股関節唇損傷(フレイル)1

今回は、母親の股関節痛に伴う筋性拘縮に関するものです。

軟骨変性関節包股関節唇のいずれかの問題ではないかと考えますが、アスリートなどに多く、最近注目されているという点から“股関節唇損傷”をターゲットに調べていくことにしました。

状況

■年齢:102歳

■健康面

1.2020年元旦、椅子から転倒し右側頭部等を強打し救急搬送されましたが、脳、首、肩に問題はありませんでした。ただし、もともと限界寸前だった歩行は困難となりベッドでの生活となりました。

■発症時(2021年1月後半~2月前半)

1.左股関節、左膝関節が常時屈曲しており、伸展、外旋で痛みを強く訴えます。

2.訪問医の先生からは、「関節を動かせて、内出血、腫れ、炎症がないことから脱臼、骨折の可能性はないだろう」とのことでした。なお、問題なく椅子に座ることができ、大転子への押圧や踵への叩打でも痛みを訴えないので骨折ではないと考えました。

3.突然というより、少しずつという感じです。ベッドでは右側臥位で左足を右足の上にクロスさせるように伸ばしている姿勢が多かったのですが、左股関節・膝関節を曲げることが見られるようになり、そして仰臥位でも左膝を立てていることが多くなり、それが頻繁になり拘縮していったという感じです。 

この写真は2月末頃だったと思います。

■考えられる原因

1.受傷したという認識はありませんでした。ただし、両足をベッドの外に出し、ベッド内を90度回転するほど元気に動いていたため、そのような時に股関節の軟部組織のどこかを痛めたのではないかと思います(例えば、元の姿勢に戻ろうとして股関節に捻じりの力が繰り返し加わった等)。また、加齢による影響も大きいと思います。

股関節の解剖(骨軟骨関節構造、血管)
股関節の解剖(骨軟骨関節構造、血管)

画像出展:「股関節の痛み」

図の中央上部右から、関節軟骨関節唇関節包とありますが、この辺りに問題があるのではないかと思います。

格安で購入した3冊の古本は骨などに関する疾患について書かれており、軟部組織の損傷についての内容は殆どなかったのですが、とても重要なページが1つありました。

関節症の痛みと機能障害
関節症の痛みと機能障害

画像出展:「新よくわかる股関節の病気」

『関節症と痛みや機能の障害は図2-6のように悪循環を作っていますので、この悪循環を断ち切ることが基本です。変性の進行により痛みと炎症が強くなり、プロスタグランジンなどの血管の透過性を増し炎症を引き起こす化学的な物質を出して、滑膜の炎症、軟骨の破壊や軟骨細胞の変性が進みます。関節を最大に曲げたり伸ばしたりすると筋肉や筋膜による痛みが強いので、関節を動かさなくなります。さらに痛みのために歩く距離が少なくなり筋肉は衰えて萎縮し、関節の動きがさらに悪くなります。関節の動きが少なくなることで血液のめぐりを悪くし、関節の変性がより進行します。』

今の状況はまさにこんな感じです。これによれば、老化による軟骨変性が疑われますが、“軟骨変性”がどのようなものなのか分かりませんでしたので、“関節唇損傷”に“軟骨変性”を加え、この2つに注目しながら勉強することにしました。

題材は、次の4つです。①股関節の痛み 編集:菊地臣一 ②月刊スポーツメディスン2・3月合併号 138 特集:股関節の痛み 鼡径周辺部痛、FAI、関節唇損傷、その他の痛みへのアプローチ ③医道の日本 2013年4月号 特集 股関節痛へのアプローチ ④日臨整誌 vol.36 no.1 98 関節内に陥入した股関節唇損傷の治療経験(2例)。なお、ブログは4つに分けました。

最初の「股関節の痛み」は43名の先生が執筆され、菊地臣一先生によって編集されています。“股関節の解剖と生理”に始まり、基礎的なことも勉強できる期待していた内容の本でした。また、“股関節唇損傷”も出ていました。

股関節の痛み
股関節の痛み

出版:南江堂

発行:2011年7月

編集:菊地臣一(執筆者は43名)

目次

Ⅰ 痛みについて

1.運動器のプライマリケア―careを重視した全人的アプローチの新たな流れ

2.運動器の疼痛をどう捉えるか―局所の痛みからtotal painへ、痛みの治療から機能障害の克服へ

3.疼痛―診察のポイントと評価の仕方

4.治療にあたってのインフォームド・コンセント―必要性と重要性

5.各種治療手技の概要と適応

a.薬物療法

b.ペインクリニックのアプローチ

c.東洋医学的アプローチ

d.理学療法

e.運動療法

f..精神医学(リエゾン)アプローチ

g.気学的アプローチ

6.運動器不安定症―概念と治療体系

7.作業関連筋骨格系障害による痛み

Ⅱ 股関節の痛みについて

1.診療に必要な基礎知識-解剖と生理

A.股関節周囲の表面解剖

B.骨盤出口部の解剖

C.股関節の深層解剖

2.診察手順とポイント―重篤な疾患や外傷を見逃さないために、他部位の痛みを誤診しないために

a.小児の診察

A.医療面接

B.身体診察

C.画像診断

D.臨床検査

E.関節 刺および局所麻酔剤注入テスト

b.成人の診察

A.医療面接

B.身体診察

C.画像診断

D.疾患

3.鑑別に注意を要する股関節および周辺部の痛み

a.骨・軟部腫瘍

b.骨系疾患

c.発育期のスポーツ損傷・障害による痛み

4.股関節疾患と間違いやすい痛み

A.腰椎疾患による股関節痛

B.骨盤部疾患による股関節痛

C.腹部内蔵器による股関節痛

5.画像診断と臨床検査

A.股関節痛と画像診断

B.股関節痛と臨床検査

6.各種治療手技の実際と注意点

a.薬物療法

b.理学療法・運動療法

A.理学療法

B.運動療法

c.ペインクリニックのアプローチ

A.トリガーポイント注射(圧痛点注射)

B.股関節ブロック

C.腰神経叢ブロック

D.仙腸関節ブロック

E.梨状筋ブロック

F.股関節知覚枝高周波熱凝固

d.東洋医学的アプローチ

A.漢方

B.鍼灸

C.指圧・マッサージ

Ⅲ主な疾患や病態の治療とポイント―私はこうしている

1.化膿性股関節炎による痛み

■治療の実際

A.診察のポイント

B.鏡視下洗浄・ドレナージ

C.化学療法

D.遺残変形

E.化膿性関節炎に対する私のアプローチ

2.Perthes病による痛み

■治療の実際

A.診察のポイント

B.治療方針

C.保存的治療

D.観血的治療

E.予後予測(重症度の判定)

F.長期成績

3.単純性股関節炎による痛み

■治療の実際

A.診察のポイント

B.治療

4.大腿骨頭すべり症による痛み

■治療の実際

A.病型と痛みの原因

B.痛みの特徴とアプローチ

C.画像所見

D.治療方針

E.主な観血的治療

5.変形性股関節症による痛み

a.治療の実際①

A.変形性股関節症の診断と治療

B.変形性股関節症による痛みと治療法選択

C保存法の実際

D.手術療法における術式選択

b.治療の実際②

A.痛みの特徴と診断

B.治療方針決定のためのポイント

C.保存療法

D.手術へ踏み切るタイミング

E.手術療法

F.股関節手術に対する考え方と治療方針

6.特発性大腿骨頭壊死症による痛み

a.治療の実際①

A.治療方針の決定

B.保存療法

C手術療法

b.治療の実際②

A.診察のポイント

B.薬物療法

C.手術療法

D.専門医に紹介するタイミング

7.一過性大腿骨頭萎縮症による痛み

■治療の実際

A.病態

B.診察のポイント

C.薬物療法

D.物理療法

E.専門医に紹介するタイミング

8.急速破壊型股関節症による痛み

■治療の実際

A.定義と病態

B.診察のポイント

C.治療方針

D.手術療法

E.術後リハビリテーションと予後

9.骨粗鬆症による骨盤・大腿近位部の脆弱性骨折

■治療の実際

A.背景と病態

B.骨盤IF

C.仙骨IF

D.大腿骨近位部IF

10.関節リウマチによる痛み

a.治療の実際①

A.診断と治療のポイント

B.薬物療法

C理学療法

D.関節注射

E.手術療法

b.治療の実際②

A.診察のポイント

B.薬物療法

C.物理療法・運動療法・装具療法・その他

D.ブロック療法

E.手術療法

F.専門医に紹介するタイミング

11.股関節唇損傷による痛み

■治療の実際

A.股関節唇の解剖と生理

B.診察のポイント

C.保存的治療針

D.骨性因子なし

E.骨性因子あり

Ⅱ股関節の痛みについて

1.診療に必要な基礎知識-解剖と生理

A.股関節周囲の表面解剖

股関節の痛みの領域は、①前方(鼡径部など)、②外側(大転子周辺)、③後方(殿部)の3領域に大別されることが多い。

股関節の表面解剖
股関節の表面解剖

画像出展:「股関節の痛み」

1)前方のランドマーク

a.恥骨結合

・外上方から鼡径靭帯、外下方から長内転筋が付着する。同部周辺の疼痛を訴える疾患として、恥骨結合炎や恥骨骨折、内転筋損傷などがある。

b.大腿三角(スカルパ三角)

・上方は鼡径靭帯、外側は縫工筋内縁、内側は長内転筋外縁の三辺からなる逆三角形のくぼみであり、同部には内側から大腿静脈(Vain)、大腿動脈(Artery)、大腿神経(Nerve)が“VAN”の順に位置する。その深部に大腿骨頭があるため、同部の診察が診断の手がかりとなる股関節疾患は少なくない。また、股関節疾患以外の疼痛性疾患としては、腸恥骨液包炎、鼡径部のヘルニアなどがある。

c.上前腸骨棘

・鼡径靭帯を上方にたどると、上前腸骨棘を容易に触れる。大腿筋膜張筋や縫工筋が付着し、付着部の炎症や裂離骨折が生じる。

2)外側のランドマーク

a.大転子

・大腿骨外側の骨性隆起部で、大転子周囲の疼痛を訴える疾患として、股関節疾患、大転子滑液包炎、弾発股、感覚異常性大腿痛などがある。

b.坐骨結節

・殿部の骨性隆起部で、ハムストリングスが付着し、付着部の炎症や裂離骨折を生じる。股関節疾患や腰仙椎神経根症(坐骨神経痛)の後方の疼痛好発部位は坐骨結節より近位外側にある。

B.骨盤出口部の解剖

骨盤出口部には骨盤内から股関節周囲へ向かう筋、神経、血管が存在する。骨盤出口部(鼡径靭帯部、閉鎖孔、大坐骨孔)ではヘルニアや絞扼性神経障害が生じる。そのため、同部の解剖の理解が股関節周囲の解剖知識の整理や、股関節の痛みの病態を理解する上で有用である。

骨盤出口部の解剖
骨盤出口部の解剖

画像出展:「股関節の痛み」

1.鼡径靭帯

・鼡径靭帯の深部を、腸骨筋、大腰筋、大腿神経、外側大腿皮神経、陰部大腿神経(大腿枝)、大腿動・静脈などが通過する。鼡径靭帯の下を通過する神経は、股関節前方の知覚と股関節屈曲を支配する。鼡径靭帯の障害として、鼡径部のヘルニアや感覚異常性大腿痛がある。

2.閉鎖孔

・閉鎖孔内の外上方は閉鎖神経、閉鎖動脈が通過しており、同部は閉鎖孔ヘルニアが生じる部位でもある。閉鎖神経は股関節内側の知覚と股関節内転を支配する。

3.大坐骨孔

・大坐骨孔は腸骨、仙骨、仙棘靭帯、仙結節靭帯の内縁からなり、大坐骨孔を仙骨内側から大転子上部へ付着する梨状筋が通過する。骨盤から殿部に出る血管・神経は、すべて梨状筋の上か下かで大坐骨孔を通過する。梨状筋の上(梨状筋上孔)を上殿神経と上殿動脈が伴走する。梨状筋の下(梨状筋下孔)を通る神経・血管のうち重要なのは、①坐骨神経、②下殿神経、③下殿動脈である。梨状筋下孔を通過する神経、股関節後面の知覚と股関節の伸展と外転を支配する。同部の絞扼性障害として梨状筋症候群がある。

股関節(周囲)痛の原因
股関節(周囲)痛の原因

画像出展:「股関節の痛み」

C.股関節の深層解剖

1.関節内

関節内の解剖は骨軟骨構造と軟部組織(関節包、関節唇、靭帯)からなる。変形性股関節症のようにX線で診断されることの多い骨軟骨構造の障害と異なり、軟部組織の障害は画像診断も困難であり、病態が判然としないことが多い。しかし、近年の股関節鏡技術の発達に伴い、軟部組織障害の診断と治療が鏡視下に行われるようになってきている。

a.骨軟骨構造

・股関節は寛骨臼と大腿骨頭から構成され、寛骨臼と関節唇が大腿骨頭の2/3を包み、臼状関節を形成している。この関節構造が関節の安定性に重要な役割を果たしている。骨軟骨障害をきたす股関節疾患は多い。

b.軟部組織

1)関節包

・寛骨臼と大腿骨頚部を連結する線維性組織である。関節包は寛骨臼側では寛骨臼縁より近位に付着する。一方、大腿骨側の前面では転子間線に付着するのに対して、後面では転子間稜より近位に付着するため、大腿骨頚部全面を覆っていない。そのため、大腿骨頚部骨折(基部)では、関節内骨折か関節外骨折かの鑑別が単純X線写真では困難な症例がある。

2)靭帯

・関節包は線維性の靭帯組織で取り巻かれ、前方は腸骨大腿靭帯、恥骨大腿靭帯、後方は坐骨大腿靭帯が覆い、関節包を補強し股関節を補強し股関節の安定に寄与している。

3)関節唇

関節包内面の寛骨臼周囲を取り巻く軟骨性組織であり、衝撃吸収作用や吸盤機能作用を有し、股関節の安定化に寄与している。解剖学的には、関節唇内部には神経終末が存在し、臼蓋形成不全による股関節症では股関節痛の発症と関節唇断裂が強く相関することが指摘されている。

股関節の解剖
股関節の解剖

画像出展:「股関節の痛み」

a.筋肉

・最大荷重関節である股関節には強力な筋肉群が存在し、屈曲・伸展、内転・外転、内旋・外旋の6方向の動きに作用する。強力な股関節周囲筋に由来する障害として、骨盤付着部の裂離骨折や炎症、肉離れ、筋腱靭帯の炎症などがある。

股関節の運動(筋)と支配神経
股関節の運動(筋)と支配神経

画像出展:「股関節の痛み」

b.神経

・股関節周囲の運動と知覚は、主に2つの脊髄神経叢[腰神経叢L2,L3,L4、脊髄神経叢L(4)5,S1,S2(3)]が支配している。腰仙椎神経根障害では股関節周囲に放散痛が生じるため、腰仙椎疾患の鑑別に注意が必要である。股関節周囲の理解しておくべき神経徴候・障害として、関連痛、Valleix点の圧痛、絞扼性神経障害がある。

1)関連痛

・内臓、筋、関節などの損傷によって、障害部位と離れた部位に感じる痛みを「関連痛」という、股関節の内側障害例では、股関節内側を支配する閉鎖神経が興奮し、閉鎖神経の分枝の支配域である大腿や膝に痛みを生じることがある。股関節の脊髄神経支配は多様であり、障害部位により関連痛領域が多岐にわたる。変形性股関節症において、膝以下まで疼痛が及ぶのは4~47%と報告され、腰仙椎部神経根障害との鑑別が困難な症例がある。

2)Valleix点

・神経痛がある場合に、体表近くを走行している神経の直上を圧迫して、圧痛を感じる部位といい、三叉神経痛では眼窩上・下孔がValleix点として知られている。腰椎椎間板ヘルニアや梨状筋症候群などの坐骨神経痛例では、ときに殿部で有痛性の坐骨神経を触知できる。

3)絞扼性神経障害

・股関節周辺では、様々な絞扼性神経障害が報告されているが、代表例として梨状筋症候群と感覚異常性大腿痛がある。

①梨状筋症候群

・梨状筋部での坐骨神経の絞扼性神経障害であり、坐骨神経痛(殿部痛・下肢痛)を生じる。坐骨神経走行の解剖学的破格以外に、梨状筋部での腫瘍、ガングリオン、異常血管などによる圧迫などが報告されている。

②感覚異常性大腿痛

・鼡径靭帯や上前腸骨棘部での外側大腿皮神経の絞扼性神経障害である。外側大腿皮神経は、上前腸骨棘の遠位内側で鼡径靭帯の下を通り大腿ヘ下行するが、様々な解剖学的破格があり、上前腸骨棘を乗り越えて下行する型もある。そのため、股関節の前方アプローチ、腸骨採骨、腹臥位手術、長時間の腹臥位、妊娠、分娩などにより障害され、大腿近位外側に不快な痛みや痺れを生じることがある。

骨盤出口部の解剖:鼡径部
骨盤出口部の解剖:鼡径部

画像出展:「股関節の痛み」

腰仙骨神経叢
腰仙骨神経叢

画像出展:「股関節の痛み」

c.血管

・骨盤、股関節の栄養血管の大部分は、内腸骨動脈の分枝と外腸骨動脈の末梢である大腿動脈とその分枝からなる。

1)内腸骨動脈

・内腸骨動脈の分枝で骨盤、股関節の栄養に関係するのは、①上殿動脈、②下殿動脈、③閉鎖動脈である。内腸骨動脈は骨盤壁に沿って走行するため、骨盤骨折に伴う血管損傷の大部分は内腸骨動脈枝である。また、鼡径部や殿部に分枝する血管が存在することから、内腸骨動脈枝である。また、鼡径部や殿部に分枝する血管が存在することから、内腸骨動脈閉鎖(瘤)が慢性的な鼡径部痛や殿部痛の原因となる。

2)外腸骨動脈

・外腸骨動脈の分枝で股関節周辺、大腿骨頭の栄養に関係があるのは、①大腿動脈と、これからの分枝である②内・外大腿回旋動脈の血管網である。大腿骨頚部骨折によりこれらの動脈はしばしば損傷され、大腿骨頭壊死が生じる。

骨盤と股関節の血管
骨盤と股関節の血管

画像出展:「股関節の痛み」

c.血管

・骨盤、股関節の栄養血管の大部分は、内腸骨動脈の分枝と外腸骨動脈の末梢である大腿動脈とその分枝からなる。

1)内腸骨動脈

・内腸骨動脈の分枝で骨盤、股関節の栄養に関係するのは、①上殿動脈、②下殿動脈、③閉鎖動脈である。内腸骨動脈は骨盤壁に沿って走行するため、骨盤骨折に伴う血管損傷の大部分は内腸骨動脈枝である。また、鼡径部や殿部に分枝する血管が存在することから、内腸骨動脈枝である。また、鼡径部や殿部に分枝する血管が存在することから、内腸骨動脈閉鎖(瘤)が慢性的な鼡径部痛や殿部痛の原因となる。

2)外腸骨動脈

・外腸骨動脈の分枝で股関節周辺、大腿骨頭の栄養に関係があるのは、①大腿動脈と、これからの分枝である②内・外大腿回旋動脈の血管網である。大腿骨頚部骨折によりこれらの動脈はしばしば損傷され、大腿骨頭壊死が生じる。

腎性貧血

貧血を改善するため、EPO(エリスロポエチン)を注射されている患者さまがおいでです。また、医療関係者としての登録が必要になりますが、田辺三菱製薬さまのサイトに、海外では日本に比べ腎性貧血に対しての意識が高いとの指摘をされている動画がアップされていたことがあり、以前から少し気になっていました。

そこで、今回、「腎・高血圧の最新治療」の2016年4月に発行された、「特集 腎性貧血の未来医療に向けて」というバックナンバーを購入しました。ブログは“治療薬”ではなく“腎性貧血”についての基本的な知識や機序に注目しているため、治療薬に関しては一部のみとなっています。

腎性貧血の未来医療に向けて
腎性貧血の未来医療に向けて

特集 腎性貧血の未来医療に向けて

出版:フジメディカル出版

発行:2016年4月

なお、ブログで触れているのは以下の黒字の部分になります。

企画にあたって

1.新しい腎性貧血治療ガイドライン

はじめに

1.腎性貧血の診断

2.腎性貧血治療の管理目標

3.鉄の補充

4.腎移植後貧血

2.REP細胞におけるEPO産生制御機構

はじめに

1.REP細胞

2.低酸素応答系によるEPO遺伝子発現制御機構

3.病態環境下でのREP細胞におけるEPO産生制御機構の破綻

おわりに

3.ヒトiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞

はじめに

1.ヒトiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞

2.エリスロポエチン産生オルガノイド

おわりに

4.腎性貧血治療薬の新たな展開 

はじめに

1.赤血球造血刺激因子製剤

2.HIF安定化薬としてのHIF-PHD阻害薬

3.腎性貧血と鉄代謝―へプシジン、エリスロフェロンと鉄剤の使用

4.GATA阻害薬

1.新しい腎性貧血治療ガイドライン

勝野敬之:名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座腎臓内科学

伊藤恭彦:名古屋大学大学院医学系研究科腎不全システム治療学寄附講座・腎臓内科

・近年では、長時間作用型の赤血球造血刺激因子製剤(ESA)が登場し、また腎性貧血に関する多くの臨床研究が報告されている。

・鉄の投与方法に関してはいまだ議論の多いところではある。

・軽度のフェリチン値上昇であれば、TSAT(トランスフェリン飽和度)20%未満の患者において、鉄剤投与による貧血改善の可能性が示唆された。

はじめに

1980年代に遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン製剤が開発され、腎性貧血治療は大きく変貌することとなった。

1.腎性貧血の診断

腎性貧血の発症機序として主なものは、腎臓から分泌されるエリスロポエチン(EPO)の相対的分泌不全である。他の要因としては、尿毒症性物質による造血障害赤血球寿命の短縮鉄利用障害栄養障害などが挙げられる。

内因性EPOは近位尿細管周囲間質に存在する線維芽細胞様細胞から分泌され、酸素分圧低下に反応してEPOを産生する。

増加した炎症性サイトカインが赤芽球のEPO感受性低下を引き起こすことが報告されている。

・赤血球寿命が短縮することは古くから報告されているが、報告では30~60%程度の短縮とするものが多い。

炎症性サイトカインとは

『炎症反応を促進する働きを持つサイトカインのことである。免疫に関与し、細菌やウイルスが体に侵入した際に、それらを撃退して体を守る重要な働きをする。血管内皮、マクロファージ、リンパ球などさまざまな細胞から産生され、疼痛や腫脹、発熱など、全身性あるいは局所的な炎症反応の原因となる。

炎症性サイトカインの種類には、腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン(IL)-1、IL-6、IL-8、ケモカインなどがある。看護roo! 用語辞典」より

※慢性炎症と肥満

”炎症性サイトカイン 慢性炎症”で検索したところ、2つの興味深い資料が見つかりました。前者はPDF6枚、後者はPDF7枚ものの資料です。また、2017年2月に”慢性炎症”というブログをアップしています。ご参考まで。

1)病気のきっかけとなる慢性化した脂肪細胞の炎症

2)肥満症と炎症

2.REP細胞におけるEPO産生制御機構

鈴木教郎:東北大学大学院医学系研究科附属創生応用医学研究センター 新医学領域創生分野

赤血球増殖因子エリスロポエチン(EPO)は尿細管質の「REP細胞」でつくられる。

・REP細胞は線芽細胞様の細胞であり、髄質外層から皮質全域に広く分布する。

血などにより、REP細胞への酸素供給量が減少するとEPO産生量が増大し、骨髄における赤血球造血が誘導される。

・腎臓が線維化するような病態環境下では、REP細胞が筋線維芽細胞に形質転換し、EPO産生能を失う。

REP細胞は腎臓病による線維化と貧血の双方で、責任を負う重要な細胞である。

はじめに

・エリスロポエチン(EPO)は糖鎖を豊富に含む約30kDaの糖蛋白質であり、赤血球前駆細胞の分化増殖を誘導する。

・EPOは主に腎臓でつくられており、貧血や低酸素のストレスより産生量が増大する。

1.REP細胞

腎EPO産生細胞(REPrenal EPO-producing細胞)。

REP細胞は尿細管間質で毛細血管に巻きつくように存在しており、髄質外層から皮質全域に渡って分布する。

REP細胞の微小環境
REP細胞の微小環境

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

・骨髄の赤血球前駆細胞に作用するEPOが腎臓から分泌される理由については明解が得られていないが、REP細胞周囲の微小環境に理解への糸口を見出すことができる。

・REP細胞は毛細血管に隣接しているが、血管内は糸球体濾過後の血液が流れている。

・尿細管質は原尿から再吸収された間質液で満たされており、REP細胞に供給される酸素は常に少ないことが考えられる。

・REP細胞周囲の微小環境は酸素供給量が少なく、酸素消費量が多いことから、個体への酸素供給量の減少を最も鋭敏に感知できる部位であるといえる。

2.低酸素応答系によるEPO遺伝子発現制御機構

・生体にとって酸素は不可欠であるため、低酸素状態に陥った細胞はさまざまな遺伝子を発現誘導し、低酸素環境に適応しようとする。

・EPO遺伝子に加え、血管新生や解糖系にかかわる遺伝子群が低酸素誘導性遺伝子として知られている。

哺乳類の成体では、重篤な貧血時にはREP細胞に加え、肝実質細胞でもEPOが産生される

3.病態環境下でのREP細胞におけるEPO産生制御機構の破綻

慢性腎臓病などの病態環境下では、REP細胞が筋線維芽細胞に形質転換する。筋線維芽細胞はEPO産生能を失っており、コラーゲンなどの細胞外基質を産生することにより、腎性貧血と臓器線維化を促進する。

PHD阻害薬:経口薬。EPO誘導を生理的範囲で制御することにより、EPOの過剰投与を回避できる。CKD患者で高値であることの多いヘプシンの発見を抑制して鉄利用を改善する。一方、VEGFなど血管新生因子や糖代謝にかかわる遺伝子発現を亢進することから、長期投与による血管新生・増殖性・低酸素耐性がかかわる病態(糖尿病性増殖性網膜症、加齢性黄斑、悪性新生物の増殖など)への影響の検討が今後の課題である。

3.ヒトiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞

人見浩史:香川大学医学部形態機能医学講座薬理学、京都大学iPS細胞研究所

西山 成:香川大学医学部形態機能医学講座薬理学

長船健二:京都大学iPS細胞研究所

エリスロポエチン製剤は腎性貧血に有効であるが、間歇投与による赤血球の変動、抗エリスロポエチン抗体産生による薬剤不応などの問題があり、脳や心血管疾患のリスクが増大するという報告もある。

・iPS細胞を用いて、エリスロポエチン産生細胞を分化誘導することに成功した。

はじめに

エリスロポエチン欠乏に伴う腎性貧血に関しては、透析療法では対応できない。

・慢性腎不全患者は腎臓間質で産生されるエリスロポエチンの分泌が減少するため、腎性貧血はほぼ必発である。

1.ヒトiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞

・腎臓の構成細胞を分化誘導した報告がされている。また、ヒトiPS細胞に種々の刺激を加えることにより、エリスロポエチンを産生する細胞を作り出すことに成功した。

ヒトiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞
ヒトiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

4.腎性貧血治療薬の新たな展開

鈴木健弘:東北大学病院腎血圧内分泌科、東北大学大学院医工学研究科分子病態医工学

阿部高明:東北大学病院腎血圧内分泌科、東北大学大学院医工学研究科分子病態医工学、東北大学大学院医工学研究科病態液性制御学

3.腎性貧血と鉄代謝―へプシジン、エリスロフェロンと鉄剤の使用

・ヘプシジンは肝臓で産生され、腸管からの鉄吸収と全身の貯蔵鉄(網内系)の放出など体内の鉄動態を制御する。鉄過剰(輸血、静注・経口鉄剤投与)や炎症によりヘプシジンは誘導されて鉄の腸管吸収や体内鉄の動員を抑制するため体内鉄利用を制限する。

腎性貧血と鉄代謝
腎性貧血と鉄代謝

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

このため高ヘプシジンは造血過程における鉄利用を妨げ、貧血の原因のみならず、ESA[長時間作用型の赤血球造血刺激因子製剤]や鉄剤に対する治療抵抗性の原因となる。ヘプシジンは腸管上皮、マクロファージなどの網内系と肝細胞膜表面に発現している鉄のトランスポーターであるフェロポルチンに結合してその膜表面発現を抑制するため、腸管からの鉄吸収や体内鉄の放出動員を抑制する。HIF[低酸素誘導因子]-PHD阻害薬はヘプシジンの発現を抑制するため、高ヘプシジンで鉄利用障害がある患者での貧血改善効果も期待される。

感想

生活習慣(食事、運動、睡眠)に注意し、特に肥満(内臓脂肪型肥満にならないことが、炎症性サイトカインや慢性炎症という問題を遠ざけ、腎性貧血の予防になるのだと思いました。

EPO産生細胞の驚異の回復力
EPO産生細胞の驚異の回復力

こちらのグラフはブログ”腎臓が寿命を決める”でご紹介したものです。

病気の腎臓ではEPO産生細胞のEPO産生力は著しく衰えるが、炎症を抑えると本来の力が蘇った』とあります。

やはり、鍵は「炎症性サイトカイン」だと思います。

 

ご参考1:慢性炎症性疾患とCRP(C-リアクティブ・プロテイン:炎症の強さ)

「HbA1cとCRP」とのタイトルですが、後半に具体的な慢性炎症性疾患や慢性炎症のCRP値に関する記述があります。

『CRPは細菌感染、ウイルス感染、外傷、心筋梗塞、胃炎、腸炎などの急性炎症性疾患で上昇しますが、細

胞の炎症であるガン、脂肪細胞の炎症である肥満、血管の炎症である動脈硬化、脳細胞の炎症である認知症、膵臓の炎症である糖尿病、関節の炎症であるリウマチ、結合組織の炎症である自己免疫疾患などの慢性炎症性疾患でも上昇します。慢性炎症性疾患では、CRP値は0.3~2.0mg/dlと急性炎症性疾患の際に比べて比較的低値です。風邪、扁桃腺炎などの咳、痰、喉の痛み、熱などの症状がなく、CRPが上昇している際には先ほど述べた慢性炎症性疾患が存在しています。』

ご参考2:”めざせ健康長寿 大注目の検査はこれだ!”(NHK:ためしてガッテン)

”ためしてガッテン”2017年5月の放送で、慢性炎症と肥満について取り上げられていました。

ストレス」「タバコ」「過度の飲酒」「高血糖」など…様々な原因で起きる「慢性炎症」ですが、もうひとつ注目されているのが「肥満」です。食べ過ぎや運動不足などによって「肥満」になると、脂肪細胞が脂肪を溜め込み大きく膨らみます。するとそこへ免疫細胞が集まって炎症を起こすことが分かってきました。

冷え症2

著者:仙頭正四郎、土方康世
家庭でできる漢方 冷え症

著者:仙頭正四郎、土方康世

出版:農山漁村文化協会

発行:2007年1月

目次は”冷え症1”を参照ください。

第2章 冷え症はこんな症状も引き起こす

1.みんなが知らない冷えの怖さ

●“冷え症”とはどういうものか?

・冷えとほてりの不思議な関係

-“冷え症”とは「体の一部が異常に冷えやすい症状、またその体質。手足下半身に冷えを感じること。自律神経の機能失調で、血行不良になるために生じる」とされている。

冷え症が女性に多いのは、女性ホルモンなどの内分泌をコントロールする内分泌中枢と、血流をコントロールする自律神経中枢が男性に比べて近い位置にあるためである。女性ホルモンの変動期には、女性ホルモン分泌が失調すると、自律神経がその影響を受け、全身の血管の収縮は血行を悪化させ、冷えの原因となる。

-温めると改善する腰痛、体の痛み、頭痛などの症状をもつ人は冷えが関わっている。

冷えが慢性化すると、むしろ火照るように感じることもあるが、これは冷え症の進行型であることが多い。

・冷え症と血瘀は、ニワトリと卵の関係

-冷え症は血管が収縮傾向にあるため、血流は悪化し鬱滞が起こりやすくなる。この血流鬱滞のことを中医学では血瘀という。

・36.5度の秘密

-冷え症の人の体温は36度以下の人が多い。

諸臓器の代謝は酵素反応によって行われている。たとえば食物の消化は、いろいろな酵素によって分解代謝され、栄養分は胃腸から吸収され、さらに多種多様の酵素反応を経て、血となり肉となる。これらの酵素が最も働きやすい温度が36.5度付近のため、これ以下の体温になると、徐々に酵素の働きが落ちて代謝が悪くなる。そして、ますます冷え症は進み体調は悪化する。

●冷え症を放っておくと

・あらゆる病気の引き金にも

-冷え症を放置すると酵素活性が常に低い状態となり、各臓器の代謝も悪く全身の臓器の機能低下が起きる。

-血流障害や血瘀(血流鬱血)は炎症や各臓器の機能障害につながる。つまり、冷えは脳を含むあらゆる臓器の病気を起こす引き金になる可能性がある。

・ガンも冷えを好む

-冷えきった状態は代謝を低下させ、免疫機構も正常に働かないため、ガン細胞の成長を加速させ、ついには立派なガンになってしまう(わずかなガン細胞は成長し診断がつくまでに10年かかることもある)。冷えはガンにとって喜ばしい環境である。

注):”2.痛いつらいは冷えのせい” は省かれています。

3.女性のライフサイクルが冷えをまねく!?

●女性の体が冷えやすいワケ

・冷えが原因で起こる女性特有の病気には、月経異常、不妊症、妊娠中の異常(切迫流産、早産、習慣性流産、妊娠浮腫)、出産後の異常(産後腹痛、胎盤残留、産後膀胱炎、排尿障害)、子宮下垂、子宮内膜症、子宮筋腫などがある。

女性は月経周期にしたがって、毎月一度、女性ホルモンの大きな変化を受ける。

月経周期、基礎体温と女性ホルモンの変化
月経周期、基礎体温と女性ホルモンの変化

画像出展:「家庭でできる漢方① 冷え症」

月経1週目は貧血気味、黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌低下で体温は下がる。また、血行は悪くなり、生理痛や自律神経失調症状が続き、うつっぽく、肌は過敏、乾燥気味になる。

月経2週目は卵胞ホルモン(エストロゲン)の影響で副交感神経の活動が活発になり、血行が良くなるので低体温であっても体調は良く、肌もきれいになる。同時に卵胞ホルモンは卵子が着床しやすいように布団状に子宮内膜を厚くする。

月経3週目は子宮内膜を潤す黄体ホルモンの分泌が増えて高温期となり、肥厚した子宮内膜は更に潤い充血してくるため、下腹部に不快感やむくみ、便秘などが起こりやすくなる。卵子と精子が受精し受精卵になると、布団状に厚くなった子宮内膜に着床する。受精に至らなかった場合は4週目に進む。

月経4週目は黄体ホルモンの影響が最も顕著になり、高温期が続いて交感神経が活発になり、むくみ、便秘、肩こり、腰痛、肌トラブル、ヒステリー症状などの月経前症候群が出やすい時期となる。最後に肥厚した子宮内膜は不要となり、剥がれ落ちて月経となるが、この時、子宮内膜表面を排出するための子宮収縮が起こって、さらなる下腹部痛を伴うこともある。

特に、1週目と4週目は冷えや疲れに注意しなければならない時期である。

自律神経中枢は、間脳(視床下部)のホルモン分泌中枢の近くにあり、ホルモン変動の著しい月経前後は自律神経も影響を受ける。その結果、冷え症の悪化、憂鬱感、イライラ、情緒不安定などの精神症状、頭痛、めまい、吐き気、消化器症状が起こりやすくなる。

・沖縄の激戦地で従軍した女学生たち(“ひめゆりの塔”)は、月経は停止したままだった。命に関わるような強いストレス状態では月経停止はすぐに起こる。日常的なストレスでも蓄積されていくと月経停止になる可能性はある。

●月経に現れる症状

・冷えが原因で悪化する月経の異常

月経困難症

-月経中の子宮収縮に伴い、強い下腹部痛、腰痛を伴う。

-子宮内膜症や子宮筋腫などで子宮をささえる靭帯を正常な位置で支えることができなくなり、子宮収縮に異常が出る。

-構造に問題がない場合でも、子宮内膜がプロスタンディンを作りすぎると子宮収縮が強くなり、腹痛が起こる。

-冷えると子宮収縮はさらに強くなり、痛みが増強する。

・冷えが引き起こす月経の異常と症状

月経の遅れ

-月経の正常周期は25日~38日。6日前後の変動は正常とされている。遅れるのは月経量が少ない人に多い傾向がある。貧血、冷え症により遅れる人もいる。

月経周期がはやい

-月経周期が21日以下の場合。月経過多や月経期間延長を合併する場合が多い。

-原因は虚弱体質、過労、ノイローゼなどで、自律神経失調症から冷えて胃腸系統が弱った人、冷えて泌尿生殖器系統の働きが弱った人、ストレスで情緒不安定になり、血流鬱滞、阻滞のある人。普通は熱がりの人に多い傾向がある。

過多月経

-レバー状の月経は、子宮腺筋症(子宮筋層内の内膜症)でも見られる。また、小さな凝血塊が時々見られる程度であればあまり心配しなくてもよい。

その他

-生理不順、不正出血、無月経、月経前後の頭痛、下痢、めまいなど。

●不妊症は冷えも大きな要因

・冷えが治ると妊娠の確率も高くなる!?

