発達障害児の言語獲得

ありがとう、ヘンリー」というブログは、発達障害児と介助犬の実話に基づくものですが、その本から「自信」、「自尊心」とともに言語に問題を抱えた子供にとって、「言語」が非常に重要であることを知りました。
言語といえば、言語聴覚士が専門とされている分野ですが、言語障害、特に言語獲得ということについては、ある程度の知識を持っていた方が良いと思い、主に実践的な内容が書かれた本を探すことにしました。

 

左が今回、勉強させて頂いた本です。

著者:石原幸子・佐久間 徹

出版:二瓶社

 

 

 

応用行動分析学について解説されています。

 

 

 

ABA専門用語の説明がされています。


まず、本書の趣旨を知っていただくのが良いと思いますので、著者のお一人である石原先生が書かれた「はじめに」を掲載させて頂きます。
『今から14年前、三歳直前のあいちゃん(仮名)は、さくま先生の指導する障害児の相談室に来ました。自閉症と診断された他の多くの子どもたち同様に、あいちゃんも重度の言語発達遅滞を示していて、お父さん、お母さんはとても心配されていました。さくま先生は、以前からずっと、応用行動分析を柱とするフリーオペラント法での指導を実践し、今も続けています。
フリーオペラント法は、ロバース[O. Ivar Lovaas]のオペラント条件づけの原理を応用した、自閉症児の言語獲得のための行動療法を出発点にしたものです。コスト面の改善、般化の貧弱さの改善、脳障害説へのこだわりからの脱却、などを目指して辿り着いたセラピーです。

さくま先生は、多くの論文、翻訳本などを出していますが、フリーオペラント法については、“広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)”(2013、二瓶社)がはじめてのものです。
「障害児に関する本は、読み手が誤解しても、書き手が誤解を生むような記述をしても、障害児がその愚かさの犠牲になる。それを考えると、本の執筆は、どうしても慎重になる。しかし、障害児からたくさんのことを教えてもらいながら、それをそのまま墓場まで持っていっては、子どもたちに申し訳ない。もっと勉強して、誤解されない記述が身に付いてから本にまとめるべきなのだが、すでに日本人男性の平均寿命を超える年齢になってしまった。折りに触れ、認知症のキザシを自覚するまでになっている。本を書くのはいまでしょう!」との思いで書いたものだそうです。

さくま先生は、この本がどのように読まれるか、とても心配していました。応用行動分析の行動変容力は結構強力なのです。今後さらに技術の改善が進むでしょう。それに引き替え、現在の私たちは、それを間違いなく正しく使う哲学を持ち合わせていない。本を読み、自分勝手に都合よくつまみ食いしたのでは、子どもたちは応用行動分析の犠牲者になってしまう。先生はいささか考えすぎと思われるほどの悩みようです。しかし私は、この本で一人でも多くの障害児に言語獲得してほしいと思っています。
相談室に来られたお父さん、お母さんに、さくま先生はことばの指導法だけでなく、子育ての知恵についてもいろいろなお話をします。たくさんの方に知ってもらえれば、障害児だけでなく、多くの子どもたちの子育てや成長に、きっと役立つはずです。さくま先生のたくさんのことばを、きちんとした形で残すことが、あいちゃんをはじめ、相談室に通ってくれた子どもたち、保護者の方々、これから子育てをされる世代への贈り物になると思います。

フリーオペラント法によるあいちゃんの言語獲得指導の要所要所で、さくま先生のお話を挿入しながら事例報告を書きました。本書は“広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)”の実践編でもあります。言語獲得指導に取り組んでおられる皆さまのお役に立つことを心から願っています。』

 

ブログでは、目次のご紹介に続き、「フリーオペラント法」の1、2。続いて、あいちゃんへの2回目と69回目のセッションの様子。さらに、「あいちゃんの指導のまとめ」と「現在のあいちゃん」の前半部をご紹介しています。
また、最後に復習のような感じで、印象に残った個所をつまみ食い的に列挙させて頂きました。

