第2章 各種機能の自律神経による調節
5 循環機能の調節:心臓
●自律神経の分布と働き
・心臓には自律神経が分布し、心拍数、刺激伝導系での興奮伝導の速度、心室の収縮力を変えることによって心臓の活動性を調節する。
・心臓支配の副交感神経節前ニューロンは延髄の迷走神経脊側核と擬核に起始し、迷走神経を通って心臓に至り、節後ニューロンは主に心房、洞房結節、房室結節に分布して心拍数を遅らせるのに役立っている。心室への分布はごくわずかなので、心室の収縮力への関与は小さい。
・心臓支配の交感神経節前ニューロンは、第1~5(7)胸髄の両側中間質外側核に起始し、頸部から上胸部の交感神経幹の神経節(星状神経節など)で節後ニューロンに連絡する。節後ニューロンは心臓全体に広く分布するが、右側の節後ニューロンは洞房結節のペースメーカー細胞に数多く分布している。これらは心拍数を増加させたり、刺激伝導系の伝わる速さを速めるのに役立っている。他方、左側の節後ニューロンは左心室に多数分布して、左心室の収縮力を強めるのに役立っている。
●心臓の求心性線維
・心臓には2種類の求心性線維が分布している。一つは迷走神経性求心性線維で、これは迷走神経遠心性線維と同じ走行を示す。もう一つは交感神経の求心性線維、これは交感神経遠心性線維と同じ走行を示す。
・心臓からの迷走神経性求心性線維は、心臓の状態を常時中枢に伝え、反射性に循環機能を最適な状況に保つよう調節している。
・迷走神経性求心性線維は、有髄(Aδ)および無髄(C)線維からなる。有髄線維は主に大静脈、右心房、肺静脈と左心房の接合部に分布し、無髄線維は心臓全体に分布している。心臓には心房および心室の内在や充満度を感受する機械的受容器や、低酸素刺激などに反応する化学受容器があり、これらの受容器からの情報が迷走神経性求心性線維によって、延髄の孤束核に投射し、さらに循環中枢に伝えられる。
・心臓からの交感神経性求心性線維は、狭心痛など心臓の痛みをいち早く伝える。交感神経性求心性線維も、有髄(Aδ)と無髄(C)線維よりなり、心臓全体に分布するばかりでなく、上下大静脈、大動脈、肺動脈、冠状動脈およびその付近にも分布する。心臓の機械的受容器や化学受容器からの情報は、交感神経性求心性線維を通って、第8頚髄~第6胸髄の後根から脊髄の後角に入り、胸髄の脊髄視床路や脊髄網様体路ニューロンに投射する。脊髄視床路ニューロンは視床を経て大脳皮質に投射し、痛みの知覚に関与する。脊髄網様体路のニューロンは脳幹の網様体に投射し、痛みに伴う情動や自律神経反応などに関与する。狭心症や心筋梗塞の発作時には、交感神経性求心性線維からの侵害性の感覚情報によって、しばしば上胸部や左腕に痛みが起る。
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心臓からの迷走神経性求心性線維は、心臓の状態を常時中枢に伝え、反射性に循環機能を最適な状態に保つよう調節している。一方、交感神経性求心性線維は狭心症などの心臓の痛みをいち早く伝える。
6 循環機能の調節:血管
●血管と血管運動神経
・血管はその構造や機能から、大動脈、動脈、細動脈、毛細血管、細静脈、静脈、大静脈に分類され、血管壁は原則として外膜、中膜、内膜の3層構造を持つ、外膜は結合組織、中膜は平滑筋と弾性線維(エラスチン)と膠原線維(コラーゲン)、内膜は内皮細胞と膠原線維からなる。
・血管を遠心性に支配する血管運動神経は膨大部を数珠状に形成しながら、血管壁の外膜と中膜の間に、一部は中膜の内部にも分布する。
・血管運動神経には血管平滑筋の収縮を起こす神経(血管収縮神経)と拡張を起こす神経(血管拡張神経)がある。血管収縮神経は交感神経性であり、最も広範囲に分布し、影響も大きい。血管拡張神経には交感神経性のもの、副交感神経性のものと脊髄後根神経性のものがある。