-『“冷え症を治療すると、妊娠する確率が非常に高くなる”。そういう印象をもっています。』

-『1年前後にわたり漢方薬の服用をつづけて妊娠した数例は、すべてが冷え症でした。ですから不妊症の人は、現代医学的検査を受けて原因がわからないといわれたら、とにかく冷え症を治すことを最優先に考えるべきだと思います。それから、諦める前に、1日数回の足浴と、20分以上の半身浴、漢方薬治療をおすすめします。

・冷えが原因で起こる妊娠・出産の異常

妊娠中の異常

-切迫流産、早産、習慣性流産、妊娠浮腫などがある。妊娠中に冷えるとお腹が硬くなる人が多いので、冷えてお腹が硬いと感じたら、まず腰湯や入浴などでお腹を温めて、安静にして寝るのが良い。とにかく妊娠中は冷やさないようにする。また、適度な運動も必要である。

-3カ月頃から起こる辛い悪阻[ツワリ]は、ストレスから自律神経失調となって起きやすくなり、冷えにより更に悪化することもある。

-8カ月頃には妊娠浮腫が起こりやすくなる。冷えてお腹が脹ってきて、浮腫みが悪化するときは、体を横たえてお腹を温め寝ることにより改善する。

-流産はストレス、過労、冷えなどが原因であり、特に高齢出産や仕事が忙しい人は要注意である。

出産時の冷えによる異常

-子宮収縮不良(残留胎盤で悪化)、胎盤残留、産後膀胱炎や排尿障害などがある。

・冷えが原因で起こる子宮に関する症状

子宮下垂症

-子宮を上に固定しておく靭帯などの力が弱り、子宮が下降して発生する。冷えによって下垂は悪化する。

子宮脱症

-子宮膣部がさらに下降して膣外に露出するものである。

冷えで悪化する下腹部痛

-子宮内膜症、子宮筋腫をもっている人にみられる。冷えて瘀血が悪化するために起こると考えられる。

子宮ガン

-漢方的には子宮ガンは瘀血と考える。血流阻滞、鬱滞があり、冷えによる疼痛が起こることもある。子宮ガンの人のお腹は芯が冷たい感じがする。

まとめ

”冷え症1・2”で、特に気になったことは次の9つです。

.「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」といった、私たちが人生において追い求めるものに、私たちは「温かさ」を感じるはずである。「温かさ」は、熱や光や温かい水が放散するように、外に伸び拡がろうとする性質をもつ。「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」は生命力に熱を生み、心に拡がりを生む気持ちである。

東洋医学では、太陽のような働きを五臓の中の「」に位置づけている。冷えの対策の目的は、単に熱の量を増やすことではなく、「温かさ」のやりとりを可能にすることにあるはずである。そして、その本質は単なる体温の問題ではなく、生活の中に太陽の存在を意識するということである。

冷え症の問題は熱の不足によって、体の中をめぐるものの「動きが悪くなる」ということにその重大さがある。

体がつくり出した熱を貯えておく場所が「」であると考えられている。に貯えられた熱は体の様々な働きの原動力となる。

の働き(腎気)が充実していないと、熱を貯えることができないだけでなく、によって熱をつくり出す働きも十分に発揮されなくなる。

の働きは足腰を使った運動をすることや、睡眠を十分とることで養われる。睡眠不足はの働きを圧迫して、冷え症の背景を強める。

熱のめぐりを目的に応じて先導するのは「気」であり、熱のめぐりを調節するのも気の役目である。そして、気の働きを調節しているのが「」であり、は「」の指令に従って機能している。

は、感情や思考、気分の影響を受けやすいので、気分の状態によって、体の熱の様子は大きく変化する。楽しいことを考えているときは、じっとしていても熱の拡がりはよくなり、抑鬱的な気分や感情の起伏が少ない状態がつづくと、熱の拡がりは悪くなり体は冷えてくる。

注)五色という考えがあり、次のようになっています。[

酵素が最も働きやすい温度が36.5度付近のため、これ以下の体温になると、徐々に酵素の働きが落ちて代謝が悪くなる。そして、ますます冷え症は進み体調は悪化する。

今回の患者さまの下肢の本治穴は、“”・“”の土穴(力をつける:太渓太衝)と金穴(めぐりをよくする:復溜中封)です。これに三陰交足三里を追加しています。これは上記に照らし合わせても妥当といえます。ただし、“”はノータッチでした。

私が学んだ代々木の日本伝統医学研修センターでは、君火(明かり)の“心”に直接刺鍼することは推奨しておらず、施術対象とする場合は、相火(熱)の“心包”を推奨しています。なお、中医学では相火は「腎陽が発揮する各臓腑を温養し活動を推動する機能」と定義されています。

また、代々木時代のノートを丁寧に見返したところ、腎の冷えに対し、腎の土穴+心包の土穴(大陵)を使うとの記述を見つけました。この発見は今回の1番の収穫でした。この大陵は次回の施術から使いたいと思います。

冷え症1

今回のブログは前回の“漢方(中医学)”の続きです。「混ぜるな危険」、その目的は漢方と鍼灸(経絡治療)の違いを理解することでした。自分なりにその違いを認識できたので、前に進みたいと思います。

冷え”の問題が非常に重要ではないかと思う患者さまがおいでです。施術の効果は悪くはないのですが、なかなか冷え型の脈(沈細やや軟:沈み、細く、少し軟らかい脈)が変わらない点が気になるところです。

鍼灸に限らず、何か良い策はないだろうかという思いから、本棚にあった仙頭正四郎先生と土方康世先生の「家庭でできる漢方① 冷え症」をあらためて熟読することにしました。

ブログは2つに分けましたが、全4章のうち、第1章と第2章の多くをカバーしています。

著者:仙頭正四郎、土方康世
家庭でできる漢方 冷え症

著者:仙頭正四郎、土方康世

出版:農山漁村文化協会

発行:2007年1月

目次

はしがき

第1章 冷え症を東洋医学でとらえると

1.問題の本質は体の中の“めぐりの悪さ”

・複数のタイプに分かれる冷え症

・冷えの原因のあれこれ

2.体の中に熱をめぐらせるには?

●熱の量を維持する仕組みを知る

・熱をつくり出す「脾」

・熱を貯える「腎」

●熱を運ぶ仕組みを知る

・熱を運ぶ器としての血液

・熱のめぐりを調節する「肝」

・めぐりの邪魔をする存在

3.あなたはどのタイプか 《冷え症チェックシ+ト》

●各タイプの問題点と克服法

Ⓐ熱の量に問題がある冷え症

タイプ①熱の産生が不足する

タイプ②熱の無駄遣いは多い

Ⓑ熱を運ぶ仕組みに問題がある冷え症

・運ぶ器の問題

タイプ③運ぶ器が少ない(貧血)

・めぐりそのものの問題

タイプ④めぐりの障害物が多い

タイプ⑤熱を運ぶ器の流れが悪い

タイプ⑥めぐりを先導する「気」がとどこおる

●冷え症の予防策

・冷え症の攻略法

第2章 冷え症はこんな症状も引き起こす

1.みんなんが知らない冷えの怖さ

●“冷え症”とはどういうものか?

・冷えとほてりの不思議な関係

・冷え症と血瘀は、ニワトリと卵の関係

・36.5度の秘密

●冷え症を放っておくと

・あらゆる病気の引き金にも

・ガンも冷えを好む

2.痛いつらいは冷えのせい

●冷えがまねく体の

・上半身に現れる症状

+頭痛、肩こり

+疲れ目

+めまい

+動悸

+脱毛、薄毛

+鼻炎

・下半身に現れる症状

+骨粗鬆症

+肥満

+抑うつ感

+アトピ+性皮膚炎

3.女性のライフサイクルが冷えをまねく!?

●女性の体が冷えやすいワケ

●月経に現れる症状

・冷えが原因で悪化する月経の

・冷えが引き起こす月経の異常と症状

●不妊症は冷えも大きな要因

・冷えが治ると妊娠の確率も高くなる!?

・冷えが原因で起こる妊娠・出産の異常

・冷えが原因で起こる子宮に関する症状

●冷えの解消が乳ガン、乳腺症の改善に

・乳ガン

・乳腺症

第3章 東洋医学による冷え症の診断と治療

1.漢方治療の意味と姿勢

●治療が必要なくなる状態をめざす東洋医学

・混在し関連しあう冷えの原因

・対症療法よりも根本治療

・治療への近道は“冷え”を理解し、治療に参加すること

2.体を温めることは漢方治療の得意分野

●熱を増やすためにはどうしたらよいか

・生命力の土台の熱を増やす+タイプ①・②の解決策その1

・胃腸の力で熱を増やす+タイプ①・②の解決策その2

・精神作用の誘導で熱を増やす+タイプ①・②の解決策その3

●熱を運ぶ器を増やすためにはどうしたらよいか

・潜在力を強めて器を増やす+タイプ③の解決策その1

・増幅力を助けて器を増やす+タイプ③の解決策その2

3.じつはもっとも重要な“めぐり”の問題

・邪魔者を取り除く+タイプ④の解決策

・器のめぐりを助ける+タイプ⑤の解決策

・めぐりの仕組みを整える+タイプ⑥の解決策

4.熱の不足で弱った機能を助ける

第4章 きょうからできる冷え症改善法

1.冷えないため食事術

●毎日の食事から冷えを改善

・冷やさないお酒の飲み方

・食材の力を活かす

・温めることよりも冷やすものを避ける

[冷え症タイプ別 適性食材の表]

●冷えないために食事で心がけたいこと

・冷えるものは温めるものとの組み合わせで

・大事な一歩は朝食から

・体を温めるオリジナルメニュ+

・体質、体調に合わせて食べる

・誤った健康情報に惑わされない

2.冷えないためのくらし術

●冷えないために服装で心がけたいこと

・冷えないおしゃれに工夫をこらす

・薄着でもできるこんな工夫

●冷えないために生活で心がけたいこと

・冷える生活習慣に要注意

・体をはやく温めるには運動は必須

●きょうからできる「冷え取り入浴法」

・入浴には落とし穴も

・半身浴+体の芯の温かさを体感

・足浴法+じわ+っと芯から万遍なく温める

3.自分でできる冷えの気功療法

一.手掌でぬくぬく功

二.全身ぽかぽか功

三.腰ポカ功

四.太陽と友だち功

4.自分でできる冷えのツボ療法

・冷え症改善に効果のあるツボ

 ・自分でできるツボ療法

はしがき

『東洋医学を専門とする医療者として、治療や生命を考えるとき、何を大切にするかと問われるとすると、いくつかあげたいもののなかの一つに、「熱を大切にする」ということがあります。それは、生命力が豊かであるときの様子が熱であり、同時に、豊かな熱の存在によって、活き活きとした生命力が支えられてもいるからです。健やかに生きるということは、「熱」とは切っても切れない関係にあるのです。

「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」といった、私たちが人生において追い求めるものに、私たちは「温かさ」を感じるはずです。「温かさ」は、熱や光や温かい水が放散するように、外に伸び拡がろうとする性質をもちます。「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」は生命力に熱を生み、心に拡がりを生む気持ちなのです。「温かさ」は、豊かな生命力を意味し、同時に、豊かな心をも示すものなのです。それゆえ、「温かさ」の周りには人が集まり、その「温かさ」は周りに力を分け与えることができるのです。温かさの周りでは、互いが与え合え、すべての生命が活き活きとしています。

温かさと正反対の性質をもつ「冷え」は生命力を脅かし、機能の低下を意味するだけでなく、精神をも蝕みます。精神の状態は、表情に、目の輝きに現れます。「冷え」は容易に外に現れ、容貌、姿勢、立ち居振る舞いを変えます。冷えや温かさの状態は、どんなに強力なエステよりも、外見に影響力をもつものなのです。「苦悩、悲哀、狡猾、落胆、後悔」などの感情は、言葉にしなくても、その人の醸し出す空気から簡単に知ることができます。それは、これらが「冷え」を連想させる感情で、生命体として近寄りたくない空気だからです。「冷え」の性質は、「閉じこもり、固まり、沈み込み、内に向けて凝縮する」もので、周りから奪い、吸収して封じ込める性質をもっています。そのことが人を遠ざけ、人から「温かさ」を受ける機会をなくし、「冷え」の悪循環に陥いるのです。

人の生きる力は、周りの人から「温かさ」を受けて育まれ、また、周りの人に「温かさ」を与えることが生きる力を大きく膨らませます。こうした「温かい」存在によって生命力は支えられていて、それはあたかも太陽のようであり、東洋医学では、そのような働きを五臓の中の「心」に位置づけています。冷えの対策の目的は、単に熱の量を増やすことではなく、「温かさ」のやりとりを可能にすることにあるはずです。そしてその本質は、単なる体温の問題ではなく、生活の中に太陽の存在を意識するということです。自分を照らす太陽の存在を意識し、同時に、自分の中に、人を照らす太陽の存在を見い出すことでもあるのです。それは喜びになり、力になり、美しさにつながります。

本書で提供する冷え症対策で、冷えの世界から抜け出して温かさを手に入れ、その温かさを周りの人に分け与えてもらえれば、これに勝る喜びはありません。』

第1章 冷え症を東洋医学でとらえると

1.問題の本質は体の中の“めぐりの悪さ”

・複数のタイプに分かれる冷え症

-冷え症は単に冷えるということだけを問題にするのではなく、体の中で熱が果たしているいろいろな役割や仕組みを認識して、その熱が少なくなることで生じる様々な異常を冷え症の問題として捉える。

-物体も人も冷やされれば、同じように冷たくなるはずなのに多くの生き物が冷たくならないのは、物体として冷やされていながらも、体に貯えた熱を体表に絶えず運んでいるからである。

・冷えの原因のあれこれ

-血液や体の水が温められることで体中をめぐる。また、体の中に貯えられている熱はこうしためぐりに乗って、体中に配られる。熱はめぐりを良くし、めぐりの良さが体を温めるという“温め”の良いサイクルがつくられる。

-東洋医学では、どこが冷えているか、そして他の部分はどうかということに注目する。

-体全体が冷える人、足だけが冷える人、背中に冷えを感じる人、腰回りだけが冷える人、お腹に冷えを感じる人、手足は冷えても顔はほてる人まで、いろいろな特徴をもった冷え症がある。

さまざまなタイプの冷え症
さまざまなタイプの冷え症

画像出展:「家庭でできる漢方① 冷え症」

めぐりの悪さで引き起こされる冷えの問題は、すべてが冷えることは少なく、冷える場所と反対に不自然に熱くなる場所が体の中に混在することが多い。

冷え症の問題は熱の不足によって、体の中をめぐるものの「動きが悪くなる」ということにその重大さがある。

-冷えのために血液の流れが悪くなる、水の流れが悪くなってむくみを生じる、逆に水が届かないところには乾燥をつくる。そうしたことが、また、流れの悪さの原因になる。こうした悪循環が体の不調の連鎖の原因になる。

-めぐりに乗って全身に配られる熱は、ただ体を温めるだけではなく、その熱が胃腸の働き、心臓の働き、免疫力、脳の働き、筋肉の働きなど、全身の色々な機能の土台となって体の働きを支えているため、冷え症の状態では体の色々な機能低下を引き起こすことになる。

2.体の中に熱をめぐらせるには?

熱の量を維持する仕組みを知る

熱をつくり出す「

-食事と関係する働きは、東洋医学では「」が分担すると考えていて、食べ物から必要なものを取り込んで、体に必要なものにつくりかえる働きをする。

-脾は後天的に生命力を補充する役目をすると考えられている。

熱を貯える「

体がつくり出した熱を貯えておく場所が「」であると考えられている。に貯えられた熱は体の様々な働きの原動力となる。

の働き(腎気)が充実していないと、熱を貯えることができないだけでなく、脾によって熱をつくり出す働きも十分に発揮されなくなる。

は先天的な生命力を貯える場所であり、体の芯の部分にあると考えられている。

腎の働きは足腰を使った運動をすることや、睡眠を十分とることで養われる。睡眠不足は腎の働きを圧迫して、冷え症の背景を強める。

熱を運ぶ仕組みを知る

熱のめぐりを調節する「

熱のめぐりを目的に応じて先導するのは「気」であり、熱のめぐりを調節するのも気の役目である。そして、気の働きを調節しているのが「」であり、は「」の指令に従って機能している。

は、感情や思考、気分の影響を受けやすいので、気分の状態によって、体の熱の様子は大きく変化する。楽しいことを考えているときは、じっとしていても熱の拡がりはよくなり、抑鬱的な気分や感情の起伏が少ない状態がつづくと、熱の拡がりは悪くなり体は冷えてくる。

-ストレスや抑鬱気分で気が滞ると熱の偏りが生じて、熱の多い所と少ない所がみられるようになる。中心には熱が過剰、末端では不足するといった状態になりやすく、こもって過剰になった熱は上の方に集まりやすくなるため、手足は冷えるが顔は火照るといった「冷えのぼせタイプ」の冷え症になる。

めぐりの邪魔をする存在

-水分や栄養の摂りすぎなどで余分なものを貯えている状態が度を越えて多くなると、流れを邪魔する障害物となる。これを「痰飲」とよぶ。

-痰飲は熱の運行を邪魔して冷えの原因となると同時に痰飲自体が冷えを貯える保冷剤になり、暑い時期には熱を貯えることにもなる。これは肥満体型で、夏は暑がり冬は人一倍の寒がりタイプの冷え症である。

※ご参考:”五色”という考えがあり、次のようになっています。[

3.あなたはどのタイプか 《冷え症チェックシート》 


冷え症チェックシート
冷え症チェックシート

画像出展:「家庭でできる漢方① 冷え症」

●各タイプの問題点と克服法 

Ⓐ熱の量に問題がある冷え症

タイプ①熱の産生が不足する

・先天的な生命力を貯える「腎」の働きや、後天的に生命力を補充する「脾」の働きがもともと弱い、元気のない人ややせ型で疲れやすいタイプの人の冷え症である。

タイプ②熱の無駄遣いは多い

・熱に生産量は正常だが、過剰な冷房、薄着で不必要に熱を逃がしたり、冷たい飲食物で体を内側から冷やしてたりしまっているタイプの冷え症である。

Ⓑ熱を運ぶ仕組みに問題がある冷え症

タイプ③運ぶ器が少ない(貧血)

・熱を運ぶ器ともいえる血液が少なく、顔色が悪く、皮膚がかさつき、めまいや立ちくらみといった貧血症状を起こしやすいタイプの冷え症である。このタイプは手足などの末端部の冷えが目立つ。

タイプ④めぐりの障害物が多い

・水分や栄養を摂りすぎて体に余分なものが貯えられ、それが障害物となって、熱の流れを邪魔しているタイプの冷え症である。この障害物は「痰飲」と呼ばれる、冷えだけでなく熱も貯えるため、夏は暑がりなのに冬は人一倍寒がりというのが特徴である。余分な水が冷えをつくり、熱の不足が水の動きを悪くして痰飲を強めるという悪循環が生じやすい。

タイプ⑤熱を運ぶ器の流れが悪い

・血液の流れを悪くさせる第一の要因は、気の滞り。くよくよ、イライラ、余計な心配、考えすぎ、こういったことを避けること。そして、第二の要因は、冷やすこと。水分は少量ずつ飲むようにして、摂りすぎないように注意する。

・滞っている血液をめぐらせるには運動が良い。これは通勤や通学、買い物、家事など体を使う意識をもてば、生活の中に多くの機会があり、工夫によって運動量はぐっと増える。

タイプ⑥めぐりを先導する「気」がとどこおる

・手足は冷えるのに顔は火照るといった冷えのぼせタイプの冷え症である。

・気がストレスや抑圧気分で滞って中心にこもると、中心には熱が過剰となる一方、末端では不足する。熱の不足と過剰が同居する冷え症である。

・気を滞らせないためには、「気」が自由に色々な方向に動けるように道を開くことが重要。心配事や嫌なことも肯定的にとらえ、色々なものに関心を向け、一つのことにこだわらず明るい気分で過ごす。「いい気持ち」でいられる時間や方法を見つけることが大切である。

●冷え症の予防策

・運動を心がけ、過労や寝不足を避けて、明るい気分で過ごす。

・冷飲食や夏野菜、緑茶など体を冷やす飲食物に注意して、栄養過剰を避ける。

・厚着でなくても、頚周り、脇の下、臍周り、足の付け根、足首などの要所を覆って熱を逃がさない衣服を工夫する。袖のある服、袖口の閉じた下着やブラウスなどで効果は絶大。

漢方(中医学)

“冷え”の問題が非常に重要ではないかと思う患者さまがおいでです。冷えについてあらためて勉強したいと思い本棚を見回したところ、仙頭正四郎先生と土方康世先生の「家庭でできる漢方① 冷え症」を見つけました。以前、ざっとは読んではいましたが、ほとんど記憶に残っていないため、今度はもっと真剣に熟読することにしました。

しかしながら、個人的な話ですが一つ大きな問題があります。それは、漢方と鍼灸(経絡治療)の考え方が同じではないということです。兄弟でいえば、双子の兄弟というより、普通の兄弟くらいの差があると思います。そして、問題というのは「混ぜるな危険」という教えです。これは色々な勉強をすることは良いことだが、理論がごった煮状態となってしまっては良くない、施術は1本筋の通ったものでないといけないということです。当院の施術の流れは、【経絡治療:四診(望・聞・問・切[特に脈診]⇒証をたてる⇒本治・標治】です。

漢方は中医学(中国伝統医学)の湯液[トウエキ]の流れを汲んでおり、その意味では中医学の考え方にもとづいているといえます。つまり、経絡治療と中医学の差を理解しておくことが、“理論のごった煮”を避けるためには必要です。

そこで専門学校時代の中医学の教科書と授業のノート(Excel)を取り出し、この点について考えてみました。

針灸学[基礎編]
針灸学[基礎編]

編集:日中共同(編集責任:天津中医薬大学・学校法人後藤学園)

出版:東洋学術出版

第三版発行:2007年1月(初版発行:1991年5月)

第1章 緒論の“1.中医針灸学の沿革”の後半に次のような記述があります。『清代[1644~1912]から新中国誕生までの期間は、鍼灸学はあまり大きな発展はとげられなかった。

清代前期は主として明代[1368~1644]の学風を継承しており、その整理と注釈が行なわれた。また清代後期から民国時代は、腐敗した封建文化と半封建半植民地文化の影響を受けて、針灸学はしだいに衰退していった。この時代の針灸は有効な治療法として民間の間に広く定着し、ゆるやかな発展をとげた。

新中国誕生後、政府は針灸学を重視し、臨床応用および古代文献の整理が行なわれ、さらに現代医学と現代科学を運用し、さまざまな角度から経絡、腧血、針感などの原理について大量な研究が行なわれた。とりわけ近年の針による鎮痛原理の研究および針麻酔の応用は、世界の医学領域に非常に大きな影響を与えた。』

これによると、最も認識すべきは、中医学は「古典にもとづく新しい学問である」ということです。“新古典”といっても良いかもしれません。

この本は日中共同編集によるものですが、中国側は天津中医薬大学となっています。そこでこの大学のホームページを見てみました。 

1958年、「天津中医学院」として創立されました。

日本では神戸に「天津中医薬大学 鍼灸推拿学院 神戸校」があります。

~心身を養い、整える~ 中医学のこと
~心身を養い、整える~ 中医学のこと

こちらのサイトには詳しい解説に加え、“張先生の「中医学の基本のお話し」”という約1時間12分の動画もあります。

 

中医学の医師を中医師と呼びますが、中医師になるには中医薬大学もしくは中医学院を卒業後、中医師資格試験に合格する必要があります。日本では3年制の専門学校を卒業することが国家試験の受験資格ですが、中国で針灸治療を行うには、中医師にならなければなりません。  

こちらのサイトには、“天津中医薬大学”の詳しい紹介が出ているのですが、“大学概要”の中の大学院留学の専攻分野≪修士≫”は次のようになっています。

中医基礎理論、中医臨床基礎、中医医史文献、処方学、中医診察学、中医内科学、中医外科学、中医骨折治療科学、中医婦人科学、中医小児科学、中医五官科学、針灸按摩学、中国・西洋医学融合基礎、中国・西洋医学融合臨床、中医薬学。

中医学の最大の特徴は、本書の第2章 中医学の基本的な特色 “第4節 独特の診断・治療システム[弁証論治]”にあると思います。また、第6章 中医学の診断法[弁証]にも説明が出ています。そこで、この第4節と第6章を確認してみました。 

目次は以下の通りですが、小項目を数多くを省いています。

目次

第1章 緒論

第2章 中医学の基本的な特色

第1節 中医学の人体の見方

第2節 陰陽五行学説

①陰陽学説

②五行学説

第3節 運動する人体

第4節 独特の診断・治療システム[弁証論治]

第3章 中医学の生理観

第1節 気血津液

第2節 蔵象

●蔵象概説

●五臓

●六腑

●奇恒の腑

●臓腑間の関係

第3節 経絡

①経絡の概念と経絡系統

②経絡の作用

③経絡の臨床運用

④十二経脈

⑤奇経八脈

⑥十二経別

⑦十二経筋

⑧十二皮部

⑨十五絡脈とその他の絡脈

第4章 中医学の病因病機

第1節 病因

①六淫

②七情

③飲食と労逸

④外傷

⑤痰飲と瘀血

第2節 病機

1.邪正盛衰

2.陰陽失調

3.気血津液の失調

4.経絡病機

5.臓腑病機

●内生の風・寒・湿・燥・火の病機

第5章 中医学の診察法[四診]

第1節 望診

第2節 聞診

第3節 問診

第4節 切診

第6章 中医学の診断法[弁証]

第1節 八網弁証

第2節 六淫弁証

第3節 気血弁証

第4節 臓腑弁証

第5節 経絡弁証

第7章 治則と治法

1.弁証

『医師は自身の感覚器官により、患者の反応から各種の病理的信号を収集する。それには望・聞・問・切という4つの診察法(四診)を用いる。四診により得られた疾病の信号に対して、分析、総合という情報処理を行い、「証候」を判断することを弁証という。

2.論治

「論治」とは、弁証により得られた結果にもとづき、それに相応する治療方法を検討して決定し、施行することである。したがってこれは「施治」ともいわれている。ここでは最もよい治療方針を確定するための検討が行われる。

弁証と論治は、相互に密接な関係をもつ。弁証は治療決定の前提であり、そのよりどころとなる。一方、論治は治療の方法であり手段である。論治による実際の効果を通じて、さらに弁証の結論が正確であったかどうかが検証される。このように弁証論治は、理論と実際の臨床により体系化されたものである。

弁証論治
弁証論治

画像出展:「針灸学[基礎編]」

”理―法―方―穴―術”

『中医臨床では、この弁証論治の過程を理―法―方―薬と称している。ところで針灸学では主として、針あるいは灸を用い、経絡経穴に刺激をあたえ、疾病を治療するわけであるが、この針灸の弁証論治の過程は、理―法―方―穴―術ということになる。

:各種の弁証法を運用して疾病発生のメカニズムを識別、分析すること。

:弁証により得られた結果にもとづき、それに相応する治療原則を確立すること。

:経穴による処方を指す。

:「穴義」ともいい、使用する経穴の作用と選穴の意義を指す。

:手法(灸を含む)を指す。

このように理―法―方―穴―術は、針灸弁証論治のすべての過程であり、これが針灸弁証論治の特徴である。

中医学では長期にわたる臨床経験の蓄積によって、八網弁証・六淫弁証・臓腑弁証・経絡弁証・気血弁証・六経弁証・衛気営気弁証・三焦弁証などの数種の弁証方法が確立されている。

それぞれの弁証法は、異なる視点から病証を分析するものであるが、各弁証は孤立したものではなく、相互に関連し、重なり合う部分もあり、比較的複雑な病証を分析する際には補完しあう関係にある。八網弁証は、陰陽学説にもとづいた視点から病証の全体像を大づかみに把握するもので、その他の弁証の基礎となる。もし病邪の関与が際立っている病証であれば、六淫弁証によって病邪の種類と趨勢を分析する。気・血の機能不足や流通障害があれば気血弁証を、臓腑の機能失調があれば、病邪の種類などに応じて、六経・衛気営血・三焦弁証のうち最も適切な弁証方法を選択して診断する。』

以下の表や文章は専門学校時代の資料です。

最初の表は、中医学の授業で配布された資料を一部編集したものです。私の記憶では、上から3段目の”機能”が特に中医学を理解する上で重要だったように思います。

2番目の資料は今回ご紹介した「針灸学[基礎編]」の中にあった図を抜き出して1枚にまとめたものです。五臓の関係性や主な機能について書かれています。

3番目の資料は、おそらく問題を作るという宿題だったと思います。従いまして、弁証は間違っているかもしれません。中医学の”弁証”の雰囲気を知って頂くには悪くないと思い貼り付けました。

まとめ

●中医学は古典にもとづく新しい学問であり、“新古典”というものである。

針灸は中医学の一部であり、他に湯液(漢方)、推拿(手技)、薬膳に加え、中国・西洋医学融合などを含んでいる。

●最大の特徴は弁証論治である。診断に相当する弁証は、“八網弁証”、”病因弁証”、”臓腑弁証”、”経絡弁証”、“気血弁証”、”六経弁証”、“衛気営血弁証”、“三焦弁証”、”六淫弁証”がある。特に基本となるのは八網弁証である。

◆一方、経絡治療は古典にもとづきながら、シンプルさを追及したもので、「経絡を整えれば臓腑も良くなる」という考え、いわば臓腑経絡説が中心にある。

以上のことから、漢方(中医学)に接する時には、古典にもとづいた新しい学問であることを認識すること。診断における多様性に注目し、あらたな見方、施術の応用として、明確な目的のもとで参考にすることは悪くないと思います。そして、その事により患者さまの状況が好転するならば、“応用法”として自らの施術に加えれば良いと思います。

筋肉による熱生産

筋肉の事を深い知りたいと思い購入しましたが、主旨は筋肉の知識を深め、目的に則した筋肉のトレーニング方法を正しく知るといった、どちらかといえばアスリート向けの本でした。

そのため、ブログで取り上げたのは“熱生産”です。これは“冷え”や“代謝・肥満”という問題に直結する大変興味深いものです。

著者:石井直方
筋肉の科学

著者:石井直方

発行:2017年10月

出版:ベースボールマガジン社

目次

理論編

●筋肉は何のために存在している?

●運動のパフォーマンスを左右する4要素

●平行筋と波状筋

●筋の外側にもある変速器

●筋収縮の仕組み

●筋収縮の形態

●短縮性収縮と伸張性収縮

●スピードを高める第1条件

●筋力と姿勢の関係

●なぜ関節角度によって筋力は変わるのか?

●関節角度と力発揮能力の実際

●筋肉の動的特性

●筋の力学的パワー

●競技でのパワーを高めるには?

●伸張性領域で起こること①

●伸張性領域で起こること②

●筋収縮と熱発生

●熱生産の仕組み①

●熱生産の仕組み②

●熱生産の仕組み③

●運動単位とは何か?

●運動単位の大きさを決める要因

●運動単位の働き方

●中枢による抑制

●サイズの原理

●サイズの原理の例外

●筋線維タイプの分類

●筋線維タイプと色の違い

●速筋⇔遅筋のシフトは起こるか?

●トレーニングによって筋線維はどうシフトするか?

●筋肉のタイプによる基本的な性質の違い

●昆虫の筋肉の特性をスポーツに生かせるか?

●筋肉を成長させるメカニズム①

●筋肉を成長させるメカニズム②

●筋肉を成長させるメカニズム③

●筋肉を成長させるメカニズム④

実践編

●「トレーニング効果」を考える

●1RM筋力の測定

●等尺性随意最大筋力の測定

●特異性の原則

●パフォーマンスを高める筋力トレーニングの考え方

●適応・馴化とピリオダイゼーション

●バイラテラルとユニラテラル①

●バイラテラルとユニラテラル②

●メカニカルストレスの重要性

●メカニカルストレスを高める方法①

●メカニカルストレスを高める方法②

●メカニカルストレスを高める方法③

●筋肉の内部環境

●筋肥大と筋パワーのトレーニング効果

●トレーニング動作の学習効果

●学習効果の注意点

●トレーニング効果の表れ方①

●トレーニング効果の表れ方②

●トレーニングの容量を高める①

●トレーニングの容量を高める②

●トレーニングの容量を高める③

●「筋肉学」を現場で活用する①

●「筋肉学」を現場で活用する②

●解明されつつある最新知識

おわりに

筋収縮と熱発生

・筋肉は力学的なエネルギーを発揮することと、働きながら熱を生産するという2つの役割を担っている。つまり、「仕事+熱=全エネルギー」になる。

・ヒトが荷物を持ってじっと立っているときも、姿勢を維持するために筋肉は活動している。もしこの状態で筋肉が熱をどんどん出してしまうと、荷物を持って立っているだけで汗だくになってしまう。このようにならないのは、動かず立っているだけのような状態の時に、筋肉はエネルギーを極力使わずに力を持続できるように設計されているためである。

熱生産の仕組み①

・「震え熱生産」とは寒さに対し体温を維持するために体が勝手に震えるもの。筋肉の収縮に伴って生産される熱を利用している。

「非震え熱生産」は筋肉の活動に依存せずに熱を作る仕組み。ひとつは「褐色脂肪組織」がある。これは熱を作ることができる専門の脂肪組織で、脂肪をエネルギー源として燃やすことで熱を生産している。褐色脂肪細胞には普通の脂肪細胞に比べエネルギーを作りだすミトコンドリアが多く含まれている。そして、ミトコンドリアが赤っぽい色をしているため褐色脂肪細胞とされている。一方、普通の脂肪細胞は白色脂肪と呼ばれている。

・ヒトの褐色脂肪細胞は主に胸から脇の下にかけて分布しているが、40g前後と少なく体温生産にどの程度寄与しているのかはよく分かっていない。一方、筋肉は体重の約40%(体重70㎏の場合28㎏)とされ、重さで比べると褐色脂肪細胞の500倍以上とも考えられる。そのため体温生産では筋肉の方がはるかに大きな役割を果たしていると考えられる。

熱生産の仕組み②

褐色脂肪細胞や筋肉が熱を出すための仕組みに関わっているタンパク質が、10年程前に発見された。それは“ミトコンドリア脱共役タンパク質(UCP)”というものである。

UCPは細胞内のミトコンドリアの中に存在し、脂肪のエネルギーを分解する反応系とATP(アデノシン三リン酸)を合成するシステムとのつながりをカットするという特徴がある。これにより、脂肪のエネルギーを分解して得られたエネルギーが、ATPを作ることなく熱になって逃げてしまうことになる。つまり、運動せずに身体から熱が発生するということになる。

・褐色脂肪細胞の中にあるUCPは、最初に見つかったのでUCP1と呼ばれている。

・UCPには多型(遺伝子を構成しているDNAの個体差)があり、ヒトでは正常なUCP1を問題なく作れる人と作れない人がおり、日本人には作れない人が約20%もいる。

UCP1が作れないと熱生産の能力が低くなるため、低体温や冷え症といった症状になりやすい。また、1日当たりの消費カロリーが100㎉ほど少なくなる。1年では36500㎉であり、体脂肪に換算すると5㎏に相当する。すなわち、同じ食事、同じ運動量であってもUCP1を作れない人は5㎏太ってしまうということになる。

・UCP1を作れる遺伝子をもっているかどうかは、多くの肥満外来で調べてもらえる。

筋肉で見つかったUCPは3番目に見つかったのでUCP3と呼ばれ、筋肉の活動なしに熱を生み出す。1g当たりの熱生産量は褐色脂肪より小さいが、筋肉の量がはるかに多いため、全体的にはより多くの熱を発生させていると考えられる。

・UCP3は遅筋線維より速筋線維の方に多く含まれる。ただし、速筋中の速筋であるタイプⅡxにはミトコンドリアが少ないので「非震え熱生産」の主役はタイプⅡaである。遅筋線維にもミトコンドリアが多く含まれているが、UCP3が少ないので熱の生産は少ない。

・筋力トレーニングをすると速筋線維はタイプⅡx→タイプⅡaに移行するため、エネルギー消費は高まる。

長時間にわたる有酸素運動はUCP3の活性化が低くなる。これは長時間の運動に耐えるために燃費のよい筋肉になるということである。このため有酸素運動をたくさん行って減量した人は、運動をやめるとリバウンドしやすいので注意を要する。

筋線維タイプの分類とそれぞれの主な特徴
筋線維タイプの分類とそれぞれの主な特徴

画像出展:「筋肉の科学」

Ⅱa、Ⅱxは分類Cなので、筋線維をATPase(加水分解する酵素)に基づいて分類したものということになります。

熱生産の仕組み③

サルコリピンの発見は1993年だが、その機能は明らかになったのは2012年である。このサルコピンは褐色脂肪細胞やUCPを超える熱生産の主役と考えられる。ただし、機能など十分に解明されてはいない。

・筋肉の中の筋小胞体はカルシウムを溜めこんでいる。筋肉が収縮するとそこからカルシウムが放出され、弛緩するときにカルシウムが戻るという仕組みがある。サルコリピンは筋小胞体からカルシウムを外に出してしまうという“悪さ(働き)”をする。

-『カルシウムを筋小胞体に組み上げるタンパク質(カルシウムポンプ)は、ATP(アデノシン三リン酸)を分解し、そのエネルギーを利用して働きます。サルコリピンはこのカルシウムポンプに結合し、カルシウムをくみ上げる働きだけをブロックします。つまり、カルシウムポンプが「空回り」することで、ATPのエネルギーをすべて熱にしてしまいます。』 注)これはネズミによる実験とのことです。

サルコリピンを増やす方法は見つかっていないが、筋肉量に比例すると考えられるので、筋肉量を増やすことは熱生産を高め、身体を温める力を高めると考えられる。

-『前述の研究の延長として、やはりサルコリピンをノックアウトしたネズミに高脂肪食を与えるという実験も行われました。脂肪がたくさん含まれるエサを与えると、ネズミはみるみるうちに太っていく。そうして極度の肥満になってしまうことがわかりました。一方、サルコリピンをもっている正常なネズミに同じ食事を与えても、少し太る程度でした。つまり、筋肉が熱を作れないということは、太る原因にもなってしまうのです。しかも、その状態でグルコースを与え、血中のブドウ糖の濃度の変化を調べると、そのネズミは糖尿病に近い状態になっていることがわかりました。ここまでのことを整理すると、サルコリピンが足りないと、冷え症になり、肥満になり、糖尿病になりやすくなる。逆にいうと、これらはすべて筋肉を増やすというアプローチによって、予防、改善できるということになります。今後は「ダイエット」の観点からも、サルコリピンが注目されていくことは間違いないでしょう。

画像出展:「筋肉の科学」

『筋トレをして「サルコリピン」を増やせば、冷え症、肥満、糖尿病の予防・改善効果も期待できる』

 

ご参考:“マッスルメモリー”

この“マッスルメモリー”は、中高年がトレーニングに取り組む際にとても重要なキーワードであると思いますので、ここだけはご紹介させて頂きます。

『筋線維再生系とタンパク質代謝系は、おそらく同時に働いていると考えられますが、どちらがどのくらい働いているかというのは、まだよくわかっていません。そのあたりは、これからの研究課題になってくるでしょう。ただ、最近の研究でいろいろなことがわかってきています。本項では、まず筋線維再生系について説明しましょう。

筋線維には、「筋サテライト細胞」と呼ばれる幹細胞(筋線維のもとになる細胞)がペタペタとへばりついています。普段は眠ったような状態なのですが、筋トレをすると目覚めて増殖します。そして、前述したように新しい筋線維を作る場合もあるし、へばりついていた筋線維に融合して、その中に新たな核を挿入する場合もあります。

実は筋線維の核そのものが増えることが確定したのは、ここ数年の話です。そしてヒトの場合、その核は筋トレをやめて筋線維が細くなってしまっても、10年間程度は残り続けるのではないかと考えられています。これは「マッスルメモリー」といわれるメカニズム。一度しっかり筋肉をつけておけば、10年先までその記憶が残っていて、トレーニングを再開したときに通常よりも早く筋肥大が起こるようになります。これも、筋線維再生系の新たな役割として注目されています。

がんとエクソソーム

今回も前回に続き、NHKスペシャル「人体」取材班編集による、「神秘の巨大ネットワーク 人体4」からになります。第7集 “健康長寿” 究極の挑戦」の概要を紹介している文章には、次のようなことが書かれています。

『これらの病気[がん・心臓病・脳卒中]に立ち向かうために、いま、全く新しい治療戦略が開発されようとしている。カギを握るのは、人体の中で臓器同士や細胞同士が繰り広げている会話、いわば人体の「情報ネットワーク」という視点である。“健康寿命”をかなえるための究極の挑戦がいま、始まっている。

日本人の三大疾病とされる、「がん」「心臓病」「脳卒中」に対し、“エクソソーム”は「がん」と「心臓病」の治療にも関わっているようです(前者は“エクソソームを標的としたがん治療”、後者は“エクソソームから心筋細胞を再生”というタイトルで紹介されています)

“エクソソーム”という言葉は知っていましたが、重要性はもちろん、どんなものかも理解できていませんでした。そこで、がんとエクソソームの関係性を勉強しながら、エクソソームのことも知ろうと思いました。

神秘の巨大ネットワーク4
神秘の巨大ネットワーク4

編集:NHKスペシャル「人体」取材班

出版:東京書籍(株)

発行:2018年8月

第6集 “生命誕生”見えた!母と子ミクロの会話

Part1 新たな命が発信する最初のメッセージ

●新たな命が始まる瞬間を追う

●まず迎える、着床という妊娠の最難関門

●子から母への最初のメッセージ

●妊娠検査にも利用されるhCG

Part2 人体をつくる驚異の仕組み

●“ドミノ式全自動プログラム”

●万能細胞が開いた神秘の扉

●最初に生まれる臓器は、心臓

●心臓の次は、肝臓

●さまざまなメッセージが連鎖して作用する

●ぐんぐん成長する赤ちゃん

※万能細胞が切り拓く新しい世界

Part3 胎盤の中で繰り広げられる母と子のやりとり

●10か月で驚きの成長を遂げる赤ちゃん

●母と子をつなぐ命綱

●胎盤の中で繰り広げられる驚異の共同作業

●1つ1つのメッセージを専用装置でやりとり

●そして、誕生

※もう1つの生命誕生物語

Part4 生命誕生の解明が医療の未来を切り拓く

●原因不明の難病に苦しむ女の子

●肝臓移植の代わりになる再生医療

●何になるべきかを知っていた細胞

●生命誕生に学ぶ未来の医療

●“ミクロの会話”がもたらす希望の光

※臓器づくりに欠かせない細胞同士の会話

第7集 “健康長寿” 究極の挑戦

Part1 「がん」が送り出す恐ろしいメッセージ

●日本人の死因第1位のがん

●何度取り除いても発症するがん

●映像が捉えたがん細胞の増殖

●がん細胞が血管を引き寄せる仕組み

●特殊なメッセージ物質、エクソソーム

●それはメッセージの宝箱だった

●宝箱を悪用するがん細胞

●免疫細胞も手なずけるがん細胞

●エクソソームががんの転移のカギを握る

●転移のための環境を整えるがん細胞

●体内のエクソソームは100兆個以上

Part2 「がん」との戦いの最前線

●がん治療の新時代

●13種類のがんの早期診断を目指す

●運動ががん治療につながる

●エクソソームを標的としたがん治療

●光と免疫でがんを攻撃

●牛乳からがんの治療薬も……?

