第3章 有酸素運動、健康体操、ヨガ…… 血圧数値を劇的に改善する「運動法」
一 有酸素運動の血圧改善効果
●有酸素運動は薬以上の効果を示す!
図3-1 血圧状態ごとの有酸素運動による血圧低下量
画像出展:「降圧薬の真実」
・正常血圧の人に比べ、高血圧および高血圧前症の人は有酸素運動による効果は大きい(収縮血圧:マイナス8.3mmHg/拡張期血圧:マイナス5.2mmHg)。[“平均”は“正常血圧”の人も含めた数値です]
●血圧を下げるポイントは運動の「強度」
表3-1 運動強度と血圧の関係
画像出展:「降圧薬の真実」
・表を見ると、低強度の運動では血圧を下げるのは難しく、中強度または高強度の運動でないと効果は期待できない。
・高強度の運動は高血圧の人にとってリスクが高いので行ってはいけない。
1.参考となる論文:1993年発行の「Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology」誌に掲載された“Crossover comparison between the depressor effects of low and high work-rate exercise in mild hypertension“
図3-2 強度別の有酸素運動中の血圧変動
画像出展:「降圧薬の真実」
・日本で行われた研究で、高強度の有酸素運動のリスクを示している。
・黒丸が高強度、白丸が中強度の運動である。高強度の有酸素運動を行うと、安静時の収縮血圧(150mmHg弱)が一気に50mmHgも上がってしまい危険である。一方、中強度の場合の上昇は10mmHg程度と上昇は少ない。
・高血圧の人は有酸素運動を中強度で行うことが望ましい。中強度の運動とは余剰心拍数の40~60%で行う運動である。
・40歳、脈拍70の人の余剰心拍数:114~136
①220-年齢(この数値は最大心拍数の推定値)…220-40=180
②最大心拍数(180)-脈拍(70)=予備心拍数(110)
③運動強度40%の心拍数は、脈拍に予備心拍数の40%を足したもの…70+110×0.4=114
④運動強度60%の心拍数は、脈拍に予備心拍数の60%を足したもの…70+110×0.6=136
・表によると、50歳、心拍数(脈拍)70の人の“適切な心拍数”は、110~130である。
表3-2 適切な心拍数(20~65歳)
画像出展:「降圧薬の真実」
●週30分の運動は、「日本一の薬」を超える!
・週150分未満の運動と血圧改善効果についての研究
1.参考となる論文:2003年発行の「American Journal of Hypertension」誌に掲載された“How much exercise is required to reduce blood pressure in essential hypertensives: a dose-response study“
図3-3 運動時間と血圧の変化の関係
画像出展:「降圧薬の真実」
・日本人を対象とした研究である。
・週30~60分の運動でも、収縮期血圧:マイナス7mmHg/拡張期血圧:マイナス6mmHg程度の効果が期待できる。※左から2番目の棒グラフ
・この論文には運動の仕方にも言及されており、それによると、運動を週1回まとめて行っても、週5回以上に小分けに行っても効果は特に変わらないということである。[ただし、運動強度は中強度(余剰心拍数40~60%)が前提となる]
●ウェイトトレーニングと血圧の関係
・『ウェイトトレーニングが筋力や筋肉量の向上に役立つことは、広く知られています。ダイエットにも有効であり、最近流行となっています。なお、私はボディビルの大会出場のために27㎏の減量に成功しましたが、その際、運動はウェイトトレーニングしか行いませんでした。
また、ウェイトトレーニングが肩こり、腰痛、膝の痛みにも効果的であることも有名だと思います。事実、私のわずか10分ほどの説明で、「明らかに良くなった」、「痛み止めの注射がいらなくなった」、「月1万円もかかっていた病院、薬代が1か月で0円になった」と驚くべき効果をあげた患者さんがたくさんいます。これは私の腕が特別に良いというのではなく(それなりに研究はしてきましたが)、適切なウェイトトレーニングを行えば薬以上の効果が出るという科学的事実がそのまま表れたに過ぎません。
他にも、血糖値の改善、骨密度の改善、様々な疾患に対するリハビリテーションの一環として役立つことも示されています。
このように健康に役立つウェイトトレーニングですが、実は血圧にも効果的なのです!実際、海外の高血圧に関する医学専門誌ではウェイトトレーニングを高血圧の人に役立つエクササイズとして紹介しています。』
表3-5 ウェイトトレーニングによる血圧の変化
画像出展:「降圧薬の真実」
・このデータから低強度の場合、収縮期血圧:マイナス5.8mmHg/拡張期血圧:マイナス4.7mmHgの効果が期待できる。
・低強度のウェイトトレーニングとは、ギリギリ挙げられる最大重量の30~40%とされているが、危険を冒して最大重量を計測する必要はない。1セット20回以上、余裕をもって反復できる重量であれば、40%を超えることはないので安全にウェイトトレーニングができる。頻度は週2、3回。なお、20回以上できる負荷であっても、決して頑張るようなことがあってはならない。また、トレーニング中は呼吸を止めてはいけない。息を止めると急に血圧が上がり危険である。