・交感神経性血管収縮神経は胎盤を除く全身の血管に分布する。特に皮膚や腎臓などで分布密度が高く、脳では少ない。動脈、細動脈、前毛細血管括約筋、細静脈、静脈に広く分布するが、細動脈への分布が最も密である。毛細血管には分布していない。
・交感神経性血管拡張神経は、骨格筋の血管に分布し主要な伝達物質はアセチルコリンと考えられる。
・副交感神経性血管拡張神経は、脳、顔面、唾液腺、甲状腺、生殖器などの血管に分布している。その活動が亢進すると血管が拡張して血流増加が起る。
・脊髄後根神経による血管拡張は、皮膚の侵害性刺激によって起こる。皮膚の侵害性刺激はその部位に分布する無髄の求心性線維を興奮させて、その情報を後根を通って中枢に送る一方、後根に入る手前で分枝している求心性線維を逆行性に興奮させ皮膚血管を拡張させる。
9 局所循環の調節:脳循環
・脳は心拍出量の約15%程度の血液を受け取り、全身の酸素消費量の20%近くを消費する。
・脳は虚血に対して非常に弱く、ヒトでは脳血流が完全に遮断されると10秒以内に意識を消失し、8~12分間に非可逆的な脳の障害を起る。
・脳血流量は平均動脈圧がある範囲で変化しても、自動調節により一定に保たれる。
・脳血流を局所的にみると、会話や読書など脳の働きに伴い刻々と変化する。
●脳血管の特徴
・脳は左右の内頚動脈と椎骨動脈によって血液を供給される。左右の椎骨動脈は合流して脳底動脈となり、2本の内頚動脈とともにウィリスの動脈輪を作る。ウィリス動脈輪からは大脳皮質と大脳基底核に、また、椎骨動脈および脳底動脈からは小脳および脳幹に血液が供給される。
・脳の毛細血管は他の組織の毛細血管と異なり、さまざまな物質に対して透過性が低い。このような血液と脳の間の機能的障害を血液脳関門という。
・脳血管に自律神経が分布することは古くから知られていたが、脳血流の調節には脳細胞の活動の結果生じる二酸化炭素などによる代謝性調節が重要とされ、神経性調節の研究は進まなかった。現在では、脳血管にはノルアドレナリンやアセチルコリンに加え、CGRPなど種々の神経ペプチドやセロトニンを含む神経も多数分布し、交感神経性や副交感神経、さらには三叉神経の求心性神経や頭蓋内神経が、脳血流調節の重要な担い手であることが明らかにされている。
14 局所循環の調節:末梢神経循環
・末梢神経もエネルギーとして必要な酸素や栄養を、神経内の血管を流れる血液から得る。末梢神経の機能が正しく働くためには、末梢神経の血流が正常に保たれる必要がある。
・末梢神経の血流は一般に血圧に依存して変動するが、局所血流は常に血圧に依存するとは限らず神経性は局所性にも調節される。
●血管拡張神経
・血管拡張反応はコリン作動性血管拡張神経が活動して神経末端からアセチルコリン(Ach)が放出され、血管平滑筋のムスカリン受容体に作用して末梢神経管を拡張させる。
●求心性神経のペプチド性血管拡張作用
・末梢神経の血管には求心性神経の伝達物質のCGRPやサブスタンスPなどを含有する神経も存在する。神経末端からCGRPが放出され、血管平滑筋のCGRP受容体に作用して末梢血管を拡張させる。
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・青の血管拡張神経(遠心性C線維)は副交感神経性(遠心性)血管拡張神経である。顔面神経や迷走神経などの節後線維として血管拡張を起こし、活動に応じて血流を増やす。「感覚入力→脳幹・視床下部などの上位中枢 →自律神経核を介した反射」で制御される全身レベル、臓器レベルの循環調節である。
・緑の血管拡張神経(求心性C線維)は自律神経ではなく感覚神経の求心性C線維で、痛み・温度・内臓感覚などを中枢へ送る線維である。この求心性C線維の末端からCGRPやSPが放出され、軸索反射により局所の血管拡張・透過性亢進を起こす。
●血管内皮細胞の神経血流調節機構
・末梢神経血管では、血管内皮細胞が血流調節に重要な役割を担っている。内皮細胞はNOやエンドセリンを放出し、NOは強力な血管拡張作用を、エンドセリンはカテコールアミンの10倍以上の血管収縮作用を有する。NOとエンドセリンは互いの放出を調節し、適度のバランスを保って血流維持に貢献している。
