今回のブログはこちらの専門誌からです。バックナンバーは販売完了となっていましたが、“医学専門ジャーナル・書籍の電子配信サービス”というサイトから論文単位での購入が可能だったため、2つの論文を入手することができました。
ブログは有償の論文に基づくものになるため、簡潔にお伝えする程度となっています。
画像出展:「医学専門ジャーナル・書籍の電子配信サービス」
『医学、看護、リハビリテーション、薬学などの分野を中心に、主要医学出版社12社の94誌を同一プラットフォームで利用できます。』
購入した論文は以下になります。
画像出展:「血液フロンティアvol.29 No.2」
画像出展:「血液フロンティアvol.29 No.2」
1.Muse細胞研究の最前線
こちらは、見ずらいのですが1枚の紙にまとめることにしました。上段2つのイラストは“Muse細胞研究の最前線”内のイラストとほぼいっしょですが、いずれもネット上で見つけたものです。左は“327635_1_En_3_Fig2_HTML”でネット検索して頂くと出てきます。右は“Muse細胞の点滴による慢性腎臓病の新しい治療法の可能性 ‐組織修復と機能回復をもたらす修復治療を目指して‐”の中にあったものを拝借しました。PDFの14枚資料の10ページめにあります。
2.腎不全におけるMuse細胞を用いた治療戦略
こちらは、腎臓病に対する幹細胞治療の現状、およびMuse細胞を用いた腎臓病治療の基礎実験と展望が紹介されています。
1)腎臓の構造と発生
・糸球体を形成する足細胞と尿細管の上皮細胞は障害を受けた際の両者の再生能は大きく異なる。尿細管上皮細胞は優れた再生能力があるため、尿細管障害はある程度回復可能である。一方、足細胞は成体ではほぼ再生しないため、足細胞が脱落するような糸球体の障害は回復しがたい。
2)腎臓の働き
・腎臓は、水分・電解質の調整や老廃物の排泄のみならず、ビタミン Dの活性化や造血ホルモンの産生などを行っている。
3)Muse細胞を用いた腎臓病治療
・尿細管は再生可能である。一方、糸球体が再生するためには足細胞の再生が鍵となる。外部からより多くの足細胞の progenitorを供給できれば、腎機能の回復ができる可能性がある。
4)Muse細胞投与による基礎実験
画像出展:「東北大学Press Release」
こちらは先にご紹介した“Muse細胞の点滴による慢性腎臓病の新しい治療法の可能性 ‐組織修復と機能回復をもたらす修復治療を目指して‐”になりますが、基礎実験については同じものです。(PDF14枚の資料です)
一方、“腎不全におけるMuse細胞を用いた治療戦略”の中に、再生できないとされている足細胞について、『足細胞が新生されている可能性』という大変興味深い記述を見つけましたので、そちらをご紹介させて頂きます。
・『近年、ヒト成体においても少数の足細胞が新生されている可能性が報告されている。糖尿病性腎症の患者で一部の壁側上皮細胞が足細胞の progenitorとなっている可能性が、また、性別の異なるドナーから腎移植を受けたレシピエントの腎臓に、レシピエント由来の足細胞が認められることから、腎外由来の progenitorが存在する可能性が示唆されている。ただし、いずれも腎機能を回復するには不十分である。』
このうち、前者(糖尿病性腎症)に関する論文は下記になります。なお、語学力的にも、腎臓の知識的にも力不足のためご説明することができません。ご紹介のみとなります。ご容赦ください。
画像出展:「PubMed Central® (PMC)」
Kidney Int. 2015 Nov; 88(5): 1099–1107.
”The phenotypes of podocytes and parietal epithelial cells may overlap in diabetic nephropathy”
付記1:S1P(スフィンゴシン1-リン酸)
再生、修復を担うMuse細胞には、傷害を知らせてくれる仕組みが必要です。その役目を担っているのが“S1P(スフィンゴシン1-リン酸)”になります。つまり、二人三脚、なくてはならないパートナーです。以下にご紹介させて頂いた北海道大学 生化学研究室(LABOLATORY OF BIOCHEMISTRY)さまのサイトにS1Pに関する詳しい説明が出ていました。
画像出展:「北海道大学 生化学研究室」
付記2:“再生医療トッピクス”
NPO法人再生医療推進センターさまのサイトです。ここでは、慢性腎臓病に関する情報とMuse細胞による臨床試験および基礎研究に関する情報が出ています。
No.45 再生医療トッピクス
画像出展:「NPO法人再生医療推進センター」
No.78 再生医療トッピクス
画像出展:「NPO法人再生医療推進センター」
付記3:TBS News
TBSさまのニュースサイトにMuse細胞に関する3分33秒の動画がありました。
【量子超越】(quantum supremacy)というのは、「量子コンピューターで従来のコンピューターにはできない計算をする」という意味の造語だそうです。
量子コンピューターが世界最速のスパコン(スーパーコンピュータ)を凌駕したという【量子超越】のニュースは、前々回のブログ“スマート・クリエイティブ”の中でご紹介しましたが、このGoogle の量子コンピューターのことは、日経サイエンスで特集されていました。
日経サイエンス 2020年2月号
出版:日経サイエンス
発行:2020年2月
量子コンピューターはたった53個の素子で世界最速のスパコンを超える計算を実行した。この計算能力を生かせるキラーアプリケーションの発見を目指して世界中で競争が始まっている。
画像出展:「日経サイエンス」
「前」世界最速のスパコン
米国立オークリッジ研究所にあるスパコン
サミット
・台数(ノード数):4608
・CPU数:9216
・メモリ:10PB(ペタバイト)
・ストレージ:250PB
・OS:Linux
2020年6月22日に富士通/理化学研究所の“富岳”が世界1位になったという発表がありました。
画像出展:「日本経済新聞」
性能比較
Google 社の量子コンピューター(53個の超電導量子ビット)
画像出展:「日経サイエンス」
チップの中身
量子コンピューターチップには、53個の超電導量子ビット(右)が格子状に並び、接続を制御する接続器でつながっている。1つ抜けているのは(上段中央の白いチップ)壊れて動作しなかったため。
この特集は技術的な解説が中心ですが、難解ということもあり、私の関心は“これからの見通し”と“量子コンピューターの扉を開けたのは誰か”という2点です。
前者は、「量子コンピューターが近い将来に世界を変えることはない。これは現在の量子コンピューターが計算できるのは特殊なものに限定されており、科学者や産業界が期待する実用的な計算ができるようになるかどうかは未知数である」ということでした。
東京大学の中村泰信先生は、『「今の延長で、2~3年のうちにおそらく200量子ビット程度まではいけると思う」』、とお話されています。
また、本誌には2つの視点から今後の課題が書かれています。
①『各ビットを制御するために必要な膨大な配線をどう処理するかが大規模化の課題になるという。よく巨大なシャンデリアのような量子コンピューターの写真を見かけることがあるが、あれは中心にある量子チップを冷やす冷凍機で、無数の金属線はそのチップの素子を制御する配線だ。』
②『エラーを訂正しながら計算が続けられる量子コンピューターを実現するにはあと20~30年かかると、研究者の多くはみている。それまではエラー耐性量子コンピューターを目指しつつ、エラー訂正できない小規模な量子コンピューター(これをNISQ[Noisy Intermediate-Scale Quantum device]と呼ぶ)で何か面白い計算ができないかを探索する研究が進むだろう。』
量子コンピューターは極めて興味深い技術革新ですが、まだまだツボミ、満開になるまでにはかなりの月日を要するようです。
画像出展:「日経サイエンス」
左はマルティニス教授(2017年12月、グーグル研究所)
後者の“誰が量子コンピューターの扉を開けたのか”という疑問は、オックスフォード大学の物理学教授、ディヴィッド・ドイッチュ(David Deutsch)先生というのが答えでした。日経サイエンスの記事の中にも誕生までの経緯に関するお話が出ていましたので、そちらをご紹介します。
・量子的に動作するコンピューターというアイデアが初めて注目を集めたのは1981年5月、IBMの計算機科学者ランダウア―(Rolf Landauer)が主催した「第1回物理と計算の国際会議」である。会議には著名な物理学者のファインマン(Richard Feynman)が招かれ、計算機による物理コミュニケーションについて講演した。そして「(量子力学以前の)古典力学を扱う解析はどれもうまくいかない。自然は古典力学では動いていないので、シミュレートするなら量子力学的にやるべきだ」と結論し、量子コンピューターの必要性を予言した。
・『ドイチュが1985年に量子コンピューターの動作を定式化した論文を出したときには、「反響はほとんどなかった」という。量子的な重さね合わせは今でこそ計算のリソースと捉えられているが、当時は量子力学を構成する理論上の枠組みだと思われていた。そんな実体のないものに情報を保存して計算するというのは突拍子もない話で、しばしば「幽霊を使って計算するコンピューター」と評された。
だが量子コンピューターの理論に関心を持つ人はじわじわと増えていった。1994年にベル研究所のシェア(Peter Shor、現マサチューセッツ工科大学)が量子コンピューターによって巣因数分解を桁違いの高速で解くアルゴリズムを提唱すると状況は一変し、大勢の研究者が流入して、第1次の量子コンピューターブームが起きた。』
※ご参考:量子論および「重さね合わせ」についての簡単な説明は、ブログ“スマート・クリエイティブ”の前半にあります。
・1982年ごろ、英オックスフォード大学のポスドク、ドイッチュ(David Deutsch)は、それまで数カ月にわたって進めてきた計算を終え、ひとつの結論にたどり着いた。今まさに理論を完成しつつある新しい計算機「量子コンピューター」は、まったく新しい計算をする。
『「それは特別な瞬間だった」とドイッチュは振り返る。「量子コンピューターの理論は、新しい計算の理論だとわかった」。
1985年7月、ドイッチュは量子コンピューターの理論を論文として発表し、その中でこう書いた。
「いつの日か量子コンピューターを作ることが技術的に可能になるかもしれない。おそらくは超電導回路の量子で」』
・34年後の2019年10月、グーグルの量子AIグループを率いるマルティニス(John Martinis)らが、超電導回路を使った量子コンピューターで、世界最速のスパコンで1万年かかる実験を200秒で実行したとNature誌に発表した。そしてこの劇的な加速によって「量子超越」が実験的に示されたと宣言した。
・マルティニスはカリフォルニア工科大学で行った講演でこう語った。「量子超越は、ソロバンから最先端のコンピューターまで、あらゆる計算機は同じクラスの計算をするという【拡張チャーチ・チューリングのテーゼ】への反論だ。量子コンピューターは、新しいクラスの計算をするデバイスなのだ」。ドイッチュの予想は30年余りを経て、マルティニスによって現実のものとなった。
※IBM社の反論:”Googleが世界で初めて実証した「量子超越性」にIBMが反論、量子コンピューターはシミュレートできるのか?” こちらはGigazineさまの記事になります。
※Google 社の計画:”米グーグルが量子コンピューターの野心的計画、10年以内に「万能」目指す” こちらは日経XTECHさまの記事になります。
画像出展:「Google Research」
こちらはGoogle Researchにあった”Quantum”というページです。左の絵は”The Question of Quantum Supremacy”につながります。また、”Quantum”のページには次のような説明が出ていました。『A research effort from Google AI that aims to build quantum processors and develop novel quantum algorithms to dramatically accelerate computational tasks for machine learning.』
卓越した才能をもったドイッチュ先生の著書の中に、「無限の始まり」という著名な本があることを知りました。
論外の難しさであるのは間違いなく、ページ数も600ページを超える大作のため買うつもりは全くなかったのですが、幸いにも、図書館に所蔵されていることを見つけました。
パラパラとページをめくっていると、400ページの“時間とは「もつれ」現象である”という見出しに続いて、量子コンピューターに関する記述がありました。ブログではその冒頭の部分をご紹介します。
著者:デイヴィッド・ドイッチュ
出版:合同出版
発行:2013年11月
こちらは原書です。発行は2012年1月でした。
『物理学における私の研究テーマのいくつかは、「量子コンピューター」の理論に関するものだ。量子コンピューターでは情報を伝える変数があの手この手で守られ、周囲ともつれを起こさないようになっている。そうすることで、情報の流れを単一の歴史に限定しない新たな計算モードが実現されている。あるタイプの量子計算では、同時に行われる膨大な数の異なる計算が互いに影響を及ぼし合い、ひいては一つの計算の結果に寄与する。このことは「量子並列性」と呼ばれている。
一般に、量子計算では情報の個々のビットを「キュービット(量子ビット)」と呼ばれる物理的物体で表す。キュービットを物理的に実現する方法はいくつもあるが、二つの不可欠な特徴をかならず備えている。一つは、個々のキュービットに離散的な二つの値のどちらかをとれる変数があること、もう一つは、キュービットをもつれから保護する特殊な措置―キュービットを絶対零度近くまで冷やすなど―が講じられていることだ。量子並列性を用いる典型的なアルゴリズムではまず、キュービットのいくつかで、情報を伝達する変数に両方の値を同時に獲得させる。ここで、キュービットをまとめて(たとえば)数を表す一時記憶(レジスター)と見なせば、レジスターとしてのさまざまな実在の数は、キュービット数の二乗という指数関数的な大きさになる。そして、一時的に古典的な計算が行われ、そのあいだに分化の波がほかのキュービットのいくつかへと広がる―だが、それ以上は広がらない。そうならないような措置が講じられているからだ。ゆえに、情報は膨大な数の自律的な歴史それぞれのなかで別個に処理される。最後に、影響を受けるすべてのキュービットが絡む干渉プロセスによって、数々の歴史に含まれる情報が単一の歴史にまとまる。中間段階の計算が存在し、情報はそこで計算されているため、先ほど議論した単純な干渉実験[多宇宙における情報の流れに関するもの]の場合とは違って、最終状態は初期状態と同じではなく、図13に示すように初期状態の関数となる。
画像出展:「無限の始まり」
宇宙船の乗組員は自分のドッペルゲンガー[分身]と情報を共有し、一つの関数を異なる入力に対して計算することによって大量の計算をやってのけたが、量子並列性を利用するアルゴリズムでもまさに同じことをする。だが、先ほどの架空の計算は、プロットに合わせていろいろ創作できる宇宙船の規則の制約しか受けなかったのに対し、量子コンピューターは量子干渉をつかさどる物理法則の制約を受ける。多宇宙の助けを借りて実行できるのは、決まったタイプの量子計算しかない。そしてそのタイプでは、最終結果に必要な情報を単一の歴史にまとめるうえで、たまたま量子干渉の数字が最適なのである。
この手法による計算では、わずか数百キュービットの量子コンピューターでも、観測可能な宇宙に存在する原子よりはるかに多い数の計算を並列に実行できる。本書の執筆時点[2011年頃]で製作されている量子コンピューターのキュービット数は10だ。この数の「拡張」は量子テクノロジーにとってたいへん難関だが、徐々に実現しつつある。』
ご参考:”量研(QST)における量子生命科学研究”
上記をクリック頂くと、量子科学技術開発機構さまの資料(PDF19枚)がダウンロードされます。図、写真、表などが多く含まれた親切な資料です。
付記:”量子技術にまい進する中国--第14次5カ年計画にみるその野望”
こちらは、2021年3月30日付のZDJapanさまの記事です。
『~中国はその中でも量子コミュニケーションに対する果敢な取り組みを続けており、さらなる加速に向かってまい進している。中国はその計画の目標の1つとして、古典的な通信テクノロジーに匹敵する長距離高速量子通信システムの開発を挙げている。~』
付記:”IBMが量子コンピューター分野の開発者認定資格をスタート--その背景と意義”
こちらは、2021年4月15日付のZDJapanさまの記事です。
『~この認定資格は、IBMの量子コンピューティング用ソフトウェア開発キット(SDK)である「Qiskit」を利用することにフォーカスしたものだ。QiskitはPythonスクリプトをベースとするオープンソースプラットフォームで、これを利用すれば、量子アルゴリズムの実験から、クラウドベースの量子デバイスでのコードの実行まで、量子コンピューターを使ったさまざまな実験を行うことができる。~』
付記:”グーグル、新たな量子コンピューター研究拠点「Quantum AI」キャンパス披露”
こちらは、2021年5月19日付のZDJapanさまの記事です。
『~Googleが新たに大規模な量子コンピューティング研究センターを開設したことを明らかにした。カリフォルニア州サンタバーバラにあり、数百人のスタッフを雇用する予定だ。このキャンパスには、Googleの最初の量子データセンター、量子ハードウェア研究ラボ、量子プロセッサーチップファブリケーション施設がある。すでに一部の研究者やエンジニアが働いているという。~』
付記:”NVIDIA、日本の量子研究向け ABCI-Q スーパーコンピューターを支援”
こちらは、2024年3月19日付のPRTIMESさまの記事です。
『~産業技術総合研究所 量⼦・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター 副センター長の堀部雅弘氏は次のように話しています。「ABCI-Q を通じて、日本の研究者は量子コンピューティングについてより深く知り、実用的なアプリケーションのテストおよび開発を加速できるようになるでしょう。NVIDIA CUDA-Q プラットフォームと NVIDIA H100 により、量子コンピューティング研究の新たなフロンティアを探求する科学者を支援します」~』
付記:”NVIDIA、高速化された量子古典コンピューティングのための 新システムを発表”
こちらは、2024年3月21日付のNVIDIA社からの発表です。
『~世界初の GPU アクセラレーテッド量子コンピューティング システムである NVIDIA DGX Quantum は、世界で最も強力なアクセラレーテッド コンピューティング プラットフォーム (NVIDIA Grace Hopper Superchip とCUDA Quantumオープンソース プログラミング モデルによって実現) と、世界で最も先進的な量子制御プラットフォームである Quantum MachinesによるOPX を組み合わせたものです。~』
付記:”Google が新しい量子チップ、エラー訂正のブレークスルー、ロードマップの詳細を発表” こちらは、2024年12月9日付のHPCwireさまの記事です。
『Google は本日、最新の量子チップである Willow (約 100 量子ビット) を発表しました。これは、この新しいチップで達成された 2 つの重要な成果と一致しています。それは、いわゆる量子エラー訂正しきい値の突破と、従来のコンピューティングに対する量子パフォーマンスの新しいベンチマークの記録です。Willow は、数週間前まで世界最速のスーパーコンピューターであった Frontier では10 兆年 (10 24 ) かかると Google が述べたベンチマークタスクを 5 分で実行しました。~』
血管内皮細胞に興味をもった理由は下記の図です。
この図はブログ「腎臓疾患における活性酸素」でご紹介した『抗酸化の科学』という本の中にあったものですが、ブログ「腎臓のはなし1」でもご紹介しているため、3度目の登場となります。
CKDとは“慢性腎臓病”のことです。初期のステージ1に書かれているのは、“糸球体・尿細管局所での炎症”です。そして、ステージ2は“糸球体内皮細胞障害”となっています。
画像出展:「抗酸化の科学」
一方、下記は初登場ですが、『病気がみえる vol.8 腎臓・泌尿器』から拝借したものです。このチャートを見る限り中段左側の“内皮細胞障害”は“糸球体高血圧”に伴って発生するものとされています。
なお、この図(腎障害の進行)を載せた理由は、右上上段の●と下部●に書かれている内容が気になったためです。
画像出展:「病気がみえる vol8 腎臓・泌尿器」
●『ある程度の腎機能低下に至った後、腎障害の慢性的な進行は、原因疾患にかかわらず共通の機序で不可逆性に進むと考えられており、この機序をfinal common pathwayとよぶ。』
⇒「ある程度の腎機能低下」の“ある程度”が不明確だが、この範囲であれば不可逆性ではなく、改善が期待できるということか?
●『final common pathwayの他に、尿細管周囲毛細血管の喪失などにより尿細管間質が慢性の低酸素状態に陥るために腎障害が進行する(慢性低酸素仮説)とも考えられている。』
⇒糸球体ではなく、尿細管周囲毛細血管の問題でもクレアチニン値やeGFR値は悪化するのか?また、この尿細管周囲毛細血管の問題も糸球体同様、不可逆的と考えられているのか?
画像出展:「病気がみえる vol8 腎臓・泌尿器」
右上の[腎血管の走行]を見ると、糸球体は“第1の毛細血管”であるのに対し、尿細管周囲毛細血管は”第2の毛細血管”となっています。
また、下の腎臓の部分拡大図中央に尿細管周囲毛細血管が出ています。
重箱の隅をつつくような粗探しをしている理由は、クレアチニン値がほぼ半減した症例が2例あり(1人は3.64→1.82、もう1人は3.50→1.86)、「本当に不可逆的なのだろうか?」という疑問を払拭できないためです。
このお二人は、生活習慣の改善に努められている以外は、他の治療等はされていないため鍼治療が改善に貢献したのは間違いないと考えています。
著者:島田和幸
出版:真興貿易(株)医書出版部
発行:2007年4月
今回、『血管内皮細胞をめぐる疾患』を拝読したのも、鍼治療の効果を裏づけるヒントが何か見つかるかもしれないという期待からです。
内容は極めて専門性が高く、消化できない内容でした。そこで、ブログは目次に続き、概要だけでも掴みたいため、“序”の大部分を書き出しました。そして、一番の関心事の“慢性腎疾患”については、理解のために、内容を吟味しながら箇条書きに整理していくということを行いました。
目次
序
基礎
1 血管内皮の構造
1.血管内皮細胞の一般的構造
2.様々な血管内皮細胞
2 血管新生と内皮前駆細胞
1.胎生期における血管新生
2.血管内皮前駆細胞の存在
3.血管内皮前駆細胞の動態
4.血管内皮前駆細胞の病態への関与とその治療応用
3 生理活性物質
ⅰ 血管収縮作動性物質
1.エンドセリン
2.アンジオテンシンⅡ
3.プロスタグランディンH₂(PGH₂)とトロンボキサンA₂(TXA₂)
ⅱ 内皮由来血管拡張物質
1.NO
2.内皮由来過分極因子 endothelium-derived hyperpolarizing factor(EDHF)
3.アドレノメデュリン
4.C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)
5.プロスタサイクリン
4 血管内皮細胞の傷害のメカニズム
1.NOとeNOS
2.血管内皮細胞におけるeNOS活性化の障害
3.酸化ストレスの亢進
5 血管内皮機能の測定法
1.血管内皮細胞の機能
2.ヒトにおける血管内皮機能評価法
3.内皮機能計測の今後
臨床
1 高血圧症
1.内皮機能障害と血管病変との関連
2.内皮機能障害とNO
3.内皮機能障害と酸化ストレスの関連
4.降圧薬と血管保護作用
2 高脂血症
1.粥状動脈硬化の病変
2.血管内皮細胞への単球・リンパ球の多段階の接着機構
3.粥状動脈硬化の病変部位に発現する接着分子
4.酸化LDLによる血管内皮細胞の機能障害
5.酸化LDLに対する受容体
6.血管内皮前駆細胞
3 糖尿病
1.プロテインキナーゼCの関与
2.Advanced glycation endproductsの関与
3.酸化ストレスの関与
4.インスリン抵抗性の関与
5.炎症の関与
4 肥満・メタボリック症候群
1.肥満・メタボリック症候群における血管内皮機能障害
2.メタボリック症候群における血管内皮機能障害発症機序
3.メタボリック症候群における血管内皮機能障害の治療
5 冠動脈疾患
1.冠動脈疾患のなりたち
2.冠動脈硬化巣の形成における血管内皮の役割
3.動脈硬化巣の進展
-動脈硬化性狭窄による狭心症の発症と動脈硬化巣の不安定化による急性冠症候群の発症-
4.血管内皮機能を改善することにより冠動脈疾患の発症を予防することはできるか?
