メタボリックシンドロームの脅威

メタボリックシンドロームと聞いて思い出すのは、肥満と生活習慣病です。ところが、何がどう悪さしているのかについては、あまりピンときていませんでした。今回のブログで分かったことは、諸悪の根源は”慢性炎症”であるということです。

※ご参考:2017年2月に”慢性炎症について”というブログをアップしています。

神秘の巨大ネットワーク 人体
神秘の巨大ネットワーク 人体

出版:東京書籍

発行:2018年4月

『自然界とは異なる生活環境へと変化した現代社会では、栄養の取り過ぎや運動不足から肥満になる人が増えている。肥満によって生じるメタボリックシンドロームは、命に関わる病気を次々引き起こす可能性がある危険な状態だ。最新研究から、そんなメタボリックシンドロームの「本当の恐ろしさ」が浮かび上がってきた。

 

 

 

1.レプチンがあっても肥満になる?

・脂肪はレプチンというメッセージ物質(「エネルギーは十分たまっているよ!」)により食欲をコントロールし、体重を調整しているにも関わらず肥満になる人は少なくない。それは、肥満の人の体内では異変が起きているためである。

・体脂肪が増えると血液中のレプチンの量は増える。

体脂肪量と血液中のレプチン量の関係
体脂肪量と血液中のレプチン量の関係

画像出展:「NHKスペシャル 神秘の巨大ネットワーク 人体2」

 

 

 

肥満の人の脂肪細胞からもレプチンがたくさん放出されているのは間違いないが、肥満の人ではレプチンが脳に届きづらくなっている。

・脂肪細胞から放出されたレプチンは血液の流れに乗って、脳の一部、食欲などを司る「視床下部」にたどり着く。そこでレプチンは血管の外に出て視床下部の神経細胞にメッセージを伝える。肥満の人が抱える問題は、血液中に大量に漂っている“アブラ”が邪魔をして、レプチンが血管の外に出ていきづらい状態になっていることである。

レプチン受容体の働きが衰えている
レプチン受容体の働きが衰えている

画像出展:「NHKスペシャル 神秘の巨大ネットワーク 人体2」

肥満の人の脳では、レプチンを受け取るレプチン受容体の働きが鈍くなり、大切なメッセージに反応できなくなっていると考えられる。

 

 

 

2.“免疫の暴走”が始まる

・肥満の人の体内では、メッセージ物質によるやりとりに異変が起きている。

・メタボリックシンドロームの人の内臓脂肪は、大量に摂り過ぎて脂肪細胞が吸収できなくなった糖や脂肪の粒が、煙のように漂っている。

膨らみきった脂肪細胞の表面で、脂質の分子が次々と受容体にぶつかっており、それにより脂肪細胞がTNFαを放出する。

TNFαは体内に侵入してきた細菌やウィルスなどを感知して、「敵がいるぞ!」という警告のメッセージ物質を出す。つまり、脂質の分子がぶつかっていた受容体は、本来は細菌を感知するための受容体であり、ぶつかってきた脂質の分子を敵(細菌やウィルス)と勘違いしてTNFαを放出していたということである。

・脂肪細胞から放出されたTNFαは、血液の流れに乗って全身を駆け巡り、免疫細胞と出会う。免疫細胞は敵を見つけると、近づいて細胞内に取り込み、内部にためている有害物質で分解する。

・TNFαの警告メッセージを受け取った免疫細胞は、活性化して「戦闘モード」に変化し、敵の来襲に備えるために分裂して仲間をどんどん増やしていく。

・免疫細胞自身もまたTNFαを放出し、「敵がいるぞ!」という警告メッセージを全身に拡散する。

免疫細胞は細菌などを攻撃して体を守ってくれる味方である。ところが、栄養が過剰な状態となるメタボリックシンドロームでは、“免疫の暴走”が引き起こされる。この“免疫の暴走”こそが、メタボリックシンドロームの本当の恐ろしさである。

免疫細胞が暴走した状態は、“慢性炎症”と呼ばれ、重要な研究課題となっている。

3.動脈硬化は血管の炎症が原因!?

・肥満の人の体内で、誤って活性化された免疫細胞は敵を懸命に探すが見つからず、ついには血管の壁の内部に入り込んで敵を探しに行く。そこで見つけるのは、たくさん溜まったコレステロールである。

・コレステロールは糖や脂質、たんぱく質を材料に作られる物質で、全身の細胞膜の成分になる他、ホルモンやビタミンDの原料になるなど、生命の維持にはなくてはならない重要な物質であるが、増え過ぎた血中コレステロールは血管壁の内部にたまっていく。

・血管壁に入り込んだ免疫細胞は、内部にあふれるコレステロールを排除すべき異物と認識し、次々と食べ始める。そして、食べすぎてパンパンに膨れあがると、ついには破裂し、免疫細胞が外敵を攻撃するための武器(有害物質)が辺り一面に飛び散り、それが血管の壁を傷つけてしまう。

・暴走した免疫細胞は、さらに体中のさまざまな場所で暴発する。その結果、心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病など、命に関わる恐ろしい病気を引き起こす。

心筋梗塞の原因は血管壁に沈着したコレステロールと考えられてきたが、最新の研究から、免疫システムの異常がもたらす「炎症性の疾患」との認識が広がっている。つまり、免疫の暴走による血管の慢性的な炎症が、さまざまな病気に関わっているということである。

肥満のタイプ

・体内の脂肪は、皮膚の下(皮下)と内臓に大別され、肥満のタイプも「皮下脂肪型」と「内臓脂肪型」がある。

内臓脂肪はつきやすく落ちやすい性質があり、日々の運動をするためのエネルギーを貯蔵する。

皮下脂肪はつきにくく落ちにくい性質があり、出産や授乳などのための長期的なエネルギーを貯蔵する。

・男性は女性に比べ、脂肪をためる容量が少なく内臓脂肪がつきやすい。

内臓脂肪の蓄積はメタボリックシンドロームを引き起こし、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病の発症や、動脈硬化性疾患に深く関係している。

肥満のタイプ
肥満のタイプ

画像出展:「NHK