26 免疫機能の調節
●免疫組織の自律神経支配とその作用
・免疫に関与する組織(リンパ器官)として、胸腺、脾臓、骨髄、リンパ節などがある。
・胸腺と骨髄はリンパ球を産生する場であり、一次リンパ器官とよばれる。
・脾臓とリンパ節はリンパ球が免疫を起こす場であり、二次リンパ器官とよばれる。
・これらのリンパ器官には交感神経が分布する。交感神経はリンパ器官の血管を支配し、血流を変化させることにより間接的に免疫機能を調節する。また、リンパ球の多い実質にも分布し、リンパ球に直接作用して免疫反応に影響を与える。たとえば、脾臓交感神経を電気刺激すると、脾臓の血流が減少するばかりでなく、脾臓NK細胞の活性も低下する。
●神経-内分泌-免疫系の相関
・不安や精神的ストレスによって病気にかかりやすくなると言われているように、情動が免疫機能に影響を与えることは推測できる。実際、体性感覚刺激やストレスは自律神経系や内分泌系を介して免疫機能を調節するしくみがある。さらに、免疫細胞から分泌されるサイトカインは、視床下部-下垂体系や自律神経系に影響を及ぼすことが明らかになっている。
・種々の感覚刺激で、抗体産生能などの免疫機能が亢進する場合もある。種々の感覚刺激やストレスは、視床下部-下垂体-副腎皮質系、さらに他の多くのホルモン分泌に影響を与える。コルチコイドが著しい免疫抑制作用を持つのに対し、成長ホルモンや甲状腺刺激ホルモン、バソプレシンなどのホルモンは免疫促進作用をもつ、これらの多くの調整系の作用が総合的に働いて、免疫機能が変化すると考えられる。
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体性感覚の刺激やストレスは自律神経系や内分泌系を介して免疫機能を調節するしくみがある。さらに、免疫細胞から分泌されるサイトカインは視床下部—下垂体系や自律神経系に影響を及ぼす。
27 体性感覚刺激による自律神経機能の調節
・自律神経機能の調節には、情動などの脳の指令による調節と、末梢の感覚受容器(内臓感覚と体性感覚)からの反射性調節がある。精神性発汗など脳の指令による調節や、血圧の圧受容器反射など内臓感覚から起こる反射については古くからよく知られている。一方、皮膚や筋などの体性感覚によって起こる体性-自律神経反射については比較的研究が遅れていた。体性-自律神経反射とは、体性感覚刺激による情報が体性求心性神経を介して中枢神経に伝えられて統合され、その結果、自律神経系を通って内臓機能を反射性に変化させる反応である。
●体性-自律神経反射のしくみ
・体性-自律神経反射には中枢内経路を脳幹と脊髄に持つものが知られている。脳幹に反射中枢を持つ反射の場合には、入力する求心性神経の分節の影響を受けず(全身性反射)、反射の大きさは求心性線維の分布密度に依存する傾向がある。一方、脊髄に反射中枢を持つ脊髄性の反射の場合、入力する求心性神経の分節と遠心性神経の分節が同じあるいは近い場合にのみ反射が起こる。つまり脊髄反射は強い脊髄分節性を示す(分節性反射)
・脳幹を介する全身性反射は四肢の刺激で顕著に現れ、脊髄性の分節性反射は体幹部の刺激で明確にみられる。その理由は、四肢の支配神経に由来すると思われる。上肢および下肢に分布する運動ニューロンは、それぞれ頚髄や下部腰髄(腰髄~仙髄上部)に密集しており、頚部膨大、腰仙部膨大を形成している。このため、四肢を刺激すると、その情報は求心性神経を介して頚部膨大と腰仙部膨大に入力し、そこに存在する四肢の運動ニューロンにシナプスを形成して、強力な脊髄運動反射を誘発することができる。そのような脊髄運動反射の代表例は腱反射である。頚部膨大と腰仙部膨大の脊髄分節領域には、自律神経節前ニューロンはほとんど存在しない。このため、四肢を刺激しても脊髄性の体性-自律神経反射は起りにくい。四肢からの求心性情報は、一端上行して脳幹に伝わり、統合されて自律神経を介して全身性反射を起こすことが多い。一方、胸部や腹部などの体幹部の刺激は、脊髄性の体性-自律神経反射を誘発しやすい。これは体幹部の脊髄神経求心性神経が入力する脊髄分節には、自律神経節前ニューロンが存在するためと思われる。胸髄~腰髄上部には交感神経節前ニューロンが存在するので、これらの脊髄分節に入力する体性求心性神経は、自律神経節前ニューロンに脊髄反射経路を形成することができると思われる。
