アルヴァロ・パスカル・レオーネ先生は2017年10月にアップした“うつ病治療(TMS)”に登場していました。そのパスカル・レオーネ先生は、自称“狂”の字がつくほどのサッカー・プレイヤーとのことです。
著者:サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレクスリー
出版:インターシフト
発行:2009年4月
今回のテーマはイメージトレーニングに関するものですが、イメージトレーニングは40年以上前からありました。筑波大学の大学院に進学された先輩からの依頼で、下級生だけだったように記憶していますが、多くのサッカー部員がデータ収集のために協力し、指示された方法で置かれたボールを蹴る(プレースキック)という行為を繰り返し行ったということがありました。
当時、積極的に取り入れることのなかったイメージトレーニングですが、今回の本を読んで非常に有効なものであることが分かり、少し後悔するとともにブログにアップしたいという気持ちになりました。
熟練の技と脳
『アルヴァロ・パスカル・レオーネはハーバード大学医学部神経学教授で、ボストンにあるハーバード大学の教育病院、ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの非侵襲的脳刺激センター所長の任もある。スペインはバレンシア生まれで、母国ドイツとアメリカで教育を受けた後、1997年にハーバード大学の教授陣に加わった。強力な電磁石を使って脳を調べることが目的だった。
彼が使用している検査技法は経頭蓋磁気刺激法、略してTMSという。一端に数字の8の字形のコイルが付いた重いスキャナを、彼は巧みに操作する。このスキャナをボランティアの頭皮にあてると磁場が生じて、それが皮質自体の2、3センチ下に微弱な電流を発生させる。脳を遠隔操作で探り、スキャンできる魔法の電極のようなものだ。ワイルダー・ペンフィールドがこれをみたら、どれほどうらやましがることか。
TMS磁石を使って、たとえばボランティアの一次運動マップにある足首の領域を刺激したら、どうなると思う? 高出力では、ちょうどペンフィールドが彼の患者たちについて報告したように、足首に単収縮を誘発する。低出力では単収縮はみられないこともあるが、それでも影響は及ぼす。出力を下げても、ホムンクルスは、TMSコイルが“ピッ”と刺激を出すたびに、足首の筋肉に信号を送り続けているからだ。この信号は完全な単収縮を誘発する閾値には届かないのだが、筋肉はほんのわずかに緊張して反応を示す。この緊張を、皮膚にテープで留めた電極で測定するわけだ。パスカル・レオーネはこうしてボランティアたちの一次運動マップ周辺を調べて、ホムンクルスの足首の領域、肘の領域、首の領域など、ありとあらゆる領域を見つけ出しているのである。
ワイルダー・ペンフィールドが作った“ホムンクルス”
画像出展:「脳の中の身体地図」
パスカル・レオーネがとりわけ関心を抱いているのは、TMSを使って、脳が新しいスキルを学習したときの一次運動マップの変化を調べることだ。「何をしても、何かを考えただけでも脳は変化する」と彼は言う。新しいことを学習するたび、つまり、脳が長期間記憶する価値のある経験だと判断するたびに、細胞間に新たな接続が出現し、既存の接続が強化される。このプロセスを可塑性という。
自称“狂”の字がつくほどのサッカー・プレイヤーで、“熱心”なテニス・プレイヤーでもあるパスカル・レオーネは、身体的練習による脳の変化を調べることにした。具体的に言うなら、スポーツや楽器のスキルが向上すると、運動マップに何が起きるのだろう?
1994年、彼はそれを突き止めるための実験に乗り出した。ボランティアのスクリーニングを行って、楽器を演奏したこともなければ、タッチタイプを習得してもいない、右利きのボランティアだけを被検者として採用した。このスクリーニングを経てアメリカ国立衛生研究所の運動制御研究部門を訪れた被験者を対象に、パスカル・レオーネは連続五日間の実験を実施したのである。被験者には、コンピュータに接続されたピアノの鍵盤で五指のエクササイズを行うように指示した。こんな具合だ。親指、人差し指、中指、薬指、小指、薬指、中指、人差し指、親指、人差し指……繰り返し。ひとつひとつのキーを押す間隔と長さが一定になるように特に注意しながら、この指の運動を滑らかに、しかも、ミスタッチなくできるようにしろというわけである。それも、メトロノームが刻むリズムに合わせてかなり速いテンポで弾くことを要求した。
トレーニング開始前に、彼はTMSを使って、被験者の左半球(右手を統御する)にある指のマップの大きさを測定した。それから毎日、二時間ずつ練習させて、五指のエクササイズを20回、間違わずに繰り返せるか試験した。被検者たちはみな、日を追って上達していった。
皮質の指のマップを毎日測定し直したところ、驚くなかれ、一本一本の指の筋肉群のマップが著しく増大していた。身体的練習はピアノの演奏という新しいスキルの習得にかかわる脳のマップを、間違いなく拡大させたのだ。こうした可塑的再マッピングは、ギターの演奏であれ、ゴルフやテニス、野球、ダンスであれ、新しいフィジカル・スキルを学習したり向上させたりするときに必ず起こるものである。
ここまでが実験の第一段階。翌週は、被験者を二群に分けた。一群には毎日の練習をさらに四週間続けさせたが、もう一群はここで練習終了とした。すると、練習を中止した群では、指のマップが一週間で練習前の大きさに戻ってしまった。しかも、練習を続けた群でも、演奏は上達し続けている一方で、マップが小さくなった。なんとも奇妙な要領を得ない結果ではないか。マップは練習しないと収縮する。しかし、練習しても収縮するのだ。これをどう解釈したらよいのだろう?
パスカル・レオーネによると、どんなスキルにかかわるマップ―筋肉に動作の指令を送るマップ―も、身体的練習によって再編成される。練習を始めたばかりの初期の段階では、まだ初心者なので、能力を最大限まで高められる接続パターンを探して強化しようと、神経の再配線が活発に行われる。そのせいで、指のマップが拡大するのだ。そこで練習をやめると、指のマップは適応する気をなくして、元の大きさに戻ってしまう。ところが、長い期間、練習を続けると、マップが長期的な構造変化の新たな段階に入る。すると、早い段階で形成した神経接続は不要になる。それで整理統合が起きるのだ。マップの基本回路にスキルがうまく組み込まれて、プロセス全体の効率がアップし、自動化が進むのである。
こうしたことすべてに、もう一段上のレベルがある。そこまで行けば、真の熟練の技、名人芸だ。複雑な運動スキルを、絶えず完璧を求めつつ、長年にわたって来る日も来る日も練習していると、運動マップが再び拡大し始める。たとえば、ゲイリー・グラフマンのようなプロのピアニストは紛れもなく、手と指のマップが拡大している。彼のマップが平均より大きいのは、研ぎ澄まされた神経配線がぎっしり詰まっているからだ。それが彼の十指すべてのタイミングと力と運指の精緻な(それも苦労して手に入れた)コントロールの源となっている。イツァーク・パールマンのようなバイオリニストも大きくなった手のマップを持っているはずだ。ただし、片手分だけ。彼の弦を押さえる手をコントロールする手のマップは、確かにピアニストのそれのようである。しかし、弓をもつホムンクルスの手は、少なくとも肉眼で見る限りは、音楽家ではない人々のそれと大差ない。そう、彼の弓を持つ手はもちろん器用だ。しかし、協調運動のレベルでは弦を押さえる手にはとうてい及ばず、マップも普通以上には増強されていないのである。
熟練の技に関しては、もうひとつ興味深い事実がある。複雑なスキルを徐々にマスターするにつれて、そのスキルに必要な“運動プログラム”が前頭皮質の高次領域から低次領域へ、皮質下の構造へと次第に降りてくるのである。社交ダンス教室に入門したての男性を想像してみよう。初心者の例に漏れず、彼も初めは下手くそだ。レッスンを始めてから最初の数回は、ダンスに関連した運動の組み合わせを、補足運動野などの高次運動野で処理している。この補足運動野はあらゆる複雑きわまりない。絶えず神経を張り詰めていなければならないのだが、それでも何がなんだかわからなくなってしまうことが多い。
しかし、音を上げずに数か月がんばっていると、動きがずいぶんと滑らかになってくる。この頃になると、ダンスを踊るのに補足運動野はあまり使わなくなっている。今では、彼が使っている運動指令のシーケンス(組み合わせ)の多くが、皮質の階層を下って、主に運動前野に降りてきている。彼は優秀なダンサーになりつつあるのだ。フレッド・アステアとはいかないものの、ダンスの基本にばかり気をとられずに済むようになった。失敗もずっと減った。運動シーケンスをいくらでも即興で延長できるようにもなった。
何か月も、さらには何年も頻繁に練習を重ねるうちに、ついには、運動前野がダンス関連の数々のシーケンスを一次運動野に委ねるときがくる。今なら掛け値なしに上手なダンサーと言える。ダンスが彼の基本運動マップの運動プリミティブ(訳注:最小の運動基礎単位である原始的な運動パターン)と密接に結びついたからだ。ダンスが本当に、彼という存在の一部になったわけである。』
運動イメージ法だけがマップを変える
『ウィークエンド・アスリートであるパスカル・レオーネは、メンタル・プラクティスとスポーツの関係に興味心身だったそうだ。「スポーツ観戦が好きな人なら誰でも、アスリートたちがさあこれからというときに、メンタル・リハーサルをしているらしい様子を目にする機会があるはず」と彼は言う。「バスケでフリー・スローを決めようとしているときや、スキーの回転競技で今しもスロープに飛び出そうと身構えているときがそれ。行けるぞという気になるまで、心の準備をしている」のだそうだ。
