本書の著者である藤本大三郎先生は、この本を次のような理由で書かれたとのことです。
『ふつうの酵素の本では、化学や有機化学の基礎知識の説明までは手がまわらない。それゆえ、酵素作用のメカニズムには深く立ち入ることを避けるか、説明してもひどくわかりにくくなってしまう。
一方、化学や有機化学の入門書では、酵素についての説明はまったくないか、あってもおざなりでしかない。化学者は、たいてい、酵素に関心がないか、知識がない。そこで、この本を書いてみた。』
これは、まさに望んでいた本だなと思いました。化学も有機化学の知識もない私には重たい仕事でしたが、酵素が何をしているのか、何が謎なのか、そして量子力学が関係しているということを知ることはできました。少し前進できたと思います。
はじめに
1章 生命と物質
1.1 生命と物質はどこが違うか?
1.2 酵素の発見
1.3 酵素の本体
1.4 酵素の特異性
1.5 遺伝子と酵素
1.6 大腸菌の細胞
1.7 もっと簡単な細胞
1.8 再び生命の神秘について
2章 簡単な物質の化学反応
2.1 原子
2.2 化学結合
2.3 原子価
2.4 分子の衝突と化学反応
2.5 遷移状態
2.6 触媒
3章 有機化合物の反応
3.1 有機化合物とは
3.2 有機化合物の立体構造
3.3 分極
3.4 水の分子と水素結合
3.5 分極と反応
3.6 酸と塩基
3.7 触媒
3.8 同じ分子に触媒基がある場合
4章 酵素反応の基礎知識
4.1 酵素の命名法と分類
4.2 酵素の共同因子
4.3 酵素の活性の測り方
4.4 酵素の触媒能力
4.5 酵素反応とpH
4.6 酵素反応と温度
4.7 反応速度論
4.8 酵素の阻害剤
5章 酵素の構造
5.1 タンパク質とアミノ酸
5.2 アミノ酸とペプチド結合
5.3 側鎖によるアミノ酸の分類
5.4 酸素のアミノ酸配列順序
5.5 α‐らせんとβ構造
5.6 球状構造
5.7 ドメイン構造
5.8 サブユニットと会合体
5.9 立体構造のゆらぎ
5.10 立体構造の変性と再生
5.11 立体構造を決めるもの
6章 酵素の作用メカニズム
6.1 カギとカギ穴
6.2 基質結合部位
6.3 エントロピー・トラップ
6.4 基質の有効濃度を上げる
6.5 生産的結合と非生産的結合
6.6 誘導適合
6.7 基質をひずませる
6.8 共有結合の中間体
6.9 酸・塩基触媒
6.10 遷移状態の安定化
6.11 酸素作用と活性化エネルギー
6.12 今後の問題
7章 生命の起源と酵素
7.1 タマゴが先か?
7.2 ニワトリが先か?
7.3 RNAワールド
7.4 酵素はどのようにして生まれたのか
7.5 原始生命体の酵素
7.6 謎
参考図書
はじめに
●『酵素は生物の体の中のようなおだやかな環境、つまり常温、常圧で中性に近い状態の中で、たくさんの物質の中から特定の物質(基質)だけを正確に見分け、驚くべき速さで化学反応を進行させる。一体なぜ、どのようにしてこんな働きをすることができるのか?この問題は現代のサイエンスがかかえる大きな謎の一つである。』
●酵素反応のしくみを理解するためには、分子とか化学結合とか活性化エネルギーというような化学の基礎知識が必要である。また、酵素は一般に有機化合物(炭素化合物)を相手にするので、有機化学の基礎知識も必要である。一方、化学や有機化学の入門書では酵素についての説明はほとんどない。化学者や有機化学者はたいてい酵素に関心がないか、知識がない。
1章 生命と物質
1.1 生命と物質はどこが違うか?
