免疫学講義4

安保徹の免疫学講義
安保徹の免疫学講義

著者:安保徹

出版:三和書籍

初版発行:2010年12月

目次は”免疫学講義1”を参照ください。

第12章 膠原病 part2

1.進化した免疫系の抑制

自己免疫疾患は線維芽細胞や線維芽細胞が作る細胞外マトリックスのコラーゲンで炎症が起こるので、膠原病、結合組織病といわれる。

●関節リウマチ(RA)で炎症が繰り返しおき、徐々に関節が動かなくなっていくが、これはストレスやウィルス感染が原因であることが多い。特に紫外線、寒さ、重力がストレスになる。重力のストレスとは長時間労働や夜更かしすることである。

関節滑膜について注意しなければならないのは、SLEの血管炎もRAの腫脹も、炎症を起こしてつらいのは治るためのステップでもあるという点である。

●『私たちは火傷をしても腫れて治ります。大怪我をしても腫れて治り、しもやけになっても腫れて治ります。ですから炎症は、自己免疫反応が起こっているのと同時に、治るステップも起こっていると考えなければなりません。あまり対症療法をするとかえって病気は悪化するので注意が必要です。

●『RAは特に関節に水が溜まって腫れ上がるので、注射器で水を引き抜きます。それをガラスに塗沫してギムザ染色すると95%が顆粒球で、残りの5%くらいのリンパ球は胸腺外分化T細胞とB-1細胞です。T細胞・B細胞が減少しているのです。自己免疫疾患は、免疫異常とか活性化とかいわれますが、本当はすべての自己免疫疾患は免疫抑制状態なのです。自己免疫疾患は進化した免疫系が抑制されて、古い免疫系や貪食系の顆粒球に活性が移ったという病態なのです。

2.中枢神経系の自己免疫疾患

●多発性硬化症はミエリン鞘にあるMAGが抗原になって脱髄が起こり、神経の伝達が障害されて視力低下や末梢神経麻痺が起こる。

●重症筋無力症はアセチルコリンレセプターに対する自己抗体が原因である。筋肉の緊張は神経末端から出るアセチルコリンで起こるので、アセチルコリンレセプターが抗原になると筋緊張が持続して起こらなくなる。

3.内分泌器腺の自己免疫疾患

●橋本氏病は、甲状腺細胞のミクロゾームに対する自己抗体が出て、甲状腺が機能低下する疾患である。

●バセドウ氏病は、サイロキシン刺激ホルモン(TSH)のレセプターに対して自己抗体ができる。

●アジソン病は副腎に対する自己抗体(自己応答性リンパ球)が原因である。副腎皮質ホルモンの分泌が抑制されるためストレス対応や活力に影響が出て、すごい虚脱感に襲われる。

●Ⅰ型糖尿病(別名:インシュリン依存型糖尿病)は自己応答性リンパ球が問題となる。夜更かしや家庭内トラブルなどのストレスに加え、ウィルス感染も関わっている。ストレスにより副交感神経支配のリンパ球が減るので、これら2つが重なって起こることが多い。

4.消化管・肝の自己免疫疾患

●Iupoid肝炎はヒストン、核、ミクロゾームが自己抗原となる。

●萎縮性胃炎と悪性貧血の原因はVB12結合タンパクに対する自己抗体ができてVB12を吸収できなくなると、赤血球溶血が起きて貧血になる。胃は心因性のストレスが原因である。

●潰瘍性大腸炎はストレスによる大腸粘膜破壊が起こる病気である。クローン病はストレスによる小腸マクロファージの肉芽腫形成で、顆粒球の活性化が問題になる疾患である。自己免疫疾患とはいえないのは、自己抗体が見つからないことも多く、男女差がないのも自己免疫疾患の特徴とは異なる。

6.心臓の自己免疫疾患

●リウマチ熱は、心筋抗原とA型溶血性連鎖球菌の表膜の抗原が交叉しておこる。

7.眼の自己免疫疾患

●交感性眼炎はブドウ膜に対する自己抗体である。

●水晶体過敏性眼球炎は水晶体に対する自己抗体である。

8.皮膚の自己免疫疾患

●皮膚硬化症は皮膚の基底膜に対する自己抗体である。

●ベーチェット病は口の粘膜に対する自己抗体である。

9.Chronic GVH病

●急性GVH(移植片対宿主)病が、進化したT、B細胞で強く起こる。一方、慢性GVH病は、1月、半年、1年と免疫抑制剤でT、B細胞の機能を落としたあとで、徐々にでてくるが、このとき自己抗体が出現する。胸腺外分化T細胞や自己抗体のB-1細胞が関与している。

