経絡≒ファシア9

人体の張力ネットワーク
人体の張力ネットワーク

監訳:竹井 仁

出版:医歯薬出版

発行:2015年6月 

目次は”経絡≒ファシア1”を参照ください。

 

パート3 筋膜の力伝達

3.2 筋膜の力伝達

筋膜の力伝達の筋肉基質

・筋内領域に限定される筋膜の力伝達は、筋内における筋膜の力伝達とよばれている。また、“筋膜の力伝達”は筋内膜または筋周膜の管内に作用する1つの筋線維または線維束の力伝達の際にも使用される。

筋外における筋膜の力伝達とその基質

筋膜の負荷(筋膜組織からの反力)が筋におよぶ場合、力は筋外膜を経て筋内の支質上に伝達される。従って、そのような伝達は、“筋外における筋膜の力伝達”とよばれている。そのような伝達を可能にする経路は2つある。

1.筋間における筋膜の力伝達:直接隣接した2つの筋間。

2.筋以外における筋膜の力伝達:筋、若干の筋外構造(神経血管路のように、血管、リンパ管、神経が包埋されてコラーゲンで補強された構造)、筋群間の筋間中隔、骨間膜、骨膜、一般的な筋膜の間など。

筋外における筋膜の力伝達の影響

・近位と遠位の力の違い

-加えられた筋膜の負荷によって、筋の起始部と停止部にかかる力は等しくない。

・筋およびその筋線維内の筋節長の分布

-筋膜の負荷は筋線維内で直列に配列した筋節長の分布をもたらす(連続して分布)。

-付加された力のほとんどは、能動的な筋節や筋の間質結合などによって伝わる。

・筋間における筋膜の相互作用

-筋間の機械的な影響は、筋外の筋膜の力伝達の2組の事象を介して存在している(筋から筋外の組織へ、そこから他の筋へ)。

・筋の相対的な位置は筋活動にも影響を及ぼす

-筋は一定の長さに保たれ、自然な筋膜のつながりが発揮する近位または遠位方向への腱の力を通じて機能する。

-近位または遠位方向への腱の力は、相対的な位置の変化の影響を受ける筋膜の負荷状態によって変化する。

筋の筋膜負荷の複雑性

統合された筋膜系の中で、筋群の負荷は非常に複雑である。

筋の長さおよび位置の変化によって、筋膜網の負荷の方向が変化する可能性がある。

筋の筋膜負荷は身体分節のすべての筋から生じている可能性がある。

隣接した分節における筋間の筋膜の力伝達は、身体分節をめぐっている神経血管路の硬さにより生じている可能性がある。

考慮すべきさらなる要因

・関節運動

-関節運動は筋膜の構成要素の硬さに影響する。

-神経血管路の張力は関節の位置に依存している。

・感覚器の機能的な影響

3.3 筋膜連鎖

以下に示すモデルは神経学的、生理学理論を組み合わせた各筆者の個人的経験に基づいている。それらに共通していることは、全体として機能する1つの単位である運動系と筋膜組織を示していることである。そして、その機能を遂行するために、筋群には安定した基礎がなければならない。この基礎は他の筋群により与えられ、更に他の筋群などによって支持されている。

Kurt Tittel:筋スリング(筋索)

・Kurt Tittel博士は協調運動を起こす筋群の協力を説明するために、“筋スリング”という用語を使用している。

・筋連鎖はスポーツ活動で活発になる。

・様々な運動による筋連鎖の活動は筋に変化や適応を生じさせる。

・博士の筋スリングはスポーツ活動を例として言及されている。

・対角線での筋スリングは、運動やサッカー、テニス、やり投げ、砲丸投げなどの広範囲にわたるスポーツのために非常に重要である。

Kurt Tittelの筋スリング
Kurt Tittelの筋スリング

画像出展:「膜・筋膜」

筋スリングはスポーツ時に活動する筋連鎖を示している。

 

Herman Kabat:固有受容性神経筋促通法(PNF)

・Margaret Knott, Dorothy Voss, Herman Kabat博士らは、共同でポリオ患者の麻痺筋に対する治療法を発展させた。この方法の特殊性は筋連鎖に麻痺筋を統合させるという考え方である。患者は、弱いもしくは麻痺した筋を含めた特別な運動パターンを形成する手助けをされることになる。

・Kabatのモデルの興味深い点は、より強い筋連鎖に弱い筋を統合し、神経学の原理を尊重しつつ運動パターンを実行していくことである。焦点は筋連鎖の活性化にある。

Leopold Busquet 

Leopold Busquetは筋骨格系がどのように内臓障害に順応するかについて述べている。

Leopold Busquetは静的筋膜連鎖と4つの動的筋連鎖について説明している。また、内臓障害に関して2つのシナリオを紹介している。

1.『筋は臓器を適切に機能させるために十分なスペースを与えるよう活動している。

2.『臓器は支持を必要とする。または、有痛性組織は緩和されなければならない。つまり、筋は張力を軽減したり臓器を支持するといった方法で運動器系に影響するであろう。

Paul Chauffour:“オステオパシーにおけるメカニカルリンク(機械的連結部)”

・Paul Chauffourは著書であるLe lien mecanique en osteopathie(オステオパシーにおけるメカニカルリンク)において、人体の筋膜を非常に明確に説明している。特に筋膜の付着に注目している。

・Paul Chauffourは人体の4つの主要パターン(屈曲、伸展、前方ねじれ、後方ねじれ)で、運動器系の性質を述べている。

Richter-Hebgenモデル

筋は必要に応じて姿勢を順応させ、できるだけ痛みのない方法で身体を機能させるために、緊張や圧迫を回避しようとする。

・病理学的に優位な筋連鎖は、その筋連鎖自身が運動器系に負担をかけている。

・筋緊張のバランス不良は、側弯、胸椎後弯腰椎前弯などの不良姿勢の原因になる。

筋バランスを正常化することで、緊張は減少して血流やリンパの流れが改善する。そして治癒過程を可能にする。このモデルは、以下の前提に基づく。

1.身体のあらゆる半分は、屈曲連鎖と伸展連鎖をもつ。

2.2つの運動および姿勢パターンがある。

■屈曲+外転+外旋

■伸展+内転+内旋

3.身体はいくつかの運動単位に分割される。これらは機能的および神経学的に説明される。

4.屈曲と伸展は1つの運動単位から次へと交替し、“筋スリング”もしくは連珠系を形成する。

5.後弯と前弯は屈曲連鎖と伸展連鎖の両方の異常な優位性の結果生じる。側弯は屈曲または伸展連鎖の優位性、そして拮抗筋の反射抑制(拮抗筋抑制と交差性伸張反射)の結果である。

6.不良姿勢の原因は、神経学的機能不全の結果としてのバランス不良である。静的障害、器質的機能不全、身体的外傷、情動的外傷は、髄質への感作と結果として生じる筋のバランス不良につながる。

7.筋膜構造は常に連鎖として反応し、それゆえ全体として反応する。優位なパターンは、頭蓋と内臓領域に続いており、器質的あるいは頭蓋機能障害を引き起こす可能性がある。

3.4 アナトミー・トレインと力伝達

序論-メタ膜として細胞外基質

身体は常に何か活動しており、受胎から連続的に調和を保ちながら常に一緒に機能してきたということを深く理解し、臨床の際に心に留めておくべきである。

・『発生学的な発達が約14日で始まると、細胞が増殖し分化するにつれて、それらが細胞外基質(extracellular matrix:ECM)を作る。この繊細な網のような細胞間ゲルは、ほとんどの細胞、線維の混合比率変化、にかわ状のプロテオアミノグリカン、そして多様で循環代謝物質、サイトカイン、ミネラル塩を含む水の当面の環境を供給する。多くの結合組織でほとんどの“組織”容積を供給しているのはこの細胞外基質である。というのは細胞が骨、軟骨、靭帯、腱膜、その他の部分を形成するために細胞外基質を変化させるからである。

細胞外質は細胞自身とともに成長し、それらは細胞外基質によって結合し、接続し、ともに保持する1つの有機体を形成する。細胞外基質は細胞膜へ深く結合しており、細胞表面の何百または何千のインテグリン結合を経て細胞骨格へと通じている。細胞外からの力は、細胞の内部に作用するため、粘着性結合を経て伝達される。』

結合組織細胞は細胞外基質の働きを助け維持する。

・細胞外基質は生物のために“メタ膜”として作用し、生体の限界をつくりだし、動きを抑制および管理し、繊細な組織を保護し、そして認識可能な形状を維持している。

分割不可能なものの分割

・細胞外基質は3つに分けることができる。

1.背側腔の組織:多数のグリア細胞、脳と脊髄周囲の髄膜、そして身体の残りの部分への神経周囲の拡張。

2.腹側腔の組織:臓器を分離し、腸間膜、縦隔、腹膜を含む体壁を保持する索、シート、包。

3.運動器系の組織:骨、関節、関節包、靭帯、筋膜、腱膜、そして骨格筋を取り囲んでいる全ての組織(筋内膜、筋周膜、筋外膜、そしてそれらの腱拡張)

・細胞外基質は統合されているため、分割は明確なものではなく、始まりも終わりも不鮮明である。そして、機能的にはそれらは全て互いに関与している。

筋の分離

・解剖学者にとって便利な分類である筋は、明瞭な生理的単位なのかどうかという点には疑問が残る。

・筋の神経支配単位は有用な分類かもしれない。もしくは、より大きなパターン(後述)が、人の動きや機能的安定性に関して重要であると考えられる。

・損傷のような全身の機能不全の原因として、筋や特定の筋膜に注目するのではなく、機能全体や外層内の相互結合パターンに注目する。

アナトミー・トレイン

アナトミートレインは筋膜の外層を通じて、機能的な力伝達の経路を説明する。 

アナトミートレイン
アナトミートレイン

画像出展:「膜・筋膜」

右をクリック頂くと、”Anatomy Trains”のサイトが表示されます。

 

・筋膜連結には明瞭で解剖可能な整合的なラインがある。このラインは身体前面、背面、側面、体幹とアーチ下の周囲、腕に沿っており対側の肢帯と連結して下肢と体幹の中心を通る。

・ラインには関与する膜および筋膜の軟部組織構造がある。

・ライン上にある個々の筋の付着部は、アナトミートレインでは“ステーション”とよばれている。

・ラインは連結部で骨膜や靭帯の“インナーバッグ[二重構造の内側] ”と結合される場合であっても、力伝達は筋付着部を超えて筋膜を経て続くが、力伝達の程度、タイミング、明確な機序はまだ測定されていない。

・アナトミートレインのラインを越えて伝わる力の伝達の程度は、科学的に検証されておらず、定量化もされていない。

・アナトミートレインは治療法ではないが、理学療法、リハビリテーション、徒手療法、トレーニングにおいて様々なアプローチがなされている。

・『足趾先から乳様突起に至って身体を上行している浅前線は、驚愕反応のような慢性的恐怖感によって短縮していることがよくある。科学的に検証されていないが、このパターンはわかりきったものとして多くの場合、観察される。そして、強いもしくは慢性的な恐怖感情は、浅前膜の筋(そして筋膜)に短縮として現れ、身体の姿勢および運動パターン構成のなかで識別可能な特徴を残す。』 

驚愕反応
驚愕反応

画像出展:「膜・筋膜」

右をクリック頂くと、”Anatomy Trains”のサイトが表示されます。

 

・上記のパターンの場合、浅前線の組織を伸張させ開放することは、効果的な治療となる。一方、全身的、全節性を考えない局所だけの治療では、改善は短期的なものになりがちである。

・『浅後線は、胎児の一次弯曲から、一次および二次弯曲のあいだでバランスが関与する成人の立位へと成長させるために短縮して強くならなければならない。この発達過程の障害は、一次および二次弯曲のあいだでインバランスに帰着する結果である。  これらのインバランスは、次々に筋の代償を慢性化する方向へ身体を導いてしまう傾向がある。慢性的な筋の状態は、時間をかけて筋膜の拘縮へとつながる。』

線後線と筋膜の連続体としての解剖図
線後線と筋膜の連続体としての解剖図

画像出展:「膜・筋膜」

 

 

3.5 バイオテンセグリティー

序論

・『膜・筋膜は身体の織物である。つまり身体と覆う衣服ではなく、材料としての縦糸と横糸である。筋と骨、肝臓と肺、腸と泌尿器、脳と内分泌物といったその他の組織は、膜の織物の中に縫い込まれている。膜のベッドと組織から、その他の組織をすべて取り除くと、まるで幽霊のようにではあるが、身体の構造と形状は残り明確な境界が存在する。膜系は連続しており、1つの胚細胞から生物へと階層的に進化した組織で、生体の構造的必要性に応じて常に新しい負荷に順応しているGuimberteau, J.C., Bakhach, J., Panconi, B., et al., 2007. A fresh look at vascularized flexor tendon transfers: concept, technical aspects and results. J. Plast. Reconstr. Aesthet. Surg. 60(7), 793-810

・膜は張力ネットワークである。すべてのコラーゲンは生物組織の“プレストレス”とよばれる本質的な応力を加えられている。

バイオテンセグリティーの起源

・バイオテンセグリティーが生じるためには、医学の原則により規定され、ゲノムによって影響されるいくつかの進化の構造過程がなければならない。

バイオテンセグリティーは“テンセグリティー”構造に関連した物理法則を組み込んだ構造モデルである。 

テンセグリティーモデル
テンセグリティーモデル

画像出展:「膜・筋膜」

 

 

バイオテンセグリティーは、骨格はフレームであり軟部組織で覆われているという何世紀も前の概念を覆し、張力を掛けられた成分の間隙に巻き込まれ、“浮遊”圧縮成分(脊椎動物における骨)と一緒に統合された膜の織物であるという概念に置き換えた。

・生物構造(表層の張力によって接続した成分と柔軟な軟部組織)は、それらが存在するために三角構造でなければならない。もし三角形でなかったら崩れないようにするための硬直した関節か、絶え間なく続くような決して得ることのできない筋肉が必要になる。

・三角構造の中で生物学的モデリングとして最も適しているのは二十面体である。二十面体は大きい体表面積を有しており全方向性である。また、最密充填能力と内骨格および外骨格構造を有している。そして圧縮成分は外殻および構造内部のどちらにも組み込まれている。 

外骨格と内骨格の二十面体
外骨格と内骨格の二十面体

画像出展:「膜・筋膜」

 

 

・以下の表は、生物学的構造特性について、レバー[テコ]力学、テンセグリティー正二十面体力学を比較したものである。 

テンセグリティー正二十面体力学
テンセグリティー正二十面体力学

画像出展:「膜・筋膜」

 

 

・レバーシステムは3世紀以上にわたり標準となっていたが、生物学的モデリングに必要とされる特性とは一致しない。それに比べテンセグリティー正二十面体システムは生物学的システムに一致している。

・泡の中の気泡、蜂の巣の中の巣室のように、生物学的細胞はそれらを取り囲む圧に適応しなければならない。個々の細胞は外力に押しつぶされないようにしなければならない。

・1930年代初期に提唱された細胞内骨格(細胞骨格)は、約20年後に電子顕微鏡によって実証された。

・Ingberは、細胞骨格は細胞健全性を支持する機械的な構造フレーム枠によるテンセグリティー構造であると提唱し、これらのテンセグリティーを二十面体としてモデル化した(Ingber, D.E., Madri, J.A., Jamieson, J.D., 1981. Role of basal lamina in neoplastic disorganization of tissue architecture. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78(6), 3901-3905)

・Wolfの法則によると、細胞骨格は押しつぶすような圧縮負荷に抵抗する方法で自身を整列配置し、細胞骨格の剛性チューブリン(細胞内の微小血管の構成蛋白質)は“骨”になる。また、Levinは同じ機序が、筋骨格系、階層的テンセグリティーの階層的進化で構築されると提唱している(Levin 1982, 1986, 1988, 1990)。

バイオテンセグリティーモデルの張力器としての筋膜

この概念の中心となる膜は、システムへの絶え間ない張力を伝えると解釈されている。

・膜はすべての生物学的組織において非線形特性を示す。非線形組織において、ストレス/過労関係は決してゼロにならない。そして、システムにおいて常に固有の張力がある。それはテンセグリティーの不可欠な構成要素である生体の緊張を整えるための“絶え間ない張力”を与える。

膜には能動的収縮要素があり、膜ネットワークは筋と緊密に結びつく。また、筋は固有の“緊張”を有し決して完全に弛緩していない。

膜ネットワーク全体は、“調整”することができる固有の緊張と能動的収縮の両者によって絶えず緊張している。

・レバー[テコ]力学と異なり、階層的テンセグリティー構造は張力と圧縮の要素だけを備えている。そこには、せん弾力やトルク、屈曲モーメントはなく、空間内の向きは構造機能に影響を与えない。運動は蝶番の屈曲ではなく、テンセグリティーの即時的な再配置は、三角網が形状と機能の安定性を与えている間、関節が自由に動くことを可能にする。

バイオテンセグリティーは情報の島々に架橋する統合された機械的な構造概念である

経絡≒ファシア8

人体の張力ネットワーク
人体の張力ネットワーク

監訳:竹井 仁

出版:医歯薬出版

発行:2015年6月 

目次は”経絡≒ファシア1”を参照ください。

 

2.4 侵害受容:感覚器としての胸腰筋膜

序論

胸腰筋膜には広背筋および腹筋群を脊柱と腸骨稜につなぐ機械的役割があると考えられている。それは、頭側は頭蓋骨まで、尾側は下肢の筋膜まで続く、実際には胸腰筋膜は広背筋を殿筋群に連結し、それにより機能的に上肢と下肢を連結している。

・他に4つの機能がある。

1.動作中の摩擦を軽減するために筋周囲に鞘[筋鞘のこと。骨格筋繊維を包む細胞膜]を形成する。

2.心臓への静脈還流の促進。

3.筋が付着する外骨格を構築する。

4.血管と筋を機械的損傷から保護する(例えば、上腕二頭筋腱膜や手掌腱膜、足底腱膜)。 

2.5 全身伝達システムとしての筋膜

序論

・人体における伝達を考えるとき、通常、神経とシナプスのことを考える。では、ゾウリムシのような単細胞生物は神経機能を用いずにどのように生きている餌を捕らえ、光、音、匂いに反応し、複雑な動きを示すのか。

・哺乳類ではグリア[神経膠細胞:神経細胞と神経細胞の間を埋める、それらの保護・栄養・電気的絶縁に働く細胞である。中枢神経系では星状膠細胞、希突起膠細胞、小膠細胞、上皮細胞があり、末梢神経系ではシュワン細胞と外套細胞がある]とよばれる結合組織細胞が脳容積の約50%を構成する。グリア細胞は形態学的、生化学的、生理学的に脳を介してニューロンと影響し合い、ニューロン活動を調整し行動に影響を及ぼす。

・神経科学と筋膜の両研究において、結合組織細胞と神経細胞突起の関係の基礎をなす新しい最先端分野が誕生した。筋膜を研究している学者は、身体において最も重要な関係の1つは結合組織と神経系との関係であると思っている。

中枢神経系を構成する細胞
中枢神経系を構成する細胞

画像出展:「人体の正常構造と機能」

茶色で星状膠細胞希突起膠細胞小膠細胞上皮細胞が書かれています。

 

筋膜

筋膜は結合組織の様々な構成要素間にある任意の境界線を明確にしないという重要な特徴をもっている。

身体最大の系である筋膜系は他のすべての系と接する唯一の組織である。

・『鍼経絡系のように、筋膜は、1つの器官、統合された全体、すべての身体系が機能する環境として見られている可能性がある。筋膜への治療アプローチと鍼治療のあいだには実質的に1対1の対応がある。たとえばPischinger(2007)は、針穿刺がすべての細胞間-細胞マトリックス全体に反応を引き起こすと述べている。鍼治療に反応する状態の多様性は、近年明らかになった筋膜の特性に関する報告によって説明できる可能性がある。』 ※Pischinger, A., 2007. The extracellular matrix and ground regulation.

The extracellular matrix and ground regulation.
The extracellular matrix and ground regulation.

amazonで販売されていました。

日本語に翻訳したレビューには、次のような説明書きがありました。

『鍼治療が細胞外マトリックスをどのように調節するかについての大きなセクションがあり、心と体のつながりが探求されています。』

 

筋膜体系の調節

・“機能的圧力”(張力と圧縮力)と解剖学的構造の関係はどういうものか? その問いは筋骨格系の力学の域を超えて重要である。

・『ChenとIngberは、どのように機械的な力がその系を通して伝達し、最終的に細胞骨格と核基質に到達するのか、どこでそれらが機械化学的変換によって生化学的な転写変化を引き起こすことができるかを説明する(Chen, C., Ingber, D., 2007. Tensegrity and mechanoregulation: from skeleton to cytoskeleton. )

さらにいくつかの付加的な信号伝達機序が、“機能的圧力”と組織構造との関係を説明するために探求されている。これらの信号伝達メカニズムはそれぞれ、生体マトリックス(living matrix)および/または関連する結合組織内の水分と流体相を通して伝達するエネルギーの特定の形態に関係する。われわれは電場の役割から話を始め、光と音の運動へと進める。』 

生体マトリックス概念
生体マトリックス概念

画像出展:「膜・筋膜」

 

 

・電場と圧電効果

-筋膜系のコラーゲン線維と線維束は大きな抗張力と柔軟性をもたらすと同時に、高い結晶化度を付与する平行配列に高く関連している。筋膜系に含まれる有機結晶は、アクチン、ミオシン、コラーゲン、エラスチンといった長く、薄く、柔軟なフィラメントで構成される。それらは柔軟な結晶、液晶として説明されることが多い。

-液晶のもう1つの重要な特性は圧電気である。圧迫または張力下におかれると電場を発生させる。骨、歯、腱、血管壁、筋、皮膚の変形はすべて弱い電場を生じさせるが、それは圧電効果の結果であると考えられる。

-結合組織の変形によって発生する電場が完全に圧電効果によるものかに関しては意見の相違がある。電気特性に影響しうるもう1つの機序は流動電位である。

・光

光や生物フォトン[生命を意味するbioと光子を意味するphotonの造語で、生物発光のうち非常に強度が小さい場合や、そのとき放出される光子を意味する言葉]は、身体内で発生する。そして、生体マトリックスを介して移動するエネルギーのもう1つの形態という性質がある。

現在ではヒトを含むすべての生物は非常に微弱で肉眼では感知できないが、弱い信号を数百倍に増幅する光電子倍増管で精密に測定できる光を放つことが分かっている。

-生物フォトン光の強度は1秒間に1平方センチメートルあたり数万光子である。Bischof(2005)によると、この光は約24km離れたところから見られるロウソクの光に相当する。

-生物フォトンの波長は200~800nmで、紫外線から赤外線までの可視スペクトルの範囲に当たる。なお、全く異なる特性と発生源である化学的生物発光と混同してはいけない。

生物フォトンの放射は細胞死の前に数百倍から数千倍に強度が増大し、細胞死に終わる。細胞の損傷は生物フォトンの生成を促進する。

-生物フォトン光は一定ではなく、生物のあらゆる活動性の変化に伴って変化する。

生物フォトンの生成は細胞周期中に変化し、生体の生理学的状態のあらゆる変化に影響を受ける。

『最近の研究結果によると、鍼師が行う種々の方法で点を刺激すると、生物フォトンが鍼経絡から放射されるとのことである。』Schlebusch, K.P., Maric-Oehler, W., Popp, F.A., 2005. Biophotonics in the infrared spectral range reveal acupuncture meridian structure of the body. J. Altern. Complement. Med. 11(1), 171-173

-生物フォトンの研究は1974年、ドイツのFritz-Albert Poppらの研究から始まった。現在、およそ12カ国に約40グループがあり、生物フォトンそしてPoppは長年にわたる生物フォトンの研究をGestaltbildungの概念(細胞協調と伝達)を用いて、まとめの理論と実用的応用を研究し、その技術を利用している。

-Fritz-Albert Poppは形態形成に関する疑問の答えを示した。

1.光子伝達はすべての細胞に他のすべての細胞で起こっていることを伝達する。

2.微弱光の放射は身体を組織化する。

3.放射は量子レベルで起こる。

-結合組織内の液晶領域は生物フォトンの強力な放出体とセンサーである。

ご参考:”生物フォトン”

東北工業大学
東北工業大学

バイオフォトン(biophoton;生物フォトン)とは,生物がその生命活動に伴って自発的に放射する極めて弱い自然発光です。発光強度はおよそ10-16W/cm2以下であり,ホタルなどの発光と違い肉眼では見ることのできないフォトン(光子)レベルの発光です。呼吸など生体内の様々な代謝過程におけるタンパク質や脂質等,生体構成物質の酸化反応によって生じる励起状態に由来するものであり,発光メカニズムが主に活性酸素と関連することから,生体の酸化ストレス計測に応用することができます。その発光スペクトルは可視波長域全般に及びますが,発光種や発光メカニズムに依存した特定のスペクトルパターンを示します。バイオフォトンの高感度イメージング技術や,高感度分光分析技術を駆使し,酸化ストレスの新しい定量計測法の開発を目指しています。』

科学技術振興機構
科学技術振興機構

『生体組織や細胞などから生じ、肉眼や通常の光検出器では検地できないような極めて微弱な光(生物フォトン)に着目し、その特性を精密に測定、分析する手法を探索し、生物フォトンの発光機構や役割を探求するとともに、得られた手法を用いて生物を無侵襲で計測する技術について研究しました。

研究により、世界でも最高感度の光子計数装置、2次元発光画像システムを試作しました。次いで、それらを用いてヒトの呼気や喀痰、受精前後の卵、創傷自然治癒過程の細胞・組織などから生物フォトンの検出に成功し、生体内部情報の無侵襲計測の基礎を確立しました。さらに、極微弱光の検出、測定技術を総合し、世界で初めて生体試料の光断層像(光CT)計測に成功し、生物フォトン分野を切り拓く手掛かりを得ました。』

・筋音

-収縮している筋はマイクで容易に録音できる音を出す。

-筋音図の記録は筋疲労のモニタリング、人工器官の制御、小児筋疾患の診断に利用できる。骨格筋に対し非侵襲性の携帯機器を用いて測定する。

-お風呂で仰向けになり鼻を出し、耳を水中に沈め顔面筋や頸部筋を動かすと筋音を聞くことができる。特に高感度の聴覚をもつ人であれば、身体の他の部位の随意収縮によって生じる音も聞こえる可能性がある。

重要なことは、筋収縮は組織を通じて伝達される音を生むということである。

-音や他のあらゆる形態の機械的振動は、圧電効果によって音と同じ周波数の振動電場を結晶性結合組織に引き起こす原因となる。それゆえに、電気と音という2つのエネルギー形態を考慮すべきである。

結論

・『本章にまとめられた情報は、読者に人体における非神経系のエネルギーと情報の伝達の可能性と、これらの現象における筋膜の役割の一部を伝えることを目的としている。これらの現象に対する根拠の多くは状況的である。そして、科学は法律とは異なり、状況証拠によって確定的結論には達しない。従来の測定方法は適用できないため、ここで論ずる現象を研究することは困難である。神経系とは対照的に、微小電極を筋膜に挿入したり、行われている情報処理の特性を立証したりすることは簡単にできない。著者(James L.Oschman PhD、Natures’s Own Research Association)は、筋膜系における情報処理を探求し、結果として筋膜と徒手療法に関するまったく新しい見解を得るのにそれほど時間はかからないだろうと考える。』

経絡≒ファシア7

人体の張力ネットワーク
人体の張力ネットワーク

監訳:竹井 仁

出版:医歯薬出版

発行:2015年6月 

目次は”経絡≒ファシア1”を参照ください。

 

1.10 横隔膜の構造

序論

・横隔膜は筋線維構造である。役割は呼吸だけでなく腹部運動と筋膜伝達に関係する。

構成

・横隔膜の高さによって、3つの部分に分かれる。

・中央部

-横隔膜中心は三つ葉のような形をした線維性の層であり、横中隔から生じて3つの小葉を含む。

-前小葉は最も広範囲でリンパ管が非常に豊富である。そして、左右それぞれに1つずつ小葉が存在する。

・末梢部

-末梢部は筋性の組織であり、横隔膜中心部から胸郭周辺領域全体へと放射状に広がる。

-前筋膜と外側筋膜という2つの重要な筋膜に区別される。

・後部

-後部は横隔膜の脚と弓状靭帯から形成される。

-横隔膜脚の右脚はL1-L3椎体とその間の椎間板に付着し、左脚はL1-L2とその間の椎間板に付着する。これらの脚は総前縦靭帯に沿って広がり、後頭骨と仙骨間の連続性を形成する。

-内側弓状靭帯はL1横突起からL1椎体へ走行する。大腰筋の前側面上で交差し、その筋膜で膜連続を構成する。

-外側弓状靭帯はL1横突起から11および12肋骨端へおよぶ。それは横の腱膜と調和し、それ自身が骨盤筋膜に沿って進み、横筋筋膜を経て腹部で筋膜の連続性を形成する。

関係と役割

横隔膜は上方では心膜、胸膜と肺に関係し、下方では右肝弯曲部、肝臓、胃の大結節、脾臓、左肝弯曲部に関係する。また、後方では十二指腸1/3、膵臓、大内臓神経と小内臓神経においても関係が認められる。

横隔膜は肺換気だけでなく、胸部と腹部を分割しこの2領域間の感染拡大を防ぐという重要な働きを担っている。さらに血行循環を促進するポンプ機能により血行動態にも関与している。

他の身体に対する相互作用

・腔内道

-横隔膜によって伝達された力は、生理学的視点として力学的に活動する機能的結合体を形成しながら、頭側および尾側へ移動する。

-尾側へ:横隔膜は胸内筋膜および胸膜に対する中継点を構成する。腹膜は骨盤隔膜を構成し、下行性筋膜連続を形成し、主として肛門挙筋および骨盤筋膜によって構成される。

-頭側へ:横隔膜は中継点である胸内筋膜と胸膜を介して肩甲帯と関連している。中央では心膜、咽頭および咽頭周囲腱膜を経由して舌骨とつながり、これを経由して頭蓋底へ至る。

・末梢道

肋骨、胸骨、椎骨などの多くの付着によって、横隔膜の収縮は頭側および尾側へ伝達する。

-吸気のあいだ弯曲は減少し、頸部から仙骨領域の脊柱全体が可動している。この伝達は主として後頭部から仙骨に走行する棘上靭帯と、横隔膜脚に沿って走行する前縦靭帯によって行われる。この靭帯は脊柱のスタビライザー(安定器)であり、呼吸を通して恒久的に動員される。

横隔膜の収縮における共同作用

・呼気のあいだ、胸内筋膜、壁側胸膜、靭帯は胸郭の垂直径を増加させ肺を満たすための固定点をつくりだす。また、この頸胸横隔膜との関連は、多くの局所構造の連続的な活性化を引き起こす。つまり、横隔膜は呼吸筋だけではなく、身体全体の活性化にも関与している。 

横隔膜の相互作用
横隔膜の相互作用

画像出展:「膜・筋膜」

矢印は筋膜連結を示しています。

 

パート2 コミュニケーション器官としての筋膜

2.2 固有受容(固有感覚)

固有受容、機械受容と筋膜の解剖

筋膜と筋膜構造は固有受容の処理過程において重要な役割を果たす。

・固有受容は神経生理学的に全身および各部の肢位と位置、方向、そして運動を感知する能力である。

・固有受容は外界と結びつける外受容と内臓や代謝について情報を伝達する内受容を区別しなければならない。

連結性と連続性

・身体の主要な結合組織は胚体中胚葉である。その中胚葉はマトリックスとその内部で身体の器官と構造体が分化し、それらが“包埋された”環境を意味する。

・主要な結合組織の機能的発達と分化には2種類の“連結”の型がある。

-1つ目の型は、滑走する空間として機能する裂隙を表す“細胞間隙”の発達である。これは体腔、関節腔の形成内や隣接した腱や筋腹間の滑液包様の滑走空間にもみられる。この型は空間的に完全に分離しており、可動性を有する。

-2つ目の型は、結合媒体を有する形成である。それは線維性(骨間膜や靭帯など)または間質性基質とマトリックス(軟骨性連結など)である可能性がある。

-この連結性の2つの型は、筋膜の解剖にも適用できる。通常は筋骨格系における筋膜は2つの異なる機械的、機能的側面を示す。

疎性結合組織(“滑走組織”)と脂肪組織で満たされた腔に隣接した筋膜これらは筋(と腱)が互いに、あるいは他の組織に対して滑走する。そして、間隙にあって圧迫により引き起こされる球形か卵円形の機械受容器は、筋膜組織とそれに関連する構造の変位と動きについて、脳に伝達することを可能にする。

筋線維を骨に伝える役割(付着)を担う筋間膜と筋外膜これらは筋間中隔や浅筋膜として認められる。伸張感受性受容器は筋膜層に起こる筋膜組織の緊張についての情報を伝達する。

体系はさまざまで解剖学的構造以上である

連結、緊張の伝達、そして固有受容における筋膜の役割の機械的、機能的な詳細を理解するには、標準的な解剖学より結合組織と筋組織の構造を知っておくことが重要である。筋膜がどこに位置していて(解剖学的構造)、どのように連結し、連結されているのか(構造)を知らなければならない。

機械受容の基質

結合組織と筋膜には神経が豊富に分布している。

機械受容器は特殊な終末器官の有無に関わらず自由神経終末であり、そのような受容器に対する主な刺激は変形である。

・筋受容器は無意識または反射レベルで行われる運動機能を担い、関節受容器は位置覚と運動覚として関節の肢位と運動を監視する過程で主要な役割を果たす。

固有受容における機械受容の分類

・運動器官における筋組織と密性規則性結合組織構造の直列構造が同定された結果、機械受容器の3種類の構造型が確認された。

-筋紡錘、ゴルジ腱器官、ルフィニ小体、自由神経終末、そして層板小体は筋組織と密性規則性結合組織との間の領域にみられる。

-層板小体と自由神経終末は、密性規則性結合組織が滑走する腔である網様結合組織と隣接する領域にみられる。

-自由神経終末だけは骨格の付着部(骨膜)への移行部に存在する。

筋膜層の密性規則性結合組織内または近傍のほとんどの神経叢は、Ⅲ群とⅣ群の神経線維を含む。Ⅲ群の神経線維(またはAδ群)は機械受容器からの求心性線維であり、Ⅳ群の神経線維(またはC群)は侵害受容性または機械感覚性(緊張)の自由神経末からの求心性線維である。 

機械受容器の種類
機械受容器の種類

画像出展:「膜・筋膜」

A.自由神経終末

B.ルフィニ小体

C.層板小体、またはパチニ様終末

D.ゴルジ腱器官

E.筋紡錘

 

神経線維の分類と感覚神経線維の分類
神経線維の分類と感覚神経線維の分類

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

 

体性感覚の受容器
体性感覚の受容器

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

 

2.3 内受容

筋膜受容器、感情、そして自己認識のあいだの複雑なつながりにおける新しい相互関係。

序論

19世紀には身体および器官の正常な機能に関する無意識下の感覚の神経モデルとして、セネステジア(体感)とよばれていた。それが最近、“内受容”という用語で再び注目を集めた。この感覚系の解剖学的、生理学的、そして神経学的な新しい見識が科学的な注目と探求につながった。

内受容とは?

