がんとエクソソーム

今回も前回に続き、NHKスペシャル「人体」取材班編集による、「神秘の巨大ネットワーク 人体4」からになります。第7集 “健康長寿” 究極の挑戦」の概要を紹介している文章には、次のようなことが書かれています。

『これらの病気[がん・心臓病・脳卒中]に立ち向かうために、いま、全く新しい治療戦略が開発されようとしている。カギを握るのは、人体の中で臓器同士や細胞同士が繰り広げている会話、いわば人体の「情報ネットワーク」という視点である。“健康寿命”をかなえるための究極の挑戦がいま、始まっている。

日本人の三大疾病とされる、「がん」「心臓病」「脳卒中」に対し、“エクソソーム”は「がん」と「心臓病」の治療にも関わっているようです(前者は“エクソソームを標的としたがん治療”、後者は“エクソソームから心筋細胞を再生”というタイトルで紹介されています)

“エクソソーム”という言葉は知っていましたが、重要性はもちろん、どんなものかも理解できていませんでした。そこで、がんとエクソソームの関係性を勉強しながら、エクソソームのことも知ろうと思いました。

神秘の巨大ネットワーク4
神秘の巨大ネットワーク4

編集:NHKスペシャル「人体」取材班

出版:東京書籍(株)

発行:2018年8月

第6集 “生命誕生”見えた!母と子ミクロの会話

Part1 新たな命が発信する最初のメッセージ

●新たな命が始まる瞬間を追う

●まず迎える、着床という妊娠の最難関門

●子から母への最初のメッセージ

●妊娠検査にも利用されるhCG

Part2 人体をつくる驚異の仕組み

●“ドミノ式全自動プログラム”

●万能細胞が開いた神秘の扉

●最初に生まれる臓器は、心臓

●心臓の次は、肝臓

●さまざまなメッセージが連鎖して作用する

●ぐんぐん成長する赤ちゃん

※万能細胞が切り拓く新しい世界

Part3 胎盤の中で繰り広げられる母と子のやりとり

●10か月で驚きの成長を遂げる赤ちゃん

●母と子をつなぐ命綱

●胎盤の中で繰り広げられる驚異の共同作業

●1つ1つのメッセージを専用装置でやりとり

●そして、誕生

※もう1つの生命誕生物語

Part4 生命誕生の解明が医療の未来を切り拓く

●原因不明の難病に苦しむ女の子

●肝臓移植の代わりになる再生医療

●何になるべきかを知っていた細胞

●生命誕生に学ぶ未来の医療

●“ミクロの会話”がもたらす希望の光

※臓器づくりに欠かせない細胞同士の会話

第7集 “健康長寿” 究極の挑戦

Part1 「がん」が送り出す恐ろしいメッセージ

●日本人の死因第1位のがん

●何度取り除いても発症するがん

●映像が捉えたがん細胞の増殖

●がん細胞が血管を引き寄せる仕組み

●特殊なメッセージ物質、エクソソーム

●それはメッセージの宝箱だった

●宝箱を悪用するがん細胞

●免疫細胞も手なずけるがん細胞

●エクソソームががんの転移のカギを握る

●転移のための環境を整えるがん細胞

●体内のエクソソームは100兆個以上

Part2 「がん」との戦いの最前線

●がん治療の新時代

●13種類のがんの早期診断を目指す

●運動ががん治療につながる

●エクソソームを標的としたがん治療

●光と免疫でがんを攻撃

●牛乳からがんの治療薬も……?

Part3 不可能に挑む! 次世代の心臓再生医療

●いったん傷ついた心臓はもとに戻らない

●心臓の中のメッセージ物質

●エクソソームから心筋細胞を再生

●メッセージ物質を使った治療のメリット

●iPS細胞を使った心臓の再生医療

Part4 神秘の巨大ネットワーク

●人体の解明へさらなる挑戦は続く

●臓器同士をつなぐ情報ネットワーク

●全身の免疫力を司る腸

●骨が若さを生み出す

●幹細胞から骨をつくり「健康寿命」を延ばす

●人体探求の“たすきリレー”は次世代へ

特集:人体ART

第7集 “健康長寿” 究極の挑戦

Part1 「がん」が送り出す恐ろしいメッセージ

がん細胞が血管を引き寄せる仕組み

・がん細胞も正常な細胞と同じように、血管新生を引き起こすために様々なメッセージ物質を利用しているが、VEGF(血管内皮増殖因子)もその一つで、VEGFは細胞や組織に酸素が足りなくなると増加し、血管を作る細胞に働きかけて血管新生を促す。

・がん細胞は大量のVEGFを放出し、それを受け取った血管はがん細胞に向けて新たな血管を伸ばし始める。その血管から栄養を得て、がん細胞は増殖する。

特殊なメッセージ物質、エクソソーム

皮膚のがん細胞
皮膚のがん細胞

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『皮膚のがん細胞の電子顕微鏡写真。表面から次々と白い光が放たれる。その光の中にがん細胞のメッセージ物質が潜んでいる』

がん細胞から放出されたエクソソーム
がん細胞から放出されたエクソソーム

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『この白く輝く光が、がん細胞から放たれのメッセージカプセル「エクソソーム」』

エクソソームの大きさは約1/10000mm
エクソソームの大きさは約1/10000mm

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『電子顕微鏡が捉えたエクソソーム。大きさはおよそ1万分の1mm

・『エクソソームは1980年代に発見された構造体で、当時は細胞にとって不要な“ゴミ箱”のような存在だと考えられた。いまのように詳しい解析手法がなく、調べても老廃物しか見つからなかったからだ。そのため、長い間、あまり注目されることがなかったのだが、2007年になって状況が一変した。内包しているのはRNAという遺伝物質だと分かったからだ。研究は一気に進むようになり、いまでは、さまざまな細胞がエクソソームを細胞外に放出していること、放出されたエクソソームが血液、唾液、尿、羊水などを介して体内を巡り、離れた細胞や組織に情報を伝令していることなどが分かっている。

さらに驚くべきことに、がん細胞もまた情報のやりとりにエクソソームを使っていることが分かってきた。「エクソソームはまだ十分に解明されているとはいえず、謎も多く残されています。近い将来、エクソソームによってこれまでの常識を覆すような組織や臓器同士の会話が明らかになるでしょう」。ぺへテル博士[がん細胞から放出されたエクソソームの撮影に世界で初めて成功した]映像はそう語る。』

それはメッセージの宝箱だった

・エクソソーム内にはマイクロRNAが含まれている。マイクロとはmRNA(メッセンジャーRNA)が1000塩基を超えるのに対し、マイクロRNAの塩基は約22塩基と約1/50と非常に短いためである。マイクロRNAが発見されたのは1993年、そして2007年にはマイクロRNAはエクソソームに包まれて細胞外へ放出されることが明らかになった。細胞外に出たマイクロRNAはエクソソームというカプセルに内包された状態で血流などに乗り、遠く離れた組織や臓器に運ばれ、そこでの遺伝子の働き方を調節する役割を担っていることが分かった。

・エクソソームの中のマイクロRNAは、受け取る細胞を根幹から変えることができる。

宝箱を悪用するがん細胞

・エクソソームと病気との関連は特に注目されている。細胞は常にエクソソームを分泌しているが、病気になるとその分泌量や種類が変化することが分かっている。このエクソソームの特徴は病気の診断や治療に活かせるかもしれない。

・『がん細胞は、エクソソーム内に特定のマイクロRNAを詰め込み、メッセージ物質として血管へと送り出す。血管に到達したエクソソームは、血管を構成する血管内皮細胞の中へと潜り込み、カプセル内のマイクロRNAを放出する。そのマイクロRNAには「もっと栄養が欲しい」という、がん細胞からのメッセージが込められている。するとメッセージを受け取った血管内皮細胞は、正常な細胞からのメッセージと勘違いして、がん細胞に向かって新たな血管を伸ばし始めるというのだ。なお、VEGFとエクソソームのどちらがより大きな役割を果たすのか、といったことはいまも解明が進められている。』

免疫細胞も手なずけるがん細胞

・がん細胞は敵であるはずの免疫細胞を味方にする術を持っている。

・『がん細胞が攻撃しようと迫ってくる免疫細胞に対し、がん細胞はエクソソームの中にメッセージを詰め込んで送り届ける。そのメッセージは、いわば「攻撃するのをやめて」というもの。すると、免疫細胞はがん細胞を味方だと勘違いして瞬く間にてなずけられ、攻撃をやめてしまうというのだ。がん細胞は、私たちの体内にある大切なネットワークを知り尽くし、そのシステムを乗っ取るかのようにして、増殖を繰り返していると考えられる。』

がん細胞を攻撃する免疫細胞
がん細胞を攻撃する免疫細胞

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『がん細胞に近づいた免疫細胞(上)は、がん細胞に食らいつき、攻撃物質(赤色)を発射して退治しようとする(下)

免疫細胞をあざむくがん細胞
免疫細胞をあざむくがん細胞

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『がん細胞からのメッセージ物質によって、”ある働きかけ”を受けた免疫細胞は、がん細胞を味方だと勘違いして攻撃をやめてしまう。このとき、がん細胞が駆使しているのがエクソソームだ

エクソソームががんの転移のカギを握る

がんの最も恐ろしい特徴である「転移」の過程でも、がん細胞が巧みにエクソソームを操っていることが分かってきた。

転移のための環境を整えるがん細胞

・がんは自分の分身としてエクソソームの分泌し、目的の臓器に先遣隊として送り届け、転移のための環境を整える。

・エクソソームには体のバリア機能を破壊し、破綻させるという機能があると考えられる。

・エクソソームの表面には、届け先を特定する“荷札”のようなものがつけられていて、目的とする特定の細胞に取り込まれる仕組みがあるらしい。

・脳には血液脳関門という強固なバリアがあるが、エクソソームがどのようにして突破するのかという疑問も少しずつ分かってきている。

体内のエクソソームは100兆個以上

人体の全ての細胞はエクソソームを出しており、血液などのさまざまな体液中でその存在が確認されている。

・血液中の100兆個以上のエクソソームが流れていると推定されている。

・エクソソームは受精や発生においても重要な役割を担っていることが分かってきた。

・受精時の卵子はエクソソームを膜の表面上に放出することで、膜を保護するとともに精子が侵入する際に精子の膜と融合しやすくするという役割を果たしている。

・母乳にもエクソソームが含まれていることが分かっている。こうしたエクソソーム内に含まれるマイクロRNAには、病原体などの異物を攻撃する免疫細胞を活性化し、未成熟な乳児の免疫力を高めていると考えられている。

・近年、腸と腸内細菌もエクソソームを用いてメッセージをやりとりしていることが分かってきた。

・『内包するマイクロRNAを臨機応変に変えることで、生命を維持するための多様な情報のやりとりを可能にし、人体という巨大な情報ネットワークを形づくるために働くエクソソーム。いま、世界中の研究者が、エクソソームの情報を解き明かすことで病気の診断や治療に生かそうと努力を重ねている。

画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」

『がんがどのように増殖し、さまざまな臓器に転移していくのかはまだ完全には解明されていない。しかし、エクソソームなどのメッセージ物質の解明によって、新たなメカニズムが見出されつつある。

ご参考:エクソソームに関するサイト

エクソソームは細胞からのメッセージ!?

エクソソームとmiRNA(マイクロRNA)

「細胞間のメッセンジャー!エクソソームって何だ?」

こちらは動画です。

ガンを克服した人の話3

著者:イアン・ゴウラ―
私のガンは私が治す

著者:イアン・ゴウラ―

監修:帯津良一

出版:春秋社

発行:2003年12月

※目次は”ガンを克服した人の話1”を参照ください。

第五章 リラクゼーションの意味と実践

リラクゼーションの実践

受動的瞑想法を深める

受動的瞑想法の姿勢の基本は左右対称であるが、慣れてきたら少しだけ窮屈な姿勢を取ると効果が高まる。例えば、肘掛けのある椅子を使って、コツがつかめたら次は肘掛けのない椅子で試す。さらに、それにも慣れたら背もたれのない椅子、それも楽にできるようになったら、今度は床(畳)の上に坐ってやってみると良い。

能動的な方法について

・『さて、これまで説明してきた受動的瞑想法は、リラックスして心を落ち着かせる方法でした。これから説明していく能動的瞑想法やイメージを使う方法は積極的に頭を働かせる方法で、以下八章までで述べるように、その主題や目的によっていくつかの方法があります。また、この本では宗教的な言葉を使えば「黙想」に当たるやり方についても述べていきます。

それらはこれまで説明してきた受動的瞑想法とはまったく違ったものですので、実行するのであれば、それぞれ別個のものとして付加的に行うようにしてください。

何よりもまず、受動的瞑想法をしっかりやりましょう。健康を目的とするなら、受動的瞑想法による心身の安静のほうが、ほかの精神的な鍛練よりもずっと適しているのです。受動的瞑想法がうまくできるようになって、もっと何かやりたいと思ったら、そのときはじめて、能動的な技法を加えていくとよいでしょう。』

第六章 心の力

ポジティブ・シンキング―積極的に生きるために

信じることには力がある

・英国の研究では、前向きな姿勢で生きようとするガン患者は悲観的な患者より長生きするという結果が出ている。何より、生活の質という点では比べようもないほど充実したものになっている。

・世界で最高の治療も否定的で悲観的な患者には効きそうにないということが分かっている。患者自身の心の持ち方が決定的な役割を担っている。

意思決定

意思決定の瞑想法

・ものごとを決断することはとても大切な能力である。さまざまな治療の中から自分に合うものを選び、決断するためにもこの能力は欠かせない。

・決断を有効なものとするためには、自分が決めるすべてのことについて確実で、自信を持てなくてはならない。

確信が持てるようにするための有効な手順

まずは何を決めるのかはっきりさせる。

いつまでに最終決定するのか期限を決める。

資料を集めたら利点や欠点を書き出したりしながら、情報を重みづけして選択していく。

大きな決定には、そのことに集中するための黙想がお勧めである。また、決断に際しては右脳の直観的な働きも重要である。右脳の働きによって理解が深まり、問題点について何かひらめくことがある。

答えが出たら、自分の直観に自信をもつ。

『直観は説明のできないものですが、危ぶむことはありません。私が途方にくれるような状況に出くわしたとき、なぜかいつもたまたま手にした本がちゃんとした答えを与えてくれました。よく考えてみると、特定の本に引きこまれる気がして、さらに求めてる答えの書いてあるページが自然にめくられているような感じでした。これをあまりに何度も経験したので、本当に第六感とか直観というものがあると信じるようになり、信じれば信じるほどますます勘がさえてきました。』

何かを決めたら、今はそれがその状況で自分にとって最良の決定だということを迷わずに納得する。

『場合によっては、他より「まし」だからというような決め方になることもあるでしょうが、一度決めたら自分の決断を真摯に受けとめ、今のところそれが最高なのだと信じなくてはいけません。そして、その不充分なところを最小限にとどめ、自分の決定が最良の結果を生むように真剣に取り組むことが大切です。』

決めたことはやり通す

・重要な決定であるほど、人に言われてではなく、自分で決めてやるほうが実行しやすい。

とりあえず1カ月間など、期間を決めて試す方法も良い。ただし、この期間中は迷うことなく実行する。そしてそのまま続けるべきか、改善すべきか、あるいは止めるべきかを評価する。精一杯やった場合、納得して他の方法に移ることができる。

実行と評価のためには、行ったことをノートに記録すると客観的に自分の状況を見られるようになる。特に文章にするには心の中にあることを整理し明確にしなければならないので、評価や意思決定のときに役に立つだけでなく、自分の進歩を確認したり、思うようにいかないときに勇気をくれる強い味方となる。

第七章 ストレスへの対処

ストレスをもたらすもの

恐怖・不安・心配―ストレスの根源

・ストレスの根源は恐怖や不安や心配といった苦痛を伴った感情にあると考えられる。

・ガン患者に見られる恐怖は、子供のころに愛されなかった恐怖、拒絶されること、心が傷つくことへの恐怖、失敗やその責任ではなく、失敗によって自尊心が傷つけられたり人からの評価を失うことによる恐怖などがある。

第十章 どうしてガンになるのか?

複数の要因による生活習慣病

最後の一本の藁

・世界的権威、リチャード・ドール教授による調査 

ガンの原因
ガンの原因

画像出展:「私のガンは私が治す」

 ・『ほとんどの場合、ガンの原因は、些細なことでも幾重にも折り重なって相互作用していることが多く、また、たいてい長期にわたってそれが積み重なってきているのだということです。肉体的な症状をもたらす「最後の一本の藁(「限界ぎりぎりまで重荷を負ったラクダは、一本の藁でも加えるとその重さに耐えきれずに倒れてしまう」)」は、他に比べて顕著な場合もあれば、特に思い当たらない場合もあるかもしれません。

どんな場合でも、あきらめることはありません。原因が分かれば、それに合った行動を起こすことで克服することができるのですから。ガンは変化しています。破壊的な性癖を建設的なものに置き換えていけば、天秤は直ちに健康のほうに傾いていくのです。

霊的側面

人生の調和へ

・『最後に、ガンの物理的、心理的な要因を念頭に置き、一歩前進したところからもう一度勇気を出して問いかけてみましょう。「どうして、私なのか?」と。

どうしてガンになる理由がある人とない人がいるのか? 子供のとき、複雑な境遇に置かれたために、ある種の態度や行動が身につき、それゆえ、ガンになりやすくなってしまう人がいるのはどうしてか? 煙草におぼれ、危険な食べ物を口にし、危険な環境に身を置き、ついに病気になってしまう人がいるのはなぜなのか?

このような難しい問いかけに対する答えが得られない間は、不満な気持ちを持ったまま、被害者意識にさいなまれ続けることでしょう。やはり、ただの偶然なのでしょうか? いいえ、それは確かにゆえあってのことなのです。

ここで、どうしても正面からきちんと向き合わなくてはならない基本的な哲学的命題に突き当たります。それが人生の調和ということです。これまでに見てきた物理的な側面と心理的な側面と、それらに関わりつつ存在する霊的な側面との、三者の調和の問題です。

私ははじめてガンの診断を受けたときから、人生のすべての出来事にはそれを貫く霊的な糸が存在していることに気づきました。そして、自分の内にある霊的な姿勢と現実に体が起こす行動とが調和していないままに生きていたのだと感じました。私がすべきだと感じたことと、実際にしていたこととは一致していなかったのです。他の人に対してはうそをついたことも、ましてや不正なことをしたこともなかったのに、自分の内なる希求に対しては誠実ではありませんでした。私はこの不調和がガンになったもう一つの大きな要因だと感じました。

この点に気づけたことは、本当に幸せなことだったと思っています。このことに気づき、これまでの生き方とは別の健康へ向かう道があるということに気づいたおかげで、私には私の本質の霊的、心理的そして肉体的なすべての面における調和を探し求めることへの根本的な励ましと意味づけが与えられたのです。この三つは絡み合い、相互に支え合っているのです。

心理的、肉体的なことについて話すのはわりあい簡単ですが、霊的な側面はそれほど単純なことではありません。それで、霊的な話をするのはしばらくためらっていました。私自身もレッテルを貼られたくありませんでしたし、瞑想法のようなすぐれた、単純明快な技法を色眼鏡で見られる危険を冒したくなかったからです。

しかし、多くの人々が彼ら自身の霊的な努力から勇気と方向性を得ているのを見、また、私自身の得た重要な励ましに気づいて、この深遠な領域の探求に大きな意味があることが分かりました。』

魂の成長

・『ほとんどのガン患者は、根本的な霊的実在の探求に関心を持っています。私はキリスト教徒として英国国教会の教えで育てられましたが、いつも真実を知りたいという熱い思いを持って成長してきました。生命の神秘の裏側、キリスト教の教理を超えたところに、深く、ゆるぎない真実があると常に感じていました。ガンになってなおさらその関心は深まり、さまざまな本を読んだり霊的指導者に教えを請いました。

人はなぜガンになるような状態に置かれるのでしょうか。人は逆境においてこそ最も学び成長するようですが、ガンの経験が本当に必要なのでしょうか? 本当に単純で基本的な疑問です。理由があるのか、ないのか。愛ある神ならこういうことをお許しになるはずがないのではないでしょうか? 簡単に何かを手に入れる人もいるし、大変な苦労をしている人もいるのはなぜでしょうか?

なぜ私が、という思いも、このような理不尽な現実への問いの一つでした。私が病気を通して得た答えはキリスト教的なものではありません。しかし、枠組みにこだわる必要があるでしょうか? それより深い人生の意義と目的について、私に教えてくれたのです。

ここで、ご参考までに私の得た答えを記しておきたいと思います。

私が病気を通して学び、絶対的に信じるようになったものは、宇宙の根本的な法則です。特に東洋哲学に言うカルマ(業)、つまり因果応報と生まれ変わりという宗教的な法則を信じています。

カルマというのは行いにはすべてそれにふさわしい報いがあるという考え方です。良い行ないには良い報いが、悪い行ない悪い報いが、そしてその報いに向き合って正しいく学ぶ機会が与えられます。私たちは確かに現在進行中の人生における事件などにはその原理の働きを見ることができます。直面しているほとんどの状況は私たちが容易にそれと認めることのできる出来事を原因として、それによって作り出された結果です。

しかし、因果が分かりにくいことも、多々あります。実際、自分の人生で起こったことのすべてに何の不公平さも理不尽さも感じないでいるのは難しく、他の人々に対しては厳しい判断を下しやすいということも確かです。一見して責めを負うべき何の理由もなさそうな人々が、実はどうしようもなく困難な不平等に向き合わされていることもあります。

こうしたことを考えつめた結果、私は、生まれ変わりという概念を受け入れるように、考えの幅を広げるように誘われたのです[訳注 キリスト教には生まれ変わるという考えはないので]。もし私たちが生から生へと、基本的な性質と業を持ち越すのだとしたら、生まれながらに恵まれ、あるいは背負わされているような一見説明のつかない事柄、才能や自分の置かれた環境などといったものも理解できるようになります。

こうした概念は、私に指針を与えてくれました。来世ではもっと霊的に成長していようと考えると、今生のどのような場面においても、正しく良いことをしたいと思うし、また、どんな努力も無駄ではないと確信できます。どんな努力も、前向きに、調和を持って、ひたむきにやっていけば、必ず報われるのです。

病と戦いながら、命と今の人生との霊的なつながりに気づいたことは、私には非常な安らぎでした。現在の苦しい状況と前世の出来事にどういう関係があるのかは分かりませんが、自分の置かれた立場を理解し、病気を治そうとする努力にはそれなりの意味があると思わせてくれました。過去の行ないと現在の状況が関連しており、因果関係が人生を支配していることが分かったので、必要な変更をして正しい生き方を見つければ、健康を取り戻せるにちがいない、ということにも確信が持てました。

そして、死は私に最後の審判として鎌を振りおろすことができませんでした。

もし人生を先へ進められるなら、そして、今の心の持ち方と行ないが将来に役に立つなら、どんな状況でも全力を尽くしていけます。もちろん、全力を尽くしてもできないことはあるでしょう。しかし、限界があるということと、できるのにやらないということとは違います。私は自分で100%やった上で、結果は天に任せるという気持ちでした。まさに「人事を尽くして天命を待つ」というのはこのことだと思います。

私は本当に自分に対して責任があるのは自分なのだと認められるようになりました。病気が学習と努力を通して魂を成長させてくれる機会だと思えたことで、さらに心が満たされました。私たちの魂はガンという強烈なやり方で私たちの態度を試し、必要な教訓を学ぶ機会を私たちに与えるのです。

「ガンは私にたくさんのことを教えてくれました。もしガンにならなければこんなには学べませんでした」と言った人がいるのを思い出してください。

ガンは確かに大変な病気です。しかし、自分にできる以上のことは課せられません。なぜなら、ガンは偶然でも死の宣告でもなく、私たちをもっとよく生きろと告げる魂のメッセージなのですから。』

付記:“ガンの克服”と“怪我の連鎖

第二章の“治癒という旅、全的な癒し”の中に次のことが書かれていました。

治癒という旅の羅針盤は、調和を求めることである。自分の行動と心と魂のつり合いがとれて心が安定したとき、癒しは始まる。そして常にこの心の安定を最優先にしていくことが重要である

これを見たときに思い出したブログがあります。それは2016年9月、ブログを始めたころにアップした“怪我の連鎖を考える”というものです。

私は子供のころからサッカーをやってきましたが、特に高校、大学と数々の怪我を経験してきました。「なんでこんなに怪我をしてしまうのか? 何が悪いのか? どうしたら防げるのか?」という思いから、あらためて真剣に考えたみたというものです。そして、その答えは以下になります。 

要点は「自分の体を守るのは自分自身である」、「客観的に自分をみる」、「精神のバランスと肉体のバランスが重要である」の3つになります。

治癒という旅の羅針盤は、調和を求めることである。自分の行動と心と魂のつり合いがとれて心が安定したとき、癒しは始まる。そして常にこの心の安定を最優先にしていくことが重要である」というゴウラ―先生の教えは、“怪我の連鎖”を止めるものとしても、極めて有効な自分自身との向き合い方ではないかと思いました。

ガンを克服した人の話2(瞑想法)

著者:イアン・ゴウラ―
私のガンは私が治す

著者:イアン・ゴウラ―

監修:帯津良一

出版:春秋社

発行:2003年12月

※目次は”ガンを克服した人の話1”を参照ください。

第三章 瞑想法の理念

療法としての瞑想法

●『瞑想法は病を癒します。体の緊張を解きほぐし、免疫組織を再活性化して、直接肉体に効果を及ぼします。感情、精神面では平衡のとれた状態を取り戻し、ものごとに対する積極的な姿勢を生み出してくれます。そして知らず知らずのうちに、人間として安定した最高の状態へと導いてくれます。

そのような健康のための療法で、深い安静状態を実現するための「受動的な瞑想法」がすべての基礎となります。

ここで「受動的な瞑想法」と言うのは後に説明する「能動的な瞑想法」との対でこのように表現しているのですが、積極的に何かを考えたり働きかけたりはせず、心も体もリラックスさせ、ゆっくり休ませる方法を言います。海に浮かび波にたゆたう[揺蕩う(あちこちに揺れる)]ときのように体の力が抜け、委ねきった状態です。催眠術のように誰かほかの人に何かしてもらい、その結果として「受身的に」瞑想法に入るということではありません。

これに対し「能動的な瞑想法」は何かあることに思いをこらしたり、ある気持ちの状態へと自分の思いを集中させたりする、心の活動をともなう瞑想法と言えます。

瞑想法は昔から、ほとんどの主だった宗教で、高次の意識に至るための修行の一過程とされてきました。この本では混乱を避けるために、療法としての瞑想をさす場合は「瞑想法」、宗教的な意味合いを含む場合は従来通りの「瞑想」という言葉を使うことにします。』

瞑想法の源流―宗教的な瞑想

瞑想法の確立へ

・『瞑想に健康促進の効果を認め、エインズリー・ミアーズ博士のような革新的な医師がそれを現代の日常的問題を応用しはじめたのは、わずか35年ほど前です。ミアーズ医師はこの分野で最初に重要な貢献をした方で、瞑想法はそのベストセラー『自律訓練法―不安と痛みの自己コントロール』(創元社)から広まっていきました。

精神科医であるミアーズ医師は、最初、瞑想法を不安やストレスの問題を抱えた患者の治療に応用しました。

そして、その実践の中で、患者の状態を見ながら、ミアーズ医師は気づいたのです。精神状態が穏やかであれば肉体もまた本来あるべき平衡状態を取り戻すのではないか、定期的な瞑想法によってその平衡状態が継続的に保たれれば、患者は自然に体のバランスのとれた状態、つまり、健康に戻れるだろう、と。

それはちょうど、指の傷が自然に治るようなもので、瞑想法は肉体に備わっている自然治癒力を無意識のうちに回復させます。これは何十年も厳しい禅の修行をするようなものではなく、ごく簡単な方法です。

こうした気づきと検証の結果、医師は瞑想法が恐怖症、高血圧、アレルギー、神経の緊張、痛みに対する過敏症など、精神的な問題だけでなく体のさまざまな症状をも緩和することを発見しました。医師は徐々に瞑想法の適用範囲を広げ、ガンに対しても活用しはじめます。医師は瞑想法が不安とストレスを取り除くことを確信しており、それがガンに対しても効果を発揮すると考えたのです。

今日、ミアーズ医師の療法、さらにアメリカとイギリスで行われている同じような療法はガンに対しても効果的であり、患者の生活の質を高めるとともに延命に効果があったと実証されています。』

不安と緊張の自己コントロール
不安と緊張の自己コントロール

第1部 不安と緊張の自己コントロール

第1章 不安の本質

第2章 不安の一般的な症状

第3章 不安の一般的な原因

第4章 不安の自己コントロール (5⃣ 訓練の練習のしかた)

第2部 痛みの自己コントロール

第5章 痛み

第6章 痛みの自己処理法

迷ったのですが購入しました。下の表は、”第4章 不安の自己コントロール”の中の”5⃣ 訓練の練習のしかた”から、基本となるものをまとめたものです。小さく大変見づらいのですが添付させて頂きます。なお、『 』部分が瞑想法の取り組み(実践)になります。

ストレスの影響

緊張と弛緩

・刺激⇒体内化学物質の変化による肉体的反応⇒体の物理的反応⇒解消

ストレスは脳から始まる
ストレスは脳から始まる

画像出展:「ストレスに負けない脳」

危機に直面したときの緊急反応です。

1.脳にある視床下部が腎臓の上にある副腎に警鐘を鳴らす。

2.ストレスホルモンの第一陣、アドレナリンが副腎髄質からを分泌され緊急反応を起こす。

3.脳はエンドルフィンという鎮痛作用をもつ物質を出し、危機においても機能できるようにする。

4.脳は防衛機構の第二陣、視床下部‐下垂体‐副腎軸(HPA軸)という先鋭部隊を動員する。視床下部は副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)を放出し、CRFは下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を分泌、ACTHが副腎皮質を刺激すると、第二の主要ストレスホルモンであるコルチゾールが血液に放出される。

右側中央やや下に免疫機能↑↓とあります。これは、免疫機能はストレスに対し短期的には高まるが、それが解消されず長期化すると低下するという意味です。

 

ストレスの発生とその影響

・現代人が直面する問題の多くは単純な脅威ではなく、もっと複雑な出来事である。例えば、感情や心の内から生まれた葛藤、人間関係のもつれ、経済的な不安などであり、これらは肉体的危機に直面した時と同じように反応する。

精神的な問題による緊張は発散されず抑圧が続きやすい。また、緊張が解消されないため元の自然な状態に戻れないという事態になる。

・精神的なストレスは外的脅威に対して適切な対処できず、その緊張を解消することができないために起こるものだということを理解しておくことが大切である。

長く続くストレスは体の化学成分に影響を与え、免疫機能を低下させてしまう。

・『アメリカ医師学会はアメリカの家庭医を訪れる人の三分の二はストレスに起因するものだとしています。ストレスは直接間接に不登校、冠状動脈症(心臓病)、肺の疾病、事故による疾病、肝硬変、自殺、また、その他の軽症の主な要因となっており、私はガンの主要因もストレスであると信じています。』 

受動態瞑想法
受動態瞑想法

画像出展:「私のガンは私が治す」

中段左側の2つが対策となる「受動的瞑想法」になります。

瞑想法の実践は「ストレス(長期にわたる精神的抑圧やひずみ)」を解消し、健康に戻るための最も基本的な対策であり、弛緩が解決の鍵を握っているというのが、ゴウラ―先生のお考えです。

ストレスへの対処

・ストレスへの対処には、まずストレスが溜まってきて問題になりそうだということに気づかなければならない。

・ストレスの有無が分からない場合は、筋肉の収縮を目安にすることができる。これはストレスがあると、身体的な緊張が体に表れるからである。例えば、眉間にしわが寄っていたり、奥歯を噛みしめていたり、肩に力が入っていたり、こぶしを握りしめていたりといったことがみられる。

・ストレスにうまく対処できる人は、ストレスをやり過ごし解消しリラックスする方法を知っている。そして、一番安全で確実な方法が瞑想法である。

瞑想法の効果

●『幸運というべきか、私がガンになったのはちょうどミアーズ医師がガン患者の治療に瞑想法を活用していこうとしていたときでした。瞑想法は不安とストレスを取り除く、とミアーズ医師は考えていたのです。そして、私は私で古来からの瞑想に興味を持っていて、その理念が私の失ってしまった内なる調和を取り戻してくれるだろうと思ったのです。

ミアーズ医師と出会ってその確信は深まりました。体内の副腎皮質ホルモンの一種であるコーチゾンのレベルが低下し、免疫機能が正常に戻れば、腫瘍はなくなり、体はもとどおりになるだろう。そう思うと希望が持てました。

瞑想法には、他の効果もあります。瞑想法は心を満たして生命の質を高め、命を永らえさせてくれます。瞑想法は肉体、感情、精神、そして魂まで、およそ人間の経験するすべての側面に作用します。』

肉体面の効果

・体が不自然に固くなっていたらそれはストレスの証拠で、肉体の自然な機能が抑制されているということである。瞑想法はその不自然な緊張を解いてくれる。

感情面の効果

・瞑想法は精神の安定に有効である。自分を慈しみ、短所や限界をありのままに受け入れて、持っている力を生かしきれるようになる。そして、心豊かに、素直な気持ちで有意義な人間関係を築くことができる。

精神面の効果

・不安の原因はとても複雑である。原因を知ることは解決の糸口になるが、知るだけでは解決には至らない。瞑想法の優れているところは、原因に関係なく過去を振り返ることなく、緊張やストレスさえなくなれば健康を取り戻すことができる。

心あるいは霊的豊かさのために

・瞑想法を通して体の奥深くから湧き出る心の安らぎを体験できる。

・『人生をもっと意義深いものにするためには、どのように生きるかということが何よりも大切です。でも「よりよく生きるということは一体どういうことだろう。」「自分の命はあとどのくらいだろう。」そういう問いは知らないうちに心にかたすみに常に潜み、私たちを脅かします。事実を受け入れ、心の平穏を取り戻さないかぎり、絶え間なく不安が襲ってきます。でも、私たちはこの心の平和を取り戻すことができるのです。

私は一度ミアーズ博士に、この病気になって本当によかった、みんな同じような気分になれるように、一回病気になってみればいいのに、と言ったことがあります。私はそのときちょっと興奮していたのだと思いますが、本当にそう思ったのです。私は今の自分の生活が足を失う前よりずっと充実していると感じています。私はただ好きで瞑想法をしていますが、これはもう生活の一部で、心身ともに最高です。

グループの患者の一人、ジュディという女性は最近こんなことを言っていました。「ガンは私の生活をずっとよくしてくれました。病気を通していろいろなことを学びました。ガンにならなかったら、こういうことは経験できなかったと思います。」』

第四章 基本の瞑想法―受動的瞑想法のやり方

受動的瞑想法の実践

緊張と弛緩のリラックス法

・受動的瞑想法に入る前段階として、体をリラックスさせるが一気に体全体をリラックスさせるのは難しいので部位ごとに進める。

・『慣れないうちは、体の一部に神経を集中して緊張と弛緩を繰り返すと、リラックスした感じがよく分かります。まず足で試してみましょう。足の筋肉全体を縮めてぎゅっと力を入れてみてください。固く硬直して動かなくなります。目を閉じてその感じをしっかり味わってください。次に力を緩めると、筋肉の緊張をほぐれて、柔らかくなるのを感じます。その違いを感じ取るのです。力が抜けると重く感じます。アイスクリームが日差しの中でゆっくりと溶けていくように、体が床の中に溶け込んでいくように感じます。

体のあちこちを同じようにしていくと、体を奥深くから緩めるということがどういうことか、すぐに分かってくると思います。順に意識の中心を移していくのです。ふだん私たちの意識はちょうど両目の間のあたりにあります。そこが自分の中心のように思いがちですが、足に神経を集中すると、今度は足が自分の中心のような気がします。足は、また頭とは違った感じを持っています。そのように体の各部分を味わっていきましょう。

慣れればすぐに弛緩した状態に入っていけるようになり、この手順を踏まなくても済むようになります。体の緩んだ、芯からとろけるような深いくつろぎを感じてください。体の力を抜いた感覚がどんなものか味わってください。』

順を追って

・左右対称の姿勢をとる(肘掛け椅子に座るか、仰向けでねる)。

①目を軽く閉じ、足に力を入れ筋肉が緊張した状態を感じる。その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

②次はふくらはぎに力を入れ、その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

③次はふとももに力を入れ(膝を上から押さえながら、その手を押し返すように膝を上げる)、その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

④次に椅子から少し腰が上がるようにお尻の筋肉をぎゅっと締め、その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

⑤次はお腹に力を入れ(重いボールがお腹に向かってくるところを想像する)、その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

⑥次は胸に力を入れ、その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

⑦腕は左右同時に動かされないように固定するつもりで力を入れる。その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

⑧肩から喉のあたりは肩をいからせて首を前に倒す。その後、力を抜いて肩と喉と首の状態を感じる。

⑨顎は歯ぎしりをして、噛む力を感じる。その後、顎、口、唇、頬の力を抜いて緩んだ状態を感じる。

⑩目は上目づかいにして瞑り、その後、目から鼻にかけて力を抜いて緩んだ状態を感じる。

⑪額は眉をひそめるように力を入れ、その後、力を抜いて緩んだ状態を感じる。

瞑想法に入る

・『このように筋肉組織を収縮させ、緩めることに慣れたら受動的瞑想法の準備ができました。

そこで、しばらくそのまま静かにしています。受動的瞑想法の本質的な部分はそれだけです。

体がどのくらい緩んでいるかが目安となります。体が充分にリラックスしていれば思考も休まり、体の力が抜けていれば心も休まっているのです。

体がリラックスすると、重く感じられるようになります。ゆったりと緩んで床に溶けていきそうになります。そして、全身が解放されたようになり、今度は軽くなります。体がじんじんと温かく感じられ、ゆったりと幸せな気持ちになります。そのうち自分の体や周囲の感覚がなくなります。周りの音が遠ざかり、どうでもよくなり、体が風船のように膨らんだような、ゆらゆらと水の上を漂っているような感じになります。

ぼんやりした状態とでも言いましょうか。暖かいお湯の中に浮かんで、そのお湯の中に溶けていくような感じです。体がはっきりした形をなくし、輪郭がぼやけてくるような気がします。私たちは自分の肉体にはっきりした形があるということに慣れていますが、瞑想法ではまるでそれが膨張してしまったかのようにこの境界がぼんやりしてきます。

「いいでしょう。静かに目を開けて。」手引き役の人がいれば、またテープの場合は必要な時間の空白の後で、こう言って終わらせます。あるいは誰かに頼んでおくか、柔らかい音質の目覚まし時計などで、一定の時間で終われるようにします。』

湧き上がる想念や自己防衛反応に対して

リラックスは気持ちではなく、体に意識を向けてリラックスさせることがコツである。雑念が湧き上がるのはよくあることだが、あまり気にしないでなるがままに任せる。それでも気になる場合は、あらためて体に意識を向けることに戻る。体を緩めることに集中すると体がリラックスし、気持ちもゆったりとし静かな時間が流れはじめ、さめた傍観者のようにぼんやりと画面が見えて音が耳に入ってくるだけのような感覚になる。

ガンを克服した人の話1

著者:イアン・ゴウラ―
私のガンは私が治す

著者:イアン・ゴウラ―

監修:帯津良一

出版:春秋社

発行:2003年12月

この本は帯津先生の著書、“ホリスティック医学入門”で知りました。読みたいと思ったのは次の二つを詳しく知りたかったからです。

1.何故、治ったのか?

2.死の淵から戻してくれた抗がん剤治療を止め、再び、自然療法(瞑想法)に戻るという選択が、何故できたのか? 