大勢の有名音楽家たちも同じことをする。ウラディミール・ホロヴィッツはコンサート前に、運動スキルが損なわれないよう、メンタル・プラクティスを行った。愛用のスタインウェイ以外のピアノからのフィードバックが、彼にとっては苛立ちの元だったからだ。遊び人で大の練習嫌いだったアルトゥール・ルービンシュタインは、ピアノの前に座っている時間を最低限で済ませようと、メンタル・リハーサルを活用していた。七年を獄中で過ごしながら、毎日頭の中で練習を続けたあるバイオリニストは、出所したその夜に非の打ち所のない演奏をしてみせた。けがをしたバレリーナがスキルを維持するために、床に寝そべって、バレエのステップを指でさらうのは周知のとおりである。
そこで、パスカル・レオーネも、例の五指のエクササイズの実験を、ある特殊な形のメンタル・プラクティス、つまり運動イメージの内部形成と併用して、再度行うことにした。
イメージはさまざまな形をとるので、まずはそれを区別しておくことが大切だ。物体をイメージするのがどんなものかは、ご存知のとおりである。目を閉じて、カバを思い描いてみよう。次はベリー・ダンサー。これが視覚イメージだ。あなたは今、傍観者の立場にある。視覚イメージは視覚認知を司る脳領域を働かせて、目で見たことのあるものの画像的記憶を呼び覚ますのだ。
運動感覚記憶ともいう運動記憶は、運動をイメージするプロセスである。自分が黒板の字を消しているところ、名前を書いているところ、あるいは皿洗いをしているところを思い浮かべてみよう。今のあなたは行為者である。事実上、頭の中で運動を行っている。心の中の目ではなく、むしろ、心の中の身体を使っている。運動イメージは身体の曼荼羅の一部、たとえば運動計画や固有感覚にかかわるマップを使用する。心の中の行為をしているという感情を刺激するのである。
パスカル・レオーネの新しい被験者たちは、前の実験と同じ設定で、一日二時間、週五日を、五本の指でピアノのキーをたたいているところをイメージして過ごした。実際に演奏しているように、それぞれの指の運動を心の中で反復するように指示された。指を鍵盤の上で休めるのは構わないが、鍵盤から離すのは厳禁という条件も付いた。
その成果には驚かされた。一週間の運動イメージ練習で、身体的練習とほぼ同じレベルのボディ・マップ再編成に至ったからである。運動皮質にとっては、実際に行った運動もイメージした運動もほとんど変わりがなかったのだ。
この“ほとんど”というところがミソだ。運動のメンタル・リハーサルを行うと、実際には運動していないのに、運動を制御する脳領域が、ひとつを除いてすべて活性化される。ダーツを投げているところをイメージしても、身体は動かない。ピアノを弾いているところイメージしても、筋肉は静止している。つまり、運動イメージは、運動がリアルタイムで行われているかのように脳の運動機構が展開している、オフライン作業と言える。寝室に行くところをイメージするには、実際に寝室まで歩いていくほどの時間がかかる。重い箱を抱えていると想像すれば、その分、もっと時間がかかる。走っている自分をイメージすると、呼吸が速くなって脈拍も上がる。一日十分、小指の運動をイメージすれば、四週間後には、小指は最大五倍の強度を持つことになる。
スキルのレベルがどうあれ、コーチとアスリートなら、これを無視する手はない。さまざまなメンタル・プラクティスが有用であることに疑問の余地はないが、身体的練習と同じようにボディ・マップを変えられる方法は運動イメージ法ただひとつだ。視覚イメージ法(傍観者の観点からのイメージ)、リラクゼーション、催眠療法、アファメーション(訳注:潜在意識を利用したメンタル・トレーニングで、自分はこうありたいというイメージを既に実現しているものとして肯定することにより能力向上を図る方法)、祈りなどのメンタル・プラクティスはそれぞれにいろいろな形で役立ってくれるが、運動マップを変化させはしない。ストラウブのダーツの実験で、最も成績が向上したのは運動イメージを行った学生だったことをお忘れなく。』
まとめ
1.脳の細胞間に新たな接続を出現させたり、既存の接続を強化したりするには、脳が長期間記憶する価値のある経験だと判断することが必要である。(漠然と行うのではなく、目的と意志をもつことが大切)
2.運動イメージ法を目的と意志をもって継続していくと、運動マップの整理統合が進み、難しかった動作がスムーズな動作に変わる。これを追及し続けるとやがて“熟練の技”の域に達する。
3.視覚イメージ法、リラクゼーション、催眠療法など、さまざまなメンタル・プラクティスがあるが、身体的練習と同じようにボディ・マップを変えられる方法は運動イメージ法だけである。
戯言
もし、今、サッカー選手だったら、運動イメージ法を利用し、ディフェンダーを混乱させるような“熟練の技”を身につけたい。まず、いくつかのシュートパターン(ポジション、相手の位置、パスコース、キックの種類など)を絵と言葉でシートに起こし、空いた時間に運動イメージ法に取り組む。そして、グランドでのシュート練習やゲーム形式の練習の時に、最も近いシュートパターンを脳に語りかけ、リアルとバーチャルのハイブリッドで自分のプレーをレビューする(何が良くて、何が悪かったか)、そして、“継続は力なり”の原則を守り、運動イメージ法の質とリアルのプレーの精度を合わせ技で高めていく。
画像出展:「GAHAG」
年齢に関係なく筋力はアップするということは知っていましたが、高齢者の中には筋肉は少なくないのに、歩行する能力が著しく低下していたり、体を動かしたり重いものを持ったり、あるいはビンのふたを開けたりする力が、明らかに衰えているのを目にする機会は多いように感じていました。
今月届いた「月刊トレーニングジャーナル5月号(No.451)」の「走れるだけでいいのか-高齢者と筋力」と題する、帝京大学医療技術学部の川田茂雄先生の記事には、その疑問に対する答えがありました。
「月刊トレーニング・ジャーナル2017年5月号(通巻451号)」
ブックハウス・エイチディ
ダイナペニア
この記事の中に出てくる「ダイナペニア」について調べてみたところ、次のようなものでした。
2008年にダイナぺニア(dynapenia)という概念を提唱した、Brian C. ClarkとTodd M.
Maniniは2012年の論文で、高齢者の筋の老化は、筋肉量よりも骨格筋の力を産生する能力、もしくは神経活動の障害に大きく関与すると示唆しています。
つまり、高齢者の筋力の低下は筋肉量の低下だけでは説明できないこと、何歳からという分類は簡単ではないと思いますが、少なくとも、若者とは明らかに異なる体のメカニズムが高齢者には存在することが分かりました。
以下はこの記事に掲載されていた興味深いグラフです。
これは70歳~79歳の男女の体重、筋肉量、筋力を5年間追跡調査したものです。左の「体重減少群」は、筋力(破線)、筋肉量(実線)ともに減少していますが、筋力の減少(破線)の方がより大きく低下しています。一方、右の「体重増加群」では筋肉量(実線)は増加しているにもかかわらず、筋力(破線)は低下しています。これらは、まさに高齢者の筋力低下が筋肉量以外の要因が大きいということを示しています。
高齢者の筋力低下
米国65歳以上の男女の10~18%程度は10ポンド(約4.5kg)の荷物を持ち上げられないとの報告があります。
さらに、高齢者における筋力低下は筋肉量の低下では十分に説明できないこと、50歳以上では1年あたりの筋肉量低下の割合が0.5~1.0%であるのに比べ、筋力低下の割合はその3倍も速く生じることなどの報告もされています。
健康維持などのためにウォーキングやジョギングに取り組む高齢者は少なくありません。このような有酸素運動が、筋肉量や筋力の維持・向上にどの程度期待できるのかに対する報告も出ています。
この調査は平均年齢59歳の男性と同じく57歳の女性を5年間にわたって追跡調査したものです。男女ともに普段からよく運動はしており、男性は週に5日、女性は週に5.4日の頻度で行っています。週あたりの走行距離の平均では、男性が50.9km、女性は48.4kmです。5年間の追跡期間の間に筋肉量は変化しませんでしたが、膝伸展筋力(膝を伸ばす筋力)は1年間あたり約5%、膝屈筋(膝を曲げる筋力)は1年間あたり約3.6%低下していました。このように、これほどの距離を定期的に走っていても、加齢による筋力低下を防ぐことは、有酸素運動だけでは困難です。
このグラフは平均年齢90歳の高齢者を対象に8週間、高強度のレジスタンストレーニング(局所あるいは全身の筋群に負荷を与え、筋力・筋パワー・筋持久力といった骨格筋機能の向上に主眼をおくトレーニングの総称)を行った結果です。
左のグラフは膝伸展筋力と6m歩行タイムとの関係を示したもので、筋力と歩行能力は比例しています。この被験者はリハビリセンターに入居している高齢者ということもあり、初期の身体機能は極めて低い状態で、歩行能力では6m歩くのに平均で22.2秒かかっており、中には50秒近くかかっている者もいました。
トレーニングは個々の最大挙上重量80%の重さを負荷とし、膝伸展運動を8回・3セット、これを週3回の頻度で行いました。
右側のグラフはトレーニングの「介入前」と「介入後」の比較ですが、この結果から90歳という高齢であっても筋力はレジスタンストレーニングを行うことにより向上することが確認できます。
