私は鍼灸において①自然治癒力、②経絡、③氣、を三本柱と考えています。そして、①「自然治癒力:ストレス適応と栄養代謝(栄養代謝とは消化・吸収・代謝を意味しています)」、②「経絡:経絡≒ファシア」、「氣:氣≒シグナル伝達分子(特にセロトニン、GABA、アセチルコリン、メラトニン、ドーパミン)」であると考えています。もし、ご興味あれば“氣とは何だろう44(まとめ)”をご覧ください。
しかしながら、この中の「経絡≒ファシア」には考えなければならない問題があります。それは経絡の代表ともいえる経脈や経脈上に存在している経穴(ツボ)が有する主治をどう考えるかという点です。今回もあくまで個人的な考えということになりますが、考えてみたいと思います。
本間祥白先生は、特に経絡治療の理論と臨床の体系化・普及に大きな功績を残した人物として知られています。1961年には、柳谷素霊先生に次いで二番目の日本代表として、ドイツ・ミュンヘンで開かれた国際鍼学会に招聘され、「陰陽五行による日本の鍼灸」という題で講演されました。
まず、最初に思ったことは正経十二経脈の流注(流れ)について詳しく勉強する必要があると考えました。そこで見つけたのは『古典から学ぶ 経絡の流れ』という本です。著者は浅川 要先生ですが、浅川先生は私が学んだ“東京医療福祉専門学校”の教員であり、浅川先生の講義を受講していました。
目次
まえがき
凡例
主篇
●手太陰肺経の循行
●手陽明大腸経の循行
●足陽明胃経の循行
●足太陰脾経の循行
●手少陰心経の循行
●手太陽小腸経の循行
●足太陽膀胱経の循行
●足少陰腎経の循行
●手厥陰心包経の循行
●手少陽三焦経の循行
●足少陽胆経の循行
●足厥陰肝経の循行
●任脈の循行
●督脈の循行
付篇(参考資料)
●経絡系統一覧
●十四経脈循行図
●経絡に関する基本知識
●経絡循行に関する用語一覧
●経絡の循行に関する基本的字句
●経絡表記の変遷
●経別の循行経絡と六合表
●絡脈循行一覧
●十二経脈の属絡関係と起点部位
●十二経脈の標本関係
●足六経脈の根結関係
●六陽経の根溜注入関係
●十四経脈の病候
●『新版 経絡経穴概論』の経絡流注
●経絡循行に関する歴代の論争点のいくつか
まえがき
・『「鍼灸甲乙経」「銅人腧穴鍼灸図経」「鍼灸大成」など歴代の鍼灸書には、各経穴に「主治」と@「刺灸手技」が記載されている。そして、その主治の多くは「経脈の通じる所は、主治に及ぶ所」という慣用句で言い表されているように、経穴が所属する経絡の循行部位における病症である。たとえば手陽明大腸経の合谷穴は、「四総穴歌」(明代の「乾坤生意」出)に「面口合谷これを収む」とあるように、顔面の様々な病症を主治できるが、これは大腸経が手指から前腕、上腕を通って顔面部まで循行しているからにほかならない。
しかし、大腸経各穴の主治を1つひとつ見てみると、たとえば同経の商陽穴では、「耳鳴、耳聾」が主治にあげられている。常識的には、大腸経は「上りて鼻孔を挟む」ところで終わっていて、大腸経の循行には耳とのかかわりが出てこないのだが、商陽穴はなぜ、耳の病症を治すことができるのだろうか。
これは要するに、「其の別なる者、耳に入りて、宗脈に合す」と「霊枢」経脈篇にあるように、大腸経の絡脈が耳に入っているからである。したがって大腸経には、耳に関係する経穴が存在するのである。同様に、足三里穴の主治に「目不明」があるが、これは、胃経の経別(別行する正経)が目系につながっているからにほかならない。
こうして見てみると、各経穴の主治を各経脈の循行を視野に入れて考える際には、本経のみではなく、絡脈や経別までを含めて、体系的に経絡をとらえなければならないのであろう。
翻って、日本の鍼灸学校における現行の教科書「新編 経絡経穴概論」は、経穴解剖学的位置については詳細に述べられているが、歴代の鍼灸書に登場する「主治」や「手技」がまったく示されていない。これは、道具の説明書において、その道具がなにに使うものなのか、どのように使うのかを記していないに等しいことである。さらに、各経穴が「主治」を欠くことによって、十四経の各経ごとに冒頭に書かれている経脈流注は、その後に続く所属の経穴と結びつかず、流注説明は単なる飾り物でしかなくなってしまっている。さらに流注説明も絡脈や経別を省くことによって、学生が経絡流注の全貌を知るには程遠いものとなっている。
もし、東洋医学にもとづく鍼灸治療を志すならば、経穴の主治に依拠するだけでなく、その経穴が所属する経絡の流注に着目しなければならず、さらには、その経絡循行の理解は絡脈や経別も含めた全体的なものでなければならないであろう。』
『各経穴の主治を各経脈の循行を視野に入れて考える際には、本経のみではなく、絡脈や経別までを含めて、体系的に経絡をとらえなければならないのであろう』
まず、この浅川先生のご指摘を考えたいと思います。
