生物と量子力学3(意識)

「“信じる者は救われる”とは誰が言った言葉なんだろう?」と思いました。

調べてみると、それは新約聖書の中のマルコ福音書16:16(Mark 16:16)というところから来ているようです。

Mark 16:16
Mark 16:16

画像出展:「DailyVerses.net

何が言いたかったかというと、患者さまが「鍼は効く[ポジティ]」(「鍼は怖い[ネガティブ]」ではなく)と思うとき、そして施術者が患者さまの病態を理解し適切な“証(施術方針)”を立て、「鍼は効く[ポジティブ]」と思うとき、鍼の効果は得られやすいように感じます。

一方、ブログ「量子論2」の“5.量子の奇怪さ”の中には、次のような指摘がされています。

『量子論を考え出した人たちは、ニュートン的世界観と対照的なもう一つの面に気づいた。それは観測者が創り出すリアリティというものだ。量子論によれば、観測者が何を測定しようとしているかということがその測定自身に影響を及ぼすことになる。量子の世界で現実に起こっていることは、その世界を我々がどのように観測しようとしているかに依存しているのだ』

“何を測定しよう”という行為は“観測者”という主体が持つ“意識”から生まれるものだと思います。つまり、意識は量子の世界とつながり、影響を与えるものだということです。 今回の本の中にも「心」をテーマにした章がありました。詳細は以下の通りです。

量子力学で生命の謎を解く
量子力学で生命の謎を解く

第8章 心

●意識はどれほど奇妙なのか?

●思考のメカニズム

●心はどうやって物体を動かすのか

●キュビットを使った計算

●微小管を使った計算?

●量子イオンチャンネル?

内容はいずれもその難しさに圧倒されるものですが、“心はどうやって物体を動かすのか”と最後の“量子イオンチャンネル?”の一部ご紹介させて頂きます。

心はどうやって物体を動かすのか

『おそらくほとんどの人は、心や魂や意識は物理的な身体とは別物だとする「二元論」の考え方を、何らかの形で受け入れていると思う。しかし20世紀の科学界では二元論は支持を失い、いまではほとんどの神経生物学者は、心と体は同じ一つのものだとする「一元論」の考え方のほうを好んでいる。たとえば神経科学者のマルセル・キンズブルンは、「意識があるというのは、神経回路がある特定の相互機能状態にあるようなものだ」と主張している。しかし先ほど話したように、コンピュータの論理ゲートは神経細胞にかなり似ている。だとしたら、およそ10億のインターネットホストから構成されているワールドワイドウエブ(1000億個の神経細胞からなる脳に比べたらまだ小さいが)のような、高度に連結したコンピュータは、なぜ意識の兆しさえも示さないのだろうか? なぜ、シリコンでできたコンピュータはゾンビ[意識を持っていないという意味です]で、肉でできたコンピュータは意識を持っているのだろうか? 単に、ワールドワイドウェブが我々の脳の複雑さや「相互連結性」にまだ到達していないというだけの問題だろうか? それとも、意識はまったく違うたぐいの計算活動なのだろうか?

もちろん、このテーマについて書かれた数々の書物のなかでは、意識に対するさまざまな「説明」が展開されている。しかしここでは、本書のテーマにもっとも関係のある、きわめて異論が多いが魅力的なある主張に焦点を絞ることにする。それは、意識は量子力学的現象であるとする説だ。なかでももっとも有名なのは、オックスフォード大学の数学者ロジャー・ペンローズが1989年の著書「皇帝の新しい心」のなかで説いた、人間の心は量子コンピュータだという主張である。 ~』

量子イオンチャンネル?

『~ 脳の電磁場によって神経発火が同期するという現象は、神経活動の特徴のなかでも意識と関係があることが知られているごく少数の例の一つである。そのため、意識の謎について考える上でもきわめて重要だ。たとえば、視界のなかに置かれている自分の眼鏡などの物体を探していて、散らかったほかの物体に混じってそれを見つけたときに誰もが経験する現象について考えてみよう。散らかった場所を見ているとき、探している物体をコードしている視覚情報は目を通じて脳へ伝えられているが、なぜかその探している物体を見ることはない。それを「意識」してはいないのだ。しかししばらくすると、その物体が見えるようになる。はじめ気づかなかったときと、同じ視野のなかにその物体があることに気づいたときとで、脳のなかでは何が変化しているのだろうか? 驚くことに、神経発火そのものは変化しないらしく、眼鏡が見えていようがいまいが同じ神経細胞が発火する。しかし眼鏡を見つけていないときには、神経細胞の発火は同期しておらず、見つけると同期する。電磁場は、脳の互いに離れた場所にあるコヒーレントなイオンチャネルをすべて一つに結びつけることで、無意識から意識的思考への移り変わりに何らかの役割を果たしているかもしれない。

