英国のエリート教育

50年以上前、私の周辺の父母のほとんどは公立の学校で学ばせることが当たり前と思っていました。様々な家庭環境の子どもが集まる公立の学校には、生徒の多様性と接し受け入れるという環境が多く存在していると思います。これは特に小学生、中学生の年代では意味のあることだと思います。

一方、受験という高いハードルをクリアし、学力や家庭環境において同質の生徒が集まる私立の学校には、同質ゆえの合理性があると思います。また、受験に合格したという達成感、成功体験が子供の自信を育み、親子の絆も高まるだろうと思います。そして、入学した学校の伝統や誇りといった価値観を親子や友人と共有することはとても素晴らしいことだと思います。

特に父母の方々からすれば、入学が難しいとされる難関の高校や大学に合格するためには、小学生の時から同じような生活環境、同じような学力の生徒が集まる私学の方が可能性は高いと考えるのだと思います。また、かなり以前から大学進学にしても、スポーツにしても、公立より私学の高校の方に勢いを感じます。

母校の人工芝化プロジェクトを通じて、学校側と話し合う機会が多かったのですが、公立高校の難しさは校長先生などの管理職の先生が2年、3年と短期で代わってしまうという点です。これは止むおえないことですが、企業でいえば、社長が頻繁に変わってしまうようなものです。ただでさえ、公立という枠の中にはめられた学校なので、その学校の個性や特色を出すことは容易ではないと感じました。このような現状も私立高校を希望する保護者や中学生が増えている要因だと思います。

学業においてもスポーツにおいても、能力の高い優秀な学生を集めることが、その学校の成果、名声につながることは間違いありません。私学においても特に少子化時代においては、企業と同じように生き残りをかけ、熾烈な争奪戦が生まれていると思います。その切り札は進学校では難関大学への進学率であり、スポーツでは全国大会での実績だと思います。また、インターネット、SNSの普及により情報を見つけることは容易であり、結果を出した学校に優秀な学生が集まりやすい環境になっています。

ここで疑問が出てきました。それは「エリート教育とは何だろう?」というものです。“エリート教育”と聞いて、頭に浮かぶのは英国のエリート教育です。一方、日本で有名な最難関進学校の開成高等学校も、その印象は東大や京大の合格者数であったり偏差値であったりします。

“教育理念”や“教育方針”は出ているのですが、目指すべき人間像の育成に関しては、具体的なものは浮かんできません。良くも悪くも“エリート教育”とすぐに結びつくようなメッセージは見つかりませんでした。

そこで英国のエリート名門校の教育はどうなのだろうと思い、見つけた本が『英国エリート名門校が教える 最高の教養』でした。

著者:ジョー・ノーマン

訳者:上杉隼人

発行:2024年4月

出版:(株)文芸春秋

 

以下の目次を見て頂くと明らかなのですが、英国エリート名門校の特色の一つは“文章作成能力の養成”にあるようです。

Chapter1 何を読むか

1 英国エリート名門校の秘伝「教養のための必読リスト114冊」

2 作品はどう表現されるのか? 古典とは何か?

Chapter2 どう読むか

1 自分の好きなものを読んでいい

2 人生の支えとなる本に出会うには

Chapter3 どう書くか

1 3分の1の時間をかけて構想を練る

2 自分の「声」の見つけ方

3 編集―完膚なきまで削ぎ落とせ

Chapter4 エッセイをどう構成するか

1 ヘーゲルみたいに2つのアイデアを戦わせよ

2 アリストテレス―「エトス」「ロゴス」「パトス」を駆使せよ

3 質問への答えのパラグラフは、この5パターンに分けられる

Chapter5 ストーリーをどう語るか

1 「動き」「会話」「描写」

2 偉大な作家と勝負しよう

本題に入る前に、まずは英国エリート名門校(英国パブリックスクール)についてご紹介します。

<英国パブリックスクールとは> (『英国エリート名門校が教える 最高の教養』より)

