CHAPTER12
オープンAI創業と「効果的利他主義」
●オープンAI、始動
・『オープンAIは2016年1月4日に始動したがその前の数週間は大混乱で、サツキヴァ―の参加も定かではなかったため、アルトマンとブロックマンはオフィススペースのことを考える余裕もなかった。
ディープマインド追撃をめざす一団は、とりあえずブロックマンのサンフランシスコの自宅マンションで仕事を始めた。ソファセットに寝そべったり、楕円形のダイニングテーブルに座ったり、アンドレイ・カーパシーの場合はブロックマンのベッドで仮眠することもあった。
ある時サツキヴァ―とジョン・シュルマンは、議論の途中で何かを書こうとして立ち上がり、ホワイトボードがないことに気づいてその場で固まった。ブロックマンは慌てて買いに走った。
まだ何をやるできかさえわからない状態だったから、ブロックマンは他の面で役に立とうとした。オフィス用品を注文したり、キッチンのコップを全部手洗いしたりした。「みんなほんとにたくさん水を飲むんだ」
ストライプでの最後の数年間は、キャリアについて思い悩み、特大の野望と、コードだけを書いていたいという欲求との葛藤を、長いブログ記事で吐露することもあった。ブロックマンはこの時代を、「自分の役割について考える」プロセスと呼んでいる。理由が何であれ、ブロックマンは悶々として過ごすことに耐えられなくなった。「僕が考えたいのはこんなことじゃない」と心の中でつぶやいた。「自分にとって重要な問題と、自分が最大限に貢献できる方法を考えたい」
自分の「エゴ」を離れ。「世のため」になることがしたかった。「コップ洗いでAGIに貢献しようとしているみたいだった。もっといいやり方はないのか?」
ブロックマンがリビングのソファとダイニングテーブルの間にホワイトボードを設置すると、チームは未知の霧に足を踏み入れた。』
●コンピュート
・オープンAIは少数の研究者をさらに少人数のチームに分けて関心のあることを追求させた。この頃、オープンAIはブロックマンの自宅から、セコイア所有のオフィスに移った。次にはマスクの会社「ニューラリンク」が入るパイオニアビルに移転した(賃料はマスクが負担した)。
・ブロックマンとサツキヴァ―は採用方針について話し合った。「数学羨望」を避け、AI研究者とソフトウェアエンジニアが対等な立場に立って、何に取り組むかを平等に決める会社を構想した。これはディープマインドとはかなり異なる方針となった。この時期、マスクもアルトマンもチームの様子を見にオフィスに来るのは週に1回程度だった。マスクはテスラとスペースXの他にも何社も切り回ししていて、すでに手一杯な状態だった。アルトマンもYCの舵取りが非常に忙しかったが、9月になるとYCでの債務の多くを移譲し、アルトマン自身は「YCグループ」という新組織の社長に納まった。(YCグループでの社長在籍期間は2014年2月~2019年3月)
●EA信望者を理事に迎い入れる
・EAとは効果的利他主義のことであるが、EA推進運動は、現実的な問題から、「生まれくる全人類を救う」という遠大な取り組みに向かい始め、核戦争や世界的パンデミック、AIの暴走など、可能性は低いがゼロではない重大な問題に注力するようになる。OP(オープン・フィロソフィー)もこの流れに乗った。OPはオープンAIに研究者として入社していたダリオ・アモディ、ポール・クリスティアーノがともにOPの技術顧問であることを公表した。
(なお、2021年1月にはダリオとポール他5名の計7名によって、OpenAIの競合となるAnthropicが設立されました)
・OPはマスクとアルトマンが初期のインタビューで語っていた「オープンAIの技術をオープンソース化する」計画の見直しを求めた。特にマスクは長年に渡って技術のオープンソース化を強力に擁護していて、テスラの特許もほとんど公開している。それでもOPが見直しに拘ったのは、「軽卒で無節操な人や悪人がこの技術を悪用すれば人類滅亡を招く恐れがあると考えたからである。このOPの動きに対し、オープンAI自身も利益追求や製品開発への懸念から、技術のオープンソース化について慎重な姿勢を示し始め、次のような見解を表明した。『当社は私的利益のために情報を非公開にするつもりはありません。しかし長期的には、安全性の懸念がある場合に技術を非公開にするための正式なプロセスを策定することを検討しています。』
CHAPTER13
前代未聞の「株を持たないCEO」
●マスク、「オープンAIの全面指揮権」を要求
・『マスクを含む共同創業者たちは、営利組織の転換を模索しながら、「誰が」その組織の指揮を執るかを長時間かけて話し合った。マスクはオープンAIの過半数の株式と、理事会の支配権、CEOの肩書き、そしてオープンAIの全面的な指揮権を要求した。
だが、サツキヴァ―とブロックマンは、マスクがオープンAIにあまり時間がかけられないのではないかと懸念した。CEOの選任は最終的に、フルタイムの共同創業者のうち、上級職であるブロックマンとサツキヴァ―に委ねられた。
2人は最初、マスクを選んだ。するとアルトマンがブロックマンに電話をかけ、マスクは一緒に仕事をするのが難しい人だと言って翻意させた。
次にブロックマンがサツキヴァ―を説得した。「僕は創設当初から、サムにCEOになってもらいたかった」とブロックマンは2023年にWSJに語っている。「会社にはサムの形をした『穴』が開いていて、僕らはあえてその穴を埋めずに、何年も待っていたんだ」
同年9月、ブロックマンとサツキヴァ―はマスクとアルトマンに、苦しい胸の内を打ち明けるメールを送った。
「あなたと一緒に仕事がしたいという気持ちはとても大きいし、それを叶えるためなら会社の株式や指揮権、僕らの解雇権など、何でも提供したいのはやまやまだ」と、ブロックマンとサツキヴァ―はマスクに宛てて書いている。だが懸念があった。「今の構造で行くと、いつかAGIの一極的で絶対的な支配を、あなたが手にすることになるかもしれない。最終的に実現したAGIを支配するつもりはない、とあなたは言うが、今回の交渉で、あなたが絶対的支配を極度に重視していることがはっきりした」加えて、オープンAIが「AGIの独裁を避けるため」に設立されたことを考えると、「あなたがその気になれば独裁者になれるような構造を持つことは愚策」に思われる、とつけ加えた。
2人はアルトマンについても懐疑的で、とくに彼の政治的野心をふまえて、同じメールに続けて書いた。「僕らはこのプロセスでの君の判断を完全に信用できずにいる。なぜなら君のコスト関数[意思決定の原理]が理解できないからだ」と、高校の数学コンテストの常連らしい言葉遣いでアルトマンに宛てて書いている。「君にとって、なぜCEOの肩書きがそんなに重要なのかがわからない。君が挙げた理由は変化しているが、何がその変化を駆り立てているのかがよくわからない。AGIは本当に君の第一の目標なんだろうか? それと君の政治的野心はどうつながっているんだ。君の思考プロセスはどう変わってきたのか?」。これらはブロックマンというよりはサツキヴァ―の思いだったが、程度の差こそあれ、2人とも同じ懸念を持っていた。』
PART4
岐路 2019-
CHAPTER14
「危険すぎて公開できない」AI?
●「21世紀最大の発見かもしれない」
・アモディと数人の研究者は、2019年GPT-3の開発を通して「スケーリング則」に関する論文を発表し、データと計算資源、ニューラルネットワークの規模を拡大すればするほど、大規模言語モデルの性能が「一貫して」向上することを示した。この論文は資金調達に奔走するCEOのアルトマンにとって、まさに天の恵みとなった。これは開発に投じられる資金が知識の限界を確実に押し広げてくれることを、科学的に示したものだったからである。
CHAPTER16
CEO解任事件、衝撃の真相
●解任
・『翌日、11月17日金曜日。アルトマンはF1レースを観戦するために、恋人のムルヘリンとラスベガスを訪れていた。
正午前。アルトマンは「グーグルミート」のアプリで、サツキヴァ―との会議へのリンクをクリックした。そして驚いた。画面にはサツキヴァ―だけでなく、ダンジェロとトナー、マッコーリーの顔までも現れたのだ。しかも不吉なことに、ブロックマンはいなかった。彼は数分前に理事を解任されていた。
サツキヴァ―は短い原稿を読み上げて、アルトマンに解任を告げたが、具体的な理由は示さなかった。アルトマンは愕然としたまま、つい、YCでスタートアップに助言していた頃の決まり文句を口走った。「何か手伝えることはあるかな?」
ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、理事たちは、移行期の舵取りをするムラティを支えてほしいと求め、アルトマンはそうすると約束した。
参加者のウィンドウが画面から一斉に消えたとたん、アルトマンはコンピュータから締め出された。』
●一瞬で広まるニュース
・『最初の瞬間は、ただもう信じられない、という思いしかなかった。悪い夢を見ているようだった。それから、怒りがこみ上げてきた。
数分後。オープンAIのウェブサイトに掲載された簡潔なブログ記事で、アルトマンがCEOを退任し、理事会を去るというニュースが発表された。そこにはたんに、アルトマンが「理事会の責任遂行に支障を来たした」とだけ書かれていた。
この知らせは、テック界の大物CEOたちが参加するメッセージアプリ「ワッツアップ」の私的なグループに、破壊級の衝撃をもたらした。』
●社員が「アルトマン支持」に回った理由
・『サンフランシスコ、発表前の数分前。ムラティはマイクロソフトCTOケヴィン・スコットに電話をかけ、理事会がこれからアルトマンを解任すると伝えた。
スコットは慌てて上司のサティア・ナデラを会議から引っ張り出して、ムラティと話させた。なぜ解任するのかというナデラの問いに、ムラティはわからないと答え、理事のダンジェロと話してほしいと促した。ダンジェロも、犯罪がらみではないと請け負う以外には、プレスリリースに書かれていた以上の情報を提供しなかった。
ムラティと社員たちとのやりとりも同様に進んだ。ムラティが理事会から渡された、危機管理コミュニケーションの要点をまとめた資料は、あのあいまいなブログ記事と大差なかった。
午後2時、ムラティとサツキヴァ―は全社会議を開催した。2人は45分もの間、「サムは何をやらかしたのか?」という主旨の質問を浴びせられ続けた。解任の理由はいつか社員に知らせられるのかという質問に、サツキヴァ―は「ノー」と答えた。
じつはアルトマン解任当時、社員の保有株式を、発行時の評価を大きく上回る900億ドル近くの企業評価額で売り出す交渉の最終段階にあったのだ。これが実現すれば、当時800人近くに増えていた社員の多くが大金持ちになれる。そして、この公開買付を主導するVC「スライヴ・キャピタル」の経営者ジョン・クシュナーは、トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナーの弟で、アルトマンのYCでの活動を長年にわたって支援してきた人物である。売り出しがアルトマンなしで行なわれるほど甘くないことを、社員は百も承知だった。
全社会議後、YCコンティニュイティ・ファンドの法務責任者を経て、オープンAIの出世街道を着実に上がり続け、CSO(最高戦略責任者)に就任したばかりのジェイソン・クォンが、サツキヴァ―の前に立ちはだかった。「これじゃ納得できない」と彼は言った。「みんなキレてるぞ」。クォンは幹部15人と理事全員のビデオ会議を申し入れ、サツキヴァ―はこれに応じた。
同日夜。理事たちがビデオ会議にログインすると、バーチャル会議室はむき出しのパニックに満ちていた。
クォンは礼儀正しく会議を始めようとして、「理事会は会社の利益のために行動したものと信じている」と言った。それでも、オープンAIには会社に生活を頼る800人近い社員がいて、そのほとんどがアルトマンを慕っていることを考えれば、理事会は「一貫して率直ではなかった」以上の説明をする義務がある、と迫った。
その上クォンの部署は、すでにニューヨーク南部地区の連邦地方裁判所から問い阿合わせを受けていた。この裁判所は、CEOの虚言に対する理事会の告発を、格好の調査対象と見なす傾向にある。
理事会はあいまいな言動によって、会社に対する規制当局の調査を招き、社員に苦痛を与えた。理事会はアルトマンを復帰させるしかない、なぜなら、会社の破壊を許すことは理事会の義務に反するからだ、とクォンは息巻いた。
すると理事のトナーはこう答えた。たとえアルトマンを追放して会社が破壊されることがあったとしても、「それが実際に会社の使命にかなう場合もありますよ」と。
これはまちがいではない。オープンAI憲章には、同社の「第1の信認義務は人類を守ることにある」と説明されている。理事会は社員にも、投資家にも、何ら義務を負わない。理事会は、憲章に掲げられた高邁な理想の有効性を試したまでのことだった。』
CHAPTER17
さらなる難局へ
●内省
・『オープンAIはより一般的な組織構造をめざして、経験豊富な新理事たちを迎えた。メディア会社パラマウント・グローバルの取締役を長年務めた、ソニー・エンターテインメント元社長のニコール・セリグマンや、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の元CEOで、フェイスブックとファイザーの取締役を務めたスー・デズモンド=ヘルマン博士など。
また、解任の一端となった、アルトマンの社外活動への不信を避けるために、利益相反に関する新しい指針を導入した。
「疑念を持たれていたから、法的な助言のもとで標準的な手順を導入した。疑わしきは確かめよ、ということだ」と新理事のローレンス・サマーズは説明する。「サムはとても誠実にそれをやっている」
社外の法律事務所ウィルマ―ヘイルは、3万件以上の文書を精査し、数十人をインタビューした結果、旧理事会は権限の範囲内でアルトマンを解任したが、調査した限りにおいては、彼を解任しなければならないほどの問題は見当たらなかった、と結論づけた。
「ウィルマーヘイルの調査結果をふまえて、われわれは旧理事会とは異なる事業判断を下した。サムがCEOの座にとどまることの適切性に疑問を投げかけるようなものは、記録の中には何一つなかった」とサマーズは言う。
それでも、アルトマンはあのできごとの後で内省し、なぜ自分が理事会の信頼を失ってしまったのかを理解しようと努めた。
また、非営利の構造が維持不可能なほど不安定で、おそらく―営利企業だが、財務利益を追求しながら社会的・環境的利益を優先できるような法的枠組みを持つ―「パブリック・ベネフィット・コーポレーション(PBC)」のような組織形態に転換する必要があることを認識しつつも、そうした転換が一部の人の信頼をさらに損なうおそれがあることも理解していた。「僕らはつねに学習し、適応している。僕らのやっていることはつねに変化しているから、変化できる余地をたっぷり残しておくようにしているけれど、それを嫌がる人もいる。それでも、ときには余地を十分に残しておかなかったために、やろうとしていたこととはちがう選択肢を選ばざるをえなくこともある。僕らは非営利組織として始まり、次に利益に上限を設け、それがうまくいかなくなると、今度はPBCにする必要がある、なんて言っている。構造としてそれがうまく機能することを心から信じているけれど、そのやり方にカチンとくる人がいるのも当然だ」。』
画像出展:「OpenAIが営利モデルを撤回しPBCに転換」
『PBCは営利企業の一種ですが、その法人憲章で「株主だけでなく社会全体の公益も追求する」ことが義務付けられています。通常の株式会社(営利企業)が経営陣に株主利益の最大化を求めるのに対し、PBCは取締役会が意思決定の際、特定の公益目的を考慮する法的責任を負う仕組みです。』
未来へ
●アルトマンの確信
・『リベラリズムが世界中で攻撃を受けるなかにあっても、アルトマンは合理性と科学、進歩を心の底から信奉し続ける。
イギリス物理学者デイヴィッド・ドイッチュが2011年に著した一般向けの科学書、『無限の始まり』を読んで以来、アルトマンはこの本を会う人会う人に勧めている。この中でドイッチュは、18世紀頃の啓蒙時代が、宇宙的な意義を持つ瞬間だったと主張する。それは、人類が真に知識を生み出すことを学び、その知識よって理論的には宇宙のすみずみまでを征服し変革できるようになった瞬間だというのだ。
「自然法則で禁じられていないことはすべて、適切な知識があれば実現できる」とドイッチュは説く。「死」も解決できる問題だ。人類が将来生み出すテクノロジーによって、宇宙のどんなに寒く暗い片隅にあっても、エネルギーと知識を活用することが可能になるはずだ。
アルトマンはサンフランシスコ・ロシアンヒル地区の自宅に、人類の進歩へ信奉を示すコーナーを設けている。彼の家を訪れる人が最初に目をするのは、3本の「手斧」で、うち1本は今までに発見された最古のものだ。手斧は、過去150万件のほとんどを通して、人間がものをつくり、生き物を殺し、料理をするために使っていた、唯一の道具である。
コーナーには、技術史のさまざまな段階の剣や、真空管、宇宙から持ち帰られたもの、コンコルドエンジンのブレード、アップルの初期のコンピュータ「Mac LCⅡ」のレプリカ、オープンAI製のロボットハンドなど、数十の品々が並ぶ。2024年9月のエッセイに、アルトマンは書いた。
「人類史を技術的発展という狭い視点からとらえれば、こうも言える。人類は数千年にわたる科学的発見と技術進歩の積み重ねを経て、砂を溶かし、不純物を少々加え、それを驚くべき精度で途方もなく微小な規模で精密に配置してコンピュータチップを製造し、そこに電気を通すことで、ますます高性能なAIを創造できるシステムを構築するにいたったのだと」それに続くのは、おそらくアルトマンにしか書けない一文だ。
「これは歴史全体における最も重大な事実になるかもしれない。人類は数千日以内(!)に超知能を手に入れ可能性がある。もっと時間がかかるかもしれないが、必ずそこに到達できると確信している」。』
感想
サム・アルトマンがスティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグと異なる印象をもつのは、2つあるように思いました。
1つは、Yコンビネータという投資家(エンジェル投資家)としての豊富なキャリアです。数々の若き才能、様々なアイデアと接する機会は、アルトマンのビジネスの幅と深さをつくり、そして、多くの人とのネットワークを通じて起業を支援するという才能を伸ばし、大きな能力を手に入れたと思います。
もう1つは、政治(民主主義)に対する畏敬の念ではないかと思います。既にご紹介していますが、アルトマンがブログに書いたとされる以下の言葉が、それを物語っているように思います。
「経済成長がなければ、民主主義は機能しない。なぜなら有権者はゼロサムの世界に生きているからだ」
これは、将来に渡って経済成長することが民主主義を守り、豊かな生活、平和な世界を築き上げられるというアルトマンの信念ではないかと思います。おそらく、すべての行動はここを起点にしていると思います。
大きなことを成し遂げた人に共通すると思うのは、いずれも、目標達成のための凄まじいエネルギーです。特に、“好奇心”、“行動力”、“信念”です。そして、その桁外れのエネルギーと揺るぎない自信が人を惹きつけるのだと思います。成功に導く大切な人との出会いも、そのエネルギーに因るものではないでしょうか。
“人との出会い”という言葉から、ウォーレン・バフェットの教えを思い出しました。素晴らしい出会いを自分のものにできるかどうかは人それぞれですが、おそらく、大事な人との出会いなくして、大きなことを成し遂げることはできないだろうと思います。
(画像は「ばっちゃまの米国株」の動画から拝借しました。これは学生に向けてのメッセージですが、“教師”を広い意味として捉えるならば、人生における教訓にもなると思います。)
サム・アルトマンにとってその出会いはループト時代のスティーブ・ジョブズ、Yコンビネータのポール・グレアム、ヒドラジン・キャピタルの共同設立者であるピーター・ティール、OpenAIのグレック・ブロックマン、そして、最大のライバルイーロン・マスクの5人ではないかと思います。
プロローグ
クーデター前夜
●「楽観主義者」サム・アルトマンとは何者か
・アルトマンはビジョナリーであり、エヴァンジェリスト(伝道者)であり、ディールメーカー(交渉人)であり、19世紀であればプロモーターと呼ばれるような人物である。
・Yコンビネータ時代に培った強みは、不可能に近いアイデアを可能だと思わせ、巨額の資金を調達して実際に実現してみせるその手腕である。
・シリコンバレーの「ゼロを加える」精神を、おそらく誰よりも地で行っているのがアルトマンである。これはYコンビネータの共同創業者のポール・グレアムの話である。
画像出展:「Yコンビネータ」
アルトマンが関わったYコンビネータは、単なるスタートアップ投資会社に留まらず「世界のイノベーションを加速するためのエコシステム」として機能し、起業家からテック業界、社会全体への広範なインパクトを残したとされています。
●「僕らが世界を導く声になれれば」
・『インタビューのなかで、アルトマンの利他的なうわべに隠された猛烈な競争心が垣間見えたのは、ほんの一瞬だけだった。』
●本書は「書かれたくない」
・アルトマンは数か月の交渉でも、「書かれたくない」という意向が明確であり、最終的な判断も「No」であった。理由は、「自分にはまだ早い」、「自分ばかりに注目が集まるのは困る」というものだったが、その後の電話での再三の交渉により、何とか執筆プロジェクトの合意を得た。『ただし僕がこの執筆プロジェクトをひどく嫌がっていたとはっきり書いてほしい。』とのことだった。
・劇的な解任劇の後、770人の社員のほとんどが、アルトマンが復帰しなければ退社してマイクロソフトに移籍する、と脅す歎願書に署名した。これはOpenAIの社員と投資家にとって、アルトマンがなくてはならないのは明らかであったからである。
●ビジョンを信じさせる力
・VC(ベンチャーキャピタル)は、スタートアップ企業の成功を投資家に信じ込ませるシャーマン(呪術師)のような能力こそが成否を決めるが、アルトマン以上にうまくやれる人はいない。
●アルトマンの投資先
・アルトマンの興味は一般的なVCとは異なり、未来に向けられている。例えば、「人間の寿命を10年延ばす」、「幹細胞を用いてパーキンソン病を治療する」、「超音速旅客機を復活させる」、「脳をコンピュータに接続するための移植デバイスを開発する」といったムーンショット事業(破壊的イノベーション創出事業)が目立つ。
●「サムは権力を手に入れるのがものすごくうまい」
・アルトマンを発掘したパトリック・チャンの話では、アルトマンは単に新しい技術を開発して世界に提供するだけでなく、常に「歴史上の偉人」になることを目指している。そして政治にも高い関心を持っているとのことである。
・Yコンビネータの共同創設者であるポール・グレアムは、「サムは権力を手に入れるのがものすごくうまいんだ」との話をしている。
●アルトマンとは何者か
・本書は「サム・アルトマンとは何者か」という問いに答えることを目的にしている。
・『本書を執筆するために、私はアルトマンの家族や友人、恩師、メンター、共同創業者、同僚、投資家、投資先企業に250件以上の取材を行ない、アルトマン自身にも何時間にもおよぶインタビューを行なった。そこから浮かび上がってきたのは、スピードを求めリスクを愛する凄腕のディールメーカーであり、宗教めいた確信を持って技術進歩を信望し、それでいて、ときには周りの人よりも速く動きすぎ、衝突を避けようとするあまり、かえって大きな衝突を招くこともある人物像である。』
・『アルトマンは倒されるたび、さらに強くなってよみがえってきた。恩師のグレアムも、2008年に彼について書いている。「人食い人種で一杯の島にパラシュートで落としたとしても、5年後に戻ったら王になっている」』
●アルトマン理解に欠かせない「家族」と「初期キャリア」
・『スタンフォード大学在学中に出会った仲間と、位置情報を利用したSNSを開発する最初のスタートアップ、「ループト」を立ち上げた。ループトは、彼がオープンAI以前に創業した唯一の会社であり、その物語には、のちの彼の活躍や苦難の片鱗がすでに現れている。たとえばセコイア・キャピタルなどの一流VCからやすやすと資金を調達し、経営難に陥ったスタートアップの若きCEOとして社員の反乱に翻弄された。
だがループトの最大の偉業はなんといっても、アルトマンをポール・グレアムとYコンビネータに引き合わせたことだろう。グレアムはアルトマンの中に、スタートアップの成功に必要なすべての素質を見た。ループトは2012年に売却されたが、アルトマンはその後もYコンビネータと親密な関係を持ち、Yコンビネータのスタートアップに助言しながら、ティールの支援を得た自身の投資ファンドを運営していた。その後グレアムは引退を決意し、後継にアルトマンを指名する。これによってアルトマンは、いきなりシリコンバレーの権力の中枢に躍り出たのである。
Yコンビネータは彼の指揮下で、養成するスタートアップの数を年間数十社から数百社に増やし、物理学や化学などのハードサイエンス分野に進出し、ムーンショット専門の部門を新設し、そしてこの部門を通して、「オープンAI」と呼ばれる非営利の研究所を生み出した。また、Yコンビネータの運営で多忙だったアルトマンに代わって、オープンAIの人材集めを担ったのは、彼の友人で、Yコンビネータの支援するオンライン決済会社「ストライプ」でCTOを務めた、グレッグ・ブロックマンだった。』
PART1 出発 1975-2005
CHAPTER2
「人を動かす」才能にめざめる
●「ゲイ・ストレート同盟」を立ち上げる
・『サムは高校の最終学年までに、性的マイノリティへの偏見や差別をなくすことをめざす学生・生徒組織「ゲイ・ストレート同盟」の支部を、「ほとんど意志の力で学内に立ち上げた」とロディンガーは言う。「サムは天性のリーダーだった。それも、ただ仕切るだけじゃなく、人を動かすことができた」
2000年代初めのセントルイスでは、性的指向はまだ「触れてはいけない」話題だった。ゲイのカップルは公の場所で一緒に踊ったり、手をつないで歩いたりしなかった。
この年ゲイ・ストレート同盟は、ゲイトとみなされている多くの生徒への理解を促すために、学内集会を開くことにした。しかし、キリスト教の生徒組織「KLIFE」の家族から、出席を遠慮させてほしいという要望が出され、学校はこれを受け入れた。
サムは激しい憤りを感じ、学校の「ズケズケ述べる」伝統に則って、翌日の朝会で声を上げることを決意する。
前の晩はよく眠れなかった。だが朝になり、壇上に立った時には、自信をみなぎらせていた。彼がゲイだということを、友人たちは知っていたかもしれないが、大半の生徒は知らなかった。サムはインパクトを最大限に高めるために、この場でカミングアウトするという、大胆きわまりない行動に出たのだ。』
※経営者とLGBTQ
Appleのティム・クック、PayPalマフィアのボスのピーター・ティール、そしてサム・アルトマン、この3人の傑出したテクノロジー界のトップリーダーはいずれもゲイとされています。ゲイの人がもつ何かの特性が強烈なリーダーを生む要因となっているのかという疑問から、AI(Perplexity)に質問してみました。
●大学進学
・志望校の3校(ハーバード、スタンフォード、ノースカロライナ(UNC)に合格。アルトマンは3人の兄妹のため、合格者の上位3%となり学費が全額免除になったUNCに行きたいと両親に提案したが、子ども時代からの夢だったスタンフォード大学を、両親は「夢を追いかけなさい」と送り出した。
CHAPTER3
「位置情報サービス」で起業する
●焦りと野心
・アルトマンを駆り立てていたのは、焦りと想像を絶するような野心だった。あるとき、「取り組みたい」を決めるのが先であると思い直し、紙切れに走り書きした。それは上から順に、「AI」、「核エネルギー」、「教育」だった。
●「サムには『現実歪曲空間』を生む力がある」
・アルトマンに会う人はその知性に魅了されるが、何よりも際立たせているのは「超自然的なまでの自信」である。
●人生を変えた、Yコンビネータでの面接
・Yコンビネータの4人の共同創業者とアルトマンの面接はわずか25分で終わった。ポール・グレアムは「ああ、これが19歳のときのビル・ゲイツの姿か、と思った」とのこと、一方、アルトマンも「あの時初めて、やった、一緒に過ごしたい人たちをとうとう見つけたぞ、と思った」
CHAPTER4
Yコンビネータ1期性になる
●Yコンビネータ、誕生
・グレアムはVCを内部から変革し、「われわれ自身のVCを始めようじゃないか」とリヴィングストンに提案した。それはVCとは異なるエンジェル投資であった。(PDFを参照ください)
PART2 成長 2005-2012
CHAPTER6
ループトで「敵を味方にする術」を学ぶ
●「できないことはない」というオーラを放つ
・『アルトマンの心は沈んだ。「ブーストと提携できれば、必然的に親会社のスプリントと提携することになる。そしてスプリントと提携すれば、ベライゾンとAT&Tも追随すると考えたんだ」
だが、わずかな可能性がまだ残っていた。レディエイトの競合は、ブーストが喉から手が出るほどほしがっていたものを提供できなかったのだ。それは、友人が5マイル圏内などにいることをユーザーに通知する機能だ。レディエイトのチームは、徹夜でそれを完成させた。
「あの日はたしか、朝4時から6時まで寝て、7時の便でブースト本社のあるオレンジ部に飛んだ」とアルトマンは言う。
アルトマンあアポなしでワイナリーのオフィスに押しかけ、10分だけ時間をくださいと言った。ワイナーが会議室に招き入れると、カーゴショーツ姿のアルトマンは、小柄な体には大きすぎる椅子の上にちょこんと座って、「インド風」にあぐらをかいた。そして口を開いたとたん、その場を完全に支配してしまった。
「体重50キロぐらいの、小柄な汗だくの若者の話を、いい歳をした大人がありがたがって聞き入っていた」とワイナーは言う。「サムは自信を発散させていた」
1時間ほど経った頃、ワイナーは会議室を出て、ブーストの製品担当副社長のオフィスに駆け込み、ブーストは契約相手を変更して、「たった今ふらりと現れた男」と提携する必要があると言った。レディエイトのチームは、ワイナーの求める機能を構築することによって、「機動性があり、能力がある」ことを証明した、と。
ワイナーはセコイアに電話でサムとレディエイトの人物と財務状況を照会してから、この若者と同社のワイヤレス契約を結ぶことを決めた。
アルトマンはこの時のやりとりから、基本的な教訓を学んだ。「何かをやり遂げるには、とにかくしつこくやることだ」
ワイナーは今もアルトマンとの邂逅をはっきり覚えている。「彼と会った人は1人残らず、あの才能をうらやんでいた。“できないことはない”というオーラを漂わせていたね。そして、非常に楽観的あった。決断力があって楽観的。 半信半疑のまま何かをやるということがなかった」』
●1%でも可能性があれば「成功する」と自分を確信させる
・『ジェイコブスティーンには、今も忘れられない光景がある。ループトに加わって1年ほど経った頃、顧問のワイデンに誘われて、アルトマンと3人でランチに行った。ワイデンはアルトマンに、ループトのほかにどんな構想を持っているのかと訊ねた。アルトマンは2つ挙げた。薄毛治療と核融合だ。ジェイコブスティーンはそれを聞いて、内心苦笑した。「核融合の何を知っているというんだ? コンビネータ科学科を3年で中退した、核融合の博士号も持たない19歳なのに」と。
その20年後、アルトマンはこの技術を実現しうる少数の核融合スタートアップのうちの1社を支援する。そしてジェイコブスティーンは気づいたという。アルトマンは、何かが成功する可能性をほんのわずかでも思い描くことができれば、それが「成功する」とまずは自分を確信させ、それから他人、とくに投資家を確信させることができるのだと。』
●アルトマンへの「不満」
・ジェイコブスティーンの退社後、ループトの幹部は大半が取締役会に対しアルトマンの解任を要求した。だが、取締役会は幹部たちの要求を却下した。
・『「僕は18、19歳の時、一緒に働きにくいことで有名だった」とアルトマンは、投資家のリード・ホフマンのポッドキャストで認めている。「会社の創業者として、週100時間働き、死ぬほど集中して生産性を上げること自体は、わるいことじゃない。でも、とくに会社が大きくなれば、自分が雇うほとんどの人に仕事以外の生活があることを理解しなくてはいけなかった」』
CHAPTER7
スティーブ・ジョブズにシゴかれる
●ジョブズの1行返信「弱いな」
・『モリッツは、これは難しいことだ、とはっきり言った。なにしろジョブズはSNSを毛嫌いしていたのだから。
「サムを売り込む必要があるな」とマカドゥーに言った。まず モリッツが根回しをし、続いてマカドゥーがアルトマンの経歴を説明するメールをジョブズに送った。「セコイアが投資した史上最年少の創業者で、スタンフォード中退者だという、スティーブに刺さる物語をね」とマカドゥーは言う。
リード大学を中退してアップルを創業したジョブズが、アルトマンの物語に惹かれるはずだという、マカドゥーの読みはズバリ当たり、ジョブズはループトのアプリを見てみるよと請け合った。
返事が来ないまま、数週間が過ぎた。しびれを切らしたマカドゥーは、ループトはどうでしょうかとさりげなくメールで訊ねた。
ジョブズの返事はたったひと言、「弱いな」だった。
マカドゥーはラップトップをつかんで廊下を走り、モリッツに返事を見せに行った。「どうしたものですかね?」。モリッツはヴァレンタインと同じく、ただ頭を振って「わからんよ」と言った。
アルトマンとハワードは、ジョブズの言葉にもひるまずに開発を進めた。今のバージョンがループトの可能性を引き出し切れていないことは、2人にもわかっていた。「弱い」は発奮を促す合い言葉になった。
ジョブズはループトにもの足りなさを感じたかもしれないが、アップルの製品とエンジニアリング部門の20代の若者たちはとりこになった。
2007年11月、アルトマンのもとに、iPhone開発チームから暗号化されたメールが届く。ループトがiPhone向けアプリを開発するために、SDKにどのような機能を必要としているのか聞きたいので、ご足労願う、と書かれていた。』
●ジョブズに直接売り込む
・『アップルの開発会議で登壇するという、垂涎の機会を手に入れるには、アルトマンがみずからジョブスに売り込む必要があった。アップルの開発者関係チームは、アルトマンとハワードと一緒に台本を練り、プレゼンの練習をさせた。
そしてとうとうアップルのクパチーノ本社でプレゼンを行なう日がやってきた。
アルトマンとハワードは、ジョブズが初代マッキントッシュ開発チームにひらめきを与えるために購入した、ベーゼルドルファー社のグラウンドピアノ―美を重視するアップルの姿勢の表れ―が置かれたロビーで待ち、講堂に案内された。
観客席の中央にジョブズが陣取り、数人のアシスタントが周りを囲んでいた。ジョブズはアルトマンとハワードが期待した黒いタートルネックではなく、Tシャツと短パンを着ていた。2人は緊張で口の中がカラカラだった。アルトマンがトークを担当し、ハワードがiPhone上でデモを行って、その映像を大きなスクリーンに映し出した。
プレゼンが終わると2人は前を見つめたままその場に立ち尽くした。
一瞬置いて、ジョブズは一言放った。「クールだ」
「弱い」から「クール」への格上げに2人は驚喜したが、それが何を意味するのかはまだ知らなかった。
まもなくアップル開発チームの代表から電話があり、講演者に選ばれたことを2人は知った。ただし、アップルが要求する修正を反映させ、リハーサルを支障なくこなすという、条件つきだ。
その後の1週間、2人はアップルのチームとリハーサルを特訓した。休憩時間にコードを手直しし、シヴォかサイに電話してサーバー側の修正をしてもらった。アップルの要請により、ループト社内では引き続きチームを少人数を除いて極秘とされた。「あれが行われるのを社員が知ったのは、本番のたった2日前だった」と、マーケティング責任者のリウは言う。』
●「ハイパフォーマーの活かし方」をアップルから学ぶ
・『アップル社内では、ループトは文句なしの大ヒットだった。ダウンロード数は急増していた。そして、アップルが数カ月後の海外でのiPhone発売に向けて準備を進めていた時、ジョブズは念を押した。ループトの位置情報技術は、iPhoneが利用可能になるすべての言語と国で動作するんだろうな、と。
だが当時の技術状況では、これは無理難題だった。ある時、ジョブズはループトとのミーティングにやってきて、ループトが彼の期待するほど幅広くサービスを提供できそうにないことを知ると、いきなりアルトマンを罵倒した。
その夜、マカドゥーとの大好きな寿司屋での夕食に現れたアルトマンは、まだ激しく動揺していた。「ジョブズと今までで一番厳しいミーティングをしてきた」とマカドゥーに言った。
「スティーブはいつも猛烈で、要求水準がとてつもなく高かった。だからこそ、私たちはあれほどすばらしい仕事をして、すばらしい製品を生み出すことができたのだがね」とフォーストールは語る。「スティーブが人にものを投げつけるのを、実際この目で何度も見たことがあるよ」
今になってみれば、ジョブズと過ごした数カ月がアルトマンに大きな影響を残したのは明らかだと、マカドゥーは言う。
「あの頃のアップルに関わったことは、サムに起業家として、またハイパフォーマーたちのリーダーとして、とてもよい意味で影響をおよぼした」。そして続けて言った。「誰かがプリマドンナ[才能はあるが傲慢で扱いにくい存在]だからといって、それだけの理由で辞めさせたりはしない。そんなのは取るに足りないことだ。ハイパフォーマーの半数は、何らかの面でプリマドンナなんだ。そういう連中をうまく活かすスキルを身につけないといけない。サムはその能力を大きく伸ばした。なにしろiPhone黎明期のアップルを内側から観察したんだからな』
PART3
飛躍 2012-2019
CHAPTER9
ピーター・ティールに投資を学ぶ
●ティールが見抜いた「アルトマンの長所と短所」
・ティールのアルトマン評は、「じつに賢い」、「とても固い信念を持ち、とても律儀で、とてもバランスが取れている」が「やや楽観的すぎるきらいがある」というものだった。また、アルトマンの強みは「知識」というより「人脈」にあると考えた。
・ティールは「テック界でミレニアム世代の代表を1人選ぶとしたら、アルトマンだ」と断言された。
・ティールの逆張り的な世界観は、人との協調を大切にするアルトマンのスタイルとは相いれない。アルトマンにとって最も称賛するティールのスタンスは、斬新なアイデアを生み出すために流れに逆らおうとするところである。「彼(ティール)は何ものにもとらわれない方法で世界について考える」とポッドキャストで述べた。
●ディープマインド
・デミス・ハサビスとシェーン・レッグ、そして起業家のムスタファ・スレイマンは「ディープマインド」を創業した。この社名はニューラルネットワーク(神経回路)を用いる機械学習の一種である、「ディープラーニング(深層学習)」にちなんでいる。たとえ人類の存在そのものを脅かす恐れがあったとしても、AGI(汎用人工知能)を開発するつもりだと、投資家に宣言した。
●「AGIは技術史上最大の発展になるかもしれない」
・『2013年12月、ハサビスはカリフォルニア州とネバダ州の境にある。タホ湖畔のハラーズ・カジノホテルで行われた機械学習会議に登壇し、ディープマインドの初めての大きなブレークスルーを発表した。それは、人間の指示を一切受けずに、アタリのビデオゲーム「ブレイクアウト(ブロック崩し)」のルールをみずから学習し、すばやく習得する。AIエージェントである。ディープマインドは深層ニューラルネットワークと強化学習を組み合わせることによって、これを実現した。
グーグルはこれに衝撃を受け、ひと月後に同社を6億5000万ドルで買収した。
このディープマインドの業績―AIが混沌とした世界を理解して、何らかの目的に向かって進めることを証明し、AGIに向かって大きな一歩を踏み出したこと―が持つ意味が広く理解されるようになったのは、1年以上後に同社がネイチャー誌にそれを発表してからのことである。
だがディープマインドの投資家であるティールは、その重要性をただちに見て取り、アルトマンとも議論した。
グーグルによるディープマインド買収のひと月後の2014年2月、アルトマンは個人のブログに「AI」と題した記事を投稿し、AIは十分な注意を払われていない、最も重要な技術的動向だと書いた。
「はっきり言うと、AIはおそらく機能しないだろう。これはどんな新しい技術についても言えることで、おおむね正しい発言だと言っていい。それでも、ほとんどの人がAIの可能性についてあまりにも悲観的すぎると思う」。そしてこう加えた。「AGIは機能するかもしれない。もしも機能すれば、それは技術史上最大の発展になるだろう」』
CHAPTER10
Yコンビネータ社長に抜擢
●Yコンビネータの社長に就任
・グレアムはアルトマンに社長のバトンを渡す理由として、「サムは恐ろしく有能でいて、根っから慈悲深いという、まれな人間だ。ほとんど理解されていないことだが、それらはアーリーステージ投資に欠かせない資質なのだ」とした。さらにブログには「サムは私の知る誰よりも賢く、私を含む誰よりもスタートアップを知り尽くしている」と書いた。
●ためらい
・アルトマンは社長になるべきかどうか迷った。投資家向きなのは理解していたが、本当は会社をやりたいという気持ちが強かったからである。最後はエンジェル投資家として創業者と働きたい気持ちが勝ってYCの社長をひき受けることにした。
●「経済成長」なくして民主主義なし
・アルトマンはYコンビネータの社長を引き受ける前年に「PGスタイル」という自身のブログで哲学的な個人エッセイを発表した。そのエッセイとはアルトマンの心の奥底に潜む最も強固な信念である。それは、「経済成長がなければ、民主主義は機能しない。なぜなら有権者はゼロサムの世界に生きているからだ」。人間に分かち合いを教えることはできなくても、経済成長という「裏技」によってパイそのものを拡大すれば、限られたパイを奪い合う必要もなくなる。というものである。
以下はそのブログですが、“Sam Altman”から拝借しました。
●成功のコツは「自分と似た仲間を集める」こと
・アルトマンは単刀直入で、雑談への耐性は欠けているがとてもオープンで相談しやすく、創業者の話を全神経を集中して聞いてくれるというのが創業者たちの印象だった。
CHAPTER11
「非営利のAI研究所」構想
●「AI倫理委員会」を設置したグーグルの真意
・政府の「AI倫理委員会」はアルトマンが、AI規制を政府に呼びかける公開書簡の作成を手伝ってほしいとイーロン・マスクに頼み、2人で草案を練って2015年7月に政府に提出した。
ディープマインドの「AI倫理委員会」に対する評価には厳しい意見があり、イーロン・マスクはピーター・ティールなどの友人を夕食に招いては、グーグルの力に対抗してAIを安全にする方法について話し合いました。
また、アルトマンはマスクに次のようなメッセージを送りました。「人類のAI開発を阻止することがはたして可能なのかどうかを、ずっと考えていた。答えは、ほぼ確実にノーだと思う。もし阻止できないなら、それを最初に実現するのはグーグル以外の何者かであるべきだ」。
●「人間の脳がAGIへの地図になる」
・「人間の脳がAGIへの地図になる」とはイリヤ・サツキヴァ―の信念である。サツキヴァ―はDNNResearch(ジェフリー・ヒントンの新会社)立ち上げに参画、Googleによる買収でGoogle Brainチームに移籍した。その後、2015年末にOpenAIのチーフサイエンティストとしてChatGPTや大規模言語モデル開発を主導した。OpenAI退職後、2024年6月にSafe Superintelligence Inc.(SSI)を設立。
・ニューラルネットワークは1980年代に飛躍したものの、その後は期待されたような成果は出ていなかった。その状況が一変したのはGPUと呼ばれる半導体チップである。GPUは膨大な並列計算を高速で実行することができるため、大規模なニューラルネットやデータセットを扱えるようになった。そして、それはAIの進歩を加速させた。
サム・アルトマンにはイーロン・マスクに通じる強烈なリーダーシップを感じる一方で、イーロン・マスクとは全く異なる個性も感じます。それは“陰”と“陽”の違いという印象があります。また、色々調べたところ“Disruptor(破壊的変革者)”という名称が見つかりました。さらに日本語の“先導者”に関し、英訳するとどんな単語があるのか調べてみると、文語的あるいは比喩的表現として“Pathfinder”という言葉もあるようです。この“Pathfinder”として相応しい人物は誰ですかとAI(Perplexity)に質問したところ、トーマス・エジソン(「パスファインダー・オブ・テクノロジー」)、マリー・キュリー(「パスファインダー・イン・サイエンス」、マルコム・X(「パスファインダー・フォー・ブラック・パワー」)等の名前が出てきました。
AIは従来のCPUベースのコンピューティングパワーから、CPUに加え、GPU、LPU、TPU、APU、NPUといった様々プロセッシングユニットを組み合わせた新たなコンピューティングパワーを必要とする、従来とは全く次元の異なるIT基盤上に構築されるものであり、ニューロ・コンピューティングを柱とする“第二の情報革命”あるいは“新しい計算原理”と言われています。
画像出展:「AIマップ」
『AI研究は拡大し、全体を俯瞰的に捉えることが難しくなっている。また、AI研究の成果を用いた多数のシステム(AIシステム)が実社会で活用され始めており、AIシステムとAI技術との対応も把握が難しくなっている。そこで、これから活躍するAI研究の初学者、およびAI活用を狙う異分野の研究者・実務者をターゲットとしたガイドとして、AIマップβ2.0を作成した。』
この情報革命をリードしているのは、DeepMindを抱えているGoogle、OpenAIをスピンアウトした元メンバーによって設立されたAnthropic、マーク・ザッカーバーグのMeta Platforms、ジェン・スン・ファンのNVIDIA、イーロン・マスクのxAI等(中国企業もあります)ですが、これらと比較しても、OpenAIを率いるサム・アルトマンは現在、最も注目する人物です。
『サム・アルトマン 生成AIで世界を手にした起業家の野望』は2025年10月発行と新しく、480ページの分厚い本でした。目次は非常に細かく分類されていたのですが、目次を見ればおおよその内容がつかめると思い、全て書き出しました。(最初のブログは目次だけのご紹介で終わっています。取り上げたのは“黒字”の部分です)
プロローグ
クーデター前夜
●ピーター・ティールの警告
●「楽観主義者」サム・アルトマンとは何者か
●「AIによる人類存亡の危機」を懸念する人々
●シリコンバレーでは創業者が「神」である
●オープンAI本社にアルトマンを訪ねる
●「僕らが世界を導く声になれれば」
●本書は「書かれたくない」
●ビジョンを信じさせる力
●アルトマンの投資先
●「サムは権力を手に入れるのがものすごくうまい」
●アルトマンとは何者か
●アルトマン理解に欠かせない「家族」と「初期キャリア」
●史上最高のスタートアップ物語
●アルトマンを魅了する「ある思想」
PART1 出発 1975-2005
CHAPTER1
神童を生んだ「強烈すぎる両親」
●父、ジェリー・アルトマン
●住宅をめぐる人種差別
●サムも受け継いだ、ジェリーの「スタイル」
●徹底した楽観主義
●再婚
●「ディール・ストラクチャリング」の名手
●「神童」サム・アルトマン誕生
●再びセントルイスへ
CHAPTER2
「人を動かす」才能にめざめる
●受け入れられない「官民パートナーシップ」
●もがく両親
●兄妹たち
●サムとユダヤ教
●「サムにはもっとレベルの高い教育が必要だ」
●ジョン・バロウズ・スクール https://jbhs.burbankusd.org/
●テックを通じて他人と興味を分かち合う
●ゲイの自覚
●「人にどう思われようと気にしない」
●恋人
●「ゲイ・ストレート同盟」を立ち上げる
●大学進学
CHAPTER3
「位置情報サービス」で起業する
●焦りと野心
●「親しみやすいが、心ここにあらず」な学生
●位置情報と携帯電話を利用して何かやろう
●「サムには『現実歪曲空間』を生む力がある」
●ビジコンでの出会い
●スタートアップ界の教祖ポール・グレアムの口説き文句
●人生を変えた、Yコンビネータでの面接
CHAPTER4
Yコンビネータ1期性になる
●「絵画」からすべて学んだポール・グレアム
●グレアム、伝説のハーバード講演
●「VCのやつらは最低だ」
●VCの最大の問題は「報酬の支払われ方」
●Yコンビネータ、誕生
●「欠点のある創業者」でも成功できる
●創業者プログラムの「1期生」に
●「サムだけが『ビジネス』の視点から見ていた」
●全米3位の通信キャリアCTOを魅了する
●NEAにレディエイトをピッチする
●Yコンビネータ「1期生」たちの活躍
PART2 成長 2005-2012
CHAPTER5
「ジョブズやゲイツと並ぶ逸材だ」
●「最初のタームシートで妥協しないように」
●セコイアのVC、グレッグ・マカドゥー
●セコイア・キャピタル
●「何があってもサムには会うべきだわ」
●「ジョブズやゲイツと並ぶ逸材だ」
●大学中退命令
●「ただの『一時休学』だ」
●レディエイトとユーチューブへの巨額投資
●完璧なタイミングでの起業
●テック宇宙の中心、パロアルトにて
●送り込まれた「大人」たち
●ザッカーバーグにとってのサンドバーグ
CHAPTER6
ループトで「敵を味方にする術」を学ぶ
●「できないことはない」というオーラを放つ
●「ループト」に社名変更
●ループト、初の製品発表
●シンギュラー・ワイヤレスCEOを抱き込む
●プライバシー問題への対応でアルトマンが学んだ「手法」
●「規則」をダシに議員を味方につける
●ループトの成長と「最大の問題」
●1%でも可能性があれば「成功する」と自分を確信させる
●アルトマンへの「不満」
CHAPTER7
スティーブ・ジョブズにシゴかれる
●通信業界をひっくり返したスティーブ・ジョブズ
●脱獄アプリ
●ジョブズの1行返信「弱いな」
●ジョブズに直接売り込む
●アップル開発者会議でのプレゼン
●「ハイパフォーマーの活かし方」をアップルから学ぶ
●フェイスブックからの1.5億ドル買収提案を断る
CHAPTER8
社員の信用を一気に失う
●強敵フォースクエア登場
●「サムには1人で突っ走る傾向がある」
●アルトマンCEOへの不信と解任要求
●疑惑
●マカドゥーが見抜いていた「アルトマンの人脈力」
●セコイアの「一石二鳥」
●アルトマン、セコイアの「秘密の花形スカウト」に
●パトリック・コリソン
●ストライプ創業を支援する
●CEO業務から解放される
●ループト、売却
PART3
飛躍 2012-2019
CHAPTER9
ピーター・ティールに投資を学ぶ
●ピーター・ティール、伝説のスタンフォード講義
●ティールの真のねらい
●自分を見つめ直す時期
●核エネルギー
●ティールと「ヒドラジン・キャピタル」を立ち上げる
●ティールが見抜いた「アルトマンの長所と短所」
●「逆張り」をしないヒドラジン・キャピタル
●YCの「ゴールドラッシュ」
●アルトマンとティールの投資戦略
●シンギュラリティとエリーザー・ユドコウスキー
●「AIは大惨事をもたらす可能性がある」
●ティール、ユドコウスキーの後継者に
●汎用人工知能(AGI)
●ディープマインド
●「AGIは技術史上最大の発展になるかもしれない」
CHAPTER10
Yコンビネータ社長に抜擢
●Yコンビネータの社長に就任
●グレアムがアルトマンを後継者に据えた真の理由
●ためらい
●テックバブルの再来
●「経済成長」なくして民主主義なし
●新生YCのハードテック構想
●金融面での圧倒的な才能
●成功のコツは「自分と似た仲間を集める」こと
●VCを震え上がらせた、自社ファンドへの7億ドル調達
●苦境のレディット支援に乗り出す
●みずから難局に飛び込み信頼を築く
●『スーパーインテリジェンス』とニック・ポストロム
●「神の領域」に踏み込む野望
CHAPTER11
「非営利のAI研究所」構想
●世界初の「AI安全性会議」に参加したイーロン・マスク
●スカイプ創業者が後援する「生命の未来研究所(FLI)」
●マスクに接近する
●「AI倫理委員会」を設置したグーグルの真意
●高額報酬をともなう「安全性重視のAI研究所」構想
●グレッグ・ブロックマン
●ストライプ創業者のコリソン兄弟と出会う
●「人生にリハーサルはないよ」
●AI界の神童たちと出会う
●早熟の天才、イリヤ・サツキヴァー
●「人間の脳がAGIへの地図になる」
●「未来に来たみたいだった」
●メンバー候補を旅行に連れ出す
●YC内に「オープンAI研究所」誕生
●「非営利」にせざるを得なかったわけ
●サツキヴァ―を口説け
●「10億ドルを調達した、と発表しよう」
CHAPTER12
オープンAI創業と「効果的利他主義」
●オープンAI、始動
●王者ディープマインド製「アルファ碁」の衝撃
●コンピュート
●ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)実験
●「実現しうる最高の未来都市」を建設する:「YCシティーズ」
●伝説のアラン・ケイに「人類進歩研究コミュニティ」を託す
●「サムは文明の建設者だ」
●HARC、痛恨の失敗
●やさしき誘惑
●「次の大統領選に出馬する」
●家族
●ティールへの不満が爆発する
●「トランプ勝利」に打ちのめされる
●州知事選出馬をひそかに模索する
●オバマとの協調
●アシロマ会議
●「AI軍拡競争」を避けよ
●シリコンバレーに広がる効果的利他主義(EA)運動
●EA信望者を理事に迎い入れる
CHAPTER13
前代未聞の「株を持たないCEO」
●オープンAI、eスポーツで勝利
●マイクロソフト
●つかの間の前進
●生成AI時代を切り拓いた「トランスフォーマー論文」
●「前代未聞の巨大モデル」の訓練に一点集中する
●生成的事前訓練済みトランスフォーマー(GPT)
●マスク、「オープンAIの全面指揮権」を要求
●「オープンAIはテスラの1部門になれ」
●マスク、去る
●実質的なCEOに
●ミラ・ムラティ
●父ジュリーの死
●サンバレー会議
●投資家に還元する利益に「上限」をつける
●YCチャイナ
●サウジアラビア
●「初心」を忘れたYコンビネータ
●前代未聞の「株を持たないCEO」誕生
●理事会の刷新と拡大
●激怒するリヴィングストンとグレアム
●アルトマンがYCに残した混乱
●「資金調達」の達人
PART4
岐路 2019-
CHAPTER14
「危険すぎて公開できない」AI?
●「危険すぎて公開できない」
●亀裂の始まり
●「21世紀最大の発見かもしれない」
●「フューショット学習」が可能な脅威の「GPT-3」
●失意のブロックマンとLLM
●数百社を回ってGPT-3を試してもらう
●アニー
●2020年のパンデミック下で
●アモディ、競合アンソロピックを創業
●確率的オウム
CHAPTER15
世界を揺るがせたチャットGPT公開
●GPT-3を使ったゲームの炎上
●「社会を再構築する」野望
●ワールドコイン
●寿命延長と若返り研究にのめり込む
●核融合スタートアップ「ヘリオン」
●変わる私生活
●アニー
●「DALL-E2」公開
●ブライアン・チェスキー
●アライメント
●ウェブGPT
●EA信望者ヘレン・トナー、理事に
●「会話型(チャット)インターフェースは思っていたよりすごいかも」
●チャットGPT、公開
●号砲
●追い詰められたグーグル
●グーグル打倒の好機をつかんだマイクロソフト
●全世界を驚愕させた「GPT-4」公開
●アルトマン、ホワイトハウスと公聴会に召喚
●恐怖の特効薬は「情報を与えること」
CHAPTER16
CEO解任事件、衝撃の真相
●新任理事の人選をめぐる権力闘争
●相次ぐ理事の辞任
●利益相反
●たび重なる「アルトマンの嘘」
●不可解な「スタートアップ・ファンド」
●アニー、サムを告発する
●サツキヴァ―の警告「君はもっとミラと話すべきだ」
●ムラティの訴え
●積み重なるサツキヴァ―の懸念
●「彼らは信頼できるのか?」
●アルトマンの怒り
●アルトマンの「手口」
●スラックのスクリーンショット
●スパイ
●「サティアには伝えたの?」
●解任
●一瞬で広まるニュース
●社員が「アルトマン支持」に回った理由
●逆に追い詰められる軽率な理事会
●反撃
●「サツキヴァ―のクーデター」なのか
●アルトマン邸にて
●アルトマン、オフィスに現れる
●決着
CHAPTER17
さらなる難局へ
●「この時代に結婚できたことを幸運に思う」
●政治への野望
●空約束
●7兆ドル
●EA勢力によるAI規制の波
●圧倒的な資金力で政府に食い込むEA勢力
●「今は誰もが型破りになることを恐れている」
●内省
●マスク、オープンAIを提訴
●サツキヴァ―、去る
●安全性研究者たちの流出
●口止め
●her
●サツキヴァ―の危惧
●「セーフ・スーパーインテリジェンス(SSI)」設立
●「テック業界は規制されないことに慣れきっている」
●「人食い人種の王」
エピローグ
未来へ
●家族
●「AIのゴッドファーザー」の警告
●「信用できない人物が世界最強のAIを支配すべきではない」
●未来
●アルトマンの確信
偶然、NHKスペシャルでラピダスを知りました。
画像出展:「“1兆円”を託された男 ~半導体ニッポン 復活に挑む~」
『2025年7月、日本の新興メーカー・ラピダスが最先端半導体の試作に成功した。革新的なナノ構造で高性能を実現。AI社会の要になると期待されている。投入された税金は1兆円超。その量産化には日本の命運がかかる。プロジェクトを率いるのは社長・小池淳義。』
画像出展:「政府が巨額支援、ラピダス“薄氷の半導体量産化計画”。現在の進捗は“まだ1合目”
『この前日、最先端「2ナノメートル」世代の半導体の国産化を目指すラピダスに対し、経済産業省は最大で8025億円の追加支援を決定した。これで、2022年からの累計支援額は1兆7225億円に上る。』
番組は小池社長の孤軍奮闘ぶりが印象的でした。「平気かな~?」というのが直観です。なぜなら、日本は1970年~1980年代、世界シェア5割を超えていたにも関わらず、2010年には1割を切ってしまったという過去があるからです。
思うにこれはチャンレンジすることを軽視し、現状維持に胡坐をかいてしまったということだと思います。その守りの空気が入れ替わって、国と民間が高い志を共有できなければこの戦いは非常に厳しいものになるように思います。
以下のように日本では5年10兆円という話が出ていますが、
“半導体・AI分野で2030年度に向け10兆円以上の大規模公的支援”
TSMCは米国だけで1000億ドル(約15兆円)を投資するということが決定的になっています。
“TSMC、米国への1,000億ドル追加投資は台湾への投資に影響せずと説明”
この資金調達の規模とフットワーク(実行力)の良さをみても、やはり厳しい戦いだと思います。
このようなことを真剣に考えても意味のないことなのですが、とりあえずTSMCの凄さが何なのかを知りたいと思い本を買いましした。
序文
第1章 護国神山、TSMC
1.なぜTSMCは「台湾の守り神」と呼ばれるのか
2.業界トップランナーへの道
3.TSMC現象
4.護国神山たち
第2章 TSMC誕生の奇跡
1.すべては李国鼎から始まった
2.モリスによって偶然誕生したTSMC
3.台湾最大の投資
4.ファウンドリーモデルの考案者は誰か
第3章 モリス・チャンスとは何者か
1.MITとシルバニア
2.テキサス・インスツルメンツでの栄光の25年
3.実践から学ぶ―モリス・チャンの政治の知恵
第4章 TSMCの七つの競争優位性
1.制度は米国式、リーダーシップは台湾式
2.競合他社を圧倒する数の技術者チーム
3.一流かつ現実的な企業文化
4.生産技術と賃金が2大ハードル
5.21世紀型AIマーケティング
6.「全方位型」「一歩先行く」顧客サービスモデル
7.1300社からなる巨大サプライチェーン
第5章 TSMCの技術開発秘話
1.創業の壁―6インチファブからのスタート
2.TSMCとUMC
3.TSMC対インテル、そしてサムスンとの競争
4.TSMCとエヌビディア
5.ハイテク界の巨匠が語るモリス・チャンとTSMC
第6章 今後10年を展望する
1.TSMCの海外工場
2.グローバルにESGを推進する
3.今後10年で起こり得る危機
謝辞
解説
第1章 護国神山、TSMC
1.なぜTSMCは「台湾の守り神」と呼ばれるのか
●三流製品を請け負う「ローエンド・ファウンドリー」のイメージだったTSMCが脱皮したのは1998年にNVIDIAから高性能グラフィックチップの製造を受注したことによる。
●ファウンドリーは「受託製造」と言われていたため、単純な組立工程にすぎないと考えられていた。しかし、実際は数百から数千の工程があり、それぞれの工程に少しの誤差も許されない非常に厳しいものである。それゆえに、物理学、電気工学、化学、機械学の専門家で、研究開発や製造に10年以上の経験がある一流の頭脳が求められる。
●TSMCは創業3年目から30年にわたって高成長を続け、収益を拡大し世界の半導体製造者のトップになった。
●1960年代から数万人の台湾人が米国に渡って半導体産業で働き、1980~2010年に台湾に帰国し、半導体産業で成功を収めた。
2.業界トップランナーへの道
●TSMCに対抗するため、IBM、インテル、サムスン電子などがTSMCに対抗するため多額の投資を行なったが、IBMは3年で撤退。サムスン電子はiPhoneに関する競争に勝てず、インテルは7nmプロセスの歩留まり率を3年かかったが目標をクリアできず、その間、TSMCへ生産委託を決断したAMDにシェアを20%程、差をつけられた。
●2009年にCEOに復帰したモリスは様々な反対を退け、毎年100億~200億米ドルの投資を続け、生産能力において競合との差は更に広がった。
●創業以来、TSMCは人材と研究開発に莫大な投資を続けた。半導体製造に関する10万件以上の特許技術を開発した。
●モリスは市場の動向を見極める鋭い感覚を持っている。それは創業期、その後20年以上続いた急成長期、そして巨大企業になった今も、技術研鑽を決して怠らなかったためである。これにより経営トップが最新技術に対する理解不足による誤った意思決定を下すということがなかった。
3.TSMC現象
●TSMCはエリート人材の宝庫である。新卒は台湾の名門5大学の電機、電子、機械専攻の学生が大挙して押し寄せる。マネージャー、副所長、所長は世界から広く人材を募集しており、特に米国、日本、欧州に加え、インド、ロシア、中国、韓国、東欧諸国にも対象を広げている。そのため、上司が外国人、同僚の国籍がみんな違うというのはもはや日常の光景である。
第2章 TSMC誕生の奇跡
1.すべては李国鼎から始まった
●『実際、これは予期せぬ成功の物語である。
1986年7月、モリスが工研院院長に就任した当日、前任者の方賢斉からA4サイズの1枚の紙を手渡された。それは緊急事案リストで、そのトップに書かれていたのが、米国から帰国した新竹サイエンスパークで創業した半導体3社のため、ウエハー製造工場の建設を急ぐことだった。
その3社の創設者はIBM、HP、インテルなど大企業出身の華僑たちで、いずれも半導体分野に精通していた。彼らは政府の科学技術担当だった李国鼎の呼びかけに応じ、高待遇だった米国での大企業を辞して台湾に帰国し、新しくつくられた新竹サイエンスパークで起業した。だが、当時のサイエンスパークは決して恵まれた環境ではなかった。研究開発施設やオフィスなどハード面や政府による優遇措置はあったものの、人材、生産工場、ベンチャーキャピタルなどハイテク産業に必要な条件が整っていなかった。もし政府が生産工場などの問題を解決できなければ、プロジェクトは水に流れるところだった。工場を設立できなければチップは生産できず、新竹サイエンスパークの第一陣となった半導体企業は解散せざるを得ない。そうした情報が海外にいる華僑の耳に入れば、優秀な人材が現地の生活を捨てて台湾のために帰国することなど二度とないだろう。そうなれば台湾のハイテク産業の発展のためにつくられた新竹サイエンスパークは、せいぜい昔ながらの工業エリアとして利用されるのが関の山だ。もし、この時、計画が頓挫していたら、1年に5兆~6兆台湾ドルの生産額を生む現在の新竹、竹南、台中、台南、路竹のサイエンスパークの繁栄はなかった。
李国鼎と孫運濬が長年心血を注いできたプロジェクトは幻のごとく消えてしまいそうだった。2人は政府の経済・科学技術のトップだ。中でも財政部長(財務相に相当)と経済部長(経産相に相当)を歴任し、かつて蒋介石から「行政院応用技術開発グループ」の責任に任命されたこともある李国鼎は、焦りを感じていた。新竹サイエンスパークの半導体企業3社の問題を解決するには、ウエハー工場の創設しかなかった。これが工研院院長に就任した最初の月に、モリスにつきつけられた課題だった。
前任者の方賢斉はモリスに緊急事案リストを渡した際、こう伝えた。「KT(李国鼎の英語での愛称)は特にこの件を急いでいる。数日以内に話があるだろう」。方賢斉の言葉通り、数日後、モリスはKTから電話を受けた。半導体3社の創業問題の解決策を議論するため、行政院で開かれるKT主催の隔週の会議に参加せよ、というものだった。当初、3社がそれぞれウエハー工場をつくり、それを支援する案が出されていたが、政府にはそこまでの予算はない。そこで、ウエハー製造能力を有する企業を設立し、そこに3社が生産を委託するというモリスの提案を受け入れることになった。
当時、モリスは私に、この3社は当初非ロジックICをつくろうとしていたが、モリス自身は「特定用途向けロジックIC(ASIC)の生産に取り組むつもりだ」と述べていた。政府の望みは3社のためできるだけ早くウエハー工場をつくることであり、技術や製造の方向性はモリスに一任した。
ここで注目しておきたいのは、TSMCが1987年に創業した当初、技術の源泉は工研院電子研究所の6インチウエハー・ファブであり、その後、フィリップスからの技術供与もあったことだ。当時のウエハー製造技術の主流はUMCによる3μm~5μmプロセスで、民生用IC分野が主力製品だった。一方、TSMCが持つ1.5μmプロセス・月産2万枚の生産能力はややオーバースペックだった。当時、国内のIC設計企業は30社ほどで、そこから見込める発注は月に数百枚程度しかない。TSMCの製造能力を生かすには、海外市場の開拓が急務だった。TSMCの設立当初、経営陣の何人かがモリスがよく知る米国の半導体業界の外国人だった理由はここにあった。
1988年、インテルCEOのアンドリュー・グローブが訪台した際、モリスは彼を新竹サイエンスパークの工場に招待した。PC用マイクロプロセッサーチップの世界的リーダーであるインテルから注文を勝ち取りたいと考えていたからだ。天は努力する人を裏切らない。1年後、インテルが派遣した専門家チームによる200項目にわたる監査をパスし、ついにインテルからの受注に漕ぎ着けた。おかげで工場のラインはフル稼働となり、TSMCの歴史に新たな1ページが刻み込まれた。
偶然が積み重なって植えられた苗木が、のちに巨木となり花を咲かせた。その大樹は、台湾という技術の島を守っているのである。』
3.台湾最大の投資
●TSMCの投資額が巨額だったため、政府の出資上限は49%だった。資本金は55億台湾ドル(約272億円)の内訳は政府が27億台湾ドル(出資比率48.3%)、フィリップスの出資比率は27.5%だった(フィリップスのオプション条項の持株比率は当初の50%以上は、交渉による最大40%となった)。政府による48.3%出資は、当時の行政院長が李国鼎を全面的に支持し、与党国民党の金庫番こと中央銀行の兪国華の大きな協力があって実現したものだった。さらに、政府の財務、経済関係の閣僚や幹部はすべてKT[李国鼎]の息がかかった者であったことが大きく、彼らはこれが台湾にとって非常に重要な政策投資であることを認識し、支援するために最善を尽くした。この結果、政府および党からの出資分は特に大きな問題はなかった。
●民間からの出資は大きな課題として立ちはだかったが、フィリップスの27.5%に加え、兪国華と李国鼎からの強い働きかけによって、民間企業と党営企業から合計24.2%の出資金を集めることができ、TSMCの設立の道が開けた。
●モリスは台湾政府が半導体産業の振興で大きな役割を果たしていることを常に称賛している。それは、工研院の設立による半導体技術の開発の指導から人材育成、サイエンスパークにおける土地、工場、働きやすい労働環境の提供、そして税制措置まで、これらの政策が台湾半導体産業を成功に導いたと述べている。
第3章 モリス・チャンスとは何者か
2.テキサス・インスツルメンツでの栄光の25年
●米国で様々な経験を積んだモリスは、台湾に帰国するや否や李国鼎からTMSCという新プロジェクトを任せられると、すぐに力を発揮した。これが台湾の繫栄と世界トップクラスの半導体開発の成功を導く鍵となった。1985年、もし、李国鼎がIBMやインテルという米国企業から3人組を台湾に呼び戻し、新竹サイエンスパークで事業を立ち上げるように仕向けなければ、そして、彼らが政府に半導体製造工場の建設を熱望しなければ、現在の台湾における半導体産業の成功はなかった。さらに、1970年から1980年代にかけて台湾の一流大学が数千人の理工系学生を米国の大学院に送り込み、その後、彼らが修士号や博士号を取得し、現地で半導体関連の仕事に従事したことも、1990年以降のTSMCの急成長に欠かせない要素だった。
第4章 TSMCの七つの競争優位性
2.競合他社を圧倒する数の技術者チーム
●TSMCの技術チームは、キャリア20年以上のベテラン幹部とキャリア5~10年の敏腕技術からなる約2万人の規模である。これらの技術者は世界有数のテクノロジー企業から幅広い領域のプロジェクトを受注したほか、先進国の軍事・航空・宇宙産業などから超高精度チップの製造を請け負うために訓練されてきた。彼らは、生産・研究開発部のチーフエンジニア、マネージャー、シニアマネージャー、部長、副所長と昇進して中堅幹部となり、多種多様な問題解決能力を身につけた。この数千人規模の熟練幹部たちがキャリア10年以上のベテラン技術者2万人を率いており、この技術部門の人材こそがTSMCの最大の武器となっている。
4.一流かつ現実的な企業文化
●TSMCの4つのコアバリューを掲げている。
①常に誠実であること(Integrity)
②コミットメント(Commitment)
③イノベーション(Innovation)
④顧客の信頼(Custmer Trust)
この4つのコアバリューを実践するには、あらゆる角度から議論し、どんなことをすべきなのか具体的に定めなければならない。さらにその方法を継続的に運用し、修正と試行を繰り返すことで企業文化として定着しやがて制度となる。
●制度導入の初期段階では、その制度をトップが尊重し、堅持することが重要である。モリスはTSMCの創業前、米国の三つの企業で経験を積んだ。特にTIでの25年間では、20人程の技術者チームのリーダーから、3000人を率いる副社長まで務めた。彼は半導体企業の競争力が、コーポレートガバナンスや企業文化の質によって決まることを目の当たりにしてきた。そのため、TSMCの経営が安定し、2000年前後に成長期に入ると、モリスはコーポレートガバナンスと企業文化に多くの時間を費やし、進化させていった。
①常に誠実であること(Integrity)
◇“私たちは、真実のみを語る”
◇“私たちは、なし得ないことを誇張しない”
◇“私たちは、お客様に対し、安易にコミットしない。けれども、一度コミットしたことには、どんな犠牲を払ってでも最後までやり遂げる”
◇“私たちは、法の範囲内で同業他社と最大限競争し、他社を誹謗中傷することなく、他社の知的財産権を尊重する”
◇“私たちは、客観的で公正、公平な方法でサプライヤーを選定し、協力する”
◇“私たちは、従業員の不正行為や、派閥などによる「社内政治」を許さない。私たちが人材を採用する際に最も重視する基準は人柄と才能であり、縁故による採用しない”
●「常に誠実であること」について、これほど具体的な踏み込んで説明している例は、国内外の大企業を見ても珍しい。特にモリスが避けたかったことは、縁故や派閥による不公平な評価である。優秀な人材が不合理な理由で昇進できず会社を去ってしまうという事態をなくしたいと考えていた。
②コミットメント
◇“コミットメントとは双方向のものだ”
◇“従業員は全力で会社に忠誠を尽くし、「会社の成功は、自分の成功」の精神で、勤勉かつ誠実に仕事に取り組む”
◇“会社は従業員を最も大切な資産と見なし、有意義でやりがいがある仕事、安全な職場環境、十分な報酬と充実した福利厚生を提供する。また、仕事以外の家族や友人関係、趣味を広げ、豊かな人生を送れるようサポートする”
◇“私たちは、株主、顧客、サプライヤー、地域社会、その他のステークホルダーに対するコミットメントを守り、各関係者の利益のバランスをとるよう努める“
◇“株主が平均以上の投資リターンを得られるようにする。顧客やサプライヤーと全面的に協力して、長期的なウィン・ウィンの関係を築く。良き企業市民として、地域社会をよりよくするための努力を惜しまない”
●このような理念は、CEOや会長がリーダーシップを取り、功績のすべてのものになる米国の大企業とは大きく異なる。
[誠実・正直であり続けること]
-TSMCが「人による支配」ではなく「制度によるガバナンス」を成功させたことが、他の99%の台湾企業と完全に異なる点である。
-「制度によるガバナンス」を実現できた理由は、数十年にわたる観察と分析から具体的かつ明確に判明している。台湾企業では幹部の親族や同郷、出身大学などの関係が重視され、派閥やグループが形成されやすい。どんな企業にも程度の差こそあれ社内政治は存在し、根絶は非常に難しい。そうした組織風土は、不公平な人事や報酬を生み出しやすい。この不合理は企業のリソースを浪費するだけでなく、経営目標が不明確になり、競争力の低下を招く。たとえ企業がある強みを生かして成長し、好業績を上げられるようになっても、意欲の高い人材が排除され、内部対立が発生すれば、従業員は大きな不公平感と不満を抱える。これは放置できない問題である。
[「ファウンドリー事業」に徹する]
-これはモリスが長年、従業員に再三伝えている言葉である。
-『我々の事業は、専業のファウンドリー・サービスだ。この分野は急成長しており、研究開発に全力を注いでいけば、成長に限界はない。だからこそ私たちはファウンドリー事業に徹して最大の成功を追求する』
[チャレンジと楽しさがある職場環境]
-TMSCでは、チャレンジができ、学びがあり、そして楽しさがある職場環境は、金銭報酬より重要だと考えている。また、優秀で志の高い人材を確保するため、全員が力を合わせてこうした環境をつくり維持していく。
5.生産技術と賃金が2大ハードル
●TMSCは優位性を維持するため、生産技術、資金、サプライチェーンの三つに注目している。
●生産能力とプロセス技術は一心同体である。プロセス技術が整って初めて、生産性を爆発的に高めることができる。
●『半導体技術の進歩は非常に速い。モリスは彼の自伝の中で、TIに入社した当初、配属先のリーダーのプロ意識に感心したが、10年後も彼の技術的な考え方は変わっておらず、そのせいで大きな後れをとっていたと振り返っている。この教訓から、モリスは78歳でCEOに復帰した後も、技術トレンドに乗り遅れて経営判断を誤らないように、毎週、半導体の技術開発に関する記事や社内でとりまとめた資料を読み続けた。』
●『2021年3月末、TSMCの上層部は工場の新設・拡張のため今後10年間で2000億米ドルを投資すると発表した。生産能力を現在の倍にして、競合を突き放す狙いがある。TSMCではこの目標を達成するため、用地取得、電力供給や水資源の確保、人材育成などで先手を打つべく、様々な行動計画を打ち出している。』
画像出展:「台湾TSMC、米国で1000億ドル追加投資-先端半導体の生産体制強化」(Bloomberg)
『トランプ米大統領は3日、台湾積体電路製造(TSMC)が米工場に1000億ドル(約15兆円)を追加投資する計画を発表した。』
5.21世紀型AIマーケティング
●TSMCは2012年頃から、顧客サービスの将来を見据えて「AIマーケティング・見積価格設定システム」の構築を始めた。この巨大データベースには半導体産業の技術、市場、特許、関連業界、個別企業の経営状況などに関するデータが蓄積、常時更新される。AIの深層学習とアルゴリズムを活用したシステム、TSMCにとって競合他社との差を広げるためのツールである。特に価格設定システムは、チップ製造の受託を一製品として見積もるのではなく、業界全体の環境(研究開発のレベル、収益性、競合分析、市場規模と成長性、技術進化の動向など)を評価し、製品の成長段階や市場におけるポジションなど幅広い要因に応じて柔軟に価格を変化させる、AIを活用したダイナミック・プライシングを実現する。そのため、TSMCには「価格設定システム」を担当する副社長を責任者とする専門部署が設けられている。
解説
[ラピダスはTSMCのライバルとなるか]
●『今や最先端半導体を独占的に生産するTSMCだが、かつて半導体王国であり、グローバルシェアの半分を握っていた日本は、その半導体の栄光を取り戻すべく、大きな政策転換を遂げている。TSMCの工場を熊本に誘致するだけでなく、茨城県つくば市にある産業技術総合研究所とTSMCの共同研究機関である「TSMCジャパン3DIC研究開発センター」を設立して、後工程の3Dパッケージを研究するだけでなく、政府が3300億円を出資し、民間企業や銀行など8社の共同出資によってRapidus(ラピダス)を設立した。ラピダスは「ビヨンド2ナノ」を標榜し、最先端半導体のファウンドリーとして、日本の半導体産業を復活させる原動力にしようとしている。
『JRDCは、TSMCがクリーンルームを備えた研究開発施設として初めて台湾以外に設立した拠点で、日本のパートナー企業とともに、次世代の3次元集積化技術や高度なパッケージング技術の研究を推進しています。』
『日本ではロジック半導体の開発・製造が40nm世代で止まっています。Rapidusはこれを何世代も飛び越え、まだだれも達成していない2nm世代から始めるという非常にチャレンジングな目標を掲げています。』
このラピダスが成功するかどうかは時がたたなければ判断できないが、気になる点は、現代の半導体製造において不可欠な、巨額の設備投資を継続して行うだけの資本がどこから出るのかという点と、先端半導体を開発するための人材が十分に存在するかという点だ。
本書でも述べられているように、TSMCの成功には様々な要素があるが、ファウンドリーというビジネスモデルを支えてきたのは、政府からの出資だけでなく、収益性の高い製品から生まれる利益を投資に注ぎ込み、他のライバルが追いつかないほど設備投資を繰り返したことにある。ラピダスがTSMCのライバルとして勝ち抜くためには、同様の設備投資を続けなければならないが、果たしてそれが可能なのかどうかは疑問が残る。
また、TSMCの成功のカギは歩留まりの高さであったことは本書からも明らかだが、そうした歩留まり率を高めるためのノウハウは、いくら博士号を持った人材をそろえても得られるものではない。様々な半導体製造を経験し、現場で問題を解決する能力があるかどうかが勝敗を分ける。TSMCは台湾の中小企業によるOEM文化の中で育った企業であり、町工場における改良・改善のノウハウを持っていたからこそ、高い歩留まり率を実現できた。日本において、先端半導体の製造を支えるノウハウがあるわけではなく、それを身につけていくためには、他の半導体産業でのノウハウを蓄積した人材が必要となってくる。そうしたことが可能なのかどうかにも注目しておく必要があるだろう。』
感想
5年10兆円の巨大プロジェクトはオールジャパンの国家プロジェクトだと思います。台湾の半導体産業は明らかに国家レベルで進められ花開きました。キーワードは資金と人材(技術)です。
私が営業で経験したプロジェクトは、比較にならない小さな小さなプロジェクトばかりですが、プロジェクトの成否のカギは、「人・物・金を動かす客観的かつブレないリーダーシップ」に掛かっていることは確かだと思います。また、“競合&協業“というあり方も考えた方が良いと思いました。
追記(2025年11月26日):”ラピダス、世界最先端1.4ナノ半導体新工場 29年稼働でTSMCを追う”
AIの進化はGPUなどの半導体を指数関数的に増加させるため、TSMCに集中している状況の逼迫が、早ければ2026年後半にも電力供給問題とともに顕在化されるという予想もあります。ラピダスがその受け皿になれれば、世界の半導体需要に大きく貢献できると思います。
(記事の全文は有料です)
第2章 どんなサービスがあるの?
◆お金を使う(決済)②
●作るのも、使うのも、お金の管理も簡単。若者に人気の「プリペイドカード決済」
・Suica、PASMOなど
◆お金を使う(決済)③
●売り手と買い手の利便性がともにアップ。スマホ1つで支払いができる「モバイル決済」
・PayPay、楽天ペイ、d払いなど
◆お金を使う(送金)①
●スカイプの技術を送金サービスに応用。為替手数料いらずで低コストの「海外送金」
・WISEなど
◆お金を使う(送金)②
●登録した「友人」に即入金できる。細かいお金のやり取りに使える「個人間送金」
・アカウント同士でお金のやり取り。業者形態によって特徴が異なる。
1)資金移動業者(事前にしっかり本人確認)・・・LINE Payなど
2)銀行業者(SNSと連携した口座へ送金)・・・楽天銀行など
3)前払い式支払い手段発行業者(受け取り側は現金化できない)・・・PayPay、楽天ペイなど
4)電子決済等代行業者(顧客と銀行を仲介する存在)・・・Money Tapなど
◆お金を借りる(融資)②
●今まで融資を受けられなかった層にもチャンスを。貸し手と借り手をつなぐ「ソーシャルレンディング」
・新しい与信判断で融資を受けられる人が広がった。
◆お金を増やす(投資)
●自分に最適のプランを提案してくれる資産運用の強い味方「ロボアドバイザー」
・ロボアドバイザーの仕組み
1)情報取集(投資に対する質問に回答)
2)ポートフォリオ作成(情報を分析し、ポートフォリオを作成)
3)金融商品の提供(ポートフォリオに沿った金融商品を提供)
例)
・トラノコ
◆お金を管理する①
●レシートを撮影するだけでOK。家計を自動で管理することができる「PFM」
例)
◆お金を管理する②
●知らない間にお金を貯められる!?ユニークな発想で楽しめる「自動貯金アプリ」
・ユニークなルール設定で楽しく貯められる (貯金アプリ「フィンビー」のルール例)
1)おつり貯金(支払い時の差額を貯める)
2)シェア貯金(複数人で目的のために貯める)
3)歩数貯金(歩数条件に応じて貯まる)
◆金融機関向けのサービス
●本人確認から利用者とのやり取りまで。膨大な業務をテクノロジーで支援する
例)
・TRUSTDOCK(デジタル身分証アプリ)
・iYell(金融機関の住宅ローン事業を支援するサービス)
◆新しいサービス①
●パソコン、インターネットに続くイノベーション。発行者も管理者もいない新しい通貨「仮想通貨」
・2024年時点で、世界中で流通している仮想通貨の種類は20,000種類を超えており、ビットコイン以外も含めて、日々新しい仮想通貨が登場し続けています。
・米国では「安全性と成長力を両立させた新たな“デジタル・ドルエコシステム”づくり」の方針が出ています。
◆新しいサービス②
●給料や代金支払いをよりフレキシブルに。若者に人気の「前払い・後払い」サービス
例)
・Payme(給与の一部を最短即日払いで受け取れる)
・NP後払い(様々な通信販売で利用できる後払いサービス)
◆金融を超えるフィンテック①
●健康促進からマーケティングまで。IT技術で革新を起こす「保険テック(インステック)」
・ヘルスケアの例
1)ウェアラブル端末の情報から健康状態を評価、予測して保険料に反映
2)保険契約者の健康促進のための健康診断サービスなどを提供
・保険の引き受けの例
1)保険の引き受けの判断材料の処理をAIがサポート
2)コールセンターでの回答にAIを活用
・マーケティングの例
1)顧客データと公的機関のデータを掛け合わせてマーケティングに活かす
2)ビッグデータの解析結果を保険料に反映
◆金融を超えるフィンテック②
●これからITが必要になる業界。不動産に関わる課題を解決する「不動産テック(プロップテック)」
・オンラインでの内見疑似体験などを利用することでより質の高い情報を提供できる。
・悪質業者情報を共有することにより不動産取引の透明性が増し、安心感が生まれる。
・売り手と買い手が直接つながる機会が生まれる。
・価格査定や売却物件の予測情報の精度が上がる。
・潜在的なニーズに目が向けられるようになる。
例)
・RENOSY(不動産売買等に関するサービス)
・OHEYAGO(セルフ内見やオンライン申し込みなどができる不動産賃貸サイト)
第3章 これから何が起こるの?
●知らぬ間にサービスを利用していることも。知識や判断力が、損得を決める時代に
・金融は「黒子」のような存在と言われているが、フィンテックの普及によって金融は生活のなかにますます黒子的入っていくと考えられる。今までは金融サービスを比較し選択していたが、これからはそのようなプロセスを経ないで自動的にサービスが適用されるようになるだろう。
・金融の知識(リテラシー)の有無が貧富の差につながる可能性が大きい。
・フィンテックの普及に伴い、それに便乗した詐欺が増えたり、情報が漏洩しやすくなったりする。
◆社会はどう変わる?①
●銀行は、金融業からサービス業へ。顧客視点に立った改革はますます進む
・フィンテックの普及で最も影響を受けているのは銀行である。
・システム部門が主導して、新たなフィンテック企業の発掘や他業者との連携といったイノベーションを推進
・資本提携やグループ化によるフィンテック企業の囲い込み
・銀行口座とフィンテックサービスをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)で連携させる。
◆社会はどう変わる?②
●証券会社からカード会社、ITベンダーまで。金融業界の仕事は大きく変化する
・証券会社:ブローカ業務にとっては脅威に、ディーラー業務ではデータ収集や分析で支援を受けることもある。
・クレジットカード業界:業務の効率化や利用明細のリアルタイム配信によりセキュリティコストを削減。
・ITベンダーが金融機関とフィンテック企業を繋ぐ役割をはたす。
画像出展:「セゾンテクノロジー、データ連携ビジネスが拡大」
セゾンテクノロジーはクレディセゾンが46.84%の株を保有している企業でHUFTというファイル転送・データ連携ミドルウェアは国内約80%のシェアです。このような金融系ITベンダーがフィンテックの鍵を握っていると思います。
◆社会はどう変わる?③
●ケータリングから民泊まで。「実体を扱う事業会社」が金融を展開
例)
Airbnb(部屋を貸す人向けにローンを提案したり、独自の電子マネーを発行したりする)
◆生活はどう変わる?②
●気づかないうちに始まっていた!?金融サービスはより「黒子的」な存在に
画像出展:「押さえておきたいエンベデッドファイナンス。注目を集める新たなFinTechの潮流と仕組み」
『「自分たちが消費者に直接金融サービスを提供するわけではなく、そのようなサービスを提供したいと考えている事業者の黒子として、裏側で必要な仕組みを提供する」プレーヤーが注目を集め始めています。』
◆生活はどう変わる?②
●学べば学ぶほど、得する世界。「お金の教育」が義務化されるのも近い
・フィンテックが普及すると、より多くの人がバリュエーション豊かな金融サービスを利用できるようになるため、状況に応じて最適なサービスを適切に選ぶためには、お金や金融に関する知識や判断力(金融リテラシー)を身につけることが大切である。
◆生活はどう変わる?④
●増える詐欺や、情報流出。情報リテラシーを身につけよう
・情報リテラシーを高めるための方策
1)迷惑メールなどのウィルス対策を万全にする
2)IDやパスワードの使い回しは避ける
3)SNSなどでの個人情報発信を慎重に行う
4)新しいサービスや業者は事前に信頼性を確認する
第4章 フィンテックを支えるキーテクノロジー
●テクノロジーの大幅な進化がフィンテックの誕生と発展を支えてきた
画像出展:「ITは加速しながら新たなステージへ」
AIは第二の情報革命ともいわれています。
画像出展:「新たなキーワードはシームレス。銀行・保険・証券の相互乗り入れで新サービスが加速する」
『FintechはFinanceとTechnologyを掛け合わせた造語で、既存の金融の機能と新しいテクノロジーを組み合わせて新しいサービスを作っていこうというムーブメントを支えています。』
感想
「フィンテックは価値や富を自由に、安く移動できるようにする」というのが最も端的な説明ではないかと思います。圧倒的な利便性が進む一方で、“エンベデッドファイナンス”のように金融サービスの黒子化は進んでいます。特に潜在的なリスクを含め、安全とリスクの現状をどのように把握するのが良いのか、AI(Perplexity)に質問してみました。この課題はずっと続くものだと思います。
とある理由でフィンテックを少々勉強する必要があり、1冊の本を購入することにしました。
ITでお金はもっと身近になる
フィンテックって何? 理解するための7つのキーワード
第1章 フィンテックはなぜ生まれたの?
●海外で生まれ、人気のフィンテックサービス。日本は遅れているって本当?
◆フィンテックはどこで生まれたか?①
●インターネットサービスの普及に伴い、新しい金融サービスが次々に誕生
◆フィンテックはどこで生まれたか?②
●大手金融機関が破綻したことで、人々の“金融機関離れ”がさらに進んだ
◆フィンテックはどこで生まれたか?③
●スマートフォンの使用者が増え、サービスの提供・利用がしやすくなった
◆フィンテックは今どこにいる?①
●ステージ1:すでにあった金融サービスがIT技術でより便利になった
◆フィンテックは今どこにいる?②
●ステージ2:これまで存在しなかったあたらしい金融サービスが登場した
◆フィンテックは今どこにいる?③
●ステージ3:大きなIT企業やテクノロジー企業が、独自の金融サービスを始めた
◆フィンテックは今どこにいる?④
●ステージ4:建設業や不動産業など、規制の厳しい他業界まで波及
◆日本のフィンテックはどうなっている①
●日本では、現状の金融サービスが充実。新しいサービスはゆっくり広まる
◆日本のフィンテックはどうなっている②
●金融機関とIT企業が手を取り合って、より便利なサービスを作り出している
◆日本のフィンテックはどうなっている③
●フィンテックの普及に向け、法改正も。これからの発展が期待されている
1分でわかる! 第1章のおさらい
第2章 どんなサービスがあるの?
お金を使ったり、借りたい、管理したり。様々な分野でサービスが展開されている。
◆お金を使う(決済)①
●ネットショップでのやり取りに欠かせない。売り手と買い手をつなぐ「オンライン決済」
◆お金を使う(決済)②
●作るのも、使うのも、お金の管理も簡単。若者に人気の「プリペイドカード決済」
◆お金を使う(決済)③
●売り手と買い手の利便性がともにアップ。スマホ1つで支払いができる「モバイル決済」
◆お金を使う(送金)①
●スカイプの技術を送金サービスに応用。為替手数料いらずで低コストの「海外送金」
◆お金を使う(送金)②
●登録した「友人」に即入金できる。細かいお金のやり取りに使える「個人間送金」
◆お金を借りる(融資)①
●会ったこともない人が支援者になる。夢のスタートを支える「クラウドファンディング」
◆お金を借りる(融資)②
●今まで融資を受けられなかった層にもチャンスを。貸し手と借り手をつなぐ「ソーシャルレンディング」
◆お金を増やす(投資)
●自分に最適のプランを提案してくれる資産運用の強い味方「ロボアドバイザー」
◆お金を管理する①
●レシートを撮影するだけでOK。家計を自動で管理することができる「PFM」
◆お金を管理する②
●知らない間にお金を貯められる!?ユニークな発想で楽しめる「自動貯金アプリ」
◆お金を管理する③
●中小企業の会計情報を、見える化。経理業務の効率アップする「クラウド会計」
◆お金を管理する④
●従業員も会社も、業務効率アップ。「クラウド型経費精算サービス」
◆金融機関向けのサービス
●本人確認から利用者とのやり取りまで。膨大な業務をテクノロジーで支援する
◆新しいサービス①
●パソコン、インターネットに続くイノベーション。発行者も管理者もいない新しい通貨「仮想通貨」
◆新しいサービス②
●給料や代金支払いをよりフレキシブルに。若者に人気の「前払い・後払い」サービス
◆金融を超えるフィンテック①
●健康促進からマーケティングまで。IT技術で革新を起こす「保険テック(インステック)」
◆金融を超えるフィンテック②
●これからITが必要になる業界。不動産に関わる課題を解決する「不動産テック(プロップテック)」
1分でわかる! 第2章のおさらい
第3章 これから何は起こるの?
●知らぬ間にサービスを利用していることも。知識や判断力が、損得を決める時代に
◆社会はどう変わる?①
●銀行は、金融業からサービス業へ。顧客視点に立った改革はますます進む
◆社会はどう変わる?②
●証券会社からカード会社、ITベンダーまで。金融業界の仕事は大きく変化する
◆社会はどう変わる?③
●ケータリングから民泊まで。「実体を扱う事業会社」が金融を展開
◆生活はどう変わる?①
●未来では、「データのお金」が現金と同じくらい大切なものになる
◆生活はどう変わる?②
●気づかないうちに始まっていた!?金融サービスはより「黒子的」な存在に
◆生活はどう変わる?②
●学べば学ぶほど、得する世界。「お金の教育」が義務化されるのも近い
◆生活はどう変わる?④
●増える詐欺や、情報流出。情報リテラシーを身につけよう
1分でわかる! 第3章のおさらい
第4章 フィンテックを支えるキーテクノロジー
●テクノロジーの大幅な進化がフィンテックの誕生と発展を支えてきた
◆モバイル
●フィンテックサービスの利用にも発展にも欠かせない存在
◆クラウド①
●“雲の向こう”で作られたサービスをいつでも好きなだけ利用できる
◆クラウド②
●新しいフィンテテック企業が新サービスを開発・運用しやすくなった
◆ビッグデータ①
●膨大な情報を集めて解析することで新たなサービスが生まれる
◆ビッグデータ②
●個人情報の収集や活用は、金融サービスの発展に不可欠なもの
◆AI(人工知能)①
●限りなく人間に近い存在になった。状況判断や意思決定ができる人工知能
◆AI(人工知能)②
●人より精度の高い分析ができる。融資や投資の分野で人工知能が活躍
◆API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)①
●1つの入り口から複数のサービスを使うには企業と企業の「連繋」が欠かせない
◆API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)②
●API公開にはメリット、デメリットがある。どこまで連繋を許すかはこれからの課題
◆ブロックチェーン①
●全ての取引記録が1本の鎖に。改ざんも不正もできない分散型台帳
◆ブロックチェーン②
●世界中にいるたくさんのマイナーたちが、ブロックをつなぎ、報酬をもらっている。
◆IoT
●あらゆるモノがネットにつながりより多くの情報が集められるようになる
◆デザイン(UIとUX)
●サイトの見やすさ、わかりやすさは、フィンテックサービスの大きな強み
1分でわかる! 第4章のおさらい
キャッシュレス決済が普及。今、フィンテックの「入り口」に
ITでお金はもっと身近になる
フィンテックって何? 理解するための7つのキーワード
●IT技術で便利になった金融サービス
・フィンテックは「金融=Finance」と「IT技術=Technology」を掛け合わせた造語、IT技術を駆使した金融サービスのことである。
・注目されるようになった金融機関以外のベンチャー企業やスタートアップが金融サービスを提供し始めたため。
●金融危機で発展し、技術の進歩で加速
・リーマンショックで優秀なIT技術者が金融業界を離れ、ベンチャー企業やスタートアップに移って、新しい金融サービスを始めた。
・IT技術の進歩により加速的に発展した。
●金融・情報リテラシー
・自分のお金や個人情報は自分の力で守る意識を持つことが必要
・フィンテックが発展すると個人情報の流出や詐欺のリスクが高まる。
ご参考:“フィンテック時代に必要な金融知識は何か?”
第1章 フィンテックはなぜ生まれたの?
◆フィンテックはどこで生まれたか?①
●インターネットサービスの普及に伴い、新しい金融サービスが次々に誕生
・1998年に誕生したオンライン決済のPayPalがフィンテックの先駆けと言われている。
画像出展:「PayPal戦争と今日の起業家への教訓」
PayPalの創業メンバーはPayPalマフィアと呼ばれています。その中でもイーロン・マスクとピーター・ティールが有名です。PayPalマフィアが注目されているのは、PayPal在籍後、YouTube、LinkedIn、 Tesla、 SpaceX、Palantir、 Yelpなど世界的なテック企業を次々と創業し、また、投資家として新興企業を強力に支援したためです。
・金融機関が担っていた“決済”・“融資”・“送金”・“投資”が規制緩和やIT技術の進歩によって細分化され、専門的に行うサービスが誕生した。
◆フィンテックは今どこにいる?②
●ステージ2:これまで存在しなかったあたらしい金融サービスが登場した
・いろいろな悩みをITで解決
1)割り勘は面倒・・・割り勘アプリ(小銭不要)
2)貯金をしたい・・・自動貯金アプリ(知らない間に貯蓄できる)
3)銀行を通さないでお金のやり取り・・・仮想通貨(国や銀行が関わらない)
4)毎月の高額の保険料は大変・・・わりかん保険(保険金を割り勘にする)
◆フィンテックは今どこにいる?③
●ステージ3:大きなIT企業やテクノロジー企業が、独自の金融サービスを始めた
・ベンチャー企業やスタートアップだけでなく、AmazonやMeta(Facebook)が大規模な顧客基盤を背景に参入。
2014年2月から開始されたもので、Amazonのマーケットプレイスに参加している法人販売事業者を対象に行なっている融資サービス。Amazonレンディングには通常の融資では考えられない数多くの個性的な特徴がある。
◆フィンテックは今どこにいる?④
●ステージ4:建設業や不動産業など、規制の厳しい他業界まで波及
1)医療・・・MedTech(ヘルスデータの連繋で医師と患者をつなぐ)
2)建設・・・ConTech(現場と職人のマッチング)
3)保険・・・InsTech(企画から提案、販売までオンライン)
4)不動産・・・PropTcch(物件の売買・契約の他、民泊サービスなど)
あらゆる業種において支払い・請求というお金の流れが存在する。これらはフィンテック関わってくる。
◆日本のフィンテックはどうなっている①
●日本では、現状の金融サービスが充実。新しいサービスはゆっくり広まる
・普及しづらい4つの理由
1)教育や経済状況などの水準が揃っている
2)規制が厳しく言語対応に時間がかかる
3)現状でも便利なのでニーズに乏しい
4)サービスに対して求めるレベルが高い
◆日本のフィンテックはどうなっている②
●金融機関とIT企業が手を取り合って、より便利なサービスを作り出している
・脅威から協業路線へ。互いの強みを持ち寄り、より良いサービスが登場。
・金融が身近なものになり、また、仮想通貨などの新しいサービスが出てきたことにより、お金や金融を考える時代になってきた。
IT営業を25年勤め、私にとってのカリスマは“スティーブ・ジョブズ”です。他界されたのはおよそ14年前でした。
そして、第二の情報革命といわれるAIがいよいよ本格化する今、ITのカリスマは誰だろうと思いました。最初に頭に浮かんだのは“イーロン・マスク”です。一時、DOGE(米政府効率化省)のリーダーとなっていましたが、現在は代わっています。また、DOGEは内閣レベルの省庁ではなく、特別な一時的組織(USDOGE Temporary Organization)として設置されており、活動は2026年7月4日までの期限付きということです。
また、イーロン・マスクが目指している世界は、「人類の長期的な存続と進化を実現するためのテクノロジー主導の世界」とのことです。以下の表はマスクが関わっている(関わった)企業ですが、これを見ると本気だなということが分かります。
画像出展:「AI(Perplexity)が作成」
テスラについてはオプティマス(ロボット)が注目されています。
「人類の長期的な存続と進化を実現するためのテクノロジー主導の世界」というものは、あまりに巨大でピンときません。私がイメージする“カリスマ”とは少し違う気がします。
こちらの資料はAI(Perplexity)が作ったものです。これを見るとイーロン・マスクは、やはり“カリスマ”であって“ビジョナリー”ではないことは明らかです。ただ、最後に書かれたイーロン・マスクが“異色・現代型”のカリスマ“ということだとすれば、私にとってはやはり違うという印象です。
イーロン・マスクの次に頭に浮かんだのは、“マーク・ザッカーバーグ”です。個性の強烈さではイーロン・マスクにかないませんが、年齢はイーロン・マスクが51歳(1971年6月28日生)、マーク・ザッカーバーグが41歳(1984年5月14日生)と10歳の差があります。総資産の順位は1位がイーロン・マスク、ザッカーバーグは3位です(2025年9月22日時点)。
そして、ザッカーバーグが目指すものは「すべての人に“パーソナル・スーパーインテリジェンス(超知性)”を提供し、AIの恩恵を社会全体で共有する社会」ということです。私のカリスマ像に照らし合わせれば、カリスマは“マーク・ザッカーバーグ”だなと思います。
なお、NVIDIAのCEOである“ジェンスン・フアン”は、「AIの父」というイメージです。
編者:ジョージ・ビーム
訳者:今村絵里
発行:2022年11月
出版:(株)文響社
序章 マーク・ザッカーバーグの半生
PART1 船出(2002-2009)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART1
●人の下で働きたくない
●引き延ばし
●仲違い
●どん底で見つけたアイデア
●些末なこと
●人生の目標
●最終目標は金じゃない
●試行錯誤を楽しむ
●スタートアップ
●Facebookの原型
●持続可能なビジネス
●優先順位をつける
●採用条件
●簡単に逃げない
●謝罪
●長期的な視点
●理想的な働き方
●目の前の仕事に集中する
●雑音に耳をかさない
●CEOの役割
●情報の充実
●個人情報の管理
●ユーザーが主役
PART2 加速(2010-2011)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART2
●若気の至り
●成功をつかむ条件
●価値あるものを生む
●機が熟すのを待たない
●経営理念
●情報のカスタマイズ
●Facebookの基本ルール
●オープンな世界
●機能の簡素化
●社風
●目先の大金
●起業家が持つべき資質
●せっかち
●ユーザーへの感謝
●つながりをサポートする
●アイデアを拾い上げる
●職場環境
●「ソーシャル・ネットワーク」
●ハッキング
●欲望を捨てる
●コンピュータは手段にすぎない
●ソーシャルプラットフォーム
●幸運な偶然
●願い
●起業への助言
●成長できる環境
●起業
●最大のリスク
●成長の糧
●人間の欲
●自己表現のためのSNS
●簡単なことから始める
●日常の一部になる
PART3 使命(2012-2014)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART3
●初の役員会議
●イノベーションの素
●コーディングの上達
●効率の向上
●リスクを恐れない
●Facebookの真骨頂
●Facebookの役割
●1対1で話す
●社の信条
●等身大であれ
●短所と長所
●Facebookの誇り
●エンジニアの責任
●量より質
●テクノロジーの恩恵
●実名を使うSNS
●価値観
●知恵を共有する
●よいチームとは
●新たな社訓
●土台作り
●インターネットを広める
PART4 明暗(2015-2016)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART4
●孤独を打ち消す
●仕事時間
●全人類をつなげる
●広い視野
●会社員が平等
●風とおりのよい職場
●会社の存続は二の次
●クリエイティブな若者
●少年時代
●日常
●ダメ出しはいらない
●インターネットの普及
●コンテンツ共有
●育児休暇
●未来に対する責務
●次世代に伝えたいこと
●所有株の99%を寄付する
●インターネットによる救済
●自由を守る
●運用エネルギー
●ライバルは二の次
●ビジョンを実現する
●表現欲
●日常とサービス
●癖
●無料にこだわる
●コードは議論に勝る
●まずは飛び込む
●チャンスは先にある
●未来は作れる
●未来予測
●ファッション
●一歩目
●選挙への貢献
●インターネットの課題
●人工知能
PART5 原点(2017-2018)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART5
●全体の中のポジション
●人間として向き合う
●検閲はしない
●第二子
●多様性を高める
●信頼できるコンテンツ
●ひらめきよりも行動
●結果はすぐ得られる
●歩みを止めない
●人々の暮らし
●決断のポイント
●採用基準
●矜持
●格差
●日々思うこと
●問題を放置しない
●世界の課題に向き合う
●インターネットの無償化
●子どもへの思い
●信じるもの
●子どもの可能性
●VRの可能性
●必要経費
●自己研鑽
●自分の役割
●親
●情熱を持つ
●悲観を活かす
●誇れる仕事
●良質なサービス
●つながりがもたらす効果
●Facebookが果たす責任
●社会的責任
●セレクション
序章 マーク・ザッカーバーグの半生
才能を伸ばし続けた少年時代
・『マークは子どもの頃から既に生半可な知識では太刀打ちできない相手だった。父であるドクター・ザッカーバーグによれば、息子の質問に「イエス」と答えた場合には、それ以上説明する必要はなかったが、「ノー」と答えた場合にはたちまち反論にあい、言葉を尽くして理由を説明しなければならなかったという。両親は、我が子はいずれ弁護士になると思ったかもしれないが、マークの興味は別のところにあった。コンピュータサイエンスという2進数の世界だ。
幼い頃から、マークのコンピュータ好きは明らかだった。12歳の時には、Atari BASICを使ってメッセージをやり取りするソフトウェアのプログラム「Zucknet」を作り、これは自宅や父親の歯科医院でも使われた。我が子がコンピュータサイエンスに並々ならぬ関心を抱いていると気づいた両親は、ソフトウェア開発者を家庭教師として雇うとともに、近隣のマーシー大学でBASICプログラミングのクラスを受講させ、コンピュータサイエンスのカリキュラムが充実していた全寮制の名門私立高校フィリップス・エクセター・アカデミーへと転校するのを手助けした。
こうして、高校時代には、ユーザーの好みに合わせて自動的に選曲が行われる音楽再生ソフト「Synapse」を開発した。このソフトウェアに興味を示したマイクロソフトやAOLに買収を持ちかけられるが、その申し出を断り、ソフトを無料配布するまでになっていた。』
調べたところ、マーシー大学で受講していたのは、地元のアーズリー高校に通っていたときです。年齢は15歳でした。そして、2年ほど在学した時点で中退を考えたようですが、ご両親に説得され、中退ではなく転校することを決意します。転校先は、自宅から300Km離れたフィリップス・エクセター・アカデミーという卒業生の大半がハーバード大学、コロンビア大学、ケンブリッジ大学、オックスフォード大学といった名だたる名門校へ進学する超名門校でした。
※ご参考:“マーク・ザッカーバーグ”
PART1 船出(2002-2009)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART1
●人生の目標
・『クールなものを作るのがとにかく好きだし、人にあれこれ指図されたり、決められた時間内に物事をこなしたりしなくていいというのが、僕の人生の中で手にしたいと思っている贅沢なんです。
・・・利益を生み出すものをいつかこの手で作れると思います。』 2004年
●採用条件
最も重要な条件は、「地頭のよさ」とのことです。英文を見ると「地頭」は、英語では“raw intelligence”となっています。私事ですが、約50年前に通っていた母校(高校)は、「生徒の地頭は良い」との評判でした。そのため、この「地頭」という言葉は何となく気に入っていました。そもそもどういう意味か詳しく調べることはなかったのですが、今回、特に英語の“raw intelligence”の意味を知りたいと思い調べてみました。
●長期的な視点
・『僕の役目は、長期的な視点でものを作ることです。それ以外のことはじゃまでしかありません』 2007年
●CEOの役割
・『CEOの役割は基本的には2つあると思います。すなわち、会社のビジョンを設定すること、チームを作ることです。僕たちはビジョンを定め、今まさに実行しているところなんです。4年前に創業したばかりなので、しなければならないことはまだ山ほどありますね。
中でも、チーム作りは本当に重要です。チーム作りには多くの時間を割いて懸命に取り組んでいます。』 2008年
PART2 加速(2010-2011)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART2
●起業家が持つべき資質
・『[よい起業家・CEOに必要な資質の]1つは、自分のやりたいことをしっかりとわきまえていることです。なぜなら仕事をしていると煩わしいことが次々と出てくるので、自分のやりたいことを100%把握していないとあらぬ方向へ行ってしまうからです。自分のやりたいことを把握し、しっかりと胸に刻んでおくこと。これが第一ですね。
第二は、よいチームを作ることです。このことに僕は膨大な時間を費やしています。製品作りに携わっていない時には―僕はチームと一緒に製品作りに取り組んでいるのですが―本当に優れたエンジニアリング部門のトップや、最高のハッカーやエンジニア、もの作りをしたい人々を集めることから、これから取り組むことを正確に伝え、全社員に計画の内容をしっかりと理解させることのできる製品部門のトップ、そして[FacebookのCOO]であるシェリル[・サンドバーグ]のようなビジネスに非常に長けた人材に至るまで、組織の隅々まで目を配ってチーム作りを行なっています。
・・・僕が会社を経営すべきか否か? もし僕がいなくなっても、舵取りは問題ないでしょう。自分の仕事をきちんと分かっていて、優れたスタッフがいれば、その時点で大成功なのです。』 2010年
ハッカーというと犯罪のイメージが強いと思いますが、米国ではハッカーとは、本来はコンピュータやネットワーク、暗号技術、プログラム解析など高度な技術を持つ技術者を指す言葉とのことです。
●ソーシャルプラットフォーム
・『これからの5年間は、ソーシャルプラットフォームを作り上げる時間になると思っています。
柱となる考えは、ほとんどのアプリケーションが今後ソーシャル化し、大多数の産業はソーシャルデザインや友人との共同作業を中心とした仕組みに見直されるということです。』 2010年
PART3 使命(2012-2014)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART3
●よいチームとは
・『僕が思うよいチームとは、チームとして集まった時のほうが、個々でいる時よりもよい決断を下せる集団のことです。』 2013年
●新たな社訓
・『我が社の社訓を、「素早く行動し、破壊せよ」から「土台を固めた上で、素早く行動せよ」に変更しました。』 2014年
日本語にすると、強い表現だなと思います。原文は、We’ve changed our internal motto from “Move fast and break things” to “Move fast with stable infrastructure”.です。共通しているのは“Move fast”です。ちなみにモットー(motto)が英語であったことを初めて知りました。調べたところ明治時代に入ってきた言葉だそうです。
感想
「何故、カリスマになれたのだろう?」というのが疑問でした。
12歳の時にメッセージをやり取りするプログラムを作ったというのは明らかに天才少年です。しかし、世界規模で見渡せば、同じような天才はいると思います。
次に思ったことは、ご両親の理解と支援です。「ソフトウェア開発者を家庭教師として雇うとともに、近隣のマーシー大学でBASICプログラミングのクラスを受講させた」とあります。調べたところ、地元のアーズリー高校時代(15歳)の時の話のようです。高校に希望が見出せず中退しようとしたザッカーバーグに対し、ご両親は全寮制の名門私立高校フィリップス・エクセター・アカデミーへと転校を勧めます。
「やはり、裕福だったのが大きな要因だったのかな?」と思い、フィリップス・エクセター・アカデミーを調べてみました。そこには色々な発見と驚きがありました。
画像出展:「フィリップス・エクセター・アカデミー①」 こちらが高校のホームページのトップページです。
画像出展:「フィリップス・エクセター・アカデミー②」 最初の驚きは『入学選考に、ご家庭の経済状況には一切関係ありません』という掲示です。
画像出展:「フィリップス・エクセター・アカデミー③」 「本当かな?」と思って調べると、『年収$125,000(1ドル150円換算で約1875万円)未満の家庭は授業料が無料です。』となっていました。
(下の方に出ています)
画像出展:「フィリップス・エクセター・アカデミー④」 日本の私立の超進学校を想像し、「もっぱら勉強なのかな~?」と思って調べると、運動施設の充実には物凄いものがありました。運動以外の施設も充実しており、「とてもかなわない!」という感じです。
画像出展:「フィリップス・エクセター・アカデミー⑤」 日本では東京大学や京都大学を目指すためという印象ですが、エクセターには450以上の学術コースがあります。ハークネス教育アプローチとは楕円形等の「ハークネステーブル」を囲み、教師と生徒が対等な立場で自由に対話を重ねながら学ぶディスカッション型の教育法だそうです。
日本の高校は総じて、大学に“入るため”の勉強を教えるところという感じですが、米国のフィリップス・エクセター・アカデミーをみると、米国を引っ張っていくリーダーを育てること。そして、“大学で更に専門的に学ぶため”に実体験を通して、何を専攻しどこの大学に進学するのが自分にとって1番の選択かを判断できるようにするという感じです。
単純に、“カリスマ(特にビジネスや政治)”が出現するような土壌として両国の教育を比べるならば、圧倒的に米国の方が可能性は高いと思います。
脱線しますが、スポーツの世界に限ってみれば、幼少の頃から学びを求めて世界に出ていくケースもみられます。日本代表で活躍されている久保建英選手がスペインのバルセロナの下部組織(カンテラ)に入団したのは9歳です。そしてスペインに渡って育成を受けていました。国内ではJリーグが発足し最年少出場記録は15歳7ヶ月(高校1年生)です。若くして日本のトップリーグでプレーすることも夢ではなく、さらに、そこから世界への道も見えてきます。
ザッカーバーグが「何故、カリスマと言われるようになったのか」の理由の一つめは、ご両親の理解と米国の自由で深い教育システム(育成の在り方)にあったと思います。
二つめの理由は、ザッカーバーグの目標が“お金“ではなく、“自分の理想の実現”という高いものであり、目標達成のために一切の妥協を許さなかったことだと思います(理想とする物づくりへのこだわりと志の高さ)。これは以前、ブログにアップさせて頂いた“スティーブ・ジョブズ”と“ウォルト・ディズニー”とまったく一緒です。
このように考えた具体的なエピソードは2つです。
1.高校時代に開発した音楽再生ソフト「Synapse Media Player」
ザッカーバーグは、高校時代に開発した音楽再生ソフト「Synapse Media Player」に対し、マイクロソフトやAOLから100万ドル規模の買収・出資提案を受けていました。しかし、彼はこのオファーを一貫して拒否しています。詳細は添付資料をご覧ください。
2.慈善財団「Chan Zuckerberg Initiative」の設立
最初から慈善財団を作るのが目的だったとは思えません。また、30兆円を超える資産の使い道など途方もないものだと思いますが、慈善事業に資産を使うということは、本当に素晴らしい称賛されるべきことです。
画像出展:「Facebook創業者5.5兆円寄付と資産永久防衛策の慈善財団」
『SNSフェースブックの創業者マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)と妻のプリシラ・チャン氏が1日、自身が保有する同社株の99%を、夫婦で設立する慈善財団「Chan Zuckerberg Initiative」を通じて慈善活動に寄付すると発表した。寄付する予定の株式時価は現在450億ドル(約5兆5300億円)と、個人としては過去にほとんど例がないほどの巨額になる。』
三つめの理由は、米国が失敗に寛容で正当なチャレンジであれば評価する社会だからだと思います。スポーツの世界は失敗が当たり前、目標に向かって努力と工夫と強い信念で日々の練習を積み重ねて、課題を超えていくものです。
日本の政治やビジネスの世界は、前例が重要でリスクはなるべく取りたくないという意識が一般的だと思います。少なくとも、チャレンジは評価されるどころか、煙たがれるというのが実態ではないでしょうか。(これは「チャレンジ≠勝ち馬&チャレンジ≠評価」という理由が大きいと思います)
野球の世界では“大谷翔平”という日本人のカリスマ選手が誕生しましたが、特にビジネスにおいて、日本から世界的なカリスマ経営者が生まれる可能性は、起業に対する高くない評価と忖度が根強い日本の組織の力学においてはかなり難しいように思います。
※Meta Platformsの課題
IT、特にAIの進歩はSNSなどを通じての不正利用が拡大、巧妙化する原因にもなります。以下の表は2024年、2025年にニュースになったものの一覧です。Metaに限ったことではありませんが、社会は不正利用に対する企業側の迅速かつ適切な対応を求めおり、その対応を誤ると信頼を失うという大きなリスクも抱えていると思います。
あるニュース番組でジャーナリストの木村太郎氏が、「最近、ヴァンス副大統領の存在が大きくなっている」というお話をされていました。また、ヴァンス副大統領の著書が素晴らしいと絶賛されていました。 トランプ大統領より38歳若い副大統領は、次期大統領候補であることは確実です。その意味でも木村氏が称賛された本を是非読んでみたいと思いました。
ブログに書きたいと思ったことは、「ヴァンス副大統領の人柄(生い立ち)」と「ヒルビリーと白人労働者階層」についてです。アメリカといえば、カリフォルニアとニューヨーク、西海岸と東海岸が頭に浮かびます。日本でも都会と田舎では生活など大きく異なりますが、米国の都会と田舎は裕福なエリートと貧しい労働者に色分けされていることが少なくないようです。そして、黒人、ヒスパックより白人労働者階層の人々の方がむしろ厳しい生活をしているということを知りました。「同じ白人なのに」という率直な感覚こそが、今のアメリカが抱えている大きな問題の一つなのだろうと思います。
目次
はじめに
第1章 アパラチア―貧困という故郷
崇拝すべき男たち、避けられる不都合な事実
第2章 中流に移住したヒルビリーたち
1950年代、工場とそして豊かさを求めて
第3章 追いかけてくる貧困、壊れはじめた家族
暴力、アルコール、薬物・・・・・・場違いな白人たち
第4章 スラム化する郊外
現実を見ない住民たち
第5章 家族の中の、果てのない諍い
下がる成績、不健康な子どもたち
第6章 次々と変わる父親たち
―そして、実の父親との再会
第7章 支えてくれた祖父の死
悪化する母の薬物依存、失われた逃げ場
第8章 狼に育てられる子どもたち
生徒をむしばむ家庭生活
第9章 私を変えた祖母との3年間
安定した日々、与えてくれた希望
第10章 海兵隊での日々
学習性無力感からの脱出
第11章 白人労働者がオバマを嫌う理由
オハイオ州立大学入学で見えてきたこと
第12章 イェール大学ロースクールの変わり種
エリートの世界で感じた葛藤と、自分の気質
第13章 裕福な人たちは何を持っているのか?
成功者たちの社会習慣、ルールがちがうゲーム
第14章 自分のなかの怪物との闘い
逆境的児童期体験(ACE)
第15章 何がヒルビリーを救うのか?
本当の問題は家庭内で起こっている
おわりに
はじめに
●『私の人生の背景には、「民族」という要素がひそんでいる。民族意識の強いアメリカ社会では、往々にして、肌の色のちがいをあらわす言葉―「黒人」「アジア人」「特権的白人」―が大きな意味を持つ。この分類は、ときには役に立つこともあるが、私の人生の物語を理解するには、さらに深く掘りさげて考える必要がある。
私は白人にはちがいないが、自分がアメリカ人北東部のいわゆる「WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)」に属する人間だと思ったことはない。そのかわりに、「スコッツ=アイリッシュ」の家計に属し、大学を卒業せずに労働者階層の一員として働く白人アメリカ人のひとりだと見なしている。そうした人たちにとって、貧困は、代々伝わる伝統といえる。先祖は南部の奴隷経済時代に日雇い労働者として働き、その後はシェアクロッパー(物納小作人)、続いて炭鉱労働者になった。近年では、機械工や工場労働者として生計を立てている。
アメリカ社会では、彼らは「ヒルビリー(田舎者)」「レッドネック(首すじが赤く日焼けした白人労働者)」「ホワイト・トラッシュ(白いゴミ)」と呼ばれている。
だが私にとっては、彼らは隣人であり、友人であり、家族である。
アメリカ社会において、「スコッツ=アイリッシュ」は特徴的な民族集団のひとつだ。「アメリカを旅すると、スコッツ=アイリッシュが揺るぎない地域文化を一貫して維持していることに驚かされる」と、ある著述家が書き記している。「ほかのほとんどの民族集団がその伝統を完全に放棄してしまったのに対し、スコッツ=アイリッシュは、家族構成から、宗教、政治、社会生活にいたるまで、昔のままの姿を保っている
文化的伝統をこのうえなく大切にする姿勢には、家族や地域に対する深い愛情や、いちずな献身という好ましい側面がともなう一方で、多くの好ましくない面もある。私たちスコッツ=アイリッシュは、外見にしても、行動様式にしても、話し方にしても、とにかく文化的背景が異なる人やよそ者を好まない。
これから述べる私の人生を理解するには、私が自分自身を「スコッツ=アイリッシュのヒルビリーだ」と心の底から思っていることを知っておいてもらう必要がある。
民族意識がコインの片面だとすると、もう片面は地理的環境だ。18世紀に移民として新世界にやってきたスコッツ=アイリッシュ(アイルランド島北東部のアルスター地方からアメリカに移住してきた人々のこと。
画像出展:「そこは希望の島であり、嘆きの島だった。移民の島のものがたり」
『1892年から1954年まで、1200万人を超える移民がエリス島を通過してアメリカへ入国した。超満員の船に乗り、荒波を乗り越えてきた彼らの多くは子どもたちであり、家族と共により良い人生を送るために夢を胸にアメリカの扉を叩いた。』
注)欧州から米国への移民は17世紀から始まりました。
アルスター地方にはスコットランドから移住してきたプロテスタントが多く住んでいた)は、アパラチア山脈に強く心を惹かれた。アパラチアは、南はアラバマ州やジョージア州から、北はオハイオ州やニューヨーク州の一部にかけての広大な地域だが、グレーター・アパラチア(大アパラチア)の文化は驚くほど渾然一体としている。』
●『グレーター・アパラチアが民主党の地盤から共和党の地盤へと変わったことが、ニクソン以降のアメリカ政治の方向を決めることになった。そして、白人労働者階層の将来がどこよりも見えにくいのもまた、グレーター・アパラチアなのである。社会階層間を移動する人が少ないことに加え、はびこる貧困や離婚や薬物依存症など、私の故郷はまさに苦難のただなかにある。
画像出展:「綜合的な教育支援の広場」
『「大アパラチア」といわれる地域は、最も保守的なプロテスタント教会が多く、アパラチア地方に由来を持ちます。北アイルランド、イングランド北部、スコットランドのローランド地方といった国境紛争で荒廃した地域から来た入植者たちが築いた所で、「レッドネック」と呼ばれる白人の肉体労働者たちが住む土地です。』
したがって、私たちが悲観的になるのも当然といえる。驚嘆すべきは、さまざまな世論調査の結果、アメリカで最も厭世的傾向にある社会集団は白人労働者階層だという点である。
大半が想像を絶する貧困に苦しんでいるラテン系の移住者と比べても、また、物質的な面での成功の見通しという点で白人に後れをとりつづけている黒人と比べても、白人労働者階層は悲観的なのだ。
現実というのはつねに、ある程度の皮肉を許容するものだが、私のようなヒルビリーがほかの社会集団(私たちよりもあきらかに困窮している集団もある)よりも人生を悲観しているという事実は、何か別の事態が進行していることを示している。
そして、実際そうなのだ。私たちヒルビリーは、かつてないほど社会的に孤立していて、その状態を次の世代に引き継ごうとしている。
私たちが信じていることも変わりつつある。ヒルビリーの信念は教会を中心に形づくられるが、そこでは感情に訴える言葉が重視され、子どもたちが成功するために必要な社会的サポートを軽んじる姿勢が見られる。
私たちの多くは、労働力という面から見ると落伍者であり、よりよい機会を求めて新天地を切り拓くのを諦めてしまっている。ヒルビリーの男たちは「男らしさの危機」に直面し、その男らしさを重視する文化こそが、変わりゆく社会でヒルビリーの成功を妨げている。
私たちのコミュニティの現状について語ろうとすると、次のような話をよく耳にする。
「もちろん、白人労働者階層の先行きは暗くなる一方だ。だが、きみは卵よりもニワトリが先に生まれると考えているのではないか。彼らのなかで離婚する者が増え、結婚する者が減り、彼らが幸福を感じられなくなっているのは、経済的機会がないからだ。仕事に就くチャンスがありさえすれば、生活状態も改善されるはずだ」
私も同じように考えていた時期がある。若いころには、無理やりそう信じ込もうとしていた。
もちろん、その考えは理にかなっている。仕事がなければストレスがたまる。生活もままならない状況ではなおさらだ。アメリカの中西部工業地帯の製造業が衰退するにつれて、白人労働者階層は、経済的安定も、揺るぎない家庭も、家族生活も失ってしまった。
だが、気難しい教師の役割を演じることもある。私たちが経験している経済的な不安定さをめぐるこの考えは、十分なものとはとうてい言えない。』
●『機会の平等について語るときには、ここまで書いてきたような事実を忘れてはならない。ノーベル賞を受賞した経済学者たちは、中西部工業地帯の衰退や、白人労働者階層の働き手の減少を心配する。製造業の拠点が海外に移り、大学を卒業していない若者が中流層の仕事に就くことは難しい、というのが経済学者たちの主張だ。
たしかにそのとおり。私も同じ心配をしている。
だが、私が書こうとしているのは、それとは別の話である。産業経済が落ちこむなか、現実の生活で人々に何が起こっているのかをここに書きたい。最悪の状況に人々はどのように反応しているのか。社会の衰退を食い止めるのではなく、それをますます助長する文化とはどのようなものなのか、そうしたことを書こうと思う。
タイル会社の倉庫で私は目にした問題は、マクロ経済の動向や国家の政策の問題よりもはるかに根が深い。あまりにも多くの若者が重労働から逃れようとしている。よい仕事があっても、長続きしない。支えるべき結婚相手がいたり、子どもができたり、働くべき理由がある若者であっても、条件のよい健康保険付きの仕事を簡単に捨ててしまう。
さらに問題なのは、そんな状況に自分を追い込みながらも、周囲の人がなんとかしてくれるべきだと考えている点だ。つまり、自分の人生なのに、自分ではどうにもならないと考え、なんでも他人のせいにしようとする。そうした姿勢は、現在のアメリカの経済的展望とは別個の問題だといえる。
本書で焦点をあてるのは、私がよく知っている人たち、すなわちアパラチアに縁のある白人労働者階層である。しかし私は、そうした人たちのほうが同情に値すると主張したいわけではない。本書は、黒人よりも白人のほうが強い不満を抱いている理由を論じるものではない。読者の皆さんには、本書を通じて、人種というレンズを通したゆがんだ見方をするのではなく、「貧しい人たちにとって、社会階層や家族がどのような影響を与えるのか」を理解してほしい。』
●『この物語は、私の人生をつくりあげてくれた人たちの力を借りずには語れない。したがって、本書は個人的な回想録であるだけでなく、家族の回想録でもある。つまり、アパラチアに暮らすヒルビリーの家族の目を通して見た、社会的機会と社会的地位上昇の歴史を描いている。』
第4章 スラム化する郊外
現実を見ない住民たち
●『1970年には白人の子どもの25パーセントが、貧困率10パーセント以上の地域に住んでいた。それが2000年には白人の子ども40パーセントにまで上昇した。いまは、ほぼ確実にさらに高くなっているだろう。2011年のブルッキングス研究所の調査によると、「2000年と比べると、2005年から2009年のあいだに、極端に貧しい住民には、地元生まれの白人で、高卒か大卒で、家を所有していて公的援助を受けていない人が増えた」
つまり、住環境の悪い地域はもはや都市部のスラムにとどまらず、郊外にまで広がってきたということになる。
この現象の原因は複雑だ。ジミー・カーターの地域社会再投資法から、ジョージ・W・ブッシュのオーナーシップ社会まで、連邦政府の住宅政策は、家を持つことを国民に積極的に勧めてきた。しかし、ミドルタウンのようなところでは、持ち家にはきわめて大きな社会的コストがともなう。ある地域で働き口がなくなると、家の資産価値が下がってその地域に閉じこめられてしまうのだ。引っ越したくても引っ越せない。というのも、家の価格が底割れし、買い手がつく金額が借金額を大幅に下回ることになるからだ。引っ越しにかかるコストも膨大で、多くの人は身動きが取れない。もちろん、閉じこめられるのはたいていが最貧層の人たちで、移動できるだけの経済的余裕のある人は去っていく。』
●『親たちにとって、アメリカンドリームとは前に進むことだ。肉体労働は立派な仕事だが、それは親たちの世代の仕事で、私たちは何か別のことをしなくてはならない。前進するとは、社会的に上昇することだ。そのためには大学に行く必要がある。
だからといって、この町では、たとえ高等教育を受けなくても、恥ずかしがることもなければ、何か問題があるという感じもしなかった。大学に行かないのがあたりまえという感覚は、はっきりと示されることはなかった。教師は、おまえは大学に行くには頭が悪すぎる、あるいは貧乏すぎるなどとは決して言わない。だがそういった雰囲気が、まるで日々吸いこむ空気のように周りに満ちていた。私の家族でも、大学に行った者はいなかった。年上のきょうだいも友人たちも、キャリアの見とおしがどうであれ、ミドルタウンにとどまることに完全に満足していた。誰でも、周囲には少なくともひとりは、非正規雇用か完全に無職の若い大人がいた。もちろん、ほかの州の有名校に知り合いなどいなかった。
ミドルタウンでは、公立高校に入学した生徒の20パーセントは中退する。大学を卒業する人はほとんどいない。州外の大学へ進学する者は、ほぼ皆無といっていい。生徒たちは、自分の将来に多くを望まない。周囲の大人たちがそうで、生徒たちはそれを見て育っているからだ。』
第5章 家族の中の、果てのない諍い
下がる成績、不健康な子どもたち
●『冒険は始まったばかりだった。それまでも、オハイオの外に旅したことはある。祖父母と車でサウスカロライナやテキサスに行ったことがあり、ケンタッキーにも定期的に足を運んでいた。
ただ、これまでの旅では、家族以外と話すことはほとんどなかった。旅先で大きなちがいを感じることもなかった。ところが、カリフォルニア州ナパは、まるで異国のようだった。カリフォルニアでは、ティーンエイジャーのいとこたちや、いとこの友人たちと過ごし、毎日、冒険があった。ゲイ・タウンとして有名な、サンフランシスコのカストロ地区にも行った。ゲイの人たちは別にいたずらしようとおまえを狙っているわけではないと知っておくべきだ、といとこのレイチェルが言ったのだ。
別の日にはワイナリーを訪れた。またほかの日には、いとこのネイトの高校でフットボールゾーンの練習を手伝った。どれも胸躍る経験だった。会う人会う人に、私のしゃべり方はケンタッキー出身の人のようだと言われた。もちろん、ある意味では私はケンタッキー出身だ。そんなふうにみんなに、私はおかしなアクセントがあると思われるのはうれしかった。
それはともかく、滞在しているうちに、カリフォルニアはかなり特殊な場所だということがわかってきた。それまでにピッツバーグにも、コロンバスにも、レキシントンにも行ったことがあった。サウスカロライナとケンタッキー、テネシー、それにアーカンソーでもかなりの時間を過ごした。それなのになぜ、カリフォルニアはこんなにほかとはちがうのだろうか。
私がそれ以前に訪れていた南部と中西部の工業都市は、それぞれ地理的には隔たっていて、地域経済の構造も異なるものの、結局のところいずれの都市も、外見も行動もうちの家族とあまり変わらない人たちの住む土地だった。祖父母をケンタッキー東部からオハイオ西部へと連れて行ったのと同じ、ヒルビリー・ハイウェイにある都市だったのだ。
同じものを食べて、同じスポーツを観て、同じ宗教を信仰していた。だから、裁判所で見かけた人たちに、あれほど親近感を覚えたのだ。私と同じように、みんななんらかの意味でヒルビリー移住者だったのだ。』
第6章 次々と変わる父親たち
―そして、実の父親との再会
●『教会に定期的に通っている人は、まったく教会に行かない人と比べると、犯罪者になる可能性が低く、より健康で長生きし、稼ぎも多い。高校中退者も少なく、大学を卒業する人が多い。マサチュ―セッツ工科大学の経済学者、ジョナサン・グルーバーは、そこには因果関係があるとまで言っている。人生がうまくいっている人が、たまたま教会に通っているのではなく、教会がよい習慣をつくるのに寄与している、というのだ。
宗教的な習慣という面では父は、南部にルーツを持つ文化的に保守的なプロテスタントの典型だった。とはいえ、典型的な南部出身プロテスタントのイメージは、実は現実を正しく反映したものではない。というのも、南部の人たちは、宗教にしがみついているというイメージとは裏腹に、父よりむしろ祖母に近いからだ。非常に信心深いものの、教会コミュニティには帰属していないのだ。実際、保守的なプロテスタントで教会に定期に通っているのは、私が知っているなかでは、父とその家族だけだった。バイブル・ベルトの真ん中では、礼拝に参加する住民の割合は、意外にもかなり低い。
とりわけアパラチア、なかでもアラバマ北部とジョージア、オハイオ南部では、一般に抱かれるイメージとはちがい、中西部、つまりマウンテン・ウェストの一部と、ミシガンとモンタナのあいだのほとんどの地域と比べても、礼拝参加率が低い。奇妙なことに、私たちは、自分たちが実際によりも頻繁に教会に行っていると思い込んでいるのだ。ギャラップ(世論調査会社)の最近の調査では、南部と中西部の人たちの礼拝参加率は国内最高だと報告されている。ところが実際には、南部の住民で礼拝に参加している人はとても少ない。
こうした欺瞞は、文化的なプレッシャーが原因で生じるのだろう。たとえば、私が生まれたオハイオ南西部の大都市圏、シンシナティやデイトンでは、礼拝に出席する人の率はきわめて低く、超リベラルなサンフランシスコと同じぐらいだ。サンフランシスコにいる知り合いで、教会に行っていないことを恥じる人はいない。むしろ教会に行っていることのほうを恥ずかしがる人がいる。
オハイオでは正反対だ。子どもだった私ですら、教会に定期的に行っているかと尋ねられたら、行っていると嘘をついただろう。ギャラップの調査結果を見るかぎり、そういったプレッシャーを感じているのは、私だけではないようだ。
この状況はショッキングだ。宗教組織はいまでも、人々の生活のなかで肯定的な役割を果たしている。しかし、製造業の衰退や失業、薬物依存、家庭崩壊にさいなまれているこの国の一部の地域では、礼拝に参加する人の数は激減している。
父が通っていた教会は、私のような人間が切実に必要としているものを与えくれた。アルコール依存症の人には支援コミュニティを提供し、自分はひとりで依存症と闘っているのではないと感じさせてくれる。妊娠中の母親には、無料の住まいと職業訓練、子育て講座が用意されている。失業している人には、教会仲間が仕事を与えたり、紹介したりする。父が経済的に困窮していたときには、教会の信者が一致団結して、父一家のために中古車を買ってくれた。
私の周りの壊れた世界と、そこで格闘している人たちにとって宗教は、目に見える援助を与えてくれ、信徒たちを正しい道につなぎとめるものだったのだ。』
第15章 何がヒルビリーを救うのか?
本当の問題は家庭内で起こっている
●『私たちのコミュニティが抱える問題に“解決策”はないのかと、ときおり尋ねられることがある。何を求められているのかはよくわかる。魔法のような公共政策や、政府の革新的な施策を思い浮かべているのだろう。だが、私たちが抱えている問題は、家族、信仰、文化がからむ複雑なものであり、ルービックキューブとはちがう。誰もが考えるような形での“解決法”はおそらく存在しないだろう。
ホワイトハウスで働いた経験があり、労働者階層問題に深い関心を持つ友人が、私にこう言ったことがある。「この問題については、根本的な解決は不可能だと考えるのが妥当だろうね。そこらじゅうでたえず問題が起こっているから。でも、境界線のぎりぎりのところにいる人たちに手を差し伸べることなら、できるかもしれない」
私にも、たくさんの人が手を差し伸べてくれた。わが身を振り返ると、自分の人生の方程式には多くの変数があったことに気づく。母や継父が祖父母とのかかわりを拒否しようとして遠くに引っ越したときも、いつもそばにいてくれた祖父と祖母。すぐにいなくなってしまう父親候補のかわりに、私を温かく見守ってくれた一族の男たち。多くの問題を抱えながらも、私に生涯続く向学心を与えてくれた母。私のほうがからだが大きくなってからも、いつも私を守ってくれた姉。私が遠慮したにもかかわらず、部屋を貸してくれ、何よりも、愛し合う幸せな夫婦の姿を初めて見せてくれたおじとおば。手を差し伸べてくれた教師、親戚、友人たち。
方程式からどの人が欠けても、私の人生はだめになっていただろう。逆境に打ち勝って成功を収めた人たちから、似たような話を何度も聞いたことがある。
アパラチア州立大学で編入性のようなサポートオフィスの責任者を務めるジェーン・レックスも、そのひとりだ。私と同じく労働者階層の家庭で育った彼女は、一族のなかで初めて大学に入学した。結婚して40年近くになる彼女は、3人の優秀な子どもを育て上げている。
なぜ人生を変えることができたのかと彼女に尋ねれば、安定した家庭が将来をコントロールできる自信とやる気を与えてくれたからだと答えるだろう。そして、広い世界を知ることは将来の目標を見つける力になるとも教えてくれるはずだ。「身のまわりにお手本になる人が必要だと思う。私の場合には、仲のいい友だちの父親が銀行の頭取をしていたの。その人はほかの人とはちがっていた。彼を見て、世の中にはまったくちがう人生があるのを知った。おかげで、自分の将来に希望を持つことができたのよ」』
感想
ヴァンス副大統領の魅力は白人労働者階層が直面している貧困の中で暮らし、そして、その厳しい環境の中から抜け出してエリート層に上りつめたことだと思います。
そのヴァンス副大統領の話からは逸れてしまうのですが、白人労働者階層が抱える本質的な問題を考えてみました。人が人らしく心の豊かさをもって生き生きと暮らすために、“希望”と“人とのつながり”はとても重要だと思います。一方、“薬物中毒”と“銃犯罪”は心を喪失した人々に罠を仕掛けるように待ち構えています。薬物は人生を根底から破壊してしまう脅威であり、銃は犯罪の連鎖を生んでしまう恐ろしい道具です。
“希望”と“人とのつながり”を生み出すことと、“薬物中毒”と“銃犯罪”をなくすことは両方とも必要ですが、どちらか一方を先に手をつけなければならないとすれば、私は後者の問題解決を優先すべきと思います。
“希望”と“人とのつながり”の無い、暗く孤独な人生を歩んでいたとしても、“薬物”に手を出さなければやり直すチャンスはあると思います。また、“銃”がなければ犯罪者となって、多くの人を死傷させる事件を起こす可能性も、それによって刑に罰せられる可能性も減ります。
“希望”や“人とのつながり”は出会いやきっかけによって劇的に変化する可能性を秘めていると思いますが、そのような機会に巡り合うためにも、少なくとも、“薬物中毒”と“銃犯罪”とは無縁であることが極めて大切だと思います。
この“薬物中毒”と“銃犯罪”に対し、共和党(トランプ政権)はどのような対策を立てているのか調べてみようと思い、まず、“薬物中毒”に関し日本と米国の違いをPerplexity(AI)に尋ねてみました。
こちらの資料は米国と日本の薬物および銃の問題を地理的・歴史的要因などから比較しています。
銃規制に関して、米国では1791年、憲法修正第2条にて「武器保有権」を保障したことから、銃は拡がっていきました。トランプ大統領は1990年代には一部の銃規制を支持していたことも事実とされていますが、共和党の大統領候補となった2015年以降、NRA(National Rifle Association of America[全米ライフル協会])支持と保守層迎合のために規制反対色を鮮明にしています。
また、「武器保有権」を重視し、「善良な市民が銃を持つことで治安が守られる」という思想を強く主張しています。過去の発言を見ると「銃を持った悪人に対抗できるのは銃を持った善人である」「規制ではなく警備強化こそ必要」など、規制より“自衛”や“抑止力”への信仰が根本にあります。
日本では銃規制が徹底されていますので、「どうして銃規制をしないのだろう?」と単純に思ってしまいますが、そこには選挙対策という部分も大きいと思います。
また、現実的にここまで拡がってしまった銃を規制することは、憲法の「武器保有権」ということもあり、かなり難しいのだろうと思います。
確かに本質的な問題は銃の保持ではなく、犯罪に使われることにあるので、「犯罪をさせない」という手段も選択肢であることは間違いではありません。トランプ政権では、銃規制ではなく「武装による自衛」「警備の実効性強化」に資源を注いだ政策を数多く実際に執行しているとのことです。現実的とは思えませんが、もし、学校や地域、あるいは教会のようなコミュニティを通じて、「銃犯罪の取り締まり」という問題解決に住民自身が一致団結して立ち上がることがあるならば、「人のつながり」というポジティブなテーマに転換させられるかもしれません。
「希望」と「人のつながり」が最重要ですが、その前に、「薬物中毒」と「銃犯罪」の問題をクリアするという優先順位は悪くないと思います。
ニューヘイブン(New Haven)
ヴァンス副大統領はイェール大学の法科大学院(Yale Law School)で学んでいたとのことです。
私事ですが、3度の海外一人旅(1回は仕事)、2度目はニューヨークでした。
その一人旅では、イェール大学にも足を延ばしていました。ニューヘイブンは大学の最寄り駅です。お恥ずかしい話ですが、「天国にやって来た!」などと浮かれて写真をとってしまいました。懐かしさから少し写真等を貼りたいと思います。(天国=Heaven)
World Trade Centerの写真を撮った記憶はあまりなかったのですが、2枚見つかりました。左はエンパイアステートビルから、右はリバティ島から撮ったものです。
World Trade Centerの中2階(メザニン)にディスカウントチケットの店舗があり、ミュージカルのチケットを買うためにWorld Trade Centerのビルの中には入ったのですが、「エンパイアステートビルに上ったから、まぁ、いいか」と思い、屋上には上がりませんでした。また、この店舗がどちらの棟にあったのか、まったく記憶は残っていませんでした。
画像出展:「AFP BB News」
南棟は2回目の攻撃を受けたタワーでした。
この日、同じ営業部の同期のN君がニューヨーク出張でこの近くのビルに宿泊していました。そのようなこともあり、この悲劇的な事件は強く記憶に残っています。
●成功は次なる成功の始まり
・『最高の仕事をする人々は自発的で、生来の好奇心があり、次は何をしろと教えられる必要のない人々である。そういう人になれるよう努力しよう。起業家は自分の内面から湧き起こる力に駆り立てられる。すばらしい生き方であり、人生に対する姿勢としても見事である。』
●常に大局観を持て
・『人は時として問題にばかりかまけ、チャンスに目を向けるのをおろそかにしてしまう。細部を考慮したり、ビジョンの細かい点に不必要に気を取られたりするようなときでも、大局観は持っておくべきである。私は常にこの大小二つの視点を同時に持つよう努めている。おかげで考えが硬直化せずにすむし、自分は成功を宿命づけられているのだとあらためて思い直すことができる。なぜそんな宿命がわかるのかって? 私もソロー(ヘンリー・ディヴィッド・ソロー)と同じく、人間は失敗するようにではなく、成功するように生まれついていると信じているのだ。私に信じられるのなら、あなたにも信じられるはずである。
その方法を教えよう。第一に、問題はあってあたりまえと思うことだ。問題が一転、あなたのプラスに働く場合もあるし、時には驚くような出来事が起こったりもする。私は1990年代に財政問題を抱えていたとき、ウォルドルフ・ホテルでの晩餐会に出席しようかするまいかと逡巡したのを覚えている。何かを祝ったり誰かと話したりしたい気分ではまったくなかったが、それでも正装して出かけて行ったところ、隣の席の人と意気投合し、しかもその男性は銀行家だった。天の配剤というほかはない。しかしそれは私の予想だにしない出来事だった。ネガティブな考えにはまっていた私だったが、礼を欠いてはならないという意識が勝った。そして狙ったわけでもないのに、出席したというただそれだけで、事は明らかに良い方向に転がりだしたのである。
第二に、決意を揺るがさないことである。大局観を持つと、それに見合う意志の強さも必要になる。「ローマは一日にしてならず」ということわざがあるが、まさにそのとおり。楽な道はない。あるといいたいのはやまやまだが。しかし心から好きなことをしていれば、それほど苦労は感じないはずだ。ミケランジェロやベートーヴェンのような人々が大変な苦難に見舞われたのは誰もが知るところだろう。だが彼らは打ち克ち、数百年後の今もその名は生き永らえている。他の人々が目標の達成までにどんな苦労をしたかを知ると気が楽になる。往々にして、事前にいくら調査しても、やってみなければどれほどの努力が必要かはわからないものだ。だから不屈の意志は絶対に必要である。
●成果を達成する方法は人それぞれ
・『若い頃、ある人からいわれたことがある。人や物事を曇りのない目で見るには判断をまじえないのがいちばんだ。「これは正しい」「あれはまちがっている」と色分けしたり、他人に望む反応をそれとなく指図したりするのではなく、事実をただ見て記録するのだと。これはジャーナリスティックなアプローチで、意思決定が完全に個々にゆだねられる。要するに、偏向のない報道である。少しだけ余分に考えることが求められるが、今の時代、人はもう少し考えるべきではないかと私は思うのである。何かを語るとき自分のやり方がすべてだと思ってはいけない。人生の多様性に感謝し、生まれ持った自分だけの才能に磨きをかける時間をつくるべきだ。』
●自分のスタンダードを設定せよ
・『あなたが今すぐ大きな発想ができるようになるために自身に問いかけてほしい質問がある。あなたの創造性の資本は何か。あなたが世の中に提供できるものは何か。経験や勉強から身につけた、あなたの価値とは何か。あなたは自分の潜在能力を自覚しているか。いざ前に踏み出そうというときに事をなす力があなたに備わっている。こういう筋道で考えるようになるだけで、あなたの価値は何倍にもなるはずだ。』
●直観に従え
・『カール・ユングによれば、人間の意識はふだん、脳の能力のわずか5パーセントしか使っていないという。眠っている95%の無意識、潜在意識を利用できるようになれば、目覚ましい成果が上がるだろう。私たちを助けてくれる直観力の裏にあるのはこの無意識なのではないかと時々思う。
これは心の声を聞くということにも関係する。サバイバル訓練や大事な試験を受けている最中など、いつもよりも注意力が高まった状況下では、いかに自分の反応に慎重になるかあなたは気づいているだろうか。急に、発言一つ、行動一つが重大な意味を持つようになるのだ。自分にも直観があると気づくときである。論理的思考の結果と本能の訴えが食い違う場合もある。理想をいえば、その両方を鍛え上げてベストな意思決定ができるようにすべきである。』
●ビジネスの世界で成功するために知っておくべきこと
・『私たちの言葉と行動がやがては誠実な人、あるいは不誠実な人という評判につながっていく。私くらい長くやっていると、ありきたりの正直さがいかに貴重かがわかる。ビジネスマンとして、どんな局面も切り抜けられる強みとなるのだ。
もう一つの重要なスキルは交渉力である。私の交渉スキルについて語ってほしいとあちこちからよく頼まれるが、成功する交渉にはバランスがある。多くの人が見落とすところだ。双方が得をするのが最高の交渉である。妥協もしなければならない。つまり相手の言い分に注意深く耳を傾けるということだ。それができれば、良い結果が出る。ビジネスはそれ自体がアートだ。強力な交渉スキルは成功を容易にするために必要なテクニックの一つである。
私はよく人前でスピーチするが、いつも強調しているのが情熱の大切さである。自分のしていることを愛していなかったら、成功の確率は大幅に低下する。苦しいときを乗り切るのもはるかに難しくなるだろう。情熱は大きなことを成し遂げるのに必要な立ち直る力を与えてくれる。ミケランジェロは同時代のローマ教皇や政治家の誰よりも息長く名前が残っているが、その理由は彼が世界に残したものがそれだけ大きかったからに尽きる。しかも大きな困難をものともせずやり遂げたのである。ミケランジェロは妥協しない男だった。彼が自分の仕事に情熱を傾けていたことは疑いの余地がない。物事がうまくいかないときは、彼のような人間、精神と行動において自分の芸術を究めることを第一の、至高の使命として掲げ続けた人間を思い出すといい。
私が成功の要素として挙げる二つ目のポイントはあきらめないことである。身の周りで、あるいは自分自身に何が起きても、足を止めず前に進み続けなければならない。これも一種のポジティブ・シンキングであるが、はかりしれないパワーがある。こういう姿勢がもたらすものとして思い浮かぶのは「不屈さ」である。私はひたすら歯を食いしばることで大きな挫折を何度も乗り越えた。屈することもあきらめることも拒んだ。私にとってそれは目的を貫くことであり、重大なレベルの敗北を喫したり妨害をされたりしてはならないということである。目的を曲げずにいれば、大きな成果が得られる。
「不屈さ」とともに好きなもう一つの言葉は「粘り強さ」である。ビジネスに関しては、この二つはほぼ同義かもしれない。粘り強くあることが、長期的にはあなたを不屈にする。昔からいうカメとウサギの競争の話は今にも通じる。
グローバル化する現代においては、世界の出来事に目を配る大切さも強調しておきたい。アメリカは孤立主義者になってはならない。アメリカは超大国ではあるかもしれないが、その真に意味するところはそれだけ重い責任を担っているということだ。こういう立場にあるからには、今まで以上に敏感に、配慮を行き届かせ、相手の気持ちに共感できなければならない。権力は最大限の思いやりをもって使われたとき、最もその良さを発揮する。』
・『本質的な価値は現代の市場でおろそかにされてきた価値観である。すべてが金銭で測られ、くっきりと白黒がつけられるものになってしまった。ビジネスにはたしかにそういう価値観が必要だ。私たちは目に見えるニーズを抱えた目には見える世界に生きている。しかしあえていいたい。私はこの世の価値観では測れない何か、つまりお金だけではもたらされない価値を示してくれる曖昧な、グレーな領域をしばしば見ようとする。ほとんどの人はそれが何か―金銭的価値を超えたもの―を知っていると思う。ある収集家の話を読んだことがある。彼はアートで一財産築いたが、最高の宝物は亡くなった息子が友人に描いてもらった息子の肖像画だったという。その肖像画はピカソやマティスやモネやミクロの作品と並んで掛けられていた。収集家にとっていちばん大切なのはその絵だった。その絵の持つ本質的な価値は、巨匠たちの作品の持つ何百万ドルの価値を超えていた。収集家は亡くなったとき、息子の絵を購入した人にすべてのコレクションを譲った。息子の絵の値段は10ドルだった。
私が本質的な価値観の話をするのは、ビジネスマンとして、これが毎日のビジネスに誠実さを、この世の価値観では測れない何かさえももたらしてくれるからである。この世の多くがお金で動くのはやむをえないことだが、すべてお金で換算できるわけではない。グレーな領域を探そう。それはあなたのビジネスセンスだけでなく、人生をも高めてくれる。』
感想
トランプ大統領のご経験からの貴重なお話でした。大変に参考になりました。不思議だったのは破壊的なトランプ政権による政治と、この素晴らしい本の内容に大きな矛盾は感じなかったことです。
関税に関してはいろいろなことを調べた結果、少し理解できるようになりました。
79歳という年齢で、米国大統領という激務に立ち向かっているトランプ大統領の計り知れないエネルギーの凄さをみると、大統領になった1番の目的が自らの富や名声にあるとは思えません。トランプ大統領を突き動かしているのは、「米国の危機感」のように思います。この危機感の背景にあるのは「中国の台頭」ということです。
鄧小平により「経済の近代化」と「対外開放」が国家戦略として決定されたのが、1978年12月。そして、中国は自由経済(市場メカニズムや民間の利益追求の容認)を導入しました。これは中国の「歴史的な転換」とされています。2000年初頭には「世界の工場」と言われるようになり、2001年に中国が世界貿易機関(WTO)へ加盟したことで、グローバル・サプライチェーンに本格的に組み込まれ、多国籍企業の工場・調達が中国へ集中しました。
1.米国と中国の競争
1)自動運転
●2025年、米国は技術面で先行し、中国は実用化と商用展開の規模・スピードで先行しています。
2)AI
●AIは単なる道具としての情報処理・伝達を越えて、「自ら考え、創造して提案できる」ことで、情報革命の枠組みと社会の在り方自体を根本から変える力を持つと考えられており、第二の情報革命とされています。
●中国はAIを国家発展と国際競争の中核と位置づけ、大規模な投資・応用・規制のバランス型戦略を追求しています。
●中国は「AIの社会実装」「スマート都市管理」「データ活用の量とスピード」という側面で米国を凌ぐ優位性を示しています。
●DeepSeekが米国企業のLLMより優れている主な点は「開発・運用コストの圧倒的な低さ」と「高い性能・推論力」、「完全無料・オープン戦略」にあります。
3)宇宙開発
●全体として米国は民間主導の技術革新・国際協力で優位、中国は国家主導・軍事技術・計画遂行力で強みが顕著です。
4)量子コンピュータ技術開発
●米国は「民間技術革新と商用化」、中国は「国家体制・量子暗号通信・政府主導の投資規模」などに強みがあり、両国とも世界の量子覇権を巡り競争が激化しています。
2.中国の脅威
1)権威主義国家
●国旗を比べると、明らかに国家の在り方が異なっていることが分かります。
画像出展:「国旗の由来・歴史の資料室」
中国は権威主義国家です。国旗にある大きな星は中国共産党を、これを囲む小さな星は労働者、農民、知識階級、愛国的資本家の人民階級を表すとされています。つまり、国の最高権威(大きな星)は中国共産党ということです。
画像出展:「国旗の由来・歴史の資料室」
米国旗の3色にはそれぞれ象徴的な意味があります。赤はvalor and bravery(勇気・勇敢・勇猛)、白はpurity and innocence(純粋・純真・潔白)、青はvigilance, perseverance, and justice(警戒心・忍耐・正義)です。
2)トランプ政権による国家非常事態宣言と承認プロセス
●国家非常事態宣言の是非はよく分かりませんが、トランプ大統領の危機感が強く、その結果として「国家非常事態宣言」が増えていると思います。
分断を煽るかのような民主党への攻撃は、2021年の「アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件」につながったと思います。これは絶対にあってはならない深刻な事件です。
一方、何故、民主党を徹底的に攻撃するのかという理由を考えると、根底にあるのはやはり「中国に対する危機感」であり、それは民主党政権には任せておけないという、もう一つの強い「危機感」ではないかと思います。
諸外国において仮想敵国をつくることで、国内の支持を固めるという外交的政治手法がありますが、民主党への執拗な攻撃は民主党政治に不満をもつ人々からの支持を強固にするための方策だろうと思います。まず岩盤支持層を固めること。そして景気の安定、雇用の提供、生活水準の確保という経済政策に力を注ぐことで、無党派層からも多くの票を得ようという作戦ではないかと思います。
トランプ大統領を養護するつもりはないのですが、『トランプ思考』を拝読させて頂くと、今起きている数々の問題は、「危機感と優先順位」(選挙に勝たなければ自らが政治を変えることはできない)からくるものではないかと思われます。
「世界の工場」からサプライチェーンにまで広がった中国の巨大な力は、電気自動車の普及と自動運転においても確実に進捗しています。AIにおいても高度なGPUによる輸入制限によって、結果的にDeepSeekという凄いLLMを作り上げてしまいました。また、宇宙開発でも量子コンピュータ技術開発でも激しくしのぎを削っています。
世界のAIをリードするトップ企業は米国の独壇場になっていますが、技術力や人材教育等においては、中国は権威主義国家として迅速な意思決定に基づき、着々と力をつけています。
このような世界情勢において、「世界の工場」、「サプライチェーン」にメスをいれ、今後の、AI、宇宙、量子コンピュータ技術における米国の優位性を維持しつつ、かつ国内の雇用を確保するとともに、老朽化した国内インフラを再生させ、強いアメリカ合衆国に作り変えたいというのが、トランプ大統領の1番の目的ではないかと思います。
トランプ大統領の強引な政治手法に関しては、常に大きな懸念がつきまとい理解することは容易ではありませんが、権威主義国家の意思決定の迅速さは民主主義国家の弱点でもあり、また、権威主義国家の中国が更に巨大化することは、西側諸国、民主主義国家全体の脅威となるため、その点を考慮すれば強いアメリカの存在、MAGA(「Make America Great Again」)は一つの選択肢のように思います。
大統領令であっても憲法や法律に反する内容の場合、議会が根拠法律の改正、予算不認可、さらには裁判所が差し止めや違憲判断をすることで発効停止や撤回とすることは可能です。これは主権が国民にあるからです。
一方、中国では共産党ファーストです。個人や企業よりも重視されるのは共産党の方針です。権威主義とは国家にとっての合理性が優先される非常に怖い政治です。
AIの進歩はまだまだこれからだと思います。その革新の最大の課題は電力供給の問題のようです。対策は色々あるようですが、Amazon、Microsoft、Googleなどハイパースケーラーの設備投資の規模とスピードを考えると、電力供給の問題はAIの分岐点にもなるような大きな問題だと思います。
ご参考3(2025年11月26日):“マンハッタン計画に匹敵するAI構想を開始する大統領令に署名”
『ドナルド・トランプ大統領は月曜日の午後、米国の人工知能の研究、開発、科学的応用を加速させるための新たな連邦政府の取り組みを開始する大統領令に署名した。』
これは、AIなど中国との激しい競争を意識してのものだと思います。
ご参考4(2026年1月12日):“トランプ大統領が語る、成功を導く7つの鉄則”
こちらは“ばっちゃまの米国株”さまより拝借した約11分の動画です。
少し極端な印象はありますが、素晴らしいスピーチだと思います。
ある大学教授がニュース番組の中で、「今回はトランプ2.0ではなく、トランプ0.0である」と発言されていました。これはトランプ前政権ではブレーキ役がいたが、今はブレーキ役が不在であり、やりたい放題であるという意味のようです。
そのトランプ大統領の政治手法といえば「ディール(deal)」が印象的です。「取引」と訳されるのが一般的ですが、「トランプ大統領のディール」ということで、調べたところ以下のような回答でした。
●「ディール(deal)」は「取引」だけでなく、「合意」や「妥協」といったニュアンスを含む場合もあるため、互いが納得できる形で話をまとめる意味合いが強いということです。また、トランプ大統領合は、ゼロサム的(勝者と敗者が明確になる)な見方が強いので、「交渉」、「駆け引き」、「実利的な合意」といったニュアンスが加わることも多いとのことでした。
トランプ政権においては、特に「連邦司法の保守派化」と「Schedule F(連邦職員の再編・解雇権限を大幅に拡大するもの)」の2つが気になっていましたが、後者については連邦裁判所に複数の差し止め訴訟が提起され、施行は事実上ストップしているとのことです。
「輸入規制・関税」に関しては、国家安全保障上の理由だけを考えれば、頭から否定することはできませんが、大きな物議をかもしていることは間違いなく、国際協調の問題だけでなく米国内の経済においてもインフレ再燃の原因として大きな懸念となっています。
規格外のトランプ大統領による2.0の始まりは、米国が権威主義国家を志向する可能性もあり、歴史的転換点の入口にいるのかもしれません。ドナルド・ランプという人を知ることが、トランプ政治の本質に近づけるのでないかと思い今回の本を購入しました。『トランプ思考』という本の原著タイトルは『Think Like A Champion』です。内容はトランプ大統領の成功への軌跡や逆境からの復活です。
ブログは最初に、最も印象に残った“目的を見出し、目的に生きよ”をご紹介しています。それ以降は目次に沿って大事だなと思った箇所を列挙させて頂いています。
序文―ロバート・キヨサキ
はじめに
※目的を見出し、目的に生きよ
●自分自身と自分の仕事に嘘をつくな
●人生で成功するには常識とハードワークが必要だ
●チームプレイであることの大切さ
●人生には感謝すべきことがたくさんあると気づくべきだ
●学びは新たな始まり
●即断力を養うために学ぼう
●完全性を追求せよ
●高次元の自己にチャンスを与えよ
●知恵を身につけたければ、まずは知識と経験が必要だ
●学ぶほどに自分の無知がわかるようになる
●チャンピオンの発想をせよ
●人生はアート、仕事はアートだ
●物事を関連づけて考えられるようになろう
●恐怖心に立ち向かう
●想像力はお金に賢くなるための鍵
●ビジネスで成功するのは生まれ持った才能か
●短く、早く、単刀直入に事を成せ
●仕事に対して正しい考え方(マインドセット)を持て
●維持するには勢いに気持ちを注げ
●失敗と過ちから学べ
●自分の成功を人に話せ
●経験と知識と先見性が揃えば百万力
●混乱から変革が生まれる
●金融リテラシーを身につけろ
●運に働いてもらう
●成功は次なる成功の始まり
●見切りをつけなければならないときもある
●常に大局観を持て
●最高の人間を集めよ
●勝者は問題を、実力を証明する一つの方法と見る
●決意と忍耐にまつわるレッスン―信念を貫いて勝て
●仕事にはテンポをつくれ
●いつでも自己最高記録を更新できる
●人から順風満帆だと思われた私
●私情をはさむな―これは仕事だぞ
●天才の発想をせよ
●流れに逆らえ
●ポジティブに考えよう
●成果を達成する方法は人それぞれ
●目的を見出し、目的に生きよ
●自分のスタンダードを設定せよ
●直観に従え
●観客を知れ
●何があろうと、警戒を緩めるな
●評判を築く
●「努力するほど幸運が近づいてくる」
●金持ち入門
●好きな人たちと仕事をしよう
●ビジネスの世界で成功するために知っておくべきこと
はじめに
・『学生時代、父フレッド・C・トランプから毎週、心に響く偉人の名言が送られてきた。その多くはリーダーシップに関するもの、いかにして人生の勝者になるかを語るものだった。私はそれらの名言から多くを学んだし、今でも参考にしている。本書にも引用して読者にご覧いただくことにした。』
※目的を見出し、目的に生きよ
・『人生について一つ学んだのは、人生とは発見の連続だ、ということである。人生の始まりは発見に満ちている。その後もずっとそうあるべきではないだろうか。自転車が乗れるようになったときのわくわくする気持ちを覚えているだろうか。子どもが初めて歩き出す姿を見たことはあるだろうか。世紀の一瞬だ。毎日そんな感動に出会えたら、人生の英知に近づいていけると思う。
アルバート・アインシュタインは「新しいアイデアに対して開かれた精神はけっして元のサイズに戻ることはない」と言った。同感だ。一度歩くのを覚えたら、もうハイハイに戻ろうとは思わないだろう。あたりまえだ。人には誰でも人生の目的がある。それは自分の可能性を精一杯生きることだ。
実に単純なことなのだ。自分の才能と能力を理解するだけでいい。ただし、簡単だとはいっていない―単純だといったのだ。周囲の雑音に惑わされて、自分を見つめる静かな時間を持てないときもある。私たちは一日中、外からの情報にさらされている。騒音のただ中で自分自身の中にある情報に耳を傾けられる平穏な時間を見つけるのは至難の業だ。本来の自分に戻るためにはまず、外界から自分を遮断しなければならない。
私は忙しい人間だが、心の均衡を保つために毎日朝と晩に静かな時間を確保している。それが私の生活の中心になっている。ネガティブなものや有害なものに振り回されるのはごめんだ。踏みならされた道から外れよ、といったエマーソンは正しい。この言葉の意味は、他人の人生を歩むことはできない、自分の人生、自分の目的だけをひたすら見つめる時間を持て、ということである。
これは個人にとってだけでなく世の中にとって大切な問題だ。歴史上最悪の出来事が起こったのは、人々が自分の頭で考えるのをやめ、他人の考えを聞くようになり、さらには他人の追従するようになったときだった。それが独裁者の台頭を許してしまう。そのようなことは何としてでも避けよう。まず個人のレベルでやめる。そうすれば自分だけでなく世の中が正気を保つのに貢献したことになる。
仕事における私の目的は、毎日自分の力の及ぶかぎりベストを尽くすことだとわきまえている。それが私の掲げるスタンダードである。私のスタンダードが高いところにあるのは若いときに自覚した。本質的な価値観という言葉を聞いたことがあるだろうか。本質的とは基本の、生まれ持った、本来の、という意味である。本質的な価値観は奪い取られたり揺らいだりしない。これも何物にも負けない強さの一つの形である。
発見とは、以前は知らなかった何かを見つけ出すことをいう。目的とは実現すべき意図あるいは目標だ。人生には目に見えるものと見えないものがある。あなたにとって最も良い形になるようにそれぞれのバランスを取ろう。私はきわめて現実的な仕事に就いているかもしれないが、その一方で人生の不思議を感じる心も持ち合わせている。だから常に探検隊のような気持ちでいられる。自分に目隠しをしたり限界を設けたりしてはいけない。
人生の目的を見つけるには一生かかるかもしれないし、あるいは五歳のときすでに見つかっているかもしれない。万人共通の決まった時間割などというものはない。だからこそけっしてあきらめてはいけないし、毎日何かを発見し続ける理由もそこにある。人生を成功させる素敵なレシピでもある。自分の道を歩めば、行くべきところにたどり着ける。自分の世界を広げよう! 大きく発掘し、でっかく生きよう。』
●自分自身と自分の仕事に嘘をつくな
・『自分自身と自分の仕事に嘘をつかないことこそが資産である。資産には守るだけの価値があるのを忘れないでほしい。信念を守り通すのが簡単だとは誰もいわないだろうが、守り通さなければならないと私は信じている。でなければ、あなたのやっていることは何だというのか、誰のためにやっているというのか。直球勝負でいこう。長い目で見ればあなたは豊かに―いろいろな意味で―なるはずだ。』
●学びは新たな始まり
・『古代ギリシャの昔、ソクラテスが「私が知っていることが一つだけある。私が何も知らないということだ」と言ったのはつとに有名だ。かの名高い哲学者の言葉にしてこの厳しさだ。おかげでソクラテスは素直な心で日々知識を吸収していったのだ。頭の中の黒板をまっさらにして一日を始めよう。心をオープンにして新たな始まりを迎い入れよう。
私が何でも知っているつもりで事業を始めていたら、スタートを切る前から終わっていただろう。そんな愚を犯してはならない。どの業界にも隠れた側面がたくさんある。一見単純な物事がどれほど複雑にできているかを思い知るはずだ。』
●高次元の自己にチャンスを与えよ
・『高次元の自己にチャンスを与えれば、人生は最高のアドベンチャーになる。私たちは誰でも、自分にしかできない何かがある。それが何かを見つけ出し、情熱を傾けてそれに向かって努力するのが私たちの務めだ。だから無為に生きるな。飛び込んでチャンスをつかめ。』
●チャンピオンの発想をせよ
・『特に苦労が多い日に私はよく、これは競技なんだ、くじけずに走り抜けなければならないと考える。するとなぜか不屈の心が湧いてくる。負けたと思って終わりたくないからだ。ビリー・ジーン・キング(テニスプレーヤー)は「チャンピオンは責任を背負っている。ボールがネットを超えて来るとき、私がそのボールを必ず取るつもりだということを、誰もが信じてくれていい」と言った。彼女の言葉が私にはよくわかる。私もその点はまったく同じだからだ。』
●人生はアート、仕事はアートだ
・『芸術家は自分の理想、自分のミューズ[芸術家の創作意欲をかき立てるもの]―それが何であれ―に身を捧げ、どこまでも完璧を追求する人間とされている。すばらしい資質だ。彼らは求める結果を手にするためならどんな苦労もいとわない。2005年にある図書館でベートーヴェンの自筆の草稿が発見された。草稿には線で消して書き直した跡が無数にあり、書き込みすぎてところどころページに穴が空いている箇所もあった。この作品は晩年のものだとわかっているから、ベートーヴェンは当時駆け出しの作曲家だったわけではない。これが彼の仕事のやり方だったのだ。ベートーヴェンは自分のベストに届かなければ我慢できない完璧主義者だった。誰に認められようとしたのでもない―ただ一人、自分自身を除いては。音楽家ならぬビジネスマンにとっても、これは理想のあり方ではないだろうか。
どこまでベストを極められるか、自分との勝負だ。これは起業家の発想である。他人との競争は自分自身のスタンダードを下げてしまいかねないのを起業家はわきまえている。厳しく聞こえるかもしれないが、本当のことだ。自分自身のビジョンを持ち、そこから気持ちを離してはならない。』
●物事を関連づけて考えられるようになろう
・『このエッセイの冒頭に挙げたエイブラハム・リンカーンの言葉(“昨日の自分より賢くなっていない人間を私は尊敬しない”)に、私があなたに伝えたいことが凝縮されている。学べる人間についてのハクスリーの言葉(“経験は学べる者にしか教えてくれない”)にも言い尽くされている。学ぶ姿勢を持つことには、いつまでも若くいられるという特典もある。何でもわかっているつもりでいると老け込むうえに、新しいことが頭に入らなくなる。だからそんな落とし穴は避けて通ろう。』
●恐怖心に立ち向かう
・『事業を経営するのは怖いだろうか。この質問を別の言葉でしなおしてみよう。自分で事業を経営するうえで懸念はあるだろうか。なぜ? 具体的に何が気がかりなのだろうか。恐怖よりも懸念を分解するほうがはるかにやりやすい。恐怖心はクリエイティブ思考を邪魔するだけの障害物になる。客観性を持つとその障害物が取り除かれ、クリエイティブなアイデアが出てくるようになる。
恐怖心への対抗手段はごく簡単、問題解決である。投資や不動産計画や事業経営を、あるいはその全部を考えているなら、いずれも個々の思考単位に分解して順序立てて取り組めばよい。一種のジグゾーパズルのようなものだ。全体が見えてくるまで一つひとつのピースがあてはまる場所を探してやらなくてはならない。』
・『恐怖心をあなたの人生の一隅たりとも忍び込ませてはならない。それは敗北主義であり、ネガティブな感情である。ただちに見つけて消し去ろう。恐怖心を問題解決の姿勢と自信とハードワークに置き換えよう。この方程式を日常の習慣にすれば、あなたは恐怖心に動かされるのではなく、力を握った立場で物事に対処するようになる。これぞ勝利の方程式である。』
●失敗と過ちから学べ
・『困難な状況への対処の仕方には人間性がよく表れる。逆境に対応する場合、その状況をどう見るかも重要な要素である。同じ出来事で破滅する人もいれば、いっそう強くなる人もいる。だから私はいつも自分にこう問いかけているのだ。「これは取るに足りないことか、それとも大惨事か」と。困った状況のさなかで、それが理性のよりどころとなる。
前に情熱が成功に必須の要素だと述べたことがある。理性もまた必要だ。失敗や過ちを犯したら、それは理性や客観性を用いる良い機会かもしれない。経験から何かを学ぶチャンスでもある。一つの扉が閉じれば別の扉が開くということわざもある。別のチャンス、別の機会が待っているという意味に私は解釈している。ただしそれに対して心をオープンにしておかなければならない。開いた扉が見えているはずなのに、扉が開いていることも、ましてその重要性にも気づいていなかった人たちを私は何人も知っている。
私にとって状況が大きく転換したときのことを覚えているが、そのとき学んだのは、常に集中力と勢いを持ち続けなければならないということだった。以前にもこの二つの成功の秘訣に触れたが、なぜかといえば私はこの二つを痛い思いをして学んだからだ。集中力を失ってたちまちいくつもの失敗に見舞われたことがあった。しかし別の考え方もできる。前に進む勢いさえあれば、問題は一過性のものにすぎない。誰でも苦境を経験するが、ポジティブな態度で前に進み続ければそれは取るに足らないことになるのだ。』
●自分の成功を人に話せ
・『エゴを持ち、それを自覚するのは健全な選択である。エゴは意識の中心にあり、目的意識を与えてくれる。エゴのない人は生命力に乏しいし、エゴがありすぎれば横暴な性格になりやすい。何事もそうだが、ほどよいバランスが大切である。エゴはあなたの勢いを前に送り続けるのに役立ってくれる。あなたを生き生きとさせ、生産性を高めてくれる。集中力をしかるべきところ、つまりあなたの仕事から離れないようにしてくれる。しばらく経てば、人に自分の成功を離さなくてもよくなる。すでに知れ渡っているからだ。エゴをおろそかにしてはいけない。』
※エゴは日常では、「自分勝手」「自分本位」といった否定的なニュアンスでも使われますが、心理学や哲学で「自我」「自己」の意味で使われ、自分自身を中心に考える意識を指します。
●金融リテラシーを身につけろ
・『今のあなたにそう思えるかどうかはともかく、私たちはみなビジネスマン、ビジネスウーマンである。あなたがアートを愛していてアートではお金を稼げないとしたら、やがて世の中はすべて、アートでさえもビジネスなのだと悟るだろう。だから私はウォーホールの「儲かるビジネスは最高のアートである」という言葉が好きだ。それは事実なのだ。そして私がビジネスをアートと考え、情熱を込めて取り組んでいる理由もそこにある』
画像出展:「22の名言とエピソードで知るアンディ・ウォーホル」
『Making money is art and working is art and good business is the best art of all.(お金を稼ぐことはアートだ。働くことはアートだ。ビジネスで成功することは最高のアートだ。)』
画像出展:「万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチの名言からわかる本当に大切な事」
“シンプルさは究極の洗練である”
このページはイラストレーターの高見真弘氏の記事です。高見氏は、「レオナルドのように、常に学び続け、挑戦することで、成功を掴むことができるのではないでしょうか。」とのお話をされています。アートとはこのよう事かも知れません。
・『金融の世界の仕組みを知らない人があまりにも多いことに私は驚いた。普通株、新興市場、資産運用、商品、投資信託、ヘッジファンド、年金、株式、債券、抵当権などは高校生にもなれば常識として知っておかなければならない。アメリカの教育制度で大きく見落とされている点である。すべての生徒がこれらの仕組みを頭に入れ、ゆめゆめ金融の「専門家」が一から十まで教えてくれるなどと期待してはいけないのである。自分で知っていなければならない。アメリカは資本主義社会だ。それは良いことであるが、自分で注意しなければならないということでもある。』
・『声を大にしてあなたにアドバイスしたいのは、金融リテラシーを身につけろということだ。あなたの想像も及ばないほど非常に役に立ってくれる。どうか私のアドバイスを聞いて注意を払ってほしい。手始めに、毎日コンピュータを立ち上げたときにヤフーのファイナンスページをクリックするのでもよい。一日に2,3回、市場をチェックしてユーロや円に対するドルの動きを見てみよう。チャートやトレンドが読めるようになろう。関連記事を読もう。これはごく初歩だが、あなたの物の考え方を正しいチャンネルに合わせてくれる。そのことがあなたの人生の質に大きな変化をもたらすかもしれない。』
2024年12月20日に始めた「“氣”とは何だろう」という一連のブログで読んだ本は計23冊です。
テーマは計19になります。
●鍼灸編
●東洋医学概論編
●エントロピー編
●科学編
●治癒力編
●ミラーニューロン編
●脳腸相関編
●臓器ネットワーク編
●酵素編
●リンパ編
●合気道編
●気功編
●気療編
●本山博編
●間中喜雄編
●長濱善夫編
●磁気生物学編
この発散し収拾のつかない状態をどうやってまとめるのか、「どうする??」という感じでしたが、まず、すべてのブログを見直し、あらためてExcelに特に重要と思った箇所を列挙してみました。次に“森”と“木”に例えられるように、“全体”を俯瞰しながら、個々の内容を一つ一つ深堀してみました。その際、中心に据えたのは「氣は血を推動する」ということです。すべてはここに集約されると思って作業を進めました。
※氣は血を推動する
“氣は血を推動する”は、約2000年前の『黄帝内経(こうていだいけい)』にさかのぼります。『黄帝内経』は、中国最古の医学書であり、戦国時代から前漢(紀元前3〜2世紀)に編纂されたとされます。この中で人体の生命活動は「氣・血・津液」によって維持され、「氣は血の帥(すい:統率者)」と述べられています。すなわち、これが「氣は血を推動する」という発想の原点です。
その結果、補足を入れて6つの視点から整理することにしました。
1)氣と森羅万象
2)氣と同調現象
3)氣と健康
①氣は血を推動する
②病の始まりはストレス
③脳腸相関
4)東洋医学と西洋医学のパラドックス
5)氣の訓練
補足)長濱善夫先生の経絡
そして、肝心の「“氣”とは何だろう」の答えは、【氣≒シグナル伝達分子】となりました。
そして、“氣”をよびこむ最も重要なことは「肩の力を抜くこと(リラックス)」だと思います。やっと自分の腹に落ちました。
画像出展:「命を支える神秘の巨大ネットワーク “メッセージ物質”が医療を変える!」
この番組(本)では“メッセージ物質”という表現をされていますが、この本の中でも説明されているように、“メッセージ物質”は一般的な医学用語ではありません。通常は“シグナル伝達分子”です。つまり、この図は【氣≒シグナル伝達分子】のイメージということになります。
この答えに至った経緯をご説明させて頂きたいと思います。なお、「シグナル伝達分子」とは、生体内で情報伝達する役割を持つ分子で、代表的なものにホルモン、サイトカイン、神経伝達物質、成長因子などがあり、細胞外や細胞内での情報伝達を担っています。
1)氣と森羅万象
「森羅万象」とは、宇宙のありとあらゆる存在・時間・空間・生物・無生物・自然現象・人間の営み全てを網羅する言葉です。なぜ、このような視点で考える必要があるのかと思ったのは、東洋医学には宇宙観(人間と宇宙は本質的に一体であり、同じ原則に基づき存在・変化している)があるからです。宇宙全体を「マクロコスモス」と呼びます。人体は「ミクロコスモス」とされ、“氣”はこの2つに関わっています。
この東洋医学の世界観は、“氣”を知るために無視することはできないと考えました。そこで頭に浮かんだことは、最終的に宇宙(マクロコスモス)と人体(ミクロコスモス)の双方に存在し、かつ、生命に絶対必要な根源のようなものは何かということでした。それこそが“氣”に関係するのではないかと考えました。
その結果、注目したのは「酸素」と「電気」です。宇宙では呼吸できるような量の酸素はありませんが、銀河や星の中、星間ガスの中には酸素原子や酸素分子、酸素を含む化合物(二酸化炭素や水、氷など)が存在しています。一方、電気は宇宙空間には電気的に帯電した粒子(電子・イオン)の集まりであるプラズマが存在します。そのプラズマは宇宙の主成分だそうです。一方、ミクロコスモス(人体)に存在する電気は生体電気と呼ばれています。
画像出展:「“生体電気” 電気仕掛けのココロとカラダ」(NHK)
『生体電気は、細胞で“発電”され、脳、筋肉、心臓だけでなく、ヒト誕生の瞬間、受精にも深くかかわっている。生命の根幹「生体電気」。その仕掛けから生まれたヒトの不思議を妄想する。』
酸素と電気は宇宙にも人体にも存在していることが明らかになりました。次に明らかにすべきは生命にとって両者は根源のようなものなのかという点です。ちなみに酸素は物質ですが、電気は物質である電子とイオンの運動によるエネルギーとされています。
なお、本件を考える上で、「生命のエネルギーの起源」を考えてみました。これはエネルギー通貨とされているATPではないかと考えたのですが、実際はATP産生機構そのものが、まず膜を介したイオン勾配というエネルギー源を前提にして進化してきており、生命のエネルギーの原点としては「ATP」よりも「イオン勾配」がさらに根源的とのことでした。なお、酸素はイオン勾配(特にプロトン勾配)を作る化学的ドライバーであり、プロトン勾配は「膜を介したプロトン濃度差(化学ポテンシャル差)」と「プロトンが持つ正電荷による膜電位(電気ポテンシャル差)」の両方を合わせた電気化学的勾配で成り立っているとのことです。
つまり、生命のエネルギー産生の起源ともいえる「イオン勾配」に酸素と電気が深く関わっているということは、酸素と電気は「シグナル伝達分子」にとっても、無視できない存在であると思います。
画像出展:「ミトコンドリアでの酸素を利用したエネルギー産生」(酸素研究所)
『摂取した栄養と酸素を利用して生命のエネルギー通貨と呼ばれる「ATP(アデノシン三リン酸)」に変換し、それを分解することで放出されるエネルギーを使って、人間は生命活動を行っているのです。』
2)氣と同調現象
気功には内気功と外気功があります。内気功は姿勢・呼吸・心を調えて(調身・調息・調心)、体内の気の流れを良くし、自分の自然治癒力を高める方法です。一方、外気功は熟達した気功師が自分の「気」を他者に送ることで施術する方法です。ブログ(“氣”とは何だろう15)でご紹介させて頂いた矢山利彦先生は、「気功は、漢方も鍼も効かない患者さんに対するものであり、何をやっても良くならず、失望と深い悩みをもち、体もこころもこわばっている患者さん、そして、自らの自然治癒力に背を向けている患者さんに対して用いている。」とのことでした。
“氣”が自分自身のみならず他者に影響を及ぼすことができるという特質は、“氣”を明らかにする上で非常に重要だと思います。このため、2つめは「氣と同調現象」という視点で整理したいと思います。
品川嘉也先生(“氣”とは何だろう7)は、「脳波は気の情報が目に見えたもの」とされています。さらに、「脳波の同調現象は、気の送り手である気功師から気功の手ほどきを受けたことのある人ばかりでなく、その気功師にはじめて会い、生まれてはじめて気を受けた人にも共通して見られた。これまで十数回の実験を繰り返し試みているが、どの実験でもかならずなんらかの同調現象が観察されたのである。したがって、この脳波の同調現象こそ、気の謎を解き、気功のメカニズムを解明するカギとなる概念にちがいないと考えている。」というお考えです。
"ブログ(“氣”とは何だろう17)では、ミラーニューロンについても触れています。「ミラーニューロンは、自分がある動作をしているときに発火するだけでなく、ほかのだれかがそれと同じ動作をしているのを見ているときにも発火する。簡単な話に聞こえるので、うっかり見過ごしてしまいやすいが、これは大きな意味をもつ。ミラーニューロンは、あなたがほかの人に共感し、その意図を「読み取る」こと―その人が実際に何をしようとしているかを把握することを可能にしているのである。」とあります。
また、“2人の間の発話リズムがそろうと、脳波リズムもそろうことを発見 -コミュニケーション時の2者の脳波を同時に計測し解析する手法を確立-”という研究結果もありました。
画像出展:「理化学研究所」
『理化学研究所は、2者が言語コミュニケーションしている時の脳波を同時に計測し解析する手法を確立し、発話リズムが同調すると脳波リズムも同調することを発見しました。』
作家の五木寛之先生は『気の発見』という本の中で、「勇気や敬意、敵意や圧力もそうだ。表情や動作にあらわれる場合もあり、反対に隠されている場合もある。しかし私たちは、あきらかにそれを感じて反応する。知らない街で、はじめての酒場に一歩はいったとき、一瞬、ピリピリするような警戒心や、好奇の目を肌で感じることがある。店内にそのような気が電磁波のように流れているのだ。」とお話されています。
「これは何だろう?」と考えてみたのですが、これらに共通するのは五木先生がご指摘されたように、「表情や動作」であり、眼から入ってくる情報による脳の反応ということだと思います。視覚情報は可視光線なので取り込まれる情報は電磁波ということになります。これに声の情報も加わるとすれば、それは耳から入ってくる情報であり音波ということになります。ここから分かることは、人間は言葉を使わずとも意思を伝えることが可能であり、意図や感情を把握することもできるということです。
帯津良一先生がYouTubeの中で、中国式ではなく英国式のスピリチュアル・ヒーリングを使っているとのお話しをされています。このスピリチュアル・ヒーリングは外気功に大変似ているとのことですが、特に修行する必要もなく、「誰にでもできる」という考えに基づいているそうで、英国では保険適応され大病院でも行われているようです。帯津先生は非科学的な療法が保険を使って一般的に普及していることに大変驚かれたとのお話をされています。
外気功では熟達した気功師が、洗練された特別の「氣」送っているのだと思います。しかし、もしかしたら、受け取る側が特別な「氣」を無意識に感じて、心身に大きな変化をもたらしているという部分があるのかもしれません。
この「外気功と龍神レイキ」という動画は、エフエム西東京さまから拝借しました。
気功師の脳波の実験、ミラーニューロンの存在、五木寛之先生のご指摘(動作と表情から感じることができる)、そして、帯津良一先生の中国とイギリスでのご経験から、同調現象はたいへん興味深いものだと思いました。そこで、AI(Perpflexity)に同調現象について質問してみました。
まとめとして書かれていた内容は以下の通りです。
『対人的な気功(外気功)で生じる脳波の同期現象は、現代神経科学で研究が進むinterpersonal neural synchrony(INS)やミラーニューロン系の活動と同じく、「複数人が心身で共鳴し合う生理学的・神経学的メカニズム」の一端として説明できる現象です。今後は、hyperscanning技術による同時脳波計測が鍼灸や気功の科学的解明に一層応用される流れが期待されます。』
3)氣と健康
「“氣”とは何だろう」を調べようと思ったのは、専門学校で学んだことが腹に落ちていないと思っていたからです。また、“氣”の本質を知ることが鍼灸師として重要であり、それは間違いなく施術力を上げるものと思っていました。従って、3つめの「氣と健康」は最も知りたいものです。そして、絶対に外せないと思ったことは、繰り返しになりますが、「気は血を推動する」という基本中の基本です。
帯津良一先生の「気とは余分のエントロピー(“汚れの量”)を上手に捨てる能力ではないか」というご指摘があり、ここではエントロピーをストレス(心理的・身体的ストレス)に置き換えてみたいと思います。また、ストレスに関しては矢山利彦先生の次のようなお話が印象的でした。
「病気は、根源にさかのぼって考えると、結局、ストレスを十分に統御・調整できなくて、身体の防御のバランスが崩れて、その人の弱いところに発症する、といえるはずだ。」
「気功の原点は気を流すことです。これは気の推動作用といわれ、血の流れをよくする働きに他なりません。つまり、気功は気に働きかけ血の流れをよくし、こころと体のこわばりをとり、そして歪みを整え、その人の本来の自然治癒力を通じて、心身の健康を取り戻すものであると理解しました。」
※自然治癒力について
分かっているようで分かっていない「自然治癒力」を真剣に考えたことがありました。その時の結論は、自然治癒力とは“ストレス適応と栄養代謝”というものでした。これは、血流を良くし自律神経系と代謝系の2つが正しく機能することが治癒力の原点であるという考えです。これは上記の矢山先生のお話に通じる部分があるように思いました。
外せないと思った2つめは「病の始まりはストレス」ということです。
最初に「ストレス」はどこを攻撃するのかを考えました。その答えは「脳」です。そして、脳の疲労は自律神経を乱すと考えられています。なお、以下の2つの画像は『自律神経失調症を知ろう』から拝借しました。
脳をどう理解するかで悩みました。それは東洋医学における脳は、「奇恒の腑」と言われ、重要とされる五臓六腑には含まれていないからです。奇恒の腑には髄が含まれており、この髄は腎精が変化したもので五臓の「腎」が主っています。
また、興味深いのは五臓にはそれぞれ神気があるとされていることです(五神といいます)。
脳を攻撃するストレスが居座り続けると、その慢性的なストレス状態は交感神経を活性化させ、自律神経のバランスを乱します。そして、緊張状態から血管は細くなり血流を悪化させます。血流が悪くなれば酸素も栄養素も、血液の中にあるホルモンやサイトカイン、神経伝達物資などのシグナル伝達分子も滞り、各組織の健康状態は悪化しついには病気になります。
この、「ストレス→自律神経の乱れ→血流悪化」を防ぐことが健康維持には不可欠であり、これにはその人が本来持っている自然治癒力を調えることが大切です。
「病は氣から」、「氣は血を推動する」、この2つに関係するのはリラックスする心であり、それによって自律神経のバランスが整い(副交感神経が活性化)、血流が改善し酸素も栄養素もシグナル伝達分子も各組織にしっかり届きます。この中で酸素でも栄養素でもなくシグナル伝達分子を最も重要なものと考え、【氣≒シグナル伝達分子】としたのは、シグナル伝達分子の中には、病の原因となるストレスを抑制する非常に重要な働きがあるためです。
そして、そのストレスを抑制する重要なシグナル伝達分子は、セロトニン、GABA、アセチルコリン、メラトニン、ドーパミンの5つとされています。
「氣と健康」を考えるうえで重要なポイントは、①「気は血を推動する」、②「病の始まりはストレス」でしたが、3つめは「脳と腸」です。西洋医学では「脳腸相関」という考えがあります。何故、脳と腸が重要かといえば、5つのシグナル伝達分子は脳と腸の双方で作られるからです。特に重要とされているセロトニンに関していえば、90%が腸で産生されています。
西洋医学では腸は第二の脳と呼ばれています。腸は大量の情報収集、蓄積、分析、それへの反応という機能を考えれば、消化管は真のスーパーコンピューターといえます。また、細胞の数という点でも脊髄をしのぎ、能力という点でも脳のいくつかの機能に匹敵するとされています。
腸は脳と、神経や血流によって結合しています。腸で生成されたホルモンや炎症性のシグナル伝達分子は脳に伝達され、また、脳で生成されたホルモンは、平滑筋、神経、免疫細胞などの腸内のさまざまな細胞に送られます。
脳へのストレスは腸の働きを低下させ、腸の動きが悪くなると脳が不安を感じます。脳腸相関はストレスの影響を拡散させてしまうこともあります。その一方で、脳腸相関にはストレスを抑制するメカニズムがあります。
画像出展:「ブレインフォグの原因「腸内細菌の乱れ」(国立消化器・内視鏡クリニック)
『脳腸相関とは、脳とおなか(腸)で両方向におこなう情報伝達のやり取りと相互に影響を及ぼしあう関係のことです。不安やストレスを感じると急な腹痛や下痢、おなかが張ってグルグルと鳴るような経験をしたことはありませんか?これは、脳から腸に向けた情報伝達の信号からくる影響のひとつです。対して今までよくわかっていなかった腸から脳に向けた影響についても、近年の研究で明らかになってきました』
画像出展:「人体の正常構造と機能」
脳と腸および他の臓器をつないでいる自律神経(副交感神経)は迷走神経です。なお、迷走神経には運動や知覚を担う線維(運動・求心性)も混在しているため、「混合神経」とも呼ばれまています。
セロトニンは、腸と脳のシグナル交換に用いられる究極の分子とされ、セロトニンを含む細胞は小さな脳と大きな脳の両方に密接に結びついています。そして、迷走神経の経路の近くに膨大なセロトニンが蓄えられています。
【氣≒シグナル伝達分子】とする理由は、脳と腸に存在する、セロトニン、GABA、アセチルコリン、メラトニン、ドーパミンの各シグナル伝達分子が、ストレスの抑制に働くためです。
早期に過度なストレスを排除することが、血液循環を改善させ本来の自然治癒力を復活させて、心身を健康な状態に戻します。
4)東洋医学と西洋医学のパラドックス
「パラドックス」という言葉が適切かどうかは分かりません。そもそもパラドックスの意味を正しく理解しているのかという点も気になるところです。
お伝えしたいことは、東洋医学も西洋医学もみているのは「人間の健康」ですが、異なる土俵から見ているため、ジグゾーパズルのピースがうまく合わないという感じです。その原因には古今の医学の差にあります。東洋医学は約3000年前とされています。一方、西洋医学を科学の医学(近代医学)とするならば、顕微鏡が発明された16世紀後半といえるのではないでしょうか。言いたいことは、東洋医学と西洋医学の差の本質は、科学の有無によるものではないかということです。特に注目したいのは、「脳」と「小腸」と「腎臓(東洋医学では腎)」です。この3つを整理したいと思います。
(うまく説明できないのですが、健康には脳と腸が非常に重要で、東洋医学においてはその2つに関わる“腎”という重要な存在が、この2つの背後で大きな力を及ぼしているイメージです)
「奇恒の腑(髄海)」と呼ばれる「脳」は、専門学校の教科書では次のように説明されています。
「脳は、頭骨の中にあり、髄の大きなもので、下は脊髄に連なる。脳は、肢体の運動を円滑にし、耳目を聡明にし、長寿を保つ。脳が充実していると、耐久力ばかりでなく、すべてにわたって一般の基準を超える。不足すると、目が回る、耳鳴り、めまい、すねがだるい、身体中だるくて寝ていると落ち着くなどの症状を呈する。」
運動(遠心性)や感覚(求心性)、生命維持や意識・集中といった内容ですが、これは西洋医学の脳(大脳・間脳[中脳・橋・延髄]・脳幹・小脳)の機能の一部です。先に「五神」についてお話しましたが、「七情」というものも臓腑に割り当てられています。詳しくは2つの添付資料をご覧ください。
これは「東洋医学概論」の内容を元に作った「五神」と「七情」の表です。これらの働きは五臓に割り振られています。
『神を分類すれば、神、魂、魄、意、志などが挙げられる(『霊枢』:本神篇)。神は、このなかで最上位にあって、他の神気を支配している。ときにより、魂魄は神の支配を受けずに独自の働きをすることがある。魂・魄は、人体のかげの活動(無意識的、本能的活動)を支配するものである。』
「奇恒の腑(髄海)」に「五神」と「七情」を加えると、脳(大脳・間脳[中脳・橋・延髄]・脳幹・小脳)に近づきます。一方、現代の脳は、科学によってこれから先、想像できない程の多くの発見が期待されています。
画像出展:「国内外における脳科学研究の現状と問題点について」
ウンザリするような細かい表ですが、ご紹介したのは「脳科学研究はこれから、奥が深いんだなぁ」ということをお伝えしたかったからです。
戦国の世の中、死者を通して血液や肺、胃、腸などは何となく理解できたと想像します。しかし、顕微鏡すら存在しない太古の時代に、脳(大脳・間脳[中脳・橋・延髄]・脳幹・小脳)の働きを詳しく知ることは不可能です。そのため、大切な臓腑に「五神」や「七情」として割り当てたのではないでしょうか。
興味深いのはNHKシリーズ人体が明らかにした「メッセージ物質(シグナル伝達分子)」です。矛盾するようですが、脳(大脳・間脳[中脳・橋・延髄]・脳幹・小脳)の働きは非常に大きなものである反面、臓器同士が会話しているという事実はむしろ昔(東洋医学)に戻ったような話です。
『解体新書』を翻訳した杉田玄白先生は、神経(中枢神経[脳・脊髄]・末梢神経)を「神気の経脈」と訳されているのですが、この訳は素晴らしく、東西医学の架け橋のような気がしました。
画像出展:「語源から読み解く自律神経」
「脳」の次は「小腸」です。
東洋医学の小腸は、「消化・吸収の過程で得た精微物質(栄養)を脾に運び、不要な固形物は大腸、水分は膀胱へ送ります」とされています。消化・吸収や大腸に送るという機能は西洋医学と同じです。
一方、現代の小腸には免疫機能があります。また、脳腸相関という考え方もあります。
日本での医学的な脳腸相関の研究は、1980年代に「セロトニンの多くが腸で産生されている」ことの発見を契機に爆発的に発展しました。まだ50年経っていません。
東洋医学の小腸は特に難しいところはないのですが、悩ましいのは丹田という場所です。
丹田は下腹部であり、皮下にあるのは小腸です。そして、この丹田には関元という小腸の募穴があります。募穴とは重要な経穴(ツボ)の一つで「臓腑の気が集まるところ」とされています。つまり、関元は「小腸の気が集まる経穴」ということになります。
悩ましいというのは丹田が、東洋医学の「小腸」ではなく、「腎」に深く関係しているという点です。この件は次の「腎」で詳しくご説明します。なお、西洋医学では「腎臓」になりますが、東洋医学では「腎」になります。
NHKシリーズ人体では、「腎臓が寿命を決める」というタイトルが印象的でした。酸素が足りなくなると腎臓は「酸素が足りない」というメッセージ物質(シグナル伝達分子)を出します。これはエリスロポエチンという造血ホルモンです。また、腎臓は血液成分の組成管理・調整の中枢でもあります。【氣は血を推動する】とは血(血液)こそが生命になくてはならないものと言えます。すべての組織は血液が運んでくる酸素・栄養素・生理活性物質(シグナル伝達分子を含んでいます)の働きにより命は続いていきます。その血液を管理しているのが腎臓になります。
NHKスペシャル「人体」取材班
出版:東京書籍
スライドは酸素不足の時に腎臓がシグナル伝達分子のEPO(エリスロポエチン)を出し、そのメッセージを受け取った骨(骨髄)が酸素を作るプロセスを説明しています。
腎臓は間違いなく大切な臓器です。しかしながら、それでも東洋医学の「腎」はさらに重要といえると思います。脳とされる「奇恒の腑(髄海)は腎精から生成された髄により養われ、腎の状態が脳の働きに大きく影響する。」とされています。
●腎の役割
・東洋医学の「腎」は、生命力の根源である「精」を貯蔵し、成長・発育・生殖・老化といった生命活動全般を支配する存在です。
・先天の精・原気(元気)の中心として「腎」は体の根本エネルギーと位置付けられています。
●腎と丹田の関係性
・丹田は「腎」の精・気が集まる場所とされ、「腎間の動気こそが人の生命」と古典医学書『難経』などにも記されています。
・丹田に気(腎の精・元気)が充実していると、生命力が上がり、健康や精神の安定に寄与します。逆に、腎の気や精が不足すると、丹田の力も弱くなり不調の原因になると考えられています。
・丹田を鍛えたり意識したりすることで、「腎」の力を高める養生法や鍛錬も多く伝えられています。
●三丹田について
・三丹田(上丹田・中丹田・下丹田)の理論は、道教・煉丹術・医学思想の発展のなかで徐々に整理され、後代に確立したものです。
整理すると、丹田とは「腎」の精・気が集まる場所であり、「腎」は体の根本エネルギーと位置付けられます。丹田に気(腎の精・元気)が充実していると、成長・発育・生殖・老化といった生命力が上がります。そして、その生命力は健康や精神的安定の土台になります。
西洋医学の小腸は消化吸収以外に、免疫機能があります。腸全体では約70%、小腸では約50%の免疫細胞があり、小腸の粘膜下にはパイエル板という免疫器官が集中していて、T細胞・B細胞・NK細胞など多くの免疫細胞が集まっています。また、腸内には腸内フローラという腸内細菌の集まりがあり、腸の免疫機能維持・調整に不可欠です。腸内フローラを良好に保つ(善玉菌優位にする)ことで、全身の免疫力を底上げすることができます。
東洋医学には「衛気」という氣があり、働きは「体を外邪から防御し健康を守る力」とされています。これは紀元前2世紀ごろの文献である『黄帝内経』という書物に書かれています。「衛気」は科学で証明された免疫ではありませんが、免疫のような考えは大昔からあったということです。
【氣≒シグナル伝達分子】のシグナル伝達分子は、セロトニン、GABA、アセチルコリン、メラトニン、ドーパミンと考えていますが、これらはすべて腸でつくられます。
セロトニンの働きをあらためてご説明します。①腸の運動を調整(セロトニンは腸管の平滑筋に作用し、消化管の蠕動運動を促進します)、②便通を改善(便秘の予防や改善に寄与)、③腸内細菌・腸内環境との相互作用(腸内環境を整える役割)、④脳との関係(感情安定・睡眠調整・食欲などを担う、脳腸相関といわれる)。
これらの西洋医学における小腸の働きは科学による発見です。
近代免疫学として体系化されたのは18世紀末、エドワード・ジェンナーによる種痘(天然痘ワクチン)の実施(1796年)がきっかけで、19世紀以降に免疫のしくみや理論が解明されていきました。
腸内細菌が初めて発見されたのは1670年代のオランダです。その後19世紀後半には、パスツールやコッホらによる細菌学の発達によって腸内にいる大腸菌、ビフィズス菌など様々な腸内細菌が発見されました。腸内フローラの概念が一般的になったのは1950年代です。腸内細菌をフローラ(叢)として扱う研究が本格的に始まりました。
ホルモンが最初に発見されたのは1902年です。この発見をきっかけに「ホルモン」という言葉・概念は、1905年にスターリングによって提唱されました。
このように「消化・吸収」の東洋医学の小腸は、時間と科学により「消化・吸収、免疫」さらには脳腸相関という働きを重視する西洋医学の「小腸」に変わり、その重要度はさらに大きくなりました。
画像出展:「けんこう名探偵」
古代では「天・人・地」や「三丹田(上丹田・中丹田・下丹田)」という考えが中国で生まれていました。このことからも、頭部(脳)と下腹部(腸)は健康にとって極めて大切であると確信できます。
画像出展:「消化・吸収だけじゃない!腸の意外な働き」(からだカルテ)
『ストレスを感じるとおなかが痛くなったり、下痢や便秘などの腸の異常を感じるのは、脳→腸へのシグナル伝達ですし、一方で、腸内環境が悪化することによって、不安を感じたり、腸内環境が改善することで、抗うつ効果など脳への影響があることは、腸→脳へのシグナル伝達です。』
画像出展:「中国武道への道」
『「天地人」は、春秋戦国時代から漢代にかけて成立・体系化されたものとされています。一方、「丹田」は、秦漢期すでに現れており、主に気功や導引、仙道における生命エネルギーの集積点として語られていました。また、「三丹田(上丹田・中丹田・下丹田)」の考え方が体系的に確立したのは、中国の道教・内丹術が発展した唐代〜宋代と考えられています。』
5)氣の訓練
合気道の第一人者である藤平光一先生は、「心で氣が出ていると思えば、すなわち氣がほとばしり出る。」とお話されています。
また、当院のホームページの「ご挨拶」の中で、「幕末の剣・禅・書の達人といわれた山岡鉄舟は、ゆったりとした心の有り様こそが、最も「気」を相手に通じさせるということを教えています。」と書いています。
ここで最初に思ったことは「心」とは何だろうということです。
これによると、「心」とは意思や意識を含む、精神活動全般を指す抽象概念ということです。思ったことは、「心」は「一人称」だけではなく「二人称」、「三人称」の世界でもあるという点です。「氣と同調現象」という章もありましたが、今一度、「二人称」、「三人称」に関しての重要性を最認識しました。「一人称」に陥りがちな「氣の訓練」において、忘れてはならないポイントのように思います。
●氣の訓練の方法
まずはブログに立ち返って、「気功」、「小周天」、「丹田」をキーワードに気の訓練に関するものを抜き出しました。
・東洋の伝統では、「気」のはたらきは元々主観的に感じるものとされてきた。それは、普通の意識状態では認識できないが、瞑想とか武術・気功などの訓練をつんだ人は気の流れを感じとることができると説かれてきた。
・気功とは訓練によって自律神経を自分でコントロールできるようにするものであるといえる。
・「自律訓練法」は気功にとって役にたった。例えば、皮膚の温度を自分の意識で変える訓練―自己暗示をかけるかたちで、ゆっくりとした呼吸とともに「手があたたかーい」とくり返す。訓練を続けることで手をあたたかくすることができるようになる。
・“てのひら療法”という本に、治療は「してあげる」という気持ちではなく、「いっしょにする」という気持ちが非常に重要と書いてある。この心が欠け、気功の技術だけに頼り、「治してあげる」という心持ちでは“気の取り込み”はできない。
・ゆるめるための身体の動かし方を、気功訓練で習得してもらう。ゆっくりした呼吸法、力のぬき方、背骨の歪みの矯正を、気功をとおして実現していく。また、気功はもう一つ、精神的なリラックスもつくりだす。これは、最近の脳波の研究ではっきりしたデータで証明することができた。
・気を流すためには、まず、下腹部にある下丹田に気を集める。そのためには“下腹部に意識を集中し、息を吸うときも吐くときも下腹部を軽く緊張させ、そこに気が集まるとイメージし続ける訓練を行う。
・呼吸にあわせて、ゆっくり腹筋運動をしながら、意識を下丹田に集中する。呼吸と熱のイメージと筋肉の緊張と弛緩をくり返す。すると、下腹部に運動による熱が発生する。これをくり返していくうちに、だんだんすこしの運動回数で熱が発生するようになり、徐々に運動を減らしていって、最終的にう呼吸と腹筋の緊張だけで熱感を生みだすことができるようになる。
・気功には非常に多くの流派があるが、唯一共通しているのは小周天である。
・気功ができるようになったという証拠は、丹田が熱くなることである。
・息を吐きながら、気を百会から体の前の任脈を通して会陰まで下ろす。それから今度は息を吸いながら、気を背中の督脈を通して百会まで上げる。これをぐるぐる回すのが小周天である。
・吐くときにゆるめて、吸うときにゆるめて、体がゆるみさえすれば呼吸は自然に深く流れる。だから、まだまだゆるめられる、ゆるめられると、思いながら小周天をする方法は有効である。
●小周天
気の訓練でトライするのは、「小周天」に決めました。これは、「気功には非常に多くの流派があるが、唯一共通しているのは小周天である」というのが1番の理由です。
目標は、「丹田が熱くなること」です。訓練は一人で行ないますが、鍼灸師としては患者さまの存在をイメージし、「いっしょにする」という気持ちを頭に置いておきたいと思います。これは先にご説明した、気功とは「二人称・三人称」の世界でもあるためです。また、「ゆるむ」、「温かい」、「ゆっくり」というイメージを呼吸に合わせるということも意識したいと思います。そして、「小周天」の訓練により「氣」を心と体で受けとめ、自律神経を自分で動かせるようになりたいと思います。
補足)長濱善夫先生の経絡
経絡治療に関し、何度もお伝えしてきたことに【経絡≒ファシア】ということがあります。今回は、長濱善夫先生の著書である『鍼灸の医学』の中に、経絡と氣に関し私の考えを後押しして頂けるような貴重なご意見がありました。それをご紹介させて頂きます。
●『針の響きによる経絡現象の発現は、筋の主因とする説でひとまず説明されているが、実際には筋まで達しないで、単に皮下の結合織に達した深度で針響が起こる場合も決して少なくないのである。また、稀にはやっと真皮に達したくらいの深さでもおこる。こういう場合は、体液的な変化で間接的に筋が刺激されるためであろうと説明(藤田六朗氏)されている。しかし、こう考えたのでは、体液が何によって変化を受けるのかという点が不明になってくる。そうなると、結合織線維そのものが直接関与して、またある程度刺激を感受してこれをつたえる役目をも果たすのではないか、ということも考えなくてはならなくなる。
もし、結合織線維が刺激感受の主体になるものとすれば、全身の結合織系が形態的に経絡系の実体になるという想定が、いよいよたしかめられてくる。といっても、もちろん経絡の走行を解剖学的に規定するものとして、また機能的な関連において、筋の意義が重大であることには変わりはない。』
●『経穴の深さは、どれくらいかというと、これは針を刺していったさいに、それに応じた感覚がおこることによっておよそわかる。まず皮下一定の深さに達するとおこる。そしてさらに深く進めていって再び強く感ずることもある。これは皮下組織(結合織)より筋(特に筋膜のあたり)に至る間に相当する。だいたいにおいて結合織が中心になっているようである。そこで大多数の経穴は、深部は筋に達していて筋にも関連しているものなのであろうと考えられている。いくつかのモデル経穴について解剖学的にしらべてみると、経穴にあたるところは、筋に対して神経の枝と血管の枝とが相ともなって入ってきているところになっていると言っている人もある。』
●『皮下組織というのは、皮膚と筋(筋膜)とを結びつける目の荒い網のような線維の結合織からなりたっていて、その間隙は組織腔といわれ、組織液が充満している。ここが、針の刺激の対象である経穴の主体である。』
●『血は体液的なもの、そして気とは筋を主因とした電気的なものという解釈がなりたちそうである。』
日本東洋医学会の発足は1950年3月12日です。慶應義塾大学医学部北里図書館会議室にて創立総会が開催されました。
まとめ
理想の鍼灸師は、すべての施術において1回で治してしまうスキルをもつことです。ただし、これは明らかに夢のような話です。それは無理だとしても、その土台となるのは知識と技術の積み重ねだと思います。
鍼灸の施術は「病」と「人」の両面をみるものなので、全人的な知識は理想だと思います。しかしながら、最も大切なことは鍼灸の真髄を腹に落とすことです。私の場合、それは“自然治癒力”、“経絡”、“氣”の3つでした。今回の「“氣”とは何だろう」の試行錯誤の時間を通して、最後に残っていた“氣”を腹に落とすことができました。
この3つは自分なりに次のように捉えています
1.“自然治癒力”:ストレス適応と栄養代謝(栄養代謝とは消化・吸収・代謝を意味しています)
2.“経絡”:経絡≒ファシア(膜)
3.“氣”:氣≒シグナル伝達分子(シグナル伝達分子の中ではセロトニン、GABA、アセチルコリン、メラトニン、ドーパミンの5つを特別な存在と考えています)
なお、"自然治癒力”は簡潔にいえば「生きる力」です。また、3番目の【氣≒シグナル伝達分子】という答えは完全に私見です。
今後の課題は、氣を体で知ること、生きたツボをみつける力(触診術)を向上させることです。
“氣”に関しては「小周天」に挑戦します。“触診技術”は実践が重要ですが、まずは『治療家の手の作り方』という本を、あらためて熟読することから始めたいと思います。そういえば、専門学校時代に「電話帳に髪の毛をはさみ、その髪の毛の存在を「手」で感じられるようにする訓練方法があったように思います。慣れるにしたがい、ページ数が増えていくというものでした。これもトライしようかなと思います。
画像出展:「命を支える神秘の巨大ネットワーク “メッセージ物質”が医療を変える!」
【氣は血を推動する】、そして、生きたツボを発見するのは「手」が重要です。この写真は鍼灸師として忘れてはいけないことを教えてくれているような気がします。
Ⅴ 生物に共通な性質と磁場
●生体のリズムも地磁気に左右される
『地磁気は生体リズムを直接制御する主因子ではないものの、概日時計をリセット・同期する補助的Zeitgeberとして機能するエビデンスが蓄積されている。特に磁気嵐や大気電気回路変動によってヒトのホルモン分泌や自律神経系にも影響が及ぶため、概日リズム強化策や電磁環境の最適化は健康維持に寄与しうる。今後、クリプトクロムやマグネタイトの分子機構解明とともに、臨床応用研究がさらに進展することが期待される。』
Ⅵ 生体構成成分と磁場
●生体細胞への影響
『磁場は細胞レベルでの免疫反応、増殖、配向、イオンチャネル機能を調節し、分子レベルではラジカルペア動態や磁性異方性といった物理化学的機構を介して生体プロセスに影響を与える。これらの知見は、磁気医学や組織工学、非侵襲的脳刺激など多岐にわたる応用展開の基盤となっており、今後も細胞・分子機構の解明が進展することで新たな治療法や生体制御技術の創出が期待される。』
●変わる酵素活性
『磁場は酵素活性に影響を与えうる。具体的には、①磁性ナノ粒子を介した局所加熱や基質衝突頻度の増加、②ラジカルペア機構による電子スピン状態変化、③分子配向による基質–酵素相互作用変化などの複数メカニズムが報告されており、適用条件(磁場強度・周波数・印加時間・酵素固定化の有無)に応じて、活性が数%から数倍に増減する。』
Ⅶ 磁場効果のメカニズム
●生物磁石による感覚
『現在のところ、磁鉄鉱–神経系連結メカニズムは「機械的結合による膜歪み→機械感受性チャネル開口」というモデルが最も支持されている。しかし、チャネルの同定や細胞内輸送機構などの詳細な分子メカニズムは未解明であり、今後の研究が待たれる。』
●超伝導性による感覚
『生体内超伝導やジョセフソン接合の実在・機能は確認されておらず、その実現可能性は極めて低い。ごく微弱な地磁気変化への感応メカニズムとしては、現時点でクリプトクロムにおけるラジカルペア機構が最も有力である。今後の研究では、光−磁場結合反応の分子動力学解析や生体内電気生理測定による直接検証が鍵を握ることになるだろう。』
『クリプトクロムを介したラジカルペア機構(RPM)のほかにも、生物の磁場感受性には以下のような量子化学的メカニズムが提案されている。
1. 磁気同位体効果(Magnetic Isotope Effect)
2. レベルクロッシング機構(Level Crossing Mechanism, LCM)
3. クォンタムニードル現象(Quantum Needle)
4. 駆動ラジカル運動(Driven Radical Motion)
5. キラル誘起スピン選択性(Chirality-Induced Spin Selectivity, CISS)
6. 磁気クロマイラル電荷ポンピング(Magnetochiral Charge Pumping)』
●生体磁気の役割
『地磁気と生物の恒常性を考える際,生体磁場を以下のように位置づけると理解が深まる。
・生理的電気活動の「副産物」ではなく,「動的なシグナル」として恒常性ネットワークに組み込まれる
・電磁的恒常性を通じ,外部地磁気変動に対する「内部EMバランスの緩衝材」として機能
・IFO-VGICなど,微小な磁力によるイオンチャネル操作で細胞恒常性を微調整
今後は,生体磁場計測技術(光ポンピング磁力計,高感度センサ)を用い,日常環境での地磁気変動と生体磁場応答を高時間分解能で追跡することで,電磁的恒常性の詳細なメカニズム解明が期待される。』
『地磁気が乱れた際に血液内で観察される各種変化(凝固能亢進、ESR増大、白血球減少など)は、いずれも自律神経系や内分泌系を介した二次的な生理応答によるものであり、血液成分そのものの磁気的性質が地磁気レベルの変化で直接変化する機構的証拠は現在存在しない。したがって、血液の恒常性維持や健康影響の観点では、地磁気変動→自律神経変動→血液成分変化という経路が主体であると理解される。』
『生体電位の基本生成にはイオン勾配とチャネル/ポンプの制御が支配的であり、地磁気は直接寄与しない。一方、重力は感覚細胞において膜電位変動を駆動し、重力感覚シグナルの“発火”源として不可欠である。』
『生物と地磁気の相互作用を解明するには、ナノ〜分子レベルの内的センシング機構と、地球・宇宙からの多様な磁場環境を含む外的因子を同時に考慮する「多階層・多因子統合モデル」の構築が不可欠である。これにより、磁気感受性や磁場依存的行動・生理応答の全貌が明らかになるだろう。』
感想
“氣とは何だろう”の出発点は、「気は血を推動する」ということだと考えています。一方、悩ましいのは、外気功や気療のように、ヒトからヒトへ、またヒトから動物に影響を及ぼすパワーを有していることです。さらに、東洋医学では、宇宙と人体は切り離せない一体の存在とされており、宇宙の原理(太極・陰陽・五行)がそのまま人体や生命現象に反映されると考えられています。
したがって、“氣”は人体内のミクロな世界から、宇宙というマクロの世界にも通じるものであるということです。この三番目のミクロ⇔マクロという世界観にもっとも近いのが、電気(電場)と磁気(磁場)のように思います。今回のブログでは、電気と磁気、そして、これらは表裏一体となって生命の恒常性の維持に影響を与えているということが確認できました。
“氣”に関しての最後の本は、『生物は磁気を感じるか -磁気生物学への招待-』です。これは“氣”に関し、「電気」が何か関係しているのではないかと思っているのですが、その中で特に気になっているのは「生体電気」です。
そして、もう一つ気になっているのが「磁気」です。磁気も電気同様、“氣”と深く関係しているように思います。以下はAI(Perplexity research)の回答です。
『人体内の電場(生体電気)は、主にイオンの不均一分布による細胞膜電位とその時間変化(活動電位)によって生じる。一方、これらのイオン電流は同時に極めて微弱な磁場(生体磁気)を発生させる。したがって、人体内では「電場が先に存在し、その変化が磁場を生む」構図で、両者は不可分に結びついている。』
マクスウェル方程式とは、電気と磁気の関係を表す4つの大切なルールとされています。
注)左は「電磁気学とマクスウェル方程式」(クリエイティブ・サイエンス)より拝借しました。
『「電気と磁気は実はつながっていて、動かしたり変化させたりすると、お互いに新しい力を生み出す」これがマクスウェル方程式の一番大事なポイントです。』とのことです。
そして、「電気・磁気・人体」をキーワードにして、見つけたのが今回の前田先生の本になります。
しかしながら、「まえがき」に書かれていたのは次のようなものでした。
『本書は電磁場そして特に磁場が生物におよぼす影響について、ここ二十年余りの研究によって得られた主な成果を紹介しようと思う。この分野は「磁気生物学」とか「生物磁気学」とかよばれているが、何しろ生まれたばかりの学問で、しかも多くの異なる専門の人々が行っている学際的研究だから、得られた結果も多種多様であり、その信頼度もまちまちである。
このため、さしあたり雑多な研究結果を一応整理してみたという段階であって、体系的にまとめて記述できるまでには至っていない。しかし、本書によって読者が日頃、磁気の影響をうっかり見過ごしていることに気づき、関心を持たれるようになれば幸いと思っている。』
このため、ブログでは興味をもった事柄に関し、現在の医学や科学ではどのような見識になっているのを調べることにしました。
AIの回答の内容は極めて専門性が高く、ほとんど理解できていませんが、磁気が生物、生命に大きく関わっているということは理解できました。
目次
まえがき
Ⅰ 地球は大きな磁石 ―地球の磁気環境―
・磁石で方角を知る
・地球は大きな磁石
・逆転する地磁気
・他の惑星も磁石か
・地球はなぜ磁石か
・場所による地磁気異常
・短期的に変わる地磁気
Ⅱ 宇宙には磁場があるか ―宇宙の磁気環境―
・太陽に磁場はあるか
・恒星に磁場はあるか
・高密度星のすごい磁場
・銀河に磁場はあるか
・天体はなぜ磁場をもつか
・銀河はなぜ磁場をもつか
・宇宙磁場の統一理論―ダイナモ理論
Ⅲ 伝書バトは磁石をもっている
・天災を予知する生物
・磁石をもつ細菌
・伝書バトは磁石をもつ
・磁石をもつミツバチ
・電磁場を感じる魚
・生物磁石はどうしてできるか
Ⅳ 生物の機能は磁場で変わる
1 健康なヒトと磁場
・自然磁場の変化と体の変化
・パイロットの操作ミスにも関係?
