多くの人がそう思っていたのではないでしょうか。スティーブ・ジョブズを失ったアップルの将来は厳しいだろうと。ところが実際にはそうはならず、アップルはより大きな企業になりました。その立役者はCEOのティム・クックです。
「どんな人物なんだろうか?」、「スティーブ・ジョブズとティム・クックを結びつけたのは何だったのだろうか?」。特に後者は最も知りたい“謎”でした。
また、スティーブ・ジョブズの自伝にあった“こだわり”も気になりました。この点からも、何故、ジョブズはティム・クックだったのか知りたいと思いました。
画像出展:「スティーブ・ジョブズⅡ」
『僕は、いつまでも続く会社を作ることに情熱を燃やしてきた。すごい製品を作りたいと社員が猛烈にがんばる会社を。それ以外はすべて副次的だ。もちろん、利益を上げるのもすごいことだよ。利益があればこそ、すごい製品は作っていられるのだから。でも、原動力は製品であって利益じゃない。スカリーはこれをひっくり返して、金儲けを目的にしてしまった。ほとんど違わないというくらいの小さな違いだけど、これがすべてを変えてしまうんだ―誰を雇うのか、誰を昇進させるのか、会議でなにを話し合うのか、などをね。』[スティーブ・ジョブズⅡp424](上記のメッセージはブログの2.「最後にもうひとつ……」の先頭に出ています)
画像出展:「ティム・クック」
著者:リーアンダー・ケイ二―
訳者:堤沙織
出版:SBクリエイティブ
発行:2019年9月
ブログは目次に続き各章のごく一部をご紹介していますが(黒字)、これ以外に印象的だったクックの成果として、[慈善活動に対する積極的な取り組み]、[再生可能エネルギーへの移行]など、スティーブ・ジョブズの時代には、消極的だったこれらの課題に対しても素晴らしい成果をあげられていました。
目次
序論 うまくやってのける
第1章 スティーブ・ジョブズの死
クックは取るに足りない人物
ジョブズが辞任し、クックがCEOに
スティーブ・ジョブズの死
スティーブ・ジョブズの会社を経営する
破滅する運命のアップル
第2章 アメリカの深南部で形作られた世界観
スウィートホーム・アラバマ
学生時代
早期のビジネス経験
ロバーツデールがクックの世界観を築いた
アラバマ行動主義のルーツ
故郷のアンチヒーロー
オーバーンで工学を学ぶ
第3章 ビッグブルーで業界を学ぶ
IBM PC
リサーチ・トライアングル・パークの工場
ジャストインタイム生産方式
クックの初めての仕事
クックの高い潜在能力
クックのMBA
早期の倫理規範
IBMのソーシャルライフ
IBMでの昇進
インテリジェント・エレクトロニクスに転職する
コンパックに合流する
第4章 倒産寸前の企業に加わる、一生に一度の機会
意見の一致:クック、ジョブズに出会う
オペレーションの新たなリーダー
さよなら、アメリカ。こんにちは、中国!
第5章 アウトソーシングでアップルを救う
フォックスコン
とんとん拍子に出世する
マネージャーとしてのクック
第6章 スティーブ・ジョブズの後を引き継ぐ
ピノキオ並みの硬さ
初期の挫折
採用と解雇
アップルは全盛期を過ぎたのか
クックはアップルの変革を始める
サプライチェーンにおける取り組み
成功の兆し
第7章 魅力的な新製品に自信をもつ
脱税
MacProとiOS7
iPhone 5Sが記録を打ち立てる
良い年末
世界開発者会議―iOS8と健康部門への参入
アンジェラ・アーレンツティム・クックのティム・クック
驚くべきパートナーシップ
IBMとのパートナーシップ―法人向けiOS
iPhone 6とApple Pay
iOS 8.0.1の厄介なバグ
Apple Pay
クックの初の主要製品:Apple Watch
第8章 より環境に優しいアップル
汚染と中毒
良い方向へ進む
ダーティな仕事に取りかかる
環境保護庁の門をたたく
善行を促進する力
クックは太陽光発電に力を注ぐ
クローズドループのサプライチェーン
持続可能な森林
ひたむきなCEO
第9章 クックは法と闘い、勝利する
プライバシーの問題
サンバーナーディーノ
長期にわたる論争
抗議の嵐
作戦指令室
アメリカにパライバシーは存在しない
訴えを取り下げる
クックはプライバシーを強化する
第10章 多様性に賭ける
パーソン・オブ・ザ・イヤー
平等と多様性はビジネスの役に立つ
多様性による革新
女性を昇進させる
アップルの組織構成
株主からのプレッシャー
教育におけるクックの取り組み
早いうちに種をまく
アクセシビリティ
第11章 ロボットカーとアップルの未来
未来の取り組み
アップル・パーク
キャンパスがオープンした日
すべてが成功したわけではない
協調を促す
うまくいっているようだ
次世代iPone、Xの到来
第12章 アップル史上最高のCEO?
