発達障害について

小児障害マッサージは当院ではなく、地元のプラナ治療院が「訪問鍼灸・マッサージ」で展開しているサービスで、私は週2回、こちらの治療院で仕事をしています。

そして、小児障害マッサージに関しては、セラピストとしての講習を受けている段階です。

ところで、今まで「発達障害」というものについては無知に等しい状態でした。発達障害は症状によって分類されていますが、運動や動きに関するものもあり、小児障害マッサージの対象です。

先週、さいたま市内で発達障害のデイサポートを行っている施設に見学に行ってきたのですが、その時にいたのは、年齢は10歳前後が多く、障害が軽度な子供たちでした。これから、この子供たちに接していくためは、まずは発達障害についての基礎知識が必須であると認識し、ネットを検索したり、中古本を買ったり、図書館から本を借りたりと突貫工事をスタートさせました。

「ちょっと気になる子(発達障害)を理解するために」
発達障害パンフレット

左をクリックすると、「ちょっと気になる子(発達障害)を理解するために」という資料をダウンロードできるページが表示されます。

「生涯発達援助システム」
アスペ・エルデ

 

 

『アスペ・エルデの会は、発達障害をもつ子どもたちの支援の場、自助会、専門家養成、発達支援についての啓発、発信点、研究機関を統合的に目指していく「生涯発達援助システム」です。』

最初に手にした本は、発達障害について多くの著書を出されている、杉山登志郎先生の「発達障害の子どもたち」でした。ブログの前半は、ほとんどこの本からの引用になっています。

著者:杉山登志郎
「発達障害の子どもたち」

この本は、冒頭に「世間に広がる誤解」という読者への投げかけで始まっているのですが、いかに何も知らないかということを痛感しました。
『以下に挙げたのは、発達障害に関して特に学校進学をひかえた子どもを抱えるご家族から聞くことが多い意見である。読者のみなさんは、おのおのについての是非をどのように思われるだろうか。』
・発達障害は一生治らないし、治療方法はない
・発達障害児も普通の教育を受けるほうが幸福であり、また発達にも良い影響がある
・通常学級から特殊学級(特別支援教室)に変わることはできるが、その逆はできない
・養護学校(特別支援学校)に一度入れば、通常学校には戻れない
・通常学級の中で周りの子どもたちから助けられながら生活することは、本人にも良い影響がある
・発達障害児が不登校になったときは一般の不登校と同じに扱い登校刺激はしないほうが良い
・養護学校卒業というキャリアは、就労に際しては著しく不利に働く
・通常の高校や大学に進学ができれば成人後の社会生活はより良好になる
『次は、幼児期の発達障害のお子さんのご両親からしばしば伺う意見である。』
・発達障害は病気だから、医療機関に行かないと治療はできない
・病院に行き、言語療法、作業療法などを受けることは発達を非常に促進する
・なるべく早く集団に入れて普通の子どもに接するほうがよく発達する
・偏食で死ぬ人はいないから偏食は特に矯正をしなくて良い
・幼児期から子どもの自主性を重んじることが子どもの発達をより促進する
『これらはすべて、私から見たときに誤った見解か、あるいは条件付きでのみ正しい見解であって一般的にはとても正しいとはいえない。おのおのについて、なぜこれが誤っているのか、と驚かれたとしたら、そして発達障害と診断を受けたお子さんに関わっているとしたら、この本はあなたにとって読む価値のある本である。』

 

著者の杉山先生のご指摘の通り、理解不足は明白であり読み進むこととなりました。
以下、箇条書き形式になってしまいますが、目に止まった、特に重要と感じたことを書き出しています。一部、かなり専門的な内容になっています。

