免疫学講義1

安保徹先生の著書は何冊か拝読させて頂いていましたが、今回の『免疫学講義』はB5判で237ぺージという、詳細かつ高度な内容の本でした。

この本を読みたいと思ったのは、『コロナワクチン失敗の本質』という宮沢孝幸先生の著書に書かれていた、「液性免疫(抗体)に偏って考えるのはいかがなものか。免疫は自然免疫、細胞性免疫、液性免疫の総合力で考えるべきではないか」というご指摘が印象に残ったためです[ブログ:“コロナワクチンの疑問”] 

安保徹の免疫学講義
安保徹の免疫学講義

著者:安保徹

出版:三和書籍

初版発行:2010年12月

目次が大変長いということ、またブログ自身も5つに分けているということから、最初に「あとがき」をご紹介させて頂きます。

私が最も重要だと思ったことは、「ストレスと顆粒球、およびストレスとリンパ球の相関関係を理解する」ということでした。

『現代医療は、多くの病気を原因不明として対症療法を行う流れが拡大しています。しかし、多くの病気はストレスを受けて免疫抑制状態になって発症しています。原因は不明ではないのです。ストレスで生じる「低体温、低酸素、高血糖」は短いスパンではエネルギー生成のうちの「解糖系」を刺激して瞬発力を得て危機を乗り越えるための力になっています。しかし、長期間このような状態が続くと、エネルギー生成のうちの「ミトコンドリア系」を抑制してエネルギー不足に陥ります。これがストレスで起こる慢性病の発症のメカニズムです。そして、いずれガンを引き起こす原因につながっていきます。

ストレスをもっとも早く感知するのは私たちの免疫系です。末梢血のリンパ球比率やリンパ球総数は敏感に私たちのストレスに反応しています。この反応には自律神経系と副腎皮質ホルモン系が関与しています。臨床では血液検査を行い、いつでもリンパ球比率を知れる状況にあるのですが、ストレスとリンパ球の減少の相関をほとんど教育の場で学ぶことがないので、血液検査のデータが活用されていないのが現状です。末梢血のリンパ球比率は35-41%が正常値で、ここから減少しても増加しても病気になってしまいます。

顆粒球過剰(リンパ球減少)は組織破壊の病気と結びつきます。逆に、リンパ球過剰はアレルギー疾患や過敏症の病気と結びついていきます。本講義録で学んだ知識があれば、多くの病気の発症メカニズムを知ることができます。対症療法を延々と続ける必要もなくなるのです。

消炎鎮痛剤の害やそのほかの薬剤の副作用なども、この本で学べたと思います。患者に良かれと思って続けている薬剤の投与の中にも多くの危険が潜んでいるのです。特に、自己免疫疾患の治療においては、本書の知識が役立つでしょう。そして、私たち生命体が持つ偉大な自然治癒力を引き出すことのできる新しい医学や医療が進展していくことでしょう。』

ブログは目次の黒字部分について触れています。

目次

まえがき

第1章 免疫学総論 part1

1.免疫学の歴史

2.身体の防御システム

3.白血球の進化

4.リンパ球の性質

5.リンパ球の産生と分布

6.Tリンパ球とBリンパ球

7.主要組織適合抗原

8.免疫が関与する疾患

①感染症:ウィルス感染、一部細菌感染

②アレルギー疾患:アトピー性皮膚炎、花粉症、アナフィラキシー

③移植の拒絶

④自己免疫疾患(膠原病)

⑤加齢現象

⑥妊娠―つわり、流産

⑦ガン免疫

⑧先天性免疫不全症

第2章 免疫学総論 part2

1.免疫で使われる分子群

2.リンパ球の進化

3.胸腺の進化

4.マクロファージの働き

5.白血球の分布と自律神経

第3章 免疫担当細胞

1.マクロファージ

2.リンパ球サブセット

3.T細胞の種類

4.TCR(T cell receptor)の構造

5.B細胞の種類

6.抗体の種類

第4章 B細胞の分化と成熟

1.分化、成熟(differentiation, maturation)

①多発性骨髄腫

②B細胞型の悪性リンパ腫(malignant lymphoma)

2.B細胞の抗原認識受容体(Ig)の遺伝子

3.抗体の働き

①抗原の凝集

②補体とともに膜の溶解

③ADCC(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)

第5章 T細胞の種類 part1

1.T細胞の抗原レセプター(TCR)

