メカノバイオロジーと鍼灸

偶然、“メカノバイオロジー”という用語を知ったのですが、調べてみるとメカノバイオロジーとは生体にかかる物理的な力(メカニカルな刺激)が、細胞・組織・臓器の構造や機能にどう影響し、病気や発生・再生にどう関わるかを研究する学問とのことでした。ここに書かれたことは、まさに鍼灸の刺鍼(機械刺激)そのものを説明するような内容でした。

画像出展:「世紀をこえてリバイバル!生命の謎をひもとくメカノバイオロジーの可能性

『1世紀も前に問題提起されたメカノバイオロジーはここ10年間で飛躍的に発展し、組織や細胞にはたらく物理的な力の役割が少しずつあきらかになりつつあります。この問題に取り組むiCeMSの研究者が、その魅力と展望をご紹介します。』

 

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そこで、詳しく知りたいと思い、「別冊・医学のあゆみ」という医学雑誌を見つけました。タイトルは“メカノバイオロジーからメカノメディシンへ”です。

内容は極めて専門的で、とても歯が立ちそうになかったため、「バイオロジーと刺鍼の関係性につながるようなものはどれですか?」とAI(Perplexity)に聞いてみました。推奨として提示されたのは6つあったのですが、今回は上位4つを取り上げることにしました。

編集:曽我部正博

発行:2017年5月

出版:医歯薬出版

目次

1.メカニカルストレスと疾患

1)メカニカルストレスと動脈硬化 ―抗炎症ナノ粒子による治療戦略 

2)メカニカルストレスと心不全 

3)メカニカルストレスと骨格筋肥大・筋委縮 

4)骨粗鬆症―骨の恒常性と破綻 

5)上皮の恒常性維持と細胞競合における機械的な力の役割  

2.メカノセンシング/シグナリング機構 

6)伸展・圧縮センシング 

7)ずり応力センシング 

8)TRPシグナルを利用した機会受容 ―心臓の可塑性や生理機能を支えるTRPチャネルを中心に 

9)ATPシグナリングと疾患 

10)p130Casを介する細胞のメカノ機能と恒常性の制御 

11)Hippo-YAP/TAZシグナル伝達経路とメカノトランスダクション  

3.メカノメディシン 

12)虚血性心疾患に対する超音波血管新生療法の開発 ―メカノトランスダクション機構の医療応用

13)エクササイズピル、エクササイズミメティクスの可能性 ―運動療法のあらたな展開へ

14)メカノ生殖補助医療 

15)皮膚・軟部組織のメカノバイオロジーとメカノメディシン ―形成外科・美容医療・創傷治癒におけるメカノセラピー

16)流れに関係する呼吸生理学と癌転移 

17)メカノバイオロジーに基づく筋力トレーニング ―筋肥大と抗筋委縮のメカニズムを探る

4.メカノメディカルエンジニアリング

18)メカノ医工学の展望

19)再生医療におけるメカノメディカルエンジニアリング

20)動脈壁の力学応答と革新的動脈硬化診断への展開

21)インテリジェント循環器医療

22)骨再生スキャフォールド構造設計の計算医工学支援

23)メカノバイオマテリアル

1. 皮膚・軟部組織のメカノバイオロジーとメカノメディシン

・『メカノバイオロジーは、張力やせん断応力、静脈圧や浸透圧といった物理的刺激が細胞、組織、臓器あるいは生体にどのような影響を与えるかを解析する生物物理学の研究領域である。メカノバイオロジーの概念をもとにした医学研究はメカノメディシンであるが、著者らは創傷治癒や組織再建、組織再生、さらには美容医療や抗加齢医療に携わる形成外科医としてメカノメディシンを実際の臨床現場で考え、物理的刺激をコントロールする医療“メカノセラピー”を実践してきた。

メカノバイオロジー・メカノメディシンはつねに物理的刺激が加わっている筋や骨格を扱う整形外科、心臓や血流を扱う血液循環器内科などでは比較的なじみのある研究分野であるが、皮膚や軟部組織をおもに扱う形成外科・皮膚科領域ではまだ一般的ではない。しかし、皮膚こそつねに物理的刺激を受けている組織であり、形成外科・皮膚科領域の医師はメカノバイオロジー・メカノメディシンを理解し、日々の臨床でメカノセラピーを実践する必要がある。』

