股関節唇損傷(フレイル)1

今回は、母親の股関節痛に伴う筋性拘縮に関するものです。

軟骨変性関節包股関節唇のいずれかの問題ではないかと考えますが、アスリートなどに多く、最近注目されているという点から“股関節唇損傷”をターゲットに調べていくことにしました。

状況

■年齢:102歳

■健康面

1.2020年元旦、椅子から転倒し右側頭部等を強打し救急搬送されましたが、脳、首、肩に問題はありませんでした。ただし、もともと限界寸前だった歩行は困難となりベッドでの生活となりました。

■発症時(2021年1月後半~2月前半)

1.左股関節、左膝関節が常時屈曲しており、伸展、外旋で痛みを強く訴えます。

2.訪問医の先生からは、「関節を動かせて、内出血、腫れ、炎症がないことから脱臼、骨折の可能性はないだろう」とのことでした。なお、問題なく椅子に座ることができ、大転子への押圧や踵への叩打でも痛みを訴えないので骨折ではないと考えました。

3.突然というより、少しずつという感じです。ベッドでは右側臥位で左足を右足の上にクロスさせるように伸ばしている姿勢が多かったのですが、左股関節・膝関節を曲げることが見られるようになり、そして仰臥位でも左膝を立てていることが多くなり、それが頻繁になり拘縮していったという感じです。 

この写真は2月末頃だったと思います。

■考えられる原因

1.受傷したという認識はありませんでした。ただし、両足をベッドの外に出し、ベッド内を90度回転するほど元気に動いていたため、そのような時に股関節の軟部組織のどこかを痛めたのではないかと思います(例えば、元の姿勢に戻ろうとして股関節に捻じりの力が繰り返し加わった等)。また、加齢による影響も大きいと思います。

股関節の解剖(骨軟骨関節構造、血管)
股関節の解剖(骨軟骨関節構造、血管)

画像出展:「股関節の痛み」

図の中央上部右から、関節軟骨関節唇関節包とありますが、この辺りに問題があるのではないかと思います。

格安で購入した3冊の古本は骨などに関する疾患について書かれており、軟部組織の損傷についての内容は殆どなかったのですが、とても重要なページが1つありました。

関節症の痛みと機能障害
関節症の痛みと機能障害

画像出展:「新よくわかる股関節の病気」

『関節症と痛みや機能の障害は図2-6のように悪循環を作っていますので、この悪循環を断ち切ることが基本です。変性の進行により痛みと炎症が強くなり、プロスタグランジンなどの血管の透過性を増し炎症を引き起こす化学的な物質を出して、滑膜の炎症、軟骨の破壊や軟骨細胞の変性が進みます。関節を最大に曲げたり伸ばしたりすると筋肉や筋膜による痛みが強いので、関節を動かさなくなります。さらに痛みのために歩く距離が少なくなり筋肉は衰えて萎縮し、関節の動きがさらに悪くなります。関節の動きが少なくなることで血液のめぐりを悪くし、関節の変性がより進行します。』

今の状況はまさにこんな感じです。これによれば、老化による軟骨変性が疑われますが、“軟骨変性”がどのようなものなのか分かりませんでしたので、“関節唇損傷”に“軟骨変性”を加え、この2つに注目しながら勉強することにしました。

題材は、次の4つです。①股関節の痛み 編集:菊地臣一 ②月刊スポーツメディスン2・3月合併号 138 特集:股関節の痛み 鼡径周辺部痛、FAI、関節唇損傷、その他の痛みへのアプローチ ③医道の日本 2013年4月号 特集 股関節痛へのアプローチ ④日臨整誌 vol.36 no.1 98 関節内に陥入した股関節唇損傷の治療経験(2例)。なお、ブログは4つに分けました。

最初の「股関節の痛み」は43名の先生が執筆され、菊地臣一先生によって編集されています。“股関節の解剖と生理”に始まり、基礎的なことも勉強できる期待していた内容の本でした。また、“股関節唇損傷”も出ていました。

股関節の痛み
股関節の痛み

出版:南江堂

発行:2011年7月

編集:菊地臣一(執筆者は43名)

目次

Ⅰ 痛みについて

1.運動器のプライマリケア―careを重視した全人的アプローチの新たな流れ

2.運動器の疼痛をどう捉えるか―局所の痛みからtotal painへ、痛みの治療から機能障害の克服へ

3.疼痛―診察のポイントと評価の仕方

4.治療にあたってのインフォームド・コンセント―必要性と重要性

5.各種治療手技の概要と適応

a.薬物療法

b.ペインクリニックのアプローチ

c.東洋医学的アプローチ

d.理学療法

e.運動療法

f..精神医学(リエゾン)アプローチ

g.気学的アプローチ

6.運動器不安定症―概念と治療体系

7.作業関連筋骨格系障害による痛み

Ⅱ 股関節の痛みについて

1.診療に必要な基礎知識-解剖と生理

A.股関節周囲の表面解剖

B.骨盤出口部の解剖

C.股関節の深層解剖

2.診察手順とポイント―重篤な疾患や外傷を見逃さないために、他部位の痛みを誤診しないために

a.小児の診察

A.医療面接

B.身体診察

C.画像診断

D.臨床検査

E.関節 刺および局所麻酔剤注入テスト

b.成人の診察

A.医療面接

B.身体診察

C.画像診断

D.疾患

3.鑑別に注意を要する股関節および周辺部の痛み

a.骨・軟部腫瘍

b.骨系疾患

c.発育期のスポーツ損傷・障害による痛み

4.股関節疾患と間違いやすい痛み

A.腰椎疾患による股関節痛

B.骨盤部疾患による股関節痛

C.腹部内蔵器による股関節痛

5.画像診断と臨床検査

A.股関節痛と画像診断

B.股関節痛と臨床検査

6.各種治療手技の実際と注意点

a.薬物療法

b.理学療法・運動療法

A.理学療法

B.運動療法

c.ペインクリニックのアプローチ

A.トリガーポイント注射(圧痛点注射)

B.股関節ブロック

C.腰神経叢ブロック

D.仙腸関節ブロック

E.梨状筋ブロック

F.股関節知覚枝高周波熱凝固

d.東洋医学的アプローチ

A.漢方

B.鍼灸

C.指圧・マッサージ

Ⅲ主な疾患や病態の治療とポイント―私はこうしている

1.化膿性股関節炎による痛み

■治療の実際

A.診察のポイント

B.鏡視下洗浄・ドレナージ

C.化学療法

D.遺残変形

E.化膿性関節炎に対する私のアプローチ

2.Perthes病による痛み

■治療の実際

A.診察のポイント

B.治療方針

C.保存的治療

D.観血的治療

E.予後予測(重症度の判定)

F.長期成績

3.単純性股関節炎による痛み

■治療の実際

A.診察のポイント

B.治療

4.大腿骨頭すべり症による痛み

■治療の実際

A.病型と痛みの原因

B.痛みの特徴とアプローチ

C.画像所見

D.治療方針

E.主な観血的治療

5.変形性股関節症による痛み

a.治療の実際①

A.変形性股関節症の診断と治療

B.変形性股関節症による痛みと治療法選択

C保存法の実際

D.手術療法における術式選択

b.治療の実際②

A.痛みの特徴と診断

B.治療方針決定のためのポイント

C.保存療法

D.手術へ踏み切るタイミング

E.手術療法

F.股関節手術に対する考え方と治療方針

6.特発性大腿骨頭壊死症による痛み

a.治療の実際①

A.治療方針の決定

B.保存療法

C手術療法

b.治療の実際②

A.診察のポイント

B.薬物療法

C.手術療法

D.専門医に紹介するタイミング

7.一過性大腿骨頭萎縮症による痛み

■治療の実際

A.病態

B.診察のポイント

C.薬物療法

D.物理療法

E.専門医に紹介するタイミング

8.急速破壊型股関節症による痛み

■治療の実際

A.定義と病態

B.診察のポイント

C.治療方針

D.手術療法

E.術後リハビリテーションと予後

9.骨粗鬆症による骨盤・大腿近位部の脆弱性骨折

■治療の実際

A.背景と病態

B.骨盤IF

C.仙骨IF

D.大腿骨近位部IF

10.関節リウマチによる痛み

a.治療の実際①

A.診断と治療のポイント

B.薬物療法

C理学療法

D.関節注射

E.手術療法

b.治療の実際②

A.診察のポイント

B.薬物療法

C.物理療法・運動療法・装具療法・その他

D.ブロック療法

E.手術療法

F.専門医に紹介するタイミング

11.股関節唇損傷による痛み

■治療の実際

A.股関節唇の解剖と生理

B.診察のポイント

C.保存的治療針

D.骨性因子なし

E.骨性因子あり

Ⅱ股関節の痛みについて

1.診療に必要な基礎知識-解剖と生理

A.股関節周囲の表面解剖

股関節の痛みの領域は、①前方(鼡径部など)、②外側(大転子周辺)、③後方(殿部)の3領域に大別されることが多い。

股関節の表面解剖
股関節の表面解剖

画像出展:「股関節の痛み」

1)前方のランドマーク

a.恥骨結合

・外上方から鼡径靭帯、外下方から長内転筋が付着する。同部周辺の疼痛を訴える疾患として、恥骨結合炎や恥骨骨折、内転筋損傷などがある。

b.大腿三角(スカルパ三角)

・上方は鼡径靭帯、外側は縫工筋内縁、内側は長内転筋外縁の三辺からなる逆三角形のくぼみであり、同部には内側から大腿静脈(Vain)、大腿動脈(Artery)、大腿神経(Nerve)が“VAN”の順に位置する。その深部に大腿骨頭があるため、同部の診察が診断の手がかりとなる股関節疾患は少なくない。また、股関節疾患以外の疼痛性疾患としては、腸恥骨液包炎、鼡径部のヘルニアなどがある。

c.上前腸骨棘

・鼡径靭帯を上方にたどると、上前腸骨棘を容易に触れる。大腿筋膜張筋や縫工筋が付着し、付着部の炎症や裂離骨折が生じる。

2)外側のランドマーク

a.大転子

・大腿骨外側の骨性隆起部で、大転子周囲の疼痛を訴える疾患として、股関節疾患、大転子滑液包炎、弾発股、感覚異常性大腿痛などがある。

b.坐骨結節

・殿部の骨性隆起部で、ハムストリングスが付着し、付着部の炎症や裂離骨折を生じる。股関節疾患や腰仙椎神経根症(坐骨神経痛)の後方の疼痛好発部位は坐骨結節より近位外側にある。

B.骨盤出口部の解剖

骨盤出口部には骨盤内から股関節周囲へ向かう筋、神経、血管が存在する。骨盤出口部(鼡径靭帯部、閉鎖孔、大坐骨孔)ではヘルニアや絞扼性神経障害が生じる。そのため、同部の解剖の理解が股関節周囲の解剖知識の整理や、股関節の痛みの病態を理解する上で有用である。

骨盤出口部の解剖
骨盤出口部の解剖

画像出展:「股関節の痛み」

1.鼡径靭帯

・鼡径靭帯の深部を、腸骨筋、大腰筋、大腿神経、外側大腿皮神経、陰部大腿神経(大腿枝)、大腿動・静脈などが通過する。鼡径靭帯の下を通過する神経は、股関節前方の知覚と股関節屈曲を支配する。鼡径靭帯の障害として、鼡径部のヘルニアや感覚異常性大腿痛がある。

2.閉鎖孔

・閉鎖孔内の外上方は閉鎖神経、閉鎖動脈が通過しており、同部は閉鎖孔ヘルニアが生じる部位でもある。閉鎖神経は股関節内側の知覚と股関節内転を支配する。

3.大坐骨孔

・大坐骨孔は腸骨、仙骨、仙棘靭帯、仙結節靭帯の内縁からなり、大坐骨孔を仙骨内側から大転子上部へ付着する梨状筋が通過する。骨盤から殿部に出る血管・神経は、すべて梨状筋の上か下かで大坐骨孔を通過する。梨状筋の上(梨状筋上孔)を上殿神経と上殿動脈が伴走する。梨状筋の下(梨状筋下孔)を通る神経・血管のうち重要なのは、①坐骨神経、②下殿神経、③下殿動脈である。梨状筋下孔を通過する神経、股関節後面の知覚と股関節の伸展と外転を支配する。同部の絞扼性障害として梨状筋症候群がある。

股関節(周囲)痛の原因
股関節(周囲)痛の原因

画像出展:「股関節の痛み」

C.股関節の深層解剖

1.関節内

関節内の解剖は骨軟骨構造と軟部組織(関節包、関節唇、靭帯)からなる。変形性股関節症のようにX線で診断されることの多い骨軟骨構造の障害と異なり、軟部組織の障害は画像診断も困難であり、病態が判然としないことが多い。しかし、近年の股関節鏡技術の発達に伴い、軟部組織障害の診断と治療が鏡視下に行われるようになってきている。

a.骨軟骨構造

・股関節は寛骨臼と大腿骨頭から構成され、寛骨臼と関節唇が大腿骨頭の2/3を包み、臼状関節を形成している。この関節構造が関節の安定性に重要な役割を果たしている。骨軟骨障害をきたす股関節疾患は多い。

b.軟部組織

1)関節包

・寛骨臼と大腿骨頚部を連結する線維性組織である。関節包は寛骨臼側では寛骨臼縁より近位に付着する。一方、大腿骨側の前面では転子間線に付着するのに対して、後面では転子間稜より近位に付着するため、大腿骨頚部全面を覆っていない。そのため、大腿骨頚部骨折(基部)では、関節内骨折か関節外骨折かの鑑別が単純X線写真では困難な症例がある。

2)靭帯

・関節包は線維性の靭帯組織で取り巻かれ、前方は腸骨大腿靭帯、恥骨大腿靭帯、後方は坐骨大腿靭帯が覆い、関節包を補強し股関節を補強し股関節の安定に寄与している。

3)関節唇

関節包内面の寛骨臼周囲を取り巻く軟骨性組織であり、衝撃吸収作用や吸盤機能作用を有し、股関節の安定化に寄与している。解剖学的には、関節唇内部には神経終末が存在し、臼蓋形成不全による股関節症では股関節痛の発症と関節唇断裂が強く相関することが指摘されている。

股関節の解剖
股関節の解剖

画像出展:「股関節の痛み」

a.筋肉

・最大荷重関節である股関節には強力な筋肉群が存在し、屈曲・伸展、内転・外転、内旋・外旋の6方向の動きに作用する。強力な股関節周囲筋に由来する障害として、骨盤付着部の裂離骨折や炎症、肉離れ、筋腱靭帯の炎症などがある。

股関節の運動(筋)と支配神経
股関節の運動(筋)と支配神経

画像出展:「股関節の痛み」

b.神経

・股関節周囲の運動と知覚は、主に2つの脊髄神経叢[腰神経叢L2,L3,L4、脊髄神経叢L(4)5,S1,S2(3)]が支配している。腰仙椎神経根障害では股関節周囲に放散痛が生じるため、腰仙椎疾患の鑑別に注意が必要である。股関節周囲の理解しておくべき神経徴候・障害として、関連痛、Valleix点の圧痛、絞扼性神経障害がある。

1)関連痛

・内臓、筋、関節などの損傷によって、障害部位と離れた部位に感じる痛みを「関連痛」という、股関節の内側障害例では、股関節内側を支配する閉鎖神経が興奮し、閉鎖神経の分枝の支配域である大腿や膝に痛みを生じることがある。股関節の脊髄神経支配は多様であり、障害部位により関連痛領域が多岐にわたる。変形性股関節症において、膝以下まで疼痛が及ぶのは4~47%と報告され、腰仙椎部神経根障害との鑑別が困難な症例がある。

2)Valleix点

・神経痛がある場合に、体表近くを走行している神経の直上を圧迫して、圧痛を感じる部位といい、三叉神経痛では眼窩上・下孔がValleix点として知られている。腰椎椎間板ヘルニアや梨状筋症候群などの坐骨神経痛例では、ときに殿部で有痛性の坐骨神経を触知できる。

3)絞扼性神経障害

・股関節周辺では、様々な絞扼性神経障害が報告されているが、代表例として梨状筋症候群と感覚異常性大腿痛がある。

①梨状筋症候群

・梨状筋部での坐骨神経の絞扼性神経障害であり、坐骨神経痛(殿部痛・下肢痛)を生じる。坐骨神経走行の解剖学的破格以外に、梨状筋部での腫瘍、ガングリオン、異常血管などによる圧迫などが報告されている。

②感覚異常性大腿痛

・鼡径靭帯や上前腸骨棘部での外側大腿皮神経の絞扼性神経障害である。外側大腿皮神経は、上前腸骨棘の遠位内側で鼡径靭帯の下を通り大腿ヘ下行するが、様々な解剖学的破格があり、上前腸骨棘を乗り越えて下行する型もある。そのため、股関節の前方アプローチ、腸骨採骨、腹臥位手術、長時間の腹臥位、妊娠、分娩などにより障害され、大腿近位外側に不快な痛みや痺れを生じることがある。

骨盤出口部の解剖:鼡径部
骨盤出口部の解剖:鼡径部

画像出展:「股関節の痛み」

腰仙骨神経叢
腰仙骨神経叢

画像出展:「股関節の痛み」

c.血管

・骨盤、股関節の栄養血管の大部分は、内腸骨動脈の分枝と外腸骨動脈の末梢である大腿動脈とその分枝からなる。

1)内腸骨動脈

・内腸骨動脈の分枝で骨盤、股関節の栄養に関係するのは、①上殿動脈、②下殿動脈、③閉鎖動脈である。内腸骨動脈は骨盤壁に沿って走行するため、骨盤骨折に伴う血管損傷の大部分は内腸骨動脈枝である。また、鼡径部や殿部に分枝する血管が存在することから、内腸骨動脈枝である。また、鼡径部や殿部に分枝する血管が存在することから、内腸骨動脈閉鎖(瘤)が慢性的な鼡径部痛や殿部痛の原因となる。

2)外腸骨動脈

・外腸骨動脈の分枝で股関節周辺、大腿骨頭の栄養に関係があるのは、①大腿動脈と、これからの分枝である②内・外大腿回旋動脈の血管網である。大腿骨頚部骨折によりこれらの動脈はしばしば損傷され、大腿骨頭壊死が生じる。

骨盤と股関節の血管
骨盤と股関節の血管

画像出展:「股関節の痛み」

c.血管

・骨盤、股関節の栄養血管の大部分は、内腸骨動脈の分枝と外腸骨動脈の末梢である大腿動脈とその分枝からなる。

1)内腸骨動脈

・内腸骨動脈の分枝で骨盤、股関節の栄養に関係するのは、①上殿動脈、②下殿動脈、③閉鎖動脈である。内腸骨動脈は骨盤壁に沿って走行するため、骨盤骨折に伴う血管損傷の大部分は内腸骨動脈枝である。また、鼡径部や殿部に分枝する血管が存在することから、内腸骨動脈枝である。また、鼡径部や殿部に分枝する血管が存在することから、内腸骨動脈閉鎖(瘤)が慢性的な鼡径部痛や殿部痛の原因となる。

2)外腸骨動脈

・外腸骨動脈の分枝で股関節周辺、大腿骨頭の栄養に関係があるのは、①大腿動脈と、これからの分枝である②内・外大腿回旋動脈の血管網である。大腿骨頚部骨折によりこれらの動脈はしばしば損傷され、大腿骨頭壊死が生じる。

大殿筋と腰痛3

強める! 殿筋
強める! 殿筋

著者:John Gibbons

監訳:木場克己

発行:2017年1月

出版:医道の日本社

「まとめ」は”大殿筋と腰痛1”を参照ください。

 

4.マッスルエナジーテクニック

●マッスルエナジーテクニックの有用性

・マッスルエナジーテクニックは1948年、Mitchell, F.L によって紹介された。

・緊張した拮抗筋を弛緩させ、殿筋群の能力を最大限に発揮させる目的で利用する。

・マッスルエナジーテクニック(METs)はオステオパシーの手技による検査法と治療法である。

・患者は施術者の指示通りに与えられる圧力に抵抗しながら正確な方向、位置に筋肉を動かす。

・マッスルエナジーテクニックの目的

-過緊張状態の筋肉の張りの正常化:一般的にマッスルエナジーテクニックはマッサージと併せて行うが、これは動作とマッサージを組み合わせたものといえる。

-筋力低下した筋肉の活性化:患者は施術者による圧に抵抗し筋を収縮させる(等尺性収縮)。例えば、患者は最大筋力の20~30%の力で5~15秒収縮させる。そして、10~15秒の休憩を挟みながら、5~8回繰り返す。

-筋肉が伸長するための準備:可動域に加え柔軟性を高めたい場合は収縮の強度を高める。例えば、40~70%の強度である。これにより、運動単位での神経発火は高まり、ゴルジ腱紡錘への刺激が増加してさらに筋肉は緩む。

-関節可動域の改善:マッスルエナジーテクニックとは筋肉の収縮と弛緩を繰り返すことによって、関節可動域の改善を図る方法である。

●生理学からみたマッスルエナジーテクニックの効果

・マッスルエナジーテクニックの効果

-等尺性収縮後の筋伸長(Post-isometric relaxation:PIR)

-相反抑制(Reciprocal inhibition:RI)

・マッスルエナジーテクニックに関係する受容器

-筋紡錘:筋肉の伸縮の度合いや速度を感知

-ゴルジ腱紡錘:腱にかかる張力の変化を感知

・等尺性収縮後の筋伸長(PIR)と相反抑制(RI)の流れ

等尺性収縮後の筋緊張(PIR)と相反抑制(RI)
等尺性収縮後の筋緊張(PIR)と相反抑制(RI)

画像出展:「強める!殿筋」

 

 

-等尺性収縮が維持されている時、脊髄から筋肉への神経的フィードバックメカニズムを通してPIRが起こり、収縮した伸筋(大腿四頭筋)を減少させる[遠心性のピンク色のライン]。この緊張の減少は約20~25秒持続する。

-緊張が減少している約20~25秒の間、関節可動域内を容易に動かすことができる。

-拮抗筋である屈筋(ハムストリングス)は収縮を抑制する遠心性の神経インパルス[遠心性のオリーブ色のライン]により筋の収縮は抑えられる。

5.原因としての拮抗筋 ― 腸腰筋、大腿直筋、内転筋群の重要性

・Sherringtonの法則における相反抑制によると、過緊張状態にある拮抗筋は反射的に主動筋の働きを抑制している。このため、拮抗筋が緊張した状態にある場合、筋力低下した筋肉の強化の前に、まずは筋肉の緊張状態や伸長の度合いを正常に戻すことが優先される。

痛みによる抑制効果で起こる大殿筋や中殿筋などの活動パターンのアンバランスは、腰骨盤部の姿勢コントロールに影響を与え、大腿二頭筋、腸腰筋、大腿筋膜張筋、内転筋群を活発にする。腸腰筋、大腿筋膜張筋は大殿筋の拮抗筋。強力な外転筋の中殿筋[前部線維・中部線維]の拮抗筋は内転筋群である。

●腸腰筋の解剖学

〔起始〕

大腰筋:全腰椎の横突起。胸椎~腰椎の椎体。それぞれの腰椎椎体上の椎間板

腸骨筋:腸骨窩の上部2/3。腰仙骨、仙腸関節前靭帯

〔停止〕

大腿骨小転子

〔作用〕

股関節の主要屈筋と股関節外旋の補佐。停止部位からの働きで、背臥位から座位への変位時の体幹の屈曲

〔支配神経〕

大腰筋:腰神経叢(L1-L4)腹枝

腸骨筋:大腿神経(L1-L4) 

骨盤内の筋
骨盤内の筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

:大腰筋

:腸骨筋

骨盤内の筋(起始:停止)
骨盤内の筋(起始:停止)

画像出展:「人体の正常構造と機能」

左の図:筋の付着部を図示しています。

●色:大腰筋

●色:腸骨筋

 

 

下肢帯筋
下肢帯筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

:大腰筋

:腸骨筋

 

●大腿直筋の解剖学

〔起始〕

下前腸骨棘、寛骨臼上縁

〔停止〕

膝蓋骨、膝蓋靭帯を経て脛骨粗面

〔作用〕

膝関節における下腿の伸展、股関節においての大腿の屈曲。体幹の屈曲時、腸腰筋の補助。歩行時の踵接地時の膝関節の伸展の保持

〔支配神経〕

大腿神経(L2-L4) 

大腿前面(伸筋)の筋
大腿前面(伸筋)の筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

:大腿直筋

 

大腿の伸筋と屈筋
大腿の伸筋と屈筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

:大腿直筋

 

●内転筋群の解剖学

〔起始〕

恥骨枝前部。大内転筋は座骨粗面に起始を持つ

〔停止〕

大腿骨内側

〔作用〕

股関節の内転と内旋

〔支配神経〕

大内転筋:閉鎖神経(L2-L4)、座骨神経(L4、L5、S1)

短内転筋:閉鎖神経(L2-L4)

長内転筋:閉鎖神経(L2-L4)

大腿管、大腿三角、内転筋管
大腿管、大腿三角、内転筋管

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

大腿の内転筋
大腿の内転筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

大腿中央部の断面図
大腿中央部の断面図

画像出展:「人体の正常構造と機能」

大腿部中央の断面図です。

 

6.膝や足首の痛みを引き起こす大殿筋や中殿筋の問題

●膝の解剖学

・『患者が痛みを訴えているとき、その痛みが「原因」なのか、または純粋な「症状」なのかどうかを見極めなければならない。』

●腸脛靭帯摩擦症候群を引き起こす中殿筋と大殿筋

立脚期は同側の外転筋群、内転筋群、反対側の腰方形筋が一体となった働きをしている(側面スリング)。このとき、内転筋群が緊張していると、相反抑制により拮抗筋は伸ばされ機能低下をおこす。この場合、弱った外転筋群の代わりに、立脚期において役割を補完する大腿筋膜張筋の緊張が高まり、その結果、膝外側、大腿骨外側上顆で摩擦が起こりやすくなる。 

側面スリング機構
側面スリング機構

画像出展:「強める!殿筋」

腰方形筋”を見落としがちなので注意したいと思います。

 

 

大殿筋と大腿筋膜張筋は腸脛靭帯につながり、ともに歩行周期における立脚期における安定性に関わっている。大殿筋が抑制されると大腿筋膜張筋が優位となり、大腿骨外側上顆で前側に引っぱり、摩擦症候群につながる。

●膝蓋大腿疼痛症候群を引き起こす中殿筋

・膝蓋大腿疼痛症候群は、膝蓋軟骨軟化症、膝前部痛、マルトラッキング(膝蓋骨の動きを外側に偏らせる)、膝蓋後部痛などがある。これらはいずれも膝蓋大腿関節が痛みを発している状態であり、問題は大腿骨滑車構の関節軟骨内、または膝蓋関節内軟骨内(もしくはその両方)にある。