2.TCRのシグナルを伝える分子

 -CD3 complex

3.胸腺内分化T細胞と胸腺外分化T細胞

4.CD4⁺T細胞の認識

5.CD8⁺T細胞の認識

6.Th0、Th1、Th2細胞

7.T細胞の胸腺内分化

8.胸腺外の分化

第6章 T細胞の種類 part2

1.TCR遺伝子の再構成(rearrangement of TCR genes)

2.クローンの拡大

3.Tc細胞の働き

4.Th細胞の働き T-B cell interaction

5.リンパ球の抗原提示

6.胸腺外分子T細胞が働くとき

7.ガン化

第7章 主要組織適合抗原 part1

1.移植の拒絶抗原

2.抗原提示分子

3.構造

4.分布

5.ヒトとマウスMHC

6.MHCの遺伝子

7.TCRの認識

第8章 主要組織適合抗原 part2

1.リンパ球の抗原認識と分裂

2.抗原とMHCの結合

3.Polymorphic MHCとmonomorphic MHC

4.HLAのタイプと疾患感受性

5.MHC以外の拒絶タンパク

6.その他

第9章 サイトカインの働きと受容体

1.サイトカインの歴史

2.サイトカイン

①IL-1

②IL-2(TCGF)

③IL-3

④IL-4、IL-5、IL-6

⑤IL-7

⑥IL-8

⑦IL-9

⑧IL-10

⑨IL-12、IL-15、IL-18

⑩IFN(interferon:インターフェロン)

⑪TGFβ(transforming growth factor)、TNFα(tumor necrosis factor)

⑫Fas ligand

3.サイトカイン受容体

①γcを共有するサイトカイン受容体

②βcを共有するサイトカイン受容体

③gp130(glyoprotein130)を共有するサイトカイン受容体

4.ケモカイン(chemokine)と接着分子

5.細菌毒素LPS(lipopoly sacharide)

第10章 自然免疫

1.外界に接する場所の抵抗性

2.細胞の抵抗性

3.補体

4.補体の働き

5.補体のタンパク群

6.活性化の経路

7.古典経路

8.代替経路

9.レクチン経路

10.補体の産生部位

11.補体レセプター

12.細胞膜上にある補体活性抑制因子

13.遺伝子

14.補体遺伝子の欠損

第11章 膠原病 part1

1.自己の認識について

2.自己認識のステップ

3.自己免疫疾患の誘因

①MAG

②甲状腺細胞のミクロゾーム

③胃壁細胞

④核、ヒストン

⑤目の水晶体、ブドウ膜

⑥精子

⑦modified self

4.自己免疫疾患の分類

5.自己障害のメカニズム

①自己抗体

②補体の活性化

③マクロファージの活性化

④リンパ球の直接攻撃

⑤免疫複合体(immune complex)

⑥血管内皮細胞の炎症

6.SLE

第12章 膠原病 part2

1.進化した免疫系の抑制

2.中枢神経系の自己免疫疾患

3.内分泌器腺の自己免疫疾患

4.消化管・肝の自己免疫疾患

5.腎の自己免疫疾患

6.心臓の自己免疫疾患

7.眼の自己免疫疾患

8.皮膚の自己免疫疾患

9.Chronic GVH病

10.老化

11.動物モデルと自己免疫疾患

第13章 神経・内分泌・免疫

1.ストレスと生体反応

2.急性症状

3.急性症状が出る仕組み

4.急性症状はストレスに立ち向かう反応

5.交感神経と顆粒球の運動

6.慢性症状

7.ストレスの要因

8.ミトコンドリアへの負担

9.ミトコンドリアとステロイドレセプター

10.ストレスと免疫抑制

11.解糖系でエネルギーを作る細胞(ミトコンドリアの少ない細胞)

12.受精とは何か

13.ヒトの一生

14.調和の時代にストレスを受け続ける

15.生体の治癒反応

16.副交感神経優位(楽をして生きる)でも病気

第14章 免疫系(防御系)と自律神経の関係 part1

1.白血球の自律神経支配

2.日内リズム、年内リズム

3.新生児の顆粒球増多

4.消炎鎮痛剤

5.生物学的二進法

第15章 免疫系(防御系)と自律神経の関係 part2

1.アレルギー疾患

①アナフィラキシーショック

②アトピー性皮膚炎、気管支喘息、通年性鼻アレルギー

③食物アレルギー

④花粉症、蕁麻疹

⑤化学物質過敏症

⑥寄生虫感染

⑦寒冷アレルギー、薬物アレルギー、紫外線アレルギー、金属アレルギー

⑧乳児アトピー

2.顆粒球増多と組織破壊の病気

①突発性難聴[内耳](idiopathic sudden sensorineural, sudden deafness)

