経絡≒ファシア6

人体の張力ネットワーク
人体の張力ネットワーク

監訳:竹井 仁

出版:医歯薬出版

発行:2015年6月 

目次は”経絡≒ファシア1”を参照ください。

 

1.8 内臓筋膜

序論

・内臓か身体かにかかわらず、身体の臓器系は高度に分化した組織から構成されており、維持のために複雑な支持機構を必要とする。この支持機構はコラーゲン線維およびエラスチン線維を含む結合組織ネットワークであり、すべて筋膜と称される。線維成分の密度は個体あるいは局所的に大きく変化する。

内臓筋膜

頭蓋底から骨盤鉢までの体腔の裏打ちする内臓筋膜は、4つ(浅筋膜、深筋膜、髄膜、内臓筋膜)の主たる筋膜の中でも群を抜いて複雑である。

・発生学的に筋膜層は間葉と称される。

・筋膜層は内臓組織から派生し、その疎性基質内にあり胸膜、心膜、腹膜の大きさに広がる。この拡張が起こるとき、内臓筋膜は正中に沿って内側に統合されるのと同様に、身体壁に対して外方へ圧縮される。

・内臓筋膜は身体の正中構造に対して被膜組織を供給する。

正中筋膜は頸部を通って縦隔を占有する胸郭内へ入り込み、その付着部から頭蓋底へと広がる支柱を形成する。この支柱は横隔膜において腹部へ入り、大動脈と食道裂孔を通過し骨盤鉢へ入り込む。

・正中筋膜は縦隔の延長を形成する。

縦隔領域は大動脈、下大静脈、胸管のような主要脈管構造を含む。これらの構造と各々の分枝は筋膜層で包まれる。そして、それらが個々の臓器系に達するために外方へ広がるにつれて神経血管束を伴う。

・頸部内臓筋膜

-内臓筋膜は頭蓋領域では、咽頭と頭蓋底付着部を取り囲む。

-内臓筋膜は頭蓋領域上方では、咽頭脳底および咽頭頬筋筋膜を含み、上咽頭収縮筋の付着部を取り囲む頭蓋底と融合する。

-頸部内臓筋膜は頸部下方に延びて、鼻咽頭、口腔咽頭と残りの頸部内臓を取り囲む。

-内臓筋膜は頸部では、甲状軟骨および甲状腺を取り囲む筋膜、気管前筋膜、咽頭後筋膜、鼻翼(頸動脈鞘)筋膜などの局所性筋膜と結合する。

-内臓筋膜は舌骨筋の内側、頸長筋の前方の継続した垂直の袖のように胸郭内へ広がる。 

頸椎縦隔(頸部内臓筋膜)
頸椎縦隔(頸部内臓筋膜)

画像出展:「膜・筋膜」

脳蓋底(セクション22)から頸胸椎移行部(セクション86)までの頸椎横断面。

 

・胸部内臓筋膜

-内臓筋膜は胸郭内に入ると同時に2つの胸膜腔へ収容させられる。それらは胸壁に向かって平坦化することで、胸内筋膜とよばれる。中央では臓筋膜が全体として拡大し縦隔を包み込む。 

胸部内臓胸膜
胸部内臓胸膜

画像出展:「膜・筋膜」

胸膜嚢開口部の胸内筋膜の広がり。

 

-内臓筋膜は縦隔において心臓の大血管を取り囲み、前方では線維性心膜となるため厚くなる。後方では大動脈、食道、気管と気管支、胸管を取り囲む疎性基質を形成する。

・腹部内臓筋膜

臓壁板は腹膜を取り囲むため外方へ広がり、後方は腹壁内筋膜、前方は横筋筋膜とよばれる。

-腹壁内筋膜は後方の正中に沿って著しく厚くなり、胸郭の縦隔に類似した垂直柱を形成する。

内臓縦隔(内臓筋膜)
内臓縦隔(内臓筋膜)

画像出展:「膜・筋膜」

胸郭から腹部、骨盤を含む横断CT像。なお、左下隅の写真は、84歳女性の腹膜器官をすべて取り除いた身体後壁を示しています。

 

 

