医療マッサージ研究2(脳のはたらき)

今回のブログは「医療マッサージ研究1」の続編になります。

最初に参考とさせて頂いた2冊の本についてお伝えします。

「脳と視覚」
「脳と視覚」

出版:共立出版

発行:2002年2月

大変高度な内容である一方、外側膝状体という視覚の中継核に関し、外側膝状体背側核と外側膝状体腹側核という説明がされています。しかし、現在では『小細胞層と大細胞層の神経線維は、以前はUngerleider-Mishkinの腹側系と背側系に対応すると考えられていた。しかし、近年の研究では、2つの処理経路は両者の神経線維をともに含んでいることが示されている(ウィキペディアさまより)』との説に見直されており、情報が古いと判断させて頂きました。


「乳幼児の発達」
「乳幼児の発達」

出版:新曜社

発行:2012年3月発行

まず、1章以降の大項目、中項目の目次をご紹介します。

1章 発達心理学における疑問と考え方

Ⅰ 発達をどう考えるか? ―疑問と論争

Ⅱ 発達の2つの要因

Ⅲ 子どもの年齢に関する概念

2章 認知発達を研究する方法

Ⅰ 行動を心理学的に研究するための科学的基準

Ⅱ データ収集の方法

Ⅲ 実験的アプローチ

3章 出生前の発達

Ⅰ 胎児の発達段階

Ⅱ 出生前の聴覚的学習

Ⅲ 胎児への母親の行動の影響

4章 運動の発達

Ⅰ 新生児の反射

Ⅱ 運動能力の発達

Ⅲ 利き手の発達

5章 知覚の発達

Ⅰ 視覚能力

Ⅱ 身体運動と視覚の協応 ―奥行き知覚

Ⅲ 聴覚能力

Ⅳ 味覚と嗅覚の発達

Ⅴ 皮膚感覚の発達

Ⅵ 複数の感覚モダリティの対応関係

6章 認知発達の理論

Ⅰ ピアジェの知能の発達理論

Ⅱ 情報処理的理論

Ⅲ コア知識理論

Ⅳ 表象書き換え理論

7章 モノの知識と因果関係

Ⅰ モノの永続性の再検討

Ⅱ 因果

8章 カテゴリー化

Ⅰ 乳幼児のカテゴリー化の研究

Ⅱ カテゴリー表象の性質とプロセス

9章 空間の認知

Ⅰ 空間の自己中心的符号化

Ⅱ 空間の客観的符号化の研究

Ⅲ 幾何学的手がかりと非幾何学的手がかりに対する乳幼児の感受性

10章 数の認知

Ⅰ 数の弁別

Ⅱ 乳幼児と計算

11章 記憶

Ⅰ 乳幼児の記憶研究の方法

Ⅱ 乳幼児の記憶の性質

Ⅲ 記憶の発達と幼児期健忘

12章 音声知覚から最初のことばへ

Ⅰ 言語と言語習慣の一般性

Ⅱ 音声カテゴリーの知覚とプロソディの知覚

Ⅲ 喃語から語彙の獲得へ

13章 終わりに

Ⅰ 早期発達の研究方法とその限界

Ⅱ 現在の認知発達の理論

ブログでは、3章Ⅰの「胎児の発達段階」と5章Ⅰの「視覚能力」について触れています。

胎児の発達段階

画像出展:「乳幼児の発達 運動・知覚・認知」

胎芽期と胎児期における自発運動の発達カレンダー
胎芽期と胎児期における自発運動の発達カレンダー

患者さまに見られる、「口の開閉」や「舌の動き」は10-11週で、「目の動き」はそれより遅れ16-23週となっていますが、いずれも胎児期から見られます。

 

胎児の感覚能力の発達カレンダー
胎児の感覚能力の発達カレンダー

感覚の機能的発達では、「皮膚感覚」が11週と最も早く、「平衡感覚」、「嗅覚と味覚」と進みます。「聴覚」は構造的発達は8週と他の感覚と変わりませんが、機能的発達は32週とかなり遅くなります。さらに遅いのが「視覚」になります。

 