内受容性感覚
内受容性感覚

画像出展:「膜・筋膜」

 

官能的な感触

・内受容性感覚の一覧に加えられた新しくて意外なものに官能的、あるいは気持ちの良い感触の感覚がある。

・『この発見のきっかけは、有髄の求心性神経が欠如している珍しい患者の検査において、柔らかいブラシで皮膚をゆっくり擦ると、その患者は擦っている方向をまったく認識できなかったが、ぼんやりして曖昧な心地良い感触の感覚(と一般的な幸福感)が生じたことだった。機能的磁気共鳴画像により、この曖昧な感覚は島皮質の明らかな活性化に付随して起こり、一次体性感覚皮質の活性化はみられないことが明らかになった。

ヒトの内受容性受容器の発見
ヒトの内受容性受容器の発見

画像出展:「膜・筋膜」

『ヒトの皮膚内の内受容性受容器の発見。固有性神経終末のほかに、ヒトの皮膚には、一般的な幸福感を引き起こす内受容性のC線維の終末がある。これら伝導速度が遅い受容器の接続は、脳内の固有受容性領域に向かう通常の錐体路の経路はたどらない。それらはむしろ、内受容の調整の中心的存在である島皮質に伝達される。』

ご参考:ブログ ”スキンシップケア(C触覚線維)

 

新しい系統発生的な変化

・内受容に関係する求心性ニューロンは第一層(脊髄後角で最表層)で終わる。この層は自律神経系の交感神経節前細胞が起こる胸腰髄の交感神経細胞柱へ伝達する。そしてそこから、脳幹にある主要な恒常性統合部へと情報を伝達する。

・脳幹領域の傍小脳脚核は、扁桃体と視床下部との間に密接な相互連絡があり、加えてそれらは島皮質に情報を伝達する。 

内受容に関する新しい短絡路
内受容に関する新しい短絡路

画像出展:「膜・筋膜」

『霊長類の内受容に関する新しい短絡路。哺乳類では、内受容の主要な経路は自由神経終末に始まり、脊髄の第一層へ伝達される。ここから、脳幹の傍小脳脚核へ伝達され、さらにその傍小脳脚核からのみ視床を経由して島皮質へ伝達される。しかしながら、霊長類には、それに加えて第一層から視床を経由する島皮質への直線的な伝達がある。したがって、霊長類には、新しい系統発生学的獲得として脊髄の内受容性感覚の求心性領域と島皮質とのあいだにより直線的な経路がある(黒矢印)。』

 

 

・島皮質自身は階層的な様式で組織化されている。内受容性感覚に関係する一次感覚入力は島皮質後部に伝達される。その後、島皮質中間部と前部の様式全体で徐々に精密化して統合される。最終的には、前帯状皮質と密接な連結がある島皮質前部で最高レベルの統合が行なわれる。同時にそれらは情動性のネットワークを形成し、そこで辺縁系の島皮質要素が感覚受容と意識的な感情に関与したり、帯状皮質が情動性要素と運動性要素として感情の行動面での表出に関与したりする。

内受容と体性情動障害

・体内感覚の過程を調整する特有の神経構造である内受容の発見(19世紀のセネステジアを考慮すると再発見というべき)は、内受容と健康との関連を研究のきっかけとなった。

体性情動的要素をもつ複合障害の多くは内受容の変化と関係しているが、これは新しい精神生物学的医学の研究分野である。しかしながら、多くの内受容性疾患において正確な体系的変化をさらに解明する必要がある。例えば、本態性高血圧症では、この疾患の初期から高まった内受容性認識が観測されており、心臓血管症候群の予後への関与が議論されている。Koroboki, E., Zakopoulos, N., Manios, E., et al., 2010 Interoceptive awareness in essential hypertention. Int. J. Psychophysiol. 78, 158-162

内受容性器官としての筋膜

・筋骨格組織においては、筋紡錘、ゴルジ腱器官、パチニ小体、ルフィニ終末などの少数の感覚神経終末だけが固有受容に関する有髄の機械受容器である。

・約80%の求心性神経は自由神経終末に終わる。

・自由神経終末の90%は伝導速度が遅いC線維ニューロンに属する。

・“間質性筋受容器”とよばれるそれらの受容器は、筋内膜や筋周膜などの筋膜組織内にあり、無髄の求心性ニューロン(Ⅳ群あるいはC線維)や有髄の軸索(Ⅲ群あるいはAδ線維)と連結する。

C線維ニューロンの興奮は、内受容性を示唆する島皮質の活動の結果として生じる。

・筋肉組織内の内受容性受容器の数は固有受容性終末の数をはるかに上回る。具体的には固有受容性神経終末に対し、内受容器として分類される神経終末は7倍以上と予測される。

・自由神経終末の中には温度受容器や化学受容器、あるいは複合的機能を持つものもあるが、大多数は機械受容器として機能し、機械的な張力、圧力または剪断変形に反応する。これらの受容器には高域値のものもあるが約40%は低閾値の受容器に分類され、軽い接触、筆の接触でさえも反応すると考えられている。

徒手療法と内受容

・筋組織を治療するとき、非神経組織の生体力学的効果や筋紡錘、ゴルジ腱器官などの特殊な固有受容性神経終末に注目するが、これに加え内受容性受容器を意識する必要がある。

筋組織内の内受容性神経終末の一部は、エルゴレセプター[骨格筋の働きに敏感な求心性神経]として分類されており、それらは局所の筋の作用の情報を島皮質に伝達する。それらの機械刺激は交感神経に関与し局所の血流を増加させる。

内受容性神経終末の興奮は血漿血管外遊出を促すことにより、マトリックスの水和反応を増加させる。

・徒手療法では常に患者の自律神経反応と辺縁系-島皮質(感情部)の反応(温度・皮膚色・呼吸の変化・四肢の微細な動き・瞳孔拡張、そして表情など)に注意を払うことは極めて重要である。

腸壁神経系に関する知見から、“腹部の脳”は1億以上のニューロンを含んでいることが分かっているが、これらの多くは外筋層の結合組織内(アウエルバッハ神経叢)か、粘膜下組織の密性結合組織内(マイスナー神経叢)にある。これらの内臓神経終末の多くは内受容と直接関係しており“第一層-脊髄視床皮質路”を経由して島皮質と連絡する。 

小腸壁の組織構築
小腸壁の組織構築

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

中央に粘膜下神経叢(マイスナー神経叢)、下部に筋層間神経叢(アウエルバッハ神経叢)が出ています。

 

 

 

・『過敏性腸症候群などのいくつかの複合障害が内臓刺激に対する島皮質の反応の異常をきたした調整と関係があることを考慮すると、患者の安全性と留意点に注意を払いながらであれば、ゆっくりと注意深い内臓組織への徒手的な力の適用は、正常な内受容性の自己調節を促進するためのアプローチとして理想的とはいえないまでも、有用であると考えらえる。』

※ご参考:内受容感覚と島皮質

内受容感覚
内受容感覚

こちらは理学療法士の“万由子”さんという方のブログです。“内受容感覚”に関する説明が大変分かりやすく書かれています。

『~これまで内受容感覚というのは内臓感覚だけに重点が置かれていましたが、最近の概念では身体の生理学的状態の感覚として内受容感覚が説明されています。この内受容感覚では空腹感や口渇感、心拍を感じるなどの内臓の感覚だけでなく、筋肉がどのくらいの活動をしているかも含まれています。~』

島皮質
島皮質

こちらは図は「脳科学辞典」さまから拝借しました。

右大脳半球のシルビウス裂に沿って、頭頂・前頭弁蓋と側頭弁蓋を切り開いたところ。図の右が前頭部、左が後頭部。ピンクに着色してあるのが島。』

 

 

 

 

経絡≒ファシア6

人体の張力ネットワーク
人体の張力ネットワーク

監訳:竹井 仁

出版:医歯薬出版

発行:2015年6月 

目次は”経絡≒ファシア1”を参照ください。

 

1.8 内臓筋膜

序論

・内臓か身体かにかかわらず、身体の臓器系は高度に分化した組織から構成されており、維持のために複雑な支持機構を必要とする。この支持機構はコラーゲン線維およびエラスチン線維を含む結合組織ネットワークであり、すべて筋膜と称される。線維成分の密度は個体あるいは局所的に大きく変化する。

内臓筋膜

頭蓋底から骨盤鉢までの体腔の裏打ちする内臓筋膜は、4つ(浅筋膜、深筋膜、髄膜、内臓筋膜)の主たる筋膜の中でも群を抜いて複雑である。

・発生学的に筋膜層は間葉と称される。

・筋膜層は内臓組織から派生し、その疎性基質内にあり胸膜、心膜、腹膜の大きさに広がる。この拡張が起こるとき、内臓筋膜は正中に沿って内側に統合されるのと同様に、身体壁に対して外方へ圧縮される。

・内臓筋膜は身体の正中構造に対して被膜組織を供給する。

正中筋膜は頸部を通って縦隔を占有する胸郭内へ入り込み、その付着部から頭蓋底へと広がる支柱を形成する。この支柱は横隔膜において腹部へ入り、大動脈と食道裂孔を通過し骨盤鉢へ入り込む。

・正中筋膜は縦隔の延長を形成する。

縦隔領域は大動脈、下大静脈、胸管のような主要脈管構造を含む。これらの構造と各々の分枝は筋膜層で包まれる。そして、それらが個々の臓器系に達するために外方へ広がるにつれて神経血管束を伴う。

・頸部内臓筋膜

-内臓筋膜は頭蓋領域では、咽頭と頭蓋底付着部を取り囲む。

-内臓筋膜は頭蓋領域上方では、咽頭脳底および咽頭頬筋筋膜を含み、上咽頭収縮筋の付着部を取り囲む頭蓋底と融合する。

-頸部内臓筋膜は頸部下方に延びて、鼻咽頭、口腔咽頭と残りの頸部内臓を取り囲む。

-内臓筋膜は頸部では、甲状軟骨および甲状腺を取り囲む筋膜、気管前筋膜、咽頭後筋膜、鼻翼(頸動脈鞘)筋膜などの局所性筋膜と結合する。

-内臓筋膜は舌骨筋の内側、頸長筋の前方の継続した垂直の袖のように胸郭内へ広がる。 

頸椎縦隔(頸部内臓筋膜)
頸椎縦隔(頸部内臓筋膜)

画像出展:「膜・筋膜」

脳蓋底(セクション22)から頸胸椎移行部(セクション86)までの頸椎横断面。

 

・胸部内臓筋膜

-内臓筋膜は胸郭内に入ると同時に2つの胸膜腔へ収容させられる。それらは胸壁に向かって平坦化することで、胸内筋膜とよばれる。中央では臓筋膜が全体として拡大し縦隔を包み込む。 

胸部内臓胸膜
胸部内臓胸膜

画像出展:「膜・筋膜」

胸膜嚢開口部の胸内筋膜の広がり。

 

-内臓筋膜は縦隔において心臓の大血管を取り囲み、前方では線維性心膜となるため厚くなる。後方では大動脈、食道、気管と気管支、胸管を取り囲む疎性基質を形成する。

・腹部内臓筋膜

臓壁板は腹膜を取り囲むため外方へ広がり、後方は腹壁内筋膜、前方は横筋筋膜とよばれる。

-腹壁内筋膜は後方の正中に沿って著しく厚くなり、胸郭の縦隔に類似した垂直柱を形成する。

内臓縦隔(内臓筋膜)
内臓縦隔(内臓筋膜)

画像出展:「膜・筋膜」

胸郭から腹部、骨盤を含む横断CT像。なお、左下隅の写真は、84歳女性の腹膜器官をすべて取り除いた身体後壁を示しています。

 

 

内臓筋膜は正中で顕著に厚くなる体壁を覆うカーテンを形成し、腹部大動脈と下大静脈などの主要血管や神経通路を覆う。

腹部縦隔筋膜の延長は腹部の内臓に到達し、胃間膜、腸間膜、結腸間膜へと移る。この延長は血液供給、神経支配、リンパ管が腹部の腹膜器官に到達する経路に沿っている。なお、これは胸郭の縦隔に見られるものと極めて類似している。

-内臓筋膜は肺組織の中を深く通過するにつれて肺根で構造物を包み、これらの構造物に同行する。

身体後壁上では、筋膜の特に厚い塊は腎臓を取り囲む。この腎筋膜はジェロタ筋膜とよばれる。

-腎筋膜は腎血管系に従って正中から離れ、腎被膜を取り囲む大きな塊の高密度な脂肪細胞を形成する。

腎筋膜は後方では大腰筋と腰方形筋の体軸(被膜)筋膜と混ざりあう。

・骨盤内臓筋膜

-腹壁内筋膜は骨盤鉢において、腹膜の下方領域を取り囲む骨盤内筋膜につながる。

-骨盤内胸膜の下縁は骨盤隔膜であり、肛門挙筋と尾骨筋からなる。

-骨盤隔膜は体壁から派生する体軸または被膜筋膜で裏打ちされている。

-骨盤隔膜の下方は皮下脂肪の筋膜で満たされている坐骨直腸窩である。

-骨盤内筋膜の前下縁は膀胱底を取り囲みながら恥骨後隙を埋める。

-内臓筋膜(腹膜筋膜)は仙骨岬角の高さで下腹神経叢を取り囲みながら正中ヒダを形成し、さらに総腸骨血管と関連するリンパ通路を取り囲みながら2つの細い外側ヒダを形成する。正中ヒダは仙骨岬角の下方において外側ヒダ内の血管と合流しながら下腹神経叢を外側へ一掃するように分ける。これにより内臓筋膜(骨盤内筋膜)は、直腸、生殖器、膀胱などの正中器官を取り囲む。

-内臓筋膜(骨盤内筋膜)は胸部と腹部と同様に、正中で厚くなりこれらの器官を取り囲む縦隔を再び形成する。

-女性では、内臓筋膜の骨盤縦隔成分の延長は子宮広間膜の核を形成し、この内臓筋膜の凝固体は子宮頸横靭帯を形成する。

-男女とも、内臓筋膜の凝固体が直腸間膜と称されている直腸を取り囲む。 

骨盤内臓筋膜
骨盤内臓筋膜

画像出展:「膜・筋膜」

 

 

・要約

内臓筋膜は頭蓋底から骨盤腔内へと追跡することができ、体壁を圧迫する体腔を取り囲む包装物を形成する。それはまた、内臓周辺で包装物を形成しそれらの多くが腸間膜二重層の腹膜からなる膜。腸管を腹腔)後壁に固定している]のような提靭帯に沿って進み到達する。

内臓筋膜は特定の臓器に到達するために、胸郭、腹部、骨盤縦隔から外方に放散して、神経血管およびリンパ束の導管としても機能する。

内臓靭帯

内臓靭帯は身体各部位に存在する靭帯とは全く異なるものである。

・身体各部位の靭帯は骨と骨を結合する高密度で規則的な結合組織構造であり、被覆筋膜が薄い周囲靭帯によって囲まれており、概して体軸または四肢の筋膜の一部である。

内臓靭帯は一般的に身体各部の靭帯ほど強固ではなく、解剖学上はっきりと定義されるものではない。

内臓靭帯の主な機能は、血液供給と神経支配を臓器系へ運ぶこと、臓器を体腔に緩く固定することである。

・内臓靭帯は刺激作用や炎症によって作り出される線維性癒着と区別しなければならない。

癒着

線維性癒着は慢性炎症の領域から生じる。

・修復過程において活性化された免疫細胞が、線維芽細胞を刺激するサイトカインを放出し、新たなコラーゲンを生成する。生成されたコラーゲン線維は配列が不規則であり、構造は筋膜に類似している。

・生成されたコラーゲンが過剰な場合には癒着をつくり、病的な状態に発展させる場合がある。

癒着は内臓性、身体性のいずれにおいても生じる可能性がある。腹部と骨盤では癒着は腸管を包み、その腔内での運動を妨害し生殖機能を妨げる。また、手根管では滑膜鞘の内外に形成される癒着は、手指屈筋腱の運動を妨げる。

1.9 頭蓋内における膜性構造と髄腔内の空間

頭蓋内膜系 

・軟膜(硬膜システムの軟らかい内層)

-血管を含む軟膜は3層の髄膜のなかで最も内膜にあり、多量の弾性に富むエラスチン線維を含む薄い結合組織である。脳実質とは融合はしていない。

-血管は軟膜から脳に入り。さらに軟膜は大血管ネットワークである脈絡叢を構築し、それは脳室に入って脳脊髄液を産生する。

髄膜の構成
髄膜の構成

画像出展:「人体の正常構造と機能」

『軟膜は、脳の実質および血管の表面を覆う薄い膜である。クモ膜と軟膜の間をクモ膜下腔と呼び、髄液で満たされている。膠原線維からなるクモ膜小柱が、クモ膜と軟膜を架橋している。クモ膜下腔には、脳実質に出入りする血管が存在する。』

 

 

 

ご参考:”日本脳神経外科学会 第72回学術総会 ランチョンセミナー:流れない脳脊髄液 ─Time-SLIP法 CSF dynamics imagingからの観察─”

上記は2013年10月16日、横浜パシフィコで開催された脳脊髄液に関するセミナです。

・クモ膜(髄膜の中間層)

-クモ膜にはガーゼ様の海綿質構造があり、2層に分化している。

-硬膜を越えた外層は薄い裂け目(硬膜下腔)によって分けられる。

硬膜には若干の静脈と神経を含む。内層は小柱のフレームワークからなる。

-クモ膜と軟膜の間には、クモ膜下腔がある。

-クモ膜と軟膜はクモ膜下腔において小柱のフレームワーク枠により結合している。それは脳脊髄液で満たされており脳脊髄外腔を形成する。

-脳脊髄液で満たされた腔は槽とよばれる。

-クモ膜の増殖物であるクモ膜絨毛は、頭蓋内の静脈排液路であるこれらの腔の中、特に矢状静脈洞の中に突き出る。これらの絨毛を通して、脳脊髄液は静脈系へ流出することができる。  

頭蓋内の静脈と矢状静脈洞
頭蓋内の静脈と矢状静脈洞

・硬膜

-硬膜は高密度で不規則で非常に強固な多くのコラーゲン線維を含む結合組織からなる。隙間なく脳脊髄液に対する透過性は認められない。

-硬膜とクモ膜の間の移行部である硬膜境界は骨膜層(外板)と髄膜層(内板)に分けられる。

-髄膜層(内層)は硬膜層、クモ膜層に比べ線維構造が弱いため、頭蓋内硬膜と脊髄内硬膜に種々の力を伝達することを可能にする。これらの“力の伝達のための経路”は硬膜の線維構造によって自分の道を見つけだすので、“張線維”とよばれる。

頭蓋外膜系

・脊髄軟膜

-この軟膜は神経と血管を含む。

-脊髄の両側で軟膜から結合組織板と歯状靭帯が脊髄硬膜へとつながる。それは脊髄を固定して2つの神経根を分ける。軟膜は脊柱の内側へと続き、尾骨背面において細長い終糸で終わる。   

脊髄とその周囲構造
脊髄とその周囲構造
髄膜は外側から、硬膜→クモ膜→軟膜となっています。
髄膜は外側から、硬膜→クモ膜→軟膜となっています。

・脊髄クモ膜

-クモ膜は血管および神経供給が極めて乏しい。

-クモ膜は脳脊髄液を満たし神経根へと硬膜に伴行する。両膜は椎間孔へと神経を続き、脊髄神経節を包む。そして、クモ膜は脊髄神経の神経周膜へと続く。

・脊髄硬膜

-脊髄硬膜は密接したコラーゲン線維管を形成する。

-脊髄硬膜は後頭骨大後頭孔に固定され、そこから仙骨管まで続きS3の高さで終糸へと切り替わる。

-脊柱の縦方向の運動によって発生する縦方向のストレスは、ほとんどの部分が縦方向のコラーゲン線維によって伝達され、これはさらに上方または下方の隣接構造に波及する。

-脊椎硬膜は頭蓋および尾側の付着部を除き脊柱管に緩く付着しているだけであり、脊柱管に対して硬膜の運動が可能になる。

髄膜の血管新生

・頭蓋内血管新生

-硬膜系はとりわけ内外頸動脈の終枝である髄膜動脈によって動脈血管が新生される。それらは硬膜と骨の間にある。

髄膜の神経供給

・頭蓋内神経支配

-硬膜系の上部は主として三叉神経の分枝によって神経が分布される。

-硬膜系の下部は第1~第3頸神経と迷走神経によって神経が分布される。

-すべての髄膜神経は直接的あるいは間接的に上頸神経節内に起始する節後交感神経線維を含む。

-副交感神経支配は大錐体神経(第7脳神経の副交感神経から起こる)、迷走神経と舌咽神経の分枝によって提供される。

・脊椎内の神経支配

-脊髄神経の硬膜枝および後縦靭帯の神経叢に加え、根動脈の血管周囲神経叢も脊椎内神経支配を形成する。

硬膜系の役割

・脳脊髄液ともに脳の構造を維持する。

・力学的損傷からの保護。

・頭蓋骨に加えられた力学的な力を衝撃吸収する。

相反性緊張膜

・硬膜は頭蓋骨の靭帯機構を形成する。

・垂直および水平の張力は、頸部筋群と胸鎖乳突筋の緊張によって維持される。

・脳および脊髄の相反性緊張膜は、頭蓋骨の可動域を誘導および制限する。

すべての膜の構造連結を用いることで、系のいかなる部分の張力も他のすべての部位に影響を及ぼすことができる。

硬膜は頭蓋骨および仙骨へのそれらの付着により、不随意的な頭蓋骨および仙骨の運動を調節している。互いに相反的に運動しているこれらの膜は、最適なバランスを恒久的に探索している。膜の一端のいかなる緊張も完全な単位を変化させ、新たなバランスを引き起こす。 

ロベットリアクター
ロベットリアクター

画像出展:「アプライド キネシオロジー シナプス」

『アプライド キネシオロジーの中で、脊椎の運動の関係について、歩行時にアトラス[C1]とL5の同側への回旋が起こることを示している。この関係はC2とL4、 C3とL3の同側への回旋のように脊柱全域に続く。しかし、回旋は、C4とL2、C5と L1の間で反対に起こることになる。この逆方向への回旋は、上部脊柱と下部脊柱の移行部であるT5とT6に至るまで続く。この関係は“ロベットリアクター”と呼ばれる。』

 

 

 

 

・呼吸状態の変化も頭蓋内の緊張を変化させると考えられる。

・サザーランド支点

膜はあらゆる方向への動きと張力のバランスを維持するために支点あるいは安定した点に基づいて作動しなければならない。これらの点は外部張力などの変化に応じ、頭蓋骨の運動が安定するように自動的に動く必要がある。

-頭蓋内膜系の中心は、小脳テント、大脳鎌および小脳鎌の結合点に位置する仮想の点であり、サザーランド支点または自動移動浮遊点として知られている。膜に影響を及ぼす動的な力は、ここのバランスをもたらす。全頭蓋内および脊椎内硬膜緊張膜は、この点の周囲で動いて組織化される。 

脳硬膜と硬膜静脈洞
脳硬膜と硬膜静脈洞

画像出展:「人体の正常構造と機能」

この図の中には仮想の点、サザーランド支点(自動移動浮遊点)は出ていませんが、小脳テント(中央部)、大脳鎌(上部)、小脳鎌(下部)は明記されています。

 

 

 

 

・硬膜緊張異常による潜在的影響。

-静脈洞による頭蓋の静脈排液機能障害。

-脳の排液減少。

-脳組織の血液供給障害。

-脳脊髄液の変動障害。

-頭痛、硬膜の感知する神経供給(第5、10脳神経と第1~3頸神経)による頭蓋内および眼窩後の疼痛。

-顔面痛および硬膜ストレスに対して脆弱な三叉神経節による咀嚼筋群の異常緊張。

-脳神経および神経節の機能障害

-頭蓋骨、仙骨、尾骨の運動および可動域制限。

-脊髄神経の機能障害

-筋膜付着と脊髄神経の神経上膜による硬膜緊張の伝達。

-脳下垂体(鞍隔膜)の障害。

経絡≒ファシア5

人体の張力ネットワーク
人体の張力ネットワーク

監訳:竹井 仁

出版:医歯薬出版

発行:2015年6月 

目次は”経絡≒ファシア1”を参照ください。

 

1.7 頸部と体幹腹側の深筋膜

序論

・初期胚発生において、本来単一の体腔は将来、横隔膜となる横中隔と胸腔と腹膜腔に二次的に分ける胸膜心膜中隔の発達によって分割される。

・心膜腔は胸腔の中に形成される。これらの腔はそれぞれの内容物(肺、心臓、腹部器官)と少量の漿液で完全に満たされている。

頸部筋膜

・内臓索は、神経および血管束と頸部臓器から構成される頸椎前方に位置する。第1気管軟骨の高さの横断面は、内臓索が正中に位置し後縁は直接頸椎上にあることを示す。それは、3つの筋膜と、気管前筋群、椎前筋群、密性被膜からなる結合組織筋層によって囲まれている。

頸部の第1気管軟骨レベルの水平面
頸部の第1気管軟骨レベルの水平面

画像出展:「膜・筋膜」

 

 

3つの頸筋膜の配置

・浅頸筋膜(頸筋膜浅葉)

-皮膚と広頸筋の直下にあり広い領域を伸張する。

-咬筋筋膜の延長として下顎骨と口底から舌骨の中間を尾側へと走行し、鎖骨と胸骨柄に付着したのち胸腰筋膜へと続く。

-浅頸筋膜は胸骨に付着しているため呼吸中に有意に移動する。

-浅頸筋膜は胸鎖乳突筋周辺で外側鞘を形成し、この被膜内を自由に滑走する。

-浅頸筋膜は背部では、外側頸三角(後頸三角)の脂肪体を覆って僧帽筋へと続く。

-浅頸筋膜は後上方へは、乳様突起を横断してそこから上項線まで延びる。

-浅頸筋膜は種々の領域により異なった構造をしている。顎二腹筋、僧帽筋前部、胸鎖乳突筋の下1/3はきめ細かい。頭側1/3においては、浅筋膜は極めて強靭で皮下組織に対してほとんど動かない。外側頸三角の下部においては、鎖骨上神経とその伴行血管が通過するためザルのようである。それは隣接する構造の多数の連結によって永続的な緊張下にある。 

3つの頸筋膜
3つの頸筋膜

画像出展:「膜・筋膜」

 

 

・中頸筋膜(頸筋膜の気管前葉)

-中頸筋膜は舌骨下筋の筋膜被膜からなり、頸部臓器の前方で安定した三角形のスカートを形成する。

-中頸筋膜は頭側方向では、それは舌骨に固定されるように発達し、尾側方向では、胸骨の後方で上胸郭開口部を通り、胸骨舌骨筋と胸骨甲状筋の被膜として走行し胸骨柄に停止する。

-中頸筋膜は外側方向では、鎖骨の後方に固定され、肩甲切痕内側より起こって弧を描くように舌骨へと走行する肩甲舌骨筋の筋膜被膜によって後外側に接している。

-中頸筋膜は頸動脈鞘の形成にも含まれており、その牽引によって内頸静脈の管腔は開放されたまま保たれる。この原則は、頸部および上肢帯領域から走行してくる深静脈と頸部の皮静脈にも当てはまる。 

頸動脈鞘
頸部横断の上面(C7レベル)

左の図では、右側の上から3番目に“頸動脈鞘”が書かれています。これを見ると頸動脈鞘は総頚動脈、内頸静脈、迷走神経を取り囲んでいるのが分かります。なお、この図は“Blog cocokara”さまの「頚部の筋膜【ノート】」より拝借しました。

 

 

 

・深頸筋膜(頸筋膜の気管前葉)

-深頸筋膜は頸椎の前縦靭帯に固定されており、椎前筋群(頸長筋群)および頸部外側筋群(斜角筋群)を覆う結合組織を供給する。

-深頸筋膜は頭側では、深頸筋膜は頭蓋底に固定される。

-深頸筋膜は外側では、肩甲挙筋、項筋膜、頸筋膜と結合している。

-深頸筋膜は尾側では、胸内筋膜の中へと走行する。

-深頸筋膜は中斜角筋から鎖骨に到達し、前斜角筋とともに胸郭外面に到達する。そして、この領域より上方で、深頸筋膜は上肢への神経および血管束である腕神経叢と鎖骨下動脈を覆う。

胸郭の筋膜 

・胸郭上口は頸部との連結を示し、1対の第1肋骨、胸骨、第1胸椎に接している。

・胸郭への付着は対角線的であり、呼吸の中間時には胸骨上縁は第2胸椎の高さに位置する。

・胸部臓器[心臓・肺・食道・気管・気管支・胸腺など]は、頸部の臓器腔と連結している結合組織の中間層と縦隔に位置する。

・胸郭内に配置された胸内筋膜と壁側胸膜は、筋膜派生物として機能的単位を形成して、横隔膜、心膜、気管と他の構造物とともに縦隔に連結する。

・胸内筋膜

-深層の後方および中間前方頸筋膜は、上胸郭開口部において胸内筋膜に直接付着している。

-胸壁、胸膜項、横隔膜領域の胸内筋膜は、胸骨および脊柱において縦隔の結合組織内を通過する。

-胸内筋膜は、胸壁において肋骨筋膜、肋骨、胸筋膜(肋間筋と胸横筋の筋膜)の間へ広がる。

-肋間神経と血管は、胸内筋膜の後方部分に走行し、前方部では胸動静脈が第3肋骨の上方へ走行する。

・胸膜腔

-漿液性胸膜腔は、両側で縦隔に接しており嚢状の臓側胸膜(肺胸膜)によって完全に覆われる肺を含む。

-胸腔内において臓側胸膜は壁側胸膜に対して動くが、それは2~3㎖の漿液で満たされた細管間隙によって分けられる。

・壁側胸膜

-壁側胸膜は肋骨胸膜として胸壁を裏打ちする。

-壁側胸膜は縦隔胸膜として縦隔の外側面を裏打ちし、横隔胸膜として横隔膜を裏打ちする。

-壁側胸膜はその膜上に機械的牽引が生じるため、臓側胸膜よりもしっかりとその周辺組織に固定されている。

-肋骨筋膜は胸内筋膜に強固に付着している。

-横隔胸膜は横隔胸膜筋膜に強固に付着している。

・胸膜項/頸部筋膜

-鎖骨下動静脈は胸膜項の上でアーチ状になる一方で、横隔神経がその内側を走行する。

頸部の構造
頸部の構造

画像出展:「人体の解剖」

左の図では、気管の外側に総頚動脈-迷走神経-横隔神経-鎖骨下動・静脈-腕神経叢が確認できます。

 

 

 

・縦隔の筋膜構造

-縦隔は胸骨後面と接している肋骨から腰椎前面に拡がり、外側縦隔胸膜によって両側が区切られている。

-上縦隔は上胸郭開口部からおよそT4下縁まで広がり、尾側方向で下縦隔となる。ここから前後方向に3つの部分に区分けされる。

1.前縦隔:結合組織で満たされた胸骨と心膜の間の平坦な腔である。

2.中縦隔:心膜と心臓を含む。

3.後縦隔:胸郭と頸部の間を接続する腔であり、食堂、胸部大動脈、奇静脈および半奇静脈、胸管、交感神経幹を含む。

-心膜は漿膜腔を囲む、そして心臓を完全に取り囲む。

-心膜は外側の線維性心膜と内側漿膜性心膜からなる。漿膜性心膜は心筋の内臓シートの周囲を取り囲み、心筋を漿膜性の皮膚で覆う心外膜となる。漿膜性心膜と心外膜の間は漿液で満たされた腔である。

-線維性心膜は高密度な十字に交差したコラーゲン線維からなり、それは弾性のある格子様の網により散在している。この構造は心膜が動く間に心臓の生理的再構築を可能として、同時に心膜の過伸展を防止する。

-線維性筋膜は横隔膜と下大静脈周囲の中央索にしっかりと固定されている。

-心膜は縦隔胸膜によってほぼ完全に覆われており、結合組織によって縦隔胸膜へ付着している。

-横隔神経は心膜横隔血管とともに結合組織の中を横隔膜へと走行する。

上胸郭出口への頸部筋膜の連結
上胸郭出口への頸部筋膜の連結

画像出展:「膜・筋膜」

体表側の頸内筋膜、および脊柱側の深頸筋膜とも胸内筋膜に移行します。

 

 

腹壁の筋膜

・腹壁は構造的に3層からなる。

・腹部筋膜浅層は一般的な筋膜の一部として、皮膚と皮下脂肪組織の下部領域に存在する。

・中間層は平坦な腹筋群およびそれらの腱膜状に形成された筋膜に極めて密接した構造組織からなる。

・深層は後部の腹膜後隙を囲み、強力な結合組織層を含み壁側腹膜によって腹腔膜まで区切られる。

・浅層

-尾側では、胸筋筋膜が身体筋膜の浅層と腹部筋膜浅層の一部となって、外腹斜筋の筋腱シートの中へと続く。それは部分的に大腿筋膜に移行する。そして、外腹斜筋とともに白線領域、および鼡径靭帯とともに鼡径部に固定される。

・横筋筋膜による中間層

-平坦な外側の腹筋群(外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋)、直線的な前方部の筋(腹直筋)、後方部の筋(腰方形筋)から成り立つ。

-平板筋(胸腹壁の筋など)は、それらの筋の筋膜によって各々が分けられ、その間には薄いもつれた結合組織層がある。

-腹直筋は非常に強固な結合組織鞘(腹直筋鞘)によって位置を固定される。

-横筋筋膜は内側の腹部筋膜であり、腹腔の筋腱膜壁の前外側内面を覆う。それは壁側腹膜の漿膜下結合組織に接合し、部位によっては緩く可動性があるが、他の場所では固定されていて不動である。

腹壁の深層
腹壁の深層

画像出展:「人体の正常構造と機能」

図の右側下から4つめに“横筋筋膜”が出ています。

 

 

-横筋筋膜は弓状線領域では白線の内輪に付着するまで続く。

-横筋筋膜は頭側では横隔膜の腹部表面を覆う。

横筋筋膜は後方では腰方形筋および大腰筋筋膜の薄い層として続く。

横筋筋膜は前尾側部では鼡径靭帯に固定されており、腸骨筋筋膜へと変化する。

-横筋筋膜は鼡径靭帯上方では精索、睾丸および副睾丸を内精索筋膜として取り囲む(内鼡径輪)

・深層

-壁側腹膜の後方部では、結合組織腹膜後隙を区切る。その内部の起伏は正中面と両側の大腰筋筋腹の内部に突出する腰椎によって特徴づけられる。

-腸腰筋の外側では腎臓と副腎を含む腎床へとより深い経路に広がる。  

腹膜後隙の筋膜境界
腹膜後隙の筋膜境界

画像出展:「膜・筋膜」

 

 

 

第2腰椎の高さの横断面
第2腰椎の高さの横断面

画像出展:「人体の正常構造と機能」

『腎臓と周囲との関係:腎臓の周囲には腎筋膜と呼ばれる線維性組織があり、腎臓の表面を覆う腎被膜との間には脂肪被膜が挟まっている。脂肪被膜は腎門のところで腎洞の脂肪につながる。腎筋膜の外側には腎傍脂肪があり、腎臓の後方でよく発達している。腎臓は脂肪被膜および腎傍脂肪に包まれ、その中で動くことができる。』 

経絡≒ファシア4

人体の張力ネットワーク
人体の張力ネットワーク

監訳:竹井 仁

出版:医歯薬出版

発行:2015年6月 

目次は”経絡≒ファシア1”を参照ください。

 

1.5 下肢の深筋膜

序論

深筋膜は骨、腱、靭帯に混ざる。

・下肢深筋膜の機能の多くは、筋付着のための外骨格としての役割を含む。

下肢深筋膜は静脈灌流、緊張ストレスが集中する腱付着部でのストレス消失、下方構造物の保護シートとしての役割も認識されている。

深筋膜は様々な筋を連結するために、関節と中隔の上を通過する架橋のようにみなされている。

深筋膜は筋膜の固有機械的特性と高密度な神経支配により、運動の認知と協調における役割が認識されている。

骨格筋の構造と筋膜
骨格筋の構造と筋膜

画像出展:「病気がみえる vol.11 運動器・整形外科」

右端に“筋上膜”とありますが、筋上膜は”筋外膜”とよばれることも少なくありません。

『膜・筋膜』では”筋外膜”が使われています。

 

 

肉眼解剖学

下肢の筋膜は、3つの基本的構造(浅筋膜、深筋膜、筋外膜)で形成されている。

浅筋膜は皮下組織を3つの異なる層に分けるコラーゲン層である。表層は脂肪組織、中間層は膜性中間層または真の浅筋膜、そして深層の脂肪組織である。

・表層と深層の2つの脂肪組織の厚さは肢節の様々な領域で異なり。浅筋膜と皮膚間および浅筋膜と深筋膜間の特定の局所的関係により決まる。

・深筋膜は通常、下肢の筋と上層の浅筋膜から容易に分離可能な結合組織層からなる。

深筋膜と筋外膜に囲まれた筋間を滑る連続的な面は、間に存在するわずかな疎性結合組織が滑走性を高めている。この疎性結合組織は柔軟なゲル様の膠様質であり、この組織内に線維芽細胞が広く分散し、コラーゲン線維とエラスチン線維が不規則な網目状に配置していることを示す。

・いくつかの筋間中隔は下肢の深筋膜内面から起こり筋腹間に延びる。そして、大腿をいくつかの区画に分け一部の下肢筋の起始部となる。

・大腿の下肢深筋膜は大腿筋膜、下腿は下腿筋膜と呼ばれているが構造は同じである。この筋膜は腱膜に似た平均1mmの厚さの白い結合組織層である。

・外側領域では腸脛靭帯によって補強される。なお、腸脛靭帯は解剖によって深筋膜と分離できないため、大腿筋膜側面の補強物とみなされる。

・膝、足関節周囲では深筋膜は支帯とよばれる線維束によって補強されている。

支帯

支帯は深筋膜が局所に肥厚したものであり分離は不能である。

・支帯は平均1372μmの厚さでコラーゲン線維が十字形の配列をした強い線維束である。

・支帯は多くが骨に付着し、付着部は線維軟骨である可能性がある。付着部以外の部位では、疎性結合組織が支帯と骨間膜へと入り込むため骨上を滑ることができる。

・足関節支帯は固有感覚として働く。例えば、足関節内反による腓骨筋支帯の伸張は、腓骨筋の反射性収縮を引き起こす。

膝蓋大腿関節のアライメント不良や膝前部に痛みのある患者では、膝支帯の厚さや神経支配、血管新生をMRIによって評価ができる。

線維展開と筋の挿入

腸脛靭帯は大腿筋膜張筋と大殿筋の腱とみなされる。また、大腿筋膜の補強材である。

・腸脛靭帯は大腿の外側筋間中隔への広範囲な付着をもち、外側広筋の多くの筋線維も中隔から生じている。

・縫工筋、薄筋、半腱様筋は膝関節内側部に鵞足を形成するが、それらは下腿筋膜の内側面へ展開する。 

膝窩筋膜内部の力線の略図
膝窩筋膜内部の力線の略図

画像出展:「膜・筋膜」

 

 

 

・半腱様筋の遠位腱は膝窩部で2つの展開をする。1つは膝関節包の後壁に達して斜膝窩靭帯を形成し、もう1つは膝窩筋の筋膜に達する。遠位部では腓腹筋近位部がこの筋膜に直接に入り込む。そのため、これらの筋線維は筋膜の張筋とみなすことができる。

・下腿前部では脛骨筋と長母趾屈筋が、その上の筋膜と筋間中隔に入り込む。このように膝関節周囲では、下の筋と腱から深筋膜を分離することはとても難しい。

顕微解剖学

・下肢と支帯の深筋膜はわずかに波打った配列のコラーゲン線維によって形成されている。

コラーゲン線維は筋膜総量の20%未満である。

・支帯では線維束は高密度に包まれ、疎性結合組織は少ない。線維束は2層か3層の平行コラーゲン線維束の異なった層で規則正しく配列されている。

・コラーゲン層は平均277.6±86.1μmの厚さである。線維層内ではコラーゲン線維は平行に配列しているが、線維層ごとに方向が異なる。 

肢節の深筋膜模式図
肢節の深筋膜模式図

画像出展:「膜・筋膜」

 

 

 

疎性結合組織は種々の構造の保護をしたり分離したりする。また、組織を取り囲むための水と塩の重要な貯蔵庫であり、様々な分解産物を蓄積できる。

疎性結合組織は水、イオンまたは他の物質の含有量の変動が起こると生体力学的適正が変化し、様々な筋膜層の滑走メカニズムを阻害する可能性がある。

・関節周囲や脛骨陵に沿った下肢の深筋膜は関節包および骨、またはその一方に特定の付着を示すことは興味深い。これらの部位は、張力ストレスが集中する部位であり、硬い組織と軟部組織のあいだの合流点である。特に筋膜が骨と連結する部位では、腱付着部はこのストレス集中を減少させるようになっている。

血管の多くは平均口径102.15μmで、下肢深筋膜のさまざまなコラーゲン層を通過し、かなり蛇行した経路をたどる。

神経線維もまたすべての深筋膜内に存在する。神経線維は特に血管周囲に多く存在し、線維成分全体に均一に分布する。

・筋膜内神経はコラーゲン線維に結合しており、多くの場合コラーゲン線維に対して垂直方向になっているため、コラーゲン線維の伸張によって刺激を受けると考えらえる。

自律神経の典型的な特性を示す小さな神経線維が存在する。これはアドレナリン作用性であり局所血流量の制御に関与していると思われる。

・肢節の深筋膜は大血管と神経の特定な関係を示し、保護鞘形成に寄与する。

筋膜は疎性結合組織によって分けられる重複層として配置されており、様々な層間での滑走性を可能にする。そして、神経と血管を保護し筋膜が被る牽引から緩衝するこの防御機構が変化するとき、神経または血管構造のいずれでも圧縮症候群を生じさせる可能性がある。 

1.6 胸腰筋膜

序論

・運動系の機能解剖学は生体力学(バイオメカニクス)との関連が強い。

・機能解剖学は骨、靭帯、筋が系としてどのように機能するかを説明しようとするものである。

生体力学と神経生理学観点から脊柱と骨盤は完全に統合される。

背部の筋の一部は仙腸関節をまたぐ。ヒトでは多裂筋が仙骨と腸骨稜へ広範囲に付着する。

脊柱-骨盤-下肢のメカニズムは統合されている。そして、このメカニズムが適切に機能するためには、骨盤に結合される3本のレバー(脊柱と左右の下肢)が効率的に働き、骨盤(骨盤の外部運動)、仙腸関節と恥骨結合(骨盤内の内部運動)の安定性を必要とする。