・膝蓋骨の滑車溝上での動きを変化させるものが、膝蓋大腿疼痛症候群(PFPS)の原因となる。

膝関節において内側広筋は特殊である。この意味は膝関節の痛みや炎症によって簡単に機能が抑制されてしまうということである。大腿直筋が抑制される関節液の増加量(60ml~)に対し、内側広筋はわずかな増加量(10ml~)で抑制されてしまう。このため内側広筋のリハビリは想像以上に難しく、腸脛靭帯の緊張増加が外側筋支帯に影響を与え、マルトラッキングを引き起こす問題とともに、膝の痛みの除去を困難なものにしている。

7.腰痛を引き起こす大殿筋や中殿筋の問題

●腰痛と殿筋群の関係性

・例えば左中殿筋が弱いと、体重がかかった時に骨盤は右側に傾く。すると腰椎は左側に傾き、椎間板は神経根だけでなく、左側の椎間関節に負荷がかかり痛みにつながる。また、左方向への傾きにより右側の腸腰靭帯や椎間関節の関節包が引き延ばされ、これもまた痛みの原因となる。また、左中殿筋が弱いと反対側の腰方形筋がより強く働き、補完しようとする。これが長期間続くと腰方形筋は短縮してトリガーポイントを形成し痛みにつながる。

・一定時間の歩行またはランニングで腰方形筋が拘縮し痛みが起こる患者に腰方形筋のトリガーポイント(ファッシア)のリリース等により腰方形筋を正常化することで痛みはなくなるが、歩いたり走ったりすることにより、元に戻ってしまうことがある。これは中殿筋の筋力低下により、対側の腰方形筋が頑張り過ぎたためである。

・大殿筋の拮抗筋である腸腰筋、大腿直筋や内転筋群の緊張は、歩行周期における股関節の伸展を制限する。それを代償するために同側の寛骨は前傾し、対側の寛骨は後傾する。ハムストリングス、とりわけ大腿二頭筋は、大殿筋の筋力低下で起こる寛骨の前傾の増加のメカニズムの一旦を担っている。

・歩行の間、仙骨と腰椎では自然な回旋の動きが起こるが、寛骨の回旋が増加しているとき、仙骨と腰椎は動きの代償を強いられる。腰椎と仙骨(第5腰椎と第1仙椎)の間には椎間板があり、この椎間板にねじりの動きが加えられる。これはスポンジから水を絞り出すようなもので、この種の負荷は椎間板にとって好ましいものではない。

●胸腰筋膜と大殿筋の関係性

・胸腰筋膜は厚く、強い靭帯で構成された結合組織で、体幹、股関節、そして肩の筋肉を覆い、つなげている。

正常な大殿筋は胸腰筋膜を引っぱり、一定の緊張を保つ役割を持っている。

・大殿筋は胸腰筋膜を通して反対側の広背筋とつながっており、歩行時において反対側の筋肉と作用し合い(後部斜角スリング)、胸腰筋膜の緊張を高める。この機能は体幹の回旋や下部腰椎、仙腸関節の安定に重要な役割を果たす。また、腰椎の安定と関係する深部筋(腹横筋や多裂筋など)との同時収縮も起こっている。これらの筋肉は四肢の動きに併せて同時収縮する。

仙腸関節の力拘束に関係する仙結節靭帯との直接的または間接的つながりから、腹横筋、多裂筋は大殿筋の収縮に反応する。

大殿筋の筋力低下には、胸腰筋膜の緊張を保つ機能を低下させ、それを補完するために反対側の広背筋や同側の多裂筋が過度に活発になるというメカニズムが存在する。 

ご参考:臨床家のための トリガーポイントアプローチ

こちらの本は、国内でトリガーポイントを広めてこられた黒岩共一先生の著書です。発行は1999年と新しくはないのですが、刺鍼方法などもとても詳しく解説されているためご紹介させて頂きます。

トリガーポイントアプローチ
トリガーポイントアプローチ

著者:黒岩共一

出版:医道の日本社

発行:1999年6月

 

 

『トリガーポイントは①仙骨後面の胸腰筋膜起始部、②仙骨外縁部、③上後腸骨棘外縁起始線維の上方1.5cmの硬結部および腸骨から大転子にかけて走行する上部線維の外側上縁部、④薄く一定の幅を持った仙結節靭帯起始線維に形成頻度が高い。』 

大殿筋のトリガーポイント
大殿筋のトリガーポイント

画像出展:「トリガーポイントアプローチ」

 

 

 

 

①仙骨後面の胸腰筋膜起始部のトリガーポイント

・このトリガーポイントは個体差が大きい。正中線近くから肥大して触知される場合もあれば、仙骨外縁近くにあって②のトリガーポイントと一体化されるものまで様々である。特徴は大変硬く索状[骨格筋あるいは筋膜内にあるひも状のしこり]であり、体幹後屈(伸展)で最も短縮痛が誘発されやすい点は共通である。

①と②の下方に形成されたトリガーポイントが尾骨の痛みとして感じられることがある。

・このトリガーポイントに対する刺鍼は、押し手の先端で硬結をしっかり挟んで保持し、骨に当たるまで刺入する。骨の直前に1mm以下の厚さで軟骨様の硬結を貫き、得気する。

②仙骨外縁部のトリガーポイント

激痛にして所在が不明な腰痛の成因になる。

短縮痛、圧痛が誘発されるため仰臥位になれないほど痛む場合もある。

・腸骨筋のトリガーポイントも活動すると、全く横になることができない程に痛む場合がある。

・外縁部のトリガーポイントは石のように硬く、鍼を大殿筋に貫通させて大・小座骨孔に刺入させることは難しい。

・慢性の仙骨外縁深部の痛みでは、仙骨外縁から指の太さで数本の索状硬結が起始する場合と1~2mm径の索状硬結が多数起始し、触知される場合がある。ただし、いずれも2cmくらい外側へ走行して触知不能になるかもしくは消失する。また、これらの索状硬結がなく、仙骨外縁を厚さ1~2mmの硬結が覆う場合もある。この膜上硬結は軟骨(キャラメル)様の刺鍼感があり、鍼はゆっくりしか刺入できない。

③上後腸骨棘外縁起始線維の上方1.5cmのトリガーポイントおよび腸骨から大転子にかけて走行する上部線維の外側上縁部のトリガーポイント

・前者のトリガーポイントは、上後腸骨棘外縁部に置いた母指を内側奥へと沈めると母指頭大の弾力性に富んだ硬結として触知される。関連痛は大転子までで、周囲近辺に放散する。刺鍼は圧迫感を感じ取れる方向すなわち内側上方か内側下方へ向けて行う。

・後者のトリガーポイントは4分の1の円弧を描く径の大きい索状硬結として触知される。この硬結は浅層にあるので、軽めの触察の方が判りやすい。刺鍼にはコツが必要であるが初級者であれば刺鍼転向法を繰り返して得気(「ああっ!それです」)を得られなくてはならない。硬結は太く長いので5~6本の刺鍼が必要になる。

④薄く一定の幅を持った仙結節靭帯起始線維のトリガーポイント

・この硬結は表層に薄く広く分布する。従って筋線維走行に直行するやさしい触察で認知できる。触察圧が強すぎると見落としやすい。

・このトリガーポイントは殿部から大腿への移行部に重なる。

遠隔部に放散することは少なく、痛みの箇所が判然としない腰痛ではこのトリガーポイントを疑ってみた方が良い。

大殿筋や 脊柱起立筋にトリガーポイントがある場合の座り方
大殿筋や 脊柱起立筋にトリガーポイントがある場合の座り方

画像出展:「トリガーポイントアプローチ」

大殿筋や 脊柱起立筋にトリガーポイントがある場合の座り方です。

 

 

 

大殿筋と腰痛2

強める! 殿筋
強める! 殿筋

著者:John Gibbons

監訳:木場克己

発行:2017年1月

出版:医道の日本社

「まとめ」は”大殿筋と腰痛1”を参照ください。

 

 

 

1.大殿筋

●大殿筋の解剖

〔起始〕

後殿筋線の後方とその上部、後部の骨の一部

仙骨・尾骨の背面の近接部。仙結節靭帯

脊柱起立筋の腱膜

〔停止〕

深層:大腿骨の殿筋粗面

浅層:大腿筋膜の外側部から腸脛靭帯

〔作用〕

股関節の内転の補助。腸脛靭帯を通しての伸展時の膝の安定性向上

上部線維:股関節の外旋と外転の補助

下部線維:股関節の伸展と外旋(ランニング時や、座位から立位への移行の際の力強い伸展)。体幹の伸展

〔支配神経〕

下殿神経(L5.・S1・S2)

●大殿筋の機能

股関節を外転、外旋させることで膝関節のアライメントの調整を助ける(階段を上がるときなど)。

仙腸関節を安定させる(力拘束を担う筋肉の一つである)。

-大殿筋はハムストリングスとともに、歩行周期において重要な役割を担っている。踵接地の直前、ハムストリングスが活性され、仙結節靭帯を通して仙腸関節への圧力が高まる。このつながりが、歩行中の荷重時の仙腸関節の安定を助ける。

-大殿筋線維の一部は、仙結節靭帯と胸腰部の筋膜に付着している。この筋膜につながる筋肉の一つが広背筋である。大殿筋は反対側の広背筋と胸腰部の筋膜を通してつながっている(後部斜角スリング)。このスリングは、歩行周期における片足立ち時の体重のかかった仙腸関節への圧力を高める。

-大殿筋は後部斜角スリングとのつながりを通して、立脚前期から中期にかけての仙腸関節の安定性に大きく寄与している。 

後部斜角スリングと広背筋とのつながり
後部斜角スリングと広背筋とのつながり

画像出展:「強める!殿筋」

●大殿筋の機能不全と筋力低下

大殿筋を神経的に抑制させる主な筋肉は、股関節の屈筋に分類される腸腰筋、大腿直筋、内転筋群がある。これらの屈筋が緊張し短縮すると大殿筋の筋力は低下する。

大殿筋の機能不全や筋力低下は、後部斜角スリングの有効性を低下させ、これが仙腸関節の障害につながる。また、これらの大殿筋の問題を補うため、反対側の広背筋(上腕骨と肩甲骨に付着)を緊張させる。その結果、肩関節が影響を受ける。

・大殿筋の機能不全や筋力低下によって、ハムストリングスは仙腸関節の安定や骨盤の位置を維持するために、筋肉を常に緊張状態にする。そして、このハムストリングスの緊張状態が続き、慢性化すると故障の原因となる。

●腰痛と大殿筋

腰痛患者の50~60%は、腰痛の根本的な原因が大殿筋にあると考えられる。 

各症状の原因と考えられる大殿筋の状態
各症状の原因と考えられる大殿筋の状態

画像出展:「強める!殿筋」

”各症状の原因と考えられる大殿筋の状態”

2.中殿筋

●中殿筋の解剖

〔起始〕

腸骨稜の外側、腸骨稜の下部、前殿筋線と後殿筋線の間

〔停止〕

大転子尖端の外側面

〔作用〕

上部線維:股関節の外旋と外転の補助

前部線維:股関節の内旋と屈曲の補助

〔支配神経〕

上殿神経(L4・L5.・S1)

●中殿筋の機能

・踵接地から立脚期において骨盤維持という重要な役割を担っている。

・ランニングに関わる故障を診るときに、中殿筋を検査する必要がある。

・オーバーユースによる下肢や体幹の故障を訴える患者の多くが中殿筋の機能低下を起こしている。

・中殿筋は前部、中部、後部と3つの部位に分けることができ、それが集まってできた幅広い腱が大腿骨大転子につながる。

中殿筋後部線維は大殿筋とともに、股関節の外旋をコントロールし、歩行周期の開始時に股関節、膝、下肢のアライメントを整える役割を担っている。

・中殿筋の機能低下はシンスプリント(脛骨内側過労性症候群)、足底筋膜炎、アキレス腱障害など、慢性的な過外反に関連する故障のリスクにさらされている。 

各症状の原因と考えられる中殿筋の状態
各症状の原因と考えられる中殿筋の状態

画像出展:「強める!殿筋」

”各症状の原因と考えられる中殿筋の状態”

殿部の筋
殿部の筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

左:浅層(大殿筋)

右:深層(中殿筋/小殿筋)

下肢帯筋
下肢帯筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

大殿筋は上から5番目です。

3.筋不均衡と筋膜スリング

・筋不均衡が生じる過程のどこかで殿筋が関係している。

・腸腰筋は常に収縮させられる筋肉であるが、不自然に収縮した状態を長時間強いられるとついにはその状態で固まってしまう。『腸腰筋の緊張は、ジグソーパズルのピースの一つであり、患者の訴える症状の重要な手がかりとなる。』

●姿勢筋と相動筋

・姿勢筋は屈筋によって構成されている。

・相動筋は伸筋によって構成されている。

姿勢筋・相動筋
姿勢筋・相動筋

画像出展:「強める!殿筋」

姿勢筋と相動筋
姿勢筋と相動筋

画像出展:「強める!殿筋」

・姿勢筋

-姿勢筋は負荷がかかると短縮する傾向を持っている。また、重力に対抗する役割を担い、姿勢保持と密接に関連している。

-姿勢筋は遅筋が優勢であり、多くは細い運動ニューロンにより支配されている。このため興奮閾値が低く、神経インパルスが相動筋より早く姿勢筋に伝わる。これにより、姿勢筋の持続的緊張状態は相動筋の働き(収縮)を阻害する。 

ゴースト血管をつくらない33のメソッド
ゴースト血管をつくらない33のメソッド

ブログ“ゴースト血管”では次のような記述がありました。『筋肉や体の動きによって、静脈内の血液の流れは変わる』。つまり、収縮を阻害され機能低下した筋肉の血流は悪化し虚血になる。そして血流を高めようとする発痛物質の作用で痛みが起こる。これが痛みの原因の一つと考えます。

 

・相動筋

-相動筋の主な機能は「動かすこと」であり、姿勢筋より表面にあって多関節にわたる傾向にある。

収縮して硬くなった筋肉は関連する相動筋の働きを阻害するが、その結果、相動筋は弛緩し筋力が低下する。腸腰筋[腸腰筋=腸骨筋&大腰筋]と殿筋の関係性はこれにあたる。

Study channel"というサイトに、「大腰筋と腸骨筋の機能と役割」というとても興味深いことが書かれていました。股関節屈曲の主動作筋は腸骨筋とのことです。

 

●筋不均衡の影響

・『筋不均衡を放置すれば、身体は不均衡を補完するための姿勢になり、筋骨格系への負担を増やし、組織の損傷、故障へとつながる。すると姿勢筋は縮まり、相動筋が弛緩して負のサイクルに入ることになるのだ。

・『筋肉が機能的でない場合や繰り返し負荷をかけられるとき、姿勢筋は短縮し、相動筋が弱まって「長さ」と「張り」の関係性に変化が起こる。最終的には筋肉が軟部組織や骨格の位置を変えることで、姿勢に直接影響を及ぼす。 

筋骨格系悪化の負のサイクル
筋骨格系悪化の負のサイクル

画像出展:「強める!殿筋」

”筋骨格系悪化の負のサイクル”

●体幹筋との関係

・骨盤、正確には仙腸関節は、安定性に影響を与える2つの主な要因である「形態拘束」と「力拘束」を有している。

・形態拘束

-寛骨(腸骨、仙骨、恥骨で構成される)と仙骨の形状(腸骨の間に仙骨がくさび石のようにはまる)により可能になる。

-平らな関節平面は関節面と平行な力に対しては弱いが、仙腸関節はその弱点を補うための3つの特長がある。それらは、仙骨が両側から寛骨により押さえされていること、他の滑膜関節とは異なり関節軟骨の表面が不規則でデコボコしていること、軟骨に覆われた骨部が関節の隆起線や溝にはまっていることの3つである。

・力拘束

形態拘束は不完全なため関節面の安定を図る必要があるが、これを行うのが、靭帯筋肉筋膜といった組織である。

・仙腸関節の安定性

-靭帯、筋肉、筋膜といった組織が協力して力拘束を担うシステムは、総じて「骨関節靭帯機構」と呼ばれている。

大殿筋の一部は胸腰部の筋膜だけでなく、仙結節靭帯ともつながっており、仙腸関節を安定させるのに重要な機能を果たしている。

-大殿筋は胸腰筋膜を通して反対側の広背筋につながり、後方斜角筋膜スリングを形成する。

-大殿筋の筋力低下や神経発火パターンの問題は二次的な問題として、反対側の広背筋の過活動を引き起こす。 

後部斜角スリングと広背筋とのつながり
後部斜角スリングと広背筋とのつながり

画像出展:「強める!殿筋」

”後部斜角スリングと広背筋とのつながり”

・仙骨の前傾(ニューテーション)と後傾(カウンターニューテーション)

-ニューテーションとは仙骨底の前下方(前傾)、カウンターニューテーションとは仙骨底の後上方(後傾)を指す。

仙骨の前傾(ニューテーション)と後傾(カウンターニューテーション)
仙骨の前傾(ニューテーション)と後傾(カウンターニューテーション)

画像出展:「強める!殿筋」

左:仙骨の前傾

右:仙骨の後傾

前傾ができないと片足時に不安定になる。

後傾は仙腸関節を緩めることで、寛骨の前方回旋と股関節の伸展を可能にする。[仙腸関節が緩まないと寛骨の前方回旋と股関節の伸展が抑制される]

後傾ができないと、腰部骨盤部が屈曲することになり、腰椎の不安定性につながる。

・力拘束靭帯

-力拘束を担う靭帯は仙骨から坐骨につながる仙結靭帯と、第3仙椎と第4仙椎から上後腸骨棘につながる後仙腸靭帯がある。 

力拘束靭帯
力拘束靭帯

画像出展:「強める!殿筋」

 

-靭帯はつながっている骨が動いて引っ張られるか、その骨についている筋肉が収縮することで関節への圧力を高める。[仙結節靭帯の張力は腸骨が仙骨に対して後方に動く前傾、または大腿二頭筋、梨状筋、大殿筋、多裂筋が収縮することで増大する〔大殿筋や梨状筋の機能が低下している場合、多裂筋や大腿二頭筋に負荷が集中するのではないか?〕]

-後傾を抑制する主な靭帯は、長後仙腸靭帯と後仙腸靭帯である。[後仙腸靭帯は長後仙腸靭帯と短後仙腸靭帯に分かれる。前者は仙腸関節の関節包後面を補強する靭帯で、仙骨の外側仙骨稜と下後腸骨棘をつなぐ。後者は短後仙腸靭帯を覆うようにその外側上方の靭帯で、仙骨の外側縁下部と上後腸骨棘をつなぐ]

仙腸関節が緩い場合、特に後傾に関しては水平または垂直にかかる負荷に対して骨盤が不安定になる。

-後仙腸靭帯は痛みを発することが多く、上後腸骨棘の直下で触診できる。

骨盤の安定性は靭帯だけでなく、筋組織がサポートしている。腰部、骨盤の安定に貢献している筋肉は、インナーマッスル(体幹)とアウターユニット(筋膜スリング機構)に分かれる。インナーユニットは腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋によって構成されている。アウターユニットはいくつかの筋機構(スリング)によって構成されており、インナーマッスルとアウターユニットが構造的、機能的につながることで身体全体の安定性や動作に担っている。

・フォースカップル(偶力)

定義:フォースカップル(偶力)とは、ある物体に対して同等の力が逆の方向に働き、純粋な回旋が起こっている状態のこと。

-筋不均衡によって起こる骨盤の位置の変化は、その他のキネティックチェーン(運動連鎖)に影響を与える。骨盤の適切な位置やアライメントは、いくつかのフォースカップルが関係している。  

骨盤フォースカップル(前傾)
骨盤フォースカップル(前傾)

画像出展:「強める!殿筋」

 

骨盤フォースカップル(後傾)
骨盤フォースカップル(後傾)

画像出展:「強める!殿筋」

 

骨盤フォースカップル(側方傾斜)
骨盤フォースカップル(側方傾斜)

画像出展:「強める!殿筋」

 

●インナーユニット:体幹

定義:静的安定とは、構造のアライメントを崩すことなく長時間一つの姿勢を保つ能力。

インナーユニット:体幹
インナーユニット:体幹

画像出展:「強める!殿筋」

 

・腹横筋

-腹筋の中で最深部に位置する。

-腸骨稜、鼡径靭帯、腰椎部の筋膜、6つの下部肋骨の軟骨部に起始を持ち、剣状突起、白線、恥骨で停止する。

-腹横筋の主な作用は腹壁を引っ張り、腹部を圧縮すること。脊椎を屈曲するわけでも、伸展するわけでもない。

直接側屈する役割は持たないが白線を安定させることで、体幹前側と横側の筋肉(内腹斜筋、外腹斜筋)の働きを支えている。

-吸気中、腹横筋が横隔膜の腱中心を引き下ろし、平らになると、胸腔は縦に伸び、腰部の多裂筋は圧縮される。

・多裂筋

-第5腰椎より下にわたる筋線維は腸骨と仙骨に付着する。

-多裂筋は連続する細かい筋肉で、表面部のものと深部のものに分けることができる。

-腰椎の屈曲や腰椎間にかかる剪断力に抵抗することに加え、腰椎の安定のために重要な伸展の役割を担っている。

-体重を椎骨全体で支えることで、椎間板への負担を減らす役割も持つ。

表面部分の多裂筋は脊柱を真っすぐに保つ働きを持ち、深部の多裂筋は脊椎の全体的な安定性に貢献している。

-『Richardson, C. らの研究(1999)は、腰部多裂筋と腹横筋が腰痛の安定性の要であることを証明した。これらの筋肉が胸腰筋膜とつながり、Richardson, C. らの言う「腰痛対策の自然な深部筋肉コルセット」(a natural, deep muscle corset to , deep muscle corset to protect the back from injury) となる。』

ご参考:Richardson, C., Jull, G., Hodges, P., and Hides, J. 1999. Therapeutic Exercise for Spinal Segmental Stabilization in Low back pain: Scientific Basis and Clinical Approach, Edinburgh: Churchill Livingstone. (翻訳書 「脊椎の分節的安定性のための運動療法:腰痛治療の科学的基礎と臨床」 エンタプライズ,2002)

 

左をクリック頂くと、PDF4枚の資料がダウンロードされます。こちらの論文にも骨盤と多裂筋の関係が書かれています。

〔目的〕体幹と骨盤の動きを必要とする座位に着目し、骨盤の傾斜角度の違いが背筋群の筋活動に与える影響を検討した。

〔対象〕腰痛の既往のない健常成人男性10名。

〔方法〕測定肢位を骨盤軽度後傾位(以下後傾位)と骨盤軽度前傾位(以下前傾位)とし、課題を安静座位と腹部引き込み運動とし、肢位と課題の組み合わせの4 条件下での腰部脊柱起立筋と腰部多裂筋の筋電図を導出した。課題間の比較は、一元配置分散分析後,多重比較検定を実施した。

〔結果〕安静座位と腹部引き込み運動の課題において、多裂筋の筋活動は後傾位に対し前傾位で有意に増加したが、脊柱起立筋の筋活動に有意な差はなかった。これは骨盤前傾作用として多裂筋の筋活動が増加したと考える。

〔結語〕前傾位は脊柱起立筋の筋活動を有意に増大することなく、選択的に多裂筋の筋活動を高めることができる姿勢と考える。

-腰仙部の多裂筋は収縮すると、後方に胸腰筋膜に沿って広がる。この作用は腹横筋が収縮し、胸腰筋膜を脊柱起立筋と多裂筋に引き寄せることで強まり、体幹の安定性を高める。

錐体筋
錐体筋

画像出展:「強める!殿筋」

 

●アウターユニット:統合筋膜スリング機構

・アウターユニットの力拘束は後縦、側面、前面、後斜という、4つの筋スリング機構から成り立っている。  

後縦スリング機構と側面スリング機構
後縦スリング機構と側面スリング機構

画像出展:「強める!殿筋」

 

前斜スリング機構と後斜スリング機構
前斜スリング機構と後斜スリング機構

画像出展:「強める!殿筋」

 

●アウターユニット:統合筋膜スリング機構

・アウターユニットの力拘束は後縦、側面、前面、後斜という、4つの筋スリング機構から成り立っている。  

これらの筋膜スリングによる力拘束で骨盤は安定する。これらのうちのどれかが弱いと、機能不全が起こり腰痛につながる。

・スリングには起始停止という考えはなく、力を伝導するのに応じたつながりという考え方に基づく。

・スリングとは、すべてをつなげている一つの筋膜機構内の各部分を指す。特定動作のスリングはあくまでその一つの大きな筋膜機構の一部である。

スリングのどの部分で動きが制限され安定性に支障を来しているのかを理解するために、筋肉の機能不全(筋力低下、不適切な活動、緊張)の箇所を見極め、治療することが重要である。

アウターユニットの4つの機構が効果的に機能するためには、インナーユニットによる関節の安定性が必要である。

-アウターユニットが機能するために必要な身体の安定性をインナーユニットが十分につくられていない場合、筋肉のアンバランス、関節の故障、パフォーマンスの低下につながる。

●悪い姿勢

・痛みと攣縮[痙攣性の筋収縮]のサイクル

-『姿勢の問題による初期の痛みの原因は、虚血である。筋肉への血流量は筋収縮の程度に反比例し、50~60%の収縮で血液量はほぼ0にまで落ちる。慢性的に10%を超える等尺性収縮[一定の姿勢で動かない抵抗に対し筋肉を収縮させること]の状態だと、身体が恒常性を保てなくなるという研究もある。

頭の重さは体重の約7%(肩と腕が約14%)である。例えば体重80㎏の人であれば、頭の重さは5~6㎏程度である。もし頭と肩が理想的な姿勢から前方に突出した場合、頚部伸筋の過活動につながり、結果として血流が低下する。慢性的な等尺性収縮は筋肉に嫌気性代謝を強いることになり、乳酸やその他の痛みの原因となる物質[ブラジキニン、プロスタグランジンなど]を増加させる。適切な休息を取らないと、すでに虚血状態の筋肉の反射性収縮が始まる。そうなると、痛みと攣縮のサイクルという悪循環に陥ることとなる。』 

痛みと攣縮のサイクル
痛みと攣縮のサイクル

画像出展:「強める!殿筋」

 

