5月28日(日)、「埼玉県パーキンソン病友の会」の定期総会に引き続き、国立精神・神経医療研究センター病院病院長 村田美穂先生による「ここまで良くなるパーキンソン病」を演題とする講演が開催されました。
ブログでは印象に残った4つを取り上げ、自分なりにまとめてみました。
なお、村田先生の国立精神・神経医療研究センター病院のホームページにはパーキンソン病に関して詳しく説明されているページがありますのでご覧ください。
『パーキンソン病、進行性核上性まひ、大脳皮質基底核変性症、多系統萎縮症(特に線条体黒質変性症)を対象に運動症状のみならず、抑うつ、不安、睡眠障害や、腰曲がりなどの姿勢障害等にも対応している。』(2012年度 病院年報 第26号より)
1.パーキンソン病とパーキンソン症候群
休憩を挟んで行われた質疑応答は約1時間、患者さま及びご家族からの質問は事前に集められており、18件が1枚の資料にまとめられていました。
その中に、パーキンソン病と診断され、マドパー(「レボドパ」と「ベンセラジド」という2つが配合されている薬)を服用しているが、症状は全く変わらず進行しているという主旨の質問が含まれていました。
村田先生のお話では、パーキンソン病であれば、薬が全く効かないということは考えられないので、他の病気を考えなければならないとのご指摘でした。
少し補足させて頂くと、患者さまが服用されているマドパーには「L-ドパ」という成分が配合されており、この薬は「パーキンソン症候群」にも効果があるとされています。従って、この患者さまの場合、パーキンソン症候群以外の疑わしい疾患にも目を向ける必要があることになります。なお、「パーキンソン症候群」とは、パーキンソン病以外の変性疾患や薬物投与、精神疾患等によりパーキンソン様症状が見られる疾患のことをいいます。
パーキンソン症候群に関する詳細な説明は以下のサイトに書かれています。ご参照ください。
『MEDLEYは、567名の医師とともに医療事典を作成するプロジェクトです。病気の情報をはじめ、薬の解説、医療機関、学術誌による論文ニュースと、医療情報を網羅的に用意しています』
なお、薬剤性パーキンソン症候群の原因で最も多いとされている抗ドパミン薬のスルピリド(商品名ドグマチール、アビリットなど)が処方される主な疾患を調てみると、うつ病・うつ状態、統合失調症、胃・十二指腸潰瘍となっていました。これらの病気によって、スルピリドを服用されている患者さまは、その副作用に注意頂く必要があると思います。
2.薬の効果を100%引き出す!!!
「京都大iPS細胞研究所の高橋淳教授はパーキンソン病を治療する医師主導の臨床試験(治験)を2018年度に始めると明らかにした。」とのニュースが2017年2月3日に出ました。
『髙橋淳教授らの研究グループは、パーキンソン 病に対する iPS 細胞由来神経細胞移植による機能再生治療法の開発を目指した研究を進めております。』
1、2年後から治験が始まる予定の遺伝子治療を含め、将来的にパーキンソン病の治療が大きく前進するのは間違いないのですが、少なくとも5年~10年は、薬の効果を100%引き出すことが最も大切なことである。この事が今回の講演で1番印象に残ったことです。
下記は「やさしいパーキンソン病の自己管理」に掲載されている薬の一覧表です。そしてパーキンソン病の薬は毎年のように新しいものが出てきています。
異なる作用の薬がたくさんあり、処方には回数と量を最適化させる必要があり、また、薬の効果は個人差が大きいという現実もあります。
つまり、パーキンソン病の服薬は100%オーダーメイドです。そのためには、患者さまと主治医が二人三脚で、試行錯誤をしながら最良のパターンを見つけ出すという時間と努力が必要だと感じました。
