偶然、NHKスペシャルでラピダスを知りました。
画像出展:「“1兆円”を託された男 ~半導体ニッポン 復活に挑む~」
『2025年7月、日本の新興メーカー・ラピダスが最先端半導体の試作に成功した。革新的なナノ構造で高性能を実現。AI社会の要になると期待されている。投入された税金は1兆円超。その量産化には日本の命運がかかる。プロジェクトを率いるのは社長・小池淳義。』
画像出展:「政府が巨額支援、ラピダス“薄氷の半導体量産化計画”。現在の進捗は“まだ1合目”
『この前日、最先端「2ナノメートル」世代の半導体の国産化を目指すラピダスに対し、経済産業省は最大で8025億円の追加支援を決定した。これで、2022年からの累計支援額は1兆7225億円に上る。』
番組は小池社長の孤軍奮闘ぶりが印象的でした。「平気かな~?」というのが直観です。なぜなら、日本は1970年~1980年代、世界シェア5割を超えていたにも関わらず、2010年には1割を切ってしまったという過去があるからです。
思うにこれはチャンレンジすることを軽視し、現状維持に胡坐をかいてしまったということだと思います。その守りの空気が入れ替わって、国と民間が高い志を共有できなければこの戦いは非常に厳しいものになるように思います。
以下のように日本では5年10兆円という話が出ていますが、
“半導体・AI分野で2030年度に向け10兆円以上の大規模公的支援”
TSMCは米国だけで1000億ドル(約15兆円)を投資するということが決定的になっています。
“TSMC、米国への1,000億ドル追加投資は台湾への投資に影響せずと説明”
この資金調達の規模とフットワーク(実行力)の良さをみても、やはり厳しい戦いだと思います。
このようなことを真剣に考えても意味のないことなのですが、とりあえずTSMCの凄さが何なのかを知りたいと思い本を買いましした。
序文
第1章 護国神山、TSMC
1.なぜTSMCは「台湾の守り神」と呼ばれるのか
2.業界トップランナーへの道
3.TSMC現象
4.護国神山たち
第2章 TSMC誕生の奇跡
1.すべては李国鼎から始まった
2.モリスによって偶然誕生したTSMC
3.台湾最大の投資
4.ファウンドリーモデルの考案者は誰か
第3章 モリス・チャンスとは何者か
1.MITとシルバニア
2.テキサス・インスツルメンツでの栄光の25年
3.実践から学ぶ―モリス・チャンの政治の知恵
第4章 TSMCの七つの競争優位性
1.制度は米国式、リーダーシップは台湾式
2.競合他社を圧倒する数の技術者チーム
3.一流かつ現実的な企業文化
4.生産技術と賃金が2大ハードル
5.21世紀型AIマーケティング
6.「全方位型」「一歩先行く」顧客サービスモデル
7.1300社からなる巨大サプライチェーン
第5章 TSMCの技術開発秘話
1.創業の壁―6インチファブからのスタート
2.TSMCとUMC
3.TSMC対インテル、そしてサムスンとの競争
4.TSMCとエヌビディア
5.ハイテク界の巨匠が語るモリス・チャンとTSMC
第6章 今後10年を展望する
1.TSMCの海外工場
2.グローバルにESGを推進する
3.今後10年で起こり得る危機
謝辞
解説
第1章 護国神山、TSMC
1.なぜTSMCは「台湾の守り神」と呼ばれるのか
●三流製品を請け負う「ローエンド・ファウンドリー」のイメージだったTSMCが脱皮したのは1998年にNVIDIAから高性能グラフィックチップの製造を受注したことによる。
●ファウンドリーは「受託製造」と言われていたため、単純な組立工程にすぎないと考えられていた。しかし、実際は数百から数千の工程があり、それぞれの工程に少しの誤差も許されない非常に厳しいものである。それゆえに、物理学、電気工学、化学、機械学の専門家で、研究開発や製造に10年以上の経験がある一流の頭脳が求められる。
●TSMCは創業3年目から30年にわたって高成長を続け、収益を拡大し世界の半導体製造者のトップになった。