目次
第一章 あいちゃんの言語指導のはじまり
 上手に教えてもらうのではなく、自分の経験から学ぶ
 あなたの声を聞いているよ
 よくわからないけど、こうしたほうがよさそうだ(知恵)
 人と同じことをすれば楽しい
 ことばの発達が最優先
 がまんする子どもは親や指導者が楽なだけ
 成長日記をつける
 療育は化学か?
 遊んで育つ、後片付けは遊びにブレーキ
 発達に大きく影響するものを優先
 静かな抱っこ20分
 社会性は実体験から身に付く
 教えなくてもできること
 親は見ているだけの方がいい


第二章 ことばの出現/発声模倣の拡大/遊びの発達
 ことばの訂正は御法度
 皮膚感覚の成長
 「手で食べる」は指先の運動発達に効果大
 集中とこだわり
 「叩く」は楽しく遊びたい気持ちの表れ
 不安の緩和

 

第三章 ことばの増加/人との関わり/自発的遊び
 社会への適応
 人の気持ちを理解する
 がまんできたらえらい?
 不適応行動の大半は好奇心から
 五感のアンバランス
 自力で学ぶ力を育てる
 「オカアチャ」と呼びました
 語彙数は増加速度より変化率に注目
 お兄ちゃんと遊びたい
 活発な喃語が発話に続く
 「オハヨウ」と入室

 

第四章 自発後の増大/認知的遊び/人とのやりとりへの発展
 不適応行動への対処
 子どもは自分の気持ちを伝えたい
 集団行動への参加
 お口もぐもぐで自主トレ
 パニックへの対処
 「親ばか」はそんなに悪くない

 

第五章 安定したことばの使用 ― 現在のあいちゃん
 好きなことを増やしていく
 食べ物の変化
 多彩な反応
 就学について
 あいちゃんの指導のまとめ
 現在のあいちゃん

フリーオペラント法―その1 
『無言語の自閉症児に言語獲得の道を開いたのは、1970年頃のロバースです。カルフォルニア大学の教授で、当時、世界中から注目を浴びました。しかし、子どもは連日、ロバースのセラピールームに親子で通い、週に30時間も訓練を受けるものでした。
若い頃、ロバースの本を読んでいて、訓練時間の長さにびっくりし、指導の人件費の概算をしてさらに驚き、日本でこんな事はできないと思いました。それが、フリーオペラント法を思いつくきっかけになりました。そして、この訓練時間の長さには基礎理論の応用の仕方に欠陥があるはずだと考えました。どんなに障害が重症でも、自分の経験から学ぶということをするはずです。野生の動物はみな、指導者なしで、生きる術を学んでいます。そんなに長時間の指導は明らかに非能率的です。
家庭でも強化随伴性が維持され、模倣行動の自発性を高める操作を加えると、1週間に1時間の指導で、遜色のない成果を出し得ることがわかったのです。
セラピー関係では、能率について議論されることはほとんどないようですが、セラピーは趣味や道楽の類ではなく、仕事です。能率を考えるべきです。
学ぶ力の弱い動物に教えるには、コツや技術が必要です。私たちの指導の拠り所は、動物実験の成果である行動分析です。指導のポイントを動物から教えてもらったのです。そのために、初期の頃には、障害児を動物扱いしているとの批判がひどかった。しかし、ことばの発達指導が絶望的だった頃、ちゃんと言語を獲得させることと、獲得できないままにしているのと、どちらが人間的か、議論の余地はないはずです。』

 

画像出展:「Alchetron

 

フリーオペラント法―その2 

『フリーオペラント法の大きな特徴は、言語理解に関して完全手抜きで進めることです。
これまでの言語に関する基礎研究では、言語能力は言語理解と言語表出の二面からできているとされています。しかも、言語理解が先行し、その後追いで、言語表出が発達するといわれてきました。
しかし、言語発達遅滞児たちは、逆を示しています。言語理解はかなりいいのに言語表出がゼロ、あるいは、かなり悪い子が大勢いる。それに引き替え、言語表出が良好な子どもたちに言語理解が悪い子どもは一人もいない。言語表出レベルに相当する言語理解を持ち合わせている。
この目の前の事実に注目するならば、言語発達促進の指導は、言語表出の方に注目すべきであり、言語理解は手抜きでいいことになる。事実、30歳代半ば頃、フリーオペラント法で音声模倣を形成しただけで、家庭で自発的に単語が出だす子どもを幾人も経験し、以来、言語理解を完全手抜きでやっています。その方が経過がいいのです。
障害児指導に模倣行動を取り入れる研究が内外に少しずつ出はじめています。モデルを示し模倣を誘導して強化子を随伴させるという手続きです。
1970年代はじめに模倣を取り入れたわれわれとしては嬉しい限りですが、それよりも、ここで紹介しているように、子どもの発声、子どもの動作をセラピストが模倣して子どもの模倣行動の自発を待つ方が、手間はかかりますが、はるかに良好な自発的模倣行動が出てきます。
あいちゃんも、ことばの意味に関しては一切教えるということなしです。化粧品会社のホームページを見て漢字をお母さんにたくさん聞きましたが、誰も積極的に教えていません」』

