腎機能とスタチン1

4年ぶりの健診を受けました。問題はLDLコレステロールの194㎎/dL(基準値65-135)と、クレアチニン1.09㎎/dL(基準値0.65-1.07)です。

コレステロールは細胞膜やステロイドホルモン(副腎皮質ホルモン、性ホルモンなど)、胆汁酸の材料になるとても重要な物質です。体内のコレステロール量は100~150gとされていますが、その約25%は脳に集中しています。神経系にも多く、脳からの情報を体の各部に伝えるためにはコレステロールは不可欠です。

また、LDLコレステロールは体内に運ぶ働きをしており、悪玉などといわれるものではありません。悪さの根源はLDLコレステロールを酸化させる活性酸素であって、LDLもHDL同様、重要なコレステロールに違いありません。

LDL(運搬)とHDL(回収)
LDL(運搬)とHDL(回収)

画像出展:「前田医院(寺井町)

このイラストにあるように、LDLは必要不可欠なコレステロールを届ける“運搬人”です。笑顔になっているように決して悪者ではありません!! 一方のHDLは“回収人”という役割を担っています。なお、コレステロールの働きについては以下のサイトをご確認ください。

1.コレステロールの体内での働きは? (日本食肉消費総合センター)

活性酸素によりLDLが酸化
活性酸素によりLDLが酸化

画像出展:「岡部クリニック

必要不可欠なLDLコレステロールも、多すぎるのは問題です。しかし、その原因は「活性酸素によりLDLコレステロールが酸化する」ことです。つまり、引き金を引くのは“活性酸素”です。

 

活性酸素によりLDLが酸化
活性酸素によりLDLが酸化

画像出展:おおた内科・消化器科クリニック

活性酸素については、この“おおた内科・消化器科クリニック”さまが詳しく説明されていました。

 

ただし、多すぎるのは問題です。個人的には150㎎/dL以下なら問題ないのではと考えていますが、さすが190オーバーは明らかに問題です。

「これは薬だな」と思ったのですが、2018年3月の『「腎臓が寿命を決める」とは』というブログで、腎臓はとても重要な臓器であるという認識があっため、クレアチニン1.09㎎/dLという値はそれほど心配するものではないものの、ある意味薬で下げられるLDLコレステロール194㎎/dLより、改善が難しいとされる、腎臓の働きを示すクレアチニン1.09㎎/dLの方がむしろ気になりました。

例えば、痛み止めとしてよく使われる、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)は腎臓病の患者さまにとって禁忌とされており、薬を服用する場合も注意が必要だなと思っていました。

DKI(薬剤性腎障害)
DKI(薬剤性腎障害)

画像出展:「腎不全と薬の使い方Q&A」

DKIとは“薬剤性腎障害”です。この円グラフをみると、痛み止めのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)抗菌薬の占める割合が顕著に多くなっています。まさに腎臓病患者さまにとって、これらの薬は禁忌です。

 

 

このことから、脂質異常症の薬として有名なスタチンが腎臓にとって優しい薬なのか禁忌の薬なのか、まず確認したいと思い、一度お持ち帰りにしました。

そして調べてみると、色々と有益な情報がありました。

CKDと脂質異常症
CKDと脂質異常症

画像出展:「エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2009

グレードA:行うよう強く勧められる

レベル4:分析疫学的研究:疫学研究とは多くの人を対象に、病気の発症率や有病率、病気の原因などを調べることを目的に行われる研究の総称。特に病気の原因となる要因を分析する目的で行われる疫学研究を、分析疫学的研究と呼ぶ。

 

これは、一般社団法人 日本腎臓学会発行の『エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2009

に書かれているページです。

特に1と3は、CKD(慢性腎臓病)と脂質異常症との関係性を明確に伝えています。

1.脂質異常症は、CKD の新規発症、CKD の進行だけではなく、CVD(心血管疾患) 発症の危険因子である。 

3.スタチンを用いた脂質管理により、CKD 進行抑制および CVD 発症予防が期待される。 

腎不全と薬の使い方Q&A
腎不全と薬の使い方Q&A

CKD患者では、リポタンパクの異常(①多量のタンパク尿、②GFRの低下、③糖尿病性腎症)のほかに、最近ではコレステロール吸収亢進、多価不飽和脂肪酸の代謝異常などで脂質異常症を発症すると考えられています。