強調しておくべきだが、意識を説明するために脳の電磁場や量子コヒーレントなイオンチャネルといった概念を持ち出してきたところで、けっしてテレパシーのようないわゆる「超常現象」の存在が裏付けられることにはならない。電磁場もイオンチャネルも、一つの脳のなかでおこなわれる神経プロセスにしか影響を与えることはできず、異なる脳のあいだで意思疎通することはできないのだ! さらに、ゲーデルの定理[不完全性定理:数学基礎論における重要な定理]に基づくペンローズの主張について考察したときに指摘したように、酵素活性や光合成など本書で取り上げたほかの生物現象と違い、そもそも意識を説明するのに実際に量子力学が必要であるという証拠はまったくない。しかし、生命に欠かせないあれほど多くの現象に関係していることが分かっている量子力学の奇妙な性質が、生命のもっとも謎めいた産物である意識にはまったく関係していないなどということが、はたして考えられるだろうか? その判断は読者にお任せしよう。量子コヒーレントなイオンチャネルと電磁場に基づいて意識を説明するという説を含め、ここまで示してきた事柄はもちろん推測にすぎないが、少なくとも脳のなかで量子の世界と古典的な世界をつなぐものとしては理にかなっている。』

以上のことから、この本の著者は意識と量子の世界の関わりについて、ロジャー・ペンローズの著書「皇帝の新しい心」の内容に対して懐疑的ではあるものの、その可能性は否定していないということが分かります。こうなると、何はともあれ「皇帝の新しい心」という本を知る必要があります。

幸い、お世話になっている図書館にそれは所蔵されていました。 

皇帝の新しい心
皇帝の新しい心

題名:「皇帝の新しい心 コンピュータ・心・物理法則」

原書:「The Emperor's New Mind: Concerning Computers, Minds, and The Laws of Physics」1989年

著者:ロジャー・ペンローズ

出版:みすず書房

発行:1994年12月

ここでは訳者である林 一先生(昭和薬科大学名誉教授)による「訳者あとがき」の一部と、この本の目次をご紹介したいと思います。

『~ 心はなぜ存在するか、心は脳という生物的機関に固有のものなのか。意識現象が科学で理解できるのか。思考は機械的に可能か。われわれはなぜここにいて、宇宙について、心について考えているのか。

相対性理論の新しい時空像、量子論が切り開いたパラドクシカルな状況、人工知能(AI)の発展、ゲーデルの定理、チューリング機械の理論がさらけだしたアルゴリズム的思考の限界。脳科学が提示している知覚の奇妙さ。こうした現代科学の成果は、上の問題を新たな形で定式化しては、それをめぐる謎をさらに深めたと言える。

この謎に対する出来合いの答はもちろんない。本書は、現代科学のあらゆる分野の関連のあるかぎり遠慮なく取り上げて、この本題に迫る。答えはないとはいえ、ペンローズが多大の労力を費やしたのは、彼の大胆な仮説、見通しを筋道を立てて率直に読者に説明するためである。そのためには相対性理論、量子論の根本的問題についても論じなければならない。議論は明快で数式はかみ砕かれており、読み飛ばしても差し支えないという断りがあるとはいえ、かの【ホーキング、宇宙を語る】の各編集者がホーキングに与えた、どんな数式も読者を半減させるという名警告を、彼はあえて無視した。

数理物理学、相対性理論、宇宙論の分野で赫々(カクカク)たる業績をあげた、当代きっての数学者・物理学者であるペンローズがなぜ、大勢の物理学者が敬して遠ざけてきたこの問題にここまで真剣に取り組むようになったのか、その心中を推測することは私にはできない。きっかけについては彼自身の言葉を上で紹介したが[上で紹介とは「副題に“コンピュータ・心・物理法則”とあり、コンピュータが心をもちうるかという問題を、それを肯定的に答える一部の論者に刺激されて、心とは何かについて深く考え始めたのが、本書執筆の動機であった、と著者自身が述べている、ひょっとするとごく単純で、エヴェレストがそこにあるのと同じように、問題がそこにあったからなのであろうか。いずれにしても、これは功なり名を遂げた高名な科学者にしばしば見られる、高尚な哲学的問題への寄り道、老後の手すさびではない。彼は数年来、さまざまな形でこの問題に対する関心の深さを披露してきたのだが、ついに本格的な書物の形にまとめて、世に問うに至った。

