考えるサッカー

小学生時代、習字(書写)の授業で「考える子」という題材がありました。賞をもらったからということもあったと思うのですが、「“考える”ことは大切なんだ」と感じたことも確かだったと思います。それが「考える子」が記憶に残ったということだと思います。

わが母校は公立高校でありながら、部員数は100名を超える大所帯です。もちろん、顧問の先生はひとりではありませんが、部員数が多いというメリットを確かなものにするには、より有効な指導方法を工夫していく必要があると思います。そして、そのキワードが「考える」ということだと思います。

以前、“高校サッカー研究1”というブログの中で、清水商業高校監督(現在の清水桜ケ丘高校)の大瀧雅良先生についてご紹介させて頂いているのですが、その中でサッカーを通して考え抜くことと、圧倒的な当事者意識をもつことで、我々はそれぞれの役割を全うできるという言葉が特に印象に残りました。そして、「圧倒的な当事者意識」こそが“考える原動力”になるのではないかと思っています。「圧倒的な当事者意識」に欠けた人は責任感に欠けます。厳しく苦しい事態に直面したとき、決してあきらめず、最後の最後まで何としてでもこの問題を解決しなければと考える脳は「圧倒的な当事者意識」の元で活性化します。「もう逃げたい」と思った瞬間に問題解決のための思考(脳の働き)はどこかにいってしまいます。

何が言いたいかというと、選手一人ひとりが「圧倒的な当事者意識」をもつことができれば、そして、チームとして一つにまとまることができれば、あらゆる難局にも動ぜず、チーム一丸となって乗り越えようとするのではないかと思います。

「“考えること”と“当事者意識をもつこと”を重視した指導法とは何だろう?」と思い、サッカーの教本を探していて見つけたのが今回の畑 喜美夫先生の本でした。

拝読させて頂いた上で、一つ考慮したのは「選手主導」ではなく、「選手と指導者による協業」ということでした。これは学業との両立を考慮すると、選手への負荷が高くなりすぎるのは望ましくないと考えたためです。責任は指導者100%なのは当然ですが、部活の運営は50:50の関係性が良いのではないかと思いました。ただし、指導を進めていく過程で、結果的に選手のウェイトが60や70になることはむしろ望むものであり、自然の流れに任せていけば良いと思います。

なお、上記のような考えでまとめたため、畑先生のお考えをベースに少しアレンジした内容になりました。

著者:畑 喜美夫

発行:2014年12月

出版:(株)カンゼン

 

はじめに

ボトムアップ指導にたどり着くまで

Lesson1 ボトムアップ理論の基本を知る

●2つの指導スタイルを知ろう

●チームの方向性を合わせよう

●日常生活からサッカーを見直す

●“プレーヤーズファースト”の本当の意味を知ろう

●選手との関係性を築いていく準備

●選手の保護者とのコミュニケーション

Lesson2 ボトムアップ実践の授業 練習編

●必ずおさえておきたいボトムアップのポイント

●選手育成における基本の3本柱を知る

●あいさつの習慣づけ

●「いいえ」「わかりません」の環境づくり

●当たり前のように身の回りを整理できること

●なぜ荷物整理が大切なのか?

●組織構築の3本柱を知る

●量より質の練習ってどんな練習?

練習メニュー紹介

①脈拍トレーニング1対1&2対2

②3分割トレーニング

●サッカーノートをつけよう

●自分たちでチームを作っている意識を植えつける

●各学年にキャプテンを置いて自分の学年を構築させる

●個々をたくましくさせる全員リーダー制を採用

リーダー制の紹介

①ビデオ・リーダー

②ビブス・リーダー

③ライン・リーダー

④ドリンク・リーダー

Lesson3 ボトムアップ実践の授業 試合編

●ボトムアップを試合にどう生かすのか?

●試合も練習と同じ意識をもって行う

●一日の試合を選手たちでコーディネート

●徹底的なミーティングを実践する

●グッドゲームの追求

●TEAMの意味を知る

Lesson4 困ったときのための役立つQ&A集

Q1.ボトムアップの指導がうまくいかないときは?

Q2.ボトムアップはどの年代から取り入れることができるのか

Q3.どのくらいで選手の自主性に効果が出る?

Q4.ボトムアップは放任と思われないか?

Q5.どうすれば選手がサッカーを楽しく好きになってくれるのか

Q6.選手の言葉を引き出す具体的な方法とは?

Q7.モチベーションはどのようにアップさせる?

Q8.選手の書いたサッカーノートにうまく言葉が返せない

Q9.やんちゃな選手をどう指導すればよい?

