“氣”とは何だろう22(臓器ネットワーク編)

前回のブログは脳腸相関に関するものでしたが、今回は臓器全体です。2017年10月にNHKで放送された“命を支える神秘の巨大ネットワークメッセージ物質が医療を変える!”はその後、書籍となって出版されました。

「臓器同士が会話をする」という発想は東洋医学の臓腑の考え方に近いものです。また、東洋医学における“腎”は、西洋医学の“腎臓”に対する一般的な認識(尿を作る臓器)に比べ、その存在は明らかに大きなものと考えられています。そのため、第1回の放送のテーマが“腎臓”で、かつ「腎臓が寿命を決める」という見出しのインパクトの大きさに押されて、思わず購入してしまいました。

シリーズ 人体 神秘の巨大ネットワーク 第1集 “腎臓”が寿命を決める

『浮かび上がってきたのは、腎臓が体中に情報を発信しながら、さまざまな臓器の働きをコントロールしているという驚きの姿。腎臓を操れば、脳卒中や心筋梗塞の原因となる重症の高血圧を一挙に改善したり、多臓器不全を未然に防いだりという驚きの成果も報告されている。さらに「健康長寿のカギ」となる「ある物質」を、腎臓が調整していることまで明らかに。ミクロの体内映像やフル4KCGを駆使して、腎臓の驚異的なパワーに迫る。』

今回、拝読させて頂いた新書は、すべての放送の内容をまとめたものです。おさらいという意味もあり、また全体を通して考えることで新たな発見があるのではないかと思いました。そして、西洋医学が語る“臓器ネットワーク”というものがどんな内容であるのか詳しく知りたいと思いました。

著者:丸山優二 NHKスペシャル「人体」取材班

発行:2019年5月

出版:NHK出版

目次

はじめに

第1章 人体は神秘の巨大ネットワークである。

●人体には「メッセージ物質」があふれている

●元祖メッセージ物質「ホルモン」

●ホルモンは「タテ社会」の仕組み

●時代のさきがけとなった「伝説の科学者」

●心臓がホルモンを出していた!―ANPの発見物語

●ANPは何を伝えるメッセージ物質なのか?

●なぜ心臓が利尿ホルモンを出すのか?

●血管は人体の「情報回線」だった

●がんとANP―驚きの発見

●心臓ホルモン「ANP」の新たな働き

●なぜ血管の内側を「常に」きれいにしておかないのか?

●メッセージ物質は「指令」というより「つぶやき」

●なぜ心臓は、がんになりにくいのか?

第2章 腎臓

●高地トレーニングは腎臓を鍛えている!?

●腎臓が出すメッセージ物質「エポ」の働き

●腎臓は常にメッセージを出している

●人工的なエポを使ったドーピング

●腎臓は血圧も調節している

●腎層は「血液の管理者」だ

●血液のあらゆる成分を調節する腎臓

●腎臓は毎日180リットルの尿を作る!?

●血液の管理、カギは「再呼吸」

●腎臓は「尿を作る臓器」ではない!

●腎臓が寿命を決める

●謎の老化加速マウス―原因は腎臓だった

●腎臓は体内のネットワークの「要」である

●他人から移植された腎臓でも、臓器同士の会話はできるのか?

第3章 脂肪・筋肉

●マンハッタンの研究室

●レプチンを使ってやせられるのか?

●「お腹が空いた」と知らせるメッセージ物質もある

●肥満はなぜ、体に悪いのか?

●あらゆる生活習慣病の原因となる「慢性炎症」の恐怖

●動脈硬化はなぜ起きる?

●なぜ脂肪細胞は炎症性サイトカインを出してしまうのか?

●健康のカギ―筋肉が出すメッセージ物質

●運動すると大腸がんが予防できるのはなぜ?

●IL6が慢性炎症を抑える!?

●メッセージ物質は「文脈で」意味が変わる

●脂肪・筋肉のメッセージからわかる病気と健康の綱引き

第4章 骨

●若さを保つ!全身に語りかけている骨

●骨の中で生きている数々の細胞たち

●衝撃センサーとしての骨

●補足・「活動的な個体を生き残らせる」とは?

●長生きするにはどうすればいいか?

●人間は長生きしていい!