・子供の成長と女性への影響
・人工磁場の影響
2 病気のヒトと磁場
・自然磁場の影響
・緑内障や結合症の発生と関係?
・人工磁場の影響
3 動物と磁場
・性比にも影響する自然磁場
・磁場遮蔽と人工磁場
4 植物と磁場
・植物の根は地磁気の南北を向く
・弱い人工磁場と強い人工磁場
5 微生物と磁場
Ⅴ 生物に共通な性質と磁場
・生物の進化にも影響?
・遺伝子への影響
・染色体への影響
・生体のリズムも地磁気に左右される
・方向性の実験
・磁場効果の普遍性
Ⅵ 生体構成成分と磁場
・生体細胞への影響
・培養細胞への影響
・コロイド系への影響
・たんぱく質の構造や向きが変わる
・変わる酵素活性
・脂質や核酸の向きが変わる
・遺伝暗号のエラーがふえる
・水を軟水化させる
Ⅶ 磁場効果のメカニズム
・生物磁石による感覚
・超伝導性による感覚
・水と体液の役割
・生体膜の役割
・生体磁気の役割
・まとめ
Ⅷ 磁気生物学の応用
・臨床検査と診断
・病気の治療
・肩こり治療から義歯まで
・保険・衛生上の問題
・農業での利用
・夢の多い生物学の研究
・生物工学の試み
付録・磁気についての基礎知識
・磁場と磁石
・透磁率と磁化率
・強磁性体の性質
・磁石をつくる
・電気と磁気
・電磁流体の力学
・地磁気を変える
Ⅲ 伝書バトは磁石をもっている
●天災を予知する生物
『動物による地震予知のメカニズムは、科学的に完全に解明されているわけではありませんが、近年の研究により一定の可能性が示されています。インターネットやSNSを活用してペットの異常行動情報を収集し、全国規模でデータを蓄積することで、より正確な地震予知システムの構築が期待されています。』
『動物による噴火の予知は確実な科学的手法ではありませんが、近年の研究により一定の可能性が示されています。火山活動に伴う地熱変化、火山ガス、火山性地震、電磁波変化などの複合的な環境変化を、動物が人間よりも敏感に感知している可能性があります。今後、センサー技術の発達と大規模な観測ネットワークの構築により、動物行動データを従来の地球物理学的観測と組み合わせることで、より精度の高い火山噴火予知システムの開発が期待されています。』
●伝書バトは磁石をもつ
『磁石(磁鉄鉱)を体内にもつ、あるいは磁場を感知できる生物は、バクテリアから昆虫、魚類、鳥類、哺乳類に至るまで広く存在します。これらの生物は、地磁気を利用して移動や位置把握、ナビゲーションなどを行っていると考えられています。』
『近年の研究では、人間にも地磁気に対する潜在的な感受性があることが示唆されており、この感受性のメカニズムとして「マグネタイト仮説」が有力視されています。これは、体内に存在する磁鉄鉱が地磁気を感知する役割を果たしている可能性を示しています。』
Ⅳ 生物の機能は磁場で変わる
1 健康なヒトと磁場
●自然磁場の変化と体の変化
『これらの知見から、地磁気の急激な変動は心臓疾患の発症や死亡リスクに何らかの影響を及ぼす可能性が高く、臨床的・公衆衛生的観点からさらに詳細な検証が求められます。』
●子供の成長と女性への影響
『磁場の成長促進・抑制効果は(1)磁場強度、(2)磁場の種類(静磁場・交番磁場・勾配場)、(3)細菌種や形態、(4)培養系(液相・固相)など多くの因子に依存します。一般的には「弱~中強度磁場で抑制効果」「特殊勾配場や高強度磁場で増殖制御・促進効果」が認められており、医療応用やバイオプロセスへの展開が期待されています。』
●人工磁場の影響
『地磁気を極度に弱めた環境(低磁場環境、hypomagnetic conditions; HMC)では、ヒトの認知機能、循環器・免疫機能、細胞レベルでの代謝や酸化ストレス応答など、多岐にわたる変化が報告されています。』
『人間の無意識的磁気感知は、進化の産物として残存する古い適応機能であり、現代においても環境認識や生理調節に潜在的な役割を果たしていると考えられます。これは人間の感覚能力や環境適応メカニズムの理解を深める重要な発見であり、将来的には医療、技術、環境デザインなどの分野での応用が期待される、生物学的に意義深い現象です。この無意識的な能力は、私たちが自覚していないもう一つの環境との対話チャンネルとして機能しており、人間と環境の関係をより深く理解するための重要な手がかりとなっています。』
『人間は磁気や電磁場を「感じる」ための生体センサーを持っている可能性が高いですが、その情報は無意識下で処理されており、主観的・意識的に磁気や電磁場を感じることはできません。今後は、この無意識的な磁気感受性がどのような意味や役割を持つのか、さらなる研究が期待されています。』
2 病気のヒトと磁場
●自然磁場の影響
『終末期の患者では、生体の適応能力が著しく低下しているため、地磁気の急変(磁気嵐)は心血管系や自律神経機能にさらなるストレスを与え、症状悪化や死亡リスクの上昇に寄与する可能性が示唆される。しかし「終末期」に特化した疫学的データは乏しく、現段階では間接的証拠に基づく評価にとどまる。』
『地磁気擾乱日には、心拍数の微小増減や自律神経機能指標であるHRVの顕著な低下が再現性をもって報告されている。 一方、機械的同期性(心室の非同期性増大・収縮位相遅延)に関する直接観測データはなく、エビデンスギャップが大きい。』
『現時点では心拍変動への影響は認められるが、心室の同期性異常や収縮位相遅延については未だ証明されていないのが実情である。』
『地磁気擾乱は精神活動に影響を与えうる要因として、多数の疫学的・生理学的研究がその関連を示しているものの、主に「うつ状態の増悪」「自殺率上昇」「脳波乱れ」といった精神症状の変調にとどまる。一方で、統合失調症における明確な因果関係の証明はなく、出生季節との生態学的関連研究があるのみである。』
●緑内障や結合症の発生と関係?
『現時点で、地磁気活動(GMA)が緑内障そのものの発症や進行に直接的に影響を与えるという確固たるエビデンスは存在しない。しかし、眼圧(IOP)の短期変動や急性閉塞隅角緑内障発作との関連を示唆する研究が散見される。』
●人工磁場の影響
『磁気バンドとダミーバンドの比較実験は、「機械的頸部痛」「凍結肩」で実施され、有意な鎮痛効果が報告されていますが、「肩凝り」に特化した臨床試験は未だ報告されていません。従って、肩凝りへの適用については科学的エビデンスが不足しており、さらなる研究が必要です。』
『100 ガウス(10 mT)前後の交番磁場(PEMF)は、ラット創傷モデルで治癒促進作用を示しており、特に増殖期の組織張力改善や治癒速度の向上が報告されています。今後、最適パラメータやヒトへの応用可能性を検証する臨床研究が期待されます。』
第三部
針灸に関する新しい解釈
●この章の中に、「刺針とアミノ酸」、「刺針と抗ヒスタミン性と抗アセチルコリン」、「刺針と自律神経系」に関する記述があったのですが、今の科学ではどのようなことが明らかになっているのか調べてみました。その結果、いずれも様々な研究を通して多くのことが発見されていることを知りました。
経穴というもの
●経穴の実態
・経穴を解剖学的に注意してみると、筋肉の間(筋溝や筋縁)や筋に連なる腱の上であるとか、関節や骨の凹んだところ、またもり上がっていたり、皮下にシコリやスジのようなもの、さらに動脈の拍動がよく触れるような部位に存在している。
・『経穴の深さは、どれくらいかというと、これは針を刺していったさいに、それに応じた感覚がおこることによっておよそわかる。まず皮下一定の深さに達するとおこる。そしてさらに深く進めていって再び強く感ずることもある。これは皮下組織(結合織)より筋(特に筋膜のあたり)に至る間に相当する。だいたいにおいて結合織が中心になっているようである。そこで大多数の経穴は、深部は筋に達していて筋にも関連しているものなのであろうと考えられている。いくつかのモデル経穴について解剖学的にしらべてみると、経穴にあたるところは、筋に対して神経の枝と血管の枝とが相ともなって入ってきているところになっていると言っている人もある。』
・『経穴の立体的な構造を想像してみると、筋膜のあたりを底として、上方皮膚面に向かって拡がりをもった摺鉢状(または壺状)のものであると理解されよう。』
経絡について
●東洋医学における経絡
—経絡の意義
・『東洋医学では、経絡は人が生きていくための最も基本になる現象であると見なしている。そして気・血が全身を循環するルートであるといっている。そこで、近代医学の教養を受けた人々には、これは人体の解剖を知らなかった古代の東洋人が神経や血管を混同してこのような幼稚な考え方をしていたものにちがいないと、軽卒に断定されて無視されがちであった。しかし、それにもかかわらず、経絡を重視する考えを、なお捨てきれないことにはわけがあった。それは病気のおこり方や治療に関してこの考え方があまりに実際に即していて、事実をよく説明できたからなのである。そこで経穴というものと関連して、内臓―皮膚―全身に行きわたる機能的な連絡路系として、今日の医学に新たな課題として提供されなければならなくなった。』
●経絡現象
—針の響きによる観察
・『針を刺して、ある深さまで進むと、徐々にまたは突然に、しびれるような電気に当てられたような感覚がおこる。そして、時にはそれがあるきまった方向に流れて行く。この瞬間的な針の響が経絡を示唆しているのだということは古くから知られていた。しかし、こういう感覚は、長く広い範囲にあらわれることは稀であってたいていは一時的で消えてしまうので、それをくわしく調査することはできなかった。
ところが、昭和二十四年の春、筆者は千葉医大眼科で偶然、針の響に実に鋭敏で、一度刺すと全身的にいつまでも放散している珍しい患者に遭遇した。視神経萎縮という。どんどん視力がなくなる悪性の眼病にかかっていた患者で、子供の時に落雷に感電した経歴のある人であった。この人について、ヒビキを丹念にとらえて、調整する機会が得られた。
各経絡を一つ一つ調査するために、手くびと足くびに近いところにある十二の原穴に、それぞれ針をごく浅く刺して置針しておいて、ヒビキのはっきり感じられているところを皮膚の上からたどって調べて行った。一つ一つ記録して、総体的にみると、まったく昔の医書に出ている図や解説と一致していた。それは、むしろ予想を裏切るほどの符合であった。』
・『これ以来、一般に注意されるようになったせいか、こういう特殊な過敏体質の人がつづいて発見されるようになった。』
●経絡の証明
—経絡現象発現の本態
・針の響きというものは、痛いという感じとは違った異常感覚の流れである。ごく弱い電流が流れているような、あるいは風が吹きとおるような、水が流れるような感じとして受け取られている。
・流れの速さは一様ではないが、ともかく、だんだん放散していくのがわかる程度である。明らかに神経に針が直接接触した場合(ピリッとした一瞬の強烈な感じで、毎秒数十メートルというスピードで伝わる)とは異なる。
・針の響きの伝わる速さは、1秒間に1~2センチから速くても数十センチである。
・『経絡現象の発現には、神経、筋肉などが、そのものとして直接関与しているのではないかということが、まずわかる。しかし、針の響は知覚の異常として感知されるのであるから、知覚神経が関与しているということは考えなければならない。』
・『探索器による経絡現象のつたわる速さは、リンパ流の速さと似ているものであるということと考え合わせると、結局、針を刺した皮下の組織液に変化がおこって、これが知覚神経に感知されているのではないかと考えられてくる。そして、そのさい知覚神経ばかりでなく、植物神経にも影響をおよぼすことになって、内臓の機能、血液循環、内分泌機能などにも変化をあたえることになるのではないかと考えられるようになった。』
—筋運動主因説
・経絡の異常と考えられている現象の一種に、皮下の深部筋間にスジのような硬結あるいは、経絡に沿ってもり上がったようになった筋肉の凝りがある。また、特殊過敏者の放散する針の響を皮膚に投影させて記録した中には、線状になっているところや、部位によっては幅広く帯状をなしていて、その部位の筋肉の幅と似たようなものもある。
・刺針により筋に微細な損傷または刺激が与えられると、筋線維の表面に電気的な変動などが起こる。その場合、筋やその周囲が病的な異常状態にあるならば、病的な電位差が調整され急激な変動が起こる。この変動が組織液に伝えられて針の響きとなって感知されているのかもしれない。
・刺針という刺激が加えられない状態での生理的な経絡現象を考える場合、生きている限り、呼吸をし、手足を動かしう、顔の表情も変化するということを考えると、常に筋肉運動が行われているということは明らかである。また、通常の生理的な筋収縮では必ず活動電位が発生している。その際、組織液の移動も起こり、一定の体液の循環路がつくられ、これが機能的な刺激伝導系としての経絡になっているのではないか。
—経水と経筋(体液と電気)
・『経絡現象を筋運動主因性体液路系(藤田六朗氏)として理解しようとする考えの根底は、すでに東洋医学の古典(霊枢)にも見られる。経脈(絡)を「分肉の間を伏行してあらわれぬもの」(経脈篇)と定義しているほか、経水および経筋という比喩的な見解が表明されている(経水篇、経筋篇)。
経水というのは、十二経脈を中国の河川・湖水などにたとえて、気血の流注の状態を説明しようとしているのであって、また経筋というのは、十二経筋という手足の指に起る筋肉の縦系列をグループ別に想定して、これを十二経脈にあてはめているのである。
経水思想は、経絡を気血の流通路と想定しているかぎり当然のことであるが、経筋に関しては、実際に筋肉の凝りが経絡に沿ってあらわれ、また針によって解消することなどから一定の筋肉群に人為的に律動をおこすことができるのであるから、現象的には認識できる見解である。
そして、こういう思想からわりだしてみても、血は体液的なもの、そして気とは筋を主因とした電気的なものという解釈がなりたちそうである。』
・『フランスのモラン氏は、かつて針の現象について、術者と患者との体内におこる電力と、空気中の電力との相互関係を考えた。そして、両足の三里(経穴)を銅線で連結して、特殊装置によって電気の存在を証明し、その強さは健康者で1ミリアンペアの八千分の一、疲労した人では少なく、神経質の人、足に攣縮のあるような人では十五倍であったと発表している。』
・『すべての筋肉が経絡現象に関係するという前提で考えを進めていくと、多くの縦走する筋肉群と、少数の横に走る筋肉との関係が問題になってくる。そして、これに関しては、横に走る筋肉は、深部にあって、縦に走る筋肉群にそれぞれ連絡する役割を果たしているのではないかと想像されている。つまり、ヘッド氏帯(または背部の兪穴と募穴などを結びつける帯状の経絡現象)に見られるような、からだの分節的な横の現象に関連しているのではないかというのである。
また、筋肉には、伸筋と屈筋という二つの作用を異にしたものがある。ところが、経絡には陽の経絡と、陰の経絡とがあって、陽の経絡は胃、小腸、大腸、胆、膀胱、三焦というような「腑」の臓器と関係して表在的であるといわれ、陰の経絡は心、肺、脾、肝、腎、心包というような「臓」の臓器と関係して深在的であるといわれている。この関係を解剖学的に調査してみた結果では、だいたいにおいて伸筋群が腑(陽)の経絡に関係し、屈筋群が臓(陰)に関係しているといわれている。』
—結合織と組織液
・『皮下組織というのは、皮膚と筋(筋膜)とを結びつける目の荒い網のような線維の結合織からなりたっていて、その間隙は組織腔といわれ、組織液が充満している。ここが、針の刺激の対象である経穴の主体である。』
・結合織は発生学的には中胚葉(内外両肺葉の間にできる一対の腔胞)系の組織であって、からだの中心的な位置にある。そこで、からだの全ての細胞や組織の間に行きわたっていて、脳や胃腸その他のあらゆる重要な臓器、器官の細胞を安定状態に結びつけて、組織液とともに組織の緊張状態を一定に保つ役割をしている。皮下組織はもとより、上皮との間の真皮、筋の周囲や間、筋膜、血管壁などにも行きわたっている。
・この組織は同じ中胚葉系の網内皮細胞とともに健康維持に欠くことのできないものであるということが、近年注目されるようになった。
・『結合織の機能の減退は、組織液の浸透、流通の異常となってあらわれる。』
・経穴は多くは筋肉の間であったり、神経や血管の出入りする部位にみられる。
・『組織液の流通と経絡・経穴との関係を調査するために、筆者はかつて多くの健康人体について一つの試みを行ってみた。「ツベルクリン反応が試みられる手のひら側の前腕の皮膚で、経穴にあたる部位と経絡の主流線上になっていて経穴でないところ、および経絡の主流線をはずれた経穴でない点などについて、それぞれ生理食塩水を皮内に注入して、それが完全に皮下に吸収されていく時間を調べてみた。すると、経絡主流線上では経絡外の点よりも早く、経穴部ではややおそくなっているのがわかった。」
すなわち経絡主流部では早く吸収されるのであるから、これによって皮下の組織液がよく動くところが経絡になっているらしいということがわかったし、経穴は、どちらかといえば流れが悪く停滞しがちなところであるということも、だいたい予想どおりであった。』
・『結合織を中心として、内循環系ともいわれる脈管外の通路系というものを考えると、気・血(栄・衛)の流れるという経絡と、経穴の意義が、いっそうよく理解されてくる。そして針灸の作用も、結合織の機能を回復させるものであるということで説明できるようになる。針灸を組織療法と考えるのは、この意味で当たっているし、同時に経絡の機能をよくするという広義の作用も理解される。』
・『針の響による経絡現象の発現は、筋を主因とする説でひとまず説明されているが、実際には筋まで達しないで、単に皮下の結合織に達したくらいの深さでもおこる。こういう場合は、体液的な変化で間接的に筋が刺激されるためであろうと説明(藤田六朗氏)されている。しかし、こう考えたのでは、体液が何によって変化をうけるのかという点が不明になってくる。そうなると、結合織線維そのものが直接関与して、またある程度刺激を感受してこれをつたえる役目をも果たすのではないか、ということも考えなくてはならなくなる。
もし、結合織線維が刺激感受の主体になるものとすれば、全身の結合織系が形態的に経絡系の実体になるという想定が、いよいよたしかめられてくる。といっても、もちろん経絡の走行を解剖学的に規定するものとして、また、機能的な関連において、筋の意義が重大であることには変わりはない。』
感想
『血は体液的なもの、そして気とは筋を主因とした電気的なものという解釈がなりたちそうである。』という長濱先生の一文が今回の最大の発見です。
「“氣”とは電気的なものではないか」以前から「電気」はキーワードであるとは考えていたのですが、長濱先生に後押しして頂いたような気分です。また、今回もAI(Perplexity)の凄さを実感しました。本書の初版発行は1956年なので、69年前ですが多くの考察については、現代科学でも明らかにされていることが確認できました。
“氣とは何だろう”というブログもついに残り1冊になりました。そのタイトルは『生物は磁気を感じるか 磁気生物学への招待』です。交流磁場(電気的に発生させた磁場)については、血行改善作用を支持する科学的根拠が報告されています。(「交流磁場の生体作用の一端を解明し、交流磁場から誘導される電場の可視化に成功」)
「気は血を推動する」という基本に立ち返ってみても、“電気”と“磁気”の2つは、“氣”を探る上で最も重要なものではないかと思います。なお、電気と磁気はマクスウェル方程式で統一的に記述できるそうです。ますます核心に近づいているのではないかと思いたいところです。
ご参考(2025年10月11日):“マサチューセッツ総合病院鍼灸感覚尺度の日本語版:検証研究”
日頃から勉強させて頂いているJNOS(日本整形内科学研究会)のウェビナーで大変興味深い資料があることを知りました。それは「鍼治療感覚尺度」というものです。
この「鍼治療感覚」とは本ブログの中にあった「鍼の響き(ヒビキ)」に関するもので、ヒビキを詳細に分析しようとするものです。
『「鍼治療の効果を生むためには、鍼治療感覚が不可欠であると考えられている。マサチューセッツ総合病院鍼治療感覚尺度(MASS)は、鍼治療の研究において、鍼治療感覚を測定するために頻繁に用いられる尺度である。我々は、Beatonのガイドラインに基づいて、このMASSを日本語(日本語版MASS)に翻訳した。』
“氣とは何だろう37(間中喜雄編)”の中に以下のことが書かれていました。そして、それは長濱善夫先生の「針灸の医学」という書著からの抜粋でした。
『針の響きによる経絡現象の発現は、筋の主因とする説でひとまず説明されているが、実際には筋まで達しないで、単に皮下の結合織に達した深度で針響が起こる場合も決して少なくないのである。また、稀にはやっと真皮に達したくらいの深さでもおこる。こういう場合は、体液的な変化で間接的に筋が刺激されるためであろうと説明(藤田六朗氏)されている。しかし、こう考えたのでは、体液が何によって変化を受けるのかという点が不明になってくる。そうなると、結合織線維そのものが直接関与して、またある程度刺激を感受してこれをつたえる役目をも果たすのではないか、ということも考えなくてはならなくなる。
もし、結合織線維が刺激感受の主体になるものとすれば、全身の結合織系が形態的に経絡系の実体になるという想定が、いよいよたしかめられてくる。といっても、もちろん経絡の走行を解剖学的に規定するものとして、また機能的な関連において、筋の意義が重大であることには変わりはない。―(以上、長濱博士『針灸の医学』より)』
長濱善夫先生は、千葉医大で鍼響に敏感な患者(視神経萎縮という悪性の眼病)を対象に実験を行い、刺鍼によって生じる響きの走行が「霊枢」など古典の経脈流注にほぼ一致することを確認し、その成果を、丸山昌朗先生とともに「経絡の研究」として1950年に発表されました。
鍼響を研究され、経脈流注との関連を明らかにされた先生が、『全身の結合織系が形態的に経絡系の実体になるという想定が、いよいよたしかめられてくる。』と発言されていたことに勇気を頂きました。それは、今まで繰り返し言ってきた【経絡≒ファシア】を裏づける見解だったためです。その長濱先生の著書を拝読させていただければ、その中に“氣”に関して、何かヒントを得られるのではないかと考えました。
はしがき
目次
はじめに
第一部
針灸の沿革
●起源
●中国の針灸
●日本の針灸
●明治以降の医制
針灸術の現況
●針とその変法
—針法
—針の変法
●灸とその変法
—灸法
—灸の変法
●技法と流派
—針と灸
—経穴
—沢田流
—古典派
—科学派
—反応点
—脈診法
—感熱試験
●海外における針術
—中国その他の事情
—ヨーロッパの針術
第二部
針灸療法の実態
●針と灸の治効作用
—一般作用と特殊作用
—特殊技術と過誤
—針と灸の相違
●針療の実態
—針の感じ
—針療の特質
—一本針
—洞刺
—刺絡
●灸療の実態
—灸の感じ
—灸療の特質
—特殊な灸法
—背中の灸と一点灸
—三里の灸
[付]原式灸法
針灸でよくなる病気
●どんな病気によいか
—機能的な病気
—神経症状
—器質的な病気
—炎症・化膿
—老化症状
—適応と不適応
●各科別の病気について
—内科的な病気
—外科(皮膚科)的な病気
—産婦人科的な病気
—小児科的な病気
—眼耳鼻科的な病気
●特に二、三の病気について
—高血圧症(付・脳卒中)
—肺結核
[付]放射能症
針灸と民間療法
●手指による療法(手技療法)
●器具を用いる療法(刺激療法)
●薬による療法(付・漢方)
第三部
針と灸の近代的研究
●針に関する研究
●灸に関する研究
—血液に及ぼす影響
—皮膚の組織学的変化
—各種の生理機能に及ぼす影響
—病気に対する影響
●治効作用に関する説
針灸に関する新しい解釈
●冷凍植皮と灸
●針とアミノ酸その他
●ストレス療法
経穴というもの
●経穴の意義
●臓器と経穴
●ヘッド氏帯と圧診点
●経穴の実態
経絡について
●東洋医学における経絡
—経絡の意義
—経と絡
—気・血
—経絡の種類
—経絡の名称
—十二経の走行と臓腑
●経絡現象
—針の響きによる観察
—皮膚の電気抵抗による検索
●経絡の証明
—経絡現象発現の本態
—筋運動主因説
—経水と経筋(体液と電気)
—結合織と組織液
経絡・経穴と針灸
●経絡と経穴
●経絡に対する一般作用
●針灸の作用機転
●経穴の選択
●経穴組織の刺激
●経穴機能の調整
経穴・部位一覧
第一部
針灸の沿革
●日本の針灸
・日本には奈良朝から平安朝時代にかけて隋・唐と直接交通が開かれるようになって移入された。
・大宝律令には宮内省典薬寮に医師、医博士、医生に対して針師、針博士、針生などをおくという管制が定められていた。そして、甲乙経という針灸専門書などは、針生ばかりでなく、医生にとっても必須購読書とされていた。
・針生は数種の専門書について研修し、試験に合格して針師となり、さらに優秀なものは針博士に任ぜられることになっていた。針灸は針科と呼ばれて、当時の医方の中では、一段と程度の高い技術として重視されていた。
・「医心方」(三十巻)は、当時の代表的医書で、現存するわが国最古の医書であるが、著者は針博士の丹波康頼である。
・鎌倉時代から室町時代になると、医官制度はすたれたため、管制上の針師・針博士は有名無実の存在となり、民間に針灸は広まり外科医的療法として、できものや腫れものなどの治療に応用されるようになった。一方、この時代には針灸の先進国であった朝鮮に日本の灸法を紹介したり、明に渡って日本の針法を伝えた人の記録もあり、すでに日本にも独創的な針灸法が生まれていたと思われる。
・桃山時代、京都の御薗意斎は、従来の鉄針の他に新たに金針・銀針を創薬したほか、小槌で針頭を打って刺入する打針の方法を発案した。
・江戸時代になると一般医術も針灸も、わが国独特の方が次第に完成されていった。宝永年間、後藤昆山という医家が、百病は一気の留滞に困るのであるから、灸によって治すべきであるという説を唱えて、灸法を実用したので、その一派によって灸がたちまち世に広められるようになった。
・将軍、徳川綱吉の命によって杉山和一検校が、針治講習所を設けて針術を広めることにつとめたことから、杉山流針科として針も大いに普及した。杉山和一は、管針を創案して針の皮膚刺入を簡易化した。この管針法によって刺入が著しく容易になったため、針法の普及に役立った。この管針法は現在に受け継がれた。
・針灸は江戸時代末期に蘭学が入ってきて、漢蘭折衷の医方が生まれても医方の一つとして存続されていった。
・文政九年(1826年)オランダの医官として来朝したドイツ人医師シーボルトは、在日中、頻繁に針を体験したうえ、当時の幕府の針科医石坂宋哲の著書を翻訳し、後年帰国してこれをヨーロッパに紹介した。
●明治以降の医制
・江戸時代の末期には、すでに日本独特の針灸術がほぼ完成されていたが、明治時代に入ると新政府は西洋文物の取り入れに急になるあまり、医学の面でも西洋医学一辺倒の方針をきめた。そのため、明治七年の医制において「医師は西洋医学を修めたものでなければならぬ」と規定された。その結果、従来の漢医方とともに針灸術も新しい医師制度から除外されることになった。しかし、すでに当時国民に広く親しまれていた針灸を一概に禁止することはできず、同じ医制の中に「鍼治灸治ヲ業トスル者ハ内外科医ノ指図ヲ受クルニアラザレバ施術スベカラズ」という規定が設けられていた。ところが、東洋固有の医方であった針灸を近代西洋医学の管理下におくということには、本質的に矛盾があり、実際にはこの規定はほとんど励行されなかった。そこで、その後「鍼灸術の営業差許方」(明治18年)、「鍼術灸術営業取締規則(明治44年)というように営業として認許するという便法がとられることになった。また、この制度に基づいた学校の教科基準として大正七年文部省が制定した「改正孔穴学」は、わが国古来の針灸術の拠り所であった経穴というものを孔穴の名によって、全く型にはまった簡略なものにしてしまったので、これにより江戸時代以来の針灸術の面目は、表面的には、ほとんど失われるようになってしまった。
・終戦後の占領時代、医療改革制度の諸問題に関連して、一時針灸は他の民間療法術とともに、一切禁止の危機に直面したが、医療制度審議会の答申として「医療の補助手段として効果があると考えられるものがある」とのことから、なんとか禁止だけは免れた。その後、昭和二十六年に至り「あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法」が施行され、従来の営業法から一変して身分法が確立されることとなった。ただし、その代わりその資格に対しては免許の水準を一段と高めるということで落着した。
第二部
針灸療法の実態
●針療の実態
—針の感じ
・『針を刺入して行くさい、針が皮膚を通ってしまった後は、ほとんど無痛で、針が入っていくという感じもないほどである。しかし皮下のある深さ(人により場所により深いことも浅いこともある)まで達すると、徐々に、あるいは突然に、特別の感じがおこる。ふつうはごくかすかな電気をかけられたような感じであり、あるいはしみるような、または重苦しいおされるよう感じ、時には熱感または冷感という形式で表現できるような感じである。これは一時的、局部的に終わってしまうことが多いが、時には電気にかけられたようなかすかな感じが、急速に流れて、針を刺しているところとは別の思いがけない遠方に再び強く感じがあらわれる、というようなこともある。ふつうは瞬間的にあらわれて、短時間のうちに消えることが多いが、時には置針中いつまでもつづいていることがあり、またまれには針を抜いた後にものこっていることがある。流れる方向は、経穴によってだいたい決まっている。また、患部に向かって選択的であることもある。これらは、針のヒビキ(響)といわれる特別な感じで、少なくともふつうの痛いという感じとは違う。圧痛の強い経穴などに針を刺すとよくおこるが、この場合は、針がよく効いているということを意味することにもなる。患者が「あア今の針はよく効きました」というときは、ヒビキが強くあったことをいっているようである。実際、それで、病苦がずっと軽減されることが多い。しかしすべての場合にそうであるとはかぎらない。
圧痛のあまりない、虚状になった経穴では、こういうヒビキは必ずしもおこらない。しかし針を刺したままにしておいて、振動させたりしていると、やがてかすかな感じが出てくることもある。これは、これで治療的に意味のあることなのである。
針のヒビキが、はっきりあらわれて、それが一定の方向に放散されて行くというと、いかにも針の先が皮下の神経にぶつかって、神経を刺戟した結果であろうと考えられやすいが、神経線維に的確に突きあてるということは容易なことではないし、事実あたった場合はこういう感じとは全然別な強烈な感じとなる。また、このように遠くの方まで流れて行くということも考えられないし、神経が通っているすじみちとは、まったくちがう方向であることが多い。つまり、常識的に考えられる神経とはちがうものを刺激していることになるのである。結果的に、経絡に影響をあたえたためにこういう感じがおこると考えられるわけで、このことから経絡というものを、はじめて現象として認知することができることになるのである。』
—針療の特質
・針治療は一番痛むところに刺すだけでなく、その周辺を触診して過敏な反応がある経穴を施術することは有効である。また、少し離れたところや遠隔部からの刺針でも効果が期待できる。
・坐骨神経痛の場合は、腰部、臀部、下肢(膝から下まで)と広い範囲に施術する。この範囲の特に良く効く経穴があるが簡単には見つからない。
・針のヒビキによって経絡現象が認められるということは、針の刺激の対象になっているものが経絡であり、刺激によって病気が良くなっていくということは、経絡の異常が治されたからだということになる。
—一本針
・急性病に針はよく効くといわれているが、胃痙攣や胆石症の発作的な痛みなど、うまく効くときは全く鎮痛薬など足元にも及ばないほどの効果がある。
[胃痙攣] 筆者(長濱先生)の特によく効いた事例
1)『第一例は、痛みのために仰向けになって、手でおなかをおさえて苦しがっていた青年の場合である。(はじめての発作)いちばん痛がっているみぞおちのところ(巨闕という経穴)へ静かに針を刺しはじめると、今まで閉じていた眼を急に開いた。針を抜くと同時に、患者は起き上がった。針を刺されていたのは知らなかったが、急に痛みがなくなったから起きたのだとのことだった。』
2)『第二例は、中年の男(既にたびたび発作の経験がある)これは腹這いになって痛がっていた。そこで背部の腰に近い胃倉という経穴(おすと特に過敏な痛みがあった)に針を刺すと、胃の中にしみるように針のヒビキを感ずるとのことだった。起こしてみると、用心深く、起き出したが、もう痛みは全然なくなっていた。』
3)『第三例は中年の婦人。これは帯を固くしめた着物のまま蒲団に入って、エビのようにからだを曲げて苦しがっているのでどうにもならなかった。そこで足だけ蒲団の外へ出してもらって、膝の少し上にあたる太股の梁丘という経穴に針で強刺激をあたえてみた。すると見ているうちにからだをまっすぐにして、やおら起き出した。それきり、発作は止まっていたのである。』
・『この三つの例は、いずれもちがった経穴を使っているが、それぞれ一針だけでなおった例である。しかし、いつも必ずこのように一針だけで治るというわけにはいかないが、うまくあたると、こんな効き方をするという意味で、ここにあげた。』
胃痙攣も胆石症も針治療で改善するのは、いずれも平滑筋の緊張を軽減することによります。
『平滑筋の収縮・痙攣による痛みが刺鍼により瞬時に改善するのは、上記の複数のメカニズムが同時に活性化されることによります。特に神経系を介した即時的な反応(ゲートコントロール、軸索反射、自律神経調節)と、局所的な生化学的変化(アデノシン放出、NO産生、神経伝達物質放出)が組み合わさることで、平滑筋の痙攣と痛みが瞬時に改善されるのです。』
私は以前から【ファシア≒経絡】であると考えているのですが、ファシアとは荒っぽい言い方をすれば“膜”です。日本整形内科学研究会による説明は、『ファシア = 全身にある臓器を覆い、接続し、情報伝達を担う線維性の立体網目状組織。臓器の動きを滑らかにし、これを支え、保護して位置を保つシステム』となっています。また、筋膜はファシアの一部とされています。
画像出展:「日本整形内科学研究会」
ファシアにつながる見解として、第五章には、『皮下組織というのは、皮膚と筋(筋膜)とを結びつける目の荒い網のような線維の結合織からなりたっていて、その間隙は組織腔といわれ、組織液が充満している。ここが、針の刺激の対象である経穴の主体である。』
そして、第十一章には、『従来、経穴に該当する部の皮膚には、知覚の過敏や鈍麻あるいは圧痛、硬結、陥下などが経験的に知られており、その構造は皮膚表面のみに限られる平面的なものではなく、深く皮下組織に及ぶ立体的なものであると推測している。』
そこで、ここではファシアの視点でいくつか資料をご紹介させて頂きます。
『「“Fascia”の語源はラテン語の“帯”を意味する「fascis」に遡り、1615年に英国の医師ヘルキア・クルークが初めて解剖学文献で使用した。」とあります。その後、ファシア研究への関心を再燃させたのは1970年代となっています。[本書の発行は1971年]
「2012年以降、超音波エコーガイド下での筋膜間注入法が日本で開発され、2015年には拡張顕微鏡法(ExM)を用いた生体ファシアの可視化が実現。これらの技術的突破が、ファシアの動的挙動の解明に貢献した。」とあります。日本では2018年に日本整形内科学研究会が発足し、ファシアが少しずつ浸透していきました。
また、「PubMed データベースにおける「fascia」関連論文は、2000年以前は年平均 50 件未満だったが、2010年以降は年
間300 件以上に急増。特に2018年のニューヨーク大学チームによる「新器官」発表後[“人体で最大、新しい「器官」を発見? 米研究”]、被引用数が前年比420%増加した。」とのことです。』
画像出展:「Electrical Impedance of Acupuncture Meridians」(PLOS One)
『背景:経絡の科学的根拠は不明です。過去の研究では、経絡は生理学的には低い電気インピーダンスを特徴とし、解剖学的には結合組織層と関連していることが示唆されています。私たちは、経絡が低電気インピーダンスと関連しているかどうか、そして超音波検査で得られる指標、特にエコー源性コラーゲンバンドがこれらのインピーダンスの違いを説明できるかどうかを調べることに関心があります。』
第十五章 ドイツの電気針
●臨床医学の領域で、数年来、ある一つ一つの臓器の機能が微細正確な電流によって示されることが知られている。心電図や筋電図は多くの人が知っているものだが、最近では大脳の活動電流が頭蓋骨を通じて診断学に利用されている。
MEGについて
画像出展:「MRIとMEGについて」(脳とこころの研究センター)
『MEGとは、Magneto-Encephalo-Graphyの略であり、日本語で"脳磁図記録"と呼ばれる検査方法であり、脳内にわずかに発生する磁場変化をとらえて脳の機能を解析する検査です。
脳の中の情報の伝達は、神経細胞間での電流のやりとりで行われています。電流が発生すると磁場が発生します。これを記録するのです。この脳磁場は大変な微量で、例えば都市雑音で発生する磁場の一万分の一程度しかありません。しかし、近年の超電導技術とコンピュータ技術の進歩により可能となったのです。』
脳磁図(MEG)
日本臨床脳磁図コンソーシアム
画像出展:「日本臨床脳磁図コンソーシアム」
『日本臨床脳磁図コンソーシアムは、脳磁図に関する知識の交換、脳磁図の研究と診断の向上を目標とする団体です。このコンソーシアムは脳磁図臨床研究医師によって構成されています。』
人間からも電波が出る?
画像出展:「人間からも電波が出る?」(電波50のなぜ)
『感度の良い電波受信器の前に手をかざすと、手から電波を受けることができます。もちろん、その強さは非常に弱いものですけど』
●経験的にこれらの診断学的方法が、心、脳あるいは筋肉の疾患を判断するのに役立つことが分かってきたが、患者の手足から心臓の活動電流だけが誘導され、なぜ他の臓器のそれが誘導されぬかということは、生理学の基礎的な研究によって何らの回答を与えられていない現状である。心臓がその活動の表現として微細な電流曲線を示すのに、なぜ肝臓、腎臓、肺あるいはその他の臓器に、これと同じようなことが起こらないのだろうか。
『心臓以外の臓器で心電図様の測定法が普及しない要因は、電気的信号の微弱さ・非周期性・解剖学的障壁に加え、臨床的有用性の証明ハードルが高い点にある。ただし、胃電図や EIT の進歩は、技術革新がこれらの課題を克服し得ることを示唆している。今後の鍵は、ナノ材料科学と AI を融合した次世代センサーの開発、ならびに臓器特有の電気生理メカニズムの解明にある。医療機器産業と基礎研究の連携強化により、10年以内に肝臓・腎臓の機能評価に革命をもたらす新技術が登場する可能性は十分に存在する。』
●経穴と経絡というものは、リンパ系、組織液と密接な関係にある。経穴を鍼または電流で処置することによって、リンパまたは組織液を正常な方向に保つことができる。イオン不正常状態からイオン正常状態にかえることができる。これによってまたコロイド不正常状態からコロイド正常状態に影響を与えることができる。仮説的にいえば、この経穴は生物電気の通路であり、経穴はこの道における蓄電池にあたる。その蓄電池は器官の活動による生物電気によってそれ相当な蓄電を受けるわけである。最もよい荷電は、普通に我々の臓器が負荷された場合に働いている状態の荷電である。しかし、その他にまだ予備的な状態がある。すなわち突然起こってくる強い負荷状態の仕事に対して、それに充分に見合うところのエネルギーが、仕事のために必要になってくる。それによって必要なだけの荷電を要することになる。だから蓄電池の荷電能力はたしかに或る程度、器官の活動能力または活動予備能力に比例するものと考えてよいと思う。
こちらは2003年12月の日本生体医工学会の論文です。 皮膚インピーダンスとは、皮膚を流れる電流に対する皮膚の電気的な「抵抗」と「リアクタンス(容量性や誘導性成分)」を合わせた総合的な値のこと。つまり、皮膚が電気信号に対してどれだけ流れにくいか(または流れやすいか)を示す指標で、単なる直流抵抗(レジスタンス)ではなく、交流成分も含めた「インピーダンス」として評価されるものですので、この論文が経穴の電気抵抗に関するものであることがわかります。2003年なので新しいとはいえませんが、本書からは30年以上経っています。
画像出展:「経穴とその周辺における皮膚インピーダンス軌跡の多点同時測定」
Ch.5は経穴の郄門(げき門)です。
『経穴とそうでない部位で皮膚の電気的特性に差異が存在する理由については、 インピーダンスパラメータ、 Z0、 τ0が精神性発汗によって著しく減少することから、経穴において汗腺の活動が局所的に活発になり発汗が促されたのではないかと推測される。』
感想
藤田六朗博士は原穴その他に灸または針刺激を与えておいて、皮膚の電気敏感速度を検査し、反応点や丘疹などの消長が刺激点の経絡に相当して現われてくることを認めました。
中谷義雄博士は臓器の病気について調査し、それぞれ一定の形状をした電流のよく通る絡状のものを発見し、これらを皮膚通電良導絡と名づけました。
間中喜雄博士は身体各部(井穴、原穴、絡穴その他)の電気抵抗のインピーダンス値を測定しました。
七条晃正博士は、平流と脈流とを同時に通電する装置を考案し、点状皮膚の低い電気抵抗部位を通電点と名づけ、針治療の経穴は表皮より深部にあり、電気抵抗の低下点だけでは判定しにくいのではないかとの疑問を投げかけました。
石川太刀雄丸教授は、電気容量成分を一定にし、抵抗成分のみ測定できるように設計した装置を使用し、きわめて低い部位が点状反応として現われることを報告し皮電点現象と呼びました。
芹沢勝助博士は大島良雄博士との共同研究により皮電計の通電方式に対し静電誘導電圧を応用した電位差計を利用し、これを差電計とよび、電極を直接皮膚面上にあて周囲皮膚と比較して明らかに大きな電位差を示す部位を記録しこれを差電点と名づけました。
これらの研究や実験から分かることは、経絡/経穴と電気との関係です。また、人の体の中には弱い電気が流れていますので、電気に注目することは不自然なことではありません。
画像出展:「“生体電気” 電気仕掛けのココロとカラダ」(NHK)
『生体電気は、細胞で“発電”され、脳、筋肉、心臓だけでなく、ヒト誕生の瞬間、受精にも深くかかわっている。生命の根幹「生体電気」。その仕掛けから生まれたヒトの不思議を妄想する。』
抵抗率は、骨>脂肪>内臓>筋肉組織>神経組織>血液となっています。
画像出展:「HANAI High Voltage Insulation Consulting」
『人間の組織は、大雑把に骨、脂肪、筋肉、神経、血液で構成されています。抵抗率は、骨>脂肪>内臓>筋肉組織>神経組織>血液となっており、電気を流しやすい抵抗の低い組織は血液と神経です。神経は脳で発生した電気信号を筋肉に与えて動かしたり、痛みや接触を脳に伝えるために電気を流しやすくなっています。逆に脂肪は非常に抵抗が高く良い絶縁物です。』
経穴の図は『臨床経穴図』からです。一方、解剖図は『グレイ解剖学』から持ってきました。
この両図を見比べると、経脈の肺経(左側)と心包経(中央)と心経(右側)は、解剖図では左から橈骨動脈、前骨間動脈の貫通枝(ただしこの動脈は深層に入ります)、尺骨動脈と重なります。そして、経穴の太淵と神門は、それぞれ橈骨動脈と尺骨動脈に近接していることが分かります。血液は脂肪や筋肉に比べ電気抵抗が低いとされています。
【気は血を推動する】という古来からの定説と照らし合わせても、経脈と血液(血管)、経脈の電気抵抗の低さ、これらは重要な特徴だと思います。
※経脈:経絡の一部、縦に走行する幹線道路のような重要な役割を担っています。
そして、思い出したのは2018年11月にアップしたブログ“閃く経絡(経絡と電氣)”です。これは『閃く経絡』という本を題材にしたものです
著者のダニエル・キーオン氏は救急救命を専門とする医師でありながら、中医学と鍼治療の学位を取得され、著名な王居易医師に師事されたという経歴も持っています。
そして、印象的だったことは、『鍼治療とは、刺鍼ポイントのツボ(経穴)への刺激が、概念である氣の一部である「電氣」の知性に働きかけ、体表と内臓を結ぶ経路を通じて乱れた状態を元に戻す』というものでした。
「概念である氣の一部である“電氣”の知性に働きかけ」ということは、電氣は氣という概念の一部であり、式で表現すれば【氣∋電氣】ということだと思いますが、「電氣の知性」とは“氣”の働きに関することだと思われます。その中身はよく理解できませんでしたが、電気は“氣”を考えるうえで無視できない重要な要素だとあらためて思いました。
第十一章 刺激療法としての針灸術
『「医道の日本」誌創刊500号(昭和44年5月号)の教育大学 芹沢勝助博士の「針灸の現状と将来への展望」のうちで、第二次戦争後の日本の主な針灸研究活動を要約したものを一覧表にすると次の通りになる。』
◇千葉大学 長濱善夫博士、昭和大学 丸山昌朗氏の共同研究『経絡経穴の研究』は、戦前の駒井一雄博士の『経穴の定位測定』に次ぐ研究で、経絡実在の可能性とその科学性を実証した。
◇京都大学 間中喜雄博士の『内臓体表反射、体表内臓反射の臨床的研究』は明治末期、後藤道雄博士の「我が国古来の針灸術はヘッド氏帯応用の皮膚刺激治療である」という見解に対して全く新しい立場から新しい知見に基づく解明を与え、内臓体表反射、体表内臓反射の機転が脊髄断区(デルマトーム/皮膚分節)だけに起こるものではなく、より高次神経中枢パターンで起こることを示唆し、平田内臓吉氏の提唱した平田氏十二反応帯(この発現機序を運動力学的に意味付けしたのが、七条晃正博士の平田氏十二反応帯の力感覚的解釈である)や、経絡パターン(赤羽幸兵衛氏が提唱した指趾末端の痛覚低下現象を熱感度により測定し、経絡の異常を判定する方法)を素材とし、豊富な臨床資料を活用して実証している。
『間中喜雄博士の「内臟体表部反射及び体表部内臟反射に関する臨床的研究」は、鍼灸医学の科学的基盤確立において極めて重要な貢献をした研究です。内臓と体表の相互作用についての神経反射メカニズムを明らかにし、東洋医学の経験的知識に現代医学的説明を与えることで、統合医療の発展に大きな影響を与えました。この研究により、鍼灸治療は単なる伝統医学から、科学的根拠を持つ医療技術として認識されるようになったのです。ただし、間中博士自身も認めているように、絶対的且つ根本的な解明は、鍼を刺す事によって起こる気や経絡や神経の複雑な相互作用の解明以外には無いと考えられます。現在でも鍼灸のメカニズムの完全な解明には至っておらず、継続的な研究が必要とされています。』
こちらは3分30秒の動画です。「首から来る手のしびれ~皮膚分節知覚帯・デルマトームとは~ (YAESU CLINIC脳神経外科)」から拝借しました。
間中喜雄博士はまた身体各部(井穴、原穴、絡穴その他)の電気抵抗のインピーダンス値を測定して針治療に活用する装置(間中式トランジスター探知器)を開発し臨床に導入するとともに、経絡の流注に従う異種二金属接触法という新しい治療法式を提唱し、古典にいう経絡流注の実在の可能性を実証した。
◇昭和の初期より関西地方で業者の一部が経験的に臨床に応用していた「経穴部は、電気が流れやすい」という経験的な事実を実験医学的に取り上げ、人体には古来の経絡経穴という体系によく似た縦に走る皮膚通電抵抗の低い絡状系があり、この系統を良導絡と名づけ、この絡上で、特に通電抵抗が低く、よく電気の流れる微小領域を良導点と名づけ、『良導絡の研究』として体系づけたのが京都大学 中谷義雄博士である。良導絡研究は、当初は基礎的研究に留まっていたが、その後通電による動態変動が古典における経絡経穴の現象と全く一致するという観点に立って、皮膚の通電抵抗の変化を指標として臨床応用に発展し、測定器ノイロメーターとともに現代における科学的針灸療法の一環として広く普及し、活用されている。中谷博士の良導絡研究の業績は、昭和の初期からそれまで「経穴探知器」として業界の一部で細々と息づき利用されていた点状皮膚通電現象を指標とする針灸術の臨床面に大きく取り上げる機会をつくり、にわかに脚光を浴びるようになった。
中谷義雄博士の良導点現象は、内臓疾患の際に神経反射の機転により交感神経の異常興奮が立毛筋や皮脂腺機能の亢進を来たし、一過性に皮脂の分泌がたかまり、その部の電導性がよくなり、皮膚の電気抵抗が低下し、絡状、点状の現象が現われると論いている。
◇岩手医大 七条晃正博士は、平流と脈流とを同時に通電する装置(七条式灸点電探器)を考案し、点状皮膚の低い電気抵抗部位を通電点と名づけ、灸療法に活用する経穴は体表にあり、通電点がその治療の刺激点であるが、針治療の経穴はもっと深部にある。従って電気抵抗の低下点だけでは確実に判定しにくいのではないかとの疑問を投げかけた。
◇赤羽幸兵衛氏の提唱した指趾末端の痛覚低下現象を知熱感度で測定し、古来の経絡相互のアンバランスを判定し、これを調整するために皮内針を利用する方法(知熱感度測定と皮内針用法の研究も)戦前には全く見られなかった発想の研究であり、経絡系の実在の可能性を示唆したユニークな研究である。測定法についても現在は熱源を原法の線香から電気的に数値で読み取るトランジスター赤羽式の自動感熱測定器の開発にまで発展し、広く臨床に取り入れられている。
◇金沢大学 石川太刀雄丸教授は、電気容量成分を一定にし、抵抗成分のみ測定できるように設計した装置(皮電計)を使用し、抵抗装置がきわめて低い部位が点状反応として現われることを報告し、皮電点現象と呼んだ。石川教授は、この皮電点現象は、内臓に障害がある場合に、自律神経の内臓皮膚(血管)反射を介して皮下小動脈の分岐部に投影され、神経性の血管運動障害を招き、その結果小動脈支配下の皮膚表層域に相当して楔状の滲出性変化が現われることによるものであって、これはその初期には不可逆的であるが、ついには半ば壊死状態に陥るという。このような皮下小動脈周囲にはじまる滲出性機転は、電気的な性質を変え、これが皮電点として検出されるのであるという。そしてこれらの変化は、内臓疾患のある時、相当する皮膚断区にしばしば観察されるので、この皮電点より一定の内臓疾患の診断補助になるという。また、この皮電点は古来の経穴部位に一致して現われる場合のあることは中谷義雄博士の提唱する良導点と同様である。石川教室では、皮電点の臨床応用という立場から各種の疾患について、すでに病巣が確認できている症例について皮電点を検べ、多数の臨床実験の資料から各種の疾患別に皮電点を人体分布図、いわゆる皮電図をつくり、皮電計により皮電点の分布がわかれば、この皮電図と照合して病気の所在がわかる(内臓における病気の所在はわかるがその疾病の別については不明の点が多い)という。この研究業績は関係医学会に度々報告され、一連の研究成果は、「内臓体壁反射」として数多くの皮電図とともに専門成書として公刊され、臨床に応用されている。この皮電点を診断即治療点として針灸治療に応用し、臨床研究を推進しようとする集団が針灸皮電研究会[針灸皮電研究会は、1960年に発足した鍼灸の科学化を目指す研究会である。その後、名称を「日本体表皮電測定会」「日本臨床鍼灸懇話会」と変えながら、2024年8月31日をもって日本臨床鍼灸懇話会は解散となった]である。石川教授は、内臓血管反射により皮下小動脈の血管運動神経の異常興奮を起こし、小動脈の収縮による二次反応として、その分布領域の皮膚表層に点状の水腫―出血―半壊死巣が生じ、これがために電導性がよくなり、皮膚電気抵抗が低下するもので、絡状現象は認められていないと論じている。
『石川太刀雄丸博士の内臓体壁反射は、内臓と体表の関係性を科学的に解明した革新的な理論です。この理論は、鍼灸臨床における診断と治療の基盤となり、特に経絡・経穴理論の科学的根拠としても重要な位置を占めています。内臓体壁反射の理解は、鍼灸師が内臓の問題に対してより効果的な治療を行うための鍵となるでしょう。現代医学と東洋医学を統合しようとする鍼灸師にとって、石川博士の内臓体壁反射理論は両者の橋渡しとなる重要な知識体系であり、科学的根拠に基づいた鍼灸治療を実践する上で欠かせないものと言えるでしょう。』
画像出展:「月刊インナービジョン2023年7月号」
メニュー右側下部に、投稿論文として「機能性ディスペプシアを背中から診る ~超音波エラストグラフィを用いて内臓体壁反射を可視化する試み~とあります。より高度な視覚化ができるようになってきているようです。
画像出展:「エラストグラフィ検査の開始」(おおこうち内科クリニック)
『エラストグラフィは、従来の超音波検査で分からなかった「しこりや臓器の硬さ」を色で判別する検査です。一般に良性腫瘍は軟らかく、悪性腫瘍は硬いので、「しこりの硬さ」を知ることにより腫瘍が良性か悪性か鑑別するのに役立ちます。』
『2010年以降、内臓体壁反射に関する科学的実験研究は着実に増加しています。基礎メカニズムの解明から診断技術の進歩、さらには様々な治療アプローチの効果検証まで、幅広い側面から研究が進められています。特に近年は、オステオパシー内臓マニピュレーションや鍼灸などの手技療法の効果について、無作為化比較試験などの厳密な研究デザインによる検証が増えており、内臓体壁反射を標的とした治療法の科学的根拠が蓄積されつつあります。最新の研究では、内臓体壁反射の可視化技術も進み、より客観的な評価が可能になりつつあります。これらの研究成果は、内臓体壁反射の理解と臨床応用に新たな可能性を開いています。』
『内臓体壁反射は自律神経系、内分泌系、そして様々な生理活性物質と密接に連関したメカニズムを持っています。体性感覚刺激が自律神経活動を変化させ、それによって内臓機能が調節されるだけでなく、内分泌系にも影響を与え、様々な生理活性物質の放出に関与しています。この相互関係の理解は、鍼灸などの体性感覚刺激を用いた治療法の科学的根拠となるとともに、内臓疾患と体表症状の関連性を説明する重要な基盤となっています。また、この関係を理解することで特定の体表部位への刺激が特定の内臓機能に影響を与えるという、東洋医学で古くから経験的に知られていた現象の現代医学的説明にも繋がっています。』
◇筆者(教育大学芹沢勝助博士)等は、東京大学物療内科(主任教授大島良雄博士)教室との共同研究により皮電計の通電方式に対し静電誘導電圧を応用した電位差計を利用し、これを差電計とよび、電極を直接皮膚面上にあて周囲皮膚と比較して明らかに大きな電位差を示す部位を記録し、これを差電点と名づけた。これを臨床に応用すると各疾患ごとに分布の異なる差電図が得られる。そして差電点は皮電点より分布密度が高く、差電点部位は必ずといってよいほど皮電点と重なるが、皮電分布よりも点の出現頻度が高い。
筆者(教育大学芹沢勝助博士)は針灸治療の本態の究明には、体表の特定点と内臓機能とが、どのような関連性を持つかを解明することは重要な研究課題であるとは考えているが、従来経穴に該当する部の皮膚には、知覚の過敏や鈍麻あるいは圧痛、硬結、陥下などが経験的に知られており、その構造は皮膚表面のみに限られる平面的なものではなく、深く皮下組織に及ぶ立体的なものであると推測している。経穴の本態究明にはその表層構造に対応する客観的現象として皮膚の電気的特性を追求することは重要な要件ではあるが、それだけがすべてではない。病体のあらわす深層構造の諸現象の追求も重要な事項であろうと考えている。その意味で藤田六朗博士の『圧診点・丘疹点の研究』さらに『脈診の客観化のための脈診系の研究』、経絡の本態を筋運動流体波動通路系という仮説の下に岸勤氏とともに進めている臨床研究の数々の業績には心から敬意を表して止まない。筆者(教育大学芹沢勝助博士)も、経穴の深層構造に対応する皮下硬結を研究素材として、健康体、病体における各五十例ずつの全身皮下硬結分布のパターンの差異から、皮下硬結が診断的意義のあること、筋電図観察により「硬結部筋線維の機能低下現象」が認められることを明らかにした。
◇東京大学(物療内科)の鈴木輝彦博士は『皮電点、差電点の基礎的研究(日本温泉気候物理医学会雑誌 第四十一巻第三、四号)』で、この両者の測定条件の検討、皮電点、差電点の組織像(人体および家兎)、差電点と経穴との関係及び、皮電点、差電点ともに人体では体幹部では石川説による組織像の変化が認められたが、四肢より検出された皮電点、差電点では組織像に何らの変化も認めず、また皮膚血管の収縮状態では皮電点、差電点は出現しやすく、拡張状態では出現しにくいこと、また東大物療、窪田俊夫博士の指摘したように「皮電点は、通電による皮膚組織の電気的破壊点である場合が多い」欠点があるのに対し、差電計による差電点の検出では、通電による破壊点を作成することなく測定できる点で勝っている。ただし、その診断的意義についてはさらに検討を要しよう。等の研究報告がなされている。
◇日本大学の寺田文次郎教授一門は、針の作用機転に関する薬理学的研究をすすめ、田村豊吉博士は、針とコリンエステラーゼとの関係、アミノ酸との関係、針の家兎血液像に及ぼす影響、針物質とアセチルコリン、アミノ酸および副腎との関係等、一連の業績を関係医学会に報告し、戦後の新しい内分泌学の立場から針はACTH(脳下垂体前葉ホルモン)、コルチゾン(副腎皮質ホルモン)を注射したと同様の作用があり、したがって気管支喘息やリウマチ等の慢性病に応用して効果のあることを立証し、針療法の治療効果の作用機序に新しい意味づけをし、大きな反響を呼んだ。
◇針灸療法と内分泌系との研究成果には、国立公衆衛生院 多井吉之助博士と筆者(教育大学芹沢勝助博士)は「腎刺激部位に対する針の尿中ウロペプシンおよびコルチコイド排泄量に及ぼす影響」、「灸と副腎皮質機能」があり、東京大学物療 大島良雄教授・福井圀彦博士等の「針灸刺激の副腎機能に及ぼす影響の研究」がある。ともに針灸刺激は、副腎機能に大きな影響を与え、内分泌相関に関与することを実証した研究業績である。
◇金沢大学の南外弘博士の「人迎施針の血圧並びに末梢血液像に及ぼす影響」の研究では、人迎施針では、血圧が下がることは業界では経験的な事実として定説となっているが、専門的に体系づけ、学位論文として発表した。
◇その他、針灸の臨床面でユニークな臨床研究を進める医師:色盲の研究を進める福井市の円山槇夫博士。難聴の臨床と取組む菊池三通男博士と名古屋市の森一彦博士。「東洋医学の現代医学的考察」で異彩ある研究を進める長崎市の松岡伯善博士。温灸の作用機転を追求した京都大学の寺本幸男博士。刺絡の研究で著名な東京都八王子市の工藤訓正医師。産科の針臨床と取り組む東京赤十字病院の鈴木武徳博士、石野信安博士。素問霊枢の研究と針灸臨床の丸山昌朗医師。歴史学的な専門分野から針灸臨床をすすめる横浜市立大学の石原明博士などがいる。
第五章 経絡現象
●経絡の可能性
(イ) まだ充分学界の承認を受けていないボンハン管系か?
(ロ) 脈管外体液のうちに未知のイオン伝達路があると仮定するか?
(ハ) 金沢の藤田六朗博士が提唱したように、全身の筋肉→腱→筋肉を連ねて刺激が伝わるとする「筋運動主因性体液系」があると仮定するか?
(ニ) 宇都宮の石井陶伯氏(針灸家)がしきりに主張するように、発生学的な根拠を持つ側線(たとえば魚の体に見られるような)が人体にも潜在的に遺存しているのか(この仮説は前に挙げたマルチ―二教授のチクロメリー説と同じ考えに帰着するが)?
(ホ) あるいは間中先生が一つの仮説として考えたように、身体の全体制が中枢神経のどこかで、脊髄が「断区」の基礎になっているような意味で、縦割りの「輪区」を作って、中枢を介して遠隔のA点とB点が近縁に結ばれているのか(ドイツのラングも同様の仮説を提唱している)等の、いろいろの仮説が考えられる。
●臨床的に認められている経絡
[皮膚の変化として]
・—経絡の異常は、経穴によって知られる。そして経穴の異常は、ふつう皮膚面より指圧によって特殊な状態を調査することでみとめられている。ところが、時にはすでに皮膚面に肉眼でわかる、或る種の変化があらわれていることがある。すなわち、経穴に相当する皮膚の小部分に、古い色素沈着や、ほくろ、血まめなどが見られることがあるし、虫に刺されたあとの発赤や丘疹が、ちょうど灸のあとのように残っていることがある。そして、これらが、点状にいくつもばらまかれたようにできているのをたどって行くと、それらが、ちょうど経絡に沿ってできているようなことがよくある。
圧痛点に圧痛がなくなった際に、そこに丘疹が発生することがあるのを発見した藤田博士は、肺疾患の患者の肺経に沿って丘疹ができている症例および心臓病の患者の心経に沿って丘疹ができている症例を経験したと言い、さらに膀胱経の全経絡に沿って黒あざ(ほくろ)のある患者、脾経の全経絡に沿って血管腫のある患者があったことを報告している。
ヘッド氏帯の皮膚分割図は、帯状ヘルペスという皮膚の一部を限って水泡があらわれて痛みを伴う皮膚病の形状からつくられたといわれている。腹部の側面にあらわれた帯状ヘルペスが、我々が調査した背部の兪穴(腎兪)から募穴(京門)に向かう経絡の帯状走行とまったく一致していた症例に出あった。そこで、これに関連した経絡(腎経)の末端である足先に治療点を求めて針による強刺激を試みたところ、その痛みがほとんど消失した。こういうことは、ヘッド氏帯が経絡の一部(横の連絡路)を意味するものであろうということを推定させることにもなるが、また一方では単に脊髄神経節の病変によるものと考えられている帯状ヘルペスの成り立ちに、経絡が関係しているということも示唆しているようである。
『ヘッド氏帯の概念は、現代神経科学の進歩によってその生物学的基盤が次第に解明されつつある。内臓-体性反射のメカニズム解明は、疼痛管理のみならず、自律神経機能調節や内臓-脳相関の理解に新たな視点を提供している。伝統医学との統合的アプローチにより、個別化医療時代における新たな診断・治療パラダイムの構築が期待される。今後の課題は、厳密な臨床試験デザインと分子レベルのメカニズム解明を通じて、この19世紀の知見を21世紀のEBM(根拠に基づく医療)体系に位置付けることにある。』
異常のある経穴の皮膚には、また皮膚温の異常や、知覚異常もある。このことを利用して、経絡の異常状態を判定することもできるくらいである。前に述べたように、手足の指の末端の感熱度の異常によって経絡の異常を判定する赤羽氏法(感熱試験)というものがすでに実用化されて普及している。
『経穴の生理的変化は多層的な生体反応の統合現象として捉えられる。電気伝導性の変化を基盤としつつ、熱力学・機械的特性の変容、生化学環境の改変、神経生理学的反応の連鎖が相互に作用する。最新の計測技術はこれらの変化を定量化し、伝統医学と現代生理学の統合的理解を深化させている。今後の課題は、多次元データの統合解析により経穴の状態を包括的に評価するアルゴリズムの開発にある。』
[遠隔部よりの治療]
・頭や肩のあたりの異常を、手や足に治療(針、灸)して治すことができる。肩が凝っている時、足の踵の外側のあたりの経穴に針を刺すと治ることがある。首筋が痛むときでも、また腰に痛みがあるときでも、同じような方法で治すことができる。そして患部付近の圧痛点もなくなる。歯の痛み、手や足の治療で治すことができることも、既に述べた通りである。また、胃の痛みや胆石の痛みなどを背中の反応の出ている兪穴(胃兪、胆兪であることが多い)の治療で治すこともできるし、手や足で治すこともできる。
このような事実は、経絡という機能的な連絡路があるということを想像させるに足るものであろう。というよりも、実際にはそういう前提で治療点をきめて、治療に成功しているくらいなのである。
『遠隔鍼治療の有効性は、神経生理学的反射・生化学的伝達・臨床効果の三重の証拠によって科学的に立証されている。特に疼痛管理と内臓機能調整における優位性が多数のRCTで確認され、EBMに基づく治療選択肢としての地位を確立しつつある。』
[自発性の放散感]
・不意に打たれたり、からだのある部分を掻いた時など、そこからずっと離れた所に異常な感覚が流れていくように感ずることがある。心理的なショックの際に、背筋を冷水が流れるような感じがする。こういうときの感覚の流れをよく注意すると経絡の走行路と似ていることが多い。
皮膚の電気抵抗による検索
[健康者にあらわれる経絡現象]
・経穴にあたる部位の皮膚は電気抵抗が減弱している。経穴の電気探索器というのはこのことを利用したものであるが、藤田博士らは、多くの健康者について、原穴その他に灸または針刺激を与えておいて、以後長時間に渡って、皮膚の電気敏感速度を検査した。その結果、反応点や丘疹などの消長が、刺激点の経絡に相当して現われてくることを認めた。また時には、表裏関係にある対側の経絡にも一緒にそういう現象があらわれることもあった。
そこで、経絡現象は、病的な場合ばかりでなく、生理的にも存在するということが確かめられるようになった。
『複数の科学的研究が示すように、経絡現象は病的状態だけでなく、生理的状態(健康な状態)においても確認されています。電気生理学的特性、皮下血行動態、放射性同位元素の移動パターン、筋膜の連続性など、様々な角度からの研究が経絡の生理的存在を裏付けています。』
[十二の良導絡]
・中谷義雄博士は、かつて腎臓病で浮腫のある人について、皮膚の通電抵抗を測定してみたところ、足に電流の通りやすいら絡状のものを見つけた。そして、これを経絡の行走図と比較してみると、腎経とほとんど一致していた。
そこで、さらにいろいろの臓器の病気について調査してみた結果、それぞれ一定の形状をした電流のよく通る絡状のものが見つかった。そこで、これらを皮膚通電良導絡(中谷)と名づけた。結局、手に六本、足に六本の良導絡が、ちょうど十二経絡に相当したように存在していることがわかった。
画像出展:「良導絡の歴史」
良導絡研究所は1967年6月に設立されました。
筋運動主因節
●皮下の組織液に変化が起こって、経絡現象が現われるということは、ひとまず説明されたとしても、それではこういう体液的な変化を起こさせる原動力は何かということが次の問題になる。
針を皮下に刺し込んでいくと、ある深さになって初めてはっきりしたヒビキがおこるが、ちょうど筋を取り巻いている筋膜の辺りに達したときに最も強く現われるということが少なくないことは、経験的に知られている。また針を刺した時、その刺針部から少し離れた部分の筋肉が突然軽い攣縮を起こすこともある。経絡の異常と考えられている現象の一種に、皮下の深部筋間にスジのような硬結あるいは、経絡に沿って盛り上がったようになった筋肉の凝りがある。また、特殊過敏者の放散する針の響きを皮膚に投影させて記録した我々の成績では、線状になっているところもあるが、部位によっては幅広く帯状をなしていて、なかには、大体その部位の筋肉の幅と似たようなものもあった。
こういうことを総合して考えると、経絡の異常や経絡現象の発現には、筋が少なくからず関与しているのであろうということが予想されてくる。考えようによっては、むしろ第一義的のものであるかもしれない。
ところで、経穴に針に到達しかかると、筋に軽度の損傷または刺激が与えられることになるのだが、こういう場合には筋線維の表面に電気的な変動(放電現象)が起こってくる。すなわち、負傷流または動作流などが起こる。もし、すでに筋とその周囲とが病的な異常状態にあるならば、これが組織液に伝えられて針の響きとなって感知されるのではあるまいかということも考えられる。
それでは、刺針というような刺激操作が加えられない生理的な経絡現象はどうして成り立っているかということになるが、生理的にも手足の運動、歩行、咀嚼、顔の表情、呼吸などによって筋肉運動の協調作業が常に行われているのであるから、その際に動作流も起こり、また、組織の移動も行われて、一定の体液の循環路が常に成り立っているわけである。そしてこれが機能的な刺激伝導体系としての経絡になっているのであろうということで、ひとまず理解されることになる。皮膚通電良導絡の本態も、あるいは電導体である体液の通行路であるのかもしれない。
『筋肉の刺激によって発生する放電現象とは、主に運動神経から筋肉に伝わる活動電位(電気的インパルス)や、それに伴う筋線維の膜電位の変化を指します。この現象は、神経伝達物質の放出、筋線維での活動電位の発生、筋収縮へとつながる一連の生理的プロセスであり、筋電図などでその電気的活動を観察できます。』
経水と経筋(体液と電気)
このように経絡現象を筋運動主因性体液路経(藤田)として理解しようとする考えの根底は、すでに東洋医学の古典(霊枢)にも見られる。
経脈を「分肉の間を行状してあらわれぬもの」(経脈篇)と定義しているほか、経水および経筋という比喩的な見解が表明されている(経水篇、経筋篇)。
経水というのは、十二経脈を中国の河川・湖水などにたとえて、気血の流注の状態を説明しようとしているのであって、また経筋というのは、十二経筋という手足の指に起こる筋肉の縦の系列をグループ別に想定して、これを十二経脈にあてはめているのである。
経水思想は、経絡を気血の流通路と規定しているかぎり当然のことであるが、経筋に関しては、実際に筋肉の凝りが経絡に沿ってあらわれ、また針によって解消することなどから一応理解されるばかりでなく、断続的に電流を通ずる或る種の電療器によって縦に連なる一定の筋肉群に人為的に律動を起こすことができるのであるから、現象的には認識できる見解である。
そして、こういう思想から割り出してみても、血は体液的なもの、そして気とは筋を主因とした電気的なものという解釈がなりたちそうである。
針の響きは、被術者にとって、軽い電気にかけられたような感じとなってあらわれるが、施術者の指先にも軽い電撃様感覚となって感知されることがある。そして、施術者が針の柄を持っている間は被術者に強く感ずるが、指を放して置針すると割合に弱くなる。
こういうことは、金属針を媒体として、皮膚の内外に電気的な流れが起こってくるのではないかと想像させられる。
結合織と組織液
●皮下組織というのは、皮膚と筋(筋膜)とを結びつける目の荒い網のような線維の結合織からなりたっていて、その間隙は組織腔といわれ、組織液が充満している。ここが、針の刺激の対象である経穴の主体である。
ところで、結合織というのは、発生学的には中胚葉(内外両肺葉の間にできる一対の腔胞)系の組織であって、からだの中心的な位置にある。そこで、からだ中のすべての細胞や組織の間に行き渡っていて、脳や胃腸その他あらゆる重要な臓器、器官の細胞を安定状態に結びつけて、組織液とともに組織の緊張状態を一定に保つ役割をなしている。皮下組織はもとより、上皮との間の真皮、筋の周囲や間、筋膜、血管壁などにも行き渡っている。この組織が同じ中胚葉系の網内皮細胞系とともに健康維持に欠くことのできないものであるということが、近年にわかに着目されるようになった。
●ツベルクリン反応が試みられる手のひら側の前腕の皮膚で、経穴にあたる部位と経絡の主流線上になっていて経穴でないところ、および経絡の主流線をはずれた経穴でない点などについて、それぞれ生理食塩水を皮内に注入して、それが完全に皮下に吸収されていく時間を調べてみた。すると、経絡主流線上では経絡外の点よりも早く、経絡外の点よりも早く、経穴部ではやや遅くなっているのが分かった。すなわち、経絡主流部では早く吸収されるのであるから、これによって皮下の組織液がよく動くことになっているらしいということがわかったし、経穴は、どちらかといえば流れが悪く停滞しがちなところであるということも、大体予想通りであった。
また、藤田・南氏らは金沢大病理の宮田教授のもとで、動物(家兎)の皮下に人工的に硬結とこれに伴う経絡線(スジのような硬結)をつくり、その部分の組織片をとって染色して顕微鏡で調べてみると、それらは、予想通り筋の間にできていて、しかも神経・血管をとりまいている結合織線維の増生がその変化の本態であることが分かった。つまり、このような経絡・経穴の異常現象は結合組織の変化が主体になっているということが明らかにされた。
結合織の間隙を流れる組織液は、末梢の毛細血管と毛細リンパ管から漏出してきたものであるが、時にはまた、管内液とも交流している。そこで経絡の絡が、時には細い脈管の意味にも使われて、機能的な関連があるものとされている古典の説も、こういうことから一応説明できそうである。
ともかく、このように結合織を中心として、内循環系ともいわれる脈管外の通液路系というものを考えると、気・血(栄・衛)の流れるという経絡と、経穴の意義が、いっそうよく理解されてくる。そして針灸の作用も、結合織の機能を回復させるものであるということで説明できるようになる。針灸を組織療法と考えるのは、この意味で当てっているし、同時に経絡の機能をよくするという広義の作用にも理解される。
●針の響きによる経絡現象の発現は、筋の主因とする説でひとまず説明されているが、実際には筋まで達しないで、単に皮下の結合組織に達した深度で針響が起こる場合も決して少なくないのである。また、稀にはやっと真皮に達したくらいの深さでもおこる。こういう場合は、体液的な変化で間接的に筋が刺激されるためであろうと説明(藤田)されている。しかし、こう考えたのでは、体液が何によって変化を受けるのかという点が不明になってくる。そうなると、結合織線維そのものが直接関与して、またある程度刺激を感受してこれを伝える役目をも果たすのではないか、ということも考えなくてはならなくなる。
もし、結合織線維が刺激感受の主体になるものとすれば、全身の結合織系が形態的に経絡系の実体になるという想定が、いよいよ確かめられてくる。といっても、もちろん経絡の走行を解剖学的に規定するものとして、また機能的な関連において、筋の意義が重大であることには変わりはない。―(以上、長濱博士『針灸の医学』より)
『経絡・経穴の異常現象は結合組織の変化が主体になっているという説は、現代の科学的研究から相当の裏付けを 得ていると言えます。経穴と結合組織の位置的一致、神経分布の特異性、筋膜のネットワーク構造、メカノトランス ダクションのメカニズムなど、複数の観点からこの説を支持する証拠が集まっています。』
第八章 金針と銀針
●日本でも針術にはいろいろの流派があって、種々の針を使っているが、主流は毫針といって縫針よりずっと細い、注射針のマンドリンほどの針を使っている。名人になると毛針だの霞針だのといって毛筋のような細い針を上手に使いこなす。
昔は針灸家に弟子入りすると、2~3年は患者を治療させてもらえなかった。まず枕か自分の膝に針を刺させる。だんだんと上手になると「浮きものとおし」といって水に浮かした果実に針を刺す編集をする。これは力を入れずに、針を曲げずに、軟らかく刺すためである。次は「堅ものとおし」で木の枝でも細い針が刺せるように練習する。ここまでできれば、どんな細い針でも自由に、やわらく、痛くなく、浅くも深くも、人の体に刺せるようになる。
こういう毫針の手技はヨーロッパには伝わらなかった。中国にもかなり細い針はあるのだが、フランスで一般的に使われているのは、金と銀のかなり太く短い針を、注射でもするようにツボにさしていく。
※私が専門学校に通い始めたのは約15年前です。当時からステンレス鍼がほとんどでしたが、学校では丁寧な刺鍼技術を身につけるため、銀鍼を使って授業は行われていました。金鍼はさらに軟らかいようですが、銀鍼も十分に軟らかく、特に腰部の硬い脊柱起立筋など刺鍼するのに非常に苦労しました。
当院では軟らかいタイプのステンレス鍼を使用しており、それでも銀鍼よりははるかに容易に刺鍼できます。今回、あらためて丁寧な刺鍼を心がけるべきではないかと思いました。これは“氣”とも関係するのかもしれません。
以下はお世話になっている「(株)前田豊吉商店さんのサイトです。当院の鍼は下段中央ですが、銀鍼は上段中央、金鍼は下段右です。金鍼は1本から注文できるそうです。基本に立ち返るために銀鍼を1包(50本)買ってみようかとも思いますが、金鍼は怖くて注文することはできません。
専門学校に入学したときに学校から渡された練習道具が見つかりました。刺鍼練習台はよく使った記憶があり、どこかにいってしまって箱の中にありませんでしたが、感覚練習方法の紙は初心者用以外は封も開けてなく、何もしていなかったことが発覚しました。これも今更ですが、試してみようかと思っています。
以前、母方の先祖を調べたことがあったのですが、今度は父方を調べてみました。その結果、明治18年(1885年)生まれの祖父は幼少の頃、小田原町十字町二丁目に住んでいたことが分かりました。調べてみると、この十字町は明治初期から昭和にかけて著名人の別荘地でもあったことが分かりました。伊藤博文、山縣有朋、北原白秋、谷崎潤一郎などなど早々たる人が名を連ねています。
「一度、行ってみたいもんだ」と思い、昨年12月に小田原城と十字町を目指し約2時間かけて行ってきました。国道1号線を歩いていて目に飛び込んできたのは、いかにも古い建屋です。それは創業寛永十年)の済生堂薬局小西本店でした。
薬を入れる小袋を衝動買いしてしまいました。(歴史を体感できる老舗薬局『済生堂薬局小西本店』)
そして、この済生堂薬局さんのとなりにあったビルが間中病院でした。
「あの、間中先生の病院なんだろうか?」とその時はその程度の印象だったのですが、今回、間中喜雄先生の本を拝読させて頂くことになり、詳しく調べたところ、間違いなく間中先生の病院であることが確認できました。
間中喜雄先生は西洋医学の医師でありながら東洋医学、特に鍼灸医学の発展に多大な貢献をした日本の医学界の偉人です。その生涯と業績は、現代の統合医療の基盤を形成する上で重要な役割を果たされました。
本書の序文には、『この本は、一般の針灸書にあまり取り上げられない研究や観察や考え方を、いろいろの角度から紹介した。これを「水平的思考」の材料にして、西洋医学的に応用して下さったり、また古典的針灸の発展に役立たせて下さる方があったら、著書はたいへん満足である。』とのことが書かれており、これはとても興味深い内容の本だなと思いました。
なお、本書は54年前に発行されたものなので、ブログではできる限り新しい研究あるいは実験データを探してみようと考えました。
注)文中のPDFの資料は、「経穴とその周辺における皮膚インピーダンス軌跡の多点同時測定」以外は、すべてAI(Perplexity Research)が作った資料です。
序文
目次
第一章 東洋の針灸術
第二章 古典針灸術の現代訳
第三章 継子あつかいされた経絡説
第四章 ツボとツボの妙な関係
第五章 経絡現象
第六章 経絡についての観察と研究
第七章 針灸術における生態(病態)の評価
第八章 金針と銀針
第九章 金と銀との皮膚接触
第十章 2-M-Cの臨床とその意義
第十一章 刺激療法としての針灸術
第十二章 生体の場と針灸刺激
第十三章 平田氏反応帯―この不思議な治療領帯
第十四章 ヨーロッパにおける針術の電気的研究とその批判
第十五章 ドイツの電気針
第十六章 フランスにおける電気生理的針術研究とその論争
第十七章 ソ連における針術理論
第十八章 針灸術に関連した電気の応用
第十九章 針灸におけるバイオリズム
第二十章 アンケートから見た日本針灸術の動向
第二十一章 日本における針麻酔の追試
[付録] 十四経絡図
あとがき
第二章 古典針灸術の現代訳
●明治になって日本の政府は西洋医学を全面的に採用し、医学校の教育も、医師の資格試験も、すべて西洋医学によって行なうことに決定した。しかし明治の初期には、西洋医の数は少なく、一般の開業医はほとんど漢方医だったので、一挙に漢方医を廃業させるわけにゆかなかった。だから一応従来医業を行なっていた者には既得権として医師の資格を認め、次第に西洋医を養成してこれに代わるように仕向けた。早く言えば、漢方医の自然消滅策をとったのである。だから漢方の臨床的法則が合理的であろうとなかろうと、まったく無関心であった。
ところが針灸術については、こういう弾圧政策はとれなかった。というのは、昔から針術・按摩は盲人の職業として適当であるとして、社会政策的な意味でこれを保存しておく必要があったからである。そこで当時の西洋医学者と針灸家に命じて「固定教科書」を作らせ、一応西洋医学の体系にしたがって針灸を教育できるようにはからった。この教育方針は、その後ながらく盲学校の教程および晴眼者で針灸を志すものが受ける府県ごとに行なう資格試験の基準となった。その骨子は次の通りである。
(一) まず西洋医学的病名を挙げ、これに適応する「孔穴」(ツボ)の処方を示す。
(二) 各「孔穴」が「経絡」上にあるという旧説をすて、「孔穴」の位置を解剖学的に正確に記載する。そして昔から言い伝えられた各孔穴の主治証(適応症)を付記する。「経絡」という概念は西洋医学的に説明できないから触れないことにする。
(三) 針灸は神経に刺激を与える「刺激療法」である。神経の興奮、たとえば疼痛等には強刺激を与えて抑制し、衰弱・麻痺等には弱刺激を与えてこれを興奮させ治療する。
これで一応針灸術は西洋医学的に合理化されたようであるが、これでは中国独特の針灸術の「ツボ」概念を基礎的に検討もせず、西洋医学的に書き直したに過ぎない。中国針灸術でツボを選ぶ場合には、局所的・戦術的適応(例えば顔面神経を直接刺激するというような)も考えるし、全体的・戦略的適応(すなわち全体のバランスを整える目的で)で選ぶ場合もある。前者は西洋医学的にも理解しやすいし合理的にみえるが、後者はその全体的法則を理解体得せずに傍から見ていても意味が判らないのと同様である。後者は基盤全体の連繋(インテグレーション)で決まることで、或る一石だけをいくら眺めていても、何のためにこんな所に石を置くのか、なぜ似たような隣の目に置いては駄目なのか、理解できない。
第三章 継子あつかいされた経絡説
●日本の針灸教育は明治時代に「西洋医学化」されたために、現代医学で説明できない概念は針灸術の恥部であるかの如く取り扱われ、あるいは、これを無視することや、その矛盾を指摘することが、科学的な態度であると考えている針灸家も多い。そういう人々は、肺結核の患者を調べたが「肺経」とは関連性がなかったというような証明に熱心で、「経絡」というような概念がいかに無意味で排撃さるべきかを熱心に論じ合っている。
なるほど、針灸はりっぱに一種の刺激であり、他の多くの理学療法と同様に、どこに刺激を加えても神経系または内分泌に影響をあたえ、それが治療的に作用するという一面はある。灸は火傷毒を作り、それが薬理的に作用するという研究は、古くは九州大学の原志免太郎博士、京城大学の大沢勝教授によってなされた。
原博士は、だから、従来のツボ概念は不必要で、灸を外部から目立たない腰部八ヵ所にすればよいという(これを腰部八点灸と名づけた)方式を推奨している。その臨床報告を見ると、こういうやり方でも或る種の疾病に有効であることは確かのようである。大沢教授は、火傷によってヒスタミンに似た化学的物質が産出されることを証明し、これを「ヒストトキシン」と呼んだ。この物質を人工的に作って静脈注射しても、また下肢にエスマルヒの駆血帯をかけ貧血状態を数分間作っても、灸と同様の効果がある。
こういう面だけ見れば、ツボも経絡も無視して針灸を行なっても、りっぱに一つの治療行為になる可能性はある。事実かなり多くの疾病によい影響をあたえる。この種の研究も「経絡無用論」の風潮をうながしたといえよう。
中国針灸術が、その基礎理論として経絡を重視し、その生理学はむしろ経絡一辺倒であったことは、一つの偏向であったかも知れない。だが、経絡という概念は鍼灸治療にそんなに役に立たない無用有害な概念だと葬り去ってよいのであろうか。
いったい昔の人が経絡と考えたルートは実在するのか。そして、それを利用することがどんな役に立つのであろうか。これを以下の章で考えてみよう。
第四章 ツボとツボの妙な関係
●先ごろ栃木県塩原の盲人教育機関である光明寮に針灸に関する講演を依頼されて行った。講演後、そこの先生方と座談会をした。そのとき一人の教員が右手が肩からしびれて困ると訴えていた。病院で受診したが頸椎の変形が原因だと診断された。注射などをしてもらっても直らないという。手を調べてみると、右手の「大腸経」に沿って強い圧痛があり、ことに母指と示指の間の合谷というツボを圧すと飛び上がるくらいに痛い。しかし左手の合谷はさほどでない。
そこで貴下の右の大巨[ダイコ]というツボ(臍の右下方にある)にきっと圧痛があるでしょうと仰向けに寝かして調べてみると、この辺のツボもまた圧すとたいへん痛む。
このツボは私がかねてから大腸経とは関係の深いツボだと考えていたものである。中国針術では大腸経の「募穴」は大巨よりやや上の臍の高さの天枢だと書いてある。募穴とは腹部の診断治療点である。私は天枢より大巨の方が大腸経の募穴としてふさわしいと考えるのだが、これは中国の古典説と少々異なる。
しかし、この圧痛点に針をポンと打ってサッと抜くと(速刺速抜)、この側の手が何だか非常に軽くなったという。次に反対側の大巨に同じことをやると、また右手が変になってしまった。もう一度右側にやると直る。こんなに早く効く治療はありませんなあと感心していた。
手がしびれて痛いのに何故こんなツボをねらうのか。ちょっと現代医学では想像もつかないツボの選び方である。
(一) この患者の疼痛は大腸経に沿った疼痛である。
(二) 大腸経は大巨と関係がある。
(三) だから大巨に針を刺す。
こういう治し方があることを知らない人が多い。
次に右の腰から下肢に神経痛様の痛みのあるという人がいた。脈を診ると、これも大腸経と関係のあるツボで背中に第五腰椎棘突起の高さに大腸兪というツボがある。この人には右の大腸兪と右の大巨・右合谷に強い圧痛があった。この三点に針をポンポンポンと三本軽く打ったら、この人も、「ああ、おじぎができる。今までは痛くて腰が前にまがらなかったのです。」と驚いている。
同じようなツボが一方では手のしびれ痛みに効き、一方では坐骨神経痛様の痛みにも効く。こういう不思議な効用をツボはもっている。だが、「大巨は坐骨神経痛に効くツボだ」と私が言ったら、それは嘘にもなりかねない。この二人とも大腸経に何か異常のあるという前提で私は大巨に針を刺したので、そういう条件のない別の坐骨神経痛の患者に大巨を刺しても効果は保証できない。こういう点が中国針灸術の一つの特徴である。
本山博先生の『気の流れの測定・診断と治療』に興味を持ったのは、”気とは何だろう9”で勉強させて頂いた湯浅泰雄先生の『気とは何か』という著書の中で紹介されていたためです。
画像出展:「HUMAN SCIENCE」
『カリフォルニア人間科学研究所は、創設者であり初代学長である本山宏博士の理念と哲学に深く根ざしています。本山博士の生涯は、宗教、精神性、そして科学から得られる洞察を調和させ、統合する、新たな統合的世界観の出現の基盤を築くことに向けられていました。』
本書の「経絡の本質と気の流れ」の“序”の中に以下の記述があります。
●『BP[Before Polarization:分極前電流]は真皮結合組織内の物理化学的性状を示すパラメーターであり、この真皮結合組織こそが経絡であるらしいことを明らかにした。』
●『経絡内の気エネルギーの流れとは、一種の物理化学的エネルギー、つまり一種の活動電流であること、それの速度はおおよそ4cm~50cm/secであり、BPのような2mを0.1μsec以下で走る非常に速い電気現象とも違うし、50cm~100m/secの速度で走る神経インパルスよりも遅くそれとも違うことを示し、個人差が大きく、同一人物でも日時によって上記の枠内であってもかなり変動する性質をもつことを明らかにした。これより、経絡機能は個人差が大きく、日時によってかなり変動することが明らかである。』
ご参考:“AMI研究、経絡、生体エネルギー系研究のためのホームページ”
ご参考:“AMI (経絡一 臓器機能測定装置)と東洋医学的診断情報との比較検討” pdf
一方、本書の内容は専門性が高く理解することはできませんでした。そこで、「経絡の本質と気の流れ」の第Ⅲ章 考察と結論の内容をご紹介させて頂きます。なお、BP、AP、IQ、TCとは以下のようなものです。
ご参考:“経絡と分極前電流(BP)との関係”
目次
経絡の証明とBP、AP、IQ、TCの電気生理学的意味
序
Ⅰ章 皮膚電気現象の二種
Ⅱ章 経絡の存在証明
Ⅲ章 本山式AMIによる測定で得られるデータとその意味
Ⅳ章 BP、AP、TC、IQの性質と意味を、46人各人の平均値の度数分布と標準偏差についての考察に基づいて考える
Ⅴ章 診断の実例
経絡の本質と気の流れ
序
Ⅰ章 BPは経絡機能のパラメーターである。真皮結合識は経絡ではなかろうか
Ⅱ章 経絡の気の流れの速さと方向性について
Ⅲ章 考察と結論
診断のための基準
Ⅰ章 三つの共通基準値のうち、何れが経絡機能の診断に最適か
Ⅱ章 個人内基準とその有効性について
全身についての診断法
針の効果テストと治療法
Ⅰ章 針の効果テスト
Ⅱ章 針の効果テストデータの分析、考察と治療法について―BPについて―
Ⅲ章 治療法について
付録Ⅰ 4種類の異常経絡での三つのパラメーターの分析と、それらの諸性質の解明 ―気エネルギーのバランスをいかにして改善するか―
Ⅰ章 BPについて
Ⅱ章 APについて
Ⅲ章 IQについて
Ⅳ章 考察
Ⅴ章 全体のまとめ
付録Ⅱ 耳鼻咽喉科の症例におけるAMIデータの解析(鼻アレルギーはどの経絡の異常と関係があるか)
付録Ⅲ 附子の経絡への影響
付録Ⅳ AMIデータのグラフ化
経絡の本質と気の流れ
Ⅲ章 考察と結論
(Ⅰ)Ⅰ章を通じて明らかになったこと、及びそれらについての考察と結論
(1)BPの値は真皮結合織内を流れる電気エネルギーのパラメーター
BPの値は、真皮結合織内を流れる電気エネルギーの測定値であることが、表皮剥離実験、絶縁針による表皮-表皮、表皮-真皮、真皮-真皮、皮下組織-皮下組織をそれぞれつないだ実験等によって明らかとなった。
(2)BPの値は経絡の状況を示すパラメーターであり、真皮結合織が経絡に相当する
真皮結合識内を流れる電気エネルギーのパラメーターであるBPの値のみが、AP、IQ、TC等と違って、陰陽関係にある1対の経絡間で、[陰経の値>陽経の値]の関係を示す。このことはBPの値が経絡と密接な関係にあることを示す。而してBPの流れる場所は、真皮結合織内である。従って、真皮結合織内が経絡にあたることが推測される。BPの値は、陰陽関係にある1対の経絡間で[陰経の値>陽経の値]を示すように、経絡の状態を示すパラメーターであると言えよう。
(3)BPの値に影響を与える真皮結合織内の諸因子
真皮の大部分は結合織である。この真皮結合組織は電解質の貯水池であり、真皮結合織内のヒアルロン酸の性状が、Na⁺等の電解質の分布や水分代謝と密接な関係にあり、相互に影響しあう。而して真皮結合織内の水分の分布、電解質の分布の変化は、BPの値に影響を与えるものである。これらの水、電解質の分布や代謝に影響を与えるヒアルロン酸は、水分や電解質とともにBPの値に影響を与えるものであることがわかる。
(4)BPの本質は真皮結合織内のイオンの流れではなく、電気エネルギー伝達による流れであり、BPの値は経絡にあたる真皮結合織の性状を示すパラメーターである
井穴の関電極と手首の不関電極間に3Vをかけた時、両電極間約20cmの距離におけるNa⁺イオンの移動速度は0.000078cm/secである。ところがBPの流れの速度は約2mを0.1μsec以下の瞬時に通過する速さである。BPの流れはイオンの移動によるものでないことは明白である。BPの流れの本質は、次のようなものと考えらえる。真皮結合織内のヒアルロン酸、コラーゲン線維network等が綜合的にもつ負電位と、結合織礎質内にあるNa⁺、K⁺等のカチオンの正電位との間に、一種の電気的勾配がある。この電気的勾配をつくるこれらの物理化学的諸物質、諸イオン、及びそこにあるその他の諸物質が、表皮を通じて外部から電圧をかけられ、電気的エネルギーを加えられると、それぞれの場所であまり動くことなく、加えられた電気エネルギーを次々と伝達してゆく微細なエネルギー伝達を起こし、これによって、加えられた電気エネルギーはおおよそ電波に近い速さで伝わってゆく。これがBPの流れの本質ではなかろうか。
ところで、加えられた電気エネルギーを伝達する、経絡にあたる真皮結合織を構成する物理化学的諸物質の性質、状態、分布に変化が生ずると、当然電気エネルギーの伝達の量、速度に変化が生じ、BPの値に変化が生ずる。従ってBPの値は、経絡にあたる真皮結合織の性状を示すパラメーターであると考えられる。
上のところで一種の電気(位)的勾配があると言ったが、陰経と陽経ではこの電位的勾配が逆向きになっていて、それぞれ一定方向、つまり陰経では下から上へ、陽経では上から下へ流れやすくなっているのであろうか。
(Ⅱ)Ⅱ章を通じて明らかになったこと、及びそれらについての考察と結論
(1)神経性GSR[Galvanic Skin Response]と経絡反応の相違
GSRは、汗腺を効果器として生ずる交感神経性の電位反応である。GSRでは、神経内を活動電流の形で流れる神経インパルスによって、全身の汗腺がほとんど同時に興奮し、同一パターンで皮膚電気反射を生ぜしめる。
これに対し経絡反応は、反応速度がGSRより遅く、かつ全身的同時的でなく、ある経絡あるいはそれに関連ある諸経絡でのみ生ずる局所的なものである。反応パターンもGSRのように同一的なものでなく、各経穴によって反応パターン違う。例えばある経絡のある経穴に刺戟を与えて、その経絡と、それと陰陽関係にある経絡上に電気的反応(経絡反応)が生ずる時、両経絡上の諸経絡での反応パターンが違うばかりでなく、二つの経絡での反応時間にもズレがある。つまり一つの経絡での反応開始が他の経絡のそれよりも何秒か、何分の1秒か早く生ずる。更に一方の経絡が陰経であり、他方の経絡が陽経である場合、反応の進む方向が逆であることが確かめられた。これは陰経では気のエネルギーは下から上へ、陽経では上から下へと流れるという古来の説と一致するものであった。
次に経絡反応のもう一つの特徴として考えられるのは、経絡反応では、経絡上のすべての点で電気反応が生ずるのではなく、井穴とか、兪穴、募穴という、経絡の始点とか終点にあたる経穴ではよく電気反応が現われ、経絡上の途中の経穴ではあまり現われないということである。これは井穴や兪穴、募穴には経絡の気のエネルギーが集まりやすく、電気反応としても捉えられやすいということであろう。
(2)気の流れの知覚と電気的反応の有無
気の流れが知覚されても、そこで電気的反応が生ずる場合と、生じない場合がある。それはどうしてだろうか。その前に、経絡敏感人とは何かについて考えてみよう。
経絡つまり真皮結合織の内およびその周辺には、交感神経と混合神経をなす知覚神経が分布しており、経絡敏感人とは、真皮結合織内(経絡内)における電気化学的エネルギーの変化と流れを、上の知覚神経によって敏感に知覚しうる人であると考えられる。
気の流れ(つまり真皮結合織内の電気化学的エネルギーの変化、流れ)がこれらの経絡敏感人によって知覚されても、EEG[Electroencephalogram:脳波検査]によって電気的反応として捉えられないのは、経絡内を流れる電気化学的エネルギーが弱少で、敏感人には知覚されるがEEGの測定感度では捉えられないためであろう。経絡敏感人も、気の流れが強大であると知覚しやすいという。実際その場合は、電気的反応としてもEEGで捉えられる場合が多い。
ご参考:“経絡敏感人について教えてください”
ご参考:“循経感伝現象についての臨床的検討” pdf
(3)気の流れの知覚部位と電気的反応部位とが一致する場合
肺経の原穴、太淵に電気刺激を与えて井穴のところに気の流れを感じると言うとき、EEGでも井穴、原穴等で電気反応を記録している。これは気の流れの知覚と電気的反応現象部位が一致しているケースである。
(4)気の流れの知覚部位と電気反応部位の相違するケース
例えば肺経の中府に挿針、電気刺戟を与えると、中府及び胸のあたりに気の流れを知覚するのに、電気反応は肺経の井穴(第1指尖端部、肺経の終点)で生ずる場合が多い。これはどうしてであろうか、経絡反応のところで述べたことを思い出して戴きたい。ある経絡の原穴等に刺戟を与えると、井穴や兪穴、募穴ではよく電気反応を生ずるが、途中の点では電気反応が生じないということである。これは同一経絡内では、気エネルギーは井穴や兪穴、募穴で集まり強大になり、かつ皮膚の表面に現われやすいのであろう。上記の例では、中府に挿針、刺戟したにもかわらず、そこでは気の流れの知覚のみで電気的反応が現われず、井穴でのみ電気的反応が現われている。これは井穴、兪穴、募穴の3点のうちでも特に井穴で電気的反応が現われやすいことを示すのであろう。
(5)身体の異常部位に気が集まりやすい
身体のどの経絡のどの経穴を刺戟しても、刺戟された経絡内に増強された気エネルギーは、その経絡から異常な箇所と関連している経絡に転送され、異常個所に十分気エネルギーを充たした後、元の経絡に戻ってきて流れる。これは異常個所に気エネルギー(生命力)を集中してそれを治癒せしめるために生ずる、自然治癒現象の一つの現われであるように思われる。
(6)知覚される気エネルギーは物理化学的エネルギーである
経絡敏感人が経絡にあたる真皮結合識内およびその周囲にある知覚神経によって経絡内の気のエネルギーの流れ知覚する場合、神経に知覚を生ぜしめるものはやはり一種の物理化学的エネルギーである。従って気の本質が、たとえ非物理的なエネルギーあるとしても、敏感人によって知覚され、EEGによって捉えられる限りでは、一種の物理化学的エネルギーあるいは活動電位であると言わざるをえない。
(7)経絡系、気エネルギーをコントロールする高位中枢とは
経絡にあたる真皮結合識内を流れる物理化学的エネルギー(気エネルギー)をコントロールする高位中枢は、どこにあるのだろうか。真皮結合識内およびその周囲に分布する知覚神経は、交感神経との混合神経である。経絡敏感人真皮結合識内を流れる物理化学的エネルギーを知覚神経によって知覚しうるのであろう。その場合、経絡系気エネルギーは、脊髄神経系の知覚神経でその状況を捉えられ、その信号が求心的に脳内の高位中枢に達し、その高位中枢およびそれと関連ある脳内の高位中枢(自律神経中枢を含む)によってその状況についての綜合判断がなされ、遠心的に経絡系気エネルギーの全体をコントロールする信号インパルスが12経絡に送られ、経絡系全体がバランスよく機能しうるとも考えられるが、一般人は気エネルギーを知覚しえない。しかし一般人においては、上記のエネルギーは何らかの形で無意識に自動的、自律的にコントロールされているものと推測される。その場合考えられることは、真皮結合識内およびその周囲に分布する混合神経の内の交感神経の知覚神経によってまず反射的無意識的に各経絡内でのエネルギーの流れの状態が捉えられ、その信号が求心性に脳内にある自律神経の高位中枢に送られ、そこか、またはそこと連絡しているより高位の中枢で綜合判断が下され遠心性にインパルスが送られ、それによって12経絡等のすべての経絡系の気エネルギーの状態をコントロールし、経絡系全体のバランスをとっていることが考えられる。
このように考えながら、心の片隅で、果たして真皮結合識内の気の流れ―これは主として真皮結合識内礎質液(体液)の中を流れるものと考えられるから、体液の流れとも大いに関係が深い―、体液の流れが神経系だけで完全にコントロールできるのだろうかと思うのである。気の流れ、体液の流れは、神経的コントロールのほかに、物理化学的次元でのエネルギー、体液、イオン等の移動をコントロールする法則によっても必然的にコントロールされているのではなかろうか、例えば経絡の機能状況を示すものであるBPの流れの速度は、神経インパルスが遠く及ばない電波に近い速度で生ずる物理化学的現象である。従ってこれは神経によって支配されえない。しかし真皮結合識内の物理化学的物質の分布、性状によって直接に影響され、コントロールされている。これと同様に、経絡系の気エネルギー、体液の流れは、物理化学的次元の法則によっても直接コントロールされていると思われる。
(8)気の流れの速度
電気現象として捉えられた気の流れの速度は、特別な1例を除いておおよそ12.5㎝/sec~43㎝/secの間にある。ただしこの経絡の気の流れの速度は、上記の枠内においてではあっても、同一人の同じ経絡でも、日、時によって絶えず変化している。気の流れの速度は個人差が大きい。
以上のことは、経絡の機能は日、時によってnormalな限界内においてではあっても、絶えず変化していることが考えられる。また、個人差が大きいことも考えられる。
(9)気の流れの速度と順向、逆向
気の流れが経絡の内を順向する、つまり陰経では下から上へ、陽経では上から下へ流れる時は速く、逆向つまり陰経では上から下へ、陽経では下から上へ流れる時は遅い。
(10)経絡の虚、実と気の流れ
虚の経絡では気の流れが遅い(3.9~4㎝/sec)。実の経絡では気の流れが速い(50㎝/sec)。これは虚の経路つまり真皮結合織では、気の流れ=物理化学的エネルギー、一種の活動電位を流す物理化学的条件が悪いということであり、実の経絡では条件がいいということであろう。
(11)知覚される気エネルギーと電気反応としての気エネルギーの速度の相違
電気反応としてEEGによって捉えられる気エネルギーの速度の方が12.5㎝~16.7㎝~20.4㎝~21㎝~43㎝/sce、平均22.7㎝/sce、平均15.4㎝/secである。全体的にみて、電気反応として現われる気エネルギーの速度の方が、知覚される気エネルギーの速度より速い。これは電気反応として現われる場合の気エネルギーは、知覚される気エネルギーより強大で速いということであろう。
(12)気の流れの速度と神経インパルスの速度との比較
気の流れの速度は、電気に敏感な1人の被験者を除いて、通常3.7㎝~50㎝/secである。これに対し神経インパルスの流れは速度50㎝~100m/secであり、気の流れの速度よりはるかに速い。この速度の相違は、経絡と神経とが異なった系であることを示す。
(13)BPの速度と気の流れの速度の比較、BPとは経絡の物理化学的状態を示すパラメーター
Ⅱ章の、気の流れの速度に関する実験から、経絡中の中の気の流れの速度は3.7㎝~50㎝/secであることが明らかとなったが、BPの速度は約2mを0.1μsec以下で通過する非常に速い電気現象であり、BPは気の流れとは全然違ったFactorのパラメーターであることがわかる。一体何のパラメーターであろうか。既に今までのところで考えたように、BPは真皮結合識内の物理化学的状態、つまりコラーゲン線維のnetwork、ヒアルロン酸、礎質内の水分の分布、Na⁺、K⁺、CI⁻、Mg⁺等の無機イオンの分布、それらのもつ電気的勾配等によって、BPはその値を左右される。つまりBPは真皮結合識内の物理化学的性状を示すパラメーターなのである。換言すると、経絡の物理化学次元での状況を示すパラメーターである。
(14)気の流れの方向
気エネルギーが経絡に沿うて流れるのが、経絡敏感人によって知覚されたり、針の響きとして知覚されたりする。電気反応としてもEEGによって捉えられるが、その際経絡の中を順向する場合もあり、逆向する場合もある。このことは、気エネルギーは古来から言われているように、陰経では下から上へ、陽経では上から下へ必ず流れるとは限らないことを示す。
(15)気のエネルギーの知覚、針の響きの知覚は必ずしも経絡に沿うて起きるとは限らない
経絡敏感人は、気のエネルギーの流れ、針の響きを経絡に沿うて感ずる場合も多いが、全く飛びとびに「首の所→臍→鼠蹊部→左耳」というふうに感ずる場合も多い。Y.O.(男性)の場合はこのようなケースが多かった。どうしてこのように気のエネルギーを飛びとびに感ずるのか。これらの気エネルギーの感知点の間には、何か必然的なメカニズムがあるのであろうが、今のところよく解らない。しかし12経絡だ8奇脈だと言って経絡を理解している我々に、経絡とはそんな単純なものではないことを示唆しているように思えてならない。
(16)三陰三陽関係の実在
肺(手の太陰経)―脾(足の太陰経)のような三陰三陽関係にある二つの経絡間では、針の響きあるいは電気反応が相互に伝わり、両経が密接な関係にあることを示す。
(17)陰陽の実在
陰陽関係にある二つの経絡、例えば心包経と三焦経で心包経の原穴(大陵)に挿針すると、心包経ではなく、まず三焦経に電気反応が出、少し遅れて心包経に反応が出た例は、この両経に陰陽関係のあることを示唆している。
感想
今回、本山博先生の『気の流れの測定・診断と治療』という著書を拝読させて頂き、本山先生が経絡であるとされている“真皮結合組織”と私が“経絡≒ファシア”と考えるファシアとは異なるものであることが理解できました。
ただし、以下のような見解もあるようです。こちらはAI(Perplexity)の回答結果です。
ご参考:“本山博先生の真皮結合識は真皮のことですか、それとも真皮の直下の皮下組織も含みますか”
結論には次のようなことが書かれています。
『本山博先生の「真皮結合織」は、主に「真皮」層を指しており、特に真皮層内の結合組織とその中を流れる間質液(水、体液)に焦点を当てています。しかし、「生体全体の結合織」という記述から、経絡のネットワークとしては真皮だけでなく、皮下組織を含む体全体の結合組織にも広がっていると考えられます。したがって、本山先生の経絡理論における基本的な構造は真皮層にありますが、経絡系全体としては皮下組織も含む広範なネットワークを想定していると解釈するのが妥当でしょう。』
なお、真皮は結合織ですが、次のような特徴をもっています。
『真皮は結合組織に含まれます。真皮は表皮の下に位置し、主に線維芽細胞、マクロファージ、マスト細胞などの細胞成分と、コラーゲン、エラスチン、レチクリンなどの線維成分、プロテオグリカンなどの基質から構成されています。これらの成分は皮膚の弾力や強度を支える役割を果たしています。真皮は乳頭層、乳頭下層、網状層の3層からなる結合組織であり、特に網状層は線維成分が密集している強靭な組織です。』
ご参考:“ファシアには真皮は含まれますか”
ご参考:“皮下組織とは浅筋膜のことですか”
私が“経絡≒ファシア”と考える最大の理由は、経絡と内臓の関係は東洋医学の核心であり、ファシアは表層の筋膜などだけでなく、内部の深層にある内臓を包む膜でもあるためです。
また、本山先生の「間質液」に対するお考えは非常に興味があり、ファシアと間質液との関係性について調べてみました。続いて「気」に関しては間質液と電磁波との関係を調べてみました。
ご参考:“ファシアと間質液の関係について教えてください”
神沢先生の気療に関しては、ブログ“氣とはなんだろう11(科学編)”の最後に、ご参考として神沢先生の動画を3つご紹介しています。これらは何度見ても驚きです。
今回の『気療の奥儀』という本は、その神沢先生ご自身が最後の本とされているものです。書かれている内容は先生が実際に行っていること、起きていることを論理的にご説明されています。ただ、気に対する一般的な知識や理解とは少し異なるため、十分な理解には至りませんでした。
一方、「第2章 対面気療エクササイズをしよう」の中で、神沢先生は、『気療生命エネルギーとは、一般的に言われている「気の力」である。』と公言されています。そこでブログは、「はじめに」に引き続き、「気の力」という一般的な気の理解と一致するような箇所をピッアップし、そして一番の関心事である、第11章の中の「テレビ出演のきっかけと撮影の裏話―気療ハンドと動物たちとの気療生命エネルギーの瞬間伝達交流」をご紹介させて頂くということにしました。
目次
はじめに
第1部 実践編 気療ヒーリングやオンライン気療エクササイズのやり方を紹介
第1章 気療ハンドにすれば気療ができる! 気ハンドの作り方を覚えよう
1. 気療ハンドはこうして作る
2. 気療ハンドの確認方法
3. 気療ハンドの手応感覚
第2章 対面気療エクササイズをしよう
1.1人気療エクササイズ
2.対面2人気療エクササイズ
3.対面多人数気療エクササイズ
4.気療ハンドの気療エクササイズの型一覧表
第3章 対面気療ヒーリング
1.手首の脈拍確認
2.頭部の気療ヒーリング
3.心臓の気療ヒーリング
4.丹田(腹部)の気療ヒーリング―消化器系・泌尿器系・婦人科系
5.足のうらと足のうらの気療ヒーリング
6.患部の気療ヒーリング
7.手首の脈拍の再確認
第4章 ペット(犬・猫)の対面気療ヒーリング
第5章 オンライン気療講座
1.オンライン気療講座開設の理由
2.気療ハンドが、「電磁気」の一般的な概念(考え)を修正
3.気療ハンドによる「オンライン気療エクササイズ」での新発見
4.気療ハンドによる「オンライン気療エクササイズ」等の「気象現象の本質」
5.オンライン気療エクササイズは、第2の「脳幹ショック」
第2部 理論編 気療はなぜ人間や動物を癒すのか。気療の奥儀を解説する
第1章 気療を「遺言」にする理由
1.気療とは何か
2.癒しの「人体地動説」―未知なる「癒しの仕組み」
3.気療に邪気・偏差などはない
第2章 気療と宇宙の仕組み―「電磁気力(電気)」
1.「電磁気力」が「原子・分子」を作る
第3章 人体の仕組み
1.気療から見た「人体構造」
2.私たちの体は、素粒子からできている
3.私たちは、生命エネルギーで生きている
第4章 気療ハンドと強い「脳幹電流」の発生
1.気療ハンドは、フリーハンドの中にあることを発見
2.気療ハンドは、体内の超ミクロの世界への入り口
3.脳は「電流と脳神経細胞」の働きで生命活動をしている
4.気療ハンドによる、強い「脳幹電流」の発見
5.2つの気療現象が強い「脳幹電流」を発見
6.科学実験データによる、強い「脳幹電流」の発見
7.強い「脳幹電流」が人体に及ぼす「気療現象」
第5章 気療生命エネルギー(気の力)の発生・発散源
第6章 体内の気療現象の原理
第7章 体外の気療現象の原理
1.体内の「気療現象の原理」と体外の「気療現象の原理」を区分する必要性
2.体外の気療現象の原理
第8章 癒しの三調整の原理と癒しの心身調整
1.強い「脳幹電流」の発生と「気療電流と気療神経」の同時作動
2.癒しの三調整の原理
3.癒しの心身調整、そしてテレビロケの裏事情
第9章 ミトコンドリアの増殖と活性化
1.ミトコンドリアの働き
2.ミトコンドリアも、気療生命エネルギーの発生・発散源
第10章 自他治癒力を身につけよう!
1.内なる「自他治癒力」の発見
2.自他治癒力は、体内療法―「脳幹まかせ」
3.病気やケガ・傷などによる諸症状
4.気療ハンドで「自他治癒力」を身につけよう!
第11章 テレビ出演のきっかけと撮影の裏話―過去の起こった気療現象を「気療解説」する
1.気療ハンドによる気療現象の「気療解説」
2.気療のきっかけの脳幹ショックは強い「脳幹電流」の発生だった!
3.テレビ出演のきっかけと撮影の裏話―気療ハンドと動物たちとの気療生命エネルギーの瞬間伝達交流
4.うつ病の女性(26歳)のケース
5.「自他治癒力」の存在を父親が証明
第12章 気療ハンドで自他治癒力を身につけ、病気を予防しよう!
おわりに
はじめに
『私はこれで本を書くことは、終了したと思いました。しかし、気療理論の究極の一点があることを漠然とながら感じていました。ある日、気療塾学院の塾生の行動を見ていてハッと気づきました。それは、強い「脳幹電流」の発生という言葉のひらめきでした。
強い「脳幹電流」が全身(体内)に流れる「気療電流」によって、体質改善ではなく、体質改造が起こっていたのです。これは一般的にいう「静電気」とは違います。強い「脳幹電流」は、電流の質が違うことに気がついたのです。
この強い「脳幹電流」こそが、気療理論の「画竜点睛」(物事の最も大切な部分)です。
気療ハンドにすることにより、スイッチオンとなり、強い「脳幹電流」が発生するというのは、新発見といってもよいでしょう。この発見により、気療ハンドによって起こるさまざまな気療現象を簡潔明瞭に説明することができるようになりました。
これは気療を「理解する人」への最後の贈り物となると思い、本書を書くことにしたのです。
2021年から2022年にかけて、いくつかテレビに出演したので、テレビで見て初めて私のことを知った方もいるでしょう。そういう方向けに気療のやり方や気療の原理(奥義)も解説しています。
また、手を振るだけで、動物たちが次々と気持ちよく倒れ込んでいったテレビロケの裏側も紹介していますので、撮影がどのように行われているかも知っていただければと思います。』
「脳幹電流」とはとても印象的です。また、「脳幹」だけに注目すべきではないのかもしれません。そこで大脳との関係について確認してみました。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
大脳は表層の皮質と内部の髄質に分けることができます。また、表層の皮質は約90%を占める新皮質と大脳の下方に存在する古皮質があります。情動を司る大脳辺縁系は古皮質です。
脳幹は生命維持に必要不可欠ですが、大脳と構造的にも機能的にもつながっています。新皮質は犬や猫などの哺乳類にはありますが、人間が持つ創造力や理性のような高度な機能はありません。また、爬虫類や鳥類は古皮質のみです。
何をお伝えしたいのかというと2つです。
1)脳幹は元より、脳と気には密接な関係があると考えられる
2)人間より動物の方が気療に反応しやすいのは、人間および類人猿以外の動物には高度な新皮質がないからではないか
第1部 実践編 気療ヒーリングやオンライン気療エクササイズのやり方を紹介
第2章 対面気療エクササイズをしよう
1.1人気療エクササイズ
・気療生命エネルギーとは、一般的に言われている「気の力」である。
4.気療ハンドの気療エクササイズの型一覧表
・気療の世界においては、気を送るとか気をもらうという概念はない。
・生命エネルギーの交流である。
・気療ハンドを動かすということは、お互いに気療エネルギーを刺激する「刺激交流」になる。
第2部 理論編 気療はなぜ人間や動物を癒すのか。気療の奥儀を解説する
第1章 気療を「遺言」にする理由
1.気療とは何か
・気療現象の理解を困難にしているのは大脳の思考活動である。
第11章 テレビ出演のきっかけと撮影の裏話―過去の起こった気療現象を「気療解説」する
1.テレビ出演のきっかけと撮影の裏話―気療ハンドと動物たちとの気療生命エネルギーの瞬間伝達交流
・『さて、いよいよ動物たちとの瞬間伝達交流を取り上げます。
まず、表25「動物と気療ハンドの瞬間伝達交流一覧表(放映済み)」をご覧ください。
Q 多くのテレビ番組に出演されていますね。
A そうですね。1997年にTBSの「どうぶつ奇想天外!」に出演したのを皮切りに、2022年のTBS「ワールド極限ミステリー」の番組出演まで、25年間各局のテレビ番組に出演しました。
「やらせでは?」「手を振っている陰で、別の方法で動物を眠らせているのでは?」などの批判は聞いたことがありますが、不思議なことに、「手を振っているだけで、なぜ動物たちが気持ちよく倒れ込んで眠るのですか?」という質問は、いままでゼロです。皆無です。
Q なぜ、質問がないのでしょうか? 放送されたことは真実なのですよね?
A 「やらせやれ」と言われたら、私の性格上テレビ番組には出演していません。放送されたことはすべて真実です。どうして質問がないかというと、「4次元思考」、すなわち目に見える「物体的概念」で見て考えているからでしょう。つまり、「一般的思考」では追いつかない「一般常識外」の気療現象が起きているからです。簡単にいえば「意識構造」外の気療現象の世界だから、「不思議だな」と思っても質問ができないのではないでしょうか。要は気療ハンドの「手振りと静止」の繰り返しです。だから気療ハンドによる気療現象を信ずる「根拠」もないし、否定する根拠もないのが実態です。否定する人は、草原に睡眠薬をまいたとか、麻酔銃を使って眠らせたとか、偶然眠る時間帯だったのだろうとか、さまざまな否定的なことを言いました。
Q でもそんなことをしたらテレビ局も批判を受けますよね。
A 放送された内容が真実でなかったら、25年もの間、テレビに出演できません。私自身もやらせはやりたくないので断ります。
Q そうですよね。ところでテレビに出演し始めたきっかけは、なんだったのでしょうか?
A アマチュア時代にさかのぼります。気療を始めて間もない頃、友人の飼っていたセキセイインコがぐったりしていたところ、手振りをしていたら、1分ほどで元気になったということがありました。
それに別の友人宅を訪ねたところ玄関で犬が倒れていました。友人に尋ねたところ、外で交通事故にあって腰が立たなくなったとのこと。右手で15分ほど手振りをしました。変化がないので駄目かと思いました。その翌日の朝、友人から電話があり、「神沢、動けなかった犬が庭を駆け回っているぞ!」とのことでした。そのとき、鳥も犬も病気やケガが気療でよくなるのだとわかりました。
それから上京してプロの気療師になってから5年後にある会合でテレビ局のH氏に会いました。その3ヵ月後に電話があり、「神沢さんは動物を癒せますか?」と聞かれました。私はアマチュア時代の2件のことを思い出して答えました。「動物も人間も同じですからよくなります」。そのときに出演したのがTBSの「どうぶつ奇想天外!」でした。
Q その番組からたくさんのテレビ出演となったわけですね。
A その通りです。
Q 思い出となる動物との交流はありますか?
A どれもぶっつけ本番のロケでしたが、しいて挙げれば2001年10月スペインの300頭の羊、2001年12月ケニアのバッファロー200頭、2005年6月アメリカの200頭のバイソンの3件ですね。
Q それだけの数の動物を気療ハンドで眠らせたのですか?
A そうです。なぜ動物たちが眠り、「気療睡眠」に入るのか、気療解説をしてみましょう。』
◎気療解説
・『まず、人間と動物の違いから話しましょう。人間には大脳の「抑制機能」があり、低周波や目には見えないエネルギーを感ずることができません。だから安心して生活ができているのです。「抑制機能」は大脳新皮質の働きですが、大脳新皮質は人を含む哺乳類にしかありません。他の動物には大脳新皮質がないのです。ということは、哺乳類以外の動物には大脳の「抑制機能」はありません。[哺乳類には大脳新皮質はありますが、人間のような高度な機能は有していません]しかし、この2つのとき以外は脳幹の感覚硬直神経の働きが人間と違って鋭敏です。そのため、気療ハンドエネルギーを感じて眠くなるのです。ちなみに私たちの大脳は、脳幹から睡眠物質が分泌されて眠くなります。
気療ハンドにすることで、強い「脳幹電流」が発生し、癒しの「気療電流」が全身に流れて、癒しの強い気療生命エネルギーが、動物たちの脳幹を直撃します。そうすると、瞬間伝達交流が始まります。波動的に考えれば、人間の脳幹と動物の脳幹による脳幹波動交流をしているとも言えます。大脳波動は警戒して敵意を抱くかもしれません。そこで「抑制機能」が働くのでしょう。
さて問題は、どうして動物たちは気持ちよく眠り「気療睡眠」に入るのかです。体外の気療現象は、強い癒しの「気療生命エネルギー」の「瞬間伝達交流」です。体内の気療現象として、動物たちの脳幹は強い癒しの「気療生命エネルギー」の刺激を受けて、強い「脳幹電流」が発生すると、同時に全身の神経網に強い電流(気療電流)が流れます。強い電流により全身の筋肉細胞の「瞬間収縮硬直と弛緩」が始まり、筋肉細胞の「収縮と弛緩」の振幅が大きくなります。
筋肉細胞の「収縮と弛緩」の振幅が大きくなれば、血流が強くなります。同時に筋肉細胞の呼吸は自ら積極的に盛んになります。つまり癒しの「三調整の原理」が働きだすわけです。そうすると、強い血流によって体温は上がります。体温が上がるのは強い電流「気療電流」によって「電流熱」が発生するからだと考えられます。
人間も同様です。赤ちゃんが眠くなるときは手足が温かくなります。大人も動物も同様です。実をいいますと、熱くなり眠りにつくとき、強い強い気療生命エネルギーが体内に発生し、体外に発散することがわかっています。だから動物たちが倒れ込む前の2~5秒前に、気療ハンドの手応感覚で倒れ込むことがわかるのです。
さて、羊、バッファロー、バイソンの群れが次から次へと気持ちよく倒れ込んで眠るのはなぜでしょう。実は群れの各個体が発する気療生命エネルギーが集まって、「集合気療エネルギー空間」または「集合気療空間」ができるのです。各個体の体内の超ミクロのエネルギーが、集合・集積してマクロ化します。マクロ化した個体の気療生命エネルギーが集合・集積して癒しの強い集合気療生命エネルギー空間を作るのです。その結果、彼らは安心して倒れて気療睡眠に入ったのです。』
この「気療解説」の中から以下の3つについて考えたいと思います。
1.低周波や目には見えないエネルギーを感ずることができない。
2.大脳は、脳幹から睡眠物質が分泌されて眠くなる。
3.個体が発する気療生命エネルギーが集まって、「集合気療エネルギー空間」または「集合気療空間」ができる。
1.低周波や目には見えないエネルギーを感ずることができない
磁気感覚は広く動物界に分布する可能性があるようです。進化的利点は「長距離移動や方向定位」とありますが、この能力は野生で暮らす動物には非常に重要だと思います。一方、現代に生きる多くの人間にとっては、この機能は特に必要ではないように思います。つまり機能が退化したとしても不思議ではないということです。
「ラジカルペアメカニズム」に関しては、細菌において研究が進んでいるそうです。一方、「マグネタイト」については細菌だけでなく、鳥類においても研究が行われているとのことです(“生物の磁気受容能とそのメカニズム” )。また、人間おいても「マグネタイト」の存在が確認されています(“「第六感」磁気を感じる能力発見 東大など”)。
ご参考:“人間にマグネタイトはありますか”(Perplexityに質問)
画像出展:「地磁気50のなぜ」
人間にもマグネタイトの存在が確認されていますが、『人間は動物のように単純ではなく、「どっちが北のにおいがする?」というようにきわめて単純な質問でさえ、余計なことを考慮に入れて、質問を複雑にしてしまうのです。』と書かれています。これは、神沢先生の「気療現象の理解を困難にしているのは大脳の思考活動である」というご指摘と一致します。
2.大脳は、脳幹から睡眠物質が分泌されて眠くなる
●入眠とは、覚醒状態から睡眠状態へと移行するプロセスであり、脳内では複数の生理活性物質が精密に連携して働いています。これらの物質は、日々の睡眠サイクルを調節し、入眠を促進する重要な役割を果たしています。特に入眠に深く関係している生理活性物質は、メラトニン(睡眠の開始を告げるホルモン)、GABA(γ-アミノ酪酸)(脳を鎮静させる抑制性神経伝達物質)、アデノシン(睡眠圧を高める物質)、プロスタグランジンD2(睡眠の引き金)です。
●次に、この4つの生理活性物質について「磁気」と「電磁力」との関係について調べてみました。
ご参考:“メラトニン、GABA(γ-アミノ酪酸)、アデノシン、プロスタグランジン D2、これらの睡眠に関わる生理活性物質の中で磁気と関係が深いものはありますか”(Perplexityに質問)
ご参考:“メラトニン、GABA(γ-アミノ酪酸)、アデノシン、プロスタグランジン D2、これらの睡眠に関わる生理活性物質の中で電磁力と関係が深いものはありますか”(Perplexityに質問)
これによると、磁気との関係性が強いのはGABA(γ-アミノ酪酸)とアデノシンであり、電磁力との関係性が強いのはメラトニン、GABAでした。これにより、睡眠(特に入眠)に関わる生理活性物質のうち、磁気および電磁力に深く関係しているGABAであることが分かりました。
ご参考:“入眠時のGABAと自律神経系の関係”(Perplexityに質問)
●この中に、『入眠過程では、神経伝達物質と自律神経系の緻密な連携が不可欠です』とあります。また、『GABA は中枢神経系において最も重要な抑制性神経伝達物質であり、神経細胞の過剰な興奮を抑制する役割を担っています。脳の神経細胞が過度に活性化すると、GABAが放出され、神経細胞の活動を鎮静化させます。この機能は特に入眠過程において重要であり、覚醒状態から睡眠状態への移行に深く関わっています』ともあります。神沢先生の気療によって、猛獣が眠ってしまうのは、自律神経系に加え神経伝達物質が関わっているからではないでしょうか。そして、特に入眠に深く関わっている生理活性物質はGABAです。
ご参考:“磁気と血流の関係”(Perplexityに質問)
●『赤ちゃんが眠くなるときは手足が温かくなります。大人も動物も同様です』と神沢先生はお話されています。体温の上昇に深く関わっているのは血流(血液)です。血液は電解質やタンパク質を含む導電性の流体であり、磁場の影響を受けやすい特性を持っています。
1) ローレンツ力による磁気流体力学効果(ローレンツ力:電磁力の根源となる物理現象。導線に電流が流れる際、個々の荷電粒子が受けるローレンツ力の総和が電磁力として現れる)
2) 血液成分への磁気的影響(血液中の成分は磁場によって様々な影響を受ける)
「気は血を推動する」というのは、気血ともよばれ血と密接に関係しているとされている「気」の働きです。その気は宇宙にも存在しているとも言われています。“人間は宇宙や自然と一体のものと考える「中医学」”というサイトには『中医学の最も大きな特徴は、宇宙や自然と人間は一体であるという考え方です』とあります。
ご参考:“気は宇宙に存在するか”(Perplexityに質問)
3.個体が発する気療生命エネルギーが集まって、「集合気療エネルギー空間」または「集合気療空間」ができる
これをみて思ったことは鳥や魚の集団行動です。調べたところ、それは「相転移」と呼ばれている物理現象とのことでした。
画像出展:「原子も群れをつくって集団行動」
“鳥や魚の大群の集団行動は「相転移」と呼ばれる物理現象”
『数千~数万羽のムクドリが巨大な一つの生き物のような動きをしながら飛ぶ様子。このような集団行動をとることができるのは、個体同士の距離が近くなることで相互作用が強くなり、一種の相転移が起こったためだと考えられる。』
『足立研究員は「キーワードは"相転移"」と語る。相転移とは、液体の水が冷却することで固体の氷になるように、ある集団の性質がガラッと一変する現象のことをいう。集団を構成する要素同士の相互作用の大きさが変化することによって引き起こされる現象だ。
「鳥や魚、細胞の共通点は、自分の力で動くことができる"自己駆動"の能力と、周囲と"相互作用"する能力の両方を併せ持っていること。このような性質を持つものを、総称して『アクティブマター』と呼んでいます。アクティブマターでは、それまでバラバラに動いていた個体同士の距離が近くなることで相互作用が強くなり、その結果、一種の相転移が起こると解釈できるのです。私は、それならば、より小さな原子の世界にもアクティブマターが存在するのではないかと考え、研究を始めました」』
原子の世界にも相転移による集団行動があった!
『アクティブマターは、古典力学の理論モデルを使って記述できることが知られている。一方、原子の世界は古典力学では記述できず、量子力学を使って記述される。そこで、足立研究員は、原子の世界のアクティブマターとして「ハードコアボソン」と呼ばれる粒子を考え、古典力学の理論モデルをもとに、量子力学の理論モデルを構築した。そして、コンピュータシミュレーションで集団の性質を調べた。その結果、粒子の運動エネルギーや粒子同士の相互作用の大きさを変えることで、多くの粒子が一定方向に一斉に向きを変える、凝集するといったアクティブマター特有の集団行動が確認されたのだ。この発見は、集団行動に関する普遍的な原理が古典力学と量子力学に共通して存在することを示唆している。』
続いて頭に浮かんだことは、相転移には磁気や電磁力が関係しているのではないかという疑問です。
ご参考:“相転移における磁気および電磁力との関係”(Perplexityに質問)
以下はPDFの概要です。内容は難解で理解できませんが、予想は正しかったように思います。
『相転移現象と磁気・電磁力の相互作用に関する最新の知見を統合的に分析した結果、以下の主要点が明らかとなった。第一に、強磁性体におけるスピン秩序形成は交換相互作用と電磁場の結合効果に依存している。第二に、量子スピンアイス系ではヒッグス機構を介した磁気単極子のボーズ-アインシュタイン凝縮が観測され、電磁場のゲージ理論と深く関連している。第三に、ErFeO3における超放射相転移ではマグノン場と電子スピンの協奏的結合が相転移を誘起し、熱平衡下での静電磁場発生メカニズムが解明された。第四に、Fe/FeRh異種接合界面では垂直磁気異方性の電界制御が可能となり、スピントロニクス応用への新たな道筋が示された。これらの発見は、従来の磁気相互作用モデルを超える電磁場の能動的役割を浮き彫りにしている。』
ご参考:“鳥や魚の相転移とマグネタイト”(Perplexityに質問)
以下はPDFの結論の一部です。
『生物の集団行動における「相転移」的現象は、個体レベルでのマグネタイトを介した磁気受容と、群れレベルでの相互作用則が結合して初めて発現する。』
ここで、あらためて“磁気”、“磁界(磁場)”、“電磁界(電磁場)”、“電磁力”について調べました
ご参考:“磁気は何故うまれたのですか”(Perplexityに質問)
ご参考:“磁界と電磁界の違い”
ご参考:“磁界と電磁力の関係”
感想
まさに悪戦苦闘中です。頭の中は混沌としています。その中で、“気血”の概念である「気は血を推動する」を中心に考えるべきではなかと思います。これは血流を良くすることであり、体内のあらゆる組織に栄養や酸素、生理活性物質を行き渡らせます、血液は免疫系にも関与しています。
脳幹は自律神経系・局所血流調節・全身循環の循環制御を統合しています。また、内分泌系の統合中枢でもあります。
一方、ミクロ(量子)にもマクロ(宇宙)にも存在する磁気や電磁力も血流に影響を及ぼします。気功師の発する外気には極めて微弱ですが電磁力(遠赤外線)が出ています。ここに特別なシグナルが載っているのではないかと考える先生もおいでです。
体内の生命維持と深く関わり、外界にも広く存在する物質(酸素)とパワー(磁気と電磁力)との合わせ技が『氣』なのでしょうか。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
”電弱力”とは、『素粒子物理学の標準模型において重要な概念であり、宇宙初期の高エネルギー状態では電磁気力と弱い力が統一されていたとされます。』とのことです。
ご参考:“磁気と電磁力と酸素の関係”(Perplexityに質問)
“日本の外交を考える”という動画の中で、岡崎冬彦先生は外交官、初代情報調整局長、タイ大使など外交のスペシャリストと紹介されています。また、東大法学部在学中に外交官試験に合格し、その後大学を中退、外務省に入省したという異色のキャリアをお持ちです。
“未来ビジョン133『岡崎冬彦、日本の外交を考える』” この動画は「JapanMiraiVision」から拝借しました。
その岡崎先生は毎年のように風邪をひかれ、扁桃腺を腫らしていたそうです。その健康維持をはかるために始めたのが気功であり、岡崎先生が通っていたのは、ブログ“氣とはなんだろう30(合気道編)”でご紹介させて頂いた:藤平光一先生の道場でした。
岡崎先生の著書である『なぜ気功は効くのか』は、まさに岡崎先生が自ら気功を実践し、そして風邪をひかなくなったという実体験に基づくものです。とても説得力があります。気功師の先生が書かれた本とは少し違った角度で気功をみることができました。
目次
プロローグ なぜ、風をひかなくなったのか
第1章 私の気功体験は病気から始まった
第2章 気を回す
第3章 風邪治し法
第4章 道場の稽古
第5章 気を科学する
第6章 気を哲学する
エピローグ 天地正気の歌
鼎談 二十一世紀に気は解明されるか 帯津良一 愛甲次郎 岡崎冬彦
あとがき
プロローグ なぜ、風をひかなくなったのか
●症状は出ても、風邪までには至らなかった
・『体の緊張をゆるめることが病気を治す最大の要諦のようです。』
●五年前に気功を始めた
・気功を始める前は、毎冬ごとに大体三回は風邪をひいていた。
・気功以外にも健康法を試していた。例えば、漢方薬では「正源」という薬を常用していた。また、野菜スープも常用していた。運動は年数回のゴルフ以外は気功だけである。これらの健康法で最も効果があったのは気功だと思っている。
●気功のおかげか無理のない生活のおかげか
第1章 私の気功体験は病気から始まった
●三叉神経痛を使わず治すには?
・漢方で治ったものの、薬疹が起き体中に蕁麻疹ができ10日ほど入院した。それがきっかけで気功を始めた。その後、5年間一度も再発していない。
・中国出張の際、各都市の公館に依頼をし、北京、上海、広州、瀋陽、大連の5つの都市で合計10人の気功の達人を紹介された。
第2章 気を回す
●ゆるみを回す
・気功は本来体得するものである。
・気功には非常に多くの流派があるが、唯一共通しているのは小周天である。
・百会は頭頂のツボ、会陰は肛門と性器の間、体の前面中央のラインが任脈。体の後面中央のラインを督脈という。
-『息を吐きながら、気を百会から体の前の任脈を通して会陰まで下ろす。それから今度は息を吸いながら、気を背中の督脈を通して百会まで上げる。これをぐるぐる回すのが小周天です。』
・小周天は個人差があり、背中から下ろす方が良いという人もいる。
・『気を回すといっても、普通の人にはどうしていいのかわからない。中国の説明の一つでは気ではなく、意を回す。だから意識をずうっと回すという考え方もあります。意識して何かを回す、うちの道場では光の玉をイメージして、光の玉がぐるぐる回っているというふうにイメージしています。つまり意を回すということです。私が中国で覚えて以来、心がけてやっているのは、ゆるみを回すことです。通る場所を次々にゆるめる。ずうっとゆるみを回しながら、息を吸いながらいちばん上までもってくる。』
・気というものは、ゆるんだところに入ってくることになっている。これは仮説というより公理である。どんなに気が満ちた状態になっても体を硬くした瞬間にその状態は解消してしまう。緊張したところには気は流れず、入ってこない。
・修行といえば、普通は精神統一や集中力を重んじるが、気の場合は楽しい気持ちの時の方がよく回る。
・中国では目と目の間を上丹田、乳と乳の間を中丹田、お臍の10cmくらい下が下丹田である。まず百会をゆるめて、それから上丹田をゆるめ、中丹田、下丹田をゆるめて、続いて背中の各丹田の裏側を下から上へゆるめてぐるぐる回すのが小周天である。
●小周天ができれば気功はできる
・呼吸は吸うときは鼻だが、吐くときは流派によって異なる。特に決まりはないようである。(岡田先生は吐くときも鼻だそうです)
・すべての気功の流派に共通なのは、舌の先を上顎の先につけることである。これは気を任脈を通して顔の前を下すときは舌がついてないと、鼻から真下に下す時に口の中で前の線が途切れてしまう。
・気功ができるようになったという証拠は、丹田が熱くなることである。岡田先生の場合は中丹田は割合に早く実感できたが、下丹田はなかなかできなかったとのことである。人によっては下丹田が温かくなるのに3年くらいかかる人もいる。
・瀋陽では「姿勢がよければすぐ丹田が熱くなる。姿勢が悪いとなかなかならない」と言う。その姿勢とは「百会と三つの丹田と会陰が一直線になること」とされている。
●小周天はすべての元
・「吸うのが一分吐くのが一分、計一息二分を目標とする」と言われてやってみたが、その後、「とにかく、吐くときにゆるめて、吸うときにゆるめて、体がゆるみさえすれば呼吸は自然に深く流れる。だから、まだまだゆるめられる、ゆるめられると、思いながら小周天をしています。」という方法に変えた。
・『これも中国でちょっとヒントを得た。なんでもない一言なんですけれども。「小周天をやっててそのうちにほんとうに体がゆるんできたら、吸うのも吐くのも一分ぐらいになりますよ」と言われたことがある。そういうヒントがある。だから時間を計らないで、まだまだゆるめられる余地があればもっとゆるめながら、ゆるめて吐いて、ゆるめて吸う、それをやっています。
それからもうひとつ中国でちょっとヒントを得たことなんですけれども、「容器の中に水がじわじわっといちばん上まできて、今度水がじわじわじわっと引くようにやりなさい」というのを教わった。それを内観内視と言うんです。自分で満ちて引くのをじいっと見なさいということ。
仏教の行にそういうのがあるんです。歩くという自分の行動を、たとえば、いま、右足のかかとを上げた、次につま先あげた、その足を前に伸ばした。次は左足というようにいちいちいつも見てるという修行がある。それと同じ修行です。それをすればたしかに雑念は入らなくなる。
もう一つヒントを得たのは、なるべく静かに澱みなく細く長く呼吸しているのがいちばんいいんだと考えがちだけれどけれども、「波が押し寄せて来るようにしなさい」と言う人がいた。「蛇がずっずっと動くようにしなさい」と言う人もいた。そうしますと、特に吐きながら、顔の前に下ろすときに扁桃腺とか気管とか、特に治したいところを丹念に通す。波が押し寄せるように何度でも洗う。繰り返して洗いながら下ろす。それをやってもいいんだなということです。これはたいへん効果的であります。』
●性格まで変わった
・もともと神経質な性格で、緊張体質だから不眠が多かったが、小周天をマスターし不眠の問題は解決した。さらに、先輩からは神経質でとても近寄りたがったが、気功を始めてから話しかけやすくなった」と言われるようになった。
・小周天に対し、足の先、手の先まで回すのを大周天という。大周天までできると内気功だけでなく外気功(他人を気で治療すること)ができるようになると言われている。
・大周天は小周天を覚えて丹田が熱くなるのを覚えてから次のステップであるという教え方もあるし、小周天でも初めから足の先まで回す流儀もある。あるいは、むしろ足の裏から回すことが一番大切という流儀もある。
・自分で気功を覚えないで、気功師の外気功治療に頼る人が多いが、これは個人的(岡崎先生)には勧めない。
・『もっとも私も三年ほど前、前立腺の手術などで、道場にしばらく通えなかった時代、代わりに外気功を受けたことがあります。
私は小学校のときから肩凝りです。凝りに凝って背骨と肩甲骨の間に指が入らないぐらい固くなる。これがゆるんできた。それは藤平道場という気功の道場で、気圧法という、外気功の治療もしてもらったからです。それはいまでも続けて通っていますが、いまはゆるんで背中に楽に指が通るようになってきて、肩凝りもずい分楽になってきた。五十年間苦しんだのですが、その点では私も外気功の効果は否定しませんし、お世話になっています。たしかに自分独りでは背中までゆるませるのは難しいでしょう。内気功で癒せる限度を越えた場合には大変有効です。』
第3章 風邪治し法
●ずっーと扁桃腺で悩んでいた
・小学校の時から、年に3回は扁桃腺を腫らしていた。40代には扁桃腺が化膿して後部扁桃腺膿症にもなった。
・今まで、非常に効果があったのは、本当の熊の胆であるが、ワシントン条約のため手に入らなくなった。かつては中国産の熊の胆が手に入った。熊の胆は熊の胆汁の塊である。それを砕いて粉にして、歯と頬の間に含む。これを口に含んでいると扁桃腺の奥から唾液がしょっちゅう湧き出てくるため乾かない。しかも外側で濡らすのではなくて内側からじわじわと濡れてくる。のど飴では10分しかもたない。
・小周天をするときに、顔の正中線(真ん中の線)を通して息を吐きながら鼻の奥の上気道と喉をゆるめながら気を下ろしていくと、ジワーッと内から唾液が湧いてくる。バイ菌にとっては乾燥状態が望ましい。
●いつも喉を潤して
・口は吸うときも吐くときも一切開けない。特に冬は注意が必要である。また、舌の先を上顎につけるという習慣、舌全体で上顎を蓋しておく感じである。これにより上顎全体の扁桃腺の周りはいつも唾液で潤うことになる。
第4章 道場の稽古
・道場の稽古は、巡気と柔軟体操の2つからなる。最初に先生が巡気のような形で、一人一人の先生の気を押し込むようにして小周天を回す。これにより独りでやるより効率よく気が巡るようになる。その後、体操をして最後に巡気をする。
●巡気
・巡気は二人向かい合って立ち、手の甲と甲を合わせ、お互いの身体の電気が接触するような形で、片方が相手に気を送り込み、それに答えて片方がそれによって増幅された気をまた相手に送り返す。そうしてお互いの気の強さを増幅していくという方法である。注意点は肘、肩、背中、腰、膝など全身の力を抜くこと。さらに、気を通さなければならない。
・気というのは意を通すことでもある。この二つができるようになると巡気ができる。
・自分の正中線と、相手の正中線がいつも正面を向いていて、ずれないようにしながら行うとうまくいく。
・『これは説明できないのですが、二人で巡気をすると気がたちまちに高まります。この理屈は私にはわかりません。生理学や電気の専門家に聞けば、そんなことは電気の増幅の現象として似たようなことがよくあるのかもしれません。もっと哲学的なことかもしれません。一言で言えば、人間には他人が必要だということです。そうなるとちょっと宗教じみてくるので、この問題はそこまでにしておきます。』
・巡気をしているとお互いに気が充満した感じになり、お風呂に入ったように熱くなり、前でも後ろでも跳ねたくなってくる。
・マスターするのに半年かかるが、向かい合っている片方の人が、自分の気を身体の上の方に上げてストーンと下に落とすと、全く手も触っていないのに前の人がそのままストーンと転がって尻もちをつく。これは俗に「遠当て」という。
●柔軟体操
・両方の足を地面にぴったりとつけて、気を頭のてっぺんの百会から入れたり、足から吸い上げては身体中に巡るようにして、いつも循環させている。体操のはじめの方では自分で小周天、大周天もする。そうして満ちてきた気をいろいろ手足体の運動をしながら、身体中に巡らせては放出するのを繰り返して、身体中を気で充満させるのが体操の目的である。
第5章 気を科学する
●スプーン曲げ
・『スプーン曲げは気功の修練をした人なら半年もしたら誰でもできるようになります。指の先にスプーンを持って、気を通す。またゆらしたほうがいい。ゆらすというのは気を巡らすのに効果的ですが、振動を与えるという物理的な意味もあるかもしれない。
指の先に気を通すということは、すぐに覚えます。すると指の先が重くなります。重くなった指の先でスプーンを持って、気がスプーンの先までいくような感じでやる。そうすると「あっ、曲がるな」という感じがしてくる。それは一つはスプーンが温かくなるのでわかります。体温よりもちょっと温かい、お風呂ぐらいの感じになります。そうなってきたときに両手でスプーンを曲げると軽く曲がる。もっと気の強い人は、重力だけで曲がると言います。
ライス・カレーを食べている最中に思わずスプーンが曲がってこぼれてしまう人もいると言いますが、私の場合は弱いので改めて曲げないと曲がらない。
私の場合、気で曲がったかどうかわからないという問題があります。気でできることというのは、ものすごい力を入れれば曲がるものが、軽く曲がるということです。だから見ている人が「俺にもやらせろ」といって怪力を出したら、普通じゃ曲がらない場合も曲がります。「だからおまえは相当怪力を出したんだろう」と言われると、これまた説明がつかない話です。だけれども、する人が皆わかるのは、ほんとうに、「あっ、軟らかくなって曲がるな」と思ってそこで曲げるとすっと曲がる。
これがどういうことなのか。一つの仮説は、気が満ちてくると指先が強くなっている。だから強い指先で曲げるから曲がるんだということ。これもあるいはほんとうかもしれない。
パンとか食べ物の入っているビニールの袋を破るときに、齢をとるとだんだん指の力が弱くなって破れなくなる。齢をとって特に朝起きたときには破れない。少し指先に気を満たして、すっと破ると軽く破れます。そういう面もあるのかもしれない。
しかし、私が軟らかくしたスプーンを他の人に曲げさせると、私がやるようには簡単に曲がりませんが、やはり少し軟らかくなった感じがすると言います。だからやっぱりスプーンが軟らかくなっているようです。
仮説は、結局どのスプーンだって何百度かに熱したら曲がりやすくなります。何百度に熱したのと同じような状況がスプーンの金属の中に起こっていると考えればいい。気功する人の指先から電磁波が出ることは、もう証明されていますから、おそらくスプーンの中に電磁波が流れたからだろうという仮説が可能でしょう。これも実験してみたいと思います。スプーンを常温のままで、両側からいろんな電磁波を通してみる。振動を与えた方がよければ、そういう装置も作る。それで、曲げてみて曲がるようなら、高温と同じような状況が電磁波によって起きていることになる。これも実験さえしてみればすぐにわかる話です。あるいは逆に気が出す電磁波の特徴まで特定できるかもしれない。これが発見されたら物理学ではかなり大きな発見でしょう。』
第六章 気を哲学する
・『気を科学するだけでも、私の分際を超えた余計なことだと思っておりましたけれども、哲学するとなると、ますます余計なことです。ただどうも気とは何だろうと考えていると、どうしても科学だけで解明できないものがありそうな感じがしてきます。哲学というか、何かもっと形而上的な思索というものが入ってこないと、どうも理解できない。それは気が、心とか意思にどうも関係してくるものがあるように感じるからです。』
●科学哲学
・『中国の伝統的な考え方では、物質とそれを動かすものの二つに分けて考えます。
たとえば荘子の知北遊篇では、「人の生は気の集まりなり。集まれば即ち生。散れば即ち死」。つまり生きている人間と死体との差は、その中に気が巡っているかどうかで区別している。そういうことです。気が散ってしまえば死んでいるということです。人間の体を動かしているのは気だという考え方です。気と血を一緒にして気血という表現もあります。これは孟子も含めて、中国辞典、東洋思想に共通だといっていいのです。
ただこの思想はその後だんだん変わります。特に中国の古典思想というのは、そのいちばん大宗である儒学も含めて宋の時代になって、ずいぶん再整理されてしまいます。宗の時代になると、道徳というものに非常に高い価値を置きます。そうなると、単に物を動かしているものより高い所に、理というものがあると考え、それと気というものを区別するようになります。
理というのは道徳とか人の道とかいうことで、気というものはただ体を動かしているものだと考えるようになる。それは宋の儒学の特徴でありまして、その後長く続きましたが、いまは荘子のいうようなもとの考え方に戻っているようです。
だいたい中国で気功が盛んになったのは1950年代からです。もっとも盛んになったのは文化大革命の頃です。それはどうしてかというと医者とかインテリが迫害され、皆、充分な医療が受けられなくなった。それで伝統的な治療法に頼り、それまで秘伝とされていたものが次々表に出て、気功が非常に盛んになったのです。』
●気に対するいろいろな異なったアプローチ
1.合気道
・合気道は気を利用した武術であり、合気道と気功とは表裏一体のようなものである。
・合気道は相手が出してくる気を正面で受け止めないで逸らす。さらに相手の気が動く方向に相手を誘導する。それによって相手を投げる。相手は自分の勢いで飛んでしまうということになる。
・『合気道の達人に教えて貰ったいちばん簡単な例としては、合気道で人を倒す方法は、人が椅子に座ろうというときに、椅子をすっとどければいいというものの考え方です。それはその人の「椅子に座ろう」という意志がなければ働かないものです。「椅子に座ろう」という方向に気が動いているので、その方向を椅子で受けとめないで、椅子を外せば、転ぶわけです。それが合気道。気功は、椅子に座ろうとする人の気がいちばん欲する中心的位置に椅子を持って行って据える熟練したウェイターのような術と言えます。』
・気功は相手から出る気をなるべく体の正面で受けとめる。それでその気を自分が吸収して、自分がそれをさらに増幅して相手に気を戻す。それでお互いの気を高める。これが気功である。
●私の不思議
・藤平光一先生は『気の確立』という本の中で、次のようなことを書かれている。合気道の師範になった頃、柔道の稽古でリラックスしていたら簡単に倒された。そこで、力を抜いて、なおかつ気を出すのが一番正しいことに気がついたとのことである。力を抜かなければ気は通らない。しかし、その上で意識的に気を通さなければならない。これが気の基本であり、真理である。
感想
岡崎先生がマスターされた「小周天」を是非とも身につけたいと思いました。また、「気功ができるようになったという証拠は、丹田が熱くなることである。」というご指摘も大変貴重なものです。
さらに、「スプーン曲げ」のお話も大変印象に残りました。
「丹田が熱くなること」と「スプーン曲げ」ができるようになることが、気功の第一歩ということかもしれません。
第二章 気の力
・『対話はいよいよ佳境にはいってくる。というよりは、いきなり本番という感じで、この章では「気」と「気功」治療の思想と実践の核心部分がすべて明らかにされるのだ。
望月さんが実際に治療したガン患者さんの例などは、ひとつのケースにすぎない。もっと大事なことは、「気」を扱う人がどういう姿勢で生きているかということだ。
私は作家シャーマン説を言い続けてきた。書き手はひとつのヨリシロにすぎない、という望月さんもご自分を一本のパイプにたとえている。なによりも大事なことは、すべてのことに対して謙虚であるということだろう。私は謙虚とはおよそ縁のない無作法者だが、謙虚であることの大切さだけはわかっている。
ここで紹介されている奇蹟のような治療例も、私にとっては格別びっくりすることではない。世の中にはありえないことなど、なに一つないのである。
私は「気」がなにか特別なパワーを発するとは思っていない。望月さんと長時間語りあった後でもそうである。親鸞のいう「自然法爾」とは、「おのずからしからしむ世界」ということだ。「おのずからしからしむる」力に、ほんのちょっとの方向性をあたえることが、「気功」の仕事かもしれないと考えている。
大事なことは、「気」を超能力のように簡単に思いこんでしまわないことだ。役立つ人には役立つ。縁なき人には意味がない。そのくらいに考えたほうがいいのではあるまいか。』(五木)
●気は宇宙の無限のエネルギー
・(「気」とは何だとお考えですか?)『私が感じることは、臓器と臓器、また肉体と心をつなぐ情報系のエネルギーのようなもので、光ファイバーのように、体内には、そのエネルギーを流すシステムができているんじゃないかということなんです。』(望月)
・『情報系のエネルギーですか。日本のホリスティック医学界のリーダー的存在の帯津良一さんは、外科医として、長年、手術の場に立ち合い、ひとつの疑問に駆られたそうです。
人間の体を開いてみると、臓器と臓器のあいだに、隙間がある。この隙間とは何かと考えていった末に、ひとつの結論に達したというのです。この隙間にこそ、生命エネルギーがひそみ、それが臓器と臓器をつないでいるのではないか、と。』(五木)
・『帯津先生は、中医学や漢方薬を研究された経験から、この隙間に、気があるのではないかと考えて、「気場」と呼んでおられるんですね』(五木)
・道教では、カオスの「ゲン」といものの中から生まれてくる気が「元気」で、元気は一切の「元(モト)」であるという考え方をする。元気は「源気」と書いてもいいし、「原気」でもよい。その源の気が集散して、宇宙が生まれ、太陽も生まれる。人も動物も生まれると考えるわけである。(五木)
・貝原益軒の「養生訓」には「人の元気は、もと是、天地の万物を生ずる気なり。是、人身の根本なり」とある。
●気功家シャーマン説
・道教では、気が散じて生命が尽き、人間もいのちが終わる。そのとき、散じた気はどこにいくのか。元気、あるいは源気にもどる。その循環のなかに生命というものがあると考える。(五木)
・『病気というのは、読んで字のとおり、気の滞りのことなんでしょう。生命の活発な循環が滞っている状態を指し、気が涸れた状態、ケガレの状態が、死を意味するんですね。道教からみると、気というのは、長い歴史をもった非常におもしろい思想です。』(五木)
・気を送って治療するというのは、不協和音になったり、滞っている気を宇宙の無限のエネルギーで、きれいに流れるようにするということではないかと思う。
・『そのうち、私はただ宇宙のエネルギーのパイプの役目をしているのだと考えるようになりました。自分が治すという考え方じゃなくて、なにか大きな宇宙のエネルギーが私の体をとおして、相手にいくと。私は、一本のパイプにすぎないと。そして、それが相手に伝われば、相手のもっている自然治癒力が高まって、細胞が活性化して治っていくから、あとはその人にまかせればいいんだと、そう考えるようになったんです。そうしたら、ストレスは消えましたね。』
●気功治療が効く人、効かない人
・『気功治療が効くかどうかに関して、これまでの経験から、五つのタイプに分類しているんです。一つは、もともと気の通りがよくて、心がオープンな人。こういう人はすごく効きます。二番目は身体的に気の通りが良いが、心は閉じている人。こういう人は、気を信じていなくても、唯物論者[観念や精神、心などの根底的なものは物質であると考え、それを重視する哲学的な立場]でも効きます。三番目は、もともと気の通りが悪い体ではあっても、心が自由でオープンな人。こういう人はすぐに効果が出なくても、二回三回と治療を重ねていくうちに、徐々に気の通りがよくなって、治っていきます。』(望月)
『気功が効かない人というのは?』(五木)
『四番目の、もともと気の通りが悪くて、しかも、心が閉じている人。こういう人はほとんどなんの反応もありません。』(望月)
『そういう人に気を送っていると、どんな感じになるんですか?』(五木)
『こちらから送った気が、首とか肩のあたりでブロックされて、なかにはいっていかないのがわかります。壁に行く手をはばまれた気は、元にもどって、私のところに帰ってきますから。』(望月)
『そういう人は、気なんか絶対にないと思いこんでいるんでしょうか。』(五木)
『そうですね。だけどふしぎなのは、五番目のケースです。どうして治ったのか、わからない。本人も私もお医者さんも、首をかしげる場合がときどきあります。人知をこえた、なにか大いなる力が働いているんじゃないかと思うことがあります。この第五のケースに関しては、二とおりあります。物理的、医学的にみて、ほとんど無理だと思われても奇跡的に治る場合と、もう一方では、体はよく反応し、気の流れがスムーズにいくようになっているのに、本人の気分がよくならないし、病院の検査結果も思わしくないケースです。私がこの五番目のケースを、深く考えることになったきっかけがあります。ずっと以前、ドイツのミュンヘンで、六十代半ばのドイツ人の女性を治療してあげたことがあります。その女性は顔面麻痺で、耳のうしろの神経を手術したあと、その後遺症で歩けなくなり、それから何年も車椅子の生活になってしまいました。下半身がぜんぜん動かないのを確かめて、私の心の中で、これはちょっと無理だなと思ったんです。半年後、ふたたびミュンヘンへ行ったとき、明るい笑顔の女性が、すたすた歩いて私のところへ来ました。見ると、あの車椅子の女性でした。私は、その変わりように、本当にびっくりしました。なにか人知をこえた力が働いたとしか思えませんでした。それ以来、私は、やってみなければ、治るか治らないかは分からないと考えるようになったんです。』(望月)
『五番目の人知をこえた、サムシンググレートの存在を信じている人の場合でも、奇跡的治癒がなされるときと、そうでないときがあるというのが、興味深いですね。気功治療の場合、受け手の心構えや、素質というものが、治癒に関連していることも考えられますね。』(五木)
『そうですね。ちなみに、この奇跡的治癒が起きたドイツ人の女性が、気をどう感じたのかを述べておきます。彼女は、体が熱くなり、壁や天井がゆれて見え、それから壁が斜めになったといいます。治療のあと、一週間はぜんぜん変化なく、その後、杖で立つことができ、だんだん歩くことができたそうです。』(望月)
●自利利他の思想が根底にある
・浄土教の初期の教えに、観想念仏といって頭のなかで、阿弥陀如来の光を浴びて、満ち足りた気持ちで浄土にいることを想像する行法がある。そのように自分でイメージする。固く凝り固まった細胞の一つひとつに「気」が風のように、ザーッとなびきながら、きらきら光りながら、体のなかで喜びの歌をうたっているんだ……と思う。(五木)
第三章 気と想念
●遠隔治療は本当に効くのか
・(遠方へ気を送るとういうのはどういうことなんですか?)『電波のように相手のところに届くんですね。ここで私の気をうけようと思ってリラックスしたら、その瞬間から私の気の周波数にダイヤルを合わせたことになるんです。そうすると、私の送るエネルギーが受信できる。そんなふうに考えたら、考えやすいじゃないでしょうか。』(望月)
第六章 気と呼吸
●気の交流は信頼関係の上に成り立つ
・植芝先生は70歳を過ぎて、初めて気を出せるようになったとのことである。(五木)
・『気で相手を投げ飛ばす場合、まず相手と自分の発する気によって、気と気とが反発しあい、その結果、気の弱いほうがはじき飛ばされます。そのとき、受け手が送り手に対して、全幅の信頼をおいている場合は、二人のあいだに回路ができているので、気を感じやすくなり、気の反発が起きやすいのですね。』(望月)
・気功教室や合気道教室で、先生の送る気に対して反応する練習がある。その場合、熟練した生徒はすぐ体を動かして、反応するが初心者はうまく動かない。(望月)
・ヨガのレッスンで、みんなの気がまわりはじめたころ、生徒に気を送って、その気の巡りかたにしたがって体を動かすセッションをしている。ベテランたちは、その時その時によって気のおもむくままにまかせて、自由に体を動かして、自分で体の凝りや、気の滞りを是正する。(五木)
第九章 気の声
●上虚下実の状態をつくる
・『気功にしても、武道にしても、ほかの健康法にしても、肩の力を抜く方法を教えていますね。とくに重心のかけ方ということを、すごくうるさく言っている。臍下丹田に重心をもっていくと、つまり気を集めるとどっしりして、ふらふらしないというように。』(五木)
『肩甲骨を背骨によせて、両肩をふっと下げ、肛門を締めると、お腹に力がはいり、丹田に気が集まってきます。そのとき、自然に肩の力が抜けているんです。お腹だけしめても、だめです。肩の力を抜いて、肛門をぐっと締めると、お腹のところに充実感が出るんです。』(望月)
『充実感があるというのが、非常に大事なんですね。』(五木)
『気が上にあがると、だいたい首、肩に力がはいります。理想は、上が軽くて、下が安定している状態なんです。上が空っぽで、下が充実している。』(望月)
『上虚下実ですね。』(五木)
『それができないと、気の循環もうまくいかないし、リラックスができないというんです。しかし、それはなかなか、むずかしい。無意識にいろいろ力がはいってしまうんです。』(望月)
まとめ
1.気とは情報系のエネルギー
1)臓器と臓器、また肉体と心をつなぐ情報系のエネルギーのようなもので、体内にはエネルギーを流すシステムがあるのではないか。
2.情報系のエネルギーとは
1)気の他に情報系のエネルギーではないかと思われるもの。
・「愛」、「憎しみ」、「気合」、「勇気」、「敬意」、「敵意」、「圧力」などは、目には目見えないが感じとることができる。
・「気」は感じる世界であり、「愛」の上に存在するものではないか。
この2つの表はAI(PerplexityPro)が作成したものですが、左は「愛情に関係する生理活性物質」で、右は「気によって影響を受ける生理活性物質」です。「気」が何かということが明確になっているわけではありませんが、少なくともAIの回答によれば、この2つの表には「幸せホルモン」ともよばれている、オキシトシン、セロトニン、ドーパミンが含まれています。「気」は幸せな気持ちにするものだと考えられます。患者さんと患者さんの抱えている症状や問題点を理解しようとする行為は、「愛」の中に含まれるものだと思います。
3.気は流れるもの
1)気の滞りは冷えにつながる。気は心も体も温かくする。
4.気が効く人とは
1)深い意識のところで、オープンな寛容な人、素直な人の方が気はよく流れる。
2)半信半疑や絶対に効かないと思ってきた人でも、本人の気の「通り」が良い場合は劇的に効くこともある。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
「気の「通り」が良い場合」ということが気になって調べてみました。この表は性格・行動・心理の3つから分類されていますが、これを拝見すると、「リラックス」した状態だと思います。患者さまと施術者の関係性を考えると、このような状態になるためには、信頼関係が極めて重要だと思います。
5.元気(原気)
1)貝原益軒の「養生訓」には「人の元気は、もと是、天地の万物を生ずる気なり。是、人身の根本なり」とあります。また、道教では「元気は「源気」と書いてもいいし、「原気」でもよい。その源の気が集散して、宇宙が生まれ、太陽も生まれる。」とあります。つまり、気とは体内にとどまらず体外の世界に存在するものです。
感想
『「私は、「愛」のない「気」の追求や「気功」など、なんの意味もないと思っている。』という五木先生のお話はとても印象的でした。良い施術をするには患者さまとその症状を知り、そして施術師としてだけでなく、施術そのものについても信頼して頂くことが重要です。これは気の第一段階、もしくは気のウォーミングアップのようなものかもしれません。
一方、気は流れるものなので、気の滞りがあればそこが問題の箇所です。気は気血と呼ばれることも多く、その働きは血を推動するとされています。つまり、気の滞りは血の滞りを意味し、血が滞れば冷えが生まれます。
冷えは硬さにつながります。触診に相当するものを切診といいますが、丁寧な切診によって、冷えや硬結といった気の変動を把握することが、気の第二段階といえそうです。
気が何であるかは相変わらず分かっていませんが、気の実体がつかめれば確かな施術、より効果的な施術につながることは間違ないと思います。
前回は「合気道」でしたが、今回は「気功」です。気功は「気」を知るうえで、非常に重要ではないかと思っています。
もっぱら外で遊んでいた子供時代、その後もサッカー中心の日常生活であいかわらず読書とは無縁でしたが、五木寛之先生の「青春の門」はなぜか読んでいました。
その五木先生と気功師の先生の対談というこの本の内容に興味をもったというのがいきさつです。
目次
見えない世界への旅のはじめに
第一章 気の存在
●気を実感するとき
●西欧人が気功治療を警戒するわけ
●率直な心が気をキャッチする
●初めての「気」はトーストの匂いだった
●気を送るということ
●受け手の反応は十人十色
第二章 気の力
●気は宇宙の無限のエネルギー
●気功家シャーマン説
●奇跡的な治癒を体験する
●気功治療が効く人、効かない人
●自利利他の思想が根底にある
第三章 気と想念
●遠隔治療は本当に効くのか
●多く祈られた人は早く回復する?
●比叡山千日回峰行者の生命力
●行は一心の祈りに支えられている
●不可能を可能にしたイメージの力
●すべての存在をつなぐ気の力
第四章 気と治療
●生きとし生けるものすべてに流れる気
●「いやしろち」と「きがれち」
●東洋医学は生きた人間を観察してきた
●先天の気と後天の気
●気にはキャラクターがある
第五章 気の思想
●東洋人と西洋人の精神と肉体の違い
●西洋人は気にどう反応したか
●日本人はあがると血圧が下がる
●軍隊教育が歩き方を変えた
●日本人の歩き方は縄文のむかしから
●気に目覚めはじめた西洋人
第六章 気と呼吸
●気はエントロピー増大の法則にさからえるのか
●気の交流は信頼関係の上に成り立つ
●呼吸のつなぎ目に置く呼吸法
●お経が長寿の原点
●宇宙の無限のエネルギーを補給する
第七章 気とヨガ
●ヨガの究極の目的は宇宙との一体感
●居職の人たちが健康なわけ
●ヨガの効果は体の固い人に顕著に現れる
●無数の想念と雑念を一つに集中させる
●強くて固いものは折れやすい
●しなやかな心と、しなやかな体を取り戻そう
第八章 気といのち
●何の施術にしないうちに治ってしまったインド人
●小食のすすめ
●人間はどこから来て、どこに兼ねるのか
●人間は天に還るときを知っている
第九章 気の声
●力を抜いてリラックスすることの大切さ
●上虚下実の状態をつくる
●砂漠体験が瞑想に導く
●直感の声に耳をかたむける
●内なる声は人間の原始の力
●一人ひとりみなちがう
あとがきにかえて
見えない世界への旅のはじめに
・『「気」というものの存在について、私はあまり真剣に考えたことがない。いまでもそうである。
しかし、見えないから「気」は存在しないなどと考えたことは一度もなかった。また、科学的に証明されないから「気」はありえないと考えたこともない。
むしろ実験によってその存在が確認されるような「気」なら、それほど興味もおぼえなかっただろうと思う。「気」は見えないから面白いのである。科学的に計測された程度の「気」は、手にとって遊べるオモチャのようなものだ。
家族愛にせよ男女の愛にせよ、「愛」というものも、また、目に見えない世界である。しかし私は「愛」というものが偉大な力を発揮する場合があることを疑わない。もし「愛」の度数や質量を計測することができるとしたら、そんな「愛」に関心はない。「愛」や「憎しみ」は目に見えないが、それをまざまざと感じとることができる。その作用を予想することもできる。私はその存在を信じている。「信」ということもそうだ。信仰の度合いを数字であらわすことはできない。しかし、信仰のために命を賭けた人びとが数多くいることを、私たちは知っている。
私の父は師範学校の教師だったが、また剣道の有段者でもあった。そんな父親のおかげで、私は小学校に入る前から木刀や竹刀をもたされて稽古をつけられた。剣道では「気合い」を重んじる。「気合い」は見えないが、それが存在することは、一度でも試合をしたことのある人間には、はっきりわかるだろう。
「勇気」や「敬意」、そして「敵意」や「圧力」もそうだ。表情や動作にあらわれる場合もあり、反対に隠されている場合もある。しかし私たちは、あきらかにそれを感じて反応する。
知らない街で、はじめての酒場に一歩はいったとき、一瞬、ピリピリするような警戒心や、好奇の目を肌で感じることがある。店内にそのような「気」が電磁波のように流れているのだ。
とはいうものの、「気」や「気功」といったものに対して、世間はながいあいだ怪しげなものを見るような目で対してきた。いまもそうだろう。
社会革命への夢が遠ざかったあと、人びとの夢は人間内部の探求へとむかった。身体革命の夢のなかから、「気」や霊的な世界への関心がたかまっていったように見える。
さらに近代の科学的思考への反省から、「モノ」と「ココロ」のむすびつきが見直されはじめた。そんな時代の風潮のなかで、「気」や「宗教」がにわかにクローズアップされてきたのである。とはいえ、そこにはある一線が引かれていることもまちがいない。
その線のむこうに何かが見えていながら、私たちはなかなか一歩をふみだすことができないでいた。その線をこえた場合には、「向こうの人」あつかいされてしまいかねないからである。
私は「気」を神秘的なものとは考えていない。それと同時に、科学的な立場でそれを証明してほしいとも思わない。
中国では国家的なプロジェクトとして、「気」の科学的解明と応用にとり組んでいるという。なにごとも徹底的にやりとげようとする国だから、いずれ目に見える成果もしめされるはずだ。
しかし、私は「気」は、あくまで感じる世界であると思っている。「愛」の数値を証明されたところで、それにはなんの関心もないのと同じことだ。
「愛」などという甘ったるい言葉を使うのはやめてくれ、と、いう声がきこえるような気がする。しかし私は、「愛」のない「気」の追求や「気功」など、なんの意味もないと思っている。
望月勇さんは、すこぶる寡黙な気功家である。氏の「青年と砂漠」という著書にみじかい文章をよせたことがきっかけで、雑誌の対談をしたり、「気」について語りあうようになった。ぽつりぽつりとこぼれる氏の言葉を拾いあつめて一冊の本ができたことを、奇蹟のように感じている。
望月さんと私とは「気」に対する立場も、考えかたもちがう点が少なくないが、感じることを大切にする姿勢には変わりはない。この一冊から見えない「気」の流れの存在を感じとっていただければ幸いである。』
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
「愛」を「愛情に関係する生理活性物質」として捉えることは、あまり良い方法ではないかもしれませんが、とりあえず調べてみました。
オキシトシン、ドーパミン、セロトニンは特に有名です。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
こちらの表は、愛情が脳波に与える影響です。
注目は①脳波の同期、②ドーパミン神経が活性化、③オキシトシン、ドーパミン、セロトニンなどの分泌増加。
また、脳波の同期はヒトだけでなく犬でも同様だということです。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
こちらの表は、気によって影響を受ける生理活性物質です。ここにも、オキシトシン、セロトニン、ドーパミンが出ています。
注)として以下のことが書かれています。『「気」と生理活性物質の直接的な関係については、科学的に完全に解明されているわけではありません。』
気は科学的に解明されてはいませんが、AIはそれを踏まえた上で回答を出しました。
「愛情」と「気」の共通点には同調があり、オキシトシン、セロトニン、ドーパミンの幸せホルモンもこの両者に関係しているということです。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
「手当」には治療という意味がありますが、文字通り「手を当てる」という意味もあると思います。そこで、これに関しAIに聞いてみると、自然治癒力だけでなく、癒しの効果や心理的サポートなど「手当」という行為は思った以上に意味あるものだと思いました。
五木先生がおっしゃった「私は、「愛」のない「気」の追求や「気功」など、なんの意味もないと思っている。」というご意見はまさに的を得たものであったことが分かりました。
良い施術をするためには、患者さまのことや症状などを知る必要があります。考えてみれば、そのような施術者の行為は「愛」の一種といえるのかもしれません。また、このような患者さまとのやり取りが「気を合わす」ということの第一歩のように思います。
第一章 気の存在
・望月さんはロンドンで気功治療の仕事をされている。
・『私は「気」について素人である。しかし七十年以上生きてきた実績があるので、「生きる」という点ではいささかキャリアがあると思っている。そんな私が、いつのまにか引きこまれて、望月さんのペースに乗せられてしまったのは、これも一つの同調現象だろう。
良い「気」を発散する人と同じ部屋にいるだけで、良い影響をうけるらしい。話がすすむにつれ、次第に気持ちと体のこだわりがほどけていくような実感があった。』(五木)
●気を実感するとき
・いろいろと考える人間より、犬とか猫の方が気功治療は良く効く。(望月)
・ヨーロッパには「気」はないので、中国語の「CHI」とか、サンスクリットの「プラーナ」という言葉を使って説明している。(望月)
●西欧人が気功治療を警戒するわけ
・「気」を信じるヨーロッパの人は、人間のなかに生命エネルギーのようなものがあるのではないかと考えているようである、(望月)
●率直な心が気をキャッチする
・半信半疑や絶対に効かないと思ってきた人でも、本人の気の「通り」が良い場合は劇的に効くこともある。また、深い意識のところで、オープンな寛容な人、素直な人の方が気はよく流れる。(望月)
●初めての「気」はトーストの匂いだった
・最初、少林寺拳法をやっていた。なかでも、整法、体を整えることに興味を持ち、経絡や急所、ツボを勉強した。その後、中国の呼吸法や、インドのヨガに興味をもつようになり、自己流でやるようになった。(望月)
・「気」を認識したのは、ヨガのポーズで体を捻じっていたら、背骨のあたりからパンを焼いたような香ばしい匂いがした。そのうち、ヨガのポーズをすると毎回のように匂いを感じた。さらにトーストの匂いだけでなく、マーマレードやバラのような甘い香りがしてきたり、足の下がむずむずしてきた。もしかしたら、これは「気」なのかもしれないと思った。(望月)
・『整法で肘の痛い人を治していたとき、私が患部に触れる前に、手を近づけていっただけで、痛みが消えましたと言われたことがあるんです。私はまだ何もしていないのに、ふしぎだなあと思っていたんですが。そのとき、テクニック以外の何かプラスアルファの力が働いているなということは、なんとなく感じたんですね。』(望月)
※ヨガの整法:体の歪みを整え、心身のバランスを改善するための様々なポーズや呼吸法を組み合わせた実践。
●気を送るということ
・『ヨガや呼吸法を熱心にやるようになって、いろいろふしぎな感覚を覚えるようになってきたんです。ああ、これが「気」じゃないかと意識すると、気がどんどん集まってくるんです。』(望月)
・『手のひらの中心が、もわっと温かくなるんですね。空気の真綿みたいな感じがするんです。それを相手の気の流れの悪いところに近づけるんです。たいてい、そこは冷たく感じるので、その部分に気を送ってあげるんです。』(望月)
・(「気を送る」とはどういう作業か?)『最初は、意識を集中させて、自分の「気」が相手に流れているものと思ってやっていたんです。けれども、どんどんやっていくうちに、とくべつそう思わなくても、自然に気が出るようになったんです。』(望月)
・(気を送りながら、相手と話をしたりできるのか?)『ええ、でも最初のころはだめでした。集中しなければならないと思っているから、音楽がかかったり、おもてがざわざわすると、うるさくて、イライラしました。それがだんだん変わってきまして、外のいろいろな状況に左右されることなく、気を送れるようになったんです。ちょうど虫歯の痛みを感じながら話したり、勉強したりするのとおなじようなことです。』
・気を送ると相手の体のなかでエネルギーが不足しているところ(気が滞っているところ)に気は集まっていく。また、古い痛みとか、慢性の疾患の場合、エネルギーがよどんで岩のように凝り固まっているため、それを気で散らすと、最初はスーッと冷たい感じがする。(望月)
・『こんなことしても治りっこないと頭から決めつけている人は、無意識に、気がはいってくることをブロックしているので撥ねかえされます。』(望月)
・受け手が気に全幅の信頼をおいていなくても、ニュートラルな気持ち、何かわからないけれど、ともかく受けてみようと素直な気持ちをもっていればあまり問題はない。(望月)
・(気がスムーズに流れているときはどんな感じか?)『いろいろな感覚があって、その部分が反応している場合もあるし、その人の気が足のほうにズッと流れていく感じをキャッチすることもあります。全部ちがいます。十人いたら十人とも反応はちがうので、一概にこうだとはいえないですね。』(望月)
●受け手の反応は十人十色
・(経験されたなかで、どんな反応が多いか?)『人それぞれちがうので、一概にはいえませんが、極端なケースだと、気を入れた途端に手足をバタバタさせて、大暴れしはじめた人がいるんです。女性でしたけれど。』(望月)
・『泣いたり、笑ったりすることで、緊張がゆるみ、古く澱(オリ)のように固まっていたストレスが発散されたのでしょうね。笑うことは、免疫機能を活性化させ、自然治癒力を高めるといわれていますが、私はかねがね、笑うことだけではなく、泣くとことも非常に大切なのだ、泣くことによって、カサカサに乾いてささくれ立った心と体に潤いが与えられ、瑞々しい生命を取り戻せるのだと考えているのですが、気功治療でも、そういう考えなんですね。』(五木)
『ええ、そのとおりです。ロンドンで十五年くらい銀行に勤めている女性がいました。背中が鉛のように重くて、いろいろな薬を飲んでも効かない。マッサージや鍼をしてもだめで私のところに来たんです。その人に気を入れたら、突然、涙をポロポロこぼしはじめたんです。ティッシュペーパーをいっぱい使って、治療中ずっと涙を流して泣いているんです。本人は、勝手に涙が出てくるといっていたので、泣いているという自覚がなかったんでしょう。終わったらまるで痛みがないといっていたので、泣いているという自覚がなかったでしょう。終わったらまるで痛みがないというんですね。』(望月)
『その人は、長年にわたって、鬱々としたものを心に溜めていたんだろうなあ。』(五木)
『ええ、人間関係が複雑で、言いたいことも言わずに、ずっと我慢してきたんだって話していました。』(望月)
・気を入れると、予測のできないような反応が起こる。十人いたら十人とも反応の仕方が違う。一概に、気功だから治る、気の巡りが良くなるとは言わない方がよい。(望月)
『氣の確立』という本は、合気道について書かれたものでした。著書の藤平先生が目指した合気道は「氣」を重視するもので、植芝盛平先生が他界された後、自分の信念にしたがい合氣会を退会して、「心身統一合氣会」を設立されました。今回の「氣」は合気道の先生が考える「氣」になります。
目次
プロローグ
●三人の師
●中村天風先生
第一章 一九会
●肋膜を病む
●一九会を知る
●坐禅修行
●不眠不休の坐禅修行
●みそぎの行法
●禅病になる
●肋膜が完治
●当時の一九会
●土蔵をけ破る
●効果はできめん?
●電車での稽古―リラックスの会得
第二章 植芝盛平―合氣との出会い
●真の日本武道を求めて
●合氣道に入門
●当時の一日
●リラックスこそ基本
●リラックスと氣
●植芝先生のリラックス会得の秘密
●大本教の影響
●植芝先生の宗教的な思い込み
●氣の天才・植芝盛平
●氣を前に向けていたら、後ろもわかるよ
●やくざのトラブルをおさめる
●植芝先生の茶目っ氣
●翻訳できない言葉
●わしも共産党員だよ
第三章 戦争体験
●敵襲のなかで
●修行の意味
●天地の理にしたがうこと
●剣術と氣
●銃剣術と氣
●戻る剣の原理
第四章 中村天風
●天風先生との出会い
●合氣道での変化
●天風先生の生涯
●失意のどん底の旅
●実夫と天風先生
●栃木での講演会
●わしのところへこい
●鶏を止める
●鶏は止めやすい?
●杖を持つ
●先生は間違っています
●三つの試験
●天風先生の魅力
●天風先生の死
●潜在意識を変える
●煙草をやめる
●願望の実現
●喜びを分け与える
●不景氣を転換する
第五章 海外時代の合氣道との別離
●合氣道・アメリカへ
●合氣道の力を知らしめる
●植芝先生を招く
●二人の師
●無邪氣な心
●合氣道への憂慮
●戦後の合氣道のエピソード
●合氣会を離脱
第六章 氣の研究会
●心身統一の四大原則
●臍下の一点に心をしずめ統一する
●全身の力を完全に抜く
●身体の総ての部分の重みをその最下部におく
●氣を出す
●氣の呼吸法
●失われた心
●天風先生の不遇時代
●合氣道と男女平等
●武家道の心
●パイロットと氣の修業
著者略歴
プロローグ
●三人の師
・『私には三人の師がいた。一人は、山岡鉄舟のことを教えてくださった小倉鉄樹先生。もう一人は、合氣道を教えてくださった植芝盛平先生。そして最後に、心と身体の関係を教えてくださった中村天風先生である。
本書では、この三人の師のうち、植芝先生と中村先生について、実際に私が体験したことを中心に書き記してある。
今日、合氣道の開祖として知られる植芝先生は、「リラックスする」ということを身体で実行された人だった。私は、それだけで先生は十分に後世に残るだけの価値と意義があると思っている。
ところが一般に流布されているのは、五百メートルもの距離を一瞬にして駆けただとか、大木を引き抜いたとか、壁を生身で突き抜けたとか、そうしたいいかげんな武勇伝ばかりだ。
私が知る限りでは、こうした話はほとんどでたらめである。
困るのは、こうしたでたらめが幅をきかし、虚偽の人物像ばかりが一人歩きすることによって、植芝先生が実際にやられた偉大な功績まで、すべて嘘だということになりかねないことだ。
にもかかわらずそうした噂が尽きないのは、先生を利用し、我が身を大きく見せようという者たちの思惑があるからなのだろう。
亡くなった先生の功績にあれこれとつけ加える(こういうのを蛇足をつけると言う)のは、先生にとってもマイナスにしかならない。蛇足などつけなくても、植芝先生はそれだけで十分に尊敬すべき人だったのだから。
植芝先生はリラックスするということを体得している人だった。口頭での説明は受けなかったし、手取り足取り教えてもらったわけでもないが、先生の技を見ることによって、私がそれを会得できたことは何よりの証拠である。
私が今日指導しているリラックスは、植芝先生に習ったことが根となっている。植芝先生がいなければ、私は今でも、あいかわらず力を入れ、力んだ技しか使えなかったかもしれない。
植芝先生は、リラックスするのが正しいのだということを実践している人だった。そういう先生に出会えたことは、私にとって何よりの喜びでもある。』
●中村天風先生
・『中村天風先生にしても同様だ。天風先生の教えの基本は「心が身体を動かす」という一点のみある。逆に言うと、そこに気づけば十分なのだ。ただし、これは言葉から受けるイメージほど簡単なことではない。実践すればするほど、深い意味が込められていることがわかってくる。
そして、このような真理―単純でありながら、それまで誰も口にしていなかった事実―を広く一般に提示してくれただけで、天風先生は十分、後世に残るだけの仕事をやってのけたということになる。』
第一章 一九会
●一九会を知る
・「おれの師匠を語る」という本は、小倉鉄樹先生が自分の師匠である山岡鉄舟について講演したものを、石津寛という有名な方が本にしたもので、簡単に言えば、山岡鉄舟の一代記である。幕末から明治を生き抜いた剣豪・山岡鉄舟の生き方に感銘を受けた。欲もなく、何事にも捨て身でぶつかる姿勢が魅力的だった。なかでも一番感心したのは、自分で納得しなければ承知せず、とことん自分で体験するということだった。
・すでに山岡鉄舟の春風館道場は存在していなかった。しかしながら、本の最後に、中野にある小倉先生の一九会道場が記されていた。
●不眠不休の坐禅修行
・最初の半年間はひたすら坐禅をやった。
・不眠不休、昼夜を徹して三日間、坐禅をする。夜六時から坐り始めて七時から八時までは老師の講和を聞く。そのあとは、ひたすら坐禅を組んで過ごす。やがて半年もすると肋膜から弱った体は対応できるようになっていた。
●みそぎの行法
・一九会のみそぎの行法は、毎週木曜の夜、六時から三日間に渡って行われる。初学者は財布、靴などの持ち物を預ける。これは夜中に逃亡を防ぐためである。それでも、トイレの草履をはいて逃げた者もいる。
・小倉先生の神前での宣言は、「この修行は、生死脱得の修行なれば、喪身失命を避けず、一声一声、正に吐血の思いをなして喝破すべし。徒に左顧右眄、嬌声を弄して、他の清洲の修行をさまたぐる勿かれ」
・みそぎ行の開始、長が鈴を大きく振り下ろすと、神楽がこれに合わせる。そして全員が一声に「と、ほ、か、み、え、た、め」と唱える。時間は1時間から1時間半、弱ってきた者は背中をぴしーっと叩かれる。朝5時半頃から始まって、朝食後の午前中に3回、午後3回、夜1回、一日8回繰り返す。すさまじい修行である。
●禅病になる
・二回目からは初学ではなく集いの方に入る。この集いでの修行は初学より厳しい。
●肋膜が完治
・『退院してからは、西洋医学の治療はいっさい受けていなかった。治療といえば湿布だけで、それ以外何もやらない。慶応に復学したときはほとんど半病人の状態だった。やっとのことで学校に通える。そんな感じだったのだ。
ところが修行が始まって、命懸けになって、もうどうでもいいやと決めたら、逆に身体がよくなってしまった。肋膜炎は消え、心臓もたくましいと言われる。それからは体力に自信を持つことができるようになった。
当時はまだ理解できなかったが、今から思うと、私の病氣を治してくれたのはまさしく天気の氣にほかならなかった。医師は不思議だと首をひねるだけだったが、私にしてみれば、自分が死ぬ覚悟をして捨て身でやれば、必ずなんとかなるのだという自信を持つことにつながった。そう、山岡鉄舟が言うところの「捨て身の修行」を、みそぎの行によって会得したのである。
これは氣にだけでなく、何事にも共通することだが、どんなことであれ、とにかく自分で体得しなければ決して物にならない。頭でっかちになって、いくら理屈を並べてみたところで、それは何の役にも立ちはしないのだ。
体ごとぶつかって、会得する―そして初めて自分のものになる。食べ物や飲み物にしても、自分の舌で実際に味わってみなければ、味はおろか冷たいのか熱いのかさえわからないだろう。それは坐禅では「冷暖自知」と言う。』
●電車での稽古―リラックスの会得
・最初にリラックスを意識したのは、一九会でのことだった。みそぎ修行で疲れ果て、そのまま合氣道の道場に行けば、身体も思うようには動かない。ところが不思議なもので、その状態の方が、なぜか相手の技にかからなくなる。これは簡単な理屈で、それまで力を入れて相手の技に逆らっていたのが、疲れて力が入らない。つまり、力が抜けた状態の方が強いということである。力を抜くこととはリラックスに他ならない。
第二章 植芝盛平―合氣との出会い
●合氣道に入門
・『「そうか、あなた、毛利松平さんの紹介か。じゃあ、一ぺん見せてやろう」
先生[植芝盛平先生]はそういうと、道場へきなさいと私を誘った。そこでお弟子さんを相手にして、演武を見せてくださったのだ。
ところが当時の私には、お弟子さんがひょこひょこと軽く投げられているのを見ると、どうしても八百長にしか思えなかった。おかしいなとわざとらしく首をひねっていると、氣配を察せられたのか、あんたもきなさいと言われた。
「いえ、でも、道衣を持っていませんから」
「いや、上着を脱いでそのままでいい」
相手は小柄な老人だ。仕方がない、柔道の技でつかまえて、すぐに投げてしまおうと思った。ところが、先生につかまれた瞬間、わけもわからないうちに私は簡単に投げられてしまったのだ。
当時、柔道二段だった私は、それなりに自信もあった。ところが、すーっとあまりにも簡単に寝かせられてしまう。体をさわられた感触さえないのである。
もし、どこかをさわられたりつかまれたりしたのなら、次からそこを警戒するという防御策もあるのだが、いくら考えてもわけがわからない。倒されたまま少し考えていると、どうしたと言われた。
「いや、どうもしません。失礼しました」
起き上がると、その場で私は植芝先生に入門を願い出たのである。』
●リラックスこそ基本
・植芝先生の技で肝心なことは、現代でいうリラックスだったが、先生は「リラックスしなさい」とは教えず、稽古では力を入れて、しっかり持てと逆のことを教えていた。にもかかわらず、リラックスの重要性に気づいたのは、みそぎの修行をやっていたことが大きい。三日間朝から晩まで厳しい修行をしていて、力んでいてはとても体力がもたない。力を抜くことで苦しい修行を続けることができる。これはみそぎの修行で疲労して体だからこそ、自然体を身につけたということである。まさに怪我の功名である。
●リラックスと氣
・合氣道で学んだリラックスは柔道では通じなかった。そこで気づいたことは、力を抜いて、なおかつ氣を出すことである。これは、力を抜き、重みを下に置いて自然体であることである。
・リラックスするということは、人間の総合力を引き出すことである。
第四章 中村天風
●合氣道での変化
・『当時の道場の稽古は、くるりと回って相手がぽんと受け取る。つまり、こう行くから、相手はこう受ける、という反復練習が中心だった。
これも実際に自分でやってみると、相手はそう簡単には転がってくれない。逆の場合、何もしていないのに、受け身をとっている。受けるほうも転がるものだと思っているからだ。
こうなると、合氣道は本物ではないのではないかということになる。もちろん、ある程度まで効く技もあるが、誰もが氣の力で投げているわけではないという現実もある。
心が身体を動かすということに気づいてから、私はもう一度植芝先生の動きをじっくりと観察してみた。すると先生は、必ず最初に心を動かしてから身体を動かしているということに気づいた。
それまでは、植芝先生がやると効くのに、私がやるとまったく効かない技がたくさんあった。このため疑心暗鬼にかられ、自分でやっていることが本当にすごいものなのかどうかさえわからなくなってくる。
しかし「心が身体を動かす」と聞いた瞬間、あっと思った。私はそんなに大切なことを忘れていたのか、と気がついたのだ。
植芝先生は相手の氣を導き、さらに身体を導いていた。その結果、技も効くということになる。それを称して「氣を合わせる」と言ったのだ。その場合、こちらも完全に力を抜いていなければ、相手の氣持ちもわからない。
完全にリラックスしなくてはいけないというのは、相手の氣を導き、動きに変えるための準備なのだ。
そのためには相手の氣を尊ばなければならない。氣を間違った方向には導けないのだから、だまして導くわけにもいかない。
逆にいえば、正しければ、いつでもできるはずということになる。天地の理に合わせれば、必ずできるはずだし、できないときは、どこか天地の理が間違っているということに気がつかなければいけない。そこに気づいてからというものの、先生の教えが全部わかってきた。』
第五章 海外時代の合氣道との別離
●二人の師
・『何度も書くようだが、植芝先生は、リラックスしろなどとは一言も言わなかった。ましてや私の言う心身統一の四大原則(後述)のようなことはまったく見向きもしない。だから私は私なりのやり方で氣について説明し、合氣道の指導を行っていた。ところが植芝先生は、ハワイへいらっしゃったとき、私が指導したハワイの弟子たちがみんなリラックスできる状態になっていることを見て驚かれた。
「私が苦心して覚えたことを、藤平のやつがみんな教えて歩く」そう言って怒ったというのである。』
●合氣道への憂慮
・『今の合氣道では、理にかなっていない技を教えることが多い。それは氣というものを軽視しているからだ。単なる肉体運動としてだけの浅薄なスポーツとしての意味しか持たなくなっている。
腕を取ること一つをとってみても、氣の流れを意識していない。氣ではなく力や関節を逆に取った痛みのみで相手をねじ伏せたのでは、合氣道ではなくなってしまう。それはつまり、力の強い相手には合氣道の技が効かないということさえ意味する。効かないから、説明などできないし、教えることもできなくなる。
たとえば相手が私の腕を取りにきたなら、少なくとも相手の手にはある一定の方向に氣が流れている。それに対して押し返したのでは、氣の流れがぶつかり合うことにしかならない。だが、相手の氣の流れに合わせた方向へそのまま私の氣を流せば、相手はそのままひっくり返ってしまうのである。
つまり、よく「小手返し」と言われるように、手首を返すとかいう自体がおかしいのだ。無理に相手の小手を返そうとするから、強い相手には効かないのだ。そんなことをする暇があったなら、まず相手の氣を導き、その方向を変える稽古をすればいいのである。そうすれば力はいらないし、相手が力めば力むほど技の効果も倍増する。』
●合氣会を離脱
・植芝先生は1969年4月に他界され二代目道主は合氣道とは「人の氣に合わせるの道」と解釈されていた。一方、藤平先生は「心身統一して天地と一体になる。すなわち天地の氣に合する道」と説いていた。異なった二つの理念が共存することはできず、1974年に藤平先生は退会され、氣のみを研究する「氣の研究会」を法人化し、「心身統一合氣道会」を設立した。
第六章 氣の研究会
●心身統一の四大原則
・気の研究会では、心身統一の四大原則というものがすべての基本になっている。これらを同時にやるのではなく、どれでも良いので一つをやる。
一、臍下の一点に心をしずめ統一する
二、全身の力を完全に抜く
三、身体の総ての部分の重みをその最下部におく
四、氣を出す
・心身統一の四大原則とは、氣の研究会誕生によって新たに創設したものではなく、生涯を通じた合氣道の解釈そのものである。
●臍下の一点に心をしずめ統一する
・臍下の一点とは、臍の下10cmほどの位置なる。ここを天地の中心と考える。
●全身の力を完全に抜く
・リラックスは「力が抜けた」状態ではなく、「力を抜いた」状態である。これは全身のどこにも無駄な力が入っていない状態である。無駄な力がはいっていないからこそ、予期せぬ動きにも瞬時に対応でき、力を一点に集中することもできる。
・全身の力を完全に抜くということの大切さは、より困難な状況に陥った場合ほど発揮できる。
●身体の総ての部分の重みをその最下部におく
・地球には重力があるので、物体の重みは最下部にある。同様に人間も最下部になければならない。これを「落ち着き」という。「重みは下」と考えることである。
●氣を出す
・『世の中では、氣を出すためにありとあらゆる講座が開かれているそうである。しかし私に言わせれば、まったくご苦労なことと言うしかない。なぜなら氣を出すためには何も特別なトレーニングなど必要とせず、ただ「氣が出ている」と考えればいいからである。
心が身体を動かすということは、ここでもまさしく生きている。心で氣が出ていると思えば、すなわち氣がほとばしり出る。ただ、それが目には見えないために、気がつかないだけのことなのだ。』
・『人生をたくましく生き抜いていくためには、常に氣を出していなければならない。よく「氣が強い」「氣が弱い」などというが、氣に強いも弱いもあるはずがない。とすれば、その出し方が強いか弱いか、それだけしかない。つまり、すべては本人の心の強さにかかっているのだ。』
●氣の呼吸法
・四大原則を体現して氣を出す方法。1回10分1日30分を目標に行う。
①仙骨を起こすように意識しながら正座、もしくは椅子に坐る。肩の力を抜いて全身をリラックスさせ、臍下の一点に心をしずめる。手は静かに膝に置く。そしてまず、「はー」とゆっくり小さく息を口から吐けるだけ吐く。吐ききったと思っても、さらに足の先の息まで吐き出すつもりになって、軽く上体を前に倒して最後の息を吐き出す。あくまで、自然に静かに吐き出す。(全部吐くのに10~20秒かける)
②体中の息を吐ききったら、2、3秒待ってから鼻から息を吸う。今度は足の先から順番に腰、腹、胸と空氣をためていくようにする。やがて上体と頭を起こして頭の先まで空氣でいっぱいになるように息を吸う。(吸うのに10~20秒かける)
③そのまま2、3秒息をとめてから再び息を吐く。
ご参考:合気道の普及
感想
植芝盛平先生は合気道において、「リラックス」の重要性を伝えられました。「リラックスとは、力を抜き、重みを下に置いて自然体であること。また、人間の総合力を引き出すものである」とされています。
『植芝先生は相手の氣を導き、さらに身体を導いていた。その結果、技も効くということになる。それを称して「氣を合わせる」と言ったのだ。
その場合、こちらも完全に力を抜いていなければ、相手の氣持ちもわからない。完全にリラックスしなくてはいけないというのは、相手の氣を導き、動きに変えるための準備なのだ。』ということが極意なのかもしれません。
一方、中村天風先生は「心が身体を動かす」ということを最も大切にされていました。
そして、著者である藤平光一先生は「氣」を重視し、心身統一合氣会を設立され現在にいたっています。そこでは、以下の心身統一の四大原則というものがすべての基本になっており、このための「氣の呼吸法」の実践を勧めています。
一、臍下の一点に心をしずめ統一する
二、全身の力を完全に抜く
三、身体の総ての部分の重みをその最下部におく
四、氣を出す
“氣とは何だろう”というブログはまだまだ続きますが、最終的には「実際に試す」ということを考えていますので、藤平先生の「氣の呼吸法」もその一つとさせて頂きたいと思います。
第5章 リンパの流れが滞ると・・・?
5-3 リンパ浮腫をどう治療するか
●複合的理学療法(保存的リンパ浮腫治療法)
① 感染予防などのスキンケア
-外傷に注意して水虫などの皮膚疾患を初期に治療し、皮膚の状態を管理する。
② 用手法リンパドレナージ
-手のひらを利用した軽めのやわらかいマッサージである。軽く触れることが重要で触覚を刺激し、神経も鋭敏に反応する。流れの悪いリンパ管から正常な働きのリンパ管に向かってリンパの流れを誘導する。
-ドレナージには「排液」という意味がある。リンパドレナージは1995年に国際リンパ学会で採用された。
-リンパ管網は皮膚の浅いところに分布しているので、筋肉ではなく皮膚を全体的にずらすように刺激すると組織液の吸収がよくなる。あくまで軽くやわらかくゆっくりと、そしてリズミカルにマッサージを行う。
③圧迫療法(バンデージ)
-弾性包帯やストッキングを用いた圧迫などによって、逆流防止のみならず、静脈やリンパ管の筋ポンプ作用を活発にすることで患部の鬱血を防止する。
-注意すべきは圧迫の強度によって、痺れや痛みが出ないこと、手足の動きに支障がないこと、足先が白くなったり(動脈閉鎖)、鬱血したり(静脈閉鎖)しないように気をつける。
④圧迫したうえでの運動療法
-リンパ管は主に筋膜と皮下組織に存在するため、圧迫することで筋肉の動きがリンパ管に作用を及ぼすことができる。
第6章 リンパと免疫のふしぎな関係
6-1 リンパとリンパ球
●ヒトのからだは体表(皮膚)を介して外界と接している。そして、消化器系や呼吸器系はからだの内部ではあるが、“内なる体表”として外界と接している。そのため、いずれも常に多くの微生物や異物にさらされており、その侵入を防ぎ恒常性を維持するために、生体防御のシステムが備わっている。生体防御のしくみには非特異的な反応と特異的な反応があり、後者が「免疫」であるが、この免疫に関わっているのがリンパである。
●リンパ(リンパ液)には血液の血漿に相当する液体成分(リンパ奨)と細胞成分(主としてリンパ球)が含まれている。
●胸管やリンパ節の輸出リンパ管内のリンパは、免疫担当細胞である多数のリンパ球を含んでおり、全身をめぐって局所の臓器における免疫反応を担っている。
6-2 ミクロの戦士・リンパ球の働き
●胸腺やリンパ節、脾臓、骨髄はリンパ球を産生し、分化・成熟させる機能をもつことから中枢性(一次)リンパ器官とよばれている。一方、リンパ節や脾臓、消化器・呼吸器の粘膜に付属したリンパ組織(扁桃や虫垂、パイエル板など)は、末梢性(二次)リンパ管とよばれている。
●『抗原がどんどん増えてリンパ節の中のリンパ球などを攻撃し、「免疫戦争」が拡大すると、リンパ節内の免疫担当細胞が分裂・増殖し、リンパ節が肥大していきます。このとき、リンパ節の腫れに伴って痛みや発熱が生じる場合もあります(リンパ節炎)。風邪やのどの病気(感染症)の診断の際には、頸部の触診によってリンパ節の腫れ(ぐりぐり)が確認できます。』
※武勇伝?
