血圧と運動

久しぶりに『月刊 スポーツメディスン』を購入しました。それは特集が「血圧と運動」という興味深いものだったためです。

ブログは早稲田大学スポーツ科学学術院 スポーツ生理学 前田清司先生の“血圧とは何か-なぜ高血圧が問題なのか-”からです。

スポーツメディスン2022年1月号
スポーツメディスン2022年1月号

発行:2022年1月

出版:ブックハウス・エッチディ

1.運動と血圧の関係

●男性約3000名を対象に5年間にわたり、体力(体力の指標は最大酸素摂取量)と血圧の関係を研究した。体力別に分けた5つのグループでは、最も体力の低いグループは、最も高いグループに比べ約1.9倍高血圧症になりやすいことが明らかになった。

●35~60歳の男性を対象にした血圧と歩行時間の研究では、1日の歩行時間が10分以下の人は、20分以上の人に比べ1.4倍高血圧症になりやすいことが明らかになった。

●7年以上にわたってランニング距離と血圧の関係を調べた研究では、ランニング距離が長いほど高血圧の発症リスクが軽減されるという報告がある。

●高血圧症患者に治療の一環として運動療法が用いられており、運動習慣は高血圧を改善する効果がある。

2.動脈硬化と運動の関係

●動脈硬化度は脈波伝播速度などで評価するが、習慣的および一過性の有酸素運動は動脈硬化度を低下させる。

3.柔軟性と血圧の関係

●長座位体前屈を指標とした柔軟性において、高齢者では柔軟性が高いほど血圧が低いという結果が得られた。

●身体の柔軟性を高めるストレッチングは高血圧の予防・改善の効果を持つ可能性がある。

●動脈硬化度について、中高齢者では柔軟性が高いほど動脈硬化度が低いという結果が得られている。

4.推奨される有酸素性運動

高血圧の予防・改善に推奨される運動
高血圧の予防・改善に推奨される運動

画像出展:「スポーツメディスンNo237」

『運動時間や頻度は、できるだけ毎日、30分以上を目標とすることが重要です。たとえば10分の運動でも、合計して30分以上であれば効果的であるということもわかっているので、細切れでも運動することが大事です。

運動強度については、低強度から中等強度では血圧上昇はわずかですが、高強度の運動では血圧上昇が顕著であるため、「ややきつい」と感じる程度の中等強度の運動(心拍数が100~120拍/分、最大酸素摂取量の約50%)がよいと思います。高強度インターバルトレーニングは短時間で効果が得られ、糖尿病患者に対する改善も示されていますが、高血圧患者に対しては血圧上昇に十分な注意が必要です。

高血圧患者では主治医の指導のもとで治療を行っていくことになりますので、この記事などの情報を得て、自分で判断して運動を始めるのではなく、主治医の指導に従うことが大切です。

また、運動習慣のない方が急に運動を始めると、身体に与える負荷が非常に大きいので、まずは生活の中で掃除をしたり買い物をしたり、子どもと遊ぶなど、身体活動を増やすことから始めるとよいでしょう。あとはそれぞれのライフスタイルに合わせて運動を取り入れていくとよいです。 

最初は合計15分の運動をやってみるとか、運動を朝と夕方に分けてやってみるとか、無理をしないことが大切です。』

5.高血圧パラドックス

●高血圧パラドックスとは、薬など治療法は明らかになっているにも関わらず高血圧治療が進まないことである。

感想

先週のブログ「“年齢+90”という考え方」は、松本光正先生の『やっぱり高血圧はほっとくのが一番』で勉強したことを書いているのですが、”今が最良の血圧”というお話をされています。

これは、人は生きていくためにはすべての臓器や組織に酸素や栄養素、生理活性物質などを運ぶ必要がある。若者の血管は軟らかく、力の弱いポンプ(低い血圧)でも血液を全身に送り届けることができるが、太ったり、加齢で血管が硬くなったり、血液がドロドロしていたりすると、力の強いポンプ(高い血圧)を使わないと血液を全身に送り届けることは難しい。そして、これらの調整は生きていくために備わっている能力(自然治癒力)が、ポンプの強弱(血圧)を最適になるように自動的に調整してくれている、というものでした。

このことは安易に薬に頼るのではなく、食事、運動、睡眠などの生活習慣の改善に取り組み、原因を根本的に取り除いていけば、血圧は自然と少しずつ下がっていってくれるということです。

“高血圧パラドックス”の一番の問題点は、体が持つ自然治癒力のメカニズムや加齢という現象を軽視し、さらに生活習慣を見直すことを省略して、安易に薬に頼ってしまっていることが原因ではないかと思いました。

循環器系の構成と血流分布
循環器系の構成と血流分布

画像出展:「人体の正常構造と機能」

この図をみても、重力に逆らって血液を全身に循環させる仕事は簡単ではないと思います。

なお、これは安静時の状態です。下の方に”骨格筋16%”とありますが、骨格筋を激しく使う運動を行うと、この数値は跳ね上がり、相対的に内臓などの血液分泌比率は下がります。

 

 

 

体循環の各部位における血圧
体循環の各部位における血圧

画像出展:「人体の正常構造と機能」

細い血管、硬い血管、ドロドロした血液を送り出すには強いパワー(高血圧)が必要になってきます。

 

ご参考:”降圧剤で脳梗塞に?血圧を下げるなら下半身の運動も忘れないで

こちらは荒牧内科 荒牧竜太郎院長が寄稿された、”Medicallook”さまの記事です。一部、ご紹介させて頂きます。

『高血圧を治すために降圧剤が投与されるのですが、患者や医師の意に反して「脳梗塞」を引き起こすこともあるのです。動脈硬化で先の細くなった血管に血栓が流れ込んでも、血圧が高ければ血栓を押し流してくれます。しかし、降圧剤で血圧が下がっていると、血栓に圧力がかかりません。そのせいで血管に血栓が詰まりやすくなります。すると、脳梗塞も起こりやすくなります。

『血圧を下げる効果のあるプロスタグランジンというホルモンは、上半身の運動より下半身の運動でより多く分泌されます。ウオーキング、ももあげ、スクワットなど下半身の運動を行ってください。

※注意:ベンチプレス・筋トレ・全力疾走など、”瞬間的に力を入れるような運動(無酸素運動)”はかえって血圧を上昇させるので注意してください。