1.ストレスと生体反応

●『私たちはなぜ病気になるのでしょうか。それは強いストレスを受けるからです。多くの病気はストレスを受けるからです。多くの病気はストレスから始まっています。

それでは、具体的にどういうストレスで病気になっているかを挙げると、まず悩むことです。考えたり悩んだりすることは人間の特徴です。それから、人間は立って歩けるようになったので、やはり重力に逆らうストレスがあります。長時間立ち仕事をしたり夜更かししたりすると、重力の負担がかかって身体を壊します。あとはもともと身近なもの、温度や空気も病気の原因になります。あまりにも空気が少ないと、酸素不足で病気になります。そういうふうに、私たちの暮らしの身近なものの中にストレスはたくさんあるのです。』

ストレスを受けると交感神経反射が必ずおこるということではなく、副交感神経反射が起こり絶望や脱力感により血圧が下がって失神することもある。

●怒りやすい人は交感神経反射が起きやすく、いつもおとなしく物静かな人は、副交感神経反射が起きやすい傾向がみられる。

普通のストレスにはほとんどの場合、交感神経で反応する。自律神経だけでなく下垂体-副腎系が働くこともある。下垂体からは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が分泌され、副腎からは糖質コルチコイドが分泌される。さらに白血球の反応(マクロファージの活性化や、サイトカインが出て戦う準備ができるなど)も起こる。

2.急性症状

●交感神経緊張の場合、頻脈・血圧上昇・血糖上昇、体温上昇がみられるが、急性症状が非常に強くなると血管収縮が強くなり、ついには体温が下がっていく。

3.急性症状が出る仕組み

強いストレスを受けた人は体温が低下し血糖が上昇する。糖尿病は糖質の摂りすぎだけではなく、ストレスによる血糖上昇、特に交感神経のαアドレナリン刺激には強い血糖上昇作用があるため、長時間労働は糖尿病の原因になる。運動や食事制限だけでなく、交感神経緊張で血糖値が上昇するということにも注意する必要がある。

糖質コルチコイドには体温低下と血糖上昇作用がある。

●ストレスによりマクロファージはサイトカインのTNFαを出す。TNFαはインスリンレセプターをブロックするため、血糖値は上昇する。

4.急性症状はストレスに立ち向かう反応

●野生の動物にとってのストレスは戦ったり、逃げたりすることである。血管が収縮し血流が悪くなるということは、血管が傷ついても出血を最小限に食い止めることができるということである。

●血糖が上昇するのは、解糖系を働かせるためである。解糖系で得たエネルギーは瞬発力と細胞分裂に使われる。なお、ミトコンドリアの内呼吸で得たエネルギーは持続的働きのために使われている。

5.交感神経と顆粒球の運動

顆粒球は膜上にアドレナリン受容体を持ち。交感神経緊張で数が増加する

●大量に顆粒球が増えると、歯周病、食道炎、びらん性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、クローン病、潰瘍性大腸炎、急性膵炎、慢性膵炎、痔、突発性難聴、メニエール病、女性の場合は子宮内膜症、卵管炎、卵巣嚢腫などの組織破壊の病気が起こる。これらは交感神経と顆粒球の連動で起こっている

6.慢性症状

ストレスが続いたときの慢性症状は、体温低下による代謝障害である。一時的には戦うための準備であるが、体温低下が続くと代謝障害、特にミトコンドリアでのエネルギー産生低下、タンパク合成の低下、疲れやすさなどやつれの症状が出てくる。

ストレスの慢性状態では皮膚が弱くなり障害を受け、皮膚の病気が出現する。皮膚の病気は原因不明とされることが多いが、本当の原因は低温低下による代謝障害、エネルギー産生低下、タンパク合成の低下である。

7.ストレスの要因

●人間の特徴である考える力は、悩みというストレスの原因になる。また、同じく人間の特徴である二足歩行も重力のストレスを大きく受けることとなった。特に立ち仕事や働きすぎ、夜更かしは病気の原因になりやすい。

