第2章 人体における酵素の働き
●消化酵素と代謝酵素
・消化酵素は文字通り、消化するための酵素であり、それ以外はすべて代謝酵素である。「代謝酵素は、異化と同化を含む生命維持のための代謝過程において、化学反応を触媒し制御する重要な役割を果たす」
・重要なことはこの2つの酵素のバランスでその比率はシーソーのように変化する。健康にとって重要なことは代謝酵素の占める割合である。暴飲暴食等で消化酵素を多く消費すると代謝酵素が減ってしまい健康を害する原因となる。
●どんな食物を食べても、消化酵素しだい
・消化酵素の働きがあって、はじめて適正な栄養素を獲得できる。
●草しか食べない牛が筋肉を作れる理由
・草しか食べない牛が強靭な筋肉をもっているのは、胃の微生物と酵素による。
・牛は4つの胃をもっており、草のタンパク質は第一胃で分解される。微生物は分解されたそのタンパク質を取り込み、自らの体にタンパク質を合成する。この微生物タンパク質は草のタンパク質よりはるかに栄養価が高い。微生物は他にも窒素化合物を利用して質の高いタンパク質を作る。その後、第四胃(人間の胃に相当)に送られ、そこで胃液と酵素がはじめて分泌され、原虫や菌体は消化される。そして、タンパク質となって小腸に送り込まれ、そこで分泌される消化液によって栄養素として消化・吸収される。
●肉しか食べないライオンのビタミンC補給
・ビタミンC(アスコルビン酸)の最も重要な生理作用はコラーゲンの合成である。コラーゲンは筋肉、血管、皮膚、骨の維持になくてはならない。人間は体内でビタミンCを作れないため食物から摂るしかない。肉しか食べないライオンはブドウ糖やガラクトース(乳糖の成分)からビタミンCを合成する。ただしこれには酵素がなければ合成することはできない。
・人間の場合、ビタミンC合成の最終段階で必要なL-グロノ-γ-ラクトンオキシターゼという酵素が欠損しているため合成ができないのである。
●消化酵素の浪費で起こる危険なこと
・代謝酵素の欠乏は病気を招く。
・ワシントン大学での犬とネズミを使った実験は、通常通りのエサを与えられる一方で、膵液を体外に流出されるという実験であったが、犬もネズミも1週間以内にすべて死亡した。なお、膵液は小腸の十二指腸に分泌される消化液であり、三大栄養素をすべて分解する。十二指腸に分泌される胆汁では問題ないのは、胆汁には酵素が含まれないからである。
●酵素を消耗させる食生活
・酵素を消耗する食品は、加工食品(インスタント、レトルト)、砂糖の入った食品、添加物、高タンパク質食品、残留農薬、トランス脂肪酸などの悪い油脂、加熱された無酵素食品、高GI食品など。
・高GI食品とは、食後の血糖値を急激に上昇させる食品のことを指す。GI(グリセミック・インデックス)値が70以上の食品。

画像出展:「炭水化物は敵ではない?上手に炭水化物を取り入れましょう」(Kyushu-HOPES)
『食品の組み合わせや食べる順番も大事なポイントです。GI値の高い食品は食物繊維を多く含む食品と一緒に食べることで血糖値の上昇を抑えることができます。また、食物繊維を多く含む食品から先に食べる、ゆっくり時間をかけて食べることによっても血糖や脂肪の吸収は抑制できます。』
●生存活動すべてにかかわる代謝酵素
・『小腸から吸収された栄養素は、血液を通じて全身へ運ばれ、各臓器や骨格などをつかさどる源になります。私たちは、そのエネルギーを使って呼吸をしたり、考えたり、話すなど日常活動をしています。さらに、自己免疫力や自然治癒力も身につけ、細胞分裂という形で、新しい細胞に入れ替えていきます。この過程が「新陳代謝」と呼ばれるもので、人間は一生を通じて、この行為をえんえんと続けています。』
●酵素がなければ、エネルギー回路も動かない
・ブドウ糖はその一部は肝臓で蓄えられ、必要に応じてグルコース(ブドウ糖)になり、肝臓から血液中に放出され、全身の細胞に送られる。このエネルギーの原料をエネルギーに変えるまでに多くの酵素が必要になる、例えば、肝臓でグリコーゲンを合成する時にはグリコーゲンシンターゼなど5つの酵素が必要で、そのグリコーゲンをグルコースに変え、血液に放出する時にはグリコーゲンホスホリラーゼなど3つの酵素が必要である。
・全身に運ばれたグルコースが、それぞれの細胞でミトコンドリアにあるクエン酸回路でエネルギー源のATP(アデノシン三リン酸)に代謝されるまでには、直接関係するだけでも何十もの種類がある。これらの酵素の一つでも欠けると正常に稼働しない。
●酵素がなければ、活性酸素も除去できない
・活性酸素は分子から電子を奪う。これを「酸化」といい、体を老化させ病気の原因になる。保存剤や防腐剤などの食品添加物を酵素が解毒するがこの時に活性酸素が発生する。ストレスを受けると副腎皮質ホルモンが分泌されるが、この時にも活性酸素が出る。その他、大気汚染、水質汚染、農薬、殺虫剤、電磁波、喫煙、過度の飲酒など、現代社会は活性酸素にとってとても居心地の良い社会である。