●化学者はまねができない生物の体の中の化学反応として、温度、pH、そして最も重要なことは、生物の体の中、というより細胞の一個一個の中で、何百種類以上の化学反応が同時に秩序をもって整然と行われている点である。
1.3 酵素の本体
●1930年以降、酵素の本体がタンパク質であることは動かしがたい事実として認識されるようになった。サムナーとノースロップは1946年にノーベル化学賞を受賞した。
1.4 酵素の特異性
●酵素は原則として一つの化学反応に対応する。
2章 簡単な物質の化学反応
2.4 分子の衝突と化学反応
●物質をつくっている分子は運動している。そして、ある一定の速度以上で分子同士が衝突したときに化学反応が起こり、結合の組み換えが起こる。
●化学反応には活性化エネルギーが必要
・水素ガスの分子と酸素ガスの分子の混合状態のエネルギーのレベルは、生成物である水のエネルギーのレベルよりも高い。しかし、その間には“エネルギーの山”というか“障壁”が存在している。この障壁を越えることができる速度(エネルギー)をもつ分子が衝突したときだけ、反応が起こるのである。このエネルギーの障壁を「活性化エネルギー」と呼んでいる。
分子の動き回る速さは温度に関係がある。もちろん、温度が高いほど速度は速くなる。ちなみに、絶対温度が零度、つまりマイナス273度では分子はじっとして動かない状態になる。室温で、水素ガスと酸素ガスをまぜて放置しておいても反応は起こらない。水素ガス分子と酸素ガス分子の衝突のチャンスはあるのだが、反応がおきて水になることはない。室温ぐらいの温度では水素ガスの分子も酸素ガスの分子も、反応が起こるのに必要な活性化エネルギーをもっていないからである。
しかし、もしも水素ガスと酸素ガスの混合物にマッチの火を近づければ、爆発がおこる。つまり、急激に化学反応が起こる。これは、マッチの火のそばの水素ガスの分子と酸素ガスの分子が火によって熱されてエネルギーを得て、活性化エネルギー以上のエネルギーをもつ状態になるからである。一度反応が起こると、大量の熱が発生する。この熱は「反応熱」といい、水素ガスと酸素ガスの混合物のエネルギーレベルと、水のエネルギーレベルの差にあたる。この反応熱によって、まわりの水素ガス分子と酸素ガス分子が加熱され活性化させる。そして、反応は連鎖的に、つまり爆発的に進んでいく。
2.5 遷移状態
●化学反応において、反応する物質の原子の組み換えが連続的に起こるが、その際、エネルギーが最大になる状態から生成物になる。このエネルギー最大の状態の原子の配置を「遷移状態」と呼ぶ。
●遷移状態は理論的に仮定されたものであって、これを分離したり、物理的な手段で観測できるものではない。
2.6 触媒
●触媒は活性化エネルギーを低くする働きである。活性化エネルギーが低くなれば室温では進行しない反応も進行させることができる。
3章 有機化合物の反応
3.1 有機化合物とは
●有機化合物とは炭素を含む化合物である。
4章 酵素反応の基礎知識
4.2 酵素の共同因子
●酵素の本体はタンパク質であるが、タンパク質以外の物質を必要とする場合がある。このような物質を「共同因子」あるいは「コファクター」と呼んでいる。
●共同因子は①配合団、②補酵素、③金属、の3つに分けることができる。
●配合団は、酵素本体のタンパク質にしっかりと結合した共同因子をいう。
●補酵素は、配合団のようにはタンパク質に固く結合せず、透析のよう操作で取り除くことができる。
●ビタミンの多くは酵素の共同因子やその合成材料である。
●酵素の中には、マグネシウム、マンガン、カルシウム、亜鉛などの金属イオンを必要とするものがある。これらの金属イオンの中には、酵素のタンパク質に固く結合しているものもあれば、ゆるく結合しているものもある。
4.3 酵素の活性の測り方
●酵素作用の本質は化学反応の触媒である。すなわち、酵素の活性は触媒する反応の速さで測る。
4.4 酵素の触媒能力