 

あいちゃんへの2回目のセッション(あなたの声を聞いているよ)
『お正月が明けて、二週間ぶりにあいちゃんがやってきました。布をかじっています。汽車のおもちゃを動かし、汽笛のボタンを押しました。おもちゃに全く興味がないわけではありません。アンパンマンの電話を鳴らすと、受話器を持って、「アイ」と小さな声が聞こえました。はじめて聞いた声です。セラピストもすぐに「あい」と繰り返します。

次にあいちゃんは滑り台に向います。滑り台を滑ったときに、くすぐりますが、なかなか声は出ません。抱っこしてジャンプしてみます。目が合って、ニコッとしますが、発声はありません。お母さんが座っている椅子によじ登ろうとするので、セラピストが抱っこで乗せてあげると、次は手を広げて待っています。座っているあいちゃんから見えないように隠れ、「あいちゃん」と呼んで、いないいないばぁのように顔を出すと、「アハハ」とはじめて大きな声を出して笑いました。顔を出したときにくすぐることを何度も繰り返すと、自分から出てきて、顔を押し付けたり、体をねじったりします。この間、かじっていた布が落ちましたが、全く気にしません。セラピストはあいちゃんからの要求にすぐに応じます。

ー お父さんとお母さんはさくま先生とお話です。
「ことばについて、もう少し詳しくお話しします。ことばは自分の声に対して相手から反応が返ってくるから発達します。その時、子どもを理解しようとする気持ちがマイナスに働いてしまいます。つまり、子どもの顔を見たり、目の動きを見て、“嬉しいのかな”“これが欲しいのかな”と考えていると、子どもの発声を聞き逃してしまう。子どもにとっては、声が無視されていることになる。ことばに敏感になって、“あなたの声を聞いてるよ”ということを子どもに伝えるにはどうしたらいいでしょうか。子どもが「アアア」と言ったら、「あああ」と答えれば、自分の声が相手に伝わっていることが、子どもにわかる。これが、音声フィードバックです。音声模倣ともいいます。これをここだけでなく、生活の中でもしてもらえたらと思います。

理由はよくわからないのですが、子どもは自分の発声と同じ発声が相手から返ってくると、楽しい気分になります。軽い躁状態を示します。何度も繰り返すと、楽しくなるために、次に、自分の方から大人と同じ声を出すようになります。動作に関しても同じです。動作模倣と呼んでいます。

自発的に発声模倣をするようになると、ことばの発達がはじまります。これを絵カードなどで発声を強要すると、必要以上に力のいった声になることがあります。余分な力の入っていない声はコントロールしやすい声になり、発話獲得の重要条件です」

このお話の途中で、あいちゃんの笑い声が聞こえ、お父さんたちもあいちゃんの様子をじっと見ています。プレイルームには水場があります。水を出して、スポンジを絞ってみるとあいちゃんも触ります。セラピストもすぐに水を出します。この後ずっと、水を出す、スポンジを絞る、を繰り返しました。セラピストは一切指示を出しません。
さくま先生のお話が続きます。
「ここでは叱ることはほとんどありません。お家でもできるだけ叱らないで、好きなことをさせてください。叱らないとわがままな子になると思われていますが、わがままは、後でいくらでも修正できます。ことばの発達を最優先にしましょう
さくま先生のことばにお父さんとお母さんはうなずかれました。ただ、このことは思ったより大変です。それをお父さんとお母さんはこの後ずっと守って下さいました。』