そして、この活性酸素を除去する抗酸化物質が、SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)、グルタチオンペルオキシダーゼと呼ばれる酵素である。
●毒ガス・サリンと酵素の働き
・『代謝酵素の働きは、書けばきりがありません。血圧の調節もそうですし、思考することも酵素の働きです。
私たちが筋肉を動かす時に必要なのがアセチルコリンという物質ですが、筋肉を収縮させるこの物質を作っているのも、コリンアセチルトランスフェラーゼという酵素です。また、その収縮を止めるのはアセチルコリンエステラーゼという酵素の働きです。これらの酵素の働きで、私たちは脳が命じるままに筋肉を自由に操り、体を動かすことができるのです。
ちなみに地下鉄サリン事件で有名なったサリンは、このアセチルコリンエステラーゼという酵素の働きを失効させる毒ガスです。その酵素が働かないために、筋肉は収縮したままとなり、硬直・麻痺し、呼吸ができなくなるのです。
心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす動脈硬化を防ぐのも、血栓溶解酵素という酵素です。この酵素は、ふだんは血液中に隠れていますが、いざとなると活性の強いプラスミンという酵素に変身して、現場に駆けつけます。この変身の引き金になるのも、腎臓と尿に含まれるウロキナーゼという酵素です。これらの酵素がなければ、私たちの体は血栓だらけです。
自然免疫主役、白血球のマクロファージ(動物の組織内に分布する大型のアメーバ状細胞)も捕まえた異物を酵素で分解します。さきほど紹介した肝臓のクッパ―細胞もマクロファージの一種で、同様な働きをしています。
活性酸素によってDNAが損傷され、がんが発生しますが、その傷ついたDNAを元に戻すのも、DNA損傷修復酵素です。
腎臓で血液浄化の仕事をしている酵素、胃酸を作る酵素、有害物質を分解する酵素など、枚挙に遑がありません。酵素の働きは、生命活動そのものなのです。』
第3章 酵素を減らす加熱食の危険性
●50度洗いも、冷凍も、酵素を利用している!
・体外酵素の食物酵素は熱に弱いという特徴がある。48度で2時間、50度で20分、53度では2分で失活(効力を失う)する(70度まで活性を示す酵素も例外的にある)。
・適度な熱を短時間で与えると効力を高める性質がある。「50度洗い」とはこれ位の温度で洗うと食物酵素が活性する。
・食物酵素はすべての食物の中に含まれており、動植物が死ぬと働き出しその動植物の本体を自ら分解する。人間は死んだら土に還るといわれているが、その仕事を任されているのが酵素である。
・食物中にある酵素は、その食物が嚙み砕かれて細胞が壊れた瞬間から、その力を発揮する。
●膵臓が肥大化し、脳が小さくなった人間
・加熱調理した食物を多く食べてきた人類は、長い時間をかけて、自らの体を変化させてきた。それは膵臓や唾液腺の肥大である。膵臓の大きさを牛、馬、羊などの動物と比較すると、人間は体重比で2倍から2.8倍になる。唾液腺に関しては唾液中に大量のアミラーゼという消化酵素を持っているのは人間だけである。
●がんと酵素の関連性
・腸内腐敗を減らすと「腸管免疫」の向上につながる。特に重要なことは、酵素を多く含む食品を摂ると血流が改善され、微小循環が良くなることである。血管の総延長は100,000㎞、そのほとんどが毛細血管による微小循環であり、細胞の代謝を支えている。
・微小循環不良は病気を引き起こす原因の最終段階である。特に目、腎臓、脳、子宮、卵巣など血液循環が必要な臓器は、より大きなダメージを受ける。痔や手足の冷え性なども微小循環の不良が大きく関わっている。
・組織が飢餓状態や酸素不足によって出現するのが活性酸素だが、活性酸素は細胞核の中のDNAを傷つけたり、破壊したりして突然変異を起こす。そして、細胞のがん化へと発展する。
・『「がんは、まず酵素のないところに生じる」と呼吸酵素(チトクローム)の発見でノーベル生理学・医学賞を受賞したドイツのワールブルク博士もいっています。』
・赤血球のルロー(赤血球をつなげる)をほどく働きを持っているのは酵素しかない。代謝酵素だけでなく食物酵素も体内で吸収され、血中でルローをほどく。
・『微小循環を良くする唯一の方法・方策は酵素の入った食事を摂るに尽きます。その酵素の入った食事とは「生」のものと「発酵物」です。』
●人間を健康にする食品の条件
・生野菜、果物、海藻、芋、豆、穀類、発酵食品は特に黒酢と梅干がおすすめである。
・人間の体を構成する元素は、酸素、炭素、水素、窒素、リンなどであるが、その約61~65%が酸素であるということは驚きである。一方、人間の体を構成する分子は成人では53~65%が水である。