PPS(ポストポリオ症候群)

ポリオによる運動麻痺をおもちの患者さまがおいでです。

 

ポリオ
ポリオは急性灰白髄炎ともよばれ,ポリオウイルスが中枢神経系に感染して引き起こされる急性ウイルス感染症です。ポリオウィルスには1型、2型、3型があり、感染のタイプは経口感染(飲食物など口から感染するもの)です。
感染者のうち中枢神経症状が出るのは0.5~1%。そして、麻痺型は約0.1%と考えられており、麻痺型には脊髄に問題を起こす「脊髄型」と延髄、橋、視床下部に問題を起こし、嚥下や呼吸などの症状を発生させる「球麻痺型」の2つがあります。多くは四肢や体幹に運動麻痺を発生させる「脊髄型」で、75%以上を占めています。
日本では1940年代の後半頃から1960年初頭に大流行しましたが、1961年に不活化ワクチン接種が開始され新規発生は激減しました。その後、不活化ワクチンの供給量の問題から、経口生ポリオワクチンが採用され、まれに麻痺性ポリオを発症するケースがあり、2012年9月よりポリオの定期接種は経口生ポリオワクチンから不活化ワクチンに切り替えられました。
現在、ポリオの常在国はパキスタン、アフガニスタンの2カ国のみとなり、世界レベルでのポリオ根絶に向けた努力が続いています。

 

PPS(ポストポリオ症候群)
数か月前、患者さまから「PPSになってないか? 気になっている」というお話がありました。

その時、私はPPSの認識・理解が全くなかったため、PPSではなく、PTS(Post Traumatic Stress:外傷後ストレス)のことをだと聞き間違えてしまいました。

患者さまの頑固な首こりは改善され、次なる施術テーマとして「今の状態が維持され、悪化することがないようにしたい」というご要望を頂きました。
大変お粗末な話ですが、この時の学習でポリオによる麻痺が末梢神経性の弛緩性麻痺であり、PPSとはポストポリオ症候群のことであったことを理解しました。

わが国の調査では、ポリオの有病率は人口10万人中、24.1人、ポリオ経験者のPPS発症率はおよそ75%とみられていますが、検診受診者は年々高齢化しPPSと診断される割合は増えています。ポリオ経験者で身体障害者手帳保持者(肢体不自由)が約5万人であることから予想すると、PPS患者は少なくとも約4万人はいると考えられています。

 

発症のメカニズムと治療方針
ポリオウィルスの攻撃で一部の運動ニューロンは死滅します。一方、生き残った運動ニューロンはウィルスに対抗するかのように、生存している軸索と機能を失った筋細胞に再接続し、機能を蘇らせます。そして、完全復活
とはいえませんが筋力は回復します。

安定期は通常15年、20年と続きますが、加齢やオーバーワークなどにより、再び軸索と運動ニューロンに危機が訪れ、ついにそれらが機能不全に陥る時、安定していた筋力は低下や萎縮という問題に直面します。そして、ポストポリオ症候群、PPSの症状が表れます。
例えば、代表的な症状である「普通でない疲労」は新たに起こった筋力低下の影響で、その近辺の末梢神経や筋・関節に余分な負担がかかるためと考えられています。
PPSは、例えると、10人でやってきた仕事を、5人で処理しなければならなくなり、残業の連続で何とか対応してきたが、年齢やストレスから5人の中に体調不良で休みがちになるメンバーが出て、生産性低下の問題が出てきた。という話に似ていると思います。治療方針は、この例でいえば、残され、奮闘努力してきたこの「5人の健康」、本題のポリオの話に戻れば、「死滅を免れた運動ニューロンと過重負担に耐えてきた筋肉」に着目し、必要な栄養などを十分に補給するとともに、オーバーワークを控え、無理のない運動療法によって補強を行なう。抽象的ですが、これがPPS治療の柱になると思います。

 

2016年7月16日の「ポリオの会」定例会で、九州労災病院門司メディカルセンター院長の蜂須賀研二先生が講演された「古くて新しい話題:ポリオ」の資料の中から、特に気になったものを列挙させて頂きます。