6 慢性腎疾患
1.糸球体内皮細胞障害と腎障害機序
2.各種病態と糸球体内皮細胞障害
7 脳血管疾患
1.閉塞性脳血管障害と血管内皮細胞
2.出血性脳血管障害と血管内皮細胞
8 DIC
1.DICの血管内皮
2.DICとNO
3.eNOSの発現調節
4.eNOSからのスーパーオキシド産生
5.DICとCOガス
6.抗DIC薬と内皮細胞
9 膠原病
1.膠原病における止血凝固異常
2.全身性エリテマトーデス(SLE)における血管障害
3.抗リン脂質抗体症候群と血管障害
4.その他の膠原病と血管内皮障害
序
『血管内皮細胞の本格的な研究は、1970年以前に臍帯静脈の内面にトリプシン処理を施して血管内膜の1層の細胞を遊離し培養することに成功したことから始まる。これを開始したのは日本の研究者である。その後欧米の研究者によって細胞生化学的手法による内皮細胞の同定法が開発されて以降、血管内皮細胞の研究は飛躍的に前進した。内皮細胞の機能は、血液と血管壁を1層の細胞で隔てるのみに留まらないことがこの培養細胞を用いた研究によって次々に明らかになった。すなわち血小板凝集抑制作用や血管弛緩作用をもつプロスタサイクリンの生成、血管弛緩作用を有するNO[一酸化窒素]の遊離に関する発見は、後に両方ともノーベル賞が与えられた[前者は1982年ですが、物質はプロスタグランジン:PG(プロスタサイクリン:PGI2はプロスタグランジンの一つ)での受賞のようです。後者は1998年に受賞されています]。この事実によっても血管内皮細胞が生物科学の分野でいかに重要な位置を占めているかがわかる。その後、トロンボモジュリンが凝固系の抑制因子として、プラスミノーゲン活性因子(t-PA)およびその阻害因子(PAI-1)が線溶系の調節因子として、さらに日本人によってエンドセリンが内皮由来血管収縮因子として発見された。流血中の白血球を補足し結合させる因子として細胞表面付着分子(ELAM)が同定されて以降、様々な血管内皮細胞表面の細胞付着因子と白血球との相互反応の機序が解明された。まさに血管の生理的機能をマスターコントロールしている細胞、それが内皮細胞である。内皮細胞にはそれだけの機能を発揮できる分子機構が備わっている。同時に、毛細血管レベルまで含めると、血管内皮細胞の面積は肝臓などに匹敵する1つの臓器に例えられるくらい膨大なものになり、流血中の因子と血管表面の反応の広範な場を提供していることに今更ながら気づいたのである。
したがって内皮細胞がひとたび機能不全を起こすと、それは様々な疾患に結びつくことは容易に理解できる。最も端的な例は、冠動脈形成術の経験である。カテーテルで血管の内膜を障害してしまうと、血管はたちどころに血栓で覆われ動脈閉塞の危機にさらされることになる。内皮が修復されてはじめてその危機は去る。内膜表面は一見正常だが、もっと微妙な障害が内皮細胞に発生していることが様々な病態で明らかとなった。動脈硬化、それに関連する高脂血症、糖尿病、高血圧、心不全、喫煙、そして加齢が内皮機能不全を惹起する。ここで重要なことは、このような内皮機能不全は、このような病態が出現する前から検出されることである。すなわち動脈硬化性疾患発症のリスク因子はすなわち内皮機能不全のリスク因子でもあり、いかに血管の病態生理に内皮細胞が中心的役割を果たしているのかがわかる。内皮機能不全の原因もしくは促進因子として現在考えられている主要なものは「酸化ストレス」と「炎症反応」である。
内皮機能不全の病態生理の中心は、NO代謝の異常と考えられている。NO代謝に異常をきたすものとして、感染、放射線、化学療法などの他に動脈硬化そのものやその関連病態が知られている。現在はいまだ研究段階だが実際の臨床の場で内皮機能不全を評価する方法も種々考案されている。血流依存症の血管弛緩作用がNOによって維持されていることを利用した臨床検査が現在最も一般的である。測定する血管床は冠動脈、上腕動脈や細動脈レベルなど必ずしも病変局所に留まらない。前者は血管造影や超音波によって血管径の変化を測定する。後者は、プレティスモグラフィーなどで血流量の変化を測定する。血管内皮機能不全はびまん性に生じている全身的な現象であると考えられている。冠動脈疾患やハイリスク集団など様々な病態においてこのようにして測定された血管内皮機能が後の血管事故発生の予後と関連することが報告されている。血管内皮機能は、たいへん有益な情報をわれわれに与えてくれるはずであり、より一般的に測定評価できるシステムの開発が喫緊の課題である。
NO代謝を正常に保つ手段としては、運動、体重減少、食事療法などの生活習慣修正以外に種々の薬物療法も試みられている。L-アルギニン、N-アセチルシステイン、スタチン、ビタミンC、葉酸、アスピリン、エストロゲン、レニン-アンジオテンシン系阻害薬などがNO代謝を改善し内皮機能を正常化することにより心血管疾患の予後を改善することが報告されており、大いに期待されている。
本書は、現在わが国で最も活発にこの分野を研究している方々による「内皮細胞と疾患」をめぐる総説である。基礎研究者のみならず臨床家にとっても有益な内容になったと信じている。旧くて新しい内皮細胞の研究成果をアップデートすることの一助となれば幸いである。』
6 慢性腎疾患
●腎臓における血管内皮細胞としては糸球体内皮細胞が重要である。
●糸球体内皮細胞は糸球体の血管内腔を覆う1層の細胞で有窓構造をなし、糸球体基底膜の形成に関わっている。
●糸球体内皮細胞は血液中の種々のメディエーターや刺激により内皮細胞由来の様々な生理活性物質を放出し、メサンギウム細胞などの他の細胞と相互作用を生み出している。
●糸球体内皮細胞は相互作用を通じて、血管透過性、凝固線溶系、免疫機能、腎血行動態など多岐にわたる機能を有している。
画像出展:「血管内皮細胞をめぐる疾患」
1.糸球体内皮細胞障害と腎障害機序
●糸球体内皮細胞の障害には、白血球、炎症サイトカインや増殖因子、免疫複合体、血小板などに加えて腎血行動態などが複雑に関与している。
●NO(一酸化窒素)は内皮型NO合成酵素(eNOS:endothelial nitric oxide syntase)により産生される。
●NOは血管平滑筋拡張による腎内血行動態の調節作用や腎保護作用を有する。
●血管内皮細胞障害から糸球体障害に至るプロセス
画像出展:「血管内皮細胞をめぐる疾患」
“白血球活性化”(図右上)⇒【内皮細胞障害/活性化】
・細胞接着因子(ICM-1、P-セクレチンなど)が白血球を活性化する。
・炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1βなど)が白血球を活性化する。[ILはインターロイキン]
・糸球体内では糸球体上皮細胞が血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を産生して糸球体内皮細胞構造維持に関わっている。
・糸球体内ではメサンギウム細胞が肝細胞増殖因子(HGF)を産生して糸球体内皮細胞構造維持に関わっている。
【内皮細胞障害/活性化】⇒“eNOS”(図左中央)
・糸球体内皮細胞障害はeNOS(内皮型NO合成酵素)を低下させる。
・低下したeNOSは、凝固因子や血小板の活性化と相まって血栓形成や血管拡張機能不全の原因になる。
2.各種病態と糸球体内皮細胞障害
[1]糸球体腎炎
●内皮細胞障害により糸球体内では、基底膜陰性荷電の低下による蛋白尿が出現する。
●血栓形成増加や血管拡張障害による腎内血行不全が多くの腎疾患で惹起される。
●慢性腎疾患の進展には、活性酸素種、脂質、AGE(最終糖化蛋白)、サイトカインなどが複雑に関与している。
[2]腎不全
1)急性腎不全(ARF:acute renal failure)
●特に虚血性急性腎不全において血管内皮細胞障害が虚血性腎不全の病態進展に関わっている。
1.虚血性急性腎不全は、腎血流流量低下により初期には腎尿細管上皮細胞障害が生じる。
2.腎皮髄境界部や髄質外層部を中心に伴う低酸素状態および炎症反応持続的進行が起きる。
3.腎内微小循環の鬱滞や凝固系の活性化も伴う。
●虚血性障害は腎内血管内皮細胞の構造および機能障害を助長する。
●『最近では、虚血性ARF[急性腎不全]の治療戦略としてまだ実験段階ではあるが、内皮細胞障害を促進する凝固系因子および活性酸素種や接着因子を抑制する試みが始まっている。』
2)慢性腎不全(CRF:chronic renal failure)
●慢性腎不全は各種慢性腎疾患の進行により糸球体硬化病変増加により進展する。
●慢性腎不全は心血管疾患など、動脈硬化病変の合併リスク要因となる。
●慢性腎不全は病態の進展に血管病変が深く関わっている。
●慢性腎不全では慢性的な炎症反応が病変の進行や動脈硬化病変発症に関与する。
●『今後、CRF[慢性腎不全]の血管内皮機能障害を修飾する因子から治療への応用が期待される。』
[3]膠原病関連腎疾患
●『膠原病の合併症として腎病変は比較的多いが、本項ではいくつかの膠原病関連疾患における糸球体内皮機能障害を中心に述べる。』
1)ループス腎炎
●ループス腎炎は免疫複合体が糸球体内皮細胞下腔に沈着し、糸球体基底膜からの剥離をきたす。
●管内増殖性糸球体腎炎像を呈する時は、好中球、単球、リンパ球の内皮細胞への浸潤をきたし、糸球体内皮細胞は腫大や糸球体基底膜からの剥離を生じる。
●糸球体内皮機能障害の機序として、免疫複合体、坑内皮細胞抗体などがある。
2)強皮症腎
●腎臓の弓状動脈や小葉間動脈狭窄をきたし、腎皮質血流低下を生じる。このため、糸球体内も虚血となり糸球体内皮細胞の腫大や糸球体基底膜からの剥離がみられる。
●臨床的には急激に発症する悪性高血圧、腎不全を呈する強皮クリーゼが重要である。
3)ANCA関連腎炎
●ANCA関連腎炎は、病態に抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)が関与する腎病変である。
●ANCA関連腎炎における糸球体内皮細胞障害はANCAにより活性化された好中球が内皮細胞に接着し引き起こされる。さらに活性化された単球は炎症性サイトカインの産生を引き起こし、糸球体内皮細胞や血管内皮細胞障害を進展させる。
●ANCA関連腎炎の進展に血管内皮細胞障害が関連している。
●膜性増殖性糸球体腎炎や紫斑病性腎炎では糸球体内皮細胞下への免疫複合体の沈着による内皮細胞障害がみられる。
[4]糖尿病性腎症
●糖尿病性腎症では腎組織に細胞接着因子やケモカイン発現とマクロファージの浸潤がみられ、炎症性機序による糸球体内皮細胞障害が考えられる。
●糖尿病での内皮細胞での接着分子発現は高血糖による浸透圧上昇、酸化ストレス、AGE、糸球体内血行動態変化(糸球体過剰濾過など)によるshear stress[ずり応力]亢進などが複雑に関与している。
●Ⅱ型糖尿病の腎機能障害の進展に血管内皮細胞機能障害の関与が指摘されている。
[5]血栓性微小血管症(TMA:thrombotic microangiopathy)
●血栓性微小血管症は細動脈の内皮細胞障害により血小板血栓が形成され、赤血球の破砕と循環障害により臓器不全を生じる病態である。
[6]播種性血管内凝固症候群(DIC:disseminated intravascular coagulation syndrome)
●播種性血管内凝固症候群では、悪性腫瘍、各種感染症、産科疾患、熱傷などの基礎疾患を基盤として血小板、血液凝固線溶系、補体系などの活性化が生じる。このため、全身で微小血栓形成を引き起こし多臓器不全や出血傾向をきたす病態である。
●腎臓では糸球体内のフィブリン血栓が重要で、臨床的には急性腎不全を認めることが多い。
●糸球体内皮細胞障害としては、内腔の膨化、空胞化、基底膜剥離などがみられる。
●『最近は、DICの早期診断には凝固止血マーカーのみならず内皮細胞障害(トロンボモジュリンや接着分子)や白血球活性化(エラスターゼ、α1抗トリプシン)を示すマーカーの応用も期待されている。』
[7]妊娠中毒症(特に、子癇前症)
●妊娠中毒症は、妊娠中に高血圧、蛋白尿、浮腫のうち1つまたは2つ以上の症状がみられ、それらが妊娠偶発合併症でないものである。子癇前症は高血圧合併症が主体の病態で母体や胎児の障害、死亡率増悪に関わる病態である。
まとめ
1.血管内皮障害
●血管の内皮機能不全の原因もしくは促進因子として現在考えられている主要なものは酸化ストレスと炎症反応である。
●内皮機能不全の病態生理の中心は、NO代謝の異常と考えられている。
●糸球体硬化は内皮細胞の剥離が重要な因子となる。
2.慢性腎疾患(腎不全)
●慢性腎疾患の進展には、活性酸素種、脂質、AGE(最終糖化蛋白)、サイトカインなどが複雑に関与している。
“慢性腎疾患”の中で特に気になるのは“腎不全”ですが、注目したい点は5つです。
1)腎血流流量の低下
2)低酸素状態
3)血管病変
4)慢性的な炎症反応
5)血管内皮障害
★「何故、慢性腎臓病に鍼治療が効いたのか」については、いつか核心に迫れるように、地道な勉強を続けていきたいと思います。
ご参考
“こちらも『病気がみえる vol.8 腎臓・泌尿器』の図です。題名は「治療の概観」となっています。なお、ESKDとは“末期腎不全”、CVDとは“心血管疾患”のことです。
画像出展:「病気がみえる vol8 腎臓・泌尿器」
「慢性腎臓病(CKD)」の上に「リスクファクター」とあり、その1つに“生活管理”がありますが、その内容は以下になります。
画像出展:「病気がみえる vol8 腎臓・泌尿器」
“肥満の是正”、“禁煙”、“運動”の3つが対策ということですが、運動の効果と鍼治療の効果にについて、お伝えしたいことがあります。(ブログ「がんと自然治癒力9」より)
テロメアは染色体の端に存在し、細胞が分裂するたびに短くなります。そして、テロメアは細胞の老化の速度を決定します。
テロメアの研究でノーベル賞を受賞された、ブラックバーン先生はこの著書の中で”運動が細胞内部にもたらすメリット”というお話をされています。
左がそのページです。書かれている内容は下記の通りです。
『運動は細胞の内部にさまざまな良い変化をもたらす。運動は短期的なストレス反応を起こすが、それが引き金になって、大きな回復反応が起きるからだ。運動によって体の分子は損傷を受け、損傷した分子は炎症を引き起こす可能性がある。だが、運動を始めてまもなく、オートファジーという現象が起き、細胞はまるでパックマンのように、細胞内の損傷した分子を食べてしまう。これにより、炎症を防ぐことができる。同じ実験をさらに続け、損傷した分子の数がオートファジーで追いつかないほど多くなると、細胞は速やかに死滅する。これは「アポトーシス」と呼ばれ、炎症や残骸を残すことのないきれいな死に方だ。運動にはまた、エネルギーを生産するミトコンドリアの数や質を向上させる働きもある。このようにして運動は、酸化ストレスを減少させている。運動を終えて体が回復しようとしているとき、体内ではまだ細胞の残骸の掃除が続いている。それによって細胞は、運動をする前よりもっと健康に、もっと丈夫になる。』
私は鍼治療でも同様な効果が期待できるのではないかと考えています。それは次のような考えからです。
「筋肉痛は運動によって筋線維が傷つくことが原因とされています。一方、鍼の太さは0.16mm(1番鍼)、刺して多くは無痛でも、分子レベルで考えればたいへんな衝撃です。この運動による筋線維への微細な損傷と鍼による筋線維への微細な損傷は、プロセスも規模も異なりますが、それぞれのダメージに対する体の反応(筋線維修復の過程)は同様ではないかと思っています。つまり、鍼治療は運動と同じように、オートファジーやアポトーシスという重要な機能を呼び起こし、体内を掃除して、結果的に健康状態を良くしているのではないかと思います。」
今回のブログは“Google”に関するものです。「なぜ、Googleに興味をもったのか?」、かなり長い前置きになりますがお付き合いください。
ほとんど関心のなかった自動運転ですが、たまたま入ってきた情報に反応してしまいました。それはグーグルが自動運転で他社を圧倒しているというものです。てっきり、今も五十歩百歩、横一線なのではないかと思っていたため、このニュースに意表を突かれた感じです。
検索してみると、素晴らしいサイトがありました。以下はそのサイトにあった2019年4月1日付の記事です。動画もあり、非常に詳しい紹介がされています。
画像出展:「NEWS CARAVAN」
Google傘下のWaymo、商用自動運転車を目指した10年の軌跡。
『2018年に初めて自動運転を使った配車サービスを商用展開したのがWaymoです。Googleの親会社のアルファベットの傘下でWaymoは、前身のGoogle自動運転プロジェクトから10年もの歳月をかけてようやく、その技術を実用化させつつあります。』
以下のグラフはワシントンポストのニュースにあったものです。“Rates of intervention”という見出しなので、自動運転技術の性能に関するものということだと思います。これを見るとGoogle は競合他社より2桁~3桁、精度が高そうです。
画像出展:「ワシントンポスト」
上記のグラフではTeslaが0になっていますが、下のグラフの補足を見ると、Teslaは公道での実験データを公表していないようです。また、公道でのテストデータに関してもGoogle の実績(距離)は他社を圧倒しています。
画像出展:「OFFICE31051」
ところで、ご紹介した“NEWS CARAVAN”は、“世界中の最新のテクノロジーを扱ったニュースを配信するサイトです”とのことです。その内容は、FAANG(Facebook、Apple、Amazon、Netflix、Googleの頭文字)、AI、Maas/自動運転、サブスクリプションビジネス、IoT、ブロックチェーン・仮想通貨、フィンテック(Finance+Technology)、クラウド、フードテック(Food+Technology)、宇宙開発 の情報を扱っています。素晴らしい完成度です。
そういえば、Googleは量子コンピュータでもIBMと競っていたのを思い出しました。ということで、こちらも検索してみると驚きのニュースが見つかりました。
画像出展:「CNET Japan」
グーグルの「量子超越性」は革命の始まりにすぎない
『1981年に有名な物理学者、故Richard Feynman氏が言及し、Googleが13年間取り組んできた量子コンピューティングというアイデアが、現実に向かって動き出しているのである。』
下の記事はNewsweekのものです。
画像出展:「Newsweek」
『グーグルの研究チームは、同社の量子コンピューターが、従来のスーパーコンピューター(スパコン)で約1万年かかる計算を「わずか数分」で解いたと発表した。』
『量子コンピューターは、量子力学の奇妙な原理を利用して計算を行う。従来型のコンピューターは「ビット」という情報単位を使っている。これは「0」か「1」のどちらかの状態しか表すことができないのに対し、量子コンピューターが使う情報単位「量子ビット」は、同時に「0」でも「1」でもあって、「0」と「1」の間のすべての値でもある。扱える情報量が大幅に増えるため、演算能力も大幅に高まるのだ。』
こちらの記事の中には英語ですが、コインの表裏を例にした説明動画があります。これは量子力学の奇妙な原理の一つ、「重ね合わせ」を説明するものです。
偉そうに説明できるような知識は持っていないのですが、過去ブログの“量子論1”に戻って少しご説明します。なお、ここでご紹介している内容および画像は、「13歳からの量子論のきほん」という本からです。
出版:ニュートンプレス
発行:2018年7月
量子論が生まれた理由
『あらゆる物質は、「原子」からできていることがわかっています。19世紀末ごろになって、原子がかかわる現象を詳しく調べてみると、ミクロな世界は私たちが日常生活で目にする世界とはまったくちがうことがわかってきました。ミクロの世界は私たちが日常生活で目にする世界とはまったくちがうことがわかってきました。ミクロな物質は、私たちの常識では説明できない、摩訶不思議なふるまいをするのです。
そこで、新しい理論が必要になりました。それが「量子論」です。量子論とは「非常に小さなミクロな世界で、物質を構成する粒子や光などがどのようにふるまうかを解き明かす理論」といえます。』
量子論と日常生活の関係
『マクロな世界の物体の運動に量子論を適用すると、計算量が膨大になってしまいます。そこで実用上は、計算が楽な古典論が使われます。マクロな世界では、量子論による計算結果と古典論による計算結果が、ほとんど同じになるのです。なおマクロな世界にも、量子論を使わないと説明できない現象はあります。「金属(導体)」「絶縁体」「半導体」の性質のちがいや、「超流動」や「超電導」といった現象です。』
量子論の二つの重要事項
●波と粒子の二面性:“電子や光は、波と粒子の性質をあわせもつ”
●状態の共存(重ね合わせ):“一つの電子は、箱の左右に同時に存在できる”
Newsweekの記事にあったコインの動画は、上記の「状態の共存(重ね合わせ)」を説明したものということになります。
以前、ネットで見つけた例えでは次のようなものもありました。
「道を歩いていたら、道が3つに分かれた。1番早く目的地に着ける道を選びたいが、選べるのは1つしかない。従って、結果的に1番早い道を選べる確率は1/3(約33.33%)である。
一方、量子の世界では、【重ね合わせ】という奇妙な原理のお陰で3つの道を同時に歩いて行ける。よって、1番早い道を選べる確率は100%である」。
「Google 恐るべし!!」
そこで、Google がどんな会社か知りたいと思い、“How Google Works(私たちの働き方とマネジメント)”という本を購入したという経緯です。
ブログは目次に続き、共同創業者であるラリー・ペイジの言葉と本書の骨子的なメッセージをお伝えし、続いてGoogle のDNAではないかと思われる“スマート・クリエイティブ”と“ラーニング・アニマル”、そして、イノベーションという章の中のテーマから、“自らとりまく環境を理解する”と“良い失敗をする”をご紹介します。
著者:エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル
出版:日本経済新聞出版社
発行:2014年10月
目次は大見出しのみご紹介させて頂きます。
序文
はじめに
文化 自分たちのスローガンを信じる
戦略 あなたの計画は間違っている
人材 採用は一番大切な仕事
意思決定 「コンセンサス」の本当の意味
コミュニケーション とびきり高性能のルータになれ
イノベーション 原始スープを生み出せ
おわりに
序文
『グーグルは「自律的思考」をあらゆる活動の基礎にしていた。それはぼくらの誇るすばらしい成功、そしてときにはとんでもない失敗の原動力となった。』 グーグルCEO兼共同創業者 ラリー・ペイジ
はじめに
楽しいプロジェクト
『本書は成功・成長している企業やベンチャーの発達過程をたどるような構成になっている。この発達過程は、雪玉が坂道を転がっていくうちに勢いがつき、どんどん大きくなっていくような、永続的な好環境に発展できるものだ。一連のステップは、スマート・クリエイティブを惹きつけ、意欲を高めるために企業が実践可能なものだ。その一つひとつが企業を次のステップへと押し上げていく。各ステップは相互に依存し、お互いの上に成り立っている。またどのステップも決して終わることのない、ダイナミックなものだ。
まずは最高のスマート・クリエイティブを惹きつける方法から始める。その出発点は企業文化だ。なぜなら企業文化とビジネスの成功は切り離して考えることはできないからだ。自分たちのモットーを信じられなければ、大成功はとうてい望めない。次に取り上げるのが戦略だ。スマート・クリエイティブは強固な戦略の土台に根差したアイデアに何より魅力を感じる。事業計画を支える戦略の柱こそが、事業計画そのものよりもはるかに重要だとよくわかっている。その次が採用だ。これはリーダーの最も大切な仕事である。最高の人材を十分に集めることができれば、知性と知性が混じり合い、クリエイティビティと成功が生まれるのは確実だ。』
スマート・クリエイティブ
・こんにちの労働環境は、20世紀とは本質的に異なる。実験のコストは安くなり、失敗のコストもかつてよりは大幅に低くなった。そのうえ、データもコンピューティングのリソースも豊富になり、自由に使えるようになった。部署を越え、大陸や海を越えての協業も簡単にできる。こうした要素が組み合わさった結果、突如としてひとりのプレイヤー、マネジャー、経営者にいたるまで、働く人間がとほうもないインパクトを生み出せるようになった。
・IBM、ゼネラル・エレクトリック(GE)、ゼネラル・モーターズ(GM)、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどの優れた企業は、有望な人材に2~3年ずつさまざまな部署を経験させる経営幹部養成トラックを設けている。だがこの仕組みは専門能力ではなく、経営能力を高めることを目的としている。この結果、従来型企業で働く知識労働者のほとんどは、専門分野に秀でているか、幅広い経営能力を備えているか、どちらかの能力に片寄っているのが普通である。
・従来型の知識労働者と、グーグルのエンジニアを比べてみると、まったく違うタイプであることがわかる。グーグルの社員は会社の情報やコンピューティング能力に自由にアクセスできる。リスクテイクをいとわず、またそうしたリスクをともなう取り組みが失敗したとしても処罰や不利益を受けることはない。職務や組織構造に束縛されることなく、むしろ自分のアイデアを実行に移すよう奨励されている。納得できないことがあれば、黙ってはいない。退屈しやすく、しょっちゅう職務を変える。多才で、専門性とビジネススキルと創造性を併せ持っている。私たちが「スマート・クリエイティブ」と呼ぶ新種で、インターネットの世紀での成功のカギを握る存在である。
・こんにち成功している企業の際立った特色は、最高のプロダクトを生み出しつづける能力である。それを手に入れる道は、「スマート・クリエイティブ」を惹きつけ、彼らがとてつもない偉業を成し遂げられるような環境をつくりだすことである。
・スマート・クリエイティブは、自分の“商売道具”を使いこなすための高度な専門知識を持っており、経験値も高い。
・スマート・クリエイティブは、実行力に優れ、単にコンセプトを考えるだけでなく、プロトタイプをつくる人間である。
・スマート・クリエイティブは、分析力も優れている。データを扱うのが得意で、それを意思決定に生かすことができる。同時にデータの弱点もわかっており、いつまでも分析を続けようとはしない。データに判断させるのは構わないが、それに振り回されるのはやめようと考える。
・スマート・クリエイティブは、ビジネス感覚も優れている。専門知識をプロダクトの優位性や事業の成功と結びつけて考えることができ、そのすべてが重要であることをわかっている。競争心も旺盛である。成功にはイノベーションが不可欠だが、猛烈な努力も欠かせない。
・スマート・クリエイティブは、頂点を目指す意欲にあふれ、ユーザのこともよくわかっている。どんな業界に身を置いているかにかかわらず、スマート・クリエイティブはプロダクトを誰よりもユーザ目線、あるいは消費者の視点から見ることができる。自らが「パワー・ユーザ」で興味の対象に取りつかれたようにのめり込む。
・スマート・クリエイティブからは、斬新なアイデアがほとばしり出る。他の人とはまったく違う視点があり、ときには本来の自分とも違う視点に立つ。必要に応じて、カメレオン的に視点を使い分けることができる。
・スマート・クリエイティブは、好奇心旺盛である。常に疑問を抱き、決して現状に満足せず、常に問題を見つけて解決しようとし、それができるのは自分しかいないと確信している。傲慢に見えることもあるかもしれない。
・スマート・クリエイティブは、リスクをいとわない。失敗を恐れない。失敗からは常に大切なことを学べると信じているからである。あるいはとほうもない自信家で、たとえ失敗しても、絶対に立ち直り、次は成功できると思っている。
・スマート・クリエイティブは、自発的である。指示を与えられるのを待つのではなく、また納得できない指示を与えられたら無視することもある。自らの主体性にもとづいて行動するが、その主体性自体が並みの強さではない。
・スマート・クリエイティブは、あらゆる可能性にオープンである。自由に他社と協力し、アイデアや分析をそれ自体の本質にもとづいて評価する。
・スマート・クリエイティブは、細かい点まで注意が行き届く。集中力を切らさず、どんな細かいことも覚えている。それは勉強し、記憶するからではない。それが自分にとって重要だから、すべて知り尽くしている。
・スマート・クリエイティブは、コミュニケーションも得意である。一対一でも集団の前で話すときも、話がおもしろく、センスがよくてカリスマ性さえ感じさせる。
・『すべてのスマート・クリエイティブがこうした特徴を全部備えているわけではないし、実際そんな人間は数えるほどしかいない。だが全員に共通するのは、ビジネスセンス、専門知識、クリエイティブなエネルギー、自分で手を動かして業務を遂行しようとする姿勢だ。これが基本的要件だ。』
・スマート・クリエイティブはどこにでもいる。社会階層や年齢、性別も関係ない。テクノロジーのもたらすツールを使って価値あることをしたいという、意欲と能力のある、あらゆる世代の志の高い人たちである。その共通点は努力をいとわず、これまでの常識的方法に疑問を持ち、新しいやり方を試すことに積極的であることである。スマート・クリエイティブが大きな影響を持ちうるのはこうした理由からである。
人材
ラーニング・アニマルを採用する
・『あなたの会社の従業員について考えてみよう。自分より優秀だと心から思えるのは誰か。チェスやクロスワードで対戦したくない相手は? 自分より優秀な人間を採用せよ、という格言があるが、どれだけ実行できているだろう。
この格言はいまも妥当性を失っていないが、その意味は考えられている以上に深い。もちろん優秀な人はいろいろなことを知っていて、凡庸な人より高い成果をあげる。ただ、大切なのは優秀な人が「何を知っているか」ではなく、「これから何を学ぶか」だ。』
・『ヘンリー・フォードは「人は学習を辞めたときに老いる。20歳の老人もいれば、80歳の若者もいる。学びつづける者は若さを失わない。人生で何よりすばらしいのは、自分の心の若さを保つことだ」と言った。グーグルが採用したいのは、ジェットコースターを選ぶタイプ、つまり学習を続ける人々だ。彼ら“ラーニング・アニマル”は大きな変化に立ち向かい、それを楽しむ力を持っている。』
・心理学者のキャロル・ドゥエックは、これ[ラーニング・アニマル]を別の言葉で表現する。それは「しなやかマインドセット」である。
・しなやかマインドセットの持ち主は、努力すれば自分の持ち味とする能力を変えたり、新たな能力を開花させることができると考える。人は変われる。適応できる。むしろ変化を強いられると、心地よく感じ、より高い成果をあげられる。
・しなやかマインドセットの持ち主は「学習目標」を設定する。学ぶこと自体が目標になると、くだらない質問をしたり、答えを間違えたりしたら自分がバカに見えるのではないかなどと悩んだりせず、リスクをとるようになる。ラーニング・アニマルが目先の失敗にこだわらないのは、長い目でみればそのほうが多くを学び、さらなる高みに上がれることを知っているからだ。
・知力より専門能力を重視するのは、とくにハイテク業界では間違いである。あらゆる業界では急速な変化が起きており、昨日までの先端的プロダクトが明日には陳腐化するような時代に、スペシャリスト採用にこだわると裏目に出る可能性が高い。スペシャリストが問題を解決するとき、その手法には自分の強みとされる専門分野ならではの偏りが生じがちだ。優秀なゼネラリストには偏りがなく、多様なソリューションを見比べて最も有効なものを選択することができる。
イノベーション
自らとりまく環境を理解する
・『グーグルXチームは新しいプロジェクトに取り組むかどうか決めるとき、ベン図を使う。まず、それが対象としているのは、数百万人、数十億人に影響をおよぼすような大きな問題あるいはチャンスだろうか。第二に、すでに市場に存在するものとは根本的に異なる解決策のアイデアはあるのか。グーグルは既存のやり方を改善するのではなく、まったく新しい解決策を生み出したいと考えている。そして第三に、根本的なる解決策を世に送り出すための画期的な技術は(完全な姿ではなく、部分的なかたちでも)すでに存在しているのか、あるいは実現可能なのか。』
・「プロジェクト・ルーン」とは、インターネットへのブロードバンド接続環境のない数十億人に、ヘリウム気球を使ってそれを提供しようというプロジェクトだが、これは先に挙げた三つの条件をすべて満たしている。すでに存在する、あるいは十分実現可能な技術を使って、とほうもなく大きな問題をこれまでとは劇的に違うやり方で解決しようとするものである。グーグルXチームはまず新たなプロジェクトのアイデアが三つのパラダイムをすべて満たすか確かめ、満たさないものは却下する。
・イノベーションが生まれるには、イノベーションにふさわしい環境が必要である。イノベーションにふさわしい環境とは、急速に成長しており、たくさんの競合企業がひしめく市場である。
・まったく新しい、ライバルがやってこない“未開の地”は、企業の成長を維持するだけの規模がない。イノベーションのための環境を望むなら、成長の余地の大きな巨大市場を探したほうが良い。
・技術は検討すべき要素である。その分野の技術はどのように進化していくか。現在との違いは何か、そして他にはどんな違いが生まれるか。その進化する環境のなかで、持続的に他社との明確な違いを出していくための人材はそろっているか。これらもイノベーションの環境にとって大切である。
こちらが、ベン図です。
「できるネット」さまより拝借しました。
良い失敗をする
『「世に出してから手直しする」アプローチの成功例がグーグル・クロームだとすれば、代表的な失敗例は2009年に華々しく登場したグーグル・ウェーブである。』
・ウェーブは大失敗だった。しかし、失敗が明らかになってから追加投資をしなかった。また失敗によって敗者の烙印を押された社員はいなかった。ウェーブ・チームメンバーはプロジェクトの打ち切り後、社内でひっぱりだこになった。限界に挑戦するようなプロジェクトに取り組んだからである。
・ウェーブは失敗する過程で、たくさんの貴重な技術を生み出した。ウェーブのプラットフォームの技術はグーグル・プラスやGメールに取り入れられている。失敗ではあったが、ウェーブは“良い失敗”だった。
・イノベーションを生み出すには、良い失敗のしかたを身に着ける。どんな失敗プロジェクトからも、次の試みに役立つような貴重な技術、ユーザ、市場の理解が得られるものである。アイデアは潰すのではなく、形を変えることを考える。
・世界的イノベーションの多くは、まったく用途の異なるものから生まれている。だからプロジェクトを終了するときには、その構成要素を慎重に吟味し、他の何かに応用できないか見きわめる必要がある。
・『ラリーがよく言うように、とびきり大きな発想をしていれば、完全な失敗に終わることはまずない。たいてい何かしら貴重なものが残るはずだ。そして失敗したチームを非難してはいけない。メンバーが社内で良い仕事に就けるようにしよう。他のイノベーターも、彼らが制裁を受けるかどうか注目している。失敗を祝福する必要はないが、ある種の名誉の印と言っていいだろう。少なくとも挑戦したのだから。』
・経営者の仕事は、リスクを最低限に抑えたり、失敗を防いだりすることではない。リスクをとり、避けられない失敗に耐えられるだけの強靭な組織をつくることである。
・おそらく最も難しいのは、失敗のタイミングを見きわめることである。良い失敗は決断が早い。プロジェクトが成功しないと判断したら、リソースのさらなる浪費や機会損失を避けるため、なるべく早く手を引くべきである。ただし、イノベーティブな会社の顕著な特徴は、優れたアイデアに成熟する時間をたっぷり与えることである。自動運転車やグーグル・ファイバー(家庭で最大1ギガビットのブロードバンド接続を可能にする。現在のアメリカの平均的な家庭用回線のおよそ100倍に相当)のようなプロジェクトは、莫大な収益をもたらす可能性があるが、おそろしく時間がかかる。
・『ジェフ・ベゾスもこう言っている。「時間軸を伸ばすだけで、それまで考えもしなかったようなプロジェクトに取り組めるようになる。アマゾンではアイデアを5年~7年で実現したいと考えている。ぼくらは積極的にタネをまき、育てようとするし、しかもとびきり頑固だ。ビジョンについては頑固に、細部については柔軟に、が合言葉さ」 』
・失敗はすばやく、ただし時間軸はとびきり長く、ということである。そのために大切なことは、手直しをできるかぎり速くすること、そして手直しするたびに、自分が成功に近づいているか判断する基準をつくっておくことである。小さな失敗は当然起こるだろうし、許容すべきである。それが進むべき正しい道を示してくれることもある。
・失敗が積み重なり、どうにも成功への道筋が見えないときは、おそらく潮時と考えた方が良い。
相田みつを先生の『にんげんだもの』より
”ラーニング・アニマル”と聞いて、こちらの書を思い出しました。
第七章 腎臓病はやはり恐ろしい ―できるだけ長持ちさせて長生きする方法
●腎臓は少しずつ壊れていく
・腎臓は生命の維持に不可欠な体液の量と成分のバランスを、余裕を保ちながら黙々と守っている。
・腎臓は年齢とともに“余裕”が少しずつ削り取られていく。腎臓の重量は20歳くらいまでは急速に成長し、その後50歳代までは安定しているが、60歳を過ぎるあたりから急に減り始める。80歳代では40歳ごろに比べて30パーセントほどの重さになる。
・高齢になると腎臓の重量が減るのは糸球体が少しずつ壊れ、壊れて硬化した糸球体の数が増えていくからである。122人の腎臓の病理標本を調べたアメリカの研究では、硬化した糸球体の割合は30歳代で1.5パーセント、40歳代で3.0パーセント、50歳代で6.5パーセント、60歳代で7.6パーセント、70歳代で12.3パーセントと、年齢が進むにつれて急速に増えていく。
・糸球体の表面を覆っている足細胞は分裂をすることができない。そのため糸球体に無理がかかると足細胞が糸球体から脱落し、残った足細胞が広がって代わりに糸球体の表面を覆うようになる。
・『糸球体の大きさと足細胞の数との間には微妙な関係がある。糸球体に含まれる足細胞の数には上限がある。しかも足細胞は糸球体の表面を覆っているが、その大きさに上限があって、ある程度以上に広がることはできない。そのため、何らかの理由で糸球体が巨大になって濾過のフィルターの面積が増えすぎると、足細胞がその表面を覆い尽くせないことになる。病気の腎臓では実際にそのような状態になり、裸になった糸球体の表面に周りから細胞が進入してくる。こうして、正常のメサンギウム以外の細胞が糸球体の中に増えて瘢痕を作ってしまったのが、糸球体硬化である。』
・糸球体の数がある限度を超えて減るとどこかで余裕がゼロになり、腎臓の機能が急激に悪くなる。
・1980年代の初めに提唱された過剰濾過説は、腎機能の急速な悪化という経験的に知られていた現象を説明する理論として有名になった。
・過剰濾過説は腎臓の糸球体が減ると糸球体の血圧が上昇し糸球体が肥大して、糸球体は残った糸球体に負担がかかり、さらに障害が進み、糸球体の数が減る。こうして腎機能の障害が加速度的に進むというものである。
・過剰濾過説には疑問もあるが、過剰濾過の背景となる糸球体の血圧上昇や糸球体の肥大は、明らかに糸球体に負担をかける要因であることは間違いない。
●慢性腎臓病CKD
・慢性腎臓病と心血管疾患とは、密接な関係があり心腎連関と呼ばれる。
・慢性腎臓病の患者は、腎障害で亡くなりよりも、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患で亡くなる可能性のほうがはるかに高い。
・心血管疾患を持つ患者の多くは、腎機能が低下している。
・慢性腎臓病と心血管疾患ではともに、血管内皮細胞が障害されて動脈硬化を起こしやすく、また、体液のバランスが崩れて高血圧も起こしやすい。また、動脈硬化と高血圧は、慢性腎臓病と心血管疾患をともに悪化させる重要な因子でもある。
・『慢性腎臓病の治療にはいくつかの柱がある。その第一は、生活習慣と食事を改善することである。何よりも肥満を解消すること、喫煙者の場合には禁煙することが大切である。これにより動脈硬化と慢性腎臓病の進展が抑えられる。』