Part3 不可能に挑む! 次世代の心臓再生医療

●いったん傷ついた心臓はもとに戻らない

●心臓の中のメッセージ物質

●エクソソームから心筋細胞を再生

●メッセージ物質を使った治療のメリット

●iPS細胞を使った心臓の再生医療

Part4 神秘の巨大ネットワーク

●人体の解明へさらなる挑戦は続く

●臓器同士をつなぐ情報ネットワーク

●全身の免疫力を司る腸

●骨が若さを生み出す

●幹細胞から骨をつくり「健康寿命」を延ばす

●人体探求の“たすきリレー”は次世代へ

特集:人体ART

第7集 “健康長寿” 究極の挑戦

Part1 「がん」が送り出す恐ろしいメッセージ

がん細胞が血管を引き寄せる仕組み

・がん細胞も正常な細胞と同じように、血管新生を引き起こすために様々なメッセージ物質を利用しているが、VEGF(血管内皮増殖因子)もその一つで、VEGFは細胞や組織に酸素が足りなくなると増加し、血管を作る細胞に働きかけて血管新生を促す。

・がん細胞は大量のVEGFを放出し、それを受け取った血管はがん細胞に向けて新たな血管を伸ばし始める。その血管から栄養を得て、がん細胞は増殖する。

特殊なメッセージ物質、エクソソーム

皮膚のがん細胞
皮膚のがん細胞

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『皮膚のがん細胞の電子顕微鏡写真。表面から次々と白い光が放たれる。その光の中にがん細胞のメッセージ物質が潜んでいる』

がん細胞から放出されたエクソソーム
がん細胞から放出されたエクソソーム

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『この白く輝く光が、がん細胞から放たれのメッセージカプセル「エクソソーム」』

エクソソームの大きさは約1/10000mm
エクソソームの大きさは約1/10000mm

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『電子顕微鏡が捉えたエクソソーム。大きさはおよそ1万分の1mm

・『エクソソームは1980年代に発見された構造体で、当時は細胞にとって不要な“ゴミ箱”のような存在だと考えられた。いまのように詳しい解析手法がなく、調べても老廃物しか見つからなかったからだ。そのため、長い間、あまり注目されることがなかったのだが、2007年になって状況が一変した。内包しているのはRNAという遺伝物質だと分かったからだ。研究は一気に進むようになり、いまでは、さまざまな細胞がエクソソームを細胞外に放出していること、放出されたエクソソームが血液、唾液、尿、羊水などを介して体内を巡り、離れた細胞や組織に情報を伝令していることなどが分かっている。

さらに驚くべきことに、がん細胞もまた情報のやりとりにエクソソームを使っていることが分かってきた。「エクソソームはまだ十分に解明されているとはいえず、謎も多く残されています。近い将来、エクソソームによってこれまでの常識を覆すような組織や臓器同士の会話が明らかになるでしょう」。ぺへテル博士[がん細胞から放出されたエクソソームの撮影に世界で初めて成功した]映像はそう語る。』

それはメッセージの宝箱だった

・エクソソーム内にはマイクロRNAが含まれている。マイクロとはmRNA(メッセンジャーRNA)が1000塩基を超えるのに対し、マイクロRNAの塩基は約22塩基と約1/50と非常に短いためである。マイクロRNAが発見されたのは1993年、そして2007年にはマイクロRNAはエクソソームに包まれて細胞外へ放出されることが明らかになった。細胞外に出たマイクロRNAはエクソソームというカプセルに内包された状態で血流などに乗り、遠く離れた組織や臓器に運ばれ、そこでの遺伝子の働き方を調節する役割を担っていることが分かった。

・エクソソームの中のマイクロRNAは、受け取る細胞を根幹から変えることができる。

宝箱を悪用するがん細胞

・エクソソームと病気との関連は特に注目されている。細胞は常にエクソソームを分泌しているが、病気になるとその分泌量や種類が変化することが分かっている。このエクソソームの特徴は病気の診断や治療に活かせるかもしれない。

・『がん細胞は、エクソソーム内に特定のマイクロRNAを詰め込み、メッセージ物質として血管へと送り出す。血管に到達したエクソソームは、血管を構成する血管内皮細胞の中へと潜り込み、カプセル内のマイクロRNAを放出する。そのマイクロRNAには「もっと栄養が欲しい」という、がん細胞からのメッセージが込められている。するとメッセージを受け取った血管内皮細胞は、正常な細胞からのメッセージと勘違いして、がん細胞に向かって新たな血管を伸ばし始めるというのだ。なお、VEGFとエクソソームのどちらがより大きな役割を果たすのか、といったことはいまも解明が進められている。』

免疫細胞も手なずけるがん細胞

・がん細胞は敵であるはずの免疫細胞を味方にする術を持っている。

・『がん細胞が攻撃しようと迫ってくる免疫細胞に対し、がん細胞はエクソソームの中にメッセージを詰め込んで送り届ける。そのメッセージは、いわば「攻撃するのをやめて」というもの。すると、免疫細胞はがん細胞を味方だと勘違いして瞬く間にてなずけられ、攻撃をやめてしまうというのだ。がん細胞は、私たちの体内にある大切なネットワークを知り尽くし、そのシステムを乗っ取るかのようにして、増殖を繰り返していると考えられる。』

がん細胞を攻撃する免疫細胞
がん細胞を攻撃する免疫細胞

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『がん細胞に近づいた免疫細胞(上)は、がん細胞に食らいつき、攻撃物質(赤色)を発射して退治しようとする(下)

免疫細胞をあざむくがん細胞
免疫細胞をあざむくがん細胞

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『がん細胞からのメッセージ物質によって、”ある働きかけ”を受けた免疫細胞は、がん細胞を味方だと勘違いして攻撃をやめてしまう。このとき、がん細胞が駆使しているのがエクソソームだ

エクソソームががんの転移のカギを握る

がんの最も恐ろしい特徴である「転移」の過程でも、がん細胞が巧みにエクソソームを操っていることが分かってきた。

転移のための環境を整えるがん細胞

・がんは自分の分身としてエクソソームの分泌し、目的の臓器に先遣隊として送り届け、転移のための環境を整える。

・エクソソームには体のバリア機能を破壊し、破綻させるという機能があると考えられる。

・エクソソームの表面には、届け先を特定する“荷札”のようなものがつけられていて、目的とする特定の細胞に取り込まれる仕組みがあるらしい。

・脳には血液脳関門という強固なバリアがあるが、エクソソームがどのようにして突破するのかという疑問も少しずつ分かってきている。

体内のエクソソームは100兆個以上

人体の全ての細胞はエクソソームを出しており、血液などのさまざまな体液中でその存在が確認されている。

・血液中の100兆個以上のエクソソームが流れていると推定されている。

・エクソソームは受精や発生においても重要な役割を担っていることが分かってきた。

・受精時の卵子はエクソソームを膜の表面上に放出することで、膜を保護するとともに精子が侵入する際に精子の膜と融合しやすくするという役割を果たしている。

・母乳にもエクソソームが含まれていることが分かっている。こうしたエクソソーム内に含まれるマイクロRNAには、病原体などの異物を攻撃する免疫細胞を活性化し、未成熟な乳児の免疫力を高めていると考えられている。

・近年、腸と腸内細菌もエクソソームを用いてメッセージをやりとりしていることが分かってきた。

・『内包するマイクロRNAを臨機応変に変えることで、生命を維持するための多様な情報のやりとりを可能にし、人体という巨大な情報ネットワークを形づくるために働くエクソソーム。いま、世界中の研究者が、エクソソームの情報を解き明かすことで病気の診断や治療に生かそうと努力を重ねている。

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『がんがどのように増殖し、さまざまな臓器に転移していくのかはまだ完全には解明されていない。しかし、エクソソームなどのメッセージ物質の解明によって、新たなメカニズムが見出されつつある。

ご参考:エクソソームに関するサイト

エクソソームは細胞からのメッセージ!?

エクソソームとmiRNA(マイクロRNA)

「細胞間のメッセンジャー!エクソソームって何だ?」

こちらは動画です。

hCGと着床

受精卵は、ふかふかで栄養たっぷりのベッドで育つことができる。

この“ベッド”とは子宮内膜のことです。また、この過程で女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンが重要であることは認識していました。

ところが、下図の【妊娠⇒着床】に出てくる“hCG”も、とても重要であるということを知りました。

月経のサイクル
月経のサイクル

画像出展:「病気がみえる vol.9 婦人科・乳腺外科」

詳しくは、ブログ“不妊鍼灸

2”を参照ください。

hCG”とはヒト絨毛性ゴナドトロピンのことです。”岡山大学さまのサイト(検査部/輸血部インフォメーション)”には、hCGについて次のような説明がされていました。

ヒト絨毛性ゴナドトロピン, HCG (human chorionic gonadotropin) 

●ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin ; hCG)は、α、β、2つの相異なるサブユニットの非共有結合により形成される分子量約38,000の糖蛋白ホルモンである。

●hCGは主に絨毛組織において産生される。

妊娠初期の卵巣黄体を刺激してプロゲステロン産生を高め、妊娠の維持に重要な働きをしている。

●胎児精巣に対する性分化作用や母体甲状腺刺激作用も報告されている。

●絨毛性腫瘍のほか、子宮、卵巣、肺、消化管、膀胱の悪性腫瘍においても異所性発現[本来の場所以外で発現]している例が報告されている。

●臨床的にhCG測定を必要とする場合として、①妊娠の診断と予後の判定、②絨毛性疾患の診断ならびに治療効果判定とそのfollow up、③各種悪性腫瘍に対する腫瘍マーカーとしての応用、などがあげられる。

ブログに残そうと思ったのは、「神秘のネットワーク4 第6集 “生命誕生”見えた!母と子 ミクロの会話」の中に、”まず迎える、着床という妊娠の最難関門”という見出しがあり、そこで主役となっていたhCG私にとっては大発見の新情報だったためです。 

神秘の巨大ネットワーク4
神秘の巨大ネットワーク4

編集:NHKスペシャル「人体」取材班

出版:東京書籍(株)

発行:2018年8月

ブログは目次に続き、hCGについて書かれた箇所を取り上げています。

目次

第6集 “生命誕生”見えた!母と子ミクロの会話

Part1 新たな命が発信する最初のメッセージ

●新たな命が始まる瞬間を追う

●まず迎える、着床という妊娠の最難関門

●子から母への最初のメッセージ

●妊娠検査にも利用されるhCG

Part2 人体をつくる驚異の仕組み

●“ドミノ式全自動プログラム”

●万能細胞が開いた神秘の扉

●最初に生まれる臓器は、心臓

●心臓の次は、肝臓

●さまざまなメッセージが連鎖して作用する

●ぐんぐん成長する赤ちゃん

※万能細胞が切り拓く新しい世界

Part3 胎盤の中で繰り広げられる母と子のやりとり

●10か月で驚きの成長を遂げる赤ちゃん

●母と子をつなぐ命綱

●胎盤の中で繰り広げられる驚異の共同作業

●1つ1つのメッセージを専用装置でやりとり

●そして、誕生

※もう1つの生命誕生物語

Part4 生命誕生の解明が医療の未来を切り拓く

●原因不明の難病に苦しむ女の子

●肝臓移植の代わりになる再生医療

●何になるべきかを知っていた細胞

●生命誕生に学ぶ未来の医療

●“ミクロの会話”がもたらす希望の光

※臓器づくりに欠かせない細胞同士の会話

第7集 “健康長寿” 究極の挑戦

Part1 「がん」が送り出す恐ろしいメッセージ

●日本人の死因第1位のがん

●何度取り除いても発症するがん

●映像が捉えたがん細胞の増殖

●がん細胞が血管を引き寄せる仕組み

●特殊なメッセージ物質、エクソソーム

●それはメッセージの宝箱だった

●宝箱を悪用するがん細胞

●免疫細胞も手なずけるがん細胞

●エクソソームががんの転移のカギを握る

●転移のための環境を整えるがん細胞

●体内のエクソソームは100兆個以上

Part2 「がん」との戦いの最前線

●がん治療の新時代

●13種類のがんの早期診断を目指す

●運動ががん治療につながる

●エクソソームを標的としたがん治療

●光と免疫でがんを攻撃

●牛乳からがんの治療薬も……?

Part3 不可能に挑む! 次世代の心臓再生医療

●いったん傷ついた心臓はもとに戻らない

●心臓の中のメッセージ物質

●エクソソームから心筋細胞を再生

●メッセージ物質を使った治療のメリット

●iPS細胞を使った心臓の再生医療

Part4 神秘の巨大ネットワーク

●人体の解明へさらなる挑戦は続く

●臓器同士をつなぐ情報ネットワーク

●全身の免疫力を司る腸

●骨が若さを生み出す

●幹細胞から骨をつくり「健康寿命」を延ばす

●人体探求の“たすきリレー”は次世代へ

特集:人体ART

Part1 新たな命が発信する最初のメッセージ

まず迎える、着床という妊娠の最難関門

・受精卵は分割し5日ほどで100個程の細胞に増える。自然の受精の場合、この段階は卵管の中を子宮に向かって移動しながら行われる。なお、この時の受精卵は「胚盤胞」と呼ばれる。

・体外受精の場合、受精卵は胚盤胞の状態までシャーレの中で培養された後に子宮の中に戻される。

誕生に向けた最初にして最大の難関がここから始まる。受精卵が生き続けるためには、子宮の壁(子宮内膜)にしっかりと根を張って着床する必要がある。

・この関門を乗り越えるために、母親の体はメッセージ物質が働いて大きな変化を促す。受精卵が着床するためのカギはメッセージ物質である。

子から母への最初のメッセージ

・赤ちゃんからお母さんへの“初めてのメッセージ”は、母親が妊娠に気づくずっと前から受信され始めている。

・『受精後8日目の受精卵の姿は、まだ大きな変化がないように見えた。ところが、2日後、思いがけない現象が起き始める。受精卵のあちらこちらから、ある物質が放出され始め、日を追うごとに、どんどん増えていった。hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)と呼ばれるこの物質こそ、着床のカギを握るメッセージ物質だ。

・hCGの役割は受精卵が母親に「ここにいるよ!」と伝えるためのメッセージである。このhCGは受精後10日目の受精卵から放出される。

・hCGは母親の血液の流れに乗って全身を巡り、卵巣などに働きかける。すると、母親の体は生理を起こさないように変化し、子宮の壁(子宮内膜)をどんどん厚くしていく。これにより受精卵はしっかりと包む込まれ、着床は促進される。

妊娠検査にも利用されるhCG

・母親の血中hCGの量は、妊娠を調べる検査にも用いられている(血液中のhCGは尿にも出ていくため尿でも調べられる)。

受精卵が出す最初のメッセージ物質hCGの働き(CG)】

自然炎症と2型マクロファージ

今回は、審良静男先生と黒崎知博先生の「新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症のまで」という本が題材です。

著者:審良静男、黒崎知博
新しい免疫

著者:審良静男、黒崎知博

発行:2014年12月

出版:講談社

当初の目的は、新型コロナウィルスで先行する2つのワクチン(独BioNTech社と米Pfizer社が共同開発したワクチン、および米Moderna社のワクチン)が、ともにmRNA(メッセンジャーRNA[タンパク質分子の設計図をコピーする働き])ワクチンということで、これがどのようなものか知りたいということと、免疫について勉強したいというものでした。

前者のワクチンに関する記述は多くなかったため、ブログは免疫、「免疫と炎症」が主になります。特に、新発見だった“自然炎症”と“2型マクロファージ”に注目しました。なお、目次でいうと10章になります。

詳しいご説明は最後に再登場するのですが、以下の図が今回の最大の収穫です。 

免疫と炎症
免疫と炎症

画像出展:「新しい免疫入門」

目次

まえがき

プロローグ

・二度なし

・一度目は?

・新しい免疫劇場

1章 自然免疫の初期対応

2章 獲得免疫の始動

3章 B細胞による抗体産生

4章 キラーT細胞による感染細胞の破壊

5章 三つの免疫ストーリー

6章 遺伝子再構成と自己反応細胞の除去

7章 免疫反応の制御

8章 免疫記憶

9章 腸管免疫

10章 自然炎症

11章 がんと自己免疫疾患

あとがき

参考文献

さくいん

10章 自然炎症

免疫学の新しい展開

・TLR[Toll-like receptor:病原体を感知して自然免疫に活性化するセンサー]などのパターン認識受容体は、”病原体”だけではなく“内在性リガンド[体の自己成分、自己細胞が大量に死んだときに出てくる成分などが多い]も認識する。つまり、マクロファージや好中球などの食細胞は、“内在性リガンド[虚血、細胞ストレス、細胞死など]を認識して活性化し、炎症をおこす。このように病原体が関わらない炎症を「自然炎症」という。

・自然炎症の代表的な例は、体の中で大量の細胞がネクローシスを起こして死ぬような場合である。

・自然炎症が何のために起こるのか、まだはっきりと分かっていないが、組織の修復に関わっているという考え方が有力である。マクロファージや好中球が集まり、損傷部が取り除かれる。さらに修復のための専門細胞が集まり、組織の再建にとりかかる。こうして組織は修復される。 

・パターン認識受容体はほぼ全身の細胞に分布しているため、内在性リガンドで自然炎症を起こしうるのは、マクロファージなどの食細胞だけでなく、ほぼ全身の細胞ということになる。

アポトーシスとネクローシス
アポトーシスとネクローシス

画像出展:「新しい免疫入門」

『からだのなかで細胞が死ぬパターンとして二つの様式がある。アポトーシスとネクローシスだ。アポトーシスが誘導されると、細胞膜につつまれたまま内容物が分解され、最後は食細胞が丸ごと食べて処理する。一方、ネクローシスでは、細胞膜が破れて、内容物が分解されずに飛び散る。外傷や火傷、薬物、放射線などが誘因となる。

痛風はマクロファージがおこす自然炎症だった

・痛風は全身の関節(特に足の親指の関節)で急性の炎症が繰り返し起こる病気で激痛を伴う。原因は血液中の尿酸である。尿酸は細胞の老廃物で、増えすぎると結晶となって関節に付着し、これを食細胞が取り込むと炎症が起こるが、この炎症は自然炎症と考えられる。

痛風の原因は“尿酸”だが、尿酸に限らず結晶のような構造をとる物質は、食細胞に取り込まれると活性化し炎症を起こす。 

痛風の発作
痛風の発作

画像出展:「新しい免疫入門」

食細胞が尿酸結晶を細胞内に取り込むと、尿酸結晶の刺激でミトコンドリアが損傷する。すると、SIRT2という酵素のはたらきが低下し、細胞内の輸送路である微小管にアセチル基という分子がつく。その結果、損傷したミトコンドリアが微小管の上に乗り、細胞の中心部の小胞体まで移動する。こうして小胞体のNLRP3と、ミトコンドリアがもつ部品ASCがそろい、さらにカスパーゼという部品もくわわって複合体が組みあがる。この複合体をインフラマソームという。インフラマソームは、インターロイキン1βをマクロファージ内で成熟させて外に放出する。引きつづいて強い炎症がおこり、激痛が走ることになる。

結晶構造をとる物質
結晶構造をとる物質

画像出展:「新しい免疫入門」

『脳ではマクロファージや好中球の代わりにミクログリアという細胞が免疫のはたらきをしており、βアミロイド線維を食べたミクログリアからは同じようにインターロイキン1βが放出される。』

・NLRP3は様々な結晶(または結晶のような物質)の刺激をきっかけにしてインフラマソームを形成することから、この他にも多くの炎症性疾患との関連が強く示唆されている。

体内で結晶化したものは食細胞が消化しきれずに死んでしまい、結晶が体内に残る。それを処理しようと新しい食細胞がまた食べに来て食べきれないという状態が繰り返され炎症が起こる。つまり、消化・分解できない結晶は、自然免疫系を過剰に活性化してしまう。

痛風も動脈硬化も同じメカニズムでにもかかわらず、痛風だけが激痛なのは結晶の量の違いと考えられる。電子顕微鏡で見ると、集積している尿酸結晶に比べ、コレステロール結晶は極めて少ない。

TLR[Toll-like receptor:病原体を感知して自然免疫を活性化するセンサー]による自然炎症

・TLRもNLRP3と同様に、自然炎症に関わっている。

・虚血再灌流障害とは、脳梗塞や心筋梗塞で虚血状態にある組織や臓器に再び血液が流れだしたとき、強い炎症が局所的または全身で起こるものである。これは、虚血によって大量の細胞死が起こり、その中の成分が血管内皮のTLR2、TLR4、TLR9を刺激して炎症を起こすためである。

TLRなどのパターン認識受容体が内在性リガンドを認識して起こす自然炎症が、炎症性疾患に関係している可能性が高まっている。 

TLR[Toll-like receptor:病原体を感知して自然免疫を活性化するセンサー]などが認識する内在性リガンドの例
TLR[Toll-like receptor:病原体を感知して自然免疫を活性化するセンサー]などが認識する内在性リガンドの例

画像出展:「新しい免疫入門」

内在性リガンド”は右端です。これを見ると、TLR3というパターン認識受容体の対象はウィルスであり、その内在性リガンドはメッセンジャーRNA(mRNA )であることが分かります。もしかしたら、これは新型コロナウィルスのメカニズムと何か関係しているのでしょうか??

炎症を抑える2型マクロファージ

マクロファージは2種類ある。一つは1型と呼ばれ、異物を食べたり炎症を起こしたりするタイプで昔から知られていた。一方、2型は炎症を抑え、組織の修復をする。詳細な働きはまだよく分かっていないが、脂肪組織の状態維持に役立っていると考えられている。

2型マクロファージは、病原体をやっつけるという役割ではなく、体の中の色々な組織と交流して、それらの機能を維持しているとみられている。

・2型マクロファージを欠くマウスでは、脂肪から遊離脂肪酸がどんどん外へ出ていまい、血中のコレステロールや中性脂肪の濃度が上がった。このマウスに脂肪食を食べさせると、ほとんどのマウスに糖尿病の症状が見られた。

・正常マウスと肥満マウスの比較実験では、正常マウスの脂肪組織では2型マクロファージが多数を占めているのに対し、肥満マウスの脂肪組織では1型マクロファージが多数を占めていた。なぜ、肥満マウスで2型の代わりに1型が多数になるかは分かっていない。飽和脂肪酸により1型が誘導され、不飽和脂肪酸では誘導されないという報告はあるが、詳細は不明である。そもそも2型マクロファージがどうやって作られるのか、1型と2型は行ったり来たりできるかなど、基本的なところが全く分かっていない。

・1型マクロファージは様々なサイトカインを放出して、インスリン抵抗性をもたらすため、糖尿病の準備状態を誘導することになる。発赤、発熱、腫脹、疼痛といった炎症の四徴候は見られないが、一種の炎症反応と考えられる。

「免疫と炎症」

・『内在性リガンドが見つかり、自然炎症のしくみが明らかになってくると、免疫学は従来の枠のなかにおさまらなくなってきた。20世紀までは獲得免疫が免疫学の中心であり、21世紀になると獲得免疫にくわえて自然免疫も重要視されるようになった。そして、いま、免疫と炎症が大きな学問分野を形成しようとしている。

免疫と炎症
免疫と炎症

画像出展:「新しい免疫入門」

こちら再登場の図です。

いまや免疫と炎症の関係は図10-5のようにまとめることができる。TLRなどのパターン認識受容体は、病原体も内在性リガンドも認識し、自然炎症もおこせば、獲得免疫も始動させる。そして、自然炎症が行きすぎると炎症性の疾患を引きおこし、獲得免疫に誤動作がおこると、自己免疫疾患を引きおこす。

従来は免疫と炎症の学会はそれぞれ独立して開催されたが、海外でおこなわれている最近の学会やシンポジウムでは、会の名称が「免疫と炎症」になっていることも多くなった。』

付記1:炎症とは

炎症反応は、体内で発生した、あるいは外部から体内に侵入した病原刺激を除去し、傷害を受けた組織を取り除く生体反応
炎症反応は、体内で発生した、あるいは外部から体内に侵入した病原刺激を除去し、傷害を受けた組織を取り除く生体反応

こちらの図は、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 病理学(免疫病理/第一病理さまより拝借しました。

炎症反応は、体内で発生した、あるいは外部から体内に侵入した病原刺激を除去し、傷害を受けた組織を取り除く生体反応です。とくに微生物侵入に対する最初の防御系として働いており、生命維持に必須の生体防御反応です。炎症反応がないと、私達は生きていけません。炎症反応は、効率的・戦略的な戦力配分のもと、様々な炎症メディエーターによりダイナミックに制御されています。』

付記2:「これは2型マクロファージも関与!?」

テロメア・エフェクト
テロメア・エフェクト

テロメアは遺伝情報を保護する役目を担っています。そのテロメアの配列を同定し、テロメアを伸長する酵素・テロメラーゼを発見した業績で、ブラックバーン先生は2009年に、ノーベル生理学・医学賞を受賞されました。この本はそのブラックバーン先生の著書です。本には以下のようなことも書かれています。

運動によって体の分子は損傷を受け、損傷した分子は炎症を引き起こす可能性がある。だが、運動を始めてまもなく、オートファジー[細胞内のタンパク質を分解するための仕組み、自食作用]という現象が起き、細胞はまるでパックマンのように、細胞内の損傷した分子を食べてしまう。これにより、炎症を防ぐことができる。

運動が細胞内部にもたらすメリット
運動が細胞内部にもたらすメリット

「これは何だろう?」というのが疑問だったのですが、これは今回学んだ、“2型マクロファージ”も関わっているのではないかと思います。

付記3:“腎疾患の進展に自然炎症が果たす役割に着目した新規治療の開発”

当院は慢性腎臓病でご来院頂いている患者さまが多いのですが、今回、腎疾患と自然炎症に関する論文を見つけましたのでご紹介させて頂きます。資料はPDF4枚です(クリック)。ここに出てくる内在性リガンド(内因性リガンド)は既出の図10-5の中では”虚血”が特に重要ではなかと思います。それは腎臓が極めて多くの酸素を必要とする臓器であるためです。

『慢性腎臓病(CKD)は本邦において 1,300万人を超え、CKDから透析へ移行する患者数は年間 38,000人前後を推移しており、生活の質および医療経済などといった面で多大な影響を及ぼしている。その克服は大きな課題であり、RAS阻害を主体とする適切な降圧療法や生活指導などに加えて新しい観点からの治療法開発が望まれている。内因性リガンドと病原体センサー間の相互作用による慢性炎症(自然炎症)は生活習慣病やガンなど現代病の発症に重要であることが明らかされつつある中で、腎臓における役割は不明であった。最近我々は自然炎症に重要な役割を果たす toll-like receptor 4(TLR4)が糖尿病性腎症の進展に重要であることを明らかにし、TLR4の強力な内因性リガンドの一つである myeloid-relatedprotein 8(MRP8)がその病態に重要な可能性を報告した。』

『糸球体腎炎は本邦における透析導入原疾患として糖尿病性腎症に続く第 2位を占める疾患である。中でも半月体形成性腎炎は腎予後のみならず生命予後も脅かされる予後不良疾患であり、特に高齢者での発症が多いことで知られている。現在ステロイド、免疫抑制剤が治療の主体となっているが、感染合併による死亡例が後を絶たず、治療を断念せざるを得ないケースも多く認められる。内因性リガンドを治療標的とする新しい治療ストラテジーは新規創薬につながる可能性が期待される。今回急性期の観察で MRP8欠損による腎症軽減効果が確認された。今後長期的モデルあるいは観察により、慢性化に及ぼす影響を検討する必要がある。

心は量子で語れるか2

著者:ロジャー・ペンローズ
心は量子で語れるか

著者:ロジャー・ペンローズ (Roger Penrose)

出版:講談社

発行:1998年3月

目次については”心は量子で語れるか1”を参照ください。

第一部 宇宙と量子と人間の心

第三章 心の神秘

意識はコンピュータに乗せられない

・意識というものは科学的に説明すべき問題である。

・図3-4は物質的世界と精神的世界をまとめたものである。

物質的世界と精神的世界の特徴
物質的世界と精神的世界の特徴

画像出展:「心は量子で語れるか」

『右側には“物質的世界”の様子が示されている―第一、第二で論じたように、物質的世界は、正確で数学的な物理法則によって支配されていると考えられる。左側には“精神的世界”に属する意識や、“魂”や“精神”や“宗教”などの言葉が並んでいる。』

 

微小管は八面六臂

・微小管はシナプス強度[シナプスにおける情報伝達率]の決定に関係していると思われる。

・微小管がシナプス強度に影響を与える方法の一つは、樹状突起棘の性質に影響を与えることであると思われる。これは棘内部のアクチン(筋肉収縮のメカニズムを司る不可欠な構成要素)に変質が起こることによって引き起こされる。樹状突起棘に隣接する微小管は、このアクチンに強く影響を与え、ひいてはシナプス結合の形またはその誘電特性に影響を及ぼす。

・『微小管がシナプス強度に影響を与える方法は、このほか少なくとも二通りある。信号を、あるニューロンから次のニューロンに伝える神経伝達物質の運搬に、確かに微小管は関与している。神経伝達物質を軸索や樹状突起に沿って運ぶのが微小管であり、その働きは、軸索の先端や樹状突起の中の化学物質の濃度に影響を与えるだろう。そして、これがシナプス強度に影響を及ぼすことになろう。さらに微小管は、ニューロンの成長と退化に影響を与え、その結果、ニューロンを連結してできたネットワークそのものを変えてしまうだろう。 

微小管がシナプス強度に影響を与える
微小管がシナプス強度に影響を与える

画像出展:「心は量子で語れるか」

 

 

・『微小管とは何か? その一つを図3-18に描いた。それは“チューブリン”と呼ばれる、蛋白質から成る小さな管である。それはいろいろな点で興味深い。チューブリンは、(少なくとも)二つの異なる状態、または構造をもっていて、一方の構造から他方の構造へと変化できるようである。一見してわかるように、それはメッセージを管に沿って送ることができる。

メッセージを管に沿って送ることができる。
微小管:チューブリンの二量体からなる13列の円柱

画像出展:「心は量子で語れるか」

 

 

事実、スチュアート・ハメロフ[米国の麻酔科医。ロジャー・ペンローズとの意識に関する共同研究で有名]と彼の同僚は、管に沿って信号を送る方法について、興味深い考え方を示している。ハメロフによると、たぶん微小管は“セル・オートマトン”[空間に格子状に敷き詰められた多数のセルが、近隣のセルと相互作用をする中で自らの状態を時間的に変化させていく「自動機械(オートマトン)」である。計算可能性理論、数学、物理学、複雑適応系、数理生物学、微小構造モデリングなどの研究で利用される]のように振る舞い、その管に沿って複雑な信号を伝達するのだという。チューブリンの二つの異なる構造が、デジタル・コンピュータの0と1を表現していると考えてみよう。すると1個の微小管が、それ自身でコンピュータのように振る舞うことができるから、ニューロンがどんなことを行っているかを考察する際には、この点を考慮しなければならない。各ニューロンは単にスイッチのような働きをするのではなく、非常に多くの微小管をもっていて、それぞれの微小管は極めて複雑なことをやってのけるのである。

“意識”の理解に最も必要なこと  

・『ここから、私自身の考えに入ろう。以上の過程を理解する上で、量子力学は欠かせないものかもしれない。微小管で私が最も興味をおぼえることの一つは、それらが“”だということである。管であるがゆえに、管の内部で起こっていることを周囲のランダムな動きから隔離できる可能性が高まってくるのである。

第二章で私はOR物理学という新しい形式が必要だと主張した。そしてOR物理学が適切であるならば、周囲から十分に隔離されて、量子的に重ね合わされた質量移動が可能になるに違いない。管内部では、何か超伝導体[電気抵抗ゼロの物質]のような、ある種の大規模な量子的干渉[波動関数の重ね合わせの結果起こる干渉現象]が生じているのだろう。この活動が(ハメロフ型の)チューブリン構造と結びつき始めたときにのみ、おそらく顕著な質量移動を伴うはずだ。ここでは“セル・オートマトン”の振る舞い自体が、量子的重ね合わせの影響を受けるかもしれない。起こりうる状況を図3-19に描いておいた。

微小管のシステムが大規模な量子的干渉を可能にする?
微小管を取り囲む秩序化された水

画像出展:「心は量子で語れるか」

 

 

この図の一部で、おそらくあるタイプの干渉性量子的振動が、管内部で生じているに違いない。この量子的振動は脳の広範な領域にまで及ぶ必要があろう。

かなり以前にハーバート・フレーリッヒが、一般的なタイプの量子的振動に関して、いくつかの提案を行った。それによって、生物学の体系の中で、この性質をもつ対象の存在が、いくぶん現実性を帯びてきた。微小管は、その内部で大規模な量子的干渉が生じている構造と考えて差し支えないと思われる。』

・『私には、意識というものが何か大域的なものだと思われる。したがって意識の原因となるどんな物理過程も、本質的に大域的な性質をもっているに違いない。量子的干渉は確かにこの点での要求を満たしている。そのような大規模な量子的干渉が可能であるためには高度な隔離が必要とされ、微小管の壁によって、それが実現されているのかもしれない。しかしチューブリンの構造が関与するとなると、さらに多くのことが必要となる。

こうして要求される周囲からの隔離は、微小管のすぐ外側にある“秩序化された水”によってなされるだろう。(生きた細胞には存在することが知られている) 秩序化された水は、管の内部で起こる量子的干渉性振動の重要な構成要素でもあると思われる。このことはいささか難しい要求かもしれないが、以上のことがどれも事実だということは、たぶん全くの不合理というわけではないだろう。

微小管内部での量子的振動は、何らかの方法で微小管の活動、すなわちハメロフが言うところのセル・オートマトンの活動と結びつける必要があるだろうが、ここでは彼の考え方と量子力学とを結びつけなければならない。すなわち現段階では、通常の意味での計算活動だけではなく、こうしたさまざまな活動の重ね合わせに関連する量子計算も考慮しなければならない。

もし以上の話がすべてだとしたら、まだ私たちは量子レベルにとどまっていることになる。ある時点で、おそらく量子状態は環境と絡み合ってくるだろう。そのとき私たちは、量子力学における通常のRという手順に従って、一見したところランダムな方法で古典レベルへ飛び上がることになる。だが純粋な計算不可能の登場を期待するならば、これでは全く不十分である。そのためには、ORの計算不可能な側面が現れてこなければならないし、それには高度な隔離が要求される。

かくして、新たなOR物理学が重要な役割を演じるのに十分な隔離を行う何かが、脳の内部に存在しなければならない。つまり私たち〔の脳〕に必要なのは、重ね合わされた微小管による計算が一旦開始されるや、その計算が十分に隔離されて、その結果、新しい物理学が本当にその役割を果たすようになることである。

というわけで、私が考えている状況は次のようになる。しばらくの間この量子計算が進行し、十分に長い間(たぶん一秒くらいのオーダーで)、その計算は他の要素から隔離され続ける。そうすると、私が話した種類の基準が通常の量子的手順を引き継いで、非計算的な構成要素が登場し、標準的な量子論とは本質的に異なる何かが得られるのである。

もちろん以上の考え方の至る所に、かなり推測が入っている。だがそれらは、意識と生物物理学的な過程との関係をかなりはっきりと定量的に描いており、私たちに何かしら本物の展望を与えている。少なくとも私たちは、OR作用が関与するためには、どのくらいのニューロンが必要かを計算できる

その計算に必要なものは、第二章の終わりにかけて私が述べた時間スケールTの、およその見積もりである。つまり、意識上の出来事がORの出現と関係していると仮定するなら、Tをいくつと見積もるのか? 意識はどのくらいの時間を要するのか? これらの問題に関連した二つのタイプの実験があって、そのいずれにも、リベットと彼の同僚がかかわっている。二つの実験のうち一方は自由意志または能動的意識を、もう一方は、感覚または受動的意識を扱っている。

修正された物理学の全体像
修正された物理学の全体像

画像出展:「心は量子で語れるか」

客観的収縮=OR

『将来、物理学が成し遂げねばならないと思うことを示すため、図2-17には修整が施されている。Rという文字で表現した手続きは、まだ私たちが見つけていない何かを近似したものである。その未発見の何かとは、私がORと呼ぶものであり、“客観的収縮(Objective Reduction)”を表してる。

ORは客観的事実である― 一方、“または”他方が客観的に起こる ―今なお私たちには欠落している理論である。ORというのは、うまい頭文字になっている。というのもORは“または”をも表しており、それは実際、一方“もしくは”(OR)他方のどちらかが起こるからである。』 

自然は、私たちが未だ理解していない何らかの法則に従って、どちらか一方の時空を選択する。
分岐しようとしている時空の模式図

画像出展:「心は量子で語れるか」

自然が審判を下すための時間

『プランク長の10⁻33センチメートルは、量子状態の収縮とどんな関係があるのだろうか? 図2-19に、分岐しようとしている時空をかなり模式図的に示した。

ここで、二つの時空(一方は生きた猫を、他方は死んだ猫を表すことができる)が一つの重ね合わせに至る状態があって、この二つの時空は何とかして重ね合わせられる必要があるとしよう。このとき、次のような疑問が生じる。

「互いに法則を変えるべきだと思えるほど、二つの時空が十分に異なるようになるのはいつか?」

ある適切な意味で、二つの時空の差がおよそプランク長のオーダーに等しくなるとき、私たちはそのような状況に遭遇するだろう。二つの時空の幾何学がそれくらいの違いを見せ始めるとき、そのときこそ、私たちは法則が変わることを心配しなくてはならないだろう。なお、強調しておくが、私たちが扱っているのは時空であり、単なる空間ではない。

“プランク・スケールの時空分離”については、小さな空間的分離がより長い時間に対応し、より大きな空間的分離がより短い時間に対応する。ここで必要なのは、どんな場合に二つの時空が有意に異なるかを見積もるための評価基準である。

そこから、二つの時空の間で自然が選択を行う際の“時間スケール”が導かれるだろう。こうして自然は、私たちが未だ理解していない何らかの法則に従って、どちらか一方の時空を選択するのである。

この選択を行うのに、自然はどのくらいの時間を要するのか? アインシュタインの理論に対するニュートン的近似が十分であって、かつ、量子論重ね合わせ(二つの複素振幅の大きさは大体等しい)に従う二つの重力場が明らかに異なるとき、その時間スケールを設計することができる。私が示そうとする答えは、次のようになる。まず猫を球体で置き換えてみる。

では、その球体はどれくらいの大きさで、どこまで動かなければならないのか? また状態ベクトルの崩壊が生じるための時間スケールはどれくらいなのか(図2-20)? 