『49年前の高校3年生の冬、高校サッカー選手権県予選決勝戦の翌日、とあることから救急搬送。救急車の中で「〇〇〇[近所の悪名高い病院]だけはやめてください!」との懇願も却下され、無情にもその恐ろしい病院へ連れていかれる。幸い点滴が効いて翌日には完全復活。一点残った問題は頸部リンパ節の直径2~3cmのぐりぐりとした腫れ。
「こりゃ~くるな!?」と身構えていると、「リンパ腺を取りましょー」との担当医からのかるい一言。
予想通りの展開に用意していた質問をぶつける。「切らなければならない理由を教えてください」。しかし、具体的な理由は皆無。「理由がないなら、絶対切らせない!!」と瞬時に決意を固める。
という展開で押し問答へ、そして… ついに、先生からの怒りの「勝手にしろ!!」。待ってましたとばかり、即、自主退院。徒歩約10分、自宅に帰りお金をもって病院に行き支払いを行う(多分。記憶はあやふや)。それ以降、頸部のリンパの腫れ(リンパ節炎)は一度もなく今日まで暮らしてきた。幸い、今のところこれといった持病もなし。』
という経験談を思い出し、AIに「リンパ節炎の際、リンパ節を摘出する場合はどんな場合ですか?」と質問しました。以下がその回答です。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『リンパ節炎は保存的治療で改善するため、摘出は最後の選択肢として考慮されます。』
(49年前の“高校3年生 vs 医師”との対決は自分自身の身を守る適切な行動だったと思います)
●リンパ球のほとんどは細胞質の占める割合が極めて小さく、「免疫現象」(細胞性免疫能)が研究される以前の1950年代の頃は、リンパ球は「すでに分化し終えた終末の細胞」と見なされ、機能不明の“謎の白血球”だった。1960年代に感染症などに対する複雑な免疫反応のメカニズムが調べられることになり、リンパ球は“ミクロの戦士”として「免疫反応」という劇場の主役に躍り出た。
●胸腺は未熟なリンパ球を成熟させる「免疫学校」である。胸腺の発生の早い時期に、すでに骨髄でつくられていた未分化・未熟なリンパ球が、リンパ管のない骨髄から血管に入り、循環血液に乗って一部、胸腺に入る。胸腺内では、そこにある特殊な細胞や液性因子の働きによって骨髄から来たたくさんの幼い未熟なリンパ球を“教育”し、免疫担当能力をもつリンパ球へと分化・成熟させる。
●リンパ球のもう一つの集団であるB細胞は、胸腺で成熟するT細胞とは異なり、他のリンパ組織である骨髄で成熟する。
6-3 さまざまなリンパ組織たち
●脾臓は腹腔の左上隅で横隔膜の直下にあり、腹膜に包まれた臓器である。骨髄と同様、血液をつくる造血器であり、リンパ組織として免疫機能に重要な役目を果たす。
●脾臓内には白血球が集合するリンパ組織である「白脾髄」がある。これは血液中の異物や細菌など(抗原)を取り込んで処理するとともに、生体防御のための抗体産生を行なう。
●赤みを帯びた「赤脾髄」は多量の血液を貯蔵し血液量を調節している。ヒトでは600~800mlもの血液を貯蔵できる。
●脾臓は病的や老化した赤血球を手際よく解体処理する。さらに、赤血球と結びついて酸素を運ぶヘモグロビンの鉄やタンパク質などを再利用するために貯蔵し、骨髄での造血に役立てている。
●右下腹部の激痛は“盲腸”とよばれてきたが、近年では虫垂の炎症として「虫垂炎」として理解されている。虫垂の特色はよく発達した集合リンパ組織であり、あたかも扁桃(アーモンドの形をし、粘膜上皮の下層に形成された粘膜関連リンパ組織)のようであり、“腸の扁桃”とされている。古くから退化性の有害無益な器官とみられていたが、近年ではリンパ器官としての免疫学的意義が見直されている。
6-4 リンパ流の関所
●「リンパ節」はリンパ管の走行途中にあるリンパの濾過装置である。これは関所のような存在で、ここでリンパの中の異物(タンパク質)や細菌などの抗原がせき止められ、マクロファージや樹状細胞などに取り込まれて抗原情報としてヘルパーT細胞に伝えられる。
●リンパ節はやや扁平なソラマメ状で、直径1mmから2.5cmぐらいまで、体の部位によって数も様々である。脂肪細胞に埋まって鎖のように連なり、ヒトでは平均650個、特に胃や腸など消化器周辺に約200個と多く分布している。
感想
ブログ“氣とは何だろう4(東洋医学概論編)”で、「広義の気」については、「精・気・神」の三宝が特に重要ではないかとのことを書いています。また、精・気・神の「精」は消化器系・代謝系、「気」は呼吸器系・循環器系、「神」は神経系とイメージしたいとも書きました。これはあくまで私個人の考えです。
「系」とつくものには、他に内分泌系、運動器系、泌尿器系、生殖器系などがありますが、免疫系もその一つです。すべてが重要なのは言うまでもないことですが、全身に隈なく存在し、日常的な健康維持に直結するという観点から考えると、免疫系も決して外すことのできない重要な機能です。さらに付け加えると免疫系はリンパ系を含んでいます。
東洋医学の津液は、「血液以外のすべての体液」と定義されていますが、その代表的存在として、全身に展開され血液と密接な関係のリンパ液に注目したいと思います。
1.血液とリンパ液の違い
YouTube:「リンパ系の解剖生理~リンパ循環、免疫機能、脂質輸送、リンパ管の走行など~」(15分57秒)
こちらは、“ネコかん【ネコヲの解剖生理学】”さまのサイトからお借りしました。
リンパの働き
①リンパ循環
②リンパ機能
③脂質輸送
血管とリンパ管という循環系が二系統あることによるメリットは以下になります。
リンパ循環は血管から外に出た白血球や血漿を集め静脈に戻しています。もし、これらが血管の外に出ていくことがなかったならばリンパ管は不要なのではないか。その場合、人体にどんな影響があるのか?その疑問をAIに聞いてみました。
血管外に出ていくのは白血球だけでなく血漿も出ていきます。そして、この働きによって免疫力は増強されます。「気」は「血」を推動するとされており、相互作用の強さから「気血」と呼ばれることもあります。一方、「気・血・津液」の「津液」について、第二の循環系であるリンパ液を狭義の津液とするならば、「気・血」を「気血」とするように、「気・血・津液」を「気血津液」と一体的に捉え、「気血津液は免疫と密接に関係している」と言っても良いのかもしれません。
それは以下の2つの図の血管(動・静脈)とリンパ管の密接な関係(左)および働き(右)からも想像できます。津液を限定的、そして主観的に断言することは適切ではありませんが、津液と気血の結びつきを考える一つの見方のように思います。
内臓をコントロールする自律神経は血管の太さを調整し、それにより血液の流れは変わります。リンパ管はどうなのか、この疑問も質問したところ、リンパ管も自律神経にコントロールされていることが確認できました。
日本伝統医学の一つに経絡治療があります。経絡治療では「陰陽」、「五行」、「臓腑」と共に非常に重要なものとして「気・血・津液」があります。「気血」については“氣とは何だろう”のブログの中に出てきていますが、津液(しんえき)については詳しく説明していません。なお、津液とは血液以外のすべての体液とされています。
画像出展:「第38回 人体をつくる気・血・津液とは(6)津液(しんえき)」(薬読)
一方、本書でも紹介されているように、体重に占める水分の比率は50%以上、特に新生児にいたっては75~80%が水分とされています。いかに水分が生命に関わる重要な物質であるか分かります。
水の分子式はH₂Oです。Hは水素、Oは酸素です。人体内にある元素の量は1位が酸素で65%、2位は炭素で18%、3位が水素の10%なので、水素と酸素の合計は83%になります。ここからも水(H₂O)の重要性は理解できます。
“氣”とのかかわりはどうなのか、理解していたつもりでしたが、よくよく考えてみるとあまり自信はありません。また、血液以外の体液といえば、涙、唾液、鼻汁、汗、尿、髄液、消化液、そしてリンパ液が思い浮かびます。この中で、全身に分布している体液といえば、リンパ液だと思います。従って、西洋医学の視点で「津液」を考えるならば、まず「リンパ」を理解する必要があると思います。これが今回の本を購入した理由です。
はじめに
第1章 リンパの誕生
1-1 リンパ系の成り立ち
1-2 第二の循環路としてのリンパ管系
1-3 組織液はどう吸収されるのか
1-4 リンパはどう流れるのか
第2章 リンパと初対面した先駆者たち
2-1 見えざる“管”を求めて
2-2 リンパ研究の草分け
2-3 リンパ管を見る
第3章 リンパの源流をたどる
3-1 毛細リンパ管ってどんな管?
3-2 どこから、どのようにして生じるのか?
第4章 全身に広がるリンパの支流たち
4-1 リンパはからだのどこに多い?
4-2 薄い膜組織もリンパは流れる
4-3 腺組織のリンパ流
4-4 臓器内のリンパ流
第5章 リンパの流れが滞ると…?
5-1 「むくみ」の正体
5-2 「リンパ浮腫」という名の病気
5-3 リンパ浮腫をどう治療するか
第6章 リンパと免疫のふしぎな関係
6-1 リンパとリンパ球
6-2 ミクロの戦士・リンパ球の働き
6-3 さまざまなリンパ組織たち
6-4 リンパ流の関所
第7章 がんと闘う歩哨たち
7-1 がんとリンパ管
7-2 がんとリンパ節
おわりに
はじめに
●細胞外液は体液と呼ばれ、「血液」、「リンパ」、「脳脊髄液」などがある。これらは臓器内の細胞や組織で構成されている微小循環における物質交換、水分や老廃物などの排出を行ない、循環によって生体の内部環境の恒常性を維持する重要な機能を果たしている。
●リンパは血管から周囲の組織に漏れ出た成分である組織液を吸収したものである。
●リンパはやや黄色味を帯び、白い血とも呼ばれる。リンパは厳密にはリンパ管の中を流れるリンパ液を指すが、リンパは慣用的にリンパ液だけでなく、リンパ管やリンパ球、リンパ節などを含めた広い意味に使われることが多い。
●『心臓という“ポンプ”をもたないリンパ管では、リンパ輸送はどのようにして行われているでしょうか? からだの位置(重力)や姿勢によって、リンパ管周囲の筋肉などの組織が動くことに伴って受動的な管壁の収縮が生じ、くねるような蠕動運動をしたり、弁の開閉によってリンパが行ったり来たりする振り子運動などによって運ばれます。
近年では、リンパ管の収縮は周囲の組織からの受動的な動きばかりでなく、リンパ管壁の自発的な収縮によっても起こることがわかってきています。健常状態では、血流と比べてきわめてゆっくりとではありますが、確実に流れているのです。
流れの途中には、リンパ管に入ってきたリンパの中の細菌などの異物をとらえる「関所」のようなリンパ節がたくさんあります。リンパ節内で種々の生体反応を起こしながらも、リンパはリンパ節を通り抜けて、やがて静脈に合流するまで流れつづけてゆきます。』
第1章 リンパの誕生
1-1 リンパ系の成り立ち
●ヒトの体内の水分のうち、およそ2/3は細胞内液、残りの1/3が組織液(間質液)、血漿などである。
●心臓から出ていく動脈の血液量を100%とすると、そのうち約90%は静脈から心臓に戻る。残りの約10%は、からだの毛細血管から漏れ出し、周囲の組織の間隙に間質液となる。
●体内における組織液は水分の摂取量と排泄量(尿量など)のバランスによる新陳代謝によって調整されている。
●リンパ管は発生的にも機能的にも血管と密に関連している。その一方でリンパ管系は「第二の体液循環」として独自の解剖生理的、病態生理的な役割を有し、血管系とは異なる性質を数多くもっている。
●リンパ液は水分、電解質、少量のタンパク質に加え、白血球、脂肪成分も含んでおり、細胞に栄養を送る。
●組織液の回収は2通りある。一つは急に過剰に組織液が増加した際の経路である。過剰分の組織液の80~90%が一次的に毛細血管あるいは細静脈の壁を通過して再吸収され血液に戻る。もう一つは、時間とともにゆっくり溜まっていって、二次的に周囲の毛細リンパ管に吸収されてリンパとなる。リンパは細いリンパ管が合流した集合リンパ管に集められ、その後血管に入って血液に戻る。
●血清とリンパの成分を比較すると電解質はほぼ同等である。血清もリンパもアルブミンやグロブリンなどの種々のタンパク質を含んでいる。
●リンパと血清の最も大きな違いはアルブミンとグロブリンの比率である。血清はほぼ同じだがリンパの方はアルブミンの方が約60%多い。アルブミンの分子量はグロブリンの約2/3と少ない。このためリンパの方が血液より粘性が低くさらさらで流れやすい。これにより、ゆっくり流れていても循環できるわけである。
●アルブミンはカルシウムやビタミンなどの栄養素を細胞に運び、細胞からは不要物を回収する。アルブミンの量が少なくなると、血液の浸透圧が低下して毛細血管壁から血漿が漏れやすくなり、組織液が溜まって局所に“むくみ”が生じる。これが一般の浮腫である。一方、リンパ浮腫はリンパ管の吸収低下やリンパの流出減少によって生じるものである。
●リンパの中にある血球は白血球であり、その大多数はリンパ球である。
1-2 第二の循環路としてのリンパ管系
●血管系は動脈血から静脈血に移行するので、「閉鎖血管系」と呼ばれる。なお、動脈と静脈は毛細血管網でつながっている。
●リンパ管が組織液の吸収管であることは、「血液循環説」から100年以上後のことである。
●リンパ管系は「リンパ輸送」と呼ばれる。これはリンパが一方向の流れだからである。
1-3 組織液はどう吸収されるのか
●毛細リンパ管の内皮細胞には多数の細線維(係留フィラメント)があり、内皮細胞を固定している。間質内に液体が留まると、組織間隙の圧が上昇し、細線維によって内皮細胞が外側に引っ張られるため、毛細リンパ管の内皮細胞の間隙が広がり、周囲から間質液が流れ込む。
1-4 リンパはどう流れるのか
●リンパ管にはリンパの流れの逆流を防ぐために弁があり、リンパは弁と弁の間のリンパ管分節の収縮や蠕動運動によって、常に一方向に輸送される。
●リンパ管分節の収縮はリンパ管壁にある平滑筋の自律神経によってコントロールされている。四肢にある集合リンパ管のリンパは、その管壁にある平滑筋細胞の収縮による自律的なポンプ機能によってリンパを体幹へ運搬している。
●心臓から出た血液が全身をめぐって戻ってくるまで約40秒と考えられている。しかしリンパ管系には心臓のようなポンプは存在しない。リンパはリンパ管分節をまたいで、その管壁にある平滑筋の律動的な収縮によって起こる自発的な運動によって、リンパはリンパ管分節内を行ったり来たりする「振り子運動」をして運ばれる。
●実際のリンパの流れには、体表の皮膚や筋など、外部からの刺激(マッサージや筋肉運動)、横隔膜による呼吸運動や小腸の蠕動運動など周囲の組織からの受動的な運動によって多く流される。
●筋ポンプによる運動は、体温の上昇による管壁平滑筋代謝の促進によって高まり、リンパ管の拡張もあいまってリンパの流れを活発にする。お風呂に入ると浮腫みが解消されるのは体温の上昇によってリンパの流れが良くなったためである。
●リンパが体の中を一周して元に戻るまでには約12時間かかると考えられている。
●『以前は、平滑筋をもたない毛細リンパ管には神経は分布しないと考えられていました。しかし、近年の電子顕微鏡による観察では、内皮細胞の結合部や核の基底側に近接して、裸の無髄神経が存在することが明らかになり、リンパ管内皮細胞と神経伝達物質(ペプチド)を含む神経との密接な関係を示唆する興味ある報告がなされています。これらの神経は、その表面にある受容体によって毛細リンパ管内腔のリンパや細胞間質の組織液の性状を感知し、リンパ管壁の透過性の調節に関与しているものと思われます。』
●神経周膜と鍼灸
-『ここでは東洋医学で古くから行われている「鍼灸」の臨床において、たいへん興味深い「経絡」「経穴」との関係性について説明しましょう。
東洋医学においては、全身(左右)に「気」「血」「津液」の補充や代謝のために網の目のように張りめぐらされた14の「経絡」があるとされています。経絡は、からだ全体を循環する12の「正経」に、「督脈」と「任脈」を合わせたものです。実際の治療では、これら経絡の上に存在する「経穴」(ツボ)が使われます。
「穴」といっても、もちろん実際に皮膚に穴があいているわけではなく、目には見えない「気」が出入りしている場所があるというのです。つまり、「経絡」は「気」や「血」の通り道であり、ツボはその道の上にある駅のようなものと考えられています。
「気」や「血」の流れが滞ったときに、経絡上のツボにトラブルが現れ、「臓腑」の不調が反映されることも多いとされます。簡単にいえば、ツボの刺激によって自律神経や感覚神経が刺激され、同時にリンパの流れがよくなり、その結果として、すべての臓器に対してよい影響を及ぼしているという考えです。からだの硬いところにはツボはなく、そこはまたリンパの流れも少ないので、両者のあいだには何らかの関係があることが推察されます。
現在の中国医学では、鍼灸の臨床からは、経絡の存在は疑うべからざるものとされています。経絡は気血循環の通路であり、全身にあまねく分布していて、内には臓腑に属し、外には四肢関節と連絡し、身体各部をつないで人体を完全に有機的に組織し、全身の機能系統を調節するものと考えられています。しかし、医学研究によっては、ほとんど解明されていないのが実状です。
「刺激による反応」という生理機能を解明するためには、まず「刺激の受容器は何か?」から明らかにしなければなりません。ここでいう受容器とは、皮膚の感覚神経の末梢端部です。
皮膚は、温かさ/冷たさといった温度や振動、痛みを感じます。また、その感覚には、単なる接触や圧迫に対する粗い触覚から、対象物が何であるかまで識別できる鋭敏な触覚まで存在します。ツボを刺激する方法としては、鍼や灸のほかに、指圧やマッサージ、電気刺激(温熱・振動)、レーザー照射などがあります。
それでは、ツボとはいったいどんなものなのでしょうか? 形態科学の立場から「機能するところに形態あり」とするなら、ここはさまに解剖学の出番です。そこで、ツボがあるとされる箇所に対する組織学的検索が行われました。
ツボがあるという皮膚の限られた部分に、神経や血管、リンパ管など、特別な組織構造があるかどうかが調べられたのです。ツボとよばれる部分には、その周辺の組織と比べて神経線維や血管、リンパ管の数が多い傾向にあるようですが、特殊で明確な構造物は観察されておらず、生理的に電気抵抗が弱まる部位や自律神経などとの関係は明らかではありません。
鍼灸では、経絡に沿った経穴、いわゆるツボの各種に鍼を基本的に皮膚に垂直に刺し、その際の患者の「ピリッときた」とか「気持ちがいい」といった、さまざまな反応を注意深く聞きながら深さを探ります。鍼は、局部の前後左右から立体的に数本刺入します。刺した鍼をそのまま一定時間放置したり、わずかに指で軽く叩いたり、振動させたりします。灸の場合は、経穴に艾を置いて火をつけるなどします。
このような刺激によって、最初に述べたような体液(髄液・リンパ)の交流による神経系への効果が生じるのでしょう。鍼灸の効果について、近年「“経絡”は神経周膜内の脳脊髄液系である」というたいへん興味深い新しい考え方が報告されています。東洋医学と西洋医学の接点として、ツボとリンパの関係は今後、非常に面白い課題であり、研究の進展が期待されます。』
※上記の「“経絡”は神経周膜内の脳脊髄液系である」とは直接関係のない話ですが、次のようなものを偶然見つけました。
“厚生労働科学研究成果データベース”の中に「神経内科 第78巻 第5号」(鍼灸刺激によるオピオイド量の変化)の抜粋資料があり、掲載されていた表はヒト(human)を対象にした実験で、鍼刺激により脳脊髄液が上昇したというものです。
第2章 リンパと初対面した先駆者たち
2-1 見えざる“管”を求めて
●リンパ管の発見は紀元前の5世紀の聖医ヒポクラテスによる“白い血”ということばから始まったとされている。また、紀元前4世紀には、アリストテレスによって無色の液体を入れた管、つまり血管と神経の中間の索状物(fibre)として記載されている。しかし、彼らは本当にリンパ管を見たかどうかは疑わしいとされている。
●リンパ管の発見として一般に認知されるのは1世紀を経た17世紀のことである。
●体の中で最大のリンパ管は「胸管」である。胸管は“みぞおち”からやや下方、背骨では第1腰椎の高さにある乳び槽から始まり、腹大動脈の後ろから横隔膜(大動脈裂孔)を貫いて胸部脊側を上行する。胸管は35~40㎝程あり、首の付け根の左鎖骨下静脈と内頸静脈との合流点(左静脈角)に注ぐ。胸管には、1日あたり2~3Lのリンパが流れている。
2-3 リンパ管を見る
●1980年代になって、リンパ微小循環生理学の精力的な研究によって新しい展開を見せている。
●近年のリンパ学における進展は、①リンパ輸送に関するリンパ管の筋ポンプ作用と自発的収縮や神経支配、②リンパ節におけるアルブミンの濃縮機構とリンパ循環動態および自然免疫反応、③がんの微小環境とリンパ管新生およびリンパ節転移機構など、「微小循環」「免疫学」「腫瘍学」を合体した「新しいリンパ学」の学問体系の創生がある。
第3章 リンパの源流をたどる
3-1 毛細リンパ管ってどんな管?
●毛細血管の直径は約10㎛で直径約8㎛の赤血球がやっと通れる程の細い管である。一方、毛細リンパ管の直径は20~75㎛なので毛細血管に比べるとかなり太い。細いリンパ管の先端部は袋状に閉じた状態(盲端)になっている。
●組織におけるリンパ管、動脈、静脈の細管の光学顕微鏡写真と走査型電子顕微鏡(SEM)写真を見ると、毛細リンパ管の管壁は一層の内皮細胞からなっており、動脈や静脈の管壁と比べて明らかに薄いことが分かる。
●扁平な形をしている内皮細胞間の結合は、しばしば小さな隙間がある(内皮細胞間隙)。この隙間が開くことによって血液が組織間隙に漏れ、やがて毛細リンパ管に吸収される。
●毛細リンパ管から集合リンパ管、リンパ本幹へと直径が太くなるにつれて管壁は厚くなる。
●リンパ管壁の平滑筋細胞の分布密度は部位によって異なる。下肢のリンパ管は1分間に4~6回の周期でリズミカルな収縮をする筋原性の自発収縮があるが、心拍と比べると約1/15と非常にゆっくりしたものである。
●図3-11は組織内のリンパ管網と動脈・静脈が絡み合って分布しているようすを確認できる。特に、先端が袋状に閉じた盲端部、“リンパの源流”が鮮明に写っている。
●『組織の通液路は、①毛細リンパ管までの吸収路を成す「前リンパ管通液路」、②排道リンパ管に付随して排出路となる「傍リンパ管通液路」、③細静脈に付随して、主として吸収路となる「傍静脈通液路」、3種に分類される。』
●横隔膜や壁側胸膜での中皮に見られる小孔とリンパ洞のあいだに細網線維からなる「前リンパ管通液路」があり、斑点状に散在するものを「篩状斑」と名付けているが、電子顕微鏡による観察によって、篩状斑では、腹膜とリンパ管とが直接連絡しており重要な通液路になっていることが明らかになった。
3-2 どこから、どのようにして生じるのか?
●血管系と異なり進化の過程でリンパ系がどのようにして現われたのか明らかになっていない。これには静脈から分化するという考えと、間葉性組織の間隙から分化するという考えがありまだ明確にされていない。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
本書の発行は2013年6月なので約12年前です。そこでAIに現在はどちらの起源説が有力なのか聞いてみました。
その回答は、静脈起源説でした。ただし、リンパ系の発生過程における間葉系細胞の重要性に対する認識は変わっていないようです。
第4章 全身に広がるリンパの支流たち
4-1 リンパはからだのどこに多い?
●リンパ管は「血管の分布していない組織にはリンパ管は存在しない」といわれるほど、リンパ管は血管と密接な関係にある。
●リンパ管と血管の位置関係は臓器によって異なるが、基本的には次の3つである。
① 毛細リンパ管の方が、毛細血管より臓器の内側の深いところにある(皮膚や消化管壁、腸絨毛など)。※1)体表・体腔
② 毛細リンパ管の方が、毛細血管より離れて、臓器周辺の小葉間結合組織にある(唾液腺や肝臓、膵臓など)。※2)膜組織
③ 精巣の精細胞や卵巣の卵胞●黄体などに対して、毛細血管は接しているが、毛細リンパ管はそれらの組織構造よりもっと離れたところにある。※3)精巣
●リンパ管が多い場所として、体表を覆う皮膚がある。ほとんどすべての部位の皮膚でリンパ管網はよく発達しているが、部位によって分布状況は異なる。
●皮膚を走るリンパ管は、皮膚組織中の余分な水分や老廃物の回収をはじめ、感染など炎症に伴う免疫反応でも重要な役割を果たしている。
●集合リンパ管は深筋膜を挟んで、浅い部分と深い部分の2ヵ所を独立して走っている。その特徴は、筋ポンプによる受動的な動きのみではなく、管の外周に平滑筋をもっていて自動的に収縮運動を行ない、リンパを体軸に近い方向(体幹方向)に送っている。集合リンパ管は体幹に向かって流れる過程で、下層の深リンパ管と交通して付近のリンパ節につながり、リンパを流す。
●舌、咽頭、喉頭は咀嚼や嚥下、発声など常に動きが活発であり、リンパ管がよく発達している。
画像出展:「深筋膜って何だ? (~リハ事典+~リハビリ(理学療法)の総合コンテンツ)」
筋膜は表層から浅筋膜→深筋膜→筋肉(筋外膜→筋周膜→筋内膜)となっています。
注)この図にはリンパは書かれていません。
4-2 薄い膜組織もリンパは流れる
●脳や脊髄にはリンパ管は存在していない。
●臓側腹膜、壁側腹膜など薄い漿膜内の中を血管や神経、リンパ管が走っている。これらは恒常性の維持に関わっていると考えられている。
本書の著者である藤本大三郎先生は、この本を次のような理由で書かれたとのことです。
『ふつうの酵素の本では、化学や有機化学の基礎知識の説明までは手がまわらない。それゆえ、酵素作用のメカニズムには深く立ち入ることを避けるか、説明してもひどくわかりにくくなってしまう。
一方、化学や有機化学の入門書では、酵素についての説明はまったくないか、あってもおざなりでしかない。化学者は、たいてい、酵素に関心がないか、知識がない。そこで、この本を書いてみた。』
これは、まさに望んでいた本だなと思いました。化学も有機化学の知識もない私には重たい仕事でしたが、酵素が何をしているのか、何が謎なのか、そして量子力学が関係しているということを知ることはできました。少し前進できたと思います。
はじめに
1章 生命と物質
1.1 生命と物質はどこが違うか?
1.2 酵素の発見
1.3 酵素の本体
1.4 酵素の特異性
1.5 遺伝子と酵素
1.6 大腸菌の細胞
1.7 もっと簡単な細胞
1.8 再び生命の神秘について
2章 簡単な物質の化学反応
2.1 原子
2.2 化学結合
2.3 原子価
2.4 分子の衝突と化学反応
2.5 遷移状態
2.6 触媒
3章 有機化合物の反応
3.1 有機化合物とは
3.2 有機化合物の立体構造
3.3 分極
3.4 水の分子と水素結合
3.5 分極と反応
3.6 酸と塩基
3.7 触媒
3.8 同じ分子に触媒基がある場合
4章 酵素反応の基礎知識
4.1 酵素の命名法と分類
4.2 酵素の共同因子
4.3 酵素の活性の測り方
4.4 酵素の触媒能力
4.5 酵素反応とpH
4.6 酵素反応と温度
4.7 反応速度論
4.8 酵素の阻害剤
5章 酵素の構造
5.1 タンパク質とアミノ酸
5.2 アミノ酸とペプチド結合
5.3 側鎖によるアミノ酸の分類
5.4 酸素のアミノ酸配列順序
5.5 α‐らせんとβ構造
5.6 球状構造
5.7 ドメイン構造
5.8 サブユニットと会合体
5.9 立体構造のゆらぎ
5.10 立体構造の変性と再生
5.11 立体構造を決めるもの
6章 酵素の作用メカニズム
6.1 カギとカギ穴
6.2 基質結合部位
6.3 エントロピー・トラップ
6.4 基質の有効濃度を上げる
6.5 生産的結合と非生産的結合
6.6 誘導適合
6.7 基質をひずませる
6.8 共有結合の中間体
6.9 酸・塩基触媒
6.10 遷移状態の安定化
6.11 酸素作用と活性化エネルギー
6.12 今後の問題
7章 生命の起源と酵素
7.1 タマゴが先か?
7.2 ニワトリが先か?
7.3 RNAワールド
7.4 酵素はどのようにして生まれたのか
7.5 原始生命体の酵素
7.6 謎
参考図書
はじめに
●『酵素は生物の体の中のようなおだやかな環境、つまり常温、常圧で中性に近い状態の中で、たくさんの物質の中から特定の物質(基質)だけを正確に見分け、驚くべき速さで化学反応を進行させる。一体なぜ、どのようにしてこんな働きをすることができるのか?この問題は現代のサイエンスがかかえる大きな謎の一つである。』
●酵素反応のしくみを理解するためには、分子とか化学結合とか活性化エネルギーというような化学の基礎知識が必要である。また、酵素は一般に有機化合物(炭素化合物)を相手にするので、有機化学の基礎知識も必要である。一方、化学や有機化学の入門書では酵素についての説明はほとんどない。化学者や有機化学者はたいてい酵素に関心がないか、知識がない。
1章 生命と物質
1.1 生命と物質はどこが違うか?
●化学者はまねができない生物の体の中の化学反応として、温度、pH、そして最も重要なことは、生物の体の中、というより細胞の一個一個の中で、何百種類以上の化学反応が同時に秩序をもって整然と行われている点である。
1.3 酵素の本体
●1930年以降、酵素の本体がタンパク質であることは動かしがたい事実として認識されるようになった。サムナーとノースロップは1946年にノーベル化学賞を受賞した。
1.4 酵素の特異性
●酵素は原則として一つの化学反応に対応する。
2章 簡単な物質の化学反応
2.4 分子の衝突と化学反応
●物質をつくっている分子は運動している。そして、ある一定の速度以上で分子同士が衝突したときに化学反応が起こり、結合の組み換えが起こる。
●化学反応には活性化エネルギーが必要
・水素ガスの分子と酸素ガスの分子の混合状態のエネルギーのレベルは、生成物である水のエネルギーのレベルよりも高い。しかし、その間には“エネルギーの山”というか“障壁”が存在している。この障壁を越えることができる速度(エネルギー)をもつ分子が衝突したときだけ、反応が起こるのである。このエネルギーの障壁を「活性化エネルギー」と呼んでいる。
分子の動き回る速さは温度に関係がある。もちろん、温度が高いほど速度は速くなる。ちなみに、絶対温度が零度、つまりマイナス273度では分子はじっとして動かない状態になる。室温で、水素ガスと酸素ガスをまぜて放置しておいても反応は起こらない。水素ガス分子と酸素ガス分子の衝突のチャンスはあるのだが、反応がおきて水になることはない。室温ぐらいの温度では水素ガスの分子も酸素ガスの分子も、反応が起こるのに必要な活性化エネルギーをもっていないからである。
しかし、もしも水素ガスと酸素ガスの混合物にマッチの火を近づければ、爆発がおこる。つまり、急激に化学反応が起こる。これは、マッチの火のそばの水素ガスの分子と酸素ガスの分子が火によって熱されてエネルギーを得て、活性化エネルギー以上のエネルギーをもつ状態になるからである。一度反応が起こると、大量の熱が発生する。この熱は「反応熱」といい、水素ガスと酸素ガスの混合物のエネルギーレベルと、水のエネルギーレベルの差にあたる。この反応熱によって、まわりの水素ガス分子と酸素ガス分子が加熱され活性化させる。そして、反応は連鎖的に、つまり爆発的に進んでいく。
2.5 遷移状態
●化学反応において、反応する物質の原子の組み換えが連続的に起こるが、その際、エネルギーが最大になる状態から生成物になる。このエネルギー最大の状態の原子の配置を「遷移状態」と呼ぶ。
●遷移状態は理論的に仮定されたものであって、これを分離したり、物理的な手段で観測できるものではない。
2.6 触媒
●触媒は活性化エネルギーを低くする働きである。活性化エネルギーが低くなれば室温では進行しない反応も進行させることができる。
3章 有機化合物の反応
3.1 有機化合物とは
●有機化合物とは炭素を含む化合物である。
4章 酵素反応の基礎知識
4.2 酵素の共同因子
●酵素の本体はタンパク質であるが、タンパク質以外の物質を必要とする場合がある。このような物質を「共同因子」あるいは「コファクター」と呼んでいる。
●共同因子は①配合団、②補酵素、③金属、の3つに分けることができる。
●配合団は、酵素本体のタンパク質にしっかりと結合した共同因子をいう。
●補酵素は、配合団のようにはタンパク質に固く結合せず、透析のよう操作で取り除くことができる。
●ビタミンの多くは酵素の共同因子やその合成材料である。
●酵素の中には、マグネシウム、マンガン、カルシウム、亜鉛などの金属イオンを必要とするものがある。これらの金属イオンの中には、酵素のタンパク質に固く結合しているものもあれば、ゆるく結合しているものもある。
4.3 酵素の活性の測り方
●酵素作用の本質は化学反応の触媒である。すなわち、酵素の活性は触媒する反応の速さで測る。
4.4 酵素の触媒能力
●『カタラーゼという酵素がある。前にも出てきたが、過酸化水素を分解する酵素である。カタラーゼの1個の分子は、1秒間に9万個の過酸化水素を分解する力をもっているという。それゆえ、100mlのカタラーゼを入れると、5分間で全部分解してしまう計算になる。酵素の中にはもっとすごいのがあって、カルボニックアンヒドラ―ゼ(二酸化炭素に水をつけて炭酸にする酵素)は、1個の酵素分子が1秒間に100万個の二酸化炭素に水を付ける能力がある。
これらは、スピードのはやい部類の代表的なもので、ふつうは毎秒約1万個の基質分子に変化をおこすくらいのスピードである。もちろん、スピードの遅い酵素もあって、1秒あたり、キモトリプシンは100、DNAポリメラーゼ(DNAを合成する酵素)は15、リゾチーム(細菌の細胞壁を分解する酵素)は、0.5分子の基質に変化をひきおこす。
また、別のくらべ方をすると、酵素がないときにくらべて、1000万倍(10の7乗倍)から10の20乗倍ぐらいに反応速度を速めるものが珍しくないという。1000万倍ということは、酵素なしでは1000万時間、つまりおよそ1000年かかるところを、酵素はたった1時間で反応を進行させてしまう計算になる。10の20乗倍となると、酵素なしで10の20乗時間かかる反応を1時間でやってのけるということだが、10の20乗時間とは約10の16乗年(1京年[10,000兆年])である。この宇宙が誕生してから、たかだか10の10乗年(100億年)しかたっていないという。つまり、酵素なしでは、こんな反応は絶対におこらないということである。』
4.5 酵素反応とpH
●酵素反応の速度はpH、すなわち水素イオンの濃度によって大きな影響を受ける。
●多くの酵素の至適pHは中性、つまりpH7付近にある。しかし、例外もある。胃の中で働くタンパク質分解酵素のペプシンの至適pHは1.5、つまり強い酸性である。
4.6 酵素反応と温度
●酵素反応の速度は、温度によっても大きな影響をうける。一般に化学反応の速度は温度が高くなるほど大きくなる。
●酵素は温度が高くなると立体構造がこわれて、触媒活性を失ってくる。対応できる温度は酵素によって異なるが、多くの酵素は60度ぐらいに加熱すると変性して活性を失う。中には100度のお湯の中につけても平気な酵素もある。
4.8 酵素の阻害剤
●酵素に結合して、その触媒作用を止めてしまう物質を「阻害剤」とか「インヒビター」と呼んでいる。代表的な阻害形式の一つは、「競争的阻害(「拮抗的阻害」ともいう)」と呼ばれるもので、阻害剤が基質とよく似た構造をもっていて、基質と競合う形で酵素に結合する。
6章 酵素の作用メカニズム
6.1 カギとカギ穴
●『酵素は特定の基質をうまく見わけ、おどろくべき速さで化学反応を進行させる。一体、なぜ、どのようにしてこんな動きをすることができるのだろうか? この問題は、本書の主題なのだが、現代のサイエンスのかかえる大きなナゾの一つである。
酵素の作用メカニズムを説明するために、いろいろなモデルや考え方が提出されてきた。歴史的にもっとも古いのが「カギとカギ穴」説である。1894年―つまり今から100年以上も前にドイツのフィッシャーによって提唱された。
基質と酵素の活性部位は、ちょうどカギとカギ穴の関係にあって、ぴったりと適合する。適合しない物質は、カギ穴にあわないカギのようなもので、基質にはなりえない。
この説は、酵素の特異性を実にわかりやすく、明快に説明している。そして、基本的には正しいと現在も考えられている。ただし、この説はなぜ、基質の反応が速やかに進行するのかについてはなにも説明されていない。つまり、カギ穴の中の出来事については残念ながら何も説明できない。』
6.3 エントロピー・トラップ
●酵素は「基質を見分ける」ことも重要だが、「基質を結合する」ということも重要である。
●酵素の活性中心には、基質を結合する部位と化学反応を進行させる触媒部位があると考えられている。
●化学反応全体のおこりやすさについて、エントロピー(乱雑さ)の寄与がある。生成物の方が反応物よりも規則性が高ければエントロピーは減少する。
●化学反応が起こるときには、越えなければならないエネルギーの障壁があり、活性化エネルギーが必要である。
●活性化エネルギーの一部は、反応物質から遷移状態ができるときに必ずともなうエントロピーの減少に由来する。
●酵素反応では、まず基質の2つの分子は酵素と結合して規則正しく配列する。つまり、そこで既に基質分子の運動は制限された状態にある。ということは、そこから遷移状態に移ったとして基質分子と遷移状態のエントロピーの差は小さいことになる。その結果、化学反応を進めるために越えなければならないエネルギー障壁、活性化エネルギーが下がることになる。これをエントロピー・トラップと呼ぶ。
画像出展:「低エントロピー」(低エントロピー反応空間が実現する高秩序触媒化学)
6.4 基質の有効濃度を上げる
●酵素反応では、0.001モルという低濃度の基質も酵素と結合することによって、活性中心での濃度が100モル濃度、つまり10万倍も濃度が高くなった状態と同じになる。すなわち、酵素は基質を結合して、触媒基に形と向きがちょうどよくなるように向かわせ、有効濃度を高くする。酵素がなければ、こんな都合のよい状態に反応物質と触媒物質が並ぶことは、理論的には可能であっても実際にはほとんど起こらない。
この写真はブログ“生物と量子力学2(酵素)”で使いました。「量子現象の“トンネル効果”には“コヒーレンス(同調)”という大きな課題がある」とのことでした。(同調⇒ローリング競技を連想して貼りました)
酵素においても「同調」が関係しているということは、量子力学に通じるものだとと思います。
6.5 生産的結合と非生産的結合
●基質が酵素と結合する時、正確に結合しないと化学反応は進行しない。このような結合を「生産的結合」と呼び、結合しても化学反応が進行しない結合を「非生産的結合」と呼ぶ。
●良い基質とは、生産的結合をしやすい物質であり、悪い基質は、色々な形で結合するけれども非生産的結合の多い物質ということになる。競争的阻害剤は、非生産的結合しかできず、基質と共存すると基質の生産的結合の邪魔をする物質と考えられる。
●生産的結合と非生産的結合の差は、結合した基質と触媒部位との空間的配置の微妙な差によると考えられる。つまり、基質は酵素にせっかく結合しても、触媒部位との位置関係が悪ければ、化学反応は進行しない。
6.6 誘導適合
●酵素分子が基質と結合した時に、酵素分子の立体構造に変化が起こる。その変化は全体におよぶような場合もあれば、結合部位に限定される場合もある。
●「誘導適合」とは基質がない時は不活性の状態にあるが、基質が結合すると酵素分子の立体構造に変化が起こって、反応を進めるのに適した位置に触媒基が配置されることである。
●「生産的結合」も「誘導適合」も、不適切な基質が活性化しない理由の説明としては、カギとカギ穴説よりも説得のある説明になっている。
こちらの動画“生化学 酵素とは。誘導適合モデル”はバイオ薬科アカデミーさまから拝借しました。
14分57秒の動画 ですが、5分47秒から「誘導適合モデル」の説明になります。
6.7 基質をひずませる
●酵素分子に基質分子が結合した時に、酸素分子の立体構造に変化が起こる。この立体構造の変化によって、基質分子を引っ張ったり、圧迫したり、捻じったりして、ひずみを生み出す。ひずみやゆがみができると、基質は遷移状態になりやすくなる。
6.8 共有結合の中間体
●酵素の中には酵素と基質が共有結合で結ばれた中間体ができることが分かっている。この中間体は反応性に富んでいて容易に遷移状態になると考えられる。
6.10 遷移状態の安定化
●遷移状態、つまり、化学反応が起こる時のエネルギーの峠の状態は、もともとは理論的に仮定されたものである。
●遷移状態を安定化するということは、遷移状態のエネルギーの障壁が低くなることであり、化学反応が進行しやすくなるということである。
6.11 酸素作用と活性化エネルギー
●酵素の働きの中で最も重要なことは、基質をつかまえて触媒基と正しく向く合わせることだと考えられる。
●化学反応を進行させるには活性化エネルギーという障壁を越える必要があり、そして触媒とは「活性化エネルギーの山の高さを低くする」作用である。
●酵素のやり方は下段Bのように次々と山を越えていく。これらは酵素と基質の結合であり、誘導適合であり、共有結合の中間体の形成である。また、山が低くなる理由は、酵素の活性部位と遷移状態の相互作用であったり、エントロピー・トラップであったりするわけである。酵素の作用のしくみの全体像は以下(図6-11)になる。
6.12 今後の問題
●『超能力とも思える酵素の触媒作用も、このようにいろいろと解明されてきた。酵素反応も、一般の化学反応と根本的な原理は同じであると今では学者たちは信じている。とはいうものの、酵素の作用についてはまだまだ研究しなければならないことがたくさんある。
歴史的に見ると、酵素の作用メカニズムに関する知識のほとんどは、キモトリプシンやリゾチーム、リボヌクレアーゼなど加水分解を触媒する酵素から得られてきた。加水分解反応は、もっとも簡単な化学反応の部類に属していて、あまり「酵素らしい」反応とはいえない。体のなかではもっと「酵素らしい」―つまり複雑で、酵素なしではとてもできそうもない化学反応が、酵素の働きにより進行している。そのような酵素の作用機序については、比較的研究が進んでいない。
酵素についての今後の最大の研究課題というか夢は、人間の手で自由に酵素を設計して人間の希望する性質をもつためには、活性部位を含む特定の立体構造が必要である。その立体構造は、アミノ酸配列順で決定される。それゆえ、希望する特異性と触媒活性をもつ酵素をアミノ酸配列順序を設計してつくることが可能なはずである。
しかし現在のところ、そんなことはできない。アミノ酸配列順序からどんな立体構造ができ、そこからどんな酵素活性が生ずるのかという一般的な理論をつくりあげるに至っていない。』
●酵素の研究は日進月歩であり、解析するためのコンピュータの進歩もすごい。近い将来、自由自在に酵素を設計できる日がくるかもしれない。自由自在に酵素を設計することができたとき、はじめて「酵素がわかった」といえるのではないか。今のところは、酵素はまだまだ不思議な存在である。
7章 生命の起源と酵素
7.1 タマゴが先か?
●『1950年代にアメリカのミラーは、実験室の中で、アンモニア。メタンなどの混合物中に放電させるとアミノ酸ができてくることを示した。また同じような条件下で、シアン化水素、ホルムアルデヒドなどと反応性のつよい物質もできるし、それらが反応して糖の仲間や核酸の塩基などもできてくることが明らかになってきた。
つまり、原始の海の中には、アミノ酸、糖、塩基といったタンパク質や核酸(DNA、RNA)の材料となる物質が溶けこんでいたと想像されるのである。もちろん、リン酸やいろいろな金属イオンのような無機物も溶けこんでいたにちがいない。では、そのあとで何が起こったのか―ここは大きく意見の分かれるところである。』
まとめ
1.酵素の信じられないような働き
●酵素がないときにくらべて、1000万倍(10の7乗倍)から10の20乗倍ぐらいに反応速度を速めるものが珍しくないという。1000万倍ということは、酵素なしでは1000万時間、つまりおよそ1000年かかるところを、酵素はたった1時間で反応を進行させてしまう計算になる。10の20乗倍となると、酵素なしで10の20乗時間かかる反応を1時間でやってのけるということだが、10の20乗時間とは約10の16乗年(1京年[10,000兆年])である。
2.「カギとカギ穴説」よりも説得のある説明
●酵素は基質を結合して、触媒基の形と向きがちょうどよくなるように向かわせ、有効濃度を高くする。酵素がなければ、こんな都合のよい状態に反応物質と触媒物質が並ぶことは、理論的には可能であっても実際にはほとんど起こらない。
基質が酵素と結合する時、正確に結合しないと化学反応は進行しない。このような結合を「生産的結合」と呼び、結合しても化学反応が進行しない結合を「非生産的結合」と呼ぶ。
「誘導適合」とは基質がない時は不活性の状態にあるが、基質が結合すると酵素分子の立体構造に変化が起こって、反応を進めるのに適した位置に触媒基が配置されることである。
生産的結合も誘導適合も、不適切な基質が活性化しない理由の説明としては、カギとカギ穴説よりも説得のある説明になっている。
●「酵素がわかった」といえるのは、自由自在に酵素を設計することができたときではないか、酵素はまだまだ不思議な存在である。
“酵素”と“氣”の関係を結びつけて考えることは無理があるようですが、「不思議な存在」というところは共通していると思います。
第4章 根本原因はここにあった!腸と腸内細菌
●すべての病気は消化不良から
・消化とは三大栄養素の炭水化物、タンパク質、脂肪をそれぞれ小腸で吸収できる分子レベルまで小さくすることである。
・小さなビタミンやミネラルは分子が小さいのでそのまま吸収される。
・タンパク質と炭水化物はネックレス状につながっている。タンパク質はアミノ酸や単糖(ブドウ糖、果糖、ガラクトースなど)をひとつの玉だとすると玉が100個以上(多いものは1万個以上)連なったものである。炭水化物も単糖のブドウ糖(グルコース)がつながっており、数百個、大きいものでは数万個つながっている。これらは一度に分解できないので、唾液、胃液、膵液、腸液と段階を踏んで、少しずつつながった玉を切り取り、アミノ酸の玉、ブドウ糖の玉に分けていくのが消化である。この切り分けるハサミに相当するのが酵素である。
・脂肪はタンパク質や炭水化物とは異なり、グリセロールに三つの脂肪酸が引っ掛かった形状で、この留め金を外すことが脂肪の消化である。消化されたものは小腸の腸絨毛から吸収され、門脈を通って肝臓に運ばれる。
・脂質はリパーゼによって、グリセリンと脂肪酸に分解され、一部はアミノ酸などと一緒に門脈経由で肝臓に運ばれるが、多くは分解後、胆汁酸の乳化作用によりミセル化(小さくして水に溶けやすくする)され、親水性となり腸管から吸収される。小腸上皮細胞に入った乳化物は、今度はタンパク質と結合して、カイロミクロンという大きなリポタンパク質となり、リンパ管から吸収され、リンパの流れに乗って腹部、胸部、心臓などを巡って動脈に入り全身に運ばれる。脂肪成分の多くは、このようにリンパ経由の道のりをたどる。脂肪が消化に時間がかかるのは、このリンパ経由のプロセスのためである。
・消化不良は栄養がしっかり吸収できないだけでなく、様々な弊害を生む。例えば、タンパク質が十分に消化されないと不消化タンパク質となる。それを大腸内で腐敗菌が分解すると「窒素残留物」を作るが、これがアレルギーや難病、がん等、あらゆる病気の原因になっていく。このようにすべての病気の出発点は消化不良から始まるのである。
●「リーキ・ガット症候群」
・栄養素を吸収する小腸の腸絨毛が炎症を起こし、テニスラケットのガットが緩んだようになる症状を「リーキ・ガット症候群(腸管浸漏症候群)」という。例えば、100個のアミノ酸がつながったタンパク質が血中に入れば免疫システムは異物と判断し攻撃する。これはアレルギーである。さらに膠原病、クローン病、多くの神経疾患、潰瘍性大腸炎などの難病の原因になる可能性がある。2007年4月、ハンガリーのブタペストで開催された世界肥満学会では、これらの疾患に加え、糖尿病、心臓病、脳卒中などの関連性も指摘された。
・異物が血中に入れば、血液は汚れ微小循環が悪化する。それは脳梗塞、心筋梗塞、糖尿病を発症してもおかしくはない。
・リーキ・ガット症候群は小腸内の腐敗以外では、多量の化学薬剤、喫煙、アルコールの過剰摂取に注意する必要がある。
●腸内で起こる四つの現象
・消化吸収の後、腸内では4つの現象が起こる。「発酵」は正常だが、「腐敗」、「異常発酵」、「酸敗」は問題である。
・「発酵」は炭水化物に関するもので、良質かつ適量の時に起こる。
・「腐敗」はタンパク質を消化する酵素の不足やタンパク質の過剰摂取により消化不良が起こり、吸収されなかったタンパク質が大腸に停滞して起こる。この時できるのが窒素残留物のスカトール、インドール、アミン、フェノール、硫化水素、アンモニアなどであるが、これらの有害物質は強烈な発がん物質であるニトロソアミンを作り出す。
●窒素残留物と二次胆汁酸が一緒になると……
・「異常発酵」は炭水化物の摂りすぎで起こる。その原因は食べ過ぎである。また、遅い時間に摂る夜食やストレスも関係する。加熱食ばかりの食事も異常発酵につながりやすい。異常発酵ではガスの臭いが目安となる。
・「酸敗」は脂質が腸内で酸化して生じる現象である。特に問題なのは二次胆汁酸(一次胆汁酸がリトコール酸やデオキシコール酸などに変化したもの)である。これは猛毒で、窒素残留物が作るニトロソアミンと一緒になると大腸がんの大きな原因になる。
・酸敗の原因は脂肪の摂りすぎである。また、酸化した油や劣化した油、トランス脂肪酸などの質の悪い脂肪の摂取も原因になる。
●健康のカギを握る「短鎖脂肪酸」@
・「短鎖脂肪酸」は大腸で酵素の働きによって行われる食物繊維の発酵で生じる。脂肪酸には炭素数が12以上の「長鎖脂肪酸」、7~11の「中鎖脂肪酸」、そして6以下が「短鎖脂肪酸」である。飽和脂肪酸は常温では個体である。一方、不飽和脂肪酸は常温では液体である。この不飽和脂肪酸には、中鎖脂肪酸、短鎖脂肪酸は存在しない。
・飽和脂肪酸は肉類の脂肪や乳製品の脂肪に多く含まれ、中性脂肪やコレステロールを増加させ、動脈硬化を促進するとされ、悪者扱いされることが多い。しかしながら、飽和脂肪酸がなくなると細胞膜はボロボロに崩壊し、細胞は存在できなくなる。摂りすぎは良くないということであって、とても重要なものである。
・短鎖脂肪酸は炭素の連鎖が短いため分解されやすく、すぐにエネルギー源として利用されるため、体脂肪として蓄積されることはない。
・短鎖脂肪酸の酢酸、プロピオン酸、酪酸などは水溶性の食物繊維や糖質の発酵で生じる。その働きは免疫力を高め、健康維持に重要な役割を担っている。酢酸は脂肪合成材料、プロピオン酸は肝臓における糖新生の材料、酪酸は大腸の主要部分の栄養素になる。95%は大腸粘膜から吸収され、すべての消化管と全身の臓器の粘膜上皮細胞の形成と増殖、そして粘液を分泌させる働きをしている。胃液も腸液も膵液もすべて短鎖脂肪酸が作っている。
・短鎖脂肪酸は細胞内のミトコンドリアに働き、エネルギー活性化を促す。腸のpHを下げ殺菌力を高める。がんのアポトーシス(プログラムされた細胞の自死)にも関わっている。
●二十一世紀に解明、短鎖脂肪酸の働き
・短鎖脂肪酸の材料は、熟した果実、わかめ、昆布などに含まれる水溶性の食物繊維、穀物、大豆、キノコに含まれる不溶性の食物繊維も材料になる。その他、黒酢、酢のもの、梅干し、ピクルス、ラッキョウ、漬物、キムチなどの発酵食品も腸内環境の改善を通じて間接的に短鎖脂肪酸の生成を促進する可能性がある。
●胃薬を長期間飲み続けると……
・胃薬を長期に飲み続けると胃酸は弱まる。すると、胃のpHは上昇する。このため、細菌が無制限に繁殖し胃壁は菌に侵され再び潰瘍になりがんの原因となる。また、アルカリイオン水などアルカリ度の高い食品も注意が必要である。頻繁に摂りすぎると胃酸を薄めてしまう。
第5章 体を蝕む酵素を減らす食事
●日本では“野放し”のトランス脂肪酸
・トランス脂肪酸は各国で規制対象になっている
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
1.日本人の平均的なトランス脂肪酸摂取量はWHOの推奨する上限(総エネルギー摂取量の1%未満)を下回っている。
2.通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられるが、脂質に偏った食事をしている人は注意が必要。
3.トランス脂肪酸だけでなく、飽和脂肪酸を含む脂質全体の摂取バランスに配慮することが必要。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
1.多くの国で、天然由来のトランス脂肪酸は規制の対象外となっています。
2.WHOは2023年までにトランス脂肪酸の低減を進めるよう各国政府に呼びかけており、規制を導入する国は増加傾向にあります。
3.2024年時点で、54ヵ国が工業的に生産されたトランス脂肪酸の排除に向けた最善の政策を実施しています。
ご参考1:「トランス脂肪酸に関する各国・地域の規制状況」(農林水産省)
ご参考2:「すぐにわかるトランス脂肪酸」(農林水産省)
・トランス脂肪酸に次いで注意すべきはリノール酸の過剰摂取である。摂りすぎると、アラキドン酸が過剰に作られ、炎症を起こす物質(炎症メディエーター)の増加や血小板凝集、血管矮小化といった問題を引き起こす。リノール酸はサラダ油などの揚げ油の他、スナック菓子、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、インスタントラーメン、ケーキ、パン、アイスクリームなど数え上げれば切りがない。さらに、大豆、小麦、米などの穀物にも多く含まれているため、私たちは気がつかないうちに大量のリノール酸を摂っている。必要量の10倍は摂っているというデータもある。まず心がけることは「植物性油脂」「植物性食用油」とあれば、トランス脂肪酸やリノール酸が含まれていると考え、避けるよう努力することである。
ご参考3:「油のタイプ知り上手に摂取 リノール酸の取りすぎ注意」(日本経済新聞)
●油の質によって、健康は左右される
・油は消化に時間がかかり、高カロリーのため「太りやすい」「体に悪い」というイメージがつきまとっているが、重要な栄養素である。脂質は細胞膜の70%、脳の60%を構成している。脂肪がなければ、体温も維持できず、ホルモン様の物質も作ることはできず、体内で脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の運搬や吸収もできない。しかしながら、油の質によって大きく異なるというのも事実である。
・青魚の脂のEPAとDHAは血液をサラサラにする。このEPA、DHAは不飽和脂肪酸のオメガ3系脂肪酸の一種である。植物油で健康の良い油はオメガ3系脂肪酸に属するα-リノレン酸で、亜麻仁油、エゴ油、シソ油などである。ただし、これらの油は熱に弱いのでドレッシングなど生の状態で使う。加熱料理には酸化しにくいゴマ油、ナタネ油、米油がおすすめである。
・食物では、アーモンド、クルミ、ピスタチオなどナッツ類も少量なら体に良い。
・2011年、世界一栄養がない野菜といわれていたキュウリに、ホスホリパーゼという従来より分解力の強い脂肪分解酵素があることが分かった。血液をサラサラにし体も温まるという優れものである。
第6章 こうすれば簡単!酵素を摂る方法
●病気の時は、食べないほうがよい。
●証明された、少食と長寿の関係
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
1.60代位までは食べ過ぎに注意が必要ですが、70代以降はしっかり食べて筋肉や骨を維持することが重要です。
2.健康的な食生活と適度な運動を心がけることで、健康リスクを軽減できます。
3.個人の年齢、全体的な健康状態、免疫力などが寿命に影響を与えるため、食べ過ぎの影響は個人差があります。
感想
本書によって、酵素が生命にとっていかに重要であるのかを知りました。一方、何故、9番目になったのかということが、あらためて気になりAIに質問してみました。
以下(左側)がその回答です。「非常に複雑」、「働きが目に見えない」、「直接的なエネルギー源ではない」、この3つがポイントでした。
「やはり、只者ではない!」と思いました。そして、右側の表は2度目の登場になりますが、その背景にあるのは、「やはり、量子力学が関係しているからでは!?」だと思います。
『氣とは何だろう』に量子力学を結びつけるのは唐突かもしれませんが、9番目に姿を見せた「酵素」という特殊な存在はマークしたいなと思います。
第2章 人体における酵素の働き
●消化酵素と代謝酵素
・消化酵素は文字通り、消化するための酵素であり、それ以外はすべて代謝酵素である。「代謝酵素は、異化と同化を含む生命維持のための代謝過程において、化学反応を触媒し制御する重要な役割を果たす」
・重要なことはこの2つの酵素のバランスでその比率はシーソーのように変化する。健康にとって重要なことは代謝酵素の占める割合である。暴飲暴食等で消化酵素を多く消費すると代謝酵素が減ってしまい健康を害する原因となる。
●どんな食物を食べても、消化酵素しだい
・消化酵素の働きがあって、はじめて適正な栄養素を獲得できる。
●草しか食べない牛が筋肉を作れる理由
・草しか食べない牛が強靭な筋肉をもっているのは、胃の微生物と酵素による。
・牛は4つの胃をもっており、草のタンパク質は第一胃で分解される。微生物は分解されたそのタンパク質を取り込み、自らの体にタンパク質を合成する。この微生物タンパク質は草のタンパク質よりはるかに栄養価が高い。微生物は他にも窒素化合物を利用して質の高いタンパク質を作る。その後、第四胃(人間の胃に相当)に送られ、そこで胃液と酵素がはじめて分泌され、原虫や菌体は消化される。そして、タンパク質となって小腸に送り込まれ、そこで分泌される消化液によって栄養素として消化・吸収される。
●肉しか食べないライオンのビタミンC補給
・ビタミンC(アスコルビン酸)の最も重要な生理作用はコラーゲンの合成である。コラーゲンは筋肉、血管、皮膚、骨の維持になくてはならない。人間は体内でビタミンCを作れないため食物から摂るしかない。肉しか食べないライオンはブドウ糖やガラクトース(乳糖の成分)からビタミンCを合成する。ただしこれには酵素がなければ合成することはできない。
・人間の場合、ビタミンC合成の最終段階で必要なL-グロノ-γ-ラクトンオキシターゼという酵素が欠損しているため合成ができないのである。
●消化酵素の浪費で起こる危険なこと
・代謝酵素の欠乏は病気を招く。
・ワシントン大学での犬とネズミを使った実験は、通常通りのエサを与えられる一方で、膵液を体外に流出されるという実験であったが、犬もネズミも1週間以内にすべて死亡した。なお、膵液は小腸の十二指腸に分泌される消化液であり、三大栄養素をすべて分解する。十二指腸に分泌される胆汁では問題ないのは、胆汁には酵素が含まれないからである。
●酵素を消耗させる食生活
・酵素を消耗する食品は、加工食品(インスタント、レトルト)、砂糖の入った食品、添加物、高タンパク質食品、残留農薬、トランス脂肪酸などの悪い油脂、加熱された無酵素食品、高GI食品など。
・高GI食品とは、食後の血糖値を急激に上昇させる食品のことを指す。GI(グリセミック・インデックス)値が70以上の食品。
画像出展:「炭水化物は敵ではない?上手に炭水化物を取り入れましょう」(Kyushu-HOPES)
『食品の組み合わせや食べる順番も大事なポイントです。GI値の高い食品は食物繊維を多く含む食品と一緒に食べることで血糖値の上昇を抑えることができます。また、食物繊維を多く含む食品から先に食べる、ゆっくり時間をかけて食べることによっても血糖や脂肪の吸収は抑制できます。』
●生存活動すべてにかかわる代謝酵素
・『小腸から吸収された栄養素は、血液を通じて全身へ運ばれ、各臓器や骨格などをつかさどる源になります。私たちは、そのエネルギーを使って呼吸をしたり、考えたり、話すなど日常活動をしています。さらに、自己免疫力や自然治癒力も身につけ、細胞分裂という形で、新しい細胞に入れ替えていきます。この過程が「新陳代謝」と呼ばれるもので、人間は一生を通じて、この行為をえんえんと続けています。』
●酵素がなければ、エネルギー回路も動かない
・ブドウ糖はその一部は肝臓で蓄えられ、必要に応じてグルコース(ブドウ糖)になり、肝臓から血液中に放出され、全身の細胞に送られる。このエネルギーの原料をエネルギーに変えるまでに多くの酵素が必要になる、例えば、肝臓でグリコーゲンを合成する時にはグリコーゲンシンターゼなど5つの酵素が必要で、そのグリコーゲンをグルコースに変え、血液に放出する時にはグリコーゲンホスホリラーゼなど3つの酵素が必要である。
・全身に運ばれたグルコースが、それぞれの細胞でミトコンドリアにあるクエン酸回路でエネルギー源のATP(アデノシン三リン酸)に代謝されるまでには、直接関係するだけでも何十もの種類がある。これらの酵素の一つでも欠けると正常に稼働しない。
●酵素がなければ、活性酸素も除去できない
・活性酸素は分子から電子を奪う。これを「酸化」といい、体を老化させ病気の原因になる。保存剤や防腐剤などの食品添加物を酵素が解毒するがこの時に活性酸素が発生する。ストレスを受けると副腎皮質ホルモンが分泌されるが、この時にも活性酸素が出る。その他、大気汚染、水質汚染、農薬、殺虫剤、電磁波、喫煙、過度の飲酒など、現代社会は活性酸素にとってとても居心地の良い社会である。
そして、この活性酸素を除去する抗酸化物質が、SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)、グルタチオンペルオキシダーゼと呼ばれる酵素である。
●毒ガス・サリンと酵素の働き
・『代謝酵素の働きは、書けばきりがありません。血圧の調節もそうですし、思考することも酵素の働きです。
私たちが筋肉を動かす時に必要なのがアセチルコリンという物質ですが、筋肉を収縮させるこの物質を作っているのも、コリンアセチルトランスフェラーゼという酵素です。また、その収縮を止めるのはアセチルコリンエステラーゼという酵素の働きです。これらの酵素の働きで、私たちは脳が命じるままに筋肉を自由に操り、体を動かすことができるのです。
ちなみに地下鉄サリン事件で有名なったサリンは、このアセチルコリンエステラーゼという酵素の働きを失効させる毒ガスです。その酵素が働かないために、筋肉は収縮したままとなり、硬直・麻痺し、呼吸ができなくなるのです。
心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす動脈硬化を防ぐのも、血栓溶解酵素という酵素です。この酵素は、ふだんは血液中に隠れていますが、いざとなると活性の強いプラスミンという酵素に変身して、現場に駆けつけます。この変身の引き金になるのも、腎臓と尿に含まれるウロキナーゼという酵素です。これらの酵素がなければ、私たちの体は血栓だらけです。
自然免疫主役、白血球のマクロファージ(動物の組織内に分布する大型のアメーバ状細胞)も捕まえた異物を酵素で分解します。さきほど紹介した肝臓のクッパ―細胞もマクロファージの一種で、同様な働きをしています。
活性酸素によってDNAが損傷され、がんが発生しますが、その傷ついたDNAを元に戻すのも、DNA損傷修復酵素です。
腎臓で血液浄化の仕事をしている酵素、胃酸を作る酵素、有害物質を分解する酵素など、枚挙に遑がありません。酵素の働きは、生命活動そのものなのです。』
第3章 酵素を減らす加熱食の危険性
●50度洗いも、冷凍も、酵素を利用している!
・体外酵素の食物酵素は熱に弱いという特徴がある。48度で2時間、50度で20分、53度では2分で失活(効力を失う)する(70度まで活性を示す酵素も例外的にある)。
・適度な熱を短時間で与えると効力を高める性質がある。「50度洗い」とはこれ位の温度で洗うと食物酵素が活性する。
・食物酵素はすべての食物の中に含まれており、動植物が死ぬと働き出しその動植物の本体を自ら分解する。人間は死んだら土に還るといわれているが、その仕事を任されているのが酵素である。
・食物中にある酵素は、その食物が嚙み砕かれて細胞が壊れた瞬間から、その力を発揮する。
●膵臓が肥大化し、脳が小さくなった人間
・加熱調理した食物を多く食べてきた人類は、長い時間をかけて、自らの体を変化させてきた。それは膵臓や唾液腺の肥大である。膵臓の大きさを牛、馬、羊などの動物と比較すると、人間は体重比で2倍から2.8倍になる。唾液腺に関しては唾液中に大量のアミラーゼという消化酵素を持っているのは人間だけである。
●がんと酵素の関連性
・腸内腐敗を減らすと「腸管免疫」の向上につながる。特に重要なことは、酵素を多く含む食品を摂ると血流が改善され、微小循環が良くなることである。血管の総延長は100,000㎞、そのほとんどが毛細血管による微小循環であり、細胞の代謝を支えている。
・微小循環不良は病気を引き起こす原因の最終段階である。特に目、腎臓、脳、子宮、卵巣など血液循環が必要な臓器は、より大きなダメージを受ける。痔や手足の冷え性なども微小循環の不良が大きく関わっている。
・組織が飢餓状態や酸素不足によって出現するのが活性酸素だが、活性酸素は細胞核の中のDNAを傷つけたり、破壊したりして突然変異を起こす。そして、細胞のがん化へと発展する。
・『「がんは、まず酵素のないところに生じる」と呼吸酵素(チトクローム)の発見でノーベル生理学・医学賞を受賞したドイツのワールブルク博士もいっています。』
・赤血球のルロー(赤血球をつなげる)をほどく働きを持っているのは酵素しかない。代謝酵素だけでなく食物酵素も体内で吸収され、血中でルローをほどく。
・『微小循環を良くする唯一の方法・方策は酵素の入った食事を摂るに尽きます。その酵素の入った食事とは「生」のものと「発酵物」です。』
●人間を健康にする食品の条件
・生野菜、果物、海藻、芋、豆、穀類、発酵食品は特に黒酢と梅干がおすすめである。
・人間の体を構成する元素は、酸素、炭素、水素、窒素、リンなどであるが、その約61~65%が酸素であるということは驚きである。一方、人間の体を構成する分子は成人では53~65%が水である。
酵素については“生物と量子力学2(酵素)”というブログを2019年3月にアップしています。この時は、ヒトの生命の中に量子力学のメカニズムが、何か存在しているのではないかという思いから、『量子力学で生命の謎を解く』という本を見つけました。
そして、その時もっとも驚いたことが以下になります。
『酵素の仕事は、本来ならあまりにも遅いさまざまな生化学反応を加速させる(「触媒する」)ことである。
~中略~
メアリー・シュワイツァーが恐竜の骨に作用させたコラーゲナーゼも、そうした生物マシンの一つにすぎず、動物の体内ではつねにコラーゲン線維の分解を担っている。酵素によって分解がどれだけ加速されるかをおおまかに見積もるには、酵素がなかった場合にコラーゲン線維の分解にかかる時間(明らかに6800万年より長い)と適切な酵素があった場合の時間(約30分)とを比べればいい。そこには一兆倍もの開きがあるのだ。』
酵素があれば、約30で分解されるプロセスが、その酵素がなかったならば6800万年以上、約1兆倍もかかるというものです。この信じられないような酵素の働きは生命の大きな謎であり、量子力学に関係しているという見解は、「きっと、そういうこと何だろうな」という感じでした。
それから約6年、多くの本に接してきましたが、「酵素について詳しく知りたい」と思ったことはありませんでした。また、今回、酵素に関するサイトや本を探していて感じたことは、想像以上に、サプリメント、食事や栄養、健康や美容に関するものが多いという印象でした。そのような中で、酵素の生理学(生体の機能とメカニズム)について、一般読者向けに書かれている本を購入しました。
酵素に関して知りたいと思ったもう一つの理由は、『氣とは何だろう』という疑問に関して、「氣」を知るためには量子力学との関係を酵素の視点から探る必要があるのではないかと考えたためです。
なお、酵素は、サイトカイン、ホルモンと同じく生理活性物質という大きな枠組みの中に分類されていますが、その機能、作用範囲、構造には明確な違いがあるとされています。
目次
はじめに
序章 栄養学から見た病気の原因
●「何を食べてもいい」というダメ医者
●西洋医療の限界
●糖尿病患者の急増が示すもの
●なぜ、キャベツで喘息が治ったのか
第1章 ここまでわかった!酵素の謎
●三大栄養素の役割
●体は、栄養素だけでは動かない
●100兆個の体内細胞が必要とする酵素
●酵素の役割
●酵素は、血液型を変えられる!?
●酵素の中身
●酵素の種類
●ひとつの酵素が行う、ひとつの作業
●酵素の寿命
●酵素は、一定量しか作れない
●白髪が生える理由と酵素の関係
●人間の酵素貯蔵量は何年あるか?
●酵素の補佐役、ビタミンとミネラル
●ノーベル賞受賞で誤解された酵素栄養学
●酵素研究が50年遅れた理由
第2章 人体における酵素の働き
●消化酵素と代謝酵素
●どんな食物を食べても、消化酵素しだい
●草しか食べない牛が筋肉を作れる理由
●肉しか食べないライオンのビタミンC補給
●消化酵素の浪費で起こる危険なこと
●酵素を消耗させる食生活
●生存活動すべてにかかわる代謝酵素
●酵素がなければ、エネルギー回路も動かない
●酵素がなければ、活性酸素も除去できない
●日本人が酒に弱い理由
●暴飲暴食しても平気な人が持つ酵素
●健康診断のγ-GTPも酵素だった!
●毒ガス・サリンと酵素の働き
●代謝量が多いほど短命になる
第3章 酵素を減らす加熱食の危険性
●縄文人の長寿を支えたもの
●動物園の死亡率を改善させたエサ
●動物実験で示された、酵素の力
●アメリカで、アフリカで、北極圏で起きていること
●長寿村の食事と短命村の食事
●50度洗いも、冷凍も、酵素を利用している!
●動物が生ものしか食べない理由
●人間にも、胃がふたつある!?
●膵臓が肥大化し、脳が小さくなった人間
●焼き魚に大根おろしを添える科学的根拠
●優れた食材・果物の力
●がんと酵素の関連性
●人間を健康にする食品の条件
●病気治療に使われてきた「酵素食」
●生食と加熱食は、6対4の比率で
●酵素栄養学から見た、和食の効能
第4章 根本原因はここにあった!腸と腸内細菌
●“第二の脳”腸の役割
●私が抗がん剤を使わない理由
●すべての病気は消化不良から
●「リーキ・ガット症候群」
●腸内で起こる四つの現象
●窒素残留物と二次胆汁酸が一緒になると……
●新説・腸内細菌の酵素は体外酵素である!
●肝臓に匹敵する、腸内細菌の働き
●がんと食物繊維の関係
●健康のカギを握る「短鎖脂肪酸」
●二十一世紀に解明、短鎖脂肪酸の働き
●糖質制限ダイエットの危険な落とし穴
●明治時代、ドイツ人医師が感嘆した日本の食事
●腸は、人体の「外」にある!?
●胃薬を長期間飲み続けると……
●小腸がんが最近、増えている理由
●体を冷やすと、がんになりやすい
●小腸にある「腸管免疫」を活性化させる
●免疫力は、便で判断できる
第5章 体を蝕む酵素を減らす食事
●肥満者が短命になる理由
●人間を老化させる三つの原因
●植物性だけでなく、動物性食品も必要な理由
●朝食は、軽いほうがよい
●なぜ、食べてすぐ寝ると体に悪いのか
●砂糖が引き起こす、肥満よりも怖い「害」
●日本では“野放し”のトランス脂肪酸
●油の質によって、健康は左右される
●粉末状の食品は、食べてはいけない
●野菜・果物の種は、食べてはいけない
●玄米の毒を取る方法
●薬は、酵素の働きを阻害する
第6章 こうすれば簡単!酵素を摂る方法
●病気の時は、食べないほうがよい
●証明された、少食と長寿の関係
●1日2食で健康になる
●酵素を摂る方法① ジュース
●酵素を摂る方法② すりおろす
●酵素を摂る方法③ 発酵食品
●酵素を摂る方法④ よく噛んで、ゆっくり食べる
●酵素を摂る方法⑤ 良質な水を飲む
●睡眠のふたつの役割
終章 初心者のための鶴見式・酵素断食
●ファスティング(鶴見式・半断食)が体に良い理由
●ファスティングとケトン体
●ファスティングの効能
●ファスティングの注意点
●酵素断食について
●鶴見式・半日断食コース
●鶴見式・1日断食コース
●鶴見式・2日半断食コース
おわりに
体内の「酵素力」判定テスト
参考文献
目次
はじめに
・酵素栄養学は量子力学の範疇で、目に見えないクォークの世界であり、最先端科学である。
・酵素の量は健康、寿命に大きく関係している。
序章 栄養学から見た病気の原因
●「何を食べてもいい」というダメ医者
・多くの医師は酵素だけでなく、栄養学の知識に乏しく食と病気の関係に無関心である。
●西洋医療の限界
・西洋医学の問題は根本の原因を追究しないことである。そのため慢性疾患においては対症療法のため、結果的に薬漬けにつながる恐れがある。
●なぜ、キャベツで喘息が治ったのか
・喘息はアレルギーであり、アレルギーは腸内の腐敗から発症する。毎朝の生のキャベツが腸内環境の改善に大きく貢献したものと考えられる。加熱せず生で食べることが重要なのは、貴重な「酵素」が加熱により失われてしまうからである。
第1章 ここまでわかった!酵素の謎
●三大栄養素の役割
・糖質はエネルギーを産生し、タンパク質は骨格、細胞組織、粘膜粘液の原料になる。脂質もエネルギー源だが、細胞膜など生体膜の成分になる。これらにビタミン、ミネラル、食物繊維を加えたものが六大栄養素といわれ、水を加えて七大栄養素、さらに昨今ではポリフェノールやカロテノイドなどのファイトケミカル(植物中に存在する天然の化学物質、抗酸化力が強い)を加えて八大栄養素ともいわれている。
●体は、栄養素だけでは動かない
・代謝とは「エネルギーの生産と消費」、大きく分けると「異化」と「同化」である。前者は物質をバラバラに分解してエネルギーを取り出すことであり、後者はエネルギーを使って器官や組織を組み立てること、体の部品を作り出すことである。
・生命エネルギーとは、炭水化物や脂肪、タンパク質によって生じる化学反応で、ある物質がほかの物質に変わるという化学反応こそが生命の正体である。
・ヒトの体は生命のための一大化学工場である。
●100兆個の体内細胞が必要とする酵素
・化学反応のためには仲立ちする「触媒」の力を借りなければならない。その触媒こそが「酵素」である。
・三大栄養素が車のガソリンとすれば、酵素はバッテリーのような存在である。
・酵素は、まさに「生命の命」(酵素研究の祖エドワード・ハウエル博士の言葉)そのものである。
●酵素の役割
・触媒とは、それ自身は変化せず、接触する周囲の物質の化学反応を早める物質である。
●酵素の中身
・『酵素がほかのタンパク質と違うのは、酸素には活性の中心と呼ばれる「穴」があり、そこにほかの物質をとらえ、分解や合成などの化学反応をすばやく起こさせる不思議な力があることです。この働きが、さきほど説明した触媒作用です。』
・酵素は条件によって活性・不活性が決まるもので単なる触媒ではない。
●酵素の種類
・体内での酵素の働きは2つ、「消化酵素」と「代謝酵素」。更にもう1つあり、それは生の食物の中に含まれる「食物酵素」である。
●ひとつの酵素が行う、ひとつの作業
・酵素の大きさは、その種類によって大きく異なるが、ほぼ5~20ナノメートルである。形状は球状で、形を頻繁に変え絶えず動き回り衝突して変化する。
・酵素の反応速度は非常に速く、1マイクロ(1/100万)秒ごとに衝突を繰り返している。ひとつの酵素が1分間に合成もしくは分解する分子の平均数は3600万回。なかには、1分間の化学反応が4億回にのぼる酵素もある。
・様々な代謝活動を行っている肝臓の場合、各細胞には数百種類もの酵素があり、それぞれが1秒間に100万回、その作業を行っている。
・酵素は何種類もの化学反応をかけもちできず、ひとつの酵素が触媒として働ける化学反応は、通常1種類だけである。
●酵素の寿命
・体内では毎日、多種多様な酵素が生産されている。
・酵素は細胞の中で作られる。細胞核にあるDNAがどの酵素を作るかを計画し遺伝子が作る。
・ひとりの人間の細胞を作るために約13,000種類の酵素が使われている。そのなかで、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ酵素)だけで9000種類以上ある。なお、体内の酵素の量は膨大である。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
現在の種類の数ですが活性エントリーは6,885でした。なお、この表には、「暫定的な件数」、「現在は非活性とされている件数」、また、「再分類や統合によって変更された件数」とあり、時間とともに数字は変化しています。
・酵素の寿命(耐用期間)は鋳型の穴が潰れ、仕事ができなくなった時である。短いもので数時間、長くても数十日で消滅すると考えられている。
・酵素はアミノ酸に分解されてから再び吸収され、新しい酵素やタンパク質を作る原料になる。一部分を入れ替えながら絶えず新しい酵素を作り続けている。ただし、酵素製造能力にも限界がある。20歳をピークに、年齢を重ねるごとに少しずつ減っていき、40歳を越えると急激に減少する。
・若い時に比べ、睡眠を十分にとっても疲れがなかなか取れないのは、体内の酵素の製造能力が落ちていることと、日々の生活のなかで体内酵素の使い過ぎで代謝酵素の働きが落ちていることも関係している。
●酵素は、一定量しか作れない
・酵素は毎日作られているが、酵素の生産量は個体差が大きい。これはDNAと深い関りがあるからだと考えられる。
・『生まれたばかりの新生児には、高齢者の数百倍の酵素が存在するといわれています。生まれた時に与えられた、一生で一定量しか作られない酵素の生産能力を、毎日の生活のなかで使って老化し、ついには病気になり、そして死んでいくのが私たち人間です。だからこそ、その生産能力の無駄遣いをしないことがとても重要になってきます。』
・酵素は年齢によって、その活性は低下する。
●人間の酵素貯蔵量は何年あるか?
・鶴見先生は人間の「酵素貯蔵量」は150歳分くらいあると考えられている。ただし、これはあくまで無駄遣いをしなければというのが前提である。
●酵素の補佐役、ビタミンとミネラル
・ビタミン、ミネラルは三大栄養素に次ぐ重要な栄養素であるが、複合酵素(タンパク質と非タンパク質の補酵素と補助因子が結合した酵素)は酵素がなければ体内で働くことはできない。補酵素はコエンザイムと呼ばれている。
・水溶性ビタミン(特にビタミンB群)は体内の代謝にかかわる補酵素の材料として重要な生理機能を持っている。ビタミンB1は糖代謝の補酵素、ビタミンB6はアミノ酸やタンパク質の補酵素、ナイアシンは酸化や還元などの脱水素酵素として働いている。
・ミネラルは補助因子で金属酵素(メタロエンザイム)と呼ばれ、生命現象の重要な役割を担っている。
・ビタミンもミネラルも補因子だが、六大栄養素とされている。一方、主役である立場の酵素は9番目の栄養素とされていることを考えると、いかに酵素の研究が遅れていたのかを物語っている。
●ノーベル賞受賞で誤解された酵素栄養学
・最初の酵素の発見は、1833年、デンプン分解物質のジアスターゼと名付けられた。これが消化酵素のアミラーゼである。タンパク質分解酵素のプロテアーゼに属するペプシンは1836年に発見された。
●酵素研究が50年遅れた理由
・一つは、酵素の結晶がタンパク質だったためタンパク質と規定され、タンパク質を摂取すれば酵素も摂れると考えられてしまった。さらに、タンパク質は無限に作り出されるという誤解もあって研究の遅れにつながった。
・酵素は体内で行われる消化作業と代謝作業の主役である。
第4章 骨
●若さを保つ!全身に語りかけている骨
・骨が出すメッセージ物質はマイオカイン同様、最先端の研究分野となっている。骨のメッセージ物質の代表的なものが「オステオカルシン」である。
●骨の中で生きている数々の細胞たち
・爪や髪、皮膚などの新陳代謝と同様に、内臓でも硬い組織の骨でも起きている。骨は「破骨細胞」が骨を溶かし、「骨芽細胞」が骨を作る。両者のバランスが崩れ、破骨細胞の働きが優位になると骨はスカスカになって骨粗鬆症になる。
●衝撃センサーとしての骨
・骨の中の「破骨細胞」、「骨芽細胞」、「骨細胞」という3種類の細胞は互いにメッセージ物質を出し、ネットワークを作っている。その中心が「骨細胞」で「スクレロスチン」というメッセージ物質により、骨芽細胞が骨を作り過ぎないようにコントロールしている。
・骨芽細胞は骨にかかる衝撃を感じ取るセンサーの働きがあり、スクレロスチンの放出量を変えている。つまり、骨の働きを維持するには骨への刺激量が必要だということである。
・筋肉を動かすこと、骨に衝撃を加えること、これは運動することが筋肉と骨を健康に保つことを意味している。
●長生きするにはどうすればいいか?
・『人体は進化の過程で、次世代の役に立つ行動していると長寿になるよう、プログラムされている。これは進化の仕組みから導き出される当然の結論です。そうだとすると、「運動すると長寿になる」ことの根本も、ここにあるではないかと思えてくるのです。』
・『カロリーを抑制するとなぜ長寿になれるのか? 人に分け与える優しさ、そんなものも、なんらかの形で測られている可能性があるのです。』
●人体は「ネットワークのネットワーク」である
・ネットワークは臓器同士だけでなく、臓器の中にも細胞たちが語り合う複雑なネットワークが存在する。
●ネットワークの真の姿
・腎臓から骨(赤芽球)へ、骨から肝臓へ、肝臓から腸へというように情報が次々にリレーされ広がっていく。
・『複雑で巨大なネットワークである人体においては、ある場所で何かが起きると、その影響は全体に広がっていく。それによって人体が適切な状態に保たれる。これが神秘の巨大ネットワークの真の姿だと言えると思います。』
第5章 腸
・腸は細菌たちを養い、人体のネットワークに参加させている特別な臓器である。腸内細菌は消化吸収の手助けだけでなく、さまざまな物質を出している。これらの物質は腸から血液中に入り、人体のあちこちで受け取られている。これらもメッセージ物質として働いている。
・腸内細菌全体(「腸内フローラ」と呼ぶ)を一つの「臓器」だと捉える科学者も増えてきている。
●現代人を悩ませる病気はすべて「免疫の暴走」から!?
・腸は全身の免疫細胞(白血球)の7割が集まる、「免疫の臓器」でもある。
・腸は免疫細胞にとって特別な場所である。例えば、「パイエル板」では腸内の細菌を捕まえてきて、免疫細胞たちに接触させる。こうして未熟な免疫細胞を教育する。つまり、腸は「免疫の訓練場」、あるいは「教育機関」ともいうべき場所なのである。
画像出展:「免疫反応の起点 パイエル板」(乳酸菌生成エキス研究室)
『腸で多くの免疫の働きを担っているのが、小腸下部の回腸にある「パイエル板」という組織です。「パイエル板」は小腸の絨毛の間に存在するリンパ小節が集合した腸管特有の免疫組織です。下画像の平らな状態の部分で、そのうえには薄い粘液があり、病原菌をそのまま細胞内に取り込みます。』
●免疫はなぜ暴走するのか?
・免疫細胞は外敵に対し、警告サインの炎症性サイトカインを出して仲間を呼び、その仲間もさらに炎症性サイトカインを出すことで、瞬時に集まった炎症性サイトカインは免疫細胞を活性化させ、増殖させ、攻撃に駆り立てる。いったん火がつくと、一方向に突っ走る。これにより外敵を排除するが、その動きは暴走の危うさを内在している。
●アレルギーを防ぐ、なだめ役「制御性T細胞」
・T細胞は免疫細胞(白血球)の中でも中枢を担っている。「ヘルパーT細胞」は攻撃の司令塔、「キラーT細胞」は特攻隊である。一方、攻撃を止めさせるT細胞もいる。それが「制御性T細胞」である。
・「ヘルパーT細胞」と「制御性T細胞」は「ナイーブT細胞」という未成熟なT細胞から分化するので、この2つのT細胞は兄弟のような関係である。
●「なだめ役」が生まれる驚きの仕組み
・「ヘルパーT細胞」になるか「制御性T細胞」になるかは、腸内細菌が出す「酪酸」という物質が関係している。なお、制御性T細胞は局所のみならず全身を巡って過剰な炎症反応が起きている場所で、鎮静化のために働く。
●腸の健康が万病を予防する
・免疫に求められることは攻撃力だけではなく、攻撃すべき相手をしっかり攻撃し、不必要な攻撃はしない「調整力」を上げることが必要である。その方法は見つかっていないが、「免疫の臓器」の腸の健康を維持することが重要であり、また、食生活に注意することが大切である。
第6章 ネットワークと病気
・「免疫の暴走」の背景には、食生活の激変と感染症の脅威の激変があると考えられる。
●人体のネットワークは「クモの巣」のようなもの
・ネットワークには「引き戻す仕組み」がある。これは上昇した血圧をメッセージ物質のANPが血管を拡げ、ANPを受けた腎臓は尿として水分を排出することにより血圧を下げる。あるいは酸素不足があれば腎臓がエポ(エリスロポエチン)というメッセージ物質を出し、それを受け取った骨髄が赤血球を増やし、全身の酸素の供給を回復させるといった仕組みである。
●病気とは人体のネットワークの変化である
・『「引き戻す力」によって構成されている人体のネットワークは、外部から力がかかった場合(たとえば、食べ過ぎ)、しばらくの間はネットワーク全体で受け止めるため、何の変化もありません。しかし、それが続くと、ネットワークの中に「引き戻す力」が効かなくなる部分が現れます(たとえば、レプチンが効かなくなる)。すると、ネットワーク全体の形が少し変わります(肥満になる)が、まだ大きな変化ではありません。ところが、さらに力がかかり続けていくと、加速度的に変化が広がっていき、最後には重要な結節点が壊れて(膵臓がインスリンを出さなくなっていく)、ネットワークが崩壊するのです。』
・『「病気とは何か?」の大きな捉え方として、「病気とは、人体のネットワークの変化である」ということを感じて頂ければと思います。これが病気の本質なのです。』
●病気の本質を知ることの意義
・一般的に病気は健康診断の数値や微妙な体調の変化などで知ることができる。ところが多くの場合、病気とはほど遠いもののように思われ、「まだまだ大丈夫」と思ってしまうものである。しかしながら、この状態は「少々のことならネットワークが全体で吸収し、元の状態に引き戻してしまうはずなのに、それができなくなっている」ということを意味し、まさにネットワークの形が変わり始めた証拠である。大事なことは、この段階で対処するということである。
●東洋医学の再評価
・『人体をネットワークとして捉える考え方は、東洋医学が、はるか昔から培ってきた人体観に通じるものがあります。東洋医学的には、「未病」という考え方があり、病気になってから治すのではなく、病気になる前に治すことを目指すとされます。また、「病気を診る」のではなく「人を診る」という立場を取ります。病気が時間的、空間的に広がりを持っていることを、しっかりと意識しているのです。
西洋の医学は、分析的手法で発展してきました。人体を解剖し、それぞれの臓器の役割を一つひとつ明らかにしました。薬を作るときも、一つひとつの成分を抽出して効果を確かめ、必要なものだけに絞り込みます。これは合理的で間違いの少ない手法ですから、大きな成果を上げてきました。
一方、東洋医学は、こうした分析的な手法を取りませんでした。臓器ごとに考えるのではなく、人体の中のつながりを重視します。薬草から一つの成分を取り出すのではなく、生薬としてそのまま使い、むしろ、いくつもの生薬を複合することで薬とします。
西洋医学が分析的(アナリティック)なら、東洋医学は全体的(ホリスティック)だと言えるでしょう。これらはどちらも大切なアプローチです。西洋医学が、臓器から細胞へ、細胞から分子へと、より小さな領域へ分析を進めていった終着点で、全体を見ることの大切さに行き着いたことは、非常に興味深いことです。』
第7章 ネットワークのさらに奥へ
●腎臓が固くなる本当の理由
・慢性腎臓病になると、腎臓の中で「固くなった細胞」がたくさん現われる。これが進行すると次第に腎臓全体が固くなり、機能を大きく低下させる原因になる。これが線維化である。
・線維化の役割を研究した結果、固くなった細胞が「レチノイン酸」という物質を出しており、これが近くの傷害を受けた細胞に届くと、修復を速めるメッセージとして働くことが分かった。これにより線維化には意味があり、絶対悪ではなかったことも分かった。
・傷害の程度が軽く、修復が順調に進めば固くなった細胞が元に戻ることも明らかになった。しかし、傷害の程度が重いと修復はなかなか進まず、固くなった細胞がどんどん増えて、いつしか腎臓全体の機能低下を招くことになる。つまり、腎臓の中にある、細胞同士のネットワークにおいて、線維化は傷害を「引き戻す力」として働いているものの、治しきれないほどの傷害を受けた時、ネットワークは壊れ、病気へとなる。
画像出展:「腎障害における線維化の正の側面の発見 -線維化が腎臓を修復する-」(京都大学)
『慢性腎臓病が進行すると腎臓の「線維化」が認められるため、従来は「線維化」が腎機能を低下させると想像されていました。~中略~ 本研究では、尿細管にはもともと自分自身を修復する「レチノイン酸」の合成能があること、尿細管が障害されるとその合成能が失われる一方で、障害尿細管の周囲の線維芽細胞がレチノイン酸産生能を獲し、障害尿細管の修復を助ける可能性を発見しました。』
第8章 脳
●全身のメッセージを意図的にブロックする仕組み
・脳は支配者ではないが、人体のネットワークの中で非常に特別な存在である。
・脳以外の血管には穴があり、血液は血管外にしみ出していくような構造になっている。そのため、栄養素やメッセージ物質を効率よく組織に届けることができる。
・血液脳関門に単なる物理的な壁ではなく、血液中の物質を選択して通す仕組みである(以前は分子の大きさと考えられてきた)。
●血液脳関門はなぜ必要か?
・ほとんどのメッセージ物質は血液脳関門によってブロックされ、脳の神経細胞には届かない。これは他の臓器からのメッセージをブロックしなければならないためである。
●神経細胞ネットワーク
・脳のなかは1000億個とも言われる神経細胞が網の目を作っている。その神経細胞のネットワークは電気信号だけはなく、神経細胞同士をつなぐ接続部分(シナプス)には隙間(シナプス間隙)があり、その接続には神経伝達物質と呼ばれるメッセージ物質が関与している。シナプスを行き交う神経伝達物質には様々な種類がある。これにより脳は別次元の複雑さを生み出すことができるのである。ヒトはそれを「思考」と呼び、そこに「意思」を見いだす。
●雑音がない静謐な空間
・血液中に含まれている全身の臓器からのメッセージ物質が、もし無制限に脳の神経組織に入ってきたとすれば、脳は混乱し機能は停止してしまう恐れがある。脳は外からの雑音が少ない空間でなければならない。つまり、神経細胞がいる領域から不必要な物質を排除し、脳の思考を守っている仕組みが血液脳関門だと考えられるのである。
●創造性、自主意志、ひらめき
・神経細胞間のシナプス間隙を行き交う様々な神経伝達物質の量は毎回異なるものである。そのため、細胞同士の会話には「まったく同じこと」は二度と起きない。これが脳の思考の柔軟性につながっている。
・ヒトの脳は集中しているときよりも、ぼーっとしている時の方が、脳内の広い領域をつないでいるネットワークは活性化している。ヒトが意識して何かを考えている場合、それは一部だけでなく、神経細胞同士の会話は意識の外でも常に行われている。そして、無意識に行われる細胞の会話にこそ、「ひらめき」の素が潜んでいる。「ある日突然ひらめいた」と思ったことも、実は、脳の神経細胞は密かに会話していたことかもしれない。
●「脳の細胞は一度死ぬと、復活しない」は本当か?
・脳の神経細胞は大人になっても、日々新たに生まれている。特に記憶を司る「海馬」では1日700個ほどのペースで神経細胞が生まれ続けていると推定されている。なお、この数は決して少ない数ではない。
第9章 生命誕生
●細胞のネットワークが人体を作る
・生命誕生は正確無比な細胞分裂によって進んでいくが、これは人体の究極の謎といえる。しかしながら、明らかなことがある。それは、どこかに人体を作り上げる司令塔がいるわけではなく、細胞たちが当たり合うネットワークによって、人体は作られるということである。
第10章 健康長寿
●人体は神秘の巨大ネットワークである。
・『人体のネットワークのつながりは、いま全体の何パーセントぐらいが解明されているのでしょうか?
つい最近まで「ゴミ箱」だと思われていたエクソソームが、別次元の情報伝達手段だったことがわかりました。実は、エクソソームと似ているけれど少し違う、細胞が出すカプセル状のものはいくつも存在しています。「マイクロベシクル」や「アポトーシス小体」と呼ばれるものです。これらも、情報伝達に使われていることがわかってきましたが、詳細が明らかになるのは、まだまだこれからです。
また、本書ではあまり触れられませんでしたが、「自律神経」のネットワークも、古典的な研究をはるかに超える、複雑な情報伝達の経路になっていることがわかってきています。こちらも研究が進められている真っ最中です。
そして、これから先に、もっと別次元の情報伝達手段が発見される可能性もまったく否定できません。なにしろ人体の中には、「ゴミ」と片付けられているものが、いまでも山ほどあるからです。
人体のネットワークの全容は、まったく見えていません。全体の70パーセントぐらいまでわかったのかもしれませんし、もしかすると、ほんの数パーセントなのかもしれません。いったい、どこまで広がり、どれほど複雑なネットワークなのか?それすらも、謎に包まれています。
人体は、神秘の巨大ネットワークである。これはまぎれもない真実です。そして、その探求の歩みは、人類を根源的な問いの答えへ導くとともに、私たちに病を克服する手段を与え、健康長寿をもたらしてくれる』
感想
何が強く印象に残っているのかを思い返してみると4つのことが頭に浮かびました。
1.メッセージ物質とは
・メッセージ物質は、臓器・細胞同士がコミュニケーションに使う物質を総称しています。科学用語で言うと、ホルモン、サイトカイン(細胞間情報伝達物質)、神経伝達物質など、さまざまな呼び方をすべて含むものです。取材途中の段階では、「細胞間のシグナル伝達を担う物質」を略して「シグナル物質」だったそうですが、最終的に「メッセージ物質」という番組固有の名称に変更したとのことでした。そのメッセージは“指令”ではなく“つぶやき”に近いものです。
2.臓器ネットワークの中の脳の存在感
・臓器同士、さらには細胞同士の間を様々なメッセージ物質が行き交う命の現場において、脳はメッセージ物質を取捨選択し不要なメッセージ物質を排除しています。これを担っているのが血液脳関門です。この働きにより脳が情報の渦に巻き込まれることなく、雑音がない静謐な空間を作り出すことにより、脳の思考を守っています。「臓器ネットワーク」や「第二の脳」ということを考えると、脳は生命を司るすべての司令塔とはいえませんが特別な存在です。本書にあった次の文章が印象的でした。『さすがは脳、やたらに他の臓器の言うことを聞いたりしない「孤高の存在」という感じがしてきます。』
3.腎臓も修復しようと努力している
・一般的に腎臓は不可逆性の臓器とされています。
<腎臓の不可逆性>
-腎臓の機能低下は、一般的に不可逆的なプロセスとして認識されています。つまり、一度損傷を受けた腎臓の機能は、完全には元に戻らないということです。
-腎機能は、健常者でも加齢に伴い経年的に低下していきます。CKDによる腎機能の障害は不可逆性のため、治療の主な目的は、現在の腎機能をできるだけ維持し、その後の腎機能低下のスロープを緩やかにすることです。
<レチノイン酸>
-本書の中で紹介されている“レチノイン酸”が腎臓の機能回復のためのメッセージ物質です。ただし、腎機能が完全に戻るということではなく、AIの指摘通り、「進行を遅らせることが可能である」というものです。
そのメカニズムは線維化により固くなった細胞が「レチノイン酸」という物質を出し、これが近くの傷害を受けた細胞に届くと、修復を速めるメッセージとして働きます。傷害の程度が軽く、修復が順調に進めば固くなった細胞は完全とはいえないまでも戻ります。しかし、傷害の程度が重いと修復はなかなか進まず、固くなった細胞がどんどん増えて、いつしか腎臓全体の機能低下を招くことになります。
元に戻るわけではないが、改善させることは可能であり、それは線維化されてしまった細胞から発するメッセージ物質の“レチノイン酸”による働きであるということが分かったことは、大きな収穫でした。
4.血管は人体の「情報回線」だった
この4番目が今回の1番の発見でした。
・『臓器たちが語り合う体内ネットワークで「情報回線」にあたるのは何なのかということです。インターネットならば、世界中をつなぐ光ファイバーケーブルがあり、その中を情報が駆け巡っています。では、体内ネットワークでメッセージ物質を運んでいるのは何か?それは「血管」であり、中を流れる「血液」です。』
・「情報回線」と言われて、最初に思い浮かぶのは“神経系”です。しかしながら、「神経はすべての細胞につながっているわけではありません」。一方、血管もすべての細胞に直接つながっているわけではないのですが、血液を通して運ばれる物質は、ほぼすべての細胞に行き渡るようになっており、人体に張り巡らされた血管網は、総延長およそ10万キロメートル、地球を2周半するほどの長さがあります。酸素と栄養素が血液によって運ばれるのは周知の事実ですが、さらに今回、様々なメッセージ物質が血管という臓器ネットワークを介して行き交っていることを知りました。
・酸素、栄養素、各種メッセージ物質を体内に行き渡らせ、しかも網羅性に関しては神経系を凌駕している“血管”は体内の「情報回線」に相応しい生命のインフラだと思います。神経系と血管の違いについて、本書では次のような説明がされています。『たとえるならば、神経系は固定電話のようなもの、家や職場につながっていますが、個人にはつながりません。一方の血管は、インターネットです。スマホやパソコンを通して、一人ひとりにつながります。』
・“神経系”は中枢神経(脳・脊髄)と末梢神経(運動神経・感覚神経・自律神経)のネットワークで、脳が大きく関与しています。一方、“血管”は脳も関与していますが、それ以上に各臓器・各組織を結びつける臓器ネットワークです。表裏一体、この2つのネットワークはいずれもなくてはならない存在です。
画像出展:「命を支える神秘の巨大ネットワーク “メッセージ物質”が医療を変える!」(NHK)
『まず何より目を見張るのは、格段の進歩を遂げたさまざまな映像技術です。これは、「光超音波3Dイメージング」という最先端の手法によって撮影された、手の血管網です。太さわずか0.3ミリの微細な血管まで、ありありと映し出されています。』
前回のブログは脳腸相関に関するものでしたが、今回は臓器全体です。2017年10月にNHKで放送された“命を支える神秘の巨大ネットワークメッセージ物質が医療を変える!”はその後、書籍となって出版されました。
「臓器同士が会話をする」という発想は東洋医学の臓腑の考え方に近いものです。また、東洋医学における“腎”は、西洋医学の“腎臓”に対する一般的な認識(尿を作る臓器)に比べ、その存在は明らかに大きなものと考えられています。そのため、第1回の放送のテーマが“腎臓”で、かつ「腎臓が寿命を決める」という見出しのインパクトの大きさに押されて、思わず購入してしまいました。
“シリーズ 人体 神秘の巨大ネットワーク 第1集 “腎臓”が寿命を決める”
『浮かび上がってきたのは、腎臓が体中に情報を発信しながら、さまざまな臓器の働きをコントロールしているという驚きの姿。腎臓を操れば、脳卒中や心筋梗塞の原因となる重症の高血圧を一挙に改善したり、多臓器不全を未然に防いだりという驚きの成果も報告されている。さらに「健康長寿のカギ」となる「ある物質」を、腎臓が調整していることまで明らかに。ミクロの体内映像やフル4KCGを駆使して、腎臓の驚異的なパワーに迫る。』
今回、拝読させて頂いた新書は、すべての放送の内容をまとめたものです。おさらいという意味もあり、また全体を通して考えることで新たな発見があるのではないかと思いました。そして、西洋医学が語る“臓器ネットワーク”というものがどんな内容であるのか詳しく知りたいと思いました。
目次
はじめに
第1章 人体は神秘の巨大ネットワークである。
●人体には「メッセージ物質」があふれている
●元祖メッセージ物質「ホルモン」
●ホルモンは「タテ社会」の仕組み
●時代のさきがけとなった「伝説の科学者」
●心臓がホルモンを出していた!―ANPの発見物語
●ANPは何を伝えるメッセージ物質なのか?
●なぜ心臓が利尿ホルモンを出すのか?
●血管は人体の「情報回線」だった
●がんとANP―驚きの発見
●心臓ホルモン「ANP」の新たな働き
●なぜ血管の内側を「常に」きれいにしておかないのか?
●メッセージ物質は「指令」というより「つぶやき」
●なぜ心臓は、がんになりにくいのか?
第2章 腎臓
●高地トレーニングは腎臓を鍛えている!?
●腎臓が出すメッセージ物質「エポ」の働き
●腎臓は常にメッセージを出している
●人工的なエポを使ったドーピング
●腎臓は血圧も調節している
●腎層は「血液の管理者」だ
●血液のあらゆる成分を調節する腎臓
●腎臓は毎日180リットルの尿を作る!?
●血液の管理、カギは「再呼吸」
●腎臓は「尿を作る臓器」ではない!
●腎臓が寿命を決める
●謎の老化加速マウス―原因は腎臓だった
●腎臓は体内のネットワークの「要」である
●他人から移植された腎臓でも、臓器同士の会話はできるのか?
第3章 脂肪・筋肉
●マンハッタンの研究室
●レプチンを使ってやせられるのか?
●「お腹が空いた」と知らせるメッセージ物質もある
●肥満はなぜ、体に悪いのか?
●あらゆる生活習慣病の原因となる「慢性炎症」の恐怖
●動脈硬化はなぜ起きる?
●なぜ脂肪細胞は炎症性サイトカインを出してしまうのか?
●健康のカギ―筋肉が出すメッセージ物質
●運動すると大腸がんが予防できるのはなぜ?
●IL6が慢性炎症を抑える!?
●メッセージ物質は「文脈で」意味が変わる
●脂肪・筋肉のメッセージからわかる病気と健康の綱引き
第4章 骨
●若さを保つ!全身に語りかけている骨
●骨の中で生きている数々の細胞たち
●衝撃センサーとしての骨
●補足・「活動的な個体を生き残らせる」とは?
●長生きするにはどうすればいいか?
●人間は長生きしていい!
●「利己的な遺伝子」への誤解
●探検! 骨髄ワールド
●メッセージ物質を利用する骨髄移植の新方法
●造血幹細胞のすごさ
●補足・人体の細胞は37兆個、は本当か?
●働く細胞たちの「細胞社会」
●造血幹細胞は旅をする
●ニッチとは何か?
●造血幹細胞ニッチ
●人体は「ネットワークのネットワーク」である
●ネットワークの真の姿
第5章 腸
●現代人を悩ませる病気はすべて「免疫の暴走」から!?
●免疫はなぜ暴走するのか?
●アレルギーを防ぐ、なだめ役「制御性T細胞」
●「なだめ役」が生まれる驚きの仕組み
●アレルギーや自己免疫疾患を防ぐ腸内細菌のパワー
●腸内フローラを変える方法
●時代の変化は免疫細胞にも押し寄せている
●腸の健康が万病を予防する
第6章 ネットワークと病気
●人体の強さの秘密はどこにあるのか?
●人体のネットワークは「クモの巣」のようなもの
●ネットワークは「全体で受け止める」
●ネットワークは肩代わりしてくれる
●体重をコントロールするネットワーク
●「引き戻す力」は肥満を維持する!?
●メタボリック・シンドローム再考
●病気とは人体のネットワークの変化である
●病気の本質を知ることの意義
●病気には空間的な広がりがある
●東洋医学の再評価
●「健康とは何か?」を研究する時代
第7章 ネットワークのさらに奥へ
●ネットワークは壊れているのか? それとも……
●腎臓が固くなる本当の理由
●ネットワークでは「なぜ?」を考えることで新発見がある
●細胞に「意思」はあるか?
●地球と月の不思議な関係
●細胞の中にも、巨大ネットワークがある
●細胞には意思がある、でも……
●補足・惑星と衛星の複雑な関係
第8章 脳
●全身のメッセージを意図的にブロックする仕組み
●血液脳関門はなぜ必要か?
●神経細胞ネットワーク
●雑音がない静謐な空間
●創造性、自主意志、ひらめき
●認知証治療への新たな挑戦
●「脳の細胞は一度死ぬと、復活しない」は本当か?
●やはり、人間は長生きしていい!
第9章 生命誕生
●たった一つの受精卵に秘められた力
●iPS細胞発見の意義
●iPS細胞を使った研究―科学者たちは何をしているのか?
●細胞のネットワークが人体を作る
●「肝臓オルガノイド」の誕生
●シンプルな仕組みが複雑なものを生み出す
●ドミノ式全自動プログラム
●「引き戻す力」と「導く力」
●生命誕生を遺伝子の仕組みで説明すると……
●細胞はグレているわけではない!
●大切なのはDNAか、細胞か?
第10章 健康長寿
●改めてメッセージ物質とは何か?
●別次元の情報伝達手段―エクソソームとは?
●メッセージを悪用するがん細胞
●がんと闘うためにエクソソームを活かす
●ゴミだと思われていたエクソソーム
●健康長寿について考える
●理想の死に方は、ネットワークがカギ?
●目指すべきは、「ピンピンコロリ」
●生命の本質は「つながっていること」にある
●人体は神秘の巨大ネットワークである。
謝辞
おわりに
はじめに
・これまで人体は「脳」が全身を支配し、臓器は脳に従っているというイメージがあった。しかし今では、臓器同士は脳を介さず連携しているという考え方に変化してきている。
第1章 人体は神秘の巨大ネットワークである。
●人体には「メッセージ物質」があふれている
・体内のネットワークは臓器から臓器、細胞から細胞へと情報を伝えている。
・メッセージ物質は一般的な用語ではない。
・『番組および本書で「メッセージ物質」と呼んでいるものについて、改めて説明しておきたいと思います。メッセージ物質は、もともとある科学用語ではなく、番組が説明のために作った言葉です。なぜわざわざ新しい用語を作ったのかというと、ぴったりする科学用語がまだなかったからです。
メッセージ物質は、臓器・細胞同士がコミュニケーションに使う物質を総称しています。科学用語で言うと、ホルモン、サイトカイン(細胞間情報伝達物質)、神経伝達物質など、さまざまな呼び方がされるものをすべて含む、大きなくくりです。総称せずに、一つひとつ呼び分けていくこともできましたが、たとえば、脂肪細胞が出すレプチンなどは、「ホルモン」と書いてある教科書もあれば、「サイトカイン」と書いてある論文もある、といった具合に境目がはっきりしないため、どちらを選ぶか難しい面がありました。
もし、生真面目な学生さんが「レプチンはサイトカインですか? ホルモンですか?」と聞いても、誰もどちらとは答えにくいと思います。研究分野ごとにだいたい決まった慣例的な呼び方をしますが、本質的な違いというより、単なる「流儀」であるようです。
メッセージ物質に最も近い科学用語としては「メディエーター」があります。ただ、これもまた定義が曖昧な部分がありますし、一般的には理解が難しい言葉でもあります。
そして、番組ではエクソソームの中の「マイクロRNA」など、最近見つかってきた情報伝達手段も包含するような、広い意味を持った言葉を使いたいと考えました。すると、なかなかぴったりする表現がなかったのです。
取材途中の段階では、「細胞間のシグナル伝達を担う物質」を略して「シグナル物質」という、もう少し科学っぽい名前で呼んでいました。この言い方は、科学用語の範疇にあり、取材先の科学者と話すには良い言葉でしたが、いざ放送が近くなった段階で、より一般にも親しみがわく「メッセージ物質」にしてはどうかという議論があり、最終的にそこに落ち着きました。
ですから、医師や科学者に「メッセージ物質」と言っても、番組を見た人以外には通じないので、ご注意ください。』
●元祖メッセージ物質「ホルモン」
・ホルモンは甲状腺や性腺など、分泌器官から放出されるものであるが、近年になって「特別な分泌器官ではない場所」からホルモンが見つかり、今では、体中のあらゆる場所がホルモンのような物質を出していることが分かった。
●ホルモンは「タテ社会」の仕組み/時代のさきがけとなった「伝説の科学者」
・大阪北部にある国立循環器病研究センターの寒川賢治研究所長こそが、「人体はネットワークである」というパラダイムシフトのきっかけとなる、重要な発見をした人である。その発見とは「ANP」と名付けられた、「心臓が出すメッセージ物質」を特定したことだった。
●心臓がホルモンを出していた!―ANPの発見物語
・寒川先生は発見したペプチドの働きがなかなか掴めなかったときに、興味深い論文に出合い、「心臓の細胞がホルモンを出しているのではないか?」と考えた。
・当時、ホルモンは内分泌組織から分泌されるものという常識があった。世界に大きなインパクトを与えた論文は1984年だったが、あっけないほどスムーズに進んだのは心臓に存在するANPの量が非常に多かったためだった。
●ANPは何を伝えるメッセージ物質なのか?
・ANPとは「心房性ナトリウム利尿ペプチド」という。心臓が出したANPは、腎臓が受け取り尿の量を増やす効果がある。
●なぜ心臓が利尿ホルモンを出すのか?
・心臓は血液量が多すぎるとポンプである心臓には負荷がかかる。そこで心臓は全身の血液量を減らすためにANPをメッセージとして腎臓に知らせ、体内の水分を尿として排出してもらうのである。血液量が減ると血圧も下がる。つまり、ANPは心臓を楽にするのが働きである。
●血管は人体の「情報回線」だった
・『臓器たちが語り合う体内ネットワークで「情報回線」にあたるのは何なのかということです。インターネットならば、世界中をつなぐ光ファイバーケーブルがあり、その中を情報が駆け巡っています。では、体内ネットワークでメッセージ物質を運んでいるのは何か?それは「血管」であり、中を流れる「血液」です。ANPも、心臓の細胞から放出された後、いったん血液に溶け込み、全身に循環します。そのうちの一部が腎臓に至り、利尿作用をもたらすのです。
人体に張り巡らされた血管網は、総延長およそ10万キロメートル、地球を2周半するほどの長さがあると言われています。血管には、栄養や酸素を全身に運び、老廃物を回収する「輸送路」の役目がありますが、それと同時に、「情報回線」としての役目も担っていたのです。
体の中で、「情報回線」と言えば、もう一つ神経系があります。脳を中心に、運動神経、感覚神経、自律神経が全身に張り巡らされています。しかし、神経はすべての細胞につながっているわけではありません。
では、血管はというと、こちらも直接すべての細胞につながっているわけではありませんが、血液を通して運ばれるメッセージ物質は、ほぼすべての細胞に行き渡るようになっています。血管に直接、接していなくても、血液成分は組織にしみ出してくるからです。
たとえるならば、神経系は固定電話のようなもの、家や職場につながっていますが、個人にはつながりません。一方の血管は、インターネットです。スマホやパソコンを通して、一人ひとりにつながります。』
●心臓ホルモン「ANP」の新たな働き
・ANPには血管を広げる働きがあるが、それに加え、血管の内側をツルツルな状態にする働きもある。前者は血圧を下げる作用がある。後者も心臓を助ける働きをするが、がんの転移を防ぐ働きもある。これは、血管内皮細胞はささくれだっているところがある。ささくれは赤血球をひっかけ血流を悪くするため、血圧上昇、心臓への負担につながる。一方、がん細胞はそのささくれたところから血管の外に出て、周囲の組織に侵入し転移を果たす。
●なぜ血管の内側を「常に」きれいにしておかないのか?
・血管内皮のささくれは、血管内をパトロールしている白血球にとってはフックのような役割をしている。体の中でウィルスや病原菌と闘う白血球は血液の流れに乗って全身を巡り、緊急事態が起きている場所で血管の壁にとりつき、周囲の組織に出て働く。
●メッセージ物質は「指令」というより「つぶやき」
・『ANPの三つの働きが出てきました。腎臓に作用する場合は「尿を増やせ」、血管に作用する場合は「血管を拡げろ」、「血管の内側をきれいにしろ」というメッセージとして働いています。この三つの言葉の表現は、従来のホルモン的な考え方に沿って、「指令」として意味付けたものです。しかし、実際には、メッセージ物質は指令というよりも「つぶやき(ツイート)」と考えた方がより現実に近いような気がします。』
・メッセージ物質を受け取るためのものが受容体である。これはインターネットで言えば、X(ツイッター)の「フォロー」という仕組みにそっくりである。
●なぜ心臓は、がんになりにくいのか?
・心臓が出す大量のANPは、心臓自身にも働きかけているためと考えられる。
第2章 腎臓
●腎臓が出すメッセージ物質「エポ」の働き
・腎臓は体内の酸素不足を監視し、緊急の際にはエポ(エリスロポエチン)というメッセージ物質(「酸素が欲しい」)を大量に出すことで赤血球の増産を促す。これは生命維持に欠かせない重要な働きであるが、脳は関わらず腎臓と骨髄が連携して、独自の判断で行っている。
●腎臓は常にメッセージを出している
・赤血球には寿命があり、およそ4ヵ月で壊れるため、常に補充が必要なため骨髄では毎日、大量の赤血球を作っているがそれをコントロールしているのは「エポ」である。
・赤血球は多ければ良いということではない、多すぎるとドロドロな血液になってしまう。
●腎臓は血圧も調節している
・腎臓が出すもう一つのメッセージ物質は「レニン」であり、その働きは「血圧調節」である。血圧調節は自律神経が関与しているが、腎臓も同じくらい重要な働きをしている。
・「レニン・アンジオテンシン系」と呼ばれる仕組みは、非常に奥が深く、最先端の研究トピックスの一つとなっている。
●腎層は「血液の管理者」だ
・腎臓は血圧調節以外に、「血液の管理者」の働きも担っている。
●血液のあらゆる成分を調節する腎臓
・腎臓は2つ合わせても300~500gの小さな臓器であるが、心臓から出た血液の1/4程が腎臓に送られている。これは腎臓が血液中の成分を一定に保つ仕事をしているからである。
・血液にはナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなどが含まれているが、こうした成分は一定の範囲に収まっていないと生命に関わる事態になる。この血液成分を一定に保つ働きを腎臓が担っている。なお、「尿はすべて血液から作られる」ということを理解しておくことも大切である。
・例えば、バナナに含まれるカリウムは400~500mg、この量が一気に血液に入ってしまうと命に関わる事態になるが、そうならないのは腎臓が余分なカリウムを速やかに排出してくれるからである。
・食物の成分を気にすることなく楽しく食事ができるのは腎臓のおかげである。
●腎臓は毎日180リットルの尿を作る!?
・腎臓の濾過は「糸球体」と呼ばれる毛細血管のかたまりのような器官が行っている。直径約0.2mm、1つの腎臓の約100万個ある。
・濾過で振るい分けられるのは赤血球や比較的大きなたんぱく質などだけで多くの成分は排出される。この尿は原尿といわれる。原尿は1日に180リットル程作られる。これを糸球体の先にある「尿細管」で再吸収する。水分はおよそ99%が再吸収されるので、最終的な尿になるのは1日に2リットル程である。この再吸収の過程でさまざまな成分が調節されている。
画像出展:「腎臓の働きと機能」(こうまつ循環器内科クリニック)
『原尿は1日に150-180L生成され、尿細管で各物質の再吸収、分泌を受けて最終的には原尿の約1%程度(1.5-1.8L)まで濃縮され、尿となり体外に排出されます。残りの99%は再吸収され血液に戻ります。』
●血液の管理、カギは「再呼吸」
・再吸収に関し、尿細管は「近位尿細管」「ヘンレループ」「遠位尿細管」「集合体」と続き、それぞれ特徴的な再吸収が行われる。
・エネルギー源の糖分(グルコース)も捨てられるが大切なのでほぼすべて再吸収される。それ以外の多くの成分は、全身の状況に合わせて再吸収する量が変わる。この判断に関わっているのがメッセージ物質である。
・塩分(ナトリウム)の場合、摂り過ぎは血圧上昇の原因になる。そして、心臓の負担も高まる。そのため、腎臓はメッセージ物質のANPを放出する。ANPは心房性ナトリウム利尿ペプチドで尿を増やすが、その名の通りナトリウムの排出も促す。カルシウムの場合は「副甲状腺」という米粒ほどの小さな臓器からPTHというメッセージ物質が重要な働きをしている。
●腎臓は「尿を作る臓器」ではない!
・腎臓が糖以外のほとんどの成分を一度排出し、その後、回収するというメカニズムは、腎臓の目的はゴミ(尿)を出すことではなく、部屋(血液)を綺麗にすることだからである。つまり、腎臓は尿を作るための臓器ではなく、血液を管理する臓器といえる。
●腎臓は体内のネットワークの「要」である
・腎臓を守る3つの重要点
1)飲水(脱水症状を避ける)
2)薬の飲み過ぎ(腎臓は薬の副作用を受けやすい。特に市販の鎮痛剤)
3)生活習慣
●他人から移植された腎臓でも、臓器同士の会話はできるのか?
・移植した腎臓でも臓器同士の会話は問題ない。それはメッセージ物質がすべての人に共通だからである。
第3章 脂肪・筋肉
●マンハッタンの研究室
・脂肪が出すメッセージ物質は「レプチン」である。働きは「食欲を抑える」ことである。大量のレプチンは脂肪が増えたときに放出され、これを受け取った脳では食欲が抑制される。
・皮下脂肪や内臓脂肪からメッセージ物質が放出されているという事実に世界は驚いた。
●「お腹が空いた」と知らせるメッセージ物質もある
・「グレリン」という胃から放出されるメッセージ物質が、「お腹が空いた」というメッセージである。グレリンは成長ホルモンの分泌も促す。
●肥満はなぜ、体に悪いのか?
・メタボリック・シンドロームの本質は、脂肪細胞が出すメッセージ物質にある。レプチンの発見以降、脂肪が出すメッセージ物質が非常のたくさん見つかっている。これらは「アディポサイトカイン」と呼ばれている。「アディポ」は「脂肪の」、「サイトカイン」は日本語では「細胞間情報伝達物質」と呼ばれ、主に免疫細胞(白血球)がコミュニケーションするためのメッセージ物質を指す言葉である。
●あらゆる生活習慣病の原因となる「慢性炎症」の恐怖
・アディポサイトカインは数百種あると言われ、特に注目されているのが「炎症性サイトカイン」であり、これこそがメタボリック・シンドロームの原因とみられている。具体的には「TNFα」や「インターロイキン」である。メッセージは免疫細胞同士の警告信号のようなもので、「敵が来たぞ!」というサインである。それにより全身性の免疫細胞が活性化される。
・実際にはウィルスや細菌の感染がないにもかかわらず、全身の免疫が過剰に活性化している状態は、「慢性炎症」と呼ばれる。誤解しやすい名称だが、メタボリック・シンドロームを説明する際に広く使われている。
・慢性炎症は局所ではなく全身である。特に血管の中で起きている。
・動脈硬化、糖尿病、高血圧など、最新の研究では、いずれも慢性炎症がきっかけとなっている可能性が指摘され始めている。さらに、がんや認知症などの病気の背景にも深く関わっていることが明らかになっている。
・現代人を悩ませる多くの病気の根っこが、実は一つである可能性がある。
●動脈硬化はなぜ起きる?
・血管にコレステロールが溜まるだけでは動脈硬化は起きない。発症の鍵は、慢性炎症で活性化した免疫細胞である。主に「マクロファージ」と呼ばれる細胞がコレステロールを攻撃することが原因である。
・慢性炎症のために活性化しているマクロファージは、異物であるコレステロールを見つけるとどんどん食べていくものの消化はできず、パンパンに膨れ上がって死んでいく。このマクロファージの死骸が血管の壁に溜まった状態が「動脈硬化」である。さらにマクロファージの死骸が破裂すると、中にある炎症性サイトカインや外敵を攻撃するための物資がまき散らされ、慢性炎症をさらに悪化させ、全身の細胞に悪影響を与えていくと考えられている。
●なぜ脂肪細胞は炎症性サイトカインを出してしまうのか?
・肥満になると脂肪細胞はなぜ炎症性サイトカインを過剰に放出してしまうのか。現時点では明らかになっていないが、あらゆる生活習慣病の予防に直結する課題のため、世界中の科学者が注目している研究課題である。
●健康のカギ―筋肉が出すメッセージ物質
・筋肉が出すさまざまなメッセージ物質は、「マイオカイン」と呼ばれている。「マイオ」は「筋肉の」という意味である。筋肉は体重の40%を占める人体最大の臓器である。マイオカインの発見はアディポカインより少し後だった。
・マイオカインは体内のメッセージ物質の中でも、最も歴史が浅い分野の一つのため、まだまだ分からないことだらけである。しかし、筋肉は最大の臓器であり、運動による健康効果との関係が考えられることから大きな期待が寄せられている。
●運動すると大腸がんが予防できるのはなぜ?
・大腸がんの予防には食事より適切な運動の方が効果的とされているが、まだ明確にはなっていない。しかし、その謎の解明のキーワードがマイオカインである。大腸がん以外でも、うつの症状や慢性炎症に対する効果が期待されている。
●IL6が慢性炎症を抑える!?
・実験の結果、運動で筋肉から出ているのはIL6(ILはインターロイキンの略)という物質だった。このIL6というメッセージ物質に慢性炎症を抑える働きがあることが分かってきた。また、どんな運動が良いのかについて研究は進んでいる。
●メッセージ物質は「文脈で」意味が変わる
・メッセージ物質は状況によって意味が変わる。これは細胞同士のコミュニケーションツールとして、タイミングや量、他のメッセージ物質との組み合わせや受け取る側の状況等によって変化する。
画像出展:「単なる運動器じゃない!内臓や認知・精神機能をも守る、筋肉のはたらき」(名古屋ハートセンター)
『最近の研究から、骨格筋は運動時にさまざまな生理活性物質を分泌することがわかってきました。マイオカインというのがその総称です。マイオカインの主な役割には、代謝の促進による脂肪肝改善・体脂肪分解、認知症の予防、骨形成促進、動脈硬化予防、免疫能改善、抗炎症作用などがあるといわれています。』
まとめ1
まず、脳と腸の連携に焦点をあてて、関連するものを取り上げました。
●セロトニンの95%は腸に貯蔵されている。
●セロトニンは脳腸相関で非常に重要な役割を果たすシグナル分子である。
●セロトニンの消化器内での働きは収縮、睡眠、食欲、痛覚感受性、気分、全般的な健康に関わる。
●セロトニンを含む腸内の特殊細胞は、脳の情動中枢に向けて直接シグナルを送り返す感覚神経と緊密に結びついており、脳腸相関の重要な構成要素をなす。
●セロトニンは腸と脳のシグナル交換に用いられる究極の分子である。
●セロトニンを含む細胞は小さな脳と大きな脳の両方に密接に結びついている。
●セロトニン・シグナルシステムは、消化器系の活動、さらには感情に結びつけるのに重要な役割を果たす。
●セロトニンを含む腸内の神経は蠕動反射の調節に関与する。
●腸では、脳の感情をコントロールする中枢に直に結合する迷走神経の経路の近くに、膨大なセロトニンが蓄えられている。
●代謝物質が脳にシグナルを伝えるもう一つの重要な方法は、腸壁に存在するセロトニンを含む腸クロム親和性細胞を介したものである。
●腸内微生物は消化不能な物質の消化が可能で、その活動を通して数十万種類の代謝物質が産生される。
●微生物が産生した代謝物質の多くは血流に入り、そこで循環するあらゆる分子のほぼ40%を占める。
●腸は脳と神経の太いケーブル(迷走神経)によって両方向に、また、血流による連絡経路を介して結合している。
●腸と脳のコミュニケーションは特定の分子が炎症シグナルとして脳と連絡を取る方式、ホルモンのように血流を伝わる方式、そして神経シグナルの形態で脳に達する方式など、伝送方式が異なるいくつかの並列的な「伝送経路」に沿って生じる。
●腸内微生物はホルモン、神経伝達物質、あるいは代謝物質と呼ばれる無数の小さな化合物からなる種々のシグナルを介して、常時脳と連絡を取り合っている。
●情動は腸や微生物が生成するシグナルに影響を及ぼすとともに、脳に戻って情動を強めたり、長引かせたりする。
●脳で生じるいかなる情動も、胃腸の活動に反映される。
●情動は腸内の各種腸細胞、腸管神経系の細胞、100兆個の微生物に様々な影響を与える。
●消化の管理は概ね腸管神経系が担っている。
●腸管神経系とは食道から直腸に至る消化管壁を取り巻く、5000万個の神経細胞からなるネットワークであり、「第二の脳」と呼ばれている。
●腸管神経系から脳に伝達されるシグナルは10%ほどであり、脳に頼ることなく活動を維持できる。
●24時間365日、消化管と腸管神経系と脳は常に連絡を取り合っている。
●中枢神経系は、元来はもっぱら腸管神経系が処理していた状況に応じて他の動物に近づく、危険な動物を回避するなどといった外界に対する行動の管理を、徐々に受け持つようになっていった。やがて行動管理機能は情動を司る脳領域に移管され、腸管神経系は基本的な消化機能だけを担当するようになった。
●腸管神経系は消化管で集められた感覚情報を注意深く監視している。
●迷走神経を介して伝達されるシグナルの90%は消化管から脳へと流れる。
●脳への内臓刺激の伝達には、迷走神経がとりわけ重要な働きをする。
●消化管を構成する細胞や内臓刺激をコード化するレセプターの大多数は、迷走神経を介して脳と緊密に連絡している。
●内臓刺激はホルモン、免疫系のシグナル分子、そして迷走神経をはじめとする感覚神経の活動を通じて、小さな脳(腸管神経系)と大きな脳に伝えられる。
●消化管のデータ収集システムが送る報告は、消化管の小さな脳(腸管神経系)にも頭部の大きな脳にも、さまざまな必須情報を提供する。大小二つの脳はどちらも、飲食物を摂取するとこの必須情報の入手にいそしむが、おのおのは別々の情報に関心を寄せる。
●消化管は1日中、起きていても眠っていても、身体の奥深くで生じるあらゆる事象に関する情報を、ミリ秒単位で脳に送っている。(もちろん、中枢神経系にフィードバック情報を常時送っているのは、消化管だけではない。脳は、身体のあらゆる細胞や組織から常時感覚情報を受け取っている)
●消化管やその感覚メカニズムが脳に送るメッセージは、その量、多様性、複雑性において抜きん出る。
●消化管の感覚ネットワークは表面全体に分布しており、その総面積は皮膚の200倍、いい換えるとバスケットボールのコートとほぼ同じ大きさになる。
●消化管は真のスーパーコンピューターである。細胞の数という点では脳をはるかにしのぎ、能力という点でも脳のいくつかの機能に匹敵する。
●脳は、全体的な健康に焦点を絞り、消化管から送られてくる種々の徴候を監視して、その情報を身体の他の部位から送られてくるさまざまなシグナルや、環境に関する情報と統合する。腸管神経系で生じている事象も監視する。
●大きな脳が直接関与するのは、本人が意図した場合か、脳の反応を必要とする重大な脅威にさらされたときに限られる。
●脳は消化管から送られてくるあらゆる感覚情報を常時監視しているが、日常業務は地方自治体、すなわち腸管神経系に委任している。
まとめ2
次に、セロトニン、迷走神経、腸内微生物、シグナル分子、炎症シグナル、神経シグナル、代謝物質、腸クロム親和細胞、ホルモン、内臓刺激、内臓反応、大腸、情動について、脳腸相関におけるそれぞれの働きについて、AI(Perplexity Pro)に質問してみました。
1)セロトニン
画像出展:「消化・吸収だけじゃない!腸の意外な働き」(からだカルテ)
『ストレスを感じるとおなかが痛くなったり、下痢や便秘などの腸の異常を感じるのは、脳→腸へのシグナル伝達ですし、一方で、腸内環境が悪化することによって、不安を感じたり、腸内環境が改善することで、抗うつ効果など脳への影響があることは、腸→脳へのシグナル伝達です。』
2)迷走神経
画像出展:「脳腸相関②:脳と対話する腸」(ヤクルト中央研究所)
『脳と腸の情報交換は、免疫系、内分泌系、神経系という腸に備わる機能を介して行われています。特に、腸から脳への情報伝達のルートとして注目されているのが、「迷走神経」です。』
3)腸内微生物
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『腸内微生物は、神経系、内分泌系、免疫系を介して脳と双方向的にコミュニケーションを取っており、その影響は精神状態から認知機能まで多岐にわたります。特に、腸内微生物の代謝産物や神経伝達物質の産生が脳機能に大きな影響を与えていることが注目されています。』
画像出展:「脳腸相関③:脳腸相関は腸内細菌なしには語れない?!」(ヤクルト中央研究所)
『脳腸相関に関わる腸内細菌ですが、一体どのように脳に情報を送っているのでしょうか。腸内細菌の脳への影響のメカニズムについてさまざまな角度から研究が進められていますが、最近の研究で、腸内細菌が「迷走神経」を刺激し、脳に影響を及ぼしていることが分かってきました。』
4)シグナル分子
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『この表は、脳腸相関におけるさまざまなシグナル分子の役割を示しています。これらの分子は、腸内細菌、腸管細胞、免疫細胞、神経細胞など、様々な源から産生され、脳と腸の双方向のコミュニケーションに重要な役割を果たしています。神経伝達物質、ホルモン、サイトカイン、短鎖脂肪酸などが、神経系、内分泌系、免疫系を介して脳と腸の機能に影響を与え、複雑な相互作用を形成します。』
YouTube:「細胞間伝達の種類」(KEM BIOLOGY)4分56秒
5)炎症シグナル
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『腸内環境の変化が脳機能に影響を与え、逆に脳の状態が腸内環境を変化させることで、炎症反応が双方向に伝播することがわかります。この相互作用は、様々な疾患の発症や進行に関与している可能性があります。』
6)神経シグナル
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『脳からのストレスシグナルが腸の機能に影響を与え、逆に腸からの情報が脳に伝達されることで、双方向のコミュニケーションが行われています。また、腸管神経系(ENS)が重要な役割を果たし、腸内細菌も神経シグナルの伝達に関与していることがわかります。』
7)代謝物質
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『この表は、脳腸相関における主要な代謝物質とその働きを示しています。これらの代謝物質は、腸内細菌叢や食事、消化過程から生成され、脳と腸の双方向のコミュニケーションに重要な役割を果たしています。特に、短鎖脂肪酸や乳酸などの有益な代謝物質は脳機能の改善や認知症リスクの低下に関連している一方、アンモニアやLPSなどは脳機能に悪影響を及ぼす可能性があります。』
8)腸クロム親和性細胞
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『この表は、腸クロム親和細胞が脳腸相関において重要な役割を果たしていることを示しています。特にEC細胞が産生するセロトニンは、腸の機能調節だけでなく、骨代謝や炎症反応にも影響を与え、脳腸相関の重要な媒介物質として機能しています。』
9)ホルモン
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『この表は、脳腸相関において重要な役割を果たすホルモンの主な働きを示しています。これらのホルモンは、腸管内分泌細胞から分泌され、脳と腸の双方向のコミュニケーションに関与しています。例えば、グレリンは食欲を増進させる唯一の末梢由来ホルモンであり、脳内の様々な部位に発現するグレリン受容体を介して作用します。一方、CCKやPYY、GLP-1は食欲を抑制する働きがあります。』
10)内臓刺激
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『内臓刺激は単に腹痛や不快感を引き起こすだけでなく、神経系や免疫系を介して脳機能にも大きな影響を与えています。特に慢性的な内臓刺激は、末梢および中枢の感作を引き起こし、内臓過敏性の原因となることが示唆されています。』
11)内臓反応
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『内臓知覚、腸管運動、腸管透過性、内分泌反応、免疫応答などの内臓反応が、脳と腸の双方向のコミュニケーションに重要な役割を果たしていることがわかります。これらの反応は、ストレスや情動変化、消化器症状、さらには精神・神経疾患にも関与している可能性があります。』
12)大腸
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『大腸は腸内細菌叢の維持、免疫機能、神経伝達物質の産生など、多様な機能を持ち、脳と密接に相互作用しています。特に、ストレスや感情の変化が大腸の機能に影響を与え、逆に大腸の状態が脳機能や精神状態に影響を及ぼすという双方向的な関係が注目されています。』
13)情動
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『ストレスや不安、抑うつなどのネガティブな情動は、脳と腸の両方に悪影響を及ぼし、様々な症状を引き起こす可能性があります。一方、喜びや幸福感などのポジティブな情動は、脳と腸の機能を改善し、健康的な状態を維持するのに役立つことがわかります。』
感想
印象的だったのは、「大きな脳」と「小さな脳」という言葉です。前者は大脳などの脳です。後者は腸管神経系を指しています。その「小さな脳」の細胞の数は「大きな脳」を凌駕し、そこ生息する100兆個の腸内微生物は膨大な量の情報を常時脳に送っています。筆者は小腸を含む消化管を真の「スーパーコンピューターである」と言っています。
『複雑な動物が進化すると、原始的な神経系は、消化器系外の精巧なネットワークとして発達しはじめる。このネットワークは腸管神経系と密接な関係にあるとはいえ分離しており、シグナル交換のメカニズムのほとんどを備えていた。新たに進化した精巧な神経ネットワークは、やがて中枢神経系へと発展し、頭蓋骨の内部に司令部を置くようになる。
中枢神経系は、元来はもっぱら腸管神経系が処理していた、状況に応じて他の動物に近づく、危険な動物を回避するなどといった外界に対する行動の管理を、徐々に受け持つようになっていった。やがて行動管理機能は情動を司る脳領域に移管され、腸管神経系は、基本的な消化機能だけを担当するようになる。この分業は、私たちの脳腸相関でも維持されている。』
腸管神経系の「小さな脳」は「第二の脳」といわれていますが、進化の歴史においては、「第二」ではなく「第一」でした。そして、ヒトにおける消化管の感覚ネットワークは表面全体に分布しており、その総面積は皮膚の200倍、バスケットボールのコートとほぼ同じ大きさになるそうです。
生き物は、酸素と水と栄養素を摂り続けないと生きてはゆけません。しかしながら、体内に取り込むということは、細菌やウィルスなど健康に害を及ぼす微生物が確実に体内に入ってくるということです。腸と腸内微生物はバスケットボールコートほどの面積でそれを受け、そして適切に処理することで健康を守ります。「小さな脳」は「大きな脳」と協力しながら粛々と役割を果たしますが、「小さい脳」だけでも多くの仕事をすることができます。腸と脳、安全に水と栄養素を取り込む働き、まさに命を守る砦だと思います。
東洋医学の脳(奇恒の腑)は骨、髄と共に腎が主っています。腎は先天の精、そして後天の精を受け入れ、発育・成熟および生殖という基本的な生命活動を担っています。そして、腎に納まる精が気に変化すると原気となり、丹田に集まり人体の基礎活力として働きます。
画像出展:「カイロが効果的な部位、ベスト3は?」(ウェザーニューズ)
『東洋医学や日本の武術などでエネルギーが集まる場所として重要視される丹田ですが、ここが弱ると免疫力も低下し、病気にもなりやすくなるとされています。もし丹田を触ってみて、冷えた感じがするとか、くぼんだ感じがする場合は要注意。自分の身を削って生命力を消耗しています』
今回のブログで「氣」について思ったことは、「腎に納まる精が変化した原気は丹田に集まっており、その丹田には小腸の募穴である“関元”がある」ということです。また、丹田の下には腸があり、その腸は「第二の脳」とされ、西洋医学においては、脳腸相関というという生命維持に関わる重要なメカニズムを持っているということです。
「脳(奇恒の腑)や髄を主る腎、腎に納まる精が変化した原気、その原気が集まっている丹田は東西医学の要所である」ということは、『氣は何だろう』を考えるうえで、外してはいけないポイントではないかと思いました。
第2章 心と腸のコミュニケーション
・人が怒り心頭になり、まさに怒りの表情に変わったとき、筋肉とともに消化器系に特徴的なパターンでシグナルを送り、消化器系はそれに対して強い反応を示す。胃は激しく収縮する。その収縮で胃酸の分泌が増大し、食事した物はなかなか胃から出ていかなくなる。同時に腸はねじれ、粘液や他の消化液を分泌する。不安や動揺でもパターンは異なるが類似の胃腸の反応が生じる。意気消沈した場合は、腸はほとんど動かなくなる。以上のように脳で生じるいかなる情動も、胃腸の活動に反映されることが知られている。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『このように、感情と胃腸の動きには密接な関係があります。これは「脳腸相関」と呼ばれる現象の一部です。心身の健康を維持するためには、ストレス管理や感情のコントロールが重要であることがわかります。』
画像出展:「胃もたれの原因」(くすりと健康の情報局)
画像出展:「胃もたれの原因」(くすりと健康の情報局)
●嘔吐が止まらない男
・周期性嘔吐症候群に関し、UCLAの研究チームなどの数十年にわたる調査の結果に基づけば、周期性嘔吐症候群は脳内の過剰なストレス反応が、過度の内臓反応を引き起こしているというものである。意識的か無意識を問わず、このような脅威を検知した脳は、生存に関わる機能を調整する視床下部にシグナルを送り、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRF)を分泌する。
・CRFは限度を超えた場合、腸を含む身体のあらゆる組織や細胞がストレスモードに切り替わり、腸からのシグナルだけでなく様々な刺激に対しその人を鋭敏にする。激しい腹痛はそのためである。腸は収縮の回数を増やし、内容物を排泄しようとして下痢になる。一方、胃の働きは遅くなり、内容物を下ではなく上へと戻そうとする。
・ステーキを食べたときの反応は次の通りである。
ステーキの一片を咀嚼して嚥下する前から、胃には酸電池に匹敵するほどの酸性度の高い濃塩酸で満たされる。咀嚼されたステーキの断片が胃に達すると、胃は強力な研磨力を行使してステーキの断片を細かな粒子に粉砕する。その間、胆嚢と膵臓は脂肪分の消化を助ける胆汁や種々の消化酵素を注入することによって、小腸の仕事の準備を整える。細かく砕かれたステーキの破片を胃から受け取った小腸は、消化酵素と胆汁の働きで分解された栄養素を吸収し送り出す。消化の過程が進むと、腸壁の筋肉は蠕動運動と呼ばれる収縮運動を行い、食物を下方に押しやる。蠕動の圧力、範囲、方向は消化する食物によって異なる。例えば、脂肪や複合炭水化物の吸収には多くの時間をかけ、糖分を含む飲料の吸収にはあまり時間をかけない。それと同時に、腸壁の一部は、消化された食物を収縮の力で壁に向けて動かし、そこで栄養素を吸収する。大腸では強力な波状の収縮運動で内容物が前後に動かされ、水分の90%が吸収される。それから内容物は、さらなる強力な波状収縮で直腸に押し出されることで便意を感じる。
次の食事までには、腸のハウスキーピング(整理整頓)のために、それとは異なる波状の圧力(伝播性筋放電群)がかかる。つまり、胃で粉砕されなかった薬の不溶解残渣や丸呑みされたピーナッツなどの残留物がすべて排出される。この波状の動きは90分ごとに生じ、食道からはじまってゆっくりと直腸に向けて下りていく。そしてその圧力で、未消化の食物や有害な微生物が小腸から結腸へと掃き出される。蠕動反射とは異なり、この腸のハウスキーピング運動は、睡眠中など、基本的に消化管に消化すべき食物が残っていないときにのみ作用し、食物は口に入るとただちに停止する。
・腸は脳や脊髄の助けなしに、一連の作用を連動させているが、この消化の管理は概ね腸管神経系が担っている。なお、腸管神経系とは食道から直腸に至る消化管壁を取り巻く、5000万個の神経細胞からなるネットワークであり、「第二の脳」と呼ばれている。この「第二の脳(The Second Brain)」は本になっているが、著者は解剖学者で細胞生物学者でもあるマイケル・ガーション先生だが、腸のセロトニンシステム研究のパイオニアでもある。
・腸管神経系は自律的に作用するが、情動を司る脳の働きによって作用は滞る。食事中に口論が始まれば、胃の活動は停止し痙攣性の収縮が始まる。すると胃の内容物は正しく押し出されず胃に残る。内容物の滞留があると夜間の収縮運動が起こらず腸の浄化がなされない。
●銃創と内臓反応
・脳は様々なメカニズムを通じて、腸内でその種の運動プログラムを実行する。コルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモンを分泌し、腸管神経系に神経シグナルを送る。その際、脳は腸機能を促進するシグナル(迷走神経を含む副交感神経系によって伝達される)と、抑制するシグナル(交感神経系によって伝達される)という2つの神経シグナルを送る。この2つの神経系は腸管神経系の活動の調節、微調整、連携を行なって、その都度の情動の状態を反映する腸の活動を形成する。
・情動は腸内の各種腸細胞、腸管神経系の細胞、100兆個の微生物に様々な影響を与える。
●腸の情動反応をプログラミングする脳
・情動と消化管を含めた身体への影響のメカニズムには大脳辺縁系が深く関与している。
・大脳辺縁系は生命が脅かされるような状況に直面したとき、ただちに無数のメッセージを編成して身体中の組織や細胞に送り、それぞれの振る舞いを変える。胃に送るシグナルは活動に必要なエネルギーを浪費しないように、内容物の除去を命じる。心循環系は酸素の多い血液を腸から筋肉に回して消化を遅らせ、闘争(もしくは逃走)の準備を整える。
・進化は危険な状況に対処するための集合的な知恵、脅威に自動的に反応する神経回路やプログラムという形態で授けた。
・情動操作プログラムは、遺伝子に書き込まれている。この遺伝子コードは両親から受け渡される。
●腸がストレスを受けるとき
・情動操作プログラムはシグナル分子を用いる。例えば、鎮痛剤としても作用し、快活さをもたらすエンドルフィン、欲求や動機に働きかけるドーパミン、「愛情ホルモン」とも呼ばれ、信頼や魅惑の感覚を刺激するオキシトシン、ストレスのスイッチとして機能するCRF(副腎皮質刺激ホルモン放出因子)などが放出される。
・CRFは副腎で生成されるコルチゾールの分泌量を調節し健康維持の任務を遂行している。
・ひとたび情動操作プログラムが起動すると、その効果は数時間、ときには数年間持続する場合もある。思考、過去の出来事の記憶は脳腸相関の活動に影響を及ぼすことがあり、それは苦痛に満ちたものになる恐れもある。
●腸の鏡像
・怒り、悲しみ、不安などの情動が恒常的に生じる場合には、腸やそこに宿る微生物に有害な影響がおよんでいることを理解する必要がある。
第3章 脳に話しかける腸
●過敏な脳
・消化管で集められた感覚情報の90%以上は、意識にのぼらず刺激を無視することができる。しかしながら、腸管神経系はこれらの刺激を注意深く監視している。
・感覚系の複雑なメカニズムを通じて粛々と消化管の小さな脳に送られ、消化器系の機能を日夜最適なものに保つために必須の情報として利用される。内臓刺激の流れは脳にも達する。迷走神経を介して伝達されるシグナルの90%は消化管から脳へと流れ、逆方向には10%にすぎず、脳に頼ることなくほとんどの活動は維持できる。
・『消化管が発する、どの情報が重要なのだろうか? 実のところ、重要な情報は想像以上に多い。消化管が備える多数のセンサーは、最適な収縮パターンを形成するために必要となるあらゆる情報、具体的にいうと蠕動の圧力や方向を定め、消化対象の食物を胃腸内で送る速度を調節し、消化が適正に行われるよう酸や胆汁の分泌量を決定するために必要な情報を腸管神経系に伝達する。またそれは、胃に残存する食物の量、摂取した食物の量や密度、消化された食物の化学組成、さらにはマイクロバイオータの活動に関する情報を収集する。一連のセンサーは、緊急時には寄生虫、ウィルス、病原菌、病原菌の産生する毒素、さらには消化管の炎症反応を検知する。事実、急性の炎症は、通常の刺激やできごとに対し、多くのセンサーを過敏にする。センサーからの情報は消化管の機能を適正に保つのに必須だが、腸管神経系は意識にのぼる感覚を生み出さない。』
・24時間365日、消化管と腸管神経系と脳は、つねに連絡を取り合っている。このコミュニケーションネットワークは、私たちの健康や快適な暮らしに、想像よりもはるかに大事な仕事を担っていると考えられる。
●消化管で感じる
・消化管の内分泌細胞は非常に多く、きわめて効率的に神経系にシグナルを送り、健康維持に重要な役割を果たしている。内分泌細胞以外にも消化管を本拠地としている細胞には免疫系と免疫細胞が分泌するサイトカインと呼ばれる炎症分子からなる別系統のシステムがある。消化管の免疫細胞は小腸内のパイエル板の他、虫垂にも見られ、小腸、大腸の腸壁にも存在する。
・消化管を本拠地とする免疫細胞は、内部の空間とは薄い細胞層で隔てられているが、樹状細胞と呼ばれる細胞は、この薄い細胞層を貫いて伸び、腸内微生物や病原菌と相互作用をしている。樹状細胞が分泌するサイトカインは、消化管壁を越えて体循環に入り、やがて脳に達する。それとは別に、ホルモンを含む消化管の細胞が生成したシグナル分子は、迷走神経を介して脳に送られる。
・『消化管の精巧な感覚系は、人体における国家安全保障局とでもいえよう。食道、胃、腸など、消化器系に属するあらゆる組織から情報を収集し、大多数のシグナルは無視して、疑わしきものを検出したときや、非常事態が発せしたときに警報を鳴らすからだ。消化管は、人体でもっとも複雑な感覚器官の一つなのである。』
●消化管の気づき
・『消化管のデータ収集システムが送る報告は、消化管の小さな脳(腸管神経系)にも頭部の大きな脳にも、さまざまな必須情報を提供する。大小二つの脳はどちらも、飲食物を摂取するとこの必須情報の入手にいそしむが、おのおのは別々の情報に関心を寄せる。
小さな脳は、最適な消化反応を生むために、また、必要なら嘔吐もしくは下痢によって、消化管の両端から内容物を排泄して毒素を除去するために、消化管が発する情報―食物の摂取量、消化管に入った内容物(脂肪、タンパク質、炭水化物などの成分についてや、濃度、密度、粒子の大きさについて)など―を用いる。また、汚染した食物に含まれる毒素、細菌、ウィルスなど、有害な侵入者に関する情報も含まれる。小さな脳は、脂肪分をたっぷり含むデザートを食べたという情報を受け取ると、食物が胃から排出される速度や、腸を通過する速度を落とす。それに対し、低カロリーの食物を摂取したという情報を入手すると、腸で十分なカロリーを吸収できるよう、胃の内容物を排出する速度を上げる。また、有害な侵入者を検知した場合には、水分の分泌を促し、蠕動に方向を変えて胃の内容物を取り除き、食物が小腸と大腸を通過する速度を速めて有害物をすみやかに除去する。
一方、大きな脳は、全体的な健康に焦点を絞り、消化管から送られてくる種々の徴候を監視して、その情報を身体の他の部位から送られてくるさまざまなシグナルや、環境に関する情報と統合する。腸管神経系で生じている事象も監視するが、怒ったときの胃や結腸の激しい収縮、気が滅入ったときの消化活動の低下など、情動の影響も密接にチェックしている。つまり、脳は自分の作った芝居は消化管という舞台で上演される様子を監視しているのだ。また、ほぼまちがいなく、脳は、腸内に宿る兆単位の微生物が生み出す情報を受け取っている。この腸と脳のシグナル交換は、ここ数年のあいだに注目されだしたにすぎない。脳は消化管から送られてくるあらゆる感覚情報を常時監視しているが、日常業務は地方自治体、すなわち腸管神経系に委任している。大きな脳が直接関与するのは、本人が意図した場合か、脳の反応を必要とする重大な脅威にさらされたときに限られる。
こういったさまざまな感覚メカニズムを通して、消化管は1日中、起きていても眠っていても、身体の奥深くで生じるあらゆる事象に関する情報を、ミリ秒単位で脳に送っている。もちろん、中枢神経系にフィードバック情報を常時送っているのは、消化管だけではない。脳は、身体のあらゆる細胞や組織から常時感覚情報を受け取っている。たとえば、肺や横隔膜は呼吸をするたびに、心臓は鼓動するたびに脳に筋肉の動きに関するシグナルを送り、動脈壁は血圧に関する情報を、筋肉は筋緊張に関する情報を送っている。
持続的に送られてくる身体の状態に関する報告、つまり身体システムのバランスと機能を円滑に保つために脳が用いる情報を、科学者は「内受容性の」情報と呼ぶ。内受容性の情報はあらゆる細胞から送られてくるとはいえ、消化管やその感覚メカニズムが脳に送るメッセージは、その量、多様性、複雑性において抜きん出る。消化管の感覚ネットワークは表面全体に分布しており、その総面積は皮膚の200倍、いい換えるとバスケットボールのコートとほぼ同じ大きさになるという事実を考えてみるとよい。そしてこのバスケットボールコートには、選手の動き、加速、減速、跳躍、着地などに関する情報を集める。無数の小さなセンサーが備わっているのだ。しかも、消化管が発するシグナルには化学物質や栄養などに関する情報も含まれるので、このたとえは、内臓刺激としてコード化される膨大な量の一部を表わすにすぎない。』
●消化管と脳を結ぶ情報ハイウェイ
・脳への内臓刺激の伝達には、迷走神経がとりわけ重要な働きをする。消化管を構成する細胞や内臓刺激をコード化するレセプターの大多数は、迷走神経を介して脳と緊密に連絡している。また、マイクロバイオータが脳に向けて発するシグナルのほとんどはこの経路を通る。
●セロトニンの役割
・『セロトニンは、腸と脳のシグナル交換に用いられる究極の分子である。セロトニンを含む細胞は小さな脳と大きな脳の両方に密接に結びついている。腸を本拠地とするセロトニン・シグナルシステムは、食物、腸内微生物、薬の作用によって生じた反応を消化器系の活動、さらには感情に結びつけるのに重要な役割を果たす。その一方、腸の神経や脳に含まれる少量のセロトニンには、それとは別の大事な役目がある。セロトニンを含む腸内の神経は蠕動反射の調節に関与し、脳内の一群の神経細胞は、さまざまな脳領域にシグナルを送って、食欲、痛覚感受性、気分など、生存に必須の一連の機能に影響を及ぼす。』
・腸では脳の感情をコントロールする中枢に直に結合する迷走神経の経路の近くに、膨大なセロトニンが蓄えられている。
●情報としての食物
・感覚レセプターが消化管壁に沿って広範かつ濃密に存在していることを考えると、消化管は消化に関する複雑なプロセスによって、また、そこに宿る100兆個の微生物が生み出す膨大な量の情報を常時脳に送っていることが分かる。つまり脳腸相関は、大量の情報収集、蓄積、分析、それへの反応という機能を考えれば、消化管は真のスーパーコンピューターである。細胞の数という点では脳をはるかにしのぎ、能力という点でも脳のいくつかの機能に匹敵する。
・体内に取り込まれた食物と感情の結びつきには、腸内微生物が注目すべき役割を担っている。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
セロトニンと迷走神経の関係について質問したところ以下のような回答でした。
『セロトニンは迷走神経の近くに多く存在し、両者は密接に相互作用していると言えます。この関係は、消化器系の機能、気分の調節、ストレス応答など、様々な生理的プロセスに重要な役割を果たしています。』
第4章 微生物の言語
●腸と脳のコミュニケーションを媒介する微生物
・腸は熱、冷たさ、痛み、張力、酸性度、含有栄養素に関する情報を監視している。腸の表面は大規模かつ高度な感覚系とみなせる。そこで発せられた内臓刺激は、ホルモン、免疫系のシグナル分子、そして迷走神経をはじめとする感覚神経の活動を通じて、小さな脳(腸管神経系)と大きな脳に伝えられる。
・『情動によって引き起こされる内臓反応は、ねじれや痙攣に限らず、無数の内臓刺激を引き起こす。内臓刺激は脳に送り返され、そこでそれをもとに内臓感覚が生じたり調節されたりし、また、その経験が情動的な記憶として蓄えられる。さらには、世界中の科学者が驚いたことに、内臓反応と内臓刺激の相互作用の統合に腸内微生物が大事な役割を果たしていることが、最近になってわかってきた。現在では、この目に見えない生命のかたまりが、ホルモン、神経伝達物質、あるいは代謝物質と呼ばれる無数の小さな化合物からなる種々のシグナルを介して、常時脳と連絡を取り合っていることが理解されるようになった。このような代謝物質は、微生物の特異な食習慣によって生成される。つまり微生物が、消化されなかった食物の残滓や、肝臓から消化管に分泌された胆汁酸、あるいは腸を覆う粘液を食べることによって生み出されるのだ。事実マイクロバイオータは、高度な生物化学言語―今後は「微生物語」と呼ぶことにする―を用いて脳と長い対話を行なっている。』
●微生物物語の夜明け
・『複雑な動物が進化すると、原始的な神経系は、消化器系外の精巧なネットワークとして発達しはじめる。このネットワークは腸管神経系と密接な関係にあるとはいえ分離しており、シグナル交換のメカニズムのほとんどを備えていた。新たに進化した精巧な神経ネットワークは、やがて中枢神経系へと発展し、頭蓋骨の内部に司令部を置くようになる。
中枢神経系は、元来はもっぱら腸管神経系が処理していた。状況に応じて他の動物に近づく、危険な動物を回避するなどといった外界に対する行動の管理を、徐々に受け持つようになっていった。やがて行動管理機能は情動を司る脳領域に移管され、腸管神経系は、基本的な消化機能だけを担当するようになる。この分業は、私たちの脳腸相関でも維持されている。』
●微生物語と体内インターネット
・腸と脳のコミュニケーションは、特定の分子が炎症シグナルとして脳と連絡を取る方式、ホルモンのように血流を伝わる方式、神経シグナルの形態で脳に達する方式など、伝送方式が異なるいくつかの並列的な「伝送経路」に沿って生じる。
・腸内微生物は多様でその数も多い。腸内微生物は、人体には消化不能な物質の消化が可能で、その活動を通して数十万種類の代謝物質が産生される。
・微生物が産生した代謝物質の多くは血流に入り、そこで循環するあらゆる分子のほぼ40%を占める。その多くは神経刺激性の物質と考えられており、神経系と交換し合うことができる。このような代謝物質には、大腸で吸収されて血流に入るものもある。このように血液循環に乗った代謝物質は、ホルモン同様、脳を含む様々な身体組織に達する。
・微生物の代謝物質が脳にシグナルを伝えるもう一つの重要な方法は、腸壁に存在するセロトニンを含む腸クロム親和性細胞を介したものである。
下の図は“氣とは何だろう4(東洋医学概論編)”で使ったイラストです。腎精は原気となり臍下丹田に集まります。頭蓋にある奇恒の腑(脳)も腎が主っています。一方、臍下丹田には関元という小腸経の募穴(気が集まるツボ)があり、西洋医学では皮下には腸があります。つまり、このイラストは西洋医学では脳腸相関を連想させます。
画像出展:「内部錬金術の主な段階」(こちらはフランスの「ル・スフレ・デュ・メンヒル」協会というサイトのようです)
※東洋医学の脳(奇恒の腑)は骨、髄と共に腎が主っています。腎は先天の精、そして後天の精を受け入れ、発育・成熟および生殖という基本的な生命活動を担っています。そして、腎に納まる精が気に変化すると原気となり、臍下丹田に集まり人体の基礎活力として働きます。
画像出展:「ブレインフォグの原因「腸内細菌の乱れ」(国立消化器・内視鏡クリニック)
『脳腸相関とは、脳とおなか(腸)で両方向におこなう情報伝達のやり取りと相互に影響を及ぼしあう関係のことです。不安やストレスを感じると急な腹痛や下痢、おなかが張ってグルグルと鳴るような経験をしたことはありませんか?これは、脳から腸に向けた情報伝達の信号からくる影響のひとつです。対して今までよくわかっていなかった腸から脳に向けた影響についても、近年の研究で明らかになってきました』
「腸は第ニの脳」とされ、脳腸相関は西洋医学においても注目されています。
以下は、“氣とは何だろう4(東洋医学概論編)”のまとめです。
1.施術において、“氣”とは“気の類”、精・気・神の三宝であると考えたい。(現時点では)
2.狭義の気に関しては先天の精と後天の精から派生する臍下丹田にある“原気”を重視したい。
3.『氣とは何だろう』を考えていくうえで、東洋医学の脳(奇恒の腑)・神気(五神)と西洋医学の脳(大脳・中脳・間脳・脳幹・小脳)に注目したい。
以上のことから、脳腸相関を理解することは重要であると考えました。
目次
第1部 身体というスーパーコンピューター
第1章 リアルな心身の結びつき
●機械モデルの代価
●一般的な健康状態の劣化
●スーパーコンピューターとしての消化器系
●マイクロバイオームの夜明け
●「脳-腸-マイクロバイオータ」相関のバランスの崩れ
●細菌の役割
●あなた=食べ物―ただし腸内微生物も含む場合に限る
●健康と新たな科学
第2章 心と腸のコミュニケーション
●嘔吐が止まらない男
●腸内の小さな脳
●銃創と内臓反応
●腸の情動反応をプログラミングする脳
●腸がストレスを受けるとき
●腸の鏡像
第3章 脳に話しかける腸
●過敏な脳
●消化管で感じる
●消化管の気づき
●消化管と脳を結ぶ情報ハイウェイ
●セロトニンの役割
●情報としての食物
第4章 微生物の言語
●幼少期における浣腸の負の効果
●腸に対する嫌疑
●腸と脳のコミュニケーションを媒介する微生物
●微生物物語の夜明け
●太占の契約
●微生物語と体内インターネット
●体内における無数の会話
第2部 直感と内臓感覚
第5章 不健康な記憶
●ストレスによるプログラミング
●幼少期のストレスと過敏な腸
●親から子に伝わるストレス
●[コラム:あなたの子どもは、脳腸相関にストレスを受けているか?]
●ストレス下のマイクロバイオーム
●子宮内のストレス
●健康なスタートに必要な微生物
●生存のための適応
●脳腸相関の障害に対処する新たなセラピー
第6章 情動の新たな理解
●腸内微生物が脳を変える?
●マイクロバイオータは人体のザナックス工場か?
●うつとマイクロバイオータ
●ストレスの役割
●ポジティブな情動
●情動が腸内微生物にもたらすその他の影響
●腸内微生物が人間の行動を変える?
●新たな情動理論の構築に向けて
第7章 直感的な判断
●個人差
●初期の情動の発達
●人間の脳の独自性
●[コラム:動物には内臓感覚があるか]
●自分独自のグーグルを構築する
●[コラム:女性の直感]
●内臓感覚に基づく判断はつねに正しい?
●[コラム:私たちが判断を下すとき]
●夢を通じて内臓感覚にアクセスする
●結論
第3部 脳腸相関の健康のために
第8章 食の役割
●ヤノマミ族の食事レッスン
●アメリカ的日常食は腸内微生物に有害か?
●すべてはどこではじまるか
●腸と脳の会話と食事の役割
●食習慣とマイクロバイオータ
●食習慣はいかに腸と脳の会話を変えるか?
第9章 猛威を振るうアメリカ的日常食
●すばらしい新食品
●動物性脂肪の多い食事が脳を損なう
●腸内微生物が食欲をコントロールする
●気晴らし食品の誘惑
●食物依存症―欲望と高脂肪食
●工業型農業と腸と脳
●アメリカ的日常食と腸内微生物
●アメリカ的日常食と脳の慢性疾患
●地中海式食事法の再発見
第10章 健康を取り戻すために
●最適な健康とは何か
●健康なマイクロバイオームとは何か
●いつ最適な健康に投資すべきか
●マイクロバイオームの改善による健康増進の指針
●内臓感覚に耳を澄ます
●脳とマイクロバイオータをフィットさせる
謝辞
日本の読者へのあとがき
訳者あとがき
第1部 身体というスーパーコンピューター
第1章 リアルな心身の結びつき
・腸と腸内微生物、そして腸内微生物の産生するシグナル分子が、調節メカニズムの重要な構成要素をなしている。
・微生物の集合を遺伝子の観点から表わす場合をマイクロバイオームとよび、個体の観点から表わす場合をマイクロバイオータと呼ぶ。
・本書は、腸、腸内微生物、脳の3者の結びつきと健康維持に関する脳と腸のつながりの重要性について書いている。
・あらゆる検査をしても原因不明だった患者さんは、腹部、骨盤、胸部などに慢性疼痛を抱えていた。これは、当時の医療では、ストレスや心理状態の問題が明らかであっても、脳や脳が身体に送る特異なシグナルの役割は無視されてきたことである。
●スーパーコンピューターとしての消化器系
・『最近の研究によれば、腸は、そこに宿る微生物との密接な相互作用を通して、基本的な情動、痛覚感受性、社会的な振る舞いに影響を及ぼし、意思決定さえ導く。』
・腸と心の結びつきは心理学者だけが関心をもつべき類のものではない。この結びつきは、脳と腸の解剖学的な結合という形態で固定配線されており、さらには血流を介して伝達される生物学的なシグナルにも支えられている。
・腸は「第二の脳」と呼ばれるが、腸は脊髄に匹敵する5000万から1億個の神経細胞で構成されている。
・腸内の免疫細胞は血中や骨髄の免疫細胞より多く存在している。食物によって無数の細菌にさらされている腸は免疫細胞にとって主戦場である。さらに、兆単位の腸内細菌が広がるマイクロバイオータと協力して細菌を排除している。
・腸壁は無数の内分泌細胞で埋まっている。内分泌細胞は必要なときに血流に放出される20種類ほどのホルモンを含む特殊な細胞である。腸壁の内分泌細胞をすべて一つにまとめると、生殖腺、甲状腺、脳下垂体、副腎など、腸壁以外の内分泌系組織を合わせたものより大きくなる。
・体内のセロトニンの95%は腸に貯蔵され、脳腸相関で非常に重要な役割を果たすシグナル分子である。その働きは消化器系内で食物を動かす連携した収縮などの機能ばかりでなく、睡眠、食欲、痛覚感受性、気分、全般的な健康に関しても必須の役割を担う。
・『腸の機能が食物を消化することだけなら、なぜそのような組織に、無数の特殊な細胞や信号システムが組み込まれているのだろうか? 一つの答えは、現在のところほとんど知られていないが、私たちの身体のなかで最大の表面積を有する巨大な感覚器官としての、腸の必須の機能に見出せる。人間の腸は、平らに延ばせばバスケットボールコートほどの広さになり、食物に含まれる大量の情報を、シグナル分子の形態でコード化する無数の小さなセンサーで覆われている。それによって甘さから苦さ、熱さから冷たさ、スパイスの刺激から鎮痛効果までを検知するのである。
腸は脳と、神経の太いケーブルによって両方向に、また血流による連絡経路を介して結合している。腸で生成されたホルモンや炎症性のシグナル分子は脳に伝達され、また、脳で生成されたホルモンは、平滑筋、神経、免疫細胞などの腸内のさまざまな細胞に送られてその機能を変える。脳に達する腸からのシグナルの多くは、満腹感、吐き気、不快感、満足感などを喚起する「内臓刺激」(内臓[おもに腸]から脳に送られる刺激を指す)を生むばかりでなく、腸に向けられた脳の応答を引き起こし、それが際立った「内臓反応」(腸から脳への反応ではなく、内臓刺激を受けて引き起こされる腸に対する脳の反応)を引き起こす。脳は、これらの感覚を忘れたりはしない。「内臓感覚」(内臓刺激が脳で処理されたあとで生じる状態をいう)は脳の巨大なデータベースに蓄えられ、何らかの判断を下す際に参照される。そしてそれは、「何を食べるか」「何を飲むか」のみならず、「どんな人とつき合うか」、あるいは「仕事で、リーダーとして、陪審員として、いかなる判断を下すか」をも左右しうる。
中国哲学における陰と陽の概念は、相反する二つの力が実際には補完的であり、相互に密接に結びついていること、また、相互作用を介して統一体を形成することを強調する。この考えを脳腸相関に適用すると、内臓感覚を陰、内臓反応を陽としてとらえればよい。陰と陽が、同一の実体に属する二つの補完的な原理であるのと同じように、内臓感覚と内臓反応という腸と脳の結びつきは、健康の維持、情動の喚起、直感的判断に不可欠な、脳腸双方向ネットワークの二つの異なる側面を表わしている。』
●マイクロバイオームの夜明け
・脳腸相関の概念が脚光を浴びるようになったのは最近である。これは腸内に生息する細菌、古細菌、菌類、ウィルス(合わせてマイクロバイオータと呼ぶ)に関するデータや知識が、爆発的に増えたことによって起こった。
・マイクロバイオータの存在は300年程前、オランダの科学者アントニ・ファン・レーウェンフックが製作した顕微鏡によって発見された。
・2016年5月13日、バラク・オバマ大統領はマイクロバイオームイニシアティブを立ち上げた。
画像出展:「AI(Perplexity)が作成」
ご参考:「微生物叢を研究する1億2千万ドル規模のマイクロバイオームイニシアチブに着手:米国」(エディテージ・インサイト)
・マイクロバイオータは腸が処理できない食物成分の消化の支援、身体による代謝の統制、食物とともに体内に取り込まれた有害な化学物質の処理や解毒、免疫の訓練や統制、病原菌の侵入や増殖の防止などのはたらきがある。
・マイクロバイオームの異変や攪乱は、炎症性腸疾患、抗生物質の投与に起因する下痢、喘息などのさまざまな疾病を招き、自閉症スペクトラム、さらにはパーキンソン病などの神経変性疾患に結びつく可能性もある。
・大腸には人体で最大の微生物の個体群が宿る。ほとんど酸素が存在しない腸内には、100兆個を超える微生物が生息している。
・マイクロバイオータは人によって大きく異なる。腸内に宿る微生物の種類は、遺伝子、母親から受け継いだマイクロバイオータ、家族が宿す微生物、食習慣、脳の活動、心の状態などの要因によって変わる。
●細菌の役割
・最新科学では、腸と腸内微生物と脳が、共通の生物言語を用いて対話していることを明らかにしつつある。
・微生物は腸の免疫細胞や内臓刺激をコード化する無数の感覚受容体と密接に関連し合っている。言い換えると、身体の主要な情報収集システムと密に連絡している。このため、微生物はストレスの度合いや脳から送られてくる満足、不安、怒りなどの情動を表わすシグナルを知ることができる。さらに驚くべきことに腸内微生物は脳に送り返すシグナルによって情動に影響を及ぼす。
・情動は腸や微生物が生成するシグナルに影響を及ぼし、そして脳に送り返され、そこで情動を強めたり、長引かせたりする。
『10年ほど前にこのトピックスに関する論文(研究のほとんどは動物を対象にしたものだった)が科学雑誌に掲載されはじめたとき、私はそこに報告されている結果や意義に疑問を感じた。従来の医学の見方と、あまりにもかけ離れていたからだ。しかし、私が属していた、キルステン・ティリッシュ率いるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究グループが健常者を対象に研究を行ない、すでに報告されていた動物実験の正しさを再確認したとき、私は、マイクロバイオータと脳の相互作用が情動や社会的行動、さらに判断力にいかなる影響を及ぼすのかを徹底的に調査することを決意した。』
・うつ病ではセロトニン再取り込み阻害薬により、セロトニン・シグナルシステムの活動を促進する。医学界では脳にしかないと思われていたセロトニンは、今では、95%が腸内の特殊細胞に含有されていることが分かっている。そして、この特殊な細胞は、食べた物によって、また、ある種の腸内微生物が生成する化学物質によって、さらには情動状態を伝達する脳からのシグナルを受け取ることによって影響を受ける。また、注目すべきことに、セロトニンを含む腸内の特殊細胞は、脳の情動中枢に向けて直接シグナルを送り返す感覚神経と緊密に結びついており、脳腸相関の重要な構成要素をなす。
●健康と新たな科学
・『腸と脳のコミュニケーションに関する新たな科学は、最近になって科学界やメディアでもっとも注目されるようになった分野の一つである。「外向的な」マウスから取り出した、マイクロバイオータを含む糞を移植するだけで、「臆病な」レシピエントマウスが、社交的なドナーマウスに似た振る舞いを示すようになるなどと誰が考えていただろうか? あるいは、貪欲で肥満したマウスの便を微生物とともに移植すると、やせたマウスがエサを食べ過ぎるようになることを示した類似の実験や、プロバイオティクスの豊富なヨーグルトを四週間食べ続けた健康な女性の脳が、負の情動を喚起する刺激に以前より反応しなくなることを示した実験についてはどうか?
