立つ・歩くことを考えたリハビリテーション

順番が逆になってしまいましたが、脳性まひ児のリハビリテーションに関して、もう一つブログをアップしたいと思います。今回の本は患者さまのご家族の方から教えて頂いたもので、大変簡潔で分かりやすく、実際に試してみたいと思う内容なのでご紹介させて頂きます。

立つ・歩くことを考えた 脳性まひ児のリハビリテーション
立つ・歩くことを考えた 脳性まひ児のリハビリテーション

編著:坂根清三郎、湯澤廣美、山本智子

出版:へるす出版

発行:2017年11月

章は6つで、以下の通りです。

第Ⅰ章 子どもの正常発達と運動障害児の特徴

第Ⅱ章 ストレッチの重要性 効果的な運動機能訓練を行うために

第Ⅲ章 子どもの発達に沿った運動機能訓練

第Ⅳ章 LS‐CC松葉杖訓練法の実際

第Ⅴ章 ケース報告

第Ⅵ章 学校や家庭での取り組み

ブログでご紹介しているのは第Ⅲ章です。そのⅢ章は4つに分かれており、この中のⅡ期とⅢ期を取り上げています。

第Ⅲ章 子どもの発達に沿った運動機能訓練

Ⅰ期:仰臥位→腹臥位→首の座り(頚定)→寝返り→持ち込み坐位

Ⅱ期:持ち込み坐位→自力坐位→四つ這い移動(尻這い・いざり這いを含む)

Ⅲ期:つかまり立ち→伝い歩き→独歩

Ⅳ期:応用歩行

Ⅱ期:持ち込み坐位→自力坐位→四つ這い移動(尻這い・いざり這いを含む)

1.持ち込み坐位

ねらい

体幹を起こすことに慣れる

バランス感覚の向上

坐位姿勢での頭部保持

●坐位の練習は、脊柱に多くの加重がかかり、体幹を起こすことを経験する最初の姿勢である。

●四つ這いなどの運動能力ともかかわってくるので、非常に大切である。

 ひとり座り:乳児の坐位。

 あぐら坐位:成長とともに下肢がながくなるとひとり座りからあぐら坐位になる。

 正座:足先が内を向き、殿部が足の上に乗っている状態(筆者が奨励している)。

 割座:正座と異なり、殿部が足の間に落ちている状態(筆者が奨励している)。

 横座り:長期的には側彎になる傾向が強い(筆者は奨励していない)。

 とんび座り:股関節が内転・内旋となるので股関節の可動域に制限がある場合は避けるべき。

画像出典:「脳性まひ児のリハビリテーション」

画像出典:「脳性まひ児のリハビリテーション」

●健常児の自力坐位は、まず「腹臥位から殿部を持ち上げ→次に腕立て伏せで体幹を持ち上げ→ひとり座り」となる。そして、この次の段階として、上肢を使った四つ這いを獲得する。

●腕立て位で獲得した上肢伸展支持を利用して、あぐら坐位・割座・正座に慣れさせる。

●坐位姿勢では頭部を挙上させることが大切である。テレビや絵本・DVDなどを用いると良い。

●手で床を支えて坐位が可能であれば、片手に玩具を持たせたりして、片手でも支えられるようにする。

●両手を床から離しても坐位バランスが保てるようになるまで継続する。

2.肘這い

●肘這いは運動機能を促進する。

●「持ち込み坐位→自力坐位」の中間にある運動機能である。

3.自力坐位

●健常児では生後8~10カ月頃に見られる。

●手順は「腹臥位になり→尻を持ち上げるようにしながら→上肢で身体を支え→正座や割座になる。

画像出典:「脳性まひ児のリハビリテーション」

自力坐位になれない多くの子どもは、殿部を持ち上げられない。これは、股関節の屈曲がうまくできないからである。

子ども自身の力で股関節屈曲の動きを生み出すことは、他動的な股関節屈曲運動だけでは難しい。

●“松葉杖訓練”を早期に行うと、下肢を随意的に動かすことを通して、股関節の屈曲を習得することができる。

●股関節の屈曲ができるようになれば、腹臥位で下腹部をくすぐると股関節が屈曲し、殿部が上がってくるので、腸骨前面を介助することにより正座や割座の姿勢がとれ、さらに上肢を伸ばすと上半身が持ち上がって、正座や割座の姿勢になることができる。

