12月17日(土)埼玉県川越市のウエスタ川越で、順天堂大学浦安病院 林明人先生による講演会「パーキンソン病のマネジメントと最新リハビリテーション」に出席してきました。
副題は「自宅でできるリハビリ」となっています。林先生は音楽療法を推進されており、「パーキンソン病に効く音楽療法CDブック」の著者であります。
この本の前のものになりますが、「パーキンソン病に効くCDブック」を拝読しようと思っています。
お話のポイント
・リハビリと薬物治療は両輪である。
・薬物治療は病気が明らかになった時点で、主治医とよく話をして早期に開始することが望ましい。また、長期戦略を考慮した薬の工夫が大切である。
・リハビリは廃用を回避できる。
・リハビリは個々の状況を反映したリハビリプログラムにする。そして、QOL(Quality of life: 生活の質)を向上させる。
・頑固な「首下がり現象」、「腰曲がり」、「斜め徴候」がある場合、リハビリを行いやすくするために、局所麻酔のリドカイン注射を活用するという方法がある。
・「ブラッシュアップ入院」(リンク先ほぼ中央の「入院診療」の中に説明がでています)いう入院によるリハビリ習得のプログラムを利用する方法がある。
・リハビリでは運動が重要で、太極拳やダンスなども有効である。
・リハビリは本人のモチベーションが非常に大事である。
・リハビリには、「音(聴覚)」、「光(視覚)」、「運動(体性感覚)」などの外部刺激を用いる方法がある。
パーキンソン病におけるリハビリ
パーキンソン病は2011年、薬物療法との併用で運動症状の改善効果および臨床的有用性が認められました。「パーキンソン病治療ガイドライン2011」に表記されているリハビリはグレードA、B、Cに分類されています。
・グレードA:行うよう強く勧められる
・運動療法が身体機能、健康関連QOL、筋力、バランス、歩行速度の改善に有効である
・外部刺激、特に聴覚刺激による歩行訓練で歩行は改善する
・グレードB:行うよう勧められる
・運動療法により転倒の頻度が減少する
・グレードC:行うことを考慮してもいいが、十分な科学的根拠がない
・音楽療法も試みるとよい
パーキンソン病の病態の確認
1.下右図:線条体の働きを調節している黒質の変性が起こり、ドパミンが減少すると、線条体は淡蒼球内節を抑制できなくなり、そのため必要以上に運動にブレーキをかけてしまいます。
画像出展:「病気がみえる 〈vol.7〉 脳・神経」(医療情報科学研究所)
補足:黒質は中脳に存在していますが、発生学的・生理学的に大脳基底核の一部として捉えられています。
2.下右図:大脳皮質から大脳基底核への入力部は線条体で、大脳基底核からの出力部は淡蒼球内・黒質網様部です。正常では、大脳基底核内の直接路と間接路のバランスによって、大脳皮質が適切に制御されていますが、パーキンソン病ではこのバランスがくずれ運動が過剰に抑制されることになります。
画像出展:「病気がみえる 〈vol.7〉 脳・神経」(医療情報科学研究所)
外部刺激によるリハビリ
・パーキンソン病では大脳基底核の機能不全に伴い、内発性随意運動(基底核-補足運動野を通る)が障害されますが、視覚や聴覚、体性感覚などの外部刺激に誘発される外発性随意運動(小脳-運動前野を通る)は大脳基底核ではなく視床核(外側膝状体、内側膝状体、後腹側核など)が関与するためパーキンソン病の影響を受けません。そして、外部刺激へのアプローチがリハビリになるということです。
ここで、私は疑問にぶつかりました。それは、外部刺激によって脳内で何が起こり、そして何が変わるのかという点です。
ドパミンが補われるのか、あるいは不足しているドパミンを支援するような神経伝達物質が登場するのか、ドパミン自体が活性化して通常以上の働きをするのか、または全く別の仕掛けが発動されるのか等々で頭が停滞してしまいました。
