経絡≒ファシア5

人体の張力ネットワーク
人体の張力ネットワーク

監訳:竹井 仁

出版:医歯薬出版

発行:2015年6月 

目次は”経絡≒ファシア1”を参照ください。

 

1.7 頸部と体幹腹側の深筋膜

序論

・初期胚発生において、本来単一の体腔は将来、横隔膜となる横中隔と胸腔と腹膜腔に二次的に分ける胸膜心膜中隔の発達によって分割される。

・心膜腔は胸腔の中に形成される。これらの腔はそれぞれの内容物(肺、心臓、腹部器官)と少量の漿液で完全に満たされている。

頸部筋膜

・内臓索は、神経および血管束と頸部臓器から構成される頸椎前方に位置する。第1気管軟骨の高さの横断面は、内臓索が正中に位置し後縁は直接頸椎上にあることを示す。それは、3つの筋膜と、気管前筋群、椎前筋群、密性被膜からなる結合組織筋層によって囲まれている。

頸部の第1気管軟骨レベルの水平面
頸部の第1気管軟骨レベルの水平面

画像出展:「膜・筋膜」

 

 

3つの頸筋膜の配置

・浅頸筋膜(頸筋膜浅葉)

-皮膚と広頸筋の直下にあり広い領域を伸張する。

-咬筋筋膜の延長として下顎骨と口底から舌骨の中間を尾側へと走行し、鎖骨と胸骨柄に付着したのち胸腰筋膜へと続く。

-浅頸筋膜は胸骨に付着しているため呼吸中に有意に移動する。

-浅頸筋膜は胸鎖乳突筋周辺で外側鞘を形成し、この被膜内を自由に滑走する。

-浅頸筋膜は背部では、外側頸三角(後頸三角)の脂肪体を覆って僧帽筋へと続く。

-浅頸筋膜は後上方へは、乳様突起を横断してそこから上項線まで延びる。

-浅頸筋膜は種々の領域により異なった構造をしている。顎二腹筋、僧帽筋前部、胸鎖乳突筋の下1/3はきめ細かい。頭側1/3においては、浅筋膜は極めて強靭で皮下組織に対してほとんど動かない。外側頸三角の下部においては、鎖骨上神経とその伴行血管が通過するためザルのようである。それは隣接する構造の多数の連結によって永続的な緊張下にある。 

3つの頸筋膜
3つの頸筋膜

画像出展:「膜・筋膜」

 

 

・中頸筋膜(頸筋膜の気管前葉)

-中頸筋膜は舌骨下筋の筋膜被膜からなり、頸部臓器の前方で安定した三角形のスカートを形成する。

-中頸筋膜は頭側方向では、それは舌骨に固定されるように発達し、尾側方向では、胸骨の後方で上胸郭開口部を通り、胸骨舌骨筋と胸骨甲状筋の被膜として走行し胸骨柄に停止する。

-中頸筋膜は外側方向では、鎖骨の後方に固定され、肩甲切痕内側より起こって弧を描くように舌骨へと走行する肩甲舌骨筋の筋膜被膜によって後外側に接している。

-中頸筋膜は頸動脈鞘の形成にも含まれており、その牽引によって内頸静脈の管腔は開放されたまま保たれる。この原則は、頸部および上肢帯領域から走行してくる深静脈と頸部の皮静脈にも当てはまる。 

頸動脈鞘
頸部横断の上面(C7レベル)

左の図では、右側の上から3番目に“頸動脈鞘”が書かれています。これを見ると頸動脈鞘は総頚動脈、内頸静脈、迷走神経を取り囲んでいるのが分かります。なお、この図は“Blog cocokara”さまの「頚部の筋膜【ノート】」より拝借しました。

 

 

 

・深頸筋膜(頸筋膜の気管前葉)