患者さまの中には、日々の体調を日記などで管理されている方もおり、こうした取り組みは非常に有効な情報源になるだろうと思いました。
画像出展:「やさしいパーキンソン病の自己管理」(医薬ジャーナル社)
※デュオドーパ
デュオドーパは2016年7月に保険適用になりました。ウェアリング・オフ現象やジスキネジア(頚、手足や肩などがくねるよう不随意運動)の問題を改善したいという患者さまが期待されている治療です。大前提としてL-ドパが効く患者さまでないと価値はありません。
仕組はデュオドーパという装置にL-ドパのゲル剤が入っており、チューブを十二指腸の先にある空腸(小腸の一部)に留置して持続的に薬を注入します。L-ドパの血中濃度が安定するのでジスキネジアにも効果が高いといわれています。
こちらは順天堂大学医学部付属順天堂医院 脳神経内科のホームページに掲載されている「デュオドーパ」です。詳細な説明がされています。
※ウェアリング・オフ現象(長期治療中の問題点)
画像出展:「やさしいパーキンソン病の自己管理」(医薬ジャーナル社)
『薬の血中濃度の変動に伴い、パーキンソン症状が変化する現象をウェアリング・オフ現象と呼んでいます。薬の濃度が上昇すれば症状が改善し、濃度が下がれば症状が悪くなる現象です。L-ドパは、ドパミン受容体作動薬に比べて効果が高く、半減期(血液中で薬の濃度が上がってから半分の濃度になるまでの時間)が短いためにこのような現象が出現しやすいのです。ドパミン神経終末は一度使ったドパミンを取り込んで保存し、再利用することができますが、病気になって4~5年するとドパミン神経終末の数が減るために十分保存できなくなります。それに伴いL-ドパの血中濃度と症状の変動が一致し、1回服薬後の効果の持続時間が短くなり、ウェアリング・オフ現象が現われるようになります。
40歳以下でパーキンソン病になった方は、この現象がとても出現しやすいのですが、70歳以上でパーキンソン病になった方は出現しにくく、出現しても軽度ですので、あまり心配する必要はありません。
若い方でL-ドパ量が多すぎたり、食前服薬などでL-ドパ濃度のピークが高くなりすぎると出現しやすいので、L-ドパはなるべく食後に飲むようにしましょう。また、L-ドパとともに、ドパミン受容体作動薬やMAO-B阻害薬、COMT阻害薬、ゾニサミドなどを服薬することで、ウェリング・オフ現象を予防したり改善したりすることができます。また、患者さんによってはアポモルヒネの注射も使えます。』
3.便秘対策
村田先生のお話の中で、パーキンソン病の患者さまは概して飲水量が少ないということを指摘されていました。そして、「1日2リットルの飲水および運動」を心がけることで、便秘が改善される方は少なくないとのことでした。
やはり運動は大切だろうと思い、ネット検索したところ、運動療法の事例を見つけましたので添付させて頂きました。
4.腰が曲がる
18件の質問の中に腰や背中に関するものが3件ありました。下記は質問の抜粋です。
・椅子に座ると前かがみと上半身が左側に曲がってしまう。
・歩き出すと腹直筋の上部がこわばり、腰が曲がり歩けなくなります。
・腰痛があり上半身が前傾、左側に曲がっています。
村田先生からは姿勢障害に対するリドカイン療法(特許取得済み)についてのご説明がありました。これは体幹の外腹斜筋などの拘縮を取り除くことなどにより、姿勢を改善していくという療法です。即効性という意味では画期的な治療法ですが、初期であったり、症状が軽い場合は、まずは筋力維持の運動療法にトライされるのが良いのではないかと思います。
下記は村田先生の「やさしいパーキンソン病の自己管理」に掲載されている「背筋・臀筋の運動」に関するものです。
“前傾姿勢”は“前進運動”の源!
