●壁内神経叢
・壁内神経叢は腸管神経叢とも呼ばれる。
・壁内神経叢はアウエルバッハ神経叢とマイスネル神経叢という2つの神経叢からなっている。
画像出展:「Visual Anatomy」
腸管神経叢(アウエルバッハ・マイスネル)には多数の神経細胞体が局在しており、これらが神経節を形成する。これらの神経節は、①消化管内で刺激を受ける、②消化管内で情報を処理する、③消化管内で運動を指令するという局所回路を形成する。
・壁内神経叢の一部はNANC神経に支配されており、その主な神経伝達物質は、ATP、NO(一酸化窒素)、VIP(血管作動性腸管ペプチド)である。ATPは壁内神経叢における早い反応に、NOとVIPは遅い反応に関与する。
画像出展:「あなたの血管の救世主・NO (一酸化窒素)」
『1998年にはNOが循環器系の信号伝達物質であることを証明した3人の研究者たちがノーベル医学・生理学賞を受賞している。それくらい人類にとってどえらい発見だったというわけだ。』
●交感神経系
・交感神経からはノルアドレナリン(NA)以外にATPやNPY(ニューロペプチドY)も放出され、血管を収縮する。ノルアドレナリンは血管平滑筋のα受容体に結合して、ゆっくりとした血管の収縮を起こす。ATPは交感神経の刺激によりノルアドレナリンとともに放出され、血管平滑筋のP2受容体に作用して膜の脱分極を伴う一過性の早い収縮を起こす。交感神経の高頻度刺激では、ノルアドレナリンやATPに加えてNPYも放出され、最も遅い収縮反応を起こす。
12 ペプチド作動性神経伝達
●交感神経系
・神経ペプチドは新しいタイプの神経伝達物質としては最も大きい。血管作動性腸ペプチド(VIP)やニューロペプチドY(NPY)、サブスタンスP(SP)などがあり、自律神経系に多くの作用に関与している。
・神経ペプチドは旧来の神経伝達物質であるノルアドレナリン(NA)やアセチルコリン(ACh)、あるいはNOと共存し、協同で作動する場合が多い。
●副交感神経系
・副交感神経節後ニューロンにはアセチルコリンとVIPの共存が多くみられ、どちらも血管を拡張させ血流を増大させる作用や分泌を促す作用がある。
・副交感神経の低頻度刺激ではアセチルコリンが放出されて腺細胞から唾液分泌を促し、唾液腺血管を一過性を拡張させる。一方、高頻度刺激ではVIPも放出されて血管を著しく拡張させて唾液腺血流を増大させたり、腺細胞に対するアセチルコリンの作用を増強したりする。
・副交感神経から放出されるVIPによる血管拡張は、生殖器官、鼻粘膜、甲状腺などでも見出されている。
13 NO作動性神経伝達
・体内には気体状の伝達物質が存在するが、代表格が一酸化窒素(NO)である。NOは気体であるため自由に細胞膜を通過する。シナプス小胞に貯留されることもない。
●血管の内皮細胞由来弛緩因子
・液体状の伝達物質はNO以外に一酸化炭素(CO)、硫化水素(H₂S)がある。いずれも有毒ガスだが微量だと生理的な作用を示す点が興味深い。
・NOは内皮細胞内にあるNO合成酵素(NOS)の働きによって、L-アルギニンがL-シトルリンに変換され、その際、生成される。
・内皮細胞由来のNOは脳など多くの臓器で血管を拡張し、血流を増加させる。内皮細胞が障害されてNOが生成できなくなると、高血圧や動脈硬化、糖尿病あるいはアルツハイマー型認知症といった疾患につながるとされている。
・NOはL-アルギニン(肉、魚、大豆、ナッツなど)や葉酸(緑野菜、豆類、海苔など)などNO産生を助ける栄養素を食事から取り入れ、それを材料・補因子として体内で合成していると考えるのが妥当である。
●自律神経系伝達物質としてのNO
・NOは内皮細胞だけでなく自律神経系でも生成され、NANC神経の伝達物質として働く。NOを伝達物質とする神経をNO作動性神経と呼ぶ。
・自律神経系において、NOS(NO合成酵素)は交感神経と副交感神経の節前ニューロンに存在する。節後ニューロンにも存在するが、この場合はおおむね副交感神経系に限られている。節後ニューロンでは、NOSはペプチドやAchと共存する例が多い。
・NOSは壁内神経叢にも多く存在する。副交感神経系と壁内神経叢において、NOは血管平滑筋を弛緩させ、アドレナリン作動性血管収縮神経と拮抗的に働く。
14 内臓求心性線維
●自律神経系の求心路の存在
・自律神経は20世紀初頭においては、遠心路だけと考えられていたが、1933年にネコの迷走神経に心臓や肺の情報を伝える求心路が含まれることが発見された。
●内臓求心性線維の特徴
・内臓壁の伸展度や中空臓器の内容物の化学的性質など、内臓のさまざまな状態は、内臓感覚受容器によって感受され、内臓求心性線維を介して中枢神経に伝えられる。