-深頸筋膜は頸椎の前縦靭帯に固定されており、椎前筋群(頸長筋群)および頸部外側筋群(斜角筋群)を覆う結合組織を供給する。

-深頸筋膜は頭側では、深頸筋膜は頭蓋底に固定される。

-深頸筋膜は外側では、肩甲挙筋、項筋膜、頸筋膜と結合している。

-深頸筋膜は尾側では、胸内筋膜の中へと走行する。

-深頸筋膜は中斜角筋から鎖骨に到達し、前斜角筋とともに胸郭外面に到達する。そして、この領域より上方で、深頸筋膜は上肢への神経および血管束である腕神経叢と鎖骨下動脈を覆う。

胸郭の筋膜 

・胸郭上口は頸部との連結を示し、1対の第1肋骨、胸骨、第1胸椎に接している。

・胸郭への付着は対角線的であり、呼吸の中間時には胸骨上縁は第2胸椎の高さに位置する。

・胸部臓器[心臓・肺・食道・気管・気管支・胸腺など]は、頸部の臓器腔と連結している結合組織の中間層と縦隔に位置する。

・胸郭内に配置された胸内筋膜と壁側胸膜は、筋膜派生物として機能的単位を形成して、横隔膜、心膜、気管と他の構造物とともに縦隔に連結する。

・胸内筋膜

-深層の後方および中間前方頸筋膜は、上胸郭開口部において胸内筋膜に直接付着している。

-胸壁、胸膜項、横隔膜領域の胸内筋膜は、胸骨および脊柱において縦隔の結合組織内を通過する。

-胸内筋膜は、胸壁において肋骨筋膜、肋骨、胸筋膜(肋間筋と胸横筋の筋膜)の間へ広がる。

-肋間神経と血管は、胸内筋膜の後方部分に走行し、前方部では胸動静脈が第3肋骨の上方へ走行する。

・胸膜腔

-漿液性胸膜腔は、両側で縦隔に接しており嚢状の臓側胸膜(肺胸膜)によって完全に覆われる肺を含む。

-胸腔内において臓側胸膜は壁側胸膜に対して動くが、それは2~3㎖の漿液で満たされた細管間隙によって分けられる。

・壁側胸膜

-壁側胸膜は肋骨胸膜として胸壁を裏打ちする。

-壁側胸膜は縦隔胸膜として縦隔の外側面を裏打ちし、横隔胸膜として横隔膜を裏打ちする。

-壁側胸膜はその膜上に機械的牽引が生じるため、臓側胸膜よりもしっかりとその周辺組織に固定されている。

-肋骨筋膜は胸内筋膜に強固に付着している。

-横隔胸膜は横隔胸膜筋膜に強固に付着している。

・胸膜項/頸部筋膜

-鎖骨下動静脈は胸膜項の上でアーチ状になる一方で、横隔神経がその内側を走行する。

頸部の構造
頸部の構造

画像出展:「人体の解剖」

左の図では、気管の外側に総頚動脈-迷走神経-横隔神経-鎖骨下動・静脈-腕神経叢が確認できます。

 

 

 

・縦隔の筋膜構造

-縦隔は胸骨後面と接している肋骨から腰椎前面に拡がり、外側縦隔胸膜によって両側が区切られている。

-上縦隔は上胸郭開口部からおよそT4下縁まで広がり、尾側方向で下縦隔となる。ここから前後方向に3つの部分に区分けされる。

1.前縦隔:結合組織で満たされた胸骨と心膜の間の平坦な腔である。

2.中縦隔:心膜と心臓を含む。

3.後縦隔:胸郭と頸部の間を接続する腔であり、食堂、胸部大動脈、奇静脈および半奇静脈、胸管、交感神経幹を含む。

-心膜は漿膜腔を囲む、そして心臓を完全に取り囲む。

-心膜は外側の線維性心膜と内側漿膜性心膜からなる。漿膜性心膜は心筋の内臓シートの周囲を取り囲み、心筋を漿膜性の皮膚で覆う心外膜となる。漿膜性心膜と心外膜の間は漿液で満たされた腔である。