・仙腸関節をまたぐ効率的な荷重の伝達には、種々の筋の特定の作用を必要とする。

・大腿二頭筋と大殿筋は仙結節靭帯(一部が仙棘靭帯)に付着し、機能的に仙腸関節をまたいでいる。仙腸関節の痛みは局所の問題とは限らず、荷重伝達系の不具合による症状という場合もある。

体幹から両下肢への荷重伝達には、強力な胸腰筋膜が使用される。

・胸腰筋膜の後葉と中葉は筋と多数の連結を有しており、この筋膜の張力を受けた筋が、脊柱・骨盤・両下肢・両上肢間において効率的な荷重伝達に助力しているかどうかは重要である。

胸腰筋膜後葉は仙骨領域から胸部領域を経て項筋膜まで、背部の筋を覆っている。

胸腰筋膜後葉はL4-L5と仙骨の高さでは、浅層と深層の間に強い連結を認める。

・腹横筋と内腹斜筋は胸腰筋膜の中葉と後葉の融合によって形成される高密度縫線を通して、胸腰筋膜に間接的に付着している。

胸部および腰部の水平断
胸部および腰部の水平断

画像出展:「人体の正常構造と機能」

『固有背筋を包む筋膜で、後葉は棘突起から、前葉は横突起から外方に伸びる。胸部では肋骨角に付着する。腰部では固有背筋の外側縁で2葉が合わさり、腹横筋・内腹斜筋の起始腱になる。この部の後葉は広背筋・下後鋸筋の起始となるため腱膜様に肥厚し、胸腰腱膜ともいう。』

腹部の水平断面
腹部の水平断面

画像出展:「病気がみえる vol11. 運動器・整形外科」

こちらの図の胸腰筋膜(左下部)には、前葉も記載されています。

浅層

胸腰筋膜後葉の浅層
胸腰筋膜後葉の浅層

画像出展:「膜・筋膜」

A:大殿筋筋膜

B:中殿筋筋膜

C:外腹斜筋筋膜

D:広背筋筋膜

E:広背筋と大殿筋の筋線

1:上後腸骨棘

2:仙骨稜

LR:外側縫線の一部

 

 

 

・胸腰筋膜の後葉は、広背筋、大殿筋、腹部の外腹斜筋と僧帽筋の一部と連続性を有している。

・腸骨稜の頭側で浅層の外側縁は、広背筋との接合部として注目されている。

・浅層は大菱形筋の下縁に様々な厚さで付着しているとの報告がある。

・浅層線維は頭外側から起こり尾内側へ向いており、浅層のわずかな線維だけが外腹斜筋と僧帽筋の腱膜と連続している。

・浅層の大部分の線維は広背筋腱膜から生じて、L4までの棘上靭帯と棘突起の頭側に付着する。

・L4-L5の尾側で浅層は、棘上靭帯、棘突起、正中仙骨稜のような正中組織に通常は緩く付着する(または全く付着しない)。

・浅葉は反対側へ交差し、仙骨、上後腸骨棘、腸骨稜に付着する。この現象が生じる高さは様々である。通常はL4の尾側であるがL2-L3で起こっているものもある。

・仙骨の高さでは、浅層は大殿筋筋膜と連続している。これらの線維は頭内側から尾外側へ走行し、大部分の線維は正中仙骨稜に付着するものが多い。

深層

胸腰筋膜後葉の深層
胸腰筋膜後葉の深層

画像出展:「膜・筋膜」

B:中殿筋筋膜

E:深層と脊柱起立筋筋膜間の結合

F:内腹斜筋筋膜

G:下後鋸筋筋膜

H:仙結節靭帯

1:上後腸骨棘

2:仙骨稜

LR:外側縫線の一部

 

 

 

・深層線維は下位腰椎と仙椎レベルで、頭内側から起こり尾外側へ走行する。仙椎レベルでは浅層線維と融合する。ここで深層線維が仙結節靭帯と連続するため、仙結節靭帯と浅層との間にも間接的な連結がある。

・骨盤領域では深層は上後腸骨棘、腸骨稜、長後仙腸靭帯と結合している。長後仙腸靭帯は仙骨から起始して上後腸骨棘に付着する。

・腰椎領域では深層線維は棘間靭帯より生じる。それらは腸骨稜とより頭側の内腹斜筋が停止する外側縫線に付着する。

・正中仙骨稜と上後腸骨棘と下後腸骨棘の間の陥凹部で、深層線維は起立筋筋膜と融合する。

・腰部領域では、より頭側で深層線維は更に薄くなり、背部筋上を自由に可動する。

・下位胸椎領域では、下後鋸筋とその筋膜線維は深層線維と融合する。

結論

・『本章では、われわれは“筋膜”の観点から、胸腰筋膜と、脊柱・骨盤・下肢力の力伝達における胸腰筋膜の役割、下部腰椎と仙腸関節の安定化に関して検討した。』

大殿筋と広背筋は後部層を経て、反対側へ力を伝達することが可能なため、特に注目に値する。

胸腰筋膜後部層の深層前面に、最長筋と腸肋筋の腰部線維の両方と、より深部にある多裂筋を覆っている非常に強い脊柱起立筋腱膜が存在する。

脊柱起立筋腱膜は背骨背面と腸骨の一部に多裂筋とともに融合する。脊柱起立筋と多裂筋がともに収縮することにより、直接的な牽引または間接的に胸腰筋膜の後部層を拡張させることで深層の緊張が増加し、また中間層の緊張にも影響を与える。

股関節による骨盤の外部運動や体幹の屈曲や伸展(側屈や回旋の有無にかかわらず)は、胸腰筋膜に影響を与える。これらの動きは筋膜包膜の外的・内的力学、すなわち力と圧を変える。 

外部運動による筋膜の外的・内的力学
外部運動による筋膜の外的・内的力学

画像出展:「膜・筋膜」

Ⓐ筋収縮により胸腰筋膜の張力が増加する

EOA:外腹斜筋

ES:脊柱起立筋

IOA:内腹斜筋

LD:広背筋

PM:大腰筋

QL:腰方形筋

SP:棘突起

TA:腹横筋

TP:横突起

Ⓑ胸腰筋膜に付着する筋系の後面図(筋膜へ発生する力に注意)

1:上方から広背筋

2:下方から大殿筋

3:前方から内腹斜筋

4:前方から腹横筋

大殿筋は下肢を寛骨と胸腰筋膜に連結させる。

胸筋筋膜内では筋群は疎性結合組織、腱、腱膜、筋膜という拡張力が様々な結合組織により包膜されていると認識すべきである。よって、胸腰筋膜が筋組織で満たされている結合組織包膜と考えることは適切ではなく、胸腰筋膜は収縮要素で満たされた機能的連結結合組織単位である。

・特定の筋群を上肢や体幹、下肢のいずれかに属する筋であると分類することは、筋膜間の連結を考慮すると、十分に注意しなければならない。

脊柱と骨盤、下肢間において力が伝達する際、胸腰筋膜は十字形の役割を果たし、力を頭側や尾側、または斜めに伝達する。 

※閉鎖力

-『本章の初めに、脊柱と骨盤の閉鎖力について記載した。』とあります。“閉鎖力”で検索しましたがそのような用語を見つけることはできません。本文を読み返したところ、この“閉鎖力”はforce closureを訳した言葉であることが分かりました。また、“閉鎖位”という用語も書かれていましたが、こちらはform closureを訳したものでした。この“force closure”と“form closure”は骨盤の安定化に関し、とても重要な働きを有します。調べたところ、これらについて図解入りで説明された素晴らしいサイトがありましたので、ご紹介させて頂きます。 

骨盤の安定化機構
骨盤の安定化機構

こちらは、理学療法士のLeeさんのサイトより拝借しました。

経絡≒ファシア3

人体の張力ネットワーク
人体の張力ネットワーク

監訳:竹井 仁

出版:医歯薬出版

発行:2015年6月 

目次は”経絡≒ファシア1”を参照ください。

 

1.3 浅筋膜

序論

表皮と真皮の下にある浅筋膜(皮下組織)は高密度に包まれた層と疎性結合組織、脂肪が存在する。

皮膚と同一の広がりをもち、血管や神経を外皮へ、また外皮から運ぶという非常に重要な組織を構成する。

浅筋膜(皮下組織)は皮膚とその下にある深筋膜とを結びつける。深筋膜は全身の筋と腱膜を覆う。

皮膚と浅筋膜は骨格筋フレーム枠の上を滑り、保護するクッションになる。エラスチンと連結するコラーゲン線維シートはこの可動性を促進する。

・血管と神経は浅筋膜内で捻じれているため、伸長への適応が可能である。 

皮下組織
皮下組織

画像出展:「人体の正常構造と機能」

上から“表皮”→“真皮”→“皮下組織”になります。“浅筋膜”は皮下組織の部分です。

 

 

深筋膜
深筋膜

画像出展:「Tarzan」

深筋膜は浅筋膜(皮下組織)と筋(筋外膜)の間にあります。

 

 

肉眼的構造と分布

・線維束(皮膚支帯)は、真皮から深筋膜までそれらの連結を強化しながら皮下層を横断する。

・健常成人男性で体重の約20%、女性で約25%が白色脂肪である。

・皮下脂肪は身体の全脂肪貯蔵の約50%を占めるが、貯蔵は動的で細胞内で2~3週間ごとに入れ替わっている。

・成人では脂肪細胞の数は一定であり、幼児期と思春期のあいだに遺伝によって確定する。

・成人では脂肪細胞の約10%が毎年入れ替わる。

構成要素と機能の関係

間質液

皮下組織にはリンパ管と毛細リンパ管の豊富な網状組織が存在する。

・間質液には毛細血管からの組織液の産生と皮下リンパ管への吸収の動的な釣り合いがあり、下に存在する筋の収縮によってドレナージ[血液・膿・滲出液・消化液などの感染原因の除去や、減圧目的で患者の体外に誘導、排泄すること]が助けられている。

力吸収

・“線維脂肪組織”の皮下への混合物は、身体表面への圧縮力と剪断力に耐える圧力吸収装置として機能する。

断熱

・皮下脂肪は身体を熱損失から断熱する。

エネルギー源

・皮下脂肪は貯蔵エネルギーの非常に重要な蓄えになる。

・エネルギー源はトリグリセリドである。

血管配列

・下肢の伏在静脈は筋膜下よりも筋膜間に存在している。

・静脈は深部の筋膜と表層の膜様の2つの筋膜で区切られた区画内に存在する。その区画の中で、静脈は結合組織によって固着される。

皮下脂肪はすぐに使用できるエネルギー源であるため、非常に豊富な血液供給がある。また、体温調節の役割も果たす。

・小さな動脈は2つの網状組織を供給する。乳頭下血管叢が最も表層にあり、皮下組織の近くの真皮に存在している。第2の網状組織は皮膚網状組織であり皮下組織に存在する。2つの網状組織は自由に通じ合う。

より小さな静脈は動脈に伴走し、2つの網状組織に同じように配列される。この配列は皮膚の中を流れる支配血液の吻合を可能にするので、豊富な動静脈吻合を提供する。 

あたらしい皮膚科学
あたらしい皮膚科学

“乳頭下血管叢”をネットで調べていて見つけたものです。これは以下にご紹介した皮膚科医の清水宏先生のオフィシャルサイトにあったものです。著者である先生が本1冊、しかもとても分かりやすい見出しをつけてアップされています。

 

 

 

・四足動物では皮下組織の深い部分に皮筋層という皮筋の広範囲なシートがあり、虫などの皮膚刺激物を取り除く保護機能を有するが、人ではこの層はただの痕跡にすぎない。

線維

皮膚への張力特性と弾性特性を制御している。

皮下には3種類の線維が存在する。主にコラーゲンとエラスチンだが、レクチン(一種のコラーゲン)も存在する。

・コラーゲンは皮膚が伸長されるときに抗張力を示す。種にⅠ型だがⅢ型とⅤ型も存在する。

・線維は脂肪細胞を取り囲み小葉にグループ化する。また、真皮と深筋膜を結びつける。

・エラスチンは真皮と表皮の伸長と弾性反跳に関係する。

細胞

・皮下組織にある線維芽細胞は、コラーゲン線維とエラスチン線維と他の基質蛋白質で形成される蛋白質を合成することに加え、それらはコラーゲン線維と他の線維の分解にも関与する。

・血液単球から生じるマクロファージは食細胞である。

・好中球は通常、炎症反応に関与することなく間質液を循環する。

肥満細胞は血中好塩基球の特徴を有し、ヘパリン、セロトニン、ヒスタミンを産生し、毛細血管に作用して浸透性に影響を与える。 

肥満細胞(炎症のメディエータ)
肥満細胞(炎症のメディエータ)

画像出展:人体の正常構造と機能」

 左下に肥満細胞(マスト細胞)が出ています肥満細胞は粘膜下組織や結合組織などに存在します

この図を見ると、”炎症”のプロセスにおいて、”肥満細胞”が非常に重要な役割を担っているのが分かります。そこで、細かいですがご紹介させて頂きます。

『感染症や外傷によって組織が傷害されたとき、細菌などの有害因子を排除し、組織を修復するために起こる治癒過程を炎症という。具体的には、①局所の血流が増加し、②血漿および白血球が血管外に移動し、③血漿成分と食細胞が協力して有害因子を除去し、④組織が再生される。

上記の経過中、主として血流量の増加や血漿の漏出のために組織に現れた変化を、肉眼的にあるいは自覚症状としてとらえられたものが「炎症の4徴候」すなわち発赤、腫脹、熱感、疼痛である。炎症反応は種々の化学伝達物質によって調節されている。血漿キニンや、細菌によって活性化された補体成分、炎症巣において白血球が放出する種々のサイトカインなどがこれに含まれる。これらを総称して炎症のメディエータという。

肥満細胞は補体やIgE抗体で刺激されると脱顆粒を起こし、ヒスタミンやセロトニンを放出する。これらのアミン類は、毛細血管の内皮細胞を収縮させ、細胞間隙を広げることにより血管透過性を亢進させる。肥満細胞は次いで、プロスタグランジンE₂(PGE₂)、ロイコトリエンB₄(LTB₄)、血小板活性化因子(PAF)といったアラキドン酸代謝物を産生・放出する。これらも血管透過性亢進作用を持つ。

血漿の漏出により組織間液が増加し、組織は腫脹する。また、組織圧の上昇により、あるいはブラジキニンによって痛覚受容体が刺激され疼痛を覚える。

ブラジキニン、プロスタグランジンE₂は細静脈を拡張させ、局所の血流を増加させる。血流によってより多くの酸素と栄養素が運ばれ、組織の代謝が亢進し再生修復を促進する。局所の血流増加と代謝亢進は、発熱と熱感として観察される。

炎症が始まって数分以内に、組織内のマクロファージが到着し貪食を開始するとともに、TNF-α、IL-1、IL-6を産生する。これらのサイトカインは炎症局所のみならず全身的に幅広い作用を持つ(①接着分子の発現 ②好中球の動員 ③急性期蛋白質(CRPは代表的な物質)の誘導 ④発熱)。

細胞外マトリックス-基質

・基質は糖蛋白(エラスチンの伸張と反跳特性のために必要。また、コラーゲン線維の沈着と定位を制御している)、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、ヒアルロン酸、コンドロイチンとデルマタン硫酸を含む。

他の成分

・らせん状の汗腺の深部は皮下組織に広がる。毛包根もまた皮下組織にある。

皮下組織の加齢変化

・皮膚と下に横たわる浅筋膜は弛緩して伸びる。そして、下垂軟部組織、偽性脂肪沈着変形、セルライトに帰着する。また、発汗と皮脂腺が衰退し、上にある皮膚を乾燥させるようになる。

1.4 肩と腕の深筋膜

肩の深筋膜

・肩の深筋膜は体幹と四肢両方の筋膜に似た特性を有している。

・大胸筋、三角筋、僧帽筋、広背筋の筋膜は固有の層を形成し、これらすべての筋を包み込み前鋸筋の上を通過し、強い筋膜層を形成する。

・大胸筋、三角筋、僧帽筋、広背筋の筋膜は、比較的薄いコラーゲン線維層である。

・大胸筋、三角筋、僧帽筋、広背筋の筋膜は、筋膜内面から延びている一連の筋内中隔[筋肉と筋肉の間を隔てる厚い結合組織]により各筋にしっかりと付着しており、筋自体を多くの束に分けている。

・筋外膜(筋上膜)は深筋膜と下に横たわる筋の間で識別不能である。多くの筋線維はこれらの筋膜の内側や、直接に筋内中隔から起因する。

・胸筋筋膜は鎖骨から起こるが、胸筋筋膜深層だけは鎖骨骨膜に付着し、浅層は上方の深頚筋膜の浅層へと続き、胸鎖乳突筋と僧帽筋を取り囲む。

・胸筋筋膜深層は内側では、胸骨骨膜に入り込む。

・胸筋筋膜浅層は胸骨を越えて、反対側の胸筋筋膜へ延びる。

・胸筋筋膜は遠位では、腹直筋鞘や反対側の外腹斜筋筋膜から起こる若干の線維展開によって補強される。

・胸筋筋膜は平均151μmの厚さである。そして、頭尾側方向で厚さが増し、乳房部では平均578μmの厚さに達する。

・胸筋筋膜は剣状突起状上にて交差した線維パターンを形成する。

医学の発展のために
医学の発展のために

今度は“胸筋筋膜”で検索したところ、またまた凄いサイトを見つけました。

『13th NNACで私の仕事を紹介する機会を頂きました。脳神経外科(脳血管の機能解剖)がメインの研究会ですが、脳神経外科領域のみならず、内科、専門科を含めた領域で解剖学変異(破格、バリエーション)の知識を共有できるホームページがあれば、稀な疾患への治療方針が迅速に立てられるようになり、患者さんの命を救うのに少しでも役に立たつのではないかと考え、協力してくださる医師・研究者と日本を代表する医学教育サイトを目指すことにしました。私が慶應義塾大学医学部解剖学教室に勤務するようになって33年ほど経過しました。このホームページは、医学生のために役に立ちたいという思いでつくりましたが、医学生のみならず、医師、患者さんとの情報共有ができればと考えています。

・三角筋筋膜はその下の筋肉の大きさに関係なく、人によって筋膜の厚さは様々である。筋膜は筋に強く付着し、三角筋の種々の部分と結合する。

・三角筋は3つの部分(前部、側部、後部)に区別できる。

・三角筋筋膜は僧帽筋を覆っている筋膜に続く。

・三角筋筋膜の表層筋膜層は連続している。

・三角筋筋膜の深層は肩甲棘や鎖骨に入り骨膜と連続する。

・三角筋と胸筋筋膜は波状コラーゲン(多数のエラスチン線維が不規則な網目を形成している)で、その下の筋に対して多少横断して配列している。

・鎖骨胸筋筋膜は浅層の筋層を剥離すると見える。

・鎖骨胸筋筋膜と大胸筋との間には疎性結合組織があり、そのため大きな分割面が存在する。それにより胸筋筋膜深層が鎖骨胸筋筋膜に対して独立して滑ることができる。

・鎖骨胸筋筋膜は鎖骨から生じて、鎖骨下筋と小胸筋を囲むために遠位に広がる強い結合層である。

・鎖骨胸筋筋膜は外側では腋窩筋膜と烏口腕筋筋膜へ続く。

・鎖骨胸筋筋膜は2部位に分かれる。1つは小胸筋を覆っている部分、もう一方は小胸筋の上縁と鎖骨間の三角形の形状層である。

・鎖骨胸筋筋膜は胸動脈、神経、橈骨皮静脈が通過する。

・肩甲下筋筋膜は肩甲骨周囲の種々の中で最も薄いが明確な層である。

・肩甲下筋筋膜は外側には腋窩筋膜と棘下筋筋膜、そして頭側は棘上筋筋膜へ続く。

・棘下筋筋膜は棘下筋と大円筋を覆う。

・棘下筋筋膜は一部を広背筋と三角筋に覆われる。一方、広背筋、僧帽筋、三角筋の接合する筋膜だけは浅層面にある部分を覆う。この部分において、2つの筋膜が各々に固着し、強い筋膜プレートを形成する。

・棘上筋筋膜は棘上筋を覆って肩甲挙筋の筋膜へ続く、厚さは様々で時に脂肪組織を含む。

・棘上筋筋膜と棘下筋筋膜の遠位1/3は肥厚が常に認められ、この肥厚が肩甲上神経の動的な圧迫となり、症例の15.6%に関与していると考えらえている。なお、肩甲上神経の症例の殆どは下肩甲靭帯に由来するものである。

・腋窩筋膜は、浅筋膜と深筋膜の結合によって形成される。

・腋窩筋膜は外側では腕の浅筋膜と上腕筋膜、内側では大胸筋筋膜と鎖骨胸筋筋膜、後方では広背筋筋膜と肩甲下筋筋膜へと続く。

・腋窩筋膜は多数のリンパ節を含んでおり、多数の神経と血管が通過し線維組織と脂肪の栓で満たされている。

腕の深筋膜

・上腕筋膜と前腕筋膜は、腕の深筋膜を形成する。

・腕の浅筋膜は皮下脂肪組織の範囲内に存在し、容易に深筋膜から分離できる。

・上腕筋膜は強力であり、腕の筋を覆っている半透明の層状結合組織である。

・上腕筋膜の厚さは平均863μmであり、前部は後部より薄い。この筋膜内では様々な方向へのコラーゲン線維束を容易に確認できる。コラーゲン線維束は腕の長軸に対して横走するだけで、縦走あるいは斜走する。

・上腕筋膜は外側・内側筋間中隔と上顆に付着しているが、下の筋から容易に分離できる(プレート1.4.1)。

・上腕筋膜は近位では腋窩筋膜と大胸筋、三角筋、広背筋の筋膜に連続する。

プレート1.4.1
プレート1.4.1

画像出展:「膜・筋膜

上腕前面の解剖、上腕二頭筋から上腕筋膜を剥離している。

 

・前腕筋膜は結合組織の厚い白っぽい層の外観を呈し、屈筋と伸筋区画を包み、その内側面からそれらの間の中隔へと延びる。

・前腕筋膜の厚さは平均0.75mmであり、手関節領域で増加し(平均1.19mm)、手関節の屈筋・伸筋支帯を形成する。

・前腕筋膜は様々な方向に走行している線維束より形成される。

・手関節では線維束は内外側方向と外内側方向へ多重層となって近位から遠位へ配列する。

・前腕筋膜は橈側手根屈筋と尺側手根伸筋の上にあるが、遠位では腱鞘が筋膜と融合し、手関節では筋膜は腱鞘を包み込んでいるように見える。

・前腕筋膜は尺骨動脈と尺骨神経が通過するギヨン管の屋根を形成する。

・前腕筋膜は外側と内側では母指球筋膜、小指球筋膜へと続き、隆起間に厚い横断的線維束が張る。

・3層の平行なコラーゲン線維束は、互いに疎性結合組織の薄い層で分けられ、腕の深筋膜を形成する。これらの束の配列は各線維内では平行であるが、層ごとに異なっている。

多くの血管は浅筋膜(皮下組織)内の疎性結合組織層に存在し、線維束と混ざる。

筋膜展開

筋膜展開は腱付着部近くに集中するストレスを減少させると同時に動きも減少させる。

・上腕三頭筋内側頭は遠位で前腕筋膜へ、尺側手根伸筋は小指球筋群へ腱展開があり、最後に小指外転筋は腱展開を伸筋腱膜へもたらす。上肢全体の前方運動の間、大胸筋鎖骨部線維の収縮は、上腕筋膜前部を引っ張る。上腕二頭筋の同時収縮は、その上腕二頭筋腱膜によって前腕筋膜の前部を引っ張る。一方で、長掌筋が屈筋支帯、手掌腱膜、母指球筋筋膜を引っ張る。このように、これらの筋膜連結は上肢の屈曲に関与する様々な筋成分間に解剖学的連続性を形成する。

上肢の筋膜展開
上肢の筋膜展開

画像出展:「膜・筋膜

上肢の深筋膜と下に横たわる筋のあいだの連結を示した略図。

 

筋膜には神経分布が豊富であり、この神経支配は、ほとんどの場合、固有受容型(機械受容器、自由神経終末など)であるため、筋膜の特定の領域の伸張は固有受容の特定のパターンを活性化する。筋の骨への付着は機械的な動きに作用するが、筋膜の付着は固有感覚の役割を担い運動知覚に関与する。 

腕の深筋膜弾性

・筋力計を用いた腕の深筋膜弾性研究では、筋膜が筋収縮で発生した力を伝達することができることを示した。上腕二頭筋腱膜と上腕三頭筋の伸張は、それぞれ5.63㎏と6.72㎏の平均牽引力を示した。大胸筋と広背筋の伸張力は約4㎏であった。手の腱における伸長力は弱く、約2.5㎏の牽引力である。弾性は筋の量と力に関連があるように思われる。

経絡≒ファシア2

人体の張力ネットワーク
人体の張力ネットワーク

監訳:竹井 仁

出版:医歯薬出版

発行:2015年6月 

目次は”経絡≒ファシア1”を参照ください。

 

序論

筋膜の世界にようこそ!

・第1回国際筋膜研究学術大会は2007年10月、ハーバード大学医学大学院の会議センターで開催された。

『本書の目的は、研究者と身体構造を治療している専門家のために、身体の結合組織マトリックス(筋膜)に関連した情報を系統化することである。』

臓器を包んでいるだけではない

・解剖において筋膜は“何かを見るため”最初に切除しなくてはならない白い包みである。

・筋から腱を通じて骨へ力が直接に伝わることはほとんどなく、筋は筋膜シート上に収縮力や緊張力を与えることに関与している。この筋膜シートは拮抗筋と共同筋に力を伝える。そのため1つの関節ではなく、それ以上のいくつかの関節に関与する。

・『筋膜組織は1つの大きなネットワーク器官であり、たくさんの袋やロープのような局所の高度化を何百と有しており、ポケット内に何千というポケットを有し、また頑丈な隔膜や疎性結合層によりすべて相互に結合している。』

筋膜とは?

・『軟部結合組織内の解剖学的区別は重要であるが、細部にこだわると大きなスケール上で認識されているだけの重要な組織の連続性については無意識に排除されかねない。たとえば、頸部斜角筋の筋膜は胸郭内の心膜と隔膜に連続しているという臨床上の重要性について、われわれと議論する整形外科医には驚きであるが、オステオパシーや一般外科医にはそれほどでもない。』

2009年の筋膜研究学会(Huijing & Langevin 2009)において、膜という用語は、“人体に広がっている結合組織系の軟部組織成分”とされた。また、人体全体の張力伝達システムである線維性コラーゲン組織であるとも記述された。 

筋膜と考えられている異なった軟部組織
筋膜と考えられている異なった軟部組織

画像出展:膜・筋膜

・筋膜組織はコラーゲン線維の密度と方向によって異なる。

・浅筋膜は低密度でほとんどは多方向か不規則は線維アライメントであり、腱や靭帯より密度が高く一方向性である。

・筋内の筋膜(隔壁、筋周膜、筋内膜)、内臓筋膜(体網や心膜のようなより強固な軟部組織を含む)は、さまざまな方向と密度を有する。

・固有筋膜は二方向から多方向配列である。

・支帯や関節包は示していないが、靭帯と腱膜、固有筋膜の間でさまざまである。

 

・『膜組織の広汎な定義における大きな有用性の記載がある一方、より伝統的な著者は筋膜という用語を腱膜や靭帯のような規則的な組織と区別して、“不規則”な結合組織の高密度化層と限局して使用していることも認識している。ある分野においては、そのような区別はほんとうに可能であり、臨床において有用である(例として腰部の筋膜と腱膜)。そこで本書には可能なところに12の特定用語を追加し筋膜組織の詳細な記述をした。この特定用語はHuijing & Langevin(2009)によって提言された以下の用語である。

密性結合組織、疎性結合組織、浅筋膜、深筋膜、筋間中隔、骨間膜、骨膜、神経血管路、筋外膜、筋内および筋外腱膜、筋内膜。しかし身体の多くの重要な部位はそのような形態上分類間の緩やかな変化やさらに局所のコラーゲン構造の幾何学的種類(主要な線維方向、組織の厚さと密度の観点から)により特徴づけられるため、詳細な組織特性を理解することは非常に有用である。

・『本書は、筋膜学会のように、科学者と臨床家の両方に向けるという困難な役割を果たしている。第1部で筋膜の解剖学と生理学、第2部では臨床状態と治療について、第3部では近年の研究成果を紹介した。われわれは研究者が直面している筋膜周囲組織の定義の努力について目を向けた。どの組織か? どの線維方向か? 何が何に結びついているか? 臨床治療においてどの組織が損傷し、どの方向への力がかけられているかを定義する一助となるよう、研究手段により、いっそう臨床分野についての議論を展開しなくてはならない。臨床家と科学者が一緒にそして別々に、筋膜の基礎的理解と臨床治療についてさらに進めることに挑戦していくことがわれわれの希望である。』 

第1部 科学的基盤

パート1 筋膜体の解剖

1.1 筋膜の一般解剖

序論

・筋膜は三次元的基質を形成し、すべての器官に連続しており、線維と束間を分けているというよりはむしろ結合している。

●筋膜の一般構造と構成 

骨格筋の筋膜図
骨格筋の筋膜図

画像出展:膜・筋膜

・筋外膜は筋の周りを取り巻いているもの。[筋外膜は筋上膜とも呼ばれています]

・筋周膜は筋線維束を分けているもの。

・筋内膜は筋線維を分けているもの。

・各筋線維内には収縮性筋原線維が存在する。

 

筋内膜の機能解剖学

・筋内膜は筋線維を筋束につなげる唯一の組織である。

・筋内膜ネットワークは連続的な構造であるため、線維管内の終末線維で発生した張力は筋内膜ネットワークを通して伝達する。

筋周膜の機能解剖学

・筋周膜の量と空間分布は身体の筋間において異なる。

筋周膜は張力により簡単に形を変える。

・筋周膜は張力下において高張力剛性を示し、張力の大きな力を伝達するが、それは筋の作用する長さ以上に伸長された状況においてである。

筋周膜-筋内膜の接合領域

・筋線維を取り巻いている筋内膜は、筋周膜接合板(PJPs)にて断続的に筋周膜と結合していると考えられている。

筋周膜と細胞内下位領域

・筋線維の主細胞質構成要素間において、核とミトコンドリアが重要である。それは、筋線維の代謝とエネルギー算出をコントロールするためである。

・筋周膜のⅣ型コラーゲン成分の欠乏は、筋線維核とミトコンドリアのアポトーシス(細胞消滅)と関係する。

・筋が収縮するストレス下においては、筋周膜ケーブルの最終分岐が機械的情報伝達において重要な役割を果たす。

結論

筋膜は隣接筋線維が筋束内できつく結びついて力が伝達することにより、過伸長下における力の協調と損傷部位の保護を可能にする。

・力の伝達は少なくとも連続した線維筋では収縮力伝達の主要経路である。

・筋周膜と筋外膜が筋膜での力伝達経路としても作用するという根拠が多数存在する。

・動筋の機械的役割に連続的に適合するために、筋膜は合成と再構築(リモデリング)間で連続的な動的バランスをとっている。

1.2 体幹の筋膜

身体の筋膜の包括的組織

身体における体幹の筋膜の組織概説

全ての体幹組織は、身体の実質を包み込んでいる筋膜という軟部組織の中に存在する。

・筋は結合組織基質内で成長し、成体組織は筋外膜に覆われる。

・骨は間葉と呼ばれる胚筋膜基質から起こり、成体形では骨膜となる。

・間葉は肥厚化して関節包を強固にし、最終的に関節包の高密度層を覆っている筋膜を形成する。

体幹組織を包んでいる筋膜シートは、各組織を取り囲むことで直接的摩擦から保護している

・結合組織である筋膜は体幹系組織を取り囲むことにより、複雑で連続的な面やシートを結びつける。

・筋膜には多面的にゆがむと同時に、速やかに元の形に戻る能力がなくてはならない。この特徴は線維性成分が織り混ぜられている不規則性結合組織の筋膜によくみられる。

固有筋膜は線維要素が不規則に分布する結合組織と定義され、組織が平行に並んでいる腱や靭帯、筋膜、関節包とは対照的である。

筋膜の線維成分密度は局在と機能により非常に様々である。

皮下にある筋膜は動きやすいようにコラーゲン線維密度は低い。一方、筋や靭帯、腱、関節包を覆う筋膜は、コラーゲン線維の密度は高く、強固な支持が可能である。

・体幹系(筋、腱、靭帯、腱膜)は分化した構造ではないため、筋膜面の明確な境界域は存在しない。

リンパ管は筋膜面の不規則組織内に分布しているため、境界域組織に力がかかってもリンパはリンパ管の中を容易に流れる。

筋膜の体系―4つの主要な層

一般的アプローチ

・本章では不規則結合組織または、“固有筋膜”に焦点を当て、身体の軸を覆う主要な4層について述べる。この基本理念の修正が四肢に適応される。 

筋膜と考えられている異なった軟部組織
筋膜と考えられている異なった軟部組織

画像出展:膜・筋膜

固有筋膜は左の図の下部左端になります。

 

・体幹の4層は一連の同心性チューブとして配列している。

・筋膜の際外側部は層あるいは脂肪層と呼ばれる。

・脂肪層の深部に体幹の軸性筋膜がある。この層は体軸筋の筋外膜、歯根膜と腱や靭帯の周囲靭帯、骨膜となる。

・筋膜の軸層は四肢筋膜と連続している。

軸筋膜の内部は2層に分かれる。1つは神経組織を取り巻く髄膜筋膜、もう1つは体腔を取り巻く内臓筋膜である。

皮下脂肪組織層の下に、軸筋膜に類似した構成の筋膜層が四肢の筋を取り巻いており、四肢筋膜と呼ばれている。

四肢筋膜の内部には神経血管束を収容している筋内中隔がある。

筋膜の主要な4層

皮下脂肪筋膜

最外側層は皮下脂肪層筋膜で、浅筋膜とも呼ばれる。

・皮下脂肪層は脂肪細胞と同様に部位により様々なコラーゲン線維密度の著しい変化を伴って不規則結合組織で構成されている。

軸(体幹)筋膜

2番目の層は軸筋膜または深筋膜という。軸筋膜は層に末梢性に融合して身体の深部へ広がり、軸下(腹側)筋および軸上(背側)筋を取り囲む。

・軸筋膜は2つの平行した結合組織管により構成されていて、脊柱の前方と後方に走行する。発生的にこの2つの管は成人で脊柱となる脊索によって分けられる。前菅は軸下筋群を取り囲み横突起へ付着する。軸下筋群は頸部では頸長筋や斜角筋、胸部では肋間筋、腹部では腹斜筋と腹直筋を含む。軸筋膜の後管は軸上筋群を取り囲み横突起に付着する。各椎体の棘突起により、軸上筋膜管を2つの“半分の管”に分ける。後部の傍脊柱筋群は軸上筋膜の“半分の管”に含まれる。

脊柱の前方と後方を走行する軸筋膜
脊柱の前方と後方を走行する軸筋膜

(A)白い輪郭は軸筋膜を示している。

(B)筋区画の陰影

(C)軸上(背側)と軸下(腹側)筋膜円柱

軸(体幹)と四肢の境界には複雑な筋膜関係が存在する。

体壁の筋膜配列は肢節の連結によって非常に複雑になっている。

・胸筋や僧帽筋、前鋸筋、広背筋のような上肢の筋は、長い翼のように展開して体幹を覆い身体の正中の棘突起や、胸腰筋膜のように最終的に正中に附属する組織に付着する。

髄膜筋膜

3番目の筋膜層は神経系を取り囲む髄膜筋膜である。この層は硬膜ならびに下に横たわる軟膜を含む。

・髄膜筋膜は末梢神経を取り囲む神経上膜となり終わる。

・脊髄髄膜は壁側中胚葉から派生すると考えられる。

内臓筋膜

4番目の筋膜層は内臓筋膜であり、4つの主要筋膜層のうち非常に複雑な筋膜である。

発生学的に内臓筋膜は内臓組織から派生し、胸膜・心膜・腹膜として体腔を取り囲む。

身体の正中で内臓筋膜は、頭蓋底から骨盤腔まで延びる厚い縦隔を形成する。

要約

筋膜は身体全体を通して広く分布して、不規則でさまざまな密度のコラーゲン線維を織り混ぜたもので構成される結合組織の形態を示す。

筋膜は身体において複数の役割を果たす。大部分の構造物を覆い保護力は高く、また潤滑機能を提供することである。

・骨格成分間の相互接続ネットワークにより力の変換を制限する。

・細胞組成が免疫機能と感覚神経の役割を強く担っていることを示唆している。

・『特定の筋膜には多くの名称がついているにもかかわらず、本章では4つの主要筋膜層だけを表現することを試みた。最外側または皮下脂肪層(浅筋膜)は、おもに疎性結合組織と脂肪で構成されており、露出した開口部以外の体幹と四肢すべてを取り巻く。次に、筋や腱、靭帯、腱膜を覆っている、高密度な不規則性結合組織で構成された軸筋膜(深筋膜または被覆筋膜)の複合体配列がある。軸筋膜は四肢(四肢筋膜)に達し、軸(体幹)対照物と類似した構成と機能がある。この筋膜ネットワークは、骨格筋系要素の保護と潤滑に作用し、筋収縮時に力変換の伝達にも作用する。軸筋膜は脊柱で分けられる2つのそで(スリーブ)からチューブで配列され、そこから四肢筋膜が起こる。最終的な2層は軸筋膜内に包まれている。これらは、髄筋膜および内臓筋膜であり、両者はそれぞれ神経系と内臓を保護する役割を担っている。本章では、それらの小成分よりもむしろ主要層の提示に限定することで、身体の筋膜面の連続性を強調した。』

経絡≒ファシア1

私は2018年11月にアップしたブログ“閃く経絡(経絡と電氣)”で、[経絡≒ファシア]と考えるようになりました。

専門学校で学んだ「東洋医学概論」では、“経絡”、“経絡現象”、“経絡説”について、次のような説明がされています。

経絡

『経絡とは、気血の運行する通路のことであり、人体を縦方向に走る経脈と、経脈から分支して、身体各部に広く分布する絡脈を総称するものである。経絡の考え方は、古代中国人が、長い臨床観察を通じて得た一つの思考体系であり、蔵象とならんで東洋医学の根幹をなすものである。特に鍼灸医学にあっては、診断と治療に深く係わっており、きわめて重要である。』

経絡は縦方向の経脈が有名で、ゆえに“線”のイメージが強いのですが、正しくは身体に広がるもの、つまり“面”であるということです。このことは[経絡≒ファシア]を考えるうえでとても重要です。

経絡現象

『経絡現象は、特定の身体部位を指先で押したり、鋭利な石片(“砭石[ヘンセキ]”と呼ばれている)を刺したり、あるいは、刺して皮膚を傷つけて出血させたりする治療行為をする際に、おそらく発現していたのであろうと考えられる。日本で“針の響き現象”といわれている、針を刺したときに発生する特殊な感覚の伝達現象もその一つである。また、一定の部位に針を刺したときに、その部位の苦痛が緩解されるばかりでなく、遠隔部位にまで変化が波及することも含まれよう。』

経絡説

経絡説は、そのような経絡現象を基にして、その性質や現象の発現のルールを極めようとして考え出されてきたものである。したがって、経絡説は、それが形成されてきた時代の思考法や社会制度などに影響されざるをえない。』 

例えば、足少陰腎経と呼ばれる経脈は、「腎に属し膀胱を纏[マト]う」というように、経絡は体表のみならず体内の臓腑に働きかけるものとされています。しかしながら、私はこの“教え”を専門学校時代から疑っていました。

ところが、経絡≒ファシアと考えれば、この“臓腑に働きかける”ということも納得できます。さらに「ツボ(経穴)は皮下浅いところにある」、あるいは「“気至る”とは鍼を静かに丁寧に進めていって抵抗を感じるところ」なども、ファシアを連想させます。

そして、[経絡≒ファシア]と考えるならば、経絡を施術の柱としている私にとって、ファシアを深く知ることは極めて重要であり、もしかしたら、“新経絡”というような新たな道につながるかもしれません。

“閃く経絡(経絡と電氣)”の中で、『膜・筋膜 -最新知見と治療アプローチ』という本をご紹介しているのですが、熟読とは程遠くざっと目を通した程度でした。そこでファシアの基礎を学ぶため、この本を教科書として勉強させて頂くことにしました。

対象は「第1部 科学的基盤」になります目次は第2部、第3部も列記していますまた、 今回は自分自身の勉強が1番の目的であるため、大変細かくまた非常に長くなっています。そのため、ブログを12個に分けました。ご紹介している目次の黒字がブログの対象ですが、理解不足が顕著で書けない箇所など、全てを網羅してはいません。

人体の張力ネットワーク
人体の張力ネットワーク

監訳:竹井 仁

出版:医歯薬出版

発行:2015年6月 

2007年10月にHarvard Medical Schoolで開催された第1回国際筋膜研究学術大会(The 1st International Fascia Research Congress)において、「Fascia」は、「固有の膜ともよばれている高密度平面組織シート(中隔、関節包、腱膜、臓器包、支帯)だけでなく、靭帯と腱の形でのこのネットワークの局所高密度化したものを含む。そのうえ、それは浅筋膜または筋内の最奥の筋内膜のようなより柔らかい膠原線維性結合組織を含む」と定義づけられました。この定義をもとに、膜・筋膜に関する数多くの内容が本書に示されています。

本書では、膜・筋膜に関する最新研究とさまざまな治療アプローチに関して詳細に記載されています。第1部では、科学的基盤として、筋膜体の解剖、コミュニケーション器官としての筋膜、筋膜の力伝達、筋膜組織の生理学に関して詳細に記載されています。第2部は臨床応用として、筋膜関連の障害、筋膜の弾性に関する診断法、筋膜指向性療法として世界中の24の治療アプローチが記載されています。そして、第3部では、研究の方向性として、筋膜研究の方法論的な挑戦と新しい方向性が記載されています。』

こちらが原書の表紙です。発行は2013年2月です。

お伝えしたかったことは、日本語版に出てくる「膜・筋膜」は「Fascia(ファシア)」を意味しているという点です。 

 

ご参考

現在、ファシアについては以下のような書籍も出版されています。

その存在と知られざる役割
その存在と知られざる役割

こちらをクリック頂くと、医道の日本社さまのサイトに移動します。

 

筋膜の構造
筋膜の構造

こちらをクリック頂くと、医道の日本社さまのサイトに移動します。

 

日本では“Fascia”は“ファッシア”、または“ファシア”と表記されています。私は「日本整形内科学研究会」で勉強させて頂いており、こちらで使われてきたファッシアを用いてきました。しかしながら、Fasciaの広まりに伴いファシアの方の表記が一般的になりつつあるようです。従いまして、今後は“ファシア”とさせて頂きます。

米ニューヨーク大学医学部を中心とする研究プロジェクトは、2018年3月27日、科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に研究論文を発表しましたが、2日後にはニューズウィーク日本版が“ファシアは人体最大の器官であるとされました”との記事をアップしました。これによりファシアに対する認識は日本でも大きく前進したと思います。

目次

序論

●筋膜の世界にようこそ!