視覚能力

『長い間、小児科医や心理学者は、生まれたばかりの赤ちゃんは目が見えないと信じていました。実際には、赤ちゃんの視覚系は、誕生時には機能できる状態になっています。ただし、見えてはいますが、おとなと同じように機能しているわけではありません。たとえば、中心窩の細胞はまだ完全には成熟していません。細胞の密度は、生後1年半をかけて高くなってゆきます。こうした細胞の変化は、視力や形の知覚の発達に影響をおよぼします。新生児の瞳孔はかなり小さく、視覚を制御する脳の中枢もまだ十分には成熟していません。たとえば、生後1ヵ月の新生児では、脳の視覚野の大きさは相対的にまだ小さく、ほぼ完全になるまでに12ヵ月を要します。これらの要因は、視力、レンズ調節、両眼視の点で、新生児の視覚能力に影響を与えます。』

1.視力

・選好注視法という方法を用いると、生後4週ぐらいから測定することができる。

・生後1ヵ月児の視力はおとなの4分の1ほどで、その後急速に向上し8ヵ月にはほぼ完成する。

2.レンズ調節(焦点合わせ)

・乳児は、生後2ヵ月まではレンズ調節がほとんどできない。

・3ヵ月までは、21~24センチの距離に置かれたモノに焦点が合った状態にある。

・レンズ調節は生後6ヵ月までの間に急速にできるようになる。

3.両眼視

・新生児は単にモノの網膜像の大きさの変化に反応するのではなく、モノの実際の大きさの変化に反応している。

4.色の知覚

・色の知覚は生後1ヵ月までは貧弱であるが、その後急速に発達し、生後2~3ヵ月には、おとなと同様、青、黄や赤といった基本色を区別できるようになる。

5.動くモノの追視

・新生児は動くモノを目で追いかけることができる(およそ90度動く間)。

・新生児は静止しているモノを目で探すことができるが、視力がよくないので図の輪郭をなぞる程度になる。

新生児の視力について「こそだてハック」さまのサイトに分かりやすい情報がありましたのでご紹介させて頂きます。

新生児は「目が見えていない」といわれることがありますが、まったく見えていないわけではありません。視力は0.01~0.02ほどで、「まぶしい」「暗い」といった明暗を認識することができます。色は黒・白・グレーのみで、ものや色、輪郭を認識するほどではなく、両目の焦点を定める能力も備わっていないことから、目的もなく眼球を動かしていることがほとんど。

ブログのタイトルでもある「脳のはたらき(視・聴・運動)」については、「人体の正常構造と機能」、「感覚の地図帳」、「病気がみえる vol.7 脳・神経」を参考にしてまとめましたが、ほとんどが「人体の正常構造と機能」からの引用となっており、記述された内容は極めて専門的なものです。また、思っていた以上に長いブログになってしまいました。

そこで、最初に「まとめ」をお伝えしたいと思います。ご興味あれば、その下の内容をご覧ください。

まとめ

1.視覚は一次視覚野に加え、視覚前野、さらに側頭葉および頭頂葉の視覚連合野も関与しており、大脳皮質全体の1/3という大きな面積を占めると言われています。

2.患者さまは聴覚に問題はないとされていますので、隣接する視覚の伝導路である外側膝状体についても問題はないものと推測します。従いまして、視覚が機能していない原因は後頭葉視覚野が関係していると思われます。

3.患者さまは、眼、口、舌を随意に動かせますので、脳神経のⅢ動眼神経、Ⅳ滑車神経、Ⅵ外転神経、Ⅻ舌下神経、Ⅴ-3三叉神経(下顎神経)に関しては問題はないと思われます。

4.「医療マッサージ研究1」の中でお伝えした、「低反応だった患者さまの眼、口、舌の動きが活発化した」という変化は、触覚・固有覚・聴覚への刺激が脳幹への刺激となって伝わり、脳幹に存在する各脳神経核(Ⅲ、Ⅳ、Ⅵ、Ⅻ、Ⅴ-3)の働きが活性化したためではないかと思います。

1.目が見えるということ

眼球からの光(像)が脳神経の1つでもある視神経の線維を伝わり、[視交叉]-[視索]を経て脳幹の視床にある[外側膝状体]という中継核にたどり着きます。(左下図)