大殿筋と腰痛1

思ったように施術の効果が上がらない患者さまがおいでです。腰痛に加え、お尻(殿筋)から太ももの裏(ハムストリングス、特に大腿二頭筋)の痛みも訴えられていました。

腰痛の場合、殿筋に関しては腰痛との関連が強いとされる“中殿筋(小殿筋)”や坐骨神経との関係が深い“梨状筋”に対しては、ほぼ定番のように刺鍼しています。しかしながら、今回は結果が出ていませんでした。

「これは、もしかして大殿筋なのかなぁ?」との思いから、ネット検索してみると、腰痛とお尻の筋肉に関するサイトが数多く出てきました。以下はその一部です。

画像出展:「TENTIAL」

 

画像出展:「腰痛トレーニング研究所

画像の方をクリック頂くと、“サライ.jp”にある川口陽海先生の“腰痛改善教室”のページに移動します。

なお、川口先生のサイトに掲載されている“トリガーポイントの図”ですが、“The Trigger Point & Referred Pain Guide”というサイトには全部で 111の筋肉のトリガーポイントが紹介されています。(Googleの右上の“翻訳”が便利です)

トリガーポイントマニュアル
トリガーポイントマニュアル

こちらのイラストは、「トリガーポイントマニュアル」という本に掲載されてるものです。初版発行が1992年と古いため内容的には一部見直しが必要な個所もあるようですが、まさに“トリガーポイント”のバイブル的存在の本です。ちなみに、私が見たときは、ヤフーオークションで全巻4冊セットが“¥150,000即決”として出品されていました。

なお、これらの本は国会図書館や都立中央図書館で閲覧、コピーが可能です。実は、私も10年近く前に腰痛に関係しそうな筋を中心にせっせとコピーを取っていました。

そこで、今回はそのコピーを引っぱり出し、興味深い箇所をご紹介させて頂きます。 

画像出展:「Amazon

症候

●ほとんどの大殿筋TrPs(トリガーポイントのことですが、イラストに合わせ“TrP?”を使っています)から放散した痛みは、特に前方屈曲姿勢で上り坂を歩くことにより悪化する。

●坐骨結節近位のTrP2をもつ患者は、座った時にしばしば不快と不安を感じる。

TrP3(坐骨結節内下方)から放散した尾骨痛を訴える患者は、長時間座っている間に、局部圧痛およびTrPsの圧迫で生じた関連痛を避けようと、もじもじ身をくねらせることもある。

●坐骨結節を被う結合組織と皮膚は、長時間の直立位の後に不快な虚血状態となる。

●圧迫を回避するための動きに伴う荷重はTrP2を増加させる。

●大殿筋のTrPsは着座姿勢を避ける。椅子は快適なものではない。

●鑑別診断(大殿筋・中殿筋・小殿筋) 下図8.5参照

大腿部への痛みの放散は、大殿筋のTrPsは大腿部近位の数cm程度である。一方、中殿筋のTrPsでは大腿中間部に痛みを放散することもある。また、小殿筋のTrPsは膝の下に痛みを放散する。

・大殿筋の緊張は股関節の屈曲を制限し、中殿筋、小殿筋は股関節の内転を制限する。

・大殿筋のTrPsによる放散する圧痛は、下層の中殿筋、小殿筋のTrPsの検出を難しくさせる場合がある。

大殿筋は仙骨に付着する筋の一つで、通常、仙腸関節のずれがTrPsの活性化の原因になる。

トリガーポイントの活性化と永続化

●転倒を防ごうと激しい筋収縮を維持するときにTrPsの活性化が起きやすい。

●片側の殿筋を直接強打する衝撃は大殿筋のTrPsを活性化するおそれがある。

●前屈みで長時間歩くことは大殿筋を過負荷にする。

●大腿を深く曲げ、横向き眠ることは上層の大殿筋を過度に伸展させ、TrPsを活性化する。

●大殿筋のTrPsを永続化する代表的な運動は股関節の伸展に加え、腰椎を過伸展させる水泳(クロール)である。

頻繁に屈んだり、赤ちゃんを囲いから外に持ち上げるような反復動作は大殿筋のTrPsを永続させる。

同じ姿勢で長時間座っていることは大殿筋のTrPsを永続させる。

関連のトリガーポイント

中殿筋後部は大殿筋TrPsと関連してTrPsが最も発生しやすい。また、小殿筋後部およびハムストリングス(膝屈曲筋群)は、中殿筋後部の次に影響を受けやすい筋である。

●大殿筋の拮抗筋である腸腰筋、大腿直筋にもTrPsが生じることもある。 

大殿筋・中殿筋・小殿筋
大殿筋・中殿筋・小殿筋

画像出展:「トリガーポイントマニュアル」

図8.5になります。

 

そして、4回目の施術の時、大殿筋のトリガーポイントを意識して刺鍼してみました。すると、翌週ご来院頂いた時には、ピーク時の痛みを10とすると7ぐらいになったとのお話で、初めて確かな手応えを感じることができました。

大殿筋も腰痛にとって重要な筋肉ということが分かり、「勉強しないといけないなぁ」との思いから、見つけたのが今回の『強める! 殿筋 -殿筋から身体全体へアプローチ-』という本です。殿部の筋肉は骨盤を支え、身体のバランス維持に力を発揮するとのことです。そして、次の言葉が印象的でした。

『(第5章では)大殿筋に焦点を絞り、この筋肉がどのように患者やアスリートに多い問題、とりわけ腰痛とかかわってくるかについて話したい。大殿筋は、私がこれまで会ってきたほとんどの治療家に軽視されているように感じる。その理由は恐らく、大殿筋自身が痛みを発することが滅多にないからであり、それにより、このすばらしく機能的な筋肉は無視され続けてきたのである。 

強める! 殿筋
強める! 殿筋

著者:John Gibbons

監訳:木場克己

発行:2017年1月

出版:医道の日本社

 

ブログはまず目次をご紹介していますが、今回は目次に沿った内容にはなっておらず、全体的にもスッキリ感が乏しいため、最初に大殿筋を中心とした“まとめ”を書くことにしました。また、長くなったため3つに分けました。『 』は引用、少し小さい[ ]および〔 〕は私が追記したものです。

Contents

監訳者のことば

まえがき

謝辞

第1章 身体各部とつながる大殿筋

●ケーススタディ

・評価

・ホリスティック(全身的)なアプローチ

・大腿筋の機能

・つなぎ合わせる

・治療法

・予後と結論

第2章 筋不均衡と筋膜スリング

●姿勢

●姿勢筋と相動筋

・姿勢筋

・相動筋

●ストレッチ前後の筋活動

●筋不均衡の影響

●体幹筋との関係

・形態拘束

・力拘束

・仙腸関節の安定性

・仙骨のニューテーションとカウンターニューテーション

・力拘束靭帯

・フォースカップル(偶力)

●インナーユニット:体幹

・腹横筋

・多裂筋

・「油圧増幅器」

●アウターユニット:統合筋膜スリング機構

●悪い姿勢

・矢状面で見た姿勢変位

・痛みと攣縮のサイクル

第3章 殿筋と歩行周期

●歩行周期

●踵接地

●筋膜のつながり

●骨盤の動き

第4章 脚長差と過外反 ― 殿筋による影響

●脚長差のタイプ

●検査

●足と足首の位置

●構造性短下肢と骨盤の関連性

●構造的脚長差と体幹、頭部との関連性

●脚長差と歩行周期

・腸腰筋の補正のまとめ

・仙骨と腰椎の補正のまとめ

●過外反症候群

●脚長差と殿筋

●立位バランス検査

第5章 大殿筋の機能解剖学

●大殿筋の解剖

●大殿筋の機能

●大殿筋の検査

・股関節伸展時神経発火パターン検査

●ケーススタディ

・運動歴

・検査時において

・大殿筋神経発火パターン検査

・治療

●結論

第6章 中殿筋の機能解剖学

●中殿筋の解剖学

●中殿筋の機能

●中殿筋の検査

・股関節外転時神経発火パターン検査

・中殿筋前部、後部筋線維の筋力検査

・中殿筋後部筋線維の筋力検査

第7章 マッスルエナジーテクニック

●マッスルエナジーテクニックの有用性

・過緊張状態の筋肉の正常化

・筋力低下した筋肉の活性化

・筋肉が伸長するための準備

・関節可動域の改善

●生理学からみたマッスルエナジーテクニックの効果

●マッスルエナジーテクニックの適用方法

・「バインドの位置」または「制限バリア」

・手順

・急性期と慢性期

●PIR vs RI

・PIRの例

第8章 原因としての拮抗筋 ― 腸腰筋、大腿直筋、内転筋群の重要性

●腸腰筋の解剖学

・腸腰筋の検査

・腸腰筋へのマッスルエナジーテクニックを用いた治療

・腸腰筋への筋膜リリース

●大腿直筋の解剖学

・大腿直筋の検査

・大腿直筋へのマッスルエナジーテクニックを用いた治療

・大腿直筋への筋膜リリース

・大腿直筋へのマッスルエナジーテクニックを用いた異なる治療法

●内転筋群の解剖学

・内転筋群の検査

・内転筋群へのマッスルエナジーテクニックを用いた治療

第9章 膝や足首の痛みを引き起こす大殿筋や中殿筋の問題

●膝の解剖学

●膝の故障

●腸脛靭帯摩擦症候群を引き起こす中殿筋と大殿筋

・腸脛靭帯摩擦症候群とは

●膝蓋大腿疼痛症候群を引き起こす中殿筋

・膝蓋大腿疼痛症候群とは

●内側側副靭帯と半月板の痛みを引き起こす中殿筋

●中殿筋と大殿筋と足首の捻挫との関係性

第10章 腰痛を引き起こす大殿筋や中殿筋の問題

●腰椎の解剖学

●椎間板ヘルニア

●変形性椎間板疾患

●椎間関節症候群・疾患

●腰痛と殿筋群の関係性

●胸腰筋膜と大殿筋の関係性

第11章 殿筋群の抑制効果による筋力低下の鑑別

●デルマトームとミオトーム

・股関節関節包炎と腸骨大腿靭帯

第12章 大殿筋と中殿筋の安定性向上とエクササイズ

●文献レビュー

・中殿筋と側臥位股関節外転

・中殿筋と足底装具の使用

●リハビリの方法

・回数とセット数

●オープンキネティックチェーンエクササイズ

・オープンクラムエクササイズ

・サイドラインアブダクション

・サイドプランク

・四つん這いからのヒップエクステンション

・フロントプランク

●クローズドキネティックチェーンエクササイズ

・腹臥位での分離動作パターン

・グルテアルスクイーズ(腹臥位)

・スクイーズ&リフト

●バランススタビライゼーション

・Level1 立位での分離動作パターン ― グルテアルスクイーズ(立位)

・Level2 バランス ― 交互片足立ち

・Level3 バランスとコーディネーション

付録 大殿筋と中殿筋の安定性向上とエクササイズシート

参考文献一覧

索引

まとめ

腰痛患者の50~60%は、腰痛の根本的な原因が大殿筋にあると考えられる。

大殿筋の機能は股関節の外転、外旋、そして仙腸関節を安定させることである。

■大殿筋の一部は胸腰部の筋膜だけでなく、仙結節靭帯ともつながっており仙腸関節を安定させる。

大殿筋を神経的に抑制させる主な筋肉は、股関節の屈筋に分類される腸腰筋、大腿直筋、内転筋群であり、これらの屈筋が緊張し短縮すると大殿筋の筋力は低下する。

■大殿筋の機能不全や筋力低下は、後部斜角スリングの有効性を低下させ仙腸関節障害につながる。

■大殿筋の機能不全や筋力低下は、仙腸関節の安定や骨盤の位置を維持するために、ハムストリングスを常に緊張状態する。この緊張状態が続き慢性化すると故障の原因となる。

収縮して硬くなった姿勢筋は関連する相動筋の働きを阻害し、相動筋は弛緩し筋力が低下する 

姿勢筋と相動筋
姿勢筋と相動筋

画像出展:「強める!殿筋」

 

■仙腸関節は「形態拘束」と「力拘束」によって安定を図る。

■形態拘束は不完全なため関節面の安定を図る必要があるが、これを行うのが、靭帯、筋肉、筋膜といった組織である。

■姿勢筋と相動筋が構造的、機能的につながることで身体全体の安定性や動作を担っている。

筋膜スリングによる力拘束で骨盤は安定する。これらに問題があると機能不全が起こり腰痛につながる。特に姿勢筋による関節の安定性が重要である。

後縦スリング機構と側面スリング機構
後縦スリング機構と側面スリング機構

画像出展:「強める!殿筋」

左:後縦スリング

右:側面スリング

 

前斜スリング機構と後斜スリング機構
前斜スリング機構と後斜スリング機構

画像出展:「強める!殿筋」

左:前斜スリング

右:後斜スリング

 

■大殿筋が抑制されると大腿筋膜張筋が優位となり、大腿骨外側上顆で前側に引っぱり、腸脛靭帯摩擦症候群につながる。

■大殿筋の筋力低下は胸腰筋膜の緊張を保つ機能の低下が起こり、それを補完するために反対側の広背筋や同側の多裂筋が過度に活発になるというメカニズムが存在する。

※コメント

今まで、腰痛の患者さまで改善がなかなか進まない症例がありました。これらは”大殿筋”を軽視していたことが大きな要因だったかもしれません。

足関節捻挫後遺症

“慢性捻挫”や“捻挫ぐせ”と呼ばれるものは、現在「慢性足関節不安定症CAIChronic Ankle Instability」と呼ばれています。数知れない捻挫によって、ちょっと動かしただけでコキコキ音がする私の足首は慢性足関節不安定症だと思います。

定期購読は止めたものの、興味ある内容のときは「月刊スポーツメディスン」を購入しています。送られてきたメールから、No.215(2019年11月号)の特集が“足関節捻挫後遺症の課題を整理する”であることを知り、迷うことなく注文しました。 

スポーツメディスン 2019年11月号
スポーツメディスン 2019年11月号

出版:ブックハウス・エイチディ

発行:2019年11月

寄稿は以下の4つです。

1.慢性足関節不安定症に対する治療の現状と課題

2.足関節捻挫が関節機能に及ぼす影響

3.足関節捻挫がスポーツパフォーマンスに及ぼす影響と課題

4.足関節捻挫における後遺症が将来的な健康に及ぼす影響と課題

ブログはを取り上げていますが、“”ではCAIの概要と2019年に更新された“CAIの業態モデル”をご紹介し、“”では鍼治療の視点から、筋肉に注目しながら表形式にまとめ、そこで洗い出された筋群を遠隔治療の筋肉と位置づけてみました。また、局所治療については、『スポーツ鍼灸の実際』と『スポーツ鍼灸臨床マニュアル』という本に書かれていた足関節捻挫の治療法をご紹介しています。

1.慢性足関節不安定症に対する治療の現状と課題

北海道千歳リハビリテーション大学 健康科学部 リハビリテーション学科

理学療法士、博士(医療工学) 小林匠

足関節捻挫と慢性足関節不安定症

CAIは足関節捻挫を繰り返すことで、慢性的に足関節に不安定感を抱いてしまう病態で、一般的には“捻挫ぐせ”と言われたりもします。CAIの原因となる足関節捻挫はさまざまなスポーツ種目において最も発生率の高い外傷の一つです。日常生活でも“ころぶ”・“つまずく”・“すべる”など、さまざまな場面に足関節捻挫のリスクは潜んでいます。前述のとおり、スポーツ現場において足関節捻挫は軽視されることが多く、ヨーロッパのサッカーリーグに所属する選手を対象とした研究では、足関節捻挫を受傷した選手が復帰するまでの平均期間は8日と報告されました。他の研究でも足関節捻挫を受傷した選手の95%が11日以内にスポーツ復帰できたとされています。一方、スポーツ復帰段階では足関節の背屈可動域制限や動的バランスの低下、自覚的機能低下、靭帯の緩みなどの関節機能の問題を抱えていることも示されています。言い換えると、足関節捻挫を受傷した選手の多くが、十分な関節機能の回復を待たずしてスポーツ復帰しているということになります。このような状況が足関節捻挫の再発率を高め、結果的に後遺症に悩まされる選手を生んでしまっている要因と推測されます。』

新たなCAIの病態モデル

『今年になって[2019年]HertelがCAIの新たな病態モデルをJournal of Athletic Trainingにて発表しました。このモデルは主に、

①一次組織損傷(primary tissue injury)

②病理機械的障害(pathomechanical impairments)

③感覚・知覚障害(sensory-perceptual impairments)

④運動行動障害(motor-behavioral impairments)

⑤個人要因(personal factors)

⑥環境要因(environmental factors)

⑦各コンポーネントの相互作用(component interactions)

⑧臨床結果のスペクトル(the spectrum of clinical outcomes)

の8つのコンポーネントから構成されており、2002年にHertel自身が公表したモデルからは、より複雑かつ詳細なものに改変されています(図3)。 

慢性足関節不安定症の病態モデル
慢性足関節不安定症の病態モデル

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

このモデルの中心には、②病理機械的障害(pathomechanical impairments)、③感覚・知覚障害(sensory-perceptual impairments)、④運動行動障害(motor-behavioral impairments)の3つのコンポーネントが位置し、各コンポーネント内にあげられている障害には、これまでの研究によってCAI患者で特異的に認められるとされた要因が含まれます。

また、③感覚・知覚障害(sensory-perceptual impairments)と④運動行動障害(motor-behavioral impairments)は知覚(perception)と行動(action)を通じて互いにリンクしており、そこには神経系の記憶や痕跡・符号(neurosignature)が関与し、疼痛の発生に影響するとされています。すべてのCAI患者がこのモデルであげられるすべての障害を有しているわけでなく、各患者で障害は異なり、個人要因や環境要因が加わることで、臨床結果(Outcome)は、足関節捻挫の再発(recurrent ankle sprain)から完全復帰(full recovery)に向けたスペクトルで表現され、CAI患者は症状を有さないCoperに向けて段階的に復帰を目指すことになります。一見するとこのモデルは非常に複雑に感じますが、これまでのモデルと比較すると、より臨床に即したものになったと言えます。今後は、この病態モデルをベースにCAI患者の臨床・研究が発展していくと思われます。』

2.足関節捻挫が関節機能に及ぼす影響

NTT東日本札幌病院リハビリテーションセンター

北海道大学 大学院保健科学研究院 客員研究員

理学療法士、博士(保健科学) 越野裕太

足関節捻挫による関節障害の評価

図5:前方引き出しテスト

図6:スクィーズテスト

図10:Medial subtalar glide test

図11:Plantar flexion break test

図12:最終域底屈筋力評価

前方引き出しテスト
前方引き出しテスト

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

スクイーズテスト
スクイーズテスト

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

足部の機能障害の評価

図14:前足部アライメントの評価

図15:第1趾列の可動性評価

図16:short foot exercise

図17:toe spread out 

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

膝および股関節の機能障害の評価

図なし:股関節の外転と外旋の筋力評価

図19:筋反応の評価

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

こちらは”ハンドヘルドダイナモメーター”とその使用例(下段)です。

画像はオージー技研さまより拝借しました。


足関節捻挫の遠隔治療の筋肉

1.大腿後面の筋(ハムストリングス:大腿二頭筋、半腱様筋・半膜様筋

2.下腿の筋腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋、長指(趾)屈筋、長母指(趾)屈筋、長腓骨筋

3.足部内在筋(足裏への刺鍼は強い痛みを伴うため、基本的には施術対象外と考えています)

4.股関節外転筋・外旋筋大殿筋、中殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋、梨状筋など

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

図中の右上の2つ並んだイラストですが、うすい灰色は、長指屈筋(左)、長母指屈筋(左)、長腓骨筋(右)の各筋肉です。これを見るとこれらの筋肉は下腿から足裏まで伸びていることが分かります。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

足関節捻挫の局所治療例

編集者:福林 徹、宮本俊和

出版:医道の日本社

発行:2009年7月

新鮮例

置鍼・雀啄術

刺激部位は腫脹部の周辺を取り囲むようにし、その円の中に数本切皮程度の深さ(2-3mm)にとどめ置鍼していく。

受傷部への雀啄術は圧痛点を中心に行う。ただし、熱感や腫脹がある程度引いてから行うようにする。それ以前に行うと増悪する場合もある。腫脹・熱感が強い場合は、遠隔部での刺激が無難である。前距腓靭帯は関節包内靭帯で、靭帯に直接鍼を刺入することは関節包内への刺鍼になるので刺入の深さには注意する。

陳旧例

基本的には“新鮮例”の治療法と同じと考えてよいが、新鮮例よりも刺鍼部位は多く、深度は深くなる場合が多い。圧痛が不明瞭であったり広範囲に及ぶことがあるので、よく確認する。

足根洞への刺鍼(深さのは目安は1~3cm程)

足部と捻挫の関係性!?足根洞症候群の原因・症状、リハビリについて

こちらは、北海道の理学療法士である佐藤てつや先生によるものですが、

足根洞症候群」について分かりやすく説明されています。

特に次の点はとても重要なので列記させて頂きます。

・外反ではなく、足関節内反捻挫などに伴う内出血が足根洞に流れることが大きな要因である。

・足関節を背屈させた時に症状が強く自覚されることが特徴の1つである。

・足根洞症候群の患者では、腓骨筋群の運動で異常を示すと報告されている。

(筋トレの動画では”腓骨筋”に加え”後脛骨筋”も紹介されています)

著者:松本 勅

出版:医歯薬出版

発行:2003年7月

靭帯の損傷が大きく、疼痛、腫脹、機能障害などが顕著な場合は一般治療(整形外科治療)を優先させるが、軽度の場合は消炎、鎮痛、腫脹の軽減などを目的に腫脹の周辺への数本の刺鍼および損傷靭帯部への1靭帯1本の刺鍼を行い、可能であれば10~20分間置鍼する。後に円皮鍼を腫脹の周縁部に留置してもよい。

損傷靭帯部の刺鍼は、前距腓靭帯は外果の前下部(中封穴付近)に、踵腓靭帯は外果の下部(申脈穴付近)に、後距腓靭帯は外果の後下部に、外側距腓靭帯・二分靭帯(踵立方靭帯と踵舟靭帯)・背側踵立方靭帯は外果前下部よりもさらに前方にあるので、指先で腫脹・圧痛を調べて靭帯を確認して的確に刺入する。

ご参考

鍼は筋力低下を予防し、免疫力の回復を早める

こちらは、『スポーツ鍼灸の実際』の編集をされた宮本俊和先生の記事です。以前から疑問に感じていたことで、今回、たまたま見つけたのでご紹介させて頂きます。(残念な点は、実験がマウスによるものというところです)

筋肉の萎縮を防ぐ鍼(はり)

骨折後、ギプスで固定をしていると筋力が低下したり、ひざの靭帯損傷の手術後、動かさないでいると太ももの筋力が低下する、あるいは、寝たきりでいると筋肉が萎縮していく廃用性筋萎縮を起こします。それに対して鍼は何ができるか、という実験をしました。スポーツ選手ですと、低下した筋肉を回復させるためにアスレティックリハビリテーション(競技種目に必要な体力や技術を付けるための特別なリハビリテーション)を行いますが、鍼を使用することでこの期間を短縮できるか、あるいは筋肉の萎縮の速度を遅くできるか、を目的に置いた実験です。

マウスの後ろ足を宙吊りにして使えないようにして前足だけで自由に動けるようにし、鍼をする群と何もしない群に分けます。2週間後、何もしなかったマウスの後ろ足のヒラメ筋(ふくらはぎの筋肉)は萎縮を起こしていましたが、2日に1回30分間、筋肉に鍼通電刺激を与えていたマウスは、4足で走らせていたマウスと同程度の筋肉の量がありました。この実験で、筋肉を使わないことで起こる筋萎縮を鍼通電刺激が抑制している可能性がわかりました。』

股関節捻挫

大学時代のサッカー仲間から電話がありました。試合中に思わず放ってしまったスライディングタックルにより左股関節を痛め、病院での診察(X線検査)の結果“股関節捻挫”と診断されたとのことでした。

最初に思ったことは「股関節捻挫って何だろう?」ということです。これは足首の捻挫であれば外側の靭帯(前距腓靱帯)、膝の捻挫であれば側副靭帯や十字靭帯など、まず思い浮かぶのは“靭帯”だったため股関節捻挫と聞いて「股関節の靭帯ってどこ?」ということを考えてしまいました。なお、この“捻挫”に対する認識自体が正しくなかったということは後になって分かりました。

本題からは少し外れますが、ご参考までに股関節の靭帯をご紹介します。

腸骨大腿靭帯と恥骨大腿靭帯の癒合部は脆弱
腸骨大腿靭帯と恥骨大腿靭帯の癒合部は脆弱

靭帯の癒合分のうち、前側の腸骨大腿靭帯と恥骨大腿靭帯の癒合部は脆弱部とされています。

画像出展:「からだの構造と機能Ⅱ」

腸骨大腿靭帯と坐骨大腿靭帯
腸骨大腿靭帯と坐骨大腿靭帯

画像出展:「からだの構造と機能Ⅱ」

そして、捻挫の定義については、「日本整形外科学会」に書かれているものをご紹介します。

日本整形外科学会
日本整形外科学会

『関節に力が加わっておこるケガのうち、骨折や脱臼を除いたもの、つまりX線(レントゲン)で異常がない関節のケガは捻挫という診断になります。したがって捻挫とはX線でうつらない部分のケガ、ということになります。具体的には靭帯や腱というような軟部組織といわれるものや、軟骨(骨の表面を覆う関節軟骨、間隙にはさまっているクッションである半月板や関節唇といわれる部分)のケガです。』

施術について

1.有効性

股関節捻挫とはいえ、損傷した股関節周辺の筋肉(内転筋など)に緊張や硬結が発生し、それによる筋肉由来の痛みも含まれているだろうと考え、鍼治療は痛みの軽減に有効であると判断しました。

2.施術理由(患者さま)

病院での診断後、約2週間経っても痛みの改善がほとんどみられず、歩くのもつらい。

3.施術内容(標治)

恥骨筋を中心に内転筋群への集中刺鍼。

4.施術経過

3月に2回、4月に1回。4月に来院されたときは、「ジョギングはできるようになった」とのことでした。そして、約1か月半後の5月後半の来院時には、少し気になるもののサッカーの試合には出ているという状況でした。

5.新たな痛み

ほぼ完治となったものの、新たな痛みが出ていました。それは仰向けの姿勢から上体を起こそうとすると(股関節屈曲)、患部付近に強く鋭い痛みが発生するというものでした。

「これは何だろう?」と不思議に思い、できる限りの手段を使って調べた結果、2つの可能性にたどり着きました。

①腸腰筋インピンジメント

股関節の関節包の前方にある腸腰筋(腸骨筋+大腰筋)に肥厚や炎症があると、引っかかり感や詰まる感じがするというものです。計4回の施術では、初回に上前腸骨棘近位の腸骨筋への刺鍼は行ったものの、鼠径部を通過する大腰筋への刺鍼は行っていなかったため、この可能性はあると思いました。 