画像出展:「病気がみえる vol.8 腎臓・泌尿器」
こちらの本には、“肥満の是正”、“禁煙”に加え、“運動”も取り上げられています。
●腎臓とともに生きる
・腎臓は、尿の量と成分を調整することによって内部環境を一定に保つ。細胞の生命にとって不可欠な働きをする。
・腎臓の働きを中心になって担う糸球体は、きわめて繊細で壊れやすく、また再生することができないが、これは糸球体の表面を覆っている足細胞は細胞分裂をすることができないためである。
・『糸球体が大きくなりすぎたり、糸球体に炎症が起こったり、さらに尿タンパクが出たり、さまざまな原因で足細胞に負担がかかり、糸球体の表面から脱落して尿中にこぼれ落ちる。するとそれが糸球体の負担をますます大きくし、周囲の細胞が糸球体に進入して瘢痕を作り、糸球体を壊してしまう。糸球体の数が減ると、高血圧や糸球体の肥大によって残された糸球体にますます大きな負担がかかり、糸球体はますます壊れやすくなる。これが悪循環を起こして、どこかで腎機能の破綻が一気に進み、腎不全となる。』
・『腎臓は再生することができない。だから糸球体の負担を軽くしたり、原因を取り除いたりして、腎機能が一定以上に悪くならないようにすることが大切である。要するに無理をしないで残された腎機能を大切に温存しながら生きていくこと、それが腎臓とともに生きる知恵である。』
・『身体のさまざまな器官はそれぞれに年老いていずれは機能を失ってしまう。腎臓だけが先んじて機能を失ってしまうと、人工透析という辛い生き方を受けいれざるをえなくなる。本書をここまで読んだ方ならおわかりだと思うが、不幸にして慢性腎疾患になった場合でも、完全に治さなければならないというわけでもないのだ。他の臓器が年老いていくまで、腎臓が働いてくればいいのである。腎臓の機能が五年長持ちしてくれれば、それだけ健康に過ごせる時間が増える。その許された時間をどのように生かすかが、むしろ大切であろう。
腎臓という臓器を大切にする生き方は、限りある人生をよりよく生きる知恵を我々に与えてくれるのではないだろうか。』
ご参考1:腎臓の血管系(「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」より)
大動脈内に特殊なカテーテルを挿入し、腎動脈分岐部から造影剤を注入してX線撮影したもの。
腎臓内の動脈と交感神経
『腎臓には動脈に沿って交感神経が豊富に侵入し、主に動脈周囲の間質や糸球体の周辺に終末を作る。動脈周囲から、近辺の尿細管周囲の間質に神経線維が伸び出して作る終末もある。交感神経の刺激は、腎臓内の動脈を収縮させて糸球体濾過量を減少させ、傍糸球体装置の顆粒細胞からレニンを放出させる。また、近位尿細管などによる再吸収を亢進させることも知られている。』
ご参考2:レニン分泌機構(『病気がみえる vol.8 腎臓・泌尿器』より)
こちらの図はレニンの分泌機構を説明しています。レニンは血圧や循環血漿量の低下が起こると腎臓から分泌されるのですが、上段のボックスがレニン分泌を促す3つの外因です。左から「輸入細動脈の還流圧低下」、続いて「遠位尿細管緻密斑領域の尿流量(Cl⁻濃度)低下」、そして3番目が「交感神経活性化(β1受容体を介する)」となっています。以下はその3番目を拡大した図です。
これを見ると、“ご参考1”で説明されていた「動脈に沿って交感神経が豊富に侵入し、主に動脈周囲の間質や糸球体の周辺に終末を作る」という説明と一致します。
「交感神経の刺激は、腎臓内の動脈を収縮させて糸球体濾過量を減少させる」ということですので、あらためて、自律神経系(交感神経)の重要性を再認識できました。
ご参考3:腎不全の症状と合併症(『病気がみえる vol.8 腎臓・泌尿器』より)
クレアチニン値3~7の患者さまについて、今のところ以下のような傾向があるように感じています。
1.太っていて高血圧の人は多い。
2.浮腫の人は思っていたほど多くない。
3.タンパクが出ている人は多くない。
4.カリウムの数値が問題となっている人はやや多い。
5.貧血が問題となっている人は少ない。
クレアチニン値の幅が広いため、症状にバラツキがあることには違和感はありませんでしたが、下記の図から、腎臓病は機能ネフロンという視点で考えることが大切であると感じました。
画像出展:「病気がみえる vol8 腎臓・泌尿器」
左端のネフロンは、尿生成の機能単位であり、原尿を生成する腎小体(糸球体、ボウマン嚢)と原尿の成分を調整する尿細管で構成されます。一方、右端の合併症に目を移すと、高血圧と浮腫、および低アルブミン血症(蛋白尿)は“糸球体障害”につながり、高K(カリウム)血症は“尿細管障害”につながっています。また、腎性貧血はエリスロポエチン(EPO)産生低下が原因とされています。このエリスロポエチンは近位尿細管周囲の間質細胞で産生されているため、大元はネフロンということになります。
疑問と考察と仮説
「何故、クレアチニン値が大きく改善される人がいるのだろうか?」という疑問がクリアになったとはとても言えません。また、かなり乱暴なまとめ方にはなりますが整理したいと思います。
「悪化したクレアチニン値は戻らない」という話は「一度壊れると再生することができない」ということから来ているのだろうと思います。
ブログ“脈診・腹診・クレアチニン”でご紹介した改善ケースは3.64→1.82です。これに続く大きな改善例としては、3.50→1.86という患者さまもおいでです。
注:ブログ“腎臓病における活性酸素”でもお伝えしていますが、改善された患者さまだけでなく、現状維持や悪化が止まらなかった患者さまもおいでです。
中外製薬さまの“腎らいぶらり” にある【eGFR計算機】のボックスに入力すると、3.64→1.82の患者さまの糸球体濾過量(GRF)は、15.5→33.2になり、下の図に照らし合わせると、ギリギリですが、G4→G3とワンランク戻ったということになります。これは想像以上に大きな改善だと思います。また、クレアチニン値の改善のみならず、顔色、皮膚の艶、体がかるく感じるなど、体調の改善を得られることも多く、数値だけでなく実態として改善されているという実感があります。
画像出展:「腎らいぶらり」
「クレアチニン値が改善するのは何故?」という疑問は、今回の『腎臓のはなし』を勉強させて頂き、理解が広がった分さらに難しくなりました。
そこで、まずは再生・改善に対し、“ネガティブ”な部分を抜き出してみました。
●硬化糸球体とは壊れた糸球体には結合組織が進入して、毛細血管がつぶれてしまう状態である。
●腎臓の肥大がある程度以上になったり、肥大したところにさらに糸球体を傷害する因子が加わったりすると、足細胞が脱落して裸になった糸球体の表面がボウマン嚢の壁側上皮と癒着し、そこから糸球体内に線維芽細胞などが進入して糸球体が内部から壊れてしまう。
●病気の腎臓では、裸になった糸球体の表面に周りから細胞が進入してくる。こうして、正常のメサンギウム以外の細胞が糸球体の中に増えて瘢痕を作ってしまったのが、糸球体硬化である。
●腎臓の働きを中心になって担う糸球体は、きわめて繊細で壊れやすく、また再生することができないが、これは糸球体の表面を覆っている足細胞は細胞分裂をすることができないためである。
ポイントは2つです。
1.足細胞は細胞分裂をすることができない。
2.糸球体内に線維芽細胞などが進入し、瘢痕を作り糸球体が壊れ硬化する。
続いて、“ポジティブ”とも取れる部分を抜き出してみました。
●糸球体のどこかに細胞分裂のできる未分化な細胞が混ざっている可能性は完全には否定できない。
●腎臓は腎移植で片側の腎臓を摘出すると、残された腎臓が大きく肥大して糸球体濾過量を増やすことが知られている。
ポイントは2つです。
1.足細胞の細胞分裂を完全否定することはできない。(「あとがき」より:『冗談ごとではなく、第一線の研究者の言っていることが、ある日を境に180度変わってしまうこともありえるのである。糸球体の濾過のフィルターの主役が何かについて、私を含め誰もが糸球体基底膜が主役であると信じていたが、1998年にスリット膜が主役の座に躍り出て糸球体膜は日陰者になってしまった。』とのご指摘あり)
2.糸球体自体が肥大して濾過量を増やすことがある。
また、糸球体濾過が正常に働くための要件は3つです。
十分な数の糸球体が正常に働いてくれる
十分な血液
適切な血圧調整(『糸球体が十分な量の濾過をすることは、体液の量と成分を一定に保って人体の細胞が生きていけるようにするために必要である。糸球体濾過の量を十分に確保するためには、十分な数の糸球体が正常に働いてくれることが大前提である。糸球体濾過のためには、それに加えて大切な要素が二つある。一つは、腎臓に十分な量の血液が流れることである。血液は濾過をして尿を作るための材料になる。もう一つは、糸球体に十分な血圧が加わることである。血圧は濾過するための原動力になる。』)
さらに、次のような指摘もあります。
『哺乳類の糸球体では、毛細血管の直径も厳密に調節されているわけではない。実際に顕微鏡で糸球体を観察しても、毛細血管の太さにかなり不揃いがある。太めの毛細血管では、濾過フィルターに必要とされる張力は大きくなる。このように哺乳類の糸球体では、血圧の変動や毛細血管の径の不揃いといった、濾過フィルターに加わる負荷の大きさを増大させる不確定の要因が存在する。』
一方、下記は糸球体濾過に影響する因子です。
ここで注目したいのは、下段の「糸球体濾過係数に影響する因子」に“炎症”が関わっている点です。
画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」
下の図は冒頭でご紹介した資料を拡大したものですが、ステージ1の「糸球体・尿細管局所での炎症」と、ステージ2の「腎組織における抗酸化物質の低下」の、それぞれ“炎症”と“抗酸化物質の低下”は非常に重要だと思います。
画像出展:「腎臓のはなし」
クレアチニン値改善という視点でのエビデンス(実験結果に基づく科学的論拠)はありませんが、現時点で考えられる鍼治療による予想される効果は以下になります。
①自律神経の安定→ストレス低減→活性酸素などの炎症リスクの抑制と抗酸化物質減少の抑制
②自律神経の安定(副交感神経優位)+硬い筋肉が緩む→血流改善→腎臓の血流改善を支援
③自律神経の安定→内分泌系の安定→腎臓の血圧調整機能を支援
以上のことから、まとめると次のようなものになるのと思われます。
◆自律神経の安定とストレス低下により抗酸化物質の低下を抑制。加えて、活性酸素の抑制や血流、血圧調整の支援を通して糸球体の炎症を抑制。これらの良い変化が、硬化に至らず黙々と濾過という仕事を続けている糸球体を守り、濾過量を高めている。ということではないかと想像します。
ご参考:注目すべきニュースを発見しました。(2023年5月5日)
論文の結論は、「われわれの研究により、特に若年から中年の成人において、基準範囲内で低レベルの尿酸値が腎機能の急速な低下のリスクと独立して関連していることが示された」とまとめられている。
なお、その機序については文献的考察から、「尿酸はビタミンCを上回る抗酸化作用を有しており、そのレベルが低いことで、血管内皮細胞での酸化ストレスの亢進、アポトーシスの誘導、接着分子の発現などが生じることの影響が考えられる」と述べられている。
また、高齢者では尿酸値低値の影響が非有意であることについては、「活動性が高い若年~中年期には酸化ストレス抑制のため尿酸の需要が高いのに対して、高齢期にはその需要が減るためではないか」と推察している。
第四章 進化した腎臓 ―高度に発達した哺乳類の腎臓
●哺乳類の糸球体の構造
・糸球体の血圧を安定させる仕組みの第一は、動脈の平滑筋細胞(血管平滑筋)が持っている、一定の長さを保とうとする性質である。
・糸球体の血圧を安定させる第二の仕組みは、傍糸球体装置による尿細管糸球体フィードバックである。これは糸球体の血圧が上がりすぎないようにするフィードバック機構である。
・尿細管糸球体フィードバックとは、糸球体血管極に接触する遠位尿細管の尿の流量が増加すると、輸入細動脈の平滑筋を収縮させて糸球体の血圧を下げ、それによって糸球体濾過量を低下させるという仕組みである。
・糸球体の血圧を安定させる第三の仕組みは、逆に糸球体の血圧が下がりすぎないようにするものである。
・レニンは傍糸球体装置の顆粒細胞から出される。その働きはアンジオテンシンⅠというペプチドを生成する。その後、内皮細胞の持つ変換酵素によって処理されてアンジオテンシンⅡになる。これが短期的に血圧を上昇させるとともに副腎皮質からアルドステロンを分泌させて中長期的に血圧を上昇させる。
・『哺乳類の糸球体では、毛細血管の直径も厳密に調節されているわけではない。実際に顕微鏡で糸球体を観察しても、毛細血管の太さにかなり不揃いがある。太めの毛細血管では、濾過フィルターに必要とされる張力は大きくなる。このように哺乳類の糸球体では、血圧の変動や毛細血管の径の不揃いといった、濾過フィルターに加わる負荷の大きさを増大させる不確定の要因が存在する。』
第五章 壊れそうで壊れない糸球体 ―繊細な構造、壊れない仕掛け
●臓器の隅々に広がる毛細血管
・内皮細胞は、血液に接する血管の内面を覆っている扁平な細胞であり、内皮細胞の細胞膜は、陰性荷電を持つ糖鎖によって覆われている。
・『血液中の血小板などの血球も、表面に陰性荷電を持つ糖鎖があり、電気的な反発力によって内皮細胞の表面に付着しないようになっている。内皮細胞が剥がれて血液が血管周囲のコラーゲンなどに直接触れると、血小板が凝集して内皮細胞の穴を塞ぎ、血液凝固が始まる。内皮細胞と血液凝固系の精妙な働きがなければ、血液の流れによって血管系はたちまち傷つき、壊れてしまう。人体の血管系が100年近い寿命の間、血液を流し続けていられるのは、微小な傷が絶えず修復されているおかげである。』
●糸球体の毛細血管の特徴
・糸球体の毛細血管は、身体の他の毛細血管とはまったく違う特徴、血液から大量の尿を濾過して作るという特徴を持っている。
・毎分100~150ミリリットルという膨大な糸球体濾過量は、体液の量と成分を一定に保つためである。
・糸球体の特徴は毛細血管が密集していることである。糸球体の大きさは直径0.2ミリほどであるが、その中に1000分の8ミリほどの太さの毛細血管がぎっしりと詰め込まれている。左右の腎臓の200万個の糸球体の毛細血管をつなぎ合わせると、その長さは20kmにもなる。
●糸球体の内部構造
・糸球体は毛細血管だけでなく、内皮細胞も含めて三種類の細胞が糸球体を作っている。
・第二の細胞は足細胞である。多数の細かな足突起を伸ばして糸球体の表面を覆っている。
・第三の細胞は糸球体の内部にあって毛細血管を結びつけている細胞で、メサンギウム細胞と呼ばれる。
・細胞ではないが糸球体基底膜も糸球体の重要な構成要素である。
画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」
こちらの図のタイトルは、[20]糸球体毛細血管、メサンギウム、基底膜3者の関係 となっていますが、このタイトルの下に[17]を横断面で見たところ。との説明があります。この[17](腎小体の構造)とは下記の図になります。
画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」
腎小体とは毛細血管の糸玉である糸球体を、ボウマン嚢という袋でつつんだものです。
・糸球体の構造を理解するには、中身と表面とを区別するとわかりやすい。
・糸球体の中身は、毛細血管とメサンギウムである。毛細血管は薄べったい内皮細胞が作る筒で、血液が流れていく。メサンギウムは糸球体に固有の結合組織で、メサンギウム細胞とその周囲を埋める細胞外の物質からできている。
・糸球体の形はかなり複雑であるが、毛細血管とメサンギウムでできた中身が、糸球体基底膜と足細胞の足突起によって覆われたものといえる。
◆糸球体の三種類の細胞 (「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」より)
足細胞:足細胞は多数の突起を伸ばして糸球体の表面を覆う
画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」
『糸球体係蹄[糸球体本体]の表面を覆う足細胞は、多数の足を伸ばしたタコのような形をしている。大型の細胞体から太い一一次突起がいくつも出て、そこから細かな足突起が無数に伸び出している。隣り合う細胞からの足突起は互いにかみ合うように並び、糸球体係蹄の全表面を覆っている。』
内皮細胞:内皮細胞には多数の窓があいている
画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」
『糸球体毛細血管の内皮細胞は、薄い細胞質のシートを円筒状に伸ばし、毛細血管の本体を作る。毛細血管の内皮細胞の性質は組織によってさまざまであるが、糸球体毛細血管の場合には、細胞質シートに多数の孔があく有窓性で、しかもその孔に隔壁を持たず、透過性が高いという特徴がある。骨格筋や皮膚の毛細血管は細胞質シートに孔がない連続性で、内分泌腺の毛細血管は有窓性だが、孔に隔膜を持つことが知られている。』
メサンギウム細胞:メサンギウム細胞は血圧に抗して糸球体構造を保持する
画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」
『メサンギウムは、糸球体係蹄の中軸部を占める特殊な結合組織で、血管極で糸球体外メサンギウムにつながり、糸球体の隅々にまで伸びて毛細血管を束ねる役目をする。メサンギウムは、線維芽細胞に似たメサンギウム細胞と、その周りのメサンギウム基質とからなる。』
●糸球体が壊れないで働き続けるために
・糸球体での大量の濾過を円滑に行うためには、尿の原材料となる多量の血液を糸球体に送ること、濾過の原動力となる高い血圧を糸球体内部に保持することが必要である。
・糸球体の構造については、長い毛細血管を糸球体の中に折りたたんで濾過フィルターの表面積を十分に広げておくこと、濾過フィルターを薄くして尿を通りやすくしておくことが必要である。
・糸球体は精密機械のようにきっちりと守りながら濾過をし続けているが、これらの条件が少しでも狂うと、糸球体の動きは破綻する。とくに糸球体の血圧はごく狭い範囲で一定に調節されなければならない。
・糸球体の血圧が高すぎると糸球体は壊れるし、血圧が低すぎるとたちまち糸球体濾過量が止まってしまう。
・腎臓は糸球体の血圧を安定させるためにさまざまな工夫を凝らしている。
◆糸球体濾過量の調節機構 (「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」より)
・全身の血圧は、運動、感情の変化(怒り)、体位の変化(臥位から立位)による影響を受け容易に変動する。
・体血圧の変動が、腎血流や糸球体濾過量の変動に直接結びつかないように、糸球体には濾過量の変動を最小限にする安定化機構が備わっている。
1.血管平滑筋による調節
・腎臓には、腎血管抵抗を変えることにより血圧の変動に起因する血流変動を最小限に抑える自動能が存在する。
・血管平滑筋は、血管内圧増加に対抗して収縮力を増し内径を小さくしようとする性質を持つ。この筋原性の自動能により、腎血流は体血圧(収縮期血圧)が90~180mmHgの範囲で一定に保たれる。
画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」
2.尿細管糸球体フィードバック
・糸球体濾過量は、ネフロン下流からのシグナルによっても調節されている。
・『ヘンレの太い上行脚から遠位曲尿細管への移行部には、緻密斑と呼ばれる一群の上皮細胞があり、この部位で濾液の液量がモニターされている。
画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」
上段水色(遠位尿細管)の内部を取り巻くように緻密斑があり、ここで濾過液量をモニターしています。
濾液の増減は、濾液中のCl⁻濃度の増加/減少を感知すると、輸入細動脈とメサンギウム細胞にシグナルが送られ、糸球体濾過量を減少/増加させる。この働きを尿細管糸球体フィードバックといい、下流(遠位尿細管)の濾液流量を判断して、上流に位置する糸球体の濾過量を調節するという、より高次の調節能である。』
3.レニン-アンジオテンシン系による糸球体濾過量の確保
・腎臓は、体内のすべての細胞の生命活動の結果放出されるさまざまな代謝産物を恒常的に体外に排出する使命を持っている。
・腎血流が何らかの原因で低下した場合においても、一定の糸球体濾過量(GFR)は維持されなければならない。
・レニン-アンジオテンシン系は、全身の動脈を収縮させ血圧を上げるとともに、輸出細動脈を選択的に収縮させ、巧妙にGFRを確保する。
・腎機能が低下している高血圧患者(すでに利尿薬が投与され体液量が減少気味の患者)に降圧薬としてアンジオテンシン阻害薬を処方することは、腎機能の急速な悪化を招く危険がある。
画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」
●レニン・アンとジオテンシン・アルドステロン系
・傍糸球体装置の第一の働きは、全身の血圧を上昇させるレニンという物質を放出することである。
・レニンから始まる血圧上昇システムは、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)と呼ばれている。
・レニンはホルモンと見なされることがあるが、ホルモンではない。ホルモンは、血液や体液中に分泌されて細胞膜や細胞質内の受容体に特異的に結合し、標的の細胞の反応を引き起こす物質のことである。
・レニンはきわめて特異性の高いタンパク分解酵素であり、傍糸球体装置の顆粒細胞から血液中に分泌され、血漿に含まれるアンジオテンシノーゲンというタンパク質を分解して、アミノ酸10個からなるアンジオテンシンⅠ(AⅠ)というペプチドを生成する。
・アンジオテンシンⅠは内皮細胞の持つ変換酵素によって処理されてアミノ酸8個のアンジオテンシンⅡになる。このアンジオテンシンⅡにはきわめて強力な血圧上昇作用がある。
・アンジオテンシンⅡの作用は、一つは、全身の動脈の平滑筋に作用して強く収縮させる働きで、血管の抵抗が増して短期的に血圧が上昇する。もう一つは、副腎皮質に働きかけて、アルドステロンというホルモンを分泌させる働きである。
・アルドステロンはステロイドホルモンの一種であり、腎臓の集合管に作用してその性質を変え、ナトリウムの再吸収を強力に促進する。アルドステロンの作用により、身体の中にナトリウムが蓄積し、体液の量が増え、その結果、中長期的に血圧が上昇する。
・レニンはアンジオテンシンⅡを生成することにより、短期的および中長期的に全身の血圧を上昇させる。
・顆粒細胞は、糸球体の血圧が下がったときにレニンを分泌する。
・顆粒細胞はもともと平滑筋細胞から生じた細胞で、糸球体の近くで輸入細動脈の周りを取り巻いている。
・糸球体の血圧が下がると、輸入細動脈壁の張力が低下し、それを感じて傍糸球体装置の顆粒細胞がレニンを分泌し、全身の血圧を上昇させる。これにより糸球体の血圧を確保する。
画像出展:「腎臓のはなし」
下の図は、ブログ「腎臓疾患における活性酸素」でご紹介した『抗酸化の科学』という本の中にあったものです。
タイトルは“CKDの進展と酸化ストレス”となっています。CKDステージ1の【糸球体・尿細管局所での炎症】に続いて起こるCKDステージ2は、【糸球体内皮細胞障害】で、「腎機能における抗酸化物質の低下」と書かれています。これは増えすぎた活性酸素を抑制するための物質が減少するということです。
画像出展:「抗酸化の科学」
この糸球体内皮細胞障害がどんなものか知りたいと思い、“腎臓内血管の構造と機能特性”という寄稿を、『医学のあゆみ 慢性低酸素状態の腎臓』というバックナンバーの中に見つけたのですが、残念ながらこのバックナンバーを販売しているサイトを見つけることはできませんでした。
驚いたのはこの寄稿が、度々お世話になっている『人体の正常構造と機能』という本の総編集をされている坂井建雄先生のものだったという点です。バックナンバーは手に入れることはできませんでしたが、これがきっかけとなって坂井先生の『腎臓のはなし』という本に出合えたのはラッキーでした。
前置きが長くなって申し訳ないのですが、もう少し続けさせて頂きます。
専門学校時代、解剖学(人体の構造)と生理学(人体の機能)が別々の授業(先生も別々)だったことに違和感がありました。「構造と機能を必要に応じ、関連させて説明したもらった方が分かりやすいのに。。。」と思っていました。そのため、坂井先生の、まさに”解剖学+生理学”という『人体の正常構造と機能』には何度も何度も助けてもらいました。
本書の「あとがき」には、坂井先生のご専門が腎臓であるということが書かれており、これは、大変興味深いことでした。そこで、ブログは目次に続き、その「あとがき(一部)」から入りたいと思います。なお、目次の黒字がブログで触れている項目ですが、正確にお伝えしたい箇所については引用(『』)させて頂いています。 また、長くなってしまったためブログを3つに分けました。
著者:坂井建雄
出版:中公新書
発行:2013年4月
はじめに
第一章 腎臓とはなにか? ―尿の意味論
・どのような臓器か
・ミクロの構造
・尿の主な成分は水である
・生命を育む水
・細胞にとっての重要度
・人体からの出入り
・腎臓の責任
・尿の生成は二段階方式
・排泄機関としての役割
・尿の色
第二章 尿は血液から作られる ―濾過をする糸球体の働き
・糸球体の形
・濾過フィルター
・無数の足突起を伸ばす足細胞
・糸球体は再生できない
・濾過量の測定
・腎臓と血管の関係
・腎臓の中の動静脈
・濾過の仕組み
・尿の材料となる血液
・濾過フィルターの異常
第三章 尿の調節は全身の調節 ―大量に作り、大量に再吸収
・尿細管の働き
・近位尿細管の特徴
・上皮細胞による輸送
・イオンと水の吸収
・髄質での濃縮
・濃縮の仕組み
・体液の浸透圧を調節
・腎臓による体液量の調節
・成分を調整する集合管
第四章 進化した腎臓 ―高度に発達した哺乳類の腎臓
・脊椎動物のさまざまな腎臓
・地球上での脊椎動物の進化
・高度に進化した哺乳類の身体
・尿を濃縮する腎臓の髄質
・哺乳類の糸球体の構造
・哺乳類の糸球体が機能するための条件
・腎臓の被膜
第五章 壊れそうで壊れない糸球体 ―繊細な構造、壊れない仕掛け
・臓器の隅々に広がる毛細血管
・毛細血管の内皮細胞
・糸球体の毛細血管の特徴
・糸球体の内部構造
・メサンギウムという結合組織
・糸球体にかかる大きな力を支える
・糸球体におけるメサンギウム細胞の役割
・糸球体が壊れないで働き続けるために
・傍糸球体装置
・レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系
・尿細管糸球体フィードバック
第六章 腎臓の謎を解読した歴史 ―医師たちは何に魅せられてきたのか
・腎臓の構造と機能を解き明かす
・古代の人たちは腎臓を知っていたか
・医師の君主ガレノス
・16世紀のヴェサリウスが見た腎臓
・マルピーギによる腎小体の発見
・尿細管の走行が明らかに
・ブライトによる腎臓の発見
・糸球体の研究史
・足細胞とメサンギウム細胞の発見
・濾過フィルターの主役さがし
第七章 腎臓病はやはり恐ろしい ―できるだけ長持ちさせて長生きする方法
・腎臓病は目立たない
・腎臓は少しずつ壊れていく
・壊れても生きていける
・慢性腎臓病CKD
・腎臓とともに生きる
あとがき
あとがき(一部)
『私が腎臓に興味を持つようになったきっかけは、たまたまの出会いのようなものである。私の解剖学での最初の研究テーマは、ハーダー腺というネズミの眼の奥にある脂肪分泌腺に関するもので、これで医学博士の学位を得た。腎臓の研究を始めたのはその後である。私と同じ年代で生理学教室にいた河原克雅君(現北里大学生理学教授)がイモリの尿管の電気生理を研究していて、解剖学的な見地から助言を求められ、それをきっかけにイモリの腎臓の共同研究が始まったのである。その後私は腎臓の解剖学研究の第一人者である、ドイツのハイデルベルク大学のクリッツ教授のもとに留学した。ここで手がけた糸球体についての研究から、私の腎臓研究は本格的に始まった。それ以来30年ほどの間に、腎臓の構造と機能に関する研究は急速に発展し、腎臓病の診断と治療にも大きな進歩があった。この腎臓研究の発展に形態学の面からなにがしかの貢献ができたこと、また腎臓の構造と機能についての理解が深化・変貌してきた様をつぶさに目撃できたことは、私にとって大きな喜びである。
冗談ごとではなく、第一線の研究者の言っていることが、ある日を境に180度変わってしまうこともありえるのである。糸球体の濾過のフィルターの主役が何かについて、私を含め誰もが糸球体基底膜が主役であると信じていたが、1998年にスリット膜が主役の座に躍り出て糸球体膜は日陰者になってしまった。それ以後に腎臓の研究を始めた若い人たちは、そのような紆余曲折の経緯を知るよしもない。』
第一章 腎臓とはなにか? ―尿の意味論
●尿の主な成分は水である
・人間が生きるためには、さまざまな物質を外界から取り込む必要がある。
・第一に空気中の酸素、第二に食物、第三に水である。
いきなり本題から外れてしまって申し訳ないのですが、上記を書き出したのは、東洋医学でとても重要なことの一つである“気・血・津液(シンエキ)”を、気⇒酸素、血⇒食物、津液⇒水に置き換えて考えることができるなら、「“気・血・津液”は人間が生きるために必要な、時代を越えて大切なもの」と言っても良いのではないかと思ったためです。
「中医学アカデミー」さまのサイトにあった“気血津液について”というページをご紹介させて頂きます。
『中医学では、五臓六腑のほかに、人の体は気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)の3つで構成されていると考えます。従って、中医学では病気は五臓六腑に多いが、気血津液とも深い関係があると考えています。』
第二章 尿は血液から作られる ―濾過をする糸球体の働き
●糸球体は再生できない
・足細胞が細胞分裂をしない理由はよくわからないが、そのため、糸球体は一度壊れると再生することができない。
・糸球体のどこかに、細胞分裂のできる未分化な細胞が混ざっている可能性は完全には否定できない。
・糸球体は繊細な構造で壊れやすく、再生することがないため、年齢とともに糸球体の数は少しずつ減っていく。
・硬化糸球体とは壊れた糸球体に結合組織が進入して、毛細血管がつぶれてしまう状態である。
・硬化糸球体の数は40歳を越えると硬化糸球体の数は急速に増えていき、60歳代になるとその割合は8パーセントになる。
・腎臓の病気では、糸球体に炎症が起こって糸球体硬化が進み、正常に働く糸球体の数が大きく減る恐れがある。
・糸球体が硬化する原因の多くが、足細胞であることがわかってきている。
画像出展:「腎臓のはなし」
・腎臓は腎移植で片側の腎臓を摘出すると、残された腎臓が大きく肥大して糸球体濾過量を増やすことが知られている。
・実験動物を用いた詳しい研究によると、肥大した腎臓では、糸球体が大きくなって糸球体濾過量を増すこと、しかし足細胞の数は変わらないことが知られている。足細胞は大きくなり足突起の数を増やして、大きくなった糸球体の表面を覆うのであるが、この足細胞の努力には限界がある。
・腎臓の肥大がある程度以上になったり、肥大したところにさらに糸球体を傷害する因子が加わったりすると、足細胞が脱落して裸になった糸球体の表面がボウマン嚢の壁側上皮と癒着し、そこから糸球体内に線維芽細胞などが進入して糸球体が内部から壊れてしまう。
画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」
この写真は糸球体毛細血管の濾過障壁(3層のフィルター)を写したものです。下の毛細血管腔から[血管内皮細胞]、[糸球体基底膜(内透明版-緻密版-外透明版)]、[足細胞の足突起]となります。また、足細胞の足突起間にある“細隙膜”とは「あとがき」の中で坂井先生がお話しされていた(「私を含め誰もが糸球体基底膜が主役であると信じていたが、1998年にスリット膜が主役の座に躍り出て糸球体膜は日陰者になってしまった」)、スリット膜のことです。
この細隙膜(スリット膜)について、本の中では次のようなことが書かれています(一つご注意頂きたいのは、私が持っている本は2008年発行の第1版です。最新は改訂第3版[2017年1月発行]になりますので、最新の内容とは異なるかも知れません)。
『足細胞の足突起の間には、濾過細隙が開いている。この細隙は、足突起がGBM[糸球体基底膜]に接するあたりで最も狭く、この部分に足突起をつなぐように細隙膜(スリット膜)が掛かっている。この細隙膜には、規則的な内部構造が報告されている。細隙の中心部を通る1本の糸と、それを両側の足突起の細胞膜につなぐ細糸がはしご状に配列して、その間に長方形の窓が多数あいている。
個体発生の過程をみると、濾過細隙が開く前の足細胞同士は、通常の上皮細胞にみられるのと同様、互いにタイト結合によって連結されている。糸球体の発生が進み、糸球体毛細血管が形成されると、タイト結合が細隙膜に置き換わり、足突起の間が開いて濾過細隙が形成される。病的な状態では、足細胞が足突起を失い扁平な細胞に変化し、濾過細隙も閉じてしまうが、このとき細隙膜に代わってタイト結合が足細胞同士を連結するようになる。細隙膜の基部にあたる足突起の膜の部分には、タイト結合と同じZO-1という蛋白分子が同定されている。』
●濾過量の測定
・イヌリン・クリアランスは、糸球体濾過量を調べるための王道であるが、臨床の場ではもう少し簡便な方法が用いられている。それがクレアチニンという物質のクリアランスを調べる方法である。
・イヌリンが王道とされているのは、生体内に存在しない物質であり、正常では糸球体で濾過され、尿細管では再吸収も分泌もされずに排泄される。そのため正確な糸球体濾過量(GFR)が得られるからである。
・イヌリンによる検査(検体採取)には点滴によるイヌリン投与が必要で、患者さまの負担が大きい。
・クレアチニンは生体内に存在する物質(内因性物質)であり、正常では糸球体で濾過され、尿細管では再吸収されないものの、わずかに分泌がある。また、正常でも筋肉量の影響を受けるなど、イヌリンに比べると糸球体濾過量の検査としての精度は高くない。
画像出展:「病気がみえるvol.8 腎臓・泌尿器」
こちらの図の上段左は血清Crの流れです。上段右は、腎機能低下時を説明したもので、濾過されなかった血清Crは循環に戻されます。そしてGFR(糸球体濾過量)が正常の50%を下回ると血清Crが上昇し始めます。
下段は血清Crに異常をきたす要因ですが、高齢者や長期臥床のために筋肉量が顕著に低下している場合や、肝臓に障害がある場合などは、血清Crは低く出るので注意を要します。
●腎臓と血管の関係
・糸球体による濾過は体液の量と成分を一定に保って人体の細胞が生きていけるようにするために必要である。
・糸球体濾過の量を十分に確保するためには、十分な数の糸球体が正常に働いてくれることが大前提である。
・糸球体濾過のためには大切な要素がさらに二つある。一つは、腎臓に十分な量の血液が流れることであり、もう一つは、糸球体に十分な血圧が加わることである。
・腹部を縦に走る大動脈と大静脈は並んでいて、大動脈が左に、大静脈が右にある。
・腎静脈は左の腎静脈の方が長く、腹大動脈の前面を横切っている。そして腹大動脈から分かれた一本の動脈(上腸間膜動脈)が左の腎静脈の前を下って、腎静脈を挟み込むような形になっている。
・左腎静脈の構造は圧迫されてこの周辺のうっ血や静脈瘤、あるいは腹痛や血尿の原因となる。
先生の本の図2-7は「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 改定第2版」からとなっています。左の図は「第1版」ではありますが、カラーであることを優先してこちらの図を貼り付けました。
向かって右側が左腎です。中央水色の太い管は下大静脈、赤色の太い管は腹大動脈です。左腎につながる静脈は確かに長く、上から押さえつけるように走行している少し細い管は上腸間膜動脈です。この構造が、うっ血、静脈瘤、血尿、腰痛の原因になります(クルミ割り症候群)。
超ひも理論はテレビで知りました。耳にした内容は「相対性理論」と「量子論」を結びつけるような画期的な理論だということでした。
過去に量子論という超難解なものに手を出しているのですが、これはブルース・リプトン先生の『思考のすごい力』という本がきっかけです(ブログ“がんと自然治癒力13”の最後[追記:“量子物理学が生物学・医学を変える日は近い”]にその経緯があります)。
著者:ブルース・リプトン
出版:PHP研究所
発行:2009年1月
ブルース・リプトン先生が感銘を受けた本が、こちらの『量子の世界』です。
著者:H.R. パージェル
出版:地人選書
発行:1983年11月
この中に“量子論の奇怪さ”について書かれた章があります。下記はその一部です。
『「量子的奇怪さ」とはいったい何なのか。それを見るため、新しい量子論の物理学を、それが取って代わった古いニュートン物理学と対比させてみよう。ニュートンの法則は、石の落下や惑星の運行とか、川や潮の流れなど、見慣れた物体やありふれた出来事からなる、目に見える世界の秩序をつかさどるものだ。このニュートン的世界像を第一義的に特色づけているのは、決定論的性格と客観性である。つまり、時計仕掛けとしての宇宙は時間の始まりから終わりに至るまで決定しているし、石や惑星などは我々が直接にそれらを観測しなくても客観的に実在しているのだ―背を向けていたってちゃんと存在している。
量子論になると、世界を(決定論や客観性のような)常識に基づいて解釈することはもはや許されなくなる。もちろん量子世界も理性によって理解しうるのだけれども、ニュートン的世界のように描写してみせることはできないのだ、これは原子やそれよりも小さい量子の世界の極微性だけが原因ではなくて、通常の物体の世界からそのまま借用した表現の手段が量子的対象には通用しないということによっている。たとえば、石などはそれが静止していて、しかもある定まった場所に置かれているという様子を我々は容易に心に描くことができる。だが電子のような量子的粒子に対して、それが空間のある一点に静止しているなどと言っても意味をなさないのだ。さらに、電子は、ニュートンの法則ではありえないような場所にも物質化して現われることができる。』
1965年に量子電磁力学の発展への貢献により、ノーベル物理学賞を受賞された物理学者のリチャード・フィリップス・ファインマン先生は次のようなユニークなアドバイスをしています。
『量子力学が本当に理解できている人はまずいないだろう、と言って私は間違っていないと思う。諸君はもしできるなら、「だが、どうしてそんなことがありうるのだろうか」と自分自身に問い続けるのはやめた方がよい。なぜならますます深みにはまって、袋小路をさまようのが落ちで、そこから出口を見つけて出てきた人はまだいないのだから。どうして量子力学ではそうなるのかは、誰もわかってはいないのだ。』
超ひも理論の「最小部品の“ひも”は1秒間に10の42乗回以上で振動している」とか、「それは9次元(もしくは10次元)で高速に振動している」などは、理解不能、イメージ困難な別世界です。ここは、ファインマン先生の教えに従い、これらの異次元のものへの追及は早々にあきらめ、超ひも理論が「相対性理論と量子論を統合する理論」と言われている理由は何なのか? これが分かれば良しとしたいと思います。
手に入れたのはNewtonの別冊“超ひも理論と宇宙のすべてを支配する数式”です。4章に分かれていますが、ブログは最も知りたかった【量子重力理論(相対性理論と量子論を統合する理論)】を最初にお伝えし、その後、1章について何となく分かったような気になった箇所をいくつか列挙します。
編集:木村直之
出版:ニュートンプレス
発行:2019年3月
目次
1.超ひも理論入門
プロローグ
●“究極の数式”を求めて①~②
●物質の“最小部品”
ひもの正体
●ひもの性質①~②
●ひもの振動
●ひもの振動と質量①~②
超ひも理論の世界
●超ひも理論の歴史①~②
●高次元空間①~②
●超対称性
●ブレーン①~②
究極の理論をめざして
●量子重力理論
●宇宙のはじまり
●ダークマター
●超ひも理論の証明
●広がる応用例①~②
2.もっとくわしく! 超ひも理論
特別インタビュー
●橋本幸二博士 超ひも理論の次の“革命”は明日にもおきる!?