網膜の神経節細胞には大・小2型があり、大型のものが網膜の黄斑領域以外からの視覚情報を集めるほか、視覚対象の動きを外側膝状体(やはり大・小2型の神経細胞あり)の大型細胞(M細胞)に伝えます。小型神経節細胞は、視野中心近くにある静止したものの情報を、外側膝状体の小細胞(P細胞)に詳しく伝えます。外側膝状体は6層構造からなり、対側眼からの神経線維は1、4、6層に、同側眼からは2、3、5層に入ります。1層と2層だけは大型のニューロンからなる大細胞(M細胞)層であり、残りは全て小細胞(P細胞)層になっています。(右下図)

こうして網膜からの信号は、主に動きに関する情報を伝えるM経路と、詳細な形や色に関する情報を伝えるP経路とに分かれて中継され、視放線となって一次視覚野へ投射されます。(左下図)

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「感覚の地図帳」


一次視覚野は後頭葉の内側面で鳥距溝の上下にあります。視野の上半は鳥距溝の下縁へ、視野の下半は鳥距溝の上縁へ投射します。また、黄斑からの投射が後方の広い範囲を占めます。

上記以外の伝導路として、上丘から視床枕核に至る経路があり、眼球運動の制御に必要な情報を伝えます。また、一部は視床下部の視交叉上核に至り、概日リズムの形成に関与します。

なお、大脳皮質の中で視覚情報を主に処理する領域は全体の約1/3もの広い範囲を占めます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

この領域にあるニューロンの多くは、単純なスポット状の光にほとんど反応しません。

一次視覚野には特定の方向を向いた細長いスリット状の光に反応する単純型細胞や、スリット光が特定の方向に動くときに反応する複雑型細胞、特定の長さと方向を持つスリット光に反応する長複雑型細胞などが存在します。これらは視覚情報を線分の傾きや長さ、移動方向といった要素に分解し、物体の輪郭を抽出していると考えられます。

一次視覚野では、同じ方向の刺激に選択性を持つ単純型細胞や複雑型細胞が集まって垂直方向の機能単位を形成します。これを方位コラムといいます。隣り合うコラムは、視野上の同じ位置で約10°異なる方位選択性を持つ細胞群からなっています。方位コラムの列とほぼ直交する向きに皮質をたどっていくと、1つのコラムは主に一側の眼から入力を受け、その隣のコラムは視野上の位置は同じですが主に対側の眼から入力を受けています。これを眼優位コラムといいます。

一次視覚野の約1㎟の部分には全方位をカバーする18の方位コラムが2セット含まれ、それぞれ右眼優位と左眼優位です。この1㎟の部分は、視野のある1点を分析するのに十分な要素を持つことから超コラムと呼ばれます。また、超コラムの中にブロッブblobと呼ばれる斑状の細胞集団が存在し、それらは色に選択性を持ちます。逆に単純型細胞や複雑型細胞は色選択性がありません。したがって色情報は、形や動きの情報とは別途に分析されています。

超コラムで抽出された視覚情報は、一次視覚野の前方に位置する視覚前野においてさらに詳細に分析されたのち、側頭葉および頭頂葉の視覚連合野へ送られます。側頭連合野は形や色の情報を統合して物体認知を行い、頭頂連合野は動きや奥行きの情報に基づいて空間認知を行いますそれらの部位に障害を受けると、色覚を失う、立体感を失う、動きの認識ができない、などの特異な症状が現れます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

以上のように一次視覚野は、構造も機能も非常に複雑です。色情報と形や動きの情報は分かれており、視覚情報は一次視覚野前方の視覚前野において分析が進み、さらに側頭葉および頭頂葉の視覚連合野に送られます。まさに大脳皮質の1/3を使って視覚の働きを支えています。

2.耳が聞こえるということ

右下は外耳・中耳・内耳の図です。聴覚の受容器であるコルチ器は蝸牛管の中にあり、コルチ器には蝸牛神経が分布しています。蝸牛神経は平衝覚をつかさどる前庭神経と内耳道底で合流し、内耳神経(脳神経Ⅷ)となり、中枢に向います。