■皮膚と物理的刺激

・皮膚に適度な張力を加えると、炎症や虚血は生じないが表皮の基底細胞や毛細血管が増殖することは実験的に示されている。

・皮膚は大きく分けると表皮、真皮乳頭層、真皮網状層の三層構造になっている。メカノバイオロジーの観点から考えれば、膠原線維は抗張力、弾性線維は柔軟性、さらに基質は抗圧縮力を規定すると考えられる。さらに、表皮は外的刺激からの防御の役割を担っている。

・皮膚は常に内部・外部から物理的刺激にさらされ、その機能・構造を維持していると考えられる。

■皮下組織と物理的刺激

・皮下組織は主として脂肪組織からなる。脂肪組織におけるメカノバイオロジーも徐々に研究が進んでいる。

■創傷治療・瘢痕治療におけるメカノセラピー

陰圧閉鎖療法はポリウレタンフォームを創部に密着させ吸引することで、創表面の細胞に物理的刺激を与え、その結果、細胞増殖、血管新生、虚血の改善、神経線維の増殖が生じて円滑に創傷治癒が促進することが知られている。

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■皮膚疾患のメカノバイオロジーとメカノセラピー

・ケロイドや肥厚性瘢痕は、胸部、下腹部や上腕など、腕を上げる、座る、胸を張るといった日常の動作で伸展される部位を好発部位とすることが知られている。微弱な炎症が存在し、そこに物理刺激が加わることによってケロイドや肥厚性瘢痕が発生し、時に拘縮が生じる。

・眼瞼では開眼しても閉眼しても皮膚に緊張がかかることが少ない。このように構造的に物理的刺激を受けにくく、安静が保たれている部位ではケロイドや肥厚性瘢痕が発生しないことは、これらの発生機序にメカノバイオロジーが多分に関与していることを示唆させる。したがって、瘢痕治療ではいかに物理的刺激を抑制するかを考慮すべきであり、メカノバイオロジーの観点から治療を考える必要がある。

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. 伸縮・圧縮センシング

・『われわれのからだを構成する細胞には、臓器の変形や細胞自身の活動によって、伸展、圧縮、ずり、曲げなどの変形が生じる。事実上すべての細胞がこれらの変形を感知し、その情報を細胞機能の調節に役立てている。変形に対する応答異常や過度な変形刺激が疾患とかかわることも徐々に明らかにされてきており、細胞変形の感知機構は単に細胞生物学的興味にとどまらない。一方で、細胞内の変形およびそれによって生じる応力を分子/分子複合スケールで操作・定量することが困難なこともあり、その分子メカニズムの解明はなかなか進まなかった。しかし最近になって、伸展・圧縮の感知に細胞接着構造およびストレス線維が中心的な役割を果たしていることが確実になるとともに、これらの構造中で張力変化を検出し生化学シグナルを生成する分子実体とその作動機序がすこしずつ明らかになってきた。本稿では細胞が伸展・圧縮を感知する分子機構について、最新の知見をもとに議論する。』

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細胞の伸展・圧縮を感知する分子機構と疾患.pdf
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・体の各所には筋収縮や臓器活動、外部物体の接触などに伴う変形がたえず生じている。我々にはこのような変形をとらえるのに特化した感覚(機械感覚)が備わっており、聴覚、触覚・圧覚、運動感覚、内臓感覚などがある。これらの機械感覚の入力系として変形刺激を電気信号に変換する専用の受容器が存在する。

・気体の振動は内耳聴覚器に伝達され、有毛細胞を変形させることで受容器電位を生じさせ、音として認識される。また、骨格筋の伸長と伸長速度は筋紡錘によって検知され、筋感覚として姿勢や肢位の保持に寄与する。

・感覚系に属さない一般の細胞にもたえず、伸展、圧縮、ずり、曲げなどの変形が生じている。これまでの研究から、事実上すべての細胞がこれらの変形に対して応答し、それによって生体機能の調節・維持に深く関わっていることが明らかになってきている。

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細胞接着構造とストレス線維.pdf
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生化学シグナルを生成する分子実体と作動機序.pdf
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3.Hippo-YAP/TAZシグナル伝達経路とメカノトランスダクション