●ブライアン・グリーン博士 超ひも理論の“伝道師”が語る、理論物理学の最前線
●大栗博司博士 「万物の理論」の探求物語
余剰次元の検証
●「見えない次元」をさがし出せ!
3.宇宙のすべてを支配する数式
宇宙のすべてを支配する数式①~②
第1項
●重力の作用①
第1項の前
●重力の作用③
第2項
●電磁気力・弱い力・強い力①~②
第3項
●粒子と反粒子①~②
第4項・第5項
●質量の起源①~②
第6項
●湯川相互作用①~②
未来の数式
●ダークマター①~②
●力の統一
●究極の理論
4.もっとくわしく! 宇宙のすべてを支配する数式
特別インタビュー
●村山斉博士 最終的には、一つだけの力、一つだけの基本法則ですべてを説明したい
●南部陽一郎博士 何もないところに種をまくのが楽しい
●梶田隆章博士 素粒子の「標準理論」を超える、新たな地平を開いた
●量子重力理論
・『相対論と量子論が“結婚”出来れば究極の理論になる』
-相対性理論は時間や空間、そして重力に関する物理学の理論である。
-量子論は原子や素粒子などのふるまいを説明する物理学の理論である。
-多くの超ひも理論研究者は、「量子重力理論」と「究極の理論」をほぼ同じ意味で使っている。
-相対論と量子論が統合したものは「量子重力理論」と呼ばれているが、ミクロな世界での重力の計算に「くりこみ理論」を適用できないことが統合できない理由である。
-ミクロな距離を伝わる重力を相対性理論に基づいて計算しようとすると、電磁気力には適用できた「くりこみ理論」が使えず、計算結果に無限大があらわれてしまい、計算が破たんする。
以上のことから、マクロの世界に加え、ミクロの世界でも重力計算ができるようになれば、究極の理論は完成するということです。そして”素粒子=点”ではなく、”素粒子=ひも(弦)”と捉えることにより、可能性が生まれるということが分かりました。
※くりこみ理論:場の量子論で使われる、計算結果が無限大に発散してしまうのを防ぐ数学的な技法。(ウィキペディアより)
1.超ひも理論入門
『超ひも理論によれば、あらゆるものは、分割していくと、最終的にきわめて小さな「ひも」にたどりつくと考えられています。超ひも理論は未完成の理論ですが、現代の物理学者たちが追い求める“究極の理論”になる可能性を秘めています。』
プロローグ
●物質の“最小部品”
・『「超ひも理論は、ひとことでいえば、物質の“最小部品”である素粒子が、大きさをもたない[点]ではなく、長さをもつ[ひも(弦)]でできていると考える理論です」。』
ひもの正体
●ひもの性質①~②
・ひもは伸び縮みして切れたりくっついたりする
・ひもは一つにつながったり、二つに分かれたりする
●ひもの振動
・ひもは、常に高速で振動している(ひもは1秒間に10の42乗回以上も振動すると考えられている)
●ひもの振動と質量①~②
・ひもは振動が激しいほど重い
・ひもは開いたひも(光子や電子など)と閉じたひも(重力子[未発見])がある
超ひも理論の世界
●超ひも理論の歴史①~②
・素粒子を点(大きさをもたない)だと考えたときの“限界”をひもは突破できる
・『現在、自然界には、「電磁気力」、「弱い力(原子核を構成する中性子が陽子に変わる反応[ベータ崩壊]などを引きおこす力)」、「強い力(原子核の中で陽子や中性子を結びつける源となっている力であり、ごく近距離ではたらく)」、そして「重力」という四つの力が存在することが明らかになっています。標準理論では、そのうち電磁気力、弱い力、強い力の三つについては、いっしょに計算することができるのですが、どうしても「重力」を合わせて計算することができないのです。
このような標準理論の限界は、「素粒子=点」だと考えたときの矛盾点をなくす理論である「くりこみ理論」の限界を意味します。この限界を突破する可能性を秘めたのが、「素粒子=ひも」だと考える「超ひも理論」です。』
●高次元空間①~②
・ひもの振動状態と現実の素粒子を矛盾なく対応づけるためには、ひもの振動方向(次元)は9個(9次元)必要になる。6次元は「コンパクト化」されており、小さすぎて私たちはその存在に気づけない
●超対称性
・素粒子のスピン(自転)が整数のボソンに、半整数のフェルミオンを加えたことにより、パートナー粒子(超対称性粒子)の存在を認められ、自然界に存在するすべての素粒子を扱えるようになった。
●ブレーン①~②
・超ひも理論には、1次元の“ひも”に加え、2次元の“膜”や“立体”もある。
究極の理論をめざして
●宇宙のはじまり
・宇宙のはじまりはミクロの世界で重力が非常に強くなる。これは、素粒子が狭い空間にぎゅうぎゅうに詰め込まれた、高温・高密度な状態と考えられるからである。
・空間さえもゆらぐミクロの世界での重力を、正しく計算できる可能性があるのは、超ひも理論だけである。
●ダークマター
・超ひも理論により、物質の素粒子と重力の関係が詳しく分かるようになると、ダークマターの正体と思われる未発見の素粒子についての発見も期待できる。
・ダークマターとは、そこには何かがあるようには見えないが、何らかの重力源が存在する謎の物質のこと。
●超ひも理論の証明
・『「超ひも理論では、ひもの振動がはげしくなると、そのひもに対応する素粒子のエネルギーが段階的にふえて、重くなります。たとえば、同じような性質だけれども、質量が2倍、3倍の重い素粒子が存在するということです。超ひも理論が予言するそのような重い粒子をみつけることができれば、理論の正しさを裏づける強力な証拠となります」』
・『「超ひも理論が予言する素粒子の多くは非常に重く、発見するにはLHC(ヨーロッパ原子核研究機構[CERN]が保有)の10兆倍ほどのエネルギーが出せる加速器が必要です。それらの重い粒子を加速器で発見するのは現実的ではありません。ただし、超ひも理論のモデルによっては、LHCや今後つくられるであろう次世代の加速器でも探索可能な、比較的軽い素粒子が存在する可能性もあり、それらの軽い素粒子であれば発見できるかもしれません」』
・『「理論の正しさという意味では、実験結果を説明できることのほかに、数学的に矛盾がないかどうかという点も重要です」』
加速器LHC
『左のイラストは、加速器LHCの全景を地上の風景に重ねてえがいたものです。LHCは1周約27キロメートルの環状の施設であり、地下100メートルのトンネル内に設置されています。巨大な実験装置が四つ設置されており、余剰次元の検証実験はATLASとCMSという実験装置で行われてきました。』
加速実験のイメージ
『LHCでは、陽子(水素原子核)を光速近くまで加速し、正面衝突させます。すると、さまざまな粒子が発生するので、これらの衝突地点の周囲に配置した検出器でとらえます。こうして得たデータをもとにして、どんな反応がおきたのかを調べるのです。』
●広がる応用例①~②
・『超ひも理論から生まれた計算手法による予言が、実験結果とぴたりと一致』
・『超ひも理論から生まれた計算手法で、ブラックホールの謎が解明された!?』
付記:宇宙はどうして進化してきたのか?
宇宙の進化に関するイラストが2つありました。昔からちょっと興味を持っていたことだったので拝借しました。
画像出展:「超ひも理論と宇宙のすべてを支配する数式」
劇的に進化していった誕生直後の宇宙
『私たちの宇宙は、今からおよそ138億年前に誕生したとされている。宇宙が誕生した原因は、いまだによくわかっていない。宇宙の誕生後のわずか10のマイナス36乗秒後から、10のマイナス33乗秒後というごく短時間の間に、1兆の1兆倍のさらに1000万倍(10の43乗倍)程度の大きさまで急膨張したと考えられている。この急膨張が「インフレーション」だ。このときに生じたとされる特徴的な重力波が「原始重力波」である。インフレーションのあと、宇宙には大量の素粒子が誕生し、宇宙は超高温・超高密度のまるで“火の玉”のような状態(ビッグバン宇宙)になったと考えられている。
高温・高密度の宇宙は、インフレーション期とくらべてゆっくり膨張しながら温度を下げていき、素粒子から陽子や中性子を、そして陽子や中性子から原子核を生みだした。ここまでにかかった時間は、たった3分程度だという。その後、電子と原子核が結びつき原子が誕生するのだが、それは宇宙誕生から約37万年もあとのことになる。』
宇宙誕生の瞬間は観測できない!?
『私たちは光(電磁波)を使い、地球から宇宙のようすを観察している。光の速度は有限なので、遠くから光が届くまでには時間がかかる。そのため遠くからきた光をみることは、宇宙の過去をみることと同じだ。しかし、原子が誕生する前までの宇宙は、不透明なプラズマ(ここでは電子と原子核がばらばらになった状態のガスを意味する)で満たされており、光で見通すことができない。そのため、私たちが観測できるのは、原子が誕生したあと(宇宙誕生から約37万年後以降)の時代がやってくる光だけだ。原子の誕生は、不透明なプラズマに満たされた宇宙の終わりを意味するので、これを「宇宙の晴れ上がり」という。
宇宙の晴れ上がり以前の宇宙のようすは、プラズマに邪魔されない原始重力波や、原始重力波によって「宇宙背景放射」に刻みこまれたインフレーションの痕跡(原子重力波)などから調べられようとしている。』
バックナンバーは”完売しました”。頼りのアマゾンは最安値が”¥4,680”ということで、ほぼ断念。
幸い、県内の図書館を横断検索したところ県立図書館に所蔵されているのを発見し、最寄の図書館に電話して、取り寄せてもらうことにしました。
出版:医道の日本社
発行:2018年7月
「妊鍼」治療の最前線
1.中国でも増加する不妊患者への治療 中国中医科学針灸院
画像出展:「医道の日本 2018年7月号」
普通の大きな病院という感じで、日本の鍼灸院とはかけ離れた大きさに驚きました。
●中国では、月経不順や不妊など婦人科疾患の治療手段として広く使われてきた。近年は、鍼灸治療によって卵巣機能や子宮の環境が改善され、妊娠出産までたどり着いた臨床事例が、口コミやSNSで広く伝えられたことをきっかけに、鍼灸治療を希望する患者が急増している。
●来院される患者さんは、多嚢性卵巣総合群、卵巣機能不全、卵巣早衰、子宮内膜症などが多い。
●中医学では、腎の精が人の成長や発育、そして生殖力をつかさどると考えており、不妊を起こす主な原因は、腎精不足だという認識が強い、しかし、腎だけでなく、気血を生成する脾、全身の気の運動を調節できる肝、また衝脈および任脈も重要となる。
こちらは“週末病には経絡ヨガ”さまから拝借しました。
十二経脈と任脈、督脈が示されています。督脈は背中側の中心の線(紺色・破線)で、任脈はお腹側の中心の線(紺色・実線)です。
●緊張とストレスに満ちた日が続くと、不眠や月経不順、月経痛などの症状を引き起こす。その結果、子宮や卵巣の各種の疾患に発展しやすく、深刻な場合は不妊につながる。
●不妊女性は一般女性よりも高い確率で、うつ病などメンタル的病症にかかりやすくなる。
●鍼灸治療は、何よりも患者さんの心理的ケアを大事にしながら行う。患者さんの立場と気持ちを理解し、日常的な会話を通じて信頼関係をつくることが必須となる。
●鍼灸は、月経周期を正常に調節し、排卵を促進させる。不眠など不妊症に伴う症状を緩和できるほか、血液内のホルモンのレベルを調整することにも効果的であるが、一番の魅力は、心身を同時に調和して治療することだと考えている。
●不妊症には関元、子宮穴など腹部へのツボをよく用いる。
画像出展:「経絡マップ」
この図は下腹部に子宮(色つき)を体表投影した図です。中央△は任脈とよばれる経脈で、それぞれツボ(経穴名)が書かれています。“関元”は子宮中央で、下から3番目(曲骨-中極-関元)のツボです。“関元”は小腸のツボ(募穴)でもあり、よく使われます。
画像出展:「新版 経絡経穴概論」
“子宮穴”は奇穴の一つです。奇穴とは、「先人が有効な施術点として発表し、その有効性が経験的に証明され、歴史的にも受け継がれているものである」とされています。
“子宮穴”は、臍下4寸、中極(任脈)の外方3寸(指4本)に取ります。ほぼ卵巣の上です。
専門学校時代の教科書には、主治は婦人科系疾患(月経不順、月経痛、不妊症、子宮下垂、子宮脱)、膀胱炎となっていました。
画像出展:「新版 経絡経穴概論」
細かいですが、“3寸”という寸法です。
●『5、6年前、月経不順で多嚢性卵巣総合群と診断された患者は結婚して2年後にホルモン治療を1年あまり続けたが、子どもに恵まれなかった。母親と一緒に私の所を訪ねて「もうホルモン治療は嫌だ」と、あきらめ顔で泣いている姿が心に残った。30歳未満で妊娠しやすい年齢だが、気持ちが焦るあまりに、妊娠が難しくなっているように思えた。
そこで情緒を安定させ、心理的負荷を軽減させることを目的に、週2回、鍼と漢方薬を組み合わせて、治療を続けた。最初は口を開くたびに涙にくれた彼女が、だんだんと安定してきた。私が初めて彼女の笑顔を目にしたのは、2カ月後で、20数回の鍼治療を行ったあとのことだった。
その後、「妊娠しました!」と笑顔で診察室に現れるまでそんなに長い時間はかからなかった。私を強く抱きしめてくれた彼女は、子どもを授かった喜びだけでなく、確実に人生に対する自信を取り戻した。』
画像出展:「医道の日本 2018年7月号」
はらメディカルクリニックさまのサイトです。“体外受精説明会”などの勉強会も開かれています。
『2008年3月の開院以来、2540名の患者さまにご来院いただき、795名の妊娠が成立』とのことです(約31.2%)。[2020年10月30日時点]
●1993年に東京都内初の「不妊医療専門クリニック」として開院した。現在の1カ月の来院患者延べ人数は1,500人以上になる。
●はらメディカルクリニックでは、常に新しい情報を収集し、効果が見込める治療法に関しては迅速に導入している。
●当院で東洋医学を取り入れたのは、開業してから5年ほど経った頃のこと。当時、鍼灸や漢方で不妊治療の効果があったとする症例を知ったのがきっかけだった。
●『「漢方もそうですが特に鍼灸は、最終的には“エビデンスがない”という話になりますよね。しかし実際に、今まで排卵がなかった人が漢方や鍼灸を受けたあとに排卵するようになった症例がある。それなら何か効果があるんじゃないかと。エビデンスが出てくるのを待っていては、いつになるか分かりません。実際に結果が出ているのであれば、もちろん自分で試してみてからですが、取り入れてみようと思ったんです。現代医学で最善を尽くしたうえで、さらに東洋医学など多角的な方法で妊娠率の向上を図っています」』
●鍼灸の受療は患者さんの意志に任せている。鍼灸を受ける場所も自由だが、併設しているメディカルサロン「2BlueLine」の場合、電子カルテで患者情報を共有することができる。
●クリニックでは患者さんの満足度を高めるために、「看護師10分相談」(無料)などのサポートを用意している。妊娠が難しくなる42歳の患者さんを対象にした「42歳の妊娠教室」なども行っているが、年齢の壁の話の中で、サプリメントや鍼灸などを用いて卵の老化を防いだり、質のよい卵をつくることについて説明している。
●『「医師の指示に従うだけでなく、患者さんも自分たちで何かできることを模索しています。鍼灸や漢方といった補完代替医療なら、自分たちでも積極的に取り組んでいけるところに、喜びを感じるんです。そうやって患者さんの気持ちが前向きになることも妊娠に結びつくのではないかと考えています」
患者自身が前向きになることは、もし結果的に妊娠ができなかったとしても、「自分たちはやれるだけのことはやった」という人生の満足度につながるのだという。必ずしも妊娠がゴールではなく、患者が満足した人生を送ってほしいというのが、原氏の考えだ。』
画像出展:「医道の日本 2018年7月号」
ここに書かれているのは“2BlueLine”さまで行われている「一源三岐鍼」に関するものです。その目的は、着床促進効果ですが、ここでは3つの効果、「骨盤内の血流増加」、「子宮内膜を厚くする」、「黄体機能の維持」が上げられています。
画像出展:「医道の日本 2018年7月号」
明生鍼灸院さまのサイトです。“無料web相談室”があります。また、『不妊症・不育症など婦人科の疾患を主に治療する鍼灸院です! 20年以上の治療の中で1500組を超える妊娠がありました!』とのことです。
はじめに
●不妊の鍼灸に注力し始めて約30年、不妊治療の技術は進歩し、今や1年間に出生した新生児の20人に1人は生殖補助医療(ART)による出生である。一方で、40歳前後における出生率に関してはART数が増えた割に出生率が上がらない現実もある。そのようななか、鍼灸が役に立つことが、明らかになってきている。
不妊症の多くは西洋医学でなければ解決できない。例えば、卵管が器質的に閉塞している場合などである。したがって、鍼灸師がまずすべきことは、現状や問題をよく聴くことである。そして、鍼灸が何に役立つのか、目的意識を明確に持つことが非常に重要である。また、そのためには西洋医学の基礎知識を身につけなければならない。
不妊の何に対して鍼灸は役に立つのか
1.採卵に向けた卵巣の環境を整える
●妊娠の仕組みや不妊治療を理解するためには、排卵など卵巣の機能について知る必要がある。
●毎月排卵される卵子は1個だが、その1個は500~1000個の原子卵胞の中から数カ月かけて選別されている。卵胞は脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)によって刺激され発育するが、そのホルモンは血流によって運ばれている。つまり、卵胞の発育にとって卵巣周囲の血液循環は特に重要である。
●卵巣を栄養しているのは2本の動脈である。一つは腹大動脈から直接分岐する卵巣動脈であり、もう一つは子宮動脈の卵巣枝である。卵巣動脈は、腎臓の位置と同程度の腹大動脈から分岐して卵巣まで下降している。
●卵巣動脈には絡みつくように交感神経が分布している。さらに、上腸間膜動脈神経節から卵巣動脈神経叢となり、卵巣動脈を支配する。
●交感神経が必要以上に活性化すると、卵巣動脈が収縮して、血流が減少すると推測している。内田さえはラットによる研究で、交感神経と卵巣の関係を明らかにしている。
[内田さえ:”ストレス時の交感神経亢進が卵巣の機能と組織に及ぼす影響”。科学研究費助成事業。若手研究(B)、研究課題/領域番号22790238.2010-2011.]
※上記をクリック頂くと、PDF6枚の資料がダウンロードされます。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
卵巣動脈は、腎臓よりやや下の位置で、非常に太い腹大動脈から左右に分岐し、直接、卵巣を栄養します。一方、子宮動脈は腹大動脈→左右総腸骨動脈→左右内腸骨動脈から分岐し、2系統からの血液供給となっています。これらの構造をみると、卵巣、子宮とも多くの血液(酸素・栄養素等)を必要とする臓器であることが分かります。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
細かくて見づらいのですが、左上に“上腸間膜動脈神経節”があります。赤は血管、黄色は神経、神経が交差点のように集まった箇所が神経節です。また、右側の上から4番目に“精巣/卵巣動脈神経叢”とありますが、確かに赤の血管の上を絡みつくように黄色の神経が走行しています。
2.着床に向けた子宮の環境を整える
●子宮は妊娠前に比べ出産時の容積は2500倍にもなる。子宮の筋肉は人体で最も伸縮自在である。
●妊娠には胚の着床が必須だが、着床に大きく関係しているのが子宮内膜である。
●子宮内膜は内側から緻密層、海面層、基底層の3層構造で、緻密層と海面層を併せて機能層と呼ぶ。月経時に剥がれ落ちるのはこの機能層であるが、月経初日からわずか2週間で機能層は約10mm増殖して、着床に備える。そして、閉経まで毎月繰り返される。以上のことから、子宮は非常に多くの血液を必要とする臓器であることがわかる。そのため、子宮周囲の血流やホルモンバランスの影響で機能低下しているのであれば、その環境を改善することで機能回復が期待できる。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
・機能層(緻密層+海綿層)と基底層は別々の動脈で栄養されています。
・月経周期に伴う内膜組織の変化:『内膜組織の変化は、特有の血管構造によって支えられている。子宮動脈の枝である弓状動脈は、子宮筋層の表層を走り、子宮の内腔(左の図では上)に向かって放射状動脈を分岐する。放射状動脈は筋層を貫き、子宮内膜の手前でラセン動脈と基底動脈に分かれる。この2系統の細動脈が内膜を栄養する。
ラセン動脈は、コイルのように強く屈曲しながら内膜表層に向かい、その枝は毛細血管網となって機能層の全層を栄養する。これに対し基底動脈は基底層に分布するため、月経時に機能層が剥奪した後も残存する。さらに、ラセン動脈はホルモンに敏感に反応して変化する。このことが機能層の形態変化に大きな役割を果たす。』
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
こちらは子宮内膜の変化を表した図です。ここで注目したいのは、下段の“子宮内膜腺の変化”です。増殖期において、『エストロゲンはらせん動脈を増生させる』とあり、さらに分泌期において、『排卵が起こるとプロゲステロンはエストロゲンとともにらせん動脈をさらに増生させる』となっています。このことから、子宮内膜の“ふかふかで栄養たっぷりのベッド”は適切なホルモン分泌とらせん動脈の増生が極めて重要であることが分かります。
●子宮周囲の動脈は腹大動脈から総腸骨動脈、内腸骨動脈に分岐して、子宮動脈となる。子宮の自律神経支配は、交感神経は下腹神経、副交感神経は骨盤内臓神経による。このため、子宮に関与する副交感神経への刺激には、第2~第4仙骨(S2~S4)への刺激が重要になる。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
子宮に関与する副交感神経の骨盤内臓神経は右側のS2、S3、S4から出ます。
画像出展:「病気がみえる vol.9 婦人科・乳腺外科」
中央の図は左(前方)がお腹、右(後方)が背中です。子宮は膀胱と直腸の間に挟まれており、とても窮屈な状態です。少しでも血流を維持するためには、筋肉や筋膜を軟らかくしたいところです。
こちらは成果報告書で、研究課題名は“仙骨部表面電気刺激による新しい神経調整的不妊治療法の研究”です。クリック頂くとPDF4枚の資料がダウンロードされます。平成23年5月となっていますので、今から9年前ということです。なお、まとめの部分は次のような内容です。
『本研究によって、仙骨部表面電気刺激が子宮平滑筋の筋張力を低下させ、かつ排卵期の子宮の蠕動運動も減弱させることが判明した。さらに、その子宮の過度な活動性を抑制する作用は子宮の機能を安定化させ、幾度となく体外受精を繰り返しても胚の着床と成長が認められなかった難治性不妊症の患者の治療法としても、補助的に有効であろうことが示された。』
こちらは、不妊症ではありませんが、陰部神経刺鍼に関する資料がありましたのでご紹介させて頂きます。(”排尿障害に対する陰部神経刺鍼法のテクニック” PDF5枚)
木津先生の明生鍼灸院さまでは、“中髎穴刺鍼”を子宮内膜が薄い患者さまや子宮の血流に問題がありそうな患者さまに用い、“陰部神経鍼通電”を卵巣機能の低下が疑われる患者さまに用いられているとのことです。
こちらの図は名古屋市名東区引山にある“弘山はり灸院”さまから拝借しました。こちらの医院では「陰部神経刺鍼」を積極的に活用し、実績を上げられています。
●陰部神経刺鍼の適応症と治療方法
『当院では他の治療院では余り行われていない陰部神経刺鍼で下記の症状(臨床で確認済み)に対応しています。 不妊症・生理痛・生理不順・陰部のかゆみ、痛み・卵巣脳腫・更年期によるホットフラッシュ、イライラ・ 前立腺肥大・頻尿・残尿感・酷い下肢の冷え・慢性腰痛・便秘など。 治療ポイントは症状により使い分けます。一般的には臀部から★を刺激します。しかし、殿筋を貫いた下に 陰部神経があるので5~6センチほど鍼を刺入します。並行して挫骨神経が通っているので、こちらに当たってしまうことがあり、2~3回打ち直すこともあります。 A点B点は医学博士:中谷義雄が発見したツボで、昭和30年代から行われてきました。神経の抹消なので比較的浅い鍼で陰部神経に届き、確実な刺激が可能です。不妊症・ひどい陰部の痛み、かゆみ・生理不順・生理痛の方にはこちらを選択すると良いでしょう。』
画像出展:「経絡マップ」
左は骨盤とL2からL5までの腰椎です。また、赤は子宮を投影したものです。これによると、子宮はL5からS2の高さに位置していることがわかります。中央の△は督脈の経穴(ツボ)で、この図では下から“腰陽関”-“命門”-“懸枢”となっています。中央より少し外側にある●は太陽膀胱経と呼ばれる経脈で、腰椎部はL5の関元兪から“大腸揄”-“気海兪”-“腎兪”-“三焦兪”となり、“腎兪”の外方に“志室”があります。仙骨部は内側に上(S1)から、“上髎”-“次髎”-“中髎”-“下髎”、そのすぐ外側(外方1.5寸)に同じくS1から“小腸兪”-“膀胱兪”-“中膂兪”-“白環兪”となり、合計8つで“八髎穴”と呼ばれています。
骨盤部では卵管に位置する“関元兪”と仙骨上のS2-S4に位置する“次髎”-“中髎”-“下髎”が特に重要になります。
3.不妊患者のストレスに対しての施術
●脳にアタックするストレスは、抑うつを生み出し、そして自律神経の不調によって心身全体に不調は伝搬する。
●不妊患者さまの「妊娠できないかもしれない」という気持ちに、年齢のプレッシャー、夫や親族かの期待、通院に伴う職場ストレス、検査や治療に伴う身体的ストレスなど、非常に多くの重いストレスに晒されている。
画像出展:「医道の日本 2018年7月号」
こちらの写真は、三ツ川レディース鍼灸さまのホームページから拝借しました。また、トップページに『2005~2018年 妊娠報告数768件』と書かれています。
●日本でも鍼灸を含めた東洋医学で不妊症が改善されることが急速に認知されるようになり、当院でも13年ほど前より不妊症を訴えて来院する患者さんが増えた。現在では妊娠された方からのご紹介もあり、7割以上が不妊症で来院されている。
●当初は自然妊娠を望む患者さんが半分近かったが、現在は生殖補助医療と併用し、その成功率を上げるために鍼灸治療で身体を整えたいという患者さんが増え、不妊で来院する患者さんの8割以上が生殖補助医療と併用している。
●体外受精において卵子の質の低下が原因で妊娠に至らない、という相談が多い。生殖補助医療の現場でも卵子の質を高めるためにサプリメントやヨガなどが推奨されている。鍼灸治療や漢方薬も身体を整え、生命力や妊娠力を上げ、卵子の質を良くすると期待されている。
●卵子の質を考えるとき、骨盤内の血流をよくするのと同時に、ストレスの影響を考慮する必要がある。この場合、過度な不安を取り除き、「自分が妊娠できる」という自信を持ってもらうために、その患者に寄り添いながら治療を進めることが重要である。
まとめ
1.最も大事なことは、“ご夫婦(カップル)の意識合わせ”だと思います。ここに「ボタンの掛け違い」があると、根本的なストレスを抱えてたまま不妊治療に臨むことになると思います。
2.施術の基本は、体も心もゆるみ温かくなって、“楽になった”という感触であり、この“感触”の積み重ねが大切です。そして、月経が順調であれば、それは“妊娠の準備ができている”というサインだと思います。
3.施術の狙いは、本治(全身治療)が“自律神経系と内分泌系をととのえる”こと。標治(局所治療)が“骨盤部の血流をよくする”こと。そして、子宮内膜の機能層が“ふかふかのベッド”になることです。
4.鍼灸師は不妊治療に加え、栄養・運動・メンタルケアについての知識が求められます。
5.鍼灸師にとって最も大切なことは、「信じること」であり、「信頼されること」だと思います。
※具体的な施術内容については、【適応疾患】内にある”不妊症”をご覧ください。
はるねクリニック銀座の理事長である中村はるね先生は、不妊治療に携わって36年です。今回、中村先生の本を選んだのは、このキャリアが1番の理由です。図や表が多く、会話形式(Q&A)になっているため、とても読みやすくなっています。
医師・スタッフ女性率100%
高度不妊治療・婦人科クリック
著者:中村はるね、清水真弓
出版:主婦の友インフォス
発行:2017年7月
目次は大項目、中項目の2段階ですが、ブログでご紹介しているのは大項目だけです。
また、図に関しては、『病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科』から拝借しているものも多く、中村先生の『先生!私は妊娠できますか?』の文章と混在することになるため、かえって分かりづらく、しかも非常に長いブログになってしまいました。
目次
第1章 「私って、不妊症なんですか?」
第2章 「体外受精じゃなきゃ、ダメなんでっすか?」
第3章 「夫が原因だった! でも辛いのは私なの?」
第4章 「体質改善したら、卵子は若返りますか?」
第5章 「仕事が楽しいっていけないことですか?」
第1章 「私って、不妊症なんですか?」
年齢とともに妊娠率は下がっていく 日本産科婦人科学会「2014年 生殖補助医療データブック」より
●35歳を過ぎると妊娠率がガクンと下がる。
●妊娠適齢期は25~35歳である。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
卵子はどんどん減っていく
●卵子は胎児20週の時が最大で600万~700万個。その後、どんどん減っていき、思春期には20~30万個までに激減する。
●排卵、月経の有無にかかわらず、1カ月に約1,000個減少する。
●減少スピードは個人差が大きいが、38歳くらいから減少速度がアップする。
●一生の間に排卵する卵子は400~500個である。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
基礎体温のグラフ
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
良くないパターン
左上:体温がバラバラで相がはっきりしないパターン
左下:高温相が長いパターン
右上:高温相と低温相の二相にならないパターン
右下:高温相が短いパターン
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・排卵期以降の黄体期にプロゲステロンの作用によって体温が上昇します。
・一般的に体温は、運動、摂食、感情の起伏、基礎代謝などが影響しています。
・高温相と低温相の差は約0.3~0.6℃です。
・基礎体温のみから排卵日を特定することはできません。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
上段は“黄体機能不全”の基礎体温のグラフです。プロゲステロンの分泌不足のため、高温相が短くなります(10日以下)。
下段は“無排卵”の基礎体温のグラフです。卵胞が黄体へ変化せず、プロゲステロン分泌の増加が起こらないため、体温の上昇がみられません。
不妊の原因
【女性の場合】
●ホルモンバランスが崩れて排卵がうまく起こらない…20~50%
●卵管が詰まっている…30~40%
●おりものが少ない…10~15%
●子宮に病変・奇形などがある…15~20%
●その他
・受精できない…4%
・精子を攻撃する免疫を持っている…~3%
・着床できない…15~20%
・原因不明…10~20%
・高齢
●子宮内膜症…25~35%
【男性の場合】(40~50%)
●精子がうまく作れない
●精子がうまく運ばれない
●副性器に障害がある(精嚢炎・前立腺炎)
●勃起障害・射精障害
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・頻度は重複した数値です。
・女性不妊の原因は、“視床下部-下垂体-卵巣”、“卵管”、“子宮”の3つに大別されます。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・原因不明の不妊症(機能性不妊症)は、不妊を訴えるカップルの10~20%とみられています。
・考えられる原因は、軽度の子宮内膜症、軽度の卵管癒着、卵子の質の低下、染色体異常、子宮内膜ホルモン感受性低下、精子機能不全などがあります。
ストレスを感じると妊娠できないワケ
●ストレスは脳を攻撃する
ホルモンは脳と卵巣から出ている
●妊娠に関与するホルモンは脳(視床下部)と脳の指令に基づき脳下垂体および卵巣から出る。
●ストレスを感じる脳の感情中枢や食欲中枢は、性腺刺激ホルモンを分泌する視床下部に近いところにあるため、ストレスは排卵に影響を与える。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
排卵障害(20~50%)
●排卵が不規則または無排卵、卵子が育たない等の状態。排卵がなくても月経が起こる場合がある。
[検査]
●ホルモン検査
●超音波検査
●基礎体温表
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・視床下部-下垂体-卵巣系は月経・排卵だけでなく、卵胞発育、黄体形成にも関与しており、妊娠までの全過程に影響を与えます。
・特にエストロゲンは、頸管粘液の状態にも影響します。
卵管因子(30~40%)
●卵管は精子と卵子の出会う場所であり、受精から子宮での着床直前まで、受精卵が育つ場所。卵管は細いので詰まりやすい。
[検査]
●通水検査、子宮卵管造影検査 →この検査で卵管の通りが良くなって妊娠するケースもある。
●クラミジア抗体検査
●CA125(子宮内膜症の腫瘍マーカー)
●腹腔鏡検査
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・原因は、感染、子宮内膜症、手術既往などがあります。感染原因で1番多いのはクラミジアによるものです。
子宮因子(15~20%)
●子宮に筋腫、ポリープなどの病変や、子宮奇形(中隔子宮、双角子宮)が原因。
[検査]
●超音波検査
●子宮鏡検査
●子宮卵管造影検査
●MRI
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・主な原因は、子宮筋腫、子宮奇形、アッシャーマン症候群[子宮内膜が傷つき癒着を起こしてしまうことが原因とされる]。
受精障害(4%)
●先体反応障害(精子側の「卵子に入った」時に出る反応がない。
●卵子の殻が厚い
[検査]
●なし
免疫因子(~3%)
●免疫異常により精子を異物と認識し攻撃してしまう。
[検査]
●抗精子抗体の血液検査
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・抗体により妊娠が妨げられるものです。
・免疫因子には、自己免疫疾患や、胚と母体の免疫学的相互作用なども上がっていますが、不明点が多く明確にはなっていません。
着床障害(15~20%)
●良好胚を移植しても繰り返し不成功となるときに疑う。
[検査]
●子宮内膜検査(組織診、超音波)
●子宮鏡検査
●血液検査
子宮内膜症(25~35%)
●子宮内膜が子宮内腔以外に卵巣の中や骨盤の腹膜などにできてしまい出血を繰り返す疾患。
●子宮内膜症の女性の30~50%が不妊症。
[検査]
●超音波検査
●子宮卵管造影検査
●CA125、CA19-9検査(子宮内膜症の腫瘍マーカー)
●腹腔鏡検査
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・子宮内膜症と不妊は併存が多くみられます。
・子宮内膜症女性の20~40%が不妊症を伴っているとされ、一方、不妊女性の15~20%に子宮内膜症を合併しています。
・原因不明の不妊症女性に腹腔鏡検査を行うと20%程度に子宮内膜症の腹腔内病変が発見されます。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・生殖年齢女性の約10%にみられます。
・子宮内膜症は、子宮内膜症様組織がエストロゲンにより増殖することで発症します。好発年齢はエストロゲン分泌量が多い性成熟期(特に20~30歳代)になります。
・エストロゲンは、子宮内膜症以外に乳癌や子宮筋腫、子宮体癌にも関与します。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・子宮内膜症の二大症状は疼痛と不妊です。
・月経を重ねるごとに強くなる月経痛が子宮内膜症の特徴です。
男性因子(40~50%)
●男性因子の半分以上が原因不明
[検査]
●精液検査
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・顕微鏡により精子の性状や精液の量、濃度をチェックします。
●フーナーテスト(性交後試験)
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・精子が頸管を通過できるかどうかを調べます。テストは精子通過に適している排卵期に行います。
・特殊な機器を使わず検査できます。
フーナーテストの詳しい説明が出ています。なお、こちらのサイトは、妊娠希望や子育て中の方向けの情報を提供されています。
※下記は、不妊検査の全体像です。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・スクリーニング検査[左のBox]を月経周期2周期以内に完了することを目標とし、特定された因子、疑いのある因子に対して二次検査を行うことが推奨されています。
不妊治療
●初診での検査
・超音波検査、子宮頸部細胞診、膣一般培養検査、クラミジア抗原検査、血液検査、月経周期に合わせた各種ホルモン検査など
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
[一般不妊検査]
・STEP1:タイミング法…女性の自然な排卵に合わせて性行為のタイミングを合わせる方法。卵子を育てる薬(クロミッド、hMG注射など)、排卵を促す薬(hCG注射など)を使う場合もある。【保険適用】
・STEP2:人工授精…女性の自然な排卵に合わせて、子宮内に人工的に精子を送り込む方法。薬を使って卵子を育てることが多い。【保険適用外】
[高度生殖医療]
・STEP3a:体外受精…取り出した卵子に精子をふりかけて、受精させる。受精卵は初期胚もしくは、胎盤胞まで育ててから子宮に戻す。
・STEP3b:顕微授精…取り出した卵子に顕微鏡を使って細い針で1匹の精子を穿刺注入し、授精させた受精卵を初期胚もしくは、胚盤胞まで育ててから子宮に戻す。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・通常、不妊治療は簡便な治療から順に進めていきます。
・1つの治療法は3~6周期が目安です。ステップアップのタイミングは、原因、年齢などを考慮して個別に判断されます。
さいたま市大宮区にある病院です。検査などの動画を含め、不妊治療の全体像が良く分かります。
第2章 「体外受精じゃなきゃ、ダメなんでっすか?」
●基礎体温表で分かるのは排卵日だけではなく、ホルモン分泌から体質や生活習慣まで、いろいろな手掛かりが見えてくる。
特定不妊治療費助成制度について[市区町村ごとに違いがあるようです]
●対象者
・法律上の婚姻をしている夫婦で、申請される地域に住民登録があること。
・前年の夫婦合算の所得額が730万円未満であること。
●助成上限回数
・妻の年齢が39歳までに1回目の助成を受けた方……通算6回まで
・妻の年齢が40~42歳までに1回目の助成を受けた方……通算3回まで
※妻の年齢が43歳以上で開始した治療は、助成制度の対象外
ご参考(さいたま市の場合)
アシステッドハッチング法
●良好な胚でも透明帯が厚かったり硬かったりするとうまく孵化できない場合があるので、透明帯の一部を開き、孵化(ハッチング)を補助(アシスト)する。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・凍結胚を使用する例、胚移植反復不成功例(着床障害によるもの)で有効とされています。
スクラッチング
●子宮内膜を意図的に傷つける方法
SEET(シート)法
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
・胎盤胞から分泌された因子が含まれた培養液を移植の2~3日前に子宮内に注入します。これにより子宮内膜が着床しやすくなると考えられています。
体外受精の卵巣刺激
●体外受精・排卵誘発方法
アンタゴニスト法
[メリット]
●投与されるhMG[ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン]の量が減るため、体への負担は軽減される。
●排卵抑制のためにアゴニストを使用することで、ほぼ卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を回避可能。
[デメリット]
●エストロゲンが低下する可能性がある。
●アゴニスト使用のタイミングが難しい
ロング法(アゴニスト法)
[メリット]
●採卵日をある程度自由に設定可能。
●育つ卵の数が多いため、採卵数は期待できる。
●多くとれた場合、移植胚を凍結可能。
[デメリット]
●卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の危険性がある。
●体への負担があるため、2~3周期は卵巣を休ませる。
ショート法(アゴニスト法)
[メリット]
●育つ卵の数が多いため、採卵数は期待できる。
●多くとれた場合、移植胚を凍結可能。
●1周期で採卵可能なため、ロング法に比べ時間を有効に使える。
[デメリット]
●卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の危険性がある。
●体への負担があるため、2~3周期は卵巣を休ませる。
自然周期法-低刺激法
[メリット]
●薬を使わない(自然周期法)、使用しても刺激が弱い(低刺激法)ため、体への負担が少ない。
●毎周期、繰り返すことが可能。
●卵巣機能が低下している人にも対応できる。
[デメリット]
●刺激が弱いため、育つ卵の数が少ない、または育たない。
●自然排卵が起こり、採卵ができないこともある。
世界一体外受精を行うのに、世界一赤ちゃんが生まれないのはなぜ?