●『カタラーゼという酵素がある。前にも出てきたが、過酸化水素を分解する酵素である。カタラーゼの1個の分子は、1秒間に9万個の過酸化水素を分解する力をもっているという。それゆえ、100mlのカタラーゼを入れると、5分間で全部分解してしまう計算になる。酵素の中にはもっとすごいのがあって、カルボニックアンヒドラ―ゼ(二酸化炭素に水をつけて炭酸にする酵素)は、1個の酵素分子が1秒間に100万個の二酸化炭素に水を付ける能力がある。
これらは、スピードのはやい部類の代表的なもので、ふつうは毎秒約1万個の基質分子に変化をおこすくらいのスピードである。もちろん、スピードの遅い酵素もあって、1秒あたり、キモトリプシンは100、DNAポリメラーゼ(DNAを合成する酵素)は15、リゾチーム(細菌の細胞壁を分解する酵素)は、0.5分子の基質に変化をひきおこす。
また、別のくらべ方をすると、酵素がないときにくらべて、1000万倍(10の7乗倍)から10の20乗倍ぐらいに反応速度を速めるものが珍しくないという。1000万倍ということは、酵素なしでは1000万時間、つまりおよそ1000年かかるところを、酵素はたった1時間で反応を進行させてしまう計算になる。10の20乗倍となると、酵素なしで10の20乗時間かかる反応を1時間でやってのけるということだが、10の20乗時間とは約10の16乗年(1京年[10,000兆年])である。この宇宙が誕生してから、たかだか10の10乗年(100億年)しかたっていないという。つまり、酵素なしでは、こんな反応は絶対におこらないということである。』
4.5 酵素反応とpH
●酵素反応の速度はpH、すなわち水素イオンの濃度によって大きな影響を受ける。
●多くの酵素の至適pHは中性、つまりpH7付近にある。しかし、例外もある。胃の中で働くタンパク質分解酵素のペプシンの至適pHは1.5、つまり強い酸性である。
4.6 酵素反応と温度
●酵素反応の速度は、温度によっても大きな影響をうける。一般に化学反応の速度は温度が高くなるほど大きくなる。
●酵素は温度が高くなると立体構造がこわれて、触媒活性を失ってくる。対応できる温度は酵素によって異なるが、多くの酵素は60度ぐらいに加熱すると変性して活性を失う。中には100度のお湯の中につけても平気な酵素もある。
4.8 酵素の阻害剤
●酵素に結合して、その触媒作用を止めてしまう物質を「阻害剤」とか「インヒビター」と呼んでいる。代表的な阻害形式の一つは、「競争的阻害(「拮抗的阻害」ともいう)」と呼ばれるもので、阻害剤が基質とよく似た構造をもっていて、基質と競合う形で酵素に結合する。
6章 酵素の作用メカニズム
6.1 カギとカギ穴
●『酵素は特定の基質をうまく見わけ、おどろくべき速さで化学反応を進行させる。一体、なぜ、どのようにしてこんな動きをすることができるのだろうか? この問題は、本書の主題なのだが、現代のサイエンスのかかえる大きなナゾの一つである。
酵素の作用メカニズムを説明するために、いろいろなモデルや考え方が提出されてきた。歴史的にもっとも古いのが「カギとカギ穴」説である。1894年―つまり今から100年以上も前にドイツのフィッシャーによって提唱された。
基質と酵素の活性部位は、ちょうどカギとカギ穴の関係にあって、ぴったりと適合する。適合しない物質は、カギ穴にあわないカギのようなもので、基質にはなりえない。
この説は、酵素の特異性を実にわかりやすく、明快に説明している。そして、基本的には正しいと現在も考えられている。ただし、この説はなぜ、基質の反応が速やかに進行するのかについてはなにも説明されていない。つまり、カギ穴の中の出来事については残念ながら何も説明できない。』
6.3 エントロピー・トラップ
●酵素は「基質を見分ける」ことも重要だが、「基質を結合する」ということも重要である。
●酵素の活性中心には、基質を結合する部位と化学反応を進行させる触媒部位があると考えられている。
●化学反応全体のおこりやすさについて、エントロピー(乱雑さ)の寄与がある。生成物の方が反応物よりも規則性が高ければエントロピーは減少する。
●化学反応が起こるときには、越えなければならないエネルギーの障壁があり、活性化エネルギーが必要である。
●活性化エネルギーの一部は、反応物質から遷移状態ができるときに必ずともなうエントロピーの減少に由来する。
