「閃く経絡」(肝と機能性子宮出血)

非常にうまくいった施術の中に機能性子宮出血があり、ホームページの「適応疾患」⇒「内科・その他」のページに掲載しています(「機能性子宮出血」)。

この中で、なぜ出血が止まったのかという疑問に対し、肝臓がもつ血液凝固の働きが関係しているのではないかという推測をしていたのですが、今回の『閃く経絡』の中にそれを裏付けるような記述がありました。今回のブログはその箇所をお伝えするというものになります。

著者:ダニエル・キーオン
「閃く経絡」

著者:ダニエル・キーオン

出版:医道の日本社

女性が月経の問題を抱えると、中医学は肝、特に肝血と呼ばれるものに着目する。肝臓は血液にとって非常に重要である。肝臓は血中に浮遊するタンパク質、脂肪、コレステロール、凝固因子を制御・生成するこれらすべてで共通することは、基本的に血液中の水分で溶けず、脂溶性で浮遊している。これは水と油を強く振ると、一緒に混ざって、クリーミーな混合物(懸濁液)になるのと似ている。

肝臓は血液中の脂肪成分を制御する。例えば、腎臓でほとんどの薬剤を除去しているが、脂溶性の場合、まず肝臓で代謝されなければならない。コレステロールが原因の身体の異常な「脂肪性」沈着物(アテローム性硬化)はスタチンで治療される。スタチンは、肝臓がこの「脂肪」を処理する方法を変える薬剤である。

中医学での肝血とは、血の脂溶性懸濁液成分を意味しており、これは肝によってコントロールされる。残りの血液は水分、イオン、赤血球、白血球で構成される。先述したように、これらすべては腎の管理下にある。

凝固因子は、肝血と月経の関連をとても明瞭に示す。凝固因子は肝臓で産生され、正常な凝固に重要である。凝固因子の障害で重い出血が引き起こされる。しかし、大量出血を呈する女性を検査しても、深刻な異常が見つかることは珍しい。医師が異常な月経を治療するとき、第1選択はいつも、凝固因子ではなく月経周期をコントロールするホルモンである。「ピル」で効かなければ、段階的により強いホルモンを用いていき、挙句の果てに人工閉経を誘発する。巨大ハンマーでナッツを砕くようなものだ。

医師が用いる別のアプローチとして、凝血塊の分野を抑える作用を持つ「トラネキサム酸」と呼ばれる薬剤がある。これはよく効くが、他で血塊を生じさせることがある。いずれにしろ、根底にある病理を本当に理解していない治療であるばかりか、そこから目を背けてしまっている。

医師として仕事をするなかで、痛みを伴う、重い生理を抱えた多くの女性を診てきた。私はいつも鍼灸を推奨している。「三陰交」(SP6)のツボを単純にマッサージするだけでも非常に効果的である。これが作用するプロセスの一部に「ヒスタミン」というホルモンがおそらく関わっている。 

クリックすると「三陰交」を確認できます。

肝臓と関係しているホルモンを1つ挙げるなら、それはヒスタミンである。肝臓はヒスタミンを分解する主な臓器である。ヒスタミンは肝疾患で上昇する。抗ヒスタミン薬は肝不全の症状の治療に役立つ。ヒスタミンはイライラさせる。アレルギー、発疹、じんま疹、虫刺されでかゆくなったり、ヒリヒリしたりするのは、すべてヒスタミンのせいである。中医学では、肝は怒りの限界線を適正に抑えて、「感情面」でも制御している。まさに肝は怒りの臓器である。ヒスタミンはイライラを感じさせるだけでなく、病原菌や寄生虫に対して過敏にする。ヒスタミンはあなた自身の身体と外界との境界線を定める。

そうなると、中医学を学ぶ者にとって、機能性子宮出血の女性でヒスタミン・レベルが上昇するのは、驚きではないはずだ。

ヒスタミンは、「肥満細胞」と呼ばれる特殊な細胞の中にある「顆粒」に含まれる。月経で、肥満細胞は「脱顆粒して」、ヒスタミンを放出する。(注意深い読者は、これがアナフィラキシーと同じプロセスだと気づくだろう)。読者の50%以上を怒らせるリスクを恐れずに言うと、これは一部の女性が……つまり……1カ月に1度、少しばかりイライラさせるだけでなく、子宮で赤血球と液体を漏れやすくさせる。女性の「血液」損失の約50%は血液ではない。実際に漏れるのは体液であり、ヒスタミンはこれを悪化させる。

脳科学辞典:ヒスタミン
脳科学辞典:ヒスタミン

クリックすると「脳科学辞典」が表示されます。

『中枢では、視床下部乳頭体にヒスタミンニューロンが集まっており、そこから脳内各部位に投射し、神経伝達物質として働いている。睡眠・覚醒、摂食調節などに関与している。』

また、「幸せホルモン」として有名なオキシトシンの分泌促進にも関わっているようです。

ヒスタミンは、肝臓と女性の月経の問題に関連し、月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)にも関連する。月経前症候群の一般的症状の多く、例えば、頭痛、不眠症、疲労、吐き気、腹痛、下痢などは、ヒスタミン不耐性とも関係している。さらに、喘息、蕁麻疹、湿疹、てんかんはすべて、PMSの間、悪化することが示されている。これらはヒスタミンと肥満細胞が核心にある病態である(てんかんは除く)。さらに、PMSを悪化させると女性が考える食物の多く(チョコレート、赤身の肉、アルコールなど)は、すべて高レベルのヒスタミン、またはその元になる「ヒスチジン」が含まれる。

月経が周期を持つということを無視してはいけない。この周期にはエストロゲンとプロゲステロンが関わる。PMSの症状の多くは、これら2つのホルモン(特にプロゲステロン)の不均衡に起因する(そうでないこともある)。しかし、ヒスタミンとこれらのホルモンが関連している。ヒスタミンはプロゲステロンのレベルを上昇させる。専門家によれば、肥満細胞はこれら2つのホルモンに反応して子宮で活性化し、数が増えると考えられている。

東西の医学を融合した立場でこれを説明すると、東洋医学のいう肝による月経の制御は、その一端がホルモンであるヒスタミンの代謝を通じて行われる、ということになる。

肥満細胞とヒスタミンが女性の毎月の問題の核心近くにあるとはいえ、抗ヒスタミン剤で治るというほど、治療は単純でないかもしれない。70年間にわたり、これと同じ病理がしばしば喘息の根底にもあることが知られてきた(中医学において、喘息は肝氣の滞りが肺に影響するとされる)。喘息治療がうまくいくと、ヒスタミンのレベルが下がるにもかかわらず、抗ヒスタミン薬自体は喘息にほとんど成果が上がらなかった。抗ヒスタミン薬(例えばMidol™)がPMSで用いられるが、(現在のところ)治療の大黒柱ではない。しかし、月経周期の始まりで抗ヒスタミン薬を投与する治験があるとすれば、興味深いものとなることだろう……。』P291