免疫学講義2

安保徹の免疫学講義
安保徹の免疫学講義

著者:安保徹

出版:三和書籍

初版発行:2010年12月

目次は”免疫学講義1”を参照ください。

第2章 免疫学総論 part2

1.免疫で使われる分子群

●抗体はアミノ酸100個の塊(ドメイン構造と呼ばれる)が4個、5個つながった重鎖と、100個くらいのものが2個つながった軽鎖からできている。また、T細胞レセプターも、アミノ酸100個くらいの塊2個が対になっている。

●抗原と抗体とが1対1に対応していることから「鍵と鍵穴の関係」といわれている。

●免疫に関係する分子は、アミノ酸100個くらいのタンパク質である祖先遺伝子が染色体の中で、多様化したり、合体を繰り返して進化してきた。

●抗体はIg(immunoglobulin)となり、その仲間は免疫グロブリン遺伝子スーパーファミリー(immunoglobulin gene superfamily)と呼ばれる。これは接着分子の基本構造から進化した。

ヘルパーT細胞は、T細胞やB細胞の分化や活性化を助ける。傷害性T細胞は異物細胞を直接攻撃(傷害)するということに由来している。

●多細胞生物である私たちの身体は接着分子によってバラバラになることがない。タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)により接着分子は壊れるが膜は壊れない。

●各細胞はナトリウムを外に出して膜をプラスに荷電してエネルギーを作っている。この荷電により、細胞同士が反発し合う。赤血球が互いに反発し合うのは荷電によるエネルギーのおかげである。

●生活習慣の乱れから血液ドロドロになるのは、ナトリウムを出して膜電位を維持できなくなるためである。

細胞と細胞は接着分子でくっついているが、そこに異物が入り込むと、フリーの白血球であるリンパ球がそれを攻撃して死滅させる。このように、接着分子と接着分子の間に入った異物を異常細胞と見なし、攻撃して速やかに排除して、再び確かな細胞だけで生き延びようとするのが免疫の始まりといえる。

免疫は異物を認識するために始まったのではなく、細胞が自分同士を認識する中でその間に入り込んだ異物の違和感からその危険なものを攻撃する。つまり、免疫とは異物への攻撃であるため、ウィルスでもガン細胞でも攻撃し死滅させる。これが免疫の基本的なメカニズムである。

●外来抗原を認識するようになるのは、免疫の進化の後期からのことである。

免疫の始まりは、一つは異物を食べて処理するマクロファージと顆粒球の流れであり、もう一つは接着分子を利用して侵入してきた異物に対して攻撃するリンパ球の流れである。免疫の原点は異常自己を見つけることから始まっている。

2.リンパ球の進化

免疫細胞は進化しても、古い細胞がなくなることがない。現在のそれぞれの比率はT細胞(70%)、B細胞(15%)、胸腺外分化T細胞(10%)、NK細胞(5%)である。

加齢ともに胸腺の退縮と骨髄の脂肪化のため、T細胞、B細胞は減少し、一方、腸管でつくられる胸腺外分化T細胞と肝臓でつくられるNK細胞が増える。

●リンパ球は生物が上陸する前から進化してきた。胸腺外分化T細胞やNK細胞は腸管粘膜でつくられた。胸腺の進化は上陸後であり、新しいT細胞やB細胞は上陸後からであるが、上陸により、植物のホコリや苔の死骸などあらたな異物と遭遇することで進化したと考えられる。なお、現在でも腸管や肝臓などには古いリンパ球であふれている。これらは自己応答性でウィルス感染自己細胞やガン化した自己細胞を異常自己として攻撃するシステムである。

古い免疫と新しい免疫
古い免疫と新しい免疫

画像出展:「免疫学講義」

4.マクロファージの働き

●いろいろな異物を食べる機能(貪食能)。

●健康でマクロファージの働きが強いと、免疫反応を誘発せずに貪食能によって全部処理をするため、風邪症状も出さない。

●リンパ球や顆粒球が上乗せされて自分が少数派になってからは、指令を出し顆粒球(細菌の侵入)やリンパ球(ウィルスの侵入)を誘導する。

顆粒球やリンパ球誘導後、組織の修復を行う。マクロファージが破片も食べるので元の正常の組織にもどる。

マクロファージは栄養が過剰になると栄養処理を行う。栄養処理とは脂肪細胞に引き渡したり、あまりに摂取する栄養が多いときは、動脈壁にはりついたりして、そのまま死滅する泡沫細胞になる。ただし、泡沫細胞の血管壁への沈着は動脈硬化を促進する。一方、飢餓状態ではマクロファージは自分を食べて生き延びようとする。