●酵素反応では、まず基質の2つの分子は酵素と結合して規則正しく配列する。つまり、そこで既に基質分子の運動は制限された状態にある。ということは、そこから遷移状態に移ったとして基質分子と遷移状態のエントロピーの差は小さいことになる。その結果、化学反応を進めるために越えなければならないエネルギー障壁、活性化エネルギーが下がることになる。これをエントロピー・トラップと呼ぶ。

画像出展:「低エントロピー」(低エントロピー反応空間が実現する高秩序触媒化学)
6.4 基質の有効濃度を上げる
●酵素反応では、0.001モルという低濃度の基質も酵素と結合することによって、活性中心での濃度が100モル濃度、つまり10万倍も濃度が高くなった状態と同じになる。すなわち、酵素は基質を結合して、触媒基に形と向きがちょうどよくなるように向かわせ、有効濃度を高くする。酵素がなければ、こんな都合のよい状態に反応物質と触媒物質が並ぶことは、理論的には可能であっても実際にはほとんど起こらない。

この写真はブログ“生物と量子力学2(酵素)”で使いました。「量子現象の“トンネル効果”には“コヒーレンス(同調)”という大きな課題がある」とのことでした。(同調⇒ローリング競技を連想して貼りました)
酵素においても「同調」が関係しているということは、量子力学に通じるものだとと思います。
6.5 生産的結合と非生産的結合
●基質が酵素と結合する時、正確に結合しないと化学反応は進行しない。このような結合を「生産的結合」と呼び、結合しても化学反応が進行しない結合を「非生産的結合」と呼ぶ。
●良い基質とは、生産的結合をしやすい物質であり、悪い基質は、色々な形で結合するけれども非生産的結合の多い物質ということになる。競争的阻害剤は、非生産的結合しかできず、基質と共存すると基質の生産的結合の邪魔をする物質と考えられる。
●生産的結合と非生産的結合の差は、結合した基質と触媒部位との空間的配置の微妙な差によると考えられる。つまり、基質は酵素にせっかく結合しても、触媒部位との位置関係が悪ければ、化学反応は進行しない。
6.6 誘導適合
●酵素分子が基質と結合した時に、酵素分子の立体構造に変化が起こる。その変化は全体におよぶような場合もあれば、結合部位に限定される場合もある。
●「誘導適合」とは基質がない時は不活性の状態にあるが、基質が結合すると酵素分子の立体構造に変化が起こって、反応を進めるのに適した位置に触媒基が配置されることである。
●「生産的結合」も「誘導適合」も、不適切な基質が活性化しない理由の説明としては、カギとカギ穴説よりも説得のある説明になっている。

こちらの動画“生化学 酵素とは。誘導適合モデル”はバイオ薬科アカデミーさまから拝借しました。
14分57秒の動画 ですが、5分47秒から「誘導適合モデル」の説明になります。
6.7 基質をひずませる
●酵素分子に基質分子が結合した時に、酸素分子の立体構造に変化が起こる。この立体構造の変化によって、基質分子を引っ張ったり、圧迫したり、捻じったりして、ひずみを生み出す。ひずみやゆがみができると、基質は遷移状態になりやすくなる。
6.8 共有結合の中間体
●酵素の中には酵素と基質が共有結合で結ばれた中間体ができることが分かっている。この中間体は反応性に富んでいて容易に遷移状態になると考えられる。
6.10 遷移状態の安定化
●遷移状態、つまり、化学反応が起こる時のエネルギーの峠の状態は、もともとは理論的に仮定されたものである。
●遷移状態を安定化するということは、遷移状態のエネルギーの障壁が低くなることであり、化学反応が進行しやすくなるということである。
6.11 酸素作用と活性化エネルギー
●酵素の働きの中で最も重要なことは、基質をつかまえて触媒基と正しく向く合わせることだと考えられる。
●化学反応を進行させるには活性化エネルギーという障壁を越える必要があり、そして触媒とは「活性化エネルギーの山の高さを低くする」作用である。
●酵素のやり方は下段Bのように次々と山を越えていく。これらは酵素と基質の結合であり、誘導適合であり、共有結合の中間体の形成である。また、山が低くなる理由は、酵素の活性部位と遷移状態の相互作用であったり、エントロピー・トラップであったりするわけである。酵素の作用のしくみの全体像は以下(図6-11)になる。