・地球上の生物は常に重力の影響を受けていながら、その力に抗って複雑な三次元(3D)臓器を形成し、維持している。また、生体内の細胞は血管拡張・収縮に起因する進展刺激や血流によるせん断応力(シェアストレス)、膜張力などの力を受けている。これら力学的ストレス(メカニカルストレス)は、細胞の増殖。分化・移動といった細胞応答に影響を与え、正常な臓器形成に重要である。

現在、メカニカルストレスを感知するメカノセンサーの探求や生理学的シグナルに変換するメカノトランスダクション機構の解明が盛んに行われている。転写共役因子Yes-associated protein(YAP)とtranscriptional coactivator with PDZ-binding motif(TAZ)は細胞増殖や細胞死などの多様な細胞応答を制御し、あらたにメカニカルストレスに応答する分子として機能することが明らかになった。また、著者らは、YAPが細胞や組織の張力を制御することにより3D臓器の形状・維持に関することを見出した。さらに、細胞外基質(extracellular matrix:ECM)の硬化に伴うYAP/TAZ活性化が乳がんやリンパ管機能不全、肺や肝の線維化にも関与することが示唆された。これらの報告から、YAP/TAZはメカノトランスダクション機構の主要な構成分子のひとつとして注目されている。

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転写共役因子と刺鍼.pdf
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YAP・TAZ-TEADの異常な活性化と刺鍼.pdf
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4.メカニカルストレスと骨格筋肥大・筋萎縮

・『骨格筋は人体最大の運動器であり、つねにメカニカルストレスにさらされる組織のひとつである。骨格筋は可塑性に富む組織であり、運動といったメカニカルストレス増加時には筋肥大を生じ、逆にメカニカルストレス低下時には筋委縮を生じる。メカニカルストレスは細胞内の蛋白質合成と分解のバランスを制御することで筋肥大・筋委縮を促進することが明らかになってきた。しかし、骨格筋へのメカニカルストレスがどのようにして骨格筋細胞に感知されるのか、そしてどのようにして細胞内シグナル因子の活性化・不活性化へとつながるのか大半が明らかになっていない。本稿では、近年明らかになりつつある蛋白質合成と分解を制御するシグナル経路について概説し、メカニカルストレスと各シグナル経路との関係について解説する。』

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・骨格筋は自身の活動状態に応じ、環境に適した最適な骨格筋重量を維持している。運動、筋力トレーニング、リハビリテーションといった骨格筋への力学的な負荷(メカニカルストレス)は細胞内の蛋白質合成経路を活性化し、筋肥大を生じさせる。逆に、寝たきりやギプス固定などに伴う筋の不動、宇宙遊泳などの微小重力環境下での負荷のさまざまな慢性疾患によって骨格筋内の蛋白質分解経路は活性化され、筋委縮が生じる。特に、超高齢化社会を迎えつつある日本において、加齢に伴う筋委縮(サルコペニア)は喫茶の医学的課題となりつつある。

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慢性疾患と筋委縮のメカニズム.pdf
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感想

『メカノメディシンは、外から加わる力がECM(細胞外マトリックス)や線維芽細胞といった組織レベルの力学環境を変化させ、その情報がメカノセンサーを介して神経系や臓器機能の変化へと連鎖していく過程を、体系的に扱うものである。この観点からみると、鍼灸はまさに局所の力学環境に介入し、線維芽細胞のメカノセンサーを高い空間分解能でターゲットする(非常に限られた小さな領域だけをねらって刺激できる)「機械刺激デバイス」として、メカノメディシンのなかに位置づけ直すことができる。』これもAIがまとめたものです。

これによると、鍼とはメカノメディシンにおける「機械刺激デバイス」という位置づけになります。そしてメカノバイオロジーの視点では、慢性痛の本態は神経だけでなく“力学環境+線維芽細胞の異常適応”として考えることができるとされていますので、鍼灸とは“力学環境+線維芽細胞の異常適応”に対し、機械刺激デバイスとして、限られた非常に小さな領域だけをねらって刺激することにより、慢性痛の改善等に働きかけることができる施術法と言えるのではないかと思います