画像出展:「心は量子で語れるか」

私は、一つの状態ともう一つの重ね合わせを、不安定な状態―それは崩壊しかかっている素粒子やウラン原子核などに少し似ている―と見なしたい。素粒子などは崩壊すると別のものになるが、その崩壊と結びついた一定の時間スケールが存在する。状態の重ね合わせが不安定だというのは一つの仮説だが、この不安定性は、私たちが理解していない物理学の存在を暗示しているはずである。

崩壊の時間スケールを算出するため、ある状態の球体を、(その球体の)別の状態の重力場から移動させるために必要なエネルギーEを考えてみよう。プランク定数を2πで割ったℏ[換算プランク定数またはディラック定数]を重力エネルギーEで割ると、この状態での崩壊に対する時間スケールTとなるはずである。

T=ℏ/E

この一般的な推論に従う多くの理論がある。一般的な重力理論は、細かな点では違いがあるものの、どれもこれと何かしら同じ趣き〔似たような関係〕を備えている。』

微小管について

まずは「人体の正常構造と機能」という本に出ていた3つの図をご紹介します。

●微小管は太さ約24㎚の中空の管であり、チューブリンという蛋白質からできている。

●線毛や鞭毛の動きは微小管が行っている。

●神経の軸索突起などの大きな細胞突起を支持する。

●細胞分裂の際に、染色体を両極に引っぱる紡錘糸は微小管からできている。

微小管の構造
微小管の構造

画像出展:「人体の正常構造と機能」

■線毛の芯は“9+2配列”の微小管でできている

『線毛の中央部は直径0.25~0.3μmで、電子顕微鏡で観察すると、各線毛は細胞膜で囲まれ、その中に微小管とその付属蛋白からなる軸糸という構造が認められる。軸糸を構成する微小管は、チューブリンという球状蛋白が重合してできた管状の構造物で、外径25㎚、壁厚5㎚ほどある。軸糸の中心には1対の単一微小管からなる中心微小管があり、そのまわりを9対の二連微小管からなる周辺微小管が取り囲む。各周辺微小管の作る面は、線毛の接線面に対し5~10度傾いており、中心近くにあるものからA細管、B細管と呼ぶ。A細管と中心微小管とはスポークで連結される。またA細管から隣の周辺微小管のB細管に向かって、ダイニンというモーター蛋白でできた2本の腕突起(内腕と外腕)が伸びており、内腕はさらにネキシンの細い線維が結合している。これらは微小管の長軸方向に一定の間隔で並ぶ。線毛の先端側は微小管のプラス端にあたり、各微小管は自由な断端となって終わる。線毛の根元側は微小管のマイナス端にあたり、細胞質内まで伸びたところで周辺周辺微小管にさらにC細管が加わり、基底小体という三連微小管となる。この周辺には根小毛という線維束があり、線毛を細胞質に固定している。基底小体下にはミトコンドリアが豊富である。

■線毛の屈曲運動は微小管の滑り合いによって起こる

『線毛の屈曲は、周辺微小管の滑り合いにより生じる。周辺微小管の腕突起を構成するダイニン蛋白はATPase活性を持ち、ATPの存在下で隣の微小管のB細管上をマイナス端へ向かって移動する。その結果、微小管どうしが滑り合い、線毛は屈曲する。滑り合いと屈曲運動の関係は、短柵状の紙を2枚に折って重ねて指で滑らせてみると納得がいくだろう。線毛内のスポークやその他の連結の役目をする構造物も、線毛運動の調節をしていると考えられている。』

精子の構造
精子の構造

画像出展:「人体の正常構造と機能」

■精子は長距離を移動するために無駄のない形をしている

『尾部[遊泳運動を担う]は長さ約60μmの鞭毛からなる。鞭毛の中心を軸糸と呼ばれる構造が全長にわたって走行している。軸糸は、2本の中心微小管とそれを取り巻く9対の周辺微小管で構成され、線毛にみられるのと同様の構造である。これらのチューブリンという蛋白質からなり、その滑り合いによって軸糸を屈曲させ、独特の三次元的波状運動をもたらす。軸糸の屈曲に要するエネルギーは、中間部の軸糸をらせん状に取り囲むように配列するミトコンドリア鞘で産生されるATPによって供給される。』 

軸索輸送:微小管は輸送のレールの役目を担う
軸索輸送:微小管は輸送のレールの役目を担う

画像出展:「人体の正常構造と機能」

■軸索輸送によって必要な物質が供給される

軸索内には蛋白合成を行う細胞内小器官がない。そのため、軸索の成長やシナプスの形成に必要な蛋白質や小器官は、細胞体で合成されたのち、軸索を通って輸送される。これを順行性軸索輸送という、逆に、神経終末で取り込まれた栄養因子や化学物質は、逆行性軸索輸送により細胞体へ輸送される。微小管がこれらの輸送のレールの役目を果たし、モーター蛋白のキネシンをはじめとするKIF蛋白は順行性の輸送に、ダイニンは逆行性の輸送に働く。

順行性輸送では、いろいろな物質が異なる速さで運ばれる。シナプス小胞は速い流れ(100~400㎜/day)で、ミトコンドリアは中間の流れ(60㎜/day)で、細胞骨格(アクチン、ニューロフィラメント、微小管)は遅い流れ(10㎜/day以下)で運ばれる。逆行性輸送では、100~200㎜/dayの速さでライソソームなどが運ばれる。

軸索内では、微小管はチューブリンの重合と脱重合の速度が速い分、つまり微小管の伸長している部分(プラス端)は絶えず遠位側にある。また、軸索にはタウ蛋白と呼ばれる微小管関連蛋白が特異的に分布しており、チューブリンの重合を促進し微小管の安定化に寄与している。』 

続いて、「病気を治す飲水法」に出ていたもの(ブログは“飲水の重要性”)と、その時に見つけたサイトをご紹介します。 

神経の水輸送システム
神経の水輸送システム

画像出展:「病気を治す飲水法」

『脳で生産された物質は、水に乗って、神経終末部の目標地点にたどり着き、情報の伝達に使われる。神経には、情報を梱包して流す「極微細管」と呼ばれる微細な水路が存在する。

原文が確認できないので、“極微細管”が“微小管”のことであるのかは分からないのですが、図を見る限り、同一のものだと思われます。この図に興味をもったのは、「神経伝達に水路がある」ということに大変驚いたためです。

この時、この“水路”に関してネットで見つけたサイトが以下のものになります。残念ながら“水路”というものではなかったのですが、絵が似ていたことと、「細胞内輸送の解明にかける思い」という記事から関係があるように思いました。

 

細胞内輸送:微小管のレールに沿って行き来している
細胞内輸送:微小管のレールに沿って行き来している

画像出展:「UTokyo Focus

"細胞内輸送の解明にかける思い"

『細胞は細胞液の入った風船のようなもので、その中に核やミトコンドリアなどの細胞小器官が漂っていると思われがちです。しかし、実際には、微小管というレールが整然と張り巡らされており、それに沿ってミトコンドリアや小胞(膜でできた袋)などの「荷物」が行き来しています。これを「細胞内輸送」といいます。レールの上で荷物を運んでいるのは、小さなモータータンパク質です。「モータータンパク質が人間のサイズだとしたら、直径5mの土管の上を、10トントラックをかついで、秒速100m以上の速さで走っていることになります」と語るのは、医学研究科の廣川信隆特任教授。神経細胞をモデルとして、細胞内輸送のメカニズム解明に取り組んできました。』 

感想

「心や意識は脳が作り出すもの」。これは正確ではないかもしれませんが、深く関係しているのは間違いありません。

ストレスは脳にアタックをかけます。脳が疲労し、その疲労が身体におよぶと自律神経失調症が懸念されます。ちょっと強引ですが、「病は気から」ということわざの“気”は脳の疲労などによってもたらされた“ネガティブな意識”ということかもしれません。 

ストレスは脳にアタックをかける
ストレスは脳にアタックをかける

画像出展:「自律神経失調症を知ろう」

 

一方、「ポジティブ・シンキング」、「瞑想法」などはネガティブなストレスとは異なり、心身にとって良いポジティブなものですが、こちらも脳(心や意識)と肉体のつながりを感じさせます。

以下の左図に書かれているように脳は“神経系”の中の“中枢神経系”とよばれています。これは脳が指令を出すためです。出された指令は“末梢神経系”によって然るべき組織や器官に届きます。“末梢神経系”には運動や感覚などの動物性機能を担う体性神経系(動物神経系)と、内臓や血管に分布して呼吸、消化、吸収、循環、分泌などの活動を不随意的に調節する自律神経系(植物神経系)があります。

なお、右側の図を見て頂くと、“神経系”は内臓を含め、体中をカバーしているのが分かります。

注)2つの図は「看護roo!」さまより拝借しました。

左図:“神経系はどんな構成になっている?”より 

右図:“神経のしくみと働き|神経系の機能”より 


左の図では“交感神経”も“副交感神経”も「遠心性」(脳⇒末梢)となっていますが、現在は次のような見解が正しいとされています。つまり、“自律神経”は「遠心性+求心性」(脳⇔末梢)ということです。

求心性神経と遠心性神経:自律神経系(交感神経と副交感神経)は、かつては遠心性の線維のみからなるとされていたが、求心性線維も多く含まれていることがわかってきた。迷走神経(副交感神経)構成線維の約75%、内臓神経(交感神経)の50%は求心性線維とされている。 実験医学 2010年6月号 Vol.28 No.9』 

“神経”は我々のような動物だけでなく、ゾウリムシのような単細胞生物にも存在します(「動くニューロン[神経細胞]」と呼ばれているそうです)。また、神経ということではありませんが、微生物とされるバクテリアの線毛にも微小管は存在しています。

以上のことから神経細胞の輸送のためのレールなど、微小管は地球上の多くの生物の中にあり、生命に深く関わっていると言えます。さらに、微小管は精子の尾部(鞭毛)にも存在しているので、種の保存という大事な仕事も任されています。

そして微小管はペンローズ先生がご指摘されているように“”として内部と外部を分けることができるという大変興味深い特徴を有しています。マクロ(ニュートン力学)の世界とミクロ(量子力学)の世界を分けているのかも知れません。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

ペンローズ先生は「心は量子で語れるか」の中で、“微小管”と“水”の関係についてもお話されていました。

『私には、意識というものが何か大域的なものだと思われる。したがって意識の原因となるどんな物理過程も、本質的に大域的な性質をもっているに違いない。量子的干渉は確かにこの点での要求を満たしている。そのような大規模な量子的干渉が可能であるためには高度な隔離が必要とされ、微小管の壁によって、それが実現されているのかもしれない。しかしチューブリンの構造が関与するとなると、さらに多くのことが必要となる。

こうして要求される周囲からの隔離は、微小管のすぐ外側にある“秩序化された水”によってなされるだろう(生きた細胞には存在することが知られている)。秩序化された水は、管の内部で起こる量子的干渉性振動の重要な構成要素でもあると思われる。

この“水”は鍼灸師の私にとってとても興味深いものです。

人間の体は成人では60~65%が水で満たされています。また、東洋医学には“津液(シンエキ)”という考え方があります。津液とは人体を潤す全ての正常な水液とされています。この津液をあえて現代医学に当てはめて意識するときに、汗や涙、唾液や胃液、血漿、リンパ、漿液、脳脊髄液などを想像していました。今回の件で、その水の中には神経伝達に関わる水、微小管のすぐ外側にある“秩序化された水”があることを知りました。これは大きな発見です。私の“津液”のイメージにこの”秩序化された水”も加えたいと思います。

付記ロジャー・ペンローズ先生は、2020年のノーベル物理学賞を受賞されました。

画像出展:「SankeiBiz

 

画像出展:「WAKARA」

アインシュタイン以来の天才!?ノーベル物理学賞受賞ロジャー・ペンローズが生み出した現代宇宙観

『実は、ブラックホールが存在する可能性に気づいたのは、ペンローズが初めてではありません。天体物理学者カー・シュヴァルツシルトが、相対性理論の重要な方程式であるアインシュタイン方程式を解いてみたところ、ある特殊解が得られて、その結果特異点が存在することに気づきました。のちにブラックホール発見の重要なきっかけとなった特異点ですが、当時アインシュタイン自身はこの特異点について、「あくまで理論的な計算の結果出てきたもので、実在するものとは無関係である」と判断し、1939年の自身の論文でブラックホールの存在を明確に否定しているのです。

その説をアインシュタインが相対性理論を生み出した方法と同じ、計算によって覆して見せたのがペンローズでした。彼は相対性理論を拡張し、特異点、つまりブラックホールが相対性理論から自然に導かれる存在であることを証明しました。星の大きさに対して一定の重さになるとその星が崩壊し特異点を生じ、その特異点ではあらゆる物質、光でさえも一度入ると抜け出せない、ブラックホールになることを相対性理論から導いて見せたのです!彼が1965年に書いた画期的な論文は、相対性理論におけるアインシュタイン以来の前進とみなされています。』 

心は量子で語れるか1

原題は、「THE LARGE, THE SMALL AND THE HUMAM MIND」です。発行は1997年なので、およそ23年前ということになります。

邦題である「心は量子で語れるか」は、翻訳された中村和幸先生が付けられたのですが、それは次のような理由からです。

『なお、原題にあるように、本書では宇宙と量子と人間の心を扱っているが、意識は無数の量子によって生じるというペンローズの意を受けて、邦題では「心は量子で語れるか」とした。』 

著者:ロジャー・ペンローズ
心は量子で語れるか

著者:ロジャー・ペンローズ (Roger Penrose)

出版:講談社

発行:1998年3月

私は、以前“生物と量子力学3(意識)”というブログをアップしているのですが、その時にロジャー・ペンローズ先生の「皇帝の新しい心」という本の存在を知りました。そして、この時から「量子と心(意識)との関係」について関心を持っていました。

皇帝の新しい心
皇帝の新しい心

発行は1994年。原書の発行は1989年です。

ネット検索中に「心は量子で語れるか」という本を見つけ、当然、難解な内容であることは承知しつつも思わず買ってしまいました。

本の内容は想像以上に難しく、ほとんど理解できませんでした。にもかかわらず、ブログにアップしたのは、この本の題名がとても気に入ったのと、微小管が謎を解く重要な器官らしいということを知ったためです。

この本がどんな本なのかをご説明することも難しいため、目次に続き、翻訳された中村先生が書かれた“翻訳にあたって”の冒頭の部分と、同じく中村先生の“訳者あとがき”の一部をご紹介させて頂きます。また、それ以降は微小管について書かれた第三章の“意識はコンピュータに乗せられない”、“微小管は八面六臂”、“意識の理解に最も必要なこと”の3つを中心にご紹介していますが、力不足のため要約することができず、多くが引用となっています。なお、[ ]内は用語説明として私自身が書き加えたものになります。また、ブログは長くなったので2つに分けました。

ご参考になるかどうか分からないのですが、過去に2つのブログをアップしていますのでご紹介させて頂きます。

◆“量子論1

◆“量子論2

目次

マルコルム・ロンゲアによる序文

第一部 宇宙と量子と人間の心

第一章 宇宙の未完成交響曲

数学が描き出す世界

人間的スケールの不思議

誤解された量子力学

ニュートンの時空図、アインシュタインの時空図

光円錐の見方

驚くべき変換

ニュートン力学よりシンプルな相対論

重力は消えていない

テンソルは語る

アインシュタインはこんなにも正しい

目の前の空間を漂う理論

空間の曲率で宇宙を分類する

宇宙空間を牛耳る天使と悪魔

悩みから生まれた幾何学

ロバチェフスキー空間の魅力

COBE衛星が見たもの

見えないエントロピーをつかまえる

私たちが探し求める理論

ワイル曲率仮説

神の一刺し

第二章 量子力学の神秘

数学から物理学へ、物理学から数学へ

古代ギリシアに逆もどり?

どこでも量子力学

複素数の妙技

変わる法則

量子状態をどう表現するか

Zミステリー、Xミステリー

Zミステリー(1) 量子的な非局所性

Zミステリー(2) 爆弾検査問題

もしも量子力学を信じるならば

本当に“まじめ”なのか

多世界観による“認識”の解釈

“こちら”と“あちら”の扱い方

現実を記述するのは不可能か

すべての実用的な目的のためにできること

客観的収縮=OR 

あらかじめ仕組まれた挫折

自然が審判を下すための時間

重力エネルギーの非局所性

“環境”が量子力学に及ぼす影響

立方体の完成を目指して

第三章 心の神秘

ホッパーが考えた第三の世界

三つの神秘、三つの偏見

意識はコンピュータに乗せられない

アウェアネス、自由意志、理解

アウェアネスに対する四つの立場

コンピュータが指した次の一手

簡単な計算にトライ

爆走する計算

Ⅱ₁文とは何か

完全な証明などあるのだろうか

チューリング対ゲーデル

二つのイラストでアルゴリズムの謎を解く

プラトン的世界との接触

ポリオミノ・タイリング

計算不可能性の台頭

ニューロンは計算的か

微小管は八面六臂

“意識”の理解に最も必要なこと  

パラドックスを生む二つの実験

これが偶然と思えるか

第二部 ペンローズと三人の科学者

第四章 精神、量子力学、潜在的可能性の実現について

アブナー・シモニー  ボストン大学名誉教授

序論

四・一 精神の解明を目指して

四・二 量子力学は心身の問題を説明できるか

四・三 潜在的可能性を実現させるために

第五章 なぜ物理学か?

ナンシー・カートライト  ロンドン大学社会科学部教授

第六章 恥知らずな反論

スティーブン・ホーキング  ケンブリッジ大学ルーカス記念講座教授

第七章 それでも地球は回る

ロジャー・ペンローズ

オックスフォード大学ラウズ・ボール記念講座教授

七・一 アブナー・シモニーへの回答

七・二 ナンシー・カートライトへの回答

七・三 スティーブン・ホーキングへの回答

訳者あとがき

翻訳にあたって

『本書は、今世紀における天才数学者の一人にかぞえられるロジャー・ペンローズが、彼自身の量子論や宇宙論の知識を駆使して、人間の魂の根源に迫ろうとした力作である。はたして現代物理学 ―特に量子力学― には、人間の意識について語る資格があるのだろうか? ペンローズ自身は、現在の量子力学は不完全だと考えており、それをより精密なものにすることによって、人の魂の成り立ちを説明できると主張している。もちろんこの主張には数多くの批判が寄せられているが、さまざまな機会をとらえて、ペンローズは自己の立場を擁護している。

それにしてもペンローズの話は、実に壮大なドラマである。まず新しい量子論を掲げ、次に数学の立場から人間の思考や意識の特色を探り出し、それらをふまえて物質から精神が生じるさまを説明しようというのである。さらにペンローズは、意識が生じる場所として、生体中の微小管をその候補に挙げている。

この予想が的確かどうかは、今後の科学の進展を待たねばならないが、幅広い知識に基づいて一つの仮説を作り上げた彼の構想力は、並大抵のものではない。また、実験で確認できることをペンローズは提案しており、論争の白黒はそこでつけられるだろう。』

訳者あとがき

『よく知られているように、量子力学ではシュレディンガーの波動方程式[粒子の運動状態を記述する方程式]が重要な役割を果たしている。その方程式には、現実世界では見かけない虚数単位i[2乗して-1となる数のこと(記号iで表す)]が登場し、何か奇妙な印象を与えるかもしれない。しかしペンローズが本書の第二章で述べているように、そうしたプラトニック[観念的]な構成を整えることによって、原子の安定性や電子のエネルギー準位[量子力学において電子が安定状態でもちうるエネルギーの値]などを、見事に説明することができたのである。現実をうまく説明できること、これは理論にとって非常に大切なことである。 

シュレーディンガー方程式
シュレーディンガー方程式

画像出展:「量子論を楽しむ本」

nemlogさまの“量子論の確率解釈 -神はサイコロを振らない-”というブログに、左のイラストに関する詳しい説明が出ています。

 

だが科学の歴史をひもとくとわかるように、ある理論が数多くの現象をうまく説明できず、その解決には一般相対論の登場を待たなければならなかった。同じような事態が、実は量子力学でも起こりうるとペンローズは考えているのである。

ここで問題になるのは、本書で言うところの“状態ベクトルの収縮(R)”[この用語は、『心の影2―意識をめぐる未知の科学を探る』の “第2部 心を理解するのにどんな新しい物理学が必要なのか:心のための計算不可能な物理学の探求”の“5 量子世界の構造”の中に出てくるようです]である。

たとえば電子の場合、観測以前には決定論的で波の状態にあるが、観測した疑問にその波が一点に収縮してしまうのである。しかもそれがどこに収縮するかは確率論的にしかわからない。そもそも人間の観測によって収縮することをどう考えるのか? また量子レベルU(ユリタリ)[こちらは『心の影2』では“ユニタリ発展U”として出ているようです。また、大阪市立大学 橋本義武先生の“雑文集”の“量子力学の枠組み”に、『量子力学は、原子レベルの現象を統計的に記述する。用いるのはユニタリ行列の数学である。』との記述がありました]過程は時間反転に対して対称だが、R過程は時間反転に対して非対称になっている。

そこで、この状態ベクトルの収縮をめぐって、量子力学の世界にさまざまな解釈が生まれており、それをペンローズが第二章の図2-8で要約している。 

量子力学に対する物理学者の分類
量子力学に対する物理学者の分類

画像出展:「心は量子で語れるか」

 

その中で主だったものには、ニールス・ボーアを中心としたコペンハーゲン解釈[量子世界の物理状態は重ね合わさり、波を形づくっているが、観測された瞬間に波はしぼみ、1つの状態に落ち着く(波束の収縮)。どの状態が観測されるかは、波の振幅をもとに確率論的に予想できるというもの]やそれと通じるところがあるFAPP[“すべての実用的な目的のために(For All Practical Purposes)”の意味]があり、さらに多世界解釈[観測者の世界が枝分かれするとみる立場]がある。

コペンハーゲン解釈にはボルンの確率解釈理論[電子のような小さな粒子を観測する確率が、波動関数の絶対値の2乗に比例するという法則]的な計算と実験結果とが一致するのだが、波が収縮するメカニズムを明確にはしていない。  

コペンハーゲン解釈観測すると、電子の波が瞬時にちぢむ!? “とがった波”が、粒子のようにみえる

『一つの電子は「波と粒子の二面性」をもちます。この矛盾したような事実は、どう解釈したらよいのでしょうか。コペンハーゲンを中心に活躍したデンマークの物理学者のニールス・ボーア(1885~1962)らは、「コペンハーゲン解釈」とよばれる解釈を提案しました。

コペンハーゲン解釈によると、電子は観測していないときは、波の性質を保ちながら空間に広がっています。しかし、光を当てるなどして電子を観測すると、波が瞬時にちぢみ、1か所に集中した“とがった波”になります(波の収縮)。このような波が、粒子のように見えるというのです。

電子は、観測すると、観測前に波として広がっていた範囲内のどこかに出現します。しかしどこに出現するかは、確率的にしかわかりません。このような解釈をすれば、電子などの「波と粒子の二面性」を矛盾なく説明できると、ボーアらは考えたのです。』 

電子の「波と粒子の二面性」
電子の「波と粒子の二面性」

画像出展:「13歳からの量子論のきほん」

波動関数は確率の波だった
波動関数は確率の波だった

画像出展:「量子論を楽しむ本」

こちらは、“ボルンの確率解釈”です。

 

また、観測ごとに世界が分裂していく多世界解釈についても、あまりエコノミカルではないとペンローズは批判している。

ではペンローズ自身は、どのような立場を取っているのか? 彼は現在のR(下部【注】参照)を本来あるべき理論の近似と考えており、重力も考慮に入れた“客観的収縮(OR)(下部【注】参照)を提案している。ペンローズによると、ORは決定論的だが計算不可能な過程であるという。そこで彼は、決定論的だが計算不可能な過程がどのようなものか、“オモチャの宇宙”[計算不可能な例、“ポリオミノ・タイリング”。『しばしば、“オモチャの宇宙モデル”と呼ばれている―別のもっと良い例を思いつかないときに、物理学者がよく持ち出すものである。』]を例にして第三章を説明している。  

計算不可能なオモチャの宇宙モデル
計算不可能なオモチャの宇宙モデル

画像出展:「心は量子で語れるか」

 

こうした新たな量子重力の理論を予想しつつ、ペンローズは人間の意識が生じる過程について話を展開しているのである。彼の考えでは、量子力学に非計算的な要素があるので、人間の知性(意識)をコンピュータのような計算機械では再現できないという。

【注】上記の“R”(Reduction)ですが、ペンローズ先生はそれを重力も考慮に入れた“客観的収縮(OR:Objective Reduction)”と位置づけ、量子レベル(U)と古典レベル(C)を関係付けるものとされています。なお、これについては、「第二章 量子力学の神秘」の中の「古代ギリシアに逆もどり?」、「変わる法則」、「客観的収縮=OR」のそれぞれの内容を組み合わせてまとめてみました。スッキリしたものではありませんがご参考になればと思います。 

宇宙における空間スケールと時間スケール
宇宙における空間スケールと時間スケール

画像出展:「心は量子で語れるか」

古代ギリシアに逆もどり? 

『第一章では、さまざまな対象のスケールを確かめた。それは、長さと時間の基本単位であるプランク長[量子的揺動が時空間の配置より大きくなると考えられる長さ]とプランク時間[物理世界の最小単位。量子力学の基本量であるプランク定数hと、真空中の光速c、重力定数Gの3つの定数で決まる]から始まり、素粒子で扱われる最小の大きさ(といってもプランク・スケールより約10の20乗倍も大きい)、人間スケールの長さや時間(この宇宙で私たちは非常に安定した構造体であることを示した)を経て、宇宙の年齢や半径にまで及んだ。』

  

小スケール(量子レベル)か、大スケール(古典レベル)か
小スケール(量子レベル)か、大スケール(古典レベル)か

画像出展:「心は量子で語れるか」

『そのとき私は、かなりやっかいな事実にふれた。基本的な物理学を記述する際に、大スケールの状況を扱うのか、小スケールの状況を扱うのかによって、二つの全く異なる記述法を使っていることについて述べたのである。それは、図2-1に示したように、小スケールの量子レベルの活動を記述するには量子力学を用い、大スケールの現象を記述するのには古典物理学を使う。そして量子レベルに対してはユリタリ(Unitary)を表すUの字を当て、古典レベルに対してはC(Classical)で評した。大スケールの物理学は第一章でとりあげ、大スケールと小スケールでは全く違う法則があるに違いないということを強調した。

物理学者たちはふつう、量子物理学が適切に理解されれば古典物理学者はそこから、導き出せると考えているようである。しかし、私の主張は違う。実際には物理学者はそうしておらず、古典レベルか量子レベルかのどちらかを用いている。

変わる法則

『量子レベルでは、システムの状態は、とりうる全選択肢を複素数で重み付けした重ね合わせで与えられる。量子状態の時間(的)発展は“ユリタリ発展(またはシュレディンガー発展)”と呼ばれ、それが実際にUの表す内容なのである。

Uの重要な特性は、それが線形だという点である。このことは、二つの状態がそれぞれ個々に変化すると、それに応じて二つの状態の重ね合わせも同じように変化するが、重ね合わせに用いた複素数の重み付け係数は時間に関して一定である、ということである。この線形性が、シュレディンガー方程式の基本的な特徴であり、量子レベルでは、このような複素数で重み付けされた重ね合わせが、いつでも保持される。

しかしながら、何かを古典レベルへ拡大しようとすると、“法則”が変化する。古典レベルへ拡大するとは、図2-1のレベルU(上側)からレベルC(下側)へ行くことを意味している。物理的にいえば、たとえばこれは、スクリーン上の一点を観測することである。小スケールの量子事象が、実際に古典レベルで観測される。さらに大きな何かを引き起こすのである。

標準的な量子論で行われていることは、あまり口にしたくないものを引っぱり出してくるようなことであり、それは、“波動関数の崩壊”とか“状態ベクトルの収縮”と呼ばれている。この過程に対して、私はR(Reduction)という文字を使用したい。Rは、ユリタリ発展とは全くことなるものである。

二つの選択肢の重ね合わせにおいて、二つの複素数に着目し、それらを二乗すると、―このことはアルガン平面[直交座標の横軸に実数値、縦軸に虚数値をとり、一つの複素数を一つの点で示す平面]では、原点からの距離を二乗することを意味する―これら二乗された係数のおのおのは、二つの選択肢に対する確率の比となる。

だがこのことは、“測定する”または“観測する”ときにのみ起こり、それは図2-1においては、UレベルからCレベルへ現象を拡大する過程に相当する。この過程で法則は変化し、あの線形的な重ね合わせは維持されなくなる。突如として、これら二乗された係数の比が、確率となるのである。

非決定論が顔を出すのは、UレベルからCレベルへ行くときだけである。この非決定論はRと共に登場する。Uレベルではすべてが決定論的であり、“測定”という行為をするときにのみ、量子力学は非決定論になる。

以上が、標準的な量子力学で用いられる形式である。たしかに、基本理論にしては、非常に奇妙なタイプの形式である。これが単に基本的な他の理論の近似にすぎないというのであれば、それはそれで道理にかなう。だが、この複合的な手続きは、すべての専門家によって、それ自体が基本理論と見なされているのだ!』 

修正された物理学の全体像
修正された物理学の全体像

画像出展:「心は量子で語れるか」

客観的収縮=OR

『将来、物理学が成し遂げねばならないと思うことを示すため、図2-17には修整が施されている。Rという文字で表現した手続きは、まだ私たちが見つけていない何かを近似したものである。その未発見の何かとは、私がORと呼ぶものであり、“客観的収縮(Objective Reduction)を表してる。

ORは客観的事実である― 一方、“または”他方が客観的に起こる ―今なお私たちには欠落している理論である。ORというのは、うまい頭文字になっている。というのもORは“または”をも表しており、それは実際、一方“もしくは”(OR)他方のどちらかが起こるからである。』

ガンを克服した人の話3

著者:イアン・ゴウラ―
私のガンは私が治す

著者:イアン・ゴウラ―

監修:帯津良一

出版:春秋社

発行:2003年12月

※目次は”ガンを克服した人の話1”を参照ください。

第五章 リラクゼーションの意味と実践

リラクゼーションの実践

受動的瞑想法を深める

受動的瞑想法の姿勢の基本は左右対称であるが、慣れてきたら少しだけ窮屈な姿勢を取ると効果が高まる。例えば、肘掛けのある椅子を使って、コツがつかめたら次は肘掛けのない椅子で試す。さらに、それにも慣れたら背もたれのない椅子、それも楽にできるようになったら、今度は床(畳)の上に坐ってやってみると良い。

能動的な方法について

・『さて、これまで説明してきた受動的瞑想法は、リラックスして心を落ち着かせる方法でした。これから説明していく能動的瞑想法やイメージを使う方法は積極的に頭を働かせる方法で、以下八章までで述べるように、その主題や目的によっていくつかの方法があります。また、この本では宗教的な言葉を使えば「黙想」に当たるやり方についても述べていきます。

それらはこれまで説明してきた受動的瞑想法とはまったく違ったものですので、実行するのであれば、それぞれ別個のものとして付加的に行うようにしてください。

何よりもまず、受動的瞑想法をしっかりやりましょう。健康を目的とするなら、受動的瞑想法による心身の安静のほうが、ほかの精神的な鍛練よりもずっと適しているのです。受動的瞑想法がうまくできるようになって、もっと何かやりたいと思ったら、そのときはじめて、能動的な技法を加えていくとよいでしょう。』

第六章 心の力

ポジティブ・シンキング―積極的に生きるために

信じることには力がある

・英国の研究では、前向きな姿勢で生きようとするガン患者は悲観的な患者より長生きするという結果が出ている。何より、生活の質という点では比べようもないほど充実したものになっている。

・世界で最高の治療も否定的で悲観的な患者には効きそうにないということが分かっている。患者自身の心の持ち方が決定的な役割を担っている。

意思決定

意思決定の瞑想法

・ものごとを決断することはとても大切な能力である。さまざまな治療の中から自分に合うものを選び、決断するためにもこの能力は欠かせない。

・決断を有効なものとするためには、自分が決めるすべてのことについて確実で、自信を持てなくてはならない。

確信が持てるようにするための有効な手順

まずは何を決めるのかはっきりさせる。

いつまでに最終決定するのか期限を決める。

資料を集めたら利点や欠点を書き出したりしながら、情報を重みづけして選択していく。

大きな決定には、そのことに集中するための黙想がお勧めである。また、決断に際しては右脳の直観的な働きも重要である。右脳の働きによって理解が深まり、問題点について何かひらめくことがある。

答えが出たら、自分の直観に自信をもつ。

『直観は説明のできないものですが、危ぶむことはありません。私が途方にくれるような状況に出くわしたとき、なぜかいつもたまたま手にした本がちゃんとした答えを与えてくれました。よく考えてみると、特定の本に引きこまれる気がして、さらに求めてる答えの書いてあるページが自然にめくられているような感じでした。これをあまりに何度も経験したので、本当に第六感とか直観というものがあると信じるようになり、信じれば信じるほどますます勘がさえてきました。』

何かを決めたら、今はそれがその状況で自分にとって最良の決定だということを迷わずに納得する。

『場合によっては、他より「まし」だからというような決め方になることもあるでしょうが、一度決めたら自分の決断を真摯に受けとめ、今のところそれが最高なのだと信じなくてはいけません。そして、その不充分なところを最小限にとどめ、自分の決定が最良の結果を生むように真剣に取り組むことが大切です。』

決めたことはやり通す

・重要な決定であるほど、人に言われてではなく、自分で決めてやるほうが実行しやすい。

とりあえず1カ月間など、期間を決めて試す方法も良い。ただし、この期間中は迷うことなく実行する。そしてそのまま続けるべきか、改善すべきか、あるいは止めるべきかを評価する。精一杯やった場合、納得して他の方法に移ることができる。

実行と評価のためには、行ったことをノートに記録すると客観的に自分の状況を見られるようになる。特に文章にするには心の中にあることを整理し明確にしなければならないので、評価や意思決定のときに役に立つだけでなく、自分の進歩を確認したり、思うようにいかないときに勇気をくれる強い味方となる。

第七章 ストレスへの対処

ストレスをもたらすもの

恐怖・不安・心配―ストレスの根源

・ストレスの根源は恐怖や不安や心配といった苦痛を伴った感情にあると考えられる。

・ガン患者に見られる恐怖は、子供のころに愛されなかった恐怖、拒絶されること、心が傷つくことへの恐怖、失敗やその責任ではなく、失敗によって自尊心が傷つけられたり人からの評価を失うことによる恐怖などがある。

第十章 どうしてガンになるのか?

