが上昇するのは、驚きではないはずだ。
ヒスタミンは、「肥満細胞」と呼ばれる特殊な細胞の中にある「顆粒」に含まれる。月経で、肥満細胞は「脱顆粒して」、ヒスタミンを放出する。(注意深い読者は、これがアナフィラキシーと同じプロセスだと気づくだろう)。読者の50%以上を怒らせるリスクを恐れずに言うと、これは一部の女性が……つまり……1カ月に1度、少しばかりイライラさせるだけでなく、子宮で赤血球と液体を漏れやすくさせる。女性の「血液」損失の約50%は血液ではない。実際に漏れるのは体液であり、ヒスタミンはこれを悪化させる。
クリックすると「脳科学辞典」が表示されます。
『中枢では、視床下部乳頭体にヒスタミンニューロンが集まっており、そこから脳内各部位に投射し、神経伝達物質として働いている。睡眠・覚醒、摂食調節などに関与している。』
また、「幸せホルモン」として有名なオキシトシンの分泌促進にも関わっているようです。
ヒスタミンは、肝臓と女性の月経の問題に関連し、月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)にも関連する。月経前症候群の一般的症状の多く、例えば、頭痛、不眠症、疲労、吐き気、腹痛、下痢などは、ヒスタミン不耐性とも関係している。さらに、喘息、蕁麻疹、湿疹、てんかんはすべて、PMSの間、悪化することが示されている。これらはヒスタミンと肥満細胞が核心にある病態である(てんかんは除く)。さらに、PMSを悪化させると女性が考える食物の多く(チョコレート、赤身の肉、アルコールなど)は、すべて高レベルのヒスタミン、またはその元になる「ヒスチジン」が含まれる。
月経が周期を持つということを無視してはいけない。この周期にはエストロゲンとプロゲステロンが関わる。PMSの症状の多くは、これら2つのホルモン(特にプロゲステロン)の不均衡に起因する(そうでないこともある)。しかし、ヒスタミンとこれらのホルモンが関連している。ヒスタミンはプロゲステロンのレベルを上昇させる。専門家によれば、肥満細胞はこれら2つのホルモンに反応して子宮で活性化し、数が増えると考えられている。
東西の医学を融合した立場でこれを説明すると、東洋医学のいう肝による月経の制御は、その一端がホルモンであるヒスタミンの代謝を通じて行われる、ということになる。
肥満細胞とヒスタミンが女性の毎月の問題の核心近くにあるとはいえ、抗ヒスタミン剤で治るというほど、治療は単純でないかもしれない。70年間にわたり、これと同じ病理がしばしば喘息の根底にもあることが知られてきた(中医学において、喘息は肝氣の滞りが肺に影響するとされる)。喘息治療がうまくいくと、ヒスタミンのレベルが下がるにもかかわらず、抗ヒスタミン薬自体は喘息にほとんど成果が上がらなかった。抗ヒスタミン薬(例えばMidol™)がPMSで用いられるが、(現在のところ)治療の大黒柱ではない。しかし、月経周期の始まりで抗ヒスタミン薬を投与する治験があるとすれば、興味深いものとなることだろう……。』P291
心臓と腎臓には密な関係があるとされています。それは心腎連関と呼ばれ、5つのタイプに分類することができます。なお、下記の説明は冊子『糖尿病における心腎連関』の内容(右上の表)を一部加筆したものです。
”糖尿病における心腎連関” を[クリック]すると、ネット上にあるPDF資料がダウンロードされますが、これは「医学出版」さまのサイトにあるものです。
なお、Roncoとは、Dr. Claudio Ronacoという人のことで、[クリック]すると“critical care Canada”というサイトに移ります。
心腎連関に関するRonco分類
1型:急性心疾患による急性腎障害(AKI)
急性心不全や急性冠症候群で心機能が低下することにより心拍出量が低下し、非代償性心不全に至ると急性腎障害(AKI)の状態となる。腎障害は腎血流の低下に伴う腎虚血およびGFR低下である。
2型:慢性心疾患による慢性腎臓病(CKD)
慢性心不全による左室リモデリングと機能低下、拡張不全、心筋症が原因となり慢性の腎虚血の状態となる。うっ血性心不全で入院する63%で心腎連関の状態を認めるという報告もある。
3型:急性腎障害(AKI)に伴う急性心疾患
AKI(急性腎障害)により急速に腎機能が低下することで、うっ血性急性心不全が起こる。腎機能の低下は水、ナトリウム貯留、高カリウム血症など電解質異常や尿毒素の蓄積をきたし、これらが急性冠症候群や不整脈などを引き起こす。
4型:慢性腎臓病(CKD)に併発する慢性・急性の心疾患
慢性的な腎機能低下は高血圧、動脈硬化、貧血、尿毒素の蓄積などをきたす。糖尿病、高血圧が慢性腎臓病(CKD)の原因である場合、血管の石灰化、左室肥大、左室拡張不全を合併しやすくなる。
5型:全身性疾患により同時進行的に生じる心臓、腎臓の障害
心臓、腎臓には主たる原因はなく、血症などの全身状態悪化にともない、心機能低下と腎機能低下が同時に起こる状態をいう。
1型と2型は心臓病を原因とする腎臓病。3型と4型はその逆、腎臓病を原因とする心臓病。最後の5型は全身性疾患を原因とする心臓および腎臓の機能低下というのが大まかな分類です。
こちらは、NHKスペシャル“人体 神秘のネットワーク”の書籍版第1集から一部を使ってスライドショー(10枚)にしたものです。心臓と腎臓とのやりとりをイメージして頂けると思います。
こちらのサイトは情報が満載です。
“心臓と腎臓の深い関係 ─ 心腎連関症候群 ─”に関する説明も掲載されています。
一方、中医学においても心と腎の関係性を重視しており、それを“心腎相交・心腎不交”と呼んでいます。
右の図はこちらの本の内容を基に作ったものです。
専門学校時代、「中医学は古くて新しい学問だ」と教わりました。そこであらためて中医学について調べてみると、ウキペディアには次のような説明が出ていました。
『中国地域に伝わる伝統医学は多様であるが、中華人民共和国の成立以降整理され、中医学の名で統一理論が確立された。そのため日本では、中華人民共和国で整理された医学体系を「中医学」とし、それ以前を「中国医学」として区別する場合もある。』
“心腎相交・心腎不交”という考え方は古い「中国医学」からあるものだと思いましたが、念のため、ネット検索してみると、“九峰の備忘録”という凄いブログに貴重な情報が出ていました。ここではその一部を引用させて頂きます。なお、※印は私の加筆です。
心腎不交-文献1目次・宋以前
『心腎不交および相交、そしてそれに類する表現の含まれる文献を集めた。水火不交、坎離不交、上下不交、水火既済(未済)などである。』
《宋以前》※宋時代は960年~1279年
『霊枢』寒熱病(21)
「陰蹻、陽蹻、陰陽相交、陽入陰、陰出陽、交于目鋭眦、陽気盛則瞋目、陰気盛則瞑目。」
※『霊枢』は中国最古の医書とされている『黄帝内経(コウテイダイケイ)』の一部、他に『素問』があります。『黄帝内経』は前漢時代末期(紀元前1世紀頃)に存在していたという説もありますが、詳しいことは明らかになっていません。「寒熱病(21)」とは『霊枢』の21番目の項目が「寒熱病」について記述してあるという意味です。なお、“霊枢原文(鍼経)”という本が出版されているのを知りました。
出版:三和書籍
校正:淺野 周
心腎不交-文献2両宋・金
『手元の文献 のなかで、一番古い心腎不交の表現は、厳用和『済生方』にある。宋以前の医書には今のところ見つからない。』
《両宋・金》
厳用和(南宋)※南宋は1127年~1279年