ポリオの会はポリオ体験者やご家族、医療関係者、応援して下さる方々の集まりです。
ポリオの会のホームページ

『ポリオの会は、ポリオ体験者やご家族、医療関係者、応援して下さる方々の集まりで、 体験者同士の情報交換を主な目的にしています。』

会報
会報

ポリオとは
ポリオ後症候群(PPS)の本態は末梢神経の先っぽが壊れて筋が萎縮するということ
疲労感の評価の仕方
・突然の膝折れ、立ち上がりの困難さ、階段昇降、散歩、水溜りを飛び越える動作などでも、
過去との比較による情報は客観性が高い。
理学的診察
・感覚神経の障害(痺れや知覚鈍麻)はポリオには無いものなので、これがある場合はポリオ
以外を考える必要がある。
臨床検査
・筋電図のF波:上下肢の神経の伝導速度を測り、F波に異常な波形が出ていないか確認する。

 ※F波とは、電気刺激が中枢側に伝って前角細胞にガツンと当たってまた降りてくる時の波。ポリオは前角細胞の障害なので、ここの障害によりF波に何らかの異常が出る。
ポリオ後症候群の治療
・筋力低下対策
 ・廃用予防は活動的な生活を行うこと(過用を避ける)
 ・徒手筋力テスト4(6段階。5が正常で100%、4は75%、0が最下位で0%。「4」は重力
+ある程度の抵抗に対抗できる筋力)であれば筋トレは可能
 ・遠心性収縮は筋障害のリスクがあるので避ける(筋が縮みながら引き伸ばされる運動で、
アスリートが瞬発力強化などに用いる手法、プライオメトリクスともいう)。例えば階段昇降、山登りなどは遠心性収縮。平地歩行については問題なし!
 ・自分のペース配分を守る
・薬物療法
 ・確立していない。
 ・使いすぎや酸化的ストレスによる悪化には、神経や酸化的ストレス防止として、ビタミ
ンEやビタミンCが良い。
 ・神経再生促進には、ビタミンB12が良い。
・ライフスタイルの再構築
 ・頑張りすぎない。ただし、生きがいになっているような楽しいことは無理をしない範囲
でやった方がよい。
 ・適度に休みをいれる(末梢神経障害で再生した筋肉は、筋疲労を生じやすい
 ・補装具を活用して肉体的な負荷を減らす

 

今回のブログは、ポリオとポストポリオ症候群(PPS)の特徴などを知るというものでした。

命題である、患者さまへの治療については、「ポリオの会」の会員になったこともあり、生きた情報を学び、鍼灸治療に反映させたいと考えています。

付記(2018年9月25日)PPS患者さまにおける麻痺側へのEMS活用の是非

AskDoctors』という医師の方に質問できる“有料”サイトがあります。今回、PPS関連で質問したところ、ご回答頂いた4名の先生のうち、お一人の先生(整形外科医)から非常に重要なご指摘がありましたので、その情報をブログに掲載させて頂きます。

質問ポリオによる後遺症のため、左腕はほぼ麻痺状態(徒手筋力テスト:「1」[筋の収縮がわずかに確認])となっているのですが、先日、リハビリの時にPTの方から、「筋力低下により肩関節亜脱臼の恐れが懸念される」と言われたとのことでした。調べたところ、最も注意すべき筋肉は棘上筋と三角筋後部線維であることが分かりました。 

先生方にお伺いしたいのは、EMS(Electrical Muscle Stimulation:中周波を使った筋力強化の機器)を利用して上記の2つの筋をターゲットに筋力アップ(維持)を行なうことはリスクの高い選択、あるいはやるべきではない選択でしょうか。また、他に良い対応策等があれば教えて頂けると助かります。

回答ポリオ(急性灰白髄炎)ウイルスは経口的にヒトの体内に入り、咽頭や小腸の粘膜で増殖した後に血流中に入り込み、その後に脊髄を中心とする中枢神経系へ達し、脊髄前角細胞や脳幹の運動神経ニューロンに感染し、これらを破壊することによって典型的な症状を生じるものです。 

神経伝達物質の枯渇が生じており、EMSを行い刺激を加えることで無駄に伝達物質を使用してしまうことになり、現時点での麻痺筋以外にも麻痺を生じさせる可能性があります。 

リスクが高いどころではなく、病勢を悪化させる危険な行為です。決して行ってはいけません。