-線維性心膜は高密度な十字に交差したコラーゲン線維からなり、それは弾性のある格子様の網により散在している。この構造は心膜が動く間に心臓の生理的再構築を可能として、同時に心膜の過伸展を防止する。

-線維性筋膜は横隔膜と下大静脈周囲の中央索にしっかりと固定されている。

-心膜は縦隔胸膜によってほぼ完全に覆われており、結合組織によって縦隔胸膜へ付着している。

-横隔神経は心膜横隔血管とともに結合組織の中を横隔膜へと走行する。

上胸郭出口への頸部筋膜の連結
上胸郭出口への頸部筋膜の連結

画像出展:「膜・筋膜」

体表側の頸内筋膜、および脊柱側の深頸筋膜とも胸内筋膜に移行します。

 

 

腹壁の筋膜

・腹壁は構造的に3層からなる。

・腹部筋膜浅層は一般的な筋膜の一部として、皮膚と皮下脂肪組織の下部領域に存在する。

・中間層は平坦な腹筋群およびそれらの腱膜状に形成された筋膜に極めて密接した構造組織からなる。

・深層は後部の腹膜後隙を囲み、強力な結合組織層を含み壁側腹膜によって腹腔膜まで区切られる。

・浅層

-尾側では、胸筋筋膜が身体筋膜の浅層と腹部筋膜浅層の一部となって、外腹斜筋の筋腱シートの中へと続く。それは部分的に大腿筋膜に移行する。そして、外腹斜筋とともに白線領域、および鼡径靭帯とともに鼡径部に固定される。

・横筋筋膜による中間層

-平坦な外側の腹筋群(外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋)、直線的な前方部の筋(腹直筋)、後方部の筋(腰方形筋)から成り立つ。

-平板筋(胸腹壁の筋など)は、それらの筋の筋膜によって各々が分けられ、その間には薄いもつれた結合組織層がある。

-腹直筋は非常に強固な結合組織鞘(腹直筋鞘)によって位置を固定される。

-横筋筋膜は内側の腹部筋膜であり、腹腔の筋腱膜壁の前外側内面を覆う。それは壁側腹膜の漿膜下結合組織に接合し、部位によっては緩く可動性があるが、他の場所では固定されていて不動である。

腹壁の深層
腹壁の深層

画像出展:「人体の正常構造と機能」

図の右側下から4つめに“横筋筋膜”が出ています。

 

 

-横筋筋膜は弓状線領域では白線の内輪に付着するまで続く。

-横筋筋膜は頭側では横隔膜の腹部表面を覆う。

横筋筋膜は後方では腰方形筋および大腰筋筋膜の薄い層として続く。

横筋筋膜は前尾側部では鼡径靭帯に固定されており、腸骨筋筋膜へと変化する。

-横筋筋膜は鼡径靭帯上方では精索、睾丸および副睾丸を内精索筋膜として取り囲む(内鼡径輪)

・深層

-壁側腹膜の後方部では、結合組織腹膜後隙を区切る。その内部の起伏は正中面と両側の大腰筋筋腹の内部に突出する腰椎によって特徴づけられる。

-腸腰筋の外側では腎臓と副腎を含む腎床へとより深い経路に広がる。  

腹膜後隙の筋膜境界
腹膜後隙の筋膜境界

画像出展:「膜・筋膜」

 

 

 

第2腰椎の高さの横断面
第2腰椎の高さの横断面

画像出展:「人体の正常構造と機能」

『腎臓と周囲との関係:腎臓の周囲には腎筋膜と呼ばれる線維性組織があり、腎臓の表面を覆う腎被膜との間には脂肪被膜が挟まっている。脂肪被膜は腎門のところで腎洞の脂肪につながる。腎筋膜の外側には腎傍脂肪があり、腎臓の後方でよく発達している。腎臓は脂肪被膜および腎傍脂肪に包まれ、その中で動くことができる。』