鼡径靭帯と大腿神経
鼡径靭帯と大腿神経

脊柱から起始しているのが大腰筋、腸骨から起始しているのが腸骨筋、2つの筋肉はいずれも大腿骨の小転子という箇所に停止(付着)しています。図の中央付近を見ると、大腿神経がこの両筋の間を走行し鼠径靭帯の下を通過しています。痛みの発生という点ではこの付近の構造は気になるポイントです。なお、2つの筋肉を合わせて腸腰筋とよばれています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

大腿内側面の筋
大腿内側面の筋

こちらの図は大腿を前面から見た筋群です。右側(内側)が内転筋群になります。この筋群の中で鼠径靭帯の下を通過しているのは恥骨筋です。また、上の図でご説明した腸骨筋、大腰筋の筋名は書かれていませんが、鼠径靭帯の下を通り、大腿神経を挟んでいる筋肉が大腰筋(内側)と腸骨筋(外側)で間違いありません。なお、恥骨筋の外側の青で書かれた管が大腿静脈、その外側に隣接している赤の管が大腿動脈で、大腰筋は腸恥筋膜弓を挟んで大腿動脈に隣接して走行しています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

②股関節唇損傷

先ほどご紹介した日本整形外科学会の定義でいえば、関節唇は軟部組織なので股関節唇損傷は股関節捻挫といっても問題ないと思います。 

聖路加国際病院さま

『股関節唇は、骨盤側の寛骨臼の辺縁を取り巻く柔らかい線維軟骨組織で、リング状のゴムパッキンのように大腿骨頭を包み込んでいる部分です。大腿骨頭を安定化させ、衝撃吸収の役割を担っています。 関節唇には神経が存在し、損傷を受けると痛みを生じることがあります。 関節唇損傷を生じると骨頭が安定しなくなり、次第に軟骨が破壊され、変形性股関節症へ移行すると考えられています。』 

股関節唇
股関節唇

画像出展:「聖路加国際病院」

ここで、これらについてもっと詳しく知りたいと思い、“股関節捻挫”で検索してみたのですが、特に病院、医師が用いているものはほとんどなく、最初に見つかったのは32年前の論文の中に書かれているものでした。

股関節痛を主訴とする若年者の股関節鏡所見
股関節痛を主訴とする若年者の股関節鏡所見

股関節痛を主訴とする若年者の股関節鏡所見”(PDF5枚)

これは小倉記念病院整形外科さまによる、1987年の「整形外科と災害外科」に掲載された論文です。

『X線像で異常を認めない若年者の原因不明の股関節痛はしばしば認められる。その多くは股関節捻挫などとして保存的に治療され軽快治癒し、疼痛の原因が不明のままに終わ っている。今回、われわれは原因不明の股関節痛を主訴とする若年者9例に対して股関節鏡を施行し、6例において関節唇 の断裂を認めた。また1例において粟粒大の多数の軟骨様遊離体を認め、synovial chondromatosisの診断を得た。このように、原因不明の股関節痛に対して股関節鏡は有力な診断手段であると思われるので報告する。』

一方、この検索中に股関節の痛みを特集した興味深い2冊の雑誌を見つけました。これらはいずれも『月刊スポーツメディスン』のバックナンバーで、嬉しいことにクリアランスセールのおかげで半額となっていました。

スポーツメディスン 2012年2・3月合併号
スポーツメディスン 2012年2・3月合併号

2012年2・3月合併号

特集 股関節の痛み 鼠径部周辺部痛、FAI、関節唇損傷、その他の痛みへのアプローチ

1 股関節唇損傷の鑑別診断

2 股関節鏡手術――FAIと関節唇損傷

3 股関節疾患のリハビリテーション――股関節唇損傷の股関節鏡手術のリハビリとともに

4 スポーツ選手の鼠径周辺部痛(Groin pain)へのアプローチ

5 股関節へのアプローチ――スピードスケートの場合

6 股関節のレッスン――フェルデンクライスメソッドのアプローチ

バックナンバー(発行元)

 

スポーツメディスン 2014年1月号
スポーツメディスン 2014年1月号

2014年1月号

特集 鼠径部痛症候群 その概念とリハビリテーション・予防

1 鼠径部痛症候群:治療の変遷と展望を語る

2 鼠径部痛症候群のリハビリテーションの有効性 

バックナンバー(発行元)

 

ブログでは2冊の中から、“鼠径部痛症候群”と“関節唇損傷”に関わるもので、図や写真を使って説明されている箇所の一部をご紹介したいと思います。

2012年2・3月合併号

股関節唇損傷の鑑別診断

橋本祐介・大阪市立大学大学院医学研究科整形外科学教室 講師

広義と狭義の鼠径部痛症候群

橋本:われわれはスポーツ選手を多数診ていますが、スポーツにおける股関節痛について、鼠径部の周りが痛い場合、「広義の鼠径部痛症候群(Groin  pain syndrome)」と呼びます。そこで何が痛いのかを鑑別する必要があります。これに対して、図1に示したように、たとえば骨折があるとか、ヘルニアがあるというような器質的疾患はなく、原因ははっきりしないが鼠径部痛があるものを「狭義の鼠径部痛症候群」と呼んでいます。 

広義の鼠径部症候群
広義の鼠径部症候群

画像出展:「月刊スポーツメディスン2012年2・3月合併号」

つまり股関節痛については、関節内か関節外か、関節外であれば筋肉か腱か骨か、腰ヘルニアか、あるいは内臓系(尿路感染症、スポーツヘルニアなど)かなど、何が原因で痛いのかを鑑別する必要があります。これを一覧にしたのが図2です。 

鼠径部症候群
鼠径部症候群

画像出展:「月刊スポーツメディスン2012年2・3月合併号」

整形外科的には疲労骨折もありますし、弾発股、あるいは恥骨結合炎、軟骨損傷、筋損傷などもあり、内科系では尿路系疾患、悪性腫瘍などの場合もあります。こうしたものが鑑別の対象となります。

実際にはレントゲン写真やMRIを撮影したり、関節造影を行うなどさまざまな検査が行われますが、それらの検査でも原因がわからないものが狭義の鼠径部痛症候群ということになります。

股関節鏡手術 ―FAIと関節唇損傷

内田宗志・産業医科大学若松病院整形外科

股関節鏡との出会い 

―そもそも股関節にはいつから?

内田:もともとは、膝、肩、肘の関節鏡下手術が専門だったのですが、患者さんで股関節疾患で困っている人も受診されますし、1990年代半ばからサッカー選手でgroin pain syndromeが問題になり、保存療法のほうがよいと、仁賀定雄先生はじめいろいろな先生がトレーニング方法とともに発表されていました。そういう患者さんのなかで、groin painとはちょっと違って、引っかかるというような訴えをする人がいたのです。それで困っていらっしゃるのに、これという方法がなかったのです。まだその当時は股関節鏡が発展していませんでした。当時股関節の痛みを訴えていた剣道をしている女の子に出会いました。臼蓋形成不全、そして今から思えば股関節唇損傷があった。剣道を続けたいということで、遠方から私の外来を受診されたのですが、当時私には今の技術がなく、何もできなかった。すると、目の前で泣かれてしまったのです。それがトラウマになっていました。それから一時臨床から離れてカナダに研究に行きました。カナダから帰国して再び臨床を始めました。ちょうどそのころアメリカで股関節鏡が非常に発達してきていたので、アメリカに研修に行くことにしました。Steadman Hawkins Clinicというところで、そこでは股関節鏡手術を盛んに行っていて、関節唇をしっかり温存して、FAI(femoroacetabular impingement、股関節インピンジメント、図1)といって大腿骨頭が寛骨臼に衝突して関節唇が損傷する病態なのですが、それに対してきれいに骨を削って関節唇を縫合するのを関節鏡で行っていました。当時日本では関節鏡ではなくオープンで行っていた手術です。その関節鏡手術をみて、これは筋肉も傷めないし、侵襲が少なく患者さんにはよい治療法だと思い、私も取り組み始めました。 

FAI(femoroacetabular impingement、股関節インピンジメント)
FAI(femoroacetabular impingement、股関節インピンジメント)

画像出展:「月刊スポーツメディスン2012年2・3月合併号」

 

日本は臼蓋形成不全が多い、FAIは少ない? 

―ということは、アメリカではFAIが多い?

内田:そうです。当時、2008年は、FAIはアメリカでは多いのに対し、日本ではほとんどないと考えられていました。今でも、FAI、つまり股関節インピンジメントはあまりなく、臼蓋形成不全の人がほとんどだと言われています。臼蓋形成不全の人に対しては従来行われているのは、筋肉をはがして、回転骨切りをして荷重面を上げるという手術がなされています。しかし、それでは侵襲が大きくスポーツに復帰できないことが多い。

―臼蓋形成不全は日本に多く、FAIは少ない?

内田:そう考えられています。しかし、私が2009年から2011年まで股関節鏡の手術を230例施行しましたが、そのうち臼蓋形成不全は60例くらいですが、FAIは151例でした。FAIは日本でもこれまで考えられていたよりは多いと考えています(図2)。ちなみに臼蓋形成不全は欧米に比べて圧倒的に多いです。 

股関節唇損傷の原因別内訳
股関節唇損傷の原因別内訳

画像出展:「月刊スポーツメディスン2012年2・3月合併号」

 

FAIが疑われる症状

―FAIが疑われる症状は?

内田股関節の前面から横にかけての痛みです。股関節唇損傷の80~90%の患者さんは股関節前面に痛みを訴えます。どこが痛いですかと聞くと、「Cサイン」といって、手で「C」の形にして「この辺が痛い」と言います(図3)。 

画像出展:「月刊スポーツメディスン2012年2・3月合併号」

 

つまり、股関節前面と横を同時に押さえるわけです。Groin pain syndromeと異なるのは、リハビリで筋スパズムを取っても明らかな可動域制限が残ります。また可動域終末で疼痛が誘発されます。

―可動域制限は屈曲で?

内田:屈曲、外旋、内旋、外転、内転で優位差があります。

―伸展は?

内田:伸展についてはあまり言われていません。FAIでは、anterior impingement test(図4)とposterior impingement testで痛みと引っかかり感を訴えます。FAIの90%以上が陽性になります。 

画像出展:「月刊スポーツメディスン2012年2・3月合併号」

 

何が“前(anterior)”で何が“後(posterior)”なのかピンときませんが、右側のイラストがposterior impingement testだと思います。

画像出展:「Plastic Surgery Key

 

―股関節の前が詰まるという訴えをする選手がけっこういますが、それは直接関係しない?

内田:そういう例も含まれていることがあります。ただ、股関節の中だと思っていても、股関節の関節包の前方に腸腰筋がありますが、そこに肥厚や炎症があると、同じようなclickがあり、詰まる感じがします。それとは鑑別する必要があります。

―筋に由来しているものは筋にアプローチすると改善する。

内田:しっかりリハビリすると反応はいいですね。

―それで効果が得られないと、FAIも考えなくてはならない。

内田:そうです。最初股関節痛があって、関節の中かなと思っていても、腸腰筋のインピンジメントという可能性もあるので、最低1カ月半くらいは保存療法でリハビリをやりつつ様子をみて、それで3カ月以上みて反応しない症例については、手術を視野に入れて検査を進めていきます。 

2014年1月号

鼠径部痛症候群:治療の変遷と展望を語る

仁賀定雄・JIN 整形外科スポーツクリニック院長

鼠径部痛症候群の定義

『2001年以降は、明らかな器質的疾患が見出せない鼠径周辺部痛については、鼠径部痛症候群と診断し、保存的に治療しています。恥骨結合炎という考え方もスポーツヘルニアという考え方もしていません。超音波検査もヘルニア造影検査もしていません。検証した結果痛みの原因であるという証拠は示されなかったからです。

鼠径部痛症候群の定義は「股関節周辺の痛みの原因となる器質的疾患がなく、体幹~下肢の可動性・安定性・協調性に問題を生じた結果、骨盤周辺の機能不全に陥り、運動時に鼠径部周辺に痛みを起こす疾患」です。つまり剥離骨折、疲労骨折、肉離れ、真正鼠径ヘルニアなどの器質的疾患がない場合の多くは、機能的問題を見出すことができる機能的障害と考えています。たとえば、野球の投手が足関節や膝をケガして、もし下半身を使わないで投げたら、肩や肘に痛みが生じます。それは肩・肘は結果的に痛みが出たりケガしているかもしれないけれど、肩・肘に原因があるのではなく、肩・肘だけを診ても治らない。原因となっている足関節や膝などを治さなければいけない。上半身と下半身の連動性ということです。

私が病院(川口工業総合病院)勤務していたときに受診された鼠径周辺部痛症例(1994~2008)では、図8に示したとおり、サッカーが多く70%で、うちプロサッカー選手が98例でした。 

鼠径周辺部痛症例の種目別割合
鼠径周辺部痛症例の種目別割合

画像出展:「月刊スポーツメディスン2014年1月号」

 

鼠径周辺部痛の鑑別診断は、徐々に器質的疾患の診断率が高くなってきています。図9右側2003~2011年のデータですが、とくに股関節インピンジメント(FAIまたは関節唇損傷)の概念が示されてからその診断が増えています。現在は、股関節インピンジメントの概念を含めても器質的疾患が発見される確率は約5割です。現在でも器質的疾患が見出されない鼠径周辺部痛はほぼ5割あります。将来はもっと器質的疾患の診断率が向上するかもしれません。』 

鼠径周辺部痛の鑑別診断
鼠径周辺部痛の鑑別診断

画像出展:「月刊スポーツメディスン2014年1月号」

 

器質的疾患が認められない例をどうするか

『図15は、先ほど図8で挙げた鼠径周辺部痛(groin pain)614例中診断のつかない鼠径周辺部痛症例511例の自発部位を示したものです。

診断のつかない鼠径周辺部痛症例の自発痛部位
診断のつかない鼠径周辺部痛症例の自発痛部位

画像出展:「月刊スポーツメディスン2014年1月号」

 

下腹部、大腿直筋近位部、坐骨、鼠径部などさまざまな部位に痛みを訴えていました。では、右と左ではどうかというと、右のみが36%、左のみが27%、両側例が37%でした。しかし、両側を同時に3分の1の例が何かケガをしたかというと、それは考えにくい。これは、私が機能的問題であると考える根拠のひとつです。

私が考えている鼠径部痛症候群は、器質的疾患がなく、機能不全に陥っているものです。機能不全を具体的に言うと、体幹から下肢の「可動性・安定性・協調性」、可動性というのはたとえば柔軟性、安定性は筋力、協調性は連動性ともいうことができます。これのどこかに狂いが生じて痛みが生じる。先ほどの野球の投手のように、膝を傷めて肩が痛くなるということがあります。肩の先生はかならず下肢も診ます。同様に、鼠径部痛症候群では、股関節だけでなく体幹から下肢の機能不全を評価して改善する。その手段がアスレティックリハビリテーションです。』

良好なキックの連続性
良好なキックの連続性

画像出展:「月刊スポーツメディスン2014年1月号」

 

『この図16はサッカーのキックですが、良好なキックを行うためには、体幹の軸がしっかりしていて、そのためには軸足側の股関節外転筋力が十分あり、キックする足と反対側の肩甲帯とキックする下肢が体幹、骨盤を介して連動している必要があります。この連動性のどこかが崩れてプレーしていると、鼠径部周辺に痛みを生じることになります。横からみると、骨盤が垂直に回転する。手でリードして、骨盤が回ります。この手のリードがなくなるだけでも、鼠径部痛症候群が発生する可能性があります。上から見ると、両肩を結んだ線と骨盤の線とはクロスして回転します。この一連の連動した動きのなかでキックが行われています。もし、この連動性を妨げるなんらかの要因があると、その動作を繰り返すことで破綻をきたし、機能不全になります。機能不全を生じてプレーしていてもすぐに痛みは出ません。しばらくプレーをしていて後で痛みが出るようになります。したがって、機能不全を起こす誘因が起こり、そのままプレーしていると機能不全を生じ、さらにプレーしていると痛みを発生します。野球選手なら肩・肘、サッカー選手なら股関節の付け根に痛みが生じる。これは私の仮説です。』

付記:JIN 整形外科スポーツクリニック

JIN整形外科スポーツクリニック
JIN整形外科スポーツクリニック

こちらが「月刊スポーツメディスン2014年1月号」の “話題の最前線:アスリートから高齢者まで、高度な診断・治療を可能にする環境を実現” で紹介されていた写真です。「まるで倉庫のようで全然病院らしくないなぁ?」と思ったところ、その理由は次の写真で納得しました。

なんと、フットサルコートを兼ね備えていました。よく見ると、高齢者のウォーキングにも利用されているとのことです。

  画像出展:「月刊スポーツメディスン2014年1月号」

ホームページはこちらです。

中高年女性の腰痛3

下記は前々回“中高年女性の腰痛1”のまとめです。

腰痛の治し方
腰痛の治し方

著者:富田満夫

出版:創風社

発行:1999年10月

●女性は男性に比べ、筋量が少なく筋力も弱い。

●女性の腰痛は、背中、お尻、脚、肩、首と広範囲に及ぶ。

●首は約6kgの頭を支えている。

●骨盤は体幹と2本の脚を支える土台であり、常に重力と動作による力を受けている。

●子宮、卵巣等を内部に抱えた骨盤の構造は男性とは大きく異なる。

●体を休め、臓器の働きを良くする副交感神経系は首と骨盤(仙髄)から出ている(交感神経系は“胸腰系”、副交感神経系は“頭仙系”と呼ばれる)

●更年期はホルモンのバランス、自律神経の働きを乱す。

続いて、以下は前回“中高年女性の腰痛2”のまとめです。

●更年期における自律神経の乱れは、個人差があるものの母性に関わるもので避けられない。

●自律神経にとってもからだを休めることは大切である。

●自律神経を乱す大きな要因にストレスがあり、“生活習慣の見直し”や“受け止め方を変える工夫(ネガティブ⇒ポジティブ等)”が改善につながる。

●自律神経の乱れは全身の筋肉の血流を悪化させるため、腰痛に限定せず“頭痛-肩こり-腰痛”と範囲を広げて施術を考えることが必要である。

●鍼灸治療は“自律神経”と“筋肉”の両面からアプローチすることが有効であると思う。

以上の12項目をベースに施術を考えていきます。なお、“経穴”とは教科書的かつ固定的なもの、“ツボ”とは実践的かつ流動的なものというイメージで使い分けをしています(引用箇所はすべて“経穴”になっています)。

1.前提

目的は「標治の引き出し」を増やすこと。

●「混ぜるな危険」の原則に従い、本治(陰経:肝経・腎経・脾経・肺経・心経/心包経)に手を加えることはしない。

●標治に加える対象は陽経のツボとする。

●「自律神経」と「筋肉」の両面から検討する。

●ターゲットを「更年期障害」として検討する。

2.現在行っている「更年期障害」の本治と標治

典型的な脈:上焦(心・肺)・中焦(肝・脾)は浮大の熱型で、下焦(腎・心包)は沈細軟の冷え型。

典型的な病態:上実下虚[上熱下寒]…冷え・のぼせ、発汗、イライラ等。

頭寒足熱と頭熱足寒
頭寒足熱と頭熱足寒

こちらの画像は『あるスーフィー巡礼者の日記 A diary of a sufi』から拝借しました。

左は健康に良い「頭寒足熱」、右はその逆、健康に良くない「頭熱足寒」です。上実下虚は右側の状態といえます。

 

本治:肝は水穴(曲泉)・金穴(中封)、腎は土穴(太渓)・金穴(復溜)、および腹部の中脘・天枢・関元。背部兪穴の腎兪・肝兪。さらに本治を補完する全身調節穴(天柱・風池・完骨、委中・飛揚・崑崙、攅竹)。

標治:上焦の熱を取る(頚、肩および脊柱両側のストレスラインの硬結)

3.自律神経に対して

以前、ブログ(“長野式‐結合組織活性化処置法”)でご紹介した「長野式」には自律神経をターゲットとした施術パターンが数多くあります。これらの中から、対象を「全身的交感神経緊張抑制処置」と「全身的副交感神経促進処置」の2つに絞り(「局所性処置」および「交感神経機能促進処置」は除外)、各処置法を吟味したいと思います。

鍼灸臨床 わが三十年の軌跡
鍼灸臨床 わが三十年の軌跡

著者:長野潔

出版:医学の日本社

発行:1993年12月

 

全身的交感神経緊張抑制処置

副腎処置:自律神経処置の基本と位置付けられる最も重要な処置法です。代表的なツボは「照海・兪府(15~20分の置鍼)」となっていますが、「復溜・兪府」「太渓・兪府」「築賓・兪府」と使い分けても良いとされています。これらはすべて腎経のツボになりますので、陰経のツボということで対象外になります。ただし、現在行っている更年期障害の患者さまの本治が腎経・肝経ということから、腎経を使っている「副腎処置」ついて違和感はありません。

補足)中医学では腎(精)と肝(血)は相互滋養ということから“肝腎同源(精血同源)”ともいわれており、近い関係にあります。

足少陰腎経
足少陰腎経

足少陰腎経の経穴です。

太渓:KI3

照海:KI6

復溜:KI7

築賓:KI9

兪府:KI27

画像出展:「経絡マップ」

 

外ネーブル4点:血圧を下げる働きがあるとされています。ネーブルとはお臍で、その外側に4カ所刺鍼するというものです。その4カ所は、中脘(胃経の募穴)、天枢(大腸経の募穴)、関元(小腸経の募穴)に相当します。

この腹部の4穴は現在行っている本治の基本穴なので、既に使っているということになります。今後は、更年期障害など自律神経を調えたい患者さまに対しては、自律神経の働きかけを意識したいと思います。

募穴とは:「募穴の文献的考察」には『募穴は体外よりは見えないが、中に各経の力源→臓腑がある、したがって各臓腑のある部位の穴の意となる。』とされています。クリックされるとPDF8枚の資料がダウンロードされます。

任脈:中脘、関元
任脈:中脘、関元

任脈の経穴の中に中脘(CV12)と関元(CV4)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

胃経:天枢
胃経:天枢

胃経の経穴の中に天枢(ST25)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

イ・ヒ・コン(「椎骨脳底動脈血流促進処置」):椎骨脳底動脈の充血を解消し、内分泌の中枢である視床下部の循環を促して興奮を抑制します。“イ・ヒ・コン”とは、膀胱経(陽経)の“委中・飛揚・崑崙”の3穴のことです。特徴は委中、飛揚は補鍼ですが、崑崙は雀啄瀉鍼となっています。

現在、本治を補完する目的で「全身調整穴」というツボを適宜選択しているのですが、この“委中・飛揚・崑崙”の3穴はその「全身調整穴」に含まれており、ほぼ必ず刺鍼しています。ただし、崑崙も補鍼であり雀啄瀉鍼ではありません。『鍼灸臨床 わが三十年の軌跡』で内容を確認したところ『膀胱経火穴の崑崙に雀啄瀉鍼しその部の圧痛を除去する』とのことでした。顕著な圧痛があった場合は雀啄瀉鍼をしてみるということは有りかもしれませんが、曖昧になるので、“イ・ヒ・コン”としては使わないものとします。

足太陽膀胱経:委中、飛揚、崑崙
足太陽膀胱経:委中、飛揚、崑崙

足太陽膀胱経の経穴です。

委中:BL40

飛揚:BL58

崑崙:BL60

『鍼灸臨床 わが三十年の軌跡』の59ページに「椎骨脳底動脈血流促進処置」として出ています。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

脊柱起立筋緊張緩和処置:これはブログでご紹介した処置法の一つで、必要に応じて標治として使うものと位置付けています。内容は『この処置は脊柱起立筋及び広背筋、腰方形筋等の過緊張を緩解させ、交感神経緊張を抑制し、副交感神経を賦活させる』となっています。つまり筋肉の緊張を緩めることで、自律神経のバランスを改善するという狙いです。この主旨で使うツボは、屈伸穴(L5下の上仙の外方4~5横指、硬い所)と内会陽穴(通常の会陽穴、上仙方向へ水平刺)となっていますが、屈伸穴に関しては既に使っています。

次にご紹介する3穴は、『鍼灸臨床 わが三十年の軌跡』の中で“交感神経緊張抑制処置法の重要な経穴”という見出しがついて解説されています。この中で攅竹は先にお伝えした「全身調整穴」の一つになっており、特に自律神経を調えたいと思った時に使っています。

攅竹は膀胱経、脊中、腰兪は督脈でいずれも陽経なので、自ら定めた活用ルール上は問題ありません。なお、本書には各経穴について詳しい説明が出ていますので、その内容を確認したいと思います。

攅竹:『「攅竹」に刺鍼、微刺鍼を与えることによって、心窩部の痛みや、腹部膨満感が消失するのは、第三の自律神経系と言われる散在性腸壁神経系(これは交感、副交感神経の影響を受ける)の活性化と、第三脳室周囲灰白質、中脳中心灰白質と共に下行性疼痛抑制物質、即ちメチオニンエンケファリン、ロイシンエンケファリン、β-エンドルフィン等が副腎髄質や腸壁からも産生されているので、それ等の物質の分泌が促進されて鎮痛作用が起こるのではないだろうかと考えている。』

膀胱経:攅竹
膀胱経:攅竹

膀胱経の経穴の中に攅竹(BL2)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

 

脊中:『督脈の「脊中」、即ち胸椎第11椎と第12椎の間にあるこの部は、形態的に中年以降になるとその間隔が緊迫し、時に骨棘形成までみられることがある。ここは膵臓における島のソマトスタチンの分泌を活性化し、インシュリン、及びグルカゴン分泌の調整をはかるのではないかと思われる。例えば鍼灸刺激などによる血糖値の正常化は、臨床的に筋、腱等の緻密結合組織の硬化を改善すると共に、粘膜性炎症の消失に重要な意義を持っているものと考える。従って、高齢者の体性系のこわばりや中年者以後の筋筋膜性腰痛、及びアレルギー性の粘膜炎症の処置法の一環として、臨床的に重要な意義を持つと推論される。なお、持続的効果をもたらすために、0.5ミリ皮内鍼の保定も有効であることを附記する。』