・原因は日本での体外受精は刺激が足りないからではないか。ただし、刺激が強いと(卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高まる。
※下記は「卵巣刺激」について説明されたものです。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・卵巣刺激(右のBox)には、クロミフェンや、ゴナドトロピン製剤(hMG製剤、FSH製剤、hCG製剤)を用いる。最近では、クロミフェンとゴナドトロピン製剤を組み合わせた方法や、GnRH製剤を併用する方法も使用されているようです。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
このグラフを見て、大変驚きました。「なんで、こんなに日本の出産率は悪いのだろう!?」と思い、検索したところ、“子宝先生®の婚活” さまというサイトに、詳細に分析された情報がありました。
“日本の1回の採卵あたりの出産率が60ヶ国中最下位は本当か①”、この記事は4回にわたっています。後半部に【関連ページを表示】というエリアがあり、そこに②③④があります。
画像出展:「日本の1回の採卵あたりの出産率が60ヶ国中最下位は本当か①」
こちらは、先にご紹介したものを横並びにし、1回の採卵あたりの出産率を折れ線グラフに変えたものになっています。
画像出展:「日本の1回の採卵あたりの出産率が60ヶ国中最下位は本当か③」
こちらは“国別単・複数胚移植の割合(%)”というタイトルのグラフです。左端の棒グラフが日本です。中央右に日本と同じように“青”が圧倒的に多い国がありますが、これはスウェーデンです。そして、この“青”は“1個”となっていますので、いわゆる単胚移植になります。『生殖補助医療において複数の胚移植による多胎妊娠は母子共に最もリスクです。特に高齢になればなるほど命の危険度が上がります。』との説明がありますので、単胚移植のメリットは安全性が高いこと、デメリットは出産率が低いことだと思います。
ただし、上のグラフで日本とスウェーデン(右から2番目)を比較すると、スウェーデンは日本以上に単胚移植の割合が多いにも関わらず、出産率(最初のグラフの折れ線)は日本の約4倍となっています。
画像出展:「日本の1回の採卵あたりの出産率が60ヶ国中最下位は本当か④」
こちらは“世代別胚移植割”というタイトルのグラフです。左端の棒グラフが日本です。“青”は34歳以下、“オレンジ”は35~39歳、“グレー”は40歳以上 となっています。日本は40歳以上⇒35~39歳⇒34歳以下の順になっており、日本と同じ傾向の国は他にはありません。比較的日本に近い国としては、ギリシャ、イタリア、スペインがあります。参考までにこの3カ国の出産率を見ると、ギリシャ約25%(約4倍)、イタリア約15%(約2.5倍)、スペイン約18%(約3倍)となっています。この3カ国は日本に比べ複数胚移植が多いため、この高い出産率は胚移植の数に関係しています。
また、単数胚が日本以上にも多いにも関わらず、約4倍という高出産率のスウェーデンを見ると、34歳以下⇒35~39歳⇒40歳以上となっており、日本とは真逆です。
35歳前に不妊治療を開始することが望ましいところですが、経済面や子育て環境などの要因が改善されないと簡単ではないと思います。
第3章 「夫が原因だった! でも辛いのは私なの?」
●精子の数はコンディションで変わる。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
・精子の数だけでなく、精子の運動率も、生活習慣、食習慣、環境ホルモン[生体の複雑な機能を調節するために重要な役割を果たしている内分泌系の働きに影響を与え、生体に障害や有害な影響を引き起こす作用を持つ物質]、ストレスなどの影響を受け変化します。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
①造精機能障害…精子を作る機能に問題がある。(男性不妊の原因の80%以上)
・造精機能障害の7割は原因不明
②精路通過障害…精子が外に出ていく通路に問題がある。
③副性器障害…精嚢や前立腺などに炎症が生じる。
④性機能障害…勃起や射精に問題がある(ED、射精障害)。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
・男性不妊は、妊娠の希望と1~2年以上の性生活にもかかわらず、妊娠しない状態のうち、男性側に原因があるものを指します。
・男性不妊の原因の中では、造精機能障害が最も多く、全体の80~90%を占めます。
第4章 「体質改善したら、卵子は若返りますか?」
●基礎体温は36度台が望ましいが、1番大事なことは二相に分かれていること。
●糖分や脂肪分の多い食事や、添加物の多いジャンクフードを避ける。
●妊娠に必要な栄養の摂り方のコツは、「低糖質&高たんぱく」である。
●妊娠に必要な栄養素はたんぱく質、ビタミンA・B群・E、鉄・亜鉛・カルシウム、コレステロールなどである。
●良質な卵子、精子を作るためには血糖値の吸収をゆるやかにすることが大事なので、野菜やお菜を先に食べる。
●大豆イソフラボンは、豆腐や納豆、豆乳など食事で摂る分には良いが、過剰摂取は良くない。これは、大豆イソフラボンの摂りすぎは、月経サイクルを乱したり、ホルモン療法にマイナスの影響を及ぼしたりするおそれがあるためである。
●食事のバランスに問題がある場合、赤ちゃんの病気(例えば、神経管閉鎖障害)を予防できる葉酸や、不足しがちやミネラルやビタミン類をサプリメンで補うのは良いが、カプセルやドリンク剤などの中には、加工する段階で添加物を使っているものもあるので、そこは注意が必要である。
●鍼灸や漢方などの東洋医学は、血行改善が期待できるので良いが、産婦人科で診てもらうことは必須である。
●特に女性は“冷え”はよくないので、腹巻でお腹を温かくしたり、足を冷やさないなどの配慮が必要である。
●卵子は休眠状態から、目覚めて排卵するまで約半年かかる→体質改善は半年前から!
●男性はサウナや長風呂、長時間座ったままの仕事などは精巣や前立腺にはあまり良くないので注意が必要。また、過度なカフェイン摂取を避けること。食事で摂れない場合は抗酸化作用のあるビタミンE、Cや亜鉛の摂取は望ましい。射精は造精機能の観点から週2回以上を心がける。
●精子は作られるのに74日かかる→体質改善は2、3ヶ月前から!
●コーヒーは過剰摂取でなければ、神経質にならなくて良いが、タバコは絶対に止めること。タバコや添加物、ストレスは体内の活性酸素を増やし、細胞を傷つけてしまう。
●体質改善によって卵子の老化や劣化を抑える(若返るわけではない)。
●妊娠しやすい体とは、卵子や精子の質が良くて、受精卵が着床しやすい子宮環境になっている体であるということである。
●不妊治療と障害児の関係は、不妊治療による出産が高齢出産になる場合が多いという点も含め、はっきりした結論は出ていない。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
体質改善をしても卵子が若返るわけではありません。
第5章 「仕事が楽しいっていけないことですか?」
●治療の成功率は分母の取り方や、妊娠判定の基準などが病院によってことなっており、また、病院によっては公開していないデータもあるので、単純に比較するのは難しい等、病院別の妊娠率は公表されていない。
●病院側の設備や技術、知識の差、培養士の能力や経験などによって、病院の妊娠率には差が出る。
●年齢とともに、特に35歳、38歳、42歳を契機に妊娠率は著しく低下していくという事実は世界的に見ても変わらない。
●日本の不妊専門の病院の数は人口比では世界トップレベル。
●出産率が先進国の中で最も低い原因の一つに、年齢因子の要因がある。日本の体外受精のピークは39歳程で他国より高い。
●義務教育の中で、避妊だけでなく、妊娠・不妊についても教えるべきである。
●日本の産休期間の14週は、フランスの16週と比べても大差はないが、フランスの場合、その間の給与は100%保証される(日本の「出産手当金」は60~70%で、勤務先の健康保険に加入していることが条件)。さらに、出産費用の他、受診料、検診、出生前診断、不妊治療が公費で賄ってくれる。29歳までのカップル(結婚の有無は問われない)が二人で受診すれば検査費用は全額無料。
●日本では、性のことはタブー扱いされており、政治家を含めて出産は女の問題だと思っている人が多い。
画像出展:「先生!私は妊娠できますか?」
日本は、「妊娠」についての知識が低く、グラフによると平均値64.3に対し、日本は40にも届いていません。
付記:”置いてきぼりの男性不妊、菅政権で具体化される?”
こちらはCareNetさまの記事の一部です。下記のロゴをクリック頂くと記事に移動します。
不妊治療がついに保険適用か
『さて今回、菅政権が保険適用を目指すのは、不妊治療の中でも、運動能力の高い精子のみを選択して人工的に子宮に注入する「人工授精」、体外で人工受精させた卵子を子宮に戻す「体外受精」や「顕微授精」。いずれも現在は自由診療で行われ、人工授精は1回数万円、体外受精や顕微授精に至っては1回50万円超もザラ。治療が1回で成功することはまれで、繰り返しこうした治療を行うカップルには重い経済負担がのしかかる。
保険適用は経済的負担を軽減する点が一番大きいものの、同時に保険適用で治療がより日常化することで、不妊治療への理解が深まることへの期待も寄せられているという。
そうしたさまざまな期待がより良い方向に向かうことに私はまったく異論はないが、この種のニュースを見るたびに、やや違和感を覚えることもある。
過去に世界保健機関(WHO)が不妊症の7,273組を対象に行った原因調査では、原因が男性のみにあるケースが24% 女性のみにあるケースが41% 男女ともにあるケースが24% 原因不明が11%と報告されている。単純計算すれば、男性に何らかの原因があるケースは48%となる。この件はよく「不妊の原因は男性にもありながら、なぜか女性のせいにばかりされている」という文脈で使われることが多い。ところが今この不妊治療の保険適用問題の段になると、匿名、実名を問わずメディアに登場して不妊治療の大変さを語るのは女性のみ。原因の半数と言われる男性の視点を目にすることは極めて少ない。』
不妊治療に対する鍼灸の本を探していて今回の本を見つけました。著者の形井先生については、『治療家の手の作り方』という本を拝読していたため、お名前は存じ上げていました。
著者:形井秀一
出版:社会福祉法人桜雲会点字出版部
発行:平成21年12月
目次は、多くは3段階(一部4段階まであり)ですが、ブログでは大項目と中項目までをご紹介しています。なお、取り上げている項目は各論の「冷え症」のみになります。
目次(大項目、中項目まで)
Ⅰ 産婦人科領域の鍼灸の歴史と現状
1.現代日本鍼灸と産婦人科領域の鍼灸
2.日本における産婦人科の歴史
Ⅱ 東洋医学の産婦人科の考え方
1.月経について
2.妊娠月数と妊婦の生活
3.分娩
Ⅲ 各論
1.基礎体温
2.月経不順
3.月経困難症
4.冷え症
5.不妊
6.更年期障害
7.つわり
8.妊娠中の腰痛
9.逆子
10.逆子治療の安全性
Ⅳ 産婦人科領域の鍼灸治療のまとめ
1.はじめに
2.自分の力を信じること
3.連載を振り返って
4.これからのレディース鍼灸の方向性
4.冷え症
●冷え症とは
『冷え症は、「身体の他の部分が冷たく感じないような温度で、身体の特定部位のみが特に冷たく感ずる場合をいう」と定義される。
元々、手足は、身体の熱を逃がす役割を持っているという意味で、身体の冷却器官であるという言い方もある。通常は、手足の温度が額温より高いことはない。手足の温度が高く感じられる場合は、眠い時や、喘息のある人なら喘息発作の前兆であったりする。額と手と足の温度を比べると、額>手>足の順で温かい。
ところで、足の温度が何度以下を冷えとするかの基準は決められていない。一般に、男性は足の温度が20℃に近いくらい冷えていても冷えを訴えず、逆に女性では30℃に近いくらい温かくても冷えを訴えることがある。男性は冷えを感じにくく、女性は冷えに敏感だと言えよう。
総じて、冷えは女性に多い。冷えは、基本的には冷えを感じている人の側の訴えであるが、他者が触れて感じる場合も含まれる。冷えを訴える範囲は、全身、背部、腰から下、大腿部から下、膝から下、ソックスを履く範囲、足の指先と様々である。時には、足先は温かいが下腿部だけ冷える、腰やお尻だけが冷たいという人にもお目にかかる。2ヶ所以上に渡って冷えを訴える場合が多い。
女性の腰部や殿部、大腿部などはもともと脂肪がたくさんつくようになっている。脂肪は放熱や寒さの侵入を防ぐ防御壁で、女性器や泌尿器が冷えて働きが悪くならないように助けてくれていると考えられている。しかし、現代は脂肪が少ない女性、すなわち結果的に冷えが発生しやすい、痩せた女性が魅力的とされる傾向にあるので、冷え症の発生率は社会や時代にも影響を受けているといえよう。
ところで、環境温の変化による一時的な手足の冷えは「冷え」でよいが、それを常時感じたり、強く感じて辛い人の場合には「冷え症(あるいは、冷え性=冷える性質)」と言う。
東北大の産婦人科の斎藤の調査では、下腹痛・腰痛・頭痛などの月経困難症を訴える女性332名中、冷えを訴えた女性は214名(64.5%)であった。月経過多を訴える女性51名でも、そのうち40%(78.4%)に冷え症が存在した。
また、川名は、看護科の女子学生228名(19~30歳)から、常時「強い冷え」のある者30名を選び、生理前の全身の愁訴を聞いたところ、冷え症がない人に比べて、「頭痛・頭重感」、「下腹部が痛い」、「下腹部が重苦しい」、「腹部膨満感」、「腰痛」、「腰がはる・だるい」、「いらいらする」、「怒りっぽい」、「眠くなる」、「疲れやすい」、「思考力が低下する」等が明確に多かったと報告している。
このように、冷え症は、月経困難や月経過多、月経に伴う不定愁訴などの婦人科疾患と関係が深いと言えよう。また、頻尿・残尿感など泌尿器関係の障害とも関連があることも多くの患者が訴えるところである。
冷え症がある人は、手足の末梢の血管が収縮して血液が流れ難くなっている状態があったり、精神的な緊張状態があったりする。つまり、自律神経の機能状態がアンバランスになっていることが多い。
自律神経は、意識に支配されずに、呼吸や消化吸収、排便・排尿、睡眠、血液循環などの働きを調整して、身体の健康を維持しているのだから、その働きがアンバランスである時には、冷えだけでなく様々な症状が同時に発生しやすい。例えば、何となく身体がだるい、元気が出ない、イライラする、集中できない、食欲がない、夜よく眠れない、肩こり・腰痛があるなど、様々である。
この様な一連の愁訴群を不定愁訴症候群と呼んでいる。不定愁訴が多くある人は、身体の抵抗力も弱っているし、元気度も低下しているから、風を引きやすい、疲れがなかなかとれない、月経痛・月経不順などの状態に陥りやすい、ということになる。こういう人は、当然の事ながら、冷えやすい服装をしたり、寒いところに長く居たり、冷たいものを飲んだり食べたりすることが重なると、簡単に健康を害してしまう。単純な冷えではなく、冷え症にもなってしまう。』
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
『冷え症は、月経困難や月経過多、月経に伴う不定愁訴などの婦人科疾患と関係が深いと言えよう。』とのことが書かれていました。
そこで、月経とはどんな機能なのか調べてみました。この図は月経とホルモンの関係がとても分かりやすく説明されており、知識不足だった私にとっては、「目から鱗が落ちる」ような貴重なものでした。
「月経とは子宮内膜からの定期的な出血」ということですが、大事なことは受精のための準備だったんだという点です。そして、その準備の1つが排卵前の増殖期(卵胞期)における、「エストロゲンが受精卵のためのベッドをつくる(子宮内膜を増殖・肥厚させる)」ことであり、もう一つの準備が、排卵後の分泌期(黄体期)における、「プロゲステロンがベッドにふかふかのふとんをしく(子宮内膜の質を変え、着床に適した状態にする)」ということです。
月経困難や月経過多、月経に伴う不定愁訴といった問題は、冷え症との関係だけでなく、受精のための準備(「ベッドを作って、ふかふかのふとんをしく」)にも悪影響を及ぼしている可能性が高いと考えるべきだと思います。また、これらの問題を解決するということは、受精のための良い準備につながり、それが妊娠の確率を高めることになると思います。つまり、不妊症の対策として、「最近、心身の状態が良くなった。月経も順調!」という実感こそが、不妊鍼灸の第一歩、基本ではないかと思います。
●冷え症の鍼灸
『さて、鍼灸治療であるが、局所的治療として、肝経の太衝や侠渓、地五絵などに置鍼をすると患者の自覚的な冷えの改善の効果が得やすい印象がある。自律神経機能が落ちていれば、全身的な鍼灸治療を行って、自律神経のバランスをとる。また、冷えのある下腿を中心に鍼をすることで、足の循環改善を目指すという考え方で良いと思うが、腹部に瘀血や少腹急結などがあれば、それらを治療することも良い。ただし、腹部の瘀血塊は、刺鍼や灸によっても変化しにくい人が多く、ある程度長期の治療を覚悟しなければならない場合が多い。
冬場になって冷えを感じるようになってからよりも、秋口から治療を重ねておくことが効果的であると言えよう。』
前段の“冷え症とは”の後半部に、“川名”という名前が出てきていますが、これは参考文献の『冷え症の鍼灸療法(NO. 2) -若年女性の月経, 骨盤周径, 腹証との関連について』の著者である川名律子先生のことです。
『冷え症の鍼灸療法(NO. 2) -若年女性の月経, 骨盤周径, 腹証との関連について 川名律子-』
上記をクリック頂くと、“J-Stage”の“全日本鍼灸学会雑誌”というサイトに移動するのですが、右上の【PDFをダウンロード】というボタンをクリック頂くとPDF(12枚)の資料がダウンロードされます。また、川名先生は『冷え症の鍼灸療法(NO.1) -特に足のひえについて 川名律子-』という寄稿(10枚)もされています。
一般的に冷えに効くとされる足のツボには、太衝、三陰交、勇泉、八風などがあります。
Kampoful Lifeさまの記事“足が冷たい!足指ツボのマッサージで足の冷えを改善!寝る前の足をポカポカに”に取り上げられているツボは“八風”ですが、具体的なマッサージ方法の他、筋トレや食べ物についても書かれており、とても役に立つ情報だと思います。
付記:不妊鍼灸の実績データ
2000年9月発行なので新しいものではありませんが、『鍼灸臨床の科学』という本の中に不妊症患者20例の実績が掲載されていましたのでご紹介させて頂きます。
なお、20例について特に注目したのは、効果があった症例のほとんどが治療回数11~20回であったという点です。そして、妊娠に至った4例は治療回数13~27回(平均17.8回)、治療期間95~274日(平均193.5日)であり、妊娠するまでには3~8カ月を要したとのことでした。
『不妊症患者20例に鍼灸治療を行い、11回以上治療できた15例中4例が妊娠に至り、転居2例と脱落5例の計7例が中断し、4例が治療を継続している。
妊娠に至った例数は多くないが、不妊の治療のためのホルモン療法などを継続できず、鍼灸治療を行って妊娠した症例もあり、また基礎体温の変化が改善される症例も少なくない。したがって、鍼灸治療は不妊症の患者に試みる一手段として、検討に値すると考えられる。』
先日、知り合いの鍼灸師と話す機会があり、「不妊鍼灸はいいよ!」ということを聞きました。1番のポイントは、何と言っても成果が出ているという点です。もちろん、病気や痛みなどから解放されることも素晴らしい成果ですが、それとは違った、喜びや達成感を共有できるという点が大きな魅力とのことです。また、何をやってもうまくいかず、子宝に恵まれることのなかった夫婦が妊娠に至るというケースも少なくないという話でした。
確かに、自律神経系の乱れや冷えの問題などは、鍼灸の得意とするところです。目的は体質改善になるため数回というわけにはいかないと思いますが、鍼灸が貢献できる分野だと思います。
“不妊鍼灸”で検索してみたところ、予想以上に活況であることが分かりました。また、代々木の研修センター時代のノートを見返してみると、不妊症への鍼灸治療について心がけや施術法など、詳しく教わっていたことも確認できました。
実は、“美容鍼灸”と“不妊鍼灸”は自分には縁がないだろうと思いスルーしていたのですが、今回の一件で、「やってみよう」とのやる気が芽生え、そのための準備(勉強)を開始することにしました。
今回、勉強のために用意した主な本と雑誌は4つ、参考にした本は2つの計6冊です。
1.「カラダを温めれば不妊は治る」
2.「産婦人科領域の鍼灸治療」
3.「先生!私は妊娠できますか?」
4.「医道の日本 2018年7月号 特集 不妊症と鍼灸治療」
参考:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」、「人体の正常構造と機能」
不妊症に関わるものには次のような学会もありました。
また、不妊治療情報センターさまは多くの情報を発信されており、日本生殖医療研究協会さまには大変便利は“用語集”がありました。
この4つの中で、今の自分に最も必要なものは、現代医学が進めている不妊治療の現状や患者さまが直面している実態を知ること。鍼灸がどんな時にどんな貢献ができるのかを知ること、そして発見すること。さらに、栄養、運動、メンタルケアなどの視点からもお話ができるようになること。
以上の3つが課題であると考え、今の自分にとって最も役立つ学会は、日本不妊カウンセリング学会さまであると判断し、入会させて頂きました。
1.広く一般市民を対象に妊娠・出産や不妊に関する適切な情報提供活動を行い、また特に不妊で悩んでいる人々に対して、カップルが最適の不妊治療を選択することができるように不妊カウンセリング・ケアの発展と普及を図る。
2.不妊カウンセリング・ケアに係わるさまざまな実践や研究を行う。
3.認定基準に基づき不妊カウンセラーや体外受精コーディネーターの養成講座の開催や認定を行う。
4.1、2、3を通して、国民の医療・福祉の向上に寄与する。
ブログについては長くなったので4つに分けました。
最初のブログは、不妊鍼灸で有名な徐 大兼先生の著書です。
目次は3段階ですが、ブログでは大項目と中項目までをご紹介しています。取り上げている項目は黒字の部分です。『』で括った文章は引用させて頂いたものです。また、自分の勉強のために何度も割り込みをしており、かなり見づらくしていると思いますがご容赦ください。
目次(大項目、中項目まで)
まえがき
Chapter1 カラダを温めましょう
1.あなたのカラダは冷えていませんか?
2.カラダの「冷え」が不調の原因
3.冷え性体質のあなたに
4.カラダを温めないあなたに
5.食事が不規則なあなたに
6.カラダを冷やす食べものが好きなあなたに
7.睡眠不足のあなたに
8.運動不足のあなたに
9.ストレスがたまっているあなたに
10.心が冷えているあなたに
Chapter2 不妊症に向き合おう
1.不妊症をよく知ろう
2.不妊治療のステップ
3.妊娠のために自分でできること
4.男性の不妊症について
5.アルコール、タバコ、サプリメントなどについて
6.心とカラダを温めるセックス
7.不妊に効く、その他の健康増進法
Chapter3 東洋医学で不妊症を脱しよう
1.東洋医学ってなんだろう?
2.東洋医学は不妊に効く!
Chapter4 鍼灸を不妊治療に活用しよう
1.不妊に効く鍼灸治療
2.良い鍼灸院を選ぶポイント
3.鍼灸を不妊治療で利用した人たち
まえがき
●不妊に悩む女性には共通点がある。それは、カラダに「冷え」をかかえているということである。
●「冷え」を取り除き温かいカラダになることは、不妊から解放される第一歩となる。
Chapter1 カラダを温めましょう
1.あなたのカラダは冷えていませんか?