 

左をクリック頂くと、PDF7枚の資料が表示されます。

多くの慢性腎臓病(CKD)には脂質異常症が続発するが、その成因にはアルブミン尿と腎機能低下の要因が複雑に関連する。CKDにおける脂質代謝異常が腎疾患を悪化させるリスクとなることのみならず 冠動脈疾患のリスクであることが指摘されている。強力なLDLコレステロール低下薬であるスタチンは腎機能低下を抑制し、タンパク尿を軽減させることがメタ解析で示されている。強力なトリグリセリド低下とHDLコレステロール増加作用を有するフィブラートはタンパク尿を低下させる可能性があるが、腎機能低下症例では排泄が遅延するため慎重に投与すべきである。様々な脂質代謝改善薬の腎機能に対する影響をみても小規模の臨床研究はあるが、脂質低下療法がどの程度タンパク尿を改善し、どの程度腎機能の保持に寄与するかについては大規模で長期的な介入試験の集積が必要である。 

〔日内会誌 96:2812~2818,2007〕 

以上のことから、脂質異常症の薬、スタチンは腎臓にとって優しい薬であり、“腎保護作用”も期待されている薬であるということが分かりました。

そして、薬物治療に真剣に向き合うならば、その救世主として期待されている“スタチン”を詳しく知りたいと思い見つけたのが今回の本でした。

初版発行は2006年なので14年前に発行された本ですが、何といっても著者の遠藤 章先生が“発見者”であるという点に惹かれました。

青カビから作られた奇跡の薬
青カビから作られた奇跡の薬
新スタチンの発見
新スタチンの発見

著者:遠藤 章

発行:初版発行2006年9月

出版:岩波書店

 

 

目次

プロローグ

1 新薬の種を求めて

コレステロールと冠動脈疾患

動脈硬化の原因

どうすればコレステロール値がよく下がるか?

ペニシリンの発見

世界中で宝探し

新薬の種探し始める

青カビから発見

2 動物実験で二度の危機

ラットのコレステロールが下がらない

自らラットを飼う

なぜ下がらない?

ニワトリとイヌには劇的な効果!

肝毒性の疑いで再度の危機

毒性学者の言い分

3 重症患者には安全でよく効いたのに

再復活へ

臨床試験は順調であった

突如中止に

失敗の原因

4 強力なライバルの出現

幻のプロポーズ

世界大手メルクのねらい

新たな発見

アルバーツからの手紙

一瞬、耳を疑う

メルクの独占を許さず

商業化スタチン第一号の誕生

天然スタチン―コンパクチンの仲間たち

合成スタチン

5 大規模臨床試験から見えてみたこと

コレステロール値を下げて心臓発作が減ったのか

大規模臨床試験

多彩な生理・薬理作用

エピローグ

プロローグ

コレステロールは生体のあらゆる組織にとって不可欠な物質である。生体膜の重要な成分であり、性ホルモン・副腎皮質ホルモン・胆汁酸などはコレステロールから合成される。

●1970年代初めにカビやキノコなど微生物の中にコレステロールの合成を阻害する物質をつくるものがきっといるはずと、6,000株の微生物を調べ終えていた1973年に、ついに青カビからコレステロール合成阻害剤スタチン1号となる「コンパクチン」を発見した。

●コンパクチンの発見から14年後の1987年、スタチン2号のロバスタチンがアメリカ食品医薬品局(FDA)の承認を得て発売された。

●50,000人の被験者(患者)を対象とした七つの大規模臨床試験から、スタチンはLDLコレステロールを25~35%下げることが示された。

1 新薬の種を求めて

どうすればコレステロール値がよく下がるか?