督脈:脊中
督脈:脊中

督脈の経穴の中に脊中(GV6)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

腰兪:『「腰兪」は脊髄の終末端の馬尾が脊柱管を出るところにあり、部位は正中仙骨陵の下端、即ち仙骨裂孔の陥凹部である。この部位に対する刺鍼(寸三・二番鍼、刺入角度は上向き45度、刺鍼深度20~15ミリ、雀琢補鍼)は、脊髄神経を介して第三脳室周囲灰白質や、中脳中心灰白質から分泌される疼痛抑制物質の増強をはかるのではないかと推論される。この刺鍼によってアレルギー性鼻炎、アレルギー性眼瞼炎、偏頭痛、喉頭痛、血の道等の頭頂部の痛み、目のかすみ等に著効することが多く、交感神経緊張抑制に必須な経穴である。その他腰部疾患は勿論、下肢の痺れ、冷え、痔疾、利尿不全、不眠等に有効である。また、副腎髄質から分泌されるノルエピネフリン[ノルアドレナリン]、エピネフリン[アドレナリン]の分泌亢進が抑制されるのではないかと推論される。』

督脈:腰兪
督脈:腰兪

督脈の経穴の中に腰兪(GV2)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

全身的副交感神経促進処置

八髎穴:『「八髎穴」(ここは深く刺入すると、骨盤内臓器の循環促進、即ち内側大腿内旋動脈の血流を促進する)の過敏反応点に寸三・二番鍼を垂直に2~3センチ刺鍼、或いは施灸を行ってもよい。』

また、長野先生の『新治療法の探求』には、次のような記述も紹介されています。

『「上髎」、「次髎」、「中髎」、「下髎」という、いわゆる「八髎穴」は、骨盤部内臓の虚血状態の時に非常によく効く経穴であり、骨盤内臓部の循環代謝が悪い、冷え性、不妊症、生理痛、腰痛症等の時には、ここに鍼または灸頭鍼や施灸することは大変効果がある。』

膀胱経:八髎穴
膀胱経:八髎穴

膀胱経の経穴の中に八髎穴(BL31~BL34)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

4.首と骨盤について

中高年女性の腰痛を考えるときに、自律神経とともに注目すべきは首と骨盤です。

●女性の筋量(筋力)の少なさは関節への負担を高めます。特に約6kgの頭部を支える首と、体と両足の土台となる骨盤(仙腸関節)は重要です。 

首こりが起こるしくみ
首こりが起こるしくみ

画像出展:「新型「うつ」原因は首にあった!」

なお、本書については”頚筋性症候群(頚筋性うつ)”というブログをアップしています。

 

 

頚の筋群
頚の筋群

色の付いた部分が頚を守る筋群です。断面からは小さな筋肉が、頚椎の上に筋膜を伴って重なるように存在しているのが分かります。いかにもコリや筋膜の癒着が起きやすいように感じます。

画像出展:「トリガーポイント・マニュアル」

 

 

仙腸関節:仙骨と腸骨を結ぶ関節
仙腸関節:仙骨と腸骨を結ぶ関節

仙腸関節は仙骨と腸骨を結ぶ関節です。

画像出展:「リアライン

相対筋力の男女差(女性とレジスタンストレーニングより)』に関するPDF2枚の資料がありました。なお、男女の筋力差は筋肉量に依存するようです。

仙腸関節については”仙腸関節障害”というブログがあります。

 

 

●女性は骨盤内部に子宮、卵巣などの内性器を保持しており、骨盤内部のうっ血や虚血をまねく可能性が男性より高いと考えられます。

女性の骨盤内部は子宮、卵巣があり鬱血や虚血が起こりやすい。
女性の骨盤内部は子宮、卵巣があり鬱血や虚血が起こりやすい。

中央が子宮などの内性器です。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

 

●“胸腰系”の交感神経系に対し、副交感神経系は“頭仙系”と呼ばれています。これは副交感神経系が頭部と仙骨部から出ているためです。つまり、副交感神経系にとってこれらは聖地といえます。

副交感神経は頭仙系:頭(延髄)と仙髄(S2-S4)から出ている。
副交感神経は頭仙系:頭(延髄)と仙髄(S2-S4)から出ている。

右の青線副交感神経系です。延髄)と仙髄S2-S4)から出ています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

 

副交感神経と八髎穴・腰兪
副交感神経と八髎穴・腰兪

 横から見た図です。副交感神経は灰色です。八髎穴や腰兪が重要なのが理解できます。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

5.中高年女性の腰痛に対する施術と生活習慣の改善(まとめ)

1)本治

●従来通り

2)標治

上焦の熱を取る(頚、肩、上背の硬結に雀啄瀉鍼)

後頚部の硬い部位に置鍼:百労、天元など

不思議なことに重要な後頚部には教科書的な経穴はありません。下方の写真は木下晴都先生の『 最新鍼灸治療学 上巻』に出ているものです。今後はこれを参考にしたいと思います。

仙骨部の硬い部位に置鍼:上髎、次髎、腰兪など

後頭部―骨盤部の広い範囲を対象に置鍼:脊柱両側の硬い部位(華佗夾脊)、脊中、屈伸、多裂筋、腰方形筋など 

腹部、鼡径部の硬い部位に置鍼:腸骨筋、大腰筋など

3)生活習慣の改善

●ストレス低減の工夫:なるべくポジティブに考えるように努める。

●からだを休める工夫と温める工夫:早寝早起き、入浴、運動など。

木下晴都:伸展時の痛みは頚椎内方45度で刺鍼。
木下晴都:伸展時の痛みは頚椎内方45度で刺鍼。

 伸展時に痛みなどがある場合は、頚椎内方45度で刺鍼します。

画像出展:「最新鍼灸治療学 上巻」

 

 

木下晴都:回旋時の痛みは頚椎外方30度で刺鍼。
木下晴都:回旋時の痛みは頚椎外方30度で刺鍼。

 回旋時に痛みなどがある場合は、頚椎外方30度で刺鍼します。

画像出展:「最新鍼灸治療学 上巻」

 

 

殿部の筋
殿部の筋

殿部の筋は、中・小殿筋と仙骨と大転子をつなぐ梨状筋が重要です。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

 

腸腰筋:大腰筋+腸骨筋
腸腰筋:大腰筋+腸骨筋

こちらは各筋肉の起始・停止を表した図です。左(前面)は脊柱から出ているのが大腰筋、腸骨前面の筋が腸骨筋で、合わせて腸腰筋とよばれている重要な筋肉です。

画像出展:「人体の正常構造と機能

 

 

殿筋群の神経支配
殿筋群の神経支配

大殿筋は下殿神経支配、中・小殿筋は上殿神経支配、梨状筋は第1-2仙骨神経支配となっています。

画像出展:「人体の正常構造と機能

 

 

背中の経穴と脊髄神経:脊柱起立筋(棘筋・最長筋・腸肋筋)、多裂筋、腰方形筋
背中の経穴と脊髄神経:脊柱起立筋(棘筋・最長筋・腸肋筋)、多裂筋、腰方形筋

こちらは運動神経、感覚神経の”脊髄神経”と経穴の図です。脊中はT11-T12間にあります。

筋肉は脊柱起立筋(棘筋・最長筋・腸肋筋)、多裂筋、腰方形筋などが腰背部の主な筋肉になります。

画像出展:「経絡マップ

 

 

テロメア・エフェクト
テロメア・エフェクト

下の2つのイラストはこちらの本に出ているものです。詳しくはブログ ”がんと自然治癒力9” を参照ください。

脅威反応とチャレンジ反応
脅威反応とチャレンジ反応
チャレンジ・ストレス:ポジティブなストレスは体に活力を送る。
チャレンジ・ストレス:ポジティブなストレスは体に活力を送る。

付記:頭頚移行部(2019年6月4日)

調べ事をしていて、とても興味深いことを発見しました。

医師である博田節夫先生が考案されたAKAでは、腰痛治療において第1頚椎・第2頚椎(C1・C2)を弛めることを大切にしているとのことでした。頚への刺鍼では、このポイントも考慮していきたいと思います。

AKA(Arthrokinematic Approach) 
AKA(Arthrokinematic Approach) 

クリック頂くとAKAのサイトに移動します。

『関節運動学的アプローチ、AKA(Arthrokinematic Approach)とは関節運動学に基づき、関節の遊び、関節面の滑り、回転、回旋などの関節包内運動の異常を治療する方法である。』

C1(Ⅰ)は環椎、C2(Ⅱ)は軸椎とも呼ばれています。

画像出展:「weblio辞書

 

 

中高年女性の腰痛2

下記は前回の“中高年女性の腰痛1”のまとめです。

腰痛の治し方
腰痛の治し方

著者:富田満夫

出版:創風社

発行:1999年10月

1.女性は男性に比べ、筋量が少なく筋力も弱い。

2.女性の腰痛は、背中、お尻、脚、肩、首と広範囲に及ぶ。

3.首は約6kgの頭を支えている。

4.骨盤は体幹と2本の脚を支える土台であり、常に重力と動作による力を受けている。

5.子宮、卵巣等を内部に抱えた骨盤の構造は男性とは大きく異なる。

6.体を休め、臓器の働きを良くする副交感神経系は首と骨盤(仙髄)から出ている(交感神経系は“胸腰系”、副交感神経系は“頭仙系”と呼ばれる)

7.更年期はホルモンのバランス、自律神経の働きを乱す。

この7項目を元に中高年女性の腰痛に対する施術を考えたいと思いますが、今回はこの中で最も厄介な自律神経に関わる問題をどのように施術に反映させていくかということを考えます。 

自律神経とからだの機能
自律神経とからだの機能

自律神経は環境や心の変化に応じて、内臓の働きを2方向から綱引きのように調整しています。一つが交感神経でもう一つが副交感神経です。

画像出展:「安保徹の病気にならない免疫のしくみ (図解雑学) 」

ものを考えたり、熱い物に触れ反射的に手をひっこめたりする判断は、神経細胞の塊である脳などの「中枢神経」が担っています。(中枢神経の神経細胞の総数は千数百億個とのことです)

手足を動かす“運動神経”や痛みなどを脳・脊髄(中枢神経)に伝える“感覚神経”は「末梢神経」とよばれ、枝のように体内に張りめぐらされています。この遠心性(脳→末梢)の“運動神経”と求心性(末梢→脳)の“感覚神経”を合わせて“脊髄神経”といいます。

背中の経穴と脊髄神経
背中の経穴と脊髄神経

画像出展:「経絡マップ」

“自律神経”も“脊髄神経”と同じ「末梢神経」の仲間ですが、心臓や血管、消化器などに作用し、生命維持のために働きます。また、自律神経は闘争・逃走に代表される交感神経系と休息・消化に代表される副交感神経系に分かれます。

体幹部の経穴と自律神経
体幹部の経穴と自律神経

画像出展:「経絡マップ」

闘争・逃走では筋交感神経活動によって収縮した末梢の血管が血圧を高めて、生命を守るべく緊張状態に入ります(活勤している筋では、筋収縮に伴って分泌される代謝性の血管拡張物質によって血管収縮を減弱させ、活動している筋への血液供給を維持します)。

一方、“休息・消化ではからだを休め、獲得した食物を維持活動に必要な物質やエネルギーに変え、生命を守るべくからだを整えていきます

以上のことから交感神経系は“エネルギーを使う行為”に働き、副交感神経系は“エネルギーを作る行為”に働くともいえます。従って、自律神経のバランスが乱れ、交感神経系に偏った状態が長期間続くと肉体は消耗し、やがて病的なからだになってしまいます。

自律神経と腰痛との関係を考えるならば、亢進した交感神経系が体内の血管を収縮させるというメカニズムは非常に重要です。

以下の2つのイラストはブログ”毛細血管と循環調節”から持ってきました。血管の収縮は交感神経と血管平滑筋によってもたらされます。

血管の構造
血管の構造
血管の収縮は交感神経と血管平滑筋
血管の収縮は交感神経と血管平滑筋

筋交感神経」に関する記述が載っている”運動と交感神経活動”という資料(PDF3枚)がダウンロードできます。

自律神経失調症とは

自律神経失調症の特徴は下記の通りです(ブログ“自律神経失調症”より)。

重要なことは症状が全身に広がるということと、元凶である“ストレス自体の大きさが変わる”か“ストレスの受け止め方を変える”か、いずれかの変化が起きない限り改善は難しいということです。

イラストは『自律神経失調症を知ろう』から。

自律神経は脳と内臓を結ぶ
自律神経は脳と内臓を結ぶ
脳の疲労が臓器に伝わる
脳の疲労が臓器に伝わる

神経症
神経症
自律神経失調症
自律神経失調症

渡辺正樹先生のお考えでは「自律神経は“脳と内臓を結ぶ電線”であり脳を攻撃するストレスが脳の中に限定されていれば“神経症”だが、それが自律神経を通じて全身に広がると“自律神経失調症”になる」ということです。

また、具体的な説明は以下になります。

『自律神経失調症は交感神経が強いか、副交感神経が弱くなるか、いずれかの状態で、それにより内臓が十分な休息をとれない事態になることです。その結果、動悸、立ちくらみ、ふらつき、発汗過多、血圧上昇(変動)、片頭痛、肩こり、手足の冷え、易疲労など多彩な症状が出現します

原因不明、内臓に問題があり、しかも精神的なストレスが強いとなると、自律神経失調症と診断される症例は少なくありません。このことは、自律神経失調症が不定愁訴の受け皿になっているためと考えられます。』

更年期障害とは

以下の説明、イラストともすべて大塚製薬さまの『更年期ラボ』の内容になります。

更年期は45~55歳頃
更年期は45~55歳頃

更年期とは閉経前後5年の期間(一般的に45〜55歳頃)といわれています。

ホルモンの急激な低下
ホルモンの急激な低下

『更年期には卵巣の機能が低下し、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少していきます。その結果、ホルモンのバランスが崩れ、月経周期の乱れやエストロゲンの欠乏により心身にさまざまな不調があらわれます。症状の種類や強さは個人差がありますが、更年期のさまざまな不調を「更年期症状」といい、仕事や家事など日常生活に支障をきたしてしまうほどの重いものを「更年期障害」といいます。』

更年期障害の症状
更年期障害の症状

ホットフラッシュ

“のぼせ”と“ほてり”を合わせて“ホットフラッシュ”とよび、前者は異常な熱感が頭や顔に起こったもの、後者は顔、頭に加えて体にも起こったものです。なお原因は、『エストロゲンの減少によって、血管の収縮や拡張をコントロールしている自律神経が乱れることによって起こります。』

視床下部は内分泌や自律神経(自律機能)の調節を行う統合中枢といわれています。自動車でいえば、“内分泌(ホルモン)”が前輪であるとすると、“自律神経”は後輪ということになります。つまり、内分泌の乱れは自律神経に、自律神経の乱れは内分泌にそれぞれ影響を及ぼす関係になります。

従って、更年期にみられる女性ホルモン(エストロゲン)の急激な現象は、同じ統合中枢である自律神経を乱します。

更年期前後の卵巣の変化と身体のバランス
更年期前後の卵巣の変化と身体のバランス

更年期の身体の変化

『女性ホルモンは、脳の視床下部からの司令により卵巣から分泌されます。視床下部はさまざまなホルモンの分泌をコントロールするとともに、体温調節や呼吸、消化機能の調節、精神活動などを司る自律神経のコントロールセンター。ところが、卵巣の機能が衰えると、脳がいくら「ホルモンを出せ」と指令を出しても分泌されません。すると、脳がパニックを起こして通常の何倍もの指令を出すために、異常な発汗、イライラ、めまいなどの症状があらわれるのです。』

トップ5に入っている“肩こり”、“頭痛”、“腰痛”の原因には先にご紹介した、亢進した交感神経系が体内の血管を収縮させる」というメカニズムによって、後頚部‐頚肩部‐背部‐腰部‐臀部に渡る多くの筋や筋膜を虚血状態にするものと考えられます。

 

以下の本は、”母性・自律神経”で検索して見つけた本です。図書館から借りてきました。いくつか興味深い資料がありましたのでご紹介したいと思います。

母性看護実践の基本
母性看護実践の基本

日本産婦人科学会の”更年期障害”の定義は次の通りです。

『更年期障害とは更年期に現れる多種多様な症候群で、器質的変化の相応しない自律神経失調症を中心とした不定愁訴を主訴とする症候群をいう』というものです。

更年期女性の心の特性
更年期女性の心の特性

更年期女性の心の特性

『岡本は、現代社会において家庭と職業を両立している中年期の女性が体験しやすい臨床問題を中年期危機の構造として四つの次元で表している。』

以下の2つのグラフは更年期における男女差を表すもので、左が男性右が女性です。

男性の加齢による生理的変化にはばらつきが見られますが、女性の変化は年齢とともに顕著に表れます。これが更年期障害が女性の症候群と思われている原因だと思います。

更年期:男性
更年期:男性
更年期:女性
更年期:女性

簡略更年期指数(SMI)
簡略更年期指数(SMI)

こちらは診断に用いられている質問で、”簡略更年期指数(SMI)”といわれているものです。

まとめ

1.更年期における自律神経の乱れは、個人差があるものの母性に関わるもので避けられない。

2.自律神経にとってもからだを休めることは大切である。

3.自律神経を乱す大きな要因にストレスがあり、“生活習慣の見直し”や“受け止め方を変える工夫(ネガティブ⇒ポジティブ等)”が改善につながる。

4.自律神経の乱れは全身の筋肉の血流を悪化させるため、腰痛に限定せず“頭痛-肩こり-腰痛”と施術の対象範囲を広げて考えることが必要である。

5.鍼灸治療は“自律神経”“筋肉”の両面からアプローチすることが有効であると思う。

次回が最後になりますが、具体的な施術についてまとめたいと思います。

中高年女性の腰痛1

今回は、前々回の“経筋療法”の中で知った、『中高年女性におくる腰痛の治し方』という富田先生の本が題材です。富田先生のご指摘通り、「中高年女性の腰痛は症状が広範囲にわたり治りにくい」という印象がありました。男女差という視点も多少は持っていましたが、論理的に練られたものではありませんでした。今回の目的は中高年女性の腰痛の特徴を把握し、確信をもって合理的な施術を行えるようにすることです。

腰痛の治し方
腰痛の治し方

著者:富田満夫

出版:創風社

発行:1999年9月

本書の中で使われている図や表はいずれも新しいものではありません。これはこの本自体の出版が1999年9月であるためです。

 

目次は次の通りです。

目次

第1章 腰痛はなぜおこる

問1 腰痛は女性に多い?

問2 なぜ多い女性の腰痛?

問3 「腰痛症」ってどんな病気?

問4 婦人科の病気でなぜ腰痛が?

問5 更年期からふえる女性の腰痛

問6 腰痛をおこす婦人科の病気は?

問7 腰痛も「病は気から」?

問8 お産のあとに多い腰痛

第2章 いたみが違う女性の腰痛

問9 深刻な離婚話も(セックスと腰痛)

問10 男性と女性の腰痛の違い

問11 腰痛がひどくなる動作は?

問12 軽作業がかえってつらい!(労働と腰痛)

第3章 診察するとこんな症状が

問13 いたくて反れない女性の腰痛

問14 足で「4の字」書けますか?

問15 あぶない足の神経症状

問16 骨盤のまわりに多い圧痛点

第4章 誰にでもある骨の老化(シワ)

問17 検査の異常は他の病気

問18 骨の老化がいたみの原因?

問19 骨盤のズレもいたみの原因?

第5章 1分間でいたみがかわる

問20 物療だけでは治せない

問21 治療の基本はリラックス

問22 効いていますか? いたみ止め

問23 安全でとてもよく効く膣内塗布法

問24 ハリ灸、漢方は本当に効くのか?

問25 いきいき熟女の毎日を

問26 みんなで考え、かえよう職場

問1は「腰痛は女性に多い?」です。今回のテーマともいえる内容がグラフや図を使って説明されており、概要に接することができます。ここでは文書の一部をそのままご紹介します。

また、問2以降は“自律神経”と“痛み”に注目し、それらに関して書かれた“問”を取り上げ、一部を除き箇条書き形式としました。

問1 腰痛は女性に多い?

こちらは、 厚生省『国民生活基礎調査』1995のグラフです。45歳以降女性が男性を大きく上回っています。 

腰痛は中高年女性に多い
腰痛は中高年女性に多い

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

以下は本文からの引用です。

『腰痛の原因について、はっきりいって先に述べた病気[骨粗しょう症のこと]が原因とはわたしくしにはとうてい思えません。なぜならば骨の変化はずっと前からあるのにいたみは最近おこったとか、骨の変化はもとにもどることがないのにいたみは軽くなったなど、いたみと骨の変化が一致することが少ないからです。

しかし見方をかえて、わたくしたちの目的である「いたみをとる」ということができるなら、その方法で原因もはっきりすると思っています。わたしくしは年と関係なく「いたみをとる」ことができると確信しているのです。

この本を退屈でも最後まで読んでいただければ理解していただけると思います。

一方腰痛と関係が深い足(下肢)の症状についてみてみましょう。

「坐骨神経痛」で病院にかかっている人は中高年女性がいちばん多く、同じ年代の男性と比べて5割も高いのです(図3・1)!

腰椎の病気
腰椎の病気

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

中高年女性では足(下肢)にいろいろな症状(痛い、じびれる、だるい、冷える、つる、力が入らない、よくつまずくなど)が出ています。診察すると足に力が入らない、固くなっているなどの症状が見られるのです。

そのほか中高年女性の腰痛は首や肩、背中がこったり、疲れやすい、頭が痛いなどの症状がある人がとても多いのです。このように男性とくらべたときに症状のあらわれかたにちがいがあります。

このため骨の変化よりも中高年女性では何か全身に男性と違った変化が出ているのではないかと思われます。

ところで「腰が痛い」というと「婦人科が悪いのでは?」といわれたりしたことはありませんか?このように原因となる病気があるところから離れたところが痛むのを「関連痛」といいます(図5)。

婦人科の病気で腰痛・下肢症状がおこる
婦人科の病気で腰痛・下肢症状がおこる

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

お腹の病気で腰が痛くなるのは胃や肝臓の病気、腎臓の病気、婦人科の病気などいろいろあります。

しかし、女性では年をとるにつれてお腹のいたみは減っていき、男性とくらべても少なくなります。また、年をとるにつれて「更年期障害」を除いて婦人科にかかる人も少なくなっています(図3・3、図3・4、図3・5)。 

尿路性器系の病気
尿路性器系の病気

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

消化器系の病気
消化器系の病気

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

婦人科の病気と「自律神経失調症」
婦人科の病気と「自律神経失調症」

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

したがってお腹の病気で腰がいたくなることは年をとるとともに減っていくので、中高年女性では少ないとみていいでしょう。

もちろん「子宮ガン」などがすすんで腰をいためることもありますので、そのための注意はいります。しかし全体としてみるときわめて少ないということです。ほかに年をとると男性よりも腰がいたくなるような病気は見あたりません。

更年期にはホルモンのバランスがくずれて、全身を調整している自律神経のはたらきがうまくいかなくなる「自律神経失調症」がおこりやすくなります。「更年期障害」というのはこのバランスをくずしておこす症状のことをいいます。

そして腰痛は肩こり、頭痛、疲れやすい、のぼせるなどの症状とともに「更年期障害」でいちばん多い症状の一つなのです(図6) 

更年期障害の症状
更年期障害の症状

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

すなわち自律神経のはたらきがうまくいかないと腰痛をおこすのです。しかも「自律神経失調症」の患者さんは生理が止まってもふえつづけ、65歳前後がいちばん多く、男性よりもはるかに多くなります(図3・5)。 

問2 なぜ多い女性の腰痛?

●女性の骨盤は横に広く、お腹の赤ちゃんを守り、お産もしやすくできている。そのため骨盤の中に血管、特に静脈が多く、地球の引力によって骨盤の中はうっ血しやすい。

月経、妊娠、お産、閉経などの変化は、自律神経やホルモンの影響うけており、骨盤の中ではうっ血が起こりやすくなる。さらに更年期になるとホルモンのバランスが乱れやすくなる。

ミニスカートやコルセットは冷えや骨盤の中のうっ血を起こし、ハイヒールは背骨を反らせて痛みに原因になる。また、家事や育児など中腰の仕事が多い。

●母性としての働きが自律神経と極めて深い関係にあり、これが腰痛を起こしやすくしていると考える。

問3 「腰痛症」ってどんな病気?

ストレスによって自律神経のバランスがくずれると腰痛を発症させやすいと考えている。なお、「腰痛症」とは原因不明の腰痛一般のこと。

問4 婦人科の病気でなぜ腰痛が?

『子宮、卵巣、膣などの女性の性器はからだを調整する「自律神経」といたみや運動と関係する「脊髄神経」の両方から影響を受けていますが、骨盤の中にある子宮、卵巣などは自律神経だけの影響を受けています。

すなわち、卵巣、卵管(外2分の1)などのいたみの刺激は脳に行くために、おへそからふともの(大腿)の高さの脊髄に入ります(交感神経系)。一方、卵管(内2分の1)、子宮、膣(上3分の2)からのいたみの刺激も脳に向かいます。こちらは肛門の周囲、内股から足指にかけての高さの知覚と関係する脊髄(副交感神経系)に入ります。』

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

女性の性器を調整している自律神経に関係する痛みの高さはお臍から足先まで及ぶ。例えば、「月経困難症」で腰や足まで痛んだり、女性特有の背中や骨盤、股の付け根などの痛みも「関連痛」によるものと考えられる。

自律神経は首や肩に多いため、こりや痛みが出やすい。

●婦人科の病気は年を取るとともに減っていくが、「更年期障害」や「自律神経失調症」は年と取るとともに増える。従って、年を取るとともに増える腰痛の原因は婦人科の病気より自律神経失調症によることが多い。図3・5

 

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

問5 更年期からふえる女性の腰痛

●「更年期障害」は更年期に出てくる自律神経症状といえる。また、更年期女性の20-60%の人に症状が出るといわれている。その主な症状は「肩がこる」「腰が痛い」「頭が痛い」「体がだるい」などである。図6

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

●更年期障害では、自律神経やホルモンと関係の深い間脳―下垂体―卵巣などに変化がおこり、冷え、のぼせ、多汗、睡眠障害などの症状がみられる。

問10 男性と女性の腰痛のちがい

●中高年女性の腰痛は骨盤中央(仙骨部)お尻(多くは片方)、足(下肢:しびれ、だるさ、冷え、下肢がつる、力が抜ける、つまずきやすい)、首など広い範囲にわたってみられるのが特徴。下腹の痛みや股の付け根の痛みも女性では腰痛との関係を考慮する。図8、図9

痛む場所は男女で違う
痛む場所は男女で違う

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

下肢の症状
下肢の症状

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

●中高年女性の腰痛の調査では3人に1人は骨折や捻挫をしており、腰痛そのものが非常に治りにくく、高齢による転倒、骨折で「寝たきり」の原因にまでつながっている。 

●女性では股、膝の関節の痛みは腰痛との関係が深い。調査では3割以上が腰痛に加え膝痛をもっている。

●常に方側だけに痛みが出る人、痛みやしびれが左右に移動したり動いてまわる人、痛む側の反対側に所見が出る人など様々である。

問11 腰痛がひどくなる動作は?