著者:帯津良一
ホリスティック医学入門

第二章 西洋医学を否定しない代替療法を

◆再発した骨肉腫を食事療法と瞑想、抗ガン剤で克服

(詳しくは、ブログ“ガンとホリスティック医学4”を参照ください)

最初に帯津先生の本より、ゴウラ―先生の症例の概要をお伝えします。

イアン・ゴウラ―:獣医師、元陸上競技の選手。

◆右大腿骨に骨肉腫が発見されたのは1974年、すぐに右下肢の切断手術を受けた。

◆10カ月後にガンが再発、骨盤と肺、胸壁への再発だった。 

今までの治療を止め、自然療法を選択した。

理由なぜ、自然療法だったのか、とても興味のあるところです。彼は、再発という窮地に追い込まれたときに、自分が治療してきた馬たちのことを思い出しました。もちろん、馬が病気になったとき、薬を使ったり、手術をしたりするというのは重要な選択ですが、その前に大自然の中で癒すことを考えるのだそうです。飼料を吟味し、運動と休息に配慮し、なでたりさすったり、やさしく声をかけたりします。そうすることで、馬たちは驚くほど元気になっていきました。彼は、自分にも、それが通用すると感じたのです。

画像出展:「GAHAG

◆5ヵ月後には、医師が「あと二週間くらいの命だろう」と言うほど悪化してしてしまった。

再び抗ガン剤治療を始め、そして回復した。 

経緯『普通なら、ここで精神的にも折れてしまいます。こんなに頑張ったのにという空しさに押しつぶされ、ガタガタと体調を崩してしまいます。しかし、彼はあきらめませんでした。まだ、可能性はあるはずだと、次の手を懸命に求めたのです。「あと二週間」と宣告した主治医も、決してあきらめませんでした。「もう一度、抗ガン剤をやってみないか」と、医師はイアンさんにすすめました。宣告して放り投げるのではなくて、最後まであきらめない態度が、この主治医にはありました。自然療法をやりたいというイアンさんの気持ちを優先し、こうやってとことんイアンさんに付き合おうとするなど、イアンさんは素晴らしい主治医に恵まれたと思います。イアンさんは主治医の提案を受け入れました。抗ガン剤治療を受けることにしたのです。これが功を奏しました。症状はみるみる回復し、体調も良くなっていったのです。

画像出展:「GAHAG

2年間の予定だった抗ガン剤治療を2カ月半で中止し、再び自然療法に戻った。

理由『抗ガン剤治療は二年間続けるプログラムが組まれました。しかし、イアンさんは、どうもこの治療は違うと感じ、二ヵ月半で中止します。主治医ともじっくりと相談したうえでの決断でした。抗ガン剤には感謝しつつ、彼は冷静になって、緊急避難としての抗ガン剤は有効だけど、長く続けるものではないという結論を出したのです。

そして、彼は再び、食事療法と瞑想を始めました。しかし、前回の反省を踏まえて、今度はあまりストイックな取り組みはやめて、リラックスしてやることにしました。前回は七時間も瞑想しましたが、今回は一時間を三回と、半分以下の時間に抑えました。食事も、これでなければいけないというのではなくて、会食では一般のものを食べるゆとりをもつようにしました。これが正解だったのでしょう。再発巣の進行は停止したかのような状態が続きました。しかし、依然としてガンはあるわけですから、気をゆるめるわけにはいきません。とにかく、よいと思われることは積極的に取り入れました。』

画像出展:「GAHAG

二つめの疑問、「死の淵から戻してくれた抗がん剤治療を止め、再び、自然療法(瞑想法)に戻るという選択が、何故できたのか?」に関しては、『私のガンは私が治す』の“訳者あとがき”に書かれた、エインズリー・ミアーズ医師(瞑想法を指導)の“The Medical Journal of Australia”1978年2月号に掲載された報告が、その答えとも言える内容なのでこちらをご紹介します。 

ゴウラ―博士の胸部:1977年7月/回復後
ゴウラ―博士の胸部:1977年7月/回復後

画像出展:「私のガンは私が治す」

『この25歳の患者は2年半前にはじめて私の診察室を訪れた。患者はその11カ月前に骨肉腫で片足を切断。直径2センチほどの明らかな骨の腫瘍が肋骨から腸骨、胸骨の先端に確認され、骨の破片を含む少量の吐血を訴えていた。肺部X線写真でも明らかな影が確認された。患者は専門医から余命2~3週間であることを告げられていたが、獣医という職業柄、生理学と予後の要件について充分な理解があった。そして、2年半後には別の州に移り、かつての職業に復帰した。

(中略)この若者は壮絶なまでの生への意志を持ち、また、それまで私が経験してきた東洋思想においてさえも見たことのないような平穏な心の状態に達していた。なぜこのようにガンの転移を後退させることができたのかという問いにこの患者はいつもこう答える。「人生とは本当に自分自身のもの、自分が自分の命をどのように生きていくかということそのものだと思うんです。」

この患者は徹底した瞑想法を生活の一部として取り入れていくことを選んだ。また、彼はくよくよ思い悩むことをしなかった。そのこともコーチゾンの分泌を減少させ、免疫力を高めるのに役立ったと言えよう。』

帯津先生は、ゴウラ―先生がどのようにガンを克服されたのかを理解するため、オーストラリアのメルボルン郊外にあるゴウラ―先生のセンターを訪れています。そして、『私のガンは私が治す』の冒頭、“イアン・ゴウラ―さんのこと”の中で次のようなメッセージをつづられています。

日本のガン治療の現場で、喉から手が出るほど欲しいと思っていた瞑想法の部分を中心に、日本の実情に即した形にアレンジしました。いい本ができました。勇気ある友人たちに、さらなる勇気を与えてくれるものと確信しております。

また、センターのことは“訳者あとがき”に出ていましたので、こちらもご紹介します。 

ヤラ・バレー・リビングセンター
ヤラ・バレー・リビングセンター

画像出展:「私のガンは私が治す」

ホームページ:The Gawler Cancer Foundation and Yarra Valley Living Centre 

回復の後、ゴウラ―博士は自分のかけがえの体験を多くの人と分かち合いたいと、オーストラリアで最初のガン患者の支援活動を始めました。そして、1983年に非営利、非宗教のゴウラ―財団が設立され、現在まで積極的な活動を続けています。

ゴウラ―財団の活動の中心であるヤラ・バレー・リビングセンターはメルボルン市内から車で1時間半ほど、朝晩オーストラリア特有の野生動物が庭先まで訪れる、15ヘクタールの雄大な大自然の中にあります。こじんまりとした研修室、清潔な食堂兼談話室、プライバシーを守れる宿泊室、西洋的夢殿を思わせる瞑想室、ガン治療や食事療法、瞑想法の出版物やCDのそろったリソース・センターなどを持ち、また裏庭には滞在者の食糧を賄う有機菜園もあります。』

ブログは目次(本の目次のページには掲載されていない小項目も入れました)黒字の部分について書いています。なお、特に正確にお伝えしたい箇所に関しては、引用させて頂いています(『』で括っています)。また、ブログが長くなったので3つに分けました。

目次

イアン・ゴウラーさんのこと

日本の読者へ

はじめに

●免疫力を信じて

●前向きな姿勢で

●命への愛情

●人々の支え

第一章 はじめの一歩

四つの問い

●現行の治療法

●比較検討法

●心を決める

医師と患者の関係

第二章 健康の道程

治癒という旅、全的な癒し

健康への道程

●肉体的側面

1.西洋医学

2.その他の医療・療法

●心理的側面

●霊的側面

1.ガンになる理由

2.死と臨終を考える

3.心霊療法

4.霊的成長(全体を通して)

・霊的な癒し

治癒への環境づくり

●患者を取り巻く人々

●治療を支えるいくつかのこと

・運動

・呼吸法

・環境

・創造的な活動

・人の力になる

・笑い

●療法を組み立てる際の注意点

第三章 瞑想法の理念

療法としての瞑想法

●瞑想法の確立へ

ストレスの影響

●緊張と弛緩

●ストレスの発生とその影響

●ストレスへの対処

瞑想法の効果

●肉体面の効果

●感情面の効果

●精神面の効果

●心あるいは霊的豊かさのために

第四章 基本の瞑想法―受動的瞑想法のやり方

受動的瞑想法への準備

●心がまえ

●目的と時間を決める

●環境と姿勢

受動的瞑想法の実践

●緊張と弛緩のリラックス法

●順を追って

●簡単な暗示を使う

●瞑想法に入る

●湧き上がる想念や自己防衛反応に対して

第五章 リラクゼーションの意味と実践

リラックスすることの意味

●ガンを治す免疫機能

●体から心へ―リラックスの効用

●リラックスの方法

リラクゼーションの実践

●受動的瞑想法を深める

●能動的な方法について

●輝く光のイメージトレーニング

●究極のリラクゼーション

第六章 心の力

ポジティブ・シンキング―積極的に生きるために

●信じることには力がある

●積極的になるために

●積極性の瞑想法

意思決定

●意思決定の瞑想法

●決めたことはやり通す

想像の力

●言葉にすることと想像すること

●イメージ療法

●メージ療法の難しさと利点

●降り注ぐ光のイメージトレーニング

●癒しの旅のイメージトレーニング

●イメージのまとめ

第七章 ストレスへの対処

ストレスをもたらすもの

●ストレスを測る試み

●恐怖・不安・心配―ストレスの根源

ストレスへの対処法

●感情の癒し

●自分を大切にする―本当の自分に気づく瞑想法

●愛はめぐる

●許しの瞑想法

●治癒=調和=安らぎ

第八章 痛みへの対処

痛みとは何か

●痛みは苦しみではない

●物理的な痛み、心理的な苦痛

●痛みについての社会的条件づけ

●二つの心理的思いこみ

痛みのコントロール法

●痛みに対する訓練

●心から体へ―痛みに対する訓練が有効な理由

●瞑想法による痛みのコントロール―まだ痛みのないときに

●すでにある痛みのコントロール法

●応急的な方法

●イメージによる痛みのコントロール法

第九章 食事療法

食事の考え方

●病気と食事

●ゲルソン療法との出会い

●ゲルソンの基本理念

●ゴウラ―食養法の考え方

●食事療法の実践へ向けて

●食事療法のための「意思決定の瞑想法」

●ゴウラ―食養法のアウトライン

●コーヒー浣腸

●その他の特殊な食事療法

第十章 どうしてガンになるのか?

複数の要因による生活習慣病

●なぜ私が?

●最後の一本の藁

心理的側面

●絶望―その不思議な心理

●しばしば共通する心理的履歴

●前向きに

霊的側面

●人生の調和へ

●魂の成長

第十一章 死 この避けえないもの

死を考える

●死は人生の一部

●死について語り合う

●子供と死

●死への恐怖、またその他の否定的な感情の芽生え

●死をめぐる具体的なこと

死を受け入れる

●死への過程

●悲しみ

●臨死体験に学ぶ

●おびえか、おわりか、おたのしみ?

第十二章 癒しと霊性

癒しの神秘

●フィリピンでの経験

●世界の本質への問い

●霊性と癒し

霊的実在の探求

●真実の探求

●人生と命に秘められた神秘―私の信念

じめに

免疫力を信じて

・獣医として医学知識があったため、自分の病状を理解し、経過をきちんと判断して、さまざまな療法をうのみにすることなく、冷静に評価することができた。

・ゴウラ―先生だけでなく、奥さまも素直にものごとを受け入れられる性格だった。このため、ゴウラ―先生は奥さまからの力強い支えを常に得ながら、役立つと思われることを何でも一度は試してみることができた。なお、目的とは自らの力で病気を治すための環境づくりをすることだった。

・ガンが再発し、医学的見地からはもう見込みがないと思われたときも、ゴウラ―先生と奥さまは必ず他に道があるはずだという強い信念を持っていた。

・ガンは免疫の欠如に関係しており、健康な人でもガン細胞はできているが免疫がしっかり働いてくれれば病気のガンにはならないということは当時から分かっていた。

・『私たちは、肉体の自然抵抗力、特に免疫能力は必ずもう一度高めることができると信じることから始めました。免疫力が高まれば、肉体に内在する力が勝手にガンを破壊し取り除いてくれるでしょう。さらに免疫能力が健全に機能すれば、ガン再発の可能性はなくなるはずです。この信念は希望を与えてくれました。

それが私たちの第一歩で、すべての大前提になりました。私たちはその目的に向けてできるかぎりのことをしただけです。

前向きな姿勢で

・いろいろな療法を試していくうちに、これは人間が生きていくに当たっての正しいバランスを模索する営みであると気づいた。

・ガンと闘うことは自分の成長と学びを経験していく一つの冒険のようなものである。 

・『ガンを通して成長し、学んでいこうとする私たちのチャレンジ精神はガンという言葉につきものの恐怖の感情とはまるで違ったものになりました。

前向きな姿勢を支える第一のポイントは、ガンを一つの通過点として見ることである。

・ガンは自分の過去の行いのせいだと考えた。そして、自分自身がその原因を作ってしまったのだとすれば、自分がそれを治すことはできる、正しい行いをすれば病気は治すことができると信じた。

第二のポイントは、ガンに対しての冷静な理解を養うことである。

命への愛情

・前向きな姿勢を保ってガンと向き合い、さまざまなことに正しく対処していくためには広い視野で考えていかなければならない。そのためには人間が生きていくための三つの要素、肉体的、精神的、霊的な条件がそれぞれ果たす役割について考え直す必要がある。

・『ここでお断りしておきたいのは、私は確かに霊的な側面を重視してはいますが、それは宗教的な意味ではない、ということです。宗教は個人的な問題ですから、あまり触れるつもりはありません。人間は誰でも人生の本質について、何らかの形で自ら思いをめぐらせる経験をすることがあると思います。この本の内容は宗教とはまったく無関係であり、決して個人の宗教に干渉するものではありません。しかし、ガンとの闘いが人間の生き方と深く関わっているため、この本に述べることが、はからずも自分の実在の探求と関わってくるとお感じになることがあるかもしれません。それが違和感のないものであれば幸いですが、もし違うと感じられても、どうぞ、一つの考え方として読み流してください。無理に一致させる必要もありませんし、その違いのためにさまざまな療法を放棄する必要もありません。』

人々の支え

・『私の病気の回復には周りの方からいただいた絶大な支えも大きな役割を果たしてくれました。

当時の妻のグレースは何よりの協力者でした。もしすべての患者にこのように献身的で愛情に満ちた人がいてくれたら、病気は必ず克服できると思います。グレースは私とともに惜しみなくあらゆる試みと努力をしてくれました。何よりもはじめから私が絶対に治ると「分かって」くれていました。微塵の疑いもなく、私の回復のためにすべてを捧げてくれました。』

ガンは一連の過程をたどることによってはじめて治せる。それは努力と忍耐と意識的な変革の道程であり、それこそが人間の自然の状態である健康を取り戻す過程である。

第一章 はじめの一歩

医師と患者の関係

この項目には、冒頭[訳注]があり『日本の実状と照らし合わせると、そぐわない点もあります。』とのことが書かれています。さらにゴウラ―先生が獣医師であるという知識豊富であるという点も特別な要因と思います。しかし、ここに書かれている内容は本来、目指すべきものだと思いますので、大変細かいものになりますがご紹介させて頂きます。 

●ガン患者の回復過程には、少なくとも一人は信頼して話し合える医師、患者にしっかりと向き合い、患者本人や家族の気持ちを敏感に察してそれを尊重し、素人にもよく分かるように医学的な情報を提供してくれる医師が不可欠である。

●医師と患者の関係で最も大切なものは対話による相互理解である。特に瞑想法や積極思考[ポジティブ・シンキング]など、まだ医学的な評価が定まっていない療法については医師と患者がきちんと対話する必要がある。医師に内緒で何かを行うことは、ストレスの原因となり良くない。

●患者が対話で心がけること。

1.穏やかにはっきりと自分の希望や志向を医師に伝える。

a) 自分がどの程度の情報を求めているか。

b) 主な意思決定にはどういった専門家、家族、友人に関わってもらいたいか。

c) 全体の調整、治療、方針決定に当たって、どの医師に中心的な役割を果たしてもらいたいか。

d) 自分が専門家、相談相手、話の仲介役、助言者と考えているのは誰か。

2.医学的なパートナーの役割を果たしてくれる医師を見つけられれば理想的である。

3.診察に当たって

a) 配偶者やパートナーがいればいっしょに行く。この人たちが支えになり、診察の際の質問や答えを覚えておいてくれる。

b) 医師に会う前に聞きたいことを書きとめて持参する。

c) 必要なら前もって医師に質問や話し合いのための時間をとっておいてもらうようにします。

d) 診察中の情報は忘れやすいので、診察の間メモをとるかテープに録音させてもらうよう依頼する。

e) 説明や分かりやすい解説、選択肢の詳細や意見などは、遠慮せず、自由に求める。

f) 自分の希望やその理由をきちんと説明できるように準備していく。

g) 医師に自分がどんな自助努力をしているのか伝える。

4.重大な決定には、他の医師(セカンドオピニオン)からの意見も求める。特に最初の医師の系列などではない、無関係の病院を選択する。

5.自分の状況や問題を医師と話し合うよう努力しても、どうしても納得いかなければ医師(病院)を変えるべきである。

医師と患者との良好な関係は健康と心の平穏のためにとても大切なことです。生きることが楽に、建設的なものになり、治療にも良い影響があるにちがいありません。

そして現在、医学と医療の場も変わりつつあります。患者がこのような意識を持つことは本人にとっても、医療の場にとっても、大変に有意義なことなのです。』

第二章 健康の道程

治癒という旅、全的な癒し

●病気を持っていても、内側からの光が強く美しく輝いている人もいる。つまり治癒とは、人としての成長の旅でもある。

●病気というのは気が病むことである。また、心が満たされないこと、バランスをくずしていること、調和が保たれていないことである。

●不健康が過去の生き方によるものならば生き方を変えなければならないが、回復の道のりは長く、小さな変化の積み重ねである。

治癒という旅の羅針盤は、調和を求めることである。自分の行動と心と魂のつり合いがとれて心が安定したとき、癒しは始まる。そして常にこの心の安定を最優先にしていくことが重要である。

健康への道程

『健康への道は実に多様です。ここではガンの治療に関係するさまざまな方法を概観しながら、本書で述べる療法のアウトラインを見渡していただければと思います。

なお、その際、各治療法を肉体的側面、心理的側面、そして霊的側面という三方向から整理してみることにします。と言うのも、先に述べたとおり癒しとは人生すべてのレベルでの調和であり、私たちは従来の医学が考えてきた体と精神という二元論の根底に命そのものとも言うべきもの、霊性の存在を考えないわけにはいかないと感じているからです。』

肉体的側面

1.西洋医学

・最新の動向にも目を配り、医師と話し合って進めていく。

・自分に合っていると判断できる治療を決め、真剣に専念する。

a) 手術:腫瘍を取り除き、体の負担をなくすことで再発予防の時間とチャンスを与えてくれる。

b) 化学療法:副作用と治療効果とを天秤にかけてよく考える必要がある。

c) 放射線治療:特に骨に関係する場合、痛みの軽減によく使われる。

d) 免疫療法:免疫系の刺激を目的とする新しい領域の療法。

e) ホルモン療法:ホルモンに敏感な乳ガンや前立腺ガンなどで行われる。

2.その他の医療・療法

f) 食事の改善:特殊な食事療法(ゲルソン療法など)は、必ず熟練した指導者に従って行う。

g) マッサージ:足のマッサージが良い。リフレクソロジーなど(ウィキペディアより)。

h) 中医学:治療医学としての漢方、鍼灸、養生医学としての食養と気功が中心である。

i) ナチュロパシー:自然療法全般。栄養、ライフスタイル全般のアドバイス、ハーブ(薬草)、マニュピュレーション(体の矯正)、マッサージ、ホメオパシーなどの方法の相乗効果を図り、免疫力を強化する。

心理的側面

a) 瞑想法とそれによるリラクゼーション:ストレスに対処する。基本は受動的瞑想法、リラックスを得るための方法。

b) ポジティブ・シンキング:創造的なこと、体を動かすこと、そして、人間関係も重要である。

c) 意思決定:能動的瞑想法による意思決定の方法と、決めたことを実行する手順。

d) 想像の力によるいくつかの方法:言葉にしたり想像したりすることで実現に近づける。

e) ストレス管理:受動的瞑想法と能動的瞑想法を組み合わせて行う。

f) 疼痛コントロール:瞑想法やイメージによる疼痛コントロール。

霊的側面

・『全的な癒しは自分の人生を見つめ直し、より良い生き方を探すことと呼応します。それは個々の症状に対する治療法という狭い意味ではなく、最も広い意味、最も根本的な意味での療法と言えるでしょう。

1.ガンになる理由

・ガンの理由を肉体的、心理的、霊的各側面に探る。体と心と霊性の調和が大切であること、そして魂の成長について考える。

2.死と臨終を考える

・死は避けて通れない重要な問題であり、目をそらさず見つめる必要がある。できれば、身近な親族と話し合う機会を持つよう努める。

3.心霊療法

・『心霊手術の信憑性については何年も激しい討論が続いていますが、私は超自然療法の経験、特にフィリピンの心霊手術の経験はよく知られているので、そのことについても紹介します。すべては私の経験を通して真に正しいと思ったものです。

絶望的な心情にある患者はよくこうした不思議な現象に引きつけられるものです。しかし、すぐ飛行機に飛び乗って、フィリピンやインドなどへ行くようなことはしないでください。そして選択したら、それが最良の結果をもたらすように、その治療に専念してください。

こうした方法が自分に合わないと思ったら、無理に試すようなことはしないでください。

本当の癒しは自分の内にあることを信じて努力してください。心霊療法自体の効果もさることながら、それによって目を開かされる新たな世界観や霊的領域への顧慮にも重要な意味があります。』

4.霊的成長(全体を通して)

反省、内省、黙想

a) 自分がしてしまったこと、またはした方が良かったのにしなかったことなどについて、やましさや否定的な気持ちは持つべきではない。

b) 過去から学び、現在を受け入れ、もっと幸せで健康な明日のために「今」を生きるようにする。

信念

c) どんな状況でも泰然として乗り超えていけるかどうかは自分の信念次第である。

霊的な癒し

d) 体と心と霊性が一つになったとき、癒しが起きる。

・『私自身の治療はジグソーパズルを一つ一つ埋めていくような作業でした。私は最初の外科的手術の後は、食事療法と瞑想法と鍼と虹彩診断療法、それに心霊療法とマッサージも行いました。また、短期間、化学療法と放射線治療も試し、全部で27の療法をやりました。

この中で、私が唯一マイナスの効果を感じたのは放射線治療でしたが、私は自分がやってみた個々の療法について良いとか悪いとか議論するべきではないと思っています。と言うのも、良いか悪いかは個々人によって異なるので、一般論では語れないからです。 

 

こちらのサイトに虹彩学に関することが紹介されています。

治癒への環境づくり

患者を取り巻く人々

何でも包み隠さず、心から打ち解けて話し合える人がいると非常に良い。

・同じようなことをしている人のグループは大きな心の支えになる。

・手紙を書くのも、自分の体験を伝え、分かち合うのに大変よい手段である。

・個人的な人間関係では、正直になることが大切である。

療法を組み立てる際の注意点

・ガン患者は無力感を感じて訪れるが、実は回復のためにはやることがたくさんあると気づく。

瞑想法をしっかりやることから始めるのがいちばんいいと思う。

・重要度を順序づけするための「意思決定」が大切である。

・瞑想法、食事、ポジティブ・シンキングが柱になると思うが、まずは一つのことに専念し、実際に試して評価し、効果があるか続けるべきかどうかを判断した方がよい。

・『体にも心にも負担をかけないようにしてください。今日や明日元気になろうと思うのは無理です。時間はかかります。私にはそれを理解するのが大変でした。私はかつて陸上選手で、デカスロン(十種競技)の激しいトレーニングに慣れていたので、無理をしないことのほうがかえって難しかったのです。最初のころは、がんばりすぎて体に負担をかけて、すっかり行き詰まってしまいました。ここ数年も、体のほうが音をあげてペースを落とすように警告してきたこともありました。適度にやっていくことを学ばなければなりません。

ものごとのバランスよい統合が、生活の質と命の長さを手にするために重要なことです。人生で大切なものの順序づけをしっかりしてください。書き出してみるとよく分かります。そして、自分の決めたことを最後までやり通して、健康に向けての計画を実行していってください。そうすれば、「健康以上」は必ず手に入ります。

ガンとホリスティック医学4

ホリスティック医学入門
ホリスティック医学入門

著者:帯津良一

出版:角川書店

発行:2009年3月

目次は“ガンとホリスティック医学1”を参照ください。

 

【ガン治療の症例】

再発した骨肉腫を食事療法と瞑想、抗ガン剤で克服

●『西洋医学が臓器を対象とし、代替療法が場に働きかける治療法であることはわかったから、もっと具体的にどんな治療を受ければいいのか教えてほしいという声が聞こえてきそうです。第一章でもお話ししたように、ガンというのはミステリアスな存在で、治療法のマニュアルを作ることができません。Aさんにはとても効果的だった治療法が、Bさんにはまったく効果がないという例はいくらでもあることです。

それを踏まえて、どのような例を挙げれば読者の皆さんがもっとも理解がしやすいか、参考になるか、記憶をたどってみると、ひとりのオーストラリア人に行き当たりました。1998(平成10)年11月、日本ホリスティック医学シンポジウムの翌日、私の病院でも講演をしてくださいました。

彼は、現役の獣医さんです。主に競走馬を診ているようです。もともとは陸上競技の選手でしたから、きっと競走馬の気持ちもわかるのではないでしょうか。

彼の右大腿骨に骨肉腫が発見されたのは、74(昭和49)年の暮れでした。すぐに右下肢の切断手術を受けました。足をなくすというのは、誰でも大変なショックです。とはいっても、命にかかわることですから、彼も悩み抜いた末に手術を受ける決断をしただろうと思います。しかし、10ヵ月後にガンが再発しました。骨盤と肺、胸壁への再発でした。このとき、彼はオーソドックスな治療法と決別し、自然療法を選択したのです。

なぜ、自然療法だったのか、とても興味のあるところです。彼は、再発という窮地に追い込まれたときに、自分が治療してきた馬たちのことを思い出しました。もちろん、馬が病気になったとき、薬を使ったり、手術をしたりするというのは重要な選択ですが、その前に大自然の中で癒すことを考えるのだそうです。飼料を吟味し、運動と休息に配慮し、なでたりさすったり、やさしく声をかけたりします。そうすることで、馬たちは驚くほど元気になっていきました。彼は、自分にも、それが通用すると感じたのです。

まず、食事療法と瞑想から始めました。動物性のものよりも植物性のものをとるようにし、精製しないものを食べるなど、さまざまな情報を集めて自分なりの方法を作り上げました。瞑想は徹底的にやったようです。何しろ1日に7時間も瞑想したというのですから半端ではありません。

ところが、そんな努力の甲斐もなく、再発して5ヵ月後には、医師が「あと二週間くらいの命だろう」と言うほど悪化してしまったのです。普通なら、ここで精神的にも折れてしまいます。こんなに頑張ったのにという空しさに押しつぶされ、ガタガタと体調を崩してしまいます。しかし、彼はあきらめませんでした。まだ、可能性はあるはずだと、次の手を懸命に求めたのです。「あと二週間」と宣告した主治医も、決してあきらめませんでした。「もう一度、抗ガン剤をやってみないか」と、医師はイアンさんにすすめました。宣告して放り投げるのではなくて、最後まであきらめない態度が、この主治医にはありました。

自然療法をやりたいというイアンさんの気持ちを優先し、こうやってとことんイアンさんに付き合おうとするなど、イアンさんは素晴らしい主治医に恵まれたと思います。イアンさんは主治医の提案を受け入れました。抗ガン剤治療を受けることにしたのです。これが功を奏しました。症状はみるみる回復し、体調も良くなっていったのです。

西洋医学の全否定は誤り

●『代替療法を信望する人は、西洋医学を否定しがちです。世の中には代替療法でガンが治ったという人がたくさんいます。そういう人たちは、「西洋医学は駄目だ」「抗ガン剤はやめろ」という言い方をします。しかし、ガンになってからの彼らの経過をよく聞くと、最初のうちは、手術を受けたり、抗ガン剤や放射線の治療を受けたりしているのです。副作用が強くて病院を逃げ出したというエピソードはどの方にも共通することですが、手術や抗ガン剤、放射線が本当にマイナスだったのかは、誰にもわかりません。最初に西洋医学の治療を受けたからこそ、のちの代替療法がより効果的に作用したのかもしれません。

西洋医学は駄目だと断定してしまうと、イアンさんは宣告された二週間後には亡くなっていたでしょう。西洋医学も選択肢に入っていたからこそ、それからのドラマがあったのです。

イアンさんの話に戻りましょう。抗ガン剤治療は二年間続けるプログラムが組まれました。しかし、イアンさんは、どうもこの治療は違うと感じ、二ヵ月半で中止します。主治医ともじっくりと相談したうえでの決断でした抗ガン剤には感謝しつつ、彼は冷静になって、緊急避難としての抗ガン剤は有効だけど、長く続けるものではないという結論を出したのです。

そして、彼は再び、食事療法と瞑想を始めました。しかし、前回の反省を踏まえて、今度はあまりストイックな取り組みはやめて、リラックスしてやることにしました。前回は七時間も瞑想しましたが、今回は一時間を三回と、半分以下の時間に抑えました。食事も、これでなければいけないというのではなくて、会食では一般のものを食べるゆとりをもつようにしました。これが正解だったのでしょう。再発巣の進行は停止したかのような状態が続きました。しかし、依然としてガンはあるわけですから、気をゆるめるわけにはいきません。とにかく、よいと思われることは積極的に取り入れました。』

フィリピンの心霊手術とインドのサイババ

●『この頃、イアンさんが取り組んだことで、振り返ってみてよかったと思われることが二つありました。ひとつが、フィリピンの心霊手術で、もうひとつがインドのサイババです。

両方とも、そんなのインチキだと顔をしかめる人もいるかもしれません。果たして、素手を体内に突っ込んで病巣を取り出すことができるのか。傷跡もまったく残らないのはどういうことなのか。わからないことだらけです。確か、日本のマスコミは二十年以上前に、マジックであるという結論を出したはずです。しかし、今でも心霊治療を信じて、フィリピンまで行く人はたくさんいます。

サイババは有名なインドの聖者です。何もないところからダイヤモンドなどを出すなどたくさんの奇跡を見せてくれるということで話題になりました。世界中に信者がいるようですが、批判的に見ている人もたくさんいるようです。

私は、心霊手術を実際に見たことはありませんし、サイババにも会ったことはありません。ですから、本物なのかどうかは判断できませんが、イアンさんは、心霊手術を受け、サイババに会うことによって、彼の中でさまざまな“気づき”が起こったようです。自分ではコントロールできない大きな力があること、自分が生かされている存在であることを、心で感じ取ったのだろうと思います。

そういう流れがあって、彼の再発巣は消失しました。78(昭和53)年6月、彼は完治を宣言しました。再発してから二年八ヵ月目、あと二週間の命と言われてから二年三ヵ月目のことでした。

彼は、その後、ガン患者をサポートする組織を作り、たくさんのガンの患者さんの支えとなってきました。そんななかで、学識では考えられないような回復を見せた患者さんの多くに共通するものに、①瞑想、②食事の改善、③霊的な目覚めがあったといっています。

本当に感動的な体験ですが、イアンさんの物語は、ガンとどうかかわっていけばいいのか、とても重要なヒントがたくさん含まれています。西洋医学だ、代替療法だ、あるいは○○療法がいちばんだと、覇を競っても仕方ありません。必要なときに必要な治療を選択する。そのセンスが彼にあったのだと思います。

治療法に迷った方は、イアンさんの物語を何度も読み返してみてください。ガンを体験した方なら、彼の苦悩や喜びが、よくおわかりになると思います。私には書ききれなかった部分を、自分の体感と照らし合わせながら読み取ってください。そうすることで、何か重大なヒントが、直観として降りてくるかもしれません。』

私のガンは私が治す
私のガンは私が治す

画像出展:「Amazon

帯津先生がご紹介されている”イアンさんの物語”とはこの本で間違いないと思います。(帯津先生が監修されています) 

信頼できる外科医とは

●『イアンさんの物語には、西洋医学や代替療法の長所、短所について示唆するものがたくさん含まれています。イアンさんは、まずは手術を受けています。右足を切断するという大変な決断を要する手術です。十ヵ月後に再発することになるわけですから、何のための手術だったのかと悔しい気持ちになったことだと思いますが、それは結果論にすぎません。生命の危機から脱出するため、即効性、確実性のある手術を選択したのは間違ってなかったと、私は思います。ガン治療において、手術は第一の選択肢になっていますが、万能ではありません。外科医の時代に、いい手術ができたのに再発して病院に戻って来られる患者さんをたくさん見てきました。外科医としてこんなに悔しいことはありませんでした。

外科医の多くは再発には比較的冷淡で、再発は自分の責任ではないという顔をしています。目の前の手術に全力を尽くすのが外科医の役割という言い分もわかりますが、再発は関係ないという態度は考えものです。再発も含めて、患者さんを丸ごと面倒見るだけの気迫で手術にのぞむべきでしょう。そんな気迫のある執刀医でしたら、すべてをゆだねてもいいと思います。』

抗ガン剤の効果

●『抗ガン剤については、一般的には白血病、悪性リンパ腫、乳ガン、卵巣ガンなどにはよく効くとされています。胃ガンや大腸ガンなどの場合は、抗ガン剤の効果はあまり期待できません。しかし、全く効かないということではないので、そのときの状況によって取捨選択していくべきだと思います。

抗ガン剤については偏見が多く、患者さんは大いに迷ってしまいます。代替療法の立場にいる人は、抗ガン剤を不倶戴天の敵のように罵ります。逆に、抗ガン剤を患者さんが拒否すると、「抗ガン剤をやらないならここで治療する意味はありませんから、他の病院へ行ってください」と平気で言う医師もいます。

病院へ行けば「抗ガン剤をやりましょう」と言われ、代替療法の治療家を訪ねると、「抗ガン剤などやるな」と言われる。どうしていいかわからないと、私の病院へお越しになる患者さんもいます。どちらもどちらです。抗ガン剤の長所、短所をしっかりとわきまえて、用いるべきは用い、捨てるべきは捨てるということをすれば、有益な武器になるのにと思えてなりません。ただ、何も治療手段がないので、とりあえず抗ガン剤をやりましょうというのでは困ります。何らかの勝算があってこその治療です。当たったら儲けものという気持ちでギャンブルをやっても、ほとんど外れてしまいます。当たる確率が一定以上あるという勝算があってこその抗ガン剤治療であるべきです。

イアンさんは、二年間やるべき抗ガン剤を二ヵ月半でやめています。理由は、自分にとって本来の治療法ではないというあいまいなものでした。これは、とても重要な直観でした。私の患者さんにも、イアンさんと同じようなことを言う人がいます。抗ガン剤治療をしていると元気が出ないとか、惨めな気持ちになってくると訴えてくるのです。そういう気持ちになったら、止めたほうがいいと思います。いくらガンとはいえ、人は伸び伸びと生きることが先決です。これをしなければいけないと、萎縮した気持ちで生きていくのは辛いものです。

我慢して抗ガン剤治療を受けても、それで良くなる保証はありません。自分の感覚を大切にして、やるべきときはやり、止めるべきときは止めるというのが、もっとも正しい選択です。

代替療法にはとても難しいことが山積ですが、イアンさんは見事にそれを乗り越えています。一度目もそうですし、二度目はもっと顕著だったと思いますが、西洋医学的治療の選択肢がありながら、代替療法に賭けることをイアンさんは決断します。

一度目のとき、手術が無事にすんだあとで医師は抗ガン剤や放射線の治療をすすめたはずです。しかし、それを受けずに、食事療法と瞑想で対処しようとしました。普通なら大変な迷いが生じるはずです。抗ガン剤や放射線治療の効果には、ある程度の客観性や再現性があります。しかし、食事療法や瞑想には科学的な裏づけはほとんどありません。そこに賭けられるかどうかです。

抗ガン剤や放射線に科学的根拠があるとはいっても、それが治ることにはつながりません。しかし、人は「科学的」という言葉にとても弱いのです。西洋医学の治療を捨てて自然療法でという気持ちになれないものです。本人が「やる」と決めても、家族が反対します。家族ばかりでなく親戚中が反対して、自然療法を断念する人も少なくありません。

さらに二度目は、自然療法でうまくいかず、抗ガン剤で命拾いをしたという経緯があったにもかかわらず、「抗ガン剤をやめて食事療法と瞑想をやる」という決断です。ここにイアンさんの強い意志を感じます。抗ガン剤でこれだけの効果が出たのだから、そのまま続けようと、誰もが思うのではないでしょうか。まして自然療法では、うまくいかなかった前科もあるのです。

さらに、私がすごいと思うのは家族の方です。ガンを患って不安になるのは患者さんばかりではありません。家族の方は、患者さんと同じくらい、あるいはそれ以上に不安と心配で胸がいっぱいのはずです。本人の意思を尊重したいと頭で思っていても、抗ガン剤でここまで良くなったのにどうしてと思わないはずはありません。

主治医もすごい。自分ですすめた抗ガン剤で劇的に回復したわけです。にもかかわらず、抗ガン剤を途中で止めて自然療法にすると言われて、気持ちがいいはずがありません。「もう勝手にしろ!」とさじを投げても不思議ではない状況です。

私は、イアンさんと家族、主治医の間に、半端ではない信頼関係ができていたのだと、うらやましく感じます。最高の“場”の中に身を置きながら、闘病をすることができたのです。それが、奇跡ともいえる好結果を生んだのだと思います。

代替療法を受けるコツ

●『イアンさんは、一度目の自然療法ではうまくいかなかったけれども、二度目は大成功でした。その理由を探っていきましょう。

最初は、どうしても自然療法で治してやるという力みがあったのだと思います。ですから、厳格な食事療法を実行し、瞑想も一日に七時間もやったのでしょう。これでは、逆にストレスになってしまいます。食事療法や瞑想で得たプラス部分よりも、絶対に挫折してはいけないというプレッシャー、ストレスが生むマイナスのほうが大きくなってしまいます。

私の病院にも、さまざまな自然療法に取り組んでいる人がいます。厳格な玄米菜食をしている患者さんがいました。玄米菜食にもいろいろあります。特に、ガンを治療するための玄米菜食は、とても厳しいものになります。肉は一切れも口にしてはいけません。味噌汁のだし汁に煮干しを使うことも禁じています。玄米は一口食べるのに二百回嚙みます。いいことはわかりますが、ここまで徹底した食事療法では、なかなか続けることはできません。

毎朝、回診をしながら表情を観察します。この患者さんの表情は、すっかり暗くなっていました。もう、玄米を見るだけで吐き気がするような状態になっていたのです。命には代えられないと、我慢に我慢を重ねてきたのでしょう。玄米が体にいいことは間違いないと思います。しかし、こうなると逆効果です。

私は、患者さんに言いました。「今度の日曜日、川越に行ってうなぎかステーキでも食べてきたら」彼は、本当に嬉しそうな顔をしました。

日曜日、いそいそと出かけて行きました。何を食べたかは聞きませんでしたが、晴れやかな顔で病院に帰ってきました。厳しい玄米菜食では、うなぎやステーキは食べてはいけない最上位ランクにあります。しかし、一食だけうなぎやステーキにしたからといって駄目になってしまうような体では困るわけです。いくら体にいいものでも、見るだけで吐き気をもよおすようなものを食べているよりは、体に悪いものでも喜んで食べられるもののほうがはるかにいいと、私は思います。

その患者さんは、気分転換ができたのでしょう。翌日からまた、玄米菜食に一生懸命に取り組み始めました。とことんやれる人はいいと思います。でも、ちょっと無理があるなと思ったら、少しは息抜きをした方が長続きします。イアンさんも、息抜きを入れることで、食事療法や瞑想をより効果的なものにすることができました。

太極拳でも、なかなか上達しなくても、楽しみながら、気楽に長くやっている人のほうがいい結果が出るように感じます。真剣にやるときはやり、ときには息抜きもする。代替療法とは、そんなかかわり方がいいのではないでしょうか。』

霊的な目覚め

●『イアンさんの治癒の扉を最後に開けたのは、心霊治療とサイババでした。まわりの人も驚いたでしょう。どうしてそんないかがわしいものに手を出すのかと、眉をひそめる人もいたはずです。

フィリピンの心霊治療は、患者さんの腹部に手を当てて、何かを祈りながら撫でているうちに、おなかの中から汚い血液のかたまりのようなものを取り出して病気を治すというものです。外科医である私には、メスなしにどうして腹腔内から何かを取り出せるのか、とても信じがたいことです。マスコミも大騒ぎをして、それをマジックだと断定しました。

私の患者さんの中にも、この治療を受けた方がいます。マジックかもしれないという疑いをもちつつ、フィリピンまで行き心霊治療を受けたのですが、帰ってきたときには体調が良くなっていました。心霊手術だけに頼って、他の治療を受けないというのは困りますが、たくさんある戦術のひとつとして受けるなら、それはその人にとっての癒しとなります。

サイババも同じです。さまざまな奇跡を起こしていると聞いていますが、それを盲信するのではなく、ひとつの可能性として聖者に会ってくることに、私は反対しません。イアンさんの場合、心霊治療を体験し、サイババに会いに行くことで霊的な目覚めがあったといっています。私は、心霊手術でもサイババでも、手段は何でもいいですから、イアンさんの言う霊的な目覚めが起こることはとても重要だと思います。

ガンを患って奇跡的に回復した人が、「ガンになってよかった」「ガンに感謝している」とよく言います。こうした気持ちの変化も、大きな霊的目覚めだと思います。世の中で起こっていることに偶然はないといいます。ガンになったのも偶然ではありません。なるべくしてなっているのです。なる意味があると思います。その意味を見いだせたとき、そして、その意味をかみしめることで人生が大きく変化し、充実した毎日を送れるようになったとき、人はガンに感謝できるようになります。多分、そういう心境になったときに、自然治癒力は爆発的に高まるのではないでしょうか

ガンというのは、ミステリアスなものです。それを理屈がわかっていることだけでなんとかしようと思っても無理があります。不思議なこと、非科学的なことも使い方次第です。霊的な部分は、WHO(世界保健機関)でも健康の定義として取り入れようとしているほどで、これからの重要なテーマになってくると思います。』

日本WHO協会
日本WHO協会

クリック頂くと、日本WHO協会のサイトに移動します。

”霊的”に関しては「健康の定義」の箇所に以下のような説明があります(一部です)。

『1998年の第101回WHO執行理事会において、「spiritual(霊的)とdynamic(動的)」を加えた新しい健康の定義が検討されました。賛否両論があったのですが、第52回世界保健総会(WHO総会)の議案とすることが決定されました。そして、WHO総会で審議した結果、採択が見送られました。』 

気になったので、さらに調べてみると、「WHOの健康定義制定過程と健康概念の変遷について」という資料(PDF6枚)を見つけました。この3ページめの”Ⅲ 戦後の物質文明に対する反動から生じた健康定義改正議論”の中に経緯や判断などが書かれています。なお、この資料は「第51巻 日本公衛誌 第10号 平成16年10月15日」が発行元となっています。

なお、否決された改正案は次の通りです。"Health is dynamic state of complete physical,mental,spiritual and social well-being and not merely the absence of disease of infirmity"

付記1:日本ホリスティック医学協会

今回、会員となった私に日本ホリスティック医学協会から冊子等が送付されてきたのですが、その中に新鮮な発見がありましたので、ブログにアップさせて頂きます。

その冊子は“HOLISTIC MAGAZINE 2017 30周年記念号”です。彦根市立病院緩和ケア科部長で、日本ホリスティック医学協会副会長でもある、黒丸尊治先生が寄稿された「私のホリスティック医学観 その出会いと変遷」の中にありました。それは「心の治癒力」です。

『代替療法に対する患者さんの期待感や希望といった心の状態こそが、代替療法の直接的効果よりも自然治癒力に大きな影響を及ぼす。』というお考えです。

HOLISTIC MAGAZINE 2017 30周年記念号
HOLISTIC MAGAZINE 2017 30周年記念号

私の臨床における全体性の視点

『とにかくホリスティック医学をたくさんの人に知ってもらいたい、それを実践する医者が一人でも多く出てきて欲しい、そんな思いを持ちながら今日までやってきました。ただ私のホリスティック医学に対する理解は、当初から比べるとずいぶんと変わってきたように思います。最初の頃は全体的な視点を持ちながら代替療法で自然治癒力を高めるといった程度の理解でしたが、心療内科としての人とのつながりやコミュニケーションの重要性を実感するようになってからは、主に心の視点からホリスティック医学を見るようになりました。

例えば「自然治癒力」という言葉ですが、これは免疫系や自律神経系、内分泌系といった体の持っている治癒力や回復力のことを表現しており、あくまでも身体性に重きがおかれた言葉です。しかし実際には安心感や喜び、ときめきといった心の状態も自然治癒力に大きな影響を及ぼし、それが病気や症状の改善につながるという側面も持っています。つまり体と同様、心にも治癒力が存在しているということです。このポジティブな心の状態が持つ力を私は「心の治癒力」と呼ぶようにしました。

それまでは代替療法が自然治癒力を高めるという考え方でしたが、今は直接的な効果よりも、代替療法に対する患者さんの期待感や希望といった心の状態の方がはるかに大きいと考えています。ただし患者さんの心の状態に影響を及ぼすものは、期待感や希望だけではありません。治療者の雰囲気や態度、説明の仕方など治療者要因や、治療者に対する安心感や信頼感といった治療関係要因も深く関係しており、これらも自然治癒力に大きな影響を及ぼします。さらに付け加えるならば、帯津先生がよく言う「場のエネルギー」も深く関与しています。今いる自分の環境や周囲とのつながりにより、患者さんの「心の治癒力」は大きく左右されるからです。

そう考えるようになってからは、代替療法そのものも大切ですが、それに勝とも劣らず、それを行う治療者やセラピストの態度やコミュニケーションの良し悪し、患者さんを取り囲む環境といったものも健康や病気、治療や癒しを考える上ではとても重要であると思うようになりました。これが私の臨床における全体性の視点であり、以前のような患者さんの全体を診るといった、狭い意味での全体性の視点とは大きく変わってきました。医療においては、このような要因がすべて関わっており、その中核をなすものが患者とのコミュニケーションです。今後は、医療現場での多大な影響を与えるコミュニケーションの重要性についてもっと理解を深め、来るべき大ホリスティック時代に向かって、さらに邁進していきたいと思っています。』

付記2サティア・サイババ

“サイババ”と聞いて「懐かしい~」と思う反面、「胡散臭いなぁ」という印象が根強くあります。しかし、イアンさんの体験を知ってその見方は間違っているのかもしれないと思うようになりました。少なくともサイババとはどのようなヒトなのか、その真実を知りたいところです。

そこで、まずはネット検索してみました。以下はその時見つけたサイトです。 

サティヤ・サイババの社会貢献・偉業:『2000年以降、サティヤは無料の学校や病院を建てたり、水道設備を整えるなど積極的に社会奉仕活動を行いました。』 また、サイババの葬儀は国葬として執り行われたそうです。

画像出展:「文藝・学術出版 鳥影社

ウィキペディアには次のようなことも書かれていました。

サイ・ババの逝去に際し、インド首相(当時)マンモハン・シンが以下のとおり声明を発表している。

『「サティヤ・サイ・ババ氏ご逝去の知らせを聞き、深い心からの悲しみにある。サティヤ・サイ・ババ氏は霊的指導者として、人類を、それぞれの信じる宗教を守ったまま、正しく、また意義のある生き方へと導いてきた。氏の教えは真実、正しい行い、平和、愛、非暴力という、普遍の理念に基づくものだった。

サティヤ・サイ・ババ氏は50数年の間、人間の最高の価値(ヒューマン・バリューズ)を説いてきた。また(サイ・ババ氏が生まれ、また生涯を過ごしたプタパルティの)プラシャンティ・ニラヤムを本拠に、世界中に散らばる幾多の機関を通じ、平和主義的価値観、教育、そして公衆衛生を振興することで、人々の崇拝を受けてきた。

氏が信じてきたこと、それは、生活の維持のための基本的要件を誰もが享受できる社会を確保することは、人としての義務であるということだった。信奉する人々にとって、サイ・ババ氏は光となった。