●臓器を包んでいるだけではない

●筋膜とは?

カラープレート

 

第1部 科学的基盤

パート1 筋膜体の解剖

1.1 筋膜の一般解剖

●序論

●筋膜の一般構造と構成

●筋内膜の機能解剖学

●筋周膜の機能解剖学

●筋周膜-筋内膜の接合領域

●筋周膜と細胞内下位領域

●結論

1.2 体幹の筋膜

●身体の筋膜の包括的組織

●筋膜の体系―4つの主要な層

●要約

1.3 浅筋膜

●序論

●肉眼的構造と分布

●構成要素と機能の関係

●皮下組織の加齢変化

1.4 肩と腕の深筋膜

●肩の深筋膜

●腕の深筋膜

●手掌腱膜

●筋膜展開

●腕の深筋膜弾性

1.5 下肢の深筋膜

●序論

●肉眼解剖学

●支帯

●線維展開と筋の挿入

●顕微解剖学

1.6 胸腰筋膜

●序論

●浅層

●深層

●運動学

●胸腰筋膜の解剖に関する議論

●結論

1.7 頸部と体幹腹側の深筋膜

●序論

●頸部筋膜

●3つの頸筋膜の配置

●胸郭の筋膜

●腹壁の筋膜

1.8 内臓筋膜

●序論

●内臓筋膜

●内臓靭帯

●癒着

1.9 頭蓋内における膜性構造と髄腔内の空間

●Blechschmidtによる硬膜の胚発生原動力

●頭蓋内膜系

●頭蓋外膜系

●髄膜の血管新生

●髄膜の神経供給

●硬膜系の役割

●相反性緊張膜

●今後の課題と未解決問題

1.10 横隔膜の構造

●序論

●発生学

●構成

●関係と役割

●横隔膜収縮の力学

●他の身体に対する相互作用

●横隔膜の収縮における共同作用

パート2 コミュニケーション器官としての筋膜

2.1 伝達器官としての筋膜

2.2 固有受容(固有感覚

●固有受容、機械受容と筋膜の解剖

●連結性と連続性

●体系はさまざまで解剖学的構造以上である

●機械受容の基質

●機械受容における結合組織と筋組織の体系の機能的役割

●動的なもの:靭帯や筋以上に

●固有受容における機械受容の分類

2.3 内受容

●序論

●内受容とは?

●官能的な感触

●新しい系統発生的な変化

●内受容と体性情動障害

●内受容性器官としての筋膜

●徒手療法と内受容

●運動療法と内受容

2.4 侵害受容:感覚器としての胸腰筋膜

●序論

2.5 全身伝達システムとしての筋膜

●序論

●筋膜

●生体マトリックスを介した運動連鎖の軌跡

●筋膜体系の調節

●結論

パート3 筋膜の力伝達

3.1 力伝達と筋力学

●筋腱の力伝達

●筋膜の力伝達

3.2 筋膜の力伝達

●筋膜の力伝達の筋肉基質

●筋外における筋膜の力伝達とその基質

●筋外における筋膜の力伝達の影響

●筋の筋膜負荷の複雑性

●考慮すべきさらなる要因

3.3 筋膜連鎖

●Kurt Tittel:筋スリング(筋索)

●Herman Kabat:固有受容性神経筋促通法(PNF)

●Leopold Busquet

●Paul Chauffour:“オステオパシーにおけるメカニカルリンク(機械的連結部)”

●Richter-Hebgenモデル

3.4 アナトミー・トレインと力伝達

●序論-メタ膜として細胞外基質

●分割不可能なものの分割

●筋の分離

●アナトミー・トレイン

●テンセグリティー

●結論

3.5 バイオテンセグリティー

●序論

●バイオテンセグリティーの起源

●バイオテンセグリティーモデルの張力器としての筋膜

●膜・筋膜のトレーニング

●運動の柱

●筋膜-骨格系の統合

●要約

3.6 皮下および腱上膜組織の多微小空胞滑走システムの作用

●序論

●力学的観察

●生体内微小解剖観察

●微小空胞の観察

●動的役割の外観

●結合、伝達、吸収されるストレス

●外傷と脆弱性

●MVCASとグローバル化

●結論

パート4 筋膜組織の生理学

4.1 膜・筋膜の生理学

●運動器官の結合組織

●構造と機能

●牽引または張力負荷vs圧力

●生理的刺激

●創傷治癒と徒手療法

●創傷治癒の条件

4.2 膜・筋膜は生きている

●筋膜の細胞集団

●筋膜の緊張性

●線維芽細胞の収縮から組織拘縮へ

●筋膜収縮力の調整

●自律神経系との相互作用

●筋膜組織への周期的振動に対する適応は?

4.3 細胞外マトリックス

●コラーゲン線維

●エラスチン線維

●基質

●非コラーゲン・蛋白質

●水

●要約

4.4 筋膜の特性に関するpHと他の代謝因子の影響

●pH調整と筋膜組織への影響

●筋膜機能へのpHの影響とは?

●成長因子

●性ホルモン

●レラキシン

●コルチコステロイド(副腎皮質ステロイド)

●乳酸塩

4.5 筋膜組織における流体力学

●間質液の特性

●間質液の形態学的な質

●細胞間の伝達媒体としての間質液

●組織の“呼吸”

第2部 臨床応用

パート5 筋膜関連の障害

5.1 筋膜関連の障害:序論

5.2 デュピュイトラン病と他の線維収縮性疾患

●序論

●本疾患で苦しんでいるのは誰か?

●デュピュイトラン病の基本的問題

●デュピュイトラン病の基礎解剖学

●手掌の小結節

●手掌の索状物

●特定の手指が他の手指より影響を受けるのはなぜか?

●筋線維芽細胞はすべて同じか?

●遠位手掌皮線の“くぼみ”を引き起こす細胞の起源は何か?

●腱膜上の細胞に収縮するように“指示する”のは何か?

●原因となる因子に関する知識をもつことによって合理的な治療を提唱することが可能か?

●ぺイロニー病

●レダーホース病

●結論

5.3 “凍結肩(五十肩)”

●序論

●概念と分類の確定

●疫学

●病因と病理発生

●臨床症状

●画像

●治療

●麻酔下での授動術

●要約

5.4 痙性不全麻痺

●序論

●上肢の痙性不全麻痺における外科的治療

●痙縮筋

●手術中の観察

●筋外の力伝達

●痙縮関連関節姿位の説明に対して

●結論

5.5 糖尿病足

●序論

●検査方法

●非酵素的糖鎖結合

●足底筋膜

●アキレス腱

●関節可動性の制限

●結論

5.6 強皮症と関連症状

●“強皮症”とは?

●徒手療法に関連する特殊な臨床像

●強皮症の種類と、全身性強皮症が調和する場所

●従来の医学的管理

●徒手療法(manual therapy:MT)は、強皮症関連の線維症変化を減少または後退させることができるか?

●科学的根拠:潜在的治療機序

●神経筋テクニックとマッスルエナジーテクニック

5.7 筋膜関連障害のトリガーポイント

●トリガーポイント

●筋膜とmTrPs

●治療結果

5.8 筋膜関連の疾患:過可動性

●序論

●EDSとマルファン症候群の臨床像

●EDSとマルファン症候群における神経筋の病変

●EDSマウスモデルの筋特性に対するTNX欠損の影響

●筋内変化:筋外への筋膜の力伝達の減少

5.9 足底筋膜の解剖学的構造

●足底筋膜の生体力学的機能

●足底筋膜の内的負荷

●足底筋膜炎

●要約

パート6 筋膜の弾性に関する診断方法

6.1 筋膜の弾性に関する診断方法

6.2 筋膜の触診

●自動的評価と他動的評価

●いつ診察しているか?

●触診に必要なもの

●何を触診しているか?

●セラピストがリラックスする必要性

●層

●クライアントとのコミュニケーション

●情報を得るための触診

●触診の目的

●考えるのではなく、“感じる”触診

●接触の生理学

●情報の選別

●オステオパシー的な触診の視点

●実際の触診

●触診の実践

●結論

6.3 過可動性と過可動性症候群

●序論

●病因

●過可動性と過可動性症候群に対する検査

●マルファン症候群

●過可動性性症候群の臨床症状

●管理の原則

●結論

●謝辞

パート7 筋膜指向性療法

7.1 包括基準と概要

●本章のトピックス包括の基準

●古い方法の更新と新たな方法の出現

●瘢痕

●鍼

●結合組織に対する幅広い影響

●筋膜アプローチを援助する道具

●神経モビライゼーション

●全身のエクササイズ

●運動系

●全身的徒手システム

●ストレッチング

●結論 

7.2 トリガーポイント療法

●序論

●トリガーポイント療法の原則

●トリガーポイント療法

●要約と結論

7.3 ロルフィング構造的身体統合法

●ロルフィングの前提

●ロルフィング構造的身体統合法における筋膜の重要な特徴

●統合された構造と機能の促進

●伝統的なロルフィング構造的身体統合法シリーズ

7.4 筋膜誘導アプローチ

●序論

●筋膜系制限をリリースするための神経生理学的メカニズム

●方法の説明

●筋膜アプローチの結果に関連した科学的根拠

●要約

7.5 オステオパシー徒手的治療法と筋膜

●序論

●OMTの観点における筋膜

●筋膜の理解に対するオステオパシーの貢献

●研究

7.6 結合組織マニピュレーション

●内臓-体性反射

●筋膜トリガーポイントの筋群に対する浅層

●CTMの生理学

●CTM

●評価

●治療

●禁忌

●臨床的有益性の根拠

7.7 筋膜マニピュレーション

●序論

●生体力学的モデル

●治療

7.8 機能障害性瘢痕組織の管理

●歴史

●軟部組織損傷の“活性瘢痕”モデル

7.9 筋膜指向性療法としての鍼治療

●序論

●手技

●乾燥穿刺

●根拠

●要約 

7.10 刮痧[カッサ]

●序論

●刮痧の用語

●刮痧の施術法

●適応

●禁忌

●生物学

●生理学

●安全性

7.11 プロロセラピー(増殖療法)

●序論

●歴史

●創傷治癒、修正と再生

●作用機序と注射に用いる物質

●適応、禁忌、合併症、リスク

●技術

●帰結と臨床的根拠

●今後の展望

●要約と結論

7.12 ニューラルセラピー(神経療法)

●序論

●神経解剖学

●方法

●適応、禁忌、合併症

●要約

●研究

●謝辞

7.13 動的筋膜リリース―徒手や道具を利用した振動療法

●序論

●筋膜に関連する徒手および機器を用いた治療の歴史

●Hebbの仮説、調和機能と振動

●律動的反射-緊張性振動反射と関連した効果

●打診バイブレーター

●ファシリティーテッドオシレートリーリリース(FOR)

●その他の機器

7.14 グラストンテクニック

●序論

●理論的根拠

●適用

●運動と負荷を伴うGTの使用

●局所と全身的アプローチ

7.15 筋膜歪曲モデル

●序論

●機械的感受性システムとしての結合組織

●専門家としての患者―Typaldos氏のモデル

●筋膜歪曲

●筋膜歪曲の診断

●筋膜歪曲の一般的な治療

●最後に

7.16 特定周波数微弱電流

●特定周波数微弱電流の歴史

●FSMと炎症

●FSMと瘢痕組織

●治療器

●筋膜痛治療に対する臨床効果

●FSM治療はどのように他の筋膜療法と異なるか

●特定周波数の効果を説明するモデル

●概念モデル

7.17 手術と瘢痕

●序論

●組織層の解剖学的構造

●手術

●治療

●基本的な手技

●結論

7.18 筋膜の温熱効果

7.19 ニューロダイナミクス:神経因性疼痛に対する運動

●序論

●末梢神経系の構造、機能と病態生理学

●重複性絞扼理論

●神経因性疼痛状態に対する運動

●臨床効果の根拠

●より大きな絵

7.20 ストレッチングと筋膜

●序論

●定義

●混在している根拠

●ストレッチング:組織変化の根拠

●結論

7.21 ヨガ療法における筋

●筋膜療法としてのヨガ(Yoga)

●ヨガと筋膜

●照会

7.22 ピラティスと筋膜:“中で作用する(working in)”技法

●序論

●東洋哲学と西洋哲学の混合

●さまざまな訓練の融合と統合

●生活様式によって制限された筋膜はピラティスによって変えることが可能か?

●ピラティスの原理と筋膜

●巧みな連結

●足部からコアへ

●内部からのアライメント支持

●“内部のごとく、外部もしかり”:内部から知覚した運動が外部で何が生じているかを考える

●専門機材:改質装置または変換装置

●リフォーマー対マシン

●要約

7.23 筋骨格および関節疾患の炎症抑制を目的とした栄養モデル

●炎症反応

●脂肪酸:抗炎症特性

●脂肪酸栄養補助食品:抗炎症特性

●料理用のスパイス(香辛料)とハーブ(香草):抗炎症特性

●果物と野菜:抗炎症特性

●飲料:抗炎症特性

●抗炎症食

7.24 筋膜の適応性

●序論

●筋膜の再構築(リモデリング)

●カタパルト機構:筋膜組織の弾性反跳

●トレーニングの原理

第3部 研究の方向性

パート8 筋膜研究:方法論的な挑戦と新しい方向性

8.1 筋膜:臨床的および基礎的な科学研究

8.2 画像診断

●序論

●筋外の筋膜構造の画像と付加的分析

8.3 生体内での生体力学的組織運動分析のための先進的MRI技術

●序論

●動的MRIと生体内運動分析

●模擬的徒手療法によって生じた変形量を計測そるためのMRI使用

●結果

●MRIの先進的動画ツール

8.4 筋のサイズ適応における分子生物学的な筋膜の役割

●序論

●生体内機械的負荷によって誘発される筋の適応

●筋のサイズ適応の分子機構

●筋線維サイズ調整における筋膜の役割

●成熟した単一筋線維の生体外培養

●要約

8.5 数学的モデリング

●序論

●有限要素法を利用した筋膜と筋組織のモデリング

●徒手療法に起因する変形のモデリング

ご参考:「臨床に役立つ生体の観察」

臨床に役立つ生体の観察
臨床に役立つ生体の観察

この「臨床に役立つ生体の観察」は初版が1987年6月であり、30年以上前に発行された書籍です。“筋膜”については、どんな説明がされているのだろうと思い、調べてみると興味深いものでした。また、Fascia(ファシア)が30年以上前から認識されていたということは意外でした。

『本書では筋膜(fascia)については北米式の慣習に従うが、北米式ではfasciaとは線維性結合組織(fibrous connective tissue)からなるsheetあるいはbandで、あるものは皮膚の深部に存在し、あるものは身体の種々の器官を被包し、またあるものは血管神経束(neurovascular band)を包むと定義されている。別に、筋を包むfasciaをinvesting fascia、「被包筋膜」 として区別する。』

対話型ファシリテーション

筋膜性疼痛症候群(MPS)研究会は、2018年4月、日本整形内科学研究会(JNOS)となり、前身の会員だった私は幸いにも新しくなったJNOSの准会員として、引き続き勉強させて頂いています。充実したオンラインセミナーは後日、動画配信されるため多くの有意義な機会を得ることができます。

今回のブログはその動画配信で学んだことであり、本はその時、紹介されていたものです。

“5W1H”の中には、“Why”も含まれていますが、「対話型ファシリテーション」の極意は、事実を明らかにすること、そのためには「なぜ?」「どうです?」を使ってはならないということです。これはかなり衝撃的でした。

対話型ファシリテーションの手ほどき
対話型ファシリテーションの手ほどき

著者:中田豊一

出版:認定法人ムラのミライ

初版発行:2015年12月

ブログで触れているのは、もくじ黒字の箇所です。

もくじ

1.「なぜ?」と聞かない質問術

2.「どうでした?」ではどうにもならない

3.「朝ごはんいつも何食べる?」の過ち

4.簡単な事実質問が現実を浮かび上がらせる

5.「いつ?」質問の力

6.行動変化に繋がる気付きを促すファシリテーション

7.○○したことは、使う

8.信じて待つ=ファシリテーションの極意

9.気付きには時間がかかる

10.達人のファシリテーション

11.対話型ファシリテーションを使うインドの村人

12.答えられる質問をす

13.それは本当に問題か

14.都合のいいように解釈する

15.時系列で聞いていく

16.対話型ファシリテーションの実践性

17.○○が足りない

18.問題とは何か

19.栄養不良の原因は何か

20.考えさせるな、思い出させろ

21.空中戦を地上戦に

22.対話型ファシリテーションは最強のコミュニケーションツール

6.行動変化に繋がる気付きを促すファシリテーション

●ファシリテーションはまちづくりや開発教育などのための参加型のワークショップの進行役がファシリテーターと呼ばれるようになり、それに伴って、技能としてのファシリテーションという言葉が徐々に広まった。

●ファシリテーションの技能の核心は、ワークショップなどにおいて、参加者の気付きを「促す」ことにある。

●養豚の方法についてラオスの村人達と研修したときの話(2回の研修では出席者は全員男性だった)

・ファシリテーター:①「今朝、豚に餌をあげましたか?」(全員、うなずく) ②「餌をあげる作業は誰がやりましたか?」(参加者の6世帯中、5世帯は妻の仕事だった)→村人曰く「母ちゃんを連れてきます」との気付きが生まれ、結果的に次回の研修では多くの村人が夫婦での参加となった。

対話型ファシリテーションは、簡単な事実質問によるやりとりを通して相手に気付きを促し、その結果として、問題を解決するために必要な行動変化を当事者自らが起こすように働きかけるための手法である。重要なことは、問題の当事者の「気付き」が「行動変化」のための大きなエネルギーになるということである。 

7.○○したことは、使う

①聞いたことは、忘れる。

②見たことは、覚えている。

③やったことは、わかる、身に付く

④自分で見つけたことは、使う

自分で見つけたもの以外は、ほとんど忘れる。ファシリテーションでは相手が答えを自分で見つけるまで、粘り強く働きかける必要がある。

自分で発見することは、気付きの喜びを得ることでもあり、その喜びをエネルギーに行動変化のための第一歩となる。

・同じ答えでも自分が見つけるのと他人から教えてもらうのとでは、心理的な効果という点では、天地の差がある。

●実際の場面では、すぐに気付くわけでも、すぐに行動に移るわけではなく、ほとんどの場合多くの時間を要する。そのため、ファシリテーターは焦ることなく地道に働きかけを続けていくことが求められる。 

10.達人のファシリテーション

対話型ファシリテーションの訓練は複雑なものではなく、「事実質問に徹する」という単純な実践の繰り返しである。事実質問を重ねていくと、人間の意識と行動と感情を繋ぐ糸の共通の仕組みがだんだんと目に見えるようになっていく。

●意識と行動と感情を繋ぐ糸は、「これは何ですか?」「それはいつですか?」と聞いていくことで見えてくる。 

12.答えられる質問をする

対話型ファシリテーションの前提は相手のことに関心をもっているということである。また、その際心がけることは「相手が答えられる質問をする」ことである。

●「答えられる」という意味は2つある。1つは、思い出す努力を少しすれば楽に答えられることである。代表的な質問は、「いつ、どこで、誰が?」というものである。もう1つは、心理的に答えやすい質問である。嫌なことを思い出させるような質問を無神経にしていては、相手は距離を置き、心を開くことはない。

●相手が答えられる簡単な事実質問をすることが、敬意を伝えるために最高の方法である。簡単な事実質問に答えているうちに、相手の自己肯定感が高まり、自然と互いの心が開かれていく。 

14.都合のいいように解釈する

●人が自分自身の問題の原因を分析する場合、自分の都合のいいように解釈するのは、人に元々備わっている精神の自己防衛システムであり、重要な役割を果たしている。しかしながら、それ故に自分の問題の原因を冷静に客観的に分析するのは、本人が考えているよりはるかに難しいものとなる。

人は相手が問題について語り始めると、「それは何故ですか」「どうしてですか」とつい聞いてしまう。すると、人は自分勝手な安易な原因分析や用意していた言い訳を離し始めてしまう。

・例)「なぜお子さんに朝ご飯をきちんと食べさせないのですか?」→「朝は時間がないからです」あるいは、「子どもが朝早く起きないからです」等々。

相手の問題や失敗について「なぜ?」と直接聞くと、詰問や非難のように取られることも少なくない。本当の原因を知りたい場合は、「なぜ?」「どうして?」は使ってはいけない。

●問題を明らかにするための支援では、「問題はなんですか?」という問いかけは、「なぜ?」や「どうして?」と同様に、問題の真実をむしろ隠してしまう。

15.時系列で聞いていく

対話型ファシリテーションでは、相手が問題を語り始めたら、まずは、「一番最近、それで誰がどのように困りましたか?」あるいは「それを解決するためにどんな努力をこれまでしてきましたか?」と聞く。そして、それが本当に問題だという合意をすることが必須であり、その確証がないまま本格的な分析に入っていってはいけない。

●合意できた問題の分析の基本は、常に、「いつですか?」「覚えていますか?」と聞きながら、時系列で質問を進めていくことである。一般的には、一番最近のことから聞いていき、徐々に古い記憶を呼び起こし、問題の大まかな姿が明らかになったら、いよいよ出発点の話に入っていくのが良い方法である。

●Nさん(喘息患者)に対する医師Aと医師Bの例

Nさん:かなり前から、時々、喘息発作に襲われていて、その都度手近な医院に駆け込んでいた。

・医師A:「どの程度の頻度で発作が起こりますか?」→Nさん:「年に2、3回くらいだと思います」。この結果、医師はその都度、薬を処方し発作は治まるということをここ何年も繰り返してきた。

・医師B:「前回、発作が起こったのはいつですか?」「その前は?」→これらの質問の結果、最近4カ月の間に少なくとも3回くらい発作が起こっていたことが分かった。

-医師B:「最初に喘息が起こったのはいつですか?」→Nさん「小さい時から小児喘息があったんです」→医師B「あったということは、それは治ったんですね?」→Nさん「はい、治りました」→医師B「それはいつですか?」→Nさん「高校生の時です」→この段階でNさんは気付いた。それは、高校を出るまでは母が付き添ってくれて定期的に通院していたけど、大学生になってからはそれがなくなり、たまに発作が起こっても病院に行かなくなり、誰からも「治った」と言われたことがないのに、「小児喘息は治った」と勝手に思っていた。という事実を認識した。

-医師B:「今の薬は強すぎますね。強い薬を使わず、微量の薬を毎日服用し時間を掛けて喘息との付き合い方、薬の手放し方を対処していきましょう」→Nさんは、今まで自分から進んで努力してこなかったが、今回、自分の病歴をはっきり意識し、自分でしっかり受け止めたところ、前向きのエネルギーが出てきたとのことである。まさにこれが、『自分で見つけたことは使う』ということである。

18.問題とは何か

●「問題とは“こうありたい姿”と“現実の姿”との距離である」という定義をコンサルタントは使うようである。問題の大小は距離の大きさになる。距離を縮める方法は2つ、一つはありたい姿に現実を変えていく方法、もう一つは目標を下げる方法である。そして、まずはっきりさせなければならないのは2つの距離である。距離は問題を明らかにすることであり、目標を設定することである。距離が明確になると、内側からやる気が湧いてくる。距離を縮める方法を考えることも、それを実行に移すことも、前向きになれることが多いのはファシリテーションの力といえる。

股関節唇損傷(フレイル)4

前回の、“医道の日本”と今回の“日臨整誌 vol.36 no.1 98”の各論文は、国会図書館に所蔵されており、有償の遠隔複写サービスを利用して入手しました。

日本臨床整形外科学会雑誌 vol.36 no.1 98号:関節内に陥入した股関節唇損傷の治療経験
日本臨床整形外科学会雑誌 vol.36 no.1 98号:関節内に陥入した股関節唇損傷の治療経験

日本臨床整形外科学会雑誌 vol.36 no.1 98号

関節内に陥入した股関節唇損傷の治療経験

左は、船越先生、山下文治先生、長岡先生、森先生の”京都下鴨病院”です。

左は、山下 琢先生の”山下医院”です。

要旨

・股関節唇損傷の診断は、自覚症状、他覚所見、MRI、超音波検査、リドカインテスト[リドカインという局所麻酔薬を注入して症状が一時的に消失かどうかをみるテスト]の結果を総合的に判断して行った。

・疼痛は股関節や殿部、大腿部に認めた。他覚的には股関節周辺の圧痛やパトリックサイン、股関節の可動域制限を認めた。リドカインの関節内注射を行ったところ、2例とも股関節痛が一時的に消失した。

股関節鏡にて、断裂し関節内に陥入した股関節唇を認めた。

・鏡視下関節唇部分切除術を行い、2例とも術後早期に股関節痛や可動域制限が改善した。

・症状が強くADL[日常生活動作]が低下している場合や、症状が長期間続く股関節唇損傷には、股関節鏡視下の関節唇切除術が有効であった。

症例1

63歳 女性

・主訴:左股関節痛、左殿部痛、左下肢痛

・現病歴:2009年11月、孫と遊んでから左股関節痛が出現した。発症直後より歩行が困難となり、可動域制限を認めた。2010年1月に病院を受診した。

・理学的所見:左股関節に圧痛を認め、跛行を呈していた。股関節の屈曲は100°、内旋、外旋は30°で、内外旋時に疼痛を伴っていた。パトリックサインは陽性、日本整形外科学会股関節機能判定基準(以下JOAスコア)は38点であった。[クリック頂くと”股関節JOAスコア”というPDF1枚の資料が表示されます]

症例2

68歳 女性

・主訴:右股関節痛

・現病歴:2008年5月ごろ、自転車走行中に転倒しかけた際、右下肢に負担がかかってから右股関節痛が出現した。車に乗る際や階段にて下肢を挙上する際に、疼痛を認めた。2008年7月に病院を受診した。

・理学的所見:股関節の屈曲は110°、内旋は30°で、内旋時に疼痛を伴った。開排制限を認め、パトリックサインは陽性で、JOAスコアは36点であった。

検査

1.単純X線写真

・症例1、2とも軽度の関節裂隙の狭小化を認め、日本整形外科学会変形性股関節症の判定基準第三案でのX線像からの評価における初期股関節症に分類されると思われる。

単純X線写真
単純X線写真

画像出展:「日本臨床整形外科学会雑誌 vol.36 no.1 98号」

 

2.MRI

症例1は、通常のT1およびT2強調像で関節唇損傷を疑う所見が認められなかった。T2 star weighted image(以下T2)では、関節唇の形状や信号強度の変化に左右差を認めた。患側の関節唇は健側と比べて先端が鈍的な形状となっていた。

MRI T2(T2強調像)
MRI T2(T2強調像)

画像出展:「日本臨床整形外科学会雑誌 vol.36 no.1 98号」

症例2は、T1強調像においても患側の臼蓋先端部分に等信号~低信号の肥厚した関節唇らしき陰影を認めた。T2では症例1と同様に関節唇の形状が鈍的に変化し高信号を呈していた。このように、2例とも、T2で関節唇損傷を疑う変化を認めた。

3.超音波検査

・2例とも、超音波検査で関節唇損傷部分にエコー信号の変化を認めた。

超音波画像
超音波画像

画像出展:「日本臨床整形外科学会雑誌 vol.36 no.1 98号」

4.リドカインテスト

・1%リドカインを約5ml股関節内に注入して疼痛の変化をみた。2例とも、リドカインの注入にて症状が一時的に消失し(リドカインテスト陽性)、疼痛の原因が股関節内にあることが示唆された。

治療

1.股関節鏡手術

・2例とも、全身麻酔下に牽引手術台を用いて行った。患側股関節を10°屈曲、10°外転、内外旋中間位とした。透視下に関節裂隙が約1cm開くまで患肢を牽引した。

2.後療法

・2例とも、手術翌日より股関節周囲筋を中心とした全身の筋力トレーニング、ストレッチングおよび股関節可動域訓練を開始した。荷重は痛みの状態に応じて判断した。手術後2週間で痛みを伴わない荷重歩行が可能になった。

結果

2例とも、術前の股関節およびその周辺の疼痛、可動域制限は術後約2~3週間で消失した。JOAスコアは、症例1が術前38点から術後86点に、症例2が術前36点から術後74点にそれぞれ改善した。

考察

・理学的所見としては、股関節の圧痛および股関節内旋、外旋時に痛みを訴えることが多い。

・関節内に陥入した股関節唇損傷の特徴的な症状は、1)疼痛によるADLの低下(特に歩行障害)が強い(陥入のないスポーツ症例は運動時痛が中心)、2)可動域制限を認める(陥入のない症例では可動域制限は認めなかった)などである。

治療は可動域制限や疼痛が軽度であれば保存的治療を約2~3カ月行ない、症状の改善がなければ手術的治療の適応と考えられる。しかし、症状が強くADLが低下している症例や保存的治療が無効な症例については、股関節鏡手術の適応と考える。

まとめ

母親の股関節の問題は、軟部組織によるものという認識は変わりませんでしたが、軟骨変性か股関節唇損傷か関節包(外側は線維膜、内側は滑膜)の損傷かは特定できませんでした。やはり、関節造影MRIの画像診断が必須です。

なお、超高齢女性に関しても、股関節唇損傷の可能性を示唆する特徴があり、股関節唇損傷でないと判断するのも難しいと思います。

外傷を伴わない変性断裂は、中高年の骨性変化の少ない女性に多い。

性別では71%が女性。

きっかけとなった外傷はなく、緩徐な発症。

年齢的な変化があったり、軽微な外傷を繰り返していると、関節唇が傷んだり、軟骨が損傷したりして鼡径部痛が生じることがある。

■捻った動作によって関節唇を損傷する場合もある。

■同じように関節唇が損傷していても痛みを感じない人もいれば、ひどく痛みを感じる人もいる。

■外傷を伴わないものが多く、潜行性に発症する。

■安静時に強い疼痛を自覚することは少ない。

■股関節の圧痛および股関節内旋、外旋時に痛みを訴えることが多い。

施術

・1日1回、夕食後に20分程度、座位(車椅子)で実施。

・ホットパックで骨盤前部、大腿部を温める。

・マッサージ(軽擦、手掌圧迫、母指圧迫など):腸骨筋、大腿四頭筋、内転筋群、ハムストリングス、前脛骨筋、下腿三頭筋。

・鍉鍼:内転筋群など主に硬い箇所を軽擦。

現状

・車椅子に座った時に、フットレストに乗せることはできるようになり、週1回訪問して頂いている看護師さんからも、「だいぶ硬さ(緊張)は取れましたね」とのご指摘を頂きました。元のように戻るとは思えませんが、介護する上では可動域が改善されたので楽になりました。現状を維持できるように施術を継続していきたいと思います。

ご参考

題名“股関節唇損傷”の後ろに( )でフレイルと記したのは、「加齢による原因が大きい」という思いからです。なお、加齢による問題にはフレイルの他、サルコペニアロコモ(ロコモティブシンドローム)があるのですが、「健検」さまのサイトに3つについて簡潔にまとめられていたページがありました。

サルコペニア・ロコモ・フレイルの共通点と違いは?”

