中高年女性の腰痛2

下記は前回の“中高年女性の腰痛1”のまとめです。

腰痛の治し方
腰痛の治し方

著者:富田満夫

出版:創風社

発行:1999年10月

1.女性は男性に比べ、筋量が少なく筋力も弱い。

2.女性の腰痛は、背中、お尻、脚、肩、首と広範囲に及ぶ。

3.首は約6kgの頭を支えている。

4.骨盤は体幹と2本の脚を支える土台であり、常に重力と動作による力を受けている。

5.子宮、卵巣等を内部に抱えた骨盤の構造は男性とは大きく異なる。

6.体を休め、臓器の働きを良くする副交感神経系は首と骨盤(仙髄)から出ている(交感神経系は“胸腰系”、副交感神経系は“頭仙系”と呼ばれる)

7.更年期はホルモンのバランス、自律神経の働きを乱す。

この7項目を元に中高年女性の腰痛に対する施術を考えたいと思いますが、今回はこの中で最も厄介な自律神経に関わる問題をどのように施術に反映させていくかということを考えます。 

自律神経とからだの機能
自律神経とからだの機能

自律神経は環境や心の変化に応じて、内臓の働きを2方向から綱引きのように調整しています。一つが交感神経でもう一つが副交感神経です。

画像出展:「安保徹の病気にならない免疫のしくみ (図解雑学) 」

ものを考えたり、熱い物に触れ反射的に手をひっこめたりする判断は、神経細胞の塊である脳などの「中枢神経」が担っています。(中枢神経の神経細胞の総数は千数百億個とのことです)

手足を動かす“運動神経”や痛みなどを脳・脊髄(中枢神経)に伝える“感覚神経”は「末梢神経」とよばれ、枝のように体内に張りめぐらされています。この遠心性(脳→末梢)の“運動神経”と求心性(末梢→脳)の“感覚神経”を合わせて“脊髄神経”といいます。

背中の経穴と脊髄神経
背中の経穴と脊髄神経

画像出展:「経絡マップ」

“自律神経”も“脊髄神経”と同じ「末梢神経」の仲間ですが、心臓や血管、消化器などに作用し、生命維持のために働きます。また、自律神経は闘争・逃走に代表される交感神経系と休息・消化に代表される副交感神経系に分かれます。

体幹部の経穴と自律神経
体幹部の経穴と自律神経

画像出展:「経絡マップ」

闘争・逃走では筋交感神経活動によって収縮した末梢の血管が血圧を高めて、生命を守るべく緊張状態に入ります(活勤している筋では、筋収縮に伴って分泌される代謝性の血管拡張物質によって血管収縮を減弱させ、活動している筋への血液供給を維持します)。

一方、“休息・消化ではからだを休め、獲得した食物を維持活動に必要な物質やエネルギーに変え、生命を守るべくからだを整えていきます

以上のことから交感神経系は“エネルギーを使う行為”に働き、副交感神経系は“エネルギーを作る行為”に働くともいえます。従って、自律神経のバランスが乱れ、交感神経系に偏った状態が長期間続くと肉体は消耗し、やがて病的なからだになってしまいます。

自律神経と腰痛との関係を考えるならば、亢進した交感神経系が体内の血管を収縮させるというメカニズムは非常に重要です。

以下の2つのイラストはブログ”毛細血管と循環調節”から持ってきました。血管の収縮は交感神経と血管平滑筋によってもたらされます。

血管の構造
血管の構造
血管の収縮は交感神経と血管平滑筋
血管の収縮は交感神経と血管平滑筋

筋交感神経」に関する記述が載っている”運動と交感神経活動”という資料(PDF3枚)がダウンロードできます。

自律神経失調症とは

自律神経失調症の特徴は下記の通りです(ブログ“自律神経失調症”より)。

重要なことは症状が全身に広がるということと、元凶である“ストレス自体の大きさが変わる”か“ストレスの受け止め方を変える”か、いずれかの変化が起きない限り改善は難しいということです。

イラストは『自律神経失調症を知ろう』から。

自律神経は脳と内臓を結ぶ
自律神経は脳と内臓を結ぶ
脳の疲労が臓器に伝わる
脳の疲労が臓器に伝わる

神経症
神経症
自律神経失調症
自律神経失調症

渡辺正樹先生のお考えでは「自律神経は“脳と内臓を結ぶ電線”であり脳を攻撃するストレスが脳の中に限定されていれば“神経症”だが、それが自律神経を通じて全身に広がると“自律神経失調症”になる」ということです。

また、具体的な説明は以下になります。

『自律神経失調症は交感神経が強いか、副交感神経が弱くなるか、いずれかの状態で、それにより内臓が十分な休息をとれない事態になることです。その結果、動悸、立ちくらみ、ふらつき、発汗過多、血圧上昇(変動)、片頭痛、肩こり、手足の冷え、易疲労など多彩な症状が出現します