なお、被験者からの報告によれば、介入前は歩行の補助器具がなければ歩けなかった者が自力で歩行できるようになり、椅子から一人で立ち上がれなった者が立ち上がれるようになるなど、筋機能の面でも効果があったとのことです。
まとめ(高齢者の筋トレについて)
強い運動には、活性酸素が多く発生するという問題を伴いますが、自分の力で自由に歩ける、移動できるということは健康な日常生活をおくる上で非常に価値があることなので、高齢者のレジスタンストレーニングは専門家による指導の下、積極的に取り組むべきものであると感じました。
鍼灸治療の間隔は治療効果を “筋肉” だけに絞って考えれば、個人差はありますが中2、3日が理想的とされています。この2、3日とは、「筋肉が回復するのにかかる時間」ということは認識していたのですが、それ以上のことは把握できていませんでした。
先日、ネットで調べものをしていた際、偶然 “超回復” ということを知り、「これだ」と思いました。トレーニングと鍼治療は全く別のもののように思われますが、いずれも筋肉に細胞レベルの損傷を発生させるという点では共通性があり、”超回復” の考え方を当てはめることは問題ないと考えます。
もっと、詳しく知りたいと思い見つけたものが、「Tarzan 2014 No.657」の ”超回復” に関する特集でした。今回のブログはその記事の中から、特に気になった4つの事柄を書き出しています。
なお、Tarzanに掲載されている記事は、立命館大学スポーツ健康科学部 後藤一成先生によって監修されています。
「Tarzan 2014No.657」(マガジンハウス)
1.超回復とは
『超回復とは、カラダの機能が低下し、それが回復したときに、これまで以上の機能を発揮できるようになる状態を示す。筋肉が大きくなるというのは、そのなかのひとつにすぎない。トレーニングを行い、筋肉を疲弊させて機能を低下させる。そして、十分な休息と栄養を与えることで、肥大させる。
これが筋肉の超回復のひとつだ。他にもある。たとえば、持久系のトレーニングをすると少しずつ、速く、長く走れるようになることを我々は経験上知っている。これも超回復にほかならない。さらには、運動を行うと、一時的にカラダの免疫力が落ちることがわかっている。だが、こちらも休むことでこれまでより高い免疫力を得られる。これはヒト、いや動物が生きていくうえで獲得しないといけない能力だったのだろう。あるストレスに晒されたとき、今度はそのストレスにも耐えうるように肉体が変化していく。これらのことを総称して、超回復と呼ぶのである。』
2.筋力トレーニング後に筋肉で何が起こっているか
『筋力トレーニングを行った後に、筋肉では何が起こっているのだろう。実は、アミノ酸を取り込んでタンパク質の再合成を始めるのである。
と、その前に。タンパク質はカラダの中に入ると、その最小単位であるアミノ酸へと分解される。そして、必要に応じて各組織に送られ、再び合成されるのだ。髪、爪、筋肉など多くの組織の材料となる。筋肉で取り込まれたアミノ酸はもちろん、筋肉組織の設計図に沿った合成がなされる。そして、合成が終わる。
つまり超回復が終了するまでには24~48時間かかる。この間はずっとアミノ酸の取り込みが続くのだ。時間に幅があるのは、運動強度が大きければ修復に時間がかかるし、同じトレーニングを行っても、個人によって筋疲労の度合いが違うので、その差もある。とにかく、24~48時間で修復が完了するから、2日~3日の休養を取ってトレーニングを再開すれば、筋肉は途切れることなく、アミノ酸を取り込み続けて大きくなる。』
3.グリコーゲン・ローディング
『グリコーゲン・ローディングをご存じだろうか。トライアスロンやマラソンでは普通に行われているエネルギー獲得の方法である。
大会の1週間前あたりから炭水化物の摂取量を減らし、一度、体内の糖質を枯渇させる。そして、3日前ぐらいから多めの炭水化物を取ることで、肝臓や筋肉でのグリコーゲンの貯蔵量を増やすのである。つまり、エネルギーの貯蔵量の超回復を狙った方法である。これで貯蔵量が2倍になったケースもあるというから驚きである。ただ、これは短い期間でエネルギーの貯蔵量を変化させる方法。長期的にエネルギーの貯蔵量を超回復させていく方法はないのであろうか。
実はある。たとえば、ランニングの上級者になると、毎日走っている人もいるだろう。そんな人に試してみてほしいのが、毎日走ることをやめて、1日おきにするのである。といっても、練習量は落とすわけではない。これまで2日でやっていたことを1日で行うのである。1時間走っているなら、まず走って、その後2~3時間休養を入れた後に再び1時間走るのだ。この間に炭水化物は補給しない。その代わり翌日のトレーニングはなし。休養日とする。すると毎日トレーニングするよりも体内に蓄えられるグリコーゲンの量がグッと増えるのだ。エネルギーが増えれば、それだけ長く走り続けることができるようになるのである。
実験では、糖質の貯蔵量が増えるほかに、ミトコンドリアの量が増えることもわかっている。ミトコンドリアは酸素を使ってエネルギーを作り出す、いわば化学工場である。これが増えるということは、体内に無尽蔵ともいえるほどにある脂肪を上手に使い、エネルギーに変換しやすくなるということ。つまり、持久性の向上にほかならないのである。
こちらも、エネルギー獲得の超回復と呼べそうだ。痩身したい人にも、この方法はオススメできるかもしれない。ただし、低血糖になりすぎると倒れる可能性もあるので、自分のカラダの具合と相談してやりすぎないことが重要だ。』
グリコーゲン貯蔵量は増やせる 毎日トレーニングを行った群と、1日2回行って1日を休養に充てた群を比較。トレーニング回数では2群に差はない。結果は1日2回の群で筋グリコーゲン量の有意な増加が確認された。
4.マッスルメモリー
『筋力トレーニングを行って、超回復が起こり、逞しいカラダになった。ところが、とある事情があってトレーニングを中断しなくてはならなくなってしまう。
こんなとき、筋肉は正直というか、1年も経てばトレーニング前の状態に戻ってしまう。あら悲しや! ところが、である。これまで行ってきたトレーニングが無駄になってしまうかというと、そうではないのである。たとえば、筋力トレーニングをまったくやったことのない人が、カラダの変化を感じるまでには約3か月かかる。
だが、継続してトレーニングを続けてきた経験があれば、1か月ほどで、カラダは変化するし、数か月も経てば筋肉の量や筋力が戻ってくるのである。この現象をマッスルメモリーと呼ぶ。これも、筋肉の超回復のひとつであろう。ただ、どうしてこんなことが起こるのかはわかっていない。しかし、筋肉が大きくなるのは、神経系やホルモンなどの内分泌系などさまざまな要因が影響を及ぼす。それらが以前のトレーニング時と同じ働きをするのかもしれない。』
メタボや美容への関心から、「脂肪を筋肉に変えるような器械(例えばSIXPAD)」はダイエットに有効なのか?」というご質問を頂くことがあります。私の場合、ダイエットという事ではなかったのですが、左膝の手術後、大腿四頭筋の一つである内側広筋の筋力が右足に比べ細く、筋力を付けることが難しい状態になっています。たまにサッカーをすることを考えると、怪我の予防のためにも筋を太く、筋力アップさせたいという気持ちはありましたので、この機会に調べてみることにしました。
電気刺激によって筋肉を鍛える器械のことを、一般的にEMS(Electrical Muscle
Stimulation)、あるいは、EMS運動法と呼んでいます。これをキーワードにネットで調べたところ、2000年9月に発行された「何をやってもとれなかった体脂肪がとれる!! ~寝ながらできるEMS運動法~」という本を見つけました。
ネットショップで格安だったこともあり、迷わず購入しました。内容は筋肉が強く(太く)なる理由や、EMSのメカニズムなども説明されており、私が知りたい内容は十分に含まれていました。
今回のブログでは、EMS運動法は何に有効で、利用にあたりどんな事に注意する必要があるのか等についてご紹介したいと思います。
ご注意頂きたいのは、16年以上前の本のため内容は最新ではないという点です。
この本で紹介されている製品は、現在の製品機能とは違っていると思います。なお、ここで紹介されているのは、ツウィンバード社の製品です。
このブログに登場している画像は、「体脂肪がとれる‼」(健友館)からのものです。
EMS運動法とは
・外からの電流刺激で他動的に筋肉を動かし、脂肪を燃やし筋肉を強化する。
・医療機関での活用が最初。医療機関向けは大型で300万円以上していた。
・電流を流している筋肉に対してのみ、レジスタンストレーニング(筋の収縮と弛緩を繰り返す)がなされる。
歴史
・1960年代にヨーロッパで開発された手法
・1972年のミュンヘンオリンピックで、旧ソ連の選手が筋肉増強に効果を出して世界の注目を浴びた。
使い方 注)この本に出てくる器械はツウィンビート社のものです。
・対象の筋肉に対して、1日1回30分前後の電気を流すことが基本。
・10種類のプログラムの中から選択する。
脳からの命令に代わる電気信号
・歩いたり、走ったり、あるいは筋トレするといった意識的に運動させる命令は、大脳がコントロ
ールしていますが、その命令に電気信号はとって代わることができます。これにより、脳を他の
ことに使ったり、あるいは休ませている状態で、筋肉に負荷を掛けることにより、鍛えることが
できます。
脳を介さないので、使用に際しては十分な注意が必要です。
普通の運動とEMS運動法との違い
自発的運動の利点
・1つの運動でたくさんの筋肉を動かすことができる。
EMS運動の利点