マイクロバイオータと脳が構成する統合システム、およびこのシステムと食物の密接な関係に関する新たな知見は、腸、マイクロバイオータ、脳、心が、いかに相互作用を及ぼしあっているのかを教えてくれる。』
・この新しい知見は、現行の医療システムの見直しを迫るものである。身体を個々の部品からなる機械と見なす、時代遅れにもかかわらず蔓延している見方を捨て去り、多様性を武器に、安定性や攪乱に対する抵抗力を築き上げていく、緊密な生態系として身体をとらえる見方を採択するよう要請する。
・個々の細胞や微生物に宣戦布告するようなやり方ではなく、複雑な生態系の持つ生物多様性の維持を支援する友好的なレンジャー隊員として、マイクロバイオームをとらえる視点を獲得すべきである。この視点は今後、腸と自己の健康、さらには病気からの回復力を保つのに不可欠なものになると思われる。
第4章 文明をつくったニューロン
●『ミラーニューロンがIPL[下頭頂小葉]近辺全体に豊富に存在するのは偶然ではない。人間の脳において、この領域が不釣り合いに大きく、分化しているという事実は、進化の飛躍を示唆している。』
●『念のために一つ但し書きをしておきたい。私はミラーニューロンが大躍進や文化全般の十分条件だと言っているのではない。ミラーニューロンが不可欠に重要な役割をはたしたと言っているにすぎない。発見が広まるには、まずだれかが何かを発見もしくは考案しなくてはならない―たとえば、二つの石が打ちあわされると火花がでることに気づくといったことがなくてはならない。私が論じているのは、もしそうした偶然の革新をたまたま初期ホミニン[霊長目ヒト科ヒト亜科を構成するヒト族の総称]のだれかが思いついたとしても、精緻化されたミラーニューロン・システムがなかったら、線香花火のように消えてしまっただろうということだ。つまるところ、ミラーニューロンはサルにもあるが、彼らは輝かしい文化のにない手ではない。それは彼ら[ホミニン]のミラーニューロン・システムが、急速な文化の伝達を可能にするほど十分に発達していないか、あるいはほかの脳構造との適切な結びつきを欠いているためである。伝播のメカニズムがいったん備わると、それは母集団の外れ値をより革新的にするような選択圧としてはたらいたであろう。革新は急速に広まってこそ価値があるからだ。』
第5章 スティーブンはどこに? 自閉症の謎
●ミラーニューロンは本質的に、心を読み取る細胞のネットワークである。
●『ミラーニューロン仮説は、自閉症に見られる言語障害についても洞察をあたえてくれる。赤ちゃんが耳にした音や言葉を最初にくり返すとき、ミラーニューロンがそれにかかわっているのはほぼまちがいがない。それには内部の翻訳―音のパターンを、対応する運動のパターンのうえにマッピングすること、およびその逆のマッピング―が必要と思われる。そのようなシステムが設定されうる道筋は二通り考えられる。一つは、言葉が聞こえたらすぐに、その音素の記憶痕跡が聴覚皮質のなかにつくられるという可能性である。赤ちゃんはそれから、さまざまな発生をランダムに試み、記憶痕跡からの誤差フィードバックを使いながら、その出力(発声)を徐々に微調整し、記憶と一致させていく(私たちはみな、聴いたばかりの曲を心のなかでまずハミングし、次に声を出して歌いながら、その出力を徐々に微調整して心のなかのハミングと一致させていくときに、この方式をとっている)。
二つめとして考えられるのは、聞いた音を話し言葉に移し変える翻訳のネットワークが、自然選択を通して生まれつき規定されているという可能性である。いずれの場合も、結果的には、私たちがミラーニューロンのものとして想定しているようなたぐいの属性をそなえたニューロンのシステムが設定されることになる。もし赤ちゃんが、フィードバックの機会もフィードバックに要する時間的遅延もなしに、初めて耳にしたばかりの一群の音楽をくり返すことができたら、生まれつき組み込まれた翻訳のメカニズムがあるという考えが支持される。このように、ユニークな翻訳のメカニズムが設定されうる道筋は一通りではないが、それがどんなメカニズムであれ、私たちが得た所見は、自閉症に見られる基本的な障害の原因は、最初の設定の欠陥にあるのではないかという可能性を示唆している。そして、ミュー波[脳波の一種、運動皮質の機能と関連している]の抑制についての私たちの実験結果は、それを支持すると同時に、(ミラーニューロンの機能不全という)単一の説明で、たがいに関連がなさそうにみえる数々の症状を一挙に説明することを可能にする。』
画像出展:「自閉症の人は模倣が苦手?-ミラー・ニューロンと自閉症-(国立特別支援教育総合研究所)」
マカク・ザルで発見されたミラー・ニューロン
『前頭葉のF5野にあるミラー・ニューロンは、バナナを自分が掴む時と、他者が掴むのを観察する時の両者で活動する。 ~中略~ 自閉症のある人たちは「模倣」が苦手で、他者の動作・行動の理解や社会性の学習に困難があります。このことから、自閉症の人たちの脳ではミラー・ニューロンの機能が障害されているのではないか、そしてそのことが自閉症の発症原因の1つではないか、と推測されるようになりました。』
画像出展:「自閉症スペクトラム障害でミラーニューロン回路の不全(京都大学)」
『定型発達群において、動画表情を見ているときには視覚野の上側頭溝(表情の視覚分析に関わることが分かっています)と下前頭回の間の機能的結合が強くなることが分かりました。この神経回路によって私たちは、表情の視覚分析の結果に基づいて表情を模倣したり、自分の表情運動の情報を使って他者の感情を読み取ったりしていると考えられます。これに対し、自閉症スペクトラム障害群では、上側頭溝と下前頭回の間の結合が弱く、動画表情処理の回路がうまく機能していないことが示されました。』
画像出展:「自閉スペクトラム症(ASD)とは? ミラーニューロンの解説および、接するときに考えるべきこと(Lab BRAINS)」
『身体の特徴 - 逆手バイバイ:例えば、身体を動かすことでコミュニケーションを取る場合があります。自閉スペクトラム症児の特徴的な動きに「逆手バイバイ」と呼ばれるものがあります。1歳に満たない赤ちゃんでもバイバイと手を振った時に鏡に写したような模倣の仕方ができますが、ミラーニューロンが不足していて模倣する力が弱いと、鏡に写したような模倣の仕方ができません。』
●『ミラーニューロン・システムはそもそも、他者の行動や意図の内部モデルをつくるために進化したのであるが、人間においては、そこからさらに進化して内面に向かい、自分自身の心を自分の心に表象(もしくは再表象)するようになったのかもしれない。心の理論は、友人やあかの他人や敵対者の心のなかを直観でとらえるのに有用であるが、それだけではなく、ホモ・サピエンスにかぎっては、心の理論によって、自分自身の心の動きをとらえる洞察力も飛躍的に向上したのではないだろうか。それはおそらく、私たち人間がほんの何十万年か前に経験した心の相転移の時期に起き、それが本格的な自己認識のはじまりとなったのだろう。もしミラーニューロン・システムが心の理論の基盤であり、正常な人間の心の理論が、内面の自己に向けて応用されるというかたちでパワーアップされているのだとしたら、自閉症の人たちが対人的相互交流や確固とした自己同定をひどく苦手とする理由や、会話のなかで一人称(「私」)や二人称(「あなた」)を正しく使えない自閉症児が多数いる理由の説明がつきそうである。人称代名詞を正しく使えない子どもたちは、十分に成熟した心の自己表象が欠けているために、自他の区別を理解するのがむずかしいのかもしれない。』
●『このあたりで、三点ほど但し書きを補足しておきたい。第一に、ミラーニューロン様の属性をそなえた小さな細胞群は、脳の多数の部位で発見されており、それらは実際には大きな回路―いわば「ミラーネットワーク」―の一部と考えるべきである。第二に、先にも述べたように、脳に関する不可解な面をすべてミラーニューロンのせいにしないように気をつけなくてはならない。なにからなにまでミラーニューロンがおこなっているわけではない! とはいえミラーニューロンは、私たち類人猿から脱却するのに重要な役割をはたしたようであるし、当初の「猿まね」の概念をはるかにこえるさまざまな心的機能の研究にも次々と登場している。第三に、ある種の認知能力をある種のニューロン(この場合はミラーニューロン)や脳流域に帰属させるのは、出発点にすぎない―そのニューロンがその計算をどのように実行しているかを解明するまでは、話は終わらない。』
●『自閉症の治療はまだ非常に難しいが、ミラーニューロンの機能不全の発見によって、いくつかの新しいアプローチへの道が開かれる。たとえばミュー波の抑制の欠如は、この障害の早期発見を目的とするスクリーニングに欠かせない診断ツールになるだろう。早期発見ができれば、現在おこなわれている行動療法を、顕著な症状があらわれるずっと前に開始できる。残念なことに現状では、生後二年目か三年目になってあらわれだす顕著な症状が親や医師に警告をあたえるケースが大多数を占めているが自閉症をとらえるのは早ければ早いほどいい。
二つ目の可能性として考えられるのは、バイオフィードバックを利用した自閉症の治療である。バイオフィードバックの目的は、被験者の身体や脳から出る生理学的な信号を機器でとらえて、わかりやすいかたちで表示し、本人に見せることによって、自分がどのような状態のときに数値が上がるか、あるいは下がるかを被験者に経験させ、それを意識的にコントロールする方法を身につけてもらうことにある。たとえば心拍数を画面上のドットの上下とビープ音で表示するタイプの機器を用いて練習すると、ほとんどの人は自分の意志で心拍数を下げられるようになる。脳波もフィードバックに利用できる。たとえばスタンフォード大学のシェーン・マッキー教授は、慢性疼痛の患者を脳画像診断装置のなかに入れ、炎のCG動画を見せた。炎の大きさはそのときどきの患者の前部帯状回(痛みの知覚に関与する皮質領域の一つ)の神経活動性をあらわし、したがってその患者が感じている主観的な痛みの量に比例するように設定されていた。ほとんどの患者は、炎に集中することによって、ある程度までその大きさをコントロールして小さく保つことができるようになり、したがって痛みの量を軽減することができた。これと同様に、自閉症児のミュー波をモニターしたものを、本人の目の前の画面に表示し(思考でコントロールする単純なゲームのようにみせかけて)、ミュー波を抑制する方法を身につけることができるかどうか試してみることは可能だ。ミラーニューロンの機能が、完全に欠如しているわけではなく、鈍い状態や不活発な状態にあるだけなら、このような訓練によって他者の意図を見抜く能力を向上させ、その子をとりまく目に見えない社会的な世界への参加にむけて、一歩前進させることができるかもしれない。
画像出展:「ニューロフィードバックとは(べスリTMS横浜醫院)」
『特に欧米においてニューロフィードバックの技術や治療は進んでおり、適応範囲は、ADD/ADHD、自閉症、うつ病、てんかんと多岐にわたっています。』
※ご参考:「心療内科における バイオフィードバック」
●『ミラーニューロン仮説は、自閉症の決定的な特徴―共感、ごっこ遊び、模倣、心の理論の欠如―をなかなかうまく説明づける。しかしまだ完璧ではない。自閉症によく見られるその他の症状のなかに、ミラーニューロンとあきらかに関係ないものがあるからだ。たとえば、体を前後に揺らす、目線があうのを避ける、一定の音に対して過敏や嫌悪を示し、ときにはその過敏さを緩和するためと思われる自己刺激行動をする(自分をたたく場合さえある)、などである。このような症状はかなりよく見られるので、自閉症を全面的に説明するのであれば、これらについての説明づけも必要である。おそらく自分をたたく行動は、身体の突出性を高めるためで、それによって自己の固定と存在の再確認を助けているのではないかと考えられる。』
『脳に関しては1世紀前に古典物理学をひっくり返した概念の革命と同じくらいに衝撃的である』
この古典物理学をひっくり返したというのは、量子論・量子力学のことであり、それに匹敵するくらいの衝撃が脳には隠されているという意味だと思います。そして、その衝撃の一部がミラーニューロンということだと思います。そこで、ミラーニューロンに関して思ったことや疑問をAI(Perplexity)に質問してみました。
1.ミラーニューロンの発見
2.ミラーニューロンが存在する場所
画像出展:「ウィキペディア:ブロードマンの脳地図」
『細胞構築の特徴はそこで行われている神経細胞の情報処理特性と関係していると考えられており、このことから脳機能局在論では領野を示すのにこの区分がよく用いられる。』
3.ミラーニューロンとシグナル
本書には、“「気」はシグナルか”という章があります。
人間の体から放射される遠赤外線のエネルギーは赤外線ストーブの1000万分の1に過ぎず、相手に影響を与えることはできません。そこで考えられるのが、ラジオやテレビの電波のように、人体から放射される遠赤外線にシグナル(情報)を乗せて相手に送っているのではないかという考えです。つまり、このシグナルが相手の脳に伝わって、「気」を受けた人にも気功師と同様の変化が現われるのではないか。そして、実験により気功師の気功中に放射する遠赤外線に1ヘルツ前後のシグナルが乗っていることが確認できたとのことです。
ミラーニューロンとシグナルについて興味をもったのは上記が理由です。
画像出展:「AI(Perplexity)が作成」
ミラーニューロンは視覚、聴覚、運動などの感覚モダリティ(それぞれの感覚器で感知する固有の経験の種類)にわたるシグナルの統合と理解を促進すると考えられています。
4.脳磁法
1)環境磁場と生体磁場の強度
2)軸方向型グラジオメーターで計測した、聴覚刺激により惹起された脳磁場分布
感想
ヒトの脳からは磁場信号が出ています。遠赤外線は電磁波です。電磁波とは電磁場の変動が波動として空間中に伝播したものです。気功師が発する遠赤外線(電磁波)、そしてそれに乗っているのではないかとされる“シグナル”、そこにミラーニューロンが関与しているのかどうかは分かりませんが、冒頭でご紹介した3つの“氣”との類似点、「他者との共鳴」、「身体と心の連携」、「エネルギーの伝達」から、“氣”と“ミラーニューロン”の関係性を考えることは不自然なことではないと思います。
最後に、「ミラーニューロンから何か分泌しているということはないですか?」と質問してみました。
答えは「No」でしたが、ミラーニューロンは神経細胞として定義されており、神経細胞は一般的に神経伝達物質を放出しているため、ミラーニューロンからは何も放出されていないと断言することはできないとのことでした。
今回の本は、“ミラーニューロン”について知りたいと思って見つけたものです。ラマチャンドラン先生の研究におけるアプローチ法は、脳のさまざまな部位の損傷や遺伝的変異によって、心や行動に奇妙な影響が生じている患者さんを研究するというものです。そのお話は驚くような事例ばかりでした。また、非常に高度な内容で私には部分的にしか理解することはできませんでした。
そのため、ブログのほとんどはミラーニューロンに関わる部分を取り上げています。その中には自閉症の原因とミラーニューロンに関するものもあります。
私は昔、訪問による鍼治療やマッサージの仕事をしていましたが、患者さんには高齢者の方以外に、小児障害や自閉症のお子さんもいました。ミラーニューロンには他者の行動、意図を理解し共感を形成するという働きがあります。「自ら閉ざす」、少なくともその原因の一つにミラーニューロンがあると仮定することについて違和感はありませんでした。
「氣」との関係についていえば、AI(Perplexity Pro)の回答を見ると、「他者との共鳴」、「身体と心の連携」、「エネルギーの伝達」の3つが「氣」との類似点とされています。
目次
序
はじめに―ただの類人猿ではない
第1章 幻視と可塑的な脳
第2章 見ることと知ること
第3章 うるさい色とホットな娘―共感覚
第4章 文明をつくったニューロン
第5章 スティーブンはどこに? 自閉症の謎
第6章 片言の力―言語の進化
第7章 美と脳―美的感性の誕生
第8章 アートフル・ブレイン―普遍的法則
第9章 魂をもつ類人猿―内観はどのようにして進化したのか
エピローグ
謝辞
序
●『私は過去四半世紀、認知神経学という新興の分野で仕事をするすばらしい恩恵に浴してきた。ライフワークの大きな部分を占めているのは、脳と心と体の謎めいた結びつきを解きほぐす―とらえにくい糸を一本ずつほぐしていく―ことであり、本書はその抜粋である。これからはじまる各章で、だれにとっても興味のある、私たちの内部の精神生活がもつさまざまな面を探った私の研究内容をくわしくお話しする。私たちは世界をどのように知覚しているのか。いわゆる心身相関(心と体の関係性)とはどんなものなのか。何が性のアイデンティティを決定するのか。意識とは何か。自閉症の問題はどこにあるのか。多数の謎に満ちた真に人間的な能力、すなわち芸術、言語、メタファー[隠喩]、創造性、自己認識、それに宗教的感受性までを、どのように説明できるのか。私は科学者として、いったいどうして類人猿の脳が、そのような神のごとき心的能力の数々を進化させることができたのかを知りたいという、強い好奇心に動かされている。
そのような問題に取り組むために私がとっているアプローチ法は、脳のさまざまな部位の損傷や遺伝的変異によって、心や行動に奇妙な影響が生じている患者を研究するという方法である。私は長年にわたって、きわめて多様かつ奇妙な神経科領域の障害に悩まされている大勢の患者(一部にはそれを恩恵と感じる人たちもいるが)に接してきた。たとえば楽音が目に「見える」、あるいは手に触れたあらゆるものの質感を「味」として感じるという人たち。自分の体を離れて、天井近くからそれを見下ろす体験をする患者。本書には、私がそうした症例から学んだことを書いた。そのような障害はつねに、最初は不可解だが、科学的手法というマジックのおかげで、適切な実験をおこなうことによって理解可能なものにできる。それぞれの症例のくわしい話をする際には、どうすれば説明可能なものになるだろうかと頭を悩ませていたときに私自身の心がたどったのと同じ、一歩ずつの段階的な推理の道筋を―ときおりは、とっぴな直観でギャップを切り抜けながら―読者のみなさんにもたどっていただく。臨床的な謎が解けると、しばしばその説明によって、健常な脳がはたらく仕組みについての何かが新たに解明され、私たち人間のもっとも大切な心的能力に関して、予期せぬ洞察が得られる。そうした旅を、私が興味深く楽しんだのと同じくらい、読者のみなさんにおもしろいと思っていただければさいわいである。』
●『過去200年間に、科学の数多くの分野においてめざましい進歩が見られた。物理学では、物理理論はほぼ完成したと、19世紀後半の知識人たちが宣言したまさにそのとき、空間と時間はその昔、哲学で夢想されていたどんなことより、はるかにずっと奇妙であることをアインシュタインがあきらかにし、原子内のレベルでは私たちがもっているもっとも基本的な因果関係の観念でさえ成立しないことをハイゼンベルクが指摘した。私たちはその戸惑いからたちなおったとき、ブラックホール、量子もつれ、そのほか多数の謎の新発見という見返りを得た。それらは今後何世紀も、不思議さに驚嘆する私たちの感性を刺激しつづけるだろう。宇宙が「神の音楽」と調和して振動する弦でできているなどと、だれが考えただろうか? 同様のリストは、ほかの分野の発見についてもつくれる。宇宙学は、拡大する宇宙、暗黒物質、それに無数の銀河という仰天するような見通しを私たちにもたらした。化学は元素周期表を用いて世界を説明し、プラスチックや多数の特効薬をもたらした。数学はコンピュータをもたらした―多くの「純粋」数学者はむしろ、自分たちの分野がそのような実用で汚されるのをあまり見たくないと思っているだろうけれども。生物学では、身体の解剖学的構造や生理機能がきわめて詳細に解明され、また進化を駆動するメカニズムがようやくあきらかになりはじめた。有史以来、人類を文字どおり苦しめてきた疾病の正体も、ついに理解された(魔術の仕業や天罰ではないとわかった)。手術、薬理学、公衆衛生に革命が起こり、先進国世界では人間の寿命がわずか四、五世代のうちに倍増した。究極の革命は、現代生物学の誕生を告げる1950年代の遺伝コードの解明だった。
それにひきかえ心の科学―精神医学、神経学、心理学―は、何世紀も沈滞していた。実際、20世紀最後の四半世紀に入るまで、知覚、情動、認知、知能の厳密な理論はどこにもなかった(色覚は注目に値する例外である)。20世紀の大半は、人間の行動の説明として提供できるものは、二つの理論体系―フロイト主義と行動主義―しかなかったが、この二つはともに1980年代から1990年代に、神経科学がようやく青銅時代を超える前進をとげたとき、急激に失墜することになる。歴史的に見れば、それはさほど昔ではない。物理学や化学と比べると、神経科学はまだ駆け出しである。しかし進歩は進歩であるし、しかもそれは、なんともたいした進歩の時期だった! 遺伝子から細胞、回路、認知にいたるまで、今日の神経科学の奥行きと幅は―最終的な大統一理論にはほど遠いとはいえ―私がこの分野で仕事をはじめたときの位置から見ると、はるかかなたにおよんでいる。神経科学はここ10年間に自信をつけ、伝統的に人文科学の領分とされてきた分野に対して、アイデアを提供しはじめるまでになった。その結果、いまでは神経経済学などがあり、神経神学というものまで存在する。なかには脳科学にこじつけているだけのものもあるが、全体としては、多くの分野に対しておおいに必要とされる実際的な貢献をしている。』
●脳は小さな断片にすぎないが、脳に関しては1世紀前に古典物理学をひっくり返した概念の革命と同じくらいに衝撃的である。
●「事実は小説より奇なり」ということわざは、脳の働きについてとりわけ真であるように思える。
要旨
●脳がどのように進化したかの理解なしに、脳が働く仕組みを理解することは不可能である。
●第1章では、幻肢について人間の脳の驚異的な変化の能力にスポットを当て、可塑性が進化的、文化的な発達の方向性を定めた可能性をあきらかにする。
●第2章では、入力される感覚情報、特に視覚情報を脳がどのように処理しているかを説明する。
●第3章では、共感覚を取り上げる。共感覚は遺伝子、脳の結合性、人間の創造性に関係している可能性がある。
●第4章では、ミラーニューロンを取り上げる。人間のミラーニューロンは他の霊長類とは異なり高度に発達し、人間文化の鍵であると考えられている。
●第5章では、自閉症という発達障害とミラーニューロンとの関係を探る。
●第6章では、言語の誕生にミラーニューロンが関与した可能性を探る。
●第7章と第8章は、美に関する人間のユニークな感性を取り上げる。
●第9章では、最も難しい自己認識の本質という問題に取り組む。
●本書に示したアイデアの一部は推論的であるが、多くは確固とした基盤、例えば、幻肢、視知覚、共感覚、カプグラ妄想などについては実際の研究に基づいている。一方、芸術の起源、自己認識の本質といった十分な研究がされていないものに関しては、知識に基づく推量と直観に任せて進めた。
はじめに―ただの類人猿ではない
●ラマチャンドラン先生の研究の方法は、伝統的な古い方法とのことである。ふだんは脳卒中や腫瘍や頭部外傷で脳が損傷され、それにより知覚や意識に乱れが生じている患者を診ているが、ときに、脳の損傷や障害はなさそうなのに、ひどく変わった知覚体験や心的体験をする人たちがいる。その場合、その人の話を聞き、行動を観察し、簡単な検査をして、(可能であれば)脳の中を覗き、それから心理学と神経学の橋渡しをする仮説を立てる。別の言い方をすれば、その人の奇妙な行動と、複雑な脳内の配線の不具合とを結びつける仮説といえる。
●『このやりかたは、かなりの割合でうまくいく、したがって私は、一例また一例と症例を重ねるたびに、人間の心と脳のはたらきや、密接なつながりについて、たえず新たな洞察を得る。そのようにさまざまな発見をするなかで、人間という種をユニークな存在にしているものを理解する助けになるような、進化的な洞察が得られることもしばしばある。』
1)『スーザンが見る数字には、いつも、それぞれに固有の色がついている。たとえば5は赤く、3は青く見える。この状態は共感覚と呼ばれており、芸術家、詩人、小説家に一般人口と比べて八倍も多くみられ、創造性と何らかの結びつきがあることが示唆されている。共感覚は、一種の神経心理学的な化石―人間の創造性一般の進化的起源や本質を理解する手がかり―になるのだろうか?』
2)『ハンフリーは腕の切断手術を受けて以来、幻の腕(幻肢)をもっている。腕や脚を切断した人が幻肢を体験するのは珍しくないが、彼の場合は普通ではないところがあることに私たちは気づいた。本人もたいへん驚いていたが、実験に協力している学生の腕を私がさすったり、軽く叩いたりすると、彼はそれを見ているだけで、その触覚を実際に自分の幻肢に感じるのである。学生が自分の手をマッサージしているのを見ると、「幻のマッサージ」を感じて、激痛をともなう発作的な幻の手の握りしめが軽減される。彼の身体と、幻の身体と、他人の身体は、彼の心のなかのどこで一緒になっているのだろうか? 彼の自己感はどこでどうなっているのだろうか?』
3)『スミスという名の患者が、トロント大学で脳外科手術を受けている。彼は完全な覚醒状態にあり、意識もある。頭皮に局所麻酔がほどこされ、頭蓋はすでに開かれている。外科医がスミスの前部帯状回に電極を置く。前部帯状回は脳の前方部に近い領域で、痛みに反応するニューロンが多数存在する。医師は思惑どおり、スミスの手を針でつついたときに活動するニューロンを見つけだす。しかし彼は、次に起こった思わぬ事態に驚愕する。そのニューロンは、ほかの患者がつつかれているのをスミスがただ見るだけでも、同じくらい活発に発火するのだ―あたかもそのニューロンが(あるいはそのニューロンを含む機能回路が)、他者に感情移入しているかのように。文字どおり、他人の痛みがスミスの痛みになっているのだ。インドの神秘主義や仏教系神秘主義では、自己と他者のあいだに本質的な違いはなく、その境界を消滅させる慈悲によって真の悟りがもたらされるとされている。私はかつてこれを、善意のたわごとだと思っていたが、ここに自己と他者の区別がつかないニューロンが存在する。私たちの脳には、ほかに類を見ない共感や慈悲の回路が組み込まれているのだろうか?』
4)『ジョナサンは、数を思い浮かべるように言われるといつも、それぞれの数字が目の前の空間の特定の位置に見える。1から60までの数字がバーチャルな数直線をなして並び、それが三次元空間のなかで複雑にねじまがり、逆行さえしている。ジョナサンは、そのねじまがった数字の列が計算の助けになると言う(興味深いことに、アインシュタインもしばしば、数字が空間的に見えると述べていた)。ジョナサンのような例は、私たち人間だけがもつ数に関する能力について、どんなことを教えてくれるのだろうか?たいていの人は、数字を左から右に思い浮かべる漠然とした傾向があるが、ジョナサンの数字の列はなぜねじまがっているのだろうか?あとでとりあげるように、これは、進化的な観点からとらえないかぎりはまったく意味をなさない、印象的な神経学的異常の一例である。』
5)『サンフランシスコ在住のある患者は、認知症の症状がしだいに進行していくなかで、忘れがたいほど美しい絵を描くようになった。脳の障害によって、隠れた才能が解き放たれたのだろうか?遠く離れたオーストラリアでは、ジョンという名のごとく普通のボランティアの学生が、ひどく変わった実験に参加している。彼は椅子に座り、脳に磁気パルスをあてるためのヘルメットを装着している。彼の頭の筋肉が、誘発された電流によって不随意的にぴくぴく動く。そして驚くべきことに、ジョンはすばらしい絵を描きはじめる。いままではそんなものは描けなかったと本人は言う。このような内なる芸術家はどこから生まれるのだろうか?私たちの内部には、ピカソやモーツァルトやラマヌジャン(数学の天才)がいて、解放されるのを待っているのだろうか?何らかの理由から、私たちの内なる天才が、進化の過程で抑圧されたのだろうか?』
6)『カリフォルニア州チューラヴィスタ在住のジャクソン博士は、脳卒中を起こすまでは、高名な医師だった。卒中のあと右半身に部分的な麻痺が残ったが、さいわいなことに高次知能の座である大脳皮質の損傷は小さく、高次精神機能はおおむね損なわれずにすんだ。相手の言っていることはほとんど理解できるし、会話もかなりよく続けられる。しかし、精神機能の状態を調べる目的で簡単な課題を出したり質問したりしていくと、大きな驚きに出会う―「輝くものがみな金とは限らない(見かけはあてにならない)」ということわざの意味をたずねたときに。
「ぴかぴか光って黄色いから金だとは言えないという意味ですよ、先生。銅かもしれないし、なにかの合金かもしれませんからね、」
「そうですね」と私は言う。「でも、それだけではなくて、もっと深い意味がありますよね?」
「ええ」と彼は答える。「貴金属の宝飾品を買うときは、よほど気をつけなくてはいけないという意味です。いんちきも多いですからね。金属の比重を測ればいいじゃないかと思いますがね」
ジャクソン博士がもっている障害を、私は「メタファー障害」と呼んでいる。これはつまり、人間の脳波専用の「メタファー中枢」を進化させたということなのだろうか?』
7)『ジェイソンはサンディエゴのとあるリハビリセンターの患者である。彼は数か月間、無動無言症と呼ばれる半昏睡状態にあり、その時点で私の同僚のスプラマニアン・スリラム博士の診察を受けた。ジェイソンは、目は覚めていて、しばしば目で人を追うという状態にあるが、寝たきりで、歩くことも、人を認識することも、人と交流することも(たとえ相手が自分の親でも)できない。しかし、父親が隣の部屋に移動して、そこから電話で話しかけると、たちまち意識が完全になり、相手が自分の父親であることを認識して会話をする。そして父親が病室に戻ってくると、即座にもとのゾンビのような状態になってしまう。あたかも一つの身体のなかに二人のジェイソンが―視覚とのつながり、目覚めてはいるが意識のないジェイソンと、聴覚とつながり、はっきり意識のあるジェイソンが―閉じこめられているかのようだ。意識をそなえた個人性が現れたり消えたりするこの不気味な現象は、脳が自己認識を生む仕組みについて、何かを明らかにしてくれるのだろうか?』
●こうした人たちの状態を綿密に研究すると、奇怪な症状が生じる理由を解き明かす助けになるばかりか、正常な脳の機能を理解する助けになる。そして、最も難しい、人間の脳はいかにして意識を生みだすのか?という問いの答えが見つかるかもしれない。
脳のガイドツアー
●人間の脳はおよそ1000億個の神経細胞(ニューロン)からなっている。
●ニューロンは糸のような線維を通して互いに会話している。線維には、もじゃもじゃした小枝の多い茂みに似たもの(樹状突起)と、曲がりくねった長い送信ケーブル(軸索)の2種類がある。
●ニューロンはそれぞれ他のニューロンと、1,000個から10,000個の結合部で結びついており、シナプスと呼ばれるその結合部で、互いに情報を共有している。
●シナプスには興奮性のものと抑制性のものがあり、その時々でオンの状態にもオフの状態にもなる。これらの順列と組み合わせを考えると、脳がとりうる状態の数は驚くほど膨大になり、いま知られている宇宙に存在する素粒子の数を容易にうわまわる。
●脳の多数の構造体は、特定の目的に応じるようにつくられたニューロンのネットワークである。それらの構造体はそれぞれ何らかの個別的な認知機能や生理機能に関与している。各構造体は、ほかの脳構造とパターン化した結合をつくり、それによって回路を形成する。回路は情報を前や後ろに、あるいはまた、くり返しのループとして流すことによって脳の複数の構造体が共に働き、高度な知覚や思考や行動を生みだすことを可能にしている。
●前頭前皮質は古くから「人間性の座」とみなされてきた。しかし、比較的小さな脳の一部がいかにして、そのようなとらえどころのない一連の高度な機能をまとめてあげているのかという疑問については、いまだにほとんど分かっていない。
●『人間の脳においてきわめて大幅な発達をとげ、したがって機能(もしくは認知)レベルにおいて、新奇かつユニークとみなせる脳領域がいくつか特定されている。そのうちの三つはすでに名前をあげた―左側頭葉のウェルニッケ野、前頭前皮質、左右の頭頂葉のIPL(下頭頂小葉)である。さらに言えば、IPLから派生した縁上回と角回は、類人猿の脳には解剖学的に存在しない。これらの領野が人間の脳でなみはずれて急速に発達したという事実は、重大な何かがそこで起こっているにちがいないということを示しており、臨床的所見がそれを裏づけている。
そうした脳領域の一部には、ミラーニューロンと呼ばれる特殊なタイプの神経細胞が存在する。ミラーニューロンは、自分がある動作をしているときに発火するだけでなく、ほかのだれかがそれと同じ動作をしているのを見ているときにも発火する。簡単な話に聞こえるので、うっかり見過ごしてしまいやすいが、これは大きな意味をもつ。ミラーニューロンは、あなたがほかの人に共感し、その意図を「読み取る」こと―その人が実際に何をしようとしているかを把握することを可能にしているのである。それは、自分の身体イメージを使ってその人の動作をシミュレーションすることによってなされる。』
●ミラーニューロンは他者の意図をかなり正確に推測する。つまり、ミラーニューロンは、自然が私たちに授けることのできた、テレパシーにもっとも近いものだと言える。
●類人猿にもミラーニューロンは見られるが、人間のミラーニューロンは動作だけでなく心の面にも及ぶ。
●『ミラーニューロン・システムを過剰なほど発達させることによって、進化は実質的に、文化を新たなゲノムに変えた。人間は文化を武器に、新たな厳しい環境に適応し、それまで手に入らなかった食源やそのままでは有害な食源を利用する方法を、わずか一世代か二世代のうちに考えだすことができた。遺伝子の進化を通してそのような適応を達成するとしたら、何百、何千という世代が必要だろう。』
●感覚の敏感な手で、<気のボール>をつくる
・手は皮膚感覚の敏感なところなので意識が集中し、気が集まりやすいところだと考えられる。
[気のボールのつくり方]
-『まず、両手の指先を、親指は親指に、ひとさし指はひとさし指にと、全部くっつけて、手のあいだにボールを入れているような形をつくる。
つぎに、指先を五センチくらいゆっくりと離して向かい合わせる。そして、自分の指が親指だけになったイメージをつくり、親指の先に軽く意識を集中して、指先をゆっくり動かすと、指先にむずむずした感じや、指先と指先が見えないとゴムでつながったような感じがうまれてくる。
そうなったらつぎは、ひとさし指だけが自分の指だと思って、親指のときとおなじように、ひとさし指どうしの指先の気をつないでいく。
このやり方をくり返して、つぎつぎに指先を一本ずつつないで小指までつないだら、こんどは、親指とひとさし指の二本をつなぎ、つぎに親指・ひとさし指・中指の三本をつなぎ、というふうにして、四本、五本と指先をぜんぶつないでゆく。
五本の指がつながったら、こんどはぜんぶの指をゆっくり動かす。と、指先ぜんぶがつながった感覚がうまれてくる。
つぎに、片手の親指と小指とを近づけるように動かすとてのひらの中心部の労宮というツボに軽い緊張感やムズムズとした感じが生じてくる。この感覚をたよりに、労宮に意識を集中して、左右の労宮をつなぐ。
労宮をつなぐのは、指先をつなぐよりも少しむずかしく、訓練がいるかもしれないが、労宮は気を出したり入れたりするのによく使うポイントでもあるので、訓練をして、左右の労宮を気でつなぐことができるようにしていく。
このようにして、ぜんぶの指先と労宮がつながったら、そのまま手や指をゆっくり動かして、つながった感覚を強化していく。そのあとで、指先や労宮をつないでいる意識を「フッ」とはずすと、両手のあいだに見えない気のボールが感じられるようになる。』
画像出展:「アニメで楽しく学ぶ脳と神経のお話」
ホムンクルスとは、ラテン語で小人の意味です。人間の脳に人体の部位を当てはめ、小人に例えて脳機能を説明するために使われています。胴体にくらべて、舌や唇・手の指(とくに人差し指)・目が大きいのが目立ちます。神経からみて手は最も重要と考えられます。
画像出展:「ホムンクルスとは?大脳皮質のマッピングで現れる脳の中の小人」
各領域を電気刺激したときに体のどこが反応(運動または感覚)したかを詳細に記録することによって得られたものですが、それを分かりやすく伝えるために、ペンフィールドは、対応する体の部分を脳の表面に並べて描いて見せたのです。まるで小人が頭の中に住んでいるように思えるという意味で、「ホムンクルス(homunculus, 小人間像)」と呼ばれるようになり、一気にペンフィールドを有名にしました。
●患者全員が<気のボール>を実感し、気を巡らす
・『気のボールづくり、そのやり方のめどがつくと、私はいさんで患者さんの集まりにそれをもちこみ、訓練をはじめた。
うれしいことに、その場ですぐさま気のボールをつくることができる患者さんがでてくる。実際には、一週間後には、それまで身体訓練で背骨の歪みをとっていた患者の全員が、両手のなかに気のボールを感じることに成功したのだった。私は患者さんたちに、「両手があいた時間をみつけて、いつでもどこでも気のボールを強化する練習をしてくださいよ」とつけくわえた。そうすることで、はじめはかすかだった感覚が、すこしずつすこしずつ強まり、気の感じも温感から電気的なジンジンした感じにかわっていくはずだから・・・・・。
つぎは、第二の、意識して気を巡らすというステップにはいる。これは私もさんざんてこずった過程なので、気のボールづくりと同様に、感覚の敏感な腕をつかって気を運行させる方法をすぐに考えだした。いまでは、そのやり方を<腕周天法>と名づけているのだが―両手のあいだに気のボールをつくったら、つぎに、吸う息で左腕から気のボールを腕のうちに吸いこんでいく。気のボールが電気感を感じるまでに強くなっていれば、左腕のなかにジーンとした気感が伝わって、肩の方向へ進んでいくのがわかるはずだ。
これが上手になっていくと、吸う息で気のボールを左腕から胸のなかまでもってきて、吐く息で右腕に流すことができるようになる。そしてつぎは逆方向の訓練もする。こうして、腕でつくったループのなかを気のボールが巡っていくようになれば、気の運行術の初歩をマスターしたといえるわけだ。
気のボールをつくることができるようになった患者さんたちは、よろこんで腕周天法の訓練にはいりこみ、それほどの苦労を経ないで、気を動かすコツを自分のものにしていった。
そこまでくれば、両手と体の表面の三か所で気のボールをつくり、身体の正中線上にある任脈・督脈のうえにそって、手を動かすことによって、身体のうえの気を動かす小周天法にはいりこむ道はひらけたと言える。やがて、何人もの患者さんたちが、小周天法を体得してくれた。私の東洋医学での治療も、やっと「内外兼治」の内容を備えるところまできたということだ。』
天地の無尽の<気>との交流へ
●磁気治療に着目し、小周天バンドを考案する
・『気が自由にコントロールできるようになった私は、それを治療にとり入れた。気がつかえるようになると、鍼治療の腕も上がったが、鍼を打つかわりに、気を出して、それで治療ができるようになった。たとえば、「肩が痛い」「首が痛い」という患者さんに、「じゃあ、気を流しますよ」といったぐあいに。気で治療ができる!私はおもしろくて夢中になった。
気での治療が効果をあげて、私は外気治療をくりひろげた。じっさい、長年の筋骨格系の痛みが一、二度の外気治療でうそのように消えていったり、膝関節の痛みで松葉杖でやってきた人が、三度目の受診には松葉杖なしで歩いてきたり、という実例がつぎつぎに出てくるので、うれしくてしかたがなかった。』
●中国人のように早朝の樹木から「気」を取り込む
・中国の本の中には「気を出したら減る、だから、いろいろな瞑想をして気を取り込むようにしなければいけない」という教えがある。また、多くの気功家が治療をして疲労がたまり、患者さんの症状が出てくるという例も紹介されている。そして、“気を取り込む”ために中国の人たちは、早朝、公園に行き、樹木から気を取り込んでいる姿が説明されている。
・“てのひら療法”という本に、治療は「してあげる」という気持ちではなく、「いっしょにする」という気持ちが非常に重要と書いてある。このこころが欠け、気功の技術だけに頼り、「治してあげる」という心持ちでは“気の取り込み”はできない。“気の取り込み”は焦りやいらだちを捨て、やわらかな静寂の中で繰り返すことが重要である。
●天地の<気>と交流し、ものすごい快感・高揚感が訪れる
・最初の大周天経験は、“天の気を取り込む”ということだった。それが体験できると、こんどは“地の気を仙骨から吸い込む”訓練にとりかかった。こうして、頭頂の百会から天の気を取り込むこと、そして仙骨から地の気を吸い上げることができるようになり、それまでの疲れは感じなくなった。また、病状をひき受ける現象もなくなった。
・気の治療も変化し、百会や仙骨から天地の気を流入させて、自分をチャンネルとして患者さんに気のエネルギーを放射する。これにより気の強さは増大し、病状の軽減・消失がはっきり目立つようになった。そして、自身が疲れることはなかった。そして以前とは違った体感・快感・高揚感を感じた。これこそが大周天法の世界である。
実践メニューⅠ
指気功
・『気功の練習をはじめて、すぐ気を感じられる人となかなか気を感じられない人がいます。個人差はありますが、まず、手にジーンとした感じ、フウーと温かい気を感じるところからはいるのが、いちばん近道のようです。』
Ⅱ こころを診る、からだを癒す 臨床のなかの<気>
東洋医学診療部の創設へ
●患者自身の治癒力が働かなければ、病気は治らない
・背負った病気が困難であればあるほど、患者さんは無力感におちいり、全面的に依存する状況であることが多い。この無力感では病を克服するエネルギーは衰弱する。本来、人間が備えている自然治癒力がはたらかなくなってしまう。
・人間は肉体と気の双方のバランスが保たれていてこそ、正常な活動が可能になる。
・東洋医学、特に気の発想では、自然治癒力を高めるためには、食物のとり方、身体の運動、気持ちの持ち方など、生活のスタイルを調整する必要がある。つまり、治るためには何か自分のアクションが必要である。
●症状はおなじでも、病気の深さはみなちがう
・漢方を主に医療を行うようになって、患者さんの自然治癒力を高めるという思いが強くなった。
・東洋医学の見方で病気の原因をたどっていくと、ひとことで言えばライフ・スタイル、暮らし方にゆきつく。
・日々の暮らしの歪みは、食生活、身体の使い方、そして精神生活に大別できる。そして、それぞれの歪みがなくなるよう援助することが治療法となる。
画像出展:「気でひきだせ、無限の治癒力」
“病気の生じる流れ”とあります。東洋医学の本来の役割は、未病の段階で手当て(気功、養生等)し、患者さまの自然治癒力をあるべき姿にととのえて、健康を取り戻すことです。図の中では上流に位置します。
一方、西洋医学は病になってしまった段階で、薬物や手術により病を取り除くことが目標になります。
暮らしのなかからの歪みが生みだす病
●治らないムチウチ症で、病院がよいをつづけるケース
・病の原因に気の側面が関わっていないということはありえないが、まずは物質的な対応(薬・鍼・低周波電気)で処置をして、患者さんのライフ・スタイルの問題を見直すことで病状が改善することが多いが、難病や西洋医学では治す方法が分かっていない病気のとき、気功を勧めている。
実践メニューⅡ
風風(ルンルン)気功
1.頭をゆるめる
・現代人はストレスからくる緊張で、頭皮や頸にこわばりがある。<風風(ルンルン)気功>の第一は頭皮のこわばりを自覚し、それをゆるめる方法である。
2.丹田呼吸法
・運動不足の人、頭脳労働が主体の生活をしている人は、下丹田の気が不足し、頭や頸に気がのぼったり停滞したりすることが多くなる。「頭のこわばりをゆるめる」を行った次は、下丹田に気を充実させる訓練を行う。
3.蝶形骨と後頭骨を整える
・左右のこめかみをつなぐ部分には、蝶形骨という蝶が羽を広げたような形をした骨があり、この骨の上にはホルモン系や自律神経系の中枢がある。また、後頭骨の上の頭皮にはストレスからくる緊張がたまりやすい。丹田呼吸法の次は、この蝶形骨と後頭骨を整える。
4.仙骨と尾骨をめざめさせる
・尾骨には「長強」という名のツボがあり、その名のとおり、命を長く強くするはたらきがあるといわれている。四番目の<風風(ルンルン)気功>は呼吸とイメージと動作によって、仙骨と尾骨の力をめざめさせる。
5.寝て行う風風気功
・寝た姿勢で、まず蝶形骨と後頭骨をほぐし、続いて仙骨と尾骨を刺激する気功である。これは内臓のはたらきを活性化し、腰痛に対して良い効力をもつ。
6.二人で行う風風気功
・1から5までの気功をマスターし、さらに、後で述べる<小周天基本功>で背骨を柔軟かつ強靭にすると、頭頂や仙骨から自在に風(ルン)を吸い込んで、身体の中に流していけるようになる。六番目はそのような境地に至った人が、他の人と組んで行うものである。
Ⅲ 癒す力、生きる力の回復 <気>の可能性を求めて
西洋医学と東洋医学の統合をめざして
●医療の対象は、臓器へ、病巣へと細分化していく
・薬には耐性の問題があり、癌は取り除いても二度で癌にはならないとはいえない。個別の臓器を検査し細分化された西洋医学にも課題がある。
・『癌をうまく切りとったといっても、細胞レベルには残っていて、それがまた頭をもちあげてくるという多数の事例にぶつからねばならない。そこで、切りとりきれないものを抗癌剤でたたくことになるのだが、一回目は効果があらわれて腫瘍は小さくなるのだが、やがて抗癌剤への耐性ができて、効果はなくなっていく。
もともと癌細胞はみんな顔がちがい、個性をもっていて、休んでいる細胞もいるし、じっと眠っている細胞もいる。休眠中の癌細胞には抗癌剤は効かなくて、あとになって、それが動き分裂しはじめる。耐性を克服する方法として多剤併用が考えられ、何回も、さまざまな抗癌剤をくみあわせて使用するのだが、くり返しのなかで、身体じたいが弱められ、体力が極度におちて亡くなってしまう。
分析し、細分化し、医療の対象が、臓器へ、病巣へと局限化するなかで、病者という存在の影がうすくなっていったのだ。
臓器の異常、病巣の形態をあきらかにする手段としてのさまざまな検査は、精密となり、正確度を増し、医師は患者の生の声をあまりきかなくても、病気をつかみ、投薬・治療法を決定することが可能になってくる。
この方向の流れの中で、たしかに臓器を診てしらべる技術は高度なものになっていった。それとともに、医師の目とこころは、ひたすら臓器・病巣という局部にむかっていき、その臓器をもち、病巣をかかえて生きている患者というトータルな存在から離れていくという傾向をつよめていった。それは、たとえば、癌細胞をつぶそうとして長期・大量に投与する抗癌剤が健康な細胞をも殺しつづけて、癌患者の生命を奪うことになる、という皮肉な姿に象徴されている。』
●栄養・漢方薬・気功でトータルに生命力を強める
・西洋医学は根本的に治療できているのかという疑問につきあたって悩み、そして東洋医学の世界に分け入って、東洋医学の根本である気の勉強を重ねてきた。
・西洋医学の長所は病因を分析し除去する方法には長けているが、自然治癒力という生体のもつ大きな長所を伸ばすことは考えられていない。
・東洋医学は病を部分としてはみない。人間の全体としての身体を守る力の弱まり、血の滞りから病気がうまれる。そしてその病気を治す力は、やはり、自然治癒力である。
・『ほとんど患者さんは、身体の、とくに背中がこわばっている。この筋肉のこわばりは、じつは精神のこわばりをあらわしているともいえるだろう。私の外来にやってくる人のなかには、首がこわばっている人が多い。ふつう、身体をまっすぐにしているときには自覚がすくないが、首の筋肉をつまむと、強い痛みを感じる。それは、さまざまなストレスで、肩があがり、首に力がはいった状態がつづいていることからうまれる。
そこで、その力をゆるめるための身体の動かし方を、気功訓練で習得してもらう。ゆっくりした呼吸法、力のぬき方、背骨の歪みの矯正を、気功をとおして実現していく。また、気功はもう一つ、精神的なリラックスもつくりだす。これは、最近の脳波の研究ではっきりしたデータで証明することができた。
このように、物レベルから意識まで、トータルに自然治癒をつよめることをめざすのが、いまの私のやっている治療法だ。つまり、病気は、根源にさかのぼって考えると、結局、ストレスを十分に統御・調整できなくて、身体の防御のバランスが崩れて、その人の弱いところに発症する、といえるはずだ。だから、このような手法を用いることで、西洋医学では診断のつかない病気にも対応できるし、さらにまた、この自然治癒力をたかめることは、病気を治すという局面だけでなく、ヘルス・プロモーション=健康を増進する、という方向の効果も期待できる。』
さまざまな領域で<気>の活用を
●学校で<気育>ができれば、子どもは生気をとりもどす
・患者さんがリラックスしてくると、自分が言った言葉が理解されていると感じるが、気が衰弱し、こころが閉じている患者さんの場合、言葉が届かないことがよく分かる。このような場合は、身体の状態の説明だけにとどめ、「こうしたらいい、こんなやり方が望ましい」という話は控えている。これは教師と生徒の関係にも当てはまるように思う。
実践メニューⅢ
小周天基本功
・『まず、頸から腰までの背骨を前後・左右にねじって動かすことにより、歪みを徹底的に調整して、柔軟かつ強靭なバックボーンをつくります。
訓練すると、まず、自分の頸・背中・腰がいかにこわばっていたかに気づきます。そして、訓練が進むにつれて、温かく軟らかくなってリラックスした背中を自覚できるようになってきます。背中にまったく歪みがなくなると、精髄を出て内臓を支配している脊髄神経のはたらきが正常化して、長年の頭痛・肩こり・腰痛・胃腸機能の低下などが、しだいに改善していきます。』
感想
矢山先生にとっては、気功は、漢方も鍼も効かない患者さんに対するものであり、何をやっても良くならず、失望と深い悩みをもち、体もこころもこわばっている患者さん、そして、自らの自然治癒力に背を向けている患者さんに対して用いているとのことでした。
その強いこわばりを緩め、歪みを改善することができるとのことです。この歪みの改善が大きな効果につながるのですが、気功の原点は「気」を流すことです。これは「気」の推動作用といわれ、血の流れをよくする働きに他なりません。つまり、気功は「気」に働きかけ血の流れをよくし、こころと体のこわばりをとり、そして歪みを整え、その人の本来の自然治癒力を通じて、心身の健康を取り戻すものであると理解しました。
特に、“栄養・漢方薬・気功でトータルに生命力を強める”の章の中にあった、「血の滞りから病気がうまれる」という事が、シンプルかつ最も重要なことだと感じました。
気功は訓練をかさねることでマスターすることができます。本書では“指気功”、“風風(ルンルン)気功”、“小周天基本功”の3つが紹介されています。気功に関する本は、他に4冊予定しているので、最も自分に合いそうなものを選択して、実践したいと思います。
実は10年程前に、一度、気功教室に通ったことがあり、「これが気のボールの感覚なのかな?」と感じた経験はあるので、うまくいけば「気」をしっかり実感できるようになるかもしれません。
本書の著者である矢山利彦先生は医師であり、佐賀県で“矢山クリニック”を開業されています。基本方針には「真の病因をつきとめ健康をクリエイトする」とあります。動画を拝見すると東洋医学と西洋医学に加え、歯科医科統合も実現されていることが分かります。
「健康を追求していくとどうしても口腔内衛生の健康を無視することはできない」という矢山先生のお考えに基づく方針ですが、口腔内衛生の問題は極めて重要だと思います。
※以前、ブログ“口腔内細菌との闘い”をアップしており、口腔内衛生については個人的にも興味を持っていました。
『Y.H.C.矢山クリニックのマークは、患者さん、ご家族や友人、医療従事者という3つの人のつながりと、西洋医学、東洋医学、その他の自然療法という3つの治療を融合して医療をおこなっていくことを意味しています。医師となって以来、数多くの患者さんと接し、治った方もおられますが、お亡くなりになり悲しく残念に思う方もたくさんおられます。そんな方々に、もっとこんなサポート・ケアをしてあげたかったと、ずっと考え続けてきたことをやっと形にできたのがこのクリニックです。』
矢山先生は、『西洋医学を学ぶことから医師としての歩みをはじめて、難病患者とのかかわりのなかで、“西洋医学の診断は精密化したが、根本的に治療できているのだろうか”という疑問につきあたって悩み、そして東洋医学の世界に分け入って、東洋医学の根本である気の勉強をかさねてきた。』とのお話をされています。
今回は医師(西洋医学)である先生が、東洋医学、気功、そして「気」をどう捉えているのかを勉強させて頂きたいと思います。
目次
まえがき
Ⅰ 気とであい、気をさぐる “治らない”病気への挑戦
西洋医学から東洋医学へ
●アメリカ方式で研修する病院で、外科医として出発する
●救急医療の現場で、人間の治癒力のすごさを知る
●難病患者をまえにして、治療のあり方に矛盾を感じる
●ムチウチ症の治療法を求めて、東洋医学とであう
●漢方薬と鍼治療から<気功>の世界へたどりつく
●武術の訓練のなかで、<気>への素地がつくられていた
●滝行は、無意識にかさねていた<気>の修行であった
●心身相関で病気が治ることを「心療内科」で学ぶ
<小周天法>を編みだすまで
●気功師・楊自正氏と出会い、はじめて<気>を体感する
●<小周天法>を求めて、中国の古典を読みあさる
●腹筋運動で熱を生じさせ、下丹田に<気>を集中する
●薬も鍼もきかない患者と<小周天法>の訓練をする
●感覚の敏感な手で、<気のボール>をつくる
●患者全員が<気のボール>を実感し、気を巡らす
天地の無尽の<気>との交流へ
●男女の<気>の流れの違いをO-リングテストで発見する
●磁気治療に着目し、小周天バンドを考案する
●外気治療による疲労と病状転移に悩まされる
●中国人のように早朝の樹木から「気」を取り込む
●天地の<気>と交流し、ものすごい快感・高揚感が訪れる
●人との出会いから、<大周天法>へのヒントをつかむ
●天地の<気>との交流法をヨーガのなかにさぐる
実践メニューⅠ
指気功
Ⅱ こころを診る、からだを癒す 臨床のなかの<気>
東洋医学診療部の創設へ
●患者自身の治癒力が働かなければ、病気は治らない
●症状はおなじでも、病気の深さはみなちがう
暮らしのなかからの歪みが生みだす病
●早食いが原因で腰痛になったケース
●クルマとハイヒールが腰痛をひきおこしたケース
●治らないムチウチ症で、病院がよいをつづけるケース
●家庭の不和がムチウチ症の再発をひき起こす
癌患者とその肉親の闘い
●癌を恐れる不安感が自然治癒力を萎えさせる
●末期癌の告知をめぐって、患者の夫と話しあう
●病状を告知して、癌に挑戦してほしいと訴える
●妻の末期癌を老夫婦はおだやかにうけ入れる
●病室へ足を運んでは、癌治療について話しこむ
●夫婦で気功をはじめて、病状は安定へ向かう
耕ちゃんの再生への歩み
●意識不明の息子に、母親は語りかけ歌いつづける
●一滴の水を飲みこむ力を回復させたいと願って
●イトコたちの声に反応して、はじめて耕ちゃんが笑った
●“ドーマン法”とであい、四年間の訓練をつづける
●車椅子の耕ちゃんの<気>の力の強さに驚かされる
●過労の限界にある母親に気功をすすめる
●母親の<気>の体験が、耕ちゃんの回復力を高めた
実践メニューⅡ
風風(ルンルン)気功
1.頭をゆるめる
2.丹田呼吸法
3.蝶形骨と後頭骨を整える
4.仙骨と尾骨をめざめさせる
5.寝て行う風風気功
6.二人で行う風風気功
Ⅲ 癒す力、生きる力の回復 <気>の可能性を求めて
西洋医学と東洋医学の統合をめざして
●特効薬と手術が、戦後医療の中心課題となる
●医療の対象は、臓器へ、病巣へと細分化していく
●栄養・漢方薬・気功でトータルに生命力を強める
●自然治癒力を高める東洋医学に、西洋医学を統合して
さまざまな領域で<気>の活用を
●21世紀にむけて、<気>をいかす可能性をさぐる
●<気>と脳波の関係で、心身ともに活性化する
●学校で<気育>ができれば、子どもは生気をとりもどす
実践メニューⅢ
小周天基本功
1.背骨を前後に揺する
2.背骨を左右に揺する
3.背骨をらせん状に揺する
4.頸をよこ8の字に揺する
あとがき
まえがき
『治療法がわかっていない病気になった患者さん、病状の進行した患者さんたちが、「この病気は治りませんという“宣告”をうけた」と話したり、「あとどのくらいの命でしょう」と言ったりするのを聞くと、私は悲しみといきどおりの気持ちが湧いてくる。そして、「よーし、何とかしてやるぞ」という負けん気の気持ちがムクムクと頭をもたげてくる。治らないということばをのみこみ、ギブ・アップすることを拒否して模索しつづけているあいだに、いつのまにか東洋医学に足をふみ入れ、さらに「気」の世界にたどりついた。』
Ⅰ 気とであい、気をさぐる “治らない”病気への挑戦
西洋医学から東洋医学へ
●漢方薬と鍼治療から<気功>の世界へたどりつく
・『漢方薬と鍼―はっきり効果が現れる方法を見いだして、私は夢中になり、研究と実践、治療をつみかさねていった。そのころ私は「鍼師・矢山」と呼ばれていたほどだった。一方、ムチウチがよくなったという話をきいて、これまで悩んでいた人たちが新しくやってこられ、いつしか、私のまわりはムチウチ症患者だらけになっていた。
そして・・・やはり、漢方と鍼で治療しても、どうしてもよくならない患者があらわれてきた。
さまざまな治療をうけめぐったがよくならない高齢の患者。ムチウチをきっかけにして仕事がうまくいかなくなった経営者.家事がさばけなくなったのを怠けとみられて、夫婦関係がこわれてしまった主婦。学校の成績がおちこんで悩む学生・・・そのほか、鍼も漢方も効かないという人は、みんなこころにつよい鬱屈を抱えているようだった。そういう人たちをみて、これは漢方でいう“気が虚している”ということではないか、という考えにたどりついた。
十五年まえのそのころ、東洋医学会でみたポスターの、「気の流れをよくする訓練としての気功」という文字に出会った。これは気功ゼミナールの開催の知らせだった。
“気功があの人たちに有効にはたらくかもしれない”という想いがひろがり、“よいのでは、と考えたら、なによりもまずやってみる”という、これも習性化している生き方が、私を<気>の宇宙にむかわせた。』
●心身相関で病気が治ることを「心療内科」で学ぶ
・大学で恩師・池見酉次郎先生と出会い、「心療内科」に触れたことが、気功へとつながる大きな基盤となった。池見先生は当時、日本ではまもない心療内科の初代の教授であり、気功、ヨーガなどにも造詣が深かった。
・池見先生の講義で、病気は身体だけの問題ではなく、こころと身体の両方、心身相関で治るということを教わった。さまざまな囚われや、こころの葛藤が消えていくとみごとに病気が治っていくということを学んだ。
・「自律訓練法」は気功にとって役にたった。例えば、皮膚の温度を自分の意識で変える訓練―自己暗示をかけるかたちで、ゆっくりとした呼吸とともに「手があたたかーい」とくり返す。訓練を続けることで手をあたたかくすることができるようになる。
※補足:百会(頭頂)→丹田(下腹部)→足へと血液が流れていくように意識(イメージ)するということは、まさに気が血を推動するという働きそのものに目を向けた行為だと思います。
・矢山先生がつくった気功の一つの柱は、「心身医学」といえる。非常に治りにくい胃潰瘍、原因不明の手足の麻痺、アレルギー疾患、これらはこころの軋轢で起きている場合がある。
<小周天法>を編みだすまで
●気功師 楊自正氏と出会い、はじめて<気>を体感する
・長い期間、病気が続いている人は病気を自分で治せるんだという気持ちが薄れてしまっていることが多い。どこかに治してくれる人がいるのではないかと思い、あちこちの病院を巡っている。
・漢方薬や鍼治療の効果があがらない患者さんは、必ずと言っていいくらい首や背中など身体のどこかに歪みがあった。
・医者から医療を受けるだけでは足りない。その人自身が、自分で自分を心身ともに持ち上げていけるようなプロセスとエクササイズが必要である。
・気功師 楊自正氏は脳外科医で武術の師から気功を学んできた。
・最初に学んだ気功が小周天だった。
・気が自由に出せるようになれば、さまざまな病気を治せるようになる。
・“意識、イメージの力によって身体の生理機能を自分で動かし、コントロールする”。
●<小周天法>を求めて、中国の古典を読みあさる
・小周天を簡単にまとめると―身体の真ん中の気の通路、前面が「任脈」、後面が「督脈」の、気の流れが盛んになると、全身の気の流れがよくなり、それで病気が治る―ということである。
・気を流すためには、まず、下腹部にある下丹田に気を集める。そのためには“下腹部に意識を集中し、息を吸うときも吐くときも下腹部を軽く緊張させ、そこに気が集まるとイメージし続ける訓練を行う。
●腹筋運動で熱を生じさせ、下丹田に<気>を集中する
・下丹田に気を集める方法として腹筋運動を取り入れた。
・『呼吸にあわせて、ゆっくり腹筋運動をしながら、意識を下丹田に集中する。つまり、腹部をふいごのように動かしながら、呼吸と熱のイメージと、筋肉の緊張と弛緩をくり返すわけだ。これを五十回から六十回もすると、下腹部に熱が発生する。当然なことで、運動による熱の発生だ。しかし、これをくり返していくうちに、だんだんすこしの運動回数で熱が発生するようになり、じょじょに運動をへらしていって、とうとう呼吸と腹筋の緊張だけで熱感を生みだすことができるようになった。』
●薬も鍼もきかない患者と<小周天法>の訓練をする
・漢方薬も鍼も効かない4人の患者さんに「気功訓練」を始めた。目的は小周天をマスターし自然治癒力を高め、病を克服してもらうことであったが、すぐさま壁にぶつかった。1番の問題は患者さんたちの背骨の歪みであった。身体の歪みは前後左右に屈伸したり、左右に捻じったりすることで身体の歪みがなくなる。これらは、ヨーガ、空手、太極拳から学んだものである。
・中国の導引にある、背骨を前後に波打つように動かす鳥と亀の型、左右に波うたせる龍の型を選んできた。そして、背骨をねじる動きに加え、これらの総合として、背骨を横8字に動かす熊の型を仕上げとした。
こちらは五禽戯という気功です。動画は「中国太極文化学院」さまから拝借しました。
・背骨の歪みをとる気功訓練が続いて、4人のうちの1人、女性の35年続いたという頭痛が少しずつとれていった。続いて長年の喘息で体力がなくなっていた朝山さん(仮名)も体力の回復に伴い、喘息の発作が減っていった。週1回の気功は新しい患者さんが加わり、症状の改善に至る患者さんが増えていった。しかしながら、患者さんたちが下丹田に気を集められるようにはならなかった。
・もともと、下丹田に気を集めるには、普通以上に健康で、体力・気力が充実していることが必要である。
第三章 「気」のスイッチとコントロール
●韓国のお坊さんがくれたヒント
・『気功師や特異能力者の測定をするとき、こちらが測定開始の合図を送ると、途端にサーモ・グラフィーも脳波計も血圧計も変化を示します。それは見事と言えるほどです。ところが気功師たちを見ると、外見上は何も変わるところがありません。一体何をきっかけとして、このような変化を起こすことができるのか、いつも不思議に感じていました。つまり、「気」のスイッチは一体何かということです。』
・自律神経を自分でコントロールできるようにするのが気功であると言えるが、そのコントロール方法を解明しなければならない。
・呼吸は自分の意志で動かすことのできる体性神経と、動かすことのできない自律神経の双方に関係しているので、重要なものだと考えていた。
・『韓国のお坊さんを測定する機会がありました。その方は、こちらが測定開始の合図をすると、口で「フー」と細く長い息を吐いたのです。その時「あっ、やっぱり呼吸だ‼」と確信が持てました。』
●「気」のスイッチは呼吸だった
・グラフ3・1(a)は、第一章で紹介したベテラン気功師S氏の平静時(コントロール・データ)の呼吸と血圧。
血圧も同時に記録してありますが、わかりやすくするため上段に時間幅を拡大した図も併記してあります。呼吸はグラフに示すように、呼吸が弱く、呼気が強く記録されますが、2.5~3秒に1回、すなわち1分間に15回程度のペースで呼吸しています。私は、これまでずい分たくさんの方の測定をしてきましたが、一般的にどんなにベテランの人でも、測定となると緊張するのか、血圧は普段より高めになるようです。
同グラフ(b)が外気功を行っているときのデータです。
平静時と全く異なっているのが一目で分かります。ところが、外見は何も変わらず、こんな呼吸をしていることは測ってみてはじめて分かりました。
-呼吸数が増える
-1回の呼気と吸気に要する時間が短くなる
-吸気の時間は短いが、そのレベルは大きくなる
さらに、吸気と次の吸気の間には数回に分けて息を吐く、つまり口で表現すると「スッ」と鋭く吸っておいて「フ、フ、フ、・・・」と、スタッカートのように区切って吐くという、特殊な呼吸法をしているところが見られます(グラフ中矢印)。同時に記録した血圧と呼吸の関係をみると、データの中央付近で、呼吸を速めることで血圧が上昇し、その後短時間の吸気があって、再び呼気が速くなると血圧も上昇していきます。また、血圧波形の一分間のくり返し回数が心拍数になりますが、これを測ってみると心拍数も上昇していることが分かります。これ等のことから、明らかに呼吸によって血圧や心拍数を変化させていることが分かりました。「気」のスイッチは、平常の呼吸から特殊な呼吸に切り換えることで行われていたのです。』
●呼吸と自律神経系の関係
・呼吸を司る部分は延髄にあり、ここを通った神経は視床下部を通過して大脳皮質に情報が伝えられる。視床下部は自律神経の中枢なので、呼吸を変化させることによって、自律神経に影響を与えていると考えられる。
●「気」をコントロールする呼吸
・気功師の呼吸の使い分け、また血圧や心拍数との関係はどうなっているのかを検討した。
・『Sjさんは脳波測定と同時に呼吸の測定も行いました。まず透視のとき、脳波はアルファ1波の領域で、右前頭葉と右視覚野が連携した形で活発に活動していました。
●緊張型とリラックス型
・S氏とSjさんを比較すると、S氏は呼吸によって自律神経の交感神経に働きかけので血管は細くなるが、心拍数は上がり血液の循環が良くなって体表面温度が上昇する。一方、Sjさんは呼吸によって自律神経の副交感神経に働きかけ、心拍数は下がるが、血管は拡がるので血液量は増え、結果としてやはり体表面温度が上昇する。前者を「緊張型」、後者を「リラックス型」と名付けて区別している。
●呼吸の不思議
・気功では腹式呼吸が多く用いられるが、腹式呼吸には吸気のときに腹部がふくらみ、呼気のときにへこむ順腹式呼吸と、逆に吸気のとき腹部がへこみ、呼気のときにふくらむ逆腹式呼吸とがある。気功では順腹式と逆腹式の呼吸をうまく使い分けていることが分かってきている。
コーヒー・ブレーク
●地震おばさんとしゃっくり
・『中国の成都に、私達が通称「地震おばさん」と呼ぶ50代の女性がいます。地震を予知する能力をもっているところからつけた愛称で、これまで中国で起こった地震を何度か予知し、ズバリ的中させて表彰されたこともあると聞いています。同行したテレビ局の人によると、1994年に起きた、国後、択捉の地震も、日時、震度ともにかなり正確に予知していたと言います。面白いことに地震おばさんは、予知をしようとして何かを感じるとしゃっくりが出はじめ、何かヒラメクとしゃっくりが止まって話し始めます。私は例のごとく、予知しているときの測定をさせてもらおうと測定器を持参していきました。事前にあれこれ話をしていたら、しゃっくりが始まりました。どうしたのかと思っていたら、「先生の家の前は、道がこうなって家がこういう配置になっている」と言い出したのです。そして「当たっていますか」と聞きます。驚いたことに、確かにその通りなのです。居合わせた人達もびっくりして、他の人もやってもらいましたが、やっぱり当たっています。ところが、こちらから、「では、ここはどうなっていますか?」と質問すると「聞かないでほしい」と言います。勝手に見えてしまうことを口にするのはいいけれど、聞かれたことを見ようとしても見えないのだと言います。こんなことがあった後で、近いうちに日本に地震があるかどうか、あるとすればどこで起こるかを予知してもらうことにしました。
1994年12月11日の4ことです。
地震おばさんには、日本の地図を見せ、近いうちに地震があるとすればどこか丸印を書いてもらうことにしました。彼女は、日本のことは全く知りませんし、日本語も無論わかりません。日本がどこにあるかも知らないかもしれないような、素朴なおばさんです。実験を開始すると、目を閉じたままジッとしていて、やがてしゃっくりを始め、突然何かひらめくと目を開けます。この時、日本の地図を見せると、淡路島北部から神戸、大阪にかけて丸印をつけたのです。その時、私は日本人だったら、けっしてこんな場所に印はつけないだろうと思いました。関西地方は地震が少ないと言われ続けていたのですから。彼女は、大阪を見るとバランスを失ったように感じて気持ちが悪くなるとも言いました。
測定は無事終わり、師走の日本へあわただしく帰ってきました。同行したテレビ局では、地震の予知は社会的影響も大きいということで放映にはなりませんでしたし、私も暮、正月の忙しさにまぎれ、予知のことはすっかり忘れていました。そして、1995年1月17日早朝、あの阪神大地震が起こりました。慌てて丸印の書き入れられた地図を確認し、どれほど驚いたかご想像いただけると思います。ほぼ正確に予知されていたのです。
地震おばさんの測定結果は、サーモ・グラフィーでは温度上昇をとらえ、血圧、心拍数も上昇しています。また、呼吸が激しくなるとアルファ波が強く出て、特に右前頭葉の活動が強くなっていました(写真33)。
面白いと思うのは、何か感じはじめるとしゃっくりが出るということです。しゃっくりは、横隔膜や呼吸に関する筋がけいれんするために起こります。なぜけいれんするか、そのメカニズムははっきり分かっていないのですが、胃から横隔膜の刺激や、血液変化による呼吸中枢への刺激などが考えられています。地震おばさんは何かを感じているとき、呼吸が切迫してきます。この呼吸は、自分でコントロールしているのか、他に何か要因があって呼吸中枢が刺激されているのか分かりませんが、後者の可能性が強いように思えます。何か呼吸中枢を刺激するような身体的変化があるのかもしれません。また、地震が起こると予知した場所を、地図で見ているだけで気分が悪くなると言います。嘔吐中枢は呼吸中枢と同じ延髄にありますから、やはり呼吸との関連が考えられます。はたして地震としゃっくりは関連があるのでしょうか。』
第四章 「気」の能力が測定できる
●「気」のレベルをコントロールするもの
・初級
-安静睡眠とはほとんど変わらない。
・中級
-見ているだけでは分からないが、腕に力が入り筋電図の振幅が大きくなっている。
-GSR(皮膚抵抗測定)は初級に比べ、全体的に細かく緊張している。
-脳波は左右の前頭葉に急にアルファ波が増え、前頭葉の活動が活発になっている。
-心拍数の変化は力が入ったことと関係している。
-血圧は激しく変動し下がった時は普段より低く、上がった時も普段より高いという変化をしている。
-呼吸は初級と比べるとやや荒くなっている。
・上級
-最も目を引くのは呼吸である。速く、荒くなっている。グラフを見るとハァハァと息をしているように見えるが、外見は全く変化が見られない。
-呼吸はおよそ2秒に1回、強く吐いているので1分間に約30回の呼吸数になっている。
-筋電図、GSR(皮膚抵抗測定)からは緊張が強くなったことが分かる。
-血圧は、中級のような不規則な変化は見られず、全体的に高くなっている。
-脳波は右前頭葉が活発に活動している。
-緊張が強いのにアルファ波が増えるのは、手には力が入っていても頭はリラックスしているからだと思われる。
●L氏の外気功、念力とは
・L氏は大勢の人を集めて治療の「気」を送ることができる。
・外気功ではGSR(皮膚抵抗測定)はリラックスしているのが確認できる。
・血圧は外気功を始めるとすぐ上昇している。
・呼吸は静功(站功)の上級ほどではないが部分的に速く、そして強くなる。
・『脳幹にあるA10神経核の神経は、視床下部を通って前頭葉で終わっています。従って、呼吸を変化させて呼吸中枢を刺激し、その信号が視床下部を通って大脳に伝わると考えれば、前頭葉の活動電位が特に高くなることが納得できます。』
※ご参考:A10神経とは
まとめ
1.「気」とは極めて微弱(赤外線ストーブの1000万分の1に過ぎない)な遠赤外線(電磁波)に1ヘルツ前後の周波数のシグナル(何かの生体信号)を乗せているものではないか。自分には能力があるという人でも、サーモ・グラフィーには何の変化も現れない人がいる。また、普通の人が発する遠赤外線エネルギーは一定の値だが、気功師では約1秒に1回の割合で規則的に変化しているという特徴がある。
※補足:シグナルについて
例えば、テレビのリモコンは非常に小さい赤外線に電源、チャネルの変更、ボリュームの調整などの情報を乗せてテレビ本体に送る。これと同様に遠赤外線で情報を伝えることは可能である。
2.気功とは訓練によって自律神経を自分でコントロールできるようにするものである。
3.気功によって右脳に特徴が現われるとともにアルファ波が活性化される。「気は右脳の世界」と言える。特に右前頭部と右視覚野が関係している。また、気功中にベータ波が沈静化されアルファ波の活動が活発になり、特にアルファ波の中でも周波数の低い方のアルファ波1(8~10ヘルツ)は、劇的と言えるほどの変化をしめす。
4.「気」のスイッチは平常の呼吸から特殊な呼吸に切り換えることで行われていた。
5.前頭葉から放出されるドーパミンが特に重要であると考えられる。なお、ドーパミンには様々なシグナルがある。
感想
「気」のスイッチは呼吸です。また、これには自律神経が深くかかわっています。『気功とは訓練によって自律神経を自分でコントロールできるようにするものである』とする説は、普通の人でも「気」を発することはできるかもしれないということです。
気功によって脳内は変化します。右前頭葉と右視覚野の働きが活発となり、脳波はアルファ波が優位になります。その意味では「気」に脳が関与していることは間違いないと思います。
赤外線ストーブの1000万分の1に過ぎない微弱な電磁波に1ヘルツ前後の周波数のシグナル(何かの生体信号)が乗っているという説はとても興味があります。
“呼吸”、“自律神経”、“右脳”、“アルファ波”、そして“シグナル”。この最後の“シグナル”が解明できれば、『氣』に一歩近づけるのではないかと思いました。
第二章 脳波は語る
・気功は静功でも外気功でも右脳に大きな変化が現われる。
・気功中にベータ波が沈静化されアルファ波の活動が活発になるのはすべての気功師の特徴だった。特にアルファ波の中でも周波数の低い方のアルファ波1(8~10ヘルツ)は、劇的と言えるほどの変化をしめす。
●劇的に変化するアルファ1波
・『Sjさんは40才ぐらいの中国人女性気功師です。気功による特異功能の一つである透視ができるという人で、病気の診断や治療も得意としています。名前を聞けば「ああ、あの人」と分かる人も少なくないかもしれません。まず、透視実験として気功師の知らない人の名刺を渡し、その人の性格や特徴、職業や仕事の状態などを透視してもらうことにしました。Sjさんに名刺を渡すと、驚いたことに渡された名刺を一瞬見ただけで、あとは目をつぶったまま身じろぎもせず透視を始めました。外見からは何かを見るというより、何かを感じようとしているように見えます。ちなみに答えは当たっていましたが、当てっていることに驚いてばかりはいられません。透視実験と言っても透視が当たっているかどうかが問題なのでなく、透視中の身体的変化を測定することが実験の目的なのですから。
写真20が、透視中のアルファ1波のトポグラフィーです。
名刺を受け取った瞬間に右脳に変化が現れます。アルファ1波の活動電位は、まず右前頭葉と右視覚野に当たる部分が高くなり、それをつなぐ右側頭葉の電位も高くなって右脳全体が高電位になります。その後時間を経ると、今度は右視覚野の電位が下がりはじめ、右前頭葉だけに電位の高い所が残りますが、それもやがて消え透視が終わります。この間わずか20秒、この写真のどの部分で透視が行われたかは分かりませんが、おそらく数秒の間に透視をしているのではないかと思われます。目に見えないものを見ようとする時、外見は何の変化もないのに頭の中はこんなにも劇的とも言える変化を示しているのです。この時、アルファ2波はアルファ1波につられるような形でやはり電位が高くなりますが、アルファ1波より低く、ベータ波の電位は低い状態でした。また、サーモ・グラフィーの観察では、特に額の体表面温度が上昇していて前頭葉の活動電位が高いのと符合しています。』
画像出展:「【2024年版】一次視覚野の役割とリハビリテーション方法を解説!MRI,CTから視覚認識の改善ポイントとは?(ニューロリハビリ研究所)」
鳥距溝は後頭葉内側面にある深い溝で、一次視覚野(V1)の解剖学的目印として重要です。
●診断も透視の一種
・『Sjさんには、透視実験に続いて、病気の診断と治療をやってもらいました。患者はかなり歩行が困難なリューマチの女性患者です。診断、治療と言っても気功師と患者が2メートルほど離れて、ただ黙って座っているだけで特に何かをするというのではありません。まず、診断の時のアルファ1波が写真22abです。
この場合もやはり右脳の活動が活発になりますが、活動電位は透視に比べると低くなっています。透視実験ほど集中力を必要としないのかもしれません。まず視覚野が働き、やや遅れて右前頭葉の電位が高くなります。これ等の活動電位の高くなった所は、両方から伸びて行き接続すると右脳全体の電位が上昇します。その後時間が経過すると、右視覚野だけ活性状態が持続し、やがてその活性点は頭頂部やや前よりの一点に絞られます。このように、診断においても右前頭葉と右視覚野の活動が非常に活発であることが分かりました。診断は外から患者の病状を読み取る作業ですから、一種の透視と言えます。見えないものを見ようとする時、右前頭葉と右視覚野が良く働くと言えそうです。
この診断中のサーモ・グラフィーからは、大変面白い発見がありました。診断の最後のほうで活性点が頭頂部やや前よりの一点に絞られた時、気功師の眉間の間にある印堂と言われる経穴に、温度上昇を示す赤い点が現れました。』
●脳を使い分ける
・『Sjさんによると治療時のアルファ1波トポグラフィーを写真23abに示します。
治療時には右前頭葉から電位が上昇し、右視覚野へと伸びていきますが、すでに診断が終わっているせいか、視覚野はあまり活動していません。全体として右前頭葉の働きが非常に活発になっています。特に、その活動電位は、透視、診断に比べると二倍以上高くなっていて、治療ではアルファ1波領域において、より脳の活性化が必要とされていることが分かります。治療の結果は、右脳におけるアルファ1波の活動と同じように、まさに劇的でした。かなり歩行困難であった人が、Sjさんの「立って」「歩いて」という掛け声のままに動き出し、一人で階段を降りるまでに回復して、気功の威力を見せつけられる一幕となりました。』
●特異能力は洋の東西を問わず
・『Cさんはイギリス女性で本国では警察の要請で犯罪や行方不明の捜査などに協力している超能力者と言われる人です。病人の診断や治療はあまりしたことがないということでしたが、実験のために「やってみましょう」と快く協力してくれることになりました。』
●患部をズバリ指摘
・『診断と言ってもCさんは目をつぶっています。その時のトポグラフィーが写真24で、上段からアルファ1波、アルファ2波、ベータ1波、ベータ2波で、5秒間隔で表示しています。
ベータ波がほとんど活動していないのに比べ、アルファ波の電位が右脳で高くなっています。特に、右前頭葉と右視覚野が活発に活動しているのが分かります。しかし、この様な変化を見せるのはほんの数秒で、一瞬のうちに診断してしまうのではないかと思います。
診断の時、私は患者のサーモ・グラフィー(写真25)を見ていました。
サーモ・グラフィーはもともと見えない部分の発熱などを検知するため、医療現場で使われている装置ですから、一見してどこが悪いか分かりました。人体はほぼ対称にできているので、健康な人は温度分布もほぼ左右同じになるはずです。この人の場合、写真25のように右の下腹部に発熱しているところがあり、ここが患部です。診断に当たったCさんは、「右の卵巣」とズバリその患部を指摘しました。』
●右前頭葉が働くと患部が消える
・『続いてヒーリング(治療)に移りましたが、この時もCさんは目をつぶって、じっと座っているだけです。その時のトポグラフィーが写真26です。
治療では、診断より長い時間をかけるのは、前述のSjさんと同じです。その間、二回ほどアルファ波が強く現れ、特に右前頭葉のアルファ1波が活発に働いています。診断では、右前頭葉と右視覚野が連携した形で活発に活動し、治療では右前頭葉の活動に重点が移るなど、前述のSjさんとよく似た現象をとらえることができました。洋の東西を問わず、特異な能力を発揮する時の脳の使い方には、何か共通するところがあるように思います。
一方、ヒーリングを受けた女性のサーモ・グラフィーを見ると、治療前に真赤であった患部の温度が、グングン下がって数分後には消えてしまいました(写真27)。』
今回も科学編になります。町 好雄先生は出版当時、東京電機大学の教授で『思い掛けない出会いから気功の「気」と科学的なつき合いをするようになって、十年が過ぎました。』とのことです。そして、町先生は1993年5月にパートⅠに相当する『「気」を科学する』をまとめられていました。
パートⅡになる本書は、冒頭にカラー写真が26ページにわたり紹介されており、測定結果を目で正しく確認することができます。時系列的にも品川嘉也先生の『気功の科学(1990年1月)』、湯浅泰雄先生の『気とは何か(1991年1月)』に続いて発行された本であり、勉強させて頂く順番としては良かったと思います。「気について」の理解はさらに進んだように思います。
目次
プロローグ 「気」と科学
●「気」の科学入門
●気は脳の科学
●サーモ・グラフィーで探る「気」
●「気」はシグナルか
●脳に伝わる「気」
第一章 「気」の全体像を見る
●何を測るのか
●点から線へ
●何で測るのか
●ベテラン気功師S氏の場合
●スポーツウーマンRさんの場合
●千日回峰者M氏の場合
●サーモが真贋を見分ける
●静功と瞑想
●気功は自律神経のコントロール
●「気」は右脳の世界
●アルファ波と脳内麻薬の関係
●「気」とリモコン
コーヒー・ブレーク
●気功法あれこれ
第二章 脳波は語る
●劇的に変化するアルファ1波
●脳のネットワークづくりを見る
●「気」の研究は21世紀の科学を開く
●診断も透視の一種
●脳を使い分ける
●特異能力は洋の東西を問わず
●患部をズバリ指摘
●右前頭葉が働くと患部が消える
●同調するアルファ波
●自在に脳を操るお坊さん
●喜びを感じる脳
●幽体離脱をすると
●第三の目が光る
●非科学を科学するハイテク
●神のいるところ
●超能力者は超敏感人?
コーヒー・ブレーク
●子供と超能力
●メルティングチーズになった私
第三章 「気」のスイッチとコントロール
●韓国のお坊さんがくれたヒント
●「気」のスイッチは呼吸だった
●呼吸と自律神経系の関係
●血圧波形にも異常が
●「気」をコントロールする呼吸
●緊張型とリラックス型
●流儀の違い?
●呼吸の不思議
コーヒー・ブレーク
●地震おばさんとしゃっくり
第四章 「気」の能力が測定できる
●「気」の能力は測定できるか
●L氏と站とう功
●ハイテクが明かす「気」の能力
●「気」のレベルをコントロールするもの
●血圧波形に見える「気」のレベル
●心拍数も自由自在
●血のめぐりが決めて?
●心臓で何が起きているのか?
●脳では何が起きているのか?
●L氏の外気功、念力とは
コーヒー・ブレーク
●心臓に関するミニ知識
●アッと驚く電気の利用法 電気気功その1
●電気気功体験記 電気気功その2
●交流の縞模様を見た! 電気気功その3
●気功師は可変抵抗 電気気功その4
第五章 ハイテクで「透視」を透視する
●透視の何を測定するのか
●Wさんの透視
●透視時の全体像をみる
●踊る心拍数
●見えたのはココだ!!
●タイミングをはかる
●やはり呼吸がポイント
●透視実験は?
コーヒー・ブレーク
●仏像に似た女性
●「気場」を考える
●「気」と意識
第六章 データが語る「気」のいろいろ
●気功麻酔シミュレーション
-気功麻酔ではシータ波がポイント
-気功師は脳波の同調を感知する
-心拍数も同調する
-気功麻酔の効果
●サーモが語る「気」のいろいろ
-ヨーガと座禅
-電気人間O氏の座禅
-武術気功(硬気功)
-目的によって違う「気」
●心拍数が語る「気」
-武術・スポーツの「気」
-気功治療に科学的裏付けは可能
-成功も失敗も一目瞭然
-外気功では心拍数の変化も同調する?
-気功と針
コーヒー・ブレーク
●気功の脳科学が一歩前進
●足の裏は語る
エピローグ 非科学を科学する可能性
●偶然か情報の伝達か
●「第三の目」は本当に光る?
●超能力ということ
プロローグ「気」と科学
●気は脳の科学
・10年近く研究してきて、「気」の科学は人体科学であり、特に「脳の科学」ではないかと思うようになった。
・『専門分野であるエレクトロニクスについて思い起こしても、「不思議なもの」であった電気に関する現象が、科学的研究の対象となったのが1600年、それから300年を経てはじめて、電気の正体が原子の中の電子であることがつきとめられたのです。』
●サーモ・グラフィーで探る「気」
・人の体は波長が10ミクロン・メートル付近の電磁波の一種である遠赤外線を放射している。この目に見えない遠赤外線の熱エネルギー電気信号として検出し、画面に映し出す装置がサーモ・グラフィーである。
・体表面温度は、主として皮下の血管を流れる血液によるものである。
① 気功師が「気」を発すると、気功師の体表面温度は変化する。体表面温度が上昇する気功師が多く、温度上昇は3~5度ぐらいになる
②「気」を発して体表面温度が下降する例
③気功師と「気」の受け手は、体表面温度の変化という点で「同調」する
気功師が「気」を発した時の体表面温度の変化は全身に及ぶ。このことから、自分の意志でコントロールできないとされている自律神経を気功師は「気を発する」という自分の意志で、コントロールしているといえる。上記①②③の実験結果により、「気」が存在しそれが「相手に伝わっている」ことが明らかになった。
●「気」はシグナルか
・気が伝わることは明らかになったが、「何が伝わっているのか?」が問題である。人間の体から放射される遠赤外線のエネルギーは赤外線ストーブの1000万分の1に過ぎず、相手に影響を与えることはできない。そこで考えられるのが、ラジオやテレビの電波のように、人体から放射される遠赤外線にシグナル(情報)を乗せて相手に送っているのではないかという考えである。つまり、このシグナルが相手の脳に伝わって、「気」を受けた人にも気功師と同様の変化が現われるのではないか。そして、実験により気功師の気功中に放射する遠赤外線に1ヘルツ前後のシグナルが乗っていることが確認できた。
・普通の人が発する遠赤外線エネルギーは一定の値だが、気功師では約1秒に1回の割合で規則的に変化していた。ただし、この1ヘルツ前後の周波数のシグナルが何を意味するのかは分からない。おそらく何らかの生体信号として相手に伝わっているものと思われる。
・気功師の中には手掌から音波が検出されたケースもあった。これはヒトの耳では聞こえない極めて低い周波数の音波である。
●脳に伝わる「気」
・「気を出す」という意志は脳の働きによるものである
第一章 「気」の全体像を見る
●何を測るのか
・科学的研究の対象は外気功による「気」が中心になるが、気功の基本は内気功なので内気功も研究対象にすべきである。
●点から線へ
・外気功の「気」について、サーモ・グラフィー、遠赤外線強度測定器、IBVA脳波計を同時に測定することを行った。測定の対象は気功中の生理的変化に注目し、詳細なデータが得られる測定項目を選んだ。
●何で測るのか
・IBVA脳波計に加えて、医療用脳波計でも測定した。
●ベテラン気功師S氏の場合
・S氏は中国人で54歳、気功歴40年というベテラン気功師。
[静功]
[外気功]
写真10は外気功を行っているときのもので、左がS氏、右が「気」を受ける人でaは気功前、「気」の受け手は外気功を開始して30秒足らずで手の温度が上昇しはじめ、7分後にはbのように手全体が上昇した。
-血圧、心拍、呼吸の測定
『血圧、心拍数は自律神経系で制御されているので、気功師がどのようにそれを自分で制御できるのかが問題になります。私は、気功師が自律神経系の変化を引き起こす可能性のひとつで、最も簡単な方法は呼吸ではないかと考え、血圧、心拍数とともに呼吸数を測定してみました。その結果は、グラフ1・2に示します。外気功中の血圧、心拍数は静功時と同様に増加していますが、予想したように呼吸数も平静時に比べ、ほぼ倍近く増加していることが分かりました。この時の呼吸は浅い呼吸で、外見から変化はみとめられず鼻のそばにおいたセンサでしかとらえられないものでした。』
●スポーツウーマンRさんの場合
・Rさんはトレーニングに気功を利用した人で、アジア大会で数回の優勝歴をもっている。内気功を得意とし、測定時は閉眼で「站とう功」を行っている。
この動画は「かんたん気功体操 站椿功(たんとうこう)」さまからお借りしました。
[静功]
-血圧、心拍数の測定
『グラフ1・4がRさんの血圧・心拍数のデータです。気功をはじめると血圧・心拍数ともに増加しますが、S氏に比べると徐々に増加していくことが分かります。気功を中止すると血圧・心拍数ともに急激に低下します。従って、Rさんの場合は、徐々に「気」を高めていくように見受けられ、功法の違いによるものではないかと考えられます。』
●サーモが真贋を見分ける
・『私は、中国の学会などに参加した時、よく自薦、他薦の気功師や能力者といわれる人の測定をさせてもらいます。ところが、自分ではこういう能力があるという人でも、サーモ・グラフィーには何の変化も現れない人がいます。私達の目では本物かどうか分からなくとも、サーモ・グラフィーの目をごまかすことはできません。カメラの前に「黙って座れば、ピタリと当たる」ということではないでしょうか。』
●静功と瞑想
・静功と瞑想はいずれも“じっと無念無想”のように見えるが、サーモ・グラフィーによる測定結果は全く異なる。静功は体表面温度、血圧、心拍数は上がるが、瞑想はいずれも下がる。全く逆の測定結果となる。
●気功は自律神経のコントロール
・気功とは訓練によって自律神経を自分でコントロールできるようにするものであるといえる。
●「気」は右脳の世界
・気功を始めるとベータ波は弱くなる。
・気功によって右脳に特徴が現われる。「気は右脳の世界」と言える。
●アルファ波と脳内麻薬の関係
・『アルファ1波についてみると、特に電位の高い所は右脳の前頭部にあることが分かります。通常、アルファ波は後頭部にあることが知られているので、気功中に後頭部から前頭部に広がってきたアルファ波が、右脳前頭部で増強されたと考えるのが自然です。このように前頭部から前頭部でアルファ波が強くなるのは、何を意味するのでしょうか? 私は前頭部から放出されるホルモンと関係があるのではないかと考えています。前頭部から放出されるホルモンについては、いろいろ研究がされていますが、特にドーパミンというホルモンが多量に放出される所です。このドーパミンは脳内麻薬といわれるホルモンで、放出されると快感を感ずることが知られています。気功師が静功、外気功を問わず、気功を行うと心地よく感ずると言うのは、このドーパミンが放出されるためではないかと考えられます。明治鍼灸大学教授の森氏の研究によると、ツボを刺激したとき前頭部が活性化することをポジトロン断層撮影装置(PET)で確認し、これはドーパミンの働きであることが報告されています。』
※ご参考:ドーパミン(神経伝達物質)と前頭部に関して
●「気」とリモコン
・気功師から発さられる遠赤外線は5mm厚の段ボールでも遮断できた。このことより、遠赤外線のエネルギーは非常に小さいことが分かる。
・エネルギーの大小に関わらず何か伝えることは可能である。例えば、テレビのリモコンは非常に小さい赤外線に電源、チャネルの変更、ボリュームの調整などの情報を乗せてテレビ本体に送る。これと同様に遠赤外線で情報を伝えることは可能だと思う。
・1ヘルツ前後の周波数で変調された遠赤外線が有力な手段と考えられるが、他の可能性(例えば音波など)も検討する必要がある。
『経絡における気の作用という現象は、この問題についてわれわれに新しい見方をとる必要を示唆している。戦後まもないころ、「経絡戦争」が起こったとき、間中喜雄氏は、「経絡という概念は将来、従来否定されてきたような意味で否定されるべきものでなく、また経絡肯定論者があると考えているような意味で存在するのでもないというような日が来るのではあるまいか」とのべたという。筆者[湯浅先生]には、この間中氏の予言は深い意味をもっているように思える。』
上記の間中先生のご指摘通りのことが起きているように思います。
今回は“氣とはなんだろう”の9、10のまとめです。とても重要なので以下の項目に分けて勉強したことを整理してみました。
1.病とはなにか
2.気とは何か
3.気血とは何か
4.経絡とは何か
5.情動とは何か
6.呼吸法とは何か
7.間人的同調とは何か
8.その他(生体の場)
1.病とは何か
1)全身をめぐる経絡内の「気血」の流れの異常に病因を求めるものである。
2)中国では脈診法が古代から現代まで受け継がれており、西洋医学とは全くことなる精緻なもので、病を判断する重要なものである。
2.気とは何か
1)気は「技」の体験と結びついて生まれてきた実践的経験知である。
2)気(気功師の発功)は物理的方法で捉えることができる。
3)気功師が発する赤外線はせいぜい数マイクロワットで、普通の赤外線発生装置(例えば、赤外線コタツ)の1億分の1か10億分の1程度にしかならない。
4)中国では人体内部だけでなく、人体の外部に発生するエネルギーにも注目している。それは人体と環境、つまり人間と自然が関わる。
5)人体の内外を流れているエネルギーは、電流や赤外線の他にも、磁気・超低周波(耳に聞こえない音)・光(生体の微量発光)などが知られている。
6)気の作用の特徴的なことは、心身の訓練に熟達した気功師は赤外線、磁場、超低周波、フォトンなどを意識集中(意念)によってその発現状態をコントロールできる。
7)人体に磁場が発生することが重要ではなく、人間の意識と磁場に相関関係があることが重要である。
8)気功師が気を発するときには、耳に聞こえない音が脈打ちながらその身体から出ていると考えられる。
9)生命体はすべて、微量ではあるが光を出している。これをバイオフォトン(biophoton)という。
10)気功師のフォトンの量は一般人と比べて大差はないが、気功師は気を出したり止めたりすることができる。それに伴ってフォトンの量が顕著に増減する。
11)気の作用が何らかの形で物質的エネルギーの作用と相関関係があるらしいという事実が認められたことは大変重要である。
12)明らかになった物理エネルギーは、生きた人体に備わっている作用なので、気とは人体を生きた状態に保っている基本的なはたらきである。
13)気は心理作用と生理作用に関わる。そして物質的エネルギーも伴っているので、心理-生理-物理(精神-生命-物質)という三つの次元を統合するエネルギーである。
14)治療に当たった気功師は、気を発したあと、非常に消耗した状態になるが、このことも心理作用と生理-物理作用の相関性を示している。
15)気は生命体に特有な未知のエネルギーである。
16)気の流れは生理的機能を活性化する。
17)気の流れは生体電流のような作用を介して間接的に推察されるものであり、直接的に気のエネルギーを認知することはできない。
18)気の流れは生理的側面だけでなく、主観的な心理的側面において感じられる働きである。
19)心理-生理的観点からみた場合、気の訓練は自律神経のはたらきと深い相関関係をもっている。
20)気は心(意識-無意識)と身体を媒介し、心理領域と生理領域の間の一種のエネルギー変換をつかさどっている作用である。
21)気とは心身の訓練を通じて感じられるようになるはたらきである。
3.気血とは何か
1)目に見える血の運動をコントロールしているのは、見えない気のエネルギーの流れである。
2)古書には「気行けばすなわち血行く」といわれ、気の流れが血液や体液の循環運動を支配していると考えられてきた。
3)気が超低周波を含んでいて血管の中を伝わって伝播しているということは、生理学的立場からみても一定の妥当性があるということを示している。
4)気功師が意念すると脳(11.8%)、上肢(24.1%)、下肢(26.9%)、下丹田(34.8%)の血流量はすべて増加した。逆に、意念しなかった部位で血流量はすべて下降した。
4.経絡とは何か
1)経絡は神経系と血管系の二つを統合する高次のネットワーク・システムともいうべき性質を与えられている。
2)本山博氏の研究は経絡を通る気の流れの運動は、神経系を介するものではなく、体液系によって起こっていることを明らかにした。そしてそれは皮下組織の部分である。
3)心理的からみればそれは無意識の領域に関連した人体のかくれた情報システムであり、生理面からみればみえない次元で栄養機能をコントロールしているシステムである。
4)潜在的な次元において「こころ」と「からだ」のはたらきを統合しているのが経絡のシステムであると考えられる。
5.情動とは何か
1)情動の作用は、外界感覚-運動回路(感覚器官・運動器官の活動)がスムーズに働くためのエネルギーか潤滑油の働きをしているといえる。
2)瞑想は情動の働き方の歪みを直し、それを自由にコントロールする訓練である。
3)情動をコントロールすれば、無意識の力を意識的に統合することができる。
4)心は情動作用を通じて自律神経の働きに影響を及ぼし、内臓器官の活動に影響を与える。
6.呼吸法とは何か
1)東洋の修行法にみられる瞑想や武術の訓練は呼吸法の練習から始まる。中国・日本の古武道でも、呼吸法の訓練は昔から非常に重視されてきた。
2)呼吸法による「気」の訓練は、心の訓練と身体の訓練を一つに結びつける位置におかれている。
3)呼吸法の訓練から始まる心身の訓練は、意志の自由が及ばないと考えられている自律系の生理的機能にまで影響し、その潜在能力を高める。
7.間人的同調(transpersonal synchronization)とは何か
1)気功師が発した外気を受けて、受け手の患者の血管内部に大きな振幅の超低周波が発生したことが確認された。これは間人的同調の現象である。
2)人間関係においては、感覚と意識の認知に関わらない深層レベルにおいて、情報=エネルギーの受発信が無自覚のうちに互いに行われているという可能性が考えられる。
3)気のはたらきは、心理-生理-物理のレベルでエネルギーの変容を行いながら人体の外部にまで作用してまわりに一定の影響を与えている。
8.その他(生体の場)
以下は、間中先生が紹介された、末広恭雄教授が提唱された「生体の場」という考えです。調べてみると『生体の場の特性』という末広先生の著書が1970年4月に発行されていました。「気の間人的同調」を考えるうえで重要ではないかと思います。
『気のはたらきはこのようにして、心理-生理-物理のレベルでエネルギーの変容を行いながら人体の外部にまで作用してまわりに一定の影響を与えている。われわれはそれを生体に固有な「エネルギー場」とよぶこともできるであろう。間中喜雄氏は、魚類学者の末広恭雄教授が提唱された「生体の場」という考え方が、東洋医学の身体観にとってきわめて有益であると説いている。それによると、ウィルスから細胞、細胞の集まりである生物体、さらに生物体の集まった集団に至るまで、生命体はそのまわりに「生体の場」をつくり出している。この場合、生体の場には、意識的であれ無意識的であれ、「場」の領域内部が自己に属し、領域外は非自己として区別される。そういう生体の場が自己のまわりに形成されると、「非自己」からたとえば刺戟のような外力がこの場に加わると、必ずこれに対する反作用が生じる。この反作用は刺戟に対する興奮といった形で現われる、という。気のはたらきは、このような意味の生体エネルギーの場をつくり出しており、そこには外部に対する同調と拮抗という関係が見られる。気功師の発する気が他人の心身の状況に一定の作用をひき起こすという現象は、広い意味で間人的同調transpersonal synchronizationとよぶことができるであろう。』
生体の場の特性
著者:末広恭雄、発行:1970年3月
第1章 生体の場とA.R.について
1・1 生体の場の意義
『この論文の冒頭に、私はまずこの論文に絶えず出てくる“場”の意義について説明しておきたいと思う。
物理学で使用されている“場”とは、物質または空間の一領域において、或る状態量が各点の凾数として与えられたとき、その領域をその状態量の“場”という―というふうに説明されている(岩波:理化学辞典)が、この論文では生体の“場”をうんぬんする関係で、次のように定義したい。
まず、空間の一部を占有する有形的な”場”といえば、微小なものは原子核とその周囲を運行する電子より成る原子の如きものから、巨大なものでは太陽とその周囲を運行する惑星および衛星などより成る太陽系、あるいは、さらに大きな宇宙までも含む有形的な“場”が考えられる。ところがこの論文では、そのうちのいわゆる生命を有する物体の形づくる“場”を対象としている。
例えば、現在知られている最も微小な生物たるvirusに出発して、生体の構成単位である細胞、すなわち、核を中心としてその周囲に原形質を配した細胞、その細胞の集まった生物体、生物体の集まった群落または集団、さらにそれらが発達して生じた社会、いくつかの社会の集合による界などのように、有形的かつ生機的なあらゆる種類の“場”をいう。
なお、この論文で特に著者が強調したい事項は、ここにいう生体の“場”には意識的無意識的のいずれをとわず“場”の領域内が自己、領域外が非自己として区別される事実で、これは根本的に重要な事項である。
1・2 拮抗的反作用A.R.(Antagonistic Reaction)の意義
『上記の如く生体の“場”が形成されると、その“場”は時間の凾数のもとにあくまで“自己”としての特異的な生命活動を続けるが、この際“非自己”の領域から、例えば刺激のような外力がこの“場”に加わると、必ずこれに対する反作用として拮抗的な作用が生ずるもので、刺激に対してはこれが興奮といった形で現われることはいうまでもないが、もう少し視野を拡げれば拮抗的作用とでも呼ぶべき作用が生ずることを、私はこの論文で特に主張している。
このA.R.は一見しただけではわれわれ生物学者の常識の如く思える。しかし、各角度からこの作用を眺めてみると、このA.R.は或る場合は生体のホメオスタシスにおけるfeed-backの作用の一環として、また或る場合は化学的作用物質に対する拮抗的な反作用として、さらに色刺激に対する補色反応の如き打消し作用として、常に影の形に添うように存在する作用であることがわかる。そして、このA.R.を追求することによって、生体の相称形や螺旋形が意味するもの、種族保存と卵数の関係、性比や性転換の意義、抗原抗体反応における過敏性、芸術心理的な諸問題、さらに、染色糸やDNAの二重螺旋の神秘などに新たなる見解と構想が浮かんでくるのである。』
一通り整理した内容から、特に重要ではないかと思えるものを絵にしてみました。
ポイントは“気”[呼吸系・循環系]と“血”[消化系・代謝系]、それに”自律神経”と“脳”[特に情動]が関与しており、さらに“間人的同調”として“外部に影響を与えるエネルギー”ではないかというところです。
◆「気」を考える場合、まず“気血”に注目したら良いのではないかと思います。それは「気血の流れの異常に病因を求める」という考えがあるためです。やはり、最も重要なことは命(健康と病気)だと思います。
『古書には「気行けばすなわち血行く」といわれ、気の流れが血液や体液の循環運動を支配していると考えられてきた。』とされていますので、「気血」は一体であると考えられます。
「血(血液)」は酸素と栄養素に加え、生きるために必要な様々な生理活性物質を含んでおり、各組織に供給されます。現代でも血液検査は多くの病気の診断のために最も有効な検査となっており、血液は生命と健康のバロメータとも呼べるものです。
※ご参考:「血液検査の見方 国立病院機構兵庫中央病院 研究検査課」pdf3枚
◆さらに、付け加えるならば、1000年、2000年前の時代においても血は目に見えるものであり、血が大量に失われれば死に至るものだったので、極めて重要なものと考えられていたと思います。
科学に頼ることができなかった時代おいて、“神の経脈”と呼ばれた神経(中枢神経・末梢神経)の働きを深く理解することには限界がありました。しかし、現代において「気血の流れ」を考えた場合、自律神経系と脳の働きを無視することはできません。絵の中に“情動”(七情:怒・喜・憂・思・悲・恐・驚)と“自律神経系”を加えたのはそのためです。
◆一方、気功師の外気発功を計測器で測定すると、極めて微弱ですが、電気、磁気、磁場、超低周波、フォトンが人体から発せられていることが確認できます。また、これらの物理エネルギーは意念(意識集中)によってコントロールできることも明らかになっています。
湯浅先生が『気は心理-生理-物理(精神-生命-物質)という三つの次元を統合するエネルギーである。』とされるのはこのような実験結果からです。また、『エネルギーの変容を行いながら人体の外部にまで作用してまわりに影響を与えている。』という見解も見逃すことのできないもので、“間人的同調”という考えにつながります。外気功では送り手と受け手の同調が認められるように、気は体内に留まっているだけの存在ではなく、自己を取り巻く環境にも影響を与えるものだと思います。
◆この後の「ご参考」で紹介させて頂いている気療をみても、気の外部への影響を否定することはできません。少なくとも「影響する」という前提にたって、よくよく調べたいと思っています。先にお伝えした『生体の場の特性』という末広先生の著書に興味を持つのもこうした理由からです。
◆“個体の生存”と“種の保存(生体の場)”という表現が適切かどうかは分かりませんが、「気」は個々の命と種全体の命、時に種を超える地球上の生命体を守るために存在しているのではないのだろうかと思います。そこには遺伝子や量子エネルギーが関係しているのかもしれません。
中国において「気」が環境や宇宙といった外の世界にも広がるのはこのような考えからではないかと思います。
ご参考
私は2018年4月に“「気療」について考える”というブログをアップしているのですが、この本に書かれている内容が動画になっているのを知りました。いずれも大変興味深い映像なのでご紹介させて頂きます。
神沢先生の気療に対して、動物は人間より敏感に感じているのではないかと思います。人間は理性を司る大脳(新皮質)が発達し、文明社会の中で生きています。一方、動物は旧皮質の大脳辺縁系の働きに依存しています(魚類・両生類・爬虫類・鳥類は大脳辺縁系しかないそうです)。気の働きが情動などを司る旧皮質を中心に及ぶものだと仮定すれば、人間より動物の方が気の影響を受けやすいということは妥当なことのように思います。
今回、あらためて気療に興味をもったので、神沢先生の2023年1月に発行された最新の著書である、「気療の奥義 手を振るだけであなたも動物を癒せる!」も拝読させて頂こうと思います。
湯浅先生の本書の中にも気療を肯定するような説明がありました。
1.『青木はこれについて次のように語っている。「対立する世界をこえて、まず自分が無になることです。そうすれば融和して、限りなく相手と一体になる。自分は相手であり、相手は自分です。そういう状況では相手の気持ちの切れ目が分かるので、そこにスパーンと気合を打ち込んだら離れた相手をも倒すという、俗にいう遠当なるのです。』
2.『人体の内部で電気的現象などが起こっているとすれば、それが人体の外部にまで何らかの作用を及ぼしているということも、理論的には予想できたことである。』
Ⅲ 人体外部の「気」のエネルギー場
1 気のエネルギー計測
●気力とは何か
・気功とは「気のはたらき」や「気の訓練」という意味である。
・用語には導引の他、吐納・行気・布気・内舟といった言い方もある、導引・行気・布気は身体の各部に気を導くという意味である。吐納は古い気を吐いて新しい気を納れる(吐故納新)という意味である。内舟は気功の一部である瞑想法のことである。
・日本では平安時代には医者の間で導引に関する本が読まれていた。
・江戸時代には貝原益軒の「養生訓」をはじめ養生法についての著書が多く出ており、導引はその重要な一部を占めていた。
●気の三次元―心理・生理・物理
・人体(および生命体)に生物電流のようなエネルギー作用が備わっていることは、従来から良く知られていた事実である。広く言えば、脳波や心電図、皮膚電位の測定なども生物物理的計測の一種と言って良いし、バイオフィードバックの研究なども、人体のメカニズムについての生物物理的研究の範囲に入れることもできる。
・『人体の内部で電気的現象などが起こっているとすれば、それが人体の外部にまで何らかの作用を及ぼしているということも、理論的には予想できたことである。』
・『気の問題はこれによって、心理-生理-物理という三つの次元において生きた人体のはたらきを環境世界と交流しながら生きている存在である。気の研究は、この「こころ-からだ-もの」の全体にわたる統合的相関関係をとらえる企てになってくるわけである。』
●気功師が発する赤外線
・気功に関する科学的研究が中国で始まったのは、文化大革命が終わりかけた1977年のことだった。
・外気治療の測定
1)患者に布団をかぶせたが患者に反応が見られた。これは超音波や分子などの微粒子は布団を通らない。
2)患者を銅の金網で遮断しても患者に反応が見られたため、磁場でもない。
3)以上1)2)より、赤外線以下の短い波長をもった電磁波の一種と考えられる。
4)人体に害のある紫外線、X線は考えにくく赤外線ではないかと考え赤外線測定したところ予想通り赤外線の脈動波形が検出された。(この実験結果は『自然雑誌』創刊号[1978年5月]に発表された)
この場合、赤外線が検出されたこと自体が重要なわけではない(絶対零度以上の物体であれば何からでも出ている)。注目すべきは一般人と気功師との違いである。
『図22bは、林師が前記の患者に対して発功したときに、患者の膝の陽関のツボから検出された赤外線輻射である。林師と同じように起伏の大きい波が発生している。気の間人的同調transpersonal synchronizationとよぶことのできる現象である。つまり、Aから発射された気のエネルギーが空間をへだてたBの心身に一定の対応した効果をひき起こしたということである。
この実験報告は大きな反響をよび、これが契機になって、中国の多くの科学者たちが気のエネルギーの研究にとりくむようになった。イギリスの科学雑誌「ネイチャー」は、この年(1978)10月26日号でこの実験をとりあげ、パイオニア的性格をもつ研究であると評した。』
・気功師が発する赤外線は注目されたが、同時にいくつかの疑問も出てきた。赤外線は物理療法で使われるものであるが、それは数百ワットのエネルギーを用いる。ところが人間の手から出るエネルギーは、気功師の場合でもせいぜい数マイクロワットで、普通の赤外線発生装置(例えば、赤外線コタツ)の1億分の1か10億分の1程度にしかならない。こんな弱いエネルギーで果たして治療効果が得られるのか、という疑問がある。そこで懐疑派は、外気治療というのは心理的暗示効果によるものではないかと主張している。気功催眠説もこの部類に入る。
・患者側の心理的効果、人間と装置による治療はどこが違うのか等の問題を考える必要があるが、「気」の作用が何らかの形で物質的エネルギーの作用と相関関係があるらしいという事実が認められたことは大変重要である。それは、気の問題が心理-生理-物理(精神-生命-物質)という三つの次元にかかわっていることを示しているからである。
●人体と磁場
・人体の内外には様々なエネルギー現象が起こっている。特に中国で新しく起こった研究法は、日本とは異なり主として人体の外部に発生する様々なエネルギー場の作用に向けられている。これによって気の研究は人体内部に限ることなく、人体と環境、つまり人間と自然が関わる広い場面にまで広げられることになった。
・人体の内外を流れているエネルギーとしては、電流や赤外線の他にも、磁気・超低周波(耳に聞こえない音)・光(生体の微量発光)などが知られており、この外にも種々の作用が見出される可能性がある。
・磁場の測定も中国では1986年頃から始められた。電圧の出力と磁場は比例する(図24a)。
・図24bも図24cも気功師の発するエネルギーを測定したものだが、いずれも磁場は大きく動いている。
・電流が流れていれば磁場は発生する。生体電流は神経において最も活発であるが、内臓器官や筋肉などの活動も微弱な生物電気を発生させているから、それにともなって磁気も発生している。人体は一種の発電機の性質をもっているということもできる。
・重要なことは人体に磁場が発生するということではなく、人間の意識と磁場に相関関係があることである。
●人体から発する音
・人体は人間には聞こえない音を発している。中国の測定では、気功師が外気を発しているとき、手の表面からは9~10ヘルツ位と1~2ヘルツ位の機械的な超低周波が重なり合って、脈打ちながら出ているのが測定されている。
・電気通信大学の佐々木茂美教授のグループは、気功師を被検者にして、発功のときに大脳・皮膚・特に経穴(ツボ)などで発生する微細な機械的振動(マイクロ・ヴァイブレーション)について計測してみたところ、外気を発しているときは、皮膚の経絡に沿った部位につよい振動が起こっていることが分かった(大体、1~5ミクロン位の微細振動が起こっている)。このような測定はいわば、全身の皮膚から発する音を調べているわけである。気功師が気を発するときには、耳に聞こえない音が脈打ちながらその身体から出ていると考えられる。
・音波の振動は人体の内部でも起こっている。血液は血管を流れるときに超低周波を発生している。この場合、血管はメガホンのように音声導波管のような役割を果たして、その作用がずっと遠くまで及ぶことになる。
・『内部の状況は動脈の拍動部位の測定によって観察できる。外気を発射しているときの気功師の右腕の橈骨(手首の出っ張った骨)付近の動脈の拍動部位に聴診器の先端を固定して測ってみると、動脈の拍動は、外気を発する前は平均1.18ヘルツの振動だったのが、発射後は1.25ヘルツに増加し、振幅は約1.5倍になったという。さらに、脈管炎をわずらっている患者に外気治療を行なって、患者のツボである命門(背中、臍の裏)と互陽(背中、第七胸椎付近)に外気を送り込み、患者の左腕と右膝裏くぼみの動脈の拍動部位で振動を測ってみた。約30分間の治療で、膝裏の動脈の振幅は治療前にくらべて1.63~2.87倍に増加していた。このことは、気功師が発した外気を受けて、患者の血管内部に大きな振幅の超低周波が発生したことを示している。先に言った間人的同調の現象である。超低周波を利用した脈管炎の治療法は西洋医学でも既に行われているが、これは、音波の振幅が増すことによって、血管壁の老廃物を押し流し、ふつう音波が届かない内臓の深部や毛細血管にまで届かせる効果がある。気功の外気による超低周波は、こうして病巣部にまで深く作用することがわかったのである。』
・『古書には「気行けばすなわち血行く」といわれ、気の流れが血液や体液の循環運動を支配していると考えられてきたのである。「気」が超低周波を含んでいて血管の中を伝わって伝播しているということは、こういう昔からの説明が現代の生理学的立場からみても一定の妥当性があるということを示している。』
画像出展:「低出力パルス波超音波(LIPUS)を用いた低侵襲治療の開発」(東北大学病院 循環器内科)
『当科では、ある特定の条件を持った低出力のパルス波超音波が、血管内皮細胞における メカノトランスダクション機構を介して、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の発現を亢進させ、その組織血流を改善させることを種々の動物モデルと培養細胞実験で明らかにしてきました(図1)。これらの基礎的検討をもとに、大学倫理委員会の承認を得て、2013年12月から重症狭心症患者を対象に、東北大学病院を含む全国10施設で医師主導治験を開始し、2019年7月に新規症例登録が終了しました。今後、データ解析の結果が待たれます。』
●人体から発する光
・『人体からは光が出ている、といえば驚く人もいるかもしれない。しかし人間ばかりでなく、生命体はすべて、微量ではあるが光を出している。これを生物光子biophotonという。たとえば、植物の発芽のときなどは発光量がふえる。仙台にある新技術事業団の稲葉生物フォトンプロジェクトでは、生物フォトンの研究が進められているが、ここで気功師の人体計測を行ったことがある。』
※ご参考1:“資生堂、バイオフォトン測定により顔の酸化ストレスの部位差を発見 ―酸化ストレスレベルは加齢・シワと密接に関係―”
※ご参考2:“21世紀の医学 エネルギー医学の主流となるバイオフォトン療法の確立に向けて”
・実験により気功師のフォトンの量は一般人と比べて大差はなく、一番強かった女性の半分位であった。しかし独特なのは、気功師は実験者の指示に従って気を出したり止めたりすることができ、それに伴ってフォトンの量が顕著に増減することである。
・『治療時の気功師と被験者の身体の関係を双方の脳波を測って調べると共に、被験者の発光量がどのように変化するか調べる実験を行った。被験者の経穴から天目(額上部、印堂ともいう)及び左手の人差し指、中指、薬指をえらんで発光の強さを検出すると共に、両者の脳波測定を同時に行った。まず脳波であるが、気功師の方は治療中ずっと安定したアルファ波を出しつづけているが、被験者の方は治療を受ける前は不安定なベータ波が多い(図27a)。ところが気功師が気を送りつづけるにつれて、被験者の脳波も次第にアルファ波に変って安定し、両者の脳波が同調し始める(図27b)。このような同調現象は、日本医大の品川教授らの実験でも確認されている。』
画像出展:「気とは何か」
気功師の脳波は治療中ずっと安定したアルファ波を出し続けていますが、被験者は不安定なベータ波が多い。(a)
気功師が気を送りつづけにつれて被験者の脳波も次第にアルファ波に変って安定し、両者の脳波は同調し始めます。(b)
被験者の天目穴(B)と指先(A)のフォトンの発光強度。発気後10~16分にかけて両者は同調関係をしめしています。(c)
これに対して、このときの被験者のフォトンの状態はどうであったか(図27c)。気功師が気を出すと、被験者の指先の発光量(A)は徐々に減少し、これに対応して額の発光強度(B)が増してくる。図では発功後10分から16分のときに見られるように、指先(A)の発光量の減少と額(B)の発光量の増大との間にはっきりした対応関係が現われている。これは、気功師が発した外気の作用によって、被験者の身体の状態に変化が起こったことを示しているものと考えてよいであろう。
●バクテリアに対する気の効果
・『気功師が発功するときのエネルギー量は非常に小さい。たとえば赤外線輻射の量は数マイクロワット程度であって、人工的に造った赤外線発生装置(赤外線コタツなど)のエネルギーが数百ワットもあるのにくらべると、1億分の1以下の弱いものでしかない。このため、気功(特に外気)による治療効果は実はプラシーボ(偽薬)と同じ心理的効果によるものか、あるいは催眠と同じような現象ではないかという疑問が出されてきた。しかし、動物実験やバクテリアを使った実験などの結果をみると、そういう従来の考え方だけですべて説明することはどうもできにくい。問題はむしろ、検出される物理的エネルギーが意識的-無意識的な心理的情報の運搬者carrierと考えられる、というところにあるのではないだろうか。
私がこのようなことを考えたのは、ほかでもないが、前述の1984年に筑波大学で開いた「科学技術と精神世界」という日仏シンポジウムで、「気」について発表したときである。その討論のさい、フランスのユング心理学協会会長のアンベール博士がこんなことを言った。われわれ心理分析家はいわば自分の身体を道具にして患者を治療しているようなもので、狭い部屋の中で患者と顔をつき合わせて話し合っている。ところが、相手によって自分の身体の状態が非常にちがう。今日はどうしてこんなにくたびれるのか、と思うことがある。「気」のエネルギーというのはこういう作用をいうのではないか、とアンベール氏は言った。この話は、臨床家の実際的体験から出た言葉として印象に残っている。』
●エネルギーと情報の関係
・気の成分から赤外線のような電磁波、磁気、超低周波、静電気といった様々な物理的エネルギーが検出された。しかし、「気とは何か」が分かったわけではない。
・明らかになった物理エネルギーは、生きた人体に備わっている作用なので、「気」とは人体を生きた状態に保っている基本的なはたらきである、と定義することができる。
・気の作用の特徴的なことは、心身の訓練に熟達した気功師は赤外線、磁場、超低周波、フォトンなどを意識集中(意念)によってその発現状態をコントロールできる。また、脳波測定の結果をみれば、気功師は脳の活動を安定した状態に保つことができる。このことは、気と心理作用、生理作用との相関関係を考えさせる。そして身体の生理作用は物質的エネルギーをともなっているから、生きた人体には心理-生理-物理という三つの次元を統合するエネルギー作用が存在するということができる。
・気は「こころ-からだ-もの」という三つのレベルを一つにまとめる根本的なはたらきである。
・治療に当たった気功師は、気を発したあと、非常に消耗した状態になるが、このことも心理作用と生理-物理作用の相関性を示している。
・気功師が示すエネルギー作用は一般の人には見られないような波状の脈動として現われる。
●深層意識の情報伝達
・人間関係においては、感覚と意識の認知作用にかからない深層レベルにおいて、情報=エネルギーの発信と受信が無自覚のうちに互いに行われているという可能性が考えられる。
2 研究領域の広がり
●生理―物理の境界領域
・心理-生理的観点からみた場合、気の訓練が自律神経のはたらきと深い相関関係をもっているという点である。
・生理-心理的知見は、深層心理学における意識-無意識の関係とよく対応している。
・発功にともなう血流量の検査(航天医学工程[宇宙医学]研究所が行った研究[気功師31名、訓練中の者38名、対照グループ17名、計86名])は「気功功能態」(気の発射が起こった状態)での血流量を脳、上肢、下肢、下丹田で測る。まず安静時の量を測ってから、百会(頭頂)、左手の労宮(掌中央)、左の湧泉(足裏)と下丹田(臍下)に意識を集中(意念)して発功したときの変化を調べた。心拍と呼吸数も合わせて記録する。
結果は、気功師がこれらのツボに対応する脳、上肢、下肢、下丹田の血流量はすべて非常に増加した。その値は安静時に比べて、それぞれ11.8%、24.1%、26.9%、34.8%であった。逆に、意念しなかった部位では血流量はすべてはっきりと下降した。発功状態に入ると、まず呼吸数の低下と上肢の血流量増加がみられる。これは発功の初期段階に見られる特徴で、入静状態に入った指標である。それにつづいて、脳の血流量の変化と下肢の血流量増加が起こる。
・『医書には古くから「気は血を帥(ひきいる)するなり」「血は気の母なり」とか、「気至れば則ち血至る」などと説いている。清の唐容川は「気を載せるものは血なり、血を運らすものは気なり」と言っており、気の運動と血(血液・体液)の流れの間には密接な関係があるものとされてきた。これらの実験は、こういう古くからの考え方に裏づけを与えている。』
・『経絡系は、神経と血管というこの二つの代表的な統合システムをさらに一つに統合する高次のシステムという性格をもっているわけである。心理的からみればそれは無意識の領域に関連した人体のかくれた情報システムであり、生理面からみればみえない次元で栄養機能をコントロールしているシステムである、と考えられる。つまり潜在的な次元において「こころ」と「からだ」のはたらきを統合しているのが経絡のシステムであると考えられるのである。』
●経絡における気の活動状態
・本山博氏の研究は経絡を通る気の流れの運動は、神経系を介するものではなく、体液系によって起こっていることを明らかにした。
・本山氏のAMI(経絡-臓器機能測定装置)は、活動電位の伝播を神経細胞でなく体液細胞について測定する。手足の井穴(各経絡の気の流れが体外に出入りするツボ)と掌の間に回路を作って、神経による伝播が起こらない程度の弱い電流(3~5V)を通じて、経絡に沿って起こる電位変化を記録する。前に述べたように伝播速度は神経系のものに比べてずっと遅い。
●気の間人的同調
・『気のはたらきはこのようにして、心理-生理-物理のレベルでエネルギーの変容を行いながら人体の外部にまで作用してまわりに一定の影響を与えている。われわれはそれを生体に固有な「エネルギー場」とよぶこともできるであろう。間中喜雄氏は、魚類学者の末広恭雄教授が提唱された「生体の場」という考え方が、東洋医学の身体観にとってきわめて有益であると説いている。それによると、ウィルスから細胞、細胞の集まりである生物体、さらに生物体の集まった集団に至るまで、生命体はそのまわりに「生体の場」をつくり出している。この場合、生体の場には、意識的であれ無意識的であれ、「場」の領域内部が自己に属し、領域外は非自己として区別される。そういう生体の場が自己のまわりに形成されると、「非自己」からたとえば刺戟のような外力がこの場に加わると、必ずこれに対する反作用が生じる。この反作用は刺戟に対する興奮といった形で現われる、という。気のはたらきは、このような意味の生体エネルギーの場をつくり出しており、そこには外部に対する同調と拮抗という関係が見られる。
気功師の発する気が他人の心身の状況に一定の作用をひき起こすという現象は、広い意味で間人的同調transpersonal synchronizationとよぶことができるであろう。この言葉は品川嘉也教授が最初に用いたものであるが、気の研究の将来の方向をよく示しているように思う。』
Ⅳ 「気」と超常現象の問題―科学の時代をこえて
Ⅳはいわゆる超能力について書かれています。本書の中にも書かれているのですが、多くの人にとって超能力は懐疑的なものです。一方、「超能力そのものは非科学的なものではなく、現代の科学がそれを理解できる段階にまだまだ至っていない、と言った方が正しい。」という見方も存在します。私もその考えに従って考えたいと思います。
中国各地から集められた超能力を有する人は数十名、その大部分は8~15歳の児童で最も多い年齢層は12、3歳でした。中には成人の例もありました。集められた人達は各機関の予備調査でその能力の存在を確認されていました。予備調査の後、各研究機関のスタッフ、それぞれの省・市・県の科学委員会関係者、新聞出版関係者などが中心になって14名の超能力者が選ばれ、その家族と同伴で、上海市の科学・医務・教育等の分野の関係者200名以上の出席を得て、三日間にわたり討論と実験が行われたとされています。
1 超心理学をめぐる論争と問題点
●耳で字を読む
・『中国の気功研究の指導者とみなされている銭学森・陳信の両教授は、最近、次のようにのべている。「国家科学技術委員会は1987年5月3日、中国人体科学学会の設立を認めた。1979年、四川省唐雨において、“耳で字をよむ”少年が発見されて以来、実に八年たってのことである。今日に至るまでの苦難と曲折にみちたこの歳月は、人体科学研究所に関心をもって従事するわれわれにとって、誠に容易でないものがあった。中国人体科学学会が正式に設立されたことをわれわれが心から祝福しているのはこのためである。」1987年5月というと私がたまたま北京に滞在していたときである。このニュースは人民日報で知った。当時、この学会の理事長をしている張氏が訪ねてこられたことがあった。また陳信氏(航天医学研究所教授)とはその後、日本と中国でたびたび会うようになった。「耳で字をよむ」というのは、いわゆる超能力のことである。中国では「特異功能」と呼んでいる。「超能力」というのはジャーナリズムの造語であって学術用語ではないが、わかりやすいので使うことにしよう。』
[ここでは(1)、(8)、(9)、(10)をご紹介します。これはツボを見つけることに関係すると思うためです]
(1)身体で字を知る部位は一般に耳、腋下、手の指等が多いが、児童の中には頭頂、膝、背中、足の裏、臀部などで感じる例もある。
(8)現在のところ、二、三十名の児童に合宿させて指導したところ、全員が指先で字を識別できるようになった。このような例から考えると、超能力にはある程度の普遍性があるように思われる。
(9)この種の能力を有する者も識別のしかたは様々で、ある者は接触して感知するが、他の者は接触しなくても感知することができる。また腋下で文字や図形を感じる者もいる。
(10)この種の超能力は身体の健康状態、および精神状態と密接な関係がある。一般には、健康で精神が緊張し、壮快な気分のときは早く識別できる。反対の場合は識別がおそく、識別不可能なときもある。
科学編の2冊目は湯浅泰雄先生の『気とは何か 人体が発するエネルギー』です。湯浅先生は哲学者であり、気の思想、超心理学、ユング心理学等の研究をされました。本書の内容はとても高度で理解できたのは一部ですが、重要な発見がいくつもありました。
ストレスは多くの病気の原因とされています。しかしながら、この考えは1960年代に入ってからのものであり、それまでの近代科学は物質と精神(心)の間には関係はないという二元論の立場をとってきたようです。そのため、医学も心の存在は無視し身体だけを研究の対象にしてきました。東洋医学が廃れていった背景にはこのような実状もあったと思います。「気」について考えるとは、物質と精神(心)の関係性を考えるという側面も含んでいると思います。
目次
まえがき
Ⅰ 「気」の人間観と自然観
1 なぜ「気」を研究するか
●気と心身関係
●研究の学術性
●武道―脳波の間人的同調
●一瞬の気合によって相手を倒す
●日中交流と気のブーム
2 人体の見方と自然観
●二元論の克服
●還元主義をこえて
●みえる身体とみえない身体
●流体モデルの自然観と科学
●実践修行の問題
Ⅱ 人体内部の「気」のシステム
1 人体の情報回路
●局在的器官と統合的システム
●外界にかかわる感覚―運動回路
●身体の気づきとしての全身内部感覚
●生命を維持する情動―本能回路
●感情の重視
●身体の三つの回路
●自律系のコントロール
●呼吸法による「気」の訓練―調気
●自然治癒力を高める
2 東洋医学の身体観と人間観
●経絡のシステム
●体表医学と開放系の人間観
3 東洋医学の現代的研究
●第四の回路としての経絡系
●経絡敏感人の発見―気の心理面
●生理的観点からみた経絡
●経絡と神経の区別
●潜在的エネルギーとしての気
Ⅲ 人体外部の「気」のエネルギー場
1 気のエネルギー計測
●気力とは何か
●気の三次元―心理・生理・物理
●気功師が発する赤外線
●人体と磁場
●人体から発する音
●人体から発する光
●バクテリアに対する気の効果
●エネルギーと情報の関係
●深層意識の情報伝達
2 研究領域の広がり
●心理―生理の境界領域
●生理―物理の境界領域
●経絡における気の活動状態
●気の間人的同調
3 方法論的反省
●例外は本質を明らかにする
●事実と価値
Ⅳ「気」と超常現象の問題―科学の時代をこえて
1 超心理学をめぐる論争と問題点
●耳で字を読む
●超能力論争の問題点
●超能力研究の意義と可能性
●気と超能力は関係があるのか
●超心理学への一般的反応
●超心理学は科学か
●超常現象と認識批判の必要
●近代科学の基本前提
●超常現象は「気」で説明できるか
2 因果性の彼方
●ユングの超心理学批判
●因果性と共時性の重層
●目的論と科学
おわりに―心の科学と新しい人間観
まえがき
・「気」の考え方の基本は、心の働きと身体の働きを一つに結んでいるところにあると考えられる。
・心と身体、心理作用と生理作用を結んでいる生命体の未知のエネルギーなのではないか。
・「気」は実践的・体験的正確の強いもの。「気」の考え方が身体をもって行われる「わざ」の体験と結びついて生まれてきた実践的経験知である。特に気功はそのことをよく示している。
・四つの重要な問題点
1) 東洋の医学や修行法の歴史について一通り知っておくことが大事である。
2) ユングが指摘する無意識の問題は「気」の考え方の謎を解く鍵を握っているかもしれない。
3) 戦後、日本の東洋医学研究を進めてこられた先人の仕事である。これらの先駆者の仕事を無視すべきではない。
4) 気功の科学的研究、特に「気」のエネルギー計測にかかわる諸問題である。これは生物物理的研究技術の発達に伴って新しく生まれてきた研究テーマである。
Ⅰ「気」の人間観と自然観
1 なぜ「気」を研究するか
●気と心身関係
・近代科学は物質と精神(心)の間には何の関係ものない二元論の立場をとってきた。そのため、医学も心の存在は無視して身体だけを研究の対象にしてきた。
・1960年代に入ったころから、医学者からも心身問題が注目されるようになった。これは心身症と呼ばれるストレスによる問題が認識され始めたためである。一方、臨床面からだけでなく、基礎医学の方面からも心身論に対する動きが出てきた。その理由は1950年代以降、脳生理学の研究が急速に発展してきたためである。
●武道―脳波の間人的同調
・被験者Aは青木宏之師範:師範は若いころは空手の達人として知られ、新体道という新しい体術を創始した人。
・被験者Oは岡田満師範:青木師範の高弟
・「遠当」とは:相手の身体に触れることなく、一瞬の気合によって倒す技。
・テスト:演武時の二人(青木師範[被検者A]と岡田師範[被検者O])の脳波を計測する。
1)演武前:開眼安静状態に入った岡田(O)はすぐにα波が出始めた。青木(A)の脳波が岡田(O)より脳波が平坦なのは熟練度の差と考えられる。平坦波は脳死状態に見られる脳波だが、熟練した気功師や武術の達人は平坦脳波に近い脳波が見られる。
2)岡田(O)が青木(A)の背後から攻撃をかけようとした時の両者の脳波:青木(O)は背後に殺気を感じた。興味深いのは青木(A)の側頭前部(O₁O₂)と岡田(O)の側頭中央部(T₃T₄)の双方にβ波が出ている。この時のトポグラフ(図3b)を見ると、青木(A)の方は右脳でβ波が強く出ており、青木(A)は直観的に気を感じているようである。
3)岡田(O)が攻撃をかけ、青木(A)が体をかわした時の状態:このときの青木(A)のトポグラフ(図4b)をみると、β波は左側頭部に移っており青木(A)は左脳で意識しながら気を発しようとしている。
4)遠当の瞬間:青木(A)の脳波は比較的平坦であるが、気合を発した一瞬だけ烈しく動いている。この時のトポグラフ(図5b)を見ると、青木(A)の方は右側頭部からα波が頭全体に広がり、また脳の深部活動を示すβ₁波も全体に広がっている。岡田(O)の方は前頭部から右側頭部でα波が強く現われ、β₁波は全体にひろがっている。
瞑想状態についてのこれまでの脳波研究では、瞑想が深まるにつれてα波やΘ波が大脳皮質の広い範囲に現われることが知られている。この点から考えると、両者(特に青木)の頭部全体にα波が広がっていることは、遠当の瞬間、被験者が禅の瞑想の三昧(無我)に似た状態にあることを示している。
『青木はこれについて次のように語っている。「対立する世界をこえて、まず自分が無になることです。そうすれば融和して、限りなく相手と一体になる。自分は相手であり、相手は自分です。そういう状況では相手の気持ちの切れ目が分かるので、そこにスパーンと気合を打ち込んだら離れた相手をも倒すという、俗にいう遠当なるのです。さらに言えば、私がここに立っていて本当に無であれば、大我ともいうべきこの大きな宇宙の心は、私の心であると同時に彼の心でもあるわけです。ですから、彼が私を攻撃するということは、天の心を攻撃するということであり、また自分自身の心に攻撃をかけることでもあるわけです。自分が自分の心に対抗したら、彼は倒れるでしょう。これが本当の意味の遠当です。」
坐禅と瞑想とちがうところは、両名ともβ波の速い波は新皮質より下の古い皮質から起るといわれており、本能や直観のような心の深い部分が活動しているらしい。β波はふつう前頭部を中心に現われることが多く、後頭部まで広く分布することは少ない。ところがこの場合は、両者とも(特に岡田)β波が全体にひろがっている。インドからアメリカに伝わって普及した超越瞑想とよばれるヨガの瞑想では、瞑想がその第三段階にまで深まると、振幅のそろったリズミカルなβ波が頭部全体に現われる、とされている。これらの点を考え合せると、気のかけ手も受け手も、烈しい運動をしていながら、一種の深い瞑想に似た状態にあるものと考えられる。青木の技を受けた弟子たちの報告では、気を受けたときの状態は苦痛よりもむしろ爽快な一種のエクスタシー状態になるという。』
5)遠当後の脳波:青木(O)はすぐ平坦に戻っているが、倒れた岡田の方は高い活動レベルが続いている
「遠当」について質問してみましたが、明確な回答は得られませんでした。
2 人体の見方と自然観
●二元論の克服
・東洋の伝統では、「気」のはたらきは元々主観的に感じるものとされてきた。それは、普通の意識状態では認識できないが、瞑想とか武術・気功などの訓練をつんだ人は気の流れを感じとることができると説かれてきた。
・現代の心理学の立場からいうと、無意識の心理との関係を考える必要が出てくる。心身医学や精神医学では変性意識状態(ASC)という言葉を使うが、これは、瞑想・深い祈り・トランス・幻覚など、通常の意識とは違った心理状態を指す言葉である。それは無意識下の心の働きが表面まで現われてきた状態である。
・「気」の働きは、心理的な作用を示しているが、それは心理的なレベルに留まらず、身体の生理的レベルにおいて一定の客観的効果をあらわす。瞑想や気功などが健康法としての役割をもち、医療にも応用されているのはそのためである。
・今日では気功師がその身体から発する生体特有のエネルギーの性質を、物理的方法でとらえることも可能になってきた。このような観点もあり、「気」というエネルギーの作用は、通常の意識と感覚を超えた立場で心理-生理-物理という三つのレベルに変換してその効果をあらわすものだということになる。要するに、「気」とは主観的であると共に客観的であり、心理的であると共に生理-物理的でもあるような生命体に特有の未知のエネルギーである、ということになる。
●還元主義をこえて
・「気」とは心身の訓練を通じて感じられるようになるはたらきである。それは、通常の状態では感覚によって認識することはできないが、訓練によって心が日常普通の意識状態から変容するときに感受され、自覚され、認識されてくる。それと共に、気の働きは人体の生理的側面において一定の効果を現わす。気はさらに、人体と環境、つまり人間と自然をつなぐ物質的レベルにおいても一定の働きを示すのである。
●みえる身体とみえない身体
・三国時代の英雄・魏の曹操に殺された有名な医師・華陀は全身麻酔を用いた回復手術を行った医師として知られており、その手術記録は史書に詳しく残されている。一方、戦国時代の伝統的医師・扁鵲から始まる流れは、透視術によって体内の臓器の状態を知るものであった。ただし、本当に透視術を使ったのか「望診」だったのかは分からないが、扁鵲の医術は「黄帝内経」に代表される中国伝統医学の主流につながっていく。つまり、中国の古代では二つの傾向が並存していたと思われる。一つは解剖中心、そしてもう一つは、「液体(流体)病理説」ともいうべき考え方で、全身をめぐる経絡の中の「気血」の流れの異常に病因を求めるものである。
・経絡は「流注図」の他に、「環中図」や「明堂図とも呼ばれていた。
・解剖学的な「みえる身体」のシステムの底に、いわば「みえない身体」のシステムを考え、そこに流れている気のエネルギーに注目しつつ、「みえる身体」がもっている生理作用を説明してゆくことになる。
・気の流れの働きは「みえない身体」と「みえる身体」をつないで、身体の諸器官の作用を全体的に支配し活性化している。みえない身体の基本概念が「経絡」と「気血」であり、目にみえる「血」の運動をコントロールしているのはみえない「気」のエネルギーの流れであるという考え方である。
・中国の脈診法は古代から現代まで受け継がれており、西洋医学の脈の測り方よりはるかに精緻なものである。
●流体モデルの自然観と科学
・道教は自然の中に生きることを理想とするが、自然は客観的な観察の対象ではなく、人間の本性を表現するための舞台である。気功はそのための修行法である。仏教は生老病死の苦しみこえて「悟り」に至る実践の努力を重んじる。さまざまな仏教の修行法はここから生まれている。
Ⅱ 人体内部の「気」のシステム
1 人体の情報回路
●局在的器官と統合的システム
・東洋医学でいう経絡のシステムは、神経系と血管系の二つの主要システムを統合する高次のネットワーク・システムともいうべき性質を与えられている。そして経絡系は皮膚(および体液系)と関係が深い。
・『局在的器官である内臓や四肢ばかりでなく、神経系その他のネットワーク・システムをもさらに一つにまとめる高次の統合機能を果たしている。東洋の伝統医学が皮膚を最も重視してきたことは、そのホリスティックな考え方をよくあらわしているといえよう。』
補足)まず、本書の初版発行は1991年1月になります。そして2018年3月、以下のようなニュースがありました。この間質(ファシアの一部)は個人的には皮膚と同じくらいに重要な器官であると考えています。
ご参考:“ヒトの器官で最大の器官が新たに発見される” ニューズウィーク日本版 2018年3月29日
ご参考:“人体で最大の「新しい器官」は、なぜいまになって“発見”されたのか“ WIRED 2018年4月4日
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
これは間質とファシアについての表です。
この中で、『ファシアは間質を含む大きな構造として再定義され、間質はファシアの重要な要素として認識されるようになりました。』と説明がされています。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
こちらは皮膚とファシアについての表です。
この中で、『皮膚の直下にある浅層ファシアは、皮膚と深部組織をつなぐ重要な役割を果たしており、両者の健康は相互に影響し合っています。』と説明されています。
●身体の三つの回路
・瞑想の訓練は無意識からわき出る情動的コンプレックスを解消し、心のままにコントロールできるようにすることである。
・情動の作用は、外界感覚-運動回路(感覚器官・運動器官の活動)がスムーズに働くためのエネルギーか潤滑油の働きをしているといえる。
・瞑想は情動の働き方の歪みを直し、それを自由にコントロールする訓練である。歪みがあっては冷静な判断はできない。
・東洋の修行法の基本的な特質は、身体の訓練を通じて心の働き方を訓練していくところにある。
・身体の技と同じように心の動きは、繰返し繰り返し訓練を重ねることによって向上し発達する。例えば、密教の修行法に、仏のイメージに心を集中させながら一定のマントラ(神聖な呪句)を何万回も繰り返し唱えるような方法がある。日本仏教の念仏や題目を唱える習慣は、ここからきたものである。これによって、情動をコントロールし、無意識の力を意識的に統合することが修行の目的ともいえる。
●自律系のコントロール
・心は情動作用を通じて自律神経の働きに影響を及ぼし、内臓器官の活動に影響を与える。
・意志の自由になる皮質(感覚-運動)系の機能と、意志から独立した自律系の機能は、まったく無関係というわけではなく、情動作用によって関連しているのである。
●呼吸法による「気」の訓練―調気
・東洋の修行法にみられる瞑想や武術の訓練が、必ず呼吸法の練習から始まるということである。中国・日本の古武道でも、呼吸法の訓練は昔から非常に重視されてきた。
・気功の基本である調身・調息・調心は、道教・仏教・儒教の哲学に共通している。
・調息は調身と調心を結ぶ中心的役割を果たすものとして重要視されている。
・調息は調気と言いかえられることからも明らかなように「気」の訓練を意味する。従って、呼吸法による「気」の訓練は、心の訓練と身体の訓練を一つに結びつける要の位置におかれている。
●自然治癒力を高める
・アメリカの生理学者キャノンは、人体に備わっている様々の生理的機能の全体をホメオスタシス(生体機能の恒常性)とよび、それを「自然治癒力」とも呼んでいる。
・近代医学では人体の各部分に局在した機能に注意するようになったので、自然治癒力は廃れた。
・ヨガや気功に代表される東洋の修行法は、医学的観点からいうと、自然治癒力を高め、発達させる訓練を意味している。
・呼吸法の訓練から始まる心身の訓練は、意志の自由が及ばないと考えられている自律系の生理的機能にまで影響し、その潜在能力を高める。
2 東洋医学の身体観と人間観
●経絡のシステム
・瞑想法では脊柱に沿った督脈と胸腹部の正中線に沿った任脈を重要視する。
●体表医学と開放系の人間観
・東洋医学ではホリスティックな観点から全身の機能を統合的に捉える見方に立っている。
・『気の流れは瞑想の訓練と結びついており、意識-無意識の心理作用と関連している。また、医学的治療の観点からみると、気の流れは生理的機能を活性化するはたらきである。そしてそのエネルギーの作用過程は、後に言うように、生物物理的測定法によって人体の外部でも何らかの形で検出できる。つまり、気は、心理-生理-物理(こころ-からだ-もの)という三つのレベルに変換してはたらくみえないエネルギーなのである。』
3 東洋医学の現代的研究
●経絡と神経の区別
・ある一つの経絡をとって、皮膚表面につくった回路に軽い痛みを感じる程度の比較的強い電流(個人差があるが20V位)を流すと、各経絡上の測定点に一過性の波が現われる(図20a)。これはGSR(皮膚電気反射)、つまり神経を通じて起こる反応である。一方、電気刺激を弱くすると、このような反応は起こらない。しかしながら、特定の測定点(経絡上の経穴)にだけ反応が確認できる(図20b)。デルマトームの分布から想定されるVCR(内臓帯壁反射)では図20bのような反応は考えられない。従って、図20bはGSRでもVCRでもない別の反応系が存在していることを示している。つまり、これは経絡によるものであると考えられる。
・『皮膚に現われた生理作用の中に、神経性のものとはちがったものがあることを明らかにしたという点で重要な意味がある。つまり、経絡系は神経系とは別の身体統合システムであるということが、現代的観点から確認されたわけである。このときの電気的反応の伝播速度を調べると、神経による反応は毎秒数十メートルに達するのに、経絡による反応の伝播速度は平均1メートル以下であった。この点は、先にのべた長浜氏[針灸の医学]らの測定結果と一致している。
本山氏[気の流れの測定・診断と治療]はさらに、経絡現象が起こる部位が皮膚の表皮ではなく、その下の真皮の層であるらしいことをつきとめている。つまり経絡は、体液系の中で作用しているシステムなのである。
画像出展:「陰ヨガと経絡①|石田麻子の陰ヨガコラム」(Yoga Body)
本山 博先生の経絡に対するお考えは、僭越ながら私の考えと極めて近かったため、思わず先生の著書『気の流れの測定・診断と治療』を探し、購入させて頂きました。
先にのべたように、身体各部の局在的器官のはたらきを一つにまとめる統合的システムとしては、神経系・血管系・内分泌系・免疫系・体液系などがあげられる。このうち神経系・内分泌系・免疫系などは、心身の相関関係を示すシステムとして従来から注目されてきた。体液系も全身の各部分に及んでいるが、これらの中では皮膚と最も直接に関係している。体液が最も多く貯えられている場所は皮下組織の部分なのである。』
●潜在的エネルギーとしての気
・経絡における気の流れという現象は、生理的側面からその作用の仕方について研究することはできるが、それは生体電流のような作用を介して間接的に推察されるものであって、直接に気のエネルギーを認知できるわけではない。
・気の流れは生理的側面だけでなく、主観的な心理的側面において感じられる働きである。つまり、心(意識-無意識)と身体を媒介し、心理領域と生理領域の間の一種のエネルギー変換をつかさどっている作用である、と考えられるのである。
・『経絡における気の作用という現象は、この問題についてわれわれに新しい見方をとる必要を示唆している。戦後まもないころ、「経絡戦争」が起こったとき、間中喜雄氏は、「経絡という概念は将来、従来否定されてきたような意味で否定されるべきものでなく、また経絡肯定論者があると考えているような意味で存在するのでもないというような日が来るのではあるまいか」とのべたという。筆者には、この間中氏の予言は深い意味をもっているように思える。』
※補足
私はこの「3 東洋医学の現代的研究」の「●経絡と神経の区別」と「●潜在的エネルギーとしての気」の章に書かれた内容から、「経絡≒ファシア」をあらためて確信しました。ただし、「氣」についてはまだまだ勉強を続けなければなりません。何とかして自分なりの結論にたどり着きたいと思います。
2.脳波から「気」を解明する
●ナポレオンが三時間しか眠らなかったのは、シータ波の作用か?
①ベータ波:眠りが深くなって熟睡の時に現われる。
②シータ波:ウトウトしてくると現われる。デルタ波の状態とは異なり、外界からの刺激にも普通に反応できるので、本人は自覚していない。一瞬の居眠りで事故を起こすのは、シータ波が出ているときである。
・シータ波に関しては解釈の難しい問題がある。瞑想中や荒行、断食などの宗教的修行を積んだ人にもこのシータ波が良く観察されるという事実である。これをどう解釈すべきか、精神を集中することによってシータ波が優勢になると考えて良いのか、それとも、特殊なトレーニングによって、いつでもどこでも一瞬に睡眠をとれるということなのか。この「精神集中」か「ウトウト睡眠」か、この見極めは非常に難しい。
●アルファ波についての基本的誤解
③アルファ波:目を閉じて安静にしている時に現われる脳波である。眠っていながら眼球が動き、脳の活動も活発な、いわゆるレム睡眠の際に現われる脳波である。
・アルファ波は8~10ヘルツのアルファ1波と10~13ヘルツのアルファ2波である。アルファ1波はアルファ波に近く、アルファ2波はベータ―波に近い。
・安静にしている状態ではアルファ波はよく出る。ところが、何かものを考えはじめると、アルファ1波波は、後頭部中心に抑制される一方、アルファ2波はむしろ亢進の傾向を示した。実は気功師の脳波でも同じような現象が観察された。
・『アルファ波の活用を解説したハウツー書のなかには、「アルファ波は安静時と集中時に現われる」として、両方のケースであたかも同じ脳波が出るように書いている本がある。これは二種類のアルファ波を区別しなかったために起きた混乱であり、誤った記述である。それを見きわめることが脳の活動を知るには大きな要件となってくるのである。』
④ベータ波:脳が活発に活動しているときに現われる脳波で、別名「精神活動脳波」とも呼ばれる。逆にいえば、目を閉じれば誰でもアルファ波を増やすことができるのである。
・ベータ波では脳のどの辺りを使っているのかがわかる。また、イメージ思考とも関連が深く、ひいては右脳左脳の役割分担とも密接に関係している。
●なぜ、ものを考えていても、眠っていても、同じ脳波が出るのか
・「気」を脳波学的に解明していくには、イメージ思考とベータ2波の関係が特に重要な問題となる。気功中に右脳優位にベータ2波が出ている。
●脳波学の知見を揺るがした暗算の名人
・ソロバンチャンピオンの女性は暗算時に左脳はまったく使わず、右脳、それも右脳の後部にある視覚野をつかさどる部分が活発に活動していた。彼女の話では、数字を見たり聞いたりすると、頭の中にソロバンが浮かぶそうである。そして、そのソロバンの球が勝手に動いて答えが出るということである。
●「気」の脳波は、こうして測定された
・実験は中国人気功師4人、日本人気功師4人、計20回の脳波測定を行った。気功師と「気」を受けた人の脳波も同時に測定した。「気」の受け手はすべて日本人、その中には練功歴2~3年以内の気功の初歩の体験者も含まれていたが、脳波は他の気功の未経験者と有意に差がないことを確かめていた。
・分析に用いた周波数帯域をアルファ1波、アルファ2波、ベータ2波の3つにした。これはアルファ1波がよく出るのは目をつぶって安静にしている状態である。そして、何かものを考え始めると、このアルファ1波は一瞬減少するが、やがてアルファ2波に変る。つまり、この変化を見れば脳波測定者が思考の状態にはいったかどうかがわかる。ベータ波のうちベータ2波を選んだのは、ベータ2波が頭のどこを使っているのかに密接に対応しており、脳の活動部位を調べるにはベータ2波の方が分析しやすいからである。
●なぜ、気功師に「脳死」や「ボケ」症状を示す脳波が出るのか
・子どもの頃から練功を積んできたベテラン気功師について、目を閉じてリラックスした安静状態で、「何も考えないでください」と指示して脳波を測定したところ、アルファ波の振幅が普通の人の1/2以下だった。
・極端な例ではアルファ波だけでなく、ベータ波も非常に小さい気功師もいた。これは脳死状態に見られる「平坦脳波」に近い脳波である。気功師の脳に問題はないのでまったく不思議としかいいようがない。
・安静時閉眼時のアルファ波は普通の人はほぼ左右対称で後頭部のみに強く出る。一方、気功師のアルファ1波は過半数の気功師が前頭部寄りに出現した。また、アルファ2波もアルファ1波ほど強くないが一般の人よりは頭の前の方に出ていた。なお、この脳波の出方はボケの指標となっている。これは明らかにされていない何かのメカニズムとしか考えられない。
●気功師はなにもイメージしていないのに、イメージを表わす脳波が出た
・気功の時の姿勢(入静状態)は「気」を発するまえの準備段階であるが、気功師の脳波はアルファ1波が減少しアルファ2波が脳全体に広がり、同じ波形となった。そしてアルファ波の強さを示す振幅は一般の人より小さいことも分かった。
これと同じ傾向は、瞑想、ヨガ、座禅のベテランの準備段階でも見られた。
・気功師の練功で、まずは気功師が体の動きをともなわない状態(静功)で、自分自身に「気」をめぐらせた場合の脳波は、アルファ波に混じってベータ2波が現われるが、特徴的なことは右脳優位のベータ2波が頻繁に現われることである。ときによってベータ2波が右前頭部から右後頭部、左前頭部から左後頭部へと激しく移動する。さらに、左脳のみにベータ波2が見られたり、左右の側頭部に分かれて出たり、ベータ波2とともにアルファ2波も移動する。
・このような脳波のパターンは一般の人ではまず見られない。体の動きを伴わない静功の状態であるのに脳の動きは激しく変化する「外静内動」の状態である。
・アルファ2波とベータ2波が同時に同じ場所に現われる脳波パターンは一般の人では強い集中力をもった人が、明確なイメージを強く描いたときだけに見られる。また、右脳のみにベータ2波が現われるのは、催眠状態で自発的にイメージが出現するときにかぎって観察される。
・静功時の気功師の脳波は、イメージの脳波によく似ている。しかも、ベータ2波がイメージ思考と密接に対応していることを考え合わせれば、気功師の頭の中には、さまざまなイメージが駆け巡っていると推測できる。ところが、気功師にそのときの状態をたずねてみると、すべての気功師が「なんのイメージも浮かんでいない」と答えた。
●気功師と瞑想家の脳波には、共通点がある。
・動功に入ると、アルファ1波、アルファ2波、ベータ1波、ベータ2波のすべてが後頭部に固定され移動しなくなった。静功時には激しく動いていた脳波が、動功にはいると体の動きとは対照的に、後頭部に集まって落ち着く。これを「外動内静」の状態になった。
・アルファ波とデータ波とが同じ場所に現われるのは、普通の人では精神を集中した場合である。
・脳波分析から判断するかぎり、気功は頭を高度に使っている状態である。ところが、気功師に「動功中は何を考えていますか」と質問しても、「何も考えていません」という答えが返ってくる。この返答からは、気功とは頭では何も考えているわけではないが、頭はフルに使っている状態と規定できる。
●「気」によって脳波が同調し、脳が活性化する
・実験では「脳波の同調現象」はすべてのケースで観察された。この「同調現象」は気功の脳波以外では観察したことがない。
・「気」の受け手は気功師の「気」を受けると、大多数の受け手の人の脳波に出るはずのない前頭部寄りのアルファ波が発生する。なお、この際、受け手の人は「気」受ける際に常に眼を閉じて何も考えていないリラックスした状態(安静閉眼)にいる。
・気功師が「気」を送ると、受け手側の半数は前頭よりのアルファ2波が観測され、アルファ1波の方は1名を除き、全ての被験者に前頭寄りに現われた。
3.「気」が身体を活性化する
●気功は、全脳のトレーニングになる
・ものを考えるとき右脳を活発に働かせているという状態は極めて少ないが、左脳優先の脳の使い方は心身の健康面からみて大きな問題を抱えている。
・日本では教育においても左脳偏重である。英語なども英会話はもちろん、ある程度長文の英語の読み書きには、右脳的なイメージ思考が必要不可欠である。
・右脳と左脳をバランよく使う方法を「全脳思考」という。
・気功師の脳波は明らかに右脳優位のベータ2波が見られる。これは気功には右脳の働きを活性させる効果があるということである。
●ユングの「共時性」と脳波の同調性
・『ユングのいう因果的世界は、分割脳理論でいえば左脳が捉えた世界に対応するものであろう。とすれば、共時性と呼ばれる非因果的世界は、右脳が活性化されることによって意識に捉えられる世界ということになる。ふたつの世界がふれ合うところに共時性の現象が出現するのなら、それは“宇宙との一体感”の体現であり、とりも直さず気功のつくり出す意識状態とべつのものではないということになる。
気功師の脳波と気の受け手の脳波のあいだのトランスパーソナルな同調には、偶然の一致以上のものがあるはずである。なんどもいうように、「気」は実体ではなく、情報である。その情報が「気」の送り手から受け手に伝わり、身体に作用を及ぼした結果が、脳波の同調現象として現われるのだ。
もちろん、いまのところそこに存在する物理化学的な因果関係は明らかでない。あくまでも意識状態の伝達なのである。その意味でも、脳波の同調現象は共時性というあいまい模糊とした不可思議な現象の実在性を示す、唯一の実証的な手がかりとなっている。
気功における脳波の同調現象のさらなる解明は、今後の研究に待たざるをえない。だが、それが「気功の科学」の中核となり、ひいては共時性をも含めた新たなパラダイム創出のための突破口となりうることだけはまちがいないであろう。』
まとめ:一般人と気功師の脳波の特徴は明らかにことなる
1.気功師の脳波の特徴
1)目を閉じて何も考えていないときの気功師の脳波は、α(アルファ)波のパワーが非常に小さく、平均すると一般人の半分以下しか出ていない。
2)子どもの頃から気功の訓練を積んできた気功師の脳波である。α波だけでなくβ波も小さく、平坦脳波に近いときさえあった。平坦脳波とは「脳死」のときに見られる脳波である。脳機能に何も異常も見られないにもかかわらず、このような異常な脳波が生じるのか不思議である。
3)α波は集中力が高いときに出るという一般的な理解とは異なり、気功師が集中した時の状態の脳波は違っていた。
4)体の動きを伴わない「静功」で「気」を発しているときに脳波の動きは激しく、大きな動作を伴う「動功」の時には脳波の動きが減少した。このようなことは常識では考えられないことだった。通常は動きが大きいほど、脳波の動きも大きい。
5)気功師の脳波に共通して、棘波(スパイク波)という振幅の大きなとがった波が観察されたことも不思議な現象であった。一般的に棘波はてんかん患者の発作時、それもかなり激しい発作の時に見られる脳波である。
6)静功時の気功師の脳波は、イメージの脳波によく似ている。しかも、ベータ2波がイメージ思考と密接に対応していることを考え合わせれば、気功師の頭の中には、さまざまなイメージが駆け巡っていると推測できる。ところが、気功師にそのときの状態をたずねてみると、すべての気功師が「なんのイメージも浮かんでいない」と答えた。
7)気功師の脳波は明らかに右脳優位のベータ2波が見られる。これは気功には右脳の働きを活性させる効果があるということである。
8)安静時閉眼時のアルファ波は普通の人はほぼ左右対称で後頭部のみに強く出る。一方、気功師のアルファ1波は過半数の気功師が前頭部寄りに出現した。また、アルファ2波もアルファ1波ほど強くないが一般の人よりは頭の前の方に出ていた。なお、この脳波の出方はボケの指標となっている。これは明らかにされていない何かのメカニズムとしか考えられない。
2.脳波の同調現象
1)気功師は一般人に比べてβ波が右脳に多く出現することが明らかになったが、この変化は受け手にも現れた。
2)実験では「脳波の同調現象」はすべてのケースで観察された。この「同調現象」は気功の脳波以外では観察したことがない。
3)「気」の受け手は気功師の「気」を受けると、大多数の受け手の人の脳波に出るはずのない前頭部寄りのアルファ波が発生する。なお、この際、受け手の人は「気」受ける際に常に眼を閉じて何も考えていないリラックスした状態(安静閉眼)にいる。
4)気功師が「気」を送ると、受け手側の半数は前頭よりのアルファ2波が観測され、アルファ1波の方は1名を除き、全ての被験者に前頭寄りに現われた。
感想
「気は実体ではなく情報である」ということ、そして、気功師の脳波には様々な特徴があり、気功師と受け手の脳波が同調するという実験結果を、品川先生は特に注目されていました。そして、“ユングの「共時性」と脳波の同調性”に触れていた箇所が特に印象に残りました。
『ユングのいう因果的世界は、分割脳理論でいえば左脳が捉えた世界に対応するものであろう。とすれば、共時性と呼ばれる非因果的世界は、右脳が活性化されることによって意識に捉えられる世界ということになる。ふたつの世界がふれ合うところに共時性の現象が出現するのなら、それは“宇宙との一体感”の体現であり、とりも直さず気功のつくり出す意識状態とべつのものではないということになる。
気功師の脳波と気の受け手の脳波のあいだのトランスパーソナルな同調には、偶然の一致以上のものがあるはずである。なんどもいうように、「気」は実体ではなく、情報である。その情報が「気」の送り手から受け手に伝わり、身体に作用を及ぼした結果が、脳波の同調現象として現われるのだ。
もちろん、いまのところそこに存在する物理化学的な因果関係は明らかでない。あくまでも意識状態の伝達なのである。その意味でも、脳波の同調現象は共時性というあいまい模糊とした不可思議な現象の実在性を示す、唯一の実証的な手がかりとなっている。
気功における脳波の同調現象のさらなる解明は、今後の研究に待たざるをえない。だが、それが「気功の科学」の中核となり、ひいては共時性をも含めた新たなパラダイム創出のための突破口となりうることだけはまちがいないであろう。』
「気功の科学」は今後の研究を待たざるをえないとされています。この本は1990年1月に発行されました。一方、ミラーニューロンの発見は1996年です。このミラーニューロンに関しても勉強する予定です。「気功における脳波の同調現象」のとの関係性に注目したいと思います。
また、「脳波の同調現象」では、気功師が「気」を送ると受け手側の半数は前頭寄りのアルファ2波が観測され、アルファ1波の方は1名を除き、全ての被験者に前頭寄りに現われたということです。これも注目すべきなのかなと思います。
“鍼灸師編”、“東洋医学概論編”、“エントロピー編”の次は“科学編”です。その最初の本は、医学博士の品川嘉也先生の『気功の科学』です。本書の最後のエピローグ(心身二元論を超えて)には次のようなことが書かれています。
『気功状態の脳波を測定してみると、すべての被験者に明らかに共通した脳波変化のパターンが観察できる。まさに「気」の一元論である。しかし、それでいていっぽうではまた、個々人の脳波はひじょうに個性的なのだ。脳波を見れば、それが誰のものであるかがひと目でわかるくらいである。
脳波だけを見て、それが誰のものであるかが明白にわかるということは、やはり脳が心身をまるごと映している証拠であろう。脳は心と身体をコントロールしているだけではなく、その「ひとつにしてふたつのもの」であり、かつ「ふたつのものにしてひとつのもの」を映す鏡なのである。脳において心と身体は互いに相映し合い、普遍的と同時に多様な個性をも開き示している。個々人には宇宙の見方にも個性があり、その個性が脳波に反映されているのである。
気功の脳波に、心身の一体感、ひいては宇宙と人間との一体感が反映されているという事実を、どう考えればいいのだろうか。脳とは、いわゆる無意識と意識とをあわせた拡張された意味での「意識」が発現する“場”である。その“場”の振動が―これはあくまでも比喩的な表現にすぎないが―、「気」の情報となって伝わり、脳波という目に見え、科学的に観測可能な形となって現われる。』
比喩的な表現との前置きはありますが、品川先生は、脳波は「気」の情報が目に見えたものとされています。今回の“科学編”では脳波を通じて「気」というものを考えてみたいと思います。
目次
まえがき
プロローグ―いま、なぜ「気」を問題にするのか
●「気」が知れないから研究する
●「気」を体で感じる方法
●世界最初の気功の科学的実験
●「気」を脳はで解明する
●なぜ、「気」がふたりの人間の脳波を同調させるのか
●「東洋」と「西洋」、「科学」と「非科学」のちがいはどこにあるのか
●「気」が新しい科学のパラダイムを創出する
●「気」がもたらす変性意識状態とは
●自らと宇宙との一体感を獲得するために
1.「気」の源流を探る
●中国気功紀行―はじまりは、あの天安門だった
●内気功―いかに「気」の流れを円滑にするか
●私たちが目撃した「気」の驚異
●「気」は物質か、それともエネルギーか
●もともと中国では、「気」はエネルギーと考えられていた
●「気」という「情報」が、経絡をめぐり、経穴(ツボ)に作用する
●「変性意識状態」をもたらす「意念」とイメージの関係
●日本の古武道や合気道に生かされている「気」の概念
●「気」と出会った西洋人の反応はいかに
●なにごとにつけ、「不能過勉強」
●「気」の解明に向けて、さらなる“知の旅”へ
2.脳波から「気」を解明する
●脳はから何がわかるのか
●カエルの足のケイレンが、脳波発見のきっかけ
●脳波で「頭のよしあし」はわからない
●ナポレオンが三時間しか眠らなかったのは、シータ波の作用か?
●アルファ波についての基本的誤解
●世界で最初の右脳理論提唱者は、湯川秀樹博士だった
●ことばで考えるか、それともイメージで考えるか
●右脳と左脳がべつべつに活動するとどうなるか
●なぜ、ものを考えていても、眠っていても、同じ脳波が出るのか
●脳波学の知見を揺るがした暗算の名人
●「気」の脳波は、こうして測定された
●なぜ、気功師に「脳死」や「ボケ」症状を示す脳波が出るのか
●気功師はなにもイメージしていないのに、イメージを表わす脳波が出た
●気功師と瞑想家の脳波には、共通点がある。
●「気」によって脳波が同調し、脳が活性化する
3.「気」が身体を活性化する
●特異功能と超能力
●気功は、全脳のトレーニングになる
●「気」が脳内神経伝達物質の働きを活性化させる
●「気」がもたらす、ストレスに対抗する心身一元のメカニズムとは
●気功と心身医学
●真のホリスティック(総合的な)医学とは
●「気」の概念は、人類に普遍的に存在していた
●「変性意識」とは何か―「気」が意識と意識下を一本化させる
●ユングの「共時性」と脳波の同調性
4.「気」を実践する
●この章の狙い―洋の東西を超えた「気」の実践法
●意識の集中が、脳を活性化する
●「意念=イメージをめぐらす法①―まずバスルームから
●「意念=イメージをめぐらす法②―自分と自然を一体化させる
●「意念=イメージをめぐらす法③―体のなかを「何か」が動いている
●「意念=イメージをめぐらす法④―「何か」になってしまう
●呼吸法①―呼吸だけに意識を集中する
●呼吸法②―体のなかを通る空気を意識する
●呼吸法③―空気が脳を活性化する
●「気」は「情報」となって体をめぐる
エピローグ―心身二元論を超えて
●いま、私たちは真の「パラダイム転換の時期」にさしかかっている
●たとえ、“超能力”でも「自然」ではないのか
●自分のなかに宇宙がある
●気功による右脳と左脳の響き合いが、私たちに宇宙意識をもたらす
まえがき
・『ひょんなことから気功の研究に首をつっこむことになった。本業の脳波分析を気功師に行ったところ、これが驚きの連続であった。これまでの西洋医学の常識では解釈できない現象がつぎつぎに現われたのである。
そこで、いろいろな分野の人びとに聞いてまわることになった。その結果わかったことは、中国以外の国に気功研究の専門家はいないこと、本場の中国でも西洋科学の方法を取り入れた気功研究は緒についたばかりであることなどである。
私たちの測定結果は、最初、一昨年11月の日中シンポジウム「気と人間科学」で発表された。また、NHKテレビで「気功の効果が、世界ではじめて証明された」とも報道された。同時に、昨年、中国を訪問したさいに北京中医学院や気功発祥の地として名高い北戴河気功康復医院などで日中交流セミナーを開き、中国側からも高い評価を受けて、中国人の留学申し込みが相次いだ。そのうちの何人かはすでに私たちの研究室で脳波学の研修と研究に従事している。
気功は中国で二千年以上の歴史を持ち、中医学(中国伝統医学)の理論に裏づけられている。だが、気功の中医学理論を西洋医学のことばに翻訳するのはきわめてむずかしいことだ。西洋医学の立場からいえば、気功を中国におけるその発生から研究し、同時に西洋医学の内実をも変革していかなければ、気功の理解は困難だと思われる。気功が、近代科学のパラダイムを変えるひとつの芽をはらんでいるといわれる所以でもある。
実際、私たちは気功を研究していて、「気」を発しているときの脳波の変化の大きさに驚かされ、脳波研究そのものにとっても大きなインパクトを受けた。というより、脳波そのものの理解に対しても、数多くの示唆を得たといっていいだろう。』
プロローグ―いま、なぜ「気」を問題にするのか
●「気」が知れないから研究する
・「気」も「イメージ」も、ともに高次の神経機能の働きの一つであり、「気」を発しているときの脳波の動きを分析することによって、その実体に迫ることができると思われる。
●「気」を体で感じる方法
①左手を胸のまえに垂直に立て、親指だけを離して他の4本の指はつけたままにする。
②右手は人差し指と中指をつけて立て、他の3本の指を握る。
③右手を左の手の掌の中央に近づけ、はじめは小さく、ゆっくりと円を描くように動かす。このとき、指先を掌にくっつけないこと。
④右手を動かしはじめるとすぐに、左の掌に右手の指先を回している感じが現れるはずだ。「何か」が動いている感じといってもいい。これが「気感」と呼ばれるものだ。
⑤回している右手をゆっくりと左手から離してみる。あるところまで離すと、「気感」が薄れるのがわかるはずである。
⑥「気感」がなくなったら、ふたたび右手を左の掌に近づけていく。この⑤と⑥の動作を繰り返すと、よりいっそう「気感」を体験することができる。
⑦ここまで「気感」を体得できた人は、もう一歩先に進んでみよう。右手と左手のあいだに遮蔽物をおいて、①から⑥までの動作をやってみるのだ。私たちが中国で教わったのは、頭をはさむ方法で、「気」をよく感じる人ならば、これでも「気感」を得ることができる。
以上が「気」を実体験する方法である。
●「気」を脳波で解明する
・目を閉じて何も考えていないときの気功師の脳波は、α(アルファ)波のパワーが非常に小さく、平均すると一般人の半分以下しか出ていない。
・特に驚いたのは、子どもの頃から気功の訓練を積んできた気功師の脳波である。α波だけでなくβ波も小さく、平坦脳波に近いときさえあった。平坦脳波とは「脳死」のときに見られる脳波である。脳機能に何も異常も見られないにもかかわらず、このような異常な脳波が生じるのか不思議である。
・α波は集中力が高いときに出るという一般的な理解とは異なり、気功師が集中した時の状態の脳波とは違っていた。
・体の動きを伴わない「静功」で「気」を発しているときに脳波の動きは激しく、大きな動作を伴う「動功」の時には脳波の動きが減少した。このようなことは常識では考えられないことだった。通常は動きが大きいほど、脳波の動きも大きい。
・気功師の脳波に共通して、棘波(スパイク波)という振幅の大きなとがった波が観察されたことも不思議な現象であった。一般的に棘波はてんかん患者の発作時、それもかなり激しい発作の時に見られる脳波である。
・棘波は気合だけで相手を倒す「遠当」という武術家の脳波に似ている。
●なぜ、「気」がふたりの人間の脳波を同調させるのか
・実験結果の中で、最も驚いたものは気功の時に、「気」の送り手(気功師)と受け手の脳波を同時に測定したところ、両者の脳波に強い同調性が認められたことだった。これを脳波の「同調現象(エントレインメントあるいはトランスパーソナル・シンクロニゼーション)」と呼び、最重要視している。
・気功師は一般人に比べてβ波が右脳に多く出現することが明らかになったが、この変化は受け手にも現れた。
・気功は生理活性物質、特にエンドルフィン(脳内麻薬物質)の分泌に深い関係をもつと考えられている。中国ではハリ麻酔において、脳内麻薬物質の分泌が促進され、麻酔効果をもたらすことが実証されている。
・『脳波の同調現象は、「気」の送り手である気功師から気功の手ほどきを受けたことのある人ばかりでなく、その気功師にはじめて会い、生まれてはじめて「気」を受けた人にも共通して見られた。これまで十数回の実験を繰り返し試みているが、どの実験でもかならずなんらかの同調現象が観察されたのである。したがって、この脳波の同調現象こそ、「気」の謎を解き、気功のメカニズムを解明するカギとなる概念にちがいないと私[品川嘉也先生]は考えている。』
●「東洋」と「西洋」、「科学」と「非科学」のちがいはどこにあるのか
・近代科学が誕生し隆盛をみたのは、近世に入ってデカルトが登場し、心と体を完全に切り離す心身二元論の立場から、精神と身体を別々に研究する方法を確立して以来のことである。それまでは、東洋も西洋も医学の方法や観点にかなり同質なものを抱えていた。
・古代ギリシャから中世ヨーロッパまで、人体にはプネウマという一種の生命エネルギーがあると考えられていたが、これは中医学が「気」を生命エネルギーとする考えと同質のものといえる。
●「気」が新しい科学のパラダイムを創出する
・『あえて近代科学の方法で「気」を研究することにより、西洋と東洋の接点を求められるのではないか―いやむしろ、東西の根本的な相違点が明らかになるのではないか―、そしてそこから新しい科学のパラダイムへ転換していくための視点が生まれるのではないか、という期待を密かに抱いているのである。』
・同調現象は「気」の送り手と受け手との間に何らかの形で、「情報」の伝達が行われていることを意味しているが、この事実は西洋科学のパラダイムの中だけでは理解できないことである。その情報は何によって、どのように伝達されるのか。それが分かれば、それこそ「気」そのものであるはずだ。
1.「気」の源流を探る
●中国気功紀行―はじまりは、あの天安門だった
・気功は中国で道士、医家、儒者、武術家などのさまざまな流派が、伝統的に培ってきた「気」を鍛錬する諸技術の総称である。したがってその内容は、例えば導引、座禅、養生など、実に多岐に渡っている。しかし大きく分類すると、「硬気功」と「軟気功」に大別することができる。
・硬気功は主に武術によって「気」を鍛錬し、超人的なパワーを発揮しようというもので、「武術気功」とも呼ばれる。
・主に医療や健康の維持促進のために行う「気」の鍛錬法が「医療気功」とも呼ばれる軟気功である。そして、軟気功はさらに「外気功」と「内気功」に分かれる。
・外気功による治療の方法には、気功師が患者の体に触れてマッサージのように行うケース、指先を患者に当て「気」を送り込むケース、患者から少し離れて直接体には触れないで「気」を照射するケース等など、様々なものがある。
●内気功―いかに「気」の流れを円滑にするか
・内気功には「按功」、「静功」、「動功」の三種類がある。
・「按功」は、按摩やマッサージによって「気」をコントロールしようとする方法だが、外気功に近い。したがって、内気功の中心は静功と動功になる。
●「気」は物質か、それともエネルギーか
・日本では「気」は人と人の「間」に「気」が感知され、「間」の取り方そのものが「気」を重くしたり、引いたり、許したり、悪くしたりすると考える。
・中国では「気」は物質的なもので、実在する何かだと考えられている。
・日中協力シンポジウム「気と人間科学」では、湯浅泰雄教授は「現代の見方に立っていうと、『気』とはさしあたり、心と身体をひとつに結びつけている生命体に特有なエネルギーである、ということができる」と述べている。
●もともと中国では、「気」はエネルギーと考えられていた
・古代中国では「真気」あるいは「動気」といわれ、人体の生命活動を推進させる動力とみなされていた。つまり、生命エネルギーである。
・中医学では死という現象を「気の離散」という。
・『中医学の血の考え方には独特のものがあり、血はつねに「気」と共にあって、「気」によってコントロールされている。つまり、「気は血の統帥」ということになる。
その反面、私がいうところの抽象的な情報である「気」は、それだけでは活動することができない。「気」の作用がじゅうぶんに発揮されるためには、血による栄養補給が不可欠なのである。すなわち、「血は気の母となる」わけである。
このように「気」の共同作業にアンバランスが生じて「血気不和」になってしまえば、たちまち健康を害し、病気になってしまう、と中医学では考えられている。』
●「気」という「情報」が、経絡をめぐり、経穴(ツボ)に作用する
・私たちの体内では生体を維持するためにさまざまな「情報」が生き交っている。血液中の二酸化炭素濃度が上昇すれば、呼吸中枢に喚起を促す情報が届き、強制呼吸をするように命令が下がる。その結果、呼吸筋が動いてあくびとなる。こうした生体維持システムは、ひとつの「情報」が体全体へ広がってさまざまな臓器に特有な働きを促すという「気」の概念に近い。つまり、二酸化炭素濃度の上昇という情報は、「気のめぐりが悪い」ということで、あくびなどの強制呼吸をすることによってあらたな情報を取り入れ、「気のめぐりをよくする」ことができると考えられる。
・「不能過勉強」とは、頑張り過ぎてはだめという意味で、気功は姿勢も呼吸も、そして「意念」の活動も自然の状態で行うのが大前提であり、自分にとって気持ちがよくないのに、それを無視してまでやってはいけない。
●「気」の解明に向けて、さらなる“知の旅”へ
・気功の理解は統合的な知識を持ったうえで気功師の動作をまねることからはじめなければならないということ。さらに、心理、呼吸、姿勢、意識、運動が一体となって気功が行われなければならず、これらのどれか一つが欠けても気功の真の理解にならない。
感想
まず考慮すべきは、日本人が考える「気」と中国人が考える「気」は同じではないというところです。日本人の「気」は精神的・情緒的なところも含めた心の面を重視しています。一方、中国人は一つのことに集中できる気持ちをつくることとされています。つまり、日本人と中国人では「気」に対する認識が大きく異なるため、同じ視点で考えることはできません。
「気」とは何か?と問えば、中国では、気というものは生命の根源物質であり、細胞の隅々まで行き渡って、身体の中で循環しているものという考えです。帯津先生もこれが全て、これ以上でもこれ以下でもなく、中国において「気」はシンプルで明確なものであるとのお話をされています。
また、「気」は「気血」と呼ばれることも多く、気と血は相互に依存しているものとされています。以下の図のように、血は気に栄養を与え、気は血を推動します。推動とは「推し動かす」ことです。
東洋医学においても、「血」は「血液」を指しています。血液は血球と血漿に分かれますが、科学が解明した血漿内の成分は非常に多岐に渡っています。「気は血を推動する」、具体的に何を推動しているのか、西洋医学に基づいて洗い出してみました。
血漿に含まれる主な生理活性物質について以下にまとめます。
1.タンパク質
血漿タンパク質は血漿の重要な構成要素で、様々な機能を果たします。
・アルブミン
- 血漿タンパク質の約60%を占める
- 浸透圧の維持に重要
- ホルモンや薬物などの運搬に関与
・グロブリン
- 抗体として機能し、免疫系で重要な役割を果たす
- 鉄、銅、脂質などの運搬にも関与
・フィブリノゲン
- 血液凝固に不可欠なタンパク質
- 出血時に活性化されてフィブリンとなり、血栓を形成
・その他のタンパク質
- プロトロンビン:血液凝固因子の一つ
- トランスフェリン:鉄の運搬に関与
- リポタンパク質:コレステロールなどの脂質の運搬に関与
2.成長因子
血漿には様々な成長因子が含まれており、組織の修復や再生に重要な役割を果たします。
- 上皮成長因子(EGF)
- 血小板由来成長因子(PDGF)
- 線維芽細胞成長因子(FGF)
- 血管内皮成長因子(VEGF)
- インスリン様成長因子(IGF)
3.電解質
血漿中の電解質は体液のバランスや神経・筋肉の機能に重要です。
- ナトリウム
- カリウム
- カルシウム
- マグネシウム
- 塩化物
- 重炭酸塩
4.ホルモン
血漿は様々なホルモンの運搬経路となっています。
- 甲状腺ホルモン
- 副腎皮質ホルモン
- 性ホルモン
- バソプレシン
5.その他の生理活性物質
- 補体:免疫系で重要な役割を果たすタンパク質群
- サイトカイン:免疫反応や炎症反応を調節する
- ケモカイン:白血球の遊走を制御する
- 抗酸化酵素:スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)など
これらの生理活性物質は、血漿の主要な機能である物質輸送、免疫防御、血液凝固、pH調整などに重要な役割を果たしています。血漿の組成は、健康状態や疾患によって変化する可能性があり、その分析は診断や治療に有用な情報を提供します。
画像出展:「血液には何が含まれており、どこで作られるのでしょうか?」
こちらの図は上記の内容を表したものではありません。血漿の中には様々な生理活性物質が含まれているというイメージを持って頂きたいと思い貼りました。
血漿にはタンパク質、成長因子、電解質、ホルモン、その他の生理活性物質など、多種多彩、極めて大切な物質が血漿(血液)には含まれており、「気血」は生命にとって必須のものであるということが理解できます。
中国の「気というものは生命の根源物質であり、細胞の隅々まで行き渡って、身体の中で循環しているもの」という考えにも合致しています。
「何を」推動しているのかはだいぶ分かってきたので、次に、「どうやって」推動しているのかを調べてみました。
主な機能は、①「臓腑・経絡の生理活動の促進」、②「血液循環の推進」、③「津液の輪布(全身の水分の分配)」となっています。先に調べた血漿内の物質(生理活性物質)の働きに照らし合わせれば、これらの3つの働きに関わっていると考えて問題ないと思います。
この中で特に注目したいのは、関係の深い臓器として“腎臓”が書かれていることです。そこで、気の推動作用と腎臓の関係を調べた結果が以下の表です。ここでは“腎臓”ではなく“腎”となっていますが、こちらの表の方が正しいように思います。なお、「腎臓と腎の違い」についても調べました)。
続いて、気の推動作用を妨げる主な要因は何かということを調べてみました。以下がその回答ですが、その答えはストレスでした。
帯津先生は、「気とは余分のエントロピーを上手に捨てる能力ではないか」とのお考えをもっておられます。槌田先生はエントロピーを分かりやすい言葉に置き換えると、「汚れの量」と説明されています。
かなり強引な解釈なのですが、「エントロピー≒汚れの量」とは、「過度なあるいは長く続くストレス」に起因していると考えると、「気とはストレスを軽減する能力を有するもの」と理解することも不自然ではないと思います。
そこでAI(Perplexity Pro)に2つの質問をしました。1つは「自律神経系のバランスを整える主な有効なものを教えてください」、もう一つは「長く続く心身の過度なストレス状態をリセットする有効な生理活性物質は何ですか」という質問です。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)で作成」
質問:「自律神経系のバランスを整える主な有効なものを教えてください」
回答:ほとんどは栄養素と生活習慣ですが、発酵食品をみると、腸内環境について触れています。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)で作成」
質問:「長く続く心身の過度なストレス状態をリセットする有効な生理活性物質は何ですか」
回答:有名な物質はセロトニンとオキシトシンですが、他にGABAとL-テアニンの組み合わせで睡眠の質を改善できそうです。
上記の2つの表を見ると、「気とは余分のエントロピーを上手に捨てる能力ではないか」という帯津先生のお考えを理解するキーワードは、①ストレス、②自律神経、③生理活性物質、ではないかと思います。
画像出展:「ストレスについて」
こちらはストレスに対して中枢神経と末梢神経(自律神経)の働きを示したものですが、複数の生理活性物質も出ており、確かに①ストレス、②自律神経、③生理活性物質、はキーワードといえると思います。
帯津先生のお話の中で、もう一つ強く印象に残ったことは以下のお話です。
『気という言葉を使わないで説明するとすれば、何か身体の中の潜在能力を掘り起こすような方法論が、気功なんじゃないかと。しかし、そうすると身体の中の潜在能力というのはどこにあるんだろうということになる。そして、やっぱり私はもともと外科医ですから、身体の中のすき間なんていうのを思いつきました。臓器と臓器のあいだ、どうもあそこにいろんな物理事情があって、一つの場をつくっているんじゃないか。そういう人体の中の場を「生命場」と呼んでもいいのじゃないか。その場のポテンシャルというか、エネルギーのようなものが、きっと自然治癒力と関係しているんじゃないか、そう思ったんですね。』
以下は既出の図ですが、肉眼で認識できるものとして、臓器と臓器の間にはファシア[膜]があります。そしてファシアは動脈、静脈、神経、リンパ管を覆っていますので、臓器と臓器の間には血管、神経、リンパ管を通じて様々な生理活性物質が存在していることになります。
様々な生理活性物質とは何か? どうすればそれらを活性化できるのか? AIに表にまとめてもらいました。
この表に先頭に出てきたのが“活性酸素”でした。活性酸素には以下の4種類があります。当然ではありますが、分子“0(酸素)”を含んでいます。なお、活性酸素はミトコンドリア内の電子伝達系で、酸素を消費する過程で発生するものです。
「“酸素”?ということは“気”に何か通じるのでは?」と思ってしまいました。そこで、またまたAIに活性酸素の生理活性物質としての働きについて質問することにしました。
1.活性酸素の二面性
活性酸素は、一般的に有害なものとして認識されがちですが、実際には生体内で重要な生理的役割を果たしています。
2.細胞内シグナル伝達への関与
1)レドックスシグナリング
- 活性酸素は、細胞内のタンパク質の特定のアミノ酸残基(主にシステイン)を酸化することで、タンパク質の機能を変化させます。 これにより、細胞内の情報伝達経路が活性化されます。
2)転写因子の活性化
- 活性酸素は、NF-κBやAP-1などの転写因子を活性化します。これらの転写因子は、炎症反応や細胞生存に関連する遺伝子の発現を制御します。
3.免疫系での役割
1)病原体の排除
- 白血球(特に好中球やマクロファージ)は、活性酸素を産生して病原体を攻撃します。この過程は「酸化バースト」と呼ばれ、感染防御に重要です。
2)炎症反応の調節
- 適度な量の活性酸素は、炎症性サイトカインの産生を促進し、適切な免疫応答を誘導します。
4.細胞の分化と増殖
- 活性酸素は、細胞の分化や増殖を制御する因子として機能します。特に幹細胞の分化過程において、活性酸素レベルの変動が重要な役割を果たします。
5.血管新生の促進
- 低酸素状態では、活性酸素の産生が増加し、血管内皮増殖因子(VEGF)の発現を促進します。これにより、新しい血管の形成(血管新生)が促進されます。
6.ストレス応答の誘導
- 活性酸素は、細胞にストレスを与える因子として認識され、ストレス応答遺伝子の発現を誘導します。これにより、細胞は環境の変化に適応するための機構を活性化します。
7.注意点
活性酸素の生理的役割は重要ですが、過剰な産生は細胞傷害を引き起こす可能性があります。そのため、生体内では活性酸素の産生と消去のバランスが厳密に制御されています。
以上のように、活性酸素は生体内で複雑かつ重要な生理活性物質として機能しており、適切な量と場所での産生が健康維持に不可欠です。
まとめ
帯津先生の「気とは余分のエントロピー(“汚れの量”)を上手に捨てる能力ではないか」、「臓器と臓器の間に“生命場”というエネルギーのようなものがあり、自然治癒力と関係しているのではないか」という二つのお話を中心に振り返ると、①ストレス、②自律神経、③生理活性物質、④ファシア(膜)に注目すべきではないかと思います。
そして、目には見えない生理活性化物質を促進させる要因において、特に酸素分子“O”(Oxygen)を含み、酸化ストレスという功罪を併せ持つ、⑤活性酸素と抗酸化、にも注目したいと思います。
生物と無生物の違いは何かと考えると、例えば自動車を動かすにはガソリンや電気が必要ですが、走行距離に比例して自動車は劣化していく一方です。それに比べ、生物は食べたものから栄養素を吸収し体を作ります。そして、不用になった物質は体外に捨てられます(左のスクリーンショットで、緑色は“餌”、オレンジ色は“ネズミ”です。粒々になっているのは分解すると分子レベルに分解されるためという意味だと思います)。これは自動車でいえば、ガソリンという燃料から自動車部品のハンドルやシートなどが作られるということです。しかしながら、そのようなことはありません。
また、動画の後半には「生命には、物質の下る坂を登ろうとする努力がある」というお話があるのですが、これは帯津先生の「気とは余分のエントロピーを上手に捨てる能力」言い換えれば「生命を維持しようとする能力」に通じるもののように思いました。
エントロピーという言葉は帯津先生の『ホリスティック医学入門』という本で知りました。その時に思ったことは、ブラウン管のテレビでした。なお、これは2020年6月のブログ“ガンとホリスティック医学3”から持ってきました。
画像出展:「テレビログ」
例えばテレビ内に埃が溜まり(エントロピーが増大)、バンバン叩くという行為(刺激)により埃が下に落ちて(エントロピーが減少)映った(治った)ということかなと勝手に解釈しました。
これは鍼の刺激により、体内に増大したストレス(エントロピー?)を減少させ、元気を取り戻したというメカニズムに似ていないだろうかと思いました。
槌田先生はエントロピーを説明する最も相応しい言葉は“汚れの量”であるとお話されています。
テロメラーゼという酵素を発見し、2009年のノーベル生理学・医学賞を受賞されたエリザベス・H・ブラックバーン博士の『テロメア・エフェクト』という本に書かれた運動後の回復のプロセスは、鍼治療による筋・筋膜への微細な損傷に対する、回復プロセスにも通じる部分があると思います。なお、ここでのキーワードは“体の掃除”です。
画像出展:「テロメア・エフェクト」
・運動後に回復反応が起きる。
・オートファジーにより、細胞内の損傷分子は食べられてしまうので炎症を防ぐことができる。
・オートファジーでは対応できない大量の損傷した分子がある場合は、細胞は死滅するが、これはアポトーシスと呼ばれ炎症や残骸を残さない綺麗な死に方である。
・運動は酸化ストレスを減少させている。
・運動後の回復反応により体内では細胞の残骸の掃除が続く。
今回の『気とエントロピー』は帯津良一先生[帯津三敬病院院長]と槌田敦先生[物理学者・環境経済学者]による対談になっています。帯津先生はエントロピーに関しては、槌田先生の著書『エントロピーとエコロジー「生命」と「生き方」を問う科学』が非常に参考となったとのお話をされています。そこで、私も最初に槌田先生のその著書を拝読させて頂くことにしました。
特に印象に残ったことは以下の7つです。
1.エントロピーとはあらゆる現象の基本法則である。
2.生命を論ずるとき、エントロピーの特性を一番よく表しいているのは「汚れ」である。さらに正確にいうと、「汚れの量」であり、エントロピー増大の法則とは、汚れ増大の法則といえる。
3.『生命体は、自己を復元することによって自らを維持している。復元のための活動にとって最も大切なことは、シュレディンガーが指摘したように、生命活動によって生じた余分のエントロピーを生命体外へ捨てることにより、自己のエントロピー水準を復元することである。この「余分の」というところが大切である。』
※ご参考 “エルヴィン・シュレディンガー 生命とは何か 松岡正剛の千夜千冊”
4.『エントロピーを捨てる方法は、二通りしかない。物にエントロピーをくっつけて捨てるか、熱にくっつけて捨てるか、である。つまり、物や熱は、エントロピーという「汚れ」を体外へ捨てる雑巾のようなものなのである。』
5.『血液の循環、リンパ液の循環、その他の物質代謝など、多数の循環がある。つまり、生命というのは、化学者のいうような機能をもった物質の集まりというよりは、むしろ、多数の循環の調和ある動的な集合なのである。』
6.『生命というのは、外から見れば流れの系、内を見れば多数の循環からなる系というところに特徴がある。この場合、ある循環と別の循環の間で、エントロピーの受け渡しが過不足なく行われているとき、生命は順調に維持されているといえる。つまり、健康状態である。しかし、調和がとれなくなって、エントロピーの受け渡しがうまく進行しなくなると、その波及の結果、いたるところで循環が回転しなくなる。つまり病気の状態である。そして、循環が多数の箇所で止まってしまい、もはや回復しなくなったときが死ということになる。』
7.『積極的・主体的に、循環を維持しようとして働くような系が、「生きている系」なのである。これが生命固有の本質といってよい。』
特に、エントロピーを「汚れの量」であると考えること。そして、生命のキーワードに「循環」があること、この2つを頭に入れて、帯津先生の著書を拝読させて頂くことにしました。
もくじ
ちょっと長い「はじめに」
1章 エントロピーと出会う
①日本の「気」と中国の「气」
■日本人は気が大好き
■エントロピーが気になっていた
■気とエントロピーの関係
■誤解のまま流布したエントロピー
②生命はエントロピーを捨てながら生きている
■高尚な理論だけが一人歩き
■地球も生命もエンジンの法則で動いている
2章 気とエントロピー
①中国医学はエントロピーの医学
■エントロピーは測定できる
■気とは「場」の情報?
■物理の場と生命場は異なる
■静的な秩序か、動的な秩序か
■中国医学の根底にあるもの
②余分のエントロピーを捨てる方法
■気功の意義
■吐く息でエントロピーを捨てる
■食物のエントロピー
■尿療法の意味
■発汗という最大のエントロピー廃棄能力を持つ人間
3章 健康とは、病気とは、自然治癒力とは
①環境も人体も物質循環が大切
■ベルタランフィの問題定義
■循環で復元し、また同じことをする
■環境破壊とは何か、病気とは何か
■廃棄物は他者の有用資源
②健康回復の条件
■自然治癒力―誰が命令しているのか
■生命力とは、元へ戻す修繕力
■細胞にも意思がある?
4章 がん治療と気力
①がん患者にとって最高の良薬とは
■気力が生命を左右する
■信頼すれば効き目もアップ
■気持ちのいいことを探す
■わずかな希望が心の平安をもたらす
■心がすべてを決める
②どんな治療を選ぶかは、どう生きるかということ
■治療法は患者が決める
■医者の指示は絶対か
■手術は過渡期の医学かもしれない
■ターミナル・ケアは西洋医学の発想
■現代人の健康至上主義
5章 人間を丸ごと見るということ
①人間全体とは何だろう
■ホリスティック医学は場の医学
■総体としてまとまる
■環境問題とホリスティック医療
■極端な食餌法はマイナス
②治療法の選び方
■固定観念を捨てよ
■ピタリと合えばグングンよくなる
■患者の死を枕元で見送る
■医者と患者ではなく、闘う仲間
6章 研究者の条件
①現役でいられる限界とは
■医者に必要な資質
■理系から文系へ
■長生きしなければならない時代
■「現場」を離れないことが大事
②真の学問を復活すべき
■学者の衰退
■学問の価値は仲間の数で決まる?
■学問の基本に戻るできとき
ちょっと長い「おわりに」
1章 エントロピーと出会う
①日本の「気」と中国の「气」
■日本人は気が大好き
・日本人は心の作用にも「気」を使う。これは心の問題を日本語では気の問題のように捉えることが少なくない。一方、中国では日本とは異なり心の問題で「气」を使うことは少なく、基本は、息に関係する言葉として使われている。
・日本語の「気」と、気功でいわれている「気」のどの辺りが同じで、どの辺りが違うのかを明確にしたい。
・気功の「功」は「習練あるいは習練の成果」という意味である。気功はもともと導引といって身体を揺り動かしたり、呼吸をしたりなどの、さまざまな養生法の総称である。
・1950年代には、養生法は約2400種あり、それを「気功」という言葉に統一した。その定義は「正気を養うことを主たる目的とする自己鍛錬法を気功と呼ぶ」となっている。
・『中国では、正気、気というものは生命の根源物質である、細胞の隅々まで行き渡って、身体の中で循環しているものという考えがありますから、それ以上あれこれと説明することはしません。自明の理なんです。』
・日本の気、例えば「病は気から」の気は気持ちのことである。つまり、日本の気は精神的・情緒的なところも含めた心の面を重視している。
・中国の気功では、心を調えるというのは気持ちや感情を調えるということではなく、一つのことに集中できる気持ちをつくることである。雑念を払って本当に集中できる気持ちをつくるということである。そのため、中国人が考える心と日本人が考える心とは違う。
・『中国の古典医書に「黄帝内経」という本がある。この三章(二)節「七情傷気」の中に「百病生於気也」という文章がある。これを日本語に直訳すると、「多くの病は気から生ずる」ということになる。しかし、ここでいう「気」は、日本語でいう病人個人の「気持ち」ではなく、宇宙や生命の根源要素を意味していると考えられる。
ただし、七情(喜・怒・憂・思・悲・恐・驚)が気を傷めるとあるから、日本語でいう気は中国語では「情」にあたり、情が気を傷めるから、結果的に病気になるということではないだろうか。』
■エントロピーが気になっていた
・『気というもの中国では、既成の事実というか、その存在を誰も不思議に思わないんですね。気というのは生命の根源物質である。宇宙にも人体にもあまねく存在している。したがってそれ以上何かしようとしないわけですよ。そういうふうに決めているんです。ところが日本の場合は、中国医学を説明するのに、気の問題になると、どうもそこで立ち往生してしまいました。何とかうまく説明する方法がないものかと、中国の本などをいろいろ読んでみましたけれど、「気は生命の根源物質である」「気功はその正気を養う」というところから一歩も出ていませんでした。びっくりするほど分厚い専門書にも、それ以上突っ込んだ説明はありませんでした。
ですから、私が、がん治療に中国医学を取り入れたとき、大方の西洋医学の先生たちは、中国医学は経験的な医学で、何の理論もないし、統計処理もできないものだと言っていました。しかし、私は違うと、そうじゃないと。科学が支えていなくても、やっぱり伝統がありますし、西洋医学とは違う立場から病というものをとらえているんだと思っていたものですから、そこを何とか西洋医学の仲間に説明しようと思っていろいろ苦労したんですよ。気というものが、何か物事に秩序を与える作用は間違いなくあると。そういう原理なのか情報なのか物質なのかは分かりません。でも何かあるはずだと。
そういうことをずっと考えていたものですから、あるときすっとエントロピー増大の法則というものに関係しているのではないかと思いついたんです。それからエントロピーに関する本を読み始めたんですが、このエントロピーがまた難しくて分からないんです。』
■誤解のまま流布したエントロピー
・有名なエントロピー増大の法則というのは、物体が活動したり変化したりすると、必ずエントロピー(汚れの量)が増えるという法則である。
②生命はエントロピーを捨てながら生きている
■高尚な理論だけが一人歩き
・生き物がなぜ簡単に死なないのかを分かるように説明したのがシュレディンガーであり、人間が死なないのはエントロピーを捨てるからだと説明した。
・動物は、食物を食べ、水を飲み、空気を吸っている。これらの物質は体内に入る。しかし、排泄し、排気し、放熱しているのでエントロピーを体外に捨てることができる。
・気とは余分のエントロピーを上手に捨てる能力ではないか。
2章 気とエントロピー
①中国医学はエントロピーの医学
■気とは「場」の情報?
・「場」とは清水博先生が提唱されているものである(参考:“NPO法人 場の研究所”)。
・『気という言葉を使わないで説明するとすれば、何か身体の中の潜在能力を掘り起こすような方法論が、気功なんじゃないかと。しかし、そうすると身体の中の潜在能力というのはどこにあるんだろうということになる。そして、やっぱり私はもともと外科医ですから、身体の中のすき間なんていうのを思いつきました。臓器と臓器のあいだ、どうもあそこにいろんな物理事情があって、一つの場をつくっているんじゃないか。そういう人体の中の場を「生命場」と呼んでもいいのじゃないか。その場のポテンシャルというか、エネルギーのようなものが、きっと自然治癒力と関係しているんじゃないか、そう思ったんですね。』(帯津先生の指摘される「身体の中のすき間」にはファシア[膜]があります。そしてファシアはライフラインともいえる動脈、静脈、神経、リンパを覆っています。帯津先生の指摘される「生命場」にもファシアは何かしらの関りを持っているのではないかと想像します)
・『身体のポテンシャルを上げる方法論が気功なんじゃないかと思って、いろいろ考えてきました。そうすると、気はまだはっきりとは分かりませんが、その場をつくっている物理量でもいいし、清水先生が言われるように何か場の情報みたいなものでもいいかなというふうに今は思っています。』
・『生命活動を含めたすべての活動では、活動の潜在能力を取り入れて、それを用いて活動すると、その潜在能力が減って、エントロピーになるとして説明できます。つまり、「気」と活動の潜在能力(=ポテンシャル)は、同じものということになります。分かりやすく言えば、「気」とは、パワーになる可能性のあるもの(=ポテンシャル)ということではないでしょうか。』
■静的な秩序か、動的な秩序か
・『この(各器官)配置図の中で、あちらの臓器からこちらの臓器へものが流れる、たとえば血液が流れたり、リンパ液が流れたり、その他いろんなかたちで、さまざまな物質が流れ、その流れが過不足なく循環している。それが滞りなく行われる。そういうのが健康な状態だと思うんです。循環が滞って一方から流れ出たものが、もう一方のところでどんどん溜まって肥大化してしまったら、その臓器はダメになってしまう。それが病的な状態です。だから、こういうふうに体内のすべての循環がスムーズに流れている状態を「気の巡りがいい」と言うのではないかと思うのです。これを気と表現しているのではないかと。少なくとも、科学的に言うなら、そこまでは間違っていないと思います。』
■中国医学の根底にあるもの
・中国医学では循環の問題を重視している。気滞、血瘀など。血を生き生きさせて循環をよくする。そういうものが、すべて中国医学の治療の中にある。しかも、中国医学ではエントロピーを捨てるための排泄を重視している。
・中国医学の考え方はすべてエントロピーで説明できる。
②余分のエントロピーを捨てる方法
■吐く息でエントロピーを捨てる
・東洋医学の呼吸法の場合は、吐く時つまりエントロピーを捨てるときに意識をしっかり持つ。
・呼気のときに副交感神経が優位になる。
■食物のエントロピー
・エントロピーで一番大きな値となって出てくるのは廃熱、熱のエントロピーだが、食べ物には左右されない。量については小食であれば消化する作業が少ないので、発生するエントロピーは小さいが、エントロピーをたくさん捨てることはできない。つまり、食物については大きな影響をうけない。
・エントロピーを捨てる方法は汗、皮膚、呼気など排熱を利用するのが多い。一方、尿からの排熱は少ない。
・人間や動物が食べたり飲んだりするのは、エントロピーを捨てるためである。生命活動すれば、必ずエントロピーが生ずる。このためこれを捨てなければならない。しかし、エントロピーだけを分離して捨てることはできない。
■発汗という最大のエントロピー廃棄能力を持つ人間
・動物の中で馬と人間は汗をかくので、熱エントロピーを上手に捨てることができる。長時間の労働ができるのはそのためである。
3章 健康とは、病気とは、自然治癒力とは
②健康回復の条件
■自然治癒力―誰が命令しているのか
・『自然治癒力といっても、それがあることはあると思うんですけれど、本体はまだ西洋医学も東洋医学もつかんでいません。内分泌とも循環とも神経の伝達とも免疫とも違う何かがあるんじゃないかと私たちは考えてるわけです。
これは一般の素人の方でも、自然治癒力というものがあると考えています。現に傷が自然に治る。私もそうですが、西洋医学の先生方というのは、創傷治癒といって、傷が治る時のメカニズムはちゃんと習うわけですね。素晴らしく治ってくると。これには循環も関係しているだろうし、神経もホルモンも免疫もみんな働いている。その総司令部みたいなものがきっとあるだろうと考えているわけです。
ところが、これは誰が指図しているのか問うと、今のところ誰にも分からない。誰が命令してやっているのかを誰も教えてくれないわけですよ。これは西洋医学でも一切解明されていません。ところが西洋医学の先生方に、自然治癒力というものの存在を信じますかと言うと、みんな信じるといいますよね。そこのところが面白いんで、これからの、研究に待たなきゃいけないんでしょうけどね。』
■生命力とは、元へ戻す修繕力
・自然治癒力と生命力は同じ意味だとは思うが、生命力の一つ手前にあるものが自然治癒力という思いもある。
・生命力は自然治癒力より広い概念で、生命の本質に沿ったものではないか。
・生命の原点は、生きようとする力、元へ戻そうとする力ではないか。
■細胞にも意思がある?
・『多田先生が自著[「免疫の意味論」]の中で、免疫というものをスーパーシステム、つまり自己組織化していくシステムと言っている。要するに一つの骨髄細胞から出て、いろんな細胞に分かれて、それぞれが役割分担して動く。その時に内外の状況に応じて、役割をひょいと変えたりすることを自分でやっている。これはやっぱり何か指令を出すところがあるはずだと。それは遺伝子かもしれないけど、もっと場の情報のようなものではないかと表現しておられるんですよ。
私もどうもそういう気がします。ですから先の指摘のような、生命場は静的なのか動的なのかと問われると、私も混乱してしまうんですけど、どちらにしても私が今まで言っている場というものの何か働きというものがあるだろうと思うんです。私はエネルギーのようなものがあるんじゃないかと考えています。』
4章 がん治療と気力
①がん患者にとって最高の良薬とは
■気力が生命を左右する
・気力は確かに生命と深くかかわっている。がん患者の最後を数多く見ているので、そういうことは何度も経験している。気力をぱっとなくしたとたん、みるみる衰弱していく。例えばホスピスに移るのを決めたとたん、移る前に息を引き取ってしまうことは少なくない。
■気持ちのいいことを探す
・治療には患者本人のその時の気持ち、希望をなるべく汲み取るという姿勢が非常に重要である。
■心がすべてを決める
・『私なんかも本当に心は大切だし、極端なことを言えば、将来のがん治療の中でいちばんの主力は心だろうと思っているんです。遺伝子レベルまで解明していったとしても心が肝心だと思っているんですね。この心が、もう少し客観的というか、数値化ということができるようになれば、その作用がもっと明確になってくるんじゃないかと考えています。』
5章 人間を丸ごと見るということ
①人間全体とは何だろう
■ホリスティック医学は場の医学
・1番大切で、西洋医学も東洋医学も不十分な領域は心の領域の問題である。
・ホリスティック、人間全体とは何だろうと思っている内に、隙間のことや場の問題を考えるようになった。そして、場は自分自身の中にもあるが、大きな場の中の一部でもあると考えるようになった。
②治療法の選び方
■ピタリと合えばグングンよくなる
・ホリスティックと言っても患者ごとにみんな異なる。
・『いろんな療法もピタッと合うと、これがまたよく効くんですよ。先ほども言いましたが、バケツの中に塩を入れて足を揉む。これでよくなっていく人が現にいるんです。気功をやったり、漢方薬をやったり、点滴もやったりして、いろんなことをやっているんだけど、あんまりよくならないなと思ってるときに、どこかからがバケツに塩を入れて届けてくれた人がいるんですね。その中で足を揉み始めたら、グングンよくなっていく。
六人部屋にいた人ですけど、その人がよくなったのを見て自分たちもやろうというので、バケツを買って来て、塩を分けてもらって他の五人もやり始めた。しかし、他の五人はあんまりよくならない。やっぱりこの人には気持ちも含めて何かがピタッと合ったんですね。こういうことが終始あるから、私は何でもやってみた方がいいと思うんです。費用がかかり過ぎることや、これはちょっと危ないぞというもの以外はね。』
2冊の本を読み終え、“氣”の理解を深めるためには、あらためて基礎的な勉強をし直す必要があると考え、鍼灸院の本棚から「東洋医学概論」という専門学校の教科書を引っぱり出してきました。当時は国家試験のために勉強していましたが、今回は“氣”という観点から目を通していこうと思います。当時、見過ごした大事なことを発見できるかもしれません。
編者:社団法人 東洋療法学校協会
著者:教科書執筆小委員会
発行(第1版第19刷):2011年3月
出版:医道の日本社
補足)”氣”について
「気」という漢字が、”氣”に代わって使われるようになったのは戦後のGHQによる漢字の改良が行われたときだそうです。
ご参考:“「氣」はなぜ「気」に変わった?そもそも「米」が入っていた意味は?!”
目次
第1章 基礎理論
1.東洋医学の起源と発展
1)東洋医学の特徴
(1)理論と実践
(2)東洋医学を生み出した思想的な特徴
(3)人と自然についての見方
(4)人体を小自然(小宇宙)と見る
2)東洋医学の起源
(1)原始的医術
(2)「気の思想」による生理・病理観
(3)鍼灸、湯液、気功、導引の起源
3)東洋医学の発展
(1)『黄帝内経』の成立
(2)中国医学の系譜について
2.陰陽五行論
1)陰陽学説
(1)気の思想
(2)陰陽概念の発生
(3)陰陽論の特徴
2)陰陽論の医学上の具体的な応用
(1)人体の組織構成
(2)生理機能の陰陽
(3)病理変化の陰陽
(4)診断と治療の陰陽
(5)三陰三陽について
3)五行学説
(1)五行の発想と限界
(2)初期の頃の素朴な五行説
(3)五行と気の思想
(4)五行の相互関係
(5)五行説の効用と限界
(6)五行学説の特徴
4)五行学説の医学への応用
(1)五臓の生理機能を説明する
(2)五臓間の相互関係を説明する
(3)疾病の伝変を説明する
(4)診断と治療に用いる
第2章 東洋医学の人体の考え方
1.気血津液
1)気の生成と種類
2)精と神
(1)精
(2)神(神気)
3)気
(1)原気(元気)
(2)宗気
(3)営気(栄気)
(4)衛気
(5)その他の気の概念
4)血
5)津液
2.五臓六腑(蔵象)
1)臓腑概説
(1)臓腑とは
(2)臓腑間の関係
(3)臓腑の位置
2)五臓
(1)心
(2)肝
(3)小腸
(4)大腸
(5)膀胱
(6)三焦
4)奇恒の腑
(1)骨・髄・脳
(2)脈
(3)女子胞
3.臓腑経絡論
1)経絡概説
(1)経絡説の成立ち
(2)経絡の構成
(3)経絡の機能
(4)十二経脈について
(5)奇経八脈
(6)その他の経絡系
第3章 東洋医学の疾病観
1.病因論
1)概要
2)外因(六淫)
(1)風
(2)寒
(3)暑(熱)
(4)湿
(5)燥
(6)火
(7)六淫以外の外邪
3)内因(七情)
(1)七情
(2)内因と気血
(3)内因と五臓
4)不内外因(飲食労倦)
(1)飲食
(2)労倦
(3)外傷
2.病理と病証
1)八綱病証
(1)病位の違いでとらえる
(2)病情によってとらえる
2)気・血・津液の病理と病証
(1)気の病理と病証
(2)血の病理と病証
(3)津液の病理と病証
3)臓腑病証
(1)五臓の病証
(2)六腑の病証
4)経絡の病証
(1)是動病と所生病
(2)十二経脈の病証
(3)奇経八脈病証
5)六経病証
(1)六経病
(2)三陰三陽病
6)代表的な疾病
第4章 診断論
1.四診
1)診断の一般
(1)診断の目標
(2)診断の心得
(3)診断の種類
2)望診
3)聞診
4)問診
5)切診
(1)脈診
(2)腹診(按腹)
(3)切経
2.証のたて方
1)証について
(1)湯液の証(漢方の証)
(2)鍼灸の証
(3)本証と標証
(4)主証と客証
(5)その他
2)証の決定
(1)証決定の手順
(2)証の総合決定
第5章 治療編
1.総論および原則
1)養生法
2.治療法
1)古代鍼灸法
(1)九鍼
(2)刺法
2)補瀉法
3)その他の選穴法
4)灸法
5)治療原則
(1)治療の前提条件
(2)治療原則
3.他の東洋医学療法
1)手技療法
(1)按摩
(2)導引
2)薬物療法
(1)薬物療法の概況と歴史
(2)薬物療法の考え方
(3)診断と治療原則
(4)薬物
(5)処方
ひと通り目を通して最も気になったことは、第2章の「東洋医学の人体の考え方」です。
・東洋医学では人体の仕組みは“気の類”と“形の類”と“経絡類”の三つから成り立っていると考えます。
‐気の類:生体の活力として働く。精・気・神があり、三宝と呼ぶ。
‐経絡類:気血の通路のことで、内に臓腑と結びつき、外に頭、体幹、四肢、体表部と連絡している。
‐形の類:身体の構造を形作る。体内の各器官や組織を指す。五臓を中心とした「蔵象」によって相互に関連づけられている。
以下は教科書にあった「東洋医学の人体の仕組み」の図をベースに、一部加筆(青字部分)したものですが、追記した内容はあくまで個人的な考えです。
図の3番目にあった、“形の類”とは五臓六腑を中心とする考えであり、西洋医学では臓器に相当します。例えば、肝と肝臓、腎と腎臓は、それぞれ似て非なるものです。
画像出展:「九州大学附属図書館企画展」
『西洋では身体(ギリシャ語 soma)と魂(ギリシャ語 psyche)はすでに古代から分離したものだった。このことは、一方では体内を観察することへの躊躇を少なくし、医学の発達を可能にしたが、他方、病気はますます純粋に身体的、物質的現象として捉えられるようになった。西洋では今世紀になって、心身医学のような新しい分野が誕生し、この溝を埋める試みがなされるようになっている。』
図の2番目の“経絡類”は、「内に臓腑と結びつき、外に頭、体幹、四肢、体表部と連絡している」。とされています。これに関し、私は「経絡≒ファシア」と考えています。MPS(筋膜性疼痛症候群)の筋膜もファシアです。ファシアの説明は一般社団法人日本整形内科学研究会さまのホームページよりご紹介させて頂きます。
ファシアとは:『全身にある臓器を覆い、接続し、情報伝達を担う線維性の網目状組織構造。臓器の動きを滑らかにし、これを支え、保護して位置を保つシステム。』
皮下組織の層は浅筋膜に相当します。この層には動脈、静脈、神経、リンパ、受容体など生命のライフラインやセンサーともいえる、神経脈管系が機能しています。ファシアが重要なのは膜という構造的(物理的)な役割に加え、そのファシア内の神経脈管系が相互的に生命維持の役割を担っているためです。
ファシアへの機械的な刺激は、これらの各機能に働きかけ、心身のバランスを整え、酸素や栄養素を提供し、また、からだの掃除をして健康にしてくれるものと考えています。
画像出展:「細胞と組織の地図帳」
真皮の下の皮下組織は浅筋膜と呼ばれており、図中では浅筋膜の中に動脈、静脈、神経、受容体が書かれています。また、この図には書かれていませんが、浅筋膜の下に深筋膜があります。ファシアは広範囲かつ複合的に広がっている結合組織であるといえます。
※リンパ管については下の図をご覧ください。
そして、図の1番目の“気の類”が特に西洋医学と大きく異なる部分であり、まさにこの“気の類”を明らかにすることが、『氣とは何だろう』のヒントになるのではないかと思います。
それは、「生体の活力として働く。精・気・神があり、三宝と呼ぶ」と説明されています。(「東洋医学の人体の仕組み」をベースにした冒頭の図)ここでは“気の類”を広義の“氣”とします。一方、「精・気・神」の中の「気」を狭義の“氣”とさせて頂きます。
そして、広義の気、つまり“気の類”を中心にして検討を進めます。少々強引ですが、「精≒消化系/代謝系」、「気≒呼吸系/循環系」、「神≒神経系」とイメージしたとすると、「精・気・神」は心身のすべてを包含していると考えても良いのではないかと思います。
余談になりますが、「神経系」という用語は江戸時代、『解体新書』を翻訳された杉田玄白が命名したもので、「神気の経脈」であるとされています。このことは、西洋医学が日本に伝来されてきた当時から、脳と神気との関係性が注目されていたということであり、大変興味深いものです。
画像出展:「語源から読み解く自律神経」
現代において精神活動は思考、認知、記憶、創造、感情などを指します。これらの精神活動は新皮質の大脳皮質の働きです。一方、東洋医学の脳は奇恒の腑の一つで、働きは運動を円滑に行い、耳目を聡明にし、長寿を保つとされています。
画像出展:「病気がみえるvol7.脳・神経」
脳(奇恒の腑)の働きを西洋医学の脳の働きに照らし合わせると、「運動を円滑に行う」は一次運動野、前頭眼野、高次運動野が該当します。「耳目を聡明にする」や「長寿を保つ」も大脳皮質が関係しますが、運動には小脳が、生命維持には大脳辺縁系や脳幹も必要です。
画像出展:「病気がみえるvol7.脳・神経」
この図の右側縦列は前頭連合野の機能が正常に働かない場合の状態(障害)です。これをみると五神(神・魂・魄・意・志[思・慮・智])の働きとほとんど合致するように思います。
※「五神」については下の表を参照ください。
これは「東洋医学概論」の内容を元に作った「五神」と「七情」の表です。これらの働きは五臓に割り振られています。
五神の中の神についての説明は、このブログの大元である『東洋医学概論』の記述をそのままご紹介させて頂きます。
『神を分類すれば、神、魂、魄、意、志などが挙げられる(『霊枢』:本神篇)。神は、このなかで最上位にあって、他の神気を支配している。ときにより、魂魄は神の支配を受けずに独自の働きをすることがある。魂・魄は、人体のかげの活動(無意識的、本能的活動)を支配するものである。』
例えば、3000年前のヒトの脳と現代のヒトの脳は、解剖学的・生理学的に劇的な違いはないと思います。つまり、東洋医学の脳(奇恒の腑)と西洋医学の脳に対する理解の違いは、解明された情報の質と量であり、それを可能にしたのが科学とテクノロジーの力だと思います。
東洋医学の脳(奇恒の腑)は骨、髄と共に腎が主っています。腎は先天の精、そして後天の精を受け入れ、発育・成熟および生殖という基本的な生命活動を担っています。そして、腎に納まる精が気に変化すると原気となり、臍下丹田に集まり人体の基礎活力として働きます。以上のことから、腎と脳(奇恒の腑)の関係は非常に重要だと思います。
関元という経穴(ツボ)は、小腸の募穴でおへそより指4本分下とされています。場所は臍下丹田になります。
西洋医学では下腹の臍下丹田は腸がある場所です。そして腸は第二の脳とされ、脳腸相関ともいわれています。東洋医学の腎と西洋医学の腸の違いはありますが、東洋医学の臍下丹田⇔脳(奇恒の腑)と西洋医学の脳腸相関(腸⇔脳)は東西医学の共通性を示すものと思います。
画像出展:「ブレインフォグの原因「腸内細菌の乱れ」と脳腸相関とは?」
こちらは国立・消化器内視鏡クリニックさまから拝借しました。
『脳腸相関とは、脳とおなか(腸)で両方向におこなう情報伝達のやり取りと相互に影響を及ぼしあう関係のことです。』
科学(テクノロジー)の力が及ばなかった東洋医学の時代においては、五神(神・魂・魄・意・志[思・慮・智])や五情(喜・怒・憂・思・恐に悲と驚を加えたものは七情という)を、脳(奇恒の腑)に関連付けて考えることは難しかったと思います。そのため、重要とされた五つの臓腑(“形の類”)に割り振ったということだったのではないかと想像します。
五神と七情は、現代では大脳新皮質と間脳(特に視床下部)そして大脳辺縁系による中枢神経の働きと考えられます。運動や感覚は中枢神経系と体性神経系(末梢神経系)でつながっており、内臓の働きは中枢神経系と自律神経系(末梢神経系)でつながっています。さらに視床下部は自律神経系に加え、内分泌系や飲水・摂食・性行動などの本能行動をコントロールしており、極めて重要な役割を担っています。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
大脳新皮質は判断、思考、計画、創造、注意、抑制など理性と社会性といえます。多くは神気(五神)に関係していると思います。一方、本能的、情動的なものは大脳辺縁系が担っていますが、特に大脳辺縁系の扁桃体につながる視床下部は内臓に関わる自律神経系や内分泌系を制御しています。また、運動器は中枢神経と末梢神経である体性神経系を介して脳と体躯・四肢をつなげています。
画像出展:「理性は本能に負けやすい!?脳の中には3つの機能があり、バランスが崩れると依存症になる?」
このサイトの他のスライドに『3つのバランスが崩れると依存症になる』という説明があります。これは東洋医学の“内因”(主に七情と呼ばれる7つの感情の過剰や不足によって引き起こされる病気の原因)に通じるものです。
画像出展:「漢方によるストレス・ケアのすすめ」
こちらは東洋医学の病気に対する分類です。内因は七情が関係するとされています。他に外因と不内外因があります。
画像出展:「病気がみえるvol7.脳・神経」
外側の大脳皮質は新しい脳ですが、内部の大脳辺縁系は古い脳です。脳波、CT、fMRI、PETなどの科学の力なしに解明は不可能です。有名な海馬は記憶に関係しています。一方、情動と本能行動の中枢とされ、主に「七情」に関わっているのが扁桃体です。
以下の2つの動画はストレスを軽減する方法を紹介しています。ポイントは大脳辺縁系の中の扁桃体と呼吸(酸素)です。“氣”には様々な解釈があります。その中には大気も含まれます。この動画を拝見すると、呼吸を重視する考え方は東洋医学も西洋医学も同じように思います。
「4ステップで扁桃体の過剰反応を落ち着かせる「心の持ち方、感情の持ち方について」11分52秒。
こちらは「Dr.ヤママンのYouTube Channel」さまからの拝借です。
「脳の扁桃体からの怒りを前頭前野がコントロールします!!」5分41秒。こちらは「精神科医マコマコちゃんねる」さまからの拝借です。
画像出展:「臍下丹田呼吸法」
「呼吸を重視する考え方は東洋医学も西洋医学も同じように思います」とお伝えしましたが、「西洋医学でも、最近では“木”ではなく“森”、つまり身体全体から病状や健康を診るということも出てきているな」と思って調べてみました。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)作成」
今では「総合診療」や「プライマリーケア」といった組織もでてきていますが、調べたところ、総合診療の先生の中には鍼治療を取り入れている先生もおいでのようです。
くり返しになりますが、“氣”とは“気の類”、つまり、「精・気・神」の三宝と定義したいと思います。「気を補う」とは「精」なのか「気」なのか「神」なのか、それともすべてなのか、鍼灸師は「精・気・神」を頭に入れておくべきではないかと思います。
「気・血・津液を調える」というのは経絡治療の基本ですが、これは手法でありその対象は三宝(精・気・神)ではないかと思います。
以前、「自然治癒とは何か」ということを検討し、『ストレス適応と栄養代謝』と定義してみたのですが、個人的には、鍼灸(経絡治療)とは三宝に対する施術を適切に行い、『ストレス適応と栄養代謝』を高めるということだと思います。(“栄養代謝”という言葉は、本来は“消化・代謝”の方が適切ですね)
画像出展:「寒い時期の健康管理(市報のだ11月15日号掲載)」
『暑さや寒さなどの外部環境、心理的なストレス、ウィルスや細菌など私たちの生命維持に対する外乱となる刺激が生体に加わると、自律神経系(交感神経・副交感神経)・内分泌系(ホルモン分泌)・免疫系の3つが働いて、身体の機能を平常に保たれます。』
「ホメオスタシス~私たちを守り続けるシステム~」6分14秒
こちらは「ネコかん 【ネコヲの解剖生理学】」さまからの拝借です。
“ストレス適応”はホメオスタシス(恒常性)に置き換えても良いのではないかと思います。
次に気・血・津液と三宝(精・気・神)との関係性を考えたいと思います。ここで出てくる気は狭義の気です。(「東洋医学概論」の図を基に作っています)
狭義の気は、機能別に複数存在しており(図内には真気を含め5つ)、それぞれの気の働きを理解する必要があります。この中で特に注目すべきは臍下丹田の原気だと思います。そして、三宝(「精・気・神」)にも目を向けたいと思います。さらに、西洋医学的な観点からの脳腸相関と臓器間のメッセージ物質のやり取りという考えにも注目したいと思います。
※メッセージ物質
NHKスペシャル「人体 神秘の巨大ネットワーク」シリーズでは、「臓器や細胞からのメッセージを伝える物質」を総称して「メッセージ物質」と呼んでいます。これは細胞間情報伝達物質であり以下のようなものとされています。
1.ホルモンやサイトカインを含む、体内で情報を伝達する物質の総称
2.血液や神経を通じて全身を巡る
3.数百種類にも及ぶとされる
脳・脊髄(中枢神経)と臓器をつなげているものに自律神経系がありますが、それに加えて脳や各臓器に様々なメッセージ物質を送って、臓器同士が会話しているとすれば、「神気は五臓に納まる」という東洋医学の発想に近いもののように思います。
まとめ
今回、勉強し直したのは「氣」とは何かを知りたいと思ったからです。そのヒントになるのではと思ったことは、「脳」の働きに関する東洋医学と西洋医学の違いです。東洋医学における「脳」は“五臓”でもなく“六腑”でもなく、”その他の腑”に含まれる“奇恒の腑”で、重要なものと考えられていたとは思えません。奇恒の腑は「脳」の他に「骨」と「髄」があり、いずれも“五臓”の一つである“腎”が主っています。そして「脳」は「髄」の大きなものとされていますが、これは「髄」が「骨」の中にあるものというのが理由です。確かに脳は頭骨の中にあるので髄であるといえます。言い方は良くないのですが、「脳(奇恒の腑)は腎ファミリーの一つ」という位置付けです。
この奇恒の腑である脳について、教科書では次のように説明されています。『脳は、頭骨の中にあり、髄の大きなもので、下は脊髄に連なる。脳は、肢体の運動を円滑にし、耳目を聡明にし、長寿を保つ。脳が充実していると、耐久力ばかりでなく、すべてにわたって一般の基準を超える。不足すると、目が回る、耳鳴り、めまい、すねがだるい、身体中だるくて寝ていると落ち着くなどの症状を呈する。』
ここで説明されている内容は、一つは運動と感覚に関わるものであり、西洋医学の中枢神経、遠心性神経(運動神経)、求心性神経(感覚神経)に相当すると思います。
もう一つは『耳目を聡明にし、長寿を保つ』というものですが、脳(奇恒の腑)の働きとしては細かく示されてはいません。西洋医学における理性などを司る大脳皮質や、本能や情動を司る大脳辺縁系が担っている役割、さらには内臓に働きかける末梢性の自律神経系や内分泌系の働きは、五臓に割り当てられた五神(神・魂・魄・意・志)や七情(怒・喜・思・憂・恐・悲・驚)によって説明されています。
一方、先にご紹介させて頂いたメッセージ物質の存在を考えるならば、脳と臓器、臓器と臓器でもコミュニケーションが発生しており、東洋医学の五臓・五神・七情などの考え方に通じる部分があるように思います。つまり、脳は絶対的な統括者・権威者というより、各臓器、器官、組織などの”つぶやき”に耳を傾けながら、全体をまとめるリーダーという存在ではないかと思います。
最後に、今回のブログでは以下の3点を最も重視したいと思います。
1.施術において、“氣”とは“気の類”、精・気・神の三宝であると考えたい。(現時点では)
2.狭義の気に関しては、先天の精と後天の精から派生する臍下丹田にある“原気”に注目したい。
3.『氣とは何だろう』を考えていくうえで、東洋医学の脳(奇恒の腑)・神気(五神)と西洋医学の脳(大脳・中脳・間脳・脳幹・小脳)に注目したい。
画像出展:「国内外における脳科学研究の現状と問題点について」
ウンザリするような細かい表ですが、ご紹介したのは「脳科学研究はこれから、奥が深いんだなぁ」ということをお伝えしたかったからです。
今後の予定
『氣とは何だろう』というテーマに関して、3冊消化しましたが、今後以下の本を拝読させて頂く予定です。大変なことになっています。ほぼ1年がかりのテーマです。
・気とエントロピー 医者と患者に役立つ医学
・「気」とは何か 人体が発するエネルギー
・「気」は脳の科学
・気功の科学 大脳生理学が解明した「東洋の神秘」
・気をひきだせ、無限の治癒力
・脳のなかの天使
・腸と脳 第二の脳がもたらすパラダイムシフト
・人体 神秘の巨大ネットワーク 臓器たちは語り合う
・「酵素」の謎―なぜ病気を防ぎ、寿命を延ばすのか
・酵素反応のしくみ―現代科学の最大の謎をさぐる
・リンパの科学 第二の体液循環のふしぎ
・中村天風と植芝盛平 気の確立
・気の発見 著者:五木寛之 対話者:望月 勇(気功家)
・なぜ気功は効くのか
・気療の奥儀 手を振るだけであなたも動物を癒せる
・東洋医学気の流れの測定・診断と治療
・針灸の理論と考え方
鍼灸編の2冊目はアシル治療室という人気の鍼灸院を開院されている若林理沙先生の著書、『気のはなし 科学と神秘のはざまを解く』です。(新規受付はしていないようです。2025年1月時点)
若林先生は大学では思想宗教を専攻され、古武術を学びブラジリアン柔術にも精通された先生です。本書の“はじめに”には、「これから展開される「気」の世界を俯瞰してみましょう。おそらく、読者の方々は「気」がこれほど広大な領域に広がったもので、こんなにも多種多彩な意味を持っていたのかと驚かれるでしょう」と書かれていますが、まさに「気」の広さと多様さを学ぶことができました。
試しに類語辞典で「気」の類語・同義語を調べてみた所、以下のようなことが書かれていました。
1.その人特有の行動や反応を決定する感情的、知的特質の複合体
・気質、気性、気心など計50個。
2.ある種の傾向または性向
・気持ちなど計9個。
3.ある資質を示唆するもの
・気配など計5個
4.コミュニケーションの意図された意味
・意志、意図など計17個
5.目に見えない不思議なこと
・オーラ、神通力など計10個
全部足すと91個、「“氣”とは何だろう」という疑問の答えは謎のままですが、一歩一歩進めるしかないなと思います。
目次
はじめに
「気」の年表
第1章 気の起源
●気のおおもとの姿
●「気」という字の原型
●モヤモヤッと立ち昇る何か
●「気」に似た考えは世界中にあった
コラム 武術と気
第2章 孔子・老子・荘子の気
●血縁の愛を重視する中国で「仁」を説いた孔子
●『論語』では重視されなかった「気」
●古代、医者の地位はひどく低かった
●老子の思想のキーワード「道」
●老子の「気」は陰陽を引っ付ける糊!?
●人体に存在する「道」
●「気」の重要性がアップする荘子
コラム 風邪と気
第3章 孟子・道教の気
●孟子のでかくて強い気
●呼吸法から道教へ
●できるだけ長生きする技法
●「万物は気でできている」の始まり
●東洋医学の養生法の原点
●固形の玉になる気
●不死になるには1000呼吸止める!?
●気を練る修養法の落とし穴
コラム 気力・体力=消化力
第4章 易と風水の気
●気を語るのに外せないマジカルな分野
●トカゲを表す「易」の字
●六四卦で世界のすべてを表す
●時計の秒針のように動く気
●風水の特徴、龍脈と龍穴
●都や墓所に適した土地とは
●「水」から「気」へ
●教養としての易と風水
コラム 鬱を東洋医学の気から見ると
第5章 東洋医学の気
●最古の医学書
●気よりも血や水が重視されていた時代
●東洋医学はリアル+ファンタジー
●人体の気、いろいろ
●気・血・水が体内を流れるという身体観
●経絡の考え方の変遷
●経穴は絶対的なものではない
●ちょっとした抵抗を指先で探る
●自然の気、いろいろ
●現代に多いのは内因・不内外因の体調不良
●エネルギー120パーセント!?
●細かすぎる分類は気にしなくていい
●鍼灸や漢方はほぼすべての病気を改善できるのか?
コラム 「気が合う」「気が合わない」「気を合わす」
第6章 科学の気
●現代中国は気をどう説明するのか
●手から出る遠赤外線
●彼にすると情報がのせられる
●何かは伝わっているけれど
●生き物は全員「電気仕かけ」
●皮膚を流れる電気
●電気と言い切れない何か
コラム 臨床と気
第7章 養生と気
●気のオカルティックなイメージはどこからくるか?
●日本の気
●戦国の気
●韓国の気
●養生を気で説明する
●「寝る」と気
●「食う」と気
●「動く」と気
●体質を気で分ける
●人が生まれるときの気
●人が亡くなるときの気
おわりに
第1章 気の起源
「気」に似た考えは世界にあった
●ギリシャ哲学のプネウマ説は空気中のプネウマが呼吸により体内に取り込まれることで生きていられるとされている。
●プネウマは血液とともに体の各部位に供給されるエネルギーだと考えられており、気の考え方によく似ている。
●元々プネウマは「空気」、「呼吸」、「風」の意味で使われていた言葉で、そこに生命を維持する力という考えが導入された。
●プネウマはローマ帝国時代の医学者であり哲学者でもあるガレノスによって継承されて発展した。ガレノスは「三大臓器と脈管の生理学説」を唱え、肝臓から出る静脈は栄養豊富な静脈血、心臓から出る動脈は生命プネウマが豊富な動脈血、脳から出る神経は精神プネウマが豊富な神経液を全身に送っていると考えた。
●プネウマの考え方はアラビアまで伝わり、ルーフ(風という意味)の訳語でユナニ医学に取り込まれ、ユーラシア大陸における主要な医学のほとんどがプネウマ/ルーフの理論が成り立つようになる。そして、これらが西洋医学の源流になっていく。
画像出展:「ガレノスの「人格の気質的四類型」と「プネウマ」(カウンセリングしらいし)」
医学の対象は個物から場へ (帯津良一医学博士)
『ヒポクラテスの考えを継承したのが、ローマ時代の名医ガレノスである。ただし彼は人体を詳細に観察した上で、解剖学と生理学の基礎を築いた。それまでの直観の医学から分析の医学への移行である。ガレノスこそ近代西洋医学の祖とみなされている。それでもガレノスの医学でも、プネウマは重要な位置を保っていた。
また彼がヒポクラテスのネイチャーの概念を継承していたことも言うまでもない。彼が提唱したかどうかはわからないが「自然治癒力」は「vis medicatrix naturae」というが、これはラテン語である。ラテン語といえばローマ時代、彼の周囲からこの名称が起こったと考えてもさして無理ではないだろう。』
第2章 孔子・老子・荘子の気
「気」の重要性がアップする荘子
荘子 外篇 知北遊第ニ十二
●(現代語訳)『そもそも生は死の仲間であり、死は生の始まりである。一体誰がそのおおもとの仕組みを知っているだろうか。人間の生は、気の集まったものである。気が集まれば生となり、散じれば死となる。このように生と死とが仲間であることに、私はまた何を思い悩む必要があろうか。だから、万物は、一つであるというのだ。万物の中で美しいとされるものが珍しく重用されるものとなり、醜いとされるものが悪臭を放つものになるのであるが、悪臭がするものもやがて気が離散して変化し、珍しく重用されるものに変わったり、珍しく重用されるものもまた同じように、悪臭がするものに変化するからである。だから、「世界に本当にあるのはただ一つの気だけである」と言うのだ。だから、道に通じている聖人は「一」そのものである気を重んじる。』
第3章 孟子・道教の気
孟子のでかくて強い気
孟子 公孫丑上
●(現代語訳)『「あえておたずねしますが、先生は何がお得意であられますか」。孟子「私は人の言を知ることができ、自分自身の浩然の気を養うことができる」。「さらにあえておたずねいたしますが、いったい浩然の気とは、どういうものでしょうか」。孟子「言葉では説明しにくいが、その気というものは、とてつもなく大きく、とてつもなく剛く、そして真っ直ぐで、害することなく養っていけば、広大なる天地の間を塞ぐくらいになる。その気というものは、道と義の配下にあるもので、もし道義がなければ飢えて小さくなってしまう。つまりこの気は、自分の中の義が集まったところ生ずるものであって、外にある義が入り込んできて浩然の気ができるというものではないのだ。自分の行為に何か気持ちの良いものではないものが混じっていると、この気は飢えてしまう。』 (「癌から生還」。インドの女性、オーストラリアの男性。本来の自分を偽って生きるのはよくない)
第5章 東洋医学の気
経絡の考え方の変遷
黄帝内経 霊枢 経水篇第十二
●(現代語訳)『経水は水を受け取って巡らせる、五臓は神気魂魄(神気:その人をその人たらしめ、生かしている気。コンピュータのOSみたいなもの。魂:陽性のたましい。死ぬと天に昇る。夜中に体を抜けてそのへんをふらふらすることもある。魄:陰性のたましい。死ぬと骨とともに地面に還る。骨が消えないうちはそこにくっついているとされる)を合わせて内蔵する。六腑は食べ物を消化して巡らせ、そこから気を受け取って人体上部へ持ち上げる。経脈は血液を受け取ってこれで各所を栄養していく。』
経穴は絶対的なものではない
●経穴の場所は定義されているが、住所でいえば「何丁目何番」までで、何号とかマンション○号室」までは書いていないと考えるべきである。その最後の取穴の判断は施術者の指先の感覚によって特定する。その根拠は触ってみて、ざらざらするとか少し冷たいとか、押したら響いたとか、軽く押し込んで揉んでみると中に糸くずみたいな小さな硬さを感じるとか、そのような他とは異なる指先に伝わる感じや印象を大事にして取穴する。
現代に多いのは内因・不内外因の体調不良
●人体内では感情の動きが気を動かすとされている。(感情→神経伝達物質→自律神経) 気血とは
●ひどく偏った感情は気を損なうと考えられている。
●不摂生(飲食、睡眠、労働の不養生)も人体の気を損なう原因であり、不内外因という。
第6章 科学の気
現代中国は気をどう説明するのか
●『気はいったいなんなのかを科学的に検証する研究は、80年代にたくさん行われており、2000年代に入ってからの研究はほとんど見当たりません。おそらく、気を捉えられそうな計測機器による研究が出尽くしたのだろうと思います。そして、それらの研究はいくつかのエネルギーが体を流れている。もしくは体から放出されている様子を検出しました。
気を体の外に放出するイメージとしては、手から何かが発せられてそれが相手の体に空中を伝わって到達し、体に暖かさや涼しさ、電気的な刺激に似た感覚などが発生する、というものです。実際に、他人へ気を送る状態をサーモグラフィーで捉えると、受けて側の手や顔の温度が上昇していることがわかるのです。』
手から出る遠赤外線
●『この研究を主に行っていたのは、東京電機大学の教授でいらした町好雄氏です。彼はテレビ局の要請でまったく専門外だった気功をサーモグラフィーで計測し、実際に体表面の温度変化が観測されることを目の当たりにし、本格的に研究を始めるようになりました。
とくに温度の変化が著しいのが手の指先にある経穴の商陽・中衝と手のひらの中央付近にある労宮でした。経穴が気の出入り口とされていることが実際に計測されたということになります。
なんらかのエネルギーが空中を伝わって、それで相手の体温が変動する。これを可能とするには、いずれかの電磁波が関与しているにちがいないと町氏は考えました。町氏は、おそらくは遠赤外線がそれを狙っているだろうと考えたのでした。』
NPO法人 気功分化センター
『多くの人々が元気で幸せな日々を送ることができるよう、中国の歴史のなかで育まれてきた健康法である気功をさらに普及していこうと平成18年4月に設立したNPOです。
科学者や気功師、気功文化に興味のある仲間が、“気功を多くの人に知ってもらいたい”、“気功が人体へ働きかける仕組みを解明していきたい”という思いで発起人となって設立しました。』
波にすると情報がのせられる
●『測定してみると気功を行っている人体から放射されている遠赤外線自体の強さはそれほどではありませんでした。そこで町氏は計測機器に工夫をし、遠赤外線の波形を調べる方法を使ってみたところ、発生されている遠赤外線に一定の波形が現れていることを観測しました。遠赤外線そのものにシグナルがのせられていて、それを人体が受け取って読み解いて体の中に変化を起こしている可能性が示唆されたのです。
この、波にすると情報がのせられるというのは、ラジオやテレビの電波と同じ原理です。同じような実験を行った研究者は多数おり、追試の結果たしかにそうなっていることがわかりました。
これ以外の研究としては、上海中医学中医研究所で、先ほど顕著に温度が変わると紹介した経穴の労宮から数センチから1メートル離れた距離で、遠赤外線が検出されること、頭頂部の経穴である百会から数センチのところで微細な磁力信号が検出されることがわかっています。また、日本医科大学教授だった品川嘉也氏は、気功の送り手と受け手の脳波が同調することを突き止めています。』
皮膚を流れる電気
●傳田光洋氏は、末梢神経が通っていない表皮細胞そのものが情報を伝える仕組みを発見した。TRPと呼ばれる受容体が表皮細胞の膜表面に存在しており、これが外界から刺激を受け取ると細胞膜表面に電流を生じ、細胞から細胞に電気が流れてゆき、最終的に深部にある末梢神経へ刺激が伝わる仕組みになっている。
第7章 養生と気
人が生まれるときの気
●馬王堆の「胎児書」には人は生まれた瞬間が気の塊とされ、一番パンパンに気が詰まっている状態であるとされている。
●赤ん坊は陽気の塊とも言われている。
感想
鍼灸師編の2冊から学んだことは、“氣”の歴史は古く、また、“プネウマ”、“ルーフ”、“プラーナ”など世界各国に“氣”に似たものが存在していた点です。西洋医学につながっていくガレノスも“プネウマ”に注目していました。紀元前460年前頃とされる「医学の父」ヒポクラテスは“氣”については触れていないと思いますが、“自然治癒力”の重要性を説いています。
“氣”という言葉は色々な場面で使われています。宇宙や生命に関わるものであったり、呼吸であったり、気功のような特別なエネルギーを指す場合もあります。まだまだ、分からないところだらけですが、幸い勉強の材料はまだまだ出番を待っていますので、地道な勉強を続けていきます。
今回は、“氣”は時代を超え、国を超え、様々な状況の中で特別な“存在”として受け継がれてきた概念のようなものではないかと思いました。
ご参考:血液∈経脈
第5章の中の「経絡の考え方の変遷」でご紹介させて頂いた、黄帝内経 霊枢 経水篇第十二について詳しく解説されているサイトがありました。
【古医書】霊枢:経水篇 第十二
≪提要≫
十二経脈は、地上を流れる十二の経水が
地水を受けて各地を連絡するように、
五臓六腑に連絡し、交通しており
それぞれ大小・深浅・広狭・長短などが異なる。
五臓は神・気・魂・魄など機能活動を主り
六腑は水穀の精を全身に輸送し散布する。
十二経脈は血を受納し全身を運営している。
人体には一般的な標準があり、
各経気を調整する際にも一定の規律がある。』
また、東洋医学における“血”に関しては、「漢方の基礎知識」というサイトに、“血”は血液を含むものとされています。
暑ければ汗をかき、悲しければ涙をながし、食事をすれば唾液が助け、肌を切れば血が流れます。現代医学で説明される“血液”という理解(認識)は存在していませんが、その当時の人々が定義する“血”が現在の“血液”を含んでいると考えることは疑う余地はないように思います。
画像出展:「漢方の基礎知識」
『東洋医学で考える「血」はカラダの中を流れる赤い液体のことで、西洋医学でいう血液を含む栄養物質を指しています。「血」には精神活動を充実させ、全身に栄養を運んでカラダを潤す働きがあります。』
CHAPTER12
オープンAI創業と「効果的利他主義」
●オープンAI、始動
・『オープンAIは2016年1月4日に始動したがその前の数週間は大混乱で、サツキヴァ―の参加も定かではなかったため、アルトマンとブロックマンはオフィススペースのことを考える余裕もなかった。
ディープマインド追撃をめざす一団は、とりあえずブロックマンのサンフランシスコの自宅マンションで仕事を始めた。ソファセットに寝そべったり、楕円形のダイニングテーブルに座ったり、アンドレイ・カーパシーの場合はブロックマンのベッドで仮眠することもあった。
ある時サツキヴァ―とジョン・シュルマンは、議論の途中で何かを書こうとして立ち上がり、ホワイトボードがないことに気づいてその場で固まった。ブロックマンは慌てて買いに走った。
まだ何をやるできかさえわからない状態だったから、ブロックマンは他の面で役に立とうとした。オフィス用品を注文したり、キッチンのコップを全部手洗いしたりした。「みんなほんとにたくさん水を飲むんだ」
ストライプでの最後の数年間は、キャリアについて思い悩み、特大の野望と、コードだけを書いていたいという欲求との葛藤を、長いブログ記事で吐露することもあった。ブロックマンはこの時代を、「自分の役割について考える」プロセスと呼んでいる。理由が何であれ、ブロックマンは悶々として過ごすことに耐えられなくなった。「僕が考えたいのはこんなことじゃない」と心の中でつぶやいた。「自分にとって重要な問題と、自分が最大限に貢献できる方法を考えたい」
自分の「エゴ」を離れ。「世のため」になることがしたかった。「コップ洗いでAGIに貢献しようとしているみたいだった。もっといいやり方はないのか?」
ブロックマンがリビングのソファとダイニングテーブルの間にホワイトボードを設置すると、チームは未知の霧に足を踏み入れた。』
●コンピュート
・オープンAIは少数の研究者をさらに少人数のチームに分けて関心のあることを追求させた。この頃、オープンAIはブロックマンの自宅から、セコイア所有のオフィスに移った。次にはマスクの会社「ニューラリンク」が入るパイオニアビルに移転した(賃料はマスクが負担した)。
・ブロックマンとサツキヴァ―は採用方針について話し合った。「数学羨望」を避け、AI研究者とソフトウェアエンジニアが対等な立場に立って、何に取り組むかを平等に決める会社を構想した。これはディープマインドとはかなり異なる方針となった。この時期、マスクもアルトマンもチームの様子を見にオフィスに来るのは週に1回程度だった。マスクはテスラとスペースXの他にも何社も切り回ししていて、すでに手一杯な状態だった。アルトマンもYCの舵取りが非常に忙しかったが、9月になるとYCでの債務の多くを移譲し、アルトマン自身は「YCグループ」という新組織の社長に納まった。(YCグループでの社長在籍期間は2014年2月~2019年3月)
●EA信望者を理事に迎い入れる
・EAとは効果的利他主義のことであるが、EA推進運動は、現実的な問題から、「生まれくる全人類を救う」という遠大な取り組みに向かい始め、核戦争や世界的パンデミック、AIの暴走など、可能性は低いがゼロではない重大な問題に注力するようになる。OP(オープン・フィロソフィー)もこの流れに乗った。OPはオープンAIに研究者として入社していたダリオ・アモディ、ポール・クリスティアーノがともにOPの技術顧問であることを公表した。
(なお、2021年1月にはダリオとポール他5名の計7名によって、OpenAIの競合となるAnthropicが設立されました)
・OPはマスクとアルトマンが初期のインタビューで語っていた「オープンAIの技術をオープンソース化する」計画の見直しを求めた。特にマスクは長年に渡って技術のオープンソース化を強力に擁護していて、テスラの特許もほとんど公開している。それでもOPが見直しに拘ったのは、「軽卒で無節操な人や悪人がこの技術を悪用すれば人類滅亡を招く恐れがあると考えたからである。このOPの動きに対し、オープンAI自身も利益追求や製品開発への懸念から、技術のオープンソース化について慎重な姿勢を示し始め、次のような見解を表明した。『当社は私的利益のために情報を非公開にするつもりはありません。しかし長期的には、安全性の懸念がある場合に技術を非公開にするための正式なプロセスを策定することを検討しています。』
CHAPTER13
前代未聞の「株を持たないCEO」
●マスク、「オープンAIの全面指揮権」を要求
・『マスクを含む共同創業者たちは、営利組織の転換を模索しながら、「誰が」その組織の指揮を執るかを長時間かけて話し合った。マスクはオープンAIの過半数の株式と、理事会の支配権、CEOの肩書き、そしてオープンAIの全面的な指揮権を要求した。
だが、サツキヴァ―とブロックマンは、マスクがオープンAIにあまり時間がかけられないのではないかと懸念した。CEOの選任は最終的に、フルタイムの共同創業者のうち、上級職であるブロックマンとサツキヴァ―に委ねられた。
2人は最初、マスクを選んだ。するとアルトマンがブロックマンに電話をかけ、マスクは一緒に仕事をするのが難しい人だと言って翻意させた。
次にブロックマンがサツキヴァ―を説得した。「僕は創設当初から、サムにCEOになってもらいたかった」とブロックマンは2023年にWSJに語っている。「会社にはサムの形をした『穴』が開いていて、僕らはあえてその穴を埋めずに、何年も待っていたんだ」
同年9月、ブロックマンとサツキヴァ―はマスクとアルトマンに、苦しい胸の内を打ち明けるメールを送った。
「あなたと一緒に仕事がしたいという気持ちはとても大きいし、それを叶えるためなら会社の株式や指揮権、僕らの解雇権など、何でも提供したいのはやまやまだ」と、ブロックマンとサツキヴァ―はマスクに宛てて書いている。だが懸念があった。「今の構造で行くと、いつかAGIの一極的で絶対的な支配を、あなたが手にすることになるかもしれない。最終的に実現したAGIを支配するつもりはない、とあなたは言うが、今回の交渉で、あなたが絶対的支配を極度に重視していることがはっきりした」加えて、オープンAIが「AGIの独裁を避けるため」に設立されたことを考えると、「あなたがその気になれば独裁者になれるような構造を持つことは愚策」に思われる、とつけ加えた。
2人はアルトマンについても懐疑的で、とくに彼の政治的野心をふまえて、同じメールに続けて書いた。「僕らはこのプロセスでの君の判断を完全に信用できずにいる。なぜなら君のコスト関数[意思決定の原理]が理解できないからだ」と、高校の数学コンテストの常連らしい言葉遣いでアルトマンに宛てて書いている。「君にとって、なぜCEOの肩書きがそんなに重要なのかがわからない。君が挙げた理由は変化しているが、何がその変化を駆り立てているのかがよくわからない。AGIは本当に君の第一の目標なんだろうか? それと君の政治的野心はどうつながっているんだ。君の思考プロセスはどう変わってきたのか?」。これらはブロックマンというよりはサツキヴァ―の思いだったが、程度の差こそあれ、2人とも同じ懸念を持っていた。』
PART4
岐路 2019-
CHAPTER14
「危険すぎて公開できない」AI?