②メニエール病[三半規管](Meniere disease)

③歯周病(periodontitis)

④食道炎(esophagitis)

⑤びらん性胃炎(erosive gastritis)→胃潰瘍(gastric ulcer)

⑥十二指腸潰瘍(duodenal ulcer)

⑦クローン病(Crohn’s disease)

⑧潰瘍性大腸炎(ulcerous colitis)

⑨痔疾(hemorrhoid)

⑩子宮内膜症(endometriosis)

⑪不妊症(infertilitas)

[子宮内膜症(endometriosis)、卵管炎(salpingitis)、卵巣嚢腫(ovarian cyst)]

⑫膵炎[急性・慢性](pancreatitis[acute・chronic])

⑬腎炎・腎盂炎(nephritis・pyelitis)

⑭膀胱炎(cystitis)

⑮骨髄炎(myelitis)

⑯間質性肺炎(interstitial pneumonia)

第16章 移植免疫

1.移植(transplantation)と拒絶(rejection)

2.MHC

3.移植

4.純系

5.拒絶の速さ

6.純系と拒絶

7.移植のしやすさ―MHCの発現量

8.HLAタイピング

9.骨髄移植(bone marrow transplantation)

10.GVH病(GVHD:graft-versus-host disease)

11.反応するリンパ球

12.新生児免疫寛容(neonatal tolerance)

13.拒絶に関与するほかの白血球

14.non MHCによる拒絶

15.免疫抑制剤(immunosuppressant)

16.Hybrid resistance

17.輸血によって生着率上昇

第17章 免疫不全症

1.先天性免疫不全症(primary immunodeficiency)

①wide type(野生型)の血液像(FACSを用いたCD3、IL-2Rβ二重染色)

②胸腺無形成症(thymic aplasia)

③重症複合免疫不全症(scid:severe combined immunodeficiency)

2.重症複合免疫不全症(scid:severe combined immunodeficiency)

①X-scid(伴性劣性遺伝) X連鎖重症複合免疫不全症

②常染色体劣性遺伝型-scid

③scidマウス

④RAG-1/RAG-2ノックアウトマウス

3.胸腺無形成症(thymic aplasia)

4.無γグロブリン血症(agammagloblinemia:伴性劣性遺伝)

①Bruton X-kinked agammagloblinemia(XLA:X連鎖(ブルトン型) 無γグロブリン血症)

②IgA欠損症(selective IgA deficiency)

③X連鎖高IgM症候群(hyper IgM syndrome)

④ウイスコット-アルドリッチ症候群(WAS:Wiskott-Aldrich syndrome)

⑤毛細血管拡張性運動失調性(AT:ataxia telangiectasia)

⑥ディ・ジョルジ症候群(Di George症候群)

5.T細胞B細胞以外の異常症

①慢性肉芽腫(CGD:chronic granulomatous disease)

②Chediak-東症候群(CHS)

③beige mice(ベージュマウス)

6.後天的免疫不全症(acquired immunodeficiency)

7.免疫抑制剤(immunosuppressive drug)

8.抗ガン剤(anticancer drug)

9.ステロイドホルモン(SH:steroid hormone)

10.NSAIDs(nonsteroidal anti-inflamatory drugs)

11.常在菌による感染症

12.乳児一過性低ガンマグロブリン血症(transient hypogammaglobulinemia)

第18章 腫瘍免疫学

1.免疫系の二層構造

2.ガン細胞を排除している証拠

3.腫瘍抗原

4.エフェクター(攻撃)リンパ球

5.腫瘍ができるための条件

6.ストレス反応の意義

7.ガン細胞の特徴

8.ガン患者の免疫状態

9.キラー分子群

10.解糖系とミトコンドリア系

11.アポトーシスとその抑制

12.ガンの免疫療法

13.治療(自然退縮)の条件

14.そのほかの免疫療法について

15.結論

あとがき

まえがき

第1章 免疫学総論 part1

1.免疫学の歴史

●免疫の歴史はウィルスや細菌の概念ができる前、予防接種の考え方ができたのは、ペストが治まった後の18世紀後半で、イギリスで天然痘が大流行した時代である。

●1900年に近い時代に、ジェンナーからパスツール、コッホへと免疫の歴史は展開されていった。また、この頃から顕微鏡が使われるようになって、遊走細胞(マクロファージ)が体内に入ってきた細菌を貪食して、無毒化するという観察や考え方が出てきた。