股関節唇損傷(フレイル)3

今回の、“医道の日本”と次回の“日臨整誌 vol.36 no.1 98”の各論文は、国会図書館に所蔵されており、有償の遠隔複写サービスを利用して入手しました。

医道の日本:股関節唇損傷による股関節痛の診断、治療
医道の日本:股関節唇損傷による股関節痛の診断、治療

医道の日本 2013年4月号

特集 股関節痛へのアプローチ1

股関節唇損傷による股関節痛の診断、治療

左をクリック頂くと、迫田先生、内田先生の”産業医科大学若松病院 整形外科 スポーツ環境センター”のサイトが表示されます。

はじめに

・股関節痛の原因は多岐にわたる。

・股関節唇損傷は最近注目されるようになった疾患だが、正しい診断に至るまでに平均2年以上を要するという報告もある。

股関節痛の原因
股関節痛の原因

画像出展:「医道の日本」

股関節唇の解剖、機能

・股関節唇は線維軟骨と密な結合組織よりなり、臼蓋縁に付着して馬蹄形を呈し、下方は横靭帯と連続している。関節唇の前上方には神経終末が多く分布しており、閉鎖動脈、上殿動脈、下殿動脈から栄養を受けている。

・関節唇の静的機能としては、臼蓋の外縁に付着することで関節面の表面積を28%、臼蓋の深さを21%増大させ、関節内の適合性向上に関与している。

・動的機能としては関節内を密封することにより関節液を閉じ込め、荷重を均一に分散している。また。骨頭牽引時に関節内が陰圧となるため、骨頭の求心性向上に役立っている。

関節唇損傷は上記の機能が破綻するため関節の安定性が低下し、変形性関節症への進行の一因になると考えられている。

股関節レントゲン正常像

・股関節唇損傷の多くは臼蓋形成不全、FAI(股関節インピンジメント)などの骨形態異常を原因として生じ、明らかな外傷を伴わないことが多い。

股関節唇損傷が生じるメカニズム

1)臼蓋形成不全

・荷重時に臼蓋辺縁の関節唇に対して大腿骨頭から過剰な負荷が掛かり、これにより臼蓋辺縁の関節唇付着部が破綻し、関節唇損傷を生じる。

臼蓋形成不全
臼蓋形成不全

画像出展:「医道の日本」

2)Pincer type FAI

・Pincerとは臼蓋縁の一部または全体の過被覆のことである。股関節の運動時、特に屈曲時にPincerと大腿骨頭-頚部移行部が繰り返し、股関節唇損傷の原因になる。

Pincer type FAI
Pincer type FAI

画像出展:「医道の日本」

3)Cam type FAI

・大腿骨頭-頚部移行部が膨隆し非球形であること(Cam)により、股関節運動時、特に屈曲時にCamが臼蓋縁に押し付けられ股関節唇損傷の原因となる。

Cam type FAI
Cam type FAI

画像出展:「医道の日本」

4)Combined type FAI

・PincerとCamを同時に認めるため、股関節唇損傷を最も生じやすい。FAIの86%を占める。

股関節唇損傷の臨床像

・好発年齢は10代から40代が中心。

・臼蓋形成不全やPincer type FAIによる股関節唇損傷は女性に多く、Cam type FAIは男性に多い。

外傷を伴わないものが多く、潜行性に発症する。

・問診時に痛い部位を確認すると以下のように疼痛部位をおさえることがある。これはCサインと呼ばれ股関節唇損傷の特徴である。 

Cサイン
Cサイン

画像出展:「スポーツメディスン No138

・股関節唇損傷の90%以上が主に鼡径部痛を訴え、次いで大転子付近(59~61%)、大腿前面~膝(52%)、殿部(38~52%)、仙腸関節付近の痛み(23%)を訴える。鼡径部痛を伴わないケースもあることを認識しておく必要がある。

安静時に強い疼痛を自覚することは少なく、ランニング、座位、ねじり動作、歩行など、活動や特定の肢位により疼痛が誘発または増悪することが特徴である。

・患者は疼痛をさける肢位をとっていることが多く、患者の歩容、姿勢にも注意を払う必要がある。 

股関節唇損傷の患者の姿勢
股関節唇損傷の患者の姿勢

画像出展:「医道の日本」

疼痛誘発テスト

1)前方インピンジメントテスト

・股関節を他動的に伸展位から屈曲、内転、内旋させていき疼痛が出現した場合に陽性とする。

股関節唇損傷の手術症例中94.1%が陽性だった。

・股関節唇損傷における感度[疾患群で陽性となる割合]の高い検査法であるが、特異度[非疾患群で陰性である割合]は高くないので注意を要する。

前方インピンジメントテスト
前方インピンジメントテスト

画像出展:「医道の日本」

2)後方インピンジメント

・患者に自分で健側の膝を抱えてもらい骨盤を固定し、患側股関節を屈曲位から軸圧をかけながら外転、外旋させ、疼痛が誘発された場合に陽性とする。

股関節唇損傷の手術症例中43.8%が陽性だった。

後方インピンジメントテスト
後方インピンジメントテスト

画像出展:「医道の日本」

3)FABER(flexion abduction ex-ternal rotation)テスト

・背臥位で下肢を胡座位とし、脛骨結節から診察台までの距離を計測する。患側が健側に比して5cm以上大きければ陽性とする。仙腸関節に異常があっても陽性になるので注意が必要である。

股関節唇損傷の手術症例中80.6%が陽性だった。

FABERテスト
FABERテスト

画像出展:「医道の日本」

股関節唇損傷の診断

・病歴、臨床症状、理学的所見等から股関節唇損傷が疑われる場合、単純レントゲンやCTで臼蓋形成不全やFAIを生じるような骨形態異常の有無を確認する。

・股関節唇損傷については、通常のMRIでは感度が低いので、関節造影MRIや放射像撮影を撮像することが望ましい。

関節造影MRI、放射状撮影
関節造影MRI、放射状撮影

画像出展:「医道の日本」

関節造影MRI、放射状撮影

股関節唇損傷の治療

疼痛の原因が股関節唇損傷であると診断した場合、まずは理学療法を中心とした保存療法を6~12週行う。

・症状の改善が患者の望むレベルに達しない場合は、手術的治療を検討する。

おわりに

・股関節唇損傷は、股関節痛、鼡径部痛の原因として近年認知されてきた比較的新しい概念である。

・股関節唇損傷の臨床症状や診断法などはいまだ広く知られておらず、複数の医療機関への受診を要し、誤った判断や不要な検査、手術を受ける可能性がある。また、股関節唇損傷と診断されても保存的治療の有効性はまだ確立されていない。

・外科的手術の短期成績は良好だが、長期成績については今後の課題である。

股関節唇損傷は変形性関節症のリスクであり、予防、早期診断、治療に関するさらなる科学的根拠の蓄積と、医療従事者への啓蒙が急務である。

股関節唇損傷(フレイル)2

出版:南江堂

発行:2011年7月

編集:菊地臣一(執筆者は43名)

目次は”股関節唇損傷(フレイル)1”を参照ください。

股関節唇損傷による痛み

A.股関節唇の解剖と生理

・股関節唇は断面が三角形の線維軟骨からなり、寛骨臼の辺縁に付着する。下方の一部は関節黄靭帯に移行し、全体では輪状の構造物を形成する。膝半月のように付着部は血行に富み、末梢は無血行野となっている。その主な生理学的機能は、①関節安定性(吸着性)、②骨頭との適合性(ストレス分散)、③密閉性(潤滑液のブーリング)の保持である。

B.診察のポイント

1.医療面接

・問診では、現病歴を始め、既往歴、スポーツ歴などにも診断に有用な情報が含まれているので、詳細な聴取が必要である。

a.現病歴

・若年者では、スポーツなど運動の際に軽度の外傷を契機として発症することが多く、引っ掛り感やロッキングなどの機械的な刺激による疼痛を訴える。鼡径部痛、大腿前面の痛みが主で、時に殿部痛も伴うが、殿部痛のみを訴えるものは少ない。階段を昇る際の痛みや、しゃがみ込んだ時の痛み、症状が強い場合は夜間痛を訴えるものもある。

FAI(股関節インピンジメント)が比較的若年発祥である一方で、外傷を伴わない変性断裂は中高年の骨性変化の少ない女性に多い。また、遠距離のドライブなどの長時間の座位が疼痛により耐えられなくなるものも多い。その他、急な方向転換で股関節の外旋強制を受ける場合にも疼痛を訴える。

b.既往歴

・外傷歴や小児期の股関節疾患の既往は、FAIや臼蓋形成不全などの骨性因子を伴う関節唇損傷の原因になるので、発症時期や治療経過などを詳細に確認する必要がある。例えば、外傷性脱臼に伴う骨頭骨折、大腿骨頭すべり症、ペルテス病はFAIの原因となる。一方で、先天性股関節脱臼は、臼蓋形成不全の原因の1つとして広く知られている。

c.スポーツ歴

・スポーツ障害として股関節唇損傷がみられるが、競技種目としてよく挙げられるのは、野球、サッカー、ホッケー、ゴルフ、クラシックバレエ、フィギュアスケート、テコンドーなどの頻回の回旋運動、もしくは大きな可動域を要求されるものに多いとされる。特にFAIのあるものには発生頻度が高く、痛みのため競技休止を余儀なくされることが多い。

3.病態

股関節唇損傷の原因は、病態に関与する骨性因子があるか否かによって、大きく2つに分類できる。骨性因子があるものとしてFAIや臼蓋形成不全があり、骨性因子がないものとして変性断裂、スポーツ障害、外傷などがある。

a.骨性因子なし

骨性因子のない股関節唇損傷の原因は、①変性断裂、②スポーツ障害、③外傷の3つが挙げられる。

1)変性断裂

外傷を伴わない変性断裂は、中高年の骨性変化の少ない女性に多いとされ、特に日本人女性では、横座りの際に痛みを訴える人が多い。仕事や家事でしゃがみ込むことが多い人や、趣味でヨガやエアロビクスなどを行い、広い可動域を要求される人にも多く発症する。

2)スポーツ障害

1回のはっきりした外傷から起こることもあれば、繰り返される軽微な外傷から発症することもあり、3/4は後者であるといわれている。荷重下のピボット運動時に多いとされ、過屈曲、過伸展、過外旋など可動域一杯の運動を繰り返すことで起こりやすいとされている。

3)外傷

・主に交通事故や、スポーツ中の脱臼、捻挫などの際に発症するもので、靭帯損傷や骨折を伴うことから、受傷時の疼痛や腫脹が強い。初期治療の後に、残存する症状から股関節内の傷害に気付くことが多い。この場合、関節唇はもちろん、軟骨損傷や円靭帯断裂の合併頻度も高く、臼縁に小さな骨折が合併している場合もある。

4.画像所見

C.保存的治療

・『断裂した組織の自然治癒に関しては議論の多いところではあるが、Seldesらの報告で股関節唇損傷のある12股の新鮮凍結遺体において断裂部に新生血管がみられ、膝半月と同様に自然治癒の可能性を示唆している。そこで筆者の施設[大原英嗣先生:大阪医科大学]では、疼痛コントロールできる症例には、断裂の自然治癒を期待し保存的治療を行っている。』

・具体的には、疼痛誘発肢位の確認とその病態を説明し、日常生活において誘発肢位の回避を指導すると同時に運動療法を勧めている。大切にしていることは、他の荷重関節でも同じことが言えるが、非荷重での可動域内の持続的運動を行うことである。移動は自転車で行うように指導し、水中歩行や水泳を勧めている。症状の強い症例にはNSAIDsの投与を行い、変性断裂例などには、疼痛の原因が関節内にあることの診断を兼ねて局所麻酔薬にステロイドを加えて関節注射を行う。若年例では関節症変化がない症例には、関節軟骨表面の損傷に繋がるのでステロイド使用は控えている。

D.骨性因子なし

・初診後6カ月以上に渡り、仕事もしくはADLでの疼痛が改善しないものや、安静時痛が続くものに対しては手術治療を行っている。術式は、図10のように、関節唇の損傷程度により切除するか、修復するかを決めている。実質部の損傷が多い場合には切除を、そうでない場合は修復術として縫合を行っている。

画像出展:「股関節の痛み」

まずは、6ヵ月以上の保存治療が行なわれます。

月刊スポーツメディスン2・3月合併号 138

特集:股関節の痛み 鼡径周辺部痛、FAI、関節唇損傷、その他の痛みへのアプローチ

こちらは過去ブログ“股関節捻挫”の時に手に入れた専門誌ですが、今回は“股関節唇損傷”を強く意識して熟読しました。

1.股関節唇損傷の鑑別診断

広義と狭義の鼡径部痛症候群

・捻った時に痛い、ある肢位で痛い、という場合は、股関節唇損傷、筋損傷が疑われる。

画像出展:「スポーツメディスン

股関節唇損傷

・原因の一つはFAI(股関節インピンジメント)といって、大腿骨頭と臼蓋間の骨性衝突によって関節唇が損傷する。なお、FAIは骨の計測を行い、出っ張りがあった場合は疑う。

・内転筋由来鼡径部痛症候群では13%に関節唇損傷の可能性がある。

痛みの部位は88%が鼡径部だが、67%は股関節の横側、大転子付近に痛みがみられる。また、腰部は2割、殿部は3割、大腿前面は3割、大腿後面は1割というように痛みの部位は多い。

性別では71%が女性、平均年齢は38歳である。

一般的には、重度の跛行はない。また、きっかけとなった外傷はなく、緩徐な発症で、まあまあ痛い、鼡径部痛、きりっとした痛み、だるい感じ、活動したときに痛みがあり、夜間痛、引っかかると痛い、そして振り返り動作で痛いという症状を訴える。

股関節屈曲で内旋させるAnterior impingement test(図4)で95%が陽性。関節内で痛み止めを行うと、一時的にAnterior impingementの痛みがとれる。著効は90%。この2つを行い、関節内に造影剤を入れてレントゲン写真を撮り、その後MRIを撮ると、関節唇の状態や軟骨の剥離などが確認できる。 

画像出展:「スポーツメディスン

・ブロック注射で痛みが半減し、それで様子をみる場合もあれば、希望により手術を行う場合もある。

病態自体が新しいので確定診断まで約2年(平均21カ月)、平均3.3施設を受診している。

大腿骨頭と臼蓋間の衝突以外に、捻った動作によって関節唇を損傷する場合もある。

・日常生活では、しゃがみ込み、車の乗り降り(特に低い車での乗り降り)、椅子からの立ち上がり、振り返り動作などできりっとした痛みが出る。また、同じような肢位をとりやすい、新体操、ロッククライミング、陸上のハードル、空手、マラソン、スピードスケート、アイスホッケーなどでも出やすい。

年齢的な変化があったり、軽微な外傷を繰り返していると(degenerative change、minor trauma)、関節唇が傷んだり(labral tear)、軟骨が損傷したり(cartilage injury)して鼡径部痛が生じることがある。

・関節運動時に痛みがある壮年期の人でレントゲン画像の変化が少ない場合でも以下の図のように器質的疾患が疑われる。 

画像出展:「スポーツメディスン

・鼡径部症候群のまとめ

画像出展:「スポーツメディスン

2.股関節鏡手術 FAIと関節唇損傷

・日本では通常の手術で行っていた時代から、アメリカではきれいに骨を削って関節唇を縫合する手術を関節鏡手術で行っていた。

・日本ではFAI(股関節インピンジメント)は少なく、多くは臼蓋形成不全と考えられてきたが、内田先生の2009年から2011年に行った230例では、臼蓋形成不全は60例でFAIは151例で、日本では考えている以上に、FAIが多いと考えられる。ただし、臼蓋形成不全60例という数は欧米に比べると圧倒的に多い。

・『最初股関節痛があって、関節の中かなと思っていても、腸腰筋のインピンジメント[腸腰筋に肥厚や炎症があるとクリックがあり、詰まる感じがする]という可能性もあるので、最低1カ月半くらいは保存療法でリハビリをやりつつ様子をみて、それで3カ月以上みて反応しない症例については、手術を視野に入れて検査を進めていきます。

画像出展:「スポーツメディスン

絶対手術適応は、関節造影MRI(左の写真)で関節をみたとき、関節唇の断裂がはっきりわかる症例。

・『次に前述の保存療法で3カ月以上やっても改善がみられない症例、そして関節唇だけでなく、関節唇のそばに軟骨があるのですが、この軟骨が傷んでくると予後が不良になります。軟骨が少しでも傷んでいる所見があれば、早めの手術を勧めます。いたずらに保存療法を続けていると、だんだん変形性股関節症になっていきます。』

画像出展:「スポーツメディスン

 

・FAIは10代、20代、30代までは男性の方が多く、40代、50代になると女性の方が多くなる。

画像出展:「スポーツメディスン

 

・股関節に限らないが、痛みが精神的な要因に関係していることがある。また、同じように関節唇が損傷していても痛みを感じない人もいれば、ひどく痛みを感じる人もいる。さらに筋力も関係してくる。以上のことから、手術の適応を見極めるのは簡単ではない。

股関節唇損傷(フレイル)1

今回は、母親の股関節痛に伴う筋性拘縮に関するものです。

軟骨変性関節包股関節唇のいずれかの問題ではないかと考えますが、アスリートなどに多く、最近注目されているという点から“股関節唇損傷”をターゲットに調べていくことにしました。

状況

■年齢:102歳

■健康面

1.2020年元旦、椅子から転倒し右側頭部等を強打し救急搬送されましたが、脳、首、肩に問題はありませんでした。ただし、もともと限界寸前だった歩行は困難となりベッドでの生活となりました。

■発症時(2021年1月後半~2月前半)

1.左股関節、左膝関節が常時屈曲しており、伸展、外旋で痛みを強く訴えます。

2.訪問医の先生からは、「関節を動かせて、内出血、腫れ、炎症がないことから脱臼、骨折の可能性はないだろう」とのことでした。なお、問題なく椅子に座ることができ、大転子への押圧や踵への叩打でも痛みを訴えないので骨折ではないと考えました。

3.突然というより、少しずつという感じです。ベッドでは右側臥位で左足を右足の上にクロスさせるように伸ばしている姿勢が多かったのですが、左股関節・膝関節を曲げることが見られるようになり、そして仰臥位でも左膝を立てていることが多くなり、それが頻繁になり拘縮していったという感じです。 

この写真は2月末頃だったと思います。

■考えられる原因

1.受傷したという認識はありませんでした。ただし、両足をベッドの外に出し、ベッド内を90度回転するほど元気に動いていたため、そのような時に股関節の軟部組織のどこかを痛めたのではないかと思います(例えば、元の姿勢に戻ろうとして股関節に捻じりの力が繰り返し加わった等)。また、加齢による影響も大きいと思います。

股関節の解剖(骨軟骨関節構造、血管)
股関節の解剖(骨軟骨関節構造、血管)

画像出展:「股関節の痛み」

図の中央上部右から、関節軟骨関節唇関節包とありますが、この辺りに問題があるのではないかと思います。

格安で購入した3冊の古本は骨などに関する疾患について書かれており、軟部組織の損傷についての内容は殆どなかったのですが、とても重要なページが1つありました。

関節症の痛みと機能障害
関節症の痛みと機能障害

画像出展:「新よくわかる股関節の病気」

『関節症と痛みや機能の障害は図2-6のように悪循環を作っていますので、この悪循環を断ち切ることが基本です。変性の進行により痛みと炎症が強くなり、プロスタグランジンなどの血管の透過性を増し炎症を引き起こす化学的な物質を出して、滑膜の炎症、軟骨の破壊や軟骨細胞の変性が進みます。関節を最大に曲げたり伸ばしたりすると筋肉や筋膜による痛みが強いので、関節を動かさなくなります。さらに痛みのために歩く距離が少なくなり筋肉は衰えて萎縮し、関節の動きがさらに悪くなります。関節の動きが少なくなることで血液のめぐりを悪くし、関節の変性がより進行します。』

今の状況はまさにこんな感じです。これによれば、老化による軟骨変性が疑われますが、“軟骨変性”がどのようなものなのか分かりませんでしたので、“関節唇損傷”に“軟骨変性”を加え、この2つに注目しながら勉強することにしました。

題材は、次の4つです。①股関節の痛み 編集:菊地臣一 ②月刊スポーツメディスン2・3月合併号 138 特集:股関節の痛み 鼡径周辺部痛、FAI、関節唇損傷、その他の痛みへのアプローチ ③医道の日本 2013年4月号 特集 股関節痛へのアプローチ ④日臨整誌 vol.36 no.1 98 関節内に陥入した股関節唇損傷の治療経験(2例)。なお、ブログは4つに分けました。

最初の「股関節の痛み」は43名の先生が執筆され、菊地臣一先生によって編集されています。“股関節の解剖と生理”に始まり、基礎的なことも勉強できる期待していた内容の本でした。また、“股関節唇損傷”も出ていました。

股関節の痛み
股関節の痛み

出版:南江堂

発行:2011年7月

編集:菊地臣一(執筆者は43名)

目次

Ⅰ 痛みについて

1.運動器のプライマリケア―careを重視した全人的アプローチの新たな流れ

2.運動器の疼痛をどう捉えるか―局所の痛みからtotal painへ、痛みの治療から機能障害の克服へ

3.疼痛―診察のポイントと評価の仕方

4.治療にあたってのインフォームド・コンセント―必要性と重要性

5.各種治療手技の概要と適応

a.薬物療法

b.ペインクリニックのアプローチ

c.東洋医学的アプローチ

d.理学療法

e.運動療法

f..精神医学(リエゾン)アプローチ

g.気学的アプローチ

6.運動器不安定症―概念と治療体系

7.作業関連筋骨格系障害による痛み

Ⅱ 股関節の痛みについて

1.診療に必要な基礎知識-解剖と生理

A.股関節周囲の表面解剖

B.骨盤出口部の解剖

C.股関節の深層解剖

2.診察手順とポイント―重篤な疾患や外傷を見逃さないために、他部位の痛みを誤診しないために

a.小児の診察

A.医療面接

B.身体診察

C.画像診断

D.臨床検査

E.関節 刺および局所麻酔剤注入テスト

b.成人の診察

A.医療面接

B.身体診察

C.画像診断

D.疾患

3.鑑別に注意を要する股関節および周辺部の痛み

a.骨・軟部腫瘍

b.骨系疾患

c.発育期のスポーツ損傷・障害による痛み

4.股関節疾患と間違いやすい痛み

A.腰椎疾患による股関節痛

B.骨盤部疾患による股関節痛

C.腹部内蔵器による股関節痛

5.画像診断と臨床検査

A.股関節痛と画像診断

B.股関節痛と臨床検査

6.各種治療手技の実際と注意点

a.薬物療法

b.理学療法・運動療法

A.理学療法

B.運動療法

c.ペインクリニックのアプローチ

A.トリガーポイント注射(圧痛点注射)

B.股関節ブロック

C.腰神経叢ブロック

D.仙腸関節ブロック

E.梨状筋ブロック

F.股関節知覚枝高周波熱凝固

d.東洋医学的アプローチ

A.漢方

B.鍼灸

C.指圧・マッサージ

Ⅲ主な疾患や病態の治療とポイント―私はこうしている

1.化膿性股関節炎による痛み

■治療の実際

A.診察のポイント

B.鏡視下洗浄・ドレナージ

C.化学療法

D.遺残変形

E.化膿性関節炎に対する私のアプローチ

2.Perthes病による痛み

■治療の実際

A.診察のポイント

B.治療方針

C.保存的治療

D.観血的治療

E.予後予測(重症度の判定)

F.長期成績

3.単純性股関節炎による痛み

■治療の実際

A.診察のポイント

B.治療

4.大腿骨頭すべり症による痛み

■治療の実際

A.病型と痛みの原因

B.痛みの特徴とアプローチ

C.画像所見

D.治療方針

E.主な観血的治療

5.変形性股関節症による痛み

a.治療の実際①

A.変形性股関節症の診断と治療

B.変形性股関節症による痛みと治療法選択

C保存法の実際

D.手術療法における術式選択

b.治療の実際②

A.痛みの特徴と診断

B.治療方針決定のためのポイント

C.保存療法

D.手術へ踏み切るタイミング

E.手術療法

F.股関節手術に対する考え方と治療方針

6.特発性大腿骨頭壊死症による痛み

a.治療の実際①

A.治療方針の決定

B.保存療法

C手術療法

b.治療の実際②

A.診察のポイント

B.薬物療法

C.手術療法

D.専門医に紹介するタイミング

7.一過性大腿骨頭萎縮症による痛み

■治療の実際

A.病態

B.診察のポイント

C.薬物療法

D.物理療法

E.専門医に紹介するタイミング

8.急速破壊型股関節症による痛み

■治療の実際

A.定義と病態

B.診察のポイント

C.治療方針

D.手術療法

E.術後リハビリテーションと予後

9.骨粗鬆症による骨盤・大腿近位部の脆弱性骨折

■治療の実際

A.背景と病態

B.骨盤IF

C.仙骨IF

D.大腿骨近位部IF

10.関節リウマチによる痛み

a.治療の実際①

A.診断と治療のポイント

B.薬物療法

C理学療法

D.関節注射

E.手術療法

b.治療の実際②

A.診察のポイント

B.薬物療法

C.物理療法・運動療法・装具療法・その他

D.ブロック療法

E.手術療法

F.専門医に紹介するタイミング

11.股関節唇損傷による痛み

■治療の実際

A.股関節唇の解剖と生理

B.診察のポイント

C.保存的治療針

D.骨性因子なし

E.骨性因子あり

Ⅱ股関節の痛みについて

1.診療に必要な基礎知識-解剖と生理

A.股関節周囲の表面解剖

股関節の痛みの領域は、①前方(鼡径部など)、②外側(大転子周辺)、③後方(殿部)の3領域に大別されることが多い。

股関節の表面解剖
股関節の表面解剖

画像出展:「股関節の痛み」

1)前方のランドマーク

a.恥骨結合

・外上方から鼡径靭帯、外下方から長内転筋が付着する。同部周辺の疼痛を訴える疾患として、恥骨結合炎や恥骨骨折、内転筋損傷などがある。

b.大腿三角(スカルパ三角)

・上方は鼡径靭帯、外側は縫工筋内縁、内側は長内転筋外縁の三辺からなる逆三角形のくぼみであり、同部には内側から大腿静脈(Vain)、大腿動脈(Artery)、大腿神経(Nerve)が“VAN”の順に位置する。その深部に大腿骨頭があるため、同部の診察が診断の手がかりとなる股関節疾患は少なくない。また、股関節疾患以外の疼痛性疾患としては、腸恥骨液包炎、鼡径部のヘルニアなどがある。

c.上前腸骨棘

・鼡径靭帯を上方にたどると、上前腸骨棘を容易に触れる。大腿筋膜張筋や縫工筋が付着し、付着部の炎症や裂離骨折が生じる。

2)外側のランドマーク

a.大転子

・大腿骨外側の骨性隆起部で、大転子周囲の疼痛を訴える疾患として、股関節疾患、大転子滑液包炎、弾発股、感覚異常性大腿痛などがある。

b.坐骨結節

・殿部の骨性隆起部で、ハムストリングスが付着し、付着部の炎症や裂離骨折を生じる。股関節疾患や腰仙椎神経根症(坐骨神経痛)の後方の疼痛好発部位は坐骨結節より近位外側にある。

B.骨盤出口部の解剖

骨盤出口部には骨盤内から股関節周囲へ向かう筋、神経、血管が存在する。骨盤出口部(鼡径靭帯部、閉鎖孔、大坐骨孔)ではヘルニアや絞扼性神経障害が生じる。そのため、同部の解剖の理解が股関節周囲の解剖知識の整理や、股関節の痛みの病態を理解する上で有用である。

骨盤出口部の解剖
骨盤出口部の解剖

画像出展:「股関節の痛み」

1.鼡径靭帯

・鼡径靭帯の深部を、腸骨筋、大腰筋、大腿神経、外側大腿皮神経、陰部大腿神経(大腿枝)、大腿動・静脈などが通過する。鼡径靭帯の下を通過する神経は、股関節前方の知覚と股関節屈曲を支配する。鼡径靭帯の障害として、鼡径部のヘルニアや感覚異常性大腿痛がある。

2.閉鎖孔

・閉鎖孔内の外上方は閉鎖神経、閉鎖動脈が通過しており、同部は閉鎖孔ヘルニアが生じる部位でもある。閉鎖神経は股関節内側の知覚と股関節内転を支配する。

3.大坐骨孔

・大坐骨孔は腸骨、仙骨、仙棘靭帯、仙結節靭帯の内縁からなり、大坐骨孔を仙骨内側から大転子上部へ付着する梨状筋が通過する。骨盤から殿部に出る血管・神経は、すべて梨状筋の上か下かで大坐骨孔を通過する。梨状筋の上(梨状筋上孔)を上殿神経と上殿動脈が伴走する。梨状筋の下(梨状筋下孔)を通る神経・血管のうち重要なのは、①坐骨神経、②下殿神経、③下殿動脈である。梨状筋下孔を通過する神経、股関節後面の知覚と股関節の伸展と外転を支配する。同部の絞扼性障害として梨状筋症候群がある。

股関節(周囲)痛の原因
股関節(周囲)痛の原因

画像出展:「股関節の痛み」

C.股関節の深層解剖

1.関節内

関節内の解剖は骨軟骨構造と軟部組織(関節包、関節唇、靭帯)からなる。変形性股関節症のようにX線で診断されることの多い骨軟骨構造の障害と異なり、軟部組織の障害は画像診断も困難であり、病態が判然としないことが多い。しかし、近年の股関節鏡技術の発達に伴い、軟部組織障害の診断と治療が鏡視下に行われるようになってきている。

a.骨軟骨構造

・股関節は寛骨臼と大腿骨頭から構成され、寛骨臼と関節唇が大腿骨頭の2/3を包み、臼状関節を形成している。この関節構造が関節の安定性に重要な役割を果たしている。骨軟骨障害をきたす股関節疾患は多い。

b.軟部組織

1)関節包

・寛骨臼と大腿骨頚部を連結する線維性組織である。関節包は寛骨臼側では寛骨臼縁より近位に付着する。一方、大腿骨側の前面では転子間線に付着するのに対して、後面では転子間稜より近位に付着するため、大腿骨頚部全面を覆っていない。そのため、大腿骨頚部骨折(基部)では、関節内骨折か関節外骨折かの鑑別が単純X線写真では困難な症例がある。

2)靭帯

・関節包は線維性の靭帯組織で取り巻かれ、前方は腸骨大腿靭帯、恥骨大腿靭帯、後方は坐骨大腿靭帯が覆い、関節包を補強し股関節を補強し股関節の安定に寄与している。

3)関節唇

関節包内面の寛骨臼周囲を取り巻く軟骨性組織であり、衝撃吸収作用や吸盤機能作用を有し、股関節の安定化に寄与している。解剖学的には、関節唇内部には神経終末が存在し、臼蓋形成不全による股関節症では股関節痛の発症と関節唇断裂が強く相関することが指摘されている。

股関節の解剖
股関節の解剖

画像出展:「股関節の痛み」

a.筋肉

・最大荷重関節である股関節には強力な筋肉群が存在し、屈曲・伸展、内転・外転、内旋・外旋の6方向の動きに作用する。強力な股関節周囲筋に由来する障害として、骨盤付着部の裂離骨折や炎症、肉離れ、筋腱靭帯の炎症などがある。

股関節の運動(筋)と支配神経
股関節の運動(筋)と支配神経

画像出展:「股関節の痛み」

b.神経

・股関節周囲の運動と知覚は、主に2つの脊髄神経叢[腰神経叢L2,L3,L4、脊髄神経叢L(4)5,S1,S2(3)]が支配している。腰仙椎神経根障害では股関節周囲に放散痛が生じるため、腰仙椎疾患の鑑別に注意が必要である。股関節周囲の理解しておくべき神経徴候・障害として、関連痛、Valleix点の圧痛、絞扼性神経障害がある。

1)関連痛

・内臓、筋、関節などの損傷によって、障害部位と離れた部位に感じる痛みを「関連痛」という、股関節の内側障害例では、股関節内側を支配する閉鎖神経が興奮し、閉鎖神経の分枝の支配域である大腿や膝に痛みを生じることがある。股関節の脊髄神経支配は多様であり、障害部位により関連痛領域が多岐にわたる。変形性股関節症において、膝以下まで疼痛が及ぶのは4~47%と報告され、腰仙椎部神経根障害との鑑別が困難な症例がある。

2)Valleix点

・神経痛がある場合に、体表近くを走行している神経の直上を圧迫して、圧痛を感じる部位といい、三叉神経痛では眼窩上・下孔がValleix点として知られている。腰椎椎間板ヘルニアや梨状筋症候群などの坐骨神経痛例では、ときに殿部で有痛性の坐骨神経を触知できる。

3)絞扼性神経障害

・股関節周辺では、様々な絞扼性神経障害が報告されているが、代表例として梨状筋症候群と感覚異常性大腿痛がある。

①梨状筋症候群

・梨状筋部での坐骨神経の絞扼性神経障害であり、坐骨神経痛(殿部痛・下肢痛)を生じる。坐骨神経走行の解剖学的破格以外に、梨状筋部での腫瘍、ガングリオン、異常血管などによる圧迫などが報告されている。

②感覚異常性大腿痛

・鼡径靭帯や上前腸骨棘部での外側大腿皮神経の絞扼性神経障害である。外側大腿皮神経は、上前腸骨棘の遠位内側で鼡径靭帯の下を通り大腿ヘ下行するが、様々な解剖学的破格があり、上前腸骨棘を乗り越えて下行する型もある。そのため、股関節の前方アプローチ、腸骨採骨、腹臥位手術、長時間の腹臥位、妊娠、分娩などにより障害され、大腿近位外側に不快な痛みや痺れを生じることがある。

骨盤出口部の解剖:鼡径部
骨盤出口部の解剖:鼡径部

画像出展:「股関節の痛み」

腰仙骨神経叢
腰仙骨神経叢

画像出展:「股関節の痛み」

c.血管

・骨盤、股関節の栄養血管の大部分は、内腸骨動脈の分枝と外腸骨動脈の末梢である大腿動脈とその分枝からなる。

1)内腸骨動脈

・内腸骨動脈の分枝で骨盤、股関節の栄養に関係するのは、①上殿動脈、②下殿動脈、③閉鎖動脈である。内腸骨動脈は骨盤壁に沿って走行するため、骨盤骨折に伴う血管損傷の大部分は内腸骨動脈枝である。また、鼡径部や殿部に分枝する血管が存在することから、内腸骨動脈枝である。また、鼡径部や殿部に分枝する血管が存在することから、内腸骨動脈閉鎖(瘤)が慢性的な鼡径部痛や殿部痛の原因となる。

2)外腸骨動脈

・外腸骨動脈の分枝で股関節周辺、大腿骨頭の栄養に関係があるのは、①大腿動脈と、これからの分枝である②内・外大腿回旋動脈の血管網である。大腿骨頚部骨折によりこれらの動脈はしばしば損傷され、大腿骨頭壊死が生じる。

骨盤と股関節の血管
骨盤と股関節の血管

画像出展:「股関節の痛み」

c.血管

・骨盤、股関節の栄養血管の大部分は、内腸骨動脈の分枝と外腸骨動脈の末梢である大腿動脈とその分枝からなる。

1)内腸骨動脈

・内腸骨動脈の分枝で骨盤、股関節の栄養に関係するのは、①上殿動脈、②下殿動脈、③閉鎖動脈である。内腸骨動脈は骨盤壁に沿って走行するため、骨盤骨折に伴う血管損傷の大部分は内腸骨動脈枝である。また、鼡径部や殿部に分枝する血管が存在することから、内腸骨動脈枝である。また、鼡径部や殿部に分枝する血管が存在することから、内腸骨動脈閉鎖(瘤)が慢性的な鼡径部痛や殿部痛の原因となる。

2)外腸骨動脈

・外腸骨動脈の分枝で股関節周辺、大腿骨頭の栄養に関係があるのは、①大腿動脈と、これからの分枝である②内・外大腿回旋動脈の血管網である。大腿骨頚部骨折によりこれらの動脈はしばしば損傷され、大腿骨頭壊死が生じる。

腎性貧血

貧血を改善するため、EPO(エリスロポエチン)を注射されている患者さまがおいでです。また、医療関係者としての登録が必要になりますが、田辺三菱製薬さまのサイトに、海外では日本に比べ腎性貧血に対しての意識が高いとの指摘をされている動画がアップされていたことがあり、以前から少し気になっていました。

そこで、今回、「腎・高血圧の最新治療」の2016年4月に発行された、「特集 腎性貧血の未来医療に向けて」というバックナンバーを購入しました。ブログは“治療薬”ではなく“腎性貧血”についての基本的な知識や機序に注目しているため、治療薬に関しては一部のみとなっています。

腎性貧血の未来医療に向けて
腎性貧血の未来医療に向けて

特集 腎性貧血の未来医療に向けて

出版:フジメディカル出版

発行:2016年4月

なお、ブログで触れているのは以下の黒字の部分になります。

企画にあたって

1.新しい腎性貧血治療ガイドライン

はじめに

1.腎性貧血の診断

2.腎性貧血治療の管理目標

3.鉄の補充

4.腎移植後貧血

2.REP細胞におけるEPO産生制御機構

はじめに

1.REP細胞

2.低酸素応答系によるEPO遺伝子発現制御機構

3.病態環境下でのREP細胞におけるEPO産生制御機構の破綻

おわりに

3.ヒトiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞

はじめに

1.ヒトiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞

2.エリスロポエチン産生オルガノイド

おわりに

4.腎性貧血治療薬の新たな展開 

はじめに

1.赤血球造血刺激因子製剤

2.HIF安定化薬としてのHIF-PHD阻害薬

3.腎性貧血と鉄代謝―へプシジン、エリスロフェロンと鉄剤の使用

4.GATA阻害薬

1.新しい腎性貧血治療ガイドライン

勝野敬之:名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座腎臓内科学

伊藤恭彦:名古屋大学大学院医学系研究科腎不全システム治療学寄附講座・腎臓内科

・近年では、長時間作用型の赤血球造血刺激因子製剤(ESA)が登場し、また腎性貧血に関する多くの臨床研究が報告されている。

・鉄の投与方法に関してはいまだ議論の多いところではある。

・軽度のフェリチン値上昇であれば、TSAT(トランスフェリン飽和度)20%未満の患者において、鉄剤投与による貧血改善の可能性が示唆された。

はじめに

1980年代に遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン製剤が開発され、腎性貧血治療は大きく変貌することとなった。

1.腎性貧血の診断

腎性貧血の発症機序として主なものは、腎臓から分泌されるエリスロポエチン(EPO)の相対的分泌不全である。他の要因としては、尿毒症性物質による造血障害赤血球寿命の短縮鉄利用障害栄養障害などが挙げられる。

内因性EPOは近位尿細管周囲間質に存在する線維芽細胞様細胞から分泌され、酸素分圧低下に反応してEPOを産生する。

増加した炎症性サイトカインが赤芽球のEPO感受性低下を引き起こすことが報告されている。

・赤血球寿命が短縮することは古くから報告されているが、報告では30~60%程度の短縮とするものが多い。

炎症性サイトカインとは

『炎症反応を促進する働きを持つサイトカインのことである。免疫に関与し、細菌やウイルスが体に侵入した際に、それらを撃退して体を守る重要な働きをする。血管内皮、マクロファージ、リンパ球などさまざまな細胞から産生され、疼痛や腫脹、発熱など、全身性あるいは局所的な炎症反応の原因となる。

炎症性サイトカインの種類には、腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン(IL)-1、IL-6、IL-8、ケモカインなどがある。看護roo! 用語辞典」より

※慢性炎症と肥満

”炎症性サイトカイン 慢性炎症”で検索したところ、2つの興味深い資料が見つかりました。前者はPDF6枚、後者はPDF7枚ものの資料です。また、2017年2月に”慢性炎症”というブログをアップしています。ご参考まで。

1)病気のきっかけとなる慢性化した脂肪細胞の炎症

2)肥満症と炎症

2.REP細胞におけるEPO産生制御機構

鈴木教郎:東北大学大学院医学系研究科附属創生応用医学研究センター 新医学領域創生分野

赤血球増殖因子エリスロポエチン(EPO)は尿細管質の「REP細胞」でつくられる。

・REP細胞は線芽細胞様の細胞であり、髄質外層から皮質全域に広く分布する。

血などにより、REP細胞への酸素供給量が減少するとEPO産生量が増大し、骨髄における赤血球造血が誘導される。

・腎臓が線維化するような病態環境下では、REP細胞が筋線維芽細胞に形質転換し、EPO産生能を失う。

REP細胞は腎臓病による線維化と貧血の双方で、責任を負う重要な細胞である。

はじめに

・エリスロポエチン(EPO)は糖鎖を豊富に含む約30kDaの糖蛋白質であり、赤血球前駆細胞の分化増殖を誘導する。

・EPOは主に腎臓でつくられており、貧血や低酸素のストレスより産生量が増大する。

1.REP細胞

腎EPO産生細胞(REPrenal EPO-producing細胞)。

REP細胞は尿細管間質で毛細血管に巻きつくように存在しており、髄質外層から皮質全域に渡って分布する。

REP細胞の微小環境
REP細胞の微小環境

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

・骨髄の赤血球前駆細胞に作用するEPOが腎臓から分泌される理由については明解が得られていないが、REP細胞周囲の微小環境に理解への糸口を見出すことができる。

・REP細胞は毛細血管に隣接しているが、血管内は糸球体濾過後の血液が流れている。

・尿細管質は原尿から再吸収された間質液で満たされており、REP細胞に供給される酸素は常に少ないことが考えられる。

・REP細胞周囲の微小環境は酸素供給量が少なく、酸素消費量が多いことから、個体への酸素供給量の減少を最も鋭敏に感知できる部位であるといえる。

2.低酸素応答系によるEPO遺伝子発現制御機構

・生体にとって酸素は不可欠であるため、低酸素状態に陥った細胞はさまざまな遺伝子を発現誘導し、低酸素環境に適応しようとする。

・EPO遺伝子に加え、血管新生や解糖系にかかわる遺伝子群が低酸素誘導性遺伝子として知られている。

哺乳類の成体では、重篤な貧血時にはREP細胞に加え、肝実質細胞でもEPOが産生される

3.病態環境下でのREP細胞におけるEPO産生制御機構の破綻

慢性腎臓病などの病態環境下では、REP細胞が筋線維芽細胞に形質転換する。筋線維芽細胞はEPO産生能を失っており、コラーゲンなどの細胞外基質を産生することにより、腎性貧血と臓器線維化を促進する。