・特定の筋肉を早く強く大きくすることができる(脂肪を早く取る)。
・脳が関与する必要がないので、本人の意志に関係なく筋肉を運動させることができる。
・脳卒中などで運動神経を動かす司令が出せない状態でも、電気を流すことによって骨格筋を動かすことができる。これにより筋肉の衰えを防ぐためのリハビリをすることができる。
EMS運動法の特徴
・EMS運動では自発運動による筋力の約1.5倍の運動を引き出すことができます。これは脳が筋肉を痛めることがないように力を制限させているからです。これは車の速度制限をしている「リミッター」を外した状態と同じです。
※下の右のグラフは電圧と筋力の関係を表しています。脳がコントロールする最大筋力は約30Vになりますが、EMS運動療法では軽くオーバーさせることができます。これは、いわゆる「火事場のバカ力」を自由に発揮させることができるということを意味しますので、すごい効果であると同時に筋肉を傷める恐れがあります。
EMS運動法の注意点(個人的な意見、感想です)
・筋肉を保護するリミッターがなく、かつ厳しいトレーニングに負けない強い意志もいらず、筋肉を収縮させ、鍛え続けられるということは、強い負荷を長い時間行うことは絶対にやってはいけません。
・例えば、傷害によって周りの筋肉に比べ劣っている筋肉に対し、EMS運動療法を使ってリハビリすることは有効であると思いますが、健康な状態、それなりに筋肉のバランスが取れている状況で、一部の筋肉だけを強くしたときに、良くも悪くも筋肉群のバランスは崩れることになるため、何か不都合なことが起きる可能性はあるかもしれません。
・EMS運動療法は特定の筋肉を強くするのが目的で、結果的に脂肪が減るということだと思います。また、筋肉は代謝を高める効果がありますが、脂肪より重たいという面もあるため、体重が顕著に減っていくというのは難しいように思います。
筋が強くなる(太くなる)メカニズム
・筋肉に強い負荷をかけると、筋肉線維は損傷を受け炎症を起こします。この損傷が回復する時に、成長ホルモンとタンパク質によって、より強い、より太い筋肉が作られます。筋肉の炎症は、ひどい場合は痛みとなって現れます。激しい運動をした翌日、筋肉痛を起こすのは、この炎症の激しさを表しています。翌日筋肉痛を起こすぐらいの運動強度が回復期により強い筋肉を作ります。
いずれにしても筋肉が強くなるのは、この回復期です。この回復期は、スポーツ選手を除いて、一般の人の場合、48時間(2日間)から72時間(3日間)といわれています。この48時間後あるいは72時間後の回復完了時に筋肉が強くなります。その回復完了時に間をあけずにすぐ次の運動をやることが大切です。つまり、2日に1度とか3日に1度という規則正しい運動が大切ということです。
・筋原線維のアクチンとミオシンというタンパク質は分解と合成を繰り返し、ほぼ一定数を保っていますが、年齢とともに合成能力より分解のスピードが早くなるため、筋原線維は徐々に細くなっていきます。これが老化現象です。タンパク質の合成を促進するものとして、成長ホルモンや男性ホルモンなどの成長因子も必要ですが、絶対条件ではありまん。絶対に必要なのは運動です。
・筋線維は増加することが明らかになりました。これは細胞分裂という方法ではなく、生まれながらの筋細胞のうち、予備的な役割を果たすために残っている細胞がトレーニングによって目を覚まし、1本の筋線維として成長していくという形をとりますが、この予備的筋線維も運動しなければ成長はしません。
禁忌事項
1.急性(疼痛性)疾患
2.悪性腫瘍組織のある人
3.心臓に障害のある人
4.妊産婦
5.生理時の腹部
6.熱の高い人(38℃以上の人)
7.伝染性疾患の人
8.適用部位の皮膚に損傷・炎症、その他の異常のある人
9.心電計の装着医用電子機器を使用している人(体に金属片を入れている人も不可)
10.知覚障害のある人
11.紫斑症の方や内出血しやすい人
12.骨粗鬆症が著しく進み骨折しやすい人
13.その他医師の治療を受けている人や特に体に異常を感じている人
上記の「禁忌」のうち3と9について、最新の器械についても変わっていないか、ツウィンバードと東レの2社に問い合わせてみましたが、両社の回答ともほぼ同じで、上記の内容通りでした。(実はこの2点がクリアできれば、試してみたいと思ったのですがあきらめました)
付記1:「レジスタンストレーニングは脂肪を減らすか?」
これは筋肉の第一人者である石井直方先生の著書「究極のトレーニング」の中に書かれているものです。EMS運動療法はレジスタンストレーニングそのものですので、この内容は当てはまります。
『季節の節目になると必ず、私のところには雑誌やテレビ番組の取材がやってきます。話は決まって「ダイエット」。春には「夏に向けて今年こそダイエット!」、秋には「冬太りしないためのダイエット!」などなど。それが毎年繰り返されるのですが、「ダイエット」という見出しがつけば必ず売れるという方程式があるのだそうです。
2~3年前、取材におとずれた3社すべてが、「レジスタンストレーニングが脂肪を落とすのに効果的なのはなぜか?」という質問を用意してきました。この質問に完璧に答えるのはむずかしいのですが、近年、これに関連した興味深い研究が急展開しています。
筋と安静時代謝
脂肪をエネルギー源として代謝するためには、有酸素性代謝系によって酸化しなくてはなりません。これには酸素が必要ですので、運動で脂肪を落とそうとすると、必然的にエアロビック運動がよいということになります。
一方、私たちは一日中トレーニングをしているわけではありませんので、普通に生活しているときになるべく多くの脂肪を代謝し、多くのエネルギーを消費することもまた重要になります。これには基礎代謝や安静時代謝を高める必要があります。これらの代謝は主に、体温を維持するための熱生産によるエネルギー消費です。
身体の中の主な熱源は肝臓と筋ですので、筋量が多く、かつ熱の発散のよい人は、安静時での代謝量が多く、脂肪がつきにくいことになります。実際、安静時代謝が平均で5~10%ほど上昇します。したがって、体脂肪を減らすにはレジスタンストレーニングも必要といえます。』
付記2:「脳卒中治療ガイドライン2015」
「脳卒中ガイドライン2015」の中でTENS(経皮的電気刺激:transcutaneous electrical nerve stimulation)に関しては、記述されていることを知りました。ということは、EMSについても何か書かれているのではないかと考え、図書館から借りて中身を確認してみました。
EMSはありませんでしたが、FES(機能的電気刺激:functional electrical Stimulation)は出ていました。このFESと「筋肉に対する電気刺激」という内容を含んだ箇所が以下になります。
歩行障害に対するリハビリテーション
・慢性期の脳卒中、下垂足がある患者に前脛骨筋へのFESを行うと歩行が改善する。
・急性期の患者でも通常の理学療法にFESを加えることで足背屈力や歩行の改善に効果があり自宅退院率が改善した。
上肢機能障害に対するリハビリテーション
・麻痺側手関節の自動伸展運動がみられる程度の中等度の麻痺例では、運動にトリガーされる電気刺激により、特に手関節伸展筋の筋力増強、上肢の運動障害の改善が見られる。
・随意運動介助型電気刺激と手関節装具を併用し1日8時間の日常生活での使用を促すことで長期、持続的に上肢機能障害が改善している。
痙縮に対するリハビリテーション
・随意運動介助型電気刺激と手関節装具を1日8時間装着し、3週間の麻痺肢の積極使用を促す治療
(HANDS療法)では上肢機能とともに臨床的にも電気生理学的にも上肢痙縮の改善を認めたと報告されている
・歩行パターンを模した30Hz、20~30mAでの下肢筋群の電気刺激は、下肢痙縮と歩行能力を改善する。
今回のブログは、「月刊トレーニングジャーナル 2017 3 No.449」の「スポーツ医科学トッピクス」から「ディトレーニングと脳」を取り上げました。
このトッピクスの筆者は、川田茂雄先生(帝京大学医療技術学部講師、早稲田大学スポーツ科学未来研究所招聘研究員)です。
「パフォーマンス向上を支えるスポーツ医科学専門誌」
まず、ディトレーニングは英語ではde-trainingとなり、その意味はトレーニングを中断することです。つまり、鍛えた心身は練習を休むことによりどんな影響を受けるのかということです。
全身持久力や耐糖能(食事によって上昇した血糖値を正常に戻す代謝能力)は、筋力よりも影響を受けやすく、高強度の持久的トレーニングを少なくとも3年以上行っている平均年齢21歳の若者に、トレーニングを7~10日間休ませると、全身持久力に低下がみられます。また、20日間の中断では最大酸素摂取量が28%低下するとの報告もあります。
近年では、骨格筋や心肺機能といった身体に関わるものだけでなく、トレーニングが脳に与える効果についても関心が高まっています。ではトレーニングの中断は脳にどのような影響を与えるのか、骨格筋や心肺機能と同じような傾向があるのかということが今回のテーマです。
海馬(中央水色)とその周辺部位は、脳内のあらゆる情報が集まる位置にあり、記憶の形成に重要な役割を果たしています。「海馬」とは、ローマ神話に出てくるヒポカンパス(馬の上半身に魚の尾がついた想像上の動物)に似ていることから、海馬と名づけられたそうです。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