内臓筋膜は正中で顕著に厚くなる体壁を覆うカーテンを形成し、腹部大動脈と下大静脈などの主要血管や神経通路を覆う。

腹部縦隔筋膜の延長は腹部の内臓に到達し、胃間膜、腸間膜、結腸間膜へと移る。この延長は血液供給、神経支配、リンパ管が腹部の腹膜器官に到達する経路に沿っている。なお、これは胸郭の縦隔に見られるものと極めて類似している。

-内臓筋膜は肺組織の中を深く通過するにつれて肺根で構造物を包み、これらの構造物に同行する。

身体後壁上では、筋膜の特に厚い塊は腎臓を取り囲む。この腎筋膜はジェロタ筋膜とよばれる。

-腎筋膜は腎血管系に従って正中から離れ、腎被膜を取り囲む大きな塊の高密度な脂肪細胞を形成する。

腎筋膜は後方では大腰筋と腰方形筋の体軸(被膜)筋膜と混ざりあう。

・骨盤内臓筋膜

-腹壁内筋膜は骨盤鉢において、腹膜の下方領域を取り囲む骨盤内筋膜につながる。

-骨盤内胸膜の下縁は骨盤隔膜であり、肛門挙筋と尾骨筋からなる。

-骨盤隔膜は体壁から派生する体軸または被膜筋膜で裏打ちされている。

-骨盤隔膜の下方は皮下脂肪の筋膜で満たされている坐骨直腸窩である。

-骨盤内筋膜の前下縁は膀胱底を取り囲みながら恥骨後隙を埋める。

-内臓筋膜(腹膜筋膜)は仙骨岬角の高さで下腹神経叢を取り囲みながら正中ヒダを形成し、さらに総腸骨血管と関連するリンパ通路を取り囲みながら2つの細い外側ヒダを形成する。正中ヒダは仙骨岬角の下方において外側ヒダ内の血管と合流しながら下腹神経叢を外側へ一掃するように分ける。これにより内臓筋膜(骨盤内筋膜)は、直腸、生殖器、膀胱などの正中器官を取り囲む。

-内臓筋膜(骨盤内筋膜)は胸部と腹部と同様に、正中で厚くなりこれらの器官を取り囲む縦隔を再び形成する。

-女性では、内臓筋膜の骨盤縦隔成分の延長は子宮広間膜の核を形成し、この内臓筋膜の凝固体は子宮頸横靭帯を形成する。

-男女とも、内臓筋膜の凝固体が直腸間膜と称されている直腸を取り囲む。 

骨盤内臓筋膜
骨盤内臓筋膜

画像出展:「膜・筋膜」

 

 

・要約

内臓筋膜は頭蓋底から骨盤腔内へと追跡することができ、体壁を圧迫する体腔を取り囲む包装物を形成する。それはまた、内臓周辺で包装物を形成しそれらの多くが腸間膜二重層の腹膜からなる膜。腸管を腹腔)後壁に固定している]のような提靭帯に沿って進み到達する。

内臓筋膜は特定の臓器に到達するために、胸郭、腹部、骨盤縦隔から外方に放散して、神経血管およびリンパ束の導管としても機能する。

内臓靭帯

内臓靭帯は身体各部位に存在する靭帯とは全く異なるものである。

・身体各部位の靭帯は骨と骨を結合する高密度で規則的な結合組織構造であり、被覆筋膜が薄い周囲靭帯によって囲まれており、概して体軸または四肢の筋膜の一部である。

内臓靭帯は一般的に身体各部の靭帯ほど強固ではなく、解剖学上はっきりと定義されるものではない。

内臓靭帯の主な機能は、血液供給と神経支配を臓器系へ運ぶこと、臓器を体腔に緩く固定することである。

・内臓靭帯は刺激作用や炎症によって作り出される線維性癒着と区別しなければならない。

癒着

線維性癒着は慢性炎症の領域から生じる。

・修復過程において活性化された免疫細胞が、線維芽細胞を刺激するサイトカインを放出し、新たなコラーゲンを生成する。生成されたコラーゲン線維は配列が不規則であり、構造は筋膜に類似している。

・生成されたコラーゲンが過剰な場合には癒着をつくり、病的な状態に発展させる場合がある。

癒着は内臓性、身体性のいずれにおいても生じる可能性がある。腹部と骨盤では癒着は腸管を包み、その腔内での運動を妨害し生殖機能を妨げる。また、手根管では滑膜鞘の内外に形成される癒着は、手指屈筋腱の運動を妨げる。