これは吉岡紀夫先生が「変形/痛みの治療革命! 筋膜療法 Fa・ther」に書いているものです。「脚を上げれば前進できる」という原理ですが、ここには非常に重要な体の構造があります。
それが体の背部から前傾する体を手綱のように支持し、姿勢を保持している「抗重力筋」の存在です。緊張を作っている「抗重力筋」の筋力が落ちてしまうと姿勢は崩れ、歩行にも影響が出ると思います。また、腰痛にも関係してくると思います。
上半身であれば背筋(脊柱起立筋)を可能な範囲で毎日筋トレすることが、すぐできる有効な対策になります。
画像出展:「変形/痛みの治療革命! 膜療法 Fa・ther」(たにぐち書店)
今月7日、武蔵浦和コミュニティーセンターで行われた、埼玉県パーキンソン病友の会主催の「友の会医療講演会」に参加してきました。今回のブログは、その中から印象に残った3つの事柄について書いています。
なお、講演のテーマは以下の通りです。
「医療環境、医療連帯についてそれぞれのお立場から」
・北里大学メディカルセンター神経内科・・滝山容子先生
・埼玉県総合リハビリテーションセンター神経内科・・市川忠先生
・埼玉県総合リハビリテーションセンター脳神経外科・・大渕敏樹先生
1.脊髄歩行中枢(CPG)について
市川先生のお話のなかで出てきたキーワードです。脳の力を借りず、脳と同じ中枢神経の脊髄主導で歩行を行うという仕組みです。私自身、初めて聞いたものだったので、ネットで調べてみました。
参考にさせて頂いたサイトは「リハビリmemo」になります。
・ヒトは普通、歩くために意識して頭を働かせることはありません。例えば、「テレビのリモコンを取りに行こう」と脳が指令を発すると、リモコンがある場所を認識した後、勝手に歩行によって体を移動させています。
これは「歩行の自動化」といえます。ただし、無意識下で中枢神経がリーダーとなって何かの制御機構が発動していることは間違いありません。その制御機能がCPG(central pattern
generator)というものですが(日本語訳はいろいろで、「脊髄歩行中枢」という名称はそのうちの一つです)、このCPG発見のきっかけは、脊髄を切断されたネコが脳からの入力なしに、脊髄の働きによって下肢の運動を行なったという実験結果でした。
そして、この脊髄主導の神経回路は腰仙部にあって、運動パターンを作り出すことが明らかになり、1985年にCPGと呼ばれるようになりました。
ヒトにもCPGの存在は予想されていましたが、ネコで行ったような実験をすることはできないため、確認することは難題となっていました。突破口となったのは、1998年に行われた脊髄損傷患者に対する腰髄への電気刺激の実験で、刺激の周波数を調整している時に、突然、麻痺した下肢が動き出すという事件が起こりました。
これにより、脊髄損傷患者を対象にした研究が行われ、筋電図も記録され、そこには電気刺激によって伸筋、屈筋が反応し膝関節の屈曲という運動が観察されました。そして、この研究によりヒトのCPGの存在が明らかとなりました。
なお、パーキンソン病治療ということでは、これからの分野ということだと思われます。
画像出展:「リハビリmemo」
2.パーキンソン病に伴う痛みの問題について
滝山先生のお話です。パーキンソン病患者さまの多くが筋肉や関節などの痛み、特に腰痛に悩まされているケースが多いという実態から、その原因などについて説明されていました。
・姿勢反射障害が原因の一つに考えられる。
・筋肉のこわばりのため、関節を動かす際に必要以上の筋肉などに高い負荷がかかる。特に無理な姿勢はその影響が腰部に出やすく腰痛になっていることが多い。
・ドパミン自体に疼痛抑制作用があり、ドパミンが減少することで疼痛抑制の働きが低下し、痛みが増幅される。
・姿勢の問題が脊柱の歪みとなって、それが痛みとなって発現する。
・整形外科の課題は、専門性が高くなっていること。一般的には、脊椎を専門とされている先生が中枢神経に関わる疾患に詳しいように思う。