●光学顕微鏡で見える細菌、光学顕微鏡でも見えないウィルスという2つの微生物による感染症があることが分かった。

●抗体に相当するものの存在の発見は、コッホの見つけた抗毒素がきっかけとなった。

2.身体の防御システム

●身体の防御システムとは抗体やマクロファージのことであるが、広くみれば白血球とつながっている。

●身体の特殊化した細胞には異物から守るちからはないので、白血球が防御細胞として身体を守っている。

●単細胞時代のアメーバの性質を残したマクロファージと白血球はつながっている。

3.白血球の進化

●脊椎動物になったあたりから白血球の進化が起こった。マクロファージから進化した顆粒球(顆粒がたくさんあるから顆粒球)である。

●顆粒球は細菌より小さいウィルスのような異物には対応できない。一方、同じくマクロファージから進化したリンパ球によって貪食される。

貪食
貪食

画像出展:「免疫学講義」

顆粒球もリンパ球もマクロファージから進化した。細菌は顆粒球、細菌より小さなウィルスはリンパ球が貪食する。

4.リンパ球の性質

●免疫記憶は身体に侵入してきた微生物(病原菌)の量や増殖に掛かっている。ワクチンのような微量では強い免疫はつくられない。

●抗体は分子量が10,000Da(ダルトン)以上の大きさであれば認識できる。※Daとは炭素12原子の質量の1/12相当の質量の単位

●分子量が小さい場合、身体のタンパク質に吸着することによって抗原になる場合がある。

抗体と反応するものを抗原といい、ほとんどタンパク質である。また、ウィルスはDNA、RNAを有するが周りはタンパク質である。

●タンパク質はアミノ酸から作られるが糖と結びつくことも多く、糖タンパク質と呼ばれる。この糖タンパク質に対しても抗体は反応する。

リンパ球は抗体をつくる一方、リンパ球は分裂するクローンによって拡大する。このリンパ球の分裂にかかる時間が潜伏期間である。

●潜伏期間の次に、抗原と抗体の免疫反応が始まり、発熱が起こる。

発熱が起こる理由は、ウィルスと戦うための抗体を産生するには、代謝を亢進させる必要があるからである。

WHOの統計に風邪をひいて治るまでに平均2.5日とされているが、風邪薬を飲むと4日に延びるとされているのは、薬が代謝の活性を落とすからである。

●発熱に関与する因子は、プロスタグランジンやインターロイキン1(IL-1)などがある。

マクロファージや顆粒球は異物を食べる反応なので、潜伏期間は不要であり、傷口が化膿したり細菌が入ったりしたらすぐに反応が始まる。

5.リンパ球の産生と分布

●抗体を作るリンパ球は、中枢リンパ組織(胸腺と骨髄)で作られ末梢リンパ組織に分布している。

●胸腺はthymusなので、胸腺で作られるリンパ球はTリンパ球と呼ばれている。Tリンパ球、Bリンパ球は末梢血、リンパ節、脾臓に移動して働く。

血液中のリンパ球は35%であり、60%は顆粒球、5%はマクロファージである。

巡回していて何か抗原が入ってきたとき、リンパ球は血管から遊走して外に出て働く、あるいは抗体を作る。

●リンパ節は顎下リンパ節、鼠径リンパ節などがあり、T細胞とB細胞が存在している。脾臓では白脾髄にリンパ球、赤脾髄に赤血球が存在している。前者は血液中に入った抗原を処理し、後者は古くなった赤血球を壊す。

●リンパ節のリンパ球は抗原が組織に入ってきた時、リンパ液でとらえリンパ管で抗原を集めて、リンパ節に持ってきて戦う。

6.Tリンパ球とBリンパ球

●T細胞(Tリンパ球、Tcell)は、細胞自ら抗原と反応し、T細胞レセプターで抗原を捕える。このように細胞が自ら反応する仕組みなので細胞性免疫という。

T細胞を中心とした免疫反応
T細胞を中心とした免疫反応

画像出展:「日本がん免疫学会

『からだを守る免疫細胞はさまざまな方法で異物や病原微生物、ウイルス感染細胞やがん細胞などの異常細胞と戦います。

ここでは、その戦い方の一つである細胞免疫について解説します。細胞性免疫とは、ウイルス感染細胞やがん細胞などの異常細胞を、抗体などを介さずに免疫細胞そのものが直接攻撃するタイプの免疫反応です。細胞性免疫の中心をになう免疫細胞はT細胞ですが、活躍するのはCD4ヘルパーT細胞とCD 8キラーT細胞です。