●「利己的な遺伝子」への誤解

●探検! 骨髄ワールド

●メッセージ物質を利用する骨髄移植の新方法

●造血幹細胞のすごさ

●補足・人体の細胞は37兆個、は本当か?

●働く細胞たちの「細胞社会」

●造血幹細胞は旅をする

●ニッチとは何か?

●造血幹細胞ニッチ

●人体は「ネットワークのネットワーク」である

●ネットワークの真の姿

第5章 腸

●現代人を悩ませる病気はすべて「免疫の暴走」から!?

●免疫はなぜ暴走するのか?

●アレルギーを防ぐ、なだめ役「制御性T細胞」

●「なだめ役」が生まれる驚きの仕組み

●アレルギーや自己免疫疾患を防ぐ腸内細菌のパワー

●腸内フローラを変える方法

●時代の変化は免疫細胞にも押し寄せている

●腸の健康が万病を予防する

第6章 ネットワークと病気

●人体の強さの秘密はどこにあるのか?

●人体のネットワークは「クモの巣」のようなもの

●ネットワークは「全体で受け止める」

●ネットワークは肩代わりしてくれる

●体重をコントロールするネットワーク

●「引き戻す力」は肥満を維持する!?

●メタボリック・シンドローム再考

●病気とは人体のネットワークの変化である

●病気の本質を知ることの意義

●病気には空間的な広がりがある

●東洋医学の再評価

●「健康とは何か?」を研究する時代

第7章 ネットワークのさらに奥へ

●ネットワークは壊れているのか? それとも……

●腎臓が固くなる本当の理由

●ネットワークでは「なぜ?」を考えることで新発見がある

●細胞に「意思」はあるか?

●地球と月の不思議な関係

●細胞の中にも、巨大ネットワークがある

●細胞には意思がある、でも……

●補足・惑星と衛星の複雑な関係

第8章 脳

●全身のメッセージを意図的にブロックする仕組み

●血液脳関門はなぜ必要か?

●神経細胞ネットワーク

●雑音がない静謐な空間

●創造性、自主意志、ひらめき

●認知証治療への新たな挑戦

●「脳の細胞は一度死ぬと、復活しない」は本当か?

●やはり、人間は長生きしていい!

第9章 生命誕生

●たった一つの受精卵に秘められた力

●iPS細胞発見の意義

●iPS細胞を使った研究―科学者たちは何をしているのか?

●細胞のネットワークが人体を作る

●「肝臓オルガノイド」の誕生

●シンプルな仕組みが複雑なものを生み出す

●ドミノ式全自動プログラム

●「引き戻す力」と「導く力」

●生命誕生を遺伝子の仕組みで説明すると……

●細胞はグレているわけではない!

●大切なのはDNAか、細胞か?

第10章 健康長寿

●改めてメッセージ物質とは何か?

●別次元の情報伝達手段―エクソソームとは?

●メッセージを悪用するがん細胞

●がんと闘うためにエクソソームを活かす

●ゴミだと思われていたエクソソーム

●健康長寿について考える

●理想の死に方は、ネットワークがカギ?

●目指すべきは、「ピンピンコロリ」

●生命の本質は「つながっていること」にある

●人体は神秘の巨大ネットワークである。

謝辞

おわりに

はじめに

・これまで人体は「脳」が全身を支配し、臓器は脳に従っているというイメージがあった。しかし今では、臓器同士は脳を介さず連携しているという考え方に変化してきている。

第1章 人体は神秘の巨大ネットワークである。

人体には「メッセージ物質」があふれている

・体内のネットワークは臓器から臓器、細胞から細胞へと情報を伝えている。

・メッセージ物質は一般的な用語ではない。

・『番組および本書で「メッセージ物質」と呼んでいるものについて、改めて説明しておきたいと思います。メッセージ物質は、もともとある科学用語ではなく、番組が説明のために作った言葉です。なぜわざわざ新しい用語を作ったのかというと、ぴったりする科学用語がまだなかったからです。

