先月、「ケトン体エンジン」というブログをアップしていますが、その時、代謝のことをしっかり理解しなければ。という感想をもちました。そこで、挑戦した本は「代謝がわかれば身体がわかる」という今年の8月に出版された最新の新書でした。
著者:大平万里
出版:光文社
下の図はこの本の最後に出てくる「総まとめ代謝マップ」です。これを見ると登場する物質などが多く、詳細まで理解することは難しいと実感します。その一方で、代謝とは化学反応による変化の集積という印象をもちます。
画像出展:「代謝がわかれば身体がわかる」
それでは、「代謝」を簡潔に説明するとしたらどのような内容が良いのか、これは言い換えれば、「代謝」を説明する場合に、絶対に抜けてはいけないポイントは何かということになると思います。
そこでまず、重要と感じた内容、抜けてはいけないポイントを時系列的に洗い出してみました。
そして、キーワードとなるのは青字にした8つではないかと思います。
・生命とは、生物が生物でありつづける根源とされる。
・生きているとき、身体は全体が変化しないように部分が変化し続けている。
・変化にはエネルギーが必要であり、エネルギー産生には化学反応が利用されている。
・代謝には化学反応の2つの側面がある。1つは体内での物質の変化。もう1つはエネルギー発生と呼吸である。なお、物質の変化に着目した場合を「物質代謝」といい、エネルギーの流れがどうなっているのかという視点で代謝を見た場合を「エネルギー代謝」という。
・代謝には2つの代謝系がある。
①異化(複雑な物質を分解してエネルギー物質を合成する流れ)
②同化(エネルギーを消費してより複雑な化合物を合成する流れ)
・化学反応を劇的に促進するのは酵素の働きによるが、そのためには適切な環境が必要である。
①充分な水(水に囲まれていること)
②適切な温度(35~40℃)
③適切はpH(pH10付近)
中学で「代謝」を勉強したのかどうか全く記憶にないのですが、少なくとも高校の化学か生物に出てきたであろうことは確かです。この時は、どんな説明をされていたのだろうという疑問が浮かび、ネット検索しているうちに、「NHK高校講座|生物基礎」というサイトに遭遇しました。中を見ていくと、「代謝」に触れているのは、1学期 4回目でそのタイトルは「代謝を進める酵素」というものでした。これにより、代謝では酵素の働きを知ることが非常に大切であることが確認できました。今まで、理解がモヤッとしていたのは酵素という影の主役を見逃していたことも一因ではないかと思いました。
「代謝を進める酵素」
短い動画が7つあります。
酵素は触媒の働きをします。触媒とは「化学反応において、それ自身は変化せず、化学反応の進み方を変える物質」と解説されていますが、大平先生が例をあげて、分かりやすく説明されています。
『修学旅行の班決めは難航するのが常である。ただし、これは担任(触媒)がいない場合の話である。生徒どうしだと、得てして近視眼的にしか考えられないことも多いので、目先の人間関係に溺れて班決めに何日もかかることもあるわけだ。
ところが、修学旅行の班決めに担任がそれなりに深く介入すると、なんともあっさりと決まってしまうことも多いのである。結束の強い班をバラバラにするのも、新しいメンバーの組み合わせの班を作るのも、担任のちょっとした一言や、生徒が思いもしなかった条件提示などで、生徒の強い抵抗も消え、難なく決まってゆく。
もちろん、担任自身は班のメンバーにならない。つまり、第三者の視点で、生徒たちの班構成を眺めることができるからこそ、生徒が抱くであろう新しい班構成への抵抗や不安を担任は和らげてゆくことができるのだ。
担任(触媒)の介入によってできた班は、当初の班とは違う構成になったから、各班の状態が変わる(反応熱)ことに変わりないが、担任が介入することで、そこに至るまでの労力(活性化エネルギー)が大幅に軽減するのである。つまり、担任(触媒)がやったことといえば、班分けに介入して、班分けの作業時間を変えただけである。そして、担任は一人で充分である。』
一方、本書の中では、「体内環境とは、酵素が働ける職場環境にすること」という説明があり、これは「恒常性(ホメオスタシス)」との関係や位置づけを意識することも必要だと感じました。
そこで、ネットで参考となるようなものは何かないか検索したのですが、出てくる恒常性の構成要素は、「自律神経」「内分泌系」「免疫」の3つであり、「代謝」という言葉が出てくるものは、私が調べた範囲ではありませでした。
「本はどうだろう?」ということで、同様に調べたところ少し期待できる本を見つけました。また、さいたま市内の図書館に所蔵されていることも分かり、さっそく取り寄せることにしました。その本のタイトルは、「生物科学入門 -代謝・遺伝・恒常性-」というものでした。
著者:白木賢太郎
出版:東京化学同人
本書の中で白木先生は、“生物とは何か”という問いに対して、『代謝、遺伝、恒常性の三つに集約できる。この三つの概念で説明できるものが生物である』と説明されていました。