そこで、夜な夜なネットを検索し、色々なサイトや資料にアクセスする中で、「こういうことなのかな?」という所にはたどり着きました。以下はその内容になりますが、話が飛躍している恐れがあります。ご注意ください。そしてご容赦ください。
ドパミン作動性ニューロン(ドパミン神経核)
A8細胞群〜A15細胞群の8つの集団に分類され、中脳と視床下部に存在しています。この中からパーキンソン病を考えるうえで関連性の高い細胞群について検討します。
・A9細胞群:黒質緻密部から線条体に投射されます。パーキンソン病はこの黒質-線条体系が障害すことにより起きます。
・A10細胞群:中脳の腹側被蓋野から側坐核、前頭眼窩野、前帯状回、扁桃体、海馬、前頭前野へ投射されます。
下方にPDF資料を添付しています。これは、早稲田大学高等研究所紀要 第2号、「行動・学習・疾患の神経基盤とドパミンの役割」と題するもので、研究所の枝川義邦先生と渡邉丈夫先生が書かれました。この中で、『リハビリは「報酬の獲得を伴わない目標志向行動」と定義され、「明確な目標がない行動」に比べ、線条体、 前頭眼窩野、島皮質、前頭前野、前帯状回の活動を引き起こすことが判明した。』とのことを発表されています。
従いまして、目標をもったリハビリを行うことはドパミン作動性ニューロンを活性化する働きがあるものと考えられます。
・A11細胞群:間脳後部から視床下部、脊髄側角に投射されます。
・A13細胞群、A14細胞群:不確帯は視床下部に投射されます。
体性感覚、聴覚、視覚に対する運動療法や音楽療法などの外部刺激を受け入れ、一方で高い目標に向かってリハビリに励む時、A10・A11・A13・A14の各ドパミン作動性ニューロンは活性化され、随意運動に働くブレーキの強さが軽減されて、動きがスムーズになるのではないかと思います。
図は脊髄から間脳(視床+視床下部)を横から見たもので、緑色がドパミン神経核であり、中脳と間脳に存在しているのが分かります。
画像出展:管理薬剤師.com
視床の核群です。体性感覚の中継核は外側にある「VPM(後内側腹側核)」と「VPL(後外側腹側核)」です。先端に突き出た「MG(内側膝状体)」は聴覚の中継核で、「LG(外側膝状体)」は視覚の中継核になります。
画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報)
画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報)
まとめ
1.運動療法、音楽療法などの外部刺激(体性感覚、視覚、聴覚)によるリハビリでは大脳基底核ではなく、視床核が関与します。
2.視床核にはドパミン作動性ニューロン(ドパミン神経核)の細胞群があり、ドパミンを視床下部に投射する細胞群があります。
3.中脳の腹側被蓋野にもドパミン作動性ニューロン(ドパミン神経核)の細胞群があり、動機づけや報酬系として機能します。
4.上記3点から、常に目標をもって、楽しく、さらに音楽等の五感に働きかける刺激を加えた運動療法は、優れたリハビリのプログラムです。
付記1
「やさしいパーキンソン病の自己管理 改訂版」(医薬ジャーナル)2012年5月(村田美穂先生)の中から、推奨される有酸素運動と状態ごとの運動メニュー例をご紹介させて頂きます。
付記2
水嶋クリニック 水嶋丈雄先生の「パーキンソン病に対する薬物治療と鍼灸治療併用療法についての治療成績」をご紹介させて頂きます。
なお、最後のページの「考察」のところに、ドパミンと鍼灸との関係性について、以下のように説明されています。
『我々の研究ではパーキンソン病の患者群で随時血清ドパミンを調査してみると、ただし脳内ドパミンではないので参考値であるが、薬物治療を行っていない症例で鍼灸治療のみ行った4症例(平均年齢52.4歳)について治療前5pg/mL以下であった血清ドパミン値が鍼灸治療後3か月後に8.4±1.4pg/mLに上昇していた。これらは鍼灸治療の脳内神経保護作用を推察させる。』