脳脊髄液とめまい(メニエール病)

めまいが1番つらい症状であり、メニエール病と診断された患者さまの治療について、治療の要点をブログに残しておきたいと思います。
患者さまは高齢に属しますが、締め切りのある仕事もされており、忙しい時は深夜まで頑張っているという方です。
治療方針は3点。

①ストレス低減→自律神経を整えること 

②頚部および耳周辺の硬さを取り除くこと

③腰仙骨部の硬さを取り除くこと
結果は4回目の治療の際に、めまいはほぼ無くなり体調が良くなったことを確認しました。顔色や表情も戻ったと思います。治療効果については薬も服用されていたため、薬と鍼治療がそれぞれどれ程改善に寄与したのかは不明です。
自律神経の改善についてはストレス軽減が一つの指標になると思います。また、頚と腰仙骨部の硬さが改善されたことが、めまいの改善に貢献したと考えることは問題ないと思います。

 

1.耳の構造
耳は外耳、中耳、内耳の3つ分けられます。めまいで問題となるのは内耳ですが、内耳はさらに蝸牛と半規管と前庭に分けられます。半規管は体の回転運動を感じ体のバランスをとる役目をしています。前庭は体の直線運動を感じ、こちらも体のバランスをとります。めまいと関係が深いのは蝸牛であり、内部は成分の異なるリンパ液に満たされた内リンパと外リンパがあります。

蝸牛内は成分の異なる内リンパと外リンパがあります。
耳の中のリンパ

骨迷路は緻密骨で囲まれた複雑な形の管腔で、蝸牛、前庭、半器官から構成されています。一方、膜迷路は骨迷路の中にある軟らかい膜性の閉鎖管で、その中に内リンパを満たしています。 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

内リンパは外リンパからの影響を受けやすい。
蝸牛の内部

蝸牛の内部、断面図です。これを見ると膜性の閉鎖管にある内リンパは外リンパに挟まれており、影響を受けやすいことが想像されます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

2.内リンパ水腫とめまい
メニエール病は内リンパ水腫が原因と考えられています。ただし、内リンパ水腫があっても症状が出ない場合もあります。また、なぜ内リンパ水腫が起こるのかは解明されていません。
一方、特発性脳脊髄液減少症による耳症状の内容とその頻度は,めまい30%,耳閉感20%,耳鳴20%,難聴3%となっています。
特発性脳脊髄液減少症では、脳脊髄液の減少により脳脊髄圧が低下し、くも膜下腔と交通をもつ外リンパ圧の低下をひきおこし,内リンパ圧と外リンパ圧の不均衡が生じて、相対的な内リンパ水腫をおこすと考えられています。
以上のことから、内リンパ水腫がめまいに関係していること、そして内リンパ水腫の原因には脳脊髄圧の低下による内リンパ圧と外リンパ圧の不均衡によるものがあることが分かります。

内リンパ水腫(膜迷路の腫脹)により、めまいは引きおこされます。
内リンパ水腫

画像出展:メニエール病と薬物療法 内リンパ水腫とは(予防から治療まで見つかる Eisai.jp) 

3.脳脊髄液の影響
解剖学の見地から、膜迷路と骨迷路の間は外リンパで満たされており、蝸牛小管を介して脳脊髄液が満ちているクモ膜下腔と交通していることが分かっています。

外リンパは蝸牛小管を介して脳脊髄液が満ちているクモ膜下腔と交通しています。
脳脊髄液の影響

左上に蝸牛小管がクモ膜下腔に開口していることを示しています。

画像出展:「イラスト解剖学」

4.脳脊髄液に関する新見解(従来の説を否定)

“Time-SLIP法 CSF dynamics imagingからの観察”
流れない脳脊髄液

左のロゴをクリックすると、「流れない脳脊髄液 ─Time-SLIP法 CSF dynamics imagingからの観察─」という論文を確認することができます。

上記の論文の中で特に重要と思う点は次の通りです。
・脳脊髄液の動態が可視化され詳細が解明されつつある。すでに脳脊髄液の動態は、従来の脳脊髄液

 循環の概念とは全く異なるものである。   
・脳脊髄液は心拍動だけでなく、深呼吸、体位や姿勢の変化によっても動く。
・脳脊髄液は川のようには流れず循環してもおらず、ただ上下に拍動(心臓の拍動によって脳脊髄液