サティヤ・サイ・ババ氏の逝去は、何にも代え難い喪失を意味し、インド国民全員が深い嘆きに包まれている。全ての信者、門弟、支持者に、心からのお悔やみを申し上げる。」』

こちらの本は、先にお伝えした鳥影社さまのサイトに紹介されていた“理性の衝撃”という本です。大変迷ったのですが思い切って購入しました。

理性の衝撃
理性の衝撃

著者:ビジェイ弘詩

出版:鳥影社

発行:2015年3月

今まで宗教に興味を持ったことがない私にとって、この本の内容の多くは受け入れ難いものでした。その中で「この指摘は鋭い!」というものがありました。サイババの奇跡とは何か”、これがそのタイトルです。 

なお、念のためですが、これはサイババ自身の言葉ではなく、著者であるヒジェイ弘詩氏のお話です。 

ヤハウェであり、天之御中主神であり、アッラーでもあるサイババは、インチキと言われている物質化現象でも有名ですが、ここではサイババの奇跡の本質を述べます。

サイババの心は太陽のごとく、どこまでも清く正しく美しい。しかしサイババの奇跡は、サイババの奇跡の本がウソであると思えるほど少ないのです。確かに病気でも仕事面でも事故の面でも奇跡はあるのですが、仮に病気を例に取ると、サイババに奇跡を求める信者の百人に一人も奇跡は起きていないのです。

実は、サイババ信者が大変に困っているのは、本当はこのことなのです。

人間は過去においても現在においても、「救世主が出現した。神が出現した」というニュースを聞くと、もう世界中からたくさんの人間がウァーッと集まります。しかし、サイババを見てブスが美人になったり、抜けた歯が生えたり、顔などのシミやシワが消えたり、三億円の宝くじが当たるとか、出世や事業が群を抜いて良くなるとか、その他にいろんな良いことが起こったという話を私は聞いたことがありません。

また、ガンなどの難病も、私の目には、サイババはほとんど治すことを考えないように見えます。確かに、サイババの本を読むと難病の人が治った話がたくさんありますが、現実は需要の半分も奇跡は起きていません。私は思うのですが、この現実が、サイババへの不信感を抱かせる最大のものだと考えます。

サイババが創造主であり救世主であるとするならば、何故に、イエス・キリストも驚くほどの奇跡を起こさないのでしょうか。

遺伝病や原爆症などを除くと、病気の大半の原因はストレスにあるのではないでしょうか。病は気からと言うように、数多くの慢性疾患は不摂生とストレスが原因と思います。自分より他人の肉体が良く見えたり、自分のものよりも他人のものが良く見えたり、自分の命よりも仕事の方が上に見えたり、自分のエゴや会社のエゴや社会や国家のエゴによって人間関係や社会の秩序が壊れるとき、個人ばかりでなく、社会も病魔に侵されてしまうのです。

では、もしも慢性疾患にかかったときにはどうすれば良いのでしょうか。人間の病気を治す唯一の道は、この苦難とトラブルの多い人生では、何よりも、自分の肉体と精神に価値を置くことです。つまり仕事より肉体が大切である。仕事より精神が大切である。人間の肉体価値は百億円以上である。大企業の社長になることよりも、東大に合格することよりも、天下の美女を愛人にすることよりも、自分が美人やハンサムに生まれることよりも、もっともっと大切なことは、自分の肉体や精神を非常に大切にすることです。自分の胃や、肺、肝臓、脳や心臓などの内臓を、世界一大切にする決意を持つことです。どんなにボロボロな肉体であっても、どんなにズタズタな精神であっても、本人にとっては唯一のかけがえのないものです。全力で大切にする決意を持つべきです。肉体は神であると思い、大切に労わりましょう。自分の精神を大切にして労り、ストレスから解放してあげましょう。そして、自分の魂を燃やして悪因縁を断ち切るために、ガヤトリー・マントラ[ヒンドゥー教における最高峰のマントラ。マントラは宗教的には讃歌、祭詞、呪文などのこと]を唱えましょう。そして、漢方薬や栄養のあるものを飲みながら、医者の治療を受けましょう。

以上のことで理解いただけると思いますが、人間は自分の意志力で、頭の中に充満しているストレスを追い出す決意を持ったとき、自分のことや他人のことをどんどん許さなくてはいけないことに気づくと思います。嫌いな自分や情けない自分を許したとき、嫌いな他人や憎むでき他人を許したとき、人は自分の精神と肉体を世界一大切にするべきものであったと気づくのです。そしてこのとき、病気はその人間を許すと思うのです。病気は消滅するのです。

人間はこのような正しい精神で病気に対応すべきだと思います。あとは、太陽のエネルギーを大量に注入するために、ガヤトリー・マントラを数多く唱えて悪因縁を燃やしましょう。

ストレスは細胞膜を収縮させ、血管を収縮させます。すると細胞内の代謝が悪くなり、また体内での血行が悪くなり慢性病やガンになるのです。ストレスを取る目的で、毎日笑う習慣を持ちましょう。』

付記1で黒丸先生は、ポジティブな心の状態がもつ力を『心の治癒力』と表現されましたが、これを前(改善)に進めるもの(ドライバー)とすれば、ビジェイ弘詩氏の『正しい精神』というご指摘は、前に進める原動力(エンジン)のようなものであり、『心の治癒力』を最大化するための基礎になるようなものだと感じました。

ガンとホリスティック医学3

ホリスティック医学入門
ホリスティック医学入門

著者:帯津良一

出版:角川書店

発行:2009年3月

目次は“ガンとホリスティック医学1”を参照ください。

 

【ホリスティック医学】

西洋式三大療法に代替医療を併用

●『三大療法を中心とした西洋医学の治療法は、肉体に働きかける治療法です。代替療法は、精神や魂といった“場”に働きかける治療法です。このあたりをしっかりと把握して、今の自分にはどの治療法が適切か、どんな組み合わせが効果的か、患者さん本人を中心にして、医師や治療家、ご家族で話し合っていける環境が整えば、ガン難民などという悲しい言葉もなくなるのではないでしょうか。』

気功など中国医学への着目

西洋医学の限界を感じ、今のやり方で有効なものを生かしつつ、違った角度からもアプローチする必要性を感じ、中国医学に可能性を求めた。

●最も興味をもったのは気功である。特に肺ガンを手術で切除したあとの再発を予防するために用いられていることが多いようだったが、この話を聞いて、目の覚めるような思いがした。それは、術後の再発予防こそ、ガン治療にとって非常に重要なものだと感じていたからである。当時、術後の再発予防はほとんど行われていないに等しい状態で、経口の抗ガン剤や免疫療法薬、消化薬を体力回復させる薬だとか肝機能をよくする薬だと言って処方していた程度だった。本気で再発を予防しようという意気込みなど感じられなかった。生活指導の面でも、食事だけでなく、呼吸、運動、ストレスのことなど、毎日のライフスタイルについてまったく無関心だった。

●『私は気功こそ中国医学のエースだと感じ取り、書店で20冊以上の気功関連の本を買って帰国しました。そして、買い求めた書物をむさぼるように読みました。中国語の本など読んだことはありませんから、辞書を引きながらの悪戦苦闘の毎日でした。それでも気功の輪郭は見えてきました。

気功にはおびただしい種類があります。2400種類という人もいれば、3000種類と話してくれた方もいました。多分、正確な数が把握できないほどたくさんあるのだろうと思います。そんな数多くの気功に共通する要素があります。それは、「調身」「調息」「調心」の三つです。この三要素がそろっていれば、すべて気功といっていいのです。

調身とは、姿勢を整えるということです。具体的には、「上虚下実」という言葉が適当かと思います。上半身は力が抜けていて、下半身は力がみなぎった状態です。

調息とは、呼吸を整えること。東洋の呼吸法というのは吐く息を重視します。意識的に吐き、吸うときは自然に入ってくるのに任せる。そうした呼吸が身体をリラックスさせ、自然治癒力を高めるのです。

調心は、心を整えることです。言い換えると、揺るぎない心をもつことです。

この三つがそろっていれば気功だと知って、私はこれまで自分が親しんできた八光流柔術も調和道丹田呼吸法も楊名時太極拳も、みんな気功だったのだと気づきました。新しいことを習わなくても、今までやってきたことから始めようと思ったのです。』

人間丸ごと扱う医学を

●帯津先生の病院(帯津三敬病院)では、中国医学だけでなく、食事療法、心理療法、各種民間療法など、現在ではさまざまな治療を行っている。

「東洋医学は“場”の医学」

西洋医学と代替療法をうまく使い分けるには、それぞれの特徴を知る必要がある。

●東洋医学とは

帯津先生:”エントロピーの医学

『世の中の現象は、手を加えないと秩序がだんだんと乱れてきます。それがエントロピー増大の法則です。例えば、家の中を片付けないでいると、どうなるでしょうか。洋服やら本やら新分野ら、ホコリ、ゴミなどが散乱して、収拾がつかなくなってしまいます。どんどんと秩序がなくなってしまいます。これをエントロピーが増大している状態といいます。ですから、定期的に掃除をします。エントロピーを減らして秩序を取り戻しているわけです。人間の体も同じで、放っておけば、老廃物がたまり、細胞は老化して、秩序がなくなり病気しやすくなります。エントロピーが増大していくのです。

西洋医学は、エネルギーを注入して悪い奴らをやっつけてしまおうという医学です。それに対して、東洋医学は、体内の秩序を取り戻そうとする医学です。気功によって病気が良くなるのも、気がウィルスやガン細胞をやっつけてしまうということではなさそうです。本来、体に備わっている治ろうとする力(自然治癒力)を、気功が高めているように感じられます。

自然治癒力を高めるには、無秩序化している体や心に秩序を取り戻させなければなりません。つまり、エントロピー増大とは反対の方向に進ませる作用が、「気」にはあるのではないでしょうか。そういう意味で、私は、西洋医学はエネルギーの医学、東洋医学はエントロピーの医学という言い方をしたのです。』

清水 博 先生:“の医学

『「“気”は“場”の情報を伝達するものではないかと思っています」。

清水先生とのやり取りは、私にとっては大きな分岐点になりました。人間の体には“場”があり、“場”と“場”をつなぐ役割をしているのが“気”だと考えることで、私のやろうとしていることがとても簡潔に語れるようになったからです。

“場”は、現代物理学ですでに実証されています。ある限られた空間に、電気や磁気などの物理的な量が連続して分布しているものを一般に“場”といいます。電気が連続して分布していれば「電場」、磁気なら「磁場」、両方なら「電磁場」となるわけです。

体内にも、“場”があってもおかしくありません。体の中にも電気や磁気がありますから、電場も磁場も電磁場も存在しているはずです。さらに、現代医学では解明されていない物理量もあるはずです。例えば、気です。気が連続して分布している場を、私は「気場」と呼びました。こうしたさまざまな場が、体内に共存しています。これを全部まとめて、「生命場」と総称することにしました。

つまり、人間の体は生命場からできており、そこにさまざまな臓器が浮かんでいるというイメージです。』

メモ「ブラウン管テレビをたたくと直るのは、鍼のメカニズムに似ている?」

以前、こんなことを思ったことがありました。

おそらく、テレビ内にホコリなどが蓄積し、それが接触不良を起こしテレビの映りに影響を及ぼすのだろうと思います。壊れない程度に、ややイライラしながらバン!バン!とテレビを叩くと映るようになることもありました。

「ブラウン管テレビをたたくと直るのは、鍼のメカニズムに似ている?」
「ブラウン管テレビをたたくと直るのは、鍼のメカニズムに似ている?」

画像出展:「テレビログ

 

これは、帯津先生のお話に当てはめると、時間とともにテレビ内のエントロピーが増大し、バンバン叩くという行為により、ホコリが下に落ちて部品周辺のエントロピーが減少し直った(映った)ということだと思います。

バンバン叩くという行為(刺激)と、体に鍼を刺すという行為(刺激)を同様な行為とみれば、鍼刺激により体内の増大したエントロピーが減少し、元気になったというメカニズムは、「テレビをバンバン叩いたら直った」と同じ種の話のように感じます。

また、『人間の体は生命場からできており、そこにさまざまな臓器が浮かんでいるというイメージです』という帯津先生のお考えを、これを無理やり、人間=テレビ(筐体内空間)、骨=筐体、内臓=部品に置き換えて考えると、生命場は筐体内空間に存在するものということになり、筐体内空間に“ホコリ”が蓄積されたり、各部品が発する“熱エネルギー”が年月とともに筐体内空間に影響を与えるという事象は、少しずつ積り汚された生命場がそれぞれの内臓に影響を与え、また、調子の悪い内臓がその周りに悪さの連鎖をつくり、最終的に人間の健康を損なうということに通じるのではないかと思います。 

いのちの場」を高めるコミュニケーション

●医療でもっとも大切なことは「いのちの場」を高めることである。「こうした治療法で難病が治った」ということが強調されがちだが、「治る・治らない」と二極化して捉えるものではない。あくまでも、いのちのエネルギーを高めていくことが医療である。

医師と患者さん、家族や友人の気持ちが絡み合ったときには、そこにいい場が生まれる。戦略会議を開いて患者さんとのコミュニケーションを図るのも、お互いの信頼関係を深めて、場を高めていきたいと考えているからである。

●『驚くような回復を見せる患者さんを観察してみると、皆さんいい場に身を置いていることがわかります。いい家庭、いい職場、いい医療の場にいて、付き合う人も生命場を高めようという志をもった人たち。そのような環境にいると、自分の場が高まり、いのちのエネルギーも蘇ってくるのだと思います。』

●『病院の場を高めていくことは、急を要する課題である。医師だけでなく、看護師、薬剤師、技師、栄養士、事務関係など、病院にかかわるすべてのスタッフが、高い志をもち、意識をひとつにして場を高めていこうとする病院であれば、その場に身を置いた患者さん自身の場も高まっていく。そして、患者さんの場が高まっていくことで、病院の場もスタッフの場も高まっていくのである。』

サイモントン療法(「大事な家族のサポート」から)

●『サイモントン療法というガンの心理療法があります。ガンが縮小していくのをイメージしながら瞑想をすると、本当にガンが小さくなるという心の作用を利用した治療法です。この方法は、放射線医だったサイモントン博士が30年以上も前に提唱したものです。当時は、「そんな馬鹿なことがあるはずがない」と相手にされなかったようですが、次第に心と体の関係が明らかになってきて、今ではガンの心理療法として確固たる地位を確保しています。

前述したようにサイモントン博士は、年に二度はセミナーのために日本に来られます。そのたびに私の病院に寄ってくださって、患者さんに1時間ほどの講演をしてくださいます。その後、ビールを飲みながらうなぎを食べるのが、私にとっても、博士にとってもすっかりお気に入りのコースとなりました。

サイモントン博士のお話でとても印象に残っていることをご紹介します。「病を克服するために、いちばん大切なことは、必ず良くなると自分の心に決めることです。良くなるための鍵は自分のなかにあるのだから、ふたを開けて、これを取り出すのも自分です。決して他人がしてくれるわけではないということ、それをわかっていただきたいと思います。

一方で、目的を達成するための妨げになるのは、結果に執着することです。「良くなる」という気持ちは大切ですが、良くなろう、良くなろうとだけ思いつめていると、それが執着になってしまい、かえって結果を悪くしてしまうのです。それでは、執着しないためにはどうしたらよいか。それは良くなりたいと強く思うと同時に、いつでも死ねるという心の準備を進めておくことが大事なのです。

サイモントン療法
サイモントン療法

概要:『サイモントン療法は、米国の放射線腫瘍医で心理社会腫瘍医であるカール・サイモントン博士 ( O. CARL SIMONTON, M.D.)により開発された、がん患者さんとご家族(または支援者) のための心理療法です。 近年では、がんのみならず、ストレスに起因するさまざまな病気に対してサイモントンのプログラムが提供されています。

米国にて、学会認定の放射線腫瘍医として、がん治療の第一線で活躍していたサイモントン博士は、臨床で患者さんの治療を重ねるにつれ、診断と治療が同じでも、成果が出て健康を取り戻す患者さんと、全く成果が出ずに死を迎える患者さんとに分かれるという矛盾に直面します。

ここで、患者さんの精神・心理状態、またそれにともなう生きる姿勢が、病気や治癒の過程に影響を与えることを認識します。希望をもって治療や日常生活に取り組む患者さんと、絶望感に苛まれながらそうする患者さんとのあいだに、大きな回復の差を見たのです。その後、がんと心の関係に関する研究を行い、そのことを実証しました。』 

気功の利用

●『そんなことやっていられないよと思えるようなことを、コツコツとつみ重ねることでガンを克服する方はたくさんいます。

気功がそうです。まだまだ怪しげなものという目で見る人もたくさんいますが、気功は健康法や病気治療としての市民権を得たといってもいいでしょう。10年ほど前までは、「気功でガンを治そう」などと言ったら、ほとんどの人がばかにした笑いを浮かべる時代でした。そんなことやってガンが治るものかと、誰もが思っていたのです。もちろん、気功で末期のガンがまたたく間に消えてしまったということはありません。そんなことは、どんな治療法でもありえないことです。

気功は、毎日毎日、コツコツとやることで、何かが変わってきます。気持ちの持ち方が変わってきたり、体調の変化も起こってきたりします。それが、ガンの増殖を抑えたり、再発の防止になったりしているのです。気功も、決してうまくやろうと思う必要はありません。いちばん大切なことはときめきです。義務でやるのではなくて、心をときめかせながら、何か好きな気功をひとつ、コツコツとやっていくことが大切です。

素直になると、小さなことに心がときめくようになります。朝、起きて家族が大きな声であいさつしてくれたこと、鳥たちがたくさん鳴いていたこと、散歩道で小さな花を見つけたこと。そんなことで心をときめかすことができたら、心はときめきでいっぱいになります。小さな爆発が常に起こっている状態です。それがやがては大爆発になって、逆転ホームランが飛び出すかもしれません。』

ガンとホリスティック医学2

ホリスティック医学入門
ホリスティック医学入門

著者:帯津良一

出版:角川書店

発行:2009年3月

目次は“ガンとホリスティック医学1”を参照ください。

 

【ガンといかに向き合うか】

ガンほどミステリアスなものはない

●『こんなにも長い間[47年間]ガンとかかわってきて、どれくらいガンのことがわかったでしょうか。「ガンとはいったい、何者なのか?」。そういう質問をされたら、私はなんと答えるのだろうと、自問してみました。なかなか適切な答えが浮かんできません。そんなとき、ふと思い出したことがあります。

98(平成10)年に、ロンドンにある王位ホメオパシー病院を訪ねたときのことです。アン・クローバー先生というベテランの女医さんとお会いして、いろいろとお話をしました。上品で温かな雰囲気をもった方でした。彼女は、私と同じようにホリスティック医学を志してきました。一ヵ月後には定年で退職すると言います。これからも、ホメオパシーやホリスティック医学のことを教えていただこうと思ったのにとても残念でした。

私は、彼女に質問しました。「半生をホリスティックなガン治療に捧げて、今、ここを去るにあたって、何か心に思うことがあるのではないですか?」

彼女はやさしい目をしていました。私の質問を聞いた彼女は、やさしい瞳の中に、寂寥感(サキリョウカン)をともなった安堵の光を見せました。その目を見て、私は、この人は十分に戦い抜いてきたのだと思いました。

彼女は一呼吸おいて、こう答えました。「そうですねえ……。ガンほどミステリアスなものはない、ということでしょうか」

この一言に、私は思わず身を乗り出してしまいました。なんと的を射た言葉なのでしょう。ガンほどミステリアスなものはない。まったく同感です。「これだ!」と飛び上がりたいほど嬉しくなりました。ガンという病気はあまりにも複雑怪奇で、こういうものだと、ひと括りにできるものではないのです。

彼女は続けました。「だから、何をやってもいいんですよ」どんな治療法を採用してもいいという意味です。

世の中には、オーソドックスな治療法以外にも、さまざまな治療法があります。西洋医学の教科書に載っていないという理由だけで、それらの治療法を排除することなどないのです。

ガン治療にはマニュアルは存在しません。最先端の高度な治療を受けても治らない人がいるかと思えば、怪しげだとされている民間療法で劇的に治る人もいます。また、何もしないのに、自然に治ったという人もいます。「ミステリアス」これこそ、ガンを語るのにはもっとも適した言葉だと思います。

●『クローバー先生や私ばかりでなく、「ミステリアス」という表現こそ最高のガンの形容詞だという感覚をわかってくださる医師は決して少なくないはずです。現実をしっかり見据えながら、誠実にガンの治療に取り組めば取り組むほど、ガンのことがわからなくなってくるのです。ガンの患者さんが百人いれば百通りのガンがあると思えてきます。それくらい、ガンには個性があって、それぞれが予期せぬ方向に動くのですから、マニュアルなどつくれるはずがないのです。

王位ホメオパシー病院
王位ホメオパシー病院

こちらが王位ホメオパシー病院です。ホメオパシーに関する興味深い内容も紹介されています。なお、これはホメオパシー統合医療専門校さまの記事になります。

『英国におけるホメオパシーは180年以上の歴史を持ち、古くは王室御用達の健康法として貴族階級の間に広がり、現代では英国王室庇護のもと多くの国民もその恩恵を得ています。 国立のホメオパシー病院は英国各地に4つ(ロンドン、ブリストル、リバプール、グラスゴー)ある他、数多くのホメオパス達が活躍しております。ロンドンの中心地にある王立ホメオパシック・ホスピタル(The ROYAL LONDON HOMOEOPATHIC HOSPITAL)は、近年「Royal London Hospital for Integrated Medicine (統合医療の為の王立ロンドンホスピタル)」に改名され、ホメオパシーだけでなく、鍼灸やマッサージなどの伝統医療での治療が続けられております。』 

あてにならない余命宣告

●『ガンという病気は、自分が主体になって闘うことがとても大切だからです。ご紹介した症例でも[”ガンとホリスティック医学4“でご紹介します]、患者さん本人が、自分の状態を知り、自分でどういう治療を受けるか選んでいく中で、ガンとの上手な付き合い方ができるようになっています。』

「死」と「心」の問題

●『クローバー先生は、ガンはミステリアスだから、何をやってもいいんだとおっしゃっていました。何をやってもいいというのは、手当たり次第に、次から次へと治療法を渡り歩けということではありません。そうなったときは、負け戦です。

ホームズもポアロもコロンボも、足で歩き、たくさんの証言を集め、自分の頭で推理して、ときには直観を働かせ(実は、これが一番重要な要素ですが)、犯人を絞っていきます。決して、場当たり的に動いてたまたま犯人に行き着いたというのではないのです。

ガンの付き合い方も同じです。どうやったら治るかというマニュアルはありませんが、ガンとのかかわり方を考える上で、どうしてもおさえておきたいとても重要なものがいくつかあります。その中でも、もっとも大切なのは、「死」と「心」の問題です。まずは、「死」に対して目をふさがないということです。ガンという病気は、どうしても死を意識させられます。死の不安、恐怖で押しつぶされそうになります。できれば、死については考えたくないというのが大方の人の思いでしょう。しかし、冷静に考えれば、ガンに限らなくても、人は必ず死にます。だれもが、その法則からは逃げられません。

西洋医学は、死を敗北だと考えています。ですから、治癒の見込みのある患者さんは一生懸命に治療しますが、見込みがなくなった途端に医師は冷たくなってしまいます。治療法がなくなると病室に足を運ばなくなる医師もいます。それでは本当の医療はできません。死をも含めて、患者さんを診るのが医師の役割だと思います。

ガンになって人生が大きく変わったという人をたくさん知っています。生き方が変わり、ガンになる前よりも充実した毎日を送っている方もたくさんいます。死を意識したからこそ、生が変わってくるのです。生き方や生活が変わると、ガンに対する見方も変化します。それが治癒の力につながっていきます。死を見ないように遠ざけている間は、生き方も生活も変わりません。まずは、ガンになったのをきっかけに、必ずいつかは訪れる死について考えてみるくらいの気持ちが大切だと思います。

次が「心」です。心が安定していないと、どんなにいい治療法をもってきても、なかなか効果が出ません。心の問題は、死を考えることとも連動しています。死を見据えることは、心を安定させるためにもっとも大切なことです。

私は、ガン治療の基礎に心の治療をもってきます。例えば、サイモントン療法[“ガンとホリスティック医学3”でご紹介します]という心理療法があります。創始者であるサイモントン博士は、年に二度ほど、私の病院に来られて、一時間ほど患者さんに話をしてくださいます。彼は三十年以上、ガンと心の問題を研究し、患者さんたちがさまざまな“気づき”を得るワークショップを行ってきました。ガンという病気を通して、死を真正面から捉え、死を含めてどう生きるかを考えるという内容ですから、私の思っている死や心の問題と一致します。こういう同志がいることを、とても心強く感じます。

サイモントン療法に限らず、イメージ療法や音楽療法、カウンセリング、リラクゼーション、気功などで、患者さんの心を安定させることをやらない限り、次の治療は始まりません。

死をしっかりと見据え、心を安定させる。これさえできれば、道は自ずと開けていくと思います。ただ、これを一人でやるのは大変です。家族や医師、看護師、友人が、患者さんを支えるという態勢が必要です。

死や心については、とても重要なことですから、次章以降でも詳しく述べていきます。ここでは、治療法を探し回る前に、死と心という基礎をしっかりすることから始めるのが、ガンというミステリーを解くもっとも近い道ではないだろうかということを意識に刻み込んでいただければと思います。

希望が人間を支える

●『ガン治療に長くかかわってきて、「あなたの余命は三ヵ月です」と言われた人が、何年も元気で生きたということはいくらでもあります。はっきりしないことを決まっているかのように断言して患者さんの希望を奪ってしまう権利は、どんな優秀な医師にもありません。人間が生きていくうえで、希望ほど大切なものはありません。それは、元気なときも、病気のときも、死の淵にいるときも同じです。人は、どんなときでも希望に支えられているといってもいいでしょう。「あと三ヵ月の命ですから、好きなことをして生きてください」といった余命告知をする言葉に希望が見いだせるでしょうか。なかには、その言葉に奮起して頑張る人もいるかもしれませんが、ほとんどの人は希望を失い、生きる意欲もなくしてしまいます。

余命三ヵ月と言われた人が、医師の言うとおりに三ヵ月後に亡くなるというのは、多分に希望や意欲をなくしてしまった結果とも考えられます。余命を宣告されなかったら、さまざまな方法にチャレンジし、生きがいを見つけ出し、一年、二年と生きることができたかもしれません。

第一章で書いたように、ガンはミステリアスです。医師の知識や統計で語れるものはありません。前例にないことはいくらでも起こってくるのです。全身にガンが広がって、常識的にはあと三ヵ月かもしれないと思われる人がいたとしても、何が起こるかわからないのが、ガンという病気のミステリアスなところなのです。その何が起こるかわからない部分こそ、希望の種となるのだと思います。

“戦略会議”の内容

20年以上前から入院患者さんと一緒に“戦略会議”を行っている。主な目的は、会議の中で希望のエネルギーを充電してもらいたいためである。原則は1日に一人である。だいたい、入院してから1週間ほどたってから行っている。

●自分でこういう治療を受けたいという希望をもって戦略会議に出てこられる人は増えており、とても頼もしい傾向である。基本的には、危険や費用の問題がないものであれば、患者さんの意思を尊重している。そして試してみて、効果が出ないようだったら修正するようにしている。

●戦略会議でとても大切なのは、心のもち方についての話である。入院して1週間では、普通は心の揺れや不安、恐怖が強い。心が不安定なままだと、どんなにいい治療も期待通りの効果はなかなか出ない。そのため、患者さんの心の状態を聞き、どうすれば少しでも安定するか、心理療法を受けることも含めていといろと話をする。何かひとつでもヒントをつかんで頂きたい。

●経過のいい人はあまり心配ないが、検査値が悪くなっていたり、症状が辛くなっているときこそ、心のあり方をしっかりと見つめる必要がある。「人間は本来、悲しいものなんだよ」という話をする。悲しさを基礎において生きていれば、人は揺らがない。変に明るく前向きに生きようとするから、ちょっと検査値が悪くなっただけで、がたっと気落ちしてしまうのである。

大事な家族のサポート

●『患者さんの場を高めるうえで、病院や医療者の役割はとても大きなものがあります。もうひとつ大事なのが、家族のサポートです。

ガンという病気は一般的には「死」とセットにして考えられます。ですから、ガンだとわかると、仕事でも閑職に回されたり、まわりから腫れ物に触るように接してこられたり、孤独感や隔絶感を感じてしまいます。「自分はガンで会社からも必要とされない。」と思ってしまうと、気力が低下して、場のエネルギーも急降下してしまいます。その無力感からひとりで立ち直るのはとても難しく、家族の支えがどうしても必要になってきます。

サポートとは、基本的にはガンを相手に戦う戦友のような立場を維持することだと、私は思っています。

しぶとい明るさを身につける

●『人間には悲しくて孤独な存在だからと言って、毎日暗い顔をしていろというのではありません。無理に明るく前向きに生きる必要はないだけの話で、自然に明るく前向きになれれば大いに笑い、喜び、楽しめばいいのです。

人は誰もが不安をもって生きています。私も、不安や心配事を山ほど抱えています。しかし、そうしたなかにも、希望や生きがいは必ずあります。たとえ重症で寝たきりの人でも希望や生きがいをもっていて、それを達成しようと努力しているのです。そして、それが達成されたとき、小さなことであっても、心がときめきます。このときめきがとても大切なのです。

心がときめいていると、自然に明るくなります。心のときめきからくる明るさは、「明るく前向きに生きましょう」とお題目のように唱えて、不安や悲しみ、寂しさに覆いをかぶせてしまっている明るさとは違います。非常にしぶといのです。

私の病院にも、二種類の「明るく前向き」が見られます。はじめから「ガンになんか負けるものか。ねじ伏せてやる」という明るく前向きな人。そういう人は先ほど言ったように、ちょっと具合が悪くなるとがたっと落ち込んでしまいます。入院してきた当初は、ほとんどの人がこのタイプです。しかし、何度か落ち込み体験し、私の「人間は悲しく孤独なもの」という話を聞き徐々に生きる悲しみを理解してくると、いつの間にかしぶとい明るさを身につけることができます。

少々悪くなっても、「まあ、仕方ないね。いいときもあれば悪いときもあるよ」とニコニコ笑っています。それは、決して自分をごまかしている明るさではなくて、本心から出ている明るさなので、悪くなったことを伝える側もとても元気をもらえます。一時的に落ち込むことはあっても、短期間で笑顔を取り戻せる人たちです。

あとがき

●『ガンは体だけでなく、心にも生命にも深くかかわる病気です。だから、主として体を対象とする西洋医学だけをもってしては手を焼くのは当然で、ここはどうしても体、心、生命が一体となった人間丸ごとをそっくりそのまま捉えるホリスティック医学をもってしなければならないのです。

どうです。実は簡単なことではないですか。このことに気がつく人が増えれば増えるだけ、ガンは治りやすい病気になっていくこと請け合いです。

ご家族の病気のことでわずか六ヵ月間、ガン治療の現場をさまよっただけなのに、さすがは作家です。田口ランディさんは、ガン治療の問題点を鋭く衝いてきます。そのひとつ。西洋医学と患者、代替療法と患者、そして、西洋医学と代替療法の間に全く繋がりというものがない。三者がそれぞれ孤立している。これでは治療効果が上がるわけがない、というのです。その通りです。体だけでなく、心や生命に深くかかわる病気を治していくためには、当事者同士の心と心、生命と生命が繋がらなくては駄目なのです。いや、繋がるだけでいいのです。

この繋がりを中心に、47年間の想いのあれこれを書いてみました。ガン治療の場のエネルギーを向上させるために役立つことができれば、これ以上の喜びはありません。』

ガンとホリスティック医学1

帯津良一先生のことは以前から存じてあげていました。今回、やっとというか、ついにというか、先生の多くの著書の中から、「ホリスティック医学入門」という本で先生のお考えを勉強させて頂くこととしました。

ホリスティック医学入門
ホリスティック医学入門

著者:帯津良一

出版:角川書店

発行:2009年3月

なお、本題に入る前にネットで見つけた、“日本ホリスティック医学協会”のホームページをご紹介しています。余談ですが、歴史もありとても興味深い魅力的な協会だったので、やや衝動的ですが“入会”してしまいました。

日本ホリスティック医学協会
日本ホリスティック医学協会

協会概要:『本会は1987年に誕生した団体で、人々の健康の増進とホリスティック医学と健康の概念の普及をはかることを目的としている非営利団体です。平成15年にNPO法人としての認可を受け、ホリスティック医学に関心を持たれるすべての方に開かれた組織作りを進めています。現在、医師、薬剤師、看護師などの医療従事者をはじめ、各種療法家、セラピスト、研究者から健康に関心のある一般の方々まで、幅広い層の方々が入会されています。( 2016.8月現在、会員数約1,700人)』 

ごあいさつ:『20世紀、西洋医学が人間の身体性(からだ)を対象に、大いなる達成を果たしたあと、新しい世紀の到来とともに、身体性を超えて精神性(こころ)と霊性(いのち)にも注目する医学を待望する声が内外に高まってきました。ホリスティック医学は病というステージだけにとどまらず、生老病死から死の世界まで、まるごとを対象にしているため、代替もなければ統合もありません。医学とはいっていますが、ホリスティック医学とは”生き方”そのものなのです。これからは医療の現場にいる医者ばかりでなく、患者さんも含めすべての人々がホリスティックな医療を推し進める時代です。当協会では、人々が、よりよく生きられる社会をつくるために、医療・生活・社会における様々な分野で、ホリスティックヘルスを普及し人類の健康を推進する努力を続けてまいります。皆様のご賛同とご参加を心から期待しております。』名誉会長 帯津良一(帯津三敬病院名誉院長)

最も印象に残ったお話は、“「死」と「心」の問題”と“しぶとい明るさを身につける”です。この二つは、思うに、“ガンといかに向き合うか”ともいうべき内容のように思います。

ブログは4つに分かれているのですが、以下のようにグループ分けをし、目次(黒太字が取り上げた項目)には、これらのグループ名(副題)を明記しました。また、要点をまとめる形式と引用(『』)が混在になっています。

■ガンとホリスティック医学1:[ガン治療の現状と課題

■ガンとホリスティック医学2:[ガンといかに向き合うか

■ガンとホリスティック医学3:[ホリスティック医学

■ガンとホリスティック医学4:[ガン治療の症例

目次

第一章 マニュアルが存在しないガン治療

外科手術の限界

ガンほどミステリアスなものはない(2:[ガンといかに向き合うか])

迷走する治療現場

ガン難民の行方(1:[ガン治療の現状と課題])

ガンと上手につき合う人々

主体的な治療選択を

なぜ人はガンになるのか

ガン健診の利用法

あてにならない余命宣告(2:[ガンといかに向き合うか])

セカンドオピニオンのすすめ

西洋式三大療法に代替医療を併用(3:[ホリスティック医学])

「死」と「心」の問題(2:[ガンといかに向き合うか])

第二章 西洋医学を否定しない代替療法を

手術後も再発する患者さんたち(1:[ガン治療の現状と課題])

気功など中国医学への着目(3:[ホリスティック医学])

病院内に道場を作る

人間丸ごと扱う医学を(3:[ホリスティック医学])

柔軟な治療デザイン(1:[ガン治療の現状と課題])

「東洋医学は“場”の医学」(3:[ホリスティック医学])

「生命場」に働きかける治療法(3:[ホリスティック医学])

再発した骨肉腫を食事療法と瞑想、抗ガン剤で克服(4:[ガン治療の症例])

西洋医学の全否定は誤り(4:[ガン治療の症例])

フィリピンの心霊手術とインドのサイババ(4:[ガン治療の症例])

信頼できる外科医とは(4:[ガン治療の症例])

抗ガン剤の効果(4:[ガン治療の症例])

代替療法を受けるコツ(4:[ガン治療の症例])

霊的な目覚め(4:[ガン治療の症例])

治療方法は星の数ほど残されている

治療選択ミスは次の糧に

白隠禅師に学ぶ

第三章 医師と患者さんの徹底した“戦略会議”を

中国のガン治療の中心人物・辛育令先生に学ぶ

患者さんのエネルギーを高める演出

希望が人間を支える(2:[ガンといかに向き合うか])

ガンが三ヵ月で消失!

“戦略会議”の内容(2:[ガンといかに向き合うか])

「いのちの場」を高めるコミュニケーション(3:[ホリスティック医学])

大事な家族のサポート(2:[ガンといかに向き合うか])

[サイモントン療法](3:[ホリスティック医学])

食事から大地の“気”を体内に入れる

食事療法に必要な工夫

適量のアルコールは治療効果が大

まずは気功の場に身を置く

代替療法に医学的根拠は必要か?

患者さんの人生を反映させる治療を

第四章 もしガンを告知されたとしても

人間は「明るく前向き」には生きられない

自分の中の恐怖心や不安を認める

しぶとい明るさを身につける(2:[ガンといかに向き合うか])

生命のエネルギーに小爆発を起こす

逆転ホームランのチャンスを待つ

医療者の役割

気功の利用(3:[ホリスティック医学])

日常生活のときめき

娘の花嫁姿を見て亡くなった患者さん

夏目漱石の生き方に学ぶ

「生命場」のエネルギーを高める方法

第五章 生老病死を統合する生き方を

死後の世界に飛び込む

「死は医学の埒外」か?

楊名時先生に学ぶ理想的な死に方

「よろんで朽ち果て、万有の中に崩壊してゆく」

自らの死と対峙した患者さん

死について語り合える場を

人は死では終わらない

死を受け入れることの意味

年をとる意味

生きがいで肺ガンを克服した女性

「生老病死」を丸ごと捉える

自分だけの死の最高のタイミング

あるがままに生きる

あとがき(2:[ガンといかに向き合うか])

【ガン治療の現状と課題】

ガン難民の行方

●病院で見放された患者さん、いわゆる「ガン難民」は約68万人といわれている。

●ガン難民は代替療法に希望を求める。

●『代替療法とは、簡単にいえば、大学の医学部で習わない医療のことです。西洋医学以外の治療法といってもいいでしょう。』

●『手術や抗ガン剤がまだ有効な状態であるにもかかわらず、それを否定してしまうのは得策ではありません。大きなガンが局所的にあるなら、これを手術や抗ガン剤で小さくしてから代替療法で対処していくという方法も有力な選択肢です。

●『迷路から脱する方法があるとすれば、西洋医学の医師にも、代替療法をすすめている医師や治療家にも、そして患者さんにも「ガンはミステリアス」というクローバー先生の言葉を胸に刻んでいただくことです。』この「ガンはミステリアス」は帯津先生の最大級のメッセージですが、詳細は次回の“ガンとホリスティック医学2”の冒頭でご紹介します]

本書の発行は2009年ですが、ここに記載されていた“ガン難民”の数は約68万人というものでした。「現在はどれ位なのか?」と思い、ネット検索してみました。この1、2年ということでは良い情報はなかったのですが、いくつか興味深い情報がありました。

東京ミッドタウン先端研究所
東京ミッドタウン先端研究所

こちらは、2014年時点ということですが、“約100万人”というお話です。『「がん難民」という言葉の定義は様々ありますが、日本医療政策機構による「がん患者調査報告」によれば、治療説明もしくは「治療方針決定時のいずれかの場面において、不満や不納得を感じたがん患者を「がん難民」と定義した場合、その数は全国で100万人に達すると言われています。※2014年時点』

“なぜ「ガン難民」は生まれる?”
“なぜ「ガン難民」は生まれる?”

こちらは“なぜ「がん難民」は生まれる? 医師が指摘する2つの理由”というAERAdot(記事はAERA2015年9月7日号)にあったものですが、この中に「日本医療政策機構」の調査(2006年)によれば、そうした「がん難民」は推計約68万人いるといいます。ということが書かれていました。68万という数字は、こちらの調査データのようです。

“2人に1人は癌難民”
“2人に1人は癌難民”

こちらの”2人に1人は“癌難民”‐医療政策機構が調査”は、上記でご紹介した日本医療政策機構さまの調査に関する記事です(2006年12月)。

日本医療政策機構
日本医療政策機構

こちらは日本医療政策機構さまのサイトです。「サイト内検索」で“がん難民”を検索しましたが、情報は2010年までのようです。

手術後も再発する患者さんたち

●『これほどにまで医療技術が進歩しているのに、どうしてガンが治らないのか。私は、ガン治療の根本的な部分にメスを入れないと、ガンという病気には対処できないのではと考えるようになりました。』

西洋医学のガン治療はガンの病巣だけを相手にしており、病巣のガン細胞を取り去る治療である。

●ガン治療の問題は原因が残っているため再発リスクが排除できない点である。

●『西洋医学のガン治療は、ガンの病巣だけを相手にしています。手術は文字通り、ガンを切って取ることに専念します。放射線治療では、ガン細胞に放射線を当てて焼き殺そうとします。そして、抗ガン剤は、どうしたら効率的にガン細胞を殺せるかといったところに焦点を当てて開発されます。

特定の原因や病巣をターゲットにするという方法は、感染症に対しては素晴らしい効果を発揮しました。結核や腸チフスであれば、その原因となる病原菌を殺してしまう抗生物質を投与することで、患者さんは、それまでの医学からみれば奇跡と思えるような回復ぶりを見せたのです。

ガンも同じような発想で対処しようとしました。しかし、ガンは感染症と違って、原因が特定できません。つまり、攻撃するターゲットがはっきりしないのです。そこで、原因ではなく結果を追いかけ、ガン細胞を取り去る治療が進められてきました。しかし、結果をいくらいじっても、原因が残っているわけですから、一時的には良くなったように思えても、再発して病院に戻ってくる患者さんが後を絶たないのです。

私の専門である食道ガンでいえば、ガンで食道が塞がってしまい食べ物が入っていかないときには、手術でガンを切除してしまうのが急を要する治療でしょう。しかし、それは単なる緊急避難でしかなくて、根本的な治療にはなっていません。やがては再発してガン細胞が大きくなり、今度は手術でも抗ガン剤でも放射線でも歯が立たなくなってしまいます。ここで西洋医学の治療は終了です。手の施しようがありません。医師の口から出るのは、「もうこれ以上の治療法はありません。あとは緩和ケアへ移っていただいたほうがいいですね。」という寂しい決まり文句です。

そして、「余命〇ヵ月」という冷たい宣告をして、患者さんとのかかわりは終わりになってしまいます。そうした態度をよしとするのか、他にもっと方法はないかと患者さんや家族の方と一緒に可能性を探すのか、医療者としてのあり方が問われているのが、ガン治療の現状だと思います。

ただ、もっと何か方法はないかと探すといっても、西洋医学という枠の中で見回してみても、なかなか見つかるものではありません。西洋医学の枠を超えたところを探してみる必要があります。そこには、医学部で習ったり、上司や先輩から教えられたりした方法ではない、西洋医学にどっぷりとつかっている医師には違和感を感じるような方法がたくさんあります。そうした方法を、医学的ではないと切り捨ててしまうか、それとも可能性を感じ取るか。医師にとっても、患者さんにとっても大きな別れ道となります。

柔軟な治療デザイン

●大多数の医師は代替療法について否定的である。これは多くの場合、代替療法に興味がなく、知識もないためである。

●感染症や救急医療は西洋医学の得意とするところだが、慢性疾患に対しては一時的に症状を抑えることはできても、根本的な治癒をもたらすことは難しい。

ガン治療では、あるところまでは三大療法で可能だが、ここからは代替療法でやっていこうという発想がほしい。あるいは、併用することもできるはずである。

がんと自然治癒力13(まとめ)

7月に始めた「がんと自然治癒力1」のブログも、ついに「まとめ」にたどり着きました。もっと簡潔にできると思っていたのですが、予想以上に長くなってしまったため、目次を付けさせていただきます。

目次

1.「がん対策」の実態と課題

2.がんの治療と予防

 1)米国の統合医療に見られる補完代替医療

 2)がんとは何か

3.がんとタンパク質

 1)遺伝子をコントロールするタンパク質

 2)早すぎる老化を迎えた細胞は、健康な細胞と何がちがうのか?

