オキシトシン〈安らぎと結びつき〉5

私たちのからだがつくる安らぎの物質
私たちのからだがつくる安らぎの物質

著者:シャスティン・ウヴネース・モべリ

訳者:瀬尾智子、谷垣暁美

初版発行:2008年10月

出版:晶文社

目次は”オキシトシン〈安らぎと結びつき〉1”を参照下さい。

第五部 安らぎと結びつきを探求するさまざまな方法

第十三章 マッサージ

●マッサージ効果に関する研究の多くは解釈が難しい。何らかの意味で実験とは言い難い研究をすべてふるい落としたとしても、マッサージが人間の健康に効果があることを示す研究は十分に残る。

●マッサージには多くの種類がある。タクティール・マッサージ(スウェーデンで理論化された、認知症の症状緩和などを目的とするマッサージ)のように、皮膚に触るだけの施術法がある一方で、筋肉をしっかりもみほぐすマッサージや、手でそっと圧して筋肉の緊張をほぐすマッサージがある。これらの療法は、それぞれ異なる感覚神経を活性化するので、もたらされる結果もさまざまである。

●血圧低下、コルチゾール減少、不安軽減、学習効率上昇―こういった効果はどれも、動物実験でオキシトシン注射により得られる効果と似ている。オキシトシンの効果は繰り返し注射すると、強くなり、また長続きする。それと同じことがマッサージを繰り返し受けた場合にも当てはまると思われる。

(株)日本スウェーデン福祉研究所
(株)日本スウェーデン福祉研究所

『スウェーデン発祥のタクティールケアは、1960年未熟児ケアとして看護師らによって始まりました。マッサージではないため、押したり揉んだりはしません。

優しく包み込むように触れるだけです。誰もが簡単に行うことができ、活躍の場は様々。多くの人がストレスを抱えるこの時代に

必要なコミュニケーションツールです。』

マッサージとスキンシップ

●正しいマッサージを受けた赤ちゃんや、哺乳量が同じでもマッサージを受けなかった赤ちゃんより、体重が早く増える。また、コルチゾールの血中濃度も低下する。これはストレスが減っている証拠でもある。

※ご参考:ブログ“医療マッサージ研究1

以前、小児障害児へのマッサージをやっていたときに書いたブログです。今更ですが、「やはり、マッサージによるものだったのだ」と思いました。 

●興味深いのは、マッサージの効果が最も顕著だったのは、乱暴な言動で集団をかき乱すタイプの男子だった。

医療施設でのマッサージ

●病院では体に痛みのある患者に対し、施術しやすい、特殊なマッサージが試行されている。「タクティール・マッサージ」と呼ばれる。このマッサージは、他のマッサージ療法ほど圧を加えない。主に皮膚へタッチすることで効果を生むのだと考えられる。知名度は高くないが説得力のある、いくつかの研究論文によれば、タクティール・マッサージを受けている高齢者の患者は安眠しやすく、痛みを訴えることが少なく、服薬が少ない。混乱することが少なく、意識がはっきりしていて、社交的であることを示すデータもある。介護者との関係もよくなる。

●興味深いのは、マッサージの効果が最も顕著だったのは、乱暴な言動で集団をかき乱すタイプの男子だった。

医療施設でのマッサージ

病院では体に痛みのある患者に対し、施術しやすい、特殊なマッサージが試行されている。「タクティール・マッサージ」と呼ばれる。このマッサージは、他のマッサージ療法ほど圧を加えない。主に皮膚へタッチすることで効果を生むのだと考えられる。知名度は高くないが説得力のある、いくつかの研究論文によれば、タクティール・マッサージを受けている高齢者の患者は安眠しやすく、痛みを訴えることが少なく、服薬が少ない。混乱することが少なく、意識がはっきりしていて、社交的であることを示すデータもある。介護者との関係もよくなる。

いくつかの研究によれば、マッサージを受けている人だけでなく、施術している人の体内でもオキシトシンが放出されているという。マッサージセラピストには、ストレスホルモン値低下や血圧低下など、オキシトシン値が高いことによる典型的な効果が見られる。こういう人たちは全般に、心身が健康だ。それはこの職業の本質にかかわっていることかもしれない。』