複数の要因による生活習慣病

最後の一本の藁

・世界的権威、リチャード・ドール教授による調査 

ガンの原因
ガンの原因

画像出展:「私のガンは私が治す」

 ・『ほとんどの場合、ガンの原因は、些細なことでも幾重にも折り重なって相互作用していることが多く、また、たいてい長期にわたってそれが積み重なってきているのだということです。肉体的な症状をもたらす「最後の一本の藁(「限界ぎりぎりまで重荷を負ったラクダは、一本の藁でも加えるとその重さに耐えきれずに倒れてしまう」)」は、他に比べて顕著な場合もあれば、特に思い当たらない場合もあるかもしれません。

どんな場合でも、あきらめることはありません。原因が分かれば、それに合った行動を起こすことで克服することができるのですから。ガンは変化しています。破壊的な性癖を建設的なものに置き換えていけば、天秤は直ちに健康のほうに傾いていくのです。

霊的側面

人生の調和へ

・『最後に、ガンの物理的、心理的な要因を念頭に置き、一歩前進したところからもう一度勇気を出して問いかけてみましょう。「どうして、私なのか?」と。

どうしてガンになる理由がある人とない人がいるのか? 子供のとき、複雑な境遇に置かれたために、ある種の態度や行動が身につき、それゆえ、ガンになりやすくなってしまう人がいるのはどうしてか? 煙草におぼれ、危険な食べ物を口にし、危険な環境に身を置き、ついに病気になってしまう人がいるのはなぜなのか?

このような難しい問いかけに対する答えが得られない間は、不満な気持ちを持ったまま、被害者意識にさいなまれ続けることでしょう。やはり、ただの偶然なのでしょうか? いいえ、それは確かにゆえあってのことなのです。

ここで、どうしても正面からきちんと向き合わなくてはならない基本的な哲学的命題に突き当たります。それが人生の調和ということです。これまでに見てきた物理的な側面と心理的な側面と、それらに関わりつつ存在する霊的な側面との、三者の調和の問題です。

私ははじめてガンの診断を受けたときから、人生のすべての出来事にはそれを貫く霊的な糸が存在していることに気づきました。そして、自分の内にある霊的な姿勢と現実に体が起こす行動とが調和していないままに生きていたのだと感じました。私がすべきだと感じたことと、実際にしていたこととは一致していなかったのです。他の人に対してはうそをついたことも、ましてや不正なことをしたこともなかったのに、自分の内なる希求に対しては誠実ではありませんでした。私はこの不調和がガンになったもう一つの大きな要因だと感じました。

この点に気づけたことは、本当に幸せなことだったと思っています。このことに気づき、これまでの生き方とは別の健康へ向かう道があるということに気づいたおかげで、私には私の本質の霊的、心理的そして肉体的なすべての面における調和を探し求めることへの根本的な励ましと意味づけが与えられたのです。この三つは絡み合い、相互に支え合っているのです。

心理的、肉体的なことについて話すのはわりあい簡単ですが、霊的な側面はそれほど単純なことではありません。それで、霊的な話をするのはしばらくためらっていました。私自身もレッテルを貼られたくありませんでしたし、瞑想法のようなすぐれた、単純明快な技法を色眼鏡で見られる危険を冒したくなかったからです。

しかし、多くの人々が彼ら自身の霊的な努力から勇気と方向性を得ているのを見、また、私自身の得た重要な励ましに気づいて、この深遠な領域の探求に大きな意味があることが分かりました。』

魂の成長

・『ほとんどのガン患者は、根本的な霊的実在の探求に関心を持っています。私はキリスト教徒として英国国教会の教えで育てられましたが、いつも真実を知りたいという熱い思いを持って成長してきました。生命の神秘の裏側、キリスト教の教理を超えたところに、深く、ゆるぎない真実があると常に感じていました。ガンになってなおさらその関心は深まり、さまざまな本を読んだり霊的指導者に教えを請いました。

人はなぜガンになるような状態に置かれるのでしょうか。人は逆境においてこそ最も学び成長するようですが、ガンの経験が本当に必要なのでしょうか? 本当に単純で基本的な疑問です。理由があるのか、ないのか。愛ある神ならこういうことをお許しになるはずがないのではないでしょうか? 簡単に何かを手に入れる人もいるし、大変な苦労をしている人もいるのはなぜでしょうか?

なぜ私が、という思いも、このような理不尽な現実への問いの一つでした。私が病気を通して得た答えはキリスト教的なものではありません。しかし、枠組みにこだわる必要があるでしょうか? それより深い人生の意義と目的について、私に教えてくれたのです。

ここで、ご参考までに私の得た答えを記しておきたいと思います。

私が病気を通して学び、絶対的に信じるようになったものは、宇宙の根本的な法則です。特に東洋哲学に言うカルマ(業)、つまり因果応報と生まれ変わりという宗教的な法則を信じています。

カルマというのは行いにはすべてそれにふさわしい報いがあるという考え方です。良い行ないには良い報いが、悪い行ない悪い報いが、そしてその報いに向き合って正しいく学ぶ機会が与えられます。私たちは確かに現在進行中の人生における事件などにはその原理の働きを見ることができます。直面しているほとんどの状況は私たちが容易にそれと認めることのできる出来事を原因として、それによって作り出された結果です。

しかし、因果が分かりにくいことも、多々あります。実際、自分の人生で起こったことのすべてに何の不公平さも理不尽さも感じないでいるのは難しく、他の人々に対しては厳しい判断を下しやすいということも確かです。一見して責めを負うべき何の理由もなさそうな人々が、実はどうしようもなく困難な不平等に向き合わされていることもあります。

こうしたことを考えつめた結果、私は、生まれ変わりという概念を受け入れるように、考えの幅を広げるように誘われたのです[訳注 キリスト教には生まれ変わるという考えはないので]。もし私たちが生から生へと、基本的な性質と業を持ち越すのだとしたら、生まれながらに恵まれ、あるいは背負わされているような一見説明のつかない事柄、才能や自分の置かれた環境などといったものも理解できるようになります。

こうした概念は、私に指針を与えてくれました。来世ではもっと霊的に成長していようと考えると、今生のどのような場面においても、正しく良いことをしたいと思うし、また、どんな努力も無駄ではないと確信できます。どんな努力も、前向きに、調和を持って、ひたむきにやっていけば、必ず報われるのです。

病と戦いながら、命と今の人生との霊的なつながりに気づいたことは、私には非常な安らぎでした。現在の苦しい状況と前世の出来事にどういう関係があるのかは分かりませんが、自分の置かれた立場を理解し、病気を治そうとする努力にはそれなりの意味があると思わせてくれました。過去の行ないと現在の状況が関連しており、因果関係が人生を支配していることが分かったので、必要な変更をして正しい生き方を見つければ、健康を取り戻せるにちがいない、ということにも確信が持てました。

そして、死は私に最後の審判として鎌を振りおろすことができませんでした。

もし人生を先へ進められるなら、そして、今の心の持ち方と行ないが将来に役に立つなら、どんな状況でも全力を尽くしていけます。もちろん、全力を尽くしてもできないことはあるでしょう。しかし、限界があるということと、できるのにやらないということとは違います。私は自分で100%やった上で、結果は天に任せるという気持ちでした。まさに「人事を尽くして天命を待つ」というのはこのことだと思います。

私は本当に自分に対して責任があるのは自分なのだと認められるようになりました。病気が学習と努力を通して魂を成長させてくれる機会だと思えたことで、さらに心が満たされました。私たちの魂はガンという強烈なやり方で私たちの態度を試し、必要な教訓を学ぶ機会を私たちに与えるのです。

「ガンは私にたくさんのことを教えてくれました。もしガンにならなければこんなには学べませんでした」と言った人がいるのを思い出してください。

ガンは確かに大変な病気です。しかし、自分にできる以上のことは課せられません。なぜなら、ガンは偶然でも死の宣告でもなく、私たちをもっとよく生きろと告げる魂のメッセージなのですから。』

付記:“ガンの克服”と“怪我の連鎖

第二章の“治癒という旅、全的な癒し”の中に次のことが書かれていました。

治癒という旅の羅針盤は、調和を求めることである。自分の行動と心と魂のつり合いがとれて心が安定したとき、癒しは始まる。そして常にこの心の安定を最優先にしていくことが重要である

これを見たときに思い出したブログがあります。それは2016年9月、ブログを始めたころにアップした“怪我の連鎖を考える”というものです。

私は子供のころからサッカーをやってきましたが、特に高校、大学と数々の怪我を経験してきました。「なんでこんなに怪我をしてしまうのか? 何が悪いのか? どうしたら防げるのか?」という思いから、あらためて真剣に考えたみたというものです。そして、その答えは以下になります。 

要点は「自分の体を守るのは自分自身である」、「客観的に自分をみる」、「精神のバランスと肉体のバランスが重要である」の3つになります。

治癒という旅の羅針盤は、調和を求めることである。自分の行動と心と魂のつり合いがとれて心が安定したとき、癒しは始まる。そして常にこの心の安定を最優先にしていくことが重要である」というゴウラ―先生の教えは、“怪我の連鎖”を止めるものとしても、極めて有効な自分自身との向き合い方ではないかと思いました。

ガンを克服した人の話2(瞑想法)

著者:イアン・ゴウラ―
私のガンは私が治す

著者:イアン・ゴウラ―

監修:帯津良一

出版:春秋社

発行:2003年12月

※目次は”ガンを克服した人の話1”を参照ください。

第三章 瞑想法の理念

療法としての瞑想法

●『瞑想法は病を癒します。体の緊張を解きほぐし、免疫組織を再活性化して、直接肉体に効果を及ぼします。感情、精神面では平衡のとれた状態を取り戻し、ものごとに対する積極的な姿勢を生み出してくれます。そして知らず知らずのうちに、人間として安定した最高の状態へと導いてくれます。

そのような健康のための療法で、深い安静状態を実現するための「受動的な瞑想法」がすべての基礎となります。

ここで「受動的な瞑想法」と言うのは後に説明する「能動的な瞑想法」との対でこのように表現しているのですが、積極的に何かを考えたり働きかけたりはせず、心も体もリラックスさせ、ゆっくり休ませる方法を言います。海に浮かび波にたゆたう[揺蕩う(あちこちに揺れる)]ときのように体の力が抜け、委ねきった状態です。催眠術のように誰かほかの人に何かしてもらい、その結果として「受身的に」瞑想法に入るということではありません。

これに対し「能動的な瞑想法」は何かあることに思いをこらしたり、ある気持ちの状態へと自分の思いを集中させたりする、心の活動をともなう瞑想法と言えます。

瞑想法は昔から、ほとんどの主だった宗教で、高次の意識に至るための修行の一過程とされてきました。この本では混乱を避けるために、療法としての瞑想をさす場合は「瞑想法」、宗教的な意味合いを含む場合は従来通りの「瞑想」という言葉を使うことにします。』

瞑想法の源流―宗教的な瞑想

瞑想法の確立へ

・『瞑想に健康促進の効果を認め、エインズリー・ミアーズ博士のような革新的な医師がそれを現代の日常的問題を応用しはじめたのは、わずか35年ほど前です。ミアーズ医師はこの分野で最初に重要な貢献をした方で、瞑想法はそのベストセラー『自律訓練法―不安と痛みの自己コントロール』(創元社)から広まっていきました。

精神科医であるミアーズ医師は、最初、瞑想法を不安やストレスの問題を抱えた患者の治療に応用しました。

そして、その実践の中で、患者の状態を見ながら、ミアーズ医師は気づいたのです。精神状態が穏やかであれば肉体もまた本来あるべき平衡状態を取り戻すのではないか、定期的な瞑想法によってその平衡状態が継続的に保たれれば、患者は自然に体のバランスのとれた状態、つまり、健康に戻れるだろう、と。

それはちょうど、指の傷が自然に治るようなもので、瞑想法は肉体に備わっている自然治癒力を無意識のうちに回復させます。これは何十年も厳しい禅の修行をするようなものではなく、ごく簡単な方法です。

こうした気づきと検証の結果、医師は瞑想法が恐怖症、高血圧、アレルギー、神経の緊張、痛みに対する過敏症など、精神的な問題だけでなく体のさまざまな症状をも緩和することを発見しました。医師は徐々に瞑想法の適用範囲を広げ、ガンに対しても活用しはじめます。医師は瞑想法が不安とストレスを取り除くことを確信しており、それがガンに対しても効果を発揮すると考えたのです。

今日、ミアーズ医師の療法、さらにアメリカとイギリスで行われている同じような療法はガンに対しても効果的であり、患者の生活の質を高めるとともに延命に効果があったと実証されています。』

不安と緊張の自己コントロール
不安と緊張の自己コントロール

第1部 不安と緊張の自己コントロール

第1章 不安の本質

第2章 不安の一般的な症状

第3章 不安の一般的な原因

第4章 不安の自己コントロール (5⃣ 訓練の練習のしかた)

第2部 痛みの自己コントロール

第5章 痛み

第6章 痛みの自己処理法

迷ったのですが購入しました。下の表は、”第4章 不安の自己コントロール”の中の”5⃣ 訓練の練習のしかた”から、基本となるものをまとめたものです。小さく大変見づらいのですが添付させて頂きます。なお、『 』部分が瞑想法の取り組み(実践)になります。

ストレスの影響

緊張と弛緩

・刺激⇒体内化学物質の変化による肉体的反応⇒体の物理的反応⇒解消

ストレスは脳から始まる
ストレスは脳から始まる

画像出展:「ストレスに負けない脳」

危機に直面したときの緊急反応です。

1.脳にある視床下部が腎臓の上にある副腎に警鐘を鳴らす。

2.ストレスホルモンの第一陣、アドレナリンが副腎髄質からを分泌され緊急反応を起こす。

3.脳はエンドルフィンという鎮痛作用をもつ物質を出し、危機においても機能できるようにする。

4.脳は防衛機構の第二陣、視床下部‐下垂体‐副腎軸(HPA軸)という先鋭部隊を動員する。視床下部は副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)を放出し、CRFは下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を分泌、ACTHが副腎皮質を刺激すると、第二の主要ストレスホルモンであるコルチゾールが血液に放出される。

右側中央やや下に免疫機能↑↓とあります。これは、免疫機能はストレスに対し短期的には高まるが、それが解消されず長期化すると低下するという意味です。

 

ストレスの発生とその影響

・現代人が直面する問題の多くは単純な脅威ではなく、もっと複雑な出来事である。例えば、感情や心の内から生まれた葛藤、人間関係のもつれ、経済的な不安などであり、これらは肉体的危機に直面した時と同じように反応する。

精神的な問題による緊張は発散されず抑圧が続きやすい。また、緊張が解消されないため元の自然な状態に戻れないという事態になる。

・精神的なストレスは外的脅威に対して適切な対処できず、その緊張を解消することができないために起こるものだということを理解しておくことが大切である。

長く続くストレスは体の化学成分に影響を与え、免疫機能を低下させてしまう。

・『アメリカ医師学会はアメリカの家庭医を訪れる人の三分の二はストレスに起因するものだとしています。ストレスは直接間接に不登校、冠状動脈症(心臓病)、肺の疾病、事故による疾病、肝硬変、自殺、また、その他の軽症の主な要因となっており、私はガンの主要因もストレスであると信じています。』 

受動態瞑想法
受動態瞑想法

画像出展:「私のガンは私が治す」

中段左側の2つが対策となる「受動的瞑想法」になります。

瞑想法の実践は「ストレス(長期にわたる精神的抑圧やひずみ)」を解消し、健康に戻るための最も基本的な対策であり、弛緩が解決の鍵を握っているというのが、ゴウラ―先生のお考えです。

ストレスへの対処

・ストレスへの対処には、まずストレスが溜まってきて問題になりそうだということに気づかなければならない。

・ストレスの有無が分からない場合は、筋肉の収縮を目安にすることができる。これはストレスがあると、身体的な緊張が体に表れるからである。例えば、眉間にしわが寄っていたり、奥歯を噛みしめていたり、肩に力が入っていたり、こぶしを握りしめていたりといったことがみられる。

・ストレスにうまく対処できる人は、ストレスをやり過ごし解消しリラックスする方法を知っている。そして、一番安全で確実な方法が瞑想法である。

瞑想法の効果

●『幸運というべきか、私がガンになったのはちょうどミアーズ医師がガン患者の治療に瞑想法を活用していこうとしていたときでした。瞑想法は不安とストレスを取り除く、とミアーズ医師は考えていたのです。そして、私は私で古来からの瞑想に興味を持っていて、その理念が私の失ってしまった内なる調和を取り戻してくれるだろうと思ったのです。

ミアーズ医師と出会ってその確信は深まりました。体内の副腎皮質ホルモンの一種であるコーチゾンのレベルが低下し、免疫機能が正常に戻れば、腫瘍はなくなり、体はもとどおりになるだろう。そう思うと希望が持てました。

瞑想法には、他の効果もあります。瞑想法は心を満たして生命の質を高め、命を永らえさせてくれます。瞑想法は肉体、感情、精神、そして魂まで、およそ人間の経験するすべての側面に作用します。』

肉体面の効果

・体が不自然に固くなっていたらそれはストレスの証拠で、肉体の自然な機能が抑制されているということである。瞑想法はその不自然な緊張を解いてくれる。

感情面の効果

・瞑想法は精神の安定に有効である。自分を慈しみ、短所や限界をありのままに受け入れて、持っている力を生かしきれるようになる。そして、心豊かに、素直な気持ちで有意義な人間関係を築くことができる。

精神面の効果

・不安の原因はとても複雑である。原因を知ることは解決の糸口になるが、知るだけでは解決には至らない。瞑想法の優れているところは、原因に関係なく過去を振り返ることなく、緊張やストレスさえなくなれば健康を取り戻すことができる。

心あるいは霊的豊かさのために

・瞑想法を通して体の奥深くから湧き出る心の安らぎを体験できる。

・『人生をもっと意義深いものにするためには、どのように生きるかということが何よりも大切です。でも「よりよく生きるということは一体どういうことだろう。」「自分の命はあとどのくらいだろう。」そういう問いは知らないうちに心にかたすみに常に潜み、私たちを脅かします。事実を受け入れ、心の平穏を取り戻さないかぎり、絶え間なく不安が襲ってきます。でも、私たちはこの心の平和を取り戻すことができるのです。

私は一度ミアーズ博士に、この病気になって本当によかった、みんな同じような気分になれるように、一回病気になってみればいいのに、と言ったことがあります。私はそのときちょっと興奮していたのだと思いますが、本当にそう思ったのです。私は今の自分の生活が足を失う前よりずっと充実していると感じています。私はただ好きで瞑想法をしていますが、これはもう生活の一部で、心身ともに最高です。

グループの患者の一人、ジュディという女性は最近こんなことを言っていました。「ガンは私の生活をずっとよくしてくれました。病気を通していろいろなことを学びました。ガンにならなかったら、こういうことは経験できなかったと思います。」』

第四章 基本の瞑想法―受動的瞑想法のやり方

受動的瞑想法の実践

緊張と弛緩のリラックス法

・受動的瞑想法に入る前段階として、体をリラックスさせるが一気に体全体をリラックスさせるのは難しいので部位ごとに進める。

・『慣れないうちは、体の一部に神経を集中して緊張と弛緩を繰り返すと、リラックスした感じがよく分かります。まず足で試してみましょう。足の筋肉全体を縮めてぎゅっと力を入れてみてください。固く硬直して動かなくなります。目を閉じてその感じをしっかり味わってください。次に力を緩めると、筋肉の緊張をほぐれて、柔らかくなるのを感じます。その違いを感じ取るのです。力が抜けると重く感じます。アイスクリームが日差しの中でゆっくりと溶けていくように、体が床の中に溶け込んでいくように感じます。

体のあちこちを同じようにしていくと、体を奥深くから緩めるということがどういうことか、すぐに分かってくると思います。順に意識の中心を移していくのです。ふだん私たちの意識はちょうど両目の間のあたりにあります。そこが自分の中心のように思いがちですが、足に神経を集中すると、今度は足が自分の中心のような気がします。足は、また頭とは違った感じを持っています。そのように体の各部分を味わっていきましょう。

慣れればすぐに弛緩した状態に入っていけるようになり、この手順を踏まなくても済むようになります。体の緩んだ、芯からとろけるような深いくつろぎを感じてください。体の力を抜いた感覚がどんなものか味わってください。』

順を追って

・左右対称の姿勢をとる(肘掛け椅子に座るか、仰向けでねる)。

①目を軽く閉じ、足に力を入れ筋肉が緊張した状態を感じる。その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

②次はふくらはぎに力を入れ、その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

③次はふとももに力を入れ(膝を上から押さえながら、その手を押し返すように膝を上げる)、その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

④次に椅子から少し腰が上がるようにお尻の筋肉をぎゅっと締め、その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

⑤次はお腹に力を入れ(重いボールがお腹に向かってくるところを想像する)、その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

⑥次は胸に力を入れ、その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

⑦腕は左右同時に動かされないように固定するつもりで力を入れる。その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

⑧肩から喉のあたりは肩をいからせて首を前に倒す。その後、力を抜いて肩と喉と首の状態を感じる。

⑨顎は歯ぎしりをして、噛む力を感じる。その後、顎、口、唇、頬の力を抜いて緩んだ状態を感じる。

⑩目は上目づかいにして瞑り、その後、目から鼻にかけて力を抜いて緩んだ状態を感じる。

⑪額は眉をひそめるように力を入れ、その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

瞑想法に入る

・『このように筋肉組織を収縮させ、緩めることに慣れたら受動的瞑想法の準備ができました。

そこで、しばらくそのまま静かにしています。受動的瞑想法の本質的な部分はそれだけです。

体がどのくらい緩んでいるかが目安となります。体が充分にリラックスしていれば思考も休まり、体の力が抜けていれば心も休まっているのです。

体がリラックスすると、重く感じられるようになります。ゆったりと緩んで床に溶けていきそうになります。そして、全身が解放されたようになり、今度は軽くなります。体がじんじんと温かく感じられ、ゆったりと幸せな気持ちになります。そのうち自分の体や周囲の感覚がなくなります。周りの音が遠ざかり、どうでもよくなり、体が風船のように膨らんだような、ゆらゆらと水の上を漂っているような感じになります。

ぼんやりした状態とでも言いましょうか。暖かいお湯の中に浮かんで、そのお湯の中に溶けていくような感じです。体がはっきりした形をなくし、輪郭がぼやけてくるような気がします。私たちは自分の肉体にはっきりした形があるということに慣れていますが、瞑想法ではまるでそれが膨張してしまったかのようにこの境界がぼんやりしてきます。

「いいでしょう。静かに目を開けて。」手引き役の人がいれば、またテープの場合は必要な時間の空白の後で、こう言って終わらせます。あるいは誰かに頼んでおくか、柔らかい音質の目覚まし時計などで、一定の時間で終われるようにします。』

湧き上がる想念や自己防衛反応に対して

リラックスは気持ちではなく、体に意識を向けてリラックスさせることがコツである。雑念が湧き上がるのはよくあることだが、あまり気にしないでなるがままに任せる。それでも気になる場合は、あらためて体に意識を向けることに戻る。体を緩めることに集中すると体がリラックスし、気持ちもゆったりとし静かな時間が流れはじめ、さめた傍観者のようにぼんやりと画面が見えて音が耳に入ってくるだけのような感覚になる。

ガンを克服した人の話1

著者:イアン・ゴウラ―
私のガンは私が治す

著者:イアン・ゴウラ―

監修:帯津良一

出版:春秋社

発行:2003年12月

この本は帯津先生の著書、“ホリスティック医学入門”で知りました。読みたいと思ったのは次の二つを詳しく知りたかったからです。

1.何故、治ったのか?

2.死の淵から戻してくれた抗がん剤治療を止め、再び、自然療法(瞑想法)に戻るという選択が、何故できたのか? 

著者:帯津良一
ホリスティック医学入門

第二章 西洋医学を否定しない代替療法を

◆再発した骨肉腫を食事療法と瞑想、抗ガン剤で克服

(詳しくは、ブログ“ガンとホリスティック医学4”を参照ください)

最初に帯津先生の本より、ゴウラ―先生の症例の概要をお伝えします。

イアン・ゴウラ―:獣医師、元陸上競技の選手。

◆右大腿骨に骨肉腫が発見されたのは1974年、すぐに右下肢の切断手術を受けた。

◆10カ月後にガンが再発、骨盤と肺、胸壁への再発だった。 

今までの治療を止め、自然療法を選択した。

理由なぜ、自然療法だったのか、とても興味のあるところです。彼は、再発という窮地に追い込まれたときに、自分が治療してきた馬たちのことを思い出しました。もちろん、馬が病気になったとき、薬を使ったり、手術をしたりするというのは重要な選択ですが、その前に大自然の中で癒すことを考えるのだそうです。飼料を吟味し、運動と休息に配慮し、なでたりさすったり、やさしく声をかけたりします。そうすることで、馬たちは驚くほど元気になっていきました。彼は、自分にも、それが通用すると感じたのです。

画像出展:「GAHAG

◆5ヵ月後には、医師が「あと二週間くらいの命だろう」と言うほど悪化してしてしまった。

再び抗ガン剤治療を始め、そして回復した。 

経緯『普通なら、ここで精神的にも折れてしまいます。こんなに頑張ったのにという空しさに押しつぶされ、ガタガタと体調を崩してしまいます。しかし、彼はあきらめませんでした。まだ、可能性はあるはずだと、次の手を懸命に求めたのです。「あと二週間」と宣告した主治医も、決してあきらめませんでした。「もう一度、抗ガン剤をやってみないか」と、医師はイアンさんにすすめました。宣告して放り投げるのではなくて、最後まであきらめない態度が、この主治医にはありました。自然療法をやりたいというイアンさんの気持ちを優先し、こうやってとことんイアンさんに付き合おうとするなど、イアンさんは素晴らしい主治医に恵まれたと思います。イアンさんは主治医の提案を受け入れました。抗ガン剤治療を受けることにしたのです。これが功を奏しました。症状はみるみる回復し、体調も良くなっていったのです。

画像出展:「GAHAG

2年間の予定だった抗ガン剤治療を2カ月半で中止し、再び自然療法に戻った。

理由『抗ガン剤治療は二年間続けるプログラムが組まれました。しかし、イアンさんは、どうもこの治療は違うと感じ、二ヵ月半で中止します。主治医ともじっくりと相談したうえでの決断でした。抗ガン剤には感謝しつつ、彼は冷静になって、緊急避難としての抗ガン剤は有効だけど、長く続けるものではないという結論を出したのです。

そして、彼は再び、食事療法と瞑想を始めました。しかし、前回の反省を踏まえて、今度はあまりストイックな取り組みはやめて、リラックスしてやることにしました。前回は七時間も瞑想しましたが、今回は一時間を三回と、半分以下の時間に抑えました。食事も、これでなければいけないというのではなくて、会食では一般のものを食べるゆとりをもつようにしました。これが正解だったのでしょう。再発巣の進行は停止したかのような状態が続きました。しかし、依然としてガンはあるわけですから、気をゆるめるわけにはいきません。とにかく、よいと思われることは積極的に取り入れました。』

画像出展:「GAHAG

二つめの疑問、「死の淵から戻してくれた抗がん剤治療を止め、再び、自然療法(瞑想法)に戻るという選択が、何故できたのか?」に関しては、『私のガンは私が治す』の“訳者あとがき”に書かれた、エインズリー・ミアーズ医師(瞑想法を指導)の“The Medical Journal of Australia”1978年2月号に掲載された報告が、その答えとも言える内容なのでこちらをご紹介します。 

ゴウラ―博士の胸部:1977年7月/回復後
ゴウラ―博士の胸部:1977年7月/回復後

画像出展:「私のガンは私が治す」

『この25歳の患者は2年半前にはじめて私の診察室を訪れた。患者はその11カ月前に骨肉腫で片足を切断。直径2センチほどの明らかな骨の腫瘍が肋骨から腸骨、胸骨の先端に確認され、骨の破片を含む少量の吐血を訴えていた。肺部X線写真でも明らかな影が確認された。患者は専門医から余命2~3週間であることを告げられていたが、獣医という職業柄、生理学と予後の要件について充分な理解があった。そして、2年半後には別の州に移り、かつての職業に復帰した。

(中略)この若者は壮絶なまでの生への意志を持ち、また、それまで私が経験してきた東洋思想においてさえも見たことのないような平穏な心の状態に達していた。なぜこのようにガンの転移を後退させることができたのかという問いにこの患者はいつもこう答える。「人生とは本当に自分自身のもの、自分が自分の命をどのように生きていくかということそのものだと思うんです。」

この患者は徹底した瞑想法を生活の一部として取り入れていくことを選んだ。また、彼はくよくよ思い悩むことをしなかった。そのこともコーチゾンの分泌を減少させ、免疫力を高めるのに役立ったと言えよう。』

帯津先生は、ゴウラ―先生がどのようにガンを克服されたのかを理解するため、オーストラリアのメルボルン郊外にあるゴウラ―先生のセンターを訪れています。そして、『私のガンは私が治す』の冒頭、“イアン・ゴウラ―さんのこと”の中で次のようなメッセージをつづられています。

日本のガン治療の現場で、喉から手が出るほど欲しいと思っていた瞑想法の部分を中心に、日本の実情に即した形にアレンジしました。いい本ができました。勇気ある友人たちに、さらなる勇気を与えてくれるものと確信しております。

また、センターのことは“訳者あとがき”に出ていましたので、こちらもご紹介します。 

ヤラ・バレー・リビングセンター
ヤラ・バレー・リビングセンター

画像出展:「私のガンは私が治す」

ホームページ:The Gawler Cancer Foundation and Yarra Valley Living Centre 

回復の後、ゴウラ―博士は自分のかけがえの体験を多くの人と分かち合いたいと、オーストラリアで最初のガン患者の支援活動を始めました。そして、1983年に非営利、非宗教のゴウラ―財団が設立され、現在まで積極的な活動を続けています。

ゴウラ―財団の活動の中心であるヤラ・バレー・リビングセンターはメルボルン市内から車で1時間半ほど、朝晩オーストラリア特有の野生動物が庭先まで訪れる、15ヘクタールの雄大な大自然の中にあります。こじんまりとした研修室、清潔な食堂兼談話室、プライバシーを守れる宿泊室、西洋的夢殿を思わせる瞑想室、ガン治療や食事療法、瞑想法の出版物やCDのそろったリソース・センターなどを持ち、また裏庭には滞在者の食糧を賄う有機菜園もあります。』

ブログは目次(本の目次のページには掲載されていない小項目も入れました)黒字の部分について書いています。なお、特に正確にお伝えしたい箇所に関しては、引用させて頂いています(『』で括っています)。また、ブログが長くなったので3つに分けました。

目次

イアン・ゴウラーさんのこと

日本の読者へ

はじめに

●免疫力を信じて

●前向きな姿勢で

●命への愛情

●人々の支え

第一章 はじめの一歩

四つの問い

●現行の治療法

●比較検討法

●心を決める

医師と患者の関係

第二章 健康の道程

治癒という旅、全的な癒し

健康への道程

●肉体的側面

1.西洋医学

2.その他の医療・療法

●心理的側面

●霊的側面

1.ガンになる理由

2.死と臨終を考える

3.心霊療法

4.霊的成長(全体を通して)

・霊的な癒し

治癒への環境づくり

●患者を取り巻く人々

●治療を支えるいくつかのこと

・運動

・呼吸法

・環境

・創造的な活動

・人の力になる

・笑い

●療法を組み立てる際の注意点

第三章 瞑想法の理念

療法としての瞑想法

●瞑想法の確立へ

ストレスの影響

●緊張と弛緩

●ストレスの発生とその影響

●ストレスへの対処

瞑想法の効果

●肉体面の効果

●感情面の効果

●精神面の効果

●心あるいは霊的豊かさのために

第四章 基本の瞑想法―受動的瞑想法のやり方

受動的瞑想法への準備

●心がまえ

●目的と時間を決める

●環境と姿勢

受動的瞑想法の実践

●緊張と弛緩のリラックス法

●順を追って

●簡単な暗示を使う

●瞑想法に入る

●湧き上がる想念や自己防衛反応に対して

第五章 リラクゼーションの意味と実践

リラックスすることの意味

●ガンを治す免疫機能

●体から心へ―リラックスの効用

●リラックスの方法

リラクゼーションの実践

●受動的瞑想法を深める

●能動的な方法について

●輝く光のイメージトレーニング

●究極のリラクゼーション

第六章 心の力

ポジティブ・シンキング―積極的に生きるために

●信じることには力がある

●積極的になるために

●積極性の瞑想法

意思決定

●意思決定の瞑想法

●決めたことはやり通す

想像の力

●言葉にすることと想像すること

●イメージ療法

●メージ療法の難しさと利点

●降り注ぐ光のイメージトレーニング

●癒しの旅のイメージトレーニング

●イメージのまとめ

第七章 ストレスへの対処

ストレスをもたらすもの

●ストレスを測る試み

●恐怖・不安・心配―ストレスの根源

ストレスへの対処法

●感情の癒し

●自分を大切にする―本当の自分に気づく瞑想法

●愛はめぐる

●許しの瞑想法

●治癒=調和=安らぎ

第八章 痛みへの対処

痛みとは何か

●痛みは苦しみではない

●物理的な痛み、心理的な苦痛

●痛みについての社会的条件づけ

●二つの心理的思いこみ

痛みのコントロール法

●痛みに対する訓練

●心から体へ―痛みに対する訓練が有効な理由

●瞑想法による痛みのコントロール―まだ痛みのないときに

●すでにある痛みのコントロール法

●応急的な方法

●イメージによる痛みのコントロール法

第九章 食事療法

食事の考え方

●病気と食事

●ゲルソン療法との出会い

●ゲルソンの基本理念

●ゴウラ―食養法の考え方

●食事療法の実践へ向けて

●食事療法のための「意思決定の瞑想法」

●ゴウラ―食養法のアウトライン

●コーヒー浣腸

●その他の特殊な食事療法

第十章 どうしてガンになるのか?

複数の要因による生活習慣病

●なぜ私が?

●最後の一本の藁

心理的側面

●絶望―その不思議な心理

●しばしば共通する心理的履歴

●前向きに

霊的側面

●人生の調和へ

●魂の成長

第十一章 死 この避けえないもの

死を考える

●死は人生の一部

●死について語り合う

●子供と死

●死への恐怖、またその他の否定的な感情の芽生え

●死をめぐる具体的なこと

死を受け入れる

●死への過程

●悲しみ

●臨死体験に学ぶ

●おびえか、おわりか、おたのしみ?