・人間の子どもは「生理的早産」原因は大きく進化した脳。これ以上大きくなると産道を傷つけ出産できない。これは、人間は他の動物に比べ、本来お腹にいるべき段階で出産せざるをえない事態になっている。例えば、独歩まで出産から1年を要するような動物は人間だけである。という意味です。
・子育ては集団よりも個人の方がよい。特に生後早期から数年において個別のそだちが必要であるこ
 とは、乳児院でそだった子どもたちが後年、心の発達の問題を抱えやすいことからも明らかである。
ゴールは「自立」である。自立の3つの目標
 1.自分で生活できる
 2.人に迷惑をかけない
 3.人の役に立つ
・人として生まれた子どもが、受精した瞬間から社会の中で生き、自立するまでの過程全体が「発
達」である。
・発達の過程は、子どもが元々持っている力に対し、周囲が働きかけを行い、その両方が互いに働き
かけ合って子どものそだちを作ることが知られている。発達を支えるものは子どもが持つ遺伝子と環境である。発達障害臨床の言葉に言い換えれば、生物学的な素因と環境因ということになる。
・環境の影響を受ける遺伝子:分子レベルの遺伝子研究が進展し、それによって遺伝子が体の青写真
や設計図というよりも、料理のレシピのようなものであることが明らかになってきた。つまり、遺伝子に蓄えられた情報は、環境によって発現の仕方が異なることが示されたのである。遺伝情報の発現の過程は、遺伝子そのものであるDNAの情報が、メッセンジャーRNAによって転写され、タンパク質の合成が行われることによって生じる。この過程が実は問題で、ここで環境の影響を受ける。多くの状況依存的なスイッチが存在し、環境との相互作用の中で、合成されるタンパク質や酵素レベルで差異が生じることが徐々に明らかとなってきた。
・遺伝的素因の解明は、障害を決定づけるのではなく、高リスク児に対する早期療育の可能性を開く
ものとなる。
・心因であることが最も明確な疾患である外傷後ストレス障害(PTSD。トラウマを負った後、数ヵ月
経ても不眠やフラッシュバックなどの精神科的異常が生じるという病態)において、扁桃体や海馬という想起記憶の中枢と考えられている部位に萎縮や機能障害など、明確な器質的な脳の変化が認められることがまず明らかになった。しかしその後の研究によって、強いトラウマ反応を生じる個人はもともと扁桃体が小さいらしいということが明らかになった。
子どもは発達をしていく存在であり、発達障害の子どもたちも当然、日々発達していく。その過程
で、凸凹や失調は全体としては改善していくのが普通である。むしろ、改善をしていかなければ何かおかしなことが起きたと考えるべきであり、二次的な問題の派生を疑う必要がある。
・子どもを正常か異常かという二群分けを行い、発達障害を持つ児童は異常と考えるのは今や完全な
誤りである。発達障害とは、個別の配慮を必要とするか否かという判断において、個別の配慮をした方がより良い発達が期待できることを意味しているのである。
・発達障害の定義:「発達障害とは、子どもの発達の途上において、なんらかの理由により、発達の
特定の領域に、社会的な適応上の問題を引き起こす可能性がある凸凹を生じたもの」
・知的障害を示す児童の89%までがIQ50~69の範疇に入る軽症の知的障害者である。IQ50とは成人
に達したときに知的能力は健常発達の9歳前後と同等である。
発達障害の概観
 ・認知の発達…精神遅滞
 ・学習能力の発達…学習障害
 ・言語能力の発達…発達性言語障害
 ・社会性の発達…広汎用性発達障害(自閉症スペクトラム)
 ・運動の発達…筋ジスなどの筋肉病、脳性麻痺など
 ・手先の細かな動きの発達…発達性協調運動障害
 ・注意力、行動コントロールの発達…注意欠陥性障害(ADHD)
・境界知能はIQ70~IQ84前後
・自閉症の3つの症状
 ・社会性の障害…人と人との基本的なつながりに生まれつきの苦手さがあるということ。
 ・コミュニケーションの障害…オウム返しが長く続く。疑問文によって要求を表す。
 ・想像力の障害とそれに基づく行動の障害(こだわり行動)…見立て遊びは極めて苦手である。
一方、こだわり行動は顕著で中には800以上のこだわり行動をもった障害児もいた。自己刺激に没頭する理由は「まわり中が一定のリズムで動いていると幸福感がある」。
 ・上記の3項目以外で重要なものに、知覚過敏性の問題がある。
・最重度の知的障害を持つものから、まったくの正常知能のものまでいる。
 ・高機能広汎性発達障害とは、知的障害をもたない自閉症のことである。
生まれつきの障害であり、統合失調症などとは決定的に違う。つまりその世界に生きている者に
とって、その世界は奇異でも何でもなく、ごくごく当たり前なのである。
・自閉症は語ることは困難であるが、書かせるとより容易になる。