●マクロファージのあらゆる働きで、生き延びる戦略をとれるのはマクロファージが単細胞生物時代の生き残りだからである。

過食は処理するマクロファージにも大きな負担となり、炎症と同じように炎症性物質である炎症性サイトカインを出す。ガンの末期や病気の末期に栄養を入れると患者さんが苦しんでしまうのは、過食に伴う炎症性サイトカインが原因である。

風邪で高熱を出した時に食欲が落ちるのは、これはマクロファージが免疫系に専念するための身体の反応である。栄養処理にばかりマクロファージを使ったら病気の治りは遅くなる。

●『私たち人間は、死ぬとき食べるのを止めて死ぬと安らかに死ねます。昔から聖人といわれた多くの人は、死期を悟ったら数日食を絶って死んでいるのです。しかし今の医療はやたらと点滴したり、中心静脈栄養を入れたり、胃瘻を作ったりして管をつけています。ですから、すごく死の苦しみを味わって死んでいるのです。やはり私たちも病気になって食欲を失ったら、マクロファージが免疫系に専念するための栄養処理からの解放について考えないといけません。

5.白血球の分布と自律神経

●末梢血では顆粒球が60%、リンパ球が35%、マクロファージが5%である。ただし、この比率には個人差がある。さらに、自律神経系の働きと連動している。顆粒球は膜状にアドレナリンレセプターがあり、交感神経が緊張すると分裂して数を増やす。リンパ球の方はアセチルコリンレセプターがあって、副交感神経が優位になると数が増える。

交感神経緊張が続き、リンパ球が少なくなると免疫力が下がってくる。すると、常在するウィルスが暴れ出すが、帯状疱疹や単純ヘルペスなどは代表的なものである。

白血球の分布と自律神経
白血球の分布と自律神経

画像出展:「免疫学講義」

リンパ球人間・顆粒球人間
リンパ球人間・顆粒球人間

画像出展:「免疫学講義」

第3章 免疫担当細胞

1.マクロファージ

●自分と会う主要組織適合抗原(MHC:major histocompatibility complex)を探すには10万人必要とされている。

樹状細胞はマクロファージが進化した細胞で、貪食能はなく、MHCが強く、Tリンパ球に抗原提示する働きが非常に強いという特徴を有する。細胞膜から樹状突起が出て、リンパ球を抱え込んで抗原提示する能力を増強する。

●虫歯ができて顎下リンパ節が腫れたり、水虫が化膿して鼠径リンパ節が腫れたりするときは、樹状細胞がリンパ球に抗原提示した反応が始まっている。

4.TCR(T cell receptor)の構造

多くの免疫系は38度、39度の温度が反応のピークであり、病気になったときに熱が出るのは免疫反応を高めて早く病気を治そうとする反応である。しかしながら、体温が41度を超えると細胞内のミトコンドリアが活性酸素を出し、突然死の恐れが出てくる。その場合は速やかに身体を冷やして熱を下げなければならない。

●お風呂の限界は45度である。50度を超えるとタンパク凝固が始まる。

5.B細胞の種類

●B細胞は小さい細胞でほとんどが核である。通常は細胞には細胞質の中にミトコンドリアや粗面小胞体、ゴルジ体、細胞小器官が必要だが、B細胞は核だけで細胞質もほとんどない。

T細胞もB細胞も、普段はほとんど休止しているため、1960年に入る前は「何も仕事をしていない珍しい細胞である」と考えられていた。いずれも抗原の刺激があると分裂を始める。分裂すると小型から中型、大型のリンパ球に変わる。

●B細胞の場合は、活性化リンパ球になると粗面小胞体でタンパク合成が起こり、抗体を外に分泌する。抗体を産生するようになったB細胞は形質細胞、あるいは抗体産生細胞、活性化B細胞と呼ばれる。

