パーキンソン病

概要
アルツハイマー病に次いで患者数が多く、日本国内で15万人を超える患者がいる難治性の神経変性疾患です。通常40-60歳に多く発症しますが、40歳未満での発症もあります。また、65歳を超えると1%以上の人が罹患するという報告もあります。
パーキンソン病は中脳黒質、線条体におけるドパミンが不足することで、ブレーキ役のアセチルコリンとのバランスがくずれ、サイドブレーキがかかったまま運転するかのように、体の動きにくさ等が出現する難病ですが、様々な運動障害以外に、自律神経障害、幻視やうつなどの精神症状が現れることもあります。

パーキンソン病は孤発性(80~90%)のものと、遺伝性のものに分けられます。遺伝性のものは1~2割ですが、近年の遺伝学的検査法の進歩によって、病気の原因が単一遺伝子の変異であり、病気と発症原因の因果関係が明らかなものも出てきています。

 

ポイント
1.鍼灸治療は薬物治療を補完するものです。
2.運動障害、自律神経障害、うつなどの精神症状に関して有効です。

 

補足説明
最近ではドパミン不足という限定した捉え方ではなく、自律神経も含めた脳神経全般にわたる問題という見方も出てきています。一方、病気と発症原因の因果関係については、「遺伝性若年性パーキンソン病」があります。これは遺伝子のPINK1やParkin、ならびにその遺伝子によって作られるPINK1タンパク質やParkinタンパク質というものが変異すると、パーキンソン病を若くして発症してしまうというものです。遺伝子の変異によってPINK1やParkinの機能が失われると発症するので、これらの遺伝子は「パーキンソン病の発症を抑えるために働いていることがわかっています。
治療については根治の方法は見つかっていませんが、ドパミンとなる材料物質(Lドパ)だけでなく、多面的に病状を改善する薬がどんどん開発され、パーキンソン病の薬物療法は確実に前進しています。
鍼灸はパーキンソン病の運動障害、自律神経障害、うつなどの精神症状のいずれにも効果が期待できます。パーキンソン病では運動性の制約から筋肉が硬くなったり、筋の機能低下が生じますが、鍼灸では筋を緩め血行を改善することで、動きやすさを改善します。自律神経の問題は、薬物の副作用による交感神経亢進などの課題がありますが、鍼灸では副交感神経を活性化することにより、自律神経のバランスを改善します。これにより便秘や発汗障害などの症状緩和が期待できます。また、水嶋丈雄先生が行った「パーキンソン病に対する薬物治療と鍼灸治療併用療法についての治療成績」という研究においては、脳内ドパミンではなく血清ドパミンのため、あくまで参考値ではあるものの、3ヶ月で血清ドパミンの数値が40%~96%上昇していたという報告がされており、「これらは鍼灸治療の脳内神経保護作用を推察される」とのコメントをされています。
当院では、本治により自然治癒力を高めることは、運動障害や自律神経障害の改善だけでなく、ドパミンの分泌促進につながるのではないかと期待しています。なお、本治は腎経、肝経に注目しつつ、年齢から腎精強化あるいは免疫強化を狙って原穴治療を検討します。運動障害については最も基本となる歩行に関して、大腿四頭筋の中で深層にあり最も関与している中間広筋を緩めること、股関節の屈曲に関わる腸腰筋を緩めることを治療の柱に、丁寧な触診により硬結を探し、緩めるという治療を行っています。

 

酸化ストレス説

パーキンソン病発症に関係している黒質神経細胞がなぜ減少するのかについては、酸化ストレス説が1つの有力な仮説とされています。この酸化ストレス説の中心ともいえるものが活性酸素になりますが、活性酸素は本来の酸素に比べ、電子が足りないため不安定な状態にあります。そしてその足りない電子を他の分子から補おうと盛んに化学結合を行ないますが、この時、他の細胞や遺伝子を傷つけ、さらに老化の原因にもなるとされています。

なお、活性酸素には過酸化水素水、ヒドロキシラジカルなどがあり、フリーラジカルとも呼ばれています。 
体内に取り込まれた酸素の多くは、細胞内に存在するミトコンドリアが大量に消費し、生きるためのエネルギーに変えているのですが、消費酸素の数%に相当する活性酸素を副産物として放出しています。体内には活性酸素を除去するSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)
などの抗酸化物質を作る防御システムはあるものの、特に中高年が長期間、激しい運動を毎日のように行うことは避けた方が良いと思います。
ところで、細胞内のエネルギー生産工場ともいえるミトコンドリアは、ストレスを受けると必要なエネルギーを十分に作り出せないだけでなく、活性酸素を過剰に生み出していることが明らかになってきています。そして、強いストレス状態と同様なことがパーキンソン病の細胞にも見られるといわれています。つまり、過大なストレスを受けた状態とパーキンソン病は細胞レベルでは同じような変化を見ることができるということです。
ストレスの影響は個人差が大きいと思いますが、長期に渡る強いストレス状態と活性酸素の過剰生産がパーキンソン病に関係しているのではないかと考えるのは不自然ではないと思います。