●「21世紀最大の発見かもしれない」
・アモディと数人の研究者は、2019年GPT-3の開発を通して「スケーリング則」に関する論文を発表し、データと計算資源、ニューラルネットワークの規模を拡大すればするほど、大規模言語モデルの性能が「一貫して」向上することを示した。この論文は資金調達に奔走するCEOのアルトマンにとって、まさに天の恵みとなった。これは開発に投じられる資金が知識の限界を確実に押し広げてくれることを、科学的に示したものだったからである。
CHAPTER16
CEO解任事件、衝撃の真相
●解任
・『翌日、11月17日金曜日。アルトマンはF1レースを観戦するために、恋人のムルヘリンとラスベガスを訪れていた。
正午前。アルトマンは「グーグルミート」のアプリで、サツキヴァ―との会議へのリンクをクリックした。そして驚いた。画面にはサツキヴァ―だけでなく、ダンジェロとトナー、マッコーリーの顔までも現れたのだ。しかも不吉なことに、ブロックマンはいなかった。彼は数分前に理事を解任されていた。
サツキヴァ―は短い原稿を読み上げて、アルトマンに解任を告げたが、具体的な理由は示さなかった。アルトマンは愕然としたまま、つい、YCでスタートアップに助言していた頃の決まり文句を口走った。「何か手伝えることはあるかな?」
ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、理事たちは、移行期の舵取りをするムラティを支えてほしいと求め、アルトマンはそうすると約束した。
参加者のウィンドウが画面から一斉に消えたとたん、アルトマンはコンピュータから締め出された。』
●一瞬で広まるニュース
・『最初の瞬間は、ただもう信じられない、という思いしかなかった。悪い夢を見ているようだった。それから、怒りがこみ上げてきた。
数分後。オープンAIのウェブサイトに掲載された簡潔なブログ記事で、アルトマンがCEOを退任し、理事会を去るというニュースが発表された。そこにはたんに、アルトマンが「理事会の責任遂行に支障を来たした」とだけ書かれていた。
この知らせは、テック界の大物CEOたちが参加するメッセージアプリ「ワッツアップ」の私的なグループに、破壊級の衝撃をもたらした。』
●社員が「アルトマン支持」に回った理由
・『サンフランシスコ、発表前の数分前。ムラティはマイクロソフトCTOケヴィン・スコットに電話をかけ、理事会がこれからアルトマンを解任すると伝えた。
スコットは慌てて上司のサティア・ナデラを会議から引っ張り出して、ムラティと話させた。なぜ解任するのかというナデラの問いに、ムラティはわからないと答え、理事のダンジェロと話してほしいと促した。ダンジェロも、犯罪がらみではないと請け負う以外には、プレスリリースに書かれていた以上の情報を提供しなかった。
ムラティと社員たちとのやりとりも同様に進んだ。ムラティが理事会から渡された、危機管理コミュニケーションの要点をまとめた資料は、あのあいまいなブログ記事と大差なかった。
午後2時、ムラティとサツキヴァ―は全社会議を開催した。2人は45分もの間、「サムは何をやらかしたのか?」という主旨の質問を浴びせられ続けた。解任の理由はいつか社員に知らせられるのかという質問に、サツキヴァ―は「ノー」と答えた。
じつはアルトマン解任当時、社員の保有株式を、発行時の評価を大きく上回る900億ドル近くの企業評価額で売り出す交渉の最終段階にあったのだ。これが実現すれば、当時800人近くに増えていた社員の多くが大金持ちになれる。そして、この公開買付を主導するVC「スライヴ・キャピタル」の経営者ジョン・クシュナーは、トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナーの弟で、アルトマンのYCでの活動を長年にわたって支援してきた人物である。売り出しがアルトマンなしで行なわれるほど甘くないことを、社員は百も承知だった。
全社会議後、YCコンティニュイティ・ファンドの法務責任者を経て、オープンAIの出世街道を着実に上がり続け、CSO(最高戦略責任者)に就任したばかりのジェイソン・クォンが、サツキヴァ―の前に立ちはだかった。「これじゃ納得できない」と彼は言った。「みんなキレてるぞ」。クォンは幹部15人と理事全員のビデオ会議を申し入れ、サツキヴァ―はこれに応じた。
同日夜。理事たちがビデオ会議にログインすると、バーチャル会議室はむき出しのパニックに満ちていた。
クォンは礼儀正しく会議を始めようとして、「理事会は会社の利益のために行動したものと信じている」と言った。それでも、オープンAIには会社に生活を頼る800人近い社員がいて、そのほとんどがアルトマンを慕っていることを考えれば、理事会は「一貫して率直ではなかった」以上の説明をする義務がある、と迫った。
その上クォンの部署は、すでにニューヨーク南部地区の連邦地方裁判所から問い阿合わせを受けていた。この裁判所は、CEOの虚言に対する理事会の告発を、格好の調査対象と見なす傾向にある。
理事会はあいまいな言動によって、会社に対する規制当局の調査を招き、社員に苦痛を与えた。理事会はアルトマンを復帰させるしかない、なぜなら、会社の破壊を許すことは理事会の義務に反するからだ、とクォンは息巻いた。
すると理事のトナーはこう答えた。たとえアルトマンを追放して会社が破壊されることがあったとしても、「それが実際に会社の使命にかなう場合もありますよ」と。
これはまちがいではない。オープンAI憲章には、同社の「第1の信認義務は人類を守ることにある」と説明されている。理事会は社員にも、投資家にも、何ら義務を負わない。理事会は、憲章に掲げられた高邁な理想の有効性を試したまでのことだった。』
CHAPTER17
さらなる難局へ
●内省
・『オープンAIはより一般的な組織構造をめざして、経験豊富な新理事たちを迎えた。メディア会社パラマウント・グローバルの取締役を長年務めた、ソニー・エンターテインメント元社長のニコール・セリグマンや、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の元CEOで、フェイスブックとファイザーの取締役を務めたスー・デズモンド=ヘルマン博士など。
また、解任の一端となった、アルトマンの社外活動への不信を避けるために、利益相反に関する新しい指針を導入した。
「疑念を持たれていたから、法的な助言のもとで標準的な手順を導入した。疑わしきは確かめよ、ということだ」と新理事のローレンス・サマーズは説明する。「サムはとても誠実にそれをやっている」
社外の法律事務所ウィルマ―ヘイルは、3万件以上の文書を精査し、数十人をインタビューした結果、旧理事会は権限の範囲内でアルトマンを解任したが、調査した限りにおいては、彼を解任しなければならないほどの問題は見当たらなかった、と結論づけた。
「ウィルマーヘイルの調査結果をふまえて、われわれは旧理事会とは異なる事業判断を下した。サムがCEOの座にとどまることの適切性に疑問を投げかけるようなものは、記録の中には何一つなかった」とサマーズは言う。
それでも、アルトマンはあのできごとの後で内省し、なぜ自分が理事会の信頼を失ってしまったのかを理解しようと努めた。
また、非営利の構造が維持不可能なほど不安定で、おそらく―営利企業だが、財務利益を追求しながら社会的・環境的利益を優先できるような法的枠組みを持つ―「パブリック・ベネフィット・コーポレーション(PBC)」のような組織形態に転換する必要があることを認識しつつも、そうした転換が一部の人の信頼をさらに損なうおそれがあることも理解していた。「僕らはつねに学習し、適応している。僕らのやっていることはつねに変化しているから、変化できる余地をたっぷり残しておくようにしているけれど、それを嫌がる人もいる。それでも、ときには余地を十分に残しておかなかったために、やろうとしていたこととはちがう選択肢を選ばざるをえなくこともある。僕らは非営利組織として始まり、次に利益に上限を設け、それがうまくいかなくなると、今度はPBCにする必要がある、なんて言っている。構造としてそれがうまく機能することを心から信じているけれど、そのやり方にカチンとくる人がいるのも当然だ」。』
画像出展:「OpenAIが営利モデルを撤回しPBCに転換」
『PBCは営利企業の一種ですが、その法人憲章で「株主だけでなく社会全体の公益も追求する」ことが義務付けられています。通常の株式会社(営利企業)が経営陣に株主利益の最大化を求めるのに対し、PBCは取締役会が意思決定の際、特定の公益目的を考慮する法的責任を負う仕組みです。』
未来へ
●アルトマンの確信
・『リベラリズムが世界中で攻撃を受けるなかにあっても、アルトマンは合理性と科学、進歩を心の底から信奉し続ける。
イギリス物理学者デイヴィッド・ドイッチュが2011年に著した一般向けの科学書、『無限の始まり』を読んで以来、アルトマンはこの本を会う人会う人に勧めている。この中でドイッチュは、18世紀頃の啓蒙時代が、宇宙的な意義を持つ瞬間だったと主張する。それは、人類が真に知識を生み出すことを学び、その知識よって理論的には宇宙のすみずみまでを征服し変革できるようになった瞬間だというのだ。
「自然法則で禁じられていないことはすべて、適切な知識があれば実現できる」とドイッチュは説く。「死」も解決できる問題だ。人類が将来生み出すテクノロジーによって、宇宙のどんなに寒く暗い片隅にあっても、エネルギーと知識を活用することが可能になるはずだ。
アルトマンはサンフランシスコ・ロシアンヒル地区の自宅に、人類の進歩へ信奉を示すコーナーを設けている。彼の家を訪れる人が最初に目をするのは、3本の「手斧」で、うち1本は今までに発見された最古のものだ。手斧は、過去150万件のほとんどを通して、人間がものをつくり、生き物を殺し、料理をするために使っていた、唯一の道具である。
コーナーには、技術史のさまざまな段階の剣や、真空管、宇宙から持ち帰られたもの、コンコルドエンジンのブレード、アップルの初期のコンピュータ「Mac LCⅡ」のレプリカ、オープンAI製のロボットハンドなど、数十の品々が並ぶ。2024年9月のエッセイに、アルトマンは書いた。
「人類史を技術的発展という狭い視点からとらえれば、こうも言える。人類は数千年にわたる科学的発見と技術進歩の積み重ねを経て、砂を溶かし、不純物を少々加え、それを驚くべき精度で途方もなく微小な規模で精密に配置してコンピュータチップを製造し、そこに電気を通すことで、ますます高性能なAIを創造できるシステムを構築するにいたったのだと」それに続くのは、おそらくアルトマンにしか書けない一文だ。
「これは歴史全体における最も重大な事実になるかもしれない。人類は数千日以内(!)に超知能を手に入れ可能性がある。もっと時間がかかるかもしれないが、必ずそこに到達できると確信している」。』
感想
サム・アルトマンがスティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグと異なる印象をもつのは、2つあるように思いました。
1つは、Yコンビネータという投資家(エンジェル投資家)としての豊富なキャリアです。数々の若き才能、様々なアイデアと接する機会は、アルトマンのビジネスの幅と深さをつくり、そして、多くの人とのネットワークを通じて起業を支援するという才能を伸ばし、大きな能力を手に入れたと思います。
もう1つは、政治(民主主義)に対する畏敬の念ではないかと思います。既にご紹介していますが、アルトマンがブログに書いたとされる以下の言葉が、それを物語っているように思います。
「経済成長がなければ、民主主義は機能しない。なぜなら有権者はゼロサムの世界に生きているからだ」
これは、将来に渡って経済成長することが民主主義を守り、豊かな生活、平和な世界を築き上げられるというアルトマンの信念ではないかと思います。おそらく、すべての行動はここを起点にしていると思います。
大きなことを成し遂げた人に共通すると思うのは、いずれも、目標達成のための凄まじいエネルギーです。特に、“好奇心”、“行動力”、“信念”です。そして、その桁外れのエネルギーと揺るぎない自信が人を惹きつけるのだと思います。成功に導く大切な人との出会いも、そのエネルギーに因るものではないでしょうか。
“人との出会い”という言葉から、ウォーレン・バフェットの教えを思い出しました。素晴らしい出会いを自分のものにできるかどうかは人それぞれですが、おそらく、大事な人との出会いなくして、大きなことを成し遂げることはできないだろうと思います。
(画像は「ばっちゃまの米国株」の動画から拝借しました。これは学生に向けてのメッセージですが、“教師”を広い意味として捉えるならば、人生における教訓にもなると思います。)
サム・アルトマンにとってその出会いはループト時代のスティーブ・ジョブズ、Yコンビネータのポール・グレアム、ヒドラジン・キャピタルの共同設立者であるピーター・ティール、OpenAIのグレック・ブロックマン、そして、最大のライバルイーロン・マスクの5人ではないかと思います。
プロローグ
クーデター前夜
●「楽観主義者」サム・アルトマンとは何者か
・アルトマンはビジョナリーであり、エヴァンジェリスト(伝道者)であり、ディールメーカー(交渉人)であり、19世紀であればプロモーターと呼ばれるような人物である。
・Yコンビネータ時代に培った強みは、不可能に近いアイデアを可能だと思わせ、巨額の資金を調達して実際に実現してみせるその手腕である。
・シリコンバレーの「ゼロを加える」精神を、おそらく誰よりも地で行っているのがアルトマンである。これはYコンビネータの共同創業者のポール・グレアムの話である。
画像出展:「Yコンビネータ」
アルトマンが関わったYコンビネータは、単なるスタートアップ投資会社に留まらず「世界のイノベーションを加速するためのエコシステム」として機能し、起業家からテック業界、社会全体への広範なインパクトを残したとされています。
●「僕らが世界を導く声になれれば」
・『インタビューのなかで、アルトマンの利他的なうわべに隠された猛烈な競争心が垣間見えたのは、ほんの一瞬だけだった。』
●本書は「書かれたくない」
・アルトマンは数か月の交渉でも、「書かれたくない」という意向が明確であり、最終的な判断も「No」であった。理由は、「自分にはまだ早い」、「自分ばかりに注目が集まるのは困る」というものだったが、その後の電話での再三の交渉により、何とか執筆プロジェクトの合意を得た。『ただし僕がこの執筆プロジェクトをひどく嫌がっていたとはっきり書いてほしい。』とのことだった。
・劇的な解任劇の後、770人の社員のほとんどが、アルトマンが復帰しなければ退社してマイクロソフトに移籍する、と脅す歎願書に署名した。これはOpenAIの社員と投資家にとって、アルトマンがなくてはならないのは明らかであったからである。
●ビジョンを信じさせる力
・VC(ベンチャーキャピタル)は、スタートアップ企業の成功を投資家に信じ込ませるシャーマン(呪術師)のような能力こそが成否を決めるが、アルトマン以上にうまくやれる人はいない。
●アルトマンの投資先
・アルトマンの興味は一般的なVCとは異なり、未来に向けられている。例えば、「人間の寿命を10年延ばす」、「幹細胞を用いてパーキンソン病を治療する」、「超音速旅客機を復活させる」、「脳をコンピュータに接続するための移植デバイスを開発する」といったムーンショット事業(破壊的イノベーション創出事業)が目立つ。
●「サムは権力を手に入れるのがものすごくうまい」
・アルトマンを発掘したパトリック・チャンの話では、アルトマンは単に新しい技術を開発して世界に提供するだけでなく、常に「歴史上の偉人」になることを目指している。そして政治にも高い関心を持っているとのことである。
・Yコンビネータの共同創設者であるポール・グレアムは、「サムは権力を手に入れるのがものすごくうまいんだ」との話をしている。
●アルトマンとは何者か
・本書は「サム・アルトマンとは何者か」という問いに答えることを目的にしている。
・『本書を執筆するために、私はアルトマンの家族や友人、恩師、メンター、共同創業者、同僚、投資家、投資先企業に250件以上の取材を行ない、アルトマン自身にも何時間にもおよぶインタビューを行なった。そこから浮かび上がってきたのは、スピードを求めリスクを愛する凄腕のディールメーカーであり、宗教めいた確信を持って技術進歩を信望し、それでいて、ときには周りの人よりも速く動きすぎ、衝突を避けようとするあまり、かえって大きな衝突を招くこともある人物像である。』
・『アルトマンは倒されるたび、さらに強くなってよみがえってきた。恩師のグレアムも、2008年に彼について書いている。「人食い人種で一杯の島にパラシュートで落としたとしても、5年後に戻ったら王になっている」』
●アルトマン理解に欠かせない「家族」と「初期キャリア」
・『スタンフォード大学在学中に出会った仲間と、位置情報を利用したSNSを開発する最初のスタートアップ、「ループト」を立ち上げた。ループトは、彼がオープンAI以前に創業した唯一の会社であり、その物語には、のちの彼の活躍や苦難の片鱗がすでに現れている。たとえばセコイア・キャピタルなどの一流VCからやすやすと資金を調達し、経営難に陥ったスタートアップの若きCEOとして社員の反乱に翻弄された。
だがループトの最大の偉業はなんといっても、アルトマンをポール・グレアムとYコンビネータに引き合わせたことだろう。グレアムはアルトマンの中に、スタートアップの成功に必要なすべての素質を見た。ループトは2012年に売却されたが、アルトマンはその後もYコンビネータと親密な関係を持ち、Yコンビネータのスタートアップに助言しながら、ティールの支援を得た自身の投資ファンドを運営していた。その後グレアムは引退を決意し、後継にアルトマンを指名する。これによってアルトマンは、いきなりシリコンバレーの権力の中枢に躍り出たのである。
Yコンビネータは彼の指揮下で、養成するスタートアップの数を年間数十社から数百社に増やし、物理学や化学などのハードサイエンス分野に進出し、ムーンショット専門の部門を新設し、そしてこの部門を通して、「オープンAI」と呼ばれる非営利の研究所を生み出した。また、Yコンビネータの運営で多忙だったアルトマンに代わって、オープンAIの人材集めを担ったのは、彼の友人で、Yコンビネータの支援するオンライン決済会社「ストライプ」でCTOを務めた、グレッグ・ブロックマンだった。』
PART1 出発 1975-2005
CHAPTER2
「人を動かす」才能にめざめる
●「ゲイ・ストレート同盟」を立ち上げる
・『サムは高校の最終学年までに、性的マイノリティへの偏見や差別をなくすことをめざす学生・生徒組織「ゲイ・ストレート同盟」の支部を、「ほとんど意志の力で学内に立ち上げた」とロディンガーは言う。「サムは天性のリーダーだった。それも、ただ仕切るだけじゃなく、人を動かすことができた」
2000年代初めのセントルイスでは、性的指向はまだ「触れてはいけない」話題だった。ゲイのカップルは公の場所で一緒に踊ったり、手をつないで歩いたりしなかった。
この年ゲイ・ストレート同盟は、ゲイトとみなされている多くの生徒への理解を促すために、学内集会を開くことにした。しかし、キリスト教の生徒組織「KLIFE」の家族から、出席を遠慮させてほしいという要望が出され、学校はこれを受け入れた。
サムは激しい憤りを感じ、学校の「ズケズケ述べる」伝統に則って、翌日の朝会で声を上げることを決意する。
前の晩はよく眠れなかった。だが朝になり、壇上に立った時には、自信をみなぎらせていた。彼がゲイだということを、友人たちは知っていたかもしれないが、大半の生徒は知らなかった。サムはインパクトを最大限に高めるために、この場でカミングアウトするという、大胆きわまりない行動に出たのだ。』
※経営者とLGBTQ
Appleのティム・クック、PayPalマフィアのボスのピーター・ティール、そしてサム・アルトマン、この3人の傑出したテクノロジー界のトップリーダーはいずれもゲイとされています。ゲイの人がもつ何かの特性が強烈なリーダーを生む要因となっているのかという疑問から、AI(Perplexity)に質問してみました。
●大学進学
・志望校の3校(ハーバード、スタンフォード、ノースカロライナ(UNC)に合格。アルトマンは3人の兄妹のため、合格者の上位3%となり学費が全額免除になったUNCに行きたいと両親に提案したが、子ども時代からの夢だったスタンフォード大学を、両親は「夢を追いかけなさい」と送り出した。
CHAPTER3
「位置情報サービス」で起業する
●焦りと野心
・アルトマンを駆り立てていたのは、焦りと想像を絶するような野心だった。あるとき、「取り組みたい」を決めるのが先であると思い直し、紙切れに走り書きした。それは上から順に、「AI」、「核エネルギー」、「教育」だった。
●「サムには『現実歪曲空間』を生む力がある」
・アルトマンに会う人はその知性に魅了されるが、何よりも際立たせているのは「超自然的なまでの自信」である。
●人生を変えた、Yコンビネータでの面接
・Yコンビネータの4人の共同創業者とアルトマンの面接はわずか25分で終わった。ポール・グレアムは「ああ、これが19歳のときのビル・ゲイツの姿か、と思った」とのこと、一方、アルトマンも「あの時初めて、やった、一緒に過ごしたい人たちをとうとう見つけたぞ、と思った」
CHAPTER4
Yコンビネータ1期性になる
●Yコンビネータ、誕生
・グレアムはVCを内部から変革し、「われわれ自身のVCを始めようじゃないか」とリヴィングストンに提案した。それはVCとは異なるエンジェル投資であった。(PDFを参照ください)
PART2 成長 2005-2012
CHAPTER6
ループトで「敵を味方にする術」を学ぶ
●「できないことはない」というオーラを放つ
・『アルトマンの心は沈んだ。「ブーストと提携できれば、必然的に親会社のスプリントと提携することになる。そしてスプリントと提携すれば、ベライゾンとAT&Tも追随すると考えたんだ」
だが、わずかな可能性がまだ残っていた。レディエイトの競合は、ブーストが喉から手が出るほどほしがっていたものを提供できなかったのだ。それは、友人が5マイル圏内などにいることをユーザーに通知する機能だ。レディエイトのチームは、徹夜でそれを完成させた。
「あの日はたしか、朝4時から6時まで寝て、7時の便でブースト本社のあるオレンジ部に飛んだ」とアルトマンは言う。
アルトマンあアポなしでワイナリーのオフィスに押しかけ、10分だけ時間をくださいと言った。ワイナーが会議室に招き入れると、カーゴショーツ姿のアルトマンは、小柄な体には大きすぎる椅子の上にちょこんと座って、「インド風」にあぐらをかいた。そして口を開いたとたん、その場を完全に支配してしまった。
「体重50キロぐらいの、小柄な汗だくの若者の話を、いい歳をした大人がありがたがって聞き入っていた」とワイナーは言う。「サムは自信を発散させていた」
1時間ほど経った頃、ワイナーは会議室を出て、ブーストの製品担当副社長のオフィスに駆け込み、ブーストは契約相手を変更して、「たった今ふらりと現れた男」と提携する必要があると言った。レディエイトのチームは、ワイナーの求める機能を構築することによって、「機動性があり、能力がある」ことを証明した、と。
ワイナーはセコイアに電話でサムとレディエイトの人物と財務状況を照会してから、この若者と同社のワイヤレス契約を結ぶことを決めた。
アルトマンはこの時のやりとりから、基本的な教訓を学んだ。「何かをやり遂げるには、とにかくしつこくやることだ」
ワイナーは今もアルトマンとの邂逅をはっきり覚えている。「彼と会った人は1人残らず、あの才能をうらやんでいた。“できないことはない”というオーラを漂わせていたね。そして、非常に楽観的あった。決断力があって楽観的。 半信半疑のまま何かをやるということがなかった」』
●1%でも可能性があれば「成功する」と自分を確信させる
・『ジェイコブスティーンには、今も忘れられない光景がある。ループトに加わって1年ほど経った頃、顧問のワイデンに誘われて、アルトマンと3人でランチに行った。ワイデンはアルトマンに、ループトのほかにどんな構想を持っているのかと訊ねた。アルトマンは2つ挙げた。薄毛治療と核融合だ。ジェイコブスティーンはそれを聞いて、内心苦笑した。「核融合の何を知っているというんだ? コンビネータ科学科を3年で中退した、核融合の博士号も持たない19歳なのに」と。
その20年後、アルトマンはこの技術を実現しうる少数の核融合スタートアップのうちの1社を支援する。そしてジェイコブスティーンは気づいたという。アルトマンは、何かが成功する可能性をほんのわずかでも思い描くことができれば、それが「成功する」とまずは自分を確信させ、それから他人、とくに投資家を確信させることができるのだと。』
●アルトマンへの「不満」
・ジェイコブスティーンの退社後、ループトの幹部は大半が取締役会に対しアルトマンの解任を要求した。だが、取締役会は幹部たちの要求を却下した。
・『「僕は18、19歳の時、一緒に働きにくいことで有名だった」とアルトマンは、投資家のリード・ホフマンのポッドキャストで認めている。「会社の創業者として、週100時間働き、死ぬほど集中して生産性を上げること自体は、わるいことじゃない。でも、とくに会社が大きくなれば、自分が雇うほとんどの人に仕事以外の生活があることを理解しなくてはいけなかった」』
CHAPTER7
スティーブ・ジョブズにシゴかれる
●ジョブズの1行返信「弱いな」
・『モリッツは、これは難しいことだ、とはっきり言った。なにしろジョブズはSNSを毛嫌いしていたのだから。
「サムを売り込む必要があるな」とマカドゥーに言った。まず モリッツが根回しをし、続いてマカドゥーがアルトマンの経歴を説明するメールをジョブズに送った。「セコイアが投資した史上最年少の創業者で、スタンフォード中退者だという、スティーブに刺さる物語をね」とマカドゥーは言う。
リード大学を中退してアップルを創業したジョブズが、アルトマンの物語に惹かれるはずだという、マカドゥーの読みはズバリ当たり、ジョブズはループトのアプリを見てみるよと請け合った。
返事が来ないまま、数週間が過ぎた。しびれを切らしたマカドゥーは、ループトはどうでしょうかとさりげなくメールで訊ねた。
ジョブズの返事はたったひと言、「弱いな」だった。
マカドゥーはラップトップをつかんで廊下を走り、モリッツに返事を見せに行った。「どうしたものですかね?」。モリッツはヴァレンタインと同じく、ただ頭を振って「わからんよ」と言った。
アルトマンとハワードは、ジョブズの言葉にもひるまずに開発を進めた。今のバージョンがループトの可能性を引き出し切れていないことは、2人にもわかっていた。「弱い」は発奮を促す合い言葉になった。
ジョブズはループトにもの足りなさを感じたかもしれないが、アップルの製品とエンジニアリング部門の20代の若者たちはとりこになった。
2007年11月、アルトマンのもとに、iPhone開発チームから暗号化されたメールが届く。ループトがiPhone向けアプリを開発するために、SDKにどのような機能を必要としているのか聞きたいので、ご足労願う、と書かれていた。』
●ジョブズに直接売り込む
・『アップルの開発会議で登壇するという、垂涎の機会を手に入れるには、アルトマンがみずからジョブスに売り込む必要があった。アップルの開発者関係チームは、アルトマンとハワードと一緒に台本を練り、プレゼンの練習をさせた。
そしてとうとうアップルのクパチーノ本社でプレゼンを行なう日がやってきた。
アルトマンとハワードは、ジョブズが初代マッキントッシュ開発チームにひらめきを与えるために購入した、ベーゼルドルファー社のグラウンドピアノ―美を重視するアップルの姿勢の表れ―が置かれたロビーで待ち、講堂に案内された。
観客席の中央にジョブズが陣取り、数人のアシスタントが周りを囲んでいた。ジョブズはアルトマンとハワードが期待した黒いタートルネックではなく、Tシャツと短パンを着ていた。2人は緊張で口の中がカラカラだった。アルトマンがトークを担当し、ハワードがiPhone上でデモを行って、その映像を大きなスクリーンに映し出した。
プレゼンが終わると2人は前を見つめたままその場に立ち尽くした。
一瞬置いて、ジョブズは一言放った。「クールだ」
「弱い」から「クール」への格上げに2人は驚喜したが、それが何を意味するのかはまだ知らなかった。
まもなくアップル開発チームの代表から電話があり、講演者に選ばれたことを2人は知った。ただし、アップルが要求する修正を反映させ、リハーサルを支障なくこなすという、条件つきだ。
その後の1週間、2人はアップルのチームとリハーサルを特訓した。休憩時間にコードを手直しし、シヴォかサイに電話してサーバー側の修正をしてもらった。アップルの要請により、ループト社内では引き続きチームを少人数を除いて極秘とされた。「あれが行われるのを社員が知ったのは、本番のたった2日前だった」と、マーケティング責任者のリウは言う。』
●「ハイパフォーマーの活かし方」をアップルから学ぶ
・『アップル社内では、ループトは文句なしの大ヒットだった。ダウンロード数は急増していた。そして、アップルが数カ月後の海外でのiPhone発売に向けて準備を進めていた時、ジョブズは念を押した。ループトの位置情報技術は、iPhoneが利用可能になるすべての言語と国で動作するんだろうな、と。
だが当時の技術状況では、これは無理難題だった。ある時、ジョブズはループトとのミーティングにやってきて、ループトが彼の期待するほど幅広くサービスを提供できそうにないことを知ると、いきなりアルトマンを罵倒した。
その夜、マカドゥーとの大好きな寿司屋での夕食に現れたアルトマンは、まだ激しく動揺していた。「ジョブズと今までで一番厳しいミーティングをしてきた」とマカドゥーに言った。
「スティーブはいつも猛烈で、要求水準がとてつもなく高かった。だからこそ、私たちはあれほどすばらしい仕事をして、すばらしい製品を生み出すことができたのだがね」とフォーストールは語る。「スティーブが人にものを投げつけるのを、実際この目で何度も見たことがあるよ」
今になってみれば、ジョブズと過ごした数カ月がアルトマンに大きな影響を残したのは明らかだと、マカドゥーは言う。
「あの頃のアップルに関わったことは、サムに起業家として、またハイパフォーマーたちのリーダーとして、とてもよい意味で影響をおよぼした」。そして続けて言った。「誰かがプリマドンナ[才能はあるが傲慢で扱いにくい存在]だからといって、それだけの理由で辞めさせたりはしない。そんなのは取るに足りないことだ。ハイパフォーマーの半数は、何らかの面でプリマドンナなんだ。そういう連中をうまく活かすスキルを身につけないといけない。サムはその能力を大きく伸ばした。なにしろiPhone黎明期のアップルを内側から観察したんだからな』
PART3
飛躍 2012-2019
CHAPTER9
ピーター・ティールに投資を学ぶ
●ティールが見抜いた「アルトマンの長所と短所」
・ティールのアルトマン評は、「じつに賢い」、「とても固い信念を持ち、とても律儀で、とてもバランスが取れている」が「やや楽観的すぎるきらいがある」というものだった。また、アルトマンの強みは「知識」というより「人脈」にあると考えた。
・ティールは「テック界でミレニアム世代の代表を1人選ぶとしたら、アルトマンだ」と断言された。
・ティールの逆張り的な世界観は、人との協調を大切にするアルトマンのスタイルとは相いれない。アルトマンにとって最も称賛するティールのスタンスは、斬新なアイデアを生み出すために流れに逆らおうとするところである。「彼(ティール)は何ものにもとらわれない方法で世界について考える」とポッドキャストで述べた。
●ディープマインド
・デミス・ハサビスとシェーン・レッグ、そして起業家のムスタファ・スレイマンは「ディープマインド」を創業した。この社名はニューラルネットワーク(神経回路)を用いる機械学習の一種である、「ディープラーニング(深層学習)」にちなんでいる。たとえ人類の存在そのものを脅かす恐れがあったとしても、AGI(汎用人工知能)を開発するつもりだと、投資家に宣言した。
●「AGIは技術史上最大の発展になるかもしれない」
・『2013年12月、ハサビスはカリフォルニア州とネバダ州の境にある。タホ湖畔のハラーズ・カジノホテルで行われた機械学習会議に登壇し、ディープマインドの初めての大きなブレークスルーを発表した。それは、人間の指示を一切受けずに、アタリのビデオゲーム「ブレイクアウト(ブロック崩し)」のルールをみずから学習し、すばやく習得する。AIエージェントである。ディープマインドは深層ニューラルネットワークと強化学習を組み合わせることによって、これを実現した。
グーグルはこれに衝撃を受け、ひと月後に同社を6億5000万ドルで買収した。
このディープマインドの業績―AIが混沌とした世界を理解して、何らかの目的に向かって進めることを証明し、AGIに向かって大きな一歩を踏み出したこと―が持つ意味が広く理解されるようになったのは、1年以上後に同社がネイチャー誌にそれを発表してからのことである。
だがディープマインドの投資家であるティールは、その重要性をただちに見て取り、アルトマンとも議論した。
グーグルによるディープマインド買収のひと月後の2014年2月、アルトマンは個人のブログに「AI」と題した記事を投稿し、AIは十分な注意を払われていない、最も重要な技術的動向だと書いた。
「はっきり言うと、AIはおそらく機能しないだろう。これはどんな新しい技術についても言えることで、おおむね正しい発言だと言っていい。それでも、ほとんどの人がAIの可能性についてあまりにも悲観的すぎると思う」。そしてこう加えた。「AGIは機能するかもしれない。もしも機能すれば、それは技術史上最大の発展になるだろう」』
CHAPTER10
Yコンビネータ社長に抜擢
●Yコンビネータの社長に就任
・グレアムはアルトマンに社長のバトンを渡す理由として、「サムは恐ろしく有能でいて、根っから慈悲深いという、まれな人間だ。ほとんど理解されていないことだが、それらはアーリーステージ投資に欠かせない資質なのだ」とした。さらにブログには「サムは私の知る誰よりも賢く、私を含む誰よりもスタートアップを知り尽くしている」と書いた。
●ためらい
・アルトマンは社長になるべきかどうか迷った。投資家向きなのは理解していたが、本当は会社をやりたいという気持ちが強かったからである。最後はエンジェル投資家として創業者と働きたい気持ちが勝ってYCの社長をひき受けることにした。
●「経済成長」なくして民主主義なし
・アルトマンはYコンビネータの社長を引き受ける前年に「PGスタイル」という自身のブログで哲学的な個人エッセイを発表した。そのエッセイとはアルトマンの心の奥底に潜む最も強固な信念である。それは、「経済成長がなければ、民主主義は機能しない。なぜなら有権者はゼロサムの世界に生きているからだ」。人間に分かち合いを教えることはできなくても、経済成長という「裏技」によってパイそのものを拡大すれば、限られたパイを奪い合う必要もなくなる。というものである。
以下はそのブログですが、“Sam Altman”から拝借しました。
●成功のコツは「自分と似た仲間を集める」こと
・アルトマンは単刀直入で、雑談への耐性は欠けているがとてもオープンで相談しやすく、創業者の話を全神経を集中して聞いてくれるというのが創業者たちの印象だった。
CHAPTER11
「非営利のAI研究所」構想
●「AI倫理委員会」を設置したグーグルの真意
・政府の「AI倫理委員会」はアルトマンが、AI規制を政府に呼びかける公開書簡の作成を手伝ってほしいとイーロン・マスクに頼み、2人で草案を練って2015年7月に政府に提出した。
ディープマインドの「AI倫理委員会」に対する評価には厳しい意見があり、イーロン・マスクはピーター・ティールなどの友人を夕食に招いては、グーグルの力に対抗してAIを安全にする方法について話し合いました。
また、アルトマンはマスクに次のようなメッセージを送りました。「人類のAI開発を阻止することがはたして可能なのかどうかを、ずっと考えていた。答えは、ほぼ確実にノーだと思う。もし阻止できないなら、それを最初に実現するのはグーグル以外の何者かであるべきだ」。
●「人間の脳がAGIへの地図になる」
・「人間の脳がAGIへの地図になる」とはイリヤ・サツキヴァ―の信念である。サツキヴァ―はDNNResearch(ジェフリー・ヒントンの新会社)立ち上げに参画、Googleによる買収でGoogle Brainチームに移籍した。その後、2015年末にOpenAIのチーフサイエンティストとしてChatGPTや大規模言語モデル開発を主導した。OpenAI退職後、2024年6月にSafe Superintelligence Inc.(SSI)を設立。
・ニューラルネットワークは1980年代に飛躍したものの、その後は期待されたような成果は出ていなかった。その状況が一変したのはGPUと呼ばれる半導体チップである。GPUは膨大な並列計算を高速で実行することができるため、大規模なニューラルネットやデータセットを扱えるようになった。そして、それはAIの進歩を加速させた。
サム・アルトマンにはイーロン・マスクに通じる強烈なリーダーシップを感じる一方で、イーロン・マスクとは全く異なる個性も感じます。それは“陰”と“陽”の違いという印象があります。また、色々調べたところ“Disruptor(破壊的変革者)”という名称が見つかりました。さらに日本語の“先導者”に関し、英訳するとどんな単語があるのか調べてみると、文語的あるいは比喩的表現として“Pathfinder”という言葉もあるようです。この“Pathfinder”として相応しい人物は誰ですかとAI(Perplexity)に質問したところ、トーマス・エジソン(「パスファインダー・オブ・テクノロジー」)、マリー・キュリー(「パスファインダー・イン・サイエンス」、マルコム・X(「パスファインダー・フォー・ブラック・パワー」)等の名前が出てきました。
AIは従来のCPUベースのコンピューティングパワーから、CPUに加え、GPU、LPU、TPU、APU、NPUといった様々プロセッシングユニットを組み合わせた新たなコンピューティングパワーを必要とする、従来とは全く次元の異なるIT基盤上に構築されるものであり、ニューロ・コンピューティングを柱とする“第二の情報革命”あるいは“新しい計算原理”と言われています。
画像出展:「AIマップ」
『AI研究は拡大し、全体を俯瞰的に捉えることが難しくなっている。また、AI研究の成果を用いた多数のシステム(AIシステム)が実社会で活用され始めており、AIシステムとAI技術との対応も把握が難しくなっている。そこで、これから活躍するAI研究の初学者、およびAI活用を狙う異分野の研究者・実務者をターゲットとしたガイドとして、AIマップβ2.0を作成した。』
この情報革命をリードしているのは、DeepMindを抱えているGoogle、OpenAIをスピンアウトした元メンバーによって設立されたAnthropic、マーク・ザッカーバーグのMeta Platforms、ジェン・スン・ファンのNVIDIA、イーロン・マスクのxAI等(中国企業もあります)ですが、これらと比較しても、OpenAIを率いるサム・アルトマンは現在、最も注目する人物です。
『サム・アルトマン 生成AIで世界を手にした起業家の野望』は2025年10月発行と新しく、480ページの分厚い本でした。目次は非常に細かく分類されていたのですが、目次を見ればおおよその内容がつかめると思い、全て書き出しました。(最初のブログは目次だけのご紹介で終わっています。取り上げたのは“黒字”の部分です)
プロローグ
クーデター前夜
●ピーター・ティールの警告
●「楽観主義者」サム・アルトマンとは何者か
●「AIによる人類存亡の危機」を懸念する人々
●シリコンバレーでは創業者が「神」である
●オープンAI本社にアルトマンを訪ねる
●「僕らが世界を導く声になれれば」
●本書は「書かれたくない」
●ビジョンを信じさせる力
●アルトマンの投資先
●「サムは権力を手に入れるのがものすごくうまい」
●アルトマンとは何者か
●アルトマン理解に欠かせない「家族」と「初期キャリア」
●史上最高のスタートアップ物語
●アルトマンを魅了する「ある思想」
PART1 出発 1975-2005
CHAPTER1
神童を生んだ「強烈すぎる両親」
●父、ジェリー・アルトマン
●住宅をめぐる人種差別
●サムも受け継いだ、ジェリーの「スタイル」
●徹底した楽観主義
●再婚
●「ディール・ストラクチャリング」の名手
●「神童」サム・アルトマン誕生
●再びセントルイスへ
CHAPTER2
「人を動かす」才能にめざめる
●受け入れられない「官民パートナーシップ」
●もがく両親
●兄妹たち
●サムとユダヤ教
●「サムにはもっとレベルの高い教育が必要だ」
●ジョン・バロウズ・スクール https://jbhs.burbankusd.org/
●テックを通じて他人と興味を分かち合う
●ゲイの自覚
●「人にどう思われようと気にしない」
●恋人
●「ゲイ・ストレート同盟」を立ち上げる
●大学進学
CHAPTER3
「位置情報サービス」で起業する
●焦りと野心
●「親しみやすいが、心ここにあらず」な学生
●位置情報と携帯電話を利用して何かやろう
●「サムには『現実歪曲空間』を生む力がある」
●ビジコンでの出会い
●スタートアップ界の教祖ポール・グレアムの口説き文句
●人生を変えた、Yコンビネータでの面接
CHAPTER4
Yコンビネータ1期性になる
●「絵画」からすべて学んだポール・グレアム
●グレアム、伝説のハーバード講演
●「VCのやつらは最低だ」
●VCの最大の問題は「報酬の支払われ方」
●Yコンビネータ、誕生
●「欠点のある創業者」でも成功できる
●創業者プログラムの「1期生」に
●「サムだけが『ビジネス』の視点から見ていた」
●全米3位の通信キャリアCTOを魅了する
●NEAにレディエイトをピッチする
●Yコンビネータ「1期生」たちの活躍
PART2 成長 2005-2012
CHAPTER5
「ジョブズやゲイツと並ぶ逸材だ」
●「最初のタームシートで妥協しないように」
●セコイアのVC、グレッグ・マカドゥー
●セコイア・キャピタル
●「何があってもサムには会うべきだわ」
●「ジョブズやゲイツと並ぶ逸材だ」
●大学中退命令
●「ただの『一時休学』だ」
●レディエイトとユーチューブへの巨額投資
●完璧なタイミングでの起業
●テック宇宙の中心、パロアルトにて
●送り込まれた「大人」たち
●ザッカーバーグにとってのサンドバーグ
CHAPTER6
ループトで「敵を味方にする術」を学ぶ
●「できないことはない」というオーラを放つ
●「ループト」に社名変更
●ループト、初の製品発表
●シンギュラー・ワイヤレスCEOを抱き込む
●プライバシー問題への対応でアルトマンが学んだ「手法」
●「規則」をダシに議員を味方につける
●ループトの成長と「最大の問題」
●1%でも可能性があれば「成功する」と自分を確信させる
●アルトマンへの「不満」
CHAPTER7
スティーブ・ジョブズにシゴかれる
●通信業界をひっくり返したスティーブ・ジョブズ
●脱獄アプリ
●ジョブズの1行返信「弱いな」
●ジョブズに直接売り込む
●アップル開発者会議でのプレゼン
●「ハイパフォーマーの活かし方」をアップルから学ぶ
●フェイスブックからの1.5億ドル買収提案を断る
CHAPTER8
社員の信用を一気に失う
●強敵フォースクエア登場
●「サムには1人で突っ走る傾向がある」
●アルトマンCEOへの不信と解任要求
●疑惑
●マカドゥーが見抜いていた「アルトマンの人脈力」
●セコイアの「一石二鳥」
●アルトマン、セコイアの「秘密の花形スカウト」に
●パトリック・コリソン
●ストライプ創業を支援する
●CEO業務から解放される
●ループト、売却
PART3
飛躍 2012-2019
CHAPTER9
ピーター・ティールに投資を学ぶ
●ピーター・ティール、伝説のスタンフォード講義
●ティールの真のねらい
●自分を見つめ直す時期
●核エネルギー
●ティールと「ヒドラジン・キャピタル」を立ち上げる
●ティールが見抜いた「アルトマンの長所と短所」
●「逆張り」をしないヒドラジン・キャピタル
●YCの「ゴールドラッシュ」
●アルトマンとティールの投資戦略
●シンギュラリティとエリーザー・ユドコウスキー
●「AIは大惨事をもたらす可能性がある」
●ティール、ユドコウスキーの後継者に
●汎用人工知能(AGI)
●ディープマインド
●「AGIは技術史上最大の発展になるかもしれない」
CHAPTER10
Yコンビネータ社長に抜擢
●Yコンビネータの社長に就任
●グレアムがアルトマンを後継者に据えた真の理由
●ためらい
●テックバブルの再来
●「経済成長」なくして民主主義なし
●新生YCのハードテック構想
●金融面での圧倒的な才能
●成功のコツは「自分と似た仲間を集める」こと
●VCを震え上がらせた、自社ファンドへの7億ドル調達
●苦境のレディット支援に乗り出す
●みずから難局に飛び込み信頼を築く
●『スーパーインテリジェンス』とニック・ポストロム
●「神の領域」に踏み込む野望
CHAPTER11
「非営利のAI研究所」構想
●世界初の「AI安全性会議」に参加したイーロン・マスク
●スカイプ創業者が後援する「生命の未来研究所(FLI)」
●マスクに接近する
●「AI倫理委員会」を設置したグーグルの真意
●高額報酬をともなう「安全性重視のAI研究所」構想
●グレッグ・ブロックマン
●ストライプ創業者のコリソン兄弟と出会う
●「人生にリハーサルはないよ」
●AI界の神童たちと出会う
●早熟の天才、イリヤ・サツキヴァー
●「人間の脳がAGIへの地図になる」
●「未来に来たみたいだった」
●メンバー候補を旅行に連れ出す
●YC内に「オープンAI研究所」誕生
●「非営利」にせざるを得なかったわけ
●サツキヴァ―を口説け
●「10億ドルを調達した、と発表しよう」
CHAPTER12
オープンAI創業と「効果的利他主義」
●オープンAI、始動
●王者ディープマインド製「アルファ碁」の衝撃
●コンピュート
●ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)実験
●「実現しうる最高の未来都市」を建設する:「YCシティーズ」
●伝説のアラン・ケイに「人類進歩研究コミュニティ」を託す
●「サムは文明の建設者だ」
●HARC、痛恨の失敗
●やさしき誘惑
●「次の大統領選に出馬する」
●家族
●ティールへの不満が爆発する
●「トランプ勝利」に打ちのめされる
●州知事選出馬をひそかに模索する
●オバマとの協調
●アシロマ会議
●「AI軍拡競争」を避けよ
●シリコンバレーに広がる効果的利他主義(EA)運動
●EA信望者を理事に迎い入れる
CHAPTER13
前代未聞の「株を持たないCEO」
●オープンAI、eスポーツで勝利
●マイクロソフト
●つかの間の前進
●生成AI時代を切り拓いた「トランスフォーマー論文」
●「前代未聞の巨大モデル」の訓練に一点集中する
●生成的事前訓練済みトランスフォーマー(GPT)
●マスク、「オープンAIの全面指揮権」を要求
●「オープンAIはテスラの1部門になれ」
●マスク、去る
●実質的なCEOに
●ミラ・ムラティ
●父ジュリーの死
●サンバレー会議
●投資家に還元する利益に「上限」をつける
●YCチャイナ
●サウジアラビア
●「初心」を忘れたYコンビネータ
●前代未聞の「株を持たないCEO」誕生
●理事会の刷新と拡大
●激怒するリヴィングストンとグレアム
●アルトマンがYCに残した混乱
●「資金調達」の達人
PART4
岐路 2019-
CHAPTER14
「危険すぎて公開できない」AI?
●「危険すぎて公開できない」
●亀裂の始まり
●「21世紀最大の発見かもしれない」
●「フューショット学習」が可能な脅威の「GPT-3」
●失意のブロックマンとLLM
●数百社を回ってGPT-3を試してもらう
●アニー
●2020年のパンデミック下で
●アモディ、競合アンソロピックを創業
●確率的オウム
CHAPTER15
世界を揺るがせたチャットGPT公開
●GPT-3を使ったゲームの炎上
●「社会を再構築する」野望
●ワールドコイン
●寿命延長と若返り研究にのめり込む
●核融合スタートアップ「ヘリオン」
●変わる私生活
●アニー
●「DALL-E2」公開
●ブライアン・チェスキー
●アライメント
●ウェブGPT
●EA信望者ヘレン・トナー、理事に
●「会話型(チャット)インターフェースは思っていたよりすごいかも」
●チャットGPT、公開
●号砲
●追い詰められたグーグル
●グーグル打倒の好機をつかんだマイクロソフト
●全世界を驚愕させた「GPT-4」公開
●アルトマン、ホワイトハウスと公聴会に召喚
●恐怖の特効薬は「情報を与えること」
CHAPTER16
CEO解任事件、衝撃の真相
●新任理事の人選をめぐる権力闘争
●相次ぐ理事の辞任
●利益相反
●たび重なる「アルトマンの嘘」
●不可解な「スタートアップ・ファンド」
●アニー、サムを告発する
●サツキヴァ―の警告「君はもっとミラと話すべきだ」
●ムラティの訴え
●積み重なるサツキヴァ―の懸念
●「彼らは信頼できるのか?」
●アルトマンの怒り
●アルトマンの「手口」
●スラックのスクリーンショット
●スパイ
●「サティアには伝えたの?」
●解任
●一瞬で広まるニュース
●社員が「アルトマン支持」に回った理由
●逆に追い詰められる軽率な理事会
●反撃
●「サツキヴァ―のクーデター」なのか
●アルトマン邸にて
●アルトマン、オフィスに現れる
●決着
CHAPTER17
さらなる難局へ
●「この時代に結婚できたことを幸運に思う」
●政治への野望
●空約束
●7兆ドル
●EA勢力によるAI規制の波
●圧倒的な資金力で政府に食い込むEA勢力
●「今は誰もが型破りになることを恐れている」
●内省
●マスク、オープンAIを提訴
●サツキヴァ―、去る
●安全性研究者たちの流出
●口止め
●her
●サツキヴァ―の危惧
●「セーフ・スーパーインテリジェンス(SSI)」設立
●「テック業界は規制されないことに慣れきっている」
●「人食い人種の王」
エピローグ
未来へ
●家族
●「AIのゴッドファーザー」の警告
●「信用できない人物が世界最強のAIを支配すべきではない」
●未来
●アルトマンの確信
偶然、NHKスペシャルでラピダスを知りました。
画像出展:「“1兆円”を託された男 ~半導体ニッポン 復活に挑む~」
『2025年7月、日本の新興メーカー・ラピダスが最先端半導体の試作に成功した。革新的なナノ構造で高性能を実現。AI社会の要になると期待されている。投入された税金は1兆円超。その量産化には日本の命運がかかる。プロジェクトを率いるのは社長・小池淳義。』
画像出展:「政府が巨額支援、ラピダス“薄氷の半導体量産化計画”。現在の進捗は“まだ1合目”
『この前日、最先端「2ナノメートル」世代の半導体の国産化を目指すラピダスに対し、経済産業省は最大で8025億円の追加支援を決定した。これで、2022年からの累計支援額は1兆7225億円に上る。』
番組は小池社長の孤軍奮闘ぶりが印象的でした。「平気かな~?」というのが直観です。なぜなら、日本は1970年~1980年代、世界シェア5割を超えていたにも関わらず、2010年には1割を切ってしまったという過去があるからです。
思うにこれはチャンレンジすることを軽視し、現状維持に胡坐をかいてしまったということだと思います。その守りの空気が入れ替わって、国と民間が高い志を共有できなければこの戦いは非常に厳しいものになるように思います。
以下のように日本では5年10兆円という話が出ていますが、
“半導体・AI分野で2030年度に向け10兆円以上の大規模公的支援”
TSMCは米国だけで1000億ドル(約15兆円)を投資するということが決定的になっています。
“TSMC、米国への1,000億ドル追加投資は台湾への投資に影響せずと説明”
この資金調達の規模とフットワーク(実行力)の良さをみても、やはり厳しい戦いだと思います。
このようなことを真剣に考えても意味のないことなのですが、とりあえずTSMCの凄さが何なのかを知りたいと思い本を買いましした。
序文
第1章 護国神山、TSMC
1.なぜTSMCは「台湾の守り神」と呼ばれるのか
2.業界トップランナーへの道
3.TSMC現象
4.護国神山たち
第2章 TSMC誕生の奇跡
1.すべては李国鼎から始まった
2.モリスによって偶然誕生したTSMC
3.台湾最大の投資
4.ファウンドリーモデルの考案者は誰か
第3章 モリス・チャンスとは何者か
1.MITとシルバニア
2.テキサス・インスツルメンツでの栄光の25年
3.実践から学ぶ―モリス・チャンの政治の知恵
第4章 TSMCの七つの競争優位性
1.制度は米国式、リーダーシップは台湾式
2.競合他社を圧倒する数の技術者チーム
3.一流かつ現実的な企業文化
4.生産技術と賃金が2大ハードル
5.21世紀型AIマーケティング
6.「全方位型」「一歩先行く」顧客サービスモデル
7.1300社からなる巨大サプライチェーン
第5章 TSMCの技術開発秘話
1.創業の壁―6インチファブからのスタート
2.TSMCとUMC
3.TSMC対インテル、そしてサムスンとの競争
4.TSMCとエヌビディア
5.ハイテク界の巨匠が語るモリス・チャンとTSMC
第6章 今後10年を展望する
1.TSMCの海外工場
2.グローバルにESGを推進する
3.今後10年で起こり得る危機
謝辞
解説
第1章 護国神山、TSMC
1.なぜTSMCは「台湾の守り神」と呼ばれるのか
●三流製品を請け負う「ローエンド・ファウンドリー」のイメージだったTSMCが脱皮したのは1998年にNVIDIAから高性能グラフィックチップの製造を受注したことによる。
●ファウンドリーは「受託製造」と言われていたため、単純な組立工程にすぎないと考えられていた。しかし、実際は数百から数千の工程があり、それぞれの工程に少しの誤差も許されない非常に厳しいものである。それゆえに、物理学、電気工学、化学、機械学の専門家で、研究開発や製造に10年以上の経験がある一流の頭脳が求められる。
●TSMCは創業3年目から30年にわたって高成長を続け、収益を拡大し世界の半導体製造者のトップになった。
●1960年代から数万人の台湾人が米国に渡って半導体産業で働き、1980~2010年に台湾に帰国し、半導体産業で成功を収めた。
2.業界トップランナーへの道
●TSMCに対抗するため、IBM、インテル、サムスン電子などがTSMCに対抗するため多額の投資を行なったが、IBMは3年で撤退。サムスン電子はiPhoneに関する競争に勝てず、インテルは7nmプロセスの歩留まり率を3年かかったが目標をクリアできず、その間、TSMCへ生産委託を決断したAMDにシェアを20%程、差をつけられた。
●2009年にCEOに復帰したモリスは様々な反対を退け、毎年100億~200億米ドルの投資を続け、生産能力において競合との差は更に広がった。
●創業以来、TSMCは人材と研究開発に莫大な投資を続けた。半導体製造に関する10万件以上の特許技術を開発した。
●モリスは市場の動向を見極める鋭い感覚を持っている。それは創業期、その後20年以上続いた急成長期、そして巨大企業になった今も、技術研鑽を決して怠らなかったためである。これにより経営トップが最新技術に対する理解不足による誤った意思決定を下すということがなかった。
3.TSMC現象
●TSMCはエリート人材の宝庫である。新卒は台湾の名門5大学の電機、電子、機械専攻の学生が大挙して押し寄せる。マネージャー、副所長、所長は世界から広く人材を募集しており、特に米国、日本、欧州に加え、インド、ロシア、中国、韓国、東欧諸国にも対象を広げている。そのため、上司が外国人、同僚の国籍がみんな違うというのはもはや日常の光景である。
第2章 TSMC誕生の奇跡
1.すべては李国鼎から始まった
●『実際、これは予期せぬ成功の物語である。
1986年7月、モリスが工研院院長に就任した当日、前任者の方賢斉からA4サイズの1枚の紙を手渡された。それは緊急事案リストで、そのトップに書かれていたのが、米国から帰国した新竹サイエンスパークで創業した半導体3社のため、ウエハー製造工場の建設を急ぐことだった。
その3社の創設者はIBM、HP、インテルなど大企業出身の華僑たちで、いずれも半導体分野に精通していた。彼らは政府の科学技術担当だった李国鼎の呼びかけに応じ、高待遇だった米国での大企業を辞して台湾に帰国し、新しくつくられた新竹サイエンスパークで起業した。だが、当時のサイエンスパークは決して恵まれた環境ではなかった。研究開発施設やオフィスなどハード面や政府による優遇措置はあったものの、人材、生産工場、ベンチャーキャピタルなどハイテク産業に必要な条件が整っていなかった。もし政府が生産工場などの問題を解決できなければ、プロジェクトは水に流れるところだった。工場を設立できなければチップは生産できず、新竹サイエンスパークの第一陣となった半導体企業は解散せざるを得ない。そうした情報が海外にいる華僑の耳に入れば、優秀な人材が現地の生活を捨てて台湾のために帰国することなど二度とないだろう。そうなれば台湾のハイテク産業の発展のためにつくられた新竹サイエンスパークは、せいぜい昔ながらの工業エリアとして利用されるのが関の山だ。もし、この時、計画が頓挫していたら、1年に5兆~6兆台湾ドルの生産額を生む現在の新竹、竹南、台中、台南、路竹のサイエンスパークの繁栄はなかった。
李国鼎と孫運濬が長年心血を注いできたプロジェクトは幻のごとく消えてしまいそうだった。2人は政府の経済・科学技術のトップだ。中でも財政部長(財務相に相当)と経済部長(経産相に相当)を歴任し、かつて蒋介石から「行政院応用技術開発グループ」の責任に任命されたこともある李国鼎は、焦りを感じていた。新竹サイエンスパークの半導体企業3社の問題を解決するには、ウエハー工場の創設しかなかった。これが工研院院長に就任した最初の月に、モリスにつきつけられた課題だった。
前任者の方賢斉はモリスに緊急事案リストを渡した際、こう伝えた。「KT(李国鼎の英語での愛称)は特にこの件を急いでいる。数日以内に話があるだろう」。方賢斉の言葉通り、数日後、モリスはKTから電話を受けた。半導体3社の創業問題の解決策を議論するため、行政院で開かれるKT主催の隔週の会議に参加せよ、というものだった。当初、3社がそれぞれウエハー工場をつくり、それを支援する案が出されていたが、政府にはそこまでの予算はない。そこで、ウエハー製造能力を有する企業を設立し、そこに3社が生産を委託するというモリスの提案を受け入れることになった。
当時、モリスは私に、この3社は当初非ロジックICをつくろうとしていたが、モリス自身は「特定用途向けロジックIC(ASIC)の生産に取り組むつもりだ」と述べていた。政府の望みは3社のためできるだけ早くウエハー工場をつくることであり、技術や製造の方向性はモリスに一任した。
ここで注目しておきたいのは、TSMCが1987年に創業した当初、技術の源泉は工研院電子研究所の6インチウエハー・ファブであり、その後、フィリップスからの技術供与もあったことだ。当時のウエハー製造技術の主流はUMCによる3μm~5μmプロセスで、民生用IC分野が主力製品だった。一方、TSMCが持つ1.5μmプロセス・月産2万枚の生産能力はややオーバースペックだった。当時、国内のIC設計企業は30社ほどで、そこから見込める発注は月に数百枚程度しかない。TSMCの製造能力を生かすには、海外市場の開拓が急務だった。TSMCの設立当初、経営陣の何人かがモリスがよく知る米国の半導体業界の外国人だった理由はここにあった。
1988年、インテルCEOのアンドリュー・グローブが訪台した際、モリスは彼を新竹サイエンスパークの工場に招待した。PC用マイクロプロセッサーチップの世界的リーダーであるインテルから注文を勝ち取りたいと考えていたからだ。天は努力する人を裏切らない。1年後、インテルが派遣した専門家チームによる200項目にわたる監査をパスし、ついにインテルからの受注に漕ぎ着けた。おかげで工場のラインはフル稼働となり、TSMCの歴史に新たな1ページが刻み込まれた。
偶然が積み重なって植えられた苗木が、のちに巨木となり花を咲かせた。その大樹は、台湾という技術の島を守っているのである。』
3.台湾最大の投資
●TSMCの投資額が巨額だったため、政府の出資上限は49%だった。資本金は55億台湾ドル(約272億円)の内訳は政府が27億台湾ドル(出資比率48.3%)、フィリップスの出資比率は27.5%だった(フィリップスのオプション条項の持株比率は当初の50%以上は、交渉による最大40%となった)。政府による48.3%出資は、当時の行政院長が李国鼎を全面的に支持し、与党国民党の金庫番こと中央銀行の兪国華の大きな協力があって実現したものだった。さらに、政府の財務、経済関係の閣僚や幹部はすべてKT[李国鼎]の息がかかった者であったことが大きく、彼らはこれが台湾にとって非常に重要な政策投資であることを認識し、支援するために最善を尽くした。この結果、政府および党からの出資分は特に大きな問題はなかった。
●民間からの出資は大きな課題として立ちはだかったが、フィリップスの27.5%に加え、兪国華と李国鼎からの強い働きかけによって、民間企業と党営企業から合計24.2%の出資金を集めることができ、TSMCの設立の道が開けた。
●モリスは台湾政府が半導体産業の振興で大きな役割を果たしていることを常に称賛している。それは、工研院の設立による半導体技術の開発の指導から人材育成、サイエンスパークにおける土地、工場、働きやすい労働環境の提供、そして税制措置まで、これらの政策が台湾半導体産業を成功に導いたと述べている。
第3章 モリス・チャンスとは何者か
2.テキサス・インスツルメンツでの栄光の25年
●米国で様々な経験を積んだモリスは、台湾に帰国するや否や李国鼎からTMSCという新プロジェクトを任せられると、すぐに力を発揮した。これが台湾の繫栄と世界トップクラスの半導体開発の成功を導く鍵となった。1985年、もし、李国鼎がIBMやインテルという米国企業から3人組を台湾に呼び戻し、新竹サイエンスパークで事業を立ち上げるように仕向けなければ、そして、彼らが政府に半導体製造工場の建設を熱望しなければ、現在の台湾における半導体産業の成功はなかった。さらに、1970年から1980年代にかけて台湾の一流大学が数千人の理工系学生を米国の大学院に送り込み、その後、彼らが修士号や博士号を取得し、現地で半導体関連の仕事に従事したことも、1990年以降のTSMCの急成長に欠かせない要素だった。
第4章 TSMCの七つの競争優位性
2.競合他社を圧倒する数の技術者チーム
●TSMCの技術チームは、キャリア20年以上のベテラン幹部とキャリア5~10年の敏腕技術からなる約2万人の規模である。これらの技術者は世界有数のテクノロジー企業から幅広い領域のプロジェクトを受注したほか、先進国の軍事・航空・宇宙産業などから超高精度チップの製造を請け負うために訓練されてきた。彼らは、生産・研究開発部のチーフエンジニア、マネージャー、シニアマネージャー、部長、副所長と昇進して中堅幹部となり、多種多様な問題解決能力を身につけた。この数千人規模の熟練幹部たちがキャリア10年以上のベテラン技術者2万人を率いており、この技術部門の人材こそがTSMCの最大の武器となっている。
4.一流かつ現実的な企業文化
●TSMCの4つのコアバリューを掲げている。
①常に誠実であること(Integrity)
②コミットメント(Commitment)
③イノベーション(Innovation)
④顧客の信頼(Custmer Trust)
この4つのコアバリューを実践するには、あらゆる角度から議論し、どんなことをすべきなのか具体的に定めなければならない。さらにその方法を継続的に運用し、修正と試行を繰り返すことで企業文化として定着しやがて制度となる。
●制度導入の初期段階では、その制度をトップが尊重し、堅持することが重要である。モリスはTSMCの創業前、米国の三つの企業で経験を積んだ。特にTIでの25年間では、20人程の技術者チームのリーダーから、3000人を率いる副社長まで務めた。彼は半導体企業の競争力が、コーポレートガバナンスや企業文化の質によって決まることを目の当たりにしてきた。そのため、TSMCの経営が安定し、2000年前後に成長期に入ると、モリスはコーポレートガバナンスと企業文化に多くの時間を費やし、進化させていった。
①常に誠実であること(Integrity)
◇“私たちは、真実のみを語る”
◇“私たちは、なし得ないことを誇張しない”
◇“私たちは、お客様に対し、安易にコミットしない。けれども、一度コミットしたことには、どんな犠牲を払ってでも最後までやり遂げる”
◇“私たちは、法の範囲内で同業他社と最大限競争し、他社を誹謗中傷することなく、他社の知的財産権を尊重する”
◇“私たちは、客観的で公正、公平な方法でサプライヤーを選定し、協力する”
◇“私たちは、従業員の不正行為や、派閥などによる「社内政治」を許さない。私たちが人材を採用する際に最も重視する基準は人柄と才能であり、縁故による採用しない”
●「常に誠実であること」について、これほど具体的な踏み込んで説明している例は、国内外の大企業を見ても珍しい。特にモリスが避けたかったことは、縁故や派閥による不公平な評価である。優秀な人材が不合理な理由で昇進できず会社を去ってしまうという事態をなくしたいと考えていた。
②コミットメント
◇“コミットメントとは双方向のものだ”
◇“従業員は全力で会社に忠誠を尽くし、「会社の成功は、自分の成功」の精神で、勤勉かつ誠実に仕事に取り組む”
◇“会社は従業員を最も大切な資産と見なし、有意義でやりがいがある仕事、安全な職場環境、十分な報酬と充実した福利厚生を提供する。また、仕事以外の家族や友人関係、趣味を広げ、豊かな人生を送れるようサポートする”
◇“私たちは、株主、顧客、サプライヤー、地域社会、その他のステークホルダーに対するコミットメントを守り、各関係者の利益のバランスをとるよう努める“
◇“株主が平均以上の投資リターンを得られるようにする。顧客やサプライヤーと全面的に協力して、長期的なウィン・ウィンの関係を築く。良き企業市民として、地域社会をよりよくするための努力を惜しまない”
●このような理念は、CEOや会長がリーダーシップを取り、功績のすべてのものになる米国の大企業とは大きく異なる。
[誠実・正直であり続けること]
-TSMCが「人による支配」ではなく「制度によるガバナンス」を成功させたことが、他の99%の台湾企業と完全に異なる点である。
-「制度によるガバナンス」を実現できた理由は、数十年にわたる観察と分析から具体的かつ明確に判明している。台湾企業では幹部の親族や同郷、出身大学などの関係が重視され、派閥やグループが形成されやすい。どんな企業にも程度の差こそあれ社内政治は存在し、根絶は非常に難しい。そうした組織風土は、不公平な人事や報酬を生み出しやすい。この不合理は企業のリソースを浪費するだけでなく、経営目標が不明確になり、競争力の低下を招く。たとえ企業がある強みを生かして成長し、好業績を上げられるようになっても、意欲の高い人材が排除され、内部対立が発生すれば、従業員は大きな不公平感と不満を抱える。これは放置できない問題である。
[「ファウンドリー事業」に徹する]
-これはモリスが長年、従業員に再三伝えている言葉である。
-『我々の事業は、専業のファウンドリー・サービスだ。この分野は急成長しており、研究開発に全力を注いでいけば、成長に限界はない。だからこそ私たちはファウンドリー事業に徹して最大の成功を追求する』
[チャレンジと楽しさがある職場環境]
-TMSCでは、チャレンジができ、学びがあり、そして楽しさがある職場環境は、金銭報酬より重要だと考えている。また、優秀で志の高い人材を確保するため、全員が力を合わせてこうした環境をつくり維持していく。
5.生産技術と賃金が2大ハードル
●TMSCは優位性を維持するため、生産技術、資金、サプライチェーンの三つに注目している。
●生産能力とプロセス技術は一心同体である。プロセス技術が整って初めて、生産性を爆発的に高めることができる。
●『半導体技術の進歩は非常に速い。モリスは彼の自伝の中で、TIに入社した当初、配属先のリーダーのプロ意識に感心したが、10年後も彼の技術的な考え方は変わっておらず、そのせいで大きな後れをとっていたと振り返っている。この教訓から、モリスは78歳でCEOに復帰した後も、技術トレンドに乗り遅れて経営判断を誤らないように、毎週、半導体の技術開発に関する記事や社内でとりまとめた資料を読み続けた。』
●『2021年3月末、TSMCの上層部は工場の新設・拡張のため今後10年間で2000億米ドルを投資すると発表した。生産能力を現在の倍にして、競合を突き放す狙いがある。TSMCではこの目標を達成するため、用地取得、電力供給や水資源の確保、人材育成などで先手を打つべく、様々な行動計画を打ち出している。』
画像出展:「台湾TSMC、米国で1000億ドル追加投資-先端半導体の生産体制強化」(Bloomberg)
『トランプ米大統領は3日、台湾積体電路製造(TSMC)が米工場に1000億ドル(約15兆円)を追加投資する計画を発表した。』
5.21世紀型AIマーケティング
●TSMCは2012年頃から、顧客サービスの将来を見据えて「AIマーケティング・見積価格設定システム」の構築を始めた。この巨大データベースには半導体産業の技術、市場、特許、関連業界、個別企業の経営状況などに関するデータが蓄積、常時更新される。AIの深層学習とアルゴリズムを活用したシステム、TSMCにとって競合他社との差を広げるためのツールである。特に価格設定システムは、チップ製造の受託を一製品として見積もるのではなく、業界全体の環境(研究開発のレベル、収益性、競合分析、市場規模と成長性、技術進化の動向など)を評価し、製品の成長段階や市場におけるポジションなど幅広い要因に応じて柔軟に価格を変化させる、AIを活用したダイナミック・プライシングを実現する。そのため、TSMCには「価格設定システム」を担当する副社長を責任者とする専門部署が設けられている。
解説
[ラピダスはTSMCのライバルとなるか]
●『今や最先端半導体を独占的に生産するTSMCだが、かつて半導体王国であり、グローバルシェアの半分を握っていた日本は、その半導体の栄光を取り戻すべく、大きな政策転換を遂げている。TSMCの工場を熊本に誘致するだけでなく、茨城県つくば市にある産業技術総合研究所とTSMCの共同研究機関である「TSMCジャパン3DIC研究開発センター」を設立して、後工程の3Dパッケージを研究するだけでなく、政府が3300億円を出資し、民間企業や銀行など8社の共同出資によってRapidus(ラピダス)を設立した。ラピダスは「ビヨンド2ナノ」を標榜し、最先端半導体のファウンドリーとして、日本の半導体産業を復活させる原動力にしようとしている。
『JRDCは、TSMCがクリーンルームを備えた研究開発施設として初めて台湾以外に設立した拠点で、日本のパートナー企業とともに、次世代の3次元集積化技術や高度なパッケージング技術の研究を推進しています。』
『日本ではロジック半導体の開発・製造が40nm世代で止まっています。Rapidusはこれを何世代も飛び越え、まだだれも達成していない2nm世代から始めるという非常にチャレンジングな目標を掲げています。』
このラピダスが成功するかどうかは時がたたなければ判断できないが、気になる点は、現代の半導体製造において不可欠な、巨額の設備投資を継続して行うだけの資本がどこから出るのかという点と、先端半導体を開発するための人材が十分に存在するかという点だ。
本書でも述べられているように、TSMCの成功には様々な要素があるが、ファウンドリーというビジネスモデルを支えてきたのは、政府からの出資だけでなく、収益性の高い製品から生まれる利益を投資に注ぎ込み、他のライバルが追いつかないほど設備投資を繰り返したことにある。ラピダスがTSMCのライバルとして勝ち抜くためには、同様の設備投資を続けなければならないが、果たしてそれが可能なのかどうかは疑問が残る。
また、TSMCの成功のカギは歩留まりの高さであったことは本書からも明らかだが、そうした歩留まり率を高めるためのノウハウは、いくら博士号を持った人材をそろえても得られるものではない。様々な半導体製造を経験し、現場で問題を解決する能力があるかどうかが勝敗を分ける。TSMCは台湾の中小企業によるOEM文化の中で育った企業であり、町工場における改良・改善のノウハウを持っていたからこそ、高い歩留まり率を実現できた。日本において、先端半導体の製造を支えるノウハウがあるわけではなく、それを身につけていくためには、他の半導体産業でのノウハウを蓄積した人材が必要となってくる。そうしたことが可能なのかどうかにも注目しておく必要があるだろう。』
感想
5年10兆円の巨大プロジェクトはオールジャパンの国家プロジェクトだと思います。台湾の半導体産業は明らかに国家レベルで進められ花開きました。キーワードは資金と人材(技術)です。
私が営業で経験したプロジェクトは、比較にならない小さな小さなプロジェクトばかりですが、プロジェクトの成否のカギは、「人・物・金を動かす客観的かつブレないリーダーシップ」に掛かっていることは確かだと思います。また、“競合&協業“というあり方も考えた方が良いと思いました。
追記(2025年11月26日):”ラピダス、世界最先端1.4ナノ半導体新工場 29年稼働でTSMCを追う”
AIの進化はGPUなどの半導体を指数関数的に増加させるため、TSMCに集中している状況の逼迫が、早ければ2026年後半にも電力供給問題とともに顕在化されるという予想もあります。ラピダスがその受け皿になれれば、世界の半導体需要に大きく貢献できると思います。
(記事の全文は有料です)
第2章 どんなサービスがあるの?
◆お金を使う(決済)②
●作るのも、使うのも、お金の管理も簡単。若者に人気の「プリペイドカード決済」
・Suica、PASMOなど
◆お金を使う(決済)③
●売り手と買い手の利便性がともにアップ。スマホ1つで支払いができる「モバイル決済」
・PayPay、楽天ペイ、d払いなど
◆お金を使う(送金)①
●スカイプの技術を送金サービスに応用。為替手数料いらずで低コストの「海外送金」
・WISEなど
◆お金を使う(送金)②
●登録した「友人」に即入金できる。細かいお金のやり取りに使える「個人間送金」
・アカウント同士でお金のやり取り。業者形態によって特徴が異なる。
1)資金移動業者(事前にしっかり本人確認)・・・LINE Payなど
2)銀行業者(SNSと連携した口座へ送金)・・・楽天銀行など
3)前払い式支払い手段発行業者(受け取り側は現金化できない)・・・PayPay、楽天ペイなど
4)電子決済等代行業者(顧客と銀行を仲介する存在)・・・Money Tapなど
◆お金を借りる(融資)②
●今まで融資を受けられなかった層にもチャンスを。貸し手と借り手をつなぐ「ソーシャルレンディング」
・新しい与信判断で融資を受けられる人が広がった。
◆お金を増やす(投資)
●自分に最適のプランを提案してくれる資産運用の強い味方「ロボアドバイザー」
・ロボアドバイザーの仕組み
1)情報取集(投資に対する質問に回答)
2)ポートフォリオ作成(情報を分析し、ポートフォリオを作成)
3)金融商品の提供(ポートフォリオに沿った金融商品を提供)
例)
・トラノコ
◆お金を管理する①
●レシートを撮影するだけでOK。家計を自動で管理することができる「PFM」
例)
◆お金を管理する②
●知らない間にお金を貯められる!?ユニークな発想で楽しめる「自動貯金アプリ」
・ユニークなルール設定で楽しく貯められる (貯金アプリ「フィンビー」のルール例)
1)おつり貯金(支払い時の差額を貯める)
2)シェア貯金(複数人で目的のために貯める)
3)歩数貯金(歩数条件に応じて貯まる)
◆金融機関向けのサービス
●本人確認から利用者とのやり取りまで。膨大な業務をテクノロジーで支援する
例)
・TRUSTDOCK(デジタル身分証アプリ)
・iYell(金融機関の住宅ローン事業を支援するサービス)
◆新しいサービス①
●パソコン、インターネットに続くイノベーション。発行者も管理者もいない新しい通貨「仮想通貨」
・2024年時点で、世界中で流通している仮想通貨の種類は20,000種類を超えており、ビットコイン以外も含めて、日々新しい仮想通貨が登場し続けています。
・米国では「安全性と成長力を両立させた新たな“デジタル・ドルエコシステム”づくり」の方針が出ています。
◆新しいサービス②
●給料や代金支払いをよりフレキシブルに。若者に人気の「前払い・後払い」サービス
例)
・Payme(給与の一部を最短即日払いで受け取れる)
・NP後払い(様々な通信販売で利用できる後払いサービス)
◆金融を超えるフィンテック①
●健康促進からマーケティングまで。IT技術で革新を起こす「保険テック(インステック)」
・ヘルスケアの例
1)ウェアラブル端末の情報から健康状態を評価、予測して保険料に反映
2)保険契約者の健康促進のための健康診断サービスなどを提供
・保険の引き受けの例
1)保険の引き受けの判断材料の処理をAIがサポート
2)コールセンターでの回答にAIを活用
・マーケティングの例
1)顧客データと公的機関のデータを掛け合わせてマーケティングに活かす
2)ビッグデータの解析結果を保険料に反映
◆金融を超えるフィンテック②
●これからITが必要になる業界。不動産に関わる課題を解決する「不動産テック(プロップテック)」
・オンラインでの内見疑似体験などを利用することでより質の高い情報を提供できる。
・悪質業者情報を共有することにより不動産取引の透明性が増し、安心感が生まれる。
・売り手と買い手が直接つながる機会が生まれる。
・価格査定や売却物件の予測情報の精度が上がる。
・潜在的なニーズに目が向けられるようになる。
例)
・RENOSY(不動産売買等に関するサービス)
・OHEYAGO(セルフ内見やオンライン申し込みなどができる不動産賃貸サイト)
第3章 これから何が起こるの?
●知らぬ間にサービスを利用していることも。知識や判断力が、損得を決める時代に
・金融は「黒子」のような存在と言われているが、フィンテックの普及によって金融は生活のなかにますます黒子的入っていくと考えられる。今までは金融サービスを比較し選択していたが、これからはそのようなプロセスを経ないで自動的にサービスが適用されるようになるだろう。
・金融の知識(リテラシー)の有無が貧富の差につながる可能性が大きい。
・フィンテックの普及に伴い、それに便乗した詐欺が増えたり、情報が漏洩しやすくなったりする。
◆社会はどう変わる?①
●銀行は、金融業からサービス業へ。顧客視点に立った改革はますます進む
・フィンテックの普及で最も影響を受けているのは銀行である。
・システム部門が主導して、新たなフィンテック企業の発掘や他業者との連携といったイノベーションを推進
・資本提携やグループ化によるフィンテック企業の囲い込み
・銀行口座とフィンテックサービスをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)で連携させる。
◆社会はどう変わる?②
●証券会社からカード会社、ITベンダーまで。金融業界の仕事は大きく変化する
・証券会社:ブローカ業務にとっては脅威に、ディーラー業務ではデータ収集や分析で支援を受けることもある。
・クレジットカード業界:業務の効率化や利用明細のリアルタイム配信によりセキュリティコストを削減。
・ITベンダーが金融機関とフィンテック企業を繋ぐ役割をはたす。
画像出展:「セゾンテクノロジー、データ連携ビジネスが拡大」
セゾンテクノロジーはクレディセゾンが46.84%の株を保有している企業でHUFTというファイル転送・データ連携ミドルウェアは国内約80%のシェアです。このような金融系ITベンダーがフィンテックの鍵を握っていると思います。
◆社会はどう変わる?③
●ケータリングから民泊まで。「実体を扱う事業会社」が金融を展開
例)
Airbnb(部屋を貸す人向けにローンを提案したり、独自の電子マネーを発行したりする)
◆生活はどう変わる?②
●気づかないうちに始まっていた!?金融サービスはより「黒子的」な存在に
画像出展:「押さえておきたいエンベデッドファイナンス。注目を集める新たなFinTechの潮流と仕組み」
『「自分たちが消費者に直接金融サービスを提供するわけではなく、そのようなサービスを提供したいと考えている事業者の黒子として、裏側で必要な仕組みを提供する」プレーヤーが注目を集め始めています。』
◆生活はどう変わる?②
●学べば学ぶほど、得する世界。「お金の教育」が義務化されるのも近い
・フィンテックが普及すると、より多くの人がバリュエーション豊かな金融サービスを利用できるようになるため、状況に応じて最適なサービスを適切に選ぶためには、お金や金融に関する知識や判断力(金融リテラシー)を身につけることが大切である。
◆生活はどう変わる?④
●増える詐欺や、情報流出。情報リテラシーを身につけよう
・情報リテラシーを高めるための方策
1)迷惑メールなどのウィルス対策を万全にする
2)IDやパスワードの使い回しは避ける
3)SNSなどでの個人情報発信を慎重に行う
4)新しいサービスや業者は事前に信頼性を確認する
第4章 フィンテックを支えるキーテクノロジー
●テクノロジーの大幅な進化がフィンテックの誕生と発展を支えてきた
画像出展:「ITは加速しながら新たなステージへ」
AIは第二の情報革命ともいわれています。
画像出展:「新たなキーワードはシームレス。銀行・保険・証券の相互乗り入れで新サービスが加速する」
『FintechはFinanceとTechnologyを掛け合わせた造語で、既存の金融の機能と新しいテクノロジーを組み合わせて新しいサービスを作っていこうというムーブメントを支えています。』
感想
「フィンテックは価値や富を自由に、安く移動できるようにする」というのが最も端的な説明ではないかと思います。圧倒的な利便性が進む一方で、“エンベデッドファイナンス”のように金融サービスの黒子化は進んでいます。特に潜在的なリスクを含め、安全とリスクの現状をどのように把握するのが良いのか、AI(Perplexity)に質問してみました。この課題はずっと続くものだと思います。
とある理由でフィンテックを少々勉強する必要があり、1冊の本を購入することにしました。
ITでお金はもっと身近になる
フィンテックって何? 理解するための7つのキーワード
第1章 フィンテックはなぜ生まれたの?
●海外で生まれ、人気のフィンテックサービス。日本は遅れているって本当?
◆フィンテックはどこで生まれたか?①
●インターネットサービスの普及に伴い、新しい金融サービスが次々に誕生
◆フィンテックはどこで生まれたか?②
●大手金融機関が破綻したことで、人々の“金融機関離れ”がさらに進んだ
◆フィンテックはどこで生まれたか?③
●スマートフォンの使用者が増え、サービスの提供・利用がしやすくなった
◆フィンテックは今どこにいる?①
●ステージ1:すでにあった金融サービスがIT技術でより便利になった
◆フィンテックは今どこにいる?②
●ステージ2:これまで存在しなかったあたらしい金融サービスが登場した
◆フィンテックは今どこにいる?③
●ステージ3:大きなIT企業やテクノロジー企業が、独自の金融サービスを始めた
◆フィンテックは今どこにいる?④
●ステージ4:建設業や不動産業など、規制の厳しい他業界まで波及
◆日本のフィンテックはどうなっている①
●日本では、現状の金融サービスが充実。新しいサービスはゆっくり広まる
◆日本のフィンテックはどうなっている②
●金融機関とIT企業が手を取り合って、より便利なサービスを作り出している
◆日本のフィンテックはどうなっている③
●フィンテックの普及に向け、法改正も。これからの発展が期待されている
1分でわかる! 第1章のおさらい
第2章 どんなサービスがあるの?
お金を使ったり、借りたい、管理したり。様々な分野でサービスが展開されている。
◆お金を使う(決済)①
●ネットショップでのやり取りに欠かせない。売り手と買い手をつなぐ「オンライン決済」
◆お金を使う(決済)②
●作るのも、使うのも、お金の管理も簡単。若者に人気の「プリペイドカード決済」
◆お金を使う(決済)③
●売り手と買い手の利便性がともにアップ。スマホ1つで支払いができる「モバイル決済」
◆お金を使う(送金)①
●スカイプの技術を送金サービスに応用。為替手数料いらずで低コストの「海外送金」
◆お金を使う(送金)②
●登録した「友人」に即入金できる。細かいお金のやり取りに使える「個人間送金」
◆お金を借りる(融資)①
●会ったこともない人が支援者になる。夢のスタートを支える「クラウドファンディング」
◆お金を借りる(融資)②
●今まで融資を受けられなかった層にもチャンスを。貸し手と借り手をつなぐ「ソーシャルレンディング」
◆お金を増やす(投資)
●自分に最適のプランを提案してくれる資産運用の強い味方「ロボアドバイザー」
◆お金を管理する①
●レシートを撮影するだけでOK。家計を自動で管理することができる「PFM」
◆お金を管理する②
●知らない間にお金を貯められる!?ユニークな発想で楽しめる「自動貯金アプリ」
◆お金を管理する③
●中小企業の会計情報を、見える化。経理業務の効率アップする「クラウド会計」
◆お金を管理する④
●従業員も会社も、業務効率アップ。「クラウド型経費精算サービス」
◆金融機関向けのサービス
●本人確認から利用者とのやり取りまで。膨大な業務をテクノロジーで支援する
◆新しいサービス①
●パソコン、インターネットに続くイノベーション。発行者も管理者もいない新しい通貨「仮想通貨」
◆新しいサービス②
●給料や代金支払いをよりフレキシブルに。若者に人気の「前払い・後払い」サービス
◆金融を超えるフィンテック①
●健康促進からマーケティングまで。IT技術で革新を起こす「保険テック(インステック)」
◆金融を超えるフィンテック②
●これからITが必要になる業界。不動産に関わる課題を解決する「不動産テック(プロップテック)」
1分でわかる! 第2章のおさらい
第3章 これから何は起こるの?
●知らぬ間にサービスを利用していることも。知識や判断力が、損得を決める時代に
◆社会はどう変わる?①
●銀行は、金融業からサービス業へ。顧客視点に立った改革はますます進む
◆社会はどう変わる?②
●証券会社からカード会社、ITベンダーまで。金融業界の仕事は大きく変化する
◆社会はどう変わる?③
●ケータリングから民泊まで。「実体を扱う事業会社」が金融を展開
◆生活はどう変わる?①
●未来では、「データのお金」が現金と同じくらい大切なものになる
◆生活はどう変わる?②
●気づかないうちに始まっていた!?金融サービスはより「黒子的」な存在に
◆生活はどう変わる?②
●学べば学ぶほど、得する世界。「お金の教育」が義務化されるのも近い
◆生活はどう変わる?④
●増える詐欺や、情報流出。情報リテラシーを身につけよう
1分でわかる! 第3章のおさらい
第4章 フィンテックを支えるキーテクノロジー
●テクノロジーの大幅な進化がフィンテックの誕生と発展を支えてきた
◆モバイル
●フィンテックサービスの利用にも発展にも欠かせない存在
◆クラウド①
●“雲の向こう”で作られたサービスをいつでも好きなだけ利用できる
◆クラウド②
●新しいフィンテテック企業が新サービスを開発・運用しやすくなった
◆ビッグデータ①
●膨大な情報を集めて解析することで新たなサービスが生まれる
◆ビッグデータ②
●個人情報の収集や活用は、金融サービスの発展に不可欠なもの
◆AI(人工知能)①
●限りなく人間に近い存在になった。状況判断や意思決定ができる人工知能
◆AI(人工知能)②
●人より精度の高い分析ができる。融資や投資の分野で人工知能が活躍
◆API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)①
●1つの入り口から複数のサービスを使うには企業と企業の「連繋」が欠かせない
◆API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)②
●API公開にはメリット、デメリットがある。どこまで連繋を許すかはこれからの課題
◆ブロックチェーン①
●全ての取引記録が1本の鎖に。改ざんも不正もできない分散型台帳
◆ブロックチェーン②
●世界中にいるたくさんのマイナーたちが、ブロックをつなぎ、報酬をもらっている。
◆IoT
●あらゆるモノがネットにつながりより多くの情報が集められるようになる
◆デザイン(UIとUX)
●サイトの見やすさ、わかりやすさは、フィンテックサービスの大きな強み
1分でわかる! 第4章のおさらい
キャッシュレス決済が普及。今、フィンテックの「入り口」に
ITでお金はもっと身近になる
フィンテックって何? 理解するための7つのキーワード
●IT技術で便利になった金融サービス
・フィンテックは「金融=Finance」と「IT技術=Technology」を掛け合わせた造語、IT技術を駆使した金融サービスのことである。
・注目されるようになった金融機関以外のベンチャー企業やスタートアップが金融サービスを提供し始めたため。
●金融危機で発展し、技術の進歩で加速
・リーマンショックで優秀なIT技術者が金融業界を離れ、ベンチャー企業やスタートアップに移って、新しい金融サービスを始めた。
・IT技術の進歩により加速的に発展した。
●金融・情報リテラシー
・自分のお金や個人情報は自分の力で守る意識を持つことが必要
・フィンテックが発展すると個人情報の流出や詐欺のリスクが高まる。
ご参考:“フィンテック時代に必要な金融知識は何か?”
第1章 フィンテックはなぜ生まれたの?
◆フィンテックはどこで生まれたか?①
●インターネットサービスの普及に伴い、新しい金融サービスが次々に誕生
・1998年に誕生したオンライン決済のPayPalがフィンテックの先駆けと言われている。
画像出展:「PayPal戦争と今日の起業家への教訓」
PayPalの創業メンバーはPayPalマフィアと呼ばれています。その中でもイーロン・マスクとピーター・ティールが有名です。PayPalマフィアが注目されているのは、PayPal在籍後、YouTube、LinkedIn、 Tesla、 SpaceX、Palantir、 Yelpなど世界的なテック企業を次々と創業し、また、投資家として新興企業を強力に支援したためです。
・金融機関が担っていた“決済”・“融資”・“送金”・“投資”が規制緩和やIT技術の進歩によって細分化され、専門的に行うサービスが誕生した。
◆フィンテックは今どこにいる?②
●ステージ2:これまで存在しなかったあたらしい金融サービスが登場した
・いろいろな悩みをITで解決
1)割り勘は面倒・・・割り勘アプリ(小銭不要)
2)貯金をしたい・・・自動貯金アプリ(知らない間に貯蓄できる)
3)銀行を通さないでお金のやり取り・・・仮想通貨(国や銀行が関わらない)
4)毎月の高額の保険料は大変・・・わりかん保険(保険金を割り勘にする)
◆フィンテックは今どこにいる?③
●ステージ3:大きなIT企業やテクノロジー企業が、独自の金融サービスを始めた
・ベンチャー企業やスタートアップだけでなく、AmazonやMeta(Facebook)が大規模な顧客基盤を背景に参入。
2014年2月から開始されたもので、Amazonのマーケットプレイスに参加している法人販売事業者を対象に行なっている融資サービス。Amazonレンディングには通常の融資では考えられない数多くの個性的な特徴がある。
◆フィンテックは今どこにいる?④
●ステージ4:建設業や不動産業など、規制の厳しい他業界まで波及
1)医療・・・MedTech(ヘルスデータの連繋で医師と患者をつなぐ)
2)建設・・・ConTech(現場と職人のマッチング)
3)保険・・・InsTech(企画から提案、販売までオンライン)
4)不動産・・・PropTcch(物件の売買・契約の他、民泊サービスなど)
あらゆる業種において支払い・請求というお金の流れが存在する。これらはフィンテック関わってくる。
◆日本のフィンテックはどうなっている①
●日本では、現状の金融サービスが充実。新しいサービスはゆっくり広まる
・普及しづらい4つの理由
1)教育や経済状況などの水準が揃っている
2)規制が厳しく言語対応に時間がかかる
3)現状でも便利なのでニーズに乏しい
4)サービスに対して求めるレベルが高い
◆日本のフィンテックはどうなっている②
●金融機関とIT企業が手を取り合って、より便利なサービスを作り出している
・脅威から協業路線へ。互いの強みを持ち寄り、より良いサービスが登場。
・金融が身近なものになり、また、仮想通貨などの新しいサービスが出てきたことにより、お金や金融を考える時代になってきた。
IT営業を25年勤め、私にとってのカリスマは“スティーブ・ジョブズ”です。他界されたのはおよそ14年前でした。
そして、第二の情報革命といわれるAIがいよいよ本格化する今、ITのカリスマは誰だろうと思いました。最初に頭に浮かんだのは“イーロン・マスク”です。一時、DOGE(米政府効率化省)のリーダーとなっていましたが、現在は代わっています。また、DOGEは内閣レベルの省庁ではなく、特別な一時的組織(USDOGE Temporary Organization)として設置されており、活動は2026年7月4日までの期限付きということです。
また、イーロン・マスクが目指している世界は、「人類の長期的な存続と進化を実現するためのテクノロジー主導の世界」とのことです。以下の表はマスクが関わっている(関わった)企業ですが、これを見ると本気だなということが分かります。
画像出展:「AI(Perplexity)が作成」
テスラについてはオプティマス(ロボット)が注目されています。
「人類の長期的な存続と進化を実現するためのテクノロジー主導の世界」というものは、あまりに巨大でピンときません。私がイメージする“カリスマ”とは少し違う気がします。
こちらの資料はAI(Perplexity)が作ったものです。これを見るとイーロン・マスクは、やはり“カリスマ”であって“ビジョナリー”ではないことは明らかです。ただ、最後に書かれたイーロン・マスクが“異色・現代型”のカリスマ“ということだとすれば、私にとってはやはり違うという印象です。
イーロン・マスクの次に頭に浮かんだのは、“マーク・ザッカーバーグ”です。個性の強烈さではイーロン・マスクにかないませんが、年齢はイーロン・マスクが51歳(1971年6月28日生)、マーク・ザッカーバーグが41歳(1984年5月14日生)と10歳の差があります。総資産の順位は1位がイーロン・マスク、ザッカーバーグは3位です(2025年9月22日時点)。
そして、ザッカーバーグが目指すものは「すべての人に“パーソナル・スーパーインテリジェンス(超知性)”を提供し、AIの恩恵を社会全体で共有する社会」ということです。私のカリスマ像に照らし合わせれば、カリスマは“マーク・ザッカーバーグ”だなと思います。
なお、NVIDIAのCEOである“ジェンスン・フアン”は、「AIの父」というイメージです。
編者:ジョージ・ビーム
訳者:今村絵里
発行:2022年11月
出版:(株)文響社
序章 マーク・ザッカーバーグの半生
PART1 船出(2002-2009)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART1
●人の下で働きたくない
●引き延ばし
●仲違い
●どん底で見つけたアイデア
●些末なこと
●人生の目標
●最終目標は金じゃない
●試行錯誤を楽しむ
●スタートアップ
●Facebookの原型
●持続可能なビジネス
●優先順位をつける
●採用条件
●簡単に逃げない
●謝罪
●長期的な視点
●理想的な働き方
●目の前の仕事に集中する
●雑音に耳をかさない
●CEOの役割
●情報の充実
●個人情報の管理
●ユーザーが主役
PART2 加速(2010-2011)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART2
●若気の至り
●成功をつかむ条件
●価値あるものを生む
●機が熟すのを待たない
●経営理念
●情報のカスタマイズ
●Facebookの基本ルール
●オープンな世界
●機能の簡素化
●社風
●目先の大金
●起業家が持つべき資質
●せっかち
●ユーザーへの感謝
●つながりをサポートする
●アイデアを拾い上げる
●職場環境
●「ソーシャル・ネットワーク」
●ハッキング
●欲望を捨てる
●コンピュータは手段にすぎない
●ソーシャルプラットフォーム
●幸運な偶然
●願い
●起業への助言
●成長できる環境
●起業
●最大のリスク
●成長の糧
●人間の欲
●自己表現のためのSNS
●簡単なことから始める
●日常の一部になる
PART3 使命(2012-2014)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART3
●初の役員会議
●イノベーションの素
●コーディングの上達
●効率の向上
●リスクを恐れない
●Facebookの真骨頂
●Facebookの役割
●1対1で話す
●社の信条
●等身大であれ
●短所と長所
●Facebookの誇り
●エンジニアの責任
●量より質
●テクノロジーの恩恵
●実名を使うSNS
●価値観
●知恵を共有する
●よいチームとは
●新たな社訓
●土台作り
●インターネットを広める
PART4 明暗(2015-2016)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART4
●孤独を打ち消す
●仕事時間
●全人類をつなげる
●広い視野
●会社員が平等
●風とおりのよい職場
●会社の存続は二の次
●クリエイティブな若者
●少年時代
●日常
●ダメ出しはいらない
●インターネットの普及
●コンテンツ共有
●育児休暇
●未来に対する責務
●次世代に伝えたいこと
●所有株の99%を寄付する
●インターネットによる救済
●自由を守る
●運用エネルギー
●ライバルは二の次
●ビジョンを実現する
●表現欲
●日常とサービス
●癖
●無料にこだわる
●コードは議論に勝る
●まずは飛び込む
●チャンスは先にある
●未来は作れる
●未来予測
●ファッション
●一歩目
●選挙への貢献
●インターネットの課題
●人工知能
PART5 原点(2017-2018)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART5
●全体の中のポジション
●人間として向き合う
●検閲はしない
●第二子
●多様性を高める
●信頼できるコンテンツ
●ひらめきよりも行動
●結果はすぐ得られる
●歩みを止めない
●人々の暮らし
●決断のポイント
●採用基準
●矜持
●格差
●日々思うこと
●問題を放置しない
●世界の課題に向き合う
●インターネットの無償化
●子どもへの思い
●信じるもの
●子どもの可能性
●VRの可能性
●必要経費
●自己研鑽
●自分の役割
●親
●情熱を持つ
●悲観を活かす
●誇れる仕事
●良質なサービス
●つながりがもたらす効果
●Facebookが果たす責任
●社会的責任
●セレクション
序章 マーク・ザッカーバーグの半生
才能を伸ばし続けた少年時代
・『マークは子どもの頃から既に生半可な知識では太刀打ちできない相手だった。父であるドクター・ザッカーバーグによれば、息子の質問に「イエス」と答えた場合には、それ以上説明する必要はなかったが、「ノー」と答えた場合にはたちまち反論にあい、言葉を尽くして理由を説明しなければならなかったという。両親は、我が子はいずれ弁護士になると思ったかもしれないが、マークの興味は別のところにあった。コンピュータサイエンスという2進数の世界だ。
幼い頃から、マークのコンピュータ好きは明らかだった。12歳の時には、Atari BASICを使ってメッセージをやり取りするソフトウェアのプログラム「Zucknet」を作り、これは自宅や父親の歯科医院でも使われた。我が子がコンピュータサイエンスに並々ならぬ関心を抱いていると気づいた両親は、ソフトウェア開発者を家庭教師として雇うとともに、近隣のマーシー大学でBASICプログラミングのクラスを受講させ、コンピュータサイエンスのカリキュラムが充実していた全寮制の名門私立高校フィリップス・エクセター・アカデミーへと転校するのを手助けした。
こうして、高校時代には、ユーザーの好みに合わせて自動的に選曲が行われる音楽再生ソフト「Synapse」を開発した。このソフトウェアに興味を示したマイクロソフトやAOLに買収を持ちかけられるが、その申し出を断り、ソフトを無料配布するまでになっていた。』
調べたところ、マーシー大学で受講していたのは、地元のアーズリー高校に通っていたときです。年齢は15歳でした。そして、2年ほど在学した時点で中退を考えたようですが、ご両親に説得され、中退ではなく転校することを決意します。転校先は、自宅から300Km離れたフィリップス・エクセター・アカデミーという卒業生の大半がハーバード大学、コロンビア大学、ケンブリッジ大学、オックスフォード大学といった名だたる名門校へ進学する超名門校でした。
※ご参考:“マーク・ザッカーバーグ”
PART1 船出(2002-2009)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART1
●人生の目標
・『クールなものを作るのがとにかく好きだし、人にあれこれ指図されたり、決められた時間内に物事をこなしたりしなくていいというのが、僕の人生の中で手にしたいと思っている贅沢なんです。
・・・利益を生み出すものをいつかこの手で作れると思います。』 2004年
●採用条件
最も重要な条件は、「地頭のよさ」とのことです。英文を見ると「地頭」は、英語では“raw intelligence”となっています。私事ですが、約50年前に通っていた母校(高校)は、「生徒の地頭は良い」との評判でした。そのため、この「地頭」という言葉は何となく気に入っていました。そもそもどういう意味か詳しく調べることはなかったのですが、今回、特に英語の“raw intelligence”の意味を知りたいと思い調べてみました。
●長期的な視点
・『僕の役目は、長期的な視点でものを作ることです。それ以外のことはじゃまでしかありません』 2007年
●CEOの役割
・『CEOの役割は基本的には2つあると思います。すなわち、会社のビジョンを設定すること、チームを作ることです。僕たちはビジョンを定め、今まさに実行しているところなんです。4年前に創業したばかりなので、しなければならないことはまだ山ほどありますね。
中でも、チーム作りは本当に重要です。チーム作りには多くの時間を割いて懸命に取り組んでいます。』 2008年
PART2 加速(2010-2011)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART2
●起業家が持つべき資質
・『[よい起業家・CEOに必要な資質の]1つは、自分のやりたいことをしっかりとわきまえていることです。なぜなら仕事をしていると煩わしいことが次々と出てくるので、自分のやりたいことを100%把握していないとあらぬ方向へ行ってしまうからです。自分のやりたいことを把握し、しっかりと胸に刻んでおくこと。これが第一ですね。
第二は、よいチームを作ることです。このことに僕は膨大な時間を費やしています。製品作りに携わっていない時には―僕はチームと一緒に製品作りに取り組んでいるのですが―本当に優れたエンジニアリング部門のトップや、最高のハッカーやエンジニア、もの作りをしたい人々を集めることから、これから取り組むことを正確に伝え、全社員に計画の内容をしっかりと理解させることのできる製品部門のトップ、そして[FacebookのCOO]であるシェリル[・サンドバーグ]のようなビジネスに非常に長けた人材に至るまで、組織の隅々まで目を配ってチーム作りを行なっています。
・・・僕が会社を経営すべきか否か? もし僕がいなくなっても、舵取りは問題ないでしょう。自分の仕事をきちんと分かっていて、優れたスタッフがいれば、その時点で大成功なのです。』 2010年
ハッカーというと犯罪のイメージが強いと思いますが、米国ではハッカーとは、本来はコンピュータやネットワーク、暗号技術、プログラム解析など高度な技術を持つ技術者を指す言葉とのことです。
●ソーシャルプラットフォーム
・『これからの5年間は、ソーシャルプラットフォームを作り上げる時間になると思っています。
柱となる考えは、ほとんどのアプリケーションが今後ソーシャル化し、大多数の産業はソーシャルデザインや友人との共同作業を中心とした仕組みに見直されるということです。』 2010年
PART3 使命(2012-2014)
マーク・ザッカーバーグの歩み PART3
●よいチームとは
・『僕が思うよいチームとは、チームとして集まった時のほうが、個々でいる時よりもよい決断を下せる集団のことです。』 2013年
●新たな社訓
・『我が社の社訓を、「素早く行動し、破壊せよ」から「土台を固めた上で、素早く行動せよ」に変更しました。』 2014年
日本語にすると、強い表現だなと思います。原文は、We’ve changed our internal motto from “Move fast and break things” to “Move fast with stable infrastructure”.です。共通しているのは“Move fast”です。ちなみにモットー(motto)が英語であったことを初めて知りました。調べたところ明治時代に入ってきた言葉だそうです。
感想
「何故、カリスマになれたのだろう?」というのが疑問でした。
12歳の時にメッセージをやり取りするプログラムを作ったというのは明らかに天才少年です。しかし、世界規模で見渡せば、同じような天才はいると思います。
次に思ったことは、ご両親の理解と支援です。「ソフトウェア開発者を家庭教師として雇うとともに、近隣のマーシー大学でBASICプログラミングのクラスを受講させた」とあります。調べたところ、地元のアーズリー高校時代(15歳)の時の話のようです。高校に希望が見出せず中退しようとしたザッカーバーグに対し、ご両親は全寮制の名門私立高校フィリップス・エクセター・アカデミーへと転校を勧めます。
「やはり、裕福だったのが大きな要因だったのかな?」と思い、フィリップス・エクセター・アカデミーを調べてみました。そこには色々な発見と驚きがありました。
画像出展:「フィリップス・エクセター・アカデミー①」 こちらが高校のホームページのトップページです。
画像出展:「フィリップス・エクセター・アカデミー②」 最初の驚きは『入学選考に、ご家庭の経済状況には一切関係ありません』という掲示です。
画像出展:「フィリップス・エクセター・アカデミー③」 「本当かな?」と思って調べると、『年収$125,000(1ドル150円換算で約1875万円)未満の家庭は授業料が無料です。』となっていました。
(下の方に出ています)
画像出展:「フィリップス・エクセター・アカデミー④」 日本の私立の超進学校を想像し、「もっぱら勉強なのかな~?」と思って調べると、運動施設の充実には物凄いものがありました。運動以外の施設も充実しており、「とてもかなわない!」という感じです。
画像出展:「フィリップス・エクセター・アカデミー⑤」 日本では東京大学や京都大学を目指すためという印象ですが、エクセターには450以上の学術コースがあります。ハークネス教育アプローチとは楕円形等の「ハークネステーブル」を囲み、教師と生徒が対等な立場で自由に対話を重ねながら学ぶディスカッション型の教育法だそうです。
日本の高校は総じて、大学に“入るため”の勉強を教えるところという感じですが、米国のフィリップス・エクセター・アカデミーをみると、米国を引っ張っていくリーダーを育てること。そして、“大学で更に専門的に学ぶため”に実体験を通して、何を専攻しどこの大学に進学するのが自分にとって1番の選択かを判断できるようにするという感じです。
単純に、“カリスマ(特にビジネスや政治)”が出現するような土壌として両国の教育を比べるならば、圧倒的に米国の方が可能性は高いと思います。
脱線しますが、スポーツの世界に限ってみれば、幼少の頃から学びを求めて世界に出ていくケースもみられます。日本代表で活躍されている久保建英選手がスペインのバルセロナの下部組織(カンテラ)に入団したのは9歳です。そしてスペインに渡って育成を受けていました。国内ではJリーグが発足し最年少出場記録は15歳7ヶ月(高校1年生)です。若くして日本のトップリーグでプレーすることも夢ではなく、さらに、そこから世界への道も見えてきます。
ザッカーバーグが「何故、カリスマと言われるようになったのか」の理由の一つめは、ご両親の理解と米国の自由で深い教育システム(育成の在り方)にあったと思います。
二つめの理由は、ザッカーバーグの目標が“お金“ではなく、“自分の理想の実現”という高いものであり、目標達成のために一切の妥協を許さなかったことだと思います(理想とする物づくりへのこだわりと志の高さ)。これは以前、ブログにアップさせて頂いた“スティーブ・ジョブズ”と“ウォルト・ディズニー”とまったく一緒です。
このように考えた具体的なエピソードは2つです。
1.高校時代に開発した音楽再生ソフト「Synapse Media Player」
ザッカーバーグは、高校時代に開発した音楽再生ソフト「Synapse Media Player」に対し、マイクロソフトやAOLから100万ドル規模の買収・出資提案を受けていました。しかし、彼はこのオファーを一貫して拒否しています。詳細は添付資料をご覧ください。
2.慈善財団「Chan Zuckerberg Initiative」の設立
最初から慈善財団を作るのが目的だったとは思えません。また、30兆円を超える資産の使い道など途方もないものだと思いますが、慈善事業に資産を使うということは、本当に素晴らしい称賛されるべきことです。
画像出展:「Facebook創業者5.5兆円寄付と資産永久防衛策の慈善財団」
『SNSフェースブックの創業者マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)と妻のプリシラ・チャン氏が1日、自身が保有する同社株の99%を、夫婦で設立する慈善財団「Chan Zuckerberg Initiative」を通じて慈善活動に寄付すると発表した。寄付する予定の株式時価は現在450億ドル(約5兆5300億円)と、個人としては過去にほとんど例がないほどの巨額になる。』
三つめの理由は、米国が失敗に寛容で正当なチャレンジであれば評価する社会だからだと思います。スポーツの世界は失敗が当たり前、目標に向かって努力と工夫と強い信念で日々の練習を積み重ねて、課題を超えていくものです。
日本の政治やビジネスの世界は、前例が重要でリスクはなるべく取りたくないという意識が一般的だと思います。少なくとも、チャレンジは評価されるどころか、煙たがれるというのが実態ではないでしょうか。(これは「チャレンジ≠勝ち馬&チャレンジ≠評価」という理由が大きいと思います)
野球の世界では“大谷翔平”という日本人のカリスマ選手が誕生しましたが、特にビジネスにおいて、日本から世界的なカリスマ経営者が生まれる可能性は、起業に対する高くない評価と忖度が根強い日本の組織の力学においてはかなり難しいように思います。
※Meta Platformsの課題
IT、特にAIの進歩はSNSなどを通じての不正利用が拡大、巧妙化する原因にもなります。以下の表は2024年、2025年にニュースになったものの一覧です。Metaに限ったことではありませんが、社会は不正利用に対する企業側の迅速かつ適切な対応を求めおり、その対応を誤ると信頼を失うという大きなリスクも抱えていると思います。
あるニュース番組でジャーナリストの木村太郎氏が、「最近、ヴァンス副大統領の存在が大きくなっている」というお話をされていました。また、ヴァンス副大統領の著書が素晴らしいと絶賛されていました。 トランプ大統領より38歳若い副大統領は、次期大統領候補であることは確実です。その意味でも木村氏が称賛された本を是非読んでみたいと思いました。
ブログに書きたいと思ったことは、「ヴァンス副大統領の人柄(生い立ち)」と「ヒルビリーと白人労働者階層」についてです。アメリカといえば、カリフォルニアとニューヨーク、西海岸と東海岸が頭に浮かびます。日本でも都会と田舎では生活など大きく異なりますが、米国の都会と田舎は裕福なエリートと貧しい労働者に色分けされていることが少なくないようです。そして、黒人、ヒスパックより白人労働者階層の人々の方がむしろ厳しい生活をしているということを知りました。「同じ白人なのに」という率直な感覚こそが、今のアメリカが抱えている大きな問題の一つなのだろうと思います。
目次
はじめに
第1章 アパラチア―貧困という故郷
崇拝すべき男たち、避けられる不都合な事実
第2章 中流に移住したヒルビリーたち
1950年代、工場とそして豊かさを求めて
第3章 追いかけてくる貧困、壊れはじめた家族
暴力、アルコール、薬物・・・・・・場違いな白人たち
第4章 スラム化する郊外
現実を見ない住民たち
第5章 家族の中の、果てのない諍い
下がる成績、不健康な子どもたち
第6章 次々と変わる父親たち
―そして、実の父親との再会
第7章 支えてくれた祖父の死
悪化する母の薬物依存、失われた逃げ場
第8章 狼に育てられる子どもたち
生徒をむしばむ家庭生活
第9章 私を変えた祖母との3年間
安定した日々、与えてくれた希望
第10章 海兵隊での日々
学習性無力感からの脱出
第11章 白人労働者がオバマを嫌う理由
オハイオ州立大学入学で見えてきたこと
第12章 イェール大学ロースクールの変わり種
エリートの世界で感じた葛藤と、自分の気質
第13章 裕福な人たちは何を持っているのか?
成功者たちの社会習慣、ルールがちがうゲーム
第14章 自分のなかの怪物との闘い
逆境的児童期体験(ACE)
第15章 何がヒルビリーを救うのか?
本当の問題は家庭内で起こっている
おわりに
はじめに
●『私の人生の背景には、「民族」という要素がひそんでいる。民族意識の強いアメリカ社会では、往々にして、肌の色のちがいをあらわす言葉―「黒人」「アジア人」「特権的白人」―が大きな意味を持つ。この分類は、ときには役に立つこともあるが、私の人生の物語を理解するには、さらに深く掘りさげて考える必要がある。
私は白人にはちがいないが、自分がアメリカ人北東部のいわゆる「WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)」に属する人間だと思ったことはない。そのかわりに、「スコッツ=アイリッシュ」の家計に属し、大学を卒業せずに労働者階層の一員として働く白人アメリカ人のひとりだと見なしている。そうした人たちにとって、貧困は、代々伝わる伝統といえる。先祖は南部の奴隷経済時代に日雇い労働者として働き、その後はシェアクロッパー(物納小作人)、続いて炭鉱労働者になった。近年では、機械工や工場労働者として生計を立てている。
アメリカ社会では、彼らは「ヒルビリー(田舎者)」「レッドネック(首すじが赤く日焼けした白人労働者)」「ホワイト・トラッシュ(白いゴミ)」と呼ばれている。
だが私にとっては、彼らは隣人であり、友人であり、家族である。
アメリカ社会において、「スコッツ=アイリッシュ」は特徴的な民族集団のひとつだ。「アメリカを旅すると、スコッツ=アイリッシュが揺るぎない地域文化を一貫して維持していることに驚かされる」と、ある著述家が書き記している。「ほかのほとんどの民族集団がその伝統を完全に放棄してしまったのに対し、スコッツ=アイリッシュは、家族構成から、宗教、政治、社会生活にいたるまで、昔のままの姿を保っている
文化的伝統をこのうえなく大切にする姿勢には、家族や地域に対する深い愛情や、いちずな献身という好ましい側面がともなう一方で、多くの好ましくない面もある。私たちスコッツ=アイリッシュは、外見にしても、行動様式にしても、話し方にしても、とにかく文化的背景が異なる人やよそ者を好まない。
これから述べる私の人生を理解するには、私が自分自身を「スコッツ=アイリッシュのヒルビリーだ」と心の底から思っていることを知っておいてもらう必要がある。
民族意識がコインの片面だとすると、もう片面は地理的環境だ。18世紀に移民として新世界にやってきたスコッツ=アイリッシュ(アイルランド島北東部のアルスター地方からアメリカに移住してきた人々のこと。
画像出展:「そこは希望の島であり、嘆きの島だった。移民の島のものがたり」
『1892年から1954年まで、1200万人を超える移民がエリス島を通過してアメリカへ入国した。超満員の船に乗り、荒波を乗り越えてきた彼らの多くは子どもたちであり、家族と共により良い人生を送るために夢を胸にアメリカの扉を叩いた。』
注)欧州から米国への移民は17世紀から始まりました。
アルスター地方にはスコットランドから移住してきたプロテスタントが多く住んでいた)は、アパラチア山脈に強く心を惹かれた。アパラチアは、南はアラバマ州やジョージア州から、北はオハイオ州やニューヨーク州の一部にかけての広大な地域だが、グレーター・アパラチア(大アパラチア)の文化は驚くほど渾然一体としている。』
●『グレーター・アパラチアが民主党の地盤から共和党の地盤へと変わったことが、ニクソン以降のアメリカ政治の方向を決めることになった。そして、白人労働者階層の将来がどこよりも見えにくいのもまた、グレーター・アパラチアなのである。社会階層間を移動する人が少ないことに加え、はびこる貧困や離婚や薬物依存症など、私の故郷はまさに苦難のただなかにある。
画像出展:「綜合的な教育支援の広場」
『「大アパラチア」といわれる地域は、最も保守的なプロテスタント教会が多く、アパラチア地方に由来を持ちます。北アイルランド、イングランド北部、スコットランドのローランド地方といった国境紛争で荒廃した地域から来た入植者たちが築いた所で、「レッドネック」と呼ばれる白人の肉体労働者たちが住む土地です。』
したがって、私たちが悲観的になるのも当然といえる。驚嘆すべきは、さまざまな世論調査の結果、アメリカで最も厭世的傾向にある社会集団は白人労働者階層だという点である。
大半が想像を絶する貧困に苦しんでいるラテン系の移住者と比べても、また、物質的な面での成功の見通しという点で白人に後れをとりつづけている黒人と比べても、白人労働者階層は悲観的なのだ。
現実というのはつねに、ある程度の皮肉を許容するものだが、私のようなヒルビリーがほかの社会集団(私たちよりもあきらかに困窮している集団もある)よりも人生を悲観しているという事実は、何か別の事態が進行していることを示している。
そして、実際そうなのだ。私たちヒルビリーは、かつてないほど社会的に孤立していて、その状態を次の世代に引き継ごうとしている。
私たちが信じていることも変わりつつある。ヒルビリーの信念は教会を中心に形づくられるが、そこでは感情に訴える言葉が重視され、子どもたちが成功するために必要な社会的サポートを軽んじる姿勢が見られる。
私たちの多くは、労働力という面から見ると落伍者であり、よりよい機会を求めて新天地を切り拓くのを諦めてしまっている。ヒルビリーの男たちは「男らしさの危機」に直面し、その男らしさを重視する文化こそが、変わりゆく社会でヒルビリーの成功を妨げている。
私たちのコミュニティの現状について語ろうとすると、次のような話をよく耳にする。
「もちろん、白人労働者階層の先行きは暗くなる一方だ。だが、きみは卵よりもニワトリが先に生まれると考えているのではないか。彼らのなかで離婚する者が増え、結婚する者が減り、彼らが幸福を感じられなくなっているのは、経済的機会がないからだ。仕事に就くチャンスがありさえすれば、生活状態も改善されるはずだ」
私も同じように考えていた時期がある。若いころには、無理やりそう信じ込もうとしていた。
もちろん、その考えは理にかなっている。仕事がなければストレスがたまる。生活もままならない状況ではなおさらだ。アメリカの中西部工業地帯の製造業が衰退するにつれて、白人労働者階層は、経済的安定も、揺るぎない家庭も、家族生活も失ってしまった。
だが、気難しい教師の役割を演じることもある。私たちが経験している経済的な不安定さをめぐるこの考えは、十分なものとはとうてい言えない。』
●『機会の平等について語るときには、ここまで書いてきたような事実を忘れてはならない。ノーベル賞を受賞した経済学者たちは、中西部工業地帯の衰退や、白人労働者階層の働き手の減少を心配する。製造業の拠点が海外に移り、大学を卒業していない若者が中流層の仕事に就くことは難しい、というのが経済学者たちの主張だ。
たしかにそのとおり。私も同じ心配をしている。
だが、私が書こうとしているのは、それとは別の話である。産業経済が落ちこむなか、現実の生活で人々に何が起こっているのかをここに書きたい。最悪の状況に人々はどのように反応しているのか。社会の衰退を食い止めるのではなく、それをますます助長する文化とはどのようなものなのか、そうしたことを書こうと思う。
タイル会社の倉庫で私は目にした問題は、マクロ経済の動向や国家の政策の問題よりもはるかに根が深い。あまりにも多くの若者が重労働から逃れようとしている。よい仕事があっても、長続きしない。支えるべき結婚相手がいたり、子どもができたり、働くべき理由がある若者であっても、条件のよい健康保険付きの仕事を簡単に捨ててしまう。
さらに問題なのは、そんな状況に自分を追い込みながらも、周囲の人がなんとかしてくれるべきだと考えている点だ。つまり、自分の人生なのに、自分ではどうにもならないと考え、なんでも他人のせいにしようとする。そうした姿勢は、現在のアメリカの経済的展望とは別個の問題だといえる。
本書で焦点をあてるのは、私がよく知っている人たち、すなわちアパラチアに縁のある白人労働者階層である。しかし私は、そうした人たちのほうが同情に値すると主張したいわけではない。本書は、黒人よりも白人のほうが強い不満を抱いている理由を論じるものではない。読者の皆さんには、本書を通じて、人種というレンズを通したゆがんだ見方をするのではなく、「貧しい人たちにとって、社会階層や家族がどのような影響を与えるのか」を理解してほしい。』
●『この物語は、私の人生をつくりあげてくれた人たちの力を借りずには語れない。したがって、本書は個人的な回想録であるだけでなく、家族の回想録でもある。つまり、アパラチアに暮らすヒルビリーの家族の目を通して見た、社会的機会と社会的地位上昇の歴史を描いている。』
第4章 スラム化する郊外
現実を見ない住民たち
●『1970年には白人の子どもの25パーセントが、貧困率10パーセント以上の地域に住んでいた。それが2000年には白人の子ども40パーセントにまで上昇した。いまは、ほぼ確実にさらに高くなっているだろう。2011年のブルッキングス研究所の調査によると、「2000年と比べると、2005年から2009年のあいだに、極端に貧しい住民には、地元生まれの白人で、高卒か大卒で、家を所有していて公的援助を受けていない人が増えた」
つまり、住環境の悪い地域はもはや都市部のスラムにとどまらず、郊外にまで広がってきたということになる。
この現象の原因は複雑だ。ジミー・カーターの地域社会再投資法から、ジョージ・W・ブッシュのオーナーシップ社会まで、連邦政府の住宅政策は、家を持つことを国民に積極的に勧めてきた。しかし、ミドルタウンのようなところでは、持ち家にはきわめて大きな社会的コストがともなう。ある地域で働き口がなくなると、家の資産価値が下がってその地域に閉じこめられてしまうのだ。引っ越したくても引っ越せない。というのも、家の価格が底割れし、買い手がつく金額が借金額を大幅に下回ることになるからだ。引っ越しにかかるコストも膨大で、多くの人は身動きが取れない。もちろん、閉じこめられるのはたいていが最貧層の人たちで、移動できるだけの経済的余裕のある人は去っていく。』
●『親たちにとって、アメリカンドリームとは前に進むことだ。肉体労働は立派な仕事だが、それは親たちの世代の仕事で、私たちは何か別のことをしなくてはならない。前進するとは、社会的に上昇することだ。そのためには大学に行く必要がある。
だからといって、この町では、たとえ高等教育を受けなくても、恥ずかしがることもなければ、何か問題があるという感じもしなかった。大学に行かないのがあたりまえという感覚は、はっきりと示されることはなかった。教師は、おまえは大学に行くには頭が悪すぎる、あるいは貧乏すぎるなどとは決して言わない。だがそういった雰囲気が、まるで日々吸いこむ空気のように周りに満ちていた。私の家族でも、大学に行った者はいなかった。年上のきょうだいも友人たちも、キャリアの見とおしがどうであれ、ミドルタウンにとどまることに完全に満足していた。誰でも、周囲には少なくともひとりは、非正規雇用か完全に無職の若い大人がいた。もちろん、ほかの州の有名校に知り合いなどいなかった。
ミドルタウンでは、公立高校に入学した生徒の20パーセントは中退する。大学を卒業する人はほとんどいない。州外の大学へ進学する者は、ほぼ皆無といっていい。生徒たちは、自分の将来に多くを望まない。周囲の大人たちがそうで、生徒たちはそれを見て育っているからだ。』
第5章 家族の中の、果てのない諍い
下がる成績、不健康な子どもたち
●『冒険は始まったばかりだった。それまでも、オハイオの外に旅したことはある。祖父母と車でサウスカロライナやテキサスに行ったことがあり、ケンタッキーにも定期的に足を運んでいた。
ただ、これまでの旅では、家族以外と話すことはほとんどなかった。旅先で大きなちがいを感じることもなかった。ところが、カリフォルニア州ナパは、まるで異国のようだった。カリフォルニアでは、ティーンエイジャーのいとこたちや、いとこの友人たちと過ごし、毎日、冒険があった。ゲイ・タウンとして有名な、サンフランシスコのカストロ地区にも行った。ゲイの人たちは別にいたずらしようとおまえを狙っているわけではないと知っておくべきだ、といとこのレイチェルが言ったのだ。
別の日にはワイナリーを訪れた。またほかの日には、いとこのネイトの高校でフットボールゾーンの練習を手伝った。どれも胸躍る経験だった。会う人会う人に、私のしゃべり方はケンタッキー出身の人のようだと言われた。もちろん、ある意味では私はケンタッキー出身だ。そんなふうにみんなに、私はおかしなアクセントがあると思われるのはうれしかった。
それはともかく、滞在しているうちに、カリフォルニアはかなり特殊な場所だということがわかってきた。それまでにピッツバーグにも、コロンバスにも、レキシントンにも行ったことがあった。サウスカロライナとケンタッキー、テネシー、それにアーカンソーでもかなりの時間を過ごした。それなのになぜ、カリフォルニアはこんなにほかとはちがうのだろうか。
私がそれ以前に訪れていた南部と中西部の工業都市は、それぞれ地理的には隔たっていて、地域経済の構造も異なるものの、結局のところいずれの都市も、外見も行動もうちの家族とあまり変わらない人たちの住む土地だった。祖父母をケンタッキー東部からオハイオ西部へと連れて行ったのと同じ、ヒルビリー・ハイウェイにある都市だったのだ。
同じものを食べて、同じスポーツを観て、同じ宗教を信仰していた。だから、裁判所で見かけた人たちに、あれほど親近感を覚えたのだ。私と同じように、みんななんらかの意味でヒルビリー移住者だったのだ。』
第6章 次々と変わる父親たち
―そして、実の父親との再会
●『教会に定期的に通っている人は、まったく教会に行かない人と比べると、犯罪者になる可能性が低く、より健康で長生きし、稼ぎも多い。高校中退者も少なく、大学を卒業する人が多い。マサチュ―セッツ工科大学の経済学者、ジョナサン・グルーバーは、そこには因果関係があるとまで言っている。人生がうまくいっている人が、たまたま教会に通っているのではなく、教会がよい習慣をつくるのに寄与している、というのだ。
宗教的な習慣という面では父は、南部にルーツを持つ文化的に保守的なプロテスタントの典型だった。とはいえ、典型的な南部出身プロテスタントのイメージは、実は現実を正しく反映したものではない。というのも、南部の人たちは、宗教にしがみついているというイメージとは裏腹に、父よりむしろ祖母に近いからだ。非常に信心深いものの、教会コミュニティには帰属していないのだ。実際、保守的なプロテスタントで教会に定期に通っているのは、私が知っているなかでは、父とその家族だけだった。バイブル・ベルトの真ん中では、礼拝に参加する住民の割合は、意外にもかなり低い。
とりわけアパラチア、なかでもアラバマ北部とジョージア、オハイオ南部では、一般に抱かれるイメージとはちがい、中西部、つまりマウンテン・ウェストの一部と、ミシガンとモンタナのあいだのほとんどの地域と比べても、礼拝参加率が低い。奇妙なことに、私たちは、自分たちが実際によりも頻繁に教会に行っていると思い込んでいるのだ。ギャラップ(世論調査会社)の最近の調査では、南部と中西部の人たちの礼拝参加率は国内最高だと報告されている。ところが実際には、南部の住民で礼拝に参加している人はとても少ない。
こうした欺瞞は、文化的なプレッシャーが原因で生じるのだろう。たとえば、私が生まれたオハイオ南西部の大都市圏、シンシナティやデイトンでは、礼拝に出席する人の率はきわめて低く、超リベラルなサンフランシスコと同じぐらいだ。サンフランシスコにいる知り合いで、教会に行っていないことを恥じる人はいない。むしろ教会に行っていることのほうを恥ずかしがる人がいる。
オハイオでは正反対だ。子どもだった私ですら、教会に定期的に行っているかと尋ねられたら、行っていると嘘をついただろう。ギャラップの調査結果を見るかぎり、そういったプレッシャーを感じているのは、私だけではないようだ。
この状況はショッキングだ。宗教組織はいまでも、人々の生活のなかで肯定的な役割を果たしている。しかし、製造業の衰退や失業、薬物依存、家庭崩壊にさいなまれているこの国の一部の地域では、礼拝に参加する人の数は激減している。
父が通っていた教会は、私のような人間が切実に必要としているものを与えくれた。アルコール依存症の人には支援コミュニティを提供し、自分はひとりで依存症と闘っているのではないと感じさせてくれる。妊娠中の母親には、無料の住まいと職業訓練、子育て講座が用意されている。失業している人には、教会仲間が仕事を与えたり、紹介したりする。父が経済的に困窮していたときには、教会の信者が一致団結して、父一家のために中古車を買ってくれた。
私の周りの壊れた世界と、そこで格闘している人たちにとって宗教は、目に見える援助を与えてくれ、信徒たちを正しい道につなぎとめるものだったのだ。』
第15章 何がヒルビリーを救うのか?
本当の問題は家庭内で起こっている
●『私たちのコミュニティが抱える問題に“解決策”はないのかと、ときおり尋ねられることがある。何を求められているのかはよくわかる。魔法のような公共政策や、政府の革新的な施策を思い浮かべているのだろう。だが、私たちが抱えている問題は、家族、信仰、文化がからむ複雑なものであり、ルービックキューブとはちがう。誰もが考えるような形での“解決法”はおそらく存在しないだろう。
ホワイトハウスで働いた経験があり、労働者階層問題に深い関心を持つ友人が、私にこう言ったことがある。「この問題については、根本的な解決は不可能だと考えるのが妥当だろうね。そこらじゅうでたえず問題が起こっているから。でも、境界線のぎりぎりのところにいる人たちに手を差し伸べることなら、できるかもしれない」
私にも、たくさんの人が手を差し伸べてくれた。わが身を振り返ると、自分の人生の方程式には多くの変数があったことに気づく。母や継父が祖父母とのかかわりを拒否しようとして遠くに引っ越したときも、いつもそばにいてくれた祖父と祖母。すぐにいなくなってしまう父親候補のかわりに、私を温かく見守ってくれた一族の男たち。多くの問題を抱えながらも、私に生涯続く向学心を与えてくれた母。私のほうがからだが大きくなってからも、いつも私を守ってくれた姉。私が遠慮したにもかかわらず、部屋を貸してくれ、何よりも、愛し合う幸せな夫婦の姿を初めて見せてくれたおじとおば。手を差し伸べてくれた教師、親戚、友人たち。
方程式からどの人が欠けても、私の人生はだめになっていただろう。逆境に打ち勝って成功を収めた人たちから、似たような話を何度も聞いたことがある。
アパラチア州立大学で編入性のようなサポートオフィスの責任者を務めるジェーン・レックスも、そのひとりだ。私と同じく労働者階層の家庭で育った彼女は、一族のなかで初めて大学に入学した。結婚して40年近くになる彼女は、3人の優秀な子どもを育て上げている。
なぜ人生を変えることができたのかと彼女に尋ねれば、安定した家庭が将来をコントロールできる自信とやる気を与えてくれたからだと答えるだろう。そして、広い世界を知ることは将来の目標を見つける力になるとも教えてくれるはずだ。「身のまわりにお手本になる人が必要だと思う。私の場合には、仲のいい友だちの父親が銀行の頭取をしていたの。その人はほかの人とはちがっていた。彼を見て、世の中にはまったくちがう人生があるのを知った。おかげで、自分の将来に希望を持つことができたのよ」』
感想
ヴァンス副大統領の魅力は白人労働者階層が直面している貧困の中で暮らし、そして、その厳しい環境の中から抜け出してエリート層に上りつめたことだと思います。
そのヴァンス副大統領の話からは逸れてしまうのですが、白人労働者階層が抱える本質的な問題を考えてみました。人が人らしく心の豊かさをもって生き生きと暮らすために、“希望”と“人とのつながり”はとても重要だと思います。一方、“薬物中毒”と“銃犯罪”は心を喪失した人々に罠を仕掛けるように待ち構えています。薬物は人生を根底から破壊してしまう脅威であり、銃は犯罪の連鎖を生んでしまう恐ろしい道具です。
“希望”と“人とのつながり”を生み出すことと、“薬物中毒”と“銃犯罪”をなくすことは両方とも必要ですが、どちらか一方を先に手をつけなければならないとすれば、私は後者の問題解決を優先すべきと思います。
“希望”と“人とのつながり”の無い、暗く孤独な人生を歩んでいたとしても、“薬物”に手を出さなければやり直すチャンスはあると思います。また、“銃”がなければ犯罪者となって、多くの人を死傷させる事件を起こす可能性も、それによって刑に罰せられる可能性も減ります。
“希望”や“人とのつながり”は出会いやきっかけによって劇的に変化する可能性を秘めていると思いますが、そのような機会に巡り合うためにも、少なくとも、“薬物中毒”と“銃犯罪”とは無縁であることが極めて大切だと思います。
この“薬物中毒”と“銃犯罪”に対し、共和党(トランプ政権)はどのような対策を立てているのか調べてみようと思い、まず、“薬物中毒”に関し日本と米国の違いをPerplexity(AI)に尋ねてみました。
こちらの資料は米国と日本の薬物および銃の問題を地理的・歴史的要因などから比較しています。
銃規制に関して、米国では1791年、憲法修正第2条にて「武器保有権」を保障したことから、銃は拡がっていきました。トランプ大統領は1990年代には一部の銃規制を支持していたことも事実とされていますが、共和党の大統領候補となった2015年以降、NRA(National Rifle Association of America[全米ライフル協会])支持と保守層迎合のために規制反対色を鮮明にしています。
また、「武器保有権」を重視し、「善良な市民が銃を持つことで治安が守られる」という思想を強く主張しています。過去の発言を見ると「銃を持った悪人に対抗できるのは銃を持った善人である」「規制ではなく警備強化こそ必要」など、規制より“自衛”や“抑止力”への信仰が根本にあります。
日本では銃規制が徹底されていますので、「どうして銃規制をしないのだろう?」と単純に思ってしまいますが、そこには選挙対策という部分も大きいと思います。
また、現実的にここまで拡がってしまった銃を規制することは、憲法の「武器保有権」ということもあり、かなり難しいのだろうと思います。
確かに本質的な問題は銃の保持ではなく、犯罪に使われることにあるので、「犯罪をさせない」という手段も選択肢であることは間違いではありません。トランプ政権では、銃規制ではなく「武装による自衛」「警備の実効性強化」に資源を注いだ政策を数多く実際に執行しているとのことです。現実的とは思えませんが、もし、学校や地域、あるいは教会のようなコミュニティを通じて、「銃犯罪の取り締まり」という問題解決に住民自身が一致団結して立ち上がることがあるならば、「人のつながり」というポジティブなテーマに転換させられるかもしれません。
「希望」と「人のつながり」が最重要ですが、その前に、「薬物中毒」と「銃犯罪」の問題をクリアするという優先順位は悪くないと思います。
ニューヘイブン(New Haven)
ヴァンス副大統領はイェール大学の法科大学院(Yale Law School)で学んでいたとのことです。
私事ですが、3度の海外一人旅(1回は仕事)、2度目はニューヨークでした。
その一人旅では、イェール大学にも足を延ばしていました。ニューヘイブンは大学の最寄り駅です。お恥ずかしい話ですが、「天国にやって来た!」などと浮かれて写真をとってしまいました。懐かしさから少し写真等を貼りたいと思います。(天国=Heaven)
World Trade Centerの写真を撮った記憶はあまりなかったのですが、2枚見つかりました。左はエンパイアステートビルから、右はリバティ島から撮ったものです。
World Trade Centerの中2階(メザニン)にディスカウントチケットの店舗があり、ミュージカルのチケットを買うためにWorld Trade Centerのビルの中には入ったのですが、「エンパイアステートビルに上ったから、まぁ、いいか」と思い、屋上には上がりませんでした。また、この店舗がどちらの棟にあったのか、まったく記憶は残っていませんでした。
画像出展:「AFP BB News」
南棟は2回目の攻撃を受けたタワーでした。
この日、同じ営業部の同期のN君がニューヨーク出張でこの近くのビルに宿泊していました。そのようなこともあり、この悲劇的な事件は強く記憶に残っています。
●成功は次なる成功の始まり
・『最高の仕事をする人々は自発的で、生来の好奇心があり、次は何をしろと教えられる必要のない人々である。そういう人になれるよう努力しよう。起業家は自分の内面から湧き起こる力に駆り立てられる。すばらしい生き方であり、人生に対する姿勢としても見事である。』
●常に大局観を持て
・『人は時として問題にばかりかまけ、チャンスに目を向けるのをおろそかにしてしまう。細部を考慮したり、ビジョンの細かい点に不必要に気を取られたりするようなときでも、大局観は持っておくべきである。私は常にこの大小二つの視点を同時に持つよう努めている。おかげで考えが硬直化せずにすむし、自分は成功を宿命づけられているのだとあらためて思い直すことができる。なぜそんな宿命がわかるのかって? 私もソロー(ヘンリー・ディヴィッド・ソロー)と同じく、人間は失敗するようにではなく、成功するように生まれついていると信じているのだ。私に信じられるのなら、あなたにも信じられるはずである。
その方法を教えよう。第一に、問題はあってあたりまえと思うことだ。問題が一転、あなたのプラスに働く場合もあるし、時には驚くような出来事が起こったりもする。私は1990年代に財政問題を抱えていたとき、ウォルドルフ・ホテルでの晩餐会に出席しようかするまいかと逡巡したのを覚えている。何かを祝ったり誰かと話したりしたい気分ではまったくなかったが、それでも正装して出かけて行ったところ、隣の席の人と意気投合し、しかもその男性は銀行家だった。天の配剤というほかはない。しかしそれは私の予想だにしない出来事だった。ネガティブな考えにはまっていた私だったが、礼を欠いてはならないという意識が勝った。そして狙ったわけでもないのに、出席したというただそれだけで、事は明らかに良い方向に転がりだしたのである。
第二に、決意を揺るがさないことである。大局観を持つと、それに見合う意志の強さも必要になる。「ローマは一日にしてならず」ということわざがあるが、まさにそのとおり。楽な道はない。あるといいたいのはやまやまだが。しかし心から好きなことをしていれば、それほど苦労は感じないはずだ。ミケランジェロやベートーヴェンのような人々が大変な苦難に見舞われたのは誰もが知るところだろう。だが彼らは打ち克ち、数百年後の今もその名は生き永らえている。他の人々が目標の達成までにどんな苦労をしたかを知ると気が楽になる。往々にして、事前にいくら調査しても、やってみなければどれほどの努力が必要かはわからないものだ。だから不屈の意志は絶対に必要である。
●成果を達成する方法は人それぞれ
・『若い頃、ある人からいわれたことがある。人や物事を曇りのない目で見るには判断をまじえないのがいちばんだ。「これは正しい」「あれはまちがっている」と色分けしたり、他人に望む反応をそれとなく指図したりするのではなく、事実をただ見て記録するのだと。これはジャーナリスティックなアプローチで、意思決定が完全に個々にゆだねられる。要するに、偏向のない報道である。少しだけ余分に考えることが求められるが、今の時代、人はもう少し考えるべきではないかと私は思うのである。何かを語るとき自分のやり方がすべてだと思ってはいけない。人生の多様性に感謝し、生まれ持った自分だけの才能に磨きをかける時間をつくるべきだ。』
●自分のスタンダードを設定せよ
・『あなたが今すぐ大きな発想ができるようになるために自身に問いかけてほしい質問がある。あなたの創造性の資本は何か。あなたが世の中に提供できるものは何か。経験や勉強から身につけた、あなたの価値とは何か。あなたは自分の潜在能力を自覚しているか。いざ前に踏み出そうというときに事をなす力があなたに備わっている。こういう筋道で考えるようになるだけで、あなたの価値は何倍にもなるはずだ。』
●直観に従え
・『カール・ユングによれば、人間の意識はふだん、脳の能力のわずか5パーセントしか使っていないという。眠っている95%の無意識、潜在意識を利用できるようになれば、目覚ましい成果が上がるだろう。私たちを助けてくれる直観力の裏にあるのはこの無意識なのではないかと時々思う。
これは心の声を聞くということにも関係する。サバイバル訓練や大事な試験を受けている最中など、いつもよりも注意力が高まった状況下では、いかに自分の反応に慎重になるかあなたは気づいているだろうか。急に、発言一つ、行動一つが重大な意味を持つようになるのだ。自分にも直観があると気づくときである。論理的思考の結果と本能の訴えが食い違う場合もある。理想をいえば、その両方を鍛え上げてベストな意思決定ができるようにすべきである。』
●ビジネスの世界で成功するために知っておくべきこと
・『私たちの言葉と行動がやがては誠実な人、あるいは不誠実な人という評判につながっていく。私くらい長くやっていると、ありきたりの正直さがいかに貴重かがわかる。ビジネスマンとして、どんな局面も切り抜けられる強みとなるのだ。
もう一つの重要なスキルは交渉力である。私の交渉スキルについて語ってほしいとあちこちからよく頼まれるが、成功する交渉にはバランスがある。多くの人が見落とすところだ。双方が得をするのが最高の交渉である。妥協もしなければならない。つまり相手の言い分に注意深く耳を傾けるということだ。それができれば、良い結果が出る。ビジネスはそれ自体がアートだ。強力な交渉スキルは成功を容易にするために必要なテクニックの一つである。
私はよく人前でスピーチするが、いつも強調しているのが情熱の大切さである。自分のしていることを愛していなかったら、成功の確率は大幅に低下する。苦しいときを乗り切るのもはるかに難しくなるだろう。情熱は大きなことを成し遂げるのに必要な立ち直る力を与えてくれる。ミケランジェロは同時代のローマ教皇や政治家の誰よりも息長く名前が残っているが、その理由は彼が世界に残したものがそれだけ大きかったからに尽きる。しかも大きな困難をものともせずやり遂げたのである。ミケランジェロは妥協しない男だった。彼が自分の仕事に情熱を傾けていたことは疑いの余地がない。物事がうまくいかないときは、彼のような人間、精神と行動において自分の芸術を究めることを第一の、至高の使命として掲げ続けた人間を思い出すといい。
私が成功の要素として挙げる二つ目のポイントはあきらめないことである。身の周りで、あるいは自分自身に何が起きても、足を止めず前に進み続けなければならない。これも一種のポジティブ・シンキングであるが、はかりしれないパワーがある。こういう姿勢がもたらすものとして思い浮かぶのは「不屈さ」である。私はひたすら歯を食いしばることで大きな挫折を何度も乗り越えた。屈することもあきらめることも拒んだ。私にとってそれは目的を貫くことであり、重大なレベルの敗北を喫したり妨害をされたりしてはならないということである。目的を曲げずにいれば、大きな成果が得られる。
「不屈さ」とともに好きなもう一つの言葉は「粘り強さ」である。ビジネスに関しては、この二つはほぼ同義かもしれない。粘り強くあることが、長期的にはあなたを不屈にする。昔からいうカメとウサギの競争の話は今にも通じる。
グローバル化する現代においては、世界の出来事に目を配る大切さも強調しておきたい。アメリカは孤立主義者になってはならない。アメリカは超大国ではあるかもしれないが、その真に意味するところはそれだけ重い責任を担っているということだ。こういう立場にあるからには、今まで以上に敏感に、配慮を行き届かせ、相手の気持ちに共感できなければならない。権力は最大限の思いやりをもって使われたとき、最もその良さを発揮する。』
・『本質的な価値は現代の市場でおろそかにされてきた価値観である。すべてが金銭で測られ、くっきりと白黒がつけられるものになってしまった。ビジネスにはたしかにそういう価値観が必要だ。私たちは目に見えるニーズを抱えた目には見える世界に生きている。しかしあえていいたい。私はこの世の価値観では測れない何か、つまりお金だけではもたらされない価値を示してくれる曖昧な、グレーな領域をしばしば見ようとする。ほとんどの人はそれが何か―金銭的価値を超えたもの―を知っていると思う。ある収集家の話を読んだことがある。彼はアートで一財産築いたが、最高の宝物は亡くなった息子が友人に描いてもらった息子の肖像画だったという。その肖像画はピカソやマティスやモネやミクロの作品と並んで掛けられていた。収集家にとっていちばん大切なのはその絵だった。その絵の持つ本質的な価値は、巨匠たちの作品の持つ何百万ドルの価値を超えていた。収集家は亡くなったとき、息子の絵を購入した人にすべてのコレクションを譲った。息子の絵の値段は10ドルだった。
私が本質的な価値観の話をするのは、ビジネスマンとして、これが毎日のビジネスに誠実さを、この世の価値観では測れない何かさえももたらしてくれるからである。この世の多くがお金で動くのはやむをえないことだが、すべてお金で換算できるわけではない。グレーな領域を探そう。それはあなたのビジネスセンスだけでなく、人生をも高めてくれる。』
感想
トランプ大統領のご経験からの貴重なお話でした。大変に参考になりました。不思議だったのは破壊的なトランプ政権による政治と、この素晴らしい本の内容に大きな矛盾は感じなかったことです。
関税に関してはいろいろなことを調べた結果、少し理解できるようになりました。
79歳という年齢で、米国大統領という激務に立ち向かっているトランプ大統領の計り知れないエネルギーの凄さをみると、大統領になった1番の目的が自らの富や名声にあるとは思えません。トランプ大統領を突き動かしているのは、「米国の危機感」のように思います。この危機感の背景にあるのは「中国の台頭」ということです。
鄧小平により「経済の近代化」と「対外開放」が国家戦略として決定されたのが、1978年12月。そして、中国は自由経済(市場メカニズムや民間の利益追求の容認)を導入しました。これは中国の「歴史的な転換」とされています。2000年初頭には「世界の工場」と言われるようになり、2001年に中国が世界貿易機関(WTO)へ加盟したことで、グローバル・サプライチェーンに本格的に組み込まれ、多国籍企業の工場・調達が中国へ集中しました。
1.米国と中国の競争
1)自動運転
●2025年、米国は技術面で先行し、中国は実用化と商用展開の規模・スピードで先行しています。
2)AI
●AIは単なる道具としての情報処理・伝達を越えて、「自ら考え、創造して提案できる」ことで、情報革命の枠組みと社会の在り方自体を根本から変える力を持つと考えられており、第二の情報革命とされています。
●中国はAIを国家発展と国際競争の中核と位置づけ、大規模な投資・応用・規制のバランス型戦略を追求しています。
●中国は「AIの社会実装」「スマート都市管理」「データ活用の量とスピード」という側面で米国を凌ぐ優位性を示しています。
●DeepSeekが米国企業のLLMより優れている主な点は「開発・運用コストの圧倒的な低さ」と「高い性能・推論力」、「完全無料・オープン戦略」にあります。
3)宇宙開発
●全体として米国は民間主導の技術革新・国際協力で優位、中国は国家主導・軍事技術・計画遂行力で強みが顕著です。
4)量子コンピュータ技術開発
●米国は「民間技術革新と商用化」、中国は「国家体制・量子暗号通信・政府主導の投資規模」などに強みがあり、両国とも世界の量子覇権を巡り競争が激化しています。
2.中国の脅威
1)権威主義国家
●国旗を比べると、明らかに国家の在り方が異なっていることが分かります。
画像出展:「国旗の由来・歴史の資料室」
中国は権威主義国家です。国旗にある大きな星は中国共産党を、これを囲む小さな星は労働者、農民、知識階級、愛国的資本家の人民階級を表すとされています。つまり、国の最高権威(大きな星)は中国共産党ということです。
画像出展:「国旗の由来・歴史の資料室」
米国旗の3色にはそれぞれ象徴的な意味があります。赤はvalor and bravery(勇気・勇敢・勇猛)、白はpurity and innocence(純粋・純真・潔白)、青はvigilance, perseverance, and justice(警戒心・忍耐・正義)です。
2)トランプ政権による国家非常事態宣言と承認プロセス
●国家非常事態宣言の是非はよく分かりませんが、トランプ大統領の危機感が強く、その結果として「国家非常事態宣言」が増えていると思います。
分断を煽るかのような民主党への攻撃は、2021年の「アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件」につながったと思います。これは絶対にあってはならない深刻な事件です。
一方、何故、民主党を徹底的に攻撃するのかという理由を考えると、根底にあるのはやはり「中国に対する危機感」であり、それは民主党政権には任せておけないという、もう一つの強い「危機感」ではないかと思います。
諸外国において仮想敵国をつくることで、国内の支持を固めるという外交的政治手法がありますが、民主党への執拗な攻撃は民主党政治に不満をもつ人々からの支持を強固にするための方策だろうと思います。まず岩盤支持層を固めること。そして景気の安定、雇用の提供、生活水準の確保という経済政策に力を注ぐことで、無党派層からも多くの票を得ようという作戦ではないかと思います。
トランプ大統領を養護するつもりはないのですが、『トランプ思考』を拝読させて頂くと、今起きている数々の問題は、「危機感と優先順位」(選挙に勝たなければ自らが政治を変えることはできない)からくるものではないかと思われます。
「世界の工場」からサプライチェーンにまで広がった中国の巨大な力は、電気自動車の普及と自動運転においても確実に進捗しています。AIにおいても高度なGPUによる輸入制限によって、結果的にDeepSeekという凄いLLMを作り上げてしまいました。また、宇宙開発でも量子コンピュータ技術開発でも激しくしのぎを削っています。
世界のAIをリードするトップ企業は米国の独壇場になっていますが、技術力や人材教育等においては、中国は権威主義国家として迅速な意思決定に基づき、着々と力をつけています。
このような世界情勢において、「世界の工場」、「サプライチェーン」にメスをいれ、今後の、AI、宇宙、量子コンピュータ技術における米国の優位性を維持しつつ、かつ国内の雇用を確保するとともに、老朽化した国内インフラを再生させ、強いアメリカ合衆国に作り変えたいというのが、トランプ大統領の1番の目的ではないかと思います。
トランプ大統領の強引な政治手法に関しては、常に大きな懸念がつきまとい理解することは容易ではありませんが、権威主義国家の意思決定の迅速さは民主主義国家の弱点でもあり、また、権威主義国家の中国が更に巨大化することは、西側諸国、民主主義国家全体の脅威となるため、その点を考慮すれば強いアメリカの存在、MAGA(「Make America Great Again」)は一つの選択肢のように思います。
大統領令であっても憲法や法律に反する内容の場合、議会が根拠法律の改正、予算不認可、さらには裁判所が差し止めや違憲判断をすることで発効停止や撤回とすることは可能です。これは主権が国民にあるからです。
一方、中国では共産党ファーストです。個人や企業よりも重視されるのは共産党の方針です。権威主義とは国家にとっての合理性が優先される非常に怖い政治です。
AIの進歩はまだまだこれからだと思います。その革新の最大の課題は電力供給の問題のようです。対策は色々あるようですが、Amazon、Microsoft、Googleなどハイパースケーラーの設備投資の規模とスピードを考えると、電力供給の問題はAIの分岐点にもなるような大きな問題だと思います。
ご参考3(2025年11月26日):“マンハッタン計画に匹敵するAI構想を開始する大統領令に署名”
『ドナルド・トランプ大統領は月曜日の午後、米国の人工知能の研究、開発、科学的応用を加速させるための新たな連邦政府の取り組みを開始する大統領令に署名した。』
これは、AIなど中国との激しい競争を意識してのものだと思います。
ご参考4(2026年1月12日):“トランプ大統領が語る、成功を導く7つの鉄則”
こちらは“ばっちゃまの米国株”さまより拝借した約11分の動画です。
少し極端な印象はありますが、素晴らしいスピーチだと思います。
ある大学教授がニュース番組の中で、「今回はトランプ2.0ではなく、トランプ0.0である」と発言されていました。これはトランプ前政権ではブレーキ役がいたが、今はブレーキ役が不在であり、やりたい放題であるという意味のようです。
そのトランプ大統領の政治手法といえば「ディール(deal)」が印象的です。「取引」と訳されるのが一般的ですが、「トランプ大統領のディール」ということで、調べたところ以下のような回答でした。
●「ディール(deal)」は「取引」だけでなく、「合意」や「妥協」といったニュアンスを含む場合もあるため、互いが納得できる形で話をまとめる意味合いが強いということです。また、トランプ大統領合は、ゼロサム的(勝者と敗者が明確になる)な見方が強いので、「交渉」、「駆け引き」、「実利的な合意」といったニュアンスが加わることも多いとのことでした。
トランプ政権においては、特に「連邦司法の保守派化」と「Schedule F(連邦職員の再編・解雇権限を大幅に拡大するもの)」の2つが気になっていましたが、後者については連邦裁判所に複数の差し止め訴訟が提起され、施行は事実上ストップしているとのことです。
「輸入規制・関税」に関しては、国家安全保障上の理由だけを考えれば、頭から否定することはできませんが、大きな物議をかもしていることは間違いなく、国際協調の問題だけでなく米国内の経済においてもインフレ再燃の原因として大きな懸念となっています。
規格外のトランプ大統領による2.0の始まりは、米国が権威主義国家を志向する可能性もあり、歴史的転換点の入口にいるのかもしれません。ドナルド・ランプという人を知ることが、トランプ政治の本質に近づけるのでないかと思い今回の本を購入しました。『トランプ思考』という本の原著タイトルは『Think Like A Champion』です。内容はトランプ大統領の成功への軌跡や逆境からの復活です。
ブログは最初に、最も印象に残った“目的を見出し、目的に生きよ”をご紹介しています。それ以降は目次に沿って大事だなと思った箇所を列挙させて頂いています。
序文―ロバート・キヨサキ
はじめに
※目的を見出し、目的に生きよ
●自分自身と自分の仕事に嘘をつくな
●人生で成功するには常識とハードワークが必要だ
●チームプレイであることの大切さ
●人生には感謝すべきことがたくさんあると気づくべきだ
●学びは新たな始まり
●即断力を養うために学ぼう
●完全性を追求せよ
●高次元の自己にチャンスを与えよ
●知恵を身につけたければ、まずは知識と経験が必要だ
●学ぶほどに自分の無知がわかるようになる
●チャンピオンの発想をせよ
●人生はアート、仕事はアートだ
●物事を関連づけて考えられるようになろう
●恐怖心に立ち向かう
●想像力はお金に賢くなるための鍵
●ビジネスで成功するのは生まれ持った才能か
●短く、早く、単刀直入に事を成せ
●仕事に対して正しい考え方(マインドセット)を持て
●維持するには勢いに気持ちを注げ
●失敗と過ちから学べ
●自分の成功を人に話せ
●経験と知識と先見性が揃えば百万力
●混乱から変革が生まれる
●金融リテラシーを身につけろ
●運に働いてもらう
●成功は次なる成功の始まり
●見切りをつけなければならないときもある
●常に大局観を持て
●最高の人間を集めよ
●勝者は問題を、実力を証明する一つの方法と見る
●決意と忍耐にまつわるレッスン―信念を貫いて勝て
●仕事にはテンポをつくれ
●いつでも自己最高記録を更新できる
●人から順風満帆だと思われた私
●私情をはさむな―これは仕事だぞ
●天才の発想をせよ
●流れに逆らえ
●ポジティブに考えよう
●成果を達成する方法は人それぞれ
●目的を見出し、目的に生きよ
●自分のスタンダードを設定せよ
●直観に従え
●観客を知れ
●何があろうと、警戒を緩めるな
●評判を築く
●「努力するほど幸運が近づいてくる」
●金持ち入門
●好きな人たちと仕事をしよう
●ビジネスの世界で成功するために知っておくべきこと
はじめに
・『学生時代、父フレッド・C・トランプから毎週、心に響く偉人の名言が送られてきた。その多くはリーダーシップに関するもの、いかにして人生の勝者になるかを語るものだった。私はそれらの名言から多くを学んだし、今でも参考にしている。本書にも引用して読者にご覧いただくことにした。』
※目的を見出し、目的に生きよ
・『人生について一つ学んだのは、人生とは発見の連続だ、ということである。人生の始まりは発見に満ちている。その後もずっとそうあるべきではないだろうか。自転車が乗れるようになったときのわくわくする気持ちを覚えているだろうか。子どもが初めて歩き出す姿を見たことはあるだろうか。世紀の一瞬だ。毎日そんな感動に出会えたら、人生の英知に近づいていけると思う。
アルバート・アインシュタインは「新しいアイデアに対して開かれた精神はけっして元のサイズに戻ることはない」と言った。同感だ。一度歩くのを覚えたら、もうハイハイに戻ろうとは思わないだろう。あたりまえだ。人には誰でも人生の目的がある。それは自分の可能性を精一杯生きることだ。
実に単純なことなのだ。自分の才能と能力を理解するだけでいい。ただし、簡単だとはいっていない―単純だといったのだ。周囲の雑音に惑わされて、自分を見つめる静かな時間を持てないときもある。私たちは一日中、外からの情報にさらされている。騒音のただ中で自分自身の中にある情報に耳を傾けられる平穏な時間を見つけるのは至難の業だ。本来の自分に戻るためにはまず、外界から自分を遮断しなければならない。
私は忙しい人間だが、心の均衡を保つために毎日朝と晩に静かな時間を確保している。それが私の生活の中心になっている。ネガティブなものや有害なものに振り回されるのはごめんだ。踏みならされた道から外れよ、といったエマーソンは正しい。この言葉の意味は、他人の人生を歩むことはできない、自分の人生、自分の目的だけをひたすら見つめる時間を持て、ということである。
これは個人にとってだけでなく世の中にとって大切な問題だ。歴史上最悪の出来事が起こったのは、人々が自分の頭で考えるのをやめ、他人の考えを聞くようになり、さらには他人の追従するようになったときだった。それが独裁者の台頭を許してしまう。そのようなことは何としてでも避けよう。まず個人のレベルでやめる。そうすれば自分だけでなく世の中が正気を保つのに貢献したことになる。
仕事における私の目的は、毎日自分の力の及ぶかぎりベストを尽くすことだとわきまえている。それが私の掲げるスタンダードである。私のスタンダードが高いところにあるのは若いときに自覚した。本質的な価値観という言葉を聞いたことがあるだろうか。本質的とは基本の、生まれ持った、本来の、という意味である。本質的な価値観は奪い取られたり揺らいだりしない。これも何物にも負けない強さの一つの形である。
発見とは、以前は知らなかった何かを見つけ出すことをいう。目的とは実現すべき意図あるいは目標だ。人生には目に見えるものと見えないものがある。あなたにとって最も良い形になるようにそれぞれのバランスを取ろう。私はきわめて現実的な仕事に就いているかもしれないが、その一方で人生の不思議を感じる心も持ち合わせている。だから常に探検隊のような気持ちでいられる。自分に目隠しをしたり限界を設けたりしてはいけない。
人生の目的を見つけるには一生かかるかもしれないし、あるいは五歳のときすでに見つかっているかもしれない。万人共通の決まった時間割などというものはない。だからこそけっしてあきらめてはいけないし、毎日何かを発見し続ける理由もそこにある。人生を成功させる素敵なレシピでもある。自分の道を歩めば、行くべきところにたどり着ける。自分の世界を広げよう! 大きく発掘し、でっかく生きよう。』
●自分自身と自分の仕事に嘘をつくな
・『自分自身と自分の仕事に嘘をつかないことこそが資産である。資産には守るだけの価値があるのを忘れないでほしい。信念を守り通すのが簡単だとは誰もいわないだろうが、守り通さなければならないと私は信じている。でなければ、あなたのやっていることは何だというのか、誰のためにやっているというのか。直球勝負でいこう。長い目で見ればあなたは豊かに―いろいろな意味で―なるはずだ。』
●学びは新たな始まり
・『古代ギリシャの昔、ソクラテスが「私が知っていることが一つだけある。私が何も知らないということだ」と言ったのはつとに有名だ。かの名高い哲学者の言葉にしてこの厳しさだ。おかげでソクラテスは素直な心で日々知識を吸収していったのだ。頭の中の黒板をまっさらにして一日を始めよう。心をオープンにして新たな始まりを迎い入れよう。
私が何でも知っているつもりで事業を始めていたら、スタートを切る前から終わっていただろう。そんな愚を犯してはならない。どの業界にも隠れた側面がたくさんある。一見単純な物事がどれほど複雑にできているかを思い知るはずだ。』
●高次元の自己にチャンスを与えよ
・『高次元の自己にチャンスを与えれば、人生は最高のアドベンチャーになる。私たちは誰でも、自分にしかできない何かがある。それが何かを見つけ出し、情熱を傾けてそれに向かって努力するのが私たちの務めだ。だから無為に生きるな。飛び込んでチャンスをつかめ。』
●チャンピオンの発想をせよ
・『特に苦労が多い日に私はよく、これは競技なんだ、くじけずに走り抜けなければならないと考える。するとなぜか不屈の心が湧いてくる。負けたと思って終わりたくないからだ。ビリー・ジーン・キング(テニスプレーヤー)は「チャンピオンは責任を背負っている。ボールがネットを超えて来るとき、私がそのボールを必ず取るつもりだということを、誰もが信じてくれていい」と言った。彼女の言葉が私にはよくわかる。私もその点はまったく同じだからだ。』
●人生はアート、仕事はアートだ
・『芸術家は自分の理想、自分のミューズ[芸術家の創作意欲をかき立てるもの]―それが何であれ―に身を捧げ、どこまでも完璧を追求する人間とされている。すばらしい資質だ。彼らは求める結果を手にするためならどんな苦労もいとわない。2005年にある図書館でベートーヴェンの自筆の草稿が発見された。草稿には線で消して書き直した跡が無数にあり、書き込みすぎてところどころページに穴が空いている箇所もあった。この作品は晩年のものだとわかっているから、ベートーヴェンは当時駆け出しの作曲家だったわけではない。これが彼の仕事のやり方だったのだ。ベートーヴェンは自分のベストに届かなければ我慢できない完璧主義者だった。誰に認められようとしたのでもない―ただ一人、自分自身を除いては。音楽家ならぬビジネスマンにとっても、これは理想のあり方ではないだろうか。
どこまでベストを極められるか、自分との勝負だ。これは起業家の発想である。他人との競争は自分自身のスタンダードを下げてしまいかねないのを起業家はわきまえている。厳しく聞こえるかもしれないが、本当のことだ。自分自身のビジョンを持ち、そこから気持ちを離してはならない。』
●物事を関連づけて考えられるようになろう
・『このエッセイの冒頭に挙げたエイブラハム・リンカーンの言葉(“昨日の自分より賢くなっていない人間を私は尊敬しない”)に、私があなたに伝えたいことが凝縮されている。学べる人間についてのハクスリーの言葉(“経験は学べる者にしか教えてくれない”)にも言い尽くされている。学ぶ姿勢を持つことには、いつまでも若くいられるという特典もある。何でもわかっているつもりでいると老け込むうえに、新しいことが頭に入らなくなる。だからそんな落とし穴は避けて通ろう。』
●恐怖心に立ち向かう
・『事業を経営するのは怖いだろうか。この質問を別の言葉でしなおしてみよう。自分で事業を経営するうえで懸念はあるだろうか。なぜ? 具体的に何が気がかりなのだろうか。恐怖よりも懸念を分解するほうがはるかにやりやすい。恐怖心はクリエイティブ思考を邪魔するだけの障害物になる。客観性を持つとその障害物が取り除かれ、クリエイティブなアイデアが出てくるようになる。
恐怖心への対抗手段はごく簡単、問題解決である。投資や不動産計画や事業経営を、あるいはその全部を考えているなら、いずれも個々の思考単位に分解して順序立てて取り組めばよい。一種のジグゾーパズルのようなものだ。全体が見えてくるまで一つひとつのピースがあてはまる場所を探してやらなくてはならない。』
・『恐怖心をあなたの人生の一隅たりとも忍び込ませてはならない。それは敗北主義であり、ネガティブな感情である。ただちに見つけて消し去ろう。恐怖心を問題解決の姿勢と自信とハードワークに置き換えよう。この方程式を日常の習慣にすれば、あなたは恐怖心に動かされるのではなく、力を握った立場で物事に対処するようになる。これぞ勝利の方程式である。』
●失敗と過ちから学べ
・『困難な状況への対処の仕方には人間性がよく表れる。逆境に対応する場合、その状況をどう見るかも重要な要素である。同じ出来事で破滅する人もいれば、いっそう強くなる人もいる。だから私はいつも自分にこう問いかけているのだ。「これは取るに足りないことか、それとも大惨事か」と。困った状況のさなかで、それが理性のよりどころとなる。
前に情熱が成功に必須の要素だと述べたことがある。理性もまた必要だ。失敗や過ちを犯したら、それは理性や客観性を用いる良い機会かもしれない。経験から何かを学ぶチャンスでもある。一つの扉が閉じれば別の扉が開くということわざもある。別のチャンス、別の機会が待っているという意味に私は解釈している。ただしそれに対して心をオープンにしておかなければならない。開いた扉が見えているはずなのに、扉が開いていることも、ましてその重要性にも気づいていなかった人たちを私は何人も知っている。
私にとって状況が大きく転換したときのことを覚えているが、そのとき学んだのは、常に集中力と勢いを持ち続けなければならないということだった。以前にもこの二つの成功の秘訣に触れたが、なぜかといえば私はこの二つを痛い思いをして学んだからだ。集中力を失ってたちまちいくつもの失敗に見舞われたことがあった。しかし別の考え方もできる。前に進む勢いさえあれば、問題は一過性のものにすぎない。誰でも苦境を経験するが、ポジティブな態度で前に進み続ければそれは取るに足らないことになるのだ。』
●自分の成功を人に話せ
・『エゴを持ち、それを自覚するのは健全な選択である。エゴは意識の中心にあり、目的意識を与えてくれる。エゴのない人は生命力に乏しいし、エゴがありすぎれば横暴な性格になりやすい。何事もそうだが、ほどよいバランスが大切である。エゴはあなたの勢いを前に送り続けるのに役立ってくれる。あなたを生き生きとさせ、生産性を高めてくれる。集中力をしかるべきところ、つまりあなたの仕事から離れないようにしてくれる。しばらく経てば、人に自分の成功を離さなくてもよくなる。すでに知れ渡っているからだ。エゴをおろそかにしてはいけない。』
※エゴは日常では、「自分勝手」「自分本位」といった否定的なニュアンスでも使われますが、心理学や哲学で「自我」「自己」の意味で使われ、自分自身を中心に考える意識を指します。
●金融リテラシーを身につけろ
・『今のあなたにそう思えるかどうかはともかく、私たちはみなビジネスマン、ビジネスウーマンである。あなたがアートを愛していてアートではお金を稼げないとしたら、やがて世の中はすべて、アートでさえもビジネスなのだと悟るだろう。だから私はウォーホールの「儲かるビジネスは最高のアートである」という言葉が好きだ。それは事実なのだ。そして私がビジネスをアートと考え、情熱を込めて取り組んでいる理由もそこにある』
画像出展:「22の名言とエピソードで知るアンディ・ウォーホル」
『Making money is art and working is art and good business is the best art of all.(お金を稼ぐことはアートだ。働くことはアートだ。ビジネスで成功することは最高のアートだ。)』
画像出展:「万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチの名言からわかる本当に大切な事」
“シンプルさは究極の洗練である”
このページはイラストレーターの高見真弘氏の記事です。高見氏は、「レオナルドのように、常に学び続け、挑戦することで、成功を掴むことができるのではないでしょうか。」とのお話をされています。アートとはこのよう事かも知れません。
・『金融の世界の仕組みを知らない人があまりにも多いことに私は驚いた。普通株、新興市場、資産運用、商品、投資信託、ヘッジファンド、年金、株式、債券、抵当権などは高校生にもなれば常識として知っておかなければならない。アメリカの教育制度で大きく見落とされている点である。すべての生徒がこれらの仕組みを頭に入れ、ゆめゆめ金融の「専門家」が一から十まで教えてくれるなどと期待してはいけないのである。自分で知っていなければならない。アメリカは資本主義社会だ。それは良いことであるが、自分で注意しなければならないということでもある。』
・『声を大にしてあなたにアドバイスしたいのは、金融リテラシーを身につけろということだ。あなたの想像も及ばないほど非常に役に立ってくれる。どうか私のアドバイスを聞いて注意を払ってほしい。手始めに、毎日コンピュータを立ち上げたときにヤフーのファイナンスページをクリックするのでもよい。一日に2,3回、市場をチェックしてユーロや円に対するドルの動きを見てみよう。チャートやトレンドが読めるようになろう。関連記事を読もう。これはごく初歩だが、あなたの物の考え方を正しいチャンネルに合わせてくれる。そのことがあなたの人生の質に大きな変化をもたらすかもしれない。』
2024年12月20日に始めた「“氣”とは何だろう」という一連のブログで読んだ本は計23冊です。
テーマは計19になります。
●鍼灸編
●東洋医学概論編
●エントロピー編
●科学編
●治癒力編
●ミラーニューロン編
●脳腸相関編
●臓器ネットワーク編
●酵素編
●リンパ編
●合気道編
●気功編
●気療編
●本山博編
●間中喜雄編
●長濱善夫編
●磁気生物学編
この発散し収拾のつかない状態をどうやってまとめるのか、「どうする??」という感じでしたが、まず、すべてのブログを見直し、あらためてExcelに特に重要と思った箇所を列挙してみました。次に“森”と“木”に例えられるように、“全体”を俯瞰しながら、個々の内容を一つ一つ深堀してみました。その際、中心に据えたのは「氣は血を推動する」ということです。すべてはここに集約されると思って作業を進めました。
※氣は血を推動する
“氣は血を推動する”は、約2000年前の『黄帝内経(こうていだいけい)』にさかのぼります。『黄帝内経』は、中国最古の医学書であり、戦国時代から前漢(紀元前3〜2世紀)に編纂されたとされます。この中で人体の生命活動は「氣・血・津液」によって維持され、「氣は血の帥(すい:統率者)」と述べられています。すなわち、これが「氣は血を推動する」という発想の原点です。
その結果、補足を入れて6つの視点から整理することにしました。
1)氣と森羅万象
2)氣と同調現象
3)氣と健康
①氣は血を推動する
②病の始まりはストレス
③脳腸相関
4)東洋医学と西洋医学のパラドックス
5)氣の訓練
補足)長濱善夫先生の経絡
そして、肝心の「“氣”とは何だろう」の答えは、【氣≒シグナル伝達分子】となりました。
そして、“氣”をよびこむ最も重要なことは「肩の力を抜くこと(リラックス)」だと思います。やっと自分の腹に落ちました。
画像出展:「命を支える神秘の巨大ネットワーク “メッセージ物質”が医療を変える!」
この番組(本)では“メッセージ物質”という表現をされていますが、この本の中でも説明されているように、“メッセージ物質”は一般的な医学用語ではありません。通常は“シグナル伝達分子”です。つまり、この図は【氣≒シグナル伝達分子】のイメージということになります。
この答えに至った経緯をご説明させて頂きたいと思います。なお、「シグナル伝達分子」とは、生体内で情報伝達する役割を持つ分子で、代表的なものにホルモン、サイトカイン、神経伝達物質、成長因子などがあり、細胞外や細胞内での情報伝達を担っています。
1)氣と森羅万象
「森羅万象」とは、宇宙のありとあらゆる存在・時間・空間・生物・無生物・自然現象・人間の営み全てを網羅する言葉です。なぜ、このような視点で考える必要があるのかと思ったのは、東洋医学には宇宙観(人間と宇宙は本質的に一体であり、同じ原則に基づき存在・変化している)があるからです。宇宙全体を「マクロコスモス」と呼びます。人体は「ミクロコスモス」とされ、“氣”はこの2つに関わっています。
この東洋医学の世界観は、“氣”を知るために無視することはできないと考えました。そこで頭に浮かんだことは、最終的に宇宙(マクロコスモス)と人体(ミクロコスモス)の双方に存在し、かつ、生命に絶対必要な根源のようなものは何かということでした。それこそが“氣”に関係するのではないかと考えました。
その結果、注目したのは「酸素」と「電気」です。宇宙では呼吸できるような量の酸素はありませんが、銀河や星の中、星間ガスの中には酸素原子や酸素分子、酸素を含む化合物(二酸化炭素や水、氷など)が存在しています。一方、電気は宇宙空間には電気的に帯電した粒子(電子・イオン)の集まりであるプラズマが存在します。そのプラズマは宇宙の主成分だそうです。一方、ミクロコスモス(人体)に存在する電気は生体電気と呼ばれています。
画像出展:「“生体電気” 電気仕掛けのココロとカラダ」(NHK)
『生体電気は、細胞で“発電”され、脳、筋肉、心臓だけでなく、ヒト誕生の瞬間、受精にも深くかかわっている。生命の根幹「生体電気」。その仕掛けから生まれたヒトの不思議を妄想する。』
酸素と電気は宇宙にも人体にも存在していることが明らかになりました。次に明らかにすべきは生命にとって両者は根源のようなものなのかという点です。ちなみに酸素は物質ですが、電気は物質である電子とイオンの運動によるエネルギーとされています。
なお、本件を考える上で、「生命のエネルギーの起源」を考えてみました。これはエネルギー通貨とされているATPではないかと考えたのですが、実際はATP産生機構そのものが、まず膜を介したイオン勾配というエネルギー源を前提にして進化してきており、生命のエネルギーの原点としては「ATP」よりも「イオン勾配」がさらに根源的とのことでした。なお、酸素はイオン勾配(特にプロトン勾配)を作る化学的ドライバーであり、プロトン勾配は「膜を介したプロトン濃度差(化学ポテンシャル差)」と「プロトンが持つ正電荷による膜電位(電気ポテンシャル差)」の両方を合わせた電気化学的勾配で成り立っているとのことです。
つまり、生命のエネルギー産生の起源ともいえる「イオン勾配」に酸素と電気が深く関わっているということは、酸素と電気は「シグナル伝達分子」にとっても、無視できない存在であると思います。
画像出展:「ミトコンドリアでの酸素を利用したエネルギー産生」(酸素研究所)
『摂取した栄養と酸素を利用して生命のエネルギー通貨と呼ばれる「ATP(アデノシン三リン酸)」に変換し、それを分解することで放出されるエネルギーを使って、人間は生命活動を行っているのです。』
2)氣と同調現象
気功には内気功と外気功があります。内気功は姿勢・呼吸・心を調えて(調身・調息・調心)、体内の気の流れを良くし、自分の自然治癒力を高める方法です。一方、外気功は熟達した気功師が自分の「気」を他者に送ることで施術する方法です。ブログ(“氣”とは何だろう15)でご紹介させて頂いた矢山利彦先生は、「気功は、漢方も鍼も効かない患者さんに対するものであり、何をやっても良くならず、失望と深い悩みをもち、体もこころもこわばっている患者さん、そして、自らの自然治癒力に背を向けている患者さんに対して用いている。」とのことでした。
“氣”が自分自身のみならず他者に影響を及ぼすことができるという特質は、“氣”を明らかにする上で非常に重要だと思います。このため、2つめは「氣と同調現象」という視点で整理したいと思います。
品川嘉也先生(“氣”とは何だろう7)は、「脳波は気の情報が目に見えたもの」とされています。さらに、「脳波の同調現象は、気の送り手である気功師から気功の手ほどきを受けたことのある人ばかりでなく、その気功師にはじめて会い、生まれてはじめて気を受けた人にも共通して見られた。これまで十数回の実験を繰り返し試みているが、どの実験でもかならずなんらかの同調現象が観察されたのである。したがって、この脳波の同調現象こそ、気の謎を解き、気功のメカニズムを解明するカギとなる概念にちがいないと考えている。」というお考えです。
"ブログ(“氣”とは何だろう17)では、ミラーニューロンについても触れています。「ミラーニューロンは、自分がある動作をしているときに発火するだけでなく、ほかのだれかがそれと同じ動作をしているのを見ているときにも発火する。簡単な話に聞こえるので、うっかり見過ごしてしまいやすいが、これは大きな意味をもつ。ミラーニューロンは、あなたがほかの人に共感し、その意図を「読み取る」こと―その人が実際に何をしようとしているかを把握することを可能にしているのである。」とあります。
また、“2人の間の発話リズムがそろうと、脳波リズムもそろうことを発見 -コミュニケーション時の2者の脳波を同時に計測し解析する手法を確立-”という研究結果もありました。
画像出展:「理化学研究所」
『理化学研究所は、2者が言語コミュニケーションしている時の脳波を同時に計測し解析する手法を確立し、発話リズムが同調すると脳波リズムも同調することを発見しました。』
作家の五木寛之先生は『気の発見』という本の中で、「勇気や敬意、敵意や圧力もそうだ。表情や動作にあらわれる場合もあり、反対に隠されている場合もある。しかし私たちは、あきらかにそれを感じて反応する。知らない街で、はじめての酒場に一歩はいったとき、一瞬、ピリピリするような警戒心や、好奇の目を肌で感じることがある。店内にそのような気が電磁波のように流れているのだ。」とお話されています。
「これは何だろう?」と考えてみたのですが、これらに共通するのは五木先生がご指摘されたように、「表情や動作」であり、眼から入ってくる情報による脳の反応ということだと思います。視覚情報は可視光線なので取り込まれる情報は電磁波ということになります。これに声の情報も加わるとすれば、それは耳から入ってくる情報であり音波ということになります。ここから分かることは、人間は言葉を使わずとも意思を伝えることが可能であり、意図や感情を把握することもできるということです。
帯津良一先生がYouTubeの中で、中国式ではなく英国式のスピリチュアル・ヒーリングを使っているとのお話しをされています。このスピリチュアル・ヒーリングは外気功に大変似ているとのことですが、特に修行する必要もなく、「誰にでもできる」という考えに基づいているそうで、英国では保険適応され大病院でも行われているようです。帯津先生は非科学的な療法が保険を使って一般的に普及していることに大変驚かれたとのお話をされています。
外気功では熟達した気功師が、洗練された特別の「氣」送っているのだと思います。しかし、もしかしたら、受け取る側が特別な「氣」を無意識に感じて、心身に大きな変化をもたらしているという部分があるのかもしれません。
この「外気功と龍神レイキ」という動画は、エフエム西東京さまから拝借しました。
気功師の脳波の実験、ミラーニューロンの存在、五木寛之先生のご指摘(動作と表情から感じることができる)、そして、帯津良一先生の中国とイギリスでのご経験から、同調現象はたいへん興味深いものだと思いました。そこで、AI(Perpflexity)に同調現象について質問してみました。
まとめとして書かれていた内容は以下の通りです。
『対人的な気功(外気功)で生じる脳波の同期現象は、現代神経科学で研究が進むinterpersonal neural synchrony(INS)やミラーニューロン系の活動と同じく、「複数人が心身で共鳴し合う生理学的・神経学的メカニズム」の一端として説明できる現象です。今後は、hyperscanning技術による同時脳波計測が鍼灸や気功の科学的解明に一層応用される流れが期待されます。』
3)氣と健康
「“氣”とは何だろう」を調べようと思ったのは、専門学校で学んだことが腹に落ちていないと思っていたからです。また、“氣”の本質を知ることが鍼灸師として重要であり、それは間違いなく施術力を上げるものと思っていました。従って、3つめの「氣と健康」は最も知りたいものです。そして、絶対に外せないと思ったことは、繰り返しになりますが、「気は血を推動する」という基本中の基本です。
帯津良一先生の「気とは余分のエントロピー(“汚れの量”)を上手に捨てる能力ではないか」というご指摘があり、ここではエントロピーをストレス(心理的・身体的ストレス)に置き換えてみたいと思います。また、ストレスに関しては矢山利彦先生の次のようなお話が印象的でした。
「病気は、根源にさかのぼって考えると、結局、ストレスを十分に統御・調整できなくて、身体の防御のバランスが崩れて、その人の弱いところに発症する、といえるはずだ。」
「気功の原点は気を流すことです。これは気の推動作用といわれ、血の流れをよくする働きに他なりません。つまり、気功は気に働きかけ血の流れをよくし、こころと体のこわばりをとり、そして歪みを整え、その人の本来の自然治癒力を通じて、心身の健康を取り戻すものであると理解しました。」
※自然治癒力について
分かっているようで分かっていない「自然治癒力」を真剣に考えたことがありました。その時の結論は、自然治癒力とは“ストレス適応と栄養代謝”というものでした。これは、血流を良くし自律神経系と代謝系の2つが正しく機能することが治癒力の原点であるという考えです。これは上記の矢山先生のお話に通じる部分があるように思いました。
外せないと思った2つめは「病の始まりはストレス」ということです。
最初に「ストレス」はどこを攻撃するのかを考えました。その答えは「脳」です。そして、脳の疲労は自律神経を乱すと考えられています。なお、以下の2つの画像は『自律神経失調症を知ろう』から拝借しました。
脳をどう理解するかで悩みました。それは東洋医学における脳は、「奇恒の腑」と言われ、重要とされる五臓六腑には含まれていないからです。奇恒の腑には髄が含まれており、この髄は腎精が変化したもので五臓の「腎」が主っています。
また、興味深いのは五臓にはそれぞれ神気があるとされていることです(五神といいます)。
脳を攻撃するストレスが居座り続けると、その慢性的なストレス状態は交感神経を活性化させ、自律神経のバランスを乱します。そして、緊張状態から血管は細くなり血流を悪化させます。血流が悪くなれば酸素も栄養素も、血液の中にあるホルモンやサイトカイン、神経伝達物資などのシグナル伝達分子も滞り、各組織の健康状態は悪化しついには病気になります。
この、「ストレス→自律神経の乱れ→血流悪化」を防ぐことが健康維持には不可欠であり、これにはその人が本来持っている自然治癒力を調えることが大切です。
「病は氣から」、「氣は血を推動する」、この2つに関係するのはリラックスする心であり、それによって自律神経のバランスが整い(副交感神経が活性化)、血流が改善し酸素も栄養素もシグナル伝達分子も各組織にしっかり届きます。この中で酸素でも栄養素でもなくシグナル伝達分子を最も重要なものと考え、【氣≒シグナル伝達分子】としたのは、シグナル伝達分子の中には、病の原因となるストレスを抑制する非常に重要な働きがあるためです。
そして、そのストレスを抑制する重要なシグナル伝達分子は、セロトニン、GABA、アセチルコリン、メラトニン、ドーパミンの5つとされています。
「氣と健康」を考えるうえで重要なポイントは、①「気は血を推動する」、②「病の始まりはストレス」でしたが、3つめは「脳と腸」です。西洋医学では「脳腸相関」という考えがあります。何故、脳と腸が重要かといえば、5つのシグナル伝達分子は脳と腸の双方で作られるからです。特に重要とされているセロトニンに関していえば、90%が腸で産生されています。
西洋医学では腸は第二の脳と呼ばれています。腸は大量の情報収集、蓄積、分析、それへの反応という機能を考えれば、消化管は真のスーパーコンピューターといえます。また、細胞の数という点でも脊髄をしのぎ、能力という点でも脳のいくつかの機能に匹敵するとされています。
腸は脳と、神経や血流によって結合しています。腸で生成されたホルモンや炎症性のシグナル伝達分子は脳に伝達され、また、脳で生成されたホルモンは、平滑筋、神経、免疫細胞などの腸内のさまざまな細胞に送られます。
脳へのストレスは腸の働きを低下させ、腸の動きが悪くなると脳が不安を感じます。脳腸相関はストレスの影響を拡散させてしまうこともあります。その一方で、脳腸相関にはストレスを抑制するメカニズムがあります。
画像出展:「ブレインフォグの原因「腸内細菌の乱れ」(国立消化器・内視鏡クリニック)
『脳腸相関とは、脳とおなか(腸)で両方向におこなう情報伝達のやり取りと相互に影響を及ぼしあう関係のことです。不安やストレスを感じると急な腹痛や下痢、おなかが張ってグルグルと鳴るような経験をしたことはありませんか?これは、脳から腸に向けた情報伝達の信号からくる影響のひとつです。対して今までよくわかっていなかった腸から脳に向けた影響についても、近年の研究で明らかになってきました』
画像出展:「人体の正常構造と機能」
脳と腸および他の臓器をつないでいる自律神経(副交感神経)は迷走神経です。なお、迷走神経には運動や知覚を担う線維(運動・求心性)も混在しているため、「混合神経」とも呼ばれまています。
セロトニンは、腸と脳のシグナル交換に用いられる究極の分子とされ、セロトニンを含む細胞は小さな脳と大きな脳の両方に密接に結びついています。そして、迷走神経の経路の近くに膨大なセロトニンが蓄えられています。
【氣≒シグナル伝達分子】とする理由は、脳と腸に存在する、セロトニン、GABA、アセチルコリン、メラトニン、ドーパミンの各シグナル伝達分子が、ストレスの抑制に働くためです。
早期に過度なストレスを排除することが、血液循環を改善させ本来の自然治癒力を復活させて、心身を健康な状態に戻します。
4)東洋医学と西洋医学のパラドックス
「パラドックス」という言葉が適切かどうかは分かりません。そもそもパラドックスの意味を正しく理解しているのかという点も気になるところです。
お伝えしたいことは、東洋医学も西洋医学もみているのは「人間の健康」ですが、異なる土俵から見ているため、ジグゾーパズルのピースがうまく合わないという感じです。その原因には古今の医学の差にあります。東洋医学は約3000年前とされています。一方、西洋医学を科学の医学(近代医学)とするならば、顕微鏡が発明された16世紀後半といえるのではないでしょうか。言いたいことは、東洋医学と西洋医学の差の本質は、科学の有無によるものではないかということです。特に注目したいのは、「脳」と「小腸」と「腎臓(東洋医学では腎)」です。この3つを整理したいと思います。
(うまく説明できないのですが、健康には脳と腸が非常に重要で、東洋医学においてはその2つに関わる“腎”という重要な存在が、この2つの背後で大きな力を及ぼしているイメージです)
「奇恒の腑(髄海)」と呼ばれる「脳」は、専門学校の教科書では次のように説明されています。
「脳は、頭骨の中にあり、髄の大きなもので、下は脊髄に連なる。脳は、肢体の運動を円滑にし、耳目を聡明にし、長寿を保つ。脳が充実していると、耐久力ばかりでなく、すべてにわたって一般の基準を超える。不足すると、目が回る、耳鳴り、めまい、すねがだるい、身体中だるくて寝ていると落ち着くなどの症状を呈する。」
運動(遠心性)や感覚(求心性)、生命維持や意識・集中といった内容ですが、これは西洋医学の脳(大脳・間脳[中脳・橋・延髄]・脳幹・小脳)の機能の一部です。先に「五神」についてお話しましたが、「七情」というものも臓腑に割り当てられています。詳しくは2つの添付資料をご覧ください。
これは「東洋医学概論」の内容を元に作った「五神」と「七情」の表です。これらの働きは五臓に割り振られています。
『神を分類すれば、神、魂、魄、意、志などが挙げられる(『霊枢』:本神篇)。神は、このなかで最上位にあって、他の神気を支配している。ときにより、魂魄は神の支配を受けずに独自の働きをすることがある。魂・魄は、人体のかげの活動(無意識的、本能的活動)を支配するものである。』
「奇恒の腑(髄海)」に「五神」と「七情」を加えると、脳(大脳・間脳[中脳・橋・延髄]・脳幹・小脳)に近づきます。一方、現代の脳は、科学によってこれから先、想像できない程の多くの発見が期待されています。
画像出展:「国内外における脳科学研究の現状と問題点について」
ウンザリするような細かい表ですが、ご紹介したのは「脳科学研究はこれから、奥が深いんだなぁ」ということをお伝えしたかったからです。
戦国の世の中、死者を通して血液や肺、胃、腸などは何となく理解できたと想像します。しかし、顕微鏡すら存在しない太古の時代に、脳(大脳・間脳[中脳・橋・延髄]・脳幹・小脳)の働きを詳しく知ることは不可能です。そのため、大切な臓腑に「五神」や「七情」として割り当てたのではないでしょうか。
興味深いのはNHKシリーズ人体が明らかにした「メッセージ物質(シグナル伝達分子)」です。矛盾するようですが、脳(大脳・間脳[中脳・橋・延髄]・脳幹・小脳)の働きは非常に大きなものである反面、臓器同士が会話しているという事実はむしろ昔(東洋医学)に戻ったような話です。
『解体新書』を翻訳した杉田玄白先生は、神経(中枢神経[脳・脊髄]・末梢神経)を「神気の経脈」と訳されているのですが、この訳は素晴らしく、東西医学の架け橋のような気がしました。
画像出展:「語源から読み解く自律神経」
「脳」の次は「小腸」です。
東洋医学の小腸は、「消化・吸収の過程で得た精微物質(栄養)を脾に運び、不要な固形物は大腸、水分は膀胱へ送ります」とされています。消化・吸収や大腸に送るという機能は西洋医学と同じです。
一方、現代の小腸には免疫機能があります。また、脳腸相関という考え方もあります。
日本での医学的な脳腸相関の研究は、1980年代に「セロトニンの多くが腸で産生されている」ことの発見を契機に爆発的に発展しました。まだ50年経っていません。
東洋医学の小腸は特に難しいところはないのですが、悩ましいのは丹田という場所です。
丹田は下腹部であり、皮下にあるのは小腸です。そして、この丹田には関元という小腸の募穴があります。募穴とは重要な経穴(ツボ)の一つで「臓腑の気が集まるところ」とされています。つまり、関元は「小腸の気が集まる経穴」ということになります。
悩ましいというのは丹田が、東洋医学の「小腸」ではなく、「腎」に深く関係しているという点です。この件は次の「腎」で詳しくご説明します。なお、西洋医学では「腎臓」になりますが、東洋医学では「腎」になります。
NHKシリーズ人体では、「腎臓が寿命を決める」というタイトルが印象的でした。酸素が足りなくなると腎臓は「酸素が足りない」というメッセージ物質(シグナル伝達分子)を出します。これはエリスロポエチンという造血ホルモンです。また、腎臓は血液成分の組成管理・調整の中枢でもあります。【氣は血を推動する】とは血(血液)こそが生命になくてはならないものと言えます。すべての組織は血液が運んでくる酸素・栄養素・生理活性物質(シグナル伝達分子を含んでいます)の働きにより命は続いていきます。その血液を管理しているのが腎臓になります。
NHKスペシャル「人体」取材班
出版:東京書籍
スライドは酸素不足の時に腎臓がシグナル伝達分子のEPO(エリスロポエチン)を出し、そのメッセージを受け取った骨(骨髄)が酸素を作るプロセスを説明しています。
腎臓は間違いなく大切な臓器です。しかしながら、それでも東洋医学の「腎」はさらに重要といえると思います。脳とされる「奇恒の腑(髄海)は腎精から生成された髄により養われ、腎の状態が脳の働きに大きく影響する。」とされています。
●腎の役割
・東洋医学の「腎」は、生命力の根源である「精」を貯蔵し、成長・発育・生殖・老化といった生命活動全般を支配する存在です。
・先天の精・原気(元気)の中心として「腎」は体の根本エネルギーと位置付けられています。
●腎と丹田の関係性
・丹田は「腎」の精・気が集まる場所とされ、「腎間の動気こそが人の生命」と古典医学書『難経』などにも記されています。
・丹田に気(腎の精・元気)が充実していると、生命力が上がり、健康や精神の安定に寄与します。逆に、腎の気や精が不足すると、丹田の力も弱くなり不調の原因になると考えられています。
・丹田を鍛えたり意識したりすることで、「腎」の力を高める養生法や鍛錬も多く伝えられています。
●三丹田について
・三丹田(上丹田・中丹田・下丹田)の理論は、道教・煉丹術・医学思想の発展のなかで徐々に整理され、後代に確立したものです。
整理すると、丹田とは「腎」の精・気が集まる場所であり、「腎」は体の根本エネルギーと位置付けられます。丹田に気(腎の精・元気)が充実していると、成長・発育・生殖・老化といった生命力が上がります。そして、その生命力は健康や精神的安定の土台になります。
西洋医学の小腸は消化吸収以外に、免疫機能があります。腸全体では約70%、小腸では約50%の免疫細胞があり、小腸の粘膜下にはパイエル板という免疫器官が集中していて、T細胞・B細胞・NK細胞など多くの免疫細胞が集まっています。また、腸内には腸内フローラという腸内細菌の集まりがあり、腸の免疫機能維持・調整に不可欠です。腸内フローラを良好に保つ(善玉菌優位にする)ことで、全身の免疫力を底上げすることができます。
東洋医学には「衛気」という氣があり、働きは「体を外邪から防御し健康を守る力」とされています。これは紀元前2世紀ごろの文献である『黄帝内経』という書物に書かれています。「衛気」は科学で証明された免疫ではありませんが、免疫のような考えは大昔からあったということです。
【氣≒シグナル伝達分子】のシグナル伝達分子は、セロトニン、GABA、アセチルコリン、メラトニン、ドーパミンと考えていますが、これらはすべて腸でつくられます。
セロトニンの働きをあらためてご説明します。①腸の運動を調整(セロトニンは腸管の平滑筋に作用し、消化管の蠕動運動を促進します)、②便通を改善(便秘の予防や改善に寄与)、③腸内細菌・腸内環境との相互作用(腸内環境を整える役割)、④脳との関係(感情安定・睡眠調整・食欲などを担う、脳腸相関といわれる)。
これらの西洋医学における小腸の働きは科学による発見です。
近代免疫学として体系化されたのは18世紀末、エドワード・ジェンナーによる種痘(天然痘ワクチン)の実施(1796年)がきっかけで、19世紀以降に免疫のしくみや理論が解明されていきました。
腸内細菌が初めて発見されたのは1670年代のオランダです。その後19世紀後半には、パスツールやコッホらによる細菌学の発達によって腸内にいる大腸菌、ビフィズス菌など様々な腸内細菌が発見されました。腸内フローラの概念が一般的になったのは1950年代です。腸内細菌をフローラ(叢)として扱う研究が本格的に始まりました。
ホルモンが最初に発見されたのは1902年です。この発見をきっかけに「ホルモン」という言葉・概念は、1905年にスターリングによって提唱されました。
このように「消化・吸収」の東洋医学の小腸は、時間と科学により「消化・吸収、免疫」さらには脳腸相関という働きを重視する西洋医学の「小腸」に変わり、その重要度はさらに大きくなりました。
画像出展:「けんこう名探偵」
古代では「天・人・地」や「三丹田(上丹田・中丹田・下丹田)」という考えが中国で生まれていました。このことからも、頭部(脳)と下腹部(腸)は健康にとって極めて大切であると確信できます。
画像出展:「消化・吸収だけじゃない!腸の意外な働き」(からだカルテ)
『ストレスを感じるとおなかが痛くなったり、下痢や便秘などの腸の異常を感じるのは、脳→腸へのシグナル伝達ですし、一方で、腸内環境が悪化することによって、不安を感じたり、腸内環境が改善することで、抗うつ効果など脳への影響があることは、腸→脳へのシグナル伝達です。』
画像出展:「中国武道への道」
『「天地人」は、春秋戦国時代から漢代にかけて成立・体系化されたものとされています。一方、「丹田」は、秦漢期すでに現れており、主に気功や導引、仙道における生命エネルギーの集積点として語られていました。また、「三丹田(上丹田・中丹田・下丹田)」の考え方が体系的に確立したのは、中国の道教・内丹術が発展した唐代〜宋代と考えられています。』
5)氣の訓練
合気道の第一人者である藤平光一先生は、「心で氣が出ていると思えば、すなわち氣がほとばしり出る。」とお話されています。
また、当院のホームページの「ご挨拶」の中で、「幕末の剣・禅・書の達人といわれた山岡鉄舟は、ゆったりとした心の有り様こそが、最も「気」を相手に通じさせるということを教えています。」と書いています。
ここで最初に思ったことは「心」とは何だろうということです。
これによると、「心」とは意思や意識を含む、精神活動全般を指す抽象概念ということです。思ったことは、「心」は「一人称」だけではなく「二人称」、「三人称」の世界でもあるという点です。「氣と同調現象」という章もありましたが、今一度、「二人称」、「三人称」に関しての重要性を最認識しました。「一人称」に陥りがちな「氣の訓練」において、忘れてはならないポイントのように思います。
●氣の訓練の方法
まずはブログに立ち返って、「気功」、「小周天」、「丹田」をキーワードに気の訓練に関するものを抜き出しました。
・東洋の伝統では、「気」のはたらきは元々主観的に感じるものとされてきた。それは、普通の意識状態では認識できないが、瞑想とか武術・気功などの訓練をつんだ人は気の流れを感じとることができると説かれてきた。
・気功とは訓練によって自律神経を自分でコントロールできるようにするものであるといえる。
・「自律訓練法」は気功にとって役にたった。例えば、皮膚の温度を自分の意識で変える訓練―自己暗示をかけるかたちで、ゆっくりとした呼吸とともに「手があたたかーい」とくり返す。訓練を続けることで手をあたたかくすることができるようになる。
・“てのひら療法”という本に、治療は「してあげる」という気持ちではなく、「いっしょにする」という気持ちが非常に重要と書いてある。この心が欠け、気功の技術だけに頼り、「治してあげる」という心持ちでは“気の取り込み”はできない。
・ゆるめるための身体の動かし方を、気功訓練で習得してもらう。ゆっくりした呼吸法、力のぬき方、背骨の歪みの矯正を、気功をとおして実現していく。また、気功はもう一つ、精神的なリラックスもつくりだす。これは、最近の脳波の研究ではっきりしたデータで証明することができた。
・気を流すためには、まず、下腹部にある下丹田に気を集める。そのためには“下腹部に意識を集中し、息を吸うときも吐くときも下腹部を軽く緊張させ、そこに気が集まるとイメージし続ける訓練を行う。
・呼吸にあわせて、ゆっくり腹筋運動をしながら、意識を下丹田に集中する。呼吸と熱のイメージと筋肉の緊張と弛緩をくり返す。すると、下腹部に運動による熱が発生する。これをくり返していくうちに、だんだんすこしの運動回数で熱が発生するようになり、徐々に運動を減らしていって、最終的にう呼吸と腹筋の緊張だけで熱感を生みだすことができるようになる。
・気功には非常に多くの流派があるが、唯一共通しているのは小周天である。
・気功ができるようになったという証拠は、丹田が熱くなることである。
・息を吐きながら、気を百会から体の前の任脈を通して会陰まで下ろす。それから今度は息を吸いながら、気を背中の督脈を通して百会まで上げる。これをぐるぐる回すのが小周天である。
・吐くときにゆるめて、吸うときにゆるめて、体がゆるみさえすれば呼吸は自然に深く流れる。だから、まだまだゆるめられる、ゆるめられると、思いながら小周天をする方法は有効である。
●小周天
気の訓練でトライするのは、「小周天」に決めました。これは、「気功には非常に多くの流派があるが、唯一共通しているのは小周天である」というのが1番の理由です。
目標は、「丹田が熱くなること」です。訓練は一人で行ないますが、鍼灸師としては患者さまの存在をイメージし、「いっしょにする」という気持ちを頭に置いておきたいと思います。これは先にご説明した、気功とは「二人称・三人称」の世界でもあるためです。また、「ゆるむ」、「温かい」、「ゆっくり」というイメージを呼吸に合わせるということも意識したいと思います。そして、「小周天」の訓練により「氣」を心と体で受けとめ、自律神経を自分で動かせるようになりたいと思います。
補足)長濱善夫先生の経絡
経絡治療に関し、何度もお伝えしてきたことに【経絡≒ファシア】ということがあります。今回は、長濱善夫先生の著書である『鍼灸の医学』の中に、経絡と氣に関し私の考えを後押しして頂けるような貴重なご意見がありました。それをご紹介させて頂きます。
●『針の響きによる経絡現象の発現は、筋の主因とする説でひとまず説明されているが、実際には筋まで達しないで、単に皮下の結合織に達した深度で針響が起こる場合も決して少なくないのである。また、稀にはやっと真皮に達したくらいの深さでもおこる。こういう場合は、体液的な変化で間接的に筋が刺激されるためであろうと説明(藤田六朗氏)されている。しかし、こう考えたのでは、体液が何によって変化を受けるのかという点が不明になってくる。そうなると、結合織線維そのものが直接関与して、またある程度刺激を感受してこれをつたえる役目をも果たすのではないか、ということも考えなくてはならなくなる。
もし、結合織線維が刺激感受の主体になるものとすれば、全身の結合織系が形態的に経絡系の実体になるという想定が、いよいよたしかめられてくる。といっても、もちろん経絡の走行を解剖学的に規定するものとして、また機能的な関連において、筋の意義が重大であることには変わりはない。』
●『経穴の深さは、どれくらいかというと、これは針を刺していったさいに、それに応じた感覚がおこることによっておよそわかる。まず皮下一定の深さに達するとおこる。そしてさらに深く進めていって再び強く感ずることもある。これは皮下組織(結合織)より筋(特に筋膜のあたり)に至る間に相当する。だいたいにおいて結合織が中心になっているようである。そこで大多数の経穴は、深部は筋に達していて筋にも関連しているものなのであろうと考えられている。いくつかのモデル経穴について解剖学的にしらべてみると、経穴にあたるところは、筋に対して神経の枝と血管の枝とが相ともなって入ってきているところになっていると言っている人もある。』
●『皮下組織というのは、皮膚と筋(筋膜)とを結びつける目の荒い網のような線維の結合織からなりたっていて、その間隙は組織腔といわれ、組織液が充満している。ここが、針の刺激の対象である経穴の主体である。』
●『血は体液的なもの、そして気とは筋を主因とした電気的なものという解釈がなりたちそうである。』
日本東洋医学会の発足は1950年3月12日です。慶應義塾大学医学部北里図書館会議室にて創立総会が開催されました。
まとめ
理想の鍼灸師は、すべての施術において1回で治してしまうスキルをもつことです。ただし、これは明らかに夢のような話です。それは無理だとしても、その土台となるのは知識と技術の積み重ねだと思います。
鍼灸の施術は「病」と「人」の両面をみるものなので、全人的な知識は理想だと思います。しかしながら、最も大切なことは鍼灸の真髄を腹に落とすことです。私の場合、それは“自然治癒力”、“経絡”、“氣”の3つでした。今回の「“氣”とは何だろう」の試行錯誤の時間を通して、最後に残っていた“氣”を腹に落とすことができました。
この3つは自分なりに次のように捉えています
1.“自然治癒力”:ストレス適応と栄養代謝(栄養代謝とは消化・吸収・代謝を意味しています)
2.“経絡”:経絡≒ファシア(膜)
3.“氣”:氣≒シグナル伝達分子(シグナル伝達分子の中ではセロトニン、GABA、アセチルコリン、メラトニン、ドーパミンの5つを特別な存在と考えています)
なお、"自然治癒力”は簡潔にいえば「生きる力」です。また、3番目の【氣≒シグナル伝達分子】という答えは完全に私見です。
今後の課題は、氣を体で知ること、生きたツボをみつける力(触診術)を向上させることです。
“氣”に関しては「小周天」に挑戦します。“触診技術”は実践が重要ですが、まずは『治療家の手の作り方』という本を、あらためて熟読することから始めたいと思います。そういえば、専門学校時代に「電話帳に髪の毛をはさみ、その髪の毛の存在を「手」で感じられるようにする訓練方法があったように思います。慣れるにしたがい、ページ数が増えていくというものでした。これもトライしようかなと思います。
画像出展:「命を支える神秘の巨大ネットワーク “メッセージ物質”が医療を変える!」
【氣は血を推動する】、そして、生きたツボを発見するのは「手」が重要です。この写真は鍼灸師として忘れてはいけないことを教えてくれているような気がします。
Ⅴ 生物に共通な性質と磁場
●生体のリズムも地磁気に左右される
『地磁気は生体リズムを直接制御する主因子ではないものの、概日時計をリセット・同期する補助的Zeitgeberとして機能するエビデンスが蓄積されている。特に磁気嵐や大気電気回路変動によってヒトのホルモン分泌や自律神経系にも影響が及ぶため、概日リズム強化策や電磁環境の最適化は健康維持に寄与しうる。今後、クリプトクロムやマグネタイトの分子機構解明とともに、臨床応用研究がさらに進展することが期待される。』
Ⅵ 生体構成成分と磁場
●生体細胞への影響
『磁場は細胞レベルでの免疫反応、増殖、配向、イオンチャネル機能を調節し、分子レベルではラジカルペア動態や磁性異方性といった物理化学的機構を介して生体プロセスに影響を与える。これらの知見は、磁気医学や組織工学、非侵襲的脳刺激など多岐にわたる応用展開の基盤となっており、今後も細胞・分子機構の解明が進展することで新たな治療法や生体制御技術の創出が期待される。』
●変わる酵素活性
『磁場は酵素活性に影響を与えうる。具体的には、①磁性ナノ粒子を介した局所加熱や基質衝突頻度の増加、②ラジカルペア機構による電子スピン状態変化、③分子配向による基質–酵素相互作用変化などの複数メカニズムが報告されており、適用条件(磁場強度・周波数・印加時間・酵素固定化の有無)に応じて、活性が数%から数倍に増減する。』
Ⅶ 磁場効果のメカニズム
●生物磁石による感覚
『現在のところ、磁鉄鉱–神経系連結メカニズムは「機械的結合による膜歪み→機械感受性チャネル開口」というモデルが最も支持されている。しかし、チャネルの同定や細胞内輸送機構などの詳細な分子メカニズムは未解明であり、今後の研究が待たれる。』
●超伝導性による感覚
『生体内超伝導やジョセフソン接合の実在・機能は確認されておらず、その実現可能性は極めて低い。ごく微弱な地磁気変化への感応メカニズムとしては、現時点でクリプトクロムにおけるラジカルペア機構が最も有力である。今後の研究では、光−磁場結合反応の分子動力学解析や生体内電気生理測定による直接検証が鍵を握ることになるだろう。』
『クリプトクロムを介したラジカルペア機構(RPM)のほかにも、生物の磁場感受性には以下のような量子化学的メカニズムが提案されている。
1. 磁気同位体効果(Magnetic Isotope Effect)
2. レベルクロッシング機構(Level Crossing Mechanism, LCM)
3. クォンタムニードル現象(Quantum Needle)
4. 駆動ラジカル運動(Driven Radical Motion)
5. キラル誘起スピン選択性(Chirality-Induced Spin Selectivity, CISS)
6. 磁気クロマイラル電荷ポンピング(Magnetochiral Charge Pumping)』
●生体磁気の役割
『地磁気と生物の恒常性を考える際,生体磁場を以下のように位置づけると理解が深まる。
・生理的電気活動の「副産物」ではなく,「動的なシグナル」として恒常性ネットワークに組み込まれる
・電磁的恒常性を通じ,外部地磁気変動に対する「内部EMバランスの緩衝材」として機能
・IFO-VGICなど,微小な磁力によるイオンチャネル操作で細胞恒常性を微調整
今後は,生体磁場計測技術(光ポンピング磁力計,高感度センサ)を用い,日常環境での地磁気変動と生体磁場応答を高時間分解能で追跡することで,電磁的恒常性の詳細なメカニズム解明が期待される。』
『地磁気が乱れた際に血液内で観察される各種変化(凝固能亢進、ESR増大、白血球減少など)は、いずれも自律神経系や内分泌系を介した二次的な生理応答によるものであり、血液成分そのものの磁気的性質が地磁気レベルの変化で直接変化する機構的証拠は現在存在しない。したがって、血液の恒常性維持や健康影響の観点では、地磁気変動→自律神経変動→血液成分変化という経路が主体であると理解される。』
『生体電位の基本生成にはイオン勾配とチャネル/ポンプの制御が支配的であり、地磁気は直接寄与しない。一方、重力は感覚細胞において膜電位変動を駆動し、重力感覚シグナルの“発火”源として不可欠である。』
『生物と地磁気の相互作用を解明するには、ナノ〜分子レベルの内的センシング機構と、地球・宇宙からの多様な磁場環境を含む外的因子を同時に考慮する「多階層・多因子統合モデル」の構築が不可欠である。これにより、磁気感受性や磁場依存的行動・生理応答の全貌が明らかになるだろう。』
感想
“氣とは何だろう”の出発点は、「気は血を推動する」ということだと考えています。一方、悩ましいのは、外気功や気療のように、ヒトからヒトへ、またヒトから動物に影響を及ぼすパワーを有していることです。さらに、東洋医学では、宇宙と人体は切り離せない一体の存在とされており、宇宙の原理(太極・陰陽・五行)がそのまま人体や生命現象に反映されると考えられています。
したがって、“氣”は人体内のミクロな世界から、宇宙というマクロの世界にも通じるものであるということです。この三番目のミクロ⇔マクロという世界観にもっとも近いのが、電気(電場)と磁気(磁場)のように思います。今回のブログでは、電気と磁気、そして、これらは表裏一体となって生命の恒常性の維持に影響を与えているということが確認できました。
“氣”に関しての最後の本は、『生物は磁気を感じるか -磁気生物学への招待-』です。これは“氣”に関し、「電気」が何か関係しているのではないかと思っているのですが、その中で特に気になっているのは「生体電気」です。
そして、もう一つ気になっているのが「磁気」です。磁気も電気同様、“氣”と深く関係しているように思います。以下はAI(Perplexity research)の回答です。
『人体内の電場(生体電気)は、主にイオンの不均一分布による細胞膜電位とその時間変化(活動電位)によって生じる。一方、これらのイオン電流は同時に極めて微弱な磁場(生体磁気)を発生させる。したがって、人体内では「電場が先に存在し、その変化が磁場を生む」構図で、両者は不可分に結びついている。』
マクスウェル方程式とは、電気と磁気の関係を表す4つの大切なルールとされています。
注)左は「電磁気学とマクスウェル方程式」(クリエイティブ・サイエンス)より拝借しました。
『「電気と磁気は実はつながっていて、動かしたり変化させたりすると、お互いに新しい力を生み出す」これがマクスウェル方程式の一番大事なポイントです。』とのことです。
そして、「電気・磁気・人体」をキーワードにして、見つけたのが今回の前田先生の本になります。
しかしながら、「まえがき」に書かれていたのは次のようなものでした。
『本書は電磁場そして特に磁場が生物におよぼす影響について、ここ二十年余りの研究によって得られた主な成果を紹介しようと思う。この分野は「磁気生物学」とか「生物磁気学」とかよばれているが、何しろ生まれたばかりの学問で、しかも多くの異なる専門の人々が行っている学際的研究だから、得られた結果も多種多様であり、その信頼度もまちまちである。
このため、さしあたり雑多な研究結果を一応整理してみたという段階であって、体系的にまとめて記述できるまでには至っていない。しかし、本書によって読者が日頃、磁気の影響をうっかり見過ごしていることに気づき、関心を持たれるようになれば幸いと思っている。』
このため、ブログでは興味をもった事柄に関し、現在の医学や科学ではどのような見識になっているのを調べることにしました。
AIの回答の内容は極めて専門性が高く、ほとんど理解できていませんが、磁気が生物、生命に大きく関わっているということは理解できました。
目次
まえがき
Ⅰ 地球は大きな磁石 ―地球の磁気環境―
・磁石で方角を知る
・地球は大きな磁石
・逆転する地磁気
・他の惑星も磁石か
・地球はなぜ磁石か
・場所による地磁気異常
・短期的に変わる地磁気
Ⅱ 宇宙には磁場があるか ―宇宙の磁気環境―
・太陽に磁場はあるか
・恒星に磁場はあるか
・高密度星のすごい磁場
・銀河に磁場はあるか
・天体はなぜ磁場をもつか
・銀河はなぜ磁場をもつか
・宇宙磁場の統一理論―ダイナモ理論
Ⅲ 伝書バトは磁石をもっている
・天災を予知する生物
・磁石をもつ細菌
・伝書バトは磁石をもつ
・磁石をもつミツバチ
・電磁場を感じる魚
・生物磁石はどうしてできるか
Ⅳ 生物の機能は磁場で変わる
1 健康なヒトと磁場
・自然磁場の変化と体の変化
・パイロットの操作ミスにも関係?