●人間に限らない一般的な要因の1番目は温度である。低温は凍傷や冷房病、高温は熱中症である。

●2番目は大気中の酸素である。薄くなると高山病、濃度が高いのは潜水病である。

●3番目は水である。少ないと脱水だが、脱水で病気になる人は多い。水の飲みすぎは体を冷やす。

8.ミトコンドリアへの負担

●ミトコンドリアの多い細胞は、脳、心臓、筋肉である。ミトコンドリアの機能低下は低体温と低酸素によって起こる。

9.ミトコンドリアとステロイドレセプター

●『ミトコンドリアの中にはステロイドホルモンに対するレセプターがあって、糖質コルチコイドが直接入っていってミトコンドリアの機能を抑制する。それにより、ステロイド治療をするとミトコンドリアの機能が抑制されてエネルギーを作ることができなくなり、消炎作用が現れる。長くステロイドを使っていると低体温、寿命短縮が起こる。』

10.ストレスと免疫抑制

●ストレスで胸腺萎縮やリンパ球のアポトーシスが起こり、T細胞とB細胞の分化や成熟抑制も起こる。一方、胸腺外分化細胞とB-1細胞は活性化し、自己抗体産生が出現する。

11.解糖系でエネルギーを作る細胞(ミトコンドリアの少ない細胞)

ガン細胞は解糖系優位で、ミトコンドリアが少なく低酸素で分裂する。つまり、ガンは低体温になって低酸素に適応した病気と考えられる

15.生体の治癒反応

●『私たちは風邪をひいても、やけどをしても、怪我をしても発熱します。心筋梗塞を起こした後も発熱し、潰瘍性大腸炎になっても、クローン病になっても、ガンになっても発熱します。結局、発熱は低体温と低酸素からの脱却で、代謝を亢進させて病気から治るための反応なのです。こういうことが分からないと、消炎鎮痛剤、ステロイド、あるいは免疫抑制剤を使って炎症を止めてしまいます。すると病気から逃れられなくなります。このとき、炎症に関与する物質がプロスタグランジン、アセチルコリン、ヒスタミン、セロトニン、ロイコトリエン、ブラジキニンである。』

16.副交感神経優位(楽をして生きる)でも病気

●『多くの人はストレスで糖質コルチコイド、TNFαなどが出て、たいていは交感神経緊張になり、血圧が上がったり血糖が上がったりするのですが、中には副交感神経側に偏る人もいます。副交感神経優位でも能力低下によって病気になります。能力低下には、リンパ球が増える過敏症、アレルギーがあります。ストレスにも過敏になり、ときには敗北します。私たちはスポーツをしたり身体を鍛えますが、能力を高めるにはやはり身体を使ったり頭を使わないといけません。こういう努力をほとんどしない人が副交感神経側に偏って能力低下で病気になります。ですから、無理しても病気、あまり楽をしても病気になるということです。

脇下温と健康と自律神経レベル
脇下温と健康と自律神経レベル

画像出展:「免疫学講義」

第14章 免疫系(防御系)と自律神経の関係 part1

1.白血球の自律神経支配

病気は人間の能力を超えるような過酷な環境に曝されたり、あるいは過酷な生き方をしたりした結果ではないか。

過酷な生き方と免疫システムをつなぐのが自律神経であり、自律神経によって内部環境も免疫系もうまく動くことができる。しかし、過酷な生き方は自律神経のこうした働きを狂わせてしまう。

交感神経が活発に働く日中、副交感神経が優位になる夜間、昼夜の交互のリズムがうまくいっている場合は、病気になることはないが、過酷な労働や家の中でゴロゴロした怠惰な生活は自律神経のバランスを乱し、健康を害していく。

●暑さや寒さ、重力も大きなストレスだが、不安やおびえ、恐怖などの深い悩みも大きなストレスとなって交感神経を緊張させる。

2.日内リズム、年内リズム

顆粒球は朝方で60%程、昼にかけて5%位上昇し夜になると下がる。一方、リンパ球は朝方35%位あったのが、日中少しずつ少なくなって夜に上がるリズムがある。これを白血球の日内リズム、サーカディアンリズムという。

●リンパ球は夏に高く、冬に低くなる。春から夏、リンパ球が増える時期に花粉と出会い、リンパ球が少ない時期に風邪が流行しやすいのは私たちの免疫にも関係している。

4.消炎鎮痛剤

●消炎鎮痛剤(NSAIDs)はプロスタグランジンの産生阻害剤である。プロスタグランジンは血管拡張作用、発熱作用、痛み作用を有する副交感神経刺激物質である。プロスタグランジンを阻害することは交感神経を優位にさせる。