『済生方』1253年・・・(『厳用和医学全書』2006年 中医藥出版)
≪諸虚門≫
芡実丸
「治思慮傷心、疲労傷心、心腎不交、精元不固、面少顏色、驚悸健忘、夢寐不安、小便赤渋、遺精者白濁、足脛散痛、耳聾目昏、口干脚弱。(以下修治と薬量は省略)」
“心腎”という語を含むものが出てきたのは13世紀でした。このことから、“心腎相交・心腎不交”は「中国医学」の時から、間違いなく存在していたものであることが確認できました。
このように、心と腎、心臓と腎臓はそれぞれが非常に重要な臓器であり、かつその関係性も密であるという特別な存在です。
なお、以降は『閃く経絡』に書かれていた心・腎に関して、お伝えしたいと思った部分になります。
『心臓は大動脈を通じてすべての臓器につながるが、腎臓とも(中医学と西洋医学の両方で)非常に特別な関係がある。腎臓と大動脈は同じ空間(腹膜後腔)に位置する。ここは少陰経の合流点を表す。氣は最も大きな動脈に沿って心から移動し、上方へ向かい、腕と脳へと出る。下方で最初の大きな分岐は腎動脈である。腎動脈から2本の短くて太い腕と手指のような血管が出ている。これらの手指は、心から下がってきた氣を保持する腎の機能を表している。これらの腕の先に、2本の巨大な豆が位置する。それらは豆によく似ているので、「“キドニー”・ビーン」と呼ばれている。
ここで示すイラストは「かかし」のように描くことで、大動脈を解剖学的に驚くほど正しく描写している。』p185
●かかしの眼は横隔動脈(横隔膜の動脈)である。口ひげは腹腔動脈(胃の動脈)である。
●口は上腸間膜動脈である。
●乳頭は精巣動脈・卵巣動脈である。
●腕は腎臓の動脈(腎動脈)で、先にある5本の手指(分岐)で豆を保持する。
●おへそは下腸間膜動脈である。
●このかかしは男性であるため、陰茎―「仙骨動脈」を持つ。そして2本の脚は「腸管動脈」となる。
●その後ろ側では、かかしはロープ(腰動脈)で棒(脊柱)に括りつけられている。
『なぜ、私はこのイラストを見せたのか? 私がどれほど賢いかを示すためではない。「Clinical Anatomy Made Ridiculously」からアイデアを引用している。このイラストは非常に正確で、医学部の期末テストでも使うことができる……必要であればだが。このイラストはすべての位置が完璧であるだけでなく、血管の相対的サイズも正確なのだ。 -中略-
これを示したのは腎と心のつながりがどれほど強いか証明するためだ。ご覧の通り、腎動脈の動脈は2本の幅広い腕である。そして、これらの腕は幅広い必要がある。これらの2個の小さい豆は心臓から全血液の5分の1を取り入れているからだ!』p187
『腎は精を貯蔵し、心は神(または霊性)を宿す。腎水は心火を制御し、心火は腎陰に活力を与える。中国人は、腎臓がレニンと呼ばれるホルモンを産生することを知らなかったし、レニンが肺内部で作用して、別のホルモンを産生して、心臓にストレスをかけることも知らなかった。中国人はこれが副腎を介して腎臓にフィードバックされ、より多くの水分を保持するように伝えることも知らなかった。
代わりに、中国人は腎火について話した。それは上方へと燃え上がり、心臓に損傷を与える、そう命門のことである! この説明も西洋医学と同じように妥当である。違うのは、薬草や鍼灸を使用する場合、これらの用語をさらに正確に定義する必要がなかったということだ。薬草は腎を「調律」し、水で「うるおす」ように用いられた。
漢王朝の偉大な医師たちが現代医療に驚嘆することは疑いない。彼らが薬草や鍼と同様に、抗生物質やステロイド、外科手術や麻酔を使いこなしていたらどうだったであろうか。西洋医学が肺を介して腎火を心につなげる物質そのものを精密に同定したことに彼らはさらに驚くだろう。』p200
『腎臓はそのホルモンで心臓に大きく影響を及ぼすが、心臓も同じくらいの力で腎臓にフィードバックを返す。心臓は主にポンプの力を通してフィードバックするが、心臓が産生し、腎臓に影響するホルモンが少なくとも2つある。ANP(atrial natriuretic peptide、心房性ナトリウム利尿ペプチド)とBNP(brain natriuretic peptide、脳性ナトリウム利尿ペプチド)である。
大動脈が間に入ったこのつながりは特別である。血液を拍出する力は、他の臓器にはみられない形で、腎臓を刺激する。これらの2つの臓器の間で直接影響し合うホルモンは少なくとも7つある。それらはアルファベット順に、アドレナリン、アルドステロン、アンジオテンシン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、脳性ナトリウム利尿ペプチド、ドーパミン、バゾプレシンである。鍼灸の理論は、動脈を介した腎と心の特別な関係こそが少陰経を形成することを教えている。』p201
『腎筋膜は、腎臓を包み、後腹膜を通じて心まで行き、肝臓の無漿膜野にまで続き、骨盤内臓器のほうに流れ落ちる……これは中医学が教えている腎経の流れと同じである。どうしてわかるのか?腎臓、副腎、血管は、腎筋膜が覆う腎周囲腔に含まれるのだ。肝臓の無漿膜野へと至る上方のつながりは、腎と肝が中医学で特別なつながりを持つ理由の1つである。』p217
出版:医道の日本社
著者:蠣崎 要・池田政一
以下の絵は「腎経の流れ」になります。説明文の太字にした箇所が上記の著者の説明に合致する部分です。ただし、肺から先(「気管をめぐって舌根をはさんで終わる」)については「閃く経絡」の方には書かれていません。
足の少陰腎経は、足の太陽膀胱経の脈気を受けて足の第5指の下に起こり、斜めに足底
中央[湧泉]に向かい、舟状骨粗面の下に出て内果の後ろ[太渓]をめぐり、分かれて
踵に入る。下腿後内側、膝窩内側、大腿後内側を上り、体幹では腹部の前正中線外方5分、胸部では前正中線外方2寸を上り、本経と合流する。
大腿後内側で分かれた本経は、脊柱を貫いて、腎に属し、膀胱を絡う。
さらに、腎より上がって、肝、横隔膜を貫いて、肺に入り、気管をめぐって舌根をはさんで終わる。
胸部で分かれた支脈は心をつらなり、胸中で手の厥陰心包経につながる。
コメント
経絡の流れを流注といいますが、流注が体表のみならず体内の内臓にまでおよんでいるという、鍼灸(東洋医学)の説に、正直、少し疑問を持っていました。
ところが、今回の『閃く経絡』が説く、「ファッシアを経絡と考える」に順ずると、内臓につながるルートが確かなものとして納得できます。個人的には「ファッシア=経絡」ではなく「ファッシア≒経絡」であると捉えていますが、体表⇔内臓というつながりを実感できたことは最大の収穫でした。
この本の副題は「現代医学のミステリーに鍼灸の“サイエンス”が挑む!」というものでした。そして、著者のダニエル・キーオン氏は救急救命を専門とする医師でありながら、中医学と鍼治療の学位を取得され、著名な王居易医師に師事されたという経歴も持っていました。
つまり、この本は中医学および鍼治療を本格的に学ばれた医師が、現代医学の視点から経絡を分析したというものです。「これはすごい本だ」と思い、迷うことなく注文しました。
そして、腹に落ちたことは、『鍼治療とは、刺鍼ポイントのツボ(経穴)への刺激が、概念である氣の一部である「電氣」の知性に働きかけ、体表と内臓を結ぶ経路(経絡≒ファッシア)を通じて乱れた状態を元に戻す』というものでした。