●カラダの「冷え」が改善する時期と、不妊治療の結果が出て妊娠する時期がだいたい一致するということがわかった。
●生活習慣や食事が「冷え」をつくっていないか注意する。
●規則的なライフスタイルで健康になってこそ、子宝に恵まれるカラダの余裕が生まれる。
●ストレスは「冷え」をつくる。ストレスは心も冷やす。
画像出展:「自律神経失調症を知ろう」 (詳細はブログ“自律神経失調症”を参照ください)
ストレスの第一の標的は脳であり、“脳の疲労”を生み出します。これが続くと“神経症”に進み、さらに体全体(自律神経系)に広がると“自律神経失調症”になります。分泌系は脳(視床下部)から始まることを考えると、ストレスは最初にやってくる最大の脅威です。
●女性の排卵機能は、内分泌系や自律神経系と大きな関係がある。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
卵巣や精巣から分泌されるホルモンは、脳(視床下部)→下垂体→卵巣・精巣とつながっており、分泌促進や分泌抑制などのフィードバック機能によって適正な状態に維持されます。
これを見ても、脳を第一の標的とするストレスは大変な脅威といえます。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
左側の赤線は、活動する神経の交感神経ですが、赤●(神経核)はT1(第1胸椎)~L2(第2腰椎)から出ています。
一方、右側の青線は休息する(内臓は活動)神経の副交感神経ですが、青●(神経核)は脳(中脳・橋・延髄)と骨盤部のS2(第2仙椎)~S4(第4仙椎)から出ています。
これを見ると、脳とともに骨盤部も非常に重要なことが分かります(交感神経に関しては、不妊症を考えるとT9(第9胸椎)~L2(第2腰椎)が特に重要です。ちなみにツボ[背部兪穴]の視点でみると、T9-“肝”、T11-“脾”、L2-“腎”となり、不妊症に関係が深いとされる“臓”がすべて入いっています)。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
この図は骨盤部をお腹側から見たものです。色が3色(赤・青・紫)である理由は以下の通りです。
赤は交感神経、青は副交感神経ですが、神経叢においては交感・副交感神経線維は入り混じって臓器に分布しているため、赤+青→紫になっています。
また、“副交感神経の仙骨部と骨盤神経叢”という見出しに続く説明は以下の通りです。
『仙髄から出る副交感神経を骨盤内臓神経といい、S2~4から数本以上の小枝として起こり、肛門挙筋神経と共通幹を作ることが多い。骨盤内臓神経は、下腹神経および仙骨内臓神経とともに、骨盤神経叢(下下腹神経叢)を構成する。骨盤神経叢は、膀胱の後縁から直腸の側方にかけて広がる扁平な神経叢である。ここから多数の枝が出て、直腸、膀胱、前立腺、子宮、膣などの骨盤に分布する。なかでも骨盤内臓神経は、排尿、排便、勃起などの重要な自律神経反射を担っている。』
画像出展:「はりきゅう理論」
左の“分節性反応”とは直接的な作用です。一方、右の“全身性反応”は次のような説明がされています。
『四肢の体性刺激によって起こる内臓反射は、おもに上脊髄性反射として全身の反応性の反応が現われ、その例として血圧の調整にも関与している。』
また、鍼灸効果と体性内臓反射との関係は以下のようなものです。
『一定の体壁を刺激すると、その興奮は脊髄後根に伝えられ、脊髄と同じ高さの神経支配を受けている内臓に反射作用が現われる。このときに、内臓に現われる現象は、運動性(蠕動、収縮など)、知覚性(過敏、鈍麻)、分泌性(亢進、抑制など)、代謝性ならびに血管運動性(小動脈の拡張、収縮など)である。体表から刺激を加えて、内臓機能の変調を調整しようとする鍼灸効果の機転は、この反射によるものが大部分であるといえる。』
画像出展:「新版 経絡経穴概論」
背中には背部兪穴(肝兪、脾兪、腎兪など)がよく使われますが、奇穴[先人が有効な施術点として発表し、その有効性が経験的に証明され、歴史的にも受け継がれているもの]の中には、“夾脊[華佗夾脊]”という、脊骨の際に取るツボがあります。主治は「胸腹部の慢性疾患」となっています。
なお、”華佗”とは、中国後漢末期の薬学・鍼灸に非凡な才能を持つ伝説的な医師です。華佗という名がついた“華佗夾脊”は、歴代の医師が極めて重要なツボと考えていたということだと思います。
本書の、「2.8 神経リンパ反射の交感性・副交感性作用」には次のような説明がされています。
『チャップマン反射点を活性化すると、自律神経系を通して反射点と連結する内臓に影響を与えることが可能である。反射点の治療を通して交感神経緊張の制御が切り替わり、関係する内臓の血流が良くなり代謝推移が素早く正常化する。』
画像出展:「神経リンパ反射療法」
こちらは、背中側のチャップマン反射の刺激点を表したものです。生殖に関係する刺激点は、右第9、第10胸椎(卵巣・精巣)、右第5腰椎(子宮広間膜・前立腺・子宮・精管)、右仙骨裂孔外方(卵管・精管[主要反射点])となっています。
一方、左側には、左第8~第10胸椎(小腸)、左第11胸椎(副腎)、左第12胸椎(腎臓)などが見られます。
8.運動不足のあなたに
●運動は気や血の流れをよくし、健康で温かく、やわらかいカラダをつくり、カラダを芯から温める最も効果的な方法である。
●子宮内膜の血液は、子宮動脈→弓動脈→放射状動脈→ラセン動脈→毛細血管→静脈腔へといくつも枝分かれしながら、最終的に子宮内膜にたどりつく。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
こちらの図では、子宮内膜の放射線動脈からの先の構造(ラセン動脈→毛細血管→静脈腔)が確認できます。
●歩くことによって仙腸関節に微妙な動きが生じ、お尻の上に位置するこの関節が歩くたびにゆらゆらと動きながら、本来の正しい骨盤の位置に修正されていく。
●内臓はカラダの中にギッシリ詰まっているが、歩くことにより内臓が動き、内臓同士がお互い滑り合いそれぞれの位置や形を変えて適応する。
●内臓はすべて膜(漿膜など)でつながっているが、動かないとこの膜同士の滑りに制限がでてくる。するとお互いの動きが悪くなり、それが内臓の働きに悪い影響を与える。
●歩くことによって、内臓の滑りがよくなり、最適な位置に収まり、動きの制限がなくなって緊張がゆるむ。これは“内臓のコリ”がとれた状態で、これによって内臓の血液循環もよくなり、温かくやわらかい内臓になる。
「ゆらゆらと動きながら、本来の正しい骨盤の位置に修正されていく」というお話から、“操体法”を思い出しました。写真をクリック頂くと、日本操体学会さまのサイトに移動します。健康法としての「操体法」は不妊でお悩みの方にも有用なものではないかと思います。
『「操体」とは、立って動き回る人間にとって基本的な人体の構造と仕組みとしての骨格と筋肉のかかわり(運動系)を、その成り立ちの根本に着目して、誤りなく体をあやつり、動かすことを総称した表現です。単なる運動とか体操とは違い、二足歩行動物としての人間に とって最も自然な身体の動きと、不自然な動きによって起きる体の歪みを見きわめ、歪みのない体を保つことが操体です。』
画像出展:「万病を治せる妙療法」
『私は「人間は動く建物である」と考えています。簡単な三角屋根の家の四隅の柱を四本の足として、棟木を背骨と考え、これに首と尾をつければ動物であり、さらに後足で立ち上がったかたちが人間です。ただの建物であれば動きませんが、この建物は動きまわると考えてください。動くからこそ、からだを操って健康を守ろうという理由も出てくるわけです。建物に構造上のくるいがあっては健康はまっとうされない。そればかりでなく、動き方にも故障があってはならない。構造にも動き方にもちゃんと自然の法則はあるのです。これが人体の基礎構造です。』
画像出展:「万病を治せる妙療法」
”操体療法の基本型”はⅧまであります。
[余計なお世話ですが、パートナーの方の協力で取り組むというのはいかがでしょうか。もちろん、「操体法」がすべてではありませんが]
●筋肉は体の中で最も熱を発生させる。
こちらの画像は、「身体の“熱”の発生源は筋肉(市報のだ10月15日号掲載)」より拝借しました。筋肉といえば、運動、力の発揮ですが、もう一つの重要な働きが身体の熱をつくること、“熱産生”です。生命維持に必要最低限のエネルギーとされる“基礎代謝”は筋肉が増えると上がります。つまり、筋肉を増やすこと(栄養+運動)は、冷え対策の観点からもとても重要といえます。
9.ストレスがたまっているあなたに
●リラックスすると副交感神経が優位になる。副交感神経が優位な時は消化器がよく働き、栄養の吸収もよくなる。妊娠に必要なホルモンの分泌も盛んになる。
●リラックスは全身の筋肉をゆるめ、筋肉で押さえつけられていた毛細血管を拡げる。すると血液循環がよくなり、栄養たっぷりの血液が全身に送られ、体の細胞が元気になる。
“リラックス”はストレスから心身を守る有効な手段です。しかしながら、リラックスするとは簡単そうでなかなか難しいものです。成瀬悟策先生は“動作法”の創始者ですが、この「リラクセーション」という本の中には、“リラックス・イメージ体験”というユニークな方法が出ています。なお、画像をクリック頂くと、”心理学ミュージアム”で紹介された成瀬先生の動画に移動します。また、ご興味あれば、ブログ“緊張とリラックス”を参照ください。
リラックス・イメージ体験
『本当はまだまったくリラックスしていないからだなのに、いきいなり自分のからだをリラックスしているとイメージしようとしても、なかなかそんなことはできないものです。そんな概念とか観念のようなものは、頭のなかで思うことはできても、リラックスする感じを伴うことのない空疎な言葉だけに終わってしまうでしょう。
ところが、しばらくその思いを繰り返したり、いくらか疲れたか飽きたりしてぼんやりしてきたり、課題実現はあきらめて楽な気分になったり、頑張りはやめて何も考えないでいたり、現実を忘れて豊かな雰囲気に包まれていたり、春風駘蕩の夢心地という状況に近づいてくると、自然にからだも緊張からかけ離れたものになってきます。
緊張はしていないにしても、まだリラックスという感じではないという状況がしばらく続くと、緊張と弛緩の中間にあった気分は徐々に変化してくるものです。それをとくに自分のからだの弛緩した感じとしてからだに注意を向けてみると、なんだかそのとおりの感じがしてくるということになるかもしれません。さらに、それにこころを向けていると、この感じがいよいよはっきりしてきて、身も心もリラックスしたような感じになってくるものです。』
10.心が冷えているあなたに
下記に書かれた内容は、日々忙しい夫婦にとって決して簡単なことではないかもしれませんが、不妊と向き合う上で、最も大事な最も基礎になるものだと思います。
『不妊治療を始めたことで、夫婦の絆が深まるカップルもいます。そういうカップルは、不妊治療を「二人で取り組む共同作業」だと考えています。本音で話し合い、励まし合い、いたわりあって乗り切っていくのです。その乗り切りには、カップルそれぞれの個性があるでしょう。
私がすばらしいアイデアだと思ったのは、妊娠判定日には必ずご主人がディナーを予約するというカップルです。
採卵、移植と過ぎて、妊娠しているかどうかが判明する日、結果はどうあれ、「今回もがんばってくれて、ありがとう」という気持ちの表現として、ご主人がセッティングなさるのだそうです。
待ち望んだ妊娠判定が出たら、「おめでとうディナー」として、ジュースで乾杯! 残念な結果に終わったとしたら、「お疲れさまディナー」としてワインで乾杯です。
不妊治療の結果にかかわらず、毎回の区切り区切りでホッと肩の力を抜く機会が必要だと思います。「ありがとう」とパートナーに言われたら、女性も心が温かくなります。がっかりはしても、またがんばろうと思えるでしょう。
お互いに歩み寄り、子どものできない大変な時期を二人で乗り切るために、夫婦のコミュニケーションは常に深くなっていくべきなのです。
逆に、女性が不妊治療を一人ぼっちで戦っている気持ちになると、冷たく硬い心になって、うつっぽくなってしまいます。冷たく硬い心は、カラダを縮こまらせ、筋肉を硬くします。そのことで血行も悪くなり、カラダまで冷えてくるのです。「冷え」が新たな不妊の原因を生むことになり、子どものできない期間を長引かせることにもなります。
男性は、女性をそんな気持ちにさせないように、温かい言葉をかけてあげてください。女性がホットできるような時間をつくってあげてください。照れずに感謝の気持ちを伝えてあげてください。二人の心が冷えないことが、妊娠の鍵なのですから。』
Chapter2 不妊症に向き合おう
1.不妊症をよく知ろう
●器質性不妊…カップルのどちらか、あるいは両方に妊娠に至らない理由があるもの。女性ならば、排卵障害、卵管障害、着床障害などがあり、男性ならば、精子の数や運動効率の問題などがある。
●機能性不妊…身体的異常がないが妊娠しないもの。
5.アルコール、タバコ、サプリメントなどについて
●『妊婦に対するカフェインの有害性は、以前からアメリカでもさまざまな論文が出されています。しかし、それだけでなく、何杯もコーヒーを飲むことによって妊娠する力が低下し、コーヒーを飲まない人と比べると、妊娠率が低下することが報告されているのです。1日数杯飲むだけでも、その違いは出てしまいます。
また、喫煙者で、カフェインも摂取する人の場合は、より妊娠しにくいという調査結果も発表されています。私自身もこれまでの治療の経験から、コーヒーをたくさん飲む人に見られる、ある共通点を感じています。それは、カラダの冷えが強く、妊娠に関連する3つの経絡(肝経、腎経、膀胱経)にも冷えが現れている人が多いということです。』
アルコールやタバコが良くないのは明らかですが、コーヒーなどカフェインの摂りすぎも大きな問題のようです。
カフェインの過剰摂取について
『コーヒーは、適切に摂取すれば、がんを抑えるなど、死亡リスクが減少する効果があるという科学的データも知られていますが、カフェインを過剰に摂取し、中枢神経系が過剰に刺激されると、めまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠が起こります。消化器管の刺激により下痢や吐き気、嘔吐することもあります。』
食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~
以下はカナダ保健省 (HC)の例です。
2010(平成22)年に、カフェイン摂取について注意喚起を行いました。主な内容は以下のとおりです。
・少量のカフェイン摂取はほとんどのカナダ人にとって懸念はないが、過剰摂取は不眠症、頭痛、イライラ感、脱水症、緊張感を引き起こすため、特に子供や妊婦、授乳中の女性は注意すること。
・健康な成人は最大400 mg/日(コーヒーをマグカップ(237 ml入り)で約3杯)までとする。
・カフェインの影響がより大きい妊婦や授乳中、あるいは妊娠を予定している女性は最大300 mg/日(マグカップで約2杯)までとする。
・子供はカフェインに対する感受性が高いため、4歳~6歳の子供は最大45mg/日、7歳~9歳の子供は最大62.5mg/日、10歳~12歳の子供は最大85mg/日(355ml入り缶コーラ1~2本に相当)までとする。
・13歳以上の青少年については、データが不十分なため、確定した勧告は作成しなかったが、一日当たり2.5mg/kg体重以上のカフェインを摂取しないこと。
(ご参考)Health Canada Reminds Canadians to Manage Caffeine Consumption(2010)
Chapter3 東洋医学で不妊症を脱しよう
2.東洋医学は不妊に効く!
●骨盤腔内への血流が悪くなると生殖機能が弱まる。
画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」
子宮は、前方からは膀胱と恥骨、後方からは直腸と仙骨盤に挟まれており、とても窮屈そうです。
こちらは“フィットネスの勧め”さまより拝借しました。図は腰を横から見たもので右が背中側になります。ここに出ている動脈は全部で23本ですが、これを見ると、窮屈そうな骨盤腔内には多くの動脈が走行しており、血液の滞りが懸念されます。
Chapter4 鍼灸を不妊治療に活用しよう
1.不妊に効く鍼灸治療
●卵胞発育促進剤(クロミッド、セロフェン、セキソビット)は子宮内膜を薄くし、精子にとって重要な頸管粘液が減るという副作用があるが、鍼灸治療は、このようなアンバランスな部分を整えることもできる。
2.良い鍼灸院を選ぶポイント
●高度生殖医療の知識、特に血液検査に対する知識など必須である。
Chapter5 細胞から整えてきれいな肌になる
栄養不足が老化の原因
●身体を構成している60兆個の細胞はタン白質・脂質・ミネラル・ビタミンなどの栄養素で成り立っているが、細胞の材料の大半を占める栄養素がタン白質である。
画像出展:「肉食女子の肌は、なぜきれいなのか?」
こちらは“プロテインスコア”の表です。プロテインスコアとは体内では合成できない9種類の必須アミノ酸のバランスを食品ごとに評価したものです。卵を先頭に上位を動物性の食品が上位を占めています。大豆、納豆、豆腐などはいずれも50台ですが、これは大豆がメチオニンとリジンという必須アミノ酸の含有量が少ないということのようです。
多すぎる活性酸素は老化を進行させる
・『ヒトの細胞は酸化に常にさらされています。なぜなら、ヒトは酸素を吸って生きているからです。ヒトの細胞は、酸素を利用してATPというエネルギーを作って生きているのですが、このエネルギーを作る過程でどうしても活性酸素が作られてしまうのです。少量の活性酸素は細菌を殺菌するなどで貢献してくれるのですが、問題は活性酸素が過剰に産生された場合。大量の活性酸素は役立つどころか、かえって細胞の酸化を引き起こしてしまいます。そしてどんな時に過剰な活性酸素が発生するかというと、たとえばマラソンやトライアスロンなどのハードな運動をした時です。
エネルギーを産生する時以外にも、活性酸素は体内で発生します。お酒を飲んでアルコールが分解されてできたアセトアルデヒド、あるいは喫煙なども活性酸素の発生源です。その他には、X線検査などで浴びる放射線や、ウィルスや細菌の感染などでも活性酸素が発生します。』
活性酸素がシミやしわ、がんや認知症の原因に
『活性酸素が大量に発生したり、活性酸素の処理がうまくいかなかったりすると、細胞を酸化させ傷つけてしまいます。というのは、細胞を覆う細胞膜にはコレステロールやリン脂質などの脂肪成分が多く、この脂肪成分が活性酸素によってダメージを受けやすいからなのです。
また、がんや認知症も活性酸素による一種と言えます。それは、活性酸素によって細胞の設計図であるDNAという遺伝子が傷つけられ、その修復が正しくなされないことが、がんの原因になるからです。認知症は、脳細胞が活性酸素によって多くダメージを受けたことを原因としています。』
甘いものは老化の原因
・甘いものなど、糖質が多く含むものを摂ると血糖値が高くなるが、多くなったブドウ糖は細胞や酵素などのタン白質にくっつき、タン白質の本来の機能を損ねてしまう。このブドウ糖がタン白質に結合する現象のことを「糖化」という。
・酵素には活性酸素を消去したり、代謝を促進したりする作用があるが、糖化してしまった酵素はこのような機能が十分に発揮できなくなる。そのためいろいろな病気の原因や老化の原因になる。
・糖化したタン白質は活性酸素を発生させる。さらに恐ろしいのは、糖化したタン白質は最終糖化産物(AGE)というものになり、これが活性酸素を大量に発生させてしまう。
腸を整えると美肌になる
・栄養素は主に小腸で吸収される。
・小腸の主なエネルギー源はグルタミン酸というアミノ酸で、タン白質の中に多く含まれている。従って、タン白質摂取が少ないと小腸の働き低下につながる。
・小腸の粘膜は摂取する栄養の不足により働きが低下するが、粘膜上皮の維持(正常な分化)にはビタミンAが欠かせない。
・小腸の免疫活動は飲食物に含まれる外来抗原に対抗するためだが、腸管の粘膜には身体全体の量の半分以上のリンパ球が存在している。腸管免疫系とは、身体に必要な栄養素と病原性のある細菌を識別し、必要なものだけを取り込み、有害なものを排除するという仕組みである。
腸も自律神経を調節する
・ヒトの腸内には100種類を超える常在細菌が存在しており、その数は100兆個と言われ、重量にすると1㎏ほどになる。
・腸内細菌は他の菌と共生しているだけでなく、宿主であるヒトとも共生している。
・腸内細菌には乳酸菌のような善玉菌、ウェルシュ菌などの悪玉菌、大腸菌などの日和見菌があるが、善玉菌は、病原菌の感染を防ぐ、免疫を刺激する、自律神経のバランスを整える、ビタミンB群やビタミンKを作る、腸内の内容物の腐敗を防ぐなどの働きをしてくれる。
・日和見菌は、普段は善玉でも悪玉でもないが、体調が悪化すると悪玉菌として作用する。
・「第2の脳」とも言われる腸には1億個の神経細胞があり、脳の指令を受けず腸自身で判断することもある。
・自律神経は脳だけでなく、腸からも調節を受けているが、腸での自律神経の調整には腸内環境が良いことがとても重要になる。
腸内環境をよくすると冷え性も改善
・冷え性の原因は、鉄不足、筋肉量不足のほか、腸内環境の悪化も冷え性の原因となる。
・腸内環境が悪化すると、自律神経の調節がうまく行われず、交感神経が緊張し、副交感神経が抑制されることにより血管が収縮する。これにより、皮膚の血管も収縮し、血流が悪化して手足が冷える。
・自律神経の安定は腸内の善玉菌が鍵を握っているが、善玉菌の増殖や悪玉菌の抑制にはラクトフェリンやオリゴ糖、食物繊維などのプレバイオティクスの補給が重要である。
・腸内環境が良くないと、小腸が異物を吸収してしまい皮膚のアレルギー症状を引き起こしたり、腸内細菌がビタミンB群をうまく作れず皮膚炎を起こしたりする。
頭痛の大半は鉄不足から
・女性の頭痛には鉄不足が関係していることが多い。分子整合栄養医学的には「月経のある女性であれば70 ng以上、閉経後の女性であれば125 ng以上が理想値」と考えており(一般的な基準値は6~167ng[ナノグラム=10億分の1グラム])、隠れた鉄不足が問題である。
脳や神経と皮膚の深いつながり
・発生学的に見ると、皮膚は神経に近い存在で関係性は深い。神経の維持にはビタミンB群、神経の安定にはカルシウムが必要である。これらの栄養素を摂取し自律神経を安定させることは皮膚の健康にとっても重要である。
皮膚炎や湿疹の原因が副腎疲労症候群のことも
・人はストレスがかかると、副腎で抗ストレスホルモンである副腎皮質ホルモンを分泌して、ストレスに対抗するが、ストレス状態が長く続いたり、栄養不足が顕著になったりすると、副腎は疲労しホルモンをうまく分泌できなくなる。これにより、倦怠感、気分の落ち込み、睡眠障害、関節の痛みのほか、湿疹や皮膚炎が起きたり、太りやすくなるなどが起こる。
副腎は身体の中で最もビタミンC濃度が高い臓器であり、ビタミンCは副腎を元気にする栄養素だが、その他、タン白質、ビタミンB5、ビタミンEなども重要である。
Chapter6 お悩み別アドバイス
2.乾燥肌
肉を食べると、お肌の潤いが保てる
・肌の乾燥は表皮の一番上にある角層の水分不足が最大の原因だが、角層の水分にはケラチンが関与している。ケラチンは動物性タン白質に多く含まれている。また、角質細胞にはNMF(天然保湿因子)があり、肌の潤いを保っている。このNMFは半分以上がアミノ酸でできているが、さらにNMFが作られるためには表皮細胞が正常に分化するためのビタミンAも重要である。また、角質細胞と角質細胞の間にはセラミドやコレステロールなどの細胞間脂質があり、水分の層を挟み込んで保持している。以上のことから乾燥肌を防ぐには、タン白質、ビタミンA、脂質を摂ることが大切である。
4.しわ・たるみ
コラーゲンよりもビタミンC、アミノ酸、ヘム鉄を
・『しわの一番の原因は、紫外線によってできた活性酸素です。活性酸素によって真皮の大半を占めるコラーゲンのタン白質の立体構造が壊されると、その壊れた部分が凹んで、しわになります。コラーゲンを安定化させている基質も同様に、紫外線によってできる活性酸素で変性します。ですから、しわの予防のためにも紫外線対策が重要になります。』
・コラーゲンを作るための材料が不足したり、コラーゲンを作る線維芽細胞がきちんと機能しなかったりすると、しわになってしまう。
・コラーゲンを作る線維芽細胞がきちんと分裂するためには亜鉛が、正常に分化するためにはビタミンAが必要である。
13.更年期障害
副作用がない大豆イソフラボンがおすすめ
・『更年期障害は、卵巣機能が低下し、女性ホルモンの分泌が減少し始めるころから閉経までの期間に起こります。症状は、のぼせ・発汗・不眠・うつ・イライラ・めまい・頭痛・動悸など多岐にわたります。
更年期には、卵巣機能が低下してきて、卵巣からエストロゲンという女性ホルモンを分泌することがうまくできなくなります。そのため、卵巣からエストロゲンをしっかり分泌させようと、女性ホルモンの分泌を司る脳の視床下部が分泌命令を強めるのですが、卵巣機能が低下しているので、卵巣は脳の指令に応じた女性ホルモンをうまく分泌できません。その結果、命令を下した視床下部は混乱します。そのうえ、この視床下部には自律神経の中枢もあり、女性ホルモンをうまく分泌できないという混乱が自律神経のバランスにも影響を与えてしまいます。そうして、前述のようなさまざまな症状が生じるわけです。』
・婦人科ではホルモン補充療法を行う場合が多いが、アメリカでは乳がん・子宮がん・心筋梗塞といった動脈硬化・肝機能障害などの副作用が多く、ホルモン補充法は今では下火になっている。
・日本人は欧米人に比べて更年期障害の症状が軽いが、それは日本人の大豆摂取量が多いためではないかと考えられている。また、卵巣機能を高めるためにはビタミンEの補給が有効である。
・副腎でも性ホルモンを作っていて、副腎機能が低下すると性ホルモンの分泌が低下し、更年期症状が出やすくなる。なお、副腎を元気にするのは、ビタミンC、タン白質、ビタミンEなどである。
・貯蔵鉄(脾臓や肝臓に蓄えられている鉄)の値が低い鉄欠乏性状態の女性は、より更年期障害の症状が出やすくなるので、鉄欠乏を改善することも大切になる。
・エストロゲンの分泌が減ると骨粗鬆症も引き起こすので、カルシウムやマグネシウムの摂取も重要になってくる。
まとめ
以下の2つがポイントだと思います。
1.望ましい生活習慣(食事・睡眠・運動・禁煙)を心がけ、腸内環境をととのえるとともに、不要な活性酸素の発生を抑えること。
2.糖質をひかえ血糖値を維持する。これにより、摂取したタンパク質を無きものにしてしまう糖化、さらに進んで大量の活性酸素をばらまく最悪の物質、AGE(最終糖化産物)を発生させないこと。
そして、特に栄養の偏りが気になる方、原因不明の体調不良がながく続いている方は、まずは今の食習慣を見直して頂くことをお勧めします。
こちらは、分子整合栄養医学を推進されている団体です。埼玉県でONP(プロフェッショナル)または、ONE(エキスパート)が在籍されている医療機関は、川口市と北本市にそれぞれ1つありました。
今回の“分子整合栄養医学”はブログ“線維筋痛症”の宿題です。そして、栄養に注目するのは、自然治癒力に深く関係していると考えているためです。
昔から自然治癒力という用語を深く考えず、当たり前のように使っていたのですが、ある時、「ところで、自然治癒力って何だ??」と気になったことがありました。考え出したキーワードは「恒常性の維持」と「代謝」です。そして、最終的に自然治癒力を「ストレス適応と栄養代謝」と定義しました(ご興味あれば、ブログ“がんと自然治癒力13”の後半を参照ください)。
「ストレス」の元であるストレッサーは脳にアタックをかけます。これらのストレッサーに対処し、ダメージをできる限り小さくすることができれば、健康な状態を守ることができると思います。なお、ストレスへの対処に有効なものの代表は運動です。
一方、ダメージを負った心身に必要なものは、食事(栄養素)と睡眠だと思います。「栄養代謝」とは、しっかり食べ、しっかり休息をとり、酵素やホルモンなどが本来の働きをし、食べた物が無駄なく体の血肉になるというイメージです。
以上が、自然治癒力にとって「栄養」は非常に重要であると考える理由です。
画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」
医学の父と呼ばれているヒポクラテス(紀元前460~357年)は次のような言葉を残されています。
『食べ物について知らない人が、どうして人の病気について理解できようか』
著者:森谷宜朋
出版:幻冬舎
発行:2013年7月
一瞬、タイトルにギョギョとしてしまいましたが、よく見ると小さく、”細胞から整える分子整合栄養医学のすすめ”という副題がついており、実際、たいへん勉強になりました。
ブログで取り上げた項目を黒字にしていますが、『』で括られた文章は正しくお伝えしたいので引用させて頂きました。
Chapter3、4、7については触れていません。また、少し長くなったので2つに分けました。
はじめに
Chapter1 アンチエイジングのための分子整合栄養療法
「病気は薬で治すもの」と思い込んでいた勤務医時代
分子整合栄養医学との出合い
産後に精神不安定だった妻が劇的に快復
薬を使わないので副作用の心配がない
自然治癒力を取り戻す
「未病」を発見して治療
Chapter2 答えはすべて血液診断にある
栄養が足りなくなると、どうなるの?
健康は細胞から崩れ始める
体調が悪いのに、血液検査で「異常なし」が出る理由
基準値=正常値ではない
血漿レベルではなく、細胞レベルで濃度をチェック
胃粘膜の萎縮は胃の老化
ピロリ菌を除菌してアンチエイジング
病院の医師は火消し役、分子整合栄養医は修理役
Chapter3 若々しくきれいになるための肉食のすすめ
採食生活のさまざまな落とし穴
鉄不足はしわやたるみの原因に
適量の動物性食品をプラスする
現代人に多い栄養失調
主食は米にあらず
糖質・炭水化物を摂りすぎない
栄養価の高い旬の食材
タン白質を必ず毎日一定量摂る
低血糖症の人はおやつに豆類かゆで卵を
アルコールを飲む場合はナイアシンを補充
市販のサプリメントに頼らない
分子整合栄養医がすすめるダイエット
ダイエット中も、タン白質、ミネラル、ビタミンは摂取
断食をするとリバウンドしやすくなる
Chapter4 分子整合栄養医が斬る食にまつわるウソ・ホント
あなたの食理論はホントに正しい?
「菜食主義」は老化を抑える→ウソ
肉を食べると太る!→ウソ
コレステロールが高い人は、卵や肉を食べてはいけない→ウソ
貧血には、ほうれん草やひじきがよい→ウソ
皮下脂肪は余計なもの→ウソ
タン白質が不足すると、脚が短くなる→ホント
プロテインを飲むと、マッチョになる→ウソ
ビタミンCは、摂りすぎると尿に溶けて出ていく→ウソ
バターよりもマーガリンの方がヘルシー→ウソ
オリーブ油は身体にいい→ホント
心筋梗塞や脳梗塞の原因は、動物性脂肪である→ウソ
青魚と肉をバランスよく食べると、血管がきれいになる→ホント
胃酸は抑えるほどいい→ウソ
お酒を飲むなら焼酎か赤ワイン→ウソ
Chapter5 細胞から整えてきれいな肌になる
真のアンチエイジングは、身体全体がターゲット
皮膚は内臓の鏡
GPTの値が低すぎても「異常」
皮膚は排泄する臓器
理想なのは赤ちゃんの肌
美しい肌のために必要な栄養素
栄養不足が老化の原因
糖質や炭水化物を摂りすぎない
多すぎる活性酸素は老化を進行させる
活性酸素がシミやしわ、がんや認知症の原因に
甘いものは老化の原因
血糖を急上昇させない食事を
フレンチや会席料理の順番で食べる
タン白質をきちんと消化する胃を
ピロリ菌感染で胃は老化する
腸を整えると美肌になる
腸も自律神経を調節する
腸内環境をよくすると冷え性も改善
頭痛の大半は鉄不足から
脳や神経と皮膚の深いつながり
皮膚炎や湿疹の原因が副腎疲労症候群のことも
ストレスはシミも濃くする
最低限のスキンケア+栄養たっぷりの食事を!
Chapter6 お悩み別アドバイス
1.ニキビ・ふきでもの
・鉄不足、ビタミンB群不足、糖分の摂りすぎなどが原因
2.乾燥肌
・肉を食べると、お肌の潤いが保てる
3.シミ
・紫外線による活性酸素を防ぎ、消去する
4.しわ・たるみ
・コラーゲンよりもビタミンC、アミノ酸、ヘム鉄を
5.毛穴の開き
・コラーゲン減少による真皮のたるみが原因
6.赤ら顔
・腸内細菌の乱れが発症の一因
7.主婦湿疹(手荒れ)
・バリア機能の低下による炎症
8.薄毛・抜け毛
・タン白質や亜鉛不足
9.便秘・下痢
・便は健康のバロメーター
10.ダイエット
・タン白質を減らしたダイエットはリバウンドする
11.デトックス
・毒素は水でなく、よい脂肪で追い出す
12.月経前症候群(PMS)
・体内の過剰な水分蓄積や栄養バランスの乱れを直す
13.更年期障害
・副作用がない大豆イソフラボンがおすすめ
14.頭痛
・頭痛の原因は鉄不足にあり
Chapter7 栄養療法はオーダーメイド
栄養療法は健康や長寿につながる
「こんなにたくさん飲むの?」というほど摂取する
サプリメントに抵抗がある人は
自然治癒力を高める栄養療法
継続は力なり
あとがき
あなたには、この栄養素が足りない!