第十二章 癒しと霊性

癒しの神秘

●フィリピンでの経験

●世界の本質への問い

●霊性と癒し

霊的実在の探求

●真実の探求

●人生と命に秘められた神秘―私の信念

じめに

免疫力を信じて

・獣医として医学知識があったため、自分の病状を理解し、経過をきちんと判断して、さまざまな療法をうのみにすることなく、冷静に評価することができた。

・ゴウラ―先生だけでなく、奥さまも素直にものごとを受け入れられる性格だった。このため、ゴウラ―先生は奥さまからの力強い支えを常に得ながら、役立つと思われることを何でも一度は試してみることができた。なお、目的とは自らの力で病気を治すための環境づくりをすることだった。

・ガンが再発し、医学的見地からはもう見込みがないと思われたときも、ゴウラ―先生と奥さまは必ず他に道があるはずだという強い信念を持っていた。

・ガンは免疫の欠如に関係しており、健康な人でもガン細胞はできているが免疫がしっかり働いてくれれば病気のガンにはならないということは当時から分かっていた。

・『私たちは、肉体の自然抵抗力、特に免疫能力は必ずもう一度高めることができると信じることから始めました。免疫力が高まれば、肉体に内在する力が勝手にガンを破壊し取り除いてくれるでしょう。さらに免疫能力が健全に機能すれば、ガン再発の可能性はなくなるはずです。この信念は希望を与えてくれました。

それが私たちの第一歩で、すべての大前提になりました。私たちはその目的に向けてできるかぎりのことをしただけです。

前向きな姿勢で

・いろいろな療法を試していくうちに、これは人間が生きていくに当たっての正しいバランスを模索する営みであると気づいた。

・ガンと闘うことは自分の成長と学びを経験していく一つの冒険のようなものである。 

・『ガンを通して成長し、学んでいこうとする私たちのチャレンジ精神はガンという言葉につきものの恐怖の感情とはまるで違ったものになりました。

前向きな姿勢を支える第一のポイントは、ガンを一つの通過点として見ることである。

・ガンは自分の過去の行いのせいだと考えた。そして、自分自身がその原因を作ってしまったのだとすれば、自分がそれを治すことはできる、正しい行いをすれば病気は治すことができると信じた。

第二のポイントは、ガンに対しての冷静な理解を養うことである。

命への愛情

・前向きな姿勢を保ってガンと向き合い、さまざまなことに正しく対処していくためには広い視野で考えていかなければならない。そのためには人間が生きていくための三つの要素、肉体的、精神的、霊的な条件がそれぞれ果たす役割について考え直す必要がある。

・『ここでお断りしておきたいのは、私は確かに霊的な側面を重視してはいますが、それは宗教的な意味ではない、ということです。宗教は個人的な問題ですから、あまり触れるつもりはありません。人間は誰でも人生の本質について、何らかの形で自ら思いをめぐらせる経験をすることがあると思います。この本の内容は宗教とはまったく無関係であり、決して個人の宗教に干渉するものではありません。しかし、ガンとの闘いが人間の生き方と深く関わっているため、この本に述べることが、はからずも自分の実在の探求と関わってくるとお感じになることがあるかもしれません。それが違和感のないものであれば幸いですが、もし違うと感じられても、どうぞ、一つの考え方として読み流してください。無理に一致させる必要もありませんし、その違いのためにさまざまな療法を放棄する必要もありません。』

人々の支え

・『私の病気の回復には周りの方からいただいた絶大な支えも大きな役割を果たしてくれました。

当時の妻のグレースは何よりの協力者でした。もしすべての患者にこのように献身的で愛情に満ちた人がいてくれたら、病気は必ず克服できると思います。グレースは私とともに惜しみなくあらゆる試みと努力をしてくれました。何よりもはじめから私が絶対に治ると「分かって」くれていました。微塵の疑いもなく、私の回復のためにすべてを捧げてくれました。』

ガンは一連の過程をたどることによってはじめて治せる。それは努力と忍耐と意識的な変革の道程であり、それこそが人間の自然の状態である健康を取り戻す過程である。

第一章 はじめの一歩

医師と患者の関係

この項目には、冒頭[訳注]があり『日本の実状と照らし合わせると、そぐわない点もあります。』とのことが書かれています。さらにゴウラ―先生が獣医師であるという知識豊富であるという点も特別な要因と思います。しかし、ここに書かれている内容は本来、目指すべきものだと思いますので、大変細かいものになりますがご紹介させて頂きます。 

●ガン患者の回復過程には、少なくとも一人は信頼して話し合える医師、患者にしっかりと向き合い、患者本人や家族の気持ちを敏感に察してそれを尊重し、素人にもよく分かるように医学的な情報を提供してくれる医師が不可欠である。

●医師と患者の関係で最も大切なものは対話による相互理解である。特に瞑想法や積極思考[ポジティブ・シンキング]など、まだ医学的な評価が定まっていない療法については医師と患者がきちんと対話する必要がある。医師に内緒で何かを行うことは、ストレスの原因となり良くない。

●患者が対話で心がけること。

1.穏やかにはっきりと自分の希望や志向を医師に伝える。

a) 自分がどの程度の情報を求めているか。

b) 主な意思決定にはどういった専門家、家族、友人に関わってもらいたいか。

c) 全体の調整、治療、方針決定に当たって、どの医師に中心的な役割を果たしてもらいたいか。

d) 自分が専門家、相談相手、話の仲介役、助言者と考えているのは誰か。

2.医学的なパートナーの役割を果たしてくれる医師を見つけられれば理想的である。

3.診察に当たって

a) 配偶者やパートナーがいればいっしょに行く。この人たちが支えになり、診察の際の質問や答えを覚えておいてくれる。

b) 医師に会う前に聞きたいことを書きとめて持参する。

c) 必要なら前もって医師に質問や話し合いのための時間をとっておいてもらうようにします。

d) 診察中の情報は忘れやすいので、診察の間メモをとるかテープに録音させてもらうよう依頼する。

e) 説明や分かりやすい解説、選択肢の詳細や意見などは、遠慮せず、自由に求める。

f) 自分の希望やその理由をきちんと説明できるように準備していく。

g) 医師に自分がどんな自助努力をしているのか伝える。

4.重大な決定には、他の医師(セカンドオピニオン)からの意見も求める。特に最初の医師の系列などではない、無関係の病院を選択する。

5.自分の状況や問題を医師と話し合うよう努力しても、どうしても納得いかなければ医師(病院)を変えるべきである。

医師と患者との良好な関係は健康と心の平穏のためにとても大切なことです。生きることが楽に、建設的なものになり、治療にも良い影響があるにちがいありません。

そして現在、医学と医療の場も変わりつつあります。患者がこのような意識を持つことは本人にとっても、医療の場にとっても、大変に有意義なことなのです。』

第二章 健康の道程

治癒という旅、全的な癒し

●病気を持っていても、内側からの光が強く美しく輝いている人もいる。つまり治癒とは、人としての成長の旅でもある。

●病気というのは気が病むことである。また、心が満たされないこと、バランスをくずしていること、調和が保たれていないことである。

●不健康が過去の生き方によるものならば生き方を変えなければならないが、回復の道のりは長く、小さな変化の積み重ねである。

治癒という旅の羅針盤は、調和を求めることである。自分の行動と心と魂のつり合いがとれて心が安定したとき、癒しは始まる。そして常にこの心の安定を最優先にしていくことが重要である。

健康への道程

『健康への道は実に多様です。ここではガンの治療に関係するさまざまな方法を概観しながら、本書で述べる療法のアウトラインを見渡していただければと思います。

なお、その際、各治療法を肉体的側面、心理的側面、そして霊的側面という三方向から整理してみることにします。と言うのも、先に述べたとおり癒しとは人生すべてのレベルでの調和であり、私たちは従来の医学が考えてきた体と精神という二元論の根底に命そのものとも言うべきもの、霊性の存在を考えないわけにはいかないと感じているからです。』

肉体的側面

1.西洋医学

・最新の動向にも目を配り、医師と話し合って進めていく。

・自分に合っていると判断できる治療を決め、真剣に専念する。

a) 手術:腫瘍を取り除き、体の負担をなくすことで再発予防の時間とチャンスを与えてくれる。

b) 化学療法:副作用と治療効果とを天秤にかけてよく考える必要がある。

c) 放射線治療:特に骨に関係する場合、痛みの軽減によく使われる。

d) 免疫療法:免疫系の刺激を目的とする新しい領域の療法。

e) ホルモン療法:ホルモンに敏感な乳ガンや前立腺ガンなどで行われる。

2.その他の医療・療法

f) 食事の改善:特殊な食事療法(ゲルソン療法など)は、必ず熟練した指導者に従って行う。

g) マッサージ:足のマッサージが良い。リフレクソロジーなど(ウィキペディアより)。

h) 中医学:治療医学としての漢方、鍼灸、養生医学としての食養と気功が中心である。

i) ナチュロパシー:自然療法全般。栄養、ライフスタイル全般のアドバイス、ハーブ(薬草)、マニュピュレーション(体の矯正)、マッサージ、ホメオパシーなどの方法の相乗効果を図り、免疫力を強化する。

心理的側面

a) 瞑想法とそれによるリラクゼーション:ストレスに対処する。基本は受動的瞑想法、リラックスを得るための方法。

b) ポジティブ・シンキング:創造的なこと、体を動かすこと、そして、人間関係も重要である。

c) 意思決定:能動的瞑想法による意思決定の方法と、決めたことを実行する手順。

d) 想像の力によるいくつかの方法:言葉にしたり想像したりすることで実現に近づける。

e) ストレス管理:受動的瞑想法と能動的瞑想法を組み合わせて行う。

f) 疼痛コントロール:瞑想法やイメージによる疼痛コントロール。

霊的側面

・『全的な癒しは自分の人生を見つめ直し、より良い生き方を探すことと呼応します。それは個々の症状に対する治療法という狭い意味ではなく、最も広い意味、最も根本的な意味での療法と言えるでしょう。

1.ガンになる理由

・ガンの理由を肉体的、心理的、霊的各側面に探る。体と心と霊性の調和が大切であること、そして魂の成長について考える。

2.死と臨終を考える

・死は避けて通れない重要な問題であり、目をそらさず見つめる必要がある。できれば、身近な親族と話し合う機会を持つよう努める。

3.心霊療法

・『心霊手術の信憑性については何年も激しい討論が続いていますが、私は超自然療法の経験、特にフィリピンの心霊手術の経験はよく知られているので、そのことについても紹介します。すべては私の経験を通して真に正しいと思ったものです。

絶望的な心情にある患者はよくこうした不思議な現象に引きつけられるものです。しかし、すぐ飛行機に飛び乗って、フィリピンやインドなどへ行くようなことはしないでください。そして選択したら、それが最良の結果をもたらすように、その治療に専念してください。

こうした方法が自分に合わないと思ったら、無理に試すようなことはしないでください。

本当の癒しは自分の内にあることを信じて努力してください。心霊療法自体の効果もさることながら、それによって目を開かされる新たな世界観や霊的領域への顧慮にも重要な意味があります。』

4.霊的成長(全体を通して)

反省、内省、黙想

a) 自分がしてしまったこと、またはした方が良かったのにしなかったことなどについて、やましさや否定的な気持ちは持つべきではない。

b) 過去から学び、現在を受け入れ、もっと幸せで健康な明日のために「今」を生きるようにする。

信念

c) どんな状況でも泰然として乗り超えていけるかどうかは自分の信念次第である。

霊的な癒し

d) 体と心と霊性が一つになったとき、癒しが起きる。

・『私自身の治療はジグソーパズルを一つ一つ埋めていくような作業でした。私は最初の外科的手術の後は、食事療法と瞑想法と鍼と虹彩診断療法、それに心霊療法とマッサージも行いました。また、短期間、化学療法と放射線治療も試し、全部で27の療法をやりました。

この中で、私が唯一マイナスの効果を感じたのは放射線治療でしたが、私は自分がやってみた個々の療法について良いとか悪いとか議論するべきではないと思っています。と言うのも、良いか悪いかは個々人によって異なるので、一般論では語れないからです。 

 

こちらのサイトに虹彩学に関することが紹介されています。

治癒への環境づくり

患者を取り巻く人々

何でも包み隠さず、心から打ち解けて話し合える人がいると非常に良い。

・同じようなことをしている人のグループは大きな心の支えになる。

・手紙を書くのも、自分の体験を伝え、分かち合うのに大変よい手段である。

・個人的な人間関係では、正直になることが大切である。

療法を組み立てる際の注意点

・ガン患者は無力感を感じて訪れるが、実は回復のためにはやることがたくさんあると気づく。

瞑想法をしっかりやることから始めるのがいちばんいいと思う。

・重要度を順序づけするための「意思決定」が大切である。

・瞑想法、食事、ポジティブ・シンキングが柱になると思うが、まずは一つのことに専念し、実際に試して評価し、効果があるか続けるべきかどうかを判断した方がよい。

・『体にも心にも負担をかけないようにしてください。今日や明日元気になろうと思うのは無理です。時間はかかります。私にはそれを理解するのが大変でした。私はかつて陸上選手で、デカスロン(十種競技)の激しいトレーニングに慣れていたので、無理をしないことのほうがかえって難しかったのです。最初のころは、がんばりすぎて体に負担をかけて、すっかり行き詰まってしまいました。ここ数年も、体のほうが音をあげてペースを落とすように警告してきたこともありました。適度にやっていくことを学ばなければなりません。

ものごとのバランスよい統合が、生活の質と命の長さを手にするために重要なことです。人生で大切なものの順序づけをしっかりしてください。書き出してみるとよく分かります。そして、自分の決めたことを最後までやり通して、健康に向けての計画を実行していってください。そうすれば、「健康以上」は必ず手に入ります。

ティム・クックのApple

多くの人がそう思っていたのではないでしょうか。スティーブ・ジョブズを失ったアップルの将来は厳しいだろうと。ところが実際にはそうはならず、アップルはより大きな企業になりました。その立役者はCEOのティム・クックです。

どんな人物なんだろうか?」、「スティーブ・ジョブズとティム・クックを結びつけたのは何だったのだろうか?」。特に後者は最も知りたい“謎”でした。

また、スティーブ・ジョブズの自伝にあった“こだわり”も気になりました。この点からも、何故、ジョブズはティム・クックだったのか知りたいと思いました。 

スティーブ・ジョブズ:2004年、パロアルトの自宅の仕事部屋にて
スティーブ・ジョブズ:2004年、パロアルトの自宅の仕事部屋にて

画像出展:「スティーブ・ジョブズⅡ」

僕は、いつまでも続く会社を作ることに情熱を燃やしてきた。すごい製品を作りたいと社員が猛烈にがんばる会社を。それ以外はすべて副次的だ。もちろん、利益を上げるのもすごいことだよ。利益があればこそ、すごい製品は作っていられるのだから。でも、原動力は製品であって利益じゃない。スカリーはこれをひっくり返して、金儲けを目的にしてしまった。ほとんど違わないというくらいの小さな違いだけど、これがすべてを変えてしまうんだ誰を雇うのか、誰を昇進させるのか、会議でなにを話し合うのか、などをね。スティーブ・ジョブズⅡp424](上記のメッセージはブログの2.「最後にもうひとつ……」の先頭に出ています)

ティム・クック
ティム・クック

画像出展:「ティム・クック 

著者:リーアンダー・ケイ二―

訳者:堤沙織

出版:SBクリエイティブ

発行:2019年9月

ブログは目次に続き各章のごく一部をご紹介していますが(黒字)、これ以外に印象的だったクックの成果として、[慈善活動に対する積極的な取り組み]、[再生可能エネルギーへの移行]など、スティーブ・ジョブズの時代には、消極的だったこれらの課題に対しても素晴らしい成果をあげられていました。

目次

序論 うまくやってのける

第1章 スティーブ・ジョブズの死

クックは取るに足りない人物

ジョブズが辞任し、クックがCEOに

スティーブ・ジョブズの死

スティーブ・ジョブズの会社を経営する

破滅する運命のアップル

第2章 アメリカの深南部で形作られた世界観

スウィートホーム・アラバマ

学生時代

早期のビジネス経験

ロバーツデールがクックの世界観を築いた

アラバマ行動主義のルーツ

故郷のアンチヒーロー

オーバーンで工学を学ぶ

第3章 ビッグブルーで業界を学ぶ

IBM PC

リサーチ・トライアングル・パークの工場

ジャストインタイム生産方式

クックの初めての仕事

クックの高い潜在能力

クックのMBA

早期の倫理規範

IBMのソーシャルライフ

IBMでの昇進

インテリジェント・エレクトロニクスに転職する

コンパックに合流する

第4章 倒産寸前の企業に加わる、一生に一度の機会

意見の一致:クック、ジョブズに出会う

オペレーションの新たなリーダー

さよなら、アメリカ。こんにちは、中国!

第5章 アウトソーシングでアップルを救う

フォックスコン

とんとん拍子に出世する

マネージャーとしてのクック

第6章 スティーブ・ジョブズの後を引き継

ピノキオ並みの硬さ

初期の挫折

採用と解雇

アップルは全盛期を過ぎたのか

クックはアップルの変革を始める

サプライチェーンにおける取り組み

成功の兆し

第7章 魅力的な新製品に自信をもつ

脱税

MacProとiOS7

iPhone 5Sが記録を打ち立てる

良い年末

世界開発者会議―iOS8と健康部門への参入

アンジェラ・アーレンツティム・クックのティム・クック

驚くべきパートナーシップ

IBMとのパートナーシップ―法人向けiOS

iPhone 6とApple Pay

iOS 8.0.1の厄介なバグ

Apple Pay

クックの初の主要製品:Apple Watch

第8章 より環境に優しいアップル

汚染と中毒

良い方向へ進む

ダーティな仕事に取りかかる

環境保護庁の門をたたく

善行を促進する力

クックは太陽光発電に力を注ぐ

クローズドループのサプライチェーン

持続可能な森林

ひたむきなCEO

第9章 クックは法と闘い、勝利する

プライバシーの問題

サンバーナーディーノ

長期にわたる論争

抗議の嵐

作戦指令室

アメリカにパライバシーは存在しない

訴えを取り下げる

クックはプライバシーを強化する

第10章 多様性に賭ける

パーソン・オブ・ザ・イヤー

平等と多様性はビジネスの役に立つ

多様性による革新

女性を昇進させる

アップルの組織構成

株主からのプレッシャー

教育におけるクックの取り組み

早いうちに種をまく

アクセシビリティ

第11章 ロボットカーとアップルの未来

未来の取り組み

アップル・パーク

キャンパスがオープンした日

すべてが成功したわけではない

協調を促す

うまくいっているようだ

次世代iPone、Xの到来

第12章 アップル史上最高のCEO?

クックは革新できるのか?

革新には時間がかかる

教訓を得る

第1章 スティーブ・ジョブズの死

破滅する運命のアップル

・2014年9月:チャーリー・ローズ[ニュースキャスター]とのインタビュー

『クックはジョブズが残したものを何とかして維持し、自分の持つすべてを会社に注ぎ込むことを望んでいた。しかし、ジョブズの真似をしようと考えたことはなかった。「自分がなれるのは、自分自身だけだということを理解しています」と彼は続けた。私は最高のティム・クックになるように努力しているのですそして、これこそが、彼の成し遂げたことだった。

第2章 アメリカの深南部で形作られた世界観

学生時代

・ロバーツデールは典型的な南部アメリカの田舎町。面積はわずか13平方キロメートル。当時の人口は約2300人(現在は約5000人)。

・クック家は信仰に篤く、クリスチャンである。

・幼い頃に、バプテスト教会で洗礼を受けてから、信仰は人生の大きな部分を占めてきた。

・クックは控えめで向上心が高く、常に成績優秀な生徒だった。知的で穏やかな性格でユーモアのセンスもあった。

・『彼がアップルで実践した価値観の多くは、子どもの頃に経験した差別と直接結びついているようだ。2013年、デューク大学フュークア・スクール・オブ・ビジネス(クックはここで修士号を取得している)で行われた学生向けの講演会で、クックは、キング牧師とケネディ大統領の2人が子どもの頃からのヒーローだと語っている。「私は南部で生まれ育ち、成長の過程で、差別が引き金となった最悪の行動の数々を目にし、非常に気に病む思いをしてきましたと、彼は学生たちに語った。だからこそ、命がけで差別と戦ったキングとケネディを、心から尊敬しているのだろう。』

オーバーンで工学を学ぶ

・『「アラバマ大は医師や弁護士を志望する富裕層が行くところだったので、自分を労働者階級の1人だととらえていた私には適さないと思いました。そして労働者階級の人々は、オーバーンへ行っていたのです」』

・クックが学んだ生産工学は、複雑なシステムを最適化する方法に焦点を置き、無駄な支出を取り払い、資源を最大限活用する最善策を見つけ出す学問であった。

・クックは2010年、オーバーン大学の卒業式のスピーチで、オーバーン大学の理念を自分の信念として話しているが、それは次のようなものである。『「私はここが、実践的な世界であると信じており、ゆえに、自分が培ったもののみが信頼に値すると考えている。したがって私は、働くこと、ひときわ懸命に働くことの価値を信じる。私は、正直であることと、誠実であることの価値を信じる。それなしでは、仲間の尊敬と信頼を勝ち取ることはできない」。』

・クックは1982年にオーバーン大学を卒業、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)とゼネラル・エレクトリックからもオファーを受けていたが、IBMに入社(PC部門)した。

アラバマ州ロバーツデール
アラバマ州ロバーツデール

画像出展:「WikipediA 

アラバマ州ロバーツデールは、2010年の国勢調査では人口5,276人、1,951世帯だったそうです。

オーバーン大学
オーバーン大学

画像出展:「海外留学推進協会 

大学のあるオーバーン地区は、アトランタから車で1時間30分ほど離れたところにあります。創立は1856年、学生数約30,000人の州立大学です。

公式ホームページ

第3章 ビッグブルーで業界を学ぶ

クックの高い潜在能力

・IBM入社数年後、クックは工場の経営幹部によって選ばれる「ハイポ(ハイ・ポテンシャル)」と呼ばれる将来を担う25名の若手社員リストのランキング1位にいた。なお、「ハイポ」に求められるものは、業績、責任感、リーダーとしての潜在能力など。

・『クックがハイポ・リストの一角を獲得し、最終的にはIBMでの高い地位[パーソナル・コンピューター事業北米ディレクター]を確立するまでになったのは、高校と大学を通して彼が培った労働倫理のおかげだった。工場におけるパーソナル・コンピューター製造の元責任者で、かつてクックの上司だったこともあるレイ・メイズも、クックが同僚たちの中で抜きんでていたことに同意している。「私が感じていた彼の優れたところは、その労働倫理でした」とメイズは語った。』

早期の倫理規範

・ビジネスで“倫理”というと、不正会計やインサイダー取引を連想するものだが、クックの“倫理”はそのようなものではない。

・『2013年、デューク大学で行われた同窓会[デューク大学のFuqua School of Businessを1988年に卒業]で、クックはこのように語った。

倫理について考えるとき、私はある物事を、それを発見したときよりも良い状態で、後に残すことを考えます。そしてこのことは私にとって、環境への配慮から、労働問題を抱えるサプライヤーとの付き合い方、製品の二酸化炭素排出量、何を支援するかという選択、そして従業員の扱い方まで、すべてに関わることなのです。私のすべての言動は、この考え方がもとにあるのです」。

倫理学の講義によって、彼は同じ業界の人の多くとは異なる方法でビジネスを考えるようになった。彼がそこで学んだ教訓 ―発見したときよりも良い状態で、物事を後に残すこと。環境に配慮し、従業員に敬意をもって接すること― は、彼の信念の支えとなり、アップルCEOとしての任期を象徴するものとなるだろう。彼はIBMで、アップルにおけるリーダーシップの基礎となるものを築き始め、そこには同僚との交流も含まれていた。』

江戸切子
江戸切子

画像出展:「江戸切子協同組合 

私事ですが、早大サッカー部時代に「伝統とは、前年をひとつでも上回る成果を上げ、積み重ねていくこと」と教わったことを思い出しました。

この日本流の伝統は、クックの信念の支えとなった“倫理”とスティーブ・ジョブズが願っていた、“いつまでも続く会社”につながるキーワードではないか、ジョブズとクックを結んだ最も重要な価値観だったのではないかと思いました。

つまり、私が最も知りたかった“謎(二人を結んだもの)”とは、“伝統を重んじる心だったというのが私なりの答えです。

第4章 倒産寸前の企業に加わる、一生に一度の機会

意見の一致:クック、ジョブズに出会う

・『ティム・クックは、アップルのリクルーターからオファーをすでに何度も断っていた。彼らの粘り強さが実を結ぶときがきた。最終的に、彼は少なくともジョブズには会うべきだという結論に達したのだ。「スティーブは、私がいる業界のすべてを作った人物でした。とても会ってみたかったのです。クックは2014年、チャーリー・ローズに対してこう暴露している。

彼はコンパックでの仕事に満足していたが、ジョブズとの出会いは新鮮でエキサイティングな将来の展望を彼に与えてくれた。ジョブズは「他の人とは全く異なることをしていました」とクックは当時を振り返った。その最初の面接で、ジョブズのアップルに対する戦略とビジョンを座って聞いていたとき、彼はそのミッションにおいて自分が価値ある貢献をできるということに納得した。ジョブズはコンピューター業界を震撼させることになるだろう製品や、いまだかつてないコンピューターのデザインコンセプトについて説明した。これらの構想は、丸くふくらんだ形のカラフルなMacintoshであるiMac G3となって、1998年に発売され大成功をおさめ、デザイナーであるジョニー・アイブを一躍有名にした。

クックは好奇心をそそられていた。「彼はそのデザインについてほんの少ししか話しませんでしたが、それだけで十分、私は関心を持ちました。後のiMacとなる製品について説明してくれたのです」。クックはその面接が終わる頃には、ジョブズのようなシリコンバレーの伝説と働くことは、一生ものの栄誉」になることを確信していた。

第5章 アウトソーシングでアップルを救う

とんとん拍子に出世する

・入社4年後の2002年に、ワールドワイドセールスならびにオペレーション担当副社長になった。

・2004年にはMacintoshのハードウェア部門の責任者になり、2005年にはCOOに任命された。

COOの昇進を機に、ジョブズはクックを自らの後継者として育て上げていった。アップルに勤めるすべての社員はスペシャリストだが、ジョブズとクックだけは違っていた。

マネージャーとしてのクック

・ジョブズとクックは何年もの間緊密に協力しながら働いてきたが、立ち振る舞い、気質、特にマネジメントは全く違っていた。

・『彼が声を荒げることはほとんどなかったが、問題の核心に迫ることに執着し、質問を延々と投げかけて人々を疲弊させた。「彼はとても静かなリーダーです」とジョズウィアックは語った。「叫ぶことも怒鳴ることもなく、非常に冷静で落ち着いています。しかしとにかく人を質問攻めにするので、部下たちは問題についてしっかりと把握しておく必要があるのです」。質問をすることで、クックは問題を掘り下げることができ、スタッフに自分がしていることを常に把握し、責任感を感じさせる効果があった。彼らはいつでも説明を求められる状況にあることを理解していた。

1998年12月に、クックのオペレーション担当グループに参加したスティーブ・ドイルは次のように語った。「彼は10の質問をしてきます。それらに正しく答えると、さらに10の質問をしてきます。それを1年経験すると、彼の質問は9つに減ります。しかし1つ間違えれば、質問は20、30と増えていくのです」。』

・クックは日曜日の夜に電話会議を受け、午前3時45分にメールの返信を行い、毎朝午前6時までには自分のデスクについていた。そしてオフィスで12~13時間働き、家に帰ってからはもっと多くのメールに返信した。

・クックは中国に行き、16時間の時差をものともせずに3日間働き、午前7時にアメリカに戻り、8時30分からの会議に出席することは珍しいことではなかった。

・オフィスにいない時のリラックス方法は、ジムに出かけるかロッククライミングをすること。また、熱心なサイクリストであり、土日はよく自転車に乗っているため、そのときだけは同僚はメールを気にせずにすんだ。

・クックは自分の健康状態を非常に気にかけていて、混雑する時間帯を避けるため、他の人より早起きしてジムに行っている。

・『彼は仕事とスポーツを同等のものと見なして次のように語っていた。「ビジネスにおいては、スポーツと同様に、勝利のほとんどはゲームの開始前に決定されているのです。我々は、好機がやってくるタイミングを整えることはできませんが、準備を整えておくことはできるのですクックの準備へのこだわりは、アップルにおける彼の成功の鍵である

・クックの最初の12年間のキャリアは比較的目立たないものだったが、クックは匿名でいることを重要視し、アップルの秘密のカーテンの後ろに隠れたままでいた。

第6章 スティーブ・ジョブズの後を引き継ぐ

成功の兆し

・2012年12月、クックは「タイム」誌の“世界で最も影響力のある100人」に選ばれたが、この記事の中で、アップルの元副社長で、2003年からは取締役を務めていたアル・ゴア[ビル・クリントン大統領時代の副大統領]は、クックに関して次のように記している。

『「伝説的存在であるスティーブ・ジョブズの後を継いで、アップルのCEOになること以上に難しい挑戦を私は知らない。しかし、アラバマ造船所の労働者と主婦の間に生まれ、穏やかで謙虚、物静かだが熱心な性格のティム・クックは、少しも動じることがなかった。ジョブズの残したものを守り抜き、アップルの文化に深く浸っている51歳のクックは、主要な方針転換を円滑かつ見事に実施しながら、世界で最も価値ある革新的な企業を、さらなる高みへと導くことに成功した。彼は、その複雑な社内構造の管理から、新たな「とてつもなく素晴らしい」テクノロジーおよびデザインの飛躍的進歩を製品パイプラインに落とし込むことまで、アップルのあらゆる分野において、自らのリーダーシップを強く発揮している」。』

第7章 魅力的な新製品に自信をもつ

世界開発者会議―iOS8と健康部門への参入

・2014年の世界開発者会議(WWDC)で新しいiOS8の発表に加え、HealthKitと組み合わせた健康管理アプリによって、1兆ドル規模のヘルスケア業界(健康とウェルネス分野)への参入を発表した。

画像出展:「biotaware 

Apple ResearchKit, HealthKit and CareKit, Health App – what does it all mean?

英語のサイトですが、Googl翻訳に助けて頂き、それぞれの概要をお伝えします。

HealthKit(アイコンは左端)

HealthKitは、ヘルスケアアプリとフィットネスアプリを格納するために設計されたフレームワークであり、それらを一緒に使用してデータをすべて1か所で照合できます。

ResearchKit(アイコンは左から2番目)

ResearchKitは、医学研究専用に設計されたオープンソースソフトウェアフレームワークです。ResearchKitを使用すると、医学研究者はアプリを迅速かつ最終的に開発し、このフレームワークから開発されたアプリを通じて有意義で価値のあるデータを取得できます。

CareKit(アイコンは右端)

CareKitは新しいソフトウェアフレームワーク(2016年4月にリリース)であり、これにより、開発者は、医療を追跡して管理する医学に特化したアプリを構築できます。作成されたアプリは、患者が自分の病状をよりよく理解して自己管理できるようにすることを目的としています。これは、たとえば、服用した薬の効果を追跡するのに役立ちます。

クリック頂くと株式会社C2さまの”ResearchKit/CareKit”のサイトに移動します。

『C2では、ResearchKitアプリおよびCareKitアプリの開発をお手伝いします。企画、要件定義、画面設計、開発 (アプリ&サーバ)、Appストア配信までをワンストップでサポートいたします。』

なお、事例として、京都大学さま、順天堂大学さま、国立がん研究センターさま等が紹介されています。

クックの初の主要製品:Apple Watch

・『アップルの幹部たちは、ジョブズの死から数週間後、ブレーンストーミングを始めた。つまりこの時計のアイデアは、スティーブの死から間接的に生まれたものだと言うことができる。「最初のディスカッションは、スティーブが亡くなった数カ月後2012年初めに行われました」とアイブは語った。「それには時間がかかりました。我々がどこに行こうとしていたのか、企業としてどんな軌道に乗っていたのか、そして何が我々のモチベーションとなっていたのかを、皆でじっくりと考えたのです」。そうして生まれたのがApple Watchだった。』

・これをみてスティーブ・ジョブズの伝記に書かれていた文章を思い出しました。 

Stay Hungry, Stay Foolish.
Stay Hungry, Stay Foolish.

画像出展:「homestead 

『僕が病気になってある意味良かったと言えることは少ないけど、そのひとつが、リードが優れた医師とじっくりいろいろな研究をするようになったことだ。21世紀のイノベーションは、生物学[biology]とテクノロジーの交差点で生まれるんじゃないかと思う。僕が息子くらいのころデジタル時代がはじまったように、いま、新しい時代がはじまろうとしているんだ」

第8章 より環境に優しいアップル

クローズドループのサプライチェーン

・2016年3月、アップルはiPhone6を分解するリアム(Liam)というロボットを発表し、クローズドループのサプライチェーン(製品の製造をリサイクルされた原料のみで行うこと)に向けた大きな一歩を歩み出した。現在、2機のリアムはアメリカとオランダに1機ずつあり、11秒ごとにiPhoneを完全に分解している。

Liam
Liam

第9章 クックは法と闘い、勝利する

クックはプライバシーを強化する

・2018年4月に発表されたiOS11.3はプライバシー保護に強化を加えているが、このアップデートには、ユーザーの個人データがアップルのサービスによって収集されていることを明確に示すアイコンが追加された。アップルが個人情報を収集するのは、機能を有効にする必要があるときや、サービスを保護するとき、またはユーザー体験をパーソナライズする必要があるときだけである。

・アップデートしたユーザーへの通知は次のような説明がされていた。『「アップルはプライバシーを基本的人権だと考えているため、すべてのアップル製品はデータの収集と使用を最小限に抑え、可能な限りデバイス上で処理し、お客様の情報に対する透明性と管理を提供するよう設計されています」。』

第10章 多様性に賭ける

・クックは同性愛者である。この表明は2014年10月30日、ブルームバーグに掲載された「ティム・クックは語る」という感動的なエッセイの中で行われた。また、表明した理由など心に残るメッセージがある。

・『「私は自分自身がゲイであるおかげで、マイノリティであることの意味をより深く理解することができ、他のマイノリティグループに属する人々が日々直面している課題についても考えることができるようになったのです」。』

・『CBSの「ザ・レイト・ショー」に出演したクックは、自分がアメリカのセクシャアル・マイノリティの若者たちを助けることができると気づいてから、自らのセクシャリティを公表することを決めたと語った。「子どもたちは学校でいじめられ、その多くは差別され、両親から拒絶されています。私が何とかしなければならないと感じたのです」と彼は語った。「私は自分のプライバシーを非常に重視していましたが、他の人のために何かすることのほうが、それよりもはるかに重要と感じたのです。皆さんに私の真実を伝えたいと思いました」。』

第11章 ロボットカーとアップルの未来

未来の取り組み

・タイタンと呼ばれるプロジェクトは、Apple Carという自動運転車に関するもので2014年にクックが承認したプロジェクトである。そのきっかけはジョブズが、当時大きな話題となっていた、テスラモーターズの新たな電気自動車に興味をもった2008年にさかのぼる。(ジョブズは当時の自動車業界の状況から自動運転車を追及しない決断をくだしている)

・『2017年6月、クックはプロジェクト・タイタンについて初めて公に語り、ブルームバーグに対し、「自動運転システムに焦点を合わせている」ことを認めた。「これは、我々が非常に重要視する核となるテクノロジーです」。そしてクックはこう付け加えた。「我々は、これをすべてのAIプロジェクトの母であると考えています。おそらく現存するAIプロジェクトの中で、最も難しいものの1つです」。』

・タイタンの問題は製品開発だけでなく、雇用やマネジメント、そしておそらくビジョンにおいても失敗していると評価されており、軌道に乗っているのかいないのかさえ明らかになっていない。

Appleが自動運転車を開発していることは全く知らず、大変驚きました。しかし、その”タイタン”と呼ばれているプロジェクトは苦戦していることを知りました。

そこでネット検索してみると、【Patently Apple】という、Appleの知的財産(IP)や最新のニュースを発信するブログ(英語)があり、”タイタン”に関しても色々なニュースが掲載されているのを知りました。

Project Titan, Vehicle Technology 

第12章 アップル史上最高のCEO?