また、ブログ「がんと自然治癒力13(まとめ)」で学んだことをかけ合わせれば『元に戻す』とは、『自然治癒力(ストレス適応を高め、栄養代謝を改善すること)によって、元に戻す』ということと考えています。
出版:医道の日本社
初版:2018年6月
こちらは原書です。
初版:2014年3月
この本の概要を知るには、最後の“監訳者あとがき”をご紹介するのが良いと思います。
監訳者はNHK「統合診療医ドクターG」の医事指導も担当されている、津田篤太郎先生です。
津田篤太郎:京都大学医学部を卒業。医学博士。聖路加国際病院リウマチ膠原病センター副医長、北里大学東洋医学総合研究所客員研究員。
『本書は、英国の出版社Singing Dragonが2014年に出版した“The Spark in the Medicine:How the Science of Acupuncture Explains the Mysteries of Western Medicine”を翻訳したものである。著者のダニエル・キーオン(Daniel Keown)氏は、1998年にマンチェスター大学医学部を卒業した後、救急医療を専門とする医師として活躍するかたわら、2008年にキングストン大学統合医療カレッジで中医学を学び、2010年には北京の経絡医学研究センターで王居易医師に師事した。キーオン氏の東洋への関心は、80代の祖母から聞いた中国旅行の体験がもとになったという。原書を米国アマゾンのサイトで検索したところ、出版から数年を経ても(2018年4月現在)鍼灸・中医学分野の書籍で10位以内に入るベストセラーであり続けており、英米では東洋・西洋医学のギャップを埋めようとする著者の野心的な試みに、高い関心が寄せられていることがわかる。
本邦でも東洋・西洋医学を架橋する試みには江戸時代以来の長い歴史がある。劈頭(ヘキトウ[真っ先])となったのは杉田玄白(1733~1817)らの「解体新書」で知られる西洋の解剖学であり、日本人は西洋人の観察の緻密さに驚いた。しかし東洋医学の教える経絡のシステムを説明できるような構造物を見出すことができず、解剖学における位置づけは不明なままであった。幕末の名医、尾台榕堂(1799~1871)は著書「井観医言」のなかで、西洋医学・解剖学に関し「その論述する所は精細なりと雖も、亦た恐らくはかいせん無きを免れざらん」と評し、その理由として「死屍を解剖して、以って生人の機運を推す」からだと断じている。
生きた人間の「機運」、つまり機能と運動を科学的に解明するのは、意外と難しいことである。生きている、というのはうつろいやすい現象であり、科学が備えていなければならない客観性や再現性、整合性というものをすり抜けていく。この百年間ぐらいに、多くの研究者がさまざまな手法で経絡の正体に迫っていったが、どうやら経絡あるいは経絡で説明される現象が存在するようだ、という地点にとどまっていたように見える。例えば従来の電気生理学的手法では、定量性や客観性に優れるものの、「皮電点」「良導点」という名の通り、あくまで「点」のデータであり、経絡図のように生体の全体像に迫ることができない。また「ヘッド帯」「内臓体壁反射」など神経生理学的概念も、全体から迫るアプローチではあるものの、定量性・再現性にやや難があり、それですべての経絡現象が説明できるわけでもない。
しかし、その後も医療技術は進歩を続けた。私たちのわずか一世代前に開発されたCTやMRIといった画像診断法は、生きた人間を輪切りにして調べることができる革新的なモダリティーがある。そして、超音波診断(エコー)装置の精度の向上・小型化がここ10年ほどの間にすさまじい勢いで進んでいる。ついに、リアルタイムで生体の微細な構造までくっきりと見ることができる――現代の私たちは、だれもが古代の医聖、人体を透視することができたといわれる扁鵲(ヘンジャク)と同じ目で患者に接する時代を迎えたのである。
『扁鵲は、古代中国、とくに漢以前の中国における、伝説的な名医である。その行動、人格、診察、治療のありさまは「韓非子」や「史記」その他にさまざまな逸話を残す。』
画像出展:「ウィキペディア」
その最先端のエコーが、わが国の有訴者数ナンバーワンを競う腰痛・肩こりの治療で、大きな変化を引き起こしている。癒着を起こして動きの悪くなった筋肉の間に正確に針を挿入し、生理食塩水を注入する「エコーガイド下ハイドロリリース法」である。
この治療手技は速効性があり、症状の緩解率が高いことから、ここ数年の間に燎原の火のごとく普及が進んでおり、共訳者である須田万勢医師も、第一人者である隠岐島前病院の白石吉彦院長に学び、当院で実践している。
白石先生の記事を見つけました。『整形内科が診る腰痛、肩こり、五十肩』
医師が「扁鵲の目」を持った途端、筋肉の間の筋膜=ファッシアに注目するというのは偶然ではないだろう。従来の西洋医学で見逃され、たどり着けなかった暗黒大陸、それがファッシアであったというわけだ。奇しくも、本書の翻訳原稿を校了する数週間前にScientific Report誌で「ヒト組織における知られざる間質の構造と分析(Structure and Distribution of an Unrecognized Interstitium in Human Tissues)」という論文が発表された。ニューヨーク大学などの研究チームは、共焦点レーザー顕微内視鏡という最先端の方法で胆管周囲の組織を調べたところ、コラーゲンなどの結合組織が網目状に規則正しく配列する構造を発見した。同様の組織は膀胱や皮膚、血管や気管の周囲、そして筋膜にも見出され、ネットのニュースなどで「人体における“最大の器官”が新たに発見された」と話題になった。
なぜこれまで発見されなかったのかというと、手術中に切り出された組織は、網目状の構造の中に存在する組織液が流出し、コラーゲンがただ単にしわくちゃに折り重なった状態で標本となり、検査されていたために、それが意味のある、研究に値する構造物であるとは誰も考えなかったのだ。ここでも、これまで見落とされてきた「生人の機運」が、最新の検査技術で初めて明らかにされつつあり、ミクロの扁鵲はやはり“筋膜”に出会うのである。
“筋膜=ファッシア”が長らく謎とされた経絡を解き明かす鍵概念だと断じた本書に、著者キーオン氏は「機械の閃光(The Spark in the Machine)」というタイトルを与えた。これはデカルト以来の「生命機械論」を下敷きにしているのだろう。しかし、鍼灸医学の経絡学説は「機械論」と対立する「生気論」の首魁(シュカイ[先駆け])ともいうべき存在であり、経絡学説が機械論、メカニズムで説明しつくすことができる、という著者の着想は大胆というよりほかない。しかも、目まぐるしく進歩を続ける医療技術は、著者の主張を日に日に補強するかの如くである。私たちは今まで見たこともないような形で経絡の正体が明らかにされるのを目撃するのであろうか、これからの展開に目が離せない。2018年4月16日 津田篤太郎』
目次は次の通りです。
プロローグ なぜ人体は再生しないのか?
PartⅠ 鍼のサイエンス 神が医者に話し忘れたこと
1.発生の創世記
2.単細胞の世界
3.有名にして無形
4.三重らせん
5.生命のスパーク
6.氣とは何か?
7.クローン羊と氣
8.完璧な工場
9.臓腑の氣
10.どのように氣が身体を折りたたむのか
11.トリッキー・ディッキーと小さな刺し傷
12.ヒトのフラクタル
13.レオナルドたちと完璧な人間
14.超高速の進化
15.ソニック・ヘッジホッグのパンチ
16.ツボ(経穴)とは何か?