 

あいちゃんへの69回目のセッション(多彩な反応)
『11月の下旬になりました。69セッション目になりました。走って、あいちゃんがやってきました。ニコニコして、机の上の洗面器を見て「コエ」「アッタ」と言いながら、手で中の水を混ぜます。すぐに「イタ、イタ」「イコカ」と言いながら、キティちゃんを持ち、お母さんの手を引きます。おもちゃのレンジを触るので、「冷蔵庫もあるよ」とセラピストが見せると「ウィ、キティチャン」「アコ」と言いながら、マットの上に置きました。

セラピストがベビーカーも持って来ると、あいちゃんがキティちゃんを乗せました。「キティちゃん、行ってきます」とセラピストが声をかけ、押しはじめると「バイバイ」と言ってくれました。

お母さんに掃除機を持たせ「スースー」と掃除をするように要求します。あいちゃんもベビーカーに乗り「バイバイ、バイバイ」と繰り返します。「バイバイやね」とセラピストはすぐに答えます。「アイチャン、キティチャン」と言っています。「あいちゃん、キティちゃん、乗ってます」と返事をします。

セラピストがキティちゃんのスティック糊を持ってくるとそれを持って「アーイ、アーイ」と机に向います。「キティちゃん、猫こか」とセラピストが言うと「アーイ」と返事をしてから、お母さんの手を引いて、机に来るよう要求します。お母さんの手を紙に持っていき、ペンも置き「キティチャン、コエ、コリキ」と発語します。黒ペンを持って、お母さんの手を持って「ハーイ」と言います。お母さんがキティちゃんの輪郭と目を描いてくれます。黄色のペンを持ち、お母さんの手を持って「ハーイ」と発語すると、お母さんがリボンや口を描いてくれました。「イーシャ」とニコニコします、「ヨイショ」と言いながら、平均台を持ってこようとするので、セラピストも「よいしょ、よいしょ」と手伝います。

あいちゃんは平均台に座って「デキタ、キティチャン」「カキカキ、ヤッテ」「ハーイ、カキヤッテ」と発語が続き、セラピストもすぐに模倣します。平均台に立つと「タカーイ、ハイーネ」「デキター」「オカアサンガコッチと言いながら、お母さんを呼びます。セラピストの顔も見て「アーイ、デキタ」と手をあげてくれます。

次の紙をお母さんに渡します。黄色のペンも渡します。「オーアイチャ、ハイ、オカーシャン」とずっと喋っています。セラピストがキティちゃんの輪郭に切った紙をあいちゃんに渡すと、あいちゃんが目と豚の鼻と口を描きました。「あいちゃん、ぶたさん、上手、上手」と褒めました。

もじもじするので、お母さんが着替えを出すと、おしっこをして、トランポリンに行きました。「ウアイヤー、ピョンピョン」と言っています。セラピストもあいちゃんと一緒に「ぴょん、ぴょん、うまい、うまい」と飛んでみます。着替えが途中だったので、お母さんがボタンに手をかけると、外して全部自分でやり直します。10分前でしたが、「バイバイ、バイバイ」とずっと言いながら、帰りました。
あいちゃんは、お家でも何でも自分でやりたがること、ことばをいろいろなリズムで言ったり、いろいろな声で言ったりして、楽しんでいるとお母さんからお話がありました。』

 