メッセージ物質は、臓器・細胞同士がコミュニケーションに使う物質を総称しています。科学用語で言うと、ホルモン、サイトカイン(細胞間情報伝達物質)、神経伝達物質など、さまざまな呼び方がされるものをすべて含む、大きなくくりです。総称せずに、一つひとつ呼び分けていくこともできましたが、たとえば、脂肪細胞が出すレプチンなどは、「ホルモン」と書いてある教科書もあれば、「サイトカイン」と書いてある論文もある、といった具合に境目がはっきりしないため、どちらを選ぶか難しい面がありました。

もし、生真面目な学生さんが「レプチンはサイトカインですか? ホルモンですか?」と聞いても、誰もどちらとは答えにくいと思います。研究分野ごとにだいたい決まった慣例的な呼び方をしますが、本質的な違いというより、単なる「流儀」であるようです。

メッセージ物質に最も近い科学用語としては「メディエーター」があります。ただ、これもまた定義が曖昧な部分がありますし、一般的には理解が難しい言葉でもあります。

そして、番組ではエクソソームの中の「マイクロRNA」など、最近見つかってきた情報伝達手段も包含するような、広い意味を持った言葉を使いたいと考えました。すると、なかなかぴったりする表現がなかったのです。

取材途中の段階では、「細胞間のシグナル伝達を担う物質」を略して「シグナル物質」という、もう少し科学っぽい名前で呼んでいました。この言い方は、科学用語の範疇にあり、取材先の科学者と話すには良い言葉でしたが、いざ放送が近くなった段階で、より一般にも親しみがわく「メッセージ物質」にしてはどうかという議論があり、最終的にそこに落ち着きました。

ですから、医師や科学者に「メッセージ物質」と言っても、番組を見た人以外には通じないので、ご注意ください。

元祖メッセージ物質「ホルモン」

・ホルモンは甲状腺や性腺など、分泌器官から放出されるものであるが、近年になって「特別な分泌器官ではない場所」からホルモンが見つかり、今では、体中のあらゆる場所がホルモンのような物質を出していることが分かった。

ホルモンは「タテ社会」の仕組み/時代のさきがけとなった「伝説の科学者」

・大阪北部にある国立循環器病研究センターの寒川賢治研究所長こそが、「人体はネットワークである」というパラダイムシフトのきっかけとなる、重要な発見をした人である。その発見とは「ANP」と名付けられた、「心臓が出すメッセージ物質」を特定したことだった。

心臓がホルモンを出していた!―ANPの発見物語

・寒川先生は発見したペプチドの働きがなかなか掴めなかったときに、興味深い論文に出合い、「心臓の細胞がホルモンを出しているのではないか?」と考えた。

・当時、ホルモンは内分泌組織から分泌されるものという常識があった。世界に大きなインパクトを与えた論文は1984年だったが、あっけないほどスムーズに進んだのは心臓に存在するANPの量が非常に多かったためだった。

ANPは何を伝えるメッセージ物質なのか?

・ANPとは「心房性ナトリウム利尿ペプチド」という。心臓が出したANPは、腎臓が受け取り尿の量を増やす効果がある。

なぜ心臓が利尿ホルモンを出すのか?

・心臓は血液量が多すぎるとポンプである心臓には負荷がかかる。そこで心臓は全身の血液量を減らすためにANPをメッセージとして腎臓に知らせ、体内の水分を尿として排出してもらうのである。血液量が減ると血圧も下がる。つまり、ANPは心臓を楽にするのが働きである。

血管は人体の「情報回線」だった

・『臓器たちが語り合う体内ネットワークで「情報回線」にあたるのは何なのかということです。インターネットならば、世界中をつなぐ光ファイバーケーブルがあり、その中を情報が駆け巡っています。では、体内ネットワークでメッセージ物質を運んでいるのは何か?それは「血管」であり、中を流れる「血液」です。ANPも、心臓の細胞から放出された後、いったん血液に溶け込み、全身に循環します。そのうちの一部が腎臓に至り、利尿作用をもたらすのです。

人体に張り巡らされた血管網は、総延長およそ10万キロメートル、地球を2周半するほどの長さがあると言われています。血管には、栄養や酸素を全身に運び、老廃物を回収する「輸送路」の役目がありますが、それと同時に、「情報回線」としての役目も担っていたのです。

体の中で、「情報回線」と言えば、もう一つ神経系があります。脳を中心に、運動神経、感覚神経、自律神経が全身に張り巡らされています。しかし、神経はすべての細胞につながっているわけではありません。