「なぜ人を避けてしまうのか?」→「人に近寄られるのは好きではなかった。…「触られるなど
論外で、触られるとどんな触られ方であれ痛いし、とても恐かった」 ドナ・ウィリアムズ
「なぜ目を合わさず目をそらしてしまうのか?」→「人の目を見ると話が解らなくなってしまう
。…「自分は45歳を過ぎて目がものを言うことを学んだ」 テンプル・グランディン
「なぜくるくる回ったり、ぴょんぴょん跳ねたり自己刺激に没頭するのか?」→「まわり中が一
定のリズムで動いていると幸福感がある」ドナ・ウィリアムズ 「砂の一粒一粒が見飽きず面白い」テンプル・グランディン
「なぜコミュニケーションがとれず、言葉があるものでも会話が苦手なのか?」→「一度に一つ
のことしかできないので、自分の語ったことすら自分に向かってもう一度言い直さなくては理解ができない。」 ドナ・ウィリアムズ
・自閉症の精神病理の基本は、対話の際に雑多な情報の中から目の前の人間が出す情報に自動的に
注意が絞り込まれる機能がきちんと働かないこと、一度に処理できる情報が非常に限られていることの二点である。これを認知の特徴という点で説明すると次の3つになる。
 ・情報の中の雑音の除去ができないこと。
 ・一般化や概念化という作業ができないこと
 ・認知対象との間に、事物、表象を問わず、認知における心理的距離が持てないこと。
・自閉症の幼児は、対人的な情報への選択的注意という機能が十分に働いていない。その結果、お母
さんの出す情報も、機械から出る雑音も同じように流れ込んでしまう。いわば情報の洪水の中で立ち往生している状態である。テンプル・グランディンは、自分の幼児期の耳は調整の効かないマイロフォンのようだったと述べている。
不安定で、怖い世界から自分を守るために、自閉症の幼児がとる戦略は、自分で、一定の安定した
刺激を作り出して感覚遮断を行うという方策である。幼児期の自閉症でよく見られる自己刺激への没頭に他ならない。一定のリズムでぴょんぴょんしたり、目の前で手のひらをひらひらさせたりして、彼らは言わば押し寄せる情報へのバリアーを作り出しているのである。
・現在と過去とのモザイクこそが自閉症体験世界の特徴の一つである。
・広汎性発達障害の罹病率は2.1%である。(2007年)
・大まかで曖昧な認知がとても苦手である。
筆者は対人関係で自閉症を孤立型、受動型、積極奇異型の3つに分けている。
 ・孤立型…人との関わりを避けてしまうタイプ。知覚過敏が強く一般的に重度の知覚的障害を伴っ
ている。
 ・受動型…受身であれば人と関わることが出来るタイプで、知的障害を持たないものもいる。
 ・積極奇異型…人に積極的に、しかし奇異なやり方で接するタイプ。知的障害は軽いものが多い
、マイペースで、基盤に注意の障害を持っていて、多動であることが大きな特徴である。
・特に孤立型と積極奇異型は、知覚過敏性などの問題に妨げられて愛着の形成が著しく遅れる。本格
 的な愛着が小学校に入ってからという児童も少なくない。したがって、小学校年代において、きちんと子どもの甘えを両親に受け入れてもらうことがとても大事な課題となる。
一般的に4歳前後までの幼児期が最も大変で、5歳ごろにコミュニケーションが目覚しく伸びる時期
がある。また、10歳~12歳の小学校高学年はさらによく伸びる時期である。
青年期も5歳と小学校高学年に次いで、よく発達する時期となることが多い。
・手を握りながら話かければ、握られた手の知覚入力だけであふれてしまい、言われたことは全く入
らなくなる。言う時は言うだけ、見せる時は見せるだけ、触れるときは触れるだけにする。
・何度も体験したからといって徐々に慣れてくるということが期待できないところがある。
・一般化ができないこともあって、変化に対しては常に強い抵抗が生じる。
・高機能広汎性発達障害(高機能自閉症)とアスペルガー症候群の間に明確な違いは認められない。病名に
とらわれず、高機能広汎性発達障害と考えるようになった。
・現在では脳科学の進展によって、注意欠陥性障害(ADHD)の症状の背後にはドーパミン系および
ノルアドレナリン系神経機能の失調があることが明らかになっている。また、物事の予定や予測的な行動を組み立てる能力である、実行機能と呼ばれる大脳前頭葉の働きの一部に、弱いところがあることも示された。
・学習障害
 ・知的な能力に比して読字、書字、計算など、学習の特定の領域に限定した学力の極端な問題を抱
える児童。
 ・純粋な学習障害は少なく、高機能広汎性発達障害やADHDなど、他の発達障害に併発して見られ
るものが多い。
 ・学習障害への対応は、特別支援教育である。障害のある脳の領域に繋がる領域を賦活し、バイパ
スを作る作業である。OT、PTの考え方が非常に有用である。
・児童精神科は膨大な新患待機リストを持っている。あいち小児保健医療総合センター心療科の発達
外来は3年。