3.患者さまのリハビリ事例
患者さまから、自らが実践されているリハビリの内容についての発表がありました。
・「自己流リハビリで活き活きと」(私が勝手につけたもの。発表者の様子を拝見して、このようなタイトルが思いつきました)
・行なっていること
・グランドゴルフ(動きの改善)
・カラオケ(嚥下障害を防ぐため)
・止めたこと
・太極拳(片足での動きは、自分にとって困難と判断されたため)
・発表を伺って気づいたこと
・自分自身の問題を前向きに、積極的に、真剣に考えられている。(けっして、他人任せにされていない)
・個人ではなく、複数のクラブ・サークルに入会されて、人とのかかわりを通じて楽しまれている。(あるテレビ番組で、「人とのつながり」を積極的に構築することは、認知症などの予防に非常に有益であるということが放送されていました)
・継続させることが重要。発表された患者さまは、グランドゴルフは毎日やっているとのことでした。
・自分に合わないこと、楽しくないことはやらない。という明確な意志と実行力をもたれている。
患者さまの「パーキンソン病なんかに負けないぞ!」という強い意志と覚悟が全身から満ちあふれていました。
市川先生より、特にダンスは良いとのお話がありました。
また、Wiiのゲームを利用したリハビリに関する論文が20種類ほど出ているとのことです。
ただし、「疲れるまで行うことは決して、してはいけない。」との注意がありました。
画像出展:「GATAG画像集」
※鍼灸師としての感想
・ドパミンへの影響については、動物実験の結果や、血液ドパミン値の改善データはあるものの、十分なエビデンスとは言い難く、現時点においてはまだ判断は難しいと思います。
・筋肉への影響については、こわばった筋肉を弛める効果は、経験から十分に期待できるものですが、効果の維持がどれ程あるかについては、個人差が大きいと思います。
・以前、受講した講演では、患者さまからの「鍼灸治療はどうですか?」という質問に対し、講演された先生(医師)は「試してみることは悪くないが、対価に見合う効果があるかどうかが重要でしょう。」とのご回答でした。
実験は全部で11件、ラットが10件、ヒトは1件です。ラットの測定は全て脳ですが、ヒト測定は血液(血中)になります。
12月17日(土)埼玉県川越市のウエスタ川越で、順天堂大学浦安病院 林明人先生による講演会「パーキンソン病のマネジメントと最新リハビリテーション」に出席してきました。
副題は「自宅でできるリハビリ」となっています。林先生は音楽療法を推進されており、「パーキンソン病に効く音楽療法CDブック」の著者であります。
この本の前のものになりますが、「パーキンソン病に効くCDブック」を拝読しようと思っています。
お話のポイント
・リハビリと薬物治療は両輪である。
・薬物治療は病気が明らかになった時点で、主治医とよく話をして早期に開始することが望ましい。また、長期戦略を考慮した薬の工夫が大切である。
・リハビリは廃用を回避できる。
・リハビリは個々の状況を反映したリハビリプログラムにする。そして、QOL(Quality of life: 生活の質)を向上させる。
・頑固な「首下がり現象」、「腰曲がり」、「斜め徴候」がある場合、リハビリを行いやすくするために、局所麻酔のリドカイン注射を活用するという方法がある。
・「ブラッシュアップ入院」(リンク先ほぼ中央の「入院診療」の中に説明がでています)いう入院によるリハビリ習得のプログラムを利用する方法がある。
・リハビリでは運動が重要で、太極拳やダンスなども有効である。
・リハビリは本人のモチベーションが非常に大事である。
・リハビリには、「音(聴覚)」、「光(視覚)」、「運動(体性感覚)」などの外部刺激を用いる方法がある。
パーキンソン病におけるリハビリ
パーキンソン病は2011年、薬物療法との併用で運動症状の改善効果および臨床的有用性が認められました。「パーキンソン病治療ガイドライン2011」に表記されているリハビリはグレードA、B、Cに分類されています。
