不整脈と薬2

不整脈治療薬ファイル 
不整脈治療薬ファイル 

著者:村川裕二

出版:メディカル・サイエンス・インターナショナル

初版発行:2010年9月

目次は”不整脈と薬1”を参照ください。

 

Part3 抗不整脈薬のアウトライン

11 抗不整脈とはつまり何か?

「抗不整脈薬の薬理学はどうもわかりにくくて、嫌になる」というのはまともな感覚。なかなか頭の中が整理できない。

抗不整脈薬とはNa⁺チャネル遮断作用を中心において、これにおまけの性質がプラスされていると考えればよい。

Key Point

1)抗不整脈薬=Na⁺チャネル遮断作用+α

□Na⁺チャネルは心筋伝導をつかさどる。ほとんどの抗不整脈薬が心筋の伝導を抑制する。

□Na⁺チャネル遮断作用以外のプラスアルファの性質には、主なものとして3種類ある。

●K⁺電流遮断作用(APD延長)

●カルシウム拮抗作用

●β遮断作用

□これらの3つの作用は伝導を抑える点ではNa⁺チャネル遮断作用と似ている。K⁺チャネル遮断作用はAPD[活動電位持続時間]長くして、不応期も延長するので、興奮を受け入れられるようになる時間が遅くなる。

□カルシウム拮抗作用はCa²⁺電流に依存した領域での伝導性を低くする。例えば洞結節と心房間、および房室結節。

□β遮断作用は交感神経活動に依存したチャネルをブロックして心筋の伝導性を落とす。房室結節などCa²⁺電流に依存した心筋は、健康な心臓に比べて自律神経への依存性が高い。

□Na⁺チャネル遮断作用以外も伝導を邪魔して頻拍を治療する。

Key Point

1)Na⁺チャネル遮断作用も付随的な作用も、伝導性を修飾して抗不整脈薬効果を発揮する。

不整脈の発生機序
不整脈の発生機序

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』

・正常では洞結節がペースメーカとなり、洞調律(正常な心拍のリズム)を形成する。

不整脈は刺激伝導系から固有心筋への興奮伝導の異常や興奮発生の異常によって発生する。

左図の上段

1.洞結節-指令を出す(社長)

2.刺激伝導系-指令を伝える(中間管理職)

3.心房筋・心室筋-動く(社員)

左図の下段

・刺激生成異常、刺激伝導異常の原因は社長、中間管理職、社員のいずれかの問題と考えられる。

 

 

不整脈治療の概要
不整脈治療の概要

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』

不整脈の治療は不整脈の停止と再発予防に大別される。

・軽症例は経過観察 の場合もある。

・不整脈を引き起こす基礎疾患の治療もあわせて行う。

12 抗不整脈の分類:Vaughan-Williams分類はまだ生きている

□抗不整脈薬の分類としては、Vaughan-Williams(ボーン-ウィリアムス)の分類が基本。

Vaughan-Williams分類
Vaughan-Williams分類

画像出展:『不整脈治療ファイル』

 

これはNa⁺チャネル遮断作用とAPD(活動電位持続時間)への作用の2点に注目した分類である。また、APDの延長はほとんどがK⁺チャネル遮断作用による。

●Na⁺チャネルの遮断……伝導の抑制

●K⁺電流の抑制……APDの延長≒不応期の延長

□APDの延長は心筋の不応期(興奮した後に興奮性が失われる時間、つまり刺激への反応性が低下している期間)の延長をもたらす。

□基本的にNa⁺チャネル遮断薬は、Vaughan-Williams分類ではⅠ群薬に入り、他の電流との兼ね合いからⅠa、Ⅰb、Ⅰcのサブタイプに分かれる。

□多くの新薬が加わったため、1990年より電気生理学的な新知見を盛り込んだ新しい分類、薬剤の性質を詳細に列挙した、Sicilian Gambitの分類が提唱された。

Sicilian Gambit分類
Sicilian Gambit分類

画像出展:『不整脈治療ファイル』

 

Sicilian Gambit分類
Sicilian Gambit分類

画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』

 

こちらは『病気がみえる vol.2 循環器』の表ですが、”Vaughan-Williams分類”と”Sicilian Gambit分類”の対比ができてとても親切な表です。これを見て分かったことを整理します。