後半は「続 自閉っ子、こういう風にできてます!」(花風社)から、知ることができた事を列挙しています。この本は作家で自閉症の藤家寛子氏と、翻訳家で同じく自閉症のニキリンコ氏に、長崎大学医学部付属病院等で臨床に携わり、その一方で、研究者として、そしてアスペルガーの息子を持つ父親でもある岩永竜一郎先生の3人を中心に、会話形式で書かれています。

・現在の感覚統合理論では、感覚統合障害は大きく二つの障害、すなわち「行為機能の障害」と「覚調整障害」に分けられます。行為機能の障害は、触覚、固有受容感覚(筋肉にある受容器で感じる身体の位置や動きの感覚)、前庭感覚(耳の奥の三半規管や耳石器などで感じる回転やスピード、傾きの感覚)などの感覚情報の処理過程に問題があり、それによって身体の位置や動きがわかりづらいなどの問題が生じ、不器用さや姿勢運動の問題など運動行為面に困難が出る障害です。


・自閉症の人を定型発達の人の認識の違いは、セントラルコヘレンスの機能に起因するとセントラル
コヘレンスとはウタ・フリス博士によると「様々な情報を統合して、脈絡の中で高次の意味を構築する傾向」とされています。つまり、細部より全体をとらえることが優先される思考傾向です。鮮明な写真の表情の読み取りには定型発達の人とアスペルガー症候群の人の間で差が見られなかったのに、ぼかした写真になるとアスペルガー症候群の人のほうが表情の読み取りができにくかったことがわかっています。これからわかるように、定型発達者は細かいところはあまり気にせずに、ざっととらえるんですね。だから、多少細かいところが違っていても同じ仲間だと思ってしまいます。一方、自閉症の人はざっととらえようとせずに細部を見てしまうから顔の細部が見えなくなるとわからなくなるのでしょう。このような傾向があるから、自閉症の人は耳の形が違う犬同士、色が違う犬同士を同じ仲間であると思えないことがあるのかもしれません。


・後天的に「労働に耐えうる体力」を養うことができるかどうか:体力には大きく分けて、「行動体
 力」と「防衛体力」があります。「行動体力」とは体を動かしたり行動を起こすために必要な体力です。筋力、バランス機能、巧緻性、柔軟性、持久性などがそれにあたります。一方、「防衛体力」というものは様々なストレスに耐え、体を守るための体力です。詳しく言うと、暑さや寒さなどの物理的ストレス、スモッグなどの科学的ストレス、細菌・ウィルス・睡眠不足などの生物的ストレス、恐怖・不安などの精神的ストレスに耐える時に発揮される体力です。一人の中でも当然、行動体力と防衛体力の格差はあります。そして、この二つの体力は、発熱などで体調が良くなると二つの体力は向上します。なお、体調と体力は表裏一体ですので、防衛体力が上がれば体調も良くなるとも言えます。

 

自閉症の人はセロトニンなどの神経伝達物質の働きがうまくいっていないことが指摘されています が、そうした行動に必要な伝達物質が自閉症の人にもともと少ないと想定すれば、ストレス下で集中してがんばると定型発達者よりも早く疲れてしまうことになります。


・姿勢の崩れは感覚と深く関わっている:怠けではなく、脳の機能の違いによって姿勢が崩れやすく
 なること、身体の感覚が上手くつかめないために姿勢コントロールが難しくなることは、多くの人には予想できないことです。定型発達の人は姿勢の維持を無意識のうちにやっているのですが、自閉症の人は意識的にやらなければならないことがありますので、身体に集中して目の前の課題への集中ができなくなる可能性があります。