 3)細胞の早い老化の影響:肉体 ―インフラメイジング 

4.自然治癒力について

 1)代謝

 2)恒常性(ホメオスタシス)

 3)自然治癒力

 4)ホメオスタシスを提唱した“キャノン”は自然治癒力について何と言っているか

5.ストレスの第一の標的は“脳”

 1)チャレンジ反応を培う

6.がんと自然治癒力

7.鍼灸と自然治癒力

8.まとめ

 1)自然治癒力とは 

 2)がんと自然治癒力

 3)がんと鍼灸

“日本のがん医療への提言 救える「いのち」のために”

追記:“量子物理学が生物学・医学を変える日は近い”

1.「がん対策」の実態と課題

日米における「がん対策」の成果の差は、まさに下記のグラフ(左:米国、右:日本)に表れていると思います。

米国のがん死亡率年次推移
米国のがん死亡率年次推移
日本のがん死亡率年次推移
日本のがん死亡率年次推移

米国では1971年にニクソン大統領が ”がん戦争宣言(“war on cancer”)” を発表しました。

“がん戦争宣言(war on cancer)”
“がん戦争宣言(war on cancer)”

画像出展:「THOMAS HEALTH BLOG

そして、1975年にはフォード大統領が立ち上げた「栄養問題特別委員会」を中心とした国家的な調査が大きな流れをつくり、上昇が続いていたがんによる死亡率は1990年頃から減少に転じ(男性:左上図青線)、今もその成果は続いています。

その主な成功要因は次の3つと考えます。(「がんと自然治癒力2」より)

①政治トップのリーダーシップ・コミットによる全米プロジェクト化

②適切な施策を導くための正確な情報を収集・蓄積・分析するためのシステム化

③病院単位でのがん医療に関する品質維持・改善のしくみの導入と継続

一方、日本のがんによる死亡率は残念ながら増え続けており、日本のがん対策は、数字の結果だけを評価するならば、全く成果は出ていないと言わざるを得ません。

国立がん研究センターの予防研究グループが発表した2015年時点における「がん罹患・死亡・有病数の長期予測」を見ると、男性は2024年、女性は2034年がピークです。また、罹患数においては男性2034年、女性2039年がピークとなっており、今後約20年間、がん罹患数は増え続けるという厳しい予想になっています。

これは、国民に対するがん予防の主な対策が「がん検診」中心となっており、基本的には国民任せという実態が関係していると思います。

『予防研究グループでは、地域住民、検診受診者、病院の患者さんなど人間集団を対象に、疫学研究の手法を用いて、発がん要因の究明(がん予防のために必要な科学的根拠を作る)がん予防法の開発(科学的根拠に基づいて具体的かつ有効ながん予防法を提示する)を目的とした研究を行っています。』 

国立がん研究センターと健康社会センター:予防研究グループ
がんの予測値

画像出展:予防研究グループ

罹患数:一定期間に発生した疾病者の数。

有病数:ある一時点において、疾病を有している人の数。

「国民任せ」や現場主導のボトムアップ的手法だけではその実行力に限界があります。

がん患者さま、そしてその団体を中核とし、政治・行政・医師会という組織が三位一体となったバックアップ体制をつくって、増え続けるがん死亡者数という現実と真剣に向き合わないかぎり、この深刻な問題を解決するのは難しいと思います。

「では、どうすればいいだろうか?」

この疑問について、がんにより2007年に他界された、山本孝史元参議院議員が遺した ”日本のがん医療への提言 救える「いのち」のために” という本の中にヒントともいうべきものがありました。

これについては、ブログの最後にご紹介したいと思います。

2.がんの治療と予防

米国の統合医療が目指すもの
米国の統合医療が目指すもの
日本の特殊事情(医療保険制度の壁)
日本の特殊事情(医療保険制度の壁)

これは「がんと自然治癒2」の中のスライドショーでご紹介した“米国の統合医療”を表したものです。

がんの三大治療」は2つの図ではともに青い部分になります。

米国では現代医療に、補完代替医療(緑色)を積極的に加えていこう(統合医療)という動きがあります。一方、日本では情報提供の範囲に留まります。ここに一つ、日本と米国の違いがあります。

“世界が注目!アートの力 健康・長寿・社会が変わる”
“世界が注目!アートの力 健康・長寿・社会が変わる”

2018年10月17日:NHKの”クローズアップ現代”で

世界が注目!アートの力 健康・長寿・社会が変わる』という番組が放送されました。これをみると「心」の重要さを痛感します。アートも補完代替医療に含まれるのではないかと思いました。

厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』
がんの補完代替医療ガイドブック 第3版

 

こちらの「統合医療情報発信サイト」には、“がんの補完代替医療 ガイドブック”だけでなく、多くの有用な資料が置いてあります。

国立がん研究センター
科学的根拠に基づく がん予防

国立がん研究センターの「科学的根拠に基づくがん予防」のページの右側にPDFの資料をダウンロードするボタンがあります。

 

1)米国の統合医療に見られる補完代替医療

下記も “米国の統合医療” のスライドの一部です。グラフは「PubMed」というサイトに掲載された論文数の推移となっており、これによると「サプリメント」、「ハーブ」、「TCM(伝統中国医学)」、「鍼灸」、「瞑想」、「ヨガ」の論文数が増えています。  

米国の統合医療に見られる補完代替医療
米国の統合医療に見られる補完代替医療
米国の統合医療に見られる補完代替医療
米国の統合医療に見られる補完代替医療

現時点において、「がん予防(再発防止を含む)」には補完代替医療の選択的活用が良い方法だと思います。

がん予防の原点は、一人ひとりが自らの生活習慣を見直すことだと思いますが、それに加え、補完代替医療(たとえば、体操、ヨガ、鍼灸など)を病院側がメニューのように用意し、スタッフによる指導だけでなく、その補完代替医療による病状への効果を把握し、患者さま一人ひとりに適切なアドバイスがされるようになると素晴らしいと思います。

一方、「がん治療」は三大治療が主役ですが日本においては、知識やノウハウ、チーム医療、報酬制度、そして何といっても、抗がん剤の認可の遅さ等、課題は山積です。

「抗癌剤知らずに亡くなる年間30万人」より
抗癌剤:治療ごとの薬量の推移

画像出展:「抗癌剤 知らずに亡くなる年間30万人」

この図は抗がん剤投与の ”知識やノウハウ” の大切さを知って頂くために添付しました。詳細は「がんと自然治癒力3」をご覧ください。

 

しかし、抗がん剤においては、分子生物学の進歩による分子標的治療薬(「がんと自然治癒力4」を参照ください)、そして新しい免疫療法では、免疫チェックポイント阻害薬(PD-1阻害剤のオプジーボ、CTLA-4阻害剤のヤーボイ等)などの研究も盛んに行われており、多くの人が最新医療の進化を切望しています。

※オプジーボ開発の起点となった研究で、本庶佑先生がノーベル医学生理学賞を受賞されました。そこで、少しネット検索したところ、2016年10月に“オプジーボ「高いのは日本だけ」”という日本経済新聞の記事がヒットしました。 

※免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボ、ヤーボイ)については、制御性T細胞をテーマにした「がんと自然治癒力12」の中で少し触れています。

画像出展:「日本経済新聞」

オプジーボ 「高いのは日本だけ」

 

 

画像出展:「がん治療.com

 

下記のイラストは「がんと自然治癒10」でご紹介したものです。このイラストでお伝えしたいことは、三大治療はがんを治すための優れた武器ですが、からだに優しいものではないということです。

がん三大治療はからだには優しいものではない。
がん三大治療はからだには優しいものではない。

画像出展:「がん治療の最前線」

 

ここで、再度「がんとは何か」の復習をざっとさせて頂きます(「がんと自然治癒11」より)。

2)がんとは何か

がん細胞とは何か?

・がん細胞はアポトーシス(自然死)を免れるメカニズムをもっており、増殖しても死なないやっかいな細胞である。

がんは遺伝子の異常で生まれる

・細胞分裂の際、遺伝子情報のコピーに問題が発生し、元の細胞とは異なる遺伝子情報の細胞ができる。

がんの芽は毎日5000個生まれている

・体は24時間休みなく古い細胞を壊しては新しい細胞に置き換えるという「新陳代謝」を行なっている。その結果、毎日1兆個が死に、同じ1兆個が細胞分裂で新たに生まれている。日々生まれている1兆個の細胞のなかで、遺伝子の異変を持つものは5000個から6000個といわれている。これががん細胞の芽である。

がんの芽は9年かけてがんになる

がんとは、がん細胞が増殖して0.5~1cmの大きさになり、肉眼で見えるようになったもの。重さは1gほど。10億個ほど集まってこのサイズのがんになる。1個のがん細胞が10億個ほどに増えてがんになるまでは、平均9年かかる。

発がんのプロセス①―イニシエーション(引き金)

・がんの芽が生まれるのは遺伝子異常によるミスコピーであり、発がんの第1段階。これをイニシエーションといい、ミスコピーを起こす引き金物質を「イニシエーター」と呼ぶ。

発がんのプロセス②―プロモーション(促進)

・イニシエーションで生まれたがん細胞が増殖するのが、発がんプロセスの第2段階の「プロモーション」。プロモーションを起こす物質や要因を「プロモーター」と呼ぶ。

・イニシエーターによって遺伝情報が書き込まれたDNAは一部を損傷しただけではがんにならない。それはDNAには損傷した部分を修復する自然治癒力が備わっているからである。

DNAの一部の損傷、その傷ついた細胞が繰り返しプロモーターに晒されると、自然治癒力による修復が追いつかなくなる。細胞のアポトーシスの機構が働かなくなると、そこからはタガが外れたように、がん細胞が猛烈なスピードで増殖し、9年ほどかけて、目に見えるガンに成長する。

・プロモーターは、イニシエーターと重なるものが少なくない。プロモーターの筆頭に挙げられるのも、やはりタバコである。タバコの煙に含まれる各種の化学物質はガンの増殖を促進する。活性酸素も同様である。 

「ガンにならない3つの食習慣」より
がん細胞は9年ほどかけて目で見えるがんになる。

画像出展:「ガンにならない3つの習慣」

 

がん発見の研究が盛んに行われている現在において、かなり乱暴な言い方になりますが、「三大治療とは、がん細胞が0.5~1cm、重さ約1g、10億個ほどに増殖し、がん細胞の塊となって肉眼で見えるようになった時に始まる治療である」という見方も今はできるのではないでしょうか。 

3.がんとタンパク質

発がんプロセスのプロモーション(促進)について興味深いデータがあります。

これは「がんと自然治癒6」でご紹介しているものです。この“チャイナ・スタディー”の原書の初版は2006年のため今から12年前となり、掲載されている内容の評価には難しい点もあるようですが、動物性タンパク質の過度な摂取は注意が必要(壮年期、中年期)、と考えますので、再度ご紹介させて頂きます。なお、ご紹介するグラフは中国大調査以前の、きっかけとなった実験であり、データはマウスのものになります。 

「チャイナ・スタディー」より
葬られた「第二のマクガバン報告」

出版:グスコー出版

 

 

このグラフは、発がん物質の投与量とタンパク質の摂取量による比較です。これを見ると発がん物質のアフラトキシンの投与量の大小よりも、高タンパクか低タンパクかという摂取タンパク質の違いの方が、がんの成長促進状況に与える影響ははるかに大きいことを示しています。 

「チャイナ・スタディー」より
発ガン物質の投与量 vs タンパク質摂取量

画像出展:「チャイナ・スタディー」

 

 

「チャイナ・スタディー」より
異なった

このグラフを見ると、総摂取カロリーに対するタンパク質の摂取は、10%が適切な量であり、特に14%を超えると、がんの成長促進状況が一気に高まることが確認できます。

また、下記の円グラフを見ても、がんの原因として喫煙と並び食事が大きく関与しているのが分かります。

 

 

がんの原因
がんの原因

画像出展:「名古屋市立大学 津田特認教授研究室

『がんの発生原因をみると、喫煙習慣と食事(献立の内容)が70%近くを占め、残り30%に運動(不足)、職業、感染(ウィルス、細菌、原虫)、環境化学物質、放射線・紫外線等がある(Doll & Peto、国立がん研究センター等)。これらの原因のうち、喫煙と食事は各人が心がけることによって防止可能であり、感染症も予防でき得る。~以下省略』

タンパク質については、他にも気になる情報があります。その一つは「がんと自然治癒8」でご紹介したものです。 

「思考のすごい力」
「思考のすごい力」

出版:PHP研究所

発行:2009年1月

 

 

この本の中に次のような記述があります。

1)遺伝子をコントロールするタンパク質

・エピジェネティクスの研究者たちは染色体を構成するタンパク質を研究し、それらがDNAと同じくらい遺伝において重要な役割を果たしていることを見いだした。

染色体では、DNAがいわば芯となっていて、タンパク質はそれにカバーとしてかぶさっている。カバーがかかったままでは、遺伝子の情報を読みとることができない。たとえばあなたの腕がDNAで、青い眼をつくる遺伝子の役割をもつとしてみよう。核内では、染色体タンパク質がこのDNA領域に結合してカバーしている。シャツの袖がおろしてあったら、腕に書いてある情報が読みとれないのと同じことだ。

では、どうすればこのカバーを取りはずせるだろうか? 環境から、ある信号がやってくれば、「カバー」タンパク質は形を変えてDNAの二重らせんからはずれ、遺伝子が読みとれるようになる。DNAのカバーがはずれて露出すれば、その遺伝子部分のコピーがつくられる。結局、遺伝子の活動はカバーとなるタンパク質が存在するかしないかによって「コントロール」され、タンパク質の存在は環境からの信号によってコントロールされる。  

「思考のすごい力」より
環境の優位性

そして、もう一つは「がんと自然治癒9」でご紹介した内容です。 

「テロメア
「テロメア

出版:NHK出版

発行:2017年2月

 

 

「テロメア・エフェクト」より
テロメアは靴紐の先端にあるキャップのようなもの。

テロメアは染色体を保護するもので、靴紐をまとめる先端にあるキャップのようなもの。寿命に関係しています。

 

そして、この本の中に次のような記述があります。

2)「早すぎる老化を迎えた細胞は、健康な細胞と何がちがうのか?」

・古い細胞のDNAが細胞のほかの部分とうまくやりとりできなくなると、細胞はきれいな状態を保てなくなる。古くなった細胞の内部には、うまく機能しなくなったタンパク質の塊や茶色いごみのようなリポフスチンという物質がたまってくる。リポフスチンは眼球に加齢黄斑変性を引き起こしたり、いくつかの神経性疾患の原因になったりする。さらに悪いことに ―なぜか、樽の中の腐ったリンゴと同じように― 老化した細胞は誤った危険信号を炎症誘発物質という形で、体のほかの場所にも送ってしまう。

3)「細胞の早い老化の影響:肉体 ―インフラメイジング」

・テロメアの短い人々は、慢性的な炎症にも悩まされている可能性がある。年齢とともに炎症が増え、それが加齢にともなう病気の一因になるという観察報告はたいへん重要だ。そのため、科学者は「インフラメイジング(炎症加齢、または加齢炎症)」という名前を考案した。インフラメイジングとは慢性的な軽微の炎症であり、加齢とともに増加する可能性がある。なぜそれが起こるかについては、タンパク質の損傷などさまざまな理由が挙げられている。ほかにしばしば挙げられる原因の一つが、テロメアの損傷だ。

発がんの成長(プロモーション)を左右するタンパク質、遺伝子の活性・不活性をコントロールするタンパク質、寿命に関わるテロメアと関係が深いタンパク質、以上のことから、発がんと栄養について考えるとき、発がんの予防に効果があるファイトケミカルとともに、発がんの原因になる可能性をもつタンパク質は、功罪をあわせもつ極めて重要な栄養素であると思います。

※「ファイトケミカル」についてはブログ「がんと自然治癒力11」を参照ください。

4.自然治癒力について

医学の父、医学の祖ともいわれる古代ギリシャの医師ヒポクラテスは、「自然は不調和を回復しようとする力を人体に与えており、これを自然治癒力という。これを助けるのが医術であり、治癒の根本方法である」との言葉を遺しています。 

世界の食習慣を調査した マクガバン・レポート
世界の食習慣を調査した マクガバン・レポート

画像出展:「世界の食習慣を調査した・マクガバン・レポート」

マクガバン・レポートについては、「がんと自然治癒力5」を参照ください。

生物科学入門”の著者である白木先生は「生物とは何か」という問いに対して、『「代謝」、「遺伝」、「恒常性」の三つに集約できる。この三つの概念で説明できるものが生物である』と回答されています。

1)代謝

代謝には2つの代謝系があります。

・異化:複雑な物質を分解してエネルギー物質を合成する。

・同化:エネルギーを消費してより複雑な化合物を合成する。

これらの化学反応を劇的に促進するのは酵素の働きによりますが、その酵素を働かせるには望ましい環境が必要です。

・充分な水(水に囲まれていること)

・適切な温度(35~40℃)

・適切はpH(pH10付近)

このように、「酵素が働ける体内環境はからだの恒常性が維持されていること」が前提になります。

2)恒常性(ホメオスタシス)

恒常性はホメオスタシスと訳されています。このホメオスタシスは、三角形で表される場合が一般的ですが、その場合の3つの頂点は「神経系(自律神経系)―内分泌系―免疫系」となります。

以下の図は、中央に「脳幹」を配置し、「脊髄・筋肉系」を追加した図になっています。脳幹は延髄・橋・中脳・間脳を指します(解剖学などでは間脳を含まない場合もあり)。脳幹は体幹の脊髄神経と大脳皮質をつなぐとともに、自律神経系、内分泌系、脳神経系、免疫系(顆粒球とリンパ球の比率は自律神経のバランスで決まる)をコントロールしています。また、筋肉からもマイオカイン(筋肉から分泌されるサイトカインという意味)が出ており、ホメオスタシスの図に「筋肉」を加えることについて違和感はありません。ホメオスタシスを四角形で表すことは、より適切だと思います。 

脳幹はホメオスタシスのコントロールセンター
脳幹はホメオスタシスのコントロールセンター

『ホメオスタシスとは、体の外部・内部の環境が変化しても体内環境を一定に保つ調整機能のこと。例えば四季によって気温や湿度が変化しても、一定の体温を保っていられるのはホメオスタシスのおかげです。ホメオスタシスには様々な機能があり、自律神経系、免疫系、内分泌系、脊髄・筋肉系の4つに分けられます。そしてこれら4つの関係を表したものが、ホメオスタシスの四角形(左図)。脳幹はこの四角形の中心となり、すべての機能に関係する司令塔の役割を担っています。脳幹が正常に機能すれば、ホメオスタシスもバランスよく機能して、自己治癒力も高まります。


3)自然治癒力

私は「自然治癒力」を次のように考えます。

「ホメオスタシスの四角形」が本来の働きをすること(からだの恒常性を維持すること)

からだに栄養が補充され、酵素のパワーで代謝(異化・同化)を適切に行うこと

4)ホメオスタシスを提唱した“キャノン”は自然治癒力について何と言っているか

ウィキペディアを拝見すると、次のような解説が見られます。『生活体が生命を維持するために自律系や内分泌系の働きを介して体内平衡状態を維持するというホメオスタシスの考えを提唱した。』 

ウォルター・B・キャノン
ウォルター・B・キャノン

画像出展:「ウキペディア

このウォルター・B・キャノンは著書である“からだの知恵 この不思議な働き(原書の題名は“Wisdom of the Body”)の “はじめに” の中で “自然治癒力” という見出しをつけて説明しています。

「からだの知恵」
「からだの知恵」

『生物が、自身のからだをつねに一定の状態に保つ能力は、長いあいだ生物学者たちに強い印象を与えてきた。病気が、からだに備わる自然の力、「自然治癒力」でなおるのだという考えは、すでにヒポクラテス[紀元前400-377。ギリシアの哲人。医学・生物学の祖とされる]が抱いていたものだが、この考えのなかには生物の正常の状態がかき乱されたときに、ただちに作用してそれをもとの状態に戻すたくさんの力があることが示されている。このような生物学の自動的な仕組みについては、最近の生理学者たちが書いた本のなかに詳しく述べられている。

~中略~

さて、まあこのようなぐあいで、驚くべき現象があるということなのだ。このうえもなく不安定で、変わりやすいという特徴を持つ材料で作られている生物は、なんとかその恒常性を保ち、当然生物に深刻な悪影響を及ぼすと思われる状況のなかで不変性を維持し、安定を保つ方法を習得している。

~中略~

簡単にいえば、充分な備えを持った生物のからだ―たとえば哺乳動物―は、外界の危険な状況や体内の同じように危険な可能性に直面して、しかも生きつづけ、比較的わずかの障害に止めてその機能を継続しているのである。 

※メモ:「自然治癒力は何故あるのか」ということについて、今まで、有ることが当たり前のように思い、特に考えることもなかったのですが、それは、”危険”と対峙するためだと知りました。

5.ストレスの第一の標的は“脳”

ストレスは自律神経系、内分泌系を乱します。自律神経系のバランスの乱れは、免疫系と筋肉系(筋緊張の定常化など)に影響を及ぼします。

下記は自律神経失調症を説明したイラストです。ストレスの第一の標的は脳であり、脳の疲労が各種の神経症の原因となります。そして、自律神経系の機能が低下していると脳の疲労が体の臓器に伝わり、自律神経失調症を発症させます。

(下記のイラストは「自律神経失調症を知ろう」からの出展です。見方は左上-右上-左下-右下です。詳細はブログ「自律神経失調症」をご覧ください)

ストレスの第一の標的は脳
ストレスの第一の標的は脳
脳の疲労や不安が神経症につながる
脳の疲労や不安が神経症につながる

がんに限らずストレスが心身に悪影響を及ぼすことは今や常識となっています。つまり、脳を守るということが非常に重要です。それは昔から言われている「病は気から(気の持ちよう)」ということにつながるように思います。

脳が重要であるという意味では、先にご紹介した「ホメオスタシスの四角形」の中心に脳幹が置かれていることは的を得ていると思います。

※メモ:精神的ストレスは特に感情に影響を及ぼします。その「感情の中枢を担う大脳辺縁系」は「生命の中枢を担う脳幹」には含まれませんが、脳の進化において脳幹の次にできた古い脳で、脳幹と同じように脳の内部に位置します。その意味では、理性の中枢を担い外側に位置する新しい大脳皮質よりも、進化の時期と場所という2つの点から、大脳辺縁系は脳幹に近い存在と言えるのではないでしょうか。

※「東洋経済オンライン」さまに、精神的ストレスと感情に関する記事が出ていました。 ”心が強い人は「無感情」を習慣にしている

脳とストレスについては、先にご紹介した本にも興味深いことが書かれています。

出版:NHK出版

発行:2017年2月

 

「テロメア・エフェクト」より
脅威反応とチャレンジ反応
チャレンジ・ストレス
チャレンジ・ストレス

1)「チャレンジ反応を培う」 

チャレンジ反応は交感神経の活動を高めるので、かならずしもストレス感を減らしてはくれない。だがこれはポジティブな「落ち着きのなさ」であって、あなたをもっとパワフルで集中した状態に押し上げる原動力だ。ストレスをこんなふうにうまく転換して、イベントやパフォーマンスのときに良いエネルギーを得たければ、自分で自分に「ワクワクしているね!」「鼓動が速いしおなかはグルグルしてきたけど、大丈夫!これは、良いストレス反応が強く起きている証拠だ」と語りかけてみよう。もちろん、介護に従事する母親のようにストレスで心の減る思いをしている人には、軽すぎる言葉に聞こえるかもしれない。ならば、もっとやさしく自分に語りかけよう。「今の体の反応は、私を助けるために、そしてやるべきことに集中できるように、起きたことだ。そのサインは大事にしよう」。チャレンジ反応はけっして、まやかしの活力剤ではない。「ストレスの原因がこんなにたくさん起こるなんて、本当に幸せだ。」という過剰にポジティブな態度ともちがう。それは、たとえ今はつらくても、ストレスを自分の目的に合うように形づくれと理解することだ。

・リラックスできる能力は、ストレス管理の唯一の方法として過大に評価されてはいるが、やはり重要だ。あなたも何か、自分を深く回復させる活動を定期的に行ってみるといい。瞑想や詠唱、その他のマインドフルネスの技法がストレスを和らげ、テロメラーゼを刺激し、テロメアの伸長を助けるであろうことは、高い質の証拠から示されている。

6.がんと自然治癒力

繰り返しになりますが、自然治癒力を次のように考えます。

①「ホメオスタシスの四角形」が本来の働きをすること(からだの恒常性を維持すること)。

②からだに栄養が補充され、酵素のパワーで代謝(異化・同化)を適切に行うこと。

また、下記の図は「2.がんの治療と予防」でお見せした図、再登場です。


あえて、自然治癒力をその期待と重みで分けるとすれば、自然治癒力を重視しているのは上の図の緑色、代替医療の分野です。米国では代替医療を医療の一部と考え、日本では壁があり個人に委ねられている、というのが日米の違いです。

こうしてみると、代替医療には様々なものがありますが、共通している狙いは「その人が本来もっている自然治癒力を取り戻すこと」、いいかえれば、「ホメオスタシスの四角形」を整え、摂取した栄養を酵素の力で適切に代謝すること、といえるのではないでしょうか。

ディーン・オーニッシュ博士は代替医療(「心身の健康プログラム」)によって、前立腺がん患者の病状を改善させました。詳しくは「がんと自然治癒力10」を参照ください。 

「がん治療の最前線」より
オーニッシュ博士が考案された「心身の健康プログラム」

画像出展:「がん治療の最前線」

 

日本では素問八王子クリニックの院長で、医師でもある真柄俊一先生が、自律神経免疫療法を柱とするがん治療に2003年より取り組んでおり、多くの成果を発表されています。

しかしながら、代替治療に対する期待の中心は「予防(再発を含む)」にあると思います。肉眼で見える「がん細胞の塊」と化した悪性腫瘍を取り除くという目的で行われる治療の主役は三大治療(+オプジーボやヤーボイなどの免疫療法)です。

7.鍼灸と自然治癒力

ここでは、日本鍼灸師協会が発行した“科学も認めるはりのチカラ”の内容をご紹介します。

なお、こちらの冊子は「東京都鍼灸師会」の「はり灸の効果」というページからダウンロードできます。

日本鍼灸協会
科学も認める はりのチカラ

ページの最下部に「PDF版はこちらをクリックしてください」とあります。


鍼刺激で何ができるのか

1980年代に「はり麻酔」などで注目された鍼刺激は当時、「血行改善、筋緊張緩和、心地よい刺激(脳が感じる)」などが実験で明らかにされました。しかし、その作用メカニズムについては、まだ分からないことが多い時期でした。今では鍼刺激の研究も進み、今回、現役の医師である永田勝太郎先生、南和友先生、高橋徳先生には「鍼刺激がどのようなシステムで生体機能の変調を矯正し、保健及び疾病の予防または治療」に関与してるかについて、また、公的研究機関の堀田晴美先生には「鍼刺激と自律神経のメカニズム」についてそれぞれ解説していただきました。さらに「世界的に鍼刺激がどのような立場にあるか」について、織田聡先生に紹介していただきました。

~以下省略

このブログでは、30年におよぶ研究の成果から導かれた “向ホメオスタシス” についてまとめられた永田勝太郎先生のパートをご紹介させて頂きます。

鍼の効果の本質―向ホメオスタシス 千代田国際クリニック院長 永田 勝太郎先生

鍼灸師の先生方と鍼灸の臨床共同研究を始めてから、30年以上が経過しています。その間の各種実験(臨床研究)から明らかになったことは、鍼には、生体を最も望ましい状況に誘う力があるということです。これまでの臨床研究を俯瞰することで浮かび上がってくる、鍼の持つ向ホメオスタシス効果について概説してみたいと思います。

日本では腰痛や肩凝りなど鍼灸の対象は痛み(特に機能的な慢性疼痛)であることが多いのですが、欧米では積極的な健康づくりやアンチエイジングの方法として位置づけられています。今回お伝えする鍼の持つ向ホメオスタシス効果は、欧米での認識を裏付け、日本での認識を新たにするものです。

深部体温・血圧の正常化

代表的な経穴(ツボ)に刺鍼したときの深部体温の変化を、10年に及ぶ長期の研究で観てきました。その結果、高い体温は下がり、低い体温は上がることがわかりました(関野光男)。生体内部(臓器)の温度である深部体温は、低い人もいれば高い人もいます。鍼はそれを正常化させる働きを見せました。さらに、鍼が血圧にどのような影響を与えるかについて、被験者が5,000人を超える大規模な検証を行いました。(図1参照)。ここでも深部体温と同様に、代表的な経穴に刺激して前後の血圧を測定するとともに、その変化を測定しました。すると、高い血圧の被験者は下がり低い血圧の被験者は上昇、正常血圧の被験者は変化しないという結果が得られました(白畠庸)。同じような刺激を行っても、高血圧患者では鍼が降圧的に作用し、低血圧患者には昇圧的に作用しました。 

鍼の血圧への影響
鍼の血圧への影響

画像出展:「科学も認めるはりのチカラ」

 

鍼が酸化ストレス防御系に与える影響

呼吸によって身体に入る酸素の5%は、活性酸素になってしまいます。それが細胞やDNAを傷つけ(酸化させ)、老化、病気を招くことで、死のリスクが高まります。これを避けるため、生体にはグルタチオンなど多くの抗酸化物質があり、また食事から抗酸化物質を摂取することで、酸化ストレス防御系のバランスをとっています。

こうした酸化ストレス防御系に鍼施行がどのような影響を与えるかについて検討した結果が、「鍼と酸化バランス防御系(図2参照)」です。代表的な経穴に刺鍼し、その前後の酸化ストレス(d-Romsテスト)、抗酸化力(BAPテスト)、潜在的抗酸化力(修正比)を評価したものになります。鍼施行後、酸化ストレスが低減しましたが、抗酸化力には有意な変化はなく、潜在的抗酸化力は上昇しました(広門靖正)。 

鍼と酸化バランス防御系
鍼と酸化バランス防御系

画像出展:「科学も認めるはりのチカラ」

 

鍼とストレス防御系(コルチゾールとDHEA-S)

生体がストレスを受けると、下垂体前葉からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌されて副腎皮質を刺激します。これによって副腎からコルチゾールが分泌され、血糖値や血圧が上がり、ストレスに抵抗できるようになります。しかし、この状態が続くと、生体は摩耗、疲弊してしまいます。そこでACTHは、生体を修復させてバイタリティを与えるホルモンであるDHAS-S(dehydroepiandrosteron sulfate/デヒドロエピアンドロステロンサルフェート)を同時に副腎から分泌します。近年、DHAS-Sが、皮膚や脳からも分泌されることがわかってきました。

皮膚を直接刺激する方法である鍼の効果を測定するため、刺激とDHAS-S(代謝産物である17-KS-Sを測定)、コルチゾール(代謝産物である17-OHCSを測定)を検討してみました。その結果、鍼施行後、DHAS-S、コルチゾールともに上昇することがわかり、刺鍼が刺激療法であることが明確になりました。しかし、刺鍼の翌朝には、測定値は両者ともに下降したものの、両者の比は有意に高値を示しました。これは修復機能が、摩耗に優れていた証明と考えられます(図3参照)(広門靖正)。

画像出展:「科学も認めるはりのチカラ」

注)「両者の比」とは右端(S/OH)を指しています。”翌朝“の青の棒グラフが1番高くいます。これは”施行前”、”施行後”、”翌朝”を比較した場合、ストレスホルモンのコルチゾールより、バイタリティを与えるとされるDHAS-Sの比率が多いという意味です。

 

「思考のすごい力」より
副腎の働き(ストレス防御系)

画像出展:「思考のすごい力」

注)このイラストにはDHAS-Sは出ていませんが、ストレスに対する副腎の働き(ストレス防御系)を把握するという目的で添付しました。 

オムロンさまの「健康コラム」というサイトにDHEA及びDHAS-Sについて説明されている記事がありましたのでご紹介します。

“vol.169 若返りホルモンとも呼ばれるDHEAの秘密”

鍼の効果を明らかにする

同じ鍼刺激でも、生体の条件によっては、全く正反対の効果を生じる―西洋医学の世界ではあり得ないことですが、すべて事実です。東洋医学の深さがそこにはあって、数千年の歴史を生き残ってきた医療には、しかるべき理由があったと言えるのではないでしょうか。私たちは、その神秘のベールを科学の力で明確にしてゆく責務があると考えています。

鍼の効果について、もう一つ、ブログに残しておきたいのが、「がんと自然治癒力9」でご紹介していたものです。

分子レベルの回復メカニズム、運動と鍼は同じか?

「テロメア・エフェクト」より
運動が

画像出展:「テロメア・エフェクト」

筋肉痛は運動によって筋線維が傷つくことによって起きるものとされています。一方、鍼の太さは0.16mm(1番鍼)、刺しても多くはほぼ無痛です。しかしながら、分子レベルで考えればたいへんな衝撃です。この、鍼によって生じる筋線維のダメージも、運動によって生じる筋線維のダメージも、その後のダメージを回復させるメカニズムは基本的に同じではないかと思われます。

つまり、鍼治療は運動と同じように、オートファジーやアポトーシスという重要な機能を呼び起こし、結果的に体内を掃除して、もっと健康に、もっと丈夫にしているものと思います。 

 

8.まとめ

1)自然治癒力とは

「生きるための力」です。具体的には2つの働きがあります。

①「ホメオスタシスの四角形」が本来の働きをすること(からだの恒常性を維持すること)

②からだに栄養が補充され、酵素のパワーで代謝(異化・同化)を適切に行うこと

そして、一言でいうとすれば、「ストレス適応と栄養代謝」ということだと思います。

2)がんと自然治癒力

自然治癒力は「生きるための力」であり、発症前の段階からあらゆる局面で自然治癒力は関与しています。しかし、がん医療の中で自然治癒力が前面に出てくるのは、「がん予防(再発を含む)」だと思います。

3)がんと鍼灸

がん治療の中で鍼灸を考える場合、「代替医療」という位置づけで考えるのが良いと思います。期待できる鍼灸の効果については “7.鍼灸と自然治癒力” でご説明していますが、鍼灸ならではの特長としては、ピンポイントで問題個所をとらえ、作用(痛みの緩和や体調改善など)を及ぼすことができることだと思います。

そして、がんと闘うための働きとして、ストレス適応を高め、代謝を良くすること(酵素が働きやすい体にすること)がとても重要であると思います。

“日本のがん医療への提言 救える「いのち」のために” 

著者:山本孝史
救える「いのち」のために

こちらは「がんと自然治癒力2」でもご紹介していた本です。

著者:山本孝史

出版:朝日新聞

発行:2011年12月30日 

 

ご紹介するのは2つです。1つは “厚労大臣と患者の協働” 、もう1つは “座談会「がん対策基本法」成立から5年” の中から、その冒頭部分と “次の5年間の課題は?” という最後の部分です。

厚労大臣と患者の協働

ガン患者(団体)が、未承認薬の早期承認などを求めて、街頭署名活動や国会への働きかけなどの表立った活動を始めたのは、2001年の初頭からです。しかし、活動を引っ張ったリーダー患者とともに、その受け手となった厚労大臣や国会議員の存在も大きかったと感じます。

特に坂口力厚生大臣(後に厚労大臣。公明党。2000年12月6日から2004年9月27日まで在任)と、後任の尾辻秀久厚労大臣(自民党。2004年9月28日から2005年10月31日まで在任)の二人とがん患者は(団体)は、「協働体制」にあったといっても過言ではないでしょう。

日本では大臣の在任期間が短く、がん対策の問題点を理解してがん患者(団体)が求める効果的な対応策を講じるまでに、たいていの厚労大臣は退任されます。ですから理解ある大臣の在任中に積極的に働きかけることが重要なポイントだと思います。

厚労大臣とともに、国会議員への働きかけも重要です。がん医療の向上は、国会議員の全員が賛意をあらわす政策課題ですが、がん患者の思いを汲んで熱心に動く議員が少ないのは当然です。それぞれの議員には、専門分野や受け持ち分野があるからです。

がん患者(団体)の側で、政治とは距離をおきたいと考えるのも理解できます。しかし、最初は身近な問題として取り組んだとしても、やがては政治や行政の動きがなければ解決されない局面を迎えることになるのです。

がん医療については、がん患者である仙石由人衆院議員と私(ともに民主党)の存在もありましたが、がん患者(団体)の働きかけに応じて、各党で「がん議連」や「プロジェクトチーム」などを立ち上げてくださった多くの国会議員がいます。超党派での「国会がん患者と家族の会」(代表世話人・尾辻秀久)も結成されました。この流れを大切にすることです。がん患者(団体)の側も、国会議員(政党)の側も、超党派で活動する良識が求められます。

座談会「がん対策基本法」成立から5年(実施2011年11月22日)

冒頭の「がん対策基本法」が成立した経緯、および最後の「次の5年間の課題は?」より  

厚労大臣や国会議員の存在
厚労大臣や国会議員の存在

画像出展:「 救えるいのちのために」

がん患者であることを本会議で公にした山本孝史議員らの尽力で「がん対策基本法」が成立し、5年が経とうとしています。基本法に基づいてつくられた「がん対策推進基本計画」は間もなく第一期目の5年間が終わろうとしており、次の5年に向けた見直し作業が行われている真っ最中です。そんな時期に、山本議員の著書の新版が出されることになりました。これを機に、山本議員と一緒に基本法の成立に尽力した尾辻議員と、基本法に基づいて日本のがん対策を議論するために設置されているがん対策推進協議会の門田会長、行政の立場からがん対策に取り組む厚生労働省がん対策推進室(2018年9月現在、厚生労働省健康局総務課がん対策推進室の鷲見室長、そして山本議員の意志を継ぐと同時に、がん患者団体とも連携した活動を展開している山本ゆきさんに、この5年間で何が変わったのかを振り返り、同時に、次の5年間の課題や、もう少し先の中長期的にみた日本のがん対策の課題について議論を深めて頂ければと思います。

まずは、がん対策基本法ができた当時の原点に戻り、基本法成立の背景を改めて確認したいと思います。

尾辻

日本は3人に1人ががんで亡くなる時代を迎えています。それに対して対策が十分に取られているかというと、「がん難民」という言葉もあるくらいです。がんにかかったのに、どの病院にかかったらいいかまったくわからず、がん患者さんがさまよい歩くという、そういう深刻な状況にあります。一方、国の対策はどうかと言えば、当時、厚生労働省は生活習慣病対策室ががん対策担当で、がん独自の対策室すらありませんでした。そういうお寒い状況だったので、何とかしなければならないと思う人は大勢いた。ただ、思うだけで、一向に具体的な対策にはつながりませんでした。

そんなところに、山本議員が参議院本会議で質問に立ちました。自分もがん患者だと公表し、がん対策基本法の早期成立を訴えました。あの衝撃的な質問は、いまだに忘れられません。山本議員の壮絶な質問をきっかけに、みんなが一つになり、山本さんの気持ちを大切にして、急いで基本法を成立させようと、超党派で意見を統一したのです。もともと、がん対策を何とかしなければいけない、という思いを持つ議員は大勢いた。そういった土壌のあるところに山本さんが登場し、一気に法案成立に向かって大きく動いたのです。

山本

夫にがんが見つかったのは2005年12月22日のことでした。翌2006年4月に、山本の所属する民主党は、がん対策基本法案を国会に提出しました。衆議院の話ではありますが、山本は、自分もがん患者の国会議員として、がん対策に取り組まなければならないと思うようになります。

そのころ、他の政党でもそれぞれ独自に、がん対策に関する法案をつくっておられたと思います。そういう時期に治らない胸腺がんになったという巡り合わせを考え、自分のがん患者としての生きる意義は「がん対策基本法」を成立させることではないか、それが自分の使命ではないか、と考えるようになり、その実現に向けて行動しました。

2006年はちょうど医療制度改革の議論の年で、5月22日に健康保険法の改正をめぐり、参議院で本会議が開催されることになりました。医療・年金・介護などの社会保障制度は、山本が議員として長年、取り組んできた課題です。自分自身の仕事の総仕上げという意味を込め、質問に立ちました。冒頭、自分はがん患者であることを告白し、質問演説の最後で、がん対策基本法の成立を訴えました。がんを患う自分にとって、これが最後の本会議質問、そういう悲愴感が漂っていました。

法案の成立には、タイミングの問題があります。あの時期を逃がすと、次の年は参議院選挙があるので、超党派での作業が難しくなるという読みがありました。しかも、山本が質問に立った日から会期末まで、25日しかありませんでした。自分ががんであることを告白して、議員の皆さんの気持ちが一つになれば、短期間での成立も可能だろう。そう考えてのがんの告白でした。

その後は、皆さんが党の垣根も、衆参の垣根も越えて一致団結、協力して、法案の成立に尽力して下さいました。

―各党の総意は、どんな点にあったのでしょうか?

尾辻

山本議員の本の題名にもなっているように、「救えるいのちを救おう」という思いで各党、結集しました。

―山本議員自身の原点もそこにあったんですね。

山本

標準治療で治る患者さんはもちろん治さなければいけないし、がん医療の均霑化も必要です。けれども、山本は、自分が難治性のがんだったということもあり、治らない患者さんにも、基本法でメッセージを送りたい、治らない患者さんも最期まで自分らしく生きられるような対策を基本にしたいと思っていました。

「日本のどこに住んでいても、同じ水準のがん治療が受けられるように、難治性のがん患者には、きめ細かな治療を可能にするように、日本の医療制度を改善していきたい。そして、一人でも多くの『いのち』を救いたいという気持ちが、どんどん膨らんでいきました」―この本の前書きからの引用ですが、ここが、山本のいちばんの思いでした。

次の5年間の課題は?

―この5年間で土台、枠組みができたということを踏まえ、次期5年間には、どういった点の強化が必要でしょうか?

山本

がん対策基本法が成立し、9カ月後に施行となりました。その後にできた、がん対策推進計画を見て、山本は「これでよかったのか」とずっと悩み続けました。というのは基本法の三つの理念はすばらしいのですが、基本計画の全体目標に、がん死亡者の20%減少と、緩和ケア、痛みの減少しか挙げられておらず、がん治療が重視されていなかったからです。死亡者の減少の中に、個別のいろいろな目標はあるのですが、治療は目立ちませんでした。その点を気にして、最後まで苦しんでいました。

今回、基本計画を読み直してみましたが、大変いいことが書いてあるんですね。「安心、納得できるがん医療を受けられるようにする」と。ここは、すばらしい目標だと思うんです。ところが、そのために、死亡率を20%減らす、と続く。そして、死亡率を20%減らすために、やりやすい予防、検診に重点がいってしまう。

いま、死亡率が下ってきていると言われていますが、山本は、「死亡率を下げるという目標だけでいいんだろうか」といっていました。余命宣告を受けた難治性のがん患者さんにとって、「死亡率減少」とか「5年生存率」という言葉を聞くのはつらいことです。治らないがん患者さんは納得して死んでいきたい、ということを、山本は言いたかったんだと思います。そういう思いも、ぜひ、次の計画には反映して頂きたいと思います。

数字で示す目標がなければいけないということで、死亡率20%減少と書かれたのだと思いますが、同じ数字を使うなら、たとえば、患者さんの納得度、満足度調査をやって頂きたい。先日、私たちの患者会で、大阪府指定のあるがん拠点病院を訪問しましたが、その病院では、たまたまその日に、年1回の外来患者さんの満足度調査をやっていました。入院患者さんの満足度調査も別の日に行なうそうです。各病院でこういった調査をすると同時に、前年と比較して、満足度が上がったり下がったりした項目について、なぜなのかを分析してもらい、それを全国的に集計して、情報提供するのも、一案ではないかと思います。

尾辻

山本さんもおっしゃったように、基本計画の最初の文章はよくできているなと思います。たとえば、国民の視点に立つ、というのは当たり前のことです。そういった前提に立った上で、どうするか、ということですね。

基本法をつくる段階から、ずいぶんと大議論をした問題の一つが、がん登録です。次期計画では思い切って、法制化も含めて掲げてほしい。そして、議論してほしいですね。個人情報保護法の特別委員会を務めたので、がん登録は、議論をはじめたら難しいだろうなと思う。ただ、今こそ議論を始める必要があるのではないかと思います。

門田

協議会では集中審した時には、法制化が必要だという意見が大勢を占めました。我々協議会としては、計画に法制化を掲げ、あとは国会で議論をお願いする、ということになりますね。

尾辻

そうですね。正面から掲げれば国会での議論も始まります。難しいだろうからと、いつまでも正面から掲げなければ、いつまでも議論は始まりません。

―難しいという意味では、たばこ対策も難しいですね。次期計画は、削減目標の数値を入れることができるでしょうか?