・内臓求心性線維によって中枢に運ばれた内臓の情報は、意識に上がる場合と上がらない場合がある。
・意識に昇る場合は、内臓感覚を起こす。内臓感覚はさらに臓器感覚と内臓痛覚に分類される。臓器感覚とは空腹や渇きの感覚、便意、尿意などの身体内部の状況に関する感覚をいう。臓器感覚に関する情報は主に迷走神経や骨盤神経を通る。内臓感覚とは病的状態で起こる内臓の痛みの感覚をいう。内臓痛覚に関する情報は主に交感神経を通る。
15 自律神経機能の中枢
・自律神経は中枢神経系のさまざまな領域によって階層性に調節されている。
・自律神経遠心性線維の細胞体が存在する脊髄と脳幹は、自律神経機能の最も重要な中枢である。
・視床下部は自律神経の最高中枢と呼ばれるが、大脳皮質による自律神経系の調節の詳細はいまだよく分かっていない。
●脊髄
・脊柱管の中に収められた神経細胞の集まりを脊髄という。成人で長さ約40cm、太さ約1cmの器官である。
・脊髄の胸腰髄には交感神経の、仙髄には副交感神経の節前ニューロン細胞体が存在する。
●脳幹
・脳幹は中脳、橋、延髄から成り立つ。脳幹には末梢受容器からの求心性情報が入力する。また、視床下部、大脳辺縁系、大脳皮質など高位中枢からの下行性情報も入力する。脳幹はこれらの入力を統合する統合中枢としての役割があるとともに、統合された情報をもとに統合された情報をもとに効果器の機能を調節する調節中枢ということもできる。この場合、脳幹から直接出力する自律神経を介して、あるいは下行性の経路を介して脊髄から出力する自律神経節前ニューロンに影響を与えることによって、末梢の効果器の機能を調節する。
●視床下部
・間脳の一部である視床下部は前後の距離が6mm、重さが約4gである。大脳に比べ著しく小さいが視床下部は生体の恒常性(ホメオスタシス)維持に最も重要な役割を果たしている。また、本能や種の維持にとっても極めて重要な部位である。
・視床下部がホメオスタシスに重要な働きをもつことができるのは、視床下部の構造とそこに存在するニューロンの特性のためである。視床下部には、血液脳関門が弱いために物質透過性の高い部分がある。こうした部位では循環血液中の物質濃度を感知しやすく、内部環境の変化に感受性の高いニューロンが現れる。
・視床下部は大脳辺縁系など上位中枢からの影響を受けつつ脳幹や脊髄に作用し、自律神経活動やホルモン分泌を介して自律性反応の発現と調整を行っている。このように視床下部は自律性反応の中核を担っている。
画像出展:「やさしい自律神経生理学」
Aは視床下部に入力する求心性線維、Bは出力する遠心性線維です。
●大脳辺縁系
・大脳辺縁系は視床下部の周囲を取り巻く辺縁皮質と、辺縁皮質と解剖学的つながりの深い皮質下領域より構成される。辺縁皮質は帯状回、海馬傍回、鈎などに、皮質下領域は中隔核、扁桃体、海馬などに区分され、これらの領域とその近接領域には、複雑な線維連絡がある。
・大脳辺縁系は自律機能への関りとしては、視床下部との密接なつながりのもとに、本能および情動行動とその際に伴う自律反応の協調と統御に重要な役割を果たしている。
●大脳皮質
・大脳皮質と大脳辺縁系とは神経回路で連絡があるので、大脳皮質・大脳辺縁系・視床下部・脳幹という順に神経回路が働いて、自律機能が調節されうる。大脳皮質が視床下部あるいは脳幹に連絡して、自動機能を調節する経路もありえる。では、大脳皮質のどの領域が自律神経系を調節しているのか。過去20年の研究成果から、内側前頭前野と島皮質の2つの部位が、自律神経系の調節に重要な役割を果たしていることが明らかになってきている。
●小脳
・小脳は循環機能のトーヌスではなく、種々の循環反射(たとえば運動時)の心臓血管系の調節に関与していると推測されている。
16 自律神経機能の反射性調節
・体性-内臓反射(体性-自律神経反射)
-体性神経を求心路、自律神経を遠路とする反射。皮膚や筋の体性感覚神経の刺激によって内臓の働きが調節される。
・内臓-内臓反射
-自律神経を求心路、遠心路とする反射。内臓求心性線維を伝わる内臓の状態に関する情報によって、内臓の働きが調節される。例えば、食物による胃や腸の刺激によって、胃の運動や分泌機能が調節される反射など。
・内臓-体性反射
-自律神経を求心路、体性神経を遠心路とする反射。内臓求心性線維に伝わる内臓の状態に関する情報によって、骨格筋の収縮が変化するなど。
・体性-体性反射
-体性神経を求心路、遠心路とする反射。筋や皮膚の体性感覚神経によって、骨格筋の収縮性が変化する。伸張反射や皮膚反射などがある。