・グレードA:行うよう強く勧められる
・運動療法が身体機能、健康関連QOL、筋力、バランス、歩行速度の改善に有効である
・外部刺激、特に聴覚刺激による歩行訓練で歩行は改善する
・グレードB:行うよう勧められる
・運動療法により転倒の頻度が減少する
・グレードC:行うことを考慮してもいいが、十分な科学的根拠がない
・音楽療法も試みるとよい
パーキンソン病の病態の確認
1.下右図:線条体の働きを調節している黒質の変性が起こり、ドパミンが減少すると、線条体は淡蒼球内節を抑制できなくなり、そのため必要以上に運動にブレーキをかけてしまいます。
画像出展:「病気がみえる 〈vol.7〉 脳・神経」(医療情報科学研究所)
補足:黒質は中脳に存在していますが、発生学的・生理学的に大脳基底核の一部として捉えられています。
2.下右図:大脳皮質から大脳基底核への入力部は線条体で、大脳基底核からの出力部は淡蒼球内・黒質網様部です。正常では、大脳基底核内の直接路と間接路のバランスによって、大脳皮質が適切に制御されていますが、パーキンソン病ではこのバランスがくずれ運動が過剰に抑制されることになります。
画像出展:「病気がみえる 〈vol.7〉 脳・神経」(医療情報科学研究所)
外部刺激によるリハビリ
・パーキンソン病では大脳基底核の機能不全に伴い、内発性随意運動(基底核-補足運動野を通る)が障害されますが、視覚や聴覚、体性感覚などの外部刺激に誘発される外発性随意運動(小脳-運動前野を通る)は大脳基底核ではなく視床核(外側膝状体、内側膝状体、後腹側核など)が関与するためパーキンソン病の影響を受けません。そして、外部刺激へのアプローチがリハビリになるということです。
ここで、私は疑問にぶつかりました。それは、外部刺激によって脳内で何が起こり、そして何が変わるのかという点です。
ドパミンが補われるのか、あるいは不足しているドパミンを支援するような神経伝達物質が登場するのか、ドパミン自体が活性化して通常以上の働きをするのか、または全く別の仕掛けが発動されるのか等々で頭が停滞してしまいました。
そこで、夜な夜なネットを検索し、色々なサイトや資料にアクセスする中で、「こういうことなのかな?」という所にはたどり着きました。以下はその内容になりますが、話が飛躍している恐れがあります。ご注意ください。そしてご容赦ください。
ドパミン作動性ニューロン(ドパミン神経核)
A8細胞群〜A15細胞群の8つの集団に分類され、中脳と視床下部に存在しています。この中からパーキンソン病を考えるうえで関連性の高い細胞群について検討します。
・A9細胞群:黒質緻密部から線条体に投射されます。パーキンソン病はこの黒質-線条体系が障害すことにより起きます。
・A10細胞群:中脳の腹側被蓋野から側坐核、前頭眼窩野、前帯状回、扁桃体、海馬、前頭前野へ投射されます。
下方にPDF資料を添付しています。これは、早稲田大学高等研究所紀要 第2号、「行動・学習・疾患の神経基盤とドパミンの役割」と題するもので、研究所の枝川義邦先生と渡邉丈夫先生が書かれました。この中で、『リハビリは「報酬の獲得を伴わない目標志向行動」と定義され、「明確な目標がない行動」に比べ、線条体、 前頭眼窩野、島皮質、前頭前野、前帯状回の活動を引き起こすことが判明した。』とのことを発表されています。
従いまして、目標をもったリハビリを行うことはドパミン作動性ニューロンを活性化する働きがあるものと考えられます。
・A11細胞群:間脳後部から視床下部、脊髄側角に投射されます。
・A13細胞群、A14細胞群:不確帯は視床下部に投射されます。
体性感覚、聴覚、視覚に対する運動療法や音楽療法などの外部刺激を受け入れ、一方で高い目標に向かってリハビリに励む時、A10・A11・A13・A14の各ドパミン作動性ニューロンは活性化され、随意運動に働くブレーキの強さが軽減されて、動きがスムーズになるのではないかと思います。