原因不明、内臓に問題があり、しかも精神的なストレスが強いとなると、自律神経失調症と診断される症例は少なくありません。このことは、自律神経失調症が不定愁訴の受け皿になっているためと考えられます。』

更年期障害とは

以下の説明、イラストともすべて大塚製薬さまの『更年期ラボ』の内容になります。

更年期は45~55歳頃
更年期は45~55歳頃

更年期とは閉経前後5年の期間(一般的に45〜55歳頃)といわれています。

ホルモンの急激な低下
ホルモンの急激な低下

『更年期には卵巣の機能が低下し、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少していきます。その結果、ホルモンのバランスが崩れ、月経周期の乱れやエストロゲンの欠乏により心身にさまざまな不調があらわれます。症状の種類や強さは個人差がありますが、更年期のさまざまな不調を「更年期症状」といい、仕事や家事など日常生活に支障をきたしてしまうほどの重いものを「更年期障害」といいます。』

更年期障害の症状
更年期障害の症状

ホットフラッシュ

“のぼせ”と“ほてり”を合わせて“ホットフラッシュ”とよび、前者は異常な熱感が頭や顔に起こったもの、後者は顔、頭に加えて体にも起こったものです。なお原因は、『エストロゲンの減少によって、血管の収縮や拡張をコントロールしている自律神経が乱れることによって起こります。』

視床下部は内分泌や自律神経(自律機能)の調節を行う統合中枢といわれています。自動車でいえば、“内分泌(ホルモン)”が前輪であるとすると、“自律神経”は後輪ということになります。つまり、内分泌の乱れは自律神経に、自律神経の乱れは内分泌にそれぞれ影響を及ぼす関係になります。

従って、更年期にみられる女性ホルモン(エストロゲン)の急激な現象は、同じ統合中枢である自律神経を乱します。

更年期前後の卵巣の変化と身体のバランス
更年期前後の卵巣の変化と身体のバランス

更年期の身体の変化

『女性ホルモンは、脳の視床下部からの司令により卵巣から分泌されます。視床下部はさまざまなホルモンの分泌をコントロールするとともに、体温調節や呼吸、消化機能の調節、精神活動などを司る自律神経のコントロールセンター。ところが、卵巣の機能が衰えると、脳がいくら「ホルモンを出せ」と指令を出しても分泌されません。すると、脳がパニックを起こして通常の何倍もの指令を出すために、異常な発汗、イライラ、めまいなどの症状があらわれるのです。』

トップ5に入っている“肩こり”、“頭痛”、“腰痛”の原因には先にご紹介した、亢進した交感神経系が体内の血管を収縮させる」というメカニズムによって、後頚部‐頚肩部‐背部‐腰部‐臀部に渡る多くの筋や筋膜を虚血状態にするものと考えられます。

 

以下の本は、”母性・自律神経”で検索して見つけた本です。図書館から借りてきました。いくつか興味深い資料がありましたのでご紹介したいと思います。

母性看護実践の基本
母性看護実践の基本

日本産婦人科学会の”更年期障害”の定義は次の通りです。

『更年期障害とは更年期に現れる多種多様な症候群で、器質的変化の相応しない自律神経失調症を中心とした不定愁訴を主訴とする症候群をいう』というものです。

更年期女性の心の特性
更年期女性の心の特性

更年期女性の心の特性

『岡本は、現代社会において家庭と職業を両立している中年期の女性が体験しやすい臨床問題を中年期危機の構造として四つの次元で表している。』

以下の2つのグラフは更年期における男女差を表すもので、左が男性右が女性です。

男性の加齢による生理的変化にはばらつきが見られますが、女性の変化は年齢とともに顕著に表れます。これが更年期障害が女性の症候群と思われている原因だと思います。

更年期:男性
更年期:男性
更年期:女性
更年期:女性

簡略更年期指数(SMI)
簡略更年期指数(SMI)

こちらは診断に用いられている質問で、”簡略更年期指数(SMI)”といわれているものです。

まとめ

1.更年期における自律神経の乱れは、個人差があるものの母性に関わるもので避けられない。

2.自律神経にとってもからだを休めることは大切である。

3.自律神経を乱す大きな要因にストレスがあり、“生活習慣の見直し”や“受け止め方を変える工夫(ネガティブ⇒ポジティブ等)”が改善につながる。

4.自律神経の乱れは全身の筋肉の血流を悪化させるため、腰痛に限定せず“頭痛-肩こり-腰痛”と施術の対象範囲を広げて考えることが必要である。

5.鍼灸治療は“自律神経”“筋肉”の両面からアプローチすることが有効であると思う。

次回が最後になりますが、具体的な施術についてまとめたいと思います。