グリア細胞1

“グリア細胞”と聞いて思い出すのは、「確か、神経細胞(ニューロン)を取り巻いている細胞で、何種類かあったよなー」ということぐらいです。

そのグリア細胞に興味をもった理由は、ネットで見つけた以下のニュースです。

慢性疼痛は鍼灸師として特に重要な課題なので、どういうことなのか? このグリア細胞についても詳しく知りたいと思いました。

今回の『もうひとつの脳』は2018年発行ですが、原書は2009年なので10年以上前ということになります。内容もサイエンス・フィクションに属する本のようなので、その点も少し迷ったのですが、題名(副題:ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」)と価格を重視し、この本で勉強することにしました。

本は新書版なので単行本より少し小さいのですが、図表も少なく500ページを超えるボリュームで、「これは結構、大変だ!」というのが手にした時の感想でした。

著者:R・ダグラス・フィールド

監訳者:小西史朗

訳者:小松佳代子

発行:2018年4月

出版:講談社

こちらは原書です。

発行は2009年12月です。

ブログは3つに分けていますが、完全に自分の趣味と感覚で抜き出しています。また、読み物系なので、特に本書を読んでいない方には捉えどころのない、漠然とした内容になっていると思います。

もくじ

はじめに

謝辞

第1部 もうひとつの脳の発見

第1章 グリアとは何か―梱包材か、優れた接着剤か

第2章 脳の中を覗く―脳を構成する細胞群

第3章 「もうひとつの脳」からの信号伝達―グリアは心をう読んで制御している

第2部 健康と病気におけるグリア

第4章 脳腫瘍―ニューロンはほぼ無関係

第5章 脳と脊髄の損傷

第6章 感染

第7章 心の健康(メンタルヘルス)―グリア、精神疾患の隠れた相棒

第8章 神経変性疾患

第9章 グリアと痛み―恩恵と災禍

第10章 グリアと薬物依存症―ニューロンとグリアの依存関係

第11章 母親と子供

第12章 老化―グリアは絶えゆく光に抗って奮い立つ

第3部 思考と記憶におけるグリア

第13章 「もうひとつの脳」の心―グリアは意識と無意識を制御する

第14章 ニューロンを超えた記憶と脳の力

第15章 シナプスを超えた思考

第16章 未来へ向けて―新たな脳

訳者あとがき

本文注参照資料

さくいん

はじめに

『私たちは現在、脳についての新たな理解の先端に立っている。そしてこの新たな理解は、過去一世紀にわたる従来の脳の概念、とりわけ脳内のニューロンの役割に関する考え方を一変させるものだ。1990年、暗室のコンピューター画面の周囲に群がっていた科学者たちは、情報が奇妙な脳細胞を通過しているところを目撃した。情報はすべて、ニューロンを迂回して、電気的インパルスを使用せずにやり取りされていた。この発見まで、脳内の情報はすべて、ニューロンを介して電気によって伝えられていると想定されていた。実のところ、ニューロンは脳の全細胞のわずか15%でしかない。ところが、残りの脳細胞(グリアと呼ばれる)は電気活動を行うニューロンの間を埋める梱包材にすぎないと、これまで見過ごされてきたのだ。グリアは「維持管理細胞(ハウスキーピング)と言われてきた。家事使用人のような細胞と安易に片付けられて、グリアはその発見から一世紀以上も無視され続けてきたのだった。

この奇妙な脳細胞が互いに交信していると知って、科学者たちは今、大きな衝撃を受けている。この細胞が、神経回路を流れる電気活動を感知できるだけでなく、その活動を制御さえできることが判明し、脳に関する科学者の理解は根底から揺らいでいる。

第1部 もうひとつの脳の発見

第1章 グリアとは何か―梱包材か、優れた接着剤か

アインシュタインの脳

天才であるアインシュタイと普通の人の脳を比較して分かったことは、ニューロンの数に差はなかったが、ニューロンではない細胞が脳の四領域(前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉)すべてにおいて、群を抜いて多かった。 このニューロンでない細胞とは、グリア細胞と呼ばれ、梱包材のようなニューロンを支える接合組織のようなものと考えられていた。