1.村川先生の教え(不整脈薬は”イオンチャネル””それ以外”に分ける)に従うと、

1aイオンチャンネル遮断薬は3種類ある。Na⁺チャネル(Ⅰx群薬)、Ca²⁺チャネル(Ⅳ群薬)、K⁺チャネル(Ⅲ群薬)である。

1b)いずれの遮断薬も遮断作用には、”高”、”中等”、”低”という違いを有する。

2a)Na⁺チャネル遮断薬は、結合・解離の速さに関しては、”速”・”中等”・”遅”に分けられる。

2b)Na⁺チャネル遮断薬は、”活性化チャネル”を狙ったものと”不活性化チャネル”を狙った物に分けられる。

3a)村川先生の”それ以外”に該当する薬は、”受容体”にはたらきかけるものであり、最も多いのはβ受容体をターゲットするもの(β遮断薬)であるが、β以外には、α受容体、M₂[ムスカリン]受容体、A₁[アドレナリン]受容体がある。

3b)受容体以外には、”ポンプ”(Na⁺、K⁺、ATPase)と”作動薬(刺激作用)”がある。

13 たくさんあるⅠ群薬:どこが

Ⅰ群薬について、以下の3点について少し知っておきたい。

活性化チャネルブロッカーと不活性化チャネルブロッカー

Na⁺チャネルとの結合・解離の速さの差

Na⁺チャネル以外のイオンチャネルへの作用

□Cast study[心筋梗塞発症後の無症候性あるいは軽い症候性の心室期外収縮、非持続性心室頻拍症例において、抗不整脈薬治療によって不整脈を抑制することが、抗不整脈薬治療によって不整脈死を低下させるか否かを検討する]で、心筋梗塞後にⅠ群薬を使うと予後が示された。拡張型心筋症や中等度以上の弁膜症でも、それなりの心筋障害があればⅠ群薬はマイナスになると思われている。

Key Point

1)器質的背景があるときにⅠ群薬を使うと予後を悪化させかねない。積極的に用いられなくなった。

□Ⅰ群薬の使い方で最初に覚えることは、リドカインとメキシレチンは心室の不整脈にのみ有効で、これ以外のⅠ群薬は上室性不整脈と心室不整脈の両方に有効性が期待されるということ。

Ⅰ群薬の使いどき

□Ⅰ群薬を使う状況として多いのは

●一部の症状の強い期外収縮

●発作性心房細動(PAF)で洞調律を狙うとき

●発作性上室頻拍

□Ⅰ群薬は一般的に、期外収縮30%、発作性心房細動15%、発作性上室頻拍20%。

14 チャネルに統合するタイミング:活性化チャネルブロッカーと不活性チャネルブロッカー

□Ⅰ群薬は活性化状態のチャネルと不活性化状態のチャネルへの親和性の差によって、活性化チャネルブロッカーと不活性化チャネルブロッカーに分けられる。

□活性化したチャネルはあっという間に不活性化状態になる。

Na⁺チャネルが開くのは膜電位がちょっと浅く(-90mVから-70mVに)なったときに開口するゲートがあるからだ。このゲートは開いた後(活性化)はパッと閉じることができないので、別な位置にもう一つゲートを準備して、そこで素早く蓋をする(ここが不活性化)。どうしてこうなっているかというと、ごく短時間に大量のNa⁺を取り込みたいが、際限なくNa⁺が細胞内に流れ込まないようにしたいという理由による。開くゲートと蓋をするゲートの分業にすることでメリハリが生まれる。

□Ⅰa群薬は活性化チャネルブロッカーであり、おもに活性化状態のNa⁺チャネルに結合する。

□Na⁺チャネルと結合するタイミングにはどんな意味があるのか。

●心房は心室よりAPDが短い。そのため、心房では不活性化チャネルブロッカー(リドカイン、メキシレチン、アプリジン)がチャネルと結合できる時間は短い。つまり、不活性化チャネルブロッカーはAPDが短い心房には作用しにくい。これに対し、活性化チャネルブロッカーは心房、心室いずれにもNa⁺チャネルを有効にブロックできるので、両方の不整脈に対しても効果を現しやすい。