つまり、白木先生の説から考えると、「代謝」は「恒常性」の1つの構成要素ではなく、同列に位置づけられるもの。そして、酵素が働くための安定した環境は「恒常性」によって実現、提供維持される一方で、代謝によってつくられる物質やエネルギーが、恒常性を支えているという相互補完の関係ということだと認識しました。
なお、代謝と恒常性について、白木先生は次のようなお話をされています。
代謝
『私はじっとしているようで、分子や原子のレベルでは常に置き換わっている。1年前から現在までずっと自分を構成していた原子はほとんどない。骨でさえ7年ですべて入れ替わるといわれている。ラーメンを食べると、そのラーメンだった原子が自分をつくっていく。そして吐き出した息の中に含まれる二酸化炭素は、糖やタンパク質など、さっきまで自分の一部だったものである。このような生体内に起こる一連の化学反応が代謝である。』
恒常性
『赤ん坊として誕生し、やがて老人にいたる1世紀近い年月の中で、私たちの体を構成する細胞は数日から数十日で入れ替わる。原子レベルでみると、呼吸や食事をするたびに入れ替わっている。しかしそれらがつくりだしている状態、たとえば血液のpHやイオン濃度、体温などは、ほとんど変化しない。外部の情報をフィードバックし自己を一定に保つ、こうした生物現象を、恒常性(ホメオスタシス)という。恒常性は生物を特徴づける性質の一つである。』
恒常性(ホメオスタシス)はアメリカの生理学者であるキャノン(Walter Bradford Cannon)が提唱したものであり、1932年に出版された「Wisdom of the Body(からだの知恵)」の中で語られています。目次だけになりますがご紹介させて頂きます。ちなみに、文庫本で344ページです。
著者:W・B・キャノン
出版:講談社学術文庫
画像出展:「Harvard University Library」
はじめに
不安定な開放系としての生命
自然治癒力
からだにおける恒常性の維持(ホメオスタシス)
第一章:からだを満たしている
生命の環境としての水
血液とリンパ液
心臓
リンパ液の循環
血液の循環
からだの内的環境
第二章:血液やリンパ液を良好な状態に保つからだの自衛機構
出血と血液の凝固
血液の予備アルカリ分
出血に伴う生理的変化
出血と水
第三章:物質の供給する確保する手段としての渇きと飢え
消費と貯蔵
渇き
空腹
第四章:血液に含まれる水の量の恒常性
貴重な水
水分の不足と過剰
からだから出ていく水
血液の水
過剰の水と腎臓
水の貯蔵
血液からの水の移動
第五章:血液中に含まれている塩分の量の恒常性
塩類の調節
塩化ナトリウム
塩分の貯蔵
塩分の貯蔵場所
塩分の恒常性維持
第六章:血液中の糖の恒常性
ブドウ糖とインシュリン
糖の貯蔵
血糖の増加と生理的変化
低血糖反応
肝臓からの糖の放出
第七章:血液中のタンパク質の恒常性
タンパク質とその貯蔵
血漿中のタンパク質
血漿中のタンパク質濃度の調節
血漿中のタンパク質の恒常性
第八章:血液中の脂肪の恒常性
脂肪とレシチン及びコレステロール
脂肪の貯蔵
貯蔵された脂肪の放出
第九章:血液中のカルシウムの恒常性
カルシウム濃度
骨とカルシウムの恒常性
第十章:充分な酸素の供給を維持すること
酸素の供給
酸素負債
呼吸の調節
血液循環の調節
心臓の拍動
血圧の調節
ガスの交換
第十一章:血液がつねに中性に維持されていること
血液の酸性とアルカリ性
水素イオン濃度
炭酸と乳酸
血液の緩衝作用
第十二章:体温の恒常性
「温血」と「冷血」
熱量と代謝
体温の調節
寒冷に対する生理的反応
熱負債と副腎
第十三章:生物に自然に備わる防衛手段
からだの防衛手段としての反射
からだの防衛手段としての適応
感染と炎症
怒りと恐れ
第十四章:からだの構造と機能の安全性の限界
からだの安全係数
循環機能の安全係数
呼吸機能の安全係数
スペアのある器官
スペアのない器官の安全度
安全性の保証
近代医学と自然治癒力
第十五章:神経系の二つの大きな区分とその一般的な機能
体外と体内
感覚と「運動神経」
反射
「随意神経系」と「不随意神経系」
自律神経系
交感神経
内臓の神経支配
自律神経系の働き
第十六章:恒常性維持に占める交感神経‐副腎系の役割
からだに加わる外部からの刺激
からだの内部で起こる変化
自律神経系の除去
交感神経系除去の生理的影響
交感神経系除去の長期的影響
交感神経系除去と寒冷に対する反応
第十七章:からだの安定性の一般的な特徴
「内的環境」の恒常性
恒常性を維持する機構
恒常性維持と貯蔵
恒常性維持と「あふれ出し」
反応速度による恒常性維持
交感神経‐副腎系
からだの恒常性維持に関する仮説
恒常性維持と進化
生物の活動の基盤としての内部環境
エピローグ:生物学的恒常性と社会的恒常性
安定性維持の一般的な原理
単細胞生物と多細胞生物
からだ全体の統合
社会活動の安全性
社会的な動揺と反作用
社会における流通機構
からだの仕組みから見た社会的安定性の要因
社会組織の進歩
自由基盤としての恒常性維持