分子整合栄養療法でよく用いる栄養素
はじめに
●分子整合栄養医学とは、「人間の身体は食べた栄養からできており、身体を構成する細胞に必要な分子(栄養素)の不足や乱れが病気や老化の原因になるため、細胞の分子濃度(栄養状態)を正常な状態に整え合わせることで、病気や老化を予防・治療する」というものである。そして、この分子整合栄養医学の理論に基づき、血液検査で不足栄養素をチェックし、治療用に開発された高濃度の栄養素を補充する治療のことを「分子整合栄養療法」という。
●慢性疾患は細胞の分子の乱れ=栄養欠損が原因である。そのため薬に加え、不足している栄養素を補充し、細胞の栄養濃度を正常に戻す必要がある。
●分子整合栄養療法が効果的な疾患は、貧血、アトピー性皮膚炎、ニキビ、湿疹、うつ、関節リウマチ、動脈硬化、不妊、月経不順、PMS(月経前症候群)、がん、認知症、肌の老化などのアンチエイジングなどである。
Chapter1 アンチエイジングのための分子整合栄養療法
「病気は薬で治すもの」と思い込んでいた勤務医時代
・『一般の人はもちろんのこと、医療関係者のほとんどが、病気は薬で治すものと思い込んでいます。かく言う私も勤務医時代はそう思っており、薬を処方してきました。
しかし、大きな病院に勤務し、内科医として薬物治療を行っていながらも、自分はほとんど患者さんを治せていないという無力感を抱いていたのです。特に胃がんや大腸がんの末期の患者さんは、いくら抗がん剤治療をしても、副作用に苦しんで、最終的には残念な結果に至るということの繰り返しでした。』
分子整合栄養医学との出合い
・『何かよい治療方法はないかと模索している時に出合ったのが、分子整合栄養医学です。
分子整合栄養医学は、ノーベル賞を2回受賞した天才生化学者ライナス・ポーリング博士らが提唱したもので、正式には“Orthomolecular Nutrition and Medicine”と言われます。その理論は次のようなものです。
「身体の不調は、加齢、ストレス、遺伝素因、不適切な食生活、生活習慣、飲酒、喫煙等々のさまざまな原因が関与し、身体を構成する細胞の分子が本来あるべき正常な状態ではなくなることに起因するので、人間の身体の仕組みを細胞の分子レベルで解明し、不足している分子を至適量補給すれば、生体機能が向上し、人間が本来持っている自然治癒力が高まって病態が改善される」』
・ここでいう「分子」とは「栄養素」のことである。従って、「細胞の分子が本来あるべき正常な状態でなくなる」というのは、「細胞が栄養不足になる」ということである。そして、これが原因で身体が不調になる、つまり「病気は、栄養不足が原因である」ということである。
・栄養不足が病気の原因ならば、栄養不足を解消することが治療に至る一番の近道となる。
・栄養不足を解消する治療法とは、人間の身体の仕組みを細胞の分子レベルで解明し、不足している分子を至適量補給すること。つまり、細胞に不足している栄養素を探り、必要な栄養素を必要なだけ補給するというものである。
・どんな栄養素が不足しているかという診断は、生化学的な理論に基づく詳細な血液検査によって行う。分子整合栄養医学では、病院で通常検査する項目以外にも多数検査する。また、検査で得られた数値を、ただ基準値に当てはめて正常か異常かを診るのではなく、生化学的な背景を考慮しながら、本来あるべき細胞濃度と照らし合わせて深く分析する。
画像出展:「日本オーソモレキュラー医学会」
ライナス・ポーリング博士は、1954年度のノーベル化学賞と1962年度のノーベル平和賞を受賞されました。そのポーリング博士が60代になった時、体内の生化学物質が本来の機能を発揮できないことが原因で発生する病気に焦点を当て、これを治療する「オルソモレキュラー・メディスン(分子整合医学)」を提唱されました。
※”オーソモレキュラー栄養療法 導入医療機関一覧”をクリック頂くと、各都道府県で開業されている医療機関を見つけることができます。
自然治癒力を取り戻す
●分子整合栄養医学の最大の長所は元を断ち、根本的な治療をすることである。これは細胞の濃度を「本来あるべき状態」に戻し、個々の細胞を自然な働きへと向かわせることであり、根本原因の栄養不足が是正されれば、自然治癒力が働くようになる。つまり、必要な栄養素を口から摂取し、腸から吸収し、血液に取り込んで血流に乗せて、不足している場所まで運べば、あとは人間の身体が壊れかけた細胞を修復してくれるということである。
Chapter2 答えはすべて血液診断にある
体調が悪いのに、血液検査で「異常なし」が出る理由
●体調不良に伴って病院で行われる血液検査は保険適用内の検査で、目的は「治療のため」であり、検査項目は限られたものになっている。一方、健康診断の血液検査の項目も、血色素量(ヘモグロビン)、赤血球数、GOT、GPT、γ‐GTP、中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール、空腹時血糖という範囲に限られたものであり、分子整合栄養医学的な検査項目と比較すると、2割程度の項目数にすぎない。これでは、未病や慢性疾患の原因を発見したり、さらに原因を突き止めたりすることはできない。
基準値=正常値ではない
●検査結果の数値は個人差があるので、継続して検査を行う必要がある。何度検査しても同じくらいの数値であれば、その数値が基準値から外れていても、それはその人の正常値であると考えられる。このように、血液検査の分析は経時的変化を診ることが極めて重要である。
●GPTは肝機能を診る検査である。この値が高いと「肝細胞が壊れている=炎症がある」と考えるが、値が低い場合は特に問題なしとなる。しかし、分子整合栄養医は異なる。酵素の多くはタン白質でできており、GPTはさらにビタミンB6を補酵素としているため、GPTが低い場合、分子整合栄養医はタン白質不足、ビタミンB6不足があると判断する。
画像出展:「肉食女子の肌は、なぜきれいなのか?」
血漿レベルではなく、細胞レベルで濃度をチェック
●『たとえば鉄の過不足を診断する際に、現代医学では一般的にヘモグロビンや血清鉄の値が基準値内に収まっていれば、鉄欠乏はないと考えます。
しかし血清鉄とは、臓器やタン白質に貯蔵されている鉄(貯蔵鉄)がヘモグロビンの合成や組織での利用のために運ばれている状態のものです。したがってその値は運搬中の鉄量であり、体内にあるすべての鉄量を示すものではありません。むしろ、体内にある鉄の3分の2がヘモグロビンに、残りの大半が貯蔵鉄に含まれているので、血清鉄はほんのわずかな量でしかありません。しかも血清鉄は運搬中の鉄ですから、貯蔵鉄が少しくらい減ったところで、値は大きく変動しません。
体内で鉄が不足してくると、まず減るのが貯蔵鉄、次に減るのが血清鉄、そして最後はヘモグロビンが作れなくなって、鉄欠乏性貧血が起こります。したがって、鉄不足を初期段階で見つけるには、貯蔵鉄をチェックしなければなりません。逆に、血清鉄の値が基準値を下回っているようなら、すでに深刻な鉄不足です。
貯蔵鉄の値を示す項目が「フェリチン」です。フェリチンは鉄を貯蔵するタン白質で、身体の中の鉄の減少を、血清鉄よりも早く、そして正確に反映します。ですから、血清鉄の値が低くなくてもフェリチンの値が低い場合は鉄欠乏と診断すべきなのです。
このように、栄養素の過不足を判断するうえでは、血液中の液体成分に含まれる血漿レベルの濃度よりも、細胞レベルでの濃度を診る方が重要になります。にもかかわらず、医学者の多くは、血漿レベルでの濃度しか診ていないのです。』
私自身が還暦越えのためか、70歳以上の患者さまもめずらしくはありません。
愁訴や様子などにより状態を把握することが基本であり、その意味では患者さまの年齢を特に意識することはないのですが、年齢に関わらず配慮すべきと判断した場合は、着替え、ベッドの昇降、体位変換、体位維持、施術時間や刺激量(鍼数、置鍼時間、雀啄の有無)などに注意するようにしています。
これらの中で、特に気になっていたのは体位に関するものと、刺激量についての対応です。そこで、何か良い本はないだろうかと思って見つけたのが、今回の“中高齢者の鍼灸療法”という本になります。なお、ブログでは“5.鍼治療法”をご紹介しています。
編著:宮本俊和、冲永修二
出版:医道の日本社
発行:2015年4月
執筆者の先生は下記の通りです。
画像出展:「中高齢者の鍼灸療法」
目次
総論
1.中高齢者の医療
2.中高齢者の整形外科的疾患の特徴(ロコモティブシンドローム)
3.中高齢者の健康・体力づくり
4.中高齢者の鍼灸受療状況
5.鍼治療法
6.低周波鍼通電法
7.灸治療法
各論
1.頚椎症性神経根症・脊髄症
2.肩関節周囲炎(五十肩)
3.上腕外側上顆炎
4.腰部脊柱管狭窄症(LSS)
5.変形性股関節症
6.変形性膝関節症
7.頭痛
8.三叉神経痛
9.顔面神経痛
10.関節リウマチ・膠原病
11.気管支喘息
12.糖尿病性神経障害
13.慢性腎臓病(維持透析)
14.高血圧症
15.前立腺炎・膀胱炎
16.更年期障害
コラム 医療従事者からよく聞かれる鍼灸Q&A (84ページ)
5.鍼治療法
鍼治療 筑波大学理療科教員養成施設 濱田淳
『筑波大学理療科教員養成施設では、治療の原理として経絡や経穴の特異的効果よりも、解剖学的、生理学的な知見に基づいて施術を行っている場合が多い。
診察上、客観的所見の得られやすい筋骨格系の施術を得意としており、そのため、主動作筋や支配神経を施術対象とすることが多い。刺激方法としては、施鍼のみ(置鍼法・雀啄法)、あるいは低周波鍼通電を用いている。後者については別項に譲り、ここでは基礎技術とも言える刺激法に関して、中高齢者に特化して述べる。』
中高齢者に鍼をする前に
・人は30歳を過ぎたあたりから心身の機能低下を自覚するようになる。高齢になっていく過程で、女性では更年期障害による問題、男性でも退職による問題、あるいは友人や親族などを亡くしたことによる喪失感や将来への不安など身体的な障害だけでなく、精神的な問題も健康状態に影響を及ぼす傾向が強くなる。
・中高齢者の愁訴は一般的な原因だけで把握することが難しく、さらに加齢による退行性変性が加わるので、愁訴の原因は複雑化し、改善に至るまでに時間がかかることが多い。
・治療にあたっては、一度傷害された組織は元通りに戻ることは少ないこと、若い時とは異なり、症状は同様であっても、状況や病態、回復までの時間は同様ではないことを認識してもらうことが大事である。
・鍼治療は適応と限界を有する治療法であり、施術者まかせという姿勢だけでは回復が進まないケースも見受けられるため、施術者と患者が共同で治していくという態勢を構築する。
鍼施術を進める上での注意点
1)姿勢変化や変形、あるいは治療姿勢の問題
・加齢により、組織の柔軟性の低下や筋力低下、関節可動域の低下、運動機能の劣化などにより、ベッド上での体位変換が難しくなり、落下など思わぬ事故につながることがあるので、運動機能評価を兼ねた見守りや支え、手助けが必要である。
・ベッドからの落下防止あるいは被害を小さくするには、昇降可能なベッドを使用し、体位変換時や立位介助に役立てるのが理想的である。
・管鍼法を使う場合、通常は上から打つところを下から打つなど、患者のとれる姿勢に合わせた刺入技術を工夫することが必要になる。
・五十肩患者の施術時には治療姿勢が重要で、患者に同一姿勢を維持させると、不動作や圧迫により関節や筋に痛みが出てきて苦痛を感じることも多い。
2)多愁訴化
・変形性関節症を例に挙げても、膝だけでなく、他の部位にも症状が現れる場合が多いので、体幹部、股関節、足関節などの観察も重要となる。
・全く異なる疾患が潜在している可能性も考えるべきであり、施術者は多方面から検査・鑑別することが求められる。
・愁訴が多く、施術時間が長くなりがちなので、同一姿勢を長く続けなくても良いように、配慮や工夫が必要である。
3)体格の問題(肥満・痩せ)
①肥満
・代謝の変化や運動量の減少によって、中高齢者は体格に変化をきたすことが多い。
・肥満が様々な疾患を引き起こしたり、症状の増悪を招いたりしているケースも少なくないので、食事や運動など減量に関するアドバイスも必要である。
・女性はもともと皮下脂肪が厚く、筋が薄く加齢とともにこの特徴が強まることが多い。そのため、刺鍼のための骨指標がとれず、想定した部位あるいは組織に刺入できないことがある。
・筋に刺入するためには脂肪層の奥の筋が思っているより薄いため、刺鍼は簡単ではない。不必要な神経刺激を与えたり、気胸を起こしたりする危険性が高まるので、十分な注意が必要である。
②痩せ
・痩せている場合には、骨指標がとりやすく、さらに気胸などを警戒して刺鍼するので問題は少ないが、過敏だったり、刺入痛が起こったりすることが多い。
・筋委縮や痩せなどによって組織圧が低くなると鍼が抜けやすくなる。置鍼時や低周波通電を行う際には注意が必要である。また、刺鍼により出血することもあり、事前に説明しておくと良い。
4)組織の脆弱化などの問題
・加齢によって組織の脆弱化などがあるにもかかわらず、体力低下や筋力低下が気になり、やや強度の高い運動をしてしまったケースにしばしば遭う。組織の一部で起きた炎症が周囲に拡がり広範囲に及ぶ。
・高齢者では、筋萎縮や皮下脂肪減少により極端に痩せていて圧迫に弱かったり(神経の露出、軟部組織の硬化)、骨粗鬆症で骨が弱くなっている場合がある。治療のために無理な姿勢を取らせないようにし、理学検査、運動鍼などを行う際は細心の注意が必要になる。
・骨化、骨棘形成、石灰沈着により、解剖学的イメージと異なっている場合、想定した通りに刺入できないことがある。そのため、刺入痛を起こす可能性も高まる。
・関節裂隙の狭小化や骨棘形成によって、刺入点を設定するための骨指標がとらえにくくなっていたり、刺入対象である部位を誤認することもある。慎重に時間をかけて触診するべきである。
5)感覚の低下、神経機能の劣化の問題
・特に高齢者ではすべての感覚が鈍くなっているため、強い刺激でないと反応しなくなる傾向にある。そのために、施術者は知らず知らずのうちに、強刺激になってしまっていることがある。患者の状態(局所や顔色など)を見極め、刺激量を調節する必要がある。
・変性が進んでいる患者では、遠隔部の治療よりは局所にピンポイントで鍼をするほうが効果は高い。
6)ストレスや精神的ケア
・中高齢者は、家庭や職場などでストレスが多く、精神的な問題を抱えて鍼灸院を訪れることも多い。患者の求めているものを見極め、鍼治療で痛みや愁訴を改善しつつ、話を傾聴することなども治療者の役割である。
・不安、うつ、心身症の患者は訴えが多くなりがちで、自分の症状にとらわれていることが多い。また、男女の更年期では、やたら励ますのも問題があり、まずはしっかり話を伺うことが重要である。
7)その他(特に問診の際)
・必ず喫煙歴を確認する。疾患鑑別の意味だけでなく、喫煙者は肺組織の硬化などにより気胸になりやすいと考えられる。
・ペースメーカーや人工関節の有無、使用薬剤(病院で処方されたもの以外)については必ず問診しておく。
・定年退職後は趣味に時間を費やすことが多くなり、職業関連疾患ならぬ「趣味関連疾患」が起こっている場合があるので、問診で確認しておく。
・「血液をサラサラ」にする薬(アスピリンなど)を服用している場合は、刺鍼によって皮下出血を起こしやすいので、問診で確認の上、説明しておく。皮下出血、血腫そのものは1週間ほどで消滅するので、さほど、問題にならないが、患者が驚いてしまい、その後の治療継続に影響が生じる。
・感覚低下や皮下血行が悪いため、やけどをしやすい傾向にあるので、温熱療法、灸施術についても注意が必要である。
・甲状腺機能異常、特に機能低下を呈する疾患は精神機能低下を伴うので、認知症とみなされている場合がある。
中高齢者の鍼治療
・『鍼治療を受ける中高齢者の多くは、変形性膝関節症、五十肩、脊柱管狭窄症などの退行性変性を有している。そのため治療目的は、①疼痛対策、②日常生活動作や生活の質の改善、③疾病の進行抑制が中心となる。一般に退行性変性は修復する可能性が極めて低いため、1)疾病部位の改善と、2)機能面の向上の両面からの治療が必須となる。』
1)疾病部位の改善
・病変部位の改善を目的とした治療では、圧痛部の置鍼術や単刺術が効果を上げることが多い。
・変形性膝関節症では圧痛の強さと症状の強さが相関するとともに、圧痛部の置鍼により症状が改善する場合が多い。
2)機能面の向上
・たとえば膝痛における階段昇降痛や坐位からの立ち上がり動作、しゃがみ込み動作などの機能面の改善を目的とした治療では、膝ばかりではなく、股関節、足関節などの可動性を良くするための治療を併せて行う必要がある。つまり疼痛局所の治療だけでなく、機能面向上の視点からの刺鍼部位を考える。
付記:高齢者の体力づくり
年齢に関係なく、体を鍛えることで筋肉は活性化するとされていますが、本書の中にそれを物語るような運動実施期間と体力年齢/平均実年齢を比較したグラフがありましたのでご紹介します。
画像出展:「中高齢者の鍼灸療法」
『健康・体力づくりのためには、運動が重要であることはよく知られている。そして、効果的な運動のポイントの1つには継続して行うことが挙げられる。図1に示すように、運動を継続すれば、たとえ高齢者であっても運動開始から30カ月後でも、運動効果が認められる。しかしながら、一時的に運動を休止すると、それまでの運動効果は消失している(下のグラフ)。』
画像出展:「中高齢者の鍼灸療法」
棒グラフの高さは体力年齢になりますので、低いほうが良いということになります。
●慢性痛にはセルフケアが重要
『「風を引いたら、みんなどうする?」と子供たちに聞く。10人中、10人が「薬を飲むー」と答える。明治国際医療大学の伊藤和憲准教授(臨床鍼灸学教室)は、これが日本の典型的な姿だと危惧する。医療保険の充実しない海外ではそうならない。「風呂にはいる。ハーブティーを飲む」そういった答えが返ってくる。幼少期の教育が大人になってからの痛みの対処法を決めると考える伊藤准教授は、日本の子供たちには、早期に、自分で身体をケアする教育が必要だと言う。「風を引いたら病院で薬をもらう」との発想のくりかえしでは、病気になったときに、自分では何もできない。』
・伊藤准教授は、鍼灸センター専門外来で線維筋痛症を担当されており、国内でもトリガーポイントの専門家として知られている。
・痛みは医療機関だけにまかせる受身的な治療ではうまくいかないことから、患者自らが痛みをコントロールするセルフケアを推奨し認知行動療法(痛み教育と考え方)、アロマテラピー、森林浴、ヨガ、ツボケア、笑い、運動の八つのプログラムによるセルフケアの効果の研究も行っている。
・身体の機能を回復させる治療として数多くの東洋医学的アプローチがある中で、鍼治療のメリットについては、痛みがコントロールできること、副作用がほぼないこと、そして、治療中に患者と語り合えることの三つを挙げている。
・鍼は、医師の治療や処方された薬を補っていく役割と位置づける。
・専門は筋肉のため、線維筋痛症や筋・筋膜疼痛症候群の患者との関りも多い。
・『「ストレスがかかると筋肉は硬くなり身体は丸まるんです。交感神経が高ぶる時は、体は丸まるようにできていて丸まる筋肉も決まっている。立ったり、バランスを取る抗重力筋はストレスに敏感。ほかの筋肉に比べ脳とのやり取りが密にあるわけです」』
・抗重力筋の中にある筋紡錘には交感神経が来ており、脳の影響を受けやすい。
・交感神経が高ぶると、大胸筋、僧帽筋、肩甲挙筋、腓腹筋、ヒラメ筋などの筋肉が緊張しやすい。また同時に、目が乾いたり口が渇いたり、手足が冷えたり、不眠といった不定愁訴が起こってくる。
・『「私は選択的に、交感神経に影響のある筋肉のトリガーポイントを探して緩めてあげる。それが、副交感神経を優位にするんですね」鎮痛系に働く治療と、交感神経に働く治療と二つを合わせて治療する。それが伊藤准教授の考える鍼治療の理想。脳を介した痛みのメカニズム、自律神経を調節するための方法、局所の筋肉の対処という、立体的な医療概念からの話も魅力的だ。』
・線維筋痛症を含む慢性痛は、自分でも身体をメンテナンスしていかなければ治すのは難しい。そのためセルフケア医療への対策にも力を入れている。
・鍼灸師は、痛みの専門家として、痛みに関する正しい知識を身につけ、ペインマネージャとして患者の痛みをトータルケアする必要がある。[注:このことは本に書かれていたものではありません。2014年冬に伊藤先生が講師をされた“トリガーポイントと鍼灸治療”というセミナーを受講したときに、最も印象に残ったことです。]
画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」
伊藤先生の”セルフケア”のコラムを見つけました。
”慢性痛患者のための セルフケアガイドブック” もありました。クリック頂くダウンロードされます(PDF24ページ)。
●機能回復、症状改善するポイントは血流にある
『身体の機能を高める=免疫力を高めるために、姫野医師のような「分子整合栄養医学」からのアプローチは極めて説得力を持っていた。また、伊藤准教授の説くセルフケアも重要に思えた。次に本書の取材班は、線維筋痛症の症状改善のために「血流」に焦点を当てて治療を行ってきた永田勝太郎医師を訪ねた。では、なぜ血流なのか。「どんなん病気でも、まず病院で血圧測りますよね。血圧が基本だからです。そして血圧は、血流、血行動態を表している」
血圧とは、心臓から出た血液が血管の中を流れ、全身をめぐり末梢にまで至り、再び心臓に戻ってくる過程、血行動態、すなわち血液循環の状態を表す数値。そして血圧は、心臓に収縮力と末梢の血管抵抗から成り立つものだ。
「この血行動態と線維筋痛症の痛みは、関係があるんです。たとえば、腕を強く押され続けると腕がしびれてくる。正座を続けると足がしびれ、痛む。それは神経を圧迫しているというよりも血液を途絶えさせているからです。血の流れを止めるとそこに発痛物質が溜まる。すると神経が刺激され、しびれたり痛くなる。結果的には神経だがもとは血流の問題です。だから血流、血圧の管理が重要」』
・線維筋痛症は、筋痛がおもな症状で、筋は心臓から出る血液の約80%を使っている。
・筋の細胞は代謝してエネルギーを発生し老廃物をつくる。この老廃物には、痛みを発する物質であるカテコルアミンやサブスタンスP、ブラジキニン、セロトニン、ヒスタミン、プロスタグランジンなどが含まれており筋痛と深くかかわっている。
・血流や血圧を正常化することは、老廃物を流し去り痛みから解放することを意味する。
・『「私は、まず、血行動態を改善させたあと、温泉療法を試してもらう。線維筋痛症の患者さんは血圧が低いんです。そしてこの疾患が女性に多いのは女性ホルモンが出ているから。ちなみに女性ホルモンは血管拡張剤でもあるから閉経前の女性は心筋梗塞にならないんですよ。温泉療法は、血圧の低い女性の血行動態を改善するんです」』
こちらは横浜市保土ヶ谷区にある“診療所スカイ”さまのサイトです。女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)について詳しくご説明されています。なお、血管については「血管では、血管拡張作用や抗動脈硬化作用を認めます」とのことも書かれています。
こちらは慶應義塾大学保健管理センターさまが2002年に発行された“エストロゲンと生活習慣”慶應保険研究(第20巻第1号、2002。PDF7ページ)です。こちらにも「エストロゲンは血管拡張に作用し、血管障害や動脈硬化を抑制する」とのことが記述されています。
●湯あたりで、脳と身体をリセットする?
・永田医師が行う温泉療法は、症状などに合わせて数多くある。一例として、1日3回入浴。1回の入浴時間は最初は5分で徐々に増やしていく。入浴中、気分が悪くなったらすぐに出る。入浴中は温泉の中で、ゆっくりと自律訓練法を行う。この療法中は、入浴以外に何もしないこと。一日の終わりに、「からだへの気づき」と「こころへの気づき」の日記をつける。
・『「私の行っている療法は、温泉の温熱効果だけを期待するものではありません。温泉療法に心理療法(実存分析療法)を加えます。これは“温泉ロゴセラピー”と呼んでいて、究極の療法です」』
・温泉療法を行うと必ずといっていいほど「湯あたり」がある。湯あたりはこれまで温泉療法の副作用と考えられてきたが、永田医師は、この11年を振り返って検証すると、湯あたりがあったほうが効果が出ると考えている。
・湯あたりがひどいと、まず症状が悪化して痛みが全身に広がる。頭痛も出る。吐いて食事もできない。温泉は見るのも嫌になる。しかし、そういう状況を懸命に乗り越えると、ある日、ストンと落ちたように治る。
・脳波を調べてみると、湯あたりのあった患者ほど、脳波のアルファ波が減少し、シータ波やデルタ波が増加(座禅や瞑想しているときと同じ状況)する。
・心拍変動のスペクトル解析による自律神経系の反応は、湯あたり中は自律神経系に大きな乱れが生じるが、湯あたりのあとは交感神経の興奮はおさまり副交感神経の機能が高まる。これは音楽療法などによる効果と同様で、永田医師は、緊張から弛緩に移行した状態だと分析している。
画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」
”日本自律訓練学会”という学会がありました。
永田先生の“千代田国際クリニック”です。
機関誌『温泉』2019年冬号に掲載された。“ストレスと温泉”という投稿を見ることができます。
“永田勝太郎先生のウェブサイト”というサイトもありました。
●人間に本来備わっている自然治癒力を応用
・永田先生は在学中に「痛みをライフワークにする」ことを決意され、卒業後に心療内科、東洋医学、緩和医療、そして麻酔科に学ばれた。その後、高名なウィーン大学のヴィクトール・フランクル博士(実存分析学・人間学)と運命的に出会う。
・フランクル博士は、大戦中にアウシュヴィッツに収容された経験があり幸いにも生還したが、収容所では、死を前にして「譲りあう人と奪いあう人の姿」に直面し、その後の人生を「生きることの意味を問いつめる」ことに費やした学者である。
・『「ある患者さんが、痛みを取ってほしいと医者に頼んだ。さまざまな薬で痛みは7割取れたけれども、立てなくなってしまったという話があります。患者さんからすれば、痛みが取れたからいいだろうと言われていても納得できない。治療のエンドポイントはどこにあるか。それは、痛みの除去だけではないということです」
包括的、全体的な健康観にもとづいた全人医療を実践する立場から、西洋医学本位の治療に批判も呈する永田医師だが、温泉療法をはじめとして、人間に本来備わっている「自然治癒力」を応用する療法、生き方そのものから変えていこうとする哲学的なアプローチは、多くの専門家や患者から注目されている。』
こちらは、EARTHSHIP COUNSULTINGという、ヴィクトール・エミール・フランクル(Viktor Emil Frankl)のことが詳しく書かれたサイトです。
まとめ(鍼灸師として)
“線維筋痛症患者さまのペインマネージャになる”が目標です。そのための前提は線維筋痛症に対する知識と患者さまへの理解です。
特に“心”に向きあうことが第一です。その上で、“ストレス”を小さくすること、自律神経を整え、硬い筋肉をゆるめ血液の流れを良くすることに注力します。そして、低血圧であれば、その改善を目指します。
なお、「分子整合栄養医学」については、今後の宿題とさせて頂きます。
こちらは2冊目になりますが、最初に「はじめに」の冒頭部分をご紹介させて頂きます。
『本書、【痛みが全身に広がる病気をとことん治す】は、線維筋痛症をはじめとした、原因不明といわれる「慢性の痛み」の病気をテーマとして、患者の身に巻き起こる痛みや、これらの病気に対する研究、そしてさまざまな治療の方向性、多数の方法までも綿密にリポートするものだ。
こういった痛みの治療については、実は、これまでも危機感が示されてきた。厚生労働省の【慢性の痛み対策について】の中には、次のような指摘もある。
「病態が十分に解明されておらず、診断も困難である。そのために、患者は適切な対応や治療を受けられないだけでなく、病状を周囲の人から理解されないことによる疎外感や精神的苦痛にも苦しんでいることが多い」
「痛みを専門とする診療体制は十分に整備されていない。その背景には、痛みを対象とした診療が成り立つような制度や人材育成、教育体制が確立されておらず、痛みを理解し、痛みに苦しめられている者を社会全体で支えようとする意識が、十分に醸成されていないことが挙げられる」』
こちらは厚生労働省発行の資料です。クリック頂くと厚生労働省のページに移動します。下部にはPDF資料へのリンクもあります。
編者:リーダーズノート編集部
出版:リーダーズノート出版
発行:2014年7月
目次に続いて、ブログでご紹介するのは、【データで見る線維筋痛症】の一部と、最後の[身体の機能を高める]に関する箇所です。「身体の機能を高める」は自己治癒力/自然治癒力に関する内容で、特に栄養・血液・血流の三つに注目されており、鍼灸師の私には非常に興味深いものです。
目次
①痛みとたたかう患者たち -なぜ、こんなに痛いの?
[支えあう患者たち]
・ふつうの私が消えた日
・せめて病名がほしい
・月に電話相談160件
・さまざまな出会いが支えてくれた
・痛みをそらし、つき合っていく
[医師をめざす、患者のたたかい]
・これが……私たちの日常
・もはや身体や神経の損傷では説明できない
・周囲に理解されないことが一番つらい
・薬に頼りすぎる治療は問題
・医師として患者と向き合う
[共有されない痛み]
・妻には絶望しか残っていなかったのか
・厳しい寒冷地の気候もストレスに
・ドアノブも掴めない、食べ物を噛むこともできない
・薬だけで症状を和らげるのは難しい
・裁判所にも、わかってもらえない
・痛みと事故の因果関係が立証しにくい
【データで見る線維筋痛症】
◆発症年齢
◆疾病罹患がトリガーとなった各診療科別要因
◆臨床症状と重傷分類
◆発症から診断までの期間
◆障害者手帳の取得状況
◆臨床領域にみられる合併しやすい代表的疾患
◆リウマチ性疾患との鑑別診断の要点
②現代医療の壁に挑む -研究者たちの挑戦
[線維筋痛症診療ガイドライン]
・診療を避ける医師が多いことが問題
・大切なのは、三つの視点
・圧痛点を診るというスキル
・病気の概念が変わるというデメリット
・医師に病名が認知されてきた
[診断技術への挑戦]
・痛みは、測定できるのか?
・痛みを測定するペインビジョン
・脳SPECT検査
・PET解析
・「抗VGKC複合体抗体」の研究
[検体バンク]
・検体バンク構想
・世界中の研究者が使えるものに
・プロトタイプを分析
[メカニズム]
・カテプシンSと慢性の疼痛
・犯人の足跡、フットプリントを追え
・インターフェロン・ガンマは、強力なアクセル
・Cファイバーの脱落
・神経のどこかで混戦が起こっている
③最新治療を探る -痛み止め、病気を治すために
[薬で痛みを止める]
・専門薬、リリカの登場
・ほかの薬とは、まったく違う
・「すぐにリリカ」は、危険な発想
・急性か慢性かの判断が重要
・ノイロトロピンの活用
・ペインレスキュー
・徹底して、生活の質を上げる
[脳にアプローチする]
・脳に磁気を当てる「TMS治療」
・南国土佐で始まった治療
・先端治療へのチャレンジ
・脳の神経がうまく働いていない
・景色も表情も、見違えて見えた
・患者を支える
[認知行動療法]
・危険な「痛み」ではないことをわかってもらう
・医師と医療スタッフが新たな家族に
・痛みで何もできない状態からの回復
・痛みで眠れない人に、不眠認知行動療法
[歪みを治す]
・咬み合わせ調整で、痛みを除去する
・線維筋痛症と顎関節症の深い関係
・「バランス」という言葉に、もっと慎重になるべき
[身体の機能を高める]
・なぜこの病気は女性に多いのか?
・脳も身体も、実は深刻な栄養不足
・ビタミン、カルシウム、マグネシウムが必要なわけ
・自分の治す力を強めることが本来の医療
・慢性痛にはセルフケアが重要
・機能回復、症状改善するポイントは血流にある
・湯あたりで、脳と身体をリセットする?
・人間に本来備わっている自然治癒力を応用
【データで見る線維筋痛症】
◆発症年齢
画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」
◆発症から診断までの期間
画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」
◆障害者手帳の取得状況
画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」
◆臨床領域にみられる合併しやすい代表的疾患
画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」
以下の図は「線維筋痛症がよくわかる本」にあったものです。線維筋痛症の痛みの凄さが分かります。
[身体の機能を高める]
『おそらくほとんどの病気に有用なのは、身体の機能を高めること=自己治癒力を高めること。食事、睡眠、運動は、その基本だ。線維筋痛症もまた、身体の機能を高めることなしに、いかなる薬も効果を発揮しないに違いない。取材班は身体の機能を高める治療を探ることにした。』
●なぜこの病気は女性に多いのか?