●『私たちは火傷したり怪我したりすると、血管拡張して腫れて、熱が出て、痛みます。これは身体が間違いを起こしているわけではなく、組織修復・代謝亢進のために血流増多しているのです。また代謝亢進させるには熱を上げる必要があるので、発熱します。痛み作用は同じ火傷を繰り返さないように危険を察知させます。痛みがなくなった人はストーブにやたら近づいて低温火傷したりしては大変です。だから痛みというものは悪者扱いばかりはできません。痛みがあるから危険な行為をさけられるのです。プロスタグランジンの産生阻害剤はこの3つの作用を止めて交感神経緊張という形にさせるのです。

●『激しいスポーツをしている最中は無我夢中なので、交感神経優位で知覚が低下します。ところが、スポーツを終えて休んだり家に帰ってゆっくりすると、疲労した筋肉に血流を送って乳酸のような疲労物質を洗い流します。また多少起こった筋線維断裂を修復するために血流を増やすのです。ですから、とても激しい運動をした後、野良仕事が激しかった後、あるいは散歩が長かったときなど、筋疲労を起こした後や、休んだときに痛みが出るのです。これは大怪我や大火傷と同じように、痛みと腫れは筋疲労からの脱却反応と考えなければなりません。

●『痛み止めを貼って熱心に冷やすと、このような作用も加わって、胃の障害や組織の障害になり、全身がやられるのでやつれます。ただ長く痛み止めの湿布薬を貼った人たちが急に止めると、それまで抑えられていた血流が一気に回復するので、2、3日はびっくりするくらい腰が痛くなったり膝が腫れたりして大変です。しかし、やはり最終的には痛み止めを脱却しないと腰痛や膝痛などから回復できません。

5.生物学的二進法

●『私がなぜ、このような自律神経や白血球の自律神経支配を研究したかというと、学生の時にこのような考え方の基本を出していた斉藤章先生(元東北大学医学部講師)がいらしたからです。その理論とは生物学的二進法です。斉藤先生は戦前・戦中のまだ抗生物質がなかった時代に感染症内科をしていた先生でした。グラム陽性球菌に感染したときは、ほとんどが顆粒球になる一方、グラム陰性の桿菌に感染したときは、多少顆粒球が残っても、ほとんどがリンパ球であるという法則を見つけたのです。このように結核菌の感染、サルモネラとかリケッチア、ウィルス、異種タンパクというような刺激で、顆粒球とリンパ球の血液中の分布が変わることを斉藤先生は見つけました。』

●『斉藤先生の発見はこれだけではありません。顆粒球が増えるような状態の患者は頻脈と胃液の分泌低下、つまり交感神経刺激反応が起こり、逆にリンパ球が増えるような状態になった人は徐脈、胃液分泌上昇などが起こり、副交感神経優位状態であることを見つけたのです。ですから私たちは感染症にかかったときや、化膿が強くなったときなど、交感神経優位状態ではすごく脈が速くなって、熱はスパイク状に出ることがほとんどです。

ところが副交感神経優位状態のときは徐脈がきて、けだるくて熱は持続する熱になります。ちょうど風邪を引いたときにずっと高熱が続くような状態です。かつては、この熱を稽留熱や持続熱と、交感神経優位の熱を間歇熱と呼んでいました。このような状態が起こるのを見て、斉藤先生は生物学的二進法といったのです。こうした講義を私は東北大学で受けて、ずっと心に留めていたのです。教授なって自分の研究テーマを好きに決められるようになってから、アイソトープと蛍光抗体を使って、顆粒球にはアドレナリンレセプターがあって交感神経刺激で活性化すること、リンパ球にはアセチルコリンレセプターが発現していて副交感神経優位になると増殖することを研究しました。』

生物学的二進法
生物学的二進法

画像出展:「免疫学講義」

発見!

『長く痛み止めの湿布薬を貼った人たちが急に止めると、それまで抑えられていた血流が一気に回復するので、2、3日はびっくりするくらい腰が痛くなったり膝が腫れたりして大変です。』

今まで、70歳代の患者様さまお二人から施術後、痛みが非常に強くなったと教えて頂いたことがありました。特にお一人は何年も毎日湿布(消炎鎮痛剤)を貼っているというお話でした。

当時、この強い痛みの原因は習慣的に貼っている湿布によるものではないかと考え、いろいろ調べたのですが、結局その時はそのような情報に出会うことはできませんでした。

今回、安保先生の『免疫学講義』の14章に上記の記述を見つけ、「やっぱり!!」と思いました。つい、うれしくなってしまったのでアップしました。