 の圧力が変動することから生じる)しているだけと考えられる。
・脳脊髄液の排液ルートは、従来考えられてきたクモ膜顆粒にあるのではなく、深頚部リンパ節へ通

 じるリンパ系あるいは脊髄根周辺からのリンパ系などのルートが考えられる。

脳脊髄液の排液ルートは、深頚部リンパ節や脊髄根周辺からのリンパ系ルートが考えられます。
浅頚リンパ節と深頚リンパ節

深頚リンパ節とは上深頚リンパ節、下深頚リンパ節、鎖骨上リンパ節の3つがあり、いずれも内頚静脈に沿うように存在しています。

画像出展:「イラスト解剖学」

脊髄根は延髄根の下方にあります。
延髄根

脊髄根は延髄根の下方にあります。

画像出展:「イラスト解剖学」

5.頚および腰仙骨部と脳脊髄液の関係
まず、頚部は脳脊髄液の排液ルートの可能性があり、頚の硬さが深頚部リンパ節や脊髄根周辺部に影響を及ぼすとすれば、頚の硬さは脳脊髄液の動きの悪さにつながると思います。
また、頭蓋オステオパシー(クラニオセイクラルセラピー、クラニアル)とよばれる治療法では、頭蓋骨に動きの制限があると脳脊髄液に影響すること。また頭蓋の動きは脊柱全体に影響を及ぼすことが指摘されています。
下記は「アプライドキネシオロジーシノプス」という本とp15の「椎間孔5つの因子」の引用です。

アプライドキネシオロジーシノプス
アプライドキネシオロジーシノプス

AKの検査と治療のテクニックの多くは、頭蓋一次性呼吸運動による脳脊髄液との関連と共に神経、リンパ、血管、経絡システムに関与している。George J.Goodheartはこの5つをAKの検査と治療に使用し、“椎間孔5つの因子”として脊柱の椎間孔に関連付けました。

その下の図はロベットリアクター(ロベットブラザー)を説明したものです。以上のように頭頚部と脊柱全体および脳脊髄液の関連性を指摘するものは存在しています。

ロベットリアクターとしての関連性は後頭骨と仙骨、尾骨と蝶形骨にも及びます。
ロベットリアクター(ロベットブラザー)

アプライドキネシオロジーの中で、脊椎の運動の関係について、歩行時に環椎(第1頚椎)とL5(第5腰椎)の同側への回旋が起こることを示している。この関係はC2(第2頚椎)とL4(第4腰椎)、C3(第3頚椎)とL3(第3腰椎)の同側への回旋のように脊柱全域に続く。
しかし、回旋はC4(第4頚椎)とL2(第2腰椎)、C5(第5頚椎)とL1(第1腰椎)の間で反対に起こることになる(ちなみに、これは頚には常に捻れの力が発生することを意味する)。
この逆方向への回旋は、上部脊柱と下部脊柱の移行部であるT5(第5胸椎)とT6(第6胸椎)に至るまで続く。そして、ロベットリアクターとしての関連性は後頭骨と仙骨、尾骨と蝶形骨にも及ぶものである。

結語
めまいの原因の1つに内耳の内リンパ水腫があげられます。そしてこの原因の1つに、外リンパに影響を与える脳脊髄液の問題があると考えられます。
脳脊髄液は、最新の研究においては循環はせず、部位によって髄液の状態は一様ではなく、その動きは拍動に伴って上下しているものとみられています。
そしてまた、拍動以外に深呼吸や体位変換などにより、脳脊髄液の状態は影響を受けやすいということが分かっています。つまり、脳脊髄液の状態には良い悪いが存在し、後者の場合に表れる症状の1つにめまいがあって、脳脊髄液の状態の改善がめまいの改善になるということは確かであると考えます。

 

補足
メニエール病の検査では、これまでの2倍の解像度の高解像度MRIにより、内リンパ水腫が画像で確認できるようになりました。メニエール病の検査には保険が適用され、1万円前後の費用で受診が可能です。