6.抗体の種類

B細胞が産生する抗体には、IgM、IgG、IgA、IgEと、働きがはっきりしていないIgDという細胞がある。

●一次感染で最初に出てくるのは、IgMである。二次刺激でもIgMが多少でるが、IgGが出てくる。IgGは血清中で量が最大である。

●IgAは消化液や分泌液の中、いわゆる腸や涙、唾液に出てくる。

●IgEはアレルギーとして有名である。アトピー性皮膚炎、気管支喘息、あるいは寄生虫感染で増える。

●血清中、IgGに次いで多いのがIgA、次にIgMである。IgEは健康な人からはほとんど検出されず、アレルギーを持っている場合に検出される。

B細胞の分化と活性化
B細胞の分化と活性化

画像出展:「免疫学講義」

第4章 B細胞の分化と成熟

1.分化、成熟(differentiation, maturation)

B細胞を作るのは骨髄の幹細胞である。

ヘルパーT細胞がB細胞を分化させるのに、IL-4、IL-5、IL-6が必要である。ILはインターロイキンの省略で白血球の間を取り持つ高分子タンパクという意味である。ILはいずれも、B細胞の分化・分裂を促す。さらに、IL-4はIgEへ、IL-5はIgAへ、IL-6はIgGへの分化をそれぞれ促す。

①多発性骨髄腫

●多発性骨髄腫の場合は、形質細胞のレベルでガン化した病気である。

②B細胞型の悪性リンパ腫(malignant lymphoma)

●悪性リンパ腫はB細胞のレベルでガン化する。

●リンパ球血症もあるが極めて少ないので、リンパ球、特にB系統の腫瘍化のほとんどは多発性骨髄腫と悪性リンパ腫である。

3.抗体の働き

①抗原の凝集

●B細胞の働きの一つは外来抗原の無害化である。

自己抗体は身体に生じた異常自己を速やかに排除する機能がある。

●B細胞は、外来抗原向け抗体を作るものと自己抗体を産生するものに区別できる。

②補体とともに膜の溶解

●抗体のFc(fragment C)とC領域(constant region:定常域)に補体が結合し、細菌の膜や他人の赤血球膜、移植片細胞膜を溶解する。補体はC1からC9まであって、C1から順に活性化が始まる。

③ADCC(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)

●ADCC活性によって、CTL(cytotoxic Tcell:傷害性T細胞)と、NK細胞は、リンパ球でガン細胞を死滅させる。

●ADCC状態ができると、CTLからperforinというキラー分子が放出されてガン細胞の膜が傷害され壊される。

NK細胞の攻撃、CTLの攻撃、この2つに抗体が加わって攻撃するという3つの方法でガン細胞を攻撃する。

●免疫を高めた患者がガンを自然退縮させた人は数百人規模で確認できている。

第5章 T細胞の種類 part1

1.T細胞の抗原レセプター(TCR)

●B細胞は抗体(Ig)を使って抗原認識をするが、T細胞はTCR(T cell receptor)を使うが、TCRは抗体と違って、単独で抗原を認識してはいない。

3.胸腺内分化T細胞と胸腺外分化T細胞

●胸腺内分化T細胞は胸腺で分化して、その後末梢へいく。末梢とはリンパ節、脾臓(白脾髄)、末梢血である。

胸腺外分化T細胞は、腸管、肝臓、外分泌腺の周り、子宮内膜などにある。

胸腺内分化T細胞と胸腺外分化T細胞
胸腺内分化T細胞と胸腺外分化T細胞

画像出展:「免疫学講義」

第6章 T細胞の種類 part2

3.Tc細胞の働き

●分裂する前のリンパ球は小リンパ球である。トランスフォーメーションを起こしたリンパ球は細胞内小器官であるミトコンドリアやゴルジ体もできて、大リンパ球になる。

リンパ球の活性化と成熟
リンパ球の活性化と成熟

画像出展:「免疫学講義」

●大リンパ球は活性化リンパ球ともいわれ、CTL(細胞傷害性T細胞)になる。CTLはperforinキラー分子を作りだす。相手がガン細胞や移植した細胞に対しては膜に穴をあけて死滅させる。