血液が患者を物語る。そして、栄養不足が症状を説明する。
『そう主張するのは、この病気の研究治療を20年以上続けてきた心療内科医の姫野友美医師。テレビ番組、雑誌にたびたび登場する「売れっ子」で、著書も多数。なぜこの疾患は女性患者が多いのか。分子整合栄養医学は線維筋痛症にどのように適用されるのか。東京都五反田の、ひめのともみクリニックに赴いた。白衣に着替えた姫野院長の解説もまた、テレビの健康番組のように歯切れよくわかりやすい。』
線維筋痛症をはじめ、女性に身体症状が出やすい理由。
1.月経、妊娠、出産、閉経など性周期に伴う内的環境の変化。女性ホルモンの変動は同時に自律神経の変動、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、アセチルコリンなどの神経伝達物質の変化をもたらし、免疫にも影響する。
2.男性と比べて筋肉量や循環血液量が少ないことによる血行動態の不良。
3.月経や妊娠、出産によるたんぱく質や鉄分など栄養の喪失が心身に影響を与える。
4.男性よりセロトニンレベルが低く、ノルアドレナリンやカテコールアミンの制御不全を起こしやすい。
5.女性の脳の構造上、感情ストレスが大脳皮質を介し、大脳辺縁系視床下部径路を刺激しやすい。
これらの身体的性質に加えて、女性特有のライフサイクル、社会的役割といった心理的社会的背景がストレスを増大させていると考えられる。
●脳も身体も、実は深刻な栄養不足
『ここ、ひめのともみクリニックでは「分子整合栄養医学」を基本方針とし、心身症の患者に栄養指導の考え方はごくシンプルだ。
「基本的に人間の身体は、すべて食べ物=栄養素という材料によって構成されており、どの栄養素が欠けても身体機能は失調状態に陥ります。不足している栄養素を本来あるべき至適量まで補充してあげれば、自らの自然治癒力は高まり、病気の進行を防ぎ、症状の改善、さらには病気の予防が可能となる。これが分子整合栄養医学の考え方です」』
・初診の患者全員に血液検査およびサプリメントドック[足りていない栄養素を確認し解析する]を行い、体内の代謝の状態、ビタミンやミネラルなどの栄養不足、血糖値の変動、さらに活性酸素の発生、酸化ストレスの進行具合などを明らかにする。
・最も問題視するのは血糖の調節異常である低血糖。
・『「低血糖は痛みが増しますから。線維筋痛症の患者さん、片っぱしから調べてますけど、みんな甘いものが大好き。その理由はセロトニンが少ないからで、セロトニンを分泌させようと、チョコレートや甘いものに手が伸びるんです。ところが、それで一気に血糖値が上昇して、インシュリンが大量に分泌されて逆に低血糖を起こし、ノルアドレナリンを誘発する。それが筋肉や血管を収縮させるからさらに痛むのです」』
・脳は「大食漢」である。わずか5%の重さしかないのに、摂取した栄養の20%は脳で消費されている。常に低血糖の状態にあるならば、脳が正常に機能するために必要なブドウ糖の安定供給ができない状態ということである。いつまでも疲労感が拭えず、元気になれない理由はそこにある。
・線維筋痛症患者に顕著なのが低血圧すなわち血行動態不良で、その原因の一つは鉄とたんぱく質の欠乏が考えられる。
・鉄分は閉経していない女性では、一度の月経で30ミリグラムも体外へと排出されてしまう。
・ピロリ菌は鉄欠乏の主要な原因の一つである。胃の粘膜を萎縮させるために、鉄やたんぱく質の吸収力が悪くなる。しかもピロリ菌の出す毒素を消去する際にビタミンCが消費されるので、活性酸素が消去できない。
・『現代人の深刻な栄養失調。姫野院長は鋭く指摘する。』
・栄養失調は身体の機能を正常化するための栄養素が足りない状態である。ふくよかな人であっても、実態は栄養失調であることは少なくない。
・コンビニの加工食品は圧倒的なミネラル不足で、清涼飲料水やスイーツは24時間好きなだけ手に入る。
・品種改良を重ねた味も形もよい現代の野菜は、昔の品種に比べて栄養素が格段に少ない。ビタミンA含有量は50年前のわずか3分の1である。
●ビタミン、カルシウム、マグネシウムが必要なわけ
・原因も正体も不明で、有力なバイオマーカーがない。ゆえに通常の血液検査ではなかなか異常が見られない。それが線維筋痛症の診断をいっそう難しくしている。
・『姫野院長の見立てでは、線維筋痛症は「活性酸素と炎症」である。あれだけ痛みがあるのに、異変が起きていないはずはない。そう言い切った。「線維筋痛症の異常(炎症)は、普通の血液検査では見えず、高感度CRP検査でないと出てこないんです。これでCRP[炎症時に体内に発生するC反応たんぱく質の血中量]0.05以上の数値が出たら、微小な慢性異常が存在すると判断します。ただ、まったくCRPが上がらない患者さんもいて、バイオマーカーは一つではありません。ほかには、たんぱく分画のアルファ2グロブリンが上昇することや、酸化ストレスで赤血球の膜が壊れて間接ビリルビンが上昇することなどによって判断します。
炎症には活性酸素が関わっていますから、うちでは抗酸化アプローチをかなり行います。たとえば高濃度ビタミンC。これも栄養療法の一環ですね」。』
・高濃度ビタミンC注射に含まれるビタミンCの量は25グラム。ここまで大量に経口服用すると下痢を起こすので、静脈注射でダイレクトに血中に入れる。この治療はビタミンC不足が招く疾患、線維筋痛症や慢性疲労症候群、リウマチなど免疫異常の症状改善、白内障や糖尿病の予防にも有効であるとされる。
・線維筋痛症は筋肉の付着部などのスパズム(攣縮)という説があり、リリカやリボリトールなど、けいれんの原因となる興奮系の神経を抑える薬物を用いると症状が和らぐことが裏づけとなっている。
・筋肉が痙攣を起こす原因はカルシウムとマグネシウム不足で、この二つの栄養素はストレス下に置かれると大量に尿から排出されるという性質がある。さらに、更年期を過ぎた女性はカルシウムの吸収力が衰える。線維筋痛症が40代以降の女性に好発するという傾向と一致する。
●自分の治す力を強めることが本来の医療
・基本、全患者に対して栄養療法を実施するが、痛みの強い患者にはトリガーポイントブロック、神経ブロックなどの対症療法も行う。
・『「線維筋痛症の原因と目される、下行性疼痛抑制系の機能不全では、セロトニンやノルアドレナリンが足りないという話がありますね。これを増やすためにサインバルタやトレドミンなどの抗うつ薬が処方されて、それはそれなりに効くわけです。ところが薬というのは、基本的にリサイクルなんです」』
・西洋の薬は、基本的に酵素を遮断するものである。線維筋痛症治療としても使われる抗うつ薬、SSRIやSNRIも、それぞれセロトニンとノルアドレナリンの再吸吸収を阻害する。
・薬のリサイクルには限度がある。リサイクルし続けると物質は劣化していくので、だんだん薬が効かなくなる。薬の量が増え悪循環となる。
・『「逆に、フレッシュなセロトニンやノルアドレナリンを、自力で体内でどんどん作れたら、薬の利用効率だって上がる。最終的に、自分で必要なぶんだけをまかなえるようになれば、薬の利用効率だって上がる。』
・薬をやめたいが、患者にはやめどきがわからない。「薬を止めたら悪化しました」という患者の声はいくつもあった。
・『「当然ですよ。まだ、自分の中で十分な量を作れていないのだから。だから、うちでは栄養解析のデータで示してあげるんです。ここまで数値がそろってきたね、じゃあそろそろ薬をやめられるかなとか。患者さんにすれば、良くなりそうなめどが立つ。そうなると、自ら治療を提案するようになる。先生、私もっと鉄を増やして飲んでみます、たんぱく質摂るためお肉食べなきゃ、甘いもの控えます、だからお薬減らしていいですか、と。病は医者の言う通りにして治すものではなく、自分の中の治す力、自己治癒力を強めることが本来の医療。そう思いますね」。』
・精神的なストレスによってカルシウムやマグネシウムは足りなくなる。活性酸素が増え、ビタミンCがどんどん消費される。ストレスを緩和するため、セロトニンも大量分泌しなくてはならない。すべては身体を正常で健康な状態に保とうとするゆえの作用である。
・『「身体の代謝の状態を分析してあげて、欠損部分を栄養素と補って治療してあげる。もちろん、鉄をはじめとするミネラルはたんぱく質と結びついて運ばれますから、食事も重要。しっかりたんぱく質、つまりお肉を取ってバランスを整えると、心も身体も見違えるほど元気になります」。』
・痛みや症状に向きあうための心理療法、認知行動療法については、まず痛みを取り、脳に栄養を与えて機能を取り戻したあとの話ではないかと考えている。
・きちんと脳に必要分の栄養を入れてあげて、セロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンが増えてくると、認知は自然に変わる可能性がある。
画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」
線維筋痛症が書かれたページです。
“健康未来予測ドック”(“サプリメントドック”は進化したようです)
以下は既にご紹介済の薬品名と略語の表です。(画像出展:「線維筋痛症は改善できる」)
第3章 線維筋痛症の原因は?
神経伝達の障害
●痛みを抑えるシステムの破たん
・線維筋痛症の疼痛は、鎮痛薬だけでなくモルヒネのような麻薬も効かない。
・疼痛は痛みを抑える仕組みが破たんし、その結果として激痛が起きる。
・有効なのはセロトニン、ノルアドレナリンの作用を活発にする抗うつ薬や抗けいれん薬など。このことから、痛みを制御する仕組みの破たんから起きていると考えられている。
画像出展:「線維筋痛症は改善できる」
下記もセロトニンやノルアドレナリンによる“下行性抑制系”について説明されたものです。(画像出展:「線維筋痛症がよくわかる本」)
●痛みの伝達ゲートは情動や気分の影響を受けやすい
・線維筋痛症の疼痛は、適度な運動をしたりストレスを除去したりすることで改善することがあるが、これを説明できる有力な理論がゲートコントロール理論である。これは痛みの刺激が脳へ伝わるのを阻止する神経線維が存在するという理論であるが、重要なことはゲートの開閉は中枢から下行性の影響を受け、人の情動や気分などがゲートの開閉を左右している点である。
●検査でわかる重要な異常
・髄液中のサブスタンスPという疼痛を起こす神経伝達物質の数値が高い。
※サブスタンスP:「タキキニンの一種で痛覚の伝達物質。三叉神経節、内頚神経節に含まれ、血管に広く存在し、硬膜の血管にも分布する。炎症にも関連し、軸索反射により放出されると紅斑(フレア)が出る。鍼灸ではこの作用を利用し、体質改善を促進したりしている。(ウィキペディアより)」
・髄液中のセロトニン、ノルアドレナリンの数値が低い。
・脳血流量の低下の可能性がある。
●症状を引き起こすストレス
・線維筋痛症の症状が現れるしくみは、以下の図のように表すことができる。
・症状を起こす要因として明らかなのはストレスである。ストレスを起こす原因をストレッサと呼ぶ。
画像出展:「線維筋痛症は改善できる」
画像出展:「線維筋痛症は改善できる」
第5章 線維筋痛症の治療法は?
その他の併用療法
●薬物療法以外の治療法もあわせて導入する必要がある
・線維筋痛症の治療は薬物療法だけでは不十分で、他の治療法の導入も必要である。そこで、再度、セロトニンについて考えてみる。
①セロトニン神経は、覚醒時に持続的なインパルス発射(セロトニン神経の活動化)があり、睡眠時に休止する。
②朝起きてセロトニン神経が十分に働かないと、症状(気分障害、疼痛、睡眠障害、起立困難やすぐしゃがむ)が現れる。また、ストレスがセロトニン神経の働きを抑制する。
③インパルス増強には、歩行、呼吸、咀嚼のリズム運動が必要。
上記を基に、今野先生は次のような治療方法を患者さんに選択してもらっている。
①ウォーキング~運動浴(水温35度以上)
②呼吸法~腹式呼吸
③ヨガ~ストレッチング
④咀嚼~ゆっくりリズミカルに
また、保湿により疼痛が軽減する(疼痛が増強する患者さんも10%位いる)患者さんには次の方法も勧めている。
①保湿(使い捨てカイロ、下着の工夫)
②綿花灸(湿らせた綿花の上にもぐさを置き、疼痛部位周辺に行う灸―自然医療の権威である斑目医師が考案したもの)[台座灸(千年灸など)でも代用可能と思います]
③TENS(経皮的末梢神経電気刺激法)という小型の器械を使って、10分間ほど患部周囲に通電する。心臓ペースメーカーを使っていたり、保湿で疼痛が増強する患者さんには使えない。購入する前に医師に相談すべきである。
画像出展:「線維筋痛症は改善できる」
検索してみたところ、数千円~10万円台まであるようです。
●適切な治療で3~5年以内に70%以上が症状の改善可能
・今野先生は定期的に通院されている患者さん(50名)と紹介されて来院された患者さん(13名)にアンケート調査をされました。アンケートの内容は1.線維筋痛症の治療開始(疼痛と診断からの年月)前後で、どの程度症状が改善しているか、2.一番効果的と思う薬は何か、3.治療院へ通院しているか、などであり、その結果は次の通りである。
-線維筋痛症の専門医での成績では、疼痛発症からの平均期間は7.6年だったが、疼痛発症からの期間に関係なく、線維筋痛症の治療開始後、平均3.6年以内には、治療前と比較して、改善が72%(著明改善と改善:42%、やや改善:30%)、変化なしは6%、悪化は22%だった。FIQの平均は59であった。
-一般医の治療成績では、疼痛発症からの平均期間は6.7年で、線維筋痛症の治療開始後、3.4年以内には、診断前より改善したのは22.5%、変化なしは15%、残りは悪化していました。FIQの平均は72.7でした。
-鍼灸、物理療法など、治療院へは54%の患者さんが通院していた。
・疼痛をゼロにすることは不可能だが、専門医による適切な治療によって、治療開始から3~5年以内に、70%以上を改善させることができる。
・治療により改善した患者が使用している薬のうち、「最も効果があると感じている薬」は以下に通りである。
画像出展:「線維筋痛症は改善できる」
抗炎症薬の内訳はブレドニン、ノイロトロピン、非ステロイド性抗炎症薬がほぼ同じ割合で、プレドニンは主に脊椎関節炎タイプに用いられていた。抗けいれん薬は主にガバペンで、抗うつ薬はSNRI、SSRI、三環系抗うつ薬など多種類だった。ほとんどの患者さんは、これらの4種類の薬のいくつかを病型分類に沿って組み合わせて使用している。なお、薬を使用せず順調な経過をたどっている患者さんは、温泉療法、ラクトフェリンのサプリメントなどを使っていた。
線維筋痛症の患者さんは「線維筋痛症に効く薬はない」と決めつけないで、「時間はかかるが、必ず自分に合う薬がある。薬の適切な組み合わせを早く見つけることで、厄介な疼痛から解放される」という気構えが必要である。
疼痛の重症化を防ぐ対応
●診断と治療の進め方
最後のまとめとして、線維筋痛症の診断・治療のステップがまとめられています。
①『第1の原則は、原因不明の局所的、または広範囲疼痛があるとき、疼痛を引き起こす原因を早く見出し、原因に対する集中的治療を行って疼痛を緩和することで、線維筋痛症に移行させないように努力することです。』
②『治療には、線維筋痛症の病型分類を参考にし、決してACRの圧痛点のみで線維筋痛症と診断して、画一的治療を行わないようにすることです。精神的ストレス、CRPS、脊椎関節炎など原因はさまざまなので、一人の医師では対処できません。その場合でも、ACR基準を盲信しないで、線維筋痛症に精通している医師が中心となって、チーム医療を行うことが望ましいでしょう。それには、患者さんの病気の詳細な経過を作成するのに中心になる医師が必要であり、そして過剰なぐらいの早い対応が必要だからです。』
③『「完璧な病歴」「理学所見」「画像診断」「血液検査」を参考に基礎疾患の有無を調べ、異常があればそれを治療します。異常があればそれを治療します。異常がなく、疼痛が持続するときは、まずは十分な量の非ステロイド性抗炎症薬、場合によってはステロイド(プレドニンで5~10mg)を短期間(長くても1か月以内)併用し、効果を判定します。治療的鑑別です。疼痛は患者さんにとってきわめて不快な症状なので、薬の効果の判定はそれほど難しくありません。そして、患者さんは薬の効果評価を正確に医師に伝える必要があります。この段階で疼痛が緩和されているときは、たとえACRの基準を満たしていても、線維筋痛症の診断は避けるべきでしょう。』
④『十分な量の非ステロイド性抗炎症薬、ステロイドにまったく反応しないとき、初めて、患者さんの疼痛は末梢性の疼痛でなく、中枢性の疼痛と判断できます。そして、中枢性の疼痛に対する治療が開始されることになります。気分障害が強い場合は、抗うつ薬のSNRIから、気分障害が強くないときは抗けいれん薬から、トラマドールを最初に用いる場合もあります。この段階でもう一度病歴の取り直し、さらに理学所見の取り直しを行う必要があります。そして、疼痛の重症度を評価します。可能であれば血中セロトニンの数値を測定します(自己負担で2000円ほどかかります)。』
⑤『患者さんは、治療開始後1~2年間は薬の変更、薬の副作用にとまどうかもしれませんが、原因の究明と本人に合った薬を探すために、時間と費用がかかることを理解し、治療に取り組んでいただきたいと思います。』
著者:今野孝彦
出版:保健同人社
発行:2011年3月
こちらの表は前回もご紹介していますが、「本書に登場する薬品名と解説」になります。
第2章 線維筋痛症の症状
同じ病気の患者の経過を参考にする
●共通の症状やストレスとなる原因を探る
こちらは“本文中に出てくる主な略語です。
著者:今野孝彦
出版:保健同人社
発行:2011年3月
症例1:夫の死をきっかけに片頭痛や顎関節症などを併発。その後に全身の疼痛
【経過】
・神経内科によって多発性神経炎(シェーグレン症候群による)に対するステロイド療法が行われたが、疼痛を緩和することはできなかった。
・リウマチ医によって線維筋痛症に対するパキシルとノイロトロピンの処方が行われたが、疼痛を緩和することはできなかった。
・この患者さんは、夫を交通事故で亡くし、その後3年間に6個のCSS(中枢過敏症候群)に属する症状・疾患(片頭痛、筋緊張性頭痛、子宮内膜症、顎関節症、筋・筋膜性疼痛症候群、こむら返り)を併発し、最終的に耐えがたい全身の疼痛(線維筋痛症の疼痛)が生じた症例である。
・当院では、セロトニン、ノルアドレナリンの賦活作用(活発にする作用)をもつ即効性の鎮痛薬であるトラマドールシロップを処方し、入院中にヘルパーの活用など家事援助を検討して導入した。
・入院時は移動するのに歩行器と車イスを使っていたが、現在は自立歩行ができるまでに改善し、家事が可能になっている。
症例3:手術後、局所の痛みが全身に。片頭痛やうつ病などを併発して全身の疼痛へ
【経過】
・ばね指の手術後に生じたCRPS(複合性局所疼痛症候群)に対して、適切な処置が行われず、7つのCSS(中枢過敏症候群)の症状・疾患(片頭痛、子宮内膜症、こむら返り、むずむず脚症候群、筋・筋膜性疼痛症候群、顎関節症、うつ病)を抱えることになった。
・入院後、痛みに対してトラマドール、筋のけいれんに対してガバペン、不安状態に対してパキシルを処方した結果、線維筋痛症の重症度を示すFIQは、80から63まで改善した。
・退院後は、ヘルパーを導入して夫の介護負担を軽減し、訪問看護師によるメンタル面の援助を受けて、在宅での生活を送っていたが、主治医が麻酔科の医師にかわると、除痛のためのトラマドールが麻薬に変更されて一日中眠い状態が続くようになり、疲れて寝たきりの生活になった。
・再び、主治医がかわり、入院によって麻薬からの離脱に取り組んだが、麻薬の中止までは長期入院を強いられた。
症例5:出産時の点滴でひじに血管痛。その激しい痛みが続き、全身の痛みへ
【経過】
・若い頃からCSS(中枢過敏症候群)の3つの症状・疾患(片頭痛、顎関節症、子宮内膜症)があったが、出産時に点滴の針を刺したところから生じたCRPS(複合性局所疼痛症候群)が放置されたため、線維筋痛症の疼痛が生じたものと判断した。
・母乳が中止されていたこと、疼痛がきわめて強いことから、トラマドールの服用を開始し、現在は子どもの世話を含めた家事も可能になっている。
症例7:家族の病歴(クローン病)などから、脊椎関節炎を基礎とした線維筋痛症
【経過】
・最初は一次性の線維筋痛症という診断で、疼痛に対する治療を中心としていたが、付着部痛が著しくなり、検査の結果、脊椎関節炎と診断した。レミケード、エンブレルを使ったものの効果がなく、トラマドールとリウマトレックスを併用したところ、職場復帰が可能なまでになった。
症例9:発熱、睡眠障害、関節痛、疲労感から、しだいに全身に自発痛
【経過】
・FIQは78から67、62、42と変動がある。疼痛に対して、応急的にノイロトロピンの点滴を受けているが、緊急入院などはなくなり、家事労働をこなしている。また社会的にも活発な活動をしているが、線維筋痛症への移行にはメンタル面のほうが強く関与していたと思われる。
線維筋痛症の中心症状
●動かさないときでも起きる広範囲疼痛
・線維筋痛症の疼痛部位は、原則として左右・上下対称であり、痛みの箇所が一か所に集中することはない。
・線維筋痛症の疼痛は「自発痛」で、触れられることにより疼痛が増すのが特徴であり、場合によっては皮膚の発赤がみられる。
・線維筋痛症は、英語でfibromyalgiaというが、これは腱や靭帯の結合組織(fibro)と筋肉(myo)の疼痛(gia)という意味である。疼痛部位は関節ではないため、関節の腫れや疼痛を診察する方法では線維筋痛症を見つけることができない。
・線維筋痛症の疼痛の特徴の中には、音や光などによって疼痛が増すこともある。これをアロディニアという。
・線維筋痛症の疼痛は、脳幹部の異常による中枢性疼痛と考えられており、抗うつ薬や抗けいれん薬が有効である。
●睡眠や休息をとっても改善されない疲労
・疲労も線維筋痛症の中心症状のひとつだが、線維筋痛症の疲労は睡眠や休息だけでは十分に改善されない。
●脳波で確認しにくい睡眠障害
・線維筋痛症の睡眠障害は、入眠障害か早朝覚醒というタイプだが、これは睡眠にかかわる2つの脳波、レム波とノンレム波のバランスのくずれが関係しているといわれている。ただし、脳波に異常が確認できるのは30%以下である。
・睡眠時無呼吸症候群が関与する場合もある。
・線維筋痛症の睡眠障害では、睡眠薬をできるだけ使用せず、疲れたら寝るという考えが大切である。睡眠薬が必要なときは、できるだけ少量にする。
線維筋痛症の共通症状
●基礎疾患のない“むくみ”感
・線維筋痛症では「むくんでいる」と訴えることがあるが、実際には「むくんでいない」ことが多い。女性の患者さんには子宮内膜症など婦人科的疾患にかかったり、若い頃に手術を受けたりした患者さんが多くいるが、月経前の体重増加や更年期障害としての“むくみ”感を訴える場合もある。通常、むくみは心臓や腎臓に関わる病気が考えられるが、線維筋痛症の患者さんに見られる“むくみ”感の訴えには、こうした基礎疾患はほとんどない。
●全身のしびれ、異常感覚
・線維筋痛症の患者さんの多くは“しびれ”を訴える。その部位は全身であり、神経学的には説明がつかない。
・下肢のしびれなど、局所だけでなく病歴と全身の状態や症状を参考にして判断する。
・安易に脊髄疾患と診断され、不要な手術により症状を急激に悪化させることがしばしばある。
・線維筋痛症に似た疾患に多発性硬化症があるが、全身症状と経過を参考にすることで鑑別することができる。
●事故につながりやすい立ちくらみ、めまい
・CVr-rなどの自律神経の検査で40%近くの患者さんに異常がみられる。立ちくらみやめまいの訴えが多いのはこのためと思われる。また、血圧が低く、起立性低血圧もみられる。
・立ちくらみ、めまいなどの自律神経障害の症状がある場合は、サポートタイプのパンティストッキングを使用することに加え、塩分の摂取などの食生活の見直しが必要である。
●短期記憶障害は長く続くことはない
・短期記憶障害は、英語でFibrofog(fibro=線維筋痛症・fibromyalgia fog=濃霧)と表現される。電話番号や相手の名前を覚えられない、忘れてしまうといった障害である。ただし、短期記憶障害の症状が長く続くことはないようである。
●不安、ストレス、うつ状態などの精神症状
・患者さんの多くは、気分障害など精神症状を持っている。海外の報告では線維筋痛症患者の20%にうつ状態、15%にパニック障害があるといわれているが、これは疼痛など線維筋痛症の様々な症状が、満足にコントロールできないことによる結果であると考えられる。一方、大うつ病(うつ状態でなく真性のうつ病)でも全身の疼痛が生じることがある。精神症状が線維筋痛症の症状として現れているのか、それとも大うつ病などの精神疾患なのか、慎重に診断することが重要である。その意味で、精神科医と線維筋痛症専門医との共同の対応が必要といえる。
線維筋痛症の関連症状・疾患
●中枢の過敏状態(CSS)が引き起こす症状・疾患
著者:今野孝彦
出版:保健同人社
発行:2011年3月
・慢性疲労症候群:何らかの感染を繰り返した結果、日常生活に支障をきたす非常に強い疲労感が、改善されないまま続く状態。
・過敏性腸症候群:頻繁に下痢や便秘を繰り返したり、両方が交互に起きたりする。腸の疾患は検査では見つからず、ストレスなどが関係している。
・筋緊張性頭痛:肩、首周辺の筋肉の疼痛に伴う頭痛で、姿勢などが関係する。
・片頭痛:発作的に反復して起きる頭痛で原因は不明。発作を予期できるタイプと、できないタイプがある。
・生理不順/子宮内膜症:生理不順は、生理前や生理中に、耐えられない下腹部痛や月経周期の乱れを繰り返し起こす状態。子宮内膜症は、子宮内膜と同じものが、子宮以外の場所にできてしまう病気。
・うつ病:うつ状態ではなく、真性のうつ病(大うつ病)です。
・外傷後ストレス症候群:心に深い傷を負うような出来事の後に強いストレスが残り、激痛や睡眠障害、さらにうつ状態になる
・化学物質過敏症:シックハウス症候群などに代表される化学物質過敏状態である。同時に薬物、食品に対する過敏を伴う場合が多い。
・こむら返り:ふくらはぎの痙攣。指、首、肩にも起きるが、この場合は「全身こむら返り病」と呼ぶ。
・むずむず脚症候群:下肢の不快感を覚え、下肢を動かしたいという強い欲求が生じるもので、レストレス・レッグス症候群と呼ばれる。特に夜間に寝床につくと、下肢が「むずむずする」「虫がはっている」「ほてる」「ずきずきする」などと感じ、睡眠障害が起きる。下肢を動かすことでやわらぐ。
・顎関節症:開口障害を主な症状とする疾患で、疼痛を伴うこともある。
・筋筋膜性疼痛症候群:局所の強い疼痛を生じる疾患で、表2のような診断基準がある。
●多彩な症状は根拠のある訴え
・過敏性腸症候群で20%、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の3%に線維筋痛症が合併する。
・婦人科で更年期障害と診断された患者さんに線維筋痛症の可能性がある。
・顎関節症の患者さんの15%に線維筋痛症がある。
かなり前の話になりますが、著名な女性タレントの方が線維筋痛症になったというニュースが流れていました。
以前から線維筋痛症について関心は高かったものの、調べることはしていませんでした。そこで、このニュースをきっかけに、3冊の本を図書館から借りてきました。なお、じっくり拝読させて頂いたのは2冊です。今回も知らないことばかりだったため、長文になってしまいました。そこで、ブログを5つに分けることにしました。
著者:今野孝彦
出版:保健同人社
発行:2011年3月
著者である今野孝彦先生は線維筋痛症の専門外来を6年以上開業されています。「はじめに」に書かれている内容は、この難しい疾患を熟知されている先生が現場で積み上げられたものです。
はじめに
『日本では、線維筋痛症の患者さんは約200万人に上ると推定されています。私が線維筋痛症の専門外来を開設してから6年以上経ちました。その診療実績をもとにして平成16年から毎年、北海道大学医学部・環境医学講座で医学部学生に「広範囲疼痛の臨床的アプローチ」と題して講義を行っています。
患者さんの痛みを患者さんと一緒に考え、痛みの研究に興味を持つ医師が一人でも多く出てほしいと願って講義を続けています。本書はその講義の内容を、患者さんはじめ、一般の方が理解できるようにアレンジしたものです。
線維筋痛症の患者さんの主症状は痛み(疼痛)です。受診する科はいろいろで、それぞれの科の専門医の対応も多様です。しかし、適切な対応は少なく、誤診、診療拒否、過剰診断・治療なども見られます。その原因は、疼痛に関する医学教育・医学体制の不備にあります。特に、画像診断、検査中心の日本の医療現場では、疼痛を訴える患者さんの診察は驚くほど画一的なものです。MRIやCT、多数の血液検査を行い、何とか画像、何とか検査で異常を見出そうとして、患者さんも医師も湯水のごとく投資しています。そして、行き着くところは、「何もない。精神科へ行ったら…」になります。
本来、医師はたくさんの画像診断や血液検査を行うよりも、まず患者さんの痛みの訴えに耳を傾けるべきです。何がこの強い疼痛を引き起こしているのかを、患者さんと一緒に考えることが一番大切だと思います。
本書は、35年間リウマチ医療に従事してきた一人の内科リウマチ医が、線維筋痛症専門外来を開設し、患者さんと一緒に悪戦苦闘し、疼痛と闘ってきた記録です。患者さんを中心に一人でも多くの医師、医療・福祉関係者が同じ土俵に上がり、疼痛に取り組む手がかりとなればと思います。
多くの線維筋痛症の患者さんが、診断・治療の遅れで毎日疼痛から悩まされ、社会的労働から疎外されて孤独な生活を強いられています。あふれる情報をもとに線維筋痛症であると自己判断し、たくさんのサプリメントに多額の投資をしている患者さんもいます。また、いまの状態のままでは容易に線維筋痛症へ移行してしまう線維筋痛症予備軍の方たち、そういうすべての方たちに読んでいただきたいと願っています。
さらに、気苦労の多い厄介な病気として、線維筋痛症の治療から目をそむけている医療従事者たちにも、ぜひ読んでほしいと思います。そうすれば、疼痛に苦しんでいる患者さんがいかに多く、適切な対応がなされていないか、適切な対応をすれば、かなりの疼痛患者さんが、苦しみから解放されるのだということが理解できると思います。
なお、本書では薬の名前はすべて商品名にしました。対応する薬品名、分類は164ページの表を参考にしてください。』
画像出展:「線維筋痛症は改善できる」
こちらがp164の表になります。
目次は下記の通りですが、ブログは第1章、第2章と第3章の一部、および第5章の中から「その他の併用療法」と「診断と治療の進め方(疼痛の重症化を防ぐ対応)」を取り上げています(黒字)。内容は要点と思った個所をまとめたものが大部分ですが、一部引用させて頂いたもの(『』でくくられています)もあります。
第1章 線維筋痛症とは?
患者が置かれている状況
●体の広範囲の痛みが3か月以上続く
●社会生活が困難になる
●多彩な原因に対して、現状は画一的な治療が行われている
第2章 線維筋痛症の症状
同じ病気の患者の経過を参考にする
症例1:夫の死をきっかけに片頭痛や顎関節症などを併発。その後に全身の疼痛
症例2:疼痛を起こす基礎疾患のない、精神的ストレス(離婚)を基礎にした全身の痛み
症例3:手術後、局所の痛みが全身に。片頭痛やうつ病などを併発して全身の疼痛へ
症例4:足親指の打撲の治療後、局所に痛みや腫れを生じ、数か月後には全身に疼痛
症例5:出産時の点滴でひじに血管痛。その激しい痛みが続き、全身の痛みへ
症例6:うつや顎関節症などがあるが、脊椎関節炎が基礎にある線維筋痛症
症例7:家族の病歴(クローン病)などから、脊椎関節炎を基礎とした線維筋痛症
症例8:かぜ症状を繰り返し、倦怠感もある慢性疲労症候群を基礎とした線維筋痛症
症例9:発熱、睡眠障害、関節痛、疲労感から、しだいに全身に自発痛
症例10:C型肝炎を持ち、子宮内膜症や筋緊張性頭痛の病歴があり、触れられただけで全身に激痛
線維筋痛症の中心症状
●動かさないときでも起きる広範囲疼痛
●睡眠や休息をとっても改善されない疲労
●脳波で確認しにくい睡眠障害
線維筋痛症の共通症状
●基礎疾患のない“むくみ”感
●全身のしびれ、異常感覚
●事故につながりやすい立ちくらみ、めまい
●短期記憶障害は長く続くことはない
●不安、ストレス、うつ状態などの精神症状
線維筋痛症の関連症状・疾患
●中枢の過敏状態(CSS)が引き起こす症状・疾患
●多彩な症状は根拠のある訴え
第3章 線維筋痛症の原因は?
神経伝達の障害
●痛みを抑えるシステムの破たん
●痛みの伝達ゲートは情動や気分の影響を受けやすい
●痛みの感受性が強く、回復に時間がかかる
●検査でわかる重要な異常
●症状を引き起こすストレス
セロトニンとの関係
●基礎疾患の有無で一次性と二次性に分けられる
●セロトニン神経の機能低下
第4章 線維筋痛症の関連疾患
病名が間違われる背景
●関連疾患との鑑別抜きに線維筋痛症の診療は進まない
脊椎関節炎(SPA)
●誤って線維筋痛症と診断されているケースが多い
●脊椎関節炎に気づかない医師がさまざまな病名をつけている
●脊椎関節炎にはさまざまな疾患がかかわっている
●脊椎関節炎の診断にはアキレス腱の超音波検査を組み合わせるとよい
●脊椎関節炎は関節リウマチに近い病気
複合性局所疼痛症候群(CRPS)
●何らかの手術後に発症することが多い
●早期診断、早期治療で多くは完治する
慢性疲労症候群
●日常生活に支障をきたす強い疲労感が改善されない
疼痛性障害
●心理的要因が疼痛を起こし、重症化させている
●疼痛の身体的原因を調べないところに問題がある
リウマチ疾患
●リウマチ性多発筋痛症は高齢者に多く、ステロイドが劇的に効く
●関節リウマチの寛解には線維筋痛症の有無が影響を与える
線維筋痛症診断の手順
●基礎疾患を探して分類する
第5章 線維筋痛症の治療法は?
薬物療法
●線維筋痛症には薬物療法が効く
●治療効果をみながら、オーダーメイドの治療を進める
症例1:メンタル面