では、血管はというと、こちらも直接すべての細胞につながっているわけではありませんが、血液を通して運ばれるメッセージ物質は、ほぼすべての細胞に行き渡るようになっています。血管に直接、接していなくても、血液成分は組織にしみ出してくるからです。

たとえるならば、神経系は固定電話のようなもの、家や職場につながっていますが、個人にはつながりません。一方の血管は、インターネットです。スマホやパソコンを通して、一人ひとりにつながります。

心臓ホルモン「ANP」の新たな働き

・ANPには血管を広げる働きがあるが、それに加え、血管の内側をツルツルな状態にする働きもある。前者は血圧を下げる作用がある。後者も心臓を助ける働きをするが、がんの転移を防ぐ働きもある。これは、血管内皮細胞はささくれだっているところがある。ささくれは赤血球をひっかけ血流を悪くするため、血圧上昇、心臓への負担につながる。一方、がん細胞はそのささくれたところから血管の外に出て、周囲の組織に侵入し転移を果たす。

画像出展:「臓器たちは語り合う」

 

なぜ血管の内側を「常に」きれいにしておかないのか?

・血管内皮のささくれは、血管内をパトロールしている白血球にとってはフックのような役割をしている。体の中でウィルスや病原菌と闘う白血球は血液の流れに乗って全身を巡り、緊急事態が起きている場所で血管の壁にとりつき、周囲の組織に出て働く。

メッセージ物質は「指令」というより「つぶやき」

・『ANPの三つの働きが出てきました。腎臓に作用する場合は「尿を増やせ」、血管に作用する場合は「血管を拡げろ」、「血管の内側をきれいにしろ」というメッセージとして働いています。この三つの言葉の表現は、従来のホルモン的な考え方に沿って、「指令」として意味付けたものです。しかし、実際には、メッセージ物質は指令というよりも「つぶやき(ツイート)」と考えた方がより現実に近いような気がします。

・メッセージ物質を受け取るためのものが受容体である。これはインターネットで言えば、X(ツイッター)の「フォロー」という仕組みにそっくりである。

なぜ心臓は、がんになりにくいのか?

・心臓が出す大量のANPは、心臓自身にも働きかけているためと考えられる。

第2章 腎臓

腎臓が出すメッセージ物質「エポ」の働き

・腎臓は体内の酸素不足を監視し、緊急の際にはエポ(エリスロポエチン)というメッセージ物質(「酸素が欲しい」)を大量に出すことで赤血球の増産を促す。これは生命維持に欠かせない重要な働きであるが、脳は関わらず腎臓と骨髄が連携して、独自の判断で行っている。

画像出展:「臓器たちは語り合う」

 

腎臓は常にメッセージを出している

・赤血球には寿命があり、およそ4ヵ月で壊れるため、常に補充が必要なため骨髄では毎日、大量の赤血球を作っているがそれをコントロールしているのは「エポ」である。

・赤血球は多ければ良いということではない、多すぎるとドロドロな血液になってしまう。

腎臓は血圧も調節している

・腎臓が出すもう一つのメッセージ物質は「レニン」であり、その働きは「血圧調節」である。血圧調節は自律神経が関与しているが、腎臓も同じくらい重要な働きをしている。

・「レニン・アンジオテンシン系」と呼ばれる仕組みは、非常に奥が深く、最先端の研究トピックスの一つとなっている。

画像出展:「臓器たちは語り合う」

 

腎層は「血液の管理者」だ

腎臓は血圧調節以外に、「血液の管理者」の働きも担っている。

血液のあらゆる成分を調節する腎臓

・腎臓は2つ合わせても300~500gの小さな臓器であるが、心臓から出た血液の1/4程が腎臓に送られている。これは腎臓が血液中の成分を一定に保つ仕事をしているからである。

血液にはナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなどが含まれているが、こうした成分は一定の範囲に収まっていないと生命に関わる事態になる。この血液成分を一定に保つ働きを腎臓が担っている。なお、「尿はすべて血液から作られる」ということを理解しておくことも大切である。

・例えば、バナナに含まれるカリウムは400~500mg、この量が一気に血液に入ってしまうと命に関わる事態になるが、そうならないのは腎臓が余分なカリウムを速やかに排出してくれるからである。

・食物の成分を気にすることなく楽しく食事ができるのは腎臓のおかげである。

腎臓は毎日180リットルの尿を作る!?