6.12 今後の問題
●『超能力とも思える酵素の触媒作用も、このようにいろいろと解明されてきた。酵素反応も、一般の化学反応と根本的な原理は同じであると今では学者たちは信じている。とはいうものの、酵素の作用についてはまだまだ研究しなければならないことがたくさんある。
歴史的に見ると、酵素の作用メカニズムに関する知識のほとんどは、キモトリプシンやリゾチーム、リボヌクレアーゼなど加水分解を触媒する酵素から得られてきた。加水分解反応は、もっとも簡単な化学反応の部類に属していて、あまり「酵素らしい」反応とはいえない。体のなかではもっと「酵素らしい」―つまり複雑で、酵素なしではとてもできそうもない化学反応が、酵素の働きにより進行している。そのような酵素の作用機序については、比較的研究が進んでいない。
酵素についての今後の最大の研究課題というか夢は、人間の手で自由に酵素を設計して人間の希望する性質をもつためには、活性部位を含む特定の立体構造が必要である。その立体構造は、アミノ酸配列順で決定される。それゆえ、希望する特異性と触媒活性をもつ酵素をアミノ酸配列順序を設計してつくることが可能なはずである。
しかし現在のところ、そんなことはできない。アミノ酸配列順序からどんな立体構造ができ、そこからどんな酵素活性が生ずるのかという一般的な理論をつくりあげるに至っていない。』
●酵素の研究は日進月歩であり、解析するためのコンピュータの進歩もすごい。近い将来、自由自在に酵素を設計できる日がくるかもしれない。自由自在に酵素を設計することができたとき、はじめて「酵素がわかった」といえるのではないか。今のところは、酵素はまだまだ不思議な存在である。
7章 生命の起源と酵素
7.1 タマゴが先か?
●『1950年代にアメリカのミラーは、実験室の中で、アンモニア。メタンなどの混合物中に放電させるとアミノ酸ができてくることを示した。また同じような条件下で、シアン化水素、ホルムアルデヒドなどと反応性のつよい物質もできるし、それらが反応して糖の仲間や核酸の塩基などもできてくることが明らかになってきた。
つまり、原始の海の中には、アミノ酸、糖、塩基といったタンパク質や核酸(DNA、RNA)の材料となる物質が溶けこんでいたと想像されるのである。もちろん、リン酸やいろいろな金属イオンのような無機物も溶けこんでいたにちがいない。では、そのあとで何が起こったのか―ここは大きく意見の分かれるところである。』
まとめ
1.酵素の信じられないような働き
●酵素がないときにくらべて、1000万倍(10の7乗倍)から10の20乗倍ぐらいに反応速度を速めるものが珍しくないという。1000万倍ということは、酵素なしでは1000万時間、つまりおよそ1000年かかるところを、酵素はたった1時間で反応を進行させてしまう計算になる。10の20乗倍となると、酵素なしで10の20乗時間かかる反応を1時間でやってのけるということだが、10の20乗時間とは約10の16乗年(1京年[10,000兆年])である。
2.「カギとカギ穴説」よりも説得のある説明
●酵素は基質を結合して、触媒基の形と向きがちょうどよくなるように向かわせ、有効濃度を高くする。酵素がなければ、こんな都合のよい状態に反応物質と触媒物質が並ぶことは、理論的には可能であっても実際にはほとんど起こらない。
基質が酵素と結合する時、正確に結合しないと化学反応は進行しない。このような結合を「生産的結合」と呼び、結合しても化学反応が進行しない結合を「非生産的結合」と呼ぶ。
「誘導適合」とは基質がない時は不活性の状態にあるが、基質が結合すると酵素分子の立体構造に変化が起こって、反応を進めるのに適した位置に触媒基が配置されることである。
生産的結合も誘導適合も、不適切な基質が活性化しない理由の説明としては、カギとカギ穴説よりも説得のある説明になっている。
●「酵素がわかった」といえるのは、自由自在に酵素を設計することができたときではないか、酵素はまだまだ不思議な存在である。
“酵素”と“氣”の関係を結びつけて考えることは無理があるようですが、「不思議な存在」というところは共通していると思います。