あいちゃんの指導のまとめ
あいちゃんが相談室に来所して、二年が経ちました。この間の発語は経過記録でお伝えしましたが、一度口から出たことばは完全に定着し、再三、遊びの場面、生活場面で使用されています。
第四章以降の相談室での指導と家庭での様子についてまとめると、あいちゃんの要求行動の増加に対し、セラピストは可能な限りそれに応じ、無意味発声に対しては無視、無反応で対応し、動作や行動の言語化、有意味語と思われる発声に対しては拡充模倣で応じました。
また、いわゆる声掛けなどの行動指示(先行刺激操作)を少しずつ増やしていきました。これはフリーオペラント技法の基本方針からずれるのですが、あいちゃんの行動変容(例えば、声掛けによく反応するようになっていた)に合わせたものでした。
発語頻度の増加に伴い、発語の反応トポグラフィーが正確でなくても、その場の文脈に適合していれば、強化操作を続けました。例えばあいちゃんの発語「ハーデー」(混ぜて)に対して、発音の修正、訂正は一切していません。発語頻度の方を重視したからです。発語が高頻度で続けば、構音の明瞭度は自動的に改善が進むためです。
さらに、ことばが社会的行動である以上、遊戯室だけでの発声では意味がありません。家族も来所当初から、発語を強化するメディエーターとしての役割を担えるように、遊戯室での指導者の指導を観察し、スーパーバイザーのさくま先生から、日常でのさまざまな助言を受けました。
あいちゃんは、遊戯室で感覚的な遊びからお母さんの家事行動そのままに、お料理、お掃除、お洗濯の遊びが続きました。ご両親はそれを可能な限り受容し、冷蔵庫はあいちゃんに全面解放の状態だったそうです。
指導場面での強化随伴性はそのまま家庭でも維持されました。つまり、人の応答が発語の強化子となるためには、日常場面でも強制・指示をできるだけ控えてもらう必要がありました。記録を拝見すると、実に忍耐強くやっていただいたことがうかがえます。』

 

現在のあいちゃん
『あいちゃんは、その後も継続して相談室に来ています。小学校、中学校といろいろな問題がありましたが、その都度さくま先生にご相談をされて対処しました。そして現在、特別支援学校の高等部に在籍し、隔週で相談室に来ています。それは、問題があるからではなく、あいちゃんが相談室に来るのを楽しみにしているからです。

出かける前には、お父さんの用意が遅いと「オトウサン、ネテイルバアイジャナイデショ」と言ったり、「オカアサン、ワスレモノナイノ?」と声をかけたりします。
あいちゃんの言語発達は、お母さんのことばをお借りすれば、「こんな口の悪い自閉症児は知りません」と言われるほどにおしゃべりになっています。ケンカになると「クソババー、アイチャンハ、イエヲデテイキマス」と言ったり、一般の中学生・高校生となんら変わらないレベルのやりとりをするほどになっています。

お母さんと一緒に買い物に行けば、一人で「〇〇ハドコデスカ?」と店員に聞く社会性もあり、欲しいものがあると、お母さんがレジに来るのを待っていて、直前にレジカゴにすっと商品を滑り込ませるのだそうです。「物を買ってもらう策略には困ります」とお母さんはおっしゃいます。
相談室では、持ってきたカレーせんべいを皆に配って一緒に食べたり、遊びの邪魔をする小さな子にもことばで注意します。実習の大学生やスタッフを相手のゲームでは、負けしらずです。ところが最近、彼女ばかり勝つと、三度に一度の割合でわざと負けるようになった、とスタッフの一人が言うのです。意識してのことかどうかを確認する方策を、スタッフ間で頭を悩ませているところです。ゲームが苦手な私には「右ボタン、赤押して」と厳しく(?)教えてくれながら、グループで勝ち負けを競い、「あなたは第三回スターアタック決定戦に優勝したことを表彰します」という自分で書いた表彰状を作りました。また勝負の結果。負けたチームに罰ゲームでものまねをさせ、それをビデオカメラに記録して自分で編集します。DVDや動画サイトを見たり、スマホでAKB48の新曲の検索もします。絵を描くのも好きで、女の子を沢山描いて、難しい漢字の名前(例えば愛羅)をつけ(漢字は自分で調べて覚えました)、人形の服を手縫いで縫って遊びます。
特別支援学校高等部では役員に立候補し、行事で挨拶ができるほどですが、欠席することも多いようです。現在、不登校が続いています。好きなことへの集中力は療育園の頃から変わらないため、学校で、とても細かい刺繍に集中している時など、「時間だよ。終わりにして」と言われると今でも嫌なようです。ただ、集団が全て嫌いなわけではなく、デイサービスには喜んで行き、好きなDVDに時間制限を加えられてもがまんできるようになりました。』