クックは革新できるのか?
革新には時間がかかる
教訓を得る
第1章 スティーブ・ジョブズの死
破滅する運命のアップル
・2014年9月:チャーリー・ローズ[ニュースキャスター]とのインタビュー
『クックはジョブズが残したものを何とかして維持し、自分の持つすべてを会社に注ぎ込むことを望んでいた。しかし、ジョブズの真似をしようと考えたことはなかった。「自分がなれるのは、自分自身だけだということを理解しています」と彼は続けた。「私は最高のティム・クックになるように努力しているのです」そして、これこそが、彼の成し遂げたことだった。
第2章 アメリカの深南部で形作られた世界観
学生時代
・ロバーツデールは典型的な南部アメリカの田舎町。面積はわずか13平方キロメートル。当時の人口は約2300人(現在は約5000人)。
・クック家は信仰に篤く、クリスチャンである。
・幼い頃に、バプテスト教会で洗礼を受けてから、信仰は人生の大きな部分を占めてきた。
・クックは控えめで向上心が高く、常に成績優秀な生徒だった。知的で穏やかな性格でユーモアのセンスもあった。
・『彼がアップルで実践した価値観の多くは、子どもの頃に経験した差別と直接結びついているようだ。2013年、デューク大学フュークア・スクール・オブ・ビジネス(クックはここで修士号を取得している)で行われた学生向けの講演会で、クックは、キング牧師とケネディ大統領の2人が子どもの頃からのヒーローだと語っている。「私は南部で生まれ育ち、成長の過程で、差別が引き金となった最悪の行動の数々を目にし、非常に気に病む思いをしてきました」と、彼は学生たちに語った。だからこそ、命がけで差別と戦ったキングとケネディを、心から尊敬しているのだろう。』
オーバーンで工学を学ぶ
・『「アラバマ大は医師や弁護士を志望する富裕層が行くところだったので、自分を労働者階級の1人だととらえていた私には適さないと思いました。そして労働者階級の人々は、オーバーンへ行っていたのです」』
・クックが学んだ生産工学は、複雑なシステムを最適化する方法に焦点を置き、無駄な支出を取り払い、資源を最大限活用する最善策を見つけ出す学問であった。
・クックは2010年、オーバーン大学の卒業式のスピーチで、オーバーン大学の理念を自分の信念として話しているが、それは次のようなものである。『「私はここが、実践的な世界であると信じており、ゆえに、自分が培ったもののみが信頼に値すると考えている。したがって私は、働くこと、ひときわ懸命に働くことの価値を信じる。私は、正直であることと、誠実であることの価値を信じる。それなしでは、仲間の尊敬と信頼を勝ち取ることはできない」。』
・クックは1982年にオーバーン大学を卒業、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)とゼネラル・エレクトリックからもオファーを受けていたが、IBMに入社(PC部門)した。
画像出展:「WikipediA」
アラバマ州ロバーツデールは、2010年の国勢調査では人口5,276人、1,951世帯だったそうです。
第3章 ビッグブルーで業界を学ぶ
クックの高い潜在能力
・IBM入社数年後、クックは工場の経営幹部によって選ばれる「ハイポ(ハイ・ポテンシャル)」と呼ばれる将来を担う25名の若手社員リストのランキング1位にいた。なお、「ハイポ」に求められるものは、業績、責任感、リーダーとしての潜在能力など。
・『クックがハイポ・リストの一角を獲得し、最終的にはIBMでの高い地位[パーソナル・コンピューター事業北米ディレクター]を確立するまでになったのは、高校と大学を通して彼が培った労働倫理のおかげだった。工場におけるパーソナル・コンピューター製造の元責任者で、かつてクックの上司だったこともあるレイ・メイズも、クックが同僚たちの中で抜きんでていたことに同意している。「私が感じていた彼の優れたところは、その労働倫理でした」とメイズは語った。』
早期の倫理規範