・子供の成長と女性への影響
・人工磁場の影響
2 病気のヒトと磁場
・自然磁場の影響
・緑内障や結合症の発生と関係?
・人工磁場の影響
3 動物と磁場
・性比にも影響する自然磁場
・磁場遮蔽と人工磁場
4 植物と磁場
・植物の根は地磁気の南北を向く
・弱い人工磁場と強い人工磁場
5 微生物と磁場
Ⅴ 生物に共通な性質と磁場
・生物の進化にも影響?
・遺伝子への影響
・染色体への影響
・生体のリズムも地磁気に左右される
・方向性の実験
・磁場効果の普遍性
Ⅵ 生体構成成分と磁場
・生体細胞への影響
・培養細胞への影響
・コロイド系への影響
・たんぱく質の構造や向きが変わる
・変わる酵素活性
・脂質や核酸の向きが変わる
・遺伝暗号のエラーがふえる
・水を軟水化させる
Ⅶ 磁場効果のメカニズム
・生物磁石による感覚
・超伝導性による感覚
・水と体液の役割
・生体膜の役割
・生体磁気の役割
・まとめ
Ⅷ 磁気生物学の応用
・臨床検査と診断
・病気の治療
・肩こり治療から義歯まで
・保険・衛生上の問題
・農業での利用
・夢の多い生物学の研究
・生物工学の試み
付録・磁気についての基礎知識
・磁場と磁石
・透磁率と磁化率
・強磁性体の性質
・磁石をつくる
・電気と磁気
・電磁流体の力学
・地磁気を変える
Ⅲ 伝書バトは磁石をもっている
●天災を予知する生物
『動物による地震予知のメカニズムは、科学的に完全に解明されているわけではありませんが、近年の研究により一定の可能性が示されています。インターネットやSNSを活用してペットの異常行動情報を収集し、全国規模でデータを蓄積することで、より正確な地震予知システムの構築が期待されています。』
『動物による噴火の予知は確実な科学的手法ではありませんが、近年の研究により一定の可能性が示されています。火山活動に伴う地熱変化、火山ガス、火山性地震、電磁波変化などの複合的な環境変化を、動物が人間よりも敏感に感知している可能性があります。今後、センサー技術の発達と大規模な観測ネットワークの構築により、動物行動データを従来の地球物理学的観測と組み合わせることで、より精度の高い火山噴火予知システムの開発が期待されています。』
●伝書バトは磁石をもつ
『磁石(磁鉄鉱)を体内にもつ、あるいは磁場を感知できる生物は、バクテリアから昆虫、魚類、鳥類、哺乳類に至るまで広く存在します。これらの生物は、地磁気を利用して移動や位置把握、ナビゲーションなどを行っていると考えられています。』
『近年の研究では、人間にも地磁気に対する潜在的な感受性があることが示唆されており、この感受性のメカニズムとして「マグネタイト仮説」が有力視されています。これは、体内に存在する磁鉄鉱が地磁気を感知する役割を果たしている可能性を示しています。』
Ⅳ 生物の機能は磁場で変わる
1 健康なヒトと磁場
●自然磁場の変化と体の変化
『これらの知見から、地磁気の急激な変動は心臓疾患の発症や死亡リスクに何らかの影響を及ぼす可能性が高く、臨床的・公衆衛生的観点からさらに詳細な検証が求められます。』
●子供の成長と女性への影響
『磁場の成長促進・抑制効果は(1)磁場強度、(2)磁場の種類(静磁場・交番磁場・勾配場)、(3)細菌種や形態、(4)培養系(液相・固相)など多くの因子に依存します。一般的には「弱~中強度磁場で抑制効果」「特殊勾配場や高強度磁場で増殖制御・促進効果」が認められており、医療応用やバイオプロセスへの展開が期待されています。』
●人工磁場の影響
『地磁気を極度に弱めた環境(低磁場環境、hypomagnetic conditions; HMC)では、ヒトの認知機能、循環器・免疫機能、細胞レベルでの代謝や酸化ストレス応答など、多岐にわたる変化が報告されています。』
『人間の無意識的磁気感知は、進化の産物として残存する古い適応機能であり、現代においても環境認識や生理調節に潜在的な役割を果たしていると考えられます。これは人間の感覚能力や環境適応メカニズムの理解を深める重要な発見であり、将来的には医療、技術、環境デザインなどの分野での応用が期待される、生物学的に意義深い現象です。この無意識的な能力は、私たちが自覚していないもう一つの環境との対話チャンネルとして機能しており、人間と環境の関係をより深く理解するための重要な手がかりとなっています。』
『人間は磁気や電磁場を「感じる」ための生体センサーを持っている可能性が高いですが、その情報は無意識下で処理されており、主観的・意識的に磁気や電磁場を感じることはできません。今後は、この無意識的な磁気感受性がどのような意味や役割を持つのか、さらなる研究が期待されています。』
2 病気のヒトと磁場
●自然磁場の影響
『終末期の患者では、生体の適応能力が著しく低下しているため、地磁気の急変(磁気嵐)は心血管系や自律神経機能にさらなるストレスを与え、症状悪化や死亡リスクの上昇に寄与する可能性が示唆される。しかし「終末期」に特化した疫学的データは乏しく、現段階では間接的証拠に基づく評価にとどまる。』
『地磁気擾乱日には、心拍数の微小増減や自律神経機能指標であるHRVの顕著な低下が再現性をもって報告されている。 一方、機械的同期性(心室の非同期性増大・収縮位相遅延)に関する直接観測データはなく、エビデンスギャップが大きい。』
『現時点では心拍変動への影響は認められるが、心室の同期性異常や収縮位相遅延については未だ証明されていないのが実情である。』
『地磁気擾乱は精神活動に影響を与えうる要因として、多数の疫学的・生理学的研究がその関連を示しているものの、主に「うつ状態の増悪」「自殺率上昇」「脳波乱れ」といった精神症状の変調にとどまる。一方で、統合失調症における明確な因果関係の証明はなく、出生季節との生態学的関連研究があるのみである。』
●緑内障や結合症の発生と関係?
『現時点で、地磁気活動(GMA)が緑内障そのものの発症や進行に直接的に影響を与えるという確固たるエビデンスは存在しない。しかし、眼圧(IOP)の短期変動や急性閉塞隅角緑内障発作との関連を示唆する研究が散見される。』
●人工磁場の影響
『磁気バンドとダミーバンドの比較実験は、「機械的頸部痛」「凍結肩」で実施され、有意な鎮痛効果が報告されていますが、「肩凝り」に特化した臨床試験は未だ報告されていません。従って、肩凝りへの適用については科学的エビデンスが不足しており、さらなる研究が必要です。』
『100 ガウス(10 mT)前後の交番磁場(PEMF)は、ラット創傷モデルで治癒促進作用を示しており、特に増殖期の組織張力改善や治癒速度の向上が報告されています。今後、最適パラメータやヒトへの応用可能性を検証する臨床研究が期待されます。』
第三部
針灸に関する新しい解釈
●この章の中に、「刺針とアミノ酸」、「刺針と抗ヒスタミン性と抗アセチルコリン」、「刺針と自律神経系」に関する記述があったのですが、今の科学ではどのようなことが明らかになっているのか調べてみました。その結果、いずれも様々な研究を通して多くのことが発見されていることを知りました。
経穴というもの
●経穴の実態
・経穴を解剖学的に注意してみると、筋肉の間(筋溝や筋縁)や筋に連なる腱の上であるとか、関節や骨の凹んだところ、またもり上がっていたり、皮下にシコリやスジのようなもの、さらに動脈の拍動がよく触れるような部位に存在している。
・『経穴の深さは、どれくらいかというと、これは針を刺していったさいに、それに応じた感覚がおこることによっておよそわかる。まず皮下一定の深さに達するとおこる。そしてさらに深く進めていって再び強く感ずることもある。これは皮下組織(結合織)より筋(特に筋膜のあたり)に至る間に相当する。だいたいにおいて結合織が中心になっているようである。そこで大多数の経穴は、深部は筋に達していて筋にも関連しているものなのであろうと考えられている。いくつかのモデル経穴について解剖学的にしらべてみると、経穴にあたるところは、筋に対して神経の枝と血管の枝とが相ともなって入ってきているところになっていると言っている人もある。』
・『経穴の立体的な構造を想像してみると、筋膜のあたりを底として、上方皮膚面に向かって拡がりをもった摺鉢状(または壺状)のものであると理解されよう。』
経絡について
●東洋医学における経絡
—経絡の意義
・『東洋医学では、経絡は人が生きていくための最も基本になる現象であると見なしている。そして気・血が全身を循環するルートであるといっている。そこで、近代医学の教養を受けた人々には、これは人体の解剖を知らなかった古代の東洋人が神経や血管を混同してこのような幼稚な考え方をしていたものにちがいないと、軽卒に断定されて無視されがちであった。しかし、それにもかかわらず、経絡を重視する考えを、なお捨てきれないことにはわけがあった。それは病気のおこり方や治療に関してこの考え方があまりに実際に即していて、事実をよく説明できたからなのである。そこで経穴というものと関連して、内臓―皮膚―全身に行きわたる機能的な連絡路系として、今日の医学に新たな課題として提供されなければならなくなった。』
●経絡現象
—針の響きによる観察
・『針を刺して、ある深さまで進むと、徐々にまたは突然に、しびれるような電気に当てられたような感覚がおこる。そして、時にはそれがあるきまった方向に流れて行く。この瞬間的な針の響が経絡を示唆しているのだということは古くから知られていた。しかし、こういう感覚は、長く広い範囲にあらわれることは稀であってたいていは一時的で消えてしまうので、それをくわしく調査することはできなかった。
ところが、昭和二十四年の春、筆者は千葉医大眼科で偶然、針の響に実に鋭敏で、一度刺すと全身的にいつまでも放散している珍しい患者に遭遇した。視神経萎縮という。どんどん視力がなくなる悪性の眼病にかかっていた患者で、子供の時に落雷に感電した経歴のある人であった。この人について、ヒビキを丹念にとらえて、調整する機会が得られた。
各経絡を一つ一つ調査するために、手くびと足くびに近いところにある十二の原穴に、それぞれ針をごく浅く刺して置針しておいて、ヒビキのはっきり感じられているところを皮膚の上からたどって調べて行った。一つ一つ記録して、総体的にみると、まったく昔の医書に出ている図や解説と一致していた。それは、むしろ予想を裏切るほどの符合であった。』
・『これ以来、一般に注意されるようになったせいか、こういう特殊な過敏体質の人がつづいて発見されるようになった。』
●経絡の証明
—経絡現象発現の本態
・針の響きというものは、痛いという感じとは違った異常感覚の流れである。ごく弱い電流が流れているような、あるいは風が吹きとおるような、水が流れるような感じとして受け取られている。
・流れの速さは一様ではないが、ともかく、だんだん放散していくのがわかる程度である。明らかに神経に針が直接接触した場合(ピリッとした一瞬の強烈な感じで、毎秒数十メートルというスピードで伝わる)とは異なる。
・針の響きの伝わる速さは、1秒間に1~2センチから速くても数十センチである。
・『経絡現象の発現には、神経、筋肉などが、そのものとして直接関与しているのではないかということが、まずわかる。しかし、針の響は知覚の異常として感知されるのであるから、知覚神経が関与しているということは考えなければならない。』
・『探索器による経絡現象のつたわる速さは、リンパ流の速さと似ているものであるということと考え合わせると、結局、針を刺した皮下の組織液に変化がおこって、これが知覚神経に感知されているのではないかと考えられてくる。そして、そのさい知覚神経ばかりでなく、植物神経にも影響をおよぼすことになって、内臓の機能、血液循環、内分泌機能などにも変化をあたえることになるのではないかと考えられるようになった。』
—筋運動主因説
・経絡の異常と考えられている現象の一種に、皮下の深部筋間にスジのような硬結あるいは、経絡に沿ってもり上がったようになった筋肉の凝りがある。また、特殊過敏者の放散する針の響を皮膚に投影させて記録した中には、線状になっているところや、部位によっては幅広く帯状をなしていて、その部位の筋肉の幅と似たようなものもある。
・刺針により筋に微細な損傷または刺激が与えられると、筋線維の表面に電気的な変動などが起こる。その場合、筋やその周囲が病的な異常状態にあるならば、病的な電位差が調整され急激な変動が起こる。この変動が組織液に伝えられて針の響きとなって感知されているのかもしれない。
・刺針という刺激が加えられない状態での生理的な経絡現象を考える場合、生きている限り、呼吸をし、手足を動かしう、顔の表情も変化するということを考えると、常に筋肉運動が行われているということは明らかである。また、通常の生理的な筋収縮では必ず活動電位が発生している。その際、組織液の移動も起こり、一定の体液の循環路がつくられ、これが機能的な刺激伝導系としての経絡になっているのではないか。
—経水と経筋(体液と電気)
・『経絡現象を筋運動主因性体液路系(藤田六朗氏)として理解しようとする考えの根底は、すでに東洋医学の古典(霊枢)にも見られる。経脈(絡)を「分肉の間を伏行してあらわれぬもの」(経脈篇)と定義しているほか、経水および経筋という比喩的な見解が表明されている(経水篇、経筋篇)。
経水というのは、十二経脈を中国の河川・湖水などにたとえて、気血の流注の状態を説明しようとしているのであって、また経筋というのは、十二経筋という手足の指に起る筋肉の縦系列をグループ別に想定して、これを十二経脈にあてはめているのである。
経水思想は、経絡を気血の流通路と想定しているかぎり当然のことであるが、経筋に関しては、実際に筋肉の凝りが経絡に沿ってあらわれ、また針によって解消することなどから一定の筋肉群に人為的に律動をおこすことができるのであるから、現象的には認識できる見解である。
そして、こういう思想からわりだしてみても、血は体液的なもの、そして気とは筋を主因とした電気的なものという解釈がなりたちそうである。』
・『フランスのモラン氏は、かつて針の現象について、術者と患者との体内におこる電力と、空気中の電力との相互関係を考えた。そして、両足の三里(経穴)を銅線で連結して、特殊装置によって電気の存在を証明し、その強さは健康者で1ミリアンペアの八千分の一、疲労した人では少なく、神経質の人、足に攣縮のあるような人では十五倍であったと発表している。』
・『すべての筋肉が経絡現象に関係するという前提で考えを進めていくと、多くの縦走する筋肉群と、少数の横に走る筋肉との関係が問題になってくる。そして、これに関しては、横に走る筋肉は、深部にあって、縦に走る筋肉群にそれぞれ連絡する役割を果たしているのではないかと想像されている。つまり、ヘッド氏帯(または背部の兪穴と募穴などを結びつける帯状の経絡現象)に見られるような、からだの分節的な横の現象に関連しているのではないかというのである。
また、筋肉には、伸筋と屈筋という二つの作用を異にしたものがある。ところが、経絡には陽の経絡と、陰の経絡とがあって、陽の経絡は胃、小腸、大腸、胆、膀胱、三焦というような「腑」の臓器と関係して表在的であるといわれ、陰の経絡は心、肺、脾、肝、腎、心包というような「臓」の臓器と関係して深在的であるといわれている。この関係を解剖学的に調査してみた結果では、だいたいにおいて伸筋群が腑(陽)の経絡に関係し、屈筋群が臓(陰)に関係しているといわれている。』
—結合織と組織液
・『皮下組織というのは、皮膚と筋(筋膜)とを結びつける目の荒い網のような線維の結合織からなりたっていて、その間隙は組織腔といわれ、組織液が充満している。ここが、針の刺激の対象である経穴の主体である。』
・結合織は発生学的には中胚葉(内外両肺葉の間にできる一対の腔胞)系の組織であって、からだの中心的な位置にある。そこで、からだの全ての細胞や組織の間に行きわたっていて、脳や胃腸その他のあらゆる重要な臓器、器官の細胞を安定状態に結びつけて、組織液とともに組織の緊張状態を一定に保つ役割をしている。皮下組織はもとより、上皮との間の真皮、筋の周囲や間、筋膜、血管壁などにも行きわたっている。
・この組織は同じ中胚葉系の網内皮細胞とともに健康維持に欠くことのできないものであるということが、近年注目されるようになった。
・『結合織の機能の減退は、組織液の浸透、流通の異常となってあらわれる。』
・経穴は多くは筋肉の間であったり、神経や血管の出入りする部位にみられる。
・『組織液の流通と経絡・経穴との関係を調査するために、筆者はかつて多くの健康人体について一つの試みを行ってみた。「ツベルクリン反応が試みられる手のひら側の前腕の皮膚で、経穴にあたる部位と経絡の主流線上になっていて経穴でないところ、および経絡の主流線をはずれた経穴でない点などについて、それぞれ生理食塩水を皮内に注入して、それが完全に皮下に吸収されていく時間を調べてみた。すると、経絡主流線上では経絡外の点よりも早く、経穴部ではややおそくなっているのがわかった。」
すなわち経絡主流部では早く吸収されるのであるから、これによって皮下の組織液がよく動くところが経絡になっているらしいということがわかったし、経穴は、どちらかといえば流れが悪く停滞しがちなところであるということも、だいたい予想どおりであった。』
・『結合織を中心として、内循環系ともいわれる脈管外の通路系というものを考えると、気・血(栄・衛)の流れるという経絡と、経穴の意義が、いっそうよく理解されてくる。そして針灸の作用も、結合織の機能を回復させるものであるということで説明できるようになる。針灸を組織療法と考えるのは、この意味で当たっているし、同時に経絡の機能をよくするという広義の作用も理解される。』
・『針の響による経絡現象の発現は、筋を主因とする説でひとまず説明されているが、実際には筋まで達しないで、単に皮下の結合織に達したくらいの深さでもおこる。こういう場合は、体液的な変化で間接的に筋が刺激されるためであろうと説明(藤田六朗氏)されている。しかし、こう考えたのでは、体液が何によって変化をうけるのかという点が不明になってくる。そうなると、結合織線維そのものが直接関与して、またある程度刺激を感受してこれをつたえる役目をも果たすのではないか、ということも考えなくてはならなくなる。
もし、結合織線維が刺激感受の主体になるものとすれば、全身の結合織系が形態的に経絡系の実体になるという想定が、いよいよたしかめられてくる。といっても、もちろん経絡の走行を解剖学的に規定するものとして、また、機能的な関連において、筋の意義が重大であることには変わりはない。』
感想
『血は体液的なもの、そして気とは筋を主因とした電気的なものという解釈がなりたちそうである。』という長濱先生の一文が今回の最大の発見です。
「“氣”とは電気的なものではないか」以前から「電気」はキーワードであるとは考えていたのですが、長濱先生に後押しして頂いたような気分です。また、今回もAI(Perplexity)の凄さを実感しました。本書の初版発行は1956年なので、69年前ですが多くの考察については、現代科学でも明らかにされていることが確認できました。
“氣とは何だろう”というブログもついに残り1冊になりました。そのタイトルは『生物は磁気を感じるか 磁気生物学への招待』です。交流磁場(電気的に発生させた磁場)については、血行改善作用を支持する科学的根拠が報告されています。(「交流磁場の生体作用の一端を解明し、交流磁場から誘導される電場の可視化に成功」)
「気は血を推動する」という基本に立ち返ってみても、“電気”と“磁気”の2つは、“氣”を探る上で最も重要なものではないかと思います。なお、電気と磁気はマクスウェル方程式で統一的に記述できるそうです。ますます核心に近づいているのではないかと思いたいところです。
ご参考(2025年10月11日):“マサチューセッツ総合病院鍼灸感覚尺度の日本語版:検証研究”
日頃から勉強させて頂いているJNOS(日本整形内科学研究会)のウェビナーで大変興味深い資料があることを知りました。それは「鍼治療感覚尺度」というものです。
この「鍼治療感覚」とは本ブログの中にあった「鍼の響き(ヒビキ)」に関するもので、ヒビキを詳細に分析しようとするものです。
『「鍼治療の効果を生むためには、鍼治療感覚が不可欠であると考えられている。マサチューセッツ総合病院鍼治療感覚尺度(MASS)は、鍼治療の研究において、鍼治療感覚を測定するために頻繁に用いられる尺度である。我々は、Beatonのガイドラインに基づいて、このMASSを日本語(日本語版MASS)に翻訳した。』
“氣とは何だろう37(間中喜雄編)”の中に以下のことが書かれていました。そして、それは長濱善夫先生の「針灸の医学」という書著からの抜粋でした。
『針の響きによる経絡現象の発現は、筋の主因とする説でひとまず説明されているが、実際には筋まで達しないで、単に皮下の結合織に達した深度で針響が起こる場合も決して少なくないのである。また、稀にはやっと真皮に達したくらいの深さでもおこる。こういう場合は、体液的な変化で間接的に筋が刺激されるためであろうと説明(藤田六朗氏)されている。しかし、こう考えたのでは、体液が何によって変化を受けるのかという点が不明になってくる。そうなると、結合織線維そのものが直接関与して、またある程度刺激を感受してこれをつたえる役目をも果たすのではないか、ということも考えなくてはならなくなる。
もし、結合織線維が刺激感受の主体になるものとすれば、全身の結合織系が形態的に経絡系の実体になるという想定が、いよいよたしかめられてくる。といっても、もちろん経絡の走行を解剖学的に規定するものとして、また機能的な関連において、筋の意義が重大であることには変わりはない。―(以上、長濱博士『針灸の医学』より)』
長濱善夫先生は、千葉医大で鍼響に敏感な患者(視神経萎縮という悪性の眼病)を対象に実験を行い、刺鍼によって生じる響きの走行が「霊枢」など古典の経脈流注にほぼ一致することを確認し、その成果を、丸山昌朗先生とともに「経絡の研究」として1950年に発表されました。
鍼響を研究され、経脈流注との関連を明らかにされた先生が、『全身の結合織系が形態的に経絡系の実体になるという想定が、いよいよたしかめられてくる。』と発言されていたことに勇気を頂きました。それは、今まで繰り返し言ってきた【経絡≒ファシア】を裏づける見解だったためです。その長濱先生の著書を拝読させていただければ、その中に“氣”に関して、何かヒントを得られるのではないかと考えました。
はしがき
目次
はじめに
第一部
針灸の沿革
●起源
●中国の針灸
●日本の針灸
●明治以降の医制
針灸術の現況
●針とその変法
—針法
—針の変法
●灸とその変法
—灸法
—灸の変法
●技法と流派
—針と灸
—経穴
—沢田流
—古典派
—科学派
—反応点
—脈診法
—感熱試験
●海外における針術
—中国その他の事情
—ヨーロッパの針術
第二部
針灸療法の実態
●針と灸の治効作用
—一般作用と特殊作用
—特殊技術と過誤
—針と灸の相違
●針療の実態
—針の感じ
—針療の特質
—一本針
—洞刺
—刺絡
●灸療の実態
—灸の感じ
—灸療の特質
—特殊な灸法
—背中の灸と一点灸
—三里の灸
[付]原式灸法
針灸でよくなる病気
●どんな病気によいか
—機能的な病気
—神経症状
—器質的な病気
—炎症・化膿
—老化症状
—適応と不適応
●各科別の病気について
—内科的な病気
—外科(皮膚科)的な病気
—産婦人科的な病気
—小児科的な病気
—眼耳鼻科的な病気
●特に二、三の病気について
—高血圧症(付・脳卒中)
—肺結核
[付]放射能症
針灸と民間療法
●手指による療法(手技療法)
●器具を用いる療法(刺激療法)
●薬による療法(付・漢方)
第三部
針と灸の近代的研究
●針に関する研究
●灸に関する研究
—血液に及ぼす影響
—皮膚の組織学的変化
—各種の生理機能に及ぼす影響
—病気に対する影響
●治効作用に関する説
針灸に関する新しい解釈
●冷凍植皮と灸
●針とアミノ酸その他
●ストレス療法
経穴というもの
●経穴の意義
●臓器と経穴
●ヘッド氏帯と圧診点
●経穴の実態
経絡について
●東洋医学における経絡
—経絡の意義
—経と絡
—気・血
—経絡の種類
—経絡の名称
—十二経の走行と臓腑
●経絡現象
—針の響きによる観察
—皮膚の電気抵抗による検索
●経絡の証明
—経絡現象発現の本態
—筋運動主因説
—経水と経筋(体液と電気)
—結合織と組織液
経絡・経穴と針灸
●経絡と経穴
●経絡に対する一般作用
●針灸の作用機転
●経穴の選択
●経穴組織の刺激
●経穴機能の調整
経穴・部位一覧
第一部
針灸の沿革
●日本の針灸
・日本には奈良朝から平安朝時代にかけて隋・唐と直接交通が開かれるようになって移入された。
・大宝律令には宮内省典薬寮に医師、医博士、医生に対して針師、針博士、針生などをおくという管制が定められていた。そして、甲乙経という針灸専門書などは、針生ばかりでなく、医生にとっても必須購読書とされていた。
・針生は数種の専門書について研修し、試験に合格して針師となり、さらに優秀なものは針博士に任ぜられることになっていた。針灸は針科と呼ばれて、当時の医方の中では、一段と程度の高い技術として重視されていた。
・「医心方」(三十巻)は、当時の代表的医書で、現存するわが国最古の医書であるが、著者は針博士の丹波康頼である。
・鎌倉時代から室町時代になると、医官制度はすたれたため、管制上の針師・針博士は有名無実の存在となり、民間に針灸は広まり外科医的療法として、できものや腫れものなどの治療に応用されるようになった。一方、この時代には針灸の先進国であった朝鮮に日本の灸法を紹介したり、明に渡って日本の針法を伝えた人の記録もあり、すでに日本にも独創的な針灸法が生まれていたと思われる。
・桃山時代、京都の御薗意斎は、従来の鉄針の他に新たに金針・銀針を創薬したほか、小槌で針頭を打って刺入する打針の方法を発案した。
・江戸時代になると一般医術も針灸も、わが国独特の方が次第に完成されていった。宝永年間、後藤昆山という医家が、百病は一気の留滞に困るのであるから、灸によって治すべきであるという説を唱えて、灸法を実用したので、その一派によって灸がたちまち世に広められるようになった。
・将軍、徳川綱吉の命によって杉山和一検校が、針治講習所を設けて針術を広めることにつとめたことから、杉山流針科として針も大いに普及した。杉山和一は、管針を創案して針の皮膚刺入を簡易化した。この管針法によって刺入が著しく容易になったため、針法の普及に役立った。この管針法は現在に受け継がれた。
・針灸は江戸時代末期に蘭学が入ってきて、漢蘭折衷の医方が生まれても医方の一つとして存続されていった。
・文政九年(1826年)オランダの医官として来朝したドイツ人医師シーボルトは、在日中、頻繁に針を体験したうえ、当時の幕府の針科医石坂宋哲の著書を翻訳し、後年帰国してこれをヨーロッパに紹介した。
●明治以降の医制
・江戸時代の末期には、すでに日本独特の針灸術がほぼ完成されていたが、明治時代に入ると新政府は西洋文物の取り入れに急になるあまり、医学の面でも西洋医学一辺倒の方針をきめた。そのため、明治七年の医制において「医師は西洋医学を修めたものでなければならぬ」と規定された。その結果、従来の漢医方とともに針灸術も新しい医師制度から除外されることになった。しかし、すでに当時国民に広く親しまれていた針灸を一概に禁止することはできず、同じ医制の中に「鍼治灸治ヲ業トスル者ハ内外科医ノ指図ヲ受クルニアラザレバ施術スベカラズ」という規定が設けられていた。ところが、東洋固有の医方であった針灸を近代西洋医学の管理下におくということには、本質的に矛盾があり、実際にはこの規定はほとんど励行されなかった。そこで、その後「鍼灸術の営業差許方」(明治18年)、「鍼術灸術営業取締規則(明治44年)というように営業として認許するという便法がとられることになった。また、この制度に基づいた学校の教科基準として大正七年文部省が制定した「改正孔穴学」は、わが国古来の針灸術の拠り所であった経穴というものを孔穴の名によって、全く型にはまった簡略なものにしてしまったので、これにより江戸時代以来の針灸術の面目は、表面的には、ほとんど失われるようになってしまった。
・終戦後の占領時代、医療改革制度の諸問題に関連して、一時針灸は他の民間療法術とともに、一切禁止の危機に直面したが、医療制度審議会の答申として「医療の補助手段として効果があると考えられるものがある」とのことから、なんとか禁止だけは免れた。その後、昭和二十六年に至り「あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法」が施行され、従来の営業法から一変して身分法が確立されることとなった。ただし、その代わりその資格に対しては免許の水準を一段と高めるということで落着した。
第二部
針灸療法の実態
●針療の実態
—針の感じ
・『針を刺入して行くさい、針が皮膚を通ってしまった後は、ほとんど無痛で、針が入っていくという感じもないほどである。しかし皮下のある深さ(人により場所により深いことも浅いこともある)まで達すると、徐々に、あるいは突然に、特別の感じがおこる。ふつうはごくかすかな電気をかけられたような感じであり、あるいはしみるような、または重苦しいおされるよう感じ、時には熱感または冷感という形式で表現できるような感じである。これは一時的、局部的に終わってしまうことが多いが、時には電気にかけられたようなかすかな感じが、急速に流れて、針を刺しているところとは別の思いがけない遠方に再び強く感じがあらわれる、というようなこともある。ふつうは瞬間的にあらわれて、短時間のうちに消えることが多いが、時には置針中いつまでもつづいていることがあり、またまれには針を抜いた後にものこっていることがある。流れる方向は、経穴によってだいたい決まっている。また、患部に向かって選択的であることもある。これらは、針のヒビキ(響)といわれる特別な感じで、少なくともふつうの痛いという感じとは違う。圧痛の強い経穴などに針を刺すとよくおこるが、この場合は、針がよく効いているということを意味することにもなる。患者が「あア今の針はよく効きました」というときは、ヒビキが強くあったことをいっているようである。実際、それで、病苦がずっと軽減されることが多い。しかしすべての場合にそうであるとはかぎらない。
圧痛のあまりない、虚状になった経穴では、こういうヒビキは必ずしもおこらない。しかし針を刺したままにしておいて、振動させたりしていると、やがてかすかな感じが出てくることもある。これは、これで治療的に意味のあることなのである。
針のヒビキが、はっきりあらわれて、それが一定の方向に放散されて行くというと、いかにも針の先が皮下の神経にぶつかって、神経を刺戟した結果であろうと考えられやすいが、神経線維に的確に突きあてるということは容易なことではないし、事実あたった場合はこういう感じとは全然別な強烈な感じとなる。また、このように遠くの方まで流れて行くということも考えられないし、神経が通っているすじみちとは、まったくちがう方向であることが多い。つまり、常識的に考えられる神経とはちがうものを刺激していることになるのである。結果的に、経絡に影響をあたえたためにこういう感じがおこると考えられるわけで、このことから経絡というものを、はじめて現象として認知することができることになるのである。』
—針療の特質
・針治療は一番痛むところに刺すだけでなく、その周辺を触診して過敏な反応がある経穴を施術することは有効である。また、少し離れたところや遠隔部からの刺針でも効果が期待できる。
・坐骨神経痛の場合は、腰部、臀部、下肢(膝から下まで)と広い範囲に施術する。この範囲の特に良く効く経穴があるが簡単には見つからない。
・針のヒビキによって経絡現象が認められるということは、針の刺激の対象になっているものが経絡であり、刺激によって病気が良くなっていくということは、経絡の異常が治されたからだということになる。
—一本針
・急性病に針はよく効くといわれているが、胃痙攣や胆石症の発作的な痛みなど、うまく効くときは全く鎮痛薬など足元にも及ばないほどの効果がある。
[胃痙攣] 筆者(長濱先生)の特によく効いた事例
1)『第一例は、痛みのために仰向けになって、手でおなかをおさえて苦しがっていた青年の場合である。(はじめての発作)いちばん痛がっているみぞおちのところ(巨闕という経穴)へ静かに針を刺しはじめると、今まで閉じていた眼を急に開いた。針を抜くと同時に、患者は起き上がった。針を刺されていたのは知らなかったが、急に痛みがなくなったから起きたのだとのことだった。』
2)『第二例は、中年の男(既にたびたび発作の経験がある)これは腹這いになって痛がっていた。そこで背部の腰に近い胃倉という経穴(おすと特に過敏な痛みがあった)に針を刺すと、胃の中にしみるように針のヒビキを感ずるとのことだった。起こしてみると、用心深く、起き出したが、もう痛みは全然なくなっていた。』
3)『第三例は中年の婦人。これは帯を固くしめた着物のまま蒲団に入って、エビのようにからだを曲げて苦しがっているのでどうにもならなかった。そこで足だけ蒲団の外へ出してもらって、膝の少し上にあたる太股の梁丘という経穴に針で強刺激をあたえてみた。すると見ているうちにからだをまっすぐにして、やおら起き出した。それきり、発作は止まっていたのである。』
・『この三つの例は、いずれもちがった経穴を使っているが、それぞれ一針だけでなおった例である。しかし、いつも必ずこのように一針だけで治るというわけにはいかないが、うまくあたると、こんな効き方をするという意味で、ここにあげた。』
胃痙攣も胆石症も針治療で改善するのは、いずれも平滑筋の緊張を軽減することによります。
『平滑筋の収縮・痙攣による痛みが刺鍼により瞬時に改善するのは、上記の複数のメカニズムが同時に活性化されることによります。特に神経系を介した即時的な反応(ゲートコントロール、軸索反射、自律神経調節)と、局所的な生化学的変化(アデノシン放出、NO産生、神経伝達物質放出)が組み合わさることで、平滑筋の痙攣と痛みが瞬時に改善されるのです。』
私は以前から【ファシア≒経絡】であると考えているのですが、ファシアとは荒っぽい言い方をすれば“膜”です。日本整形内科学研究会による説明は、『ファシア = 全身にある臓器を覆い、接続し、情報伝達を担う線維性の立体網目状組織。臓器の動きを滑らかにし、これを支え、保護して位置を保つシステム』となっています。また、筋膜はファシアの一部とされています。
画像出展:「日本整形内科学研究会」
ファシアにつながる見解として、第五章には、『皮下組織というのは、皮膚と筋(筋膜)とを結びつける目の荒い網のような線維の結合織からなりたっていて、その間隙は組織腔といわれ、組織液が充満している。ここが、針の刺激の対象である経穴の主体である。』
そして、第十一章には、『従来、経穴に該当する部の皮膚には、知覚の過敏や鈍麻あるいは圧痛、硬結、陥下などが経験的に知られており、その構造は皮膚表面のみに限られる平面的なものではなく、深く皮下組織に及ぶ立体的なものであると推測している。』
そこで、ここではファシアの視点でいくつか資料をご紹介させて頂きます。
『「“Fascia”の語源はラテン語の“帯”を意味する「fascis」に遡り、1615年に英国の医師ヘルキア・クルークが初めて解剖学文献で使用した。」とあります。その後、ファシア研究への関心を再燃させたのは1970年代となっています。[本書の発行は1971年]
「2012年以降、超音波エコーガイド下での筋膜間注入法が日本で開発され、2015年には拡張顕微鏡法(ExM)を用いた生体ファシアの可視化が実現。これらの技術的突破が、ファシアの動的挙動の解明に貢献した。」とあります。日本では2018年に日本整形内科学研究会が発足し、ファシアが少しずつ浸透していきました。
また、「PubMed データベースにおける「fascia」関連論文は、2000年以前は年平均 50 件未満だったが、2010年以降は年
間300 件以上に急増。特に2018年のニューヨーク大学チームによる「新器官」発表後[“人体で最大、新しい「器官」を発見? 米研究”]、被引用数が前年比420%増加した。」とのことです。』
画像出展:「Electrical Impedance of Acupuncture Meridians」(PLOS One)
『背景:経絡の科学的根拠は不明です。過去の研究では、経絡は生理学的には低い電気インピーダンスを特徴とし、解剖学的には結合組織層と関連していることが示唆されています。私たちは、経絡が低電気インピーダンスと関連しているかどうか、そして超音波検査で得られる指標、特にエコー源性コラーゲンバンドがこれらのインピーダンスの違いを説明できるかどうかを調べることに関心があります。』
第十五章 ドイツの電気針
●臨床医学の領域で、数年来、ある一つ一つの臓器の機能が微細正確な電流によって示されることが知られている。心電図や筋電図は多くの人が知っているものだが、最近では大脳の活動電流が頭蓋骨を通じて診断学に利用されている。
MEGについて
画像出展:「MRIとMEGについて」(脳とこころの研究センター)
『MEGとは、Magneto-Encephalo-Graphyの略であり、日本語で"脳磁図記録"と呼ばれる検査方法であり、脳内にわずかに発生する磁場変化をとらえて脳の機能を解析する検査です。
脳の中の情報の伝達は、神経細胞間での電流のやりとりで行われています。電流が発生すると磁場が発生します。これを記録するのです。この脳磁場は大変な微量で、例えば都市雑音で発生する磁場の一万分の一程度しかありません。しかし、近年の超電導技術とコンピュータ技術の進歩により可能となったのです。』
脳磁図(MEG)
日本臨床脳磁図コンソーシアム
画像出展:「日本臨床脳磁図コンソーシアム」
『日本臨床脳磁図コンソーシアムは、脳磁図に関する知識の交換、脳磁図の研究と診断の向上を目標とする団体です。このコンソーシアムは脳磁図臨床研究医師によって構成されています。』
人間からも電波が出る?
画像出展:「人間からも電波が出る?」(電波50のなぜ)
『感度の良い電波受信器の前に手をかざすと、手から電波を受けることができます。もちろん、その強さは非常に弱いものですけど』
●経験的にこれらの診断学的方法が、心、脳あるいは筋肉の疾患を判断するのに役立つことが分かってきたが、患者の手足から心臓の活動電流だけが誘導され、なぜ他の臓器のそれが誘導されぬかということは、生理学の基礎的な研究によって何らの回答を与えられていない現状である。心臓がその活動の表現として微細な電流曲線を示すのに、なぜ肝臓、腎臓、肺あるいはその他の臓器に、これと同じようなことが起こらないのだろうか。
『心臓以外の臓器で心電図様の測定法が普及しない要因は、電気的信号の微弱さ・非周期性・解剖学的障壁に加え、臨床的有用性の証明ハードルが高い点にある。ただし、胃電図や EIT の進歩は、技術革新がこれらの課題を克服し得ることを示唆している。今後の鍵は、ナノ材料科学と AI を融合した次世代センサーの開発、ならびに臓器特有の電気生理メカニズムの解明にある。医療機器産業と基礎研究の連携強化により、10年以内に肝臓・腎臓の機能評価に革命をもたらす新技術が登場する可能性は十分に存在する。』
●経穴と経絡というものは、リンパ系、組織液と密接な関係にある。経穴を鍼または電流で処置することによって、リンパまたは組織液を正常な方向に保つことができる。イオン不正常状態からイオン正常状態にかえることができる。これによってまたコロイド不正常状態からコロイド正常状態に影響を与えることができる。仮説的にいえば、この経穴は生物電気の通路であり、経穴はこの道における蓄電池にあたる。その蓄電池は器官の活動による生物電気によってそれ相当な蓄電を受けるわけである。最もよい荷電は、普通に我々の臓器が負荷された場合に働いている状態の荷電である。しかし、その他にまだ予備的な状態がある。すなわち突然起こってくる強い負荷状態の仕事に対して、それに充分に見合うところのエネルギーが、仕事のために必要になってくる。それによって必要なだけの荷電を要することになる。だから蓄電池の荷電能力はたしかに或る程度、器官の活動能力または活動予備能力に比例するものと考えてよいと思う。
こちらは2003年12月の日本生体医工学会の論文です。 皮膚インピーダンスとは、皮膚を流れる電流に対する皮膚の電気的な「抵抗」と「リアクタンス(容量性や誘導性成分)」を合わせた総合的な値のこと。つまり、皮膚が電気信号に対してどれだけ流れにくいか(または流れやすいか)を示す指標で、単なる直流抵抗(レジスタンス)ではなく、交流成分も含めた「インピーダンス」として評価されるものですので、この論文が経穴の電気抵抗に関するものであることがわかります。2003年なので新しいとはいえませんが、本書からは30年以上経っています。
画像出展:「経穴とその周辺における皮膚インピーダンス軌跡の多点同時測定」
Ch.5は経穴の郄門(げき門)です。
『経穴とそうでない部位で皮膚の電気的特性に差異が存在する理由については、 インピーダンスパラメータ、 Z0、 τ0が精神性発汗によって著しく減少することから、経穴において汗腺の活動が局所的に活発になり発汗が促されたのではないかと推測される。』
感想
藤田六朗博士は原穴その他に灸または針刺激を与えておいて、皮膚の電気敏感速度を検査し、反応点や丘疹などの消長が刺激点の経絡に相当して現われてくることを認めました。
中谷義雄博士は臓器の病気について調査し、それぞれ一定の形状をした電流のよく通る絡状のものを発見し、これらを皮膚通電良導絡と名づけました。
間中喜雄博士は身体各部(井穴、原穴、絡穴その他)の電気抵抗のインピーダンス値を測定しました。
七条晃正博士は、平流と脈流とを同時に通電する装置を考案し、点状皮膚の低い電気抵抗部位を通電点と名づけ、針治療の経穴は表皮より深部にあり、電気抵抗の低下点だけでは判定しにくいのではないかとの疑問を投げかけました。
石川太刀雄丸教授は、電気容量成分を一定にし、抵抗成分のみ測定できるように設計した装置を使用し、きわめて低い部位が点状反応として現われることを報告し皮電点現象と呼びました。
芹沢勝助博士は大島良雄博士との共同研究により皮電計の通電方式に対し静電誘導電圧を応用した電位差計を利用し、これを差電計とよび、電極を直接皮膚面上にあて周囲皮膚と比較して明らかに大きな電位差を示す部位を記録しこれを差電点と名づけました。
これらの研究や実験から分かることは、経絡/経穴と電気との関係です。また、人の体の中には弱い電気が流れていますので、電気に注目することは不自然なことではありません。
画像出展:「“生体電気” 電気仕掛けのココロとカラダ」(NHK)
『生体電気は、細胞で“発電”され、脳、筋肉、心臓だけでなく、ヒト誕生の瞬間、受精にも深くかかわっている。生命の根幹「生体電気」。その仕掛けから生まれたヒトの不思議を妄想する。』
抵抗率は、骨>脂肪>内臓>筋肉組織>神経組織>血液となっています。
画像出展:「HANAI High Voltage Insulation Consulting」
『人間の組織は、大雑把に骨、脂肪、筋肉、神経、血液で構成されています。抵抗率は、骨>脂肪>内臓>筋肉組織>神経組織>血液となっており、電気を流しやすい抵抗の低い組織は血液と神経です。神経は脳で発生した電気信号を筋肉に与えて動かしたり、痛みや接触を脳に伝えるために電気を流しやすくなっています。逆に脂肪は非常に抵抗が高く良い絶縁物です。』
経穴の図は『臨床経穴図』からです。一方、解剖図は『グレイ解剖学』から持ってきました。
この両図を見比べると、経脈の肺経(左側)と心包経(中央)と心経(右側)は、解剖図では左から橈骨動脈、前骨間動脈の貫通枝(ただしこの動脈は深層に入ります)、尺骨動脈と重なります。そして、経穴の太淵と神門は、それぞれ橈骨動脈と尺骨動脈に近接していることが分かります。血液は脂肪や筋肉に比べ電気抵抗が低いとされています。
【気は血を推動する】という古来からの定説と照らし合わせても、経脈と血液(血管)、経脈の電気抵抗の低さ、これらは重要な特徴だと思います。
※経脈:経絡の一部、縦に走行する幹線道路のような重要な役割を担っています。
そして、思い出したのは2018年11月にアップしたブログ“閃く経絡(経絡と電氣)”です。これは『閃く経絡』という本を題材にしたものです
著者のダニエル・キーオン氏は救急救命を専門とする医師でありながら、中医学と鍼治療の学位を取得され、著名な王居易医師に師事されたという経歴も持っています。
そして、印象的だったことは、『鍼治療とは、刺鍼ポイントのツボ(経穴)への刺激が、概念である氣の一部である「電氣」の知性に働きかけ、体表と内臓を結ぶ経路を通じて乱れた状態を元に戻す』というものでした。
「概念である氣の一部である“電氣”の知性に働きかけ」ということは、電氣は氣という概念の一部であり、式で表現すれば【氣∋電氣】ということだと思いますが、「電氣の知性」とは“氣”の働きに関することだと思われます。その中身はよく理解できませんでしたが、電気は“氣”を考えるうえで無視できない重要な要素だとあらためて思いました。
第十一章 刺激療法としての針灸術
『「医道の日本」誌創刊500号(昭和44年5月号)の教育大学 芹沢勝助博士の「針灸の現状と将来への展望」のうちで、第二次戦争後の日本の主な針灸研究活動を要約したものを一覧表にすると次の通りになる。』
◇千葉大学 長濱善夫博士、昭和大学 丸山昌朗氏の共同研究『経絡経穴の研究』は、戦前の駒井一雄博士の『経穴の定位測定』に次ぐ研究で、経絡実在の可能性とその科学性を実証した。
◇京都大学 間中喜雄博士の『内臓体表反射、体表内臓反射の臨床的研究』は明治末期、後藤道雄博士の「我が国古来の針灸術はヘッド氏帯応用の皮膚刺激治療である」という見解に対して全く新しい立場から新しい知見に基づく解明を与え、内臓体表反射、体表内臓反射の機転が脊髄断区(デルマトーム/皮膚分節)だけに起こるものではなく、より高次神経中枢パターンで起こることを示唆し、平田内臓吉氏の提唱した平田氏十二反応帯(この発現機序を運動力学的に意味付けしたのが、七条晃正博士の平田氏十二反応帯の力感覚的解釈である)や、経絡パターン(赤羽幸兵衛氏が提唱した指趾末端の痛覚低下現象を熱感度により測定し、経絡の異常を判定する方法)を素材とし、豊富な臨床資料を活用して実証している。
『間中喜雄博士の「内臟体表部反射及び体表部内臟反射に関する臨床的研究」は、鍼灸医学の科学的基盤確立において極めて重要な貢献をした研究です。内臓と体表の相互作用についての神経反射メカニズムを明らかにし、東洋医学の経験的知識に現代医学的説明を与えることで、統合医療の発展に大きな影響を与えました。この研究により、鍼灸治療は単なる伝統医学から、科学的根拠を持つ医療技術として認識されるようになったのです。ただし、間中博士自身も認めているように、絶対的且つ根本的な解明は、鍼を刺す事によって起こる気や経絡や神経の複雑な相互作用の解明以外には無いと考えられます。現在でも鍼灸のメカニズムの完全な解明には至っておらず、継続的な研究が必要とされています。』
こちらは3分30秒の動画です。「首から来る手のしびれ~皮膚分節知覚帯・デルマトームとは~ (YAESU CLINIC脳神経外科)」から拝借しました。
間中喜雄博士はまた身体各部(井穴、原穴、絡穴その他)の電気抵抗のインピーダンス値を測定して針治療に活用する装置(間中式トランジスター探知器)を開発し臨床に導入するとともに、経絡の流注に従う異種二金属接触法という新しい治療法式を提唱し、古典にいう経絡流注の実在の可能性を実証した。
◇昭和の初期より関西地方で業者の一部が経験的に臨床に応用していた「経穴部は、電気が流れやすい」という経験的な事実を実験医学的に取り上げ、人体には古来の経絡経穴という体系によく似た縦に走る皮膚通電抵抗の低い絡状系があり、この系統を良導絡と名づけ、この絡上で、特に通電抵抗が低く、よく電気の流れる微小領域を良導点と名づけ、『良導絡の研究』として体系づけたのが京都大学 中谷義雄博士である。良導絡研究は、当初は基礎的研究に留まっていたが、その後通電による動態変動が古典における経絡経穴の現象と全く一致するという観点に立って、皮膚の通電抵抗の変化を指標として臨床応用に発展し、測定器ノイロメーターとともに現代における科学的針灸療法の一環として広く普及し、活用されている。中谷博士の良導絡研究の業績は、昭和の初期からそれまで「経穴探知器」として業界の一部で細々と息づき利用されていた点状皮膚通電現象を指標とする針灸術の臨床面に大きく取り上げる機会をつくり、にわかに脚光を浴びるようになった。
中谷義雄博士の良導点現象は、内臓疾患の際に神経反射の機転により交感神経の異常興奮が立毛筋や皮脂腺機能の亢進を来たし、一過性に皮脂の分泌がたかまり、その部の電導性がよくなり、皮膚の電気抵抗が低下し、絡状、点状の現象が現われると論いている。
◇岩手医大 七条晃正博士は、平流と脈流とを同時に通電する装置(七条式灸点電探器)を考案し、点状皮膚の低い電気抵抗部位を通電点と名づけ、灸療法に活用する経穴は体表にあり、通電点がその治療の刺激点であるが、針治療の経穴はもっと深部にある。従って電気抵抗の低下点だけでは確実に判定しにくいのではないかとの疑問を投げかけた。
◇赤羽幸兵衛氏の提唱した指趾末端の痛覚低下現象を知熱感度で測定し、古来の経絡相互のアンバランスを判定し、これを調整するために皮内針を利用する方法(知熱感度測定と皮内針用法の研究も)戦前には全く見られなかった発想の研究であり、経絡系の実在の可能性を示唆したユニークな研究である。測定法についても現在は熱源を原法の線香から電気的に数値で読み取るトランジスター赤羽式の自動感熱測定器の開発にまで発展し、広く臨床に取り入れられている。
◇金沢大学 石川太刀雄丸教授は、電気容量成分を一定にし、抵抗成分のみ測定できるように設計した装置(皮電計)を使用し、抵抗装置がきわめて低い部位が点状反応として現われることを報告し、皮電点現象と呼んだ。石川教授は、この皮電点現象は、内臓に障害がある場合に、自律神経の内臓皮膚(血管)反射を介して皮下小動脈の分岐部に投影され、神経性の血管運動障害を招き、その結果小動脈支配下の皮膚表層域に相当して楔状の滲出性変化が現われることによるものであって、これはその初期には不可逆的であるが、ついには半ば壊死状態に陥るという。このような皮下小動脈周囲にはじまる滲出性機転は、電気的な性質を変え、これが皮電点として検出されるのであるという。そしてこれらの変化は、内臓疾患のある時、相当する皮膚断区にしばしば観察されるので、この皮電点より一定の内臓疾患の診断補助になるという。また、この皮電点は古来の経穴部位に一致して現われる場合のあることは中谷義雄博士の提唱する良導点と同様である。石川教室では、皮電点の臨床応用という立場から各種の疾患について、すでに病巣が確認できている症例について皮電点を検べ、多数の臨床実験の資料から各種の疾患別に皮電点を人体分布図、いわゆる皮電図をつくり、皮電計により皮電点の分布がわかれば、この皮電図と照合して病気の所在がわかる(内臓における病気の所在はわかるがその疾病の別については不明の点が多い)という。この研究業績は関係医学会に度々報告され、一連の研究成果は、「内臓体壁反射」として数多くの皮電図とともに専門成書として公刊され、臨床に応用されている。この皮電点を診断即治療点として針灸治療に応用し、臨床研究を推進しようとする集団が針灸皮電研究会[針灸皮電研究会は、1960年に発足した鍼灸の科学化を目指す研究会である。その後、名称を「日本体表皮電測定会」「日本臨床鍼灸懇話会」と変えながら、2024年8月31日をもって日本臨床鍼灸懇話会は解散となった]である。石川教授は、内臓血管反射により皮下小動脈の血管運動神経の異常興奮を起こし、小動脈の収縮による二次反応として、その分布領域の皮膚表層に点状の水腫―出血―半壊死巣が生じ、これがために電導性がよくなり、皮膚電気抵抗が低下するもので、絡状現象は認められていないと論じている。
『石川太刀雄丸博士の内臓体壁反射は、内臓と体表の関係性を科学的に解明した革新的な理論です。この理論は、鍼灸臨床における診断と治療の基盤となり、特に経絡・経穴理論の科学的根拠としても重要な位置を占めています。内臓体壁反射の理解は、鍼灸師が内臓の問題に対してより効果的な治療を行うための鍵となるでしょう。現代医学と東洋医学を統合しようとする鍼灸師にとって、石川博士の内臓体壁反射理論は両者の橋渡しとなる重要な知識体系であり、科学的根拠に基づいた鍼灸治療を実践する上で欠かせないものと言えるでしょう。』
画像出展:「月刊インナービジョン2023年7月号」
メニュー右側下部に、投稿論文として「機能性ディスペプシアを背中から診る ~超音波エラストグラフィを用いて内臓体壁反射を可視化する試み~とあります。より高度な視覚化ができるようになってきているようです。
画像出展:「エラストグラフィ検査の開始」(おおこうち内科クリニック)
『エラストグラフィは、従来の超音波検査で分からなかった「しこりや臓器の硬さ」を色で判別する検査です。一般に良性腫瘍は軟らかく、悪性腫瘍は硬いので、「しこりの硬さ」を知ることにより腫瘍が良性か悪性か鑑別するのに役立ちます。』
『2010年以降、内臓体壁反射に関する科学的実験研究は着実に増加しています。基礎メカニズムの解明から診断技術の進歩、さらには様々な治療アプローチの効果検証まで、幅広い側面から研究が進められています。特に近年は、オステオパシー内臓マニピュレーションや鍼灸などの手技療法の効果について、無作為化比較試験などの厳密な研究デザインによる検証が増えており、内臓体壁反射を標的とした治療法の科学的根拠が蓄積されつつあります。最新の研究では、内臓体壁反射の可視化技術も進み、より客観的な評価が可能になりつつあります。これらの研究成果は、内臓体壁反射の理解と臨床応用に新たな可能性を開いています。』
『内臓体壁反射は自律神経系、内分泌系、そして様々な生理活性物質と密接に連関したメカニズムを持っています。体性感覚刺激が自律神経活動を変化させ、それによって内臓機能が調節されるだけでなく、内分泌系にも影響を与え、様々な生理活性物質の放出に関与しています。この相互関係の理解は、鍼灸などの体性感覚刺激を用いた治療法の科学的根拠となるとともに、内臓疾患と体表症状の関連性を説明する重要な基盤となっています。また、この関係を理解することで特定の体表部位への刺激が特定の内臓機能に影響を与えるという、東洋医学で古くから経験的に知られていた現象の現代医学的説明にも繋がっています。』
◇筆者(教育大学芹沢勝助博士)等は、東京大学物療内科(主任教授大島良雄博士)教室との共同研究により皮電計の通電方式に対し静電誘導電圧を応用した電位差計を利用し、これを差電計とよび、電極を直接皮膚面上にあて周囲皮膚と比較して明らかに大きな電位差を示す部位を記録し、これを差電点と名づけた。これを臨床に応用すると各疾患ごとに分布の異なる差電図が得られる。そして差電点は皮電点より分布密度が高く、差電点部位は必ずといってよいほど皮電点と重なるが、皮電分布よりも点の出現頻度が高い。
筆者(教育大学芹沢勝助博士)は針灸治療の本態の究明には、体表の特定点と内臓機能とが、どのような関連性を持つかを解明することは重要な研究課題であるとは考えているが、従来経穴に該当する部の皮膚には、知覚の過敏や鈍麻あるいは圧痛、硬結、陥下などが経験的に知られており、その構造は皮膚表面のみに限られる平面的なものではなく、深く皮下組織に及ぶ立体的なものであると推測している。経穴の本態究明にはその表層構造に対応する客観的現象として皮膚の電気的特性を追求することは重要な要件ではあるが、それだけがすべてではない。病体のあらわす深層構造の諸現象の追求も重要な事項であろうと考えている。その意味で藤田六朗博士の『圧診点・丘疹点の研究』さらに『脈診の客観化のための脈診系の研究』、経絡の本態を筋運動流体波動通路系という仮説の下に岸勤氏とともに進めている臨床研究の数々の業績には心から敬意を表して止まない。筆者(教育大学芹沢勝助博士)も、経穴の深層構造に対応する皮下硬結を研究素材として、健康体、病体における各五十例ずつの全身皮下硬結分布のパターンの差異から、皮下硬結が診断的意義のあること、筋電図観察により「硬結部筋線維の機能低下現象」が認められることを明らかにした。
◇東京大学(物療内科)の鈴木輝彦博士は『皮電点、差電点の基礎的研究(日本温泉気候物理医学会雑誌 第四十一巻第三、四号)』で、この両者の測定条件の検討、皮電点、差電点の組織像(人体および家兎)、差電点と経穴との関係及び、皮電点、差電点ともに人体では体幹部では石川説による組織像の変化が認められたが、四肢より検出された皮電点、差電点では組織像に何らの変化も認めず、また皮膚血管の収縮状態では皮電点、差電点は出現しやすく、拡張状態では出現しにくいこと、また東大物療、窪田俊夫博士の指摘したように「皮電点は、通電による皮膚組織の電気的破壊点である場合が多い」欠点があるのに対し、差電計による差電点の検出では、通電による破壊点を作成することなく測定できる点で勝っている。ただし、その診断的意義についてはさらに検討を要しよう。等の研究報告がなされている。
◇日本大学の寺田文次郎教授一門は、針の作用機転に関する薬理学的研究をすすめ、田村豊吉博士は、針とコリンエステラーゼとの関係、アミノ酸との関係、針の家兎血液像に及ぼす影響、針物質とアセチルコリン、アミノ酸および副腎との関係等、一連の業績を関係医学会に報告し、戦後の新しい内分泌学の立場から針はACTH(脳下垂体前葉ホルモン)、コルチゾン(副腎皮質ホルモン)を注射したと同様の作用があり、したがって気管支喘息やリウマチ等の慢性病に応用して効果のあることを立証し、針療法の治療効果の作用機序に新しい意味づけをし、大きな反響を呼んだ。
◇針灸療法と内分泌系との研究成果には、国立公衆衛生院 多井吉之助博士と筆者(教育大学芹沢勝助博士)は「腎刺激部位に対する針の尿中ウロペプシンおよびコルチコイド排泄量に及ぼす影響」、「灸と副腎皮質機能」があり、東京大学物療 大島良雄教授・福井圀彦博士等の「針灸刺激の副腎機能に及ぼす影響の研究」がある。ともに針灸刺激は、副腎機能に大きな影響を与え、内分泌相関に関与することを実証した研究業績である。
◇金沢大学の南外弘博士の「人迎施針の血圧並びに末梢血液像に及ぼす影響」の研究では、人迎施針では、血圧が下がることは業界では経験的な事実として定説となっているが、専門的に体系づけ、学位論文として発表した。
◇その他、針灸の臨床面でユニークな臨床研究を進める医師:色盲の研究を進める福井市の円山槇夫博士。難聴の臨床と取組む菊池三通男博士と名古屋市の森一彦博士。「東洋医学の現代医学的考察」で異彩ある研究を進める長崎市の松岡伯善博士。温灸の作用機転を追求した京都大学の寺本幸男博士。刺絡の研究で著名な東京都八王子市の工藤訓正医師。産科の針臨床と取り組む東京赤十字病院の鈴木武徳博士、石野信安博士。素問霊枢の研究と針灸臨床の丸山昌朗医師。歴史学的な専門分野から針灸臨床をすすめる横浜市立大学の石原明博士などがいる。
第五章 経絡現象
●経絡の可能性
(イ) まだ充分学界の承認を受けていないボンハン管系か?
(ロ) 脈管外体液のうちに未知のイオン伝達路があると仮定するか?
(ハ) 金沢の藤田六朗博士が提唱したように、全身の筋肉→腱→筋肉を連ねて刺激が伝わるとする「筋運動主因性体液系」があると仮定するか?
(ニ) 宇都宮の石井陶伯氏(針灸家)がしきりに主張するように、発生学的な根拠を持つ側線(たとえば魚の体に見られるような)が人体にも潜在的に遺存しているのか(この仮説は前に挙げたマルチ―二教授のチクロメリー説と同じ考えに帰着するが)?
(ホ) あるいは間中先生が一つの仮説として考えたように、身体の全体制が中枢神経のどこかで、脊髄が「断区」の基礎になっているような意味で、縦割りの「輪区」を作って、中枢を介して遠隔のA点とB点が近縁に結ばれているのか(ドイツのラングも同様の仮説を提唱している)等の、いろいろの仮説が考えられる。
●臨床的に認められている経絡
[皮膚の変化として]
・—経絡の異常は、経穴によって知られる。そして経穴の異常は、ふつう皮膚面より指圧によって特殊な状態を調査することでみとめられている。ところが、時にはすでに皮膚面に肉眼でわかる、或る種の変化があらわれていることがある。すなわち、経穴に相当する皮膚の小部分に、古い色素沈着や、ほくろ、血まめなどが見られることがあるし、虫に刺されたあとの発赤や丘疹が、ちょうど灸のあとのように残っていることがある。そして、これらが、点状にいくつもばらまかれたようにできているのをたどって行くと、それらが、ちょうど経絡に沿ってできているようなことがよくある。
圧痛点に圧痛がなくなった際に、そこに丘疹が発生することがあるのを発見した藤田博士は、肺疾患の患者の肺経に沿って丘疹ができている症例および心臓病の患者の心経に沿って丘疹ができている症例を経験したと言い、さらに膀胱経の全経絡に沿って黒あざ(ほくろ)のある患者、脾経の全経絡に沿って血管腫のある患者があったことを報告している。
ヘッド氏帯の皮膚分割図は、帯状ヘルペスという皮膚の一部を限って水泡があらわれて痛みを伴う皮膚病の形状からつくられたといわれている。腹部の側面にあらわれた帯状ヘルペスが、我々が調査した背部の兪穴(腎兪)から募穴(京門)に向かう経絡の帯状走行とまったく一致していた症例に出あった。そこで、これに関連した経絡(腎経)の末端である足先に治療点を求めて針による強刺激を試みたところ、その痛みがほとんど消失した。こういうことは、ヘッド氏帯が経絡の一部(横の連絡路)を意味するものであろうということを推定させることにもなるが、また一方では単に脊髄神経節の病変によるものと考えられている帯状ヘルペスの成り立ちに、経絡が関係しているということも示唆しているようである。
『ヘッド氏帯の概念は、現代神経科学の進歩によってその生物学的基盤が次第に解明されつつある。内臓-体性反射のメカニズム解明は、疼痛管理のみならず、自律神経機能調節や内臓-脳相関の理解に新たな視点を提供している。伝統医学との統合的アプローチにより、個別化医療時代における新たな診断・治療パラダイムの構築が期待される。今後の課題は、厳密な臨床試験デザインと分子レベルのメカニズム解明を通じて、この19世紀の知見を21世紀のEBM(根拠に基づく医療)体系に位置付けることにある。』
異常のある経穴の皮膚には、また皮膚温の異常や、知覚異常もある。このことを利用して、経絡の異常状態を判定することもできるくらいである。前に述べたように、手足の指の末端の感熱度の異常によって経絡の異常を判定する赤羽氏法(感熱試験)というものがすでに実用化されて普及している。
『経穴の生理的変化は多層的な生体反応の統合現象として捉えられる。電気伝導性の変化を基盤としつつ、熱力学・機械的特性の変容、生化学環境の改変、神経生理学的反応の連鎖が相互に作用する。最新の計測技術はこれらの変化を定量化し、伝統医学と現代生理学の統合的理解を深化させている。今後の課題は、多次元データの統合解析により経穴の状態を包括的に評価するアルゴリズムの開発にある。』
[遠隔部よりの治療]
・頭や肩のあたりの異常を、手や足に治療(針、灸)して治すことができる。肩が凝っている時、足の踵の外側のあたりの経穴に針を刺すと治ることがある。首筋が痛むときでも、また腰に痛みがあるときでも、同じような方法で治すことができる。そして患部付近の圧痛点もなくなる。歯の痛み、手や足の治療で治すことができることも、既に述べた通りである。また、胃の痛みや胆石の痛みなどを背中の反応の出ている兪穴(胃兪、胆兪であることが多い)の治療で治すこともできるし、手や足で治すこともできる。
このような事実は、経絡という機能的な連絡路があるということを想像させるに足るものであろう。というよりも、実際にはそういう前提で治療点をきめて、治療に成功しているくらいなのである。
『遠隔鍼治療の有効性は、神経生理学的反射・生化学的伝達・臨床効果の三重の証拠によって科学的に立証されている。特に疼痛管理と内臓機能調整における優位性が多数のRCTで確認され、EBMに基づく治療選択肢としての地位を確立しつつある。』
[自発性の放散感]
・不意に打たれたり、からだのある部分を掻いた時など、そこからずっと離れた所に異常な感覚が流れていくように感ずることがある。心理的なショックの際に、背筋を冷水が流れるような感じがする。こういうときの感覚の流れをよく注意すると経絡の走行路と似ていることが多い。
皮膚の電気抵抗による検索
[健康者にあらわれる経絡現象]
・経穴にあたる部位の皮膚は電気抵抗が減弱している。経穴の電気探索器というのはこのことを利用したものであるが、藤田博士らは、多くの健康者について、原穴その他に灸または針刺激を与えておいて、以後長時間に渡って、皮膚の電気敏感速度を検査した。その結果、反応点や丘疹などの消長が、刺激点の経絡に相当して現われてくることを認めた。また時には、表裏関係にある対側の経絡にも一緒にそういう現象があらわれることもあった。
そこで、経絡現象は、病的な場合ばかりでなく、生理的にも存在するということが確かめられるようになった。
『複数の科学的研究が示すように、経絡現象は病的状態だけでなく、生理的状態(健康な状態)においても確認されています。電気生理学的特性、皮下血行動態、放射性同位元素の移動パターン、筋膜の連続性など、様々な角度からの研究が経絡の生理的存在を裏付けています。』
[十二の良導絡]
・中谷義雄博士は、かつて腎臓病で浮腫のある人について、皮膚の通電抵抗を測定してみたところ、足に電流の通りやすいら絡状のものを見つけた。そして、これを経絡の行走図と比較してみると、腎経とほとんど一致していた。
そこで、さらにいろいろの臓器の病気について調査してみた結果、それぞれ一定の形状をした電流のよく通る絡状のものが見つかった。そこで、これらを皮膚通電良導絡(中谷)と名づけた。結局、手に六本、足に六本の良導絡が、ちょうど十二経絡に相当したように存在していることがわかった。
画像出展:「良導絡の歴史」
良導絡研究所は1967年6月に設立されました。
筋運動主因節
●皮下の組織液に変化が起こって、経絡現象が現われるということは、ひとまず説明されたとしても、それではこういう体液的な変化を起こさせる原動力は何かということが次の問題になる。
針を皮下に刺し込んでいくと、ある深さになって初めてはっきりしたヒビキがおこるが、ちょうど筋を取り巻いている筋膜の辺りに達したときに最も強く現われるということが少なくないことは、経験的に知られている。また針を刺した時、その刺針部から少し離れた部分の筋肉が突然軽い攣縮を起こすこともある。経絡の異常と考えられている現象の一種に、皮下の深部筋間にスジのような硬結あるいは、経絡に沿って盛り上がったようになった筋肉の凝りがある。また、特殊過敏者の放散する針の響きを皮膚に投影させて記録した我々の成績では、線状になっているところもあるが、部位によっては幅広く帯状をなしていて、なかには、大体その部位の筋肉の幅と似たようなものもあった。
こういうことを総合して考えると、経絡の異常や経絡現象の発現には、筋が少なくからず関与しているのであろうということが予想されてくる。考えようによっては、むしろ第一義的のものであるかもしれない。
ところで、経穴に針に到達しかかると、筋に軽度の損傷または刺激が与えられることになるのだが、こういう場合には筋線維の表面に電気的な変動(放電現象)が起こってくる。すなわち、負傷流または動作流などが起こる。もし、すでに筋とその周囲とが病的な異常状態にあるならば、これが組織液に伝えられて針の響きとなって感知されるのではあるまいかということも考えられる。
それでは、刺針というような刺激操作が加えられない生理的な経絡現象はどうして成り立っているかということになるが、生理的にも手足の運動、歩行、咀嚼、顔の表情、呼吸などによって筋肉運動の協調作業が常に行われているのであるから、その際に動作流も起こり、また、組織の移動も行われて、一定の体液の循環路が常に成り立っているわけである。そしてこれが機能的な刺激伝導体系としての経絡になっているのであろうということで、ひとまず理解されることになる。皮膚通電良導絡の本態も、あるいは電導体である体液の通行路であるのかもしれない。
『筋肉の刺激によって発生する放電現象とは、主に運動神経から筋肉に伝わる活動電位(電気的インパルス)や、それに伴う筋線維の膜電位の変化を指します。この現象は、神経伝達物質の放出、筋線維での活動電位の発生、筋収縮へとつながる一連の生理的プロセスであり、筋電図などでその電気的活動を観察できます。』
経水と経筋(体液と電気)
このように経絡現象を筋運動主因性体液路経(藤田)として理解しようとする考えの根底は、すでに東洋医学の古典(霊枢)にも見られる。
経脈を「分肉の間を行状してあらわれぬもの」(経脈篇)と定義しているほか、経水および経筋という比喩的な見解が表明されている(経水篇、経筋篇)。
経水というのは、十二経脈を中国の河川・湖水などにたとえて、気血の流注の状態を説明しようとしているのであって、また経筋というのは、十二経筋という手足の指に起こる筋肉の縦の系列をグループ別に想定して、これを十二経脈にあてはめているのである。
経水思想は、経絡を気血の流通路と規定しているかぎり当然のことであるが、経筋に関しては、実際に筋肉の凝りが経絡に沿ってあらわれ、また針によって解消することなどから一応理解されるばかりでなく、断続的に電流を通ずる或る種の電療器によって縦に連なる一定の筋肉群に人為的に律動を起こすことができるのであるから、現象的には認識できる見解である。
そして、こういう思想から割り出してみても、血は体液的なもの、そして気とは筋を主因とした電気的なものという解釈がなりたちそうである。
針の響きは、被術者にとって、軽い電気にかけられたような感じとなってあらわれるが、施術者の指先にも軽い電撃様感覚となって感知されることがある。そして、施術者が針の柄を持っている間は被術者に強く感ずるが、指を放して置針すると割合に弱くなる。
こういうことは、金属針を媒体として、皮膚の内外に電気的な流れが起こってくるのではないかと想像させられる。
結合織と組織液
●皮下組織というのは、皮膚と筋(筋膜)とを結びつける目の荒い網のような線維の結合織からなりたっていて、その間隙は組織腔といわれ、組織液が充満している。ここが、針の刺激の対象である経穴の主体である。
ところで、結合織というのは、発生学的には中胚葉(内外両肺葉の間にできる一対の腔胞)系の組織であって、からだの中心的な位置にある。そこで、からだ中のすべての細胞や組織の間に行き渡っていて、脳や胃腸その他あらゆる重要な臓器、器官の細胞を安定状態に結びつけて、組織液とともに組織の緊張状態を一定に保つ役割をなしている。皮下組織はもとより、上皮との間の真皮、筋の周囲や間、筋膜、血管壁などにも行き渡っている。この組織が同じ中胚葉系の網内皮細胞系とともに健康維持に欠くことのできないものであるということが、近年にわかに着目されるようになった。
●ツベルクリン反応が試みられる手のひら側の前腕の皮膚で、経穴にあたる部位と経絡の主流線上になっていて経穴でないところ、および経絡の主流線をはずれた経穴でない点などについて、それぞれ生理食塩水を皮内に注入して、それが完全に皮下に吸収されていく時間を調べてみた。すると、経絡主流線上では経絡外の点よりも早く、経絡外の点よりも早く、経穴部ではやや遅くなっているのが分かった。すなわち、経絡主流部では早く吸収されるのであるから、これによって皮下の組織液がよく動くことになっているらしいということがわかったし、経穴は、どちらかといえば流れが悪く停滞しがちなところであるということも、大体予想通りであった。
また、藤田・南氏らは金沢大病理の宮田教授のもとで、動物(家兎)の皮下に人工的に硬結とこれに伴う経絡線(スジのような硬結)をつくり、その部分の組織片をとって染色して顕微鏡で調べてみると、それらは、予想通り筋の間にできていて、しかも神経・血管をとりまいている結合織線維の増生がその変化の本態であることが分かった。つまり、このような経絡・経穴の異常現象は結合組織の変化が主体になっているということが明らかにされた。
結合織の間隙を流れる組織液は、末梢の毛細血管と毛細リンパ管から漏出してきたものであるが、時にはまた、管内液とも交流している。そこで経絡の絡が、時には細い脈管の意味にも使われて、機能的な関連があるものとされている古典の説も、こういうことから一応説明できそうである。
ともかく、このように結合織を中心として、内循環系ともいわれる脈管外の通液路系というものを考えると、気・血(栄・衛)の流れるという経絡と、経穴の意義が、いっそうよく理解されてくる。そして針灸の作用も、結合織の機能を回復させるものであるということで説明できるようになる。針灸を組織療法と考えるのは、この意味で当てっているし、同時に経絡の機能をよくするという広義の作用にも理解される。
●針の響きによる経絡現象の発現は、筋の主因とする説でひとまず説明されているが、実際には筋まで達しないで、単に皮下の結合組織に達した深度で針響が起こる場合も決して少なくないのである。また、稀にはやっと真皮に達したくらいの深さでもおこる。こういう場合は、体液的な変化で間接的に筋が刺激されるためであろうと説明(藤田)されている。しかし、こう考えたのでは、体液が何によって変化を受けるのかという点が不明になってくる。そうなると、結合織線維そのものが直接関与して、またある程度刺激を感受してこれを伝える役目をも果たすのではないか、ということも考えなくてはならなくなる。
もし、結合織線維が刺激感受の主体になるものとすれば、全身の結合織系が形態的に経絡系の実体になるという想定が、いよいよ確かめられてくる。といっても、もちろん経絡の走行を解剖学的に規定するものとして、また機能的な関連において、筋の意義が重大であることには変わりはない。―(以上、長濱博士『針灸の医学』より)
『経絡・経穴の異常現象は結合組織の変化が主体になっているという説は、現代の科学的研究から相当の裏付けを 得ていると言えます。経穴と結合組織の位置的一致、神経分布の特異性、筋膜のネットワーク構造、メカノトランス ダクションのメカニズムなど、複数の観点からこの説を支持する証拠が集まっています。』
第八章 金針と銀針
●日本でも針術にはいろいろの流派があって、種々の針を使っているが、主流は毫針といって縫針よりずっと細い、注射針のマンドリンほどの針を使っている。名人になると毛針だの霞針だのといって毛筋のような細い針を上手に使いこなす。
昔は針灸家に弟子入りすると、2~3年は患者を治療させてもらえなかった。まず枕か自分の膝に針を刺させる。だんだんと上手になると「浮きものとおし」といって水に浮かした果実に針を刺す編集をする。これは力を入れずに、針を曲げずに、軟らかく刺すためである。次は「堅ものとおし」で木の枝でも細い針が刺せるように練習する。ここまでできれば、どんな細い針でも自由に、やわらく、痛くなく、浅くも深くも、人の体に刺せるようになる。
こういう毫針の手技はヨーロッパには伝わらなかった。中国にもかなり細い針はあるのだが、フランスで一般的に使われているのは、金と銀のかなり太く短い針を、注射でもするようにツボにさしていく。
※私が専門学校に通い始めたのは約15年前です。当時からステンレス鍼がほとんどでしたが、学校では丁寧な刺鍼技術を身につけるため、銀鍼を使って授業は行われていました。金鍼はさらに軟らかいようですが、銀鍼も十分に軟らかく、特に腰部の硬い脊柱起立筋など刺鍼するのに非常に苦労しました。
当院では軟らかいタイプのステンレス鍼を使用しており、それでも銀鍼よりははるかに容易に刺鍼できます。今回、あらためて丁寧な刺鍼を心がけるべきではないかと思いました。これは“氣”とも関係するのかもしれません。
以下はお世話になっている「(株)前田豊吉商店さんのサイトです。当院の鍼は下段中央ですが、銀鍼は上段中央、金鍼は下段右です。金鍼は1本から注文できるそうです。基本に立ち返るために銀鍼を1包(50本)買ってみようかとも思いますが、金鍼は怖くて注文することはできません。
専門学校に入学したときに学校から渡された練習道具が見つかりました。刺鍼練習台はよく使った記憶があり、どこかにいってしまって箱の中にありませんでしたが、感覚練習方法の紙は初心者用以外は封も開けてなく、何もしていなかったことが発覚しました。これも今更ですが、試してみようかと思っています。
以前、母方の先祖を調べたことがあったのですが、今度は父方を調べてみました。その結果、明治18年(1885年)生まれの祖父は幼少の頃、小田原町十字町二丁目に住んでいたことが分かりました。調べてみると、この十字町は明治初期から昭和にかけて著名人の別荘地でもあったことが分かりました。伊藤博文、山縣有朋、北原白秋、谷崎潤一郎などなど早々たる人が名を連ねています。
「一度、行ってみたいもんだ」と思い、昨年12月に小田原城と十字町を目指し約2時間かけて行ってきました。国道1号線を歩いていて目に飛び込んできたのは、いかにも古い建屋です。それは創業寛永十年)の済生堂薬局小西本店でした。
薬を入れる小袋を衝動買いしてしまいました。(歴史を体感できる老舗薬局『済生堂薬局小西本店』)
そして、この済生堂薬局さんのとなりにあったビルが間中病院でした。
「あの、間中先生の病院なんだろうか?」とその時はその程度の印象だったのですが、今回、間中喜雄先生の本を拝読させて頂くことになり、詳しく調べたところ、間違いなく間中先生の病院であることが確認できました。
間中喜雄先生は西洋医学の医師でありながら東洋医学、特に鍼灸医学の発展に多大な貢献をした日本の医学界の偉人です。その生涯と業績は、現代の統合医療の基盤を形成する上で重要な役割を果たされました。
本書の序文には、『この本は、一般の針灸書にあまり取り上げられない研究や観察や考え方を、いろいろの角度から紹介した。これを「水平的思考」の材料にして、西洋医学的に応用して下さったり、また古典的針灸の発展に役立たせて下さる方があったら、著書はたいへん満足である。』とのことが書かれており、これはとても興味深い内容の本だなと思いました。
なお、本書は54年前に発行されたものなので、ブログではできる限り新しい研究あるいは実験データを探してみようと考えました。
注)文中のPDFの資料は、「経穴とその周辺における皮膚インピーダンス軌跡の多点同時測定」以外は、すべてAI(Perplexity Research)が作った資料です。
序文
目次
第一章 東洋の針灸術
第二章 古典針灸術の現代訳
第三章 継子あつかいされた経絡説
第四章 ツボとツボの妙な関係
第五章 経絡現象
第六章 経絡についての観察と研究
第七章 針灸術における生態(病態)の評価
第八章 金針と銀針
第九章 金と銀との皮膚接触
第十章 2-M-Cの臨床とその意義
第十一章 刺激療法としての針灸術
第十二章 生体の場と針灸刺激
第十三章 平田氏反応帯―この不思議な治療領帯
第十四章 ヨーロッパにおける針術の電気的研究とその批判
第十五章 ドイツの電気針
第十六章 フランスにおける電気生理的針術研究とその論争
第十七章 ソ連における針術理論
第十八章 針灸術に関連した電気の応用
第十九章 針灸におけるバイオリズム
第二十章 アンケートから見た日本針灸術の動向
第二十一章 日本における針麻酔の追試
[付録] 十四経絡図
あとがき
第二章 古典針灸術の現代訳
●明治になって日本の政府は西洋医学を全面的に採用し、医学校の教育も、医師の資格試験も、すべて西洋医学によって行なうことに決定した。しかし明治の初期には、西洋医の数は少なく、一般の開業医はほとんど漢方医だったので、一挙に漢方医を廃業させるわけにゆかなかった。だから一応従来医業を行なっていた者には既得権として医師の資格を認め、次第に西洋医を養成してこれに代わるように仕向けた。早く言えば、漢方医の自然消滅策をとったのである。だから漢方の臨床的法則が合理的であろうとなかろうと、まったく無関心であった。
ところが針灸術については、こういう弾圧政策はとれなかった。というのは、昔から針術・按摩は盲人の職業として適当であるとして、社会政策的な意味でこれを保存しておく必要があったからである。そこで当時の西洋医学者と針灸家に命じて「固定教科書」を作らせ、一応西洋医学の体系にしたがって針灸を教育できるようにはからった。この教育方針は、その後ながらく盲学校の教程および晴眼者で針灸を志すものが受ける府県ごとに行なう資格試験の基準となった。その骨子は次の通りである。
(一) まず西洋医学的病名を挙げ、これに適応する「孔穴」(ツボ)の処方を示す。
(二) 各「孔穴」が「経絡」上にあるという旧説をすて、「孔穴」の位置を解剖学的に正確に記載する。そして昔から言い伝えられた各孔穴の主治証(適応症)を付記する。「経絡」という概念は西洋医学的に説明できないから触れないことにする。
(三) 針灸は神経に刺激を与える「刺激療法」である。神経の興奮、たとえば疼痛等には強刺激を与えて抑制し、衰弱・麻痺等には弱刺激を与えてこれを興奮させ治療する。
これで一応針灸術は西洋医学的に合理化されたようであるが、これでは中国独特の針灸術の「ツボ」概念を基礎的に検討もせず、西洋医学的に書き直したに過ぎない。中国針灸術でツボを選ぶ場合には、局所的・戦術的適応(例えば顔面神経を直接刺激するというような)も考えるし、全体的・戦略的適応(すなわち全体のバランスを整える目的で)で選ぶ場合もある。前者は西洋医学的にも理解しやすいし合理的にみえるが、後者はその全体的法則を理解体得せずに傍から見ていても意味が判らないのと同様である。後者は基盤全体の連繋(インテグレーション)で決まることで、或る一石だけをいくら眺めていても、何のためにこんな所に石を置くのか、なぜ似たような隣の目に置いては駄目なのか、理解できない。
第三章 継子あつかいされた経絡説
●日本の針灸教育は明治時代に「西洋医学化」されたために、現代医学で説明できない概念は針灸術の恥部であるかの如く取り扱われ、あるいは、これを無視することや、その矛盾を指摘することが、科学的な態度であると考えている針灸家も多い。そういう人々は、肺結核の患者を調べたが「肺経」とは関連性がなかったというような証明に熱心で、「経絡」というような概念がいかに無意味で排撃さるべきかを熱心に論じ合っている。
なるほど、針灸はりっぱに一種の刺激であり、他の多くの理学療法と同様に、どこに刺激を加えても神経系または内分泌に影響をあたえ、それが治療的に作用するという一面はある。灸は火傷毒を作り、それが薬理的に作用するという研究は、古くは九州大学の原志免太郎博士、京城大学の大沢勝教授によってなされた。
原博士は、だから、従来のツボ概念は不必要で、灸を外部から目立たない腰部八ヵ所にすればよいという(これを腰部八点灸と名づけた)方式を推奨している。その臨床報告を見ると、こういうやり方でも或る種の疾病に有効であることは確かのようである。大沢教授は、火傷によってヒスタミンに似た化学的物質が産出されることを証明し、これを「ヒストトキシン」と呼んだ。この物質を人工的に作って静脈注射しても、また下肢にエスマルヒの駆血帯をかけ貧血状態を数分間作っても、灸と同様の効果がある。
こういう面だけ見れば、ツボも経絡も無視して針灸を行なっても、りっぱに一つの治療行為になる可能性はある。事実かなり多くの疾病によい影響をあたえる。この種の研究も「経絡無用論」の風潮をうながしたといえよう。
中国針灸術が、その基礎理論として経絡を重視し、その生理学はむしろ経絡一辺倒であったことは、一つの偏向であったかも知れない。だが、経絡という概念は鍼灸治療にそんなに役に立たない無用有害な概念だと葬り去ってよいのであろうか。
いったい昔の人が経絡と考えたルートは実在するのか。そして、それを利用することがどんな役に立つのであろうか。これを以下の章で考えてみよう。
第四章 ツボとツボの妙な関係
●先ごろ栃木県塩原の盲人教育機関である光明寮に針灸に関する講演を依頼されて行った。講演後、そこの先生方と座談会をした。そのとき一人の教員が右手が肩からしびれて困ると訴えていた。病院で受診したが頸椎の変形が原因だと診断された。注射などをしてもらっても直らないという。手を調べてみると、右手の「大腸経」に沿って強い圧痛があり、ことに母指と示指の間の合谷というツボを圧すと飛び上がるくらいに痛い。しかし左手の合谷はさほどでない。
そこで貴下の右の大巨[ダイコ]というツボ(臍の右下方にある)にきっと圧痛があるでしょうと仰向けに寝かして調べてみると、この辺のツボもまた圧すとたいへん痛む。
このツボは私がかねてから大腸経とは関係の深いツボだと考えていたものである。中国針術では大腸経の「募穴」は大巨よりやや上の臍の高さの天枢だと書いてある。募穴とは腹部の診断治療点である。私は天枢より大巨の方が大腸経の募穴としてふさわしいと考えるのだが、これは中国の古典説と少々異なる。
しかし、この圧痛点に針をポンと打ってサッと抜くと(速刺速抜)、この側の手が何だか非常に軽くなったという。次に反対側の大巨に同じことをやると、また右手が変になってしまった。もう一度右側にやると直る。こんなに早く効く治療はありませんなあと感心していた。
手がしびれて痛いのに何故こんなツボをねらうのか。ちょっと現代医学では想像もつかないツボの選び方である。
(一) この患者の疼痛は大腸経に沿った疼痛である。
(二) 大腸経は大巨と関係がある。
(三) だから大巨に針を刺す。
こういう治し方があることを知らない人が多い。
次に右の腰から下肢に神経痛様の痛みのあるという人がいた。脈を診ると、これも大腸経と関係のあるツボで背中に第五腰椎棘突起の高さに大腸兪というツボがある。この人には右の大腸兪と右の大巨・右合谷に強い圧痛があった。この三点に針をポンポンポンと三本軽く打ったら、この人も、「ああ、おじぎができる。今までは痛くて腰が前にまがらなかったのです。」と驚いている。
同じようなツボが一方では手のしびれ痛みに効き、一方では坐骨神経痛様の痛みにも効く。こういう不思議な効用をツボはもっている。だが、「大巨は坐骨神経痛に効くツボだ」と私が言ったら、それは嘘にもなりかねない。この二人とも大腸経に何か異常のあるという前提で私は大巨に針を刺したので、そういう条件のない別の坐骨神経痛の患者に大巨を刺しても効果は保証できない。こういう点が中国針灸術の一つの特徴である。
本山博先生の『気の流れの測定・診断と治療』に興味を持ったのは、”気とは何だろう9”で勉強させて頂いた湯浅泰雄先生の『気とは何か』という著書の中で紹介されていたためです。
画像出展:「HUMAN SCIENCE」
『カリフォルニア人間科学研究所は、創設者であり初代学長である本山宏博士の理念と哲学に深く根ざしています。本山博士の生涯は、宗教、精神性、そして科学から得られる洞察を調和させ、統合する、新たな統合的世界観の出現の基盤を築くことに向けられていました。』
本書の「経絡の本質と気の流れ」の“序”の中に以下の記述があります。
●『BP[Before Polarization:分極前電流]は真皮結合組織内の物理化学的性状を示すパラメーターであり、この真皮結合組織こそが経絡であるらしいことを明らかにした。』
●『経絡内の気エネルギーの流れとは、一種の物理化学的エネルギー、つまり一種の活動電流であること、それの速度はおおよそ4cm~50cm/secであり、BPのような2mを0.1μsec以下で走る非常に速い電気現象とも違うし、50cm~100m/secの速度で走る神経インパルスよりも遅くそれとも違うことを示し、個人差が大きく、同一人物でも日時によって上記の枠内であってもかなり変動する性質をもつことを明らかにした。これより、経絡機能は個人差が大きく、日時によってかなり変動することが明らかである。』
ご参考:“AMI研究、経絡、生体エネルギー系研究のためのホームページ”
ご参考:“AMI (経絡一 臓器機能測定装置)と東洋医学的診断情報との比較検討” pdf
一方、本書の内容は専門性が高く理解することはできませんでした。そこで、「経絡の本質と気の流れ」の第Ⅲ章 考察と結論の内容をご紹介させて頂きます。なお、BP、AP、IQ、TCとは以下のようなものです。
ご参考:“経絡と分極前電流(BP)との関係”
目次
経絡の証明とBP、AP、IQ、TCの電気生理学的意味
序
Ⅰ章 皮膚電気現象の二種
Ⅱ章 経絡の存在証明
Ⅲ章 本山式AMIによる測定で得られるデータとその意味
Ⅳ章 BP、AP、TC、IQの性質と意味を、46人各人の平均値の度数分布と標準偏差についての考察に基づいて考える
Ⅴ章 診断の実例
経絡の本質と気の流れ
序
Ⅰ章 BPは経絡機能のパラメーターである。真皮結合識は経絡ではなかろうか
Ⅱ章 経絡の気の流れの速さと方向性について
Ⅲ章 考察と結論
診断のための基準
Ⅰ章 三つの共通基準値のうち、何れが経絡機能の診断に最適か
Ⅱ章 個人内基準とその有効性について
全身についての診断法
針の効果テストと治療法
Ⅰ章 針の効果テスト
Ⅱ章 針の効果テストデータの分析、考察と治療法について―BPについて―
Ⅲ章 治療法について
付録Ⅰ 4種類の異常経絡での三つのパラメーターの分析と、それらの諸性質の解明 ―気エネルギーのバランスをいかにして改善するか―
Ⅰ章 BPについて
Ⅱ章 APについて
Ⅲ章 IQについて
Ⅳ章 考察
Ⅴ章 全体のまとめ
付録Ⅱ 耳鼻咽喉科の症例におけるAMIデータの解析(鼻アレルギーはどの経絡の異常と関係があるか)
付録Ⅲ 附子の経絡への影響
付録Ⅳ AMIデータのグラフ化
経絡の本質と気の流れ
Ⅲ章 考察と結論
(Ⅰ)Ⅰ章を通じて明らかになったこと、及びそれらについての考察と結論
(1)BPの値は真皮結合織内を流れる電気エネルギーのパラメーター
BPの値は、真皮結合織内を流れる電気エネルギーの測定値であることが、表皮剥離実験、絶縁針による表皮-表皮、表皮-真皮、真皮-真皮、皮下組織-皮下組織をそれぞれつないだ実験等によって明らかとなった。
(2)BPの値は経絡の状況を示すパラメーターであり、真皮結合織が経絡に相当する
真皮結合識内を流れる電気エネルギーのパラメーターであるBPの値のみが、AP、IQ、TC等と違って、陰陽関係にある1対の経絡間で、[陰経の値>陽経の値]の関係を示す。このことはBPの値が経絡と密接な関係にあることを示す。而してBPの流れる場所は、真皮結合織内である。従って、真皮結合織内が経絡にあたることが推測される。BPの値は、陰陽関係にある1対の経絡間で[陰経の値>陽経の値]を示すように、経絡の状態を示すパラメーターであると言えよう。
(3)BPの値に影響を与える真皮結合織内の諸因子
真皮の大部分は結合織である。この真皮結合組織は電解質の貯水池であり、真皮結合織内のヒアルロン酸の性状が、Na⁺等の電解質の分布や水分代謝と密接な関係にあり、相互に影響しあう。而して真皮結合織内の水分の分布、電解質の分布の変化は、BPの値に影響を与えるものである。これらの水、電解質の分布や代謝に影響を与えるヒアルロン酸は、水分や電解質とともにBPの値に影響を与えるものであることがわかる。
(4)BPの本質は真皮結合織内のイオンの流れではなく、電気エネルギー伝達による流れであり、BPの値は経絡にあたる真皮結合織の性状を示すパラメーターである
井穴の関電極と手首の不関電極間に3Vをかけた時、両電極間約20cmの距離におけるNa⁺イオンの移動速度は0.000078cm/secである。ところがBPの流れの速度は約2mを0.1μsec以下の瞬時に通過する速さである。BPの流れはイオンの移動によるものでないことは明白である。BPの流れの本質は、次のようなものと考えらえる。真皮結合織内のヒアルロン酸、コラーゲン線維network等が綜合的にもつ負電位と、結合織礎質内にあるNa⁺、K⁺等のカチオンの正電位との間に、一種の電気的勾配がある。この電気的勾配をつくるこれらの物理化学的諸物質、諸イオン、及びそこにあるその他の諸物質が、表皮を通じて外部から電圧をかけられ、電気的エネルギーを加えられると、それぞれの場所であまり動くことなく、加えられた電気エネルギーを次々と伝達してゆく微細なエネルギー伝達を起こし、これによって、加えられた電気エネルギーはおおよそ電波に近い速さで伝わってゆく。これがBPの流れの本質ではなかろうか。
ところで、加えられた電気エネルギーを伝達する、経絡にあたる真皮結合織を構成する物理化学的諸物質の性質、状態、分布に変化が生ずると、当然電気エネルギーの伝達の量、速度に変化が生じ、BPの値に変化が生ずる。従ってBPの値は、経絡にあたる真皮結合織の性状を示すパラメーターであると考えられる。
上のところで一種の電気(位)的勾配があると言ったが、陰経と陽経ではこの電位的勾配が逆向きになっていて、それぞれ一定方向、つまり陰経では下から上へ、陽経では上から下へ流れやすくなっているのであろうか。
(Ⅱ)Ⅱ章を通じて明らかになったこと、及びそれらについての考察と結論
(1)神経性GSR[Galvanic Skin Response]と経絡反応の相違
GSRは、汗腺を効果器として生ずる交感神経性の電位反応である。GSRでは、神経内を活動電流の形で流れる神経インパルスによって、全身の汗腺がほとんど同時に興奮し、同一パターンで皮膚電気反射を生ぜしめる。
これに対し経絡反応は、反応速度がGSRより遅く、かつ全身的同時的でなく、ある経絡あるいはそれに関連ある諸経絡でのみ生ずる局所的なものである。反応パターンもGSRのように同一的なものでなく、各経穴によって反応パターン違う。例えばある経絡のある経穴に刺戟を与えて、その経絡と、それと陰陽関係にある経絡上に電気的反応(経絡反応)が生ずる時、両経絡上の諸経絡での反応パターンが違うばかりでなく、二つの経絡での反応時間にもズレがある。つまり一つの経絡での反応開始が他の経絡のそれよりも何秒か、何分の1秒か早く生ずる。更に一方の経絡が陰経であり、他方の経絡が陽経である場合、反応の進む方向が逆であることが確かめられた。これは陰経では気のエネルギーは下から上へ、陽経では上から下へと流れるという古来の説と一致するものであった。
次に経絡反応のもう一つの特徴として考えられるのは、経絡反応では、経絡上のすべての点で電気反応が生ずるのではなく、井穴とか、兪穴、募穴という、経絡の始点とか終点にあたる経穴ではよく電気反応が現われ、経絡上の途中の経穴ではあまり現われないということである。これは井穴や兪穴、募穴には経絡の気のエネルギーが集まりやすく、電気反応としても捉えられやすいということであろう。
(2)気の流れの知覚と電気的反応の有無
気の流れが知覚されても、そこで電気的反応が生ずる場合と、生じない場合がある。それはどうしてだろうか。その前に、経絡敏感人とは何かについて考えてみよう。
経絡つまり真皮結合織の内およびその周辺には、交感神経と混合神経をなす知覚神経が分布しており、経絡敏感人とは、真皮結合織内(経絡内)における電気化学的エネルギーの変化と流れを、上の知覚神経によって敏感に知覚しうる人であると考えられる。
気の流れ(つまり真皮結合織内の電気化学的エネルギーの変化、流れ)がこれらの経絡敏感人によって知覚されても、EEG[Electroencephalogram:脳波検査]によって電気的反応として捉えられないのは、経絡内を流れる電気化学的エネルギーが弱少で、敏感人には知覚されるがEEGの測定感度では捉えられないためであろう。経絡敏感人も、気の流れが強大であると知覚しやすいという。実際その場合は、電気的反応としてもEEGで捉えられる場合が多い。
ご参考:“経絡敏感人について教えてください”
ご参考:“循経感伝現象についての臨床的検討” pdf
(3)気の流れの知覚部位と電気的反応部位とが一致する場合
肺経の原穴、太淵に電気刺激を与えて井穴のところに気の流れを感じると言うとき、EEGでも井穴、原穴等で電気反応を記録している。これは気の流れの知覚と電気的反応現象部位が一致しているケースである。
(4)気の流れの知覚部位と電気反応部位の相違するケース
例えば肺経の中府に挿針、電気刺戟を与えると、中府及び胸のあたりに気の流れを知覚するのに、電気反応は肺経の井穴(第1指尖端部、肺経の終点)で生ずる場合が多い。これはどうしてであろうか、経絡反応のところで述べたことを思い出して戴きたい。ある経絡の原穴等に刺戟を与えると、井穴や兪穴、募穴ではよく電気反応を生ずるが、途中の点では電気反応が生じないということである。これは同一経絡内では、気エネルギーは井穴や兪穴、募穴で集まり強大になり、かつ皮膚の表面に現われやすいのであろう。上記の例では、中府に挿針、刺戟したにもかわらず、そこでは気の流れの知覚のみで電気的反応が現われず、井穴でのみ電気的反応が現われている。これは井穴、兪穴、募穴の3点のうちでも特に井穴で電気的反応が現われやすいことを示すのであろう。
(5)身体の異常部位に気が集まりやすい
身体のどの経絡のどの経穴を刺戟しても、刺戟された経絡内に増強された気エネルギーは、その経絡から異常な箇所と関連している経絡に転送され、異常個所に十分気エネルギーを充たした後、元の経絡に戻ってきて流れる。これは異常個所に気エネルギー(生命力)を集中してそれを治癒せしめるために生ずる、自然治癒現象の一つの現われであるように思われる。
(6)知覚される気エネルギーは物理化学的エネルギーである
経絡敏感人が経絡にあたる真皮結合識内およびその周囲にある知覚神経によって経絡内の気のエネルギーの流れ知覚する場合、神経に知覚を生ぜしめるものはやはり一種の物理化学的エネルギーである。従って気の本質が、たとえ非物理的なエネルギーあるとしても、敏感人によって知覚され、EEGによって捉えられる限りでは、一種の物理化学的エネルギーあるいは活動電位であると言わざるをえない。
(7)経絡系、気エネルギーをコントロールする高位中枢とは
経絡にあたる真皮結合識内を流れる物理化学的エネルギー(気エネルギー)をコントロールする高位中枢は、どこにあるのだろうか。真皮結合識内およびその周囲に分布する知覚神経は、交感神経との混合神経である。経絡敏感人真皮結合識内を流れる物理化学的エネルギーを知覚神経によって知覚しうるのであろう。その場合、経絡系気エネルギーは、脊髄神経系の知覚神経でその状況を捉えられ、その信号が求心的に脳内の高位中枢に達し、その高位中枢およびそれと関連ある脳内の高位中枢(自律神経中枢を含む)によってその状況についての綜合判断がなされ、遠心的に経絡系気エネルギーの全体をコントロールする信号インパルスが12経絡に送られ、経絡系全体がバランスよく機能しうるとも考えられるが、一般人は気エネルギーを知覚しえない。しかし一般人においては、上記のエネルギーは何らかの形で無意識に自動的、自律的にコントロールされているものと推測される。その場合考えられることは、真皮結合識内およびその周囲に分布する混合神経の内の交感神経の知覚神経によってまず反射的無意識的に各経絡内でのエネルギーの流れの状態が捉えられ、その信号が求心性に脳内にある自律神経の高位中枢に送られ、そこか、またはそこと連絡しているより高位の中枢で綜合判断が下され遠心性にインパルスが送られ、それによって12経絡等のすべての経絡系の気エネルギーの状態をコントロールし、経絡系全体のバランスをとっていることが考えられる。
このように考えながら、心の片隅で、果たして真皮結合識内の気の流れ―これは主として真皮結合識内礎質液(体液)の中を流れるものと考えられるから、体液の流れとも大いに関係が深い―、体液の流れが神経系だけで完全にコントロールできるのだろうかと思うのである。気の流れ、体液の流れは、神経的コントロールのほかに、物理化学的次元でのエネルギー、体液、イオン等の移動をコントロールする法則によっても必然的にコントロールされているのではなかろうか、例えば経絡の機能状況を示すものであるBPの流れの速度は、神経インパルスが遠く及ばない電波に近い速度で生ずる物理化学的現象である。従ってこれは神経によって支配されえない。しかし真皮結合識内の物理化学的物質の分布、性状によって直接に影響され、コントロールされている。これと同様に、経絡系の気エネルギー、体液の流れは、物理化学的次元の法則によっても直接コントロールされていると思われる。
(8)気の流れの速度
電気現象として捉えられた気の流れの速度は、特別な1例を除いておおよそ12.5㎝/sec~43㎝/secの間にある。ただしこの経絡の気の流れの速度は、上記の枠内においてではあっても、同一人の同じ経絡でも、日、時によって絶えず変化している。気の流れの速度は個人差が大きい。
以上のことは、経絡の機能は日、時によってnormalな限界内においてではあっても、絶えず変化していることが考えられる。また、個人差が大きいことも考えられる。
(9)気の流れの速度と順向、逆向
気の流れが経絡の内を順向する、つまり陰経では下から上へ、陽経では上から下へ流れる時は速く、逆向つまり陰経では上から下へ、陽経では下から上へ流れる時は遅い。
(10)経絡の虚、実と気の流れ
虚の経絡では気の流れが遅い(3.9~4㎝/sec)。実の経絡では気の流れが速い(50㎝/sec)。これは虚の経路つまり真皮結合織では、気の流れ=物理化学的エネルギー、一種の活動電位を流す物理化学的条件が悪いということであり、実の経絡では条件がいいということであろう。
(11)知覚される気エネルギーと電気反応としての気エネルギーの速度の相違
電気反応としてEEGによって捉えられる気エネルギーの速度の方が12.5㎝~16.7㎝~20.4㎝~21㎝~43㎝/sce、平均22.7㎝/sce、平均15.4㎝/secである。全体的にみて、電気反応として現われる気エネルギーの速度の方が、知覚される気エネルギーの速度より速い。これは電気反応として現われる場合の気エネルギーは、知覚される気エネルギーより強大で速いということであろう。
(12)気の流れの速度と神経インパルスの速度との比較
気の流れの速度は、電気に敏感な1人の被験者を除いて、通常3.7㎝~50㎝/secである。これに対し神経インパルスの流れは速度50㎝~100m/secであり、気の流れの速度よりはるかに速い。この速度の相違は、経絡と神経とが異なった系であることを示す。
(13)BPの速度と気の流れの速度の比較、BPとは経絡の物理化学的状態を示すパラメーター
Ⅱ章の、気の流れの速度に関する実験から、経絡中の中の気の流れの速度は3.7㎝~50㎝/secであることが明らかとなったが、BPの速度は約2mを0.1μsec以下で通過する非常に速い電気現象であり、BPは気の流れとは全然違ったFactorのパラメーターであることがわかる。一体何のパラメーターであろうか。既に今までのところで考えたように、BPは真皮結合識内の物理化学的状態、つまりコラーゲン線維のnetwork、ヒアルロン酸、礎質内の水分の分布、Na⁺、K⁺、CI⁻、Mg⁺等の無機イオンの分布、それらのもつ電気的勾配等によって、BPはその値を左右される。つまりBPは真皮結合識内の物理化学的性状を示すパラメーターなのである。換言すると、経絡の物理化学次元での状況を示すパラメーターである。
(14)気の流れの方向
気エネルギーが経絡に沿うて流れるのが、経絡敏感人によって知覚されたり、針の響きとして知覚されたりする。電気反応としてもEEGによって捉えられるが、その際経絡の中を順向する場合もあり、逆向する場合もある。このことは、気エネルギーは古来から言われているように、陰経では下から上へ、陽経では上から下へ必ず流れるとは限らないことを示す。
(15)気のエネルギーの知覚、針の響きの知覚は必ずしも経絡に沿うて起きるとは限らない
経絡敏感人は、気のエネルギーの流れ、針の響きを経絡に沿うて感ずる場合も多いが、全く飛びとびに「首の所→臍→鼠蹊部→左耳」というふうに感ずる場合も多い。Y.O.(男性)の場合はこのようなケースが多かった。どうしてこのように気のエネルギーを飛びとびに感ずるのか。これらの気エネルギーの感知点の間には、何か必然的なメカニズムがあるのであろうが、今のところよく解らない。しかし12経絡だ8奇脈だと言って経絡を理解している我々に、経絡とはそんな単純なものではないことを示唆しているように思えてならない。
(16)三陰三陽関係の実在
肺(手の太陰経)―脾(足の太陰経)のような三陰三陽関係にある二つの経絡間では、針の響きあるいは電気反応が相互に伝わり、両経が密接な関係にあることを示す。
(17)陰陽の実在
陰陽関係にある二つの経絡、例えば心包経と三焦経で心包経の原穴(大陵)に挿針すると、心包経ではなく、まず三焦経に電気反応が出、少し遅れて心包経に反応が出た例は、この両経に陰陽関係のあることを示唆している。
感想
今回、本山博先生の『気の流れの測定・診断と治療』という著書を拝読させて頂き、本山先生が経絡であるとされている“真皮結合組織”と私が“経絡≒ファシア”と考えるファシアとは異なるものであることが理解できました。
ただし、以下のような見解もあるようです。こちらはAI(Perplexity)の回答結果です。
ご参考:“本山博先生の真皮結合識は真皮のことですか、それとも真皮の直下の皮下組織も含みますか”
結論には次のようなことが書かれています。
『本山博先生の「真皮結合織」は、主に「真皮」層を指しており、特に真皮層内の結合組織とその中を流れる間質液(水、体液)に焦点を当てています。しかし、「生体全体の結合織」という記述から、経絡のネットワークとしては真皮だけでなく、皮下組織を含む体全体の結合組織にも広がっていると考えられます。したがって、本山先生の経絡理論における基本的な構造は真皮層にありますが、経絡系全体としては皮下組織も含む広範なネットワークを想定していると解釈するのが妥当でしょう。』
なお、真皮は結合織ですが、次のような特徴をもっています。
『真皮は結合組織に含まれます。真皮は表皮の下に位置し、主に線維芽細胞、マクロファージ、マスト細胞などの細胞成分と、コラーゲン、エラスチン、レチクリンなどの線維成分、プロテオグリカンなどの基質から構成されています。これらの成分は皮膚の弾力や強度を支える役割を果たしています。真皮は乳頭層、乳頭下層、網状層の3層からなる結合組織であり、特に網状層は線維成分が密集している強靭な組織です。』
ご参考:“ファシアには真皮は含まれますか”
ご参考:“皮下組織とは浅筋膜のことですか”
私が“経絡≒ファシア”と考える最大の理由は、経絡と内臓の関係は東洋医学の核心であり、ファシアは表層の筋膜などだけでなく、内部の深層にある内臓を包む膜でもあるためです。
また、本山先生の「間質液」に対するお考えは非常に興味があり、ファシアと間質液との関係性について調べてみました。続いて「気」に関しては間質液と電磁波との関係を調べてみました。
ご参考:“ファシアと間質液の関係について教えてください”
神沢先生の気療に関しては、ブログ“氣とはなんだろう11(科学編)”の最後に、ご参考として神沢先生の動画を3つご紹介しています。これらは何度見ても驚きです。
今回の『気療の奥儀』という本は、その神沢先生ご自身が最後の本とされているものです。書かれている内容は先生が実際に行っていること、起きていることを論理的にご説明されています。ただ、気に対する一般的な知識や理解とは少し異なるため、十分な理解には至りませんでした。
一方、「第2章 対面気療エクササイズをしよう」の中で、神沢先生は、『気療生命エネルギーとは、一般的に言われている「気の力」である。』と公言されています。そこでブログは、「はじめに」に引き続き、「気の力」という一般的な気の理解と一致するような箇所をピッアップし、そして一番の関心事である、第11章の中の「テレビ出演のきっかけと撮影の裏話―気療ハンドと動物たちとの気療生命エネルギーの瞬間伝達交流」をご紹介させて頂くということにしました。
目次
はじめに
第1部 実践編 気療ヒーリングやオンライン気療エクササイズのやり方を紹介
第1章 気療ハンドにすれば気療ができる! 気ハンドの作り方を覚えよう
1. 気療ハンドはこうして作る
2. 気療ハンドの確認方法
3. 気療ハンドの手応感覚
第2章 対面気療エクササイズをしよう
1.1人気療エクササイズ
2.対面2人気療エクササイズ
3.対面多人数気療エクササイズ
4.気療ハンドの気療エクササイズの型一覧表
第3章 対面気療ヒーリング
1.手首の脈拍確認
2.頭部の気療ヒーリング
3.心臓の気療ヒーリング
4.丹田(腹部)の気療ヒーリング―消化器系・泌尿器系・婦人科系
5.足のうらと足のうらの気療ヒーリング
6.患部の気療ヒーリング
7.手首の脈拍の再確認
第4章 ペット(犬・猫)の対面気療ヒーリング
第5章 オンライン気療講座
1.オンライン気療講座開設の理由
2.気療ハンドが、「電磁気」の一般的な概念(考え)を修正
3.気療ハンドによる「オンライン気療エクササイズ」での新発見
4.気療ハンドによる「オンライン気療エクササイズ」等の「気象現象の本質」
5.オンライン気療エクササイズは、第2の「脳幹ショック」
第2部 理論編 気療はなぜ人間や動物を癒すのか。気療の奥儀を解説する
第1章 気療を「遺言」にする理由
1.気療とは何か
2.癒しの「人体地動説」―未知なる「癒しの仕組み」
3.気療に邪気・偏差などはない
第2章 気療と宇宙の仕組み―「電磁気力(電気)」
1.「電磁気力」が「原子・分子」を作る
第3章 人体の仕組み
1.気療から見た「人体構造」
2.私たちの体は、素粒子からできている
3.私たちは、生命エネルギーで生きている
第4章 気療ハンドと強い「脳幹電流」の発生
1.気療ハンドは、フリーハンドの中にあることを発見
2.気療ハンドは、体内の超ミクロの世界への入り口
3.脳は「電流と脳神経細胞」の働きで生命活動をしている
4.気療ハンドによる、強い「脳幹電流」の発見
5.2つの気療現象が強い「脳幹電流」を発見
6.科学実験データによる、強い「脳幹電流」の発見
7.強い「脳幹電流」が人体に及ぼす「気療現象」
第5章 気療生命エネルギー(気の力)の発生・発散源
第6章 体内の気療現象の原理
第7章 体外の気療現象の原理
1.体内の「気療現象の原理」と体外の「気療現象の原理」を区分する必要性
2.体外の気療現象の原理
第8章 癒しの三調整の原理と癒しの心身調整
1.強い「脳幹電流」の発生と「気療電流と気療神経」の同時作動
2.癒しの三調整の原理
3.癒しの心身調整、そしてテレビロケの裏事情
第9章 ミトコンドリアの増殖と活性化
1.ミトコンドリアの働き
2.ミトコンドリアも、気療生命エネルギーの発生・発散源
第10章 自他治癒力を身につけよう!
1.内なる「自他治癒力」の発見
2.自他治癒力は、体内療法―「脳幹まかせ」
3.病気やケガ・傷などによる諸症状
4.気療ハンドで「自他治癒力」を身につけよう!
第11章 テレビ出演のきっかけと撮影の裏話―過去の起こった気療現象を「気療解説」する
1.気療ハンドによる気療現象の「気療解説」
2.気療のきっかけの脳幹ショックは強い「脳幹電流」の発生だった!
3.テレビ出演のきっかけと撮影の裏話―気療ハンドと動物たちとの気療生命エネルギーの瞬間伝達交流
4.うつ病の女性(26歳)のケース
5.「自他治癒力」の存在を父親が証明
第12章 気療ハンドで自他治癒力を身につけ、病気を予防しよう!
おわりに
はじめに
『私はこれで本を書くことは、終了したと思いました。しかし、気療理論の究極の一点があることを漠然とながら感じていました。ある日、気療塾学院の塾生の行動を見ていてハッと気づきました。それは、強い「脳幹電流」の発生という言葉のひらめきでした。
強い「脳幹電流」が全身(体内)に流れる「気療電流」によって、体質改善ではなく、体質改造が起こっていたのです。これは一般的にいう「静電気」とは違います。強い「脳幹電流」は、電流の質が違うことに気がついたのです。
この強い「脳幹電流」こそが、気療理論の「画竜点睛」(物事の最も大切な部分)です。
気療ハンドにすることにより、スイッチオンとなり、強い「脳幹電流」が発生するというのは、新発見といってもよいでしょう。この発見により、気療ハンドによって起こるさまざまな気療現象を簡潔明瞭に説明することができるようになりました。
これは気療を「理解する人」への最後の贈り物となると思い、本書を書くことにしたのです。
2021年から2022年にかけて、いくつかテレビに出演したので、テレビで見て初めて私のことを知った方もいるでしょう。そういう方向けに気療のやり方や気療の原理(奥義)も解説しています。
また、手を振るだけで、動物たちが次々と気持ちよく倒れ込んでいったテレビロケの裏側も紹介していますので、撮影がどのように行われているかも知っていただければと思います。』
「脳幹電流」とはとても印象的です。また、「脳幹」だけに注目すべきではないのかもしれません。そこで大脳との関係について確認してみました。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
大脳は表層の皮質と内部の髄質に分けることができます。また、表層の皮質は約90%を占める新皮質と大脳の下方に存在する古皮質があります。情動を司る大脳辺縁系は古皮質です。
脳幹は生命維持に必要不可欠ですが、大脳と構造的にも機能的にもつながっています。新皮質は犬や猫などの哺乳類にはありますが、人間が持つ創造力や理性のような高度な機能はありません。また、爬虫類や鳥類は古皮質のみです。
何をお伝えしたいのかというと2つです。
1)脳幹は元より、脳と気には密接な関係があると考えられる
2)人間より動物の方が気療に反応しやすいのは、人間および類人猿以外の動物には高度な新皮質がないからではないか
第1部 実践編 気療ヒーリングやオンライン気療エクササイズのやり方を紹介
第2章 対面気療エクササイズをしよう
1.1人気療エクササイズ
・気療生命エネルギーとは、一般的に言われている「気の力」である。
4.気療ハンドの気療エクササイズの型一覧表
・気療の世界においては、気を送るとか気をもらうという概念はない。
・生命エネルギーの交流である。
・気療ハンドを動かすということは、お互いに気療エネルギーを刺激する「刺激交流」になる。
第2部 理論編 気療はなぜ人間や動物を癒すのか。気療の奥儀を解説する
第1章 気療を「遺言」にする理由
1.気療とは何か
・気療現象の理解を困難にしているのは大脳の思考活動である。
第11章 テレビ出演のきっかけと撮影の裏話―過去の起こった気療現象を「気療解説」する
1.テレビ出演のきっかけと撮影の裏話―気療ハンドと動物たちとの気療生命エネルギーの瞬間伝達交流
・『さて、いよいよ動物たちとの瞬間伝達交流を取り上げます。
まず、表25「動物と気療ハンドの瞬間伝達交流一覧表(放映済み)」をご覧ください。
Q 多くのテレビ番組に出演されていますね。
A そうですね。1997年にTBSの「どうぶつ奇想天外!」に出演したのを皮切りに、2022年のTBS「ワールド極限ミステリー」の番組出演まで、25年間各局のテレビ番組に出演しました。
「やらせでは?」「手を振っている陰で、別の方法で動物を眠らせているのでは?」などの批判は聞いたことがありますが、不思議なことに、「手を振っているだけで、なぜ動物たちが気持ちよく倒れ込んで眠るのですか?」という質問は、いままでゼロです。皆無です。
Q なぜ、質問がないのでしょうか? 放送されたことは真実なのですよね?
A 「やらせやれ」と言われたら、私の性格上テレビ番組には出演していません。放送されたことはすべて真実です。どうして質問がないかというと、「4次元思考」、すなわち目に見える「物体的概念」で見て考えているからでしょう。つまり、「一般的思考」では追いつかない「一般常識外」の気療現象が起きているからです。簡単にいえば「意識構造」外の気療現象の世界だから、「不思議だな」と思っても質問ができないのではないでしょうか。要は気療ハンドの「手振りと静止」の繰り返しです。だから気療ハンドによる気療現象を信ずる「根拠」もないし、否定する根拠もないのが実態です。否定する人は、草原に睡眠薬をまいたとか、麻酔銃を使って眠らせたとか、偶然眠る時間帯だったのだろうとか、さまざまな否定的なことを言いました。
Q でもそんなことをしたらテレビ局も批判を受けますよね。
A 放送された内容が真実でなかったら、25年もの間、テレビに出演できません。私自身もやらせはやりたくないので断ります。
Q そうですよね。ところでテレビに出演し始めたきっかけは、なんだったのでしょうか?
A アマチュア時代にさかのぼります。気療を始めて間もない頃、友人の飼っていたセキセイインコがぐったりしていたところ、手振りをしていたら、1分ほどで元気になったということがありました。
それに別の友人宅を訪ねたところ玄関で犬が倒れていました。友人に尋ねたところ、外で交通事故にあって腰が立たなくなったとのこと。右手で15分ほど手振りをしました。変化がないので駄目かと思いました。その翌日の朝、友人から電話があり、「神沢、動けなかった犬が庭を駆け回っているぞ!」とのことでした。そのとき、鳥も犬も病気やケガが気療でよくなるのだとわかりました。
それから上京してプロの気療師になってから5年後にある会合でテレビ局のH氏に会いました。その3ヵ月後に電話があり、「神沢さんは動物を癒せますか?」と聞かれました。私はアマチュア時代の2件のことを思い出して答えました。「動物も人間も同じですからよくなります」。そのときに出演したのがTBSの「どうぶつ奇想天外!」でした。
Q その番組からたくさんのテレビ出演となったわけですね。
A その通りです。
Q 思い出となる動物との交流はありますか?
A どれもぶっつけ本番のロケでしたが、しいて挙げれば2001年10月スペインの300頭の羊、2001年12月ケニアのバッファロー200頭、2005年6月アメリカの200頭のバイソンの3件ですね。
Q それだけの数の動物を気療ハンドで眠らせたのですか?
A そうです。なぜ動物たちが眠り、「気療睡眠」に入るのか、気療解説をしてみましょう。』
◎気療解説
・『まず、人間と動物の違いから話しましょう。人間には大脳の「抑制機能」があり、低周波や目には見えないエネルギーを感ずることができません。だから安心して生活ができているのです。「抑制機能」は大脳新皮質の働きですが、大脳新皮質は人を含む哺乳類にしかありません。他の動物には大脳新皮質がないのです。ということは、哺乳類以外の動物には大脳の「抑制機能」はありません。[哺乳類には大脳新皮質はありますが、人間のような高度な機能は有していません]しかし、この2つのとき以外は脳幹の感覚硬直神経の働きが人間と違って鋭敏です。そのため、気療ハンドエネルギーを感じて眠くなるのです。ちなみに私たちの大脳は、脳幹から睡眠物質が分泌されて眠くなります。
気療ハンドにすることで、強い「脳幹電流」が発生し、癒しの「気療電流」が全身に流れて、癒しの強い気療生命エネルギーが、動物たちの脳幹を直撃します。そうすると、瞬間伝達交流が始まります。波動的に考えれば、人間の脳幹と動物の脳幹による脳幹波動交流をしているとも言えます。大脳波動は警戒して敵意を抱くかもしれません。そこで「抑制機能」が働くのでしょう。
さて問題は、どうして動物たちは気持ちよく眠り「気療睡眠」に入るのかです。体外の気療現象は、強い癒しの「気療生命エネルギー」の「瞬間伝達交流」です。体内の気療現象として、動物たちの脳幹は強い癒しの「気療生命エネルギー」の刺激を受けて、強い「脳幹電流」が発生すると、同時に全身の神経網に強い電流(気療電流)が流れます。強い電流により全身の筋肉細胞の「瞬間収縮硬直と弛緩」が始まり、筋肉細胞の「収縮と弛緩」の振幅が大きくなります。
筋肉細胞の「収縮と弛緩」の振幅が大きくなれば、血流が強くなります。同時に筋肉細胞の呼吸は自ら積極的に盛んになります。つまり癒しの「三調整の原理」が働きだすわけです。そうすると、強い血流によって体温は上がります。体温が上がるのは強い電流「気療電流」によって「電流熱」が発生するからだと考えられます。
人間も同様です。赤ちゃんが眠くなるときは手足が温かくなります。大人も動物も同様です。実をいいますと、熱くなり眠りにつくとき、強い強い気療生命エネルギーが体内に発生し、体外に発散することがわかっています。だから動物たちが倒れ込む前の2~5秒前に、気療ハンドの手応感覚で倒れ込むことがわかるのです。
さて、羊、バッファロー、バイソンの群れが次から次へと気持ちよく倒れ込んで眠るのはなぜでしょう。実は群れの各個体が発する気療生命エネルギーが集まって、「集合気療エネルギー空間」または「集合気療空間」ができるのです。各個体の体内の超ミクロのエネルギーが、集合・集積してマクロ化します。マクロ化した個体の気療生命エネルギーが集合・集積して癒しの強い集合気療生命エネルギー空間を作るのです。その結果、彼らは安心して倒れて気療睡眠に入ったのです。』
この「気療解説」の中から以下の3つについて考えたいと思います。
1.低周波や目には見えないエネルギーを感ずることができない。
2.大脳は、脳幹から睡眠物質が分泌されて眠くなる。
3.個体が発する気療生命エネルギーが集まって、「集合気療エネルギー空間」または「集合気療空間」ができる。
1.低周波や目には見えないエネルギーを感ずることができない
磁気感覚は広く動物界に分布する可能性があるようです。進化的利点は「長距離移動や方向定位」とありますが、この能力は野生で暮らす動物には非常に重要だと思います。一方、現代に生きる多くの人間にとっては、この機能は特に必要ではないように思います。つまり機能が退化したとしても不思議ではないということです。
「ラジカルペアメカニズム」に関しては、細菌において研究が進んでいるそうです。一方、「マグネタイト」については細菌だけでなく、鳥類においても研究が行われているとのことです(“生物の磁気受容能とそのメカニズム” )。また、人間おいても「マグネタイト」の存在が確認されています(“「第六感」磁気を感じる能力発見 東大など”)。
ご参考:“人間にマグネタイトはありますか”(Perplexityに質問)
画像出展:「地磁気50のなぜ」
人間にもマグネタイトの存在が確認されていますが、『人間は動物のように単純ではなく、「どっちが北のにおいがする?」というようにきわめて単純な質問でさえ、余計なことを考慮に入れて、質問を複雑にしてしまうのです。』と書かれています。これは、神沢先生の「気療現象の理解を困難にしているのは大脳の思考活動である」というご指摘と一致します。
2.大脳は、脳幹から睡眠物質が分泌されて眠くなる
●入眠とは、覚醒状態から睡眠状態へと移行するプロセスであり、脳内では複数の生理活性物質が精密に連携して働いています。これらの物質は、日々の睡眠サイクルを調節し、入眠を促進する重要な役割を果たしています。特に入眠に深く関係している生理活性物質は、メラトニン(睡眠の開始を告げるホルモン)、GABA(γ-アミノ酪酸)(脳を鎮静させる抑制性神経伝達物質)、アデノシン(睡眠圧を高める物質)、プロスタグランジンD2(睡眠の引き金)です。
●次に、この4つの生理活性物質について「磁気」と「電磁力」との関係について調べてみました。
ご参考:“メラトニン、GABA(γ-アミノ酪酸)、アデノシン、プロスタグランジン D2、これらの睡眠に関わる生理活性物質の中で磁気と関係が深いものはありますか”(Perplexityに質問)
ご参考:“メラトニン、GABA(γ-アミノ酪酸)、アデノシン、プロスタグランジン D2、これらの睡眠に関わる生理活性物質の中で電磁力と関係が深いものはありますか”(Perplexityに質問)
これによると、磁気との関係性が強いのはGABA(γ-アミノ酪酸)とアデノシンであり、電磁力との関係性が強いのはメラトニン、GABAでした。これにより、睡眠(特に入眠)に関わる生理活性物質のうち、磁気および電磁力に深く関係しているGABAであることが分かりました。
ご参考:“入眠時のGABAと自律神経系の関係”(Perplexityに質問)
●この中に、『入眠過程では、神経伝達物質と自律神経系の緻密な連携が不可欠です』とあります。また、『GABA は中枢神経系において最も重要な抑制性神経伝達物質であり、神経細胞の過剰な興奮を抑制する役割を担っています。脳の神経細胞が過度に活性化すると、GABAが放出され、神経細胞の活動を鎮静化させます。この機能は特に入眠過程において重要であり、覚醒状態から睡眠状態への移行に深く関わっています』ともあります。神沢先生の気療によって、猛獣が眠ってしまうのは、自律神経系に加え神経伝達物質が関わっているからではないでしょうか。そして、特に入眠に深く関わっている生理活性物質はGABAです。
ご参考:“磁気と血流の関係”(Perplexityに質問)
●『赤ちゃんが眠くなるときは手足が温かくなります。大人も動物も同様です』と神沢先生はお話されています。体温の上昇に深く関わっているのは血流(血液)です。血液は電解質やタンパク質を含む導電性の流体であり、磁場の影響を受けやすい特性を持っています。
1) ローレンツ力による磁気流体力学効果(ローレンツ力:電磁力の根源となる物理現象。導線に電流が流れる際、個々の荷電粒子が受けるローレンツ力の総和が電磁力として現れる)
2) 血液成分への磁気的影響(血液中の成分は磁場によって様々な影響を受ける)
「気は血を推動する」というのは、気血ともよばれ血と密接に関係しているとされている「気」の働きです。その気は宇宙にも存在しているとも言われています。“人間は宇宙や自然と一体のものと考える「中医学」”というサイトには『中医学の最も大きな特徴は、宇宙や自然と人間は一体であるという考え方です』とあります。
ご参考:“気は宇宙に存在するか”(Perplexityに質問)
3.個体が発する気療生命エネルギーが集まって、「集合気療エネルギー空間」または「集合気療空間」ができる
これをみて思ったことは鳥や魚の集団行動です。調べたところ、それは「相転移」と呼ばれている物理現象とのことでした。
画像出展:「原子も群れをつくって集団行動」
“鳥や魚の大群の集団行動は「相転移」と呼ばれる物理現象”
『数千~数万羽のムクドリが巨大な一つの生き物のような動きをしながら飛ぶ様子。このような集団行動をとることができるのは、個体同士の距離が近くなることで相互作用が強くなり、一種の相転移が起こったためだと考えられる。』
『足立研究員は「キーワードは"相転移"」と語る。相転移とは、液体の水が冷却することで固体の氷になるように、ある集団の性質がガラッと一変する現象のことをいう。集団を構成する要素同士の相互作用の大きさが変化することによって引き起こされる現象だ。
「鳥や魚、細胞の共通点は、自分の力で動くことができる"自己駆動"の能力と、周囲と"相互作用"する能力の両方を併せ持っていること。このような性質を持つものを、総称して『アクティブマター』と呼んでいます。アクティブマターでは、それまでバラバラに動いていた個体同士の距離が近くなることで相互作用が強くなり、その結果、一種の相転移が起こると解釈できるのです。私は、それならば、より小さな原子の世界にもアクティブマターが存在するのではないかと考え、研究を始めました」』
原子の世界にも相転移による集団行動があった!
『アクティブマターは、古典力学の理論モデルを使って記述できることが知られている。一方、原子の世界は古典力学では記述できず、量子力学を使って記述される。そこで、足立研究員は、原子の世界のアクティブマターとして「ハードコアボソン」と呼ばれる粒子を考え、古典力学の理論モデルをもとに、量子力学の理論モデルを構築した。そして、コンピュータシミュレーションで集団の性質を調べた。その結果、粒子の運動エネルギーや粒子同士の相互作用の大きさを変えることで、多くの粒子が一定方向に一斉に向きを変える、凝集するといったアクティブマター特有の集団行動が確認されたのだ。この発見は、集団行動に関する普遍的な原理が古典力学と量子力学に共通して存在することを示唆している。』
続いて頭に浮かんだことは、相転移には磁気や電磁力が関係しているのではないかという疑問です。
ご参考:“相転移における磁気および電磁力との関係”(Perplexityに質問)
以下はPDFの概要です。内容は難解で理解できませんが、予想は正しかったように思います。
『相転移現象と磁気・電磁力の相互作用に関する最新の知見を統合的に分析した結果、以下の主要点が明らかとなった。第一に、強磁性体におけるスピン秩序形成は交換相互作用と電磁場の結合効果に依存している。第二に、量子スピンアイス系ではヒッグス機構を介した磁気単極子のボーズ-アインシュタイン凝縮が観測され、電磁場のゲージ理論と深く関連している。第三に、ErFeO3における超放射相転移ではマグノン場と電子スピンの協奏的結合が相転移を誘起し、熱平衡下での静電磁場発生メカニズムが解明された。第四に、Fe/FeRh異種接合界面では垂直磁気異方性の電界制御が可能となり、スピントロニクス応用への新たな道筋が示された。これらの発見は、従来の磁気相互作用モデルを超える電磁場の能動的役割を浮き彫りにしている。』
ご参考:“鳥や魚の相転移とマグネタイト”(Perplexityに質問)
以下はPDFの結論の一部です。
『生物の集団行動における「相転移」的現象は、個体レベルでのマグネタイトを介した磁気受容と、群れレベルでの相互作用則が結合して初めて発現する。』
ここで、あらためて“磁気”、“磁界(磁場)”、“電磁界(電磁場)”、“電磁力”について調べました
ご参考:“磁気は何故うまれたのですか”(Perplexityに質問)
ご参考:“磁界と電磁界の違い”
ご参考:“磁界と電磁力の関係”
感想
まさに悪戦苦闘中です。頭の中は混沌としています。その中で、“気血”の概念である「気は血を推動する」を中心に考えるべきではなかと思います。これは血流を良くすることであり、体内のあらゆる組織に栄養や酸素、生理活性物質を行き渡らせます、血液は免疫系にも関与しています。
脳幹は自律神経系・局所血流調節・全身循環の循環制御を統合しています。また、内分泌系の統合中枢でもあります。
一方、ミクロ(量子)にもマクロ(宇宙)にも存在する磁気や電磁力も血流に影響を及ぼします。気功師の発する外気には極めて微弱ですが電磁力(遠赤外線)が出ています。ここに特別なシグナルが載っているのではないかと考える先生もおいでです。
体内の生命維持と深く関わり、外界にも広く存在する物質(酸素)とパワー(磁気と電磁力)との合わせ技が『氣』なのでしょうか。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
”電弱力”とは、『素粒子物理学の標準模型において重要な概念であり、宇宙初期の高エネルギー状態では電磁気力と弱い力が統一されていたとされます。』とのことです。
ご参考:“磁気と電磁力と酸素の関係”(Perplexityに質問)
“日本の外交を考える”という動画の中で、岡崎冬彦先生は外交官、初代情報調整局長、タイ大使など外交のスペシャリストと紹介されています。また、東大法学部在学中に外交官試験に合格し、その後大学を中退、外務省に入省したという異色のキャリアをお持ちです。
“未来ビジョン133『岡崎冬彦、日本の外交を考える』” この動画は「JapanMiraiVision」から拝借しました。
その岡崎先生は毎年のように風邪をひかれ、扁桃腺を腫らしていたそうです。その健康維持をはかるために始めたのが気功であり、岡崎先生が通っていたのは、ブログ“氣とはなんだろう30(合気道編)”でご紹介させて頂いた:藤平光一先生の道場でした。
岡崎先生の著書である『なぜ気功は効くのか』は、まさに岡崎先生が自ら気功を実践し、そして風邪をひかなくなったという実体験に基づくものです。とても説得力があります。気功師の先生が書かれた本とは少し違った角度で気功をみることができました。
目次
プロローグ なぜ、風をひかなくなったのか
第1章 私の気功体験は病気から始まった
第2章 気を回す
第3章 風邪治し法
第4章 道場の稽古
第5章 気を科学する
第6章 気を哲学する
エピローグ 天地正気の歌
鼎談 二十一世紀に気は解明されるか 帯津良一 愛甲次郎 岡崎冬彦
あとがき
プロローグ なぜ、風をひかなくなったのか
●症状は出ても、風邪までには至らなかった
・『体の緊張をゆるめることが病気を治す最大の要諦のようです。』
●五年前に気功を始めた
・気功を始める前は、毎冬ごとに大体三回は風邪をひいていた。
・気功以外にも健康法を試していた。例えば、漢方薬では「正源」という薬を常用していた。また、野菜スープも常用していた。運動は年数回のゴルフ以外は気功だけである。これらの健康法で最も効果があったのは気功だと思っている。
●気功のおかげか無理のない生活のおかげか
第1章 私の気功体験は病気から始まった
●三叉神経痛を使わず治すには?
・漢方で治ったものの、薬疹が起き体中に蕁麻疹ができ10日ほど入院した。それがきっかけで気功を始めた。その後、5年間一度も再発していない。
・中国出張の際、各都市の公館に依頼をし、北京、上海、広州、瀋陽、大連の5つの都市で合計10人の気功の達人を紹介された。
第2章 気を回す
●ゆるみを回す
・気功は本来体得するものである。
・気功には非常に多くの流派があるが、唯一共通しているのは小周天である。
・百会は頭頂のツボ、会陰は肛門と性器の間、体の前面中央のラインが任脈。体の後面中央のラインを督脈という。
-『息を吐きながら、気を百会から体の前の任脈を通して会陰まで下ろす。それから今度は息を吸いながら、気を背中の督脈を通して百会まで上げる。これをぐるぐる回すのが小周天です。』
・小周天は個人差があり、背中から下ろす方が良いという人もいる。
・『気を回すといっても、普通の人にはどうしていいのかわからない。中国の説明の一つでは気ではなく、意を回す。だから意識をずうっと回すという考え方もあります。意識して何かを回す、うちの道場では光の玉をイメージして、光の玉がぐるぐる回っているというふうにイメージしています。つまり意を回すということです。私が中国で覚えて以来、心がけてやっているのは、ゆるみを回すことです。通る場所を次々にゆるめる。ずうっとゆるみを回しながら、息を吸いながらいちばん上までもってくる。』
・気というものは、ゆるんだところに入ってくることになっている。これは仮説というより公理である。どんなに気が満ちた状態になっても体を硬くした瞬間にその状態は解消してしまう。緊張したところには気は流れず、入ってこない。
・修行といえば、普通は精神統一や集中力を重んじるが、気の場合は楽しい気持ちの時の方がよく回る。
・中国では目と目の間を上丹田、乳と乳の間を中丹田、お臍の10cmくらい下が下丹田である。まず百会をゆるめて、それから上丹田をゆるめ、中丹田、下丹田をゆるめて、続いて背中の各丹田の裏側を下から上へゆるめてぐるぐる回すのが小周天である。
●小周天ができれば気功はできる
・呼吸は吸うときは鼻だが、吐くときは流派によって異なる。特に決まりはないようである。(岡田先生は吐くときも鼻だそうです)
・すべての気功の流派に共通なのは、舌の先を上顎の先につけることである。これは気を任脈を通して顔の前を下すときは舌がついてないと、鼻から真下に下す時に口の中で前の線が途切れてしまう。
・気功ができるようになったという証拠は、丹田が熱くなることである。岡田先生の場合は中丹田は割合に早く実感できたが、下丹田はなかなかできなかったとのことである。人によっては下丹田が温かくなるのに3年くらいかかる人もいる。
・瀋陽では「姿勢がよければすぐ丹田が熱くなる。姿勢が悪いとなかなかならない」と言う。その姿勢とは「百会と三つの丹田と会陰が一直線になること」とされている。
●小周天はすべての元
・「吸うのが一分吐くのが一分、計一息二分を目標とする」と言われてやってみたが、その後、「とにかく、吐くときにゆるめて、吸うときにゆるめて、体がゆるみさえすれば呼吸は自然に深く流れる。だから、まだまだゆるめられる、ゆるめられると、思いながら小周天をしています。」という方法に変えた。
・『これも中国でちょっとヒントを得た。なんでもない一言なんですけれども。「小周天をやっててそのうちにほんとうに体がゆるんできたら、吸うのも吐くのも一分ぐらいになりますよ」と言われたことがある。そういうヒントがある。だから時間を計らないで、まだまだゆるめられる余地があればもっとゆるめながら、ゆるめて吐いて、ゆるめて吸う、それをやっています。
それからもうひとつ中国でちょっとヒントを得たことなんですけれども、「容器の中に水がじわじわっといちばん上まできて、今度水がじわじわじわっと引くようにやりなさい」というのを教わった。それを内観内視と言うんです。自分で満ちて引くのをじいっと見なさいということ。
仏教の行にそういうのがあるんです。歩くという自分の行動を、たとえば、いま、右足のかかとを上げた、次につま先あげた、その足を前に伸ばした。次は左足というようにいちいちいつも見てるという修行がある。それと同じ修行です。それをすればたしかに雑念は入らなくなる。
もう一つヒントを得たのは、なるべく静かに澱みなく細く長く呼吸しているのがいちばんいいんだと考えがちだけれどけれども、「波が押し寄せて来るようにしなさい」と言う人がいた。「蛇がずっずっと動くようにしなさい」と言う人もいた。そうしますと、特に吐きながら、顔の前に下ろすときに扁桃腺とか気管とか、特に治したいところを丹念に通す。波が押し寄せるように何度でも洗う。繰り返して洗いながら下ろす。それをやってもいいんだなということです。これはたいへん効果的であります。』
●性格まで変わった
・もともと神経質な性格で、緊張体質だから不眠が多かったが、小周天をマスターし不眠の問題は解決した。さらに、先輩からは神経質でとても近寄りたがったが、気功を始めてから話しかけやすくなった」と言われるようになった。
・小周天に対し、足の先、手の先まで回すのを大周天という。大周天までできると内気功だけでなく外気功(他人を気で治療すること)ができるようになると言われている。
・大周天は小周天を覚えて丹田が熱くなるのを覚えてから次のステップであるという教え方もあるし、小周天でも初めから足の先まで回す流儀もある。あるいは、むしろ足の裏から回すことが一番大切という流儀もある。
・自分で気功を覚えないで、気功師の外気功治療に頼る人が多いが、これは個人的(岡崎先生)には勧めない。
・『もっとも私も三年ほど前、前立腺の手術などで、道場にしばらく通えなかった時代、代わりに外気功を受けたことがあります。
私は小学校のときから肩凝りです。凝りに凝って背骨と肩甲骨の間に指が入らないぐらい固くなる。これがゆるんできた。それは藤平道場という気功の道場で、気圧法という、外気功の治療もしてもらったからです。それはいまでも続けて通っていますが、いまはゆるんで背中に楽に指が通るようになってきて、肩凝りもずい分楽になってきた。五十年間苦しんだのですが、その点では私も外気功の効果は否定しませんし、お世話になっています。たしかに自分独りでは背中までゆるませるのは難しいでしょう。内気功で癒せる限度を越えた場合には大変有効です。』
第3章 風邪治し法
●ずっーと扁桃腺で悩んでいた
・小学校の時から、年に3回は扁桃腺を腫らしていた。40代には扁桃腺が化膿して後部扁桃腺膿症にもなった。
・今まで、非常に効果があったのは、本当の熊の胆であるが、ワシントン条約のため手に入らなくなった。かつては中国産の熊の胆が手に入った。熊の胆は熊の胆汁の塊である。それを砕いて粉にして、歯と頬の間に含む。これを口に含んでいると扁桃腺の奥から唾液がしょっちゅう湧き出てくるため乾かない。しかも外側で濡らすのではなくて内側からじわじわと濡れてくる。のど飴では10分しかもたない。
・小周天をするときに、顔の正中線(真ん中の線)を通して息を吐きながら鼻の奥の上気道と喉をゆるめながら気を下ろしていくと、ジワーッと内から唾液が湧いてくる。バイ菌にとっては乾燥状態が望ましい。
●いつも喉を潤して
・口は吸うときも吐くときも一切開けない。特に冬は注意が必要である。また、舌の先を上顎につけるという習慣、舌全体で上顎を蓋しておく感じである。これにより上顎全体の扁桃腺の周りはいつも唾液で潤うことになる。
第4章 道場の稽古
・道場の稽古は、巡気と柔軟体操の2つからなる。最初に先生が巡気のような形で、一人一人の先生の気を押し込むようにして小周天を回す。これにより独りでやるより効率よく気が巡るようになる。その後、体操をして最後に巡気をする。
●巡気
・巡気は二人向かい合って立ち、手の甲と甲を合わせ、お互いの身体の電気が接触するような形で、片方が相手に気を送り込み、それに答えて片方がそれによって増幅された気をまた相手に送り返す。そうしてお互いの気の強さを増幅していくという方法である。注意点は肘、肩、背中、腰、膝など全身の力を抜くこと。さらに、気を通さなければならない。
・気というのは意を通すことでもある。この二つができるようになると巡気ができる。
・自分の正中線と、相手の正中線がいつも正面を向いていて、ずれないようにしながら行うとうまくいく。
・『これは説明できないのですが、二人で巡気をすると気がたちまちに高まります。この理屈は私にはわかりません。生理学や電気の専門家に聞けば、そんなことは電気の増幅の現象として似たようなことがよくあるのかもしれません。もっと哲学的なことかもしれません。一言で言えば、人間には他人が必要だということです。そうなるとちょっと宗教じみてくるので、この問題はそこまでにしておきます。』
・巡気をしているとお互いに気が充満した感じになり、お風呂に入ったように熱くなり、前でも後ろでも跳ねたくなってくる。
・マスターするのに半年かかるが、向かい合っている片方の人が、自分の気を身体の上の方に上げてストーンと下に落とすと、全く手も触っていないのに前の人がそのままストーンと転がって尻もちをつく。これは俗に「遠当て」という。
●柔軟体操
・両方の足を地面にぴったりとつけて、気を頭のてっぺんの百会から入れたり、足から吸い上げては身体中に巡るようにして、いつも循環させている。体操のはじめの方では自分で小周天、大周天もする。そうして満ちてきた気をいろいろ手足体の運動をしながら、身体中に巡らせては放出するのを繰り返して、身体中を気で充満させるのが体操の目的である。
第5章 気を科学する
●スプーン曲げ
・『スプーン曲げは気功の修練をした人なら半年もしたら誰でもできるようになります。指の先にスプーンを持って、気を通す。またゆらしたほうがいい。ゆらすというのは気を巡らすのに効果的ですが、振動を与えるという物理的な意味もあるかもしれない。
指の先に気を通すということは、すぐに覚えます。すると指の先が重くなります。重くなった指の先でスプーンを持って、気がスプーンの先までいくような感じでやる。そうすると「あっ、曲がるな」という感じがしてくる。それは一つはスプーンが温かくなるのでわかります。体温よりもちょっと温かい、お風呂ぐらいの感じになります。そうなってきたときに両手でスプーンを曲げると軽く曲がる。もっと気の強い人は、重力だけで曲がると言います。
ライス・カレーを食べている最中に思わずスプーンが曲がってこぼれてしまう人もいると言いますが、私の場合は弱いので改めて曲げないと曲がらない。
私の場合、気で曲がったかどうかわからないという問題があります。気でできることというのは、ものすごい力を入れれば曲がるものが、軽く曲がるということです。だから見ている人が「俺にもやらせろ」といって怪力を出したら、普通じゃ曲がらない場合も曲がります。「だからおまえは相当怪力を出したんだろう」と言われると、これまた説明がつかない話です。だけれども、する人が皆わかるのは、ほんとうに、「あっ、軟らかくなって曲がるな」と思ってそこで曲げるとすっと曲がる。
これがどういうことなのか。一つの仮説は、気が満ちてくると指先が強くなっている。だから強い指先で曲げるから曲がるんだということ。これもあるいはほんとうかもしれない。
パンとか食べ物の入っているビニールの袋を破るときに、齢をとるとだんだん指の力が弱くなって破れなくなる。齢をとって特に朝起きたときには破れない。少し指先に気を満たして、すっと破ると軽く破れます。そういう面もあるのかもしれない。
しかし、私が軟らかくしたスプーンを他の人に曲げさせると、私がやるようには簡単に曲がりませんが、やはり少し軟らかくなった感じがすると言います。だからやっぱりスプーンが軟らかくなっているようです。
仮説は、結局どのスプーンだって何百度かに熱したら曲がりやすくなります。何百度に熱したのと同じような状況がスプーンの金属の中に起こっていると考えればいい。気功する人の指先から電磁波が出ることは、もう証明されていますから、おそらくスプーンの中に電磁波が流れたからだろうという仮説が可能でしょう。これも実験してみたいと思います。スプーンを常温のままで、両側からいろんな電磁波を通してみる。振動を与えた方がよければ、そういう装置も作る。それで、曲げてみて曲がるようなら、高温と同じような状況が電磁波によって起きていることになる。これも実験さえしてみればすぐにわかる話です。あるいは逆に気が出す電磁波の特徴まで特定できるかもしれない。これが発見されたら物理学ではかなり大きな発見でしょう。』
第六章 気を哲学する
・『気を科学するだけでも、私の分際を超えた余計なことだと思っておりましたけれども、哲学するとなると、ますます余計なことです。ただどうも気とは何だろうと考えていると、どうしても科学だけで解明できないものがありそうな感じがしてきます。哲学というか、何かもっと形而上的な思索というものが入ってこないと、どうも理解できない。それは気が、心とか意思にどうも関係してくるものがあるように感じるからです。』
●科学哲学
・『中国の伝統的な考え方では、物質とそれを動かすものの二つに分けて考えます。
たとえば荘子の知北遊篇では、「人の生は気の集まりなり。集まれば即ち生。散れば即ち死」。つまり生きている人間と死体との差は、その中に気が巡っているかどうかで区別している。そういうことです。気が散ってしまえば死んでいるということです。人間の体を動かしているのは気だという考え方です。気と血を一緒にして気血という表現もあります。これは孟子も含めて、中国辞典、東洋思想に共通だといっていいのです。
ただこの思想はその後だんだん変わります。特に中国の古典思想というのは、そのいちばん大宗である儒学も含めて宋の時代になって、ずいぶん再整理されてしまいます。宗の時代になると、道徳というものに非常に高い価値を置きます。そうなると、単に物を動かしているものより高い所に、理というものがあると考え、それと気というものを区別するようになります。
理というのは道徳とか人の道とかいうことで、気というものはただ体を動かしているものだと考えるようになる。それは宋の儒学の特徴でありまして、その後長く続きましたが、いまは荘子のいうようなもとの考え方に戻っているようです。
だいたい中国で気功が盛んになったのは1950年代からです。もっとも盛んになったのは文化大革命の頃です。それはどうしてかというと医者とかインテリが迫害され、皆、充分な医療が受けられなくなった。それで伝統的な治療法に頼り、それまで秘伝とされていたものが次々表に出て、気功が非常に盛んになったのです。』
●気に対するいろいろな異なったアプローチ
1.合気道
・合気道は気を利用した武術であり、合気道と気功とは表裏一体のようなものである。
・合気道は相手が出してくる気を正面で受け止めないで逸らす。さらに相手の気が動く方向に相手を誘導する。それによって相手を投げる。相手は自分の勢いで飛んでしまうということになる。
・『合気道の達人に教えて貰ったいちばん簡単な例としては、合気道で人を倒す方法は、人が椅子に座ろうというときに、椅子をすっとどければいいというものの考え方です。それはその人の「椅子に座ろう」という意志がなければ働かないものです。「椅子に座ろう」という方向に気が動いているので、その方向を椅子で受けとめないで、椅子を外せば、転ぶわけです。それが合気道。気功は、椅子に座ろうとする人の気がいちばん欲する中心的位置に椅子を持って行って据える熟練したウェイターのような術と言えます。』
・気功は相手から出る気をなるべく体の正面で受けとめる。それでその気を自分が吸収して、自分がそれをさらに増幅して相手に気を戻す。それでお互いの気を高める。これが気功である。
●私の不思議
・藤平光一先生は『気の確立』という本の中で、次のようなことを書かれている。合気道の師範になった頃、柔道の稽古でリラックスしていたら簡単に倒された。そこで、力を抜いて、なおかつ気を出すのが一番正しいことに気がついたとのことである。力を抜かなければ気は通らない。しかし、その上で意識的に気を通さなければならない。これが気の基本であり、真理である。
感想
岡崎先生がマスターされた「小周天」を是非とも身につけたいと思いました。また、「気功ができるようになったという証拠は、丹田が熱くなることである。」というご指摘も大変貴重なものです。
さらに、「スプーン曲げ」のお話も大変印象に残りました。
「丹田が熱くなること」と「スプーン曲げ」ができるようになることが、気功の第一歩ということかもしれません。
第二章 気の力
・『対話はいよいよ佳境にはいってくる。というよりは、いきなり本番という感じで、この章では「気」と「気功」治療の思想と実践の核心部分がすべて明らかにされるのだ。
望月さんが実際に治療したガン患者さんの例などは、ひとつのケースにすぎない。もっと大事なことは、「気」を扱う人がどういう姿勢で生きているかということだ。
私は作家シャーマン説を言い続けてきた。書き手はひとつのヨリシロにすぎない、という望月さんもご自分を一本のパイプにたとえている。なによりも大事なことは、すべてのことに対して謙虚であるということだろう。私は謙虚とはおよそ縁のない無作法者だが、謙虚であることの大切さだけはわかっている。
ここで紹介されている奇蹟のような治療例も、私にとっては格別びっくりすることではない。世の中にはありえないことなど、なに一つないのである。
私は「気」がなにか特別なパワーを発するとは思っていない。望月さんと長時間語りあった後でもそうである。親鸞のいう「自然法爾」とは、「おのずからしからしむ世界」ということだ。「おのずからしからしむる」力に、ほんのちょっとの方向性をあたえることが、「気功」の仕事かもしれないと考えている。
大事なことは、「気」を超能力のように簡単に思いこんでしまわないことだ。役立つ人には役立つ。縁なき人には意味がない。そのくらいに考えたほうがいいのではあるまいか。』(五木)
●気は宇宙の無限のエネルギー
・(「気」とは何だとお考えですか?)『私が感じることは、臓器と臓器、また肉体と心をつなぐ情報系のエネルギーのようなもので、光ファイバーのように、体内には、そのエネルギーを流すシステムができているんじゃないかということなんです。』(望月)
・『情報系のエネルギーですか。日本のホリスティック医学界のリーダー的存在の帯津良一さんは、外科医として、長年、手術の場に立ち合い、ひとつの疑問に駆られたそうです。
人間の体を開いてみると、臓器と臓器のあいだに、隙間がある。この隙間とは何かと考えていった末に、ひとつの結論に達したというのです。この隙間にこそ、生命エネルギーがひそみ、それが臓器と臓器をつないでいるのではないか、と。』(五木)
・『帯津先生は、中医学や漢方薬を研究された経験から、この隙間に、気があるのではないかと考えて、「気場」と呼んでおられるんですね』(五木)
・道教では、カオスの「ゲン」といものの中から生まれてくる気が「元気」で、元気は一切の「元(モト)」であるという考え方をする。元気は「源気」と書いてもいいし、「原気」でもよい。その源の気が集散して、宇宙が生まれ、太陽も生まれる。人も動物も生まれると考えるわけである。(五木)
・貝原益軒の「養生訓」には「人の元気は、もと是、天地の万物を生ずる気なり。是、人身の根本なり」とある。
●気功家シャーマン説
・道教では、気が散じて生命が尽き、人間もいのちが終わる。そのとき、散じた気はどこにいくのか。元気、あるいは源気にもどる。その循環のなかに生命というものがあると考える。(五木)
・『病気というのは、読んで字のとおり、気の滞りのことなんでしょう。生命の活発な循環が滞っている状態を指し、気が涸れた状態、ケガレの状態が、死を意味するんですね。道教からみると、気というのは、長い歴史をもった非常におもしろい思想です。』(五木)
・気を送って治療するというのは、不協和音になったり、滞っている気を宇宙の無限のエネルギーで、きれいに流れるようにするということではないかと思う。
・『そのうち、私はただ宇宙のエネルギーのパイプの役目をしているのだと考えるようになりました。自分が治すという考え方じゃなくて、なにか大きな宇宙のエネルギーが私の体をとおして、相手にいくと。私は、一本のパイプにすぎないと。そして、それが相手に伝われば、相手のもっている自然治癒力が高まって、細胞が活性化して治っていくから、あとはその人にまかせればいいんだと、そう考えるようになったんです。そうしたら、ストレスは消えましたね。』
●気功治療が効く人、効かない人
・『気功治療が効くかどうかに関して、これまでの経験から、五つのタイプに分類しているんです。一つは、もともと気の通りがよくて、心がオープンな人。こういう人はすごく効きます。二番目は身体的に気の通りが良いが、心は閉じている人。こういう人は、気を信じていなくても、唯物論者[観念や精神、心などの根底的なものは物質であると考え、それを重視する哲学的な立場]でも効きます。三番目は、もともと気の通りが悪い体ではあっても、心が自由でオープンな人。こういう人はすぐに効果が出なくても、二回三回と治療を重ねていくうちに、徐々に気の通りがよくなって、治っていきます。』(望月)
『気功が効かない人というのは?』(五木)
『四番目の、もともと気の通りが悪くて、しかも、心が閉じている人。こういう人はほとんどなんの反応もありません。』(望月)
『そういう人に気を送っていると、どんな感じになるんですか?』(五木)
『こちらから送った気が、首とか肩のあたりでブロックされて、なかにはいっていかないのがわかります。壁に行く手をはばまれた気は、元にもどって、私のところに帰ってきますから。』(望月)
『そういう人は、気なんか絶対にないと思いこんでいるんでしょうか。』(五木)
『そうですね。だけどふしぎなのは、五番目のケースです。どうして治ったのか、わからない。本人も私もお医者さんも、首をかしげる場合がときどきあります。人知をこえた、なにか大いなる力が働いているんじゃないかと思うことがあります。この第五のケースに関しては、二とおりあります。物理的、医学的にみて、ほとんど無理だと思われても奇跡的に治る場合と、もう一方では、体はよく反応し、気の流れがスムーズにいくようになっているのに、本人の気分がよくならないし、病院の検査結果も思わしくないケースです。私がこの五番目のケースを、深く考えることになったきっかけがあります。ずっと以前、ドイツのミュンヘンで、六十代半ばのドイツ人の女性を治療してあげたことがあります。その女性は顔面麻痺で、耳のうしろの神経を手術したあと、その後遺症で歩けなくなり、それから何年も車椅子の生活になってしまいました。下半身がぜんぜん動かないのを確かめて、私の心の中で、これはちょっと無理だなと思ったんです。半年後、ふたたびミュンヘンへ行ったとき、明るい笑顔の女性が、すたすた歩いて私のところへ来ました。見ると、あの車椅子の女性でした。私は、その変わりように、本当にびっくりしました。なにか人知をこえた力が働いたとしか思えませんでした。それ以来、私は、やってみなければ、治るか治らないかは分からないと考えるようになったんです。』(望月)
『五番目の人知をこえた、サムシンググレートの存在を信じている人の場合でも、奇跡的治癒がなされるときと、そうでないときがあるというのが、興味深いですね。気功治療の場合、受け手の心構えや、素質というものが、治癒に関連していることも考えられますね。』(五木)
『そうですね。ちなみに、この奇跡的治癒が起きたドイツ人の女性が、気をどう感じたのかを述べておきます。彼女は、体が熱くなり、壁や天井がゆれて見え、それから壁が斜めになったといいます。治療のあと、一週間はぜんぜん変化なく、その後、杖で立つことができ、だんだん歩くことができたそうです。』(望月)
●自利利他の思想が根底にある
・浄土教の初期の教えに、観想念仏といって頭のなかで、阿弥陀如来の光を浴びて、満ち足りた気持ちで浄土にいることを想像する行法がある。そのように自分でイメージする。固く凝り固まった細胞の一つひとつに「気」が風のように、ザーッとなびきながら、きらきら光りながら、体のなかで喜びの歌をうたっているんだ……と思う。(五木)
第三章 気と想念
●遠隔治療は本当に効くのか
・(遠方へ気を送るとういうのはどういうことなんですか?)『電波のように相手のところに届くんですね。ここで私の気をうけようと思ってリラックスしたら、その瞬間から私の気の周波数にダイヤルを合わせたことになるんです。そうすると、私の送るエネルギーが受信できる。そんなふうに考えたら、考えやすいじゃないでしょうか。』(望月)
第六章 気と呼吸
●気の交流は信頼関係の上に成り立つ
・植芝先生は70歳を過ぎて、初めて気を出せるようになったとのことである。(五木)
・『気で相手を投げ飛ばす場合、まず相手と自分の発する気によって、気と気とが反発しあい、その結果、気の弱いほうがはじき飛ばされます。そのとき、受け手が送り手に対して、全幅の信頼をおいている場合は、二人のあいだに回路ができているので、気を感じやすくなり、気の反発が起きやすいのですね。』(望月)
・気功教室や合気道教室で、先生の送る気に対して反応する練習がある。その場合、熟練した生徒はすぐ体を動かして、反応するが初心者はうまく動かない。(望月)
・ヨガのレッスンで、みんなの気がまわりはじめたころ、生徒に気を送って、その気の巡りかたにしたがって体を動かすセッションをしている。ベテランたちは、その時その時によって気のおもむくままにまかせて、自由に体を動かして、自分で体の凝りや、気の滞りを是正する。(五木)
第九章 気の声
●上虚下実の状態をつくる
・『気功にしても、武道にしても、ほかの健康法にしても、肩の力を抜く方法を教えていますね。とくに重心のかけ方ということを、すごくうるさく言っている。臍下丹田に重心をもっていくと、つまり気を集めるとどっしりして、ふらふらしないというように。』(五木)
『肩甲骨を背骨によせて、両肩をふっと下げ、肛門を締めると、お腹に力がはいり、丹田に気が集まってきます。そのとき、自然に肩の力が抜けているんです。お腹だけしめても、だめです。肩の力を抜いて、肛門をぐっと締めると、お腹のところに充実感が出るんです。』(望月)
『充実感があるというのが、非常に大事なんですね。』(五木)
『気が上にあがると、だいたい首、肩に力がはいります。理想は、上が軽くて、下が安定している状態なんです。上が空っぽで、下が充実している。』(望月)
『上虚下実ですね。』(五木)
『それができないと、気の循環もうまくいかないし、リラックスができないというんです。しかし、それはなかなか、むずかしい。無意識にいろいろ力がはいってしまうんです。』(望月)
まとめ
1.気とは情報系のエネルギー
1)臓器と臓器、また肉体と心をつなぐ情報系のエネルギーのようなもので、体内にはエネルギーを流すシステムがあるのではないか。
2.情報系のエネルギーとは
1)気の他に情報系のエネルギーではないかと思われるもの。
・「愛」、「憎しみ」、「気合」、「勇気」、「敬意」、「敵意」、「圧力」などは、目には目見えないが感じとることができる。
・「気」は感じる世界であり、「愛」の上に存在するものではないか。
この2つの表はAI(PerplexityPro)が作成したものですが、左は「愛情に関係する生理活性物質」で、右は「気によって影響を受ける生理活性物質」です。「気」が何かということが明確になっているわけではありませんが、少なくともAIの回答によれば、この2つの表には「幸せホルモン」ともよばれている、オキシトシン、セロトニン、ドーパミンが含まれています。「気」は幸せな気持ちにするものだと考えられます。患者さんと患者さんの抱えている症状や問題点を理解しようとする行為は、「愛」の中に含まれるものだと思います。
3.気は流れるもの
1)気の滞りは冷えにつながる。気は心も体も温かくする。
4.気が効く人とは
1)深い意識のところで、オープンな寛容な人、素直な人の方が気はよく流れる。
2)半信半疑や絶対に効かないと思ってきた人でも、本人の気の「通り」が良い場合は劇的に効くこともある。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
「気の「通り」が良い場合」ということが気になって調べてみました。この表は性格・行動・心理の3つから分類されていますが、これを拝見すると、「リラックス」した状態だと思います。患者さまと施術者の関係性を考えると、このような状態になるためには、信頼関係が極めて重要だと思います。
5.元気(原気)
1)貝原益軒の「養生訓」には「人の元気は、もと是、天地の万物を生ずる気なり。是、人身の根本なり」とあります。また、道教では「元気は「源気」と書いてもいいし、「原気」でもよい。その源の気が集散して、宇宙が生まれ、太陽も生まれる。」とあります。つまり、気とは体内にとどまらず体外の世界に存在するものです。
感想
『「私は、「愛」のない「気」の追求や「気功」など、なんの意味もないと思っている。』という五木先生のお話はとても印象的でした。良い施術をするには患者さまとその症状を知り、そして施術師としてだけでなく、施術そのものについても信頼して頂くことが重要です。これは気の第一段階、もしくは気のウォーミングアップのようなものかもしれません。
一方、気は流れるものなので、気の滞りがあればそこが問題の箇所です。気は気血と呼ばれることも多く、その働きは血を推動するとされています。つまり、気の滞りは血の滞りを意味し、血が滞れば冷えが生まれます。
冷えは硬さにつながります。触診に相当するものを切診といいますが、丁寧な切診によって、冷えや硬結といった気の変動を把握することが、気の第二段階といえそうです。
気が何であるかは相変わらず分かっていませんが、気の実体がつかめれば確かな施術、より効果的な施術につながることは間違ないと思います。
前回は「合気道」でしたが、今回は「気功」です。気功は「気」を知るうえで、非常に重要ではないかと思っています。
もっぱら外で遊んでいた子供時代、その後もサッカー中心の日常生活であいかわらず読書とは無縁でしたが、五木寛之先生の「青春の門」はなぜか読んでいました。
その五木先生と気功師の先生の対談というこの本の内容に興味をもったというのがいきさつです。
目次
見えない世界への旅のはじめに
第一章 気の存在
●気を実感するとき
●西欧人が気功治療を警戒するわけ
●率直な心が気をキャッチする
●初めての「気」はトーストの匂いだった
●気を送るということ
●受け手の反応は十人十色
第二章 気の力
●気は宇宙の無限のエネルギー
●気功家シャーマン説
●奇跡的な治癒を体験する
●気功治療が効く人、効かない人
●自利利他の思想が根底にある
第三章 気と想念
●遠隔治療は本当に効くのか
●多く祈られた人は早く回復する?
●比叡山千日回峰行者の生命力
●行は一心の祈りに支えられている
●不可能を可能にしたイメージの力
●すべての存在をつなぐ気の力
第四章 気と治療
●生きとし生けるものすべてに流れる気
●「いやしろち」と「きがれち」
●東洋医学は生きた人間を観察してきた
●先天の気と後天の気
●気にはキャラクターがある
第五章 気の思想
●東洋人と西洋人の精神と肉体の違い
●西洋人は気にどう反応したか
●日本人はあがると血圧が下がる
●軍隊教育が歩き方を変えた
●日本人の歩き方は縄文のむかしから
●気に目覚めはじめた西洋人
第六章 気と呼吸
●気はエントロピー増大の法則にさからえるのか
●気の交流は信頼関係の上に成り立つ
●呼吸のつなぎ目に置く呼吸法
●お経が長寿の原点
●宇宙の無限のエネルギーを補給する
第七章 気とヨガ
●ヨガの究極の目的は宇宙との一体感
●居職の人たちが健康なわけ
●ヨガの効果は体の固い人に顕著に現れる
●無数の想念と雑念を一つに集中させる
●強くて固いものは折れやすい
●しなやかな心と、しなやかな体を取り戻そう
第八章 気といのち
●何の施術にしないうちに治ってしまったインド人
●小食のすすめ
●人間はどこから来て、どこに兼ねるのか
●人間は天に還るときを知っている
第九章 気の声
●力を抜いてリラックスすることの大切さ
●上虚下実の状態をつくる
●砂漠体験が瞑想に導く
●直感の声に耳をかたむける
●内なる声は人間の原始の力
●一人ひとりみなちがう
あとがきにかえて
見えない世界への旅のはじめに
・『「気」というものの存在について、私はあまり真剣に考えたことがない。いまでもそうである。
しかし、見えないから「気」は存在しないなどと考えたことは一度もなかった。また、科学的に証明されないから「気」はありえないと考えたこともない。
むしろ実験によってその存在が確認されるような「気」なら、それほど興味もおぼえなかっただろうと思う。「気」は見えないから面白いのである。科学的に計測された程度の「気」は、手にとって遊べるオモチャのようなものだ。
家族愛にせよ男女の愛にせよ、「愛」というものも、また、目に見えない世界である。しかし私は「愛」というものが偉大な力を発揮する場合があることを疑わない。もし「愛」の度数や質量を計測することができるとしたら、そんな「愛」に関心はない。「愛」や「憎しみ」は目に見えないが、それをまざまざと感じとることができる。その作用を予想することもできる。私はその存在を信じている。「信」ということもそうだ。信仰の度合いを数字であらわすことはできない。しかし、信仰のために命を賭けた人びとが数多くいることを、私たちは知っている。
私の父は師範学校の教師だったが、また剣道の有段者でもあった。そんな父親のおかげで、私は小学校に入る前から木刀や竹刀をもたされて稽古をつけられた。剣道では「気合い」を重んじる。「気合い」は見えないが、それが存在することは、一度でも試合をしたことのある人間には、はっきりわかるだろう。
「勇気」や「敬意」、そして「敵意」や「圧力」もそうだ。表情や動作にあらわれる場合もあり、反対に隠されている場合もある。しかし私たちは、あきらかにそれを感じて反応する。
知らない街で、はじめての酒場に一歩はいったとき、一瞬、ピリピリするような警戒心や、好奇の目を肌で感じることがある。店内にそのような「気」が電磁波のように流れているのだ。
とはいうものの、「気」や「気功」といったものに対して、世間はながいあいだ怪しげなものを見るような目で対してきた。いまもそうだろう。
社会革命への夢が遠ざかったあと、人びとの夢は人間内部の探求へとむかった。身体革命の夢のなかから、「気」や霊的な世界への関心がたかまっていったように見える。
さらに近代の科学的思考への反省から、「モノ」と「ココロ」のむすびつきが見直されはじめた。そんな時代の風潮のなかで、「気」や「宗教」がにわかにクローズアップされてきたのである。とはいえ、そこにはある一線が引かれていることもまちがいない。
その線のむこうに何かが見えていながら、私たちはなかなか一歩をふみだすことができないでいた。その線をこえた場合には、「向こうの人」あつかいされてしまいかねないからである。
私は「気」を神秘的なものとは考えていない。それと同時に、科学的な立場でそれを証明してほしいとも思わない。
中国では国家的なプロジェクトとして、「気」の科学的解明と応用にとり組んでいるという。なにごとも徹底的にやりとげようとする国だから、いずれ目に見える成果もしめされるはずだ。
しかし、私は「気」は、あくまで感じる世界であると思っている。「愛」の数値を証明されたところで、それにはなんの関心もないのと同じことだ。
「愛」などという甘ったるい言葉を使うのはやめてくれ、と、いう声がきこえるような気がする。しかし私は、「愛」のない「気」の追求や「気功」など、なんの意味もないと思っている。
望月勇さんは、すこぶる寡黙な気功家である。氏の「青年と砂漠」という著書にみじかい文章をよせたことがきっかけで、雑誌の対談をしたり、「気」について語りあうようになった。ぽつりぽつりとこぼれる氏の言葉を拾いあつめて一冊の本ができたことを、奇蹟のように感じている。
望月さんと私とは「気」に対する立場も、考えかたもちがう点が少なくないが、感じることを大切にする姿勢には変わりはない。この一冊から見えない「気」の流れの存在を感じとっていただければ幸いである。』
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
「愛」を「愛情に関係する生理活性物質」として捉えることは、あまり良い方法ではないかもしれませんが、とりあえず調べてみました。
オキシトシン、ドーパミン、セロトニンは特に有名です。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
こちらの表は、愛情が脳波に与える影響です。
注目は①脳波の同期、②ドーパミン神経が活性化、③オキシトシン、ドーパミン、セロトニンなどの分泌増加。
また、脳波の同期はヒトだけでなく犬でも同様だということです。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
こちらの表は、気によって影響を受ける生理活性物質です。ここにも、オキシトシン、セロトニン、ドーパミンが出ています。
注)として以下のことが書かれています。『「気」と生理活性物質の直接的な関係については、科学的に完全に解明されているわけではありません。』
気は科学的に解明されてはいませんが、AIはそれを踏まえた上で回答を出しました。
「愛情」と「気」の共通点には同調があり、オキシトシン、セロトニン、ドーパミンの幸せホルモンもこの両者に関係しているということです。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
「手当」には治療という意味がありますが、文字通り「手を当てる」という意味もあると思います。そこで、これに関しAIに聞いてみると、自然治癒力だけでなく、癒しの効果や心理的サポートなど「手当」という行為は思った以上に意味あるものだと思いました。
五木先生がおっしゃった「私は、「愛」のない「気」の追求や「気功」など、なんの意味もないと思っている。」というご意見はまさに的を得たものであったことが分かりました。
良い施術をするためには、患者さまのことや症状などを知る必要があります。考えてみれば、そのような施術者の行為は「愛」の一種といえるのかもしれません。また、このような患者さまとのやり取りが「気を合わす」ということの第一歩のように思います。
第一章 気の存在
・望月さんはロンドンで気功治療の仕事をされている。
・『私は「気」について素人である。しかし七十年以上生きてきた実績があるので、「生きる」という点ではいささかキャリアがあると思っている。そんな私が、いつのまにか引きこまれて、望月さんのペースに乗せられてしまったのは、これも一つの同調現象だろう。
良い「気」を発散する人と同じ部屋にいるだけで、良い影響をうけるらしい。話がすすむにつれ、次第に気持ちと体のこだわりがほどけていくような実感があった。』(五木)
●気を実感するとき
・いろいろと考える人間より、犬とか猫の方が気功治療は良く効く。(望月)
・ヨーロッパには「気」はないので、中国語の「CHI」とか、サンスクリットの「プラーナ」という言葉を使って説明している。(望月)
●西欧人が気功治療を警戒するわけ
・「気」を信じるヨーロッパの人は、人間のなかに生命エネルギーのようなものがあるのではないかと考えているようである、(望月)
●率直な心が気をキャッチする
・半信半疑や絶対に効かないと思ってきた人でも、本人の気の「通り」が良い場合は劇的に効くこともある。また、深い意識のところで、オープンな寛容な人、素直な人の方が気はよく流れる。(望月)
●初めての「気」はトーストの匂いだった
・最初、少林寺拳法をやっていた。なかでも、整法、体を整えることに興味を持ち、経絡や急所、ツボを勉強した。その後、中国の呼吸法や、インドのヨガに興味をもつようになり、自己流でやるようになった。(望月)
・「気」を認識したのは、ヨガのポーズで体を捻じっていたら、背骨のあたりからパンを焼いたような香ばしい匂いがした。そのうち、ヨガのポーズをすると毎回のように匂いを感じた。さらにトーストの匂いだけでなく、マーマレードやバラのような甘い香りがしてきたり、足の下がむずむずしてきた。もしかしたら、これは「気」なのかもしれないと思った。(望月)
・『整法で肘の痛い人を治していたとき、私が患部に触れる前に、手を近づけていっただけで、痛みが消えましたと言われたことがあるんです。私はまだ何もしていないのに、ふしぎだなあと思っていたんですが。そのとき、テクニック以外の何かプラスアルファの力が働いているなということは、なんとなく感じたんですね。』(望月)
※ヨガの整法:体の歪みを整え、心身のバランスを改善するための様々なポーズや呼吸法を組み合わせた実践。
●気を送るということ
・『ヨガや呼吸法を熱心にやるようになって、いろいろふしぎな感覚を覚えるようになってきたんです。ああ、これが「気」じゃないかと意識すると、気がどんどん集まってくるんです。』(望月)
・『手のひらの中心が、もわっと温かくなるんですね。空気の真綿みたいな感じがするんです。それを相手の気の流れの悪いところに近づけるんです。たいてい、そこは冷たく感じるので、その部分に気を送ってあげるんです。』(望月)
・(「気を送る」とはどういう作業か?)『最初は、意識を集中させて、自分の「気」が相手に流れているものと思ってやっていたんです。けれども、どんどんやっていくうちに、とくべつそう思わなくても、自然に気が出るようになったんです。』(望月)
・(気を送りながら、相手と話をしたりできるのか?)『ええ、でも最初のころはだめでした。集中しなければならないと思っているから、音楽がかかったり、おもてがざわざわすると、うるさくて、イライラしました。それがだんだん変わってきまして、外のいろいろな状況に左右されることなく、気を送れるようになったんです。ちょうど虫歯の痛みを感じながら話したり、勉強したりするのとおなじようなことです。』
・気を送ると相手の体のなかでエネルギーが不足しているところ(気が滞っているところ)に気は集まっていく。また、古い痛みとか、慢性の疾患の場合、エネルギーがよどんで岩のように凝り固まっているため、それを気で散らすと、最初はスーッと冷たい感じがする。(望月)
・『こんなことしても治りっこないと頭から決めつけている人は、無意識に、気がはいってくることをブロックしているので撥ねかえされます。』(望月)
・受け手が気に全幅の信頼をおいていなくても、ニュートラルな気持ち、何かわからないけれど、ともかく受けてみようと素直な気持ちをもっていればあまり問題はない。(望月)
・(気がスムーズに流れているときはどんな感じか?)『いろいろな感覚があって、その部分が反応している場合もあるし、その人の気が足のほうにズッと流れていく感じをキャッチすることもあります。全部ちがいます。十人いたら十人とも反応はちがうので、一概にこうだとはいえないですね。』(望月)
●受け手の反応は十人十色
・(経験されたなかで、どんな反応が多いか?)『人それぞれちがうので、一概にはいえませんが、極端なケースだと、気を入れた途端に手足をバタバタさせて、大暴れしはじめた人がいるんです。女性でしたけれど。』(望月)
・『泣いたり、笑ったりすることで、緊張がゆるみ、古く澱(オリ)のように固まっていたストレスが発散されたのでしょうね。笑うことは、免疫機能を活性化させ、自然治癒力を高めるといわれていますが、私はかねがね、笑うことだけではなく、泣くとことも非常に大切なのだ、泣くことによって、カサカサに乾いてささくれ立った心と体に潤いが与えられ、瑞々しい生命を取り戻せるのだと考えているのですが、気功治療でも、そういう考えなんですね。』(五木)
『ええ、そのとおりです。ロンドンで十五年くらい銀行に勤めている女性がいました。背中が鉛のように重くて、いろいろな薬を飲んでも効かない。マッサージや鍼をしてもだめで私のところに来たんです。その人に気を入れたら、突然、涙をポロポロこぼしはじめたんです。ティッシュペーパーをいっぱい使って、治療中ずっと涙を流して泣いているんです。本人は、勝手に涙が出てくるといっていたので、泣いているという自覚がなかったんでしょう。終わったらまるで痛みがないといっていたので、泣いているという自覚がなかったでしょう。終わったらまるで痛みがないというんですね。』(望月)
『その人は、長年にわたって、鬱々としたものを心に溜めていたんだろうなあ。』(五木)
『ええ、人間関係が複雑で、言いたいことも言わずに、ずっと我慢してきたんだって話していました。』(望月)
・気を入れると、予測のできないような反応が起こる。十人いたら十人とも反応の仕方が違う。一概に、気功だから治る、気の巡りが良くなるとは言わない方がよい。(望月)
『氣の確立』という本は、合気道について書かれたものでした。著書の藤平先生が目指した合気道は「氣」を重視するもので、植芝盛平先生が他界された後、自分の信念にしたがい合氣会を退会して、「心身統一合氣会」を設立されました。今回の「氣」は合気道の先生が考える「氣」になります。
目次
プロローグ
●三人の師
●中村天風先生
第一章 一九会
●肋膜を病む
●一九会を知る
●坐禅修行
●不眠不休の坐禅修行
●みそぎの行法
●禅病になる
●肋膜が完治
●当時の一九会
●土蔵をけ破る
●効果はできめん?
●電車での稽古―リラックスの会得
第二章 植芝盛平―合氣との出会い
●真の日本武道を求めて
●合氣道に入門
●当時の一日
●リラックスこそ基本
●リラックスと氣
●植芝先生のリラックス会得の秘密
●大本教の影響
●植芝先生の宗教的な思い込み
●氣の天才・植芝盛平
●氣を前に向けていたら、後ろもわかるよ
●やくざのトラブルをおさめる
●植芝先生の茶目っ氣
●翻訳できない言葉
●わしも共産党員だよ
第三章 戦争体験
●敵襲のなかで
●修行の意味
●天地の理にしたがうこと
●剣術と氣
●銃剣術と氣
●戻る剣の原理
第四章 中村天風
●天風先生との出会い
●合氣道での変化
●天風先生の生涯
●失意のどん底の旅
●実夫と天風先生
●栃木での講演会
●わしのところへこい
●鶏を止める
●鶏は止めやすい?
●杖を持つ
●先生は間違っています
●三つの試験
●天風先生の魅力
●天風先生の死
●潜在意識を変える
●煙草をやめる
●願望の実現
●喜びを分け与える
●不景氣を転換する
第五章 海外時代の合氣道との別離
●合氣道・アメリカへ
●合氣道の力を知らしめる
●植芝先生を招く
●二人の師
●無邪氣な心
●合氣道への憂慮
●戦後の合氣道のエピソード
●合氣会を離脱
第六章 氣の研究会
●心身統一の四大原則
●臍下の一点に心をしずめ統一する
●全身の力を完全に抜く
●身体の総ての部分の重みをその最下部におく
●氣を出す
●氣の呼吸法
●失われた心
●天風先生の不遇時代
●合氣道と男女平等
●武家道の心
●パイロットと氣の修業
著者略歴
プロローグ
●三人の師
・『私には三人の師がいた。一人は、山岡鉄舟のことを教えてくださった小倉鉄樹先生。もう一人は、合氣道を教えてくださった植芝盛平先生。そして最後に、心と身体の関係を教えてくださった中村天風先生である。
本書では、この三人の師のうち、植芝先生と中村先生について、実際に私が体験したことを中心に書き記してある。
今日、合氣道の開祖として知られる植芝先生は、「リラックスする」ということを身体で実行された人だった。私は、それだけで先生は十分に後世に残るだけの価値と意義があると思っている。
ところが一般に流布されているのは、五百メートルもの距離を一瞬にして駆けただとか、大木を引き抜いたとか、壁を生身で突き抜けたとか、そうしたいいかげんな武勇伝ばかりだ。
私が知る限りでは、こうした話はほとんどでたらめである。
困るのは、こうしたでたらめが幅をきかし、虚偽の人物像ばかりが一人歩きすることによって、植芝先生が実際にやられた偉大な功績まで、すべて嘘だということになりかねないことだ。
にもかかわらずそうした噂が尽きないのは、先生を利用し、我が身を大きく見せようという者たちの思惑があるからなのだろう。
亡くなった先生の功績にあれこれとつけ加える(こういうのを蛇足をつけると言う)のは、先生にとってもマイナスにしかならない。蛇足などつけなくても、植芝先生はそれだけで十分に尊敬すべき人だったのだから。
植芝先生はリラックスするということを体得している人だった。口頭での説明は受けなかったし、手取り足取り教えてもらったわけでもないが、先生の技を見ることによって、私がそれを会得できたことは何よりの証拠である。
私が今日指導しているリラックスは、植芝先生に習ったことが根となっている。植芝先生がいなければ、私は今でも、あいかわらず力を入れ、力んだ技しか使えなかったかもしれない。
植芝先生は、リラックスするのが正しいのだということを実践している人だった。そういう先生に出会えたことは、私にとって何よりの喜びでもある。』
●中村天風先生
・『中村天風先生にしても同様だ。天風先生の教えの基本は「心が身体を動かす」という一点のみある。逆に言うと、そこに気づけば十分なのだ。ただし、これは言葉から受けるイメージほど簡単なことではない。実践すればするほど、深い意味が込められていることがわかってくる。
そして、このような真理―単純でありながら、それまで誰も口にしていなかった事実―を広く一般に提示してくれただけで、天風先生は十分、後世に残るだけの仕事をやってのけたということになる。』
第一章 一九会
●一九会を知る
・「おれの師匠を語る」という本は、小倉鉄樹先生が自分の師匠である山岡鉄舟について講演したものを、石津寛という有名な方が本にしたもので、簡単に言えば、山岡鉄舟の一代記である。幕末から明治を生き抜いた剣豪・山岡鉄舟の生き方に感銘を受けた。欲もなく、何事にも捨て身でぶつかる姿勢が魅力的だった。なかでも一番感心したのは、自分で納得しなければ承知せず、とことん自分で体験するということだった。
・すでに山岡鉄舟の春風館道場は存在していなかった。しかしながら、本の最後に、中野にある小倉先生の一九会道場が記されていた。
●不眠不休の坐禅修行
・最初の半年間はひたすら坐禅をやった。
・不眠不休、昼夜を徹して三日間、坐禅をする。夜六時から坐り始めて七時から八時までは老師の講和を聞く。そのあとは、ひたすら坐禅を組んで過ごす。やがて半年もすると肋膜から弱った体は対応できるようになっていた。
●みそぎの行法
・一九会のみそぎの行法は、毎週木曜の夜、六時から三日間に渡って行われる。初学者は財布、靴などの持ち物を預ける。これは夜中に逃亡を防ぐためである。それでも、トイレの草履をはいて逃げた者もいる。
・小倉先生の神前での宣言は、「この修行は、生死脱得の修行なれば、喪身失命を避けず、一声一声、正に吐血の思いをなして喝破すべし。徒に左顧右眄、嬌声を弄して、他の清洲の修行をさまたぐる勿かれ」
・みそぎ行の開始、長が鈴を大きく振り下ろすと、神楽がこれに合わせる。そして全員が一声に「と、ほ、か、み、え、た、め」と唱える。時間は1時間から1時間半、弱ってきた者は背中をぴしーっと叩かれる。朝5時半頃から始まって、朝食後の午前中に3回、午後3回、夜1回、一日8回繰り返す。すさまじい修行である。
●禅病になる
・二回目からは初学ではなく集いの方に入る。この集いでの修行は初学より厳しい。
●肋膜が完治
・『退院してからは、西洋医学の治療はいっさい受けていなかった。治療といえば湿布だけで、それ以外何もやらない。慶応に復学したときはほとんど半病人の状態だった。やっとのことで学校に通える。そんな感じだったのだ。
ところが修行が始まって、命懸けになって、もうどうでもいいやと決めたら、逆に身体がよくなってしまった。肋膜炎は消え、心臓もたくましいと言われる。それからは体力に自信を持つことができるようになった。
当時はまだ理解できなかったが、今から思うと、私の病氣を治してくれたのはまさしく天気の氣にほかならなかった。医師は不思議だと首をひねるだけだったが、私にしてみれば、自分が死ぬ覚悟をして捨て身でやれば、必ずなんとかなるのだという自信を持つことにつながった。そう、山岡鉄舟が言うところの「捨て身の修行」を、みそぎの行によって会得したのである。
これは氣にだけでなく、何事にも共通することだが、どんなことであれ、とにかく自分で体得しなければ決して物にならない。頭でっかちになって、いくら理屈を並べてみたところで、それは何の役にも立ちはしないのだ。
体ごとぶつかって、会得する―そして初めて自分のものになる。食べ物や飲み物にしても、自分の舌で実際に味わってみなければ、味はおろか冷たいのか熱いのかさえわからないだろう。それは坐禅では「冷暖自知」と言う。』
●電車での稽古―リラックスの会得
・最初にリラックスを意識したのは、一九会でのことだった。みそぎ修行で疲れ果て、そのまま合氣道の道場に行けば、身体も思うようには動かない。ところが不思議なもので、その状態の方が、なぜか相手の技にかからなくなる。これは簡単な理屈で、それまで力を入れて相手の技に逆らっていたのが、疲れて力が入らない。つまり、力が抜けた状態の方が強いということである。力を抜くこととはリラックスに他ならない。
第二章 植芝盛平―合氣との出会い
●合氣道に入門
・『「そうか、あなた、毛利松平さんの紹介か。じゃあ、一ぺん見せてやろう」
先生[植芝盛平先生]はそういうと、道場へきなさいと私を誘った。そこでお弟子さんを相手にして、演武を見せてくださったのだ。
ところが当時の私には、お弟子さんがひょこひょこと軽く投げられているのを見ると、どうしても八百長にしか思えなかった。おかしいなとわざとらしく首をひねっていると、氣配を察せられたのか、あんたもきなさいと言われた。
「いえ、でも、道衣を持っていませんから」
「いや、上着を脱いでそのままでいい」
相手は小柄な老人だ。仕方がない、柔道の技でつかまえて、すぐに投げてしまおうと思った。ところが、先生につかまれた瞬間、わけもわからないうちに私は簡単に投げられてしまったのだ。
当時、柔道二段だった私は、それなりに自信もあった。ところが、すーっとあまりにも簡単に寝かせられてしまう。体をさわられた感触さえないのである。
もし、どこかをさわられたりつかまれたりしたのなら、次からそこを警戒するという防御策もあるのだが、いくら考えてもわけがわからない。倒されたまま少し考えていると、どうしたと言われた。
「いや、どうもしません。失礼しました」
起き上がると、その場で私は植芝先生に入門を願い出たのである。』
●リラックスこそ基本
・植芝先生の技で肝心なことは、現代でいうリラックスだったが、先生は「リラックスしなさい」とは教えず、稽古では力を入れて、しっかり持てと逆のことを教えていた。にもかかわらず、リラックスの重要性に気づいたのは、みそぎの修行をやっていたことが大きい。三日間朝から晩まで厳しい修行をしていて、力んでいてはとても体力がもたない。力を抜くことで苦しい修行を続けることができる。これはみそぎの修行で疲労して体だからこそ、自然体を身につけたということである。まさに怪我の功名である。
●リラックスと氣
・合氣道で学んだリラックスは柔道では通じなかった。そこで気づいたことは、力を抜いて、なおかつ氣を出すことである。これは、力を抜き、重みを下に置いて自然体であることである。
・リラックスするということは、人間の総合力を引き出すことである。
第四章 中村天風
●合氣道での変化
・『当時の道場の稽古は、くるりと回って相手がぽんと受け取る。つまり、こう行くから、相手はこう受ける、という反復練習が中心だった。
これも実際に自分でやってみると、相手はそう簡単には転がってくれない。逆の場合、何もしていないのに、受け身をとっている。受けるほうも転がるものだと思っているからだ。
こうなると、合氣道は本物ではないのではないかということになる。もちろん、ある程度まで効く技もあるが、誰もが氣の力で投げているわけではないという現実もある。
心が身体を動かすということに気づいてから、私はもう一度植芝先生の動きをじっくりと観察してみた。すると先生は、必ず最初に心を動かしてから身体を動かしているということに気づいた。
それまでは、植芝先生がやると効くのに、私がやるとまったく効かない技がたくさんあった。このため疑心暗鬼にかられ、自分でやっていることが本当にすごいものなのかどうかさえわからなくなってくる。
しかし「心が身体を動かす」と聞いた瞬間、あっと思った。私はそんなに大切なことを忘れていたのか、と気がついたのだ。
植芝先生は相手の氣を導き、さらに身体を導いていた。その結果、技も効くということになる。それを称して「氣を合わせる」と言ったのだ。その場合、こちらも完全に力を抜いていなければ、相手の氣持ちもわからない。
完全にリラックスしなくてはいけないというのは、相手の氣を導き、動きに変えるための準備なのだ。
そのためには相手の氣を尊ばなければならない。氣を間違った方向には導けないのだから、だまして導くわけにもいかない。
逆にいえば、正しければ、いつでもできるはずということになる。天地の理に合わせれば、必ずできるはずだし、できないときは、どこか天地の理が間違っているということに気がつかなければいけない。そこに気づいてからというものの、先生の教えが全部わかってきた。』
第五章 海外時代の合氣道との別離
●二人の師
・『何度も書くようだが、植芝先生は、リラックスしろなどとは一言も言わなかった。ましてや私の言う心身統一の四大原則(後述)のようなことはまったく見向きもしない。だから私は私なりのやり方で氣について説明し、合氣道の指導を行っていた。ところが植芝先生は、ハワイへいらっしゃったとき、私が指導したハワイの弟子たちがみんなリラックスできる状態になっていることを見て驚かれた。
「私が苦心して覚えたことを、藤平のやつがみんな教えて歩く」そう言って怒ったというのである。』
●合氣道への憂慮
・『今の合氣道では、理にかなっていない技を教えることが多い。それは氣というものを軽視しているからだ。単なる肉体運動としてだけの浅薄なスポーツとしての意味しか持たなくなっている。
腕を取ること一つをとってみても、氣の流れを意識していない。氣ではなく力や関節を逆に取った痛みのみで相手をねじ伏せたのでは、合氣道ではなくなってしまう。それはつまり、力の強い相手には合氣道の技が効かないということさえ意味する。効かないから、説明などできないし、教えることもできなくなる。
たとえば相手が私の腕を取りにきたなら、少なくとも相手の手にはある一定の方向に氣が流れている。それに対して押し返したのでは、氣の流れがぶつかり合うことにしかならない。だが、相手の氣の流れに合わせた方向へそのまま私の氣を流せば、相手はそのままひっくり返ってしまうのである。
つまり、よく「小手返し」と言われるように、手首を返すとかいう自体がおかしいのだ。無理に相手の小手を返そうとするから、強い相手には効かないのだ。そんなことをする暇があったなら、まず相手の氣を導き、その方向を変える稽古をすればいいのである。そうすれば力はいらないし、相手が力めば力むほど技の効果も倍増する。』
●合氣会を離脱
・植芝先生は1969年4月に他界され二代目道主は合氣道とは「人の氣に合わせるの道」と解釈されていた。一方、藤平先生は「心身統一して天地と一体になる。すなわち天地の氣に合する道」と説いていた。異なった二つの理念が共存することはできず、1974年に藤平先生は退会され、氣のみを研究する「氣の研究会」を法人化し、「心身統一合氣道会」を設立した。
第六章 氣の研究会
●心身統一の四大原則
・気の研究会では、心身統一の四大原則というものがすべての基本になっている。これらを同時にやるのではなく、どれでも良いので一つをやる。
一、臍下の一点に心をしずめ統一する
二、全身の力を完全に抜く
三、身体の総ての部分の重みをその最下部におく
四、氣を出す
・心身統一の四大原則とは、氣の研究会誕生によって新たに創設したものではなく、生涯を通じた合氣道の解釈そのものである。
●臍下の一点に心をしずめ統一する
・臍下の一点とは、臍の下10cmほどの位置なる。ここを天地の中心と考える。
●全身の力を完全に抜く
・リラックスは「力が抜けた」状態ではなく、「力を抜いた」状態である。これは全身のどこにも無駄な力が入っていない状態である。無駄な力がはいっていないからこそ、予期せぬ動きにも瞬時に対応でき、力を一点に集中することもできる。
・全身の力を完全に抜くということの大切さは、より困難な状況に陥った場合ほど発揮できる。
●身体の総ての部分の重みをその最下部におく
・地球には重力があるので、物体の重みは最下部にある。同様に人間も最下部になければならない。これを「落ち着き」という。「重みは下」と考えることである。
●氣を出す
・『世の中では、氣を出すためにありとあらゆる講座が開かれているそうである。しかし私に言わせれば、まったくご苦労なことと言うしかない。なぜなら氣を出すためには何も特別なトレーニングなど必要とせず、ただ「氣が出ている」と考えればいいからである。
心が身体を動かすということは、ここでもまさしく生きている。心で氣が出ていると思えば、すなわち氣がほとばしり出る。ただ、それが目には見えないために、気がつかないだけのことなのだ。』
・『人生をたくましく生き抜いていくためには、常に氣を出していなければならない。よく「氣が強い」「氣が弱い」などというが、氣に強いも弱いもあるはずがない。とすれば、その出し方が強いか弱いか、それだけしかない。つまり、すべては本人の心の強さにかかっているのだ。』
●氣の呼吸法
・四大原則を体現して氣を出す方法。1回10分1日30分を目標に行う。
①仙骨を起こすように意識しながら正座、もしくは椅子に坐る。肩の力を抜いて全身をリラックスさせ、臍下の一点に心をしずめる。手は静かに膝に置く。そしてまず、「はー」とゆっくり小さく息を口から吐けるだけ吐く。吐ききったと思っても、さらに足の先の息まで吐き出すつもりになって、軽く上体を前に倒して最後の息を吐き出す。あくまで、自然に静かに吐き出す。(全部吐くのに10~20秒かける)
②体中の息を吐ききったら、2、3秒待ってから鼻から息を吸う。今度は足の先から順番に腰、腹、胸と空氣をためていくようにする。やがて上体と頭を起こして頭の先まで空氣でいっぱいになるように息を吸う。(吸うのに10~20秒かける)
③そのまま2、3秒息をとめてから再び息を吐く。
ご参考:合気道の普及
感想
植芝盛平先生は合気道において、「リラックス」の重要性を伝えられました。「リラックスとは、力を抜き、重みを下に置いて自然体であること。また、人間の総合力を引き出すものである」とされています。
『植芝先生は相手の氣を導き、さらに身体を導いていた。その結果、技も効くということになる。それを称して「氣を合わせる」と言ったのだ。
その場合、こちらも完全に力を抜いていなければ、相手の氣持ちもわからない。完全にリラックスしなくてはいけないというのは、相手の氣を導き、動きに変えるための準備なのだ。』ということが極意なのかもしれません。
一方、中村天風先生は「心が身体を動かす」ということを最も大切にされていました。
そして、著者である藤平光一先生は「氣」を重視し、心身統一合氣会を設立され現在にいたっています。そこでは、以下の心身統一の四大原則というものがすべての基本になっており、このための「氣の呼吸法」の実践を勧めています。
一、臍下の一点に心をしずめ統一する
二、全身の力を完全に抜く
三、身体の総ての部分の重みをその最下部におく
四、氣を出す
“氣とは何だろう”というブログはまだまだ続きますが、最終的には「実際に試す」ということを考えていますので、藤平先生の「氣の呼吸法」もその一つとさせて頂きたいと思います。
第5章 リンパの流れが滞ると・・・?
5-3 リンパ浮腫をどう治療するか
●複合的理学療法(保存的リンパ浮腫治療法)
① 感染予防などのスキンケア
-外傷に注意して水虫などの皮膚疾患を初期に治療し、皮膚の状態を管理する。
② 用手法リンパドレナージ
-手のひらを利用した軽めのやわらかいマッサージである。軽く触れることが重要で触覚を刺激し、神経も鋭敏に反応する。流れの悪いリンパ管から正常な働きのリンパ管に向かってリンパの流れを誘導する。
-ドレナージには「排液」という意味がある。リンパドレナージは1995年に国際リンパ学会で採用された。
-リンパ管網は皮膚の浅いところに分布しているので、筋肉ではなく皮膚を全体的にずらすように刺激すると組織液の吸収がよくなる。あくまで軽くやわらかくゆっくりと、そしてリズミカルにマッサージを行う。
③圧迫療法(バンデージ)
-弾性包帯やストッキングを用いた圧迫などによって、逆流防止のみならず、静脈やリンパ管の筋ポンプ作用を活発にすることで患部の鬱血を防止する。
-注意すべきは圧迫の強度によって、痺れや痛みが出ないこと、手足の動きに支障がないこと、足先が白くなったり(動脈閉鎖)、鬱血したり(静脈閉鎖)しないように気をつける。
④圧迫したうえでの運動療法
-リンパ管は主に筋膜と皮下組織に存在するため、圧迫することで筋肉の動きがリンパ管に作用を及ぼすことができる。
第6章 リンパと免疫のふしぎな関係
6-1 リンパとリンパ球
●ヒトのからだは体表(皮膚)を介して外界と接している。そして、消化器系や呼吸器系はからだの内部ではあるが、“内なる体表”として外界と接している。そのため、いずれも常に多くの微生物や異物にさらされており、その侵入を防ぎ恒常性を維持するために、生体防御のシステムが備わっている。生体防御のしくみには非特異的な反応と特異的な反応があり、後者が「免疫」であるが、この免疫に関わっているのがリンパである。
●リンパ(リンパ液)には血液の血漿に相当する液体成分(リンパ奨)と細胞成分(主としてリンパ球)が含まれている。
●胸管やリンパ節の輸出リンパ管内のリンパは、免疫担当細胞である多数のリンパ球を含んでおり、全身をめぐって局所の臓器における免疫反応を担っている。
6-2 ミクロの戦士・リンパ球の働き
●胸腺やリンパ節、脾臓、骨髄はリンパ球を産生し、分化・成熟させる機能をもつことから中枢性(一次)リンパ器官とよばれている。一方、リンパ節や脾臓、消化器・呼吸器の粘膜に付属したリンパ組織(扁桃や虫垂、パイエル板など)は、末梢性(二次)リンパ管とよばれている。
●『抗原がどんどん増えてリンパ節の中のリンパ球などを攻撃し、「免疫戦争」が拡大すると、リンパ節内の免疫担当細胞が分裂・増殖し、リンパ節が肥大していきます。このとき、リンパ節の腫れに伴って痛みや発熱が生じる場合もあります(リンパ節炎)。風邪やのどの病気(感染症)の診断の際には、頸部の触診によってリンパ節の腫れ(ぐりぐり)が確認できます。』
※武勇伝?