17.氣の流れ
PartⅡ 中医学の発生学
18.陰陽に関する簡単な紹介
19.道(タオ)
20.羊膜外胚葉
21.身体の卵黄
22.血
23.精
24.発生学のサーファー
PartⅢ 命門と6本の経絡
三陰経
25.少陰経
26.太陰経
27.厥陰系
三陽経
28.太陽経
29.陽明経
30.少陽経
エピローグ
付録
監訳者あとがき
参考文献
索引
ブログは4つに分けてアップしたいと思います。
今回の題名は“経絡と電氣”です。これはPartⅠの「鍼のサイエンス」が対象です。他は、PartⅢの少陰経から“心と腎”、同じくPartⅢの厥陰経から“肝と機能性子宮出血”、そして付録3から“関連痛とは”という題名になります。
“経絡と電氣” という題名を付けたのは、「がんと自然治癒力13(まとめ)」の最後、ブルース・リプトン先生の著書である “思考のすごい力” に書かれていた一文を意識してのことです。それは今まで一度も考えてみたこともない、とても印象的な視点で鍼灸・経絡を語られていました。
『東洋医学では、身体はエネルギーの経路(経絡)が複雑に列をなしたものと定義される。中国の鍼灸療法で用いられる人体の経絡図には、電気配線図にも似たエネルギーのネットワークが描かれている。中国医学の医師は、鍼などを用いて患者のエネルギー回路をテストするわけだが、これはまさに電気技師がプリント基板を「トラブルシュート」して電気的な「病変」を発見しようとするのと同じやり方だ。』
一方、今回の「閃く経絡」の中にも電氣(一般的な電気と区別するときに「電氣」という漢字が用いられています)について触れている部分は多く、経絡を電氣という視点から考えまとめることは、ブルース・リプトン先生によって投げかけられた生体内システムの謎に近づけるのではないかと思いました。これが“経絡と電氣”というタイトルにした理由です。
“経絡と電氣”に紐づくキーワードは6つです。ブログはこの6つについて書いています。
1.経絡
2.ファッシア
3.コラーゲン
4.氣
5.バイオフォトン
6.ツボ(経穴)
1.経絡
専門学校で学んだ『東洋医学概論(東洋療法学校協会編)』の「3.臓腑経絡論」を見ると、経絡について次のような説明をしています。
『経絡について考える場合には、経絡現象と、それを基にして形成されてきた経絡説と区別して認識する所から出発しなければならない。
経絡現象は、特定の身体部位を指先で押したり、鋭利な石片(“砭石(ヘンセキ)”と呼ばれている)を刺したり、あるいは、刺して皮膚を傷つけて出血させたりする治療行為をする際に、おそらく発現していたのであろうと考えられる。日本で“針の響き現象”といわれている、針を刺したときに発生する特殊な感覚の伝達現象もその一つである。また、一定の部位に針を刺したときに、その部位の苦痛が緩解されるばかりでなく、遠隔部位にまで変化が波及することも含まれよう。
経絡説は、そのような経絡現象を基にして、その性質や現象の発現のルールを極めようとして考え出されてきたものである。したがって、経絡説は、それが形成されてきた時代の思考法や社会制度などに影響されざるをえない。』
続いて、「1)経絡概説」にて“経絡説の成立ち”、“経絡の構成”、“経絡の機能”、“十二経脈について”、“奇経八脈”、“そのほかの経絡系”の6つの説明が加えられていますが、ここでは冒頭部分と“経絡説の成立ち”のみご紹介させて頂きます。
『経絡とは、気血の運行する通路のことであり、人体を縦方向に走る経脈と、経脈から分支して、身体各部に広く分布する絡脈を総称するものである。
経絡の考え方は、古代中国人が、長い臨床観察を通じて得た一つの思考体系であり、蔵象とならんで東洋医学の根幹をなすものである。特に鍼灸医学にあっては、診断と治療に深く係わっており、きわめて重要である。』
注)蔵象に関する説明:『東洋医学では、内臓について、これを単なる体の構成部分ではなく、経脈とならぶ人体の生理的、病理的現象や、精神活動の中心となるものとしてとらえる。これを「蔵象」とよぶ。「蔵」とは、体内にしまわれている内臓をさし、「象」は、外に現れている生理的、病理的な現象をさしている。』
“経絡説の成立ち”:『春秋時代(紀元前770年から、「晋」が三国に分裂した紀元前5世紀までのおよそ320年の期間)以前には、気の概念は広まっておらず、したがって、経脈(あるいは経絡)という考え方は存在しなかった。当時には、血脈という語があり、血の通路としてのすじ(今日でいう血管)を認識していたにすぎなかった(「史記」:扁鵲伝)。
戦国時代(「晋」が分裂した紀元前5世紀から「秦」が中国を統一する紀元前221年までの期間)から前漢時代(紀元前206年-紀元後8年)にかけては、体表部を三陰三陽に分けて走行する経脈を認識するに至った。これは後に完成する経絡説の原型となるものであり、気の通路を想定していたものといえる。しかし、この時代の経脈は、内に臓腑と結びつくという認識には至らなかった(「史記」:倉公伝、「馬王堆医経」』)。
前漢から後漢(25年-220年)にかけては、陰陽・五行説が、医学に十分浸透した時期であり、三陰三陽の十二経脈が、天の十二月や地の十二水との相応において認識され、また、各経脈が、体内の五臓(六臓)六腑と関連づけられるようになり、経絡系統なるものが確立した。この時代に完成した経絡説が、約二千年を経た今日まで受け継がれてきたのである(「素問」:離合真邪論篇、「霊枢」:経水篇、五乱篇)。
下は経絡の流れである「琉注」の図です(画像出展:「経穴マップ」)。手と足の三陰経と三陽経の計十二の経脈と、奇経に分類されている体前面正中の任脈、後面正中の督脈の二つを加えた十四の経脈が出ています。このうち手足の三陰経、三陽経の琉注は、体表だけなく体内の臓腑につながるものであることが示されています。
一方、自律神経反射の一つ「体性-内臓反射」という反射があります。ネット上の『痛みと鎮痛の基礎知識』に書かれている説明は次のようなものです。
『体性-内臓反射(体性*交感神経反射):皮膚に侵害性刺激を加えると交感神経系の機能が亢進し、交感神経が緊張し、血圧の上昇、心拍数や呼吸数の増加などを引き起こす。』
この「体性-内臓反射」も体表と内臓を結びつけるルートといえますが、経絡の多様性と比較するとその差は大きく、経絡とは一線を画すあくまで自律神経反射の域を超えるものではないと思います。
その自律神経反射に比べると、ファッシアの「体表と内臓のつながり」、「固定的な点-線を越えた面という多様性のあるひろがり」の二つの特徴は経絡を連想させるものであり、「経絡≒ファッシア」について追及することは、ヒトのからだの理解を深め、施術の質を高めるうえで極めて価値あるものと思います。(ただし、生まれと育ちが異なる「東洋医学の経絡」と「西洋医学のファッシア」が≒の域を超え、=で結ばれることはないと考えます)
2.ファッシア
ファッシアという言葉は最近見かけるようになりましたが、ファッシアについては、テレビでもご活躍されている、首都大学東京の竹井仁先生が監訳された『人体の張力ネットワーク 膜・筋膜 最新知見と治療アプローチ』にその定義が出ていますので、そちらの内容をご紹介させて頂きます。
出版:医歯薬出版
初版:2015年6月
これはファッシアを密度と規則性から分類した図です。
画像出展:「人体の張力ネットワーク 膜・筋膜 最新知見と治療アプローチ」
『Fascia(膜・筋膜)は、身体全体にわたる張力ネットワークを形成し、すべての器官、あらゆる筋・神経・内臓などを覆って連結しています。筋膜に関する研究はここ30~40年ほどで大きく発展しました。それまでは、皮膚、浅筋膜、深筋膜などをいかにきれいに取り去り、筋外膜に覆われた筋を露出させるかに力が注がれてきました。また、どの筋が骨を介してどのような作用をするかに関しての研究が主流でした。
しかし、生体においては、筋群の最大限の力が骨格への腱を経て直接的に伝達することは少なく、筋群の作用は、むしろ筋膜シート上へと、収縮力あるいは張力の大部分を伝えることがわかってきました。また、これらのシートは、共同筋ならびに拮抗筋にこれらの力を伝達し、それぞれの関節だけでなく、離れたいくつかの関節にも影響をおよぼすことも明らかになってきたのです。さらに、筋膜の剛性と弾性が、人体の多くの動的運動において重要な役割を果たすことも示されてきました。これらの事実は、新しい画像診断や研究手法の開発によって飛躍的に明らかになってきました。
2007年10月にHarvard Medical Schoolで開催された第1回国際筋膜研究学術大会(The 1st International Fascia Research Congress)において、「Fascia」は、「固有の膜ともよばれている高密度平面組織シート(中隔、関節包、腱膜、臓器包、支帯)だけでなく、靭帯と腱の形でのこのネットワークの局所高密度化したものを含む。そのうえ、それは浅筋膜または筋内の最奥の筋内膜のようなより柔らかい膠原線維性結合組織を含む」と定義されました。』
この本は「科学的基盤」「臨床応用」「研究の方向性」の3部から構成されています。『閃く経絡』の内容に関係するような箇所も多数あり、補足するようなかたちでお伝えできると良いのですが、理解がまったく追いついていないため、ブログの最後にこの本の大項目、中項目の目次だけをご紹介させていただきます。
以下の二つは、『閃く経絡』からの抜粋です。
『ファッシアは臓器の輪郭をはっきりと示し、内部に閉じ込める。そして、生物学的な物質がファッシアの向こう側へ通過することは難しいが、ファッシアに沿って通過することは比較的簡単であることはわかっている。これは、体液、ホルモン、血液、空気、そして電気にもあてはまる。外科医はこの事実を理解して毎日利用していることから、このことは正しいとわかる。癌の悪性度は、このルールを曲げてしまう度合いによって定義される。つまり、健康であれば、ファッシアを通り抜ける物は存在しない。』P57
『各臓器はファッシアの中に入っている。しかし、それらもまた別の臓器とつながっている。いつ成長を止めるかをどのように知るのだろう? なぜ互いに侵入したり、血液を横取りしたりしないのだろう? 臓器はともに成長するだけでなく、ともに生きるためにもコミュニケーションをとらなければならない。すべての折りたたみは基本的には単純である。しかし、「何」が折り重なるように身体に指示しているのだろうか?