1.9 頭蓋内における膜性構造と髄腔内の空間

頭蓋内膜系 

・軟膜(硬膜システムの軟らかい内層)

-血管を含む軟膜は3層の髄膜のなかで最も内膜にあり、多量の弾性に富むエラスチン線維を含む薄い結合組織である。脳実質とは融合はしていない。

-血管は軟膜から脳に入り。さらに軟膜は大血管ネットワークである脈絡叢を構築し、それは脳室に入って脳脊髄液を産生する。

髄膜の構成
髄膜の構成

画像出展:「人体の正常構造と機能」

『軟膜は、脳の実質および血管の表面を覆う薄い膜である。クモ膜と軟膜の間をクモ膜下腔と呼び、髄液で満たされている。膠原線維からなるクモ膜小柱が、クモ膜と軟膜を架橋している。クモ膜下腔には、脳実質に出入りする血管が存在する。』

 

 

 

ご参考:”日本脳神経外科学会 第72回学術総会 ランチョンセミナー:流れない脳脊髄液 ─Time-SLIP法 CSF dynamics imagingからの観察─”

上記は2013年10月16日、横浜パシフィコで開催された脳脊髄液に関するセミナです。

・クモ膜(髄膜の中間層)

-クモ膜にはガーゼ様の海綿質構造があり、2層に分化している。

-硬膜を越えた外層は薄い裂け目(硬膜下腔)によって分けられる。

硬膜には若干の静脈と神経を含む。内層は小柱のフレームワークからなる。

-クモ膜と軟膜の間には、クモ膜下腔がある。

-クモ膜と軟膜はクモ膜下腔において小柱のフレームワーク枠により結合している。それは脳脊髄液で満たされており脳脊髄外腔を形成する。

-脳脊髄液で満たされた腔は槽とよばれる。

-クモ膜の増殖物であるクモ膜絨毛は、頭蓋内の静脈排液路であるこれらの腔の中、特に矢状静脈洞の中に突き出る。これらの絨毛を通して、脳脊髄液は静脈系へ流出することができる。  

頭蓋内の静脈と矢状静脈洞
頭蓋内の静脈と矢状静脈洞

・硬膜

-硬膜は高密度で不規則で非常に強固な多くのコラーゲン線維を含む結合組織からなる。隙間なく脳脊髄液に対する透過性は認められない。

-硬膜とクモ膜の間の移行部である硬膜境界は骨膜層(外板)と髄膜層(内板)に分けられる。

-髄膜層(内層)は硬膜層、クモ膜層に比べ線維構造が弱いため、頭蓋内硬膜と脊髄内硬膜に種々の力を伝達することを可能にする。これらの“力の伝達のための経路”は硬膜の線維構造によって自分の道を見つけだすので、“張線維”とよばれる。

頭蓋外膜系

・脊髄軟膜

-この軟膜は神経と血管を含む。

-脊髄の両側で軟膜から結合組織板と歯状靭帯が脊髄硬膜へとつながる。それは脊髄を固定して2つの神経根を分ける。軟膜は脊柱の内側へと続き、尾骨背面において細長い終糸で終わる。   

