坐骨神経痛

概要
坐骨神経は太くて長い神経です。腰部からはじまり骨盤部では梨状筋という筋肉の下を通り、大腿後面を通って膝の裏側で2つの神経に分かれます。この長くて太い神経の走行途中で圧迫などの病変により、坐骨神経痛が起こります。症状としては、痛みや痺れ、感覚がマヒした感じ、違和感があるなど、人によってその症状や程度は様々です。

一般的に原因とされているのは、椎間板へルニア、変形性脊椎症、椎間関節症、脊椎すべり症、脊柱管狭窄症、梨状筋症候群などが上げられます。

 

ポイント
1.椎間板へルニア、変形性脊椎症、椎間関節症、脊椎すべり症、脊柱管狭
窄症の有無を確認します。(これらの疾患であっても、筋への治療は痛みの軽減において有効であるため治療は行います)
2.知覚異常の有無を確認します。それが認められる場合は脊柱近傍(背骨
のすぐ横)に刺鍼します。
3.下腿部→大腿部→仙骨部のルートで硬結、圧痛を探し、その硬結、圧痛
が治療の中心になります。
4.確認点として、殿圧・殷門・外承筋、および小殿筋を触診し硬結、圧痛
が出ていれば刺鍼ポイントとします。

 

補足説明
木下晴都氏の著書「坐骨神経痛と針灸」には、研究例500としてその調査データが掲載されています。例えば、「知覚鈍麻(触れられているのがよく分からない)については、知覚鈍麻を現すものが97例(19.4%)。これを脊椎部の高さによって分類すると、足背小指側から下腿外側(第5腰椎-第1仙椎間)が59例、足背母指側から下腿前外側(第4-5腰椎間)が23例、下腿前内側(第3-4腰椎間)3例、足部全体が12例。この結果からみると、知覚鈍麻を伴う坐骨神経痛は、60%以上が第5腰椎-第1仙椎間に病変があると推測される。」

上記のデータに基づき考えを進めると、知覚鈍麻を現わさない疾患約8割の中の多くは、坐骨神経走行中の問題、例えば筋肉の硬さによる神経の圧迫が考えられます。「坐骨神経痛と針灸」の中には500例の圧痛出現率の調査結果も掲載されており、それによると「殿圧」(上後腸骨棘の外下縁と大腿骨大転子の内上縁を結んだ線の中点)、「殷門」(承扶と委中の中央より1~1.5cm外方)、「外承筋」(承筋外方約1.5cm)の3穴が顕著に高くなっています(ちなみに腰部では腎兪の値が最も高くなっています)。従って、この3穴については触診し、確かに圧痛あるいは硬結が出ていれば刺鍼対象にします。もし、知覚鈍麻を伴う場合は、その症状が現われている部分に該当する脊柱の高さに刺鍼します。
坐骨神経痛の鍼灸治療では、診断は「下流から上流へ(圧痛部から線状の硬結を辿る)」、治療は「上流から下流へ」が重要であり、 仙骨部・大腿部・下腿部の各部のどこに、どのようなルートで硬結が出現しているか、注意深く触診し、そして確認できた硬結に当てるように刺鍼します。また、トリガーポイント研究の第一人者である、ジェネット・トラベルは小殿筋に対し、「偽-坐骨神経痛」と命名しており、小殿筋の関連痛はあたかも坐骨神経痛のような症状を再現するとのことを書いています。よって、この小殿筋も注目すべきポイントに加えています。