不妊症

概要

不妊のうち、男性不妊の原因の80~90%は“造精機能障害”とされています。一方、女性不妊の原因は“内分泌・排卵因子”、“卵管因子”、“子宮因子”、“頸管因子”、“免疫因子”に分かれています。この中で、“内分泌・排卵因子”の代表例の中に、「ストレス」と「内分泌・代謝疾患」があります。鍼灸治療が最も貢献できるのはここです。 

画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」

一般不妊治療である“人工授精”とは異なり、“体外受精”は高度生殖医療とされています。方法は体外に取り出した卵子に精子をかけて受精させ、初期胚もしくは、胎盤胞まで受精卵を育ててから子宮に戻します。

世界的に行われている“体外受精”ですが、日本の出産率は極めて低い状況となっています。ただし、ここには明確な理由があります。複数胚での移植は出産率を上げますが、多胎妊娠に伴う母子のリスクが高くなります。その点、日本では安全性の観点から単数胚での移植が70%を超えています。もう一つの理由は、体外受精の実施年齢が高いという点です。35歳以上の人数が70%を超えており、日本以外ではスペイン位しかありません。

35歳を過ぎると女性ホルモンの分泌は不安定になりやすく、自律神経系も乱れやすくなります。こうした年齢による負の変化に対し、鍼灸治療はこれらの乱れを抑制し、安定の維持に貢献できる可能性があります。 

画像は「不妊治療・妊活」さまの“日本の1回の採卵あたりの出産率が60ヶ国中最下位は本当か”から拝借しました。ここに詳しい解説が出ていますので、ご確認ください。

ポイント

1.最も大事なことは、“ご夫婦(カップル)の意識合わせ”だと思います。ここに「ボタンの掛け違い」があると、根本的なストレスを抱えてたまま不妊治療に臨むことになると思います。

2.施術の基本は、体も心もゆるみ温かくなって、“楽になった”という感触であり、この“感触”の積み重ねが大切です。そして、月経が順調であれば、それは“妊娠の準備ができている”というサインだと思います。

3.施術の狙いは、本治(全身治療)が“自律神経系と内分泌系をととのえる”こと。標治(局所治療)が“骨盤部の血流をよくする”こと。そして、子宮内膜の機能層が“ふかふかのベッド”になることです。

4.鍼灸師は施術以外に、不妊治療および栄養・運動・メンタルケアについての知識が求められます。

5.鍼灸師にとって最も大切なことは、「信じること」であり、「信頼されること」だと思います。

施術

最初に“ふかふかのベッド”についてご説明させて頂きますが、これは当院の施術目標と言えます。

画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」

左の図の左上(増殖期)の「エストロゲンが受精卵のためのベッドを作る」→右上(分泌期)の「プロゲステロンがベッドにふかふかのふとんをしく」となっています。

 

こちらは上の図の下の部分を拡大したものです。受精卵は、ふかふかで栄養たっぷりのベッドで育つことができる

これを目指します。

“ふかふかのベッド(子宮内膜の機能層)”は、“らせん動脈”の血液によって栄養される必要がありますが、それを活発にするのがエストロゲンとプロゲステロンです。つまり、“ふかふかのベッド”は、血管を広げて血流を高める自律神経系の作用と必要十分なホルモンを分泌するための内分泌系の作用、さらに、らせん動脈および上位動脈(放射状動脈→弓動脈→子宮動脈→内腸骨動脈→総腸骨動脈→腹部大動脈)の血流が滞ることがないように、周りをとりまく筋肉や筋膜などを軟らかい状態にしておくことが重要です。

中央の図は左(前方)がお腹、右(後方)が背中です。子宮は膀胱と直腸の間に挟まれており、とても窮屈な状態です。少しでも血流を維持するためには、筋肉や筋膜を軟らかくしたいところです。

具体的な施術内容は次の通りです。

1.問診、脈診、腹診

●最初に問診、脈診、腹診により、不妊症を原因から分類しツボ(本治穴)を決めます。

①冷え型

②熱型(瘀血型)

③ストレス型

2.本治(全身治療)

●分類に基づいたツボ(本治穴)を取穴します。

●お腹の基本穴および全身調整穴を取穴します。

●必要に応じ特効穴を追加します。([ ]はツボ名です)

1)不妊症…[中極]、[子宮]に置鍼

2)冷え…[三陰交]に置鍼

3)自律神経系の調整…内ネーブル(お臍の際に4本単刺雀啄)

4)心因性骨盤鬱血処置([肩井]および[陰陵泉]に強い圧痛がある場合)…[陰陵泉(20-30mm)]と[郄門]に置鍼

※注)上記3)と4)は「長野式」の施術法です。

3.標治(局所治療)

●腰背部…[夾脊]:T12(第12胸椎)~L5(第5腰椎)に置鍼します。

●仙骨部…S2(第2仙椎)~S4(第4腰椎)に置鍼します。

●腰殿部…触診により気になる硬結があれば刺鍼します。

●陰部神経刺鍼…上後腸骨棘~坐骨結節を結ぶラインの上からほぼ中間点に刺鍼します。

※注)陰部神経刺鍼については、ブログ”不妊鍼灸4”の後半に詳しい説明が出ています。