PHD阻害薬:経口薬。EPO誘導を生理的範囲で制御することにより、EPOの過剰投与を回避できる。CKD患者で高値であることの多いヘプシンの発見を抑制して鉄利用を改善する。一方、VEGFなど血管新生因子や糖代謝にかかわる遺伝子発現を亢進することから、長期投与による血管新生・増殖性・低酸素耐性がかかわる病態(糖尿病性増殖性網膜症、加齢性黄斑、悪性新生物の増殖など)への影響の検討が今後の課題である。

3.ヒトiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞

人見浩史:香川大学医学部形態機能医学講座薬理学、京都大学iPS細胞研究所

西山 成:香川大学医学部形態機能医学講座薬理学

長船健二:京都大学iPS細胞研究所

エリスロポエチン製剤は腎性貧血に有効であるが、間歇投与による赤血球の変動、抗エリスロポエチン抗体産生による薬剤不応などの問題があり、脳や心血管疾患のリスクが増大するという報告もある。

・iPS細胞を用いて、エリスロポエチン産生細胞を分化誘導することに成功した。

はじめに

エリスロポエチン欠乏に伴う腎性貧血に関しては、透析療法では対応できない。

・慢性腎不全患者は腎臓間質で産生されるエリスロポエチンの分泌が減少するため、腎性貧血はほぼ必発である。

1.ヒトiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞

・腎臓の構成細胞を分化誘導した報告がされている。また、ヒトiPS細胞に種々の刺激を加えることにより、エリスロポエチンを産生する細胞を作り出すことに成功した。

ヒトiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞
ヒトiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

4.腎性貧血治療薬の新たな展開

鈴木健弘:東北大学病院腎血圧内分泌科、東北大学大学院医工学研究科分子病態医工学

阿部高明:東北大学病院腎血圧内分泌科、東北大学大学院医工学研究科分子病態医工学、東北大学大学院医工学研究科病態液性制御学

3.腎性貧血と鉄代謝―へプシジン、エリスロフェロンと鉄剤の使用

・ヘプシジンは肝臓で産生され、腸管からの鉄吸収と全身の貯蔵鉄(網内系)の放出など体内の鉄動態を制御する。鉄過剰(輸血、静注・経口鉄剤投与)や炎症によりヘプシジンは誘導されて鉄の腸管吸収や体内鉄の動員を抑制するため体内鉄利用を制限する。

腎性貧血と鉄代謝
腎性貧血と鉄代謝

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

このため高ヘプシジンは造血過程における鉄利用を妨げ、貧血の原因のみならず、ESA[長時間作用型の赤血球造血刺激因子製剤]や鉄剤に対する治療抵抗性の原因となる。ヘプシジンは腸管上皮、マクロファージなどの網内系と肝細胞膜表面に発現している鉄のトランスポーターであるフェロポルチンに結合してその膜表面発現を抑制するため、腸管からの鉄吸収や体内鉄の放出動員を抑制する。HIF[低酸素誘導因子]-PHD阻害薬はヘプシジンの発現を抑制するため、高ヘプシジンで鉄利用障害がある患者での貧血改善効果も期待される。

感想

生活習慣(食事、運動、睡眠)に注意し、特に肥満(内臓脂肪型肥満にならないことが、炎症性サイトカインや慢性炎症という問題を遠ざけ、腎性貧血の予防になるのだと思いました。

EPO産生細胞の驚異の回復力
EPO産生細胞の驚異の回復力

こちらのグラフはブログ”腎臓が寿命を決める”でご紹介したものです。

病気の腎臓ではEPO産生細胞のEPO産生力は著しく衰えるが、炎症を抑えると本来の力が蘇った』とあります。

やはり、鍵は「炎症性サイトカイン」だと思います。

 

ご参考1:慢性炎症性疾患とCRP(C-リアクティブ・プロテイン:炎症の強さ)

「HbA1cとCRP」とのタイトルですが、後半に具体的な慢性炎症性疾患や慢性炎症のCRP値に関する記述があります。

『CRPは細菌感染、ウイルス感染、外傷、心筋梗塞、胃炎、腸炎などの急性炎症性疾患で上昇しますが、細

胞の炎症であるガン、脂肪細胞の炎症である肥満、血管の炎症である動脈硬化、脳細胞の炎症である認知症、膵臓の炎症である糖尿病、関節の炎症であるリウマチ、結合組織の炎症である自己免疫疾患などの慢性炎症性疾患でも上昇します。慢性炎症性疾患では、CRP値は0.3~2.0mg/dlと急性炎症性疾患の際に比べて比較的低値です。風邪、扁桃腺炎などの咳、痰、喉の痛み、熱などの症状がなく、CRPが上昇している際には先ほど述べた慢性炎症性疾患が存在しています。』

ご参考2:”めざせ健康長寿 大注目の検査はこれだ!”(NHK:ためしてガッテン)

”ためしてガッテン”2017年5月の放送で、慢性炎症と肥満について取り上げられていました。

ストレス」「タバコ」「過度の飲酒」「高血糖」など…様々な原因で起きる「慢性炎症」ですが、もうひとつ注目されているのが「肥満」です。食べ過ぎや運動不足などによって「肥満」になると、脂肪細胞が脂肪を溜め込み大きく膨らみます。するとそこへ免疫細胞が集まって炎症を起こすことが分かってきました。

冷え症2

著者:仙頭正四郎、土方康世
家庭でできる漢方 冷え症

著者:仙頭正四郎、土方康世

出版:農山漁村文化協会

発行:2007年1月

目次は”冷え症1”を参照ください。

第2章 冷え症はこんな症状も引き起こす

1.みんなが知らない冷えの怖さ

●“冷え症”とはどういうものか?

・冷えとほてりの不思議な関係

-“冷え症”とは「体の一部が異常に冷えやすい症状、またその体質。手足下半身に冷えを感じること。自律神経の機能失調で、血行不良になるために生じる」とされている。

冷え症が女性に多いのは、女性ホルモンなどの内分泌をコントロールする内分泌中枢と、血流をコントロールする自律神経中枢が男性に比べて近い位置にあるためである。女性ホルモンの変動期には、女性ホルモン分泌が失調すると、自律神経がその影響を受け、全身の血管の収縮は血行を悪化させ、冷えの原因となる。

-温めると改善する腰痛、体の痛み、頭痛などの症状をもつ人は冷えが関わっている。

冷えが慢性化すると、むしろ火照るように感じることもあるが、これは冷え症の進行型であることが多い。

・冷え症と血瘀は、ニワトリと卵の関係

-冷え症は血管が収縮傾向にあるため、血流は悪化し鬱滞が起こりやすくなる。この血流鬱滞のことを中医学では血瘀という。

・36.5度の秘密

-冷え症の人の体温は36度以下の人が多い。

諸臓器の代謝は酵素反応によって行われている。たとえば食物の消化は、いろいろな酵素によって分解代謝され、栄養分は胃腸から吸収され、さらに多種多様の酵素反応を経て、血となり肉となる。これらの酵素が最も働きやすい温度が36.5度付近のため、これ以下の体温になると、徐々に酵素の働きが落ちて代謝が悪くなる。そして、ますます冷え症は進み体調は悪化する。

●冷え症を放っておくと

・あらゆる病気の引き金にも

-冷え症を放置すると酵素活性が常に低い状態となり、各臓器の代謝も悪く全身の臓器の機能低下が起きる。

-血流障害や血瘀(血流鬱血)は炎症や各臓器の機能障害につながる。つまり、冷えは脳を含むあらゆる臓器の病気を起こす引き金になる可能性がある。

・ガンも冷えを好む

-冷えきった状態は代謝を低下させ、免疫機構も正常に働かないため、ガン細胞の成長を加速させ、ついには立派なガンになってしまう(わずかなガン細胞は成長し診断がつくまでに10年かかることもある)。冷えはガンにとって喜ばしい環境である。

注):”2.痛いつらいは冷えのせい” は省かれています。

3.女性のライフサイクルが冷えをまねく!?

●女性の体が冷えやすいワケ

・冷えが原因で起こる女性特有の病気には、月経異常、不妊症、妊娠中の異常(切迫流産、早産、習慣性流産、妊娠浮腫)、出産後の異常(産後腹痛、胎盤残留、産後膀胱炎、排尿障害)、子宮下垂、子宮内膜症、子宮筋腫などがある。

女性は月経周期にしたがって、毎月一度、女性ホルモンの大きな変化を受ける。

月経周期、基礎体温と女性ホルモンの変化
月経周期、基礎体温と女性ホルモンの変化

画像出展:「家庭でできる漢方① 冷え症」

月経1週目は貧血気味、黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌低下で体温は下がる。また、血行は悪くなり、生理痛や自律神経失調症状が続き、うつっぽく、肌は過敏、乾燥気味になる。

月経2週目は卵胞ホルモン(エストロゲン)の影響で副交感神経の活動が活発になり、血行が良くなるので低体温であっても体調は良く、肌もきれいになる。同時に卵胞ホルモンは卵子が着床しやすいように布団状に子宮内膜を厚くする。

月経3週目は子宮内膜を潤す黄体ホルモンの分泌が増えて高温期となり、肥厚した子宮内膜は更に潤い充血してくるため、下腹部に不快感やむくみ、便秘などが起こりやすくなる。卵子と精子が受精し受精卵になると、布団状に厚くなった子宮内膜に着床する。受精に至らなかった場合は4週目に進む。

月経4週目は黄体ホルモンの影響が最も顕著になり、高温期が続いて交感神経が活発になり、むくみ、便秘、肩こり、腰痛、肌トラブル、ヒステリー症状などの月経前症候群が出やすい時期となる。最後に肥厚した子宮内膜は不要となり、剥がれ落ちて月経となるが、この時、子宮内膜表面を排出するための子宮収縮が起こって、さらなる下腹部痛を伴うこともある。

特に、1週目と4週目は冷えや疲れに注意しなければならない時期である。

自律神経中枢は、間脳(視床下部)のホルモン分泌中枢の近くにあり、ホルモン変動の著しい月経前後は自律神経も影響を受ける。その結果、冷え症の悪化、憂鬱感、イライラ、情緒不安定などの精神症状、頭痛、めまい、吐き気、消化器症状が起こりやすくなる。

・沖縄の激戦地で従軍した女学生たち(“ひめゆりの塔”)は、月経は停止したままだった。命に関わるような強いストレス状態では月経停止はすぐに起こる。日常的なストレスでも蓄積されていくと月経停止になる可能性はある。

●月経に現れる症状

・冷えが原因で悪化する月経の異常

月経困難症

-月経中の子宮収縮に伴い、強い下腹部痛、腰痛を伴う。

-子宮内膜症や子宮筋腫などで子宮をささえる靭帯を正常な位置で支えることができなくなり、子宮収縮に異常が出る。

-構造に問題がない場合でも、子宮内膜がプロスタンディンを作りすぎると子宮収縮が強くなり、腹痛が起こる。

-冷えると子宮収縮はさらに強くなり、痛みが増強する。

・冷えが引き起こす月経の異常と症状

月経の遅れ

-月経の正常周期は25日~38日。6日前後の変動は正常とされている。遅れるのは月経量が少ない人に多い傾向がある。貧血、冷え症により遅れる人もいる。

月経周期がはやい

-月経周期が21日以下の場合。月経過多や月経期間延長を合併する場合が多い。

-原因は虚弱体質、過労、ノイローゼなどで、自律神経失調症から冷えて胃腸系統が弱った人、冷えて泌尿生殖器系統の働きが弱った人、ストレスで情緒不安定になり、血流鬱滞、阻滞のある人。普通は熱がりの人に多い傾向がある。

過多月経

-レバー状の月経は、子宮腺筋症(子宮筋層内の内膜症)でも見られる。また、小さな凝血塊が時々見られる程度であればあまり心配しなくてもよい。

その他

-生理不順、不正出血、無月経、月経前後の頭痛、下痢、めまいなど。

●不妊症は冷えも大きな要因

・冷えが治ると妊娠の確率も高くなる!?

-『“冷え症を治療すると、妊娠する確率が非常に高くなる”。そういう印象をもっています。』

-『1年前後にわたり漢方薬の服用をつづけて妊娠した数例は、すべてが冷え症でした。ですから不妊症の人は、現代医学的検査を受けて原因がわからないといわれたら、とにかく冷え症を治すことを最優先に考えるべきだと思います。それから、諦める前に、1日数回の足浴と、20分以上の半身浴、漢方薬治療をおすすめします。

・冷えが原因で起こる妊娠・出産の異常

妊娠中の異常

-切迫流産、早産、習慣性流産、妊娠浮腫などがある。妊娠中に冷えるとお腹が硬くなる人が多いので、冷えてお腹が硬いと感じたら、まず腰湯や入浴などでお腹を温めて、安静にして寝るのが良い。とにかく妊娠中は冷やさないようにする。また、適度な運動も必要である。

-3カ月頃から起こる辛い悪阻[ツワリ]は、ストレスから自律神経失調となって起きやすくなり、冷えにより更に悪化することもある。

-8カ月頃には妊娠浮腫が起こりやすくなる。冷えてお腹が脹ってきて、浮腫みが悪化するときは、体を横たえてお腹を温め寝ることにより改善する。

-流産はストレス、過労、冷えなどが原因であり、特に高齢出産や仕事が忙しい人は要注意である。

出産時の冷えによる異常

-子宮収縮不良(残留胎盤で悪化)、胎盤残留、産後膀胱炎や排尿障害などがある。

・冷えが原因で起こる子宮に関する症状

子宮下垂症

-子宮を上に固定しておく靭帯などの力が弱り、子宮が下降して発生する。冷えによって下垂は悪化する。

子宮脱症

-子宮膣部がさらに下降して膣外に露出するものである。

冷えで悪化する下腹部痛

-子宮内膜症、子宮筋腫をもっている人にみられる。冷えて瘀血が悪化するために起こると考えられる。

子宮ガン

-漢方的には子宮ガンは瘀血と考える。血流阻滞、鬱滞があり、冷えによる疼痛が起こることもある。子宮ガンの人のお腹は芯が冷たい感じがする。

まとめ

”冷え症1・2”で、特に気になったことは次の9つです。

.「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」といった、私たちが人生において追い求めるものに、私たちは「温かさ」を感じるはずである。「温かさ」は、熱や光や温かい水が放散するように、外に伸び拡がろうとする性質をもつ。「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」は生命力に熱を生み、心に拡がりを生む気持ちである。

東洋医学では、太陽のような働きを五臓の中の「」に位置づけている。冷えの対策の目的は、単に熱の量を増やすことではなく、「温かさ」のやりとりを可能にすることにあるはずである。そして、その本質は単なる体温の問題ではなく、生活の中に太陽の存在を意識するということである。

冷え症の問題は熱の不足によって、体の中をめぐるものの「動きが悪くなる」ということにその重大さがある。

体がつくり出した熱を貯えておく場所が「」であると考えられている。に貯えられた熱は体の様々な働きの原動力となる。

の働き(腎気)が充実していないと、熱を貯えることができないだけでなく、によって熱をつくり出す働きも十分に発揮されなくなる。

の働きは足腰を使った運動をすることや、睡眠を十分とることで養われる。睡眠不足はの働きを圧迫して、冷え症の背景を強める。

熱のめぐりを目的に応じて先導するのは「気」であり、熱のめぐりを調節するのも気の役目である。そして、気の働きを調節しているのが「」であり、は「」の指令に従って機能している。

は、感情や思考、気分の影響を受けやすいので、気分の状態によって、体の熱の様子は大きく変化する。楽しいことを考えているときは、じっとしていても熱の拡がりはよくなり、抑鬱的な気分や感情の起伏が少ない状態がつづくと、熱の拡がりは悪くなり体は冷えてくる。

注)五色という考えがあり、次のようになっています。[

酵素が最も働きやすい温度が36.5度付近のため、これ以下の体温になると、徐々に酵素の働きが落ちて代謝が悪くなる。そして、ますます冷え症は進み体調は悪化する。

今回の患者さまの下肢の本治穴は、“”・“”の土穴(力をつける:太渓太衝)と金穴(めぐりをよくする:復溜中封)です。これに三陰交足三里を追加しています。これは上記に照らし合わせても妥当といえます。ただし、“”はノータッチでした。

私が学んだ代々木の日本伝統医学研修センターでは、君火(明かり)の“心”に直接刺鍼することは推奨しておらず、施術対象とする場合は、相火(熱)の“心包”を推奨しています。なお、中医学では相火は「腎陽が発揮する各臓腑を温養し活動を推動する機能」と定義されています。

また、代々木時代のノートを丁寧に見返したところ、腎の冷えに対し、腎の土穴+心包の土穴(大陵)を使うとの記述を見つけました。この発見は今回の1番の収穫でした。この大陵は次回の施術から使いたいと思います。

冷え症1

今回のブログは前回の“漢方(中医学)”の続きです。「混ぜるな危険」、その目的は漢方と鍼灸(経絡治療)の違いを理解することでした。自分なりにその違いを認識できたので、前に進みたいと思います。

冷え”の問題が非常に重要ではないかと思う患者さまがおいでです。施術の効果は悪くはないのですが、なかなか冷え型の脈(沈細やや軟:沈み、細く、少し軟らかい脈)が変わらない点が気になるところです。

鍼灸に限らず、何か良い策はないだろうかという思いから、本棚にあった仙頭正四郎先生と土方康世先生の「家庭でできる漢方① 冷え症」をあらためて熟読することにしました。

ブログは2つに分けましたが、全4章のうち、第1章と第2章の多くをカバーしています。

著者:仙頭正四郎、土方康世
家庭でできる漢方 冷え症

著者:仙頭正四郎、土方康世

出版:農山漁村文化協会

発行:2007年1月

目次

はしがき

第1章 冷え症を東洋医学でとらえると

1.問題の本質は体の中の“めぐりの悪さ”

・複数のタイプに分かれる冷え症

・冷えの原因のあれこれ

2.体の中に熱をめぐらせるには?

●熱の量を維持する仕組みを知る

・熱をつくり出す「脾」

・熱を貯える「腎」

●熱を運ぶ仕組みを知る

・熱を運ぶ器としての血液

・熱のめぐりを調節する「肝」

・めぐりの邪魔をする存在

3.あなたはどのタイプか 《冷え症チェックシ+ト》

●各タイプの問題点と克服法

Ⓐ熱の量に問題がある冷え症

タイプ①熱の産生が不足する

タイプ②熱の無駄遣いは多い

Ⓑ熱を運ぶ仕組みに問題がある冷え症

・運ぶ器の問題

タイプ③運ぶ器が少ない(貧血)

・めぐりそのものの問題

タイプ④めぐりの障害物が多い

タイプ⑤熱を運ぶ器の流れが悪い

タイプ⑥めぐりを先導する「気」がとどこおる

●冷え症の予防策

・冷え症の攻略法

第2章 冷え症はこんな症状も引き起こす

1.みんなんが知らない冷えの怖さ

●“冷え症”とはどういうものか?

・冷えとほてりの不思議な関係

・冷え症と血瘀は、ニワトリと卵の関係

・36.5度の秘密

●冷え症を放っておくと

・あらゆる病気の引き金にも

・ガンも冷えを好む

2.痛いつらいは冷えのせい

●冷えがまねく体の

・上半身に現れる症状

+頭痛、肩こり

+疲れ目

+めまい

+動悸

+脱毛、薄毛

+鼻炎

・下半身に現れる症状

+骨粗鬆症

+肥満

+抑うつ感

+アトピ+性皮膚炎

3.女性のライフサイクルが冷えをまねく!?

●女性の体が冷えやすいワケ

●月経に現れる症状

・冷えが原因で悪化する月経の

・冷えが引き起こす月経の異常と症状

●不妊症は冷えも大きな要因

・冷えが治ると妊娠の確率も高くなる!?

・冷えが原因で起こる妊娠・出産の異常

・冷えが原因で起こる子宮に関する症状

●冷えの解消が乳ガン、乳腺症の改善に

・乳ガン

・乳腺症

第3章 東洋医学による冷え症の診断と治療

1.漢方治療の意味と姿勢

●治療が必要なくなる状態をめざす東洋医学

・混在し関連しあう冷えの原因

・対症療法よりも根本治療

・治療への近道は“冷え”を理解し、治療に参加すること

2.体を温めることは漢方治療の得意分野

●熱を増やすためにはどうしたらよいか

・生命力の土台の熱を増やす+タイプ①・②の解決策その1

・胃腸の力で熱を増やす+タイプ①・②の解決策その2

・精神作用の誘導で熱を増やす+タイプ①・②の解決策その3

●熱を運ぶ器を増やすためにはどうしたらよいか

・潜在力を強めて器を増やす+タイプ③の解決策その1

・増幅力を助けて器を増やす+タイプ③の解決策その2

3.じつはもっとも重要な“めぐり”の問題

・邪魔者を取り除く+タイプ④の解決策

・器のめぐりを助ける+タイプ⑤の解決策

・めぐりの仕組みを整える+タイプ⑥の解決策

4.熱の不足で弱った機能を助ける

第4章 きょうからできる冷え症改善法

1.冷えないため食事術

●毎日の食事から冷えを改善

・冷やさないお酒の飲み方

・食材の力を活かす

・温めることよりも冷やすものを避ける

[冷え症タイプ別 適性食材の表]

●冷えないために食事で心がけたいこと

・冷えるものは温めるものとの組み合わせで

・大事な一歩は朝食から

・体を温めるオリジナルメニュ+

・体質、体調に合わせて食べる

・誤った健康情報に惑わされない

2.冷えないためのくらし術

●冷えないために服装で心がけたいこと

・冷えないおしゃれに工夫をこらす

・薄着でもできるこんな工夫

●冷えないために生活で心がけたいこと

・冷える生活習慣に要注意

・体をはやく温めるには運動は必須

●きょうからできる「冷え取り入浴法」

・入浴には落とし穴も

・半身浴+体の芯の温かさを体感

・足浴法+じわ+っと芯から万遍なく温める

3.自分でできる冷えの気功療法

一.手掌でぬくぬく功

二.全身ぽかぽか功

三.腰ポカ功

四.太陽と友だち功

4.自分でできる冷えのツボ療法

・冷え症改善に効果のあるツボ

 ・自分でできるツボ療法

はしがき

『東洋医学を専門とする医療者として、治療や生命を考えるとき、何を大切にするかと問われるとすると、いくつかあげたいもののなかの一つに、「熱を大切にする」ということがあります。それは、生命力が豊かであるときの様子が熱であり、同時に、豊かな熱の存在によって、活き活きとした生命力が支えられてもいるからです。健やかに生きるということは、「熱」とは切っても切れない関係にあるのです。

「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」といった、私たちが人生において追い求めるものに、私たちは「温かさ」を感じるはずです。「温かさ」は、熱や光や温かい水が放散するように、外に伸び拡がろうとする性質をもちます。「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」は生命力に熱を生み、心に拡がりを生む気持ちなのです。「温かさ」は、豊かな生命力を意味し、同時に、豊かな心をも示すものなのです。それゆえ、「温かさ」の周りには人が集まり、その「温かさ」は周りに力を分け与えることができるのです。温かさの周りでは、互いが与え合え、すべての生命が活き活きとしています。

温かさと正反対の性質をもつ「冷え」は生命力を脅かし、機能の低下を意味するだけでなく、精神をも蝕みます。精神の状態は、表情に、目の輝きに現れます。「冷え」は容易に外に現れ、容貌、姿勢、立ち居振る舞いを変えます。冷えや温かさの状態は、どんなに強力なエステよりも、外見に影響力をもつものなのです。「苦悩、悲哀、狡猾、落胆、後悔」などの感情は、言葉にしなくても、その人の醸し出す空気から簡単に知ることができます。それは、これらが「冷え」を連想させる感情で、生命体として近寄りたくない空気だからです。「冷え」の性質は、「閉じこもり、固まり、沈み込み、内に向けて凝縮する」もので、周りから奪い、吸収して封じ込める性質をもっています。そのことが人を遠ざけ、人から「温かさ」を受ける機会をなくし、「冷え」の悪循環に陥いるのです。

人の生きる力は、周りの人から「温かさ」を受けて育まれ、また、周りの人に「温かさ」を与えることが生きる力を大きく膨らませます。こうした「温かい」存在によって生命力は支えられていて、それはあたかも太陽のようであり、東洋医学では、そのような働きを五臓の中の「心」に位置づけています。冷えの対策の目的は、単に熱の量を増やすことではなく、「温かさ」のやりとりを可能にすることにあるはずです。そしてその本質は、単なる体温の問題ではなく、生活の中に太陽の存在を意識するということです。自分を照らす太陽の存在を意識し、同時に、自分の中に、人を照らす太陽の存在を見い出すことでもあるのです。それは喜びになり、力になり、美しさにつながります。

本書で提供する冷え症対策で、冷えの世界から抜け出して温かさを手に入れ、その温かさを周りの人に分け与えてもらえれば、これに勝る喜びはありません。』

第1章 冷え症を東洋医学でとらえると

1.問題の本質は体の中の“めぐりの悪さ”

・複数のタイプに分かれる冷え症

-冷え症は単に冷えるということだけを問題にするのではなく、体の中で熱が果たしているいろいろな役割や仕組みを認識して、その熱が少なくなることで生じる様々な異常を冷え症の問題として捉える。

-物体も人も冷やされれば、同じように冷たくなるはずなのに多くの生き物が冷たくならないのは、物体として冷やされていながらも、体に貯えた熱を体表に絶えず運んでいるからである。

・冷えの原因のあれこれ

-血液や体の水が温められることで体中をめぐる。また、体の中に貯えられている熱はこうしためぐりに乗って、体中に配られる。熱はめぐりを良くし、めぐりの良さが体を温めるという“温め”の良いサイクルがつくられる。

-東洋医学では、どこが冷えているか、そして他の部分はどうかということに注目する。

-体全体が冷える人、足だけが冷える人、背中に冷えを感じる人、腰回りだけが冷える人、お腹に冷えを感じる人、手足は冷えても顔はほてる人まで、いろいろな特徴をもった冷え症がある。

さまざまなタイプの冷え症
さまざまなタイプの冷え症

画像出展:「家庭でできる漢方① 冷え症」

めぐりの悪さで引き起こされる冷えの問題は、すべてが冷えることは少なく、冷える場所と反対に不自然に熱くなる場所が体の中に混在することが多い。

冷え症の問題は熱の不足によって、体の中をめぐるものの「動きが悪くなる」ということにその重大さがある。

-冷えのために血液の流れが悪くなる、水の流れが悪くなってむくみを生じる、逆に水が届かないところには乾燥をつくる。そうしたことが、また、流れの悪さの原因になる。こうした悪循環が体の不調の連鎖の原因になる。

-めぐりに乗って全身に配られる熱は、ただ体を温めるだけではなく、その熱が胃腸の働き、心臓の働き、免疫力、脳の働き、筋肉の働きなど、全身の色々な機能の土台となって体の働きを支えているため、冷え症の状態では体の色々な機能低下を引き起こすことになる。

2.体の中に熱をめぐらせるには?

熱の量を維持する仕組みを知る

熱をつくり出す「

-食事と関係する働きは、東洋医学では「」が分担すると考えていて、食べ物から必要なものを取り込んで、体に必要なものにつくりかえる働きをする。

-脾は後天的に生命力を補充する役目をすると考えられている。

熱を貯える「

体がつくり出した熱を貯えておく場所が「」であると考えられている。に貯えられた熱は体の様々な働きの原動力となる。

の働き(腎気)が充実していないと、熱を貯えることができないだけでなく、脾によって熱をつくり出す働きも十分に発揮されなくなる。

は先天的な生命力を貯える場所であり、体の芯の部分にあると考えられている。

腎の働きは足腰を使った運動をすることや、睡眠を十分とることで養われる。睡眠不足は腎の働きを圧迫して、冷え症の背景を強める。

熱を運ぶ仕組みを知る

熱のめぐりを調節する「

熱のめぐりを目的に応じて先導するのは「気」であり、熱のめぐりを調節するのも気の役目である。そして、気の働きを調節しているのが「」であり、は「」の指令に従って機能している。

は、感情や思考、気分の影響を受けやすいので、気分の状態によって、体の熱の様子は大きく変化する。楽しいことを考えているときは、じっとしていても熱の拡がりはよくなり、抑鬱的な気分や感情の起伏が少ない状態がつづくと、熱の拡がりは悪くなり体は冷えてくる。

-ストレスや抑鬱気分で気が滞ると熱の偏りが生じて、熱の多い所と少ない所がみられるようになる。中心には熱が過剰、末端では不足するといった状態になりやすく、こもって過剰になった熱は上の方に集まりやすくなるため、手足は冷えるが顔は火照るといった「冷えのぼせタイプ」の冷え症になる。

めぐりの邪魔をする存在

-水分や栄養の摂りすぎなどで余分なものを貯えている状態が度を越えて多くなると、流れを邪魔する障害物となる。これを「痰飲」とよぶ。

-痰飲は熱の運行を邪魔して冷えの原因となると同時に痰飲自体が冷えを貯える保冷剤になり、暑い時期には熱を貯えることにもなる。これは肥満体型で、夏は暑がり冬は人一倍の寒がりタイプの冷え症である。

※ご参考:”五色”という考えがあり、次のようになっています。[

3.あなたはどのタイプか 《冷え症チェックシート》 


冷え症チェックシート
冷え症チェックシート

画像出展:「家庭でできる漢方① 冷え症」

●各タイプの問題点と克服法 

Ⓐ熱の量に問題がある冷え症

タイプ①熱の産生が不足する

・先天的な生命力を貯える「腎」の働きや、後天的に生命力を補充する「脾」の働きがもともと弱い、元気のない人ややせ型で疲れやすいタイプの人の冷え症である。

タイプ②熱の無駄遣いは多い

・熱に生産量は正常だが、過剰な冷房、薄着で不必要に熱を逃がしたり、冷たい飲食物で体を内側から冷やしてたりしまっているタイプの冷え症である。

Ⓑ熱を運ぶ仕組みに問題がある冷え症

タイプ③運ぶ器が少ない(貧血)

・熱を運ぶ器ともいえる血液が少なく、顔色が悪く、皮膚がかさつき、めまいや立ちくらみといった貧血症状を起こしやすいタイプの冷え症である。このタイプは手足などの末端部の冷えが目立つ。

タイプ④めぐりの障害物が多い

・水分や栄養を摂りすぎて体に余分なものが貯えられ、それが障害物となって、熱の流れを邪魔しているタイプの冷え症である。この障害物は「痰飲」と呼ばれる、冷えだけでなく熱も貯えるため、夏は暑がりなのに冬は人一倍寒がりというのが特徴である。余分な水が冷えをつくり、熱の不足が水の動きを悪くして痰飲を強めるという悪循環が生じやすい。

タイプ⑤熱を運ぶ器の流れが悪い

・血液の流れを悪くさせる第一の要因は、気の滞り。くよくよ、イライラ、余計な心配、考えすぎ、こういったことを避けること。そして、第二の要因は、冷やすこと。水分は少量ずつ飲むようにして、摂りすぎないように注意する。

・滞っている血液をめぐらせるには運動が良い。これは通勤や通学、買い物、家事など体を使う意識をもてば、生活の中に多くの機会があり、工夫によって運動量はぐっと増える。

タイプ⑥めぐりを先導する「気」がとどこおる

・手足は冷えるのに顔は火照るといった冷えのぼせタイプの冷え症である。

・気がストレスや抑圧気分で滞って中心にこもると、中心には熱が過剰となる一方、末端では不足する。熱の不足と過剰が同居する冷え症である。

・気を滞らせないためには、「気」が自由に色々な方向に動けるように道を開くことが重要。心配事や嫌なことも肯定的にとらえ、色々なものに関心を向け、一つのことにこだわらず明るい気分で過ごす。「いい気持ち」でいられる時間や方法を見つけることが大切である。

●冷え症の予防策

・運動を心がけ、過労や寝不足を避けて、明るい気分で過ごす。

・冷飲食や夏野菜、緑茶など体を冷やす飲食物に注意して、栄養過剰を避ける。

・厚着でなくても、頚周り、脇の下、臍周り、足の付け根、足首などの要所を覆って熱を逃がさない衣服を工夫する。袖のある服、袖口の閉じた下着やブラウスなどで効果は絶大。

漢方(中医学)

“冷え”の問題が非常に重要ではないかと思う患者さまがおいでです。冷えについてあらためて勉強したいと思い本棚を見回したところ、仙頭正四郎先生と土方康世先生の「家庭でできる漢方① 冷え症」を見つけました。以前、ざっとは読んではいましたが、ほとんど記憶に残っていないため、今度はもっと真剣に熟読することにしました。

しかしながら、個人的な話ですが一つ大きな問題があります。それは、漢方と鍼灸(経絡治療)の考え方が同じではないということです。兄弟でいえば、双子の兄弟というより、普通の兄弟くらいの差があると思います。そして、問題というのは「混ぜるな危険」という教えです。これは色々な勉強をすることは良いことだが、理論がごった煮状態となってしまっては良くない、施術は1本筋の通ったものでないといけないということです。当院の施術の流れは、【経絡治療:四診(望・聞・問・切[特に脈診]⇒証をたてる⇒本治・標治】です。

漢方は中医学(中国伝統医学)の湯液[トウエキ]の流れを汲んでおり、その意味では中医学の考え方にもとづいているといえます。つまり、経絡治療と中医学の差を理解しておくことが、“理論のごった煮”を避けるためには必要です。

そこで専門学校時代の中医学の教科書と授業のノート(Excel)を取り出し、この点について考えてみました。

針灸学[基礎編]
針灸学[基礎編]

編集:日中共同(編集責任:天津中医薬大学・学校法人後藤学園)

出版:東洋学術出版

第三版発行:2007年1月(初版発行:1991年5月)

第1章 緒論の“1.中医針灸学の沿革”の後半に次のような記述があります。『清代[1644~1912]から新中国誕生までの期間は、鍼灸学はあまり大きな発展はとげられなかった。

清代前期は主として明代[1368~1644]の学風を継承しており、その整理と注釈が行なわれた。また清代後期から民国時代は、腐敗した封建文化と半封建半植民地文化の影響を受けて、針灸学はしだいに衰退していった。この時代の針灸は有効な治療法として民間の間に広く定着し、ゆるやかな発展をとげた。

新中国誕生後、政府は針灸学を重視し、臨床応用および古代文献の整理が行なわれ、さらに現代医学と現代科学を運用し、さまざまな角度から経絡、腧血、針感などの原理について大量な研究が行なわれた。とりわけ近年の針による鎮痛原理の研究および針麻酔の応用は、世界の医学領域に非常に大きな影響を与えた。』

これによると、最も認識すべきは、中医学は「古典にもとづく新しい学問である」ということです。“新古典”といっても良いかもしれません。

この本は日中共同編集によるものですが、中国側は天津中医薬大学となっています。そこでこの大学のホームページを見てみました。 

1958年、「天津中医学院」として創立されました。

日本では神戸に「天津中医薬大学 鍼灸推拿学院 神戸校」があります。

~心身を養い、整える~ 中医学のこと
~心身を養い、整える~ 中医学のこと

こちらのサイトには詳しい解説に加え、“張先生の「中医学の基本のお話し」”という約1時間12分の動画もあります。

 

中医学の医師を中医師と呼びますが、中医師になるには中医薬大学もしくは中医学院を卒業後、中医師資格試験に合格する必要があります。日本では3年制の専門学校を卒業することが国家試験の受験資格ですが、中国で針灸治療を行うには、中医師にならなければなりません。  

こちらのサイトには、“天津中医薬大学”の詳しい紹介が出ているのですが、“大学概要”の中の大学院留学の専攻分野≪修士≫”は次のようになっています。

中医基礎理論、中医臨床基礎、中医医史文献、処方学、中医診察学、中医内科学、中医外科学、中医骨折治療科学、中医婦人科学、中医小児科学、中医五官科学、針灸按摩学、中国・西洋医学融合基礎、中国・西洋医学融合臨床、中医薬学。

中医学の最大の特徴は、本書の第2章 中医学の基本的な特色 “第4節 独特の診断・治療システム[弁証論治]”にあると思います。また、第6章 中医学の診断法[弁証]にも説明が出ています。そこで、この第4節と第6章を確認してみました。 

目次は以下の通りですが、小項目を数多くを省いています。

目次

第1章 緒論

第2章 中医学の基本的な特色

第1節 中医学の人体の見方

第2節 陰陽五行学説

①陰陽学説

②五行学説

第3節 運動する人体

第4節 独特の診断・治療システム[弁証論治]

第3章 中医学の生理観

第1節 気血津液

第2節 蔵象

●蔵象概説

●五臓

●六腑

●奇恒の腑

●臓腑間の関係

第3節 経絡

①経絡の概念と経絡系統

②経絡の作用

③経絡の臨床運用

④十二経脈

⑤奇経八脈

⑥十二経別

⑦十二経筋

⑧十二皮部

⑨十五絡脈とその他の絡脈

第4章 中医学の病因病機

第1節 病因

①六淫

②七情

③飲食と労逸

④外傷

⑤痰飲と瘀血

第2節 病機

1.邪正盛衰

2.陰陽失調

3.気血津液の失調

4.経絡病機

5.臓腑病機

●内生の風・寒・湿・燥・火の病機

第5章 中医学の診察法[四診]

第1節 望診

第2節 聞診

第3節 問診

第4節 切診

第6章 中医学の診断法[弁証]

第1節 八網弁証

第2節 六淫弁証

第3節 気血弁証

第4節 臓腑弁証

第5節 経絡弁証

第7章 治則と治法

1.弁証

『医師は自身の感覚器官により、患者の反応から各種の病理的信号を収集する。それには望・聞・問・切という4つの診察法(四診)を用いる。四診により得られた疾病の信号に対して、分析、総合という情報処理を行い、「証候」を判断することを弁証という。

2.論治

「論治」とは、弁証により得られた結果にもとづき、それに相応する治療方法を検討して決定し、施行することである。したがってこれは「施治」ともいわれている。ここでは最もよい治療方針を確定するための検討が行われる。

弁証と論治は、相互に密接な関係をもつ。弁証は治療決定の前提であり、そのよりどころとなる。一方、論治は治療の方法であり手段である。論治による実際の効果を通じて、さらに弁証の結論が正確であったかどうかが検証される。このように弁証論治は、理論と実際の臨床により体系化されたものである。

弁証論治
弁証論治

画像出展:「針灸学[基礎編]」

”理―法―方―穴―術”

『中医臨床では、この弁証論治の過程を理―法―方―薬と称している。ところで針灸学では主として、針あるいは灸を用い、経絡経穴に刺激をあたえ、疾病を治療するわけであるが、この針灸の弁証論治の過程は、理―法―方―穴―術ということになる。

:各種の弁証法を運用して疾病発生のメカニズムを識別、分析すること。

:弁証により得られた結果にもとづき、それに相応する治療原則を確立すること。

:経穴による処方を指す。

:「穴義」ともいい、使用する経穴の作用と選穴の意義を指す。

:手法(灸を含む)を指す。

このように理―法―方―穴―術は、針灸弁証論治のすべての過程であり、これが針灸弁証論治の特徴である。

中医学では長期にわたる臨床経験の蓄積によって、八網弁証・六淫弁証・臓腑弁証・経絡弁証・気血弁証・六経弁証・衛気営気弁証・三焦弁証などの数種の弁証方法が確立されている。

それぞれの弁証法は、異なる視点から病証を分析するものであるが、各弁証は孤立したものではなく、相互に関連し、重なり合う部分もあり、比較的複雑な病証を分析する際には補完しあう関係にある。八網弁証は、陰陽学説にもとづいた視点から病証の全体像を大づかみに把握するもので、その他の弁証の基礎となる。もし病邪の関与が際立っている病証であれば、六淫弁証によって病邪の種類と趨勢を分析する。気・血の機能不足や流通障害があれば気血弁証を、臓腑の機能失調があれば、病邪の種類などに応じて、六経・衛気営血・三焦弁証のうち最も適切な弁証方法を選択して診断する。』

以下の表や文章は専門学校時代の資料です。

最初の表は、中医学の授業で配布された資料を一部編集したものです。私の記憶では、上から3段目の”機能”が特に中医学を理解する上で重要だったように思います。

2番目の資料は今回ご紹介した「針灸学[基礎編]」の中にあった図を抜き出して1枚にまとめたものです。五臓の関係性や主な機能について書かれています。

3番目の資料は、おそらく問題を作るという宿題だったと思います。従いまして、弁証は間違っているかもしれません。中医学の”弁証”の雰囲気を知って頂くには悪くないと思い貼り付けました。

まとめ

●中医学は古典にもとづく新しい学問であり、“新古典”というものである。

針灸は中医学の一部であり、他に湯液(漢方)、推拿(手技)、薬膳に加え、中国・西洋医学融合などを含んでいる。

●最大の特徴は弁証論治である。診断に相当する弁証は、“八網弁証”、”病因弁証”、”臓腑弁証”、”経絡弁証”、“気血弁証”、”六経弁証”、“衛気営血弁証”、“三焦弁証”、”六淫弁証”がある。特に基本となるのは八網弁証である。

◆一方、経絡治療は古典にもとづきながら、シンプルさを追及したもので、「経絡を整えれば臓腑も良くなる」という考え、いわば臓腑経絡説が中心にある。

以上のことから、漢方(中医学)に接する時には、古典にもとづいた新しい学問であることを認識すること。診断における多様性に注目し、あらたな見方、施術の応用として、明確な目的のもとで参考にすることは悪くないと思います。そして、その事により患者さまの状況が好転するならば、“応用法”として自らの施術に加えれば良いと思います。

筋肉による熱生産

筋肉の事を深い知りたいと思い購入しましたが、主旨は筋肉の知識を深め、目的に則した筋肉のトレーニング方法を正しく知るといった、どちらかといえばアスリート向けの本でした。

そのため、ブログで取り上げたのは“熱生産”です。これは“冷え”や“代謝・肥満”という問題に直結する大変興味深いものです。

著者:石井直方
筋肉の科学

著者:石井直方

発行:2017年10月

出版:ベースボールマガジン社

目次

理論編

●筋肉は何のために存在している?