三 血圧改善効果のあるその他の運動
●とてもお手軽な握力運動
・健康番組にも紹介された有名な方法である。
1.参考となる論文:2010年発行の「Journal of Hypertension」誌に掲載された“Isometric handgrip exercise and resting blood pressure: a meta-analysis of randomized controlled trials”
・握力を鍛えるだけの運動であるが、その効果は驚くべきものである。収縮期血圧:マイナス13.4mmHg/拡張期血圧:マイナス7.8mmHg程度の効果が期待できる。
・実験期間は8~10週間であり、効果は3か月以内に出ている。
・方法
①最大筋力の30~40%程度の軽いグリッパー(握力を鍛える器具)を2分間握る。
②1~3分間休む。
③ ①②を4回繰り返す。
④ ①②③を週3回行う。3日連続より、月・水・金のように1日空けた方が効果は出やすい。
1.参考となる論文:2015年発行の医学雑誌「Lancet」誌に掲載された“Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology(PURE) study”
・握力は健康を測る指標として非常に重要であることが示されている。
・驚くべきことに血圧よりも重要であるとされている。
・『樹上生活を行ってきた私たちのご先祖の中で、握力のない者は木にうまく上ることができず、肉食獣に食べられてしまったことが予想されます。そして現代においても握力のない者は健康を失うリスクが高いことが示されてしまいました。握力の重要性は霊長類にとって不変の法則なのかもしれません。』
●動かずにできるアイソメトリック運動で血圧が改善する!?
・力を入れて握り続ける握力運動はアイソメトリック運動(等尺性運動)というが、握力に限らずアイソメトリック運動で血圧を下げることができる。
1.参考となる論文:2015年発行の医学雑誌「Mayo Clinic Proceedings」誌に掲載された“Isometric exercise training for blood pressure management: a systematic review and meta-analysis”
・研究によると、収縮期血圧:マイナス6.77mmHg/拡張期血圧:マイナス3.96mmHgの効果があったとされている。
アイソメトリック運動
画像出展:「降圧薬の真実」
第5章 ケース別に学ぶ「運動」と「食事」の最適な組み合わせ方
四 医師とともに薬を減らすには
●降圧薬の減量、中止に向けて目標値を決める
・これまでの内容から「血圧とリスク」「降圧薬の効果」から、目標となる数値の目安をまとめた。
表5-6 血圧とリスク・降圧薬の効果からみた目標数値
画像出展:「降圧薬の真実」
・『この数値を一つの根拠として、降圧薬の減量、中止を医師に申し出るタイミングを見計らってください。なお、「中止」とは「通常量の降圧薬を1種類やめる」という意味です。』
・『ただし、75歳以上の方は、収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満 で健康リスクが高くなる恐れがあるので、もしこの数値になったなら、即座に薬の減量、中止を申し出てください。今飲んでいる量の降圧薬は、お金の無駄だけではすまない恐れがあるのです。』
●医師にどのように切り出すか?
・『生活習慣を改め、血圧が十分に下がりました。毎日血圧を測り、家での血圧も安定しています。それでは私たちからどのように薬の減量、中止を医師に切り出せば良いのでしょうか?
ここはやはり正々堂々と、「自分なりに勉強して生活習慣の改善に取り組んできました。以前に比べ、血圧はかなり下がったと思います。薬を一度減らしてみてもらえませんでしょうか? 数値が悪化するならまた戻してくれて構いませんので」と発言しましょう。
このように生活習慣改善に積極的である姿勢をとれば医師も減らしやすくなるはずです。減らしたことにより血圧に問題が出るならば戻しても良いということを話し、医師が薬を減らしやすくするように持ち込むわけです。この表現なら医師と衝突する心配もなく切り出すことができるはずです。
金銭負担が気になることも併せて盛り込んでも良いでしょう。ほとんどの医師は金銭負担を考慮する人格を持っています。金銭負担が減れば助かるのはあなたの財布だけではありません。国全体の財政が助かるのです。
もちろん、ふらつき、めまい、脱力感がある。拡張期血圧70mmHg未満であるなど健康に悪影響を及ぼす恐れがあるならば即座に減量を申し出るべきです!
医師に申し出るのは勇気が必要かもしれません。しかし、ほとんどの医師もわかっています。必要以上に血圧を下げる必要がないことを。薬の効果は実はそれほど大きなものではないことを。そして、最初は高かった血圧がしっかりと改善しているのは薬のおかげではなく、あなたの努力の成果であることを……。きっと良い返事が返ってくると思います。』