・成人期には、体力の向上を目指すことも重要ですが、その人が持っている体力で生活や仕事をして
 いく方法を身につけてもらうことも必要だと思います。体力が低い人でも、気分が落ち着いて体調が整っているときは活動できることが多いと思います。感覚過敏は気分が不安定だと強くなりますから。気持ちが安定していることで感覚過敏が緩和されているでしょうし、その結果余力が増えてエネルギー源が大きくなっているでしょう。抑うつ状態になると身体の動きが緩慢になったり、自発的に何かやろうという気持ちが起こりにくくなりますが、気分が安定していると生活のエネルギーも出てきます。気分の安定が栄養摂取の良さにつながり、脳の中の伝達物質のバランスもよくなるでしょう。つまり、気分の安定が防衛体力を整えたり、高めたりする一つの要因となると思います。そして、それは行動体力にも影響することになるでしょう。


疲れが自分でわからないことを理解しておく:生活に支障が出るほど調子を崩すのは、不安や気分
 の落ち込みがあった時や、がんばりすぎたり、はしゃぎすぎたりして、生活リズムに乱れが生じた時などが多いです。そのため、まず心理的ストレスがかかった時にそれを解消する手段を持つことが必要です。具体的に言うと、自閉症の特性をわかっている相談相手を身近に見つけて話をよく聞いてもらうことなどが大切ですね。自閉症の方の体調管理に際しては、「自分で自分の疲れがわからない」というのが大きな問題になってきます。だからこそ、規則正しい生活習慣を心がけ、自分の身体の感覚を頼りに疲れを判断しないようにすること。疲れていないと思っても決まった時間に休んで、一定の睡眠・休息を取るようにすることが必要です。つまり、定型発達者のように自分の身体の感覚に基づいて寝る時間を決めたりせずに、体調が良さそうな時であっても、あらかじめ決めたスケジュールに従って休んだり寝たりすることが大切です。


・就労に対して:大人になってからの体調・体力を安定させるために早期からやっておくべきことが
 あると思います。それは、①二次障害を作らない(うつなどな体調にも影響します) ②早期から運動に関わる神経系の発達を促す訓練(例えば感覚統合療法)を受けておく ③日常生活における運動習慣を身につけておく ④体調を崩さない生活習慣を学んでおく 以上4つです。


・自分の身体図式がしっかりしていると、新しい空間に行っても自分の領域をすぐにつかめるんです
。自分の身体をよくわかっているから、手が届く範囲や身体を動かしたときに窮屈さを感じない広さというものをすぐにつかめるんです。そして、自分の身体図式ができていて、相手を見たときに身体のミラーイメージを持てる人は、相手の身体図式と領域もつかむことができます。定型発達の人の多くは自分の身体図式も、相手の身体図式もつかめますので、自分の領域、相手の領域も容易にわかり、近くに人がいても自分と他者の領域を無意識のうちに区別して適切な距離を取りながら作業をすることができるんですね。しかし、身体図式ができあがっていないと自分の領域も他人の領域もつかみにくくなるはずです。そして、身体図式の弱さを補うために一生懸命身の周りを見て、自分の領域を確かめることになるでしょう。これでは作業どころではないですよね。だから、身体図式の弱さを補うために、自分の領域の周りに線を引いてもらったり、パーティションで区切りを作ってもらうなどの支援があるといいんです。


・四輪の車に乗るより二輪の方が身体のイメージがわかると言っていた方がいます。バイクって足で
押さえますよね。車の中に座るより、そのほうが身体の位置がつかみやすいそうです。それぞれ、強い感覚と弱い感覚があるんですね。その方は、固有受容覚は強いけど触角が弱いのでしょう。固有受容覚が強い人は何かに押し付けていると身体の位置がつかみやすいんです。


・感覚統合障害の中でも、静止画像の真似が苦手な人と、動きを真似するのが苦手な方がいるんです
ね。動きを真似するのが苦手な方は固有受容覚の認識が弱い方が多いです。自分の身体が動いている感じを連続的に脳でつかみにくいんですね。一方、静止画像の真似が苦手な人は触覚の認識が弱い人が多いです。


・息子が自閉症の特性を持つと確実に気づき始めたのは生後五ヶ月頃です。その時は、まず対人的注
 意が低いことが気になっていました。生後四ヶ月までは誰にでもよく笑い、自閉的な印象はなかったのですが。そして、寝返りの質が違うことも気になりました。筋緊張が低く、屈曲力が弱い寝返りをするので、筋肉の使い方の質的問題があると感じていました。そのような特性が生後五ヶ月頃から々と見えるようになってきました。