『49年前の高校3年生の冬、高校サッカー選手権県予選決勝戦の翌日、とあることから救急搬送。救急車の中で「〇〇〇[近所の悪名高い病院]だけはやめてください!」との懇願も却下され、無情にもその恐ろしい病院へ連れていかれる。幸い点滴が効いて翌日には完全復活。一点残った問題は頸部リンパ節の直径2~3cmのぐりぐりとした腫れ。
「こりゃ~くるな!?」と身構えていると、「リンパ腺を取りましょー」との担当医からのかるい一言。
予想通りの展開に用意していた質問をぶつける。「切らなければならない理由を教えてください」。しかし、具体的な理由は皆無。「理由がないなら、絶対切らせない!!」と瞬時に決意を固める。
という展開で押し問答へ、そして… ついに、先生からの怒りの「勝手にしろ!!」。待ってましたとばかり、即、自主退院。徒歩約10分、自宅に帰りお金をもって病院に行き支払いを行う(多分。記憶はあやふや)。それ以降、頸部のリンパの腫れ(リンパ節炎)は一度もなく今日まで暮らしてきた。幸い、今のところこれといった持病もなし。』
という経験談を思い出し、AIに「リンパ節炎の際、リンパ節を摘出する場合はどんな場合ですか?」と質問しました。以下がその回答です。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『リンパ節炎は保存的治療で改善するため、摘出は最後の選択肢として考慮されます。』
(49年前の“高校3年生 vs 医師”との対決は自分自身の身を守る適切な行動だったと思います)
●リンパ球のほとんどは細胞質の占める割合が極めて小さく、「免疫現象」(細胞性免疫能)が研究される以前の1950年代の頃は、リンパ球は「すでに分化し終えた終末の細胞」と見なされ、機能不明の“謎の白血球”だった。1960年代に感染症などに対する複雑な免疫反応のメカニズムが調べられることになり、リンパ球は“ミクロの戦士”として「免疫反応」という劇場の主役に躍り出た。
●胸腺は未熟なリンパ球を成熟させる「免疫学校」である。胸腺の発生の早い時期に、すでに骨髄でつくられていた未分化・未熟なリンパ球が、リンパ管のない骨髄から血管に入り、循環血液に乗って一部、胸腺に入る。胸腺内では、そこにある特殊な細胞や液性因子の働きによって骨髄から来たたくさんの幼い未熟なリンパ球を“教育”し、免疫担当能力をもつリンパ球へと分化・成熟させる。
●リンパ球のもう一つの集団であるB細胞は、胸腺で成熟するT細胞とは異なり、他のリンパ組織である骨髄で成熟する。
6-3 さまざまなリンパ組織たち
●脾臓は腹腔の左上隅で横隔膜の直下にあり、腹膜に包まれた臓器である。骨髄と同様、血液をつくる造血器であり、リンパ組織として免疫機能に重要な役目を果たす。
●脾臓内には白血球が集合するリンパ組織である「白脾髄」がある。これは血液中の異物や細菌など(抗原)を取り込んで処理するとともに、生体防御のための抗体産生を行なう。
●赤みを帯びた「赤脾髄」は多量の血液を貯蔵し血液量を調節している。ヒトでは600~800mlもの血液を貯蔵できる。
●脾臓は病的や老化した赤血球を手際よく解体処理する。さらに、赤血球と結びついて酸素を運ぶヘモグロビンの鉄やタンパク質などを再利用するために貯蔵し、骨髄での造血に役立てている。
●右下腹部の激痛は“盲腸”とよばれてきたが、近年では虫垂の炎症として「虫垂炎」として理解されている。虫垂の特色はよく発達した集合リンパ組織であり、あたかも扁桃(アーモンドの形をし、粘膜上皮の下層に形成された粘膜関連リンパ組織)のようであり、“腸の扁桃”とされている。古くから退化性の有害無益な器官とみられていたが、近年ではリンパ器官としての免疫学的意義が見直されている。
6-4 リンパ流の関所
●「リンパ節」はリンパ管の走行途中にあるリンパの濾過装置である。これは関所のような存在で、ここでリンパの中の異物(タンパク質)や細菌などの抗原がせき止められ、マクロファージや樹状細胞などに取り込まれて抗原情報としてヘルパーT細胞に伝えられる。
●リンパ節はやや扁平なソラマメ状で、直径1mmから2.5cmぐらいまで、体の部位によって数も様々である。脂肪細胞に埋まって鎖のように連なり、ヒトでは平均650個、特に胃や腸など消化器周辺に約200個と多く分布している。
感想
ブログ“氣とは何だろう4(東洋医学概論編)”で、「広義の気」については、「精・気・神」の三宝が特に重要ではないかとのことを書いています。また、精・気・神の「精」は消化器系・代謝系、「気」は呼吸器系・循環器系、「神」は神経系とイメージしたいとも書きました。これはあくまで私個人の考えです。
「系」とつくものには、他に内分泌系、運動器系、泌尿器系、生殖器系などがありますが、免疫系もその一つです。すべてが重要なのは言うまでもないことですが、全身に隈なく存在し、日常的な健康維持に直結するという観点から考えると、免疫系も決して外すことのできない重要な機能です。さらに付け加えると免疫系はリンパ系を含んでいます。
東洋医学の津液は、「血液以外のすべての体液」と定義されていますが、その代表的存在として、全身に展開され血液と密接な関係のリンパ液に注目したいと思います。
1.血液とリンパ液の違い
YouTube:「リンパ系の解剖生理~リンパ循環、免疫機能、脂質輸送、リンパ管の走行など~」(15分57秒)
こちらは、“ネコかん【ネコヲの解剖生理学】”さまのサイトからお借りしました。
リンパの働き
①リンパ循環
②リンパ機能
③脂質輸送
血管とリンパ管という循環系が二系統あることによるメリットは以下になります。
リンパ循環は血管から外に出た白血球や血漿を集め静脈に戻しています。もし、これらが血管の外に出ていくことがなかったならばリンパ管は不要なのではないか。その場合、人体にどんな影響があるのか?その疑問をAIに聞いてみました。
血管外に出ていくのは白血球だけでなく血漿も出ていきます。そして、この働きによって免疫力は増強されます。「気」は「血」を推動するとされており、相互作用の強さから「気血」と呼ばれることもあります。一方、「気・血・津液」の「津液」について、第二の循環系であるリンパ液を狭義の津液とするならば、「気・血」を「気血」とするように、「気・血・津液」を「気血津液」と一体的に捉え、「気血津液は免疫と密接に関係している」と言っても良いのかもしれません。
それは以下の2つの図の血管(動・静脈)とリンパ管の密接な関係(左)および働き(右)からも想像できます。津液を限定的、そして主観的に断言することは適切ではありませんが、津液と気血の結びつきを考える一つの見方のように思います。
内臓をコントロールする自律神経は血管の太さを調整し、それにより血液の流れは変わります。リンパ管はどうなのか、この疑問も質問したところ、リンパ管も自律神経にコントロールされていることが確認できました。
日本伝統医学の一つに経絡治療があります。経絡治療では「陰陽」、「五行」、「臓腑」と共に非常に重要なものとして「気・血・津液」があります。「気血」については“氣とは何だろう”のブログの中に出てきていますが、津液(しんえき)については詳しく説明していません。なお、津液とは血液以外のすべての体液とされています。
画像出展:「第38回 人体をつくる気・血・津液とは(6)津液(しんえき)」(薬読)
一方、本書でも紹介されているように、体重に占める水分の比率は50%以上、特に新生児にいたっては75~80%が水分とされています。いかに水分が生命に関わる重要な物質であるか分かります。
水の分子式はH₂Oです。Hは水素、Oは酸素です。人体内にある元素の量は1位が酸素で65%、2位は炭素で18%、3位が水素の10%なので、水素と酸素の合計は83%になります。ここからも水(H₂O)の重要性は理解できます。
“氣”とのかかわりはどうなのか、理解していたつもりでしたが、よくよく考えてみるとあまり自信はありません。また、血液以外の体液といえば、涙、唾液、鼻汁、汗、尿、髄液、消化液、そしてリンパ液が思い浮かびます。この中で、全身に分布している体液といえば、リンパ液だと思います。従って、西洋医学の視点で「津液」を考えるならば、まず「リンパ」を理解する必要があると思います。これが今回の本を購入した理由です。
はじめに
第1章 リンパの誕生
1-1 リンパ系の成り立ち
1-2 第二の循環路としてのリンパ管系
1-3 組織液はどう吸収されるのか
1-4 リンパはどう流れるのか
第2章 リンパと初対面した先駆者たち
2-1 見えざる“管”を求めて
2-2 リンパ研究の草分け
2-3 リンパ管を見る
第3章 リンパの源流をたどる
3-1 毛細リンパ管ってどんな管?
3-2 どこから、どのようにして生じるのか?
第4章 全身に広がるリンパの支流たち
4-1 リンパはからだのどこに多い?
4-2 薄い膜組織もリンパは流れる
4-3 腺組織のリンパ流
4-4 臓器内のリンパ流
第5章 リンパの流れが滞ると…?
5-1 「むくみ」の正体
5-2 「リンパ浮腫」という名の病気
5-3 リンパ浮腫をどう治療するか
第6章 リンパと免疫のふしぎな関係
6-1 リンパとリンパ球
6-2 ミクロの戦士・リンパ球の働き
6-3 さまざまなリンパ組織たち
6-4 リンパ流の関所
第7章 がんと闘う歩哨たち
7-1 がんとリンパ管
7-2 がんとリンパ節
おわりに
はじめに
●細胞外液は体液と呼ばれ、「血液」、「リンパ」、「脳脊髄液」などがある。これらは臓器内の細胞や組織で構成されている微小循環における物質交換、水分や老廃物などの排出を行ない、循環によって生体の内部環境の恒常性を維持する重要な機能を果たしている。
●リンパは血管から周囲の組織に漏れ出た成分である組織液を吸収したものである。
●リンパはやや黄色味を帯び、白い血とも呼ばれる。リンパは厳密にはリンパ管の中を流れるリンパ液を指すが、リンパは慣用的にリンパ液だけでなく、リンパ管やリンパ球、リンパ節などを含めた広い意味に使われることが多い。
●『心臓という“ポンプ”をもたないリンパ管では、リンパ輸送はどのようにして行われているでしょうか? からだの位置(重力)や姿勢によって、リンパ管周囲の筋肉などの組織が動くことに伴って受動的な管壁の収縮が生じ、くねるような蠕動運動をしたり、弁の開閉によってリンパが行ったり来たりする振り子運動などによって運ばれます。
近年では、リンパ管の収縮は周囲の組織からの受動的な動きばかりでなく、リンパ管壁の自発的な収縮によっても起こることがわかってきています。健常状態では、血流と比べてきわめてゆっくりとではありますが、確実に流れているのです。
流れの途中には、リンパ管に入ってきたリンパの中の細菌などの異物をとらえる「関所」のようなリンパ節がたくさんあります。リンパ節内で種々の生体反応を起こしながらも、リンパはリンパ節を通り抜けて、やがて静脈に合流するまで流れつづけてゆきます。』
第1章 リンパの誕生
1-1 リンパ系の成り立ち
●ヒトの体内の水分のうち、およそ2/3は細胞内液、残りの1/3が組織液(間質液)、血漿などである。
●心臓から出ていく動脈の血液量を100%とすると、そのうち約90%は静脈から心臓に戻る。残りの約10%は、からだの毛細血管から漏れ出し、周囲の組織の間隙に間質液となる。
●体内における組織液は水分の摂取量と排泄量(尿量など)のバランスによる新陳代謝によって調整されている。
●リンパ管は発生的にも機能的にも血管と密に関連している。その一方でリンパ管系は「第二の体液循環」として独自の解剖生理的、病態生理的な役割を有し、血管系とは異なる性質を数多くもっている。
●リンパ液は水分、電解質、少量のタンパク質に加え、白血球、脂肪成分も含んでおり、細胞に栄養を送る。
●組織液の回収は2通りある。一つは急に過剰に組織液が増加した際の経路である。過剰分の組織液の80~90%が一次的に毛細血管あるいは細静脈の壁を通過して再吸収され血液に戻る。もう一つは、時間とともにゆっくり溜まっていって、二次的に周囲の毛細リンパ管に吸収されてリンパとなる。リンパは細いリンパ管が合流した集合リンパ管に集められ、その後血管に入って血液に戻る。
●血清とリンパの成分を比較すると電解質はほぼ同等である。血清もリンパもアルブミンやグロブリンなどの種々のタンパク質を含んでいる。
●リンパと血清の最も大きな違いはアルブミンとグロブリンの比率である。血清はほぼ同じだがリンパの方はアルブミンの方が約60%多い。アルブミンの分子量はグロブリンの約2/3と少ない。このためリンパの方が血液より粘性が低くさらさらで流れやすい。これにより、ゆっくり流れていても循環できるわけである。
●アルブミンはカルシウムやビタミンなどの栄養素を細胞に運び、細胞からは不要物を回収する。アルブミンの量が少なくなると、血液の浸透圧が低下して毛細血管壁から血漿が漏れやすくなり、組織液が溜まって局所に“むくみ”が生じる。これが一般の浮腫である。一方、リンパ浮腫はリンパ管の吸収低下やリンパの流出減少によって生じるものである。
●リンパの中にある血球は白血球であり、その大多数はリンパ球である。
1-2 第二の循環路としてのリンパ管系
●血管系は動脈血から静脈血に移行するので、「閉鎖血管系」と呼ばれる。なお、動脈と静脈は毛細血管網でつながっている。
●リンパ管が組織液の吸収管であることは、「血液循環説」から100年以上後のことである。
●リンパ管系は「リンパ輸送」と呼ばれる。これはリンパが一方向の流れだからである。
1-3 組織液はどう吸収されるのか
●毛細リンパ管の内皮細胞には多数の細線維(係留フィラメント)があり、内皮細胞を固定している。間質内に液体が留まると、組織間隙の圧が上昇し、細線維によって内皮細胞が外側に引っ張られるため、毛細リンパ管の内皮細胞の間隙が広がり、周囲から間質液が流れ込む。
1-4 リンパはどう流れるのか
●リンパ管にはリンパの流れの逆流を防ぐために弁があり、リンパは弁と弁の間のリンパ管分節の収縮や蠕動運動によって、常に一方向に輸送される。
●リンパ管分節の収縮はリンパ管壁にある平滑筋の自律神経によってコントロールされている。四肢にある集合リンパ管のリンパは、その管壁にある平滑筋細胞の収縮による自律的なポンプ機能によってリンパを体幹へ運搬している。
●心臓から出た血液が全身をめぐって戻ってくるまで約40秒と考えられている。しかしリンパ管系には心臓のようなポンプは存在しない。リンパはリンパ管分節をまたいで、その管壁にある平滑筋の律動的な収縮によって起こる自発的な運動によって、リンパはリンパ管分節内を行ったり来たりする「振り子運動」をして運ばれる。
●実際のリンパの流れには、体表の皮膚や筋など、外部からの刺激(マッサージや筋肉運動)、横隔膜による呼吸運動や小腸の蠕動運動など周囲の組織からの受動的な運動によって多く流される。
●筋ポンプによる運動は、体温の上昇による管壁平滑筋代謝の促進によって高まり、リンパ管の拡張もあいまってリンパの流れを活発にする。お風呂に入ると浮腫みが解消されるのは体温の上昇によってリンパの流れが良くなったためである。
●リンパが体の中を一周して元に戻るまでには約12時間かかると考えられている。
●『以前は、平滑筋をもたない毛細リンパ管には神経は分布しないと考えられていました。しかし、近年の電子顕微鏡による観察では、内皮細胞の結合部や核の基底側に近接して、裸の無髄神経が存在することが明らかになり、リンパ管内皮細胞と神経伝達物質(ペプチド)を含む神経との密接な関係を示唆する興味ある報告がなされています。これらの神経は、その表面にある受容体によって毛細リンパ管内腔のリンパや細胞間質の組織液の性状を感知し、リンパ管壁の透過性の調節に関与しているものと思われます。』
●神経周膜と鍼灸
-『ここでは東洋医学で古くから行われている「鍼灸」の臨床において、たいへん興味深い「経絡」「経穴」との関係性について説明しましょう。
東洋医学においては、全身(左右)に「気」「血」「津液」の補充や代謝のために網の目のように張りめぐらされた14の「経絡」があるとされています。経絡は、からだ全体を循環する12の「正経」に、「督脈」と「任脈」を合わせたものです。実際の治療では、これら経絡の上に存在する「経穴」(ツボ)が使われます。
「穴」といっても、もちろん実際に皮膚に穴があいているわけではなく、目には見えない「気」が出入りしている場所があるというのです。つまり、「経絡」は「気」や「血」の通り道であり、ツボはその道の上にある駅のようなものと考えられています。
「気」や「血」の流れが滞ったときに、経絡上のツボにトラブルが現れ、「臓腑」の不調が反映されることも多いとされます。簡単にいえば、ツボの刺激によって自律神経や感覚神経が刺激され、同時にリンパの流れがよくなり、その結果として、すべての臓器に対してよい影響を及ぼしているという考えです。からだの硬いところにはツボはなく、そこはまたリンパの流れも少ないので、両者のあいだには何らかの関係があることが推察されます。
現在の中国医学では、鍼灸の臨床からは、経絡の存在は疑うべからざるものとされています。経絡は気血循環の通路であり、全身にあまねく分布していて、内には臓腑に属し、外には四肢関節と連絡し、身体各部をつないで人体を完全に有機的に組織し、全身の機能系統を調節するものと考えられています。しかし、医学研究によっては、ほとんど解明されていないのが実状です。
「刺激による反応」という生理機能を解明するためには、まず「刺激の受容器は何か?」から明らかにしなければなりません。ここでいう受容器とは、皮膚の感覚神経の末梢端部です。
皮膚は、温かさ/冷たさといった温度や振動、痛みを感じます。また、その感覚には、単なる接触や圧迫に対する粗い触覚から、対象物が何であるかまで識別できる鋭敏な触覚まで存在します。ツボを刺激する方法としては、鍼や灸のほかに、指圧やマッサージ、電気刺激(温熱・振動)、レーザー照射などがあります。
それでは、ツボとはいったいどんなものなのでしょうか? 形態科学の立場から「機能するところに形態あり」とするなら、ここはさまに解剖学の出番です。そこで、ツボがあるとされる箇所に対する組織学的検索が行われました。
ツボがあるという皮膚の限られた部分に、神経や血管、リンパ管など、特別な組織構造があるかどうかが調べられたのです。ツボとよばれる部分には、その周辺の組織と比べて神経線維や血管、リンパ管の数が多い傾向にあるようですが、特殊で明確な構造物は観察されておらず、生理的に電気抵抗が弱まる部位や自律神経などとの関係は明らかではありません。
鍼灸では、経絡に沿った経穴、いわゆるツボの各種に鍼を基本的に皮膚に垂直に刺し、その際の患者の「ピリッときた」とか「気持ちがいい」といった、さまざまな反応を注意深く聞きながら深さを探ります。鍼は、局部の前後左右から立体的に数本刺入します。刺した鍼をそのまま一定時間放置したり、わずかに指で軽く叩いたり、振動させたりします。灸の場合は、経穴に艾を置いて火をつけるなどします。
このような刺激によって、最初に述べたような体液(髄液・リンパ)の交流による神経系への効果が生じるのでしょう。鍼灸の効果について、近年「“経絡”は神経周膜内の脳脊髄液系である」というたいへん興味深い新しい考え方が報告されています。東洋医学と西洋医学の接点として、ツボとリンパの関係は今後、非常に面白い課題であり、研究の進展が期待されます。』
※上記の「“経絡”は神経周膜内の脳脊髄液系である」とは直接関係のない話ですが、次のようなものを偶然見つけました。
“厚生労働科学研究成果データベース”の中に「神経内科 第78巻 第5号」(鍼灸刺激によるオピオイド量の変化)の抜粋資料があり、掲載されていた表はヒト(human)を対象にした実験で、鍼刺激により脳脊髄液が上昇したというものです。
第2章 リンパと初対面した先駆者たち
2-1 見えざる“管”を求めて
●リンパ管の発見は紀元前の5世紀の聖医ヒポクラテスによる“白い血”ということばから始まったとされている。また、紀元前4世紀には、アリストテレスによって無色の液体を入れた管、つまり血管と神経の中間の索状物(fibre)として記載されている。しかし、彼らは本当にリンパ管を見たかどうかは疑わしいとされている。
●リンパ管の発見として一般に認知されるのは1世紀を経た17世紀のことである。
●体の中で最大のリンパ管は「胸管」である。胸管は“みぞおち”からやや下方、背骨では第1腰椎の高さにある乳び槽から始まり、腹大動脈の後ろから横隔膜(大動脈裂孔)を貫いて胸部脊側を上行する。胸管は35~40㎝程あり、首の付け根の左鎖骨下静脈と内頸静脈との合流点(左静脈角)に注ぐ。胸管には、1日あたり2~3Lのリンパが流れている。
2-3 リンパ管を見る
●1980年代になって、リンパ微小循環生理学の精力的な研究によって新しい展開を見せている。
●近年のリンパ学における進展は、①リンパ輸送に関するリンパ管の筋ポンプ作用と自発的収縮や神経支配、②リンパ節におけるアルブミンの濃縮機構とリンパ循環動態および自然免疫反応、③がんの微小環境とリンパ管新生およびリンパ節転移機構など、「微小循環」「免疫学」「腫瘍学」を合体した「新しいリンパ学」の学問体系の創生がある。
第3章 リンパの源流をたどる
3-1 毛細リンパ管ってどんな管?
●毛細血管の直径は約10㎛で直径約8㎛の赤血球がやっと通れる程の細い管である。一方、毛細リンパ管の直径は20~75㎛なので毛細血管に比べるとかなり太い。細いリンパ管の先端部は袋状に閉じた状態(盲端)になっている。
●組織におけるリンパ管、動脈、静脈の細管の光学顕微鏡写真と走査型電子顕微鏡(SEM)写真を見ると、毛細リンパ管の管壁は一層の内皮細胞からなっており、動脈や静脈の管壁と比べて明らかに薄いことが分かる。
●扁平な形をしている内皮細胞間の結合は、しばしば小さな隙間がある(内皮細胞間隙)。この隙間が開くことによって血液が組織間隙に漏れ、やがて毛細リンパ管に吸収される。
●毛細リンパ管から集合リンパ管、リンパ本幹へと直径が太くなるにつれて管壁は厚くなる。
●リンパ管壁の平滑筋細胞の分布密度は部位によって異なる。下肢のリンパ管は1分間に4~6回の周期でリズミカルな収縮をする筋原性の自発収縮があるが、心拍と比べると約1/15と非常にゆっくりしたものである。
●図3-11は組織内のリンパ管網と動脈・静脈が絡み合って分布しているようすを確認できる。特に、先端が袋状に閉じた盲端部、“リンパの源流”が鮮明に写っている。
●『組織の通液路は、①毛細リンパ管までの吸収路を成す「前リンパ管通液路」、②排道リンパ管に付随して排出路となる「傍リンパ管通液路」、③細静脈に付随して、主として吸収路となる「傍静脈通液路」、3種に分類される。』
●横隔膜や壁側胸膜での中皮に見られる小孔とリンパ洞のあいだに細網線維からなる「前リンパ管通液路」があり、斑点状に散在するものを「篩状斑」と名付けているが、電子顕微鏡による観察によって、篩状斑では、腹膜とリンパ管とが直接連絡しており重要な通液路になっていることが明らかになった。
3-2 どこから、どのようにして生じるのか?
●血管系と異なり進化の過程でリンパ系がどのようにして現われたのか明らかになっていない。これには静脈から分化するという考えと、間葉性組織の間隙から分化するという考えがありまだ明確にされていない。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
本書の発行は2013年6月なので約12年前です。そこでAIに現在はどちらの起源説が有力なのか聞いてみました。
その回答は、静脈起源説でした。ただし、リンパ系の発生過程における間葉系細胞の重要性に対する認識は変わっていないようです。
第4章 全身に広がるリンパの支流たち
4-1 リンパはからだのどこに多い?
●リンパ管は「血管の分布していない組織にはリンパ管は存在しない」といわれるほど、リンパ管は血管と密接な関係にある。
●リンパ管と血管の位置関係は臓器によって異なるが、基本的には次の3つである。
① 毛細リンパ管の方が、毛細血管より臓器の内側の深いところにある(皮膚や消化管壁、腸絨毛など)。※1)体表・体腔
② 毛細リンパ管の方が、毛細血管より離れて、臓器周辺の小葉間結合組織にある(唾液腺や肝臓、膵臓など)。※2)膜組織
③ 精巣の精細胞や卵巣の卵胞●黄体などに対して、毛細血管は接しているが、毛細リンパ管はそれらの組織構造よりもっと離れたところにある。※3)精巣
●リンパ管が多い場所として、体表を覆う皮膚がある。ほとんどすべての部位の皮膚でリンパ管網はよく発達しているが、部位によって分布状況は異なる。
●皮膚を走るリンパ管は、皮膚組織中の余分な水分や老廃物の回収をはじめ、感染など炎症に伴う免疫反応でも重要な役割を果たしている。
●集合リンパ管は深筋膜を挟んで、浅い部分と深い部分の2ヵ所を独立して走っている。その特徴は、筋ポンプによる受動的な動きのみではなく、管の外周に平滑筋をもっていて自動的に収縮運動を行ない、リンパを体軸に近い方向(体幹方向)に送っている。集合リンパ管は体幹に向かって流れる過程で、下層の深リンパ管と交通して付近のリンパ節につながり、リンパを流す。
●舌、咽頭、喉頭は咀嚼や嚥下、発声など常に動きが活発であり、リンパ管がよく発達している。
画像出展:「深筋膜って何だ? (~リハ事典+~リハビリ(理学療法)の総合コンテンツ)」
筋膜は表層から浅筋膜→深筋膜→筋肉(筋外膜→筋周膜→筋内膜)となっています。
注)この図にはリンパは書かれていません。
4-2 薄い膜組織もリンパは流れる
●脳や脊髄にはリンパ管は存在していない。
●臓側腹膜、壁側腹膜など薄い漿膜内の中を血管や神経、リンパ管が走っている。これらは恒常性の維持に関わっていると考えられている。
本書の著者である藤本大三郎先生は、この本を次のような理由で書かれたとのことです。
『ふつうの酵素の本では、化学や有機化学の基礎知識の説明までは手がまわらない。それゆえ、酵素作用のメカニズムには深く立ち入ることを避けるか、説明してもひどくわかりにくくなってしまう。
一方、化学や有機化学の入門書では、酵素についての説明はまったくないか、あってもおざなりでしかない。化学者は、たいてい、酵素に関心がないか、知識がない。そこで、この本を書いてみた。』
これは、まさに望んでいた本だなと思いました。化学も有機化学の知識もない私には重たい仕事でしたが、酵素が何をしているのか、何が謎なのか、そして量子力学が関係しているということを知ることはできました。少し前進できたと思います。
はじめに
1章 生命と物質
1.1 生命と物質はどこが違うか?
1.2 酵素の発見
1.3 酵素の本体
1.4 酵素の特異性
1.5 遺伝子と酵素
1.6 大腸菌の細胞
1.7 もっと簡単な細胞
1.8 再び生命の神秘について
2章 簡単な物質の化学反応
2.1 原子
2.2 化学結合
2.3 原子価
2.4 分子の衝突と化学反応
2.5 遷移状態
2.6 触媒
3章 有機化合物の反応
3.1 有機化合物とは
3.2 有機化合物の立体構造
3.3 分極
3.4 水の分子と水素結合
3.5 分極と反応
3.6 酸と塩基
3.7 触媒
3.8 同じ分子に触媒基がある場合
4章 酵素反応の基礎知識
4.1 酵素の命名法と分類
4.2 酵素の共同因子
4.3 酵素の活性の測り方
4.4 酵素の触媒能力
4.5 酵素反応とpH
4.6 酵素反応と温度
4.7 反応速度論
4.8 酵素の阻害剤
5章 酵素の構造
5.1 タンパク質とアミノ酸
5.2 アミノ酸とペプチド結合
5.3 側鎖によるアミノ酸の分類
5.4 酸素のアミノ酸配列順序
5.5 α‐らせんとβ構造
5.6 球状構造
5.7 ドメイン構造
5.8 サブユニットと会合体
5.9 立体構造のゆらぎ
5.10 立体構造の変性と再生
5.11 立体構造を決めるもの
6章 酵素の作用メカニズム
6.1 カギとカギ穴
6.2 基質結合部位
6.3 エントロピー・トラップ
6.4 基質の有効濃度を上げる
6.5 生産的結合と非生産的結合
6.6 誘導適合
6.7 基質をひずませる
6.8 共有結合の中間体
6.9 酸・塩基触媒
6.10 遷移状態の安定化
6.11 酸素作用と活性化エネルギー
6.12 今後の問題
7章 生命の起源と酵素
7.1 タマゴが先か?
7.2 ニワトリが先か?
7.3 RNAワールド
7.4 酵素はどのようにして生まれたのか
7.5 原始生命体の酵素
7.6 謎
参考図書
はじめに
●『酵素は生物の体の中のようなおだやかな環境、つまり常温、常圧で中性に近い状態の中で、たくさんの物質の中から特定の物質(基質)だけを正確に見分け、驚くべき速さで化学反応を進行させる。一体なぜ、どのようにしてこんな働きをすることができるのか?この問題は現代のサイエンスがかかえる大きな謎の一つである。』
●酵素反応のしくみを理解するためには、分子とか化学結合とか活性化エネルギーというような化学の基礎知識が必要である。また、酵素は一般に有機化合物(炭素化合物)を相手にするので、有機化学の基礎知識も必要である。一方、化学や有機化学の入門書では酵素についての説明はほとんどない。化学者や有機化学者はたいてい酵素に関心がないか、知識がない。
1章 生命と物質
1.1 生命と物質はどこが違うか?
●化学者はまねができない生物の体の中の化学反応として、温度、pH、そして最も重要なことは、生物の体の中、というより細胞の一個一個の中で、何百種類以上の化学反応が同時に秩序をもって整然と行われている点である。
1.3 酵素の本体
●1930年以降、酵素の本体がタンパク質であることは動かしがたい事実として認識されるようになった。サムナーとノースロップは1946年にノーベル化学賞を受賞した。
1.4 酵素の特異性
●酵素は原則として一つの化学反応に対応する。
2章 簡単な物質の化学反応
2.4 分子の衝突と化学反応
●物質をつくっている分子は運動している。そして、ある一定の速度以上で分子同士が衝突したときに化学反応が起こり、結合の組み換えが起こる。
●化学反応には活性化エネルギーが必要
・水素ガスの分子と酸素ガスの分子の混合状態のエネルギーのレベルは、生成物である水のエネルギーのレベルよりも高い。しかし、その間には“エネルギーの山”というか“障壁”が存在している。この障壁を越えることができる速度(エネルギー)をもつ分子が衝突したときだけ、反応が起こるのである。このエネルギーの障壁を「活性化エネルギー」と呼んでいる。
分子の動き回る速さは温度に関係がある。もちろん、温度が高いほど速度は速くなる。ちなみに、絶対温度が零度、つまりマイナス273度では分子はじっとして動かない状態になる。室温で、水素ガスと酸素ガスをまぜて放置しておいても反応は起こらない。水素ガス分子と酸素ガス分子の衝突のチャンスはあるのだが、反応がおきて水になることはない。室温ぐらいの温度では水素ガスの分子も酸素ガスの分子も、反応が起こるのに必要な活性化エネルギーをもっていないからである。
しかし、もしも水素ガスと酸素ガスの混合物にマッチの火を近づければ、爆発がおこる。つまり、急激に化学反応が起こる。これは、マッチの火のそばの水素ガスの分子と酸素ガスの分子が火によって熱されてエネルギーを得て、活性化エネルギー以上のエネルギーをもつ状態になるからである。一度反応が起こると、大量の熱が発生する。この熱は「反応熱」といい、水素ガスと酸素ガスの混合物のエネルギーレベルと、水のエネルギーレベルの差にあたる。この反応熱によって、まわりの水素ガス分子と酸素ガス分子が加熱され活性化させる。そして、反応は連鎖的に、つまり爆発的に進んでいく。
2.5 遷移状態
●化学反応において、反応する物質の原子の組み換えが連続的に起こるが、その際、エネルギーが最大になる状態から生成物になる。このエネルギー最大の状態の原子の配置を「遷移状態」と呼ぶ。
●遷移状態は理論的に仮定されたものであって、これを分離したり、物理的な手段で観測できるものではない。
2.6 触媒
●触媒は活性化エネルギーを低くする働きである。活性化エネルギーが低くなれば室温では進行しない反応も進行させることができる。
3章 有機化合物の反応
3.1 有機化合物とは
●有機化合物とは炭素を含む化合物である。
4章 酵素反応の基礎知識
4.2 酵素の共同因子
●酵素の本体はタンパク質であるが、タンパク質以外の物質を必要とする場合がある。このような物質を「共同因子」あるいは「コファクター」と呼んでいる。
●共同因子は①配合団、②補酵素、③金属、の3つに分けることができる。
●配合団は、酵素本体のタンパク質にしっかりと結合した共同因子をいう。
●補酵素は、配合団のようにはタンパク質に固く結合せず、透析のよう操作で取り除くことができる。
●ビタミンの多くは酵素の共同因子やその合成材料である。
●酵素の中には、マグネシウム、マンガン、カルシウム、亜鉛などの金属イオンを必要とするものがある。これらの金属イオンの中には、酵素のタンパク質に固く結合しているものもあれば、ゆるく結合しているものもある。
4.3 酵素の活性の測り方
●酵素作用の本質は化学反応の触媒である。すなわち、酵素の活性は触媒する反応の速さで測る。
4.4 酵素の触媒能力
●『カタラーゼという酵素がある。前にも出てきたが、過酸化水素を分解する酵素である。カタラーゼの1個の分子は、1秒間に9万個の過酸化水素を分解する力をもっているという。それゆえ、100mlのカタラーゼを入れると、5分間で全部分解してしまう計算になる。酵素の中にはもっとすごいのがあって、カルボニックアンヒドラ―ゼ(二酸化炭素に水をつけて炭酸にする酵素)は、1個の酵素分子が1秒間に100万個の二酸化炭素に水を付ける能力がある。
これらは、スピードのはやい部類の代表的なもので、ふつうは毎秒約1万個の基質分子に変化をおこすくらいのスピードである。もちろん、スピードの遅い酵素もあって、1秒あたり、キモトリプシンは100、DNAポリメラーゼ(DNAを合成する酵素)は15、リゾチーム(細菌の細胞壁を分解する酵素)は、0.5分子の基質に変化をひきおこす。
また、別のくらべ方をすると、酵素がないときにくらべて、1000万倍(10の7乗倍)から10の20乗倍ぐらいに反応速度を速めるものが珍しくないという。1000万倍ということは、酵素なしでは1000万時間、つまりおよそ1000年かかるところを、酵素はたった1時間で反応を進行させてしまう計算になる。10の20乗倍となると、酵素なしで10の20乗時間かかる反応を1時間でやってのけるということだが、10の20乗時間とは約10の16乗年(1京年[10,000兆年])である。この宇宙が誕生してから、たかだか10の10乗年(100億年)しかたっていないという。つまり、酵素なしでは、こんな反応は絶対におこらないということである。』
4.5 酵素反応とpH
●酵素反応の速度はpH、すなわち水素イオンの濃度によって大きな影響を受ける。
●多くの酵素の至適pHは中性、つまりpH7付近にある。しかし、例外もある。胃の中で働くタンパク質分解酵素のペプシンの至適pHは1.5、つまり強い酸性である。
4.6 酵素反応と温度
●酵素反応の速度は、温度によっても大きな影響をうける。一般に化学反応の速度は温度が高くなるほど大きくなる。
●酵素は温度が高くなると立体構造がこわれて、触媒活性を失ってくる。対応できる温度は酵素によって異なるが、多くの酵素は60度ぐらいに加熱すると変性して活性を失う。中には100度のお湯の中につけても平気な酵素もある。
4.8 酵素の阻害剤
●酵素に結合して、その触媒作用を止めてしまう物質を「阻害剤」とか「インヒビター」と呼んでいる。代表的な阻害形式の一つは、「競争的阻害(「拮抗的阻害」ともいう)」と呼ばれるもので、阻害剤が基質とよく似た構造をもっていて、基質と競合う形で酵素に結合する。
6章 酵素の作用メカニズム
6.1 カギとカギ穴
●『酵素は特定の基質をうまく見わけ、おどろくべき速さで化学反応を進行させる。一体、なぜ、どのようにしてこんな動きをすることができるのだろうか? この問題は、本書の主題なのだが、現代のサイエンスのかかえる大きなナゾの一つである。
酵素の作用メカニズムを説明するために、いろいろなモデルや考え方が提出されてきた。歴史的にもっとも古いのが「カギとカギ穴」説である。1894年―つまり今から100年以上も前にドイツのフィッシャーによって提唱された。
基質と酵素の活性部位は、ちょうどカギとカギ穴の関係にあって、ぴったりと適合する。適合しない物質は、カギ穴にあわないカギのようなもので、基質にはなりえない。
この説は、酵素の特異性を実にわかりやすく、明快に説明している。そして、基本的には正しいと現在も考えられている。ただし、この説はなぜ、基質の反応が速やかに進行するのかについてはなにも説明されていない。つまり、カギ穴の中の出来事については残念ながら何も説明できない。』
6.3 エントロピー・トラップ
●酵素は「基質を見分ける」ことも重要だが、「基質を結合する」ということも重要である。
●酵素の活性中心には、基質を結合する部位と化学反応を進行させる触媒部位があると考えられている。
●化学反応全体のおこりやすさについて、エントロピー(乱雑さ)の寄与がある。生成物の方が反応物よりも規則性が高ければエントロピーは減少する。
●化学反応が起こるときには、越えなければならないエネルギーの障壁があり、活性化エネルギーが必要である。
●活性化エネルギーの一部は、反応物質から遷移状態ができるときに必ずともなうエントロピーの減少に由来する。
●酵素反応では、まず基質の2つの分子は酵素と結合して規則正しく配列する。つまり、そこで既に基質分子の運動は制限された状態にある。ということは、そこから遷移状態に移ったとして基質分子と遷移状態のエントロピーの差は小さいことになる。その結果、化学反応を進めるために越えなければならないエネルギー障壁、活性化エネルギーが下がることになる。これをエントロピー・トラップと呼ぶ。
画像出展:「低エントロピー」(低エントロピー反応空間が実現する高秩序触媒化学)
6.4 基質の有効濃度を上げる
●酵素反応では、0.001モルという低濃度の基質も酵素と結合することによって、活性中心での濃度が100モル濃度、つまり10万倍も濃度が高くなった状態と同じになる。すなわち、酵素は基質を結合して、触媒基に形と向きがちょうどよくなるように向かわせ、有効濃度を高くする。酵素がなければ、こんな都合のよい状態に反応物質と触媒物質が並ぶことは、理論的には可能であっても実際にはほとんど起こらない。
この写真はブログ“生物と量子力学2(酵素)”で使いました。「量子現象の“トンネル効果”には“コヒーレンス(同調)”という大きな課題がある」とのことでした。(同調⇒ローリング競技を連想して貼りました)
酵素においても「同調」が関係しているということは、量子力学に通じるものだとと思います。
6.5 生産的結合と非生産的結合
●基質が酵素と結合する時、正確に結合しないと化学反応は進行しない。このような結合を「生産的結合」と呼び、結合しても化学反応が進行しない結合を「非生産的結合」と呼ぶ。
●良い基質とは、生産的結合をしやすい物質であり、悪い基質は、色々な形で結合するけれども非生産的結合の多い物質ということになる。競争的阻害剤は、非生産的結合しかできず、基質と共存すると基質の生産的結合の邪魔をする物質と考えられる。
●生産的結合と非生産的結合の差は、結合した基質と触媒部位との空間的配置の微妙な差によると考えられる。つまり、基質は酵素にせっかく結合しても、触媒部位との位置関係が悪ければ、化学反応は進行しない。
6.6 誘導適合
●酵素分子が基質と結合した時に、酵素分子の立体構造に変化が起こる。その変化は全体におよぶような場合もあれば、結合部位に限定される場合もある。
●「誘導適合」とは基質がない時は不活性の状態にあるが、基質が結合すると酵素分子の立体構造に変化が起こって、反応を進めるのに適した位置に触媒基が配置されることである。
●「生産的結合」も「誘導適合」も、不適切な基質が活性化しない理由の説明としては、カギとカギ穴説よりも説得のある説明になっている。
こちらの動画“生化学 酵素とは。誘導適合モデル”はバイオ薬科アカデミーさまから拝借しました。
14分57秒の動画 ですが、5分47秒から「誘導適合モデル」の説明になります。
6.7 基質をひずませる
●酵素分子に基質分子が結合した時に、酸素分子の立体構造に変化が起こる。この立体構造の変化によって、基質分子を引っ張ったり、圧迫したり、捻じったりして、ひずみを生み出す。ひずみやゆがみができると、基質は遷移状態になりやすくなる。
6.8 共有結合の中間体
●酵素の中には酵素と基質が共有結合で結ばれた中間体ができることが分かっている。この中間体は反応性に富んでいて容易に遷移状態になると考えられる。
6.10 遷移状態の安定化
●遷移状態、つまり、化学反応が起こる時のエネルギーの峠の状態は、もともとは理論的に仮定されたものである。
●遷移状態を安定化するということは、遷移状態のエネルギーの障壁が低くなることであり、化学反応が進行しやすくなるということである。
6.11 酸素作用と活性化エネルギー
●酵素の働きの中で最も重要なことは、基質をつかまえて触媒基と正しく向く合わせることだと考えられる。
●化学反応を進行させるには活性化エネルギーという障壁を越える必要があり、そして触媒とは「活性化エネルギーの山の高さを低くする」作用である。
●酵素のやり方は下段Bのように次々と山を越えていく。これらは酵素と基質の結合であり、誘導適合であり、共有結合の中間体の形成である。また、山が低くなる理由は、酵素の活性部位と遷移状態の相互作用であったり、エントロピー・トラップであったりするわけである。酵素の作用のしくみの全体像は以下(図6-11)になる。
6.12 今後の問題
●『超能力とも思える酵素の触媒作用も、このようにいろいろと解明されてきた。酵素反応も、一般の化学反応と根本的な原理は同じであると今では学者たちは信じている。とはいうものの、酵素の作用についてはまだまだ研究しなければならないことがたくさんある。
歴史的に見ると、酵素の作用メカニズムに関する知識のほとんどは、キモトリプシンやリゾチーム、リボヌクレアーゼなど加水分解を触媒する酵素から得られてきた。加水分解反応は、もっとも簡単な化学反応の部類に属していて、あまり「酵素らしい」反応とはいえない。体のなかではもっと「酵素らしい」―つまり複雑で、酵素なしではとてもできそうもない化学反応が、酵素の働きにより進行している。そのような酵素の作用機序については、比較的研究が進んでいない。
酵素についての今後の最大の研究課題というか夢は、人間の手で自由に酵素を設計して人間の希望する性質をもつためには、活性部位を含む特定の立体構造が必要である。その立体構造は、アミノ酸配列順で決定される。それゆえ、希望する特異性と触媒活性をもつ酵素をアミノ酸配列順序を設計してつくることが可能なはずである。
しかし現在のところ、そんなことはできない。アミノ酸配列順序からどんな立体構造ができ、そこからどんな酵素活性が生ずるのかという一般的な理論をつくりあげるに至っていない。』
●酵素の研究は日進月歩であり、解析するためのコンピュータの進歩もすごい。近い将来、自由自在に酵素を設計できる日がくるかもしれない。自由自在に酵素を設計することができたとき、はじめて「酵素がわかった」といえるのではないか。今のところは、酵素はまだまだ不思議な存在である。
7章 生命の起源と酵素
7.1 タマゴが先か?
●『1950年代にアメリカのミラーは、実験室の中で、アンモニア。メタンなどの混合物中に放電させるとアミノ酸ができてくることを示した。また同じような条件下で、シアン化水素、ホルムアルデヒドなどと反応性のつよい物質もできるし、それらが反応して糖の仲間や核酸の塩基などもできてくることが明らかになってきた。
つまり、原始の海の中には、アミノ酸、糖、塩基といったタンパク質や核酸(DNA、RNA)の材料となる物質が溶けこんでいたと想像されるのである。もちろん、リン酸やいろいろな金属イオンのような無機物も溶けこんでいたにちがいない。では、そのあとで何が起こったのか―ここは大きく意見の分かれるところである。』
まとめ
1.酵素の信じられないような働き
●酵素がないときにくらべて、1000万倍(10の7乗倍)から10の20乗倍ぐらいに反応速度を速めるものが珍しくないという。1000万倍ということは、酵素なしでは1000万時間、つまりおよそ1000年かかるところを、酵素はたった1時間で反応を進行させてしまう計算になる。10の20乗倍となると、酵素なしで10の20乗時間かかる反応を1時間でやってのけるということだが、10の20乗時間とは約10の16乗年(1京年[10,000兆年])である。
2.「カギとカギ穴説」よりも説得のある説明
●酵素は基質を結合して、触媒基の形と向きがちょうどよくなるように向かわせ、有効濃度を高くする。酵素がなければ、こんな都合のよい状態に反応物質と触媒物質が並ぶことは、理論的には可能であっても実際にはほとんど起こらない。
基質が酵素と結合する時、正確に結合しないと化学反応は進行しない。このような結合を「生産的結合」と呼び、結合しても化学反応が進行しない結合を「非生産的結合」と呼ぶ。
「誘導適合」とは基質がない時は不活性の状態にあるが、基質が結合すると酵素分子の立体構造に変化が起こって、反応を進めるのに適した位置に触媒基が配置されることである。
生産的結合も誘導適合も、不適切な基質が活性化しない理由の説明としては、カギとカギ穴説よりも説得のある説明になっている。
●「酵素がわかった」といえるのは、自由自在に酵素を設計することができたときではないか、酵素はまだまだ不思議な存在である。
“酵素”と“氣”の関係を結びつけて考えることは無理があるようですが、「不思議な存在」というところは共通していると思います。
第4章 根本原因はここにあった!腸と腸内細菌
●すべての病気は消化不良から
・消化とは三大栄養素の炭水化物、タンパク質、脂肪をそれぞれ小腸で吸収できる分子レベルまで小さくすることである。
・小さなビタミンやミネラルは分子が小さいのでそのまま吸収される。
・タンパク質と炭水化物はネックレス状につながっている。タンパク質はアミノ酸や単糖(ブドウ糖、果糖、ガラクトースなど)をひとつの玉だとすると玉が100個以上(多いものは1万個以上)連なったものである。炭水化物も単糖のブドウ糖(グルコース)がつながっており、数百個、大きいものでは数万個つながっている。これらは一度に分解できないので、唾液、胃液、膵液、腸液と段階を踏んで、少しずつつながった玉を切り取り、アミノ酸の玉、ブドウ糖の玉に分けていくのが消化である。この切り分けるハサミに相当するのが酵素である。
・脂肪はタンパク質や炭水化物とは異なり、グリセロールに三つの脂肪酸が引っ掛かった形状で、この留め金を外すことが脂肪の消化である。消化されたものは小腸の腸絨毛から吸収され、門脈を通って肝臓に運ばれる。
・脂質はリパーゼによって、グリセリンと脂肪酸に分解され、一部はアミノ酸などと一緒に門脈経由で肝臓に運ばれるが、多くは分解後、胆汁酸の乳化作用によりミセル化(小さくして水に溶けやすくする)され、親水性となり腸管から吸収される。小腸上皮細胞に入った乳化物は、今度はタンパク質と結合して、カイロミクロンという大きなリポタンパク質となり、リンパ管から吸収され、リンパの流れに乗って腹部、胸部、心臓などを巡って動脈に入り全身に運ばれる。脂肪成分の多くは、このようにリンパ経由の道のりをたどる。脂肪が消化に時間がかかるのは、このリンパ経由のプロセスのためである。
・消化不良は栄養がしっかり吸収できないだけでなく、様々な弊害を生む。例えば、タンパク質が十分に消化されないと不消化タンパク質となる。それを大腸内で腐敗菌が分解すると「窒素残留物」を作るが、これがアレルギーや難病、がん等、あらゆる病気の原因になっていく。このようにすべての病気の出発点は消化不良から始まるのである。
●「リーキ・ガット症候群」
・栄養素を吸収する小腸の腸絨毛が炎症を起こし、テニスラケットのガットが緩んだようになる症状を「リーキ・ガット症候群(腸管浸漏症候群)」という。例えば、100個のアミノ酸がつながったタンパク質が血中に入れば免疫システムは異物と判断し攻撃する。これはアレルギーである。さらに膠原病、クローン病、多くの神経疾患、潰瘍性大腸炎などの難病の原因になる可能性がある。2007年4月、ハンガリーのブタペストで開催された世界肥満学会では、これらの疾患に加え、糖尿病、心臓病、脳卒中などの関連性も指摘された。
・異物が血中に入れば、血液は汚れ微小循環が悪化する。それは脳梗塞、心筋梗塞、糖尿病を発症してもおかしくはない。
・リーキ・ガット症候群は小腸内の腐敗以外では、多量の化学薬剤、喫煙、アルコールの過剰摂取に注意する必要がある。
●腸内で起こる四つの現象
・消化吸収の後、腸内では4つの現象が起こる。「発酵」は正常だが、「腐敗」、「異常発酵」、「酸敗」は問題である。
・「発酵」は炭水化物に関するもので、良質かつ適量の時に起こる。
・「腐敗」はタンパク質を消化する酵素の不足やタンパク質の過剰摂取により消化不良が起こり、吸収されなかったタンパク質が大腸に停滞して起こる。この時できるのが窒素残留物のスカトール、インドール、アミン、フェノール、硫化水素、アンモニアなどであるが、これらの有害物質は強烈な発がん物質であるニトロソアミンを作り出す。
●窒素残留物と二次胆汁酸が一緒になると……
・「異常発酵」は炭水化物の摂りすぎで起こる。その原因は食べ過ぎである。また、遅い時間に摂る夜食やストレスも関係する。加熱食ばかりの食事も異常発酵につながりやすい。異常発酵ではガスの臭いが目安となる。
・「酸敗」は脂質が腸内で酸化して生じる現象である。特に問題なのは二次胆汁酸(一次胆汁酸がリトコール酸やデオキシコール酸などに変化したもの)である。これは猛毒で、窒素残留物が作るニトロソアミンと一緒になると大腸がんの大きな原因になる。
・酸敗の原因は脂肪の摂りすぎである。また、酸化した油や劣化した油、トランス脂肪酸などの質の悪い脂肪の摂取も原因になる。
●健康のカギを握る「短鎖脂肪酸」@
・「短鎖脂肪酸」は大腸で酵素の働きによって行われる食物繊維の発酵で生じる。脂肪酸には炭素数が12以上の「長鎖脂肪酸」、7~11の「中鎖脂肪酸」、そして6以下が「短鎖脂肪酸」である。飽和脂肪酸は常温では個体である。一方、不飽和脂肪酸は常温では液体である。この不飽和脂肪酸には、中鎖脂肪酸、短鎖脂肪酸は存在しない。
・飽和脂肪酸は肉類の脂肪や乳製品の脂肪に多く含まれ、中性脂肪やコレステロールを増加させ、動脈硬化を促進するとされ、悪者扱いされることが多い。しかしながら、飽和脂肪酸がなくなると細胞膜はボロボロに崩壊し、細胞は存在できなくなる。摂りすぎは良くないということであって、とても重要なものである。
・短鎖脂肪酸は炭素の連鎖が短いため分解されやすく、すぐにエネルギー源として利用されるため、体脂肪として蓄積されることはない。
・短鎖脂肪酸の酢酸、プロピオン酸、酪酸などは水溶性の食物繊維や糖質の発酵で生じる。その働きは免疫力を高め、健康維持に重要な役割を担っている。酢酸は脂肪合成材料、プロピオン酸は肝臓における糖新生の材料、酪酸は大腸の主要部分の栄養素になる。95%は大腸粘膜から吸収され、すべての消化管と全身の臓器の粘膜上皮細胞の形成と増殖、そして粘液を分泌させる働きをしている。胃液も腸液も膵液もすべて短鎖脂肪酸が作っている。
・短鎖脂肪酸は細胞内のミトコンドリアに働き、エネルギー活性化を促す。腸のpHを下げ殺菌力を高める。がんのアポトーシス(プログラムされた細胞の自死)にも関わっている。
●二十一世紀に解明、短鎖脂肪酸の働き
・短鎖脂肪酸の材料は、熟した果実、わかめ、昆布などに含まれる水溶性の食物繊維、穀物、大豆、キノコに含まれる不溶性の食物繊維も材料になる。その他、黒酢、酢のもの、梅干し、ピクルス、ラッキョウ、漬物、キムチなどの発酵食品も腸内環境の改善を通じて間接的に短鎖脂肪酸の生成を促進する可能性がある。
●胃薬を長期間飲み続けると……
・胃薬を長期に飲み続けると胃酸は弱まる。すると、胃のpHは上昇する。このため、細菌が無制限に繁殖し胃壁は菌に侵され再び潰瘍になりがんの原因となる。また、アルカリイオン水などアルカリ度の高い食品も注意が必要である。頻繁に摂りすぎると胃酸を薄めてしまう。
第5章 体を蝕む酵素を減らす食事
●日本では“野放し”のトランス脂肪酸
・トランス脂肪酸は各国で規制対象になっている
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
1.日本人の平均的なトランス脂肪酸摂取量はWHOの推奨する上限(総エネルギー摂取量の1%未満)を下回っている。
2.通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられるが、脂質に偏った食事をしている人は注意が必要。
3.トランス脂肪酸だけでなく、飽和脂肪酸を含む脂質全体の摂取バランスに配慮することが必要。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
1.多くの国で、天然由来のトランス脂肪酸は規制の対象外となっています。
2.WHOは2023年までにトランス脂肪酸の低減を進めるよう各国政府に呼びかけており、規制を導入する国は増加傾向にあります。
3.2024年時点で、54ヵ国が工業的に生産されたトランス脂肪酸の排除に向けた最善の政策を実施しています。
ご参考1:「トランス脂肪酸に関する各国・地域の規制状況」(農林水産省)
ご参考2:「すぐにわかるトランス脂肪酸」(農林水産省)
・トランス脂肪酸に次いで注意すべきはリノール酸の過剰摂取である。摂りすぎると、アラキドン酸が過剰に作られ、炎症を起こす物質(炎症メディエーター)の増加や血小板凝集、血管矮小化といった問題を引き起こす。リノール酸はサラダ油などの揚げ油の他、スナック菓子、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、インスタントラーメン、ケーキ、パン、アイスクリームなど数え上げれば切りがない。さらに、大豆、小麦、米などの穀物にも多く含まれているため、私たちは気がつかないうちに大量のリノール酸を摂っている。必要量の10倍は摂っているというデータもある。まず心がけることは「植物性油脂」「植物性食用油」とあれば、トランス脂肪酸やリノール酸が含まれていると考え、避けるよう努力することである。
ご参考3:「油のタイプ知り上手に摂取 リノール酸の取りすぎ注意」(日本経済新聞)
●油の質によって、健康は左右される
・油は消化に時間がかかり、高カロリーのため「太りやすい」「体に悪い」というイメージがつきまとっているが、重要な栄養素である。脂質は細胞膜の70%、脳の60%を構成している。脂肪がなければ、体温も維持できず、ホルモン様の物質も作ることはできず、体内で脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の運搬や吸収もできない。しかしながら、油の質によって大きく異なるというのも事実である。
・青魚の脂のEPAとDHAは血液をサラサラにする。このEPA、DHAは不飽和脂肪酸のオメガ3系脂肪酸の一種である。植物油で健康の良い油はオメガ3系脂肪酸に属するα-リノレン酸で、亜麻仁油、エゴ油、シソ油などである。ただし、これらの油は熱に弱いのでドレッシングなど生の状態で使う。加熱料理には酸化しにくいゴマ油、ナタネ油、米油がおすすめである。
・食物では、アーモンド、クルミ、ピスタチオなどナッツ類も少量なら体に良い。
・2011年、世界一栄養がない野菜といわれていたキュウリに、ホスホリパーゼという従来より分解力の強い脂肪分解酵素があることが分かった。血液をサラサラにし体も温まるという優れものである。
第6章 こうすれば簡単!酵素を摂る方法
●病気の時は、食べないほうがよい。
●証明された、少食と長寿の関係
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
1.60代位までは食べ過ぎに注意が必要ですが、70代以降はしっかり食べて筋肉や骨を維持することが重要です。
2.健康的な食生活と適度な運動を心がけることで、健康リスクを軽減できます。
3.個人の年齢、全体的な健康状態、免疫力などが寿命に影響を与えるため、食べ過ぎの影響は個人差があります。
感想
本書によって、酵素が生命にとっていかに重要であるのかを知りました。一方、何故、9番目になったのかということが、あらためて気になりAIに質問してみました。
以下(左側)がその回答です。「非常に複雑」、「働きが目に見えない」、「直接的なエネルギー源ではない」、この3つがポイントでした。
「やはり、只者ではない!」と思いました。そして、右側の表は2度目の登場になりますが、その背景にあるのは、「やはり、量子力学が関係しているからでは!?」だと思います。
『氣とは何だろう』に量子力学を結びつけるのは唐突かもしれませんが、9番目に姿を見せた「酵素」という特殊な存在はマークしたいなと思います。
第2章 人体における酵素の働き
●消化酵素と代謝酵素
・消化酵素は文字通り、消化するための酵素であり、それ以外はすべて代謝酵素である。「代謝酵素は、異化と同化を含む生命維持のための代謝過程において、化学反応を触媒し制御する重要な役割を果たす」
・重要なことはこの2つの酵素のバランスでその比率はシーソーのように変化する。健康にとって重要なことは代謝酵素の占める割合である。暴飲暴食等で消化酵素を多く消費すると代謝酵素が減ってしまい健康を害する原因となる。
●どんな食物を食べても、消化酵素しだい
・消化酵素の働きがあって、はじめて適正な栄養素を獲得できる。
●草しか食べない牛が筋肉を作れる理由
・草しか食べない牛が強靭な筋肉をもっているのは、胃の微生物と酵素による。
・牛は4つの胃をもっており、草のタンパク質は第一胃で分解される。微生物は分解されたそのタンパク質を取り込み、自らの体にタンパク質を合成する。この微生物タンパク質は草のタンパク質よりはるかに栄養価が高い。微生物は他にも窒素化合物を利用して質の高いタンパク質を作る。その後、第四胃(人間の胃に相当)に送られ、そこで胃液と酵素がはじめて分泌され、原虫や菌体は消化される。そして、タンパク質となって小腸に送り込まれ、そこで分泌される消化液によって栄養素として消化・吸収される。
●肉しか食べないライオンのビタミンC補給
・ビタミンC(アスコルビン酸)の最も重要な生理作用はコラーゲンの合成である。コラーゲンは筋肉、血管、皮膚、骨の維持になくてはならない。人間は体内でビタミンCを作れないため食物から摂るしかない。肉しか食べないライオンはブドウ糖やガラクトース(乳糖の成分)からビタミンCを合成する。ただしこれには酵素がなければ合成することはできない。
・人間の場合、ビタミンC合成の最終段階で必要なL-グロノ-γ-ラクトンオキシターゼという酵素が欠損しているため合成ができないのである。
●消化酵素の浪費で起こる危険なこと
・代謝酵素の欠乏は病気を招く。
・ワシントン大学での犬とネズミを使った実験は、通常通りのエサを与えられる一方で、膵液を体外に流出されるという実験であったが、犬もネズミも1週間以内にすべて死亡した。なお、膵液は小腸の十二指腸に分泌される消化液であり、三大栄養素をすべて分解する。十二指腸に分泌される胆汁では問題ないのは、胆汁には酵素が含まれないからである。
●酵素を消耗させる食生活
・酵素を消耗する食品は、加工食品(インスタント、レトルト)、砂糖の入った食品、添加物、高タンパク質食品、残留農薬、トランス脂肪酸などの悪い油脂、加熱された無酵素食品、高GI食品など。
・高GI食品とは、食後の血糖値を急激に上昇させる食品のことを指す。GI(グリセミック・インデックス)値が70以上の食品。
画像出展:「炭水化物は敵ではない?上手に炭水化物を取り入れましょう」(Kyushu-HOPES)
『食品の組み合わせや食べる順番も大事なポイントです。GI値の高い食品は食物繊維を多く含む食品と一緒に食べることで血糖値の上昇を抑えることができます。また、食物繊維を多く含む食品から先に食べる、ゆっくり時間をかけて食べることによっても血糖や脂肪の吸収は抑制できます。』
●生存活動すべてにかかわる代謝酵素
・『小腸から吸収された栄養素は、血液を通じて全身へ運ばれ、各臓器や骨格などをつかさどる源になります。私たちは、そのエネルギーを使って呼吸をしたり、考えたり、話すなど日常活動をしています。さらに、自己免疫力や自然治癒力も身につけ、細胞分裂という形で、新しい細胞に入れ替えていきます。この過程が「新陳代謝」と呼ばれるもので、人間は一生を通じて、この行為をえんえんと続けています。』
●酵素がなければ、エネルギー回路も動かない
・ブドウ糖はその一部は肝臓で蓄えられ、必要に応じてグルコース(ブドウ糖)になり、肝臓から血液中に放出され、全身の細胞に送られる。このエネルギーの原料をエネルギーに変えるまでに多くの酵素が必要になる、例えば、肝臓でグリコーゲンを合成する時にはグリコーゲンシンターゼなど5つの酵素が必要で、そのグリコーゲンをグルコースに変え、血液に放出する時にはグリコーゲンホスホリラーゼなど3つの酵素が必要である。
・全身に運ばれたグルコースが、それぞれの細胞でミトコンドリアにあるクエン酸回路でエネルギー源のATP(アデノシン三リン酸)に代謝されるまでには、直接関係するだけでも何十もの種類がある。これらの酵素の一つでも欠けると正常に稼働しない。
●酵素がなければ、活性酸素も除去できない
・活性酸素は分子から電子を奪う。これを「酸化」といい、体を老化させ病気の原因になる。保存剤や防腐剤などの食品添加物を酵素が解毒するがこの時に活性酸素が発生する。ストレスを受けると副腎皮質ホルモンが分泌されるが、この時にも活性酸素が出る。その他、大気汚染、水質汚染、農薬、殺虫剤、電磁波、喫煙、過度の飲酒など、現代社会は活性酸素にとってとても居心地の良い社会である。
そして、この活性酸素を除去する抗酸化物質が、SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)、グルタチオンペルオキシダーゼと呼ばれる酵素である。
●毒ガス・サリンと酵素の働き
・『代謝酵素の働きは、書けばきりがありません。血圧の調節もそうですし、思考することも酵素の働きです。
私たちが筋肉を動かす時に必要なのがアセチルコリンという物質ですが、筋肉を収縮させるこの物質を作っているのも、コリンアセチルトランスフェラーゼという酵素です。また、その収縮を止めるのはアセチルコリンエステラーゼという酵素の働きです。これらの酵素の働きで、私たちは脳が命じるままに筋肉を自由に操り、体を動かすことができるのです。
ちなみに地下鉄サリン事件で有名なったサリンは、このアセチルコリンエステラーゼという酵素の働きを失効させる毒ガスです。その酵素が働かないために、筋肉は収縮したままとなり、硬直・麻痺し、呼吸ができなくなるのです。
心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす動脈硬化を防ぐのも、血栓溶解酵素という酵素です。この酵素は、ふだんは血液中に隠れていますが、いざとなると活性の強いプラスミンという酵素に変身して、現場に駆けつけます。この変身の引き金になるのも、腎臓と尿に含まれるウロキナーゼという酵素です。これらの酵素がなければ、私たちの体は血栓だらけです。
自然免疫主役、白血球のマクロファージ(動物の組織内に分布する大型のアメーバ状細胞)も捕まえた異物を酵素で分解します。さきほど紹介した肝臓のクッパ―細胞もマクロファージの一種で、同様な働きをしています。
活性酸素によってDNAが損傷され、がんが発生しますが、その傷ついたDNAを元に戻すのも、DNA損傷修復酵素です。
腎臓で血液浄化の仕事をしている酵素、胃酸を作る酵素、有害物質を分解する酵素など、枚挙に遑がありません。酵素の働きは、生命活動そのものなのです。』
第3章 酵素を減らす加熱食の危険性
●50度洗いも、冷凍も、酵素を利用している!
・体外酵素の食物酵素は熱に弱いという特徴がある。48度で2時間、50度で20分、53度では2分で失活(効力を失う)する(70度まで活性を示す酵素も例外的にある)。
・適度な熱を短時間で与えると効力を高める性質がある。「50度洗い」とはこれ位の温度で洗うと食物酵素が活性する。
・食物酵素はすべての食物の中に含まれており、動植物が死ぬと働き出しその動植物の本体を自ら分解する。人間は死んだら土に還るといわれているが、その仕事を任されているのが酵素である。
・食物中にある酵素は、その食物が嚙み砕かれて細胞が壊れた瞬間から、その力を発揮する。
●膵臓が肥大化し、脳が小さくなった人間
・加熱調理した食物を多く食べてきた人類は、長い時間をかけて、自らの体を変化させてきた。それは膵臓や唾液腺の肥大である。膵臓の大きさを牛、馬、羊などの動物と比較すると、人間は体重比で2倍から2.8倍になる。唾液腺に関しては唾液中に大量のアミラーゼという消化酵素を持っているのは人間だけである。
●がんと酵素の関連性
・腸内腐敗を減らすと「腸管免疫」の向上につながる。特に重要なことは、酵素を多く含む食品を摂ると血流が改善され、微小循環が良くなることである。血管の総延長は100,000㎞、そのほとんどが毛細血管による微小循環であり、細胞の代謝を支えている。
・微小循環不良は病気を引き起こす原因の最終段階である。特に目、腎臓、脳、子宮、卵巣など血液循環が必要な臓器は、より大きなダメージを受ける。痔や手足の冷え性なども微小循環の不良が大きく関わっている。
・組織が飢餓状態や酸素不足によって出現するのが活性酸素だが、活性酸素は細胞核の中のDNAを傷つけたり、破壊したりして突然変異を起こす。そして、細胞のがん化へと発展する。
・『「がんは、まず酵素のないところに生じる」と呼吸酵素(チトクローム)の発見でノーベル生理学・医学賞を受賞したドイツのワールブルク博士もいっています。』
・赤血球のルロー(赤血球をつなげる)をほどく働きを持っているのは酵素しかない。代謝酵素だけでなく食物酵素も体内で吸収され、血中でルローをほどく。
・『微小循環を良くする唯一の方法・方策は酵素の入った食事を摂るに尽きます。その酵素の入った食事とは「生」のものと「発酵物」です。』
●人間を健康にする食品の条件
・生野菜、果物、海藻、芋、豆、穀類、発酵食品は特に黒酢と梅干がおすすめである。
・人間の体を構成する元素は、酸素、炭素、水素、窒素、リンなどであるが、その約61~65%が酸素であるということは驚きである。一方、人間の体を構成する分子は成人では53~65%が水である。
酵素については“生物と量子力学2(酵素)”というブログを2019年3月にアップしています。この時は、ヒトの生命の中に量子力学のメカニズムが、何か存在しているのではないかという思いから、『量子力学で生命の謎を解く』という本を見つけました。
そして、その時もっとも驚いたことが以下になります。
『酵素の仕事は、本来ならあまりにも遅いさまざまな生化学反応を加速させる(「触媒する」)ことである。
~中略~
メアリー・シュワイツァーが恐竜の骨に作用させたコラーゲナーゼも、そうした生物マシンの一つにすぎず、動物の体内ではつねにコラーゲン線維の分解を担っている。酵素によって分解がどれだけ加速されるかをおおまかに見積もるには、酵素がなかった場合にコラーゲン線維の分解にかかる時間(明らかに6800万年より長い)と適切な酵素があった場合の時間(約30分)とを比べればいい。そこには一兆倍もの開きがあるのだ。』
酵素があれば、約30で分解されるプロセスが、その酵素がなかったならば6800万年以上、約1兆倍もかかるというものです。この信じられないような酵素の働きは生命の大きな謎であり、量子力学に関係しているという見解は、「きっと、そういうこと何だろうな」という感じでした。
それから約6年、多くの本に接してきましたが、「酵素について詳しく知りたい」と思ったことはありませんでした。また、今回、酵素に関するサイトや本を探していて感じたことは、想像以上に、サプリメント、食事や栄養、健康や美容に関するものが多いという印象でした。そのような中で、酵素の生理学(生体の機能とメカニズム)について、一般読者向けに書かれている本を購入しました。
酵素に関して知りたいと思ったもう一つの理由は、『氣とは何だろう』という疑問に関して、「氣」を知るためには量子力学との関係を酵素の視点から探る必要があるのではないかと考えたためです。
なお、酵素は、サイトカイン、ホルモンと同じく生理活性物質という大きな枠組みの中に分類されていますが、その機能、作用範囲、構造には明確な違いがあるとされています。
目次
はじめに
序章 栄養学から見た病気の原因
●「何を食べてもいい」というダメ医者
●西洋医療の限界
●糖尿病患者の急増が示すもの
●なぜ、キャベツで喘息が治ったのか
第1章 ここまでわかった!酵素の謎
●三大栄養素の役割
●体は、栄養素だけでは動かない
●100兆個の体内細胞が必要とする酵素
●酵素の役割
●酵素は、血液型を変えられる!?
●酵素の中身
●酵素の種類
●ひとつの酵素が行う、ひとつの作業
●酵素の寿命
●酵素は、一定量しか作れない
●白髪が生える理由と酵素の関係
●人間の酵素貯蔵量は何年あるか?
●酵素の補佐役、ビタミンとミネラル
●ノーベル賞受賞で誤解された酵素栄養学
●酵素研究が50年遅れた理由
第2章 人体における酵素の働き
●消化酵素と代謝酵素
●どんな食物を食べても、消化酵素しだい
●草しか食べない牛が筋肉を作れる理由
●肉しか食べないライオンのビタミンC補給
●消化酵素の浪費で起こる危険なこと
●酵素を消耗させる食生活
●生存活動すべてにかかわる代謝酵素
●酵素がなければ、エネルギー回路も動かない
●酵素がなければ、活性酸素も除去できない
●日本人が酒に弱い理由
●暴飲暴食しても平気な人が持つ酵素
●健康診断のγ-GTPも酵素だった!
●毒ガス・サリンと酵素の働き
●代謝量が多いほど短命になる
第3章 酵素を減らす加熱食の危険性
●縄文人の長寿を支えたもの
●動物園の死亡率を改善させたエサ
●動物実験で示された、酵素の力
●アメリカで、アフリカで、北極圏で起きていること
●長寿村の食事と短命村の食事
●50度洗いも、冷凍も、酵素を利用している!
●動物が生ものしか食べない理由
●人間にも、胃がふたつある!?
●膵臓が肥大化し、脳が小さくなった人間
●焼き魚に大根おろしを添える科学的根拠
●優れた食材・果物の力
●がんと酵素の関連性
●人間を健康にする食品の条件
●病気治療に使われてきた「酵素食」
●生食と加熱食は、6対4の比率で
●酵素栄養学から見た、和食の効能
第4章 根本原因はここにあった!腸と腸内細菌
●“第二の脳”腸の役割
●私が抗がん剤を使わない理由
●すべての病気は消化不良から
●「リーキ・ガット症候群」
●腸内で起こる四つの現象
●窒素残留物と二次胆汁酸が一緒になると……
●新説・腸内細菌の酵素は体外酵素である!
●肝臓に匹敵する、腸内細菌の働き
●がんと食物繊維の関係
●健康のカギを握る「短鎖脂肪酸」
●二十一世紀に解明、短鎖脂肪酸の働き
●糖質制限ダイエットの危険な落とし穴
●明治時代、ドイツ人医師が感嘆した日本の食事
●腸は、人体の「外」にある!?
●胃薬を長期間飲み続けると……
●小腸がんが最近、増えている理由
●体を冷やすと、がんになりやすい
●小腸にある「腸管免疫」を活性化させる
●免疫力は、便で判断できる
第5章 体を蝕む酵素を減らす食事
●肥満者が短命になる理由
●人間を老化させる三つの原因
●植物性だけでなく、動物性食品も必要な理由
●朝食は、軽いほうがよい
●なぜ、食べてすぐ寝ると体に悪いのか
●砂糖が引き起こす、肥満よりも怖い「害」
●日本では“野放し”のトランス脂肪酸
●油の質によって、健康は左右される
●粉末状の食品は、食べてはいけない
●野菜・果物の種は、食べてはいけない
●玄米の毒を取る方法
●薬は、酵素の働きを阻害する
第6章 こうすれば簡単!酵素を摂る方法
●病気の時は、食べないほうがよい
●証明された、少食と長寿の関係
●1日2食で健康になる
●酵素を摂る方法① ジュース
●酵素を摂る方法② すりおろす
●酵素を摂る方法③ 発酵食品
●酵素を摂る方法④ よく噛んで、ゆっくり食べる
●酵素を摂る方法⑤ 良質な水を飲む
●睡眠のふたつの役割
終章 初心者のための鶴見式・酵素断食
●ファスティング(鶴見式・半断食)が体に良い理由
●ファスティングとケトン体
●ファスティングの効能
●ファスティングの注意点
●酵素断食について
●鶴見式・半日断食コース
●鶴見式・1日断食コース
●鶴見式・2日半断食コース
おわりに
体内の「酵素力」判定テスト
参考文献
目次
はじめに
・酵素栄養学は量子力学の範疇で、目に見えないクォークの世界であり、最先端科学である。
・酵素の量は健康、寿命に大きく関係している。
序章 栄養学から見た病気の原因
●「何を食べてもいい」というダメ医者
・多くの医師は酵素だけでなく、栄養学の知識に乏しく食と病気の関係に無関心である。
●西洋医療の限界
・西洋医学の問題は根本の原因を追究しないことである。そのため慢性疾患においては対症療法のため、結果的に薬漬けにつながる恐れがある。
●なぜ、キャベツで喘息が治ったのか
・喘息はアレルギーであり、アレルギーは腸内の腐敗から発症する。毎朝の生のキャベツが腸内環境の改善に大きく貢献したものと考えられる。加熱せず生で食べることが重要なのは、貴重な「酵素」が加熱により失われてしまうからである。
第1章 ここまでわかった!酵素の謎
●三大栄養素の役割
・糖質はエネルギーを産生し、タンパク質は骨格、細胞組織、粘膜粘液の原料になる。脂質もエネルギー源だが、細胞膜など生体膜の成分になる。これらにビタミン、ミネラル、食物繊維を加えたものが六大栄養素といわれ、水を加えて七大栄養素、さらに昨今ではポリフェノールやカロテノイドなどのファイトケミカル(植物中に存在する天然の化学物質、抗酸化力が強い)を加えて八大栄養素ともいわれている。
●体は、栄養素だけでは動かない
・代謝とは「エネルギーの生産と消費」、大きく分けると「異化」と「同化」である。前者は物質をバラバラに分解してエネルギーを取り出すことであり、後者はエネルギーを使って器官や組織を組み立てること、体の部品を作り出すことである。
・生命エネルギーとは、炭水化物や脂肪、タンパク質によって生じる化学反応で、ある物質がほかの物質に変わるという化学反応こそが生命の正体である。
・ヒトの体は生命のための一大化学工場である。
●100兆個の体内細胞が必要とする酵素
・化学反応のためには仲立ちする「触媒」の力を借りなければならない。その触媒こそが「酵素」である。
・三大栄養素が車のガソリンとすれば、酵素はバッテリーのような存在である。
・酵素は、まさに「生命の命」(酵素研究の祖エドワード・ハウエル博士の言葉)そのものである。
●酵素の役割
・触媒とは、それ自身は変化せず、接触する周囲の物質の化学反応を早める物質である。
●酵素の中身
・『酵素がほかのタンパク質と違うのは、酸素には活性の中心と呼ばれる「穴」があり、そこにほかの物質をとらえ、分解や合成などの化学反応をすばやく起こさせる不思議な力があることです。この働きが、さきほど説明した触媒作用です。』
・酵素は条件によって活性・不活性が決まるもので単なる触媒ではない。
●酵素の種類
・体内での酵素の働きは2つ、「消化酵素」と「代謝酵素」。更にもう1つあり、それは生の食物の中に含まれる「食物酵素」である。
●ひとつの酵素が行う、ひとつの作業
・酵素の大きさは、その種類によって大きく異なるが、ほぼ5~20ナノメートルである。形状は球状で、形を頻繁に変え絶えず動き回り衝突して変化する。
・酵素の反応速度は非常に速く、1マイクロ(1/100万)秒ごとに衝突を繰り返している。ひとつの酵素が1分間に合成もしくは分解する分子の平均数は3600万回。なかには、1分間の化学反応が4億回にのぼる酵素もある。
・様々な代謝活動を行っている肝臓の場合、各細胞には数百種類もの酵素があり、それぞれが1秒間に100万回、その作業を行っている。
・酵素は何種類もの化学反応をかけもちできず、ひとつの酵素が触媒として働ける化学反応は、通常1種類だけである。
●酵素の寿命
・体内では毎日、多種多様な酵素が生産されている。
・酵素は細胞の中で作られる。細胞核にあるDNAがどの酵素を作るかを計画し遺伝子が作る。
・ひとりの人間の細胞を作るために約13,000種類の酵素が使われている。そのなかで、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ酵素)だけで9000種類以上ある。なお、体内の酵素の量は膨大である。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
現在の種類の数ですが活性エントリーは6,885でした。なお、この表には、「暫定的な件数」、「現在は非活性とされている件数」、また、「再分類や統合によって変更された件数」とあり、時間とともに数字は変化しています。
・酵素の寿命(耐用期間)は鋳型の穴が潰れ、仕事ができなくなった時である。短いもので数時間、長くても数十日で消滅すると考えられている。
・酵素はアミノ酸に分解されてから再び吸収され、新しい酵素やタンパク質を作る原料になる。一部分を入れ替えながら絶えず新しい酵素を作り続けている。ただし、酵素製造能力にも限界がある。20歳をピークに、年齢を重ねるごとに少しずつ減っていき、40歳を越えると急激に減少する。
・若い時に比べ、睡眠を十分にとっても疲れがなかなか取れないのは、体内の酵素の製造能力が落ちていることと、日々の生活のなかで体内酵素の使い過ぎで代謝酵素の働きが落ちていることも関係している。
●酵素は、一定量しか作れない
・酵素は毎日作られているが、酵素の生産量は個体差が大きい。これはDNAと深い関りがあるからだと考えられる。
・『生まれたばかりの新生児には、高齢者の数百倍の酵素が存在するといわれています。生まれた時に与えられた、一生で一定量しか作られない酵素の生産能力を、毎日の生活のなかで使って老化し、ついには病気になり、そして死んでいくのが私たち人間です。だからこそ、その生産能力の無駄遣いをしないことがとても重要になってきます。』
・酵素は年齢によって、その活性は低下する。
●人間の酵素貯蔵量は何年あるか?
・鶴見先生は人間の「酵素貯蔵量」は150歳分くらいあると考えられている。ただし、これはあくまで無駄遣いをしなければというのが前提である。
●酵素の補佐役、ビタミンとミネラル
・ビタミン、ミネラルは三大栄養素に次ぐ重要な栄養素であるが、複合酵素(タンパク質と非タンパク質の補酵素と補助因子が結合した酵素)は酵素がなければ体内で働くことはできない。補酵素はコエンザイムと呼ばれている。
・水溶性ビタミン(特にビタミンB群)は体内の代謝にかかわる補酵素の材料として重要な生理機能を持っている。ビタミンB1は糖代謝の補酵素、ビタミンB6はアミノ酸やタンパク質の補酵素、ナイアシンは酸化や還元などの脱水素酵素として働いている。
・ミネラルは補助因子で金属酵素(メタロエンザイム)と呼ばれ、生命現象の重要な役割を担っている。
・ビタミンもミネラルも補因子だが、六大栄養素とされている。一方、主役である立場の酵素は9番目の栄養素とされていることを考えると、いかに酵素の研究が遅れていたのかを物語っている。
●ノーベル賞受賞で誤解された酵素栄養学
・最初の酵素の発見は、1833年、デンプン分解物質のジアスターゼと名付けられた。これが消化酵素のアミラーゼである。タンパク質分解酵素のプロテアーゼに属するペプシンは1836年に発見された。
●酵素研究が50年遅れた理由
・一つは、酵素の結晶がタンパク質だったためタンパク質と規定され、タンパク質を摂取すれば酵素も摂れると考えられてしまった。さらに、タンパク質は無限に作り出されるという誤解もあって研究の遅れにつながった。
・酵素は体内で行われる消化作業と代謝作業の主役である。
第4章 骨
●若さを保つ!全身に語りかけている骨
・骨が出すメッセージ物質はマイオカイン同様、最先端の研究分野となっている。骨のメッセージ物質の代表的なものが「オステオカルシン」である。
●骨の中で生きている数々の細胞たち
・爪や髪、皮膚などの新陳代謝と同様に、内臓でも硬い組織の骨でも起きている。骨は「破骨細胞」が骨を溶かし、「骨芽細胞」が骨を作る。両者のバランスが崩れ、破骨細胞の働きが優位になると骨はスカスカになって骨粗鬆症になる。
●衝撃センサーとしての骨
・骨の中の「破骨細胞」、「骨芽細胞」、「骨細胞」という3種類の細胞は互いにメッセージ物質を出し、ネットワークを作っている。その中心が「骨細胞」で「スクレロスチン」というメッセージ物質により、骨芽細胞が骨を作り過ぎないようにコントロールしている。
・骨芽細胞は骨にかかる衝撃を感じ取るセンサーの働きがあり、スクレロスチンの放出量を変えている。つまり、骨の働きを維持するには骨への刺激量が必要だということである。
・筋肉を動かすこと、骨に衝撃を加えること、これは運動することが筋肉と骨を健康に保つことを意味している。
●長生きするにはどうすればいいか?
・『人体は進化の過程で、次世代の役に立つ行動していると長寿になるよう、プログラムされている。これは進化の仕組みから導き出される当然の結論です。そうだとすると、「運動すると長寿になる」ことの根本も、ここにあるではないかと思えてくるのです。』
・『カロリーを抑制するとなぜ長寿になれるのか? 人に分け与える優しさ、そんなものも、なんらかの形で測られている可能性があるのです。』
●人体は「ネットワークのネットワーク」である
・ネットワークは臓器同士だけでなく、臓器の中にも細胞たちが語り合う複雑なネットワークが存在する。
●ネットワークの真の姿
・腎臓から骨(赤芽球)へ、骨から肝臓へ、肝臓から腸へというように情報が次々にリレーされ広がっていく。
・『複雑で巨大なネットワークである人体においては、ある場所で何かが起きると、その影響は全体に広がっていく。それによって人体が適切な状態に保たれる。これが神秘の巨大ネットワークの真の姿だと言えると思います。』
第5章 腸
・腸は細菌たちを養い、人体のネットワークに参加させている特別な臓器である。腸内細菌は消化吸収の手助けだけでなく、さまざまな物質を出している。これらの物質は腸から血液中に入り、人体のあちこちで受け取られている。これらもメッセージ物質として働いている。
・腸内細菌全体(「腸内フローラ」と呼ぶ)を一つの「臓器」だと捉える科学者も増えてきている。
●現代人を悩ませる病気はすべて「免疫の暴走」から!?
・腸は全身の免疫細胞(白血球)の7割が集まる、「免疫の臓器」でもある。
・腸は免疫細胞にとって特別な場所である。例えば、「パイエル板」では腸内の細菌を捕まえてきて、免疫細胞たちに接触させる。こうして未熟な免疫細胞を教育する。つまり、腸は「免疫の訓練場」、あるいは「教育機関」ともいうべき場所なのである。
画像出展:「免疫反応の起点 パイエル板」(乳酸菌生成エキス研究室)
『腸で多くの免疫の働きを担っているのが、小腸下部の回腸にある「パイエル板」という組織です。「パイエル板」は小腸の絨毛の間に存在するリンパ小節が集合した腸管特有の免疫組織です。下画像の平らな状態の部分で、そのうえには薄い粘液があり、病原菌をそのまま細胞内に取り込みます。』
●免疫はなぜ暴走するのか?
・免疫細胞は外敵に対し、警告サインの炎症性サイトカインを出して仲間を呼び、その仲間もさらに炎症性サイトカインを出すことで、瞬時に集まった炎症性サイトカインは免疫細胞を活性化させ、増殖させ、攻撃に駆り立てる。いったん火がつくと、一方向に突っ走る。これにより外敵を排除するが、その動きは暴走の危うさを内在している。
●アレルギーを防ぐ、なだめ役「制御性T細胞」
・T細胞は免疫細胞(白血球)の中でも中枢を担っている。「ヘルパーT細胞」は攻撃の司令塔、「キラーT細胞」は特攻隊である。一方、攻撃を止めさせるT細胞もいる。それが「制御性T細胞」である。
・「ヘルパーT細胞」と「制御性T細胞」は「ナイーブT細胞」という未成熟なT細胞から分化するので、この2つのT細胞は兄弟のような関係である。
●「なだめ役」が生まれる驚きの仕組み
・「ヘルパーT細胞」になるか「制御性T細胞」になるかは、腸内細菌が出す「酪酸」という物質が関係している。なお、制御性T細胞は局所のみならず全身を巡って過剰な炎症反応が起きている場所で、鎮静化のために働く。
●腸の健康が万病を予防する
・免疫に求められることは攻撃力だけではなく、攻撃すべき相手をしっかり攻撃し、不必要な攻撃はしない「調整力」を上げることが必要である。その方法は見つかっていないが、「免疫の臓器」の腸の健康を維持することが重要であり、また、食生活に注意することが大切である。
第6章 ネットワークと病気
・「免疫の暴走」の背景には、食生活の激変と感染症の脅威の激変があると考えられる。
●人体のネットワークは「クモの巣」のようなもの
・ネットワークには「引き戻す仕組み」がある。これは上昇した血圧をメッセージ物質のANPが血管を拡げ、ANPを受けた腎臓は尿として水分を排出することにより血圧を下げる。あるいは酸素不足があれば腎臓がエポ(エリスロポエチン)というメッセージ物質を出し、それを受け取った骨髄が赤血球を増やし、全身の酸素の供給を回復させるといった仕組みである。
●病気とは人体のネットワークの変化である
・『「引き戻す力」によって構成されている人体のネットワークは、外部から力がかかった場合(たとえば、食べ過ぎ)、しばらくの間はネットワーク全体で受け止めるため、何の変化もありません。しかし、それが続くと、ネットワークの中に「引き戻す力」が効かなくなる部分が現れます(たとえば、レプチンが効かなくなる)。すると、ネットワーク全体の形が少し変わります(肥満になる)が、まだ大きな変化ではありません。ところが、さらに力がかかり続けていくと、加速度的に変化が広がっていき、最後には重要な結節点が壊れて(膵臓がインスリンを出さなくなっていく)、ネットワークが崩壊するのです。』
・『「病気とは何か?」の大きな捉え方として、「病気とは、人体のネットワークの変化である」ということを感じて頂ければと思います。これが病気の本質なのです。』
●病気の本質を知ることの意義
・一般的に病気は健康診断の数値や微妙な体調の変化などで知ることができる。ところが多くの場合、病気とはほど遠いもののように思われ、「まだまだ大丈夫」と思ってしまうものである。しかしながら、この状態は「少々のことならネットワークが全体で吸収し、元の状態に引き戻してしまうはずなのに、それができなくなっている」ということを意味し、まさにネットワークの形が変わり始めた証拠である。大事なことは、この段階で対処するということである。
●東洋医学の再評価
・『人体をネットワークとして捉える考え方は、東洋医学が、はるか昔から培ってきた人体観に通じるものがあります。東洋医学的には、「未病」という考え方があり、病気になってから治すのではなく、病気になる前に治すことを目指すとされます。また、「病気を診る」のではなく「人を診る」という立場を取ります。病気が時間的、空間的に広がりを持っていることを、しっかりと意識しているのです。
西洋の医学は、分析的手法で発展してきました。人体を解剖し、それぞれの臓器の役割を一つひとつ明らかにしました。薬を作るときも、一つひとつの成分を抽出して効果を確かめ、必要なものだけに絞り込みます。これは合理的で間違いの少ない手法ですから、大きな成果を上げてきました。
一方、東洋医学は、こうした分析的な手法を取りませんでした。臓器ごとに考えるのではなく、人体の中のつながりを重視します。薬草から一つの成分を取り出すのではなく、生薬としてそのまま使い、むしろ、いくつもの生薬を複合することで薬とします。
西洋医学が分析的(アナリティック)なら、東洋医学は全体的(ホリスティック)だと言えるでしょう。これらはどちらも大切なアプローチです。西洋医学が、臓器から細胞へ、細胞から分子へと、より小さな領域へ分析を進めていった終着点で、全体を見ることの大切さに行き着いたことは、非常に興味深いことです。』
第7章 ネットワークのさらに奥へ
●腎臓が固くなる本当の理由
・慢性腎臓病になると、腎臓の中で「固くなった細胞」がたくさん現われる。これが進行すると次第に腎臓全体が固くなり、機能を大きく低下させる原因になる。これが線維化である。
・線維化の役割を研究した結果、固くなった細胞が「レチノイン酸」という物質を出しており、これが近くの傷害を受けた細胞に届くと、修復を速めるメッセージとして働くことが分かった。これにより線維化には意味があり、絶対悪ではなかったことも分かった。
・傷害の程度が軽く、修復が順調に進めば固くなった細胞が元に戻ることも明らかになった。しかし、傷害の程度が重いと修復はなかなか進まず、固くなった細胞がどんどん増えて、いつしか腎臓全体の機能低下を招くことになる。つまり、腎臓の中にある、細胞同士のネットワークにおいて、線維化は傷害を「引き戻す力」として働いているものの、治しきれないほどの傷害を受けた時、ネットワークは壊れ、病気へとなる。
画像出展:「腎障害における線維化の正の側面の発見 -線維化が腎臓を修復する-」(京都大学)
『慢性腎臓病が進行すると腎臓の「線維化」が認められるため、従来は「線維化」が腎機能を低下させると想像されていました。~中略~ 本研究では、尿細管にはもともと自分自身を修復する「レチノイン酸」の合成能があること、尿細管が障害されるとその合成能が失われる一方で、障害尿細管の周囲の線維芽細胞がレチノイン酸産生能を獲し、障害尿細管の修復を助ける可能性を発見しました。』
第8章 脳
●全身のメッセージを意図的にブロックする仕組み
・脳は支配者ではないが、人体のネットワークの中で非常に特別な存在である。
・脳以外の血管には穴があり、血液は血管外にしみ出していくような構造になっている。そのため、栄養素やメッセージ物質を効率よく組織に届けることができる。
・血液脳関門に単なる物理的な壁ではなく、血液中の物質を選択して通す仕組みである(以前は分子の大きさと考えられてきた)。
●血液脳関門はなぜ必要か?
・ほとんどのメッセージ物質は血液脳関門によってブロックされ、脳の神経細胞には届かない。これは他の臓器からのメッセージをブロックしなければならないためである。
●神経細胞ネットワーク
・脳のなかは1000億個とも言われる神経細胞が網の目を作っている。その神経細胞のネットワークは電気信号だけはなく、神経細胞同士をつなぐ接続部分(シナプス)には隙間(シナプス間隙)があり、その接続には神経伝達物質と呼ばれるメッセージ物質が関与している。シナプスを行き交う神経伝達物質には様々な種類がある。これにより脳は別次元の複雑さを生み出すことができるのである。ヒトはそれを「思考」と呼び、そこに「意思」を見いだす。
●雑音がない静謐な空間
・血液中に含まれている全身の臓器からのメッセージ物質が、もし無制限に脳の神経組織に入ってきたとすれば、脳は混乱し機能は停止してしまう恐れがある。脳は外からの雑音が少ない空間でなければならない。つまり、神経細胞がいる領域から不必要な物質を排除し、脳の思考を守っている仕組みが血液脳関門だと考えられるのである。
●創造性、自主意志、ひらめき
・神経細胞間のシナプス間隙を行き交う様々な神経伝達物質の量は毎回異なるものである。そのため、細胞同士の会話には「まったく同じこと」は二度と起きない。これが脳の思考の柔軟性につながっている。
・ヒトの脳は集中しているときよりも、ぼーっとしている時の方が、脳内の広い領域をつないでいるネットワークは活性化している。ヒトが意識して何かを考えている場合、それは一部だけでなく、神経細胞同士の会話は意識の外でも常に行われている。そして、無意識に行われる細胞の会話にこそ、「ひらめき」の素が潜んでいる。「ある日突然ひらめいた」と思ったことも、実は、脳の神経細胞は密かに会話していたことかもしれない。
●「脳の細胞は一度死ぬと、復活しない」は本当か?
・脳の神経細胞は大人になっても、日々新たに生まれている。特に記憶を司る「海馬」では1日700個ほどのペースで神経細胞が生まれ続けていると推定されている。なお、この数は決して少ない数ではない。
第9章 生命誕生
●細胞のネットワークが人体を作る
・生命誕生は正確無比な細胞分裂によって進んでいくが、これは人体の究極の謎といえる。しかしながら、明らかなことがある。それは、どこかに人体を作り上げる司令塔がいるわけではなく、細胞たちが当たり合うネットワークによって、人体は作られるということである。
第10章 健康長寿
●人体は神秘の巨大ネットワークである。
・『人体のネットワークのつながりは、いま全体の何パーセントぐらいが解明されているのでしょうか?
つい最近まで「ゴミ箱」だと思われていたエクソソームが、別次元の情報伝達手段だったことがわかりました。実は、エクソソームと似ているけれど少し違う、細胞が出すカプセル状のものはいくつも存在しています。「マイクロベシクル」や「アポトーシス小体」と呼ばれるものです。これらも、情報伝達に使われていることがわかってきましたが、詳細が明らかになるのは、まだまだこれからです。
また、本書ではあまり触れられませんでしたが、「自律神経」のネットワークも、古典的な研究をはるかに超える、複雑な情報伝達の経路になっていることがわかってきています。こちらも研究が進められている真っ最中です。
そして、これから先に、もっと別次元の情報伝達手段が発見される可能性もまったく否定できません。なにしろ人体の中には、「ゴミ」と片付けられているものが、いまでも山ほどあるからです。
人体のネットワークの全容は、まったく見えていません。全体の70パーセントぐらいまでわかったのかもしれませんし、もしかすると、ほんの数パーセントなのかもしれません。いったい、どこまで広がり、どれほど複雑なネットワークなのか?それすらも、謎に包まれています。
人体は、神秘の巨大ネットワークである。これはまぎれもない真実です。そして、その探求の歩みは、人類を根源的な問いの答えへ導くとともに、私たちに病を克服する手段を与え、健康長寿をもたらしてくれる』
感想
何が強く印象に残っているのかを思い返してみると4つのことが頭に浮かびました。
1.メッセージ物質とは
・メッセージ物質は、臓器・細胞同士がコミュニケーションに使う物質を総称しています。科学用語で言うと、ホルモン、サイトカイン(細胞間情報伝達物質)、神経伝達物質など、さまざまな呼び方をすべて含むものです。取材途中の段階では、「細胞間のシグナル伝達を担う物質」を略して「シグナル物質」だったそうですが、最終的に「メッセージ物質」という番組固有の名称に変更したとのことでした。そのメッセージは“指令”ではなく“つぶやき”に近いものです。
2.臓器ネットワークの中の脳の存在感
・臓器同士、さらには細胞同士の間を様々なメッセージ物質が行き交う命の現場において、脳はメッセージ物質を取捨選択し不要なメッセージ物質を排除しています。これを担っているのが血液脳関門です。この働きにより脳が情報の渦に巻き込まれることなく、雑音がない静謐な空間を作り出すことにより、脳の思考を守っています。「臓器ネットワーク」や「第二の脳」ということを考えると、脳は生命を司るすべての司令塔とはいえませんが特別な存在です。本書にあった次の文章が印象的でした。『さすがは脳、やたらに他の臓器の言うことを聞いたりしない「孤高の存在」という感じがしてきます。』
3.腎臓も修復しようと努力している
・一般的に腎臓は不可逆性の臓器とされています。
<腎臓の不可逆性>
-腎臓の機能低下は、一般的に不可逆的なプロセスとして認識されています。つまり、一度損傷を受けた腎臓の機能は、完全には元に戻らないということです。
-腎機能は、健常者でも加齢に伴い経年的に低下していきます。CKDによる腎機能の障害は不可逆性のため、治療の主な目的は、現在の腎機能をできるだけ維持し、その後の腎機能低下のスロープを緩やかにすることです。
<レチノイン酸>
-本書の中で紹介されている“レチノイン酸”が腎臓の機能回復のためのメッセージ物質です。ただし、腎機能が完全に戻るということではなく、AIの指摘通り、「進行を遅らせることが可能である」というものです。
そのメカニズムは線維化により固くなった細胞が「レチノイン酸」という物質を出し、これが近くの傷害を受けた細胞に届くと、修復を速めるメッセージとして働きます。傷害の程度が軽く、修復が順調に進めば固くなった細胞は完全とはいえないまでも戻ります。しかし、傷害の程度が重いと修復はなかなか進まず、固くなった細胞がどんどん増えて、いつしか腎臓全体の機能低下を招くことになります。
元に戻るわけではないが、改善させることは可能であり、それは線維化されてしまった細胞から発するメッセージ物質の“レチノイン酸”による働きであるということが分かったことは、大きな収穫でした。
4.血管は人体の「情報回線」だった
この4番目が今回の1番の発見でした。
・『臓器たちが語り合う体内ネットワークで「情報回線」にあたるのは何なのかということです。インターネットならば、世界中をつなぐ光ファイバーケーブルがあり、その中を情報が駆け巡っています。では、体内ネットワークでメッセージ物質を運んでいるのは何か?それは「血管」であり、中を流れる「血液」です。』
・「情報回線」と言われて、最初に思い浮かぶのは“神経系”です。しかしながら、「神経はすべての細胞につながっているわけではありません」。一方、血管もすべての細胞に直接つながっているわけではないのですが、血液を通して運ばれる物質は、ほぼすべての細胞に行き渡るようになっており、人体に張り巡らされた血管網は、総延長およそ10万キロメートル、地球を2周半するほどの長さがあります。酸素と栄養素が血液によって運ばれるのは周知の事実ですが、さらに今回、様々なメッセージ物質が血管という臓器ネットワークを介して行き交っていることを知りました。
・酸素、栄養素、各種メッセージ物質を体内に行き渡らせ、しかも網羅性に関しては神経系を凌駕している“血管”は体内の「情報回線」に相応しい生命のインフラだと思います。神経系と血管の違いについて、本書では次のような説明がされています。『たとえるならば、神経系は固定電話のようなもの、家や職場につながっていますが、個人にはつながりません。一方の血管は、インターネットです。スマホやパソコンを通して、一人ひとりにつながります。』
・“神経系”は中枢神経(脳・脊髄)と末梢神経(運動神経・感覚神経・自律神経)のネットワークで、脳が大きく関与しています。一方、“血管”は脳も関与していますが、それ以上に各臓器・各組織を結びつける臓器ネットワークです。表裏一体、この2つのネットワークはいずれもなくてはならない存在です。
画像出展:「命を支える神秘の巨大ネットワーク “メッセージ物質”が医療を変える!」(NHK)
『まず何より目を見張るのは、格段の進歩を遂げたさまざまな映像技術です。これは、「光超音波3Dイメージング」という最先端の手法によって撮影された、手の血管網です。太さわずか0.3ミリの微細な血管まで、ありありと映し出されています。』
前回のブログは脳腸相関に関するものでしたが、今回は臓器全体です。2017年10月にNHKで放送された“命を支える神秘の巨大ネットワークメッセージ物質が医療を変える!”はその後、書籍となって出版されました。
「臓器同士が会話をする」という発想は東洋医学の臓腑の考え方に近いものです。また、東洋医学における“腎”は、西洋医学の“腎臓”に対する一般的な認識(尿を作る臓器)に比べ、その存在は明らかに大きなものと考えられています。そのため、第1回の放送のテーマが“腎臓”で、かつ「腎臓が寿命を決める」という見出しのインパクトの大きさに押されて、思わず購入してしまいました。
“シリーズ 人体 神秘の巨大ネットワーク 第1集 “腎臓”が寿命を決める”
『浮かび上がってきたのは、腎臓が体中に情報を発信しながら、さまざまな臓器の働きをコントロールしているという驚きの姿。腎臓を操れば、脳卒中や心筋梗塞の原因となる重症の高血圧を一挙に改善したり、多臓器不全を未然に防いだりという驚きの成果も報告されている。さらに「健康長寿のカギ」となる「ある物質」を、腎臓が調整していることまで明らかに。ミクロの体内映像やフル4KCGを駆使して、腎臓の驚異的なパワーに迫る。』
今回、拝読させて頂いた新書は、すべての放送の内容をまとめたものです。おさらいという意味もあり、また全体を通して考えることで新たな発見があるのではないかと思いました。そして、西洋医学が語る“臓器ネットワーク”というものがどんな内容であるのか詳しく知りたいと思いました。
目次
はじめに
第1章 人体は神秘の巨大ネットワークである。
●人体には「メッセージ物質」があふれている
●元祖メッセージ物質「ホルモン」
●ホルモンは「タテ社会」の仕組み
●時代のさきがけとなった「伝説の科学者」
●心臓がホルモンを出していた!―ANPの発見物語
●ANPは何を伝えるメッセージ物質なのか?
●なぜ心臓が利尿ホルモンを出すのか?
●血管は人体の「情報回線」だった
●がんとANP―驚きの発見
●心臓ホルモン「ANP」の新たな働き
●なぜ血管の内側を「常に」きれいにしておかないのか?
●メッセージ物質は「指令」というより「つぶやき」
●なぜ心臓は、がんになりにくいのか?
第2章 腎臓
●高地トレーニングは腎臓を鍛えている!?
●腎臓が出すメッセージ物質「エポ」の働き
●腎臓は常にメッセージを出している
●人工的なエポを使ったドーピング
●腎臓は血圧も調節している
●腎層は「血液の管理者」だ
●血液のあらゆる成分を調節する腎臓
●腎臓は毎日180リットルの尿を作る!?
●血液の管理、カギは「再呼吸」
●腎臓は「尿を作る臓器」ではない!
●腎臓が寿命を決める
●謎の老化加速マウス―原因は腎臓だった
●腎臓は体内のネットワークの「要」である
●他人から移植された腎臓でも、臓器同士の会話はできるのか?
第3章 脂肪・筋肉
●マンハッタンの研究室
●レプチンを使ってやせられるのか?
●「お腹が空いた」と知らせるメッセージ物質もある
●肥満はなぜ、体に悪いのか?
●あらゆる生活習慣病の原因となる「慢性炎症」の恐怖
●動脈硬化はなぜ起きる?
●なぜ脂肪細胞は炎症性サイトカインを出してしまうのか?
●健康のカギ―筋肉が出すメッセージ物質
●運動すると大腸がんが予防できるのはなぜ?
●IL6が慢性炎症を抑える!?
●メッセージ物質は「文脈で」意味が変わる
●脂肪・筋肉のメッセージからわかる病気と健康の綱引き
第4章 骨
●若さを保つ!全身に語りかけている骨
●骨の中で生きている数々の細胞たち
●衝撃センサーとしての骨
●補足・「活動的な個体を生き残らせる」とは?
●長生きするにはどうすればいいか?
●人間は長生きしていい!
●「利己的な遺伝子」への誤解
●探検! 骨髄ワールド
●メッセージ物質を利用する骨髄移植の新方法
●造血幹細胞のすごさ
●補足・人体の細胞は37兆個、は本当か?
●働く細胞たちの「細胞社会」
●造血幹細胞は旅をする
●ニッチとは何か?
●造血幹細胞ニッチ
●人体は「ネットワークのネットワーク」である
●ネットワークの真の姿
第5章 腸
●現代人を悩ませる病気はすべて「免疫の暴走」から!?
●免疫はなぜ暴走するのか?
●アレルギーを防ぐ、なだめ役「制御性T細胞」
●「なだめ役」が生まれる驚きの仕組み
●アレルギーや自己免疫疾患を防ぐ腸内細菌のパワー
●腸内フローラを変える方法
●時代の変化は免疫細胞にも押し寄せている
●腸の健康が万病を予防する
第6章 ネットワークと病気
●人体の強さの秘密はどこにあるのか?
●人体のネットワークは「クモの巣」のようなもの
●ネットワークは「全体で受け止める」
●ネットワークは肩代わりしてくれる
●体重をコントロールするネットワーク
●「引き戻す力」は肥満を維持する!?
●メタボリック・シンドローム再考
●病気とは人体のネットワークの変化である
●病気の本質を知ることの意義
●病気には空間的な広がりがある
●東洋医学の再評価
●「健康とは何か?」を研究する時代
第7章 ネットワークのさらに奥へ
●ネットワークは壊れているのか? それとも……
●腎臓が固くなる本当の理由
●ネットワークでは「なぜ?」を考えることで新発見がある
●細胞に「意思」はあるか?
●地球と月の不思議な関係
●細胞の中にも、巨大ネットワークがある
●細胞には意思がある、でも……
●補足・惑星と衛星の複雑な関係
第8章 脳
●全身のメッセージを意図的にブロックする仕組み
●血液脳関門はなぜ必要か?
●神経細胞ネットワーク
●雑音がない静謐な空間
●創造性、自主意志、ひらめき
●認知証治療への新たな挑戦
●「脳の細胞は一度死ぬと、復活しない」は本当か?
●やはり、人間は長生きしていい!
第9章 生命誕生
●たった一つの受精卵に秘められた力
●iPS細胞発見の意義
●iPS細胞を使った研究―科学者たちは何をしているのか?
●細胞のネットワークが人体を作る
●「肝臓オルガノイド」の誕生
●シンプルな仕組みが複雑なものを生み出す
●ドミノ式全自動プログラム
●「引き戻す力」と「導く力」
●生命誕生を遺伝子の仕組みで説明すると……
●細胞はグレているわけではない!
●大切なのはDNAか、細胞か?
第10章 健康長寿
●改めてメッセージ物質とは何か?
●別次元の情報伝達手段―エクソソームとは?
●メッセージを悪用するがん細胞
●がんと闘うためにエクソソームを活かす
●ゴミだと思われていたエクソソーム
●健康長寿について考える
●理想の死に方は、ネットワークがカギ?
●目指すべきは、「ピンピンコロリ」
●生命の本質は「つながっていること」にある
●人体は神秘の巨大ネットワークである。
謝辞
おわりに
はじめに
・これまで人体は「脳」が全身を支配し、臓器は脳に従っているというイメージがあった。しかし今では、臓器同士は脳を介さず連携しているという考え方に変化してきている。
第1章 人体は神秘の巨大ネットワークである。
●人体には「メッセージ物質」があふれている
・体内のネットワークは臓器から臓器、細胞から細胞へと情報を伝えている。
・メッセージ物質は一般的な用語ではない。
・『番組および本書で「メッセージ物質」と呼んでいるものについて、改めて説明しておきたいと思います。メッセージ物質は、もともとある科学用語ではなく、番組が説明のために作った言葉です。なぜわざわざ新しい用語を作ったのかというと、ぴったりする科学用語がまだなかったからです。
メッセージ物質は、臓器・細胞同士がコミュニケーションに使う物質を総称しています。科学用語で言うと、ホルモン、サイトカイン(細胞間情報伝達物質)、神経伝達物質など、さまざまな呼び方がされるものをすべて含む、大きなくくりです。総称せずに、一つひとつ呼び分けていくこともできましたが、たとえば、脂肪細胞が出すレプチンなどは、「ホルモン」と書いてある教科書もあれば、「サイトカイン」と書いてある論文もある、といった具合に境目がはっきりしないため、どちらを選ぶか難しい面がありました。
もし、生真面目な学生さんが「レプチンはサイトカインですか? ホルモンですか?」と聞いても、誰もどちらとは答えにくいと思います。研究分野ごとにだいたい決まった慣例的な呼び方をしますが、本質的な違いというより、単なる「流儀」であるようです。
メッセージ物質に最も近い科学用語としては「メディエーター」があります。ただ、これもまた定義が曖昧な部分がありますし、一般的には理解が難しい言葉でもあります。
そして、番組ではエクソソームの中の「マイクロRNA」など、最近見つかってきた情報伝達手段も包含するような、広い意味を持った言葉を使いたいと考えました。すると、なかなかぴったりする表現がなかったのです。
取材途中の段階では、「細胞間のシグナル伝達を担う物質」を略して「シグナル物質」という、もう少し科学っぽい名前で呼んでいました。この言い方は、科学用語の範疇にあり、取材先の科学者と話すには良い言葉でしたが、いざ放送が近くなった段階で、より一般にも親しみがわく「メッセージ物質」にしてはどうかという議論があり、最終的にそこに落ち着きました。
ですから、医師や科学者に「メッセージ物質」と言っても、番組を見た人以外には通じないので、ご注意ください。』
●元祖メッセージ物質「ホルモン」
・ホルモンは甲状腺や性腺など、分泌器官から放出されるものであるが、近年になって「特別な分泌器官ではない場所」からホルモンが見つかり、今では、体中のあらゆる場所がホルモンのような物質を出していることが分かった。
●ホルモンは「タテ社会」の仕組み/時代のさきがけとなった「伝説の科学者」
・大阪北部にある国立循環器病研究センターの寒川賢治研究所長こそが、「人体はネットワークである」というパラダイムシフトのきっかけとなる、重要な発見をした人である。その発見とは「ANP」と名付けられた、「心臓が出すメッセージ物質」を特定したことだった。
●心臓がホルモンを出していた!―ANPの発見物語
・寒川先生は発見したペプチドの働きがなかなか掴めなかったときに、興味深い論文に出合い、「心臓の細胞がホルモンを出しているのではないか?」と考えた。
・当時、ホルモンは内分泌組織から分泌されるものという常識があった。世界に大きなインパクトを与えた論文は1984年だったが、あっけないほどスムーズに進んだのは心臓に存在するANPの量が非常に多かったためだった。
●ANPは何を伝えるメッセージ物質なのか?
・ANPとは「心房性ナトリウム利尿ペプチド」という。心臓が出したANPは、腎臓が受け取り尿の量を増やす効果がある。
●なぜ心臓が利尿ホルモンを出すのか?
・心臓は血液量が多すぎるとポンプである心臓には負荷がかかる。そこで心臓は全身の血液量を減らすためにANPをメッセージとして腎臓に知らせ、体内の水分を尿として排出してもらうのである。血液量が減ると血圧も下がる。つまり、ANPは心臓を楽にするのが働きである。
●血管は人体の「情報回線」だった
・『臓器たちが語り合う体内ネットワークで「情報回線」にあたるのは何なのかということです。インターネットならば、世界中をつなぐ光ファイバーケーブルがあり、その中を情報が駆け巡っています。では、体内ネットワークでメッセージ物質を運んでいるのは何か?それは「血管」であり、中を流れる「血液」です。ANPも、心臓の細胞から放出された後、いったん血液に溶け込み、全身に循環します。そのうちの一部が腎臓に至り、利尿作用をもたらすのです。
人体に張り巡らされた血管網は、総延長およそ10万キロメートル、地球を2周半するほどの長さがあると言われています。血管には、栄養や酸素を全身に運び、老廃物を回収する「輸送路」の役目がありますが、それと同時に、「情報回線」としての役目も担っていたのです。
体の中で、「情報回線」と言えば、もう一つ神経系があります。脳を中心に、運動神経、感覚神経、自律神経が全身に張り巡らされています。しかし、神経はすべての細胞につながっているわけではありません。
では、血管はというと、こちらも直接すべての細胞につながっているわけではありませんが、血液を通して運ばれるメッセージ物質は、ほぼすべての細胞に行き渡るようになっています。血管に直接、接していなくても、血液成分は組織にしみ出してくるからです。
たとえるならば、神経系は固定電話のようなもの、家や職場につながっていますが、個人にはつながりません。一方の血管は、インターネットです。スマホやパソコンを通して、一人ひとりにつながります。』
●心臓ホルモン「ANP」の新たな働き
・ANPには血管を広げる働きがあるが、それに加え、血管の内側をツルツルな状態にする働きもある。前者は血圧を下げる作用がある。後者も心臓を助ける働きをするが、がんの転移を防ぐ働きもある。これは、血管内皮細胞はささくれだっているところがある。ささくれは赤血球をひっかけ血流を悪くするため、血圧上昇、心臓への負担につながる。一方、がん細胞はそのささくれたところから血管の外に出て、周囲の組織に侵入し転移を果たす。
●なぜ血管の内側を「常に」きれいにしておかないのか?
・血管内皮のささくれは、血管内をパトロールしている白血球にとってはフックのような役割をしている。体の中でウィルスや病原菌と闘う白血球は血液の流れに乗って全身を巡り、緊急事態が起きている場所で血管の壁にとりつき、周囲の組織に出て働く。
●メッセージ物質は「指令」というより「つぶやき」
・『ANPの三つの働きが出てきました。腎臓に作用する場合は「尿を増やせ」、血管に作用する場合は「血管を拡げろ」、「血管の内側をきれいにしろ」というメッセージとして働いています。この三つの言葉の表現は、従来のホルモン的な考え方に沿って、「指令」として意味付けたものです。しかし、実際には、メッセージ物質は指令というよりも「つぶやき(ツイート)」と考えた方がより現実に近いような気がします。』
・メッセージ物質を受け取るためのものが受容体である。これはインターネットで言えば、X(ツイッター)の「フォロー」という仕組みにそっくりである。
●なぜ心臓は、がんになりにくいのか?
・心臓が出す大量のANPは、心臓自身にも働きかけているためと考えられる。
第2章 腎臓
●腎臓が出すメッセージ物質「エポ」の働き
・腎臓は体内の酸素不足を監視し、緊急の際にはエポ(エリスロポエチン)というメッセージ物質(「酸素が欲しい」)を大量に出すことで赤血球の増産を促す。これは生命維持に欠かせない重要な働きであるが、脳は関わらず腎臓と骨髄が連携して、独自の判断で行っている。
●腎臓は常にメッセージを出している
・赤血球には寿命があり、およそ4ヵ月で壊れるため、常に補充が必要なため骨髄では毎日、大量の赤血球を作っているがそれをコントロールしているのは「エポ」である。
・赤血球は多ければ良いということではない、多すぎるとドロドロな血液になってしまう。
●腎臓は血圧も調節している
・腎臓が出すもう一つのメッセージ物質は「レニン」であり、その働きは「血圧調節」である。血圧調節は自律神経が関与しているが、腎臓も同じくらい重要な働きをしている。
・「レニン・アンジオテンシン系」と呼ばれる仕組みは、非常に奥が深く、最先端の研究トピックスの一つとなっている。
●腎層は「血液の管理者」だ
・腎臓は血圧調節以外に、「血液の管理者」の働きも担っている。
●血液のあらゆる成分を調節する腎臓
・腎臓は2つ合わせても300~500gの小さな臓器であるが、心臓から出た血液の1/4程が腎臓に送られている。これは腎臓が血液中の成分を一定に保つ仕事をしているからである。
・血液にはナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなどが含まれているが、こうした成分は一定の範囲に収まっていないと生命に関わる事態になる。この血液成分を一定に保つ働きを腎臓が担っている。なお、「尿はすべて血液から作られる」ということを理解しておくことも大切である。
・例えば、バナナに含まれるカリウムは400~500mg、この量が一気に血液に入ってしまうと命に関わる事態になるが、そうならないのは腎臓が余分なカリウムを速やかに排出してくれるからである。
・食物の成分を気にすることなく楽しく食事ができるのは腎臓のおかげである。
●腎臓は毎日180リットルの尿を作る!?
・腎臓の濾過は「糸球体」と呼ばれる毛細血管のかたまりのような器官が行っている。直径約0.2mm、1つの腎臓の約100万個ある。
・濾過で振るい分けられるのは赤血球や比較的大きなたんぱく質などだけで多くの成分は排出される。この尿は原尿といわれる。原尿は1日に180リットル程作られる。これを糸球体の先にある「尿細管」で再吸収する。水分はおよそ99%が再吸収されるので、最終的な尿になるのは1日に2リットル程である。この再吸収の過程でさまざまな成分が調節されている。
画像出展:「腎臓の働きと機能」(こうまつ循環器内科クリニック)
『原尿は1日に150-180L生成され、尿細管で各物質の再吸収、分泌を受けて最終的には原尿の約1%程度(1.5-1.8L)まで濃縮され、尿となり体外に排出されます。残りの99%は再吸収され血液に戻ります。』
●血液の管理、カギは「再呼吸」
・再吸収に関し、尿細管は「近位尿細管」「ヘンレループ」「遠位尿細管」「集合体」と続き、それぞれ特徴的な再吸収が行われる。
・エネルギー源の糖分(グルコース)も捨てられるが大切なのでほぼすべて再吸収される。それ以外の多くの成分は、全身の状況に合わせて再吸収する量が変わる。この判断に関わっているのがメッセージ物質である。
・塩分(ナトリウム)の場合、摂り過ぎは血圧上昇の原因になる。そして、心臓の負担も高まる。そのため、腎臓はメッセージ物質のANPを放出する。ANPは心房性ナトリウム利尿ペプチドで尿を増やすが、その名の通りナトリウムの排出も促す。カルシウムの場合は「副甲状腺」という米粒ほどの小さな臓器からPTHというメッセージ物質が重要な働きをしている。
●腎臓は「尿を作る臓器」ではない!
・腎臓が糖以外のほとんどの成分を一度排出し、その後、回収するというメカニズムは、腎臓の目的はゴミ(尿)を出すことではなく、部屋(血液)を綺麗にすることだからである。つまり、腎臓は尿を作るための臓器ではなく、血液を管理する臓器といえる。
●腎臓は体内のネットワークの「要」である
・腎臓を守る3つの重要点
1)飲水(脱水症状を避ける)
2)薬の飲み過ぎ(腎臓は薬の副作用を受けやすい。特に市販の鎮痛剤)
3)生活習慣
●他人から移植された腎臓でも、臓器同士の会話はできるのか?
・移植した腎臓でも臓器同士の会話は問題ない。それはメッセージ物質がすべての人に共通だからである。
第3章 脂肪・筋肉
●マンハッタンの研究室
・脂肪が出すメッセージ物質は「レプチン」である。働きは「食欲を抑える」ことである。大量のレプチンは脂肪が増えたときに放出され、これを受け取った脳では食欲が抑制される。
・皮下脂肪や内臓脂肪からメッセージ物質が放出されているという事実に世界は驚いた。
●「お腹が空いた」と知らせるメッセージ物質もある
・「グレリン」という胃から放出されるメッセージ物質が、「お腹が空いた」というメッセージである。グレリンは成長ホルモンの分泌も促す。
●肥満はなぜ、体に悪いのか?
・メタボリック・シンドロームの本質は、脂肪細胞が出すメッセージ物質にある。レプチンの発見以降、脂肪が出すメッセージ物質が非常のたくさん見つかっている。これらは「アディポサイトカイン」と呼ばれている。「アディポ」は「脂肪の」、「サイトカイン」は日本語では「細胞間情報伝達物質」と呼ばれ、主に免疫細胞(白血球)がコミュニケーションするためのメッセージ物質を指す言葉である。
●あらゆる生活習慣病の原因となる「慢性炎症」の恐怖
・アディポサイトカインは数百種あると言われ、特に注目されているのが「炎症性サイトカイン」であり、これこそがメタボリック・シンドロームの原因とみられている。具体的には「TNFα」や「インターロイキン」である。メッセージは免疫細胞同士の警告信号のようなもので、「敵が来たぞ!」というサインである。それにより全身性の免疫細胞が活性化される。
・実際にはウィルスや細菌の感染がないにもかかわらず、全身の免疫が過剰に活性化している状態は、「慢性炎症」と呼ばれる。誤解しやすい名称だが、メタボリック・シンドロームを説明する際に広く使われている。
・慢性炎症は局所ではなく全身である。特に血管の中で起きている。
・動脈硬化、糖尿病、高血圧など、最新の研究では、いずれも慢性炎症がきっかけとなっている可能性が指摘され始めている。さらに、がんや認知症などの病気の背景にも深く関わっていることが明らかになっている。
・現代人を悩ませる多くの病気の根っこが、実は一つである可能性がある。
●動脈硬化はなぜ起きる?
・血管にコレステロールが溜まるだけでは動脈硬化は起きない。発症の鍵は、慢性炎症で活性化した免疫細胞である。主に「マクロファージ」と呼ばれる細胞がコレステロールを攻撃することが原因である。
・慢性炎症のために活性化しているマクロファージは、異物であるコレステロールを見つけるとどんどん食べていくものの消化はできず、パンパンに膨れ上がって死んでいく。このマクロファージの死骸が血管の壁に溜まった状態が「動脈硬化」である。さらにマクロファージの死骸が破裂すると、中にある炎症性サイトカインや外敵を攻撃するための物資がまき散らされ、慢性炎症をさらに悪化させ、全身の細胞に悪影響を与えていくと考えられている。
●なぜ脂肪細胞は炎症性サイトカインを出してしまうのか?
・肥満になると脂肪細胞はなぜ炎症性サイトカインを過剰に放出してしまうのか。現時点では明らかになっていないが、あらゆる生活習慣病の予防に直結する課題のため、世界中の科学者が注目している研究課題である。
●健康のカギ―筋肉が出すメッセージ物質
・筋肉が出すさまざまなメッセージ物質は、「マイオカイン」と呼ばれている。「マイオ」は「筋肉の」という意味である。筋肉は体重の40%を占める人体最大の臓器である。マイオカインの発見はアディポカインより少し後だった。
・マイオカインは体内のメッセージ物質の中でも、最も歴史が浅い分野の一つのため、まだまだ分からないことだらけである。しかし、筋肉は最大の臓器であり、運動による健康効果との関係が考えられることから大きな期待が寄せられている。
●運動すると大腸がんが予防できるのはなぜ?
・大腸がんの予防には食事より適切な運動の方が効果的とされているが、まだ明確にはなっていない。しかし、その謎の解明のキーワードがマイオカインである。大腸がん以外でも、うつの症状や慢性炎症に対する効果が期待されている。
●IL6が慢性炎症を抑える!?
・実験の結果、運動で筋肉から出ているのはIL6(ILはインターロイキンの略)という物質だった。このIL6というメッセージ物質に慢性炎症を抑える働きがあることが分かってきた。また、どんな運動が良いのかについて研究は進んでいる。
●メッセージ物質は「文脈で」意味が変わる
・メッセージ物質は状況によって意味が変わる。これは細胞同士のコミュニケーションツールとして、タイミングや量、他のメッセージ物質との組み合わせや受け取る側の状況等によって変化する。
画像出展:「単なる運動器じゃない!内臓や認知・精神機能をも守る、筋肉のはたらき」(名古屋ハートセンター)
『最近の研究から、骨格筋は運動時にさまざまな生理活性物質を分泌することがわかってきました。マイオカインというのがその総称です。マイオカインの主な役割には、代謝の促進による脂肪肝改善・体脂肪分解、認知症の予防、骨形成促進、動脈硬化予防、免疫能改善、抗炎症作用などがあるといわれています。』
まとめ1
まず、脳と腸の連携に焦点をあてて、関連するものを取り上げました。
●セロトニンの95%は腸に貯蔵されている。
●セロトニンは脳腸相関で非常に重要な役割を果たすシグナル分子である。
●セロトニンの消化器内での働きは収縮、睡眠、食欲、痛覚感受性、気分、全般的な健康に関わる。
●セロトニンを含む腸内の特殊細胞は、脳の情動中枢に向けて直接シグナルを送り返す感覚神経と緊密に結びついており、脳腸相関の重要な構成要素をなす。
●セロトニンは腸と脳のシグナル交換に用いられる究極の分子である。
●セロトニンを含む細胞は小さな脳と大きな脳の両方に密接に結びついている。
●セロトニン・シグナルシステムは、消化器系の活動、さらには感情に結びつけるのに重要な役割を果たす。
●セロトニンを含む腸内の神経は蠕動反射の調節に関与する。
●腸では、脳の感情をコントロールする中枢に直に結合する迷走神経の経路の近くに、膨大なセロトニンが蓄えられている。
●代謝物質が脳にシグナルを伝えるもう一つの重要な方法は、腸壁に存在するセロトニンを含む腸クロム親和性細胞を介したものである。
●腸内微生物は消化不能な物質の消化が可能で、その活動を通して数十万種類の代謝物質が産生される。
●微生物が産生した代謝物質の多くは血流に入り、そこで循環するあらゆる分子のほぼ40%を占める。
●腸は脳と神経の太いケーブル(迷走神経)によって両方向に、また、血流による連絡経路を介して結合している。
●腸と脳のコミュニケーションは特定の分子が炎症シグナルとして脳と連絡を取る方式、ホルモンのように血流を伝わる方式、そして神経シグナルの形態で脳に達する方式など、伝送方式が異なるいくつかの並列的な「伝送経路」に沿って生じる。
●腸内微生物はホルモン、神経伝達物質、あるいは代謝物質と呼ばれる無数の小さな化合物からなる種々のシグナルを介して、常時脳と連絡を取り合っている。
●情動は腸や微生物が生成するシグナルに影響を及ぼすとともに、脳に戻って情動を強めたり、長引かせたりする。
●脳で生じるいかなる情動も、胃腸の活動に反映される。
●情動は腸内の各種腸細胞、腸管神経系の細胞、100兆個の微生物に様々な影響を与える。
●消化の管理は概ね腸管神経系が担っている。
●腸管神経系とは食道から直腸に至る消化管壁を取り巻く、5000万個の神経細胞からなるネットワークであり、「第二の脳」と呼ばれている。
●腸管神経系から脳に伝達されるシグナルは10%ほどであり、脳に頼ることなく活動を維持できる。
●24時間365日、消化管と腸管神経系と脳は常に連絡を取り合っている。
●中枢神経系は、元来はもっぱら腸管神経系が処理していた状況に応じて他の動物に近づく、危険な動物を回避するなどといった外界に対する行動の管理を、徐々に受け持つようになっていった。やがて行動管理機能は情動を司る脳領域に移管され、腸管神経系は基本的な消化機能だけを担当するようになった。
●腸管神経系は消化管で集められた感覚情報を注意深く監視している。
●迷走神経を介して伝達されるシグナルの90%は消化管から脳へと流れる。
●脳への内臓刺激の伝達には、迷走神経がとりわけ重要な働きをする。
●消化管を構成する細胞や内臓刺激をコード化するレセプターの大多数は、迷走神経を介して脳と緊密に連絡している。
●内臓刺激はホルモン、免疫系のシグナル分子、そして迷走神経をはじめとする感覚神経の活動を通じて、小さな脳(腸管神経系)と大きな脳に伝えられる。
●消化管のデータ収集システムが送る報告は、消化管の小さな脳(腸管神経系)にも頭部の大きな脳にも、さまざまな必須情報を提供する。大小二つの脳はどちらも、飲食物を摂取するとこの必須情報の入手にいそしむが、おのおのは別々の情報に関心を寄せる。
●消化管は1日中、起きていても眠っていても、身体の奥深くで生じるあらゆる事象に関する情報を、ミリ秒単位で脳に送っている。(もちろん、中枢神経系にフィードバック情報を常時送っているのは、消化管だけではない。脳は、身体のあらゆる細胞や組織から常時感覚情報を受け取っている)
●消化管やその感覚メカニズムが脳に送るメッセージは、その量、多様性、複雑性において抜きん出る。
●消化管の感覚ネットワークは表面全体に分布しており、その総面積は皮膚の200倍、いい換えるとバスケットボールのコートとほぼ同じ大きさになる。
●消化管は真のスーパーコンピューターである。細胞の数という点では脳をはるかにしのぎ、能力という点でも脳のいくつかの機能に匹敵する。
●脳は、全体的な健康に焦点を絞り、消化管から送られてくる種々の徴候を監視して、その情報を身体の他の部位から送られてくるさまざまなシグナルや、環境に関する情報と統合する。腸管神経系で生じている事象も監視する。
●大きな脳が直接関与するのは、本人が意図した場合か、脳の反応を必要とする重大な脅威にさらされたときに限られる。
●脳は消化管から送られてくるあらゆる感覚情報を常時監視しているが、日常業務は地方自治体、すなわち腸管神経系に委任している。
まとめ2
次に、セロトニン、迷走神経、腸内微生物、シグナル分子、炎症シグナル、神経シグナル、代謝物質、腸クロム親和細胞、ホルモン、内臓刺激、内臓反応、大腸、情動について、脳腸相関におけるそれぞれの働きについて、AI(Perplexity Pro)に質問してみました。
1)セロトニン
画像出展:「消化・吸収だけじゃない!腸の意外な働き」(からだカルテ)
『ストレスを感じるとおなかが痛くなったり、下痢や便秘などの腸の異常を感じるのは、脳→腸へのシグナル伝達ですし、一方で、腸内環境が悪化することによって、不安を感じたり、腸内環境が改善することで、抗うつ効果など脳への影響があることは、腸→脳へのシグナル伝達です。』
2)迷走神経
画像出展:「脳腸相関②:脳と対話する腸」(ヤクルト中央研究所)
『脳と腸の情報交換は、免疫系、内分泌系、神経系という腸に備わる機能を介して行われています。特に、腸から脳への情報伝達のルートとして注目されているのが、「迷走神経」です。』
3)腸内微生物
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『腸内微生物は、神経系、内分泌系、免疫系を介して脳と双方向的にコミュニケーションを取っており、その影響は精神状態から認知機能まで多岐にわたります。特に、腸内微生物の代謝産物や神経伝達物質の産生が脳機能に大きな影響を与えていることが注目されています。』
画像出展:「脳腸相関③:脳腸相関は腸内細菌なしには語れない?!」(ヤクルト中央研究所)
『脳腸相関に関わる腸内細菌ですが、一体どのように脳に情報を送っているのでしょうか。腸内細菌の脳への影響のメカニズムについてさまざまな角度から研究が進められていますが、最近の研究で、腸内細菌が「迷走神経」を刺激し、脳に影響を及ぼしていることが分かってきました。』
4)シグナル分子
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『この表は、脳腸相関におけるさまざまなシグナル分子の役割を示しています。これらの分子は、腸内細菌、腸管細胞、免疫細胞、神経細胞など、様々な源から産生され、脳と腸の双方向のコミュニケーションに重要な役割を果たしています。神経伝達物質、ホルモン、サイトカイン、短鎖脂肪酸などが、神経系、内分泌系、免疫系を介して脳と腸の機能に影響を与え、複雑な相互作用を形成します。』
YouTube:「細胞間伝達の種類」(KEM BIOLOGY)4分56秒
5)炎症シグナル
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『腸内環境の変化が脳機能に影響を与え、逆に脳の状態が腸内環境を変化させることで、炎症反応が双方向に伝播することがわかります。この相互作用は、様々な疾患の発症や進行に関与している可能性があります。』
6)神経シグナル
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『脳からのストレスシグナルが腸の機能に影響を与え、逆に腸からの情報が脳に伝達されることで、双方向のコミュニケーションが行われています。また、腸管神経系(ENS)が重要な役割を果たし、腸内細菌も神経シグナルの伝達に関与していることがわかります。』
7)代謝物質
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『この表は、脳腸相関における主要な代謝物質とその働きを示しています。これらの代謝物質は、腸内細菌叢や食事、消化過程から生成され、脳と腸の双方向のコミュニケーションに重要な役割を果たしています。特に、短鎖脂肪酸や乳酸などの有益な代謝物質は脳機能の改善や認知症リスクの低下に関連している一方、アンモニアやLPSなどは脳機能に悪影響を及ぼす可能性があります。』
8)腸クロム親和性細胞
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『この表は、腸クロム親和細胞が脳腸相関において重要な役割を果たしていることを示しています。特にEC細胞が産生するセロトニンは、腸の機能調節だけでなく、骨代謝や炎症反応にも影響を与え、脳腸相関の重要な媒介物質として機能しています。』
9)ホルモン
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『この表は、脳腸相関において重要な役割を果たすホルモンの主な働きを示しています。これらのホルモンは、腸管内分泌細胞から分泌され、脳と腸の双方向のコミュニケーションに関与しています。例えば、グレリンは食欲を増進させる唯一の末梢由来ホルモンであり、脳内の様々な部位に発現するグレリン受容体を介して作用します。一方、CCKやPYY、GLP-1は食欲を抑制する働きがあります。』
10)内臓刺激
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『内臓刺激は単に腹痛や不快感を引き起こすだけでなく、神経系や免疫系を介して脳機能にも大きな影響を与えています。特に慢性的な内臓刺激は、末梢および中枢の感作を引き起こし、内臓過敏性の原因となることが示唆されています。』
11)内臓反応
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『内臓知覚、腸管運動、腸管透過性、内分泌反応、免疫応答などの内臓反応が、脳と腸の双方向のコミュニケーションに重要な役割を果たしていることがわかります。これらの反応は、ストレスや情動変化、消化器症状、さらには精神・神経疾患にも関与している可能性があります。』
12)大腸
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『大腸は腸内細菌叢の維持、免疫機能、神経伝達物質の産生など、多様な機能を持ち、脳と密接に相互作用しています。特に、ストレスや感情の変化が大腸の機能に影響を与え、逆に大腸の状態が脳機能や精神状態に影響を及ぼすという双方向的な関係が注目されています。』
13)情動
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『ストレスや不安、抑うつなどのネガティブな情動は、脳と腸の両方に悪影響を及ぼし、様々な症状を引き起こす可能性があります。一方、喜びや幸福感などのポジティブな情動は、脳と腸の機能を改善し、健康的な状態を維持するのに役立つことがわかります。』
感想
印象的だったのは、「大きな脳」と「小さな脳」という言葉です。前者は大脳などの脳です。後者は腸管神経系を指しています。その「小さな脳」の細胞の数は「大きな脳」を凌駕し、そこ生息する100兆個の腸内微生物は膨大な量の情報を常時脳に送っています。筆者は小腸を含む消化管を真の「スーパーコンピューターである」と言っています。
『複雑な動物が進化すると、原始的な神経系は、消化器系外の精巧なネットワークとして発達しはじめる。このネットワークは腸管神経系と密接な関係にあるとはいえ分離しており、シグナル交換のメカニズムのほとんどを備えていた。新たに進化した精巧な神経ネットワークは、やがて中枢神経系へと発展し、頭蓋骨の内部に司令部を置くようになる。
中枢神経系は、元来はもっぱら腸管神経系が処理していた、状況に応じて他の動物に近づく、危険な動物を回避するなどといった外界に対する行動の管理を、徐々に受け持つようになっていった。やがて行動管理機能は情動を司る脳領域に移管され、腸管神経系は、基本的な消化機能だけを担当するようになる。この分業は、私たちの脳腸相関でも維持されている。』
腸管神経系の「小さな脳」は「第二の脳」といわれていますが、進化の歴史においては、「第二」ではなく「第一」でした。そして、ヒトにおける消化管の感覚ネットワークは表面全体に分布しており、その総面積は皮膚の200倍、バスケットボールのコートとほぼ同じ大きさになるそうです。
生き物は、酸素と水と栄養素を摂り続けないと生きてはゆけません。しかしながら、体内に取り込むということは、細菌やウィルスなど健康に害を及ぼす微生物が確実に体内に入ってくるということです。腸と腸内微生物はバスケットボールコートほどの面積でそれを受け、そして適切に処理することで健康を守ります。「小さな脳」は「大きな脳」と協力しながら粛々と役割を果たしますが、「小さい脳」だけでも多くの仕事をすることができます。腸と脳、安全に水と栄養素を取り込む働き、まさに命を守る砦だと思います。
東洋医学の脳(奇恒の腑)は骨、髄と共に腎が主っています。腎は先天の精、そして後天の精を受け入れ、発育・成熟および生殖という基本的な生命活動を担っています。そして、腎に納まる精が気に変化すると原気となり、丹田に集まり人体の基礎活力として働きます。
画像出展:「カイロが効果的な部位、ベスト3は?」(ウェザーニューズ)
『東洋医学や日本の武術などでエネルギーが集まる場所として重要視される丹田ですが、ここが弱ると免疫力も低下し、病気にもなりやすくなるとされています。もし丹田を触ってみて、冷えた感じがするとか、くぼんだ感じがする場合は要注意。自分の身を削って生命力を消耗しています』
今回のブログで「氣」について思ったことは、「腎に納まる精が変化した原気は丹田に集まっており、その丹田には小腸の募穴である“関元”がある」ということです。また、丹田の下には腸があり、その腸は「第二の脳」とされ、西洋医学においては、脳腸相関というという生命維持に関わる重要なメカニズムを持っているということです。
「脳(奇恒の腑)や髄を主る腎、腎に納まる精が変化した原気、その原気が集まっている丹田は東西医学の要所である」ということは、『氣は何だろう』を考えるうえで、外してはいけないポイントではないかと思いました。
第2章 心と腸のコミュニケーション
・人が怒り心頭になり、まさに怒りの表情に変わったとき、筋肉とともに消化器系に特徴的なパターンでシグナルを送り、消化器系はそれに対して強い反応を示す。胃は激しく収縮する。その収縮で胃酸の分泌が増大し、食事した物はなかなか胃から出ていかなくなる。同時に腸はねじれ、粘液や他の消化液を分泌する。不安や動揺でもパターンは異なるが類似の胃腸の反応が生じる。意気消沈した場合は、腸はほとんど動かなくなる。以上のように脳で生じるいかなる情動も、胃腸の活動に反映されることが知られている。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
『このように、感情と胃腸の動きには密接な関係があります。これは「脳腸相関」と呼ばれる現象の一部です。心身の健康を維持するためには、ストレス管理や感情のコントロールが重要であることがわかります。』
画像出展:「胃もたれの原因」(くすりと健康の情報局)
画像出展:「胃もたれの原因」(くすりと健康の情報局)
●嘔吐が止まらない男
・周期性嘔吐症候群に関し、UCLAの研究チームなどの数十年にわたる調査の結果に基づけば、周期性嘔吐症候群は脳内の過剰なストレス反応が、過度の内臓反応を引き起こしているというものである。意識的か無意識を問わず、このような脅威を検知した脳は、生存に関わる機能を調整する視床下部にシグナルを送り、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRF)を分泌する。
・CRFは限度を超えた場合、腸を含む身体のあらゆる組織や細胞がストレスモードに切り替わり、腸からのシグナルだけでなく様々な刺激に対しその人を鋭敏にする。激しい腹痛はそのためである。腸は収縮の回数を増やし、内容物を排泄しようとして下痢になる。一方、胃の働きは遅くなり、内容物を下ではなく上へと戻そうとする。
・ステーキを食べたときの反応は次の通りである。
ステーキの一片を咀嚼して嚥下する前から、胃には酸電池に匹敵するほどの酸性度の高い濃塩酸で満たされる。咀嚼されたステーキの断片が胃に達すると、胃は強力な研磨力を行使してステーキの断片を細かな粒子に粉砕する。その間、胆嚢と膵臓は脂肪分の消化を助ける胆汁や種々の消化酵素を注入することによって、小腸の仕事の準備を整える。細かく砕かれたステーキの破片を胃から受け取った小腸は、消化酵素と胆汁の働きで分解された栄養素を吸収し送り出す。消化の過程が進むと、腸壁の筋肉は蠕動運動と呼ばれる収縮運動を行い、食物を下方に押しやる。蠕動の圧力、範囲、方向は消化する食物によって異なる。例えば、脂肪や複合炭水化物の吸収には多くの時間をかけ、糖分を含む飲料の吸収にはあまり時間をかけない。それと同時に、腸壁の一部は、消化された食物を収縮の力で壁に向けて動かし、そこで栄養素を吸収する。大腸では強力な波状の収縮運動で内容物が前後に動かされ、水分の90%が吸収される。それから内容物は、さらなる強力な波状収縮で直腸に押し出されることで便意を感じる。
次の食事までには、腸のハウスキーピング(整理整頓)のために、それとは異なる波状の圧力(伝播性筋放電群)がかかる。つまり、胃で粉砕されなかった薬の不溶解残渣や丸呑みされたピーナッツなどの残留物がすべて排出される。この波状の動きは90分ごとに生じ、食道からはじまってゆっくりと直腸に向けて下りていく。そしてその圧力で、未消化の食物や有害な微生物が小腸から結腸へと掃き出される。蠕動反射とは異なり、この腸のハウスキーピング運動は、睡眠中など、基本的に消化管に消化すべき食物が残っていないときにのみ作用し、食物は口に入るとただちに停止する。
・腸は脳や脊髄の助けなしに、一連の作用を連動させているが、この消化の管理は概ね腸管神経系が担っている。なお、腸管神経系とは食道から直腸に至る消化管壁を取り巻く、5000万個の神経細胞からなるネットワークであり、「第二の脳」と呼ばれている。この「第二の脳(The Second Brain)」は本になっているが、著者は解剖学者で細胞生物学者でもあるマイケル・ガーション先生だが、腸のセロトニンシステム研究のパイオニアでもある。
・腸管神経系は自律的に作用するが、情動を司る脳の働きによって作用は滞る。食事中に口論が始まれば、胃の活動は停止し痙攣性の収縮が始まる。すると胃の内容物は正しく押し出されず胃に残る。内容物の滞留があると夜間の収縮運動が起こらず腸の浄化がなされない。
●銃創と内臓反応
・脳は様々なメカニズムを通じて、腸内でその種の運動プログラムを実行する。コルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモンを分泌し、腸管神経系に神経シグナルを送る。その際、脳は腸機能を促進するシグナル(迷走神経を含む副交感神経系によって伝達される)と、抑制するシグナル(交感神経系によって伝達される)という2つの神経シグナルを送る。この2つの神経系は腸管神経系の活動の調節、微調整、連携を行なって、その都度の情動の状態を反映する腸の活動を形成する。
・情動は腸内の各種腸細胞、腸管神経系の細胞、100兆個の微生物に様々な影響を与える。
●腸の情動反応をプログラミングする脳
・情動と消化管を含めた身体への影響のメカニズムには大脳辺縁系が深く関与している。
・大脳辺縁系は生命が脅かされるような状況に直面したとき、ただちに無数のメッセージを編成して身体中の組織や細胞に送り、それぞれの振る舞いを変える。胃に送るシグナルは活動に必要なエネルギーを浪費しないように、内容物の除去を命じる。心循環系は酸素の多い血液を腸から筋肉に回して消化を遅らせ、闘争(もしくは逃走)の準備を整える。
・進化は危険な状況に対処するための集合的な知恵、脅威に自動的に反応する神経回路やプログラムという形態で授けた。
・情動操作プログラムは、遺伝子に書き込まれている。この遺伝子コードは両親から受け渡される。
●腸がストレスを受けるとき
・情動操作プログラムはシグナル分子を用いる。例えば、鎮痛剤としても作用し、快活さをもたらすエンドルフィン、欲求や動機に働きかけるドーパミン、「愛情ホルモン」とも呼ばれ、信頼や魅惑の感覚を刺激するオキシトシン、ストレスのスイッチとして機能するCRF(副腎皮質刺激ホルモン放出因子)などが放出される。
・CRFは副腎で生成されるコルチゾールの分泌量を調節し健康維持の任務を遂行している。
・ひとたび情動操作プログラムが起動すると、その効果は数時間、ときには数年間持続する場合もある。思考、過去の出来事の記憶は脳腸相関の活動に影響を及ぼすことがあり、それは苦痛に満ちたものになる恐れもある。
●腸の鏡像
・怒り、悲しみ、不安などの情動が恒常的に生じる場合には、腸やそこに宿る微生物に有害な影響がおよんでいることを理解する必要がある。
第3章 脳に話しかける腸
●過敏な脳
・消化管で集められた感覚情報の90%以上は、意識にのぼらず刺激を無視することができる。しかしながら、腸管神経系はこれらの刺激を注意深く監視している。
・感覚系の複雑なメカニズムを通じて粛々と消化管の小さな脳に送られ、消化器系の機能を日夜最適なものに保つために必須の情報として利用される。内臓刺激の流れは脳にも達する。迷走神経を介して伝達されるシグナルの90%は消化管から脳へと流れ、逆方向には10%にすぎず、脳に頼ることなくほとんどの活動は維持できる。
・『消化管が発する、どの情報が重要なのだろうか? 実のところ、重要な情報は想像以上に多い。消化管が備える多数のセンサーは、最適な収縮パターンを形成するために必要となるあらゆる情報、具体的にいうと蠕動の圧力や方向を定め、消化対象の食物を胃腸内で送る速度を調節し、消化が適正に行われるよう酸や胆汁の分泌量を決定するために必要な情報を腸管神経系に伝達する。またそれは、胃に残存する食物の量、摂取した食物の量や密度、消化された食物の化学組成、さらにはマイクロバイオータの活動に関する情報を収集する。一連のセンサーは、緊急時には寄生虫、ウィルス、病原菌、病原菌の産生する毒素、さらには消化管の炎症反応を検知する。事実、急性の炎症は、通常の刺激やできごとに対し、多くのセンサーを過敏にする。センサーからの情報は消化管の機能を適正に保つのに必須だが、腸管神経系は意識にのぼる感覚を生み出さない。』
・24時間365日、消化管と腸管神経系と脳は、つねに連絡を取り合っている。このコミュニケーションネットワークは、私たちの健康や快適な暮らしに、想像よりもはるかに大事な仕事を担っていると考えられる。
●消化管で感じる
・消化管の内分泌細胞は非常に多く、きわめて効率的に神経系にシグナルを送り、健康維持に重要な役割を果たしている。内分泌細胞以外にも消化管を本拠地としている細胞には免疫系と免疫細胞が分泌するサイトカインと呼ばれる炎症分子からなる別系統のシステムがある。消化管の免疫細胞は小腸内のパイエル板の他、虫垂にも見られ、小腸、大腸の腸壁にも存在する。
・消化管を本拠地とする免疫細胞は、内部の空間とは薄い細胞層で隔てられているが、樹状細胞と呼ばれる細胞は、この薄い細胞層を貫いて伸び、腸内微生物や病原菌と相互作用をしている。樹状細胞が分泌するサイトカインは、消化管壁を越えて体循環に入り、やがて脳に達する。それとは別に、ホルモンを含む消化管の細胞が生成したシグナル分子は、迷走神経を介して脳に送られる。
・『消化管の精巧な感覚系は、人体における国家安全保障局とでもいえよう。食道、胃、腸など、消化器系に属するあらゆる組織から情報を収集し、大多数のシグナルは無視して、疑わしきものを検出したときや、非常事態が発せしたときに警報を鳴らすからだ。消化管は、人体でもっとも複雑な感覚器官の一つなのである。』
●消化管の気づき
・『消化管のデータ収集システムが送る報告は、消化管の小さな脳(腸管神経系)にも頭部の大きな脳にも、さまざまな必須情報を提供する。大小二つの脳はどちらも、飲食物を摂取するとこの必須情報の入手にいそしむが、おのおのは別々の情報に関心を寄せる。
小さな脳は、最適な消化反応を生むために、また、必要なら嘔吐もしくは下痢によって、消化管の両端から内容物を排泄して毒素を除去するために、消化管が発する情報―食物の摂取量、消化管に入った内容物(脂肪、タンパク質、炭水化物などの成分についてや、濃度、密度、粒子の大きさについて)など―を用いる。また、汚染した食物に含まれる毒素、細菌、ウィルスなど、有害な侵入者に関する情報も含まれる。小さな脳は、脂肪分をたっぷり含むデザートを食べたという情報を受け取ると、食物が胃から排出される速度や、腸を通過する速度を落とす。それに対し、低カロリーの食物を摂取したという情報を入手すると、腸で十分なカロリーを吸収できるよう、胃の内容物を排出する速度を上げる。また、有害な侵入者を検知した場合には、水分の分泌を促し、蠕動に方向を変えて胃の内容物を取り除き、食物が小腸と大腸を通過する速度を速めて有害物をすみやかに除去する。
一方、大きな脳は、全体的な健康に焦点を絞り、消化管から送られてくる種々の徴候を監視して、その情報を身体の他の部位から送られてくるさまざまなシグナルや、環境に関する情報と統合する。腸管神経系で生じている事象も監視するが、怒ったときの胃や結腸の激しい収縮、気が滅入ったときの消化活動の低下など、情動の影響も密接にチェックしている。つまり、脳は自分の作った芝居は消化管という舞台で上演される様子を監視しているのだ。また、ほぼまちがいなく、脳は、腸内に宿る兆単位の微生物が生み出す情報を受け取っている。この腸と脳のシグナル交換は、ここ数年のあいだに注目されだしたにすぎない。脳は消化管から送られてくるあらゆる感覚情報を常時監視しているが、日常業務は地方自治体、すなわち腸管神経系に委任している。大きな脳が直接関与するのは、本人が意図した場合か、脳の反応を必要とする重大な脅威にさらされたときに限られる。
こういったさまざまな感覚メカニズムを通して、消化管は1日中、起きていても眠っていても、身体の奥深くで生じるあらゆる事象に関する情報を、ミリ秒単位で脳に送っている。もちろん、中枢神経系にフィードバック情報を常時送っているのは、消化管だけではない。脳は、身体のあらゆる細胞や組織から常時感覚情報を受け取っている。たとえば、肺や横隔膜は呼吸をするたびに、心臓は鼓動するたびに脳に筋肉の動きに関するシグナルを送り、動脈壁は血圧に関する情報を、筋肉は筋緊張に関する情報を送っている。
持続的に送られてくる身体の状態に関する報告、つまり身体システムのバランスと機能を円滑に保つために脳が用いる情報を、科学者は「内受容性の」情報と呼ぶ。内受容性の情報はあらゆる細胞から送られてくるとはいえ、消化管やその感覚メカニズムが脳に送るメッセージは、その量、多様性、複雑性において抜きん出る。消化管の感覚ネットワークは表面全体に分布しており、その総面積は皮膚の200倍、いい換えるとバスケットボールのコートとほぼ同じ大きさになるという事実を考えてみるとよい。そしてこのバスケットボールコートには、選手の動き、加速、減速、跳躍、着地などに関する情報を集める。無数の小さなセンサーが備わっているのだ。しかも、消化管が発するシグナルには化学物質や栄養などに関する情報も含まれるので、このたとえは、内臓刺激としてコード化される膨大な量の一部を表わすにすぎない。』
●消化管と脳を結ぶ情報ハイウェイ
・脳への内臓刺激の伝達には、迷走神経がとりわけ重要な働きをする。消化管を構成する細胞や内臓刺激をコード化するレセプターの大多数は、迷走神経を介して脳と緊密に連絡している。また、マイクロバイオータが脳に向けて発するシグナルのほとんどはこの経路を通る。
●セロトニンの役割
・『セロトニンは、腸と脳のシグナル交換に用いられる究極の分子である。セロトニンを含む細胞は小さな脳と大きな脳の両方に密接に結びついている。腸を本拠地とするセロトニン・シグナルシステムは、食物、腸内微生物、薬の作用によって生じた反応を消化器系の活動、さらには感情に結びつけるのに重要な役割を果たす。その一方、腸の神経や脳に含まれる少量のセロトニンには、それとは別の大事な役目がある。セロトニンを含む腸内の神経は蠕動反射の調節に関与し、脳内の一群の神経細胞は、さまざまな脳領域にシグナルを送って、食欲、痛覚感受性、気分など、生存に必須の一連の機能に影響を及ぼす。』
・腸では脳の感情をコントロールする中枢に直に結合する迷走神経の経路の近くに、膨大なセロトニンが蓄えられている。
●情報としての食物
・感覚レセプターが消化管壁に沿って広範かつ濃密に存在していることを考えると、消化管は消化に関する複雑なプロセスによって、また、そこに宿る100兆個の微生物が生み出す膨大な量の情報を常時脳に送っていることが分かる。つまり脳腸相関は、大量の情報収集、蓄積、分析、それへの反応という機能を考えれば、消化管は真のスーパーコンピューターである。細胞の数という点では脳をはるかにしのぎ、能力という点でも脳のいくつかの機能に匹敵する。
・体内に取り込まれた食物と感情の結びつきには、腸内微生物が注目すべき役割を担っている。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
セロトニンと迷走神経の関係について質問したところ以下のような回答でした。
『セロトニンは迷走神経の近くに多く存在し、両者は密接に相互作用していると言えます。この関係は、消化器系の機能、気分の調節、ストレス応答など、様々な生理的プロセスに重要な役割を果たしています。』
第4章 微生物の言語
●腸と脳のコミュニケーションを媒介する微生物
・腸は熱、冷たさ、痛み、張力、酸性度、含有栄養素に関する情報を監視している。腸の表面は大規模かつ高度な感覚系とみなせる。そこで発せられた内臓刺激は、ホルモン、免疫系のシグナル分子、そして迷走神経をはじめとする感覚神経の活動を通じて、小さな脳(腸管神経系)と大きな脳に伝えられる。
・『情動によって引き起こされる内臓反応は、ねじれや痙攣に限らず、無数の内臓刺激を引き起こす。内臓刺激は脳に送り返され、そこでそれをもとに内臓感覚が生じたり調節されたりし、また、その経験が情動的な記憶として蓄えられる。さらには、世界中の科学者が驚いたことに、内臓反応と内臓刺激の相互作用の統合に腸内微生物が大事な役割を果たしていることが、最近になってわかってきた。現在では、この目に見えない生命のかたまりが、ホルモン、神経伝達物質、あるいは代謝物質と呼ばれる無数の小さな化合物からなる種々のシグナルを介して、常時脳と連絡を取り合っていることが理解されるようになった。このような代謝物質は、微生物の特異な食習慣によって生成される。つまり微生物が、消化されなかった食物の残滓や、肝臓から消化管に分泌された胆汁酸、あるいは腸を覆う粘液を食べることによって生み出されるのだ。事実マイクロバイオータは、高度な生物化学言語―今後は「微生物語」と呼ぶことにする―を用いて脳と長い対話を行なっている。』
●微生物物語の夜明け
・『複雑な動物が進化すると、原始的な神経系は、消化器系外の精巧なネットワークとして発達しはじめる。このネットワークは腸管神経系と密接な関係にあるとはいえ分離しており、シグナル交換のメカニズムのほとんどを備えていた。新たに進化した精巧な神経ネットワークは、やがて中枢神経系へと発展し、頭蓋骨の内部に司令部を置くようになる。
中枢神経系は、元来はもっぱら腸管神経系が処理していた。状況に応じて他の動物に近づく、危険な動物を回避するなどといった外界に対する行動の管理を、徐々に受け持つようになっていった。やがて行動管理機能は情動を司る脳領域に移管され、腸管神経系は、基本的な消化機能だけを担当するようになる。この分業は、私たちの脳腸相関でも維持されている。』
●微生物語と体内インターネット
・腸と脳のコミュニケーションは、特定の分子が炎症シグナルとして脳と連絡を取る方式、ホルモンのように血流を伝わる方式、神経シグナルの形態で脳に達する方式など、伝送方式が異なるいくつかの並列的な「伝送経路」に沿って生じる。
・腸内微生物は多様でその数も多い。腸内微生物は、人体には消化不能な物質の消化が可能で、その活動を通して数十万種類の代謝物質が産生される。
・微生物が産生した代謝物質の多くは血流に入り、そこで循環するあらゆる分子のほぼ40%を占める。その多くは神経刺激性の物質と考えられており、神経系と交換し合うことができる。このような代謝物質には、大腸で吸収されて血流に入るものもある。このように血液循環に乗った代謝物質は、ホルモン同様、脳を含む様々な身体組織に達する。
・微生物の代謝物質が脳にシグナルを伝えるもう一つの重要な方法は、腸壁に存在するセロトニンを含む腸クロム親和性細胞を介したものである。
下の図は“氣とは何だろう4(東洋医学概論編)”で使ったイラストです。腎精は原気となり臍下丹田に集まります。頭蓋にある奇恒の腑(脳)も腎が主っています。一方、臍下丹田には関元という小腸経の募穴(気が集まるツボ)があり、西洋医学では皮下には腸があります。つまり、このイラストは西洋医学では脳腸相関を連想させます。
画像出展:「内部錬金術の主な段階」(こちらはフランスの「ル・スフレ・デュ・メンヒル」協会というサイトのようです)
※東洋医学の脳(奇恒の腑)は骨、髄と共に腎が主っています。腎は先天の精、そして後天の精を受け入れ、発育・成熟および生殖という基本的な生命活動を担っています。そして、腎に納まる精が気に変化すると原気となり、臍下丹田に集まり人体の基礎活力として働きます。
画像出展:「ブレインフォグの原因「腸内細菌の乱れ」(国立消化器・内視鏡クリニック)
『脳腸相関とは、脳とおなか(腸)で両方向におこなう情報伝達のやり取りと相互に影響を及ぼしあう関係のことです。不安やストレスを感じると急な腹痛や下痢、おなかが張ってグルグルと鳴るような経験をしたことはありませんか?これは、脳から腸に向けた情報伝達の信号からくる影響のひとつです。対して今までよくわかっていなかった腸から脳に向けた影響についても、近年の研究で明らかになってきました』
「腸は第ニの脳」とされ、脳腸相関は西洋医学においても注目されています。
以下は、“氣とは何だろう4(東洋医学概論編)”のまとめです。
1.施術において、“氣”とは“気の類”、精・気・神の三宝であると考えたい。(現時点では)
2.狭義の気に関しては先天の精と後天の精から派生する臍下丹田にある“原気”を重視したい。
3.『氣とは何だろう』を考えていくうえで、東洋医学の脳(奇恒の腑)・神気(五神)と西洋医学の脳(大脳・中脳・間脳・脳幹・小脳)に注目したい。
以上のことから、脳腸相関を理解することは重要であると考えました。
目次
第1部 身体というスーパーコンピューター
第1章 リアルな心身の結びつき
●機械モデルの代価
●一般的な健康状態の劣化
●スーパーコンピューターとしての消化器系
●マイクロバイオームの夜明け
●「脳-腸-マイクロバイオータ」相関のバランスの崩れ
●細菌の役割
●あなた=食べ物―ただし腸内微生物も含む場合に限る
●健康と新たな科学
第2章 心と腸のコミュニケーション
●嘔吐が止まらない男
●腸内の小さな脳
●銃創と内臓反応
●腸の情動反応をプログラミングする脳
●腸がストレスを受けるとき
●腸の鏡像
第3章 脳に話しかける腸
●過敏な脳
●消化管で感じる
●消化管の気づき
●消化管と脳を結ぶ情報ハイウェイ
●セロトニンの役割
●情報としての食物
第4章 微生物の言語
●幼少期における浣腸の負の効果
●腸に対する嫌疑
●腸と脳のコミュニケーションを媒介する微生物
●微生物物語の夜明け
●太占の契約
●微生物語と体内インターネット
●体内における無数の会話
第2部 直感と内臓感覚
第5章 不健康な記憶
●ストレスによるプログラミング
●幼少期のストレスと過敏な腸
●親から子に伝わるストレス
●[コラム:あなたの子どもは、脳腸相関にストレスを受けているか?]
●ストレス下のマイクロバイオーム
●子宮内のストレス
●健康なスタートに必要な微生物
●生存のための適応
●脳腸相関の障害に対処する新たなセラピー
第6章 情動の新たな理解
●腸内微生物が脳を変える?
●マイクロバイオータは人体のザナックス工場か?
●うつとマイクロバイオータ
●ストレスの役割
●ポジティブな情動
●情動が腸内微生物にもたらすその他の影響
●腸内微生物が人間の行動を変える?
●新たな情動理論の構築に向けて
第7章 直感的な判断
●個人差
●初期の情動の発達
●人間の脳の独自性
●[コラム:動物には内臓感覚があるか]
●自分独自のグーグルを構築する
●[コラム:女性の直感]
●内臓感覚に基づく判断はつねに正しい?
●[コラム:私たちが判断を下すとき]
●夢を通じて内臓感覚にアクセスする
●結論
第3部 脳腸相関の健康のために
第8章 食の役割
●ヤノマミ族の食事レッスン
●アメリカ的日常食は腸内微生物に有害か?
●すべてはどこではじまるか
●腸と脳の会話と食事の役割
●食習慣とマイクロバイオータ
●食習慣はいかに腸と脳の会話を変えるか?
第9章 猛威を振るうアメリカ的日常食
●すばらしい新食品
●動物性脂肪の多い食事が脳を損なう
●腸内微生物が食欲をコントロールする
●気晴らし食品の誘惑
●食物依存症―欲望と高脂肪食
●工業型農業と腸と脳
●アメリカ的日常食と腸内微生物
●アメリカ的日常食と脳の慢性疾患
●地中海式食事法の再発見
第10章 健康を取り戻すために
●最適な健康とは何か
●健康なマイクロバイオームとは何か
●いつ最適な健康に投資すべきか
●マイクロバイオームの改善による健康増進の指針
●内臓感覚に耳を澄ます
●脳とマイクロバイオータをフィットさせる
謝辞
日本の読者へのあとがき
訳者あとがき
第1部 身体というスーパーコンピューター
第1章 リアルな心身の結びつき
・腸と腸内微生物、そして腸内微生物の産生するシグナル分子が、調節メカニズムの重要な構成要素をなしている。
・微生物の集合を遺伝子の観点から表わす場合をマイクロバイオームとよび、個体の観点から表わす場合をマイクロバイオータと呼ぶ。
・本書は、腸、腸内微生物、脳の3者の結びつきと健康維持に関する脳と腸のつながりの重要性について書いている。
・あらゆる検査をしても原因不明だった患者さんは、腹部、骨盤、胸部などに慢性疼痛を抱えていた。これは、当時の医療では、ストレスや心理状態の問題が明らかであっても、脳や脳が身体に送る特異なシグナルの役割は無視されてきたことである。
●スーパーコンピューターとしての消化器系
・『最近の研究によれば、腸は、そこに宿る微生物との密接な相互作用を通して、基本的な情動、痛覚感受性、社会的な振る舞いに影響を及ぼし、意思決定さえ導く。』
・腸と心の結びつきは心理学者だけが関心をもつべき類のものではない。この結びつきは、脳と腸の解剖学的な結合という形態で固定配線されており、さらには血流を介して伝達される生物学的なシグナルにも支えられている。
・腸は「第二の脳」と呼ばれるが、腸は脊髄に匹敵する5000万から1億個の神経細胞で構成されている。
・腸内の免疫細胞は血中や骨髄の免疫細胞より多く存在している。食物によって無数の細菌にさらされている腸は免疫細胞にとって主戦場である。さらに、兆単位の腸内細菌が広がるマイクロバイオータと協力して細菌を排除している。
・腸壁は無数の内分泌細胞で埋まっている。内分泌細胞は必要なときに血流に放出される20種類ほどのホルモンを含む特殊な細胞である。腸壁の内分泌細胞をすべて一つにまとめると、生殖腺、甲状腺、脳下垂体、副腎など、腸壁以外の内分泌系組織を合わせたものより大きくなる。
・体内のセロトニンの95%は腸に貯蔵され、脳腸相関で非常に重要な役割を果たすシグナル分子である。その働きは消化器系内で食物を動かす連携した収縮などの機能ばかりでなく、睡眠、食欲、痛覚感受性、気分、全般的な健康に関しても必須の役割を担う。
・『腸の機能が食物を消化することだけなら、なぜそのような組織に、無数の特殊な細胞や信号システムが組み込まれているのだろうか? 一つの答えは、現在のところほとんど知られていないが、私たちの身体のなかで最大の表面積を有する巨大な感覚器官としての、腸の必須の機能に見出せる。人間の腸は、平らに延ばせばバスケットボールコートほどの広さになり、食物に含まれる大量の情報を、シグナル分子の形態でコード化する無数の小さなセンサーで覆われている。それによって甘さから苦さ、熱さから冷たさ、スパイスの刺激から鎮痛効果までを検知するのである。
腸は脳と、神経の太いケーブルによって両方向に、また血流による連絡経路を介して結合している。腸で生成されたホルモンや炎症性のシグナル分子は脳に伝達され、また、脳で生成されたホルモンは、平滑筋、神経、免疫細胞などの腸内のさまざまな細胞に送られてその機能を変える。脳に達する腸からのシグナルの多くは、満腹感、吐き気、不快感、満足感などを喚起する「内臓刺激」(内臓[おもに腸]から脳に送られる刺激を指す)を生むばかりでなく、腸に向けられた脳の応答を引き起こし、それが際立った「内臓反応」(腸から脳への反応ではなく、内臓刺激を受けて引き起こされる腸に対する脳の反応)を引き起こす。脳は、これらの感覚を忘れたりはしない。「内臓感覚」(内臓刺激が脳で処理されたあとで生じる状態をいう)は脳の巨大なデータベースに蓄えられ、何らかの判断を下す際に参照される。そしてそれは、「何を食べるか」「何を飲むか」のみならず、「どんな人とつき合うか」、あるいは「仕事で、リーダーとして、陪審員として、いかなる判断を下すか」をも左右しうる。
中国哲学における陰と陽の概念は、相反する二つの力が実際には補完的であり、相互に密接に結びついていること、また、相互作用を介して統一体を形成することを強調する。この考えを脳腸相関に適用すると、内臓感覚を陰、内臓反応を陽としてとらえればよい。陰と陽が、同一の実体に属する二つの補完的な原理であるのと同じように、内臓感覚と内臓反応という腸と脳の結びつきは、健康の維持、情動の喚起、直感的判断に不可欠な、脳腸双方向ネットワークの二つの異なる側面を表わしている。』
●マイクロバイオームの夜明け
・脳腸相関の概念が脚光を浴びるようになったのは最近である。これは腸内に生息する細菌、古細菌、菌類、ウィルス(合わせてマイクロバイオータと呼ぶ)に関するデータや知識が、爆発的に増えたことによって起こった。
・マイクロバイオータの存在は300年程前、オランダの科学者アントニ・ファン・レーウェンフックが製作した顕微鏡によって発見された。
・2016年5月13日、バラク・オバマ大統領はマイクロバイオームイニシアティブを立ち上げた。
画像出展:「AI(Perplexity)が作成」
ご参考:「微生物叢を研究する1億2千万ドル規模のマイクロバイオームイニシアチブに着手:米国」(エディテージ・インサイト)
・マイクロバイオータは腸が処理できない食物成分の消化の支援、身体による代謝の統制、食物とともに体内に取り込まれた有害な化学物質の処理や解毒、免疫の訓練や統制、病原菌の侵入や増殖の防止などのはたらきがある。
・マイクロバイオームの異変や攪乱は、炎症性腸疾患、抗生物質の投与に起因する下痢、喘息などのさまざまな疾病を招き、自閉症スペクトラム、さらにはパーキンソン病などの神経変性疾患に結びつく可能性もある。
・大腸には人体で最大の微生物の個体群が宿る。ほとんど酸素が存在しない腸内には、100兆個を超える微生物が生息している。
・マイクロバイオータは人によって大きく異なる。腸内に宿る微生物の種類は、遺伝子、母親から受け継いだマイクロバイオータ、家族が宿す微生物、食習慣、脳の活動、心の状態などの要因によって変わる。
●細菌の役割
・最新科学では、腸と腸内微生物と脳が、共通の生物言語を用いて対話していることを明らかにしつつある。
・微生物は腸の免疫細胞や内臓刺激をコード化する無数の感覚受容体と密接に関連し合っている。言い換えると、身体の主要な情報収集システムと密に連絡している。このため、微生物はストレスの度合いや脳から送られてくる満足、不安、怒りなどの情動を表わすシグナルを知ることができる。さらに驚くべきことに腸内微生物は脳に送り返すシグナルによって情動に影響を及ぼす。
・情動は腸や微生物が生成するシグナルに影響を及ぼし、そして脳に送り返され、そこで情動を強めたり、長引かせたりする。
『10年ほど前にこのトピックスに関する論文(研究のほとんどは動物を対象にしたものだった)が科学雑誌に掲載されはじめたとき、私はそこに報告されている結果や意義に疑問を感じた。従来の医学の見方と、あまりにもかけ離れていたからだ。しかし、私が属していた、キルステン・ティリッシュ率いるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究グループが健常者を対象に研究を行ない、すでに報告されていた動物実験の正しさを再確認したとき、私は、マイクロバイオータと脳の相互作用が情動や社会的行動、さらに判断力にいかなる影響を及ぼすのかを徹底的に調査することを決意した。』
・うつ病ではセロトニン再取り込み阻害薬により、セロトニン・シグナルシステムの活動を促進する。医学界では脳にしかないと思われていたセロトニンは、今では、95%が腸内の特殊細胞に含有されていることが分かっている。そして、この特殊な細胞は、食べた物によって、また、ある種の腸内微生物が生成する化学物質によって、さらには情動状態を伝達する脳からのシグナルを受け取ることによって影響を受ける。また、注目すべきことに、セロトニンを含む腸内の特殊細胞は、脳の情動中枢に向けて直接シグナルを送り返す感覚神経と緊密に結びついており、脳腸相関の重要な構成要素をなす。
●健康と新たな科学
・『腸と脳のコミュニケーションに関する新たな科学は、最近になって科学界やメディアでもっとも注目されるようになった分野の一つである。「外向的な」マウスから取り出した、マイクロバイオータを含む糞を移植するだけで、「臆病な」レシピエントマウスが、社交的なドナーマウスに似た振る舞いを示すようになるなどと誰が考えていただろうか? あるいは、貪欲で肥満したマウスの便を微生物とともに移植すると、やせたマウスがエサを食べ過ぎるようになることを示した類似の実験や、プロバイオティクスの豊富なヨーグルトを四週間食べ続けた健康な女性の脳が、負の情動を喚起する刺激に以前より反応しなくなることを示した実験についてはどうか?