門田

第一期の基本計画の時には、成人の喫煙率半減について、協議会議員は全員、賛成したんですね。それでも、成人の喫煙対策は最終的に残らず、未成年の喫煙のみになってしまいました。がん対策を銘打っている基本計画ですから、今回は、やはりたばこ対策ははずせないですね。

―がん対策予算関連ではどんな課題がありますか?

尾辻

がん対策費が足りない足りない、と言っているので一生懸命つけていますが、半額が自治体の負担になっていて、それを自治体が出せないために、せっかくの予算が全額は執行されず残ってしまう、という現状があります。ここは何とか工夫してほしい。せっかくの予算を全額執行できるような方法を考えてほしいですね。

また、小児がん対策については、我々もみんなでがんばって、対策費を獲得したいと思っています。そんなに患者の数が多くないのに対し、病院の数が多く、すべての病院の患者数は年1~2例というのでは、経験を積んだ治療にならない。少数の拠点病院をつくり、そこでしっかり診るようにしてほしいと思います。

―山本議員をはじめ多くの方が尽力され、実現したがん対策基本法で、日本のがん対策基本法で、日本のがん対策が大きく動き始めました。基本計画の改定など、ちょうど節目に来ています。そんな時期にこのような座談会を持つことができ、時宣を得た議論をして頂けました。最後に、皆さんから、次のステップに向けての抱負、期待などを語って頂いて、座談会を締めくくりたいと思います。

山本

命を切り捨てない、安心して納得のいく治療という、基本法の基本理念がいかされるようにして頂きたいと思います。がん患者さんがどう生きるかを最後まで尊重してもらえるような、そういうがん対策を目指して頂けたらと思います。

門田

繰り返しになりますが、中長期的なビジョンを持って、目の前の問題、課題に当たる、という基本方針を続けていきたい。

また、我々、命に限りがあることをみんな知っている。そこまで到達すると、万人平等。そうすれば、難しい問題も解決できると思う。そこまで認識してもらうと、難しいことも解決可能だと信じてやりたいと思っています。

尾辻

これまでやってきたことは決して間違ってはいません。ただ、もう少しスピードを上げることが大切なので、そういう意味で、ギアを変えてやっていきたいと思います。

鷲見

基本法の理念に基づき、患者さんの意見をきちんと聴き、がん政策に反映させていきたいと考えています。また、国としてやるべきこと、国でしかできないことをきちんと判断し、進めたいと思っています。

 「朝日新聞DIGITAL」の「apital」にご紹介したい記事が載っていました。

”患者の思いに寄り添うがん医療を” 2017年5月23日

追記“量子物理学が生物学・医学を変える日は近い”

「思考のすごい力」より
ニュートン力学の原子と量子力学の原子

『右側の図は印刷ミスではない。原子は目に見えないエネルギーでできていて、実体のある物質ではないのだから!』

『一つの原子はさらに小さな粒子から構成されていることがわかった。これだけでも驚天動地の大発見だが、さらに、原子がX線や放射線など、さまざまな「奇妙なエネルギー」を放出していることが明らかになり、大騒ぎになった。 ~中略~

量子物理学者が発見したのはこういうことだ。原子は物質だが、原子自体は絶え間なく回転しながら振動するエネルギーの渦巻きだ。よろめきつつ回り続けるコマのようなもので、それがエネルギーを放射している。 

画像出展:「思考のすごい力」

上記は “思考のすごい力” の “第四章 量子物理学が生物学・医学を変える日は近い” に出ています。

また、次のようなことも指摘されています。

ニュートン力学では超常現象を解明できない

『医学は日々進歩していくが、生きている身体は頑固なまでに定量化を拒んでいる。ホルモンやサイトカイン、成長因子や腫瘍抑制因子など、シグナルとなる化学物質の働くメカニズムが次から次へと発見されている。

だがそういったメカニズムでは超常現象は説明できない。自然治癒、心霊現象、驚くほどの筋力や耐久性、灼熱の石炭の上を火傷一つ負わずに素足で渡る能力、“気”を移動させて痛みを消し去る鍼灸師の力など、そのほかさまざまな超常現象が、ニュートン的世界観に立脚した生物学では説明不能だ。

医学部にいたときには、もちろん、これらの現象については全然考えてもみなかった。わたしも他の教官たちも学生たちに鍼灸療法やカイロプラクティック、マッサージ療法、祈祷などで病気が治るという主張は無視するように教え込んでいた。いや、それ以上だ。医者を名乗るペテン師の口上だといって弾劾さえしたのだ。それほど古典的なニュートン物理学を信じ込み、他の考え方はできなくなっていた。

いま挙げた療法はいずれも、エネルギー場が人間の身体の生理機能や健康に影響を及ぼしているという信念に基づくものだ。

人間の生体内システムは重複的

『東洋医学では、身体はエネルギーの経路(経絡)が複雑に列をなしたものと定義される。中国の鍼灸療法で用いられる人体の経絡図には、電気配線図にも似たエネルギーのネットワークが描かれている。中国医学の医師は、鍼などを用いて患者のエネルギー回路をテストするわけだが、これはまさに電気技師がプリント基板を「トラブルシュート」して電気的な「病変」を発見しようとするのと同じやり方だ。

私は「当院の治療」の4つの基本方針の2番目に『エネルギー素の気血津液を調えること』をあげていますが、「エネルギー素」とは私が勝手に作った言葉です。一方、全くの無縁だった「量子論」とはエネルギーを柱としたものであるということを知りました。また、ブルース・リプトン先生は ”思考のすごい力” の中で「エネルギー場」という言葉を使っていました。

直感的に「鍼灸(東洋医学)と量子論」をモヤッと比較してみたいと思い、3冊の本を手に入れました(※印は“思考のすごい力”で紹介されていた本)。今後の宿題、がんばろうと思います。

●量子の世界 ※

●分子生物学入門 ※

●13歳からの量子論のきほん

追記AMED News Letter 2019年07月10日号

情報収集の目的で、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構さまの”メールマガジン”に登録をしています。7月10日号の中に大変興味深いニュースが含まれていましたので、ブログに追記させて頂きます。

がんに自律神経が影響することを発見!がんの神経医療の開発へ

●自律神経が、乳がん組織内に入り込み、がんの進展や予後に強く影響することを発見しました。

●ストレスなどによる交感神経の緊張が、がんを進展させ得ることを明らかにしました。

●自律神経を操作する神経医療(遺伝子治療など)が、がんの新規治療戦略になる可能性があることが示唆されました。

大学や研究機関などが行う研究を支援し、研究開発やそのための環境の整備に取り組んでいきます。』

がんと自然治癒力12

今回は勉強モードとして最後のブログになります。内容は「制御性T細胞」に関するものです。

国立がん研究センターのホームページにも「がんと制御性T細胞」と題するページがあり、その中で『がん細胞に対する免疫応答のなかでも注目を集めているのが、制御性T細胞と呼ばれる免疫抑制細胞です』との記述があります。また、下記はそのページに出ている「がんにおけるT細胞」のイラストです。 

がんにおけるT細胞
がんにおけるT細胞

「免疫が挑むがんと難病」
「免疫が挑むがんと難病」

出版:講談社(ブルーバックス)

発行:初版2016年1月20日

大項目は次の通りです。

プロローグ

第1章 樹状細胞の物語

第2章 制御性T細胞の物語

第3章 成人性T細胞白血病との戦いの物語

第4章 免疫チェックポイントの物語

第5章 インターロイキン6の物語

エピローグ

ブログでは「プロローグ」の全文、「第2章 制御性T細胞の物語」および「エピローグ」のそれぞれ一部をご紹介させて頂きます。

なお、「第2章 制御性T細胞の物語」の中の内容は以下になります。青字になっているのがブログで取り上げた項目です。

第2章 制御性T細胞の物語

「撃ち方やめ」を周知徹底

●大学院をあっけなく中退

●愛知県がんセンターのユニークな報告

一世を風靡した抑制性T細胞

坂口の前に現れた抑制性T細胞

●「細胞はCD8ネガティブ」

●「これだけは譲れない」

●学会から急に消えた抑制性T細胞

●運に恵まれ奨学金を手に

●米国でマーカーにメド

●免疫抑制剤で自己免疫疾患が起きる?

●IL2抑制で制御T細胞が減少

●シェバックの宗旨替えで追い風

●筑波で医薬品企業に売り込み

医療応用の青写真

「CD25」論文執筆を決意

●英『ネイチャー』から門前払い

●シェバックが直ちに追認

●『セル』に制御性T細胞登場

●抗原提示の分子メカニズム

イス取りゲームで免疫を抑制

制御性T細胞が存在する証拠

●関節リウマチを発症するSKGマウス

●SKGマウスの効用

●ファントム坂口

●マスター遺伝子の発見

●Foxp3遺伝子で制御性T細胞に変身

●生きた動物でも証明

●医療応用を目指して

プロローグ

一度かかった病気には、次はかからない。二度目の「疫」病からは「免」れる。「免疫」という言葉には、そんな意味が込められている。

そうした免疫の働きを担う主役の一つを人類が突きとめたのは、いまから百年以上も前のことだった。日本の北里柴三郎が、破傷風菌の毒素を中和する抗毒素 ―現代の私たちが「抗体」と呼ぶ免疫分子― を、留学先のドイツで発見したのである。

北里は残念ながらノーベル賞を逃したが、彼の“弟子”は長い時を経て師の無念を晴らした。北里研究所で研究に励み、微生物から感染症の特効薬を探り当てた大村智(北里大学特別栄誉教授)が、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞したのだ。

抗体のたぐいまれな働きは、西アフリカでエボラ出血熱が猛威をふるったときにも世界を刮目させた。運よく生き残った人の血液から抗体を含む血清が取り出され、患者の治療に使われたのだ。北里が考案した血清療法である。

北里から始まる現代免疫学の歩みは、私たちに「抗体医薬」という良薬ももたらした。異物を捕まえる抗体の性質を利用して、関節リウマチなどの自己免疫疾患やがんを治療する医薬だ。

抗体だけではない。人の体の中ではさまざまな免疫細胞が、外部から侵入した病原体や、頻繁に発生するがん細胞と戦いつづけている。外の敵にも、内の敵に対しても、免疫はさまざまな手段を駆使して、人類という種を守ってきてくれたのだ。

免疫の舞台で主役級の活躍をするものの一つが「樹状細胞」と呼ばれる免疫細胞だ。体の中をパトロールして、侵入した病原体を長い腕で捕まえると、「こいつが敵だ」といって仲間の免疫細胞に“見せ”にいく細胞である。

樹状細胞のこうした営みは「抗原提示」と呼ばれる。「抗原」とは病原体が持つ印のこと。何はともあれ、わが身を襲撃してきた犯人の顔がわからなければ、免疫はことを起こせない。その点で樹状細胞は、免疫に欠くべからざる存在なのだ。

抗原提示の営みは、何によって、どのように行われているのか。こうした根源的な疑問と謎に魅了され、一生をかけて樹状細胞を隅々まで調べ尽くしたのは、京都大学の稲葉カヨとカナダのラルフ・スタインマンだった。

樹状細胞に勝るとも劣らず、生命科学の教科書を塗り替える働きを持つ免疫細胞も、日本人によって見つかった。敵を攻撃しようとする免疫の営みを抑制する「制御性T細胞」だ。大阪大学の坂口志文が、日米を転々としながら、約三十年もの歳月をかけて突きとめたユニークな細胞である。

せっかく病原体と戦っている免疫細胞の足を、わざわざ引っ張らくともよいではないかと思われるかもしれない。だが、その行動には合理的な理由がある。

びっくりされるかもしれないが、私たちの体の中には、わが身の臓器や組織を敵とみなして攻撃する恐ろしい自己反応性の免疫細胞が少なからずいる。そして、攻撃好きなそれらの免疫細胞は、骨や関節を破壊する関節リウマチなど、さまざまな自己免疫疾患を引き起こすこともわかってきた。

そこで、こうした“身内の凶悪犯”を封じるべく、免疫があらかじめ備え持っているのが制御性T細胞。自己反応性の免疫細胞が悪さをしはじめると、この細胞が現れ「攻撃中止」を命令するのだ。

ところが、話はこれだけでは終わらない。実は制御性T細胞は、あってはならない悪事の犯人でもあるからだ。専門家の間では、この細胞はがん細胞の“盾”となって、がん細胞を攻撃しようとする免疫細胞の邪魔をすることが知られている。

こんな不可解で奇妙な制御性T細胞のふるまいの謎は、現在では分子レベルで解明されている。制御性T細胞は「免疫チェックポイント分子」といって、自動車にブレーキをかけるように免疫細胞の攻撃を制止する特殊な分子を備え持っていたのだ。

免疫チェックポイント分子はいわばブレーキ・ボタン。制御性T細胞とは、生まれたときからずっと、このボタンを持つよう運命づけられた免疫細胞なのだ

この特異な分子は、他の免疫細胞の表面に一時的に現れることもある。たとえばキラーT細胞といって免疫細胞の中で殺し屋の異名を持つ細胞が、がん細胞と戦いはじめたとしよう。このとき、敵を退治したあとも攻撃を続け、正常な細胞を傷つけるなどの「やりすぎ」が起きては困る。そこで免疫は、頃合いみて「撃ち方やめ」のシグナルを出す免疫チェックポイント分子を、臨機応変にキラーT細胞の表面に現れるようにした。

ところが、がんの悪知恵もすごい。がん細胞は、キラーT細胞の攻撃を受けると自分の体の表面にチェックポイント分子と結合する分子を出現させ、キラーT細胞の攻撃をストップさせてしまうのだ。

狡猾ながんの戦術に気づいた免疫研究者や医者の関心は、免疫チェックポイント分子へと向かった。がんがそこまでやるのなら、我々はブレーキを悪用されないようにボタンをブロックする抗体医薬をつくろう。そうすれば、免疫細胞はノンストップでがんと戦ってくれる ―という作戦である。

いま、最も注目を集めている免疫チェックポイント分子は、日本の本庶佑が京大の教授時代に偶然、発見したPD-1という分子だ。そして、PD-1に注目してがん治療のための抗体医薬を開発したのもまた、日本の製薬企業だった。

がんとの戦いに比べると派手さはないかもしれないが、現代免疫学は、原因が不明で治療が難しかった難病にも堅実に迫りつつある。免疫細胞の過度な攻撃によって起こる自己免疫疾患性の難病も、次第に抗体医薬によって症状を改善できるようになってきたのだ。

これから語るのは、日本の研究者たちの不断の努力と活躍を縦糸に、最新の成果を横糸に織り込んで紡ぎ出した、現代免疫学の物語。読者ははるかな過去から私たちの生命と健康を守りつづけてきた免疫がいま、がんや難病の制圧に挑み、かつてない成果をあげはじめたことに息を呑まれるだろう。

第2章 制御性T細胞の物語

●「撃ち方やめ」を周知徹底

これから語るのは、大阪大学教授の坂口志文が発見した「制御性T細胞」の物語だ。独自の研究を積み重ね、免疫学の常識を覆した坂口の研究人生を縦糸に、制御性T細胞の不思議な営みを横糸にして、物語を紡いでいく。

最初に、制御性T細胞のおおよその働きをお伝えしておこう。坂口に言わせると、敵の襲撃から生命体を守る免疫のしくみは、西部劇の保安官そっくりだ。平和な町にやってきた“ならず者”の病原菌やウィルスを、保安官がきっちりやっつけてくれるからだ。

「免疫が挑むがんと難病」より
がん組織に浸潤している制御性T細胞

画像出展:「免疫が挑むがんと難病」

だが、私たちの体の中の保安官はときに、かなり粗雑な行動をとることもあるらしい。乱暴者を見つけて攻撃を始めたのはよいのだが、頭に血が上って冷静さを失い、過剰な発砲をやめられなくなってしまうのだ。

とばっちりを受けるのは近隣にいる町の住民で、保安官が乱暴者めがけて撃ったはずの銃弾を浴びてしまう。さらに恐ろしいことに、住民をならず者と見誤って痛めつけてしまうケースも少なからず起こっているらしい。

免疫細胞は誕生した直後に、胸腺という特殊な組織で身内の「顔」をしっかり記憶し、仲間を決して攻撃しないように教育されている、とかつての免疫学は教えてきた。

「免疫が挑むがんと難病」より
胸腺の位置

画像出展:「免疫が挑むがんと難病」

画像出展:「免疫が挑むがんと難病」

 

下記をクリック頂くと、NCBI(National Center for Biotechnology Information)に掲載されている論文のページが表示されます。

Immunologic self-tolerance maintained by activated T cells expressing IL-2 receptor alpha-chains (CD25). Breakdown of a single mechanism of self-tolerance causes various autoimmune diseases.

だが、いささか楽観的すぎたようだ。最近の研究では、胸腺にも手抜かりや不手際が少なからずあり、教育不行き届きの免疫細胞を送り出していることがわかってきた。私たちの体にはわが身を敵とみなす恐ろしい自己反応性の免疫細胞がたくさんうろついていて、正常な臓器や組織を攻撃していたのだ。

おっかない保安官ならぬ免疫細胞たちがそうやって実際に引き起こす病気が、自己免疫疾患なのである。

骨が溶け、最後に関節まで破壊されてしまう関節リウマチ、膵臓のインスリン生産細胞が破壊されてしまう1型糖尿病、脳や脊髄の神経細胞を覆う膜が攻撃されて多発性の硬い病巣組織ができる多発性硬化症など枚挙にいとまがない。

しかし、免疫は自らの不完全さを意識していたのか、自らのしくみの中に、不思議な細胞を内在させていた。免疫の働きが過剰になったり、自己反応性の免疫細胞が悪さを始めたりしたときに、やりすぎを抑制して「撃ち方やめ」を周知徹底させる役割を担う細胞だ。それが、坂口が発見した制御性T細胞である。

もし制御性T細胞がなかったら、免疫細胞はブレーキをかけられない車のように暴走し、いまよりもはるかに多くの人が自己免疫疾患で苦しむことになっただろう。制御性T細胞の功績は実に大きい。

しかし、私たちの体はこのような安全弁のような細胞を持ったことで、その代償も支払わねばならなくなった。あろうことか、この細胞は体にできたがん細胞の“盾”となって、がん細胞を攻撃しようとする免疫細胞の邪魔をしてしまうのだ。まるでその様子は、悪者の用心棒。生き物の体の不思議さと理不尽さはここに極まれり、だ。

だからいま、研究者や製薬会社の関心は、制御性T細胞の悪さをいかに封じるかに向かう。前章で紹介したスタインマン(ラルフ・マーヴィン・スタインマン。カナダの免疫学者、細胞生物学者。2011年にノーベル生理学・医学賞を受賞)の闘病を語った際に紹介した抗体医薬ヤーボイも、実はそうした働きを備えた新しいがん治療なのだ。

ノーベル医学生理学賞を受賞された本庶佑先生が発見したのは免疫チェックポイント分子のPD-1。そして抗PD-1抗体の製品名が「オプジーボ」。

一方、製品名「ヤーボイ」は免疫チェックポイント分子、CTLA4をターゲットとした製品。

いずれも「免疫チェックポイント阻害薬」であり、仲間ということになります。

画像出展:「AnswersNews

坂口は京都大学の医学部を卒業した直後に制御性T細胞の研究にのめりこみ、日米を転々としながら四半世紀もの歳月をかけて、その存在を実証した不屈の研究者だ。読者はこれから始まる物語を読んで、坂口の歩んだ道のりの険しさと、制御性T細胞によって描き直された免疫の世界の不思議な営みに、きっと驚嘆されることだろう。

一世を風靡した抑制性T細胞

ここで、時計の針を十年ほど逆に回してみよう。なぜかというと、坂口の人生に重大な影響を及ぼすことになる免疫細胞が、その時期に発表されているからだ。それは制御性T細胞に先駆けて、免疫の営みを抑制する細胞として一世を風靡した「抑制性T細胞」(サプレッサーT細胞)である。

抑制性T細胞というアイデアを最初に唱えた研究者は、日本の多田富雄や米エール大学のリチャード・ガーションたちだった。

多田が抑制性T細胞を唱えるきっかけとなったのは、1968年に千葉大学で始めたある実験だった。

多田はこれに先立つ米国留学で、アレルギーを引き起こすIgE抗体を発見し世界に名をとどろかせた石坂公成に師事していた。そんな彼は日本に戻るや、IgE抗体と二つの免疫細胞(T細胞とB細胞)の関わりに焦点を当てた研究を開始した。

「このような研究はまだ誰もやっていない。先頭を走るのは自分だ」。多田は自信満々だった。

だが、IgE抗体の量を測定してみると、IgE抗体は一時的に増加するものの、すぐに減ってしまったのだ。

さらに多田たちをとまどわせる現象も起きた。IgE抗体の量を減らすためにX線を照射したり胸腺を摘出したりすると、逆にIgE抗体の数値が異常に高くなるというデータが現れたのだ。いったい何が起きているのか、多田は頭を抱えてしまった。

多田がのちに千葉大学で行った講演によると、そのアイデアは彼が朝風呂に入っているときにひらめいたのだという。「ひょっとしたら僕たちはX線照射や胸腺摘出によって、免疫の働きを抑制する細胞を減らしていたのではないか」と。

多田は自宅から研究室に駆けつけると、ただちに実験を開始した。胸腺を摘出されてIgE抗体の量が異常に増えたネズミに、正常なネズミの胸腺を移し入れる実験である。

結果は劇的だった。IgE抗体の数値は思ったとおり、大幅に下がってくれた。胸腺の移植によって出現した未知の免疫細胞が、B細胞が抗体をつくり出す営みにブレーキをかけたのだ、多田は確信した。

1971年に米国のワシントンで開催された第一回国際免疫学会において、多田は意気揚々と「免疫の働きを抑制する抑制性T細胞を発見した」と発表した。抑制性T細胞という新たな免疫細胞の出現に聴衆は驚き、1970年代は「サプレッサー・エイジ」と呼ばれるほど、研究者の間で抑制性T細胞の研究は大流行するにいたった。

実は、抑制性T細胞という言葉もサプレッサーT細胞という言葉も、現在では死後に近い。だが、「免疫の働きを抑制する細胞」という基本的な概念の創始者の一人はまぎれもなく多田だった。いまから40年以上も前に新しい概念を提唱した彼の卓越した先見性に敬意を表したい。

坂口の前に現れた抑制性T細胞

国際免疫学会で多田が喝采を浴びていた頃、坂口は医学部に入学したばかりの学生だった。この時期はまだ免疫への関心はあまりなく、抑制性T細胞という概念さえ知らない青二才だった。

その坂口が免疫に好奇心を持ったのは、IgE抗体を発見した石坂公成が京大の教授に就任するといった噂がキャンパスに流れた頃だっただろうか。折しも坂口は、妊婦の免疫が胎児を攻撃しない免疫寛容や、逆に免疫が自分の臓器や組織を攻撃する自己免疫疾患の話題を講義で聞き、次第に好奇心を持つようになっていた。

この時期、免疫学会のシンポジウムに顔を出してみると、流行のサプレッサーT細胞の話題で参加者はとても盛り上がっていたという。

1980年、坂口は愛知県がんセンターを去り、京大に戻ってきた。医学部の免疫研究施設に体をいったん落ち着け、ここで博士号を取得するための論文を執筆しようとしたのだった。

論文のテーマはもう決めていた。がんセンターでの研究成果をそのまま書こうというのだ。だが、これは坂口にとってただならぬ選択だった。なぜなら彼が見つけた制御性T細胞は、多田の唱える抑制性T細胞とは似て非なるものだったからだ。

このとき、すでに多田の抑制性T細胞は世界でメジャーな存在となっていた。坂口はこれから書く論文の中で、超大物の細胞と対峙しなければならなかった。

詳しく事情を説明しよう。細胞の表面には、その細胞が持つ特徴を表す細胞表面分子(CD:CDの「C」は「群れ、集団」を表すclusterの頭文字。「D」は「分化、差異、派生」といった意味を持つdifferentiationの頭文字)が顔を出している。これをマーカーとして使えば、免疫細胞も簡単に分類することができる。

坂口が愛知県がんセンターにいた時期は、T細胞のマーカーがある程度、判明しつつあった頃だった。たとえば免疫系の司令塔といわれるヘルパーT細胞のマーカーは「CD4」であることがわかってきた。また、ウィルスに感染した細胞やがん細胞を攻撃するキラーT細胞は「CD8」を持っているとの報告も現れていただろうか。

マーカーに注目した呼び方をするなら、ヘルパーT細胞は「CD4・T細胞」であり、キラーT細胞は「CD8・T細胞」である、というわけだ。

ならば、坂口が突きとめた新種の免疫細胞(つまり制御性T細胞)の正体は何なのだろうか。私たちはつい先ほど、この新しい細胞は「CD4・T細胞」だと語ったばかりだ。坂口はこの細胞の表面にCD4を見つけていたのだ。ならば制御性T細胞は、同じく表面にCD4を持つヘルパーT細胞と同種の細胞なのだろうか。

いや違う。制御性T細胞の表面には確かにCD4はあるが、実はそれ以外に「CD25」という分子も存在していたのだ。つまり制御性T細胞はヘルパーT細胞とは異なる細胞であり、「CD4・CD25・T細胞」と呼ぶべき存在だったのだ。ちなみに、CD25は坂口が1995年に、制御性T細胞と他のT細胞を識別するための重要なマーカーとして発表する細胞表面分子である。

医療応用の青写真

制御性T細胞はどのような医療応用ができるのだろうか。当時、坂口の脳裡に浮かんだいくつかのアイデアを語ってみよう。

まず、制御性T細胞による過剰な免疫反応の抑制。私たちの体は免疫細胞が病原体を攻撃してくれるおかげで感染症から守られている。しかし免疫の営みが強いせいで起きる病気もある。花粉症などのアレルギーや関節リウマチのような自己免疫疾患だ。

だが制御性T細胞を活用して免疫の攻撃を抑制すれば、アレルギーも自己免疫疾患も治療できる可能性がある。体内の制御性T細胞を取り出して、体外で増やしてから体に戻すといった方法が確立すれば、治療は現実のものとなるだろう。

臓器移植への応用も視野に入る。臓器提供者(ドナー)の臓器を患者に移植すると、多かれ少なかれ拒絶反応が起こる。患者の体の免疫細胞が、移植された臓器を異物とみなし攻撃を始めるせいだ。

しかしこの反応も、制御性T細胞によって抑制することができるかもしれない。うまくいけば、近未来には免疫抑制剤を使わずに臓器移植ができるようになる可能性がある。

また、骨髄移植では、通常の拒絶反応とは異なり、移植された骨髄から生まれた免疫細胞が患者の体を異物とみなして攻撃する移植片対宿主病が起きる。だが、これも制御性T細胞によって抑制できるはずだ。

制御性T細胞の働きを弱めることでも、さまざまな応用が見えてくる。たとえば感染力や攻撃力がとても強い病原体がもたらす感染症の治療では、一時的に制御性T細胞の働きを弱めて、病原体と戦う免疫細胞の攻撃力を強めれば効果的かもしれない。

敵は体の外からやってくる病原体だけではない。体の内にはがん細胞という凶悪な敵がいる。しかも狡猾ながん細胞は、制御性T細胞をうまく手なずけて自分の味方にしてしまい、免疫細胞の攻撃から免れる術も体得している。

ならば、がんとの戦いで有効な方策は、がん細胞の味方に回った制御性T細胞の動きを阻害することだ。こうした働きを備えた新薬が、スタインマンが使ったヤーボイだった。

「CD25」論文執筆を決意

坂口がようやく雇用期限のない安定した地位を手に入れたのは、1995年のことだった。彼は東京都老人総合研究所で免疫病理部門長というポストを獲得した。彼が生まれて初めてボーナスをもらったのもこの研究所だった。坂口はここで、いよいよ長年の研究の集大成ともいうべき研究論文を書くことを決意する。

論文を発表してから16年後の2011年4月号で『米国免疫学会誌』が「免疫学で一時代を画した論文(Pillars Articles in Immunology)」と最大級の評価をした論文である。

その頃までに坂口が突きとめていた事実をひとまず、まとめておこう。

まず、制御性T細胞はCD4とCD25という二つの細胞表面分子を備えた免疫細胞だった。免疫の司令塔とされるヘルパーT細胞も、CD4を持っているし、刺激を受ければCD25が発現することもある。しかし、制御性T細胞は生まれつきCD25を備えている。これが二つの細胞の決定的な違いだ。

また、しばらく前に語ったようにCD25の正体は、IL2受容体のα鎖であることも判明していた。制御性T細胞が胸腺で常に生まれつづけていることもわかった。

CD25のマーカーとしての能力は卓越していた。坂口はこれまでの研究で制御性T細胞の選別に役立ちそうな分子をいくつか見つけていたが、CD25はそれらの候補を凌駕していた。

イス取りゲームで免疫を抑制

さて、そこで制御性T細胞と免疫チェックポイント分子のCTLA-4だ。この分子はいったいどうやって免疫の営みを抑制するというのだろうか。

イラストをご覧いただきたい。これは体内で病原体を発見した樹状細胞が、その断片を掲げて免疫の司令塔ヘルパーT細胞のもとに抗原提示をしようとやってきた場面である。

「免疫が挑むがんと難病」より
樹状細胞がヘルパーT細胞とキラーT細胞に抗原提示する様子

画像出展:「免疫が挑むがんと難病」

「免疫が挑むがんと難病」より
制御性T細胞が抗原提示を妨害するしくみ

画像出展:「免疫が挑むがんと難病」

樹状細胞の右上にのっているのがヘルパーT細胞だ。先ほど語ったように、ヘルパーT細胞の表面からは副刺激分子のCD28が出ていて、樹状細胞の表面からは補助副刺激分子B7が出ている。抗原提示のプロセスが終わり、CD28とB7が結びついて補助シグナルが流れると、いよいよ戦闘開始だ。

やや専門の度が強いかもしれないが、実はこのとき、キラーT細胞もヘルパーT細胞と同様に樹状細胞とつながっていて、抗原提示を受けている。すると、ヘルパーT細胞は近くにいるキラーT細胞に向かって情報伝達分子を放出して増殖を促す。こうしてキラーT細胞は大部隊に膨れあがり、がんとの戦いに出動することとなる。

ところが、ここに制御性T細胞が現れると、ヘルパーT細胞やキラーT細胞にとって面倒な事態が生じる。上のイラストのように樹状細胞の上に制御性T細胞がのしかかって“合体”して、抗原提示の妨害をするからだ。

このとき制御性T細胞の“武器”が、CTLA-4分子。制御性T細胞はこの分子を使って、樹状細胞の表面に出ているB7分子と結びついてしまうのだ。これは、本来であればヘルパーT細胞やキラーT細胞が落ち着くべき場所を、制御性T細胞が“横取り”したことにほかならない。

制御性T細胞の数が少なければ、ヘルパーT細胞などの受ける影響は少なくてすむ。しかし、制御性T細胞が大挙してやってきたときは具合が悪い。しかも、樹状細胞との相性は、制御性T細胞のほうがヘルパーT細胞よりも優っている。そもそも制御性T細胞の表面にはCTLA-4分子が多く出ているうえに、接着分子といって、文字どおり樹状細胞と接着する分子も発現しているからだ。

こうして、制御性T細胞が樹状細胞の表面を覆いつくしたとしよう。そうなるともはや、ヘルパーT細胞などには樹状細胞と物理的に接触する余地がなくなってしまう。

つまり、制御性T細胞と他のT細胞の関係は、限られた席を争ってイス取りゲームをしているライバルどうし。制御性T細胞の群れが大きいと、その分、ヘルパーT細胞などのT細胞は樹状細胞と合体できなくなって、抗原提示が阻害され、免疫の営みが低下してしまうのだ。

制御性T細胞はイス取りゲームのイスをただ奪うだけでなく、イスの数そのものを減らすことで抗原提示を阻害していることもわかっている。

このプロセスでも暗躍するのはCTLA-4分子。この分子を介して制御性T細胞が樹状細胞とつながると、樹状細胞は表面に補助刺激分子のB7を発現しなくなってしまう。そうなるとヘルパーT細胞には補助シグナルが入らず、抗原提示を受けても戦闘開始の命令を出せなくなってしまうのだ。

制御性T細胞が存在する証拠

がんになった人の体では、キラーT細胞ががん細胞をやっつけようとしても、制御性T細胞に邪魔されてしまう。免疫細胞の過度の攻撃を防ぐのが自分の任務と心得た制御性T細胞が、がん細胞の“盾”のようにキラーT細胞の営みを抑制するからだ。

ヤーボイとは、そうした制御性T細胞の悪事を封じるための抗体医薬。制御性T細胞の表面にある免疫チェックポイント分子のCTLA-4分子をブロックするモノクローナル抗体をつくり、これをがん治療用の医薬としたものだ。

だが、ヤーボイは強い副作用を伴う医薬でもある。ヤーボイの働きによって制御性T細胞の営みが封じられると、免疫細胞が激しく腸管組織を攻撃する結果、お腹の調子が乱れてただならぬ下痢や腹痛が起きる。

実際、(ヤーボイを服用していた)スタインマンは激しい下痢に襲われ、あまりの副作用の強さに治療の継続を断念してしまったという。制御性T細胞が確かに存在することを示す生々しい証拠といえるだろう。

スタインマンがヤーボイの投与を受けたのは、闘病生活の後期の頃だったといわれる。体がもっと元気な頃であれば副作用を我慢することができ、がんとの戦いをもっと有利に展開できたかもしれない。

制御性T細胞が備えるCTLA-4分子は最近、がんの免疫療法への応用で急速に注目を集めている。免疫チェックポイント分子は他に仲間もいる。その一例はPD-1分子で、スタインマンは一時、この分子をブロックする抗体医薬の利用も検討した、と伝えらえる。PD-1は1990年代に京大の本庶佑らが発見した分子だ。がんの免疫療法とは切っても切れない制御性T細胞や免疫チェックポイント分子については、のちにあらためて、たっぷり語ることにしよう。

エピローグ

いつの頃か、生き物の中には体内に細菌を取り込み、共生関係を築くものが現れた。その関係は生命の進化が進んでも延々と受け継がれ、人という種もまた、天文学的な種類と数の細菌を腸内に棲まわせるようになった。そして他の組織や臓器では細菌を攻撃する免疫も、腸の中ではおとなしく襲撃を慎む大人の知恵を身につけた。

胎児への攻撃自制も、細菌との共生も、専門家が「免疫寛容」と呼ぶ不思議な営みである。

なぜ、免疫は自らにブレーキをかけるのか。この問いに対する概念的な「解」は比較的、早期に現れた。1970年代に提唱された抑制性T細胞である。免疫の攻撃を抑制する特殊な細胞を免疫の一員に加えれば、免疫寛容の現象はきちんと説明がつけられたのだ。

しかし、概念と実体にはことのほか距離があった。抑制性T細胞の探索は難航し、ついには実在の証拠とされたデータが幻とわかり、研究者の関心は急速に薄れていった。「免疫寛容の時代」の始まりである。

現代免疫学がようやく深い轍を乗り越え、確かな実体を捉えることに成功したのは少なからぬ時間が流れたあとのこと。かつての有力候補とは似て非なる制御性T細胞と、制御性T細胞などの表面に現れる免疫チェックポイント分子の存在とその働きが、相次ぎ確認されたのだ。

そして、その営みに注目した抗体医薬が医療現場で使われるに及ぶと、医師や研究者は、一度は否定された「免疫にブレーキをかける」細胞や分子が実在することを文句なしに信じざるをえなくなった。 

~中略~

これほどまでに存在感を高めた制御性T細胞とチェックポイント分子を前に、私たちはどのような心構えをしたらいいのだろう。一案は私たちがいま、免疫と病気をめぐる基本的なものの見方(パラダイム)が遷り変わるまっただ中にいる、と自覚することかもしれない。

免疫とはかつて、外部からやってくる病原体を攻撃し排除する防衛システムと考えられた。その防衛力を削ぎ落すブレーキの営みは、かつてなら免疫の対極に位置するものと捉えられた。

しかし、その認識のしかたはどうやら間違っていたらしい。免疫は、病原体やがんなどの敵と向き合い対峙する能力の内に、攻撃をほどほどに収めるしくみを重要な要素として含んでいたのだ。

免疫の攻撃力が強ければ、力をもてあました攻撃系の免疫細胞は身内の臓器や組織を攻撃し、深刻な自己免疫疾患を起こす。逆に攻撃力が弱くなれば、人は感染症やがんにかかりやすくなる。

私たちはこのように、免疫の両輪といえるアクセル(攻撃)とブレーキ(抑制)のバランスの中で、ある時は健康に生き、ある時は病気になったり死んだりしているのだ。

大切なのはアクセルとブレーキの平衡。両者のバランスがほどよくとれるなら私たちは、がんにかかることもなく、自己免疫疾患に悩まされることもなく天寿を全うできるだろう。

バランスが崩れてがんや自己免疫疾患になっても、私たちは徒手空拳でこれらの病気と対峙するわけではない。ブレーキを解除する新しい抗体医薬の登場によって、かつて効用が軽視されがちだったがんの免疫療法は、外科手術、放射線治療、抗がん剤と肩を並べるほどの治療成績をおさめつつあるからだ。

しばしば原因不明の難病扱いをされてきた自己免疫疾患のいくつかは、治療法がわかってきた。視神経脊髄炎や強皮症、大動脈炎症候群などの病気では、背後にインターロイキン6(IL6)という炎症性の情報伝達分子が暗躍していることが判明した。その結果、関節リウマチの治療に使う抗体医薬(アクテムラ)がこれらの病気の治療でも良好な成果を収めはじめたのだ。

バランスを欠いたアクセルとブレーキの関係を修復するための手がかりも見えてきた。私たちがお腹の中に棲まわせている腸内細菌は、ただ免疫細胞から攻撃を見合わせてもらっているだけの軟弱な存在ではなく、免疫にさまざまな刺激を与え影響を及ぼす重要な存在だった。

たとえばある種の腸内細菌がつくる酪酸は、免疫系に作用して、ブレーキ役の制御性T細胞を増やすことがわかっている。また、特定の細菌は自己免疫疾患を引き起こすヘルパーT細胞を誘導することも明らかとなった。

つまり腸内細菌は、時と場合によって免疫力の攻撃力を高めたり、逆に抑制力を強めたりしているのだ。

腸内細菌の研究が緒に就いたばかりだといって、あなどってはいけない。免疫学の畑ではないが、現代の研究者は腸内細菌の移植によって、太ったネズミと太らないネズミをつくり出しさえしている。

~以下省略~

がんと自然治癒力11

この本を選んだのは、一つは「ファイトケミカル」を詳しく勉強したかったことです。そして、もう一つは著者である高橋弘先生が、停滞する日本でのがん医療に疑問をもたれ、がん医療で成果を上げているアメリカ(ハーバード大学医学部)へ、がんと免疫学を研究するために留学されたという、その決断力と行動力の凄さに引きつけられたためです。ちなみに、サッカーでライバル関係にあった浦和4校の1校、浦和高校卒というのも小さな理由です。

なお、今回の主な目的はがんの基礎知識のおさらい具体的ながん対策(予防)を知るということになります。

著者:高橋 弘
「ガンにならない3つの食習慣」

出版:ソフトバンク新書 

初版発行:2011年8月25日

ファイトケミカルという植物の天然成分の活用の第一人者でもある高橋先生に、ご自身の医療のスタイルと特徴、現在の医療の問題、これからの医療のあり方について存分に語っていただいた。

信頼と安心の治療を…

こちらのページからは次の情報にもアクセスできます。

・ファイトケミカルのビデオを見る→動画ページへ

・ファイトケミカルの放送を聴く→放送ページへ

・ガンにならない3つの食習慣のビデオを見る→動画ページへ

ブログは本に書かれた内容を元に、要点と感じた個所を短くまとめ、列挙したかたちになっています。なお、大項目の8章は次の通りです。

第1章 なぜガンになるのか?

第2章 ファイトケミカルでガンを撃退!

第3章 ガンにならない食習慣①―ファイトケミカルを摂る

第4章 ガンにならない食習慣②―低GI値の食品を選ぶ

第5章 ガンにならない食習慣③―過剰な鉄分摂取を控える

第6章 ガンを予防する9つのポイント

第7章 免疫力を高めればガンは予防できる

第8章 野菜と果物でガンに打ち勝つ

このうち、4章と8章以外の6つを対象にしていますが、中項目の一部はとばしており全てをカバーしてはおりません。

ご参考までに対象外の4章と8章の詳細をご紹介します。

第4章 ガンにならない食習慣②―低GI値の食品を選ぶ

 2型糖尿病の人はガンになりやすい

 糖尿病とはどういう病気なのか

 2型糖尿病がガンを引き起こす

 インスリンがガンを成長させる

 糖尿病予備群もガンになりやすい

 低GI値の食品を選ぶ

 食べる順番にも気をつける

 そばの食べ方でファイトケミカの摂取量が変わる

 エンプティカロリーを避ける

 インスリンは肥満ホルモン

第8章 野菜と果物でガンに打ち勝つ

 病めるアメリカの苦闘

 現代病は“食源病”である!

 『マクガバン・レポート』の3つの影響

 デザイナーフーズ計画の登場

 デザイナーフーズ・リストから学ぶこと

 『マクガバン・レポート』と『デザイナーフーズ計画』の成果

第1章 なぜガンになるのか?

  ガン細胞とは何か?

●ガン細胞はアポトーシス(自然死)を免れるメカニズムをもっており、増殖しても死なないやっかいな細胞である。

 ガンは遺伝子の異常で生まれる

●細胞分裂の際、遺伝子情報のコピーに問題が発生し、元の細胞とは異なる遺伝子情報の細胞ができる。 

 ガンは遺伝しない

●一般的に「ガン体質」とか「ガン家系」といった言葉を耳にするが、親のガンがそのまま子どもに遺伝することはない。

 ガンの芽は毎日5000個生まれている

●体は60兆個ともいわれる細胞の集まりであり、24時間休みなく、古い細胞を壊しては新しい細胞に置き換えるという「新陳代謝」を行なっている。細胞の遺伝子をコピーして新しい細胞を生み出す代わりに、元になった古い細胞がアポトーシスを起こして自然死する。新陳代謝により、毎日1兆個が死に、同じ1兆個が細胞分裂で新たに生まれている。日々生まれている1兆個の細胞のなかで、遺伝子の異変を持つものは5000個から6000個といわれている。これがガン細胞の芽である。ガン細胞が生まれる確率はわずかに2億分の1である。 

 ガンの芽は9年かけてガンになる

●ガンとは、ガン細胞が増殖して0.5~1cmの大きさになり、肉眼で見えるようになったもの。重さは約1gほど。10億個ほど集まってこのサイズのガンになる。1個のガン細胞が10億個ほどに増えてガンになるまでは、平均9年かかる。 

「ガンにならない3つの食習慣」より
ガンの芽は9年かけてガンになる。

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

 発ガンのプロセス①―イニシエーション(引き金)

●ガンの芽が生まれるのは遺伝子異常によるミスコピーであり、発ガンの第1段階。これをイニシエーションといい、ミスコピーを起こす引き金物質を「イニシエーター」と呼ぶ

●タバコが原因で起こるガンは全体の30%とされている。喫煙すると数千種類もの化合物が生じるが、その中に数十種類のイニシエーターが含まれている。受動喫煙が問題視されるのは、タバコから立ち上る煙(副流煙)には、喫煙者が吸い込む煙(主流煙)より有害物質が多く含まれているため。 

 発ガンのプロセス②―プロモーション(促進)

●イニシエーションで生まれたガン細胞が増殖するのが、発ガンプロセスの第2段階の「プロモーション」。プロモーションを起こす物質や要因を「プロモーター」と呼ぶ。

●イニシエーターによって遺伝情報が書き込まれたDNAは一部を損傷しただけではガンにならない。それはDNAには損傷した部分を修復する自然治癒力が備わっているからである。

●DNAの一部の損傷、その傷ついた細胞が繰り返しプロモーターに晒されると、自然治癒力による修復が追いつかなくなる。細胞のアポトーシスの機構が働かなくなると、そこからはタガが外れたように、ガン細胞が猛烈なスピードで増殖し、9年ほどかけて、目に見えるガンに成長する。

●プロモーターは、イニシエーターと重なるものが少なくない。プロモーターの筆頭に挙げられるのも、やはりタバコである。タバコの煙に含まれる各種の化学物質はガンの増殖を促進する。活性酸素も同様である。  

「ガンにならない3つの食習慣」より
発ガンの引き金と促進

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

 発ガンと放射線

●放射線による発ガンは、その他の発ガンと同じく、活性酸素が関係することが最新の研究で明らかになった。放射線が人体の60%を占める水を電離分解し、活性酸素を産生。この活性酸素がDNAを傷つけて発ガンの原因になる。

●外部被ばくも怖いが、体の内部から被ばくする「内部被ばく」は、さらに危険である。放射能を帯びたチリやホコリ、あるいは水や食べ物が鼻や口から入ると、それらが体内で放射線を放出することで内部被ばくする。

 免疫力の低下がガンを生む

●免疫は疫病だけでなく、ガンのように体内で生じた異物を安全に処理する働きもある。ガンが発生する背景には、免疫が正しく働いていないという事実がある。

ガンの芽がガンになるには、①イニシエーション、②プロモーション、③免疫力の低下― という3つの条件がある。そして、この3大条件をすべてリセットしてくれるのが、野菜や果物のように日常的に摂取できる食べ物に含まれている「ファイトケミカル」である。

第2章 ファイトケミカルでガンを撃退!