●CTLはFas ligandという分子を作り、Fasという分子に働いて細胞内にアポトーシス(自分で死滅する)シグナルを入れる。

CTLはガン細胞、ウィルス感染細胞、移植片細胞などの標的を、perforinやFas ligandを使って壊す。

4.Th細胞の働き T-B cell interaction

●ヘルパーT細胞は抗原刺激で小リンパ球が大型リンパ球になって、タンパク質を作る。ここで作られるのが、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10のサイトカインである。

●サイトカインは分子量が多い高分子だが、寿命は短く、血液の中で壊されたり、すぐに希釈されたりする。

5.リンパ球の抗原提示

抗原提示を行っているのはマクロファージと樹状細胞である。このような抗原提示細胞がないとリンパ球の分裂は起こらない。

7.ガン化

●T細胞は抗原が来たときに反応して、刺激(MHC[主要組織適合抗原]+抗原)がなくなると自然に分裂は収まるが、ある時点で腫瘍化することがある。B細胞は悪性リンパ腫や多発性骨髄腫になることがあるように、T細胞も色々なステージで腫瘍化する。

●T細胞の腫瘍化には急性リンパ性白血病があるが、これはPreT細胞などの早い段階で腫瘍化する。一方、慢性リンパ性白血病はある程度成熟したT、B細胞の腫瘍化である。

●自己免疫疾患は胸腺外分化T細胞の異常な活性化で起こるので、肝臓、外分泌腺で起こる。自己免疫疾患には、ベーチェット病、シェーグレン症候群、SLE、関節リウマチなどだが、唯一胸腺と関係するのは重症筋無力症である。

ガン化
ガン化

画像出展:「免疫学講義」

●『不思議ですね。胸腺のリンパ球が増えるのに自己免疫疾患になります。私たちの筋肉は収縮するとき、神経末端から出るアセチルコリンを使って収縮します。それで、まぶたがあけられない、筋肉がなかなか収縮できないというMG(重症筋無力症)が起こるのです。こういう現象を知るには、普通のT細胞の分化だけではなくて、胸腺のmedulla(髄質)に八ッサル小体のような外胚葉の上皮によって育てられる古いリンパ球がある、ということを分からないと謎が解けなかったのです。これは私の研究室で見つけた現象です。』

●老化、ガン、マラリアといった、いろいろな自己抗体ができる世界が原因不明になっている。これは胸腺の分化の失敗ではなく、生物が上陸する前の古い免疫系のほとんどがストレスによって活性化している世界なのである。

●SLEでも、関節リウマチでも重症筋無力症でも、自己免疫疾患の患者さんから話を伺うと、発症前に非常に強いストレスを受けていたことがわかる。特に一番多いストレスは夜更かしである。

第7章 主要組織適合抗原 part1

4.分布

●MHC(主要組織適合抗原)のClassⅠは、全身のほとんどの細胞で発現している。

MHCが発現していないのは赤血球である。血液型さえ合わせれば輸血できるのはMHCを発現していないためである。発現していないのは、赤血球が脱核してDNA→RNA、RNA→タンパク合成の機能をやめてしまったためである。したがって、幼若で骨髄でまだ核のある未熟な時期にはMHCは発現している。

赤血球以外でMHCがないのは、胎児胎盤である。また、脳内のニューロンはMHC陰性である。脳はほとんど抗原提示能がないため脳では炎症がとても起こりにくい。ただし、脳神経の間に混じっているグリア細胞はMHC陽性のため、長い目で見れば拒絶されてしまう。

MHC陽性には差がある。1番強いのは樹状細胞、他はマクロファージ、皮膚である。腎細胞はそれほど高くなく、さらに低いのは肝細胞である。腎移植、肝移植が可能なのはこのためである。