臓器が他の細胞に影響を及ぼす物質を分泌することはわかっている。我々の身体は、常に、他の細胞や臓器にメッセージを伝える大量のホルモンでごった返している。アドレナリンやインスリンといったホルモンを産生する副腎や膵臓といった腺組織だけでなく、すべての免疫細胞は常に神経伝達物質を産生し、心臓の細胞は利尿ホルモン、腸はセロトニンなど、その他もろもろ作っている。これらのホルモンは血液によって伝達され、臓器が身体の残りの部分といっせいにコミュニケーションをとることができる。』P58
“臓器どうしのコミュニケーション”と聞いて思い出すのは、NHKスペシャル “人体 神秘の巨大ネットワーク” という番組です。このイラストは書籍版の第1集に出ていたものです。
『氣には通路が必要である。身体の中にファッシア以外にふさわしい通路があるだろうか? ファッシアの層の間に完全に独立した通路を維持しながら、すべての物をつなげて包んでいく。ファッシアの通路は解剖学者によって説明されているが、彼らが説明したのはファッシアではなく、ファッシアが包んでいる組織である。』P105
『鍼治療を受けた患者が特に手足でよく訴える感覚の1つが、電気的な感覚である。いくつかのツボでは、特に手足末端でうずく感覚や、電気が伝播する感覚が引き起こされる。研究によると、鍼灸のツボは周囲の皮膚よりも電気伝導性に優れている。そして、鍼灸の経絡は、周囲の組織よりも電気伝導性に優れている。経絡もツボもファッシアに存在する。王居易医師との議論や私自身の診療経験から、私はツボがファッシアに存在することを完全に確信している。コラーゲンがファッシアの主成分であり、そしてコラーゲンには変わった導電特性があり、電気も生成する。最も重要なのは、ファッシア面の間にある液体は電気を非常によく伝導することだ。この液体にはいかなる物理的な障害もない……健康であればだが。』P106
『コンピュータが電気によって動いている現実を、我々は平気で受け入れている。コンピュータが生きているか死んでいるかの違いは、ソフトウェアか電気のどちらかが原因になることが多い。全く同じように、死(心臓死でも脳死でも)は、医学的に身体の「電気的特性」によって定義される。
-中略-
コンピュータもヒトもエネルギーの不具合を抱えることがあるにもかかわらず、問題なのは、西洋医学がほぼ完全にこの現実を無視していることだ。身体には、身体の各部を結ぶ目に見えないエネルギーの網が張り巡らされている。それは、成長し、機能するためになくてはならない。何か故障が起きたとき、神経系が我々に意識に上ると気づくことができるが、それは器質的な損傷に至る前のことかもしれない。痛みはメッセンジャーであり、それ自体が問題なのではない。医師は最も敏感な器具、つまり自分自身を使う代わりに、身体の器質的な損傷を測定する機械にますます頼るようになってきている。もし、あなたの身体がコンピュータだとしたら、風邪で医師に見てもらっても測定できないため、意味がないだろう。ウィルスが物理的に回路を壊し始めるまで待たなければならない。
しかし、この微妙なエネルギー障害こそが重要である。理由があるから症状が出る。それらは警告のサインなのだ! 痛みは危険信号であり、身体があなたの行動を変えさせようとしている。痛みをなくすことで問題解決になることはめったにない。それはただメッセンジャーを消滅させているだけである。
エネルギー障害がすべての病気の中心にある。そして、それらはすべての病気の前兆だと言える。あらゆる病気の中で明らかに最も「器質的」なものに属する外傷でさえ、実際のところ単に体内での過剰なエネルギーの消耗が問題なのである。』P106
3.コラーゲン
まずは本書の中に出ているコラーゲンを説明した箇所をいくつかご紹介します。
『ファッシアの主な成分は、コラーゲンである。コラーゲンは身体の至る所にあり、ファッシアだけでなく、腱、靭帯、関節の軟骨などを形成している。また、動脈壁にも存在するほか、骨に伸長強度を与え、臓器内の結合組織も形作っている。さらに眼のレンズを形成して見ることを可能にしたり、瘢痕組織を作って傷を治したりもしている。コラーゲンは身体のタンパク質の約3分の1を占めている。』P23
『コラーゲンの構造は原子レベルで作られ、莫大な強さを与えられる。それは、同じ重さで言えば、鋼の強さにも匹敵する!コラーゲンは骨、動脈、筋、腱、筋膜のベースとなる素材であるため、この強靭さは生命に関わるほど重要になる。』P25
『西洋医学では完全に無視されているが、電気的特性を持っている。コラーゲンには圧電性の特性があるのだ。それは、物が変形するときにわずかな電流を発生させる。同じ原理で、小さな水晶の結晶を変形させることによって、ライターの火花は魔法のように発生する。つまり、我々の身体のありとあらゆる部分が動くたびに、いつも小さな電流が生じているのである。』p26
『骨におけるコラーゲンの役割は、強度を与えることよりも驚くべきことがある。コラーゲンは半結晶物質であり、この結晶の特性の1つが圧電性を持つということだ。ある論文の著者が言うように、骨にも圧電性がある。その論文にはこう書かれている。「骨を非コラーゲン化すると、ピエゾ効果(圧電効果)が失われることがわかった。つまり、骨の圧電気の主要な成因はコラーゲンである」』p27
『電気を発生させるという特性を持つのは、骨ではなくコラーゲンで、ファッシア内の他のコラーゲンも同じ種類である。ファッシアのコラーゲンは機械的ストレスの線に沿って存在し、伸ばされたり動いたりする度に小さな電気を発生させる。この電気を西洋医学の医師は完全に無視した。どの医師に尋ねてもおそらくぽかんとするだけだろう。それにしても、身体の組織を連結させ、全身を包み結合しているファッシアが実際のところ、相互接続している、生きた電気の網であることには全く驚かされる。これは、古代中国における経絡や氣の記述と非常によく似ている。』p29
『コラーゲンは電気を生むだけでなく、伝導の特性も持つ。つまり、半導体なのだ。言い換えるなら、完全に絶縁体・伝導体のようにふるまうわけではない。コンピュータに「知性」を与えるものと同じ特性と言える。』
『このコラーゲンの電気的性質によって、身体のすべてのものが電気的になるということは実に面白い。すべての細胞表面には肺と同じくらい生命に不可欠となるポンプが存在する。このポンプは、2つのカリウムイオンを取り込むことと引き換えに、3つのナトリウムイオンを放出する。これによって細胞内は負の電荷を帯びる。結果として、細胞全体にわずかな電荷が生じる。この帯電なしでは、細胞は機能しない。ポンプが数分間止まっただけでこの電荷はなくなり、細胞は膨らみ、死んでしまう!電気は生命に必要不可欠である。』
『体内での電気の効果は、細胞を生存させる仕事だけではない。身体の神経は情報伝達に、筋肉は収縮する力に、脳は考えるために使用している。心臓のリズムは電気的なペースメーカーによって生じ、眼さえも光を調節するのに電気を使用している。』p30
『ベッカー(Robert O. Becker)がいうように、我々は本当に「電気の身体」であり、常に光速で身体中に広がる目に見えない静かなエネルギーを発散・吸収している。』p31
『あらゆる生理学的プロセス、すべての動き、すべての考えが、実体として2つの要素 ―物理的な実体とエネルギー的な実体― を持っているように思える。心臓が鼓動すれば、その物理的な動きを手で感じたり、超音波で確認したりできる。しかし、電気的な実体は、心電図(ECG)を用いれば、よりはっきりと見ることができる。このエネルギー的な実体が物理的な実体よりもリアルであり、より簡単に測定できることから、西洋医学ではこちらの検査を多用している。』P31