革新には時間がかかる

・クックのもとで発売された最初の新ジャンルの製品であるApple Watchは、当初は不信感をもって迎いられ、一笑に付されることもあり、初期の評価は面白いおもちゃではあるが、世界を変える製品ではないというものあった。しかし3年後、Apple Watchはスマートウォッチ市場で最大の勢力となり、スイスの時計業界全体よりも大規模となっていた。

・Apple Watchは、アップルの健康とウェルネスに対する熱意を形にしたプラットフォームであり、HealthKitやResearchKitのようなソフトウェアによって、着用者が自分の健康とフィットネスをモニターし、改善するのをサポートする手首装着型コンピューターの基礎を築いている。

こちらは、”お茶の水循環器内科さま”のサイトです。2020年9月7日に「アップルウォッチ外来」を開始されたとのことです。

『お茶の水循環器内科ではアップルの「家庭用心電計プログラム」「家庭用心拍数モニタプログラム」が医療機器承認を受けて、アップルウォッチ外来を開始しました。具体的には、不整脈の発作時の記録をもとに、不整脈の疑いの評価、さらなる精密検査の必要性、治療の必要性等を相談するものです。』

付記

「スティーブ・ジョブズとティム・クックを結びつけたのは何だったのだろうか?」。特に後者は最も知りたい“謎”でした。

この疑問に対する自分なりの答えは以下のようなものでした。

《この日本流の“伝統”は、クックの信念の支えとなった“倫理”とスティーブ・ジョブズが願っていた、“いつまでも続く会社”につながるキーワードではないか、ジョブズとクックを結んだ最も重要な価値観だったのではないかと思います。つまり、私が最も知りたかった“謎(二人を結んだもの)”とは、“伝統を重んじる心”だったというのが私なりの答えです。 

読み終わってみて、ジョブズとクックを結んだのは、もう一つ、幼少期の体験を通して”研ぎ澄まされた精神が潜在的に共鳴した”からではないかと思います。

労働階級の家で育ち、両親からの愛情に心をよせ、加えてジョブズは養子をバネに、一方、クックは差別の多い南部の田舎町に住み、自分自身がセクシャルマイノリティであったことをバネに、強い気持ちや揺るぎない信念(ジョブズは父親譲りの完璧な物づくり、クックは確固たる倫理感)を醸成したのだと思います。

大殿筋と腰痛3

強める! 殿筋
強める! 殿筋

著者:John Gibbons

監訳:木場克己

発行:2017年1月

出版:医道の日本社

「まとめ」は”大殿筋と腰痛1”を参照ください。

 

4.マッスルエナジーテクニック

●マッスルエナジーテクニックの有用性

・マッスルエナジーテクニックは1948年、Mitchell, F.L によって紹介された。

・緊張した拮抗筋を弛緩させ、殿筋群の能力を最大限に発揮させる目的で利用する。

・マッスルエナジーテクニック(METs)はオステオパシーの手技による検査法と治療法である。

・患者は施術者の指示通りに与えられる圧力に抵抗しながら正確な方向、位置に筋肉を動かす。

・マッスルエナジーテクニックの目的

-過緊張状態の筋肉の張りの正常化:一般的にマッスルエナジーテクニックはマッサージと併せて行うが、これは動作とマッサージを組み合わせたものといえる。

-筋力低下した筋肉の活性化:患者は施術者による圧に抵抗し筋を収縮させる(等尺性収縮)。例えば、患者は最大筋力の20~30%の力で5~15秒収縮させる。そして、10~15秒の休憩を挟みながら、5~8回繰り返す。

-筋肉が伸長するための準備:可動域に加え柔軟性を高めたい場合は収縮の強度を高める。例えば、40~70%の強度である。これにより、運動単位での神経発火は高まり、ゴルジ腱紡錘への刺激が増加してさらに筋肉は緩む。

-関節可動域の改善:マッスルエナジーテクニックとは筋肉の収縮と弛緩を繰り返すことによって、関節可動域の改善を図る方法である。

●生理学からみたマッスルエナジーテクニックの効果

・マッスルエナジーテクニックの効果

-等尺性収縮後の筋伸長(Post-isometric relaxation:PIR)

-相反抑制(Reciprocal inhibition:RI)

・マッスルエナジーテクニックに関係する受容器

-筋紡錘:筋肉の伸縮の度合いや速度を感知

-ゴルジ腱紡錘:腱にかかる張力の変化を感知

・等尺性収縮後の筋伸長(PIR)と相反抑制(RI)の流れ

等尺性収縮後の筋緊張(PIR)と相反抑制(RI)
等尺性収縮後の筋緊張(PIR)と相反抑制(RI)

画像出展:「強める!殿筋」

 

 

-等尺性収縮が維持されている時、脊髄から筋肉への神経的フィードバックメカニズムを通してPIRが起こり、収縮した伸筋(大腿四頭筋)を減少させる[遠心性のピンク色のライン]。この緊張の減少は約20~25秒持続する。

-緊張が減少している約20~25秒の間、関節可動域内を容易に動かすことができる。

-拮抗筋である屈筋(ハムストリングス)は収縮を抑制する遠心性の神経インパルス[遠心性のオリーブ色のライン]により筋の収縮は抑えられる。

5.原因としての拮抗筋 ― 腸腰筋、大腿直筋、内転筋群の重要性

・Sherringtonの法則における相反抑制によると、過緊張状態にある拮抗筋は反射的に主動筋の働きを抑制している。このため、拮抗筋が緊張した状態にある場合、筋力低下した筋肉の強化の前に、まずは筋肉の緊張状態や伸長の度合いを正常に戻すことが優先される。

痛みによる抑制効果で起こる大殿筋や中殿筋などの活動パターンのアンバランスは、腰骨盤部の姿勢コントロールに影響を与え、大腿二頭筋、腸腰筋、大腿筋膜張筋、内転筋群を活発にする。腸腰筋、大腿筋膜張筋は大殿筋の拮抗筋。強力な外転筋の中殿筋[前部線維・中部線維]の拮抗筋は内転筋群である。

●腸腰筋の解剖学

〔起始〕

大腰筋:全腰椎の横突起。胸椎~腰椎の椎体。それぞれの腰椎椎体上の椎間板

腸骨筋:腸骨窩の上部2/3。腰仙骨、仙腸関節前靭帯

〔停止〕

大腿骨小転子

〔作用〕

股関節の主要屈筋と股関節外旋の補佐。停止部位からの働きで、背臥位から座位への変位時の体幹の屈曲

〔支配神経〕

大腰筋:腰神経叢(L1-L4)腹枝

腸骨筋:大腿神経(L1-L4) 

骨盤内の筋
骨盤内の筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

:大腰筋

:腸骨筋

骨盤内の筋(起始:停止)
骨盤内の筋(起始:停止)

画像出展:「人体の正常構造と機能」

左の図:筋の付着部を図示しています。

●色:大腰筋

●色:腸骨筋

 

 

下肢帯筋
下肢帯筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

:大腰筋

:腸骨筋

 

●大腿直筋の解剖学

〔起始〕

下前腸骨棘、寛骨臼上縁

〔停止〕

膝蓋骨、膝蓋靭帯を経て脛骨粗面

〔作用〕

膝関節における下腿の伸展、股関節においての大腿の屈曲。体幹の屈曲時、腸腰筋の補助。歩行時の踵接地時の膝関節の伸展の保持

〔支配神経〕

大腿神経(L2-L4) 

大腿前面(伸筋)の筋
大腿前面(伸筋)の筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

:大腿直筋

 

大腿の伸筋と屈筋
大腿の伸筋と屈筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

:大腿直筋

 

●内転筋群の解剖学

〔起始〕

恥骨枝前部。大内転筋は座骨粗面に起始を持つ

〔停止〕

大腿骨内側

〔作用〕

股関節の内転と内旋

〔支配神経〕

大内転筋:閉鎖神経(L2-L4)、座骨神経(L4、L5、S1)

短内転筋:閉鎖神経(L2-L4)

長内転筋:閉鎖神経(L2-L4)

大腿管、大腿三角、内転筋管
大腿管、大腿三角、内転筋管

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

大腿の内転筋
大腿の内転筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

大腿中央部の断面図
大腿中央部の断面図

画像出展:「人体の正常構造と機能」

大腿部中央の断面図です。

 

6.膝や足首の痛みを引き起こす大殿筋や中殿筋の問題

●膝の解剖学

・『患者が痛みを訴えているとき、その痛みが「原因」なのか、または純粋な「症状」なのかどうかを見極めなければならない。』

●腸脛靭帯摩擦症候群を引き起こす中殿筋と大殿筋

立脚期は同側の外転筋群、内転筋群、反対側の腰方形筋が一体となった働きをしている(側面スリング)。このとき、内転筋群が緊張していると、相反抑制により拮抗筋は伸ばされ機能低下をおこす。この場合、弱った外転筋群の代わりに、立脚期において役割を補完する大腿筋膜張筋の緊張が高まり、その結果、膝外側、大腿骨外側上顆で摩擦が起こりやすくなる。 

側面スリング機構
側面スリング機構

画像出展:「強める!殿筋」

腰方形筋”を見落としがちなので注意したいと思います。

 

 

大殿筋と大腿筋膜張筋は腸脛靭帯につながり、ともに歩行周期における立脚期における安定性に関わっている。大殿筋が抑制されると大腿筋膜張筋が優位となり、大腿骨外側上顆で前側に引っぱり、摩擦症候群につながる。

●膝蓋大腿疼痛症候群を引き起こす中殿筋

・膝蓋大腿疼痛症候群は、膝蓋軟骨軟化症、膝前部痛、マルトラッキング(膝蓋骨の動きを外側に偏らせる)、膝蓋後部痛などがある。これらはいずれも膝蓋大腿関節が痛みを発している状態であり、問題は大腿骨滑車構の関節軟骨内、または膝蓋関節内軟骨内(もしくはその両方)にある。

・膝蓋骨の滑車溝上での動きを変化させるものが、膝蓋大腿疼痛症候群(PFPS)の原因となる。

膝関節において内側広筋は特殊である。この意味は膝関節の痛みや炎症によって簡単に機能が抑制されてしまうということである。大腿直筋が抑制される関節液の増加量(60ml~)に対し、内側広筋はわずかな増加量(10ml~)で抑制されてしまう。このため内側広筋のリハビリは想像以上に難しく、腸脛靭帯の緊張増加が外側筋支帯に影響を与え、マルトラッキングを引き起こす問題とともに、膝の痛みの除去を困難なものにしている。

7.腰痛を引き起こす大殿筋や中殿筋の問題

●腰痛と殿筋群の関係性

・例えば左中殿筋が弱いと、体重がかかった時に骨盤は右側に傾く。すると腰椎は左側に傾き、椎間板は神経根だけでなく、左側の椎間関節に負荷がかかり痛みにつながる。また、左方向への傾きにより右側の腸腰靭帯や椎間関節の関節包が引き延ばされ、これもまた痛みの原因となる。また、左中殿筋が弱いと反対側の腰方形筋がより強く働き、補完しようとする。これが長期間続くと腰方形筋は短縮してトリガーポイントを形成し痛みにつながる。

・一定時間の歩行またはランニングで腰方形筋が拘縮し痛みが起こる患者に腰方形筋のトリガーポイント(ファッシア)のリリース等により腰方形筋を正常化することで痛みはなくなるが、歩いたり走ったりすることにより、元に戻ってしまうことがある。これは中殿筋の筋力低下により、対側の腰方形筋が頑張り過ぎたためである。

・大殿筋の拮抗筋である腸腰筋、大腿直筋や内転筋群の緊張は、歩行周期における股関節の伸展を制限する。それを代償するために同側の寛骨は前傾し、対側の寛骨は後傾する。ハムストリングス、とりわけ大腿二頭筋は、大殿筋の筋力低下で起こる寛骨の前傾の増加のメカニズムの一旦を担っている。

・歩行の間、仙骨と腰椎では自然な回旋の動きが起こるが、寛骨の回旋が増加しているとき、仙骨と腰椎は動きの代償を強いられる。腰椎と仙骨(第5腰椎と第1仙椎)の間には椎間板があり、この椎間板にねじりの動きが加えられる。これはスポンジから水を絞り出すようなもので、この種の負荷は椎間板にとって好ましいものではない。

●胸腰筋膜と大殿筋の関係性

・胸腰筋膜は厚く、強い靭帯で構成された結合組織で、体幹、股関節、そして肩の筋肉を覆い、つなげている。

正常な大殿筋は胸腰筋膜を引っぱり、一定の緊張を保つ役割を持っている。

・大殿筋は胸腰筋膜を通して反対側の広背筋とつながっており、歩行時において反対側の筋肉と作用し合い(後部斜角スリング)、胸腰筋膜の緊張を高める。この機能は体幹の回旋や下部腰椎、仙腸関節の安定に重要な役割を果たす。また、腰椎の安定と関係する深部筋(腹横筋や多裂筋など)との同時収縮も起こっている。これらの筋肉は四肢の動きに併せて同時収縮する。

仙腸関節の力拘束に関係する仙結節靭帯との直接的または間接的つながりから、腹横筋、多裂筋は大殿筋の収縮に反応する。

大殿筋の筋力低下には、胸腰筋膜の緊張を保つ機能を低下させ、それを補完するために反対側の広背筋や同側の多裂筋が過度に活発になるというメカニズムが存在する。 

ご参考:臨床家のための トリガーポイントアプローチ

こちらの本は、国内でトリガーポイントを広めてこられた黒岩共一先生の著書です。発行は1999年と新しくはないのですが、刺鍼方法などもとても詳しく解説されているためご紹介させて頂きます。

トリガーポイントアプローチ
トリガーポイントアプローチ

著者:黒岩共一

出版:医道の日本社

発行:1999年6月

 

 

『トリガーポイントは①仙骨後面の胸腰筋膜起始部、②仙骨外縁部、③上後腸骨棘外縁起始線維の上方1.5cmの硬結部および腸骨から大転子にかけて走行する上部線維の外側上縁部、④薄く一定の幅を持った仙結節靭帯起始線維に形成頻度が高い。』 

大殿筋のトリガーポイント
大殿筋のトリガーポイント

画像出展:「トリガーポイントアプローチ」

 

 

 

 

①仙骨後面の胸腰筋膜起始部のトリガーポイント

・このトリガーポイントは個体差が大きい。正中線近くから肥大して触知される場合もあれば、仙骨外縁近くにあって②のトリガーポイントと一体化されるものまで様々である。特徴は大変硬く索状[骨格筋あるいは筋膜内にあるひも状のしこり]であり、体幹後屈(伸展)で最も短縮痛が誘発されやすい点は共通である。

①と②の下方に形成されたトリガーポイントが尾骨の痛みとして感じられることがある。

・このトリガーポイントに対する刺鍼は、押し手の先端で硬結をしっかり挟んで保持し、骨に当たるまで刺入する。骨の直前に1mm以下の厚さで軟骨様の硬結を貫き、得気する。

②仙骨外縁部のトリガーポイント

激痛にして所在が不明な腰痛の成因になる。

短縮痛、圧痛が誘発されるため仰臥位になれないほど痛む場合もある。

・腸骨筋のトリガーポイントも活動すると、全く横になることができない程に痛む場合がある。

・外縁部のトリガーポイントは石のように硬く、鍼を大殿筋に貫通させて大・小座骨孔に刺入させることは難しい。

・慢性の仙骨外縁深部の痛みでは、仙骨外縁から指の太さで数本の索状硬結が起始する場合と1~2mm径の索状硬結が多数起始し、触知される場合がある。ただし、いずれも2cmくらい外側へ走行して触知不能になるかもしくは消失する。また、これらの索状硬結がなく、仙骨外縁を厚さ1~2mmの硬結が覆う場合もある。この膜上硬結は軟骨(キャラメル)様の刺鍼感があり、鍼はゆっくりしか刺入できない。

③上後腸骨棘外縁起始線維の上方1.5cmのトリガーポイントおよび腸骨から大転子にかけて走行する上部線維の外側上縁部のトリガーポイント

・前者のトリガーポイントは、上後腸骨棘外縁部に置いた母指を内側奥へと沈めると母指頭大の弾力性に富んだ硬結として触知される。関連痛は大転子までで、周囲近辺に放散する。刺鍼は圧迫感を感じ取れる方向すなわち内側上方か内側下方へ向けて行う。

・後者のトリガーポイントは4分の1の円弧を描く径の大きい索状硬結として触知される。この硬結は浅層にあるので、軽めの触察の方が判りやすい。刺鍼にはコツが必要であるが初級者であれば刺鍼転向法を繰り返して得気(「ああっ!それです」)を得られなくてはならない。硬結は太く長いので5~6本の刺鍼が必要になる。

④薄く一定の幅を持った仙結節靭帯起始線維のトリガーポイント

・この硬結は表層に薄く広く分布する。従って筋線維走行に直行するやさしい触察で認知できる。触察圧が強すぎると見落としやすい。

・このトリガーポイントは殿部から大腿への移行部に重なる。

遠隔部に放散することは少なく、痛みの箇所が判然としない腰痛ではこのトリガーポイントを疑ってみた方が良い。

大殿筋や 脊柱起立筋にトリガーポイントがある場合の座り方
大殿筋や 脊柱起立筋にトリガーポイントがある場合の座り方

画像出展:「トリガーポイントアプローチ」

大殿筋や 脊柱起立筋にトリガーポイントがある場合の座り方です。

 

 

 

大殿筋と腰痛2

強める! 殿筋
強める! 殿筋

著者:John Gibbons

監訳:木場克己

発行:2017年1月

出版:医道の日本社

「まとめ」は”大殿筋と腰痛1”を参照ください。

 

 

 

1.大殿筋

●大殿筋の解剖

〔起始〕

後殿筋線の後方とその上部、後部の骨の一部

仙骨・尾骨の背面の近接部。仙結節靭帯

脊柱起立筋の腱膜

〔停止〕

深層:大腿骨の殿筋粗面

浅層:大腿筋膜の外側部から腸脛靭帯

〔作用〕

股関節の内転の補助。腸脛靭帯を通しての伸展時の膝の安定性向上

上部線維:股関節の外旋と外転の補助

下部線維:股関節の伸展と外旋(ランニング時や、座位から立位への移行の際の力強い伸展)。体幹の伸展

〔支配神経〕

下殿神経(L5.・S1・S2)

●大殿筋の機能

股関節を外転、外旋させることで膝関節のアライメントの調整を助ける(階段を上がるときなど)。

仙腸関節を安定させる(力拘束を担う筋肉の一つである)。

-大殿筋はハムストリングスとともに、歩行周期において重要な役割を担っている。踵接地の直前、ハムストリングスが活性され、仙結節靭帯を通して仙腸関節への圧力が高まる。このつながりが、歩行中の荷重時の仙腸関節の安定を助ける。

-大殿筋線維の一部は、仙結節靭帯と胸腰部の筋膜に付着している。この筋膜につながる筋肉の一つが広背筋である。大殿筋は反対側の広背筋と胸腰部の筋膜を通してつながっている(後部斜角スリング)。このスリングは、歩行周期における片足立ち時の体重のかかった仙腸関節への圧力を高める。

-大殿筋は後部斜角スリングとのつながりを通して、立脚前期から中期にかけての仙腸関節の安定性に大きく寄与している。 

後部斜角スリングと広背筋とのつながり
後部斜角スリングと広背筋とのつながり

画像出展:「強める!殿筋」

●大殿筋の機能不全と筋力低下

大殿筋を神経的に抑制させる主な筋肉は、股関節の屈筋に分類される腸腰筋、大腿直筋、内転筋群がある。これらの屈筋が緊張し短縮すると大殿筋の筋力は低下する。

大殿筋の機能不全や筋力低下は、後部斜角スリングの有効性を低下させ、これが仙腸関節の障害につながる。また、これらの大殿筋の問題を補うため、反対側の広背筋(上腕骨と肩甲骨に付着)を緊張させる。その結果、肩関節が影響を受ける。

・大殿筋の機能不全や筋力低下によって、ハムストリングスは仙腸関節の安定や骨盤の位置を維持するために、筋肉を常に緊張状態にする。そして、このハムストリングスの緊張状態が続き、慢性化すると故障の原因となる。

●腰痛と大殿筋

腰痛患者の50~60%は、腰痛の根本的な原因が大殿筋にあると考えられる。 

各症状の原因と考えられる大殿筋の状態
各症状の原因と考えられる大殿筋の状態

画像出展:「強める!殿筋」

”各症状の原因と考えられる大殿筋の状態”

2.中殿筋

●中殿筋の解剖

〔起始〕

腸骨稜の外側、腸骨稜の下部、前殿筋線と後殿筋線の間

〔停止〕

大転子尖端の外側面

〔作用〕

上部線維:股関節の外旋と外転の補助

前部線維:股関節の内旋と屈曲の補助

〔支配神経〕

上殿神経(L4・L5.・S1)

●中殿筋の機能

・踵接地から立脚期において骨盤維持という重要な役割を担っている。

・ランニングに関わる故障を診るときに、中殿筋を検査する必要がある。

・オーバーユースによる下肢や体幹の故障を訴える患者の多くが中殿筋の機能低下を起こしている。

・中殿筋は前部、中部、後部と3つの部位に分けることができ、それが集まってできた幅広い腱が大腿骨大転子につながる。

中殿筋後部線維は大殿筋とともに、股関節の外旋をコントロールし、歩行周期の開始時に股関節、膝、下肢のアライメントを整える役割を担っている。

・中殿筋の機能低下はシンスプリント(脛骨内側過労性症候群)、足底筋膜炎、アキレス腱障害など、慢性的な過外反に関連する故障のリスクにさらされている。 

各症状の原因と考えられる中殿筋の状態
各症状の原因と考えられる中殿筋の状態

画像出展:「強める!殿筋」

”各症状の原因と考えられる中殿筋の状態”

殿部の筋
殿部の筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

左:浅層(大殿筋)

右:深層(中殿筋/小殿筋)

下肢帯筋
下肢帯筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

大殿筋は上から5番目です。

3.筋不均衡と筋膜スリング

・筋不均衡が生じる過程のどこかで殿筋が関係している。

・腸腰筋は常に収縮させられる筋肉であるが、不自然に収縮した状態を長時間強いられるとついにはその状態で固まってしまう。『腸腰筋の緊張は、ジグソーパズルのピースの一つであり、患者の訴える症状の重要な手がかりとなる。』

●姿勢筋と相動筋

・姿勢筋は屈筋によって構成されている。

・相動筋は伸筋によって構成されている。

姿勢筋・相動筋
姿勢筋・相動筋

画像出展:「強める!殿筋」

姿勢筋と相動筋
姿勢筋と相動筋

画像出展:「強める!殿筋」

・姿勢筋

-姿勢筋は負荷がかかると短縮する傾向を持っている。また、重力に対抗する役割を担い、姿勢保持と密接に関連している。

-姿勢筋は遅筋が優勢であり、多くは細い運動ニューロンにより支配されている。このため興奮閾値が低く、神経インパルスが相動筋より早く姿勢筋に伝わる。これにより、姿勢筋の持続的緊張状態は相動筋の働き(収縮)を阻害する。 

ゴースト血管をつくらない33のメソッド
ゴースト血管をつくらない33のメソッド

ブログ“ゴースト血管”では次のような記述がありました。『筋肉や体の動きによって、静脈内の血液の流れは変わる』。つまり、収縮を阻害され機能低下した筋肉の血流は悪化し虚血になる。そして血流を高めようとする発痛物質の作用で痛みが起こる。これが痛みの原因の一つと考えます。

 

・相動筋

-相動筋の主な機能は「動かすこと」であり、姿勢筋より表面にあって多関節にわたる傾向にある。

収縮して硬くなった筋肉は関連する相動筋の働きを阻害するが、その結果、相動筋は弛緩し筋力が低下する。腸腰筋[腸腰筋=腸骨筋&大腰筋]と殿筋の関係性はこれにあたる。

Study channel"というサイトに、「大腰筋と腸骨筋の機能と役割」というとても興味深いことが書かれていました。股関節屈曲の主動作筋は腸骨筋とのことです。

 

●筋不均衡の影響

・『筋不均衡を放置すれば、身体は不均衡を補完するための姿勢になり、筋骨格系への負担を増やし、組織の損傷、故障へとつながる。すると姿勢筋は縮まり、相動筋が弛緩して負のサイクルに入ることになるのだ。

・『筋肉が機能的でない場合や繰り返し負荷をかけられるとき、姿勢筋は短縮し、相動筋が弱まって「長さ」と「張り」の関係性に変化が起こる。最終的には筋肉が軟部組織や骨格の位置を変えることで、姿勢に直接影響を及ぼす。 

筋骨格系悪化の負のサイクル
筋骨格系悪化の負のサイクル

画像出展:「強める!殿筋」

”筋骨格系悪化の負のサイクル”

●体幹筋との関係

・骨盤、正確には仙腸関節は、安定性に影響を与える2つの主な要因である「形態拘束」と「力拘束」を有している。

・形態拘束

-寛骨(腸骨、仙骨、恥骨で構成される)と仙骨の形状(腸骨の間に仙骨がくさび石のようにはまる)により可能になる。

-平らな関節平面は関節面と平行な力に対しては弱いが、仙腸関節はその弱点を補うための3つの特長がある。それらは、仙骨が両側から寛骨により押さえされていること、他の滑膜関節とは異なり関節軟骨の表面が不規則でデコボコしていること、軟骨に覆われた骨部が関節の隆起線や溝にはまっていることの3つである。

・力拘束

形態拘束は不完全なため関節面の安定を図る必要があるが、これを行うのが、靭帯筋肉筋膜といった組織である。

・仙腸関節の安定性

-靭帯、筋肉、筋膜といった組織が協力して力拘束を担うシステムは、総じて「骨関節靭帯機構」と呼ばれている。

大殿筋の一部は胸腰部の筋膜だけでなく、仙結節靭帯ともつながっており、仙腸関節を安定させるのに重要な機能を果たしている。

-大殿筋は胸腰筋膜を通して反対側の広背筋につながり、後方斜角筋膜スリングを形成する。

-大殿筋の筋力低下や神経発火パターンの問題は二次的な問題として、反対側の広背筋の過活動を引き起こす。 

後部斜角スリングと広背筋とのつながり
後部斜角スリングと広背筋とのつながり

画像出展:「強める!殿筋」

”後部斜角スリングと広背筋とのつながり”

・仙骨の前傾(ニューテーション)と後傾(カウンターニューテーション)

-ニューテーションとは仙骨底の前下方(前傾)、カウンターニューテーションとは仙骨底の後上方(後傾)を指す。

仙骨の前傾(ニューテーション)と後傾(カウンターニューテーション)
仙骨の前傾(ニューテーション)と後傾(カウンターニューテーション)

画像出展:「強める!殿筋」

左:仙骨の前傾

右:仙骨の後傾

前傾ができないと片足時に不安定になる。

後傾は仙腸関節を緩めることで、寛骨の前方回旋と股関節の伸展を可能にする。[仙腸関節が緩まないと寛骨の前方回旋と股関節の伸展が抑制される]

後傾ができないと、腰部骨盤部が屈曲することになり、腰椎の不安定性につながる。

・力拘束靭帯

-力拘束を担う靭帯は仙骨から坐骨につながる仙結靭帯と、第3仙椎と第4仙椎から上後腸骨棘につながる後仙腸靭帯がある。 

力拘束靭帯
力拘束靭帯

画像出展:「強める!殿筋」

 

-靭帯はつながっている骨が動いて引っ張られるか、その骨についている筋肉が収縮することで関節への圧力を高める。[仙結節靭帯の張力は腸骨が仙骨に対して後方に動く前傾、または大腿二頭筋、梨状筋、大殿筋、多裂筋が収縮することで増大する〔大殿筋や梨状筋の機能が低下している場合、多裂筋や大腿二頭筋に負荷が集中するのではないか?〕]

-後傾を抑制する主な靭帯は、長後仙腸靭帯と後仙腸靭帯である。[後仙腸靭帯は長後仙腸靭帯と短後仙腸靭帯に分かれる。前者は仙腸関節の関節包後面を補強する靭帯で、仙骨の外側仙骨稜と下後腸骨棘をつなぐ。後者は短後仙腸靭帯を覆うようにその外側上方の靭帯で、仙骨の外側縁下部と上後腸骨棘をつなぐ]

仙腸関節が緩い場合、特に後傾に関しては水平または垂直にかかる負荷に対して骨盤が不安定になる。

-後仙腸靭帯は痛みを発することが多く、上後腸骨棘の直下で触診できる。

骨盤の安定性は靭帯だけでなく、筋組織がサポートしている。腰部、骨盤の安定に貢献している筋肉は、インナーマッスル(体幹)とアウターユニット(筋膜スリング機構)に分かれる。インナーユニットは腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋によって構成されている。アウターユニットはいくつかの筋機構(スリング)によって構成されており、インナーマッスルとアウターユニットが構造的、機能的につながることで身体全体の安定性や動作に担っている。

・フォースカップル(偶力)

定義:フォースカップル(偶力)とは、ある物体に対して同等の力が逆の方向に働き、純粋な回旋が起こっている状態のこと。

-筋不均衡によって起こる骨盤の位置の変化は、その他のキネティックチェーン(運動連鎖)に影響を与える。骨盤の適切な位置やアライメントは、いくつかのフォースカップルが関係している。  

骨盤フォースカップル(前傾)
骨盤フォースカップル(前傾)

画像出展:「強める!殿筋」

 

骨盤フォースカップル(後傾)
骨盤フォースカップル(後傾)

画像出展:「強める!殿筋」

 

骨盤フォースカップル(側方傾斜)
骨盤フォースカップル(側方傾斜)

画像出展:「強める!殿筋」

 

●インナーユニット:体幹

定義:静的安定とは、構造のアライメントを崩すことなく長時間一つの姿勢を保つ能力。

インナーユニット:体幹
インナーユニット:体幹

画像出展:「強める!殿筋」

 

・腹横筋

-腹筋の中で最深部に位置する。

-腸骨稜、鼡径靭帯、腰椎部の筋膜、6つの下部肋骨の軟骨部に起始を持ち、剣状突起、白線、恥骨で停止する。

-腹横筋の主な作用は腹壁を引っ張り、腹部を圧縮すること。脊椎を屈曲するわけでも、伸展するわけでもない。

直接側屈する役割は持たないが白線を安定させることで、体幹前側と横側の筋肉(内腹斜筋、外腹斜筋)の働きを支えている。

-吸気中、腹横筋が横隔膜の腱中心を引き下ろし、平らになると、胸腔は縦に伸び、腰部の多裂筋は圧縮される。

・多裂筋

-第5腰椎より下にわたる筋線維は腸骨と仙骨に付着する。

-多裂筋は連続する細かい筋肉で、表面部のものと深部のものに分けることができる。

-腰椎の屈曲や腰椎間にかかる剪断力に抵抗することに加え、腰椎の安定のために重要な伸展の役割を担っている。

-体重を椎骨全体で支えることで、椎間板への負担を減らす役割も持つ。

表面部分の多裂筋は脊柱を真っすぐに保つ働きを持ち、深部の多裂筋は脊椎の全体的な安定性に貢献している。

-『Richardson, C. らの研究(1999)は、腰部多裂筋と腹横筋が腰痛の安定性の要であることを証明した。これらの筋肉が胸腰筋膜とつながり、Richardson, C. らの言う「腰痛対策の自然な深部筋肉コルセット」(a natural, deep muscle corset to , deep muscle corset to protect the back from injury) となる。』

ご参考:Richardson, C., Jull, G., Hodges, P., and Hides, J. 1999. Therapeutic Exercise for Spinal Segmental Stabilization in Low back pain: Scientific Basis and Clinical Approach, Edinburgh: Churchill Livingstone. (翻訳書 「脊椎の分節的安定性のための運動療法:腰痛治療の科学的基礎と臨床」 エンタプライズ,2002)

 

左をクリック頂くと、PDF4枚の資料がダウンロードされます。こちらの論文にも骨盤と多裂筋の関係が書かれています。

〔目的〕体幹と骨盤の動きを必要とする座位に着目し、骨盤の傾斜角度の違いが背筋群の筋活動に与える影響を検討した。

〔対象〕腰痛の既往のない健常成人男性10名。

〔方法〕測定肢位を骨盤軽度後傾位(以下後傾位)と骨盤軽度前傾位(以下前傾位)とし、課題を安静座位と腹部引き込み運動とし、肢位と課題の組み合わせの4 条件下での腰部脊柱起立筋と腰部多裂筋の筋電図を導出した。課題間の比較は、一元配置分散分析後,多重比較検定を実施した。

〔結果〕安静座位と腹部引き込み運動の課題において、多裂筋の筋活動は後傾位に対し前傾位で有意に増加したが、脊柱起立筋の筋活動に有意な差はなかった。これは骨盤前傾作用として多裂筋の筋活動が増加したと考える。

〔結語〕前傾位は脊柱起立筋の筋活動を有意に増大することなく、選択的に多裂筋の筋活動を高めることができる姿勢と考える。

-腰仙部の多裂筋は収縮すると、後方に胸腰筋膜に沿って広がる。この作用は腹横筋が収縮し、胸腰筋膜を脊柱起立筋と多裂筋に引き寄せることで強まり、体幹の安定性を高める。

錐体筋
錐体筋

画像出展:「強める!殿筋」

 

●アウターユニット:統合筋膜スリング機構

・アウターユニットの力拘束は後縦、側面、前面、後斜という、4つの筋スリング機構から成り立っている。  

後縦スリング機構と側面スリング機構
後縦スリング機構と側面スリング機構

画像出展:「強める!殿筋」

 

前斜スリング機構と後斜スリング機構
前斜スリング機構と後斜スリング機構

画像出展:「強める!殿筋」

 

●アウターユニット:統合筋膜スリング機構

・アウターユニットの力拘束は後縦、側面、前面、後斜という、4つの筋スリング機構から成り立っている。  

これらの筋膜スリングによる力拘束で骨盤は安定する。これらのうちのどれかが弱いと、機能不全が起こり腰痛につながる。

・スリングには起始停止という考えはなく、力を伝導するのに応じたつながりという考え方に基づく。

・スリングとは、すべてをつなげている一つの筋膜機構内の各部分を指す。特定動作のスリングはあくまでその一つの大きな筋膜機構の一部である。

スリングのどの部分で動きが制限され安定性に支障を来しているのかを理解するために、筋肉の機能不全(筋力低下、不適切な活動、緊張)の箇所を見極め、治療することが重要である。

アウターユニットの4つの機構が効果的に機能するためには、インナーユニットによる関節の安定性が必要である。

-アウターユニットが機能するために必要な身体の安定性をインナーユニットが十分につくられていない場合、筋肉のアンバランス、関節の故障、パフォーマンスの低下につながる。

●悪い姿勢

・痛みと攣縮[痙攣性の筋収縮]のサイクル

-『姿勢の問題による初期の痛みの原因は、虚血である。筋肉への血流量は筋収縮の程度に反比例し、50~60%の収縮で血液量はほぼ0にまで落ちる。慢性的に10%を超える等尺性収縮[一定の姿勢で動かない抵抗に対し筋肉を収縮させること]の状態だと、身体が恒常性を保てなくなるという研究もある。

頭の重さは体重の約7%(肩と腕が約14%)である。例えば体重80㎏の人であれば、頭の重さは5~6㎏程度である。もし頭と肩が理想的な姿勢から前方に突出した場合、頚部伸筋の過活動につながり、結果として血流が低下する。慢性的な等尺性収縮は筋肉に嫌気性代謝を強いることになり、乳酸やその他の痛みの原因となる物質[ブラジキニン、プロスタグランジンなど]を増加させる。適切な休息を取らないと、すでに虚血状態の筋肉の反射性収縮が始まる。そうなると、痛みと攣縮のサイクルという悪循環に陥ることとなる。』 

痛みと攣縮のサイクル
痛みと攣縮のサイクル

画像出展:「強める!殿筋」

 

大殿筋と腰痛1

思ったように施術の効果が上がらない患者さまがおいでです。腰痛に加え、お尻(殿筋)から太ももの裏(ハムストリングス、特に大腿二頭筋)の痛みも訴えられていました。

腰痛の場合、殿筋に関しては腰痛との関連が強いとされる“中殿筋(小殿筋)”や坐骨神経との関係が深い“梨状筋”に対しては、ほぼ定番のように刺鍼しています。しかしながら、今回は結果が出ていませんでした。

「これは、もしかして大殿筋なのかなぁ?」との思いから、ネット検索してみると、腰痛とお尻の筋肉に関するサイトが数多く出てきました。以下はその一部です。

画像出展:「TENTIAL」

 

画像出展:「腰痛トレーニング研究所

画像の方をクリック頂くと、“サライ.jp”にある川口陽海先生の“腰痛改善教室”のページに移動します。

なお、川口先生のサイトに掲載されている“トリガーポイントの図”ですが、“The Trigger Point & Referred Pain Guide”というサイトには全部で 111の筋肉のトリガーポイントが紹介されています。(Googleの右上の“翻訳”が便利です)

トリガーポイントマニュアル
トリガーポイントマニュアル

こちらのイラストは、「トリガーポイントマニュアル」という本に掲載されてるものです。初版発行が1992年と古いため内容的には一部見直しが必要な個所もあるようですが、まさに“トリガーポイント”のバイブル的存在の本です。ちなみに、私が見たときは、ヤフーオークションで全巻4冊セットが“¥150,000即決”として出品されていました。

なお、これらの本は国会図書館や都立中央図書館で閲覧、コピーが可能です。実は、私も10年近く前に腰痛に関係しそうな筋を中心にせっせとコピーを取っていました。

そこで、今回はそのコピーを引っぱり出し、興味深い箇所をご紹介させて頂きます。 

画像出展:「Amazon

症候

●ほとんどの大殿筋TrPs(トリガーポイントのことですが、イラストに合わせ“TrP?”を使っています)から放散した痛みは、特に前方屈曲姿勢で上り坂を歩くことにより悪化する。

●坐骨結節近位のTrP2をもつ患者は、座った時にしばしば不快と不安を感じる。

TrP3(坐骨結節内下方)から放散した尾骨痛を訴える患者は、長時間座っている間に、局部圧痛およびTrPsの圧迫で生じた関連痛を避けようと、もじもじ身をくねらせることもある。

●坐骨結節を被う結合組織と皮膚は、長時間の直立位の後に不快な虚血状態となる。

●圧迫を回避するための動きに伴う荷重はTrP2を増加させる。

●大殿筋のTrPsは着座姿勢を避ける。椅子は快適なものではない。

●鑑別診断(大殿筋・中殿筋・小殿筋) 下図8.5参照

大腿部への痛みの放散は、大殿筋のTrPsは大腿部近位の数cm程度である。一方、中殿筋のTrPsでは大腿中間部に痛みを放散することもある。また、小殿筋のTrPsは膝の下に痛みを放散する。

・大殿筋の緊張は股関節の屈曲を制限し、中殿筋、小殿筋は股関節の内転を制限する。

・大殿筋のTrPsによる放散する圧痛は、下層の中殿筋、小殿筋のTrPsの検出を難しくさせる場合がある。

大殿筋は仙骨に付着する筋の一つで、通常、仙腸関節のずれがTrPsの活性化の原因になる。

トリガーポイントの活性化と永続化

●転倒を防ごうと激しい筋収縮を維持するときにTrPsの活性化が起きやすい。

●片側の殿筋を直接強打する衝撃は大殿筋のTrPsを活性化するおそれがある。

●前屈みで長時間歩くことは大殿筋を過負荷にする。

●大腿を深く曲げ、横向き眠ることは上層の大殿筋を過度に伸展させ、TrPsを活性化する。

●大殿筋のTrPsを永続化する代表的な運動は股関節の伸展に加え、腰椎を過伸展させる水泳(クロール)である。

頻繁に屈んだり、赤ちゃんを囲いから外に持ち上げるような反復動作は大殿筋のTrPsを永続させる。

同じ姿勢で長時間座っていることは大殿筋のTrPsを永続させる。

関連のトリガーポイント

中殿筋後部は大殿筋TrPsと関連してTrPsが最も発生しやすい。また、小殿筋後部およびハムストリングス(膝屈曲筋群)は、中殿筋後部の次に影響を受けやすい筋である。

●大殿筋の拮抗筋である腸腰筋、大腿直筋にもTrPsが生じることもある。 

大殿筋・中殿筋・小殿筋
大殿筋・中殿筋・小殿筋

画像出展:「トリガーポイントマニュアル」

図8.5になります。

 

そして、4回目の施術の時、大殿筋のトリガーポイントを意識して刺鍼してみました。すると、翌週ご来院頂いた時には、ピーク時の痛みを10とすると7ぐらいになったとのお話で、初めて確かな手応えを感じることができました。

大殿筋も腰痛にとって重要な筋肉ということが分かり、「勉強しないといけないなぁ」との思いから、見つけたのが今回の『強める! 殿筋 -殿筋から身体全体へアプローチ-』という本です。殿部の筋肉は骨盤を支え、身体のバランス維持に力を発揮するとのことです。そして、次の言葉が印象的でした。

『(第5章では)大殿筋に焦点を絞り、この筋肉がどのように患者やアスリートに多い問題、とりわけ腰痛とかかわってくるかについて話したい。大殿筋は、私がこれまで会ってきたほとんどの治療家に軽視されているように感じる。その理由は恐らく、大殿筋自身が痛みを発することが滅多にないからであり、それにより、このすばらしく機能的な筋肉は無視され続けてきたのである。 

強める! 殿筋
強める! 殿筋

著者:John Gibbons

監訳:木場克己

発行:2017年1月

出版:医道の日本社

 

ブログはまず目次をご紹介していますが、今回は目次に沿った内容にはなっておらず、全体的にもスッキリ感が乏しいため、最初に大殿筋を中心とした“まとめ”を書くことにしました。また、長くなったため3つに分けました。『 』は引用、少し小さい[ ]および〔 〕は私が追記したものです。