●1960年代から数万人の台湾人が米国に渡って半導体産業で働き、1980~2010年に台湾に帰国し、半導体産業で成功を収めた。
2.業界トップランナーへの道
●TSMCに対抗するため、IBM、インテル、サムスン電子などがTSMCに対抗するため多額の投資を行なったが、IBMは3年で撤退。サムスン電子はiPhoneに関する競争に勝てず、インテルは7nmプロセスの歩留まり率を3年かかったが目標をクリアできず、その間、TSMCへ生産委託を決断したAMDにシェアを20%程、差をつけられた。
●2009年にCEOに復帰したモリスは様々な反対を退け、毎年100億~200億米ドルの投資を続け、生産能力において競合との差は更に広がった。
●創業以来、TSMCは人材と研究開発に莫大な投資を続けた。半導体製造に関する10万件以上の特許技術を開発した。
●モリスは市場の動向を見極める鋭い感覚を持っている。それは創業期、その後20年以上続いた急成長期、そして巨大企業になった今も、技術研鑽を決して怠らなかったためである。これにより経営トップが最新技術に対する理解不足による誤った意思決定を下すということがなかった。
3.TSMC現象
●TSMCはエリート人材の宝庫である。新卒は台湾の名門5大学の電機、電子、機械専攻の学生が大挙して押し寄せる。マネージャー、副所長、所長は世界から広く人材を募集しており、特に米国、日本、欧州に加え、インド、ロシア、中国、韓国、東欧諸国にも対象を広げている。そのため、上司が外国人、同僚の国籍がみんな違うというのはもはや日常の光景である。
第2章 TSMC誕生の奇跡
1.すべては李国鼎から始まった
●『実際、これは予期せぬ成功の物語である。
1986年7月、モリスが工研院院長に就任した当日、前任者の方賢斉からA4サイズの1枚の紙を手渡された。それは緊急事案リストで、そのトップに書かれていたのが、米国から帰国した新竹サイエンスパークで創業した半導体3社のため、ウエハー製造工場の建設を急ぐことだった。
その3社の創設者はIBM、HP、インテルなど大企業出身の華僑たちで、いずれも半導体分野に精通していた。彼らは政府の科学技術担当だった李国鼎の呼びかけに応じ、高待遇だった米国での大企業を辞して台湾に帰国し、新しくつくられた新竹サイエンスパークで起業した。だが、当時のサイエンスパークは決して恵まれた環境ではなかった。研究開発施設やオフィスなどハード面や政府による優遇措置はあったものの、人材、生産工場、ベンチャーキャピタルなどハイテク産業に必要な条件が整っていなかった。もし政府が生産工場などの問題を解決できなければ、プロジェクトは水に流れるところだった。工場を設立できなければチップは生産できず、新竹サイエンスパークの第一陣となった半導体企業は解散せざるを得ない。そうした情報が海外にいる華僑の耳に入れば、優秀な人材が現地の生活を捨てて台湾のために帰国することなど二度とないだろう。そうなれば台湾のハイテク産業の発展のためにつくられた新竹サイエンスパークは、せいぜい昔ながらの工業エリアとして利用されるのが関の山だ。もし、この時、計画が頓挫していたら、1年に5兆~6兆台湾ドルの生産額を生む現在の新竹、竹南、台中、台南、路竹のサイエンスパークの繁栄はなかった。
李国鼎と孫運濬が長年心血を注いできたプロジェクトは幻のごとく消えてしまいそうだった。2人は政府の経済・科学技術のトップだ。中でも財政部長(財務相に相当)と経済部長(経産相に相当)を歴任し、かつて蒋介石から「行政院応用技術開発グループ」の責任に任命されたこともある李国鼎は、焦りを感じていた。新竹サイエンスパークの半導体企業3社の問題を解決するには、ウエハー工場の創設しかなかった。これが工研院院長に就任した最初の月に、モリスにつきつけられた課題だった。