『この電気的世界の中心にコラーゲンがあり、生体にあまねく存在し、生体のすべてを結合させている。コラーゲンは結合組織の主要な構成成分であり、その強さにより人体が支えられていることは西洋医学にも認められている。コラーゲンは身体において電気的半導体としても、またピエゾ電気の発電装置としても傑出した存在であり、その重要性は機械的に強いというコラーゲンの特徴を上回るかもしれない。いや、むしろ、コラーゲンは、あるときは半導体として働き、またあるときはピエゾ電気を発電する生体らせん物質であり、体内の電気を保持し、発電し、流れる方向を導くことさえできる「スーパー伝導物質」とみなされるべきなのだ。電気の力は、身体を編んでいる組織の中に保持されている。この科学は中医学や氣のような響きを帯び始めてくる。』P31
4.氣
氣に関しても、ポイントと思われる個所を列挙します。
なお、経絡≒ファッシアを考えるときに、コラーゲンの電気特性と共にこの「氣」に関する内容が本書の中核ではないかと思っています。
『語源学の観点から、氣は空気と同じであると思われる……そして、古代の人がなぜ人体のような固体物質に対して氣のような言葉を用いたのかという疑問が生まれてくる。もちろん人体の中に空気は存在する。肺の中には空気が存在し、血液や体液中には空気が溶けている。この空気は主に酸素と二酸化炭素であり、微量ではあるが、窒素や他の気体も含まれている。二酸化炭素と酸素から成る空気は、我々の代謝の基礎中の基礎と言える。事実、これら2つの気体のみが、いかなる時代においても身体の「代謝」を解明する科学的研究に用いられている。』
『楊俊敏博士は ”気功の理解(Understanding Qigong)” と題された一連のDVDで、非常に簡潔にこの文字の説明をしている。古代の中国人は、医学において最も単純な方程式の1つをただ描いたにすぎないのだ。
食物+空気=エネルギー
グルコース+酸素=水+二酸化炭素+エネルギー
C6H12O6+6O2=6H2O+6CO2+エネルギー
氣という文字の特徴は、米と空気が混ざることでエネルギーが作られることを表している……これが生物学的な意味での氣である!』P34
『氣は「代謝」? 氣は「空気」? 氣は「空間」? 一体どれが正しいのだろうか? 答えはすべて正解であり、かつそれ以上の存在でもある。代謝エネルギーは、ある意味では、空気によって定義される。生物に空気の供給を止めると、氣も代謝もなくなってしまう。しかし、氣は物質とするにはあまりにも幅が広い。氣はより観念的な存在である。そのため、西洋の科学が氣をどう位置づけるかに苦労する1つの理由になっている。氣は科学よりも哲学、発想や抽象概念に近い存在である。とはいえ、抽象概念は科学的論拠の核心部分を保っている。』
『氣は身体を組織する力である。それは、知性を持った代謝、もしくは、よりよい表現を求めるのならば「生命力」と言える。氣はあなたが行うあらゆる動き、そして、肺の呼吸、ミトコンドリアの呼吸、あらゆる呼吸に存在する。氣がどのように身体を組織しているかを理解するために、我々はミトコンドリアから、細胞、組織、臓器へと考えてきた。我々は、40億年にもわたる細胞の協調に関して早送りして見てきた。それでも、氣がどう作用するかについて少ししかわからない。』P104
『モルフォゲン(細胞の発生運命を決定する物質)やホルモンは濃縮された氣の一形態にすぎない。身体のコントロールには他の要因が存在する。体内の知的な制御システムはモルフォゲンを確かに使用しているが、私はそれと同じくらい電場(空間内の任意の点に働く電気的な力)を重要なものとして考えている。受胎の瞬間、陰と陽、精子と卵子が出会うとき、細胞の生命を本格的に始動させるものが電気である。この電気には知性がある。それは情報を伝達し、氣を持っていて、馬鹿ではない……電氣なのだ。
生命は電氣に始まり、生物の命ある限り持続する。電氣は、発達のあらゆる段階で、そして研究されているすべての生物で見つかっている。分化のまさに最初の段階――8つの細胞だけのとき――細胞たちは「緻密化」を行い、お互いの間に細胞間結合が形成されることがわかっている。細胞たちは、電気、知的な電気、つまり電氣で通信するために、これらの細胞間結合を使う。次に、細胞のボールは液体の内部コアを作りだす。この変化も電流(中心部方向へ動くナトリウムイオン)によって引き起こされる。
電流はものすごく小さく、電圧も1ミリあたりのミリボルト単位(mv/mm)ではあるが、研究されているすべての生物の発生において存在している。さらに電気は再生と治癒にも関わっている。この電気の流れを逆転させると、動物での胚の異常な発達および異常な再生を引き起こす。再び言うが、この電気は知性を持つ――電氣なのである。例えばクローン作製などで、我々が電氣を模倣しようとするならば、正しく行うために正確な電圧、特定の電流を使用しなければならない。心臓に電気ショックを与えるとき、コンセントから直接ワイヤーを胸と接続する医師はいない。正確な電流を使用し、場合によっては心臓のリズムに電気を同期させる。つまり、我々は電気に「知性」を加える。これは、まるでコンピュータの中を忙しく動き回っている電子が情報を運ぶ方法として同じである。これが生物学的情報を取り扱う電気――電氣である。
私たちの身体の電場は普遍的だが、それが成長へ与える影響に関する研究はまだ乏しい。西洋医学は、成長因子(微量で細胞の成長・増殖を促進する一群の物質)やモルフォゲンを分離することに血道を上げた。つまり、生物物理学ではなく生化学の方に。見ようとすれば、電氣は至る所で見出せるにもかかわらず、である。
中国人はその存在に気づいていた。なぜなら、電気的な生物としての感受性を高めて、訓練を積めば、我々はこの電氣を感じ、とらえることができるからである。経絡はそれぞれ異なっているように感じられ、ツボには異なる質感がある。このことは別に驚くべきことではない。経絡は異なる電気的特性を持っており、我々は「電気の身体」であることがわかっているからだ。修行を積んだ鍼灸師や武道家は、このエネルギーに敏感になる。彼らはこの違いを感じとって、利用しているのだ。
イギリスで最も尊敬された鍼灸師の一人、ラナルド・マクドナルドは、これに関してこう記している。彼が鍼灸の教授の下、中国で勉強していた頃、学友で懐疑的な医師の女性が教授にこう尋ねた。
「でも、氣って本当にあるんですか?」
教授は何も答えず、代わりにその女性の手を握って、合谷(L14)のツボを押圧した。すると、女性は痛みのあまり身体を折り曲げた。
そして、教授は「どうだい、氣はあるだろう?」と言ったのである。
教授は証明した。氣を用いなければ、圧覚点の生理学的説明はうまくできない。その証明は、他の何にもまして主観によるものである。親指と人差し指の間の水かき部分を押すと、どんなに屈強な男性でも無力になる理由を見つけてほしい。そして、その力を好きなように呼べばいい。
もし氣が生物学的な電気の形として現れたなら、電気のような挙動を示すと予想できるだろう。現代社会では、電気は毎日使われているので、私たちは電気について多くのことを知っている。電気自体は水と似たような形でふるまう。
鍼灸の古典では、しばしば氣と水が比較される。だから、非常の多くのツボの名前に「水」という漢字が使われていたり、手足の五兪穴が、井(井戸)、滎(わき水)、兪(小川)、経(川)、合(海)と呼ばれていたりする。もし、古典が水ではなく電気の現象に頼れたなら、古典は電気を用いただろう。電気の方が五兪穴を表すのによりしっくりするからだ。水は莫大な量を使って力を生む傾向があるが、身体の中を動く何かはほとんど見えない。いずれにしても、水は電気と似た形で動く。
●高圧な場所から低圧の場所へと移動する――電圧
●流れの中で動く――電流
●動くことで力を生む――ワット数
●流れる水のように、分離(絶縁)することもできるが、常に経路を探して、最も抵抗の少ない通路を通ろうとする――電気回路
●迂回できる――短絡
電気や水(もしくはモルフォゲン)を有するあらゆるシステムでは、高圧および低圧の領域が存在する。限られた空間に競合する物質が多いところでは高圧となる。つまり、低圧な場所では、物質が空間内を自由に遊走することができる。