Key Point

1)不活性化チャネルブロッカーは心房の不整脈に効きにくいが、活性化チャネルブロッカーは心房・心室いずれの不整脈にも有効というのが基本。

15 さっぱり系としつこい系、粘り強さが違う:Na⁺チャネルとの結合・解離

□Na⁺チャネルとの結合と解離の速さも薬剤を分類する要素になるⅠa群薬はⅠb群薬に比べ結合がゆっくりしており、離れるのも遅い。

●「スッポンみたいに噛み付いたら放さない」のか、「とりあえず噛み付いてもすぐに放す」のか……という差。

□Na⁺チャネル遮断後の回復時定数は0.19秒のリドカインと43.0秒のジソプラミドでは約20倍もの差がある。

□結合・解離が遅い薬剤では洞調律[洞結節で発生した興奮が刺激伝導系を介して心臓全体に正しく伝わっている状態]でも興奮伝播は抑制されるのでQRS幅は拡大する。一方、結合・解離が速い薬剤では洞調律下のQRS幅は正常のままである。

Key Point

1)Na⁺チャネルとの結合・解離が遅い薬剤では洞調律でもQRS幅が広がる。

□不活性化チャネルブロッカーは心房には作用しにくい。しかし、リドカインやメキシレチンよりも結合・解離が遅いアプリジン(中間型)は、心房細動の治療薬として使える。不整脈薬の特徴である遮断作用の強さと、結合・解離の速さの組み合わせにより、それぞれの薬剤の作用は微妙に異なる。

16 ここから始まったⅠ群薬の古典派:Ⅰa群薬

□Ⅰa群薬はAPD(活動電位持続時間)を延長するものだが、これは主にⅠa群薬がK⁺チャネルを少し遮断することによる。

K⁺チャネルには、膜電位への依存性、開口を促す物質の差異、あるいは不活性化の時間経過などに基づいて、いろいろなタイプがある。それぞれの薬剤が作用するK⁺チャネルは多彩だが、ターゲットになるのはIkr電流(遅延整流K⁺電流のうち速い成分)である。

抗不整脈薬といえば、かつてはⅠa群しかなかった。まずは、キニジンとプロカインアミドが世に出て、1980年あたりからジソピラミド、シベンゾリン、ピルメノールなどが登場した。(現在、キニジンと経口のプロカインアミドの使命は終わった。キニジンは“キニジン失神”と呼ばれる副作用がある。一方、静注のプロカインアミド[アミサリン]は使いやすく、今後も使われ続ける)

□実際の使用頻度も考慮しながら薬剤を列挙すると次のようになる。

●使える経口薬:ジソピラミド、シベンゾリン、ピルメノール

●使える静注薬:プロカインアミド、ジソピラミド、シベンゾリン

Ⅰa群薬の個性と使い分け

□ジソピラミド(リスモダン)

●代表的なⅠ群薬。本当に使える抗不整脈薬としては最初のもの。300㎎/日の常用量を超えて使うことは勧めない。

●陰性変力作用[心筋の収縮力を下げる作用]と催不整脈作用[薬による不整脈の増悪や新たな不整脈の発生]はちゃんとある。薬理面ではそれなりにハードな薬剤だが、使用経験が長いのでまだ使われている。

●抗コリン作用は強い。尿閉も生じる。

□シベンゾリン(シベノール)

●不整脈専門医は比較的好んで使う。ジソピラミドとどこが違うのか決定的な差はピンとこない。

●陰性変力作用と催不整脈作用もジソピラミドと似ている。

●抗コリン作用はやや弱い。抗コリン作用のメカニズムは、ジソピラミドはムスカリン受容体を刺激するが、シベンゾリンはIKAchを抑制する。

□ピルメノール(ピメノール)

●かなり優れた薬剤だが、使用されることが少ない。今も昔も抗不整脈薬は製薬会社にとっては、あまり儲かるものではない。

□ジソピラミド、シベンゾリン、ピルメノールにはいずれも抗コリン作用がある。ただし、抗コリン作用を発揮するメカニズムは同じではないし、その強さも異なる。

17 Ⅰ群薬のマイルドタイプ:Ⅰb群薬

□Ⅰb群薬はリドカイン(キシロカイン)、メキシレチン(メキシチール)のほかにアプリンジン(アスペノン)も含まれる。いずれも不活性化チャネルブロッカー(おもに不活性化チャネルをブロックするが、活性化状態のチャネルにもいくらか結合する)であるが、結合・解離の時定数が長いアプリンジンだけは例外的に心房筋への効果を有する。