脊髄とその周囲構造
脊髄とその周囲構造
髄膜は外側から、硬膜→クモ膜→軟膜となっています。
髄膜は外側から、硬膜→クモ膜→軟膜となっています。

・脊髄クモ膜

-クモ膜は血管および神経供給が極めて乏しい。

-クモ膜は脳脊髄液を満たし神経根へと硬膜に伴行する。両膜は椎間孔へと神経を続き、脊髄神経節を包む。そして、クモ膜は脊髄神経の神経周膜へと続く。

・脊髄硬膜

-脊髄硬膜は密接したコラーゲン線維管を形成する。

-脊髄硬膜は後頭骨大後頭孔に固定され、そこから仙骨管まで続きS3の高さで終糸へと切り替わる。

-脊柱の縦方向の運動によって発生する縦方向のストレスは、ほとんどの部分が縦方向のコラーゲン線維によって伝達され、これはさらに上方または下方の隣接構造に波及する。

-脊椎硬膜は頭蓋および尾側の付着部を除き脊柱管に緩く付着しているだけであり、脊柱管に対して硬膜の運動が可能になる。

髄膜の血管新生

・頭蓋内血管新生

-硬膜系はとりわけ内外頸動脈の終枝である髄膜動脈によって動脈血管が新生される。それらは硬膜と骨の間にある。

髄膜の神経供給

・頭蓋内神経支配

-硬膜系の上部は主として三叉神経の分枝によって神経が分布される。

-硬膜系の下部は第1~第3頸神経と迷走神経によって神経が分布される。

-すべての髄膜神経は直接的あるいは間接的に上頸神経節内に起始する節後交感神経線維を含む。

-副交感神経支配は大錐体神経(第7脳神経の副交感神経から起こる)、迷走神経と舌咽神経の分枝によって提供される。

・脊椎内の神経支配

-脊髄神経の硬膜枝および後縦靭帯の神経叢に加え、根動脈の血管周囲神経叢も脊椎内神経支配を形成する。

硬膜系の役割

・脳脊髄液ともに脳の構造を維持する。

・力学的損傷からの保護。

・頭蓋骨に加えられた力学的な力を衝撃吸収する。

相反性緊張膜

・硬膜は頭蓋骨の靭帯機構を形成する。

・垂直および水平の張力は、頸部筋群と胸鎖乳突筋の緊張によって維持される。

・脳および脊髄の相反性緊張膜は、頭蓋骨の可動域を誘導および制限する。

すべての膜の構造連結を用いることで、系のいかなる部分の張力も他のすべての部位に影響を及ぼすことができる。

硬膜は頭蓋骨および仙骨へのそれらの付着により、不随意的な頭蓋骨および仙骨の運動を調節している。互いに相反的に運動しているこれらの膜は、最適なバランスを恒久的に探索している。膜の一端のいかなる緊張も完全な単位を変化させ、新たなバランスを引き起こす。 

ロベットリアクター
ロベットリアクター

画像出展:「アプライド キネシオロジー シナプス」

『アプライド キネシオロジーの中で、脊椎の運動の関係について、歩行時にアトラス[C1]とL5の同側への回旋が起こることを示している。この関係はC2とL4、 C3とL3の同側への回旋のように脊柱全域に続く。しかし、回旋は、C4とL2、C5と L1の間で反対に起こることになる。この逆方向への回旋は、上部脊柱と下部脊柱の移行部であるT5とT6に至るまで続く。この関係は“ロベットリアクター”と呼ばれる。』

 

 

 

 

・呼吸状態の変化も頭蓋内の緊張を変化させると考えられる。

・サザーランド支点

膜はあらゆる方向への動きと張力のバランスを維持するために支点あるいは安定した点に基づいて作動しなければならない。これらの点は外部張力などの変化に応じ、頭蓋骨の運動が安定するように自動的に動く必要がある。

-頭蓋内膜系の中心は、小脳テント、大脳鎌および小脳鎌の結合点に位置する仮想の点であり、サザーランド支点または自動移動浮遊点として知られている。膜に影響を及ぼす動的な力は、ここのバランスをもたらす。全頭蓋内および脊椎内硬膜緊張膜は、この点の周囲で動いて組織化される。 

脳硬膜と硬膜静脈洞
脳硬膜と硬膜静脈洞

画像出展:「人体の正常構造と機能」

この図の中には仮想の点、サザーランド支点(自動移動浮遊点)は出ていませんが、小脳テント(中央部)、大脳鎌(上部)、小脳鎌(下部)は明記されています。

 

 

 

 

・硬膜緊張異常による潜在的影響。

-静脈洞による頭蓋の静脈排液機能障害。

-脳の排液減少。

-脳組織の血液供給障害。

-脳脊髄液の変動障害。

-頭痛、硬膜の感知する神経供給(第5、10脳神経と第1~3頸神経)による頭蓋内および眼窩後の疼痛。

-顔面痛および硬膜ストレスに対して脆弱な三叉神経節による咀嚼筋群の異常緊張。

-脳神経および神経節の機能障害

-頭蓋骨、仙骨、尾骨の運動および可動域制限。

-脊髄神経の機能障害

-筋膜付着と脊髄神経の神経上膜による硬膜緊張の伝達。

-脳下垂体(鞍隔膜)の障害。