・ビジネスで“倫理”というと、不正会計やインサイダー取引を連想するものだが、クックの“倫理”はそのようなものではない。
・『2013年、デューク大学で行われた同窓会[デューク大学のFuqua School of Businessを1988年に卒業]で、クックはこのように語った。
「倫理について考えるとき、私はある物事を、それを発見したときよりも良い状態で、後に残すことを考えます。そしてこのことは私にとって、環境への配慮から、労働問題を抱えるサプライヤーとの付き合い方、製品の二酸化炭素排出量、何を支援するかという選択、そして従業員の扱い方まで、すべてに関わることなのです。私のすべての言動は、この考え方がもとにあるのです」。
倫理学の講義によって、彼は同じ業界の人の多くとは異なる方法でビジネスを考えるようになった。彼がそこで学んだ教訓 ―発見したときよりも良い状態で、物事を後に残すこと。環境に配慮し、従業員に敬意をもって接すること― は、彼の信念の支えとなり、アップルCEOとしての任期を象徴するものとなるだろう。彼はIBMで、アップルにおけるリーダーシップの基礎となるものを築き始め、そこには同僚との交流も含まれていた。』
画像出展:「江戸切子協同組合」
私事ですが、早大サッカー部時代に「伝統とは、前年をひとつでも上回る成果を上げ、積み重ねていくこと」と教わったことを思い出しました。
この日本流の“伝統”は、クックの信念の支えとなった“倫理”とスティーブ・ジョブズが願っていた、“いつまでも続く会社”につながるキーワードではないか、ジョブズとクックを結んだ最も重要な価値観だったのではないかと思いました。
つまり、私が最も知りたかった“謎(二人を結んだもの)”とは、“伝統を重んじる心”だったというのが私なりの答えです。
第4章 倒産寸前の企業に加わる、一生に一度の機会
意見の一致:クック、ジョブズに出会う
・『ティム・クックは、アップルのリクルーターからオファーをすでに何度も断っていた。彼らの粘り強さが実を結ぶときがきた。最終的に、彼は少なくともジョブズには会うべきだという結論に達したのだ。「スティーブは、私がいる業界のすべてを作った人物でした。とても会ってみたかったのです。クックは2014年、チャーリー・ローズに対してこう暴露している。
彼はコンパックでの仕事に満足していたが、ジョブズとの出会いは新鮮でエキサイティングな将来の展望を彼に与えてくれた。ジョブズは「他の人とは全く異なることをしていました」とクックは当時を振り返った。その最初の面接で、ジョブズのアップルに対する戦略とビジョンを座って聞いていたとき、彼はそのミッションにおいて自分が価値ある貢献をできるということに納得した。ジョブズはコンピューター業界を震撼させることになるだろう製品や、いまだかつてないコンピューターのデザインコンセプトについて説明した。これらの構想は、丸くふくらんだ形のカラフルなMacintoshであるiMac G3となって、1998年に発売され大成功をおさめ、デザイナーであるジョニー・アイブを一躍有名にした。
クックは好奇心をそそられていた。「彼はそのデザインについてほんの少ししか話しませんでしたが、それだけで十分、私は関心を持ちました。後のiMacとなる製品について説明してくれたのです」。クックはその面接が終わる頃には、ジョブズのようなシリコンバレーの伝説と働くことは、一生ものの栄誉」になることを確信していた。』
第5章 アウトソーシングでアップルを救う
とんとん拍子に出世する
・入社4年後の2002年に、ワールドワイドセールスならびにオペレーション担当副社長になった。
・2004年にはMacintoshのハードウェア部門の責任者になり、2005年にはCOOに任命された。
・COOの昇進を機に、ジョブズはクックを自らの後継者として育て上げていった。アップルに勤めるすべての社員はスペシャリストだが、ジョブズとクックだけは違っていた。
マネージャーとしてのクック
・ジョブズとクックは何年もの間緊密に協力しながら働いてきたが、立ち振る舞い、気質、特にマネジメントは全く違っていた。