Key Point

1)Ⅰb群薬でもアプリンジンのみは心房の不整脈に有効。

□アプリンジンは使いやすく有用な不整脈薬である。

□Ⅰb群薬はNa⁺チャネル遮断作用に加えて、APDを短縮するという性格をもつ。

□Ⅰb群薬は催不整脈作用によるtorsades de pointes[トルサード・ド・ポアント:心室性頻拍の一種。心臓のポンプ機能を著しく低下させ、アダムスストークス発作や心室粗細動へ移行し突然死を招くことがある予後不良の不整脈である]は起きにくい。

□リドカインとメキシレチンは、有効性や副作用の面で違いを明確にすることは困難で使い分けのが難しい。

18 ホントは使いやすい:Ⅰc群薬

□Ⅰc群薬としてフレカイニド、プロパフェノン、ピルジカイニドはNa⁺チャネルとの結合・解離は緩徐であり、作用も強い。

□すべて活性化チャネルブロッカーであり、心房と心室のいずれの不整脈にも有効。

□Ⅰc群薬はAPDの変化はほとんどない。

□フレカイニドはK⁺チャネルへの影響を有するが、ピルジカイニドは純粋なNa⁺チャネルの遮断薬である。プロパフェノンはβ遮断作用をもつことが特徴。

Ⅰc群薬の個性と使い分け

□ピルジカイニド(サンリズム)

●純粋なNa⁺チャネル遮断薬。シンプルさが売り物。使いやすい。

●普通の量であれば安心して使える薬、ただし、腎不全、心不全でないという条件つき。

●半減期が4時間程度と短いので、1日3回では手薄になる時間帯が出てくる。

●陰性変力作用はあるが比較的マイルドと考えられている。

ほぼ100%腎排泄なので、腎機能低下があれば使わない。

循環器を専門としない医師にとって第1選択にしやすい薬だが、血中濃度が高くなれば心室粗動が生じることがあるので、常用量で使う。

□プロパフェノン(プロノン)

●β遮断作用をもつ。わざわざβ遮断薬を併用するほどではないが、ちょっと房室伝導を抑えたいときなどに意識して選択できる。β遮断作用はあまり強くない。

●欧米ではかなり普及しており、論文も多い。

□フレカイニド(タンボコール)

●有効性が高い。心房細動に使われる。

●半減期が11時間と長い。

19 脇役なのに出番は多い:Ⅱ群薬(β遮断薬[β受容体のみを遮断する薬]

□β遮断薬は第Ⅱ群に属し、対象となるのは交感神経活動が関与する不整脈。

□β遮断薬は不整脈治療において主役ではないがよく頻繁に使われる影の実力者。使用例は次の通り。

●カテコラミンや交感神経依存型の不整脈、例えば運動誘発型VT(心室頻拍)や先天性QT延長症候群のtorsades de pointes抑制を目的とした本格的な使い方。

●器質的な背景が明らかでない洞頻脈[心臓の脈が速い状態]の症状緩和のために使用。

神経調節性失神で洞停止[洞結節が一時的に活動を停止する現象、数分間にわたるような停止になるとめまいや失神をきたすことがある]を予防。 

神経調整性失神
神経調整性失神

画像出展:「日本心臓財団

神経調節性失神はどういう病気ですか

神経調節性失神は、排尿、咳嗽、嚥下、食後などの特定の状況で発症する状況失神、恐怖、疼痛、驚愕など情動ストレスにより惹起される情動失神、および血管迷走神経反射による失神を総称する概念とされています(図)。』 

●房室伝導を抑制して心房細動や心房粗動の心室レートをコントロールする。

□陳旧性心筋梗塞のVT(心室頻拍)や心不全がらみの心室細動の予防にもβ遮断薬は有効である。これは心不全の緩和を介した不整脈の治療になる。

□β遮断薬は心筋細胞のカルシウムハンドリングを改善し、心不全の進行を抑える。これは遅延後脱分極に伴う心室不整脈を抑制することになり、重篤な不整脈を生じにくくする。β遮断薬は生命に関わる不整脈を治療できる。

