第4章 文明をつくったニューロン
●『ミラーニューロンがIPL[下頭頂小葉]近辺全体に豊富に存在するのは偶然ではない。人間の脳において、この領域が不釣り合いに大きく、分化しているという事実は、進化の飛躍を示唆している。』
●『念のために一つ但し書きをしておきたい。私はミラーニューロンが大躍進や文化全般の十分条件だと言っているのではない。ミラーニューロンが不可欠に重要な役割をはたしたと言っているにすぎない。発見が広まるには、まずだれかが何かを発見もしくは考案しなくてはならない―たとえば、二つの石が打ちあわされると火花がでることに気づくといったことがなくてはならない。私が論じているのは、もしそうした偶然の革新をたまたま初期ホミニン[霊長目ヒト科ヒト亜科を構成するヒト族の総称]のだれかが思いついたとしても、精緻化されたミラーニューロン・システムがなかったら、線香花火のように消えてしまっただろうということだ。つまるところ、ミラーニューロンはサルにもあるが、彼らは輝かしい文化のにない手ではない。それは彼ら[ホミニン]のミラーニューロン・システムが、急速な文化の伝達を可能にするほど十分に発達していないか、あるいはほかの脳構造との適切な結びつきを欠いているためである。伝播のメカニズムがいったん備わると、それは母集団の外れ値をより革新的にするような選択圧としてはたらいたであろう。革新は急速に広まってこそ価値があるからだ。』
第5章 スティーブンはどこに? 自閉症の謎
●ミラーニューロンは本質的に、心を読み取る細胞のネットワークである。
●『ミラーニューロン仮説は、自閉症に見られる言語障害についても洞察をあたえてくれる。赤ちゃんが耳にした音や言葉を最初にくり返すとき、ミラーニューロンがそれにかかわっているのはほぼまちがいがない。それには内部の翻訳―音のパターンを、対応する運動のパターンのうえにマッピングすること、およびその逆のマッピング―が必要と思われる。そのようなシステムが設定されうる道筋は二通り考えられる。一つは、言葉が聞こえたらすぐに、その音素の記憶痕跡が聴覚皮質のなかにつくられるという可能性である。赤ちゃんはそれから、さまざまな発生をランダムに試み、記憶痕跡からの誤差フィードバックを使いながら、その出力(発声)を徐々に微調整し、記憶と一致させていく(私たちはみな、聴いたばかりの曲を心のなかでまずハミングし、次に声を出して歌いながら、その出力を徐々に微調整して心のなかのハミングと一致させていくときに、この方式をとっている)。
二つめとして考えられるのは、聞いた音を話し言葉に移し変える翻訳のネットワークが、自然選択を通して生まれつき規定されているという可能性である。いずれの場合も、結果的には、私たちがミラーニューロンのものとして想定しているようなたぐいの属性をそなえたニューロンのシステムが設定されることになる。もし赤ちゃんが、フィードバックの機会もフィードバックに要する時間的遅延もなしに、初めて耳にしたばかりの一群の音楽をくり返すことができたら、生まれつき組み込まれた翻訳のメカニズムがあるという考えが支持される。このように、ユニークな翻訳のメカニズムが設定されうる道筋は一通りではないが、それがどんなメカニズムであれ、私たちが得た所見は、自閉症に見られる基本的な障害の原因は、最初の設定の欠陥にあるのではないかという可能性を示唆している。そして、ミュー波[脳波の一種、運動皮質の機能と関連している]の抑制についての私たちの実験結果は、それを支持すると同時に、(ミラーニューロンの機能不全という)単一の説明で、たがいに関連がなさそうにみえる数々の症状を一挙に説明することを可能にする。』

画像出展:「自閉症の人は模倣が苦手?-ミラー・ニューロンと自閉症-(国立特別支援教育総合研究所)」
マカク・ザルで発見されたミラー・ニューロン
『前頭葉のF5野にあるミラー・ニューロンは、バナナを自分が掴む時と、他者が掴むのを観察する時の両者で活動する。 ~中略~ 自閉症のある人たちは「模倣」が苦手で、他者の動作・行動の理解や社会性の学習に困難があります。このことから、自閉症の人たちの脳ではミラー・ニューロンの機能が障害されているのではないか、そしてそのことが自閉症の発症原因の1つではないか、と推測されるようになりました。』