身体の外側には基本的に電氣がないので、身体の内側は外部より高い電氣を持つことになる。電氣は、この勾配に沿って内側から外側へと移動する。そして、最も抵抗の少ない通路を流れる。ファッシア面はまさしくこの通路を提供する――これは内視鏡手術や、解剖の背景にある原理である。ファッシアの抵抗は非常に低いのだ。ファッシア面にある液体は、イオンが豊富で優れた電気伝導体であることがわかっている。血液を除けば他に類を見ない特徴として、この液体は、健康な状態では何ものにも妨げられずに動いていく。』P109
5.バイオフォトン
バイオフォトンとは「生物の生命活動に伴って自発的に放射する可視化が困難な微弱な自然発光」です。本書の中で、氣との関係性についてはわからない点は多いという認識をもって書かれていますが、興味深い事象なので気になった箇所をお伝えします。
『機械でしか測定できないくらいぼんやりではあるが、ヒトは光を発している。不思議なことに、小説の中で語られる「邪気」のように、それは爪から最も強く発してるように見える。この光はバイオフォトンと呼ばれ、科学的に認められた事実である。生きとし生けるものすべてがこの光を発している。 -中略- ドイツ人科学者フリッツ・アルバート・ポップは、バイオフォトンこそが氣の発現であると考えており、互いに支えあう細胞の力であると述べている。』P40
『氣との類似点はまさしくそこにある。氣の通路は身体の末端である手足の爪を通っており、そこのバイオフォトンの放出が最も強い。ヒトが病気になったり歳をとったりするとバイオフォトンの量が増えることがわかっているが、同じようなことが脳卒中の麻痺側でも生じる。鍼灸治療で、脳卒中患者のバイオフォトンのバランスが補正されていることがわかっている。
『バイオフォトンが氣であるかどうかわからない。しかし、明らかになっていることは、その多くがミトコンドリアから現れるということだ。ミトコンドリアは細胞の発電所であり身体のエネルギーの源である。一部の研究者はバイオフォトンがフリーラジカル損傷の指標であると考えているが、まだわかっていない。』
『バイオフォトンが干渉性であることを示す研究もいくつか存在する。干渉(コーヒーレンス)とは、エネルギーがどのようにエネルギー自体と連絡するか、光が光自体と同期するか、を説明する量子用語である。知性もしくは記憶を持った光は、量子物理学者だけが興味を持ちそうだが、身体の中でこんなことが起こっているなんてすごいことだ!ただ、このことに関する研究はまだまだ少ないので、暗闇から抜け出さないでいる。問題は、バイオフォトンの測定には、可視光の強度の千分の一の光を測定しなければならない。これには、とても高価な設備と、すさまじくたくさんの時間をじっと待つことを喜んで引き受けてくれる人が必要になる。』P41
『バイオフォトンは氣の物理的な表れかもしれない。もしくは、細胞性反応の副産物であるかもしれない。さらなる研究が必要であるが、それまでは、氣に関するどのエビデンスよりもバイオフォトンが最も興味を引くものである。バイオフォトンが示すものは、私たちの身体は電気のように光を作ることができ、この光が病気になると変化するということである。』P41
6.ツボ(経穴)
ツボ(経穴)については本書の内容と日本伝統医学研究センターで学んだこと、相澤良先生の師匠であった岡部素道先生のツボ(経穴)に対する考え方を比較したいと思います。
『経絡は氣の通路として存在している。鍼灸師ならば誰もが知っているこの経絡は、細胞内連絡として機能している。経絡上に存在するツボは、生理的にも病理的にもこの細胞内連絡が変化する場所である。優秀な鍼灸師であれば、この生理的変化がどこで起こるのか知っており、さらに重要なこととして、病気が生理的な反応を変化させることも知っている。したがって、病変の数が無限にあるように、ツボの数も無限にある。』P98
東邦医学 “硬結の経絡的研究”より
『経穴がどんな所にあるかを発見することが鍼灸治療家の最も至難な、しかも大切なことである。即ち経穴は、流、注、経、合、交会に外ならぬのであるが、原則として、硬結の発見を一つの手がかりとすべきであると想う。そして、それは経絡の変動と一致する。その経絡の変動を調節する事によって、疾病を治癒せしむるものである。換言すれば、疾病は、経絡の変動によって生ずるものである。経絡は一つの溝渠(給排水を目的として造られるみぞ)。この溝渠が内因外傷の客邪により、障碍が出来るのである。経絡を川に例えれば石その他の障碍物によって瀬が出来、流水の溜滞を来すとする。この瀬である障碍物が即ち硬結であり血氣の溜滞なのである。この硬結に治療を施し排除する事によって治癒効果があり、疾病が治るのである。』
医道の日本誌 “経絡治療座談会 病症論”より
『ツボとりは単に指先でちょっとさわるよりも、例えば、手の三里なら三里を取る場合に、手掌あるいは四指で軽く撫でてみる。そうして二、三回撫でてみますと、その中にある一点を見出す。その一点を今度はもっと強く押してみる。それが圧痛なり硬結が出てくる。これを一つのツボの本体として探り当てる。他と違った状態にツボは現れていると考えている。例えば、絡穴にしても、原穴にしても、よく触っていると、自分で触っても響くとか、あるいはキョロキョロのものが出てくる。あるいは陥下しているか、何か普通のところよりも違った感覚として指先に感じられるものがツボだと思う。その意味でツボは生きているとみている。ツボは経絡の変動とみている。』
両者を一つにまとめてみると、「ツボは生きている、硬結のような何か普通のところよりも違った感覚として指先に感じられるものがツボである。最も至難で大切なツボ取りは鍼灸師に委ねられており、経絡上に存在するツボは、生理的にも病理的にも経絡(細胞内連絡)が変化する場所である。さらに重要なこととして、病気が生理的な反応を変化させる。したがって、病変の数が無限にあるように、ツボの数は無限にある。そして、ツボ取りを委ねらえた鍼灸師はその経絡の変動(変化する経絡)を経絡上のツボを使って調節する事によって、疾病を治癒に導く」。という感じになると思います。
ここで、うまく整理することができなかった部分は、『病気が生理的な反応を変化させる(”閃く経絡”)』という表現と、『疾病は、経絡の変動によって生ずる(”硬結の経絡的研究“)』という表現です。もし、これを次のようにまとめることが許されるならば、両者に大きな差はないと言えると思います。
“健康”⇒“未病[東洋医学]”⇒“経絡の変動[東洋医学]”⇒“病”⇒“生理的な反応の変化[西洋医学]”
これは、「東洋医学の”経絡の変動”とは”病”の前段階の”未病”でみられるものであり、西洋医学の”生理的な反応の変化”とは”病”の段階で認識され、血液や尿などの臨床検査や各種画像検査の結果により確認された生理的な反応による変化」。という理解になります。
まとめと感想
冒頭でお伝えしたものが今回の学習の「まとめ」と言えます。それは次の一文でした。
「鍼治療とは、刺鍼ポイントのツボ(経穴)への刺激が、概念である氣の一部、「電氣」の知性に働きかけ、体表と内臓を結ぶ経路(経絡≒ファッシア)を通じて、乱れた状態を自然治癒力(ストレス適応を高め、栄養代謝を改善すること)によって元に戻す」。
また、以下は「感想」の類に入ると思います。
「生きていくために重い臓器を体内に抱えながら、しかも重力とも闘いながら動き回ることは大きな労力(エネルギー)を要するものです。この動くということによって、酷使されダメージを受けやすい領域は可動部、関節領域だと思います。
そして、負荷の集中によって普通とは違った状態を示すものをツボとするならば、その負荷とは動的および静的な筋・筋膜、腱・腱膜などの緊張状態(止まっている状態でも重力に抵抗し常に緊張している筋もあります[抗重力筋])と深い関係にあり、全身を覆ったボディスーツが各関節の動きによってできるシワやハリのように、面から線、そして線から点となって、ツボがつくられるのかも知れません。