ヒトでは持久的なフィットネスレベルと海馬の容積には、正の相関関係があることが知られています。例えば以下の図は59~81歳(平均年齢67歳)の男女の酸素摂取量と海馬の容積との関係を表したものです。この文献では、フィットネスレベルが高いほど、短期の記憶力もよいことが報告されています。
運動能力に関係する「酸素摂取量」と記憶を司る「海馬」の大きさ(体積)は比例しています。
文献:「Hippocampus 19:1030-1039,2009」
既に、運動が海馬の血流量を増やすということが知られています。そして、トレーニングの中断による影響を調査した結果が以下のグラフになります。
これは、少なくとも15年以上定期的に高強度な持久力トレーニングを行っている高齢者(平均年齢61歳)を対象に、強制的に10日間トレーニングを中断させ、海馬の血流量の変化を調査したものです。
「Pre」は10日間のトレーニング中断前、「Post」は中断後です。
上の図は左側の海馬、下は右側の海馬で、いずれの海馬も中断後の血流量(CBF:冠動脈血流量)が減少しています。
文献:「Frontiers Aging Neurosci 8:184,2016」
このように、海馬はトレーニングの中断により、血流量が有意に減少します。このデータで興味深いのは、運動中断による脳血流量の減少が脳全体に生じるわけではなく、局所で生じるということです。10日間のトレーニングの中断では記憶の減弱は生じませんでしたが、その短い期間内にも、脳では生理的な変化が生じていることになります。
運動中断による脳機能への影響に関してはまだまだ研究報告が少なく推測の域を出ませんが、骨格筋や心肺機能同様、運動によって獲得した脳機能の向上が、運動中断によって低下することは不自然なことではありません。
年齢やその人の健康状態に合った適切な運動は、骨格筋、心肺機能、脳のはたらきの維持にとって有効であり、運動の継続は健康維持にとって望ましいことであることは明らかです。
2月号の月刊トレーニングジャーナルの特集は「ウォーミングアップ」でした。寄稿されているのは以下の5つです。今回のブログでは、この5つの中から、「ケガの予防」「有効性」「汎用性」の3点に焦点を当て、共通した重要ポイントを洗い出すということをしてみました。
1.「身体と技術の両面から組み立てるウォーミングアップ」
加藤裕氏 AC長野パルセイロフィジカルコーチ、日体協AT]、CSCS、修士(スポーツ医学)
2.「セルフコンディションチェックの一環としてのウォーミングアップ」
山路達也氏 NSCA-CPT、長崎女子商業卓球部トレーニングコーチ
3.「伝統打破の勇気を要したウォーミングアップの改善とその効果」
秋吉奏穂氏 慶應義塾大学體育會ホッケー部女子マネージャ兼トレーナー
石橋秀幸氏 慶応義塾大学スポーツ医学研究センター、修士(健康マネジメント学)
4.「多様性を与えるウォーミングアップ」
尾野伊織氏 柔道整復師、ストレッチ&コンディションめんてなスタッフ
5.「動作スピードに着目した動的ウォーミングアップ」
千崎和真氏 大原学園選任教員、大阪府立大学大学院(博士前期課程在籍中)
月刊トレーニングジャーナル2月号です。
1.「身体と技術の両面から組み立てるウォーミングアップ」(サッカー)
・スポーツにおいてバランスを崩す局面の多くは片脚立位時であり、股関節外転筋が働くことによりバランスの崩れを抑えることができる。
・特に股関節は球関節で高い可動性を持つことに加え、股関節周囲の筋は片脚立位姿勢の安定性に寄与するだけでなく、その筋力低下は膝のストレス増大や腰椎の代償動作を引き起こすなど様々な外傷・障害につながる可能性があるため、可動性と安定性の両面からアプローチする必要がある。逆にこれらが破綻し、上肢・体幹・下肢の可動性、安定性、協調性に問題が生じると、不良なキック動作を呈し、グローペイン症候群と呼ばれる鼠径部周辺に自発痛が発生するサッカーの競技特異的な障害に至ると考えられている。
・シーズンを通して外傷・障害を予防して高いパフォーマンスを維持するために、計画的に筋力や可動性の向上、効率的な動作の習慣化などに取り組むことで、日々のウォーミングアップの時間を有効に活用している。
・ハムストリングスの肉離れは男子サッカーでは全外傷の13~17%を占める最も多い外傷である。予防には伸張性収縮を伴う筋力強化や膝関節と股関節を複合的に使うトレーニングが有効とされているが、選手の多くは練習や試合後にハムストリングスの疲労を訴えたり、日頃から張りを訴えることがあるため、単調な負荷量の漸増だけでなく、実施のタイミングも非常に重要である。
2.「セルフコンディションチェックの一環としてのウォーミングアップ」(卓球)
・ウォーミングアップの最後に5分間のフリータイムを設け、選手自身にどうするのが最もコンディションが整うかを考え実行してもらうようにした。たとえば5分間休憩するのもよいし、ストレッチをしても、走ってもよい。どうすれば最もコンディションが整うかを考えて実行する。フリータイムの間に選手が実施するのは、これまで行ってきたウォーミングアップやトレーニングの種目から選択したものである。また、自分で解決策がわからない場合には声をかけてもらいアドバイスしているが、まずは選手の自立を促すことが重要である。
・スポーツに共通するアスレティックポジションの獲得を重視している。腰、膝だけでなく殿筋群やハムストリングスのストレッチ、大腿四頭筋や腸腰筋、そして体幹を鍛える必要がある。
3.「伝統打破の勇気を要したウォーミングアップの改善とその効果」(グラウンドホッケー)
・ケガの調査では殿部と下肢が74%(37件)と最も多く、股関節10%、腰背部8%、その他8%だった。殿部・下肢の内訳は殿部と大腿後面が7件、大腿前面10件、膝20件であった。膝は靭帯損傷15%、半月板損傷10%だった。膝のケガはアクシデントによるものが多い。大腿部、下腿部、足部のケガでは、特に肉離れと疲労骨折は痛みを我慢してプレーを継続することで結果的に競技復帰を遅らせる原因になっていることが多く、これらを含めた大腿部、下腿部、足部のケガを予防することがケガの発生頻度を大きく減らせるのではないかと考えた。
・フィジカル部分に着目して、選手個々の運動の背景や個人の柔軟性、コンディショニングが異なる中で全員一律でルーティンで実施するウォーミングアップはケガのリスクになっている可能性がある。
・ウォーミングアップの順番は、動的な種目で筋肉を温めた後に、静的ストレッチにより筋肉を冷やすことになるのは適切ではない。
・選手自身がコンディションに応じて種目を選択するようにしたことにより、ウォーミングアップを行う目的(どの筋肉を伸ばしているのか等)を考えるようになった。
・天候や気温によってウォーミングアップを日替わりにした。
・選手の意識を変えたことにより、約40%のケガによるテーピングが10%に減った。その10%も予期せぬケガが原因であり、慢性的なケガによるテーピングはほとんどなくなった。
・選手各自が自発的にコンディションチェックを行うことで、自分の身体に起こっている異常に敏感になり、ケガに対するリスク管理が高まった。
・ウォーミングアップ以外、シューズ、服装、食事、サプリメント、リフレッシュ方法なども考えるようになった。
4.「多様性を与えるウォーミングアップ」(野球)
・股関節はバッティングや走動作の際に十分な動きが必要である。バッティングも走動作も力を発揮して重心を移動させることであり、発揮した力によって足底から得られた地面反力を、スムーズな股関節の動きにより上半身へと無駄なく伝えることで力強いパワー発揮を可能にする。このような理由からヒップローテーションや股割りでのスライド、四股、フロッグストレッチなどを行っている。順番としては、その場で実施するものから、移動しながら実施するものへと移行し、漸増的に全身を連動させて動かしていけるように配慮している。
・ルーティーンで実施しているのは基本的にはダイナミックストレッチのみである。ルーティーン動作では、これまでの自身の動きや身体の状態と照らし合わせて、その日の調子を感覚的に捉えるとともに、試合に向けての心身の状態を整える。
・ムーブメントドリルやアジリティドリルでは、ルーティンの中にイレギュラーなルーティーン外の動作を取り入れて、いつもとは違う動作を経験させ、多様な動作に対応できる下地をつくろうと考えている。
・野球のケガには、投球の肩や肘の痛みやコンタクトによるものもあるが、それ以外にも想像していなかった動きに身体がついていけず発生するものもある。たとえばフライを追いかけていて味方と接触しそうになったのを避けたときや、強いライナー性の打球が内野手に捕られたのを見て、走者が慌てて塁に戻ろうとするときなどである。
・競技とは離れた動き、子どもが遊びの中で行うような簡単な動きを多く取り入れている。これは野球にとらわれない基礎的な身体操作能力を向上させる目的が強くある。
・目的の動作が60~70%獲得できたら新しい動作に変更していく。その場ではあえて動作を完成させないことで、その選手に伸びしろを与える。その後その選手が完成されていない動きに対して自分なりの解釈を加え、検証し、練習し、よりよいものへと変化させていく。このようにすることで選手に、自ら考えて練習する習慣をつけられる。
5.「動作スピードに着目した動的ウォーミングアップ」(バスケットボール)