中腰:男女差はほとんどないが、女性では「顔や髪を洗う」「台所で前かがみで調理をする」「掃除機をかける」「庭を掃除する」「重いものをもつ」などの動作が非常に辛いものになっている。

腰を反らす:この痛みは女性に顕著にみられる。

長く立つなど:仰向けに寝ていると痛みが強くなる。「膝を伸ばして寝ると腰が痛い」「朝方に腰が痛くなる(寝腰)」「長く立っていると痛い」「しゃがんで草取りすると痛い」などじっとしている方が痛い。これはじっとしているために血のめぐりが悪くなり、骨盤の中でうっ血を起こすためと思われる。

その他:「歩く」「坐る」「しゃがむ」は女性によくみられる症状だが、これは家事などの影響が考えられる。また、「痛みで夜目をさます」、いわゆる夜間痛は3倍以上になっている。

図10

腰痛がひどくなる動作
腰痛がひどくなる動作

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

問13 いたくて反れない女性の腰痛

●痛くて反れないタイプは、首や肩に痛みが出ている場合が多く、症状が広く出やすいことが女性の腰痛の特徴になっている。特に首を後ろに反らして上を向く動作が痛い人は、からだ全体のコリが強く出ていると考えられる。

問14 足で「4の字」書けますか?

富田先生は、この「4の字テスト」[理学検査では「パトリックテスト」と呼んでいるテスト]について次のように説明されています。『女性の腰痛の要ともいうべき一番重要な症状です。ぜひ試してください!この症状がとれてくると腰痛や全身の症状も軽くなっていき、足の力も出てきます。

女性の腰痛で一番重要な症状
女性の腰痛で一番重要な症状

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

なお、「パトリックテスト」は、股関節や仙腸関節[骨盤中央]由来の腰痛かどうかを把握するために行われる検査です。 

こちらの画像は『Infinity』さまの、“理学検査⑤〜パトリックテスト〜”より拝借しました。

問16 骨盤の周りに多い圧痛点

中高年の腰痛は骨盤周辺に加え、お腹側にも圧痛点がみられる。図22

下肢の圧痛点
下肢の圧痛点

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

問18 骨の老化がいたみの原因?

ここでは“変性脊椎すべり症”について書かれた部分をそのままご紹介したいと思います。

『次に[1番目は“骨粗しょう症”です]中高年の女性に男性より多いレントゲン上の変化は腰の骨がずれる「変性脊椎すべり症」があります。この変化は中年女性にはじまり、約10-15%に見られるとされています。しかし、いたみとあまり関係がないとされ、ひどいスベリがあってもどうもない人もいますし、運動や治療で良くなっている人多いのです。

こうなるとレントゲン写真にあらわれる骨の変化はあまり中高年の女性の腰痛には関係がないといえるでしょう。最近はCTやとくにMRIの変化が腰痛の原因とされる人もふえています。

これらの検査は費用もかかり、家庭の主婦が多い中高年女性の腰痛ではその負担も重くのしかかってきます。レントゲン写真と同じように症状のない人にも変化があるので、とくに手術などの診断には慎重にありたいものです。まず適切な治療が優先されるべきです。そのあとでじっくり考えてきめても手遅れになることはほとんどありません。このことを強調しておきたいのです。』

問19 骨盤のズレもいたみの原因?

この問19も本文の一部をそのままご紹介します。

『お産のあとも骨盤のゆるみがいつまでも残っている人がいるのは事実です。若い人に多く老人には少ないといわれますが、わたくしたちの中高年女性の調査では3割以上にみられ、意外と多いものです。おっしゃるように骨盤がゆるんでいるために女性は腰がいたいのだという説があります(骨盤輪不安定症)。しかし、症状が出る前からゆるみがあったり、治っているのにゆるみだけが残っている人もいます。

また、このゆるみは年をとるとともにむしろ減っていくとされ、ふえていく中高年女性の腰痛の原因としては少ないと考えています。』 

問21 治療の基本はリラックス

首の重要性を指摘されています。

 『首や腰は前後に同じ方向にのびたり曲がったりすると同時に、手足も伸び縮みします(対称性緊張性頸反射)。このような反射が魚からヒトへと進化する中ででき上っていったのです。「あくび」をする時のような自然に出る動きですから、うまく利用するといたみのために動きにくくなっている全身を無理なく動かすことができるのです。』

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

問22 効いていますか? いたみ止め

“いたみ止め”には色々なタイプの薬がありますが、最も一般的なのは非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAIDs)と呼ばれているものです。特に腎臓病の患者さまにとっては、非ステロイド消炎鎮痛薬は使ってはいけない薬です。これは痛みの原因となっている“プロスタグランジン(発痛物質)”には、常時胃腸や腎臓の血流を良くしてくれる作があるためです。つまり、“いたみ止め(非ステロイド消炎鎮痛薬)”を服用すると、胃腸だけでなく腎臓の血流にも悪影響を及ぼします。

腎臓病に限らず、患者さまには「痛み止めは、なるべく辛いときだけにしてください。ほとんど痛みがないのに、習慣的に飲み続けるのは止めた方がいいです。」とお伝えしているのですが、本書の中にも同様な解説が書かれていますので、その箇所をご紹介します。

腎臓に関する記述(発痛物質”プロスタグランディン”の作用と腎臓への影響)は、『整形外科やましな医院』さまの“痛みどめの薬について”で確認させて頂きました。

『「いたみ止め」の薬はいたみをおさえるだけで、病気の原因を治すものではありません。ほかの方法で治る病気ですから、できるだけ使用しない方がいいと思います。

ただいたみのため眠れない人には、眠れないことが症状をひどくしますので、ときどき使って治療法を覚えてもらって、早く薬を止めるようにしています。

また、スジがこわばっているため「ギックリ腰」をおこしやすく、このように急にきたいたみにはしばらく使うことがあります。

いたみ止めは「効くのはそのときだけ」で根本的な治療にはならないこと、恐ろしい副作用があることをいつも気をつけておいてください。

まとめ

以上のことから、中高年女性の難治性腰痛に対する鍼治療を考える場合、次の視点が重要であると考えます。

1.女性は男性に比べ、筋量が少なく筋力も弱い。

2.女性の腰痛は、背中、お尻、脚、肩、首と広範囲に及ぶ。

3.首は約6kgの頭を支えている。

4.骨盤は体幹と2本の脚を支える土台であり、常に重力と動作による力を受けている。

5.子宮、卵巣等を内部に抱えた骨盤の構造は男性とは大きく異なる。

6.体を休め、臓器の働きを良くする副交感神経系は首と骨盤(仙髄)から出ている(交感神経系は“胸腰系”、副交感神経系は“頭仙系”と呼ばれる)

7.更年期はホルモンのバランス、自律神経の働きを乱す。

なお、上記のポイントを踏まえ、どのような施術をするかについては、次回以降の宿題とさせて頂きます。

腱の障害

腱鞘炎やテニス肘(上腕骨外[内]上顆炎)、成長期に見られる骨端症(膝:オスグッド病、足部:ケーラー病、イズリン病など)などはいずれも筋腱付着部が問題となります。

そして、損傷した組織の修復には血液が欠かせません。しかしながら、腱は筋肉と異なり血管が乏しいため、鍼灸による施術の科学的効果は筋肉に比べると、一般的に小さいと考えられます。

クリック頂くと、PDF資料(9枚)がダウンロードされます。なお、この資料の中には、次のようなことが書かれていました。

『組織の治癒は適切な血液供給を必要とする。しかし緻密結合組織には血液供給が乏しい。筋・腱接合部または腱の最も外側の膜であるパラテノンには血管、リンパ腺、さらに神経が通っているが、骨・腱接合部には線維性軟骨が存在し、限られた毛細血管を除き血管は通っていない。加えて、豊富な毛細血管をもつ滑膜は腱の周りを覆うが血液供給をしていない。このことから、腱や靱帯は再生能力の低い組織であると言える。

良い施術を行うには患者さまとその病態を正しく知ることが前提になりますが、今回の例で考えれば「腱の問題」の知識を持つことも大切です。

それには、整形外科の先生が行っている腱に対する診断(接し方)を知ることが有効であると思い、その視点でネット検索してみました。その結果、見つけたのが『臨床スポーツ医学 2016年5月 Vol.33』という医学雑誌のバックナンバーであり、特集されていたのは「スポーツドクターのための運動器超音波診療 -東京五輪に向けて-」というものでした。 

ブログは特集編集をされた、城東整形外科副院長である皆川洋至先生からのメッセージをご紹介し、続いて“腱の障害”の内容を箇条書きにまとめました。なお、超音波画像も貼り付けていますが、知識不足のため補足説明等はなく原文のままとなっています。画像を拡大しご確認頂ければと思います。

スポーツドクターのための運動器超音波診療
臨床スポーツ医学

出版:文光堂

発行:2016年5月

特集編集 皆川洋至(城東整形外科副院長)

『枝葉にとらわれず、選択と集中を繰り返す。そんな領域に特化したドクターのことを世間は“専門家”と呼ぶ。この100年間、医学が急速に発展してきた背景には専門家たちによる学問への多大な貢献があった。その一方、専門家にとって興味がない分野は進歩から取り残され、学問の谷間へ落ちた患者が、どこの病院に行っても“専門外”という言葉で行き場を失うようになった。さらに専門領域しか診ない医療システムが医療費高騰を引き起こす原因になった。領域を横断する総合診療医が求められる理由である。

医療費問題に直結しないが、領域横断のニーズはスポーツドクターにもある。パーツの手術ばかりでなく、1)運動器全体を診ることができる2)保存治療にも精通する3)時間制約がある中で選手に試合に送り出すための豊富な知識と経験がある4)競技をとりまく環境やチーム事情を考慮できるネットワークがある、そんなスポーツドクターが求められている。エコーが総合診療やスポーツ医学の世界で急速に存在価値を高めているのは、こへでも簡単に持ち運びでき、診断と治療に即活かすことができる領域横断の道具だからである。

2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催される。スポーツドクターがエコーを使いこなすことは、アスリートのためばかりでなく、ドクター自身のためでもあり、日本人としての誇りでもある。なぜならエコーを使いこなすために学ぶのは整形外科学そのものであり、リアルタイム画像・ドプラ画像・エラスト画像はすべて Made in Japan の技術だからである。

枝葉を取り除きながら育てた木は、大きく育っても細い、光合成する枝葉が多ければ、木は時間をかけてより太く、より大きく育つ。本特集が東京オリンピック・パラリンピックを支える若手スポーツドクターのために、少しでも役立つことを祈る。』

超音波診療で腰痛・膝痛・肩痛を解決!~レントゲンからエコーへ変わる新時代の整形外科~
超音波診療で腰痛・膝痛・肩痛を解決!~レントゲンからエコーへ変わる新時代の整形外科~

超音波診療で腰痛・膝痛・肩痛を解決! ~レントゲンからエコーへ変わる新時代の整形外科~

整形外科におけるエコーの有効性が詳しく説明されています。

画像出典:「Medical Note」

皆川先生が副院長をされている秋田県にある素晴しい病院です。

また、城東スポーツ整形クリニックもあります。

腱の障害の超音波画像診断

●スポーツ障害は、筋肉、靭帯、腱などの軟部組織の損傷が多い。

●特に青少年期には骨端軟骨や腱付着部の障害など軟部組織の異常を伴うことが多い。

軟部組織の診断、病態の評価は単純X線撮影では難しい。

●MRIは静止画像であること、検査待機時間や撮影時間の問題、医療費など制約が多い。

●超音波断層検査は機器の発達に伴う画像の鮮明化により診断精度が飛躍的に向上した。

●超音波断層検査は機器の軽量コンパクト化により機能性が高まり、動的な血流評価や組織弾性度の測定、複数回の評価による病態の変化の把握も容易である。

スポーツにおける腱の障害(腱付着部の損傷、腱実質の損傷、腱の変性など)の診断のポイントは、付着部から実質部へかけての腱の肥厚の有無、付着部の骨棘形成、腱実質内部の低エコー領域[超音波の反射波が少なく黒っぽく写っている部分のこと]の有無、fibrillar pattern[正常の腱や靭帯に見られるパターン]の消失や乱れ、パワードプラ法による腱表層、あるいは深層の血流増加について評価する。次に異常を疑った部位については、ブローブ圧迫による圧痛の有無、内部エコー、周囲の腫脹の有無について評価する。また、腱の滑走性の評価も可能である。

急性、亜急性の腱の変化

●腱障害のうち比較的急性、亜急性のものでは腱実質の損傷部を腱内部や付着部の低エコー像やfibrillar patternの乱れとして確認することができる。(図1) 

●腱の表層おいて腱付着部の腫脹が膨隆として認められる。(図1)

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)のエコー画像
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)のエコー画像

画像出典:「臨床スポーツ医学

急性期かどうかの判断には血流の評価が有用である。パワードプラ法を用いればより微細な血流増加を捉えることができる。(図2) 

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)のパワードプラ像
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)のパワードプラ像

画像出典:「臨床スポーツ医学

●画像上異常を認める部分と圧痛部位とが一致するかも腱の変化が急性期のものかどうかの判定に有用である。

腱骨付着部の変化

●オスグッド・シュラッター病に代表される骨端症は成長期スポーツ障害の一つであり、膝蓋腱の脛骨付着部である脛骨粗面の二次性骨化中心の周囲に生じた損傷である。超音波検査では裂離骨折の有無のみならず、裂離部の血流増加や腱の肥厚や周囲の血流の増加、膝蓋下滑液包の水腫など多彩な変化を観察することができる。(図3)

オスグッド・シュラッター病のエコー画像
オスグッド・シュラッター病のエコー画像

画像出典:「臨床スポーツ医学

さらに損傷部位が治癒するにつれて、骨片の架橋形成[骨折部の橋渡し]、血流の低下や腱の腫脹の減少を確認することができ、スポーツ復帰の許可を判断する目安にもなる。

慢性化した腱の変化

●腱の障害は慢性化すると腱の肥厚が特徴的になる。

●腱の肥厚の原因は、オーバーユースによる腱の微小な損傷と治癒が繰り返されることによって、腱が肥厚するものと考えられるが、正常な腱肥大と異なりfibrillar patternが不明瞭であることが特徴的である。

腱表層の水腫や深層での低エコー像や血流増加像がみられることもあるが、慢性化した障害ではそれらの変化はわずかなことも多い。(図5)

膝蓋腱炎(ジャンパー膝)の超音波像
膝蓋腱炎(ジャンパー膝)の超音波像

画像出典:「臨床スポーツ医学

慢性化した障害では腱そのものの変化のみならず周囲組織にも十分観察の目を向けて、複雑化した病態の把握に努める必要がある。 

腱の組織弾性の評価

●最近では、腱の弾性を評価することによって、より詳細な腱の評価や腱の変化を捉えることが可能になった。

●腱、筋肉は関節の角度や筋収縮などの条件によって変化する弾性体であり、超音波エラストグラフィーの手法がその質的評価に有用であると考えられている。 

画像出典:「臨床スポーツ医学

分かったこと

1.急性期は腫脹が起こるとともに組織修復のために血流が増加する。そして、治癒により腫脹、血流増加とも消える。このことは、発生した炎症の抑制と組織の再生という治癒の過程を示すものです。また、体を休め筋・腱への負荷を減らす努力が最も望まれることだと思います。

2.慢性期は腫脹も血液増加もあまり見られないことが多い。このことは、治癒という再生のプロセスが停滞している状態と考えられます。

また、文中に『慢性化した障害では腱そのものの変化のみならず周囲組織にも十分観察の目を向けて、複雑化した病態の把握に努める必要がある 』と書かれています。この「病態の把握」というキーワードは「原因の特定」にも関係します。

3.以上のことから、腱の障害において鍼灸師として心がけることは次のようなことだと考えます。

慢性化し血流増加が見られない損傷部位に対し、鍼灸治療を行うことで血流を高め組織再生のプロセスを再点火させる。

施術ポイントを検討する際には、周囲の組織(特に筋肉、筋膜など)の状態や首、腰などの主要関節の問題の有無などを把握し、患部の血流を改善するための方針・対策を明確にして施術にあたる。

付記1超音波エラストグラフィー 

「超音波エラストグラフィー」という言葉が初めてだったので、少し調べてみました。

付記2さいたま市内でエコーによる診断をされているスポーツ整形外科 

病院なび”という検索エンジンを使い、”さいたま市”・”スポーツ整形”をキーワードに検索してみたところ、23件がヒットしました。そして、ホームページをお持ちの病院に関し、設備などを中心に見ていったところ、1つだけエコーを使って腱などの軟部組織の病態を診ていただける病院がありました。ホームページ情報からのものなので他の病院でも、「実はやっている」というところもあるかも知れません。あらためて「まだまだ普及していないのだなぁ」と実感しました。

”整形外科エコー検査”として紹介されています。

なお、私自身はお世話になっておりませんので、詳細は不明です。

自分自身のギックリ腰治療

9月16日土曜日、台風18号は沖縄から九州に向かっていました。既に秋雨前線は刺激され雨模様。乾燥器無し洗濯機の我が家は、コインランドリー頼みとなっています。
少なくとも2、3日は雨だろうと判断し、久々にコインランドリーに行くことにしました。想定は20分乾燥でしたが、ボーッとしているのはもったいないため、本と携帯型老眼鏡を持って行きました。ところが、なんとケースの中はカラ。中身の眼鏡が入っていません。ガーン。

10年程前に行ったレーシックの完全補正手術により、視力は小学校時代をしのぐ「2.0」、おそらく今も「1.5」は維持していると思います。これにより、眼鏡がないと本を読むのはかなり苦しいことになっているのですが、目を極力細め、全神経を眼に集中させることで、厳しいながらも読み始めました。

一方、背もたれのないイスは腰が痛くなりやすいので、普通であれば意識して、あるいは無意識に体を微妙に動かし、腰を固まらないようにしているようなのですが、この時は、少なくとも20分間ほぼ固定状態だったと思います。これが、おそらく「ギックリ腰」の原因だと思われます。

眼鏡が下のケースに入っていれば。。。

「うっ!?」

テーブルに両手をつき、思いっきり腕の力を使って、立ち上がりました。数歩あるくと痛みは緩和され、腰を曲げたり捻ったりしなければ生活はなんとか問題なさそうです。明日は、年1回の相澤良先生を囲む会が都内で行われるため、何とかせねばと思い、就寝前に鍼治療を試みました。

頚や肩のこり、口内炎、花粉症、風邪の初期、体調不良時、謎の足首痛など、自分への鍼治療はめずらしくないのですが、腰はうつ伏せの状態で行うことになります。腕を動かすと背中の筋肉は緊張し硬くなり、体を動かすと場合によっては筋力により鍼は曲がります。折れる心配はありませんが、筋肉のとっては好ましいものではないと思います。
受傷当日のギックリ腰の治療は、遠隔部への置鍼、原発部位への単刺(刺したら、すぐに抜く)が基本ですが、この日は様子見という意識もあり、骨盤上方の圧痛部5、6か所への単刺のみとしました。

翌朝、起床時の印象は良かったのですが、残念ながらほとんど変わらない状態でした。ただ、両手を頼りにすれば立ち上がることは可能で、「ズキッ」とくる動作時の鋭い痛みも一瞬なので、予定通り会には出席できました。座っていた時間は約3時間+アルコール摂取が良くなかったのか、その日の夜は悪化しました。この日を「10」とすると初日の昨日は「7」という感じです。

現在、業務委託による訪問の仕事も行なっているのですが、半分がマッサージです。そのため「何とかしないとまずい!」という状況に追い込まれることとなりました。


9月17日の夜は受傷後40時間位たっており、炎症はないと判断して全て置鍼としました。背中の上方、肩甲骨下部付近も、腕が届く範囲で圧痛を探し、両手をモゾモゾさせながら、何とか刺入しました。おそらく理想的な刺鍼ポイントからは1cm近くずれていたかもしれません。こうして、15本程刺鍼し、約15分間置きました。この結果、翌日の痛みは「7」に戻ったという感じでした。


18日も同様に行いましたが、この日は居眠りしてしまったこともあり、結果的に1時間近く置鍼することになりました。前日から既に筋肉の改善は進行していたと思いますが、おそらく、この長い置鍼時間もプラスに働いたものと思います。幸いにも翌日の痛みは「3」くらいまでに改善されていました。

手を使うことなく、立ち上がることもできるようになり、ほぼ自然に動けるレベルになりました。最もホッとしたのは、バックでの駐車です。特に右に捻る動作では激痛があり、痛みを我慢し、歯を食いしばって車を何とかとめていたのですが、この気になっていた、危険な事態も回避できました。

 

21日夜、残念ながら痛みはほぼ「3」で横ばい状態でした。しつこい痛みが骨盤直上、背骨近くの奥の方に感じます。最も疑われる筋肉は多裂筋です。一瞬の鋭い痛みはないのですが、イスから立ち上がり、背筋を伸ばすと2、3秒、ズーンとする嫌な鈍痛が後を引く感じです。

そこで3日ぶりに自己治療をすることにしました。今回の体勢は横向き、鍼は寸6・3番(長さ50mm・太さ0.2mm)という少し長く、少し太い鍼を使い、体勢的に刺鍼可能な範囲の圧痛ポイントを狙って単刺+雀啄(鳥がクチバシでつつくような刺激を加える手法)で施術しました。刺入の深さは場所によりますが、3~4cm程だと思います。この際、1ヵ所、トリガーポイント(関連痛を伴う硬結)をヒットした時にみられる「ビクッ」とする局所短収縮(LTR)がありました。また、鍼尖に粘りつくようなゲル状の感触がありました。こうして、この施術により奥にくすぶっていた硬いブツと緊張はだいぶぬけた印象があり、翌日は1.5」になっていました。

「肉単」より
多裂筋

「脊柱(背骨)を支えるために強力で重要」といわれる多裂筋(今回は場所的に腰多裂筋)が、イスに腰掛け、やや前傾となっている上体を、地面から引っ張るように存在する重力に対抗し、緊張を維持したまま、約20分間必死に支え続けた結果の産物だったのだろうと思います。

画像出展:「肉単」

出版:エヌ・ティー・エス

今回の自己治療を通して、再確認できたことは、ギックリ腰の治療は遠隔治療および30分以上の長い置鍼と、単刺・雀啄で圧痛、硬結をピンポイントで狙うことが最重要であるということです。そして、良い睡眠(早寝+睡眠時間)も忘れてはいけない大切なポイントだと思いました

画像出展:GATAG

運動器エコー

「月刊スポーツメディスン8月号 No.193」の特集は「運動器超音波がもたらす新しい診療」でした。また、副題は「エコーガイド下の治療、エコーでスタッフ連携」となっています。
そして寄稿は次の4つです。
1.第2世代の幕開け!進化続ける運動器エコー:ソニックジャパン株式会社 代表取締役 松崎正史氏 
2.日本から世界へ!進化続ける運動器エコー:帝京大学スポーツ医科学センター 同大学医学部整形外科講座、医療技術スポーツ医療学科 笹原潤先生
3.超音波診“断”から超音波診“療”の時代へ:横浜私立大学運動器病態学教室、同大学付属病院整形外科 宮武和馬先生
4.スポーツ医学の本場Stanford大学での挑戦:PM&R(Physical Medicine and Rehabilitation) Orthopaedic Surgery, Stanford University 福島八枝子先生

「月刊スポーツメディスン」
「月刊スポーツメディスン」

「月刊スポーツメディスン8月号 No.193」

出版:ブックハウス・エイチディ

運動器エコーについて、「月刊スポーツメディスン」では、既に2008年から次のようなタイトルで特集が組まれていました。10年近く前から始まっていたということを知り、たいへん驚きました。
・2008年…「スポーツに役立てる超音波診断装置」
・2011年131号…「超音波 診断から診療へ-整形外科領域で進むエコー革命」
・2012年141号…「運動器超音波解剖-コメディカルが動画で診る時代」

今回のブログは、8月号 No193、4つの寄稿より「運動器エコーとはどんなものか」を知ることを目的にまとめてみました。

 

1.整形外科で使われる主な画像診断装置
・主にネットで調べた情報を元に、レントゲン(X線)、CT、MRI、超音波の特徴を表にし
ました。右端の「超音波」は手軽にしかも静的、動的と機能性高く軟部組織をみることがきる優れた装置であることがわかります。

2.整形外科の問題点
・『私が今、整形外科とスポーツ整形について思っている問題点は、たとえば首が痛いとか、膝の裏が痛いとか、そういう訴えについて、とくにレントゲンなど画像上も問題がなければ、病態もわからないまま“筋肉の痛み”と決めつけ、「痛み止め、湿布、リハビリで」という治療が一般的になっているということです。(宮武和馬先生)』
・『今後は、おそらく内服、外用、リハビリオーダーは、人工知能(AI)でできるようになる可能性が高いです。当面、我々整形外科医が取り組むべき課題は、やはり手術あるいは注射ということになると思います。では手術だけでいいのかというと、整形外科と名乗る以上は、関節外にも注目すべきだと思っています。海外では整形外科のみでなく、PM&R(Physical Medicine and Rehabilitation)という分野ができています。そこでは、エコーガイド下で、注射をしたり、手術を行ったりしています。つまり、関節外に対してアプローチする専門家がいます。日本には、「リハビリテーション科」があり、多くのリハビリ科医は主に脳卒中などのリハビリを行い、運動器のリハビリは、まだそこまで注目されていないところがあります。その意味で、わが国でもPM&Rの概念をもう少し整形外科やリハビリ科が取り入れてもよいのではないかと思っています。(宮武和馬先生)

 

3.Fascia (ファシア)とは
・Fasciaの定義については、「人体の張力ネットワーク 膜・筋膜 最新知見と治療アプローチ」の監訳者であり、首都大学東京の竹井仁先生の序文を引用させて頂きます。