 ファイトケミカルとは?

●「ファイトケミカル」は、ガンの芽がガンに成長するプロセスである、①イニシエーション、②プロモーション、③免疫力の低下という3つの悪条件をことごとくブロックしてくれる。

●この「ファイト(Phyto)」はギリシャ語で「植物」という意味であり、ファイトケミカルは日本語に訳すと「植物がつくる化学物質」となる。ファイトケミカルは、植物が自らを守るためにつくり出した天然成分である。

●植物は自由に動き回れる動物とは異なり、同じ場所で生き続けなければならず、外敵や紫外線から自らを守り、子孫を残すための種子を保護するために、ファイトケミカルをつくり出した。

●ファイトケミカルのおよそ9割は、野菜や果物など、現在見つかっているのは約1500種類だが、実際は1万以上あるとされている。

 ファイトケミカルの2つの特徴

●第1の特徴は、ファイトケミカルは植物のみがつくる成分で、ヒトをはじめとする動物はつくることができないということ。

●第2の特徴は、ファイトケミカルはこれまでの栄養学が定義する「栄養」ではないということ。

●現代の栄養学が定義する「栄養」とは、カラダを構成する素材をつくり、生きるために必要なエネルギー源を提供し、体内の代謝を調節してくれるもの。脂質、タンパク質、糖質の3大栄養素に、ビタミン、ミネラルを加えたものを5大栄養素と総称している。

 ファイトケミカルは“第7の栄養素”

「第6の栄養素」である食物繊維に続き、ファイトケミカルは「第7の栄養素」として世界中の医療関係者に注目されている。

 ファイトケミカルの抗ガン作用―抗酸化作用

●ファイトケミカルの抗ガン作用は、①抗酸化作用、②発ガン物資の抑制作用、③免疫増強作用―の3つである。

●活性酸素は呼吸によって取り入れる酸素の2%は活性酸素に変化する。

活性酸素は酸化力(毒性)によって細胞を攻撃し、さまざまな病気や加齢の原因となる。

●活性酸素は細胞の遺伝子変異を起こす。つまり、発ガンの第1段階でうごめくイニシエーターである。

●抗酸化作用は活性酸素を無毒化するが、加齢とともに作用が低下する。

活性酸素はストレス、紫外線、過剰な運動などにより発生量が増える。すると、抗酸化作用では処理が間に合わず、活性酸素(スーパーオキシド)が溜まり、「ペルオキシナイトライト」という毒性の強い活性酸素に変化する。特に過酸化水素から生じる「ヒドロキシラジカル」はスーパーオキシドの数十倍といわれ、しかも、分解するための酵素が存在しないという、非常に恐ろしいイニシエーターである。

 ビタミンの100倍の力!

●ファイトケミカルが持っているガンの芽を摘むための抗酸化作用の働きはビタミンを圧倒している。「プロアントシアニジン」(クランベリーなど)はビタミンEの約50倍、ビタミンCの約20倍。「リコピン」(トマト、スイカなど)はビタミンEの約100倍、「カテキン」(緑茶など)は約20倍である。

「ガンにならない3つの食習慣」より
ファイトケミカルの代表例

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

 ポリフェノールが酸化を防ぐ

●問題とされているコレステロールは善玉(HDL)も悪玉(LDL)も中身は同じ、外側のカプセルが違うだけの話。問題はコレステロールが活性酸素によって酸化されること(酸化コレステロール)。酸化されたコレステロールは動脈硬化を促進してしまう。 

 ファイトケミカルの抗ガン作用―発ガン物質の抑制作用

●ブロッコリー、キャベツ、白菜などの苦味成分、ワサビ、カラシ、マスタードなどの辛味成分に含まれているグルコシノレートが酵素(ミロシナーゼ)により「イソチオシアネート」という物質に変わる。この「イソチオシアネート」がもつガンの抑制作用の一つが肝臓などにあり、解毒作用を担っている酵素を増やすこと。もう一つがガン細胞にアポトーシスを起こさせて、ガンが大きくならないようにすることである。

 淡色野菜にもファイトケミカルは多い

●白菜に含まれるファイトケミカル(「グルコブラシシン」)はガンにアポトーシスを起こされる作用が強い。ワサビはチューブ入りではなく、粉ワサビであれば水に溶いてよく混ぜて3分間ほど置くと、酵素(ミロシナーゼ)の働きで「アリルイソチオシアネート」が生じて香りが立ってくる。このように調理法や食べ方の工夫でファイトケミカルの効果は何倍にもなる。

 ファイトケミカルの抗ガン作用―免疫力増強作用

●免疫細胞に関するファイトケミカルの効果は次の3つ。

免疫細胞の数を増やす…キャベツの「イソチオシアネート」、バナナの「オイゲノール」

免疫細胞を活性酸素の攻撃から守る…タマネギやニンニクの「システインスルホキシド類」、「アントシアニン」などのポリフェノール

免疫細胞を活性化してその働きを高める…ニンジンの「β‐カロテン」、キノコの「β‐グルカン」、海藻の「フコダイン」など 

●白菜の「グルコブラシシン」のTNF(Tumor Necrosis Factor:ガン細胞をアポトーシスさせる腫瘍壊死因子)の産生を増やす力は、同様の効果を持つタマネギ、トマト、キャベツの10倍以上に達する。

 ユニークなキノコの免疫細胞活性作用

●キノコの50~70%「β‐グルカン」である。「β‐グルカン」が働きかける場所は、腸管免疫。腸管免疫とは、免疫細胞の一大基地である小腸の免疫作用である。キノコは異質な菌類のため、一度に大量に入ってくると小腸のパイエル板(絨毛が生えていないフラットな部分)が警報を発して腸管免疫を活性化させる。活性化された免疫細胞は全身をパトロールするので、そこでガンのイニシエーションとプロモーションを防いでくれる。

●「β‐グルカン」を多く含むキノコには、シイタケ、マイタケ、エリンギがある。

 ファイトケミカルの6大分類

●ファイトケミカルは大きく6つのカテゴリーに分けられる。

①ポリフェノール:植物の色素やアクの成分。抗酸化力が強い。

②含硫化合物(イオウ化合物):ニンニクやネギの香りのもと(システインスルホキシド類など)。

③脂質関連物質(カロテノイド類など):ニンジンのβ‐カロテン、トマトのリコピンなど。

④糖関連物質:キノコのβ‐グルカン、海藻類のフコダインなど。

⑤アミノ酸関連物質:アスパラガスのグルタチオンなど。

⑥香気成分:バナナのオイゲノール、柑橘類のリモネンなど。 

「ガンにならない3つの食習慣」より
ファイトケミカルの作用

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

第3章 ガンにならない食習慣①―ファイトケミカルを摂る

 ファイトケミカルは加熱して摂る

●野菜などのファイトケミカルの多くは、食物繊維でできた細胞膜や細胞のなかに入っているが、加熱によりその細胞膜や細胞が壊れ、中に含まれているファイトケミカルを吸収しやすくなる。なお、ファイトケミカルは安定的な物質が多く、加熱によって成分が壊れて効力を失うことはない。特にお勧めは、スープにすること。

茹で汁には生の搾り汁をはるかに上回る抗酸化力がある。 

「ガンにならない3つの食習慣」より
野菜の抗酸化力

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

 “生野菜”信仰を捨てよう

●生のままの野菜ではファイトケミカルはカラダに取り込まれにくいうえに、カサが増えて大量には食べられない。

  ガンにならないファイトケミカルスープの作り方

●4種類の野菜(キャベツ、タマネギ、ニンジン、カボチャ、それぞれ100g)を食べやすい大きさに切り、野菜が隠れるくらいの水(およそ1ℓ)を注いで強火にかけ、お湯が沸騰したら中火にして、30分ほど煮込んだら完成。800mlほどのファイトケミカルスープができるので、これを1日200~600mlずつ摂取する。特に朝食や夕食前の空腹時に飲むと、体内にファイトケミカルが吸収しやすくなる。

●ポイントは4つ

①ニンジン、カボチャは汚れを除いたら、皮ごと使う。

②フタがしっかり閉まって蒸気が外に逃げず、長時間加熱しても焦げにくいホーロー鍋を使って調理する。

③食塩などの調味料を一切加えない。

④最後のポイントは、具材にはこだわらずスープを残さずいただくこと。

●ファイトケミカルは冷凍しても効力は変わらないので、一度にたくさん作って冷凍保存していくのもお勧め。冷凍保存は具材と一緒に保存容器に入れる。使うときは容器ごと電子レンジで解凍する。解答する際に野菜の細胞膜が壊れてファイトケミカルが溶け出すので栄養だけでなく甘味も増す。

  ファイトケミカルスープが含む有効成分

●有効成分

「ガンにならない3つの食習慣」より
ファイトケミカルスープが含む有効成分

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

  果物は皮ごと食べる

●ポリフェノールの含有量が多い果物のトップ3

①キウイフルーツ

②バナナ

③グレープフルーツ

4位以下は、マンゴー、ブドウ、オレンジ、パパイヤ、パイナップル。

  ミカンは皮も白い部分も食べる

●ミカンを皮ごと食べるのが難しい場合は、果肉と一緒に果皮を刻んでマーマレードにすると良い。

●果皮の内側にある白い部分にも「ヘスペリジン」というファイトケミカルが含まれている。これもポリフェノールの仲間。抗アレルギー作用、抗ウィルス作用、血管強化作用、血流改善作用がある。

  特定の野菜や果物に期待しすぎない

●パンダは笹、コアラはユーカリだけを食べていれば健康を保てるが、ヒトは雑食性なのでいろいろな食べ物を組み合わせて食べて初めて健康を維持できる。また、ファイトケミカルは全部で1万種類以上もあり、その効果がすべて検証されているわけではない。以上のことから、ファイトケミカルスープを柱に、旬の野菜や果物を幅広く食べるのが良い。

ファイトケミカルは、成分によって化学的な反応が異なっている。水に溶けやすいものもあれば、油に溶けやすい成分もある。加熱に強いものも弱いものもある。従って、スープ、生野菜サラダ、蒸し野菜、焼き野菜など、バラエティ豊かに食べ方を試すと飽きることがなく長く続けられる。 

第5章 ガンにならない食習慣③―過剰な鉄分摂取を控える

  女性が男性よりも長生きの理由

●鉄分はカラダにとって必須のミネラルだが、近年、鉄分の過剰な摂取が、ガンや老化の一因となることが明らかになった。

●鉄分の過剰摂取が注目されるきっかけになったのは、世界的な女性の長寿傾向である。その理由として挙げられるのが、女性特有の「月経」である。これにより女性は閉経を迎えるまで、月経中に1日0.55mg前後の鉄分を失っている。摂りすぎた鉄分は、ガンの芽をつくるイニシエーターになる。これは過剰な鉄分は活性酸素を発生し、DNAを酸化するためである。鉄は空気にさらされると、酸素により錆びていく。これも酸化で鉄分が過剰だと体内で有害な酸化が起こってしまう。鉄分が関与すると活性酸素の毒性はより強くなる。 

  生き物にとって酸素は「諸刃の剣」

●生きていくには酸素が必要だが、酸素は生体にとって有害である。ネズミを酸素濃度100%のところに置いておくと、数日で50%が死に至る。ヒトも純度の高い酸素にさらされ続けると、胸痛、咳、肺水腫、無気肺などの肺の障害を引き起こす。

●光合成が始まって10億年ほどして、酸素のある環境に適応する生き物が現れる。それが好気性生物である。好気性生物は酸素に対する耐性を持つだけでなく、酸素をエネルギー源として利用する方法を編み出した。 

  鉄分は活性酸素を発生させる

●抗酸化システムの柱は、活性酸素を分解して無毒化する酵素である。しかしながら、この酵素がより毒性の強い活性酸素を生み出す。活性酸素のスーパーオキシドはSODという抗酸化酵素で過酸化水素に分解され、さらに過酸化水素はカタラーゼやグルタチオンペルオキシダーゼといった抗酸化酵素で水と酸素などに分解される。ところがここに過剰な鉄分があると大きな問題が起きる。過酸化水素と鉄(鉄イオン)が反応すると、「ヒドロキシラジカル」というガンの芽のイニシエーターが生じる。このとき、鉄は触媒として働く。触媒とは物質を合成したり、代謝するときに、ほんの微量でその反応を大幅に促進する物質である。

●鉄イオンや銅イオンが触媒となり、過酸化水素からヒドロキシラジカルが生じる反応は、「フェントン反応」と呼ばれている。

ヒドロキシラジカルは同じ活性酸素のスーパーオキシドの数十倍の強い毒性(酸化力)を持っている。短命ではあるが、一瞬の間に細胞膜や遺伝子を傷つけて、ガンの芽をつくるイニシエーターになる。また、スーパーオキシドとは異なり、ヒドロキシラジカルを処理する抗酸化酵素は存在せず、一度生じたヒドロキシラジカルに対しては打つ手がない。以上のことから、フェントン反応を避けるため、過剰な鉄分を摂取しないことが非常に大切である。

  鉄分の多い食事を避ける

●鉄分が多く、避けたい食品は、レバー、アサリやハマグリの貝類、赤身の肉や魚介類。アサリやハマグリはシジミと同じように鉄分が含まれるのは身の部分なので、スープを飲むだけであれば問題はない。肉は赤身が強いほど鉄分が多い。魚の場合はブリやカツオなどの血合いの部分(黒ずんだ赤みを帯びた部分)に鉄が多く含まれている。   

「ガンにならない3つの食習慣」より
魚の場合は血合いの部分は避ける。

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

「ガンにならない3つの食習慣」より
鉄分を多く含む肉

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

「ガンにならない3つの食習慣」より
鉄分を多く含む魚介

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

「ガンにならない3つの食習慣」より
鉄分を多く含む卵・豆加工品

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

  玄米や野菜の鉄分は気にしなくてOK

●玄米は精白米の6倍となる鉄分を含んでいるが、玄米の鉄分は体内に吸収されない。

小松菜やホウレン草の鉄分はレバーなどの動物性食品に含まれる「ヘム鉄」ではなく「非ヘム鉄」のため、吸収は5%程度(動物性食品の1/4から1/6程度)のため問題ではない。  

  活性酸素が遺伝子変異を起こす仕組み

長年にわたり、繰り返しDNAが傷つけられていると、修復作業が追いつかなくなり、DNAに傷が増えていく。この結果、がん抑制遺伝子に異常が起こったり、ガン遺伝子が活性化されたり、正常でない異常なタンパク質が生まれ、異常な細胞となる。かくして、ガンの芽となる細胞がカラダに生まれてしまうのである。

第6章 ガンを予防する9つのポイント

  水を意識的に飲む

●カラダから害のある物質を体外に出すことを「デトックス」というが、排便、排尿、発汗がスムーズであれば、発ガン物質も外に出やすくなる。そのために大事なのは、水分を意識的に補給することである。

●喉が渇いたと思ったときはカラダは脱水状態になっている。脱水状態になると、カラダは「水分を失わないようにしよう」とするため、排便、排尿、発汗が滞る。

●排便、排尿、発汗を進めるためには、1日1.5ℓを目安に飲み物を摂取する。ミネラルウォーターやカフェインの入っていない緑茶などが良い。(1日の飲水量の目安は[体重kg×30cc]という説もあります)

眠る前にコップ1杯の水分をあらかじめ補っておくと心筋梗塞や脳梗塞の予防になる。

  乳製品と適度な運動をプラスする

●排便には腸内細菌を整えることも大切。腸内環境が乱れて便秘になると、食事などに含まれている発ガン物質がそれだけ長く体内にとどまることになる。腸内細菌は「有益菌(善玉菌)」「有害菌(悪玉菌)」「日和見菌」の3タイプ。この中の有益菌が元気に活動していると、乳酸などの有機酸がつくられて腸内が弱酸性に傾く。すると酸性に弱い有害菌の活動が抑えられ、有機酸の刺激で大腸の運動(蠕動運動)が活発になり排便が促される。

●有益菌は排便で失われるため、毎日少しずつ摂ることがポイント。有益菌を豊富に含むヨーグルトや納豆、漬け物といった日本の伝統的な発酵食品を摂る。

●発汗を促す運動も重要である。運動は軽く汗ばむようなストレッチ、ウォーキング、ゆっくりとしたジョギングがおすすめ。汗は水分とともにミネラル分も排出するため、酸化を促す鉄分や塩分も排出でき、ガンの抑制にもプラスである。実際、定期的な運動は、ガンのリスクを下げることが知られている。

  塩分を控える

●日本人は1日平均10.7gの塩分を摂っている(『日本人の食事摂取基準2010年版』では男性9g未満、女性7.5g未満)。食塩の成分のナトリウムの1日の必要量はわずか600mgで、塩分に換算すると約1.5gである。

●塩分過多はガンのリスクになるが、特に関連性が高いのは胃ガンである。これは塩分が胃の粘膜のバリア機能を低下させ、ピロリ菌の攻撃に耐えられなくなり、ガンの芽を生じさせてしまう。

  減塩の工夫を忘れない

●和食に欠かせないしょう油には、大さじ1杯で約2.5gの食塩が含まれている。味噌汁1杯には2g、ラーメンやうどんなどの麺類はスープまで含むと6~7gの食塩が入っている。1日の摂取量(男性9g・女性7.5g)に制限することは簡単ではなく、日々減塩の工夫が必要である。

●食品の栄養成分表示には、ナトリウム量しか表示されていないことがあるが、その場合は2.54倍すると、塩分量を把握できる。ナトリウムはmg表示、食塩はg表示なので、「ナトリウム量×2.54÷1000=食塩量」となる。

  サプリメントを過剰摂取しない

●アメリカでは葉酸やビタミンB12のサプリメントが人気だが、これらのサプリメントはガンのリスクを高めると考えられている。葉酸もビタミンB12も水溶性なので、過剰に摂取しても尿などから排泄されるが、大量に摂ると体内濃度が一時的に過剰になり、人体にダメージを与える。 

  β‐カロテンは緑黄色野菜から摂る

サプリメントによるβ‐カロテン大量摂取(20~50mg)は「喫煙やアスベストなどにより肺ガンリスクが高い人々の肺ガンのリスクをおそらく確実に上昇させる」という報告がある。

●緑黄色野菜などから摂取するβ‐カロテンはガンに対する抑制効果がある。一方、ビタミンやミネラルのサプリが、ガンの予防や改善につながったというデータはない。

  化学物質を避ける

●ハムやソーセージなどの発色剤に使われる「亜硝酸ナトリウム」は、胃の中で肉や魚介類のタンパク質に含まれる「アミン」と結合すると「ニトロソアミン」という発ガン物質を生じる。

●加工食品や燻製食品、タバコの煙に含まれる「ベンゾ(α)ピレン」にも強い発ガン性がある。

●パーム油、バター、魚介乾燥品(干し魚)、魚介冷凍品などに酸化防止剤として使用が認められている「BHA(ブチルヒドロキシアニソール)」は名古屋大学のラットを使った実験で発ガン性が確かめられている。

●レモンなど、アメリカから輸入される柑橘類によく使われている防カビ剤「OPP(オルトフェニルフェノール)」にも発ガン性がある。

  カルシウムを摂取する目的で牛乳を飲まない

●牛乳を毎日のように飲んでいる人でコレステロール値が高い場合、牛乳を摂りすぎている恐れがある。

特に日本人は牛乳を飲んでもカルシウム不足の解消にはならない。これは牛乳のカルシウムは、リンと結合した「リン酸カルシウム」というかたちで含まれているが、日本の土壌にはリンが多く、牧草や飼料に含まれるリンによってカルシウムに結合するリンの数が多い。カルシウムが体内に吸収されるには水分に溶ける必要があるが、リンの数が多いとカルシウムは水に溶けにくく、吸収率が下がる。牛乳が骨粗鬆症の予防に有効だという説も、科学的に証明されていない。日本人よりはるかに多くの牛乳と乳製品を摂っているアメリカ人の骨粗鬆症患者の割合は日本人よりも多いという事実もある。

カルシウム摂取は牛乳よりも野菜がおすすめ。カルシウムの摂取に適した野菜としては、シュウ酸が比較的少ない小松菜や京菜、ダイコンの葉、カブの葉、ケールなどが挙げられる。

「ガンにならない3つの食習慣」より
カルシウムを摂るには牛乳より野菜がおすすめ。

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

  アブラは魚介類、オリーブオイルから摂る

●常温で固まる肉類の脂身やラード(豚脂)、ヘット(牛脂)は避ける。その多くは飽和脂肪酸。2003年のWHO/FAO合同専門家協議会による報告では、ラードやヘットに多く含まれる「パルミチン酸」は心臓病のリスク増加につながる確定的な証拠があるとしている。

●魚介類のアブラは常温では固まらない。イワシ、サバ、サンマといった青魚にはEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)といった不飽和脂肪酸が含まれており、細胞膜の原料となり、体内でかたちを変えてさまざまな機能を果たすことがわかっている。

●オリーブ油に多く含まれるオレイン酸(脂肪酸)には、悪玉コレステロールを減らす働きがある。 

「ガンにならない3つの食習慣」より
摂って良いアブラと避けたいアブラ

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

第7章 免疫力を高めればガンは予防できる

  免疫を担う免疫細胞とは?

●免疫とは?

「ガンにならない3つの食習慣」より
免疫とは?

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

  ガンの芽を摘み取る免疫の主役「NK細胞」

●免疫を担う白血球のうち、日常的に発生しているガンの芽を摘み取るのは、リンパ球に属するNK細胞である。NKとは「Natural Killer(ナチュラル・キラー)」の頭文字。「自然の殺し屋」である。

NKは、たとえるならば“一匹狼の岡っ引き”のような存在である。24時間休みなくカラダ中を巡回し、ガンなどの異物を見つけると手当たり次第に攻撃する。特にイニシエーションの段階でガンを抑える重要な役割を果たしている。

●NKは細胞の表面に掲げられている「MHCクラスⅠ」というサインがあるかないかで攻撃の有無が判断される。また、NK細胞はガン細胞を殺す2つの強力な武器を持っている。1つ目は「Fasリガンド」。ガン細胞のアポトーシスを引き起こすシグナルを伝達し、ガン細胞を自然死に追い込む。もう1つは、「パーファリン」と「グランザイムB」という2種類の弾丸を込めたピストル。パーファリンはガン細胞の細胞膜に穴を開け、その穴からグランザイムBがガン細胞に入り、やはりアポトーシスを引き起こす。

NK細胞は非常に頼れる存在だが、年齢とともにNK細胞のガンを殺す力は衰えていく。また、ガン細胞の中には忍者のように身を隠して目印のMHCクラスタⅠのチェックをすり抜ける知恵者も出てきている。

●NK細胞の初期の摘発を免れたガン細胞が、イニシエーションからプロモーションへと進み、大きな固まりに成長してしまうと、NK細胞では太刀打ちできなくなる。

巨漢化したガンに対して、NK細胞に代わって立ち向かうのは、同じリンパ球系に属するB細胞とT細胞である。

  特異的免疫で特定のガンを攻撃

●顆粒球系の好中球、単球系のマクロファージは外敵を見つけると何でも見境なく攻撃する。しかし、このような非特異的免疫だけでは、天然痘やインフルエンザといった毒性の強いウィルスを完全に駆逐することはできない。非特異的免疫が体内にはじめから備わった武器によるレディメイドの免疫だとしたら、特異的免疫は外敵に応じてその都度オーダーメイドで武器をつくる仕掛けで、その威力は抜群である。

●一度罹った疫病に二度と罹らないのは、特異的免疫の働きによる。そこで中心となるのが、リンパ球系のB細胞とT細胞である。

  特異的免疫の低下がガンを成長させる

●ガンに立ち向かう特異的免疫には、たくさんのステップがある。樹状細胞がガン細胞を食べる「貪食能」、情報をヘルパーT細胞に伝える「遊走能」、情報を伝えられたヘルパーT細胞がインターロイキン2を分泌する能力、B細胞やT細胞が過去のガンに対する抗原抗体反応をメモリーする記憶力、それから細胞傷害性キラー細胞が持っている武器の切れ味……。そのどれか一つでも低下していると、ガン細胞に対する特異的免疫は低下して、ガンは成長してしまう。 

  なぜガンに特異的免疫が重要なのか

●特異的免疫はオーダーメイドゆえに威力が高いが、半面オーダーメイドであるがゆえに、少しでもタイプが異なると効果が発揮されないという弱点がある。ガン細胞とは、遺伝子の異常を持つ細胞である。カラダをつくっているのはタンパク質だが、遺伝子に異常があると正常なものとは違うタンパク質がつくられる。どこの遺伝子の配列に乱れがあるかにより、ガン細胞の顔つきは毎回変わる。したがって、インフルエンザウィルスが毎冬ごとに変化して昨シーズンのワクチンが効かなくなるように、異なるタイミング、異なる場所で生じた特異的免疫は、タイミングや場所が違うと効力を失う。

●昨年、脳で生じたガン細胞に対する武器(細胞傷害性キラーT細胞や抗体)は、今年胃で生じたガンには使えないし、胃で生じたガン細胞のためにつくられた武器は、肝臓に生じたガン細胞には使えない。特異的免疫がつくる武器は万能ではなく、決められた敵にのみ効果を発揮する特殊な武器である。 

  ガンの存在が免疫力を低下させる

●ガンはガン自体に免疫力を低下させる機能を保持しているが、これはガン細胞が「TNF‐β」や「VEGF」と呼ばれる物質を分泌するからである。TNF‐βは免疫細胞からも分泌される物質だが、ガン細胞もTNF‐βを免疫細胞に対して分泌し、アポトーシスを引き起こす。VEGFは「Vascular Endothelial Growth Factor」の略、日本語では「血管内皮細胞増殖因子」と訳す。ガンも1mm以上の大きさになると、酸素と栄養素を取るため血管(腫瘍血管)が必要になる。その血管の新生を促すのがVEGF。腫瘍血管ができると、がん細胞には絶え間く酸素と栄養がチャージされて元気を維持するため、免疫細胞に対する耐性が高まる。

●ガン細胞は、NK細胞の武器である「Fasリガンド」を分泌することもある。その鋭い刃で、細胞傷害性キラー細胞をアポトーシスさせる。

●このように免疫力を低下させて、ガンが生き延びようとすることを「免疫学的逃避」と呼ぶ。この逃避をどう抑えるかは、ガン治療の課題になっており、大腸ガンに対しては、腫瘍血管をつくるVEGFを標的にした医薬品を使い、転移を抑える治療が行われている。

  免疫力を高めてガンに打ち勝つ

●何らかの原因で免疫力が低下すると、イニシエーションにもプロモーションにもブレーキがかからなくなり、ガンになりやすくなる。

●免疫力は、体力などと同じように20~30代でピークを迎える。その後、40代から緩やかに低下していく。ガンの最大のリスクファクターは加齢といわれているが、それは年を取るごとにガンの芽を摘む非特異的免疫、大きく育ったガン細胞を殺す特異的免疫を作動させる能力のどちらも低下するからである。

●加齢による免疫力低下以外にも、肥満、メタボリックシンドローム、ストレス、運動不足、喫煙、食品などに含まれる化学化合物、紫外線、自動車の排気ガスといったものも免疫力の低下を招く。そして、ガンを発症するリスクを高めてしまう。

おわりに

 ●日本人の野菜摂取量は年々減っている。かつて「マクガバン・レポート」で理想の食事と絶賛された日本人の食事は、いまでは玄米菜食を中心とした伝統的なスタイルとは大きくかけ離れている。町のあちこちには、アメリカ人を瀕死の状態にまで追い込んだファストフード店が立ち並び、ハンバーガーやポテトフライを愛する多くの人びとでいつも混雑している。

『日本人の死因のトップはガンです。年間10万人以上がガンで命を落としています。身の回りで手軽に入る野菜や果物でファイトケミカルを摂りながら、低GI値の穀物を摂り、鉄分の過剰摂取を避ける。本書でお伝えしたこの基本の3つの食習慣を守るだけでも、ガンになるリスクは大幅に減らせます。

お金をかけず、誰でも今日から取り組める食習慣への変更で、ガンのリスクを下げて、これからの人生を存分に楽しんでほしいと私はあらためて思います。

みさなん、もっと野菜と果物を食べてガンにならない食生活を送りましょう。 2011年8月』

 ご参考(GI値とエネルギー)

「ガンにならない3つの食習慣」より
主な食品のGI値とエネルギー

がんと自然治癒力10

ブログ「がんと自然治癒力8」の中の「細胞は環境に合わせて形を変える」に次の一文があります。

『大多数のがん患者の悪性腫瘍は、環境によってエピジェネティックな変化が引き起こされたために生じたもので、遺伝子の欠陥によるものではない[Kling 2003; Jones 2001; Seppa 2000; Baylin 1997]。最近、著名な科学者・内科医であるディーン・オーニッシュが発表したところによれば、前立腺がんの患者たちが、90日間、食事と生活様式を変えただけで、500個以上の遺伝子の活性が切り替わったという。その遺伝子の変化の多くは、腫瘍の形成に不可欠な生物学的過程を阻害するものだった[Ornish, et al 2008]。』

このオーニッシュ博士の試みが、「がん治療の最前線」という本に紹介されていました。

著者:生田
「がん治療の最前線」

著者:生田 哲

出版:ソフトバンク新書

初版発行:2015年3月25日

がんに打ち勝つオーニッシュ・プログラム

カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部の教授で統合医療のパイオニアであるディーン・オーニッシュ博士は、2005年、ガン研究において前例のない研究結果を発表しました。(D.Ornish et al., J. of Urology174,1065,2005) 

NCBI:”The National Center for Biotechnology Information”
NCBI:”The National Center for Biotechnology Information”

NCBIは”The National Center for Biotechnology Information”の略称です。

英語になりますが、研究に関する情報がありました。

Intensive lifestyle changes may affect the progression of prostate cancer. 

対象となったのは、前立腺がんが早期発見された男性患者93人。彼らは、担当医の監視のもとで手術も放射線も抗がん剤治療も受けずに、がんの変化を見守るという治療法を選択しました。彼らはがんを放置して経過を観察することに決めたのです。

経過は、血中に存在するPSA(前立腺特異抗原)値を定期的に測定して観察しました。PSA値が高くなれば、がん細胞が増殖し、がんが大きくなっているということです。この実験が可能となったのは、彼らは手術も放射線も抗がん剤治療も受けたくないと意思を明確にしたからです。

まず、くじ引きで患者を2群に分けました。対照群(43人)は、ただ定期的にPSA検査を受けました。もう一方の群(41人)は、オーニッシュ博士の考案した「心身の健康プログラム」を実践しました。なお、対照群ともう一方の群の合計が93人に満たないのは、生活スタイルの完全な改変に同意しなかった患者がいるからです。

このプログラムは以下の通りです。

オーニッシュ博士が考案された「心身の健康プログラム」
オーニッシュ博士が考案された「心身の健康プログラム」

「がん治療の最前線」より
「心身の健康プログラム」とPSA値

画像出展:「がん治療の最前線」

要するにこのプログラムは、食事、サプリメント、エクササイズ、ストレスマネジメントを取り入れ、生活スタイルをすっかり変えることにより、がん患者の健康増進をはかるというものです。

こんなことでがんに対する効果があるのか、という疑問の声が聞こえてきそうです。この治療法は、昔から「迷信だ」とか「奇妙だ」と批判されてきたものだからです。

しかし、12カ月後に疑問の余地のない明白な結果がでました。生活スタイルをまったく変えずに自分のがんの変化を見守った43人の対照群のうち6人は、がんが悪化し、前立腺の切除や抗がん剤、放射線による治療を強いられることになりました。一方、心身の健康プログラムに参加した41人のなかでそのような治療を強いられた人は1人もいませんでした。

対照群では、がんの進行状況を示すPSA値が平均6パーセント上昇していました。これは、がんがゆっくりではあるが、着実に進行していることを示します。一方、生活スタイルを変えた群(被験群)は、PSA値が平均4パーセント低下し、しかもがんは小さくなっていました。

さらに驚くべきは、生活スタイルを変えた群の体内で起こったことです。前立腺がんの細胞に対し、彼らの血液は、生活スタイルをまったく変えなかった群の血液にくらべ、がん細胞の成長を抑える免疫力が7倍も高かったのです。

がん増悪の停止と生活スタイルの改善は、密接に関連していることがわかります。現代のがんになりやすい食事とストレスの多い生活スタイルを続ければ、人が本来もっている病気への防衛力が壊れてしまい、がんにかかってしまうでしょう。

そうかと思えば、ほかの患者と同じように通常の治療を受けながらも、現在の食事をがんになりにくい食事に替え、エクササイズを取り入れてストレスを軽減し、体の防衛力を高め、ずっと長く生きたり、がんをなくしてしまう人もいるのです。

「がん治療の最前線」より
がんに打ち勝つオーニッシュ・プログラム

画像出展:「がん治療の最前線」

※[免疫力]の「7」は、「7倍」になったという意味です。

 

※PSA値の課題

がんナビ:PSA値の問題
がんナビ:PSA値の問題

PSA値はがんだけでなく、良性前立腺肥大や前立腺炎でも上昇し、さらに、かぜや飲酒などでも一時的に上昇するという問題があるようです。しかし、PSA値の上昇が悪いサインなのは確かです。また、一時的な高値も検査を複数行うことで間違った判断を回避できるものと思います。

順番が前後してしまいましたが、この本は4章からなっています。

第1章 がんは死の宣告ではない

第2章 がんとはどんな病気なのか?

第3章 がんの薬になる食べ物

第4章 がん患者の代謝を改善する

冒頭にご紹介させて頂いた『がんに打ち勝つオーニッシュ・プログラム』は第1章からのものです。

そして、ブログではもう一つ、第4章からご紹介させて頂きます。それは次のようなものです。

オルソ・モレキュラー・メディスン(分子整合医学)とは?

ライナス・ポーリング博士は、1954年度のノーベル化学賞と1962年度のノーベル平和賞を受賞されました。そのポーリング博士が60代になったとき、体内の生化学物質が本来の機能を発揮できないことが原因で発生する病気に焦点を当て、これを治療する「オルソモレキュラー・メディスン(分子整合医学)を提唱しました。

オルソ・モレキュラー・メディスン(分子整合医学)
オルソ・モレキュラー・メディスン(分子整合医学)

写真はライナス・ポーリング博士

画像出展:「日本オーソモレキュラー医学会

彼の主張のポイントはこうです。

病気は、体内のホルモンなどの物質のインバランスによって生じる。だから、病気を治すには、体内のホルモンなど、物質のバランスを回復すればよい。それを達成するのに、薬を用いるのではなく、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、酵素、必須脂肪酸など体に存在する物質を利用する。

遺伝子は個人の体格や性格だけでなく、生化学にも違いをもたらします。がん、心臓病、糖尿病、うつは、生化学のインバランスによって生じます。食事、エクササイズ、ストレスマネジメント、心の訓練を組み合わせれば、体内物質のバランスが回復し、健康を獲得することができるでしょう。

ただしヒトが生物であるかぎり、健康の土台は食事にあります。遺伝子が異なること、それゆえに生化学的個体差があることを理解し、それに適応した栄養素を摂ることがあなたの健康を増進させ、がんと戦う力をつちかうのです。

「がん治療の最前線」より
健康を管理するために必要な要因

画像出展:「がん治療の最前線」

原因を根本から取り除くことを目指す。
原因を根本から取り除くことを目指す。

がんの進行状態によっては、手術・放射線・抗がん剤の三大治療のいずれかは避けられないと思いますが、これらの治療が体に与えるダメージは決して小さくないという点は重要です。

画像出展:「がん治療の最前線」

以上、7月より始めた「がんと自然治癒力」で予定していた本は、追加したものを含め読み終わりました。本来であれば “まとめ” の作業に入るところですが、その前に新たな2冊で勉強モードを続けたいと思います。その2冊は以下のものです。

1.ガンにならない3つの食習慣 ファイトケミカルで健康になる! 初版発行:2011年8月25日

2.現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病 初版発行:2016年1月20日

がんと自然治癒力9

「生命の不思議 “テロメア” 健康寿命はのばせる!」というタイトルで、2017年5月、NHKがクローズアップ現代の中でテロメアを紹介していました。

NHK クローズアップ現代+
生命の不思議テロメア健康寿命はのばせる

『老化を防ぎ、若さを保ちたい。そんな願いをかなえると注目されている研究がある。ノーベル賞生物学者・ブラックバーン博士らによる「テロメア」研究だ。染色体の端にあり細胞分裂のたびに短くなるため、年とともに縮むと考えられていたテロメア。ところがテロメアを伸ばして細胞から若返る方法があり、がんを防げる可能性もあるというのだ。』

真柄俊一先生も指摘されていましたが、日本ではこのノーベル賞のニュースは積極的に取り上げられなかったようです。調べてみるとプレスリリースは2009年10月5日でした。

ノーベル賞:2009年
ノーベル賞:2009年
The Telomere
The Telomere

こちらはシートに出ていた図の一部です。

 


「テロメア・エフェクト」
「テロメア・エフェクト」

出版:NHK出版

初版発行:2017年2月25日

 

原書の初版発行は2017年1月3日です。


最初に著者(お二人)と目次をご紹介させて頂き、その後青字にした目次の項目について取り上げていますが、全文ではなく一部を抜き出したかたちになっています。

なお、青太字に替えた個所著書)によるものです。黒太字にした箇所は私によるものです)

著者

エリザベス・ブラッバーン Elizabeth Blackburn

分子生物学者。2009年に、2人の共同研究者とともにノーベル生理学賞を受賞。受賞理由は、染色体の末端をキャップのように保護しているテロメアの分子的性質の発見、およびテロメアを維持する酵素、テロメラーゼの発見。ソーク研究所所長、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の名誉教授。過去には米国癌学会会長、米国細胞生物学会会長を歴任。アルバート・ラスカー基礎医学研究賞をはじめ、医学部分野の主要な賞をほぼすべて受賞している。『タイム』誌の「もっとも影響力の高い100人」の1人にも選ばれた。米国科学アカデミー、米国医学研究所、ロンドン王位協会のメンバー。公共科学政策にも助力し、大統領諮問委員会の一つである生命倫理委員会でも活躍している。

オーストラリアのタスマニアに生まれ、メルボルン大学で科学を学び、ケンブリッジ大学で分子生物学の博士号を取得。その後、イェール大学で博士研究員をつとめた。現在は夫とともにカリフォルニア州のラホーヤおよびサンフランシスコに暮らす。

エリッサ・エペル Elissa Epel

健康心理学の第一人者。ストレス、老化、肥満を研究する。カリフォルニア大学サンフランシスコ校精神医学科教授。同大学の老化・代謝・感情(AME)センターおよび肥満研究センター(COAST)の所長であり、健康共同体センターの副所長もつとめる。米国医学研究所のメンバーであり、米国国立衛生研究所の科学諮問委員会(行動変容科学のプログラムなど)のほか、心と生命研究所、欧州予防医学協会でも活躍。スタンフォード大学、行動医学協会、行動医学研究学会、米国心理学会などをはじめ、さまざまな機関から研究賞を受賞。

カルフォルニアのカーメルに生まれ、スタンフォード大学に学び、イェール大学で臨床心理学と健康心理学の博士号を取得。パロアルトの退役軍人管理局の健康管理組織において臨床実習を終了。カルフォルニア大学サンフランシスコ校で博士研究員をつとめた。現在、夫と息子とともにサンフランシスコに在住。

はじめに なぜ、この本を書いたのか

序章 二人のテロメアの物語

 なぜ年のとり方は、人によりちがうのか?

 健康な細胞の再生は、なぜ必要なのか

 テロメアは染色体のキャップ

 テロメアと行動の関係を考える

 行く手にあるもの

  幸せの聖杯?

 

第Ⅰ部 テロメア:より若く生きるための道

第1章 なぜ細胞の老化が早すぎると、見かけも気持ちも行動も老いるのか

 早すぎる老化を迎えた細胞は、健康な細胞と何がちがうのか?

 細胞の早い老化の影響①:外観

  肌の老化

  骨量の現象

  白髪

  あなたの外観はあなたの健康について、何を物語るのか?

 細胞の早い老化の影響②:肉体

  インフラメイジング

  心臓病とテロメアの短縮

  肺の病気とテロメアの短縮

 細胞の早い老化の影響③:認知

  認知的低下とアルツハイマー病

  健康な“感覚年齢”とは

  二つの道

第2章 長いテロメアのパワー

 池の藻くずが送るメッセージ

 テロメア:染色体のプロテクター

 テロメア、疾患期間、死

 健康の考え方を変える

第3章 テロメアを補う酵素“テロメラーゼ”

 テロメラーゼはテロメア短縮への解決策

 テロメラーゼは不死の霊薬ではない

 テロメラーゼとがんのパラドックス

 あなたはテロメアとテロメラーゼに影響をおよぼせる

 

第Ⅱ部 テロメアはあなたの考えに耳を傾けている

 自己評価テスト1 あなたのストレス反応のスタイルを明らかにする

第4章 ストレスはあなたの細胞に入り込む

 ストレスは細胞を傷つける

 多すぎるストレスとは、どの程度のものか?

 テロメアを脅かさないストレス反応とは

  脅威反応

  チャレンジ反応

 なぜ人より、脅威の受けとめ方に差があるのか?

 チャレンジ反応を培う

 長い疾患期間への短い道のり:ストレス、免疫細胞の老化、炎症

  短いテロメアと弱い免疫系

  ストレスはどのように関与しているのか

  短いテロメアと炎症の多さ

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ

  「自我脅威」のストレスを軽減する

 距離を置く(ディスタンシング)

  言語的に自分と距離を置く

  時間で距離を置く

  視覚的に距離を置く

  どのように行うか

第5章 テロメアを思いやる:ネガティブは思考、打たれ強い思考

 冷笑的な敵対心

 悲観

 さまよう心

 ユニタスク

 反芻

 思考抑制

 打たれ強い考え方

  自分の考えを認識する:ネガティブな思考パターンを飼いならす

  マインドフルネスのトレーニング、人生の意味、健康なテロメア

  引退後の新しい目的

  痛みを自己への慈しみに変える

  喜びとともに目覚める

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ

  セルフ・コンパッション・ブレイクをとる

  自分の中のおせっかいな助言者をコントロールする

  何を墓碑に書く?

  ポジティブなストレスを求める

 自己評価テスト2 あなたの性格はストレス反応にどう影響するか

  あなたの思考スタイルは?