心とは何か、意識の本体は何か、それを解明するには、量子論を根本から改革しなければならない。ビッグバンの解明には、量子重力論の建設が必要であることは広く認められているが、ペンローズはさらに進んで、正しい量子重力論が、心の謎、時間の流れという意識の謎を科学的に解く鍵を与えると予測している。意識的思考は非アルゴリズム的で、謎めいた無意識の方こそアルゴリズム的だという指摘、重力による時空の湾曲が意識の成立に関わる、という見通しは、彼以外のすべての科学者にとっても、現代科学に多少なりと親しんでいる一般読者にとっても、破天荒なアイデアであろう。

この問題に対する彼の大胆極まりない答えを一般読者に向けて解くためには、背景となる科学のさまざまな分野(上ではその一端に触れただけだが)について予備知識を与えるべく、著者は筆を惜しまず数百ページを費やして解説した後、本題に迫る。その範囲の広大さは、目次を一目見ただけで分かるだろうから、ここでは羅列しないが、その解説も決して型通りのものではなく、この著者ならではの独創的なものであるが、それはこのような分野に接したことのある読者なら一読して自ら納得されるだろう。うまく訳文に表すことができたかどうか心細いが、控えめだが企まざるユーモアも微笑ましい。

彼自身が明言しているように、当然ながら、彼の答えも暫定的なものである。かつて彼の名声を不動にした、いわゆるペンローズの定理―すべての既知の物理法則が成立しない特異点ブラックホールが生じるのは特殊な条件のもとに限られるという、長年の物理学者の希望的観測を打ち砕いた定理―の発見が、後にスティーヴン・ホーキングの協力を得て、ペンローズ‐ホーキングの定理に拡大されて、宇宙論の展開に大きな転機をもたらしたことが思い合わされるが、心という小宇宙と大宇宙に科学的理解の橋を架けようという、それ以上にスケールの大きな大胆不敵なアイデアが、どのような運命をたどることになるのか、そして、現代科学、なかんずく人工知能論が心に着せている新しい衣を、ペンローズが、皇帝の権威を恐れない寓話の中の子供のように見透かしたことになるのか、私には予測はつかない。 ~』

目次

序文

プロローグ

1 コンピュータは心をもちうるか?

 はじめに

 テューリング・テスト

 人工知能

 「快楽」と「苦痛」に対するAIアプローチ

 強いAIとサールの中国語の部屋

 ハードウェアとソフトウェア

2 アルゴリズムとテューリング機械

 アルゴリズム概念の背景

 チューリングの発想

 数値データの2進符号化

 チャーチ‐チューリング・テーゼ

 自然数以外の数

 万能チューリング機械

 ヒルベルトの問題の解決不能性

 アルゴリズムをどう出し抜くか

 チャーチのラムダ算法

3 数学と実在

 トルブレッド=ナムの国

 実数

 実数はどれだけあるか?

 実数の「実在性」

 複素数

 マンデルブロー集合の作図

 数学的概念のプラトン的実在性

4 真理、証明と洞察

 数学に関するヒルベルトのプログラム

 形式的数学的システム

 ゲーデルの定理

 数学的洞察

 プラトン主義か直感主義か?

 テューリングの結果から導かれるゲーデル型の定理

 帰納的に可算な集合

 マンデルブロー集合は帰納的か?

 非帰納的な数学のいくつかの例

 マンデルブロー集合は非帰納的数学らしいか?

 複雑性理論

 複雑性と物理的な事物の計算可能性

5 古典的世界

 物理理論の身分

 ユークリッド幾何学

 ガリレオとニュートンの動力学

 ニュートン力学の機械論的世界

 ビリヤード・ボール世界における生命は計算可能か?

 ハミルトン力学

 位相空間

 マクスウェルの電磁理論

 計算可能性と波動方程式

 ローレンツの運動方程式:暴走粒子

 アインシュタインとポアンカレの特殊相対性理論

 アインシュタインの一般相対性理論

 古典物理学における計算可能性:われわれはどこに立っているのか?

 相対論的因果性と決定論

 質量、物質と相対性

6 量子マジックと量子ミステリー

 哲学者は量子論を必要とするか?

 古典理論の問題点

 量子論の始まり

 2重スリット実験

 確率振幅

 粒子の量子状態

 不確定性原理

 発展手順UとR

 1つの粒子が同時に2つの場所にある?