30 軸索反射
●皮膚の感覚神経の軸索反射
・軸索反射の代表例は、皮膚の感覚神経の刺激の際に認められる。皮膚を尖ったもので強くこすると、こすられた場所が充血して赤くなり(赤色反応)、次いでその周囲が斑点状に紅潮してくる。さらに数分経つと充血部に沿って皮膚が盛り上がってくる(腫脹)。これらの反応(皮膚の三重反応)はいずれも交感神経性遮断後も発現するので、交感神経は関与していない。このうち赤色反応は、刺激の血管に対する直接作用によって起こる血管拡張である。
・皮膚に侵害刺激が加わると、侵害性情報を伝える一次求心性神経が興奮する。その興奮は順行性に伝導して中枢神経に伝えられて痛みの感覚を起こすと同時に、別の軸索側枝に沿って逆行性にも伝導する。その結果軸索側枝末端から侵害受容性求心性神経の化学伝達物質のサブスタンスPやニューロキニン、CGRPやVIPなどの神経ペプチドが放出される。これらの物質が皮膚血管に作用して血管を拡張させ、紅潮反応を起こす。これらの化学物質は同時に、皮膚の肥満細胞にも作用してヒスタミンを遊離させる。ヒスタミンはまた皮膚の侵害刺激の肥満細胞への直接作用によって遊離される。このヒスタミンによって皮膚血管の透過性が亢進して腫脹が起こる。
31 自律神経と痛み
●関連痛
・内臓に疾患がある場合、傷害されている内臓から離れた特定の体表面(皮膚や筋)に感覚過敏や痛みを起こすことがある。このような異常感覚を関連痛とよぶ。関連痛は病変部の内臓器官から感覚情報(内臓求心性線維)と皮膚からの感覚情報(体性求心性神経)が後根を通って同じ脊髄分節に入力している場合に起ることが多い。関連痛の起る部位は病変部位によって特異的であるため、臨床診断上重要である。例えば、心筋梗塞や狭心症の発作が起こると、胸部が締めつけられるような痛みを覚え、さらには左胸および左腕内側部に痛みを感じることが多い。
収束説によれば、関連痛を伝える内臓求心性線維と体性感覚を伝える体性求心性神経は同じ脊髄視床路のニューロンに収束する。体性感覚の痛みであると学習している。そのため、内臓求心性線維の情報によって脊髄視床路ニューロンが興奮した場合でも、通常経験することの多い体性感覚の痛みとして捉えてしまうのである。
感想
細かい話なのですが、今回、印象に残ったことは2つです。
一つは、節前線維と節後線維という2本に分かれた「自律神経」と1本の神経である「体性神経」の構造の違いが何を意味しているのかという点でした。
「自律神経」は、全身の内臓と血管を、ホルモン系とも連携しながら広く・段階的に・比較的ゆっくり調節する必要があるため、「神経節」という中継点を置き、節前・節後線維に分けることで、信号の増幅・分配・統合・化学変換を行う構造をとっています。
一方の「体性神経」は骨格筋を素早く・精密に動かすことが第一であり、中継点を挟むメリットよりもデメリット(遅延・ノイズ)の方が大きいので、1ニューロンがそのまま筋に直結するシンプルな構造をとっています。
そして2つめは、自律神経が脳幹を介した「全身性反射」と脊髄を介した「分節性反射」でした。このことは知っていましたが、臨床で意識(イメージ)することはほとんどありませんでした。これからは、このことも頭に入れて施術していきたいと思います。
本書のタイトルにも書かれていた「命を支える仕組み」である【自律神経】は、鍼灸(東洋医学)の【氣】・【経絡】・【自然治癒力】とともに最も意識すべきことだとあらためて思いました。