ボディスーツのシワやハリは動きの特徴、強弱、繰り返し、持続時間およびそのヒトの体形などによって、さまざまな模様を見せると思いますが、その模様は無秩序に現れるのではなく、各関節や骨格などの構造的、機能的特性などにより代表的なパターンはある程度絞られるだろうと思います。また、物理的な作用は表面のボディスーツだけでなく、内部の臓器を包む膜などにも少なからず影響を与えるだろうと思います。あるいは炎症などの臓器に起こったダメージなどによって、それが内臓の膜にシワやハリをつくり、そして体表に変化をもたらすのかも知れません。
経絡の “経” とは縦、 “絡” とは横を意味しています。つまり、縦+横は面になります。経絡がボディスーツのシワやハリであるという意見は暴言に近いと思いますが、関係性があったら面白いと思います」。
ご参考:『人体の張力ネットワーク 膜・筋膜 最新知見と治療アプローチ』の目次のご紹介
第1部 科学的基盤
パート1 筋膜体の解剖
1.1 筋膜の一般解剖
1.2 体幹の筋膜
1.3 浅筋膜
1.4 肩と腕の深筋膜
1.5 下肢の深筋膜
1.6 胸腰筋膜
1.7 頸部と体幹腹側の深筋膜
1.8 内臓筋膜
1.9 頭蓋内における膜性構造と髄腔内の空間
1.10 横隔膜の構造
パート2 コミュニケーション器官としての筋膜
2.1 伝達器官としての筋膜
2.2 固有受容(固有感覚)
2.3 内受容
2.4 侵害受容:感覚器としての胸腰筋膜
2.5 全身伝達システムとしての筋膜
パート3 筋膜の力伝達
3.1 力伝達と筋力学
3.2 筋膜の力伝達
3.3 筋膜連鎖
3.4 アナトミー・トレインと力伝達
3.5 バイオテンセグリティ―
3.6 皮下および腱上膜組織の多微小空胞滑走システムの作用
パート4 筋膜組織の生理学
4.1 膜・筋膜の生理学
4.2 膜・筋膜は生きている
4.3 細胞外マトリックス
4.4 筋膜の特性に関するpHと他の代謝因子の影響
4.5 筋膜組織における流体力学
第2部 臨床応用
パート5 筋膜関連の障害
5.1 筋膜関連の障害:序論
5.2 デュピュイトラン病と他の線維収縮性疾患
5.3 “凍結肩(五十肩)”
5.4 痙性不全麻痺
5.5 糖尿病足
5.6 強皮症と関連症状
5.7 筋膜関連障害のトリガーポイント
5.8 筋膜関連の疾患:過可動性
5.9 足底筋膜の解剖学的構造
パート6 筋膜の弾性に関する診断方法
6.1 筋膜の弾性に関する診断方法
6.2 筋膜の触診
6.3 過可動性と過可動性症候群
パート7 筋膜指向性療法
7.1 包括基準と概要
7.2 トリガーポイント療法
7.3 ロルフィング構造的身体統合法
7.4 筋膜誘導アプローチ
7.5 オステオパシー徒手的治療法と筋膜
7.6 結合組織マニピュレーション
7.7 筋膜マニピュレーション
7.8 機能障害性瘢痕組織の管理
7.9 筋膜指向性療法としての鍼治療
7.10 刮痧(カッサ)
7.11 プロロセラピー(増殖療法)
7.12 ニューラルセラピー(神経療法)
7.13 動的筋膜リリース―徒手や道具を利用した振動療法
7.14 グラストンテクニック
7.15 筋膜歪曲モデル
7.16 特定周波数微弱電流
7.17 手術と瘢痕
7.18 筋膜の温熱効果
7.19 ニューロダイナミクス:神経因性疼痛に対する運動
7.20 ストレッチングと筋膜
7.21 ヨガ療法における筋膜
7.22 ピラティスと筋膜:“中で作用する(working in)”技法
7.23 筋骨格および関節疾患の炎症抑制を目的とした栄養モデル
7.24 筋膜の適応性
第3部 研究の方向性
パート8 筋膜研究:方法論的な挑戦と新しい方向性
8.1 筋膜:臨床的および基礎的な科学研究
8.2 画像診断
8.3 生体内での生体力学的組織運動分析のための先進的MRI技術
8.4 筋のサイズ適応における分子生物学的な筋膜の役割
8.5 数学的モデリング
今回のブログは、標治に長野式の「結合組織活性化処置法」を取り入れるため、あらためて勉強したというものです。なお、それぞれの講習会で入手した資料を勝手に使うことは不適切であり、一方、まだ熟読していない本を使って学びたいという気持ちから、長野先生の本を使って進めています。そして、最後に「自序」、「あとがき」、「著者略歴」をご紹介しています。
初版は平成5年12月です。
長野先生には、この本とは別に「鍼灸臨床 新治療法の探求 -心に残る診療カルテから-」という著書もありますが、こちらは長野先生曰く「本書は、私がこの道に入って二十五年目から三十五年目まで、十年間に書き留めた断片的な臨床論文である」とのことです。
出版:医道の日本社
長野式とは長野潔先生が確立された鍼灸治療で、鍼灸師の間では「知る人ぞ知る」評価の高い治療方法です。
私は八丁堀の専門学校に通っていた3年間のうち、2年目に「長野式臨床研究会」の基礎セミナーを、3年目に「長野式研究会」の基礎講座を受講させて頂きました。長野式を研修できる現場を求めて、栃木県まで足を運んだこともありましたが、現実のものにすることはできませんでした。このような経緯を経て、卒業後、代々木の日本伝統医学研修センターで知識と臨床力を付けるという道を選びました。
しかしながら、頭をリフレッシュさせる目的で、長野式だったらどのような選択をするのかといったことを考えてみることは有意義だと思っています。
【混ぜるな危険】とは、「色々な治療法を明確な狙いもなく、苦しまぎれにミックスしてしまうこと」ということだと思います。私はこの【混ぜるな危険】を守りながら、長野式の可能性を「標治」の幅を広げる目的で活用したいと考えました。これは、筋肉や結合組織に対するトリガーポイントと同じような位置づけであり、新たな武器を身につけるという狙いです。
日本伝統医学の経絡治療には「本治」と「標治」という考え方があります。本治は治療法の根幹であり、まさに【混ぜるな危険】を守るべき領域です。
一方、標治は患者さまが抱える問題、痛みや凝りなどに対して即効性を優先した治療であり、一般的には筋肉などの軟部組織に刺鍼して改善を図ろうとするアプローチです。そして、標治の基本は徹底した触診により、硬結やスジ、突っ張りや緊張といった変化部位を発見し、そこに鍼を当てにいくというものです。例えば、経絡治療には「阿是穴(あぜけつ)」という、触診で見つける「あっ、それ!」というツボも定義されています。これなども標治の幅を広げるためと考えられます。
以上のことから、「標治」に関しては施術の質を高めるために、トリガーポイントと同様に長野式を有効な武器として加えることは問題ないと判断します。
ただし、長野式の根幹は次のように10個(運動器疾患処置法は4個)の処置法に分かれており、この中で標治に加えて何も問題ないと思うのは「結合組織活性化処置法」です。
1.気流促進処理法
2.水分代謝促進処理法
3.血流促進処理法
4.粘膜消炎処置法
5.自律神経・内分泌系調整処置法
6.免疫機能強化処置法
7.運動器疾患処置法
1)結合組織活性化処置法
2)筋緊張緩和処置法
3)血糖値調整処置法
4)血管運動神経活性化処置法
「結合組織活性化処置法」は、本の中では126~137ページに説明がされています。今回は現場で使えるものにしたいと思い、表形式にまとめました。なお、項目になっている[刺入(鍼)]の中で、鍼の長さ・太さと刺入の深さについては色をグレーに変えています。これらは個々の体格等を優先して判断すべきものと考え、明記された数値を参考値という位置づけにしたかったためです。
表の内容を直感的に把握する目的で、「絵」を載せていますが、ふられている数字は上記の表、左端に出ている連番を指しています。ただし、すべてを網羅できていません。
9・16
17
19
20
21
24
表の中には経穴(ツボ)によって、部位を説明しているものもあります。これに関しては、「イトリズム事典」で、該当する経穴(ツボ)を確認できるようにしました。
イアトリズム事典は、「日本東洋医学協会」監修のもと、人体に数百とある経穴(ツボ)に関する詳しい情報を画像とともに分かりやすく掲載しています。
なお、利用についてはホームページ開設時に使用許可を頂いています。