前任者の方賢斉はモリスに緊急事案リストを渡した際、こう伝えた。「KT(李国鼎の英語での愛称)は特にこの件を急いでいる。数日以内に話があるだろう」。方賢斉の言葉通り、数日後、モリスはKTから電話を受けた。半導体3社の創業問題の解決策を議論するため、行政院で開かれるKT主催の隔週の会議に参加せよ、というものだった。当初、3社がそれぞれウエハー工場をつくり、それを支援する案が出されていたが、政府にはそこまでの予算はない。そこで、ウエハー製造能力を有する企業を設立し、そこに3社が生産を委託するというモリスの提案を受け入れることになった。
当時、モリスは私に、この3社は当初非ロジックICをつくろうとしていたが、モリス自身は「特定用途向けロジックIC(ASIC)の生産に取り組むつもりだ」と述べていた。政府の望みは3社のためできるだけ早くウエハー工場をつくることであり、技術や製造の方向性はモリスに一任した。
ここで注目しておきたいのは、TSMCが1987年に創業した当初、技術の源泉は工研院電子研究所の6インチウエハー・ファブであり、その後、フィリップスからの技術供与もあったことだ。当時のウエハー製造技術の主流はUMCによる3μm~5μmプロセスで、民生用IC分野が主力製品だった。一方、TSMCが持つ1.5μmプロセス・月産2万枚の生産能力はややオーバースペックだった。当時、国内のIC設計企業は30社ほどで、そこから見込める発注は月に数百枚程度しかない。TSMCの製造能力を生かすには、海外市場の開拓が急務だった。TSMCの設立当初、経営陣の何人かがモリスがよく知る米国の半導体業界の外国人だった理由はここにあった。
1988年、インテルCEOのアンドリュー・グローブが訪台した際、モリスは彼を新竹サイエンスパークの工場に招待した。PC用マイクロプロセッサーチップの世界的リーダーであるインテルから注文を勝ち取りたいと考えていたからだ。天は努力する人を裏切らない。1年後、インテルが派遣した専門家チームによる200項目にわたる監査をパスし、ついにインテルからの受注に漕ぎ着けた。おかげで工場のラインはフル稼働となり、TSMCの歴史に新たな1ページが刻み込まれた。
偶然が積み重なって植えられた苗木が、のちに巨木となり花を咲かせた。その大樹は、台湾という技術の島を守っているのである。』
3.台湾最大の投資
●TSMCの投資額が巨額だったため、政府の出資上限は49%だった。資本金は55億台湾ドル(約272億円)の内訳は政府が27億台湾ドル(出資比率48.3%)、フィリップスの出資比率は27.5%だった(フィリップスのオプション条項の持株比率は当初の50%以上は、交渉による最大40%となった)。政府による48.3%出資は、当時の行政院長が李国鼎を全面的に支持し、与党国民党の金庫番こと中央銀行の兪国華の大きな協力があって実現したものだった。さらに、政府の財務、経済関係の閣僚や幹部はすべてKT[李国鼎]の息がかかった者であったことが大きく、彼らはこれが台湾にとって非常に重要な政策投資であることを認識し、支援するために最善を尽くした。この結果、政府および党からの出資分は特に大きな問題はなかった。
●民間からの出資は大きな課題として立ちはだかったが、フィリップスの27.5%に加え、兪国華と李国鼎からの強い働きかけによって、民間企業と党営企業から合計24.2%の出資金を集めることができ、TSMCの設立の道が開けた。
●モリスは台湾政府が半導体産業の振興で大きな役割を果たしていることを常に称賛している。それは、工研院の設立による半導体技術の開発の指導から人材育成、サイエンスパークにおける土地、工場、働きやすい労働環境の提供、そして税制措置まで、これらの政策が台湾半導体産業を成功に導いたと述べている。
第3章 モリス・チャンスとは何者か
2.テキサス・インスツルメンツでの栄光の25年