  高スコアと低スコアの線引きについて

  性格タイプと指標について、さらに知識を得よう

第6章 うつ病や不安はテロメアを短くするか

 不安障害、うつ病、テロメア

 ストレスからテロメアは回復するか

 うつ病や不安から自分を守るには

 重要なのは、関心をどこに向けるか

 テロメアの心得 

 リニューアル・ラボ

  三分間の呼吸休憩

  呼吸や鼓動に意識を集中した瞑想

 リニューアルのための情報1 ストレスを和らげ、テロメアを維持するテクニック

  瞑想リトリート

  マインドフルネスストレス低減法とは

  ヨガ的な瞑想とヨガ

  気功

  ライフスタイルを変革する

 

第Ⅲ部 細胞を守るためにできること

自己評価テスト3 あなたのテロメアの健康度は? 保護要因と危険要因

 テロメア予測クイズ

第7章 運動はテロメアを鍛える

 二つの薬

 テロメアにはどんな種類の運動が最適か?

  運動が細胞内部にもたらすメリット

 テロメアとフィットネス

 運動しすぎたら?

 運動で細胞をレジリエントにしよう

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ

  1.安定的な有酸素運動

  2.高強度インターバルトレーニング

  3.少し緩めのインターバルトレーニング

 小さな一歩を積み上げよう

第8章 テロメアの疲労と睡眠

 睡眠の回復力

 テロメアにはどれくらいの睡眠時間が必要?

 睡眠障害への救いの手:「認知のゆがみ」を正す

 よく眠るための戦略

 騒音、心拍数、睡眠

 睡眠はグループ・プロジェクトである

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ

  五つの入眠儀式

第9章 体重とテロメア:健康的なメタボリズム

 問題はBMIではなく、おなかの脂肪

 腹部の脂肪、インスリン抵抗性、糖尿病

 テロメアの短縮と炎症は、どのように糖尿病に影響するのか

 ダイエットは逆効果だ

 極端なカロリー制限はテロメアに良い?

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ

  砂糖渇望症との上手なつき合い方

  体の空腹と満腹のサインに波長を合わせる

第10章 食べ物とテロメア:細胞の健康のためには何を食べるべきか

 細胞の三つの敵

 健康的な食のパターン

  コーヒーと健康

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ

  テロメアにやさしいスナック

  悪い習慣を撲滅:モチベーションを見つける

リニューアルのための情報2 科学が教える! 変化を持続させるコツ

 新しい習慣の形成に役立つこと

 古い習慣を断ち切るコツ

 あなたの1日を改造しよう

 

第Ⅳ部 社会的環境は、あなたのテロメアを変える

第11章 テロメアを支える環境と人々

 ごみが多いか、緑が多いか?

 お金で長いテロメアを買えるか?

 テロメアにとって有害な化学物質

 化学物質、がん、長すぎるテロメア

 自衛する

 友人とパートナー

 人種差別とテロメア

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ 

  有害物質への暴露を減らす

  地域の健全性を高める:小さな変化を積む重ねよう

  親密な人間関係の強化

第12章 細胞の老化は子宮で始まる

 親の短縮したテロメアは、子どもに引き継がれる場合がある

 不利な社会的環境は、世代を超えて引き継がれていくか?

 妊娠時の栄養摂取:胎児のテロメアへの栄養供給

 胎児のテロメアは、母親のストレスに耳を傾けている

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ 

  子宮の緑化

第13章 子ども時代の重要性:人生の初期の出来事はテロメアにどのように影響をおよぼすのか

 テロメアは子ども時代の傷跡を記録している

 ママ、僕の足を踏まないで! 怪物のような母親に育てられた影響

 母親の不在

 テロメアが健康で、感情を調節できる子どもに育てる

 傷つきやすい子どもの育て方

 ストレスに敏感な子どものテロメア

 あなたの子どもは「蘭」だろうか?

 テロメアの健康な10代に育てる

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ

  大量散漫兵器

  子どもに波長を合わせる

  敏感なティーンエイジに過剰反応しない

  深い愛着の手本なる

 

まとめ 相互のつながりに気づく:私たちの細胞の遺産

 テロメアは警笛を鳴らしている

 あらゆるレベルでの相互のつながり

 生きたメッセージ

 テロメア・マニュフェスト

はじめに なぜ、この本を書いたのか

122歳のジャンヌ・カルマンは、世界でもっとも長生きした女性だった。彼女は85歳を過ぎてからフェンシングを始め、100歳になるまで自転車に乗っていた。100歳の誕生日には故郷のアルルの町をあちこち歩きまわっては、長寿を祝う人々に礼を返していた。人々がみな手に入れたいと願うものが、彼女の人生にはあった。その願いとは、人生を謳歌し、最後のときまで健康に過ごすことだ。老いや死は、どうしようもない人生の現実だ。だが、最後の日までどのように過ごすかは「どうしようもない」ことではない。それを決めるのは私たち自身だ。私たちは、もっと良く、もっと充実して生きることができる。今も、そしてもっと年をとってからも。


左上の写真は117歳の時のお祝いです。じゃらん」さまより拝借しました。

右の写真は「イチバン|あらゆる世界一を届けるメディア」さまより拝借しました。

●この本には、人間の「老い」についての新しい考え方が提示されている。科学の世界で現在主流の考え方によれば、人間の老化とは、細胞のDNAが徐々に損傷を受けた結果、細胞が不可逆的に老化し、機能を失うことで起きる。だが、損傷を受けるのは、どのDNAなのだろう? なぜ、損傷を受けるのだろう? 十分な答えはまだ出ていないが、複数の手がかりから、元凶の一つがテロメアであることが強く示唆されている。病とは体のさまざまな臓器や部位に起こるため、それぞれ別のものに見られがちだ。しかし、科学や臨床の場からもたらされた新しい発見により、病気の発生について新たな概念が生まれた。それは、加齢にともなう大半の疾患の原因は、加齢によるテロメアの短縮および、その背後にあるメカニズムに起因するのではないかという考えだ。細胞を複製する能力が次第に失われていくことを「複製老化」というが、どのようにそれが起きるのかはテロメアで説明できる。むろん複製老化以外でも、細胞は機能を失ったり早く死んだりするし、ほかの要因でも、老化は進行する。だが、テロメアの短縮が老化のプロセスに関与するのは明らかだ。さらに興味深いことに、テロメアの短縮は遅らせることもできれば、逆転すらできるのだ。

本書を書いたのには、もう一つ理由がある。それは、人々を危険から遠ざけるためだ。テロメアと老化への関心は今、急速に高まりつつある。そして、ちまたにあふれる情報には正しいものもあるが、誤解を招くものもある。たとえば、ある種のクリームやサプリメントがテロメアを伸ばし、寿命を延ばすとまことしやかに主張する人々がいる。こうした製品がもし本当に体の中で機能したら、がんにかかるリスクを増やしたり、そのほかの危険な作用をもたらす可能性がある。こうした深刻なリスクの潜在性を評価するための大規模で長期的な調査が今、必要になっている。細胞の寿命をノーリスクで延ばす方法は、すでにいくつか知られている。その中で最良のものをいくつか、この本におさめた。即効性はないかもしれない。けれど、研究にもとづいた具体的なアイディアはきっと見つかるはずだ。それらはあなたのこの先の人生を、より健康で長く、充実したものにする可能性を秘めている。いくつかのアイディアは読者にとってさして目新しいものではないかもしれないが、背景事情を深く理解すれば、日々どう見つめ、どう生きるかがきっと変わってくるはずだ。

序章 二人のテロメアの物語

 なぜ年のとり方は、人によりちがうのか?

●あなたはあなたに固有の遺伝子セットをもって生まれてくる。だが、どのように生きるかによって、遺伝子の発現に影響を与えることができる。場合によっては、生活にまつわる何らかの要因が、遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりもする。肥満の研究者、ジョージ・ブレイはこう言っている。「遺伝子には銃が積まれている。そして環境が引き金を引く」。ブレイの言葉は体重増加についてだけでなく、健康に関するほぼすべての面に通じる。

私たちはこの本の中で、人間の健康について、これまでとはまったくちがう考え方を提示したい。健康というものを細胞レベルまでさかのぼって考え、細胞の早すぎる老化とはいかなるものか、それがあなたの体にどんな害をもたらすのか、どうすればそれを防げるか、そしてどうすれば逆転させられるかまで説明する。そのためにまず、細胞の奥深くにある染色体までもぐってみよう。そこにテロメアが見つかる。染色体の端に存在する非コードDNAの繰り返し配列が、テロメアだ(図2を参照)。細胞が分裂するたびにテロメアは短くなる。それが細胞の老化の速度を決定し、さらにそれをもとに細胞の死期が決定される。だが私たちの研究や、世界各地のラボの研究からは、驚くべき発見がもたらされている。染色体の末端は伸びることもある―。その発見が示唆しているのは、老化とは早まったり遅くなったりする動的なプロセスであり、ある面においては逆転すら可能だということだ。老化とは長いあいだ考えられてきたように、病気や衰退へと一直線に滑り落ちる坂道ではない。人間はみな、年をとる。だが、どのように老いるかを大きく左右するのは細胞の健康状態なのだ。 

「テロメア・エフェクト」より
テロメアは染色体の先端にある

 画像出展:「テロメア・エフェクト」

この本を書いている私たち二人のうち、一人は分子生物学者(エリザベス、以下リズ)、もう一人は健康心理学者(エリッサ)だ。リズは研究者としての全人生をテロメアの探究に捧げてきた。彼女の基礎研究によって、まったく新しい分野の科学的理解が始まった。いっぽうエリッサが研究してきたのは心理的ストレスや、ストレスが人間の行動や生理機能や健康に与える有害な作用、さらにその作用をどうすれば逆転させられるかという問題だ。私たち二人は15年前に一緒に研究を始めた。そして私たちの共同研究から、心身の関係を検証する新しい方法が生まれた。私たちを含む科学界の人間が驚いたのは、テロメアが遺伝子コードの命令をただ実行するだけではないことだ。あなたのテロメアは、あなたに耳を傾けている。あなたが出した指示を、あなたのテロメアは吸収する。あなたの生き方は、「細胞の老化を速めろ」とテロメアに指示を出してしまう危険もあるのだ。だが、逆のことも起こりうる。何を食べるか、精神的苦難にどう対応するか、どのくらい運動するか、子どものころストレスにさらされたか、隣人をどのくらい信頼し、どのくらい安心して暮らしているか―。テロメアにはこうしたもろもろの要因が影響を与えているらしい。そしてこうした要因が、細胞レベルの早すぎる老化を防いでくれる可能性もある。つまり、長い健康寿命の一つの鍵は、健康な細胞の再生に必要なことをあなたが行えるかどうかにあるのだ。 

 健康な細胞の再生は、なぜ必要なのか

●人間の健康な細胞の多くは、テロメアが(そして細胞を形成するタンパク質などの重要な部分が)機能しているかぎり、繰り返し分裂できる。だが、分裂を繰り返したあと、細胞は老化する。すばらしき幹細胞にさえ、最後は老化が訪れる。分裂の回数が有限であることは、70歳か80歳を超えれば健康寿命も徐々に終わりに近づく一つの理由と言える。しかし、もっと長く健康な生活を享受できる人もいる。健康的な長寿は、私たちが手を伸ばせば届くところにある。

「テロメア・エフェクト」より
加齢と疾患

画像出展:「テロメア・エフェクト」

 テロメアは染色体のキャップ

●靴紐の両端に、プラスチックのキャップがあるのを思い出してほしい。キャップの役目は、靴紐がほつれるのを防ぐことにある。ここで、染色体を靴紐のようなものだと想像してほしい。染色体はあなたの細胞の内部にあり、あなたの遺伝的情報を運んでいる。テロメアは塩基対というDNAの長さの単位で計測され、ちょうど靴紐のプラスチックキャップのような働きをする。つまり、染色体の末端に小さなキャップを形成し、遺伝物質(DNA)がほどけるのを防いでいるのだ。いわば老化の防止キャップだが、このテロメアは時間とともに短くなるという傾向がある。 

「テロメア・エフェクト」より
テロメアは染色体のキャップ

画像出展:「テロメア・エフェクト」

●あなたの遺伝子は、あなたのテロメアに影響する。誕生時のテロメアの長さやテロメアが短縮していくスピードには、遺伝子が影響を与える。だが、私たちの、そして世界中の研究室からは驚くべき発見をもたらされている。それは、テロメアに人間が介入できるということ、テロメアの長さや強靭さにまで私たちがある程度影響をおよぼせるということだ。 

「テロメア・エフェクト」より
テロメアの長さ

画像出展:「テロメア・エフェクト」

次のようなことがわかっている

・困難な状況にぶつかったとき、一部の人々は危機感を抱く。こうした反応のしかたとテロメア短縮にはつながりがある。だが、事態のとらえ方をもっと前向きに変えることは可能だ。

瞑想や気功などの心身のテクニックは、ストレス軽減効果に加え、テロメアを修復する酵素であるテロメラーゼを増やす効果もある。

・運動で心血管系の健康を高めれば、テロメアにも良い効果がある。テロメアの維持に効果があると証明されているシンプルな運動プログラムを本書ではいくつか紹介する。それらのプログラムは、さまざまな体力のレベルに適合させることができる。

テロメアは、ソーセージのような加工肉を嫌う。好ましいのは新鮮で健康的な食品だ。

・おたがいを知らず、信頼し合っていないなど、周囲の人々との社会的つながりが低いとテロメアには悪影響が出る。これは、個人の収入レベルには無関係だ。

・子どもの頃に複数の有害な事象にさらされると、テロメアは短くなる。だが、悪名高いルーマニアの孤児院のような劣悪な環境にいた子どもも、そこから引き離せば、テロメアに起きた損傷の一部は回復させることができる。

・両親の卵子や精子に含まれる染色体のテロメアは、そのまま子どもに伝えられる。その意味するところは重大だ。もしあなたの両親のテロメアがさまざまな困難によって短くなっていたら、それは子どもであるあなたに引き継がれている可能性がある。だが、もし「自分がまさにそうかもしれない」と思ったとしても、パニックになる必要はない。テロメアは短くもなる、長くもなる。あなたの行動次第でテロメアを保持することは可能だ。これはまた、自分の生き方次第で、次の世代に分子レベルの有益な遺産を贈れるということでもある。

 行く手にあるもの

  幸せの聖杯?

テロメアは、人間の生涯に影響を与えるさまざまな要素をまとめた指標のようなものだ。適切な運動や睡眠など、テロメアを回復させる良い効果をもつものと、有害なストレスや栄養不足や苦労などのマイナスの要素の双方が、そこに統合されている。鳥や魚やネズミにおいては、ストレスとテロメアに相関性が存在する。それゆえテロメアの長さは、動物が生涯を通じて経験してことを累積的に測る「幸せの聖杯」として使えるのではないかと示唆されてきた。人間の場合(そして動物の場合も)、経験の累積を示す生物学的指標は一つには絞れないだろうが、テロメアは現在私たちが理解しているうちでは、非常に有力な指標だといえる。

第Ⅰ部 テロメア:より若く生きるための道

第1章 なぜ細胞の老化が早すぎると、見かけも気持ちも行動も老いるのか

 早すぎる老化を迎えた細胞は、健康な細胞と何がちがうのか?

●細胞のテロメアが極端に短くなると、分裂のサイクルと自己複製を停止するよう合図が送られる。すると細胞分裂は止まる。細胞はそれ以上新しくなることができず、古くなり、老化していく。幹細胞なら永久引退の状態に入り、呼び出しがあっても心地よいニッチ(特別な微小環境)から出ていかなくなってしまう。幹細胞以外の場合は、するべき仕事が果たせなくなり、ただ無為に存在するだけになる。細胞内の発電所であるミトコンドリアがうまく働かなくなり、細胞内でエネルギー危機が引き起こされる。

東京大学
細胞が冬眠する場所

左の絵は「ニッチ(特別な微小環境)」を表したものです。

詳しくは、東京大学さまの『細胞が冬眠する場所

 造血幹細胞の休止に神経細胞が関与することを発見』を参照ください。

 古い細胞のDNAが細胞のほかの部分とうまくやりとりできなくなると、細胞はきれいな状態を保てなくなる。古くなった細胞の内部には、うまく機能しなくなったタンパク質の塊や茶色いごみのようなリポフスチンという物質がたまってくる。リポフスチンは眼球に加齢黄斑変性を引き起こしたり、いくつかの神経性疾患の原因になったりする。さらに悪いことに ―なぜか、樽の中の腐ったリンゴと同じように― 老化した細胞は誤った危険信号を炎症誘発物質という形で、体のほかの場所にも送ってしまう。 

「テロメア・エフェクト」より
老化した細胞はまわりの細胞にシグナルを送って炎症を広げ、「細胞の衰弱」と呼ばれるものを促進する因子を増加させる。

画像出展:「テロメア・エフェクト」

 ●老化のプロセスは、体内のさまざまな種類の細胞で発生する。肝臓の細胞でも皮膚の細胞でも、毛包でも、血管をおおう細胞でも起こる。そして、体のどの部分のどんな細胞かによって、異なる現象が起きる。骨髄の細胞が老化すると、血液や免疫系統の幹細胞が正しく分裂しなくなったり、血液細胞の製造量のバランスが狂ったりする。膵臓の細胞が老化すると、ニューロン(神経細胞)を死なせる物質が分泌される危険がある。これまでに研究がなされている大半の細胞において、老化の根底にあるプロセスは似通っているが、細胞がそれをどう発現するかによって、肉体には異なる種類のダメージがもたらされるのだ。

 細胞の早い老化の影響②:肉体

  インフラメイジング

●テロメアの短い人々は、慢性的な炎症にも悩まされている可能性がある。年齢とともに炎症が増え、それが加齢にともなう病気の一因になるという観察報告はたいへん重要だ。そのため、科学者は「インフラメイジング(炎症加齢、または加齢炎症)」という名前を考案した。インフラメイジングとは慢性的な軽微の炎症であり、加齢とともに増加する可能性がある。なぜそれが起こるかについては、タンパク質の損傷などさまざまな理由が挙げられている。ほかにしばしば挙げられる原因の一つが、テロメアの損傷だ。

ご参考)インフラメージング(inflammaging)とは「inflammation(炎症)+aging(加齢)」。炎症による老化。炎症が老化や、老化に伴う疾患と密接な関係があることから生まれた造語。

細胞の遺伝子が損傷を受けたりテロメアが短くなりすぎると、細胞は、大切なDNAが危険にさらされていることを察知する。すると、細胞は自らの再生プログラム化[遺伝子であらかじめ決まった手順ではなく、後天的な修飾によって遺伝子の発現手順を調整すること]によって、助けを求めるシグナル分子をまわりの細胞に向けて放つ。この現象はまとめて細胞老化関連分泌現象(以下、SASP)と呼ばれる。傷を受けたせいで老化した細胞は、近くの免疫細胞や修復機能のある細胞にシグナルを送り、回復に手を貸してくれるよう呼びかけることができる。

過去数十年で科学者たちは、SASPやその他の原因で起こる慢性的な炎症が、多くの疾患の発生に重要な役割を果たすことを認識するようになった。短期的な激しい炎症は、傷ついた細胞を癒すのに役立つが、長期的な炎症は体の組織の通常機能を妨げる。たとえば、慢性的な炎症によって膵臓の細胞は誤作動を起こし、インスリンを正しく分泌できなくなる。これは糖尿病につながる一歩だ。慢性的な炎症のせいで、動脈壁に生じたプラーク(血管内にできる瘤)が破裂することもある。体の免疫反応のスイッチが狂い、自身の組織を攻撃するケースもある。これらは炎症の破壊力を示すほんの一例にすぎず、恐怖のリストはまだまだ続く。慢性的な炎症は心臓や脳の病気や、歯茎の病気やクローン病やセリアック病やリューマチ性関節炎や喘息や肝炎やがんや、その他さまざまな病気の一因にもなる。だからこそ今、インフラメイジングは科学界で話題になっている。これは、現実の話なのだ。 

「テロメア・エフェクト」より
テロメア短縮から病気への道:炎症はテロメア短縮と細胞老化の両方を引き起こし、老化した細胞はさらに多くの炎症を引き起こす。

画像出展:「テロメア・エフェクト」

インフラメイジングを遅らせたければ、そして可能なかぎり長く健康寿命にとどまりたければ、慢性的炎症を防ぐ必要がある。炎症をコントロールするうえで重要な役目を果たすのが、テロメアの保持だ。極端に短くなったテロメアは炎症のサインをたえず送り続ける。だから、テロメアを健康的な長さに保たなくてはならないのだ。 

第3章 テロメアを補う酵素“テロメラーゼ”

 テロメラーゼはテロメア短縮への解決策

●テロメアの奇妙なふるまいのことを私はずっと考え続けていた。なぜテロメアには、増幅する能力があるように見えるのだろう? そして私は、細胞の中に、テロメアにDNAを付加する酵素があるのではないだろうかと考えた。そうした酵素が存在すれば、塩基配列をいくつか失っても、そのあとでテロメアを元どおりにすることができるかもしれない。ここが正念場と、私は意を決して、テトラヒメナの細胞抽出液をつくる作業に励んだ。なぜテトラヒメナなのか? それはテトラヒメナが、テロメアを豊富にもつ絶好の素材だったからだ。もしテロメアを付加するそうした酵素が存在するなら、きっとテトラヒメナの中にその酵素はたくさん見つかるはずだ。私はそう推測した。

 1984年のクリスマスの日、キャロルは放射線写真と呼ばれるエックス線フィルムを現像した。フィルムの上にあらわれたパターンは、未知の酵素が働いていることを示す初めての明らかなしるしだった。家に帰ったキャロルは、興奮のあまり、居間で踊りだしたそうだ。次の日、私の反応を予測して、こみ上げる喜びに顔を輝かせながらキャロルはそのエックス線フィルムを見せた。私たちは目と目を合わせた。私もキャロルもそれが何かわかっていた。テロメアは、今まで発見されていなかったその酵素を引き寄せることで、DNAを補填できるのだ。私たちのラボでこの酵素は、テロメラーゼと名づけられた。テロメラーゼは新しいテロメアを、自身の生化学的な配列をもとに形成する。

テロメラーゼがどう働くか説明しよう。テロメラーゼはタンパク質とRNA(リボ核酸)を含んでいる。RNAはいわばDNAのコピーであり、このコピーの中にはテロメアのDNA配列の鋳型が含まれている。テロメラーゼはRNAの中にあるこの配列を生化学的なガイドとして使い、まっさらで正確なテロメアDNAの配列をつくる。この正しい配列が必要なのは、テロメアDNAの土台を完璧な形に整え、それをおおうテロメア保護タンパク質の鞘を引き寄せるためだ。テロメアDNAの新しい断片は、テロメラーゼによって染色体の末端に付け加えられる。このプロセスを導くのが、RNAの鋳型の配列と、DNA文字がそれぞれのパートナーと結びつく相補結合のシステムだ。これにより、テロメアDNAを構成する正しい配列がきちんと付加される。このようにしてテロメラーゼは染色体の端を再生し、すり減った分を回復させていたのだ。

テロメアとテロメラーゼ(酵素)
テロメアとテロメラーゼ(酵素)

こちらの図は、GDAYSさまの『前立腺がんと自転車の旅』私の把握しているゲルソン療法(2) から拝借しました。

「思考のすごい力」より
『DNA⇄RNA⇄PROTEIN』

左の写真は「がんと自然治癒力8」の中で、DNAに支配されている従来の「セントラルドグマ」に代わり、”環境” も生命に大きく関与しているということを表した新しい考え方を示すものです。

この写真をご紹介した理由は、テロメラーゼの働きも、『DNA⇄RNA⇄PROTEIN』という仕組みに基づいているということをお伝えしたかったからです。

 テロメラーゼとがんのパラドックス

●人工的にテロメラーゼを増やせば人間の寿命を延ばすことはできるのだろうか? そう考えるのは自然なことだ。インターネット上にあふれる「テロメラーゼを増加させるサプリメント」の広告は、それが可能だと謳っている。テロメラーゼとテロメアには、恐ろしい病を遠ざけたり、人がより若く感じられるように手助けするすばらしい特質がある。だが、それらは長寿の万能薬では決してない。テロメラーゼを使ったからといって、ごくふつうの寿命より長く生きられるわけではない。実際、人工的にテロメラーゼを増やすという方法で長生きしようとしたら、かえって命を危険にさらすことになる。それは、テロメラーゼに裏の面(ダークサイド)があるからだ。ジキルとハイドのことを思い浮かべてほしい。二人は同じ人間だ。だが、昼か夜かによって極端に異なる性格をもっている。人間は健康でいるためにはジキル博士を ―つまり良いテロメラーゼを必要とする。だが、まちがった細胞にまちがったタイミングで過剰なテロメラーゼを供給すれば、テロメラーゼにはハイド氏の個性があらわれ、細胞の無制御な増殖に加担することになる。細胞の無制御な増殖は、がんの特徴にほかならない。がんとは基本的には、細胞の増殖に歯止めがかからなくなる病気なのだ。だからしばしば、「錯乱した細胞増殖」と定義される。

人工のテロメラーゼは、細胞をがん化へと突き進ませる危険を秘めている。自分の細胞をそんなもので爆破したいと思う人がいるだろうか? テロメラーゼ・サプリメントの業界が、大規模かつ長期的な臨床試験によって安全性をきちんと証明しないかぎり、「あなたのテロメラーゼを増やします」と謳うピルやクリーム、注射には手を出さないのが賢明だ。もともと人はそれぞれ異なるタイプのがんへの“かかりやすさ”をもっているのに、わざわざもっとたくさんの種類のがん(黒色腫や脳腫瘍や肺がんなど)を発症するリスクを増やしたいものだろうか? それを理解していれば、私たちの細胞がテロメラーゼの量を低く抑えていることに納得いくはずだ。 

「テロメア・エフェクト」より
テロメアに関する遺伝子と疾患:高いテロメラーゼ値はリスクになる。

画像出展:「テロメア・エフェクト」

本書で健康のために提唱したさまざまな手法に対して体は自然な生理学的反応をするが、それと、人工的な摂取とでは大きなちがいがある(たとえばサプリメントが植物由来の“自然”なものであっても、植物はそもそも自然界の激しい化学的闘争を経てきたことを忘れてはいけない。腹を空かせた動物や襲いかかる病原体をかわすために、植物は強力な化学的軍備を発達させてきたのだ)。この本で私たちが提唱した方法は、穏やかで自然なものばかりであり、テロメラーゼの分泌増加は安全な範囲を超えるものではない。だから、がんの発症リスクが高まることを心配する必要はない。危険な領域までテロメラーゼの量が増えることはけっしてない。

 あなたはテロメアとテロメラーゼに影響をおよぼせる

●『2004年のある日、分析結果が届いた。私(エリッサ)が事務所に座っているとき、プリンターから分析結果が何枚も吐き出されてきた。私はデータの散布図を見つめ、そして息をのんだ。データにはパターンがあった。私たちが「こうであるはずだ」と予測していたとおりの傾向が、ページの上にあらわれていた。ストレスにさらされるほどテロメアは短く、テロメラーゼの値は低くなることが、そこには示されていた。 

「テロメア・エフェクト」より
テロメアの長さと慢性的なストレス

画像出展:「テロメア・エフェクト」

第Ⅱ部 テロメアはあなたの考えに耳を傾けている

第4章 ストレスはあなたの細胞に入り込む

 多すぎるストレスとは、どの程度のものか?

●どんな種類のストレスがテロメアの短縮に関連するかについては、すでに証拠がある。テロメアの短縮につながりがあるのは、家庭の長期におよぶ介護や、仕事のストレスによる燃え尽き状態なのだ。そのほかに読者もご想像のとおり、現在のものであれ子ども時代のものであれ、非常に深刻なトラウマもテロメアの損傷に関連することがわかっている。レイプや虐待、家庭内暴力、長期にわたるいじめなどがそれにあたる。

境遇そのものがテロメアを短くするわけではない。問題は、そうした境遇に置かれたときに多くの人が感じるストレス反応であり、そしてここでも「用量」が重要な意味をもつ。一か月程度であればどんなにストレスの高い危機的状況に置かれても、テロメアへの影響を心配する必要はない。テロメアもそこまで腑弱ではない。そうでなければ私たち人間はみな、あっというまにだめになってしまう(最近の研究から、短期的なストレスとテロメアの短縮にも関連があることが示された。ただしその関連性はごく小さく、個人に重要な影響をおよぼすとは考えにくい。そして短期的なストレスがテロメアを短縮させるとしても、その作用は一時的であり、失った塩基対をテロメアはすみやかに回復することができる)。だが、ストレスが継続し、生活の一部にまでなってしまうと、ストレスはゆっくり毒を発し始める。ストレスが長く続けば、テロメアは短くなる。長期にわたる心理的に有害な状況からは、できるかぎり抜け出すのが賢明だ。

自分ではどうにもならないストレスを抱えて暮らす現代人の多くにとって幸いなことに、話はこれで終わりではない。私たちの研究からは、慢性的なストレスがかならずしもテロメアの損傷にはつながらないことが示されている。被験者の何人かは、テロメアを短くせずに介護の重荷を乗り越えていたのだ。ストレスへの耐性が高いこれらの「外れ値」の存在からは、困難な状況から抜け出さなくてもテロメアを守れることがうかがえる。信じがたいかもしれないが、やり方さえわかれば、ストレスをポジティブな燃料に使うことも可能だ。そしてストレスを、テロメアを守る盾として使うこともできるのだ。

  テロメアを脅かさないストレス反応とは

「テロメア・エフェクト」より
脅威反応とチャレンジ反応

画像出展:「テロメア・エフェクト」

「テロメア・エフェクト」より
ポジティブなストレスは体に活力を送る(チャレンジ・ストレス)

画像出展:「テロメア・エフェクト」

 チャレンジ反応を培う 

●チャレンジ反応は交感神経の活動を高めるので、かならずしもストレス感を減らしてはくれない。だがこれはポジティブな「落ち着きのなさ」であって、あなたをもっとパワフルで集中した状態に押し上げる原動力だ。ストレスをこんなふうにうまく転換して、イベントやパフォーマンスのときに良いエネルギーを得たければ、自分で自分に「ワクワクしているね!」「鼓動が速いしおなかはグルグルしてきたけど、大丈夫!これは、良いストレス反応が強く起きている証拠だ」と語りかけてみよう。もちろん、介護に従事する母親のようにストレスで心の減る思いをしている人には、軽すぎる言葉に聞こえるかもしれない。ならば、もっとやさしく自分に語りかけよう。「今の体の反応は、私を助けるために、そしてやるべきことに集中できるように、起きたことだ。そのサインは大事にしよう」。チャレンジ反応はけっして、まやかしの活力剤ではない。「ストレスの原因がこんなにたくさん起こるなんて、本当に幸せだ。」という過剰にポジティブな態度ともちがう。それは、たとえ今はつらくても、ストレスを自分の目的に合うように形づくれと理解することだ。

リラックスできる能力は、ストレス管理の唯一の方法として過大に評価されてはいるが、やはり重要だ。あなたも何か、自分を深く回復させる活動を定期的に行ってみるといい。瞑想や詠唱、その他のマインドフルネスの技法がストレスを和らげ、テロメラーゼを刺激し、テロメアの伸長を助けるであろうことは、高い質の証拠から示されている。

第Ⅲ部 細胞を守るためにできること

第7章 運動はテロメアを鍛える

 テロメアにはどんな種類の運動が最適か?

●運動は、炎症や免疫老化を防ぐことによって、細胞を守る手助けをする。ここからは、運動が細胞にどんな利益をもたらすかについて、付加的な説明をしよう。運動にはテロメアの維持を助ける作用がある。1200組の一卵性双生児の研究からも、それが確認されている。一卵性双生児研究には、遺伝的な条件を同じくできるメリットがある。体をよく動かす双子の片割れは、あまり動かさない片割れと比べてテロメアが長いことが確認されている。年齢や、テロメアに影響するほかの要因の影響は統計的処理で調整し、それにより、運動とテロメアの純粋な関係を検証できるようにした。そこから明らかになったのは、運動の有益性だけでなく、「座りっぱなし」が代謝上の健康(メタボリック・ヘルス)に非常によろしくないという事実だ。現在では複数の研究から、座ってばかりいる人のテロメアが、少しでも運動をする人に比べて短いことが確認されている。

●いろいろな運動をとり合わせたほうが、効果は高い。数千人のアメリカ人を対象にしたある調査からは、たとえばウォーキングと自転車と筋力トレーニングなど、さまざまな分野の運動を行なう人ほど、テロメアは長いという結果が出ている。だから、筋トレも行うにこしたことはない。筋トレ自体には、テロメア伸長との顕著な関連性は認められていないが、骨密度を維持もしくは改善したり、筋肉量を増やしたり、平衡感覚や運動感覚を養ったりする効果がある。これらはどれも、良く老いるために欠かせない重要な要素だ。

●いろいろな運動をとり合わせたほうが、効果は高い。数千人のアメリカ人を対象にしたある調査からは、たとえばウォーキングと自転車と筋力トレーニングなど、さまざまな分野の運動を行なう人ほど、テロメアは長いという結果が出ている。だから、筋トレも行うにこしたことはない。筋トレ自体には、テロメア伸長との顕著な関連性は認められていないが、骨密度を維持もしくは改善したり、筋肉量を増やしたり、平衡感覚や運動感覚を養ったりする効果がある。これらはどれも、良く老いるために欠かせない重要な要素だ。

  運動が細胞内部にもたらすメリット

●運動は細胞の内部にさまざまな良い変化をもたらす。運動は短期的なストレス反応を起こすが、それが引き金になって、大きな回復反応が起きるからだ。運動によって体の分子は損傷を受け、損傷した分子は炎症を引き起こす可能性がある。だが、運動を始めてまもなく、オートファジーという現象が起き、細胞はまるでパックマンのように、細胞内の損傷した分子を食べてしまう。これにより、炎症を防ぐことができる。同じ実験をさらに続け、損傷した分子の数がオートファジーで追いつかないほど多くなると、細胞は速やかに死滅する。これは「アポトーシス」と呼ばれ、炎症や残骸を残すことのないきれいな死に方だ。運動にはまた、エネルギーを生産するミトコンドリアの数や質を向上させる働きもある。このようにして運動は、酸化ストレスを減少させている。運動を終えて体が回復しようとしているとき、体内ではまだ細胞の残骸の掃除が続いている。それによって細胞は、運動をする前よりもっと健康に、もっと丈夫になる。

第8章 テロメアの疲労と睡眠

●テロメアには睡眠が必要だ。すべての大人において、十分な睡眠がテロメアの健康に重要であることがわかっている。慢性的な不眠とテロメア短縮には相関性があるが、その傾向が特に顕著なのは70歳以上の人々だ。

「テロメア・エフェクト」より
テロメアと不眠:テロメア短縮との相関関係は70歳以上にみられる。

画像出展:「テロメア・エフェクト」

 睡眠の回復力

●ふつう、睡眠は活動とは考えられていない。だが、それはまちがいだ。じつは睡眠とは、人間の行うもっとも回復力の高い活動なのだ。体内の生物時計を調整し、食欲を正し、記憶を強めたり癒したり、気分をリフレッシュさせたりするには、睡眠という回復の時間が必要なのだ。

  テロメアにはどれくらいの睡眠時間が必要?

●7時間以上の睡眠をとることは、とりわけ高齢になったときには、テロメアの維持に関連してくる。 ~中略~ 一日に8時間か9時間眠らなければ元気になれない人は、無理に睡眠時間を7時間にする必要はまったくない。限界値を気にせずゆっくり睡眠をとろう。そして、「昼間に眠いのなら、もっと夜に睡眠が必要だ」というおおまかだが、個々の状況をふまえたアドバイスを覚えておこう。

睡眠の長さと質は重要だ。もう一つ、そこに加えたいのが、睡眠のリズムだ。就寝と目覚めの時間を規則正しくし、良いリズムを保つことは、細胞がテロメラーゼを調節するうえで非常に重要だ。ある調査で研究者が、マウスから「時計遺伝子」を取り去った。正常マウスは、朝はテロメラーゼの値が高く、夜には低くなるが、「時計遺伝子」を取り去ると、テロメラーゼの日々の変化にこうしたリズムはなくなり、テロメアは短くなった。同じ研究者は次にヒトに目を向け、勤務スタイル上、体内時計が大きく狂わされていそうな人々を被験者に選んだ。たとえば、救急医療室で夜のシフトを引き受けている医師らはやはり、テロメラーゼの自然な増減のリズムが失われていた。この調査は小規模ではあるが、睡眠と覚醒の正しいリズムがテロメラーゼの活性を保つうえで重要であることを、そしてテロメアを補充し続けるためにも大切であることを示している。

第9章 体重とテロメア:健康的なメタボリズム

 テロメアの短縮と炎症は、どのように糖尿病に影響するのか

●おなかに脂肪のついている人はなぜ、インスリン抵抗性が強く、糖尿病になりやすいのだろうか?貧弱な食生活、運動不足、ストレスはみな、腹部の脂肪や血糖値の高さに関連している。だが、腹部が肥満している人のテロメアは長年にわたって短縮する。それがインスリン抵抗性を悪化させている可能性はおおいにある。デンマークで338組の双子を対象に行われた研究によると、テロメア短縮は12年後のインスリン抵抗性の増加と相関性があった。テロメアが短い双子の一人はもう一人に比べて、インスリン抵抗性が概して高くなっていた。

次の実験からは、糖尿病が起きるメカニズムと、膵臓の中で起きている出来事をうかがい知ることができる。マリー・アーマニオスとその同僚がマウスで行った実験によれば、(遺伝的変異によって)体中のテロメアが短くなると、マウスの膵臓のβ細胞はインスリンを分泌できなくなる。すると膵臓の幹細胞も消耗する。テロメアが短くなり、ダメージを受けたβ細胞がこうして死ぬことで発症する可能性がある。もっと一般的な二型糖尿病の場合も、β細胞の一部が機能不全になっているケースがあり、それには膵臓のテロメアの短縮が何らかの関与をしている可能性がある。

●ほかの面では健康な人も、腹部に脂肪がついていると別の経路で糖尿病を発症することがある。その場合、糖尿病への誘導役を果たすのは、これまで何度も述べてきた慢性的炎症だ。腹部の脂肪、たとえば大腿の脂肪に比べて炎症を起こしやすい。脂肪細胞は炎症誘発物質を分泌し、それが免疫細胞にダメージを与え、免疫細胞を老化させ、テロメアを短くするのだ(老化細胞の特徴の一つは、自分が発した炎症誘発のサインを止められなることだ)。

第10章 食べ物とテロメア:細胞の健康のためには何を食べるべきか

 細胞の三つの敵

炎症、インスリン抵抗性、そして酸化ストレスの危険性については、これまでにさんざん述べた。これらはテロメアや細胞にとって有害な環境をつくりあげる。これらを、体内にひそむ三つの敵と名づけよう。あなたが口にする食べ物の中には、こうした悪漢に餌をやってしまうものがある。いっぽうで、悪漢と闘い、細胞の環境をテロメアの保持にいちばん適した状態にしてくれる食べ物も存在する。

 一番目の敵:炎症

●炎症とテロメアの短縮には、片方がもう片方を悪くするという破壊的な相互関係が存在する。これまで説明してきたように、細胞が老化してテロメアが短くなったり損傷したりすると(それに加えて、DNAの中に修復不可能なほかの損傷が起きたりすると)、そこからは炎症性のサインが発せられる。その結果、免疫系が自分自身に対して攻撃を加え、体中の組織がダメージを受けることになる。炎症はまた免疫細胞を分裂・増殖させる働きもあり、それによりテロメアの短縮はさらに進んでしまう。こうして悪循環がつくられる。

●炎症から身を守るための最善の方法の一つが、敵に餌をやるのをやめることだ。フライドポテトや精製された食品(白いパンや白米、パスタなど)やキャンディやソーダやジュースや大半の焼き菓子から吸収されたグルコースは、血液に急激に流入する。血糖値が上昇し、その結果、炎症を伝達するサイトカインが増加する。

アルコールもまた、炭水化物と同様の作用をする。アルコールの過剰摂取はC反応性タンパク質(CRP)を増やす働きもあるらしい。C反応性タンパクとは肝臓でつくられる物質で、体内で炎症が多発したときに増加する。アルコールはまた、DNAを損なう可能性のある化学物質(発がん性アセトアルデヒド)にも変質し、大量に摂取すればテロメアがダメージを受ける危険も生じる。少なくともラボで実験した細胞については、そうした結果が出ている。ヒトの場合は、そこまでの大量摂取が可能なのかはわからない。これまでにわかっているのは、慢性的な大量の飲酒がテロメアの短縮や、免疫老化のほかのサインと関連しているらしいということだ。だが、少量の飲酒とテロメアとのあいだには、一貫した関係は認められていない。たまにお酒を楽しむくらいなら何も問題ない。

ほかにも良い知らせがある。先ほどの、遺伝子操作によって慢性炎症を起こしたマウスを心配していた読者はどうぞ安心してほしい。抗炎症剤や抗酸化剤を与えることで、マウスのテロメアは機能を回復したのだ。テロメアはもとに戻り、老化した細胞の蓄積は止まった。おかげで細胞は分裂と再生を継続できるようになった。これが示唆しているのは、私たちがみな、自分のテロメアを炎症から守れる可能性があるということだ。もちろん薬を使わずにそれができれば、いちばん安全だし、いちばんスマートでもある。手始めに行なうべきなのは、甘みと香りのある植物性の食品は、選ぶのに困るほどたくさんある。赤や紫や青のベリー類、赤や紫のブドウ、リンゴ、ケール(ちりめんキャベツ)、ブロッコリ、黄タマネギ、瑞々しいトマト、グリーン・オニオン。どれもフラボノイドやカロテノイド、そして植物の色素のもとになっている多様な種類の化学物質を豊富に含んでいる。特に豊富なのはアントシアニンと、フラボノイドの一種であるフラボノールだ。これらは炎症性や酸化ストレスを低く抑えることに関連している。

その他の抗炎症性食品はたとえば、脂肪の多い魚やナッツ、亜麻の種子(亜麻仁)や亜麻仁油、そして葉物野菜などだ。これらの食品に共通するのは、オメガ3脂肪酸を豊富に含んでいることだ。炎症を抑え、テロメアの健康を保つために、体はオメガ3脂肪酸を必要としている。オメガ3にはまた、全身の細胞膜の形成を助け、細胞の構造を柔軟にし、安定させる働きがある。さらに、細胞はオメガ3脂肪酸を、炎症や血栓を調節するホルモンに変容させることもできる。動脈壁が硬くなるか・柔らかくなるかにもオメガ3が関与している。

オメガ3脂肪酸にかぎらず、栄養素が血中にどれだけ含まれるかは、食事から摂取したか、もしくはサプリメントから摂取したかどうかにはかならずしも直接的には関係しない。その数値には、あらゆる種類の複雑な、おおかたは不可知の要因が影響をおよぼしている。たとえば、それぞれの人がどれだけ栄養を吸収できるのか、吸収した栄養を細胞がどれだけ活用できるのか、どれだけ速くそれらを代謝し、失うか、などの要因だ(ダイエット食やサプリメントの宣伝文を読むときには、ぜひこうした情報を頭に入れておいてほしい)。一般的には、栄養は食べ物からとることを私たちはどんな人にも推奨しているが、どうしてもそれが難しいときは、サプリメントでもそこそこ代替にはなる。だが、まずはかかりつけの医師に相談してみよう。いちばん当たり障りがなさそうなサプリメントでさえ何かの副作用があったり、あなたがすでに使っている薬と飲みあわせが悪かったりする可能性はある。特定の健康状態にある人の場合、サプリメントの種類によっては服用できない場合もある。

テロメアの研究からは、オメガ3の摂取がきわめて重要だと示されているが、オメガ3とオメガ6のバランスにも目を配らなくてはならない。なぜなら、典型的な西洋型の食事にはオメガ3よりもオメガ6のほうが多く含まれる傾向があるからだ。両者のバランスをとるためには、ナッツや種子類など加工度の低い食品を食べるいっぽうで、揚げ物やパッケージされたクラッカー、クッキー、チップス、スナックなどの摂取を大きく減らすことが肝要だ。これらの食べ物には往々にしてオメガ6脂肪酸が大量に含まれるうえ、心血管系疾患のリスク要因である飽和脂肪酸も含まれているからだ。