・『彼が声を荒げることはほとんどなかったが、問題の核心に迫ることに執着し、質問を延々と投げかけて人々を疲弊させた。「彼はとても静かなリーダーです」とジョズウィアックは語った。「叫ぶことも怒鳴ることもなく、非常に冷静で落ち着いています。しかしとにかく人を質問攻めにするので、部下たちは問題についてしっかりと把握しておく必要があるのです」。質問をすることで、クックは問題を掘り下げることができ、スタッフに自分がしていることを常に把握し、責任感を感じさせる効果があった。彼らはいつでも説明を求められる状況にあることを理解していた。
1998年12月に、クックのオペレーション担当グループに参加したスティーブ・ドイルは次のように語った。「彼は10の質問をしてきます。それらに正しく答えると、さらに10の質問をしてきます。それを1年経験すると、彼の質問は9つに減ります。しかし1つ間違えれば、質問は20、30と増えていくのです」。』
・クックは日曜日の夜に電話会議を受け、午前3時45分にメールの返信を行い、毎朝午前6時までには自分のデスクについていた。そしてオフィスで12~13時間働き、家に帰ってからはもっと多くのメールに返信した。
・クックは中国に行き、16時間の時差をものともせずに3日間働き、午前7時にアメリカに戻り、8時30分からの会議に出席することは珍しいことではなかった。
・オフィスにいない時のリラックス方法は、ジムに出かけるかロッククライミングをすること。また、熱心なサイクリストであり、土日はよく自転車に乗っているため、そのときだけは同僚はメールを気にせずにすんだ。
・クックは自分の健康状態を非常に気にかけていて、混雑する時間帯を避けるため、他の人より早起きしてジムに行っている。
・『彼は仕事とスポーツを同等のものと見なして次のように語っていた。「ビジネスにおいては、スポーツと同様に、勝利のほとんどはゲームの開始前に決定されているのです。我々は、好機がやってくるタイミングを整えることはできませんが、準備を整えておくことはできるのです」。クックの準備へのこだわりは、アップルにおける彼の成功の鍵である。』
・クックの最初の12年間のキャリアは比較的目立たないものだったが、クックは匿名でいることを重要視し、アップルの秘密のカーテンの後ろに隠れたままでいた。
第6章 スティーブ・ジョブズの後を引き継ぐ
成功の兆し
・2012年12月、クックは「タイム」誌の“世界で最も影響力のある100人」に選ばれたが、この記事の中で、アップルの元副社長で、2003年からは取締役を務めていたアル・ゴア[ビル・クリントン大統領時代の副大統領]は、クックに関して次のように記している。
『「伝説的存在であるスティーブ・ジョブズの後を継いで、アップルのCEOになること以上に難しい挑戦を私は知らない。しかし、アラバマ造船所の労働者と主婦の間に生まれ、穏やかで謙虚、物静かだが熱心な性格のティム・クックは、少しも動じることがなかった。ジョブズの残したものを守り抜き、アップルの文化に深く浸っている51歳のクックは、主要な方針転換を円滑かつ見事に実施しながら、世界で最も価値ある革新的な企業を、さらなる高みへと導くことに成功した。彼は、その複雑な社内構造の管理から、新たな「とてつもなく素晴らしい」テクノロジーおよびデザインの飛躍的進歩を製品パイプラインに落とし込むことまで、アップルのあらゆる分野において、自らのリーダーシップを強く発揮している」。』
第7章 魅力的な新製品に自信をもつ
世界開発者会議―iOS8と健康部門への参入
・2014年の世界開発者会議(WWDC)で新しいiOS8の発表に加え、HealthKitと組み合わせた健康管理アプリによって、1兆ドル規模のヘルスケア業界(健康とウェルネス分野)への参入を発表した。
画像出展:「biotaware」
”Apple ResearchKit, HealthKit and CareKit, Health App – what does it all mean?”