●コレステロールは食事から摂取し、腸管から吸収される「外因性コレステロール」と体内、主として肝(臓)で合成される「内因性コレステロール」の二つの経路で供給される。 

体内のコレステロール
体内のコレステロール

画像出展:「解決!コレステロールに関する素朴な疑問

 

 

●外因性コレステロールが必要量に満たないときは、不足分を内因性コレステロールが補う。

外因性コレステロールが必要量を満たせば、外因性コレステロールのネガティブ・フィードバック制御を受けて、肝コレステロール合成は停止する。

外因性コレステロールのネガティブ・フィードバック制御を受ける酵素がコレステロール合成の「律速酵素」として知られるHMG-CoA還元酵素(以降「HMGCR」とする)である。このHMGCR阻害によって肝コレステロール合成を阻害することが有効である。

●研究者の中には「コレステロール合成の阻害は危険である」という意見は少なくなかった。これはコレステロールが細胞膜の重要な構成成分であり、胆汁酸の原料であり、副腎皮質ホルモン、性ホルモンの原料でもあったためである。

世界中で宝探し

●『抗生物質の例から、私は微生物の中にはコレステロール合成阻害物質をつくるものがいるだろうと予測した。微生物が抗生物質をつくるのは、外敵である他の微生物を殺すかその生育を阻止して生き残るためだという説があった。私はこの説を取り入れ、微生物の中には、コレステロール合成阻害物質で外的微生物を殺すか、その生育を阻止するものが存在する可能性が十分あると考えた。』

●『当時の流行には逆行したが、私はコレステロール合成阻害物質を生産する可能性が高い微生物として、原核生物の放射菌ではなく、真核生物のカビキノコを選んだ。放射菌がつくる抗生物質の中には優れた抗菌力をもつものが多かったが、ストレプトマイシンの難聴、クロラムフェニコールの再生不良性貧血のように、安全性に懸念がある例が目についた。一部のカビは古くから発酵食品の製造に利用され、キノコの中には食用キノコとして重用されるものがあるのに、放射菌には食品の製造・加工に使用された例がないことも気がかりであった。

カビとキノコを選んだのにはもう一つの理由があった。それは、私が東北地方の山村育ちで少年時代からカビとキノコに接する機会が多く、その頃から興味があったのに加え、製薬会社の三共に入社した1957年から65年までの8年間も、カビとキノコが生産するペクチナーゼという酵素を研究していたので、扱いに手慣れていたからである。』

新薬の種探し始める

●米国留学中から「コレステロールの吸収阻害剤よりも合成阻害剤のほうがはるかに優れたコレステロール低下剤になる」「カビとキノコの中には他の微生物との生存競争に打ち勝つための武器として、コレステロール合成阻害物質をつくるものがいる」と考えていた。

青カビから発見

●1972年8月から、カビとキノコなど2570株を集めて調べた結果、三株にコレステロール合成阻害活性が認められたが、どの株も阻害活性が弱すぎるか、活性物質の生産性に再現性が認められないなどの理由で研究を中止した。

ML-236Bは英国の研究者たちが別の青カビ(Penicillium brevi-compactum)から単離して、コンパクチン(compactin)と命名されていた。

こちらはLSI札幌クリニックさまの記事です。

ガードナー賞は、iPS細胞を開発した山中伸弥京都大教授や、微生物から熱帯感染症の特効薬を開発した北里大の大村智特別栄誉教授ら、過去のノーベル医学生理学賞の受賞者も数多く受賞している、いわばノーベル賞を受賞するための登竜門のような賞です。

スタチンとは体内でのコレステロール合成に関係する酵素を阻害する物質のことで、遠藤氏が製薬会社三共(現・第一三共)の研究員時代に青カビから発見したものです。このスタチンが既存の薬剤と比較して、血中のコレステロールを劇的に低下させ、動脈硬化から発症する心臓病の予防や、血管疾患の治療に革命をもたらしました。』