Fascia(膜・筋膜)は、身体全体にわたる張力ネットワークを形成し、すべての器官、あらゆる筋・神経・内臓などを覆って連結しています。筋膜に関する研究はここ30~40年ほどで大きく発展しました。それまでは、皮膚、浅筋膜、深筋膜などをいかにきれいに取り去り、筋外膜に覆われた筋を露出させるかに力が注がれてきました。また、どの筋が骨を介してどのような作用をするかに関しての研究が主流でした。
しかし、生体においては、筋群の最大限の力が骨格への腱を経て直接的に伝達することは少なく、筋群の作用は、むしろ筋膜シート上へと、収縮力あるいは張力の大部分を伝えることがわかってきました。また、これらのシートは、共同筋ならびに拮抗筋にこれらの力を伝達し、それぞれの関節だけでなく、離れたいくつかの関節にも影響をおよぼすことも明らかになってきたのです。さらに、筋膜の剛性と弾性が、人体の多くの動的運動において重要な役割を果たすことも示されてきました。これらの事実は、新しい画像診断や研究手法の開発によって飛躍的に明らかになってきました。
2007年10月にHarvard Medical Schoolで開催された第1回国際筋膜研究学術大会(The 1st International Fascia Research Congress)において、「Fascia」は、「固有の膜ともよばれている高密度平面組織シート(中隔、関節包、腱膜、臓器包、支帯)だけでなく、靭帯と腱の形でのこのネットワークの局所高密度化したものを含む。そのうえ、それは浅筋膜または筋内の最奥の筋内膜のようなより柔らかい膠原線維性結合組織を含む」と定義されました。

「膜・筋膜」
「膜・筋膜」

「人体の張力ネットワーク 膜・筋膜 最新知見と治療アプローチ」

出版:医歯薬出版

「アトラスとテキスト 人体の解剖 」
[皮膚]ー[浅筋膜]-[深筋膜]

下の図は上の写真をイラストにしたもので、

外側から[皮膚]ー[浅筋膜]-[深筋膜]になります。

「アトラスとテキスト 人体の解剖 」

出版:南江堂

「月刊スポーツメディスン」より
“感覚神経は筋肉を包むfasciaに多く存在している”

『「感覚神経は筋肉を包むfasciaに多く存在している」という論文が2011年に出ています。要は筋肉内ではなく、それを包むfasciaに感覚神経がたくさんあるから効くのだという理論です。』

画像出展:「月刊スポーツメディスン8月号」

4.「エコーガイド下の治療」について
・はじめに
 ・「エコーガイド下の治療」ということに焦点を当て、寄稿の中から特に重要と感じ
たものを取り上げました。

 ・「エコーガイド下の治療」に焦点を当てた1番の理由は、見ることができなかった筋肉やFasciaを静的だけでなく動的にも見ることができ、確認しながら治療ができる。この進歩は革命的であると考えたためです。

・使いこなすには 
 ・エコーはゼリーを塗って、プローブを患部に当てれば見えます。操作はとても簡単ですが
、課題は何が見えているのか分かること。これはエコーの問題ではなく解剖の知識の問題です。つまり、勉強により解剖の知識を高めることが必須になります。

エコーガイド下の注射
エコーガイド下の注射

この写真は、腰部多裂筋をターゲットとして、エコーガイド下の注射を行っているところです。(写真の下方が頭です。エコーで筋肉や筋膜などの状態を確認しながら、背骨の際に注射しています)

画像出展:解剖・動作・エコーで導くFasciaリリースの基本と臨床―筋膜リリースからFasciaリリースへ 」

出版:文光堂

・ハイドロリリース
 ・「ハイドロリリース」はエコーガイド下での注射によるfasciaリリースを提唱している
川洋至先生が産み出した用語です。この概念は海外でもハイドロダイセクション(hydrodissection)という用語で通じますが、海外での利用はほとんどが絞扼性神経障害に使われています。一方、日本では生理食塩水を使い、どこのfasciaでも、例えば寝違え肩こりだったら肩甲挙筋と僧帽筋の間だったり、肩が挙上できない、外旋できないだったら、烏口上腕靭帯にというふうに行われています。
 ・理想は体液に更に近い組成のリンゲル液です。ビカネイトという点滴に使われる液体だと
全く痛くない注射ができます。(生食の場合、少し痛い)
 ・現在、広く流布している「筋膜リリース」と区別するために超音波で見えている現象を言
葉にして定義されました。(2017年3月頃)
 ・『現在、自分が思っている理論は、筋肉と筋肉の間のfasciaに対して、たとえば動きが悪
くなっているところに対して、生食を打ってあげる。癒着という大それたものではなく、イメージになってしまいますが、私はadhesion(接着)と呼んでいます。(宮武和馬先生)』

「月刊スポーツメディスン」より
ハイドロリリースのイメージ

画像出展:「月刊スポーツメディスン8月号」

・利点
 ・薬液はキシロカインやメピバカインなどの麻酔薬やステロイドである必要はなく、副作
用のない生理食塩水(生食)が使える。

 ・今まで見えなかった軟部組織が把握できる。深層筋の状態もわかる。 
 ・動かしながら見ることができる。
 ・診察室のベッドサイド使える。ポケットエコーを使えば外出先でも使える。

 ・診断的治療ができる。(数mm単位で注射できるので効果の有無で病態の弁別が可能)
 ・精度の高い診断によりPT(理学療法士)との連携が良くなる。
 ・エコーガイド下での注射は、痛い組織をエコーで見て、そこで針を持っていくこと
ができる。(従来型を「ブラインド注射」という)

ポケットエコー
ポケットエコー

日本では薬事法により医療機器は安全が担保されていなければならず専用機が必要です。

画像出展:「月刊スポーツメディスン8月号」

・活用例
・トレーナーも使っていて、医師不在のときはトレーナーからエコー画像をメールで送ってもらっている。
『たとえば、これはアキレス腱断裂に対し保存治療を行っていた選手です。受傷1週で外固定をスプリントから装具に変更し、エコーで見ながら可動域訓練を開始するといった積極的な保存治療を行っています。この選手については、受傷1週の時点は自分がエコーで診たのですが、翌日からアメリカへ出張しなければならず、それから2週間は自分が直接診察できないといった状況でした。普通でしたら、その間どうしようとなるのですが、当センターではその間もトレーナーがエコー画像を動画で送ってくれるのです。静止画ではわからない断裂部の接着状況を、アメリカにいながら送ってもらった動画で確認することができました。(笹原潤先生) 』

「月刊スポーツメディスン」より
アキレス腱断裂のエコー画像

画像出展:「月刊スポーツメディスン8月号」

・アメリカの運動器エコー事情は進んでいる。
『先日、アメリカの運動器エコー事情を視察するため、松崎さん(ソニックジャパン株式会社 代表取締役)とピッツバーグに行ってきました。ピッツバーグの大西賢太郎先生(PM&R科)のもとを訪れ、クリニックでの外来診療の様子やレジデントへの教育などを見学してきました。膝前十字靭帯損傷や半月板損傷の診断をエコーで行っていたり、エコーガイド下手術の専用機器があったりと、日本との違いに驚くこともありましたが、その一方で、日本の技術力の高さ(プローブの性能など)にも改めて気づかされました。(笹原潤先生)』 


・診断と治療~動的診断への挑戦~
『では、どう診断、治療するかというと非常に難しい。やはりまだ診断する力が足りていないと感じるのが現状ですが、やはりここだろうと思っているところと、圧痛や身体所見を使って診ていきます。私の今の見方は、簡単な身体所見をとって、ある程度どこの筋肉が悪いかを診ていきます。「ここが痛い」と本人が言うのはあまり当てにならないので、そこを目安に圧痛を診ていきます。圧痛が非常に大事で、痛いところが全然違うところに隠れていることもあり、それをある程度予想して圧痛部位を探っていき、それに対してエコーを当てて、そこに何があるか組織を確認します。筋肉だけと思いきや、そこの下に神経があったりということが多くあります。つまり、身体所見と圧痛、それを静的にエコーで確認して、何の組織があるかを見ていく。さらに最近は動的診断、動かして診ていく。これがやはりエコーの一番の武器なので、動かして診断しエコーガイド下でハイドロリリースを行う。身体所見、圧痛、エコーを組み合わせないとこういう注射は実現できません。(宮武和馬先生)』


5.アメリカのエコーガイド下治療 (福島八枝子先生)
・『日本とアメリカの最も大きな違いは、整形外科surgical科とPM&R科(整形外科のnon‐surgical科;運動器保存療法)(PM&R:Physical Medicine and Rehabilitation)が明確に分かれていることです。整形外科surgical科とPM&R科間の診療連携は非常に密ですが、医師自体はまったく異なった臨床研修プログラムを経ており、PM&R治療概念は日本国内の一般的な整形外科保存療法の延長ではありません。まったく異なった診療科として存在しているという背景です。PM&R科が提供する治療の1つに超音波ガイド下注射と超音波ガイド下最小侵襲手術があるのみです。注射では、日本国内ではあまり馴染みがありませんが、こちらでは圧倒的に再生注射です。PRP(Plate rich plasma)やstem cell注射が主流です。ぼろぼろになって摩耗した関節軟骨や靭帯を再生させたいと医療者も患者も大いに期待を寄せています。また、慢性・難治性腱障害などには超音波ガイド下最小侵襲手術による治癒促進や不良瘢痕組織の除去が必要となります。手術デバイスの開発が進んでいます。』

画像出展:「月刊スポーツメディスン8月号」

超音波を使って筋肉の硬さを測る

今回のブログは、「月刊トレーニングジャーナル 2017 8 No.454」の特集「ケガや不調を防ぐヒントとアドバイス」から「骨格筋の硬さ情報をケガの予防に活かすための基礎研究 -超音波を使って硬さがわかる」を取り上げました。この寄稿の筆者は、稲見崇孝先生(慶応義塾大学体育研究所)です。他の2つのテーマは「不測の事態を予防する取り組み」と「トレーニング分野との協業で傷害予防を」となっています。

月刊トレーニングジャーナル
月刊トレーニングジャーナル

月刊トレーニング・ジャーナル 2017年8月号(通巻454号)

発行:ブックハウス・エイチディ

サブタイトルの「超音波を使って硬さがわかる」とあるように、主役は筋肉と超音波診断装置のお話です。整形外科で最も利用されているX線検査では筋肉は写りません。

一方、MRIは大掛かりな装置であり、ダイナミックな筋肉を対象とする画像診断装置としては、重厚長大な感じは否めません。
その点、超音波診断装置は機能性に優れ、リアルタイムで筋肉を診断できる素晴らしい画像診断装置です。また、表面筋電図では難しい深さの情報にも対応できる点も魅力です。
話はそれますが、私はMPS研究会(MPSとは筋膜性疼痛症候群)という会の会員になっています。この会は木村裕明先生(木村ペインクリニック)が会長をされており、整形外科や麻酔科、ペインクリニックの先生を中心に筋膜性疼痛症候群(MPS)に対し、超音波診断装置の活用に積極的に取り組まれています。

「Fasciaリリースの基本と臨床」
「Fasciaリリースの基本と臨床」

こちらは2017年3月に出版されたものですが、木村裕明先生は編集主幹をされています。

Fasciaとは筋膜、靭帯、支帯、関節包、傍神経鞘などの線維性結合組織を包括する概念です。

発行:文光堂 

寄稿のなかでは、組織の硬さをリアルタイムで画像化する超音波エラストグラフィ(Ultra Sound Elastography:超音波組織弾性映像法)という新しい装置が登場しています。

ネット検索で見つけたエラストグラフィに関する2つのサイトをご紹介します。
1.JRA日本中央競馬会 競走馬総合研究所 (下左図)

・なんと!ヒトではなく馬の画像です。従来(白黒)の画像とエラストグラフィ(カラー)の画像の比較が分かりやすかったため載せました。 
2.がんなび (下右図) 
・複数のメーカーが製品化していると思いますが、この記事では日立メディコが筑波大学との共同研究で実用化し、2003年末から販売されているとのことでした。なお、このエラストグラフィの装置は、日立製の超音波装置に追加できるユニットになっているそうです。


過去に受傷した大腿部
過去に受傷した大腿部

こちらは過去に大腿直筋を損傷した選手が筋収縮しているときの画像です。左大腿部は筋の形が変形しており、見ためは左右差が顕著ですが筋力には差がないとのことです。

画像出展:月刊トレーニング・ジャーナル 2017年8月号(通巻454号)

稲見先生は、この状態に対し疑問を提示されています。

『たとえば膝関節の伸展筋力は大腿直筋、外側広筋など4つの筋で構成された大腿四頭筋の力です。大腿直筋の肉ばなれを起こした選手がいたとして、大腿四頭筋全体の筋力の回復をもって現場に復帰したり、左右差なしと言うだけで本当によいのかどうか。個々の筋の状態をそもそもダイナミックに評価できないのかという思いがありました。パラリンピックに出場する選手の中には普段鍛えにくい筋が非常に肥大している場合があることを考えると、ある部位の損傷によって損傷していない他の協同筋が適応もしくは代償した可能性もあるわけです。それで最終的に左右で同じ値になったとしても、中身は違うのではないか。外からみた動きが本当に正しいのか、と思います。
必要となるのは、個々の筋を細かく評価するツールですが、超音波エラストグラフィはそれを可能にする診断装置です。たとえば、予防トレーニングでは左右差も1つの評価項目ですが、関節角度が左右同じであっても(同じように筋収縮していても)、貢献する筋の硬さ情報が違うといったことが観察できます。予防トレーニングを実践する選手にとっても、見やすく色づけされた動画であることは納得しやすいと思います。』

腓腹筋でのデータ
硬さと収縮強度の関係

画像出展:月刊トレーニング・ジャーナル 2017年8月号(通巻454号)

こちらは腓腹筋の硬さを縦軸、収縮強度を横軸に取ったグラフです。このグラフについて、稲見先生は次のように解説されています。
『最大筋力を100%としたとき、少しずつ収縮強度を上げていくとどうなるか。健常側では直線的に上がっていくグラフとなっており、これは先行研究の通りです。一方、肉ばなれ後の脚は低強度から一気に硬くなってしまいます。15%強度の硬さが、健常例の45%強度に相当しています。筋の硬さは筋活動と正相関の関係にあるため、これだけ硬いということは、同じ出力で筋力に左右差はないのに過活動しているということになります。また、活動量が多いことも硬さを上げる要因であるため、中枢からの指令も違っているはずです。中枢についてはまだ詳細に測れていないのですが、部位を局所的に見ると瘢痕化していて実際に筋が正常な収縮をできる状況にありません。よって少なくともこのような事例では局所的に起こっている潜在的な問題があると考えています。
つまり本来はいくつかの協同筋と一緒に活動しないといけないのに、ある特定の筋だけが頑張っているということが起こり得るので、これをトレーニングやリハビリテーションとして改善・予防していくために必要な取り組みがあるのではないかと思います。』

先にご紹介した大腿直筋を損傷した選手の話に戻りますが、何故、詳細な評価を受けたのか、その理由が説明されていました。

リハビリして現場に戻ったのち、左右差がないのはわかっているが、過去にケガをしたほうの太ももの付け根(大腿直筋近位)にのみ疲れがたまるという「なぜ」がありました。陸上短距離の国際大会に出場する選手なのですが、その部位だけ疲れてしまって動けなくなる、脚があがらなくなる、反対の脚では起こらないということでした。MRIでは瘢痕が確認できました。エラストグラフィで硬さを測定すると、受傷側は安静時でも健常側より硬く、さらに筋電図で大腿部の上部から下部まで細かくみてみると活動の序列が崩れていて、訴えのあった疲れる箇所の過活動が確認されました。
これから、再度損傷しないように予防していくために、柔軟性トレーニングと並行して股関節屈曲トレーニングより膝関節の伸展トレーニングを増やすなどのトレーニング時期を設けました。なお、この選手の受傷機転は運動会での競争中、走り始め3歩目くらいでぶちっと筋がきれる音がしたとのことだったのですが、片づけが終わるまでアイシングなどの処置ができなかったことにも問題がありました。テーピングをして2週間後の大会に出場していることから、一般的によく起こりうるレベルの肉ばなれかと思いますが、軽視・放置してはならない事例だと言えます。』


まとめ

腓腹筋の肉ばなれ後の硬さの問題や、陸上短距離選手の事例を拝見すると、気になる筋肉ごとの硬さをダイナミックに測定できることは、選手に起きている症状の分析を容易にし、リハビリや予防トレーニングのメニューを正しい情報に基づき最適化できるということなので、超音波エラストグラフィは筋肉の最新状況を分かりやすく見せてくれる頼もしい診断装置であると思います。

宮市選手の怪我について(足関節捻挫)

先月(ドイツ時間6月28日)、宮市選手が所属しているドイツ・ブンデスリーガ2部のザンクト・パウリは、宮市選手が紅白戦で右膝前十字靭帯断裂の大怪我を負ったことを発表しました。
圧倒的なスピードを武器に、高校卒業後ヨーロッパサッカーに挑戦。大きな魅力と可能性をもった宮市選手の負傷は大変残念なニュースでした。
私も「慢性怪我病」に悩まされたサッカー人として、どういうことになっているのか、今までの経緯などを知りたくなり、ネット検索で宮市選手の怪我の履歴を調べてみました。

 

2011年11月 左足首捻挫
2012年4月 右肩負傷
2012年11月 右足首靭帯損傷
2013年3月 右足首靭帯損傷
2014年3月 左ハムストリング損傷
2015年7月 アキレス腱痛
2015年7月 左膝前十字靭帯断裂
2016年9月 右脚肉離れ
2017年6月 右膝前十字靭帯断裂

 

大雑把に言うと、「足首捻挫→肉離れ→膝の靭帯」という経緯ですが、私の場合も同じようなパターンでした。もっとも、ボールを蹴るスポーツであるサッカーにおいて、擦り傷や打撲を除くと足首の捻挫が多いのは十分に予想されるものです。一つ気になるのは、多くのサッカー選手は足首捻挫を楽観的に捉えてはいないだろうかという懸念です。

高校生の私は、「捻挫なんてたいした怪我ではない」とまじめに考えず、酷いときは全く伸縮性のない幅広のガムテープを持ち出し、足首をガチガチに固定して試合に出たこともありました。自分の体を大切にしない愚かな行為で体は悲鳴をあげていたと思います。

このように足首の捻挫は無理すればプレーできてしまうところに大きな問題点があります。
宮市選手などの一流アスリートの中にも、厳しい競争に直面している状況などから、受傷後の適切なケアが十分ではない選手も多いのではないかと想像します。
そこで、「適切のケア」とはどういうものなのか、今更ですが、謙虚な気持ちで「足関節捻挫」を理解し、どのような対応を取るのが良いのか調べてみました。
今回、勉強の材料とさせて頂いたのは「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」という本です。ブログは主に第2章(足関節捻挫)の「足関節内反捻挫の病態と予後」から、そして、サッカーに関する内容を中心に取り上げています。

監修:福林徹、蒲田和芳
「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」

監修:福林徹、蒲田和芳

出版社:ナップ 

この本は文献を調査分析した内容となっています。文献検索はPubMedを用い、「epidemiology(疫学)」「ankle(足首)」「sprain(捻挫)」などの用語と各種スポーツ名を組み合わせて検索した結果、1,831件が抽出され、29文献が第2章で選択、参考とされました。

その、第2章の概要説明は次のような書き出しになっています。
『足関節捻挫はスポーツ外傷のなかでも発生頻度が高い疾患である。しかしながら治療が十分でなかったり、機能低下を残したままスポーツ活動に復帰する例が多く、再受傷の頻度が高い。この理由としては、ある程度の期間休んでいると疼痛が軽減することや代償的な動きにより日常生活やスポーツ活動ができてしまうことなどから、機能改善のためのリハビリテーションが十分に行われないことがあげられる。そして機能低下が残存した状態で競技復帰した選手は後遺症に悩まされる可能性が高い。』

これは、40年前とほぼいっしょ。やはり、選手側の実状は変わっていませんでした。

足関節捻挫の受傷機転
足関節捻挫の受傷機転

「人体の正常構造と機能」より
外反と内反

上の2枚の絵は、捻挫の受傷例を紹介しています。

いずれも、「足関節捻挫予防プログラム」からの出展です。

左は「外反」と「内反」を紹介した写真です。

足首の捻挫としては圧倒的に内反の捻挫が多くなっています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

出版会社:日本医事新報社

 

足関節捻挫の疫学
1.サッカーに見られる特徴
・文献では、足関節外傷の発生率は11~31%であり、そのうち足関節捻挫は60~70%です。他のスポーツと比べると外反捻挫(三角靭帯、前脛骨腓靭帯)の発生率の高さが特徴です(17.7%=14.3+3.4)。これはインサイドキックをやシュートブロックの際にボールが足尖付近に当たることでの受傷やボールを蹴る際、軸足に対して外側からのタックルなどでの受傷が多いためと考えられます。

「足関節捻挫予防プログラム」より
サッカーにおける足関節靭帯損傷発生率

画像出展:「足関節捻挫予防プログラム」

出版会社:ナップ

前距腓靭帯は、下の左図(外側面)、三角靭帯は、右図(内側面)に出ています。

「人体の正常構造と機能」より
足根の靭帯

 画像出展:「人体の正常構造と機能」

・文献の中に内側縦アーチの高さと捻挫の発生率の関係を報告したものがありました。
自分自身の話になりますが、私は偏平足です。ということは代表的な「ローアーチ」に分類されます。下段のグラフは「イスラエルにおける女性国境警察学校の訓練期間における足関節捻挫」の調査でサッカーとは無関係ですが、この調査データを見ると、初回捻挫でも「正常」の倍以上の発生率となっており、「再発捻挫」は数倍の発生率になっています。つまり、ローアーチでは慢性捻挫への移行リスクが非常に高いということがわかります。
つまり、偏平足の選手は正常の足の選手に比べ、例えば、予防のためのテーピングや、練習後のケアなどに時間をかけ、人一倍、足関節捻挫、特に再発捻挫に注意しなければならないということが分かります。

「人体の正常構造と機能」より
足弓

「足関節捻挫予防プログラム」より
アーチ高と捻挫の発生率の関係

上左図は、内側縦アーチ(土踏まず側で衝撃吸収)・外側縦アーチ(バランス保持)と横アーチの図です。出展は「人体の正常構造と機能」からです。 

左図は「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」からの出展です。ローアーチの受傷が圧倒的に多くなっています。

・下のグラフはサッカーの試合時間と足関節捻挫の発生率のグラフです。勝敗を左右する前後半の終盤の攻防、特に後半は負けているチームは、疲れたディフェンス陣を切り裂くような俊敏なフォワードを投入してきます。こうなると、疲労のピークの中で体を張ったぎりぎりのプレーが求められますので、捻挫に限りませんが怪我の確率は高まります。
対策は鍛えることです。120分走りきる走力や止まれる体をつくることです。そして、怪我への意識を高め、必要十分なケアを日々心がけることだと思います。

「足関節捻挫予防プログラム」より
サッカーの試合中における捻挫の発生率

 

画像出展:「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」

2.損傷部位
・急性足関節内反捻挫の調査では、損傷部位が多岐に渡っていることが明らかになっています。
 ・足関節・足部の骨折
 ・骨軟骨損傷
 ・靭帯損傷
 ・腱損傷
 ・神経損傷

「足関節捻挫予防プログラム」より
急性足関節内反捻挫の損傷部位

 画像出展:「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」

・MRIによる急性内反捻挫の損傷部位の調査では、次のように報告がありました。
 ・外側の軟部組織
  ・96%…前距腓靭帯
  ・80%…踵腓靭帯
  ・27%…短腓骨筋
  ・13%…長腓骨筋
 ・内側の軟部組織
  ・53%後脛骨筋 
  ・13%…長母指屈筋
  ・ 7%…長指屈筋
  ・ 6%…三角靭帯

「人体の正常構造と機能」より
大腿部の断面図

画像出展:「人体の正常構造と機能」

「人体の正常構造と機能」より
下腿の筋肉
「トリガーポイント・マニュアル」より
後脛骨筋のトリガーポイント

このMRIによる調査で注目したいのは、内反捻挫でも内側に損傷が発生することで、特に後脛骨筋が50%超えているというところです
後脛骨筋については、”適応疾患”(後脛骨筋腱機能不全症)で紹介させて頂いているのですが、ここでは「トリガーポイントマニュアル(トリガーポイントの原点ともいうべき書。著者はJanet G.TravellとDavid G.Simons)」から後脛骨筋のトリガーポイントをご紹介します。この本には各筋肉毎にキャッチフレーズのような見出しがついているのですが、後脛骨筋は「ランナーの強敵(邦題)」となっていました。
慢性捻挫でアキレス腱から内果付近に疼痛があって、この絵の「✖印」付近に棒状の硬結があり、押すと、思わず「ウッ」となる強い痛みがある場合は、後脛骨筋のトリガーポイントが原因になっている可能性が考えられます。

3.重症度分類
・グレードⅠ…靭帯の損傷がなくストレッチされた状態でわずかな腫れと圧痛があり、わずかな機能低下があるかないか、構造的な関節の不安定性がない状態
・グレードⅡ…中等度の疼痛と靭帯の部分損傷があり、損傷部位付近の圧痛と腫脹があり、可動域制限と軽度から中等度の関節不安定性を有する状態
・グレードⅢ…靭帯の完全損傷で、強い腫脹、出血、圧痛、機能低下、異常運動と関節不安定性がある状態

「整形外科徒手検査法」より
足関節の安定性テスト

徒手検査では完全断裂のケースを除いて正確性に課題があります。正確な損傷部位の診断にはMRIによる画像診断が必須です。

画像出展:「整形外科徒手検査法」

4.腫脹
・腫脹は足関節の内反捻挫に起こる代表的な徴候の一つです。
・MRIを用いた観察した報告では、足関節捻挫直後に腫脹が認められた例は108例中23例(21.3%)です。腫脹は捻挫直後から徐々に減少しましたが、7週以上経過しても数は0にはならず、直後に腫脹した患者の約半数に腫脹が残存していました。
 
5.可動域制限
・足関節捻挫では可動域制限が多くみられます。捻挫後の背屈制限を捻挫3日後と10日後に計測し、比較した調査では差は見られなかったとする報告がありました。

 

6.神経筋機能低下
・急性内反捻挫において96%に損傷がみられる前距腓靭帯には低閾値で反応が速いタイプⅡと、高閾値で反応が遅いタイプⅢの固有受容器があります。その多くは靭帯の付着部に多いのですが、この付着部は損傷部位となることが多いため、靭帯損傷に伴い固有受容器による機能が低下すると考えられています。

「足関節捻挫予防プログラム」より
足関節内反捻挫の病態と予後

画像出展:「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」

・足関節捻挫受傷後の浅・深腓骨神経の伝導速度を測定した報告では、受傷後4~8日で浅・深腓骨神経の伝導速度が低下し、5週後に差はなくなりました。また、重症度別に受傷2週間後の腓骨神経・脛骨神経の伝導速度の低下の有無を調べた報告によると、グレードⅡでは腓骨神経で17%、脛骨神経で10%、グレードⅢでは腓骨神経で86%、脛骨神経で83%の患者において伝導速度の低下が観察されました。

「人体の正常構造と機能」より
総腓骨神経
「人体の正常構造と機能」より
脛骨神経

上左図は総腓骨神経(深腓骨神経・浅腓骨神経)が、左図には脛骨神経が出ています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

6.荷重制限(跛行[歩行制限])
・足関節捻挫では荷重制限はよくみられる症状です。報告の中には、可動域制限が大きいほど患側の歩幅、片脚支持時間が減少し、反対に健側の立脚時の時間が増加したというものがありました。

 

足関節内反捻挫の予後
1.スポーツ復帰
・復帰時期は組織の治癒過程を考慮すべきです。
 ・前距腓靭帯の治癒過程
   1~3週…血管増殖、線維芽細胞増殖、コラーゲン形成
   3週後~…コラーゲンの成熟
   4~8週…コラーゲンの成熟が継続 →この頃から復帰が可能になると考えられている。

       目安は受傷後7週間。
・スポーツ復帰に要する日数
 ・グレードⅠ…8日
 ・グレードⅡ…15日

 

2.後遺症
足関節捻挫の後遺症に苦しむ患者は多く、復帰後6週の時点で復帰選手の55%に後遺症がみられ、6ヵ月後でも40%に後遺症が残ったという報告もあります。
・急性期の圧痛の部位と7年後の圧痛の部位の変化に関する別の報告では、急性期に前距腓靭帯に圧痛があったケースでは、その32%が同部位に、23%が足関節前外側に、16%が内果に、29%が前足部の靭帯に圧痛が存在するとしています。

 

3.再受傷
・グレードⅡ、グレードⅢの捻挫の発生率は、足関節捻挫の既往のあるものに高いという報告があります。
年間3回以上の捻挫を慢性的な足関節捻挫とし、その発生率について7年間の追跡調査を実施したところ、慢性的な足関節捻挫に移行した患者は全体の11%でした。
 
4.まとめ
・足関節内反捻挫は損傷部位が多岐に及び、症状が持続し、後遺症や再発のリスクの高い損傷です。
・足関節内反捻挫の画像診断は有用です。
・足関節内反捻挫の予後は重症度のほか、足関節の機能や荷重能力などを組み合わせることで予測しやすくなります。

 

できることなら
・足関節内反捻挫を受傷してしまったら、それが「グレードⅠ」と思えば8日間、「グレードⅡ」と思えば15日間、「グレードⅢ」なら15日間以上、この期間は通常の練習を休み、サッカーシューズは履かず、サッカーコートには足を踏み入れず、もくもくとケアとリハビリに集中する。
そして、選手一人一人が自分の体のケアを最優先するという習慣を身につけること。

これができるならば、と思うのですが。。。

「足関節捻挫予防プログラム」より
足関節捻挫のリハビリ

この図に出ている「バランスボード(アンクルディスク)」は、固有受容覚が関係している神経筋機能を改善するものとして評価されています。

画像出展:「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」

Big News!(2018年9月21日ドイツ)宮市 亮 選手復活!