英語のサイトですが、Googl翻訳に助けて頂き、それぞれの概要をお伝えします。
◆HealthKit(アイコンは左端)
HealthKitは、ヘルスケアアプリとフィットネスアプリを格納するために設計されたフレームワークであり、それらを一緒に使用してデータをすべて1か所で照合できます。
◆ResearchKit(アイコンは左から2番目)
ResearchKitは、医学研究専用に設計されたオープンソースソフトウェアフレームワークです。ResearchKitを使用すると、医学研究者はアプリを迅速かつ最終的に開発し、このフレームワークから開発されたアプリを通じて有意義で価値のあるデータを取得できます。
◆CareKit(アイコンは右端)
CareKitは新しいソフトウェアフレームワーク(2016年4月にリリース)であり、これにより、開発者は、医療を追跡して管理する医学に特化したアプリを構築できます。作成されたアプリは、患者が自分の病状をよりよく理解して自己管理できるようにすることを目的としています。これは、たとえば、服用した薬の効果を追跡するのに役立ちます。
クリック頂くと株式会社C2さまの”ResearchKit/CareKit”のサイトに移動します。
『C2では、ResearchKitアプリおよびCareKitアプリの開発をお手伝いします。企画、要件定義、画面設計、開発 (アプリ&サーバ)、Appストア配信までをワンストップでサポートいたします。』
なお、事例として、京都大学さま、順天堂大学さま、国立がん研究センターさま等が紹介されています。
クックの初の主要製品:Apple Watch
・『アップルの幹部たちは、ジョブズの死から数週間後、ブレーンストーミングを始めた。つまりこの時計のアイデアは、スティーブの死から間接的に生まれたものだと言うことができる。「最初のディスカッションは、スティーブが亡くなった数カ月後2012年初めに行われました」とアイブは語った。「それには時間がかかりました。我々がどこに行こうとしていたのか、企業としてどんな軌道に乗っていたのか、そして何が我々のモチベーションとなっていたのかを、皆でじっくりと考えたのです」。そうして生まれたのがApple Watchだった。』
・これをみてスティーブ・ジョブズの伝記に書かれていた文章を思い出しました。
画像出展:「homestead」
『僕が病気になってある意味良かったと言えることは少ないけど、そのひとつが、リードが優れた医師とじっくりいろいろな研究をするようになったことだ。21世紀のイノベーションは、生物学[biology]とテクノロジーの交差点で生まれるんじゃないかと思う。僕が息子くらいのころデジタル時代がはじまったように、いま、新しい時代がはじまろうとしているんだ」』
第8章 より環境に優しいアップル
クローズドループのサプライチェーン
・2016年3月、アップルはiPhone6を分解するリアム(Liam)というロボットを発表し、クローズドループのサプライチェーン(製品の製造をリサイクルされた原料のみで行うこと)に向けた大きな一歩を歩み出した。現在、2機のリアムはアメリカとオランダに1機ずつあり、11秒ごとにiPhoneを完全に分解している。
画像出展:「マイナビニュース」
第9章 クックは法と闘い、勝利する
クックはプライバシーを強化する
・2018年4月に発表されたiOS11.3はプライバシー保護に強化を加えているが、このアップデートには、ユーザーの個人データがアップルのサービスによって収集されていることを明確に示すアイコンが追加された。アップルが個人情報を収集するのは、機能を有効にする必要があるときや、サービスを保護するとき、またはユーザー体験をパーソナライズする必要があるときだけである。
・アップデートしたユーザーへの通知は次のような説明がされていた。『「アップルはプライバシーを基本的人権だと考えているため、すべてのアップル製品はデータの収集と使用を最小限に抑え、可能な限りデバイス上で処理し、お客様の情報に対する透明性と管理を提供するよう設計されています」。』
第10章 多様性に賭ける
・クックは同性愛者である。この表明は2014年10月30日、ブルームバーグに掲載された「ティム・クックは語る」という感動的なエッセイの中で行われた。また、表明した理由など心に残るメッセージがある。
・『「私は自分自身がゲイであるおかげで、マイノリティであることの意味をより深く理解することができ、他のマイノリティグループに属する人々が日々直面している課題についても考えることができるようになったのです」。』