・腎臓の濾過は「糸球体」と呼ばれる毛細血管のかたまりのような器官が行っている。直径約0.2mm、1つの腎臓の約100万個ある。

・濾過で振るい分けられるのは赤血球や比較的大きなたんぱく質などだけで多くの成分は排出される。この尿は原尿といわれる。原尿は1日に180リットル程作られる。これを糸球体の先にある「尿細管」で再吸収する。水分はおよそ99%が再吸収されるので、最終的な尿になるのは1日に2リットル程である。この再吸収の過程でさまざまな成分が調節されている。

この動画、「知っておきたい、腎臓のはたらき」【バイエル サイエンスビデオ】さまからお借りしました。

3分19秒のビデオです。腎臓の構造と機能の概要が説明されています。

 

 

画像出展:「腎臓の働きと機能」こうまつ循環器内科クリニック

『原尿は1日に150-180L生成され、尿細管で各物質の再吸収、分泌を受けて最終的には原尿の約1%程度(1.5-1.8L)まで濃縮され、尿となり体外に排出されます。残りの99%は再吸収され血液に戻ります。』

 

画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」

『腎臓は非常に効率的な体液調整を行っています。このプロセスは、体内の恒常性維持に不可欠な役割を果たしています。』

 

 

 

 

血液の管理、カギは「再呼吸」

・再吸収に関し、尿細管は「近位尿細管」「ヘンレループ」「遠位尿細管」「集合体」と続き、それぞれ特徴的な再吸収が行われる。

エネルギー源の糖分(グルコース)も捨てられるが大切なのでほぼすべて再吸収される。それ以外の多くの成分は、全身の状況に合わせて再吸収する量が変わる。この判断に関わっているのがメッセージ物質である。

・塩分(ナトリウム)の場合、摂り過ぎは血圧上昇の原因になる。そして、心臓の負担も高まる。そのため、腎臓はメッセージ物質のANPを放出する。ANPは心房性ナトリウム利尿ペプチドで尿を増やすが、その名の通りナトリウムの排出も促す。カルシウムの場合は「副甲状腺」という米粒ほどの小さな臓器からPTHというメッセージ物質が重要な働きをしている。

腎臓は「尿を作る臓器」ではない!

腎臓が糖以外のほとんどの成分を一度排出し、その後、回収するというメカニズムは、腎臓の目的はゴミ(尿)を出すことではなく、部屋(血液)を綺麗にすることだからである。つまり、腎臓は尿を作るための臓器ではなく、血液を管理する臓器といえる。

腎臓は体内のネットワークの「要」である

腎臓を守る3つの重要点

1)飲水(脱水症状を避ける)

2)薬の飲み過ぎ(腎臓は薬の副作用を受けやすい。特に市販の鎮痛剤)

3)生活習慣

他人から移植された腎臓でも、臓器同士の会話はできるのか?

・移植した腎臓でも臓器同士の会話は問題ない。それはメッセージ物質がすべての人に共通だからである。

第3章 脂肪・筋肉

マンハッタンの研究室

・脂肪が出すメッセージ物質は「レプチン」である。働きは「食欲を抑える」ことである。大量のレプチンは脂肪が増えたときに放出され、これを受け取った脳では食欲が抑制される。

・皮下脂肪や内臓脂肪からメッセージ物質が放出されているという事実に世界は驚いた。

画像出展:「臓器たちは語り合う」

 

「お腹が空いた」と知らせるメッセージ物質もある

・「グレリン」という胃から放出されるメッセージ物質が、「お腹が空いた」というメッセージである。グレリンは成長ホルモンの分泌も促す。

肥満はなぜ、体に悪いのか?