『イギリスに古くから存在する名門中高一貫校のこと。世界の大学ランキングにて8年連続1位のオックスフォード大学やケンブリッジ大学へ、卒業生の多くが進学。ウィンストン・チャーチルからボリス・ジョンソン、リシ・スナクまで、英国の歴代首相を40人近く輩出してきた。イートン、ハロウ、ウィンチェスター、ウェストミンスター、ラグビーなどの上位9校は、ザ・ナインと呼ばれている。全寮制で、映画「ハリー・ポッター」のロケ舞台にもなった。秘密主義のヴェールに包まれたエリートのみに伝授される<最高の教育>を求めて、世界中の皇族や上流階級、富裕層の子弟も入学している。』

※ザ・ナインの9校は以下の通りです。

●ウィンチェスター・カレッジ(Winchester College) 

●イートン・カレッジ(Eton College) 

●ハロウ校(Harrow School) 

●ラグビー校(Rugby School) 

●シャルターハウス校(Charterhouse) 

●セント・ポールズ校(St. Paul’s School

●マーチャント・テイラーズ校(Merchant Taylors’ School) 

●セント・ピーターズ校(St. Peter’s School, York) 

●シュルーズベリー校(Shrewsbury School) 

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ザ・ナイン各校の比較.pdf
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以下は日本に開校しているザ・ナインの2校です。

AI(Perplexity)の回答です。

続いて、「はじめに」の冒頭の部分をご紹介します。

英国エリート名門校が推奨する「役に立たない学び」

『1996年、18歳の時、歴史の先生だったクレーマー博士の講演で、今のわたしの教育哲学を象徴するふたつの言葉を初めて耳にした。

ふたりがともに5年間を過ごし、ともに間もなく去ることになる学校。この学校を唯一無二の存在にしたのは何であったか、博士は自問した(その学校はウィンチェスター・カレッジ、イギリス最古のパブリックスクールのひとつだ)。クレーマー博士の見解では、ウィンチェスター・カレッジをほかの学校と違うものにしたのは「役に立たない学び」であった。

ウィンチェスター・カレッジの精神は、この考えに、すなわち「何かを学ばなければならないとすれば、それが面白いか、学ぶこと自体に価値があるからにほかならない」という考えに完全に基づいていた。これにより、生徒は毎日、どの試験のシラバスにも関係のない「補習」と呼ばれる授業を受けたし、週に一度はこの「補習」でエッセイの宿題が課された。これは毎週の宿題でいちばん大変だったが、どの科目の成績にも関係しなかった。にもかかわらず、わたしたち生徒には、学期末に「補習」で最高のグレードを得るのは、義務教育修了時の統一試験(GCBE)でどれだけ多くのA⁺を取るより大事なことだった。

この冒頭部分には「エッセイの宿題」はウィンチェスターだけのように書かれていますが、調べたところ、“ザ・ナイン”すべてで実施されていました。

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英国のザ・ナインにおけるエッセイの取り組み.pdf
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※『ウィンチェスター・カレッジ以外のザ・ナインでも、エッセイ課題は学問の中核的役割を果たし、教育的伝統として扱われています。

次にエッセイ課題の歴史と狙いについて調べてみました。

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ウィンチェスター・カレッジにおけるエッセイ課題の歴史と狙い.pdf
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※『16世紀~17世紀にかけてラテン文法だけでなく、英語による論述やエッセイの課題がイギリスの学校教育全体で拡がり始めました。17世紀には英語で思考や議論を行うためのエッセイ形式が一般化し、近代的な意味での「エッセイの宿題」として定着していったと考えられます。

※『厳密に評価されるエッセイの宿題や教科書的なエッセイ課題は、19世紀~20世紀前半のパブリックスクール教育の標準化とともに整備されました。

※『ウィンチェスター・カレッジにおけるエッセイの宿題は、幅広い学力と自発的な学習姿勢を育むために設計されています。特に英語や歴史といった科目で多く出題され、創造性・論理性・分析力・構成力が重視されます。

※『ウィンチェスター・カレッジのエッセイ課題は、学問的な好奇心や分析力、そして表現力を養う絶好の機会です。提出前の見直しと論理的な構成が高評価につながります。』

続いて、エッセイ課題の位置付けと評価について調べてみました。

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英国のザ・ナインのエッセイ課題の評価.pdf
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※『ザ・ナインでは「エッセイ宿題=個人の学問的成熟度とキャラクターの根幹を測る最重要指標」とみなされており、その評価は内申、進学、マインドセットや人格評価まで強く影響します。