図は脊髄から間脳(視床+視床下部)を横から見たもので、緑色がドパミン神経核であり、中脳と間脳に存在しているのが分かります。
画像出展:管理薬剤師.com
視床の核群です。体性感覚の中継核は外側にある「VPM(後内側腹側核)」と「VPL(後外側腹側核)」です。先端に突き出た「MG(内側膝状体)」は聴覚の中継核で、「LG(外側膝状体)」は視覚の中継核になります。
画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報)
画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報)
まとめ
1.運動療法、音楽療法などの外部刺激(体性感覚、視覚、聴覚)によるリハビリでは大脳基底核ではなく、視床核が関与します。
2.視床核にはドパミン作動性ニューロン(ドパミン神経核)の細胞群があり、ドパミンを視床下部に投射する細胞群があります。
3.中脳の腹側被蓋野にもドパミン作動性ニューロン(ドパミン神経核)の細胞群があり、動機づけや報酬系として機能します。
4.上記3点から、常に目標をもって、楽しく、さらに音楽等の五感に働きかける刺激を加えた運動療法は、優れたリハビリのプログラムです。
付記1
「やさしいパーキンソン病の自己管理 改訂版」(医薬ジャーナル)2012年5月(村田美穂先生)の中から、推奨される有酸素運動と状態ごとの運動メニュー例をご紹介させて頂きます。
付記2
水嶋クリニック 水嶋丈雄先生の「パーキンソン病に対する薬物治療と鍼灸治療併用療法についての治療成績」をご紹介させて頂きます。
なお、最後のページの「考察」のところに、ドパミンと鍼灸との関係性について、以下のように説明されています。
『我々の研究ではパーキンソン病の患者群で随時血清ドパミンを調査してみると、ただし脳内ドパミンではないので参考値であるが、薬物治療を行っていない症例で鍼灸治療のみ行った4症例(平均年齢52.4歳)について治療前5pg/mL以下であった血清ドパミン値が鍼灸治療後3か月後に8.4±1.4pg/mLに上昇していた。これらは鍼灸治療の脳内神経保護作用を推察させる。』
10月23日(日)埼玉県腎臓病患者友の会(NPO埼腎友)主催の講座に参加してきました。大変勉強になりましたのでブログにアップしたいと思います。
タイトルは、NPO埼腎友主催 第10回市民講座 透析にならないためのポイント ~慢性腎臓病(CKD)の予防と治療~ 講師は木全直樹先生です。
一般社団法人日本腎臓学会のホームページから、「CKD治療ガイドライン2012」をダウンロードすることができます。下記の写真をクリックするとページに移動します。
次に重要と思った点を列挙します。
1.慢性腎臓病(CKD)は他の臓器に悪い影響を及ぼす
腎臓は体の中の老廃物を尿として作り出す臓器です。従って腎臓の機能が働かなくなると、尿として排泄されるはずだった老廃物や水分が体の中に溜まるため健康を害す可能性が高まります。
2.慢性腎臓病(CKD)の定義
腎の働きが60%未満に低下した状態。CKDの1~5のstageではstage3に相当します。
本来、腎の働きを測定するためには、腎臓の糸球体から速やかに排泄される特徴をもつクレアチニンやイヌリンという物質を使って、排泄されずに残る量により濾過機能の性能を評価します。本来の検査には24時間の尿を溜める必要があります。このため、時間と手間の問題を解決する簡便な方法として開発されたのが、eGFR(推算糸球体濾過値)というものです。これは、血清クレアチニン値、年齢、性別から数値を計算します。
なお、クレアチニンは筋肉で作られる老廃物のため、筋肉が多い人は高めに、筋肉が少ない人は低めに出る傾向があり、クレアチニン値だけでCKDの診断を下すことは適切ではありません。また、クレアチニン値は年齢を考慮する必要があります。特に数値は2.0を過ぎると急激に悪化するという傾向があるため、2.0を超えたら十分な注意が必要です。