宮市亮が復帰戦で自ら祝砲! 2年4カ月ぶりのゴールに雄叫び

宮市選手の不屈の精神に感動します。心から応援します。

画像出展:「SoccerKING」

ハムストリングス肉離れの予防

以前、「肉離れ予防に必要だったこと」というブログをアップさせて頂いていますが、今回の題材は「月刊スポーツメディスン」からになります。

月刊スポーツメディスン
月刊スポーツメディスン

月刊スポーツメディスン2017年6月号(通巻191号)

ブックハウス・エイチディ

参考にさせて頂いた寄稿は「運動を制限する要素の考え方① -“スポーツ場面”を題材に運動を制限する要素を組織レベルから考える」筆者は、一般社団法人日本オランダ徒手療法協会代表理事の土屋潤二氏です。現在、サッカーJ3に所属している「SC相模原」のトレーナーとして、フィジカルトレーニングの指導をされています。
寄稿内に登場する疾患、スポーツ傷害は「アキレス腱断裂」と「ハムストリングス肉離れ」の2つですが、ブログでは「ハムストリングス肉離れ」だけを取り上げています。

『独自の問診方法から多角的な視点より仮説を立案する。そして、組織レベルで原因を予想することで、治療テクニック・運動プログラムを選択計画していく。』

1.ハムストリングス肉離れの再発率
・再発率:30.6%
・復帰後1週目:12.6%
・復帰後2週目:8.1%
 →うち全体の約2/3が復帰後2週間以内に再発している。

 

2.ハムストリングスの肉離れのリスク要因と予防

ハムストリングスの肉離れ
ハムストリングスの肉離れ
ハムストリングスの肉離れ予防のためのアプローチ法
ハムストリングスの肉離れ予防のためのアプローチ法

画像出展:「月刊スポーツメディスン2017年6月号」(ブックハウス・エイチディ)

 

表にも記載されていますが、〇は「筋力不足」は「柔軟性/可動域不足」△は「それ以外の原因」です。整理すると以下のようになります。また、これらは受傷後のリハビリの課題、そして復帰の指標となるものです。
A.筋力を強化すべき筋肉
 ・ハムストリングス(大腿二頭筋、半腱様筋・半膜様筋)
 ・大殿筋
B.筋力のバランスが重要な筋肉
 ・ハムストリングス(大腿二頭筋、半腱様筋・半膜様筋)
C.柔軟性を求められる筋肉
 ・腸腰筋
 ・大腿直筋

ハムストリングス
ハムストリングス

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報社)

従来から指摘されてきた大腿四頭筋(前面)とハムストリングス(後面)の筋力比(H/Q比)は、最近の研究では関連していないという結果がでているようですが、土屋氏は「関係あり」という見解を持たれています。
また、「エキセントリックな筋力不足」という記載がありますが、「エキセントリック」については、石井直方先生の著書である「究極のトレーニング」から引用させて頂きます。

コンセントリックとエキセントリック
『筋の収縮形態には、筋が短縮しながら力を発揮する短縮性収縮(コンセントリック収縮)と、筋が伸張されながら力を発揮する伸張収縮(エキセントリック収縮)があります。バーベルを持ち上げるのはコンセントリック、ブレーキをかけながら下ろすのはエキセントリックとなります。(下図参照)

山を歩いて下ったり、スキーで滑り降りたりする場合は、全体としてみると筋をブレーキとして使うのでエキセントリックです。 山を下りることは、エネルギー的に見れば、山から一気に飛び降りるのと同じです。ただし、飛び降りた場合には、身体が山頂にいるときの位置エネルギーのすべてを着地の瞬間に吸収するため、粉々に壊れてしまいます。歩いて下りれば、このエネルギーを一歩一歩に分散して受け止められます。スキーも同じです。
筋をブレーキとして使うエキセントリック収縮には三つの特徴があります

まず、エネルギー消費が少ないこと。前述のように、エキセントリック収縮では、外界からエネルギーを与えられますので、筋としてのエネルギー消費もきわめて小さくなります。

この外界から与えられたエネルギーのうち、大部分は筋中の微細構造に吸収されます。そこで、筋の微小な損傷が生じ、その周辺に炎症が起こって遅発性筋痛、いわゆる「筋肉痛」になります。筋の微小損傷と遅発性筋痛を起こしやすい、これが2番目の特徴です。
3番目の特徴は、「速筋線維の優先的動員」です。コンセントリック収縮では通常、エネルギー効率のよい遅筋線維から優先的に使われ、負荷が大きくならないと速筋線維は使われません。一方、エキセントリック収縮では、負荷が小さくとも速筋線維から優先的に動員されることが、筋電図解析によって明らかにされています。確かに、筋をブレーキとして使うのであれば、収縮の速い速筋線維から使ったほうがより安全で確実でしょう。』

著者:石井直方
「究極のトレーニング」
短縮性動作と伸張性動作
短縮性動作と伸張性動作

3.予防のためのトレーニングとストレッチ
 ・6週間を1サイクルとして、徐々に負荷を挙げながらシーズン中繰り返し行う。 
 ・受傷は加速局面の「ダッシュ」より中間疾走の「スプリント」で起こりやすい。
 A.スプリントトレーニング
 ・加速走の特徴は徐々にハムストリングスに張力がかかる走法。100%では走らない。
  ・1/2週目(サイクル1)
   ・30m加速走x6本
  ・7/8週目(サイクル2)
   ・30m加速走x6本
 

  ・3/4週目(サイクル1)
   ・15mインターバル走x10本x2セット
   (インターバル:30秒、セット間休息:2分)
  ・9/10週目(サイクル2)
   ・15mインターバル走x11本x2セット
   (インターバル:30秒、セット間休息:2分)

 

  ・5/6週目(サイクル1)
   ・5mダッシュx6本
   ・15mダッシュx4本
   ・25mダッシュx2本
  ・11/12週目(サイクル2)
   ・5mダッシュx7本
   ・15mダッシュx4本
   ・25mダッシュx2本

 

 B.レジスタンストレー二ング
  ・ハムストリングスのエキセントリックなトレーニング
   ・ヒールスライド(座位で足を伸ばし、片足ごとに踵を使って抵抗をかけながら膝を
屈曲させていく)
   ・スクワット

 

 C.ストレッチ
  ・腸腰筋、大腿四頭筋、ハムストリングスの硬さをチェック 
  ・股関節屈曲/伸展に対して可動域制限がないようにストレッチを行う

腸腰筋のストレッチ
腸腰筋のストレッチ

腸腰筋のストレッチ例

大腿四頭筋のストレッチ
大腿四頭筋のストレッチ

大腿四頭筋(大腿直筋を含む)のストレッチ例

画像出展:「痛みが楽になる トリガーポイント ストレッチ&マッサージ」(緑書房)

「肉離れ予防に必要だったこと」

今回のブログは、この「月刊トレーニングジャーナル 2017 1 No.447」の特集の中から「肉離れ予防に必要だったこと -正確な把握と適切な対策、伝える努力」を取り上げています。

ケガの予防に必要なこと
「トレーニングジャーナル」

特集は全部で4つあり、他は「予防の考えを浸透・継続させる取り組み」、「予防できる環境を整えるために」、「育成時代のコンディショニング」になります。

「肉離れ予防に必要だったこと」を選択したのは、何といっても、私自身が散々肉離れとおつきあいしてきたという経緯があり、非常に興味深く、また多くのスポーツ関係者にとって役に立つものと考えたためです。記述は特に印象に残った部分を列挙する形式とさせて頂きました。
筆者は内藤重人氏、読売巨人軍二軍トレーニングコーチ兼医療コンディショニング副室長です。関係者を巻き込んだ、緻密な調査・分析に基づいた素晴らしい内容となっており、実際に肉離れによる戦線離脱者の激減に成功されています。


1.障害予防マニュアルの作成
・2015年シーズン、春季キャンプ中の2月16日から6月16日までの約4ヶ月間に、一軍選手9名(11
件)、二軍選手3名(4件)の肉離れが発生し、これが戦力ダウンに結び付いた。
・現場、球団の上層部から、予防のための教科書になるようなマニュアル作成の依頼があった。
・春先のケガは野球に限らずどのスポーツにも起きる。原因がわかれば予防できると考えた。
・マニュアルを作成するにあたり、選手のコンディショニング及び障害予防に携わるスタッフであ
るトレーニングコーチ、理学療法士、トレーナーがそれぞれどんな考えを持っているのかをヒアリングした。
・なぜ肉離れは起きたのか、なぜ野手なのか、なぜシーズン序盤なのかをキーワードに原因を探った

・スポーツ医科学に関するさまざまな情報を集めるため、JISS(国立スポーツ科学センター)、病院
、大学、さらに日本肩関節学会、JOSKAS(日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会)、日本整形外科スポーツ医学会、日本臨床スポーツ医学会などから、症例や論文など大変参考になる情報を頂いた。

読売ジャイアンツ
「太もも・ふくらはぎ肉離れ予防マニュアル」

このマニュアルは、ユニフォームのポケットに収まるサイズになっているそうです。(素晴らしい!)

2.肉離れとは何か
・マニュアル作成を始めてから月に数回「C(コンディショニング)会議」を開いて、球団フロン
トを含む5~6名で昨年の肉離れ発生原因を検証した。
・実は、肉離れの定義が難しく、そのため治療や評価のノウハウが曖昧な状況だった。そして、定
義を考える上で、肉離れのMRI画像から専門医は何を診るかということが参考になった。特に出血像が重要になるが、出血像の多少と重症軽症を安直に結びつけるべきでなく、出血像が少ないからといって安易に復帰させるべきではない。
・肉離れの定義は、二関節筋を中心とした羽状筋で、筋腱移行部に起こりやすい筋膜・腱膜の損傷
であると考えている。
・肉離れの定義を限局して考えることにより、その対処法を明確にするという根本をおさえるこが
、予防に取り組むうえでも大事である。このことが今回一番の収穫だった。


3.野球の特性を踏まえて
・攻守交代は身体を冷やすことになる。肩については何度か送球して準備するが、下肢に対する準
備は不足しがちであり、ケガをしやすい要素をもっている。
・今回の検証から、肉離れは複合的な問題で起き、何か単一の原因を突き止めるのは難しいという
ことが分かった。
・下腿(腓腹筋、ヒラメ筋)の肉離れは加齢との相関が高いことが報告されている。
・ハムストリングスの肉離れに関して、走塁の局面ではファーストベースを駆け抜ける際に足を大
きく伸ばし強く踏み込むので、股関節屈曲・膝伸展で体幹は回旋(股関節内旋)という肉離れが起きやすい状況になる。
・野球選手は疾走距離が長くても前傾姿勢のまま走ることが多いが、地面を押す局面(走り方)ば
かりでスピードを上げようとすると、肉離れは起きやすい。投げる距離によって投げ方が変化するのと同じように、走る距離によって走り方も変わることを理解する必要がある。投げる動作と同様に、走る動作も個々の走技術の特性を理解して、画一的でない指導が必要である。


4.トレーニング、食事改善による予防
・肉離れの件数は2015年の11例から、一軍では2例に、二軍では0になった。(目標は、マニュア
ルの冒頭の「肉離れ ゼロへ」)
・トレーニングでは、スパイクでの全力疾走、方向を変えるアジリティ、ストレッチショートニン
グサイクルで下腿部に刺激を入れるジャンプトレーニングという、全力疾走・アジリティ・ジャンプという3つの要素を取り入れた。実施はウォームアップ直後に入れた。
・食事改善では、電解質の確保のため水分補給はスポーツドリンク、カフェインを含む緑茶は避ける
。体脂肪はリスクファクターになるため、キャンプ中の食事の献立はホテルと協力して考える。また、寮や練習場などでの食事の献立も見直している。


5.ケガにつながるものは私生活まで網羅
・障害予防は、選手や医療スタッフを含め、現場にいるすべての人の仕事である。なぜなら、ケガ
の原因は現場にいる人間しかわからないためである。
・試合時の気温・湿度・気候や練習量、また長距離移動した直後だったかなどの状況を見落とさな
いことが重要である。
・選手の体調や日々変わるので、それを選手が自覚できるか。今の疲労や身体コンディションをど
う考えるかが重要であり、マニュアルにはシーズン以外についても書かれており、ストレッチやトレーニング、食事、睡眠、入浴、メンタルなどすべて網羅している。
・ちょっとした不調なら自ら治す能力が人間にはあるが、煙草やアルコール、カフェイン、ファス
トフード、不規則な生活は体調を崩す。選手自身の私生活が悪ければ成功にはつながらない。セルフコンディショニングが重要となる。

サッカーの足首損傷、予防プログラムで40%減

これはエムスリー(https://www.m3.com)という医療情報等を提供されているサイトの医療ニュースになります。

4121人の男女サッカー選手を含む10件のランダム化比較試験(RCT)のレビューから、足関節損傷の予防プログラムにより同リスクが40%軽減するとの結果が明らかになった。サッカー選手の足関節損傷に対する予防的介入の有効性を示した研究は初めて。米国では年間22万7700人がサッカー関連外傷で治療を受け、このうち足関節損傷患者は3万6300人を超えると見られている。米国整形外科学会(AAOS)が9月7日、Journal of Bone and Joint Surgery誌の掲載論文を紹介した。
今回の検討では、足関節損傷予防プログラムを検討した10件のRCTから、男女サッカー選手4121例のデータを解析。予防プログラム導入により、足関節損傷リスクが40%減少することが判明した。評価対象となったRCTは、足関節損傷を予防するための運動として、神経筋運動、固有受容性運動(バランス)、筋力強化運動、ストレッチ運動の有効性を検討したもので。装具やテーピングなどの外部サポーターについては検討していない。
研究グループは「今回の新たな知見が医師による患者へのエビデンスに基づく指導の裏付けとなる他、選手の負傷リスク低減を目指すコーチや選手の意思決定にも役立つだろう」とコメントしている。』

左をクリックすると原文に移動します。Prevention programmes can reduce ankle injuries in football players by 40%

 

この記事に書かれた内容を詳しく知りたいと思い、たどりついたサイトが下記になります。

"Preventing Soccer Injuries"のページです。上から4番目に「HOW CAN SOCCER INJURIES BE PREVENTED?」があり、そこには11項目がリストアップされています。

 英語のサイトではありますが、日本では見かけない情報サイトのためご紹介させて頂きました。

スポーツ医について

スポーツ医とは、日本整形外科学会発行の「スポーツ医へのかかわり方」によると、「スポーツが好きで、スポーツをする方々の気持ちを理解し、そのサポートをすることに喜びを持って、スポーツ外傷・障害の治療、予防、競技力向上などに医学的な面から取り組んでいる医師です。」と説明されています。

また、日本には、「日本整形外科学会認定スポーツ医」、「日本医師会認定健康スポーツ医」、「日本体育協会公認スポーツドクター」という3つの資格があります。
これらの3つの資格に共通しているのは、25単位(25時間)の基礎講習を受講するということですが、それぞれには特色がありますのでご紹介させて頂きます。

日本医師会認定健康スポーツ医
応募資格 : 医師経験年数は問わない
講習科目 : 25単位
健康スポーツ医とは 
 国民の健康増進に対する要望が高まるにつれて、発育期の幼児、青少年、成人、老人等に対する 運動指導を含めて地域保健の中でのスポーツ指導、運動指導について、医師の果たす役割はきわめて大きい。地域社会において運動への関心が高まってきていることや、特定健診後の保健指導における運動指導が重要であることから、運動を行う人に対して医学的診療のみならず、メディカルチェック、運動処方を行い、さらに各種運動指導者等に指導助言を行い得る医師として日本医師会が養成した医師。
特徴
 ・内科、眼科、耳鼻科、脳外科などの各専門科の医師がいる。
健康スポーツの紹介

ホームページでは紹介されていないため、各都道府県の医師会に問い合わせする必要があります。


日本整形外科学会認定スポーツドクター 
応募資格 : 整形外科専門医取得が前提条件
講習科目 : 25単位
特徴
・整形外科専門医になるには、整形外科の研修認定施設で一定期間の仕事を行い、その後、症例ポート、試験、面接などをへて合格することが前提条件。
・認定スポーツ医以外の分野がある。(日整会認定リウマチ医、日整会認定脊椎脊髄病医、日整会脊椎内視鏡

認定スポーツドクターの紹介

都道府県検索では責任者(院長等)と施設名(病院等)。「詳細」をクリックすると、住所、連絡先、ホームページ、診療上得意とする分野・身体部                     位、スポーツ種目等が表示されます。


日本体育協会公認スポーツドクター 
応募資格 : 医師経験年数問わず。但し、医師経験年数5年を満たしている必要がある。
講習科目 : 基礎(25単位)の他、日本体育協会が独自に行っている、応用(27単位)がある。
スポーツドクターの役割
 スポーツ関係臨床医として、スポーツ医・科学に関する知識を有し、スポーツマンの健康管理と競技力向上の援助、スポーツ障害・外傷の診断、治療、予防などにあたる。また、競技会等における医事運営やチームドクターとしてのサポートなど、スポーツ活動を医学的な立場からサポートする。
特徴
・メディカルコンディショニング資格の中の1つである。他に「アスレティックトレーナー」、「スポーツ栄養士」、「スポーツデンティスト」がある。
・基礎講習に加え、応用講習が用意されており育成プログラムが充実している。

・下記がホームページに掲載されている講習内容です。上段の「基礎」は3団体共通です。

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怪我の連鎖を考える

小学6年生の夏までは怪我知らずでした。

怪我がサッカーの邪魔をし始めた最初の出来事は、膝下の脛骨粗面の軟骨が過度な運動等により炎症し隆起する、オスグッド・シュラッテル病でした。これは成長期によくみられるものです。

それ以降、特に大学の4年間は練習できたのは半分以下だったように思います。選手として全く情けないものでした。

何故、これほど怪我をすることになってしまったのか、この悪しき経験は同じような境遇の選手には参考になることもあるだろうと考え、自分なりに背景や原因などを考え整理してみました。

抽象的ではありますが、下記がまとめた内容です。
問題点は、「怪我に対する意識の低さ」、「精神のアンバランス」、「肉体のアンバランス」の3つです。対策は青色で囲ったなかに、それぞれ3点ずつ書いていますが、要約すると「客観的に自分の体と心を把握」し、「客観的にチーム内で今、自分は何をすべきか」を理解し、納得し、そして「怪我から何かを学ぶ」ことだと思っています。

①怪我に対する意識の低さ ②精神のアンバランス ③肉体のアンバランス この3つがポイントだと思います。
怪我の連鎖

なお、参考までに主な怪我の既往歴をご紹介させて頂きます。
1.1970年:12歳(小学6年生)
オスグッド・シュラッテル病

整形外科にて、先生に「何か効果のある治療法はないですか?」と質問したところ、「問題の軟骨にドリルで穴を開ける手術があるが。。。」とのお話があったため、特に迷うこともなく、その手術を行いました。当然、麻酔はかけられたのですが、その痛みは大変なもので、激痛にランクされる痛みだったと思います。

手術後の状態はあまり変わらず、筋力低下が1番の原因と思いますが、中学1年の50m走では身長が5cm程伸びたにも関わらず、1年前より0.4秒遅くなってしまいました。また、その後の怪我との関連性は不明ですが、怪我の連鎖に足を踏み入れてしまったことを考えると、この手術は良い選択ではなかったかも知れません。
・ちなみに、オスグッド・シュラッテル病は大腿四頭筋の筋疲労の状態が長く続くことが原因
となるので、鍼灸治療で大腿四頭筋中心に、裏面のハムストリングスや腰殿部の緊張を緩めることにより予防ができます。

 

2.1975年:17歳(高校2年生)
足首のくるぶし(内果)の骨折(ヒビ) ※多分左足(通常左足着地なので)

サッカーの試合中、ヘディングで着地したときに、「バキッ」と音がしてプレー続行不能になりました。捻挫の経験はあったため、「この痛みはヒビだな。」と恐れつつ、近所の整形外科でレントゲン写真を取ったところ、「捻挫だね。」と一言。心の中で「それはないだろう!」と意外な診断にびっくりし、翌日、電車で15分程離れた少し有名な病院(多分、西川口だったと思います)で診て頂いたところ、「骨折」とのことでした。この時、「お医者さんも絶対ではないのだ。」ということを知りました。

 

3.1975年:17歳(高校2年生)
右足大腿二頭筋(太ももの裏面外側)筋断裂

数々の肉離れを経験しましたが、音を感じたものはこれだけです。この怪我はおよそ縦横2x1cm程のしこりとして長い間、思い出のように存在していましたが、代々木の研修生時代に仲間に運動鍼(数本刺鍼した状態で、他動で数回筋を動かすという手技。他動とは施術者が行うもので、患者は脱力し筋肉に力を入れることはしません)をやってもらい、ほぼ、なくなりました。このように肉離れ等の古傷はかなり改善できます。

 

4.1979年:21歳(大学2年生)
右肩関節脱臼

高難度の筋トレを1度成功させ、調子にのって2回目を行ったところ、何と脱臼!「肩がねぇ」と大笑いしているチームメートに連れられ、自分の左手で右肘を固定しながら近くの整形外科に歩いて来院。麻酔注射を打たれ、無事元におさまりました。愚かな行為を深く反省しました。

 

5.1980年:22歳(大学3年生)
左膝前十字靭帯断裂

左サイドからカーブをかけて低い軌道のセンターリングの練習中に、キック直前でボールがイレギュラーバウンドし、左足にわずかに当たるもほぼ空振り状態となり、負傷、あまりの痛さにグランドを転げまわってしまいました(痛みには自信があったのですが)。1、2年前の膝の内側側副靭帯損傷の時と異なり、3日、4日と日がたっていくと腫れも徐々に引いていき、痛みも大したことがなく「これは軽症だったのでは?」と期待してしまい、確か2週間程度で練習を再開しました。

しかし、激しくクイックな上体の動きに足がついていけず、膝をひねってはグラウンにうずくまるという情けない事態を繰り返す結果となってしまいました。このことにより、前十字靭帯が切れているのだろうということを覚悟しました。当時は十字靭帯断裂の場合、復帰はできて1年という状況であり、この怪我が大学3年の夏の終わりだったため手術するという選択肢はなく、また、将来医学が進歩すれば、優れた手術方法で、それ程入院することなく完治できる日が来るだろうという思いも少しありました。
ちなみに、手術は13年後の1993年、原因は半月板損傷でまともな歩行ができなくなったた
め、膝の権威であった横浜港湾病院の高澤先生に半月板の部分切除と問題の前十字靭帯の再建手術を実施して頂きました。入院は3週間で13年前に比べ、手術による切開の大きさは1/3程度で済んだと思います  (友人比較)。なお、靭帯断裂後もテーピングをして、都リーグに加盟している自分の会社のチームでサッカーを続けていました。トレーナーなどが充実した現在では、このようなお粗末な話はないと思いますが、受傷時は激痛だがその後は比較的順調と感じた時は、靭帯にしろ腱にしろ完全に切れていると考えた方が良いと思います。 

膝の名医、高澤先生に執刀頂くことができたのは、木本部長(木本監督)のお陰です。
今は無き、横浜市立港湾病院

大昔の1993年5月でしたが、既に35歳になっていました。横浜港湾病院は有名なスポーツ選手が数多くお世話になっており、私が入院していたときは、プロスキーヤーの木村公宣選手がいて、術後のリハビリ期間にもかかわらず、相当な重量のバーベルをかついでスクワットをガンガンやっていました。

また、部屋にはサーファー、プロスキーヤー、バレーおよびバスケの実業団選手、そして中学生(体操)がいて、不思議な雰囲気の楽しい入院生活でした。