・メタボリック・シンドロームの本質は、脂肪細胞が出すメッセージ物質にある。レプチンの発見以降、脂肪が出すメッセージ物質が非常のたくさん見つかっている。これらは「アディポサイトカイン」と呼ばれている。「アディポ」は「脂肪の」、「サイトカイン」は日本語では「細胞間情報伝達物質」と呼ばれ、主に免疫細胞(白血球)がコミュニケーションするためのメッセージ物質を指す言葉である。

あらゆる生活習慣病の原因となる「慢性炎症」の恐怖

アディポサイトカインは数百種あると言われ、特に注目されているのが「炎症性サイトカイン」であり、これこそがメタボリック・シンドロームの原因とみられている。具体的には「TNFα」や「インターロイキン」である。メッセージは免疫細胞同士の警告信号のようなもので、「敵が来たぞ!」というサインである。それにより全身性の免疫細胞が活性化される。

実際にはウィルスや細菌の感染がないにもかかわらず、全身の免疫が過剰に活性化している状態は、「慢性炎症」と呼ばれる。誤解しやすい名称だが、メタボリック・シンドロームを説明する際に広く使われている。

慢性炎症は局所ではなく全身である。特に血管の中で起きている。

・動脈硬化、糖尿病、高血圧など、最新の研究では、いずれも慢性炎症がきっかけとなっている可能性が指摘され始めている。さらに、がんや認知症などの病気の背景にも深く関わっていることが明らかになっている。

現代人を悩ませる多くの病気の根っこが、実は一つである可能性がある。

動脈硬化はなぜ起きる?

・血管にコレステロールが溜まるだけでは動脈硬化は起きない。発症の鍵は、慢性炎症で活性化した免疫細胞である。主に「マクロファージ」と呼ばれる細胞がコレステロールを攻撃することが原因である。

・慢性炎症のために活性化しているマクロファージは、異物であるコレステロールを見つけるとどんどん食べていくものの消化はできず、パンパンに膨れ上がって死んでいく。このマクロファージの死骸が血管の壁に溜まった状態が「動脈硬化」である。さらにマクロファージの死骸が破裂すると、中にある炎症性サイトカインや外敵を攻撃するための物資がまき散らされ、慢性炎症をさらに悪化させ、全身の細胞に悪影響を与えていくと考えられている。

なぜ脂肪細胞は炎症性サイトカインを出してしまうのか?

・肥満になると脂肪細胞はなぜ炎症性サイトカインを過剰に放出してしまうのか。現時点では明らかになっていないが、あらゆる生活習慣病の予防に直結する課題のため、世界中の科学者が注目している研究課題である。

健康のカギ―筋肉が出すメッセージ物質

筋肉が出すさまざまなメッセージ物質は、「マイオカイン」と呼ばれている。「マイオ」は「筋肉の」という意味である。筋肉は体重の40%を占める人体最大の臓器である。マイオカインの発見はアディポカインより少し後だった。

・マイオカインは体内のメッセージ物質の中でも、最も歴史が浅い分野の一つのため、まだまだ分からないことだらけである。しかし、筋肉は最大の臓器であり、運動による健康効果との関係が考えられることから大きな期待が寄せられている。

運動すると大腸がんが予防できるのはなぜ?

・大腸がんの予防には食事より適切な運動の方が効果的とされているが、まだ明確にはなっていない。しかし、その謎の解明のキーワードがマイオカインである。大腸がん以外でも、うつの症状や慢性炎症に対する効果が期待されている。

IL6が慢性炎症を抑える!?

・実験の結果、運動で筋肉から出ているのはIL6(ILはインターロイキンの略)という物質だった。このIL6というメッセージ物質に慢性炎症を抑える働きがあることが分かってきた。また、どんな運動が良いのかについて研究は進んでいる。

メッセージ物質は「文脈で」意味が変わる

・メッセージ物質は状況によって意味が変わる。これは細胞同士のコミュニケーションツールとして、タイミングや量、他のメッセージ物質との組み合わせや受け取る側の状況等によって変化する。

画像出展:単なる運動器じゃない!内臓や認知・精神機能をも守る、筋肉のはたらき名古屋ハートセンター

最近の研究から、骨格筋は運動時にさまざまな生理活性物質を分泌することがわかってきました。マイオカインというのがその総称です。マイオカインの主な役割には、代謝の促進による脂肪肝改善・体脂肪分解、認知症の予防、骨形成促進、動脈硬化予防、免疫能改善、抗炎症作用などがあるといわれています。』