特に印象に残ったこと
第一章 
●子どもの声に敏感に反応する→子どもは声が相手を動かすものだとわかる。
●大人が子どもと同じ声を出す→「あなたの声を聞いているよ」ということを子どもに知らせる。
●ことばは自分の主張なので、わがまま、甘えが大事である。「しつけが大事」は順調に育つ強靭な力の健常児に対してである。
●障害児の難しさは、自分で何かをしようとする力や、何かをしたいと人に訴える力が弱いこと。
●ことばは自分の声に対して相手から反応が返ってくるから発達する。
●叱らない。わがままは後でいくらでも修正できるので、ことばの発達を最優先させる。
●物より人に興味をもつようになることが大事。気に入った物で遊んでいる状況に大人が加わると一人で遊ぶより面白くなる。それが繰り返されると好きな物よりも好きな人の方が重要になり、物よりも人を優先させることになる。
●社会性は、人と楽しく交わりたいというモチベーションが大切。
●社会性は年齢とともに変わる。従って、自分の社会的体験から自力で学べるようにしなければ問題の解決にならない。(相槌が1秒と0.5秒では意味は異なる。これは教えて身につくものではない)

第二章 

●人の様子を見てまねをする、それが蓄積されて社会性の発達につながる。
●子どもの発達の過程は依存と自立が揺れ動いている。自立は催促せず、邪魔せず、子どものペースでつきあうのがベスト。
●ことばの訂正は言語発達を妨げる。
●自立を促す必要はない。発達すれば必ず自立するものである。
●依存と自立は対立関係のものではなく、依存の延長線状に自立があるという認識をもつ
第三章 
●しつけは幼い方が楽なことは確かだが、ことばの発達は年齢が後になるほど困難、不可能になる
●適応性が未熟な障害児にとって、禁止と強制がいきすぎると、無気力状態にしてしまう。
重度の自閉症の子どもは、きょうだい、親にも無関心なことが多い。それが改善されてくると今度は一緒に遊びたい。けれど、遊び方がわかっていない。さしあたり、叩いてみる。それには憎しみや、嫌悪、憎悪などの感情は含まれない。重度の自閉症で人を叩いたというエピソードを聞くと、改善の徴候なので嬉しくなる。

第四章 

●子どもの話は、子どものことばのわかった部分を反唱しながら聴くのがコツ。お母さんにわかってもらえるように子どもが努力する。親に分かるように話せるまでゆっくり待ってあげる。

 

乾布摩擦について
私は発達障害児へのマッサージが仕事になりますので、「乾布摩擦」については特に関心がありますが、これは佐久間先生が考える、「感覚統合訓練法的な五感のバランス改善のための手段」いうことではないかと想像します。

『「遅れてことばが発達する子どもに共通して、感覚器官のダイナミズムに大きな変化があります。赤ちゃん時代からずっと口は飲む、食べるだけしかしていません。それ以外は泣き声だけで、自分の声を意識していません。少しことばが出はじめると、口の中の感覚が大きく変わりはじめます。同時に、聴覚や視覚にも変化が生じ、耳ふさぎや眼球擦りなどが生じることがあります。赤ちゃんはだれでも、五感の感受性にアンバランスがあり、たくさんの皮膚刺激で、五歳までにバランスがよくなります。

通常、聴覚優位なので、人の話を聞くだけでことばの学習が進みます。優位性がさらに過剰だと、耳ふさぎを示します。皮膚刺激の過敏、鈍感、味覚や嗅覚にこだわりや偏りを示す子もいます。

五感のバランスのために、乾布摩擦をして下さい。全身、朝、晩、服の着換えの時に、擦ってやってください。健康増進のためではなく、五感のバランスのための乾布摩擦なので子どもの顔を見ながら気持ちよさそうな表情を手がかりに、最適な擦り方を見つけてください。頭から足の裏まで、指の一本一本まで、嫌がる所はアンタッチャブルゾーンとして擦らないように、その境界線は特に丁寧に擦っていると、ゾーンは縮小していくはずです。消えるまで朝晩続けていると、ゆっくりと五感のバランスがよくなるはずです」』


付記
本の出版が2015年のため、本の中で紹介されている「キリスト教ミード会舘」に問い合わせたところ、現在は下記の「西宮たんぽぽ」にて行われているとのことでした。特に右の写真をクリックして頂くと詳しい内容が確認できます。