・1990年代後半からパフォーマンスとストレッチングについての研究が深まるにつれ、静的ストレッチチングの実施がパフォーマンス低下を引き起こすという研究結果が多数出てきた。この理由は、筋温とパフォーマンスに関係があり、静的ストレッチチングでは筋温はあまり上がらないためパフォーマンスを発揮しづらいのではないかというものであった。2000年頃になると、筋温を高めてパフォーマンス発揮に適しているのは、動的ストレッチングだとする研究が多数出てきた。現在は30秒未満の静的ストレッチングはパフォーマンスを低下させないという見解も出ているが、主流は動的ストレッチングといえる。
・動的ストレッチングを速く行った方が、ゆっくり行うよりも、その後に行うジャンプパフォーマンスが高く、その差は統計学的に有意であったというものがある。さらにこの研究で着目すべき点は、両者ともに同程度の筋温の上昇が見られたとのことである。つまり、筋温がパフォーマンスの向上につながるのではなく、それ以外の要素(おそらく神経系の何らかの要素)がパフォーマンスの向上につながるのではないかと推測されている。筆者は「動作の速度」に注目すべきと考えている。
まとめ
・ウォーミングアップの内容
・ルーティンで行われているウォーミングアップには、チーム全体の意識を高める目的と選手個々の集中力および体のコンディションを整える目的があるが、後者に関しては本当に効果が得られているか検証した方がよい。
・ウォーミングアップの大きな目的の一つに体を温めるということがある。時に温めた体をそれに続く静的ストレッチングにより、体を冷やしてしまっていることがある。特に気候、天候を考慮しウォーミングアップの順番を考える。
・ケガの原因の多くは、オーバーユース(使いすぎ)とアクシデントに分けられると思うが、アクシデントの中には予期しない、突発的なことから起こる場合もある。これについては競技にはあまり出てこないようなイレギュラーな動作、たとえば子供が遊びの中で行う動作等を組みいれる。
・選手の意識
・選手自身がウォーミングアップの必要性を理解し、自分にとってコンディションを整える最良な方法を考え、そして最適なものにしていくための工夫を継続する。
・ケガに対する正しい認識や筋肉などの基本知識を学び、ウォーミングアップに限らず、食事、睡眠、道具、リフレッシュ法など、自分のコンディション維持、改善のための意識を高め工夫する。
・筋・腱・靭帯・関節
・股関節は片脚立位姿勢の安定性に寄与し、筋力低下は膝や腰に影響を及ぼすため、可動性と安定性の両面からアプローチする。例えば、ヒップローテーションや股割りでのスライド、四股、フロッグストレッチなどが有効である。
・チーム側の管理
・個々の選手を尊重し、任せるという部分を取り入れる。
・肉離れや疲労骨折など初期段階では無理が利く傷害は、パフォーマンス低下だけでなく選手寿命にも関る問題であり、「体作りとコンディショニング」という課題に対し、最終的にはチーム方針として徹底することが望ましい。
12月9日のブログ「乳酸と疲労」の中で疲労の原因は複数あり、活性酸素もその1つであるということを知りました。今回は、その理由と活性酸素はどのようなものかについてまとめたいと思います。
ヒトは呼吸で得た酸素を使って、食物を燃やしエネルギーを作ります。そしてその時に活性酸素は作られます。激しい運動は多くのエネルギーを必要とするため、大量の活性酸素を生みだします。そしてその結果、細胞を酸化させます。鉄でいえば錆びることです。
この細胞の酸化がダメージとなり疲労として現れるわけですが、直接的な原因は活性酸素が細胞を酸化させる時、疲労因子の「ファティーグ・ファクター(FF:Fatigue
Factor)」というタンパク質の一種が発生し、脳へ「疲れた」という信号を送ると共に、筋肉や細胞の働きが低下して、実際の疲労が起きるという仕組みです。
これは、風邪をひくと体がだるくなり、時に発熱して心身を休めるためのサインが発せられますが、今回の、疲労因子FFが起こしている仕組みも、体を強制的に休ませるための指令であり、本質的には同じもののように思います。
疲労因子FFが疲労の原因であることは理解できましたが、やはり、その大元になる活性酸素がどのようなものか理解する必要があることを再認識しました。
今回、勉強させて頂いたのは「活性酸素の話」という本ですが、初版が1996年と古いためネット検索で調べた内容もかなり含まれています。
度々お世話になっている、講談社さまのBLUE BACKSシリーズです。
連敗と疲労の関係を考える
話は横道にそれますが、活性酸素の話は長くなるので、疲労因子FFが出たところで、疲労と連敗について少し触れさせて頂きます。(いつも「何で連敗は止まらないんだ?」と思っているためです)
サッカーに限った話ではないと思いますが、下位に低迷するチームが最後のロスタイムで失点し、勝利を逃してその悪い流れから抜けられないという状況を目にすることが度々あります。
これに関し、「結局、蓄積する疲れなのでは?」と考えたことがあったのですが、今回のブログを参考にすれば、「連敗→降格」という精神的ストレスが原因で活性酸素が活発に作られ、それに伴い、本来必要のない分の疲労因子FFが放出されることにより、自分自身が感じている以上に心身の疲れが蓄積しているのではないかと思います。そして、体のきれや、試合終盤の5分、10分の集中力が落ちて、失点シーンにつながっているのではないでしょうか。
スポーツの世界でよく使われる、「ひらきなおる」という行為は、精神的ストレスを緩和することで、疲労因子FFの発生量を減らすことができます。
また、ややもすると連敗している時は練習量が増える傾向にあるように思います。これ自体が疲労因子FFを増やすことになりますが、精神的プレッシャーを背負っての激しい練習は、想定を大きく超えた負荷が心身を消耗させているように感じます。
このような受身のハードワークは連敗脱出にはマイナスです。むしろ、完全休養、自主練習、更にチームの問題を共有し意識合わせをチーム全体で行うなど、心身をリフレッシュさせ、チームが同じ方向を向き、高いモチベーションのもと目の前の練習に100%集中することが、連敗脱出の可能性を高めるように思います。
「ひらきなおる」イメージです。
画像出展:GATAGフリー画像集
地球の酸素
活性酸素はその名前の通り、酸素と深い関係にありますので、まずは酸素の歴史と特徴についてご説明したいと思います。
地球の誕生は46億年前とされています。当時の地球は炭酸ガスでおおわれ空気はありません。広大な海は10億年かかってでき、そして、35億年前、その海に最古の微生物、酸素不要の嫌気性微生物が登場しました。
藍藻(シアノバクテリア)や植物プランクトンによって光合成が始まり、ついに酸素が地球上に現れました。20億年前の大気酸素濃度は現在の1/100程度のレベルと考えられています。
現在の大気は約20%の酸素を含んでいますが、この容量に一気に到達したのは、6億年前の地球の全球凍結が原因と考えられています。全球凍結の時代は平均気温は-50℃、氷の厚さが1000mにもなり、1000万年以上続いたとされています。
その長い凍結状態は、活発な火山活動によって大気中に蓄積された大量の二酸化炭素が、高温な温室効果を生み出し、藍藻などの活発な光合成が数百万年に渡って大量の酸素を放出し続けたことによると考えられています。
十分な酸素で満たされた地球には4億年前にオゾン層ができました。オゾン層は有害な紫外線をカットしたため、安全な環境となった陸上に海中の植物や生物の一部は移り住むようになったわけですが、酸素が持つ巨大なエネルギーは進化にとって画期的な出来事となり、高等生物への歴史の幕開けとなりました。
酸素毒とは何か
酸素が猛毒といわれる理由は、「強烈な酸化力」によるものです。例えばリンゴを摺ってそのまま置いておくとあっという間に茶色くなります。鉄でさえ年月はかかりますが、茶色く錆び最後はボロボロになります。
この酸化力は物質がもつ電子の移動に関係するのですが、それを代謝という観点からご説明します。
生き物は外界から取り入れた食物を酵素を用いた酸化還元によって、必要な物質を合成したり不用なものを捨てたりする、いわゆる物質代謝を営んでいます。そして同時に、食物からエネルギーを獲得するエネルギー代謝も営んでいます。
ここでいう酸化還元は電子の移動のことです。下図はA、Bという2つの物質があって、AからBに電子が移動した場合、Aは酸化され、Bは還元されたといいます。このように酸化と還元は同時に起こるので、2つをまとめて酸化還元と呼びます。
酸素は電子(e⁻)を奪い取ってしまいます。
奪い取る側、「強酸化力」と書かれた右側のBが「酸素」ということになります。
画像出展:「活性酸素の話」(講談社)
さらに下図の上段はミトコンドリアがエネルギーであるATPを作る過程を表わしたもので、下段は電子の流れ(電子伝達)に伴いエネルギーが生まれていることを説明する図です。
細かい解説ができず申し訳ないのですが、お伝えしたいことはエネルギー代謝では、電子が伝達されるプロセスそのものがエネルギー生成になっているという事実です。
酸素がもつ酸化力は電子の移動に影響を与え、生命の営みを左右するだけの力を備えており、正しく作用しないと非常に危険であり、まさに「猛毒」ということになります。
ミトコンドリアのクリステの内膜内を電子が移動しエネルギー(ATP)が作られる様子です。
画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本新報社)
電子の流れと自由エネルギーについて記述されたものです。
水力発電は水がダムの上から下へ落ちるエネルギーを利用し、電気を得ていますが、基本的にそれに近いものと思います。
画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本新報社)