Q10.選手同士のケンカ、どう仲裁する?

Q11.どうしても選手にコーチングしてしまう自分がいたとしたら?

Q12.ボトムアップはサッカー以外のスポーツでも取り入れられる?

Q13.新チームのスタートで何から最初に取り組めばよいか?

Q14.ボトムアップで大変だった、もしくは失敗だった事例はある?

Q15.荷物整理を、どうサッカーの勝利につなげるのか?

Q16.ボトムアップを取り入れたいのですが、監督はトップダウン。どうすればいい?

はじめに

・『私は、子どもたちが将来、成人して大人の社会に直面したときのことを想像します。その現場で子どもたちが、自分の考えることに対して、ハキハキと発言することができたり、自分の身に起った問題に対して、しっかりと自己解決能力を発揮できたりすることが大切ではないかと思うのです。だからこそ、子どもの自立心を引き出す指導が、いま求められている指導です。

まさに、「子どもたちが率先して意見を言い合える」「子どもたちが主体的に行動できる」チームづくりです。』

ボトムアップ指導にたどり着くまで

Lesson1 ボトムアップ理論の基本を知る

2つの指導スタイルを知ろう

・指導者は選手の可能性を引き出すサポートをするファシリテーター(進行者)として良い方向へと導く役割である。

・ボトムアップの指導法は誰にでもできる指導法である。大切なことは、個々の選手の能力を認めてリスペクトする、「心」の指導である。

日常生活からサッカーを見直す

・チームが今どんな状況にあるか、指導者はしっかりと向き合わなければならない。そして、常にどうすれば良いチームになるか考える。

“プレーヤーズファースト”の本当の意味を知ろう

すべての選手の個性を認めて、ひとり一人の能力を引き出すことを考え行動する。

子どもを指示待ちの人間にしない。これにより、的確な判断力と自己の課題を発見する力や改善する能力がついてくる。

・選手たちが自ら切り開いていく環境を作る。

選手との関係性を築いていく準備

・子どもを上から見下ろして話すと、選手は萎縮してしまう。ボトムアップの指導ではしっかりと同じ目線に立って対話することが大切である。

Lesson2 ボトムアップ実践の授業 練習編

サッカーノートをつけよう

・信頼と絆の関係を築くためにノートを活用する。1冊はサッカーノート、もう1冊はトレーニングノートである。

・安芸南高校では、毎週月曜日の朝、部員全員に提出させている。土日の試合の反省点、どんな時間帯に失点したか、自分自身の良かった点、悪かった点、チームとしての反省点、そして今後どう解決していくのか。全体を踏まえての総評などを書き込む。その提出されたノートに対し、子どもたちが書いた解決法や質問について、ひとり一人の個性や現状を考えアドバイスを行う。大切なことは答えではなく、選手たち自身が自ら導き出せるように返信することである。すぐに改善することを求めず、じっくり考えて改善に取り組む姿勢を重視する。

・もう1冊のトレーニングノート(コミュニケーションノート)は月、水、金の練習のない日の朝、部員全員が提出し、その日の夕方までに目を通しコメントを書いて、帰宅するときに返却する。トレーニングノートは24時間をコーディネートしたスケジュールを記入する。起床から就寝まで、学校の授業が終わってから、自主トレの内容や、休養、ケガの治療の通院など休日の自分の行動プランを書く。ポイントは普段練習に当てている時間帯のところを子どもたちがその時間をどのようにコーディネートしているか。自主トレーニングであれば、どんな方法でするのか、また、その本質をついているのか、共有して、アドバイスを書き加える。また、サッカー以外のことも書いてもらうようにしている。

トレーニングノートは指導者と選手の交換日記的な役割を担っていて、子どもたちとの絆を深め、信頼を構築するうえでのコミュニケーションツールになっている。

サッカーノートを始めたきっかけは、広島観音高校に赴任して選手が100人近くになり、物理的に選手全員とグラウンドで直接コミュニケーションを取ることが困難になったため、この方法で部員全員のことを把握するために始めた。また、練習や試合などグラウンドだけでなく、広く知ることが重要と考えたためである。

子どもたちに考える時間と位置づけている週3日の休日とこのトレーニングノート(コミュニケーションノート)は密接につながっていて、子どもが考えたことに対するモチベーションを高く持たせながら成功に導けるかが、コメントを書くポイントになる。