●米国で様々な経験を積んだモリスは、台湾に帰国するや否や李国鼎からTMSCという新プロジェクトを任せられると、すぐに力を発揮した。これが台湾の繫栄と世界トップクラスの半導体開発の成功を導く鍵となった。1985年、もし、李国鼎がIBMやインテルという米国企業から3人組を台湾に呼び戻し、新竹サイエンスパークで事業を立ち上げるように仕向けなければ、そして、彼らが政府に半導体製造工場の建設を熱望しなければ、現在の台湾における半導体産業の成功はなかった。さらに、1970年から1980年代にかけて台湾の一流大学が数千人の理工系学生を米国の大学院に送り込み、その後、彼らが修士号や博士号を取得し、現地で半導体関連の仕事に従事したことも、1990年以降のTSMCの急成長に欠かせない要素だった。
第4章 TSMCの七つの競争優位性
2.競合他社を圧倒する数の技術者チーム
●TSMCの技術チームは、キャリア20年以上のベテラン幹部とキャリア5~10年の敏腕技術からなる約2万人の規模である。これらの技術者は世界有数のテクノロジー企業から幅広い領域のプロジェクトを受注したほか、先進国の軍事・航空・宇宙産業などから超高精度チップの製造を請け負うために訓練されてきた。彼らは、生産・研究開発部のチーフエンジニア、マネージャー、シニアマネージャー、部長、副所長と昇進して中堅幹部となり、多種多様な問題解決能力を身につけた。この数千人規模の熟練幹部たちがキャリア10年以上のベテラン技術者2万人を率いており、この技術部門の人材こそがTSMCの最大の武器となっている。
4.一流かつ現実的な企業文化
●TSMCの4つのコアバリューを掲げている。
①常に誠実であること(Integrity)
②コミットメント(Commitment)
③イノベーション(Innovation)
④顧客の信頼(Custmer Trust)
この4つのコアバリューを実践するには、あらゆる角度から議論し、どんなことをすべきなのか具体的に定めなければならない。さらにその方法を継続的に運用し、修正と試行を繰り返すことで企業文化として定着しやがて制度となる。
●制度導入の初期段階では、その制度をトップが尊重し、堅持することが重要である。モリスはTSMCの創業前、米国の三つの企業で経験を積んだ。特にTIでの25年間では、20人程の技術者チームのリーダーから、3000人を率いる副社長まで務めた。彼は半導体企業の競争力が、コーポレートガバナンスや企業文化の質によって決まることを目の当たりにしてきた。そのため、TSMCの経営が安定し、2000年前後に成長期に入ると、モリスはコーポレートガバナンスと企業文化に多くの時間を費やし、進化させていった。
①常に誠実であること(Integrity)
◇“私たちは、真実のみを語る”
◇“私たちは、なし得ないことを誇張しない”
◇“私たちは、お客様に対し、安易にコミットしない。けれども、一度コミットしたことには、どんな犠牲を払ってでも最後までやり遂げる”
◇“私たちは、法の範囲内で同業他社と最大限競争し、他社を誹謗中傷することなく、他社の知的財産権を尊重する”
◇“私たちは、客観的で公正、公平な方法でサプライヤーを選定し、協力する”
◇“私たちは、従業員の不正行為や、派閥などによる「社内政治」を許さない。私たちが人材を採用する際に最も重視する基準は人柄と才能であり、縁故による採用しない”
●「常に誠実であること」について、これほど具体的な踏み込んで説明している例は、国内外の大企業を見ても珍しい。特にモリスが避けたかったことは、縁故や派閥による不公平な評価である。優秀な人材が不合理な理由で昇進できず会社を去ってしまうという事態をなくしたいと考えていた。
②コミットメント
◇“コミットメントとは双方向のものだ”
◇“従業員は全力で会社に忠誠を尽くし、「会社の成功は、自分の成功」の精神で、勤勉かつ誠実に仕事に取り組む”
◇“会社は従業員を最も大切な資産と見なし、有意義でやりがいがある仕事、安全な職場環境、十分な報酬と充実した福利厚生を提供する。また、仕事以外の家族や友人関係、趣味を広げ、豊かな人生を送れるようサポートする”
◇“私たちは、株主、顧客、サプライヤー、地域社会、その他のステークホルダーに対するコミットメントを守り、各関係者の利益のバランスをとるよう努める“