Ⅱ群薬の個性と使い分け

□使用目的によって投与回数の異なるものを使う。

●頓用あるいは継続治療でも、導入時にはプロプラノロール(インデラル)が使いやすい。早く効いて、早く消える。

●1日2回投与の抗不整脈薬と併用する場合や、覚醒時にきちんと効果を維持したいなら、セロケンのような1日2回投与のものが使いやすい。

●高血圧治療も兼ねてなら、ビソプロロール(メインテート)やアテノロール(テノーミン)が使われる。

□メインテートは脂溶性でじんわり身体にしみこんでくる。血中濃度が低いときでも、それなりの薬効が維持できる。

□器質的背景がないなら、どのβ遮断薬でもよいが、陳旧性心筋梗塞や心不全があれば、メインテートかアーチストを使った方がよい。

20 なんといっても最後はコレ:Ⅲ群薬

□Ⅲ群はK⁺チャネルの抑制によるAPD延長が主な作用である。

個性派ぞろいのⅢ群薬の使い分け

□国内

●経口と静注のアミオダロン(アンカロン)

●経口のソタロール(ソタコール)

●静注の塩酸ニフェカラント(シンビット)

□国産のニフェカラントは重症心室不整脈のコントロールに活躍してきた。

アミオダロンは抗不整脈薬のなかでも、かなり特異な薬剤

●APD延長に働くK⁺チャネルの遮断作用のみならず、Na⁺チャネル、Ca²⁺チャネル、β受容体の遮断作用も備えている。

●アミオダロンはdirty drugと呼ばれている。

●Ⅰ群抗不整脈薬が無効の重篤な心室不整脈に対しても明らかに効果を発揮するし、予後改善効果も確立されている。

●ソタロールは「K⁺チャネル遮断作用+β遮断作用」をもつ。

●Ⅲ群薬は不整脈診療に経験のある医師によって用いられる。

21 兄弟じゃないのに:Ⅳ群薬

□カルシウム拮抗薬のうち心筋の伝導を抑制するベラパミル(ワソラン)とジルチアゼム(ヘルベッサー)などがⅣ群に属する。また、少し特徴の違うタイプとしてべプリジル(ベプリコール)がある。

□べプリジルは抗不整脈薬という性格を前面に押し出しており、Na⁺チャネル遮断作用やK⁺電流への影響もあることから、Ⅰ群薬かⅢ群薬と呼んでもおかしくない。

□Ca²⁺チャネルを経由したカルシウムの細胞内への流入は、心筋の収縮機転のひきがねとなる。また、心臓の構成要素のうち比較的遅い伝導を示す部位(例えば房室接合部の一部)において、Na⁺チャネルに代わって伝導の主体を担う。この性質のため、房室接合部やそれに似た伝導特性をもつ心筋が不整脈の発生と維持に含まれているとき、抗不整脈効果をもたない。

□同じカルシウム拮抗作用をもつ薬剤でも、ジヒドロピリジン系(ニフェジピンなど)は抗不整脈効果をもたない。この違いは、それぞれのカルシウム拮抗薬が作用するチャネル部位、それに応じた臓器(血管か心筋か)選択性とともに、使用依存性の程度による。

Ⅳ群の使い分け

●ベラパミルとジルチアゼムは房室伝導の抑制が主体

●べプリジルはⅠ群薬と似た使い方をする。

22 何も起きないわけがない:副作用

抗不整脈薬に特徴的な副作用は大きく2つに大別される。

心機能に対する副作用

催不整脈作用[薬による不整脈の増悪や新たな不整脈の発生]

抗不整脈薬の多くは陰性変力作用[心筋の収縮力を下げる作用]をもつため、心不全を誘発もしくは増悪させる可能性がある。Na⁺チャネルとCa²⁺チャネルを介するイオンの流入が心収縮の重要な機転であることから、心収縮力の低下傾向は回避し難い副作用である。

Key Point

1)同じ薬に属していても、陰性変力作用の強さは異なる。

副作用は薬剤独自のチャネル選択性や、β遮断作用の有無によるところが大きいが、臨床用量の設定も影響している。

□催不整脈作用とは、新たな不整脈薬の出現を招いたり、既存の不整脈の頻度や重症度を増悪させたりすることに加え、刺激伝導系の抑制による徐拍化も含まれる。

□torsades de pointesのような多形性心室頻拍は致死的となり、Ⅰa群薬とⅢ群薬とⅣ群のべプリジルが原因薬物となる。K⁺チャネル遮断による再分極遅延は後脱分極と呼ばれるあらたな脱分極を招き、これが不整脈源となって、torsades de pointesを出現させる。

□ジソピラミドやシベンゾリンは低血糖という独特な副作用を有する。

Key Point:

1)ジソピラミド、シベンゾリンの低血糖!