自分たちでチームを作っている意識を植えつける

仲間で話し合って自分たちで解決するという高い意識は人間力を高める。

Lesson3 ボトムアップ実践の授業 試合編

徹底的なミーティングを実践する

・練習では、ところどころ時間を止めて、練習の目的が達成(徹底)されているか、良かった点や悪かった点などの意見を出し合う。これにより練習の改善につなげる。

・話し合う必要を感じたときに、遠慮することなく、率直な意見を言い合える環境作りが重要である。

・試合では指導者からの指示を待つのではなく、ピッチの選手だけ判断できるようにしていく。

・『いまさら監督やコーチを頼ることがないのです。ピンチは自分たちで打開しようとします。そんな場面では、本当に選手たちが頼もしく、素敵な存在に見えます。私が最もワクワクする瞬間です。前任の広島観音高校では、全国大会で全国の強豪チームと対戦し、失点しビハインドな状況であればあるほど、グラウンドでのミーティングで打開策を考え、勝ち抜き、試合のたびに、成長する選手たちを見てきました。

普段の練習からミーティングを実践する力をつけて、試合でも生かせるように選手たちに促していってほしいと思います。』

画像出展:「魔法のサッカーコーチング」

 

グッドゲームの追求

・グッドゲームには直接的スキルと間接的スキルを同時に伸ばすことが重要である。直接的スキルとは①技術、②戦術、③体力。間接的スキルとは①コンディション(モチベーション)、②フェアプレー、③運。と考えている。

・間接的スキルとは「オフ・ザ・ピッチ」を重視するものである。子どもは親の鏡といわれるように、チームは監督の鏡であると考え、監督自身が常に落ち着いた心情で客観的な判断をできるように心がけることが重要である。

TEAMの意味を知る

・『みんなで一緒に、一人ひとりが成し遂げれば、そこに「奇跡」が起こるのです。私は、子どもたち、一人ひとりが一緒になったときこそ、「奇跡が起こる!」と伝えています。うなくいかなかったとき、「まだまだチームが一つになっていないのかな。もうひと頑張りで、チームになって奇跡を起こそう!」といって鼓舞します。』

画像出展:「魔法のサッカーコーチング」

 

 

[選手たちの明るい未来を信じて]

育成年代の選手たちは、小学生から高校生あるいは大学生まで含めて、無限の可能性があると言ってきました。やはり、その可能性を伸ばす形で選手たちの自主性を尊重していくのです。もちろんすべてうまくいくとは限りませんが、そこには必ず未来があります。自分たちのミッションやビジョンを描きながら、どんな未来が待っているでしょうか。私は選手一人ひとりが自立した人間に成長することによって、明るい未来が持っていると信じています。』

Lesson4 困ったときのための役立つQ&A集

Q4.ボトムアップは放任と思われないか?

・『ボトムアップは、ミッション(使命)とビジョン(未来像)という軸がある限り、放任とはなりません。その軸があるので、その中で子どもたちがどういうふうに組織を作っていくか、そして指導者も見守っていき、時には問題提起をしながら、子どもたちに考えさせるので、放任とはかけ離れたものです。

放任は言葉通り、すべて自由自在に白い画用紙に好きなように何でも描いていいよと言ってしまい、その後どんなふうに描いたかも全く関心がない状況です。

しかし、ボトムアップでは、テーマや条件、ルールなどを提起して、その枠組みの中で描くように進めるという感じでしょうか。そこに筋道があったり、軸を置き、良い距離間で選手を見守る限りは、放任という手法ではないのです。』

感想

繰り返しになりますが、「はじめに」の中で以下の記述ありました。

私は、子どもたちが将来、成人して大人の社会に直面したときのことを想像します。その現場で子どもたちが、自分の考えることに対して、ハキハキと発言することができたり、自分の身に起った問題に対して、しっかりと自己解決能力を発揮できたりすることが大切ではないかと思うのです。だからこそ、子どもの自立心を引き出す指導が、いま求められている指導です。

畑先生がボトムアップ指導法に挑戦した動機の原点はこれなんだと思います。この気持ちや認識に共感できないのであれば、ボトムアップ指導法は中途半端なものになってしまう可能性が高いように思います。

ご参考:“流通経済大柏・榎本雅大監督が考える“自分らしさ”という言葉の捉え方

今年の全国高校サッカー選手権大会で準決勝に進出した、千葉県代表の流通経済大学付属柏高等学校はハードワークのプレーが印象深いのですが、自主性を尊重する指導方針とのことを知り少々驚きました。東京代表の堀越学園においても、生徒中心のボトムアップサッカーを目指しています。どの程度、自主性に委ねるかはそれぞれのチーム事情によると思いますが、「考えるサッカー」は生徒の「問題解決能力」を磨くことにもなるため、あらためて重要なことだと思いました。

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