●運動のパフォーマンスを左右する4要素

●平行筋と波状筋

●筋の外側にもある変速器

●筋収縮の仕組み

●筋収縮の形態

●短縮性収縮と伸張性収縮

●スピードを高める第1条件

●筋力と姿勢の関係

●なぜ関節角度によって筋力は変わるのか?

●関節角度と力発揮能力の実際

●筋肉の動的特性

●筋の力学的パワー

●競技でのパワーを高めるには?

●伸張性領域で起こること①

●伸張性領域で起こること②

●筋収縮と熱発生

●熱生産の仕組み①

●熱生産の仕組み②

●熱生産の仕組み③

●運動単位とは何か?

●運動単位の大きさを決める要因

●運動単位の働き方

●中枢による抑制

●サイズの原理

●サイズの原理の例外

●筋線維タイプの分類

●筋線維タイプと色の違い

●速筋⇔遅筋のシフトは起こるか?

●トレーニングによって筋線維はどうシフトするか?

●筋肉のタイプによる基本的な性質の違い

●昆虫の筋肉の特性をスポーツに生かせるか?

●筋肉を成長させるメカニズム①

●筋肉を成長させるメカニズム②

●筋肉を成長させるメカニズム③

●筋肉を成長させるメカニズム④

実践編

●「トレーニング効果」を考える

●1RM筋力の測定

●等尺性随意最大筋力の測定

●特異性の原則

●パフォーマンスを高める筋力トレーニングの考え方

●適応・馴化とピリオダイゼーション

●バイラテラルとユニラテラル①

●バイラテラルとユニラテラル②

●メカニカルストレスの重要性

●メカニカルストレスを高める方法①

●メカニカルストレスを高める方法②

●メカニカルストレスを高める方法③

●筋肉の内部環境

●筋肥大と筋パワーのトレーニング効果

●トレーニング動作の学習効果

●学習効果の注意点

●トレーニング効果の表れ方①

●トレーニング効果の表れ方②

●トレーニングの容量を高める①

●トレーニングの容量を高める②

●トレーニングの容量を高める③

●「筋肉学」を現場で活用する①

●「筋肉学」を現場で活用する②

●解明されつつある最新知識

おわりに

筋収縮と熱発生

・筋肉は力学的なエネルギーを発揮することと、働きながら熱を生産するという2つの役割を担っている。つまり、「仕事+熱=全エネルギー」になる。

・ヒトが荷物を持ってじっと立っているときも、姿勢を維持するために筋肉は活動している。もしこの状態で筋肉が熱をどんどん出してしまうと、荷物を持って立っているだけで汗だくになってしまう。このようにならないのは、動かず立っているだけのような状態の時に、筋肉はエネルギーを極力使わずに力を持続できるように設計されているためである。

熱生産の仕組み①

・「震え熱生産」とは寒さに対し体温を維持するために体が勝手に震えるもの。筋肉の収縮に伴って生産される熱を利用している。

「非震え熱生産」は筋肉の活動に依存せずに熱を作る仕組み。ひとつは「褐色脂肪組織」がある。これは熱を作ることができる専門の脂肪組織で、脂肪をエネルギー源として燃やすことで熱を生産している。褐色脂肪細胞には普通の脂肪細胞に比べエネルギーを作りだすミトコンドリアが多く含まれている。そして、ミトコンドリアが赤っぽい色をしているため褐色脂肪細胞とされている。一方、普通の脂肪細胞は白色脂肪と呼ばれている。

・ヒトの褐色脂肪細胞は主に胸から脇の下にかけて分布しているが、40g前後と少なく体温生産にどの程度寄与しているのかはよく分かっていない。一方、筋肉は体重の約40%(体重70㎏の場合28㎏)とされ、重さで比べると褐色脂肪細胞の500倍以上とも考えられる。そのため体温生産では筋肉の方がはるかに大きな役割を果たしていると考えられる。

熱生産の仕組み②

褐色脂肪細胞や筋肉が熱を出すための仕組みに関わっているタンパク質が、10年程前に発見された。それは“ミトコンドリア脱共役タンパク質(UCP)”というものである。

UCPは細胞内のミトコンドリアの中に存在し、脂肪のエネルギーを分解する反応系とATP(アデノシン三リン酸)を合成するシステムとのつながりをカットするという特徴がある。これにより、脂肪のエネルギーを分解して得られたエネルギーが、ATPを作ることなく熱になって逃げてしまうことになる。つまり、運動せずに身体から熱が発生するということになる。

・褐色脂肪細胞の中にあるUCPは、最初に見つかったのでUCP1と呼ばれている。

・UCPには多型(遺伝子を構成しているDNAの個体差)があり、ヒトでは正常なUCP1を問題なく作れる人と作れない人がおり、日本人には作れない人が約20%もいる。

UCP1が作れないと熱生産の能力が低くなるため、低体温や冷え症といった症状になりやすい。また、1日当たりの消費カロリーが100㎉ほど少なくなる。1年では36500㎉であり、体脂肪に換算すると5㎏に相当する。すなわち、同じ食事、同じ運動量であってもUCP1を作れない人は5㎏太ってしまうということになる。

・UCP1を作れる遺伝子をもっているかどうかは、多くの肥満外来で調べてもらえる。

筋肉で見つかったUCPは3番目に見つかったのでUCP3と呼ばれ、筋肉の活動なしに熱を生み出す。1g当たりの熱生産量は褐色脂肪より小さいが、筋肉の量がはるかに多いため、全体的にはより多くの熱を発生させていると考えられる。

・UCP3は遅筋線維より速筋線維の方に多く含まれる。ただし、速筋中の速筋であるタイプⅡxにはミトコンドリアが少ないので「非震え熱生産」の主役はタイプⅡaである。遅筋線維にもミトコンドリアが多く含まれているが、UCP3が少ないので熱の生産は少ない。

・筋力トレーニングをすると速筋線維はタイプⅡx→タイプⅡaに移行するため、エネルギー消費は高まる。

長時間にわたる有酸素運動はUCP3の活性化が低くなる。これは長時間の運動に耐えるために燃費のよい筋肉になるということである。このため有酸素運動をたくさん行って減量した人は、運動をやめるとリバウンドしやすいので注意を要する。

筋線維タイプの分類とそれぞれの主な特徴
筋線維タイプの分類とそれぞれの主な特徴

画像出展:「筋肉の科学」

Ⅱa、Ⅱxは分類Cなので、筋線維をATPase(加水分解する酵素)に基づいて分類したものということになります。

熱生産の仕組み③

サルコリピンの発見は1993年だが、その機能は明らかになったのは2012年である。このサルコピンは褐色脂肪細胞やUCPを超える熱生産の主役と考えられる。ただし、機能など十分に解明されてはいない。

・筋肉の中の筋小胞体はカルシウムを溜めこんでいる。筋肉が収縮するとそこからカルシウムが放出され、弛緩するときにカルシウムが戻るという仕組みがある。サルコリピンは筋小胞体からカルシウムを外に出してしまうという“悪さ(働き)”をする。

-『カルシウムを筋小胞体に組み上げるタンパク質(カルシウムポンプ)は、ATP(アデノシン三リン酸)を分解し、そのエネルギーを利用して働きます。サルコリピンはこのカルシウムポンプに結合し、カルシウムをくみ上げる働きだけをブロックします。つまり、カルシウムポンプが「空回り」することで、ATPのエネルギーをすべて熱にしてしまいます。』 注)これはネズミによる実験とのことです。

サルコリピンを増やす方法は見つかっていないが、筋肉量に比例すると考えられるので、筋肉量を増やすことは熱生産を高め、身体を温める力を高めると考えられる。

-『前述の研究の延長として、やはりサルコリピンをノックアウトしたネズミに高脂肪食を与えるという実験も行われました。脂肪がたくさん含まれるエサを与えると、ネズミはみるみるうちに太っていく。そうして極度の肥満になってしまうことがわかりました。一方、サルコリピンをもっている正常なネズミに同じ食事を与えても、少し太る程度でした。つまり、筋肉が熱を作れないということは、太る原因にもなってしまうのです。しかも、その状態でグルコースを与え、血中のブドウ糖の濃度の変化を調べると、そのネズミは糖尿病に近い状態になっていることがわかりました。ここまでのことを整理すると、サルコリピンが足りないと、冷え症になり、肥満になり、糖尿病になりやすくなる。逆にいうと、これらはすべて筋肉を増やすというアプローチによって、予防、改善できるということになります。今後は「ダイエット」の観点からも、サルコリピンが注目されていくことは間違いないでしょう。

画像出展:「筋肉の科学」

『筋トレをして「サルコリピン」を増やせば、冷え症、肥満、糖尿病の予防・改善効果も期待できる』

 

ご参考:“マッスルメモリー”

この“マッスルメモリー”は、中高年がトレーニングに取り組む際にとても重要なキーワードであると思いますので、ここだけはご紹介させて頂きます。

『筋線維再生系とタンパク質代謝系は、おそらく同時に働いていると考えられますが、どちらがどのくらい働いているかというのは、まだよくわかっていません。そのあたりは、これからの研究課題になってくるでしょう。ただ、最近の研究でいろいろなことがわかってきています。本項では、まず筋線維再生系について説明しましょう。

筋線維には、「筋サテライト細胞」と呼ばれる幹細胞(筋線維のもとになる細胞)がペタペタとへばりついています。普段は眠ったような状態なのですが、筋トレをすると目覚めて増殖します。そして、前述したように新しい筋線維を作る場合もあるし、へばりついていた筋線維に融合して、その中に新たな核を挿入する場合もあります。

実は筋線維の核そのものが増えることが確定したのは、ここ数年の話です。そしてヒトの場合、その核は筋トレをやめて筋線維が細くなってしまっても、10年間程度は残り続けるのではないかと考えられています。これは「マッスルメモリー」といわれるメカニズム。一度しっかり筋肉をつけておけば、10年先までその記憶が残っていて、トレーニングを再開したときに通常よりも早く筋肥大が起こるようになります。これも、筋線維再生系の新たな役割として注目されています。

がんとエクソソーム

今回も前回に続き、NHKスペシャル「人体」取材班編集による、「神秘の巨大ネットワーク 人体4」からになります。第7集 “健康長寿” 究極の挑戦」の概要を紹介している文章には、次のようなことが書かれています。

『これらの病気[がん・心臓病・脳卒中]に立ち向かうために、いま、全く新しい治療戦略が開発されようとしている。カギを握るのは、人体の中で臓器同士や細胞同士が繰り広げている会話、いわば人体の「情報ネットワーク」という視点である。“健康寿命”をかなえるための究極の挑戦がいま、始まっている。

日本人の三大疾病とされる、「がん」「心臓病」「脳卒中」に対し、“エクソソーム”は「がん」と「心臓病」の治療にも関わっているようです(前者は“エクソソームを標的としたがん治療”、後者は“エクソソームから心筋細胞を再生”というタイトルで紹介されています)

“エクソソーム”という言葉は知っていましたが、重要性はもちろん、どんなものかも理解できていませんでした。そこで、がんとエクソソームの関係性を勉強しながら、エクソソームのことも知ろうと思いました。

神秘の巨大ネットワーク4
神秘の巨大ネットワーク4

編集:NHKスペシャル「人体」取材班

出版:東京書籍(株)

発行:2018年8月

第6集 “生命誕生”見えた!母と子ミクロの会話

Part1 新たな命が発信する最初のメッセージ

●新たな命が始まる瞬間を追う

●まず迎える、着床という妊娠の最難関門

●子から母への最初のメッセージ

●妊娠検査にも利用されるhCG

Part2 人体をつくる驚異の仕組み

●“ドミノ式全自動プログラム”

●万能細胞が開いた神秘の扉

●最初に生まれる臓器は、心臓

●心臓の次は、肝臓

●さまざまなメッセージが連鎖して作用する

●ぐんぐん成長する赤ちゃん

※万能細胞が切り拓く新しい世界

Part3 胎盤の中で繰り広げられる母と子のやりとり

●10か月で驚きの成長を遂げる赤ちゃん

●母と子をつなぐ命綱

●胎盤の中で繰り広げられる驚異の共同作業

●1つ1つのメッセージを専用装置でやりとり

●そして、誕生

※もう1つの生命誕生物語

Part4 生命誕生の解明が医療の未来を切り拓く

●原因不明の難病に苦しむ女の子

●肝臓移植の代わりになる再生医療

●何になるべきかを知っていた細胞

●生命誕生に学ぶ未来の医療

●“ミクロの会話”がもたらす希望の光

※臓器づくりに欠かせない細胞同士の会話

第7集 “健康長寿” 究極の挑戦

Part1 「がん」が送り出す恐ろしいメッセージ

●日本人の死因第1位のがん

●何度取り除いても発症するがん

●映像が捉えたがん細胞の増殖

●がん細胞が血管を引き寄せる仕組み

●特殊なメッセージ物質、エクソソーム

●それはメッセージの宝箱だった

●宝箱を悪用するがん細胞

●免疫細胞も手なずけるがん細胞

●エクソソームががんの転移のカギを握る

●転移のための環境を整えるがん細胞

●体内のエクソソームは100兆個以上

Part2 「がん」との戦いの最前線

●がん治療の新時代

●13種類のがんの早期診断を目指す

●運動ががん治療につながる

●エクソソームを標的としたがん治療

●光と免疫でがんを攻撃

●牛乳からがんの治療薬も……?

Part3 不可能に挑む! 次世代の心臓再生医療

●いったん傷ついた心臓はもとに戻らない

●心臓の中のメッセージ物質

●エクソソームから心筋細胞を再生

●メッセージ物質を使った治療のメリット

●iPS細胞を使った心臓の再生医療

Part4 神秘の巨大ネットワーク

●人体の解明へさらなる挑戦は続く

●臓器同士をつなぐ情報ネットワーク

●全身の免疫力を司る腸

●骨が若さを生み出す

●幹細胞から骨をつくり「健康寿命」を延ばす

●人体探求の“たすきリレー”は次世代へ

特集:人体ART

第7集 “健康長寿” 究極の挑戦

Part1 「がん」が送り出す恐ろしいメッセージ

がん細胞が血管を引き寄せる仕組み

・がん細胞も正常な細胞と同じように、血管新生を引き起こすために様々なメッセージ物質を利用しているが、VEGF(血管内皮増殖因子)もその一つで、VEGFは細胞や組織に酸素が足りなくなると増加し、血管を作る細胞に働きかけて血管新生を促す。

・がん細胞は大量のVEGFを放出し、それを受け取った血管はがん細胞に向けて新たな血管を伸ばし始める。その血管から栄養を得て、がん細胞は増殖する。

特殊なメッセージ物質、エクソソーム

皮膚のがん細胞
皮膚のがん細胞

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『皮膚のがん細胞の電子顕微鏡写真。表面から次々と白い光が放たれる。その光の中にがん細胞のメッセージ物質が潜んでいる』

がん細胞から放出されたエクソソーム
がん細胞から放出されたエクソソーム

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『この白く輝く光が、がん細胞から放たれのメッセージカプセル「エクソソーム」』

エクソソームの大きさは約1/10000mm
エクソソームの大きさは約1/10000mm

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『電子顕微鏡が捉えたエクソソーム。大きさはおよそ1万分の1mm

・『エクソソームは1980年代に発見された構造体で、当時は細胞にとって不要な“ゴミ箱”のような存在だと考えられた。いまのように詳しい解析手法がなく、調べても老廃物しか見つからなかったからだ。そのため、長い間、あまり注目されることがなかったのだが、2007年になって状況が一変した。内包しているのはRNAという遺伝物質だと分かったからだ。研究は一気に進むようになり、いまでは、さまざまな細胞がエクソソームを細胞外に放出していること、放出されたエクソソームが血液、唾液、尿、羊水などを介して体内を巡り、離れた細胞や組織に情報を伝令していることなどが分かっている。

さらに驚くべきことに、がん細胞もまた情報のやりとりにエクソソームを使っていることが分かってきた。「エクソソームはまだ十分に解明されているとはいえず、謎も多く残されています。近い将来、エクソソームによってこれまでの常識を覆すような組織や臓器同士の会話が明らかになるでしょう」。ぺへテル博士[がん細胞から放出されたエクソソームの撮影に世界で初めて成功した]映像はそう語る。』

それはメッセージの宝箱だった

・エクソソーム内にはマイクロRNAが含まれている。マイクロとはmRNA(メッセンジャーRNA)が1000塩基を超えるのに対し、マイクロRNAの塩基は約22塩基と約1/50と非常に短いためである。マイクロRNAが発見されたのは1993年、そして2007年にはマイクロRNAはエクソソームに包まれて細胞外へ放出されることが明らかになった。細胞外に出たマイクロRNAはエクソソームというカプセルに内包された状態で血流などに乗り、遠く離れた組織や臓器に運ばれ、そこでの遺伝子の働き方を調節する役割を担っていることが分かった。

・エクソソームの中のマイクロRNAは、受け取る細胞を根幹から変えることができる。

宝箱を悪用するがん細胞

・エクソソームと病気との関連は特に注目されている。細胞は常にエクソソームを分泌しているが、病気になるとその分泌量や種類が変化することが分かっている。このエクソソームの特徴は病気の診断や治療に活かせるかもしれない。

・『がん細胞は、エクソソーム内に特定のマイクロRNAを詰め込み、メッセージ物質として血管へと送り出す。血管に到達したエクソソームは、血管を構成する血管内皮細胞の中へと潜り込み、カプセル内のマイクロRNAを放出する。そのマイクロRNAには「もっと栄養が欲しい」という、がん細胞からのメッセージが込められている。するとメッセージを受け取った血管内皮細胞は、正常な細胞からのメッセージと勘違いして、がん細胞に向かって新たな血管を伸ばし始めるというのだ。なお、VEGFとエクソソームのどちらがより大きな役割を果たすのか、といったことはいまも解明が進められている。』

免疫細胞も手なずけるがん細胞

・がん細胞は敵であるはずの免疫細胞を味方にする術を持っている。

・『がん細胞が攻撃しようと迫ってくる免疫細胞に対し、がん細胞はエクソソームの中にメッセージを詰め込んで送り届ける。そのメッセージは、いわば「攻撃するのをやめて」というもの。すると、免疫細胞はがん細胞を味方だと勘違いして瞬く間にてなずけられ、攻撃をやめてしまうというのだ。がん細胞は、私たちの体内にある大切なネットワークを知り尽くし、そのシステムを乗っ取るかのようにして、増殖を繰り返していると考えられる。』

がん細胞を攻撃する免疫細胞
がん細胞を攻撃する免疫細胞

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『がん細胞に近づいた免疫細胞(上)は、がん細胞に食らいつき、攻撃物質(赤色)を発射して退治しようとする(下)

免疫細胞をあざむくがん細胞
免疫細胞をあざむくがん細胞

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『がん細胞からのメッセージ物質によって、”ある働きかけ”を受けた免疫細胞は、がん細胞を味方だと勘違いして攻撃をやめてしまう。このとき、がん細胞が駆使しているのがエクソソームだ

エクソソームががんの転移のカギを握る

がんの最も恐ろしい特徴である「転移」の過程でも、がん細胞が巧みにエクソソームを操っていることが分かってきた。

転移のための環境を整えるがん細胞

・がんは自分の分身としてエクソソームの分泌し、目的の臓器に先遣隊として送り届け、転移のための環境を整える。

・エクソソームには体のバリア機能を破壊し、破綻させるという機能があると考えられる。

・エクソソームの表面には、届け先を特定する“荷札”のようなものがつけられていて、目的とする特定の細胞に取り込まれる仕組みがあるらしい。

・脳には血液脳関門という強固なバリアがあるが、エクソソームがどのようにして突破するのかという疑問も少しずつ分かってきている。

体内のエクソソームは100兆個以上

人体の全ての細胞はエクソソームを出しており、血液などのさまざまな体液中でその存在が確認されている。

・血液中の100兆個以上のエクソソームが流れていると推定されている。

・エクソソームは受精や発生においても重要な役割を担っていることが分かってきた。

・受精時の卵子はエクソソームを膜の表面上に放出することで、膜を保護するとともに精子が侵入する際に精子の膜と融合しやすくするという役割を果たしている。

・母乳にもエクソソームが含まれていることが分かっている。こうしたエクソソーム内に含まれるマイクロRNAには、病原体などの異物を攻撃する免疫細胞を活性化し、未成熟な乳児の免疫力を高めていると考えられている。

・近年、腸と腸内細菌もエクソソームを用いてメッセージをやりとりしていることが分かってきた。

・『内包するマイクロRNAを臨機応変に変えることで、生命を維持するための多様な情報のやりとりを可能にし、人体という巨大な情報ネットワークを形づくるために働くエクソソーム。いま、世界中の研究者が、エクソソームの情報を解き明かすことで病気の診断や治療に生かそうと努力を重ねている。

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『がんがどのように増殖し、さまざまな臓器に転移していくのかはまだ完全には解明されていない。しかし、エクソソームなどのメッセージ物質の解明によって、新たなメカニズムが見出されつつある。

ご参考:エクソソームに関するサイト

エクソソームは細胞からのメッセージ!?

エクソソームとmiRNA(マイクロRNA)

「細胞間のメッセンジャー!エクソソームって何だ?」

こちらは動画です。

hCGと着床

受精卵は、ふかふかで栄養たっぷりのベッドで育つことができる。

この“ベッド”とは子宮内膜のことです。また、この過程で女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンが重要であることは認識していました。

ところが、下図の【妊娠⇒着床】に出てくる“hCG”も、とても重要であるということを知りました。

月経のサイクル
月経のサイクル

画像出展:「病気がみえる vol.9 婦人科・乳腺外科」

詳しくは、ブログ“不妊鍼灸

2”を参照ください。

hCG”とはヒト絨毛性ゴナドトロピンのことです。”岡山大学さまのサイト(検査部/輸血部インフォメーション)”には、hCGについて次のような説明がされていました。

ヒト絨毛性ゴナドトロピン, HCG (human chorionic gonadotropin) 

●ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin ; hCG)は、α、β、2つの相異なるサブユニットの非共有結合により形成される分子量約38,000の糖蛋白ホルモンである。

●hCGは主に絨毛組織において産生される。

妊娠初期の卵巣黄体を刺激してプロゲステロン産生を高め、妊娠の維持に重要な働きをしている。

●胎児精巣に対する性分化作用や母体甲状腺刺激作用も報告されている。

●絨毛性腫瘍のほか、子宮、卵巣、肺、消化管、膀胱の悪性腫瘍においても異所性発現[本来の場所以外で発現]している例が報告されている。

●臨床的にhCG測定を必要とする場合として、①妊娠の診断と予後の判定、②絨毛性疾患の診断ならびに治療効果判定とそのfollow up、③各種悪性腫瘍に対する腫瘍マーカーとしての応用、などがあげられる。

ブログに残そうと思ったのは、「神秘のネットワーク4 第6集 “生命誕生”見えた!母と子 ミクロの会話」の中に、”まず迎える、着床という妊娠の最難関門”という見出しがあり、そこで主役となっていたhCG私にとっては大発見の新情報だったためです。 

神秘の巨大ネットワーク4
神秘の巨大ネットワーク4

編集:NHKスペシャル「人体」取材班

出版:東京書籍(株)

発行:2018年8月

ブログは目次に続き、hCGについて書かれた箇所を取り上げています。

目次

第6集 “生命誕生”見えた!母と子ミクロの会話

Part1 新たな命が発信する最初のメッセージ

●新たな命が始まる瞬間を追う

●まず迎える、着床という妊娠の最難関門

●子から母への最初のメッセージ

●妊娠検査にも利用されるhCG

Part2 人体をつくる驚異の仕組み

●“ドミノ式全自動プログラム”

●万能細胞が開いた神秘の扉

●最初に生まれる臓器は、心臓

●心臓の次は、肝臓

●さまざまなメッセージが連鎖して作用する

●ぐんぐん成長する赤ちゃん

※万能細胞が切り拓く新しい世界

Part3 胎盤の中で繰り広げられる母と子のやりとり

●10か月で驚きの成長を遂げる赤ちゃん

●母と子をつなぐ命綱

●胎盤の中で繰り広げられる驚異の共同作業

●1つ1つのメッセージを専用装置でやりとり

●そして、誕生

※もう1つの生命誕生物語

Part4 生命誕生の解明が医療の未来を切り拓く

●原因不明の難病に苦しむ女の子

●肝臓移植の代わりになる再生医療

●何になるべきかを知っていた細胞

●生命誕生に学ぶ未来の医療

●“ミクロの会話”がもたらす希望の光

※臓器づくりに欠かせない細胞同士の会話

第7集 “健康長寿” 究極の挑戦

Part1 「がん」が送り出す恐ろしいメッセージ

●日本人の死因第1位のがん

●何度取り除いても発症するがん

●映像が捉えたがん細胞の増殖

●がん細胞が血管を引き寄せる仕組み

●特殊なメッセージ物質、エクソソーム

●それはメッセージの宝箱だった

●宝箱を悪用するがん細胞

●免疫細胞も手なずけるがん細胞

●エクソソームががんの転移のカギを握る

●転移のための環境を整えるがん細胞

●体内のエクソソームは100兆個以上

Part2 「がん」との戦いの最前線

●がん治療の新時代

●13種類のがんの早期診断を目指す

●運動ががん治療につながる

●エクソソームを標的としたがん治療

●光と免疫でがんを攻撃

●牛乳からがんの治療薬も……?

Part3 不可能に挑む! 次世代の心臓再生医療

●いったん傷ついた心臓はもとに戻らない

●心臓の中のメッセージ物質

●エクソソームから心筋細胞を再生

●メッセージ物質を使った治療のメリット

●iPS細胞を使った心臓の再生医療

Part4 神秘の巨大ネットワーク

●人体の解明へさらなる挑戦は続く

●臓器同士をつなぐ情報ネットワーク

●全身の免疫力を司る腸

●骨が若さを生み出す

●幹細胞から骨をつくり「健康寿命」を延ばす

●人体探求の“たすきリレー”は次世代へ

特集:人体ART

Part1 新たな命が発信する最初のメッセージ

まず迎える、着床という妊娠の最難関門

・受精卵は分割し5日ほどで100個程の細胞に増える。自然の受精の場合、この段階は卵管の中を子宮に向かって移動しながら行われる。なお、この時の受精卵は「胚盤胞」と呼ばれる。

・体外受精の場合、受精卵は胚盤胞の状態までシャーレの中で培養された後に子宮の中に戻される。

誕生に向けた最初にして最大の難関がここから始まる。受精卵が生き続けるためには、子宮の壁(子宮内膜)にしっかりと根を張って着床する必要がある。

・この関門を乗り越えるために、母親の体はメッセージ物質が働いて大きな変化を促す。受精卵が着床するためのカギはメッセージ物質である。

子から母への最初のメッセージ

・赤ちゃんからお母さんへの“初めてのメッセージ”は、母親が妊娠に気づくずっと前から受信され始めている。

・『受精後8日目の受精卵の姿は、まだ大きな変化がないように見えた。ところが、2日後、思いがけない現象が起き始める。受精卵のあちらこちらから、ある物質が放出され始め、日を追うごとに、どんどん増えていった。hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)と呼ばれるこの物質こそ、着床のカギを握るメッセージ物質だ。

・hCGの役割は受精卵が母親に「ここにいるよ!」と伝えるためのメッセージである。このhCGは受精後10日目の受精卵から放出される。

・hCGは母親の血液の流れに乗って全身を巡り、卵巣などに働きかける。すると、母親の体は生理を起こさないように変化し、子宮の壁(子宮内膜)をどんどん厚くしていく。これにより受精卵はしっかりと包む込まれ、着床は促進される。

妊娠検査にも利用されるhCG

・母親の血中hCGの量は、妊娠を調べる検査にも用いられている(血液中のhCGは尿にも出ていくため尿でも調べられる)。

受精卵が出す最初のメッセージ物質hCGの働き(CG)】

自然炎症と2型マクロファージ

今回は、審良静男先生と黒崎知博先生の「新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症のまで」という本が題材です。

著者:審良静男、黒崎知博
新しい免疫

著者:審良静男、黒崎知博

発行:2014年12月

出版:講談社

当初の目的は、新型コロナウィルスで先行する2つのワクチン(独BioNTech社と米Pfizer社が共同開発したワクチン、および米Moderna社のワクチン)が、ともにmRNA(メッセンジャーRNA[タンパク質分子の設計図をコピーする働き])ワクチンということで、これがどのようなものか知りたいということと、免疫について勉強したいというものでした。

前者のワクチンに関する記述は多くなかったため、ブログは免疫、「免疫と炎症」が主になります。特に、新発見だった“自然炎症”と“2型マクロファージ”に注目しました。なお、目次でいうと10章になります。

詳しいご説明は最後に再登場するのですが、以下の図が今回の最大の収穫です。 

免疫と炎症
免疫と炎症

画像出展:「新しい免疫入門」

目次

まえがき

プロローグ

・二度なし

・一度目は?

・新しい免疫劇場

1章 自然免疫の初期対応

2章 獲得免疫の始動

3章 B細胞による抗体産生

4章 キラーT細胞による感染細胞の破壊

5章 三つの免疫ストーリー

6章 遺伝子再構成と自己反応細胞の除去

7章 免疫反応の制御

8章 免疫記憶

9章 腸管免疫

10章 自然炎症

11章 がんと自己免疫疾患

あとがき

参考文献

さくいん

10章 自然炎症

免疫学の新しい展開

・TLR[Toll-like receptor:病原体を感知して自然免疫に活性化するセンサー]などのパターン認識受容体は、”病原体”だけではなく“内在性リガンド[体の自己成分、自己細胞が大量に死んだときに出てくる成分などが多い]も認識する。つまり、マクロファージや好中球などの食細胞は、“内在性リガンド[虚血、細胞ストレス、細胞死など]を認識して活性化し、炎症をおこす。このように病原体が関わらない炎症を「自然炎症」という。

・自然炎症の代表的な例は、体の中で大量の細胞がネクローシスを起こして死ぬような場合である。

・自然炎症が何のために起こるのか、まだはっきりと分かっていないが、組織の修復に関わっているという考え方が有力である。マクロファージや好中球が集まり、損傷部が取り除かれる。さらに修復のための専門細胞が集まり、組織の再建にとりかかる。こうして組織は修復される。 

・パターン認識受容体はほぼ全身の細胞に分布しているため、内在性リガンドで自然炎症を起こしうるのは、マクロファージなどの食細胞だけでなく、ほぼ全身の細胞ということになる。

アポトーシスとネクローシス
アポトーシスとネクローシス

画像出展:「新しい免疫入門」

『からだのなかで細胞が死ぬパターンとして二つの様式がある。アポトーシスとネクローシスだ。アポトーシスが誘導されると、細胞膜につつまれたまま内容物が分解され、最後は食細胞が丸ごと食べて処理する。一方、ネクローシスでは、細胞膜が破れて、内容物が分解されずに飛び散る。外傷や火傷、薬物、放射線などが誘因となる。

痛風はマクロファージがおこす自然炎症だった

・痛風は全身の関節(特に足の親指の関節)で急性の炎症が繰り返し起こる病気で激痛を伴う。原因は血液中の尿酸である。尿酸は細胞の老廃物で、増えすぎると結晶となって関節に付着し、これを食細胞が取り込むと炎症が起こるが、この炎症は自然炎症と考えられる。

痛風の原因は“尿酸”だが、尿酸に限らず結晶のような構造をとる物質は、食細胞に取り込まれると活性化し炎症を起こす。 

痛風の発作
痛風の発作

画像出展:「新しい免疫入門」

食細胞が尿酸結晶を細胞内に取り込むと、尿酸結晶の刺激でミトコンドリアが損傷する。すると、SIRT2という酵素のはたらきが低下し、細胞内の輸送路である微小管にアセチル基という分子がつく。その結果、損傷したミトコンドリアが微小管の上に乗り、細胞の中心部の小胞体まで移動する。こうして小胞体のNLRP3と、ミトコンドリアがもつ部品ASCがそろい、さらにカスパーゼという部品もくわわって複合体が組みあがる。この複合体をインフラマソームという。インフラマソームは、インターロイキン1βをマクロファージ内で成熟させて外に放出する。引きつづいて強い炎症がおこり、激痛が走ることになる。

結晶構造をとる物質
結晶構造をとる物質

画像出展:「新しい免疫入門」

『脳ではマクロファージや好中球の代わりにミクログリアという細胞が免疫のはたらきをしており、βアミロイド線維を食べたミクログリアからは同じようにインターロイキン1βが放出される。』

・NLRP3は様々な結晶(または結晶のような物質)の刺激をきっかけにしてインフラマソームを形成することから、この他にも多くの炎症性疾患との関連が強く示唆されている。

体内で結晶化したものは食細胞が消化しきれずに死んでしまい、結晶が体内に残る。それを処理しようと新しい食細胞がまた食べに来て食べきれないという状態が繰り返され炎症が起こる。つまり、消化・分解できない結晶は、自然免疫系を過剰に活性化してしまう。

痛風も動脈硬化も同じメカニズムでにもかかわらず、痛風だけが激痛なのは結晶の量の違いと考えられる。電子顕微鏡で見ると、集積している尿酸結晶に比べ、コレステロール結晶は極めて少ない。

TLR[Toll-like receptor:病原体を感知して自然免疫を活性化するセンサー]による自然炎症

・TLRもNLRP3と同様に、自然炎症に関わっている。

・虚血再灌流障害とは、脳梗塞や心筋梗塞で虚血状態にある組織や臓器に再び血液が流れだしたとき、強い炎症が局所的または全身で起こるものである。これは、虚血によって大量の細胞死が起こり、その中の成分が血管内皮のTLR2、TLR4、TLR9を刺激して炎症を起こすためである。

TLRなどのパターン認識受容体が内在性リガンドを認識して起こす自然炎症が、炎症性疾患に関係している可能性が高まっている。 

TLR[Toll-like receptor:病原体を感知して自然免疫を活性化するセンサー]などが認識する内在性リガンドの例
TLR[Toll-like receptor:病原体を感知して自然免疫を活性化するセンサー]などが認識する内在性リガンドの例

画像出展:「新しい免疫入門」

内在性リガンド”は右端です。これを見ると、TLR3というパターン認識受容体の対象はウィルスであり、その内在性リガンドはメッセンジャーRNA(mRNA )であることが分かります。もしかしたら、これは新型コロナウィルスのメカニズムと何か関係しているのでしょうか??