マイクロバイオータと脳が構成する統合システム、およびこのシステムと食物の密接な関係に関する新たな知見は、腸、マイクロバイオータ、脳、心が、いかに相互作用を及ぼしあっているのかを教えてくれる。』
・この新しい知見は、現行の医療システムの見直しを迫るものである。身体を個々の部品からなる機械と見なす、時代遅れにもかかわらず蔓延している見方を捨て去り、多様性を武器に、安定性や攪乱に対する抵抗力を築き上げていく、緊密な生態系として身体をとらえる見方を採択するよう要請する。
・個々の細胞や微生物に宣戦布告するようなやり方ではなく、複雑な生態系の持つ生物多様性の維持を支援する友好的なレンジャー隊員として、マイクロバイオームをとらえる視点を獲得すべきである。この視点は今後、腸と自己の健康、さらには病気からの回復力を保つのに不可欠なものになると思われる。
第4章 文明をつくったニューロン
●『ミラーニューロンがIPL[下頭頂小葉]近辺全体に豊富に存在するのは偶然ではない。人間の脳において、この領域が不釣り合いに大きく、分化しているという事実は、進化の飛躍を示唆している。』
●『念のために一つ但し書きをしておきたい。私はミラーニューロンが大躍進や文化全般の十分条件だと言っているのではない。ミラーニューロンが不可欠に重要な役割をはたしたと言っているにすぎない。発見が広まるには、まずだれかが何かを発見もしくは考案しなくてはならない―たとえば、二つの石が打ちあわされると火花がでることに気づくといったことがなくてはならない。私が論じているのは、もしそうした偶然の革新をたまたま初期ホミニン[霊長目ヒト科ヒト亜科を構成するヒト族の総称]のだれかが思いついたとしても、精緻化されたミラーニューロン・システムがなかったら、線香花火のように消えてしまっただろうということだ。つまるところ、ミラーニューロンはサルにもあるが、彼らは輝かしい文化のにない手ではない。それは彼ら[ホミニン]のミラーニューロン・システムが、急速な文化の伝達を可能にするほど十分に発達していないか、あるいはほかの脳構造との適切な結びつきを欠いているためである。伝播のメカニズムがいったん備わると、それは母集団の外れ値をより革新的にするような選択圧としてはたらいたであろう。革新は急速に広まってこそ価値があるからだ。』
第5章 スティーブンはどこに? 自閉症の謎
●ミラーニューロンは本質的に、心を読み取る細胞のネットワークである。
●『ミラーニューロン仮説は、自閉症に見られる言語障害についても洞察をあたえてくれる。赤ちゃんが耳にした音や言葉を最初にくり返すとき、ミラーニューロンがそれにかかわっているのはほぼまちがいがない。それには内部の翻訳―音のパターンを、対応する運動のパターンのうえにマッピングすること、およびその逆のマッピング―が必要と思われる。そのようなシステムが設定されうる道筋は二通り考えられる。一つは、言葉が聞こえたらすぐに、その音素の記憶痕跡が聴覚皮質のなかにつくられるという可能性である。赤ちゃんはそれから、さまざまな発生をランダムに試み、記憶痕跡からの誤差フィードバックを使いながら、その出力(発声)を徐々に微調整し、記憶と一致させていく(私たちはみな、聴いたばかりの曲を心のなかでまずハミングし、次に声を出して歌いながら、その出力を徐々に微調整して心のなかのハミングと一致させていくときに、この方式をとっている)。
二つめとして考えられるのは、聞いた音を話し言葉に移し変える翻訳のネットワークが、自然選択を通して生まれつき規定されているという可能性である。いずれの場合も、結果的には、私たちがミラーニューロンのものとして想定しているようなたぐいの属性をそなえたニューロンのシステムが設定されることになる。もし赤ちゃんが、フィードバックの機会もフィードバックに要する時間的遅延もなしに、初めて耳にしたばかりの一群の音楽をくり返すことができたら、生まれつき組み込まれた翻訳のメカニズムがあるという考えが支持される。このように、ユニークな翻訳のメカニズムが設定されうる道筋は一通りではないが、それがどんなメカニズムであれ、私たちが得た所見は、自閉症に見られる基本的な障害の原因は、最初の設定の欠陥にあるのではないかという可能性を示唆している。そして、ミュー波[脳波の一種、運動皮質の機能と関連している]の抑制についての私たちの実験結果は、それを支持すると同時に、(ミラーニューロンの機能不全という)単一の説明で、たがいに関連がなさそうにみえる数々の症状を一挙に説明することを可能にする。』
画像出展:「自閉症の人は模倣が苦手?-ミラー・ニューロンと自閉症-(国立特別支援教育総合研究所)」
マカク・ザルで発見されたミラー・ニューロン
『前頭葉のF5野にあるミラー・ニューロンは、バナナを自分が掴む時と、他者が掴むのを観察する時の両者で活動する。 ~中略~ 自閉症のある人たちは「模倣」が苦手で、他者の動作・行動の理解や社会性の学習に困難があります。このことから、自閉症の人たちの脳ではミラー・ニューロンの機能が障害されているのではないか、そしてそのことが自閉症の発症原因の1つではないか、と推測されるようになりました。』
画像出展:「自閉症スペクトラム障害でミラーニューロン回路の不全(京都大学)」
『定型発達群において、動画表情を見ているときには視覚野の上側頭溝(表情の視覚分析に関わることが分かっています)と下前頭回の間の機能的結合が強くなることが分かりました。この神経回路によって私たちは、表情の視覚分析の結果に基づいて表情を模倣したり、自分の表情運動の情報を使って他者の感情を読み取ったりしていると考えられます。これに対し、自閉症スペクトラム障害群では、上側頭溝と下前頭回の間の結合が弱く、動画表情処理の回路がうまく機能していないことが示されました。』
画像出展:「自閉スペクトラム症(ASD)とは? ミラーニューロンの解説および、接するときに考えるべきこと(Lab BRAINS)」
『身体の特徴 - 逆手バイバイ:例えば、身体を動かすことでコミュニケーションを取る場合があります。自閉スペクトラム症児の特徴的な動きに「逆手バイバイ」と呼ばれるものがあります。1歳に満たない赤ちゃんでもバイバイと手を振った時に鏡に写したような模倣の仕方ができますが、ミラーニューロンが不足していて模倣する力が弱いと、鏡に写したような模倣の仕方ができません。』
●『ミラーニューロン・システムはそもそも、他者の行動や意図の内部モデルをつくるために進化したのであるが、人間においては、そこからさらに進化して内面に向かい、自分自身の心を自分の心に表象(もしくは再表象)するようになったのかもしれない。心の理論は、友人やあかの他人や敵対者の心のなかを直観でとらえるのに有用であるが、それだけではなく、ホモ・サピエンスにかぎっては、心の理論によって、自分自身の心の動きをとらえる洞察力も飛躍的に向上したのではないだろうか。それはおそらく、私たち人間がほんの何十万年か前に経験した心の相転移の時期に起き、それが本格的な自己認識のはじまりとなったのだろう。もしミラーニューロン・システムが心の理論の基盤であり、正常な人間の心の理論が、内面の自己に向けて応用されるというかたちでパワーアップされているのだとしたら、自閉症の人たちが対人的相互交流や確固とした自己同定をひどく苦手とする理由や、会話のなかで一人称(「私」)や二人称(「あなた」)を正しく使えない自閉症児が多数いる理由の説明がつきそうである。人称代名詞を正しく使えない子どもたちは、十分に成熟した心の自己表象が欠けているために、自他の区別を理解するのがむずかしいのかもしれない。』
●『このあたりで、三点ほど但し書きを補足しておきたい。第一に、ミラーニューロン様の属性をそなえた小さな細胞群は、脳の多数の部位で発見されており、それらは実際には大きな回路―いわば「ミラーネットワーク」―の一部と考えるべきである。第二に、先にも述べたように、脳に関する不可解な面をすべてミラーニューロンのせいにしないように気をつけなくてはならない。なにからなにまでミラーニューロンがおこなっているわけではない! とはいえミラーニューロンは、私たち類人猿から脱却するのに重要な役割をはたしたようであるし、当初の「猿まね」の概念をはるかにこえるさまざまな心的機能の研究にも次々と登場している。第三に、ある種の認知能力をある種のニューロン(この場合はミラーニューロン)や脳流域に帰属させるのは、出発点にすぎない―そのニューロンがその計算をどのように実行しているかを解明するまでは、話は終わらない。』
●『自閉症の治療はまだ非常に難しいが、ミラーニューロンの機能不全の発見によって、いくつかの新しいアプローチへの道が開かれる。たとえばミュー波の抑制の欠如は、この障害の早期発見を目的とするスクリーニングに欠かせない診断ツールになるだろう。早期発見ができれば、現在おこなわれている行動療法を、顕著な症状があらわれるずっと前に開始できる。残念なことに現状では、生後二年目か三年目になってあらわれだす顕著な症状が親や医師に警告をあたえるケースが大多数を占めているが自閉症をとらえるのは早ければ早いほどいい。
二つ目の可能性として考えられるのは、バイオフィードバックを利用した自閉症の治療である。バイオフィードバックの目的は、被験者の身体や脳から出る生理学的な信号を機器でとらえて、わかりやすいかたちで表示し、本人に見せることによって、自分がどのような状態のときに数値が上がるか、あるいは下がるかを被験者に経験させ、それを意識的にコントロールする方法を身につけてもらうことにある。たとえば心拍数を画面上のドットの上下とビープ音で表示するタイプの機器を用いて練習すると、ほとんどの人は自分の意志で心拍数を下げられるようになる。脳波もフィードバックに利用できる。たとえばスタンフォード大学のシェーン・マッキー教授は、慢性疼痛の患者を脳画像診断装置のなかに入れ、炎のCG動画を見せた。炎の大きさはそのときどきの患者の前部帯状回(痛みの知覚に関与する皮質領域の一つ)の神経活動性をあらわし、したがってその患者が感じている主観的な痛みの量に比例するように設定されていた。ほとんどの患者は、炎に集中することによって、ある程度までその大きさをコントロールして小さく保つことができるようになり、したがって痛みの量を軽減することができた。これと同様に、自閉症児のミュー波をモニターしたものを、本人の目の前の画面に表示し(思考でコントロールする単純なゲームのようにみせかけて)、ミュー波を抑制する方法を身につけることができるかどうか試してみることは可能だ。ミラーニューロンの機能が、完全に欠如しているわけではなく、鈍い状態や不活発な状態にあるだけなら、このような訓練によって他者の意図を見抜く能力を向上させ、その子をとりまく目に見えない社会的な世界への参加にむけて、一歩前進させることができるかもしれない。
画像出展:「ニューロフィードバックとは(べスリTMS横浜醫院)」
『特に欧米においてニューロフィードバックの技術や治療は進んでおり、適応範囲は、ADD/ADHD、自閉症、うつ病、てんかんと多岐にわたっています。』
※ご参考:「心療内科における バイオフィードバック」
●『ミラーニューロン仮説は、自閉症の決定的な特徴―共感、ごっこ遊び、模倣、心の理論の欠如―をなかなかうまく説明づける。しかしまだ完璧ではない。自閉症によく見られるその他の症状のなかに、ミラーニューロンとあきらかに関係ないものがあるからだ。たとえば、体を前後に揺らす、目線があうのを避ける、一定の音に対して過敏や嫌悪を示し、ときにはその過敏さを緩和するためと思われる自己刺激行動をする(自分をたたく場合さえある)、などである。このような症状はかなりよく見られるので、自閉症を全面的に説明するのであれば、これらについての説明づけも必要である。おそらく自分をたたく行動は、身体の突出性を高めるためで、それによって自己の固定と存在の再確認を助けているのではないかと考えられる。』
『脳に関しては1世紀前に古典物理学をひっくり返した概念の革命と同じくらいに衝撃的である』
この古典物理学をひっくり返したというのは、量子論・量子力学のことであり、それに匹敵するくらいの衝撃が脳には隠されているという意味だと思います。そして、その衝撃の一部がミラーニューロンということだと思います。そこで、ミラーニューロンに関して思ったことや疑問をAI(Perplexity)に質問してみました。
1.ミラーニューロンの発見
2.ミラーニューロンが存在する場所
画像出展:「ウィキペディア:ブロードマンの脳地図」
『細胞構築の特徴はそこで行われている神経細胞の情報処理特性と関係していると考えられており、このことから脳機能局在論では領野を示すのにこの区分がよく用いられる。』
3.ミラーニューロンとシグナル
本書には、“「気」はシグナルか”という章があります。
人間の体から放射される遠赤外線のエネルギーは赤外線ストーブの1000万分の1に過ぎず、相手に影響を与えることはできません。そこで考えられるのが、ラジオやテレビの電波のように、人体から放射される遠赤外線にシグナル(情報)を乗せて相手に送っているのではないかという考えです。つまり、このシグナルが相手の脳に伝わって、「気」を受けた人にも気功師と同様の変化が現われるのではないか。そして、実験により気功師の気功中に放射する遠赤外線に1ヘルツ前後のシグナルが乗っていることが確認できたとのことです。
ミラーニューロンとシグナルについて興味をもったのは上記が理由です。
画像出展:「AI(Perplexity)が作成」
ミラーニューロンは視覚、聴覚、運動などの感覚モダリティ(それぞれの感覚器で感知する固有の経験の種類)にわたるシグナルの統合と理解を促進すると考えられています。
4.脳磁法
1)環境磁場と生体磁場の強度
2)軸方向型グラジオメーターで計測した、聴覚刺激により惹起された脳磁場分布
感想
ヒトの脳からは磁場信号が出ています。遠赤外線は電磁波です。電磁波とは電磁場の変動が波動として空間中に伝播したものです。気功師が発する遠赤外線(電磁波)、そしてそれに乗っているのではないかとされる“シグナル”、そこにミラーニューロンが関与しているのかどうかは分かりませんが、冒頭でご紹介した3つの“氣”との類似点、「他者との共鳴」、「身体と心の連携」、「エネルギーの伝達」から、“氣”と“ミラーニューロン”の関係性を考えることは不自然なことではないと思います。
最後に、「ミラーニューロンから何か分泌しているということはないですか?」と質問してみました。
答えは「No」でしたが、ミラーニューロンは神経細胞として定義されており、神経細胞は一般的に神経伝達物質を放出しているため、ミラーニューロンからは何も放出されていないと断言することはできないとのことでした。
今回の本は、“ミラーニューロン”について知りたいと思って見つけたものです。ラマチャンドラン先生の研究におけるアプローチ法は、脳のさまざまな部位の損傷や遺伝的変異によって、心や行動に奇妙な影響が生じている患者さんを研究するというものです。そのお話は驚くような事例ばかりでした。また、非常に高度な内容で私には部分的にしか理解することはできませんでした。
そのため、ブログのほとんどはミラーニューロンに関わる部分を取り上げています。その中には自閉症の原因とミラーニューロンに関するものもあります。
私は昔、訪問による鍼治療やマッサージの仕事をしていましたが、患者さんには高齢者の方以外に、小児障害や自閉症のお子さんもいました。ミラーニューロンには他者の行動、意図を理解し共感を形成するという働きがあります。「自ら閉ざす」、少なくともその原因の一つにミラーニューロンがあると仮定することについて違和感はありませんでした。
「氣」との関係についていえば、AI(Perplexity Pro)の回答を見ると、「他者との共鳴」、「身体と心の連携」、「エネルギーの伝達」の3つが「氣」との類似点とされています。
目次
序
はじめに―ただの類人猿ではない
第1章 幻視と可塑的な脳
第2章 見ることと知ること
第3章 うるさい色とホットな娘―共感覚
第4章 文明をつくったニューロン
第5章 スティーブンはどこに? 自閉症の謎
第6章 片言の力―言語の進化
第7章 美と脳―美的感性の誕生
第8章 アートフル・ブレイン―普遍的法則
第9章 魂をもつ類人猿―内観はどのようにして進化したのか
エピローグ
謝辞
序
●『私は過去四半世紀、認知神経学という新興の分野で仕事をするすばらしい恩恵に浴してきた。ライフワークの大きな部分を占めているのは、脳と心と体の謎めいた結びつきを解きほぐす―とらえにくい糸を一本ずつほぐしていく―ことであり、本書はその抜粋である。これからはじまる各章で、だれにとっても興味のある、私たちの内部の精神生活がもつさまざまな面を探った私の研究内容をくわしくお話しする。私たちは世界をどのように知覚しているのか。いわゆる心身相関(心と体の関係性)とはどんなものなのか。何が性のアイデンティティを決定するのか。意識とは何か。自閉症の問題はどこにあるのか。多数の謎に満ちた真に人間的な能力、すなわち芸術、言語、メタファー[隠喩]、創造性、自己認識、それに宗教的感受性までを、どのように説明できるのか。私は科学者として、いったいどうして類人猿の脳が、そのような神のごとき心的能力の数々を進化させることができたのかを知りたいという、強い好奇心に動かされている。
そのような問題に取り組むために私がとっているアプローチ法は、脳のさまざまな部位の損傷や遺伝的変異によって、心や行動に奇妙な影響が生じている患者を研究するという方法である。私は長年にわたって、きわめて多様かつ奇妙な神経科領域の障害に悩まされている大勢の患者(一部にはそれを恩恵と感じる人たちもいるが)に接してきた。たとえば楽音が目に「見える」、あるいは手に触れたあらゆるものの質感を「味」として感じるという人たち。自分の体を離れて、天井近くからそれを見下ろす体験をする患者。本書には、私がそうした症例から学んだことを書いた。そのような障害はつねに、最初は不可解だが、科学的手法というマジックのおかげで、適切な実験をおこなうことによって理解可能なものにできる。それぞれの症例のくわしい話をする際には、どうすれば説明可能なものになるだろうかと頭を悩ませていたときに私自身の心がたどったのと同じ、一歩ずつの段階的な推理の道筋を―ときおりは、とっぴな直観でギャップを切り抜けながら―読者のみなさんにもたどっていただく。臨床的な謎が解けると、しばしばその説明によって、健常な脳がはたらく仕組みについての何かが新たに解明され、私たち人間のもっとも大切な心的能力に関して、予期せぬ洞察が得られる。そうした旅を、私が興味深く楽しんだのと同じくらい、読者のみなさんにおもしろいと思っていただければさいわいである。』
●『過去200年間に、科学の数多くの分野においてめざましい進歩が見られた。物理学では、物理理論はほぼ完成したと、19世紀後半の知識人たちが宣言したまさにそのとき、空間と時間はその昔、哲学で夢想されていたどんなことより、はるかにずっと奇妙であることをアインシュタインがあきらかにし、原子内のレベルでは私たちがもっているもっとも基本的な因果関係の観念でさえ成立しないことをハイゼンベルクが指摘した。私たちはその戸惑いからたちなおったとき、ブラックホール、量子もつれ、そのほか多数の謎の新発見という見返りを得た。それらは今後何世紀も、不思議さに驚嘆する私たちの感性を刺激しつづけるだろう。宇宙が「神の音楽」と調和して振動する弦でできているなどと、だれが考えただろうか? 同様のリストは、ほかの分野の発見についてもつくれる。宇宙学は、拡大する宇宙、暗黒物質、それに無数の銀河という仰天するような見通しを私たちにもたらした。化学は元素周期表を用いて世界を説明し、プラスチックや多数の特効薬をもたらした。数学はコンピュータをもたらした―多くの「純粋」数学者はむしろ、自分たちの分野がそのような実用で汚されるのをあまり見たくないと思っているだろうけれども。生物学では、身体の解剖学的構造や生理機能がきわめて詳細に解明され、また進化を駆動するメカニズムがようやくあきらかになりはじめた。有史以来、人類を文字どおり苦しめてきた疾病の正体も、ついに理解された(魔術の仕業や天罰ではないとわかった)。手術、薬理学、公衆衛生に革命が起こり、先進国世界では人間の寿命がわずか四、五世代のうちに倍増した。究極の革命は、現代生物学の誕生を告げる1950年代の遺伝コードの解明だった。
それにひきかえ心の科学―精神医学、神経学、心理学―は、何世紀も沈滞していた。実際、20世紀最後の四半世紀に入るまで、知覚、情動、認知、知能の厳密な理論はどこにもなかった(色覚は注目に値する例外である)。20世紀の大半は、人間の行動の説明として提供できるものは、二つの理論体系―フロイト主義と行動主義―しかなかったが、この二つはともに1980年代から1990年代に、神経科学がようやく青銅時代を超える前進をとげたとき、急激に失墜することになる。歴史的に見れば、それはさほど昔ではない。物理学や化学と比べると、神経科学はまだ駆け出しである。しかし進歩は進歩であるし、しかもそれは、なんともたいした進歩の時期だった! 遺伝子から細胞、回路、認知にいたるまで、今日の神経科学の奥行きと幅は―最終的な大統一理論にはほど遠いとはいえ―私がこの分野で仕事をはじめたときの位置から見ると、はるかかなたにおよんでいる。神経科学はここ10年間に自信をつけ、伝統的に人文科学の領分とされてきた分野に対して、アイデアを提供しはじめるまでになった。その結果、いまでは神経経済学などがあり、神経神学というものまで存在する。なかには脳科学にこじつけているだけのものもあるが、全体としては、多くの分野に対しておおいに必要とされる実際的な貢献をしている。』
●脳は小さな断片にすぎないが、脳に関しては1世紀前に古典物理学をひっくり返した概念の革命と同じくらいに衝撃的である。
●「事実は小説より奇なり」ということわざは、脳の働きについてとりわけ真であるように思える。
要旨
●脳がどのように進化したかの理解なしに、脳が働く仕組みを理解することは不可能である。
●第1章では、幻肢について人間の脳の驚異的な変化の能力にスポットを当て、可塑性が進化的、文化的な発達の方向性を定めた可能性をあきらかにする。
●第2章では、入力される感覚情報、特に視覚情報を脳がどのように処理しているかを説明する。
●第3章では、共感覚を取り上げる。共感覚は遺伝子、脳の結合性、人間の創造性に関係している可能性がある。
●第4章では、ミラーニューロンを取り上げる。人間のミラーニューロンは他の霊長類とは異なり高度に発達し、人間文化の鍵であると考えられている。
●第5章では、自閉症という発達障害とミラーニューロンとの関係を探る。
●第6章では、言語の誕生にミラーニューロンが関与した可能性を探る。
●第7章と第8章は、美に関する人間のユニークな感性を取り上げる。
●第9章では、最も難しい自己認識の本質という問題に取り組む。
●本書に示したアイデアの一部は推論的であるが、多くは確固とした基盤、例えば、幻肢、視知覚、共感覚、カプグラ妄想などについては実際の研究に基づいている。一方、芸術の起源、自己認識の本質といった十分な研究がされていないものに関しては、知識に基づく推量と直観に任せて進めた。
はじめに―ただの類人猿ではない
●ラマチャンドラン先生の研究の方法は、伝統的な古い方法とのことである。ふだんは脳卒中や腫瘍や頭部外傷で脳が損傷され、それにより知覚や意識に乱れが生じている患者を診ているが、ときに、脳の損傷や障害はなさそうなのに、ひどく変わった知覚体験や心的体験をする人たちがいる。その場合、その人の話を聞き、行動を観察し、簡単な検査をして、(可能であれば)脳の中を覗き、それから心理学と神経学の橋渡しをする仮説を立てる。別の言い方をすれば、その人の奇妙な行動と、複雑な脳内の配線の不具合とを結びつける仮説といえる。
●『このやりかたは、かなりの割合でうまくいく、したがって私は、一例また一例と症例を重ねるたびに、人間の心と脳のはたらきや、密接なつながりについて、たえず新たな洞察を得る。そのようにさまざまな発見をするなかで、人間という種をユニークな存在にしているものを理解する助けになるような、進化的な洞察が得られることもしばしばある。』
1)『スーザンが見る数字には、いつも、それぞれに固有の色がついている。たとえば5は赤く、3は青く見える。この状態は共感覚と呼ばれており、芸術家、詩人、小説家に一般人口と比べて八倍も多くみられ、創造性と何らかの結びつきがあることが示唆されている。共感覚は、一種の神経心理学的な化石―人間の創造性一般の進化的起源や本質を理解する手がかり―になるのだろうか?』
2)『ハンフリーは腕の切断手術を受けて以来、幻の腕(幻肢)をもっている。腕や脚を切断した人が幻肢を体験するのは珍しくないが、彼の場合は普通ではないところがあることに私たちは気づいた。本人もたいへん驚いていたが、実験に協力している学生の腕を私がさすったり、軽く叩いたりすると、彼はそれを見ているだけで、その触覚を実際に自分の幻肢に感じるのである。学生が自分の手をマッサージしているのを見ると、「幻のマッサージ」を感じて、激痛をともなう発作的な幻の手の握りしめが軽減される。彼の身体と、幻の身体と、他人の身体は、彼の心のなかのどこで一緒になっているのだろうか? 彼の自己感はどこでどうなっているのだろうか?』
3)『スミスという名の患者が、トロント大学で脳外科手術を受けている。彼は完全な覚醒状態にあり、意識もある。頭皮に局所麻酔がほどこされ、頭蓋はすでに開かれている。外科医がスミスの前部帯状回に電極を置く。前部帯状回は脳の前方部に近い領域で、痛みに反応するニューロンが多数存在する。医師は思惑どおり、スミスの手を針でつついたときに活動するニューロンを見つけだす。しかし彼は、次に起こった思わぬ事態に驚愕する。そのニューロンは、ほかの患者がつつかれているのをスミスがただ見るだけでも、同じくらい活発に発火するのだ―あたかもそのニューロンが(あるいはそのニューロンを含む機能回路が)、他者に感情移入しているかのように。文字どおり、他人の痛みがスミスの痛みになっているのだ。インドの神秘主義や仏教系神秘主義では、自己と他者のあいだに本質的な違いはなく、その境界を消滅させる慈悲によって真の悟りがもたらされるとされている。私はかつてこれを、善意のたわごとだと思っていたが、ここに自己と他者の区別がつかないニューロンが存在する。私たちの脳には、ほかに類を見ない共感や慈悲の回路が組み込まれているのだろうか?』
4)『ジョナサンは、数を思い浮かべるように言われるといつも、それぞれの数字が目の前の空間の特定の位置に見える。1から60までの数字がバーチャルな数直線をなして並び、それが三次元空間のなかで複雑にねじまがり、逆行さえしている。ジョナサンは、そのねじまがった数字の列が計算の助けになると言う(興味深いことに、アインシュタインもしばしば、数字が空間的に見えると述べていた)。ジョナサンのような例は、私たち人間だけがもつ数に関する能力について、どんなことを教えてくれるのだろうか?たいていの人は、数字を左から右に思い浮かべる漠然とした傾向があるが、ジョナサンの数字の列はなぜねじまがっているのだろうか?あとでとりあげるように、これは、進化的な観点からとらえないかぎりはまったく意味をなさない、印象的な神経学的異常の一例である。』
5)『サンフランシスコ在住のある患者は、認知症の症状がしだいに進行していくなかで、忘れがたいほど美しい絵を描くようになった。脳の障害によって、隠れた才能が解き放たれたのだろうか?遠く離れたオーストラリアでは、ジョンという名のごとく普通のボランティアの学生が、ひどく変わった実験に参加している。彼は椅子に座り、脳に磁気パルスをあてるためのヘルメットを装着している。彼の頭の筋肉が、誘発された電流によって不随意的にぴくぴく動く。そして驚くべきことに、ジョンはすばらしい絵を描きはじめる。いままではそんなものは描けなかったと本人は言う。このような内なる芸術家はどこから生まれるのだろうか?私たちの内部には、ピカソやモーツァルトやラマヌジャン(数学の天才)がいて、解放されるのを待っているのだろうか?何らかの理由から、私たちの内なる天才が、進化の過程で抑圧されたのだろうか?』
6)『カリフォルニア州チューラヴィスタ在住のジャクソン博士は、脳卒中を起こすまでは、高名な医師だった。卒中のあと右半身に部分的な麻痺が残ったが、さいわいなことに高次知能の座である大脳皮質の損傷は小さく、高次精神機能はおおむね損なわれずにすんだ。相手の言っていることはほとんど理解できるし、会話もかなりよく続けられる。しかし、精神機能の状態を調べる目的で簡単な課題を出したり質問したりしていくと、大きな驚きに出会う―「輝くものがみな金とは限らない(見かけはあてにならない)」ということわざの意味をたずねたときに。
「ぴかぴか光って黄色いから金だとは言えないという意味ですよ、先生。銅かもしれないし、なにかの合金かもしれませんからね、」
「そうですね」と私は言う。「でも、それだけではなくて、もっと深い意味がありますよね?」
「ええ」と彼は答える。「貴金属の宝飾品を買うときは、よほど気をつけなくてはいけないという意味です。いんちきも多いですからね。金属の比重を測ればいいじゃないかと思いますがね」
ジャクソン博士がもっている障害を、私は「メタファー障害」と呼んでいる。これはつまり、人間の脳波専用の「メタファー中枢」を進化させたということなのだろうか?』
7)『ジェイソンはサンディエゴのとあるリハビリセンターの患者である。彼は数か月間、無動無言症と呼ばれる半昏睡状態にあり、その時点で私の同僚のスプラマニアン・スリラム博士の診察を受けた。ジェイソンは、目は覚めていて、しばしば目で人を追うという状態にあるが、寝たきりで、歩くことも、人を認識することも、人と交流することも(たとえ相手が自分の親でも)できない。しかし、父親が隣の部屋に移動して、そこから電話で話しかけると、たちまち意識が完全になり、相手が自分の父親であることを認識して会話をする。そして父親が病室に戻ってくると、即座にもとのゾンビのような状態になってしまう。あたかも一つの身体のなかに二人のジェイソンが―視覚とのつながり、目覚めてはいるが意識のないジェイソンと、聴覚とつながり、はっきり意識のあるジェイソンが―閉じこめられているかのようだ。意識をそなえた個人性が現れたり消えたりするこの不気味な現象は、脳が自己認識を生む仕組みについて、何かを明らかにしてくれるのだろうか?』
●こうした人たちの状態を綿密に研究すると、奇怪な症状が生じる理由を解き明かす助けになるばかりか、正常な脳の機能を理解する助けになる。そして、最も難しい、人間の脳はいかにして意識を生みだすのか?という問いの答えが見つかるかもしれない。
脳のガイドツアー
●人間の脳はおよそ1000億個の神経細胞(ニューロン)からなっている。
●ニューロンは糸のような線維を通して互いに会話している。線維には、もじゃもじゃした小枝の多い茂みに似たもの(樹状突起)と、曲がりくねった長い送信ケーブル(軸索)の2種類がある。
●ニューロンはそれぞれ他のニューロンと、1,000個から10,000個の結合部で結びついており、シナプスと呼ばれるその結合部で、互いに情報を共有している。
●シナプスには興奮性のものと抑制性のものがあり、その時々でオンの状態にもオフの状態にもなる。これらの順列と組み合わせを考えると、脳がとりうる状態の数は驚くほど膨大になり、いま知られている宇宙に存在する素粒子の数を容易にうわまわる。
●脳の多数の構造体は、特定の目的に応じるようにつくられたニューロンのネットワークである。それらの構造体はそれぞれ何らかの個別的な認知機能や生理機能に関与している。各構造体は、ほかの脳構造とパターン化した結合をつくり、それによって回路を形成する。回路は情報を前や後ろに、あるいはまた、くり返しのループとして流すことによって脳の複数の構造体が共に働き、高度な知覚や思考や行動を生みだすことを可能にしている。
●前頭前皮質は古くから「人間性の座」とみなされてきた。しかし、比較的小さな脳の一部がいかにして、そのようなとらえどころのない一連の高度な機能をまとめてあげているのかという疑問については、いまだにほとんど分かっていない。
●『人間の脳においてきわめて大幅な発達をとげ、したがって機能(もしくは認知)レベルにおいて、新奇かつユニークとみなせる脳領域がいくつか特定されている。そのうちの三つはすでに名前をあげた―左側頭葉のウェルニッケ野、前頭前皮質、左右の頭頂葉のIPL(下頭頂小葉)である。さらに言えば、IPLから派生した縁上回と角回は、類人猿の脳には解剖学的に存在しない。これらの領野が人間の脳でなみはずれて急速に発達したという事実は、重大な何かがそこで起こっているにちがいないということを示しており、臨床的所見がそれを裏づけている。
そうした脳領域の一部には、ミラーニューロンと呼ばれる特殊なタイプの神経細胞が存在する。ミラーニューロンは、自分がある動作をしているときに発火するだけでなく、ほかのだれかがそれと同じ動作をしているのを見ているときにも発火する。簡単な話に聞こえるので、うっかり見過ごしてしまいやすいが、これは大きな意味をもつ。ミラーニューロンは、あなたがほかの人に共感し、その意図を「読み取る」こと―その人が実際に何をしようとしているかを把握することを可能にしているのである。それは、自分の身体イメージを使ってその人の動作をシミュレーションすることによってなされる。』
●ミラーニューロンは他者の意図をかなり正確に推測する。つまり、ミラーニューロンは、自然が私たちに授けることのできた、テレパシーにもっとも近いものだと言える。
●類人猿にもミラーニューロンは見られるが、人間のミラーニューロンは動作だけでなく心の面にも及ぶ。
●『ミラーニューロン・システムを過剰なほど発達させることによって、進化は実質的に、文化を新たなゲノムに変えた。人間は文化を武器に、新たな厳しい環境に適応し、それまで手に入らなかった食源やそのままでは有害な食源を利用する方法を、わずか一世代か二世代のうちに考えだすことができた。遺伝子の進化を通してそのような適応を達成するとしたら、何百、何千という世代が必要だろう。』
●感覚の敏感な手で、<気のボール>をつくる
・手は皮膚感覚の敏感なところなので意識が集中し、気が集まりやすいところだと考えられる。
[気のボールのつくり方]
-『まず、両手の指先を、親指は親指に、ひとさし指はひとさし指にと、全部くっつけて、手のあいだにボールを入れているような形をつくる。
つぎに、指先を五センチくらいゆっくりと離して向かい合わせる。そして、自分の指が親指だけになったイメージをつくり、親指の先に軽く意識を集中して、指先をゆっくり動かすと、指先にむずむずした感じや、指先と指先が見えないとゴムでつながったような感じがうまれてくる。
そうなったらつぎは、ひとさし指だけが自分の指だと思って、親指のときとおなじように、ひとさし指どうしの指先の気をつないでいく。
このやり方をくり返して、つぎつぎに指先を一本ずつつないで小指までつないだら、こんどは、親指とひとさし指の二本をつなぎ、つぎに親指・ひとさし指・中指の三本をつなぎ、というふうにして、四本、五本と指先をぜんぶつないでゆく。
五本の指がつながったら、こんどはぜんぶの指をゆっくり動かす。と、指先ぜんぶがつながった感覚がうまれてくる。
つぎに、片手の親指と小指とを近づけるように動かすとてのひらの中心部の労宮というツボに軽い緊張感やムズムズとした感じが生じてくる。この感覚をたよりに、労宮に意識を集中して、左右の労宮をつなぐ。
労宮をつなぐのは、指先をつなぐよりも少しむずかしく、訓練がいるかもしれないが、労宮は気を出したり入れたりするのによく使うポイントでもあるので、訓練をして、左右の労宮を気でつなぐことができるようにしていく。
このようにして、ぜんぶの指先と労宮がつながったら、そのまま手や指をゆっくり動かして、つながった感覚を強化していく。そのあとで、指先や労宮をつないでいる意識を「フッ」とはずすと、両手のあいだに見えない気のボールが感じられるようになる。』
画像出展:「アニメで楽しく学ぶ脳と神経のお話」
ホムンクルスとは、ラテン語で小人の意味です。人間の脳に人体の部位を当てはめ、小人に例えて脳機能を説明するために使われています。胴体にくらべて、舌や唇・手の指(とくに人差し指)・目が大きいのが目立ちます。神経からみて手は最も重要と考えられます。
画像出展:「ホムンクルスとは?大脳皮質のマッピングで現れる脳の中の小人」
各領域を電気刺激したときに体のどこが反応(運動または感覚)したかを詳細に記録することによって得られたものですが、それを分かりやすく伝えるために、ペンフィールドは、対応する体の部分を脳の表面に並べて描いて見せたのです。まるで小人が頭の中に住んでいるように思えるという意味で、「ホムンクルス(homunculus, 小人間像)」と呼ばれるようになり、一気にペンフィールドを有名にしました。
●患者全員が<気のボール>を実感し、気を巡らす
・『気のボールづくり、そのやり方のめどがつくと、私はいさんで患者さんの集まりにそれをもちこみ、訓練をはじめた。
うれしいことに、その場ですぐさま気のボールをつくることができる患者さんがでてくる。実際には、一週間後には、それまで身体訓練で背骨の歪みをとっていた患者の全員が、両手のなかに気のボールを感じることに成功したのだった。私は患者さんたちに、「両手があいた時間をみつけて、いつでもどこでも気のボールを強化する練習をしてくださいよ」とつけくわえた。そうすることで、はじめはかすかだった感覚が、すこしずつすこしずつ強まり、気の感じも温感から電気的なジンジンした感じにかわっていくはずだから・・・・・。
つぎは、第二の、意識して気を巡らすというステップにはいる。これは私もさんざんてこずった過程なので、気のボールづくりと同様に、感覚の敏感な腕をつかって気を運行させる方法をすぐに考えだした。いまでは、そのやり方を<腕周天法>と名づけているのだが―両手のあいだに気のボールをつくったら、つぎに、吸う息で左腕から気のボールを腕のうちに吸いこんでいく。気のボールが電気感を感じるまでに強くなっていれば、左腕のなかにジーンとした気感が伝わって、肩の方向へ進んでいくのがわかるはずだ。
これが上手になっていくと、吸う息で気のボールを左腕から胸のなかまでもってきて、吐く息で右腕に流すことができるようになる。そしてつぎは逆方向の訓練もする。こうして、腕でつくったループのなかを気のボールが巡っていくようになれば、気の運行術の初歩をマスターしたといえるわけだ。
気のボールをつくることができるようになった患者さんたちは、よろこんで腕周天法の訓練にはいりこみ、それほどの苦労を経ないで、気を動かすコツを自分のものにしていった。
そこまでくれば、両手と体の表面の三か所で気のボールをつくり、身体の正中線上にある任脈・督脈のうえにそって、手を動かすことによって、身体のうえの気を動かす小周天法にはいりこむ道はひらけたと言える。やがて、何人もの患者さんたちが、小周天法を体得してくれた。私の東洋医学での治療も、やっと「内外兼治」の内容を備えるところまできたということだ。』
天地の無尽の<気>との交流へ
●磁気治療に着目し、小周天バンドを考案する
・『気が自由にコントロールできるようになった私は、それを治療にとり入れた。気がつかえるようになると、鍼治療の腕も上がったが、鍼を打つかわりに、気を出して、それで治療ができるようになった。たとえば、「肩が痛い」「首が痛い」という患者さんに、「じゃあ、気を流しますよ」といったぐあいに。気で治療ができる!私はおもしろくて夢中になった。
気での治療が効果をあげて、私は外気治療をくりひろげた。じっさい、長年の筋骨格系の痛みが一、二度の外気治療でうそのように消えていったり、膝関節の痛みで松葉杖でやってきた人が、三度目の受診には松葉杖なしで歩いてきたり、という実例がつぎつぎに出てくるので、うれしくてしかたがなかった。』
●中国人のように早朝の樹木から「気」を取り込む
・中国の本の中には「気を出したら減る、だから、いろいろな瞑想をして気を取り込むようにしなければいけない」という教えがある。また、多くの気功家が治療をして疲労がたまり、患者さんの症状が出てくるという例も紹介されている。そして、“気を取り込む”ために中国の人たちは、早朝、公園に行き、樹木から気を取り込んでいる姿が説明されている。
・“てのひら療法”という本に、治療は「してあげる」という気持ちではなく、「いっしょにする」という気持ちが非常に重要と書いてある。このこころが欠け、気功の技術だけに頼り、「治してあげる」という心持ちでは“気の取り込み”はできない。“気の取り込み”は焦りやいらだちを捨て、やわらかな静寂の中で繰り返すことが重要である。
●天地の<気>と交流し、ものすごい快感・高揚感が訪れる
・最初の大周天経験は、“天の気を取り込む”ということだった。それが体験できると、こんどは“地の気を仙骨から吸い込む”訓練にとりかかった。こうして、頭頂の百会から天の気を取り込むこと、そして仙骨から地の気を吸い上げることができるようになり、それまでの疲れは感じなくなった。また、病状をひき受ける現象もなくなった。
・気の治療も変化し、百会や仙骨から天地の気を流入させて、自分をチャンネルとして患者さんに気のエネルギーを放射する。これにより気の強さは増大し、病状の軽減・消失がはっきり目立つようになった。そして、自身が疲れることはなかった。そして以前とは違った体感・快感・高揚感を感じた。これこそが大周天法の世界である。
実践メニューⅠ
指気功
・『気功の練習をはじめて、すぐ気を感じられる人となかなか気を感じられない人がいます。個人差はありますが、まず、手にジーンとした感じ、フウーと温かい気を感じるところからはいるのが、いちばん近道のようです。』
Ⅱ こころを診る、からだを癒す 臨床のなかの<気>
東洋医学診療部の創設へ
●患者自身の治癒力が働かなければ、病気は治らない
・背負った病気が困難であればあるほど、患者さんは無力感におちいり、全面的に依存する状況であることが多い。この無力感では病を克服するエネルギーは衰弱する。本来、人間が備えている自然治癒力がはたらかなくなってしまう。
・人間は肉体と気の双方のバランスが保たれていてこそ、正常な活動が可能になる。
・東洋医学、特に気の発想では、自然治癒力を高めるためには、食物のとり方、身体の運動、気持ちの持ち方など、生活のスタイルを調整する必要がある。つまり、治るためには何か自分のアクションが必要である。
●症状はおなじでも、病気の深さはみなちがう
・漢方を主に医療を行うようになって、患者さんの自然治癒力を高めるという思いが強くなった。
・東洋医学の見方で病気の原因をたどっていくと、ひとことで言えばライフ・スタイル、暮らし方にゆきつく。
・日々の暮らしの歪みは、食生活、身体の使い方、そして精神生活に大別できる。そして、それぞれの歪みがなくなるよう援助することが治療法となる。
画像出展:「気でひきだせ、無限の治癒力」
“病気の生じる流れ”とあります。東洋医学の本来の役割は、未病の段階で手当て(気功、養生等)し、患者さまの自然治癒力をあるべき姿にととのえて、健康を取り戻すことです。図の中では上流に位置します。
一方、西洋医学は病になってしまった段階で、薬物や手術により病を取り除くことが目標になります。
暮らしのなかからの歪みが生みだす病
●治らないムチウチ症で、病院がよいをつづけるケース
・病の原因に気の側面が関わっていないということはありえないが、まずは物質的な対応(薬・鍼・低周波電気)で処置をして、患者さんのライフ・スタイルの問題を見直すことで病状が改善することが多いが、難病や西洋医学では治す方法が分かっていない病気のとき、気功を勧めている。
実践メニューⅡ
風風(ルンルン)気功
1.頭をゆるめる
・現代人はストレスからくる緊張で、頭皮や頸にこわばりがある。<風風(ルンルン)気功>の第一は頭皮のこわばりを自覚し、それをゆるめる方法である。
2.丹田呼吸法
・運動不足の人、頭脳労働が主体の生活をしている人は、下丹田の気が不足し、頭や頸に気がのぼったり停滞したりすることが多くなる。「頭のこわばりをゆるめる」を行った次は、下丹田に気を充実させる訓練を行う。
3.蝶形骨と後頭骨を整える
・左右のこめかみをつなぐ部分には、蝶形骨という蝶が羽を広げたような形をした骨があり、この骨の上にはホルモン系や自律神経系の中枢がある。また、後頭骨の上の頭皮にはストレスからくる緊張がたまりやすい。丹田呼吸法の次は、この蝶形骨と後頭骨を整える。
4.仙骨と尾骨をめざめさせる
・尾骨には「長強」という名のツボがあり、その名のとおり、命を長く強くするはたらきがあるといわれている。四番目の<風風(ルンルン)気功>は呼吸とイメージと動作によって、仙骨と尾骨の力をめざめさせる。
5.寝て行う風風気功
・寝た姿勢で、まず蝶形骨と後頭骨をほぐし、続いて仙骨と尾骨を刺激する気功である。これは内臓のはたらきを活性化し、腰痛に対して良い効力をもつ。
6.二人で行う風風気功
・1から5までの気功をマスターし、さらに、後で述べる<小周天基本功>で背骨を柔軟かつ強靭にすると、頭頂や仙骨から自在に風(ルン)を吸い込んで、身体の中に流していけるようになる。六番目はそのような境地に至った人が、他の人と組んで行うものである。
Ⅲ 癒す力、生きる力の回復 <気>の可能性を求めて
西洋医学と東洋医学の統合をめざして
●医療の対象は、臓器へ、病巣へと細分化していく
・薬には耐性の問題があり、癌は取り除いても二度で癌にはならないとはいえない。個別の臓器を検査し細分化された西洋医学にも課題がある。
・『癌をうまく切りとったといっても、細胞レベルには残っていて、それがまた頭をもちあげてくるという多数の事例にぶつからねばならない。そこで、切りとりきれないものを抗癌剤でたたくことになるのだが、一回目は効果があらわれて腫瘍は小さくなるのだが、やがて抗癌剤への耐性ができて、効果はなくなっていく。
もともと癌細胞はみんな顔がちがい、個性をもっていて、休んでいる細胞もいるし、じっと眠っている細胞もいる。休眠中の癌細胞には抗癌剤は効かなくて、あとになって、それが動き分裂しはじめる。耐性を克服する方法として多剤併用が考えられ、何回も、さまざまな抗癌剤をくみあわせて使用するのだが、くり返しのなかで、身体じたいが弱められ、体力が極度におちて亡くなってしまう。
分析し、細分化し、医療の対象が、臓器へ、病巣へと局限化するなかで、病者という存在の影がうすくなっていったのだ。
臓器の異常、病巣の形態をあきらかにする手段としてのさまざまな検査は、精密となり、正確度を増し、医師は患者の生の声をあまりきかなくても、病気をつかみ、投薬・治療法を決定することが可能になってくる。
この方向の流れの中で、たしかに臓器を診てしらべる技術は高度なものになっていった。それとともに、医師の目とこころは、ひたすら臓器・病巣という局部にむかっていき、その臓器をもち、病巣をかかえて生きている患者というトータルな存在から離れていくという傾向をつよめていった。それは、たとえば、癌細胞をつぶそうとして長期・大量に投与する抗癌剤が健康な細胞をも殺しつづけて、癌患者の生命を奪うことになる、という皮肉な姿に象徴されている。』
●栄養・漢方薬・気功でトータルに生命力を強める
・西洋医学は根本的に治療できているのかという疑問につきあたって悩み、そして東洋医学の世界に分け入って、東洋医学の根本である気の勉強を重ねてきた。
・西洋医学の長所は病因を分析し除去する方法には長けているが、自然治癒力という生体のもつ大きな長所を伸ばすことは考えられていない。
・東洋医学は病を部分としてはみない。人間の全体としての身体を守る力の弱まり、血の滞りから病気がうまれる。そしてその病気を治す力は、やはり、自然治癒力である。
・『ほとんど患者さんは、身体の、とくに背中がこわばっている。この筋肉のこわばりは、じつは精神のこわばりをあらわしているともいえるだろう。私の外来にやってくる人のなかには、首がこわばっている人が多い。ふつう、身体をまっすぐにしているときには自覚がすくないが、首の筋肉をつまむと、強い痛みを感じる。それは、さまざまなストレスで、肩があがり、首に力がはいった状態がつづいていることからうまれる。
そこで、その力をゆるめるための身体の動かし方を、気功訓練で習得してもらう。ゆっくりした呼吸法、力のぬき方、背骨の歪みの矯正を、気功をとおして実現していく。また、気功はもう一つ、精神的なリラックスもつくりだす。これは、最近の脳波の研究ではっきりしたデータで証明することができた。
このように、物レベルから意識まで、トータルに自然治癒をつよめることをめざすのが、いまの私のやっている治療法だ。つまり、病気は、根源にさかのぼって考えると、結局、ストレスを十分に統御・調整できなくて、身体の防御のバランスが崩れて、その人の弱いところに発症する、といえるはずだ。だから、このような手法を用いることで、西洋医学では診断のつかない病気にも対応できるし、さらにまた、この自然治癒力をたかめることは、病気を治すという局面だけでなく、ヘルス・プロモーション=健康を増進する、という方向の効果も期待できる。』
さまざまな領域で<気>の活用を
●学校で<気育>ができれば、子どもは生気をとりもどす
・患者さんがリラックスしてくると、自分が言った言葉が理解されていると感じるが、気が衰弱し、こころが閉じている患者さんの場合、言葉が届かないことがよく分かる。このような場合は、身体の状態の説明だけにとどめ、「こうしたらいい、こんなやり方が望ましい」という話は控えている。これは教師と生徒の関係にも当てはまるように思う。
実践メニューⅢ
小周天基本功
・『まず、頸から腰までの背骨を前後・左右にねじって動かすことにより、歪みを徹底的に調整して、柔軟かつ強靭なバックボーンをつくります。
訓練すると、まず、自分の頸・背中・腰がいかにこわばっていたかに気づきます。そして、訓練が進むにつれて、温かく軟らかくなってリラックスした背中を自覚できるようになってきます。背中にまったく歪みがなくなると、精髄を出て内臓を支配している脊髄神経のはたらきが正常化して、長年の頭痛・肩こり・腰痛・胃腸機能の低下などが、しだいに改善していきます。』
感想
矢山先生にとっては、気功は、漢方も鍼も効かない患者さんに対するものであり、何をやっても良くならず、失望と深い悩みをもち、体もこころもこわばっている患者さん、そして、自らの自然治癒力に背を向けている患者さんに対して用いているとのことでした。
その強いこわばりを緩め、歪みを改善することができるとのことです。この歪みの改善が大きな効果につながるのですが、気功の原点は「気」を流すことです。これは「気」の推動作用といわれ、血の流れをよくする働きに他なりません。つまり、気功は「気」に働きかけ血の流れをよくし、こころと体のこわばりをとり、そして歪みを整え、その人の本来の自然治癒力を通じて、心身の健康を取り戻すものであると理解しました。
特に、“栄養・漢方薬・気功でトータルに生命力を強める”の章の中にあった、「血の滞りから病気がうまれる」という事が、シンプルかつ最も重要なことだと感じました。
気功は訓練をかさねることでマスターすることができます。本書では“指気功”、“風風(ルンルン)気功”、“小周天基本功”の3つが紹介されています。気功に関する本は、他に4冊予定しているので、最も自分に合いそうなものを選択して、実践したいと思います。
実は10年程前に、一度、気功教室に通ったことがあり、「これが気のボールの感覚なのかな?」と感じた経験はあるので、うまくいけば「気」をしっかり実感できるようになるかもしれません。
本書の著者である矢山利彦先生は医師であり、佐賀県で“矢山クリニック”を開業されています。基本方針には「真の病因をつきとめ健康をクリエイトする」とあります。動画を拝見すると東洋医学と西洋医学に加え、歯科医科統合も実現されていることが分かります。
「健康を追求していくとどうしても口腔内衛生の健康を無視することはできない」という矢山先生のお考えに基づく方針ですが、口腔内衛生の問題は極めて重要だと思います。
※以前、ブログ“口腔内細菌との闘い”をアップしており、口腔内衛生については個人的にも興味を持っていました。
『Y.H.C.矢山クリニックのマークは、患者さん、ご家族や友人、医療従事者という3つの人のつながりと、西洋医学、東洋医学、その他の自然療法という3つの治療を融合して医療をおこなっていくことを意味しています。医師となって以来、数多くの患者さんと接し、治った方もおられますが、お亡くなりになり悲しく残念に思う方もたくさんおられます。そんな方々に、もっとこんなサポート・ケアをしてあげたかったと、ずっと考え続けてきたことをやっと形にできたのがこのクリニックです。』
矢山先生は、『西洋医学を学ぶことから医師としての歩みをはじめて、難病患者とのかかわりのなかで、“西洋医学の診断は精密化したが、根本的に治療できているのだろうか”という疑問につきあたって悩み、そして東洋医学の世界に分け入って、東洋医学の根本である気の勉強をかさねてきた。』とのお話をされています。
今回は医師(西洋医学)である先生が、東洋医学、気功、そして「気」をどう捉えているのかを勉強させて頂きたいと思います。
目次
まえがき
Ⅰ 気とであい、気をさぐる “治らない”病気への挑戦
西洋医学から東洋医学へ
●アメリカ方式で研修する病院で、外科医として出発する
●救急医療の現場で、人間の治癒力のすごさを知る
●難病患者をまえにして、治療のあり方に矛盾を感じる
●ムチウチ症の治療法を求めて、東洋医学とであう
●漢方薬と鍼治療から<気功>の世界へたどりつく
●武術の訓練のなかで、<気>への素地がつくられていた
●滝行は、無意識にかさねていた<気>の修行であった
●心身相関で病気が治ることを「心療内科」で学ぶ
<小周天法>を編みだすまで
●気功師・楊自正氏と出会い、はじめて<気>を体感する
●<小周天法>を求めて、中国の古典を読みあさる
●腹筋運動で熱を生じさせ、下丹田に<気>を集中する
●薬も鍼もきかない患者と<小周天法>の訓練をする
●感覚の敏感な手で、<気のボール>をつくる
●患者全員が<気のボール>を実感し、気を巡らす
天地の無尽の<気>との交流へ
●男女の<気>の流れの違いをO-リングテストで発見する
●磁気治療に着目し、小周天バンドを考案する
●外気治療による疲労と病状転移に悩まされる
●中国人のように早朝の樹木から「気」を取り込む
●天地の<気>と交流し、ものすごい快感・高揚感が訪れる
●人との出会いから、<大周天法>へのヒントをつかむ
●天地の<気>との交流法をヨーガのなかにさぐる
実践メニューⅠ
指気功
Ⅱ こころを診る、からだを癒す 臨床のなかの<気>
東洋医学診療部の創設へ
●患者自身の治癒力が働かなければ、病気は治らない
●症状はおなじでも、病気の深さはみなちがう
暮らしのなかからの歪みが生みだす病
●早食いが原因で腰痛になったケース
●クルマとハイヒールが腰痛をひきおこしたケース
●治らないムチウチ症で、病院がよいをつづけるケース
●家庭の不和がムチウチ症の再発をひき起こす
癌患者とその肉親の闘い
●癌を恐れる不安感が自然治癒力を萎えさせる
●末期癌の告知をめぐって、患者の夫と話しあう
●病状を告知して、癌に挑戦してほしいと訴える
●妻の末期癌を老夫婦はおだやかにうけ入れる
●病室へ足を運んでは、癌治療について話しこむ
●夫婦で気功をはじめて、病状は安定へ向かう
耕ちゃんの再生への歩み
●意識不明の息子に、母親は語りかけ歌いつづける
●一滴の水を飲みこむ力を回復させたいと願って
●イトコたちの声に反応して、はじめて耕ちゃんが笑った
●“ドーマン法”とであい、四年間の訓練をつづける
●車椅子の耕ちゃんの<気>の力の強さに驚かされる
●過労の限界にある母親に気功をすすめる
●母親の<気>の体験が、耕ちゃんの回復力を高めた
実践メニューⅡ
風風(ルンルン)気功
1.頭をゆるめる
2.丹田呼吸法
3.蝶形骨と後頭骨を整える
4.仙骨と尾骨をめざめさせる
5.寝て行う風風気功
6.二人で行う風風気功
Ⅲ 癒す力、生きる力の回復 <気>の可能性を求めて
西洋医学と東洋医学の統合をめざして
●特効薬と手術が、戦後医療の中心課題となる
●医療の対象は、臓器へ、病巣へと細分化していく
●栄養・漢方薬・気功でトータルに生命力を強める
●自然治癒力を高める東洋医学に、西洋医学を統合して
さまざまな領域で<気>の活用を
●21世紀にむけて、<気>をいかす可能性をさぐる
●<気>と脳波の関係で、心身ともに活性化する
●学校で<気育>ができれば、子どもは生気をとりもどす
実践メニューⅢ
小周天基本功
1.背骨を前後に揺する
2.背骨を左右に揺する
3.背骨をらせん状に揺する
4.頸をよこ8の字に揺する
あとがき
まえがき
『治療法がわかっていない病気になった患者さん、病状の進行した患者さんたちが、「この病気は治りませんという“宣告”をうけた」と話したり、「あとどのくらいの命でしょう」と言ったりするのを聞くと、私は悲しみといきどおりの気持ちが湧いてくる。そして、「よーし、何とかしてやるぞ」という負けん気の気持ちがムクムクと頭をもたげてくる。治らないということばをのみこみ、ギブ・アップすることを拒否して模索しつづけているあいだに、いつのまにか東洋医学に足をふみ入れ、さらに「気」の世界にたどりついた。』
Ⅰ 気とであい、気をさぐる “治らない”病気への挑戦
西洋医学から東洋医学へ
●漢方薬と鍼治療から<気功>の世界へたどりつく
・『漢方薬と鍼―はっきり効果が現れる方法を見いだして、私は夢中になり、研究と実践、治療をつみかさねていった。そのころ私は「鍼師・矢山」と呼ばれていたほどだった。一方、ムチウチがよくなったという話をきいて、これまで悩んでいた人たちが新しくやってこられ、いつしか、私のまわりはムチウチ症患者だらけになっていた。
そして・・・やはり、漢方と鍼で治療しても、どうしてもよくならない患者があらわれてきた。
さまざまな治療をうけめぐったがよくならない高齢の患者。ムチウチをきっかけにして仕事がうまくいかなくなった経営者.家事がさばけなくなったのを怠けとみられて、夫婦関係がこわれてしまった主婦。学校の成績がおちこんで悩む学生・・・そのほか、鍼も漢方も効かないという人は、みんなこころにつよい鬱屈を抱えているようだった。そういう人たちをみて、これは漢方でいう“気が虚している”ということではないか、という考えにたどりついた。
十五年まえのそのころ、東洋医学会でみたポスターの、「気の流れをよくする訓練としての気功」という文字に出会った。これは気功ゼミナールの開催の知らせだった。
“気功があの人たちに有効にはたらくかもしれない”という想いがひろがり、“よいのでは、と考えたら、なによりもまずやってみる”という、これも習性化している生き方が、私を<気>の宇宙にむかわせた。』
●心身相関で病気が治ることを「心療内科」で学ぶ
・大学で恩師・池見酉次郎先生と出会い、「心療内科」に触れたことが、気功へとつながる大きな基盤となった。池見先生は当時、日本ではまもない心療内科の初代の教授であり、気功、ヨーガなどにも造詣が深かった。
・池見先生の講義で、病気は身体だけの問題ではなく、こころと身体の両方、心身相関で治るということを教わった。さまざまな囚われや、こころの葛藤が消えていくとみごとに病気が治っていくということを学んだ。
・「自律訓練法」は気功にとって役にたった。例えば、皮膚の温度を自分の意識で変える訓練―自己暗示をかけるかたちで、ゆっくりとした呼吸とともに「手があたたかーい」とくり返す。訓練を続けることで手をあたたかくすることができるようになる。
※補足:百会(頭頂)→丹田(下腹部)→足へと血液が流れていくように意識(イメージ)するということは、まさに気が血を推動するという働きそのものに目を向けた行為だと思います。
・矢山先生がつくった気功の一つの柱は、「心身医学」といえる。非常に治りにくい胃潰瘍、原因不明の手足の麻痺、アレルギー疾患、これらはこころの軋轢で起きている場合がある。
<小周天法>を編みだすまで
●気功師 楊自正氏と出会い、はじめて<気>を体感する
・長い期間、病気が続いている人は病気を自分で治せるんだという気持ちが薄れてしまっていることが多い。どこかに治してくれる人がいるのではないかと思い、あちこちの病院を巡っている。
・漢方薬や鍼治療の効果があがらない患者さんは、必ずと言っていいくらい首や背中など身体のどこかに歪みがあった。
・医者から医療を受けるだけでは足りない。その人自身が、自分で自分を心身ともに持ち上げていけるようなプロセスとエクササイズが必要である。
・気功師 楊自正氏は脳外科医で武術の師から気功を学んできた。
・最初に学んだ気功が小周天だった。
・気が自由に出せるようになれば、さまざまな病気を治せるようになる。
・“意識、イメージの力によって身体の生理機能を自分で動かし、コントロールする”。
●<小周天法>を求めて、中国の古典を読みあさる
・小周天を簡単にまとめると―身体の真ん中の気の通路、前面が「任脈」、後面が「督脈」の、気の流れが盛んになると、全身の気の流れがよくなり、それで病気が治る―ということである。
・気を流すためには、まず、下腹部にある下丹田に気を集める。そのためには“下腹部に意識を集中し、息を吸うときも吐くときも下腹部を軽く緊張させ、そこに気が集まるとイメージし続ける訓練を行う。
●腹筋運動で熱を生じさせ、下丹田に<気>を集中する
・下丹田に気を集める方法として腹筋運動を取り入れた。
・『呼吸にあわせて、ゆっくり腹筋運動をしながら、意識を下丹田に集中する。つまり、腹部をふいごのように動かしながら、呼吸と熱のイメージと、筋肉の緊張と弛緩をくり返すわけだ。これを五十回から六十回もすると、下腹部に熱が発生する。当然なことで、運動による熱の発生だ。しかし、これをくり返していくうちに、だんだんすこしの運動回数で熱が発生するようになり、じょじょに運動をへらしていって、とうとう呼吸と腹筋の緊張だけで熱感を生みだすことができるようになった。』
●薬も鍼もきかない患者と<小周天法>の訓練をする
・漢方薬も鍼も効かない4人の患者さんに「気功訓練」を始めた。目的は小周天をマスターし自然治癒力を高め、病を克服してもらうことであったが、すぐさま壁にぶつかった。1番の問題は患者さんたちの背骨の歪みであった。身体の歪みは前後左右に屈伸したり、左右に捻じったりすることで身体の歪みがなくなる。これらは、ヨーガ、空手、太極拳から学んだものである。
・中国の導引にある、背骨を前後に波打つように動かす鳥と亀の型、左右に波うたせる龍の型を選んできた。そして、背骨をねじる動きに加え、これらの総合として、背骨を横8字に動かす熊の型を仕上げとした。
こちらは五禽戯という気功です。動画は「中国太極文化学院」さまから拝借しました。
・背骨の歪みをとる気功訓練が続いて、4人のうちの1人、女性の35年続いたという頭痛が少しずつとれていった。続いて長年の喘息で体力がなくなっていた朝山さん(仮名)も体力の回復に伴い、喘息の発作が減っていった。週1回の気功は新しい患者さんが加わり、症状の改善に至る患者さんが増えていった。しかしながら、患者さんたちが下丹田に気を集められるようにはならなかった。
・もともと、下丹田に気を集めるには、普通以上に健康で、体力・気力が充実していることが必要である。
第三章 「気」のスイッチとコントロール
●韓国のお坊さんがくれたヒント
・『気功師や特異能力者の測定をするとき、こちらが測定開始の合図を送ると、途端にサーモ・グラフィーも脳波計も血圧計も変化を示します。それは見事と言えるほどです。ところが気功師たちを見ると、外見上は何も変わるところがありません。一体何をきっかけとして、このような変化を起こすことができるのか、いつも不思議に感じていました。つまり、「気」のスイッチは一体何かということです。』
・自律神経を自分でコントロールできるようにするのが気功であると言えるが、そのコントロール方法を解明しなければならない。
・呼吸は自分の意志で動かすことのできる体性神経と、動かすことのできない自律神経の双方に関係しているので、重要なものだと考えていた。
・『韓国のお坊さんを測定する機会がありました。その方は、こちらが測定開始の合図をすると、口で「フー」と細く長い息を吐いたのです。その時「あっ、やっぱり呼吸だ‼」と確信が持てました。』
●「気」のスイッチは呼吸だった
・グラフ3・1(a)は、第一章で紹介したベテラン気功師S氏の平静時(コントロール・データ)の呼吸と血圧。
血圧も同時に記録してありますが、わかりやすくするため上段に時間幅を拡大した図も併記してあります。呼吸はグラフに示すように、呼吸が弱く、呼気が強く記録されますが、2.5~3秒に1回、すなわち1分間に15回程度のペースで呼吸しています。私は、これまでずい分たくさんの方の測定をしてきましたが、一般的にどんなにベテランの人でも、測定となると緊張するのか、血圧は普段より高めになるようです。
同グラフ(b)が外気功を行っているときのデータです。
平静時と全く異なっているのが一目で分かります。ところが、外見は何も変わらず、こんな呼吸をしていることは測ってみてはじめて分かりました。
-呼吸数が増える
-1回の呼気と吸気に要する時間が短くなる
-吸気の時間は短いが、そのレベルは大きくなる
さらに、吸気と次の吸気の間には数回に分けて息を吐く、つまり口で表現すると「スッ」と鋭く吸っておいて「フ、フ、フ、・・・」と、スタッカートのように区切って吐くという、特殊な呼吸法をしているところが見られます(グラフ中矢印)。同時に記録した血圧と呼吸の関係をみると、データの中央付近で、呼吸を速めることで血圧が上昇し、その後短時間の吸気があって、再び呼気が速くなると血圧も上昇していきます。また、血圧波形の一分間のくり返し回数が心拍数になりますが、これを測ってみると心拍数も上昇していることが分かります。これ等のことから、明らかに呼吸によって血圧や心拍数を変化させていることが分かりました。「気」のスイッチは、平常の呼吸から特殊な呼吸に切り換えることで行われていたのです。』
●呼吸と自律神経系の関係
・呼吸を司る部分は延髄にあり、ここを通った神経は視床下部を通過して大脳皮質に情報が伝えられる。視床下部は自律神経の中枢なので、呼吸を変化させることによって、自律神経に影響を与えていると考えられる。
●「気」をコントロールする呼吸
・気功師の呼吸の使い分け、また血圧や心拍数との関係はどうなっているのかを検討した。
・『Sjさんは脳波測定と同時に呼吸の測定も行いました。まず透視のとき、脳波はアルファ1波の領域で、右前頭葉と右視覚野が連携した形で活発に活動していました。
●緊張型とリラックス型
・S氏とSjさんを比較すると、S氏は呼吸によって自律神経の交感神経に働きかけので血管は細くなるが、心拍数は上がり血液の循環が良くなって体表面温度が上昇する。一方、Sjさんは呼吸によって自律神経の副交感神経に働きかけ、心拍数は下がるが、血管は拡がるので血液量は増え、結果としてやはり体表面温度が上昇する。前者を「緊張型」、後者を「リラックス型」と名付けて区別している。
●呼吸の不思議
・気功では腹式呼吸が多く用いられるが、腹式呼吸には吸気のときに腹部がふくらみ、呼気のときにへこむ順腹式呼吸と、逆に吸気のとき腹部がへこみ、呼気のときにふくらむ逆腹式呼吸とがある。気功では順腹式と逆腹式の呼吸をうまく使い分けていることが分かってきている。
コーヒー・ブレーク
●地震おばさんとしゃっくり
・『中国の成都に、私達が通称「地震おばさん」と呼ぶ50代の女性がいます。地震を予知する能力をもっているところからつけた愛称で、これまで中国で起こった地震を何度か予知し、ズバリ的中させて表彰されたこともあると聞いています。同行したテレビ局の人によると、1994年に起きた、国後、択捉の地震も、日時、震度ともにかなり正確に予知していたと言います。面白いことに地震おばさんは、予知をしようとして何かを感じるとしゃっくりが出はじめ、何かヒラメクとしゃっくりが止まって話し始めます。私は例のごとく、予知しているときの測定をさせてもらおうと測定器を持参していきました。事前にあれこれ話をしていたら、しゃっくりが始まりました。どうしたのかと思っていたら、「先生の家の前は、道がこうなって家がこういう配置になっている」と言い出したのです。そして「当たっていますか」と聞きます。驚いたことに、確かにその通りなのです。居合わせた人達もびっくりして、他の人もやってもらいましたが、やっぱり当たっています。ところが、こちらから、「では、ここはどうなっていますか?」と質問すると「聞かないでほしい」と言います。勝手に見えてしまうことを口にするのはいいけれど、聞かれたことを見ようとしても見えないのだと言います。こんなことがあった後で、近いうちに日本に地震があるかどうか、あるとすればどこで起こるかを予知してもらうことにしました。
1994年12月11日の4ことです。
地震おばさんには、日本の地図を見せ、近いうちに地震があるとすればどこか丸印を書いてもらうことにしました。彼女は、日本のことは全く知りませんし、日本語も無論わかりません。日本がどこにあるかも知らないかもしれないような、素朴なおばさんです。実験を開始すると、目を閉じたままジッとしていて、やがてしゃっくりを始め、突然何かひらめくと目を開けます。この時、日本の地図を見せると、淡路島北部から神戸、大阪にかけて丸印をつけたのです。その時、私は日本人だったら、けっしてこんな場所に印はつけないだろうと思いました。関西地方は地震が少ないと言われ続けていたのですから。彼女は、大阪を見るとバランスを失ったように感じて気持ちが悪くなるとも言いました。
測定は無事終わり、師走の日本へあわただしく帰ってきました。同行したテレビ局では、地震の予知は社会的影響も大きいということで放映にはなりませんでしたし、私も暮、正月の忙しさにまぎれ、予知のことはすっかり忘れていました。そして、1995年1月17日早朝、あの阪神大地震が起こりました。慌てて丸印の書き入れられた地図を確認し、どれほど驚いたかご想像いただけると思います。ほぼ正確に予知されていたのです。
地震おばさんの測定結果は、サーモ・グラフィーでは温度上昇をとらえ、血圧、心拍数も上昇しています。また、呼吸が激しくなるとアルファ波が強く出て、特に右前頭葉の活動が強くなっていました(写真33)。
面白いと思うのは、何か感じはじめるとしゃっくりが出るということです。しゃっくりは、横隔膜や呼吸に関する筋がけいれんするために起こります。なぜけいれんするか、そのメカニズムははっきり分かっていないのですが、胃から横隔膜の刺激や、血液変化による呼吸中枢への刺激などが考えられています。地震おばさんは何かを感じているとき、呼吸が切迫してきます。この呼吸は、自分でコントロールしているのか、他に何か要因があって呼吸中枢が刺激されているのか分かりませんが、後者の可能性が強いように思えます。何か呼吸中枢を刺激するような身体的変化があるのかもしれません。また、地震が起こると予知した場所を、地図で見ているだけで気分が悪くなると言います。嘔吐中枢は呼吸中枢と同じ延髄にありますから、やはり呼吸との関連が考えられます。はたして地震としゃっくりは関連があるのでしょうか。』
第四章 「気」の能力が測定できる
●「気」のレベルをコントロールするもの
・初級
-安静睡眠とはほとんど変わらない。
・中級
-見ているだけでは分からないが、腕に力が入り筋電図の振幅が大きくなっている。
-GSR(皮膚抵抗測定)は初級に比べ、全体的に細かく緊張している。
-脳波は左右の前頭葉に急にアルファ波が増え、前頭葉の活動が活発になっている。
-心拍数の変化は力が入ったことと関係している。
-血圧は激しく変動し下がった時は普段より低く、上がった時も普段より高いという変化をしている。
-呼吸は初級と比べるとやや荒くなっている。
・上級
-最も目を引くのは呼吸である。速く、荒くなっている。グラフを見るとハァハァと息をしているように見えるが、外見は全く変化が見られない。
-呼吸はおよそ2秒に1回、強く吐いているので1分間に約30回の呼吸数になっている。
-筋電図、GSR(皮膚抵抗測定)からは緊張が強くなったことが分かる。
-血圧は、中級のような不規則な変化は見られず、全体的に高くなっている。
-脳波は右前頭葉が活発に活動している。
-緊張が強いのにアルファ波が増えるのは、手には力が入っていても頭はリラックスしているからだと思われる。
●L氏の外気功、念力とは
・L氏は大勢の人を集めて治療の「気」を送ることができる。
・外気功ではGSR(皮膚抵抗測定)はリラックスしているのが確認できる。
・血圧は外気功を始めるとすぐ上昇している。
・呼吸は静功(站功)の上級ほどではないが部分的に速く、そして強くなる。
・『脳幹にあるA10神経核の神経は、視床下部を通って前頭葉で終わっています。従って、呼吸を変化させて呼吸中枢を刺激し、その信号が視床下部を通って大脳に伝わると考えれば、前頭葉の活動電位が特に高くなることが納得できます。』
※ご参考:A10神経とは
まとめ
1.「気」とは極めて微弱(赤外線ストーブの1000万分の1に過ぎない)な遠赤外線(電磁波)に1ヘルツ前後の周波数のシグナル(何かの生体信号)を乗せているものではないか。自分には能力があるという人でも、サーモ・グラフィーには何の変化も現れない人がいる。また、普通の人が発する遠赤外線エネルギーは一定の値だが、気功師では約1秒に1回の割合で規則的に変化しているという特徴がある。
※補足:シグナルについて
例えば、テレビのリモコンは非常に小さい赤外線に電源、チャネルの変更、ボリュームの調整などの情報を乗せてテレビ本体に送る。これと同様に遠赤外線で情報を伝えることは可能である。
2.気功とは訓練によって自律神経を自分でコントロールできるようにするものである。
3.気功によって右脳に特徴が現われるとともにアルファ波が活性化される。「気は右脳の世界」と言える。特に右前頭部と右視覚野が関係している。また、気功中にベータ波が沈静化されアルファ波の活動が活発になり、特にアルファ波の中でも周波数の低い方のアルファ波1(8~10ヘルツ)は、劇的と言えるほどの変化をしめす。
4.「気」のスイッチは平常の呼吸から特殊な呼吸に切り換えることで行われていた。
5.前頭葉から放出されるドーパミンが特に重要であると考えられる。なお、ドーパミンには様々なシグナルがある。
感想
「気」のスイッチは呼吸です。また、これには自律神経が深くかかわっています。『気功とは訓練によって自律神経を自分でコントロールできるようにするものである』とする説は、普通の人でも「気」を発することはできるかもしれないということです。
気功によって脳内は変化します。右前頭葉と右視覚野の働きが活発となり、脳波はアルファ波が優位になります。その意味では「気」に脳が関与していることは間違いないと思います。
赤外線ストーブの1000万分の1に過ぎない微弱な電磁波に1ヘルツ前後の周波数のシグナル(何かの生体信号)が乗っているという説はとても興味があります。
“呼吸”、“自律神経”、“右脳”、“アルファ波”、そして“シグナル”。この最後の“シグナル”が解明できれば、『氣』に一歩近づけるのではないかと思いました。
第二章 脳波は語る
・気功は静功でも外気功でも右脳に大きな変化が現われる。
・気功中にベータ波が沈静化されアルファ波の活動が活発になるのはすべての気功師の特徴だった。特にアルファ波の中でも周波数の低い方のアルファ波1(8~10ヘルツ)は、劇的と言えるほどの変化をしめす。
●劇的に変化するアルファ1波
・『Sjさんは40才ぐらいの中国人女性気功師です。気功による特異功能の一つである透視ができるという人で、病気の診断や治療も得意としています。名前を聞けば「ああ、あの人」と分かる人も少なくないかもしれません。まず、透視実験として気功師の知らない人の名刺を渡し、その人の性格や特徴、職業や仕事の状態などを透視してもらうことにしました。Sjさんに名刺を渡すと、驚いたことに渡された名刺を一瞬見ただけで、あとは目をつぶったまま身じろぎもせず透視を始めました。外見からは何かを見るというより、何かを感じようとしているように見えます。ちなみに答えは当たっていましたが、当てっていることに驚いてばかりはいられません。透視実験と言っても透視が当たっているかどうかが問題なのでなく、透視中の身体的変化を測定することが実験の目的なのですから。
写真20が、透視中のアルファ1波のトポグラフィーです。
名刺を受け取った瞬間に右脳に変化が現れます。アルファ1波の活動電位は、まず右前頭葉と右視覚野に当たる部分が高くなり、それをつなぐ右側頭葉の電位も高くなって右脳全体が高電位になります。その後時間を経ると、今度は右視覚野の電位が下がりはじめ、右前頭葉だけに電位の高い所が残りますが、それもやがて消え透視が終わります。この間わずか20秒、この写真のどの部分で透視が行われたかは分かりませんが、おそらく数秒の間に透視をしているのではないかと思われます。目に見えないものを見ようとする時、外見は何の変化もないのに頭の中はこんなにも劇的とも言える変化を示しているのです。この時、アルファ2波はアルファ1波につられるような形でやはり電位が高くなりますが、アルファ1波より低く、ベータ波の電位は低い状態でした。また、サーモ・グラフィーの観察では、特に額の体表面温度が上昇していて前頭葉の活動電位が高いのと符合しています。』
画像出展:「【2024年版】一次視覚野の役割とリハビリテーション方法を解説!MRI,CTから視覚認識の改善ポイントとは?(ニューロリハビリ研究所)」
鳥距溝は後頭葉内側面にある深い溝で、一次視覚野(V1)の解剖学的目印として重要です。
●診断も透視の一種
・『Sjさんには、透視実験に続いて、病気の診断と治療をやってもらいました。患者はかなり歩行が困難なリューマチの女性患者です。診断、治療と言っても気功師と患者が2メートルほど離れて、ただ黙って座っているだけで特に何かをするというのではありません。まず、診断の時のアルファ1波が写真22abです。
この場合もやはり右脳の活動が活発になりますが、活動電位は透視に比べると低くなっています。透視実験ほど集中力を必要としないのかもしれません。まず視覚野が働き、やや遅れて右前頭葉の電位が高くなります。これ等の活動電位の高くなった所は、両方から伸びて行き接続すると右脳全体の電位が上昇します。その後時間が経過すると、右視覚野だけ活性状態が持続し、やがてその活性点は頭頂部やや前よりの一点に絞られます。このように、診断においても右前頭葉と右視覚野の活動が非常に活発であることが分かりました。診断は外から患者の病状を読み取る作業ですから、一種の透視と言えます。見えないものを見ようとする時、右前頭葉と右視覚野が良く働くと言えそうです。
この診断中のサーモ・グラフィーからは、大変面白い発見がありました。診断の最後のほうで活性点が頭頂部やや前よりの一点に絞られた時、気功師の眉間の間にある印堂と言われる経穴に、温度上昇を示す赤い点が現れました。』
●脳を使い分ける
・『Sjさんによると治療時のアルファ1波トポグラフィーを写真23abに示します。
治療時には右前頭葉から電位が上昇し、右視覚野へと伸びていきますが、すでに診断が終わっているせいか、視覚野はあまり活動していません。全体として右前頭葉の働きが非常に活発になっています。特に、その活動電位は、透視、診断に比べると二倍以上高くなっていて、治療ではアルファ1波領域において、より脳の活性化が必要とされていることが分かります。治療の結果は、右脳におけるアルファ1波の活動と同じように、まさに劇的でした。かなり歩行困難であった人が、Sjさんの「立って」「歩いて」という掛け声のままに動き出し、一人で階段を降りるまでに回復して、気功の威力を見せつけられる一幕となりました。』
●特異能力は洋の東西を問わず
・『Cさんはイギリス女性で本国では警察の要請で犯罪や行方不明の捜査などに協力している超能力者と言われる人です。病人の診断や治療はあまりしたことがないということでしたが、実験のために「やってみましょう」と快く協力してくれることになりました。』
●患部をズバリ指摘
・『診断と言ってもCさんは目をつぶっています。その時のトポグラフィーが写真24で、上段からアルファ1波、アルファ2波、ベータ1波、ベータ2波で、5秒間隔で表示しています。
ベータ波がほとんど活動していないのに比べ、アルファ波の電位が右脳で高くなっています。特に、右前頭葉と右視覚野が活発に活動しているのが分かります。しかし、この様な変化を見せるのはほんの数秒で、一瞬のうちに診断してしまうのではないかと思います。
診断の時、私は患者のサーモ・グラフィー(写真25)を見ていました。
サーモ・グラフィーはもともと見えない部分の発熱などを検知するため、医療現場で使われている装置ですから、一見してどこが悪いか分かりました。人体はほぼ対称にできているので、健康な人は温度分布もほぼ左右同じになるはずです。この人の場合、写真25のように右の下腹部に発熱しているところがあり、ここが患部です。診断に当たったCさんは、「右の卵巣」とズバリその患部を指摘しました。』
●右前頭葉が働くと患部が消える
・『続いてヒーリング(治療)に移りましたが、この時もCさんは目をつぶって、じっと座っているだけです。その時のトポグラフィーが写真26です。
治療では、診断より長い時間をかけるのは、前述のSjさんと同じです。その間、二回ほどアルファ波が強く現れ、特に右前頭葉のアルファ1波が活発に働いています。診断では、右前頭葉と右視覚野が連携した形で活発に活動し、治療では右前頭葉の活動に重点が移るなど、前述のSjさんとよく似た現象をとらえることができました。洋の東西を問わず、特異な能力を発揮する時の脳の使い方には、何か共通するところがあるように思います。
一方、ヒーリングを受けた女性のサーモ・グラフィーを見ると、治療前に真赤であった患部の温度が、グングン下がって数分後には消えてしまいました(写真27)。』
今回も科学編になります。町 好雄先生は出版当時、東京電機大学の教授で『思い掛けない出会いから気功の「気」と科学的なつき合いをするようになって、十年が過ぎました。』とのことです。そして、町先生は1993年5月にパートⅠに相当する『「気」を科学する』をまとめられていました。
パートⅡになる本書は、冒頭にカラー写真が26ページにわたり紹介されており、測定結果を目で正しく確認することができます。時系列的にも品川嘉也先生の『気功の科学(1990年1月)』、湯浅泰雄先生の『気とは何か(1991年1月)』に続いて発行された本であり、勉強させて頂く順番としては良かったと思います。「気について」の理解はさらに進んだように思います。
目次
プロローグ 「気」と科学
●「気」の科学入門
●気は脳の科学
●サーモ・グラフィーで探る「気」
●「気」はシグナルか
●脳に伝わる「気」
第一章 「気」の全体像を見る
●何を測るのか
●点から線へ
●何で測るのか
●ベテラン気功師S氏の場合
●スポーツウーマンRさんの場合
●千日回峰者M氏の場合
●サーモが真贋を見分ける
●静功と瞑想
●気功は自律神経のコントロール
●「気」は右脳の世界
●アルファ波と脳内麻薬の関係
●「気」とリモコン
コーヒー・ブレーク
●気功法あれこれ
第二章 脳波は語る
●劇的に変化するアルファ1波
●脳のネットワークづくりを見る
●「気」の研究は21世紀の科学を開く
●診断も透視の一種
●脳を使い分ける
●特異能力は洋の東西を問わず
●患部をズバリ指摘
●右前頭葉が働くと患部が消える
●同調するアルファ波
●自在に脳を操るお坊さん
●喜びを感じる脳
●幽体離脱をすると
●第三の目が光る
●非科学を科学するハイテク
●神のいるところ
●超能力者は超敏感人?
コーヒー・ブレーク
●子供と超能力
●メルティングチーズになった私
第三章 「気」のスイッチとコントロール
●韓国のお坊さんがくれたヒント
●「気」のスイッチは呼吸だった
●呼吸と自律神経系の関係
●血圧波形にも異常が
●「気」をコントロールする呼吸
●緊張型とリラックス型
●流儀の違い?
●呼吸の不思議
コーヒー・ブレーク
●地震おばさんとしゃっくり
第四章 「気」の能力が測定できる
●「気」の能力は測定できるか
●L氏と站とう功
●ハイテクが明かす「気」の能力
●「気」のレベルをコントロールするもの
●血圧波形に見える「気」のレベル
●心拍数も自由自在
●血のめぐりが決めて?
●心臓で何が起きているのか?
●脳では何が起きているのか?
●L氏の外気功、念力とは
コーヒー・ブレーク
●心臓に関するミニ知識
●アッと驚く電気の利用法 電気気功その1
●電気気功体験記 電気気功その2
●交流の縞模様を見た! 電気気功その3
●気功師は可変抵抗 電気気功その4
第五章 ハイテクで「透視」を透視する
●透視の何を測定するのか
●Wさんの透視
●透視時の全体像をみる
●踊る心拍数
●見えたのはココだ!!
●タイミングをはかる
●やはり呼吸がポイント
●透視実験は?
コーヒー・ブレーク
●仏像に似た女性
●「気場」を考える
●「気」と意識
第六章 データが語る「気」のいろいろ
●気功麻酔シミュレーション
-気功麻酔ではシータ波がポイント
-気功師は脳波の同調を感知する
-心拍数も同調する
-気功麻酔の効果
●サーモが語る「気」のいろいろ
-ヨーガと座禅
-電気人間O氏の座禅
-武術気功(硬気功)
-目的によって違う「気」
●心拍数が語る「気」
-武術・スポーツの「気」
-気功治療に科学的裏付けは可能
-成功も失敗も一目瞭然
-外気功では心拍数の変化も同調する?
-気功と針
コーヒー・ブレーク
●気功の脳科学が一歩前進
●足の裏は語る
エピローグ 非科学を科学する可能性
●偶然か情報の伝達か
●「第三の目」は本当に光る?
●超能力ということ
プロローグ「気」と科学
●気は脳の科学
・10年近く研究してきて、「気」の科学は人体科学であり、特に「脳の科学」ではないかと思うようになった。
・『専門分野であるエレクトロニクスについて思い起こしても、「不思議なもの」であった電気に関する現象が、科学的研究の対象となったのが1600年、それから300年を経てはじめて、電気の正体が原子の中の電子であることがつきとめられたのです。』
●サーモ・グラフィーで探る「気」
・人の体は波長が10ミクロン・メートル付近の電磁波の一種である遠赤外線を放射している。この目に見えない遠赤外線の熱エネルギー電気信号として検出し、画面に映し出す装置がサーモ・グラフィーである。
・体表面温度は、主として皮下の血管を流れる血液によるものである。
① 気功師が「気」を発すると、気功師の体表面温度は変化する。体表面温度が上昇する気功師が多く、温度上昇は3~5度ぐらいになる
②「気」を発して体表面温度が下降する例
③気功師と「気」の受け手は、体表面温度の変化という点で「同調」する
気功師が「気」を発した時の体表面温度の変化は全身に及ぶ。このことから、自分の意志でコントロールできないとされている自律神経を気功師は「気を発する」という自分の意志で、コントロールしているといえる。上記①②③の実験結果により、「気」が存在しそれが「相手に伝わっている」ことが明らかになった。
●「気」はシグナルか
・気が伝わることは明らかになったが、「何が伝わっているのか?」が問題である。人間の体から放射される遠赤外線のエネルギーは赤外線ストーブの1000万分の1に過ぎず、相手に影響を与えることはできない。そこで考えられるのが、ラジオやテレビの電波のように、人体から放射される遠赤外線にシグナル(情報)を乗せて相手に送っているのではないかという考えである。つまり、このシグナルが相手の脳に伝わって、「気」を受けた人にも気功師と同様の変化が現われるのではないか。そして、実験により気功師の気功中に放射する遠赤外線に1ヘルツ前後のシグナルが乗っていることが確認できた。
・普通の人が発する遠赤外線エネルギーは一定の値だが、気功師では約1秒に1回の割合で規則的に変化していた。ただし、この1ヘルツ前後の周波数のシグナルが何を意味するのかは分からない。おそらく何らかの生体信号として相手に伝わっているものと思われる。
・気功師の中には手掌から音波が検出されたケースもあった。これはヒトの耳では聞こえない極めて低い周波数の音波である。
●脳に伝わる「気」
・「気を出す」という意志は脳の働きによるものである
第一章 「気」の全体像を見る
●何を測るのか
・科学的研究の対象は外気功による「気」が中心になるが、気功の基本は内気功なので内気功も研究対象にすべきである。
●点から線へ
・外気功の「気」について、サーモ・グラフィー、遠赤外線強度測定器、IBVA脳波計を同時に測定することを行った。測定の対象は気功中の生理的変化に注目し、詳細なデータが得られる測定項目を選んだ。
●何で測るのか
・IBVA脳波計に加えて、医療用脳波計でも測定した。
●ベテラン気功師S氏の場合
・S氏は中国人で54歳、気功歴40年というベテラン気功師。
[静功]
[外気功]
写真10は外気功を行っているときのもので、左がS氏、右が「気」を受ける人でaは気功前、「気」の受け手は外気功を開始して30秒足らずで手の温度が上昇しはじめ、7分後にはbのように手全体が上昇した。
-血圧、心拍、呼吸の測定
『血圧、心拍数は自律神経系で制御されているので、気功師がどのようにそれを自分で制御できるのかが問題になります。私は、気功師が自律神経系の変化を引き起こす可能性のひとつで、最も簡単な方法は呼吸ではないかと考え、血圧、心拍数とともに呼吸数を測定してみました。その結果は、グラフ1・2に示します。外気功中の血圧、心拍数は静功時と同様に増加していますが、予想したように呼吸数も平静時に比べ、ほぼ倍近く増加していることが分かりました。この時の呼吸は浅い呼吸で、外見から変化はみとめられず鼻のそばにおいたセンサでしかとらえられないものでした。』
●スポーツウーマンRさんの場合
・Rさんはトレーニングに気功を利用した人で、アジア大会で数回の優勝歴をもっている。内気功を得意とし、測定時は閉眼で「站とう功」を行っている。
この動画は「かんたん気功体操 站椿功(たんとうこう)」さまからお借りしました。
[静功]
-血圧、心拍数の測定
『グラフ1・4がRさんの血圧・心拍数のデータです。気功をはじめると血圧・心拍数ともに増加しますが、S氏に比べると徐々に増加していくことが分かります。気功を中止すると血圧・心拍数ともに急激に低下します。従って、Rさんの場合は、徐々に「気」を高めていくように見受けられ、功法の違いによるものではないかと考えられます。』
●サーモが真贋を見分ける
・『私は、中国の学会などに参加した時、よく自薦、他薦の気功師や能力者といわれる人の測定をさせてもらいます。ところが、自分ではこういう能力があるという人でも、サーモ・グラフィーには何の変化も現れない人がいます。私達の目では本物かどうか分からなくとも、サーモ・グラフィーの目をごまかすことはできません。カメラの前に「黙って座れば、ピタリと当たる」ということではないでしょうか。』
●静功と瞑想
・静功と瞑想はいずれも“じっと無念無想”のように見えるが、サーモ・グラフィーによる測定結果は全く異なる。静功は体表面温度、血圧、心拍数は上がるが、瞑想はいずれも下がる。全く逆の測定結果となる。
●気功は自律神経のコントロール
・気功とは訓練によって自律神経を自分でコントロールできるようにするものであるといえる。
●「気」は右脳の世界
・気功を始めるとベータ波は弱くなる。
・気功によって右脳に特徴が現われる。「気は右脳の世界」と言える。
●アルファ波と脳内麻薬の関係
・『アルファ1波についてみると、特に電位の高い所は右脳の前頭部にあることが分かります。通常、アルファ波は後頭部にあることが知られているので、気功中に後頭部から前頭部に広がってきたアルファ波が、右脳前頭部で増強されたと考えるのが自然です。このように前頭部から前頭部でアルファ波が強くなるのは、何を意味するのでしょうか? 私は前頭部から放出されるホルモンと関係があるのではないかと考えています。前頭部から放出されるホルモンについては、いろいろ研究がされていますが、特にドーパミンというホルモンが多量に放出される所です。このドーパミンは脳内麻薬といわれるホルモンで、放出されると快感を感ずることが知られています。気功師が静功、外気功を問わず、気功を行うと心地よく感ずると言うのは、このドーパミンが放出されるためではないかと考えられます。明治鍼灸大学教授の森氏の研究によると、ツボを刺激したとき前頭部が活性化することをポジトロン断層撮影装置(PET)で確認し、これはドーパミンの働きであることが報告されています。』
※ご参考:ドーパミン(神経伝達物質)と前頭部に関して
●「気」とリモコン
・気功師から発さられる遠赤外線は5mm厚の段ボールでも遮断できた。このことより、遠赤外線のエネルギーは非常に小さいことが分かる。
・エネルギーの大小に関わらず何か伝えることは可能である。例えば、テレビのリモコンは非常に小さい赤外線に電源、チャネルの変更、ボリュームの調整などの情報を乗せてテレビ本体に送る。これと同様に遠赤外線で情報を伝えることは可能だと思う。
・1ヘルツ前後の周波数で変調された遠赤外線が有力な手段と考えられるが、他の可能性(例えば音波など)も検討する必要がある。
『経絡における気の作用という現象は、この問題についてわれわれに新しい見方をとる必要を示唆している。戦後まもないころ、「経絡戦争」が起こったとき、間中喜雄氏は、「経絡という概念は将来、従来否定されてきたような意味で否定されるべきものでなく、また経絡肯定論者があると考えているような意味で存在するのでもないというような日が来るのではあるまいか」とのべたという。筆者[湯浅先生]には、この間中氏の予言は深い意味をもっているように思える。』
上記の間中先生のご指摘通りのことが起きているように思います。
今回は“氣とはなんだろう”の9、10のまとめです。とても重要なので以下の項目に分けて勉強したことを整理してみました。
1.病とはなにか
2.気とは何か
3.気血とは何か
4.経絡とは何か
5.情動とは何か
6.呼吸法とは何か
7.間人的同調とは何か
8.その他(生体の場)
1.病とは何か
1)全身をめぐる経絡内の「気血」の流れの異常に病因を求めるものである。
2)中国では脈診法が古代から現代まで受け継がれており、西洋医学とは全くことなる精緻なもので、病を判断する重要なものである。
2.気とは何か
1)気は「技」の体験と結びついて生まれてきた実践的経験知である。
2)気(気功師の発功)は物理的方法で捉えることができる。
3)気功師が発する赤外線はせいぜい数マイクロワットで、普通の赤外線発生装置(例えば、赤外線コタツ)の1億分の1か10億分の1程度にしかならない。
4)中国では人体内部だけでなく、人体の外部に発生するエネルギーにも注目している。それは人体と環境、つまり人間と自然が関わる。
5)人体の内外を流れているエネルギーは、電流や赤外線の他にも、磁気・超低周波(耳に聞こえない音)・光(生体の微量発光)などが知られている。
6)気の作用の特徴的なことは、心身の訓練に熟達した気功師は赤外線、磁場、超低周波、フォトンなどを意識集中(意念)によってその発現状態をコントロールできる。
7)人体に磁場が発生することが重要ではなく、人間の意識と磁場に相関関係があることが重要である。
8)気功師が気を発するときには、耳に聞こえない音が脈打ちながらその身体から出ていると考えられる。
9)生命体はすべて、微量ではあるが光を出している。これをバイオフォトン(biophoton)という。
10)気功師のフォトンの量は一般人と比べて大差はないが、気功師は気を出したり止めたりすることができる。それに伴ってフォトンの量が顕著に増減する。
11)気の作用が何らかの形で物質的エネルギーの作用と相関関係があるらしいという事実が認められたことは大変重要である。
12)明らかになった物理エネルギーは、生きた人体に備わっている作用なので、気とは人体を生きた状態に保っている基本的なはたらきである。
13)気は心理作用と生理作用に関わる。そして物質的エネルギーも伴っているので、心理-生理-物理(精神-生命-物質)という三つの次元を統合するエネルギーである。
14)治療に当たった気功師は、気を発したあと、非常に消耗した状態になるが、このことも心理作用と生理-物理作用の相関性を示している。
15)気は生命体に特有な未知のエネルギーである。
16)気の流れは生理的機能を活性化する。
17)気の流れは生体電流のような作用を介して間接的に推察されるものであり、直接的に気のエネルギーを認知することはできない。
18)気の流れは生理的側面だけでなく、主観的な心理的側面において感じられる働きである。
19)心理-生理的観点からみた場合、気の訓練は自律神経のはたらきと深い相関関係をもっている。
20)気は心(意識-無意識)と身体を媒介し、心理領域と生理領域の間の一種のエネルギー変換をつかさどっている作用である。
21)気とは心身の訓練を通じて感じられるようになるはたらきである。
3.気血とは何か
1)目に見える血の運動をコントロールしているのは、見えない気のエネルギーの流れである。
2)古書には「気行けばすなわち血行く」といわれ、気の流れが血液や体液の循環運動を支配していると考えられてきた。
3)気が超低周波を含んでいて血管の中を伝わって伝播しているということは、生理学的立場からみても一定の妥当性があるということを示している。
4)気功師が意念すると脳(11.8%)、上肢(24.1%)、下肢(26.9%)、下丹田(34.8%)の血流量はすべて増加した。逆に、意念しなかった部位で血流量はすべて下降した。
4.経絡とは何か
1)経絡は神経系と血管系の二つを統合する高次のネットワーク・システムともいうべき性質を与えられている。
2)本山博氏の研究は経絡を通る気の流れの運動は、神経系を介するものではなく、体液系によって起こっていることを明らかにした。そしてそれは皮下組織の部分である。
3)心理的からみればそれは無意識の領域に関連した人体のかくれた情報システムであり、生理面からみればみえない次元で栄養機能をコントロールしているシステムである。
4)潜在的な次元において「こころ」と「からだ」のはたらきを統合しているのが経絡のシステムであると考えられる。
5.情動とは何か
1)情動の作用は、外界感覚-運動回路(感覚器官・運動器官の活動)がスムーズに働くためのエネルギーか潤滑油の働きをしているといえる。
2)瞑想は情動の働き方の歪みを直し、それを自由にコントロールする訓練である。
3)情動をコントロールすれば、無意識の力を意識的に統合することができる。
4)心は情動作用を通じて自律神経の働きに影響を及ぼし、内臓器官の活動に影響を与える。
6.呼吸法とは何か
1)東洋の修行法にみられる瞑想や武術の訓練は呼吸法の練習から始まる。中国・日本の古武道でも、呼吸法の訓練は昔から非常に重視されてきた。
2)呼吸法による「気」の訓練は、心の訓練と身体の訓練を一つに結びつける位置におかれている。
3)呼吸法の訓練から始まる心身の訓練は、意志の自由が及ばないと考えられている自律系の生理的機能にまで影響し、その潜在能力を高める。
7.間人的同調(transpersonal synchronization)とは何か
1)気功師が発した外気を受けて、受け手の患者の血管内部に大きな振幅の超低周波が発生したことが確認された。これは間人的同調の現象である。
2)人間関係においては、感覚と意識の認知に関わらない深層レベルにおいて、情報=エネルギーの受発信が無自覚のうちに互いに行われているという可能性が考えられる。
3)気のはたらきは、心理-生理-物理のレベルでエネルギーの変容を行いながら人体の外部にまで作用してまわりに一定の影響を与えている。
8.その他(生体の場)
以下は、間中先生が紹介された、末広恭雄教授が提唱された「生体の場」という考えです。調べてみると『生体の場の特性』という末広先生の著書が1970年4月に発行されていました。「気の間人的同調」を考えるうえで重要ではないかと思います。
『気のはたらきはこのようにして、心理-生理-物理のレベルでエネルギーの変容を行いながら人体の外部にまで作用してまわりに一定の影響を与えている。われわれはそれを生体に固有な「エネルギー場」とよぶこともできるであろう。間中喜雄氏は、魚類学者の末広恭雄教授が提唱された「生体の場」という考え方が、東洋医学の身体観にとってきわめて有益であると説いている。それによると、ウィルスから細胞、細胞の集まりである生物体、さらに生物体の集まった集団に至るまで、生命体はそのまわりに「生体の場」をつくり出している。この場合、生体の場には、意識的であれ無意識的であれ、「場」の領域内部が自己に属し、領域外は非自己として区別される。そういう生体の場が自己のまわりに形成されると、「非自己」からたとえば刺戟のような外力がこの場に加わると、必ずこれに対する反作用が生じる。この反作用は刺戟に対する興奮といった形で現われる、という。気のはたらきは、このような意味の生体エネルギーの場をつくり出しており、そこには外部に対する同調と拮抗という関係が見られる。気功師の発する気が他人の心身の状況に一定の作用をひき起こすという現象は、広い意味で間人的同調transpersonal synchronizationとよぶことができるであろう。』
生体の場の特性
著者:末広恭雄、発行:1970年3月
第1章 生体の場とA.R.について
1・1 生体の場の意義
『この論文の冒頭に、私はまずこの論文に絶えず出てくる“場”の意義について説明しておきたいと思う。
物理学で使用されている“場”とは、物質または空間の一領域において、或る状態量が各点の凾数として与えられたとき、その領域をその状態量の“場”という―というふうに説明されている(岩波:理化学辞典)が、この論文では生体の“場”をうんぬんする関係で、次のように定義したい。
まず、空間の一部を占有する有形的な”場”といえば、微小なものは原子核とその周囲を運行する電子より成る原子の如きものから、巨大なものでは太陽とその周囲を運行する惑星および衛星などより成る太陽系、あるいは、さらに大きな宇宙までも含む有形的な“場”が考えられる。ところがこの論文では、そのうちのいわゆる生命を有する物体の形づくる“場”を対象としている。
例えば、現在知られている最も微小な生物たるvirusに出発して、生体の構成単位である細胞、すなわち、核を中心としてその周囲に原形質を配した細胞、その細胞の集まった生物体、生物体の集まった群落または集団、さらにそれらが発達して生じた社会、いくつかの社会の集合による界などのように、有形的かつ生機的なあらゆる種類の“場”をいう。
なお、この論文で特に著者が強調したい事項は、ここにいう生体の“場”には意識的無意識的のいずれをとわず“場”の領域内が自己、領域外が非自己として区別される事実で、これは根本的に重要な事項である。
1・2 拮抗的反作用A.R.(Antagonistic Reaction)の意義
『上記の如く生体の“場”が形成されると、その“場”は時間の凾数のもとにあくまで“自己”としての特異的な生命活動を続けるが、この際“非自己”の領域から、例えば刺激のような外力がこの“場”に加わると、必ずこれに対する反作用として拮抗的な作用が生ずるもので、刺激に対してはこれが興奮といった形で現われることはいうまでもないが、もう少し視野を拡げれば拮抗的作用とでも呼ぶべき作用が生ずることを、私はこの論文で特に主張している。
このA.R.は一見しただけではわれわれ生物学者の常識の如く思える。しかし、各角度からこの作用を眺めてみると、このA.R.は或る場合は生体のホメオスタシスにおけるfeed-backの作用の一環として、また或る場合は化学的作用物質に対する拮抗的な反作用として、さらに色刺激に対する補色反応の如き打消し作用として、常に影の形に添うように存在する作用であることがわかる。そして、このA.R.を追求することによって、生体の相称形や螺旋形が意味するもの、種族保存と卵数の関係、性比や性転換の意義、抗原抗体反応における過敏性、芸術心理的な諸問題、さらに、染色糸やDNAの二重螺旋の神秘などに新たなる見解と構想が浮かんでくるのである。』
一通り整理した内容から、特に重要ではないかと思えるものを絵にしてみました。
ポイントは“気”[呼吸系・循環系]と“血”[消化系・代謝系]、それに”自律神経”と“脳”[特に情動]が関与しており、さらに“間人的同調”として“外部に影響を与えるエネルギー”ではないかというところです。
◆「気」を考える場合、まず“気血”に注目したら良いのではないかと思います。それは「気血の流れの異常に病因を求める」という考えがあるためです。やはり、最も重要なことは命(健康と病気)だと思います。
『古書には「気行けばすなわち血行く」といわれ、気の流れが血液や体液の循環運動を支配していると考えられてきた。』とされていますので、「気血」は一体であると考えられます。
「血(血液)」は酸素と栄養素に加え、生きるために必要な様々な生理活性物質を含んでおり、各組織に供給されます。現代でも血液検査は多くの病気の診断のために最も有効な検査となっており、血液は生命と健康のバロメータとも呼べるものです。
※ご参考:「血液検査の見方 国立病院機構兵庫中央病院 研究検査課」pdf3枚
◆さらに、付け加えるならば、1000年、2000年前の時代においても血は目に見えるものであり、血が大量に失われれば死に至るものだったので、極めて重要なものと考えられていたと思います。
科学に頼ることができなかった時代おいて、“神の経脈”と呼ばれた神経(中枢神経・末梢神経)の働きを深く理解することには限界がありました。しかし、現代において「気血の流れ」を考えた場合、自律神経系と脳の働きを無視することはできません。絵の中に“情動”(七情:怒・喜・憂・思・悲・恐・驚)と“自律神経系”を加えたのはそのためです。
◆一方、気功師の外気発功を計測器で測定すると、極めて微弱ですが、電気、磁気、磁場、超低周波、フォトンが人体から発せられていることが確認できます。また、これらの物理エネルギーは意念(意識集中)によってコントロールできることも明らかになっています。
湯浅先生が『気は心理-生理-物理(精神-生命-物質)という三つの次元を統合するエネルギーである。』とされるのはこのような実験結果からです。また、『エネルギーの変容を行いながら人体の外部にまで作用してまわりに影響を与えている。』という見解も見逃すことのできないもので、“間人的同調”という考えにつながります。外気功では送り手と受け手の同調が認められるように、気は体内に留まっているだけの存在ではなく、自己を取り巻く環境にも影響を与えるものだと思います。
◆この後の「ご参考」で紹介させて頂いている気療をみても、気の外部への影響を否定することはできません。少なくとも「影響する」という前提にたって、よくよく調べたいと思っています。先にお伝えした『生体の場の特性』という末広先生の著書に興味を持つのもこうした理由からです。
◆“個体の生存”と“種の保存(生体の場)”という表現が適切かどうかは分かりませんが、「気」は個々の命と種全体の命、時に種を超える地球上の生命体を守るために存在しているのではないのだろうかと思います。そこには遺伝子や量子エネルギーが関係しているのかもしれません。
中国において「気」が環境や宇宙といった外の世界にも広がるのはこのような考えからではないかと思います。
ご参考
私は2018年4月に“「気療」について考える”というブログをアップしているのですが、この本に書かれている内容が動画になっているのを知りました。いずれも大変興味深い映像なのでご紹介させて頂きます。
神沢先生の気療に対して、動物は人間より敏感に感じているのではないかと思います。人間は理性を司る大脳(新皮質)が発達し、文明社会の中で生きています。一方、動物は旧皮質の大脳辺縁系の働きに依存しています(魚類・両生類・爬虫類・鳥類は大脳辺縁系しかないそうです)。気の働きが情動などを司る旧皮質を中心に及ぶものだと仮定すれば、人間より動物の方が気の影響を受けやすいということは妥当なことのように思います。
今回、あらためて気療に興味をもったので、神沢先生の2023年1月に発行された最新の著書である、「気療の奥義 手を振るだけであなたも動物を癒せる!」も拝読させて頂こうと思います。
湯浅先生の本書の中にも気療を肯定するような説明がありました。
1.『青木はこれについて次のように語っている。「対立する世界をこえて、まず自分が無になることです。そうすれば融和して、限りなく相手と一体になる。自分は相手であり、相手は自分です。そういう状況では相手の気持ちの切れ目が分かるので、そこにスパーンと気合を打ち込んだら離れた相手をも倒すという、俗にいう遠当なるのです。』
2.『人体の内部で電気的現象などが起こっているとすれば、それが人体の外部にまで何らかの作用を及ぼしているということも、理論的には予想できたことである。』
Ⅲ 人体外部の「気」のエネルギー場
1 気のエネルギー計測
●気力とは何か
・気功とは「気のはたらき」や「気の訓練」という意味である。
・用語には導引の他、吐納・行気・布気・内舟といった言い方もある、導引・行気・布気は身体の各部に気を導くという意味である。吐納は古い気を吐いて新しい気を納れる(吐故納新)という意味である。内舟は気功の一部である瞑想法のことである。
・日本では平安時代には医者の間で導引に関する本が読まれていた。
・江戸時代には貝原益軒の「養生訓」をはじめ養生法についての著書が多く出ており、導引はその重要な一部を占めていた。
●気の三次元―心理・生理・物理
・人体(および生命体)に生物電流のようなエネルギー作用が備わっていることは、従来から良く知られていた事実である。広く言えば、脳波や心電図、皮膚電位の測定なども生物物理的計測の一種と言って良いし、バイオフィードバックの研究なども、人体のメカニズムについての生物物理的研究の範囲に入れることもできる。
・『人体の内部で電気的現象などが起こっているとすれば、それが人体の外部にまで何らかの作用を及ぼしているということも、理論的には予想できたことである。』
・『気の問題はこれによって、心理-生理-物理という三つの次元において生きた人体のはたらきを環境世界と交流しながら生きている存在である。気の研究は、この「こころ-からだ-もの」の全体にわたる統合的相関関係をとらえる企てになってくるわけである。』
●気功師が発する赤外線
・気功に関する科学的研究が中国で始まったのは、文化大革命が終わりかけた1977年のことだった。
・外気治療の測定
1)患者に布団をかぶせたが患者に反応が見られた。これは超音波や分子などの微粒子は布団を通らない。
2)患者を銅の金網で遮断しても患者に反応が見られたため、磁場でもない。
3)以上1)2)より、赤外線以下の短い波長をもった電磁波の一種と考えられる。
4)人体に害のある紫外線、X線は考えにくく赤外線ではないかと考え赤外線測定したところ予想通り赤外線の脈動波形が検出された。(この実験結果は『自然雑誌』創刊号[1978年5月]に発表された)
この場合、赤外線が検出されたこと自体が重要なわけではない(絶対零度以上の物体であれば何からでも出ている)。注目すべきは一般人と気功師との違いである。
『図22bは、林師が前記の患者に対して発功したときに、患者の膝の陽関のツボから検出された赤外線輻射である。林師と同じように起伏の大きい波が発生している。気の間人的同調transpersonal synchronizationとよぶことのできる現象である。つまり、Aから発射された気のエネルギーが空間をへだてたBの心身に一定の対応した効果をひき起こしたということである。
この実験報告は大きな反響をよび、これが契機になって、中国の多くの科学者たちが気のエネルギーの研究にとりくむようになった。イギリスの科学雑誌「ネイチャー」は、この年(1978)10月26日号でこの実験をとりあげ、パイオニア的性格をもつ研究であると評した。』
・気功師が発する赤外線は注目されたが、同時にいくつかの疑問も出てきた。赤外線は物理療法で使われるものであるが、それは数百ワットのエネルギーを用いる。ところが人間の手から出るエネルギーは、気功師の場合でもせいぜい数マイクロワットで、普通の赤外線発生装置(例えば、赤外線コタツ)の1億分の1か10億分の1程度にしかならない。こんな弱いエネルギーで果たして治療効果が得られるのか、という疑問がある。そこで懐疑派は、外気治療というのは心理的暗示効果によるものではないかと主張している。気功催眠説もこの部類に入る。
・患者側の心理的効果、人間と装置による治療はどこが違うのか等の問題を考える必要があるが、「気」の作用が何らかの形で物質的エネルギーの作用と相関関係があるらしいという事実が認められたことは大変重要である。それは、気の問題が心理-生理-物理(精神-生命-物質)という三つの次元にかかわっていることを示しているからである。
●人体と磁場
・人体の内外には様々なエネルギー現象が起こっている。特に中国で新しく起こった研究法は、日本とは異なり主として人体の外部に発生する様々なエネルギー場の作用に向けられている。これによって気の研究は人体内部に限ることなく、人体と環境、つまり人間と自然が関わる広い場面にまで広げられることになった。
・人体の内外を流れているエネルギーとしては、電流や赤外線の他にも、磁気・超低周波(耳に聞こえない音)・光(生体の微量発光)などが知られており、この外にも種々の作用が見出される可能性がある。
・磁場の測定も中国では1986年頃から始められた。電圧の出力と磁場は比例する(図24a)。
・図24bも図24cも気功師の発するエネルギーを測定したものだが、いずれも磁場は大きく動いている。
・電流が流れていれば磁場は発生する。生体電流は神経において最も活発であるが、内臓器官や筋肉などの活動も微弱な生物電気を発生させているから、それにともなって磁気も発生している。人体は一種の発電機の性質をもっているということもできる。
・重要なことは人体に磁場が発生するということではなく、人間の意識と磁場に相関関係があることである。
●人体から発する音
・人体は人間には聞こえない音を発している。中国の測定では、気功師が外気を発しているとき、手の表面からは9~10ヘルツ位と1~2ヘルツ位の機械的な超低周波が重なり合って、脈打ちながら出ているのが測定されている。
・電気通信大学の佐々木茂美教授のグループは、気功師を被検者にして、発功のときに大脳・皮膚・特に経穴(ツボ)などで発生する微細な機械的振動(マイクロ・ヴァイブレーション)について計測してみたところ、外気を発しているときは、皮膚の経絡に沿った部位につよい振動が起こっていることが分かった(大体、1~5ミクロン位の微細振動が起こっている)。このような測定はいわば、全身の皮膚から発する音を調べているわけである。気功師が気を発するときには、耳に聞こえない音が脈打ちながらその身体から出ていると考えられる。
・音波の振動は人体の内部でも起こっている。血液は血管を流れるときに超低周波を発生している。この場合、血管はメガホンのように音声導波管のような役割を果たして、その作用がずっと遠くまで及ぶことになる。
・『内部の状況は動脈の拍動部位の測定によって観察できる。外気を発射しているときの気功師の右腕の橈骨(手首の出っ張った骨)付近の動脈の拍動部位に聴診器の先端を固定して測ってみると、動脈の拍動は、外気を発する前は平均1.18ヘルツの振動だったのが、発射後は1.25ヘルツに増加し、振幅は約1.5倍になったという。さらに、脈管炎をわずらっている患者に外気治療を行なって、患者のツボである命門(背中、臍の裏)と互陽(背中、第七胸椎付近)に外気を送り込み、患者の左腕と右膝裏くぼみの動脈の拍動部位で振動を測ってみた。約30分間の治療で、膝裏の動脈の振幅は治療前にくらべて1.63~2.87倍に増加していた。このことは、気功師が発した外気を受けて、患者の血管内部に大きな振幅の超低周波が発生したことを示している。先に言った間人的同調の現象である。超低周波を利用した脈管炎の治療法は西洋医学でも既に行われているが、これは、音波の振幅が増すことによって、血管壁の老廃物を押し流し、ふつう音波が届かない内臓の深部や毛細血管にまで届かせる効果がある。気功の外気による超低周波は、こうして病巣部にまで深く作用することがわかったのである。』
・『古書には「気行けばすなわち血行く」といわれ、気の流れが血液や体液の循環運動を支配していると考えられてきたのである。「気」が超低周波を含んでいて血管の中を伝わって伝播しているということは、こういう昔からの説明が現代の生理学的立場からみても一定の妥当性があるということを示している。』
画像出展:「低出力パルス波超音波(LIPUS)を用いた低侵襲治療の開発」(東北大学病院 循環器内科)
『当科では、ある特定の条件を持った低出力のパルス波超音波が、血管内皮細胞における メカノトランスダクション機構を介して、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の発現を亢進させ、その組織血流を改善させることを種々の動物モデルと培養細胞実験で明らかにしてきました(図1)。これらの基礎的検討をもとに、大学倫理委員会の承認を得て、2013年12月から重症狭心症患者を対象に、東北大学病院を含む全国10施設で医師主導治験を開始し、2019年7月に新規症例登録が終了しました。今後、データ解析の結果が待たれます。』
●人体から発する光
・『人体からは光が出ている、といえば驚く人もいるかもしれない。しかし人間ばかりでなく、生命体はすべて、微量ではあるが光を出している。これを生物光子biophotonという。たとえば、植物の発芽のときなどは発光量がふえる。仙台にある新技術事業団の稲葉生物フォトンプロジェクトでは、生物フォトンの研究が進められているが、ここで気功師の人体計測を行ったことがある。』
※ご参考1:“資生堂、バイオフォトン測定により顔の酸化ストレスの部位差を発見 ―酸化ストレスレベルは加齢・シワと密接に関係―”
※ご参考2:“21世紀の医学 エネルギー医学の主流となるバイオフォトン療法の確立に向けて”
・実験により気功師のフォトンの量は一般人と比べて大差はなく、一番強かった女性の半分位であった。しかし独特なのは、気功師は実験者の指示に従って気を出したり止めたりすることができ、それに伴ってフォトンの量が顕著に増減することである。
・『治療時の気功師と被験者の身体の関係を双方の脳波を測って調べると共に、被験者の発光量がどのように変化するか調べる実験を行った。被験者の経穴から天目(額上部、印堂ともいう)及び左手の人差し指、中指、薬指をえらんで発光の強さを検出すると共に、両者の脳波測定を同時に行った。まず脳波であるが、気功師の方は治療中ずっと安定したアルファ波を出しつづけているが、被験者の方は治療を受ける前は不安定なベータ波が多い(図27a)。ところが気功師が気を送りつづけるにつれて、被験者の脳波も次第にアルファ波に変って安定し、両者の脳波が同調し始める(図27b)。このような同調現象は、日本医大の品川教授らの実験でも確認されている。』
画像出展:「気とは何か」
気功師の脳波は治療中ずっと安定したアルファ波を出し続けていますが、被験者は不安定なベータ波が多い。(a)
気功師が気を送りつづけにつれて被験者の脳波も次第にアルファ波に変って安定し、両者の脳波は同調し始めます。(b)
被験者の天目穴(B)と指先(A)のフォトンの発光強度。発気後10~16分にかけて両者は同調関係をしめしています。(c)
これに対して、このときの被験者のフォトンの状態はどうであったか(図27c)。気功師が気を出すと、被験者の指先の発光量(A)は徐々に減少し、これに対応して額の発光強度(B)が増してくる。図では発功後10分から16分のときに見られるように、指先(A)の発光量の減少と額(B)の発光量の増大との間にはっきりした対応関係が現われている。これは、気功師が発した外気の作用によって、被験者の身体の状態に変化が起こったことを示しているものと考えてよいであろう。
●バクテリアに対する気の効果
・『気功師が発功するときのエネルギー量は非常に小さい。たとえば赤外線輻射の量は数マイクロワット程度であって、人工的に造った赤外線発生装置(赤外線コタツなど)のエネルギーが数百ワットもあるのにくらべると、1億分の1以下の弱いものでしかない。このため、気功(特に外気)による治療効果は実はプラシーボ(偽薬)と同じ心理的効果によるものか、あるいは催眠と同じような現象ではないかという疑問が出されてきた。しかし、動物実験やバクテリアを使った実験などの結果をみると、そういう従来の考え方だけですべて説明することはどうもできにくい。問題はむしろ、検出される物理的エネルギーが意識的-無意識的な心理的情報の運搬者carrierと考えられる、というところにあるのではないだろうか。
私がこのようなことを考えたのは、ほかでもないが、前述の1984年に筑波大学で開いた「科学技術と精神世界」という日仏シンポジウムで、「気」について発表したときである。その討論のさい、フランスのユング心理学協会会長のアンベール博士がこんなことを言った。われわれ心理分析家はいわば自分の身体を道具にして患者を治療しているようなもので、狭い部屋の中で患者と顔をつき合わせて話し合っている。ところが、相手によって自分の身体の状態が非常にちがう。今日はどうしてこんなにくたびれるのか、と思うことがある。「気」のエネルギーというのはこういう作用をいうのではないか、とアンベール氏は言った。この話は、臨床家の実際的体験から出た言葉として印象に残っている。』
●エネルギーと情報の関係
・気の成分から赤外線のような電磁波、磁気、超低周波、静電気といった様々な物理的エネルギーが検出された。しかし、「気とは何か」が分かったわけではない。
・明らかになった物理エネルギーは、生きた人体に備わっている作用なので、「気」とは人体を生きた状態に保っている基本的なはたらきである、と定義することができる。
・気の作用の特徴的なことは、心身の訓練に熟達した気功師は赤外線、磁場、超低周波、フォトンなどを意識集中(意念)によってその発現状態をコントロールできる。また、脳波測定の結果をみれば、気功師は脳の活動を安定した状態に保つことができる。このことは、気と心理作用、生理作用との相関関係を考えさせる。そして身体の生理作用は物質的エネルギーをともなっているから、生きた人体には心理-生理-物理という三つの次元を統合するエネルギー作用が存在するということができる。
・気は「こころ-からだ-もの」という三つのレベルを一つにまとめる根本的なはたらきである。
・治療に当たった気功師は、気を発したあと、非常に消耗した状態になるが、このことも心理作用と生理-物理作用の相関性を示している。
・気功師が示すエネルギー作用は一般の人には見られないような波状の脈動として現われる。
●深層意識の情報伝達
・人間関係においては、感覚と意識の認知作用にかからない深層レベルにおいて、情報=エネルギーの発信と受信が無自覚のうちに互いに行われているという可能性が考えられる。
2 研究領域の広がり
●生理―物理の境界領域
・心理-生理的観点からみた場合、気の訓練が自律神経のはたらきと深い相関関係をもっているという点である。
・生理-心理的知見は、深層心理学における意識-無意識の関係とよく対応している。
・発功にともなう血流量の検査(航天医学工程[宇宙医学]研究所が行った研究[気功師31名、訓練中の者38名、対照グループ17名、計86名])は「気功功能態」(気の発射が起こった状態)での血流量を脳、上肢、下肢、下丹田で測る。まず安静時の量を測ってから、百会(頭頂)、左手の労宮(掌中央)、左の湧泉(足裏)と下丹田(臍下)に意識を集中(意念)して発功したときの変化を調べた。心拍と呼吸数も合わせて記録する。
結果は、気功師がこれらのツボに対応する脳、上肢、下肢、下丹田の血流量はすべて非常に増加した。その値は安静時に比べて、それぞれ11.8%、24.1%、26.9%、34.8%であった。逆に、意念しなかった部位では血流量はすべてはっきりと下降した。発功状態に入ると、まず呼吸数の低下と上肢の血流量増加がみられる。これは発功の初期段階に見られる特徴で、入静状態に入った指標である。それにつづいて、脳の血流量の変化と下肢の血流量増加が起こる。
・『医書には古くから「気は血を帥(ひきいる)するなり」「血は気の母なり」とか、「気至れば則ち血至る」などと説いている。清の唐容川は「気を載せるものは血なり、血を運らすものは気なり」と言っており、気の運動と血(血液・体液)の流れの間には密接な関係があるものとされてきた。これらの実験は、こういう古くからの考え方に裏づけを与えている。』
・『経絡系は、神経と血管というこの二つの代表的な統合システムをさらに一つに統合する高次のシステムという性格をもっているわけである。心理的からみればそれは無意識の領域に関連した人体のかくれた情報システムであり、生理面からみればみえない次元で栄養機能をコントロールしているシステムである、と考えられる。つまり潜在的な次元において「こころ」と「からだ」のはたらきを統合しているのが経絡のシステムであると考えられるのである。』
●経絡における気の活動状態
・本山博氏の研究は経絡を通る気の流れの運動は、神経系を介するものではなく、体液系によって起こっていることを明らかにした。
・本山氏のAMI(経絡-臓器機能測定装置)は、活動電位の伝播を神経細胞でなく体液細胞について測定する。手足の井穴(各経絡の気の流れが体外に出入りするツボ)と掌の間に回路を作って、神経による伝播が起こらない程度の弱い電流(3~5V)を通じて、経絡に沿って起こる電位変化を記録する。前に述べたように伝播速度は神経系のものに比べてずっと遅い。
●気の間人的同調
・『気のはたらきはこのようにして、心理-生理-物理のレベルでエネルギーの変容を行いながら人体の外部にまで作用してまわりに一定の影響を与えている。われわれはそれを生体に固有な「エネルギー場」とよぶこともできるであろう。間中喜雄氏は、魚類学者の末広恭雄教授が提唱された「生体の場」という考え方が、東洋医学の身体観にとってきわめて有益であると説いている。それによると、ウィルスから細胞、細胞の集まりである生物体、さらに生物体の集まった集団に至るまで、生命体はそのまわりに「生体の場」をつくり出している。この場合、生体の場には、意識的であれ無意識的であれ、「場」の領域内部が自己に属し、領域外は非自己として区別される。そういう生体の場が自己のまわりに形成されると、「非自己」からたとえば刺戟のような外力がこの場に加わると、必ずこれに対する反作用が生じる。この反作用は刺戟に対する興奮といった形で現われる、という。気のはたらきは、このような意味の生体エネルギーの場をつくり出しており、そこには外部に対する同調と拮抗という関係が見られる。
気功師の発する気が他人の心身の状況に一定の作用をひき起こすという現象は、広い意味で間人的同調transpersonal synchronizationとよぶことができるであろう。この言葉は品川嘉也教授が最初に用いたものであるが、気の研究の将来の方向をよく示しているように思う。』
Ⅳ 「気」と超常現象の問題―科学の時代をこえて
Ⅳはいわゆる超能力について書かれています。本書の中にも書かれているのですが、多くの人にとって超能力は懐疑的なものです。一方、「超能力そのものは非科学的なものではなく、現代の科学がそれを理解できる段階にまだまだ至っていない、と言った方が正しい。」という見方も存在します。私もその考えに従って考えたいと思います。
中国各地から集められた超能力を有する人は数十名、その大部分は8~15歳の児童で最も多い年齢層は12、3歳でした。中には成人の例もありました。集められた人達は各機関の予備調査でその能力の存在を確認されていました。予備調査の後、各研究機関のスタッフ、それぞれの省・市・県の科学委員会関係者、新聞出版関係者などが中心になって14名の超能力者が選ばれ、その家族と同伴で、上海市の科学・医務・教育等の分野の関係者200名以上の出席を得て、三日間にわたり討論と実験が行われたとされています。
1 超心理学をめぐる論争と問題点
●耳で字を読む
・『中国の気功研究の指導者とみなされている銭学森・陳信の両教授は、最近、次のようにのべている。「国家科学技術委員会は1987年5月3日、中国人体科学学会の設立を認めた。1979年、四川省唐雨において、“耳で字をよむ”少年が発見されて以来、実に八年たってのことである。今日に至るまでの苦難と曲折にみちたこの歳月は、人体科学研究所に関心をもって従事するわれわれにとって、誠に容易でないものがあった。中国人体科学学会が正式に設立されたことをわれわれが心から祝福しているのはこのためである。」1987年5月というと私がたまたま北京に滞在していたときである。このニュースは人民日報で知った。当時、この学会の理事長をしている張氏が訪ねてこられたことがあった。また陳信氏(航天医学研究所教授)とはその後、日本と中国でたびたび会うようになった。「耳で字をよむ」というのは、いわゆる超能力のことである。中国では「特異功能」と呼んでいる。「超能力」というのはジャーナリズムの造語であって学術用語ではないが、わかりやすいので使うことにしよう。』
[ここでは(1)、(8)、(9)、(10)をご紹介します。これはツボを見つけることに関係すると思うためです]
(1)身体で字を知る部位は一般に耳、腋下、手の指等が多いが、児童の中には頭頂、膝、背中、足の裏、臀部などで感じる例もある。
(8)現在のところ、二、三十名の児童に合宿させて指導したところ、全員が指先で字を識別できるようになった。このような例から考えると、超能力にはある程度の普遍性があるように思われる。
(9)この種の能力を有する者も識別のしかたは様々で、ある者は接触して感知するが、他の者は接触しなくても感知することができる。また腋下で文字や図形を感じる者もいる。
(10)この種の超能力は身体の健康状態、および精神状態と密接な関係がある。一般には、健康で精神が緊張し、壮快な気分のときは早く識別できる。反対の場合は識別がおそく、識別不可能なときもある。
科学編の2冊目は湯浅泰雄先生の『気とは何か 人体が発するエネルギー』です。湯浅先生は哲学者であり、気の思想、超心理学、ユング心理学等の研究をされました。本書の内容はとても高度で理解できたのは一部ですが、重要な発見がいくつもありました。
ストレスは多くの病気の原因とされています。しかしながら、この考えは1960年代に入ってからのものであり、それまでの近代科学は物質と精神(心)の間には関係はないという二元論の立場をとってきたようです。そのため、医学も心の存在は無視し身体だけを研究の対象にしてきました。東洋医学が廃れていった背景にはこのような実状もあったと思います。「気」について考えるとは、物質と精神(心)の関係性を考えるという側面も含んでいると思います。
目次
まえがき
Ⅰ 「気」の人間観と自然観
1 なぜ「気」を研究するか
●気と心身関係
●研究の学術性
●武道―脳波の間人的同調
●一瞬の気合によって相手を倒す
●日中交流と気のブーム
2 人体の見方と自然観
●二元論の克服
●還元主義をこえて
●みえる身体とみえない身体
●流体モデルの自然観と科学
●実践修行の問題
Ⅱ 人体内部の「気」のシステム
1 人体の情報回路
●局在的器官と統合的システム
●外界にかかわる感覚―運動回路
●身体の気づきとしての全身内部感覚
●生命を維持する情動―本能回路
●感情の重視
●身体の三つの回路
●自律系のコントロール
●呼吸法による「気」の訓練―調気
●自然治癒力を高める
2 東洋医学の身体観と人間観
●経絡のシステム
●体表医学と開放系の人間観
3 東洋医学の現代的研究
●第四の回路としての経絡系
●経絡敏感人の発見―気の心理面
●生理的観点からみた経絡
●経絡と神経の区別
●潜在的エネルギーとしての気
Ⅲ 人体外部の「気」のエネルギー場
1 気のエネルギー計測
●気力とは何か
●気の三次元―心理・生理・物理
●気功師が発する赤外線
●人体と磁場
●人体から発する音
●人体から発する光
●バクテリアに対する気の効果
●エネルギーと情報の関係
●深層意識の情報伝達
2 研究領域の広がり
●心理―生理の境界領域
●生理―物理の境界領域
●経絡における気の活動状態
●気の間人的同調
3 方法論的反省
●例外は本質を明らかにする
●事実と価値
Ⅳ「気」と超常現象の問題―科学の時代をこえて
1 超心理学をめぐる論争と問題点
●耳で字を読む
●超能力論争の問題点
●超能力研究の意義と可能性
●気と超能力は関係があるのか
●超心理学への一般的反応
●超心理学は科学か
●超常現象と認識批判の必要
●近代科学の基本前提
●超常現象は「気」で説明できるか
2 因果性の彼方
●ユングの超心理学批判
●因果性と共時性の重層
●目的論と科学
おわりに―心の科学と新しい人間観
まえがき
・「気」の考え方の基本は、心の働きと身体の働きを一つに結んでいるところにあると考えられる。
・心と身体、心理作用と生理作用を結んでいる生命体の未知のエネルギーなのではないか。
・「気」は実践的・体験的正確の強いもの。「気」の考え方が身体をもって行われる「わざ」の体験と結びついて生まれてきた実践的経験知である。特に気功はそのことをよく示している。
・四つの重要な問題点
1) 東洋の医学や修行法の歴史について一通り知っておくことが大事である。
2) ユングが指摘する無意識の問題は「気」の考え方の謎を解く鍵を握っているかもしれない。
3) 戦後、日本の東洋医学研究を進めてこられた先人の仕事である。これらの先駆者の仕事を無視すべきではない。
4) 気功の科学的研究、特に「気」のエネルギー計測にかかわる諸問題である。これは生物物理的研究技術の発達に伴って新しく生まれてきた研究テーマである。
Ⅰ「気」の人間観と自然観
1 なぜ「気」を研究するか
●気と心身関係
・近代科学は物質と精神(心)の間には何の関係ものない二元論の立場をとってきた。そのため、医学も心の存在は無視して身体だけを研究の対象にしてきた。
・1960年代に入ったころから、医学者からも心身問題が注目されるようになった。これは心身症と呼ばれるストレスによる問題が認識され始めたためである。一方、臨床面からだけでなく、基礎医学の方面からも心身論に対する動きが出てきた。その理由は1950年代以降、脳生理学の研究が急速に発展してきたためである。
●武道―脳波の間人的同調
・被験者Aは青木宏之師範:師範は若いころは空手の達人として知られ、新体道という新しい体術を創始した人。
・被験者Oは岡田満師範:青木師範の高弟
・「遠当」とは:相手の身体に触れることなく、一瞬の気合によって倒す技。
・テスト:演武時の二人(青木師範[被検者A]と岡田師範[被検者O])の脳波を計測する。
1)演武前:開眼安静状態に入った岡田(O)はすぐにα波が出始めた。青木(A)の脳波が岡田(O)より脳波が平坦なのは熟練度の差と考えられる。平坦波は脳死状態に見られる脳波だが、熟練した気功師や武術の達人は平坦脳波に近い脳波が見られる。
2)岡田(O)が青木(A)の背後から攻撃をかけようとした時の両者の脳波:青木(O)は背後に殺気を感じた。興味深いのは青木(A)の側頭前部(O₁O₂)と岡田(O)の側頭中央部(T₃T₄)の双方にβ波が出ている。この時のトポグラフ(図3b)を見ると、青木(A)の方は右脳でβ波が強く出ており、青木(A)は直観的に気を感じているようである。
3)岡田(O)が攻撃をかけ、青木(A)が体をかわした時の状態:このときの青木(A)のトポグラフ(図4b)をみると、β波は左側頭部に移っており青木(A)は左脳で意識しながら気を発しようとしている。
4)遠当の瞬間:青木(A)の脳波は比較的平坦であるが、気合を発した一瞬だけ烈しく動いている。この時のトポグラフ(図5b)を見ると、青木(A)の方は右側頭部からα波が頭全体に広がり、また脳の深部活動を示すβ₁波も全体に広がっている。岡田(O)の方は前頭部から右側頭部でα波が強く現われ、β₁波は全体にひろがっている。
瞑想状態についてのこれまでの脳波研究では、瞑想が深まるにつれてα波やΘ波が大脳皮質の広い範囲に現われることが知られている。この点から考えると、両者(特に青木)の頭部全体にα波が広がっていることは、遠当の瞬間、被験者が禅の瞑想の三昧(無我)に似た状態にあることを示している。
『青木はこれについて次のように語っている。「対立する世界をこえて、まず自分が無になることです。そうすれば融和して、限りなく相手と一体になる。自分は相手であり、相手は自分です。そういう状況では相手の気持ちの切れ目が分かるので、そこにスパーンと気合を打ち込んだら離れた相手をも倒すという、俗にいう遠当なるのです。さらに言えば、私がここに立っていて本当に無であれば、大我ともいうべきこの大きな宇宙の心は、私の心であると同時に彼の心でもあるわけです。ですから、彼が私を攻撃するということは、天の心を攻撃するということであり、また自分自身の心に攻撃をかけることでもあるわけです。自分が自分の心に対抗したら、彼は倒れるでしょう。これが本当の意味の遠当です。」
坐禅と瞑想とちがうところは、両名ともβ波の速い波は新皮質より下の古い皮質から起るといわれており、本能や直観のような心の深い部分が活動しているらしい。β波はふつう前頭部を中心に現われることが多く、後頭部まで広く分布することは少ない。ところがこの場合は、両者とも(特に岡田)β波が全体にひろがっている。インドからアメリカに伝わって普及した超越瞑想とよばれるヨガの瞑想では、瞑想がその第三段階にまで深まると、振幅のそろったリズミカルなβ波が頭部全体に現われる、とされている。これらの点を考え合せると、気のかけ手も受け手も、烈しい運動をしていながら、一種の深い瞑想に似た状態にあるものと考えられる。青木の技を受けた弟子たちの報告では、気を受けたときの状態は苦痛よりもむしろ爽快な一種のエクスタシー状態になるという。』
5)遠当後の脳波:青木(O)はすぐ平坦に戻っているが、倒れた岡田の方は高い活動レベルが続いている
「遠当」について質問してみましたが、明確な回答は得られませんでした。
2 人体の見方と自然観
●二元論の克服
・東洋の伝統では、「気」のはたらきは元々主観的に感じるものとされてきた。それは、普通の意識状態では認識できないが、瞑想とか武術・気功などの訓練をつんだ人は気の流れを感じとることができると説かれてきた。
・現代の心理学の立場からいうと、無意識の心理との関係を考える必要が出てくる。心身医学や精神医学では変性意識状態(ASC)という言葉を使うが、これは、瞑想・深い祈り・トランス・幻覚など、通常の意識とは違った心理状態を指す言葉である。それは無意識下の心の働きが表面まで現われてきた状態である。
・「気」の働きは、心理的な作用を示しているが、それは心理的なレベルに留まらず、身体の生理的レベルにおいて一定の客観的効果をあらわす。瞑想や気功などが健康法としての役割をもち、医療にも応用されているのはそのためである。
・今日では気功師がその身体から発する生体特有のエネルギーの性質を、物理的方法でとらえることも可能になってきた。このような観点もあり、「気」というエネルギーの作用は、通常の意識と感覚を超えた立場で心理-生理-物理という三つのレベルに変換してその効果をあらわすものだということになる。要するに、「気」とは主観的であると共に客観的であり、心理的であると共に生理-物理的でもあるような生命体に特有の未知のエネルギーである、ということになる。
●還元主義をこえて
・「気」とは心身の訓練を通じて感じられるようになるはたらきである。それは、通常の状態では感覚によって認識することはできないが、訓練によって心が日常普通の意識状態から変容するときに感受され、自覚され、認識されてくる。それと共に、気の働きは人体の生理的側面において一定の効果を現わす。気はさらに、人体と環境、つまり人間と自然をつなぐ物質的レベルにおいても一定の働きを示すのである。
●みえる身体とみえない身体
・三国時代の英雄・魏の曹操に殺された有名な医師・華陀は全身麻酔を用いた回復手術を行った医師として知られており、その手術記録は史書に詳しく残されている。一方、戦国時代の伝統的医師・扁鵲から始まる流れは、透視術によって体内の臓器の状態を知るものであった。ただし、本当に透視術を使ったのか「望診」だったのかは分からないが、扁鵲の医術は「黄帝内経」に代表される中国伝統医学の主流につながっていく。つまり、中国の古代では二つの傾向が並存していたと思われる。一つは解剖中心、そしてもう一つは、「液体(流体)病理説」ともいうべき考え方で、全身をめぐる経絡の中の「気血」の流れの異常に病因を求めるものである。
・経絡は「流注図」の他に、「環中図」や「明堂図とも呼ばれていた。
・解剖学的な「みえる身体」のシステムの底に、いわば「みえない身体」のシステムを考え、そこに流れている気のエネルギーに注目しつつ、「みえる身体」がもっている生理作用を説明してゆくことになる。
・気の流れの働きは「みえない身体」と「みえる身体」をつないで、身体の諸器官の作用を全体的に支配し活性化している。みえない身体の基本概念が「経絡」と「気血」であり、目にみえる「血」の運動をコントロールしているのはみえない「気」のエネルギーの流れであるという考え方である。
・中国の脈診法は古代から現代まで受け継がれており、西洋医学の脈の測り方よりはるかに精緻なものである。
●流体モデルの自然観と科学
・道教は自然の中に生きることを理想とするが、自然は客観的な観察の対象ではなく、人間の本性を表現するための舞台である。気功はそのための修行法である。仏教は生老病死の苦しみこえて「悟り」に至る実践の努力を重んじる。さまざまな仏教の修行法はここから生まれている。
Ⅱ 人体内部の「気」のシステム
1 人体の情報回路
●局在的器官と統合的システム
・東洋医学でいう経絡のシステムは、神経系と血管系の二つの主要システムを統合する高次のネットワーク・システムともいうべき性質を与えられている。そして経絡系は皮膚(および体液系)と関係が深い。
・『局在的器官である内臓や四肢ばかりでなく、神経系その他のネットワーク・システムをもさらに一つにまとめる高次の統合機能を果たしている。東洋の伝統医学が皮膚を最も重視してきたことは、そのホリスティックな考え方をよくあらわしているといえよう。』
補足)まず、本書の初版発行は1991年1月になります。そして2018年3月、以下のようなニュースがありました。この間質(ファシアの一部)は個人的には皮膚と同じくらいに重要な器官であると考えています。
ご参考:“ヒトの器官で最大の器官が新たに発見される” ニューズウィーク日本版 2018年3月29日
ご参考:“人体で最大の「新しい器官」は、なぜいまになって“発見”されたのか“ WIRED 2018年4月4日
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
これは間質とファシアについての表です。
この中で、『ファシアは間質を含む大きな構造として再定義され、間質はファシアの重要な要素として認識されるようになりました。』と説明がされています。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
こちらは皮膚とファシアについての表です。
この中で、『皮膚の直下にある浅層ファシアは、皮膚と深部組織をつなぐ重要な役割を果たしており、両者の健康は相互に影響し合っています。』と説明されています。
●身体の三つの回路
・瞑想の訓練は無意識からわき出る情動的コンプレックスを解消し、心のままにコントロールできるようにすることである。
・情動の作用は、外界感覚-運動回路(感覚器官・運動器官の活動)がスムーズに働くためのエネルギーか潤滑油の働きをしているといえる。
・瞑想は情動の働き方の歪みを直し、それを自由にコントロールする訓練である。歪みがあっては冷静な判断はできない。
・東洋の修行法の基本的な特質は、身体の訓練を通じて心の働き方を訓練していくところにある。
・身体の技と同じように心の動きは、繰返し繰り返し訓練を重ねることによって向上し発達する。例えば、密教の修行法に、仏のイメージに心を集中させながら一定のマントラ(神聖な呪句)を何万回も繰り返し唱えるような方法がある。日本仏教の念仏や題目を唱える習慣は、ここからきたものである。これによって、情動をコントロールし、無意識の力を意識的に統合することが修行の目的ともいえる。
●自律系のコントロール
・心は情動作用を通じて自律神経の働きに影響を及ぼし、内臓器官の活動に影響を与える。
・意志の自由になる皮質(感覚-運動)系の機能と、意志から独立した自律系の機能は、まったく無関係というわけではなく、情動作用によって関連しているのである。
●呼吸法による「気」の訓練―調気
・東洋の修行法にみられる瞑想や武術の訓練が、必ず呼吸法の練習から始まるということである。中国・日本の古武道でも、呼吸法の訓練は昔から非常に重視されてきた。
・気功の基本である調身・調息・調心は、道教・仏教・儒教の哲学に共通している。
・調息は調身と調心を結ぶ中心的役割を果たすものとして重要視されている。
・調息は調気と言いかえられることからも明らかなように「気」の訓練を意味する。従って、呼吸法による「気」の訓練は、心の訓練と身体の訓練を一つに結びつける要の位置におかれている。
●自然治癒力を高める
・アメリカの生理学者キャノンは、人体に備わっている様々の生理的機能の全体をホメオスタシス(生体機能の恒常性)とよび、それを「自然治癒力」とも呼んでいる。
・近代医学では人体の各部分に局在した機能に注意するようになったので、自然治癒力は廃れた。
・ヨガや気功に代表される東洋の修行法は、医学的観点からいうと、自然治癒力を高め、発達させる訓練を意味している。
・呼吸法の訓練から始まる心身の訓練は、意志の自由が及ばないと考えられている自律系の生理的機能にまで影響し、その潜在能力を高める。
2 東洋医学の身体観と人間観
●経絡のシステム
・瞑想法では脊柱に沿った督脈と胸腹部の正中線に沿った任脈を重要視する。
●体表医学と開放系の人間観
・東洋医学ではホリスティックな観点から全身の機能を統合的に捉える見方に立っている。
・『気の流れは瞑想の訓練と結びついており、意識-無意識の心理作用と関連している。また、医学的治療の観点からみると、気の流れは生理的機能を活性化するはたらきである。そしてそのエネルギーの作用過程は、後に言うように、生物物理的測定法によって人体の外部でも何らかの形で検出できる。つまり、気は、心理-生理-物理(こころ-からだ-もの)という三つのレベルに変換してはたらくみえないエネルギーなのである。』
3 東洋医学の現代的研究
●経絡と神経の区別
・ある一つの経絡をとって、皮膚表面につくった回路に軽い痛みを感じる程度の比較的強い電流(個人差があるが20V位)を流すと、各経絡上の測定点に一過性の波が現われる(図20a)。これはGSR(皮膚電気反射)、つまり神経を通じて起こる反応である。一方、電気刺激を弱くすると、このような反応は起こらない。しかしながら、特定の測定点(経絡上の経穴)にだけ反応が確認できる(図20b)。デルマトームの分布から想定されるVCR(内臓帯壁反射)では図20bのような反応は考えられない。従って、図20bはGSRでもVCRでもない別の反応系が存在していることを示している。つまり、これは経絡によるものであると考えられる。
・『皮膚に現われた生理作用の中に、神経性のものとはちがったものがあることを明らかにしたという点で重要な意味がある。つまり、経絡系は神経系とは別の身体統合システムであるということが、現代的観点から確認されたわけである。このときの電気的反応の伝播速度を調べると、神経による反応は毎秒数十メートルに達するのに、経絡による反応の伝播速度は平均1メートル以下であった。この点は、先にのべた長浜氏[針灸の医学]らの測定結果と一致している。
本山氏[気の流れの測定・診断と治療]はさらに、経絡現象が起こる部位が皮膚の表皮ではなく、その下の真皮の層であるらしいことをつきとめている。つまり経絡は、体液系の中で作用しているシステムなのである。
画像出展:「陰ヨガと経絡①|石田麻子の陰ヨガコラム」(Yoga Body)
本山 博先生の経絡に対するお考えは、僭越ながら私の考えと極めて近かったため、思わず先生の著書『気の流れの測定・診断と治療』を探し、購入させて頂きました。
先にのべたように、身体各部の局在的器官のはたらきを一つにまとめる統合的システムとしては、神経系・血管系・内分泌系・免疫系・体液系などがあげられる。このうち神経系・内分泌系・免疫系などは、心身の相関関係を示すシステムとして従来から注目されてきた。体液系も全身の各部分に及んでいるが、これらの中では皮膚と最も直接に関係している。体液が最も多く貯えられている場所は皮下組織の部分なのである。』
●潜在的エネルギーとしての気
・経絡における気の流れという現象は、生理的側面からその作用の仕方について研究することはできるが、それは生体電流のような作用を介して間接的に推察されるものであって、直接に気のエネルギーを認知できるわけではない。
・気の流れは生理的側面だけでなく、主観的な心理的側面において感じられる働きである。つまり、心(意識-無意識)と身体を媒介し、心理領域と生理領域の間の一種のエネルギー変換をつかさどっている作用である、と考えられるのである。
・『経絡における気の作用という現象は、この問題についてわれわれに新しい見方をとる必要を示唆している。戦後まもないころ、「経絡戦争」が起こったとき、間中喜雄氏は、「経絡という概念は将来、従来否定されてきたような意味で否定されるべきものでなく、また経絡肯定論者があると考えているような意味で存在するのでもないというような日が来るのではあるまいか」とのべたという。筆者には、この間中氏の予言は深い意味をもっているように思える。』
※補足
私はこの「3 東洋医学の現代的研究」の「●経絡と神経の区別」と「●潜在的エネルギーとしての気」の章に書かれた内容から、「経絡≒ファシア」をあらためて確信しました。ただし、「氣」についてはまだまだ勉強を続けなければなりません。何とかして自分なりの結論にたどり着きたいと思います。
2.脳波から「気」を解明する
●ナポレオンが三時間しか眠らなかったのは、シータ波の作用か?
①ベータ波:眠りが深くなって熟睡の時に現われる。
②シータ波:ウトウトしてくると現われる。デルタ波の状態とは異なり、外界からの刺激にも普通に反応できるので、本人は自覚していない。一瞬の居眠りで事故を起こすのは、シータ波が出ているときである。
・シータ波に関しては解釈の難しい問題がある。瞑想中や荒行、断食などの宗教的修行を積んだ人にもこのシータ波が良く観察されるという事実である。これをどう解釈すべきか、精神を集中することによってシータ波が優勢になると考えて良いのか、それとも、特殊なトレーニングによって、いつでもどこでも一瞬に睡眠をとれるということなのか。この「精神集中」か「ウトウト睡眠」か、この見極めは非常に難しい。
●アルファ波についての基本的誤解
③アルファ波:目を閉じて安静にしている時に現われる脳波である。眠っていながら眼球が動き、脳の活動も活発な、いわゆるレム睡眠の際に現われる脳波である。
・アルファ波は8~10ヘルツのアルファ1波と10~13ヘルツのアルファ2波である。アルファ1波はアルファ波に近く、アルファ2波はベータ―波に近い。
・安静にしている状態ではアルファ波はよく出る。ところが、何かものを考えはじめると、アルファ1波波は、後頭部中心に抑制される一方、アルファ2波はむしろ亢進の傾向を示した。実は気功師の脳波でも同じような現象が観察された。
・『アルファ波の活用を解説したハウツー書のなかには、「アルファ波は安静時と集中時に現われる」として、両方のケースであたかも同じ脳波が出るように書いている本がある。これは二種類のアルファ波を区別しなかったために起きた混乱であり、誤った記述である。それを見きわめることが脳の活動を知るには大きな要件となってくるのである。』
④ベータ波:脳が活発に活動しているときに現われる脳波で、別名「精神活動脳波」とも呼ばれる。逆にいえば、目を閉じれば誰でもアルファ波を増やすことができるのである。
・ベータ波では脳のどの辺りを使っているのかがわかる。また、イメージ思考とも関連が深く、ひいては右脳左脳の役割分担とも密接に関係している。
●なぜ、ものを考えていても、眠っていても、同じ脳波が出るのか
・「気」を脳波学的に解明していくには、イメージ思考とベータ2波の関係が特に重要な問題となる。気功中に右脳優位にベータ2波が出ている。
●脳波学の知見を揺るがした暗算の名人
・ソロバンチャンピオンの女性は暗算時に左脳はまったく使わず、右脳、それも右脳の後部にある視覚野をつかさどる部分が活発に活動していた。彼女の話では、数字を見たり聞いたりすると、頭の中にソロバンが浮かぶそうである。そして、そのソロバンの球が勝手に動いて答えが出るということである。
●「気」の脳波は、こうして測定された
・実験は中国人気功師4人、日本人気功師4人、計20回の脳波測定を行った。気功師と「気」を受けた人の脳波も同時に測定した。「気」の受け手はすべて日本人、その中には練功歴2~3年以内の気功の初歩の体験者も含まれていたが、脳波は他の気功の未経験者と有意に差がないことを確かめていた。
・分析に用いた周波数帯域をアルファ1波、アルファ2波、ベータ2波の3つにした。これはアルファ1波がよく出るのは目をつぶって安静にしている状態である。そして、何かものを考え始めると、このアルファ1波は一瞬減少するが、やがてアルファ2波に変る。つまり、この変化を見れば脳波測定者が思考の状態にはいったかどうかがわかる。ベータ波のうちベータ2波を選んだのは、ベータ2波が頭のどこを使っているのかに密接に対応しており、脳の活動部位を調べるにはベータ2波の方が分析しやすいからである。
●なぜ、気功師に「脳死」や「ボケ」症状を示す脳波が出るのか
・子どもの頃から練功を積んできたベテラン気功師について、目を閉じてリラックスした安静状態で、「何も考えないでください」と指示して脳波を測定したところ、アルファ波の振幅が普通の人の1/2以下だった。
・極端な例ではアルファ波だけでなく、ベータ波も非常に小さい気功師もいた。これは脳死状態に見られる「平坦脳波」に近い脳波である。気功師の脳に問題はないのでまったく不思議としかいいようがない。
・安静時閉眼時のアルファ波は普通の人はほぼ左右対称で後頭部のみに強く出る。一方、気功師のアルファ1波は過半数の気功師が前頭部寄りに出現した。また、アルファ2波もアルファ1波ほど強くないが一般の人よりは頭の前の方に出ていた。なお、この脳波の出方はボケの指標となっている。これは明らかにされていない何かのメカニズムとしか考えられない。
●気功師はなにもイメージしていないのに、イメージを表わす脳波が出た
・気功の時の姿勢(入静状態)は「気」を発するまえの準備段階であるが、気功師の脳波はアルファ1波が減少しアルファ2波が脳全体に広がり、同じ波形となった。そしてアルファ波の強さを示す振幅は一般の人より小さいことも分かった。
これと同じ傾向は、瞑想、ヨガ、座禅のベテランの準備段階でも見られた。
・気功師の練功で、まずは気功師が体の動きをともなわない状態(静功)で、自分自身に「気」をめぐらせた場合の脳波は、アルファ波に混じってベータ2波が現われるが、特徴的なことは右脳優位のベータ2波が頻繁に現われることである。ときによってベータ2波が右前頭部から右後頭部、左前頭部から左後頭部へと激しく移動する。さらに、左脳のみにベータ波2が見られたり、左右の側頭部に分かれて出たり、ベータ波2とともにアルファ2波も移動する。
・このような脳波のパターンは一般の人ではまず見られない。体の動きを伴わない静功の状態であるのに脳の動きは激しく変化する「外静内動」の状態である。
・アルファ2波とベータ2波が同時に同じ場所に現われる脳波パターンは一般の人では強い集中力をもった人が、明確なイメージを強く描いたときだけに見られる。また、右脳のみにベータ2波が現われるのは、催眠状態で自発的にイメージが出現するときにかぎって観察される。
・静功時の気功師の脳波は、イメージの脳波によく似ている。しかも、ベータ2波がイメージ思考と密接に対応していることを考え合わせれば、気功師の頭の中には、さまざまなイメージが駆け巡っていると推測できる。ところが、気功師にそのときの状態をたずねてみると、すべての気功師が「なんのイメージも浮かんでいない」と答えた。
●気功師と瞑想家の脳波には、共通点がある。
・動功に入ると、アルファ1波、アルファ2波、ベータ1波、ベータ2波のすべてが後頭部に固定され移動しなくなった。静功時には激しく動いていた脳波が、動功にはいると体の動きとは対照的に、後頭部に集まって落ち着く。これを「外動内静」の状態になった。
・アルファ波とデータ波とが同じ場所に現われるのは、普通の人では精神を集中した場合である。
・脳波分析から判断するかぎり、気功は頭を高度に使っている状態である。ところが、気功師に「動功中は何を考えていますか」と質問しても、「何も考えていません」という答えが返ってくる。この返答からは、気功とは頭では何も考えているわけではないが、頭はフルに使っている状態と規定できる。
●「気」によって脳波が同調し、脳が活性化する
・実験では「脳波の同調現象」はすべてのケースで観察された。この「同調現象」は気功の脳波以外では観察したことがない。
・「気」の受け手は気功師の「気」を受けると、大多数の受け手の人の脳波に出るはずのない前頭部寄りのアルファ波が発生する。なお、この際、受け手の人は「気」受ける際に常に眼を閉じて何も考えていないリラックスした状態(安静閉眼)にいる。
・気功師が「気」を送ると、受け手側の半数は前頭よりのアルファ2波が観測され、アルファ1波の方は1名を除き、全ての被験者に前頭寄りに現われた。
3.「気」が身体を活性化する
●気功は、全脳のトレーニングになる
・ものを考えるとき右脳を活発に働かせているという状態は極めて少ないが、左脳優先の脳の使い方は心身の健康面からみて大きな問題を抱えている。
・日本では教育においても左脳偏重である。英語なども英会話はもちろん、ある程度長文の英語の読み書きには、右脳的なイメージ思考が必要不可欠である。
・右脳と左脳をバランよく使う方法を「全脳思考」という。
・気功師の脳波は明らかに右脳優位のベータ2波が見られる。これは気功には右脳の働きを活性させる効果があるということである。
●ユングの「共時性」と脳波の同調性
・『ユングのいう因果的世界は、分割脳理論でいえば左脳が捉えた世界に対応するものであろう。とすれば、共時性と呼ばれる非因果的世界は、右脳が活性化されることによって意識に捉えられる世界ということになる。ふたつの世界がふれ合うところに共時性の現象が出現するのなら、それは“宇宙との一体感”の体現であり、とりも直さず気功のつくり出す意識状態とべつのものではないということになる。
気功師の脳波と気の受け手の脳波のあいだのトランスパーソナルな同調には、偶然の一致以上のものがあるはずである。なんどもいうように、「気」は実体ではなく、情報である。その情報が「気」の送り手から受け手に伝わり、身体に作用を及ぼした結果が、脳波の同調現象として現われるのだ。
もちろん、いまのところそこに存在する物理化学的な因果関係は明らかでない。あくまでも意識状態の伝達なのである。その意味でも、脳波の同調現象は共時性というあいまい模糊とした不可思議な現象の実在性を示す、唯一の実証的な手がかりとなっている。
気功における脳波の同調現象のさらなる解明は、今後の研究に待たざるをえない。だが、それが「気功の科学」の中核となり、ひいては共時性をも含めた新たなパラダイム創出のための突破口となりうることだけはまちがいないであろう。』
まとめ:一般人と気功師の脳波の特徴は明らかにことなる
1.気功師の脳波の特徴
1)目を閉じて何も考えていないときの気功師の脳波は、α(アルファ)波のパワーが非常に小さく、平均すると一般人の半分以下しか出ていない。
2)子どもの頃から気功の訓練を積んできた気功師の脳波である。α波だけでなくβ波も小さく、平坦脳波に近いときさえあった。平坦脳波とは「脳死」のときに見られる脳波である。脳機能に何も異常も見られないにもかかわらず、このような異常な脳波が生じるのか不思議である。
3)α波は集中力が高いときに出るという一般的な理解とは異なり、気功師が集中した時の状態の脳波は違っていた。
4)体の動きを伴わない「静功」で「気」を発しているときに脳波の動きは激しく、大きな動作を伴う「動功」の時には脳波の動きが減少した。このようなことは常識では考えられないことだった。通常は動きが大きいほど、脳波の動きも大きい。
5)気功師の脳波に共通して、棘波(スパイク波)という振幅の大きなとがった波が観察されたことも不思議な現象であった。一般的に棘波はてんかん患者の発作時、それもかなり激しい発作の時に見られる脳波である。
6)静功時の気功師の脳波は、イメージの脳波によく似ている。しかも、ベータ2波がイメージ思考と密接に対応していることを考え合わせれば、気功師の頭の中には、さまざまなイメージが駆け巡っていると推測できる。ところが、気功師にそのときの状態をたずねてみると、すべての気功師が「なんのイメージも浮かんでいない」と答えた。
7)気功師の脳波は明らかに右脳優位のベータ2波が見られる。これは気功には右脳の働きを活性させる効果があるということである。
8)安静時閉眼時のアルファ波は普通の人はほぼ左右対称で後頭部のみに強く出る。一方、気功師のアルファ1波は過半数の気功師が前頭部寄りに出現した。また、アルファ2波もアルファ1波ほど強くないが一般の人よりは頭の前の方に出ていた。なお、この脳波の出方はボケの指標となっている。これは明らかにされていない何かのメカニズムとしか考えられない。
2.脳波の同調現象
1)気功師は一般人に比べてβ波が右脳に多く出現することが明らかになったが、この変化は受け手にも現れた。
2)実験では「脳波の同調現象」はすべてのケースで観察された。この「同調現象」は気功の脳波以外では観察したことがない。
3)「気」の受け手は気功師の「気」を受けると、大多数の受け手の人の脳波に出るはずのない前頭部寄りのアルファ波が発生する。なお、この際、受け手の人は「気」受ける際に常に眼を閉じて何も考えていないリラックスした状態(安静閉眼)にいる。
4)気功師が「気」を送ると、受け手側の半数は前頭よりのアルファ2波が観測され、アルファ1波の方は1名を除き、全ての被験者に前頭寄りに現われた。
感想
「気は実体ではなく情報である」ということ、そして、気功師の脳波には様々な特徴があり、気功師と受け手の脳波が同調するという実験結果を、品川先生は特に注目されていました。そして、“ユングの「共時性」と脳波の同調性”に触れていた箇所が特に印象に残りました。
『ユングのいう因果的世界は、分割脳理論でいえば左脳が捉えた世界に対応するものであろう。とすれば、共時性と呼ばれる非因果的世界は、右脳が活性化されることによって意識に捉えられる世界ということになる。ふたつの世界がふれ合うところに共時性の現象が出現するのなら、それは“宇宙との一体感”の体現であり、とりも直さず気功のつくり出す意識状態とべつのものではないということになる。
気功師の脳波と気の受け手の脳波のあいだのトランスパーソナルな同調には、偶然の一致以上のものがあるはずである。なんどもいうように、「気」は実体ではなく、情報である。その情報が「気」の送り手から受け手に伝わり、身体に作用を及ぼした結果が、脳波の同調現象として現われるのだ。
もちろん、いまのところそこに存在する物理化学的な因果関係は明らかでない。あくまでも意識状態の伝達なのである。その意味でも、脳波の同調現象は共時性というあいまい模糊とした不可思議な現象の実在性を示す、唯一の実証的な手がかりとなっている。
気功における脳波の同調現象のさらなる解明は、今後の研究に待たざるをえない。だが、それが「気功の科学」の中核となり、ひいては共時性をも含めた新たなパラダイム創出のための突破口となりうることだけはまちがいないであろう。』
「気功の科学」は今後の研究を待たざるをえないとされています。この本は1990年1月に発行されました。一方、ミラーニューロンの発見は1996年です。このミラーニューロンに関しても勉強する予定です。「気功における脳波の同調現象」のとの関係性に注目したいと思います。
また、「脳波の同調現象」では、気功師が「気」を送ると受け手側の半数は前頭寄りのアルファ2波が観測され、アルファ1波の方は1名を除き、全ての被験者に前頭寄りに現われたということです。これも注目すべきなのかなと思います。
“鍼灸師編”、“東洋医学概論編”、“エントロピー編”の次は“科学編”です。その最初の本は、医学博士の品川嘉也先生の『気功の科学』です。本書の最後のエピローグ(心身二元論を超えて)には次のようなことが書かれています。
『気功状態の脳波を測定してみると、すべての被験者に明らかに共通した脳波変化のパターンが観察できる。まさに「気」の一元論である。しかし、それでいていっぽうではまた、個々人の脳波はひじょうに個性的なのだ。脳波を見れば、それが誰のものであるかがひと目でわかるくらいである。
脳波だけを見て、それが誰のものであるかが明白にわかるということは、やはり脳が心身をまるごと映している証拠であろう。脳は心と身体をコントロールしているだけではなく、その「ひとつにしてふたつのもの」であり、かつ「ふたつのものにしてひとつのもの」を映す鏡なのである。脳において心と身体は互いに相映し合い、普遍的と同時に多様な個性をも開き示している。個々人には宇宙の見方にも個性があり、その個性が脳波に反映されているのである。
気功の脳波に、心身の一体感、ひいては宇宙と人間との一体感が反映されているという事実を、どう考えればいいのだろうか。脳とは、いわゆる無意識と意識とをあわせた拡張された意味での「意識」が発現する“場”である。その“場”の振動が―これはあくまでも比喩的な表現にすぎないが―、「気」の情報となって伝わり、脳波という目に見え、科学的に観測可能な形となって現われる。』
比喩的な表現との前置きはありますが、品川先生は、脳波は「気」の情報が目に見えたものとされています。今回の“科学編”では脳波を通じて「気」というものを考えてみたいと思います。
目次
まえがき
プロローグ―いま、なぜ「気」を問題にするのか
●「気」が知れないから研究する
●「気」を体で感じる方法
●世界最初の気功の科学的実験
●「気」を脳はで解明する
●なぜ、「気」がふたりの人間の脳波を同調させるのか
●「東洋」と「西洋」、「科学」と「非科学」のちがいはどこにあるのか
●「気」が新しい科学のパラダイムを創出する
●「気」がもたらす変性意識状態とは
●自らと宇宙との一体感を獲得するために
1.「気」の源流を探る
●中国気功紀行―はじまりは、あの天安門だった
●内気功―いかに「気」の流れを円滑にするか
●私たちが目撃した「気」の驚異
●「気」は物質か、それともエネルギーか
●もともと中国では、「気」はエネルギーと考えられていた
●「気」という「情報」が、経絡をめぐり、経穴(ツボ)に作用する
●「変性意識状態」をもたらす「意念」とイメージの関係
●日本の古武道や合気道に生かされている「気」の概念
●「気」と出会った西洋人の反応はいかに
●なにごとにつけ、「不能過勉強」
●「気」の解明に向けて、さらなる“知の旅”へ
2.脳波から「気」を解明する
●脳はから何がわかるのか
●カエルの足のケイレンが、脳波発見のきっかけ
●脳波で「頭のよしあし」はわからない
●ナポレオンが三時間しか眠らなかったのは、シータ波の作用か?
●アルファ波についての基本的誤解
●世界で最初の右脳理論提唱者は、湯川秀樹博士だった
●ことばで考えるか、それともイメージで考えるか
●右脳と左脳がべつべつに活動するとどうなるか
●なぜ、ものを考えていても、眠っていても、同じ脳波が出るのか
●脳波学の知見を揺るがした暗算の名人
●「気」の脳波は、こうして測定された
●なぜ、気功師に「脳死」や「ボケ」症状を示す脳波が出るのか
●気功師はなにもイメージしていないのに、イメージを表わす脳波が出た
●気功師と瞑想家の脳波には、共通点がある。
●「気」によって脳波が同調し、脳が活性化する
3.「気」が身体を活性化する
●特異功能と超能力
●気功は、全脳のトレーニングになる
●「気」が脳内神経伝達物質の働きを活性化させる
●「気」がもたらす、ストレスに対抗する心身一元のメカニズムとは
●気功と心身医学
●真のホリスティック(総合的な)医学とは
●「気」の概念は、人類に普遍的に存在していた
●「変性意識」とは何か―「気」が意識と意識下を一本化させる
●ユングの「共時性」と脳波の同調性
4.「気」を実践する
●この章の狙い―洋の東西を超えた「気」の実践法
●意識の集中が、脳を活性化する
●「意念=イメージをめぐらす法①―まずバスルームから
●「意念=イメージをめぐらす法②―自分と自然を一体化させる
●「意念=イメージをめぐらす法③―体のなかを「何か」が動いている
●「意念=イメージをめぐらす法④―「何か」になってしまう
●呼吸法①―呼吸だけに意識を集中する
●呼吸法②―体のなかを通る空気を意識する
●呼吸法③―空気が脳を活性化する
●「気」は「情報」となって体をめぐる
エピローグ―心身二元論を超えて
●いま、私たちは真の「パラダイム転換の時期」にさしかかっている
●たとえ、“超能力”でも「自然」ではないのか
●自分のなかに宇宙がある
●気功による右脳と左脳の響き合いが、私たちに宇宙意識をもたらす
まえがき
・『ひょんなことから気功の研究に首をつっこむことになった。本業の脳波分析を気功師に行ったところ、これが驚きの連続であった。これまでの西洋医学の常識では解釈できない現象がつぎつぎに現われたのである。
そこで、いろいろな分野の人びとに聞いてまわることになった。その結果わかったことは、中国以外の国に気功研究の専門家はいないこと、本場の中国でも西洋科学の方法を取り入れた気功研究は緒についたばかりであることなどである。
私たちの測定結果は、最初、一昨年11月の日中シンポジウム「気と人間科学」で発表された。また、NHKテレビで「気功の効果が、世界ではじめて証明された」とも報道された。同時に、昨年、中国を訪問したさいに北京中医学院や気功発祥の地として名高い北戴河気功康復医院などで日中交流セミナーを開き、中国側からも高い評価を受けて、中国人の留学申し込みが相次いだ。そのうちの何人かはすでに私たちの研究室で脳波学の研修と研究に従事している。
気功は中国で二千年以上の歴史を持ち、中医学(中国伝統医学)の理論に裏づけられている。だが、気功の中医学理論を西洋医学のことばに翻訳するのはきわめてむずかしいことだ。西洋医学の立場からいえば、気功を中国におけるその発生から研究し、同時に西洋医学の内実をも変革していかなければ、気功の理解は困難だと思われる。気功が、近代科学のパラダイムを変えるひとつの芽をはらんでいるといわれる所以でもある。
実際、私たちは気功を研究していて、「気」を発しているときの脳波の変化の大きさに驚かされ、脳波研究そのものにとっても大きなインパクトを受けた。というより、脳波そのものの理解に対しても、数多くの示唆を得たといっていいだろう。』
プロローグ―いま、なぜ「気」を問題にするのか
●「気」が知れないから研究する
・「気」も「イメージ」も、ともに高次の神経機能の働きの一つであり、「気」を発しているときの脳波の動きを分析することによって、その実体に迫ることができると思われる。
●「気」を体で感じる方法
①左手を胸のまえに垂直に立て、親指だけを離して他の4本の指はつけたままにする。
②右手は人差し指と中指をつけて立て、他の3本の指を握る。
③右手を左の手の掌の中央に近づけ、はじめは小さく、ゆっくりと円を描くように動かす。このとき、指先を掌にくっつけないこと。
④右手を動かしはじめるとすぐに、左の掌に右手の指先を回している感じが現れるはずだ。「何か」が動いている感じといってもいい。これが「気感」と呼ばれるものだ。
⑤回している右手をゆっくりと左手から離してみる。あるところまで離すと、「気感」が薄れるのがわかるはずである。
⑥「気感」がなくなったら、ふたたび右手を左の掌に近づけていく。この⑤と⑥の動作を繰り返すと、よりいっそう「気感」を体験することができる。
⑦ここまで「気感」を体得できた人は、もう一歩先に進んでみよう。右手と左手のあいだに遮蔽物をおいて、①から⑥までの動作をやってみるのだ。私たちが中国で教わったのは、頭をはさむ方法で、「気」をよく感じる人ならば、これでも「気感」を得ることができる。
以上が「気」を実体験する方法である。
●「気」を脳波で解明する
・目を閉じて何も考えていないときの気功師の脳波は、α(アルファ)波のパワーが非常に小さく、平均すると一般人の半分以下しか出ていない。
・特に驚いたのは、子どもの頃から気功の訓練を積んできた気功師の脳波である。α波だけでなくβ波も小さく、平坦脳波に近いときさえあった。平坦脳波とは「脳死」のときに見られる脳波である。脳機能に何も異常も見られないにもかかわらず、このような異常な脳波が生じるのか不思議である。
・α波は集中力が高いときに出るという一般的な理解とは異なり、気功師が集中した時の状態の脳波とは違っていた。
・体の動きを伴わない「静功」で「気」を発しているときに脳波の動きは激しく、大きな動作を伴う「動功」の時には脳波の動きが減少した。このようなことは常識では考えられないことだった。通常は動きが大きいほど、脳波の動きも大きい。
・気功師の脳波に共通して、棘波(スパイク波)という振幅の大きなとがった波が観察されたことも不思議な現象であった。一般的に棘波はてんかん患者の発作時、それもかなり激しい発作の時に見られる脳波である。
・棘波は気合だけで相手を倒す「遠当」という武術家の脳波に似ている。
●なぜ、「気」がふたりの人間の脳波を同調させるのか
・実験結果の中で、最も驚いたものは気功の時に、「気」の送り手(気功師)と受け手の脳波を同時に測定したところ、両者の脳波に強い同調性が認められたことだった。これを脳波の「同調現象(エントレインメントあるいはトランスパーソナル・シンクロニゼーション)」と呼び、最重要視している。
・気功師は一般人に比べてβ波が右脳に多く出現することが明らかになったが、この変化は受け手にも現れた。
・気功は生理活性物質、特にエンドルフィン(脳内麻薬物質)の分泌に深い関係をもつと考えられている。中国ではハリ麻酔において、脳内麻薬物質の分泌が促進され、麻酔効果をもたらすことが実証されている。
・『脳波の同調現象は、「気」の送り手である気功師から気功の手ほどきを受けたことのある人ばかりでなく、その気功師にはじめて会い、生まれてはじめて「気」を受けた人にも共通して見られた。これまで十数回の実験を繰り返し試みているが、どの実験でもかならずなんらかの同調現象が観察されたのである。したがって、この脳波の同調現象こそ、「気」の謎を解き、気功のメカニズムを解明するカギとなる概念にちがいないと私[品川嘉也先生]は考えている。』
●「東洋」と「西洋」、「科学」と「非科学」のちがいはどこにあるのか
・近代科学が誕生し隆盛をみたのは、近世に入ってデカルトが登場し、心と体を完全に切り離す心身二元論の立場から、精神と身体を別々に研究する方法を確立して以来のことである。それまでは、東洋も西洋も医学の方法や観点にかなり同質なものを抱えていた。
・古代ギリシャから中世ヨーロッパまで、人体にはプネウマという一種の生命エネルギーがあると考えられていたが、これは中医学が「気」を生命エネルギーとする考えと同質のものといえる。
●「気」が新しい科学のパラダイムを創出する
・『あえて近代科学の方法で「気」を研究することにより、西洋と東洋の接点を求められるのではないか―いやむしろ、東西の根本的な相違点が明らかになるのではないか―、そしてそこから新しい科学のパラダイムへ転換していくための視点が生まれるのではないか、という期待を密かに抱いているのである。』
・同調現象は「気」の送り手と受け手との間に何らかの形で、「情報」の伝達が行われていることを意味しているが、この事実は西洋科学のパラダイムの中だけでは理解できないことである。その情報は何によって、どのように伝達されるのか。それが分かれば、それこそ「気」そのものであるはずだ。
1.「気」の源流を探る
●中国気功紀行―はじまりは、あの天安門だった
・気功は中国で道士、医家、儒者、武術家などのさまざまな流派が、伝統的に培ってきた「気」を鍛錬する諸技術の総称である。したがってその内容は、例えば導引、座禅、養生など、実に多岐に渡っている。しかし大きく分類すると、「硬気功」と「軟気功」に大別することができる。
・硬気功は主に武術によって「気」を鍛錬し、超人的なパワーを発揮しようというもので、「武術気功」とも呼ばれる。
・主に医療や健康の維持促進のために行う「気」の鍛錬法が「医療気功」とも呼ばれる軟気功である。そして、軟気功はさらに「外気功」と「内気功」に分かれる。
・外気功による治療の方法には、気功師が患者の体に触れてマッサージのように行うケース、指先を患者に当て「気」を送り込むケース、患者から少し離れて直接体には触れないで「気」を照射するケース等など、様々なものがある。
●内気功―いかに「気」の流れを円滑にするか
・内気功には「按功」、「静功」、「動功」の三種類がある。
・「按功」は、按摩やマッサージによって「気」をコントロールしようとする方法だが、外気功に近い。したがって、内気功の中心は静功と動功になる。
●「気」は物質か、それともエネルギーか
・日本では「気」は人と人の「間」に「気」が感知され、「間」の取り方そのものが「気」を重くしたり、引いたり、許したり、悪くしたりすると考える。
・中国では「気」は物質的なもので、実在する何かだと考えられている。
・日中協力シンポジウム「気と人間科学」では、湯浅泰雄教授は「現代の見方に立っていうと、『気』とはさしあたり、心と身体をひとつに結びつけている生命体に特有なエネルギーである、ということができる」と述べている。
●もともと中国では、「気」はエネルギーと考えられていた
・古代中国では「真気」あるいは「動気」といわれ、人体の生命活動を推進させる動力とみなされていた。つまり、生命エネルギーである。
・中医学では死という現象を「気の離散」という。
・『中医学の血の考え方には独特のものがあり、血はつねに「気」と共にあって、「気」によってコントロールされている。つまり、「気は血の統帥」ということになる。
その反面、私がいうところの抽象的な情報である「気」は、それだけでは活動することができない。「気」の作用がじゅうぶんに発揮されるためには、血による栄養補給が不可欠なのである。すなわち、「血は気の母となる」わけである。
このように「気」の共同作業にアンバランスが生じて「血気不和」になってしまえば、たちまち健康を害し、病気になってしまう、と中医学では考えられている。』
●「気」という「情報」が、経絡をめぐり、経穴(ツボ)に作用する
・私たちの体内では生体を維持するためにさまざまな「情報」が生き交っている。血液中の二酸化炭素濃度が上昇すれば、呼吸中枢に喚起を促す情報が届き、強制呼吸をするように命令が下がる。その結果、呼吸筋が動いてあくびとなる。こうした生体維持システムは、ひとつの「情報」が体全体へ広がってさまざまな臓器に特有な働きを促すという「気」の概念に近い。つまり、二酸化炭素濃度の上昇という情報は、「気のめぐりが悪い」ということで、あくびなどの強制呼吸をすることによってあらたな情報を取り入れ、「気のめぐりをよくする」ことができると考えられる。
・「不能過勉強」とは、頑張り過ぎてはだめという意味で、気功は姿勢も呼吸も、そして「意念」の活動も自然の状態で行うのが大前提であり、自分にとって気持ちがよくないのに、それを無視してまでやってはいけない。
●「気」の解明に向けて、さらなる“知の旅”へ
・気功の理解は統合的な知識を持ったうえで気功師の動作をまねることからはじめなければならないということ。さらに、心理、呼吸、姿勢、意識、運動が一体となって気功が行われなければならず、これらのどれか一つが欠けても気功の真の理解にならない。
感想
まず考慮すべきは、日本人が考える「気」と中国人が考える「気」は同じではないというところです。日本人の「気」は精神的・情緒的なところも含めた心の面を重視しています。一方、中国人は一つのことに集中できる気持ちをつくることとされています。つまり、日本人と中国人では「気」に対する認識が大きく異なるため、同じ視点で考えることはできません。
「気」とは何か?と問えば、中国では、気というものは生命の根源物質であり、細胞の隅々まで行き渡って、身体の中で循環しているものという考えです。帯津先生もこれが全て、これ以上でもこれ以下でもなく、中国において「気」はシンプルで明確なものであるとのお話をされています。
また、「気」は「気血」と呼ばれることも多く、気と血は相互に依存しているものとされています。以下の図のように、血は気に栄養を与え、気は血を推動します。推動とは「推し動かす」ことです。
東洋医学においても、「血」は「血液」を指しています。血液は血球と血漿に分かれますが、科学が解明した血漿内の成分は非常に多岐に渡っています。「気は血を推動する」、具体的に何を推動しているのか、西洋医学に基づいて洗い出してみました。
血漿に含まれる主な生理活性物質について以下にまとめます。
1.タンパク質
血漿タンパク質は血漿の重要な構成要素で、様々な機能を果たします。
・アルブミン
- 血漿タンパク質の約60%を占める
- 浸透圧の維持に重要
- ホルモンや薬物などの運搬に関与
・グロブリン
- 抗体として機能し、免疫系で重要な役割を果たす
- 鉄、銅、脂質などの運搬にも関与
・フィブリノゲン
- 血液凝固に不可欠なタンパク質
- 出血時に活性化されてフィブリンとなり、血栓を形成
・その他のタンパク質
- プロトロンビン:血液凝固因子の一つ
- トランスフェリン:鉄の運搬に関与
- リポタンパク質:コレステロールなどの脂質の運搬に関与
2.成長因子
血漿には様々な成長因子が含まれており、組織の修復や再生に重要な役割を果たします。
- 上皮成長因子(EGF)
- 血小板由来成長因子(PDGF)
- 線維芽細胞成長因子(FGF)
- 血管内皮成長因子(VEGF)
- インスリン様成長因子(IGF)
3.電解質
血漿中の電解質は体液のバランスや神経・筋肉の機能に重要です。
- ナトリウム
- カリウム
- カルシウム
- マグネシウム
- 塩化物
- 重炭酸塩
4.ホルモン
血漿は様々なホルモンの運搬経路となっています。
- 甲状腺ホルモン
- 副腎皮質ホルモン
- 性ホルモン
- バソプレシン
5.その他の生理活性物質
- 補体:免疫系で重要な役割を果たすタンパク質群
- サイトカイン:免疫反応や炎症反応を調節する
- ケモカイン:白血球の遊走を制御する
- 抗酸化酵素:スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)など
これらの生理活性物質は、血漿の主要な機能である物質輸送、免疫防御、血液凝固、pH調整などに重要な役割を果たしています。血漿の組成は、健康状態や疾患によって変化する可能性があり、その分析は診断や治療に有用な情報を提供します。
画像出展:「血液には何が含まれており、どこで作られるのでしょうか?」
こちらの図は上記の内容を表したものではありません。血漿の中には様々な生理活性物質が含まれているというイメージを持って頂きたいと思い貼りました。
血漿にはタンパク質、成長因子、電解質、ホルモン、その他の生理活性物質など、多種多彩、極めて大切な物質が血漿(血液)には含まれており、「気血」は生命にとって必須のものであるということが理解できます。
中国の「気というものは生命の根源物質であり、細胞の隅々まで行き渡って、身体の中で循環しているもの」という考えにも合致しています。
「何を」推動しているのかはだいぶ分かってきたので、次に、「どうやって」推動しているのかを調べてみました。
主な機能は、①「臓腑・経絡の生理活動の促進」、②「血液循環の推進」、③「津液の輪布(全身の水分の分配)」となっています。先に調べた血漿内の物質(生理活性物質)の働きに照らし合わせれば、これらの3つの働きに関わっていると考えて問題ないと思います。
この中で特に注目したいのは、関係の深い臓器として“腎臓”が書かれていることです。そこで、気の推動作用と腎臓の関係を調べた結果が以下の表です。ここでは“腎臓”ではなく“腎”となっていますが、こちらの表の方が正しいように思います。なお、「腎臓と腎の違い」についても調べました)。
続いて、気の推動作用を妨げる主な要因は何かということを調べてみました。以下がその回答ですが、その答えはストレスでした。
帯津先生は、「気とは余分のエントロピーを上手に捨てる能力ではないか」とのお考えをもっておられます。槌田先生はエントロピーを分かりやすい言葉に置き換えると、「汚れの量」と説明されています。
かなり強引な解釈なのですが、「エントロピー≒汚れの量」とは、「過度なあるいは長く続くストレス」に起因していると考えると、「気とはストレスを軽減する能力を有するもの」と理解することも不自然ではないと思います。
そこでAI(Perplexity Pro)に2つの質問をしました。1つは「自律神経系のバランスを整える主な有効なものを教えてください」、もう一つは「長く続く心身の過度なストレス状態をリセットする有効な生理活性物質は何ですか」という質問です。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)で作成」
質問:「自律神経系のバランスを整える主な有効なものを教えてください」
回答:ほとんどは栄養素と生活習慣ですが、発酵食品をみると、腸内環境について触れています。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)で作成」
質問:「長く続く心身の過度なストレス状態をリセットする有効な生理活性物質は何ですか」
回答:有名な物質はセロトニンとオキシトシンですが、他にGABAとL-テアニンの組み合わせで睡眠の質を改善できそうです。
上記の2つの表を見ると、「気とは余分のエントロピーを上手に捨てる能力ではないか」という帯津先生のお考えを理解するキーワードは、①ストレス、②自律神経、③生理活性物質、ではないかと思います。
画像出展:「ストレスについて」
こちらはストレスに対して中枢神経と末梢神経(自律神経)の働きを示したものですが、複数の生理活性物質も出ており、確かに①ストレス、②自律神経、③生理活性物質、はキーワードといえると思います。
帯津先生のお話の中で、もう一つ強く印象に残ったことは以下のお話です。
『気という言葉を使わないで説明するとすれば、何か身体の中の潜在能力を掘り起こすような方法論が、気功なんじゃないかと。しかし、そうすると身体の中の潜在能力というのはどこにあるんだろうということになる。そして、やっぱり私はもともと外科医ですから、身体の中のすき間なんていうのを思いつきました。臓器と臓器のあいだ、どうもあそこにいろんな物理事情があって、一つの場をつくっているんじゃないか。そういう人体の中の場を「生命場」と呼んでもいいのじゃないか。その場のポテンシャルというか、エネルギーのようなものが、きっと自然治癒力と関係しているんじゃないか、そう思ったんですね。』
以下は既出の図ですが、肉眼で認識できるものとして、臓器と臓器の間にはファシア[膜]があります。そしてファシアは動脈、静脈、神経、リンパ管を覆っていますので、臓器と臓器の間には血管、神経、リンパ管を通じて様々な生理活性物質が存在していることになります。
様々な生理活性物質とは何か? どうすればそれらを活性化できるのか? AIに表にまとめてもらいました。
この表に先頭に出てきたのが“活性酸素”でした。活性酸素には以下の4種類があります。当然ではありますが、分子“0(酸素)”を含んでいます。なお、活性酸素はミトコンドリア内の電子伝達系で、酸素を消費する過程で発生するものです。
「“酸素”?ということは“気”に何か通じるのでは?」と思ってしまいました。そこで、またまたAIに活性酸素の生理活性物質としての働きについて質問することにしました。
1.活性酸素の二面性
活性酸素は、一般的に有害なものとして認識されがちですが、実際には生体内で重要な生理的役割を果たしています。
2.細胞内シグナル伝達への関与
1)レドックスシグナリング
- 活性酸素は、細胞内のタンパク質の特定のアミノ酸残基(主にシステイン)を酸化することで、タンパク質の機能を変化させます。 これにより、細胞内の情報伝達経路が活性化されます。
2)転写因子の活性化
- 活性酸素は、NF-κBやAP-1などの転写因子を活性化します。これらの転写因子は、炎症反応や細胞生存に関連する遺伝子の発現を制御します。
3.免疫系での役割
1)病原体の排除
- 白血球(特に好中球やマクロファージ)は、活性酸素を産生して病原体を攻撃します。この過程は「酸化バースト」と呼ばれ、感染防御に重要です。
2)炎症反応の調節
- 適度な量の活性酸素は、炎症性サイトカインの産生を促進し、適切な免疫応答を誘導します。
4.細胞の分化と増殖
- 活性酸素は、細胞の分化や増殖を制御する因子として機能します。特に幹細胞の分化過程において、活性酸素レベルの変動が重要な役割を果たします。
5.血管新生の促進
- 低酸素状態では、活性酸素の産生が増加し、血管内皮増殖因子(VEGF)の発現を促進します。これにより、新しい血管の形成(血管新生)が促進されます。
6.ストレス応答の誘導
- 活性酸素は、細胞にストレスを与える因子として認識され、ストレス応答遺伝子の発現を誘導します。これにより、細胞は環境の変化に適応するための機構を活性化します。
7.注意点
活性酸素の生理的役割は重要ですが、過剰な産生は細胞傷害を引き起こす可能性があります。そのため、生体内では活性酸素の産生と消去のバランスが厳密に制御されています。
以上のように、活性酸素は生体内で複雑かつ重要な生理活性物質として機能しており、適切な量と場所での産生が健康維持に不可欠です。
まとめ
帯津先生の「気とは余分のエントロピー(“汚れの量”)を上手に捨てる能力ではないか」、「臓器と臓器の間に“生命場”というエネルギーのようなものがあり、自然治癒力と関係しているのではないか」という二つのお話を中心に振り返ると、①ストレス、②自律神経、③生理活性物質、④ファシア(膜)に注目すべきではないかと思います。
そして、目には見えない生理活性化物質を促進させる要因において、特に酸素分子“O”(Oxygen)を含み、酸化ストレスという功罪を併せ持つ、⑤活性酸素と抗酸化、にも注目したいと思います。
生物と無生物の違いは何かと考えると、例えば自動車を動かすにはガソリンや電気が必要ですが、走行距離に比例して自動車は劣化していく一方です。それに比べ、生物は食べたものから栄養素を吸収し体を作ります。そして、不用になった物質は体外に捨てられます(左のスクリーンショットで、緑色は“餌”、オレンジ色は“ネズミ”です。粒々になっているのは分解すると分子レベルに分解されるためという意味だと思います)。これは自動車でいえば、ガソリンという燃料から自動車部品のハンドルやシートなどが作られるということです。しかしながら、そのようなことはありません。
また、動画の後半には「生命には、物質の下る坂を登ろうとする努力がある」というお話があるのですが、これは帯津先生の「気とは余分のエントロピーを上手に捨てる能力」言い換えれば「生命を維持しようとする能力」に通じるもののように思いました。
エントロピーという言葉は帯津先生の『ホリスティック医学入門』という本で知りました。その時に思ったことは、ブラウン管のテレビでした。なお、これは2020年6月のブログ“ガンとホリスティック医学3”から持ってきました。
画像出展:「テレビログ」
例えばテレビ内に埃が溜まり(エントロピーが増大)、バンバン叩くという行為(刺激)により埃が下に落ちて(エントロピーが減少)映った(治った)ということかなと勝手に解釈しました。
これは鍼の刺激により、体内に増大したストレス(エントロピー?)を減少させ、元気を取り戻したというメカニズムに似ていないだろうかと思いました。
槌田先生はエントロピーを説明する最も相応しい言葉は“汚れの量”であるとお話されています。
テロメラーゼという酵素を発見し、2009年のノーベル生理学・医学賞を受賞されたエリザベス・H・ブラックバーン博士の『テロメア・エフェクト』という本に書かれた運動後の回復のプロセスは、鍼治療による筋・筋膜への微細な損傷に対する、回復プロセスにも通じる部分があると思います。なお、ここでのキーワードは“体の掃除”です。
画像出展:「テロメア・エフェクト」
・運動後に回復反応が起きる。
・オートファジーにより、細胞内の損傷分子は食べられてしまうので炎症を防ぐことができる。
・オートファジーでは対応できない大量の損傷した分子がある場合は、細胞は死滅するが、これはアポトーシスと呼ばれ炎症や残骸を残さない綺麗な死に方である。
・運動は酸化ストレスを減少させている。
・運動後の回復反応により体内では細胞の残骸の掃除が続く。
今回の『気とエントロピー』は帯津良一先生[帯津三敬病院院長]と槌田敦先生[物理学者・環境経済学者]による対談になっています。帯津先生はエントロピーに関しては、槌田先生の著書『エントロピーとエコロジー「生命」と「生き方」を問う科学』が非常に参考となったとのお話をされています。そこで、私も最初に槌田先生のその著書を拝読させて頂くことにしました。
特に印象に残ったことは以下の7つです。
1.エントロピーとはあらゆる現象の基本法則である。
2.生命を論ずるとき、エントロピーの特性を一番よく表しいているのは「汚れ」である。さらに正確にいうと、「汚れの量」であり、エントロピー増大の法則とは、汚れ増大の法則といえる。
3.『生命体は、自己を復元することによって自らを維持している。復元のための活動にとって最も大切なことは、シュレディンガーが指摘したように、生命活動によって生じた余分のエントロピーを生命体外へ捨てることにより、自己のエントロピー水準を復元することである。この「余分の」というところが大切である。』
※ご参考 “エルヴィン・シュレディンガー 生命とは何か 松岡正剛の千夜千冊”
4.『エントロピーを捨てる方法は、二通りしかない。物にエントロピーをくっつけて捨てるか、熱にくっつけて捨てるか、である。つまり、物や熱は、エントロピーという「汚れ」を体外へ捨てる雑巾のようなものなのである。』
5.『血液の循環、リンパ液の循環、その他の物質代謝など、多数の循環がある。つまり、生命というのは、化学者のいうような機能をもった物質の集まりというよりは、むしろ、多数の循環の調和ある動的な集合なのである。』
6.『生命というのは、外から見れば流れの系、内を見れば多数の循環からなる系というところに特徴がある。この場合、ある循環と別の循環の間で、エントロピーの受け渡しが過不足なく行われているとき、生命は順調に維持されているといえる。つまり、健康状態である。しかし、調和がとれなくなって、エントロピーの受け渡しがうまく進行しなくなると、その波及の結果、いたるところで循環が回転しなくなる。つまり病気の状態である。そして、循環が多数の箇所で止まってしまい、もはや回復しなくなったときが死ということになる。』
7.『積極的・主体的に、循環を維持しようとして働くような系が、「生きている系」なのである。これが生命固有の本質といってよい。』
特に、エントロピーを「汚れの量」であると考えること。そして、生命のキーワードに「循環」があること、この2つを頭に入れて、帯津先生の著書を拝読させて頂くことにしました。
もくじ
ちょっと長い「はじめに」
1章 エントロピーと出会う
①日本の「気」と中国の「气」
■日本人は気が大好き
■エントロピーが気になっていた
■気とエントロピーの関係
■誤解のまま流布したエントロピー
②生命はエントロピーを捨てながら生きている
■高尚な理論だけが一人歩き
■地球も生命もエンジンの法則で動いている
2章 気とエントロピー
①中国医学はエントロピーの医学
■エントロピーは測定できる
■気とは「場」の情報?
■物理の場と生命場は異なる
■静的な秩序か、動的な秩序か
■中国医学の根底にあるもの
②余分のエントロピーを捨てる方法
■気功の意義
■吐く息でエントロピーを捨てる
■食物のエントロピー
■尿療法の意味
■発汗という最大のエントロピー廃棄能力を持つ人間
3章 健康とは、病気とは、自然治癒力とは
①環境も人体も物質循環が大切
■ベルタランフィの問題定義
■循環で復元し、また同じことをする
■環境破壊とは何か、病気とは何か
■廃棄物は他者の有用資源
②健康回復の条件
■自然治癒力―誰が命令しているのか
■生命力とは、元へ戻す修繕力
■細胞にも意思がある?
4章 がん治療と気力
①がん患者にとって最高の良薬とは
■気力が生命を左右する
■信頼すれば効き目もアップ
■気持ちのいいことを探す
■わずかな希望が心の平安をもたらす
■心がすべてを決める
②どんな治療を選ぶかは、どう生きるかということ
■治療法は患者が決める
■医者の指示は絶対か
■手術は過渡期の医学かもしれない
■ターミナル・ケアは西洋医学の発想
■現代人の健康至上主義
5章 人間を丸ごと見るということ
①人間全体とは何だろう
■ホリスティック医学は場の医学
■総体としてまとまる
■環境問題とホリスティック医療
■極端な食餌法はマイナス
②治療法の選び方
■固定観念を捨てよ
■ピタリと合えばグングンよくなる
■患者の死を枕元で見送る
■医者と患者ではなく、闘う仲間
6章 研究者の条件
①現役でいられる限界とは
■医者に必要な資質
■理系から文系へ
■長生きしなければならない時代
■「現場」を離れないことが大事
②真の学問を復活すべき
■学者の衰退
■学問の価値は仲間の数で決まる?
■学問の基本に戻るできとき
ちょっと長い「おわりに」
1章 エントロピーと出会う
①日本の「気」と中国の「气」
■日本人は気が大好き
・日本人は心の作用にも「気」を使う。これは心の問題を日本語では気の問題のように捉えることが少なくない。一方、中国では日本とは異なり心の問題で「气」を使うことは少なく、基本は、息に関係する言葉として使われている。
・日本語の「気」と、気功でいわれている「気」のどの辺りが同じで、どの辺りが違うのかを明確にしたい。
・気功の「功」は「習練あるいは習練の成果」という意味である。気功はもともと導引といって身体を揺り動かしたり、呼吸をしたりなどの、さまざまな養生法の総称である。
・1950年代には、養生法は約2400種あり、それを「気功」という言葉に統一した。その定義は「正気を養うことを主たる目的とする自己鍛錬法を気功と呼ぶ」となっている。
・『中国では、正気、気というものは生命の根源物質である、細胞の隅々まで行き渡って、身体の中で循環しているものという考えがありますから、それ以上あれこれと説明することはしません。自明の理なんです。』
・日本の気、例えば「病は気から」の気は気持ちのことである。つまり、日本の気は精神的・情緒的なところも含めた心の面を重視している。
・中国の気功では、心を調えるというのは気持ちや感情を調えるということではなく、一つのことに集中できる気持ちをつくることである。雑念を払って本当に集中できる気持ちをつくるということである。そのため、中国人が考える心と日本人が考える心とは違う。
・『中国の古典医書に「黄帝内経」という本がある。この三章(二)節「七情傷気」の中に「百病生於気也」という文章がある。これを日本語に直訳すると、「多くの病は気から生ずる」ということになる。しかし、ここでいう「気」は、日本語でいう病人個人の「気持ち」ではなく、宇宙や生命の根源要素を意味していると考えられる。
ただし、七情(喜・怒・憂・思・悲・恐・驚)が気を傷めるとあるから、日本語でいう気は中国語では「情」にあたり、情が気を傷めるから、結果的に病気になるということではないだろうか。』
■エントロピーが気になっていた
・『気というもの中国では、既成の事実というか、その存在を誰も不思議に思わないんですね。気というのは生命の根源物質である。宇宙にも人体にもあまねく存在している。したがってそれ以上何かしようとしないわけですよ。そういうふうに決めているんです。ところが日本の場合は、中国医学を説明するのに、気の問題になると、どうもそこで立ち往生してしまいました。何とかうまく説明する方法がないものかと、中国の本などをいろいろ読んでみましたけれど、「気は生命の根源物質である」「気功はその正気を養う」というところから一歩も出ていませんでした。びっくりするほど分厚い専門書にも、それ以上突っ込んだ説明はありませんでした。
ですから、私が、がん治療に中国医学を取り入れたとき、大方の西洋医学の先生たちは、中国医学は経験的な医学で、何の理論もないし、統計処理もできないものだと言っていました。しかし、私は違うと、そうじゃないと。科学が支えていなくても、やっぱり伝統がありますし、西洋医学とは違う立場から病というものをとらえているんだと思っていたものですから、そこを何とか西洋医学の仲間に説明しようと思っていろいろ苦労したんですよ。気というものが、何か物事に秩序を与える作用は間違いなくあると。そういう原理なのか情報なのか物質なのかは分かりません。でも何かあるはずだと。
そういうことをずっと考えていたものですから、あるときすっとエントロピー増大の法則というものに関係しているのではないかと思いついたんです。それからエントロピーに関する本を読み始めたんですが、このエントロピーがまた難しくて分からないんです。』
■誤解のまま流布したエントロピー
・有名なエントロピー増大の法則というのは、物体が活動したり変化したりすると、必ずエントロピー(汚れの量)が増えるという法則である。
②生命はエントロピーを捨てながら生きている
■高尚な理論だけが一人歩き
・生き物がなぜ簡単に死なないのかを分かるように説明したのがシュレディンガーであり、人間が死なないのはエントロピーを捨てるからだと説明した。
・動物は、食物を食べ、水を飲み、空気を吸っている。これらの物質は体内に入る。しかし、排泄し、排気し、放熱しているのでエントロピーを体外に捨てることができる。
・気とは余分のエントロピーを上手に捨てる能力ではないか。
2章 気とエントロピー
①中国医学はエントロピーの医学
■気とは「場」の情報?
・「場」とは清水博先生が提唱されているものである(参考:“NPO法人 場の研究所”)。
・『気という言葉を使わないで説明するとすれば、何か身体の中の潜在能力を掘り起こすような方法論が、気功なんじゃないかと。しかし、そうすると身体の中の潜在能力というのはどこにあるんだろうということになる。そして、やっぱり私はもともと外科医ですから、身体の中のすき間なんていうのを思いつきました。臓器と臓器のあいだ、どうもあそこにいろんな物理事情があって、一つの場をつくっているんじゃないか。そういう人体の中の場を「生命場」と呼んでもいいのじゃないか。その場のポテンシャルというか、エネルギーのようなものが、きっと自然治癒力と関係しているんじゃないか、そう思ったんですね。』(帯津先生の指摘される「身体の中のすき間」にはファシア[膜]があります。そしてファシアはライフラインともいえる動脈、静脈、神経、リンパを覆っています。帯津先生の指摘される「生命場」にもファシアは何かしらの関りを持っているのではないかと想像します)
・『身体のポテンシャルを上げる方法論が気功なんじゃないかと思って、いろいろ考えてきました。そうすると、気はまだはっきりとは分かりませんが、その場をつくっている物理量でもいいし、清水先生が言われるように何か場の情報みたいなものでもいいかなというふうに今は思っています。』
・『生命活動を含めたすべての活動では、活動の潜在能力を取り入れて、それを用いて活動すると、その潜在能力が減って、エントロピーになるとして説明できます。つまり、「気」と活動の潜在能力(=ポテンシャル)は、同じものということになります。分かりやすく言えば、「気」とは、パワーになる可能性のあるもの(=ポテンシャル)ということではないでしょうか。』
■静的な秩序か、動的な秩序か
・『この(各器官)配置図の中で、あちらの臓器からこちらの臓器へものが流れる、たとえば血液が流れたり、リンパ液が流れたり、その他いろんなかたちで、さまざまな物質が流れ、その流れが過不足なく循環している。それが滞りなく行われる。そういうのが健康な状態だと思うんです。循環が滞って一方から流れ出たものが、もう一方のところでどんどん溜まって肥大化してしまったら、その臓器はダメになってしまう。それが病的な状態です。だから、こういうふうに体内のすべての循環がスムーズに流れている状態を「気の巡りがいい」と言うのではないかと思うのです。これを気と表現しているのではないかと。少なくとも、科学的に言うなら、そこまでは間違っていないと思います。』
■中国医学の根底にあるもの
・中国医学では循環の問題を重視している。気滞、血瘀など。血を生き生きさせて循環をよくする。そういうものが、すべて中国医学の治療の中にある。しかも、中国医学ではエントロピーを捨てるための排泄を重視している。
・中国医学の考え方はすべてエントロピーで説明できる。
②余分のエントロピーを捨てる方法
■吐く息でエントロピーを捨てる
・東洋医学の呼吸法の場合は、吐く時つまりエントロピーを捨てるときに意識をしっかり持つ。
・呼気のときに副交感神経が優位になる。
■食物のエントロピー
・エントロピーで一番大きな値となって出てくるのは廃熱、熱のエントロピーだが、食べ物には左右されない。量については小食であれば消化する作業が少ないので、発生するエントロピーは小さいが、エントロピーをたくさん捨てることはできない。つまり、食物については大きな影響をうけない。
・エントロピーを捨てる方法は汗、皮膚、呼気など排熱を利用するのが多い。一方、尿からの排熱は少ない。
・人間や動物が食べたり飲んだりするのは、エントロピーを捨てるためである。生命活動すれば、必ずエントロピーが生ずる。このためこれを捨てなければならない。しかし、エントロピーだけを分離して捨てることはできない。
■発汗という最大のエントロピー廃棄能力を持つ人間
・動物の中で馬と人間は汗をかくので、熱エントロピーを上手に捨てることができる。長時間の労働ができるのはそのためである。
3章 健康とは、病気とは、自然治癒力とは
②健康回復の条件
■自然治癒力―誰が命令しているのか
・『自然治癒力といっても、それがあることはあると思うんですけれど、本体はまだ西洋医学も東洋医学もつかんでいません。内分泌とも循環とも神経の伝達とも免疫とも違う何かがあるんじゃないかと私たちは考えてるわけです。
これは一般の素人の方でも、自然治癒力というものがあると考えています。現に傷が自然に治る。私もそうですが、西洋医学の先生方というのは、創傷治癒といって、傷が治る時のメカニズムはちゃんと習うわけですね。素晴らしく治ってくると。これには循環も関係しているだろうし、神経もホルモンも免疫もみんな働いている。その総司令部みたいなものがきっとあるだろうと考えているわけです。
ところが、これは誰が指図しているのか問うと、今のところ誰にも分からない。誰が命令してやっているのかを誰も教えてくれないわけですよ。これは西洋医学でも一切解明されていません。ところが西洋医学の先生方に、自然治癒力というものの存在を信じますかと言うと、みんな信じるといいますよね。そこのところが面白いんで、これからの、研究に待たなきゃいけないんでしょうけどね。』
■生命力とは、元へ戻す修繕力
・自然治癒力と生命力は同じ意味だとは思うが、生命力の一つ手前にあるものが自然治癒力という思いもある。
・生命力は自然治癒力より広い概念で、生命の本質に沿ったものではないか。
・生命の原点は、生きようとする力、元へ戻そうとする力ではないか。
■細胞にも意思がある?
・『多田先生が自著[「免疫の意味論」]の中で、免疫というものをスーパーシステム、つまり自己組織化していくシステムと言っている。要するに一つの骨髄細胞から出て、いろんな細胞に分かれて、それぞれが役割分担して動く。その時に内外の状況に応じて、役割をひょいと変えたりすることを自分でやっている。これはやっぱり何か指令を出すところがあるはずだと。それは遺伝子かもしれないけど、もっと場の情報のようなものではないかと表現しておられるんですよ。
私もどうもそういう気がします。ですから先の指摘のような、生命場は静的なのか動的なのかと問われると、私も混乱してしまうんですけど、どちらにしても私が今まで言っている場というものの何か働きというものがあるだろうと思うんです。私はエネルギーのようなものがあるんじゃないかと考えています。』
4章 がん治療と気力
①がん患者にとって最高の良薬とは
■気力が生命を左右する
・気力は確かに生命と深くかかわっている。がん患者の最後を数多く見ているので、そういうことは何度も経験している。気力をぱっとなくしたとたん、みるみる衰弱していく。例えばホスピスに移るのを決めたとたん、移る前に息を引き取ってしまうことは少なくない。
■気持ちのいいことを探す
・治療には患者本人のその時の気持ち、希望をなるべく汲み取るという姿勢が非常に重要である。
■心がすべてを決める
・『私なんかも本当に心は大切だし、極端なことを言えば、将来のがん治療の中でいちばんの主力は心だろうと思っているんです。遺伝子レベルまで解明していったとしても心が肝心だと思っているんですね。この心が、もう少し客観的というか、数値化ということができるようになれば、その作用がもっと明確になってくるんじゃないかと考えています。』
5章 人間を丸ごと見るということ
①人間全体とは何だろう
■ホリスティック医学は場の医学
・1番大切で、西洋医学も東洋医学も不十分な領域は心の領域の問題である。
・ホリスティック、人間全体とは何だろうと思っている内に、隙間のことや場の問題を考えるようになった。そして、場は自分自身の中にもあるが、大きな場の中の一部でもあると考えるようになった。
②治療法の選び方
■ピタリと合えばグングンよくなる
・ホリスティックと言っても患者ごとにみんな異なる。
・『いろんな療法もピタッと合うと、これがまたよく効くんですよ。先ほども言いましたが、バケツの中に塩を入れて足を揉む。これでよくなっていく人が現にいるんです。気功をやったり、漢方薬をやったり、点滴もやったりして、いろんなことをやっているんだけど、あんまりよくならないなと思ってるときに、どこかからがバケツに塩を入れて届けてくれた人がいるんですね。その中で足を揉み始めたら、グングンよくなっていく。
六人部屋にいた人ですけど、その人がよくなったのを見て自分たちもやろうというので、バケツを買って来て、塩を分けてもらって他の五人もやり始めた。しかし、他の五人はあんまりよくならない。やっぱりこの人には気持ちも含めて何かがピタッと合ったんですね。こういうことが終始あるから、私は何でもやってみた方がいいと思うんです。費用がかかり過ぎることや、これはちょっと危ないぞというもの以外はね。』
2冊の本を読み終え、“氣”の理解を深めるためには、あらためて基礎的な勉強をし直す必要があると考え、鍼灸院の本棚から「東洋医学概論」という専門学校の教科書を引っぱり出してきました。当時は国家試験のために勉強していましたが、今回は“氣”という観点から目を通していこうと思います。当時、見過ごした大事なことを発見できるかもしれません。
編者:社団法人 東洋療法学校協会
著者:教科書執筆小委員会
発行(第1版第19刷):2011年3月
出版:医道の日本社
補足)”氣”について
「気」という漢字が、”氣”に代わって使われるようになったのは戦後のGHQによる漢字の改良が行われたときだそうです。
ご参考:“「氣」はなぜ「気」に変わった?そもそも「米」が入っていた意味は?!”
目次
第1章 基礎理論
1.東洋医学の起源と発展
1)東洋医学の特徴
(1)理論と実践
(2)東洋医学を生み出した思想的な特徴
(3)人と自然についての見方
(4)人体を小自然(小宇宙)と見る
2)東洋医学の起源
(1)原始的医術
(2)「気の思想」による生理・病理観
(3)鍼灸、湯液、気功、導引の起源
3)東洋医学の発展
(1)『黄帝内経』の成立
(2)中国医学の系譜について
2.陰陽五行論
1)陰陽学説
(1)気の思想
(2)陰陽概念の発生
(3)陰陽論の特徴
2)陰陽論の医学上の具体的な応用
(1)人体の組織構成
(2)生理機能の陰陽
(3)病理変化の陰陽
(4)診断と治療の陰陽
(5)三陰三陽について
3)五行学説
(1)五行の発想と限界
(2)初期の頃の素朴な五行説
(3)五行と気の思想
(4)五行の相互関係
(5)五行説の効用と限界
(6)五行学説の特徴
4)五行学説の医学への応用
(1)五臓の生理機能を説明する
(2)五臓間の相互関係を説明する
(3)疾病の伝変を説明する
(4)診断と治療に用いる
第2章 東洋医学の人体の考え方
1.気血津液
1)気の生成と種類
2)精と神
(1)精
(2)神(神気)
3)気
(1)原気(元気)
(2)宗気
(3)営気(栄気)
(4)衛気
(5)その他の気の概念
4)血
5)津液
2.五臓六腑(蔵象)
1)臓腑概説
(1)臓腑とは
(2)臓腑間の関係
(3)臓腑の位置
2)五臓
(1)心
(2)肝
(3)小腸
(4)大腸
(5)膀胱
(6)三焦
4)奇恒の腑
(1)骨・髄・脳
(2)脈
(3)女子胞
3.臓腑経絡論
1)経絡概説
(1)経絡説の成立ち
(2)経絡の構成
(3)経絡の機能
(4)十二経脈について
(5)奇経八脈
(6)その他の経絡系
第3章 東洋医学の疾病観
1.病因論
1)概要
2)外因(六淫)
(1)風
(2)寒
(3)暑(熱)
(4)湿
(5)燥
(6)火
(7)六淫以外の外邪
3)内因(七情)
(1)七情
(2)内因と気血
(3)内因と五臓
4)不内外因(飲食労倦)
(1)飲食
(2)労倦
(3)外傷
2.病理と病証
1)八綱病証
(1)病位の違いでとらえる
(2)病情によってとらえる
2)気・血・津液の病理と病証
(1)気の病理と病証
(2)血の病理と病証
(3)津液の病理と病証
3)臓腑病証
(1)五臓の病証
(2)六腑の病証
4)経絡の病証
(1)是動病と所生病
(2)十二経脈の病証
(3)奇経八脈病証
5)六経病証
(1)六経病
(2)三陰三陽病
6)代表的な疾病
第4章 診断論
1.四診
1)診断の一般
(1)診断の目標
(2)診断の心得
(3)診断の種類
2)望診
3)聞診
4)問診
5)切診
(1)脈診
(2)腹診(按腹)
(3)切経
2.証のたて方
1)証について
(1)湯液の証(漢方の証)
(2)鍼灸の証
(3)本証と標証
(4)主証と客証
(5)その他
2)証の決定
(1)証決定の手順
(2)証の総合決定
第5章 治療編
1.総論および原則
1)養生法
2.治療法
1)古代鍼灸法
(1)九鍼
(2)刺法
2)補瀉法
3)その他の選穴法
4)灸法
5)治療原則
(1)治療の前提条件
(2)治療原則
3.他の東洋医学療法
1)手技療法
(1)按摩
(2)導引
2)薬物療法
(1)薬物療法の概況と歴史
(2)薬物療法の考え方
(3)診断と治療原則
(4)薬物
(5)処方
ひと通り目を通して最も気になったことは、第2章の「東洋医学の人体の考え方」です。
・東洋医学では人体の仕組みは“気の類”と“形の類”と“経絡類”の三つから成り立っていると考えます。
‐気の類:生体の活力として働く。精・気・神があり、三宝と呼ぶ。
‐経絡類:気血の通路のことで、内に臓腑と結びつき、外に頭、体幹、四肢、体表部と連絡している。
‐形の類:身体の構造を形作る。体内の各器官や組織を指す。五臓を中心とした「蔵象」によって相互に関連づけられている。
以下は教科書にあった「東洋医学の人体の仕組み」の図をベースに、一部加筆(青字部分)したものですが、追記した内容はあくまで個人的な考えです。
図の3番目にあった、“形の類”とは五臓六腑を中心とする考えであり、西洋医学では臓器に相当します。例えば、肝と肝臓、腎と腎臓は、それぞれ似て非なるものです。
画像出展:「九州大学附属図書館企画展」
『西洋では身体(ギリシャ語 soma)と魂(ギリシャ語 psyche)はすでに古代から分離したものだった。このことは、一方では体内を観察することへの躊躇を少なくし、医学の発達を可能にしたが、他方、病気はますます純粋に身体的、物質的現象として捉えられるようになった。西洋では今世紀になって、心身医学のような新しい分野が誕生し、この溝を埋める試みがなされるようになっている。』
図の2番目の“経絡類”は、「内に臓腑と結びつき、外に頭、体幹、四肢、体表部と連絡している」。とされています。これに関し、私は「経絡≒ファシア」と考えています。MPS(筋膜性疼痛症候群)の筋膜もファシアです。ファシアの説明は一般社団法人日本整形内科学研究会さまのホームページよりご紹介させて頂きます。
ファシアとは:『全身にある臓器を覆い、接続し、情報伝達を担う線維性の網目状組織構造。臓器の動きを滑らかにし、これを支え、保護して位置を保つシステム。』
皮下組織の層は浅筋膜に相当します。この層には動脈、静脈、神経、リンパ、受容体など生命のライフラインやセンサーともいえる、神経脈管系が機能しています。ファシアが重要なのは膜という構造的(物理的)な役割に加え、そのファシア内の神経脈管系が相互的に生命維持の役割を担っているためです。
ファシアへの機械的な刺激は、これらの各機能に働きかけ、心身のバランスを整え、酸素や栄養素を提供し、また、からだの掃除をして健康にしてくれるものと考えています。
画像出展:「細胞と組織の地図帳」
真皮の下の皮下組織は浅筋膜と呼ばれており、図中では浅筋膜の中に動脈、静脈、神経、受容体が書かれています。また、この図には書かれていませんが、浅筋膜の下に深筋膜があります。ファシアは広範囲かつ複合的に広がっている結合組織であるといえます。
※リンパ管については下の図をご覧ください。
そして、図の1番目の“気の類”が特に西洋医学と大きく異なる部分であり、まさにこの“気の類”を明らかにすることが、『氣とは何だろう』のヒントになるのではないかと思います。
それは、「生体の活力として働く。精・気・神があり、三宝と呼ぶ」と説明されています。(「東洋医学の人体の仕組み」をベースにした冒頭の図)ここでは“気の類”を広義の“氣”とします。一方、「精・気・神」の中の「気」を狭義の“氣”とさせて頂きます。
そして、広義の気、つまり“気の類”を中心にして検討を進めます。少々強引ですが、「精≒消化系/代謝系」、「気≒呼吸系/循環系」、「神≒神経系」とイメージしたとすると、「精・気・神」は心身のすべてを包含していると考えても良いのではないかと思います。
余談になりますが、「神経系」という用語は江戸時代、『解体新書』を翻訳された杉田玄白が命名したもので、「神気の経脈」であるとされています。このことは、西洋医学が日本に伝来されてきた当時から、脳と神気との関係性が注目されていたということであり、大変興味深いものです。
画像出展:「語源から読み解く自律神経」
現代において精神活動は思考、認知、記憶、創造、感情などを指します。これらの精神活動は新皮質の大脳皮質の働きです。一方、東洋医学の脳は奇恒の腑の一つで、働きは運動を円滑に行い、耳目を聡明にし、長寿を保つとされています。
画像出展:「病気がみえるvol7.脳・神経」
脳(奇恒の腑)の働きを西洋医学の脳の働きに照らし合わせると、「運動を円滑に行う」は一次運動野、前頭眼野、高次運動野が該当します。「耳目を聡明にする」や「長寿を保つ」も大脳皮質が関係しますが、運動には小脳が、生命維持には大脳辺縁系や脳幹も必要です。
画像出展:「病気がみえるvol7.脳・神経」
この図の右側縦列は前頭連合野の機能が正常に働かない場合の状態(障害)です。これをみると五神(神・魂・魄・意・志[思・慮・智])の働きとほとんど合致するように思います。
※「五神」については下の表を参照ください。
これは「東洋医学概論」の内容を元に作った「五神」と「七情」の表です。これらの働きは五臓に割り振られています。
五神の中の神についての説明は、このブログの大元である『東洋医学概論』の記述をそのままご紹介させて頂きます。
『神を分類すれば、神、魂、魄、意、志などが挙げられる(『霊枢』:本神篇)。神は、このなかで最上位にあって、他の神気を支配している。ときにより、魂魄は神の支配を受けずに独自の働きをすることがある。魂・魄は、人体のかげの活動(無意識的、本能的活動)を支配するものである。』
例えば、3000年前のヒトの脳と現代のヒトの脳は、解剖学的・生理学的に劇的な違いはないと思います。つまり、東洋医学の脳(奇恒の腑)と西洋医学の脳に対する理解の違いは、解明された情報の質と量であり、それを可能にしたのが科学とテクノロジーの力だと思います。
東洋医学の脳(奇恒の腑)は骨、髄と共に腎が主っています。腎は先天の精、そして後天の精を受け入れ、発育・成熟および生殖という基本的な生命活動を担っています。そして、腎に納まる精が気に変化すると原気となり、臍下丹田に集まり人体の基礎活力として働きます。以上のことから、腎と脳(奇恒の腑)の関係は非常に重要だと思います。
関元という経穴(ツボ)は、小腸の募穴でおへそより指4本分下とされています。場所は臍下丹田になります。
西洋医学では下腹の臍下丹田は腸がある場所です。そして腸は第二の脳とされ、脳腸相関ともいわれています。東洋医学の腎と西洋医学の腸の違いはありますが、東洋医学の臍下丹田⇔脳(奇恒の腑)と西洋医学の脳腸相関(腸⇔脳)は東西医学の共通性を示すものと思います。
画像出展:「ブレインフォグの原因「腸内細菌の乱れ」と脳腸相関とは?」
こちらは国立・消化器内視鏡クリニックさまから拝借しました。
『脳腸相関とは、脳とおなか(腸)で両方向におこなう情報伝達のやり取りと相互に影響を及ぼしあう関係のことです。』
科学(テクノロジー)の力が及ばなかった東洋医学の時代においては、五神(神・魂・魄・意・志[思・慮・智])や五情(喜・怒・憂・思・恐に悲と驚を加えたものは七情という)を、脳(奇恒の腑)に関連付けて考えることは難しかったと思います。そのため、重要とされた五つの臓腑(“形の類”)に割り振ったということだったのではないかと想像します。
五神と七情は、現代では大脳新皮質と間脳(特に視床下部)そして大脳辺縁系による中枢神経の働きと考えられます。運動や感覚は中枢神経系と体性神経系(末梢神経系)でつながっており、内臓の働きは中枢神経系と自律神経系(末梢神経系)でつながっています。さらに視床下部は自律神経系に加え、内分泌系や飲水・摂食・性行動などの本能行動をコントロールしており、極めて重要な役割を担っています。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
大脳新皮質は判断、思考、計画、創造、注意、抑制など理性と社会性といえます。多くは神気(五神)に関係していると思います。一方、本能的、情動的なものは大脳辺縁系が担っていますが、特に大脳辺縁系の扁桃体につながる視床下部は内臓に関わる自律神経系や内分泌系を制御しています。また、運動器は中枢神経と末梢神経である体性神経系を介して脳と体躯・四肢をつなげています。
画像出展:「理性は本能に負けやすい!?脳の中には3つの機能があり、バランスが崩れると依存症になる?」
このサイトの他のスライドに『3つのバランスが崩れると依存症になる』という説明があります。これは東洋医学の“内因”(主に七情と呼ばれる7つの感情の過剰や不足によって引き起こされる病気の原因)に通じるものです。
画像出展:「漢方によるストレス・ケアのすすめ」
こちらは東洋医学の病気に対する分類です。内因は七情が関係するとされています。他に外因と不内外因があります。
画像出展:「病気がみえるvol7.脳・神経」
外側の大脳皮質は新しい脳ですが、内部の大脳辺縁系は古い脳です。脳波、CT、fMRI、PETなどの科学の力なしに解明は不可能です。有名な海馬は記憶に関係しています。一方、情動と本能行動の中枢とされ、主に「七情」に関わっているのが扁桃体です。
以下の2つの動画はストレスを軽減する方法を紹介しています。ポイントは大脳辺縁系の中の扁桃体と呼吸(酸素)です。“氣”には様々な解釈があります。その中には大気も含まれます。この動画を拝見すると、呼吸を重視する考え方は東洋医学も西洋医学も同じように思います。
「4ステップで扁桃体の過剰反応を落ち着かせる「心の持ち方、感情の持ち方について」11分52秒。
こちらは「Dr.ヤママンのYouTube Channel」さまからの拝借です。
「脳の扁桃体からの怒りを前頭前野がコントロールします!!」5分41秒。こちらは「精神科医マコマコちゃんねる」さまからの拝借です。
画像出展:「臍下丹田呼吸法」
「呼吸を重視する考え方は東洋医学も西洋医学も同じように思います」とお伝えしましたが、「西洋医学でも、最近では“木”ではなく“森”、つまり身体全体から病状や健康を診るということも出てきているな」と思って調べてみました。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)作成」
今では「総合診療」や「プライマリーケア」といった組織もでてきていますが、調べたところ、総合診療の先生の中には鍼治療を取り入れている先生もおいでのようです。
くり返しになりますが、“氣”とは“気の類”、つまり、「精・気・神」の三宝と定義したいと思います。「気を補う」とは「精」なのか「気」なのか「神」なのか、それともすべてなのか、鍼灸師は「精・気・神」を頭に入れておくべきではないかと思います。
「気・血・津液を調える」というのは経絡治療の基本ですが、これは手法でありその対象は三宝(精・気・神)ではないかと思います。
以前、「自然治癒とは何か」ということを検討し、『ストレス適応と栄養代謝』と定義してみたのですが、個人的には、鍼灸(経絡治療)とは三宝に対する施術を適切に行い、『ストレス適応と栄養代謝』を高めるということだと思います。(“栄養代謝”という言葉は、本来は“消化・代謝”の方が適切ですね)
画像出展:「寒い時期の健康管理(市報のだ11月15日号掲載)」
『暑さや寒さなどの外部環境、心理的なストレス、ウィルスや細菌など私たちの生命維持に対する外乱となる刺激が生体に加わると、自律神経系(交感神経・副交感神経)・内分泌系(ホルモン分泌)・免疫系の3つが働いて、身体の機能を平常に保たれます。』
「ホメオスタシス~私たちを守り続けるシステム~」6分14秒
こちらは「ネコかん 【ネコヲの解剖生理学】」さまからの拝借です。
“ストレス適応”はホメオスタシス(恒常性)に置き換えても良いのではないかと思います。
次に気・血・津液と三宝(精・気・神)との関係性を考えたいと思います。ここで出てくる気は狭義の気です。(「東洋医学概論」の図を基に作っています)
狭義の気は、機能別に複数存在しており(図内には真気を含め5つ)、それぞれの気の働きを理解する必要があります。この中で特に注目すべきは臍下丹田の原気だと思います。そして、三宝(「精・気・神」)にも目を向けたいと思います。さらに、西洋医学的な観点からの脳腸相関と臓器間のメッセージ物質のやり取りという考えにも注目したいと思います。
※メッセージ物質
NHKスペシャル「人体 神秘の巨大ネットワーク」シリーズでは、「臓器や細胞からのメッセージを伝える物質」を総称して「メッセージ物質」と呼んでいます。これは細胞間情報伝達物質であり以下のようなものとされています。
1.ホルモンやサイトカインを含む、体内で情報を伝達する物質の総称
2.血液や神経を通じて全身を巡る
3.数百種類にも及ぶとされる
脳・脊髄(中枢神経)と臓器をつなげているものに自律神経系がありますが、それに加えて脳や各臓器に様々なメッセージ物質を送って、臓器同士が会話しているとすれば、「神気は五臓に納まる」という東洋医学の発想に近いもののように思います。
まとめ
今回、勉強し直したのは「氣」とは何かを知りたいと思ったからです。そのヒントになるのではと思ったことは、「脳」の働きに関する東洋医学と西洋医学の違いです。東洋医学における「脳」は“五臓”でもなく“六腑”でもなく、”その他の腑”に含まれる“奇恒の腑”で、重要なものと考えられていたとは思えません。奇恒の腑は「脳」の他に「骨」と「髄」があり、いずれも“五臓”の一つである“腎”が主っています。そして「脳」は「髄」の大きなものとされていますが、これは「髄」が「骨」の中にあるものというのが理由です。確かに脳は頭骨の中にあるので髄であるといえます。言い方は良くないのですが、「脳(奇恒の腑)は腎ファミリーの一つ」という位置付けです。
この奇恒の腑である脳について、教科書では次のように説明されています。『脳は、頭骨の中にあり、髄の大きなもので、下は脊髄に連なる。脳は、肢体の運動を円滑にし、耳目を聡明にし、長寿を保つ。脳が充実していると、耐久力ばかりでなく、すべてにわたって一般の基準を超える。不足すると、目が回る、耳鳴り、めまい、すねがだるい、身体中だるくて寝ていると落ち着くなどの症状を呈する。』
ここで説明されている内容は、一つは運動と感覚に関わるものであり、西洋医学の中枢神経、遠心性神経(運動神経)、求心性神経(感覚神経)に相当すると思います。
もう一つは『耳目を聡明にし、長寿を保つ』というものですが、脳(奇恒の腑)の働きとしては細かく示されてはいません。西洋医学における理性などを司る大脳皮質や、本能や情動を司る大脳辺縁系が担っている役割、さらには内臓に働きかける末梢性の自律神経系や内分泌系の働きは、五臓に割り当てられた五神(神・魂・魄・意・志)や七情(怒・喜・思・憂・恐・悲・驚)によって説明されています。
一方、先にご紹介させて頂いたメッセージ物質の存在を考えるならば、脳と臓器、臓器と臓器でもコミュニケーションが発生しており、東洋医学の五臓・五神・七情などの考え方に通じる部分があるように思います。つまり、脳は絶対的な統括者・権威者というより、各臓器、器官、組織などの”つぶやき”に耳を傾けながら、全体をまとめるリーダーという存在ではないかと思います。
最後に、今回のブログでは以下の3点を最も重視したいと思います。
1.施術において、“氣”とは“気の類”、精・気・神の三宝であると考えたい。(現時点では)
2.狭義の気に関しては、先天の精と後天の精から派生する臍下丹田にある“原気”に注目したい。
3.『氣とは何だろう』を考えていくうえで、東洋医学の脳(奇恒の腑)・神気(五神)と西洋医学の脳(大脳・中脳・間脳・脳幹・小脳)に注目したい。
画像出展:「国内外における脳科学研究の現状と問題点について」
ウンザリするような細かい表ですが、ご紹介したのは「脳科学研究はこれから、奥が深いんだなぁ」ということをお伝えしたかったからです。
今後の予定
『氣とは何だろう』というテーマに関して、3冊消化しましたが、今後以下の本を拝読させて頂く予定です。大変なことになっています。ほぼ1年がかりのテーマです。
・気とエントロピー 医者と患者に役立つ医学
・「気」とは何か 人体が発するエネルギー
・「気」は脳の科学
・気功の科学 大脳生理学が解明した「東洋の神秘」
・気をひきだせ、無限の治癒力
・脳のなかの天使
・腸と脳 第二の脳がもたらすパラダイムシフト
・人体 神秘の巨大ネットワーク 臓器たちは語り合う
・「酵素」の謎―なぜ病気を防ぎ、寿命を延ばすのか
・酵素反応のしくみ―現代科学の最大の謎をさぐる
・リンパの科学 第二の体液循環のふしぎ
・中村天風と植芝盛平 気の確立
・気の発見 著者:五木寛之 対話者:望月 勇(気功家)
・なぜ気功は効くのか
・気療の奥儀 手を振るだけであなたも動物を癒せる
・東洋医学気の流れの測定・診断と治療
・針灸の理論と考え方
鍼灸編の2冊目はアシル治療室という人気の鍼灸院を開院されている若林理沙先生の著書、『気のはなし 科学と神秘のはざまを解く』です。(新規受付はしていないようです。2025年1月時点)
若林先生は大学では思想宗教を専攻され、古武術を学びブラジリアン柔術にも精通された先生です。本書の“はじめに”には、「これから展開される「気」の世界を俯瞰してみましょう。おそらく、読者の方々は「気」がこれほど広大な領域に広がったもので、こんなにも多種多彩な意味を持っていたのかと驚かれるでしょう」と書かれていますが、まさに「気」の広さと多様さを学ぶことができました。
試しに類語辞典で「気」の類語・同義語を調べてみた所、以下のようなことが書かれていました。
1.その人特有の行動や反応を決定する感情的、知的特質の複合体
・気質、気性、気心など計50個。
2.ある種の傾向または性向
・気持ちなど計9個。
3.ある資質を示唆するもの
・気配など計5個
4.コミュニケーションの意図された意味
・意志、意図など計17個
5.目に見えない不思議なこと
・オーラ、神通力など計10個
全部足すと91個、「“氣”とは何だろう」という疑問の答えは謎のままですが、一歩一歩進めるしかないなと思います。
目次
はじめに
「気」の年表
第1章 気の起源
●気のおおもとの姿
●「気」という字の原型
●モヤモヤッと立ち昇る何か
●「気」に似た考えは世界中にあった
コラム 武術と気
第2章 孔子・老子・荘子の気
●血縁の愛を重視する中国で「仁」を説いた孔子
●『論語』では重視されなかった「気」
●古代、医者の地位はひどく低かった
●老子の思想のキーワード「道」
●老子の「気」は陰陽を引っ付ける糊!?
●人体に存在する「道」
●「気」の重要性がアップする荘子
コラム 風邪と気
第3章 孟子・道教の気
●孟子のでかくて強い気
●呼吸法から道教へ
●できるだけ長生きする技法
●「万物は気でできている」の始まり
●東洋医学の養生法の原点
●固形の玉になる気
●不死になるには1000呼吸止める!?
●気を練る修養法の落とし穴
コラム 気力・体力=消化力
第4章 易と風水の気
●気を語るのに外せないマジカルな分野
●トカゲを表す「易」の字
●六四卦で世界のすべてを表す
●時計の秒針のように動く気
●風水の特徴、龍脈と龍穴
●都や墓所に適した土地とは
●「水」から「気」へ
●教養としての易と風水
コラム 鬱を東洋医学の気から見ると
第5章 東洋医学の気
●最古の医学書
●気よりも血や水が重視されていた時代
●東洋医学はリアル+ファンタジー
●人体の気、いろいろ
●気・血・水が体内を流れるという身体観
●経絡の考え方の変遷
●経穴は絶対的なものではない
●ちょっとした抵抗を指先で探る
●自然の気、いろいろ
●現代に多いのは内因・不内外因の体調不良
●エネルギー120パーセント!?
●細かすぎる分類は気にしなくていい
●鍼灸や漢方はほぼすべての病気を改善できるのか?
コラム 「気が合う」「気が合わない」「気を合わす」
第6章 科学の気
●現代中国は気をどう説明するのか
●手から出る遠赤外線
●彼にすると情報がのせられる
●何かは伝わっているけれど
●生き物は全員「電気仕かけ」
●皮膚を流れる電気
●電気と言い切れない何か
コラム 臨床と気
第7章 養生と気
●気のオカルティックなイメージはどこからくるか?
●日本の気
●戦国の気
●韓国の気
●養生を気で説明する
●「寝る」と気
●「食う」と気
●「動く」と気
●体質を気で分ける
●人が生まれるときの気
●人が亡くなるときの気
おわりに
第1章 気の起源
「気」に似た考えは世界にあった
●ギリシャ哲学のプネウマ説は空気中のプネウマが呼吸により体内に取り込まれることで生きていられるとされている。
●プネウマは血液とともに体の各部位に供給されるエネルギーだと考えられており、気の考え方によく似ている。
●元々プネウマは「空気」、「呼吸」、「風」の意味で使われていた言葉で、そこに生命を維持する力という考えが導入された。
●プネウマはローマ帝国時代の医学者であり哲学者でもあるガレノスによって継承されて発展した。ガレノスは「三大臓器と脈管の生理学説」を唱え、肝臓から出る静脈は栄養豊富な静脈血、心臓から出る動脈は生命プネウマが豊富な動脈血、脳から出る神経は精神プネウマが豊富な神経液を全身に送っていると考えた。
●プネウマの考え方はアラビアまで伝わり、ルーフ(風という意味)の訳語でユナニ医学に取り込まれ、ユーラシア大陸における主要な医学のほとんどがプネウマ/ルーフの理論が成り立つようになる。そして、これらが西洋医学の源流になっていく。
画像出展:「ガレノスの「人格の気質的四類型」と「プネウマ」(カウンセリングしらいし)」
医学の対象は個物から場へ (帯津良一医学博士)
『ヒポクラテスの考えを継承したのが、ローマ時代の名医ガレノスである。ただし彼は人体を詳細に観察した上で、解剖学と生理学の基礎を築いた。それまでの直観の医学から分析の医学への移行である。ガレノスこそ近代西洋医学の祖とみなされている。それでもガレノスの医学でも、プネウマは重要な位置を保っていた。
また彼がヒポクラテスのネイチャーの概念を継承していたことも言うまでもない。彼が提唱したかどうかはわからないが「自然治癒力」は「vis medicatrix naturae」というが、これはラテン語である。ラテン語といえばローマ時代、彼の周囲からこの名称が起こったと考えてもさして無理ではないだろう。』
第2章 孔子・老子・荘子の気
「気」の重要性がアップする荘子
荘子 外篇 知北遊第ニ十二
●(現代語訳)『そもそも生は死の仲間であり、死は生の始まりである。一体誰がそのおおもとの仕組みを知っているだろうか。人間の生は、気の集まったものである。気が集まれば生となり、散じれば死となる。このように生と死とが仲間であることに、私はまた何を思い悩む必要があろうか。だから、万物は、一つであるというのだ。万物の中で美しいとされるものが珍しく重用されるものとなり、醜いとされるものが悪臭を放つものになるのであるが、悪臭がするものもやがて気が離散して変化し、珍しく重用されるものに変わったり、珍しく重用されるものもまた同じように、悪臭がするものに変化するからである。だから、「世界に本当にあるのはただ一つの気だけである」と言うのだ。だから、道に通じている聖人は「一」そのものである気を重んじる。』
第3章 孟子・道教の気
孟子のでかくて強い気
孟子 公孫丑上
●(現代語訳)『「あえておたずねしますが、先生は何がお得意であられますか」。孟子「私は人の言を知ることができ、自分自身の浩然の気を養うことができる」。「さらにあえておたずねいたしますが、いったい浩然の気とは、どういうものでしょうか」。孟子「言葉では説明しにくいが、その気というものは、とてつもなく大きく、とてつもなく剛く、そして真っ直ぐで、害することなく養っていけば、広大なる天地の間を塞ぐくらいになる。その気というものは、道と義の配下にあるもので、もし道義がなければ飢えて小さくなってしまう。つまりこの気は、自分の中の義が集まったところ生ずるものであって、外にある義が入り込んできて浩然の気ができるというものではないのだ。自分の行為に何か気持ちの良いものではないものが混じっていると、この気は飢えてしまう。』 (「癌から生還」。インドの女性、オーストラリアの男性。本来の自分を偽って生きるのはよくない)
第5章 東洋医学の気
経絡の考え方の変遷
黄帝内経 霊枢 経水篇第十二
●(現代語訳)『経水は水を受け取って巡らせる、五臓は神気魂魄(神気:その人をその人たらしめ、生かしている気。コンピュータのOSみたいなもの。魂:陽性のたましい。死ぬと天に昇る。夜中に体を抜けてそのへんをふらふらすることもある。魄:陰性のたましい。死ぬと骨とともに地面に還る。骨が消えないうちはそこにくっついているとされる)を合わせて内蔵する。六腑は食べ物を消化して巡らせ、そこから気を受け取って人体上部へ持ち上げる。経脈は血液を受け取ってこれで各所を栄養していく。』
経穴は絶対的なものではない
●経穴の場所は定義されているが、住所でいえば「何丁目何番」までで、何号とかマンション○号室」までは書いていないと考えるべきである。その最後の取穴の判断は施術者の指先の感覚によって特定する。その根拠は触ってみて、ざらざらするとか少し冷たいとか、押したら響いたとか、軽く押し込んで揉んでみると中に糸くずみたいな小さな硬さを感じるとか、そのような他とは異なる指先に伝わる感じや印象を大事にして取穴する。
現代に多いのは内因・不内外因の体調不良
●人体内では感情の動きが気を動かすとされている。(感情→神経伝達物質→自律神経) 気血とは
●ひどく偏った感情は気を損なうと考えられている。
●不摂生(飲食、睡眠、労働の不養生)も人体の気を損なう原因であり、不内外因という。
第6章 科学の気
現代中国は気をどう説明するのか
●『気はいったいなんなのかを科学的に検証する研究は、80年代にたくさん行われており、2000年代に入ってからの研究はほとんど見当たりません。おそらく、気を捉えられそうな計測機器による研究が出尽くしたのだろうと思います。そして、それらの研究はいくつかのエネルギーが体を流れている。もしくは体から放出されている様子を検出しました。
気を体の外に放出するイメージとしては、手から何かが発せられてそれが相手の体に空中を伝わって到達し、体に暖かさや涼しさ、電気的な刺激に似た感覚などが発生する、というものです。実際に、他人へ気を送る状態をサーモグラフィーで捉えると、受けて側の手や顔の温度が上昇していることがわかるのです。』
手から出る遠赤外線
●『この研究を主に行っていたのは、東京電機大学の教授でいらした町好雄氏です。彼はテレビ局の要請でまったく専門外だった気功をサーモグラフィーで計測し、実際に体表面の温度変化が観測されることを目の当たりにし、本格的に研究を始めるようになりました。
とくに温度の変化が著しいのが手の指先にある経穴の商陽・中衝と手のひらの中央付近にある労宮でした。経穴が気の出入り口とされていることが実際に計測されたということになります。
なんらかのエネルギーが空中を伝わって、それで相手の体温が変動する。これを可能とするには、いずれかの電磁波が関与しているにちがいないと町氏は考えました。町氏は、おそらくは遠赤外線がそれを狙っているだろうと考えたのでした。』
NPO法人 気功分化センター
『多くの人々が元気で幸せな日々を送ることができるよう、中国の歴史のなかで育まれてきた健康法である気功をさらに普及していこうと平成18年4月に設立したNPOです。
科学者や気功師、気功文化に興味のある仲間が、“気功を多くの人に知ってもらいたい”、“気功が人体へ働きかける仕組みを解明していきたい”という思いで発起人となって設立しました。』
波にすると情報がのせられる
●『測定してみると気功を行っている人体から放射されている遠赤外線自体の強さはそれほどではありませんでした。そこで町氏は計測機器に工夫をし、遠赤外線の波形を調べる方法を使ってみたところ、発生されている遠赤外線に一定の波形が現れていることを観測しました。遠赤外線そのものにシグナルがのせられていて、それを人体が受け取って読み解いて体の中に変化を起こしている可能性が示唆されたのです。
この、波にすると情報がのせられるというのは、ラジオやテレビの電波と同じ原理です。同じような実験を行った研究者は多数おり、追試の結果たしかにそうなっていることがわかりました。
これ以外の研究としては、上海中医学中医研究所で、先ほど顕著に温度が変わると紹介した経穴の労宮から数センチから1メートル離れた距離で、遠赤外線が検出されること、頭頂部の経穴である百会から数センチのところで微細な磁力信号が検出されることがわかっています。また、日本医科大学教授だった品川嘉也氏は、気功の送り手と受け手の脳波が同調することを突き止めています。』
皮膚を流れる電気
●傳田光洋氏は、末梢神経が通っていない表皮細胞そのものが情報を伝える仕組みを発見した。TRPと呼ばれる受容体が表皮細胞の膜表面に存在しており、これが外界から刺激を受け取ると細胞膜表面に電流を生じ、細胞から細胞に電気が流れてゆき、最終的に深部にある末梢神経へ刺激が伝わる仕組みになっている。
第7章 養生と気
人が生まれるときの気
●馬王堆の「胎児書」には人は生まれた瞬間が気の塊とされ、一番パンパンに気が詰まっている状態であるとされている。
●赤ん坊は陽気の塊とも言われている。
感想
鍼灸師編の2冊から学んだことは、“氣”の歴史は古く、また、“プネウマ”、“ルーフ”、“プラーナ”など世界各国に“氣”に似たものが存在していた点です。西洋医学につながっていくガレノスも“プネウマ”に注目していました。紀元前460年前頃とされる「医学の父」ヒポクラテスは“氣”については触れていないと思いますが、“自然治癒力”の重要性を説いています。
“氣”という言葉は色々な場面で使われています。宇宙や生命に関わるものであったり、呼吸であったり、気功のような特別なエネルギーを指す場合もあります。まだまだ、分からないところだらけですが、幸い勉強の材料はまだまだ出番を待っていますので、地道な勉強を続けていきます。
今回は、“氣”は時代を超え、国を超え、様々な状況の中で特別な“存在”として受け継がれてきた概念のようなものではないかと思いました。
ご参考:血液∈経脈
第5章の中の「経絡の考え方の変遷」でご紹介させて頂いた、黄帝内経 霊枢 経水篇第十二について詳しく解説されているサイトがありました。
【古医書】霊枢:経水篇 第十二
≪提要≫
十二経脈は、地上を流れる十二の経水が
地水を受けて各地を連絡するように、
五臓六腑に連絡し、交通しており
それぞれ大小・深浅・広狭・長短などが異なる。
五臓は神・気・魂・魄など機能活動を主り
六腑は水穀の精を全身に輸送し散布する。
十二経脈は血を受納し全身を運営している。
人体には一般的な標準があり、
各経気を調整する際にも一定の規律がある。』
また、東洋医学における“血”に関しては、「漢方の基礎知識」というサイトに、“血”は血液を含むものとされています。
暑ければ汗をかき、悲しければ涙をながし、食事をすれば唾液が助け、肌を切れば血が流れます。現代医学で説明される“血液”という理解(認識)は存在していませんが、その当時の人々が定義する“血”が現在の“血液”を含んでいると考えることは疑う余地はないように思います。
画像出展:「漢方の基礎知識」
『東洋医学で考える「血」はカラダの中を流れる赤い液体のことで、西洋医学でいう血液を含む栄養物質を指しています。「血」には精神活動を充実させ、全身に栄養を運んでカラダを潤す働きがあります。』