◇“株主が平均以上の投資リターンを得られるようにする。顧客やサプライヤーと全面的に協力して、長期的なウィン・ウィンの関係を築く。良き企業市民として、地域社会をよりよくするための努力を惜しまない”
●このような理念は、CEOや会長がリーダーシップを取り、功績のすべてのものになる米国の大企業とは大きく異なる。
[誠実・正直であり続けること]
-TSMCが「人による支配」ではなく「制度によるガバナンス」を成功させたことが、他の99%の台湾企業と完全に異なる点である。
-「制度によるガバナンス」を実現できた理由は、数十年にわたる観察と分析から具体的かつ明確に判明している。台湾企業では幹部の親族や同郷、出身大学などの関係が重視され、派閥やグループが形成されやすい。どんな企業にも程度の差こそあれ社内政治は存在し、根絶は非常に難しい。そうした組織風土は、不公平な人事や報酬を生み出しやすい。この不合理は企業のリソースを浪費するだけでなく、経営目標が不明確になり、競争力の低下を招く。たとえ企業がある強みを生かして成長し、好業績を上げられるようになっても、意欲の高い人材が排除され、内部対立が発生すれば、従業員は大きな不公平感と不満を抱える。これは放置できない問題である。
[「ファウンドリー事業」に徹する]
-これはモリスが長年、従業員に再三伝えている言葉である。
-『我々の事業は、専業のファウンドリー・サービスだ。この分野は急成長しており、研究開発に全力を注いでいけば、成長に限界はない。だからこそ私たちはファウンドリー事業に徹して最大の成功を追求する』
[チャレンジと楽しさがある職場環境]
-TMSCでは、チャレンジができ、学びがあり、そして楽しさがある職場環境は、金銭報酬より重要だと考えている。また、優秀で志の高い人材を確保するため、全員が力を合わせてこうした環境をつくり維持していく。
5.生産技術と賃金が2大ハードル
●TMSCは優位性を維持するため、生産技術、資金、サプライチェーンの三つに注目している。
●生産能力とプロセス技術は一心同体である。プロセス技術が整って初めて、生産性を爆発的に高めることができる。
●『半導体技術の進歩は非常に速い。モリスは彼の自伝の中で、TIに入社した当初、配属先のリーダーのプロ意識に感心したが、10年後も彼の技術的な考え方は変わっておらず、そのせいで大きな後れをとっていたと振り返っている。この教訓から、モリスは78歳でCEOに復帰した後も、技術トレンドに乗り遅れて経営判断を誤らないように、毎週、半導体の技術開発に関する記事や社内でとりまとめた資料を読み続けた。』
●『2021年3月末、TSMCの上層部は工場の新設・拡張のため今後10年間で2000億米ドルを投資すると発表した。生産能力を現在の倍にして、競合を突き放す狙いがある。TSMCではこの目標を達成するため、用地取得、電力供給や水資源の確保、人材育成などで先手を打つべく、様々な行動計画を打ち出している。』
画像出展:「台湾TSMC、米国で1000億ドル追加投資-先端半導体の生産体制強化」(Bloomberg)
『トランプ米大統領は3日、台湾積体電路製造(TSMC)が米工場に1000億ドル(約15兆円)を追加投資する計画を発表した。』
5.21世紀型AIマーケティング
●TSMCは2012年頃から、顧客サービスの将来を見据えて「AIマーケティング・見積価格設定システム」の構築を始めた。この巨大データベースには半導体産業の技術、市場、特許、関連業界、個別企業の経営状況などに関するデータが蓄積、常時更新される。AIの深層学習とアルゴリズムを活用したシステム、TSMCにとって競合他社との差を広げるためのツールである。特に価格設定システムは、チップ製造の受託を一製品として見積もるのではなく、業界全体の環境(研究開発のレベル、収益性、競合分析、市場規模と成長性、技術進化の動向など)を評価し、製品の成長段階や市場におけるポジションなど幅広い要因に応じて柔軟に価格を変化させる、AIを活用したダイナミック・プライシングを実現する。そのため、TSMCには「価格設定システム」を担当する副社長を責任者とする専門部署が設けられている。