炎症を抑える2型マクロファージ

マクロファージは2種類ある。一つは1型と呼ばれ、異物を食べたり炎症を起こしたりするタイプで昔から知られていた。一方、2型は炎症を抑え、組織の修復をする。詳細な働きはまだよく分かっていないが、脂肪組織の状態維持に役立っていると考えられている。

2型マクロファージは、病原体をやっつけるという役割ではなく、体の中の色々な組織と交流して、それらの機能を維持しているとみられている。

・2型マクロファージを欠くマウスでは、脂肪から遊離脂肪酸がどんどん外へ出ていまい、血中のコレステロールや中性脂肪の濃度が上がった。このマウスに脂肪食を食べさせると、ほとんどのマウスに糖尿病の症状が見られた。

・正常マウスと肥満マウスの比較実験では、正常マウスの脂肪組織では2型マクロファージが多数を占めているのに対し、肥満マウスの脂肪組織では1型マクロファージが多数を占めていた。なぜ、肥満マウスで2型の代わりに1型が多数になるかは分かっていない。飽和脂肪酸により1型が誘導され、不飽和脂肪酸では誘導されないという報告はあるが、詳細は不明である。そもそも2型マクロファージがどうやって作られるのか、1型と2型は行ったり来たりできるかなど、基本的なところが全く分かっていない。

・1型マクロファージは様々なサイトカインを放出して、インスリン抵抗性をもたらすため、糖尿病の準備状態を誘導することになる。発赤、発熱、腫脹、疼痛といった炎症の四徴候は見られないが、一種の炎症反応と考えられる。

「免疫と炎症」

・『内在性リガンドが見つかり、自然炎症のしくみが明らかになってくると、免疫学は従来の枠のなかにおさまらなくなってきた。20世紀までは獲得免疫が免疫学の中心であり、21世紀になると獲得免疫にくわえて自然免疫も重要視されるようになった。そして、いま、免疫と炎症が大きな学問分野を形成しようとしている。

免疫と炎症
免疫と炎症

画像出展:「新しい免疫入門」

こちら再登場の図です。

いまや免疫と炎症の関係は図10-5のようにまとめることができる。TLRなどのパターン認識受容体は、病原体も内在性リガンドも認識し、自然炎症もおこせば、獲得免疫も始動させる。そして、自然炎症が行きすぎると炎症性の疾患を引きおこし、獲得免疫に誤動作がおこると、自己免疫疾患を引きおこす。

従来は免疫と炎症の学会はそれぞれ独立して開催されたが、海外でおこなわれている最近の学会やシンポジウムでは、会の名称が「免疫と炎症」になっていることも多くなった。』

付記1:炎症とは

炎症反応は、体内で発生した、あるいは外部から体内に侵入した病原刺激を除去し、傷害を受けた組織を取り除く生体反応
炎症反応は、体内で発生した、あるいは外部から体内に侵入した病原刺激を除去し、傷害を受けた組織を取り除く生体反応

こちらの図は、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 病理学(免疫病理/第一病理さまより拝借しました。

炎症反応は、体内で発生した、あるいは外部から体内に侵入した病原刺激を除去し、傷害を受けた組織を取り除く生体反応です。とくに微生物侵入に対する最初の防御系として働いており、生命維持に必須の生体防御反応です。炎症反応がないと、私達は生きていけません。炎症反応は、効率的・戦略的な戦力配分のもと、様々な炎症メディエーターによりダイナミックに制御されています。』

付記2:「これは2型マクロファージも関与!?」

テロメア・エフェクト
テロメア・エフェクト

テロメアは遺伝情報を保護する役目を担っています。そのテロメアの配列を同定し、テロメアを伸長する酵素・テロメラーゼを発見した業績で、ブラックバーン先生は2009年に、ノーベル生理学・医学賞を受賞されました。この本はそのブラックバーン先生の著書です。本には以下のようなことも書かれています。

運動によって体の分子は損傷を受け、損傷した分子は炎症を引き起こす可能性がある。だが、運動を始めてまもなく、オートファジー[細胞内のタンパク質を分解するための仕組み、自食作用]という現象が起き、細胞はまるでパックマンのように、細胞内の損傷した分子を食べてしまう。これにより、炎症を防ぐことができる。

運動が細胞内部にもたらすメリット
運動が細胞内部にもたらすメリット

「これは何だろう?」というのが疑問だったのですが、これは今回学んだ、“2型マクロファージ”も関わっているのではないかと思います。

付記3:“腎疾患の進展に自然炎症が果たす役割に着目した新規治療の開発”

当院は慢性腎臓病でご来院頂いている患者さまが多いのですが、今回、腎疾患と自然炎症に関する論文を見つけましたのでご紹介させて頂きます。資料はPDF4枚です(クリック)。ここに出てくる内在性リガンド(内因性リガンド)は既出の図10-5の中では”虚血”が特に重要ではなかと思います。それは腎臓が極めて多くの酸素を必要とする臓器であるためです。

『慢性腎臓病(CKD)は本邦において 1,300万人を超え、CKDから透析へ移行する患者数は年間 38,000人前後を推移しており、生活の質および医療経済などといった面で多大な影響を及ぼしている。その克服は大きな課題であり、RAS阻害を主体とする適切な降圧療法や生活指導などに加えて新しい観点からの治療法開発が望まれている。内因性リガンドと病原体センサー間の相互作用による慢性炎症(自然炎症)は生活習慣病やガンなど現代病の発症に重要であることが明らかされつつある中で、腎臓における役割は不明であった。最近我々は自然炎症に重要な役割を果たす toll-like receptor 4(TLR4)が糖尿病性腎症の進展に重要であることを明らかにし、TLR4の強力な内因性リガンドの一つである myeloid-relatedprotein 8(MRP8)がその病態に重要な可能性を報告した。』

『糸球体腎炎は本邦における透析導入原疾患として糖尿病性腎症に続く第 2位を占める疾患である。中でも半月体形成性腎炎は腎予後のみならず生命予後も脅かされる予後不良疾患であり、特に高齢者での発症が多いことで知られている。現在ステロイド、免疫抑制剤が治療の主体となっているが、感染合併による死亡例が後を絶たず、治療を断念せざるを得ないケースも多く認められる。内因性リガンドを治療標的とする新しい治療ストラテジーは新規創薬につながる可能性が期待される。今回急性期の観察で MRP8欠損による腎症軽減効果が確認された。今後長期的モデルあるいは観察により、慢性化に及ぼす影響を検討する必要がある。

心は量子で語れるか2

著者:ロジャー・ペンローズ
心は量子で語れるか

著者:ロジャー・ペンローズ (Roger Penrose)

出版:講談社

発行:1998年3月

目次については”心は量子で語れるか1”を参照ください。

第一部 宇宙と量子と人間の心

第三章 心の神秘

意識はコンピュータに乗せられない

・意識というものは科学的に説明すべき問題である。

・図3-4は物質的世界と精神的世界をまとめたものである。

物質的世界と精神的世界の特徴
物質的世界と精神的世界の特徴

画像出展:「心は量子で語れるか」

『右側には“物質的世界”の様子が示されている―第一、第二で論じたように、物質的世界は、正確で数学的な物理法則によって支配されていると考えられる。左側には“精神的世界”に属する意識や、“魂”や“精神”や“宗教”などの言葉が並んでいる。』

 

微小管は八面六臂

・微小管はシナプス強度[シナプスにおける情報伝達率]の決定に関係していると思われる。

・微小管がシナプス強度に影響を与える方法の一つは、樹状突起棘の性質に影響を与えることであると思われる。これは棘内部のアクチン(筋肉収縮のメカニズムを司る不可欠な構成要素)に変質が起こることによって引き起こされる。樹状突起棘に隣接する微小管は、このアクチンに強く影響を与え、ひいてはシナプス結合の形またはその誘電特性に影響を及ぼす。

・『微小管がシナプス強度に影響を与える方法は、このほか少なくとも二通りある。信号を、あるニューロンから次のニューロンに伝える神経伝達物質の運搬に、確かに微小管は関与している。神経伝達物質を軸索や樹状突起に沿って運ぶのが微小管であり、その働きは、軸索の先端や樹状突起の中の化学物質の濃度に影響を与えるだろう。そして、これがシナプス強度に影響を及ぼすことになろう。さらに微小管は、ニューロンの成長と退化に影響を与え、その結果、ニューロンを連結してできたネットワークそのものを変えてしまうだろう。 

微小管がシナプス強度に影響を与える
微小管がシナプス強度に影響を与える

画像出展:「心は量子で語れるか」

 

 

・『微小管とは何か? その一つを図3-18に描いた。それは“チューブリン”と呼ばれる、蛋白質から成る小さな管である。それはいろいろな点で興味深い。チューブリンは、(少なくとも)二つの異なる状態、または構造をもっていて、一方の構造から他方の構造へと変化できるようである。一見してわかるように、それはメッセージを管に沿って送ることができる。

メッセージを管に沿って送ることができる。
微小管:チューブリンの二量体からなる13列の円柱

画像出展:「心は量子で語れるか」

 

 

事実、スチュアート・ハメロフ[米国の麻酔科医。ロジャー・ペンローズとの意識に関する共同研究で有名]と彼の同僚は、管に沿って信号を送る方法について、興味深い考え方を示している。ハメロフによると、たぶん微小管は“セル・オートマトン”[空間に格子状に敷き詰められた多数のセルが、近隣のセルと相互作用をする中で自らの状態を時間的に変化させていく「自動機械(オートマトン)」である。計算可能性理論、数学、物理学、複雑適応系、数理生物学、微小構造モデリングなどの研究で利用される]のように振る舞い、その管に沿って複雑な信号を伝達するのだという。チューブリンの二つの異なる構造が、デジタル・コンピュータの0と1を表現していると考えてみよう。すると1個の微小管が、それ自身でコンピュータのように振る舞うことができるから、ニューロンがどんなことを行っているかを考察する際には、この点を考慮しなければならない。各ニューロンは単にスイッチのような働きをするのではなく、非常に多くの微小管をもっていて、それぞれの微小管は極めて複雑なことをやってのけるのである。

“意識”の理解に最も必要なこと  

・『ここから、私自身の考えに入ろう。以上の過程を理解する上で、量子力学は欠かせないものかもしれない。微小管で私が最も興味をおぼえることの一つは、それらが“”だということである。管であるがゆえに、管の内部で起こっていることを周囲のランダムな動きから隔離できる可能性が高まってくるのである。

第二章で私はOR物理学という新しい形式が必要だと主張した。そしてOR物理学が適切であるならば、周囲から十分に隔離されて、量子的に重ね合わされた質量移動が可能になるに違いない。管内部では、何か超伝導体[電気抵抗ゼロの物質]のような、ある種の大規模な量子的干渉[波動関数の重ね合わせの結果起こる干渉現象]が生じているのだろう。この活動が(ハメロフ型の)チューブリン構造と結びつき始めたときにのみ、おそらく顕著な質量移動を伴うはずだ。ここでは“セル・オートマトン”の振る舞い自体が、量子的重ね合わせの影響を受けるかもしれない。起こりうる状況を図3-19に描いておいた。

微小管のシステムが大規模な量子的干渉を可能にする?
微小管を取り囲む秩序化された水

画像出展:「心は量子で語れるか」

 

 

この図の一部で、おそらくあるタイプの干渉性量子的振動が、管内部で生じているに違いない。この量子的振動は脳の広範な領域にまで及ぶ必要があろう。

かなり以前にハーバート・フレーリッヒが、一般的なタイプの量子的振動に関して、いくつかの提案を行った。それによって、生物学の体系の中で、この性質をもつ対象の存在が、いくぶん現実性を帯びてきた。微小管は、その内部で大規模な量子的干渉が生じている構造と考えて差し支えないと思われる。』

・『私には、意識というものが何か大域的なものだと思われる。したがって意識の原因となるどんな物理過程も、本質的に大域的な性質をもっているに違いない。量子的干渉は確かにこの点での要求を満たしている。そのような大規模な量子的干渉が可能であるためには高度な隔離が必要とされ、微小管の壁によって、それが実現されているのかもしれない。しかしチューブリンの構造が関与するとなると、さらに多くのことが必要となる。

こうして要求される周囲からの隔離は、微小管のすぐ外側にある“秩序化された水”によってなされるだろう。(生きた細胞には存在することが知られている) 秩序化された水は、管の内部で起こる量子的干渉性振動の重要な構成要素でもあると思われる。このことはいささか難しい要求かもしれないが、以上のことがどれも事実だということは、たぶん全くの不合理というわけではないだろう。

微小管内部での量子的振動は、何らかの方法で微小管の活動、すなわちハメロフが言うところのセル・オートマトンの活動と結びつける必要があるだろうが、ここでは彼の考え方と量子力学とを結びつけなければならない。すなわち現段階では、通常の意味での計算活動だけではなく、こうしたさまざまな活動の重ね合わせに関連する量子計算も考慮しなければならない。

もし以上の話がすべてだとしたら、まだ私たちは量子レベルにとどまっていることになる。ある時点で、おそらく量子状態は環境と絡み合ってくるだろう。そのとき私たちは、量子力学における通常のRという手順に従って、一見したところランダムな方法で古典レベルへ飛び上がることになる。だが純粋な計算不可能の登場を期待するならば、これでは全く不十分である。そのためには、ORの計算不可能な側面が現れてこなければならないし、それには高度な隔離が要求される。

かくして、新たなOR物理学が重要な役割を演じるのに十分な隔離を行う何かが、脳の内部に存在しなければならない。つまり私たち〔の脳〕に必要なのは、重ね合わされた微小管による計算が一旦開始されるや、その計算が十分に隔離されて、その結果、新しい物理学が本当にその役割を果たすようになることである。

というわけで、私が考えている状況は次のようになる。しばらくの間この量子計算が進行し、十分に長い間(たぶん一秒くらいのオーダーで)、その計算は他の要素から隔離され続ける。そうすると、私が話した種類の基準が通常の量子的手順を引き継いで、非計算的な構成要素が登場し、標準的な量子論とは本質的に異なる何かが得られるのである。

もちろん以上の考え方の至る所に、かなり推測が入っている。だがそれらは、意識と生物物理学的な過程との関係をかなりはっきりと定量的に描いており、私たちに何かしら本物の展望を与えている。少なくとも私たちは、OR作用が関与するためには、どのくらいのニューロンが必要かを計算できる

その計算に必要なものは、第二章の終わりにかけて私が述べた時間スケールTの、およその見積もりである。つまり、意識上の出来事がORの出現と関係していると仮定するなら、Tをいくつと見積もるのか? 意識はどのくらいの時間を要するのか? これらの問題に関連した二つのタイプの実験があって、そのいずれにも、リベットと彼の同僚がかかわっている。二つの実験のうち一方は自由意志または能動的意識を、もう一方は、感覚または受動的意識を扱っている。

修正された物理学の全体像
修正された物理学の全体像

画像出展:「心は量子で語れるか」

客観的収縮=OR

『将来、物理学が成し遂げねばならないと思うことを示すため、図2-17には修整が施されている。Rという文字で表現した手続きは、まだ私たちが見つけていない何かを近似したものである。その未発見の何かとは、私がORと呼ぶものであり、“客観的収縮(Objective Reduction)”を表してる。

ORは客観的事実である― 一方、“または”他方が客観的に起こる ―今なお私たちには欠落している理論である。ORというのは、うまい頭文字になっている。というのもORは“または”をも表しており、それは実際、一方“もしくは”(OR)他方のどちらかが起こるからである。』 

自然は、私たちが未だ理解していない何らかの法則に従って、どちらか一方の時空を選択する。
分岐しようとしている時空の模式図

画像出展:「心は量子で語れるか」

自然が審判を下すための時間

『プランク長の10⁻33センチメートルは、量子状態の収縮とどんな関係があるのだろうか? 図2-19に、分岐しようとしている時空をかなり模式図的に示した。

ここで、二つの時空(一方は生きた猫を、他方は死んだ猫を表すことができる)が一つの重ね合わせに至る状態があって、この二つの時空は何とかして重ね合わせられる必要があるとしよう。このとき、次のような疑問が生じる。

「互いに法則を変えるべきだと思えるほど、二つの時空が十分に異なるようになるのはいつか?」

ある適切な意味で、二つの時空の差がおよそプランク長のオーダーに等しくなるとき、私たちはそのような状況に遭遇するだろう。二つの時空の幾何学がそれくらいの違いを見せ始めるとき、そのときこそ、私たちは法則が変わることを心配しなくてはならないだろう。なお、強調しておくが、私たちが扱っているのは時空であり、単なる空間ではない。

“プランク・スケールの時空分離”については、小さな空間的分離がより長い時間に対応し、より大きな空間的分離がより短い時間に対応する。ここで必要なのは、どんな場合に二つの時空が有意に異なるかを見積もるための評価基準である。

そこから、二つの時空の間で自然が選択を行う際の“時間スケール”が導かれるだろう。こうして自然は、私たちが未だ理解していない何らかの法則に従って、どちらか一方の時空を選択するのである。

この選択を行うのに、自然はどのくらいの時間を要するのか? アインシュタインの理論に対するニュートン的近似が十分であって、かつ、量子論重ね合わせ(二つの複素振幅の大きさは大体等しい)に従う二つの重力場が明らかに異なるとき、その時間スケールを設計することができる。私が示そうとする答えは、次のようになる。まず猫を球体で置き換えてみる。

では、その球体はどれくらいの大きさで、どこまで動かなければならないのか? また状態ベクトルの崩壊が生じるための時間スケールはどれくらいなのか(図2-20)? 

画像出展:「心は量子で語れるか」

私は、一つの状態ともう一つの重ね合わせを、不安定な状態―それは崩壊しかかっている素粒子やウラン原子核などに少し似ている―と見なしたい。素粒子などは崩壊すると別のものになるが、その崩壊と結びついた一定の時間スケールが存在する。状態の重ね合わせが不安定だというのは一つの仮説だが、この不安定性は、私たちが理解していない物理学の存在を暗示しているはずである。

崩壊の時間スケールを算出するため、ある状態の球体を、(その球体の)別の状態の重力場から移動させるために必要なエネルギーEを考えてみよう。プランク定数を2πで割ったℏ[換算プランク定数またはディラック定数]を重力エネルギーEで割ると、この状態での崩壊に対する時間スケールTとなるはずである。

T=ℏ/E

この一般的な推論に従う多くの理論がある。一般的な重力理論は、細かな点では違いがあるものの、どれもこれと何かしら同じ趣き〔似たような関係〕を備えている。』

微小管について

まずは「人体の正常構造と機能」という本に出ていた3つの図をご紹介します。

●微小管は太さ約24㎚の中空の管であり、チューブリンという蛋白質からできている。

●線毛や鞭毛の動きは微小管が行っている。

●神経の軸索突起などの大きな細胞突起を支持する。

●細胞分裂の際に、染色体を両極に引っぱる紡錘糸は微小管からできている。

微小管の構造
微小管の構造

画像出展:「人体の正常構造と機能」

■線毛の芯は“9+2配列”の微小管でできている

『線毛の中央部は直径0.25~0.3μmで、電子顕微鏡で観察すると、各線毛は細胞膜で囲まれ、その中に微小管とその付属蛋白からなる軸糸という構造が認められる。軸糸を構成する微小管は、チューブリンという球状蛋白が重合してできた管状の構造物で、外径25㎚、壁厚5㎚ほどある。軸糸の中心には1対の単一微小管からなる中心微小管があり、そのまわりを9対の二連微小管からなる周辺微小管が取り囲む。各周辺微小管の作る面は、線毛の接線面に対し5~10度傾いており、中心近くにあるものからA細管、B細管と呼ぶ。A細管と中心微小管とはスポークで連結される。またA細管から隣の周辺微小管のB細管に向かって、ダイニンというモーター蛋白でできた2本の腕突起(内腕と外腕)が伸びており、内腕はさらにネキシンの細い線維が結合している。これらは微小管の長軸方向に一定の間隔で並ぶ。線毛の先端側は微小管のプラス端にあたり、各微小管は自由な断端となって終わる。線毛の根元側は微小管のマイナス端にあたり、細胞質内まで伸びたところで周辺周辺微小管にさらにC細管が加わり、基底小体という三連微小管となる。この周辺には根小毛という線維束があり、線毛を細胞質に固定している。基底小体下にはミトコンドリアが豊富である。

■線毛の屈曲運動は微小管の滑り合いによって起こる

『線毛の屈曲は、周辺微小管の滑り合いにより生じる。周辺微小管の腕突起を構成するダイニン蛋白はATPase活性を持ち、ATPの存在下で隣の微小管のB細管上をマイナス端へ向かって移動する。その結果、微小管どうしが滑り合い、線毛は屈曲する。滑り合いと屈曲運動の関係は、短柵状の紙を2枚に折って重ねて指で滑らせてみると納得がいくだろう。線毛内のスポークやその他の連結の役目をする構造物も、線毛運動の調節をしていると考えられている。』

精子の構造
精子の構造

画像出展:「人体の正常構造と機能」

■精子は長距離を移動するために無駄のない形をしている

『尾部[遊泳運動を担う]は長さ約60μmの鞭毛からなる。鞭毛の中心を軸糸と呼ばれる構造が全長にわたって走行している。軸糸は、2本の中心微小管とそれを取り巻く9対の周辺微小管で構成され、線毛にみられるのと同様の構造である。これらのチューブリンという蛋白質からなり、その滑り合いによって軸糸を屈曲させ、独特の三次元的波状運動をもたらす。軸糸の屈曲に要するエネルギーは、中間部の軸糸をらせん状に取り囲むように配列するミトコンドリア鞘で産生されるATPによって供給される。』 

軸索輸送:微小管は輸送のレールの役目を担う
軸索輸送:微小管は輸送のレールの役目を担う

画像出展:「人体の正常構造と機能」

■軸索輸送によって必要な物質が供給される

軸索内には蛋白合成を行う細胞内小器官がない。そのため、軸索の成長やシナプスの形成に必要な蛋白質や小器官は、細胞体で合成されたのち、軸索を通って輸送される。これを順行性軸索輸送という、逆に、神経終末で取り込まれた栄養因子や化学物質は、逆行性軸索輸送により細胞体へ輸送される。微小管がこれらの輸送のレールの役目を果たし、モーター蛋白のキネシンをはじめとするKIF蛋白は順行性の輸送に、ダイニンは逆行性の輸送に働く。

順行性輸送では、いろいろな物質が異なる速さで運ばれる。シナプス小胞は速い流れ(100~400㎜/day)で、ミトコンドリアは中間の流れ(60㎜/day)で、細胞骨格(アクチン、ニューロフィラメント、微小管)は遅い流れ(10㎜/day以下)で運ばれる。逆行性輸送では、100~200㎜/dayの速さでライソソームなどが運ばれる。

軸索内では、微小管はチューブリンの重合と脱重合の速度が速い分、つまり微小管の伸長している部分(プラス端)は絶えず遠位側にある。また、軸索にはタウ蛋白と呼ばれる微小管関連蛋白が特異的に分布しており、チューブリンの重合を促進し微小管の安定化に寄与している。』 

続いて、「病気を治す飲水法」に出ていたもの(ブログは“飲水の重要性”)と、その時に見つけたサイトをご紹介します。 

神経の水輸送システム
神経の水輸送システム

画像出展:「病気を治す飲水法」

『脳で生産された物質は、水に乗って、神経終末部の目標地点にたどり着き、情報の伝達に使われる。神経には、情報を梱包して流す「極微細管」と呼ばれる微細な水路が存在する。

原文が確認できないので、“極微細管”が“微小管”のことであるのかは分からないのですが、図を見る限り、同一のものだと思われます。この図に興味をもったのは、「神経伝達に水路がある」ということに大変驚いたためです。

この時、この“水路”に関してネットで見つけたサイトが以下のものになります。残念ながら“水路”というものではなかったのですが、絵が似ていたことと、「細胞内輸送の解明にかける思い」という記事から関係があるように思いました。

 

細胞内輸送:微小管のレールに沿って行き来している
細胞内輸送:微小管のレールに沿って行き来している

画像出展:「UTokyo Focus

"細胞内輸送の解明にかける思い"

『細胞は細胞液の入った風船のようなもので、その中に核やミトコンドリアなどの細胞小器官が漂っていると思われがちです。しかし、実際には、微小管というレールが整然と張り巡らされており、それに沿ってミトコンドリアや小胞(膜でできた袋)などの「荷物」が行き来しています。これを「細胞内輸送」といいます。レールの上で荷物を運んでいるのは、小さなモータータンパク質です。「モータータンパク質が人間のサイズだとしたら、直径5mの土管の上を、10トントラックをかついで、秒速100m以上の速さで走っていることになります」と語るのは、医学研究科の廣川信隆特任教授。神経細胞をモデルとして、細胞内輸送のメカニズム解明に取り組んできました。』 

感想

「心や意識は脳が作り出すもの」。これは正確ではないかもしれませんが、深く関係しているのは間違いありません。

ストレスは脳にアタックをかけます。脳が疲労し、その疲労が身体におよぶと自律神経失調症が懸念されます。ちょっと強引ですが、「病は気から」ということわざの“気”は脳の疲労などによってもたらされた“ネガティブな意識”ということかもしれません。 

ストレスは脳にアタックをかける
ストレスは脳にアタックをかける

画像出展:「自律神経失調症を知ろう」

 

一方、「ポジティブ・シンキング」、「瞑想法」などはネガティブなストレスとは異なり、心身にとって良いポジティブなものですが、こちらも脳(心や意識)と肉体のつながりを感じさせます。

以下の左図に書かれているように脳は“神経系”の中の“中枢神経系”とよばれています。これは脳が指令を出すためです。出された指令は“末梢神経系”によって然るべき組織や器官に届きます。“末梢神経系”には運動や感覚などの動物性機能を担う体性神経系(動物神経系)と、内臓や血管に分布して呼吸、消化、吸収、循環、分泌などの活動を不随意的に調節する自律神経系(植物神経系)があります。

なお、右側の図を見て頂くと、“神経系”は内臓を含め、体中をカバーしているのが分かります。

注)2つの図は「看護roo!」さまより拝借しました。

左図:“神経系はどんな構成になっている?”より 

右図:“神経のしくみと働き|神経系の機能”より 


左の図では“交感神経”も“副交感神経”も「遠心性」(脳⇒末梢)となっていますが、現在は次のような見解が正しいとされています。つまり、“自律神経”は「遠心性+求心性」(脳⇔末梢)ということです。

求心性神経と遠心性神経:自律神経系(交感神経と副交感神経)は、かつては遠心性の線維のみからなるとされていたが、求心性線維も多く含まれていることがわかってきた。迷走神経(副交感神経)構成線維の約75%、内臓神経(交感神経)の50%は求心性線維とされている。 実験医学 2010年6月号 Vol.28 No.9』 

“神経”は我々のような動物だけでなく、ゾウリムシのような単細胞生物にも存在します(「動くニューロン[神経細胞]」と呼ばれているそうです)。また、神経ということではありませんが、微生物とされるバクテリアの線毛にも微小管は存在しています。

以上のことから神経細胞の輸送のためのレールなど、微小管は地球上の多くの生物の中にあり、生命に深く関わっていると言えます。さらに、微小管は精子の尾部(鞭毛)にも存在しているので、種の保存という大事な仕事も任されています。

そして微小管はペンローズ先生がご指摘されているように“”として内部と外部を分けることができるという大変興味深い特徴を有しています。マクロ(ニュートン力学)の世界とミクロ(量子力学)の世界を分けているのかも知れません。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

ペンローズ先生は「心は量子で語れるか」の中で、“微小管”と“水”の関係についてもお話されていました。

『私には、意識というものが何か大域的なものだと思われる。したがって意識の原因となるどんな物理過程も、本質的に大域的な性質をもっているに違いない。量子的干渉は確かにこの点での要求を満たしている。そのような大規模な量子的干渉が可能であるためには高度な隔離が必要とされ、微小管の壁によって、それが実現されているのかもしれない。しかしチューブリンの構造が関与するとなると、さらに多くのことが必要となる。

こうして要求される周囲からの隔離は、微小管のすぐ外側にある“秩序化された水”によってなされるだろう(生きた細胞には存在することが知られている)。秩序化された水は、管の内部で起こる量子的干渉性振動の重要な構成要素でもあると思われる。

この“水”は鍼灸師の私にとってとても興味深いものです。

人間の体は成人では60~65%が水で満たされています。また、東洋医学には“津液(シンエキ)”という考え方があります。津液とは人体を潤す全ての正常な水液とされています。この津液をあえて現代医学に当てはめて意識するときに、汗や涙、唾液や胃液、血漿、リンパ、漿液、脳脊髄液などを想像していました。今回の件で、その水の中には神経伝達に関わる水、微小管のすぐ外側にある“秩序化された水”があることを知りました。これは大きな発見です。私の“津液”のイメージにこの”秩序化された水”も加えたいと思います。

付記ロジャー・ペンローズ先生は、2020年のノーベル物理学賞を受賞されました。

画像出展:「SankeiBiz

 

画像出展:「WAKARA」

アインシュタイン以来の天才!?ノーベル物理学賞受賞ロジャー・ペンローズが生み出した現代宇宙観

『実は、ブラックホールが存在する可能性に気づいたのは、ペンローズが初めてではありません。天体物理学者カー・シュヴァルツシルトが、相対性理論の重要な方程式であるアインシュタイン方程式を解いてみたところ、ある特殊解が得られて、その結果特異点が存在することに気づきました。のちにブラックホール発見の重要なきっかけとなった特異点ですが、当時アインシュタイン自身はこの特異点について、「あくまで理論的な計算の結果出てきたもので、実在するものとは無関係である」と判断し、1939年の自身の論文でブラックホールの存在を明確に否定しているのです。

その説をアインシュタインが相対性理論を生み出した方法と同じ、計算によって覆して見せたのがペンローズでした。彼は相対性理論を拡張し、特異点、つまりブラックホールが相対性理論から自然に導かれる存在であることを証明しました。星の大きさに対して一定の重さになるとその星が崩壊し特異点を生じ、その特異点ではあらゆる物質、光でさえも一度入ると抜け出せない、ブラックホールになることを相対性理論から導いて見せたのです!彼が1965年に書いた画期的な論文は、相対性理論におけるアインシュタイン以来の前進とみなされています。』 

心は量子で語れるか1

原題は、「THE LARGE, THE SMALL AND THE HUMAM MIND」です。発行は1997年なので、およそ23年前ということになります。

邦題である「心は量子で語れるか」は、翻訳された中村和幸先生が付けられたのですが、それは次のような理由からです。

『なお、原題にあるように、本書では宇宙と量子と人間の心を扱っているが、意識は無数の量子によって生じるというペンローズの意を受けて、邦題では「心は量子で語れるか」とした。』 

著者:ロジャー・ペンローズ
心は量子で語れるか

著者:ロジャー・ペンローズ (Roger Penrose)

出版:講談社

発行:1998年3月

私は、以前“生物と量子力学3(意識)”というブログをアップしているのですが、その時にロジャー・ペンローズ先生の「皇帝の新しい心」という本の存在を知りました。そして、この時から「量子と心(意識)との関係」について関心を持っていました。

皇帝の新しい心
皇帝の新しい心

発行は1994年。原書の発行は1989年です。

ネット検索中に「心は量子で語れるか」という本を見つけ、当然、難解な内容であることは承知しつつも思わず買ってしまいました。

本の内容は想像以上に難しく、ほとんど理解できませんでした。にもかかわらず、ブログにアップしたのは、この本の題名がとても気に入ったのと、微小管が謎を解く重要な器官らしいということを知ったためです。

この本がどんな本なのかをご説明することも難しいため、目次に続き、翻訳された中村先生が書かれた“翻訳にあたって”の冒頭の部分と、同じく中村先生の“訳者あとがき”の一部をご紹介させて頂きます。また、それ以降は微小管について書かれた第三章の“意識はコンピュータに乗せられない”、“微小管は八面六臂”、“意識の理解に最も必要なこと”の3つを中心にご紹介していますが、力不足のため要約することができず、多くが引用となっています。なお、[ ]内は用語説明として私自身が書き加えたものになります。また、ブログは長くなったので2つに分けました。

ご参考になるかどうか分からないのですが、過去に2つのブログをアップしていますのでご紹介させて頂きます。

◆“量子論1

◆“量子論2

目次

マルコルム・ロンゲアによる序文

第一部 宇宙と量子と人間の心

第一章 宇宙の未完成交響曲

数学が描き出す世界

人間的スケールの不思議

誤解された量子力学

ニュートンの時空図、アインシュタインの時空図

光円錐の見方

驚くべき変換

ニュートン力学よりシンプルな相対論

重力は消えていない

テンソルは語る

アインシュタインはこんなにも正しい

目の前の空間を漂う理論

空間の曲率で宇宙を分類する

宇宙空間を牛耳る天使と悪魔

悩みから生まれた幾何学

ロバチェフスキー空間の魅力

COBE衛星が見たもの

見えないエントロピーをつかまえる

私たちが探し求める理論

ワイル曲率仮説

神の一刺し

第二章 量子力学の神秘

数学から物理学へ、物理学から数学へ

古代ギリシアに逆もどり?

どこでも量子力学

複素数の妙技

変わる法則

量子状態をどう表現するか

Zミステリー、Xミステリー

Zミステリー(1) 量子的な非局所性

Zミステリー(2) 爆弾検査問題

もしも量子力学を信じるならば

本当に“まじめ”なのか

多世界観による“認識”の解釈

“こちら”と“あちら”の扱い方

現実を記述するのは不可能か

すべての実用的な目的のためにできること

客観的収縮=OR 

あらかじめ仕組まれた挫折

自然が審判を下すための時間

重力エネルギーの非局所性

“環境”が量子力学に及ぼす影響

立方体の完成を目指して

第三章 心の神秘

ホッパーが考えた第三の世界

三つの神秘、三つの偏見

意識はコンピュータに乗せられない

アウェアネス、自由意志、理解

アウェアネスに対する四つの立場

コンピュータが指した次の一手

簡単な計算にトライ

爆走する計算

Ⅱ₁文とは何か

完全な証明などあるのだろうか

チューリング対ゲーデル

二つのイラストでアルゴリズムの謎を解く

プラトン的世界との接触

ポリオミノ・タイリング

計算不可能性の台頭

ニューロンは計算的か

微小管は八面六臂

“意識”の理解に最も必要なこと  

パラドックスを生む二つの実験

これが偶然と思えるか

第二部 ペンローズと三人の科学者

第四章 精神、量子力学、潜在的可能性の実現について

アブナー・シモニー  ボストン大学名誉教授

序論

四・一 精神の解明を目指して

四・二 量子力学は心身の問題を説明できるか

四・三 潜在的可能性を実現させるために

第五章 なぜ物理学か?

ナンシー・カートライト  ロンドン大学社会科学部教授

第六章 恥知らずな反論

スティーブン・ホーキング  ケンブリッジ大学ルーカス記念講座教授

第七章 それでも地球は回る

ロジャー・ペンローズ

オックスフォード大学ラウズ・ボール記念講座教授

七・一 アブナー・シモニーへの回答

七・二 ナンシー・カートライトへの回答

七・三 スティーブン・ホーキングへの回答

訳者あとがき

翻訳にあたって

『本書は、今世紀における天才数学者の一人にかぞえられるロジャー・ペンローズが、彼自身の量子論や宇宙論の知識を駆使して、人間の魂の根源に迫ろうとした力作である。はたして現代物理学 ―特に量子力学― には、人間の意識について語る資格があるのだろうか? ペンローズ自身は、現在の量子力学は不完全だと考えており、それをより精密なものにすることによって、人の魂の成り立ちを説明できると主張している。もちろんこの主張には数多くの批判が寄せられているが、さまざまな機会をとらえて、ペンローズは自己の立場を擁護している。

それにしてもペンローズの話は、実に壮大なドラマである。まず新しい量子論を掲げ、次に数学の立場から人間の思考や意識の特色を探り出し、それらをふまえて物質から精神が生じるさまを説明しようというのである。さらにペンローズは、意識が生じる場所として、生体中の微小管をその候補に挙げている。

この予想が的確かどうかは、今後の科学の進展を待たねばならないが、幅広い知識に基づいて一つの仮説を作り上げた彼の構想力は、並大抵のものではない。また、実験で確認できることをペンローズは提案しており、論争の白黒はそこでつけられるだろう。』

訳者あとがき

『よく知られているように、量子力学ではシュレディンガーの波動方程式[粒子の運動状態を記述する方程式]が重要な役割を果たしている。その方程式には、現実世界では見かけない虚数単位i[2乗して-1となる数のこと(記号iで表す)]が登場し、何か奇妙な印象を与えるかもしれない。しかしペンローズが本書の第二章で述べているように、そうしたプラトニック[観念的]な構成を整えることによって、原子の安定性や電子のエネルギー準位[量子力学において電子が安定状態でもちうるエネルギーの値]などを、見事に説明することができたのである。現実をうまく説明できること、これは理論にとって非常に大切なことである。 

シュレーディンガー方程式
シュレーディンガー方程式

画像出展:「量子論を楽しむ本」

nemlogさまの“量子論の確率解釈 -神はサイコロを振らない-”というブログに、左のイラストに関する詳しい説明が出ています。

 

だが科学の歴史をひもとくとわかるように、ある理論が数多くの現象をうまく説明できず、その解決には一般相対論の登場を待たなければならなかった。同じような事態が、実は量子力学でも起こりうるとペンローズは考えているのである。

ここで問題になるのは、本書で言うところの“状態ベクトルの収縮(R)”[この用語は、『心の影2―意識をめぐる未知の科学を探る』の “第2部 心を理解するのにどんな新しい物理学が必要なのか:心のための計算不可能な物理学の探求”の“5 量子世界の構造”の中に出てくるようです]である。

たとえば電子の場合、観測以前には決定論的で波の状態にあるが、観測した疑問にその波が一点に収縮してしまうのである。しかもそれがどこに収縮するかは確率論的にしかわからない。そもそも人間の観測によって収縮することをどう考えるのか? また量子レベルU(ユリタリ)[こちらは『心の影2』では“ユニタリ発展U”として出ているようです。また、大阪市立大学 橋本義武先生の“雑文集”の“量子力学の枠組み”に、『量子力学は、原子レベルの現象を統計的に記述する。用いるのはユニタリ行列の数学である。』との記述がありました]過程は時間反転に対して対称だが、R過程は時間反転に対して非対称になっている。

そこで、この状態ベクトルの収縮をめぐって、量子力学の世界にさまざまな解釈が生まれており、それをペンローズが第二章の図2-8で要約している。 

量子力学に対する物理学者の分類
量子力学に対する物理学者の分類

画像出展:「心は量子で語れるか」

 

その中で主だったものには、ニールス・ボーアを中心としたコペンハーゲン解釈[量子世界の物理状態は重ね合わさり、波を形づくっているが、観測された瞬間に波はしぼみ、1つの状態に落ち着く(波束の収縮)。どの状態が観測されるかは、波の振幅をもとに確率論的に予想できるというもの]やそれと通じるところがあるFAPP[“すべての実用的な目的のために(For All Practical Purposes)”の意味]があり、さらに多世界解釈[観測者の世界が枝分かれするとみる立場]がある。

コペンハーゲン解釈にはボルンの確率解釈理論[電子のような小さな粒子を観測する確率が、波動関数の絶対値の2乗に比例するという法則]的な計算と実験結果とが一致するのだが、波が収縮するメカニズムを明確にはしていない。  

コペンハーゲン解釈観測すると、電子の波が瞬時にちぢむ!?