活性酸素の発生
酸素が生物の体内で変化したのが活性酸素です。活性酸素は呼吸によって必ず作られるものですが、体外から入ってくるものもあり発生要因は複数存在します。
私たちは食物から栄養素を、空気から酸素を取り入れ、エネルギー生産工場ともいえるミトコンドリア内の電子伝達系(呼吸鎖)の流れにのって、エネルギー(ATP)と二酸化炭素、水を生みだしています。
「生き物」は下になります。ちなみに電池は化学エネルギーなので、どちらかと言えば、「生き物」の方にはいります。
画像出展:「活性酸素の話」(講談社)
この電子伝達系の流れの中で電子が受け渡されるときに活性酸素が生成されます。なお、活性酸素は呼吸で取り入れた酸素の1~3%と考えられています。
第1段階…スーパーオキシドアニオンラジカルと呼ばれています。
第2段階…過酸化水素と呼ばれています。
第3段階…ヒドロキシラジカルと呼ばれています。
過剰となり、害を及ぼすようになった活性酸素を消去あるいは無毒化するために、進化によってスーパーオキシドアニオンラジカルに対してはスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、過酸化水素に対しては、カタラーゼやグルタチオンペルオキシターゼという酵素が作られました。しかし、ヒドロキシラジカルには消去する酵素が無いだけでなく、スーパーオキシドアニオンラジカルの数十倍の活性をもっており、最も危険で問題となる活性酸素です。
また、体内に細菌やウィルスなど異物が侵入した時、最初にしかも大量に発生するのが活性酸素のスーパーオキシドアニオンラジカルです。血液中の白血球などの食細胞がこれらの異物を食べ、食細胞の膜から活性酸素が出てきて溶かしてくれます。ただし、この外敵に対する攻撃の範囲を越え大量に発生すると、正常な細胞を傷つけ様々な障害を生じさせる事になります。
外部から体内にもたらされる活性酸素には以下のものなどがあります。
・食品添加物
・煙草のタール成分
・排気ガス
・化学肥料
・大気汚染物質
・紫外線
・放射線
仕事や人間関係などの強いストレスがあると活性酸素が活発に作られます。ストレスが原因で胃潰瘍や十二指腸潰瘍を発症することが多いのは、過剰な活性酸素が組織を傷つけるためです。
また、激しい運動によって筋肉が一時的に虚血状態になり、その後血流が再開した時も大量の活性酸素が発生します。活性酸素を消去するSODなどの酵素が低下する40歳以降に激しいスポーツを行うことは健康にとって良いものではありません。
活性酸素と病気
活性酸素は200以上の病気と関係があると言われ、老化に関る病気とはほとんど関係があると言えます。特に関係性が注目されているのは癌ですが、脳神経系の病気ではアルツハイマー病、パーキンソン病、脳虚血、脳梗塞、てんかん、ダウン症候群などがあります。脳は特に多くの酸素を消費する臓器のため活性酸素の生成量も多くなり、問題を発生しやすい状態にあります。
ホームページ内の「適応疾患」の中で、「後脛骨筋腱機能不全症」という疾患を上げていますが、これは自分自身を治療した内容です。
ジョギングをしていると気になるのは、右足首よりも左膝という状況ではありますが、右足首に強い負荷をかけると少し痛みがあり、固いアスファルトを考慮し、やや頑丈なサポータを着用しています。また、年数回のサッカーの試合では、足首のぐらつき感もあって、必ずテーピングをしています。
このように良好とはいえない右足首のため、ネットで偶然見つけた「リアラインソックス」という商品に興味をもち、やや衝動買い的に購入してしまいました。
ホームページを確認したところ、私が購入した「リアライン・ソックス ソフトタイプ Mサイズ グレー」は廃版となっていましたが、他の色や「標準タイプ」は販売されています。なお、「ソフトタイプ」ではない、「標準タイプ」のリアライン・ソックスは、ソフトタイプに比べ締めつけ感がかなり強そうです。
左はソックスの裏面です。
下の写真の右側が、今までジョギングの時に使っていたゴワゴワ感のあるサポータです。
長い前置きになりましたが、今回のブログは「リアライン・ソックス ソフトタイプ」を使った感想です。あくまで、私個人の感想ですのでご注意ください。何かご参考になれば幸いです。
1.ジョギングで使う
サポートされている感じ、足にやや圧がかかったフィット感が良い感じです。「ソフトタイプ」のためか、履く手間も気になる程ではありません。今までのサポータは上の右側の写真ですが、靴の中でゴワゴワした感触があり、偏平足の土踏まず部分への圧迫が、特にジョギングの走りはじめに不快に感じていました。ということで、「リアライン・ソックス ソフトタイプ」の購入は正解だったと思います。
2.テーピングの代わりに使う
足首のぐらつき感が気になる私の場合は、少なくとも「ソフトタイプ」をテーピングの代用として使うのは無理があります。「標準タイプ」でどうかというところですが、これを履いて、更にサッカーのストッキングを履くとなると、足にフィットする小さめのサッカーシューズが好きな選手には問題がありそうです。
左をクリックすると、商品の特長や価格等の詳細を確認することができます。
400mを走った時に最後の直線は足がパンパンになって、ほとんど足を動かすことができない状態になります。そして、この原因は足に蓄積してしまった乳酸によるものであり、乳酸とは筋肉の疲労物質というのが今までの認識でした。
しかし、八田秀雄先生の著書により、乳酸を疲労物質としてみると、それはとうてい主役でも脇役でもなく、エキストラ程度でしかないということを知りました。「疲労」は健康にもスポーツにも重要な出来事であり、詳しく知りたいと思っています。
今回は、その切り口として乳酸を正しく理解したいと思います。なお、ブログの中身および添付された画像は八田先生の「乳酸」から引用させて頂いています。
乳酸とは
・牛乳が腐って酸っぱくなるときにできるのが乳酸です。
・乳酸は炭素と水素と酸素からできていて、肉やチーズや味噌などの発酵食品に含まれています。
・乳酸は赤血球や内臓の筋肉(平滑筋)などから作られています。
・乳酸は糖が分解される過程で作られ、最終的にエネルギー源として利用されます。
糖の分解量に対して、ミトコンドリアの処理量が間に合わない渋滞した時に、乳酸の生産量が増え蓄えられます。
乳酸ができる時にエネルギーが作られ(解糖系)、さらに本命のミトコンドリアでも乳酸は利用されエネルギーになります(酸化系)。
酸化系は解糖系の18倍のエネルギーが作られます。
・乳酸を作る菌が乳酸菌です。乳酸菌は腸の中で生きていて腸の働きを良くします。
・乳酸は運動後30分~1時間で元のレベルにまで戻りますから、運動数時間後以降の疲労には乳酸は関係していません。
・乳酸は運動後1時間すれば元のレベルに戻るので、運動翌日以降に起こる筋肉痛には無関係です。
疲労と乳酸
・乳酸は非常に強度の高い運動では疲労の原因の1つになります。
・激しい運動の最中には乳酸以外に多くのことが原因となって疲労を起こしています。リン酸の蓄積、カリウムが筋肉から漏れ出すこと、筋グリコーゲン濃度の低下、体温の上昇、活性酸素の発生、脱水症状、脳の疲労等々です。
上記の項目にある「脳の疲労」について、八田先生は次のように説明されています。
『私たちが生きていけるのは、脳からさまざまな指令が出ているからです。ですから脳のことを考えずして疲労を考えることはできません。特に「疲労」というものは、筋の力が出ないといった生理学的なことだけでなく、だるいというような感覚も含んでいます。だるさという感覚は、脳が「こんな運動をしていると、もう体に悪影響が出るから止めなさい」といった指令が生み出したものだとも考えられます。例えば長時間運動していると血糖値が下がってきます。血糖は脳への主要なエネルギーですから、それがなくなってくると困るので、「こんな運動は止めろ」という指令がきつさやだるさになると考えられます。さらに脳と疲労との関係ではセロトニンという物質が注目されています。セロトニンは神経の伝達に関与し、これが脳に十分あるかないかが鬱状態に関係しているともいわれます。運動もこのセロトニンの脳内のレベルを大きく変化させてしまうような場合には、疲労感が生まれるということが考えられています。この他、運動で筋に傷が付いて、その炎症のためにできる物質が脳に届いて、疲労感を起こすといったことも考えられています。このように運動の疲労において、脳の影響は重要ですが、脳と疲労に関する研究はまだまだこれからといえます。』
付記:筋肉痛
運動で筋に傷が付いて、それを修復する際に起こるのが筋肉痛です。特に下り坂で体重を受け止めるときのように、筋に大きな力がかかる場合に起きやすくなります。筋肉痛はその筋を使わなければ痛みは感じません。筋肉の小さな損傷を治す過程で、その筋をまた使ってしまうことが、痛みとなって現われるということが考えられます。
下り坂で使う筋肉は、「止まれる体をつくる」や「速さを鍛える」にも出てきたプライオメトリクス(伸展性筋収縮を伴うトレーニング)に通じるものです。
パフォーマンス向上を支えるスポーツ医科学専門誌として「月刊トレーニングジャーナル」があります。今回のブログは、この「月刊トレーニングジャーナル 2016 11 No.445」の特集を題材にしています。
この専門誌の創刊は1979年であり、私が大学1年生の時になりますが当時、時々購入していました。まさか再び「トレーニングジャーナル」を購読することになるとは、びっくりです。
特集の『速さを鍛える』は次の4つの記事から構成されています。
1.「はやさ」は鍛えられるか?
