「月刊スポーツメディスン4月号 No.189」の特集は「アスリートの骨盤を守る」がテーマで、5つの寄稿は次のような内容でした。
1.仙腸関節機能障害の病態…坂本飛鳥氏
2.3D-MRIに基づく骨盤の歪み(マルアライメント)…小椋浩徳氏
3.骨盤マルアライメントと原因因子の臨床評価…杉野伸治氏
4.骨盤マルアライメントの治療…蒲田和芳氏
5.“挫滅マッサージ”によって出現した副作用について…蒲田和芳氏
「月刊スポーツメディスン4月号 No.189」
(ブックハウス・エイチディ)
小椋先生の寄稿の中には、『骨盤に由来する疼痛として知られる仙腸関節障害は腰臀部痛・下肢痛症状を有し、腰痛者の約10~30%程度が罹患していると言われます』とのことが書かれていました。
また、“仙腸関節スコア”という判断のための指針には、「座位での疼痛増悪」が指針の中の一つになっています。一方、現在行っている当院の治療では、患者さまから「座っているのがつらい」とのお話があった場合、筋肉へのアプローチとして、体幹伸筋群で深層にあり脊柱と骨盤にまたがる多裂筋を中心にした治療を行っています。多裂筋は以下のように位置的なものだけでなく、骨盤の高さでは厚みのある大きな筋肉であり、着目する筋肉としては間違ってはいません。ただし、骨盤の歪み(マルアライメント)という視点も重要で、考慮するべきではないかと感じていました。
画像出展:【左】「肉単」(エヌ・ティー・エス) 【右】「骨格筋の形と触察法」(大峰閣)
このような背景から今回のテーマとして取り上げたのですが、何をどうまとめるかについては、かなり難しく、悩んだ末に骨盤と仙腸関節に関する基本的な理解を高めることと、従来型腰痛と仙腸関節由来の腰痛との鑑別ができる知識をもつことを目的として進めることにしました。
仙腸関節由来の腰痛
・腰痛は1934年にWilliam Jason Mixterと Joseph Seaton
Barrによる椎間板ヘルニアの報告以来、多くは椎間板が原因と考えられるようになりました。それ以前は、仙腸関節が原因というのが整形外科医の常識だったのですが、その発見以来、流れは大きく変わりました。
そして、現代の画像検査技術の進歩により、MRI画像の所見でヘルニアと腰痛との関係性が不確かであることが明らかになり、あらためて仙腸関節が注目されるようになりました。
骨盤
・骨盤は左右の寛骨と仙骨・尾骨とでつくられる「骨の器」です。前方は恥骨結合によって軟骨性の連結をしています。一方、後方は仙骨と寛骨とが仙腸関節をつくり、仙腸靱帯・仙棘靱帯・仙結節靱帯によって強く固定され、画像では確認が難しい3~5mmほど動くのみです(これを半関節といいます)。
これは骨盤が体の重さを1本の脊柱から2本の脚(下肢)に伝える支持骨格であると同時に、「骨の器」の中に膀胱・子宮・卵巣・直腸などの臓器を収める保護骨格でもあるため、高い安定性を求められたことにより作られた構造といえます。
そして、わずかに動く半関節であることは、骨盤にかかる力をうまく逃がすクッションの役割を担っています。
画像出展:【上段】「人体の正常構造と機能」(日本時事新報社)
【下段左】「イラスト解剖学」(中外医学社)
【下段右】「経絡マップ」(医歯薬出版)
仙腸関節
・日本仙腸関節研究会の代表幹事である、村上栄一先生は仙腸関節をビルの免震構造に例え、『日常生活の動きに対応できるよう、根元から脊椎のバランスをとっている』とされ、さらに次のように説明されています。
『人類が四足から二足歩行になる過程で最も変化したのが骨盤構造である。上半身(体重の約2/3を占める)を支えつつ、地面からの衝撃を仙腸関節が数ミリの可動域で緩和している。
解剖学的に、荷重を受ける椎間板や股、膝、足関節の関節面は全て荷重線と直交し、衝撃緩和には不利な構造である。その中で、唯一荷重線と平行なのが仙腸関節である。これは衝撃緩和の主役が仙腸関節であることを示している』
そして、仙腸関節の問題点について補足されています。『少ない可動域の関節に不意や過度の負荷が加わると、関節に微小な不適合(仙腸関節障害)を生じやすく、その痛みの多くが関節後方の靭帯に由来すると考えられる』
・下記は免震構造を紹介した図です。ビルの地下で地震による地盤の上下左右捻じれの動きをこの免震構造が吸収します。確かに脊柱をビルとすれば、免震構造に相当する骨盤が機能しないと、地面からの衝撃は脊柱を通じて上半身にある各臓器にまでおよび、健康への影響が懸念される事態が生じます。
一方、免震構造の力を吸収する、積層ゴム、空気ばね、スライダー(せん断力伝達装置)は骨盤でいえば、靱帯、筋・筋膜、結合組織などの軟部組織に相当します。従って、仙腸関節ではこれらの軟部組織がきわめて重要な役割をしており、過度な負荷は組織を傷つけ、炎症を起こしたり硬くなる等の原因となり機能低下を発生させます。
画像出展:「構造計画研究所」
“仙腸関節スコア”
仙腸関節障害と腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などとの鑑別をするためのもので、村上栄一先生、黒澤大輔先生が開発されました。
1.指さしテスト
患者に人差し指を使って、痛みがある場所を指してもらいます。指した場所がPSIS(上後腸骨棘)上か、PSISから2cm以内の場所であれば陽性と判断します。
2.鼠径部痛
鼠径部に疼痛があるかどうか尋ねます。ある場合は陽性と判断します。
3.座位での疼痛増悪
背もたれなしの椅子座位にて、疼痛が増悪する場合を陽性と判断します。坐骨支持での座位姿勢では、仙腸関節が開くため、仙腸関節障害がある場合、疼痛が出現・増悪すると考えられています。
4.誘発テスト(ニュートンテスト変法)
腹臥位(うつ伏せ)をとり、検査者の手掌は患者の腸骨翼におき、仙腸関節をスライドさせるように押します。疼痛が出現したら陽性と判断します。
5.圧痛
触診する前に、閉眼にて、親指を使って4kgの圧で押す感覚を練習します。3回閉眼にて実施し、4kgで押す感覚を取得したら、実際にテストします。親指で4kgの圧で両側のPSIS(上後腸骨棘)と仙結節靱帯を圧迫し、疼痛の有無をみます。疼痛が出現したら、陽性と判断します。
画像出展:「月刊スポーツメディスン4月号 No.189」(ブックハウス・エイチディ)