第8章 主要組織適合抗原 part2

3.Polymorphic MHCとmonomorphic MHC

●1990年代後半、個人間で多様化していないMHCが見つかった。それがmonomorphic MHCである。

●ヒトの場合、個人間で多様化のあるMHCがHLA-A、B、C、D、多様化のないMHCがHLA-E、F、Gである。

HLA『HLA(Human Leukocyte Antigen=ヒト白血球抗原)は1954年、白血球の血液型として発見され、頭文字をとってこう呼ばれてきました。しかし、発見から半世紀以上を経て、HLAは白血球だけにあるのではなく、ほぼすべての細胞と体液に分布していて、組織適合性抗原(ヒトの免疫に関わる重要な分子)として働いていることが明らかになりました。』

monomorphic MHCは、非常に特殊な場所に発現している。HLA-Eは腸上皮細胞、HLA-Fは肝細胞、HLA-Gは子宮内膜と胎盤の絨毛細胞である。腸にあるリンパ球も、腸から発生した肝臓に以前からあるリンパ球も、NK細胞や胸腺外分化T細胞などの古いリンパ球である。子宮や胎盤の間にも古いリンパ球がある。

●子宮の胎盤がなぜ拒絶されないかという疑問は、monomorphic MHCの理解によりこの謎の本質に迫れた。

●『子宮内膜の面と胎盤の接点は、HLA-Gをともに発現します。HLA-Gは個人間で多様化していないので、結局、父親からの遺伝子も母親からの遺伝子も同じタンパクを作ってアミノ酸配列が違わないのです。そしてHLA-A、B、C、D、はマイナスです。こういう仕組みがわかってきました。ここではNK細胞と胸腺外分化T細胞が働いています。NK細胞と胸腺外分化T細胞は自己応答性です。これらは膜上にアドレナリン受容体を持っていて、交感神経刺激(ストレスなど)で活性化されます。ですから、母親が忙しく仕事しすぎたり、悲しい出来事があってつらいめにあったり、あるいは、心臓や腎臓に持病があって交感神経がだんだんと刺激されたときなどに、流産が起こるのです。新しい免疫系は働きませんが、古い免疫系の活性化で流産が起こります。古い免疫系は自己応答性なので、子宮内膜と胎盤を攻撃するのです。すると胎盤が母親の子宮の内膜についていられなくなります。早期の流産も、後期の流産もこういうメカニズムで起こっています。

4.HLAのタイプと疾患感受性

●HLAのタイプはバラバラだが、日本人、ヨーロッパ人というように集団や民族によって、多少特徴はある。

●『自己免疫疾患の原因は、ほとんどがストレスです。ストレスが直接組織を壊すか、あるいはストレスがかかって免疫が下がり、常在ウィルスが暴れて、感染症が起こります。風邪をひいて発症するか、その発症のときに特定のHLAが特定の自己抗体を作りやすくするのでしょう。』

●『特定のHLAはストレス、あるいはウィルスがはびこる組織が壊れるときに、特定のタイプの自己抗体が入りやすいのです。これらの病気が起こると、肺と腎臓と同時に、そのほかの臓器の基底膜にも自己抗体ができます。』

HLAのタイプと疾患感受性
HLAのタイプと疾患感受性

画像出展:「免疫学講義」

5.MHC以外の拒絶タンパク

●MHCのマッチングはヒトでは約10万人対1人のレベルである。

MHCが100%マッチングさせても拒絶される現象がある。MHC以外のタンパク質で、拒絶の原因として考えられるのは、Mls(minor lymphocyte stimulatory)である。Mlsはレトロウィルスという、エイズやヒト成人T細胞白血病ウィルスなどのタンパク質である。これらが身体に住み着いてそこからできるタンパク質がいろいろな組織に入って、MHCのClassⅡに乗って拒絶タンパク質になっている。

6.その他

●認識する抗原は進化とともに変わる。免疫系の進化はMHCの進化とリンパ球の進化が並行して起こる。進化・上乗せされ、最終的にT細胞、B細胞になった。

免疫が変遷を重ねて、進化していっても古いリンパ球も古いMHCも残っていて、あるステージがくると働くのである。そのステージとは、基本的には老化現象などと関係している。90歳を超えてくるとT細胞、B細胞はかなり減り、NKや胸腺外分化T細胞、自己抗体を産生するB細胞、血清中では自己抗体が非常に増える。

●進化で獲得した免疫は、若い年代、20代~30代でピークを迎え、その後はまた古い免疫が優勢になる。これが免疫の中で系統発生と個体発生進化が加齢で現れるということである。