・体育は他人との比較が入りますし、チームプレイで失敗すると責められることになりますので、自
 閉症の子どもがやる気を起こすはずはありません。ドラムのように個人プレイでできて、成功を自分なりに感じられるもののほうが良いと思います。私たちが行う作業療法では、有能感、自尊心を育てることを大切にします。それが次のチャレンジを促し、障害によって滞っている発達の部分をよりよい方向に導くからです。これは自閉症の子どもの療育の中でも、常に意識していることです。

 

・ボディイメージを育てるためには触覚と固有受容覚が特に重要になります。いわばボディイメージを育てる栄養ですね。もちろん、マッサージなどで他動的に触覚や固有受容覚を刺激することは効果的かもしれません。ただし、ボディイメージを高めるためには、能動的体験の中で触覚、固有受容覚を体験することも必要です。お風呂の中では、お湯の抵抗がありますので、身体を動かすと触覚と固有受容覚のフィードバックがあるために身体を意識しやすくなります。同じ理由からスイミングもいいと思います。アスレチック遊具とかクライミングウォールにチャレンジすることもお勧めです。要は能動的に触覚刺激や固有受容刺激を感じて動きを作り出すことが大切なんです。しかも、いつもやらないような未経験の運動をやったほうがボディイメージは育ちやすいと思います。


・自閉症の子どもは集団で行う球技が嫌いだと思われていますが、やり方次第では好きになるんです
よ。好きになってもらうためのポイントを挙げておきましょう。
 ・不器用でも失敗が起こりにくいように工夫する。
 ・不器用でも不利にならないルールを作る。
 ・必ず全員に出番があり、皆で活躍できるような工夫をする。
 ・必要に応じて大人が参加し、ゲームが円滑に進むように調整する。
 ・暴力を振るわない。
 ・暴言を吐かない。
 ・審判の判定にクレームをつけない(「ゲーム中審判は神様です」と前置きしてから始めます)。


・自閉っ子が大好きなる球技
 ・ポートボール(自閉っ子ルール)
 ・サッカー(自閉っ子ルール)
 ・キックベースボール


五感の他にも人間の行動や情緒に大きな影響を及ぼす感覚が二つあります。それが固有受容覚と前
庭覚ですね。私やニキさんが、コタツに入ると脚がなくなるのは固有受容覚のつかみ方が弱くて、自分の身体が伝えてくる情報を受け取っていないからでした。そして藤家さんやニキさんは「自分の身体がどこからどこまでかわからない」とか「コタツに入ると脚がなくなる」とか私たちには実感のできない身体感覚を持っています。それは、ボディイメージが弱いからです。そして、ボディイメージが不確かなのは、身体からの情報が脳にきちんと伝わっていないからです。ボディイメージが弱いと、いろいろ困ったことが起こりますね。まず、不器用という問題が起こりがちです。そしてこの問題に、感覚統合療法は効果があります。その体験談が、『大丈夫! すくすくのびたよ自閉っ子』という本に載っています。


・マッサージ:ブラシや素手でマッサージして、だんだんと感覚を受け入れられるようにします。治
 療者との関係を作ってから、「こうやって触れられれば、こういう感覚が入ってくるのだ」と覚えていってもらいます。身体の中では背中が受け入れやすい場所ですので、そこからマッサージを始めます。腹部、首、顔などは過敏反応が出やすいので、最初はやりません。マッサージはまず受け入れられる部分だけ行ったほうが良いでしょう。

下の図は体を使って遊ぶ時や運動するときに必要とする感覚、固有受容角覚と前庭覚です。これに触覚を加えた3つの感覚が、感覚統合訓練の柱になっています。

「続 自閉っ子、こういう風にできてます!」
固有受容覚とは

 画像出展:「続 自閉っ子、こういう風にできてます!」                               

「続 自閉っ子、こういう風にできてます!」
前庭覚とは

画像出展:「続 自閉っ子、こういう風にできてます!」     

最後に、「自分の体取り戻しマニュアル」をご紹介したいと思います。

これは著者の一人で作家の藤家寛子先生が「体に力が入らないときや身体の実体が感覚できなくなったときに使っているものです。なお、前作『自閉っ子、こういう風にできてます!』に掲載されていたものです。