Contents

監訳者のことば

まえがき

謝辞

第1章 身体各部とつながる大殿筋

●ケーススタディ

・評価

・ホリスティック(全身的)なアプローチ

・大腿筋の機能

・つなぎ合わせる

・治療法

・予後と結論

第2章 筋不均衡と筋膜スリング

●姿勢

●姿勢筋と相動筋

・姿勢筋

・相動筋

●ストレッチ前後の筋活動

●筋不均衡の影響

●体幹筋との関係

・形態拘束

・力拘束

・仙腸関節の安定性

・仙骨のニューテーションとカウンターニューテーション

・力拘束靭帯

・フォースカップル(偶力)

●インナーユニット:体幹

・腹横筋

・多裂筋

・「油圧増幅器」

●アウターユニット:統合筋膜スリング機構

●悪い姿勢

・矢状面で見た姿勢変位

・痛みと攣縮のサイクル

第3章 殿筋と歩行周期

●歩行周期

●踵接地

●筋膜のつながり

●骨盤の動き

第4章 脚長差と過外反 ― 殿筋による影響

●脚長差のタイプ

●検査

●足と足首の位置

●構造性短下肢と骨盤の関連性

●構造的脚長差と体幹、頭部との関連性

●脚長差と歩行周期

・腸腰筋の補正のまとめ

・仙骨と腰椎の補正のまとめ

●過外反症候群

●脚長差と殿筋

●立位バランス検査

第5章 大殿筋の機能解剖学

●大殿筋の解剖

●大殿筋の機能

●大殿筋の検査

・股関節伸展時神経発火パターン検査

●ケーススタディ

・運動歴

・検査時において

・大殿筋神経発火パターン検査

・治療

●結論

第6章 中殿筋の機能解剖学

●中殿筋の解剖学

●中殿筋の機能

●中殿筋の検査

・股関節外転時神経発火パターン検査

・中殿筋前部、後部筋線維の筋力検査

・中殿筋後部筋線維の筋力検査

第7章 マッスルエナジーテクニック

●マッスルエナジーテクニックの有用性

・過緊張状態の筋肉の正常化

・筋力低下した筋肉の活性化

・筋肉が伸長するための準備

・関節可動域の改善

●生理学からみたマッスルエナジーテクニックの効果

●マッスルエナジーテクニックの適用方法

・「バインドの位置」または「制限バリア」

・手順

・急性期と慢性期

●PIR vs RI

・PIRの例

第8章 原因としての拮抗筋 ― 腸腰筋、大腿直筋、内転筋群の重要性

●腸腰筋の解剖学

・腸腰筋の検査

・腸腰筋へのマッスルエナジーテクニックを用いた治療

・腸腰筋への筋膜リリース

●大腿直筋の解剖学

・大腿直筋の検査

・大腿直筋へのマッスルエナジーテクニックを用いた治療

・大腿直筋への筋膜リリース

・大腿直筋へのマッスルエナジーテクニックを用いた異なる治療法

●内転筋群の解剖学

・内転筋群の検査

・内転筋群へのマッスルエナジーテクニックを用いた治療

第9章 膝や足首の痛みを引き起こす大殿筋や中殿筋の問題

●膝の解剖学

●膝の故障

●腸脛靭帯摩擦症候群を引き起こす中殿筋と大殿筋

・腸脛靭帯摩擦症候群とは

●膝蓋大腿疼痛症候群を引き起こす中殿筋

・膝蓋大腿疼痛症候群とは

●内側側副靭帯と半月板の痛みを引き起こす中殿筋

●中殿筋と大殿筋と足首の捻挫との関係性

第10章 腰痛を引き起こす大殿筋や中殿筋の問題

●腰椎の解剖学

●椎間板ヘルニア

●変形性椎間板疾患

●椎間関節症候群・疾患

●腰痛と殿筋群の関係性

●胸腰筋膜と大殿筋の関係性

第11章 殿筋群の抑制効果による筋力低下の鑑別

●デルマトームとミオトーム

・股関節関節包炎と腸骨大腿靭帯

第12章 大殿筋と中殿筋の安定性向上とエクササイズ

●文献レビュー

・中殿筋と側臥位股関節外転

・中殿筋と足底装具の使用

●リハビリの方法

・回数とセット数

●オープンキネティックチェーンエクササイズ

・オープンクラムエクササイズ

・サイドラインアブダクション

・サイドプランク

・四つん這いからのヒップエクステンション

・フロントプランク

●クローズドキネティックチェーンエクササイズ

・腹臥位での分離動作パターン

・グルテアルスクイーズ(腹臥位)

・スクイーズ&リフト

●バランススタビライゼーション

・Level1 立位での分離動作パターン ― グルテアルスクイーズ(立位)

・Level2 バランス ― 交互片足立ち

・Level3 バランスとコーディネーション

付録 大殿筋と中殿筋の安定性向上とエクササイズシート

参考文献一覧

索引

まとめ

腰痛患者の50~60%は、腰痛の根本的な原因が大殿筋にあると考えられる。

大殿筋の機能は股関節の外転、外旋、そして仙腸関節を安定させることである。

■大殿筋の一部は胸腰部の筋膜だけでなく、仙結節靭帯ともつながっており仙腸関節を安定させる。

大殿筋を神経的に抑制させる主な筋肉は、股関節の屈筋に分類される腸腰筋、大腿直筋、内転筋群であり、これらの屈筋が緊張し短縮すると大殿筋の筋力は低下する。

■大殿筋の機能不全や筋力低下は、後部斜角スリングの有効性を低下させ仙腸関節障害につながる。

■大殿筋の機能不全や筋力低下は、仙腸関節の安定や骨盤の位置を維持するために、ハムストリングスを常に緊張状態する。この緊張状態が続き慢性化すると故障の原因となる。

収縮して硬くなった姿勢筋は関連する相動筋の働きを阻害し、相動筋は弛緩し筋力が低下する 

姿勢筋と相動筋
姿勢筋と相動筋

画像出展:「強める!殿筋」

 

■仙腸関節は「形態拘束」と「力拘束」によって安定を図る。

■形態拘束は不完全なため関節面の安定を図る必要があるが、これを行うのが、靭帯、筋肉、筋膜といった組織である。

■姿勢筋と相動筋が構造的、機能的につながることで身体全体の安定性や動作を担っている。

筋膜スリングによる力拘束で骨盤は安定する。これらに問題があると機能不全が起こり腰痛につながる。特に姿勢筋による関節の安定性が重要である。

後縦スリング機構と側面スリング機構
後縦スリング機構と側面スリング機構

画像出展:「強める!殿筋」

左:後縦スリング

右:側面スリング

 

前斜スリング機構と後斜スリング機構
前斜スリング機構と後斜スリング機構

画像出展:「強める!殿筋」

左:前斜スリング

右:後斜スリング

 

■大殿筋が抑制されると大腿筋膜張筋が優位となり、大腿骨外側上顆で前側に引っぱり、腸脛靭帯摩擦症候群につながる。

■大殿筋の筋力低下は胸腰筋膜の緊張を保つ機能の低下が起こり、それを補完するために反対側の広背筋や同側の多裂筋が過度に活発になるというメカニズムが存在する。

※コメント

今まで、腰痛の患者さまで改善がなかなか進まない症例がありました。これらは”大殿筋”を軽視していたことが大きな要因だったかもしれません。

降圧薬2

著者:石川太朗
降圧薬の真実

著者:石川太朗

発行:幻冬舎

出版:2016年7月

目次は”降圧薬1”を参照ください。

第3章 有酸素運動、健康体操、ヨガ…… 血圧数値を劇的に改善する「運動法」

一 有酸素運動の血圧改善効果

●有酸素運動は薬以上の効果を示す!

血圧の状態ごとの有酸素運動による血圧低下量
血圧の状態ごとの有酸素運動による血圧低下量

図3-1 血圧状態ごとの有酸素運動による血圧低下量

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・正常血圧の人に比べ、高血圧および高血圧前症の人は有酸素運動による効果は大きい(収縮血圧:マイナス8.3mmHg/拡張期血圧:マイナス5.2mmHg)。[“平均”は“正常血圧”の人も含めた数値です]

●血圧を下げるポイントは運動の「強度」

運動強度と血圧の関係
運動強度と血圧の関係

表3-1 運動強度と血圧の関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・表を見ると、低強度の運動では血圧を下げるのは難しく、中強度または高強度の運動でないと効果は期待できない。

高強度の運動は高血圧の人にとってリスクが高いので行ってはいけない。

1.参考となる論文:1993年発行の「Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology」誌に掲載された“Crossover comparison between the depressor effects of low and high work-rate exercise in mild hypertension

強度別の有酸素運動中の血圧変動
強度別の有酸素運動中の血圧変動

図3-2 強度別の有酸素運動中の血圧変動

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・日本で行われた研究で、高強度の有酸素運動のリスクを示している。

・黒丸が高強度、白丸が中強度の運動である。高強度の有酸素運動を行うと、安静時の収縮血圧(150mmHg弱)が一気に50mmHgも上がってしまい危険である。一方、中強度の場合の上昇は10mmHg程度と上昇は少ない。

高血圧の人は有酸素運動を中強度で行うことが望ましい。中強度の運動とは余剰心拍数の40~60%で行う運動である。

40歳、脈拍70の人の余剰心拍数:114~136

①220-年齢(この数値は最大心拍数の推定値)…220-40=180

②最大心拍数(180)-脈拍(70)=予備心拍数(110)

③運動強度40%の心拍数は、脈拍に予備心拍数の40%を足したもの…70+110×0.4=114

④運動強度60%の心拍数は、脈拍に予備心拍数の60%を足したもの…70+110×0.6=136

表によると、50歳、心拍数(脈拍)70の人の“適切な心拍数”は、110~130である。

有酸素運動と適切な心拍数
有酸素運動と適切な心拍数

表3-2 適切な心拍数(20~65歳)

画像出展:「降圧薬の真実」

 

●週30分の運動は、「日本一の薬」を超える!

・週150分未満の運動と血圧改善効果についての研究

1.参考となる論文:2003年発行の「American Journal of Hypertension」誌に掲載された“How much exercise is required to reduce blood pressure in essential hypertensives: a dose-response study

運動時間と血圧の変化の関係
運動時間と血圧の変化の関係

図3-3 運動時間と血圧の変化の関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・日本人を対象とした研究である。

週30~60分の運動でも、収縮期血圧:マイナス7mmHg/拡張期血圧:マイナス6mmHg程度の効果が期待できる。※左から2番目の棒グラフ

・この論文には運動の仕方にも言及されており、それによると、運動を週1回まとめて行っても、週5回以上に小分けに行っても効果は特に変わらないということである。[ただし、運動強度は中強度(余剰心拍数40~60%)が前提となる]

●ウェイトトレーニングと血圧の関係

・『ウェイトトレーニングが筋力や筋肉量の向上に役立つことは、広く知られています。ダイエットにも有効であり、最近流行となっています。なお、私はボディビルの大会出場のために27㎏の減量に成功しましたが、その際、運動はウェイトトレーニングしか行いませんでした。

また、ウェイトトレーニングが肩こり、腰痛、膝の痛みにも効果的であることも有名だと思います。事実、私のわずか10分ほどの説明で、「明らかに良くなった」、「痛み止めの注射がいらなくなった」、「月1万円もかかっていた病院、薬代が1か月で0円になった」と驚くべき効果をあげた患者さんがたくさんいます。これは私の腕が特別に良いというのではなく(それなりに研究はしてきましたが)、適切なウェイトトレーニングを行えば薬以上の効果が出るという科学的事実がそのまま表れたに過ぎません。

他にも、血糖値の改善、骨密度の改善、様々な疾患に対するリハビリテーションの一環として役立つことも示されています。

このように健康に役立つウェイトトレーニングですが、実は血圧にも効果的なのです!実際、海外の高血圧に関する医学専門誌ではウェイトトレーニングを高血圧の人に役立つエクササイズとして紹介しています。

ウェイトトレーニングによる血圧の変化
ウェイトトレーニングによる血圧の変化

表3-5 ウェイトトレーニングによる血圧の変化

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・このデータから低強度の場合、収縮期血圧:マイナス5.8mmHg/拡張期血圧:マイナス4.7mmHgの効果が期待できる。

・低強度のウェイトトレーニングとは、ギリギリ挙げられる最大重量の30~40%とされているが、危険を冒して最大重量を計測する必要はない。1セット20回以上、余裕をもって反復できる重量であれば、40%を超えることはないので安全にウェイトトレーニングができる。頻度は週2、3回。なお、20回以上できる負荷であっても、決して頑張るようなことがあってはならない。また、トレーニング中は呼吸を止めてはいけない。息を止めると急に血圧が上がり危険である。

三 血圧改善効果のあるその他の運動

●とてもお手軽な握力運動

・健康番組にも紹介された有名な方法である。

1.参考となる論文:2010年発行の「Journal of Hypertension」誌に掲載された“Isometric handgrip exercise and resting blood pressure: a meta-analysis of randomized controlled trials

握力を鍛えるだけの運動であるが、その効果は驚くべきものである。収縮期血圧:マイナス13.4mmHg/拡張期血圧:マイナス7.8mmHg程度の効果が期待できる。

・実験期間は8~10週間であり、効果は3か月以内に出ている。

・方法

①最大筋力の30~40%程度の軽いグリッパー(握力を鍛える器具)を2分間握る。

②1~3分間休む。

③ ①②を4回繰り返す。

④ ①②③を週3回行う。3日連続より、月・水・金のように1日空けた方が効果は出やすい。

1.参考となる論文:2015年発行の医学雑誌「Lancet」誌に掲載された“Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology(PURE) study

握力は健康を測る指標として非常に重要であることが示されている。

・驚くべきことに血圧よりも重要であるとされている。

・『樹上生活を行ってきた私たちのご先祖の中で、握力のない者は木にうまく上ることができず、肉食獣に食べられてしまったことが予想されます。そして現代においても握力のない者は健康を失うリスクが高いことが示されてしまいました。握力の重要性は霊長類にとって不変の法則なのかもしれません。』 

●動かずにできるアイソメトリック運動で血圧が改善する!?

・力を入れて握り続ける握力運動はアイソメトリック運動(等尺性運動)というが、握力に限らずアイソメトリック運動で血圧を下げることができる。

1.参考となる論文:2015年発行の医学雑誌「Mayo Clinic Proceedings」誌に掲載された“Isometric exercise training for blood pressure management: a systematic review and meta-analysis

研究によると、収縮期血圧:マイナス6.77mmHg/拡張期血圧:マイナス3.96mmHgの効果があったとされている。

アイソメトリック運動
アイソメトリック運動

アイソメトリック運動

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

第5章 ケース別に学ぶ「運動」と「食事」の最適な組み合わせ方

四 医師とともに薬を減らすには

●降圧薬の減量、中止に向けて目標値を決める

・これまでの内容から「血圧とリスク」「降圧薬の効果」から、目標となる数値の目安をまとめた。

血圧とリスク・降圧薬の効果からみた目標数値
血圧とリスク・降圧薬の効果からみた目標数値

表5-6 血圧とリスク・降圧薬の効果からみた目標数値

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・『この数値を一つの根拠として、降圧薬の減量、中止を医師に申し出るタイミングを見計らってください。なお、「中止」とは「通常量の降圧薬を1種類やめる」という意味です。』

・『ただし、75歳以上の方は、収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満 で健康リスクが高くなる恐れがあるので、もしこの数値になったなら、即座に薬の減量、中止を申し出てください。今飲んでいる量の降圧薬は、お金の無駄だけではすまない恐れがあるのです。』

●医師にどのように切り出すか?

生活習慣を改め、血圧が十分に下がりました。毎日血圧を測り、家での血圧も安定しています。それでは私たちからどのように薬の減量、中止を医師に切り出せば良いのでしょうか?

ここはやはり正々堂々と、「自分なりに勉強して生活習慣の改善に取り組んできました。以前に比べ、血圧はかなり下がったと思います。薬を一度減らしてみてもらえませんでしょうか? 数値が悪化するならまた戻してくれて構いませんので」と発言しましょう。

このように生活習慣改善に積極的である姿勢をとれば医師も減らしやすくなるはずです。減らしたことにより血圧に問題が出るならば戻しても良いということを話し、医師が薬を減らしやすくするように持ち込むわけです。この表現なら医師と衝突する心配もなく切り出すことができるはずです。

金銭負担が気になることも併せて盛り込んでも良いでしょう。ほとんどの医師は金銭負担を考慮する人格を持っています。金銭負担が減れば助かるのはあなたの財布だけではありません。国全体の財政が助かるのです。

もちろん、ふらつき、めまい、脱力感がある。拡張期血圧70mmHg未満であるなど健康に悪影響を及ぼす恐れがあるならば即座に減量を申し出るべきです!

医師に申し出るのは勇気が必要かもしれません。しかし、ほとんどの医師もわかっています。必要以上に血圧を下げる必要がないことを。薬の効果は実はそれほど大きなものではないことを。そして、最初は高かった血圧がしっかりと改善しているのは薬のおかげではなく、あなたの努力の成果であることを……。きっと良い返事が返ってくると思います。

降圧薬1

著者:石川太朗
降圧薬の真実

著者:石川太朗

発行:幻冬舎

出版:2016年7月

慢性腎不全で高血圧の薬を飲んでいる患者さまの担当医が代わり、高血圧の薬がすべて替わるということがありました。

なお、当院では患者さまの血圧と脈拍を測定していますが(手首で測る血圧計で、ベッドに仰向けになった状態で測るため座位に比べ低めに出ると思います)、この患者さまの血圧は収縮期血圧130前後、拡張期血圧65前後であり、個人的には降圧薬でうまくコントロールされているという印象を持っていました。そのため、何故、薬を替えられたのか不思議に思いました。

下記は処方されていた降圧薬の前と後です。

■前

・ニフェジピン(Ca拮抗薬)

・シルニジピン(Ca拮抗薬)

・アムロジピン(Ca拮抗薬)

・アイミクス(長時間作用型ARB/持続性Ca拮抗薬配合剤) 

 ※アイミクスは、イルベサルタンとアムロジピンの配合剤

・ルプラック(ループ利尿薬)

■後

・アムロジピン(Ca拮抗薬)

・イルアミクス(長時間作用型ARB/持続性Ca拮抗薬配合剤) 

 ※イルアミクスはアイミクスのジェネリック薬剤

・イルベサルタン(長時間作用型ARB)

・トリクロルメチアジド(チアジド系降圧利尿剤)

・フロセミド(ループ利尿薬)

この中で非常に気になったのは、“イルベサルタン”という薬です。

ネットで調べたのは、KEGGというサイトです。このサイトに頼ったのは、①検索上位のサイトであったこと。②母体が信頼できると思ったこと。③非常に詳しく説明されていたこと。 の3点です。 

KEGG: Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes

『KEGG は分子レベルの情報から細胞、個体、エコシステムといった高次生命システムレベルの機能や有用性を理解するためのリソースです。とくにゲノムをはじめとしたハイスループットデータの生物学的意味解釈に広く利用されています。また KEGG MEDICUS では医薬品添付文書など社会的ニーズの高いデータとの統合も行われています。

そして、“イルベサルタン”に書かれていた中で特に気になった部分は次の内容です。

KEGGのページ(左をクリックしてください)

●『両側性腎動脈狭窄のある患者又は片腎で腎動脈狭窄のある患者においては、イルベサルタンによる腎血流量の減少や糸球体ろ過圧の低下により急速に腎機能を悪化させるおそれがあるので、治療上やむを得ないと判断される場合を除き、使用は避けること。

●『高カリウム血症の患者においては、イルベサルタンにより高カリウム血症を増悪させるおそれがあるので、治療上やむを得ないと判断される場合を除き、使用は避けること。また、腎機能障害、コントロール不良の糖尿病等により血清カリウム値が高くなりやすい患者では、高カリウム血症が発現するおそれがあるので、血清カリウム値に注意すること。』

特に注目したのは『片腎で腎動脈狭窄のある患者』という点です。これは、この患者さまは片腎のため、万一、腎動脈狭窄があるとすれば、『治療上やむを得ないと判断される場合を除き、使用は避けること』に該当することになります。

ご参考1:こちらの”倉敷中央病院 心臓病センター 循環器内科”さまのサイトに、腎動脈狭窄の原因と結果などが詳しく紹介されていました。 

腎動脈狭窄症の原因とその結果
腎動脈狭窄症の原因とその結果

腎動脈狭窄症の原因とその結果

『腎動脈の狭窄の頻度は、軽症なものも含めると意外に多く、高齢者をランダムに血管エコーでスクリーニングすると6%前後に狭窄を持つ人がいるといわれています。55歳以上の亡くなった方を解剖した研究では、15%に腎動脈に狭窄があったと報告されています。

腎動脈が細くなる原因として、その90%以上は加齢に伴う動脈硬化です。残りの10%弱は比較的若年者に見られる、動脈硬化によらない腎動脈狭窄症で、細くなった場所の顕微鏡による観察から、線維筋性異形成症と呼ばれています。』

ご参考2イルベサルタンなどのARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)には腎保護作用があるとされています。こちらの”大森病院 腎センター”さまのサイトに、腎保護作用についての説明がされています。イルベサルタンは腎保護作用があるという点から中長期的には腎臓にとっても良い薬のようです。

ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)には腎保護作用
ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)には腎保護作用

『糸球体にかかる圧力のことを「糸球体内圧」と呼びます。降圧薬の中にこの糸球体内圧をさげる薬があります。「アンギオテンシン変換酵素阻害薬:ACE‐I」や「アンギオテンシン受容体拮抗薬:ARB」といわれる薬は全身の血圧を下げる働きとともに糸球体内圧を特別にさげる働きがあります。

糸球体内圧が低下するのでろ過される血液が減ることがあり、腎臓の働きとしては低下してしまうこともあります。しかし中長期的にみて腎臓への負担を減らすことになり、結果として腎臓を長持ちさせることができます。

現在ではデータの蓄積により、腎臓病をもつ高血圧患者さんへの第1選択薬として積極的に使用されるようになりました。』

長い前置きになってしまいましたが、今回、高血圧の薬(降圧薬)について詳しく知りたいと思った経緯は、上記のようなことがあったためです。

そして、購入した本は、薬剤師であり、ご自身が薬に頼らず血圧を下げられた経験をお持ちの石川太朗先生が書かれた『降圧薬の真実』でした。

ブログは、最初に“あとがき”の一部をご紹介しています。これは、石川先生がこの本を書かれた理由を知ることができるためです。次いで目次をすべて書き出していますが、その中の黒字がブログで取り上げた項目です。

あとがき

『高血圧はいわば国民病ともいえる病であり、血圧を下げる方法として、薬、食事、サプリメントに関するたくさんの情報があります。

その一方で、「降圧薬は一生飲み続けなければならないのか」という疑問に対しては具体的な答えを見つけるのが難しいのが実情です。事実、私は大型書店の専門書コーナー、母校の京都大学附属図書館をはじめ、東京大学附属図書館、慶応義塾大学信濃町メディアセンターなどのいろいろなところで資料を探してみましたが、満足のいく答えを示した本を見つけることができませんでした。

私は薬剤師なので、しばしばこの、「降圧薬は一生飲まなければならないのか」という質問を受けてきました。自身の体験から、生活習慣を改善すれば降圧薬を飲まないですむことは理解していましたが、それに対して具体的な説明ができない状態でした。これは薬のスペシャリストとしていかがなものかと思い、調べようとしたのが本書の執筆を始めたきっかけです。』

目次

はじめに

第1章 疑惑だらけの「降圧薬」治療

一 血圧の薬は死ぬまでやめられない?

●氾濫する情報に踊らされる高血圧患者たち

●医師自身も騙されている?

●半分以上の人はやめられる!科学的に証明されている!

●まとめ

二 そもそも「高血圧」とは何か?

●高血圧の分類

●なぜ血圧が高いといけないのか

●自分の「最適数値」を目指そう

●下げれば下げるほど良いのか?

●下げすぎの危険性とは?

●「薬で下げる」は危険?

●降圧薬を飲んでも、脳卒中のリスクは高いままである。

●まとめ

三 製薬企業と降圧薬の知られざる関係

●降圧薬は製薬企業のドル箱市場

●一つの薬が1000億円以上売れる!

●世界一の企業の論文不正事件

●日本一の企業も不誠実

●まとめ

四 降圧薬の効果を知る

●降圧薬によって、数値はどれだけ下がるのか?

●「日本一の薬」の効果とは?

●平均値はわずか「マイナス5.5~マイナス9.1mmHg」!

●まとめ

五 トクホの効果を知る

●トリペプチド 薬以上の効果があるように見えるが……

●トクホの効果は塩1g!?

●トクホで血圧の数値を改善できるのか

●まとめ

第2章 降圧薬に頼らずとも、血圧を下げる方法はないのか

一 薬の減量、中止は可能なのか

●医師はなぜ処方しつづけるのか

●第一段階は「薬の減量」

●「家で血圧を測る」メリットとは

●まとめ

二 生活習慣が変われば血圧は下がる

●『高血圧治療ガイドライン2014』によると……

三 減量のすすめ

●体重90㎏、BMI35の大学1年生

●適正体重を維持すれば、降圧薬はやめられる

●まとめ

第3章 有酸素運動、健康体操、ヨガ…… 血圧数値を劇的に改善する「運動法」

一 有酸素運動の血圧改善効果

●有酸素運動は薬以上の効果を示す!

●血圧を下げるポイントは運動の「強度」

●週30分の運動は、「日本一の薬」を超える!

●血圧が高い人ほど効果的

●温水プールのエクササイズで平均35mmHg以上の改善!?

●まとめ

二 ウェイトトレーニングは高血圧の人にも役立つ

●ウェイトトレーニングと血圧の関係

●実践 初心者向けエクササイズ

●まとめ

三 血圧改善効果のあるその他の運動

●とてもお手軽な握力運動

●動かずにできるアイソメトリック運動で血圧が改善する!?

●健康体操の驚くべき効果!

●気軽にできるヨガ

●マッサージを受けるだけで血圧は下がる!

●まとめ

第4章 正しい「食事法」と「生活習慣」で「適正血圧」の基盤を固める

一 食事でどれだけ血圧が下がるのか?

●減塩効果を正しく理解する

●「お酒はほどほど」 が鉄則

●血圧を下げる成分がある!

●血圧を下げる「DASH」食とは

●カリウムの効果

●マグネシウムの効果

●カルシウムの効果

●食物繊維の効果

●DASH食の真の血圧改善効果!

●魚の油を摂取すると……

●その他の安価で有用な成分

●ビタミンCが効くのは美容面だけではない!

●乳酸菌は血圧も下げる

●トマトの驚くべき効果

●トクホを超える緑茶の力!

●まとめ

二 血圧に悪しき四つの習慣

●「痛み止め」は血圧を上げる

●炭水化物と清涼飲料水は要注意!

●たばこは「百害あって一利なし」

●「漢方薬だから大丈夫」の落とし穴

●まとめ

三 モデルケース

●30代男性

●20代男性

●40代女性

第5章 ケース別に学ぶ「運動」と「食事」の最適な組み合わせ方

一 「時間はあるけどお金はない人」編

●運動/食事

二 「お金はあるけど時間はない人」編

●運動/食事

三 「お金も時間もない人」編

●運動/食事

四 医師とともに薬を減らすには

●降圧薬の減量、中止に向けて目標値を決める

●医師にどのように切り出すか?

あとがき

第1章 疑惑だらけの「降圧薬」治療

一 血圧の薬は死ぬまでやめられない?

●半分以上の人はやめられる!科学的に証明されている!

・降圧薬をやめた後、再び必要になるかどうかを研究した論文が存在する。

1.「高血圧治療ガイド2014」(日本高血圧学会):この治療ガイドによると『軽度高血圧、若年者、塩分摂取制限を行っている人、適正体重の維持ができている人、他に特に合併症のない方などがやめられる可能性が高い』と示されている。

2.2001年発行の「American Journal of Hypertension」誌に掲載された“A systematic review of predictors of maintenance of normotension after withdrawal of antihypertensive drugs”という論文がある。研究内容は次の通りである

・降圧薬服用中であるが、正常血圧で安定している患者を対象にしている。

・医師の判断のもとに服用を中止し、その後、降圧薬が再び必要になるかどうかについて調べている。

降圧薬中止後の生活習慣改善別の成功率
降圧薬中止後の生活習慣改善別の成功率

表1-1 降圧薬中止後の生活習慣改善別の成功率

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・この表は薬の服用中止後に「生活習慣を改善したかどうか」、「薬の再処方が必要だったか」を示している。

・表右端の[成功率]とは、その生活習慣改善の有無における薬が不要になった人の割合を表している。

・このデータによると、体重の減量や減塩などの努力により半分以上の人は降圧薬が不要になった。

・年齢と成功率に関係は見られなかった。

●下げすぎの危険性とは?

血圧が下がりすぎると脳梗塞を起こすリスクが高まる。特に高齢者ではそのリスクが高い。

1.参考となる論文:2011年発行の「Geriatrics & Gerontology International」誌に掲載された“Practitioner’s trial on the efficacy of antihypertensive treatment in elderly patients with hypertension Ⅱ(PATE-hypertension Ⅱ study) in Japan

・日本で行われた試験。

カンデサルタン服用において、正常血圧の人のリスクを1とすると、75歳以上の心血管疾患発症リスクは、収取期血圧120mmHg未満は3.40、160mmHg以上は2.90であった。つまり、高い血圧より、低い血圧の方が危険であるという驚くべき結果であった。

・『この論文は、医療系の大学には必ずといっても良いほど置いている著名な医学雑誌「医学のあゆみ」(医歯薬出版)でも紹介された論文であり、医師たちの多くは下げすぎの危険性を理解しているはずなのです。』

拡張期血圧が低すぎるのは収縮期血圧以上に恐ろしく、心臓発作や脳卒中のリスクになることが多くの論文で指摘されている。

2.参考となる論文:2013年発行の「International Journal of Hypertension」誌に掲載された“Low Diastolic Blood Pressure as a Risk for All-Cause Mortality in VA Patients” 

拡張期血圧と死亡リスクの関係
拡張期血圧と死亡リスクの関係

図1-2 拡張期血圧と死亡リスクの関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・45歳以上の病院患者のデータ(実線が死亡率)

・拡張期血圧が75mmHgから低くなるほど死亡リスクが高くなる。

・『低い拡張期血圧は衰弱や動脈硬化の結果でもあります。病院に行かなくても良いような健康な人には当てはまらないかもしれません。しかし、血圧の薬を使っている人にとっては当てはまる恐れが高いのです。

3.参考となる論文:2015年発行の「Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry」誌に掲載された“Meta-analysis of modifiable risk factors for Alzheimer’s disease” 

アルツハイマー型認知症のリスクファクター
アルツハイマー型認知症のリスクファクター

図1-3 アルツハイマー型認知症のリスクファクター

画像出展:「降圧薬の真実」

 

拡張期血圧が低すぎることは認知症の大きなリスクファクターである。

・この論文は5000人以上と参加者が多く、グレードⅠと研究の質も高い。

拡張期血圧70mmHg未満[左から2番目の棒グラフ]の人の発症リスクは1.87倍で重度の喫煙(1.96倍)についで、第2位となっており、収縮期血圧160mmHg以上[右から2番目の棒グラフ]の発症リスクより顕著に高い。

4.参考となる論文:2012年発行の「Archives of internal medicine」誌に掲載された“Rethinking the association of high blood pressure with mortality in elderly adult:the impact of frailty”

・降圧薬の害について書かれた論文である。

・通常の歩行ができる人は収縮期が低いほど死亡率が低いが、歩行速度が遅い人の場合は血圧と死亡率に関連は見られない。

・歩行困難な人では血圧を下げると死亡率が高くなり、薬を飲んでいる人ではより顕著になる。

●降圧薬を飲んでも、脳卒中のリスクは高いままである。

・この考え方を指示した論文が、日本人を対象とした大規模な研究で明らかになっている。

1.参考となる論文:2009年発行の「Journal of Hypertension」誌に掲載された“Stroke risk and antihypertensive drug treatment in the general population: the Japan arteriosclerosis longitudinal study

・この研究は、11,371人の日本人を対象として東北大学大学院によって行われた。

・追跡期間は9.5年、40~89歳の人を対象として脳卒中のリスクを調べた。

血圧レベルと脳卒中発症リスクの関係
血圧レベルと脳卒中発症リスクの関係

図1-5 血圧レベルと脳卒中発症リスクの関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

このグラフは、薬の使用の有無を考慮に入れていないデータである。

・左端(下部)の【至適血圧】の脳卒中発症リスクを1とした場合のリスクが黒の■になる。

※【至適血圧】:収縮期血圧120未満/拡張期血圧80未満。

※【正常血圧】:収縮期血圧120~129/拡張期血圧80~84。

※【正常高血圧】:収縮期血圧130~139/拡張期血圧85~89。

※【Ⅰ度高血圧】:収縮期血圧140~159/拡張期血圧90~99。

※【Ⅱ度高血圧】:収縮期血圧160~179/拡張期血圧100~109。

※【Ⅲ度高血圧】:収縮期血圧180以上/拡張期血圧110以上。

・この薬の使用を考慮に入れていないグラフでは、血圧を下げるほど脳卒中のリスクは下がる。

降圧薬の使用と血圧レベルと脳卒中リスクの関係
降圧薬の使用と血圧レベルと脳卒中リスクの関係

図1-6 降圧薬の使用と血圧レベルと脳卒中発症リスクの関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

このグラフは、薬の使用の有無で分けたデータである。

・左の図は降圧薬不使用の場合で、血圧が高いほど脳卒中のリスクは高まる。

・右の図は降圧薬使用の場合で、血圧と脳卒中のリスクに相関関係は統計学的にも認められない。特に注目すべきは、薬を服用し、血圧が【至適血圧】になっている場合、脳卒中の発症リスクが4.1倍と激増している点である。

「血圧は低ければ低いほど健康に良い」という主張は、降圧薬を服用している人には当てはまらない。

降圧薬の使用、性別、血圧レベル別の脳卒中リスク
降圧薬の使用、性別、血圧レベル別の脳卒中リスク

表1-5 降圧薬の使用、性別、血圧レベル別の脳卒中リスク

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・この表が具体的な数値で見たリスク比である。

・男女に関係なく、薬を服用していると脳卒中のリスクは高まる。

・特に男性では、薬で【正常血圧】、【正常高血圧】に抑えても、6.69~15.30倍ととんでもなく高い。

・脳卒中の発症リスクだけを考えると、「【Ⅲ度高血圧】でもない限り、降圧薬を使うのは意味がない」という主張までできてしまう。

・このデータは年齢、過体重、喫煙、飲酒、糖尿病、コレステロール値、脂質異常症治療薬使用の有無で調整されているものなので精度は高い。

・合併症がある場合、降圧薬に血圧を下げる以外の効果を期待していることがあるため、減薬や中止は難しい可能性がある。(いずれにしても、降圧薬の減薬や中止は医師の判断が必須である)

四 降圧薬の効果を知る

●「日本一の薬」の効果とは?

最初に、第1章 疑惑だらけの「降圧薬」治療 一つの薬が1000億円以上売れる から、降圧薬の売上ランキングをご紹介します。なお、降圧薬はベスト100の中に、1位の「ディオバン」をはじめ、計11種類の薬がランクインしており、降圧薬がいかに大きな市場となっていることが分かります。

降圧薬の売上ランキング
降圧薬の売上ランキング

表1-8 降圧薬の売上ランキング

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・日本で最もよく使われている降圧薬はカルシウム拮抗薬(CCB)であり、次はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)である。

・CCB(代表的なCCBはアムロジン[成分名:アムロジピン])とARB(代表的なARBはディオバン[成分名:バルサルタン])を比較したデータは次の通り。血圧の状態や個人差による違いはあるが、十分に参考になる。

エックスフォージ配合剤の血圧降下作用
エックスフォージ配合剤の血圧降下作用

表1-10 エックスフォージ配合剤の血圧降下作用

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・CCB[アムロジピン]の方がARB[バルサルタン]より降圧効果は高い。

・バルサルタン単体(⑦⑧)は薬の量を半減させてもほとんど変わらない。収縮期血圧:ー5.1⇒ー4.9、拡張期血圧:ー3.9⇒ー3.6。

●平均値はわずか「マイナス5.5~マイナス9.1mmHg」!

1.参考となる論文:2003年発行の「British Medical Journal」誌に掲載された“Value of low dose combination treatment with blood pressure lowering drugs: analysis of 354 randomised trials” 

・対象となった患者数は、のべ56,000人、これほど大規模で信頼性の高い論文はない。

降圧薬と血圧降下量の関係
降圧薬と血圧降下量の関係

表1-12 降圧薬と血圧降下量の関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・降圧薬を通常量用いるとその種類を問わず、血圧に対する効果は、①収縮期血圧:マイナス9mmHg ②拡張期血圧:マイナス5mmHg 程度である。

薬の量を半分あるいは倍増しても平均すると、①収縮期血圧:1.9mmHg ②拡張期血圧:1mmHg 程度しか変わらない。さらに、半減(通常量の4分の1)させても同様に大きくは変わらない。これは、薬を減らすことが難しくないという理由でもある。

『個人差もありますし、急に中止すると血圧が急に変動する薬もそんざいするので、薬の量の調節を自己判断で行ってはいけません。』

たんぱく質と糖質の制限

今回のブログは北里大学研究所病院腎臓内科・内分泌代謝内科の部長と糖尿病センターのセンター長を兼任されている山田悟先生が”MedicalTribune”に寄稿された“蛋白質制限食は有効かもしれないが命がけ?!/揺れ動くガイドラインの推奨という2019年11月の記事がきっかけです。このメディカルトリビューン社さまの記事を読むには、会員登録が必要なためご紹介できないのですが、2013年に米国糖尿病学会(ADA)が栄養勧告を改訂した折(ADA2013)、いくつか受けた衝撃の1つが、蛋白質制限食の意義を否定したことであった。という内容に目が点になってしまい、調べてブログにアップしたいと考えました。

「メディカルトリビューン社は、医学新聞『Medical Tribune』を1968年に創刊して以来、メディアカンパニーとして国内外の最新医学・医療情報を提供してまいりました。」とのことです。

そこで、山田先生の著書の中から“たんぱく質”のことが書かれている、『カロリー制限の大罪』という本を見つけ、拝読させていただくことにしました。