毛細血管と循環調節

通常の血管の先には細い毛細血管がありますが、その毛細血管の直径は通常0.005~0.01mmとされ肉眼では見えません。また、毛細血管の全長は約10万kmと言われ全血管の約95%を占めています。

鍼灸治療の効果の1つに血液循環を良くするということがありますが、血液が毛細血管の中を進んでいけないと、臓器や組織に酸素などを十分に届けることはできません。
そこで、今回は毛細血管を中心に血液循環や血圧のしくみの理解を深め、より良い治療ノウハウにつなげたいと思います。

画像は「人体~神秘の巨大ネットワーク~」より
毛細血管(CG)

 

画像出展:「人体~神秘の巨大ネットワーク~」

出版:東京書籍

1.毛細血管の構造と機能

・毛細血管は内皮細胞とそれを取り囲む基底膜からできています。内腔の直径は動脈側で約0.005mm (5μm)、静脈側で約0.009mm(9μm)のため、赤血球(直径0.007.5mm、厚さ0.002mm)は毛細血管内を変形しながら通過していくという容易ではない環境にあります。
・毛細血管の内皮細胞は3種類あります。

1つは連続型内皮細胞であり、脳や肺、筋肉にみられます。内皮細胞どうしが結合しています(タ イト結合)。

2つめは非連続型内皮細胞といい内皮細胞どうしはつながっておらず、30~500nm(1nmは1/1000μm、1μmは1/1000mm。従って30nmは0.00003mmです)の隙間があり、ここからイオン、水、タンパク質、細胞が透過できます。

3つめは内皮細胞自体が特殊に変化しているもので、内分泌腺、腎糸球体、小腸粘膜などにみられ有窓型内皮細胞です。これは内皮細胞の一部が薄くなって直径20~100nmの小孔(窓)が多数あいており、この孔を通って、血液と組織との間で物質交換が行われます。

種類と内径の直径、壁厚
血管の構造

画像出展:「生理学第2版」(東洋療法学校協会)

内腔の直径をmmにしてみると以下のようになり、太い大静脈は毛細血管の約3750倍にもなります。 大動脈:25mm 動脈:4mm 細動脈:0.03mm 毛細血管:0.008mm 細静脈:0.02mm 静脈:5mm 大静脈:30mm

細動脈・連続型毛細血管・有窓型毛細血管
血管の種類

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報社)

上段は細動脈で、中膜が平滑筋になっています。一方、下段左が連続型毛細血管ですが、左の方に前毛細血管括約筋が付いています。右は内皮細胞が特殊に変化した有窓型内皮細胞です。

 

画像は「細胞と組織の地図帳」より
細動脈・連続型毛細血管・有窓型毛細血管
細動脈・連続型毛細血管・有窓型毛細血管

画像出展:「細胞と組織の地図帳」(講談社)

 右から細動脈、連続型毛細血管、有窓型毛細血管の全体イメージになります。 

続いて毛細血管の働きをご説明したいと思いますが、その前に大元ともいえる、血液循環と循環調節(血圧)について触れたいと思います。

血液循環
・体循環は酸素化した赤血球(ヘモグロビン)を末梢臓器に運び、その末梢臓器から二酸化炭素を回
 収します。
・肺循環は肺で回収した二酸化酸素を放出し、赤血球(ヘモグロビン)を再度、酸素化します。

血液量は組織の必要に応じて、自律神経の活動と組織代謝物によって制御されています。
循環器系の構成と血流分布

画像出展:「人体の正常構造と機能」 

安静時には心臓は1分間に約5l(リットル)の血液を送り出しています。このうち約1500mlは肝臓へ、1200mlは腎臓に送られ、脳へは約750mlが送られます。血液量は一定ではなく、運動時には心拍数、心臓収縮力が増加し、骨格筋には通常の30倍もの血流が流れます。脳に関しても血流は一定ではなく、活動の盛んな部位により多くの血液が送り込まれます。このように血液量は組織の必要に応じて変化しますが、これらの変化は自律神経の活動組織代謝物によって制御されています。

 

2.循環調節
・全身循環は主として心臓と血管と血液量を調節することによって維持されます。また、調節には局
 所性、神経性、ホルモン性(液性)の3つの方法があります。毛細血管に直接作用する調節は局所性になります。
神経性調節:心臓と血管は自律神経によって調節されています。神経性の最大の特徴は秒単位で反
 応するところです。

交感神経の血管に対する働き
トーヌス

画像出展:「生理学第2版」(東洋療法学校協会)

交感神経の血管収縮神経は安静時においても血管平滑筋に作用し、常時自発性に活動しています。これをトーヌスといいます。トーヌスは脳幹の自律神経中枢の支配を受けて微妙に変化し調節を行ないます。多くの血管は通常、トーヌス下では軽度の収縮状態にありますが、交感神経が活発になると血管は更に収縮し、その部分の血流は減少します。一方、交感神経の亢進活動が低下すると、血管は拡張し血流は増加します。

鍼灸治療の血行改善のしくみは、活性化した交感神経に働き、トーヌスを安定した状態にすることです

ホルモン性調節:ホルモン性の調節は分単位あるいは時間および日単位にわたって循環を調節します。これは血管の収縮状態や血流量を変えることにより行います。

血圧の調節は心臓以外に脳や腎臓も深く関係します。
血圧の調節機構

画像出展:「人の正常構造と機能」

血圧の調節は心臓以外に脳や腎臓も深く関係します。なお、図中の赤実線は交感神経で、脳と心臓を結ぶ青実線オレンジ実線は副交感神経です。また、各破線はホルモン性(液性)調節を表しています。

 

毛細血管の収縮と弛緩
・毛細血管には筋肉はありません。代わりに毛細血管の結合部に前毛細血管括約
筋と呼ばれる平滑筋があり、その開閉によって血流を調節します。これは組織が血流を保とうとする自己調節の機能です。つまり、血流が減少すると組織の代謝産物が局所に蓄積し、それらの物質によって血管が拡張し血液が増加するというしくみです

画像は「人体の正常構造と機能」より
細動脈と細静脈をつなぐ毛細血管

画像出展:「人の正常構造と機能」(日本医事新報社)

局所性調節:例えば止血においては、傷害部位に血小板が凝集して血小板血栓を形成しますが、血小板は血管収縮作用をもつセロトニン等を含む顆粒を放出します。血管収縮作用をもつ物質としては他にエンドセリンがあります。一方、血管を拡張させる代謝産物には乳酸や二酸化炭素、アデノシン、ヒスタミンなどがあります。