画像出展:「自閉症スペクトラム障害でミラーニューロン回路の不全(京都大学)」
『定型発達群において、動画表情を見ているときには視覚野の上側頭溝(表情の視覚分析に関わることが分かっています)と下前頭回の間の機能的結合が強くなることが分かりました。この神経回路によって私たちは、表情の視覚分析の結果に基づいて表情を模倣したり、自分の表情運動の情報を使って他者の感情を読み取ったりしていると考えられます。これに対し、自閉症スペクトラム障害群では、上側頭溝と下前頭回の間の結合が弱く、動画表情処理の回路がうまく機能していないことが示されました。』

画像出展:「自閉スペクトラム症(ASD)とは? ミラーニューロンの解説および、接するときに考えるべきこと(Lab BRAINS)」
『身体の特徴 - 逆手バイバイ:例えば、身体を動かすことでコミュニケーションを取る場合があります。自閉スペクトラム症児の特徴的な動きに「逆手バイバイ」と呼ばれるものがあります。1歳に満たない赤ちゃんでもバイバイと手を振った時に鏡に写したような模倣の仕方ができますが、ミラーニューロンが不足していて模倣する力が弱いと、鏡に写したような模倣の仕方ができません。』
●『ミラーニューロン・システムはそもそも、他者の行動や意図の内部モデルをつくるために進化したのであるが、人間においては、そこからさらに進化して内面に向かい、自分自身の心を自分の心に表象(もしくは再表象)するようになったのかもしれない。心の理論は、友人やあかの他人や敵対者の心のなかを直観でとらえるのに有用であるが、それだけではなく、ホモ・サピエンスにかぎっては、心の理論によって、自分自身の心の動きをとらえる洞察力も飛躍的に向上したのではないだろうか。それはおそらく、私たち人間がほんの何十万年か前に経験した心の相転移の時期に起き、それが本格的な自己認識のはじまりとなったのだろう。もしミラーニューロン・システムが心の理論の基盤であり、正常な人間の心の理論が、内面の自己に向けて応用されるというかたちでパワーアップされているのだとしたら、自閉症の人たちが対人的相互交流や確固とした自己同定をひどく苦手とする理由や、会話のなかで一人称(「私」)や二人称(「あなた」)を正しく使えない自閉症児が多数いる理由の説明がつきそうである。人称代名詞を正しく使えない子どもたちは、十分に成熟した心の自己表象が欠けているために、自他の区別を理解するのがむずかしいのかもしれない。』
●『このあたりで、三点ほど但し書きを補足しておきたい。第一に、ミラーニューロン様の属性をそなえた小さな細胞群は、脳の多数の部位で発見されており、それらは実際には大きな回路―いわば「ミラーネットワーク」―の一部と考えるべきである。第二に、先にも述べたように、脳に関する不可解な面をすべてミラーニューロンのせいにしないように気をつけなくてはならない。なにからなにまでミラーニューロンがおこなっているわけではない! とはいえミラーニューロンは、私たち類人猿から脱却するのに重要な役割をはたしたようであるし、当初の「猿まね」の概念をはるかにこえるさまざまな心的機能の研究にも次々と登場している。第三に、ある種の認知能力をある種のニューロン(この場合はミラーニューロン)や脳流域に帰属させるのは、出発点にすぎない―そのニューロンがその計算をどのように実行しているかを解明するまでは、話は終わらない。』
●『自閉症の治療はまだ非常に難しいが、ミラーニューロンの機能不全の発見によって、いくつかの新しいアプローチへの道が開かれる。たとえばミュー波の抑制の欠如は、この障害の早期発見を目的とするスクリーニングに欠かせない診断ツールになるだろう。早期発見ができれば、現在おこなわれている行動療法を、顕著な症状があらわれるずっと前に開始できる。残念なことに現状では、生後二年目か三年目になってあらわれだす顕著な症状が親や医師に警告をあたえるケースが大多数を占めているが自閉症をとらえるのは早ければ早いほどいい。
二つ目の可能性として考えられるのは、バイオフィードバックを利用した自閉症の治療である。バイオフィードバックの目的は、被験者の身体や脳から出る生理学的な信号を機器でとらえて、わかりやすいかたちで表示し、本人に見せることによって、自分がどのような状態のときに数値が上がるか、あるいは下がるかを被験者に経験させ、それを意識的にコントロールする方法を身につけてもらうことにある。たとえば心拍数を画面上のドットの上下とビープ音で表示するタイプの機器を用いて練習すると、ほとんどの人は自分の意志で心拍数を下げられるようになる。脳波もフィードバックに利用できる。たとえばスタンフォード大学のシェーン・マッキー教授は、慢性疼痛の患者を脳画像診断装置のなかに入れ、炎のCG動画を見せた。炎の大きさはそのときどきの患者の前部帯状回(痛みの知覚に関与する皮質領域の一つ)の神経活動性をあらわし、したがってその患者が感じている主観的な痛みの量に比例するように設定されていた。ほとんどの患者は、炎に集中することによって、ある程度までその大きさをコントロールして小さく保つことができるようになり、したがって痛みの量を軽減することができた。これと同様に、自閉症児のミュー波をモニターしたものを、本人の目の前の画面に表示し(思考でコントロールする単純なゲームのようにみせかけて)、ミュー波を抑制する方法を身につけることができるかどうか試してみることは可能だ。ミラーニューロンの機能が、完全に欠如しているわけではなく、鈍い状態や不活発な状態にあるだけなら、このような訓練によって他者の意図を見抜く能力を向上させ、その子をとりまく目に見えない社会的な世界への参加にむけて、一歩前進させることができるかもしれない。