 ヒルベルト空間

 測定

 スピンと状態のリーマン球面

 量子状態の客観性と測定可能性

 量子状態のコピー

 光子のスピン

 大きなスピンをもつ対象

 多粒子系

 アインシュタイン、ポドルスキ―、ローゼンの「パラドクス」

 光子を用いる実験:相対性理論の難点?

 シュレーディンガー方程式:ディラック方程式

 量子場の理論

 シュレーディンガーの猫

 現行の量子論に対するさまざまな態度 

 われわれはどこに取り残されたのか?

7 宇宙論と時間の矢

 時間の流れ

 容赦ないエントロピーの増大

 第2法則の働き

 宇宙における低エントロピーの起源

 宇宙論とビッグバン

 原初の火の玉

 ビッグバンは第2法則を説明するか?

 ブラックホール

 時空特異点の構造

 ビッグバンはいかに特殊であったか?

8 量子重力を求めて

 なぜ量子重力か?

 ワイル曲率仮説の背後に何があるか?

 状態ベクトルの収縮における時間非対称性

 ホーキングの箱:ワイル曲率仮説との関連?

 状態ベクトルはいつ収縮するか?

9 実際の脳とモデル脳

 脳は現実にはどういうものか?

 意識の座はどこか?

 分割脳実験

 盲視

 視覚皮質における情報処理

 神経信号はどのように働くのか?

 コンピュータ・モデル

 脳の可塑性

 並列コンピュータと意識の「唯一性」

 脳の活動に量子力学の出番はあるか?

 量子コンピュータ

 量子論を越えて?

10 心の物理学はどこにあるのか?

 心は何のために?

 意識の現実に何をなすのか?

 アルゴリズムの自然淘汰?

 数学的洞察の非アルゴリズム的性格

 インスピレーション、洞察と独創性

 思考の非言語性

 動物意識?

 プラトン的世界との接触

 物理的実在に対する1つの見方

 決定論と強い決定論

 人間原理

 タイル並べと準結晶

 脳の可塑性とのありうべき関連

 意識の遅れ

 意識的知覚における時間の奇妙な役割

 結論:子供の見方

エピローグ

まとめ

”まとめ”というには頼りない内容ですが書いてみました。

繰り返しになりますが、本書の著者が考えている「量子力学と意識」の関係性は次の通りです。

酵素活性や光合成など本書で取り上げたほかの生物現象と違い、そもそも意識を説明するのに実際に量子力学が必要であるという証拠はまったくない。しかし、生命に欠かせないあれほど多くの現象に関係していることが分かっている量子力学の奇妙な性質が、生命のもっとも謎めいた産物である意識にはまったく関係していないなどということが、はたして考えられるだろうか?

これを見たときに気になったのは、ブログ ”がんと自然治癒力9” でご紹介したテロメアです。

このテロメアは2017年5月、NHKの”クローズアップ現代”でも紹介されています。

『老化を防ぎ、若さを保ちたい。そんな願いをかなえると注目されている研究がある。ノーベル賞生物学者・ブラックバーン博士らによる「テロメア」研究だ。染色体の端にあり細胞分裂のたびに短くなるため、年とともに縮むと考えられていたテロメア。ところがテロメアを伸ばして細胞から若返る方法があり、がんを防げる可能性もあるというのだ。』

『ブラックバーン博士たちが発見した酵素「テロメラーゼ」です。テロメラーゼは、テロメアが短くなるのを遅らせたり、さらに伸ばしたりする働きもあります。これによって、細胞を若返らせる可能性が出てきたんです。この発見で、ブラックバーン博士たちはノーベル賞を受賞。そして今、どうすればテロメラーゼを増やし、テロメアを伸ばすことができるのか、研究が進んでいます。』

この時、勉強した本は『テロメア・エフェクト』ですが、そこでは”靴紐とキャップ”を例に”染色体とテロメア”を紹介していました。

テロメア・エフェクト
テロメア・エフェクト

そして、ストレスに対する”脅威反”と”チャレンジ反応”という二つの反応によって、テロメアが受ける影響は異なるということも説明されていました。これは意識とテロメアの関係を示すものだと思います。


テロメアにはNHKの”クローズアップ現代”のところでご紹介したように、”テロメラーゼ”という酵素の関与が明らかになっています。酵素のメカニズムに量子力学が関わっているということが証明されれば、テロメアに影響を与える意識と下図の三層目に存在する量子力学が結ばれると考えても良いのではないでしょうか。

生命は量子の世界と古典的な世界との縁を航海している
生命は量子の世界と古典的な世界との縁を航海している

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