講座の最後に、先生が「CKDは患者さんの危機意識こそが最も重要な治療といえるかもしれない。」とお話されていたことが印象的でした。
3.透析導入
GFR15、stage5が透析導入の目安になっています。患者数は約32万人(2014年末)、予備群は国民
成人の約8人に1人ですが75歳以上に限定すると、その数は半分が予備軍とみられています。
4.慢性腎臓病(CKD)になりやすい体質
①糖尿病性腎症
一般的には糖尿病発症後から10~15年で発症するといわれています。
多くの場合、高血圧→網膜症→腎症という経過をたどります。2011年の日本透析医学会統計調査に
よると、糖尿病性腎症が原因の透析患者数は全体の44.3%を占めています。
なお、糖尿病を抱えることになると、食事療法、運動療法が腎臓病とは大きく異なるため、非常に
難しいものとなります。
②虚血性心疾患・心不全
「心・腎連関」という考え方があります。これは慢性腎臓病と慢性心不全と貧血の3つの病態は相
互に悪化させる悪循環を作ってしまうというものです。心不全により心臓のポンプ機能が低下すれ
ば血液循環の問題を発生させます。
下の図では、血液を運ぶゴミ回収車に問題が発生することになりますので、尿を作る工場である腎
臓も影響を受けることになります。
一方、腎臓自身が機能するためには臓器として健康でなければならず、それには血液によって運ば
れるる酸素と栄養素が必須となります。貧血はその供給面で問題を発生させるということになりま
す。いわゆる、「兵糧攻め」にあっているようなものです。
画像出展:「よくわかる生理学の基本としくみ」
5.75歳以上の注意点
75歳以上の方の食事制限に関し、現在はタンパク制限を勧めていないとのことです。これはタンパ
ク制限により、食事全体も落ちてしまう危険があるためです。
6.自分の腎臓は自分で守る
テキストでは最後のページになる項目です。ここでは10項目をテキストより引用させて頂きます。
①自身の腎機能(eGFR)を知る
②血圧、体重を測定・記録する…適正な体重の維持
③血圧高値とならないように注意する
④貧血、腎機能データが大丈夫か確認
⑤不必要な食事(タンパク等)を取らない
⑥こまめに水分補給…口渇中枢の感受性低下を自覚
⑦鎮痛薬を勧められたら、大丈夫か確認(ロキソニンなどの非ステロイド系鎮痛薬)
⑧造影検査を進められたら、大丈夫か確認
⑨大きな手術を勧められたら、大丈夫か確認
⑩腎排泄型薬剤、利尿剤を処方されたら、確認
(⑥~⑨の「大丈夫か確認」とは、いずれも腎臓への負担が大きいので確認するという意味です)
以上が受講した講座の概要になりますが、食事制限を考えるうえで考慮すべき、タンパク質と糖分について補足させて頂きます。
タンパク質は代謝によって血中に窒素化合物ができます。腎臓はそれを排泄するために一生懸命働きます。これが腎臓に負担がかかる理由です。ただし、腎臓を含め体のあらゆる器官はタンパク質で作られていますので、タンパク質が必要量に満たないと健康を害するということになります。従って、タンパク質は過剰に摂取しないということが大切です。
一方、糖分は腎臓に負担をかけるような代謝産物は作りませんので、特に腎臓に負担をかけるということはありません。しかし、高血糖→糖尿病→糖尿病性腎症という危険な流れを生み出す可能性があるため取り過ぎには注意が必要です。
最後に鍼灸治療について触れると、本治法は免疫力を高めることに主眼をおき、脈診、腹診により最適なツボを選択します。また、慢性腎臓病(CKD)は厳しい食事制限が求められるため、過度なストレスにより自律神経が乱れやすくなっています。そのため、標治法では頚肩部、特に脊柱に沿って現れる線状の硬結を改善し、全身調整穴により自律神経の乱れを防ぎます。これにより、本来の自然治癒力をととのえ、貧血や高血圧にも備えます。