深海が明かした新事実

・グリア細胞は、神経軸索のインパルス発火を何らかの方法で感知し、それに反応して細胞体内のカルシウム濃度を上昇させる。

・グリア細胞は長年、脳を取り巻く梱包材にすぎないと見なされてきたが、ニューロン間でやり取りされる情報に関係していた。

第2章 脳の中を覗く―脳を構成する細胞群

脳を解剖する

グリアは脳の細胞の圧倒的多数を占めている。

・グリアはニューロンと異なり、電気的インパルスを発火することができないため、インパルスを遠くまで送るための軸索や、電気信号を受け取るための茂みのような樹状突起といったニューロンの特徴的形質を持たない。

白質

脳の余白とされた領域(白質)で、そのメカニズムの中核を成しているのがグリアである。

・『長年なおざりにされてきたこの脳細胞に関する近年の探求が発端になって、大変革に火がついた。そしてそれは、脳がどのような構造を持ち、どのように機能し、精神疾患や病気においてどのような不調をきたしているのか、さらにはそれがどう修復されるのかといったことについての私たちの理解を揺るがしている。脳に対するこの新たな見方を理解するうえでカギになるのが、グリアだ。』

ニューロン―脳の働きに関する取扱説明書

神経系はワイヤーのような軸索に沿って、最速で時速320㎞ほどのスピードで電気的インパルスを送り出している。これはミエリンと呼ばれる電気的絶縁体で覆われているからである。

痛覚線維の伝導速度は時速3㎞、歩くスピードと変わらない。誤って机に脚を強打したときの痛みがじわじわくるのも頷ける。

・シナプスにはニューロンを結びつけるだけでなく、情報処理に柔軟性をもたせることができる。そのメカニズムは、インパルスが到達したときに、シナプス前ニューロンの終末部から放出される神経伝達物質の量をわずかに増やしたり、神経伝達物質による信号を受け取るシナプス後ニューロンの受容感受性を調節したりすることで、あるシナプスへの同じ入力が、シナプス後ニューロンで起こす電位変化を大きくしたり、小さくしたりできる。その結果、シナプス結合は強化、あるいは減弱される。

・シナプスには、更にもう一つ重要な働きがある。それは清掃である。シナプス間の神経伝達物質を速やかに片付けて、次のメッセージを送り出せるようにすることである。

・アストロサイト(4つのグリア細胞の中の一つ)は、ニューロンのエネルギー源となる乳酸も必要に応じて供給している。

「もうひとつの脳」の構成細胞

・4つのグリア細胞のうち末梢神経にあるシュワン細胞と脳や脊髄に見られる稀突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)の二つは軸索の周囲にミエリンという絶縁体を形成する。

脳と脊髄全域にはアストロサイトと小膠細胞(ミクログリア)も存在する。

ミクログリアは脳を損傷や病気から保護しており、脳や脊髄が損傷から回復するうえで中心的な役割を担う。

グリアの数はニューロンの6倍にも達するが、その正確な比率は神経系の部位ごとに異なる。

・末梢の神経線維沿いや脳内の白質新経路では、グリアとニューロンの比率は100対1になる。また、ヒトの前頭皮質におけるアストロサイトとニューロンの比率は4対1である。

・脳の外部にある全身の神経には、違う種類のグリアが存在しており、神経線維の全長にわたって、軸索の周りをぎっしりと取り囲んでいるが、これがシュワン細胞である。

シュワン細胞

シュワン細胞を発見した、テオドール・シュワンは4種類の主要なグリアの一つを発見しただけでなく、細胞という概念そのものを残した。

※Florkin, M. (1975) Theodore Ambrose Hubert Schwann, Dictionary of Scientific Biography, Charles C. Gillispie, ed., vol. 12 Scribner, New York