・『CBSの「ザ・レイト・ショー」に出演したクックは、自分がアメリカのセクシャアル・マイノリティの若者たちを助けることができると気づいてから、自らのセクシャリティを公表することを決めたと語った。「子どもたちは学校でいじめられ、その多くは差別され、両親から拒絶されています。私が何とかしなければならないと感じたのです」と彼は語った。「私は自分のプライバシーを非常に重視していましたが、他の人のために何かすることのほうが、それよりもはるかに重要と感じたのです。皆さんに私の真実を伝えたいと思いました」。』
第11章 ロボットカーとアップルの未来
未来の取り組み
・タイタンと呼ばれるプロジェクトは、Apple Carという自動運転車に関するもので2014年にクックが承認したプロジェクトである。そのきっかけはジョブズが、当時大きな話題となっていた、テスラモーターズの新たな電気自動車に興味をもった2008年にさかのぼる。(ジョブズは当時の自動車業界の状況から自動運転車を追及しない決断をくだしている)
・『2017年6月、クックはプロジェクト・タイタンについて初めて公に語り、ブルームバーグに対し、「自動運転システムに焦点を合わせている」ことを認めた。「これは、我々が非常に重要視する核となるテクノロジーです」。そしてクックはこう付け加えた。「我々は、これをすべてのAIプロジェクトの母であると考えています。おそらく現存するAIプロジェクトの中で、最も難しいものの1つです」。』
・タイタンの問題は製品開発だけでなく、雇用やマネジメント、そしておそらくビジョンにおいても失敗していると評価されており、軌道に乗っているのかいないのかさえ明らかになっていない。
Appleが自動運転車を開発していることは全く知らず、大変驚きました。しかし、その”タイタン”と呼ばれているプロジェクトは苦戦していることを知りました。
そこでネット検索してみると、【Patently Apple】という、Appleの知的財産(IP)や最新のニュースを発信するブログ(英語)があり、”タイタン”に関しても色々なニュースが掲載されているのを知りました。
第12章 アップル史上最高のCEO?
革新には時間がかかる
・クックのもとで発売された最初の新ジャンルの製品であるApple Watchは、当初は不信感をもって迎いられ、一笑に付されることもあり、初期の評価は面白いおもちゃではあるが、世界を変える製品ではないというものあった。しかし3年後、Apple Watchはスマートウォッチ市場で最大の勢力となり、スイスの時計業界全体よりも大規模となっていた。
・Apple Watchは、アップルの健康とウェルネスに対する熱意を形にしたプラットフォームであり、HealthKitやResearchKitのようなソフトウェアによって、着用者が自分の健康とフィットネスをモニターし、改善するのをサポートする手首装着型コンピューターの基礎を築いている。
こちらは、”お茶の水循環器内科さま”のサイトです。2020年9月7日に「アップルウォッチ外来」を開始されたとのことです。
『お茶の水循環器内科ではアップルの「家庭用心電計プログラム」「家庭用心拍数モニタプログラム」が医療機器承認を受けて、アップルウォッチ外来を開始しました。具体的には、不整脈の発作時の記録をもとに、不整脈の疑いの評価、さらなる精密検査の必要性、治療の必要性等を相談するものです。』
付記
《「スティーブ・ジョブズとティム・クックを結びつけたのは何だったのだろうか?」。特に後者は最も知りたい“謎”でした。》
この疑問に対する自分なりの答えは以下のようなものでした。
《この日本流の“伝統”は、クックの信念の支えとなった“倫理”とスティーブ・ジョブズが願っていた、“いつまでも続く会社”につながるキーワードではないか、ジョブズとクックを結んだ最も重要な価値観だったのではないかと思います。つまり、私が最も知りたかった“謎(二人を結んだもの)”とは、“伝統を重んじる心”だったというのが私なりの答えです。》
読み終わってみて、ジョブズとクックを結んだのは、もう一つ、幼少期の体験を通して”研ぎ澄まされた精神が潜在的に共鳴した”からではないかと思います。
労働階級の家に育ち、両親からの愛情に心をよせ、加えてジョブズは養子をバネに、一方クックは差別の多い南部の田舎町に住み、自分自身がセクシャルマイノリティであったことをバネに、強い気持ちや揺るぎない信念(ジョブズは父親譲りの完璧な物づくり、クックは確固たる倫理感)を醸成したのだと思います。