画像出典:「脳性まひ児のリハビリテーション」

4.四つ這い

●四つ這い位でバランスを崩さず、手足を交互に動かすことができれば、四つ這いはできる。

●自立坐位が可能であれば、体幹のバランス維持も可能なので、四つ這いでのバランス維持も難しくない。

●手足を交互に動かすという課題は、やはり“松葉杖訓練”で効果的に学ぶことができる。

Ⅲ期:つかまり立ち→伝い歩き→独歩

●独歩を目標にした場合、つかまり立ち・伝い歩きは、習得させたい目標である。

●既に、つかまり立ち、伝い歩きを習得していれば、独歩を目標にすることができる。

1.つかまり立ち

●健常児では立ち上がる時に、足関節が大きく背屈している点は重要である。患児では足関節が底屈(尖足)し、十分な背屈が難しく、立位・歩行を困難にしている。

徒手による床からの立ち上がりの訓練

画像出典:「脳性まひ児のリハビリテーション」

①子どもの背面から介助して、膝を支えてしゃがみ位をとらせる。そのとき、介助者に寄りかかる姿勢になり、体重を預けようとするのを、子どもの下肢に体重がのるように誘導して支える。その際、股関節が内転しやすいので、内転しないように注意する。

②座り込んでいる子どもの両膝を軽く握るように持ち、重心を前方に移すようにして殿部を持ち上げさせる。

③膝が伸びるように誘導しながら、股関節も同時に伸ばすように促す。

④膝と股関節が伸びきると、立位の姿勢になる。このとき、重心が後方に移らないように注意して、下肢に重心を十分のせるようにさせる。

●つかまり立ちを指導する際、上肢を引き上げたり、体幹を持ち上げたりしないようにしなければならない。立ち上がりを習得するには積極的支援ではなく、誘導を心がける。

2.伝い歩き

●伝い歩きの上達は、「つかまり立ちで左右の足に体重移動ができるようになる→次いでカニのように横移動ができるようになる→やがて片手で物につかまりながら前方移動ができるようになる」というものである。

上下肢の運動機能がわるい子どもにとって、伝い歩きを行うことは大変難しいことであるが、これができなければ、次の段階へ進むことはできない。

大腿上部を介助しての重心移動

画像出典:「脳性まひ児のリハビリテーション」

①子どもの後方から大腿上部を介助して、子どもの足を少し広げて立たせる。このとき重心は、下肢にしっかりとのっているか、少し前方である。重心が後方にならないように注意する。

②上記①の姿勢を維持しながら、片足に重心移動を行う。介助者が介助者の片足を子どもの足部に当て、横にスライドするようにしながら、持ち上げるかのように他方の足に重心を移す。これを左右ともに行う。

③上記②ができるようになれば、子どもの足部に当てていた介助者の足で、子どもの足を床から上げて、しっかりと他方の足に重心をかけさせる。これを左右ともに行う。

以上の訓練みより、左右への重心移動は行えるが、前方への移動は歩行器を使わなければできない。歩行器の指導では、特に、重心が後方にいかないように指導することが重要である。そのため、ハンドル型で後方から押すタイプの歩行器を推奨する。前輪の車輪は自由に動き、後輪の向きが自在に動くものを選ぶ。

画像出典:「脳性まひ児のリハビリテーション」

子どもの手の位置は、左右の乳頭を結ぶ線よりやや低い高さである。つまり「頼れそうで頼れない状態」に訓練効果を期待しており、PCWの一般的な使用と比較すると、その使用方法は特徴的である。

大人がついやってしまうことで、特に注意したいのが、少し伝い歩きができるようになった子どもを片手介助で歩かせることである。これをすると、子どもは介助されている手に依存した方が楽なので、下肢でバランスをとる努力をしたがらなくなる。ちょっとしたことのように思えるが、子どもが試行錯誤しながら目標に取り組む段階に入れば、逃げ場をつくらないことが大切である。

3.独歩

独歩の訓練に入る時期の見極めは大変難しい(杖歩行や歩行器を行っているうちに、独歩が可能な状態に達していることも珍しくない)。

●松葉杖での歩行が四点支持二点歩行になった時点や、歩行器歩行で安定した歩行ができるようになった時点などが目安になる。

●指導上、特に注意する点はバランスが後方へいかないようにすることである。

①下記の写真のように立たせる。

画像出典:「脳性まひ児のリハビリテーション」

②立っている子どもの両肩前面に介助者の母指を除く四指を当て、母指は肩に当て、子どもの動きを誘導する。このときの介助者の四指+母指(補助指)は、重心が不安定になり倒れそうになった場合に、立て直しの基準(目安)となる。

③子どもの重心が前方へ移動するときに下肢が出る。このことを繰り返すのが、下肢の交互運動である。このとき大切なのがスピードのコントロールであり、うまくいかないと前方に倒れてしまう。介助者がスピードを調整しながら訓練を重ねていくことになるが、ここでは倒れることも経験させる。そして倒れたときは、必ず手で支えること(パラシュート反応)を習得させる。