オリゴデンドロサイト―タコの園

オリゴデンドロサイトは、脳のほぼ全体に広がっているが、特に白質の神経路に数多く見られる。白質は、背骨を持つ動物の脳の中心部に筋状に走っている。この白質には何千本もの軸索が束になった情報の幹線が集まっていて、脳の遠く離れた場所をつないで情報を運んでいる。

・軸索とオリゴデンドロサイトの間を含めて、脳と末梢神経に存在するあらゆる種類のグリア細胞が、ニューロ-グリア間でコミュニケーションをとっている可能性がある。

アストロサイト―星のような細胞と謎の病

主要なグリア細胞の中で最初に発見された。

・多種多様な種類と、軸索も樹状突起も持たない形状が特徴である。

アストロサイトの数は脳の領域によって異なるが、ニューロンの2~10倍も多い。

・ニューロンの隙間を埋めている支持細胞

ミエリンの魔力

・無脊椎動物の神経系と脊椎動物の神経系には、電卓とスーパーコンピューターほどの違いがあるが、ハエの脳にあるニューロンはヒトの脳のニューロンと同じように作動していて、多くの場合、神経伝達物質として使用する化学物質まで同じである。

・ミエリン形成グリアは、軸索の周囲に何層もの膜を巻きつけて、ワイヤーに巻かれた絶縁テープのように各軸索を絶縁する。一方、無脊椎動物は絶縁体を持たないため、漏電で電気信号が失う。

動物や鳥などの脊椎動脈の機敏で優雅な動きは、ミエリン形成グリアのおかげである。

画像出展:「もうひとつの脳」

ミクログリア

・ミクログリアはオリゴデンドロサイトより早く発見されていたが、血流から脳へ浸潤してきた細胞だと勘違いされてしまった。

4つのグリアの中で最も小さくダイナミックなミクログリアは脳を警護している。

ミクログリアは常に枝分かれした突起を持ち、単独で潜んでいるが、ひとたび感染や傷害の危険を感知すると、高い機動性を備えたアメーバ状の細胞に変貌する。樹状突起と軸索が絡み合った隙間をくぐり抜けながら、侵入者をやっつけるために駆けつけたミクログリアは、有害な生命体を攻撃して吞み込んでしまう。

ミクログリアは常に脳の中をかき分けながら動き回っている。そして、自分の役目を果たすとたくさんの分枝を持つ不活発な細胞に戻り、風景の一部になりすますように周囲に紛れ込んでいる。

不活発なミクログリアは全く人目に付かないので、5年程前にはその存在の有無をめぐって科学者の間では議論が起きていた程である。

・ミクログリアは体内の他の免疫細胞を生み出すのと同じ胚細胞株に起源を持つ。

ミクログリアは脳に侵入するのではなく、脳とともに成長している。

ミクログリアは脳の全域に展開して脳を守っている。

・『灰白質では、ミクログリアは茂みのようで、細胞突起をバランスよく四方八方に放射状に伸ばし、その触手を樹状突起やニューロン間のシナプス結合上に広げて、傷害や病気の兆候がないかと常に探っている。一方、白質の線維経路では、あたかも軸索を保護する格子のようにミクログリアの触手は軸索と平行、あるいはそれに対して垂直に並んでいる。

ミクログリアは、細菌やウィルス、細胞の残骸などを探知して襲いかかり、呑み込んでしまうが、化学的な武器を使った攻撃も行う。ミクログリアが放出する化学物質のなかには、興奮性神経伝達物質のグルタミン酸や、サイトカイン、活性酸素、窒素種などのように、高濃度ではニューロンにとってきわめて有害なものもある。防衛を担う軍や兵士はみなそうだが、ミクログリアも救助者であると同時に、潜在的な敵でもある。ミクログリアの働きに付随して生じる損傷は、多くの神経疾患の原因となる。だがその一方で、ミクログリアは、傷ついた神経細胞に神経保護物質を与えるといった慈悲深い使命も果たしている。

