概要
慢性関節炎には関節リウマチや変形性膝関節症があります。また、外傷としては、靭帯損傷、半月板損傷などがあげられます。骨に関わるものとしては、脛骨結節にみられ成長期に発症するオスグッド・シュラッテル病があり、骨壊死に関しては膝関節でもみられます。このように膝痛の原因はいろいろなものがあります。
ポイント
●丁寧な触診により、硬結、圧痛、異物感のような反応点を探します。
●治療は膝関節周辺に付着する筋、靭帯、関節包等の軟部組織の圧痛、硬結などの問題を取り除くことです。
●膝関節が十分に伸展できるようになることが重要です。
補足説明
鍼灸ができることは膝関節に関わる筋、靭帯等の軟部組織の硬さなどを取り除き、良い状態にして膝関節の完全伸展を可能にすることです。これにより、膝関節およびその働きを支える大腿四頭筋の筋力維持、向上が可能になり、また、筋肉を鍛えることは痛みの低減につながります。
膝痛治療基本パターン
触診
●膝蓋骨を中心に硬結、圧痛、異物感のような反応点を探し、圧痛が発生する圧の方向や深さを詳細に把握します。治療対象が広い(大きい)場合は、治療ポイントが見つかった時点でマークしておくのも良い方法です。
治療方針
●基本治療をベースに問題となる部位毎に治療内容を考え治療方針を固めます。
治療
●殿部、大腿・下腿の後面屈筋群を緩めることが初期治療として必要になります。
●筋肉の治療効果は、置鍼後に運動鍼を行うことで効果を高めることが可能です。
●膝の疼痛部位に関わらず、慢性化していれば膝蓋骨周縁部の硬結を取ることが重要です。これは大腿四頭筋や膝関節筋が膝蓋腱に集約されて付着し、また筋と骨という異なる組織の付着部になるのため、構造的に大きな負担がかかり、多くの場合、硬結が円弧を描いて形成されます。この硬結を取ることにより確かな改善を得ることが期待できます。
部位-膝関節前面上方部
●対象は大腿直筋、中間広筋、なお中間広筋は体格によって通常より長い鍼を使います。目的は膝蓋骨周辺部の硬結を取り除くことです。
部位-膝関節内側
●対象は内側広筋、鵞足筋群(薄筋、縫工筋、半腱様筋)。これらの筋の硬さは大腿動・静脈の絞扼を起こし、鵞足部の浮腫が長期間続く原因になります。鵞足部は薄筋、縫工筋、半腱様筋の各腱が重なり合い、かつ膝関節を越えて脛骨に付着するため、極めて可動性の高い膝運動により組織が微小な損傷を受けやすく浮腫などもそれによって発生します。内側広筋のトリガーポイントへの刺鍼は、触察して最も硬いと感じる方向か圧迫した時に最も圧痛が強い方向、もしくは関連痛が誘発される方向から刺鍼します。
※膝蓋支帯は内側は内側広筋、外側は外側広筋に起始し脛骨に付着する強靭な線 維束で、膝関節伸展機構の中の主要な張力伝達装置です。
部位-膝関節外側
●対象は外側広筋、腸脛靭帯。治療は触診により圧痛、硬結、トリガーポイントを意識して刺鍼点をみつけますが、腸脛靭帯は中央部の深層(裏側)が重要であり、仰臥位(あお向け)および腹臥位(うつ伏せ)で裏側を狙って刺入します。外側広筋は中央部より膝側で硬く圧痛が強いか関連痛が誘発される部位に対し、圧迫して圧痛が強く出る方向から刺入します。また、膝外側の痛みは小殿筋のトリガーポイントによる関連痛である可能性もあるので考慮します。なお、小殿筋は殿部の最下層にある筋なので、刺鍼には通常より長い鍼を使用します。
※腸脛靭帯は大腿筋膜の外側が著しく厚くなった部分です。後方は大腿二頭筋と の境であり、上方(体幹側)は大殿筋につながっています。前方は大腿筋膜張筋です。腸脛靭帯の緊張は大腿筋膜張筋と大殿筋によるものですが、その緊張は膝関節の安定性に関与しています。
部位-膝関節後面(膝窩部)
●対象は足底筋、膝窩筋、腓腹筋外側頭です。膝窩部の触診は構造上痛みが強いので注意が必要です。硬く圧痛が強いか関連痛が誘発される部位に圧痛や関連痛が強く出る方向から刺入します。
部位-膝蓋骨直下・脛骨粗面
●対象は大腿四頭筋(とりわけ大腿直筋)です。オスグッド・シュラッテル病では脛骨粗面が膨隆しますが、成長期における大腿四頭筋の使い過ぎが主な原因ですので、大腿四頭筋を緩め軟らかく良い状態にすることが予防になります。
メモ
●膝関節筋
大腿四頭筋の中の1つ、中間広筋の中央部深側から分岐し、滑膜が膝蓋骨と大腿骨の間に巻き込まれるのを防いでいる筋肉です。