画像出展:「ニューロフィードバックとは(べスリTMS横浜醫院)」
『特に欧米においてニューロフィードバックの技術や治療は進んでおり、適応範囲は、ADD/ADHD、自閉症、うつ病、てんかんと多岐にわたっています。』
※ご参考:「心療内科における バイオフィードバック」
●『ミラーニューロン仮説は、自閉症の決定的な特徴―共感、ごっこ遊び、模倣、心の理論の欠如―をなかなかうまく説明づける。しかしまだ完璧ではない。自閉症によく見られるその他の症状のなかに、ミラーニューロンとあきらかに関係ないものがあるからだ。たとえば、体を前後に揺らす、目線があうのを避ける、一定の音に対して過敏や嫌悪を示し、ときにはその過敏さを緩和するためと思われる自己刺激行動をする(自分をたたく場合さえある)、などである。このような症状はかなりよく見られるので、自閉症を全面的に説明するのであれば、これらについての説明づけも必要である。おそらく自分をたたく行動は、身体の突出性を高めるためで、それによって自己の固定と存在の再確認を助けているのではないかと考えられる。』
『脳に関しては1世紀前に古典物理学をひっくり返した概念の革命と同じくらいに衝撃的である』
この古典物理学をひっくり返したというのは、量子論・量子力学のことであり、それに匹敵するくらいの衝撃が脳には隠されているという意味だと思います。そして、その衝撃の一部がミラーニューロンということだと思います。そこで、ミラーニューロンに関して思ったことや疑問をAI(Perplexity)に質問してみました。
1.ミラーニューロンの発見
2.ミラーニューロンが存在する場所

画像出展:「ウィキペディア:ブロードマンの脳地図」
『細胞構築の特徴はそこで行われている神経細胞の情報処理特性と関係していると考えられており、このことから脳機能局在論では領野を示すのにこの区分がよく用いられる。』
3.ミラーニューロンとシグナル

本書には、“「気」はシグナルか”という章があります。
人間の体から放射される遠赤外線のエネルギーは赤外線ストーブの1000万分の1に過ぎず、相手に影響を与えることはできません。そこで考えられるのが、ラジオやテレビの電波のように、人体から放射される遠赤外線にシグナル(情報)を乗せて相手に送っているのではないかという考えです。つまり、このシグナルが相手の脳に伝わって、「気」を受けた人にも気功師と同様の変化が現われるのではないか。そして、実験により気功師の気功中に放射する遠赤外線に1ヘルツ前後のシグナルが乗っていることが確認できたとのことです。
ミラーニューロンとシグナルについて興味をもったのは上記が理由です。

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」
ミラーニューロンは視覚、聴覚、運動などの感覚モダリティ(それぞれの感覚器で感知する固有の経験の種類)にわたるシグナルの統合と理解を促進すると考えられています。
4.脳磁法
1)環境磁場と生体磁場の強度
2)軸方向型グラジオメーターで計測した、聴覚刺激により惹起された脳磁場分布
感想
ヒトの脳からは磁場信号が出ています。遠赤外線は電磁波です。電磁波とは電磁場の変動が波動として空間中に伝播したものです。気功師が発する遠赤外線(電磁波)、そしてそれに乗っているのではないかとされる“シグナル”、そこにミラーニューロンが関与しているのかどうかは分かりませんが、冒頭でご紹介した3つの“氣”との類似点、「他者との共鳴」、「身体と心の連携」、「エネルギーの伝達」から、“氣”と“ミラーニューロン”の関係性を考えることは不自然なことではないと思います。
最後に、「ミラーニューロンから何か分泌しているということはないですか?」と質問してみました。
答えは「No」でしたが、ミラーニューロンは神経細胞として定義されており、神経細胞は一般的に神経伝達物質を放出しているため、ミラーニューロンからは何も放出されていないと断言することはできないとのことでした。