以上のように、独歩の訓練を進め、肩を介助する独歩が安定してきたら、初めは2mくらいを目標に、介助者の誘導を減らした独歩をさせる(基本的に肩を介助する)。目標位置で保護者が見守ったり、子どもの好きな物を置いておいたりすると子どもは努力することができる。しかし、定めた距離は守り、子どもが上手に独歩しているからもう少し距離を延ばせそうだと思っても、目標位置を変えてはならない。目標位置を遠のくことは、独歩にチャレンジしている子どもに不安感を与え、独歩が嫌いになる原因になる場合があるからである。

LS-CC松葉杖訓練法について

LS-CCのLSとはLong Leg Standing Stabilizerの略で、LS-CC法では「安定板付き長下肢装具」のことです。

画像出典:「脳性まひ児のリハビリテーション」

また、CCはCrawling Carのことで、「四つ這い補助車」のことです。

画像出典:「脳性まひ児のリハビリテーション」

松葉杖も上部の横木が真っすぐではなく、三日月状に加工された特別仕様となっています。

画像出典:「脳性まひ児のリハビリテーション」

LS-CC法の開発のきっかけとなった松葉杖訓練

なお、ご紹介は全文ではありません。

『LS-CC法は、運動障害児に対する有効な訓練法の一つである。年齢的には、2歳前後から適応される。これは、次のような例を経験したことから実践を重ね、完成させた方法である。

筆者(坂根)が勤務していた当時、東京都北療育園(以下、北療:現在の東京都立北療医療センター)の入園部門は、3歳児から単独で入園を受け入れており、機能的には、四つ這いやつかまり立ちなどが可能な子どもたちもいた。その子どもたちに対する訓練内容として、ごく一般的には、関節可動域訓練、介助での立位、しゃがみ立ち上がり訓練、片膝立ち、平行棒あるいは歩行器を利用した歩行訓練、肩や腰部を介助した歩行訓練を行っていた。このような訓練を受けて、2~3年経って退園するのであるが、機能的にみて目覚ましい進歩がみられないのがふつうであった。訓練技術の無力さを歯がゆく思ったものである。

そんなあるとき、四つ這い・伝い歩きが可能な4歳のA君が、訓練室に置いてあった松葉杖を持ちだして遊んでいたので、通常の使い方を教えてみたところ、あまりいやがらなかったので、その後も1日40分~1時間以上、週3~4日以上を目安に継続して練習させた。その結果、3~4週間後には、介助なしに、そばで見守るだけで、訓練室内を4~5m歩けるようになった。3カ月後には、訓練室で、一人で松葉杖歩行ができるようになり、半年後には、居室から訓練室までの約30mを同様に松葉杖で歩けるようになった。そして、約1年後には独歩を開始した。また、結果的に、特に訓練内容として取り上げなかった膝歩きが上手になっていたのである。

この例をきっかけとして、A君よりも機能的にやや劣る子どもや知的能力の低い子どもなど数人に試してみると、どの子どもも2年前後で施設内を松葉杖であるくことが可能になった。このような動作の向上により、坐位の姿勢がよくなり、椅子坐位が安定した。訓練目標として取り上げていなかったことが上達し、松葉杖訓練を行ったことで運動機能の著しい伸びがみられたことは注目に値した。常に少ない訓練時間に不満を抱いていた筆者らにとって、この事実は貴重な経験であった。

その後、A君と同じ痙直型以外に、アテトーゼ型・失調型・混合型の子どもたちにも松葉杖訓練を実施した。下肢関節に強度の拘縮のある子どもや重い知的障害のある子どもを除いて、A君と同様な結果を得た。この実践をとおして、筆者らは「新しい訓練観」をもつに至った。

それは、A君たちよりも機能的に重度な子ども(寝返りや腹這い移動は可能であるが、自力坐位は不可)の自力坐位や四つ這い獲得のために、松葉杖訓練が役に立ちはしないかという考えである。つまり松葉杖訓練によって、体幹や下肢筋力の増強、上肢と下肢の交互性の上達が促され、その結果、自力坐位や四つ這いに結びつくのではないかと考えたのである。実際に試してみると、両脇を介助して立たせたときに立位がとれる場合は、松葉杖訓練が可能であることがわかった。松葉杖訓練は最初、腋下に頼るようにして下肢の支持性が出るまではつらそうにする子どももいる。しかし、継続して行い、介助者の適切な指導があれば、すぐに慣れる。そして、1~2年後、自力坐位・四つ這いが可能になっていた例が多かった。また、自立坐位はできないまでも持ち込み坐位が安定していた。』

肢体不自由と共に”というサイト(Facebook)もあります。

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『LS-CC松葉杖訓練法を知っていただきたく、ホームページを開いています。』とのことです。