画像出展:「経絡の流れ」
経絡は経脈と絡脈に分かれ、経脈は更に正経十二経脈と奇経八脈に分かれ、その正経十二経脈を補完するようなものとして、十二経別、十二経筋、十二皮部があるという全体像になっています。
続いて、“絡脈”や“経別”など「経絡系統一覧」に記載されている全てについて個別に調べてみました。
経絡は“縦”x“横”x“深さ”からなる立体であり、体の表面から内臓に至るまで網の目のように覆っています。経絡の代表的存在である正経十二経脈と奇経八脈である“任脈”と“督脈”を加えた計十四の経脈を経絡そのものとして語られることが非常に多いのですが、あくまで「十四経脈∈経絡」であり、「十四経脈≠経絡」です。これは経絡を理解する上でとても重要なポイントです。
“体”を“日本の国土”とするならば、“経絡”は“全ての道”に相当すると思います。ただし、“経絡”は体内の内臓にも繋がっているので、それを考慮すると地上だけではなく、地下深くまで“道”があって自由自在に行くことができるということになります。
山梨県の河口湖インターから中央高速に入り、高井戸出口で環状八号線に出て、国道17号線から463号線、そして市道といった具合に道を進むと自宅につきますが、中央高速が経脈、高速道路を含めた日本にある全ての道が経絡というイメージで私は考えています。
なお、「経絡は“縦”x“横”x“深さ”からなる立体であり、体の表面から内臓に至るまで網の目のように覆っています」。ということが、私が「経絡≒ファシア(膜)」であると考える理由です。
※ファシア:一般社団法人 日本整形内科学研究会さまのサイトに詳しい説明が出ています。
続いて、高速道路に相当する十四の経脈上にある経穴と主治について表にまとめてみました。
●(経絡上)は38.8%、●(経絡の近く)は23.7%、●(経絡から離れたところ)は37.5%です。●+●は62.5%です。●が最も多い場所は“頭”で155、これは●の42.8%です。この“頭”に含まれる主治は、頭痛、偏頭痛、失神、片麻痺、高血圧、慢性疲労、めまい、神経衰弱(不安障害など)、小児麻痺、精神病、後頭痛、熱中症、うつ症状、睡眠障害の計14疾患になります。これらの疾患は頭から離れた経穴からの刺鍼でも効果があるということになります。
このことは古くからの経験則という単純なものだけではないと思いますが、勉強不足のためご説明することはできません。一方、私自身は経絡は立体であり、日本の国土を“体”とすれば“経絡”は「日本に存在するすべての道」のようなものと考えているので、どこからの刺鍼でも頭部にたどり着くことはできるはずであるという理屈になります。
以下は東亜医学協会さまのサイトです。古典に掲載された経穴の情報が確認できます。
画像出展:「鍼灸経絡図・図版資料データベース」
また、『経絡の流れ』に掲載されていた十四経脈(十四経脈∈経絡)をご紹介させて頂きます。
次に、現代医学的にこの離れたところ(例えば手足)からの刺鍼がどのようなメカニズムで頭部にたどり着くのかを考えたいと思います。
体性—自律神経反射には分節性反射(脊髄反射)と全身性反射(脳幹反射)があります。
■分節性反射(脊髄反射): 刺激した皮膚に近い内臓に反応が出る(腹部の刺激で胃の動きが変化)。
■全身性反射(脳幹反射): 手足の刺激等が全身の循環や呼吸に影響する(手足の刺激で血圧上昇)。
このことは、お腹に刺鍼すれば分節性反射(脊髄反射)で胃や腸に影響を及ぼす。手足に刺鍼すれば全身の循環や呼吸の変化を通じて各臓器に影響を及ぼすことができるということです。
英語の動画ですが、刺鍼による脳の反応をみる実験です。
『鍼治療が脳の複数のレベルで大脳辺縁系-傍大脳辺縁系-大脳新皮質ネットワークと、それと相関する感覚運動/傍大脳辺縁系ネットワークを活性化し、血行動態反応が心理物理学的反応の影響を受けることを示しています。』
まとめ
私のイメージは以下の通りです。
1. 経絡は“道”である。一般的に経絡と認識されている十四経脈は経絡の一部にすぎず、“高速道路”のような最も重要な“道”といえる。
2. 経絡は体表から体内まで張りめぐらされており、刺鍼によって離れた部位に影響を及ぼすことは可能である。
3. 現代医学的に考えると、刺鍼によって体性‐自律神経反射が発生する。このメカニズムには脊髄が関わる分節性反射と脳幹が関わる全身性反射の2つがある。後者の全身性反射は①ホメオスタシス維持(血圧・循環調節)、②ストレス防御、③体温・発汗・呼吸の統合調節、④心身状態(情動)との連動。という効果が期待できる。
一方、例えば足の陽明胃経という経脈の経穴(ツボ)への刺鍼が、特に“胃”に影響を及ぼすのかどうかということを明らかにすることはできませんでした。しかしながら、全身性反射(脳幹反射)を通じて、臓器の働きを良くする効果はあると言えます。

