抗ストレス

マッサージの効果

1.大人がマッサージを受けると血圧、心拍数、ストレスホルモン値が低下する。これらの効果は健康を増進する。

2.子どもがマッサージを受けると、落ち着きが増し、対人的に成熟し、攻撃性が減る。体の不調を訴えることも少なくなる。

3.優しく包みこむようなタッチを受けると、早産児の体重増加のペースが速くなる。

第十四章 食べること―内側からのマッサージ

ものを食べて満腹になるというのも、体の〈安らぎと結びつき〉システムを活性化させる方法のひとつである。体の内側は食べることによって刺激される。これは体の外側がタッチによって刺激されるのと同じである。

●消化器系と皮膚にはいくつか類似点がある。消化器系、皮膚、神経は細胞系譜をさかのぼると、いずれも外胚葉から作られる。両者は感覚神経からの情報を記録・伝達する方法が似ており、皮膚の内側への延長と言ってもいいくらである。

●消化器系は消化だけでなく、内分泌器官のひとつであり、消化や代謝、体内の細胞内貯蔵庫への栄養分の貯蔵を調節するいくつかのホルモンを分泌している。そして、これらのホルモンは脳に影響を及ぼす。

●消化器系にも多くの交感神経と副交感神経が存在しているが、最大の働きをするのは副交感性の迷走神経である。この神経は90%が感覚性の機能を持ち、体の内外から受けた信号を中枢神経系へ伝える。

胃袋と脳の間

●消化機能は自律的なものであるため、腸は意識からの指令がなくても働く。

●消化管ホルモンのコレシストキニン(CCK)は小腸上部から分泌されるが、特に高脂肪の食べ物がこの場所に到達すると特に出やすい。コレシストキニンは迷走神経を活性化し、さらに迷走神経はオキシトシンの放出を促す。従って、食事が高脂肪であればあるほど、食後の満腹感を感じやすく、眠くなりやすい。

第十六章 医薬品による安らぎと結びつき

不安、抑うつなどの治療薬

●セロトニン値の低さは、抑うつやある種の不安と関連している。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を不安症状やうつ症状のない人にSSRIを処方すると、より社交的になる可能性があるが、これはセロトニン値が上がるとオキシトシンの放出が起こるためである。

うつ病患者のオキシトシン値は異常に低いという事実がある。

オキシトシンを医薬品として使う際の障壁

●オキシトシンは分娩の誘発や子宮出血の薬として使われている。

オキシトシンは薬理学的な問題が多くある。一つは、オキシトシンは消化管の中でたちまち分解されてしまうため、経口投与では効果は得られない。明確な効果は注射である。

●オキシトシンは血中でもすぐに分解されてしまう。

●オキシトシンは脳に達することも困難である。これは脳の毛細血管の内壁の細胞が隙間なく並んだ、血液脳関門を形成しているからである。

●『オキシトシンを医薬品として有効活用する方法を開発するには、オキシトシンの分子をもっと扱いやすくしなければならない。そのための科学技術は既に存在するのだが、商業ベースではまだ採算がとれない。オキシトシンの個々の効果(ストレス軽減、疼痛緩和、鎮痛作用、治癒、成長の促進など)をもたらす、オキシトシンに似た薬を開発することも考えられる。オキシトシンのそれぞれの効果は、オキシトシン分子のそれぞれ異なる部位に結びついているらしいからだ。』

ストレス症状の治療

●『オキシトシン値は自然な方法でも上げることができるとはいえ、オキシトシンのプラスの効果をもっと利用するためには、オキシトシン分子が直接投与できる形になる日が来るのを待たなければならない。

今、それよりも重要なことは、自分の体内でオキシトシンを放出させるマッサージなどの技術を身につければ、オキシトシン値を十分に上げることができ、飲み薬や注射に頼らなくてもよいぐらいに、オキシトシンの健康増進効果を享受できるのではないかということだ。私たちは体の中にすばらしい癒し物質を持っている。それを利用するさまざまな方法を学びさえすればよいのだ。』

第十七章 体を動かすこととじっとしていること

●『私の考えでは、〈安らぎと結びつき〉システムを活性化する方法はたくさんあり、エクササイズはそのひとつにすぎない。このシステムは、皮膚や乳腺、消化管内壁、筋肉などからの刺激が神経を介して脳に伝わって作動する。どんな方法でこのシステムを作動させるかは、年齢層によって異なる傾向がある。若いうちはオキシトシンを出すのにエクササイズを使うことが多いが、年齢が上がるにつれて鍼やマッサージを選ぶようになる。私たちは絶えず周期環境の情報に合わせて、体内の生理学的状態を調節している。健康的な均衡を得るためには、「動」の刺激も「静」の刺激も必要だ。