茂みのような形態のミクログリアから伸びる多くの分枝の表面には、危険や病気を示す信号を常に見張っているセンサーがずらりと並んでいる。そのセンサーとは、自己と非自己の標識となる免疫学的認識分子に対する受容体であり、それは脳に侵入してきた外来細胞を識別している。さらに、ニューロンにあるようないくつかのセンサーも存在する。こうしたセンサーのおかげで、ミクログリアは侵入してきた細胞や有害な状況を探知するだけでなく、ニューロンが危険な状態に陥らないように警戒を続けることができる。

・「小さな接着細胞」を意味するミクログリアは、脳内に存在するグリア全体の5~10%を占めているが、これはニューロンとミクログリアがほぼ同数であることを意味している。

画像出展:「もうひとつの脳」

アストロサイト―脳のパワーの源泉

・アストロサイトは、脳と脊髄全域に見られるが、末梢神経系の神経線維には存在しない。

アストロサイトは、いくつかの方法でニューロンを支援している。物理的基質として構造を支えたり、ニューロンにエネルギーを供給し、その老廃物を輩出したり、脳の損傷に対して瘢痕を形成して対処したりしている。すべての生きた細胞と同じく、アストロサイトも電位を持つが、神経インパルスを発火することはない。

画像出展:「もうひとつの脳」

画像出展:「もうひとつの脳」

第3章 「もうひとつの脳」からの信号伝達―グリアは心を読んで制御している

スパイの正体を暴く―グリアにおとり捜査を仕掛ける

・ニューロンがシナプスでのコミュニケーションに使っているさまざまな神経伝達物質のすべてを含む、神経系におけるシグナル伝達分子の大多数を感知できるセンサー群を、グリアは持っている。

・グリアはさらに、神経回路を電気的情報が流れると急増するイオン流動や、細胞シグナル伝達にかかわる多くの受容体分子にも感受性がある。

第2部 健康と病気におけるグリア

心を治す―神経系の損傷と病気を回復させるグリア

・ミクログリアとアストロサイトは脳に感染する細菌やウィルスの警戒にあたる見張り役を務めている。侵入してきた微生物に闘いを挑み、病原体を探し出して呑み込んだり、活性酸素などの有毒な化学物質を放出したりして脳から病原体を取り除く。

・最近の研究で、ミクログリアには多くの役割があるのが分かった。神経の慢性疼痛への薬物治療が効かないのは、痛みの発生や薬物依存性にミクログリアが果たしている役割を理解できていなかったことがあげられる。

成熟ニューロンは細胞分裂できないため、一度、傷害や病気で損傷してしまうと再生は困難である。一方、グリアは脳の損傷に応じて細胞分裂を開始し、損傷部位へ移動し傷を治す。また、損傷を受けた神経線維の再伸長を誘導して、ニューロン間やニューロンと筋肉の間の適正なコミュニケーションを回復させる。

・未成熟なグリアは幹細胞のような働きができる。

成熟したアストロサイトは成人脳では休眠状態にある幹細胞を刺激して、代替のニューロンやグリアへと分化させることができる。

・病気によって失われたニューロンの代替になる可能性を備えた未成熟なグリアは、脳の全域に潜在している。このグリア性“幹細胞”をうまく操作できれば、将来の治療にとって大きな希望となる。

グリアは救世主として期待される一方、病気の原因にもなる。これはグリアが感染性微生物の標的になることが多いからである。

・パーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)やアルツハイマー型認知症では、グリアは有益な側面と害をなす側面を持つ。

・「神経変性疾患」という名称は、ニューロンだけに焦点を当てていることを窺わせ、生物学的にも薄弱である。一方、グリアは脳機能への関与が明らかになるにつれて、グリアの病気への関わりを示唆する事実は増えている。