解説
[ラピダスはTSMCのライバルとなるか]
●『今や最先端半導体を独占的に生産するTSMCだが、かつて半導体王国であり、グローバルシェアの半分を握っていた日本は、その半導体の栄光を取り戻すべく、大きな政策転換を遂げている。TSMCの工場を熊本に誘致するだけでなく、茨城県つくば市にある産業技術総合研究所とTSMCの共同研究機関である「TSMCジャパン3DIC研究開発センター」を設立して、後工程の3Dパッケージを研究するだけでなく、政府が3300億円を出資し、民間企業や銀行など8社の共同出資によってRapidus(ラピダス)を設立した。ラピダスは「ビヨンド2ナノ」を標榜し、最先端半導体のファウンドリーとして、日本の半導体産業を復活させる原動力にしようとしている。
『JRDCは、TSMCがクリーンルームを備えた研究開発施設として初めて台湾以外に設立した拠点で、日本のパートナー企業とともに、次世代の3次元集積化技術や高度なパッケージング技術の研究を推進しています。』
『日本ではロジック半導体の開発・製造が40nm世代で止まっています。Rapidusはこれを何世代も飛び越え、まだだれも達成していない2nm世代から始めるという非常にチャレンジングな目標を掲げています。』
このラピダスが成功するかどうかは時がたたなければ判断できないが、気になる点は、現代の半導体製造において不可欠な、巨額の設備投資を継続して行うだけの資本がどこから出るのかという点と、先端半導体を開発するための人材が十分に存在するかという点だ。
本書でも述べられているように、TSMCの成功には様々な要素があるが、ファウンドリーというビジネスモデルを支えてきたのは、政府からの出資だけでなく、収益性の高い製品から生まれる利益を投資に注ぎ込み、他のライバルが追いつかないほど設備投資を繰り返したことにある。ラピダスがTSMCのライバルとして勝ち抜くためには、同様の設備投資を続けなければならないが、果たしてそれが可能なのかどうかは疑問が残る。
また、TSMCの成功のカギは歩留まりの高さであったことは本書からも明らかだが、そうした歩留まり率を高めるためのノウハウは、いくら博士号を持った人材をそろえても得られるものではない。様々な半導体製造を経験し、現場で問題を解決する能力があるかどうかが勝敗を分ける。TSMCは台湾の中小企業によるOEM文化の中で育った企業であり、町工場における改良・改善のノウハウを持っていたからこそ、高い歩留まり率を実現できた。日本において、先端半導体の製造を支えるノウハウがあるわけではなく、それを身につけていくためには、他の半導体産業でのノウハウを蓄積した人材が必要となってくる。そうしたことが可能なのかどうかにも注目しておく必要があるだろう。』
感想
5年10兆円の巨大プロジェクトはオールジャパンの国家プロジェクトだと思います。台湾の半導体産業は明らかに国家レベルで進められ花開きました。キーワードは資金と人材(技術)です。
私が営業で経験したプロジェクトは、比較にならない小さな小さなプロジェクトばかりですが、プロジェクトの成否のカギは、「人・物・金を動かす客観的かつブレないリーダーシップ」に掛かっていることは確かだと思います。また、“競合&協業“というあり方も考えた方が良いと思いました。
追記(2025年11月26日):”ラピダス、世界最先端1.4ナノ半導体新工場 29年稼働でTSMCを追う”
AIの進化はGPUなどの半導体を指数関数的に増加させるため、TSMCに集中している状況の逼迫が、早ければ2026年後半にも電力供給問題とともに顕在化されるという予想もあります。ラピダスがその受け皿になれれば、世界の半導体需要に大きく貢献できると思います。
(記事の全文は有料です)