※『エッセイ評価は単なる科目の得点にとどまらず、入学選考の合否、個人評価、人物評、そして進学や将来の可能性にまで大きく作用しています。

※『エッセイ課題では独自の見解・創造力・批判的思考力や表現力が問われ、「個人の人格・リーダーシップ資質・知的好奇心」の根拠となるケースがほとんどです。定期的な課題提出やフィードバック・改善過程も、「勤勉さ」「向上意欲」として評価尺度に含まれます。』

ここまできて英国パブリックスクールのことを調べてきて思ったことは、リーダーシップ/リーダーを育てるということが根幹にあるのではないかということです。紹介文に書かれていた「英国の歴代首相を40人近く輩出してきた」という言葉はまさにこのことを指しているように思います。

そこで、ザ・ナインのリーダーシップを育てる教育に関して調べてみました。

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英国のザ・ナインのリーダーシップを育てる教育.pdf
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※『英国のザ・ナイン(パブリックスクール)は、「リーダーシップの養成」を極めて重要な教育目標として掲げています。具体的には、人格教育・自立・協調性・社会への奉仕を「全人教育」の柱とし、学業や課外活動、寮生活を通じてリーダーシップを体系的に育てる方針が確立されています。

※『ザ・ナインは学業成績だけでなく、「人格・社会性・互助・実践力」を重んじるエリート教育を展開し、英国社会のリーダー層はこの独自の教育理念で培われています。のリーダーシップ教育は世界的にも高く評価されています』

一方、日本の難関進学校におけるリーダーシップ教育の現状について調べてみました。

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日本の難関進学校におけるリーダーシップ教育.pdf
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※『日本の進学校では「進学実績最大化」が学校評価や運営の最重要指標になっており、その結果「大学合格=個人の人生成功」への最短ルートに教育資源が集中しています。

※『日本社会の価値観として「和」「協調性」「集団の調和」をより重視してきた歴史的背景があります。そのため、リーダーシップ教育よりも周囲との協働やグループ内のバランスを保つことが優先されがちです。

※『リーダーシップ評価も「突出した個人の指導力・決断力」より「合意形成」「周囲と協力する力」「皆と一緒にやり切る力」に重きが置かれています。

感想

日本の難関高校と英国のパブリックスクールの1番の違いは“リーダーシップ教育”にあると思いました。そして、その違いは国と国民性を背景にしたものであり、本質的な問題だと思います。

欧米においてのリーダーとは“責任”と“実行力”に裏づけられた真の信頼を獲得すること。そして、その信頼が人を、組織を、動かすものではないかと思います。

一方、日本のリーダーシップは、突出した個人の指導力・決断力より“合意形成”などグループ内の“バランス”を調整する能力が優先されます。この違いが高校教育にも反映されているということだと思います。

懸念

インターネットが普及し、更にAIが社会の中に浸透していく現代においては、政治でも企業でも、今まで以上に的確かつ迅速な判断力と実行力が求められます。そのため、組織のトップのリーダーシップが非常に重要になっていると思います。

誰がリーダーなのか分かりづらい、日本式のリーダーシップは分析-判断-決断のスピードが求められる時代には合わないと思います。日本の良さである“和”や“協調性”を重視しつつも、欧米型のリーダーシップを適材適所に取り入れていく必要があると思います。

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1984年と2024年の世界企業ランキングトップ20.pdf
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1984年は入社3年目でした。この年の世界企業トップ20社の中に日本の企業は半分の10社が名を連ねています。2024年を見ると、日本の企業は1社もなく、トヨタ自動車が日本のトップで39位となっていました。一方、米国は15社であり75%を占めています。なお、アジアでは台湾のTSMC(半導体製造)が10位にランクインしています。

残念ながら日本は諸外国との比較において、GDPでも生産性でも後退しています。このままでは増々日本と世界の差は拡がってしまいます。

TSMCが会社の命運をかけて取り組んだとされる「人に依存した人事」から「制度に則った公正な人事」に移行できれば、旧態依然とした日本の組織においても突破口となり、志の高い人材によるリーダーシップによって政治も企業も徐々に変わっていくだろうと思います。