□低血糖はK⁺チャネル(ATP感受性K⁺チャネル)の遮断が膵臓のインスリン分泌を促進することによって生じる。

□Ⅰa群薬は中枢神経系への作用(ふらつきや複視)を生じることがあるが、患者自身は気がづかず、ちょっと変だなという程度なことが多い。

□抗コリン作用をもつジソピラミドでは、口渇や男性の排尿障害がたまにみられる。これははじめから予想して投薬する。

23 torsades de pointes が起きたら

※トルサード・ド・ポアント:心室性頻拍の一種。心臓のポンプ機能を著しく低下させ、アダムスストークス発作や心室粗細動へ移行し突然死を招くことがある予後不良の不整脈である。

□APD持続作用を有するⅠa群薬やⅢ群薬を投与中の患者に、著明なQT[心室の興奮の始まりから消退するまでの時間]延長とtorsades de pointesが出現することがある。

□Ⅰa群薬とⅢ群薬による催不整脈作用は用量依存性ではあるが、過量であることは必須条件ではない。むしろ、torsades de pointesに対し特にリスクの高い患者が存在する。以下がそのリスク要因。

高齢

女性

徐拍

器質的心疾患や電解質異常

腎機能や肝機能の低下など、血中濃度[血液中に含まれる薬の量]が上昇しやすい状況

Key Point

1)高齢女性ではQT延長作用のある薬剤の投与は避ける。

□抗不整脈薬でQT延長とtorsades de pointesが認められた場合

●薬剤の中止……QT延長作用のあるすべての薬剤

●電解質異常など増悪因子の改善

●徐脈が背景にあれば、一時的ペーシング[小さな電気パルスを発出して心収縮を生みだすこと]

●リドカイン(50~100㎎)

●マグネゾール(2gを2分で投与)

□『なお、薬剤の血中濃度を測っても解釈が難しい。個人的には利用していない。催不整脈作用は血中濃度により避けられるものではない。きわどい症例に抗不整脈薬を投与しないとか、常用量を超えて使わないなど、危険に近づかないという姿勢を勧める。

24 治療薬を選ぶ発想

抗不整脈薬の薬理作用を懸命に勉強しても、どの抗不整脈薬がベストな選択なのか判断は難しい。抗不整脈薬の薬理作用が明らかとなっていても、心房細動や心室頻拍では「どうして薬が不整脈を止めるのかというメカニズム」はどうも見えてこない。

これまで蓄積された情報を十分マスターしたとしても、未知の要因がたくさん残されている。不整脈の専門家でも「確信はないがとりあえず使ってみる」というパターンが多い。

陰性変力作用や催不整脈作用、あるいは薬物代謝の面で使いにくい薬剤を避けるという「消去法の発想」のほうが正直な道だと思う。

Key Point

1)病態と薬理を深く理解して確実な成功率……これは虚構。

2)使いにくい薬剤を除外して無理のない選択……手が届く。

心機能と腎機能が低下している高齢者で考慮するのは、

陰性変力作用が少なく、腎排泄でないという条件に加え、潜在的な徐脈性不整脈や催不整脈作用に注意。

若年で心機能も肝・腎機能も問題がないのなら、選択の幅は広くなる。最小限必要な知識は、

陰性変力作用の有無……Ⅰb群のアプリンジンとⅠc群のピルジカイニドは陰性変力作用が少ない。

代謝経路……ピルジカイニドが腎排泄。

催不整脈作用の多寡……Ⅰb群のアプリンジンとⅠc群薬にはQT延長に伴う催不整脈作用はない。

注意すべき副作用……ジソピラミドとシベンゾリンの低血糖、アプリンジンの肝障害。