2.運動と知覚の関係を考える-速さを構成する要素として
3.トレーニング指導で知っておくべく概念-速さを鍛える上で必要な要素
4.ゴルフスイングをよくするために
今回は3番目の、桂良太郎氏(日体協公認ATなど)が「トレーニング指導で知っておくべく概念-速さを鍛える上で必要な要素」の中で紹介している、「パフォーマンスピラミッド」について理解をしたいと思います。
土台となる1段目が「ファンクショナルムーブメント」、2段目が「ファンクショナルパフォーマンス」、そして3段目が「ファンクショナルスキル」となっています。「速さ」は2段目に関係しており、その「速さ」を生みだすためには、まず土台がしっかりしていることが重要です。
2段目を構成する要素としては、筋力、スピード、パワー、敏捷性などが複合的に関係しています。そして、これらの指標としては運動制御、姿勢の統合性、パワー、パワー効率性の4つがあります。以上がパフォーマンスピラミッドの概要です。
この図の2段目に含まれる「プライオメトリック」はブログ『止まれる体をつくる』にも登場したもので、そこでは「瞬発力強化、走るときではなく止まるときに重要である」という説明がされていました。
一方、「プロプリオセプション」とは固有受容感覚、いわゆるセンサーです。このセンサーによって筋肉や腱の状態を把握し正しく脳に伝え、3次元空間での体の位置などを正しく認識します。背骨は四角い骨がいくつも積み上がって、柱(脊柱)となっていますが、プロプリオセプションが働くことにより、小さな傾きも検知し脊柱を安定させます。そして脊柱を力強く支えるのは、インナーマッスルと呼ばれる腹横筋、腸腰筋、多裂筋などです。
なお、プロプリオセプションについて詳しく説明されているサイトがありましたのでご紹介します。
これは『コアスタビライゼーション 世界レベルのパフォーマンスのために』という、米国NATA公認アスレティックトレーナーの稲葉晃子氏の一連の記事の中にあります。
http://mywellnessia.com/?page_id=1395
なお、「コアスタビライゼーション」については、“上肢と下肢を繋ぐ体幹を鍛える事により、上肢から下肢まで一本化して体を使う。”と解説されています。
スタビライゼーションについては、日本タビライゼーション協会があり、その説明を引用したものが下記になります。
『スタビライゼーションとは、主働筋だけのトレーニングではなく、主働筋・協働筋・拮抗筋や補助筋群(スタビライザー)を刺激するトレーニングメソッドです。動作中、常にアライメントを意識することによりアイソメトリクスを生じさせて体幹(コア)をはじめとする体軸の安定強化が行えます。』
一通りの確認ができたので、「パフォーマンスピラミッド」を自分流に整理し、理解を深めたいと思います。
「モビリティ/スタビリティ」は「関節運動の可動性と安定性」とします。
次に「プロプリオセプション」は「体幹の強さ」とします。これが速さを支える土台になります。
この上にのる要件は「スピード」、「敏捷性」、「瞬発力」、そして「ストレングス」ですが、NSCA(National Strength and Conditioning Association)ジャパンではストレングスを「神経-筋系全体の能力」と定義しています。そして、これは拡大解釈して「適応力」とします。なお、以下のサイトに「ストレングス」についての詳しい説明が出ています。
1番上のSkillは特に「速さ」に関わる要件として、ここでは技術・戦術・予測力にしたいと思います。
完成した自己流パフォーマンスピラミッドを眺めて気づくことは、これらの要件を兼ね備えたモデルとなるサッカー選手は、インテルの長友選手だろうということです。実際、体幹トレーニングを積極的に取り入れている話は有名です。
そして、速さの追求は「止まれる体」と表裏一体となっており、特に土台となる体幹の強さ・体の柔軟性が十分に鍛えられていないと、怪我のリスクが高まります。
最後に、「スポーツ傷害調査支援システム SIRIUS(シリウス)」という非常に興味深いサイトを発見しましたのでご紹介します。
特に優れているのは「コンディショニングセルフチェックシート」という機能です。これはチームごとに専用URLを発行し、コンディショニングを選手自身で記入・送信し、セルフチェックシートをつくることができます。
更に、送信された情報を集計し、表計算ソフトでグラフ化することができるというもので、チームメンバーのコンディショニングの管理に有効です。
選手自身が客観的に自分のコンディションを定期的に意識し、スタッフが公開されたその情報を把握したうえで、トレーニングの内容を検討できることは画期的だと思います。
10月1日に放送された「やべっち F.C.」には、しゃべりが得意とは思えない原口選手の独占インタビューがありました。
タイ戦では狙いすましたようなダイビングヘッドが見事に決まり、劇的な勝利だったイラク戦でも技ありゴール、そして何といっても積極的な守備でチームを鼓舞する姿は、レギュラーポジション取りに向けて視界良好という感じです。
その独占インタビューの中で、語られた「止まれる体を作る」という内容は、新鮮かつ印象的で放送後さっそくネットで調べてみました。
そして、「Sports Graphic Numberweb」 にほぼ同様の記事が出ていました。
この中で、フィジカルコーチとして紹介されていた「谷川先生」とは、アテネオリンピックで110mハードル日本代表の経験をもつ、谷川聡氏のことでした。
「止まれる体」について書かれた本は無いかと探してみましたが、残念ながらそのような本はありませんでした。
実はこのWebサイトを見つける途中で、同じくらい興味深いサイトを発見しましたのでこちらもご紹介します。それは、ジャーナリストの片野道郎さんのTIFOSISSIMO!!!というアーカイブで、記事の見出しは「ローマのフィジカルコーチが語る中田英寿(2001.04)」というものでした。
そこには、
『…“フィジカル”という側面に焦点を当ててみたい。フランス戦の日本代表の中で、中田ひとりだけが、濡れた芝に過剰に悩まされることも、激しい当たりに吹き飛ばされることもなく、言ってみれば“フランス人と同じように”プレーできたのは一体なぜなのか…』
とは、まさに当時の試合映像から感じた私の疑問そのものでした。そして、「止まれる体」のトレーニング方法について、簡潔ですが次のように記述されていました。
『瞬発力強化のメニューとしては、プライオメトリクス(伸展性筋収縮を伴うトレーニング)や上り坂のダッシュなどがあります。伸展性筋収縮、つまり筋肉が伸びきった状態でのパワーというのは、走るときではなく止まるときに重要になります。同じくらい足が速い2人の選手がボールを追ったとき、早くボールに追いつくのは止まる能力の高い方ですから、ブレーキングは重要です。ヒデのブレーキはABSつきですよ。スリップしないで短距離で止まれる』
さらに、
『“倒れない”ためのバランス能力の強化。“怪我や故障をしない”ための筋力バランスの取れた脚づくり、“ボールを奪われない”ため、あるいは“スリップせず短距離で止まる”ためのパワーアップ——。中田が取り組んできたひとつひとつのトレーニングメニューが、プレーの個々の局面に即して、それに対応する身体/運動能力を高めるという、明確かつ具体的な目標を持っていることに、改めて驚かされる。』
ということがコメントされていました。
この記事は15年前の2001年の話です。今までフィジカルコーチという仕事には興味がなかった私でしたが、一気にフィジカルコーチの存在に関心を持ちました。
そして、日本選手に求められる「決定力不足」はメンタル面に着目するより、実戦から生まれた欧州型の強いフィジカルを身につけることが早道になるかもしれないと直感しました。
最後にASローマのフィジカルコーチ、マッシモ・ネーリ氏が中田選手に行ってきたフィジカルトレーニングについて書き出したいと思います。
①中田選手自身がフィジカルの強化を不可欠と考えていた。
②ペルージャ時代から、チームの練習の前後に「独自のメニュー」によるトレーニングを積極的にこなしていた。
③イタリアではフィジカル・トレーニングの2〜3割は個人別に作られた特別メニューである。
④主な強化のターゲットにしていたのは、「動的・静的なバランス能力」、「下半身の筋力」、そして「有酸素・無酸素の持久力」であった。
⑤下半身は脚全体の筋肉のバランスを高めることが重要である。(中田選手の場合、ふくらはぎの筋肉が非常に発達しておりパワーもあるので、大腿部の筋肉を中心に強化した)
⑥瞬発力強化のメニューとしては、プライオメトリクス(伸展性筋収縮を伴うトレーニング)や上り坂のダッシュなどがある。
⑦伸展性筋収縮、つまり筋肉が伸びきった状態でのパワーというのは、走るときではなく止まるときに重要になる。