聴覚の伝導路には側副経路もあります。蝸牛神経核からの出力の一部は延髄上部の同側および対側の上オリーブ核に投射されます。なお、上オリーブ核では音源の方向に関する情報を抽出して上位中枢に送っています。一般的な経路は外側毛帯を通って下丘に至ります。下丘は最初の統合的処理を行う神経核で、側副路を含め上行性投射はすべて下丘を経由します。下丘ニューロンは内側膝状体に、内側膝状体ニューロンは聴放線を通って聴覚野に投射されます。(左下図)

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」


下図は脳幹を横から見たものです。脳幹は下(体側)から延髄-橋-中脳となります。中脳の背側面には上丘・下丘という隆起があり、それぞれ内部に神経核を有しています。上丘は視覚の視床核とされる外側膝状体に続き、下丘は聴覚の内側膝状体に続きます。

中央上部に内側膝状体(聴覚)と外側膝状体(視覚)が出ています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

3.視床と大脳皮質

こちらは視床核を詳細に説明したものです。

外側膝状体はLG(lateral geniculate body)となっており、右側の図の下部に見られる小さな2つの突起のうちの右側(緑色)の部分になります。一方、内側膝状体はMG(medial geniculate body)となっており、左側(茶色)の突起になります。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

下の表は視床核の機能的区分を示すものです。LG(外側膝状体)の出力先は「後頭葉視覚野」になっており、MG(内側膝状体)の出力先は「側頭葉聴覚野」となっています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

下記のブロードマンの脳地図では側頭葉聴覚野は【41・42】と狭い領域です。一方、後頭葉視覚野は一次視覚野(V1)が【17】、二次視覚野(V2)が【18】、視覚連合野(V3)が【19】となり、視覚野の方が聴覚野に比べ明らかに広い面積を取っています。詳細な情報はウィキペディアさまにありました。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

下の図を見ると視床が大脳へと繋がる中継核のかたまりなっていることがよく分かります。(この図の中では、MG[内側膝状体]から側頭回へのラインがありませんが、これはラインがクロスしてしまうため省略されているのではないでしょうか)

画像出展:「人体の正常構造と機能」

以上、視床核である外側膝状体と内側膝状体について詳しく見てきました。ここでお伝えしたかったことは、視覚の中継核である外側膝状体と聴覚の中継核である内側膝状体は、近接して存在しているということです。

4.眼・口・舌が動くということ

左下図は濃い緑色の皮質脊髄路と黄緑色の皮質延髄路を示したものです。前者は大脳皮質から脊髄に投射する神経細胞の軸索がまとまって線維束を形成した脳内最大の下行路(遠心性)で、大脳皮質からの運動指令を脊髄に伝えます。後者の皮質延髄路は頭や顔の運動指令を伝える経路で、各脳神経の運動核に至ります。

図を見ると、中脳ではⅢ、Ⅳ、橋ではⅤ、Ⅵ、Ⅶ、延髄上部ではⅨ、Ⅹ、Ⅻ、延髄下部ではⅪの各脳神経が口や顔面などに向かいます。

右下図は脳幹をお腹側から見た図です。この図では中脳より上に位置するⅠ嗅神経、Ⅱ視神経を含め、12対の脳神経を確認できます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」


12対の脳神経は運動だけでなく感覚や自律(副交感)にも関わっており、複数の機能を持つ脳神経もあります。

右下の表は脳神経の詳細を説明したものです。薄茶色の特殊感覚神経は感覚に関する脳神経で、視覚はⅡ、聴覚はⅧなります。続いて薄緑色の体性運動神経はⅢ動眼神経、Ⅳ滑車神経、Ⅵ外転神経の3つが眼球を動かすために筋肉へ指令を出します。また、Ⅻの舌下神経は舌を動かします。薄紫色の鰓弓神経の中のⅤ三叉神経は眼神経、上顎神経、下顎神経に分かれますが下顎神経は口を動かす咀嚼筋に指令をだします。

左下図は「脳神経」の概要説明です。分かりやすいので添付させて頂きました。

画像出展:「人体の正常構造と機能」


 

下顎神経(V3)が咀嚼筋群(咬筋、頬筋、内側翼突筋、外側翼突筋)に遠心の神経(体性運動神経)を送っているのが確認できます。筋肉が収縮・弛緩することで顎が動きます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」