 二番目の敵:酸化ストレス

●ヒトのテロメアは、TTAGGGというDNAの塩基配列の反復からできており、染色体の両端にこの配列が、通常は1000回以上繰り返されている。この貴重な連続体にダメージを与えるのが酸化ストレスだ。酸化ストレスは、細胞の中に大量のフリーラジカルがあるのに、抗酸化物質が足りないときに起こる危険な状況だ。フリーラジカルは、テロメアの塩基配列の中でも特に傷つきやすい「GGG」の部分を標的にする。GGGという列がフリーラジカルに壊されると、DNA鎖は切れ、テロメアの急速な短縮が始まる。そのようすはまるで、細胞の仇敵である酸化ストレスが「GGG」というごちそうを貪っているかのようだ。ラボでの細胞実験だと、酸化ストレスはテロメアに損傷を与えるだけでなく、テロメラーゼの活性をも減退させ、短くなったテロメアをテロメラーゼは復元できなくなってしまう。これは二重の打撃だ。だが、細胞をとりまく培地(ラボのフラスコの中で、細胞の生活を支えているリキッド・スープのようなもの)にビタミンCを加えると、テロメアはフリーラジカルから守られる。ビタミンCやその他の抗酸化物質(ビタミンEなど)は清掃動物のようにフリーラジカルを食べてくれるため、テロメアや細胞に害がおよばなくなるのだ。

 三番目の敵:インスリン抵抗性

●医者であるニッキは、毎日1リットルもマウンテンビューを飲むのが健康に良くないことはわかっている。だが、アメリカ人のおよそ半数と同じように、ニッキは何かしらのソーダ類を飲んでしまう。これらの人々は、インスリン抵抗性という第三の敵にストローを差し出しながら、こう言っているのも同然だ。「これをお飲みよ。そうすれば、望みどおりの巨大で恐ろしいやつになれるよ」

甘いソーダを、あるいは「液状のキャンディ」を飲み干したときに、体の中で何が起こるかを順に説明しよう。まず、ソーダを飲むとほぼ瞬時に、膵臓が多量のインスリンを分泌し、グルコース(砂糖の分解産物)が細胞に入り込むのに手を貸す。20分もすると血流の中にグルコースが蓄積し、高血糖の状態になる。今度は肝臓が、砂糖を脂肪に変える仕事を始め、およそ60分後、血糖値は下がる。するとあなたは「落ちた」気持ちをもう一度上げるため、さらに砂糖を口にしようと考え始める。これがあまりに頻繁に起こると、最後はインスリン抵抗性が強くなってしまう。ソーダは、新手のタバコのようなものなのだろうか?そう言っていいかもしれない。カルフォルニ大学サンフランシスコ校の栄養疫学者で私たちの共同研究者の一人でもあるシンディ・ルーンは、毎日20オンス(600㏄弱)の甘いジュースを飲む人は、テロメアの長さで換算すると4.6年分も生物学的には老化が進んでいることを発見した。これは驚いたことに、テロメアに対してタバコがおよぼすのとほぼ同規模の害だ。1日に8オンス(約240㏄)のジュースを飲んだ場合には、テロメアは2年間分、生物学的に老化していた。ジュースをよく飲む人は、そのほかに不健康な生活をしていて、それが結果に影響しているのではないかと、あなたはいぶかるかもしれない。そしてそれはたしかに大きな問題だ。この研究にはおよそ5000人の被験者が参加したが、私たちは交絡因子[調査対象とは別の要素]に対処するために最善を尽くした。食生活、喫煙習慣、BMI、腹囲(おなかの脂肪を計測するため)、収入、年齢など、テロメアと甘味飲料の相関性を打ち消す可能性のある材料を考えつくかぎり考慮した。それでも、両者の相関性は消えなかった。ジュース類とテロメアとの関係は、小さな子どもにも存在する。ジャネット・ウォイチツキーによれば、1週間に4本以上のジュースを飲んでいる三歳児には、テロメアの大幅な減少が認められたという。

●砂糖がテロメアに与える害を顕著にあらわしている。問題はその、「伝達プロセス」にある。繊維を含んでいないため、糖分はスピードを落とさず急速に体に回ってしまう。クッキーやキャンディやケーキやアイスクリームなど、デザートやおやつと考えられるものはほぼすべて、大量の砂糖を含んでいる。さらに、白いパンや白米やパスタなどの精製食品やフライドポテトは単純かつ迅速に吸収される炭水化物を多く含み、血糖値を大きく乱す危険性があるのだ。

●インスリンの急増は究極的にはインスリン抵抗性をもたらす危険がある。それを避けるためには、繊維を豊富に含む食品に注目することだ。全粒粉製のパンやパスタ、玄米、大麦、種子、野菜、果物などはみな、繊維をたくさん含んでいる(果物には単純糖質が含まれているが、繊維が含まれているのと、全体的な栄養上の価値ゆえ、健康的な食品といえる。繊維の部分を除いてしまった果物のジュースは、一般的に健康的な食品とはいえない)。これらの食品には食べごたえがあり、カロリーのとりすぎを防ぐ働きもある。おなかの脂肪を減らすのにも役立つ。おなかの脂肪は、インスリン抵抗性や代謝異常にも密に結びついている。

「テロメア・エフェクト」より
血液の中で健康的な変化が起きる:血液が高栄養になり、酸化ストレス、炎症、インスリン抵抗性などの問題が減少する。

画像出展:「テロメア・エフェクト」

 健康的な食のパターン

  コーヒーと健康

●コーヒーが健康におよぼす作用は、数百もの研究で検証されてきた。朝の一杯をこよなく愛する人々は、どうぞ安心してほしい。結果はほぼ一貫して、「シロ」だ。いくつかのメタ分析からは、認知力低下や肝臓病やメラノーマ(黒色細胞腫)などの発病リスクがコーヒーで減るという結果も出ている。コーヒーとテロメア長の関連を調べた実験は今のところ一つしかないが、現在までの情報はおおむね前向きだ。実験では、慢性的な肝臓病患者40人を対象に、コーヒーが健康を改善するかどうかを検証した。被験者は、1日にカップ4杯のコーヒーを飲むグループと、飲まないグループ(対照群)とにランダムに分けられた。コーヒーを飲むグループの人々は1か月後、対照群と比べてテロメアが著しく長くなり、血中の酸化ストレスは低下していた。そのうえ、4000人以上の女性を対象にした調査によれば、カフェイン入りのコーヒーを飲んでいる女性にはテロメアの伸長が多く認められた(カフェイン抜きのコーヒーを飲んでいる女性には、そうした現象は認められなかった)。朝、薫り高いコーヒーを飲む理由がこれでまた一つ増えた。

第Ⅳ部 社会的環境は、あなたのテロメアを変える

第11章 テロメアを支える環境と人々

 化学物質、がん、長すぎるテロメア

●化学物質の中には、テロメアを長くする物質もある。聞こえは良いが、あまりに長いテロメアは、無制御な細胞増殖、いいかえれば、がんと関連がある場合もあることを忘れてはいけない。遺伝毒性をもつ化学物質が体内に入り込むと遺伝子変異が起こりやすくなり、がん細胞が生じやすくなる。そして、がん細胞は、テロメアが長ければ次々と分裂増殖を繰り返し、がん性腫瘍になりやすい。テロメアを長くするというサプリメントなどの製品が広く出回り、売買されていることが心配なのは、そのためだ。心配なのは、化学物質への暴露やテロメラーゼを活性化するサプリメントが細胞を損傷したり、体が経験したことのないほど激しく(あるいは不適切に)テロメラーゼを増加させたりテロメアを変化させたりする可能性だ。サプリメント等に頼らずとも、ストレス管理や運動、十分な栄養摂取や快眠などの健康的な習慣を実践すれば、テロメラーゼの働きはゆっくりと着実に、経年的に高まる。こうした自然なプロセスで、テロメアは守られ、維持される。場合によっては、ライフスタイルの変革によってテロメアがいくらか長くなることもある。そうしたやり方によるテロメアの伸長は、無制御な細胞増殖を引き起こさないはずだ。テロメアの伸長と相関性のある健康的な生活習慣が、ガンのリスクを高めるという研究結果は一例もない。ライフスタイルを変えることは、化学物質暴露やサプリメント摂取とはちがう安全な作用によってテロメアに影響をおよぼすのだ。

どんな化学物質が、テロメアの過度の伸長という不自然な作用を起こすのだろうか? ダイオキシンやフラン(さまざまな産業プロセスで放出される有害な副生成物で、動物性製品によく見られる)、ヒ素(飲料水やある種の食品に含まれる)、粒子状物質(PM)、ベンゼン(ガソリンなどの石油製品のみならず、タバコの煙を介しても暴露する)、ポリ塩化ビフェニル類(PCB。禁止化合物だが、今でも高脂肪の動物性製品に含まれている場合がある)への暴露はすべて、テロメアの長さと相関性がある。注目すべきは、これらの化学物質のいくつかが、がんのリスクにも関連があるとされてきたことだ。動物のがん発症率増加に関連する物質もあれば、細胞に大量注入すると発がんを促進する分子変化が起きた物質もある。これらの化学物質は、遺伝子変異やがん細胞が育つ絶好の下地をつくることもできるうえ、テロメラーゼを活性化したりテロメアを伸長したりもでき、がん細胞の増殖を促す危険が高い。テロメアはこのように人工的化学物質とがんをつなぐリンクなのではないかと推測される。以上、テロメアに有害な作用をする物質については表33を参照してほしい。

「テロメア・エフェクト」より
テロメアに有害な物質

画像出展:「テロメア・エフェクト」

まとめ 相互のつながりに気づく:私たちの細胞の遺産

 テロメア・マニュフェスト

●あなたの細胞の健康は、あなたの心と体の、そしてコミュニティの幸福に反映される。次に紹介するのは、テロメアを維持するための基本戦略だ。より健康的な世界のためには、これが最重要だと私たちは信じている。

テロメアを気づかう

+自分を悩ませ続けている強力なストレスがどこから来ているのか見直そう。変革は可能だろうか?

+脅威をチャレンジの材料としてとらえ直す。

+自分を思いやれるようにする。それができれば他人をも思いやれるようになる。

+回復に効果のある活動をする。

+思考の認識や気づきなどの練習をする。幸福への扉が開く。

テロメアを保つ

+体を動かす。

+回復効果の高い睡眠を長時間とるために、入眠儀式を行う。

+代謝改善と食欲のコントロールのために、マインドフル・イーティングを実践する。

+ホールフードやオメガ3など、テロメアに良い食べ物を積極的に食べ、ベーコンなどは避ける。

他者とつながる

+他者とつながる時間をつくる。デジタル画面から離れて過ごす時間を毎日確保する。

+数は少なくとも親密な人間関係を築く

+子どもにきちんと関心を向け、適量の「良いストレス」を与える。

+コミュニティで社会的な資本を育てる。他者を助ける。

+緑を求める。自然の中で時間を過ごす。

+他者とのつながりは「マインドフル」な関心を向けることで生まれる。他者への関心は、相手への贈り物だ。

コミュニティと世界全体において、テロメアの健康を増進させる

+妊婦健康管理をきちんと行う。

+暴力やトラウマなど、テロメアを損なうような事態から子どもを守る。

+不平等を減らす。

+地域から、そして世界から毒物を放逐する。

+万人が新鮮で健康的な食べ物を適正な価格で入手できるように、食糧政策を改善する。

私たちの社会の未来の健康は、今このときに形づくられている。そして私たちは未来の一部を、テロメアの長さによって測ることができる。

追記分子レベルの回復メカニズム、運動と鍼は同じか?

「テロメア・エフェクト」より
運動が細胞内部にもたらすメリット

左は7章で既にご紹介させて頂いた内容です。

鍼灸師の私にとってはこの内容が1番の発見でした。

筋肉痛は運動によって筋線維が傷つくことによって起きるものとされています。一方、鍼の太さは0.16mm(1番鍼)、刺しても多くはほぼ無痛です。しかしながら、分子レベルで考えればたいへんな衝撃です。この、鍼によって生じる筋線維のダメージも、運動によって生じる筋線維のダメージも、その後のダメージを回復させるメカニズムは基本的に同じではないかと思われます。

つまり、鍼治療は運動と同じように、オートファジーやアポトーシスという重要な機能を呼び起こし、結果的に体内を掃除して、もっと健康に、もっと丈夫にしているものと思います。 

 

画像出展:「テロメア・エフェクト」

ただし、『運動にはまた、ミトコンドリアの数や質の向上の働きもある』という、もう一つの効果については鍼治療は当てはまらないと思います。

(左下の絵をクリック頂くと「WIRED」さまのサイトに移動します)

体内のミトコンドリアを増やして元気になるための3つの方法
体内のミトコンドリアを増やして元気になるための3つの方法

体内のミトコンドリアを増やして元気になるための3つの方法

1.身体に寒さを感じさせること

2.運動によってエネルギーを消費すること

3.カロリー制限をすること

1番、3番は食事(栄養)がキーワードだと思います。

太田成男先生:日本医科大学教授。1951年生まれ。日本ミトコンドリア学会理事を務めるミトコンドリア研究の第一人者。

 

がんと自然治癒力8

真柄俊一先生は、『まさに私が知りたかった「遺伝子の謎」について書かれている本でした。この本によって私がそれまでやってきた自分の治療法の正しさを理論的に確認することができたのです。』とお話されています。※参照「がんと自然治癒力1

読み始めたときは少し違和感がありましたが、それはすぐに消し去り、ブルース・リプトン先生のパワーと説得力に圧倒されました。

ブログでは文末にある著者紹介、目次に続き、タンパク質の構造、量子物理学と生物学、心の力、防衛システム、にかかわる項目を選び出し、各項目の内容を一部または全部書き出しました。

リプトン先生もご指摘されているように、量子物理学と東洋医学には重なる部分があるようです。「気とは何か」という最大のテーマを考える上でも、量子物理学に触れることは何かのヒントを得られるかもしれません。

また、“エピジェネティクス”については、「エピジェネティクス―新しい生命像をえがく(仲野徹著、岩波新書)」という本の中で、『エピジェネティクスは、文字通りには遺伝子以外の要因が表現型に与える影響を研究する分野ですが、実際はもっと狭義でDNAやそれに会合するヒストンタンパク質の化学修飾を解析するのが主たる対象です。 ~中略~ 20世紀末にゲノムが解読されましたが、同時にDNA配列だけでは生物の全貌は知りえないことも分かりました。広義のエピジェネティクスは、間違いなく21世紀の生命科学を代表する分野の一つです。』と説明されています。

 思考のすごい力」に出てくる“エピジェネティクス”も、後者の、広義のエピジェネティクスについて語られています。そして、キーワードはタンパク質環境からの信号」ではないかと思います。

著者:ブルース・リプトン
「思考のすごい力」

出版:PHP研究所

初版:2009年2月

原書の初版は2005年3月でした。


〈著者紹介〉:ブルース・リプトン(Bruce Lipton, Ph.D.)

ブルース・リプトン博士は、科学と魂(スピリット)の橋渡しをする第一人者として、国際的に認められている。テレビやラジオ番組へのゲスト出演は数十回に及び、また、複数の国際会議で基調講演を行なっている。

リプトン博士は、細胞生物学者として科学の世界に入った。ヴァージニア大学で学位を授与されたのち、1973年にウィスコンシン大学医学部の解剖学科に所属した。細胞のふるまいをコントロールする分子的なメカニズムに焦点を合わせ、筋ジストロフィーやヒト幹細胞クローンについて研究した。同僚のエド・シュルツ博士と共に開発した実験的な組織移植のテクニックは『サイエンス』誌に掲載され、のちに、ヒトの遺伝子工学の新方式として利用されるようになった。

1982年から量子力学の原理の吟味にとりかかり、細胞の情報処理システムに関する知識とその原理を統合するにはどうしたらよいのかを考察し始めた。そして、細胞膜について画期的な研究をなし遂げ、細胞の最外層をなす細胞膜がコンピュータのチップと同じ役割をすること、つまり、細胞膜が細胞の脳に当たることを示した。1987年から1992年までスタンフォード大学医学部で研究を行ない、細胞膜を介する作用により、環境が細胞のふるまいや生理的状態をコントロールし、遺伝子のスイッチを切り替えることを示した。生命が遺伝子によりコントロールされるという確立した科学的な見解に対抗するこの発見は、今日では科学において最重要分野の一つであるエピジェネティクスの先触れとなった。リプトン博士の研究結果をまとめた論文のうち主要な二本は、心と身体をつなぐ分子レベルの経路を明らかにするものだ。その後、他の研究者が発表した多くの論文により、博士の考えが正しいことが証明されている。

科学への新たな取り組み方は、リプトン博士の私生活も一変させた。細胞生物学の理解が深まることにより、心が身体の機能をコントロールするメカニズムの重要性を認識し、また不滅の魂(スピリット)の存在を暗に感じるようになった博士は、科学的研究で得た理解を生物としての自らの身体に適用した。その結果、健康状態が改善され、日常生活の質も大きく向上した。

リプトン博士は大学医学部で一般向けに表彰ものの講義を行なっている。また、現在、基調講演やワークショップの発表者としてひっぱりだこである。従来の医学や代替医学の専門家に向けて講義をし、また、一般聴衆向けには最先端科学を説明し、それが心身医学や霊的(スピリチュアル)な原理とぴったりと調和することを説いている。何百人もの聴衆から、博士の説明する原理を適用して身体的にも精神的にも健康状態が改善したという報告がなされている。リプトン博士は“新しい生物学”の主要な代弁者の一人と見なされている。 

ブルース・リプトン
ブルース・リプトン

画像出展:「Bruce Lipton

以下は目次になります。青字が取り上げた項目です。

イントロダクション 天国の島で生命の真実に目覚める

 「生命の秘密」を探究する研究者として

 細胞は独立した生き物

 信念が人生をコントロールする

 魂と科学を統合する「新しい生物学」

第一章 細胞は知性を持っている

 落ちこぼれ医学生たちとの出会い

 細胞は学習し、記憶する

 賢くなるために共同体をつくる細胞

 進化の方向を決めるのは環境

 限界はない。自分で“限界があると考えて”いるだけだ。

第二章 環境が遺伝子のふるまいを変える

 遺伝子は生物を「コントロール」しない

 人間の身体は“タンパク質の機械”

 タンパク質は歯車のように組み合わさって働く

 「DNAボス仮説」はなぜ生まれたか

 マウスと人間の遺伝子の数はほぼ同じ

 核は細胞の生殖腺

 遺伝子をコントロールするタンパク質

 細胞は環境に合わせて形を変える

第三章 細胞膜こそ細胞の脳である

 原核細胞はどこにあるのか

 細胞膜の構造と機能

 「内在性膜タンパク質」が遺伝子のスイッチ

 神経の役割を果たす細胞膜

 細胞膜は“コンピュータ・チップ”と同じ

第四章 量子物理学が生物学・医学を変える日は近い

 量子物理学と縁なく過ごしてきたわたし

 ニュートン力学では超常現象を解明できない

 物質はエネルギーでできている

 人間の生体内システムは重複的

 製薬会社の駒となっている医師たち

 電磁エネルギーが生体調整に深い影響を与える

 代替医療の研究が進まないわけ

 エネルギー波を治療に活用する

第五章 心が持っているすばらしい力

 不治の病が治った!

 否定的な考えを排除、肯定的に考える

 脳は体全体の細胞をコントロールする

 意識を正しく用いれば、病身を健康にできる

 心は身体に優先する

 プラシーボ(偽薬)に治療効果があるのはなぜか

 心は薬より力がある

第六章 恐怖を捨てよう。満ち足りた人生を創るために

 「成長・増殖」と「防衛」反応は同時に働かない

 身体を守るための二つの防衛システム

 大病のほとんどは慢性ストレスが原因

第七章 親は子どもの遺伝子が最高の可能性を発揮できる環境を整えよう

 「親の役目は重大」を最先端科学が証明

 潜在意識が持つ驚くべきパワー

 子どもは親が教える知恵を潜在意識のメモリーにダウンロードする

 意識(手動操縦)と潜在意識(自動操縦)は名コンビ

 潜在意識を変更するのは難しい

 知能指数決定に遺伝子が関係するのは34%

 胎児を意識的に育てて可能性を広げてやろう

 愛は生命の水

エピローグ 愛情深きものが生き残る世界へ

 科学と魂の世界がつなぐ細胞生物学者として

 地球は一つの生命体

 わたしたちは宇宙/神の一部の現れ

 人間は魂が形をとったもの

 いまは次の進化のサイクルに向う準備期

 人間は愛を必要とする存在

イントロダクション 天国の島で生命の真実に目覚める

細胞は独立した生き物

●「セントラル・ドグマ」は遺伝子をコントロールしているという科学的な仮定だが、一つ、大きな欠陥がある。遺伝子は自らのスイッチのオン・オフはできないのだ。専門用語を用いて言うならば、遺伝子は「自己創発」ができないのである。環境の中の何かが引き金にならなければ、遺伝子は活性化しない。

科学の先端では、当時すでにこれは事実として確立されていたが、保守的な科学者たちは遺伝子を中心とするドグマを信じ込むあまり、それが見えず、ひたすら無視していたのだった。セントラル・ドグマをあけすけに批判するものだから、わたしは科学界の異端者のような存在になった。破門志願者であるだけではなく、火あぶりの刑にも値するものだった。

スタンフォード大学で就職面接を受けた際に行なった講義で、気がついてみると、集まった教授連中(多くは国際的に認められた遺伝学者だった)に対して、「反証事実があるにもかかわらずセントラル・ドグマに執着するとは、宗教的原理主義者と変わるところはない」といって糾弾していた。

この冒瀆的な内容を耳にして、講義室には憤怒の叫び声がわき起こり、これで職はもうないなと思った。ところが、新しい生物学のメカニズムに関するわたしの洞察が刺激的だったためか、ポストを得られることになった。スタンフォード大学の傑出した研究者たち、とくに病理学科長のクラウス・ベンシュが支持してくださり、わたしのアイデアを人間のクローン細胞を用いた研究に応用し、さらに追及するように励まされた。

第一章 細胞は知性を持っている

細胞は学習し、記憶する

細胞たちは、積極的に生存に適した環境を探し求めながら、一方では毒のある有害な環境を避けようとする。これを同時にやってのける。単一の細胞も人間と同じように、周りの微細な環境から幾千もの刺激を受け、データを分析し、適切な行動をとり、生き延びる。

単一の細胞は、環境を通じた経験によって学習し、細胞記憶を保持することもできるが、これは細胞分裂によって次世代の細胞に受け継ぐことも可能だ。

たとえば、麻疹(はしか)ウィルスが子どもの体内に侵入した場合のことを考えてみよう。ウィルスに対抗して身体を守るには、タンパク質の一種である抗体をつくる必要がある。このため免疫細胞が呼び集められるが、この細胞たちは未分化だ。麻疹に対する抗体を製造するのには、設計図になる新しい遺伝子をつくりださなくてはならない。

麻疹抗体の遺伝子をつくりだす最初のステップは、未分化な免疫細胞内で起こる。未分化な細胞には、抗体に関係する多数のDNA断片があり、それぞれ異なる形のタンパク質に充当している。一つひとつの免疫細胞の中で、この断片がランダムに組み換えられ、組合されて再構成される。その結果、個々の細胞は特有の抗体遺伝子を一つ有することになるが、免疫細胞全体としては、膨大な種類の抗体遺伝子をもつことになる。

遺伝子をもとにして個々の細胞が生産する抗体は、それぞれ形態が異なる。未熟な免疫細胞がつくりだした抗体が、侵入してきた麻疹ウィルスと“ほとんど”相補的なものであれば、その細胞が活性化される。

活性化された細胞は驚くべきメカニズムを発動する。「親和性成熟」というプロセスを経て、免疫細胞は抗体タンパク質の形を“微調整”し、侵入者である麻疹ウィルスとぴったり結合できる抗体をつくりだせるようになる[Li, et al,2003; Adams, et al, 2003]。

活性化された免疫細胞は増殖を始め、抗体遺伝子のコピーが何百個とつくられるが、その過程で「体細胞超突然変異」が起き、できたコピーはもとの遺伝子と少しずつ異なるようになり、それぞれの遺伝子をもとに、少しずつ形の異なる抗体が多種類できる。その中からいちばんぴったりくる抗体をつくる遺伝子が選択され、この遺伝子がさらに体細胞超突然変異を起こし―という過程が何度も起こり、麻疹ウィルスに完璧に合う抗体が形成されるようになる[Wu, et al, 2003; Blanden and Steele 1998; Diaz and Casali 2002; Gearhart 2002]。

こうやって練り上げられた抗体がひとたびウィルスに結合したなら、侵入者は無力化され、破壊される。かくして、子どもは麻疹でつらい目に合わなくてもすむ。細胞はこの抗体を遺伝的に“記憶”しているので、将来再び麻疹ウィルスが侵入するようなことになれば、細胞は即座に反応して免疫系を発動し、身体を守ってくれる。

新しい抗体の遺伝子は、細胞が分裂すればそのたびに子孫に受け渡される。つまりこの過程で、細胞は麻疹ウィルスについて“学習”し“記憶”し、娘細胞に伝えられ、細胞分裂によってその記憶も増殖していく。これはもう遺伝子操作だと言ってもよいだろう。

この妙技は、細胞が長年進化させてきた「知性」のメカニズムを備えている事実を示している。これはたいへん大事なことだ[Steel, et al, 1998]。

賢くなるために共同体をつくる細胞

●化石の記録によれば、地球ができてから6億年後にはそういった生物が出現していたが、その後、27億5000万年間、地球には単細胞の生物、バクテリアや藻類、アメーバなどの原生動物しかいなかった。約7億5000万年前、こういった賢い細胞たちは、さらに賢くなる方法を見つけだした。多細胞生物(植物や動物)が誕生したのだ。

最初のうちは、多細胞といいてもゆるく結びついた共同体、いわば単細胞生物の「コロニー」のようなものだった。数十個から数百個ほどの集まりだったのだが、共同体をつくって生活するのは進化の上で有利だったので、すぐに数百万、数十億、何兆個もの細胞が集まって社会的な相互作用を行いながら生活するようになった。

個々の細胞は顕微鏡的なスケールだが、多細胞の共同体の大きさは、肉眼でやっと見えるものからモノリスのように巨大なものまで、さまざまだ。生物学者はこの組織化された共同体を人間の視点から見た構造をもとに分類する。

細胞の共同体を肉眼で見れば、たとえばマウスやイヌ、人間などといったふうにひとつの実態に見える。しかし、実際は、何百万個、何億個という細胞が高度に組織化された結社のようなものだ。

~中略~ 

高密度で生存していくために、細胞たちは環境を構造化していった。そういった高性能の共同体では、必要な仕事が分担される。大きな集団では組織内の関係は常に変化するが、変化に後れを取ることなく正確かつ効率的な分担が行なわれる。

個々の細胞が特殊化した仕事をするほうが共同体にとっては効率的だ。動物や植物では、胚が発生していく際、細胞は特殊化した機能を身につけていく。組織学的に分化が起こって細胞の集団ができ、身体のなかでそれぞれ特有の組織や器官をつくりあげていく。

進化の過程での「分化」というやり方、つまり共同体のメンバー間で仕事を分担するという方法が、共同体を構成する細胞一つひとつの遺伝子に埋め込まれていった。それが生命体が生きていく上で必要な効率性や能力を向上させたのだ。

大きな生命体では、たとえば環境からの刺激を読みとって反応するのに関係する細胞は、全体のほんの一部だけだが、これらは神経系の組織や器官を構成し、特殊化する作業を行っている。

つまり、神経系の役割は、環境状態を感知して、膨大な数の細胞からなる共同体全体の細胞の行動を統率することだ。共同体内で労働を分担するのは、生存する上で他にも有利な点がある。効率がよいので、より少ない資源でより多くの細胞が生活できるのだ。

※モノリス:建築や彫刻で使う大きな石や岩(動植物のことではないか)

第二章 環境が遺伝子のふるまいを変える

遺伝子は生物を「コントロール」しない

1967年、大学院で幹細胞クローン作製法を初めて教えられたとき、以後、決して忘れられないある知恵を授けられた。一見単純なこの知恵は、後年、わたしの仕事や人生にとってたいへん深い意味をもつようになる。だが、当時はそれには気がつかず、その深さを理解できたのは何十年も経ってからだった。

クローン作製を指導してくださったのはアーヴ・コーニグズバーグ教授。熟練した科学者で、幹細胞クローン作製をごく初期にマスターした細胞生物学者の一人だ。教授は、「もしも、培養中の細胞の調子が悪かったら、原因は細胞そのものではなく、その置かれた環境に求めるべきだ」と教えてくださった。

~中略~ 

言われた当座はぴんとこなかったが、このフレーズが生命の本質を理解する上で大事な洞察を与えてくれるものだと、次第にわかってきた。この知恵には一度ならず助けてもらった。よい環境においた細胞は元気だったし、環境が悪ければ勢いがなくなった。環境を整えてやれば、「病んでいる」ように見えた細胞も活力をとりもどした。

ところが、ほとんどの細胞生物学者は、組織培養技術に関するこの知恵をまったく知らずにいた。それどころか、ワトソン&クリックの発見に続いてDNAの遺伝暗号が明らかになってからというもの、科学者たちは、環境影響について考慮するのをやめてしまう。環境は軽視されがちなのだ。

あのチャールズ・ダーウィンでさえも、晩年になってから、進化論が環境の役割について正しく評価していなかった、と認めている。1876年、モリッツ・ワグナーに宛てた手紙にはこう書かれている。

「思うに、わたしの犯した誤謬の最たるものは、食物や気候など、環境の直接的な作用については十分に重要性を認めず、自然選択と関連性を持たないものとしてしまったところでしょう。……【種の起源】を書いたころは、その後しばらくの間もそうでしたが、環境の直接的な作用について証拠となるような事実を、ほとんど見つけられませんでした。ところがいまや証拠は山のようにあるのです」[Darwin, F 1888]。

しかし不幸なことに、ダーウィンがラマルクの「思想」に回帰したのを見て、ダーウィンの信望者たちは、彼も年老いたのだろう、頭が混乱してきたようだ、としか思わなかった。師がその考えを改めたのに、ダーウィン信望者たちはダーウィン自身よりももっとダーウィン流であろうとしたのだ! 

フランスの生物学者 ジャン・バティスト・ラマルク(1744年-1829年)

ダーウィンの理論は、二十世紀になって発達した分子遺伝学も組み込んで、「新ダーウィン説」として現代化された。エルンスト・マイヤーは率先して新ダーウィン説の構築を進めた生物学者だが、そのマイヤーでさえ、ラマルクを先駆者として認めている。1970年に出された名著進化と生命の多様性(Evolution and the Diversity of Life’ 未邦訳)で、エルンスト・マイヤーはこう書いている。「ラマルクは『進化論の創設者』として捉えたほうが良いと思われる。実際、フランスの歴史家の中にはそう認めている人も一人ならずいる。……ラマルクは著作の一冊をほぼ全部費やして、生物が進化してきたという理論を提唱しているが、そういう試みをしたのは彼が初めてである。彼こそが、動物全体を、進化の結果生まれてきたものとして示した、最初の人物なのである」[Mayr 1976, page 227]

現代社会で苦しめている糖尿病や心臓病、ガンなど、健康でしあわせな生活を断ち切ってしまう病はさまざまであるが、いずれも単一の遺伝子によって引き起こされるものではない。多数の遺伝子や種々の環境要因が相互に関係しあった結果、発症するのだ。

でも、新聞には、いろいろな病気の遺伝子が発見されたなんて大見出しがよく出ているじゃないか、と思う方もおられるだろう。だが、派手な見出しを鵜呑みにするのは禁物だ。記事をよく読めば、真実はもっと地味だとわかる。科学者たちは、数多くの遺伝子を数多くの病気や人間の数多くの性質と関係づけているだけだ。たった一つの遺伝子が、ある病気を引き起こすという事例が見つかるのは、たいへん稀なことなのだ。人間の疾患に関していえば、遺伝子の異常だけで発症するものは、人間がかかる病気全体のなかで、わずかに2%ほどしかない[Strohman 2003]。

メディアの報道では「関係する」と「引き起こす」という語を正確に用いていないことが多く、これがまた混乱を助長している。何かが、ある病気に関係するからといって、それが必ずしもその病気を引き起こす原因になるわけではない。

「引き起こす」というのはつまり命令を出し、コントロールするということだ。たとえば、いまわたしがキーを取り出して、「このキーが車をコントロールする」と言ったとしよう。そのキーがなければイグニッションをオンにできないのだから、「コントロール」といっても筋は通るかもしれない。だが、実際問題として、キーが車を「コントロール」するのだろうか? もしそうだとしたら、うっかり差しっぱなしにしたが最後、ちょっと目を離したすきに、キーが勝手に車をひとっ走りさせてしまう、なんてことになる。実際は、キーは車のコントロールに「関係する」だけであり、車をコントロールするのはキーを差し込んで回す人間だ。

これと同じように、遺伝子の中には生物の行動や性質に関係しているものがあるが、こういった遺伝子はほかの何かがスイッチを入れて、初めて働き始めるのだ。

では、いったい何が遺伝子のスイッチを入れるのだろう? 解答は、1990年にナイハウトが発表した「発生における遺伝子の隠喩と役割」という論文に説き明かされている[Nijhout 1990]。彼によれば、遺伝子が生物をコントロールしているという考え方は、真実ではなく仮説にすぎない。ところがこの考えが長きにわたって繰り返し唱えられてきたために、科学者たちはこれが単なる仮説だということを失念しまったのだ。この仮定はいまだかつて証明されていないどころか、近年この仮定を揺るがす研究成果が発表されているのだ。

ナイハウトは、遺伝子によるコントロールは現代社会という言葉の隠喩になっている、と論じている。つまり遺伝子工学技術を用いれば、数々の病気は魔法のように治療でき、さらには何人ものアインシュタインやモーツアルトをつくりだすのも自由自在である。わたしたちはそのように信じたいのだ。だが、隠喩は隠喩であって、科学的な真実とイコールではない。

では何がいったい真実なのか。ナイハウトは簡潔に要約している。「ある遺伝子の産物が必要になったとしても、その遺伝子発現のスイッチを入れるのは環境からの信号である。遺伝子が自分自身でスイッチを入れる資質を持っているわけではない」。つまり、遺伝子のコントロールについては「環境こそが問題なのだ」というフレーズがぴったりとあてはまる。

人間の身体は“タンパク質の機械”

●有機化学が明らかにしたところによれば、細胞を構成しているのは四種類の高分子―多糖類、脂質、核酸(DNAとRNA)、そしてタンパク質―だ。どれも細胞にとってなくてはならないものだが、なかでもタンパク質は生命体にとってきわめて大事な要素だ。わたしたちの細胞は、タンパク質がブロックのように積み重なって形づくられていると言ってよい。

おまけに、わたしたちの身体はどんな機械よりもずっと複雑だ。たとえば身体の中では、10万種類以上のタンパク質が働いている。これは一つとってみても、単純に機械だと言ってすますわけにはいかないのがわかるだろう。

さらに細胞内では10万個以上のタンパク質が働いている。では、このタンパク質はどんな構造をしているのか調べてみよう。それぞれのタンパク質は、アミノ酸が数珠つなぎになってできている。 ~中略~ 

アミノ酸がつながってできたタンパク質は、かなり融通がきくということにも注意していただきたい。おもちゃのネックレスは、きつく折り曲げると外れてしまうが、アミノ酸のつながりはそう簡単には外れない。たとえていうならヘビの背骨のようなものだ。ヘビの脊椎は、同じようなかたちをしたたくさんのパーツ(椎骨)がつながってできている。だからヘビは、まっすぐな状態から丸まったボール状まで、さまざまな形をとることができる。

タンパク質を構成するアミノ酸どうしはペプチド結合でつながっていて、ヘビの背骨と同じように、さまざまな形をとることができる。タンパク質の「背骨」にあたるのはアミノ酸の連なりで、アミノ酸は結合部で回転したり湾曲したりする。のたくったりくねったりする様は、まさにナノ(100万分の1ミリメートル)スケールのヘビと言ってもよいだろう。

タンパク質の背骨がどのような曲線を描くかは、二つの主な要因によって決定される(つまりこれらがタンパク質の形を決定することになる)。一つはアミノ酸の配列パターン。ポップビーズのように結合するアミノ酸は、種類によって形が異なるので、アミノ酸配列が異なれば、背骨の曲がり方も異なってくる。

もう一つは結合したアミノ酸どうしの電荷による相互作用。ほとんどのアミノ酸は正あるいは負の電荷を持っているが、これが磁石のように作用する。正と正、負と負の電荷は反発し合うが、正と負の電荷は引きつけ合う。

先に説明したように、アミノ酸どうしの結合部は回転したり曲がったりすることができるので、それぞれのアミノ酸がもつ正負の電荷にしたがって結合部が形を変え、その結果、タンパク質の背骨は自ずと特有の形をとることになる。

タンパク質の中には、多数のアミノ酸が結合してかなり長くなっているものもある。長い分子は「シャロペン」と呼ばれるタンパク質分子に助けてもらわないと、うまく折りたたみができない。正しく折りたたまれなければ、背骨に障害がある人と同じように、うまく機能できない。だがよくしたもので、異常な形のタンパク質は細胞内で分解される。背骨となるアミノ酸の鎖はばらばらにされ、また別のタンパク質を合成する材料として使い回される。

タンパク質は歯車のように組み合わさって働く

生命の本質を理解しようとするなら、まずは、タンパク質という一種の“機械”がどうやって動くのかを理解しなければならない。

タンパク質分子は最終的に、ある立体構造をとる(これは「コンフォメーション」と呼ぶ)。このとき、“背骨”を構成するアミノ酸の電荷や磁場は安定した状態になっている。もしタンパク質内の電荷が変化すると、新しい電荷に合わせて、タンパク質の“背骨”は自ずと大きく曲がって変形し、再び安定状態になる。

たとえば、“背骨”を構成するアミノ酸にホルモンなど他の分子が結合したり、酵素の働きで電荷をもつイオンが付加されたり、あるいは奪われたりすると、タンパク質分子内の電荷の状態は変化する。また、携帯電話など、外部から電磁場への干渉があった場合などにも電荷の状態には変化がみられる[Tsong 1989]。

このように、タンパク質は形を変えることができ、見事な工学的特徴をもつことになる。タンパク質にはそれぞれ特有の立体構造があり、立体的にぴったりと合う分子どうしは結合することが可能だ。

形態的かつエネルギー的に相補的な分子とタンパク質が出合うと、あたかも精密な歯車どうしが噛み合うように、両者はがっちりと結合する。 

「思考のすごい力」
さまざまなタンパク質

 

画像出展:「思考のすごい力」

上の図をよく見ていただきたい。図には5個のタンパク質分子を示した。それぞれが異なる形をしている。これらはいずれも、実際に細胞内で働いている分子“歯車”だ。これらの生体「歯車」のエッジは、人工的な歯車ほどシャープではない。だが、それぞれ特有の立体構造をもっているので、形が合う分子があれば、がっちり結合しそうだと想像できる。 

左の三つの図では、ねじ巻き時計の部品を使って、細胞内の歯車が動く様子を示す。一番上の図は時計の歯車、バネ、軸受けなど、金属製の機械の部品だ。歯車Aの回転が歯車Bに伝わり、さらに歯車Cが回転する。

中段の図では、人工的な機械の歯車の上に、エッジのソフトな生体分子を重ねてみた(何百万倍にも拡大し、時計のサイズに合わせてある)。これで、タンパク質が時計のメカニズムと同じような働きをすることがわかりやすくなると思う。この「金属・タンパク質の機械」モデルで、たとえばタンパク質1の回転によりタンパク質2が回り、その結果タンパク質3が動く、といったように連動していると想像していただけるだろうか。

細胞内には、このようにタンパク質分子がいくつも組み合わさった装置が、何千個も入っている(訳註:この図に示されたタンパク質1、2、3は別々の働きに関わるタンパク質で、この三つが実際に連動して働くわけではない。また、タンパク質分子の中には回転するものもあるが、回転しないものも多い。あくまで、タンパク質分子が機械の部品のように連動して働くイメージをつかむための図である)。

細胞質中のタンパク質は、グループをつくって互いに協力し、特有の生理的機能を果たしているが、これを「パスウェイ」という。たとえば、呼吸に関するパスウェイ、消化に関するパスウェイ、筋収縮に関するパスウェイなどがある。

細胞内でエネルギーを生産しているのはクレブス回路(訳註:クエン酸回路、TCA回路ともいう)というパスウェイだ。多数のタンパク質分子が関係するきわめて複雑な化学反応系で、全部を記憶するのはひと仕事であり、多くの学生たちが泣かされている。

タンパク質が機械の部品のように組み合わさって働く、ということを見いだしたとき、細胞生物学者たちがどれほど興奮したことか! 細胞は、タンパク質を部品とする機械を利用して、それぞれの代謝機能や行動機能を行っている。細胞の中ではタンパク質分子が常に立体構造を変化(変化は1秒間に何千回も起こる)させているが、この構造変化こそが、生命を推進する動きなのだ。

「DNAボス仮説」はなぜ生まれたか

●前項では、DNAについて全然触れなかったが、それは、タンパク質は電荷の変化に応じて行動を開始するので、それにDNAは関与していないからだ。だが、遺伝子が生物学的現象を「コントロール」しているという考え方は一般的に広まっているし、よく引き合いにも出される。この考え方はいったいどうやって生じたのだろうか?

【種の起源】の中で、ダーウィンは「遺伝的な(hereditary)」因子が世代から世代へと引き継がれることにより、生まれてくる子どもの形質がコントロールされるのではないか、と示唆している。ダーウィンの影響はとてつもなく大きなものだったので、科学者たちは近視眼的に遺伝物質の探求に走ってしまい、遺伝物質こそが生命をコントロールする、と信じてしまったのだ(訳註:ダーウィンの時代には、遺伝のメカニズムについてはまだほとんどわかっていなかった。【種の起源】が出版されてから数年後、メンデルが「遺伝の法則」を発表したが、この法則は1900年に再発見されるまで、生物学界からほとんど無視されていた)。

1910年、顕微鏡を用いた詳細な研究の結果、染色体の中に、世代から世代へと受け渡される遺伝情報が含まれていることが明らかになった。染色体は、細胞が分裂して二つの「娘(ジョウ)」細胞になる前に、細胞内にはっきり現れてくる糸状の構造物だが、細胞分裂によってそれぞれの娘細胞に分配され、最も大きな細胞小器官である核内に収められる。

科学者たちは細胞から核をとりだし、染色体を分析してみた。その結果、遺伝に関するこの構造物は、タンパク質とDNAという二種類の物質だけで構成されていることがわかった。まだ詳細は不明だったが、タンパク質という生命の機械は染色体に含まれる分子の構造や機能に深く関係しているらしい、と判明したのだ。

染色体の機能に関する理解が一歩進んだのは、1944年のことだった。この年、遺伝情報を有しているのはDNAだと証明されたのだ[Avery, et al, 1944; Lederberg 1994]。そして、あざやかな実験により、DNAが選び出された。

まず、ある種のバクテリアから核を抽出する。このバクテリアを仮にタイプAと呼ぼう。次に、タイプAからDNAだけを取り出して、タイプBの培地に加える。やがて、タイプBのバクテリアは、タイプAだけにしかなかった性質を示すようになる。

こうして、DNAさえあれば遺伝形質が受け渡されるとわかって以来、DNA分子は科学界のスーパースターとなった。

さて続いてワトソンとクリックが登場して、スーパースターの構造と機能を明らかにする。DNA分子は長い糸状で、「塩基」と呼ばれる窒素化合物を含む(訳註:DNAの構成単位はヌクレオチドで、ヌクレオチドは塩基・デオキシリボース・リン酸が結合したもの)。塩基にはアデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)の四種類がある。

ワトソンとクリックの発見したDNAの構造からは、A、T、C、Gという塩