すわったままのジョギング

●ヨガの期限は紀元前2500年、インダス文明の頃からのようであるが、ヨガは長寿と健康増進のための技法を発達させてきた。ヨガの動きは、鼠径部や体の前面(腹側)といった身体の部位を刺激し、触覚刺激の受容体を経由して、迷走神経系を活性化する。

●瞑想の生理学的効果については、すでに詳しく研究されている。瞑想によって、酸素消費量の減少、脈拍と呼吸数の減少、筋肉の弛緩が生じる。発汗も減少するので、微電流を流した場合の皮膚の伝導率が下がる。このような効果はすべて、交感神経系の活動が低下したためと考えられる。また、脳波(EEG)を見ると、脳の活動パターンが変化することがわかる。特に顕著な変化はα波の持続時間が長くなることである。

●定期的に瞑想を行うと、高血圧症の人は血圧が下がり、心拍数の正常化が促進される。ストレスホルモン値が下がり、痛みの閾値が上がる。

●瞑想療法によって、アルコールやタバコなどの乱用癖を弱めたり、なくしたりすることができるという指摘もある。

第十八章 私たちの内なるエコロジー

●『現代のストレスに満ちたライフスタイルのせいで、身体的にも精神的にも極度の疲労に陥ったり、健康を害したりする人があまりにも多い。しかも、若い年齢でそうなる人が増えている。どの年齢層においても、病気の多くはつきつめればストレスが原因だ。私たちも私たちの住む社会も、変化を切実に求めている―そして、その変化は思いのほか身近にある。私たちは自分の中に、変化の鍵をもっている。そう、その鍵は、目立ちすぎる〈闘争か逃走か〉システムの陰に隠れていた、もうひとつの生物学的システムの働きを通して、〈安らぎと結びつき〉の状態を呼び起こす潜在的能力の中にある。

訳者解説

●『〈安らぎと結びつき〉の鍵であるオキシトシンは、ホルモン(血流に乗って体内の器官へ運ばれ、そこで受容体と結合して作用する)としての働きと、神経伝達物質(神経細胞の軸索を通って神経端末へ運ばれ、シナプスを形成している別の神経細胞の表面にある受容体に結合する)としての働きのふたつを持っている。ホルモンとしてのオキシトシンには、分娩時に子宮の平滑筋を収縮させる作用があること、また、赤ちゃんが母親の乳房を吸啜する刺激により分泌されて、乳房から母乳を出す「射乳反社」を起こす働きがあることがよく知られている。神経伝達物質としては、様々な神経細胞に対して多彩な作用を及ぼすことがわかってきており、この多彩な作用がオキシトシンの特徴であるともいえる。その中でも最も興味深いのは、オキシトシンの作用の根幹をなすものが成長であるということだ。オキシトシンは成長の基である生殖に深く関わっており、排卵や射精を促し、分娩・授乳のためには必須の物質でもある。

感想

どの年齢層においても、病気の多くはつきつめればストレスが原因だ。』

まさに、この通りだと思います。今回、きっかけとなった不妊鍼灸も、スタート地点は、心身のストレスとどう向き合うかにかかっているように思います。

『私たちのすべての感覚は、まわりがどんな環境か判断することに、絶えず関与している。その環境が脅威や危険をはらんでいると感じたら、〈闘争か逃走か〉反応が引き起こされ、平和で楽しい環境だと感じたら、〈安らぎと結びつき〉反応が引き起こされる。』

後者の〈安らぎと結びつき〉の主役はオキシトシンです。その三大効果は、成長と治癒社交的能力抗ストレス効果とされています。

モべリ博士は『オキシトシンの効果は成長と生殖への要求を満たす助けになるものである。』、私は生殖プロセス全体を、基本的なオキシトシン原理が複雑な形で表現されたものとみなしたい。』と主張されています。

生命誕生に、オキシトシンこそが主役なのではないかという予想は正しかったように思います。 そして、行動すべきは〈安らぎと結びつき〉を重視し、そのための時間を意識的に“つくり出す”ことではないでしょうか。