 CD4ヘルパーT細胞は免疫の司令官とも言われ、様々な免疫細胞に、がん細胞やウイルス感染細胞に対する「攻撃始め」の指示を出します。CD4ヘルパーT細胞は主に2つの系統の戦い方を指示します。CD8キラーT細胞を始めナチュラルキラー(NK)細胞やマクロファージと呼ばれる異常細胞の直接攻撃を得意とする細胞を活性化し、細胞性免疫という戦い方を指揮するのが1型CD4ヘルパーT細胞であり、B細胞を刺激して抗体を産生させる液性免疫という戦い方を指揮するのが2型CD4ヘルパーT細胞です。主にこの2つの戦法を上手く組み合わせて効率よく異常細胞を排除することで、私達のからだは病原体の侵入やがんの発生から守られているのです。この免疫の司令官がいかに重要かということは、CD4ヘルパーT細胞が失われる病態で顕著に示されます。例えばHIV(エイズウイルス)はCD4ヘルパーT細胞に感染し、破壊することで全身の免疫不全を引き起こします。その結果、通常は致死的にならないような弱毒微生物のまん延を許し、患者を死に至らしめます。』

7.主要組織適合抗原

●ヒトの身体は同じようなタンパク質でできており、アミノ酸配列も同じである。しかしながら、移植によって拒絶反応が起きる。これは主要組織適合抗原(MHC)という物質によるものであり、この主要組織適合抗原は個人間でアミノ酸配列が異なる。また、主要組織適合抗原はT細胞の認識抗原である。

●抗体はB細胞から分泌されて、直接抗体の立体構造で抗原を認識するが、T細胞の場合は主要組織適合抗原と抗体がくっついた分子をT細胞レセプターがまとめて認識する。

●主要組織適合抗原は移植の拒絶抗原というより、組織細胞に入った抗原を捕まえるためのタンパク質と考えるのが正しい。

●ペストや天然痘が猛威をふるっても生き延びる人が必ずいるのは、リンパ球が認識する能力は個人ごとにアミノ酸配列が異なるため多様性がでるからである。抗原の認識の違いによってT細胞の働きが個人間で全く異なる。ある人は免疫が強く出る、ある人はほどほど、ある人は弱く出る。

免疫は強いことがプラスになる場合がある一方、強すぎてアレルギーなどに苦しむ原因にもなる。

●主要組織適合抗原の多様化は、特に哺乳動物で進化した。恐竜は5000万年前絶滅したが、主に夜行性の食虫動物として生存していた哺乳類は小さくて弱いが、免疫システムに関しては爬虫類より進化し、多様性が高かった。

●移植に関しては邪魔者といえる、主要組織適合抗原は生き延びるための戦略であった。

8.免疫が関与する疾患

①感染症:ウィルス感染、一部細菌感染

●細菌類は主に顆粒球が攻撃して治癒させる。

●ウィルスと一部の細菌感染では、免疫が働く。

②アレルギー疾患:アトピー性皮膚炎、花粉症、アナフィラキシー

●アナフィラキシーは薬物アレルギーにも見られるが、薬物(通常分子量200~400くらいの小さなものが多い)はアルブミンなどについて全体で抗原となってアナフィラキシーショックを引き起こす。

③移植の拒絶

●移植における拒絶は、主要組織適合抗原が個人間で多様化し、タンパク質が異なるために起こる。

④自己免疫疾患(膠原病)

●膠原病と言われているのは、コラーゲンなどの膠原線維が炎症に関わっているためである。

⑤加齢現象

●加齢減少も免疫と関係している。

●自己免疫疾患を起こす抗体を自己抗体といい、自分の核やDNA、RNA、ミトコンドリアなどに抗体ができるものである。高齢者では健康な人でも自己抗体が病気の人と同じくらいのレベルである。何故、高齢者が自己免疫疾患にならないかというと、高齢者では老化した異常細胞やガン化した異常細胞を排除することに自己抗体がプラスに働いているからである。つまり、ほどよく自己抗体が出た人が、病気にならず長生きするということである。

⑥妊娠―つわり、流産

●父親の遺伝子も受け継ぐ胎児は母親にとって異物になる。流産、つわりは免疫現象が関わっており、リンパ球や自己抗体が自らを攻撃する。しかし、拒絶に至らないのも免疫、古いタイプの免疫システムが関与しているからである。

⑦ガン免疫

●ガンにおいても免疫が働く。免疫抑制剤や免疫抑制作用のあるステロイドを長期間していると、発ガン率が高くなることでも免疫によるガン抑制効果はある。

⑧先天性免疫不全症

●先天性の免疫不全症の子供には、悪性腫瘍を合併することが多い。